平成27(ワ)7307実施料等請求事件
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裁判所 |
一部認容 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成28年11月15日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告松田技研工業株式会社 原告株式会鴻池組
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法令 |
特許権
特許法101条4号1回 民法570条1回 特許法38条1回 特許法29条2項1回 民事訴訟法64条1回 特許法29条1項1号1回 民法566条3項1回
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キーワード |
実施72回 無効44回 許諾18回 特許権12回 進歩性3回 新規性2回 侵害1回 間接侵害1回 無効審判1回 ライセンス1回 職務発明1回
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主文 |
1 被告は,原告に対し,1953万3789円及びこれに対する平成26年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本件は,原告が被告に対し,特許実施許諾契約に基づく平成21年6月から平成
25年12月分までの未払実施料が,別紙販売額・実施料一覧表記載のとおりの合
計1955万3025円であると主張して,同契約に基づき同額及びこれに対する
支払期限の後である平成26年5月1日から支払済みまで商事法定利率年6%の割
合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成28年11月15日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成27年(ワ)第7307号 実施料等請求事件
口頭弁論終結日 平成28年9月6日
判 決
原 告 株 式 会 鴻 池 組
同訴訟代理人弁護士 長 谷 部 陽 平
同 大 江 祥 雅
同 西 村 智 久
被 告 松田技研工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 鰺 坂 和 浩
主 文
1 被告は,原告に対し,1953万3789円及びこれに対する平成26年5
月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,1955万3025円及びこれに対する平成26年5月1
日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
本件は,原告が被告に対し,特許実施許諾契約に基づく平成21年6月から平成
25年12月分までの未払実施料が,別紙販売額・実施料一覧表記載のとおりの合
計1955万3025円であると主張して,同契約に基づき同額及びこれに対する
支払期限の後である平成26年5月1日から支払済みまで商事法定利率年6%の割
合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない事実又は後掲証拠及び弁論の
全趣旨により認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,建設工事の企画,設計,監理等に関する事業を行うことを目的とす
る株式会社である。
イ 被告は,土木工事用泥土及びヘドロ固化材の製造,販売等を目的とする株式
会社である。
(2) 原告の特許権(甲3)
原告は,下記の特許(以下「本件特許」といい,その特許に係る発明を「本件特
許発明」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)の特許権者であ
る。
記
番 号 特許第4109017号
出願日 平成14年5月21日
登録年月日 平成20年4月11日
発明の名称 汚染土壌の固化・不溶化方法
特許請求の範囲
【請求項1】
700~1000℃で焼成され,粉末度7000cm 2 /g以上に調整した酸化
マグネシウムを,汚染土壌に添加・混合することにより,該汚染土壌を固化して,
汚染物質の不溶化を行うことを特徴とする汚染土壌の固化・不溶化方法。
【請求項2】
汚染土壌に,酸化マグネシウムと共に,pH調整剤を添加・混合することを特徴
とする請求項1記載の汚染土壌の固化・不溶化方法。
【請求項3】
汚染土壌に,酸化マグネシウムと共に,強度増加剤としての炭酸カルシウム,硫
酸カルシウム,炭酸マグネシウム,硫酸マグネシウム,塩化マグネシウム,シリカ,
パーライト,ゼオライト又は製鋼スラグを,単独又は2種以上を混合して,添加・
混合することを特徴とする請求項1又は2記載の汚染土壌の固化・不溶化方法。
【請求項4】
酸化マグネシウムを添加・混合した汚染土壌の含水比を,脱水機を用いることに
より低下させることを特徴とする請求項1,2又は3記載の汚染土壌の固化・不溶
化方法。
【請求項5】
脱水機として,フィルタープレスを用いることを特徴とする請求項4記載の汚染
土壌の固化・不溶化方法。
(3) 本件特許権の実施許諾契約の締結
原告と被告は,平成21年6月1日付けで,「特許実施許諾に関する契約書」
(甲1,以下「本件契約書」という。)に基づき,本件特許権を対象とする特許実
施許諾契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約書には,下記条項
がある。なお,本件契約書中の「甲」は原告,「乙」は被告である。
記
(定義)
第1条 本契約において,次の用語はそれぞれ以下のとおり定義されるもの
とする。
(1) 「本件特許」とは,甲が所有する特許第4109017号「汚染土
壌の固化・不溶化方法」をいう。
(2) 「本件製品」とは,本件特許のいずれかの請求項に含まれる(1)
酸化マグネシウム及び(2)酸化マグネシウムと他の物品の混合物をい
う。
(3) 「本件方法」とは,本件特許のいずれかの請求項に含まれる汚染土壌
の固化・不溶化方法をいう。
(4) 「会計年度」とは,毎年4月1日から翌年3月31日までの期間をい
う。
(実施許諾)
第2条 甲は,日本国内全域における本件特許の通常実施権を乙に対して許
諾する。
2, 乙が製造,調達又は販売した本件製品の使用者に対して,その本件製
品を使用して本件方法を実施することを再実施許諾することができる。
なお,乙による製造には,委託製造を含む。乙が再実施許諾する場合
は,その内容について,基本的に,甲に事前に報告するものとする。
3,乙が事前に報告した内容で,下記の場合は,甲は乙に対して,再実施許
諾を拒否することができる。
① 再実施権者が,土壌汚染対策法やコンプライアンスに違反する行為を
行うことが明らかな場合。
② 再実施権者が,技術的に不溶化処理が不可能な条件で本件製品を使用
することが明らかな場合。
③ 再実施権者が,他材料の採用を前提に,本件製品を購入することが明
らかな場合。
4,本条の規定は,甲が自ら本件特許を実施することを妨げない。
(対価)
第3条 甲から乙に対する第2条の本件特許に関する権利許諾の対価(以下
「実施料」という。)は,次のとおりとする。
実施料:本件方法に使用された本件製品の販売価格の3%
(報告及び支払方法)
第4条 乙は,本契約の期間中,毎年3月末日及び9月末日(以下,各々「締
切日」という。)をもって当該前6ヵ月間(以下「計算期間」とい
う。)に本件方法用途に販売した本件製品の種類,販売価格,販売数
量,販売先及び第3条の規定により算出される実施料を,当該締切日か
ら1ヵ月以内に文書で甲に報告し,且つ当該実施料を,甲指定の銀行口
座振込の方法で,甲に支払うものとする。
2,本契約が終了した場合,当該終了日を締切日として,乙は前項に準じて
甲に報告し,甲に実施料を支払うものとする。
(4) 被告による被告製品1,2の販売
被告は,平成21年6月から別紙被告製品目録記載1の製品(以下「被告製品1」
という。)を,平成23年7月から同目録記載2の製品(以下「被告製品2」とい
う。)を販売している。
(5) 被告製品1,2の「本件製品」該当性
ア 被告製品1は,酸化マグネシウム(MgO)を主成分とする固化・不溶化剤
であり,被告製品1に使用される酸化マグネシウムの粉末度(=比表面積)は86
00cm 2 /gを下らず,被告製品1に使用される酸化マグネシウムの焼成温度は
800℃前後であるから,本件特許の請求項1に含まれる酸化マグネシウムであり,
本件契約の第1条に定義される「本件製品」に該当する。
イ 被告製品2は,被告製品1と同じ酸化マグネシウムと硫酸第一鉄を混合した
固化・不溶化剤であり,したがって,本件特許の請求項2に含まれる酸化マグネシ
ウムとpH調整剤の混合物であり,本件契約の第1条に定義される「本件製品」に
該当する。
(6) 被告の報告義務の未履行
被告は,被告製品1,2の販売について,本件契約第4条1項に基づく報告を原
告に対してしていない。
2 争点及び争点についての当事者の主張
(1) 本件契約の瑕疵等の有無
(被告の主張)
本件契約は,以下のとおり,無効であるか解除されたものであるから,被告は原
告に対し,本件契約に基づく実施料支払義務を負わない。
ア 錯誤無効
被告は,本件契約に先行する平成15年7月1日付け覚書(乙12。以下「被告
特許覚書」という。)とその覚書締結時の原告の説明(乙14)から,本件契約の
対象は,汚染土壌の不溶化の中でも特定の工法を対象としたものに限定され,原告
製品の第三者販売は自由であって本件契約の対象にならないものと理解していた。
しかるところ,本件契約は,原告製品の第三者販売をも対象とするものであるか
ら,被告には錯誤があり,この錯誤は要素の錯誤に当たるから,本件契約は無効で
ある。
イ 心裡留保による無効
被告は,真意としては「特定の工法」以外の汚染土壌の固化・不溶化方法の実施
に供される被告製品をも対象とする本件契約を締結する意思がないにもかかわらず,
本件契約を締結する旨の意思表示を行い,かつ,原告は,かかる真意と意思表示と
の不一致を認識し得たから,本件契約は心裡留保により無効である。
ウ 優越的地位の濫用を理由とする無効
本件契約において,被告が原告との取引を継続する必要性が高かった事情から,
原告の取引上の地位は被告に優越しており,また,そのため,本件契約と被告特許
覚書とは,一般のクロスライセンス契約等に比して原告に一方的に有利なもので正
常な商慣行に照らしても不当な内容となっている。したがって,本件契約の締結は
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)
によって禁止される優越的地位の濫用行為であり,本件契約は無効である。
エ 瑕疵担保責任に基づく本件契約の解除
(ア) 本件特許には,①冒認又は共同出願違反,②新規性欠如,③進歩性欠如,④
詐欺の無効理由が存在するが,これらの無効理由が存在することは「本件契約の目
的物の瑕疵」に当たる。
a 本件特許の請求項1は,被告従業員の知見に基づき開発された「エコロッ
ク」と同一であり,その発明は被告の職務発明となるところ,原告はそのことを熟
知していた。原告と被告の共同開発の経緯からすると,原告は,本件特許について
特許を受ける権利を有していないか,それとも共同出願者の少なくとも一人を欠い
た状態で本件特許を出願したものであり,特許法38条に反する無効となるべき事
由がある。
b 上記「エコロック」は,遅くとも平成13年7月までに発売されていたこと
から,本件特許発明が本件特許出願前に公然実施されていたもので特許法29条1
項1号又は2号に反する無効となるべき事由がある。
c 本件特許発明は,平成12年11月の第4回地盤改良シンポジウムで配付さ
れた資料(建設汚泥処理用弱アルカリ性固化材の開発(その2))(乙4)と上記
「エコロック」の物性を把握することで容易に想到できるものであるから,特許法
29条2項に反する無効となるべき事由がある。
d 被告は,本件特許の出願経過において原告が詐欺行為により特許庁審査官の
判断を誤らせたから,本件特許には無効となるべき事由がある。
(イ) そして被告は,平成22年9月,原告に対し,本件特許は無効であるから実
施料は支払えない旨を口頭で通知することにより本件契約解除の意思表示をしたか
ら,本件契約に基づく実施料支払義務は負わない。
オ 本件契約の中途解約
被告は,平成22年9月に本件特許は無効であるから実施料は支払えない旨を原
告に対して口頭で通知し,本件契約を中途解約する意思表示をした。
したがって,本件契約は解約され,被告は本件契約に基づく実施料の支払義務を
負わない。
カ 権利濫用
本件特許には,①冒認又は共同出願違反,②新規性欠如,③進歩性欠如,④詐欺
の無効理由が存在するから,そのような特許に基づく実施料の請求は権利の濫用と
して却下されるべきである。
(原告の主張)
被告の主張は,以下のとおりいずれも失当である。
ア 錯誤無効について
本件特許のいずれかの請求項に含まれる汚染土壌の固化・不溶化方法に使用され
る被告製品の販売額を基準に実施料が算定されることは明らかであり,事業者であ
る被告が本件契約の内容につき被告主張の錯誤に陥ることなどあり得ない。被告が
根拠として指摘する議事録(乙14)は,平成15年(本件契約締結日の5年以上
前)に開催された会議の議事録であり,本件契約とは無関係である。
上記経緯及び本件契約書記載の文言を踏まえた上でなお被告が本件契約の内容に
つき錯誤に陥っていたというのであれば,被告には当該錯誤につき重大な過失があ
るから,被告による錯誤無効の主張が認められる余地はない。
イ 心裡留保による無効ついて
被告の主張によれば,被告は,本件契約締結当時,既に本件特許に無効理由が存
在するとの見解を有しながら,本件契約を締結することを判断したのであって,本
件契約を締結する意思がないのに本件契約を締結する旨の意思表示をしたとはいえ
ない。現に,被告は,本件契約の締結に当たって実施料率等の契約内容について交
渉を行ったし,被告が実施料の一部を支払っていること(甲7)からも,心裡留保
が存在しなかったことは明らかである。
また,原告は,被告が本件契約を締結する意思がないにもかかわらず本件契約を
締結する旨の意思表示を行ったことなど知り得ないから,心裡留保無効の主張は失
当である。
ウ 優越的地位の濫用を理由とする無効について
被告は,原告の行為が独占禁止法2条9項5号イないしハのいずれに該当するか
を明確に主張していないが,その点を置いても,行政法規違反の私法上の行為が直
ちに無効になるわけではない。
本件契約は,事業者間の通常の特許実施許諾契約にすぎず,原告にそもそも「優
越的地位」があるとはいえず,またその契約内容が「正常な商慣習に照らして不当」
(独占禁止法2条9項5号)と評価される余地もない。また,指摘に係る被告特許
覚書は,本件契約締結の5年前になされた別個の契約であって,これと本件契約を
一体のものとして評価する余地もない。
いずれにしても本件契約が独占禁止法違反の無効理由があるとの被告主張は失当
である。
エ 瑕疵担保責任に基づく本件契約の解除について
(ア) 特許実施許諾契約には,有体物を前提とする民法570条の適用はない。
(イ) 無効理由が存在するとしても,本件特許は現に有効に存続しているから,本
件特許に無効理由が存在することは,本件契約の目的物の瑕疵に該当しない。しか
も,被告は,本件特許に無効理由が存在することを知って本件契約を締結したか
ら,本件特許に無効理由が存在することは,「隠れた瑕疵」に該当しない。
(ウ) 本件契約は,被告に対して非独占的実施権である通常実施権を許諾すること
により,被告及び被告製品を使用して本件特許発明の実施を行う第三者に対して,
原告が本件特許権を行使しないことを約するものであって,被告に独占的利益を与
えるものではないから,本件特許に無効理由が存在したとしても,これにより,被
告に「契約を締結した目的を達することができない」ということにはならない。
(エ) 被告主張に係る無効理由は失当であるから,「瑕疵」があることにはならな
い。
a 本件特許出願前に被告従業員が本件特許の請求項1と同一の発明をなしてい
た事実は存在せず,また,原告が当該事実を認識していたことはないから,本件特
許につき,冒認出願及び共同出願違反はない。
b 本件特許発明は,汚染土壌の固化・不溶化方法の発明(方法の発明)であっ
て,汚染土壌の固化・不溶化方法に用いる固化・不溶化剤の発明ではないから,
「エコロック」の販売行為は,汚染土壌の固化・不溶化方法の実施に該当しない。
また,「エコロック」の物性が本件構成要件(の一部)を充足する物性を有するこ
とは全く立証されていない。したがって原告が主張する無効理由である公然実施は
認められない。
c 被告指摘に係る資料(乙4)には「建設汚泥を中性領域または弱アルカリ性
領域に固化処理できる固化材(剤)の開発が望まれている。本報告はこの目的のた
めに開発した低温焼成の酸化マグネシウムを主成分とする建設汚泥処理用弱アルカ
リ性固化剤に関するものである。」と記載され,少なくとも「汚染土壌」,「不溶
化」,「方法」の記載が存在しないし,組み合わせるべき「エコロック」の物性は
何ら立証されていないし,これを組み合わせる動機付けも存在しないから,本件特
許が進歩性を欠如し無効となるべき事由があるとの被告主張は失当である。
d 本件特許の出願経過において原告が詐欺行為により特許庁審査官の判断を誤
らせた事実はないし,そもそも,特許法に,出願経過における詐欺行為が特許の無
効理由となる旨の規定は存在しないから,被告の主張は失当である。
(オ) 本件特許に無効理由が存在することが「瑕疵」であるならば,被告は,遅く
とも本件契約締結時点(平成21年6月1日)で,「瑕疵」を認識していたから,
1年の経過により,民法566条3項の除斥期間は経過している。
なお,被告は,原告に対して平成22年9月に本件特許は無効であるから実施料
は支払えない旨を口頭で通知した旨主張するが,そのような事実は存在しないし,
実施料を支払わない旨の通知は本件契約の解除の意思表示には該当しない。その
上,解除の意思表示であるとしても上記のとおり除斥期間経過後の解除の意思表示
である。
オ 本件契約の中途解約について
本件契約には,中途解約に関する規定はないから,中途解約をした旨の被告主張
は失当である。
カ 権利濫用について
原告は,本件契約に基づく請求をしているのであって特許権に基づく請求をして
いるわけではないから,特許無効を理由に権利濫用をいう被告の主張は失当であ
る。
(2) 被告の未払実施料の額
(原告の主張)
ア 被告は,本件契約締結日(平成21年6月1日)以降,本件特許発明の実施
となる汚染土壌の固化・不溶化方法に用いさせる目的で,別紙販売額・実施料一覧
表1,2の各総添加量(t)欄記載とおり,被告製品1を少なくとも●(省略)●
トン,被告製品2を少なくとも●(省略)●トン,それぞれ販売した。
イ 被告製品1,2それぞれの販売額は同表各販売額欄記載のとおりである。
ウ 以上によれば,本件契約に基づく未払実施料の額は,被告製品1につき22
万3275円,被告製品2につき1932万9750円の合計1955万3025
円である。
(被告の認否及び主張)
ア 被告が,汚染土壌の固化・不溶化用途向けに,被告製品1を平成21年6月
から平成22年8月までに●(省略)●トン販売した事実は認めるが,その販売価
格は1トン当たり●(省略)●万円であり,したがって販売額総額は458万円で
ある(別紙販売額一覧表Ⅰ(1))。
イ 被告が,平成23年7月から平成25年12月までの間に,汚染土壌の固
化・不溶化用途向けに販売した被告製品2は別紙販売額一覧表のⅠ(2)に示すと
おり,合計●(省略)●トンであって,このうち,平成24年6月までの●(省略)
●トンについては1トンあたり●(省略)●円で,平成25年9月以降の●(省略)
●トンについては1トンあたり●(省略)●円で販売したものであるから,その販
売額は,1億9679万5000円である。原告の主張する被告製品2の販売のう
ち,同表Ⅱ記載の販売分は汚染土壌の固化・不溶化用途向けではない。
ウ したがって,本件契約に基づく未払実施料の額は,上記販売額×3%の60
4万1250円である。
エ なお,被告が顧客に被告製品を販売する場合,運賃込みの場合と別の場合と
があり,運賃込みの場合の「本件製品の販売価格」は,運賃込みの販売価格から1
トン当たり5600円を控除した額とすべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件契約の瑕疵等の有無)について
被告は,本件契約が無効ないし解除されたから,本件契約に基づく実施料支払義
務を負わない旨主張するが,いずれの主張も失当である。
(1) 錯誤無効について
被告は,本件契約では原告製品の第三者販売が自由にされていないから被告には
本件契約締結に当たり錯誤があると主張するところ,そのいわんとする趣旨は判然
としない部分があるが,少なくとも,証拠(乙12,乙14)によれば,本件契約
締結前,被告が原告に対し,不溶化を目的とする場合でも材料を自由に販売するこ
とを求めていたことが認められ,被告は,その延長上で,本件契約においても,原
告製造に係る製品が本件特許の請求項のいずれかの不溶化方法に用いることを前提
に販売される場合でも自由にできるものと錯誤していたと主張しているものと理解
される。
しかし,本件契約で具体的実施態様を定めた第2条において,原告製造に係る製
品を被告が購入して本件特許発明の実施に用いるため販売することについては触れ
るところではないが,そもそもそのような材料の販売形態は,特許法101条4号
又は5号の間接侵害の問題になることは明らかであって,これが本件特許権の実施
許諾なく被告が自由になし得ないことも当然である。
したがって,被告が,その主張するような錯誤をしていたとしても,そのことに
ついて重大な過失があることは,また明らかであって,錯誤の主張は採用できな
い。
(2) 心裡留保による無効について
被告は,心裡留保により本件契約締結の意思表示をした旨主張するが,その締結
に至る動機いかんにかかわらず,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,
現に本件契約に基づく実施料の支払をしていることが認められるのだから,被告が,
本件契約を締結する意思がないのに本件契約を締結する旨の意思表示を行ったとは
認め難いし,また被告が心裡留保により本件契約締結の意思表示をしようとも,少
なくとも原告がそのことを知りえなかったことは明らかである。
したがって,本件契約が心裡留保により無効である旨をいう被告の主張は採用で
きない。
(3) 優越的地位の濫用を理由とする無効について
被告は,原告の行為が独占禁止法2条9項5号イないしハのいずれに該当するか
を明確に主張していないが,その点をさて置き,本件契約は,事業者間の通常の特
許実施許諾契約であると解されるところ,被告に対する関係で原告に「優越的地位」
があることを認めるに足りる証拠も,またその契約内容が「正常な商慣習に照らし
て不当」(独占禁止法2条9項5号)と評価されるべき事実を認めるに足りる証拠
もない。
被告は,被告特許覚書(乙12)の存在を指摘するが,同覚書は,本件契約締結の
5年前になされた契約であって,これと本件契約を一体のものとして評価すべき事
情を認めるに足りる証拠もない。
したがって,本件契約が独占禁止法違反で無効であることをいう被告の主張はい
ずれの点においても失当であり採用できない。
(4) 瑕疵担保責任に基づく本件契約の解除について
被告は本件契約を,瑕疵を理由に解除した旨主張するが,本件契約に瑕疵担保責
任の規定を適用するとしても,そもそも本件特許権は現に有効に存在しており,特
許無効審判が請求されているわけではない。また,その主張に係る瑕疵は本件特許
発明の実施が不能であるとか困難であるとかをいう類ものでないため,被告は本件
特許発明を実施し,かつ,本件特許権の有効性を前提として実施許諾者としてその
利益を受けることができているのだから,特許実施許諾契約に瑕疵があるから解除
した旨をいう被告の主張は失当であり,採用できない。
(5) 本件契約の中途解約について
被告は,本件契約は,被告の中途解約の申入れにより終了し,被告は本件契約に
基づく実施料の支払義務を負わないように主張する。
しかし,本件契約の契約書である「特許実施許諾に関する契約書」(甲1)に
は,そもそも中途解約に関する規定は存在しないから,中途解約の意思表示をした
としてもその効果はなく,解約されたことを前提とする被告の主張は明らかに失当
であり採用できない。
(6) 権利濫用について
原告は,本件特許に無効となるべき事由があるとして権利濫用を主張している
が,本件において原告は,本件特許権を行使しているのではなく本件契約に基づく
債権を行使しているにすぎず,また上記(1)ないし(5)で判断したとおり,本件契約
は,現在も有効に存在していると認められるから,その権利行使が権利濫用とはい
えない。
2 争点(2)(被告の未払実施料の額)について
(1) 被告製品1について
ア 本件特許発明の実施となる汚染土壌の固化・不溶化方法に用いさせる目的で
の被告製品1の販売量が,別紙販売額・実施料一覧表1の総添加量(t)欄記載の
とおり合計●(省略)●トンであることは当事者間に争いがない。
イ 証拠(甲13)によれば,その販売価格は1トン当たり●(省略)●円(運
賃込み)を下らないことが認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
なお,被告は,販売価格が運賃込みの販売価格である場合については,運賃とし
て1トン当たり5600円を控除すべきである旨主張するところ,確かに遠隔地へ
の運搬等により運賃が高額になったからといって,そのことが実施料の額に反映す
ることは不合理であるから,本件契約の第3条にいう「本件製品の販売価格」に
は,運賃が含まれないとみるのが相当であり,したがって,運賃込み販売価格とさ
れている取引については,運賃額として,少なくとも被告の主張する額を控除する
のが相当である。
ウ したがって,被告製品1の販売により発生する本件契約に基づく実施料は,
その1トン当たりの運賃込み販売価格である●(省略)●円から5600円を控除
した●(省略)●円に,その販売量合計●(省略)●トンを乗じ,さらに,これに
実施料率3%を乗じた額である20万4039円であると認めるのが相当である。
(2) 被告製品2について
ア 証拠(甲2の1,甲15)によれば,本件特許発明の実施となる固化・不溶
化方法に用いさせる目的での被告製品2の販売量が,別紙販売額・実施料一覧表2
の総添加量(t)欄記載のとおりであり,合計●(省略)●トンであることが認め
られる。
被告は,上記証拠の信用性を争うとともに,被告製品2の一部は,本件製品の対
象となる本件特許発明の実施となる固化・不溶化向けだけでなく,バイオマス焼却
灰の中性化処理に用いるためにも販売していたのだから,後者向けの製品は,本件
契約における実施料の対象である「本件方法に使用された本件製品」ではないとし
て争う。
しかし,前掲証拠によれば,原告が数量算出の根拠とする土壌汚染不溶化固化施
工実績(エコアース材)と題する文書(甲2の1)は,被告作成に係る文書であり,
しかも被告自らが本件訴訟の提起される前である平成26年6月19日と同月20
日に開催された「第20回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会」に
おいて配付した文書であるから(甲15),特段の事情のない限り,その記載内容
をそのまま信用することが自然である。
この点,被告は,上記文書(甲2の1)は,被告社内における参考資料としてま
とめられたものであって,見積り段階や引き合い段階にすぎない数値と実績数値と
が混在していて実際の数量とは異なる旨主張するが,上記文書が外部関係者も参加
する上記研究集会において配布されたことからすると,その上でこれに信用性がな
いようにいう被告の説明はかえって不自然,不合理であって,上記特段の事情があ
るものとは言い難い。そのほか,上記認定を左右するに足りる主張立証はないから,
上記のとおり認定するのが相当である。
イ 証拠(甲14)によれば,被告製品2の販売価格は1トン当たり●(省略)
●円を下らないことが認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
ウ したがって,被告製品2の販売により発生する本件契約に基づく実施料は,
その1トン当たりの販売価格である●(省略)●円に,その販売量合計●(省略)
●トンを乗じ,さらに,これに実施料率3%を乗じた額である1932万9750
円であると認めるのが相当である。
3 以上によれば,原告の被告に対する本件契約に基づく未払実施料の支払を求め
る請求は,上記2(1)ウ及び同(2)ウで認定した額の合計である1953万3789
円及びこれに対する支払期限の後である平成26年5月1日から支払済みまで商事
法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれ
を認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につ
き民事訴訟法64条ただし書,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項を適
用して主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美 奈 子
裁判官 大 川 潤 子
(別紙)
被告製品目録
以下の商品名で特定される,固化・不溶化剤。
1 被告製品1
商品名:エコアース100
2 被告製品2
商品名:エコアース200
以下の別紙掲載省略
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