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平成28(行ケ)10035審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成28年11月28日
事件種別 民事
当事者 被告Y伊藤正和
原告株式会社ハナヤマ塩月秀平
対象物 ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット
法令 特許権
特許法134条の22回
特許法36条6項1号1回
特許法36条4項1号1回
キーワード 審決32回
実施21回
無効16回
進歩性10回
優先権2回
無効審判2回
分割1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,①訂 正要件の判断の誤りの有無,②サポート要件の判断の誤りの有無,③実施可能要件 の判断の誤りの有無,④進歩性判断の誤りの有無である。

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判決文

平成28年11月28日判決言渡
平成28年(行ケ)第10035号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成28年10月26日
判 決

原 告 株 式 会 社 ハ ナ ヤ マ

訴 訟 代 理 人 弁 護 士 鳥 海 哲 郎
塩 月 秀 平
松 山 智 恵
栗 林 知 広
稲 葉 大 輔
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 金 田 周 二


被 告 Y
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 豊 岡 静 男
伊 藤 正 和
原 裕 子

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた裁判

特許庁が無効2015-800034号事件について平成27年12月28日に
した審決を取り消す。

第2 事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,①訂
正要件の判断の誤りの有無,②サポート要件の判断の誤りの有無,③実施可能要件
の判断の誤りの有無,④進歩性判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,名称を「ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット」とする発明につ
いて,平成23年6月23日を出願日として特許出願(特願2013-53766
3号,パリ条約に基づく優先権主張,優先日・平成22年11月5日(本件優先日),
優先権主張国・米国)をし,平成26年4月4日,その設定登録を受けた(特許第
5514962号。請求項の数18。本件特許)(甲10)

原告が,平成27年2月23日に本件特許の請求項1,8~10に係る発明につ
いての特許無効審判請求(無効2015-800034号)をしたところ,被告は,
同年6月5日付けで訂正請求をした(本件訂正)。
特許庁は,平成27年12月28日,
「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成28年1月7日,原告に送
達された。

2 本件訂正発明及び本件発明の要旨
本件訂正後の請求項1,8~10に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本
件訂正発明1」のようにいい,併せて「本件訂正発明」という。)及び本件訂正前の
本件特許の請求項1,8~10に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件発
明1」のようにいい,併せて「本件発明」という。)の各特許請求の範囲の記載は,
次のとおりである。なお,下線は,本件訂正による訂正箇所を示す。

(1) 本件訂正発明
ア 本件訂正発明1
「【請求項1】
一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって,
前記リンクはブルニアンリンクであり,前記アイテムはブルニアンリンクアイテ
ムであり,
ベースと,
ベース上にサポートされた少なくとも1つのピンバーであって,ピンバーは,各々
がリンクを望ましい向きに保持するための上部フレアー状部分を含んだ,列に配置
された複数のピンと,複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面上のアクセス溝
を含むものと,
を含むキット。」
イ 本件訂正発明8
「【請求項8】
リンクの一端を捕捉するためのアクセス溝中に伸長するように適応されたフック
を含む,請求項1記載のキット。」
ウ 本件訂正発明9
「【請求項9】
一連のリンクの端部を一緒にしっかり留めるためのクリップを含む,請求項1記
載のキット。」
エ 本件訂正発明10
「【請求項10】
一連のリンクは,一連の弾性バンドを含む,請求項1記載のキット。」
(2) 本件発明(甲10)
ア 本件発明1
「【請求項1】

一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって,
ベースと,
ベース上にサポートされた少なくとも1つのピンバーであって,ピンバーは,各々
がリンクを望ましい向きに保持するための上部フレアー状部分を含んだ複数のピン
と,複数のピンの各々の前面上のアクセス溝を含むものと,
を含むキット。」
イ 本件発明8~10
それぞれ本件訂正発明8~10と同じ。

3 審判における請求人(原告)の主張
(1) 無効理由2(進歩性欠如)
本件訂正発明は,甲1(英国特許出願公開2147918号公報)に記載された
発明(甲1発明),甲1及び甲2に記載された発明,又は,甲1発明と周知慣用技術
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠
く。
(2) 無効理由4(進歩性欠如)
本 件 訂 正 発 明 は , 甲 9 ( Knitty : Spring 2007 」 と 題 す る ウ ェ ブ ペ ー ジ

(http://www.knitty.com/ISSUEspring07/FEATloomknitting.html)をプリントアウトし
たもの)に記載された発明(甲9発明),甲9及び甲2に記載された発明,又は,甲
9発明と周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので
あるから,進歩性を欠く。
(3) 無効理由5(記載不備)
ア 本件訂正後の本件特許の請求項1~10,12~18に係る発明(本件
訂正発明〔全部〕)は,本件特許に係る明細書(本件明細書)の発明の詳細な説明に
記載したものではないから,その特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たし
ていない(ただし,審判で特許の無効を求めるのは,本件訂正発明についてである。 。


イ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件訂正発明〔全部〕
を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,実施
可能要件を満たしていない(ただし,審判で特許の無効を求めるのは,本件訂正発
明についてである。。


4 審決の理由の要点
(1) 本件訂正の適否の判断(訂正事項1,2,3関連)
ア 訂正事項1,2,3(下線部は,訂正部分を示す。)
(ア) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「一連のリンクからなるアイテムを作成するための
キットであって,ベースと,」とあるのを,「一連のリンクからなるアイテムを作成
するためのキットであって,前記リンクはブルニアンリンクであり,前記アイテム
はブルニアンリンクアイテムであり,ベースと,」に訂正する。
(イ) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「上部フレアー状部分を含んだ複数のピンと」とあ
るのを,上部フレアー状部分を含んだ,
「 列に配置された複数のピンと」に訂正する。
(ウ) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「複数のピンの各々の前面上のアクセス溝」とある
のを,「複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面上のアクセス溝」に訂正する。
イ 判断
(ア) 訂正事項1及び3は,請求項1の「リンク」が「ブルニアンリンク」
であり,「アイテム」が「ブルニアンリンクアイテム」であり,「前面」が「ピンの
列の方向の前面」であることを特定することにより,いずれも,不明瞭となってい
る記載が正され,その本来の意が明らかにされているから,特許法134条の2第
1項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項2は,本件訂正前の請求項1では,複数のピンの配置につい

て何ら特定されていなかったところ,かかる配置を特定することで特許請求の範囲
を減縮しようとするものであるから,特許法134条の2第1項ただし書第1号の
特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(ウ) そして,訂正事項1~3は,いずれも,本件特許の願書に添付した明
細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内で行われたものであり,実
質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(2) 無効理由5(記載不備)について
ア サポート要件違反について
本件明細書の段落【0003】【0004】【0009】【0027】によれば,
, , ,
本件訂正発明のうち「キット」の発明の課題は,
「ブルニアンリンクアイテム」の作
成は個人の技量に依存するという問題を解決し,個人の技量に依存することなく,
様々な技量レベルの人々に,
「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成するキット
を提供することにある(本件課題)。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明のうち「キット」の発
明についても,
「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装
着可能な物品の成功する作成を提供する」【0004】
( )及び「例示的キットは,そ
のようなリンクおよびアイテムの簡単なやり方での作成を提供して,様々な技量レ
ベルの人々に独自の装着可能なアイテムを成功裡に作成することを許容する」 【0

027】)との記載に照らせば,本件課題を解決するために,個人の技量に依存する
ことのない「ブルニアンリンク」作成方法を「提供」するところに,その本質があ
り,かかる「ブルニアンリンク」作成方法の具体的内容は,段落【0020】【0

021】及び図14A~Cに記載されたとおりのものである(本件作成方法)。
本件明細書の発明の詳細な説明において,
「ブルニアンリンクアイテム」を作成す
るためのキットに含まれるものであって,本件作成方法を「提供」する装置として
開示されたものは,
「ベース」及び「少なくとも1つのベースによって望ましい特別
な向きにサポートされたいくつかのピンバー」【0005】,
( )「ピンバー」に含まれ

る「複数のピン」【0011】,
( )「ピンバー」ないし「ピン」に含まれる「弾性バン
ドをその場に保持するためのフランジ状の上部部分と,前方アクセス溝」【000

6】)からなる構成であり,かかる構成を備えた「キット」の発明は,本件訂正発明
〔全部〕にほかならない。
そうすると,本件訂正発明〔全部〕が,発明の詳細な説明に記載された発明であ
って,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる
範囲のものであると認められるから,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,
サポート要件に適合する。
イ 実施可能要件違反について
「ベース上にサポートされた少なくとも1つのピンバー」を有する本件訂正発明
〔全部〕については,本件課題を解決するために,個人の技量に依存することのな
い「ブルニアンリンク」作成方法を「提供」するところにその本質があることは,
前記アのとおりであるが,かかる「ブルニアンリンク」作成方法である本件作成方
法は,本件明細書の段落【0020】【0021】及び図14A~Cに,当業者が

実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。また,ベース,ピン
バーといった,本件作成方法を「提供」する装置の各構成についても,本件明細書
に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
そうすると,ベース上にピンバーを「サポート」する構造であって,ベースとピ
ンバーの別体構造以外のものについても,本件明細書の記載と技術常識を踏まえて,
当業者がその実施をすることができるものであるから,本件明細書の発明の詳細な
説明の記載は,実施可能要件に適合する。
(3) 無効理由2(進歩性欠如)について
ア 甲1発明の認定
甲1発明は,以下のとおりである。
「編み物製品を作成するための手編み用の編み機であって,
ベースプレート19及び支持エンドプレート17と,

ベースプレート19及び支持エンドプレート17に対し,エンドプレート4を介
して旋回自在に支持された,複数のフック5’を備えた2本のバー1’を有し,バ
ー1’の各フック5’は,毛糸をフック5’に保持するのに適した上部の平板状の
張出部32と,フック5’の各々の,フック5’の外側に面している側面上に手持
ち式の編み物用かぎ針をガイドする溝7を有する編み機。」
イ 本件訂正発明1について
(ア) 一致点の認定
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,次の点で一致する。
「一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって,
ベースと,
ベース上にサポートされた少なくとも1つのピンバーであって,ピンバーは,各々
がリンクを望ましい向きに保持するための上部フレアー状部分を含んだ,列に配置
された複数のピンと,複数のピンの各々のアクセス溝を含むものと,
を含むキット。」
(イ) 相違点の認定
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点1
本件訂正発明1は,「ブルニアンリンク」からなる「ブルニアンリンクアイテム」
を作成するためのキットであるのに対し,甲1発明は,編み物製品を作成するため
の手編み用の編み機である点。
b 相違点2
本件訂正発明1のアクセス溝は,ピンの列の方向の前面上にあるのに対し,甲1
発明の溝7は,フック5’の外側に面している側面上にある点。
(ウ) 相違点1及び2についての判断
a 相違点2において,アクセス溝の向きを「ピンの列の方向の前面」
とした理由は,次のとおり考えるのが合理的である。

すなわち,
「ピンの列の方向」に「保持」された弾性バンドの装着を外して掛け戻
していくステップ(FIG.14A)において,各ピンの表面であって「ピンの列
の方向の前面」側の部分には,装着された2本の弾性バンドのうち,装着を外す弾
性バンドのみが位置している(FIG.14A)。したがって,アクセス溝の向きが
「ピンの列の方向の前面」にある方が,当該ステップにおいて,アクセス溝の間隙
にフックを挿入する際に,本来,装着を外すことのない弾性バンドを誤って「開放」
することを起こし難く,技量の乏しい者であっても,容易に「ブルニアンリンク」
を作成することができるためである。
つまり,相違点2に係る「アクセス溝」の向きは,個人の技量に依存することな
く,様々な技量レベルの人々に「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成するキ
ットを提供するという,本件課題を解決するために最適なものである。
b 甲1には,
「ブルニアンリンク」に関する記載も示唆もなく,本件課
題である,様々な技量レベルの人々に「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成
するキットを提供することを解決するために,甲1発明の溝7の向きを最適化する
こと,すなわち,
「ピンの列の方向の前面」とすることを示唆するものも見当たらな
い。そうすると,甲1には,相違点1及び2に係る本件訂正発明1の発明特定事項
に至る動機となるものはないから,甲1発明に基づいて,相違点1及び2に係る本
件訂正発明1の発明特定事項に想到することが容易であるとはいえない。
c 甲2~5のいずれにも,相違点1及び2に係る本件訂正発明1の発
明特定事項は開示されておらず,動機となるものもないことから,甲1発明と甲2
~5に記載のものをどのように組み合わせても,相違点1及び2に係る本件訂正発
明1の発明特定事項に想到することが容易であるとはいえない。
ウ 本件訂正発明8~10について
本件訂正発明8~10は,それぞれ,直接,本件訂正発明1を引用するものであ
るから,本件訂正発明8~10に係る特許も,無効理由2によっては無効にするこ
とはできない。

(4) 無効理由4(進歩性欠如)について
ア 甲9発明の認定
甲9発明は,以下のとおりである。
「編み物を作成するための編み機であって,
ベースと,
ベース上に2列に並べられた複数のペグであって,複数の各ペグは,ベースから
上方に直立しており,編み目がペグから外れるのを防止するための,他の部分より
も径が大きくなった上端部と,ベースの隙間とは反対側のペグの面上にペグの直立
方向に沿って形成された溝であって,かぎ針を挿入して,ペグに掛けられた編み目
を引っ掛けることができる溝と,を備える編み機。」
イ 本件訂正発明1について
(ア) 一致点の認定
本件訂正発明1と甲9発明とを対比すると,次の点で一致する。
「一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって,
ベースと,
ベース上にサポートされた少なくとも1つのピンバーであって,ピンバーは,各々
がリンクを望ましい向きに保持するための上部フレアー状部分を含んだ,列に配置
された複数のピンと,複数のピンの各々のアクセス溝を含むものと,
を含むキット。」
(イ) 相違点の認定
本件訂正発明1と甲9発明とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点3
本件訂正発明1は,「ブルニアンリンク」からなる「ブルニアンリンクアイテム」
を作成するためのキットであるのに対し,甲9発明は,編み物を作成するための編
み機である点。
b 相違点4

本件訂正発明1のアクセス溝は,ピンの列の方向の前面上にあるのに対し,甲9
発明の溝は,ベースの隙間とは反対側のペグの面上にある点。
(ウ) 相違点3及び4についての判断
甲9には,甲1と同様に,
「ブルニアンリンク」に関する記載も示唆もなく,甲9
発明の溝の向きを変更することを示唆するものも見当たらない。そうすると,甲9
には,相違点3及び4に係る本件訂正発明1の発明特定事項に至る動機となるもの
はないから,甲9発明に基づいて,相違点3及び4を想到容易とすることはできな
い。
また,相違点3及び4は,実質的に相違点1及び2と同じものであるから,相違
点1及び2と同様の理由により,相違点3及び4を想到容易とすることはできない。
ウ 本件訂正発明8~10について
本件訂正発明8~10は,それぞれ,直接,本件訂正発明1を引用するものであ
るから,本件訂正発明8~10に係る特許も,無効理由4によっては無効にするこ
とはできない。

第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)
審決は,本件訂正発明〔全部〕の課題を「個人の技量に依存することなく,様々
な技量レベルの人々に,
『ブルニアンリンクアイテム』を簡単に作成するキットを提
供することにある」とし,かかる「課題を解決するために,個人の技量に依存する
ことのない『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』するところ」に発明の本質が
あると認定した。
本件訂正の前後を問わず,本件発明及び本件訂正発明〔全部〕の本質は,
「ベース
とピンバーを様々な向きに組み合わせることにより,無尽のバリエーションの編み
物製品を容易に作成することができる編み機を提供すること」にあるから,審決の
上記認定は誤りであるが,仮に本件訂正後の発明の本質が審決認定のとおりであれ

ば,本件訂正により,発明の本質が「ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせ
ることにより,無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる
編み機を提供すること」から,
「個人の技量に依存することのない『ブルニアンリン
ク』作成方法を『提供』する」ことに変更されているといえるから,本件訂正は特
許請求の範囲を実質的に変更するものであり,本件訂正を認めた審決の判断は,誤
りである。

2 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)
審決は,本件訂正発明〔全部〕の本質が,一列に並んだピンの列方向にリンクを
編む方法による「『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』するところ」にあるとし
つつ,
「本件明細書の発明の詳細な説明において,本件作成方法を『提供』する装置
として開示されたものは,
『ベース』及び『少なくとも1つのベースによって望まし
い特別な向きにサポートされたいくつかのピンバー』『ピンバー』に含まれる『複

数のピン』『ピンバー』ないし『ピン』に含まれる『弾性バンドをその場に保持す

るためのフランジ状の上部部分と,前方アクセス溝』からなる構成であり,かかる
構成を備えた『キット』の発明は,本件訂正発明〔全部〕にほかならない」から,
本件特許の特許請求の範囲の記載にはサポート要件違反はないと判断したが,誤り
である。
すなわち,前記1のとおり,審決の発明の本質の認定は誤っており,かかる発明
の本質の解釈に基づいて,本件明細書の発明の詳細な説明に「ベース」及び「ピン
バー」が一体の編み機が開示されていると判断することは誤りである。

3 取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)
審決は,本件訂正発明〔全部〕の本質が,一列に並んだピンの列方向にリンクを
編む方法による「ブルニアンリンク」作成方法を提供することにあるとしつつ,か
かる作成方法は,本件明細書の段落【0020】及び図14A~Cに明確かつ十分

に記載されており,また,
「ベース,ピンバーといった,本件作成方法を『提供』す
る装置の各構成についても」明確かつ十分に記載されているとして,
「ベースとピン
バーが別体構造以外のものについても,…当業者がその実施をできる」といえるか
ら,仮に,本件訂正発明1が「ベース」及び「ピンバー」が一体となった編み機を
含むものであっても,実施可能要件違反にはならないと判断したが,誤りである。
すなわち,前記1のとおり,審決の発明の本質の認定は誤っており,かかる発明
の本質の解釈に基づいて,発明の詳細な説明に記載されている発明を認定すること
は不当である。

4 取消事由4(進歩性判断の誤り)
(1) 相違点1及び3の判断の誤り
審決は,相違点1について,いわゆる用途限定であり,本件訂正発明1に開示さ
れている「『列に配置された複数のピン』『ベース』『ベース上にサポートされた』
, ,
『ピンバー』『上部フレアー状部分』
, ,及び『複数のピンの各々の,ピンの列の方向
の前面上のアクセス溝』の構成を全て併せ持つ装置を含む『キット』」は,「個人の
技量に依存することのない『ブルニアンリンクアイテム』作成方法たる本件作成方
法を『提供』するものであ」り,『ブルニアンリンクアイテムを作成する』用途に

特に適した物」であるから,相違点1は発明特定事項となると判断しているが,誤
りである。また,相違点3についても,相違点1と同様の判断をしているから,同
様に誤りである。
すなわち,
「ブルニアンリンク作成用」という用途限定は,明細書,図面及び出願
時の技術常識等を考慮しても,ブルニアンリンクなるものを作成するために用いる
のに特に適した何らかの形状,構造,組成等を暗に意味しているとは到底考えられ
ない。また,ブルニアンリンクアイテムの作成方法は,一列に並んだピンの列方向
にリンクを編んでいく方法のみならず,様々な向きに編んでいく方法が想定される
のであり,
「ブルニアンリンク」を「複数の閉じたループないしリンクからなる『単

一の列から形成されたチェイン』 とする誤った解釈を前提として
」 「ブルニアンリン
ク作成用」の意味を解釈している点も誤りである。さらに,後記(2)のとおり,ピン
の列の側面にアクセス溝が設けられている構造の編み機を用いてもブルニアンリン
クアイテムを容易に作成できるのであるから,『複数のピン』『ベース』『上部フ
「 , ,
レアー状部分』及び『複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面上のアクセス溝』
の構成を全て併せ持つ装置」であって,『ベース上にサポートされた複数のピン』

の技術的事項を持」っていることをもって,ブルニアンリンクアイテムの作成に特
に適した構成とはいえない。
(2) 相違点2及び4の判断の誤り
審決は,相違点2及び4について,アクセス溝の向きは設計事項ではないと判断
したが,誤りである。
すなわち,甲37~40のとおり,編み機のベース上に列状に配置されたピンに
ついて,ピンの列方向又はピンの列に対して斜めの方向に向かって穴や溝状の構造
を設けるという技術的思想は,本件優先日である平成22年11月5日以前に,数
多くの編み機において公に実施されており,当業者に一般的に知られているもので
あった。また,甲27,29及び30のとおり,アクセス溝が外側を向いていよう
が,ピンの列の方向の前面上に位置させようが,容易にブルニアンリンクアイテム
を作成できることに違いはない。そうすると,アクセス溝の位置がいずれの向きで
あるかは,当業者が編み機を製造するに当たり適宜選択する事項であり,単なる設
計事項にすぎない。

第4 被告の反論
1 取消事由1に対し
審決は,本件明細書の段落【0003】【0004】【0009】【0027】
, , ,
の記載を根拠として,本件訂正発明〔全部〕のうち「キット」の発明の技術的課題
は,
「ブルニアンリンクアイテム」の作成が個人の技量に依存するという問題を解決

し,個人の技量に依存することなく,様々な技量レベルの人々に,
「ブルニアンリン
クアイテム」を簡単に作成するキットを提供することにあると判断したが,妥当で
ある。そして,前記段落【0003】【0004】【0009】【0027】の記
, , ,
載は,出願当初から変更されておらず,また,本件発明1の「リンク」は「ブルニ
アンリンク」を意味するものであるから,本件訂正の前後を問わず,本件発明及び
本件訂正発明〔全部〕の技術的課題は,
「個人の技量に依存することなく,様々な技
量レベルの人々に,
『ブルニアンリンクアイテム』を簡単に作成するキットを提供す
ること」にある。
発明の技術的課題が,ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることにより,

無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる編み機を提供す
ること」にあることを前提として,
「ベース」と「ピンバー」が別体として存在する
構成が,かかる技術的課題の解決のために必須の構成であり,本件発明及び本件訂
正発明〔全部〕の「本質」である旨の原告の主張は,その前提において誤っている。

2 取消事由2に対し
審決の本件訂正発明〔全部〕及び本件発明の本質の認定に誤りがないことは,前
記1のとおりであるから,審決の発明の本質が誤っていることを前提とする原告の
主張は,前提において誤っている。
本件明細書には,
「ベース」と「ピンバー」が別体構造のものしか明示されていな
いとしても,ピンバーはベースによって望ましい特別な向きにサポートされたもの
であればよく,別体となることまでは要求されないから,当業者であれば,別体で
ないものも開示されているのは自明であると認識する。

3 取消事由3に対し
審決の本件訂正発明〔全部〕及び本件発明の本質の認定に誤りがないことは,前
記1のとおりであるから,審決の発明の本質が誤っていることを前提とする原告の

主張は,前提において誤っている。

4 取消事由4に対し
(1) 相違点1及び3の判断の誤りに対し
審決は,特許・実用新案審査基準の理解を誤ったものではなく,また,相違点1
に係る「『ブルニアンリンク』からなる『ブルニアンリンクアイテム』を作成するた
めのキット」との用途限定が付された物が,その用途に特に適した物を意味すると
解される場合に相当するから,その物は用途限定が意味する構造等を有する物であ
ると解したのであり,本件訂正発明1と甲1発明との間には,実質的にも,相違点
1が存在するとの審決の認定に誤りはない。
また,本件明細書の【0010】のとおり,
「ブルニアンリンク」とは,1つのリ
ンクを取り除くと全てのリンクがお互いからはずれるようになるものであるから,
「単一の列から形成されたチェイン」と解され,審決の認定・判断に誤りはない。
(2) 相違点2及び4の判断の誤りに対し
甲1発明の編み機は,編み糸を編んで編み物を作る手編み用の編み機であり,本
件訂正発明のような「ブルニアンリンク」からなる「ブルニアンリンクアイテム」
を作成するための装置ではないし,甲1には,
「ブルニアンリンク」に関する記載も
示唆もなければ,様々な技量レベルの人々に「ブルニアンリンクアイテム」を簡単
に作成する装置を提供するという本件課題を解決するために,甲1発明の溝の位置
を「ピンの列の方向の前面」とすることを示唆するものも見当たらない。また,甲
37~40に示された編み機は,
「ブルニアンリンクアイテム」を作成するための編
み機ではない上,ピンの穴は,編み物を作成する際に,何ら使用されておらず,編
み物を簡単に作成するという課題解決に寄与するものではない。そうすると,たと
え,甲37~40によって,毛糸などを使用して編み物を作成する編み機のピンに
ついて,ピンの列方向又はピンの列に対して斜めの方向に向かって穴や溝状の構造
を設けることが知られているとしても,本件課題を解決するために甲1発明の溝の

位置を変更しようとする動機付けはなく,甲1発明に基づいて相違点2に係る本件
訂正発明1の構成を想到することは容易とはいえない。
さらに,弾性バンドを編む方向と直角の方向にアクセス溝が存在している場合,
「ブルニアンリンク」を編むことは可能であるとしても,アクセス溝が前面に存在
している場合と比較すると,編むことが困難なことは明らかであるから,アクセス
溝の位置がいずれの向きであるかは,何ら技術的意義もなく,単なる設計事項にす
ぎないということはできない。

第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について
(1) 本件明細書の記載
本件明細書(甲10)には,以下の記載がある(なお,特に重要と思われる部分
に,下線を付した。。

ア 技術分野
【0002】
この開示は全体的に,リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイスに関する。よ
り特定には,この開示は,リンクされた装着可能なアイテムを弾性バンドから作成するための
方法とデバイスに関する。

イ 背景技術
【0003】
独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキットは,常に
いくらかの人気を博してきた。しかしながら,そのようなキットは通常,異なる色に色付けさ
れた糸およびビーズのような原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構築するこ
とは個人の技量と才能に依存する。従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料
を提供するのみでなく,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを


多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容易するするように構築を簡略化もするキット
についての必要と願望がある。

ウ 発明の概要
【0004】
ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉
するようにそれ自体上で二重化された閉じたループから形成されたリンクである。そのような
リンクを望ましいやり方で形成するのに,弾性バンドが利用されることができる。例示的キッ
トおよびデバイスは,複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも,例示的
キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提
供する。
【0005】
例示的キットは,少なくとも1つのベースによって望ましい特別な向きにサポートされたい
くつかのピンバーを含む。望ましい特別な方向は,完成品の望ましいリンクされた構成に依存
する。ベースとピンバーは,完成されたリンクの向きの無尽のバリエーションを提供するよう
に,様々な組み合わせおよび向きに組み立てられ得る。しかも,可能な完成品の作成を更に拡
張するために,追加のベースとピンバーが追加されることができる。
【0006】
ピンバーの各々は,弾性バンドをその場に保持するためのフランジ状の上部部分と,前方ア
クセス溝を含む。前方アクセス溝は,ブルニアンリンクを形成するために,より下のバンドが
掴まれて隣接するバンドの上で引っ張られることができるように,一番上の弾性バンドの下に
フックが挿入されることを提供する。開示されたキットは,隣接するピンの多くの可能な向き
と,従って完成されたリンクされた物品についての異なる向きおよびデザインを提供する。

エ 発明を実施するための形態
【0009】


図1を参照すると,図2に示されたブレスレット,ネックレスおよびその他の装着可能なま
たは装飾的なアイテムのようなブルニアンリンクアイテムを作成するための例示的キットが1
0で指し示されている。
【図1】ブルニアンリンク物品を作成するための例示的キットの斜視図


【0010】
図3を参照すると,ブルニアンリンク20が,実際の結び目を形成することなく,連続的な
ループ状構造から形成されている。いくつかのリンクが,円形構造を形成するようにチェイン
に形成されている。端部がそれからしっかり留められて,耐久性のある装着可能なアイテムが
作成される。この例では,3つの閉じたループ状のゴムバンドのような弾性アイテム20が単
一のチェインを形成しているのが示されている。各リンクは,系列中の別のループ構造の中央
部分24で1つのループ構造の端部22を捕捉することによって形成される。各リンクは,望
ましい形状と一体性を維持することを前および後続のリンクに依存する。1つのリンク20を
取り除くことは,全てのリンクがお互いからはずれるようになることに結果としてなる。


【図3】一連のブルニアンリンクの概略図


【0011】
図1を参照すると,例示的キット10は,その各々が複数のピン26を含むピンバー14を
サポートするベース12を含む。フックツール16が,バンドを1つのピン26から別のもの
へ掴んで動かすために含まれている。クリップ18は,リンクされたアイテムを完成してしっ
かり留めるために完成したリンクの端部を受け取る。ピンバー14と対応するピン26を望ま
しい揃えでサポートするために,示されたように1つまたはいくつかのピンバー14がいくつ
かのベース12に載置されている。この例では,中央のピンバー14が,2つの最も外側のピ
ンバー14から1つ先にされている。この揃えは,望ましいリンクされたアイテムの作成を提
供する。この例では,ピンバー14を望ましい相対的な向きにサポートするために,3つのベ
ース12が利用されている。
【0012】
引き続き図1を参照しながら,図4,5A-Bを参照すると,ベース12は,ピンバー14
の各ピン26の底部において規定された対応する開口部30内に受け取られる複数の直立に伸
長する円筒28を含む。ベース12の円筒28と円筒28を受け取っている開口部30は,ピ
ンバー14をその場に保持するための僅かな干渉フィットを規定する嵌合特徴である。3つの
ベース12がこの例では示されているが,追加の数のピンバー14をサポートするのにより少
なくかまたはより多くが利用されることができる。


【図4】例示的ピンバーの斜視図


【図5A】例示的ベースと例示的ピンバーのインターフェース表面の斜視図


【図5B】例示的ベースに載置されたピンバーの斜視図


【0013】
ベース12は,円筒28の間に配置された,ピンバー14上に規定された対応するスロット
34内にフィットするタブ32を含む。タブ32とスロット34の間のインターフェースが,
揃えを提供し,ピンバー14の直立した向きを維持する。ピン26の各々は,ベース12の円
筒28の間に規定されたボス37を受け取る前方スロット36を含む。前方スロット36とボ
ス37のインターフェースは,ピンバー14をベース12上に更に揃えてサポートする。
【0014】
ピンバー14は,単一の列に規定された複数のピン26を有する一体構造である。ピン26


の各々は等距離Aの間隔を空けられている。ピン26の各々は,フランジ状上部38と前方ア
クセス溝40を含む。
【0015】
図6,7,8および9を参照すると,各ピン26は,バー部分42から上向きに伸長し,ゴ
ムバンドを保持して間隔を空けるための特徴を含む。各ピン26は,リンクの作成中にゴムバ
ンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になったフランジ状上部38を含む。
アクセス溝40は,ピン26の中心に向けて内向きに伸長する縦方向の溝である。アクセス溝
40は,バー部分42からフランジ状上部38との開放端まで伸長する。溝40は,ピン26
の間でゴムバンドの端部を動かすために利用されるフックツール16(図1)の挿入のための
間隙を提供する。
【図6】例示的ピンバーの1つのピンの斜視図


【0019】
図12および13を参照すると,ベース12が,望ましいパターンといくつかのピンバー1
4の間の均等な間隔を設定するのに利用される。従って,ベース12の各々は,1つまたはい
くつかのピンバー14と係合することができる。ベース12は,縦方向に3つのピンバー14
と係合し受け取ることができ,および/または1つのベース12によって提供された3つを超
えて追加のピンバーを追加するように,ピンバーのグループのサイドに追加されても良い。図
12は,3つのベースが3つのピンバー12をサポートし,2つの追加のベース12が1つの
列だけで現行のピンバー14と係合されて,円筒28の2つの列が追加のピンバー14を受け
取るように横方向に伸長するようになっている構成を描いている。図13は,図12に示され
るように横方向に伸長されている追加のベース12によって提供される5つのピンバー14が


横並びに揃えられている構成を描いている。分かる通り,追加のベースおよびピンバー14が
追加できる程度と可能な構成は,開示されたキットのユーザの望みによってのみ制限される。
ピンバー14の追加は,キットのユーザの想像力によってのみ制限される,より独自で込み入
ったデザインを提供する。
【図12】いくつかのピンバーに組み立てられたいくつかのベースの組み立て図


【図13】1つの望ましい特別な向きにお互いに対して載置されたいくつかのピンバーの組み
立て図


【0020】
図14A-Cを参照すると,例示的キットによって提供されるブルニアンリンクを形成する
方法は,弾性バンドを隣接するピン26上に装填する最初のステップを含む。この例では,一
番右の端部で始まって各ゴムバンドが隣接するピンに渡って引き伸ばされ中央部分において保
持される。第1の弾性バンド52が,隣接するピン26の第1のペアの間に置かれる。第2の
弾性バンド54がそれから,前に組み立てられた第1の弾性バンド52の一端の上に置かれ,
それから第3の弾性バンド56等々,望ましい数のゴムバンドが対応するピンバー14上に置


かれるまで,となる。これらの例では,3つの弾性バンド52,54および56のみが説明の
目的で示されているが,実際には,完成品の望ましい長さを提供するために多くの弾性バンド
が利用され得ることに注意されたい。
【図14A】ブルニアンリンクされた物品を作成するための組み立てステップの斜視図


【図14B】ブルニアンリンクされた物品を作成するための組み立てステップの斜視図


【図14C】ブルニアンリンクされた物品を作成するための組み立てステップの斜視図


【0021】
一旦弾性バンド52,54および56がピン26の各々の上に置かれると,フック16が,


アクセス溝40中に挿入され,一番上の弾性バンド56を通り過ぎて下向きに動かされる。フ
ック16はそれから,弾性バンド54の一端がフック端中に捕捉されることを許容するのに十
分な距離だけ矢印58によって指し示された方向に溝から外向きに動かされる。更なる持ち上
げは,図14Bに示されるように別の隣接するピン26上での組み立てのために第3の弾性バ
ンド56の端部を通して60によって指し示された方向に第2の弾性バンド54の捕捉された
端部を引っ張り上げる。捕捉された端部は,フランジ状上部38の上を越えて引っ張り上げら
れ,隣接するピン上に引っ張り戻されて,単一のリンクを形成する。弾性バンド54の捕捉さ
れた端部はそれから,隣接するピン26と係合するように開放される。このプロセスが,望ま
しい長さのリンクのチェインが得られるまで繰り返される。
【0022】
図14A,14Bおよび14Cに描かれた例は,リンクの単一の列から形成されたチェイン
を描いている。リンク構成および組み合わせの幅広い種類を形成するように,例示的ベーステ
ンプレート12は多くのピンバー14をサポートするように配列されることができ,従ってリ
ンクは隣接するピンバー14に跨って縦方向および横方向に形成されることができる。
【0024】
図17-20を参照すると,6つのピンバー14を望ましい向きに保持するための例示的ベ
ーステンプレート66が示されている。例示的ピンバー14の各々は,規定されたサイズの開
口部30を含み,ベーステンプレート66は,ピンバー14がベーステンプレート66の溝7
0内でその場に留められるように,ピンバー14中の開口部30と望ましいきつさの干渉フィ
ットを提供するようなサイズとされた複数の円形ボス68を含む。ピンバー14とベーステン
プレート66のボスの間の干渉フィットは,望ましい装着可能なアイテムの使用および構築中
の分離を防止するために,ベースへの積極的な載置および取り付けを確かにする。


【図17】望ましい特別な向きにピンバーを保持するための例示的ベーステンプレートの斜視



【図18】例示的ベーステンプレートの底面図


【図19】2つのベーステンプレートの横並びの取り付けの斜視図


【図20】2つのベーステンプレートのエンドツーエンドの取り付けの斜視図


【0025】
図18,19および20を参照すると,ベーステンプレート66は,第1および第2の端部
72,74と,第1および第2の端部72,74の間の第1および第2のサイド76,78を
含む。第1の端部72が雄ジョイント82を含み,第2の端部74が対応する雌ジョイント8
0を含む。第1のサイド76が雄ジョイント82を含み,第2のサイド78が雌ジョイント8
0を含む。拡張された能力を提供するように,交番するサイドがいくつかのベーステンプレー
ト66のお互いとの取り付けを提供する。
【0026】
図19は,ジョイント84によって横並びの構成にお互いに接続された2つのベーステンプ
レート66を描いている。図20は,ジョイント84によってエンドツーエンドの構成にお互
いに接続された2つのベーステンプレート66を描いている。分かる通り,多くの異なる望ま
しい構成を形成するように,あらゆる数のベーステンプレート66がお互いにしっかり取り付
けられることができる。異なる構成は,装着可能なアイテムの異なる形状および構成を作成す
るための多くのオプションを提供する。
【0027】
従って,例示的キットおよび方法は,ブレスレット,ネックレスおよびその他の装着可能な
アイテムの作成のためにブルニアンリンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供
する。しかも,例示的キットは,潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張
するために拡張可能である。更には,例示的キットは,そのようなリンクおよびアイテムの簡


単なやり方での作成を提供して,様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテムを成功
裡に作成することを許容する。

(2) 検討
ア 前記(1)によれば,本件明細書には,①技術分野につき,【0002】に
は,
「この開示は全体的に,リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイス
に関する。より特定には,この開示は,リンクされた装着可能なアイテムを弾性バ
ンドから作成するための方法とデバイスに関する。 と記載され,
」 ②背景技術につき,
【0003】には,
「独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るため
の材料を含むキットは,常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら,そのよ
うなキットは通常,異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含む
だけで,使用可能で望ましいアイテムを構築することは個人の技量と才能に依存す
る。従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでな
く,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技
量および芸術的レベルの人々にとって容易するする (原文ママ) ように構築を簡略化
もするキットについての必要と願望がある。 と記載され,
」 そして,これに対応して,
③発明の概要として,【0004】には,「ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チ
ェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化
された閉じたループから形成されたリンクである。そのようなリンクを望ましいや
り方で形成するのに,弾性バンドが利用されることができる。例示的キットおよび
デバイスは,複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも,例示
的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功
する作成を提供する。 と記載されるとともに,
」 ④発明を実施するための形態の説明
の総括として,【0027】には,「従って,例示的キットおよび方法は,ブレスレ
ット,ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリ
ンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも,例示的キッ

トは,潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張するために拡張
可能である。更には,例示的キットは,そのようなリンクおよびアイテムの簡単な
やり方での作成を提供して,様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテム
を成功裡に作成することを許容する。」と記載されている。
これらの記載によれば,本件明細書には,ブレスレットやネックレスなどの「独
自の装着可能なアイテム」を作成するキットは,通常,異なる色に色付けされた糸
及びビーズのような原材料を含むだけであり,アイテムを構築することは個人の技
量と才能に依存するため,このように材料を提供するのみでなく,アイテムを成功
裡に作成することを多くの技量及び芸術的レベルの人々にとって容易にするように
構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み,アイテムを
ブルニアンリンクアイテムとし,ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニア
ンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レベルの人々にブルニアンリ
ンクアイテムを成功裡に作成することを許容するキットを提供することが記載され
ていると認められる。
イ また,本件明細書において,発明を実施するための形態として,次の(ア)
~(エ)といった複数のキットが記載されているととともに,前記アのとおり,いずれ
のキットによっても,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技
量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容するこ
とが記載されている(【0027】 。

(ア) 単一の列に規定された複数のピン26を有し,各ピン26に,リンク
の作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になった
フランジ状上部38と,ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用され
るフックツール16の挿入のための間隙を提供する前方アクセス溝40が形成され
たピンバー14を,3つ横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造と
したキット(【0009】~【0015】【0020】~【0022】
, )
(イ) (ア)のキットに対しピンバー14を追加して,例えば5つのピンバー1

4を横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット【001

9】)
(ウ) 6つのピンバー14を横並びに揃えてベーステンプレート66上にサ
ポートさせて一体構造としたキット(【0024】)
(エ) ベーステンプレート66のサイドに形成されたジョイント80,82
を用いて,例えば2つの(ウ)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造
としたキット(【0025】及び【0026】)
ウ そして,ベーステンプレート66も「ベース」の概念であると認められ
ることから,いずれのキットも,本件発明1の「一連のリンクからなるアイテムを
作成するためのキットであって,/ベースと,/ベース上にサポートされた少なく
とも1つのピンバーであって,ピンバーは,各々がリンクを望ましい向きに保持す
るための上部フレアー状部分を含んだ複数のピンと,複数のピンの各々の前面上の
アクセス溝を含むものと,/を含むキット。」の構成を充足するものであり,いずれ
のキットも本件発明の実施形態であると認められる。
エ 以上によれば,本件発明の課題は,審決が認定するとおり,個人の技量
に依存することなく,様々な技量レベルの人々に,
「ブルニアンリンクアイテム」を
簡単に作成するキットを提供することにあると認められる。
オ そして,本件訂正により,本件明細書は訂正されておらず,前記ア~エ
に記載の点は,本件訂正発明についても該当するものと認められる。
したがって,本件訂正によって本件発明の課題が変更されたとは認められないか
ら,これを根拠とする原告の主張は理由がない。
カ これに対し,原告は,本件訂正の前後を問わず,本件発明及び本件訂正
発明〔全部〕の本質は,ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることにより,

無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる編み機を提供す
ること」にあるが,仮に,本件訂正後の発明の本質が審決認定のとおり「個人の技
量に依存することのない『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』する」ことにあ

るのであれば,本件訂正により発明の本質が変更され,特許請求の範囲を実質的に
変更するものであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件明細書の背景技術(【0003】)には,
「独自
に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキット
は,
・・・原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構築することは個人
の技量と才能に依存する」という課題があり,
「望ましく耐久性のある装着可能なア
イテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容
易」となるように,
「構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある」こと
のみが記載されており,原告主張の編み物製品のバリエーションに関する課題(バ
リエーションに乏しいこと)は記載されていない。また,発明の概要についてみて
も,その冒頭(【0004】)には,ブルニアンリンクの説明や,その作成に弾性バ
ンドが利用可能であることに続けて,
「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て
技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。」として,「原材料
を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構築することは個人の技量と才能に
依存する」という前記課題を解決したことが記載され,原告主張の編み物製品のバ
リエーションについて記載されているものではない。
そうすると,本件明細書には,発明の概要に「ベースとピンバーは,完成された
リンクの向きの無尽のバリエーションを提供するように,様々な組み合わせおよび
向きに組み立てられ得る。」と記載され(【0005】,また,ベース12ないしベ

ーステンプレート66とピンバー14との組合せにより,前記イ(ア)~(エ)のいずれの
キットをも構成し得ることが記載されていることを考慮しても,これらは拡張的な
機能であって,ベース12とピンバー14を様々な向きに組み合わせることにより,
無尽のバリエーションを提供することは,本件明細書において必須の技術事項であ
るとは認められない。
よって,原告の主張は,理由がない。


2 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
(1) 前記1(2)のとおり,本件明細書には,個人の技量に依存することなく,様々
な技量レベルの人々に,
「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成するキットを提
供するという発明の課題が記載され,そして,その課題を解決するための,複数の
ピンが列に配置されたピンバーをベースにサポートさせた構造の複数のキット(前
記1(2)イ(ア)~(エ)のキット)が記載されており,これらのキットは,本件訂正発明の
構成を充足するものであり,本件訂正発明の実施形態であると認められる。
そうすると,本件訂正発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明
で,同記載により当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲のも
のである。
(2) 以上によれば,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36
条6項1号が規定するサポート要件に適合する。これと同旨の審決の判断に誤りは
なく,原告主張の取消事由2は,理由がない。
(3) 原告は,発明の詳細な説明に「ベース」及び「ピンバー」が一体の編み機
が開示されているとの審決の判断は,誤りである旨主張する。
しかしながら,本件明細書に記載されたいずれのキットも,複数のピンバー14
をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたも
のは,ピンバー14及びベース12ないしベーステンプレート66が一体をなして
複数のピン26をサポートする構造にほかならない。このことは,段落【0011】
に,「ピン26を望ましい揃えでサポートするために,・・・1つまたはいくつかの
ピンバー14がいくつかのベース12に載置されている。 との記載,
」 すなわち,
「ピ
ン26」をサポート対象とする旨の記載があることからも明らかであり,そして,
ベーステンプレート66も「ベース」の概念であると認められることから,いずれ
のキットも,ピンバー14及びベース12ないしベーステンプレート66が一体と
なった構造と実質的に等しいと理解できる。そうすると,本件明細書には,ベース
とピンバーが一体となった構造が実質的に開示ないし示唆されているものと認めら

れるから,仮に,本件訂正発明が「ベース」と「ピンバー」が一体となった構造の
ものを含むものとしても,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,サポート
要件を充足する。
原告の主張は,理由がない。

3 取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)について
(1) 前記1(2)のとおり,本件明細書には,個人の技量に依存することなく,様々
な技量レベルの人々に,
「ブルニアンリンクアイテム」を簡単に作成するキットを提
供するという発明の課題が記載され,そして,その課題を解決するための,複数の
ピンが列に配置されたピンバーをベースにサポートさせた構造の複数のキット(前
記1(2)イ(ア)~(エ)のキット)が記載されており,これらのキットは,本件訂正発明の
構成を充足するものであり,本件訂正発明の実施形態であると認められる。
そうすると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件訂正発
明の「キット」を製造し,使用することができるといえる。
(2) 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4
項1号が規定する実施可能要件に適合する。これと同旨の審決の判断に誤りはなく,
原告主張の取消事由3は,理由がない。

4 取消事由4(進歩性判断の誤り)について
(1) 甲1発明について
ア 甲1には,以下の記載がある。

「手編み用の装置は,フレーム1上に2つの離間された平行列に配置されたフック状ピン5を
含み,当該フレーム1は,当該列間に,編み物材料の通過のためのスロット3を有する。ピン
5には溝7が形成され,当該溝は,編み物用かぎ針を受け取り,当該かぎ針の溝への侵入を容
易にする。フレームの傾斜面11には,導入溝3が形成される。代替実施形態では,導入溝を


形成するベース部材を含むピンは,フレームの長手方向バーに独立して且つ取り外し可能にク
リップされる。フレームは旋回軸15周りに選択可能な制止子位置を有してもよい。(要約)

「本発明は,編み機,特に手編み用の編み機に関する。(1頁5行~7行)

「図1において見られるように,当該装置は,好適にはダイカストアルミニウムでできている
細長いフレーム部材1を含み,当該フレーム部材は,当該フレーム部材の縦方向に延在するス
ロット3を有し,当該溝は,フレーム部材を貫通して延在している。スロット3の両側におい
て,ピンの外側に面している側面に,ピンの縦方向(即ち,高さ方向)に延在する溝7を有す
る2列の離間されたピン5が,フレーム部材から直立している。ピンは,図面に示されるよう
に,フック状にされ,フック状構造は,溝7の上端を覆う小さい平板状の部分9によって提供
される。フレーム部材1には,傾斜上面11(即ち,フレーム部材の深度,即ち,厚さは,そ
の外側の縁からスロット3へと増加する)が設けられ,傾斜上面には,ピン5の対応する溝7
につながる溝13が形成されている。(2頁11行~29行)

「 図1



「図2及び図3に示される装置は,2つの離間された平行列に配置されて,当該列間に,スロ
ット3を提供する,上記のピン5に対応する複数の直立ピン(歯5’の形態にあり,後述され
る)を含み,編み動作中に,編み物材料が当該スロット3を通過する。
例示的な装置では,歯5’は,1対の離間されたバー1’上に取り外し可能に支持される。
バー1’は,図2に示されるように,略矩形の断面を有する押出アルミニウムの中空形状から


切り取られ,剛性であるが軽い構造が提供される。バー1’の両端部は,エンドプレート4に
形成される(ぴったりと嵌るようにバーの断面寸法と同程度の)矩形の凹部又はハウジング2
に受容される。凹部又はハウジング2に対し,バーは,エンドプレート内の孔を通り,各バー
1’に設けられた分割円筒状ビーズ8内に延在するセルフタッピングネジ6によって堅く固定
される。(2頁53行~75行)

「 図2 図3



「エンドプレート4は,1対の支持エンドプレート17から延在する旋回軸15で旋回可能に
支持される。これらのプレートは,木製のベースプレート19の両端部に固定され,当該端部
は,支持エンドプレート17に形成されたハウジング20内に受容され,ネジ22によって固
定される。
バー1’とエンドプレート4とを含む歯支持フレームは,1つの支持エンドプレート17か
ら,隣接するエンドプレート4に形成された3つの制止子26,28,30(図2)のうちの
1つの制止子内へと延在するポペット24(図3)によって,旋回軸15の周りの3つの可能
な傾斜位置のうちの選択された1つに位置付けられる。支持エンドプレート17と,歯支持フ
レームのエンドプレート4との間の間隔は,制止子26,28,30に対するポペット24の
係合を外すことができるように,旋回軸15に対しフレームの僅かな端先の動きを可能とする
ように構成される。(2頁80行~99行)

「図2及び図3から明らかなように,各フック5’は,上方向に延在する部分39を含み,当


該上方向に延在する部分39は,上部の平板状の張出部32において終端し,当該張出部32
は,手持ち式の編み物用かぎ針(図示せず)を操ることによる編み動作の間に,フックから持
ち上げられるまで毛糸をフックに保持するのに適したフックを提供する。手持ち式の編み物用
かぎ針をガイドするために,各フック5’には,直立部39に沿って延在する溝7が設けられ
る一方で,各フックのベース部34には,図1に関連して上で説明した目的のために,溝7に
つながる導入ガイド溝13を有する。(2頁114行~127行)

「装置で作られる編み物製品の異なるサイズの編み目に対応するために,異なるピッチの歯の
セットが提供されてもよい。歯は,交互に又は対向する関係で,2つの支持バーにクリップさ
れてよい。異なる編み目パターンに容易に対応できるように,必要に応じて,隣接する歯の間
には,間隙が残されてもよい。(1頁116行~123行)


イ 前記アの記載によれば,甲1には,審決認定のとおり,以下の甲1発明
が記載されているものと認められる。
「編み物製品を作成するための手編み用の編み機であって,
ベースプレート19及び支持エンドプレート17と,
ベースプレート19及び支持エンドプレート17に対し,エンドプレート4を介
して旋回自在に支持された,複数のフック5’を備えた2本のバー1’を有し,バ
ー1’の各フック5’は,毛糸をフック5’に保持するのに適した上部の平板状の
張出部32と,フック5’の各々の,フック5’の外側に面している側面上に手持
ち式の編み物用かぎ針をガイドする溝7を有する編み機。」
ウ 前記認定によれば,本件訂正発明1と甲1発明とは,少なくとも,前記
第2の4(3)イ(ア)の点で一致し,同(イ)bの相違点2において相違する。
(2) 甲9発明について
ア 甲9には,以下の記載がある。

「『編み物用編み機』という用語は,丸型,片面レーキ,編みボードという市販されている3つ


のタイプの編み機を含む広義の名称です。(1頁の下から2段落目)

「けれども,編み機編みの世界の一つとして,
『片面レーキ』もあります。これは,一列に敷き
詰められたペグで,特に,平らなパネル状のものを作るために使われます。(2頁4段落)

「『編みボード』も仲間の一つですが,非常に面白い編み地を作り出します。この編み機には,
ペグがお互いに向かい合うように2列に敷き詰められています。2つの『片面レーキ』がお
互いに向かい合い,その中心にはわずかな隙間があって,編んだものがそこを通ることがで
きる様子を思い描いてください。編みボードは,両面レーキ,編み物用フレーム,あるいは
単にフレームなど,様々な名称で知られています。編みボードからは,裏面のない両面編み
地ができます。ボードの片側からもう片方へと糸をかけることで編み目ができます。(2頁

5段落)
「編み具:編み具は,ペグからループを持ち上げて外し,編み目を作るために使われます。金
属製の細長いもので,かぎ針と同様の曲がった先端部分があります。(2頁6段落)




」(2頁)

イ 前記アの記載によれば,甲9には,審決認定のとおり,以下の甲9発明
が記載されているものと認められる。
「編み物を作成するための編み機であって,

ベースと,
ベース上に2列に並べられた複数のペグであって,複数の各ペグは,ベースから
上方に直立しており,編み目がペグから外れるのを防止するための,他の部分より
も径が大きくなった上端部と,ベースの隙間とは反対側のペグの面上にペグの直立
方向に沿って形成された溝であって,かぎ針を挿入して,ペグに掛けられた編み目
を引っ掛けることができる溝と,を備える編み機。」
ウ 前記認定によれば,本件訂正発明1と甲9発明とは,少なくとも,前記
第2の4(4)イ(ア)の点で一致し,同(イ)bの相違点4において相違する。
(3) 相違点2及び4の判断の誤りの有無について
ア 相違点2及び4に係る「複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面上
のアクセス溝」の技術的意義について
前記1(1)の本件明細書(特に,【0004】 【0006】 【0010】 【001
, , ,
4】【0015】
, ,
【0020】~【0022】 の記載によれば,
) 本件訂正発明の「キ
ット」は,ピンの列の方向において隣接する一対のピンに,ブルニアンリンクアイ
テムを例えば弾性バンドで作成する場合の当該弾性バンドを掛け渡し,それから,
ピンの列の方向に一つずれた隣接する一対のピンに別の弾性バンドを掛け渡し,ピ
ンの列の方向に更に一つずれた隣接する一対のピンに更に別の弾性バンドを掛け渡
し,これを完成品の望ましい長さに対応した弾性バンドの数だけ繰り返した後,フ
ックをピンのアクセス溝に挿入し,ピンに掛けられた上側の弾性バンドを通り過ぎ
て下側の弾性バンドの端部を弾性バンドの内側から捕捉し,捕捉した弾性バンドの
端部をフックで引っ張り上げてピンから外し,隣接するピンに引掛けて,単一のリ
ンクを形成し,これを望ましい長さのリンクのチェインとなるまで繰り返すことに
より,弾性バンドの閉じたループの中央部分が隣の弾性バンドの閉じたループの端
部で捕捉された構造の一連のブルニアンリンクからなるブルニアンリンクアイテム
を作成するという方法を基本とした使い方とするものである。また,この方法を複
数のピンの列に展開してリンクを縦方向及び横方向に形成することで,リンクの構

成及び組合せの幅広い種類のブルニアンリンクアイテムを作成するという方法も採
り得るものである。
このため,本件訂正発明の「複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面上のア
クセス溝」
(本件構成)は,ピンに掛けられた弾性バンドのうち下側の弾性バンドの
端部を弾性バンドの内側からフックで捕捉するためのフック挿入用であって,捕捉
した弾性バンドの端部をフックで引っ張り上げてピンから外し,隣接するピンに引
掛けるという,ピンの列の方向に連続したリンクを形成していくフックの操作を円
滑にし得るようにするために「ピンの列の方向の前面上」に設けたものであると認
められる。
イ 相違点2及び4の容易想到性について
甲1発明は,
「編み物製品を作成するための手編み用の編み機」であり,編みの性
格上,かぎ針(フック)の操作方向は,フック(ピン)の列の方向と交差する方向
となり,そのため,甲1発明のフック(ピン)の溝は,フック(ピン)の外側に面
している側面上,すなわち,フック(ピン)の列の方向と交差する方向に形成され
ている。
甲9発明も,同様に,「編み物を作成するための編み機」であり,編みの性格上,
かぎ針(フック)の操作方向は,ペグ(ピン)の列の方向と交差する方向となり,
そのため,甲9発明のペグ(ピン)の溝は,ベースの隙間とは反対側のペグ(ピン)
の面上,すなわち,ペグ(ピン)の列の方向と交差する方向に形成されている。
そして,これらは,編み物用の編み機である以上,本件訂正発明のように,ピン
の列の方向に連続したリンクを形成していくためにフックをピンの列の方向に操作
するという使い方を想定していない。
また,甲1及び甲9以外の証拠を検討しても,編み物用の編み機である甲1発明
又は甲9発明について,ピンの列の方向に連続したリンクを形成していくためにフ
ックをピンの列の方向に操作すること,そのためにフック挿入用の「アクセス溝」
を「ピンの列の方向の前面上」に設けることを開示ないし示唆する証拠は見当たら

ない。
そうすると,甲1発明において,相違点2に係る本件訂正発明1の構成とするこ
と,あるいは,甲9発明において,相違点4に係る本件訂正発明1の構成とするこ
とは,いずれも動機付けがなく,当業者が容易になし得ることとは認められない。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,アクセス溝が外側を向いていようが,ピンの列の方向の前面
上に位置させようが,容易にブルニアンリンクアイテムを作成できることに違いは
ないのであるから,アクセス溝の位置がいずれの向きであるかは,当業者が編み機
を製造するに当たり適宜選択する事項であり,単なる設計事項にすぎないと主張す
る。
しかしながら,甲1発明及び甲9発明は,編み物を作成するための編み機である
ところ,甲1及び甲9には,ブルニアンリンクに関する記載や示唆はなく,この編
み機をブルニアンリンクを作成するために利用することの記載や示唆もないという
べきであるから,仮に,アクセス溝の向きに関わらず,容易にブルニアンリンクを
作成できることが事実であったとしても,そのようなブルニアンリンクの作成に係
る事実が,編み物を作成するための編み機である甲1発明及び甲9発明のアクセス
溝の向きを変更する動機付けになるということはできない。
原告の主張は,理由がない。
(イ) 原告は,甲37~40によれば,編み機のベース上に列状に配置され
たピンについて,ピンの列方向又はピンの列に対して斜めの方向に向かって穴や溝
状の構造を設けることは,当業者にとってありふれた設計事項にすぎないと主張す
る。
しかしながら,甲37~40に記載されているものは,いずれも編み機であり,
ブルニアンリンクアイテムを作成するための装置ないしキットではないし,そもそ
も甲37~40記載の編み機の穴や溝がフック挿入用であるかどうかも明らかでは
ないから,これらの編み機により,甲1発明及び甲9発明のアクセス溝の向きを変

更する動機付けがあるということはできない。
原告の主張は,理由がない。
エ 小括
以上によれば,相違点2及び4に係る本件訂正発明の構成とすることは,当業者
が容易になし得るものとは認められないから,その余の点について判断するまでも
なく,甲1発明及び甲9発明を主引例として進歩性欠如を肯定することはできない
とした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由4は,理由がない。
5 結論
以上によれば,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部


裁判長裁判官
清 水 節


裁判官
片 岡 早 苗


裁判官
古 庄 研

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