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平成28(ワ)5085特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成29年6月28日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社アステックス
原告株式会社辰巳菱機
対象物 負荷試験機
法令 特許権
特許法100条1項1回
特許法29条1項1号1回
キーワード 実施16回
特許権9回
無効8回
差止7回
侵害6回
無効審判4回
損害賠償3回
優先権2回
新規性2回
進歩性1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は,発明の名称を「負荷試験機」とする特許第5702038号の特許 権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,本件特 許の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。)を有す る原告が,別紙物件目録記載の負荷試験機(以下「被告物件」と総称し,個別に は,同目録の定義に従って,「被告物件1号機」,「被告物件2号機」とそれぞ れいう。)は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲(以下,単に「特許請 求の範囲」という。)の請求項1記載の発明(以下「本件発明」といい,本件特 許のうち同発明に係るものを「本件発明についての特許」という。)の技術的範 囲に属するから,被告が被告物件を製造し,販売し又は使用することは,本件特許 権の侵害を構成すると主張して,被告に対し,①特許法100条1項に基づき,被 告物件の製造,販売及び使用の差止めを求めるとともに(前記第1の1),②同条 2項に基づき,被告物件の廃棄を求め(前記第1の2),併せて,③特許権侵害の 不法行為(平成27年3月13日から平成28年2月18日〔本件訴訟の提起日〕 までの被告物件の使用を対象とするものと解される。)による損害賠償金2833 万円(逸失利益2576万円と弁護士費用257万円の合計)及びこれに対する不

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判決文

平成29年6月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成28年(ワ)第5095号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成29年3月8日
判 決
原 告 株 式 会 社 辰 巳 菱 機
同訴訟代理人弁護士 伊 藤 博 昭
同 補 佐 人 弁 理 士 伊 藤 儀 一 郎
被 告 株 式 会 社 ア ス テ ッ ク ス
同訴訟代理人弁護士 吉 峯 真 毅
同 高 橋 拓 也
同 大 井 倫 太 郎
同 大 河 原 啓 充
同 吉 峯 裕 毅
同 倉 都 雄 規
同 寒 河 江 孝 允
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の負荷試験機を製造し,販売し又は使用してはな
らない。
2 被告は,別紙物件目録記載の負荷試験機を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,2833万円及びこれに対する平成28年3月1日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,発明の名称を「負荷試験機」とする特許第5702038号の特許
権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,本件特
許の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。)を有す
る原告が,別紙物件目録記載の負荷試験機(以下「被告物件」と総称し,個別に
は,同目録の定義に従って,「被告物件1号機」,「被告物件2号機」とそれぞ
れいう。)は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲 (以下,単に「特許請
求の範囲」という。)の請求項1記載の発明(以下「本件発明」といい,本件特
許のうち同発明に係るものを「本件発明についての特許」という。)の技術的範
囲に属するから,被告が被告物件を製造し,販売し又は使用することは,本件特許
権の侵害を構成すると主張して,被告に対し,①特許法100条1項に基づき,被
告物件の製造,販売及び使用の差止めを求めるとともに(前記第1の1),②同条
2項に基づき,被告物件の廃棄を求め(前記第1の2),併せて,③特許権侵害の
不法行為(平成27年3月13日から平成28年2月18日〔本件訴訟の提起日〕
までの被告物件の使用を対象とするものと解される。)による損害賠償金2833
万円(逸失利益2576万円と弁護士費用257万円の合計)及びこれに対する不
法行為後の日である平成28年3月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
の民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(前記第1の3)事案で
ある。
2 前提事実等(当事者間に争いがないか,後掲の証拠〔なお,書証番号は,特
記しない限り,枝番の記載を省略する。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められ
る事実等)
(1) 当事者
ア 原告は,負荷試験装置の製造,販売,リース及び非常用発電機等の負荷試験
等を業とする株式会社である。
イ 被告は,負荷試験装置の設計,製作,販売,リース,レンタル及び電気設備
工事の設計施工等を業とする株式会社である。
(2) 本件特許権
ア 原告は,次の内容の本件特許権を有している(甲1,2)。
登 録 番 号 特許第5702038号
発 明 の 名 称 負荷試験機
出 願 日 平成26年8月4日
出 願 番 号 特願2015-500689
優 先 日 平成26年2月24日(以下「本件優先日」という。 )
優先権主張番号 PCT/JP2014/000944
優先権主張国 日本国
登 録 日 平成27年2月27日
特許請求の範囲 別紙特許公報の【特許請求の範囲】欄記載のとおり
イ 本件発明は,次のとおり構成要件に分説することができる(以下,分説に
係る各構成要件を符号に対応して「構成要件A-1」などという。)。
A-1:抵抗器が水平方向に並べられた抵抗器群が,
A-2:鉛直方向であるz方向に複数段並べられ,
A-3:絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む抵抗ユニットが
2以上設けられ,
B:冷却ファンを内蔵した土台部が,別体構成で2以上設けられ,
C:前記土台部のそれぞれは,上部に少なくとも1以上の前記抵抗ユニットが碍
子を介して取り付けられ,
D:前記枠のうち,少なくとも他の抵抗ユニットと対向する位置関係にあるもの
は,上から見て第1距離だけ,前記抵抗ユニットを取り付けた土台部の側面よりも
内側に配置され,
E:前記2以上の抵抗ユニットは,隣り合う抵抗ユニット間の絶縁のために,隣
り合う抵抗ユニットにおける前記枠の間隔が第2距離以上になるように,並べられ,
F:前記第2距離は,前記第1距離の2倍であり,
G:前記第1距離は,45mm以上である
H:ことを特徴とする負荷試験機。
(3) 被告の行為
被告は,被告物件1号機及び被告物件2号機を各1台製造し,これらを使用して,
業として,負荷試験を実施している。
なお,被告物件は,本件発明の構成要件A-1,同A-2,同B,同C及び同H
を充足する(被告は,これらの点を争っていない。)。
(4) 負荷試験機
負荷試験機は,発電機が正常に稼働することを検査するために,消防法に基づき
年1回,通電して検査に用いる装置である。特に,病院,IT関係施設など不慮の
停電に対処するために非常用・自家用発電機を備えた施設で,その使用の需要が多
い。
3 争点
(1) 被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
具体的には,次の点が争われている。
ア 被告物件の構成はいかなるものか(争点1-1)
イ 被告物件は,文言上本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件A-3,同
D,同E,同F及び同Gの充足性)(争点1-2)
ウ 被告物件は,本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争点
1-3)
(2) 本件発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争
点2)
具体的には,仮に,被告物件が本件発明の技術的範囲に属する場合に,被告物件
に係る発明が本件優先日前に公然知られた発明又は公然実施された発明であるかが
争われている。
(3) 被告は被告物件を販売しているか(販売の差止めの必要性)(争点3)
(4) 原告の損害及びその額(争点4)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について
ア 争点1-1(被告物件の構成はいかなるものか)について
【原告の主張】
(ア) 被告物件1号機の構成は,別紙被告物件説明書(1)記載のとおりであり,
これを本件発明の構成要件と対比するため 分説すると,次のとおりとなる(以下,
分説に係る各構成を符号に対応して「構成a-1」などという。)。
a-1:抵抗器が水平方向に12本並べられた抵抗器群が,
a-2:鉛直方向であるz方向に22段並べられ,
a-3:絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む抵抗ユニットが
3台設けられ,
b:冷却ファンを内蔵した土台部が,別体構成で3台設けられ,
c:前記土台部のそれぞれは,上部に1つの前記抵抗ユニットが碍子を介して取
り付けられ,
d:前記枠のうち,少なくとも他の抵抗ユニットと対向する位置関係にあるもの
は,上から見て第1距離(61mm以上)だけ,前記抵抗ユニットを取り付けた土
台部の側面よりも内側に配置され,
e:前記3台の抵抗ユニットは,隣り合う抵抗ユニット間の絶縁のために,隣り
合う抵抗ユニットにおける前記枠の間隔が第2距離(122mm)以上になるよう
に,並べられ,
f:前記第2距離(122mm)は,前記第1距離(61mm以上)の2倍であ
り,
g:前記第1距離は,61mm以上である
h:ことを特徴とする負荷試験機。
(判決注:原告の訴状その他の主張書面では,構成d,同f及び同gにおける「第
1距離」につき,「61mm以上」,「61mm」,「45mm以上」との記載が
混在し,構成e及び同fにおける「第2距離」につき,「122mm」,「90m
m」との記載が混在しているが,上記は,同別紙の記載に従って摘示したものであ
る。)
構成d,同f及び同gにおける「第1距離」(「枠」と「土台部」との間の距離)
について補足すると,土台部の一側面から他側面までの長さは1250mmであり
(甲4の1〔左下図〕),抵抗ユニットの一側面から他側面までの長さが1128
mm(=75mm+978mm+75mm)である(甲4の3〔左下図〕)から,
「第1距離」は,61mm(すなわち,122mm〔=1250mm-1128m
m〕の半分)であり,これは,「45mm以上」である。
また,構成e及び同fにおける「第2距離」(隣り合う抵抗ユニットにおける
「枠」と「枠」の距離)について補足すると,上記のとおり,「第1距離」が「4
5mm以上」であるから,「前記枠の間隔が第2距離(90mm)以上になるよう
に,並べられ」ることは確実である。
(イ) 被告物件2号機の構成
被告物件2号機の構成は,別紙被告物件説明書(2)記載のとおりであり,これ
らを本件発明の構成要件と対比するため分説すると,以下のとおりとなる(被告物
件1号機と共通する構成については,同じ符号を用いる。)。
a-1:抵抗器が水平方向に12本並べられた抵抗器群が,
a-2:鉛直方向であるz方向に22段並べられ,
a-3:絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む抵抗ユニットが
3台設けられ,
b:冷却ファンを内蔵した土台部が,別体構成で3台設けられ,
c:前記土台部のそれぞれは,上部に1つの前記抵抗ユニットが碍子を介して取
り付けられ,
d’:前記枠のうち,少なくとも他の抵抗ユニットと対向する位置関係にあるも
のは,上から見て第1距離(65mm以上)だけ,前記抵抗ユニットを取り付けた
土台部の側面よりも内側に配置され,
e’:前記3台の抵抗ユニットは,隣り合う抵抗ユニット間の絶縁のために,隣
り合う抵抗ユニットにおける前記枠の間隔が第2距離(130mm)以上になるよ
うに,並べられ,
f’:前記第2距離(130mm)は,前記第1距離(65mm以上)の2倍で
あり,
g’:前記第1距離は,65mm以上である
h:ことを特徴とする負荷試験機。
(判決注:原告の訴状その他の主張書面では,構成d’,同f’及び同g’におけ
る「第1距離」につき,「65mm以上」,「65mm」,「45mm以上」との
記載が混在し,構成e’及び同f’における「第2距離」につき,「130mm」,
「90mm」との記載が混在しているが,上記は,同別紙の記載に従って摘示した
ものである。)
構成d’,同f’及び同g’における「第1距離」(「枠」と「土台部」との間
の距離)について補足すると,土台部に引出し状の空気取込口があり,空気取込口
を収納すると引出し状の空気取込口の側面がそのまま土台部の側面と観念できる
(甲6〔写真27〕)ところ,土台部の冷却ファンの最大幅は1240mmであり
(甲5の1〔左下図〕),空気取り込み口,すなわち土台部の側面はその外側にあ
ることから,土台部の一側面から他側面までの長さは,少なくとも1240mmよ
りも長い。そして,抵抗ユニットの一側面から他側面までの長さは1110mmで
ある(甲5の2〔左下図〕)。そうすると,第1距離は,65mm(すなわち,1
30mm〔=1240mm-1110mm〕の半分)であり,これは,「45mm
以上」である。
また,構成e’及び同f’における「第2距離」(隣り合う抵抗ユニットにおけ
る「枠」と「枠」の距離)について補足すると,上記のとおり,「第1距離」が
「45mm以上」であるから,「前記枠の間隔が第2距離(90mm)以上になる
ように,並べられ」ることは確実である。
【被告の主張】
被告物件が構成a-1,同a-2,同b,同c及び同hを備えていることは認め,
その余は否認する。
被告物件において,抵抗ユニットの枠(側板)のうち,他の抵抗ユニットと対抗
する位置関係にあるものは,アルミ製であり,絶縁素材で構成されていない。
また,「第1距離」,「第2距離」は,その始点と終点が明らかでなく,被告物
件について,原告主張のように表現することはできない。
イ 争点1-2(被告物件は,文言上本件発明の技術的範囲に属するか)につい

【原告の主張】
(ア) 構成要件A-3の充足性について
a 以下のとおり,被告物件の構成a-3は,本件発明の構成要件A-3に該当
する。
したがって,被告物件は,いずれも上記構成要件を充足する。
b 構成要件A-3(「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む
抵抗ユニットが2以上設けられ,」)における「絶縁素材で構成され」は「枠」を
修飾し,この「枠」は「抵抗器群の側面を覆う」ものである(それゆえ,「枠」は
抵抗器群の側面を覆うほどの大きさを持つ板状のものである。)。そして,「含む」
との文言からすれば,「絶縁素材で構成されない」「枠」の存在は,排除されてい
ない。すなわち,「抵抗器群の側面」のいずれかを「覆う枠」が「絶縁素材」であ
れば,「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む」との要件を充足
するといえる。
しかるところ,被告物件において,複数の抵抗器の先端と後端を保持している側
面を覆う枠(側板)は,絶縁素材であるガラスエポキシで構成されている。
したがって,被告物件は,アルミ製の枠(「絶縁素材で構成されない」「枠」)
を備えているとしても,それ以外に,ガラスエポキシという「絶縁素材で構成され」
ている「枠」を備えている(含んでいる)以上,構成要件A-3を充足する。
c 被告物件の抵抗ユニットは3台設けられているところ,構成要件A-3の
「2以上」には,3台の場合も含まれることは明らかである。
被告は,被告物件が3相交流の負荷試験を行うものであるのに対し,本件発明は,
3相交流を前提としない旨主張するが,被告物件においても,3相交流の負荷試験
のみならず,単相交流の試験も行うことができ,この場合,電圧や容量の大きさに
応じた単相交流の試験を行う際は,2以上の抵抗ユニットを直列又は並列につない
で単相交流の試験を行うことになるから,必ずしも3の倍数に限られない。
(イ) 構成要件D,同E,同F及び同Gの充足性について
a 被告物件1号機の構成d,同e,同f及び同gは,それぞれ,本件発明の構
成要件D,同E,同F及び同Gに該当する。また,被告物件2号機の構成d’,同
e’,同f’及び同g’は,それぞれ,本件発明の構成要件D,同E,同F及び同
Gに該当する。
したがって,被告物件は,いずれも上記各構成要件を充足する。
b なお,被告は,被告物件がキュービクル式高圧受電設備に付随する負荷回路
として位置付けられるとして,縷々主張するが,本件発明における負荷試験機は,
キュービクル式高圧受電設備の概念に含まれるものではない。
【被告の主張】
(ア) 構成要件A-3の充足性について
a 以下のとおり,被告物件は,構成要件A-3を充足しない。
b 被告物件は,「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む抵抗
ユニット」を備えていない。
(a) 構成要件A-3にいう「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を
含む抵抗ユニット」における「絶縁素材で構成され」は,「側面を覆う枠を含む抵
抗ユニット」を修飾するものであり,「枠」が「絶縁素材で構成され」ていること
を要件とするところ,「枠」は,本件明細書等の【0045】の記載等に照らし,
上下を除くすべての面が「絶縁素材で構成され」ることを前提とするものである。
しかるところ,争点1-1に関して主張したとおり,被告物件において,抵抗ユ
ニットの枠(側板)のうち,他の抵抗ユニットと対抗する位置関係にあるものは,
アルミ製であり,絶縁素材で構成されていないから,被告物件は構成要件A-3を
充足しない。
この点,原告は,構成要件A-3における「含む」という文言につき,「絶縁素
材で構成されない」側面を覆う「枠」の存在が排除されないことを意味する旨主張
するが,この「含む」という文言は,「抵抗ユニット」に「前記抵抗器群の側面を
覆う枠」が含まれることを示すものにすぎない。
(b) 構成要件A-3において,原告主張のように,「枠」が「抵抗器群の側面を
覆うほどの大きさを持つ板状のもの」と解釈できるとすれば,被告物件において,
抵抗器が直接取り付けられている側面は,抵抗器群の側面を覆うほどの大きさを持
つ形状でなく,それ以外の2面は,アルミ製のものであって,絶縁素材で構成され
ていない(被告物件においては,抵抗器群を覆う骨組に相当するフレームが存在し,
同フレーム部分に対して,ガラスエポキシ板が複数枚取り付けられており,抵抗器
の一端が取り付けられている面においては,横長のガラスエポキシ板が22枚,他
端には132個の穴があけられたガラスエポキシ板2枚が取り付けられており,こ
れらは抵抗器群を固定して取り付けるための「ヒーター取付板」となっている。そ
して,抵抗器が取り付けられていない上下を除く他の2面は,いずれもアルミ板で
構成されている。)から,被告物件は,構成要件A-3を充足しない。
(c) 仮に,構成要件A-3の「絶縁素材で構成され」が「側面を覆う枠」を修飾
するものであるとしても,「側面を覆う枠」は「絶縁素材で構成され」ているもの
に限定されているというべきである。
c 被告物件を使用する負荷試験の対象となる発電機は,3相交流用のものであ
るから,被告物件における抵抗ユニットは,必ず3の倍数でなければならない。こ
れに対し,「抵抗ユニットが2以上設けられ」る本件発明は,負荷試験の対象とな
る発電機が3相交流用のものであることを前提としない。したがって,本件発明と
被告物件は,その技術思想が根本的に異なるものであり,この観点からも,被告物
件は構成要件A-3を充足しない。
(イ) 構成要件D,同E,同F及び同Gの充足性について
a 争点1-1に関して主張したとおり,「第1距離」,「第2距離」は,その
始点と終点が明らかでなく,被告物件について,原告主張のように表現することは
できないから,構成要件D,同E,同F及び同Gの充足性に関する原告主張は,そ
の前提を欠くものである。
b なお,被告物件は,受電箱及び配電箱で構成される「キュービクル式高圧受
電設備(日本配電盤工業規格JSIA200 2001年12月20日制定)」
(以下「キュービクル式に関する規格」という。 )に付随する負荷回路として位
置付けられるものであり,同規格に基づいて製作されている。同規格7.4.1の
高圧配線の定めによれば,キュービクル式高圧受電設備を設計する場合,「e)配
線各部の絶縁距離は表3に示す値以上でなければならない。」と記載され,表3に
おいて,高圧充電部の相互間は,最少絶縁距離として90mm確保しなければなら
ない旨記載されている。
キュービクル式に関する規格は,キュービクル式高圧受電設備内の機器に高圧の
電流が流れるという構造が存在するからこそ,爆発等の事故を避けるべく設けられ
たものであり,キュービクル式受電設備そのものでなくとも,同様の構造があれば,
キュービクル式に関する規格は準用されるべきであり,当時,高圧負荷試験装置と
しての規格が存在しなかった以上,キュービクル式に関する規格を準用することは
不自然とはいえない。
キュービクル式に関する規格に基づけば,「高圧充電部」に相当するユニットと
ユニットの間については最低でも90mmの絶縁距離を確保しなければならない。
放電による事故を生じさせないために安全性の観点から最低でも必要な距離である。
このように高圧の電流の流れる箇所について,放電による事故を避けるために,一
定の絶縁距離を確保しなければならないことは公知の技術であり,公知技術を内容
とする本件発明は,創作性を欠くもので,そもそも発明とはいえないし,進歩性を
欠いた発明というべきである。
上述したところを考慮すれば,被告物件が構成要件Dないし同Gを充足するとい
うことはできないものというべきである。
ウ 争点1-3(被告物件は,本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属
するか)について
【原告の主張】
仮に,構成要件A-3にいう「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠
を含む抵抗ユニット」における「枠」につき,四面全て「絶縁素材で構成」されて
いるものと解釈される場合,被告物件は,抵抗ユニットの「枠」のうち二面のみが
絶縁素材で構成され,その余の二面が絶縁素材以外の素材で構成されているため,
この点が本件発明との相違部分(以下「本件相違部分」という。)となるが,以
下のとおり,均等の第1要件ないし第5要件を満たすから,被告物件は,本件発明
と均等なものとしてその技術的範囲に属する。
(ア) 第1要件について
もともと負荷試験機における従来技術においては,負荷試験対象電源の電圧が大
きい場合,複数の抵抗ユニットを並べた大型の負荷試験機が必要になるところ,抵
抗ユニットと土台部とが組み立てられ,その組み立てられた抵抗ユニットと土台部
とを並べた状態で設置し,運搬することは,大型になるほど困難になるという課題
があった(本件明細書等の【0004】,【0005】)。そこで,本件発明は,
土台部付きの抵抗ユニットごとに運搬,設置をしても,絶縁が維持された状態で容
易に設置ができるよう,抵抗ユニットや土台部に一定の規格を設けたもので,いち
いち抵抗ユニット間の距離を測ったりしなくても並べて設置さえすれば自動的に絶
縁を維持した状態で設置できるようにした(同【0009】,【0010】,【0
053】)。
したがって,この点が,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴
的部分であり,本件発明の本質的部分である。
そして,抵抗ユニットの枠の四面全てが絶縁素材で構成されることは,抵抗ユニ
ット間の絶縁のために有用ではあるが,必須ではない。抵抗器群を覆う枠のうち,
少なくとも抵抗器群を構成する各抵抗器が直接取り付けられていない側面について
は必ずしも絶縁素材で構成されていなくても足りる。すなわち,本件明細書等にお
いて,抵抗器の長手方向側面についての枠の面につき,必ず絶縁素材で構成すると
は明記されていない。抵抗器の長手方向側面には,あらかじめ抵抗器の内部に絶縁
素材を充填して絶縁処理をしているため,この側面箇所の枠についての絶縁処理は
必須ではないのである。
したがって,本件相違部分は,負荷試験機の運搬と設置のためにあらかじめ規格
を定めておくという本件発明の技術的思想を構成する特徴的部分には該当しない。
(イ) 第2要件について
抵抗器群を覆う枠のうち,四面全てを絶縁素材で構成するか,二面を絶縁素材以
外の素材で構成するかは互いに構成を置き換えても,本件発明の容易に運搬,設置
をすることができるという目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。
絶縁距離を確保すべきなのは,抵抗器の取付端部の間であり,抵抗器の長手方向
側面についてはそのままでも十分絶縁が図られており,抵抗器の長手方向の側面が
絶縁素材で構成されていなかったとしても,負荷試験機全体の構造に影響を与える
ことはなく,本件発明と同一の作用効果を要することができる。
(ウ) 第3要件について
抵抗器群を覆う枠のうち,各抵抗器が直接取り付けられていない二面を絶縁素材
以外の素材で構成することは,実際に低圧用の負荷試験機がそのような構成になっ
ていたこともあり,被告物件製造時においては,広く当業者に知られていたもので,
置換えは容易に想到することができた。例えば,平成25年8月14日発行の特許
第5265264号公報(甲12)の段落【0017】や【図8】には,抵抗器の
長手方向側面は,必ずしも絶縁素材で構成されていなくてもよく,絶縁素材以外の
素材であるアルミニウム板でも置換可能であることが開示されており,広く当業者
に開示された技術思想であった。
(エ) 第4要件について
被告は,既製品のアングルを使用すれば本件発明の距離を想定することは容易で
ある旨主張するが,アングルには非常に多くの種類,サイズがあり,どの形のどの
サイズを組み合わせるかなど,単に既製品を組み合わせるだけというわけにはいか
ない。また,キュービクル式に関する規格については,負荷試験機にそのまま適用
される規格ではない。
(オ) 第5要件について
負荷試験事業に,設置型と運搬型といった区分はなく,運搬型が除外されている
と主張すること自体,被告の都合のよい前提を設定しているにすぎない。仮に,そ
のような区分があったとしても,いずれにしても,土台の上に載置された抵抗ユニ
ットを複数台並べて設置するもので,組み立て,設置の際に,本件発明が適用され
るというべきである。
したがって,本件発明について,運搬型を意識的に除外したというような事情は
ない。
【被告の主張】
被告物件は,以下のとおり,本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属す
るものではない。
(ア) 第1要件について
争う。
本件発明の本質的部分は,絶縁素材で構成される複数の抵抗ユニットをそれぞれ
土台部と一体化して別体構成としたことにあるとみるのが自然であり,抵抗ユニッ
トや土台部の規格に一定の規格を設けた点は,本件発明の本質的部分ではない。
(イ) 第2要件について
争う。
二面のみ絶縁素材で構成される場合には,絶縁性が低下することになる。各面に
ついて異なる配置を検討しなければならない点において,容易に運搬・設置を可能
とするという目的達成において差が生じるのであって,同一の作用効果を有すると
はいえない。
(ウ) 第3要件について
争う。
置換が容易であったという原告主張は,合理的根拠がない。低圧用の負荷試験機
が,なぜ高圧負荷試験機にも応用することができ,置換が容易であるというのか,
説明がされていない。
(エ) 第4要件について
被告物件1号機は筐体の上部及び下部が側面の横幅より若干長くなるように設計
され,被告物件2号機は筐体の下部のみが側面の横幅より長くなるよう設計されて
いる。側面の横幅より長い部分は,被告物件が筐体の製作にあたり,既製品である
アングルを使用したことによって生じている距離である。このアングルを利用した
形での抵抗器群を覆う筐体としての構造は,抵抗器あるいはヒーターを覆う構造と
して従来から利用されていたものであり(乙13),抵抗ユニットに相当する筐体
の構造は特段従来の技術になかったものを利用したものではない。
抵抗器群の筐体として使用していた構造に合わせる形で土台部を設計し,かつ,
キュービクル式高圧受電設備の規格(乙6)において定められた高圧充電部相互間
において取るべき絶縁距離を考慮したことにより,距離が生じているが,これは,
上記の公知技術の範囲で容易に達成でき,また,当業者であれば容易に推考できた
ものである。
したがって,被告物件は,本件優先日前の公知技術に基づいて当業者が容易に推
考できたものである。
(オ) 第5要件
被告物件は,被告の営業用パンフレットに,通常は車載の状態で遠方操作盤によ
り負荷装置の操作をしますと記載されているように,運搬型であり,ユニットごと
に運搬・設置することは想定されていない。
原告は,本件発明の本質的部分が負荷抵抗器を構成する抵抗ユニットとその土台
部の運搬設置を容易にする点にあり,あらかじめ抵抗ユニットや土台部の規格を定
めていると主張しているのであるから,運搬型の負荷試験事業を前提とする被告物
件のような負荷試験機を意識的に除外しているものである。
(2) 争点2(本件発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきも
のか)について
【被告の主張】
ア 仮に,被告物件が本件発明の技術的範囲に属するとすれば,次のイのとおり,
被告物件に係る発明は,本件優先日前に公然知られた発明又は公然実施された発明
であるといえる。
したがって,本件発明は,新規性を欠く(特許法29条1項1号,2号)から,
本件発明についての特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであり,原
告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1
項)。
イ 被告物件に係る発明(少なくとも被告物件1号機に係る発明)は,次のとお
り,遅くとも平成25年10月22日の時点で,公然知られた発明又は公然実施さ
れた発明となったといえる。
被告は,平成24年中に被告物件を用いた負荷試験事業を開始することを計画し,
平成25年3月7日付け会社案内(乙2)に被告物件を記載し,同年9月に被告物
件を用いた負荷試験事業の営業を公然と開始した。
そして,被告は,同月5日,被告及び協力会社(3社)の担当者らの出席のもと,
被告物件の仕様について会議を行い,被告物件の製造に着手したが,同会議の参加
者に対し,被告物件の仕様等につき秘密保持義務を課したことはない。
同年10月12日,被告物件1号機の製図が正式に完成し(甲4),同年11月
13日,同製図に基づき,被告物件1号機が完成した(乙3)。
また,被告は,同月9日,取引会社1社に対し,被告物件1号機の負荷試験実施
の見積書を提出し,同月15日,別の取引会社1社に対し,被告物件1号機の負荷
試験実施の見積書を提出するなど営業活動を行っていた。
被告物件1号機は,その完成前の時点で既に,協力企業において約10日間のレ
ンタル及び負荷試験に用いることが想定されていたため,被告は,その担当者に対
し,被告物件1号機の基本仕様等の情報を提供した。すなわち,同年10月22日,
被告は,負荷試験場所の提供に応じた協力会社の担当者に対し,被告物件1号機の
カタログや図面を示して,被告物件1号機の仕様を説明し,被告物件1号機の抵抗
値測定,絶縁抵抗測定,機能確認試験,騒音値測定を行って,それらの機能や被告
物件1号機の外観及び内観を確認してもらい,意見を述べてもらうなどしたことか
ら,上記協力会社の担当者は,被告物件1号機の構成について秘密保持義務を負わ
ないまま,同構成に係る発明の内容を現実に知ったといえる。
なお,被告は,同月25日には,協力会社でも取引会社でもない第三者に対し,
同様の立会を実施し,秘密保持義務を課することなく,被告物件の構造,機能を確
認させているから,被告物件に係る発明は,この時点で公然知られたとみることも
できるし,協力会社の担当者が,同月22日の時点において,社会通念上ないし社
会慣習上,被告物件に係る発明について秘密にすることを期待される関係になかっ
たことということもできる。
【原告の主張】
ア 被告物件に係る発明は,次のイ及びウのとおり,本件優先日前に公然知られ
た発明又は公然実施された発明であるとはいえないから,本件発明は,新規性を欠
くものではなく,したがって,本件発明についての特許は,特許無効審判により無
効にされるべきものではない。
イ 被告の主張に係る事実関係のもとでは,被告物件に係る発明が公然知られた
発明であったとは,到底認められない。
乙第2号証については,その原本が存在するのか疑わしいし,そもそも,本件発
明の内容が記載されているものではない。
被告主張に係る会議の参加者は,社会通念上ないし社会慣習上,同会議の内容を
秘密とすることが期待される関係にある。
製図が完成しただけでは,不特定の者に現実に知られたことにはならない。
甲第4号証は,いずれも部品の図面にすぎない。これらの部品を綿密に組み合わ
せ,詳細に構築して,被告物件1号機が完成するのであるから,かかる図面があっ
たとしても,完成品が知られたことにはならない。また,これらの図面が社会通念
上ないし社会慣習上秘密とすることが期待される関係にある者に開示されたとして
も,それだけでは公然知られた発明とはならない。
なお,乙第3号証には,被告物件1号機の完成を示す記載はない。
ウ 「公然実施をされた」というためには,不特定多数の者に公然知られる状況
又は公然知られるおそれのある状況において実施されたことが必要であり,第三者
が実施品を外から見たり,入手したりしても,発明の内容を知り得ない場合は,公
然実施に該当しない。
被告物件1号機を生産したとか,その営業用資料を作成したとか,その見積書を
提出したなどという被告主張の事実関係をもって,直ちに被告物件1号機の構成が
不特定多数の者によって公然知られる状況に置かれたとみることはできないから,
これに係る発明が公然実施をされたとは,到底認められない。
(3) 争点3(被告は被告物件を販売しているか〔販売の差止めの必要性〕)につ
いて
【原告の主張】
被告は,被告物件1号機及び被告物件2号機を少なくとも各1台製造し,これら
を使用して,業として負荷試験を実施しているほか,これらを販売している(した
がって,販売の差止めの必要性がある。)。
【被告の主張】
被告が被告物件を販売しているとの原告主張は否認し(販売の差止めの必要性は
争う。),その余は認める。
被告が行っているのは,負荷試験機のレンタル,負荷試験サービス(オペレータ
ーの派遣,仮設ケーブルの敷設,養生作業など)であり,被告物件の販売は行って
いない。
(4) 争点4(原告の損害及びその額)について
【原告の主張】
ア 被告は,平成27年3月13日から平成28年2月(判決注:本件訴訟の提
起日である同月18日の趣旨と解される。)までの間,被告物件を使用して,少な
くとものべ23回の高圧負荷試験を実施した。
高圧負荷試験は1日から5日程度かけて行い,1日80万円程度の売上げになる
から,1回当たり平均2日の試験を行ったとして,少なく見積もっても売上げは1
60万円を下らない。
そして,高圧負荷試験の粗利率は7割を下らないことから,高圧負荷試験の1回
当たりの粗利は112万円を下らない。
したがって,被告は,少なくとも合計2576万円(=112万円×23回)の
利益を得ており,原告は,これと同額の損害を被ったと推定される。
イ 上記侵害行為と因果関係のある弁護士費用は,原告が被った上記アの損害額
の約1割である257万円を下らない。
ウ 以上から,原告は,被告に対し,特許権侵害の不法行為による損害賠償金2
833万円及びこれに対する平成28年3月1日(訴状送達の日の翌日)から支払
済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
【被告の主張】
否認し又は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について
(1) 争点1-1(被告物件の構成はいかなるものか)及び争点1-2(被告物件
は,文言上本件発明の技術的範囲に属するか)について
ア 本件発明の技術的意義について
(ア) 特許請求の範囲の記載は,前記前提事実等(2)のとおり,本件明細書等の記
載は,別紙特許公報(甲2)の該当欄のとおりである。
これらによれば,本件発明は,概ね,以下のとおりのものと理解することができ
る(【】は,本件明細書等における段落番号等を示す。)。
(イ) 本件発明は,「交流発電機などの電源に対する電気負荷試験に用いられる負
荷試験機」(【0001】)に関し,「複数の抵抗ユニットで構成される負荷試験
機で,運搬や設置が容易な負荷試験機を提供すること」(【0005】)を目的とし,
構成要件A-1,同A-2,同A-3,同B,同C,同D,同E,同F及び同Gを
備えることにより,「複数の抵抗ユニットで構成される負荷試験機で,運搬や設置
が容易な負荷試験機を提供することができる」(【0025】)というものである。
(ウ) 本件発明は,構成要件B及び同Cを備えることにより,「土台部は,他の土
台部と別体で構成されるため,土台部に抵抗ユニットや冷却ファンが取り付けられ,
且つ,他の土台部と連結されない状態で,各土台部を運搬することが可能になる」
(【0007】)とされ,また,構成要件Dないし同Gを備えることにより,「そ
れぞれの抵抗ユニットの枠は,土台部よりも内側に配置されるため,土台部同士が
接触するように設置しても,抵抗ユニット同士は接触せず,第2距離以上の間隔が
保たれる・・・ため,各土台部が別体でも,抵抗ユニット間の絶縁を維持した状態
で容易に設置することが可能になる」(【0009】)ものであり,特に,「第2
距離が90mm以上に出来るため,隣り合う2つの抵抗ユニットのそれぞれに66
00Vの電圧が印加された場合でも,当該抵抗ユニット間の絶縁を維持することが
出来る」(【0010】)とされている。
(エ) 本件明細書等には,構成要件A-3の技術的意義について直接的に説明した
記載は見当たらないが,これに関連するものとして,【発明を実施するための形態】
につき,次の記載がある。
「第1抵抗ユニット21の第1枠21aの背面は,第3抵抗ユニット23の第3
枠23aの前面と対向し,第1抵抗ユニット21の第1枠21aの側面の一方は,
第2抵抗ユニット22の第2枠22aの側面の他方と対向する。」(【0037】)
「抵抗器群のそれぞれは,下部に設けられた冷却ファンからの冷風を上部に流す
ために,上面と下面が開口し,隣り合う抵抗ユニットとの絶縁性を高めるために,
絶縁素材で出来た枠(第1枠21a~第6枠26a)で側面が覆われ,各抵抗器R
の両端子は当該枠の前面部分や背面部分によって保持される。」(【0045】)
「第1抵抗ユニット21の抵抗器群(第11抵抗器群R11~第18抵抗器群R
18)の側面を覆う第1枠21aのうち,少なくとも他の抵抗ユニット(第2抵抗
ユニット22や第3抵抗ユニット23)と対向する位置関係にあるものが,上から
見て(水平方向に)第1距離d1(45mm以上)だけ,第1土台部11の側面よ
りも内側に配置されるように,第1土台部11と第1抵抗ユニット21の寸法や位
置関係が決定される。」(【0046】)
「第2抵抗ユニット22の抵抗器群(第21抵抗器群R21~第28抵抗器群R
28)の側面を覆う第2枠22aのうち,少なくとも他の抵抗ユニット(第1抵抗
ユニット21や第4抵抗ユニット24)と対向する位置関係にあるものが,上から
見て(水平方向に)第1距離d1だけ,第2土台部12の側面よりも内側に配置さ
れるように,第2土台部12と第2抵抗ユニット22の寸法や位置関係が決定され
る。」(【0047】)
「第3抵抗ユニット23の抵抗器群(第31抵抗器群R31~第38抵抗器群R
38)の側面を覆う第3枠23aのうち,少なくとも他の抵抗ユニット(第1抵抗
ユニット21や第4抵抗ユニット24や第5抵抗ユニット25)と対向する位置関
係にあるものが,上から見て(水平方向に)第1距離d1だけ,第3土台部13の
側面よりも内側に配置されるように,第3土台部13と第3抵抗ユニット23の寸
法や位置関係が決定される。」(【0048】)


上記各記載と上記図面(【図3】)を併せみれば,本件明細書等においては,①
「抵抗ユニット」は,「抵抗器群」と「枠」を構成要素とするものであること,②
「抵抗器群」は,上面と下面が開口し,側面の全て(四面)が「枠」で覆われてい
るものであること,③「枠」は,「前面」,「背面」,「側面の一方」及び「側面
の他方」の四面を有しており,これら全てが「絶縁素材」で構成されているもので
あること,④「抵抗器群」が「絶縁素材で出来た枠」で「側面が覆われ」るように
するのは,「隣り合う抵抗ユニットとの絶縁性を高めるため」(ひいては,抵抗ユ
ニット間の絶縁を維持し,運搬や設置が容易な負荷試験機を提供するため)である
ことが,いずれも容易に理解できる。
すなわち,本件明細書等において,「枠」という用語は,角筒状の「抵抗ユニッ
ト」の外側面全体(四面)を指すもの,すなわち「抵抗器群」の「上面」及び「下
面」を除く四面を各筒状に取り囲む部分全体を示すものとして用いられており,抵
抗器群の「側面」とは,「上面」及び「下面」を除く四面を意味するものとして用
いられているといえる。
そして,上記のような理解は,特許請求の範囲における「絶縁素材で構成され前
記抵抗器群の側面を覆う枠を含む抵抗ユニットが2以上設けられ,」(構成要件A
-3),「前記枠のうち,少なくとも他の抵抗ユニットと対向する位置関係にある
ものは,上から見て第1距離だけ,前記抵抗ユニットを取り付けた土台部の側面よ
りも内側に配置され,前記2以上の抵抗ユニットは,隣り合う抵抗ユニット間の絶
縁のために,隣り合う抵抗ユニットにおける前記枠の間隔が第2距離以上になるよ
うに,並べられ,」(構成要件D,同E)との記載(下線は,裁判所が付した。)
とも整合している。
したがって,本件発明の構成要件A-3にいう「絶縁素材で構成され前記抵抗器
群の側面を覆う枠を含む抵抗ユニット」とは,「絶縁素材で構成され(た)」「枠」
であって,「前記抵抗器群の側面」(すなわち,「上面」及び「下面」を除く四面)
「を覆う枠」「を(構成要素として)含む」「抵抗ユニット」を意味すると解する
のが相当というべきである(なお,仮に,「前記抵抗器群の側面」を「上面」及び
「下面」を除く四面の全てと解することが相当でないとしても,「隣り合う抵抗ユ
ニット間の絶縁のために」という目的ないし「隣り合う抵抗ユニットとの絶縁性を
高める」という作用効果からすれば,少なくとも,互いに隣り合う関係にある「枠」
が「絶縁素材で構成され」ていることは,最低限,必要であると解するべきであ
る。)。
(オ) この点,原告は,特許請求の範囲の「含む」との文言を根拠として,絶縁素
材で構成されない「枠」の存在は排除されておらず,「抵抗器群の側面」のいずれ
かを「覆う枠」が「絶縁素材」であれば,「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側
面を覆う枠を含む」との要件を充足する旨主張する。
しかし,本件明細書等において,「抵抗ユニット」が「抵抗器群」と「枠」を構
成要素とするとされていることは,前示のとおりであるから,構成要件A-3にい
う「含む」という用語は,「枠」が「抵抗ユニット」の構成要素であること,すな
わち,「抵抗ユニット」が「枠」を「含む」ことを規定したものと理解すべきであ
るし,本件明細書等において,「前記抵抗器群の側面」という用語が「上面」及び
「下面」を除く四面を意味するものとして用いられていることも,前示のとおりで
ある(特許請求の範囲における「前記枠のうち,少なくとも」との記載も,「前記
枠」,すなわち,「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠」が「他の抵
抗ユニットと対向する位置関係にあるもの」に限られないことを示している。)。
また,実質的に考えても,本件明細書等の記載に照らせば,「前記抵抗器群の側
面」を「絶縁素材で構成され(た)」「枠」で「覆われ」るようにする技術的意義
は,「隣り合う抵抗ユニットとの絶縁性を高めるため」であると解されるところ,
「前記抵抗器群の側面」の中に絶縁素材で構成されない「枠」で「覆われ」るもの
があれば,その「枠」と「隣り合う抵抗ユニットとの絶縁性を高める」ことができ
ないことに帰するといえる。
したがって,構成要件A-3における「含む」との文言は,「抵抗ユニット」が
「前記抵抗器群」の「上面」及び「下面」を除く四面「を覆う枠」「を(構成要素
として)含む」」ことを規定したものであり,「隣り合う抵抗ユニットとの絶縁性
を高める」という作用効果からすれば,最低限,互いに隣り合う関係にある「枠」
が「絶縁素材で構成され」ていることを要するというべきである。
原告の上記主張は,特許請求の範囲及び本件明細書等の記載に基づかずに,「含
む」という文言を形式的に解釈しようとするものであって,採用することができな
い。
イ 構成要件A-3,同D及び同Eと対比すべき被告物件の構成について
被告物件が構成a-1,同a-2,同b,同c及び同hを備えていることは,当
事者間に争いがない。
証拠(甲4ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,被告物件においては,次の図
(甲4の1の右上図及び甲6の【写真3】〔いずれも被告物件1号機〕並びに甲6
の【写真18】〔被告物件2号機〕に当裁判所が若干の説明を付記したもの。)に
示されるように,①抵抗ユニット(ヒーターユニット)の「上面」及び「下面」を
除く四面のうち,抵抗器(ヒーター)が挿通されない二面にはアルミ側板(非絶縁
素材のパネル)がはめられ,抵抗器が挿通される残りの二面(抵抗体端部側)には
ガラスエポキシ側板(絶縁素材のパネル)がはめられていること,②抵抗器群(ヒ
ーター群)は,上記四面の側板に囲まれて載置されていること,③抵抗ユニットの
上下端には,上記側板よりも外側方に突出したアルミフレーム(非絶縁素材の骨組
材)が四面全てに付されていること,④互いに隣り合う抵抗ユニットは,アルミ側
板同士が向かい合う位置関係にあることが認められる。


ウ 構成要件A-3,同D及び同Eと被告物件との対比
(ア) 前記アの認定説示及び上記イの認定事実によれば,被告物件の抵抗ユニット
は,その「上面」及び「下面」を除く四面の側板が絶縁素材でないアルミ側板を構
成要素としており,しかも,互いに隣り合う抵抗ユニットは,このアルミ側板同士
が向かい合う位置関係にあることからすれば,本件発明の構成要件A-3にいう
「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む抵抗ユニット」には該当
しないというべきであり,被告物件は,同構成要件を充足しない。
(イ) 構成要件D(「前記枠のうち,少なくとも他の抵抗ユニットと対向する位置
関係にあるものは,上から見て第1距離だけ,前記抵抗ユニットを取り付けた土台
部の側面よりも内側に配置され,」)にいう「前記枠」とは,構成要件A-3にい
う「絶縁素材で構成され」た「枠」を意味することは,特許請求の範囲の記載から
明らかであり,構成要件E(「前記2以上の抵抗ユニットは,隣り合う抵抗ユニッ
ト間の絶縁のために,隣り合う抵抗ユニットにおける前記枠の間隔が第2距離以上
になるように,並べられ,」)の「前記枠」も同様である。
上記イの認定事実によれば,被告物件の互いに隣り合う抵抗ユニットは,アルミ
側板同士が向かい合う位置関係にあり,このアルミ側板が,少なくとも「絶縁素材
で構成され」た「枠」に該当しないことは,明らかである。
そうすると,被告物件においては,絶縁素材製の側板と絶縁素材製の側板が対向
する位置関係にあることはないから,構成要件Dにいう「第1距離」及び構成要件
Eにいう「第2距離」に相当するものが存在し得ないというほかはなく,被告物件
は,これらの構成要件を充足し得ないものであり,したがって,構成要件F及び同
Gを充足することもあり得ない。
エ なお,原告は,弁論準備手続の終結が予定されていた平成29年3月8日の
第7回弁論準備手続期日において陳述した同日付け第4準備書面(10頁以下)に
おいて,抵抗ユニットを取り外し,運搬した後,設置する態様に言及したものの,
これを請求原因事実として主張しているとは解されない(原告は,差止請求,廃棄
請求及び損害賠償請求の対象とする被告物件の具体的構成としては,別紙被告物件
説明書(1)及び別紙被告物件説明書(2)のとおりであるとしている〔同期日に
陳述した同日付け訴状訂正申立書〕。)。
したがって,当裁判所としては,同態様について検討するには及ばない(仮に,
これについて検討したとしても,原告は,同態様において,互いに隣り合う抵抗ユ
ニットのガラスエポキシ側板同士が向かい合う位置関係にあることを主張しておら
ず,その立証もしていないから,本件の結論には,何ら影響しない。むしろ,証拠
〔甲6〕によれば,被告物件の場合,絶縁素材であるガラスエポキシ側板同士を対
向させるように設置することは,著しく困難であることがうかがわれるところであ
る。)。
(2) 争点1-3(被告物件は,本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属
するか)について
原告は,構成要件A-3にいう「枠」につき,四面の全てが「絶縁素材で構成さ
れ」ることは,本件発明の本質的部分ではないなどとして,被告物件が本件発明と
均等なものとしてその技術的範囲に属する旨主張する。
しかし,前記(1)アで説示したところによれば,本件発明は,単に簡単に設置す
るというだけでなく,複数の抵抗ユニットと土台が組み立てられる際に,抵抗ユニ
ット間の絶縁を維持した状態で簡単に設置できるようにしたという点において,従
来技術では達成することのできなかった新たな作用効果を奏するものとされている
のであって,これを実現するための本件発明に特有の構成として,「前記抵抗器群
の側面」(「上面」及び「下面」を除く四面。少なくとも,「枠」のうち「他の抵
抗ユニットと対向する位置関係にあるもの」)を「絶縁素材で構成され(た)」
「枠」で「覆われ」るようにしたものというべきである。そうすると,本件相違部
分は,本件発明の本質的部分に係るものであるというべきであり,均等侵害を論ず
る余地はないといえる。
2 結論
以上によれば,被告物件は,いずれも本件発明の技術的範囲に属しない。よって,
その余の争点について判断するまでもなく,本件請求は,いずれも理由がないから,
これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官

嶋 末 和 秀

裁判官

天 野 研 司

裁判官鈴木千帆は,転補のため,署名押印することができない。

裁判長裁判官

嶋 末 和 秀
(別紙)
物 件 目 録

負荷試験機(被告が,乾式負荷装置または高圧可搬型負荷装置等と称している機
械のうち,製品番号が「AHS-2000-00001」であるものを「被告物件
1号機」,「AHS-2000-00002」であるものを「被告物件2号機」と
する。)


(別紙)
被告物件説明書(1)

負荷試験機(製品番号「AHS-2000-00001」)

1 装置の構成
抵抗器が水平方向に12本並べられた抵抗器群が,
鉛直方向であるz方向に22段並べられ,
絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む抵抗ユニットが3台設け
られ,
冷却ファンを内蔵した土台部が,別体構成で3台設けられ,
前記土台部のそれぞれは,上部に1つの前記抵抗ユニットが碍子を介して取り付
けられ,
前記枠のうち,少なくとも他の抵抗ユニットと対向する位置関係にあるものは,
上から見て第1距離(61mm以上)だけ,前記抵抗ユニットを取り付けた土台部
の側面よりも内側に配置され,
前記3台の抵抗ユニットは,隣り合う抵抗ユニット間の絶縁のために,隣り合う
抵抗ユニットにおける前記枠の間隔が第2距離(122mm)以上になるように,
並べられ,
前記第2距離(122mm)は,前記第1距離(61mm以上)の2倍であり,
前記第1距離は,61mm以上である

2 装置を表す図面
図1は,土台部の上部に抵抗ユニットが取り付けられた状態の負荷試験機(被告
物件1号機)を示す側面図である。
図3は,負荷試験機を車両の搭載した状態を示す平面図である。
(別紙)
被告物件説明書(2)

負荷試験機(製品番号「AHS-2000-00002」)

1 装置の構成
抵抗器が水平方向に12本並べられた抵抗器群が,
鉛直方向であるz方向に22段並べられ,
絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を含む抵抗ユニットが3台設け
られ,
冷却ファンを内蔵した土台部が,別体構成で3台設けられ,
前記土台部のそれぞれは,上部に1つの前記抵抗ユニットが碍子を介して取り付
けられ,
前記枠のうち,少なくとも他の抵抗ユニットと対向する位置関係にあるものは,
上から見て第1距離(65mm以上)だけ,前記抵抗ユニットを取り付けた土台部
の側面よりも内側に配置され,
前記3台の抵抗ユニットは,隣り合う抵抗ユニット間の絶縁のために,隣り合う
抵抗ユニットにおける前記枠の間隔が第2距離(130mm)以上になるように,
並べられ,
前記第2距離(130mm)は,前記第1距離(65mm以上)の2倍であり,
前記第1距離は,65mm以上である

2 装置を表す図面
図2は,土台部の上部に抵抗ユニットが取り付けられた状態の負荷試験機(被告
物件2号機)を示す側面図である。
図3は,負荷試験機を車両の搭載した状態を示す平面図である。

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