平成4(オ)797民事訴訟 著作権
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裁判所 |
最高裁判所第三小法廷
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裁判年月日 |
平成5年3月30日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
著作権
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キーワード |
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主文 |
本件上告を棄却する。上告費用は上告人らの負担とする。 |
事件の概要 |
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判決文
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人渡辺卓郎、同藤原寛治、同坂東司朗の上告理由について
本件編集著作物である「智惠子抄」は、詩人である高村光太郎が既に公表した自らの著作
に係る詩を始めとして、同人著作の詩、短歌及び散文を収録したものであって、その生存中、
その承諾の下に出版されたものであることは、原審の適法に確定した事実である。そうする
と、仮に光太郎以外の者が「智惠子抄」の編集に関与した事実があるとしても、格別の事情
の存しない限り、光太郎自らもその編集に携わった事実が推認されるものであり、したがっ
て、その編集著作権が、光太郎以外の編集に関与した者に帰属するのは、極めて限られた場
合にしか想定されないというべきである。
そもそも本件において、光太郎以外の者が「智惠子抄」の編集に携わった事実が存するか
をみるのに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯す
る に 足 り 、 こ の 認 定 し た と こ ろ に よ れ ば 、 (1 ) 収録候補とする詩等の案を光太郎に提示し
て、「智惠 子抄」の編 集を進言した のは、上告 人Aの被承継 人であり、 Bの名称で出 版業を営
んでいたC(以下、単に「C」という。 であったが、 智惠子抄」に収録されている詩等の
) 「
選択は、同人の考えだけで行われたものでなく、光太郎も、Cの進言に基づいて、自ら、妻
の智惠子に関する全作品を取捨選択の対象として、収録する詩等の選択を綿密に検討した上、
「智惠子抄」 に収録する 詩等を確定し 、「智惠 子抄」の題名 を決定した 、(2) Cが光太郎に
提示した詩集の第一次案の配列と「智惠子抄」の配列とで一致しない部分がある、すなわち、
詩の配列が、第一次案では、光太郎が前に出版した詩集「道程」の掲載順序によったり、雑
誌に掲載された詩については、その雑誌の発行年月順に、同一の雑誌に掲載されたものはそ
の掲載順に配列されていたのに対し、 智惠子抄」では、 荒涼たる歸宅」を除いては制作年
「 「
代 順 の 原 則 に 従 っ て い る 、 (3 ) Cは、第一次案に対して更に二、三の詩等の追加収録を進
言したことはあるものの、光太郎が第一次案に対して行った修正、増減について、同人の意
向に全面的に従っていた、というのである。
右の事実関係は、光太郎自ら「智惠子抄」の詩等の選択、配列を確定したものであり、同
人がその編集をしたことを裏付けるものであって、Cが光太郎の著作の一部を集めたとして
も、それは、編集著作の観点からすると、企画案ないし構想の域にとどまるにすぎないとい
うべきである。原審が適法に確定したその余の事実関係をもってしても、Cが「智惠子抄」
を編集したも のというこ とはできず 、「智惠子 抄」を編集し たのは光太 郎であるとい わざるを
得ない。したがって、その編集著作権は光太郎に帰属したものであり、被上告人が、光太郎
から順次相続により右編集著作権を取得したものというべきであって、これと同旨の原審の
判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するこ
とができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 坂 上 壽 夫
裁判官 貞 家 克 己
裁判官 園 部 逸 夫
裁判官 佐 藤 庄 市 郎
裁判官 可 部 恒 雄
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