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平成29(ワ)31837損害賠償請求事件

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成30年1月30日
事件種別 民事
当事者 被告A は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成28年7月2日から の行為 は,上記ヤフオクにおいて,「注意 に対する刑事事件 による著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無 は,ソフトウェアのダウンロード販売をしたものではなく,ソフトウ
原告株式会社建築ピボット の損害額 は,被告の不法行為により本件ソフトウェアの141点分につき,正規 は,著作権侵害以外に,商標権侵害や不正競争防止法違反による不法行
法令 著作権
著作権法114条3項2回
著作権法15条2項1回
商標法37条1号1回
不正競争防止法2条1項11号1回
商標法38条3項1回
キーワード 侵害30回
許諾12回
商標権11回
損害賠償4回
無効1回
主文
事件の概要 本件は,原告が,「建築 CAD ソフトウェア「DRA-CAD11」(以下「本件ソフトウェ ア」という。)について著作権及び著作者人格権を有し,また「DRA-CAD」との文 字からなる商標に係る商標権を有しているところ,被告において,原告の許諾な しに本件ソフトウェアをダウンロード販売等すると共に,本件ソフトウェアのア クティベーション機能(正規品のシリアルナンバー等を入力しないとプログラム25 が起動・実行されないようにする機能をいう。)を回避するプログラムを顧客に 提供して同機能の効果を妨げたものであり,かかる被告の行為は,原告の上記著 作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害する とともに,原告の上記商標権を侵害し,さらに平成27年法律第54号による改 正前の不正競争防止法2条1項11号(同号は,同改正後の同法2条1項12号 に相当する。以下,単に「旧11号」という。)所定の不正競争行為に該当する」5 と主張して,被告に対し,上記各不法行為に基づき,損害賠償金2812万95 00円の一部である1000万円及びこれに対する平成28年7月2日(被告が 上記商標権侵害に関する刑事事件において有罪判決を受けた日の翌日)から支払 済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

平成30年1月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成29年(ワ)第31837号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成29年12月5日
判 決
原 告 株式会社建築ピボッ ト
同訴訟代理人弁護士 野 村 吉 太 郎
被 告 A
10 主 文
1 被告は,原告に対し,969万5700円及びこれに対する平成28
年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
15 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成28年7月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
20 第2 事案の概要
本件は,原告が,
「建築 CAD ソフトウェア「DRA-CAD11」
(以下「本件ソフトウェ
ア」という。)について著作権及び著作者人格権を有し,また「DRA-CAD」との文
字からなる商標に係る商標権を有しているところ,被告において,原告の許諾な
しに本件ソフトウェアをダウンロード販売等すると共に,本件ソフトウェアのア
25 クティベーション機能(正規品のシリアルナンバー等を入力しないとプログラム
が起動・実行されないようにする機能をいう。)を回避するプログラムを顧客に
提供して同機能の効果を妨げたものであり,かかる被告の行為は,原告の上記著
作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害する
とともに,原告の上記商標権を侵害し,さらに平成27年法律第54号による改
正前の不正競争防止法2条1項11号(同号は,同改正後の同法2条1項12号
5 に相当する。以下,単に「旧11号」という。)所定の不正競争行為に該当する」
と主張して,被告に対し,上記各不法行為に基づき,損害賠償金2812万95
00円の一部である1000万円及びこれに対する平成28年7月2日(被告が
上記商標権侵害に関する刑事事件において有罪判決を受けた日の翌日)から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
10 これに対し,被告は,商標権侵害の事実を認めるが,著作権侵害及び不正競争防
止法違反の各事実及び原告の損害額を争う。
1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,建築設計関連のプログラム開発及びこれらに関連するインターネ
15 ットの技術開発を業とする株式会社である。
イ 被告は,ヤフー株式会社が運営するインターネットオークションサイト
(以下「ヤフオク」という。)において,多くのソフトウェアを出品していた
者である。
(2) 本件ソフトウェア
20 ア 本件ソフトウェア(DRA-CAD11)は,いわゆる建築 CAD ソフトウェアであ
り,建築設計図面の作成,編集,印刷及び建築3次元モデル作成,レンダリ
ングを行う機能を有する Windows オペレーティングシステム向けプログラム
である DRA-CAD シリーズの一つである。
なお,本件ソフトウェアは,アクティベーション機能により,正規のユー
25 ザー以外の者は使えないようになっており,Bというモジュールプログラム
が上記アクティベーション機能を担っている(弁論の全趣旨)。
イ 原告は,本件ソフトウェアを販売しており,その定価は税込み19万95
00円であったが,営業担当者経由での直接販売ないしオンライン販売の場
合,原則として,10%引きの税込み17万9550円で販売していた(甲
12)。
5 (3) 原告の著作権及び商標権
ア 本件ソフトウェアの著作者は原告であり(著作権法15条2項),原告は
本件ソフトウェアの著作権及び著作者人格権を有している(後者につき弁論
の全趣旨)。
イ 原告は,別紙商標目録記載の商標(「DRA-CAD」との文字からなるもの,以
10 下「本件商標」という。)に係る以下の商標権(以下「本件商標権」という。)
を有している(甲7,8)。
登録番号 第5165277号
登録日 平成20年9月12日
指定商品及び役務の区分
15 第9類
指定商品 電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,映写フ
ィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,イ
ンターネットを利用して受信し,及び保存することができる画
像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子
20 出版物
第16類
指定商品 印刷物
(4) 被告の行為
ア 被告は,平成27年2月から4月にかけて,ヤフオクにおいて,商品名を
25 「『DRA-CAD11』建築設計・製図 CAD」などと記載し(以下,当該オークショ
ン対象商品を「本件商品」という。なお,後記のとおり,原告は,本件商品
は本件ソフトウェアであると主張するのに対し,被告は,本件商品はマニュ
アルであって,ソフトウェアではないと主張している。,即決価格4980

円で多数出品していた(甲9ないし11〔枝番の記載は省略する。以下同様〕。

被告は,上記ヤフオクにおいて,
「商品説明」欄に「DRA-CAD11」と,
「注意
5 事項」欄に「ダウンロード品同等」
「インストール完了までフルサポートさせ
て頂きます」などと,
「発送詳細」欄において「ダウンロード販売」であるな
どとそれぞれ記載していた。
イ 被告は,上記アの出品に際し,原告の許諾なく,ヤフオクにおいて出品情
報(「DRA-CAD11」との表示を含む。)を掲載し,これによって原告の本件商標
10 権を侵害した。
ウ 被告は,ヤフオクにおいて本件商品を入札して代金を被告に支払った顧客
に対し,本件ソフトウェア及びBのプログラムのクラック版(いずれも原告
の許諾がないもの)が蔵置されていたオンラインストレージサイト「C」の
URL をダウンロード先として教示し,かつ当該Bのプログラムのクラック版
15 の起動方法及び本件ソフトウェアの起動・実行方法を教示するマニュアル書
面を提供していた。当該顧客は,上記ダウンロード先から本件ソフトウェア
(無許諾品)及びセットアップCDの内容とクラックされたB
Ver.11.0.1.3 を入手することができ,セットアップを行った後,クラック版
のBを上書きすると,本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを
20 回避することができた。(甲6,弁論の全趣旨)
(5) 被告に対する刑事事件
ア 被告は,平成28年2月8日,別件の著作権法違反及び不正競争防止法違
反を被疑事実として逮捕・勾留され,その後,本件に関する商標法違反等を
被疑事実として再逮捕された。
25 イ 秋田地方検察庁大館支部は,別件に関する不正競争防止法違反で被告を起
訴し,さらに同年5月20日に,本件に関する商標法違反で被告を追起訴し
た。同事件において,被告は,本件商標に類似する商標をヤフオク上に掲載
し,インターネット端末を利用する不特定多数の者に閲覧させた(商標法3
7条1号違反)とされていた。
ウ 秋田地方裁判所大館支部において,同年6月10日に第1回公判期日が開
5 かれ,被告は,起訴事実を全て認めた。
同裁判所は,同年7月1日,被告に対し,懲役2年6月(執行猶予4年)
罰金200万円の有罪判決を言い渡し,同判決は確定した。
2 争点
(1) 被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無
10 (2) 被告による旧11号所定の不正競争行為の有無
(3) 原告の損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無)について
【原告の主張】
15 ア 原告が,本件ソフトウェアの正規品と,被告がダウンロード販売していた
ソフトウェア商品(本件商品)のファイル構成を比較したところ,両者が同
一であることが判明し,また本件商品においてセットアップを行ったところ,
正規品を実行させた場合と同じ結果になった。
以上のとおり,被告がダウンロード販売していた本件商品は,原告が著作
20 権等を有するプログラムが複製されたものである(複製権侵害) なお,
。 原告
は,被告に対し,本件ソフトウェアをオンラインストレージサイト「C」に
おいて記録蔵置(複製)することを許諾していない。
また,被告は,正規品で要求しているアクティベーションを回避して利用
できるようにするため,アクティベーション機能を持たせるためのモジュー
25 ルプログラムであるBを翻案し,正規のシリアル番号等を入力しなくても本
件ソフトウェアが起動・実行するように改変した(著作者人格権(同一性保
持権)及び翻案権侵害)。
さらに,被告は,原告の許諾を得ずに,本件ソフトウェアをダウンロード
販売という形態で第三者に譲渡し,譲渡対価を得ていた(譲渡権侵害)。
以上のとおり,被告は,原告の許諾なく,原告の著作権(複製権,翻案権,
5 譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害した。
イ 被告は,自らが出品したヤフオクの商品説明(甲11)において,
「ダウン
ロード販売ですので送料は不要になります」と説明していたにもかかわらず,
インストールマニュアルという「紙」を販売しただけと主張するが,購入者
はあくまでソフトウェアを購入するために被告に代金を支払ったのである。
10 被告は,もともとソフトウェアが違法にアップロードされているという著
作権法等違反の状態を認識しており,また「アップロードされている場所を
教える」とは,違法状態にあるソフトウェアの存在場所を知る立場を積極的
に利用して,場所を教えることにより,購入者に違法状態にあるソフトウェ
アの利用を可能にさせ,また本件ソフトウェアのように正規のシリアル番号
15 等を入力しなければ正常に起動・実行されないアクティベーション機能を回
避するための方法を購入者に教えて,本件ソフトウェアの利用を可能にさせ
る行為である。
以上によれば,被告の行為は,マニュアルという「紙」を販売しただけで
はなく,著作権法に違反する行為と評価されるべきである。
20 【被告の主張】
被告は,ソフトウェアのダウンロード販売をしたものではなく,ソフトウ
ェアがもともと違法にアップロードされている場所(ダウンロードアドレス)
を教えて,そのインストール方法をマニュアル化して販売したにすぎない。
ヤフオクでの購入者は,インストールマニュアルについて代金を支払ったも
25 のである。
実際に,落札後のやりとりの「落札通知」には,オークションの対象がマニ
ュアルであることが記載されており,このように落札前の「商品説明」と「落
札通知」とで内容が異なるため,落札者がキャンセルする場合も多かった。
以上のとおり,被告は,本件ソフトウェアを改変,記録蔵置(複製),ダウ
ンロード販売等してはいない。
5 (2) 争点(2)(被告による旧11号所定の不正競争行為の有無)について
【原告の主張】
本件ソフトウェアについて,被告は,正規購入者以外の者によるプログラ
ムの実行を制限するために用いている,いわゆるアクティベーション機能(正
規品のシリアルナンバー等を入力しないとプログラムが起動・実行されない
10 ようにするもの)を回避するプログラムを顧客に提供してアクティベーショ
ン機能の効果を妨げた。
具体的には,被告は,本件商品を入札して代金を被告に支払った,正規ユー
ザーではない者に,Bのプログラムのクラック版が蔵置されていたオンライ
ンストレージサイト「C」の URL を教示し,かつ当該Bのプログラムのクラ
15 ック版の起動方法及び本件商品の起動・実行方法を教示するマニュアル書面
を郵送し,上記非正規ユーザーが被告の指示どおりインターネットである電
気通信回線を通じて入手するようにさせたものであり,これは,被告が,他人
(原告)が,特定の者(正規ユーザー)以外の者にプログラム(本件ソフトウ
ェア)の実行をさせないために営業上用いている技術的制限手段(アクティ
20 ベーション機能)により制限されているプログラム(本件ソフトウェア)の実
行を,当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有す
るプログラム(Bのプログラムのクラック版)を,当該特定の者(正規ユーザ
ー)以外の者(ヤフオクで被告の出品した本件商品を入札して代金を被告に
支払った,正規ユーザーではない者)に電気通信回線を通じて提供したもの
25 である。
このように,被告は,原告が営業上用いている技術的制限手段により制限
されているプログラムの実行を当該技術的制限手段の効果を妨げることによ
り可能とする機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供したもの
であるから,旧11号に違反するものである。
【被告の主張】
5 否認ないし争う。被告は,単にマニュアルを販売したにすぎず,プログラム
を顧客に提供したことはない。
(3) 争点(3)(原告の損害額)について
【原告の主張】
ア 被告は,本件商品について4980円で出品しており,平成27年2月8
10 日時点で,被告がヤフオクに出品した本件商品は142点にのぼるところ,
DRA-CAD10(本件ソフトウェアの1つ前のバージョンの製品)の違法複製品
の落札実績(4980円で出品され,56点全てについて入札・落札された。)
と,本件商品の販売価格が著しく低額であることからすれば,本件商品も,
出品数142点全てが落札されたものと予測されるが,そのうち1点は,原
15 告社員が,本件商品が本件ソフトウェアのデッドコピーであるかどうかを確
認するために落札したものであるため,逸失利益から控除する。そうすると,
原告は,被告の不法行為により本件ソフトウェアの141点分につき,正規
に販売する機会を失ったというべきである。
また,本件ソフトウェアの標準小売価格は19万9500円(消費税込み)
20 であり,その141本分は合計2812万9500円となる。
なお,本件での著作権侵害に基づく原告の損害額は,著作権法114条3
項に基づいて算定しているところ,原告が本件ソフトウェアを販売する場合
に購入者が通常支払う金額は1本当たり19万9500円(消費税込み)で
あるから,上記のような違法行為を行った被告には同額を負担させるのが正
25 義にかなうというべきである(著作権法114条4項の規定も同趣旨)。
このほか,商標権侵害及び不正競争防止法違反による損害額については,
それぞれ商標法38条3項及び4項並びに不正競争防止法5条3項及び4
項によるべきであるが,いずれも著作権法114条3項及び4項と同趣旨の
規定であり,原告の被告に対する各請求権は,請求権競合の関係にあるから,
やはり上記同様,原告の標準小売価格が基準になるというべきである。
5 以上のとおり,被告の不法行為による原告の損害額は,19万9500円
×141本=2812万9500円となるが,原告は,このうち1000万
円についてのみ被告に対して請求する(一部請求)。
イ 仮に上記アの主張が否定されるとしても,被告が販売した本件商品のうち,
少なくとも66本分は落札され,被告が代金を取得したものである(甲9~
10 11)から,これによる原告の損害額は19万9500円×66本=131
6万7000円となり,原告は被告に対し,そのうち1000万円の支払を
請求する。
【被告の主張】
そもそも被告は原告の著作権等を侵害していないから,それを前提とする
15 原告の損害額についての主張は理由がない。
また,本件商品の落札者は,落札後,
「落札通知」によってインストールマ
ニュアルの送付及び連絡を受け,その時に購入するかキャンセルするかの選
択が可能であり,よく読まずに代金を支払った場合には返金可能としていた。
したがって,入金後のキャンセルも多数あり,被告が落札数の全部の代金を
20 取得したことはない。
また,価格差を考慮すれば,被告がマニュアルを販売しなかった場合に,
(需要者が)既に旧製品で販売されていなかった本件ソフトウェアを17万
9550円で購入することにはならない。
第3 争点に対する判断
25 1 争点(1)(被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無)について
(1) 前記第2,1前提事実(4)のとおり,被告は,ヤフオクにおいて,商品名を
「『DRA-CAD11』建築設計・製図 CAD」などと記載し,即決価格4980円で多
数出品し,その際,
「商品説明」欄に「DRA-CAD11」と,
「注意事項」欄に「ダウ
ンロード品同等」「インストール完了までフルサポートさせて頂きます」など
と,
「発送詳細」欄において「ダウンロード販売」であるなどとそれぞれ記載し
5 ていた。そして,被告は,ヤフオクにおいて本件商品を入札して代金を被告に
支払った顧客に対し,本件ソフトウェア及びBのプログラムのクラック版(い
ずれも原告の許諾がないもの)が蔵置されていたオンラインストレージサイト
「C」の URL をダウンロード先として教示し,かつ当該Bのプログラムのクラ
ック版の起動方法及び本件ソフトウェアの起動・実行方法を教示するマニュア
10 ル書面を提供していた。その結果,当該顧客は,上記ダウンロード先から本件
ソフトウェア(無許諾品)及びセットアップCDの内容とクラックされたB
Ver.11.0.1.3 を入手することができ,セットアップを行った後,クラック版の
Bを上書きすることにより,本件ソフトウェアで要求されるアクティベーショ
ンを回避することができた,というのである。
15 (2) 上記事実によれば,①被告は,ヤフオクにおいて,あくまで「DRA-CAD11」建
築設計・製図 CAD 自体をオークションの対象物と表示して出品しており,「商
品説明」欄には「DRA-CAD11」「注意事項」欄には「ダウンロード品同等」
, 「イ
ンストール完了までフルサポートさせて頂きます」「発送詳細」欄には「ダウ

ロード販売」と記載されていたこと,②かかる表示を見てオークションに入札
20 した顧客も,当然,本件ソフトウェアを安価に入手する意図で入札を行ったと
推認できること,③被告は,顧客に対し,本件ソフトウェア及びそのアクティ
べーション機能を担うプログラムのクラック版(いずれも原告の無許諾)のダ
ウンロード先をあえて教示し,かつこれらの起動・実行方法を教示するマニュ
アル書面を提供し,その結果,顧客が,本件ソフトウェア(無許諾品)を入手
25 した上,本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避してこれを
実行することができるという結果をもたらしており,被告の上記行為は,かか
る結果を発生させるのに不可欠なものであったこと,④被告は,営利目的でか
かる行為を行い,後記3認定のとおり多額の利益を得ていること,以上の事実
が認められる。
これらの事情を総合すれば,上記(1)の一連の経過により,被告は,本件ソフ
5 トウェアの一部に原告の許諾なく改変(アクティベーション機能の回避)を加
え(本件ソフトウェアの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的
表現に修正,変更等を加えて新たな創作的表現を付加し),同改変後のものを
ダウンロード販売したものと評価できるから,被告は,原告の著作権(翻案権
及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものと評価
10 すべきであり,これに反する被告の主張は採用できない。なお,原告は,譲渡
権侵害を主張しているが,有体物の譲渡ではなくソフトウェアのダウンロード
が行われたものとして,公衆送信権が侵害されたものと解すべきである。
他方で,原告は,被告が本件ソフトウェアをオンラインストレージサイト「C」
において記録蔵置(複製)している旨主張するが,本件ソフトウェアを「C」
15 という名前のサーバに保存したのが被告であることを認めるに足りる証拠は
ないから,原告の上記主張は採用できない。
2 争点(2)(被告による旧11号所定の不正競争行為の有無)について
(1) 前記第2,1前提事実(2)のとおり,原告は,自らが販売する本件ソフトウ
ェアについて,Bというプログラムが担うアクティベーション機能によって,
20 正規の購入者がシリアルナンバー等を入力しなければ利用できないようにし
ていたところ,前記1(1)のとおり,被告は,Bのクラック版が蔵置されていた
サイトのアドレス(ダウンロード先)をヤフオクでの落札者に知らせるととも
に,別途,インストール方法が記載されたマニュアルを提供して,本件ソフト
ウェアが要求するアクティベーションを回避可能にし,落札者がインターネッ
25 ト回線を通じて本件ソフトウェアと同等の本件商品をダウンロード可能な状
態にしたものである。
(2) 上記事実によれば,被告は,原告が営業上用いている技術的制限手段(アク
ティベーション)により制限されているプログラム(本件ソフトウェア)の実
行を,当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する
プログラム(Bのクラック版)を,電気通信回線(インターネット回線)を通
5 じて提供したものと評価できるから,被告は旧11号所定の不正競争行為を行
ったものと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
3 争点(3)(原告の損害額)について
(1) まず,著作権侵害による損害額についてみる。
第2,1前提事実(2)のとおり,本件ソフトウェアの定価は19万9500
10 円(税込み)であったものの,原告は,営業担当者経由での直接販売ないしオ
ンライン販売の場合,本件ソフトウェアを,原則として,定価から10%割引
きした17万9550円(税込み)で販売していたものである。
そして,被告による本件ソフトウェアのプログラムの著作権(翻案権及び公
衆送信権)侵害の態様は,故意により,本件ソフトウェアのアクティベーショ
15 ン機能を無効化するプログラム(Bのクラック版)の利用を教示することによ
り,本件商品が本件ソフトウェアと同一であるものとしてヤフオクに出品し,
本件商品を落札者に対してダウンロード販売したものと評価できるものであ
り,違法性が高いものといわざるを得ない。これによって本件ソフトウェアの
販売者(原告)や正規購入者に対して与える影響をも考慮すると,本件におい
20 て,原告が,被告の上記著作権侵害行為について,本件ソフトウェアの上記著
作権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3
項)は,本件ソフトウェアの定価19万9500円から10%を控除した17
万9550円に,本件商品の落札本数と認められる54本(甲9ないし11。
これを超える本数が落札・販売された事実を認めるに足りる証拠はない。)を
25 乗じた969万5700円であると認められる。
なお,被告は,ヤフオクでいったん落札された取引においても,入金後にキ
ャンセルされた場合も多数あると主張するが,同主張を認めるに足りる証拠は
ない。
また,被告は,両商品の価格差等を考慮すれば,仮に被告の行為がなかった
としても原告が本件ソフトウェアを(対象本数分)販売できたとはいえない旨
5 主張するが,前記のとおり,本件における被告の行為態様の悪質性に鑑みれば,
このような理由で損害額を減額するのは相当ではない。
なお,原告は,著作者人格権侵害も主張するが,これと原告の主張する損害
との間には因果関係が認められない。
(2) 原告は,著作権侵害以外に,商標権侵害や不正競争防止法違反による不法行
10 為についても損害賠償を請求するところ(原告は,これらが実体法上は請求権
競合であるとする。,本件全証拠によっても,商標権侵害及び不正競争防止法

違反による原告の損害額のいずれについても,上記(1)の著作権侵害に基づく
損害額である969万5700円を超えるものとは認められない。
4 結論
15 以上によれば,原告の請求は,損害賠償金969万5700円及びこれに対す
る不法行為後である平成28年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるからこれを認容し,その
余は理由がないからこれらをいずれも棄却し,原告の敗訴部分はごくわずかであ
るので,民訴法64条ただし書により訴訟費用を全て被告に負担させることとし,
20 主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖 中 康 人
裁判官 矢 口 俊 哉
裁判官 髙 櫻 慎 平

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