ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成27(ヨ)22042 仮処分命令申立事件
裁判所 | 東京地方裁判所 |
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裁判年月日 | 平成28年12月19日 |
事件種別 | 民事 |
法令 |
不正競争 |
キーワード | 差止4回 損害賠償2回 侵害1回 |
主文 | 1 債務者は,飲食店営業上の施設として,別紙債務者表示目録記載1の店舗用建物を使用してはならない。 2 債務者は,債務者の占有する印刷物において,前項の店舗用建物の写真及び絵を使用してはならない。 3 債務者は,別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトにおいて,前項の写真及び絵の画像を使用してはならない。 4 本件申立てのうち,その余の部分を却下する。 5 申立費用は,これを2分し,その1を債権者の負担とし,その余を債務者の負担とする。理 由第1 事案の概要等 1 申立ての趣旨(1) 主文第1項ないし第3項と同旨(2) 債務者は,別紙債務者表示目録1記載の店舗用建物内において,同目録記載2の表示を使用してはならない。(3) 債務者は,債務者の占有する印刷物において,前項の表示の写真及び絵を使用してはならない。(4) 債務者は,別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトにおいて,前項の写真及び絵の画像を使用してはならない。 2 事案の概要本件は,債権者が,①自らの運営に係る喫茶店「珈琲所コメダ珈琲店」(以下,単に「コメダ珈琲店」という。)の標準的な郊外型店舗に共通してあるいは典型的に用いられている別紙債権者表示目録記載1の店舗外観(店舗の外装,店内構造及び内装)(以下「債権者表示1」という。)及び②債権者表示1と共にする同目録記載2の商品(飲食物)と容器(食器)の組合せによる表示(以下「債権者表示2」という。また,債務者表示1と債務者表示2を併せて「債権者表示」と総称する。)が債権者の営業表示に当たるとした上で,債務者が別紙債務者店舗目録記載の店舗(以下「債務者店舗」という。)において喫茶店営業をする際に①別紙債務者表示目録記載1の店舗外観(店舗の外装,店内構造及び内装)(以下「債務者表示1」という。)を用いること及び②上記外観の店舗内において同目録記載2の商品(飲食物)と容器(食器)の組合せによる表示(以下「債務者表示2」という。また,債務者表示1と債務者表示2を併せて「債務者表示」と総称する。)を用いることは,それぞれ,債権者の上記各営業表示と類似する営業表示を使用するものであり,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号に該当する旨主張して,債務者に対する不競法3条1項に基づく差止請求権を被保全権利として,債務者表示1の使用及びこれと共にする債務者表示2の使用を差し止める旨の仮処分命令を求める事案である。 3 争点(1) 債権者表示の「商品等表示」該当性(争点1)債権者表示1は,不競法2条1項1号及び2号所定の「商品等表示」に該当するか。また,債権者表示1と共に使用される債権者表示2は,上記商品等表示に該当するか。(2) 債権者表示の周知性ないし著名性の有無(争点2)債権者表示1は,不競法2条1項1号所定の「需要者の間に広く認識されている」(周知性がある)表示といえるか。あるいは,同項2号所定の「著名」な表示といえるか。また,債権者表示1と共に使用される債権者表示2についても,上記周知性ないし著名性があるといえるか。(3) 債権者表示と債務者表示との類似性(争点3)債務者表示1は債権者表示1と類似するか。また,(債務者表示1と共に使用される)債務者表示2は(債権者表示1と共に使用される)債権者表示2と類似するか。(4) 混同のおそれの有無(争点4)債務者表示1の使用により不競法2条1項1号所定の「混同」のおそれが生じるか。また,債務者表示1と共に債務者表示2を使用することにより上記混同のおそれが生じるか。(5) 保全の必要性の有無(争点5)本件仮処分命令の申立てについて,保全の必要性があるか。 4 当事者の主張本件に関する各当事者の主張は,各主張書面に記載のとおりであるから,これらを引用する。第2 当裁判所の判断 1 事実関係当事者間に争いのない事実並びに掲記の疎明資料(書証番号は特記しない限り枝番の記載を省略する。)及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が一応認められる。(1) 当事者ア 債権者は,「コメダ珈琲店」,「和風喫茶甘味喫茶おかげ庵」等の喫茶店事業を主たる事業とする株式会社である。コメダ珈琲店は,昭和43年にAⅰにより創業されたが,平成5年4月には,フランチャイズチェーン運営を目的として株式会社コメダ(以下「旧コメダ①」という。)が設立され,同社により運営されるようになった。その後,株式会社AP11が,平成20年4月,Aⅰから旧コメダ①及びグループ会社4社の全株式を取得した上,平成21年3月1日,旧コメダ①及び上記4社を吸収合併するとともに,商号を「株式会社コメダ」に変更した(以下,同社を「旧コメダ②」という。)。さらに,債権者は,平成25年2月,旧コメダ②の全株式を取得した上,同年6月1日,旧コメダ②ほか1社を吸収合併するとともに,商号を従前の「株式会社MBKP3」から現在の「株式会社コメダ」に変更した。「コメダ珈琲店」には,直営店とフランチャイズチェーン店とがあるが,フランチャイズチェーンも,旧コメダ①,旧コメダ②及び債権者がフランチャイザーとなって継続的に運営されてきている。(以上につき,甲1ないし4,43の1,133,140ないし142,乙235,審尋の全趣旨)イ 債務者は,TVゲーム事業,エンターテイメント事業等を主たる事業とする株式会社である。債務者は,外食事業としては,従前はイタリアンレストラン「センプレコンテ」のみを営んでいたが,平成26年8月からは現在に至るまで,喫茶店である債務者店舗(「マサキ珈琲」1号店)を営んでいる。なお,債務者は,平成27年9月17日には,債務者店舗とほぼ同様の外観を有する「マサキ珈琲」2号店の営業も開始している。(以上につき,甲5,6,105,審尋の全趣旨)(2) コメダ珈琲店の店舗ア コメダ珈琲店は,昭和43年に名古屋市に1号店が出店された後,愛知県下で,さらには岐阜県及び三重県を加えた東海三県で,出店が重ねられた。コメダ珈琲店は,平成15年6月から関東地方に,平成18年11月には近畿地方に,それぞれ進出し,全国展開が進められた結果,平成25年4月に国内店舗数が500店舗,平成26年10月に600店舗に達し,平成27年5月10日には全国37都道府県に628店舗を擁するようになり,この頃,店舗数で全国第3位のコーヒーチェーンとなった(その後,国内店舗数は,同年9月1日時点では645店舗,同月27日時点では648店舗〔39都道府県〕,平成28年1月時点では約660店舗に増加した。)。なお,コメダ珈琲店全店の平成25年3月から平成26年2月までの年間来客数は,およそ7994万6000人であった。コメダ珈琲店は,平成27年9月27日時点で,東海三県には308店舗,関西地方(大阪府,京都府,兵庫県,奈良県,滋賀県及び和歌山県)には100店舗存在した(なお,同年5月10日時点では,関西地方には97店舗存在した。)。このうち,和歌山県内には,岩出店(以下「本件比較対象店舗」ともいう。),和歌山大谷店,御坊店,イオンモール和歌山店,和歌山橋本店及び新宮緑ヶ丘店の6店舗が存在した。(以上につき,甲2の2,2の3,3,19ないし21,78,79の2,102,110の1,132,133,135,139,乙2,3,10,11,15,16,24,138ないし230,232,234,235,審尋の全趣旨)イ コメダ珈琲店の店舗タイプは,都市部における商業ビル等の一角に設けられるビルイン型及びショッピングモールの一角に設けられるSCモール型と,郊外において幹線道路等に面して一戸建ての店舗建物が設けられる郊外型(ロードサイド型)とに大別される。平成27年9月1日時点で,全国のコメダ珈琲店645店舗のうち,496店舗は郊外型店舗であった。このうち,関西地方に所在する郊外型店舗は59店舗(和歌山県5店舗,大阪府17店舗,京都府8店舗,兵庫県12店舗,奈良県7店舗,滋賀県10店舗)であった。関西地方では,平成21年以降,郊外型店舗が多く出店された。和歌山県内では,平成24年に和歌山大谷店が出店され,以後,平成25年に岩出店(本件比較対象店舗)及び御坊店,平成26年にイオンモール和歌山店及び和歌山橋本店,平成27年に新宮緑ヶ丘店,平成28年に海南店がそれぞれ出店されたところ,これらの中で,SCモール型であるイオンモール和歌山店を除く6店舗(平成26年8月以前でいえば和歌山大谷店,岩出店,御坊店及び和歌山橋本店の4店舗)は,いずれも郊外型店舗である。なお,和歌山大谷店,岩出店,御坊店及び和歌山橋本店の1日当たりの来客数はおよそ四百人前後であり,関西地方の店舗の1日当たりの来客数はおよそ三百人から七百数十人程度である。(以上につき,甲20の6,78,79の2,102,132,乙10,39,140の3,142の3,234,審尋の全趣旨)(3) 債権者表示ア 債権者表示1(ア) 本件比較対象店舗の外観は,別紙債権者表示目録記載1の参考写真のとおりであり,同目録記載1(1)AないしH及び(2)IないしQの各構成要素を全て備えている。また,平成28年6月時点で関西地方に所在するコメダ珈琲店の郊外型店舗の外装について,同目録記載1(1)AないしHの各構成要素をどの程度備えているかについて見ると,別紙「近畿地方郊外型店舗外装対比一覧表」の三重県を除く府県についての「債権者」欄記載のとおりである。関西地方における郊外型店舗74店のうち,同各構成要素を全て備えている店舗は6店舗であり,相違点が3か所以内の店舗は29店舗である。和歌山県内でいえば,本件比較対象店舗のほか,御坊店及び海南店は,同各構成要素を全て備えており,新宮緑ヶ丘店は,同目録記載(1)AないしF,G-1,Hの各構成要素を備えており,和歌山橋本店は,同目録記載(1)AないしE,G-1,Hの各構成要素を備えており,和歌山大谷店は,同目録記載(1)BないしEの各構成要素を備えている。(以上につき,甲11,12,14,144の2,152ないし157,乙1,4ないし8,34ないし137,233の2,審尋の全趣旨)(イ) 前記(2)イの平成27年9月までに出店された関西地方に所在する郊外型店舗59店から,他と明らかに異なる外装を有する8店舗(箕面小野原店,天理岩室店,和歌山大谷店,京都洛西店,阪南店,橿原北店,枚方とうかえでの道店及び城陽長池店)を除いた51店舗の外観について,別紙債権者表示目録記載1(1)AないしH及び(2)IないしQの各構成要素のうち,主要な構成要素として債権者が主張する別紙「債権者表示1の主要な構成要素」記載(1)①ないし⑥(以下「特徴(1)①」ないし「特徴(1)⑥」ともいう。)及び同別紙記載(2)①ないし⑥(以下「特徴(2)①」ないし「特徴(2)⑥」ともいう。)をどの程度備えているかについて見ると,別紙「店舗別/外装,内観」のとおりである(甲79の2,126,144の2,乙34ないし137,233の2,審尋の全趣旨)。(ウ) コメダ珈琲店の郊外型店舗の外観は,平成15年以降の全国展開後,特徴(1)①ないし⑥及び(2)①ないし⑥を有するものへと標準化されてきた。ただし,コメダ珈琲店の郊外型店舗には,こうした標準化が進む前に開店した古い店舗である場合や,オーナーが居抜きで購入又は賃借した建物を使用する場合,土地の形状や各地方自治体の条例等による建築制限を受ける場合など,当該店舗特有の事情により,例外的に明らかに異なる外装を有する店舗があり,前記(イ)の8店舗はそのような店舗である。コメダ珈琲店は,「くつろぐ,いちばんいいところ」を標語とし,「街のリビングルーム」を店舗の基本的コンセプトとしているところ,その郊外型店舗の上記標準化された外観は,レンガや木材を始め,来店する客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間を演出することを重視して設計されたものである。そして,そのように店舗外観を統一的なものに標準化していくことは,上記のようなコメダ珈琲店のブランドイメージの浸透を企図して進められたものである。(以上につき,甲2の1,9,10,127ないし131,134,139,乙10,11,235ないし239,審尋の全趣旨)イ 債権者表示2本件比較対象店舗を含むコメダ珈琲店においては,別紙債権者表示目録記載2の各商品(飲食物)がそれぞれこれに対応する同目録記載2の各容器(食器)と組み合わせて提供されている(甲15,16の1ないし16の6,17の1,17の2,17の5ないし17の7,審尋の全趣旨)。(4) コメダ珈琲店に関する宣伝等の状況コメダ珈琲店は,平成24年7月から平成27年4月までの間,別紙メディア目録記載1の各テレビ番組の特集で取り上げられたほか,多数のテレビ番組に露出し,また,平成23年12月から平成27年4月までの間,同目録記載2の各新聞・雑誌で取り上げられたほか,専門誌,地方紙,書籍,フリーペーパー等の多数の紙媒体で取り上げられ,さらに,各種ウェブサイトにもコメダ珈琲店に関する様々な記事が掲載されてきた。その中で,別紙メディア目録記載1①,③ないし⑤及び⑦の各テレビ番組では,コメダ珈琲店の郊外型店舗の外装の特徴(1)①ないし⑥を映した映像がそれぞれ放映され,同目録記載1①及び⑤の各テレビ番組では同郊外型店舗の店内構造・内装の特徴(2)①ないし⑤を映した映像が,同目録記載1③及び④の各テレビ番組では特徴(2)①ないし⑥を映した映像が,同目録記載1⑦のテレビ番組では特徴(2)③ないし⑤を映した映像が,それぞれ放映された(このうち,同目録記載1①,③ないし⑤の各テレビ番組は,平成26年8月16日以前に全国ないし近畿地方で放送されたものである。)。また,同目録記載2①の新聞には遠目ではあるが特徴(1)①ないし⑥を写したカラー写真が,同目録記載2③の新聞には特徴(1)①ないし⑥を写したカラー写真及び特徴(2)①ないし⑤を写したカラー写真が,同目録記載2⑥の新聞には遠目ではあるが特徴(1)①ないし⑥を写したカラー写真が,同目録記載⑨の新聞には特徴(2)①ないし④を写した写真が,同目録記載2⑩の雑誌には特徴(1)①ないし⑥を写した写真及び特徴(2)①ないし⑤を写した写真が,それぞれ掲載された(このうち,同目録記載2①及び③の各新聞は,同日以前に刊行されたものである。)。なお,これらのテレビ番組の中には,他方で,ビルイン型の店舗や明らかに異なる外装を有する郊外型店舗(名古屋本店等)が映った映像もあった。また,別紙メディア目録記載1③のテレビ番組の中では,ナレーターが「コメダのお店はどこも必ず本物の木とレンガを使ったログハウス風。」と述べていた。(以上につき,甲21ないし49,81ないし93,132ないし139,乙27,247)(5) 債務者表示債務者は,平成26年8月16日以降,債務者店舗において,債務者表示を使用している。債務者表示1の外観は,別紙債権者表示目録記載1の参考写真のとおりであり,同目録記載1(1)AないしH及び(2)IないしQの各構成要素を全て備えている。債務者店舗においては,別紙債務者表示目録記載2の各商品(飲食物)がそれぞれこれに対応する同目録記載2の各容器(食器)と組み合わせて提供されている。債務者は,債務者店舗開店の際,和歌山市内北部に,債務者店舗の写真を掲載したチラシを配布した。また,債務者は,別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイト(以下「債務者ウェブサイト」という。)において,債務者店舗の写真を用いた画像を掲載している。(以上につき,甲7,8,50ないし56,60,62ないし64,77,115,116,乙14,17,審尋の全趣旨)(6) 本件申立てに至る経緯ア 債務者は,平成25年初頭,コメダ珈琲店のフランチャイズチェーンの店舗を開業したいと考え,同年2月頃,新規事業として,自ら店舗用土地(現在の債務者店舗所在地)を取得した上で,債権者のフランチャイジーとして和歌山市内に喫茶店を出店したいとの希望を債権者に伝えた。これを受けて,同月20日及び同年3月14日に債権者の従業員と債務者の役員及び従業員との間で面談がされたが,債権者においては,当時,和歌山県下において既に株式会社ドリーム(以下「ドリーム」という。)が債権者のフランチャイジーとして営業していたこととの関係を考慮する必要があったため,同日の面談では,債権者から債務者に対し,ドリームとの調整が必要である旨が告げられた。債務者は,平成25年3月19日,債権者に対し,フランチャイズの加盟申込書を提出したが,債権者においては,社内での検討の結果,ドリームによる店舗展開を尊重するとの経営判断に至った。そこで,債権者は,債務者に対し,同年4月3日,債務者を和歌山県内のコメダ珈琲店のフランチャイジーとして受け入れることができない旨を通知し,同月9日,執行役から面談においてその旨を再度説明した。債務者は,同年7月25日,なおも債権者に対し再検討を依頼したが,債権者は,経緯を再度説明してこれを断り,その他のエリアであれば検討可能である旨伝えた。その後,債務者から債権者に対し連絡はされなかった。(以上につき,甲68ないし70,77,審尋の全趣旨)イ 債務者店舗の建設(ア) 債務者は,そのような中,本件比較対象店舗から電車又は自動車のいずれによっても30分程度で訪れることができる別紙債務者店舗目録記載の所在地に,債務者店舗の建物を建設し,平成26年8月16日,債務者店舗の営業を開始した(甲7,8,77,110,審尋の全趣旨)。(イ) 平成26年8月16日の上記債務者店舗の営業開始直後から,債権者には,債務者店舗とコメダ珈琲店との関係に関する問合せや報告が多数寄せられた。そこで,債権者は,同月18日,コメダ珈琲店のウェブサイトにおいて,「お客様よりお問い合わせをいただいておりますマサキ珈琲店(和歌山市中島546-1)は,コメダ珈琲店とは一切関係ございません。」との告知をした。また,インターネット上では,平成26年8月から平成27年4月にかけて,別紙「インターネット上での指摘」のとおりの各指摘がされ,債務者店舗が外観その他の点でコメダ珈琲店に酷似していることが話題となった。(以上につき,甲58ないし64,76,77,115ないし117,審尋の全趣旨)ウ 債権者は,平成26年8月29日,債務者に対し,「債務者店舗における営業行為は,不競法2条1項1,2号所定の不正競争に該当する。」,「債務者においては,平成25年2月以降,債権者に対してフランチャイズ加盟相談をされた経緯があり,債権者の店舗建物の内外装や特徴ある飲食物の提供形態等はもちろんのこと,債権者店舗の有する信用・顧客誘因力は熟知された上で,債務者店舗の開店,営業行為に及んでいるものであり,極めて悪質なものと評価せざるを得ない。」,「ついては,現在の外装内装形態及び飲食物提供形態を維持した上での債務者店舗における営業行為を直ちに中止されるよう請求する。」旨記載した通知書を送付した。その後,債権者と債務者との間で書面のやりとりがあったが,債務者は,債務者店舗の営業を従前どおり継続した(甲70ないし73)。そこで,債権者は,平成27年5月14日,当庁に本件仮処分の申立てをするとともに,その本案訴訟(平成27年(ワ)第12992号損害賠償等請求事件。差止請求に加えて,損害賠償請求が併合されている。)を提起するに至った(顕著な事実)。(7) 本件申立て後の経緯ア 債務者は,本件仮処分命令申立事件及びその本案訴訟の係属中に,和歌山市福島字葭原613番の9に債務者店舗とほぼ同様の外観を有する「マサキ珈琲」2号店の店舗建物を建築し,平成27年9月17日からその営業を開始している(甲65,77,99,100,105,審尋の全趣旨)。イ 債権者は,平成28年2月19日,コメダ珈琲店の郊外型店舗外装(外壁に付された「KOMEDA'S Coffee」及び「珈琲所コメダ珈琲店」という文字部分を含む。)につき立体商標として商標登録出願をし,同年5月20日,別紙商標公報のとおり,商標登録を受けた(甲151)。 2 被保全権利について(1) 争点1(債権者表示の商品等表示該当性)についてア 債権者表示1について(ア) 店舗外観が商品等表示に該当する場合について店舗の外観(店舗の外装,店内構造及び内装)は,通常それ自体は営業主体を識別させること(営業の出所の表示)を目的として選択されるものではないが,場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを一つの目的として選択されることがある上,①店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており,②当該外観が特定の事業者(その包括承継人を含む。)によって継続的・独占的に使用された期間の長さや,当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし,需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には,店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し,不競法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」に該当するというべきである。以上の見地に立って,以下,債権者表示1が「商品等表示」に該当するかについて検討する。(イ) 債権者表示1の顕著な特徴(前記(ア)①)について債権者表示1は,別紙「債権者表示1の主要な構成要素」記載(1)①ないし⑥及び(2)①ないし⑥のとおりの特徴が組み合わさることによって一つの店舗建物の外観としての一体性が観念でき,統一的な視覚的印象を形成しているということができるところ,これら多数の特徴が全て組み合わさった外観は,建築技術上の機能や効用のみから採用されたものとは到底いえず,むしろ,コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗の店舗イメージとして,来店客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間というイメージを具現することを目して選択されたものといえる(前記1(3)ア(ウ))。そのようにして選択された,切妻屋根の下に上から下までせり出した出窓レンガ壁が存在することを始めとする特徴(1)①ないし⑥の組合せから成る外装は,特徴的というにふさわしく,これに,半円アーチ状縁飾り付きパーティションを始めとする特徴(2)①ないし⑥を併有する店内構造及び内装を更に組み合わせると,ますます特徴的といえるのであって,本件において提出された書証(甲123ないし125,乙12,30)等に見られる他の喫茶店の郊外型店舗の外観と対照しても,上記特徴を兼ね備えた外観は,客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しているということができる(他との十分な識別力を有しているということもできる。なお,上記特徴を備えた店舗外観に関し,前記1(6)イ(イ)のとおり,需要者の間でコメダ珈琲店の店舗外観が想起されて別紙「インターネット上での指摘」にあるような指摘がされたことも,この点を裏付けるものであるといえる。)。そして,債権者表示1には,特徴(1)①ないし⑥及び(2)①ないし⑥以外の構成要素も組み合わさっているものの,そのことが上記視覚的印象の形成を妨げるものではない。なお,債権者表示1には,それ自体特徴的な部分とさほど特徴的ではない部分とが含まれているともいえるが,後者について上記視覚的印象の形成に当たって関連性がないとまでいうことはできない一方,債権者が多数の条件を付加することによって保護範囲が狭くなるような限定をしているのであるから,これら多数の条件の組合せによって特定される債権者表示1を見たときに(「コメダ珈琲店」「KOMEDA'S Coffee」という文字部分自体による効果を除いても)その営業主体について「コメダ珈琲店」(債権者)であると認識するのに十分と判断できる以上は,一つの店舗建物の外観として一体性が観念できる債権者表示1のうち,上記のさほど特徴的でない部分を峻別して排除する必要まではないというべきである。したがって,債権者表示1は,客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しているというべきである。(ウ) 債権者表示1の周知性(前記(ア)②)について前記1(1)ないし(4)で認定した事実によると,(ⅰ)東海三県で出店を重ねてきたコメダ珈琲店が平成15年以降に全国展開していく中で,その郊外型店舗の外観について標準化が進められたところ,それは,もともとコメダ珈琲店の特定の店舗イメージ(前記1(3)ア(ウ))を具現することを目して標準化されたものであること,(ⅱ)コメダ珈琲店の郊外型店舗は,関西地方では平成21年から増加していき,和歌山県内においても平成24年以降平成26年8月までに4店舗が出店され,旧コメダ②及びその包括承継人である債権者が,自ら又はフランチャイジーを通じて,これらの店舗において債権者表示1又はこれに近い表示を継続的・独占的に使用してきたこと,したがって,同月の時点で,コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗に共通して,あるいは典型的に,債権者表示1が用いられていたといえること,(ⅲ)コメダ珈琲店についてはテレビ番組や新聞・雑誌等で度々宣伝・報道がされ,その中で,郊外型店舗の外観も少なからず視聴者・読者等に知らされたこと(さらには,テレビ番組の中には,コメダ珈琲店の郊外型店舗の「ログハウス風」の外観に着目したナレーションが入ったものもあったこと)を指摘することができる。そして,上記(ⅱ)のコメダ珈琲店の郊外型店舗には,近隣地域に居住等する者を中心に日々多数の者が来店し,その外装のほか,店舗滞在時間中にその店内構造及び内装を目にすることとなった上,上記店舗が幹線道路等に面した一戸建ての建物であるため,その外装については上記道路等を通行する際にも目に留まったと考えられるところ,上記来店者には,来店等するたびに一定時間その外観を視認することで(はっきりと意識的に観察,記銘したものでなくても)十分な識別力を有する特徴(1)①ないし⑥及び(2)①ないし⑥の組合せによる視覚的印象(前記(イ))が残ったものと推認される。加えて,上記(ⅲ)のマスメディア等による宣伝・報道によって,多くの視聴者・読者等にコメダ珈琲店が知られるようになったのみならず,ある程度は上記と同様の視覚的印象が残ったものと推認される。さらに,上記(ⅰ)ないし(ⅲ)の事実経過があった中で,現実に後記(3)のとおり債権者表示1に酷似した債務者表示1を備えた債務者店舗が設けられ,需要者の間に前記1(6)イ(イ)のような反応を招いていることなどをも併せ考慮すると,債務者店舗が設けられた平成26年8月16日の時点で,債権者表示1について混同のおそれを生じさせる他者の冒用を許すことが取引秩序上の信義衡平に反する程度に達していたということができるのであって,債権者表示1には混同を防止する必要があるほどの信用形成が既になされていたというべきである。以上を総合的に考慮すれば,債権者表示1は,債務者店舗が設けられた平成26年8月16日の時点で,債務者店舗が所在する和歌山県を含む一つの商圏をなしているとみられる関西地方(甲106ないし114,乙18ないし23,審尋の全趣旨,顕著な事実)において,需要者の間に広く認識されるに至っていたと一応認められる。なお,コメダ珈琲店の店舗にはビルイン型のものも存在し,テレビ番組等でそうした店舗も映っていたものではあるが,これにより郊外型店舗の外観がどの程度稀釈されたかについての疎明はないし,郊外型とビルイン型の双方を認識していた需要者も相当数いると思われることから,債権者表示1の上記周知性を否定するには及ばない。また,関西地方所在の郊外型店舗について,前記1(3)ア(ア)のとおり,債権者表示1の構成要素を部分的に備えていない店舗も散見されるが,別紙「近畿地方郊外型店舗外装一覧対比表」の「備考」欄の「債権者」欄の指摘のとおり,店舗ロゴが3か所中1か所だけ欠けているなどといった些細な相違点によるものが少なくなく,視覚的特徴の感得ないし視覚的印象の形成に与える影響は小さいとみられるから,上記認定判断を覆すものではない。(エ) 債権者表示1の独占適応性についてなお,債務者は,切妻屋根や出窓,レンガ壁等は通常用いられる建築方式にすぎないことなどから,債権者表示1に見られる建築物の一般的な外観を債権者に独占させるべきではなく,債権者表示1を不競法2条1項1号・2号による保護の対象とすることは相当でない旨主張する。しかしながら,本件において債権者が「商品等表示」に当たると主張する債権者表示1は,別紙債権者表示目録記載1(1)及び(2)の外装・店内構造・内装を全て兼ね備えて初めて営業表示とするというものに絞られている。債権者表示1は,単に建築技術上の機能や効用を発揮するための形態というよりは前記店舗イメージを具現するための装飾的な要素を多分に含んだ表示であり,かつ,前示のとおり需要者に広く認識されていたといえることに加えて,本件では上記のような限定が付され条件が幾重にも絞られていること(したがって,これに類似するとして禁止されるのは,建築に当たっての必要性も低いのに殊更外観を模倣した場合に限られるものとみられること)を考慮すると,殊に本件の債権者表示1については,店舗外観の独占による弊害は極めて小さいというべきであり,債権者表示1を(他の要件を満たす限り)不競法2条1項1号・2号による保護の対象とすることが相当でないということはできない。(オ) 小括以上によれば,債権者表示1は,不競法2条1項1号及び2号所定の「商品等表示」に該当するというべきである。イ 債権者表示2について一般に,喫茶店において提供する飲食物の容器は,飲食物の提供という本来の目的を十分果たすよう当該飲食物に合わせて選択される(ただし,商品たる飲食物とその容器たる食器とが必ずしも1対1に対応するとは限らない。)上,客の目を惹くようなデザインの食器が選択されることもあるが,提供商品たる飲食物とその容器との組合せ(対応関係)が営業主体を識別させる機能を有することはまれであるとみられる。こうしたことから,もともと飲食物と容器の組合せ表示のみでは,出所表示機能が極めて弱く,店舗外観以上に営業表示性を認めることは困難であると解されるところ,前記1(3)イの認定事実によると,コメダ珈琲店においては,別紙債権者表示目録記載2の各商品(飲食物)がそれぞれこれに対応する各容器(食器)と組み合わせて提供されているというのであるが,来店者や視聴者等の中で,これらの対応関係・組合せに気を留め認識するに至った者がどの程度いるかは甚だ疑問である。それにもかかわらず,債権者表示2がコメダ珈琲店の営業表示である旨広く知られていたことが疎明されているとはいえない。債権者表示2が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得していたことを根拠付けるに足りる疎明はないといわざるを得ない。そうすると,前記アの債権者表示1とは別種の表示である債権者表示2は,不競法2条1項1号及び2号所定の「商品等表示」に該当するということはできない。(2) 争点2(債権者表示の周知性ないし著名性の有無)について前記(1)ア(ウ)で説示したところに照らすと,債権者表示1は,債務者店舗が設けられた平成26年8月16日の時点で,関西地方において,不競法2条1項1号所定の「需要者の間に広く認識されている」(周知性がある)表示になっていたというべきである。(3) 争点3(債権者表示と債務者表示との類似性)について債権者表示1と債務者表示1とを比較した結果は,別紙「債権者債務者表示比較一覧」記載AないしQ及び別紙「債権者債務者営業態様比較一覧」記載AないしTのとおりであり,ライン飾り(化粧板)の形状及びデザイン,出窓レンガ壁部の形状及び模様,屋根・壁・窓等の位置関係及び色調,店内のボックス席の配置及び半円アーチ状縁飾り付きパーティションの形状など余りに多くの視覚的特徴が同一又は類似していることから,債権者表示1と債務者表示1とが全体として酷似していることは明らかである。外装及び内装の中で店舗の名称がそれぞれ「コメダ珈琲店」「KOMEDA'S Coffee」,「マサキ珈琲」「Masaki's coffee」と表示されているなどの相違点を考慮しても,債権者表示1と債務者表示1とが全体として類似していることを否定することはできない(なお,債務者は,債権者表示1と債務者表示1について幾つかの相違点を指摘するが,印象を変えるには及ばないような点にとどまり,上記類似性を否定するには到底及ばない。)。(4) 争点4(混同のおそれの有無)について前記(3)のとおり債権者表示1と債務者表示1とが全体として酷似していること,現に債務者店舗とコメダ珈琲店との関係について問合せ等が多数あったことなどを併せ考慮すると,店舗名等の相違を勘案しても,債務者表示1を使用することは,その使用主体と債権者表示1の出所との間に資本関係や系列関係,提携関係など(系列店,姉妹店などといわれる関係を含む。)の緊密な営業上の関係が存すると誤認混同させるおそれ(いわゆる広義の混同のおそれ)があると認められる。したがって,債務者表示1の使用により不競法2条1項1号所定の「混同」のおそれが生じるということができる。(5) 被保全権利のまとめ前記1の認定事実に照らすと,債務者は,飲食店営業上の施設として債務者店舗を使用することで債務者表示1を使用しており,その写真を掲載したチラシを配布したり,債務者ウェブサイトにおいてその写真画像を掲載していることが認められ,今後とも,①飲食店営業上の施設としての債務者店舗建物の使用,②印刷物における債務者店舗の写真及び絵の使用並びに③債務者ウェブサイトにおける債務者店舗の写真及び絵の画像の使用により,債務者表示1を使用する蓋然性が高いというべきである。そして,前記(1)ないし(4)で説示したところからすると,債務者が上記のとおり債務者表示1を使用する行為は,不競法2条1項1号所定の不正競争に該当し,これによって債権者の営業上の利益を侵害するおそれがあるということができる。以上によれば,債権者は,債務者に対し,不競法3条1項に基づき,債務者表示1の上記使用の差止めを請求する権利を有するというべきである。 3 保全の必要性(争点5)について前記1,2で認定,説示したところに照らすと,債務者は,債権者の主宰するフランチャイズチェーンへの加入希望がかなわないとなるや,債権者表示1と酷似した外観を有する債務者店舗を建設し,現在に至るまで債務者表示1の使用を継続しているのであって,これにより債権者表示1との間に混同が生じ,その結果,債権者は,需要者の誤認混同やブランドイメージの稀釈化による有形無形の不利益を被っているものとみられる。さらに,債務者は,本件申立てを受けた後も,特にこれを改める気配はなく,かえって債務者店舗とほぼ同様の外観を有する「マサキ珈琲」2号店を設けるに至っている。以上のような本件の事情を総合考慮すると,本件申立てについては保全の必要性があるというべきである。 4 結論以上の次第で,本件申立ては,前記2(5)の債務者表示1の使用の差止めを求める限度で理由があるが,その余の申立てには理由がない。よって,債権者に債務者のため500万円の担保を立てさせて,主文のとおり決定する。平成28年12月19日東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官 嶋 末 和 秀裁判官 笹 本 哲 朗裁判官 天 野 研 司(別紙の一部は省略) |
事件の概要 | 1 事実関係 当事者間に争いのない事実並びに掲記の疎明資料(書証番号は特記しない限り枝 番の記載を省略する。)及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が一応認められる。 (1) 当事者 ア 債権者は,「コメダ珈琲店」,「和風喫茶甘味喫茶おかげ庵」等の喫茶店事 業を主たる事業とする株式会社である。 |
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