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平成29(行ケ)10121審決取消請求事件

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裁判所 一部認容 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成30年2月14日
事件種別 民事
当事者 被告ハリマ化成株式会社服部誠
原告千住金属工業株式会社多田宏文
対象物 はんだ合金,ソルダペーストおよび電子回路基板
法令 特許権
特許法29条2項2回
特許法36条6項1号1回
キーワード 実施35回
審決17回
無効15回
進歩性10回
新規性4回
無効審判2回
特許権1回
主文 1 特許庁が無効2016-800040号事件について平成29年4月24日にした審決のうち,特許第5723056号の請求項2~8に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを8分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩 性の有無(①引用発明の認定の当否,③本件発明と引用発明との対比判断の当否, ③相違点に係る判断の当否)についての認定判断の当否である。

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判決文

平成30年2月14日判決言渡
平成29年(行ケ)第10121号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成30年1月31日
判 決

原 告 千住金属工業株式会社

同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
多 田 宏 文

被 告 ハ リ マ 化 成 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 片 山 英 二
服 部 誠
中 村 閑
大 西 ひ と み
同訴訟代理人弁理士 加 藤 志 麻 子
主 文
1 特許庁が無効2016-800040号事件について平成29年4
月24日にした審決のうち,特許第5723056号の請求項2~8
に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを8分し,その1を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨

特許庁が無効2016-800040号事件について平成29年4月24日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩
性の有無(①引用発明の認定の当否,③本件発明と引用発明との対比判断の当否,
③相違点に係る判断の当否)についての認定判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,名称を「はんだ合金,ソルダペーストおよび電子回路基板」とする発明
についての特許(特許第5723056号。以下,「本件特許」という。)の特許権
者である(甲9,10)。
本件特許は,平成26年12月15日(以下,「本件出願日」という。)に出願さ
れ,平成27年4月3日に設定登録された(甲9,10)。
原告は,平成28年4月1日付けで本件特許の請求項1~8に係る発明(以下,
それぞれ,
「本件発明1」,
「本件発明2」などといい,まとめて「本件発明」という。)
について無効審判請求をし(乙1。無効2016-800040号),特許庁は,平
成29年4月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄
本は,同年5月9日,原告に送達された。
2 本件発明の要旨
本件発明の要旨は,以下のとおりである。
(本件発明1)
実質的に,スズ,銀,銅,ビスマス,アンチモンおよびコバルトからなるはんだ
合金であって,
前記はんだ合金の総量に対して,
前記銀の含有割合が,2質量%以上4質量%以下であり,
前記銅の含有割合が,0.3質量%以上1質量%以下であり,
前記ビスマスの含有割合が,4.8質量%を超過し10質量%以下であり,

前記アンチモンの含有割合が,3質量%以上10質量%以下であり,
前記コバルトの含有割合が,0.001質量%以上0.3質量%以下であり,
前記スズの含有割合が,残余の割合であることを特徴とする,はんだ合金。
(本件発明2)
さらに,ニッケル,インジウム,ガリウム,ゲルマニウムおよびリンからなる群
より選ばれた少なくとも1種の元素を含有し,
はんだ合金の総量に対して,前記元素の含有割合が,0質量%超過し1質量%以
下である,請求項1に記載のはんだ合金。
(本件発明3)
前記銅の含有割合が,0.5質量%以上0.7質量%以下である,請求項1また
は2に記載のはんだ合金。
(本件発明4)
前記ビスマスの含有割合が,4.8質量%を超過し7質量%以下である,請求項
1~3のいずれか一項に記載のはんだ合金。
(本件発明5)
前記アンチモンの含有割合が,5質量%以上7質量%以下である,請求項1~4
のいずれか一項に記載のはんだ合金。
(本件発明6)
前記コバルトの含有割合が,0.003質量%以上0.01質量%以下である,
請求項1~5のいずれか一項に記載のはんだ合金。
(本件発明7)
請求項1~6のいずれか一項に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末と,
フラックスとを
含有することを特徴とする,ソルダペースト。
(本件発明8)
請求項7記載のソルダペーストのはんだ付によるはんだ付け部を備えることを特

徴とする,
電子回路基板。
3 審決の要点
(1) 原告の主張した無効理由の要旨
ア 無効理由1
本件発明は,国際公開第2014/163167号(甲1。以下,「引用文献」
という。)に記載の発明(後記(2)で定義する引用発明1~3)及び引用文献の記載
事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の
規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本件発明に係る特許は同法123条1項2号に該当し,無効とすべ
きである。
イ 無効理由2
本件発明は,引用文献に記載の発明(後記(2)で定義する引用発明4~6)及び引
用文献の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法
29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本件発明に係る特許は同法123条1項2号に該当し,無効とすべ
きである。
ウ 無効理由3
本件発明2は,本件特許の明細書(以下,「本件明細書」という。)の発明の詳
細な説明に記載されたものとはいえないから,特許法36条6項1号の規定に違反
するものである。
したがって,本件発明2に係る特許は同法123条1項4号に該当し,無効とす
べきである。
(2) 発明の認定
ア 引用発明1
「Ag:3.4質量%,Cu:0.7質量%,Ni:0.04質量%,Sb:3.

0質量%,Bi:3.2質量%,Co:0.01質量%又は0.05質量%残部S
nからなる鉛フリーはんだ合金。」
イ 引用発明2
「Ag:3.4質量%,Cu:0.7質量%,Ni:0.04質量%,Sb:3.
0質量%,Bi:3.2質量%,Co:0.01質量%又は0.05質量%残部S
nからなる鉛フリーはんだ合金のはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペ
ースト。」
ウ 引用発明3
「Ag:3.4質量%,Cu:0.7質量%,Ni:0.04質量%,Sb:3.
0質量%,Bi:3.2質量%,Co:0.01質量%又は0.05質量%残部S
nからなる鉛フリーはんだ合金のはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペ
ーストのはんだ付けによるはんだ接合部を備える車載電子回路基板及びECU電子
回路基板。」
エ 引用発明4
「Ag:3.4質量%,Cu:0.7質量%,Ni:0.04質量%,Bi:5.
0質量%又は5.5質量%,Sb:5.0質量%残部Snからなる鉛フリーはんだ
合金。」
オ 引用発明5
「Ag:3.4質量%,Cu:0.7質量%,Ni:0.04質量%,Bi:5.
0質量%又は5.5質量%,Sb:5.0質量%残部Snからなる鉛フリーはんだ
合金からなるはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペースト。」
カ 引用発明6
「Ag:3.4質量%,Cu:0.7質量%,Ni:0.04質量%,Bi:5.
0質量%又は5.5質量%,Sb:5.0質量%残部Snからなる鉛フリーはんだ
合金からなるはんだ粉末とフラックスとを混合したソルダーペーストのはんだ付け
によるはんだ接合部を備える車載電子回路基板及びECU電子回路基板。」

(3) 無効理由1について
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と引用発明1との対比
(一致点)
「はんだ合金の総量に対して,
銀の含有割合が,3.4質量%であり,
銅の含有割合が,0.7質量%であり,
アンチモンの含有割合が,3.0質量%であり,
前記コバルトの含有割合が,0.01質量%又は0.05質量%であり,
前記スズの含有割合が,残余の割合であることを特徴とする,鉛フリーはんだ合
金。」
(相違点1)
本件発明1では,任意成分として,ニッケルを0質量%超~1質量%以下の範囲
で含むことを許容するものであるのに対し,引用発明1では,Ni:0.04質量%
を必須成分として含有する点。
(相違点2)
本件発明1では,「ビスマスの含有割合が,4.8質量%を超過し10質量%以
下であ」るのに対し,引用発明1では,「Bi:3.2質量%」である点。
(イ) 相違点についての判断
a 相違点1について
合金の発明において,ある元素が必須成分として含まれるのと,任意成分として
含まれるのとでは,その技術的な意味が異なることは明らかであるから,当該相違
点は実質的な相違点である。
そして,引用発明1においては,Niは,はんだ接合界面からのクラックの発生
や伝播抑制のために必須成分として含有されるものであり,引用発明1において,
このNiを任意成分とすることは,0.01質量%未満となることをも意味し,引

用発明1におけるNi含有の技述的意義を損なうことになるから,当該相違点に係
る構成を導くことは容易になし得たことであるとはいえない。
b 相違点2について
本件発明1は,鉛フリーはんだ合金によるはんだ付け後の落下振動など耐衝撃性
向上,さらには,そのようなはんだ付けされた部品の,比較的厳しい温度サイクル
条件(例えば,-40~125℃間の温度サイクルなど)下に曝露される場合にも,
耐衝撃性を維持することを課題とし,その解決のために,「実質的に,スズ,銀,
銅,ビスマス,アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって,前記はん
だ合金の総量に対して,前記銀の含有割合が,2質量%以上4質量%以下であり,
前記銅の含有割合が,0.3質量%以上1質量%以下であり,前記ビスマスの含有
割合が,4.8質量%を超過し10質量%以下であり,前記アンチモンの含有割合
が,3質量%以上10質量%以下であり,前記コバルトの含有割合が,0.001
質量%以上0.3質量%以下であり,前記スズの含有割合が,残余の割合であるこ
と」を特定したものである。
そして,本件明細書の実施例等の記載(【表1】~【表3】)のうち,実施例8
(Bi4.9質量%)と比較例5(Bi4.5質量%)を比べると,耐衝撃性(落
下衝撃試験による)については,実施例8がA++であるのに対し,比較例5がD
であり,冷熱サイクル後の耐衝撃性(落下衝撃試験による)については,実施例8
ではA+であるのに対し,比較例5はDであり,総合評価は,実施例8がA+であ
るのに対し,比較例5はDであり,「ビスマスの含有割合が,4.8質量%を超過
し10質量%以下である」ことが,上記「はんだ付け後の落下振動など耐衝撃性向
上,さらには,該はんだ付けされた部品の,比較的厳しい温度サイクル条件(例え
ば,-40~125℃間の温度サイクルなど)下に曝露される場合にも,耐衝撃性
を維持する」との課題解決に寄与していることが確認できる。
なお,はんだの破断メカニズムは,過剰な温度サイクルにより,落下衝撃に伴う
脆性クラックから,温度サイクル負荷によって生じる疲労性クラックと脆性クラッ

クの混合へと変化するものである。これに対し,引用文献において評価されている
はんだ合金の特性は,温度サイクル試験での3000サイクル後のクラック発生率
と,シェア強度残存率であり,本件発明1のような温度サイクル試験前の落下衝撃
性,すなわち部品実装直後の落下衝撃性については評価されておらず,また,温度
サイクル試験後の評価もシェア強度残存率であって,落下衝撃試験ではない。
そうすると,たとえ,引用文献に「本発明のはんだ合金に添加するBiの量は,
1.5~5.5質量%が好ましく,より好ましいのは,3~5質量%のときである。
さらに好ましくは,3.2~5.0質量%である。」と記載されていても,引用発
明1において,Bi量を既に好ましい範囲内にある3.2質量%から,あえて4.
8質量%超にまで増加させることによって,本件発明1のような温度サイクル試験
前の落下衝撃性の向上等の効果まで予測することは当業者が容易になし得るとはい
えない。
イ 本件発明2~6について
本件発明2~6と引用発明1とを対比すると,両者は少なくとも上記相違点2と
同じ相違点を有する。そして,上記相違点2についての判断は,上記アのとおりで
ある。
したがって,本件発明2~6は,引用発明1及び引用文献の記載事項に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明7について
本件発明7と引用発明2とを対比すると,両者は,少なくとも上記相違点2と同
じ相違点を有する。上記相違点2についての判断は,上記アのとおりである。
したがって,本件発明7は,引用発明2及び引用文献の記載事項に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明8について
本件発明8における電子回路基板は,「車載電子回路基板及びECU電子回路基
板」を包含するものと認められるから,本件発明8と引用発明3とを対比すると,

両者は,少なくとも上記相違点2と同じ相違点を有する。そして,上記相違点2に
ついての判断は,上記アのとおりである。
したがって,本件発明8は,引用発明3及び引用文献の記載事項に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 無効理由2について
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と引用発明4との対比
(一致点)
「はんだ合金の総量に対して,
銀の含有割合が,3.4質量%であり,
銅の含有割合が,0.7質量%であり,
ビスマスの含有割合が,5.0質量%または5.5質量%であり,
アンチモンの含有割合が,5.0質量%であり,
スズの含有割合が,残余の割合であることを特徴とする,鉛フリーはんだ合金。」
(相違点3)
本件発明1では,任意成分として,ニッケルを0質量%超~1質量%以下の範囲
で含むことを許容するものであるのに対し,引用発明4では,Ni:0.04質量%
を必須成分として含有する点。
(相違点4)
本件発明1では,「コバルトの含有割合が,0.001質量%以上0.3質量%
以下であ」るのに対し,引用発明4では,コバルトを含有していない点。
(イ) 相違点についての判断
a 相違点3について
合金の発明において,ある元素が必須成分として含まれるのと,任意成分として
含まれるのとでは,その技術的な意味が異なることは明らかであるから,当該相違
点は実質的な相違点である。

そして,引用発明4においては,Niは,はんだ接合界面からのクラックの発生
や伝播抑制のために必須成分として含有されるものであり,引用発明4において,
このNiを任意成分とすることは,0.01質量%未満となることをも意味し,引
用発明4におけるNi含有の技述的意義を損なうことになるから,当該相違点に係
る構成とすることは容易になし得たことであるとはいえない。
b 相違点4について
本件発明1は,鉛フリーはんだ合金によるはんだ付け後の落下振動など耐衝撃性
向上,さらには,該はんだ付けされた部品の,比較的厳しい温度サイクル条件(例
えば,-40~125℃間の温度サイクルなど)下に曝露される場合にも,耐衝撃
性を維持することを課題とし,その解決のために,「実質的に,スズ,銀,銅,ビ
スマス,アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって,前記はんだ合金
の総量に対して,前記銀の含有割合が,2質量%以上4質量%以下であり,前記銅
の含有割合が,0.3質量%以上1質量%以下であり,前記ビスマスの含有割合が,
4.8質量%を超過し10質量%以下であり,前記アンチモンの含有割合が,3質
量%以上10質量%以下であり,前記コバルトの含有割合が,0.001質量%以
上0.3質量%以下であり,前記スズの含有割合が,残余の割合であること」を特
定したものである。
そして,本件明細書の実施例等の記載(【表1】~【表3】)のうち,実施例1
5(Co:0.001質量%)と比較例9(Co:0.000質量%)を比べると,
耐衝撃性(落下衝撃試験による)については,実施例15がAであるのに対し,比
較例9がDであり,冷熱サイクル後の耐衝撃性(落下衝撃試験による)については,
実施例15ではAであるのに対し,比較例9はDであり,総合評価は,実施例15
がAであるのに対し,比較例9はDである。
これによると,「コバルトの含有割合が,0.001質量%以上0.3質量%以
下であ」ることが,上記「はんだ付け後の落下振動など耐衝撃性向上,さらには,
該はんだ付けされた部品の,比較的厳しい温度サイクル条件(例えば,-40~1

25℃間の温度サイクルなど)下に曝露される場合にも,耐衝撃性を維持する」と
の課題解決に,寄与していることが確認される。
これに対し,引用文献において評価されているはんだ合金の特性は,温度サイク
ル試験での3000サイクル後のクラック発生率と,シェア強度残存率であり,本
件発明のような温度サイクル試験前の落下衝撃性,すなわち部品実装直後の落下衝
撃性については評価がされておらず,また,温度サイクル試験後の評価もシェア強
度残存率であって,落下衝撃試験ではない。
そうすると,たとえ,引用文献に「本発明のはんだ合金では,CoまたはFe,
またはその両方を添加することで,本発明のNiの効果を高めることができる。特
に,Coは優れた効果を現す。本発明のはんだ合金に添加するCoとFeの量は,
合計量で,0.001質量%未満では接合界面に析出して界面クラックの成長を防
止する効果が現れず,0.1質量%を超えて添加されると界面に析出する金属間化
合物層が厚くなり,振動等でのクラックの成長が早くなってしまう。本発明に添加
するCoまたはFe,その両方を添加する量は,0.001~0.1質量%が好ま
しい。」と記載されていても,引用発明4において,「コバルトの含有割合が,0.
001質量%以上0.3質量%以下」とすることによって,本件発明1のような温
度サイクル試験前の落下衝撃性の向上等の効果まで予測することは当業者が容易に
なし得るとはいえない。
したがって,本件発明1は,引用発明4及び引用文献の記載事項に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~6について
本件発明2~6と引用発明4とを対比すると,両者は少なくとも上記相違点4と
同じ相違点を有する。そして,上記相違点4についての判断は,上記アのとおりで
ある。
したがって,本件発明2~6は,引用発明4及び引用文献の記載事項に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明7について
本件発明7と引用発明5とを対比すると,両者は,少なくとも上記相違点4と同
じ相違点を有する。上記相違点4についての判断は,上記アのとおりである。
したがって,本件発明7は,引用発明5及び引用文献の記載事項に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明8について
本件発明8における電子回路基板は,「車載電子回路基板及びECU電子回路基
板」を包含するものと認められるから,本件発明8と引用発明6とを対比すると,
両者は,少なくとも上記相違点4と同じ相違点を有する。そして,上記相違点4に
ついての判断は,上記アのとおりである。
したがって,本件発明8は,引用発明6及び引用文献の記載事項に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 無効理由3について
本件発明の課題は,従来のはんだ合金よりも,落下振動などの強力な衝撃を受け
た場合にも耐衝撃性に優れ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露される
場合でも,そのような優れた耐衝撃性を維持することのできるはんだ合金,はんだ
合金を含有するソルダペースト,そのソルダペーストを用いて得られる電子回路基
板を提供することである(本件明細書【0001】,【0004】~【0009】)。
本件明細書【0010】,【0018】~【0022】によると,本件発明は,
はんだ合金における必須成分として,スズ(Sn),銀(Ag),銅(Cu),ビ
スマス(Bi),アンチモン(Sb)及びコバルト(Co)を含有することにより,
優れた耐衝撃性を維持することができるものであるが,本件明細書【0040】,
【0041】によると,ニッケルの添加は耐衝撃性向上に直接関係するものではな
く,0質量%を超過し,1.0質量%以下の含有であれば,上記必須成分を含有す
ることによる耐衝撃性の効果を維持し得るという許容範囲を規定したものにすぎな
い。このことは,実施例1(Niを含有しない)と実施例19(Niを0.5質量%

含有する)の耐衝撃性,冷熱サイクル後耐衝撃性の評価が同じであることから見て
も明らかである(本件明細書【表1】,【表3】)。
したがって,本件発明2全てについて,本件発明の課題を解決できると当業者が
認識できないとはいえず,本件発明2は,発明の詳細な説明に記載されたものでは
ないとはいえない。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用文献に基づく本件発明1の容易想到性に関する認定及び判
断の誤り)
(1) 引用発明の認定の誤り
ア 審決の引用発明1及び4の認定は,引用文献に記載された発明を不当に
狭く限定するもので,誤りである。
引用文献の請求項3には,「Ag:1~4質量%,Cu:0.6~0.8質量%,
Sb:1~5質量%,Ni:0.01~0.2質量%,Bi:1.5~5.5質量%,
Co:0.001~0.1質量%,残部Snからなることを特徴とする鉛フリーは
んだ合金」が記載されている。引用文献は,この範囲の全てにわたって発明を開示
しているから,引用文献には,この範囲の合金に係る発明が記載されている。
したがって,引用発明1及び4は,次のように認定されるべきである。
「Ag:1~4質量%,Cu:0.6~0.8質量%,Sb:1~5質量%,N
i:0.01~0.2質量%,Bi:1.5~5.5質量%,Co:0.001~
0.1質量%,残部Snからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。 (以下,

「原告引用発明1」という。)
イ 原告引用発明1は,引用文献の【0022】~【0028】において,
個々の元素における含有量等が,独立して,特定の技術的意義を有することが明細
書において裏付けられている。
ウ なお,審判において審理の対象とされた公知事実について,一致点・相
違点につき審決と異なる主張をすることに,問題はない。

(2) 相違点1及び3の認定の誤り
本件発明は,「はんだ合金」という「物」の発明であり,「物」として見た場合,
本件発明1と原告引用発明1とは,いずれもニッケルを含有している点で実質的に
相違するものではなく,必須成分,任意成分の違いを,進歩性の判断をする上での
実質的相違点と解釈すべきではない。
(3) 相違点2の認定の誤り
本件発明1と原告引用発明1とは,ビスマスを4.
「 8質量%を超過し5.5質量%
以下含有する」点で一致するから,相違点2は存在しない。
(4) 相違点4の認定の誤り
本件発明1と原告引用発明1とは,
「コバルトを0.001~0.1質量%含有す
る」点で一致するから,相違点4は存在しない。
(5) 相違点の判断の誤り
ア 本件発明1と原告引用発明1とは構成において相違点はなく,容易に想
到し得る発明であるから,効果の点を検討するまでもなく,本件発明1は,進歩性
を有していない。
イ 相違点2に関する効果についての判断の誤り
前記(3)のとおり,相違点2は存在しない。それにもかかわらず,本件発明1が原
告引用発明1に対して新規性及び進歩性を有するためには,「ビスマスを4.8質
量%を超過し5.5質量%以下含有する」範囲の全体にわたって,格別顕著な効果
を有する必要があるところ,そのような効果は,本件明細書に直接明瞭に記載され
ていない。また,原告が行った耐落下衝撃性の実験(甲11。以下,「甲11実験」
という。)において,本件発明の技術的範囲に含まれ,かつ,原告引用発明1の数値
範囲にも含まれる組成のはんだと,本件発明の技術的範囲には含まれないが,原告
引用発明1の数値範囲に含まれる組成のはんだとを比較したが,その結果は,前者
が後者より格別顕著な効果を奏しているとはいえない。
ウ 相違点4に関する効果についての判断の誤り

前記(4)のとおり,相違点4は存在しない。それにもかかわらず,本件発明1が原
告引用発明1に対して新規性及び進歩性を有するためには,
「コバルトを0.001
~0.1質量%含有する」範囲の全体にわたって,格別顕著な効果を有する必要が
あるところ,そのような効果は,本件明細書に直接明瞭に記載されていない。
2 取消事由2~8(引用文献に基づく本件発明2~8の容易想到性に関する認
定及び判断の誤り)
(1) 引用発明の認定の誤り
引用発明2及び5は,次のように認定されるべきである。
「Ag:1~4質量%,Cu:0.6~0.8質量%,Sb:1~5質量%,N
i:0.01~0.2質量%,Bi:1.5~5.5質量%,Co:0.001~
0.1質量%,残部Snからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金のはんだ粉
末とフラックスとを混合したソルダーペースト。 以下,原告引用発明2」

( 「 という。)
また,引用発明3及び6は,次のように認定されるべきである。
「Ag:1~4質量%,Cu:0.6~0.8質量%,Sb:1~5質量%,N
i:0.01~0.2質量%,Bi:1.5~5.5質量%,Co:0.001~
0.1質量%,残部Snからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金のはんだ粉
末とフラックスとを混合したソルダーペーストのはんだ付けによるはんだ接合部を
備える車載電子回路基板及びECU電子回路基板。(以下,
」 「原告引用発明3」とい
う。)
(2) 相違点2に対応する相違点の認定の誤り
本件発明2~8と原告引用発明2及び3とは,
「ビスマスを4.8質量%を超過し
5.5質量%以下含有する」点で一致するから,相違点2に対応する相違点は存在
しない。
(3) 相違点4に対応する相違点の認定の誤り
本件発明2~8と原告引用発明2及び3とは,
「コバルトを0.001~0.1質
量%含有する」点で一致するから,相違点4に対応する相違点は存在しない。

(4) 相違点の判断の誤り
ア 本件発明2~8と原告引用発明2及び3とは構成において相違点はなく,
容易に想到し得る発明であるから,効果の点を検討するまでもなく,本件発明2~
8は,進歩性を有していない。
イ 相違点2に対応する相違点に関する効果についての判断の誤り
前記(2)のとおり,相違点2に対応する相違点は存在しない。それにもかかわらず,
本件発明2~8が進歩性を有するためには,「ビスマスを4.8質量%を超過し5.
5質量%以下含有する」範囲の全体にわたって格別顕著な効果を有する必要がある
ところ,そのような効果は本件明細書に直接明瞭に記載されていない。
ウ 相違点4に対応する相違点に関する効果についての判断の誤り
前記(3)のとおり,相違点4に対応する相違点は存在しない。それにもかかわらず,
本件発明2~8が新規性及び進歩性を有するためには,コバルトを0.
「 001~0.
1質量%含有する」範囲の全体にわたって格別顕著な効果を有する必要があるとこ
ろ,そのような効果は本件明細書に直接明瞭に記載されていない。
第4 被告の主張
1 取消事由1について
(1) 引用発明の認定の誤りがないこと
ア 合金は,その効果の予測性が極めて低いから,所与の特性が得られる組
合せについては,実施例に示された具体的な合金構成を考慮して初めて理解できる。
すなわち,合金においては,それぞれの合金ごとに,その組成成分の一つでも含有
量等が異なれば,全体の特性が異なることが通常であって,所定の含有量を有する
合金元素の組合せの全体が一体のものとして技術的に評価されるものである。
したがって,審決が,本件発明1に対しては,それと最も近い組成を開示する実
施例45,46に基づいて引用発明1を認定し,本件発明2に対しては,それと最
も近い組成を開示する実施例42,43に基づいて引用発明4を認定したことにつ
き誤りはない。

イ 審決においては,原告が主張したのと同じ内容の引用発明1及び4が認
定されたのであるから,引用発明の認定誤りをいう原告の主張は,主張自体失当で
ある。
(2) 相違点の認定及び相違点の容易想到性の判断に誤りがないこと
ア 相違点1及び3について
(ア) 原告は,審決に引用発明の認定の誤りが存在することを前提として相
違点1及び3の認定誤りを主張するが,前記(1)のとおり,引用発明の認定誤りはな
いから,原告の主張は前提において誤っている。
(イ) 合金は,その組成が一体的に技術的意義を有するのであるから,ニッ
ケルが任意成分として含まれるにすぎず,ニッケルを含まない組成を取り得ること
と,ニッケルを必須成分として含むこととは,その技術的意義が全く異なる。した
がって,相違点1及び3は実質的な相違点である。
イ 相違点2及び4について
(ア) 原告の相違点2及び4の認定誤りの主張は,審決の引用発明1及び4
の認定誤りを前提とするものである。前記(1)のとおり,審決に引用発明の認定誤り
はないから,原告の主張はその前提において誤っている。
(イ) 原告は,本件発明1が原告引用発明1に対して新規性及び進歩性を有
するためには,本件発明1におけるビスマスの数値範囲,又は,コバルトの数値範
囲の全体にわたって顕著な効果を有する必要がある,と主張する。
しかし,この主張は,本件発明1と原告引用発明1とが同一の物であるとの誤っ
た主張を前提とするから,理由がない。本件発明1と引用発明1及び4との間には,
ビスマスの含有量又はコバルトの含有量について明確な相違点があり,これを容易
想到とする理由はないから,本件発明1は,引用発明1及び4に対して,進歩性を
有する。
甲11実験は,本件発明の効果の予測性と無関係であるから,この実験に基づく
主張は,失当である。

2 取消事由2~8について
原告が主張する取消事由2~8は,取消事由1と本質的に同内容であり,これに
理由がないことは前記1のとおりである。
第5 当裁判所の判断
1 本件発明の認定
(1) 本件明細書には,以下の記載がある(甲10)。
【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】本発明は,はんだ合金,ソルダペ
ーストおよび電子回路基板に関し,詳しくは,はんだ合金,そのはんだ合金を含有
するソルダペースト,さらに,そのソルダペーストを用いて得られる電子回路基板
に関する。
【背景技術】【0002】一般的に,電気・電子機器などにおける金属接合では,
ソルダペーストを用いたはんだ接合が採用されており,このようなソルダペースト
には,従来,鉛を含有するはんだ合金が用いられる。
【0003】しかしながら,近年,環境負荷の観点から,鉛の使用を抑制するこ
とが要求されており,そのため,鉛を含有しないはんだ合金(鉛フリーはんだ合金)
の開発が進められている。
【0004】このような鉛フリーはんだ合金としては,例えば,スズ-銅系合金,
スズ-銀-銅系合金,スズ-銀-インジウム-ビスマス系合金,スズ-ビスマス系
合金,スズ-亜鉛系合金などがよく知られているが,とりわけ,スズ-銀-銅系合
金,スズ-銀-インジウム-ビスマス系合金などが広く用いられている。
【0005】より具体的には,例えば,スズ-銀-銅系合金として,銀3.4質
量%,銅0.7質量%,ニッケル0.04質量%,アンチモン3.0質量%,ビス
マス3.2質量%およびコバルト0.01質量%を含有し,残部がSnであるはん
だ材料が,提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/1
63167号パンフレット

【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0007】一方,このようなは
んだ合金によりはんだ付すると,落下振動などの衝撃によってはんだ接合部が破損
する場合がある。そのため,はんだ合金としては,はんだ付後における耐衝撃性の
向上が要求されている。
【0008】さらに,はんだ合金によりはんだ付される部品は,自動車のエンジ
ンルームなど,比較的厳しい温度サイクル条件(例えば,-40~125℃間の温
度サイクルなど)下において用いられる場合がある。そのため,はんだ合金として
は,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露される場合にも,耐衝撃性を維持する
ことが要求されている。
【0009】本発明の目的は,耐衝撃性に優れ,また,比較的厳しい温度サイク
ル条件下に曝露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持できるはんだ合金,そ
のはんだ合金を含有するソルダペースト,さらに,そのソルダペーストを用いて得
られる電子回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】【0010】本発明の一観点に係るはんだ合金は,
実質的に,スズ,銀,銅,ビスマス,アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合
金であって,前記はんだ合金の総量に対して,前記銀の含有割合が,2質量%以上
4質量%以下であり,前記銅の含有割合が, 3質量%以上1質量%以下であり,
0.
前記ビスマスの含有割合が,4.8質量%を超過し10質量%以下であり,前記ア
ンチモンの含有割合が,3質量%以上10質量%以下であり,前記コバルトの含有
割合が,0.001質量%以上0.3質量%以下であり,前記スズの含有割合が,
残余の割合であることを特徴としている。
【0011】また,前記はんだ合金は,さらに,ニッケル,インジウム,ガリウ
ム,ゲルマニウムおよびリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含有
し,はんだ合金の総量に対して,前記元素の含有割合が,0質量%超過し1質量%
以下であることが好適である。
【0012】また,前記はんだ合金では,前記銅の含有割合が,0.5質量%以

上0.7質量%以下であることが好適である。
【0013】また,前記ビスマスの含有割合が,4.8質量%を超過し7質量%
以下であることが好適である。
【0014】また,前記アンチモンの含有割合が,5質量%以上7質量%以下で
あることが好適である。
【0015】また,前記コバルトの含有割合が,0.003質量%以上0.01
質量%以下であることが好適である。
【0016】また,本発明の他の一観点に係るソルダペーストは,上記のはんだ
合金からなるはんだ粉末と,フラックスとを含有することを特徴としている。
【0017】また,本発明のさらに他の一観点に係る電子回路基板は,上記のソ
ルダペーストのはんだ付によるはんだ付部を備えることを特徴としている。
【発明の効果】【0018】本発明の一観点に係るはんだ合金は,実質的にスズ,
銀,銅,ビスマス,アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金において,各成
分の含有割合が,上記の所定量となるように設計されている。
【0019】そのため,本発明の一観点に係るはんだ合金によれば,優れた耐衝
撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合に
おいても,優れた耐衝撃性を維持することができる。
【0020】そして,本発明の他の一観点に係るソルダペーストは,上記はんだ
合金を含有するので,優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度
サイクル条件下に曝露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができ
る。
【0021】また,本発明のさらに他の一観点に係る電子回路基板は,はんだ付
において,上記ソルダペーストが用いられるので,優れた耐衝撃性を得ることがで
き,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優れた耐
衝撃性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】【0022】本発明の一観点に係るはんだ合金は,

必須成分として,スズ(Sn),銀(Ag),銅(Cu),ビスマス(Bi),アンチ
モン(Sb)およびコバルト(Co)を含有している。換言すれば,はんだ合金は,
実質的に,スズ,銀,銅,ビスマス,アンチモンおよびコバルトからなる。なお,
本明細書において,実質的とは,上記の各元素を必須成分とし,また,後述する任
意成分を後述する割合で含有することを許容する意味である。
【0023】このようなはんだ合金において,スズの含有割合は,後述する各成
分の残余の割合であって,各成分の配合量に応じて,適宜設定される。
【0024】銀の含有割合は,はんだ合金の総量に対して,2質量%以上,好ま
しくは,3.0質量%以上,より好ましくは,3.3質量%以上であり,4質量%
以下,好ましくは,3.8質量%以下,より好ましくは,3.6質量%以下である。
【0025】銀の含有割合が上記範囲であれば,優れた耐衝撃性を得ることがで
き,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優れた耐
衝撃性を維持することができる。
【0026】一方,銀の含有割合が上記下限を下回る場合には,耐衝撃性に劣る。
また,銀の含有割合が上記上限を上回る場合にも,耐衝撃性に劣る。
【0027】銅の含有割合は,はんだ合金の総量に対して,0.3質量%以上,
好ましくは,0.5質量%以上であり,1質量%以下,好ましくは,0.7質量%
以下である。
【0028】銅の含有割合が上記範囲であれば,優れた耐衝撃性を得ることがで
き,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優れた耐
衝撃性を維持することができる。
【0029】一方,銅の含有割合が上記下限を下回る場合には,耐衝撃性に劣る。
また,銅の含有割合が上記上限を上回る場合にも,耐衝撃性に劣る。
【0030】ビスマスの含有割合は,はんだ合金の総量に対して,4.8質量%
を超過しており,好ましくは,10質量%以下,好ましくは,7質量%以下である。
【0031】ビスマスの含有割合が上記範囲であれば,優れた耐衝撃性を得るこ

とができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優
れた耐衝撃性を維持することができる。
【0032】一方,ビスマスの含有割合が上記下限を下回る場合には,耐衝撃性
に劣る。また,ビスマスの含有割合が上記上限を上回る場合にも,耐衝撃性に劣る。
【0033】アンチモンの含有割合は,はんだ合金の総量に対して,3質量%以
上,好ましくは,3質量%を超過,より好ましくは,5質量%以上であり,10質
量%以下,好ましくは,9.2質量%以下,より好ましくは,7質量%以下である。
【0034】アンチモンの含有割合が上記範囲であれば,優れた耐衝撃性を得る
ことができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,
優れた耐衝撃性を維持することができる。
【0035】一方,アンチモンの含有割合が上記下限を下回る場合には,耐衝撃
性に劣る。また,アンチモンの含有割合が上記上限を上回る場合にも,耐衝撃性に
劣る。
【0036】コバルトの含有割合は,はんだ合金の総量に対して,0.001質
量%以上,好ましくは,0.003質量%以上であり,0.3質量%以下,好まし
くは,0.01質量%以下,より好ましくは,0.007質量%以下である。
【0037】コバルトの含有割合が上記範囲であれば,優れた耐衝撃性を得るこ
とができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優
れた耐衝撃性を維持することができる。
【0038】一方,コバルトの含有割合が上記下限を下回る場合には,耐衝撃性
に劣る。また,コバルトの含有割合が上記上限を上回る場合にも,耐衝撃性に劣る。
【0039】また,上記はんだ合金は,任意成分として,さらに,ニッケル(N
i),インジウム(In),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),リン(P)な
どを含有することができる。
【0040】任意成分としてニッケルを含有する場合には,その含有割合は,は
んだ合金の総量に対して,例えば,0質量%を超過し,例えば,1.0質量%以下

である。
【0041】ニッケルの含有割合が上記範囲であれば,本発明の優れた効果を維
持することができる。
【0042】任意成分としてインジウムを含有する場合には,その含有割合は,
はんだ合金の総量に対して,例えば,0質量%を超過し,例えば,1.0質量%以
下である。
【0043】インジウムの含有割合が上記範囲であれば,本発明の優れた効果を
維持することができる。
【0044】任意成分としてガリウムを含有する場合には,その含有割合は,は
んだ合金の総量に対して,例えば,0質量%を超過し,例えば,1.0質量%以下
である。
【0045】ガリウムの含有割合が上記範囲であれば,本発明の優れた効果を維
持することができる。
【0046】任意成分としてゲルマニウムを含有する場合には,その含有割合は,
はんだ合金の総量に対して,例えば,0質量%を超過し,例えば,1.0質量%以
下である。
【0047】ゲルマニウムの含有割合が上記範囲であれば,本発明の優れた効果
を維持することができる。
【0048】任意成分としてリンを含有する場合には,その含有割合は,はんだ
合金の総量に対して,例えば,0質量%を超過し,例えば,1.0質量%以下であ
る。
【0049】リンの含有割合が上記範囲であれば,本発明の優れた効果を維持す
ることができる。
【0050】これら任意成分は,単独使用または2種類以上併用することができ
る。
【0051】任意成分として上記の元素が含有される場合,その含有割合(2種

類以上併用される場合には,それらの総量)は,はんだ合金の総量に対して,例え
ば,0質量%を超過し,例えば,1.0質量%以下となるように,調整される。
【0052】任意成分の含有割合の総量が上記範囲であれば,本発明の優れた効
果を維持することができる。
【0057】そして,このようにして得られるはんだ合金の,DSC法(測定条
件:昇温速度0.5℃/分)により測定される融点は,例えば,190℃以上,好
ましくは,200℃以上であり,例えば,250℃以下,好ましくは,240℃以
下である。
【0058】はんだ合金の融点が上記範囲であれば,ソルダペーストに用いた場
合に,簡易かつ作業性よく金属接合することができる。
【実施例】0077】
【 次に,本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが,
本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。以下の記載において用い
られる配合割合(含有割合),物性値,パラメータなどの具体的数値は,上記の「発
明を実施するための形態」において記載されている,それらに対応する配合割合(含
有割合),物性値,パラメータなど該当記載の上限値(「以下」「未満」として定義

されている数値)または下限値(「以上」「超過」として定義されている数値)に代

替することができる。
【0078】実施例1~24および比較例1~16
・はんだ合金の調製
表1~2に記載の各金属の粉末を,表1~2に記載の配合割合でそれぞれ混合
し,得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて,はんだ合金を調製
した。
【0079】また,各実施例および各比較例の配合処方におけるスズ(Sn)の
配合割合は,表1~2に記載の各金属(銀(Ag),銅(Cu),ビスマス(Bi),
アンチモン(Sb),コバルト(Co),ニッケル(Ni),インジウム(In),ガ
リウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),リン(P)および鉄(Fe))の配合割合(質

量%)を,はんだ合金の総量から差し引いた残部である。
【0098】・ソルダペーストの調製
得られたはんだ合金を,粒径が25~38μmとなるように粉末化し,得られた
はんだ合金の粉末と,公知のフラックスとを混合して,ソルダペーストを得た。
【0099】・ソルダペーストの評価
得られたソルダペーストをチップ部品搭載用のプリント基板に印刷して,リフロ
ー法によりチップ部品を実装した。実装時のソルダペーストの印刷条件,チップ部
品のサイズ等については,後述する各評価に応じて適宜設定した。
【0100】【表1】


【0101】【表2】


【0102】<評価>
各実施例および各比較例において得られた合金を使用したソルダペーストを,チ
ップ部品搭載用プリント基板に印刷して,リフロー法によりチップ部品を実装した。
ソルダペーストの印刷膜厚は,厚さ150μmのメタルマスクを用いて調整した。
ソルダペーストの印刷後,アルミニウム電解コンデンサ(5mmφ,5.8mm高
さ)を上記プリント基板の所定位置に搭載して,リフロー炉で加熱し,チップ部品
を実装した。リフロー条件は,プリヒートを170~190℃,ピーク温度を24
5℃,220℃以上である時間が45秒間,ピーク温度から200℃までの降温時
の冷却速度を3~8℃/秒に設定した。
【0103】さらに,上記プリント基板を125℃の環境下で30分間保持し,
次いで,-40℃の環境下で30分間保持する冷熱サイクル試験に供した。その結
果を,表3および表4に示す。
<落下衝撃性>
部品実装直後のプリント基板について,1mの高さから5回落下させ,部品と基
板の接合部が破壊するかどうかを外観観察することにより評価した。

【0104】具体的には,100個の搭載部品中,落下した個数が5個以下のも
のをランクA++(5点),落下個数6~10個のものをランクA+(4点),落下
個数11~15個のものをランクA(3点) 落下個数16~30のものをランクB

(2点),落下個数31~50個のものをランクC(1点),落下個数51個以上の
ものをランクD(0点)とした。
【0105】また,冷熱サイクルを1000サイクル繰り返したプリント基板に
ついても,上記と同様に評価した。
<総合評価>
「落下衝撃性」および「冷熱サイクル後の落下衝撃性」の合計点が10点のもの
を総合判定A++,合計点が8点または9点のものを総合判定A+,合計点が6点
または7点のものを総合判定A,合計点が4点または5点のものを総合判定B,合
計点が2点または3点のものを総合判定C,合計点が0点または1点のものを総合
判定Dとした。


【0106】【表3】


【0107】【表4】


(2) 以上から,本件発明は以下のとおりのものと認められる。
本件発明は,はんだ合金,ソルダペースト及び電子回路基板に関し,詳しくは,
はんだ合金,そのはんだ合金を含有するソルダペースト,さらに,そのソルダペー
ストを用いて得られる電子回路基板に関する。【0001】
( )
一般的に,電気・電子機器などにおける金属接合では,ソルダペーストを用いた
はんだ接合が採用されており,このようなソルダペーストには,従来,鉛を含有す
るはんだ合金が用いられてきた。しかし,近年,環境負荷の観点から,鉛の使用を
抑制することが要求されており,そのため,鉛を含有しないはんだ合金(鉛フリー
はんだ合金)の開発が進められている。【0002】【0003】
( , )
一方,このようなはんだ合金によりはんだ付けすると,落下振動などの衝撃によ
ってはんだ接合部が破損する場合がある。そのため,はんだ合金としては,はんだ
付け後における耐衝撃性の向上が要求されている。さらに,はんだ合金によりはん
だ付けされる部品は,自動車のエンジンルームなど,比較的厳しい温度サイクル条

件(例えば,-40~125℃間の温度サイクルなど)下において用いられる場合
がある。そのため,はんだ合金としては,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露
される場合にも,耐衝撃性を維持することが要求されている。【0007】
( 【000
8】)
本件発明は,上記課題を解決するために,必須成分として,スズ,銀,銅,ビス
マス,アンチモン及びコバルトを一定量の範囲内で含有することにより,耐衝撃性
に優れ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優れ
た耐衝撃性を維持できるはんだ合金,そのはんだ合金を含有するソルダペースト,
さらに,そのソルダペーストを用いて得られる電子回路基板である。【0010】

~【0038】)
また,本件発明は,任意成分として,ニッケル,インジウム,ガリウム,ゲルマ
ニウム,リンを含有することができるが,その含有量を一定量以下とすることによ
り,優れた効果を維持することができるものである。【0039】~【0052】
( )
2 取消事由1(引用文献に基づく本件発明1の容易想到性に関する認定及び判
断の誤り)について
(1) 引用発明の認定
ア 引用文献には,以下の記載がある(甲1)。
【請求の範囲】
【請求項1】
Ag:1~4質量%,Cu:0.6~0.8質量%,Sb:1~5質量%,Ni:
0.01~0.2質量%,残部Snからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
さらに,Bi:1.5~5.5質量%を含有することを特徴とする請求項1に記
載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
さらに,CoおよびFeから選択された元素を少なくとも1種を合計で0.00

1~0.1質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鉛フリーは
んだ合金。
【請求項4】
請求項1~3に記載の鉛フリーはんだ合金であって,温度サイクル試験の300
0サイクル後の初期値に対するシェア強度残存率が30%以上であることを特徴と
する鉛フリーはんだ合金。
【請求項5】
請求項1~4に記載の鉛フリーはんだ合金であって,Cu-OSP処理を施した
基板と接合されることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の鉛フリーはんだ合金からなるはんだ接合部を有
する車載電子回路。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の鉛フリーはんだ合金からなるはんだ接合部を有
するECU電子回路。
【請求項8】
請求項6記載の電子回路を備えた車載電子回路装置。
【請求項9】
請求項7記載のECU電子回路を備えたECU電子回路装置。
【明細書】
【技術分野】
【0001】本発明は,温度サイクル特性に優れ,衝突などの衝撃に
強い鉛フリーはんだ合金と,車載電子回路装置とに関する。
【背景技術】
【0002】自動車には,プリント回路基板(以降プリント基板とい
う)に半導体やチップ抵抗部品などの電子部品をはんだ付けした電子回路(以下,
車載電子回路という)が搭載されている。車載電子回路は,エンジン,パワーステ
アリング,ブレーキ等を電気的に制御する装置に使用されており,そのような装置

は自動車の走行にとって非常に重要な保安部品となっている。特に,燃費向上のた
めにコンピューターで自動車の走行,特にエンジンの作動を制御する電子回路を備
えた,ECU(Engine Control Unit)と呼ばれる車載電子回
路装置は,長期間に渡って故障がなく安定した状態で稼働できるものでなければな
らない。このECUは,一般的にエンジン近傍に設置されているものが多く,使用
環境としては,かなり厳しい。本明細書では,この車載電子回路装置を単に「EC
U」ともいい,「ECU電子回路装置」ともいう。
【0003】このような車載電子回路が設置されるエンジン近傍は,エンジンの
回転時には125℃以上という非常な高温となる。一方,エンジンの回転を止めた
ときには外気温度,例えば北米やシベリヤなどの寒冷地であれば冬季に-40℃以
下という低温になる。従って,車載電子回路は エンジンの運転とエンジンの停止
の繰り返しで-40℃以下~+125℃以上というヒートサイクルに曝される。
【0004】車載電子回路がそのように温度が大きく変化する環境に長期間置か
れると,電子部品とプリント基板がそれぞれ熱膨張・収縮を起こす。しかしながら,
主にセラミックスでできている電子部品の線熱膨張係数とガラスエポキシ基板でき
ているプリント基板の線熱膨張係数の差が大きいため,上記環境下での使用中に一
定の熱変位が電子部品とプリント基板とを接合しているはんだ付け部(以下,
「はん
だ接合部」という。)に起こり,はんだ接合部にはそのような温度変化によって繰り
返し応力(ストレス)が加わる。すると,そのようなストレスで,最終的にははん
だ接合部の接合界面等が破断してしまう。電子回路では,はんだ接合部が完全破断
しないまでも99%以下のクラック率でもはんだ接合部にクラックが入ることによ
って,電気的には導通しているとしても,回路の抵抗値が上昇して,誤動作するこ
とも考えられる。はんだ接合部にクラックが発生して,車載電子回路装置,特にE
CUが誤動作を起こすことは,避けなければならない。このように,車載電子回路
装置,特にECUにとって温度サイクル特性が特に重要であり,それに使用される
はんだ接合部,つまりはんだ合金も考えられる限りの厳しい温度条件でも使用でき

ることが要求される。
【0005】この使用条件の厳しい,車載電子回路装置,特にECU用のはんだ
として,Ag:2.8~4質量%,Bi:1.5~6質量%,Cu:0.8~1.
2質量%,Ni,FeおよびCoからなる群から選んだ少なくとも1種を合計量で
0.005~0.05質量%,残部Snからなることを特徴とする車載用鉛フリー
はんだ(WO2009/011341A,特許文献1)等が開示されている。
【0006】また,単なるはんだ合金組成として,主成分としてのSn(錫)に
加えて,10重量%またはそれ未満のAg(銀),10重量%またはそれ未満のBi
(ビスマス),10重量%またはそれ未満のSb(アンチモン)および3重量%また
はそれ未満のCu(銅)を含んでなる合金を含んでなり,合金がさらに,1.0重
量%またはそれ未満のNi(ニッケル)を含んでなるはんだ物質(特開2006-
524572号公報,特許文献2)も開示されている。
【先行技術文献】【特許文献】【0007】
特許文献1:WO2009/011341A
特許文献2:特開2006-524572号公報
【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0008】ハイブリッド自動車
や電気自動車の普及に見られるように,自動車に於けるメカ部品から電子部品への
移行は進んでおり,それに伴いサイズの余裕があった自動車用の電子回路でも小型
化が求められている。そのため,従来はリフローソルダリングの後,フローソルダ
リングではんだ付けされていた車載電子回路が,近年は両面ともソルダぺーストで
面実装する両面リフローはんだ付けされることが当然となっている。これは車載電
子回路の高密度化をもたらし,これまで見られなかったクラックモードの不具合が
現れるようになった。
【0009】ところで,特許文献1の発明は厳しい環境での寿命が長いはんだ合
金を開示したものであったが,自動車は輸送手段として用いられるものであるので,
一箇所に静置されることは少なく,道路等で使用される事が多い。このような道路

で使用されるときは,悪路により車載電子回路装置には常時振動が加わり,また縁
石への乗り上げや前の車との衝突など,車載電子回路装置は外部からの力が加わる
事が多く発生する。車の衝突でも大事故であれば,車載電子回路装置ごと交換する
ことが多いが,単なる接触事故では車の外装の交換だけで済まされることが多く,
車載電子回路装置には,厳しい環境に耐えられるだけでなく,外部からの加わる力
にも耐えられ無ければならない。
【0010】特に,最近の自動車は,電気自動車やハイブリッド自動車の普及な
ど,電子化が進み,車載電子回路装置も小型化,高密度化が進んできた。そのため,
車載電子回路のはんだ接合部のはんだ量も減少し,例えば,3216サイズのチッ
プ部品では,はんだ接合部のはんだ量が片側で標準1.32mgであるのに対し,
車載電子回路用では片側で0.28mg未満という微細なはんだ量しかない。その
ため,従来の電子回路では図1のようにチップ部品側面にはんだフィレット部分が
突き出しているが,車載電子回路のはんだ接合部では図2のようにチップ部品側面
にはんだフィレットがほとんどない。よって,車載電子回路のはんだ接合部では,
図2のようにほぼ一直線にクラックが伝播するという新たなクラックモードが生じ,
誤動作をもたらすことが問題となってきた。
【0011】本発明が解決しようとする課題は,低温が-40℃,高温が125℃
というような厳しい温度サイクル特性に長期間耐えられるだけでなく,縁石への乗
り上げや前の車との衝突などで発生する外部からの力に対しても長期間に耐える事
が可能なはんだ合金およびそのはんだ合金を使用した車載電子回路装置を開発する
ことである。
【課題を解決するための手段】
【0012】本発明者らは,長期間の温度サイクル
後の外部からの力に耐えるには,Sn相に固溶する元素を添加して固溶強化型の合
金を作ることが有効なこと,固溶析出強化型の合金を作るにはSbが最適な元素で
あること,さらにSnマトリックス中のSbの添加は微細なSnSb金属間化合物
が形成され,析出分散強化の効果も現すことを見い出し,本発明を完成させた。

【0013】本発明は,Agが1~4質量%,Cuが0.6~0.8質量%,S
bが1~5質量%,Niが0.01~0.2質量%,残部がSnの鉛フリーはんだ
合金である。さらに,Biを1.5~5.5質量%を添加しても良い。さらに,C
oおよびFeから選択された元素を少なくとも1種を合計で0.001~0.1質
量%添加しても良い。
【0014】ここに,本発明にかかる合金の冶金学的組織上の特徴は,はんだ合
金がSnマトリックス中にSbが固溶している組織からなり,該組織は,例えば1
25℃の高温ではSbが安定して固溶した状態を呈するが,温度低下に伴って,S
nマトリックスに対してSbが,徐々に,過飽和状態で固溶するようになり,そし
て,例えば-40℃という低温では,SnSb金属間化合物としてSbが析出する
組織である。
【0015】さらに本発明は,上述のはんだ合金を使ってはんだ付けを行って得
た車載電子回路およびそのような電子回路を備えた車載電子回路装置である。
ここに,
「車載」または「車載用」というのは,自動車に搭載されるということで
あり,具体的には,過酷な使用環境,すなわち,-40℃から125℃という温度
環境に繰り返し曝されて使用されても所定の特性を確保でき,自動車に搭載可能で
あるということである。より具体的には,そのような温度環境下でも3000サイ
クルのヒートサイクル試験に耐え得て,その条件下でも外部からの力を評価するシ
ェア試験に対して耐性を有するということである。
【0016】本発明のはんだ合金が,温度サイクルに曝された後も微細なSbの
析出物を作り,化合物の粗大化といった組織劣化が生じない理由は次のように考え
られる。
リフローはんだ付けで接合する車載用はんだ合金は,低温は冷寒地,高温はエン
ジンルームを模式して,-40℃~+125℃の温度サイクル試験が課せられる。
本発明のはんだ合金では,添加したSbが,例えば125℃という高温状態でSn
マトリックス中に再固溶し,例えば-40℃という低温状態でSnSb金属間化合

物が析出するという工程が繰り返されることによって,SnSb金属間化合物の粗
大化が止まり,温度サイクル試験を実施する中で,一度粗大化したSnSb金属化
合物も高温側でSnマトリックス中に再溶解するので,微細なSnSb金属間化合
物が形成され,析出分散強化型のはんだ合金が維持させる。
【0017】ところが,Sbの量を,5質量%を超えて,例えば8質量%添加す
ると,温度サイクル試験の初期でのSnSb化合物の粒径が大きく微細にならず,
また,液相線温度が上昇するので,はんだ合金に添加したSbが高温側でも再溶解
せずに元のSnSbの結晶粒のままである。したがって,上述のような温度サイク
ル下での使用を繰り返えしても微細なSnSb金属間化合物が形成することはない。
【0018】さらに,Sbの量を5質量%を超えて添加すると,はんだ合金の液
相線温度が上昇してしまうので,リフロー加熱の温度を上昇させないとはんだ付け
することができない。このように,リフロー条件を上昇させるとプリント基板の表
面に配線させているCuがはんだ中に溶融して,Cu6Sn5等のSnCuの金属間
化合物層がプリント基板とのはんだ付け部に厚く形成され易くなり,プリント基板
とはんだ接合部が破壊され易くなる。
【0019】本発明において,はんだ合金中に添加したSbは,はんだ合金のS
nマトリックス中にSnSbという化合物の形で微細な析出物となり,-40~+
125℃の温度サイクルを3000サイクル近く繰り返しても,Snマトリックス
中でSnSb金属間化合物の微細析出物の状態を維持することができる。このこと
により,セラミックス等の電子部品とはんだ接合部の界面に発生し易いクラックを
SnSbの析出物が邪魔する。
【0020】本発明によれば,上述の温度サイクル試験経過後であっても,Sn
マトリックス中のSnSb金属間化合物の粒子径は,試験開始前の粒径のSnSb
金属間化合物の粒子とほぼ同じ0.6μm以下であり,粗大化が抑制された粒径と
なる。したがって,はんだ中に部分的にクラックが入っても,微細なSnSb金属
間化合物がそのようなクラックの伝播を阻害することで,クラックがはんだの内部

に広がることを抑制できる。
【発明の効果】0021】
【 本発明にかかるはんだ合金は,-40℃から+125℃
の温度サイクル試験を3000サイクル近く繰り返しても,微量なはんだ量のはん
だ接合部にもクラックが発生せず,また,クラックが発生した場合においても,ク
ラックがはんだ中を伝播することを抑制した,優れた温度サイクル特性を発揮でき
る。
本発明にかかるはんだ合金を,微少なはんだ量で,はんだフィレットがほとんど
なく薄いはんだ接合部を有する車載電子回路のはんだ付けに用いることで,-40
から+125℃の温度サイクルに曝される使用環境下で使用しても,はんだ接合部
にクラックが発生せず,例えクラックが発生したとしても,はんだ中を伝播するこ
とが抑制されるため,信頼性の高い車載電子回路および車載電子回路装置を得るこ
とができる。
また,本発明のはんだ合金は,接合界面で発生するクラックも抑制されており,
特にECU装置のはんだ付けに適した特性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】本発明のはんだ合金に添加され
るSbが1質量%未満では,Sb量が少なすぎてSnマトリックス中にSbが分散
する形態が現れず,さらに固溶強化の効果も現れない。さらに,はんだ接合部のシ
ェア強度も低くなる。また,Sbが5質量%を超えるようなSbの添加では,液相
線温度が上昇するので,炎天下のエンジン稼働時等に現れる125℃を超す高温時
にSbが再溶融しないので,SnSb金属間化合物の粗大化が進み,はんだ中にク
ラックが伝播することを抑制することができない。さらに,液相線温度が上がると
実装時の温度ピークが上がるので,プリント基板の表面に配線されているCuがは
んだ中に溶融して,Cu6Sn5等のSnCuの金属間化合物層がプリント基板との
はんだ付け部に厚く形成され易くなり,プリント基板とはんだ接合部が破壊され易
くなる。
したがって,本発明のSbの量は1~5質量%であり,好ましくは3~5質量%

である。後述するBiが配合される場合には,Sbの量は3超~5%が好ましい。
【0023】本発明のはんだ合金では,はんだ中におけるクラックの発生と伝播
を抑制すると共に,セラミック部品とはんだ接合部のはんだ接合界面でのクラック
の発生も抑制している。例えば,Cuランドにはんだ付けするとCu6Sn5の金属
間化合物がCuランドとの接合界面に発生するが,本発明のはんだ合金はNiを0.
01~0.2質量%含有しており,この含有しているNiは,はんだ付け時にはん
だ付け界面部分に移動して,Cu6Sn5ではなく(CuNi)6Sn5が発生して,
界面の(CuNi) 6Sn5の金属間化合物層のNi濃度が高くなる。これにより,
はんだ付け界面にCu6Sn5よりも微細で,粒径が揃った(CuNi)6Sn5の金
属間化合物層が形成される。微細な(CuNi)6Sn5の金属間化合物層は,界面
から伝播するクラックを抑制する効果を有する。これは,Cu6Sn5のような大き
な粒径がある金属間化合物層では,発生したクラックが大きな粒径に沿って伝播す
るので,クラックの進展が早い。ところが粒径が微細なときは,発生したクラック
の応力が多くの粒径方向に分散するので,クラックの進展を遅くすることができる。
【0024】このように,本発明のはんだ合金では,Niを添加することで,は
んだ付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属間化合物を微細化して,クラッ
クの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する働きをして
いる。そのため,本発明のはんだ合金は接合界面からのクラックの発生や伝播の抑
制も可能である。
Niの量が0.01質量%未満では,はんだ付け界面のNiの量が少ないため,
はんだ接合部界面の改質効果が不十分であるためクラック抑止効果がなく,Niの
量が0.2質量%を超えてしまうと,液相線温度が上昇するため,本発明に添加し
たSbの再溶融が発生せず,微細なSnSb金属間化合物の粒径維持の効果を阻害
してしまう。
したがって,本発明のNiの量は,0.01~0.2質量%が好ましく,より好
ましくは0.02~0.1質量%である。さらに好ましくは,0.02~0.08%

である。
【0025】本発明に添加されているAgは,はんだのぬれ性向上効果とはんだ
マトリックス中にAg3Snの金属間化合物のネットワーク状の化合物を析出させ
て,析出分散強化型の合金を作り,温度サイクル特性の向上を図る効果が発揮され
る。
本発明のはんだ合金で,Agの含有量が1質量%未満では,はんだのぬれ性の向
上効果が発揮されず,Ag3Snの析出量が少なくなり,金属間化合物のネットワ
ークが強固とはならない。また,Agの量が4質量%より多くなると,はんだの液
相線温度が上昇して,本発明にしたがって添加したSbの再溶融が起らず,SnS
b金属間化合物の微細化の効果を阻害してしまう。
したがって,本発明に添加するAgの量は,1~4質量%が好ましい。より好ま
しくは,Agの量が3.2~3.8質量%である。
【0026】本発明のはんだ合金に添加されているCuは,Cuランドに対する
Cu食われ防止効果とはんだマトリックス中に微細なCu 6 Sn5 の化合物を析出
させて温度サイクル特性を向上させる効果がある。
本発明のはんだ合金のCuが0.6質量%未満では,Cuランドに対するCu食
われ防止が現れず,Cuが0.8質量%を超えて添加するとCu6Sn5の金属間化
合物が接合界面にも多く析出するので,振動等でのクラックの成長が早くなってし
まう。
【0027】本発明のはんだ合金では,Biを添加することで,さらに温度サイ
クル特性を向上させることができる。本発明で添加したSbは,SnSb金属間化
合物を析出して析出分散強化型の合金を作るだけでなく,原子配列の格子に入り込
み,Snと置換することで原子配列の格子を歪ませてSnマトリックスを強化する
ことで,温度サイクル特性を向上させる効果も有している。このときに,はんだ中
にBiが入っていると,BiがSbと置き換わるので,さらに温度サイクル特性を
向上させることができる。BiはSbより原子量が大きく,原子配列の格子を歪ま

せる効果が大きいからである。また,Biは,微細なSnSb金属間化合物の形成
を妨げることがなく,析出分散強化型のはんだ合金が維持される。
本発明のはんだ合金に添加するBiの量が,1.5質量%未満ではSbとの置換
が起き難く,微細なSnSb金属間化合物の量が少なくなるため,温度サイクル向
上効果が現れない,また,Biの量が5.5質量%を超えて添加するとはんだ合金
自体の延性が低くなって堅く硬く,もろくなるので,振動等でのクラックの成長が
早くなってしまう。
本発明のはんだ合金に添加するBiの量は,1.5~5.5質量%が好ましく,
より好ましいのは,3~5質量%のときである。さらに好ましくは,3.2~5.
0質量%である。
【0028】さらに,本発明のはんだ合金では,CoまたはFe,またはその両
方を添加することで,本発明のNiの効果を高めることができる。特に,Coは優
れた効果を現す。
本発明のはんだ合金に添加するCoとFeの量は,合計量で,0.001質量%
未満では接合界面に析出して界面クラックの成長を防止する効果が現れず,0.1
質量%を超えて添加されると界面に析出する金属間化合物層が厚くなり,振動等で
のクラックの成長が早くなってしまう。
本発明に添加するCoまたはFe,その両方を添加する量は,0.001~0.
1質量%が好ましい。
【0029】本発明にかかるはんだ合金は,これまでの説明からも明らかなよう
に,ヒートサイクル性に優れており,はんだ中のクラックの発生や伝播が抑制され
るから,絶えず振動を受けている状態で使用される自動車用,つまり車載用として
使用されても,クラックの成長や進展が促進されることはない。したがって,その
ような特に顕著な特性を備えていることから,本発明にかかるはんだ合金は,自動
車に搭載する電子回路のはんだ付けに特に適していることがわかる。
【0030】ここに,本明細書でいう「ヒートサイクル性にすぐれている」とは,

後述する実施例でも示すように-40℃以下+125℃以上というヒートサイクル
試験を行っても,3000サイクル後のクラック発生率が90%以下であり,同じ
く,3000サイクル後のシェア強度残存率が,30%以上を言う。
【0031】このような特性は,上記ヒートサイクル試験のような非常に過酷な
条件で使用されても,車載電子回路が破断しない,つまり使用不能あるいは誤動作
をもたらさないことを意味しており,特にECU用のはんだ付けに用いられるはん
だ合金としては信頼性の高いはんだ合金である。さらに,本発明のはんだ合金は,
温度サイクル経過後のシェア強度残存率に優れている。つまり,長期間使用しても
衝突や振動等の外部から加わる外力に対してシェア強度等の外力に対する耐性が低
下しない。
このように,本発明にかかるはんだ合金は,より特定的には,車載電子回路のは
んだ付けに用いられ,あるいは,ECU電子回路のはんだ付けに用いられて優れた
ヒートサイクル性を発揮するはんだ合金である。
【実施例1】【0035】表1では,表1の各はんだ合金について,液相線温度,
温度サイクル試験の初期値と1500サイクル後のSnSb粒径,クラック率を測
定を以下の方法で測定した。
【0036】(はんだの溶融試験)
表1の各はんだ合金を作製して,はんだの溶融温度を測定した。測定方法は,固
相線温度はJIS Z3198-1に準じて行った。液相線温度は,JIS Z3
198-1を採用せずに,JIS Z3198-1の固相線温度の測定方法と同様
のDSCによる方法で実施した。
結果を表1の液相線温度に示す。
【0037】(温度サイクル試験)
表1のはんだ合金をアトマイズしてはんだ粉末とした。松脂,溶剤,活性剤,チ
キソ剤,有機酸等からなるはんだ付けフラックスと混和して,各はんだ合金のソル
ダペーストを作製した。ソルダペーストは,6層のプリント基板(材質:FR-4)

に150μmのメタルマスクで印刷した後,3216のチップ抵抗器をマウンター
で実装して,最高温度235℃,保持時間40秒の条件でリフローはんだ付けをし,
試験基板を作製した。
各はんだ合金ではんだ付けした試験基板を低温-40℃,高温+125℃,保持
時間30分の条件に設定した温度サイクル試験装置に入れ,初期値,1500サイ
クル後に各条件で温度サイクル試験装置から取り出し,3500倍の電子顕微鏡で
観察して,はんだ合金のSnマトリックス中のSnSb金属間化合物の粒子の平均
粒径を測定した。
結果を表1のクラック率とSnSb粒径に示す。
ここで,表1中の※1はSnSb金属間化合物が見えず測定ができなかったこと
を示し,※2ははんだの液相線温度が高く,リフロー条件の235℃でははんだ付
けできなかったことを示す。
【0038】(クラック率)
クラック発生率は,クラックが想定クラック長さに対して,クラックが生じた領
域がどの程度かの指標となる。SnSbの粒径測定後に,150倍の電子顕微鏡を
用いて,クラックの状態を観察して,クラックの全長を想定し,クラック率を測定
した。
クラック率(%)= クラック長さの総和×100
想定線クラック全長
ここに,「想定線クラック全長」とは,完全破断のクラック長さをいう。
クラック率は,図5に示した複数のクラック7の長さの合計を,クラック予想進
展経路8の長さで割った率である。
結果は,表1に記載する。


【0039】【表1】


【0040】表1からは,温度サイクル試験の1500サイクル後も,SnSb
の結晶粒が粗大化せずに,初期値と変わらないままの状態で維持されていることが
わかる。
【0041】図3に,実施例5のはんだ合金について,3500倍の電子顕微鏡
で撮った,温度サイクル試験における3000サイクル後のSnSb金属間化合物
7の状態を示す。実施例5のSnSb金属間化合物は微細であり,はんだ中に万遍
なく散在している。そのため,クラックが入っても,SnSb金属間化合物にクラ
ックが入るのを阻害する。
【0042】図4に比較例4のはんだ合金について,3500倍の電子顕微鏡で
撮った,温度サイクル試験における3000サイクル後のSnSb金属間化合物7
の状態を示す。比較例のSnSb金属間化合物は肥大しており,SnSb金属間化
合物の中のクラックの発生を抑制できない。
【実施例2】
【0043】次に,表2では,表2の各はんだ合金について,温度サイクル試験
での3000サイクル後のクラック発生率とシェア強度残存率を測定した。クラッ
ク発生率の測定方法は,表1と同じだが,サイクル数は3000サイクルとした。
シェア強度残存率の測定方法は以下の通りである。
【0044】(シェア強度残存率)
シェア強度残存率は,初期状態のはんだ付け部のシェア強度に対して温度サイク

ル試験にどの程度の強度が維持されているかの指標となる。
シェア強度試験は,継手強度試験機STR‐1000を用いて,室温下で,試験
速度6mm/min,試験高さは50μmの条件で行った。
結果はまとめて表2に示す。
【0045】【表2】


【0046】表2より,Sn-Ag-Cu-Ni-Sb系のはんだ合金について,
Sb含有量に対して,クラック発生率とシェア強度残存率をプロットしたグラフを
図6に示す。Sb量が本発明の範囲内である1.0~5.0%の時に,クラック発
生率は90%以下で,且つ,シェア強度残存率は30%以上であり,本発明のはん
だ合金によって,温度サイクル特性に優れ,衝突などの衝撃に強いはんだ合金が得
られる。
【0047】表2より,Sn-Ag-Cu-Ni-Sb-Bi系のはんだ合金に
対して,Bi含有量に対して,Sb量別に,クラック発生率をプロットしたグラフ
を図7に示す。Bi量が本発明の範囲内である1.5~5.5%で,且つ,Sb量
が1~5%の時に,クラック発生率が90%以下となり,温度サイクル特性に優れ,
クラック発生を抑制することができる。
【0048】表2より,Sn-Ag-Cu-Ni-Sb-Bi系のはんだ合金に
対して,Bi含有量に対して,Sb量別に,シェア強度残存率をプロットしたグラ
フを図8に示す。Bi量が本発明の範囲内である1.5~5.5%で,且つ,Sb
量が1~5%の時に,シェア強度残存率が30%以上となり,衝突などの衝撃に強
く,クラック発生を抑制することができる。
イ 以上より,引用発明は,次のとおりのものと認められる。
引用発明の課題は,低温が-40℃,高温が125℃というような厳しい温度サ
イクル特性に長期間耐えられるだけではなく,縁石への乗り上げや前の車との衝突
などで発生する外部からの力に対しても長期間耐えることが可能なはんだ合金及び
そのはんだ合金を使用した車載電子回路装置を開発することである 【0008】
( ~
【0011】。

上記の課題を解決するために,引用発明の発明者は,長期間の温度サイクル後の
外部からの力に耐えるには,Sn相に固溶する元素を添加して固溶強化型の合金を
作ることが有効なこと,固溶析出型の合金を作るにはSbが最適な元素であること,
さらにSnマトリックス中のSbの添加は微細なSnSb金属間化合物が形成され,

析出分散強化の効果を現わすことを見いだした(【0012】。そして,はんだ合金

中のSbは,原子配列の格子に入り込み,Snと置換することで原子配列の格子を
歪ませてSnマトリックスを強化することで,温度サイクルを向上させる効果も有
しているところ,はんだ合金に添加されるSb量が少なすぎると,Snマトリック
ス中にSbが分散する形態が現れず,固溶強化の効果も現れないが,反対に,Sb
量が多すぎると,高温時にSbが再溶融しないので,SnSb金属間化合物の粗大
化が進み,はんだ中にクラックが伝播することを抑制できない(【0016】~【0
020】【0022】【0027】。はんだ合金にNiを添加することで,はんだ
, , )
付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属間化合物を微細化して,クラックの
発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する(【0023】,
【0024】。はんだ合金中のAgは,はんだのぬれ性向上効果とはんだマトリッ

クス中にAg3Snの金属間化合物のネットワーク状の化合物を析出させて,析出
分散強化型の合金を作り,温度サイクル特性の向上を図る効果が発揮される 【00

25】。はんだ合金中のCuは,Cuランドに対するCu食われ防止効果とはんだ

マトリックス中に微細なCu 6 Sn 5 の化合物を析出させて温度サイクル特性を向
上させる効果がある(【0026】。はんだ中にBiが入っていると,BiがSbと

置き換わるので,さらに温度サイクル特性を向上させることができる【0027】。
( )
はんだ合金中のCo又はFeは,Niの効果を高めることができる(【0028】。

以上のような個々の金属の特性等を考慮して,引用発明の発明者は,Ag,Cu,
Sb,Ni及びSnを必須の要素とするはんだ合金,及び,さらに,Bi,Co又
はFeを含むはんだ合金を発明した。
ウ 証拠(乙2~4)及び弁論の全趣旨によると,合金は,組成,含有比率
及び温度によってその相(液相か固相か)や結晶構造が異なり,成分となる金属の
数が増えれば,さらに含有比率及び温度による状態の変化は複雑となること,合金
を構成する元素が同じであっても配合量が異なることにより,金属組織が異なり,
性質が異なること,合金は,その性質及び特性の基礎となる金属組織の形成の予測

性が低く,効果の予測性が低い技術分野に該当することが認められる。これらのこ
とからすると,合金は,
「所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとし
て技術的意義を有するであって,所与の特性が得られる組合せについては,実施例
に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮して初めて理解できる」とい
う技術常識があると認めることができる。
エ 引用文献の記載及び前記ウの技術常識からすると,引用文献における温
度サイクル試験での3000サイクル後のクラック発生率とシェア強度残存率を測
定した結果,引用発明の効果が現れたと認められる実施例のうち,本件発明1に最
も近似している,実施例45及び46,並びに実施例42及び43から引用発明を
認定すべきである。
したがって,引用発明は,前記第2の3(2)のとおりに認定される。
オ 原告の主張について
原告は,引用発明1及び4に代えて,引用文献の請求項3に記載されたものを原
告引用発明1と認定すべきと主張する。
しかし,上記ウの「所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとして
技術的意義を有するのであって,所与の特性が得られる組合せについては実際に作
製された合金組成を考慮して初めて理解できる」という合金の技術常識に照らすと,
原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 対比
ア 本件発明1と引用発明1及び4とを対比すると,前記第2の3(3)ア(ア)
及び同(4)ア(ア)のとおりの一致点及び相違点を認定することができる。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件発明1と原告引用発明1とは,いずれもニッケルを含有
している点で実質的に相違するものではない,と主張する。
しかし,引用発明1及び4におけるニッケルは,前記(1)イのとおり,クラックの
発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制するという,引用発

明の課題解決のために不可欠な技術的意義を有する必須の成分とされているもので
ある。それに対して,本件発明1においては,ニッケルは任意成分にすぎない。し
たがって,両者の技術的意義が相違するから,相違点1及び3は実質的な相違点で
ある。
(イ) 原告は,審決の引用発明1及び4の認定が誤っているから,相違点2
及び4は存在しない,と主張する。
しかし,前記(1)のとおり,審決の引用発明1及び4の認定に誤りはなく,原告の
主張はその前提を欠き,失当である。
(3) 相違点の判断
ア 相違点1及び3について
引用発明1及び4において,ニッケルは,クラックの発生を抑制するとともに,
一旦発生したクラックの伝播を抑制する技術的意義を有し,これは,引用発明にお
ける課題である外部からの力に対して長時間耐えることに貢献するものといえる。
このように引用発明1及び4において不可欠な要素であるニッケルを,任意成分と
する動機付けは存在しない。
したがって,引用発明1及び4のニッケルを任意成分として,相違点1及び3に
係る構成を備えることは,当業者が容易に想到し得るものではない。
イ よって,その余の点を判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明1
及び4から容易に想到し得るものではない。
(4) 以上のとおり,取消事由1には,理由がない。
3 取消事由2~8について
(1) 引用発明2,3,5及び6の認定
ア 前記2(1)によると,引用文献には,前記第2の3(2)のとおりの,引用発
明2,3,5及び6が記載されているものと認められる。
イ 原告の主張について
原告は,引用発明2,3,5及び6に代えて,引用文献の請求項3に記載された

ものに対応するものを原告引用発明2及び3と認定すべき,と主張する。
しかし,前記2(1)オで判示したところと同様に,原告の上記主張を採用すること
はできない。
(2) 対比
ア 本件発明2~8と,引用発明1~3を対比すると,少なくとも,前記第
2の3(3)ア(ア)の相違点2(ただし,本件発明4については,ビスマスの含有割合は,
4.8質量%を超過し7質量%以下である)において相違する。
本件発明2~8と,引用発明4~6を対比すると,少なくとも,前記第2の3(4)
ア(ア)の相違点4(ただし,本件発明6については,コバルトの含有割合は,0.0
03質量%以上0.01質量%以下である)において相違する。
イ 原告の主張について
原告は,相違点2及び4に対応する相違点は存在しない,と主張するが,その前
提とする引用発明の認定に誤りがあるから,失当である。
(3) 相違点の判断
ア 相違点2について
引用文献の【0027】には,はんだ合金に,Biを添加することで,さらに温
度サイクル特性を向上させることができ,添加するBiの量は,1.5~5.5質
量%が好ましいことが記載されている。したがって,引用発明1~3のビスマスの
量を,上記好ましい量の範囲内である,4.8質量%を超過し,5.5質量%まで
の範囲とする動機付けがあるといえる。
そして,本件発明2~8においてビスマスの含有割合が所定の範囲内であること
の効果は,
「優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条
件下に曝露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができる」
(本件明
細書【0031】)ことにある。引用発明1~3においてビスマスの含有割合を上記
好ましい範囲内とすることの効果は,温度サイクル特性を向上させること(引用文
献【0027】)であるが,ここにいう温度サイクル特性とは,「-40℃から+1

25℃の温度サイクル試験を3000サイクル近く繰り返しても,微量なはんだ量
のはんだ接合部にもクラックが発生せず,また,クラックが発生した場合において
も,クラックがはんだ中を伝播することを抑制」する(引用文献【0021】)とい
う性質である。温度サイクル試験後のはんだ接合部にクラックが発生せず,クラッ
クが発生してもその伝播を抑制する効果が高まれば,厳しい温度サイクル条件下の
耐衝撃性も高まるものといえる。そして,厳しい温度サイクル条件下の耐衝撃性が
高ければ,そのような厳しい条件下にない場合の耐衝撃性も高いことが予想される。
したがって,本件発明2~8におけるビスマスの含有割合を所定の範囲内とするこ
との上記効果は,引用発明1~3のビスマスの量を4.8質量%を超過し,5.5
質量%までの範囲とする上記効果と比較して,格別顕著な効果であるとはいえない。
以上より,引用発明1~3において,Bi:3.2質量%の数値を,相違点2に
係る,
「4.8質量%を超過し,5.5質量%まで」の範囲の本件発明2~8の構成
とすることは,当業者が容易になし得たものである。
イ 相違点4について
引用文献の【0028】には,はんだ合金に,Coを添加することで,Niの効
果を高めることができ,添加する量は,0.001~0.1質量%が好ましいこと
が記載されている。したがって,引用発明4~6にコバルトを添加し,その量を0.
001質量%~0.1質量%とする動機付けがあるといえる。
本件発明2~8においてコバルトの含有割合が所定の範囲内であることの効果は,
「優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝
露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができる」
(本件明細書【0
037】)ことにある。そして,引用発明4~6においてコバルトの含有割合を上記
好ましい範囲内とすることの効果は,Niの効果を高めること,すなわち,はんだ
付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属管化合物を微細化して,クラックの
発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する働きをする(引
用文献【0024】【0028】
, )という効果を高めることである。クラックの発生

を抑制し,一旦発生したクラックの伝播を抑制すれば,耐衝撃性がより優れ,これ
が維持されるといえる。したがって,本件発明2~8におけるコバルトの含有割合
が所定の範囲内であることの効果は,引用発明4~6においてコバルトを添加し,
その含有割合を0.001質量%~0.1質量%とすることの効果と比較して,格
別顕著なものであるとはいえない。
以上より,引用発明4~6にコバルトを添加し,その量を0.001質量%~0.
1質量%として,相違点4に係る,
「コバルトの含有割合が,0.001質量%以上
0.1質量%以下(本件発明6については0.003質量%以上0.01質量%以
下)」の本件発明2~8の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。
ウ 被告の主張について
被告は,本件発明2~8と,引用発明1~6との間には,ビスマスの含有量又は
コバルトの含有量について明確な相違点があり,これを容易想到とする理由はない,
と主張する。
しかし,前記ア及びイのとおり,引用発明1~3において相違点2に係る構成を
採用すること,及び引用発明4~6において相違点4に係る構成を採用することの
動機付けがあり,本件発明2~8のビスマスの含有量及びコバルトの含有量につい
て格別顕著な効果があるともいえないから,引用発明1~6に相違点2及び4の構
成を採用することは,容易想到である。
(4) したがって,取消事由2~8には,理由がある。
第6 結論
以上より,取消事由2~8には理由があるから,本件発明2~8に係る審決を取
り消し,取消事由1には理由がないから,本件発明1に係る原告の請求を棄却する
こととして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部


裁判長裁判官
森 義 之


裁判官
永 田 早 苗


裁判官
古 庄 研

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