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平成29(ワ)3569特許権侵害差止請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成30年3月19日
事件種別 民事
対象物 ソレノイド
法令 特許権
特許法29条2項3回
特許法100条1項1回
特許法70条2項1回
特許法29条1回
特許法70条1項1回
特許法36条6項2号1回
キーワード 無効18回
実施9回
進歩性8回
特許権6回
無効審判5回
審決5回
刊行物2回
差止2回
侵害1回
訂正審判1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 事案の要旨 本件は,発明の名称を「ソレノイド」とする特許第3611969号に係る特許権 (以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,本件特許の願 書に添付した明細書〔特許庁が訂正2016-390104号事件について平成28 年10月25日にした審決(以下「本件訂正審決」という。)による訂正後のもの〕を20 「本件明細書」という。)の共有者の1名である原告が,別紙被告製品目録(原告) 記載の可変容量コンプレッサ容量制御弁(以下「被告製品」という。)は本件明細書の 特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」ということがある。)の請求項1記載 の発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属する旨主張して,被告に対し, 特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,使用,譲渡,貸渡し,輸出,又は譲25 渡若しくは貸渡しの申出の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,同製品の廃 棄を求める事案である。

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判決文

平成30年3月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成29年(ワ)第3569号 特許権侵害差止請求事件

口頭弁論終結日 平成30年1月17日

判 決

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,別紙被告製品目録(原告)記載の可変容量コンプレッサ容量制御弁を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。2 被告は,前項の物件を廃棄せよ。

第2 事案の概要

1 事案の要旨本件は,発明の名称を「ソレノイド」とする特許第3611969号に係る特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書〔特許庁が訂正2016-390104号事件について平成28年10月25日にした審決(以下「本件訂正審決」という。)による訂正後のもの〕を「本件明細書」という。)の共有者の1名である原告が,別紙被告製品目録(原告)記載の可変容量コンプレッサ容量制御弁(以下「被告製品」という。)は本件明細書の特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」ということがある。)の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属する旨主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,使用,譲渡,貸渡し,輸出,又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,同製品の廃棄を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,書証番号は,特記しない限り枝番の記載を省略する。)

⑴ 当事者

5 原告は,密封装置類,各種弁等の製造及び販売を目的とする株式会社である。被告は,自動車部品,各種機械,電気及び電子機器部品等の製造及び販売等を目的とする株式会社である。

⑵ 本件特許権ア 原告は,平成22年12月8日受付の持分移転登録がされてから,今日に至るまで,株式会社豊田自動織機(以下「豊田自動織機」という。)と共に,以下の事項により特定される特許権(本件特許権)を有している(甲3)。特 許 番 号 特許第3611969号発 明 の 名 称 ソレノイド出 願 日 平成10年7月9日出 願 番 号 特願平10-210450登 録 日 平成16年10月29日イ 本件特許については,原告及び豊田自動織機により訂正審判請求(訂正2016-390104)がされ,平成28年10月25日付け審決(本件訂正審決)において訂正が認められた。同審決は同年11月4日に確定し,その結果,本件特許請求の範囲は,以下のとおりとなった。(甲3ないし5)「【請求項1】相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって,前記ソレノイドは,前記取付孔に入り込まれるケース部材,該ケース部材の内側に収納されるコイル部材,前記ケース部材の一方の開口端部の内側に固定され前記コイル部材の内筒部に延出するセンタポスト部材,前記コイル部材の内筒部に位置し有底円筒状のスリーブにより囲まれ往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室,前記ケース部材の他方の開口端部と前記プランジャ室との間に配置されるアッパープレート,該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材,外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材,及び前記プランジャに接

5 続されバルブ部の弁体の開閉動作を可能とするロッドを備え,前記ソレノイドの前記バルブ部側の外周に前記バルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材を設けることを特徴とするソレノイド。【請求項2】前記端部部材は,コイル部材と一体化される樹脂成形部材であることを特徴とする請求項1に記載のソレノイド。【請求項3】前記取付孔の開口部に係止されると共に,前記端部部材の外側端面に当接する抜け止め部材を備えることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1項に記載のソレノイド」

⑶ 本件発明の構成要件の分説本件発明(請求項1記載の発明)は,次のとおり構成要件に分説することができる(以下,分説に係る構成を符号に対応して「構成要件A」などという。。)A 相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって,B 前記ソレノイドは,B1 前記取付孔に入り込まれるケース部材,B2 該ケース部材の内側に収納されるコイル部材,B3 前記ケース部材の一方の開口端部の内側に固定され前記コイル部材の内筒部に延出するセンタポスト部材,B4 前記コイル部材の内筒部に位置し有底円筒状のスリーブにより囲まれ往復動可能なプランジャが配置されるプランジャ室,B5 前記ケース部材の他方の開口端部と前記プランジャ室との間に配置されるアッパープレート,B6 該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材,

5 B7 外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材,B8 及び前記プランジャに接続されバルブ部の弁体の開閉動作を可能とするロッドを備え,C 前記ソレノイドの前記バルブ部側の外周に前記バルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材を設けるD ことを特徴とするソレノイド。

⑷ 被告の行為被告は,平成27年10月ころから現在まで,被告製品を,業として,製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしている(甲8ないし12,18)。

⑸ 被告製品の構成被告製品は,カーエアコン用可変容量圧縮機に用いる可変容量コンプレッサ容量制御弁であり,少なくとも,次の構成を有する。ア 被告製品は,可変容量コンプレッサ容量制御弁であって,ソレノイドを有し,可変容量圧縮機に係るハウジング部材に備えられた取付孔に収容される(構成要件Aを満たす。。)イ 被告製品は,弁本体(V)とソレノイド⑶とを一体に組み付けて構成される制御弁⑴であり,ソレノイド⑶は外郭をボディ⑵により覆われている。当該制御弁⑴は制御の対象となる機器のハウジング部材に備えられた取付孔に収容される。(構成要件B1を満たす。)ウ 被告製品は,ソレノイド⑶のボディ⑵の部位の内側に電磁コイル⑽を収納している(構成要件B2を満たす。。)エ 被告製品は,ソレノイド⑶のボディ⑵の部位における下方の開口端部の内側に固定された電磁コイル⑽の内筒部に延出するコア⑷が設けられている(構成要件B3を満たす。。)

5 オ 被告製品は,電磁コイル⑽の内筒部に間隙空間(5a)を有し,当該間隙空間(5a)には往復動可能なプランジャ⑸が配置され,当該プランジャ⑸は有底円筒状のスリーブ⑺により囲まれている(構成要件B4を満たす。。)カ 被告製品は,ボディ⑵の部位における上方の開口端部と前記間隙空間(5a)との間にプレート⑹が設けられている(構成要件B5を満たす。。)キ 被告製品は,前記プレート⑹の外側に合成樹脂製の端部材(H)が設けられており,ボディ⑵の部位における上方の開口端部を塞いでいる(構成要件B6の充足性に関し,端部部材が取付孔に「密封嵌合」しているか否かが争点である。。)ク 被告製品は,前記プレート⑹の外側の端部にはシール部材⒀が設けられており,前記取付孔に収容されると,ボディ⑵と取付孔の間を密封して外部の空気,水分等が進入するのを抑制するようにされている(構成要件B7を満たす。。)ケ 被告製品は,前記プランジャ⑸に作動ロッド⑾が接続され,弁本体(V)に,当該作動ロッド⑾に連動して流体の流れを制御する弁による開閉機構が内蔵されている(構成要件B8を満たす。。)コ 被告製品は,シール部材⒁を設けて,弁本体側から流体が浸入するのを防止するようにされている(構成要件Cの充足性に関し,シール部材⒁が,ソレノイド⑶の外周に設けられているか,それとも弁本体(V)の外周に設けられているかが争点である。。)サ 被告製品は,ソレノイドを有する可変容量コンプレッサ容量制御弁である(構成要件Dを満たす。。)3 争点

⑴ 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア 被告製品は構成要件B6を充足するか(争点1-1)イ 被告製品は構成要件Cを充足するか(争点1-2)

⑵ 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点2)ア 無効理由1(乙2を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点2-1)

5 イ 無効理由2(乙3を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点2-2)ウ 無効理由3(明確性要件違反)は認められるか(争点2-3)

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点1(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について

【

(原告の主張)

】

⑴ 被告製品の構成

被告製品の構成は,別紙被告製品目録(原告)記載のとおりである。ソレノイド⑶は,端部材(H),ボディ⑵及びコア⑷によって構成されており,コア⑷の大径円筒部の外周部には溝が形成され,この溝にシール部材⒁が取り付けられている。弁本体(V)は,コア⑷の大径円筒部の内周に固定されている。被告は,ソレノイド⑶は,ソレノイド機能を有する部分(励磁コイル部分とこれにより励磁された磁力線が通過する部分)であり,弁本体(V)に該当する部分は,シール部材⒁の上部までである旨主張する。しかし,励磁された磁力線が通過する部分は果てしなく広がるから,「励磁コイル部分とこれにより励磁された磁力線が通過する部分」をもってソレノイドの範囲を画することはできない。また,被告主張のとおりであるとすると,ソレノイド⑶の一部であるコア⑷の一部が弁本体(V)に属することになって不合理である。

⑵ 争点1-1(被告製品は構成要件B6を充足するか)について

ア 構成要件B6は,「該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材, であるところ,」 被告製品は,前記プレート(6)の外側で合成樹脂製の端部材(H)が取付孔に密封嵌合されており,取付孔の開口部を塞いでいる。したがって,被告製品は,本件発明の構成要件B6を充足する。イ すなわち,「密封嵌合」とは,一般的な用例によると,「機械部品の,互いにはまり合う丸い穴と軸について,機能に適するように公差や上下の寸法差を定めてぴっちりとはまっていること」を意味する。また,JISによると,「シール」とは「流体

5 の漏れ又は外部からの異物侵入を防止する機能又は部品。密封と同じ,又は密封する

ための部品」であり,「許容漏れ量」とは「仕様で許容されている漏れ量」と説明されているから,「密封嵌合」とは,完全に流体の漏れ等を許さないという意味ではなく,設計上許容された範囲の隙間は存在している。そして,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】【0016】【001, ,9】【0032】の記載によれば,本件発明における「密封嵌合」とは,取付孔の内,径寸法と端部部材の外形寸法が容易に取り外しが行えるような嵌め合い寸法に設定され,両者が嵌合した場合には密封性を発揮し得ることを意味し,シール部材をも設けることにより,より強固に外部雰囲気の進入を抑制する効果を奏するものである。このように,「密封嵌合」とは,本来相反する「密封性を発揮し得る」と「容易に取り外しが行える」とを両立させるものであり,合理的な幅を持った概念である。被告は,密封嵌合により外部雰囲気を遮断するのはあくまで端部部材であり,シール部材は端部部材の補助部材にすぎない旨主張するが,端部部材もシール部材もいずれも外部雰囲気の進入を抑制するものであるが,シール部材が加わることによってより効果的に外部雰囲気の進入が抑制されるのである。そして,

(被告の主張)

によれば,「容易に取り外しが行える」との点を無視することになる。ウ 被告の平成29年4月24日付け実験報告書(乙1の2)及び実験を撮影したDVD(乙1の1)に示される実験(以下「乙1実験」という。)の結果並びに原告による乙1実験の追試(甲33(原告技術説明会資料)に示されるもの。以下「甲33実験」という。)の結果によれば,被告製品は,シール部材がない状態でも,取付孔の開口部を塞いでいるといえる。また,原告の同年9月15日付け被告製品寸法測定結果報告書(甲32)に示される被告製品の端部材(H)の外径寸法とコンプレッサのハウジング孔寸法からすれば,両者の隙間は最大で約0.38㎜,最小で約0.18㎜であって,最小の場合は肉眼で視認するのも難しいほどにわずかな隙間しかないということになる。他方,被告の同年12月25日付け実験報告書(乙14)に示される実験(以下「乙14実験」という。)並びに被告の同日付け実験報告書(乙15の2)

5 及び実験を撮影したDVD(乙15の1)に示される実験(以下「乙15実験」とい

う。)の結果は,被告製品が実際に使用される条件とは全く異なる極端な条件下で使用された場合に関するものであって,意味がない。したがって,被告製品は,それなりに流体の進入の抑制作用を果たしており,相対的な意味での腐食を減少させているというべきであるから,本件発明の構成要件B6を充足する。

⑶ 争点1-2(被告製品は構成要件Cを充足するか)について

構成要件Cは,「前記ソレノイドの前記バルブ部側の外周に前記バルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材を設ける」であるところ,被告製品は,ソレノイド

(3)の弁本体側の外周にシール部材⒁を設けて,弁本体側から流体が浸入するのを防

止するようにされている。したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Cを充足する。被告は,シール部材⒁は弁本体(V)の外周に設けられているのであり,ソレノイド

⑶の外周には設けられていない旨主張するが,シール部材⒁はソレノイド⑶の一部を

構成するコア⑷の大径円筒部の外周部に取り付けられているのであるから,ソレノイド⑶の外周に設けられているというべきである。【

(被告の主張)

】

⑴ 被告製品の構成

被告製品の構成は,別紙被告製品目録(被告)記載のとおりである。ソレノイド⑶と弁本体(V)とを分かつ部分が原告主張とは異なる。すなわち,ソレノイド機能を有する部分(励磁コイル部分とこれにより励磁された磁力線が通過する部分)をソレノイド⑶とし,弁による開閉機構が内蔵されている部分を弁本体(V)とすべきであり,弁本体(V)に該当する部分は,シール部材⒁の上部までである。原告は,構成部材に基づき本件発明におけるソレノイドを特定し,ソレノイドとバルブ部とを構造的に区別しているが,被告製品は,ソレノイド部と弁本体(バルブ部)が一体となっている構造であるから,両者を単純に構成部材によって区別することは

5 できない。

⑵ 争点1-1(被告製品は構成要件B6を充足するか)について

ア 被告製品の端部材(H)は,ハウジング部材の取付孔の開口部に密封嵌合されておらず,端部材(H)に設けられたOリング(シール部材)によって密封される構造となっているから,本件発明の構成要件B6を充足しない。イ すなわち,一般的な用例や本件明細書の発明の詳細な説明の記載からすれば,「密封嵌合」といえるには,流体の漏れ又は外部からの異物進入を防止できる程度にぴっちりはまっていることが必要であり,隙間が存在していたり,若干の流体の漏れがあってもよいということにはならない。そして,取付孔に密封嵌合されるのは「端部部材」であるから,端部部材のみによって外部雰囲気の進入が抑制される必要があるのであり,これにシール部材を追加することにより,より外部雰囲気の進入を抑制できることになるのである。原告は,「密封嵌合」とは,完全に流体の漏れ等を許さないという意味ではなく,設計上許容された範囲の隙間は存在している旨,合理的な幅を持った概念であり,それなりに流体の進入の抑制作用を果たし,相対的な意味での腐食を減少させていればよい旨主張するが,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に反した解釈である。ウ 原告は,乙1実験及び甲33実験の結果によれば,被告製品は,シール部材がない状態でも,取付孔の開口部を塞いでおり,それなりに流体の進入の抑制作用を果たしているとか,乙14実験及び乙15実験は,被告製品が実際に使用される条件とは全く異なる極端な条件下で使用された場合に関するものであるなどと主張する。しかし,本件発明は,ソレノイドバルブの腐食(錆)を防止すべく,端部部材のみで外部からの流体の進入を抑制する必要があるのであるから,「それなり」に流体の進入を防止できる程度では全く本件発明の目的を果たすことはできない。また,乙1実験,乙14実験及び乙15実験の結果によれば,ソレノイド部に進入した水分は,さらに内部に進入し,取付孔内部にまで溜まっているのであるから,「それなり」に流体の進入を防止しているともいえない。さらに,被告製品は,通常の使用形態として,

5 制御弁を組み込んだ圧縮機を搭載した車両が潮風にさらされるような環境でも少な

くとも10年程度は制御弁が腐食しないことが求められるのであり,乙14実験及び乙15実験が,実際に使用される条件とは全く異なる極端な条件下で使用された場合に関するものとはいえない。したがって,被告製品は,端部材(H)のみでは全く流体の進入を抑制できず,端部材

(H)が取付孔に「密封嵌合」されていないことは明らかであるから,構成要件B6を充

足しない。

⑶ 争点1-2(被告製品は構成要件Cを充足するか)について

被告製品においては,シール部材⒁は弁本体(V)の外周に設けられているのであり,ソレノイド⑶の外周には設けられていない。よって,被告製品は,本件発明の構成要件Cを充足しない。

2 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか)

について

⑴ 争点2-1(無効理由1〔乙2を主引例とする進歩性欠如〕は認められるか)

について【

(被告の主張)

】本件発明は,本件特許出願前である平成5年6月1日に頒布された刊行物である実願平3-96794号(実開平5-40679号)に係る公報及びCD-ROM(乙2)に記載された発明(以下「乙2発明」という。)と,本件発明においてはソレノイドのバルブ部側の外周にバルブ部側からの流体を進入防止するシール部材を設けているのに対し,乙2発明においてはかかるシール部材を設けていない点が相違し,その余の点は一致するところ,この相違点については,周知技術(乙3ないし6)を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができた。そうすると,本件発明は,乙2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く。したがって,本件特許は,特許法29条2項(ただし,平成11年法律

第41号による改正前の規定。以下同じ。 に違反してされたものであり,

) 同法123

5 条1項2号に該当するから,特許無効審判により無効とされるべきものである。

【

(原告の主張)

】

(被告の主張)

する相違点の認定は誤っている。本件発明は,ケース部材が取付孔に入り込まれ,端部部材が取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部をふさぎ,シール部材が外部雰囲気の進入を抑制するために取付孔と端部部材の間に配置されるのに対し,乙2発明は,ケース部材の一部のみが取付孔に入り込まれ,端部部材が取付孔ではなく,ヘッドカバー21に備えられた孔に嵌合し,シール部材がヘッドカバー21の外側からソレノイドの内部に水が進入するのを防止するためにヘッドカバー21に備えられた孔と端部部材との間に配置される点も相違点として認定されるべきである。また,被告認定の相違点についても,ソレノイドバルブの技術分野において,バルブ部側の流体等がソレノイド側に流入するのを防ぐべく,ソレノイドバルブにおけるソレノイド部分のバルブ部側にOリング等のシール部材を設けることが本件特許出願前において周知であった事実はないし,当業者が容易に想到し得たということもできない。したがって,本件発明は,乙2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえず,進歩性を有する。したがって,本件特許は,特許法29条2項に適合しており,無効にされるべきものではない。

⑵ 争点2-2(無効理由2〔乙3を主引例とする進歩性欠如〕は認められるか)

について【

(被告の主張)

】本件発明は,本件特許出願前である平成4年1月6日に頒布された刊行物である特開平4-1495号公報(乙3)に記載された発明(以下「乙3発明」という。)と,

①本件発明においては,端部部材が耐食性材料で形成され,かつ,取付孔に「密封」

嵌合されているのに対し,乙3発明においては,これらの点について明示がない点,

②本件発明においては,取付孔開口部側のシール部材が取付孔と端部部材の間に配置

されているのに対し,乙3発明においては,取付孔とカバー部材(ケース部材)の間

5 に配置されている点,③本件発明においては,プランジャ室が有底円筒状のスリーブ

に囲まれているのに対し,乙3発明においては,そのようなスリーブを有しない点が相違し,その余の点は一致するところ,これらの相違点については,周知技術又は公知技術(乙2,8,9)を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができた。そうすると,本件発明は,乙3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く。したがって,本件特許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当するから,特許無効審判により無効とされるべきものである。【

(原告の主張)

】本件発明と乙3発明とは目的及び構成が全く相違しているから,乙3発明は,そもそも本件発明に対する引用例としてふさわしくない。また,被告主張の相違点の認定は誤っており,本件発明と乙3発明とは,①本件発明においては,取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材,外部雰囲気の進入を抑制するために取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材を備えているのに対し,乙3発明においては,ケース部材の外側を閉塞する蓋体48aが備えられているが,端部部材及びシール部材のいずれも備えていない点,

②本件発明においては,ソレノイドのバルブ部側の外周にバルブ部側からの流体の進

入を防止するシール部材を設けているのに対し,乙3発明においては,通路形成部材41の外周にシール部材を設けているが,ソレノイドのバルブ部側の外周にバルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材は設けられていない点,③本件発明においては,有底円筒状のスリーブに囲まれたプランジャ室が備えられているのに対し,乙3発明においては,そのようなスリーブは備えられていない点が相違する。しかも,上記相違点について,被告主張の周知及び公知技術の認定に誤りがあり,当業者が容易に想到し得たということもできない。したがって,本件発明は,乙3発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえず,進歩性を有する。したがって,本件特許は,特許法29条2項に

5 適合しており,無効にされるべきものではない。

⑶ 争点3-3(無効理由3〔明確性要件違反〕は認められるか)について

【

(被告の主張)

】本件特許請求の範囲には,「前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」及び「外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材」と記載されているところ,この意味は,端部部材が取付孔開口部に隙間なく堅く嵌って,かかる開口部の封をしており,シール部材は補助的なものであると解すべきである。ところが,原告は,端部部材とシール部材とが合わさることにより外部雰囲気の進入が抑制されるのであり,端部部材と取付孔との間に隙間があるかのような主張しており,この主張内容からすれば,本件発明における端部部材それ自体は,取付孔に「密封嵌合」していないということになる。そうすると,本件特許請求の範囲の記載と

(原告の主張)

内容との間で矛盾が生じ,その結果,「密封嵌合」という用語が,現実的,具体的にいかなる状態を意味するのか不明確となっている。したがって,

(原告の主張)

を考慮すれば,本件特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号(ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定)に反しており,本件特許は特許法123条1項4号に該当するから,特許無効審判により無効とされるべきものである。【

(原告の主張)

】本件明細書の記載によれば,本件発明は,取付孔と端部部材との密封嵌合により外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入を抑制するが,シール部材をも設けることにより,より強固に外部雰囲気の進入を抑制する効果を奏する発明である。

(原告の主張)

はこれと一致しており,「密封嵌合」の意味は何ら不明確ではない。したがって,本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合している。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明の意義について

5 ⑴ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載本件明細書の発明の詳細な説明は,別紙特許公報(甲4)の該当欄記載のとおりであるが,概要,以下のとおりの記載がある。ア 発明の属する技術分野「【0001】【発明の属する技術分野】本発明はソレノイドに関し,耐食性に対して有利な構造であり,高い信頼性や長寿命を得ることの可能なソレノイドを提供する技術に関する。」イ 従来の技術「【0002】【従来の技術】図3(a)は,従来より各種流体の制御等に一般的に利用されているソレノイドバルブ101のソレノイド部101Aの断面構成を示した図であり,図3(b)はソレノイドバルブ101の上視図である。」ウ 本件発明が解決しようとする課題「【0010】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,このような構成のソレノイドバルブ101においては,ソレノイド部101Aが相手側のハウジング150から突出して設けられているため,特に外部へ露出した使用環境においては,高い耐食性(防錆)を備えたものとする必要がある。【0011】従って,耐食性を必要とする鉄系材料による構成部材(ケース102,アッパープレート105,ブラケット110等)では,メッキ等の防錆処理を施すことが行なわれているが,より高い耐食性を得るために,メッキ厚を厚くしたり耐食性に対して有利な種類のメッキ等を採用する等の対策がとられ,コストアップの要因となっていた。【0012】

5 また,このような構成では,ソレノイドバルブ101の信頼性や寿命に関係する耐食性はメッキ(防錆処理)の性能によって決定されるため,より高い信頼性や長寿命が求められた場合には対応が困難であった。【0013】さらに,ブラケット110でソレノイドバルブ101をハウジング150にボルト等により締結する際に位置決め作業やボルト締め作業が必要となり,取り付け性の改善が望まれていた。」エ 本件発明の目的「【0014】本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたもので,その目的とするところは,耐食性に対して有利な構造であり,高い信頼性や長寿命を得ること,また取り付けの容易なソレノイドを提供することにある。」オ 課題を解決するための手段「【0015】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明にあっては,相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって,前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えることを特徴とする。【0016】これにより,取付孔の内部に収容されたソレノイドの端部部材より奥側の部材は外部に露出されることはなく,また,外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入が端部部材により抑制されるので,相手側ハウジング部材に組み付けられた状態における耐食性を向上させることが可能となる。【0017】また,ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ,ボルトによる

5 ハウジングへの締結等も不要となり,取り付け性が向上する。【0018】前記端部部材は,コイル部材と一体化される樹脂成形部材であることも好適である。これによって部品構成が簡易なものとなり,組立性が向上する。【0019】前記取付孔と端部部材との間にシール部材を備えることも好適である。これによって,より外部雰囲気の進入が抑制される。」カ 実施例実施例1「【0022】【発明の実施の形態】(実施の形態1)図1は本発明を適用した第1の実施の形態におけるソレノイド1を説明する断面構成説明図である。」「【0032】取付孔Haの内径寸法とヘッド部8の外径寸法は,両者が嵌合した場合に密封性を発揮し得ると共に,かつ容易に取り外しが行なえるような嵌め合い寸法に設定されている。 Oリング13は,尚, ヘッド部8の密封嵌合を補助する目的で設けられている。」実施例2「【0041】(実施の形態2)図2は本発明を適用した第2の実施の形態におけるソレノイド21を説明する断面構成説明図である。」キ 発明の効果「【0046】【発明の効果】

5 上記のように説明された本発明にあっては,ソレノイドの耐食性を向上することが可能となり,高い信頼性や長寿命を得ることができる。また,ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ,ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり,取り付け性が向上する。【0047】端部部材がコイル部材と一体化される樹脂成形部材であることにより,部品構成が簡易なものとなり,組立性も向上する。【0048】取付孔と端部部材との間にシール部材を備えることにより,外部雰囲気の進入が抑制されてより耐食性が向上する。」⑵ 本件発明の意義以上の本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明の意義は,大要,以下のとおりのものと認められる。すなわち,本件発明は,ソレノイドに関し,耐食性に対して有利な構造であり,高い信頼性や長寿命を得ることの可能なソレノイドを提供する技術に関するものである(段落【0001】。ソレノイド部が相手側のハウジングから突出して設けられて)いる構成においては,ソレノイドは高い耐食性(防錆)を備えたものである必要があり,メッキ等の防錆処理を施すことが行われているが,そのことによりコストアップの要因となったり,より高い信頼性や長寿命が求められた場合には対応が困難であり,また,取付性の改善も望まれていた (段落( 【0010】ないし【0013】。) そこで,本件発明は,耐食性に対して有利な構造であり,高い信頼性や長寿命を得ること,また,取付けの容易なソレノイドを提供することを目的とする(段落【0014】。そ)のための手段として,ソレノイドは,ハウジング部材に備えられた取付孔に収容され,その取付孔に密封嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えることを特徴とし,端部部材により外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入を抑制させることを可能とし,シール部材によってより外部雰囲気の進入を抑制するもので

5 あり(段落【0015】ないし【0019】,その効果として,ソレノイドの耐食性)を向上することが可能となり,高い信頼性や長寿命を得ることができるとともに,取付性も向上する(段落【0046】ないし【0048】)というものである。⑶ この点,原告は,本件発明が解決しようとする課題として,アルミニウム等からなる相手側ハウジングに鉄等からなるソレノイドを組み込むと,アルミニウム等と鉄等との異種金属の接触により腐食するおそれがあることを主張するが,本件明細書にはその旨の記載も示唆もない。また,原告は,本件発明の作用効果として,①バルブ部側からソレノイド側へ冷媒が漏れた場合,冷媒がソレノイドと取付孔との隙間から外部へ漏れ出すのを確実に防止できる,②ソレノイドと相手側ハウジングとの接触を防止でき,これにより,相手側ハウジング部材に組み付けられた状態におけるソレノイド部の耐食性を向上させることができる,③固定力が大きくなり耐振動性が向上すると主張するが,本件明細書にはその旨の記載も示唆もない。

2 争点1(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について

⑴ 争点1-1(被告製品は構成要件B6を充足するか)についてア 「密封嵌合」の解釈について構成要件B6は,「該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」とするものである。このうち,「密封嵌合」の意味について,原告は,「密封嵌合」とは,完全に流体の漏れ等を許さないという意味ではなく,設計上許容された範囲の隙間は存在している旨,合理的な幅を持った概念であり,それなりに流体の進入の抑制作用を果たし,相対的な意味での腐食を減少させていればよい旨主張するのに対し,被告は,「密封嵌合」といえるためには,端部部材のみによって外部雰囲気の進入が抑制される必要があり,そのために,端部部材と取付孔とが流体の漏れ又は外部からの異物侵入を防止できる程度にぴっちりはまっていることが必要であり,隙間が存在していたり,若干の流体の漏れがあってもよいということにはならない旨主張する。

5 そこで検討するに,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項〔ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定〕,構成要件B6の記載は,) 「取付孔に密封嵌合して」とされており,単なる「嵌合」ではなく「密封嵌合」とされていることからすると,「密封」は「嵌合」を修飾し,その内容を限定しているものといえる。そして,「密封嵌合」の用語に着目すると,一般的な用法では,「密封」とは「ぴっちりと封をすること」(大辞林第二版新装版・甲21) 「隙間なく堅く封をすること」,(広辞苑第6版・乙10)「嵌合」とは「機械部品の,互いにはまり合う丸い穴と軸,について,機能に適するように公差や上下の寸法差を定めること」(大辞林第二版新装版・甲21)「軸が穴にかたくはまり合ったり,滑り動くようにゆるくはまり合っ,たりする関係をいう語」(広辞苑第6版・乙10)をいうとされている。そうすると,「密封嵌合」とは,「ぴっちりと封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解される。もっとも,「密封嵌合」がどの程度の密封性を要するのかは,上記のみでは一義的明確には定まらないから,本件明細書の特許請求の範囲以外の記載及び図面を考慮して解釈すべきである(特許法70条2項〔ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定〕。そして,前記1において認定した本件明細書の発明の詳細な説明の記載)及び本件発明の意義からすると,本件発明は,耐食性に対して有利な構造であり,高い信頼性や長寿命を得ることなどを目的とするものであり(段落【0014】,その)ための手段として,ハウジング部材に備えられた取付孔に密封嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材により外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入を抑制させることとし(段落【0015】【0016】,その効果として,ソレノイ, )ドの耐食性を向上することを可能とする発明である(段落【0046】。) そうすると,端部部材が取付孔に密封嵌合する程度は,ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもたらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度である必要があるというべきである。

5 以上によれば,構成要件B6の「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもたらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちりと封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解される。これに対し,原告は,「密封嵌合」とは,完全に流体の漏れ等を許さないという意味ではなく,設計上許容された範囲の隙間は存在している旨,合理的な幅を持った概念であり,それなりに流体の進入の抑制作用を果たし,相対的な意味での腐食を減少させていればよい旨主張する。原告の上記主張の密封の程度は必ずしも明らかではないが,その語義からして,このような程度では,外部雰囲気の進入を抑制させ,ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもたらすものとは言い難い。また,原告は,端部部材もシール部材もいずれも外部雰囲気の進入を抑制するものであるが,シール部材が加わることによってより効果的に外部雰囲気の進入が抑制されるとし,端部部材のみでの外部雰囲気の進入の抑制作用が限定的であってもよい旨主張するようである。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,端部部材自体によって密封性を発揮し,外部雰囲気の進入を抑制することが明記されており(段落【0015】【0016】【0032】,他方,シール部材は,本件特許請求, , )の範囲の記載においては,「外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材の間に配置されるシール部材」と記載され,本件明細書の発明の詳細な説明においても記載されている(段落【0019】【0032】【0048】, , )が,これらの記載を見ると,「シール部材を備えることも好適である。これによって,より外部雰囲気の進入が抑制される。(段落【0019】」 。下線は引用者。以下同じ。,)「Oリング13は,ヘッド部8の密封嵌合を補助する目的で設けられている。 段落」( 【0032】,)「シール部材を備えることにより,外部雰囲気の進入が抑制されてより耐食性が向上する。(段落【0048】」 )とされ,あくまで端部部材の補助的なものと位置づけられている。そうすると,端部部材のみでの外部雰囲気の進入の抑制作用が限定的であってもよいということはできない。さらに,原告は,JISに「許容漏れ量」(甲22)の概念があることから,本件発

5 明においても設計上許容された範囲の隙間は存在している旨主張する。この主張がどの程度の隙間を許容するものかは明らかではないが,「許容漏れ量」の概念自体は機械部品における一般的な概念であるから,これがJISにおいて規定されているからといって,本件発明における「密封嵌合」の解釈において,本件発明の効果が発揮できないような隙間が存在してもよいということにはならない。また,原告は,本件明細書の発明の詳細な説明における「両者が嵌合した場合に密封性を発揮し得ると共に,かつ容易に取り外しが行なえるような嵌め合い寸法に設定されている。(段落【0032】」 )との記載から,「密封嵌合」とは,本来相反する「密封性を発揮し得る」と「容易に取り外しが行える」とを両立させるものであり,合理的な幅を持った概念であると主張する。しかし,上記記載は,一実施例の記載にすぎず,「容易に取り外しが行える」との効果も本件発明の効果とはされていないのであるから(段落【0046】ないし【0048】参照),これと「密封性を発揮し得る」こととを両立するように解釈する必要はないし,耐食性を向上させるという本件発明の意義からは上記記載をもって密封性を後退させるような解釈をすることも相当ではない。以上のとおりであるから,原告の主張はいずれも採用することができない。イ 被告製品の構成について被告製品は,カーエアコン用可変容量圧縮機に用いる可変容量コンプレッサ容量制御弁であり,自動車のエンジン内のコンプレッサの取付孔に取り付けられるものである(甲18参照)。被告製品の端部材(H)がコンプレッサの取付孔に密封嵌合してその開口部を塞いでいるかについて行われた実験結果は以下のとおりである。a 乙1実験は,被告において,被告製品の端部材がコンプレッサの取付孔に密封嵌合しているかを実験したものであり,以下の結果であったとされている。すなわち,Hanon製コンプレッサを使用し,その取付孔にOリング(シール部材⒀)を取り付けた通常の使用状態の被告製品を取り付け,端部材上にLLC(不凍液)を数滴滴下し,10秒経過後,端部材上に溜まっているLLCを拭き取り,取付孔から被告製

5 品を引き抜いたところ,取付孔内部にLLCが進入していないことが確認された。しかし,Oリングを外した被告製品を取り付け,同様の実験を行ったところ,被告製品の側面及び取付孔内部にLLCが付着していた。b 甲33実験は,原告において,乙1実験と同様の条件の下で乙1実験の追試を行ったものであり,以下の結果であったとされている。すなわち,Hanon製コンプレッサを使用し,その取付孔にOリングを外した被告製品を取り付け,端部材上にLLCを5滴滴下し,10秒経過後,端部材上に溜まっているLLCを拭き取り,取付孔から被告製品を引き抜いたところ,被告製品の端部材のOリング取付溝付近及び取付孔にわずかにLLCが付着していた。しかし,LLCの進入状況を外部から確認できるように上記コンプレッサと同一の取付孔形状を有する透明なポリカーボネイト製の孔模型を作製し,同様の実験を行ったところ,被告製品の端部材のOリング取付溝付近にわずかにLLCが付着していたが,被告製品のボディと孔模型との間をLLCが落下することを視認することはできなかった。LLCを10滴滴下した実験でも同様であった。c 乙14実験は,被告において,塩水噴霧試験装置を用いて,被告製品の端部材がコンプレッサの取付孔に密封嵌合しているかを実験したものであり,以下の結果であったとされている。すなわち,塩水噴霧試験装置を用いて,Hanon製コンプレッサの取付孔とほぼ同形状のアルミ製治具にOリングを取り付けた通常の使用状態の被告製品とOリングを外した被告製品を取り付け,400時間霧状の塩水を噴霧したところ,通常の使用状態(Oリングあり)の被告製品のボディ部分に腐食は見られなかったが,Oリングを外した被告製品のボディ部分には腐食が見られた。d 乙15実験は,被告において,コンプレッサの実機及びポリカーボネイト製の模型を用いて,被告製品の端部材がコンプレッサの取付孔に密封嵌合しているかを実験したものであり,以下の結果であったとされている。すなわち,①コンプレッサの取付孔にOリングを外した被告製品を取り付け,取付孔部分に水道水を滴下したところ,滴下した水がコンプレッサ内部に進入し,下部の吸入室側ポートから流出した。

5 ②Hanon製コンプレッサの取付孔と同形状のポリカーボネイト製の模型にOリングを外した被告製品を取り付け,端部材上にLLCを10数滴滴下したところ,取付孔内部にLLCが進入した。③Hanon製コンプレッサの取付孔と同形状のポリカーボネイト製の模型にOリングを外した被告製品を取り付け,端部材上にLLCを5箇所に1滴ずつ滴下し,手で振って振動を与えたところ,取付孔内部にLLCが進入した。以上の実験結果を検討するに,乙1実験においては,Oリングを外した被告製品で行った実験では,被告製品の側面及び取付孔内部にLLCが付着していたとされているが,他方で,同様の条件で行われたとする甲33実験においては,被告製品のボディと孔模型との間をLLCが落下することを視認することはできなかったとされているから,Oリングを外した被告製品を使用し,端部材上にLLCを5滴ないし10滴滴下して10秒経過した場合,被告製品のボディ側面及び取付孔内部に水分が進入するか否かは判然としないというほかない。しかしながら,被告製品は,カーエアコン用可変容量圧縮機に用いる可変容量コンプレッサ容量制御弁であり,自動車のエンジン内のコンプレッサの取付孔に取り付けられるものである(甲18参照)。そうであれば,被告製品は,通常の使用形態として,潮風にさらされるような環境でも少なくとも10年程度は制御弁が腐食しないことが求められるのであるから,上記の実験条件が被告製品の通常の使用条件と同条件で行われたものとは言い難いというべきであり,上記実験結果からは被告製品の構成を直ちに認定することはできない。むしろ,乙14実験においては,Oリングを外した被告製品のボディ部分には腐食が見られたとされ,乙15実験においても取付孔内部に水分が進入したとされている。これらの実験結果に疑義を差し挟む事情は存在しないから,Oリングを外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果があるとは認められないというべきである。これに対し,原告は,乙14実験及び乙15実験は,被告製品が実際に使用される条件とは全く異なる極端な条件下で使用された場合の結果を示したものであって,意

5 味がないと主張する。しかし,上記のとおり,被告製品は,通常の使用形態として,潮風にさらされるような環境でも少なくとも10年程度は制御弁が腐食しないことが求められるのであるから,400時間の塩水の噴霧(乙14)や多量の水分や振動等(乙15)の条件下での実験が,通常の使用条件とは全く異なる極端な条件下で使用された場合の結果を示したものとはいえない。ウ 小括以上のとおり,「密封嵌合」とは,「ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもたらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に,端部材が取付孔に対してぴっちりと封をするように機械部品がはまり合う関係」を意味すると解されるところ,Oリング(シール部材⒀)を外した被告製品が,取付孔内部への水分の進入を抑制する効果があるとは認められないのであるから,被告製品の端部材(H)が取付孔に「密封嵌合」しているとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告製品は,構成要件B6の「該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材」に係る構成を有しない。そうすると,被告製品は,その余の構成要件を検討するまでもなく,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。

3 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部

裁判長裁判官

嶋 末 和 秀

裁判官

伊 藤 清 隆

裁判官

西 山 芳 樹

(別紙)

当 事 者 目 録

5 原 告 イーグル工業株式会社同訴訟代理人弁護士 清 永 利 亮同 宍 戸 充同補佐人弁理士 櫻 井 義 宏同 小 椋 正 幸同 天 坂 康 種被 告 株式会社テージーケー同訴訟代理人弁護士 横 井 康 真同訴訟代理人弁理士 松 尾 卓 哉同 三 谷 拓 也

(別紙)

被告製品目録(原告)1 被告製品5 被告製品は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって,写真1に示すように,相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されて使用される。可変容量コンプレッサ容量制御弁の外観形状及び内部構造はそれぞれ写真2(被告製品の正面写真)及び図1(被告製品の断面図)のとおりである。写真1写真2図1被告製品の例示制御弁レーザーシリアル番号 端部材刻印番号刻印番号1786 KN8J1 285(BMW向けコンプレッサに搭載)1783 KN8J1 285(同上)0831 K0161 405(現代自動車向けコンプレッサに搭載)1895 KNY93 385(単品の状態)1905 KNY93 385(同上)1930 KNY93 385(同上)1932 KNY93 385(同上)1933 KNY93 385(同上)⑴ 被告製品の外観形状被告製品は,写真2(被告製品の正面写真)のとおり,ソレノイド(3)と弁本体(V)とを一体に組み付けて構成される制御弁(1)であり,ソレノイド(3)は,中央にボディ(2)を備え,ボディ(2)の上方(写真における上方。以下同じ。)には合成樹脂製の端部材(H)が,下方にはコア(4)が設けられている。端部材(H)にはシール部材(13)が,コア(4)にはシール部材(14)がそれぞれ設けられている。被告製品における端部部材(H)の外径寸法及びシール部材(13)の外径寸法の一例については,「被告製品寸法結果報告書(甲32号証)」に記載のとおりであるが,端部部材(H)の外径寸法はおよそ27㎜,シール部材(13)の外径寸法はおよそ28㎜である。⑵ 被告製品の内部構造被告製品の内部構造は,図1(被告製品の断面図)のとおり,ア ソレノイド(3)のボディ(2)の部位の内側に電磁コイル(10)が収納されている。また,ボディ(2)の下方(図の下方。以下同じ。)の開口端部の内側に固定され,電磁コイル(10)の内筒部に延出するコア(4)が設けられている。イ 電磁コイル(10)の内筒部に位置して,有底円筒状のスリーブ(7)により囲まれ往復動可能なプランジャ(5)が配置されるプランジャ室が備えられている。ウ ボディ(2)の部位における上方の開口端部と前記プランジャ室との間にはプレート(6)が配置されている。エ 前記プレート(6)の外側には合成樹脂製の端部材(H)が備えられている。オ 端部材(H)の外周にはシール部材(13)が設けられている。カ 前記プランジャ(5)に接続され,上下動により弁本体(V)に内蔵されている弁体の開閉動作を可能とする作動ロッド(11)が備えられている。キ 前記制御弁(1)の弁本体(V)側の外周にはシール部材(14)が設けられている。⑶ 取付状況被告製品は,写真3(被告製品の取付状態を示す写真)及び上記写真1(取付孔に収容された状態における取付孔の位置関係の図示を加えた被告製品の写真)のとおり,可変容量コンプレッサに係るハウジング部材に備えられた取付孔に収容されて使用される。

(別紙)

被告製品目録(被告)1 全体的構造被告製品は,弁本体(V)とソレノイド⑶とを一体に組み付けるとともに,ソレノイド⑶の上方に合成樹脂製の端部材(H)を設けて構成される制御弁⑴である。2 内部構造被告製品は,⑴ ソレノイド⑶のボディ⑵の部位の内側に電磁コイル⑽を収納している。また,ボディ⑵の下方の開口端部の内側には固定された電磁コイル⑽の内筒部に延出するコア⑷が設けられている。⑵ 電磁コイル⑽の内筒部に間隙空間(5a)を有し,当該間隙空間(5a)には往復動可能なプランジャ⑸が配置され,当該プランジャ⑸は有底円筒状のスリーブ⑺によ5 り囲まれている。前記プランジャ⑸に作動ロッド⑾が接続され,弁本体(V)に内蔵されている弁体の開閉動作を行っている。⑶ ボディ⑵の部位における上方の開口端部と前記間隙空間(5a)との間にプレート⑹が設けられている。当該プレー⑹の外側に合成樹脂製の端部材(H)が設けられており,ボディ⑵の部位における上方の開口端部を塞いでいる。端部材(H)にはシール部材⒀が設けられている。端部材(H)は,ハウジング部材の取付孔開口部に嵌め込まれるが,端部材(H)単独では,取付孔を密封できない。⑷ 前記制御弁⑴の弁本体(V)上部の外周にはシール部材⒁が設けられている。

(別紙特許公報(甲4)添付略)

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