平成27(ワ)21850楽曲演奏禁止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成28年5月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告Y
Zクエンタテインメント
株式会社ソニー・ミュージッ
テレビせとうち株式会社クダイレクト
株式会社ソニー・ミュージッ 原告XMine‐Changこと
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法令 |
著作権
著作権法114条2項2回
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キーワード |
侵害10回 損害賠償1回
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主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,別紙楽譜目録記載2の楽曲(以下「原告楽曲」という。)の著作者
である原告が,被告Y,被告Z及び被告SMEが原告楽曲に依拠してこれに類
似した被告楽曲を創作し,被告TSCがこれを番組内で放送し,被告SMDが
これを収録したDVDその他の物を販売したことが原告の著作権(複製権又は
編曲権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害していると
主張して,被告らに対し,①著作権法112条に基づき被告楽曲の演奏,複製
等及びこれを録音又は録画したCD,DVDその他の物の複製等の禁止を求め
るとともに,②民法709条,著作権法114条2項に基づき,損害賠償金
(被告Y,被告Z及び被告SMEに対し9000万円,被告TSCに対し70
00万円,被告SMDに対し6000万円)及びこれに対する不法行為の後で
ある訴状送達日の翌日(被告Yにつき平成27年9月3日,その余の被告につ
き同月2日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連
帯支払を求める事案である。 |
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判決文
平成28年5月19日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成27年(ワ)第21850号 楽曲演奏禁止等請求事件
口頭弁論終結日 平成28年3月10日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁護士 鈴 木 隆
Mine‐Changこと
被 告 Y
被 告 Z
被 告 株式会社ソニー・ミュージッ
クエンタテインメント
被 告 テレビせとうち株式会社
被 告 株式会社ソニー・ミュージッ
クダイレクト
上記5名訴訟代理人弁護士 辻 居 幸 一
小 和 田 敦 子
同訴訟復代理人弁護士 松 野 仁 彦
主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告らは,別紙楽譜目録記載1の楽曲(以下「被告楽曲」という。)を演奏,
複製,上映,放送,送信又は販売してはならない。
2 被告らは,被告楽曲をCD,DVDその他に録音若しくは録画し,又は被告
楽曲を録音若しくは録画したCD,DVDその他を複製,販売若しくは貸与し
てはならない。
3 被告Mine‐ChangことY(以下「被告Y」という。 ,同Z(以下
)
「被告Z」という。)及び同株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメン
ト(以下「被告SME」という。)は,原告に対し,連帯して9000万円
(ただし,うち7000万円の限度で被告テレビせとうち株式会社(以下「被
告TSC」という。)と,うち6000万円の限度で同株式会社ソニー・ミュ
ージックダイレクト(以下「被告SMD」という。)とそれぞれ連帯して)及
びこれに対する訴状送達日の翌日(被告Yにつき平成27年9月3日,被告Z
及び被告SMEにつき同月2日)から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
4 被告TSCは,原告に対し,被告Y,被告Z及び被告SMEと連帯して70
00万円及びこれに対する平成27年9月2日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
5 被告SMDは,原告に対し,被告Y,被告Z及び被告SMEと連帯して60
00万円及びこれに対する平成27年9月2日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,別紙楽譜目録記載2の楽曲(以下「原告楽曲」という。)の著作者
である原告が,被告Y,被告Z及び被告SMEが原告楽曲に依拠してこれに類
似した被告楽曲を創作し,被告TSCがこれを番組内で放送し,被告SMDが
これを収録したDVDその他の物を販売したことが原告の著作権(複製権又は
編曲権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害していると
主張して,被告らに対し,①著作権法112条に基づき被告楽曲の演奏,複製
等及びこれを録音又は録画したCD,DVDその他の物の複製等の禁止を求め
るとともに,②民法709条,著作権法114条2項に基づき,損害賠償金
(被告Y,被告Z及び被告SMEに対し9000万円,被告TSCに対し70
00万円,被告SMDに対し6000万円)及びこれに対する不法行為の後で
ある訴状送達日の翌日(被告Yにつき平成27年9月3日,その余の被告につ
き同月2日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連
帯支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
⑴ 当事者
ア 原告は,テレビコマーシャル用その他の音楽の作曲家である。
イ 被告Yは,音楽の作曲等を行う者であり,「Mine‐Chang」は
その通称である。被告SMEは音声及び映像のソフトウェアの企画・制作
等を主な事業とする株式会社であり,被告Zはその従業員であった。被告
TSCは放送法による基幹放送事業及び一般放送事業等を主な業務とする
株式会社,被告SMDは音声・映像のソフトウェアの製造,販売,配信等
を主な業務とする株式会社である。
⑵ 原告の著作権
原告は,原告楽曲の著作者である(なお,被告らは原告楽曲の旋律につい
て別紙被告主張楽譜記載2のとおり主張している。。
)
⑶ 被告楽曲の作曲等
ア 被告Yは,被告楽曲を創作した(なお,被告らは被告楽曲の旋律につい
て別紙被告主張楽譜記載1のとおり主張している。。
)
イ 被告TSCは,平成25年4月頃から平成27年2月頃まで,番組名を
「しまじろうのわお」とするテレビ番組内で被告楽曲を放送した。
ウ 被告SMDは,被告楽曲を収録したDVD等を販売している。そのジャ
ケットにおいては,被告楽曲につき「作曲・編曲:Mine-Chang」と表示さ
れている。(乙14)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
⑴ 原告楽曲と被告楽曲の同一性ないし類似性及び依拠性
(原告の主張)
ア 同一性ないし類似性
原告楽曲は,被告Zからテレビ番組「しまじろうのわお」内で放送予定
のダンスコーナーで演奏される楽曲が募集されたのを受け,原告により作
曲され,被告Zに送付されたものである。募集の際,仮の題目,曲調,ア
レンジ方法,曲の長さ,歌詞その他の条件が付されていたが,本質的な旋
律及びハーモニーの進行についての具体的な指示はなかった。
原告楽曲及び被告楽曲は別紙楽譜目録記載のとおりであり,これを見る
と,まず,旋律につき,①被告楽曲の第1小節が原告楽曲のそれを和声的
に極めて近い響きを持つ5度上に移動したものであり,第1及び第2小節
部分がいずれも直線的な旋律となっていること,②これに続く第4小節ま
で,第5及び第6小節並びに第9小節末尾(原告楽曲)ないし第10小節
(被告楽曲)から第11小節までがそれぞれほぼ同じ旋律であること,③
原告楽曲第6小節の歌詞「きめたいそう」と被告楽曲第8小節の歌詞「ハ
イきのこ」に各対応する部分が非常に似た音程でシンコペーション(強拍
と弱拍の組合せ方を変えて独特の効果をもたらすこと)を含むリズムも一
致していること,④第9小節末尾ないし第10小節から第11小節までの
音符が3か所のみ隣の音階にずれた程度の違いしかなく,歌詞「ときめた
いそう」の部分は全て同じ長さの音符で音階を1段上がって2段降りて基
音に戻る旋律であって,着地音が同一のFになっていること,⑤曲の題目
を歌う重要部分であるこの部分が第7小節及び第8小節の沖縄民謡風のメ
ロディから一般的な西洋的音階に戻っており,被告Zによる指示内容に裁
量が与えられているにもかかわらず,不自然なほど同じ展開であること,
⑥第7小節において沖縄民謡風の女性による歌が特徴的な8分休符を挟ん
で始まる作曲技法が用いられていること,以上の点で類似する。
全体的に見ても,⑦音符の位置につき,第1~3小節の18音中17音
(約94%),この後の部分の31音中30音(約97%)の各強拍及び
シンコペーションの位置が一致している点で類似する。また,原告楽曲と
被告楽曲について,⑧横軸を時間軸,縦軸をオーディオ信号の大きさを示
す振幅としたグラフを作成して比較すると,一定の値以上の音の密度を検
出したピーク点が一致する箇所が多数あり,全体のBPM(Beat per Mi-
nutes)がほぼ完全に一致し,全体的に波形が近似し,⑨音声編集用のソ
フトウェアを用いて比較すると,BPMは原告楽曲が142.77で被告
楽曲が142.93であることから,原告楽曲及び被告楽曲は曲のBPM,
強拍と弱拍のアクセントが一致している。
以上のとおり,原告楽曲と被告楽曲は,旋律に加え,テンポ,リズム等
が共通しており,実質的に同一の楽曲である。
イ 依拠性
上記アのとおり原告楽曲及び被告楽曲は実質的に同一の楽曲であり,一
方に依拠することなく他方の曲を作曲することは理論的に不可能であると
ころ,原告が被告楽曲に依拠することはあり得ない。これに対して,被告
Yに短期間で被告楽曲を独自に作曲する経験及び能力があるとは考えられ
ないから,被告Zを担当者とする被告SMEは,被告Yと意思を通じ,原
告楽曲に依拠して被告楽曲を作曲したというべきである。
被告らは,電子メールの送信時刻に基づいて依拠性がないと主張するが,
被告Yが送信した電子メールにおいて指定された楽曲のファイルの内容が
被告楽曲であると直ちにいえないし,上記時刻は改ざんが容易であるから,
この主張は失当である。
ウ まとめ
以上によれば,被告Y,被告Z及び被告SMEが原告楽曲に依拠してこ
れと実質的に同一の被告楽曲を作曲したものであるのに,原告の氏名を表
示することなく被告TSCによるテレビ放送及び被告SMDによる被告楽
曲を含むDVD等の販売に供しているから,被告らは原告の著作権(複製
権又は編曲権)並びに著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵
害している。
(被告らの主張)
ア 同一性ないし類似性
原告楽曲及び被告楽曲の旋律は別紙被告主張楽譜のとおりであり,多く
の部分で異なっている。また,音符の位置につき原告の主張するような一
致はないし,オーディオ信号の波形は単なる音量変化を表すものにすぎず,
旋律と関係がない上,波形が類似しない部分も多い。さらに,両楽曲のB
PMが近似することは争わないが,曲全体の長さが89秒であって歌詞も
指定された条件下ではテンポ及びリズムは類似せざるを得ない。
したがって,被告楽曲は原告楽曲と旋律及びリズムにおいて全く異なり,
仮に類似する点があるとしても被告Zによる条件の範囲内のものにすぎな
いから,原告楽曲の複製にも翻案にも当たらない。
イ 依拠性
被告楽曲が原告楽曲に依拠して作曲された事実はない。原告楽曲の完成
及びダウンロード先を示した電子メールが原告から被告Zに送信されたの
は平成25年1月18日午前11時32分であり,被告Yが同様の電子メ
ールを被告Zに送信したのは同日午前11時10分である。
ウ まとめ
以上のとおり,被告らは原告の上記著作権及び著作者人格権を侵害して
いない。
⑵ 損害額
(原告の主張)
ア 著作権侵害による損害(著作権法114条2項に基づく主張)
被告らは,原告の著作権(複製権又は編曲権)侵害の行為により,被告
TSCによるテレビ放送により3000万円,被告SMDによるDVD販
売により2000万円を各下回らない利益を得ているから,原告は各同額
の損害を被った。
イ 著作者人格権侵害による損害(慰謝料)
被告らによる被告楽曲の作曲及び著名俳優を利用した全国規模での人気
番組内における放送等が2年以上も継続したことからすれば,原告の著作
者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害により生じた原告の精神的
苦痛を慰謝するために相当な損害額は3000万円を下回らない。
ウ 弁護士費用
本件訴訟の追行に当たって相当な弁護士費用の額は1000万円を下回
らない。
エ 被告らの共同不法行為
上記各損害のうち,被告Y,被告Z及び被告SMEは全てについて,被
告TSEはDVD販売を除く部分について,被告SMDはテレビ放送を除
く部分について共同不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点⑴(原告楽曲と被告楽曲の同一性ないし類似性及び依拠性)について
⑴ 原告楽曲及び被告楽曲の各楽譜につき,原告は別紙楽譜目録のとおり,被
告は別紙被告主張楽譜のとおりである旨それぞれ主張するところ,前者は,
各楽曲の終止音の高さが同じになるよう移調された点,被告楽曲の第1小節
の8音の高さが同一である点等で後者と異なっており,後者に比し両楽曲の
共通点が多いものとなっている。そうすると,前者により著作権等の侵害が
否定されるとすれば後者によっても否定されるので,前者に基づく原告の主
張の当否につきまず検討することとする。
⑵ 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告楽曲及び被告楽曲はいずれも同一の歌詞に曲を付したものであり,
全体の構成は,歌詞「きめたいきめたいきめたいそー」に対応する第1フ
レーズ,「バシッときめたいそう」(1回目)に対応する第2フレーズ,
「きのこのポーズをきめたいそー」に対応する第3フレーズ,「きのこに
ょきにょきハイきのこ」に対応する第4フレーズ及び「バシッときめたい
そう」(2回目)に対応する第5フレーズから成る。このうち第3~第5
フレーズは,第3フレーズ及び第4フレーズの歌詞を替えてその後数回繰
り返される。(甲3,12,乙3,4)
イ 上記歌詞の各音(53音。なお,「そー」 「シッ」 「そう」 「ポー」及
, , ,
び「にょ」はそれぞれ1音と数える。)に対応する音符の長さは,第2及
び第5フレーズの「シッ」が原告楽曲では付点4分音符であるのに対し被
告楽曲では4分音符である点,第3フレーズの「い」及び「そー」が原告
楽曲ではタイで結んだ8分音符2個及び付点4分音符であるのに対し被告
楽曲では8分音符1個及び2分音符である点で異なるが,これら以外は全
て同一で,大部分が8分音符となっている。一方,各フレーズ間の休止の
長さは,第2フレーズと第3フレーズの間(4分休符)及び第3フレーズ
と第4フレーズの間(8分休符)は同一であるが,第1フレーズと第2フ
レーズの間が原告楽曲では8分休符であるのに対し被告楽曲では4分休符
である点,第4フレーズと第5フレーズの間が原告楽曲では4.5拍分で
あるのに対し被告楽曲では7拍分である点で異なる。
ウ 別紙楽譜目録における原告楽曲及び被告楽曲の旋律を対比すると,次の
とおりである。
両楽曲の旋律は,①第1フレーズの冒頭8音(歌詞「きめたいきめた
い」の部分)がそれぞれ同一音程の連続であること(ただし,被告楽曲
が原告楽曲より5度高い。,②第2フレーズ及び第5フレーズの最終音
)
が同一の高さ及び長さであること,③第3フレーズの冒頭3音(歌詞
「きのこ」の部分),第5,第6音(同「ポーズ」の部分)及び第8,
第9音(同「きめ」の部分)がそれぞれ同一音程の連続であること(た
だし,「きのこ」及び「きめ」部分は原告楽曲と被告楽曲で高さが異な
る。 ,④第4フレーズの冒頭2音(歌詞「きの」の部分)
) ,第4,第5
音(同「にょき」(1回目)の部分)及び第8,第9音(同「ハイ」の
部分)がそれぞれ同一音程の連続であること(ただし,原告楽曲と被告
楽曲で高さはいずれも異なる。,⑤第4フレーズに沖縄民謡風の旋律が
)
用いられていること,以上の点で共通する。
他方,上記以外の点,殊に,①第1フレーズの後半(歌詞「きめたい
そー」の部分)が,原告楽曲では5音とも同一の高さであるのに対し,
被告楽曲では一旦上昇した後に下降すること,②第2及び第5フレーズ
の冒頭(歌詞「バシッ」の部分)が,原告楽曲では1オクターブ近く上
昇するのに対し,被告楽曲では同じ高さの2音(なお,被告主張楽譜で
は3度の上昇)であること,③第3フレーズが,原告楽曲では開始音か
ら5度上昇した後に開始音の半音上まで下降するのに対し,被告楽曲で
は開始音から3回にわたり2度下降した後に開始音に戻ること,④第4
フレーズが,原告楽曲では前半が上昇した後に開始音まで下降し,後半
が下降した後に開始音の2度上まで上昇するのに対し,被告楽曲では前
半が1音を除き同じ音程で,後半が5度下降する点で,両楽曲の旋律は
相違する。
エ BPM(1分当たりの拍子数)は原告楽曲が約142.77,被告楽曲
が約142.93であり(明らかに争いがない。,両楽曲のテンポはほぼ
)
同一である。
オ 被告Zは,原告及び被告Yを含む多数の作曲家に対し,テレビ番組「し
まじろうのわお」内で放送予定のダンスコーナーで使用される楽曲として,
①子供向け番組であるが,「子供が真似したがる繰り返し感」と「大人が
引っかかる耳に残るメロとアレンジ」を両立したダンス曲とすること,②
沖縄民謡,レゲエ及びハワイアンの要素をミックスし,指定された部分
(第4フレーズの後)に4拍程度の間を置くこと,③曲全体の長さが89
秒であること,④指定された歌詞(前記ア)に合わせること,⑤従前の曲
より低年齢の子供でもダンスができる感じとすること,⑥ボーカルは男性
であるが,歌詞の一部(第4フレーズ)は沖縄のお囃子風の女性の歌唱を
想定していることといった条件に合うものを募集した。原告楽曲及び被告
楽曲はいずれもこの募集条件に合致するように作曲されたものである。
(甲3)
⑶ 上記事実関係によれば,原告楽曲と被告楽曲の旋律(上記⑵ウ)は,旋律
の上昇及び下降など多くの部分が相違しており,一部に共通する箇所がある
ものの相違部分に比べればわずかなものであって,被告楽曲において原告楽
曲の表現上の特徴を直接感得することができるとは認め難い。また,両楽曲
は,全体の構成(同ア),歌詞の各音に対応する音符の長さ(同イ)及びテ
ンポ(同エ)がほぼ同一であり,沖縄民謡風のフレーズを含む点で共通する
が,これらは募集条件により歌詞,曲調,長さ,使用目的等が指定されてお
り(同オ),作曲に当たってこれに従ったことによるものと認められるから,
こうした部分の同一性ないし類似性から被告楽曲が原告楽曲の複製又は翻案
に当たると評価することはできない。
これに対し,原告は前記のとおり原告楽曲と被告楽曲は実質的に同一の楽
曲である旨るる主張するが,以上説示したところに照らし,いずれも採用す
ることができない。
⑷ さらに,念のため,依拠性について検討すると,原告は,①実質的に同一
の楽曲を依拠することなく作曲することは不可能であること,②被告Yに短
期間で被告楽曲を独自に作曲する経験及び能力があるとは考えられないこと,
③電子メールの送信日時には改ざんの可能性があることから,被告Zを担当
者とする被告SMEが被告Yと意思を通じ,原告楽曲に依拠して被告楽曲を
作曲したと主張する。
そこで判断するに,上記⑶のとおり両楽曲が実質的に同一であるとはいえ
ないから,原告の上記①の主張は前提を欠く。また,上記②の主張を基礎付
けるに足りる証拠はない。さらに,上記③の主張については,証拠(乙1及
び2の各1,乙20)及び弁論の全趣旨によれば,原告及び被告Yがそれぞ
れ被告Zに対し楽曲の完成及びこれが収められたファイルの保存先を電子メ
ールにより伝えたのが,被告Yにおいては平成25年1月18日午前11時
10分,原告においては同日午前11時32分であると認められる一方,電
子メールの送信日時については,一般的ないし抽象的な改ざんの可能性があ
るとしても,本件の関係各証拠上,被告らによる改ざんがあったことは何ら
うかがわれない。
⑸ 以上によれば,被告楽曲が原告楽曲の複製又は翻案に当たるとはいえない
から,原告の著作権が侵害されたとは認められず,これを前提とする著作者
人格権の侵害も認められない。したがって,その余の点について判断するま
でもなく,原告の請求は全て理由がない。
2 結論
よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二
裁判官 萩 原 孝 基
裁判官 中 嶋 邦 人
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