平成28(行ケ)10042審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成28年11月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官冨士良宏 原告JXエネルギー株式会社城戸博兒
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対象物 |
潤滑油組成物 |
法令 |
特許権
特許法36条6項1号4回 特許法159条2項3回 特許法36条4項1号2回
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キーワード |
実施117回 審決47回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,平成20年10月7日,発明の名称を「潤滑油組成物」とする特許
出願をしたが(特願2008-261071号。請求項数4。以下「本願」という。
甲1),平成26年4月25日付けで拒絶査定を受けた(甲2)。
(2) 原告は,平成26年8月4日,これに対する不服の審判を請求したところ
(甲3),特許庁は,これを不服2014-15296号事件として審理し,平成
27年5月26日付けで拒絶理由を通知した(以下「本件拒絶理由通知」という。
甲4)。
(3) 原告は,平成27年7月30日,特許請求の範囲を補正したものの(以下
「本件補正」という。請求項数5。甲5),特許庁は,同年12月28日,「本件
審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件
審決」という。)をし,その謄本は,平成28年1月12日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成28年2月10日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起
した。 |
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判決文
平成28年11月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成28年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成28年10月12日
判 決
原 告 JXエネルギー株式会社
同訴訟代理人弁理士 長 谷 川 芳 樹
城 戸 博 兒
吉 住 和 之
平 野 裕 之
中 塚 岳
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 日 比 野 隆 治
冨 士 良 宏
豊 永 茂 弘
冨 澤 武 志
尾 崎 淳 史
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2014-15296号事件について平成27年12月28日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,平成20年10月7日,発明の名称を「潤滑油組成物」とする特許
出願をしたが(特願2008-261071号。請求項数4。以下「本願」という。
甲1),平成26年4月25日付けで拒絶査定を受けた(甲2)。
(2) 原告は,平成26年8月4日,これに対する不服の審判を請求したところ
(甲3),特許庁は,これを不服2014-15296号事件として審理し,平成
27年5月26日付けで拒絶理由を通知した(以下「本件拒絶理由通知」という。
甲4)。
(3) 原告は,平成27年7月30日,特許請求の範囲を補正したものの(以下
「本件補正」という。請求項数5。甲5),特許庁は,同年12月28日,「本件
審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件
審決」という。)をし,その謄本は,平成28年1月12日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成28年2月10日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起
した。
2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲5)。
以下,本件補正後の請求項1に記載された発明を,「本願発明」という。また,そ
の明細書(甲1,5)を,「本願明細書」という。なお,「/」は,原文の改行部
分を示す(以下同じ。)。
【請求項1】尿素アダクト値が2.5質量%以下,40℃における動粘度が18
mm2/s以下,粘度指数が125以上,且つ,90%留出温度から5%留出温度を
減じた値が70℃以下である潤滑油基油成分を,基油全量基準で10質量%~10
0質量%含有する潤滑油基油と,/粘度指数向上剤と,/を含有し,/100℃に
おける動粘度が4~12mm2/sであり,粘度指数が140~300であることを
特徴とする潤滑油組成物。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,以
下のとおり,本願発明は,①発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず,
その特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件(以下「サポ
ート要件」ということがある。)を満たしておらず,②その明細書の発明の詳細な
説明の記載が,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載し
たものであるとはいえず,同条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」と
いうことがある。)を満たしていないから,特許を受けることができないものであ
って,本願は拒絶すべきものである,というものである。
(2) サポート要件について
本願発明の課題は,潤滑油の40℃及び100℃における動粘度及び100℃に
おけるHTHS粘度を低減し,粘度指数を向上し,-35℃におけるCCS粘度,
(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供すること
である。
本願発明は,「尿素アダクト値が2.5質量%以下,40℃における動粘度が1
8mm2/s以下,粘度指数が125以上,且つ,90%留出温度から5%留出温度
を減じた値が70℃以下である」と特定される潤滑油基油成分を,基油全量基準で
10質量%~100質量%含有するものとされていることから(以下「質量%」を
単に「%」と記載することがある。),本願明細書の実施例4に係る潤滑油組成物
と比較例3に係る潤滑油組成物とを,15%:85%の割合で混合した基油(以下
「ケースA」という。)を想定する(本願発明で特定された潤滑油基油成分に相当
するのは「基油2」のみであって,その含有量は15%となり,本願発明で特定さ
れた潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分に相当するのは「基油4」のみであって,
その含有量は85%となる。)。実施例4に係る潤滑油組成物と比較例3に係る潤
滑油組成物とは,低温特性に大きな差があり,前者については,高評価であり,本
願発明の課題が解決される旨記載されているのに対し,後者については,本願発明
の課題を解決し得ない旨記載されていることから,当業者は,本願明細書の実施例
の記載から,ケースAが本願発明の課題を解決すると理解することはないというべ
きである。また,本願発明で特定された潤滑油基油成分に関し,実施例における含
有量である70%又は100%から大きく離れた下限値である10%の近傍におい
て,実施例と同様の低温特性を示すであろうことについて合理的な説明がされてい
るとはいえず,本願発明で特定された潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分に関し,
この含有量が85%であって,上限値である90%の近傍であるケースAについて,
実施例と同様の低温特性を示すであろうことについて合理的な説明がされていると
はいえない。したがって,本願明細書の記載は,技術常識を考慮しても,当業者に
おいて,ケースAが本願発明の課題を解決できるものであると理解するとはいえな
い。
そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明は,本願発明の一部については本願
発明の課題が解決できることが記載されているとしても,これを本願発明の全範囲
にまで一般化できることについては,当業者が理解できるように記載されていると
することはできない。
(3) 実施可能要件について
本願発明の課題について,当業者が理解できるように記載されているものとする
ことができないことは,前記(2)のケースAのとおりであり,発明の詳細な説明の記
載は,当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているものとすることが
できない。
4 取消事由
(1) 手続違背(取消事由1)
(2) サポート要件に係る判断の誤り(取消事由2)
(3) 実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由3)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(手続違背)について
〔原告の主張〕
本件拒絶理由通知においては,「発明特定事項と課題の解決との関係(作用機序)
が記載されておらず,実施例は限られた特性のものに限られている」ことを,サポ
ート要件及び実施可能要件を満たしていない根拠としていた。
しかし,本件審決は,「ケースAの潤滑油組成物は所望の低温特性を示さない」
ことを,サポート要件及び実施可能要件を満たしていない根拠としている。
以上のとおり,サポート要件及び実施可能要件を満たしていないとする根拠は,
本件審決と本件拒絶理由通知とでは異なっている。そして,本件拒絶理由通知に接
した原告において,特に,潤滑油基油成分に相当する「基油2」の含有量が15%
である「ケースA」を想定すべき事情は存しない。
したがって,「ケースAの潤滑油組成物は所望の低温特性を示さない」ことを根
拠とするサポート要件及び実施可能要件違反の拒絶理由を通知することなくされた
本件審決に係る手続は,特許法159条2項で準用する同法50条に違背し,原告
の防御権を不当に奪ったものといえる。
〔被告の主張〕
本願発明がサポート要件及び実施可能要件違反であるとする理由について,本件
拒絶理由通知では,「実施例に係る記載を検討しても・・・潤滑油基油成分が基油全量
基準で70質量%又は100質量%含有する限られた実施例のみであり,当該実施
例に係る記載に基づき,本願発明が包含し得る実施態様の全てについてまで,上記
本願発明の課題を解決できるものと認識することはできない」と記載し,特許請求
の範囲に記載された発明における潤滑油基油成分の含有量が70質量%又は100
質量%以外の態様についてのサポート要件違反を指摘していたのを,本件審決では,
そのような特許請求の範囲に記載された発明における具体的態様として,ケースA
を想定して判断したにすぎない。
以上のとおり,本件審決における本願を拒絶すべきものであるとする理由は,既
に本件拒絶理由通知においても指摘されていたものというべきであって,本件審判
手続には,原告が主張するような手続違背はない。
2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 当業者が特にケースAを想定すべき事情はないこと
本件審決は,ケースAを想定した上で,本願明細書は,当業者において,技術常
識を考慮したとしても,ケースAの場合について,本願発明の課題を解決できるこ
とが理解されるように記載されているとはいえない旨判断した。
しかし,本願明細書の記載に接した当業者において,本願発明の課題との関係で
特にケースAを想定すべき事情は全く存在しない(本願発明は,課題を解決した潤
滑油組成物に,課題を解決しない潤滑油組成物を混合することにより,課題を解決
しようとするものではない。)から,当業者が,発明の詳細な説明の記載からケー
スAを想定し,本願発明の課題を解決できないと認識することはない。
(2) ケースAの潤滑油組成物は本願発明の課題を解決すること
仮に,本願明細書の記載に接した当業者において,本願発明の課題との関係で特
にケースAを想定すべき事情があったとしても,以下のとおり,当業者であれば,
ケースAの潤滑油組成物により本願発明の課題を解決できると認識する。
ア 本願発明の課題
本願発明の課題は,「省燃費性,低蒸発性と低温粘度に優れ,ポリ-α-オレフ
ィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,150
℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性,NOACKにおける低蒸
発性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ,特に潤滑油の4
0℃および100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低減し,
粘度指数を向上し,-35℃におけるCCS粘度,(-40℃におけるMRV粘
度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供すること」(【0007】)である。
すなわち,高温・高せん断の影響を受けた状態での潤滑油の実効粘度の確保に関す
る「150℃におけるHTHS粘度(高温高せん断粘度)の維持(粘度指数の向
上)」と,「省燃費性(特に潤滑油の40℃及び100℃における動粘度と100
℃におけるHTHS粘度の低減)」,「NOACKにおける低蒸発性」並びにエン
ジン低温始動性に関する「-35℃以下における低温粘度(特に-35℃における
CCS粘度)の改善」とを両立させることにある。
イ 本件審決の判断
本件審決は,ケースAの潤滑油組成物が本願発明の課題を解決できないことを論
理的に帰結できていない。
すなわち,本件審決では,ケースAの潤滑油組成物により本願発明の課題が解決
されるか否かを検討するのではなく,ケースAの潤滑油組成物が実施例1ないし6
の潤滑油組成物と同様の低温特性を示すか否かが検討されているが,これを検討し
たところで,本願明細書が,当業者において,ケースAの場合について,本願発明
の課題を解決できることが理解されるように記載されているとはいえないとの結論
には至らない。本願発明の課題は,単に所望の低温特性を有することではないから,
当業者が,ケースAの低温特性のみに着目して,ケースAの場合,本願発明の課題
を解決し得ないと推認することはない。
ウ 本願明細書の記載
(ア) 本願明細書の記載(【表3】)から,実施例4の潤滑油組成物の40℃動
粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度,150℃HTHS粘度,-35℃
CCS粘度が,それぞれ36.4mm 2/s,8.7mm2/s,5.21mPa・
s,2.60mPa・s,2700mPa・sであり,比較例3の潤滑油組成物の
それらが,それぞれ38.9mm 2/s,8.6mm2/s,5.35mPa・s,
2.60mPa・s,7700mPa・sであることが分かる。
ここで,実施例4と比較例3の潤滑油組成物の40℃動粘度,100℃動粘度,
100℃HTHS粘度,150℃HTHS粘度,-35℃CCS粘度を対比すると,
両者は「150℃におけるHTHS粘度が同程度のものであるが」,後者に比べて,
前者は,「40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度およびCCS粘
度が低く,低温粘度および低温粘度特性が良好であった。」ことが理解される
(【0122】)。そして,この結果から,当業者は,実施例4の潤滑油組成物に
より本願発明の課題が解決できると認識する。
(イ) ケースAの潤滑油組成物は,実施例4の潤滑油組成物と比較例3の潤滑油
組成物を混合したものであり,前記(ア)によれば,「40℃動粘度,100℃動粘
度,100℃HTHS粘度およびCCS粘度が低く,低温粘度および低温粘度特性
が良好」な実施例4の潤滑油組成物を混合したケースAの潤滑油組成物と,それを
混合しない比較例3の潤滑油組成物は,「150℃におけるHTHS粘度が同程度
のものであるが」,後者に比べて,前者は,「40℃動粘度,100℃動粘度,1
00℃HTHS粘度およびCCS粘度が低く,低温粘度および低温粘度特性が良
好」なものであり,当業者は,ケースAの潤滑油組成物によっても本願発明の課題
を解決できると推論する。なお,当業者の上記推論が正しいことは,甲7によって,
裏付けられる。
エ 被告の主張について
被告は,省燃費性と併せて考慮されるべき本願発明の課題に係る低温粘度特性
(低温特性)は,従来の潤滑油と同等のレベルではなく,それよりも著しく改善さ
れたレベル(従来の潤滑油の特性を超えるレベル)に達しているか否かを基準に評
価されるべきものであり,当業者は,ケースAの低温特性が,本願発明の課題を解
決できるレベルに達しているとは認識し得ない旨主張する。しかし,そのようなこ
とは,本願明細書には記載されていない。
また,被告は,低温特性の優劣は,「4500mPa・s以下」という数値(あ
るいはその近傍値)を境界値として評価されているということができ,この境界値
からみても,当業者は,ケースAの低温特性が,本願発明の課題を解決できるレベ
ルに達しているとは認識し得ない旨主張する。しかし,CCS粘度を「4500m
Pa・s以下」としたものは,本願発明の例示にすぎない(【0115】)。本願
明細書には,本願発明の課題を解決できるか否かが「4500mPa・s以下」と
いう数値(あるいはその近傍値)を境界値として評価されるなどとは記載されてい
ない。
本願明細書の記載からは,少なくとも,実施例1ないし6の潤滑油組成物が本願
発明の課題を解決できるか否かが,実施例1ないし6の潤滑油組成物と比較例1な
いし3の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度,40℃動粘度,100℃
動粘度,100℃HTHS粘度及びCCS粘度を対比することにより区別されてい
ることが分かる(【0122】)。したがって,仮にケースAを想定できたならば,
ケースAが本願発明の課題を解決できるか否かは,ケースAの潤滑油組成物と比較
例3の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度,40℃動粘度,100℃動
粘度,100℃HTHS粘度及びCCS粘度を対比することにより区別するのが合
理的であると当業者は理解する。そして,かかる対比により,当業者は,ケースA
の潤滑油組成物によっても,本願発明の課題を解決できると推論する。
(3) 小括
以上によれば,本件審決のサポート要件に係る判断は,誤りである。
〔被告の主張〕
(1) 本件審決におけるサポート要件の判断手法
本件審決は,特許請求の範囲に記載された発明が,当業者からみて,発明の詳細
な説明の記載により当該発明の課題を解決できると認識できるものではないと判断
し,その具体的な判断根拠を示すに当たって,例示すべき具体的態様として「ケー
スA」を挙げたにすぎない。
そして,本件審決は,本願発明が潤滑油基油成分の含有量につき「基油全量基準
で10~100質量%」と規定していることを踏まえ,当該含有量の広範な数値範
囲のうち,特にその下限値付近の態様に着目し,当該下限値付近の態様の一例とし
て,ケースAを挙げたものであるが,本願明細書に接した当業者は,本願発明が上
記規定を有する以上,その数値範囲に属する種々の態様を,本願発明の具体的態様
として何らの困難もなく普通に想定できるといえる。
したがって,本件審決が,サポート要件を検討し,その判断根拠を示すに当たっ
て,当業者が容易に想定し得る態様の一例として「ケースA」を挙げたことに,違
法とされるべき点はない。
(2) ケースAが本願発明の課題を解決できるとは認識し得ないこと
ア 本願発明の課題
本願発明の課題が,【0007】に記載されたとおりのものであるとしても,省
燃費性と併せて考慮されるべき本願発明の課題に係る低温粘度特性(低温特性)は,
従来の潤滑油と同等のレベルではなく,それよりも著しく改善されたレベル(従来
の潤滑油の特性を超えるレベル)に達しているか否かを基準に評価されるべきもの
である(【0004】,【0007】)。
イ ケースAの評価
(ア) ケースAは,低温特性が良好で本願発明の課題を解決することが示された
実施例4に係る潤滑油組成物(15%)と,低温特性が大きく劣るため本願発明の
課題を解決し得ないとされる比較例3に係る潤滑油組成物(85%)との混合物で
あることから,当業者であれば,ケースAの低温特性は,その組成の大半を占める
比較例3の特性に似通ったものであると推認する。
上記推認が妥当であることは,甲7の実験結果が示すとおりである。すなわち,
甲7の実験結果によれば,ケースAのCCS粘度は「7100」であり,その低温
特性は,本願明細書に比較例として記載された態様と同等のレベルであることが理
解される。ここで,前記アのとおり,本願発明の課題,特に,省燃費性と併せて考
慮されるべき低温特性は,従来の潤滑油と同等のレベルではなく,それよりも著し
く改善されたレベル(従来の潤滑油の特性を超えるレベル)に達しているか否かを
基準に評価されるべきものであるところ,ケースAの低温特性は,比較例(従来の
潤滑油)と同等のレベルであるといわざるを得ない。
(イ) 本願明細書には,「-35℃におけるCCS粘度…を著しく改善すること
ができる。例えば,本発明の潤滑油組成物によれば,-35℃におけるCCS粘度
を4500mPa・s以下とすることができる。」(【0115】)との記載があ
り,この「4500mPa・s以下」という数値(あるいはその近傍値)を境界値
として,【表3】では実施例と比較例とが区別され,【0122】では,実施例,
比較例それぞれが評価されている。
そうすると,低温特性の優劣(本願発明の課題を解決できるか否か)は,当該境
界値を目安に評価されているということができ,この境界値からみても,当業者は,
ケースAの低温特性が,本願発明の課題を解決できるレベルに達しているとは認識
し得ない。
(ウ) 以上のとおり,本願明細書の記載に接した当業者は,ケースAが本願発明
の課題を解決できるレベルに達しているとは認識し得ない。
(3) 小括
以上によれば,本件審決のサポート要件に係る判断に誤りはない。
3 取消事由3(実施可能要件に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 法令解釈の誤り
本件審決は,特許法36条4項1号の「その実施をすることができる程度に明確
かつ十分に,記載」を,「発明の課題を解決できることについて,当業者が理解で
きるように記載」と解釈している。
しかし,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等することをい
うから,特許法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは,その物を
作ることができ,かつ,その物を使用できることを意味し,物の発明については,
明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要で
あるが,そのような記載がなくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術
常識に基づき,当業者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用できるので
あれば,実施可能要件を満たすというべきである。
(2) ケースAは実施可能であること
仮に,本願明細書の記載に接した当業者において,実施可能性との関係で特にケ
ースAを想定すべき事情があったとしても,当業者であれば,実施例4の潤滑油組
成物と比較例3の潤滑油組成物を混合してケースAの潤滑油組成物を作ることがで
きると認識する。また,ケースAの潤滑油組成物は,前記2〔原告の主張〕(2)ウ
(イ)のとおり,本願発明の課題に対応する効果を奏するものであるから(【001
7】,【0122】),当業者は,ケースAの潤滑油組成物を,そのような効果を
奏するものとして使用することができる。
(3) 小括
以上によれば,本件審決の実施可能要件に係る判断は,誤りである。
〔被告の主張〕
(1) 実施可能要件の判断手法
本願発明は,「潤滑油組成物」という物の発明であるから,本願発明が実施可能
であるというためには,本願明細書及び図面の記載並びに本願の出願当時の技術常
識に基づき,当業者が,本願発明の潤滑油組成物を作ることができ,かつ,当該潤
滑油組成物を使用できる必要があるところ,特に後者の「使用できる」といえるた
めには,発明の詳細な説明に,当該潤滑油組成物が,少なくとも何らかの技術上の
意義のある態様で使用することができること(所期する作用効果を奏すること)を
裏付ける記載を要するというべきである。
そして,本願発明の潤滑油組成物が,技術上の意義のある態様で使用することが
できるか否か,あるいは所期する作用効果を奏するか否かは,本願発明の課題が解
決できるか否かにほかならない。
したがって,本願発明の課題が解決できるか否かの検討を踏まえて,実施可能要
件違反とした本件審決の判断に誤りはない。
(2) ケースAが実施可能であるとはいえないこと
前記2〔被告の主張〕(2)のとおり,ケースAによって本願発明の課題は解決でき
ないのであるから,当業者において,ケースAの潤滑油組成物を,所期の効果を奏
するものとして使用することができるとする原告の主張は,失当である。
(3) 小括
以上によれば,本件審決の実施可能要件に係る判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 本願発明について
(1) 本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)は,前記第2の2記載のとおり
であるところ,本願明細書(甲1,5)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の
記載がある。
ア 技術分野
【0001】本発明は潤滑油組成物に関する。
イ 背景技術
【0002】従来,内燃機関や変速機,その他機械装置には,その作用を円滑に
するために潤滑油が用いられる。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)は内燃機関
の高性能化,高出力化,運転条件の苛酷化などに伴い,高度な性能が要求される。
したがって,従来のエンジン油にはこうした要求性能を満たすため,摩耗防止剤,
金属系清浄剤,無灰分散剤,酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている。
【0003】近時,潤滑油に求められる省燃費性能は益々高くなっており,高粘
度指数基油の適用や各種摩擦調整剤の適用などが検討されている…。
ウ 発明が解決しようとする課題
【0004】しかしながら,従来の潤滑油は,省燃費性と低温粘度特性との両立
という点で,未だ改善の余地がある。
【0005】一般的な省燃費化の手法として,製品の動粘度の低減や,粘度指数
向上つまり基油粘度の低減と粘度指数向上剤の添加を組み合わせることによるマル
チグレード化などが知られている。しかしながら,製品粘度の低減や,基油粘度の
低減は厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ,摩耗や
焼き付き,疲労破壊等の不具合が発生原因となることが懸念される。そこでそれら
の不具合を防止し,耐久性を維持するために,高温高せん断粘度(HTHS粘度)
を維持することが必要となる。つまり,実用性能を維持しながら,さらに省燃費性
を付与するためには,150℃におけるHTHS粘度を維持し,40℃および10
0℃の動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低減し,粘度指数を向上する
ことが重要となる。
【0006】一方,CCS粘度やMRV粘度などの低温性能を向上するだけであ
れば,40℃および100℃の動粘度の低減や,基油粘度を低減しつつ粘度指数向
上剤を添加することによるマルチグレード化などを行えばよい。しかし,製品粘度
の低減や基油粘度の低減は,厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性
能を低下させ,摩耗や焼き付き,疲労破壊等の不具合が発生原因となることが懸念
される。なお,これらの不具合はポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等
の合成油や低粘度鉱油系基油などの低温粘度に優れる潤滑油基油を併用すればある
程度解消できる。しかし,上記合成油は高価であり,他方,低粘度鉱油系基油は一
般的に粘度指数が低くNOACK蒸発量が高い。そのため,それらの潤滑油基油を
配合すると,潤滑油の製造コストが増加し,あるいは,高粘度指数化及び低蒸発性
を達成することが困難となる。また,これら従来の潤滑油基油を用いる場合,省燃
費性の改善には限界がある。
【0007】本発明は,このような実情に鑑みてなされたものであり,省燃費性,
低蒸発性と低温粘度に優れ,ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合
成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,150℃における高温高せん断粘度を維持
しながら,省燃費性,NOACKにおける低蒸発性と-35℃以下における低温粘
度とを両立させることができ,特に潤滑油の40℃および100℃における動粘度
および100℃におけるHTHS粘度を低減し,粘度指数を向上し,-35℃にお
けるCCS粘度,(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善できる潤滑油組成
物を提供することを目的とする。
エ 課題を解決するための手段
【0008】上記課題を解決するために,本発明は,尿素アダクト値が2.5質
量%以下,40℃における動粘度が18mm2/s以下,粘度指数が125以上,且
つ,90%留出温度から5%留出温度を減じた値が70℃以下である潤滑油基油成
分を,基油全量基準で10質量%~100質量%含有する潤滑油基油と,粘度指数
向上剤と,を含有し,100℃における動粘度が4~12mm 2/sであり,粘度指
数が140~300であることを特徴とする潤滑油組成物を提供する。
オ 発明の効果
【0017】本発明の潤滑油組成物は,省燃費性と低蒸発性および低温粘度特性
に優れており,ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度
鉱油系基油を用いずとも,150℃におけるHTHS粘度を維持しながら,省燃費
性とNOACK蒸発量および-35℃以下における低温粘度とを両立させることが
でき,特に潤滑油の40℃および100℃の動粘度と100℃におけるHTHS粘
度を低減し,-35℃におけるCCS粘度,(-40℃におけるMRV粘度)を著
しく改善することができる。
カ 発明を実施するための最良の形態
【0020】本発明の潤滑油組成物は,尿素アダクト値が4質量%以下,40℃
における動粘度が25mm2/s以下,粘度指数が120以上,且つ,T90-T5
が75℃以下である潤滑油基油成分(以下,便宜的に「本発明に係る潤滑油基油成
分」という。)を,基油全量基準で10質量%~100質量%含有する潤滑油基油
(以下,便宜的に「本発明に係る潤滑油基油」という。)を含有する。
【0021】本発明に係る潤滑油基油成分は,尿素アダクト値,40℃における
動粘度及び粘度指数,T90-T5が上記条件を満たすものであれば,鉱油系基油,
合成系基油,または両者の混合物のいずれであってもよい。
【0022】本発明に係る潤滑油基油成分としては,粘度-温度特性,低温粘度
特性および熱伝導性の要求を高水準で両立させることが可能であることから,ノル
マルパラフィンを含有する原料油を,尿素アダクト値が4質量%以下,40℃にお
ける動粘度が25mm2/s以下,粘度指数が120以上,且つ,T90-T5が7
5℃以下となるように,水素化分解/水素化異性化することにより得られる鉱油系
基油または合成系基油,あるいは両者の混合物が好ましい。
【0023】本発明に係る潤滑油基油成分の尿素アダクト値は,粘度-温度特性
を損なわずに低温粘度特性を改善し,かつ高い熱伝導性を得る観点から,上述の通
り4質量%以下であることが必要であり,…さらに好ましくは2.5質量%以下,
…である。…
【0024】また,本発明に係る潤滑油基油成分の40℃動粘度は,25mm2/
s以下であることが必要であり,好ましくは18mm2/s以下,…である。…潤滑
油基油成分の40℃動粘度が25mm2/sを超える場合には,低温粘度特性が悪化
し,また十分な省燃費性が得られないおそれがあり,…。
【0025】本発明に係る潤滑油基油成分の粘度指数は,低温から高温まで優れ
た粘度特性が得られるよう,また低粘度であっても蒸発しにくいためには,その値
は120以上であることが必要であり,好ましくは125以上,…である。…
【0026】また,本発明に係る潤滑油基油成分の蒸留性状に関し,90%留出
温度から5%留出温度を減じた値T90-T5は75℃以下であることが必要であ
り,好ましくは70℃以下,…である。…T90-T5が75℃を超える場合には,
潤滑油の蒸発損失が大きく,蒸発損失を小さく抑えた場合には,省燃費性が劣る可
能性があるため,好ましくない。…
【0027】本発明に係る潤滑油基油成分の製造には,ノルマルパラフィンを含
有する原料油を用いることができる。原料油は,鉱物油又は合成油のいずれであっ
てもよく,あるいはこれらの2種以上の混合物であってもよい。…
【0032】上記の原料油について,得られる被処理物の尿素アダクト値,40
℃における動粘度,粘度指数およびT90-T5がそれぞれ上記条件を満たすよう
に,水素化分解/水素化異性化を行う工程を経ることによって,本発明に係る潤滑
油基油成分を得ることができる。…
【0050】本発明に係る潤滑油基油は,本発明に係る潤滑油基油成分のみで構
成されていてもよいが,本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分をさら
に含有してもよい。本発明に係る潤滑油基油が本発明に係る潤滑油基油成分以外の
潤滑油基油成分をさらに含有する場合,本発明に係る潤滑油基油成分の含有割合は,
本発明に係る潤滑油基油の全量を基準として,10~100質量%であり,…さら
に好ましくは70~93質量%,最も好ましくは80~95質量%である。当該含
有割合が10質量%未満の場合には,必要とする低温粘度,省燃費性能が得られな
いおそれがある。
【0051】本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分としては,特に
制限されないが,鉱油系基油,合成系基油又はこれらから選ばれる2種以上の潤滑
油の任意混合物が挙げられる。…
【0054】本発明に係る潤滑油基油成分と他の潤滑油基油成分とを併用する場
合,他の潤滑油基油成分の割合は,本発明に係る潤滑油基油の全量を基準として,
90質量%以下とすることが好ましい。
【0055】また,本発明の潤滑油組成物は,粘度指数向上剤を含有する。本発
明の潤滑油組成物に含まれる粘度指数向上剤は特に制限はなく,…。
【0076】本発明における粘度指数向上剤の含有量は,組成物全量基準で,好
ましくは0.1~50質量%…である。粘度指数向上剤の含有量が0.1質量%よ
り少なくなると,粘度指数向上効果や製品粘度の低減効果が小さくなることから,
省燃費性の向上が図れなくなるおそれがある。また,50質量%よりも多くなると,
製品コストが大幅に上昇すると共に,基油粘度を低下させる必要が出てくることか
ら,厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ,摩耗や焼
き付き,疲労破壊等の不具合が発生原因となることが懸念される。
【0106】本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は,4~12mm2
/sであることが必要であり,…,特に好ましくは6mm2/s以上である。また,
…特に好ましくは8mm 2/s以下である。100℃における動粘度が4mm 2/s
未満の場合には,潤滑性不足を来たすおそれがあり,12mm 2/sを超える場合に
は必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0107】また,本発明の潤滑油組成物の粘度指数は,140~300の範囲
であることが必要であり,…最も好ましくは250~300である。本発明の潤滑
油組成物の粘度指数が140未満の場合には,HTHS粘度を維持しながら,省燃
費性を向上させることが困難となるおそれがあり,さらに-35℃における低温粘
度を低減させることが困難となるおそれがある。また,本発明の潤滑油組成物の粘
度指数が300以上の場合には,低温流動性が悪化し,更に添加剤の溶解性やシー
ル材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【0108】また,本発明の潤滑油組成物は,100℃における動粘度及び粘度
指数が上記要件を満たすことに加えて,以下の要件を満たすことが好ましい。
【0109】本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は,4~50mm2/
sであることが好ましく,…,特に好ましくは25mm2/s以上である。また,…,
特に好ましくは30mm 2/s以下である。40℃における動粘度が4mm 2/s未
満の場合には,潤滑性不足を来たすおそれがあり,50mm2/sを超える場合には
必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0110】本発明の潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は,6.0
mPa・s以下であることが好ましく,…最も好ましくは4.5mPa・s以下で
ある。また,3.0mPa・s以上であることが好ましく,…最も好ましくは4.
2mPa・s以上である。ここでいう100℃におけるHTHS粘度とは,AST
M D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。100℃におけ
るHTHS粘度が3.0mPa・s未満の場合には,蒸発性が高く,潤滑性不足を
来たすおそれがあり,6.0mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十
分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0111】本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は,3.5
mPa・s以下であることが好ましく,…特に好ましくは2.7mPa・s以下で
ある。また,2.0mPa・s以上であることが好ましく,…,最も好ましくは2.
6mPa・s以上である。ここでいう150℃におけるHTHS粘度とは,AST
M D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。150℃にお
けるHTHS粘度が2.0mPa・s未満の場合には,蒸発性が高く,潤滑性不足
を来たすおそれがあり,3.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および
十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0113】HTHS(100℃)/HTHS(150℃)は,上記の通り2.
04以下であることが好ましく,…特に好ましくは1.70以下である。HTHS
(100℃)/HTHS(150℃)が2.04を超える場合には十分な省燃費性
能や低温特性が得られないおそれがある。また,HTHS(100℃)/HTHS
(150℃)は,好ましくは0.50以上,…特に好ましくは1.30以上である。
HTHS(100℃)/HTHS(150℃)が0.50未満の場合には基材の大
幅なコストアップや添加剤の溶解性が得られないおそれがある。
【0114】また,本発明の潤滑油組成物のNOACK蒸発量は,好ましくは8
質量%以上,…さらに好ましくは18質量%以上であり,好ましくは30質量%以
下,…特に好ましくは22質量%以下である。特にNOACK蒸発量を18~20
質量%とすることで,蒸発損失の防止と低温特性,さらには省燃費性能をバランス
よく達成することができる。
【0115】本発明の潤滑油組成物は,上記構成を有するため,省燃費性と低蒸
発性および低温粘度特性に優れており,ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系
基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,150℃におけるHTHS粘度
を維持しながら,省燃費性とNOACK蒸発量および-35℃以下における低温粘
度とを両立させることができ,特に潤滑油の40℃および100℃の動粘度と10
0℃におけるHTHS粘度を低減し,-35℃におけるCCS粘度,(-40℃に
おけるMRV粘度)を著しく改善することができる。例えば,本発明の潤滑油組成
物によれば,-35℃におけるCCS粘度を4500mPa・s以下とすることが
できる。また,本発明の潤滑油組成物によれば,-40℃におけるMRV粘度を1
0000mPa・s以下とすることができる。
キ 実施例
【0117】(実施例1~6,比較例1~4)実施例1~6及び比較例1~4に
おいては,それぞれ以下に示す基油及び添加剤を用いて表3に示す組成を有する潤
滑油組成物を調製した。なお,潤滑油組成物の調製の際には,その150℃におけ
るHTHS粘度が2.55~2.65の範囲内となるようにした。基油1~5の性
状を表1,2に示す。
(基油)
O-1(基油1):n-パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
O-2(基油2):n-パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
O-3(基油3):n-パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
O-4(基油4):水素化分解基油
O-5(基油5):水素化分解/水素化異性化基油
(添加剤)
A-1(粘度指数向上剤1):PSSI=20,MW=400,000,Mw/
PSSI=2×104の非分散型ポリメタクリレート系添加剤(アルキルメタアクリ
レート混合物(アルキル基:メチル基,炭素数12~15の直鎖アルキル基,炭素
数16~20の直鎖アルキル基)90モル%と,炭素数22の分岐鎖アルキル基を
有するアルキルメタアクリレート10モル%とを主構成単位として重合させて得ら
れる共重合体)
A-2(粘度指数向上剤2):PSSI=40,Mw=300,000,Mw/
Mn=4.0,Mw/PSSI比=7.25×103の分散型ポリメタクリレート系
添加剤(ジメチルアミノエチルメタクリレート及びアルキルメタアクリレート混合
物(アルキル基:メチル基,炭素数12~15の直鎖アルキル基)を主構成単位と
して重合させて得られる共重合体)
A-3(粘度指数向上剤3):PSSI=28,Mw=200,000,Mw/
Mn=4.3,Mw/PSSI比=7.14×10 3の分散型ポリメタクリレート
(ジメチルアミノエチルメタクリレート及びアルキルメタアクリレート混合物(ア
ルキル基:メチル基,炭素数12~15の直鎖アルキル基,炭素数16~18の直
鎖アルキル基)を主構成単位として重合させて得られる共重合体)
B-1(その他の添加剤):添加剤パッケージ(金属系清浄剤(Caサリシレー
ト Ca量2000ppm),無灰分散剤(ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミ
ド),酸化防止剤(フェノール系,アミン系),摩耗防止剤(アルキルリン酸亜鉛
P量800ppm),摩擦調整剤(MoDTC Mo量400ppm,エステル系
無灰摩擦調整剤,ウレア系無灰摩擦調整剤),流動点降下剤,消泡剤等を含む)。
【0118】【表1】(別紙本願明細書図表目録のとおり)
【0119】【表2】(別紙本願明細書図表目録のとおり)
【0120】[潤滑油組成物の評価]実施例1~2及び比較例1~4の各潤滑油
組成物について,40℃又は100℃における動粘度,粘度指数,40℃又は10
0℃におけるHTHS粘度,NOACK蒸発量(1h,250℃),-35℃にお
けるCCS粘度,-40℃におけるMRV粘度を測定した。各物性値の測定は以下
の評価方法により行った。得られた結果を表3に示す。
(1)動粘度:ASTM D-445
(2)HTHS粘度:ASTM D4683
(3)NOACK蒸発量:ASTM D 5800
(4)CCS粘度:ASTM D5293
(5)MRV粘度:ASTM D3829
【0121】【表3】(別紙本願明細書図表目録のとおり)
【0122】表3に示したように,実施例1~6及び比較例1~3の潤滑油組成
物は,150℃におけるHTHS粘度が同程度のものであるが,比較例1~3の潤
滑油組成物に比べて,実施例1~6の潤滑油組成物は,40℃動粘度,100℃動
粘度,100℃HTHS粘度およびCCS粘度が低く,低温粘度および粘度温度特
性が良好であった。この結果から,本発明の潤滑油組成物が,省燃費性と低温粘度
に優れ,ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系
基油を用いずとも,150℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性
と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ,特に潤滑油の40℃
および100℃における動粘度を低減し,粘度指数を向上し,-35℃におけるC
CS粘度を著しく改善できる潤滑油組成物であることがわかる。
(2) 前記(1)の記載によれば,本願明細書には,本願発明に関し,以下の点が開
示されているものと認められる。
ア 本願発明は,潤滑油組成物に関する(【0001】)。
内燃機関用潤滑油(エンジン油)は,内燃機関の高性能化,高出力化,運転条件
の苛酷化などに伴い,高度な性能が要求されるところ,近時,潤滑油に求められる
省燃費性能も益々高くなっている(【0002】,【0003】)。
一般的な省燃費化の手法として,製品の動粘度の低減や,基油粘度の低減と粘度
指数向上剤の添加を組み合わせることによるマルチグレード化などが知られている
が,製品粘度の低減や,基油粘度の低減は,厳しい潤滑条件における潤滑性能を低
下させ,摩耗や焼き付き,疲労破壊等の不具合の発生原因となることが懸念される。
そこで,実用性能(150℃HTHS粘度)を維持しながら,さらに省燃費性を向
上すること(40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度の低減)が重
要となる(【0005】)。また,CCS粘度やMRV粘度などの低温性能を向上
するだけであれば,40℃及び100℃の動粘度の低減や,基油粘度を低減しつつ
粘度指数向上剤を添加することによるマルチグレード化などを行えばよいが,製品
粘度の低減や基油粘度の低減は,厳しい潤滑条件における潤滑性能を低下させ,摩
耗や焼き付き,疲労破壊等の不具合の発生原因となることが懸念される。これらの
不具合は,ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油
系基油などを併用すればある程度解消できるが,それらの潤滑油基油を配合すると,
潤滑油の製造コストが増加し,あるいは,高粘度指数化及び低蒸発性を達成するこ
とが困難となる(【0006】)。以上のとおり,従来の潤滑油は,実用性能(1
50℃HTHS粘度)を維持しながら,さらに省燃費性(40℃動粘度,100℃
動粘度,100℃HTHS粘度の低減)と低温粘度特性(CCS粘度やMRV粘度
の低減)とを両立するという点で,いまだ改善の余地があった(【0004】)。
イ 本願発明は,前記アの事情に鑑みて,省燃費性,低蒸発性と低温粘度に優れ,
ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用
いずとも,150℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性,NOA
CKにおける低蒸発性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ,
特に潤滑油の40℃及び100℃における動粘度並びに100℃におけるHTHS
粘度を低減し,粘度指数を向上し,-35℃におけるCCS粘度,(-40℃にお
けるMRV粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供することを目的 とし
(【0007】),かかる課題の解決手段として,特許請求の範囲の請求項1に記
載の構成を採用したものである(【0008】,【0020】,【0050】,
【0055】)。
ウ 本願発明の潤滑油組成物は,省燃費性と低蒸発性及び低温粘度特性に優れて
おり,ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基
油を用いずとも,150℃におけるHTHS粘度を維持しながら,省燃費性とNO
ACK蒸発量及び-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ,特に
潤滑油の40℃及び100℃の動粘度と100℃におけるHTHS粘度を低減し,
-35℃におけるCCS粘度,(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善する
ことができるという効果を奏する(【0017】,【0106】~【0111】,
【0113】~【0115】)。
2 取消事由1(手続違背)について
(1) 原告は,サポート要件及び実施可能要件を満たしていないとする根拠が,本
件審決と本件拒絶理由通知とでは異なっているところ,本件拒絶理由通知に接した
原告において,特に,潤滑油基油成分に相当する「基油2」の含有量が15%であ
る「ケースA」を想定すべき事情は存しないから,「ケースAの潤滑油組成物は所
望の低温特性を示さない」ことを根拠とするサポート要件及び実施可能要件違反の
拒絶理由を通知することなくなされた本件審決に係る手続は,特許法159条2項
で準用する同法50条に違背する旨主張する。
(2) 証拠(甲4,6)によれば,以下の事実が認められる。
ア 特許庁は,原告に対し,平成27年5月26日付け拒絶理由通知書(甲4)
により,本願について拒絶をすべき理由として,請求項1ないし4に係る特許請求
の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないこと,請
求項1ないし4に係る発明について,発明の詳細な説明の記載が,同条4項1号に
規定する要件を満たしていないことを通知した(本件拒絶理由通知)。
上記通知書には,特許法36条6項1号及び同条4項1号に規定する要件を満た
していない点として,①本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても,本願
発明の発明特定事項の「潤滑油基油の尿素アダクト値を4質量%以下,40℃にお
ける動粘度を25mm2/s以下,粘度指数を120以上,且つ,90%留出温度か
ら5%留出温度を減じた値を75℃以下とする」ことと課題の解決(【000
7】)との関係(作用機序)が記載されておらず,②実施例に係る記載を検討して
も,基油1~5について,潤滑油基油成分が基油全量基準で70質量%又は100
質量%含有する限られた実施例のみであり,当該実施例に係る記載に基づき,本願
発明が包含し得る実施態様の全てについてまで,本願発明の課題を解決できるもの
と認識することはできないことが記載されている。
イ 原告は,特許庁に対し,平成27年7月30日,本件拒絶理由通知に対する
意見書(甲6)を提出した。
上記意見書には,本件補正後の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記
載は特許法36条6項1号及び同条4項1号に規定する各要件を満たしているとし
て,前記アの拒絶理由に対し,①本願明細書には,本願発明の課題(【000
7】)が,尿素アダクト値,40℃における動粘度,粘度指数,並びに90%留出
温度から5%留出温度を減じた値がそれぞれ特定条件を満たす潤滑油基油成分を特
定量含有する潤滑油基油と,粘度指数向上剤とを含有し,100℃における動粘度
及び粘度指数がそれぞれ特定条件を満たす潤滑油組成物によって解決できることが
判明したことが記載されており(【0017】等),潤滑油基油の尿素アダクト値
についての記載(【0010】,【0011】,【0026】等),40℃におけ
る動粘度についての記載(【0024】等),粘度指数についての記載(【002
5】等),90%留出温度から5%留出温度を減じた値についての記載(【002
6】等)から,当業者であれば,本願発明の発明特定事項と課題の解決との関係
(作用機序)を容易に理解することができ,②サポート要件の判断にあたって,潤
滑油基油成分について,実施例以外にさらに具体例の記載を求められるべき理由は
なく,また,本願発明に係る潤滑油基油成分のうち実施例以外のものを使用できる
と認識できない事情もないこと,③本願明細書には,潤滑油基油成分の尿素アダク
ト値,40℃における動粘度,粘度指数,並びに90%留出温度から5%留出温度
を減じた値がそれぞれ本願所定の条件を満たすことが,課題の解決に寄与するもの
であることを,具体例の開示がなくても当業者に理解できる程度の記載がある上,
かかる技術事項と課題解決との関係を裏付ける実施例も開示されているのであるか
ら,サポート要件を満たしていること等が記載されている。
(3) 本件審決は,サポート要件及び実施可能要件について,前記第2の3(2)及
び(3)のとおり判断したものであるところ,その理由は,要するに,本願発明に包含
される具体的な潤滑油組成物である実施例4(15質量%)と比較例3(85質量
%)との混合物である「ケースA」を想定し,当該「ケースA」について本願発明
の課題を解決できることを当業者において理解することはできないから,本願発明
の課題が解決できることを本願発明の全範囲にまで一般化できず,本願発明はサポ
ート要件及び実施可能要件を満たさないというものである。
ここで,上記「ケースA」は,組成物全量中に粘度指数向上剤やその他の添加剤
を含むことを踏まえて計算すると,本発明の潤滑油基油成分に相当する「基油2」
を基油全量基準で約15%含有する潤滑油基油と,粘度指数向上剤とを含有し,1
00℃における動粘度が4~12mm2/sであり,粘度指数が140~300であ
る潤滑油組成物であると認められるから,拒絶理由通知書(甲4)に記載されてい
た「実施例に係る記載を検討しても,基油1~5について,潤滑油基油成分が基油
全量基準で70質量%又は100質量%含有する限られた実施例のみであり,当該
実施例に係る記載に基づき,本願発明が包含し得る実施態様の全てについてまで,
本願発明の課題を解決できるものと認識することはできない」との点(前記(2)ア
②)における「本願発明が包含し得る実施態様」の具体例に該当するということが
できる。そして,本件審決は,「本願明細書の【0050】等には,本発明の潤滑
油基油成分の含有割合が10質量%未満となる場合について言及されているものの,
例えば,全ての実施例における含有量である70質量%又は100質量%から大き
く離れた下限値である10質量%の近傍において,例えば,実施例1ないし5と同
様な低温特性を示すであろうことについて,首肯し得る合理的な説明がされていな
いこと」をも踏まえ,「ケースA」について本願発明の課題を解決できることを当
業者において理解することはできないと判断するものである。
そうすると,本件審決におけるサポート要件及び実施可能要件違反に係る判断の
理由は,拒絶理由通知書(甲4)に記載されていた内容(前記(2)ア②)と異なるも
のとはいえず,本件審決が本件拒絶理由通知と異なる理由について判断したものと
いうことはできない。
そして,拒絶理由通知書には,上記内容(前記(2)ア②)が記載されていたところ,
これは,本発明の潤滑油基油成分の含有割合の点において,本発明に係る潤滑油基
油成分を基油全量基準で70質量%又は100質量%含有する本願明細書に記載さ
れた実施例とは大きく異なり,その割合が特許請求の範囲に記載された「基油全量
基準で10質量%~100質量%」という数値範囲の下限値に,より近いような潤
滑油組成物についても,本願発明の課題を解決できるものと認識することはできな
い旨を指摘するものであるということができるから,本発明の潤滑油基油成分の含
有割合が基油全量基準で10質量%という下限値に,より近いような潤滑油組成物
についても,本願発明の課題を解決できるとする根拠について,反論する機会があ
ったというべきである。なお,この点は,原告において,具体的に「ケースA」を
想定し,又は想定すべきであったか否かにかかわらない。
(4) 以上によれば,本件審決に係る手続に,特許法159条2項で準用する同法
50条の違反があったということはできない。よって,取消事由1は,理由がない。
3 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲
の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,
発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当
該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳
細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課
題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと
解される。
(2) 特許請求の範囲の記載
本願発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりである。すなわ
ち,本願発明は,潤滑油基油と粘度指数向上剤を含み,「100℃における動粘度
が4~12mm2/sであり,粘度指数が140~300である」潤滑油組成物であ
って,当該潤滑油基油は,「尿素アダクト値が2.5質量%以下,40℃における
動粘度が18mm2/s以下,粘度指数が125以上,且つ,90%留出温度から5
%留出温度を減じた値が70℃以下である潤滑油基油成分」(本発明に係る潤滑油
基油成分)を,「基油全量基準で10質量%~100質量%」含有することが特定
されたものである。
(3) 発明の詳細な説明の記載
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には,前記1(2)のとおり,本願発明は,従来
の潤滑油が,実用性能(150℃HTHS粘度)を維持しながら,さらに省燃費性
(40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度の低減)と低温粘度特性
(CCS粘度やMRV粘度の低減)とを両立するという点で,いまだ改善の余地が
あったという事情に鑑みて,省燃費性,低蒸発性と低温粘度に優れ,ポリ-α-オ
レフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,1
50℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性,NOACKにおける
低蒸発性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ,特に潤滑油
の40℃及び100℃における動粘度並びに100℃におけるHTHS粘度を低減
し,粘度指数を向上し,-35℃におけるCCS粘度,(-40℃におけるMRV
粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供することを目的とし,特許請求の範
囲の請求項1に記載の構成を採用することにより,省燃費性と低蒸発性及び低温粘
度特性に優れており,ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や
低粘度鉱油系基油を用いずとも,150℃におけるHTHS粘度を維持しながら,
省燃費性とNOACK蒸発量及び-35℃以下における低温粘度とを両立させるこ
とができ,特に潤滑油の40℃及び100℃の動粘度と100℃におけるHTHS
粘度を低減し,-35℃におけるCCS粘度,(-40℃におけるMRV粘度)を
著しく改善することができるという効果を奏するものであることが記載されている。
イ また,【0021】ないし【0026】には,「本発明に係る潤滑油基油成
分」の尿素アダクト値,40℃動粘度,粘度指数及び90%留出温度から5%留出
温度を減じた値は,本願発明に係る潤滑油組成物の低温粘度特性,省燃費性,低蒸
発性,粘度-温度特性などと密接な関係があることが記載されていることから,
「本発明に係る潤滑油基油成分」と「その他の潤滑油基油成分」を混合した「潤滑
油基油」全体の尿素アダクト値,40℃動粘度,粘度指数及び90%留出温度から
5%留出温度を減じた値などの物性値も,同様に,本願発明に係る潤滑油組成物の
低温粘度特性,省燃費性,低蒸発性,粘度-温度特性などの物性と密接な関係があ
ることが理解できる。
ウ 前記アによれば,本願発明の課題に関連する潤滑油組成物の物性は,150
℃HTHS粘度,40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度,NOA
CK蒸発量,-35℃CCS粘度,-40℃におけるMRV粘度及び粘度指数であ
るところ,本願明細書には,150℃HTHS粘度が2.55~2.65の範囲内
となるように調製した実施例1ないし6及び比較例1ないし3の各潤滑油組成物に
ついて,40℃動粘度(mm2/s),100℃動粘度(mm2/s),粘度指数,
100℃HTHS粘度(mPa・s),150℃HTHS粘度(mPa・s),N
OACK蒸発量(1h,250℃),-35℃CCS粘度(mPa・s),-40
℃MRV粘度(mPa・s)を測定した結果が示されている(【0117】,【表
3】)。
そして,【0122】には,実施例1ないし6は,比較例1ないし3に比べて,
40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度及びCCS粘度が低く,低
温粘度及び粘度温度特性が良好であったこと,実施例1ないし6の上記評価結果に
基づき,本願発明の潤滑油組成物が,省燃費性と低温粘度に優れ,ポリ-α-オレ
フィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,15
0℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性と-35℃以下における
低温粘度とを両立させることができ,特に潤滑油の40℃及び100℃における動
粘度を低減し,粘度指数を向上し,-35℃におけるCCS粘度を著しく改善でき
る潤滑油組成物であることが分かることが記載されているから,上記記載から,実
施例1ないし6は,本願発明の課題を解決できるものであるのに対し,比較例1な
いし3は,本願発明の課題を解決できないものであることが理解できる。
エ また,実施例と比較例は全て,潤滑油としての実用性能を表す150℃HT
HS粘度が「2.60~2.61」となるように調製されたものである(【011
7】,【表3】)。そこで,実施例1~6と比較例1~3において,150℃HT
HS粘度以外の物性値をみると,①本願明細書には,潤滑油組成物のNOACK蒸
発量は,好ましくは8質量%以上,さらに好ましくは18質量%以上であり,好ま
しくは30質量%以下,特に好ましくは22質量%以下であり,18~20質量%
とすることで,蒸発損失の防止と低温特性,さらには省燃費性能をバランスよく達
成することができることが記載されているところ(【0114】),NOACK蒸
発量は,実施例1ないし6では「10.8~19.4」の範囲に,比較例1ないし
3では「12.2~14.0」の範囲にあり,②本願明細書には,潤滑油組成物の
100℃動粘度は,4~12mm2/sであることが必要であり,特に好ましくは,
6mm2/s以上,8mm2/s以下であることが記載されているところ(【010
6】),100℃動粘度は,実施例1ないし6では「7.2~9.0」の範囲に,
比較例1ないし3では「8.6~8.9」の範囲にあって,これらの物性値におい
て,両者の数値範囲は重なることが分かる。
他方,③本願明細書には,潤滑油組成物の40℃動粘度は,4~50mm2/sで
あることが好ましく,特に好ましくは25mm 2/s以上,30mm2/s以下であ
ることが記載されているところ(【0109】),40℃動粘度は,実施例1ない
し6では「25.6~37.3」の範囲に,比較例1ないし3では「38.9~4
0.4」の範囲にあり,④本願明細書には,潤滑油組成物の粘度指数は,140~
300の範囲であることが必要であり,最も好ましくは250~300であること
が記載されているところ(【0107】),粘度指数は,実施例1ないし6では
「224~269」の範囲に,比較例1ないし3では「209~211」の範囲に
あり,⑤本願明細書には,潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は,6.
0mPa・s以下であることが好ましく,最も好ましくは4.5mPa・s以下で
あり,3.0mPa・s以上であることが好ましく,最も好ましくは4.2mPa
・s以上であることが記載されているところ(【0110】),100℃HTHS
粘度は,実施例1ないし6では「4.29~5.26」の範囲に,比較例1ないし
3では「5.35~5.49」の範囲にあり,⑥本願明細書には,-35℃CCS
粘度に関し,「例えば,本発明の潤滑油組成物によれば,-35℃におけるCCS
粘度を4500mPa・s以下とすることができる。」と記載されているところ
(【0115】),-35℃CCS粘度は,実施例1ないし6では「1800~4
000」の範囲に,比較例1ないし3では「4850~7700」の範囲にあり,
⑦本願明細書には,-40℃MRV粘度に関し,「本発明の潤滑油組成物によれば,
-40℃におけるMRV粘度を10000mPa・s以下とすることができる。」
と記載されているところ(【0115】),実施例1ないし6では「3700~9
300」の範囲に,比較例1ないし3では「12500~28000」の範囲にあ
り,これらの物性値において,実施例1ないし6の数値の方が,比較例1ないし3
の数値よりも優れていることが分かる。
そうすると,前記ウのとおり,実施例1ないし6は,本願発明の課題を解決でき
るものであるのに対し,比較例1ないし3は,本願発明の課題を解決できないもの
であるところ,本願発明の課題を解決することができるというためには,150℃
HTHS粘度が2.60~2.61程度となるように潤滑油組成物を調製した場合
に,40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度,NOACK蒸発量,
-35℃CCS粘度,(-40℃におけるMRV粘度)及び粘度指数の数値を総合
的に検討した結果,比較例1ないし3で代表される従来の技術水準を超えて,実施
例1ないし6と同程度に優れたものとなることが必要であることを理解できる。
オ さらに,【表3】をみると,実施例1ないし6及び比較例1ないし3は,い
ずれも粘度指数向上剤を含有するものであり,「100℃動粘度が4~12mm2/
s,粘度指数が140~300」という本願発明の発明特定事項を満たすものであ
るが,前記ウのとおり,実施例1ないし6は,本願発明の課題を解決できるもので
あるのに対し,比較例1ないし3は,本願発明の課題を解決できないものであると
されていることから,実施例1ないし6と比較例1ないし3の各潤滑油組成物の物
性の違いは,主として,含有する「潤滑油基油」の物性の違いによるものであるこ
とが理解できる。
そして,【表1】ないし【表3】によれば,本願発明の特許請求の範囲に含まれ
る実施例1ないし5の「潤滑油基油」は,「本発明に係る潤滑油基油成分」である
基油1又は2を100質量%含有する潤滑油基油(実施例1,2,4),あるいは,
基油1又は2を70質量%と比較例2,3で用いた基油4を30質量%含有する潤
滑油基油(実施例3,5)であることから,「潤滑油基油」が「本発明に係る潤滑
油基油成分」を70~100重量%含むものについて,「本発明に係る潤滑油基油
成分」と同じかそれに近い物性を有し,本願発明の課題を解決できることを理解す
ることができる。
(4) 本願発明の課題を解決できると認識できる範囲
前記(3)によれば,本願明細書の記載に接した当業者は,「本発明に係る潤滑油基
油成分」を70質量%~100質量%程度多量に含む,「本発明に係る潤滑油基油
成分」と同じかそれに近い物性の「潤滑油基油」を使用し,粘度指数向上剤を添加
して,100℃における動粘度を4~12mm2/sとし,粘度指数を140~30
0とした潤滑油組成物は,本願発明の課題を解決できるものと認識できる。
他方,本願発明は,「本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分として
は,特に制限されない」ものであるところ(【0051】),一般に,複数の潤滑
油基油成分を混合して潤滑油基油とする場合,少量の潤滑油基油成分の物性から,
潤滑油基油全体の物性を予測することは困難であるという技術常識に照らすと,本
願明細書の【0050】や【0054】の記載から,直ちに当業者において,「本
発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲
に記載された「基油全量基準で10質量%~100質量%」という数値範囲の下限
値により近いような「潤滑油基油」であっても,その含有割合が70質量%~10
0質量%程度と多い「潤滑油基油」と,本願発明の課題との関連において同等な物
性を有すると認識することができるということはできない。しかるに,本願明細書
には,この点について,合理的な説明は何ら記載されていない。
(5) 本願発明のサポート要件適合性
本願発明は,前記(2)のとおり,「本発明に係る潤滑油基油成分」を,「基油全量
基準で10質量%~100質量%」含有することが特定されたものであるが,前記
(4)のとおり,当業者において,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,「本発
明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲に
記載された「基油全量基準で10質量%~100質量%」という数値範囲の下限値
により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解決できると認識
するということはできない。
また,「本発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特
許請求の範囲に記載された「基油全量基準で10質量%~100質量%」という数
値範囲の下限値により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解
決できることを示す,本願の出願当時の技術常識の存在を認めるに足りる証拠はな
い。
したがって,本願発明の特許請求の範囲は,本願明細書の発明の詳細な説明の記
載により,当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものという
ことはできず,サポート要件を充足しないといわざるを得ない。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,本件審決が,「ケースA」を想定し,当該「ケースA」について本
願発明の課題を解決できることを当業者において理解することはできないから,本
願発明の課題が解決できることを本願発明の全範囲にまで一般化できず,本願発明
はサポート要件を満たさない旨判断したことに関し,本願明細書の記載に接した当
業者において,本願発明の課題との関係で特に「ケースA」を想定すべき事情は全
く存在しないから,当業者が,「ケースA」を想定し,本願発明の課題を解決でき
ないと認識することはないし,そもそも,想定した「実施例の組成物と比較例の組
成物の混合物」が実施例の組成物よりも特性に劣るならば,特許出願はサポート要
件を満たしていないとする判断手法では,組成物の発明に係る特許出願はおおむね
拒絶されることになり,特許法の目的に反する旨主張する。
「ケースA」は,本件審決が,本願発明について,特に潤滑油基油について着目
した上で,本願明細書の実施例4に係る潤滑油組成物と比較例3に係る潤滑油組成
物とを,15%:85%の割合で混合した基油を想定したものであるところ,本願
明細書に記載された実施例1ないし6及び比較例1ないし3は,いずれも,基油1
ないし5及び添加剤を用いて調製された潤滑油組成物であって(【0117】),
潤滑油組成物を用いて調製されたものではないにもかかわらず,本願明細書に接し
た当業者において,本願明細書に記載された実施例等の調製方法とは異なり,潤滑
油組成物である実施例4及び比較例3を混合した潤滑油組成物や,そこに含有され
る潤滑油基油を普通に想定するとは考え難い。したがって,「ケースA」の潤滑油
組成物が本願発明の発明特定事項を備えるものであるとしても,本件審決が,本願
発明のサポート要件適合性を判断するについて,上記のように,本願明細書に接し
た当業者が普通に想定するとは考え難い「ケースA」を想定し,これについて発明
の課題を解決できるか否かを検討した点は,不適切であるといわざるを得ない。
しかし,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するというためには,特許
請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に
照らし,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなければ
ならない。本願発明は,特許請求の範囲において,「本発明に係る潤滑油基油成
分」の含有割合が「基油全量基準で10質量%~100質量%」であることを特定
するものである以上,当該数値の範囲において,本願発明の課題を解決できること
を当業者が認識することができなければ,本願発明はサポート要件に適合しないと
いうことになるところ,当業者において,本願明細書の発明の詳細な説明の記載か
ら,「本発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,上記数
値範囲の下限値により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解
決できると認識するということができないことは,前記(5)のとおりである。
そして,「ケースA」は,本発明の潤滑油基油成分に相当する「基油2」を基油
全量基準で約15%含有する潤滑油基油と,粘度指数向上剤とを含有し,100℃
における動粘度が4~12mm2/sであり,粘度指数が140~300である潤滑
油組成物であると認められるところ,本件審決は,「本願明細書の【0050】等
には,本発明の潤滑油基油成分の含有割合が10質量%未満となる場合について言
及されているものの,例えば,全ての実施例における含有量である70質量%又は
100質量%から大きく離れた下限値である10質量%の近傍において,例えば,
実施例1ないし5と同様な低温特性を示すであろうことについて,首肯し得る合理
的な説明がされていないこと」をも踏まえ,「ケースA」について本願発明の課題
を解決できることを当業者において理解することはできないと判断するものであっ
て,上記は,本願発明における「本発明に係る潤滑油基油成分」の含有割合が少な
く,「基油全量基準で10質量%」という数値範囲の下限値により近いような「潤
滑油基油」であっても,本願発明の課題を解決できることを当業者において認識す
ることができないことを述べるものと解することができる。
以上によれば,本件審決が「ケースA」を想定し,これについて発明の課題を解
決できるか否かを検討した点は不適切であるといわざるを得ないが,これを理由に,
直ちに本件審決に取り消すべき違法があるということはできない。
イ 原告は,本件審決では,ケースAの潤滑油組成物により本願発明の課題が解
決されるか否かを検討するのではなく,ケースAの潤滑油組成物が実施例1ないし
6の潤滑油組成物と同様の低温特性を示すか否かが検討されているが,これを検討
したところで,本願明細書が,当業者において,ケースAの場合について,本願発
明の課題を解決できることが理解されるように記載されているとはいえないとの結
論には至らない旨主張する。
前記アのとおり,本件審決が「ケースA」を想定し,これについて発明の課題を
解決できるか否かを検討した点は,不適切であるといわざるを得ないが,これを理
由に,直ちに本件審決に取り消すべき違法があるということはできない。
また,本願明細書の記載によれば,前記(3)エのとおり,本願発明の課題を解決で
きるというためには,150℃HTHS粘度が2.60~2.61程度となるよう
に潤滑油組成物を調製した場合に,40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HT
HS粘度,NOACK蒸発量,-35℃CCS粘度,(-40℃におけるMRV粘
度)及び粘度指数の数値を総合的に検討した結果,比較例1ないし3で代表される
従来の技術水準を超えて,実施例1ないし6と同程度に優れたものとなることが必
要である。したがって,「本発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割
合が少なく,特許請求の範囲に記載された数値範囲の下限値により近いような「潤
滑油基油」であっても,本願発明の課題を解決できると認識できるか否かを,実施
例1ないし6の潤滑油組成物との比較において検討することが誤りであるとはいえ
ない。そして,審決書に「例えば,実施例1~6と同様な低温特性が示されること
について技術的根拠が説明されているものでもない。」(16頁31~32行)と
あるように,本件審決は,本願発明の課題に関連する物性の一つの例として実施例
と比較例の差が最も顕著である低温特性(-35℃CCS粘度)に言及したもので
あって,低温特性のみを検討対象としたものであるとは解されない。
ウ 原告は,ケースAの潤滑油組成物は,実施例4の潤滑油組成物と比較例3の
潤滑油組成物を混合したものであり,「40℃動粘度,100℃動粘度,100℃
HTHS粘度およびCCS粘度が低く,低温粘度および低温粘度特性が良好」な実
施例4の潤滑油組成物を混合したケースAの潤滑油組成物と,それを混合しない比
較例3の潤滑油組成物は,「150℃におけるHTHS粘度が同程度のものである
が」,後者に比べて,前者は,「40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTH
S粘度およびCCS粘度が低く,低温粘度および低温粘度特性が良好」なものであ
り,当業者は,ケースAの潤滑油組成物によっても本願発明の課題を解決できると
推論するし,その推論が正しいことは,甲7によって裏付けられる旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,比較例3と比べて,少しでも本願発明の課題に関連
する物性が改善したものは全て,本願発明の課題を解決できることを前提とするも
のと解されるが,前記(3)エのとおり,本願発明の課題を解決できるというためには,
150℃HTHS粘度が2.60~2.61程度となるように潤滑油組成物を調製
した場合に,40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度,NOACK
蒸発量,-35℃CCS粘度,(-40℃におけるMRV粘度)及び粘度指数の数
値を総合的に検討した結果,比較例1ないし3で代表される従来の技術水準を超え
て,実施例1ないし6と同程度に優れたものとなることが必要であるから,原告の
上記主張は,本願明細書の記載に基づかないものであって,その前提を欠く。
さらに,甲7に記載されたケースAの物性値(別紙甲7対比表参照)を,前記(3)
エの記載に基づき,実施例1ないし6の物性値と比較すると,ケースAの物性値は,
①NOACK蒸発量及び100℃動粘度については,実施例1ないし6の数値範囲
に含まれるものの,②40℃動粘度,100℃HTHS粘度及び粘度指数について
は,実施例1ないし6の数値よりも劣り,③-35℃CCS粘度及び-40℃MR
V粘度については,実施例1ないし6の数値よりも顕著に劣っているということが
できる。また,ケースAの物性値を,比較例1ないし3と比較すると,ケースAの
物性値は,比較例3より全体として優れているが,比較例1及び2と比較すると,
40℃動粘度,100℃HTHS粘度及び粘度指数は,ケースAの方が優れるもの
の,CCS粘度(-35℃)はケースAの方が顕著に劣っているということができ
る。したがって,ケースAの物性を総合的に検討すると,比較例1~3で代表され
る従来の技術水準を超えて,実施例1~6と同程度に優れたものとなっているとは
認められない。
(7) 小括
以上のとおり,本件審決におけるサポート要件に係る判断は,結論において誤り
はない。よって,取消事由2は,理由がない。
4 結論
以上によれば,原告の本訴請求は,取消事由3について判断するまでもなく,理
由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 柵 木 澄 子
裁判官 片 瀬 亮
(別紙)
本願明細書図表目録
【表1】
【表2】
【表3】
(別紙)
甲7対比表
比較例1 比較例2 ケースA 比較例3
動粘度(40℃) 40.4 39.9 37.7 38.9
mm2/s
動粘度(100℃) 8.9 8.8 8.7 8.6
mm2/s
粘度指数 209 211 221 210
HTHS粘度(100℃) 5.49 5.44 5.30 5.35
mPa・s
HTHS粘度(150℃) 2.60 2.60 2.60 2.60
mPa・s
NOACK蒸発量 12.2 13.8 15.3 14.0
250℃,1h
CCS粘度(-35℃) 4850 5800 7100 7700
mPa・s
MRV粘度(-40℃) 12500 28000 20000 23200
mPa・s
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