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平成27(ワ)8271職務意匠に基づく対価等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成29年10月12日
事件種別 民事
当事者 被告タカラ産業株式会社 株式会社エフシーデザイン
原告P1 訴訟代理人弁護士山田威一郎
法令 意匠権
意匠法15条3項1回
民事訴訟法61条1回
意匠法24条2項1回
キーワード 実施38回
意匠権16回
許諾6回
侵害4回
分割1回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。20
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要 本件は,被告タカラ産業株式会社(以下「被告タカラ産業」という。)の元従業員で あり,被告タカラ産業において登録意匠の実施品として製品化された別紙意匠公報15 ないし4記載の意匠(以下,併せて「本件意匠」といい,個別に,順に「本件意匠1 ないし4」という。)の主たる創作者である旨主張する原告が,被告タカラ産業及び同 社からの依頼に基づきデザイン案を作成した被告株式会社エフシーデザイン(以下 「被告エフシーデザイン」という。)に対し,下記請求をした事案である。

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判決文

平成29年10月12日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平成27年(ワ)第8271号 職務意匠に基づく対価等請求事件
口頭弁論終結日 平成29年7月21日
判 決

原 告 P1
原告訴訟代理人弁護士 山 田 威 一 郎
同 松 本 響 子
同訴訟復代理人弁護士 柴 田 和 彦

被 告 タカラ産業株式会社


被 告 株式会社エフシーデザイン

上記2名訴訟代理人弁護士 松 本 好 史
同 岩 崎 浩 平
同補佐人弁理士 小 澤 壯 夫
主 文
20 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告タカラ産業株式会社は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成
25 27年8月29日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 被告らは,連帯して,原告に対し,550万円及びこれに対する平成27年8
月29日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,被告タカラ産業株式会社(以下「被告タカラ産業」という。)の元従業員で
5 あり,被告タカラ産業において登録意匠の実施品として製品化された別紙意匠公報1
ないし4記載の意匠(以下,併せて「本件意匠」といい,個別に,順に「本件意匠1
ないし4」という。 の主たる創作者である旨主張する原告が,
) 被告タカラ産業及び同
社からの依頼に基づきデザイン案を作成した被告株式会社エフシーデザイン(以下
「被告エフシーデザイン」という。)に対し,下記請求をした事案である。
10 記
(1) 被告タカラ産業に対する請求
本件意匠1ないし4が,原告の被告タカラ産業在職中の職務意匠であることを前提
に,意匠法15条3項が準用する平成27年法律第55号による改正前の特許法35
条3項に基づく相当な対価として,本件意匠1ないし4それぞれの相当額(本件意匠
15 1について2000万円,その余は各1000万円)の内金各250万円の合計10
00万円の支払請求及びこれに対する被告タカラ産業への訴状送達日の翌日である
平成27年8月29日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金
の支払請求
(2) 被告らに対する請求
20 本件意匠1の実施品である被告製品1,本件意匠2の実施品である被告製品3を対
象として,被告タカラ産業が2件のグッドデザイン賞を受賞したことにつき,被告ら
が,これら製品のデザイナーである原告を排除し,被告エフシーデザインの代表者で
あるP2をデザイナーと偽って応募したことが,被告らの共同不法行為に当たるとし
て,不法行為に基づく損害賠償請求として,連帯して550万円(各受賞の件につき,
25 それぞれ慰謝料250万円及び弁護士費用25万円)及びこれに対する不法行為後の
日である平成27年8月29日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅
延損害金の支払請求
2 判断の基礎となるべき事実(当事者間に争いがないか,各項末尾記載の証拠に
より容易に認められる事実)
(1) 当事者等
5 ア 原告
原告は,パナソニック株式会社で家電製品や住宅設備等のデザイン開発を担当し,
平成24年12月に同社を退職後,平成25年4月22日から平成26年3月20日
までの間,被告タカラ産業の従業員として,同社の開発部開発設計課に所属し,本社
において勤務していた者である。
10 イ 被告ら
(ア) 被告タカラ産業は,家庭用の機械器具,家庭用日用雑貨品等の製造,販売を業
とする株式会社である。
(イ) 被告エフシーデザインは,デザイナーであるP2が代表取締役を務める各種新
製品のデザイン及びスケッチ図面の作成を業とする株式会社である。
15 ウ 被告タカラ産業の従業員ら
(ア) P3は,被告タカラ産業の従業員であり,同社の本社で勤務し,開発部部長の
地位にある。
(イ) P4は,被告タカラ産業の従業員であり,同社の富山工場で勤務し,開発部開
発設計課に所属している。
20 (ウ) P5は,被告タカラ産業の従業員であり,同社の富山工場で勤務し,開発部開
発設計課主任の地位にある。
(エ) P6は,被告タカラ産業の従業員であり,同社の本社で勤務し,開発部開発設
計課課長の地位にある。
(2) 本件意匠が完成に至る経緯
25 ア 被告タカラ産業は,被告エフシーデザインに,①昇降式室内物干し器,②窓枠
に取り付けるオリジナルのランドリーフック(物干し竿支持具),③物干し金物のデ
ザイン案の作成を依頼し,いずれもP2作成に係る①につき別紙本件意匠1の創作過
程【図面1】,②につき別紙本件意匠2,3の創作過程【図面1】,③につき別紙本件
意匠4の創作過程【図面1】デザイン案を受領した。
イ 被告タカラ産業においては,上記P2作成に係るデザイン案等を原案ないし参
5 考にして製品化のためのデザインの見直し等の検討を重ね,途中,P2の協力も受け
ながら,本件意匠1ないし4を完成させた。
ウ 本件意匠が完成に至る創作過程の主なデザイン案等は,本件意匠1については
別紙本件意匠1の創作過程,本件意匠2,3については別紙本件意匠2,3の創作過
程,本件意匠4については別紙本件意匠4の創作過程各掲載の図面のとおりである
10 (別紙本件意匠2,3の創作過程の【図面4】が,同別紙の【図面9】の後に配列され
るべきほかは,基本的に時系列に掲載されている。以下,本件意匠のデザイン案等を,
「意匠1【図面1】,
」「意匠2,3【図面1】」等と表記する。)。
(3) 本件意匠の意匠登録出願
原告は,被告の意匠登録出願の担当者として,本件意匠につき,以下のとおりの意
15 匠権登録出願手続をし,被告タカラ産業は,それぞれにつき意匠登録を受けた(以下,
併せて「本件意匠権」といい,個別に,順に「本件意匠権1ないし4」という。)。な
お,本件意匠の創作者とされた者は,みな被告タカラ産業を意匠権者として意匠登録
出願をすることについて同意している。
ア 本件意匠1
20 意匠登録番号 第1506013号
出願日 平成26年1月31日
登録日 平成26年8月1日
意匠にかかる物品 物干し器
創作者 原告,P4
25 意匠 別紙意匠公報1記載のとおり
イ 本件意匠2
意匠登録番号 第1506012号
出願日 平成26年1月21日
登録日 平成26年8月1日
意匠にかかる物品 物干し竿支持具
5 創作者 原告,P5
意匠 別紙意匠公報2記載のとおり
ウ 本件意匠3
意匠登録番号 第1506011号
出願日 平成26年1月21日
10 登録日 平成26年8月1日
意匠にかかる物品 物干し竿支持具
創作者 原告,P5
意匠 別紙意匠公報3記載のとおり
エ 本件意匠4
15 意匠登録番号 第1506010号
出願日 平成26年1月7日
登録日 平成26年8月1日
意匠にかかる物品 物干し竿支持具
創作者 原告,P5
20 意匠 別紙意匠公報4記載のとおり
(4) 被告製品の製造販売
ア 被告タカラ産業は,平成26年12月24日,その製造に係る本件意匠1の実
施品である別紙被告製品目録記載1,2の製品(以下「被告製品1」「被告製品2」

という。)の販売を開始した。
25 イ 被告タカラ産業は,平成26年7月22日,その製造に係る本件意匠2の実施
品である別紙被告製品目録記載3の製品(以下「被告製品3」という。,本件意匠3

の実施品である別紙被告製品目録記載4の製品(以下「被告製品4」という。)の販売
を開始した。
ウ 被告タカラ産業は,平成26年5月20日,その製造に係る本件意匠4の実施
品である別紙被告製品目録記載5の製品(以下「被告製品5」という。)の販売を開始
5 した。
(5) 被告製品1及び3によるグッドデザイン賞の受賞
被告タカラ産業は,その販売に先立つ平成26年6月頃,被告製品1ないし3につ
いて,デザイナーを被告エフシーデザインP2と表示して公益財団法人日本デザイン
振興会の運営に係る2014年度グッドデザイン賞に応募し,その結果,同年11月
10 頃,本件意匠1の実施品である被告製品1と本件意匠2の実施品である被告製品3に
ついて,2014年度グッドデザイン賞を受賞した。
なお,グッドデザイン賞のサイトの同製品の受賞結果を掲載したページに用いられ
ている被告製品1の主たる写真は,別紙意匠公報1の【使用状態を示す参考斜視図】
に,本体に操作棒が差し込まれた状態の写真が用いられ,被告製品3のそれは,アー
15 ムを基体から90度展開した被告製品3を机上に立てたものと寝かせたもの二つを
並べた写真が用いられている。
(6) 原告の被告タカラ産業からの退職
原告は,本件意匠の意匠登録出願後で,本件意匠の登録,被告製品の販売開始及び
被告製品1ないし3のグッドデザイン賞への応募がいずれもなされる前である平成
20 26年3月20日に被告タカラ産業を退職した。
原告は,本件意匠の創作過程に関わったことに関連して被告タカラ産業から特別な
報酬は受けておらず,そもそも同被告においては,職務意匠の対価支払を定める職務
意匠規程等は定められていない。
3 争点
25 (1) 被告タカラ産業に対する職務意匠の対価請求の成否
ア 原告は,本件意匠1の創作者であるか。
イ 原告は,本件意匠2,3の創作者であるか。
ウ 原告は,本件意匠4の創作者であるか。
エ 相当の対価額
(2) 被告らが,被告製品1及び3につき,原告がグッドデザイン賞のデザイナーと
5 表示されないようにしたことによる不法行為の成否
第3 争点についての当事者の主張
1 争点(1)-ア(原告は,本件意匠1の創作者であるか。)
(原告の主張)
本件意匠1の創作者を決めるに当たって重要なのは,竿フラット形状(物干し竿の
10 断面を半円型として,本体に格納した際に本体から竿が突出しない形状)が誰の発案
によるかと,本体の形状をデザインしたのが誰かとの点である。
平成25年5月7日に,原告,P3,P6及びP2が参加したデザイン検討会が行
われたが,その際に,原告は,P2に対し,物干し竿を半円型にして本体からの突出
をなくし,本体の厚みを薄く見せる方向でデザインを再検討してもらうよう依頼した。
15 平成25年5月7日のデザイン検討会の後,P2作成に係る意匠1【図面1】のd
esign-Aとdesign-Dをベースに,P2にデザインの再検討をしてもら
うことになり,平成25年5月20日に,P2から,新たなデザイン案として意匠1
【図面2】が提出された。
この意匠1【図面2】のデザイン案のうち,design-AとデザインBが従前
20 の意匠1【図面1】のdesign-Aの改良版であり,design-Eが従前の
design-Dの改良版であったが,改良されたdesign-Eは,本体の形状
が湾曲しており,従来以上に本体形状を主張するデザインになっていて,原告の提案
とは,全く逆の方向に改変されたデザインになっていた。
その後,平成25年5月22日にP2も交えたデザイン戦略会議が開催されたが,
25 その会議で,新たに提出された意匠1【図面2】のdesign-Aとdesign
-Bは,存在感及び圧迫感が大きすぎるという理由から不採用になり,意匠1【図面
2】のdesign-Dと意匠1【図面1】のdesign-Dを竿フラット形状に
変更したものの2案をベースにして,原告がペーパーモデルを作成し,実物大の使用
状態を確認した上で,デザインを最終決定することになった。
平成25年5月22日の会議の後,P2からP3に対し,意匠1【図面3】が送ら
5 れてきており,原告は,意匠1【図面2】のdesign-Dのペーパーモデル(意
匠1【図面4】のB案。以下「ペーパーモデルB案」という。)をP2から送付された
図面をもとに作成したが,意匠1【図面1】のdesign-Dを竿フラット形状に
変更した形態のペーパーモデル(意匠1【図面4】のA案。以下「ペーパーモデルA
案」という。)は,原告が自ら作成した手書きの図面をもとに作成した。
10 ペーパーモデルA案と同B案の作成後,平成25年5月25日頃,この二つのペー
パーモデル(意匠1【図面4】)と競合他社商品を会議室の天井に設置し,女性従業員
6人(営業部2名,総務部2名,契約社員2名)に対して,どのデザインが良いかア
ンケートを実施したところ,全員がペーパーモデルA案を選択したことから,最終的
にペーパーモデルA案をベースに設計を進めていくことになった。
15 以上のとおり,被告製品1及び2のデザインは,P2が作成した意匠1【図面1】
のdesign-Dとした昇降式室内物干し器の本体断面はトラック楕円型状がベ
ースになっているが,意匠1【図面1】のdesign-Dを竿フラット形状にする
との提案は,原告がしたものであり,ペーパーモデルのもとになった意匠1【図面5】
の元図も原告が作成したものである。原告は,そのほか,本体の下面のラウンド形状
20 のデザインやロック機構の周囲のデザインなどの細部のデザインも原告が行ってい
る。
また原告は,操作棒の先端の形状を,P4が提案したT字型を前提にスタイリッシ
ュに改良し,操作棒のグリップの形状を略楕円型とすることで本体の側面との統一感
を持たせ,かつ,ロック機構のオン・オフを視覚的に確認できる機能性も持たせ,さ
25 らに,専用の操作棒フックも一緒に開発した。
これらに鑑みると,原告が本件意匠1の創作者であることは明らかであり,本件意
匠1の創作者は,原告とP4の2名というべきである。
(被告タカラ産業の主張)
本件意匠1の原案は,P2の創作に係る意匠1【図面1】中のdesign-Dで
ある。
5 平成25年4月下旬の富山出張時,P3は,設計担当者であるP4に対し,P2の
創作に係る昇降式室内物干し器(意匠1【図面1】)に関して,物干し竿格納時に下か
ら見ると本体と一体で昇降式室内物干し器に見えないようにしたい,全体をより薄く
したいという考えを伝え,物干し竿部分が半円型で格納時に本体にスッキリ収まる形
状(竿フラット形状)で強度に問題がないかを確認するよう指示し,その後,P4か
10 ら,問題ないであろうとの報告を受けた。
平成25年5月7日の打合せで,P3はP2に対し,①竿フラット形状のデザイン,
②design-Aの別案,③design-Dの別案を加えて欲しいと要請した。
同月17日,P2は,P3の上記要請を踏まえて,P3に対して新たなデザイン案
(意匠1【図面2】)を送付した。同デザイン案には,P3の上記要請に沿う形のデザ
15 インが入れられた。すなわち,竿フラット形状のデザインが3点 「A」
( ,
「B」,
「D」,

意匠1【図面1】のdesign-Aの別案が2点(「A」「B」,意匠1【図面1】
, )
のdesign-Dの別案が1点入れられた(「E」。

新たなデザイン案である意匠1【図面2】のdesign-Eは竿フラット形状と
されていないが,これは,P3が,新たなデザイン案の作成依頼の時点ではデザイン
20 の決定をしておらず,P2に対し,意匠1【図面1】のdesign-Dの別案を竿
フラット形状にするように指示していなかったからにすぎない。
平成25年5月22日の打合せで,P3は,被告製品1及び2の開発責任者として,
意匠1【図面1】のdesign-Dをベースに,竿フラット形状で開発を進めると
決定し,これに基づいて,P4が被告製品1及び2の設計担当者として強度計算,機
25 構等を踏まえて具体的形状の検討を行ったものであり(意匠1【図面9】ないし意匠
1【図面面14】,意匠1【図面14】が最終寸法である。

以上のとおり,竿フラット形状を発案,決定したのは原告ではないから,原告は,
本件意匠1の創作者ではなく,仮に創作者の 1 人であるとしても,その寄与は極めて
小さい。
なお,原告のいう操作棒の意匠は本件意匠1に含まれていないから,原告がそのデ
5 ザインに関与していたとしても,本件意匠1の創作に寄与したことにはならない。
また,それ以外の本体の下面の断面,本体ロック孔部分の周囲の形状等も,本件意
匠1を特徴づける構成態様ではないから,原告が,これらのデザインに関与したとし
ても,本件意匠1の創作に寄与したことにはならない。
2 争点(1)-イ(原告は,本件意匠2,3の創作者であるか。)
10 (原告の主張)
本件意匠2,3の創作者を決めるに当たって重要なのは,ヒンジ部分の「く」の字
形を誰が考案したのかとの点である。
(1) ヒンジ部分
原告は,被告タカラ産業に入社後,意匠2,3【図面1】及び意匠2,3【図面3】
15 を確認したが,原告の考える方向性とは合致しないものであり,自ら意匠2,3【図
面6】及びペーパーモデルを作成するなど,試行錯誤していた。
そして,原告は,ヒンジ部分を本体と別形状に設けるのではなく,アームから一体
でつながる「く」の字形にするデザインを発案し,平成25年7月後半に,既に作成
していた見込みタイプ(基体を窓枠等の見込みに取り付け,アームが基体に平行に展
20 開するタイプ)の図面をベースに,ヒンジ部分を「く」の字状にした手書きの図面を
作成し,その図面をもとに見込みタイプのペーパーモデルを作成し,P3に見てもら
ったところ,P3は,ヒンジ部分を「く」の字形にしたデザインにすることを了承し,
その後,見込みタイプ及び面付タイプともに,ヒンジ部分を「く」の字形にすること
を前提にデザイン検討が進められていった。
25 その後のデザインの検討は,8月6日から9日にかけて大阪に出張で来ていたP5
と原告とで,見込みタイプのランドリーフックの3D図面の作成に取り掛かり,基本
的な骨格は8月6日のうちにほぼ完成した。
また,「く」の字とすることが決まっていた面付タイプの形状の具体的検討も同時
に行った。面付タイプの製品は洗濯物干し以外でも活用が想定され,目線より高い位
置に設置されるケースが多いと考えられたため,「く」の字形の先端を見込みタイプ
5 より伸ばし,見上げた時に一枚板と感じるようデザイン面での工夫を施した。
(2) 溝部分
原告は,物干し竿を載せる部分の形態については,存在感のないシンプルなデザイ
ンにするため,ペーパーモデルを作成した当時はV字状にすることを考えていたが,
V字状にすると,物干し竿が落ちやすいという欠点があったことから,U字状の形態
10 を採用することにした。また,窓枠に設置する見込みタイプの製品に関しては,設置
する高さが腰高になることが想定されたため,小さな子供がぶつかる危険性を考慮し,
正面からの衝撃には物干し竿が後方(窓方向)に逃げるよう竿掛け部の後方をスラン
ト形状(斜めの形状)にするような工夫をした。
また,面付タイプの竿掛け部の溝に関しては,見込みタイプとは同じ形状を取れな
15 い構成になっていたため,アームの物干し竿を載せる部分をR状に削り,なおかつそ
の両端にU字形の突起を設ける構成を採用したほか,アームを面付で格納した際に出
っ張りが目立たないように,その出っ張りの左右に45度のCカット面を設けること
によって,畳んだ状態では見えにくくなるようなデザイン処理も施した。
これらのデザイン上の工夫は,P5が大阪出張に来ていた平成25年8月6日から
20 9日の間に,原告が考え,原告が手書きのアイデアスケッチと指示図面を書き,それ
をベースにP5が3D図面の作成を行ったものである。
(3) 以上のとおり,ランドリーフックのヒンジ部分のデザイン及び竿掛け部の溝の
形状は原告が考案し,原告の指示に基づいて,P5が3D図面を作成したものである
から,原告及びP5が本件意匠2,3の創作者であることは明らかである。
25 (被告タカラ産業の主張)
本件意匠2,3の原案は,P2作成に係るデザイン案である意匠2,3【図面3】
のdesign-C及びdesign-Dである。
(1) ヒンジ部分の形状
平成25年6月中旬以降,被告タカラ産業内では,P3の指示の下,P2の創作に
係るデザイン案である意匠2,3【図面3】のdesign-C,design-D
5 を原案として,ヒンジ部分に圧縮バネのダンパー機構を入れるという前提で,具体的
形状が検討された。
しかし,平成25年8月2日時点でも,被告タカラ産業内では,ヒンジ部分の形状
が統一感を持った形で定まらないまま,P5とP4が行き詰まっている状況であった
(意匠2,3【図面10】。

10 そこで,平成25年8月7日,P5の大阪出張に合わせて,原案(意匠2,3【図
面3】 の作成者・デザインの専門家であるP2を被告タカラ産業へ招き,
) 打合せを行
うことになった。
平成25年8月7日の打合せの出席者は,P2,P6,P5及び原告の4名であり,
原告は,
「決定事項の資料作り」「会議での発表係」「連絡役」という役割で出席して
, ,
15 いたにすぎない。
同日の打合せで,P2が意匠2,3【図面1】のdesign-C(注:
「折りパネ
ルイメージ」
・「板状面を強調して薄く見せかける」と記載されている。 を採用すると

いう方向性を示したことにより,「く」の字形を採用する方向が決定した。
同日の打合せ以降,ヒンジ部分の形状については,P3が,P2により示された方
20 向性に沿って設計を進めることを決定し,設計担当者であるP5が,強度計算,機構
等を踏まえて具体的形状を検討し,その結果が,平成25年8月22日開催のデザイ
ン戦略会議の報告用資料(意匠2, 【図面11】 で初めて示された。
3 ) 意匠2, 【図

面11】の3D図面はP5が作成したもので,原告は,それをパワーポイントに組み
込んだにすぎない。
25 (2) 竿掛け部の形状
P3は,平成25年8月上旬,P5に指示して,スラント形状を採用した株式会社
キョーワナスタが古くから製造販売する競合品(「ANGEL HANGER」)の現
物を入手させた上で,その強度・機構・形状を確認させ,問題ないことを確認させた
上で,本件意匠2の竿掛け部をスラント形状とすることを決定した。
(3) 本件意匠2,3について,原告は創作者ではなく,仮に創作者の 1 人であると
5 しても,その寄与は極めて小さい。原告がヒンジ部分の「く」の字状を発案したもの
であることを示す資料は,何ら存在しない。
3 争点(1)-ウ(原告は,本件意匠4の創作者であるか。)
(原告の主張)
本件意匠4の実施品である被告製品5(品番:KD45)は,被告タカラ産業が,
10 原告の入社前から販売していた見込みタイプのベランダ用物干竿(品番:KC40)
をベースに,面付タイプの製品を作ることを目的に開発がスタートした製品である。
既存のKC40と被告製品5の形状の大きな相違点は,①台座部とヒンジキャップ
の形状,②アームがオフセットタイプ(矩形のアームから竿を通す大角孔を構成する
部分が突出して設けられたタイプ)からストレートタイプ(矩形のアーム内に孔が配
15 列されているタイプ)になっていること,③アームの長さが長くなっていること,④
アームの孔の位置・大きさの4点であるが,本件意匠4の創作者を決定する上で重要
なのは①と④の点である。
本件意匠4のデザインの最も特徴的な形状は,台座とヒンジキャップの形状である
が,原告は,まず,かかる部分の意匠4【図面4】を手書きで作成し,平成25年8
20 月1日にP5宛に電子メールで送付した。KC40は見込みタイプの製品であったた
め,台座部とヒンジキャップが左右非対称になっていたが,KD45は面付タイプで
あったため,原告は,この部分をどちらから見ても同じ形状になる左右対称のシンメ
トリ形状にするべきと考え,意匠4【図面4】を作成したものである。
この台座部とヒンジキャップの形状は,その後,寸法等の変更はあったが,ほぼ形
25 状の変更がないまま最終製品の形態になっている。
アームのデザインに関しても,原告が出したデザイン案をもとに,P5が3D図面
を作成するという役割分担で設計が進められたが,原告は,まず,竿を通す両端の孔
の位置を確定させることが不可欠であると考え,意匠4【図面5】をパワーポイント
で作成し,当該図面を平成25年8月1日にP5に送付した。
原告は,この意匠4【図面5】で,アームの基点から一つ目の孔の中心部までの長
5 さを125ミリとし,一つ目の孔から,端の孔までの長さを300ミリとすることを
提案しているが,この寸法は両端の孔に2本の竿を入れて使用した際にハンガー同士
がぶつからないようにするための寸法であり,最終製品でもこの寸法が採用されてい
る。
孔のデザインについて,原告は,P7営業部長との協議を行い,最終的に,大角孔
10 を三つ設けて,その間に小角孔を二つずつ設ける構成を採用するのが最も望ましいと
考え,パワーポイントで意匠4【図面14】の折衷案の図面を作成した。
平成25年8月23日に原告からP5宛に送付した電子メールには,意匠4【図面
14】が添付されているが,この資料に掲載の折衷案の図面が,この時に原告が作成
した図面である。KD45のアームの設計は,その後,この図面をもとに進められ,
15 本件意匠4でもこれと同様の孔の構成が採用されている。
以上のとおり,本件意匠4の台座とヒンジキャップ部分の形態,及び,アームの部
分の形態は原告が考案し,原告の指示に基づいて,P5が3D図面を作成したもので
あるから,原告及びP5が本件意匠4の創作者であることは明らかである。
(被告タカラ産業の主張)
20 (1) 原案
P3は,P2に対して,物干し金物のデザインの検討を依頼して,平成24年3月
23日,デザイン案(意匠4【図面0-1】)を受領した。このうち「A-01:スク
エア(square)・
」「A-02:スクエア(square)」が,被告製品5を含む被告タカラ
産業のスクエアシリーズの元となったものである。
25 P4は,P3の指示の下,上記デザイン案の「A-01:スクエア(square)」を原
案として,
「A-02:スクエア(square)」の台座形状を参考に,意匠4【図面0-
2】を作成した。
意匠4【図面0-2】は,平成24年9月27日に出願され,平成25年3月15
日に意匠登録された。
平成25年3月以降,P3は,P4に指示して,意匠4【図面0-1】,意匠4【図
5 面0-2】を原案として,見込みタイプではなく面付タイプで,ストレートアームと
オフセットタイプでの具体的検討を行った(意匠4【図面0-3】 意匠4
, 【図面2】。

当該検討は,意匠4【図面0-2】のように特定の顧客向けの物ではなく,より汎
用性の高いものを検討しておこうというものであった。
(2) アームの孔数等
10 平成25年7月末頃,被告タカラ産業において,営業部から開発部に対して,見込
みタイプであるKC40(甲26)のオフセットタイプのアームを転用して,面付タ
イプの製品を開発して欲しいという要望があった。
これに対して,P3は,面付タイプにするのであればストレートアームでよく,面
付タイプでストレートアームであればアームの長さを400ミリから450ミリに
15 延ばして大角孔を二つから増やすことができると考え,これを三つにすることを考え
た。
このような考えは,P3とP4が既に検討済みの意匠4【図面0-1】,意匠4【図
面0-2】
,意匠4【図面0-3】,意匠4【図面2】の流れに沿うものであった。
開発責任者であるP3は,被告製品5(本件意匠4)の形状に関して,平成25年
20 8月22日のデザイン戦略会議で,①営業部の要望通り面付タイプにすること,②営
業部要望のオフセットタイプ(KC40)ではなく,P3とP4が従前検討済みのス
トレートアームとすること,③その上で大角孔を三つ設けられる長さにして,その間
に小角孔を一列に等間隔で配置することを決定した。
同日の決定以降,P5は,被告製品5の設計担当者として,原案の作成者・デザイ
25 ンの専門家であるP2の助言を受けながら,強度計算,機構等を踏まえて,被告製品
5の具体的形状の検討を重ねた。
(3) 台座の形状
本件意匠4の台座形状について,原告は平成25年8月1日に手書きで図面(意匠
4【図面4】)を作成したが,P4が作成済みの意匠4【図面0-3】,意匠4【図面
2】
,意匠4【図面3】からほぼ変更されていなかった。
5 見込みタイプ(KC40等)から面付タイプ(本件意匠4)にすることに伴って,
本件意匠4の台座形状を対称(シンメトリ)にするか否かは,容易に想起されるアイ
デアにすぎない上に,そもそも,本件意匠4の台座は,アームと異なり,可動せずに
手すりに固定される箇所で,全体に占める割合が小さいなど,ユーザーの目を引く部
分ではない。
10 (4) 以上のとおりであり,本件意匠4について,原告は創作者ではなく,仮に創作
者の 1 人であるとしても,その寄与は極めて小さい。
4 争点(1)-エ(相当の対価額)
(原告の主張)
(1) 本件意匠1に係る相当の対価
15 本件意匠1の実施品である被告製品1及び2の本件意匠権1の存続期間が満了す
る平成46年8月1日までの推定売上額は20億円を下らない。
被告タカラ産業の主張に基づき平成26年12月24日から平成29年5月20
日までの約2年5か月間の被告製品1及び2の売上総額が●(省略)●であるとする
なら,本件意匠1の存続期間が満了する平成46年8月1日までの期間のこれらの製
20 品の推定売上額は●(省略)●を下らない。
被告タカラ産業が本件意匠1の意匠権を保有していることによる超過売上げの割
合は,50%を下回るものではなく,仮に第三者に実施許諾をする場合の仮想実施料
率は,5%を下回るものではない。また,被告製品1及び2の売上げに関する使用者
の貢献度が50%を超えることはあり得ず,共同創作者間の寄与率は,原告が80%,
25 P4が20%とするのが相当である。
以上によると,本件意匠1に係る相当の対価の額は,推定売上額を20億円とした
場合には2000万円を下らず,売上額についての被告タカラ産業の主張を前提とし
ても●(省略)●を下回らない。
(計算式) 20億円×50%×5%×50%×80% =2000万円
●(省略)●×50%×5%×50%×80% =●(省略)●
5 (2) 本件意匠2に係る相当の対価
本件意匠2の実施品である被告製品3の本件意匠権2の存続期間が満了する平成
46年8月1日までの推定売上額は10億円を下らない。
被告タカラ産業の主張に基づき平成26年7月22日から平成29年5月20日
までの約2年10か月間の被告製品3の売上総額は●(省略)●であるとしても,本
10 件意匠2の存続期間が満了する平成46年8月1日までの期間の被告製品3の推定
売上額は●(省略)●を下らない。
被告タカラ産業が本件意匠2の意匠権を保有していることによる超過売上げの割
合は,50%を下回るものではなく,仮に第三者に実施許諾をする場合の仮想実施料
率は,5%を下回るものではない。また,被告製品3の売上げに関する使用者の貢献
15 度が50%を超えることはあり得ず,共同創作者間の寄与率は,原告が80%,P5
が20%とするのが相当である。
以上によると,本件意匠2に係る相当の対価の額は,推定売上額を10億円とした
場合は1000万円を下らず,売上額についての被告タカラ産業の主張を前提として
も●(省略)●を下回らない。
20 (計算式) 10億円×50%×5%×50%×80% =1000万円
●(省略)●×50%×5%×50%×80% =●(省略)●
(3) 本件意匠3に係る相当の対価
本件意匠3の実施品である被告製品4の本件意匠権3の存続期間が満了する平成
46年8月1日までの推定売上額は10億円を下らない。
25 被告タカラ産業の主張に基づき平成26年7月22日から平成29年5月20日
までの約2年10か月間の被告製品4の売上総額は●(省略)●であるとしても,本
件意匠3の存続期間が満了する平成46年8月1日までの期間の被告製品4の推定
売上額は●(省略)●を下らない。
被告タカラ産業が本件意匠3の意匠権を保有していることによる超過売上げの割
合は,50%を下回るものではなく,仮に第三者に実施許諾をする場合の仮想実施料
5 率は,5%を下回るものではない。また,被告製品4の売上げに関する使用者の貢献
度が50%を超えることはあり得ず,共同創作者間の寄与率は,原告が80%,P5
が20%とするのが相当である。
以上によると,本件意匠3に係る相当の対価の額は,推定売上額を10億円とした
場合は1000万円を下らず,売上額についての被告タカラ産業の主張を前提として
10 も●(省略)●を下回らない。
(計算式) 10億円×50%×5%×50%×80% =1000万円
●(省略)●×50%×5%×50%×80% = ●(省略)●
(4) 本件意匠4に係る相当の対価
本件意匠4の実施品である被告製品5の本件意匠権4の存続期間が満了する平成
15 46年8月1日までの推定売上額は10億円を下らない。
被告タカラ産業の主張に基づき平成26年5月20日から平成29年5月20日
までの3年間の被告製品5の売上総額は●(省略)●であるとしても,本件意匠4の
存続期間が満了する平成46年8月1日までの約20年間の被告製品4の推定売上
額は●(省略)●を下らない。
20 被告タカラ産業が本件意匠4の意匠権を保有していることによる超過売上げの割
合は,50%を下回るものではなく,仮に第三者に実施許諾をする場合の仮想実施料
率は,5%を下回るものではない。また,被告製品4の売上げに関する使用者の貢献
度が50%を超えることはあり得ず,共同創作者間の寄与率は,原告が80%,P5
が20%とするのが相当である。
25 以上によると,本件意匠4に係る相当の対価の額は,推定売上額を10億円とした
場合は1000万円を下らず,売上額についての被告タカラ産業の主張を前提として
も●(省略)●を下回らない。
(計算式) 10億円×50%×5%×50%×80% =1000万円
●(省略)●×50%×5%×50%×80% = ●(省略)●
(被告タカラ産業の主張)
5 原告主張の相当の対価額は争う。
原告は,本件意匠1ないし4に係る創作者ではないため,対価請求権を有する者で
はない。また,以下のとおり,本件意匠1ないし4に係る超過売上高,仮想実施料率,
使用者貢献度等に照らして,原告の主張に係る対価額は明らかに過大である。
(1) 被告製品の売上額
10 ア 被告製品1及び2の平成26年12月24日から平成29年5月20日まで
の間の売上総額は●(省略)●である。
イ 被告製品3の平成26年7月22日から平成29年5月20日まで間の売上
総額は●(省略)●である。
ウ 被告製品4の平成26年7月22日から平成29年5月20日までの間の売
15 上総額は●(省略)●である。
エ 被告製品5の平成26年5月20日から平成29年5月20日までの間の売
上総額は●(省略)●である。
(2) 超過売上高
被告製品1ないし5については,市場に有力な異なる意匠の競合品が存在しており,
20 市場占有率が低い。
被告タカラ産業は,本件意匠1ないし4について実施許諾を求められたことはなく,
現に競業他社に実施許諾をしたこともない。このことは,本件意匠1ないし4の優位
性が低く,競業他社に対して排他的効果を有するものではなかったことを示すもので
ある。
25 本件意匠1ないし4は,昇降式室内物干し器及び物干し竿支持具に関して,実用目
的ないし産業上の利用目的という制約の下で創作されたもので,競合品等と比べても,
何ら独創的なものではない。
競業他社においては,昇降式室内物干し器及び物干し竿支持具の開発に際して,本
件意匠1ないし4と異なる美感を起こさせる非類似の意匠(意匠法24条2項)を容
易に創作することができる。
5 したがって,競業他社は,本件意匠1ないし4の実施を容易に回避可能であり,本
件意匠権1ないし4の排他的効果は小さい。
また,被告タカラ産業は,本件意匠権1ないし4の承継がなくても,著作権法又は
不正競争防止法上の保護も受け得るものである。
以上のとおり,本件意匠権1ないし4が有する排他的効果及び価値は小さく,独占
10 の利益の発生を観念することが困難であるため,超過売上高はほとんどないというべ
きである。
(3) 仮想実施料率
前記に照らせば,本件意匠1ないし4の各仮想実施料率は,1%を上回ることはな
いというべきである。
15 (4) 使用者貢献度
本件意匠1ないし4は,P3又は営業部が市場の動向等を踏まえて発案した上で,
P3が,被告タカラ産業内で蓄積されている知識・経験を活用して,意匠に関する指
示及び課題の提出を適宜行い,被告タカラ産業が費用を負担してデザインの専門家で
あるP2に依頼し,被告タカラ産業の設備を利用して創作されたものである。
20 原告は,被告タカラ産業と顧問契約を締結する特許事務所から助言を受けたり,被
告タカラ産業の従業員であるP4又はP5の作成に係る図面を利用したりして意匠
登録出願を実現できたものであり,意匠登録出願に係る費用は,すべて被告タカラ産
業が負担したものである。
また,本件意匠1ないし4の実施品である被告製品1ないし5の製造販売は,被告
25 タカラ産業が多額の費用を投じたことにより実現したものである。
以上のとおりであるから,本件意匠1ないし4に係る使用者貢献度は高く,99%
を下回ることはないというべきである。
(5) 共同創作者間の寄与割合
原告を本件意匠1ないし4の創作者と仮定しても,創作経過に照らせば,その寄与
割合は極めて小さい。
5 5 争点(2)(被告らが,被告製品1及び3につき,原告がグッドデザイン賞のデ
ザイナーと表示されないようにしたことによる不法行為の成否)
(原告の主張)
ア 被告タカラ産業は,本件意匠1の実施品である被告製品1,本件意匠2の実施
品である被告製品3を対象として,それぞれにつき2014年度グッドデザイン賞を
10 受賞しているが,同被告は,本件意匠1,2の意匠登録出願を行った段階では,その
創作者を原告であると認めていたにもかかわらず,その実施品である被告製品1及び
3をグッドデザイン賞に応募する際に,創作者をP2であると偽り,その創作者とし
て原告の氏名が表示される機会を意図的に奪ったものである。
また,被告エフシーデザインの代表取締役であるP2は,被告タカラ産業がグッド
15 デザイン賞の応募の際に記入することが必要な「デザインコンセプト」,
「創意工夫」,
「デザイナーの想い」等の項目の記入に協力した上,
「デザイナー」の項目に原告では
なくP2の氏名が表示されることを了承しているから,被告エフシーデザインも,そ
の創作者として原告の氏名が表示される機会を奪ったものである。
グッドデザイン賞は,歴史があり周知性及び市場価値の高い賞であって,デザイナ
20 ーにとっては非常に名誉ある賞であるから,グッドデザイン賞において創作者として
氏名が表示される利益は,法律上保護に値する利益である。両被告は,故意少なくと
も過失による上記行為により原告のこの法律上保護に値する利益を侵害したもので
あるから,両被告は,これにより原告に生じた損害につき,共同不法行為責任を負う
べきである。
25 イ 被告らの上記共同不法行為により原告が被った精神的損害に対する慰謝料と
しては各グッドデザイン賞の不法行為それぞれにつき250万円が相当であり,また,
被告らの行為と相当因果関係ある弁護士費用相当額は各25万円が相当であること
から,被告らは,合計550万円の損害を連帯して賠償すべきである。
ウ その他,被告製品1及び3のデザイン制作の経過に関する主張は,争点(1)-
ア,争点(1)-イの各(原告の主張)で主張したとおりである。
5 (被告らの主張)
ア 原告は,本件意匠1及び同2の創作者ではないから,グッドデザイン賞のデザ
イナーとして表示されるべき立場にはない。被告製品1には,本件意匠1に含まれな
い操作棒が附属しているが,操作棒の形状は,グッドデザイン賞において審査員によ
って評価されたわけではないから,この点で原告が被告製品1についてグッドデザイ
10 ン賞のデザイナーと表示されるべきものではない。
また被告タカラ産業は,平成26年6月,本件意匠1及び同2の主たる創作者がP
2であるとの認識で2014年度グッドデザイン賞に応募したにすぎず,あえて原告
を「デザイナー」から外したものではないから,権利侵害の故意がない。
そもそも,グッドデザイン賞はその審査の基準・内容が曖昧で,被告製品1及び3
15 の売上げも低迷していること,グッドデザイン賞の受賞対象に関して特定の個人が
「デザイナー」として表示されるか否かは不確定であること,原告は既に本件意匠1
及び同2の各意匠公報に創作者として表示されていることなどに照らせば,原告が主
張する「グッドデザイン賞を受賞した製品の創作者として氏名を表示される利益」は,
法律上保護に値する利益ではない。
20 また,被告エフシーデザインはグッドデザイン賞に応募しておらず,同賞の受賞企
業でもないから,同社に対する不法行為責任の追及は失当である。
イ その他,被告製品1及び3のデザイン制作の経過に関する主張は,争点(1)-
ア,争点(1)-イの各(被告タカラ産業の主張)で主張したとおりである。
第4 当裁判所の判断
25 1 争点(1)(被告タカラ産業に対する職務意匠の対価請求の成否)について
原告は,被告タカラ産業に対し,本件意匠権として登録された本件意匠は,他の共
同創作者の存在を前提にしながら,いずれも原告が主体となって創作したものであっ
て職務意匠に該当するとして,同被告に対して対価請求をしている。
まず職務意匠といえるためには,従業者が創作した意匠であって,その性質上使用
者の業務範囲に属する意匠であり,かつ意匠の創作をするに至った行為が従業者の職
5 務に属する意匠でなければならず,そして,これにより使用者に対して対価請求が認
められるためには,職務意匠について意匠登録を受ける権利を使用者に取得等させる
ことが必要である。
本件では,原告は,被告タカラ産業の従業員として原告の業務範囲に属するものと
して製品開発のため本件意匠を創作したと主張しているのであり,また被告タカラ産
10 業の意匠登録出願の担当者として自らを創作者に加えて意匠登録出願をしているか
ら,原告が本件意匠の創作者であって意匠登録を受ける権利を取得していると認めら
れるのなら,その権利を被告タカラ産業に取得させたものとして,その対価請求には
理由があることになる。
そこで,原告が本件意匠の創作者であって,意匠登録を受ける権利を取得していた
15 ものか検討するに,本件意匠は,いずれもP2作成に係るデザイン案あるいは先行す
る製品等を原案として,原告のほか被告タカラ産業の複数の従業員が関与してデザイ
ン案の検討を重ねて完成するに至った経緯にあり,原告自身,他の共同創作者の存在
も前提にしている。
そうすると,このような共同創作に係る意匠において共同創作者のうちの 1 人とい
20 えるためには,その創作過程において,単にアイデアを提供したのではなく,補助者,
助言者にとどまらない立場で創作に現実に加担したことが認められる必要がある。そ
して,ここにいう創作とは,意匠登録を受ける権利を共有させる根拠となる以上,そ
の内容,程度が,当該意匠を登録意匠足り得ることに寄与するものでなければならず,
当該物品の部分の意匠の改変にとどまっていて物品全体から起こされる美感に影響
25 を及ぼさない程度の意匠の創作に関与しただけであったり,また誰でも容易に創作で
きるようなありふれたデザインの修正を提案したりしたというだけでは,登録意匠と
なった当該意匠の創作をしたというに足りないというべきである。また製品化のため
の設計段階で本件意匠のデザインに影響を与える形状の改変を施したとしても,その
改変が既提案のデザインを製品化するための強度確保や機構組込みのための技術的
観点から不可避的にされたものであるなら,それをもって意匠の創作があったとはい
5 えないから,やはり,その改変を伴う設計をした者は本件意匠の共同創作者とはいえ
ないというべきである。
なお,本件意匠の創作過程は,各関係別紙のとおり,その完成に至るまでにデザイ
ンの修正案等が多数,検討対象となっているが,提案されたデザインの修正案が完成
した本件意匠の構成に残されていないのなら,そのデザイン案を提案した者は創作に
10 加担したとはいえないことはいうまでもない。
2 争点(1)-ア(原告は,本件意匠1の創作者であるか。)について
(1) 本件意匠1の創作過程
本件意匠1の創作過程について,当事者間に争いのない事実及び各項末尾の証拠に
より認められる事実は次のとおりである。
15 ア 被告タカラ産業は,原告が入社する以前に昇降式室内物干し器の製品開発を開
始し,被告エフシーデザインに,そのデザイン案の作成を依頼していた。
イ 平成25年4月23日,被告エフシーデザインは,P2が作成した昇降式室内
物干しのデザイン案として意匠1【図面1】の4案を被告タカラ産業に対して提出し
た(乙12の2)。提出された4案のうち,design-Dの本体の基本形状が,本
20 件意匠1のそれに最も似ているが,そのデザインでは,物干し竿が通常の断面円型で
あるため,格納時に物干し竿の断面半分が本体表面から突出しており,他の3案のデ
ザイン案も同様である。なお,design-Dには,
「本体も薄く見せる」というコ
ンセプトが明記されていた。
ウ 同月下旬頃,P3は,設計担当者であるP4に対し,断面円型の物干し竿を断
25 面半円型にした場合に強度に問題がないかを確認するよう指示し,その後,P4から,
問題ないとの報告を受けていた(証人P3,証人P4,乙10の2)。
エ 同年5月2日,被告タカラ産業において,同被告従業員59名を対象として,
意匠1【図面1】の4案についてアンケートを実施したところ,そのうちのdesi
gn-Aが最も支持され(20票),次いでdesign-D(18票)が支持される
結果となった(乙17)。
5 オ 同月7日,原告,P3,P6及びP2によってデザイン検討会が行われ,P3
はP2に対し,意匠1【図面1】のdesign-Aと同Dをベースにデザインの再
検討を行い,修正案を提出するよう要請した(証人P3,被告エフシーデザイン代表
者)。
なお,同日の原告の業務日報には,
「FCデザインとの「室内昇降物干し」の打合せ
10 に参加,2方向のデザインテイストの違いを依頼した。アイデア検討作業の効率も考
え,もう少しターゲットを絞り込んだ説明が必要であったと反省する。」との記載が
ある(乙10の3)。
カ 同月17日,上記オを受けて,被告エフシーデザインは,P3に対し,P2作
成に係るデザイン案を5案(design-AないしE,意匠1【図面2】)提出した
15 (乙12の3)
。提出されたデザイン案(意匠1【図面2】)のうち,design-
Aと同Bが意匠1【図面1】のdesign-Aの改良版であり,意匠1【図面2】
のdesign-Eが意匠1【図面1】のdesign-Dの改良版である。意匠1
【図面2】のdesign-A,B及びDは,物干し竿の断面を半円型として,いず
れも物干し竿を本体に格納したときに,本体の表面がフラット形状(竿フラット形状)
20 となるようにされていた(なお,意匠1【図面2】では省略されているが,実際に提
出されたdesign-A,B及びDのデザイン画には,「物干し竿部分が半円型で
格納時に本体にスッキリ収まる」との説明記載がある。。
) 他方,design-Eは,
物干し竿が断面円型であるため,本体の格納時において,その半分くらいが本体表面
から突出した態様であった(なお,物干し竿の端部は半球状に処理されている。。

25 キ 同月22日,原告,P2及びP3が参加したデザイン戦略会議の結果,意匠1
【図面2】のdesign-Dと,上記オの再検討指示の結果提出された意匠1【図
面1】のdesign-Dを竿フラット形状に改変したものをベースにして,原告が
ペーパーモデルを作成し,実物大の使用状態を確認した上で,デザインを最終決定す
ることになった(証人P3,原告本人)。
ク 同日のデザイン戦略会議終了後,P2は,P3の要請に従って,原告がペーパ
5 ーモデルを作成するための資料とするため,意匠1【図面1】のdesign-Dと
意匠1【図面2】のdesign-DのCADデータ(意匠1【図面3】)をメールで
送付した(乙10の3)。
ケ 同月23日及び24日,原告は,ペーパーモデルとして,意匠1【図面1】の
design-Dの竿を断面半円型としたペーパーモデルA案と意匠1【図面2】の
10 design-Dに基づくペーパーモデルB案を作成した(意匠1【図面4】。

ペーパーモデルB案は,意匠1【図面2】のdesign-DのCADデータに基
づいて作成したが,ペーパーモデルA案は,意匠1【図面1】のdesign-Dの
CADデータでは物干し竿が,断面半円型になっていなかったことから,原告は,本
体の表面がフラットになるよう修正した手書きの図面を作成し,これにより作成した
15 (原告本人)。
コ 同月25日頃,原告は,女性従業員4名に対し,個人的に,ペーパーモデルA
案,同B案いずれのデザインがよいかを尋ねたところ,その全員がペーパーモデルA
案を選択した(乙10の3,原告本人)。
サ 同月27日,P6は,ペーパーモデルA案に沿った図面(意匠1【図面5】)を
20 作成し,同図面をメール添付してP2及びP4に送付した。なお,同図面では,ペー
パーモデルA案とは異なり,原告の発案で本体の側面がチーズカットとされていた
(乙12の6,証人P6,原告本人)。
そして同日,原告は,P4及びP2に対して,
「標記の件ですが5/25(土)にP
3部長と検討を行い,添付資料A案で開発を進める事としました。添付資料を確認頂
25 き,具体設計とデザインの詰めをお願い致します。 などと記載したメールを送付し,

添付資料としてペーパーモデルA案の画像を含む意匠1【図面6】を添付した。なお,
同日の原告の業務日報にも,デザイン案の大枠が決定されたことをうかがわせる「・
室内昇降物干しデザイン案の,設計およびデザイン検討資料を作成し,FCデザイン
と富山設計課へ検討を依頼した。・機構部の設計は始まったばかりで,形状の見直し
はこれから多く発生すると思われるが,充分に検討を重ね製品完成度をあげて行きた
5 い。」と記載されていた(乙10の3,乙12の7)。
シ その後,意匠1【図面6】の基本デザインと検討項目を前提に,本体部分とこ
れと一体になる操作棒のデザインの細部の検討が重ねられ,本体部分については,同
年6月27日頃,意匠1【図面14】が決定され,被告製品1及び2のデザインとし
てほぼ完成し(乙12の20),その後,操作棒のデザイン等につき検討が重ねられ
10 た。なお,その過程において,原告が提案し,検討対象とされていた本体の側面をチ
ーズカットとするデザイン(意匠1【図面5】【図面6】
, )は,結局,採用されなかっ
た。
ス 被告タカラ産業は,原告が担当して,平成26年1月31日,被告製品1及び
2の操作棒を除いた本体部分の意匠(本件意匠1)を対象とする意匠登録出願をした。
15 (2) 検討
ア 被告製品1及び2は,P2作成に係るデザイン案である意匠1【図面1】を出
発点としてデザインの検討がなされたものであり,そのうちdesign-Dに現れ
た形態の特徴が本件意匠1に明らかに看取できるから,このデザインが本件意匠1の
原案となったということができる。
20 原告は,以上を前提に,本件意匠1の創作者を決めるに当たって重要なのは,竿フ
ラット形状が誰の発案によるものかと,本体部の形状をデザインしたのが誰かとの点
である旨主張する。
確かに原案となった意匠 1【図面1】のdesign-Dと本件意匠1を対比する
と,同design-Dでは,断面円型の物干し竿が用いられているため,本体に物
25 干し竿を格納したとしても,その円の半分が本体部分から突出しているのに対し,本
件意匠1では断面半円型の物干し竿を採用しているため,物干し竿を本体に格納した
とき,本体の正面がフラットとなっている点に需要者の異なる美感を起こさせる顕著
な特徴が存し,また,当初のデザイン案がすべて一般的な円柱の竿を前提としていた
ものであることからすると,この形態の特徴は,本件意匠1を登録意匠足り得るもの
とした創作容易でない形態であるということができる。
5 なお,それ以外では,design-Dでは本体の表面が継ぎ目のない一体構造に
見えるが,本件意匠1では同部分に継ぎ目があって3分割構造に見える点に差異点を
見出すことができるが,この点で需要者の美感に影響を与えるものとは考えられず,
そのほかに,需要者に対して異なる美感を起こさせるものは認められない。
したがって,原告が本件意匠1の創作過程において創作に現実に加担したといえる
10 か否かは,原告が主張する点,すなわちdesign-Dで採用されていた断面円の
物干し竿を断面半円型とすることにより,物干し竿格納時に本体の表面をフラット形
状としたというデザインの改変につき,原告が現実に加担したか否かにより決せられ
るべきである。
イ この点に関し,原告は,物干し竿格納時に竿フラット形状にするデザインの創
15 作をしたのは原告であると主張し,まず平成25年5月7日のデザイン検討会におい
て,P2に対し,物干し竿を半円型にして本体からの突出をなくし,本体の厚みを薄
く見せる方向でデザインを再検討してもらうよう依頼し,さらに同月22日にP2も
交えたデザイン戦略会議において意匠1【図面2】のdesign-Dと意匠1【図
面1】のdesign-Dを竿フラット形状に変更したものの2案をベースにしてペ
20 ーパーモデルを作成し,デザインを最終決定することになったが,その際,意匠1【図
面1】のdesign-Dを竿フラット形状に変更する提案を原告がしたもののよう
に主張する。
そして,原告は,竿の下面をフラットにするアイデアについて上記平成25年5月
7日のデザイン検討会で原告が初めて提案したように供述しているが,被告タカラ産
25 業では,物干し竿を断面半円型にして竿フラット形状とすることは,同年4月末に,
P3の指示で物干し竿を断面半円型とした場合の強度上の問題の検討がされたこと
(上記(1)ウ)に明らかなように,原告が供述する同年5月7日以前に検討が開始さ
れていたと認められるから,原告の上記供述部分は信用し難い。
また,意匠1【図面1】のdesign-Dを竿フラット形状にするデザイン案が
具体的になされた同月22日のデザイン戦略会議については,原告は,その会議で同
5 デザインのペーパーモデルが検討対象として作成されることが決定された旨供述す
るものの,原告の発言内容としては,「できるだけインテリアの中で存在をなくす方
向でいくべきだと主張した」というデザインの方向性についてアイデアを提示したこ
とを供述するにとどまり,そのアイデアを意匠1【図面1】のdesign-Dに応
用して意匠として完成させるという具体的提案をしたとまで供述しているわけでは
10 なく,結局,原告の供述するデザインの方向性を具体化する中での原告の関与の程度
は曖昧である。
なお,原告は,確かに,本件意匠1にほぼその形状が引き継がれている意匠1【図
面1】のdesign-Dを竿フラット形状にしたペーパーモデルA案を作成し,そ
の前提として,そのペーパーモデルを作成するために手書きで意匠1【図面1】のd
15 esign-Dの物干し竿格納時の本体表面をフラット形状とした図面を作成した
ことも認められるけれども,上記(1)キのとおり,それは上記デザイン戦略会議の決
定を受けて作成したものにすぎず,P2作成の3Dデータのそれと寸法が少し異なっ
ていたとしても,その図面作成,あるいはその図面に基づくペーパーモデルの作成自
体で何らかの創作をしたといえるわけではない(なお同データでは,ペーパーモデル
20 B案用のデータがもともと竿フラット形状であるのに対し,ペーパーモデルA案用の
データがそうでないというだけであって,決定事項に従い,後者の突出した半円を平
面化することは明らかに容易である。。

そして,ペーパーモデルA案作成後にP1の指示によりP6によって作成された意
匠1【図面5】のCAD図面に,
「P1案」との記載があるが,これは同図面には,本
25 体の端面にP1の発案に係るチーズカットの処理がされ,また天井取付部も原告提案
のデザインとされていることから記載されたことがうかがえ,これから被告タカラ産
業社内において,意匠1【図面1】のdesign-Dを竿フラット形状にするデザ
インが原告創作に係るデザインであると認識されていたことを推認させるものとは
いえない。
そうすると,本件意匠1は,意匠1【図面1】のdesign-Dを竿フラット形
5 状にすることを基本として最終的に意匠が完成したものと認められるが,それがP2
作成に係る意匠1【図面1】のdesign-Dに,被告タカラ産業において既に検
討を始めていた竿を断面半円型にして薄く見せようというデザインのアイデアとを
融合させたにすぎないことは明らかであって,その過程で原告が何らかの具体的提案
をして創作に現実に加担したことを認めるに足りる証拠はないものといわなければ
10 ならない。
ウ そのほか,原告は,本件意匠1の創作に関し,その細部における意匠創作の関
与を主張するが,それらは,本件意匠1を登録意匠足らしめるような内容の創作とは
いえないから,原告が,本件意匠1の創作に現実に加担した事実を認めることができ
ず,結局,原告は,本件意匠1の創作者の1人であると認めることはできないという
15 べきである。
3 争点(1)-イ(原告は,本件意匠2,3の創作者であるか。)について
(1) 本件意匠2,3の創作過程
本件意匠2,3の創作過程について,当事者間に争いのない事実及び各項末記載の
証拠により認められる事実は次のとおりである。
20 ア 被告タカラ産業は,原告が被告タカラ産業に入社する以前に物干し竿支持具
(ランドリーフック)の開発を開始し,被告エフシーデザインに対してデザイン案の
作成を依頼した。
イ 平成25年4月15日,被告エフシーデザインは,P2が作成したランドリー
フックのデザイン案として意匠2,3【図面1】の7案を被告タカラ産業に提出した
25 (乙2の1) これらのランドリーフックは,
。 いずれも面付タイプ(基体を壁面に取り
付け,アームが基体に対して垂直方向で展開するタイプ)のものであり,ヒンジ部分
は単純な構造とされ,ヒンジ部分を起点に転回するアームをひもで支えるものであっ
た。
ウ 同年6月4日,原告は,P3,P5及びP6ほか被告タカラ産業のランドリー
フック開発の関係者に対し,ランドリーフックのアイデアとして,意匠2,3【図面
5 2】を提出した。これらの図面ではランドリーフックの動きのアイデアが分かるもの
の,ヒンジ部分の構造をどのようにするか不明なものであった(乙13の14)。
エ 同月6日,被告エフシーデザインは,P2が作成したデザイン案として意匠2,
3【図面3】の4案を提出した(乙2の2)。これらはいずれも,ヒンジ部分から展開
するアームをひもで支えるというものであったが,いずれも,その当時,並行して開
10 発が進められていた被告製品1及び2と同様に本体が薄く直線基調のシンプルな形
状とされ,アーム格納時及び使用時のいずれにおいても面付タイプと見込みタイプが
統一された雰囲気となるようデザインに配慮がされていた(design-Aと同B,
design-Cと同Dの組み合わせ。。

オ 同月20日,原告は,検討資料として意匠2,3【図面5】を提出したが,こ
15 れでは,並行して開発中の昇降式室内物干し器と統一感を出すために,P2作成に係
る同【図面3】のアームを格納した状態の3D図面を付し,またヒンジ部分にダンパ
ーを採用すること,面付タイプのアームの竿掛け部を可倒式のものとするアイデアが
示されていた(乙13の20)。
カ 同月24日,原告は,再びランドリーフックのアイデアとして,意匠2, 【図

20 面6】のデザイン案を提出した(乙13の21)。同図面のうち,面付タイプのものは,
ヒンジ部分を折り畳みヒンジで支えるアイデアが示され,見込みタイプのものについ
ては,ひも等でアームを支える構造ではなく,ヒンジ部分に内蔵する機構で支えよう
とするものであるが,そこではヒンジ部分に内蔵する機構をヒンジ部分のみ膨らませ
て納める提案がされ,図面ではヒンジ部分から半球が丸く突出した形状が示されてい
25 た。なお,この図面の提案では,面付タイプと見込みタイプで,製品としての雰囲気
は異なるものとなっていた。
キ その後,ランドリーフックのヒンジ部分の構造に,被告タカラ産業が既に販売
している製品である屋外用の物干し金物(甲26。商品名DRY・WAVEスクエア・
品番KC40。以下「KC40」という。)のヒンジ部分に用いられていた圧縮バネの
バンパー機構を開発中のランドリーフックの面付タイプ及び見込みタイプ両方のヒ
5 ンジ部分に用いることが検討課題となり,ひもでアームを支える構造は採用しないこ
とになった(乙22)

ク P4は,ヒンジ部分にKC40のダンパー機構を内蔵するための検討を進め,
意匠2,3【図面6】の提案をもとにCAD図面を作成し,その3D図面を付して,
P3に対し,同年7月17日,面付タイプのランドリーフックの構想図(面付用)と
10 して意匠2, 【図面7】
3 を,同月19日,見込みタイプの物干し支持具の提案図(意
匠2,3【図面8】)を提出した(乙13の25,27)。前者では,アーム格納時は,
本体の形状が本件意匠1のような形状になるものであったが,アーム展開時は,アー
ムは折り畳みヒンジとされる棒状の部材で支えるものであった。後者では,アーム展
開時にひも等を使用しないものであったが,ヒンジ部分にダンパー機構を組み込むた
15 め,本体の幅いっぱいに半球体が突出しているものであり,そのため面付タイプと見
込みタイプとでは,雰囲気が異なるものとなっていた。
なお,後者の図面を提出したときのP4の送付メールの本文には,「P1さんのデ
ザインを取り入れアームと台座をADC製として」との記載(乙13の27)があった。
ケ 同月30日,P4は,P3,P5,P6及び原告に対し,面付タイプの場合の
20 ヒンジ部分にもあえて見込みタイプの物と同様の半球体の突出部を設けた設計図と
して構想図(意匠2,3【図面9】)をメール送付した(乙13の31)。なお,そのメ
ール本文には,
「ランドリーフックの現時点での構想図です。見込みは良いですが,面
付けはまだまだの段階です。円柱形状を横にした突起を面付けに採用できればとの思
いで作図予定です」との記載がある。
25 コ 原告は,同年7月頃,意匠2,3【図面9】をベースに,見込みタイプのラン
ドリーフックのペーパーモデルを3案(意匠2,3【図面4】)作成した。なお,それ
らではヒンジ部分で突出した部分の形状は,立方体,円柱及び円錐台であって,半球
体ではなかった(乙11の2,原告本人)。
サ 同年8月2日,P4は,検討中のランドリーフックを3D図面とした意匠2,
3【図面10】を作成した(乙13の33)。これによると,見込みタイプは,意匠2,
5 3【図面8】と同じであるが,面付タイプでは,アーム格納時にダンパー機構を内蔵
するヒンジ部分がかまぼこ状に突出するデザインとされていた。
シ 同月5日,P5は,P3からの指示を受け,アームに切り欠きで構成する竿掛
け部をスラント形状とする株式会社キョウワナスタの室内物干しを用いて,破壊実験
による強度検査を実施した(乙10の1,証人P3,証人P5)。
10 ス 同月7日,P2の来社を求めて,富山から出張で来阪中のP5,出張中であっ
たP3の代わりのP6及び原告の合計4名で,ランドリーフックのデザインについて
の打合せを行った。
なお,同日の原告の業務日報には,
「ランドリーフックのデザイン検討(FCデザイ
ンを交えてデザインの方向性を確認)」との記載,翌日のそれには,
「ランドリーフッ
15 クの設計検討 面付タイプのアーム強度は改善できたように思うが,軸受けカバーの
取り付け設計に課題が残った。明日には詳細を詰め,面付け/見込タイプ両方の形状
確認を行う」との記載,翌々日のそれには,
「ランドリーフックの設計検討・提案アイ
デア作成準備 面付け見込みタイプ両方のデザイン形状を作成,壁からの突出を極力
抑え,
「室内昇降物干し」統一コンセプト「薄さを見せるデザイン」を追及した」との
20 記載がある(乙10の3)。また,P5の業務日報には,上記打合せ当日には「ランド
リーフック 形状確認打ち合わせ 3D作成・修正2 TH・PTH 化粧袋・化粧
箱 データ打ち合わせ FCデザインP2氏を交え,ランドリーフックの打ち合わせ
を行う」との記載,翌日には「ランドリーフック 3D修正 昨日の打ち合わせで問
題になった肉盗みや台座の修正を行う。アーム強度はクリアできそうな雰囲気だが,
25 キャップの寸法が厳しい」との記載がある(乙10の1)。
セ 原告は,同月22日に開催されるデザイン戦略会議のための報告議題の資料を
作成し,これを同月20日,メールに添付して会議関係者に送付した。同資料には,
P5が作成した3D図面である意匠2, 【図面11】
3 が含まれていた。この図面は,
面付タイプ,見込みタイプともヒンジ部分を「く」の字状とするものであり,見込み
タイプのアームの竿掛け部はスラント形状とされており,そのデザインは,本件意匠
5 2,3とほぼ同じものであった(乙13の36)。
ソ その後,上記デザインをもとに,肉盗みの施し方など,細部のデザインの詰め
が検討され,同年12月25日頃,被告製品3,4の設計図が確定した(意匠2,3
【図面40】,乙13の94)。
タ 被告タカラ産業は,原告が担当して,平成26年1月21日,被告製品3の意
10 匠(本件意匠2),被告製品4の意匠(本件意匠3)を対象として意匠登録出願をした。
(2) 検討
ア 原告は,本件意匠2,3の創作者であることの根拠として,主として,両意匠
に共通するヒンジ部分の「く」の字形の形状を創作したことを主張するほか,被告意
匠2では,アームの竿掛け部の後方をスラント形状(斜めの形状)に創作したこと,
15 被告意匠3では,アームの竿掛け部の溝の形状を創作したことを主張する。
イ 上記(1)で認定したところによれば,本件意匠2,3の創作過程は,意匠2,3
【図面1】の5案のデザイン案から始まり,早い段階(同【図面3】)でP2作成のデ
ザインに基づき,面付タイプと見込みタイプとも厚みのないスリムなコンパクトボデ
ィとして雰囲気を統一することとされ,その後,アームをひもで支える構造をやめ,
20 ヒンジ部分にアームを支えるダンパー構造を組み込むものとしたが,そのヒンジ部分
の形態をいかにまとめるかについて一番の課題があり,結局,同【図面11】のとお
り,面付タイプ及び見込みタイプとも,ヒンジ部分を「く」の字形とすることが提案
され,これによりほぼ完成形に近い意匠が決定されるに至ったというものであること
が認められる。
25 そして本件意匠2,3の物品であるランドリーフックは,壁面又は柱面に基体を固
定し,基体にヒンジ部分で連結したアームを展開して,アームで物干し竿を支えよう
とするものであるから,その基本構成態様は,上記基体とアームに加え,アームに物
干し竿の竿掛け部を設けるという機能から自ずと制限されたものであることを考慮
すると,本件意匠2,3を登録意匠足り得るものとした主たる構成は,両意匠に共通
するヒンジ部分の「く」の字形の形状とした具体的構成態様にあると認められるから,
5 原告が主張するように,原告がその形態の創作に加担したのであれば,原告を本件意
匠2,3の創作者であるというべきである。
ウ この点に関して原告は,本件意匠2となる見込みタイプについては,同年7月
下旬に,
「く」の字形の手書きの図面及びペーパーモデルを作成し,P3に見てもらっ
たところ,P3がこれを了承したことから,面付タイプ,見込みタイプともに「く」
10 の字形とすることを前提にP5とともに3D図面の作成を進めていくことになった
と供述する。
しかし,上記事実については原告の供述を裏付けるものはないばかりか,原告の供
述によれば,同年7月下旬には,ランドリーフックのヒンジ部分を「く」の字とする
原告の案をP3が了承していたというのに,上記(1)ケのとおり,P4は,同月30日
15 の時点において,面付タイプのデザインについて悩みながら「円柱形状を横にした突
起」を面付タイプに採用することを検討している旨をP3にメールし,その頃,作成
した構想図(意匠2,3【図面9】)においても,見込みタイプについても,
「く」の
字形ではなく,ヒンジ部分を丸い突起状とする形状を描き,同年8月2日に示した意
匠2,3【図面10】においても,面付タイプは,ヒンジ部分が円柱形状を横にした
20 形状の突起とされ,見込みタイプは,ヒンジ部分が丸い突起状となっていて,
「く」の
字形のものは未だ描かれていないから,原告の供述は,これらの事実関係に整合しな
いものである。
むしろ,意匠2,3【図面10】と同【図面11】を対比すれば,ランドリーフッ
クのヒンジ部分が「く」の字形とする提案がされたのが同年8月2日から同月22日
25 までの間であることは明らかであり,上記(1)の事実関係,特にP5の業務日報に同
年8月7日の打合せ時に3D図面が作成され,その翌日以降,修正されていった様子
がうかがえることに照らせば,証人P6が証言するように,同月7日のデザイン戦略
会議で,P2の提案が契機となってヒンジ部分を「く」の字形の形状とする方向が決
定されたことが認められるというべきであって,これに反する原告の供述は採用でき
ない。原告作成に係る資料に意匠2,3【図面11】が含まれていたことは(乙13の
5 36),原告が創作した根拠となるものではなく,むしろ,その図面は,上記会議を受
けてその提案に沿ったデザインの検討が重ねられてきた結果を受けたものにすぎな
いものと認められる。
エ したがって,原告が,ヒンジ部分を「く」の字形とする創作に現実に加担した
とは認められないというべきである。
10 オ 原告は,ヒンジ部分のほか,本件意匠2の竿掛け部の形状をスラント形状とす
る点での創作への加担を主張するが,竿掛け部の形状については,既に公知の意匠と
して株式会社キョウワナスタの「ANGEL HANGER」という商品(乙18)
があり,機能的側面から,その採用が被告タカラ産業で検討を進められていたことは,
上記(1)シのとおりであるから,原告が,この点で創作に加担したとは認められない。
15 原告は,また面付タイプの本件意匠3のアームの竿掛け部の形状を創作した点も主
張するが,その部分のデザイン決定に原告が関与したとしても,U字型の竿掛け部の
形状の基本的構成態様はありふれたものであり,原告がこれに細部の意匠を加えて具
体的構成態様として完成させたとしても,それが本件意匠3を登録意匠足らしめるこ
とに寄与したものとは考えられないから,その点をもって,原告を本件意匠3の創作
20 者であるということができない。
カ そのほか,原告は,本件意匠2,3の創作に関し,細部にわたる関与を主張す
るが,本件意匠2,3を登録意匠足らしめるような内容の創作に加担した事実を認め
ることができないから,原告は,本件意匠2,3の創作者の 1 人であると認めること
はできないというべきである。
25 4 争点(1)-ウ(原告は,本件意匠4の創作者であるか。)について
(1) 本件意匠4の創作過程
本件意匠4の創作過程について,当事者間に争いのない事実及び各項末尾記載の証
拠により認められる事実は次のとおりである。
ア 被告タカラ産業は,原告が同社に入社する以前に,物干し金物の製品開発を開
始し,被告エフシーデザインに,そのデザイン案の作成を依頼していた。
5 イ 平成24年3月23日,被告エフシーデザインは,P2がデザインした意匠4
【図面0-1】の9案を提出した(乙3)。
これら9案は,すべて見込みタイプであるが,うちA-01とされるデザインは,
アームをストレートとし,ヒンジ部分から小角孔が六つ並んで大角孔を設け,さらに
小角孔を三つ並べて先端にもう一つの大角孔を設けるものである。竿は,この大角孔
10 に差し込まれることが予定され,使用時に竿が最も下側となる角孔の隅部に寄せられ
るため,この点をポイントとして,
「2点支持により竿のグラつき低減」と説明し,ま
た竿支持部につき「洗濯竿支持部分をよくある丸孔にするのではなく四角にして他と
差別化 マンションベランダのイメージによく合う」との説明が付されていた。
ウ 被告タカラ産業では,P4は,意匠4【図面0-1】のA―01を原案として,
15 顧客から依頼を受けた製品の製品化を進め,同年9月27日に意匠登録出願をし,平
成25年3月15日に意匠登録(意匠登録第1466698号)されたが,同意匠の
製品は実際に製造されることはなかった(乙3の3。意匠公報中の一部図面が意匠4
【図面0-2】である。)。
なお,製品化を予定して意匠登録されたデザインは,意匠4【図面0-2】を含む
20 が,アームは,本件意匠4のように両面ともが平たんなものではなく,台座取付面側
のアーム表面は平たんであり,そこから見たアームに設けられた孔は,意匠4【図面
0―2】と同じであるが,アームの反対側の表面は,竿を通す孔部分は肉が盛り上が
って大きな四角形を形成しており,竿を通す部分は,竿に合わせた円形の孔とされて
いるものである(意匠4【図面0-3】のアーム部分参照)。
25 エ 被告エフシーデザインは,その間の平成24年9月6日,さらに面付タイプの
物干し金具のデザインにつき,P2作成に係る意匠4【図面1】のとおりの5案を被
告タカラ産業に提出した(乙3の2)。5案のうち4案は,アームがオフセットしてい
ないストレートアームで,小角孔と大角孔を組み合わせたもの,大角孔のみを並べた
ものが含まれていた。また,アームと台座部の関係は,いずれもアームを挟み込むよ
うに構成した左右対称の台座部が基本とされ,アームも両面とも平たんであることか
5 ら,製品全体をいずれの面からもみても,同じ形状となるデザインとなっていた。
オ 平成25年3月以降,P3はP4に指示して,意匠4【図面0-1】,意匠4
【図面0-2】を原案として,面付タイプのストレートアーム(意匠4【図面0-3】)
とオフセットタイプ(意匠4【図面2】の左下)の図面を作成させ,その製品化の検
討を行っていた(乙3の4,乙14の2,証人P3,証人P4)。
10 カ 被告タカラ産業は,同年4月頃,見込みタイプのベランダ用物干し竿であるK
C40の販売を開始したが(甲22) 同製品のアームは,
, 長方形のアームに小角孔が
規則正しく九つ並べられ,その下辺外側に竿掛け部となる大角孔を形成する突起が二
つ並んだオフセットタイプであり(アームの形状自体は,意匠4【図面3】,
【図面6】
のそれと同じである。,また台座部の基本形状は,本件意匠4のそれと同様のラウン

15 ドしたものであり,またアーム合わせ部の形状も,KC40の同部分が見込みタイプ
であるため一面が台座部に一体化しているものの,本件意匠の同部分の同じ部分と,
その形状に違いはないものである。
キ 同年7月末頃,被告タカラ産業営業部からP3に対し,被告タカラ産業が以前
から販売していた見込みタイプであるベランダ用物干し竿(KC40)を面付タイプ
20 にする開発要請があり,被告製品5に至る開発が始められることになった。
ク 原告は,同年8月1日,KC40を面付タイプにするための手書きの面付タイ
プ用の台座部のアタリ図(意匠4【図面4】,アームについての新規アーム案(意匠

4【図面5】,意匠4【図面7】)を作成してP5に対して送付し,P5は,翌日,上
記原告作成の面付タイプの台座部に,KC40のアームを組み合わせたものと新規な
25 2種類のアームを組み合わせたものの合計3案の3D図面(意匠4【図面9】 を作成

し,原告からP3に送付した(乙14の15)。
なお,これ以降,検討されるアームの形状は,意匠登録された面付タイプの物干し
金具のアームのような,物干し竿を固定するための肉を盛り上げた特殊な形状は検討
されることなく,すべて意匠4【図面0-1】のA―01図に示された大角孔を利用
するだけのものであり,またアーム自体も両面とも平たんな板状のものとされている。
5 ケ P4は,同月20日,P6,P5及び原告に対し,意匠4【図面11】の3D
図面をメールで送付した(乙14の19)。なお,同図面のアームは,オフセットされ
たものであるが,同メールには,台座とキャップを変更したとした上で,アーム合わ
せ部の径を大きくしたこと,台座ビス止め部を1方向に修正したことが記載されてい
た。
10 コ 同月21日,P5は原告に対し,台座部付近のみをA3サイズで拡大した意匠
4【図面12】を送付した(乙14の21)。
サ 同月22日,原告,P3及びP6で,デザイン戦略会議が行われ,開発中の面
付タイプ物干し金具のアーム形状についての打合せがされた。
同会議で,P3は,物干し金物を面付タイプのストレートアームとすること,その
15 上で大角孔を三つ設けられる長さにして,その間に小角孔を一列に等間隔で配置する
ことを決定した(証人P3,証人P4,証人P5)。
シ 原告は,同日の会議後,P5,P3及びP6に対し,
「本日のデザイン戦略会議
にて,KC面付けタイプの形状方向が決まりましたので,報告します。検討課題:台
座取り付け幅→30mmとする。理由:スクエア見込タイプと台座固定部のデザイン
20 を合せる(設置強度も含め方向付け)上記決定を踏まえ,最終形状を作成しましたの
で,確認願います。」とのメールに意匠4【図面13】を添付して送付した(乙14の
23)。同図面のランドリーフックはオフセットアームのものであった。
ス 同月23日,原告は,P5,P3及びP6に対し,意匠4【図面14】をメー
ル送付した(乙14の25)。同メール本文には,「電話で連絡したKC面付タイプス
25 トレートアーム案を送ります。添付資料を参照して,設計進めて下さい。 との記載が

ある。
セ その後,台座部の形状はほぼ維持され,また物干し竿を掛ける孔が,角孔であ
るとの点にデザインの変更はないが,アームのどの位置に小角孔と大角孔を組み合わ
せるかなどについてデザインの見直しが繰り返され,平成25年12月頃に最終的な
被告製品5の設計図が決定された(意匠4【図面31】,乙14の65)。
5 ソ 被告タカラ産業は,原告が担当して,平成26年1月31日,被告製品5の意
匠(本件意匠4)を対象とする意匠登録出願をした。
(2) 検討
ア 原告は,本件意匠4の実施品である被告製品5(品番:KD45)は,見込み
タイプのベランダ用物干し金具(KC40)をベースに,面付タイプの製品を作るこ
10 とを目的に開発がスタートした製品であるとして,その形状の相違点のうち①台座部
とヒンジキャップ部分の形状,②アームの孔の位置・大きさの2点が重要であるとし
て,その点のデザインを創作したのは原告であるから,原告は本件意匠4の創作者と
いえる旨主張する。
上記(1)キのとおり,被告製品5は,既販売の見込みタイプのKC40を面付タイ
15 プとするために開発が開始されたものであるから,被告製品5の意匠である本件意匠
4が登録意匠足り得たのは,その形態の差異点に創作容易でない創作性が認められた
からということができる。ただ,上記(1)アないしウのとおり,被告タカラ産業におい
ては,それ以前にも物干し金物についてデザインが検討されているから,被告製品5
の開発において,原告が創作に加担したといえるか否かは,それらのデザイン(意匠
20 4【図面0―1】【図面1】
, ,本件意匠4出願時に既に登録されていた上記(1)ウの意
匠公報(乙3の3)も踏まえて検討されるべきである。
イ まず原告主張に係る①の台座部とヒンジキャップの点について検討すると,原
告は,台座部の緩やかな円弧状のラインの上に,円柱状のヒンジキャップを設け,ヒ
ンジ部分の円柱中心より下げたところを起点として台座との接合部とすることで,堅
25 牢でシンプルなデザインとした点の創作に加担したことを主張する。
しかし,主張に係る部分をKC40(甲25の1)について見ると,見込みタイプと
面付タイプという構造の違いはあるものの,原告主張に係る部分の形状との共通性は
容易に見出すことができ,そもそも被告製品5がKC40の面付タイプとして開発さ
れた経緯に鑑みれば,これは製品デザインの統一性を図るために,できるだけデザイ
ンを揃えようとしていたことに由来するものと認められるから(上記(1)シのメール
5 には「スクエア見込みタイプと台座固定部のデザインを合せる」との記載がある。,

そもそもこの点で被告製品5の開発においてデザインの創作性を発揮する余地はな
かったと考えられる。
なお,面付タイプである被告製品5では,アームが台座部に垂直に接合される関係
で,その接合部分で見込みタイプのKC40にはない部分が現れ,その形状が問題と
10 なるところ,原告は,ここの部分をいずれの方向から見ても,同じ形状が見えるよう
に台座部とヒンジキャップをシンメトリ形状とすることを提案し,この点に創作性が
あると主張する。しかし,原告の提案であったとしても,本件意匠4の創作過程にお
いて,これをシンメトリ形状とするかアシンメトリ形状とするかにつき特に検討され
たような事実は認められず,また,面付タイプを前提とした場合に,これをシンメト
15 リ形状とするのがむしろ通常の発想というべきこと(証人P4,弁論の全趣旨)から
すれば,これは,見込みタイプのKC40を面付タイプに変更することに伴う常とう
手段を用いた変更にすぎず,その点で本件意匠4を登録意匠足り得る創作に加担した
ということはできない。
したがって,原告主張に係る台座部及びヒンジキャップのデザインの点については,
20 原告がこの点の意匠の決定に関与したとしても,それをもって本件意匠4を登録意匠
足らしめるものとはいえないから,これを理由として原告が本件意匠4の創作に加担
したものということはできない。
ウ 次いで原告主張に係る②のアームの孔の位置・大きさの点について検討すると,
まず本件意匠5のアームに設けられた孔の配列関係は,既存のものには存しないもの
25 であり,そもそも竿掛けの孔をオフセットで設けたKC40とも全く形状が異なるも
のであって,本件意匠4の意匠登録出願時に,原告出願に係る物干し金物の意匠(乙
3の3)が既に登録されており,またKC40が公然と販売されていたことを考える
と,このアームの形状及び孔の配列は本件意匠4を登録意匠足らしめるものであった
ということができる。
そして,本件意匠4の創作過程をみると,意匠4【図面14】において,本件意匠
5 4の孔の配列の基本形が初めて提案されたことが認められるところ,この点につき,
原告は,平成25年8月22日のデザイン戦略会議以降に,上記デザインを原告が発
案したという趣旨の主張をし,これに沿う供述をする。これに対し,被告タカラ産業
は,上記デザイン戦略会議において,台座の形状等だけでなく,アームの孔数や配置
についても検討され,意匠4【図面14】の折衷案のような形状とすることが決定さ
10 れたと主張し,証人P3はその旨証言する。
そこで検討するに,上記デザイン戦略会議後,同日中に原告が関係社員に送付した
意匠4【図面13】には,ストレートアーム形状ではなく,オフセット形状で大角孔
二つと小角孔九つを組み合わせたKC40のそれが描かれている一方で,原告がデザ
イン戦略会議の翌日である同月23日にP5らに送付した意匠4【図面14】には,
15 ストレートアーム形状で大角孔二つと小角孔七つを組み合わせたAタイプと,ストレ
ートアーム形状で大角孔を五つとしたBタイプとの折衷案として,大角孔三つと小角
孔四つを組み合わせた本件意匠4と同形状の角孔の配列による図が示されているこ
とから,上記会議後に,原告が,意匠4【図面14】の折衷案の形状を創作し,これ
をP5らに提案したものの如くである。
20 しかし,原告が意匠4【図面14】をP5に送付した際のメール本文は,
「電話で連
絡したKC面付タイプストレートアーム案を送ります。添付資料を参照して設計進め
てください」という確定事項を伝達する体裁のものとなっており,それが多数社員の
関与したデザイン戦略会議翌日になされたことからすると,その時点で原告が独自の
創作案で設計作業を他の社員に求めることは不自然であり,そうすると意匠4【図面
25 14】中の折衷案の形状は,原告上記会議後に独自に創作したものでなく,上記会議
において,アーム形状の開発方向として了承済みのものであったと考えるのが合理的
である。
したがって,原告の主張に反する証人P3の証言の方がむしろ信用できるというべ
きであって,原告主張に沿った原告の供述は採用できないから,意匠4【図面14】
の折衷案の孔配列は原告が創作したものと認めることができないというべきである。
5 なお,そもそも本件意匠4における孔の配列関係は,意匠4【図面14】によって
初めて具体的に提案されたものということができるが,そもそも大角孔を竿掛け用と
し,これと軽量化のための小角孔を組み合わせた配列のストレートアームは,既にP
2作成に係る意匠4【図面0-1】のA―01で提案されていたものであり,また同
【図面1】も参考にすれば,物干し竿の掛けやすさを考慮してその配列を検討するこ
10 とは当然考えられることであるから,アームの形状のみを対象とした場合,本件意匠
4のアームにおける孔の組合せ配列は,本件意匠4の出願当時,まだ非公知であった
意匠4【図面0-1】のA―01から創作容易な意匠といえ,その点からすると,そ
もそも本件意匠4の角孔の配列を決定したことをもって,本件意匠4の創作に加担し
たといってよいのかさえ疑問があるところである。
15 エ そのほか,原告は,本件意匠4の創作に関し,細部にわたる関与を主張するが,
結局のところ,本件意匠4を登録意匠足らしめるような内容の創作に加担した事実を
認めることができないから,原告は,本件意匠4の創作者の 1 人であると認めること
はできないというべきである。
5 小括
20 以上より,原告は本件意匠のいずれについても創作者であると認められないから,
本件意匠の創作者であることを前提とする被告タカラ産業に対する職務意匠の対価
請求は,その余の点の判断に及ぶまでもなくいずれも理由がないというべきである。
6 争点(2)(被告らが,被告製品1及び3につき,原告がグッドデザイン賞のデザ
イナーと表示されないようにしたことによる不法行為の成否)について
25 原告は,被告タカラ産業が本件意匠1の実施品である被告製品1及び本件意匠2の
実施品である被告製品3を対象として2014年度グッドデザイン賞を受賞したこ
とに関連して,その応募に際して,偽ってP2をデザイナーと表示し,原告を受賞作
品のデザイナーとして表示される法律上保護に値する利益を侵害した旨主張する。
ところで,そもそもグッドデザイン賞は,その主催団体のサイト(甲29)では,
「様々に展開される事象の中から「よいデザイン」を選び,顕彰することを通じ,私
5 たちのくらしを,産業を,そして社会全体を,より豊かなものへと導くことを目的と
した公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「総合的なデザインの推奨制度」で」
あり,また「いわゆるデザイン優劣を競うコンペティション・コンクールではありま
せん。そのデザインが,
「くらしを,社会を,豊かにしうるか」という視点,つまり,
デザインの効果・効用という視点から評価を行い,顕彰」すると説明されているもの
10 であって,その評価基準は,意匠法の登録要件そのものとは異なるから,意匠法上の
創作者と,グッドデザイン賞におけるデザイナーが概念として全く一致しているとい
うわけではない。
しかし,グッドデザイン賞の評価基準であったとしても,上記の説明内容に照らし,
公知の意匠から容易に創作できるようなデザインがグッドデザイン賞において受賞
15 に値する評価を得られるとは考えられないし,また同賞が工業製品を対象とする以上,
対象製品のデザイン完成に至るまでにデザイン部門から製造部門まで多数の者が関
与していることが考えられるが,同賞の性格上,デザイナーとして表示されるべき者
は,上記説明に表われる主要なデザインを作成した者であって,製品設計上の細部に
わたるデザインに関与した者は除かれるべきものと考えられるから,上記2,3で認
20 定判断したとおり,原告は本件意匠1及び同2の意匠法上の創作者と認められない以
上,グッドデザイン賞の関係においてもデザイナーと表示されるべき者であったとは
認められないというべきである。
したがって,グッドデザイン賞の受賞対象製品のデザイナーとして表示されなかっ
たことにより,法律上保護に値する利益を侵害されたことを理由とする原告の被告ら
25 に対する不法行為に基づく請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がないという
べきである。
なお,証拠(甲21の1)によれば,被告製品1には本件意匠1に含まれない操作
棒が附属しており,グッドデザイン賞の受賞製品紹介ページの画像にも操作棒が撮影
対象に含まれていることは認められるが,その写真での操作棒の扱いは,本体に差し
込まれた使用状態で小さく映っているにすぎないものであって,原告のいう,グリッ
5 プの断面を楕円形としたことなど,その形状の細部まで看取することができないもの
である。さらに同証拠によれば,被告タカラ産業が被告製品1を対象としてグッドデ
ザイン賞に応募するに当たり記載した被告製品1のデザインコンセプトは,「直感的
でスムーズな操作性,安心感のある作動性,未使用時は室内空間の美観に配慮しまし
た」というものであって,未使用時,すなわち操作棒を使用しない場合には「美観」
10 が強調され,操作棒の使用時には,
「操作性」「作動性」という,操作棒による操作の

機能を強調しているものである。そして,同製品のグッドデザイン賞受賞に当たって
の審査委員の評価は,
「室内物干しは,建物の美観,大気汚染などの理由でニーズが高
まっている。本製品は,洗濯を掛ける竿が内蔵されていて,備え付けの棒で出し入れ
が可能となっている。少し大げさなようだが,竿の格納もでき,使用していないとき
15 の空間のすっきり感を考えると有効である。天井に取り付けることで,高い位置で干
すことを可能にしていて,洗濯物を目線に入らないようにできる。さらに薄く,存在
感が無くなるとよい」というものであり,少なくとも被告製品1のデザインのうち,
原告のいう,グリップの断面を楕円形としたことなどの細部にわたる操作棒の形状は,
グッドデザイン賞受賞を決定するに当たりデザインとして評価されたものとは考え
20 られないというべきである。
したがって,仮に原告が被告製品1の操作棒の意匠を創作したものであるとしても,
操作棒のデザインがグッドデザイン賞受賞決定にデザイナーとして貢献したものと
は認めらないから,この点を斟酌しても,やはり原告は,被告製品1のデザイナーと
して表示されるべき者には当たらないというべきであり,原告の被告らに対する不法
25 行為の請求に理由がないとする上記判断は左右されない。
7 以上の次第で,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも
理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用し
て,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部


裁判長裁判官
10 森 崎 英 二



裁判官
野 上 誠 一




裁判官
大 川 潤 子


(別紙)
被 告 製 品 目 録

1 昇降式室内物干し DRY・WAVE TG1209

2 昇降式室内物干し DRY・WAVE TG1609

3 室内物干し DRY・WAVE ランドリーフック KG30

10 4 室内物干し DRY・WAVE ランドリーフック KF30

5 腰壁用物干し金物 「スクエア」 DRY・WAVE KD45

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