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平成26(行ケ)10231審決取消請求事件

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裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成27年8月6日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官千葉輝久
原告ノキアコーポレイション
法令 特許権
特許法29条2項5回
特許法17条の21回
キーワード 審決24回
進歩性3回
優先権2回
実施1回
分割1回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 特許庁が不服2013-15336号事件について平成26年6月11日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟 である。争点は,進歩性判断の当否である。

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判決文

平成27年8月6日判決言渡
平成26年(行ケ)第10231号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成27年7月28日
判 決
原 告 ノキア コーポレイショ ン
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 川 守 田 光 紀
被 告 特許庁長官
指 定 代 理 人 和 田 志 郎
千 葉 輝 久
相 崎 裕 恒
田 中 敬 規
主 文
1 特許庁が不服2013-15336号事件について平成26年6月11日に
した審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた裁判
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟
である。争点は,進歩性判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯
本願は,平成12年(2000年)12月15日(パリ条約による優先権主張1
999年12月16日,米国,2000年4月11日,米国,2000年11月2
8日,米国)を国際出願日とする特願2001-546145号の一部を,平成2
3年9月12日に分割出願(特願2011-198143号)したものであって,
平成25年2月22日に手続補正がなされたが,同年5月23日付けで拒絶査定が
なされた。これに対して原告は,同年8月8日付で不服審判を請求するとともに,
更なる手続補正(本件補正)を行った。
特許庁は,上記請求を不服2013-015336号事件として審理をした上,
平成26年6月11日に「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その
謄本は,同月24日に原告に送達された。
2 本願発明等の要旨
本件補正後の請求項5記載の発明(補正発明)の要旨は,以下のとおりである(甲
12)。
「【請求項5】
分散型ネットワークにおいて,
前記分散型ネットワークに参加しているいずれかのデバイスに格納されている第
1の写真アルバムであって複数のデジタル写真を含む写真アルバムが修正されたこ
とを検出する手段と,
前記検出結果に基づいて,前記分散型ネットワークに参加している,前記デバイ
ス以外のデバイスに格納されている他の写真アルバムであって前記第1の写真アル
バムに関係付けられる他の写真アルバムを前記第1の写真アルバムに自動的に同期
させる手段と,
を備える,分散された写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置。」
本件補正前の請求項11記載の発明(本願発明)の要旨は,以下のとおりである
(甲6)。
「分散型ネットワークにおいて,
分散されたマルチメディア資産の集合における特定の1つが修正されたことを検
出する手段と,
前記分散されたマルチメディア資産の集合における他を自動的に同期させる手段
と,
を備える,前記分散されたマルチメディア資産の集合における各々を自動的に同期
させる装置。」
3 審決の理由の要点
(1) 補正の目的
本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例とさ
れる同法による改正前の特許法(改正前特許法)17条の2第4項2号に規定する
特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2) 補正発明の進歩性
ア 特開平11-219330号公報(甲1)記載の発明(引用発明)
「情報提供者A乃至Cは,交通情報,天気情報,株価情報その他のリアルタイム
で変化するデータや,テキストデータ,画像データ,音声データ,コンピュータプ
ログラムなど(ひとまとまりの情報(例えば,1のファイル)以下,コンテンツま
たはオブジェクトという。)を記憶するデータベース1a乃至1cを有し,
データベース1a乃至1cに記憶されたオブジェクト(コンテンツ)が更新され
ると,即ち,記憶されたオブジェクトが変更されたり,また,そこにオブジェクト
が新規に登録されたり,あるいは,そこに記憶されているオブジェクトが削除され
ると,その更新を行うための更新オブジェクト情報が,サーバ2に送信され,
更新オブジェクト情報としては,オブジェクトが変更された場合は,例えば,そ
の変更後のオブジェクトが,新規のオブジェクトが登録された場合は,例えば,そ
の新規のオブジェクトが,オブジェクトが削除された場合は,例えば,そのオブジ
ェクトの削除指令が,それぞれデータベース1a乃至1cからサーバ2に対して送
信され,
サーバ2では,その更新オブジェクト情報に基づいて,データベース3が更新さ
れ,データベース3の登録内容を更新すると,更新オブジェクト情報に,その更新
オブジェクト情報によって更新されるオブジェクトを識別するための識別子(識別
情報)を付加したデータ(以下,サブジェクトという)
(更新データ)と,その取得
のためのサーバアクセス情報を含むイベント(そのサブジェクトと同一の識別子が
付加されたイベント)が生成され,
サーバ2は,更新オブジェクト情報を,通信ネットワーク6や専用線などを介し
てミラーサーバ7に送信し,ミラーサーバ7は,サーバ2からの更新オブジェクト
情報を受信し,その更新オブジェクト情報に基づいて,データベース8を更新し,
データベース3と8との登録内容は,常時,同一になるようになされ,
受信端末5は,通信ネットワーク6を介し前記イベントを受信し,受信したイベ
ントに基づいてサーバ2やミラーサーバ7に,サブジェクトを要求し,その要求に
対応して,サーバ2やミラーサーバ7から,通信ネットワーク6を介して送信され
てくるサブジェクトを受信し,受信させたサブジェクトに含まれる識別子に対応す
るオブジェクトを,データベース23から検索し,そのサブジェクトに含まれる更
新オブジェクト情報に基づいて更新し,
更新オブジェクト情報としては,例えば,更新前のオブジェクトに,更新後のオ
ブジェクトへの変更内容を反映させるためのデータ(例えば,更新前のオブジェク
トを,更新後のオブジェクトに変更する実行形式のコンピュータプログラムや,更
新後のオブジェクトと更新前のオブジェクトとの差分など)などを配置することも
可能である分散型データベースにおける多数のデータベースへのデータ配信システ
ム。」
イ 補正発明と引用発明の対比
(一致点)
分散型ネットワークにおいて,
前記分散型ネットワークに参加しているいずれかのデバイスに格納されている第
1のコンテンツが修正されたことを検知する手段と,
前記検出結果に基づいて,前記分散型ネットワークに参加している,前記デバイ
ス以外のデバイスに格納されている他のコンテンツであって前記第1のコンテンツ
に関係付けられる他のコンテンツを前記第1のコンテンツに自動的に同期させる手
段と,
を備える,分散されたコンテンツの集合を自動的に同期させる装置。
(相違点)
補正発明では,コンテンツが「複数のデジタル写真を含む写真アルバム」である
のに対し,引用発明は,コンテンツが「テキストデータ,画像データ,音声データ,
コンピュータプログラムなど(ひとまとまりの情報(例えば,1のファイル))で
ある点。
ウ 判断
ネットワーク上の記憶装置に,複数のデジタル写真を含むアルバムを記憶してお
くことは,原出願の優先権主張の日(本件優先日)前周知の技術である。これには,
例えば,特開平11-149412号公報(甲2,甲2文献)の記載,国際公開第
99/56463号(甲3,甲3文献。その日本語特許出願として,特表2002
-515658号公報,甲4)の記載等が参照される。
引用発明の「コンテンツ」は,
「テキストデータ,画像データ,音声データ,コン
ピュータプログラムなど(ひとまとまりの情報(例えば,1のファイル)」等であ

るから,当該コンテンツとしては画像データのコンテンツを含んでいる。
上記引用文献に接した当業者であれば,画像データコンテンツとして上記周知技
術であるデジタル写真アルバムを容易に想到し得るものであり,引用発明は,受信
端末5に送信されたコンテンツを記憶して利用するものであるから,コンテンツと
してデジタル写真アルバムが有用であることは明らかである。
したがって,引用発明において,(画像の)「コンテンツ」を「複数のデジタル写
真を含む写真アルバム」とすることにより,相違点の構成とすることは当業者が容
易になし得ることである。
そうすると,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものである。
(3) 補正却下等
以上のとおり,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願
の際独立して特許を受けることができない。したがって,本件補正は,改正前特許
法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同
法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下す
べきものである。
本願発明の構成要件をすべて含み,更に限定したものに相当する補正発明が,引
用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであ
るから,本願発明も同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者
が容易に発明をすることができたものである。したがって,本願発明は,特許法2
9条2項の規定により,特許を受けることはできない。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)
引用発明は,データを「不特定多数」へ一斉配信することを本質的な構成要件と
する発明であると理解すべきであり,単に「多数」へ配信するシステムではない。
引用発明の認定の誤りは,補正発明と引用発明との相違点の認定を誤らせ,補正発
明に対する特許法29条2項の適用を誤らせているので,審決は取り消されるべき
である。
2 取消事由2(相違点の認定の誤り)
上述のように,引用発明は,「不特定多数のデータベースへのデータ配信システ
ム」である。したがって,補正発明と引用発明との一致点が審決のとおりであると
しても,補正発明と引用発明との相違点は,当該装置が,補正発明の場合は「分散
型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置」である
のに対し,引用発明の場合は「分散型ネットワークにおいて,不特定多数のデータ
ベースへデータを同期させる装置」である点を,認定すべきであった。
3 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)
(1) 相違点は,次のように認定されるべきであった。
(相違点1)補正発明では,「コンテンツ」が,「複数のデジタル写真を含む写真
アルバム」であるのに対し,引用発明は,「コンテンツ」が,「テキストデータ,画
像データ,音声データ,コンピュータプログラムなど(ひとまとまりの情報(例え
ば,1のファイル)」である点(これは審決でも認定されている相違点である。 。

(相違点2)補正発明では,「装置」が,「分散型ネットワークにおいて,写真ア
ルバムの集合を自動的に同期させる装置」であるのに対し,引用発明は,
「装置」が,
「分散型ネットワークにおいて,不特定多数のデータベースへデータを同期させる
装置」である点。
(2) 上記相違点の想到容易性を検討すると,次のとおりである。
ア 「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期さ
せる」ことは,補正発明の出願時において全く新しい技術思想であり,当業者に想
到容易なことではない。
分散型ネットワークにおいて,特定の装置に格納した写真アルバムを他の装置と
自動的に同期させることについてまで,周知であるとの証拠はない。それどころか,
かかる技術を開示している先行技術文献は,知られていない。
審決が,周知技術を開示している文献として提示した,甲2文献及び甲3文献に
は,写真アルバム(及びその集合)を同期させることについては,何ら記載されて
いない。
「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させる」と
の特徴により,複数の機器の間で,保存された写真アルバムの集合に,一貫性を持
たせることができるという効果が得られる(本願明細書(甲5)段落【0066】,
【0067】。かかる効果は,引用発明の効果(不特定多数への一斉送信によるデ

ータ配信手法において受信側の負荷を軽減すること。)とは,異質なものである。
イ 「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期さ
せる」ことは,引用発明の目的及び構成に適合したものではない。
引用発明は,
「分散型ネットワークにおいて,不特定多数のデータベースへデータ
を同期させる装置」である。一方,
「写真アルバム」は,通常,プライベートな情報
であると考えられる。かかるプライベートな情報を,不特定多数のデータベースへ
データと同期させることは,当業者が通常行わないことである。
したがって,当業者は,引用発明を,
「分散型ネットワークにおいて,写真アルバ
ムの集合を自動的に同期させる」ために使用することに容易に想到しなかったと考
えられる。
ウ 写真アルバムのような個人的情報は,引用発明における「コンテンツ」
に該当しない。
前述のように,引用発明は,不特定多数への一斉送信によるデータ配信手法を採
用する際の技術的課題を解決することを目的とする発明である。したがって,配信
すべきデータを,不特定多数への一斉送信を行うことが,引用発明の基本的な構成
である。
また,引用発明は,
「分散型ネットワークにおいて,不特定多数のデータベースへ
データを同期させる装置」である。
「同期」させるのであるから,各機器の記憶装置
に,配信されたデータが格納されてしまう。個人的な情報である「写真アルバム」
が,見ず知らずの者に公開され,他人の機器の記憶装置に格納されてしまうことは,
気持ちのよいこととは言えない。
したがって,当業者は,引用発明における「コンテンツ」として,
「写真アルバム」
は容易に想起しなかったと考える。
エ このように,上記相違点1及び相違点2を引用発明に具備させることは,
補正発明の出願時に当業者が想到容易であったことではない。してみると,審決が,
補正発明について,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を
受けることができないものであったと判断したことは,誤りであり,審決は取り消
されるべきである。
第4 被告の反論
1 取消事由1に対し
審決の引用発明の認定に誤りはない。「不特定多数」は,「多数」の下位概念であ
ってこれに含まれており,
「不特定多数」を認定できるのにもかかわらずその上位概
念である「多数」を認定できないはずはない。
また,甲1は,一斉同報による「不特定多数への配信する場合」に加えて,
「分散
型データベースにおける多数のデータベースへのデータの配信」 「IPマルチキ
や,
ャスト」によるデータ配信システムを開示している。ここで,
「IPマルチキャスト
によりデータを配信する場合」についてみると,IPマルチキャストは,IPネッ
トワーク上で1対多数の通信を実現するものであって,送信者はグループアドレス
を宛先アドレスとしてデータを送信し,当該グループアドレスのグループに加入し
ている多数の受信者がデータを受信するものであり,特定「多数」へデータを配信
するものである。
さらに,甲1は,放送ネットワーク4によらない通信ネットワーク6のみによる
特定「多数」へのデータ配信システムを開示している。
したがって,審決が,引用発明を,
「多数のデータベースへのデータ配信システム」
と認定した点に誤りはないから,取消事由1は失当である。
2 取消事由2に対し
審決の相違点の認定に誤りはない。取消事由2は取消事由1を前提とした主張で
あるところ,上述したとおり,取消事由1は失当であるから,取消事由2も失当で
ある。
3 取消事由3に対し
(1) 審決は,「写真アルバムを自動的に同期させる」ことが補正発明の出願時
において周知技術であるから,
「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合
を自動的に同期させる」ことが容易であるとしたものではない。
審決は,
「補正発明では,コンテンツが「複数のデジタル写真を含む写真アルバム」
であるのに対し,引用発明はコンテンツが「テキストデータ,画像データ,音声デ
ータ,コンピュータプログラムなど(ひとまとまりの情報(例えば,1のファイル)」

である点。」を相違点とし,「ネットワーク上の記憶装置に,複数のデジタル写真を
含むアルバムを記憶しておくこと」が周知技術であると認定した上で,この判断と
して,引用発明の「コンテンツ」は画像データのコンテンツを含んでおり,甲1に
接した当業者であれば,画像コンテンツとして上記周知技術であるデジタル写真ア
ルバムを容易に想到し得るものである。そして,引用発明は,受信端末に送信され
たコンテンツを記憶して利用するものであり,コンテンツとしてデジタル写真アル
バムが有用であることも明らかであるから,引用発明において,(画像の)「コンテ
ンツ」を「複数のデジタル写真を含む写真アルバム」とすることにより,
「分散型ネ
ットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させる」ことは当業者が
容易になし得ることとしたものである。
原告の主張は,審決の論旨に無関係であり,容易想到性判断について,独自の見
解を述べているにすぎず,失当である。
(2) 「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させ
ることは,引用発明の目的及び構成に適合したものではない。,
」「写真アルバムのよ
うな個人的情報は,引用発明におけるコンテンツに相応しくない。」との主張は,取
消事由1~2を前提とした主張であるところ,上述したとおり,これらの取消事由
は失当であるから,失当である。
さらに,不特定多数による共有,不特定多数への公開を意図した写真アルバムも
あり得,このことからも補正発明の「写真アルバム」として,そのようなものを含
まないと限定解釈しなければならない理由はなく,当該主張は失当である。
そもそも,補正発明における,同期させる対象の「写真アルバム」は,
「分散型ネ
ットワークに参加している,前記デバイス以外の他のデバイスに格納されている他
の写真アルバム」であるから,
「不特定多数」であるか否かは,補正発明とは無関係
である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
原告は,引用発明は,データを「不特定多数」へ一斉配信することを本質的な構
成要件とする発明であると理解すべきであり,単に「多数」へ配信するシステムで
はない,と主張する。
そこで,検討するに,データの配信先を示す「不特定多数」とは,一般に,
性質・傾向などを特定しないため,様々なものが数多くあること,を指す文言
であり,「多数」の下位概念である。
また,引用発明のデータの配信先に関し,甲1には,以下の記載がある。
①「本発明は,送信装置および送信方法,受信装置および受信方法,並びに送受
信システムおよび送受信方法に関し,特に,例えば,分散型データベースにおける
多数のデータベースへのデータの配信を行う場合や,IP(Internet Protocol)マル
チキャストによりデータを配信する場合,その他データを不特定多数に配信する場
合などに用いて好適な送信装置および送信方法,受信装置および受信方法,並びに
送受信システムおよび送受信方法に関する。 (
」 【0001】)
②「なお,放送ネットワーク4と通信ネットワーク6とは,物理的に別々の
ネットワークである必要はない。
・・・また,放送ネットワーク4によるデータ
の配信を,例えば,インターネットなどを利用したIP(Internet Protocol)
マルチキャストで行う場合においては,通信ネットワーク6は,そのインター
ネットで構成することも可能である。 (
」 【0051】)
③「以上,本発明を適用したデータ配信システムについて説明したが,このよう
なデータ配信システムは,例えば,分散型データベースにおける多数のデータベー
スへのデータの配信を行う場合や,IPマルチキャストによりデータを配信する場
合,その他,データを不特定多数に配信する場合に,特に有用である。 (
」 【015
5】

④「なお,本実施の形態では,イベントは,放送ネットワーク4を介して送信す
るようにしたが,その他,例えば,受信端末5からの要求に応じて,通信ネットワ
ーク6を介して送信するようにしても良い。さらに,本発明において,放送ネット
ワーク4および通信ネットワーク6の両方を備えることは必須ではない。即ち,本
発明は,放送ネットワーク4または通信ネットワーク6のいずれか1つだけを備え
るシステムにも適用可能である。 (
」 【0156】)
上記①③の記載によれば,甲1には,一斉同報による「不特定多数に配信す
る場合」のほかに,「分散型データベースにおける多数のデータベースへのデータ
の配信を行う場合」や「IPマルチキャストによりデータを配信する場合」が,デ
ータ配信システムの具体的な態様として示されており,そのうち「IPマルチキ
ャストによりデータを配信する場合」とは,IPネットワーク上で1対多でのデ
ータ通信を行う場合を指し,その際データ送信者は,マルチキャストグループ
アドレスによってデータを送信するものであり,マルチキャストグループアド
レスに加入する多数の受信者がそのデータを受信できるから,特定された多数
の受信者へデータを配信するものであるといえる。
さらに,上記②④の記載によれば,甲1には,放送ネットワークによらない,
すなわち,一斉同報によらない通信ネットワークのみによって「配信する場合」
が,データ配信システムの具体的な態様として示されており,これも特定され
た多数の受信者へデータを配信するものであるといえる。
そうすると,甲1には,一斉同報による「不特定多数に配信する場合」のほ
かに,
「特定された多数の受信者へデータを配信する場合」も,データ配信シス
テムの具体的な態様として示されているから,仮に,引用発明が,データを「不
特定多数」に配信する場合にも有用なものであるとしても,データを「不特定多数」
へ一斉配信することを本質的な構成要件とするものとは必ずしもいえず,甲1の記
載に基づいて,引用発明を,「多数」の下位概念である「不特定多数」にデータ
を配信する発明として限定的に認定すべき理由はない。
したがって,審決が,引用発明を,
「多数のデータベースへのデータ配信システム」
と認定した点に誤りはない。
よって,取消事由1には,理由がない。
2 取消事由2(相違点の認定の誤り)について
(1) 補正発明における「第1の写真アルバム」が格納されている「デバイス」
とは,請求項の記載上では「分散型ネットワークに参加しているいずれかのデバイ
ス」であればよいから,特定のデバイスに限定されるものではない。また,「同期
させる手段」によって「同期」される「他の写真アルバムであって前記第1の写真
アルバムに関係付けられる他の写真アルバム」が格納されている「前記デバイス以
外のデバイス」も,請求項の記載上では「分散型ネットワークに参加している」デ
バイスであればよいから,特定のデバイスに限定されるものではない。
そうすると,ある場合には修正された「第1の写真アルバム」が格納されている
「デバイス」が,別の場合には「同期させる手段」によって当該修正に「同期」さ
れる写真アルバムが格納されている「デバイス」となることが想定されており,そ
の逆の状況も想定されるから,分散型ネットワークに参加しているデバイスはいず
れも,「第1の写真アルバム」が格納されているデバイスとなり得るし,また,「同
期させる手段」によって「同期」される写真アルバムが格納されているデバイスと
なり得ることとなる。したがって,補正発明の装置においては,分散型ネットワー
クに参加しているある特定の「デバイス」とそれ以外の「デバイス」と間において,
「写真アルバム」変更の検出による関連する他方の「写真アルバム」の自動的な同
期が,双方向に行われるものと認められる。
(2) 引用発明は,第2,3(2)ア記載のとおりに認定されるところ,サーバ2
及びミラーサーバ7は,更新オブジェクト情報やイベントをその都度受信端末へ提
供するが,仮に,受信端末側においてオブジェクトが変更されたとしても,更新オ
ブジェクト情報やイベントが,データベース・サーバないし他の受信端末へ提供さ
れることは想定されていない。すなわち,オブジェクトの変更等の検出による更新
オブジェクト情報の提供は,一方向にのみ行われるものと認められる。
(3) そうすると,引用発明は,補正発明における「分散された写真アルバムの
集合を自動的に同期させる」との構成,すなわち,ある特定の「デバイス」とそれ
以外の「デバイス」と間において,「写真アルバム」変更の検出による関連する他
方の「写真アルバム」の自動的な同期を双方向に行う構成に相当する構成を含むも
のではない。この意味で,補正発明と引用発明との相違点は,補正発明の場合は,
「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置」
であるのに対し,引用発明の場合は,「分散型ネットワークにおいて,多数のデー
タベースへデータを同期させる装置」であると認定すべきである。
(4) 被告は,取消事由2は取消事由1を前提とした主張であるところ,取消
事由1は失当であるから,取消事由2も失当である旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,審決が,引用発明を「多数のデータベースへの
データ配信システム」と認定した点に誤りはないものの,取消事由2における原告
の主張は,引用発明が「分散型ネットワークにおいて,不特定多数のデータベース
へデータを同期させる」装置と認定すべきことを前提として,審決がこれを誤認
した結果,補正発明と引用発明との相違点の認定も誤ったというものである。
したがって,必ずしも取消事由1を前提とするものではなく,被告の主張は理
由がない。
(5) 審決は,上記認定の相違点の容易想到性を判断せずに補正発明の進歩性を
否定したものであるから,特許法29条2項の適用を誤ったものであり,取消しを
免れない。
第6 結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由2は理由があるから,本件審決は,取消
しを免れない。
よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は理由があるからこれを
認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清 水 節
裁判官
片 岡 早 苗
裁判官
新 谷 貴 昭

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