平成24(ネ)10099職務発明の対価(特許権)請求控訴事件
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裁判所 |
一部認容 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成25年7月11日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被控訴人ニプロ株式会社小野昌延
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法令 |
特許権
特許法35条3項1回
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キーワード |
実施169回 特許権19回 許諾5回 職務発明4回 意匠権2回 抵触2回 実用新案権1回 ライセンス1回
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主文 |
1 原判決を次のとおり変更する。被控訴人は,控訴人に対し,73万4521円及び内47万7956円に対する平成20年11月19日から,内17万0726円に対する平成22年4月1日から,内8万5839円に対する平成23年4月1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを150分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
3 この判決は,第1項の(1)に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本判決の略称は,以下に掲記するほか,原判決に従う。 |
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判決文
平成25年7月11日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成24年(ネ)第10099号 職務発明の対価(特許権)請求控訴事件
原審・大阪地方裁判所平成21年(ワ)第4377号
口頭弁論終結日 平成25年6月11日
判 決
控 訴 人
同訴訟代理人弁護士 目 方 研 次
同補佐人弁理士 北 村 光 司
被 控 訴 人 ニ プ ロ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 滝 井 朋 子
小 野 昌 延
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人に対し,73万4521円及
び内47万7956円に対する平成20年11月
19日から,内17万0726円に対する平成2
2年4月1日から,内8万5839円に対する平
成23年4月1日から,各支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを150分し,
その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負
担とする。
3 この判決は,第1項の(1)に限り,仮に執行すること
ができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,5750万1933円及びこれに対する平成2
0年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
本判決の略称は,以下に掲記するほか,原判決に従う。
1 本件は,被控訴人の従業員であった控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人在
職中に,単独又は共同でした職務発明(15件),職務考案(2件)及び職務創作
意匠(3件)に係る特許等を受ける権利又はその共有持分を被控訴人に承継させた
として,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条3項,実用新案法
11条3項,意匠法15条3項に基づき,上記承継の相当の対価の未払分である1
2億2052万8199円の内1億円及びこれに対する催告の日の翌日である平成
20年11月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求めた事案である。
原判決は,本件発明1-1,本件発明2-1及び本件発明3-1に係る未払の相
当の対価額合計57万1078円及びこれに対する平成20年11月19日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,控訴
人の請求を認容した。
これに対し,控訴人は,控訴の趣旨記載のとおりの判決を求めて一部控訴した。
2 判断の基礎となる事実及び争点
次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第2の1及び2記載のとお
りであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁10行目の「本件特許権4-2,」を削除する。
(2) 原判決5頁14行目の「容器して」を「容器として」と,同26行目の
「平成12年10月」を「平成11年」と各改める。
原判決129頁10行目の「本件創作意匠2」を「本件意匠権2」と改め
る。
原判決132頁24行目の「本件創作意匠3」を「本件意匠権3」と改め
る。
原判決136頁10行目の「本件実用新案4」を「本件実用新案権4」と
改める。
原判決141頁2行目の「本件特許権目録6」を「本件特許権等目録6」
と改める。
第3 争点に関する当事者の主張
原判決7頁26行目の「第2 」を「第3」と,原判決51頁4行目の「 原告
は,」を「控訴人が」と各改め,次のとおり当審における主張を付加するほか,原
判決「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。
〔当審における控訴人の主張〕
1 争点1-2(被控訴人による本件実施品1ないし6の売上高)について
本件実施品2-2及び本件実施品2-3の売上高について
原判決は,超過売上高に仮想実施料率を乗じて相当の対価を算定しているところ,
本件実施品2-2及び本件実施品2-3の売上高について,培地相当分を控除した
バッグ相当分である5分の1に限り,相当の対価額算定の基礎とした。
しかしながら,被控訴人は,本件実施品2-2及び本件実施品2-3として,培
地充填済みバッグを販売しているのであるから,培地充填済みバッグの超過売上高
に仮想実施料率を乗じるべきである。被控訴人が他社に実施許諾する場合,培地充
填済みバッグの売上高に実施料率を乗じて実施料を得る機会を有しており,実施品
はあくまで培地充填済みバッグであって,培地は実施品を構成する原材料にすぎな
い。
しかも,本件発明2-1はバッグの素材に関する発明ではあるが,その素材は液
体培地の無菌状態の保持に対して効果を奏する以上,液体培地にも発明の独占効が
及ぶということができる。
したがって,本件実施品2-2及び本件実施品2-3の売上高について,培地相
当分を控除した原判決の認定は誤りである。
本件実施品2,4ないし6の売上高について
被控訴人が当審において新たに開示した平成21年度ないし平成23年度の本件
実施品2,4ないし6の売上高を前提とすると,本件実施品2,4ないし6の売上
高は,別表1ないし4のとおりとなる。
2 争点1-3(超過売上高)について
超過売上高の判断手法について
原判決は,本件発明等について,各実施品に用いられた発明,意匠等を個別に分
断して超過売上高を認定する。
しかしながら,1つの製品に対し,物の発明,方法の発明,形状構造に関する意
匠等の複数の発明等が実施されている場合,各発明等のそれぞれが効果を発揮し,
全体として製品を差別化し,商品力を高め,市場獲得に有効に働くものであって,
それら複数の発明等の権利は単に別個の権利として分断して評価されるべきもので
はなく,実施されている複数の権利を総合して超過売上高を評価すべきである。
本件実施品に用いられている各特許等は厳密な設計に基づいて取得し,維持され
ているものであって,1つとして無価値なものはない。各権利の排他的効力の程度
の差は,寄与度として考慮されるべきものである。
原判決は,各実施品において最も排他性を有すると考えられる代表的な発明のみ
を取り上げて超過売上高を算定するようであるが,特許等の権利として成立してい
る以上,他社に対して独占効を有するのであり,各実施品が相当なシェアを獲得し
ているにもかかわらず,独占効を有する権利と有しない権利とが存在するとした原
判決の認定は不合理である。
本件発明等2について
ア 本件発明2-2は,単なる培地充填済みバッグの滅菌方法に係る発明ではな
く,当該バッグの製造方法に係る発明である。本件発明2―2は,本件発明2-1
のバッグ用の素材に係る発明とあいまって,バッグ包材をγ滅菌し,液体培地を濾
過滅菌することにより,従来の培地充填済みバッグのEOG滅菌による酸化エチレ
ンやホルムアルデヒドの残留の心配がないという効果を奏するものであるから,当
該方法により製造した完成品の品質に直結する発明というべきである。
イ 本件発明2-2とコージンバイオ社発明とは利用関係にあり,本件実施品2
-2及び本件実施品2-3の製造販売に当たり,被控訴人がコージンバイオ社に実
施料を支払っているとしても,本件特許権2-2が成立している以上,コージンバ
イオ社及びコージンバイオ社発明の実施許諾を得た者は,本件発明2-2の技術的
範囲に属する方法で培地充填済みバッグの製造をすることができない。しかも,本
件発明2-2は,当該バッグの製造方法としては2つとない合理的な製造方法であ
るから,同発明が当該バッグの製造に不可欠ではないという原判決の認定は誤りで
あって,同発明は,コージンバイオ社及び他社に対して禁止効を有していることは
明らかである。
ウ 細胞培養液の製造販売において全国的に大きなシェアを占めるコージンバイ
オ社及び組織培養の分野ではリーダー的な研究者である 博士が本件実施品2の
競合品を製品化しているが,本件発明2-1とは異なり透明性やガス透過性が低い
素材を使用し,本件発明2-2の方法とは異なりEOG殺菌を用いているため,完
成品の品質が本件実施品2よりも劣り,市場でほとんどシェアを獲得できず,依然
として本件実施品2が80%以上の高いシェアを維持している。
また,他社が本件発明2-2を実施しているか否かは,完成品を検討することに
より相当程度予測可能であるし, 被控訴人がコージンバイオ社発明に実施料を支
払っているとしても,コージンバイオ社が本件発明2-2を実施すれば,当然実施
料を支払う必要があるから,製造方法の発明が物の発明に従属するという関係は成
立しない。本件特許権2-2は大きな排他的効力を有しているというべきであって,
原判決は,方法の特許の独占効を不当に軽視しているというべきである。
エ したがって,本件実施品2-1及び本件実施品2-2の超過売上高は,少な
くとも売上高の50%を下らない。
本件発明等3について
ア 原判決は,抗生物質製剤の販売に当たり,一体型キットにするか否かは,各
製薬業者の営業方針に委ねられており,医薬品容器の製造業者等が一体型キットを
製造販売するか否かも各製薬業者の営業方針による影響が大きいものといえるから,
一体型キットの抗生物質製剤については,仮に売上高,売上げ個数が多く,同種製
品において大きなシェアを占めるとしても,それは必ずしも当該製品における技術
的優位性を反映したものということはできず,各製薬業者の営業方針や,営業力,
販売力,中身として使用される薬剤の選好性等の影響があることも考慮しなければ
ならないとする。
確かに,抗生物質製剤の投与方法は,患者の属性(患者の疾病の種類,病状等)
や選択する治療方法によって様々であるが,患者の属性や治療方法によっては,一
体型キットを用いた点滴注射が適合しない場合があるし,病院や患者などの需要者
側の経済的な事情により,一体型キットの抗生物質製剤よりも,従来型のバイアル
瓶・注射器による投与が選択される場合もある。そのため,一体型キットが技術的
に優れたものであっても,抗生物質製剤が全て一体型キットに置き換わることはあ
り得ず,一体型キットの販売数量は,抗生物質製剤の販売数量の一定割合にとどま
らざるを得ない。
他方,一体型キットの薬価が高いことから,キット化によって製薬会社の売上げ
は約2倍程度増加するし,付加価値の高い製品とすることにより,抗生物質製剤の
市場の拡大も期待できるのみならず,一体型キットの販売は,自然減が予想された
第1世代の抗生物質(セファメジン)の延命に大きく寄与したから,各製薬会社は,
一体型キットの製造販売に積極的で,キット化率の向上を目指していた。
イ ある新規の特許技術を使用した製品が,従来製品と比較して明らかに付加価
値を高めるものであり,特許製品と同種の製品の市場において,新製品が一定割合
を超える普及率を獲得した場合,新製品の売上げは,競合他社が無視することので
きない規模となり,シェア獲得に競合他社が参入する段階となれば,当該特許技術
を採用した新製品が新たな市場を形成するに至ったというべきである。
被控訴人は,従来の抗生物質製剤の市場に対し,日本初の一体型キットとして本
件実施品3を登場させたところ,無菌性,簡便性及び確実性に優れ,従来技術と比
較して技術的優位性が著しかったため,安定した売上高を確保し,平成8年度まで
は本件実施品3のいわば独壇場であった。従来のバイアル瓶入り抗生物質製剤及び
輸液の市場に対し,一体型キットが平成10年度までの間に31.4%もの普及率
を獲得するに至ったのであるから,新たな「一体型キットの抗生物質製剤の市場」
が形成されたというべきである。患者の属性・治療方法の選択,病院・医院の経済
的負担の問題から,バイアル瓶入り抗生物質製剤の需要は引き続き存在するが,一
体型キットとは需要者及び市場が異なるものというべきであって,本件実施品3の
シェアについては,一体型キットの市場におけるシェアを考慮すべきである。
ウ 原判決は,本件発明等3が実現した効果・効用を正確に把握しなかったのみ
ならず,単に,平成6,7年ころから本件実施品3の代替品が普及しつつある状況
にあったことのみをもって,本件発明3-1の超過売上高を20%とするが,代替
品の普及時期に関する事実認定自体が誤りであるのみならず,代替品の出現後,競
合他社とのシェア獲得競争において,発明の独占効が強く意識されるものであるか
ら,代替技術を用いた競合品が後発で出現することによって発明の独占効が低下又
は消失するとの判断は不合理である。
本件実施品3は,先発品として独占的排他的効力を有しており,6年後に大塚製
薬がOMCキットを製品化した後も,一定のシェアを維持している。また,共同開
発者である藤沢薬品工業の意向により,本件実施品3は藤沢薬品工業に対してのみ
供給されたが,大塚製薬は,大手製薬会社の主要な抗生物質製剤について,OMC
キットを受託製造しているのであるから,本件実施品3とOMCキットとは,供給
対象となる需要者が異なるものであり,藤沢薬品工業単独の薬剤(セファメジン,
エポセリン)の売上高とOEM生産されたOMCキットの売上高とを単純に比較す
ることは無意味である。全一体型キットの売上げにおいてOMCキットの総売上げ
が占めるシェアが大きくなったからといって,本件発明等3の技術的優位性・独占
効と単純に結びつけることはできない。同一薬剤(セファゾリンナトリウム)の売
上げについて,本件実施品3とOMCキットとの売上げを比較すると,藤沢薬品工
業が圧倒的に優位にある。OMCキットが採用された薬剤には,大手製薬会社の主
要な抗生物質製剤が含まれているが,これは,大塚製薬の代替技術の優位性を示す
というよりも,大塚製薬の営業力の強さを武器に新たな市場を開拓したことを示す
ものというべきである。また,医療容器において,内容物の薬剤と比較して,容器
自体の評価を軽視すべきではない。内容物の医薬品が先発品と同一成分である後発
品である場合,容器や包装を工夫することが,需要及び市場の獲得に必須となる。
本件実施品3は,従来にはない新しいキット品の市場を創造する契機となった製品
であって,その影響力は製薬会社に留まらず,原材料メーカー,包装材料業界,成
形加工業界,製薬設備業界などの関連業界,病院関係,厚労省など,極めて広範に
及んだものである。
本件発明等4について
ア 原判決は,本件発明等4について格別の技術的優位性がないとするが,他社
製品に用いられている代替技術が本件発明等4よりも同等以上といえるのかについ
て具体的に説明しておらず,明らかに不合理であって,従来の1ポート品とは異な
り,薬剤の取り違えを防止し,液漏れのおそれの少ない2ポート品である本件実施
品4を実現した本件発明等4には,他社製品との差別化を図り,売上げを押し上げ
る技術的優位性があったことは明らかである。実際,本件実施品4の売上高が先行
する大塚生食注TNの売上高を追い抜いた時期もあったから,本件発明等4に従来
技術の基本的利便性を超える技術的優位性が存在することは明らかである。
イ 被控訴人は,競合他社である大塚製薬等と比較して明らかに営業力が弱く,
しかも,被控訴人の製品は後発品がほとんどであるから,大塚製薬等に対抗して販
売努力や営業方針のみで市場を獲得することはほぼ不可能であって,独自の製法,
製品形状,構造,デザインが総合的に組み合わされ,高い利便性を有するキット製
品の製造・販売に成功したことが市場獲得の原動力であるといえる。通常,後発メ
ーカーの薬価は,先発メーカーの薬価よりも3ないし4割安くなることが多いが,
本件実施品4は,強い営業力を有する大塚製薬の先発品である大塚生食注TNより
も高い単価で販売でき,かつ,シェアを獲得したのであるから,本件発明等4が技
術的優位性を有し,独占効を有していたことは明らかである。
ウ したがって,本件実施品4について超過売上高を否定した原判決は誤りであ
って,超過売上高は,少なくとも売上高の50%を下らない。
本件発明等5について
ア 本件実施品5が,一体型キットの同種製品において大きなシェアを占めると
しても,必ずしも当該製品における技術的優位性を反映したものとはいえないとす
る原判決の判断が誤りであることは,本件発明等3について先に述べたとおりであ
る。
被控訴人は,藤沢薬品工業と共同で,大塚製薬のバッグタイプのキットが有する
操作の簡便性,確実性及び廃棄の容易性に十分対抗できる性能を有し,大塚製薬が
有するOMCキットに係る特許には抵触しない新技術として本件発明等5の開発に
成功した上で本件実施品5を発売し,OMCキットを採用した大塚製薬の「セファ
ゾリン」をはるかに超える売上げを有するに至ったものである。
イ 本件発明等5は,製造コストの削減に直結する発明であり,被控訴人が,さ
らに部品点数が少ないバッグタイプの輸液と抗生物質製剤の一体型キットである本
件実施品6を発売後も,藤沢薬品工業は,本件実施品5を採用し続けているのであ
るから,本件発明等5が相当なコストダウンに貢献し,藤沢薬品工業及び被控訴人
の利益に直結していることは明らかである。
ウ したがって,本件実施品5について超過売上高を否定した原判決は誤りであ
って,超過売上高は,少なくとも売上高の50%を下らない。
本件発明等6について
ア 本件実施品6が,一体型キットの同種製品において大きなシェアを占めると
しても,必ずしも当該製品における技術的優位性を反映したものとはいえないとす
る原判決の判断が誤りであることは,本件発明等3について先に述べたとおりであ
る。
原判決は,大塚製薬のOMCキットの販売数量のみを重視するが,強い営業力を
有し,大手製薬会社の主要な抗生物質製剤に採用された大塚製薬の製品に対して,
本件実施品6が市場において拮抗するに至り,平成20年度ないし平成21年度に
は,全抗生物質製剤キットの約30%近いシェアを獲得するなど,シェア及び売上
げを伸ばしている事実を無視するものであって,不当である。本件発明等6がOM
Cキットよりも技術的に優位なものであり,同等以上の代替技術が市場に存在しな
かったからこそ,被控訴人は,先行する大塚製薬の特許の実施許諾を受けることな
く市場に参入し,多大なシェアを獲得できたのである。
イ 発明によってコストダウンが実現した場合,実施品の売上高の増加がなくと
も企業の利益に直結するのであるから,それはまさに当該発明の超過売上高とされ
なければならない。
本件実施品6は,同等の性能を有する唯一の競合製品であるOMCキットの製法
上の欠点を克服した新規の製法によってダブルバッグタイプの抗生物質製剤キット
を実現することにより,OMCキットを上回る低コスト製品の製造を可能とするも
のであるから,このコスト低減の効果は,被控訴人が新規市場参入し,シェアを獲
得するに当たり,超過売上高に直結する顕著な技術的優位性を有していることは明
らかである。
ウ したがって,本件実施品6について超過売上高を否定した原判決は誤りであ
って,超過売上高は,少なくとも売上高の50%を下らない。
3 争点1-4(仮想実施料率)について
社団法人発明協会研究センター(当時)作成の実施料率に係る統計資料
(甲39。以下「甲39資料」という。)の「精密機械器具」の分類には,「医療用
機械器具・医療用品製造業」が含まれている。当該分類には,いわゆる高度な電
子機器や精密機械のみならず,多種多様な製品群が含まれているところ,本件
実施品1ないし6は,単なる包装容器ではなく,医療器具としての有用性,機能性
をも有する製品であり,医薬品に近い製造環境や品質管理において製造され,医薬
品と一体化した後は医薬品として製造承認を得ることが必要で,薬価が算定される
製品であるから,本件実施品1ないし6も,「医療用機械器具・医療用品製造業」
に含まれることは明らかである。
原判決は,「精密機械器具」として列挙されているものは測量器械器具や光学機
械器具・レンズ製造技術等であることから,本件発明等の容器が「精密機械器具」
には含まれないとするが,「精密機械器具」という大枠の分類にこれらの容器とは
分野が異なる測量器械器具や光学機械器具・レンズ製造技術が含まれているからと
いって,本件実施品1ないし6が「精密機械器具」に該当しないということができ
ないことは明らかである。
原判決は,本件実施品1ないし6について,株式会社帝国データバンク作
成の実施料率に係る統計資料(乙36。以下「乙36資料」という。)の「成形」
に含まれるとするが,当該技術分類は非常に広範な技術分野を含んでいるところ,
当該分類に本件実施品1ないし6が含まれる理由は不明である。成形の技術分野に
は,レンズ・プリズム等の光学部品の製造(甲39資料では精密機械器具に該当す
る。)から,ボタン又はその半完成品の製造や空気タイヤの製造など,要求される
技術レベルが様々な分野のプラスチック製品の製造が含まれている。甲39資料は,
技術分野を31種類と細かく分類し,かつ,昭和43年から蓄積したデータに基づ
いているが,乙36資料は,技術分野を26種類に分類しているものの,そのうち
6分野はほとんど統計データのない無意味な分類となっており,かつ,平成22年
3月の時点での統計資料にすぎない。
したがって,乙36資料に基づいて本件発明等の仮想実施料率を3.4%
とした原判決は誤りであって,仮想実施料率は6.7%とされるべきである。
4 前記1ないし3を前提に,本件発明等の相当の対価の額を算定すると,別表
5のとおり,合計1億4261万0503円となる。
〔被控訴人の主張〕
1 争点1-2(被控訴人による本件実施品1ないし6の売上高)について
本件実施品2-2及び本件実施品2-3のバッグは被控訴人が製造する製品であ
るが,培地は他社から購入して充填しているものであって,価格におけるバッグと
培地との比率は1:4であるから,相当の対価額算定に当たり,上記各実施品の売
上高をバッグ相当分である価格全体の5分の1とした原判決に誤りはない。
2 争点1-3(超過売上高)について
(1) 超過売上高の考慮要素について
ア 市場に初めて提供される製品については,市場で受け入れられるか否か等に
ついて観察期間が生じるのが通常であって,その間に模倣品や代替品が市場に登場
しないのは,特許の独占効に基づくものではない。特に医薬品は,許認可が必要で
あることから商品化に時間と費用を要するため,将来も含めて市場に受け入れられ
る商品形態について慎重な考慮が必要となり,意識的に市場参入しない期間が存在
することになる。
イ ある発明を自己実施して製品を市場で販売する場合,使用者の売り込み努力
や宣伝などの営業努力が効果的であるほど,売上高の増加に大きく寄与するもので
ある。
売上高に対する当該技術の寄与は,営業努力の結果が及ぼした効果を控除した上
で認定されるべきであって,職務発明に係る超過売上高も,当該発明の寄与部分に
基づいて算定されるべきである。
同様に,使用者が製造設備に多額の投資をして製造所要単価を引き下げたり,品
質を向上させた場合や,営業ノウハウを用いることによって売上げを増加させた場
合など,使用者の独自の努力によって製品の売上高を向上させたのであれば,当該
部分は職務発明の寄与を認めることはできない。
ウ 同一市場に技術的に同程度と評価される競合品,代替品が多数存在し,実施
品が公知技術に近く,格別の優位性を有しない場合には,その製品につき特許権が
存在したとしても独占効を発揮するものではない。
本件発明等2について
培地充填済みバッグに係る技術は, 博士が発案したものであり,控訴人は,
博士からバッグの改良を依頼されたにすぎない。控訴人は,依頼に基づいて,
バッグの素材のフィルムの組成を改良した(本件発明2-1)上で,コージンバイ
オ社発明と実質的に同一技術である本件発明2-2を権利化したものである。本件
発明2-2は,方法の発明として権利化されているが,その技術思想からすると,
コージンバイオ社発明と実質的に同一であるというべきであって,被控訴人による
権利化の事実を知った 博士が激怒したものである。
したがって,本件発明等2の超過売上高についての原判決の認定に誤りはない。
本件発明等3について
ア 確かに,本件実施品3は,平成8年度まで,一体型キットにおいて,ほぼ1
00%のシェアを有していた。しかし,これは,競合他社が国内初の一体型キット
の承認動向及び売上状況を見定めていたこと,本件実施品3は,操作において技術
的繁雑さを伴うため,改良を要する点が少なくなかったこと,ガラスとプラスチッ
クの分別廃棄が必要であったことなどから,競合品・代替品が直ちに出現しなかっ
たためであり,本件特許権等3の独占効によるものではない。
実際,本件実施品3は,後に発売された代替品(大塚製薬OMCキット等)と比
較して複雑な機構を有し,構成部品も多かったため,権利者である被控訴人も,本
件特許権等3の権利存続期間中に,本件実施品3を単純化・小形化された本件実施
品5に置き換えたものである。
イ したがって,本件実施品3の超過売上高を20%とする原判決の認定は,む
しろ過大に評価したものというべきである。
本件発明等4ないし6について
本件実施品4ないし6についても,競合品・代替品が多数存在しており,被控訴
人の企業努力の成果や営業力の売上高に対する貢献などからすると,本件実施品4
ないし6について超過売上高を否定した原判決の認定に誤りはない。
なお,本件実施品4の競合品であり,売上高が増加している大塚生食注2ポート
は,本件特許権4-1及び本件特許権4-2のいずれをも回避しており,大塚生食
注TNの売上高と合計すると,売上個数では本件実施品4を上回るものである。
また,被控訴人は,本件発明6-1を実施していない。
3 争点1-4(仮想実施料率)について
控訴人は,当初,原判決の仮想実施料率に係る認定を認めていたところ,
その後になって,仮想実施料率を3.4%とした原判決は誤りであって,6.7%
とされるべきであると主張するに至ったものである。
しかしながら,控訴人による主張の変更は自白の撤回に当たるというべきであっ
て,被控訴人はこれに対して異議を述べる。
甲39資料の「医療用機械器具・医療用品製造業」とは,医療用であり,
かつ,「精密機械器具」と評価される程度・部類の医療用品の製造業を意味するも
のというべきである。
被控訴人は,技術的に極めて高度な「精密機械器具」等は取扱製品とはしていな
い。実際,本件実施品1及び2は,プラスチック袋であって,素材の通気性・透明
性・強度が主たる課題とされているし,本件実施品3ないし6は,いずれも粉剤と
生理食塩水等とを点滴時に混合するためのプラスチック製の容器を中心とした用具
であって,滅菌下での両剤のスムーズな混合を中心的課題とする技術であるから,
「精密機械器具」等ではあり得ない。
したがって,控訴人の主張は失当である。
4 以上のとおり,控訴人の主張はいずれも誤りであり,本件発明等の相当の対
価の額は,原判決が認容した57万1078円を超えるものではない。
第4 当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の請求は,本件発明1-1,本件発明2-1及び本件発明3
-1に係る未払の相当の対価額合計73万4521円及び内47万7956円に対
する平成20年11月19日から,内17万0726円に対する平成22年4月1
日から,内8万5839円に対する平成23年4月1日から,各支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,理由があるものと判
断する。その理由は,以下のとおりである。
1 争点1-1(被控訴人の本件発明6-1ないし6-3及び本件考案6の実施
の有無),争点1-2(被控訴人による本件実施品1ないし6の売上高)及び争点
1-3(超過売上高)について
後記 のとおり原判決を訂正し,後記 のとおり付加するほか,原判決「事実
及び理由」の第4の1ないし4記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決の訂正について
ア 原判決63頁16行目の「本件創作意匠」を「本件創作意匠2」と改める。
イ 原判決67頁18行目の「先後を誤り,その場合」を「先後を誤った場合」
と改める。
ウ 原判決72頁12行目の「評価して」を「評価をして」と改める。
エ 原判決74頁10行目の「いえる」を「いえる。」と改める。
オ 原判決79頁23行目の「本件実施品」を「本件実施品3」と改める。
カ 原判決87頁18行目の「は,」を削除する。
キ 原判決99頁4行目から7行目までを以下のとおり改める。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●
ク 原判決99頁14行目から16行目までを以下のとおり改める。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●
ケ 原判決103頁6行目から7行目にかけての「反映したものということまで
はできず」を「反映したものとまでいうことはできず」と改める。
当審における主張について
ア 争点1-2(被控訴人による本件実施品1ないし6の売上高)について
控訴人は,被控訴人は本件実施品2-2及び本件実施品2-3として培地充填済
みバッグを販売していること,本件発明2-1は当該バッグの素材に関する発明で
あるが,その素材は液体培地の無菌状態の保持に対して効果を奏するので,液体培
地にも発明の独占効が及ぶということができることから,培地充填済みバッグの超
過売上高に仮想実施料率を乗じるべきであって,培地相当分を控除したバッグ相当
分である5分の1に限り,相当の対価額算定の基礎とした原判決は誤りであるなど
と主張する。
しかしながら,本件発明2-1は,特定の共重合体からなる線状低密度ポリエチ
レンと低密度ポリエチレンとを特定の配合比で組成することによって,フィルムの
強度・透明性・酸素透過性などの点において最も好ましいポリマーアロイを実現し
たものであり,培地充填済みバッグにおけるバッグの素材に関する発明であって,
液体培地に係る発明特定事項はない。そして,培地充填済みバッグは,液体培地に
おいて細胞を培養することを目的とする製品であるから,その用途からすれば,液
体培地を無菌状態で保持することが当然の前提とされているものであって,バッグ
の素材が液体培地の無菌状態の保持に効果を奏することはむしろ当然である。
また,本件発明2-2の技術内容からすると,仮に,本件実施品2-2及び本件
実施品2-3の液体培地を含めた価格全体をもって超過売上高を算定するのであれ
ば,バッグの素材に関する発明である本件発明2-1の製品価格全体における寄与
度は,バッグ相当分である5分の1を上回るものではないというべきである。
よって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
イ 争点1-3(超過売上高)について
ア 超過売上高の判断手法について
控訴人は,1つの製品に対して複数の発明等が実施されている場合,各発明等の
それぞれが効果を発揮して全体として製品を差別化し,商品力を高め,市場獲得に
有効に働くものであるから,それら複数の発明等の権利は単に別個の権利として分
断して評価されるべきものではなく,実施されている複数の権利を総合して超過売
上高を評価すべきであって,各実施品において最も排他性を有すると考えられる代
表的な発明のみを取り上げて超過売上高を算定する原判決は相当ではないなどと主
張する。
しかしながら,この点に関し,原判決は,各発明等の有する従来技術との対比に
おける技術的優位性や代替技術の有無などの諸事情を考慮した上で,他社に対する
禁止権の効果として超過売上高を得たか否かを検討しているものであるところ,禁
止効を有しない発明等について超過売上高を算定することは相当ではないし,禁止
効が乏しい発明等については,原判決が超過売上高を認めた本件発明1-1,本件
発明2-1及び本件発明3-1における超過売上高の認定において評価し尽くされ
ているということができる。
よって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
イ 本件発明等2について
控訴人は,本件発明2-2は培地充填済みバッグの製造方法に係る発明であり,
当該方法により製造した完成品の品質に直結する発明というべきである,本件発明
2-2とコージンバイオ社発明とは利用関係にあるとしても,本件発明2-2は,
当該バッグの製造方法としては2つとない合理的な製造方法であって,コージンバ
イオ社及び他社に対して禁止効を有していることは明らかである,コージンバイオ
社の競合品はその品質が本件実施品2よりも劣り,市場でほとんどシェアを獲得で
きず,依然として本件実施品2が80%以上の高いシェアを維持しているから,本
件特許権2-2は大きな排他的効力を有しているというべきであって,本件実施品
2-1及び本件実施品2-2の超過売上高は,少なくとも売上高の50%を下らな
いなどと主張する。
しかしながら,本件発明2-2は,培地充填済みバッグの製造過程において,バ
ッグと培地とを一体的に滅菌せず,バッグ及び2次包材並びに液体培地の滅菌を別
個に行い,それらを無菌の状態で製品に仕上げることにより液体培地に対する放射
線(γ線)照射が不要となることをその技術内容とするものであるから,完成品の
品質を向上させるものではあるものの,培地充填済みバッグの製造過程における滅
菌方法に係る発明であるというべきであって,同バッグの製造方法として2つとな
い合理的な製造方法とまでいうことはできない。
そして,本件発明2-1は,培地充填済みバッグにおけるバッグの素材のフィル
ムの組成を改良した発明であり,培地充填済みバッグに係る基本的,代表的な発明
は,被控訴人も本件実施品2について実施料を支払っているコージンバイオ社発明
であること,本件実施品2-1及び本件実施品2-2が競合品と比較して価格が3
分の1程度であること(甲47の1)も,高いシェアを有する一因であると推測さ
れることなどからすると,本件実施品2-1及び本件実施品2-2の超過売上高は,
原判決の認定した40%をもって相当と認める。
ウ 本件発明等3について
控訴人は,本件実施品3が従来のバイアル瓶入り抗生物質製剤等の市場で平成1
0年度までに31.4%もの普及率を獲得するに至ったのであるから,新たな「一
体型キットの抗生物質製剤の市場」が形成されたというべきである,患者の属性・
治療方法の選択,病院・医院の経済的負担の問題から,バイアル瓶入り抗生物質製
剤の需要は引き続き存在するが,一体型キットとは需要者及び市場が異なるものと
いうべきであって,本件実施品3のシェアについては,一体型キットの市場におけ
るシェアを考慮すべきである,代替品の普及時期に関する原判決の事実認定自体が
誤りであるのみならず,代替品の出現後,競合他社とのシェア獲得競争において,
発明の独占効が強く意識されるものであるから,代替技術を用いた競合品が後発で
出現することによって発明の独占効が低下又は消失するとの判断は不合理である,
本件実施品3は藤沢薬品工業に対してのみ供給されたが,大塚製薬は,大手製薬会
社の主要な抗生物質製剤について,OMCキットを受託製造しているのであるから,
本件実施品3とOMCキットとは,供給対象となる需要者が異なるため,これらの
売上高を単純に比較することは無意味である,大塚製薬のシェアが大きくなってい
るのは,その代替技術の優位性よりも,営業力の強さにより新たな市場を開拓した
ためであるなどと主張する。
しかしながら,抗生物質製剤の製造販売について,従来のバイアル瓶入り抗生物
質製剤を採用するか,一体型キットを採用するかについては,需要者側の諸事情を
考慮し,各製薬業者が経営判断により決定する事項というべきであって,利便性に
係る付加価値を生じさせるにすぎない一体型キットの採用が抗生物質製剤の製造販
売に不可欠というわけではないこと,一体型キットの抗生物質製剤は,仮に売上高,
売上げ個数が多く,同種製品において大きなシェアを占めるとしても,それは必ず
しも当該製品における技術的優位性を反映したものとまでいうことはできず,各製
薬業者の営業方針や営業力,販売力,中身として使用される薬剤の選好性等の影響
があることも考慮しなければならないことは,原判決が認定するとおりであって,
被控訴人は他社に先行して一体型キットを販売することにより利益を得ていたもの
の,平成6,7年には代替品が出現している以上,平成7年ころには本件実施品3
の技術的優位性が低下していたものということができる。しかも,本件実施品3は,
一体型キットの一形態にすぎず,被控訴人自身,平成10年には,本件実施品3と
比較して,より利便性が高く,小型化,軽量化を実現し,分別廃棄を必要としない
本件実施品5に置き換えているものである。
また,一体型キットの市場におけるシェア自体も,平成10年度には22%のシ
ェアを占めるのみであるし,大塚製薬のシェア獲得に同社の営業力が影響していた
としても,本件特許権3-1の技術的優位性が控訴人の主張するほど高かったので
あれば,同社が平成10年度に51%ものシェアを獲得することは不可能であった
というほかない。本件実施品3が藤沢薬品工業に対してのみ供給されたという事情
は,本件特許権3-1が競合品の出現や競合他社によるシェア獲得を阻止する程度
の技術的優位性を有していたか否かに係る判断を左右するものではない。
したがって,本件実施品3の超過売上高は,原判決の認定した平成7年度までの
売上高の20%をもって相当と認める。
エ 本件発明等4について
控訴人は,原判決は他社製品に用いられている代替技術が本件発明等4よりも同
等以上といえるのかについて具体的に説明していない,被控訴人は競合他社である
大塚製薬等と比較して明らかに営業力が弱く,また,被控訴人の製品は後発品がほ
とんどであるから,高い利便性を有するキット製品の製造・販売に成功したことが
市場獲得の原動力であるといえるところ,本件実施品4は,強い営業力を有する大
塚製薬の先発品である大塚生食注TNよりも高い単価で販売でき,かつ,シェアを
獲得したのであるから,本件発明等4が技術的優位性を有し,独占効を有していた
ことは明らかであるなどと主張する。
しかしながら,本件実施品4の販売開始よりも2年前から競合品である大塚生食
注TNが発売されており,ほかに少なくとも2社の競合品が存在すること,平成1
5年度から平成19年度までは,本件実施品4の売上高が大塚生食注TNよりも若
干上回ったが,大塚生食注TNが安定して高い売上げを維持していることなどから
すると,被控訴人が本件特許権等4を有していたことによる他社に対する禁止権の
効果として,被控訴人が超過売上高を得たという関係を認めることはできない。
よって,控訴人の上記主張は,いずれも採用することができない。
オ 本件発明等5について
控訴人は,大塚製薬が有するOMCキットに係る特許には抵触しない新技術とし
て本件発明等5の開発に成功した上で本件実施品5を発売し,OMCキットを採用
した大塚製薬の「セファゾリン」をはるかに超える売上げを有するに至ったもので
ある,本件発明等5は,製造コストの削減に直結する発明であり,被控訴人が本件
実施品6を発売後も,藤沢薬品工業は,本件実施品5を採用し続けているのである
から,本件発明等5が相当なコストダウンに貢献し,藤沢薬品工業と被控訴人の利
益に直結していることは明らかであるなどと主張する。
しかしながら,本件実施品5が発売された平成10年には,一体型キットの抗生
物質製剤としては14社25品目の競合品が存在し,そのうち,大塚製薬の製品が
51%ものシェアを占めていたところ,原判決別紙17抗生物質キット医薬品及び
ハーフキットの売上個数「1 抗生物質キット」記載のとおり,平成20年度まで
の一体型キットの抗生物質製剤の売上げ個数において,継続して大塚製薬の製品が
最も多く,全製品における約50%程度のシェアを有しているのに対し,本件実施
品5は大塚製薬の製品の約3分の1程度の売上げ個数を有しているにすぎないもの
であるから,本件実施品5がコストダウンに貢献したことなどに係る控訴人の上記
主張を考慮しても,被控訴人が本件特許権等5を有していたことによる他社に対す
る禁止権の効果として,被控訴人が超過売上高を得たという関係を認めることはで
きない。
また,大塚製薬の特定の製品のみとの関係において,対応する本件実施品5の製
品の売上げ個数を比較することをもって,本件特許権等5の技術的優位性を認める
ことができないことは明らかである。
よって,控訴人の上記主張は,いずれも採用することができない。
カ 本件発明等6について
控訴人は,本件発明等6が大塚製薬の製品よりも技術的に優位なものであり,同
等以上の代替技術が市場に存在しなかったからこそ,強い営業力を有し,大手製薬
会社の主要な抗生物質製剤に採用されたOMCキットに対し,大塚製薬の特許の実
施許諾を受けることなく市場に参入し,多大なシェアを獲得できたのである,本件
実施品6は大塚製薬の製品を上回る低コスト製品の製造を可能とするものであるか
ら,このコスト低減の効果は,被控訴人が新規市場参入し,シェア獲得するに当た
り,超過売上高に直結する顕著な技術的優位性を有していることは明らかであるな
どと主張する。
しかしながら,本件実施品6も,平成20年度において,大塚製薬の製品の半分
程度のシェアを獲得するに至ったものの,前記 オ のとおり,一体型キットの抗生
物質製剤としては競合品が多数存在しており,そのうち,大塚製薬の製品が過半数
のシェアを占めることなどからすると,本件実施品6が低コスト製品の製造を可能
としたことなどに係る控訴人の上記主張を考慮しても,被控訴人が本件特許権等6
を有していたことによる他社に対する禁止権の効果として,被控訴人が超過売上高
を得たという関係を認めることはできない。
よって,控訴人の上記主張は,いずれも採用することができない。
2 争点1-4(仮想実施料率),争点1-5(使用者の貢献度),争点1-6
(共同発明者間における控訴人の貢献度),争点1-7(相当の対価額),争点2
(控訴人による放棄の意思表示の有無),争点3(消滅時効の成否)及び争点4
(控除すべき金額)について
次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第4の5ないし11記載の
とおりであるから,これを引用する。
原判決110頁6行目から同14行目までを以下のとおり改める。
「 本件発明等1は,血小板保存用バッグ又はそれを用いた複合バッグに係る
発明等であるところ,本件発明1-1は,バッグの素材に特定の共重合体等による
ポリマーアロイを使用することによって,バッグ中の血小板の長期間保存を可能と
するものである。
また,本件発明等2は,細胞培養用バッグに係る発明等であるところ,本件発明
2-1は,バッグの素材のフィルムを特定の共重合体からなる線状低密度ポリエチ
レンと低密度ポリエチレンとを特定の配合比で組成することによって,最も好まし
いポリマーアロイを実現したものである。
さらに,本件発明等3は,一体型キット又はこれを含む輸液容器に関する発明等
であるところ,本件発明3-1は,一体型キットの連通手段に関する発明であり,
制動手段により最初に薬剤容器の栓が刺通された後,可撓性容器の閉鎖膜が刺通さ
れるため,先に閉鎖膜が刺通され,可撓性容器内の溶解液や希釈液がカプセル内に
漏洩する不都合を防止するとともに,中空の穿刺針が連通手段として用いられてお
り,穿刺針が薬剤容器の栓と可撓性容器の液体通路部の閉鎖膜とを刺通することに
より,連通後の薬剤と溶解液の混合を短時間で行うことができるものである。
控訴人は,本件実施品1ないし3はいずれも甲39資料における「医療用
機械器具・医療用品製造業」に含まれ,仮想実施料率は6.7%であると主張する。
他方,被控訴人は,本件実施品1ないし3はいずれも乙36資料における「成
形」に含まれ,仮想実施料率は3.4%であると主張する。
よって検討するに,本件発明1-1及び本件発明2-1は,いずれもバッグの素
材に係る発明であり,本件発明3-1は,一体型キットの連通手段に関する発明で
あり,かかる技術内容からすると,本件実施品1ないし3に係る仮想実施料率とし
て「成形」に係る実施料率の平均値を用いることは相当ではなく,これを直ちに採
用することはできない。
これに対し,甲39資料における6.7%との数値は,医療用機械器具のみなら
ず,日本標準産業分類F32が関連する様々な器具等に関し,いわゆるイニシャ
ル・ペイメント条項がない条件の下での内容が異なる各種実施料率の平均値である
ところ,算定対象となった契約は,商標のライセンスを含むものであるのみならず,
特に高率の契約の過半数はメガネ・サングラスに係る契約であり,また,その約5
0%はメガネフレームの商標に係る契約,その約30%はソフトウェアを伴う質量
分析器に関する契約であるから,当該数値も,本件実施品1ないし3に係る仮想実
施料率としては過大に評価するものとして,直ちに採用することはできない。
そこで,以上説示したところに加え,本件実施品1ないし3には競合品が多数存
在しており,同種製品の製造販売に関し,上記各発明について実施許諾を得ること
が必要不可欠とまでいうことはできないことなどを併せ考慮すると,本件実施品1
ないし3に係る仮想実施料率は,いずれも4%をもって相当と認める。
なお,被控訴人は,当初,原判決の仮想実施料率に係る認定を認めていた
控訴人が後にこれを争うことは,自白の撤回に当たるなどと主張する。
しかしながら,控訴人は,原判決の仮想実施料率の認定を争わない旨を記載した
控訴状を提出したものの,これを陳述する前に,仮想実施料率についても争う旨を
記載した控訴状変更申立書を提出し,上記各書面は,いずれも当審の平成25年4
月23日の第1回口頭弁論期日において陳述されたものであるから,原判決の仮想
実施料率の認定を争わない旨の控訴人の陳述については,裁判上の自白が成立して
いたものということはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は失当である。」
(2) 原判決113頁2行目及び同14行目の各「33.3%」をいずれも「3
分の1」と改める。
原判決113頁17行目から同115頁10行目までを以下のとおり改め
る。
「 本件発明1-1について
本件発明1-1の相当の対価額は,平成2年1月5日から平成11年度までの本
件実施品1の売上げを基礎として,合計●●●●●●●円と認められる(なお,平
成2年1月5日から同年3月31日まで(86日間)の売上げについては,平成元
年度の売上げを日割り計算した●●●●●●●●円(円未満切り捨て。以下同じ)
をもって相当と認める。。
)
(計算式)
ア 平成元年度から平成5年度までについて
【売上額】 【超過売上高】
●●●●●●●●●●●円 ×40%
【仮想実施料率】 【1-使用者貢献度】 【共同発明者間の割合】
× 4% × (100%-95%) × 100%
= ●●●●●●●円
イ 平成6年度から平成11年度までについて
【売上額】 【超過売上高】
●●●●●●●●●円 × 20%
【仮想実施料率】 【1-使用者貢献度】 【共同発明者間の割合】
× 4% × (100%-95%) × 100%
= ●●●●●●円
ウ 合計
●●●●●●●円 + ●●●●●●円 = ●●●●●●●円
本件発明2-1について
本件発明2-1の相当の対価額は,平成2年度から平成22年3月26日(本件
特許権2-1に係る存続期間満了日)までの本件実施品2の売上げ(バッグ相当
額)を基礎として,合計●●●●●●●円と認められる(なお,平成21年4月1
日から平成22年3月26日まで(360日間)の売上げについては,平成21年
度の売上げ●●●●●●●円(バッグ相当額分)を日割り計算した●●●●●●●
●●●●円をもって相当と認める。。
)
なお,後記10のとおり,控訴人が実績補償金について権利行使することができ
るのは,本件発明等が特許等として登録され,かつその後の被控訴人の3年間の利
益が算定可能となった後の年度末(3月31日)であると解するのが相当である。
そうすると,平成9年5月2日に特許登録された本件発明2-1については,平
成2年度から平成11年度までの売上げに対する実績補償金は平成13年3月31
日に,平成12年度から平成14年度までの売上げに対する実績補償金は平成16
年3月31日に,平成15年度から平成17年度までの売上げに対する実績補償金
は平成19年3月31日に,平成18年度から平成20年度までの売上げに対する
実績補償金は平成22年3月31日に,平成21年度の売上げに対する実績補償金
は平成23年3月31日に権利行使が可能となる。
本件において,控訴人は,催告の日の翌日である平成20年11月19日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めているので,以
下のとおり,同日以前に権利行使が可能となった平成2年度から平成17年度まで
の売上げに対する実績補償金と,同日以降に権利行使が可能となった平成18年度
から平成20年までの売上げに対する実績補償金及び平成21年度の売上げに対す
る実績補償金とに分けて,各別に算定することとする。
ア 平成2年度から平成17年度までについて
(計算式)
【売上額】 【超過売上高】
●●●●●●●●●●●円 × 40%
【仮想実施料率】 【1-使用者貢献度】 【共同発明者間の割合】
× 4% × (100%-95%) × 100%
= ●●●●●●●円
イ 平成18年度から平成20年度までについて
(計算式)
【売上額】 【超過売上高】
●●●●●●●●●●●円 × 40%
【仮想実施料率】 【1-使用者貢献度】 【共同発明者間の割合】
× 4% × (100%-95%) × 100%
= ●●●●●●●円
ウ 平成21年度について
(計算式)
【売上額】 【超過売上高】
●●●●●●●●●●●円 × 40%
【仮想実施料率】 【1-使用者貢献度】 【共同発明者間の割合】
× 4% × (100%-95%) × 100%
= ●●●●●●●円
エ 合計
●●●●●●●● ● ●●●●●●●● ● ●●●●●●●
= ●●●●●●●円
本件発明3-1について
本件発明3-1の相当の対価額は,平成2年度から平成7年度までの本件実施品
3の売上げを基礎として,●●●●●●●円と認められる。
(計算式)
【売上額】 【超過売上高】
●●●●●●●●●●●●円 × 20%
【仮想実施料率】 【1-使用者貢献度】 【共同発明者間の割合】
× 4% × (100%-95%) × 25%
= ●●●●●●●円」
原判決121頁24行目の●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と,
同25行目の●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●と各改める。
第5 結論
以上の次第であるから,これと異なる原判決を変更することとし,主文のとおり
判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 土 肥 章 大
裁判官 田 中 芳 樹
裁判官 荒 井 章 光
(別表省略)
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