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平成29(行ケ)10198審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成30年3月22日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社わがんせ
原告株式会社MTG
法令 意匠権
意匠法3条1項3号1回
キーワード 審決30回
無効5回
実施3回
意匠権2回
無効審判2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 被告が有する意匠権 被告は,次の意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。

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判決文

平成30年3月22日判決言渡
平成29年(行ケ)第10198号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成30年2月22日
判 決

原 告 株 式 会 社 M T G

同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己
同訴訟代理人弁理士 櫻 木 信 義

被 告 株 式 会 社 わ が ん せ

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2017-880003号事件について平成29年10月3日に
した審決を取り消す。
第2 請求の原因
1 被告が有する意匠権
被告は,次の意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
登録番号 第1565074号
出願日 平成28年2月5日

登録日 平成28年11月11日
意匠の内容 別紙審決書(写し)の「別紙第1」記載のとおり
2 本件意匠についての意匠登録無効審判
原告は,平成29年4月4日,本件意匠についての意匠登録無効審判を請求
した(無効2017-880003号)。
特許庁は,上記請求について審理した上,平成29年10月3日,「本件審
判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月13日,原告
に送達された。
原告は,同年11月9日,本件訴訟を提起した。
3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであるが,その要旨は次の
とおりである。
(1) 審判における原告(請求人)の主張の要旨
本件意匠は,物品名を「トレーニング機器」とする意匠登録第15362
47号の意匠(別紙審決書(写し)の「別紙第2」記載のとおり。以下「引
用意匠」という。)と類似するから,意匠法3条1項3号の規定により意匠
登録を受けることができないものであり,無効とすべきである。
(2) 審決の判断の要旨
本件意匠と引用意匠(以下,併せて「両意匠」という。)は,意匠に係る
物品は一致するが,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきである
から,本件意匠は引用意匠に類似するということはできない。
(3) 審決が認定した両意匠の形態
ア 本件意匠
(ア) 基本的構成態様

形態1:全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略上下左右
対称であり,略横長隅丸4角形状の上パッド,中央パッド及び下パ
ッドが,上下に間隔を空けて左右に平行に延びるように合計6つ配
置された, 「王」
略 字形状の本体と,本体の正面中央に設けられた,
略円形のコントローラで構成されている点。
形態2:本体の上辺及び下辺中央に,円弧状の切り欠き部が形成され
ている点。
形態3:本体正面は平坦で,外周を縁取るように連続する線模様が1
つ設けられている点。
(イ) 具体的構成態様
形態4:コントローラは,背面が略平坦な略レンズ形状で,本体に着
脱可能に設けられている点。
形態5:本体背面中央に,コントローラよりも大きい円形の線模様が
設けられ,各パッドに,周囲に余白を残して,略横長隅丸4角形状
で,略同形同大の電極が配置され,各電極が中央の円形模様と接続
され,円形模様の内側が平坦である点。
形態6:電極内に略楕円形状の区画が略千鳥状に配されて,中央の区
画は大きく,上下の区画は中央から離れるほど小さくなっている点。
形態7:本体には,正面及び背面を貫通する通気孔が設けられていな
い点。
形態8:コントローラの外周近傍の右及び左寄りに,「+」及び「-」
の表示が設けられている点。
形態9:本体周縁は,正面側の平坦面から切り立ったような垂直面で
ある点。

イ 引用意匠
(ア) 基本的構成態様
形態1’:全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略左右対
称であり,略横長隅丸4角形状の中央パッドが,左右端が若干上に
傾くように配置され,中央パッドの上に,略横長隅丸5角形状の上
パッドが,左右端が中央パッドよりも上に傾くように配置され,中
央パッドの下に,略横長隅丸5角形状の下パッドが,左右端が中央
パッドよりも下に傾くように配置された,合計6つのパッドからな
る本体と,本体の正面中央に設けられた,略円形の強弱調整ボタン
で構成されている点。
形態2’:本体の上辺及び下辺中央に,略「V」字状の切り欠き部が
形成されている点。
形態3’:本体正面は,各パッドの外周を縁取る線模様が,パッドご
とに分断して合計6つ設けられ,その内側に,各パッドの外形に相
似するような隅丸略5角形状の線溝が,相似形に3本施されている
点。
(イ) 具体的構成態様
形態4’:強弱調整ボタンは,本体から突出して設けられた略円筒状
の強弱調整ボタン基部の上に同心に配置され,正面側が閉塞する略
円筒状で,本体に一体に設けられている点。
形態5’:本体背面中央に,ボタン基部よりも大きい円形の線模様が
設けられ,各パッドに,周囲に余白を残して,略横長隅丸4角形状
で,略同形同大の電極が配置され,各電極が中央の円形模様と接続
され,円形模様の内側に,周囲に放射状の線模様が施され,中央に

コイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている点。
形態6’:電極内に略6角形状の区画が略千鳥状に配されて,中央の
区画は大きく,上下の区画は中央から離れるほど小さくなっている
点。
形態7’:本体のボタン基部の斜め上下左右に,正面及び背面を貫通
する略隅丸3角形状の通気孔が設けられている点。
形態8’:強弱調整ボタンの正面上下に,「+」及び「-」の表示が
設けられている点。
形態9’:本体周縁は,正面側のゆるやかな傾斜面から滑らかにつな
がる,ごく低い垂直面である点。
(4) 審決が認定した両意匠の形態上の共通点及び差異点
ア 共通点
(ア) 基本的構成態様における共通点
共通点(A):全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略左右
対称であり,横長多角形の上パッド,中央パッド及び下パッドが合
計6つ配置された本体と,本体中央に設けられた略円形のコントロ
ーラ(強弱調整ボタン)で構成されている点。
共通点(B):本体の上辺及び下辺中央に切り欠き部が形成されている
点。
(イ) 具体的構成態様における共通点
共通点(C):本体背面中央に,コントローラよりも大きい円形の線模
様が設けられ,各パッドに,周囲に余白を残して,略横長隅丸4角
形状で,略同形同大の電極が配置され,各電極が中央の円形模様と
接続されている点。

共通点(D): 電極内に同形の区画が略千鳥状に配されて,中央の区画
は大きく,上下の区画は中央から離れるほど小さくなっている点。
共通点(E):コントローラに「+」及び「-」の表示が設けられてい
る点。
イ 差異点
(ア) 基本的構成態様における差異点
差異点(ア):本体が,本件意匠は,上パッド,中央パッド及び下パッ
ドが,いずれも略横長隅丸4角形状であり,上下に間隔を空けて左
右に平行に延びるように配置されて,正面視略「王」字形状となっ
ているのに対して,引用意匠は,中央パッドが略横長隅丸4角形状
で,左右端が若干上に傾くように配置され,上パッドが略横長隅丸
5角形状で,左右端が中央パッドよりも上に傾くように配置され,
下パッドが略横長隅丸5角形状で,左右端が中央パッドよりも下に
傾くように配置されている点。
差異点(イ):本体の上辺及び下辺中央の切り欠き部が,本件意匠は円
弧状であるのに対して,引用意匠は略「V」字状である点。
差異点(ウ):本体正面が,本件意匠は平坦で,外周を縁取る線模様が
連続して1つ設けられているのに対して,引用意匠は,外周を縁取
る線模様がパッドごとに分断して合計6つ設けられ,その内側に,
各パッドの外形に相似するような隅丸略5角形状の線溝が,相似形
に3本施されている点。
(イ) 具体的構成態様における差異点
差異点(エ):コントローラが,本件意匠は,背面が略平坦な略レンズ
形状で,本体に着脱可能に取り付けられているのに対して,引用意

匠は,本体から突出して設けられた略円筒状の強弱調整ボタン基部
の上に同心に配置され,正面側が閉塞する略円筒状で,本体に一体
に設けられている点。
差異点(オ):本体背面中央の円形模様の内側が,本件意匠は平坦であ
るのに対して,引用意匠は周囲に放射状の線模様が施され,中央に
コイン掛け溝を有する電池部蓋が設けられている点。
差異点(カ):電極内の区画が,本件意匠は略楕円形状であるのに対し
て,引用意匠は略6角形状である点。
差異点(キ):本件意匠は,本体の正面及び背面を貫通する通気孔が設
けられていないのに対して,引用意匠は,コントローラの斜め上下
左右に,正面及び背面を貫通する略隅丸3角形状の通気孔が設けら
れている点。
差異点(ク):コントローラの「+」及び「-」の表示が,本件意匠は
コントローラの外周近傍の右及び左寄りに設けられているのに対し
て,引用意匠はコントローラの正面上下に設けられている点。
差異点(ケ):本体周縁が,本件意匠は,正面側の平坦面から切り立っ
たような垂直面であるのに対して,引用意匠は,正面側のゆるやか
な傾斜面から滑らかにつながる,ごく低い垂直面である点。
第3 原告主張の取消事由
審決は,引用意匠の独自性,斬新性及びそれらの程度の高さの認定を誤り,こ
れを受けて,引用意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様の認定,対比する本
件意匠の認定,両意匠の共通点,差異点の評価をいずれも誤った結果,両意匠の
類似性の判断を誤ったもので,取り消されるべきである。
1 引用意匠の独自性及び斬新性

引用意匠は,略隅丸横長矩形状のパッドに,左右から中心に向かって4本の
細長く深い切り込み線を施しており,一見して,2列3段に左右対称に配置さ
れた6枚のパッド片から構成されるパッドであることが看取できる。この引用
意匠の特異な構成は,公知例のいずれにも見出すことができず,その独自性及
び斬新性は極めて高いものであって,取引者・需要者に与える印象は並外れて
大きい。引用意匠を実施した原告の商品が平成27年7月に発売された後,そ
の9か月後の平成28年4月に本件意匠の実施品が発売されるまで,市場には
6枚のパッド片を備えたEMS(Electrical Muscle Stimulation。筋電気刺激)
で腹筋を鍛える商品は,原告の商品しか存在していなかったところ,そのイン
パクトの大きさは,原告の商品が,EMS機器全体のマーケットの中で,記録
的な人気商品となったことからも推し量ることができる。
引用意匠のような,極めて高い独自性,斬新性を有するパイオニア意匠は,
広く保護されるべきである。
2 両意匠の形態の認定の誤り
(1) 意匠の基本的構成態様とは,「意匠の形態を大づかみにした場合の基本的
構成態様に属する事項」をいうが,上記1のような引用意匠の独自性,斬新
性及びその程度の高さに鑑みれば,引用意匠の基本的構成態様は,審決が認
定したような細部にわたるものとされるべきではない。
したがって,引用意匠の基本的構成態様のみならず,具体的構成態様につ
いても,後記(2)のように認定されるべきである。
また,本件意匠の基本的構成態様についても,引用意匠の独自性,斬新性
及びその程度の高さに鑑みれば,審決は余りにも細部にわたる認定をしてい
るというほかなく,本件意匠の形態は,引用意匠の形態の認定に対応して,
後記(3)のように認定されるべきである。

(2) 引用意匠の形態
ア 基本的構成態様
形態1’:6枚のパッド片からなるパッド部と,円形の電池部とを有
し,
形態2’:6枚のパッド片は,2列3段組みとして,電池部を中心に,
左右対称に略横長矩形状に配置され,
形態3’:電極部は,各パッド片の裏面に配置され,その一部が電池
部に連接されているトレーニング機器。
イ 具体的構成態様
形態4’:電池部は,パッド部の中央に配置されている。
形態5’:中段のパッド片は,電池部を挟んで略水平に配置され,上
段のパッド片は,左右端がやや上方に傾斜して配置され,下段のパ
ッド片は,両端をやや先細りとして水平に配置されている。
形態6’:1段目と2段目及び2段目と3段目のパッド片の隙間は,
先細りとなっている。
形態7’:パッド部の上辺及び下辺の輪郭は,中央に向かってやや下
方に傾斜し,中央部において先細りの切り込みを有しており,左辺
及び右辺の輪郭はやや外方に湾曲している。
形態8’:6枚の各パッド片の表面には,隅丸5角形を構成する3本
の溝とその外側にパッド片の周縁に沿って線模様が施されている。
形態9’:電池部は,先端がパッド部から突出しており,表面上下に
+と-が表示されている。
形態10’:電池部とパッド片の間に4個の小穴が穿設されている。
形態11’:電極部の隅丸長方形状内には,横1列,縦9段に小穴が

形成されており,小穴の大きさは,中央3段を大,その外側の1段
を中,その外の2段を小として,各横列の小穴は隣り合う縦列の小
穴と千鳥状をなすように配置されている。
形態12’:電極部に形成された小穴の形状は,6角形である。
形態13’:パッド部裏面中央には円形の電池部が配置され,その中
央に蓋開閉用のコイン掛けが,周縁には細溝が凹設されている。
(3) 本件意匠の形態
ア 基本的構成態様
形態1 6枚のパッド片からなるパッド部と,
: 円形の電池部とを有し,
形態2:6枚のパッド片は,2列3段組みとして,電池部を中心に,
左右対称に略横長矩形状に配置され,
形態3:電極部は,各パッド片の裏面に配置され,その一部が電池部
に連接されているトレーニング機器。
イ 具体的構成態様
形態4:電池部は,パッド部の中央に配置され,
形態5:中段のパッド片は,電池部を挟んで略水平に配置され,上段
及び下段のパッド片も水平に配置され上下左右ともに対称をなして
いる。
形態6:1段目と2段目及び2段目と3段目のパッド片の隙間は,等
間隔である。
形態7:パッド部の上辺及び下辺の輪郭は水平であり,中央部におい
て円弧状の切り込みを有しており,左辺及び右辺の輪郭は垂直であ
る。
形態8 6枚の各パッド片表面には,
: 周縁に縁取り線が施されている。

形態9:電池部は,先端を含む全体がパッド部から突出しており,そ
の周側下方に+と-が表示されている。電池部は,パッド部から着
脱可能に取り付けられている。
形態10:電池部とパッド片の間に小穴は穿設されていない。
形態11:電極部の隅丸長方形状内には,横1列,縦9段に小穴が形
成されており,小穴の大きさは,中央3段を大,その外側の1段を
中,その外側の2段を小として,各横列の小穴は隣り合う縦列の小
穴と千鳥状をなすように配置されている。
形態12:電極部に形成された小穴の形状は,円形である。
形態13 パッド部裏面中央には,
: 円形の幾何図形が形成されている。
3 両意匠の形態における共通点及び差異点の認定の誤り
両意匠の形態の共通点及び差異点は,上記2において主張した両意匠の形態
に基づいて次のように認定されるべきであり,審決におけるこの点についての
認定はいずれも誤っている。
(1) 共通点
共通点(A):本件意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通す
る。
共通点(B):具体的構成態様において,電池部がパッド部の中央に配
置されている点において共通する。
共通点(C):具体的構成態様において,パッド部裏面の電極部の隅丸
長方形状内には,横1列,縦9段に小穴が形成されており,小穴の
大きさは,中央3段を大,その外側の1段を中,その外の2段を小
として,各横列の小穴は隣り合う縦列の小穴と千鳥状をなすように
配置されている点において共通する。

(2) 差異点
差異点(ア):本件意匠は,中段のパッド片が,電池部を挟んで略水平
に配置され,上段及び下段のパッド片も水平に配置されて上下左右
ともに対称をなしているのに対して,引用意匠は,中段のパッド片
が,電池部を挟んで略水平に配置され,上段のパッド片は,左右端
がやや上方に傾斜して配置され,下段のパッド片は,両端をやや先
細りとして水平に配置されて上下は非対称となっている具体的構成
態様において差異を有する。
差異点(イ):本件意匠の1段目と2段目及び2段目と3段目のパッド
片の隙間は等間隔であるのに対して,引用意匠は先細りとなってい
る具体的構成態様において差異を有する。
差異点(ウ) 本件意匠のパッド部の上辺及び下辺の輪郭は水平であり,

中央部において円弧状の切り込みを有しており,左辺及び右辺の輪
郭は垂直であるのに対して,引用意匠は,パッド部の上辺及び下辺
の輪郭は,中央に向かってやや下方に傾斜し,中央部において先細
りの切り込みを有しており,左辺及び右辺の輪郭はやや外方に湾曲
している具体的構成態様において差異を有する。
差異点(エ):本件意匠の6枚の各パッド片表面には,周縁に縁取り線
が施されているのに対して,引用意匠の6枚の各パッド片の表面に
は,隅丸5角形を構成する3本の溝とその外側にパッド片の周縁に
沿って線模様が施されている具体的構成態様において差異を有する。
差異点(オ):本件意匠の電池部は,先端を含む全体がパッド部から突
出し,その周側下方に+と-が表示されているのに対して,引用意
匠の電池部は,先端がパッド部から突出し,表面上下に+と-が表

示されている具体的構成態様において差異を有する。また,電池部
の着脱の可否においても差異を有する。
差異点(カ):本件意匠は,電池部とパッド片の間に小穴は穿設されて
いないのに対して,引用意匠は,電池部とパッド片の間に4個の小
穴が穿設されている具体的構成態様において差異を有する。
差異点(キ):本件意匠の電極部に形成された小穴の形状は,円形であ
るのに対して,引用意匠の電極部に形成された小穴の形状は,6角
形である具体的構成態様において差異を有する。
差異点(ク):本件意匠のパッド部裏面中央には,円形の幾何図形が形
成されているのに対して,引用意匠のパッド部裏面中央には円形の
電池部が配置され,その中央に蓋開閉用のコイン掛けが,周縁には
細溝が凹設されている具体的構成態様において差異を有する。
4 両意匠の類否判断の誤り
(1) 共通点の評価
上記3(1)において主張した共通点(A)の構成態様は,公知例には全く見
ることのできない新規かつ独創的なものである。特に,表面は,物品の正面
かつ全体にわたるものであって看者の注意を強くひくものであり,基本的構
成態様である形態1と形態1’,及び形態2と形態2’の共通性が,両意匠
の類否判断に与える影響は極めて大きい。
共通点(B)の構成態様は,パッド片が4枚のものにおいては公知例に開示
されているが,パッド片が6枚のものにおいては新規な構成であり,両意匠
の類否判断に与える影響はそれ相応のものである。
共通点(C)の構成態様についても,両者の共通性は極めて高く,両意匠の
類否判断に一定の影響を及ぼすものである。

なお,審決は,意匠登録第1541180号の意匠(別紙審決書(写し)
の「別紙第4」)を参照し,審決が認定した共通点(D)(原告主張の共通
点(C)に相当)は,両意匠のほかにも見られる形態であるから,この点が
両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいと判断したが,当該意匠は,原告が,
引用意匠の出願日の8日後である平成27年2月27日に出願したものであ
って,公知意匠に該当しない。
(2) 差異点の評価
差異点(ア)における上段のパッド片が,電池部を挟んで水平に配置されて
いるか否かの差異については,引用意匠の上段のパッド片の傾斜の程度は緩
やかなものであって,本件意匠との間に大きな差異感を奏するものではない。
また,電池部を中心に上下及び左右を対称とした原告の意匠が,引用意匠を
本意匠とする関連意匠として登録された(意匠登録第1545928号。甲
4)ことからも明らかなように,この点の差異が両意匠の類否判断に及ぼす
影響は小さいというべきである。
差異点(イ)における各段のパッド片間の隙間の形態の差異については,こ
の隙間の形状は特異なものではなく,これらが全体に占める面積は小さいこ
とから,両意匠の類否判断を左右する要素にはならない。
差異点(ウ)におけるパッド部上辺及び下辺の輪郭,左辺及び右辺の輪郭の
差異については,本件意匠の上辺及び下辺における中央部円弧状の切り込み
口が各辺の長さの3分の1に及んでいることにより,中央部が下方に傾斜し
た印象を呈しており,両者の差異は両意匠の類否判断を左右する要素にはな
らないというべきである。また,本件意匠の上下辺中央部における円弧状の
切り込みは,公知例(甲3の2から3の4)に,左辺・右辺両辺の垂直な輪
郭は,公知例(甲3の2及び3の3)にそれぞれ開示されているものであり,

さらに,上辺及び下辺における切り込みのない原告の意匠が,引用意匠を本
意匠とする関連意匠として登録された(意匠登録第1554933号。甲5)
ことからも明らかなように,この点における差異も両意匠の類否判断を左右
する要素にはならない。
差異点(エ)におけるパッド片表面の線模様については,隅丸5角形を構成
する3本の溝の有無において一定の差異を有するとはいえ,縁取り線と線模
様の差異において,本件意匠の縁取り線と引用意匠の線模様は,ともにパッ
ド片周縁の縁取り線としての共通感を呈しており,両意匠の類否判断を左右
する要素にはならない。
差異点(オ)における電池部の構成については,電池部が円形でありその表
面に+と-の表示がされている点は,公知例(甲3の3及び3の4)に開示
されており,両意匠の類否判断を左右する要素にはならない。また,本件意
匠は,電池部が装着された形態を有するものであるから,着脱の可否は両意
匠の類否判断を左右する要素にはならない。
差異点(カ)における小穴の有無については,穴は小さく形状もありふれた
ものであるから,両意匠の類否判断を左右する要素にはならない。
差異点(キ)における電極部の小穴の形状の差異については,その差異は容
易に識別できない程に小さなものである上,多数の小穴が密接に配置されて
いることから,個々の形状の差異は,多数の小穴の密集感に埋没されて目立
たなくなることとも相まって,両意匠の類否判断を左右する要素にはならな
い。
差異点(ク)におけるパッド部裏面中央の構成については,本件意匠では,
引用意匠の円形の電池部に対応する位置に,円形の幾何図形が形成されてい
る点において近似感を強めており,両意匠の類否判断を左右する要素にはな

らない。
(3) 両意匠の類否
両意匠は,意匠に係る物品を共通にし,物品において類似の関係にある。
次に,両意匠は,その形態において,基本的構成態様を共通にし,類否判
断に及ぼす影響は極めて大きい。具体的構成態様における電池部の中央配置,
パッド部裏面電極部の小穴の配置の共通性についても,両意匠の類否判断に
及ぼす影響はそれなりに大きい。
これに対し,具体的構成態様における差異点は,いずれも両意匠の類否判
断を左右する要素にはならない。
したがって,両意匠の差異点は,共通点が創出する美感を凌駕するものと
評価することはできないから,本件意匠は引用意匠に類似するものである。
第4 被告の対応
被告は,適式の呼出しを受けながら,本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁
書その他の準備書面も提出しないから,上記第2記載の請求原因事実をいずれも
認めたものとみなされる。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,審決の判断に誤りはないと判断する。その理由は以下のとおりで
ある。
1 両意匠の形態
(1) 弁論の全趣旨によれば,本件意匠及び引用意匠の形態は,審決の認定のと
おりと認められる。
(2) 原告は,引用意匠には高度の独自性及び斬新性があるから,この独自性,
斬新性がある部分を大づかみにして比較すべきなのに,審決における両意匠
の基本的構成態様についての認定は,余りにも細部にわたっているという趣

旨の主張をする。
しかし,審決が認定した両意匠の基本的構成態様は,いずれも両意匠のい
わゆる輪郭部分に加え,一見して認識できる略円形のコントローラ(強弱調
整ボタン)部分の形態や各パッドに設けられている線模様であって,意匠の
形態を大づかみにした場合に認識できる骨格的態様,すなわち基本的構成態
様に属するものというべきであるから,審決の基本的構成態様の把握に誤り
はない。むしろ,原告の主張は,基本的構成態様を過度に抽象化しているも
のといわざるを得ない。
また,審決は,各パッドの形態(形態1及び形態1’),コントローラ(強
弱調整ボタン)の側面の形態(形態4及び形態4’),本体周縁の形態(形
態9及び形態9’)についても的確に捉えて認定しており,正当といえる。
なお,原告が主張する引用意匠の形態6’については,審決が認定した形
態1’における「…上パッドが,左右端が中央パッドよりも上に傾くように
配置され,…下パッドが,左右端が中央パッドよりも下に傾くように配置さ
れた…」との部分に包含されていると認めるのが相当である。
したがって,両意匠の形態に関する審決の認定に誤りはなく,この点につ
いての原告の主張を採用することはできない。
2 両意匠の形態における共通点及び差異点
弁論の全趣旨によれば,本件意匠及び引用意匠の形態における共通点及び差
異点についても,審決の認定のとおりと認められる。
なお,審決が認定した差異点(ケ)は,原告が主張していない差異点であるが,
両意匠を対比するとこの点に差異があるのは明らかであるから,これを両意匠
の差異点と認定した審決の判断に誤りはない。
3 両意匠の類否判断

(1) 両意匠の物品は,いずれも「トレーニング機器」と同一であって,微弱電
流により腹筋等を刺激し,腹部の筋肉等を引き締めるためのものである点に
おいて共通する。その需要者についても,いずれもそのようなニーズを有す
る一般消費者であると認められる。そして,両意匠に係る物品は,これを使
用者の腹部に載せ,当該物品の背面に設けられている電極を腹部に接触させ
て使用する物であるから(両意匠の【使用状態を示す参考図】参照。),着
脱時には,直接肌に触れることになる背面も,ある程度の注意をもって見る
機会があるものの,需要者は主に当該物品の表面を正面ないし斜め上方向か
ら見る機会が多いというべきである。両意匠を実施した物品及び同種の物品
を紹介するカタログ,ポスター等においても,これらの物品単独で,又は腹
部に装着した物品の表面を正面から撮影した画像が多く使用されており(甲
3の2から3の4, ,
7) 上記の観察方法の正当性を裏付けるものといえる。
(2) 以上を前提として,両意匠が需要者の視覚を通じて起こさせる美観が類似
するか否かを検討する。
ア 両意匠の形態上の共通点について
両意匠は,全体は,正面から見て,薄いシート状であって,略左右対称
であり,横長多角形の上パッド,中央パッド及び下パッドが合計6つ配置
された本体と,本体中央に設けられた略円形のコントローラ(強弱調整ボ
タン)で構成されている点(共通点(A)),本体の上辺及び下辺中央に切
り欠き部が形成されている点(共通点(B)),本体背面中央に,コントロ
ーラよりも大きい円形の線模様が設けられ,各パッドに,周囲に余白を残
して,略横長隅丸4角形状で,略同形同大の電極が配置され,各電極が中
央の円形模様と接続されている点(共通点(C)),電極内に同形の区画が
略千鳥状に配されて,中央の区画は大きく,上下の区画は中央から離れる

ほど小さくなっている点(共通点(D)),並びにコントローラに「+」及
び「-」の表示が設けられている点(共通点(E))において,共通する形
態を有している。
これらの共通点のうち,全体が,正面から見て,薄いシート状であって,
略左右対称であり,パッドが複数配置された本体と,本体中央に設けられ
た略円形のコントローラ(強弱調整ボタン)で構成されている点(共通点
(A)’),本体の上辺又は下辺中央に切り欠き部が形成されている点(共
通点(B)’),並びにコントローラに「+」及び「-」の表示が設けられ
ている点(共通点(E))は,甲3の3等にみられるようにありふれた態様
であって,類否判断に及ぼす影響は小さい。
これに対し,両意匠は,横長多角形の上パッド,中央パッド及び下パッ
ドが左右対称に合計6つ設けられているという,特徴的な形態を有してい
るところ,パッド部が全体に占める面積が大きく,かつ,各パッド間の区
切りも明瞭であるから,この点は需要者の注意を強くひく構成態様と評価
することができる。
また,両意匠は,背面の電極の形態に関し,上記共通点(C)及び共通点(D)
において共通するが,上記(1)のとおり,需要者が当該物品の背面に着目す
る程度は高くないと認められるから,これらの共通点が両意匠の類否判断
に及ぼす影響は大きくないというべきである。
イ 両意匠の形態上の差異点について
(ア) 差異点(ア)及び差異点(イ)についてみると,本件意匠は,上パッド,
中央パッド及び下パッドが,いずれも略横長隅丸4角形状であり,上下
に間隔を空けて左右に平行に延びるように配置されて,正面視略「王」
字形状となっており,本体の上辺及び下辺中央に円弧状の切り欠きがあ

るものの,全体として略横長隅丸4角形に収まる形状となっており,総
じて枠にはまった型どおりの平板で単調な印象を与えるものである。こ
れに対し,引用意匠は,中央パッドが略横長隅丸4角形状で,左右端が
若干上に傾くように配置され,上パッドが略横長隅丸5角形状で,左右
端が中央パッドよりも上に傾くように配置され,下パッドが略横長隅丸
5角形状で,左右端が中央パッドよりも下に傾くように配置されており,
本体の上辺及び下辺中央に略V字状の切り欠きが設けられていることと
相まって,変化に富み,いきいきとした躍動感や力強さといった,意匠
に係る物品を使用することによって達成しようとする目標に沿う印象を
需要者に与えるものであるから,これらの差異点により需要者に与える
印象の違いは極めて大きいというべきである。
また,差異点(ウ)については,本件意匠の表面の縞模様は,外周を縁
取る線模様が連続して1つ設けられているにすぎず,単調な印象しか与
えないのに対し,引用意匠は,外周を縁取る線模様がパッドごとに分断
して合計6つ設けられ,その内側に,各パッドの外形に相似するような
隅丸略5角形状の線溝が,相似形に3本施されている点において,腹部
の筋肉の盛り上がりをイメージさせるものといえるから,この点につい
ても,需要者に与える印象の違いは極めて大きいというべきである。
さらに,差異点(ク)について,コントローラの「+」及び「-」の表
示がコントローラの外周近傍の右及び左寄りに設けられているか,コン
トローラの正面上下に設けられているかによって,一定程度異なる印象
を需要者に与えるといえる。
(イ) 次に,差異点(エ)については,コントローラ(強弱調整ボタン)の形
態が略レンズ形状か略円筒状かは,目につきにくい部分における細かな

差異にすぎないし,本件意匠に係る物品を使用する際には,このコント
ローラ部を装着したままの状態にするものと認められるから
(すなわち,
需要者は主にコントローラ部が本体に装着された状態を観察することに
なる。),需要者に与える印象の違いは小さいというべきである。
また,差異点(キ)については,引用意匠に設けられている通気孔は,
本体中央に設けられているコントローラの斜め上下左右という比較的需
要者の注意をひく位置にあり,形状が略隅丸3角形であることから,シ
ャープな印象を与えるものといえるが,その孔自体それ程目立つもので
はなく,通気孔の部分が全体に占める割合もごく小さいことから,この
点が需要者に与える印象の違いは小さいというべきである。
(ウ) その余の差異点については,両意匠を全体としてみたときに,ごく限
定された部分又は目につきにくい部分における細かな差異にすぎず,他
の共通点・差異点から生ずる美感を左右するほどのものとはいえない。
ウ 以上によれば,両意匠が共通して有する,横長多角形の上パッド,中央
パッド及び下パッドが合計6つ設けられている形態は,需要者の注意を強
く引く構成態様と評価することができる。
また,両意匠は,背面の電極の形態に関し,上記共通点(C)及び(D)に
おいて共通するが,背面の形態であって,需要者が着目する程度は高くな
いから,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きくない。
他方,差異点(ア)から(ウ)によってもたらされる印象は,本件意匠にお
いては,枠にはまった型どおりの平板で単調なものであるのに対し,引用
意匠においては,変化に富み,いきいきとした躍動感や力強さといったよ
うな,意匠に係る物品を使用することによって達成しようとする目標に沿
うものとなっており,これらの差異点が与える印象の違いは,上記共通点

がもたらす印象をはるかに凌駕するものである。
そうすると,その余の共通点,差異点がもたらす印象を考慮しても,両
意匠は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にするというべきであ
る。
(3) したがって,本件意匠は,引用意匠に類似するといえない。
4 結論
以上によれば,審決に取り消されるべき違法はないから,原告の請求は理由
がない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴 岡 稔 彦

裁判官

杉 浦 正 樹

裁判官

間 明 宏 充

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