ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成27(ワ)21684 民事訴訟 特許権
裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
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裁判年月日 | 平成30年4月20日 |
事件種別 | 民事 |
当事者 | 被告モンデ酒造株式会社
大和製罐株式会社
伊藤忠食品株式会社
株式会社セブン-イレブン・ジャパン
4名を併せて「
ら」という。)
4名を併せて「
ら」という。)曽我真美子 |
対象物 | アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法 |
法令 |
特許権 特許法36条6項1号4回 特許法134条の23回 特許法36条4項1号3回 特許法101条4号2回 特許法123条1項4号2回 特許法29条2項1回 特許法102条2項1回 特許法2条3項3号1回 特許法36条6項2号1回 |
キーワード | 無効26回 実施18回 侵害15回 特許権14回 間接侵害6回 進歩性6回 差止4回 新規性4回 無効審判3回 損害賠償2回 優先権1回 審決1回 |
主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。事 実 及 び 理 由20第1 請求 1 被告モンデ酒造は,別紙1記載の各方法(以下「被告各方法」という。)を使用してはならない。 2 被告モンデ酒造,被告伊藤忠食品及び被告セブンイレブン(以下,併せて「被告モンデ酒造ら」という。)は,別紙2記載の各製品(以下「被告各製品」と25いう。)を販売してはならない。 3 被告モンデ酒造らは,被告各製品を廃棄せよ。 4 被告大和製罐は,別紙3記載の各アルミニウム缶(以下「被告各アルミ缶」という。)を製造し,又は販売してはならない。 5 被告大和製罐は,被告各アルミ缶を廃棄せよ。 6 被告らは,原告に対し,連帯して8000万円及びこれに対する平成27年58月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 訴訟費用は被告らの負担とする。 8 仮執行宣言第2 事案の概要 1 被告らのうち,被告大和製罐は被告各アルミ缶を製造し,被告モンデ酒造は10被告大和製罐から購入した被告各アルミ缶にワインを充填して被告各製品を製造し,被告伊藤忠食品は被告モンデ酒造から被告各製品を購入し,被告セブンイレブンは被告伊藤忠食品から被告各製品を購入して消費者に販売しているところ,本件は,発明の名称を「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」とする発明についての特許権(請求項の数15。以下「本件特許15権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。)を有する原告が,被告各方法が本件発明若しくは原告による訂正請求後の本件特許(以下,訂正請求後の特許請求の範囲請求項1の発明を「本件訂正発明」という。)の技術的範囲に属すると主張し(予備的に均等侵害を主張),又は被告各アルミ缶は本件特許権の実施のみに用いるものであると主張20して,①被告モンデ酒造に対し,被告各方法の使用の差止め,②被告モンデ酒造らに対し,被告各製品の販売の差止め及び廃棄,③被告大和製罐に対し,被告各アルミ缶の製造・販売の差止め及び廃棄,④被告らに対し,不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償金5億7000万円のうち8000万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年8月27日(訴状送達の日の翌25日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)(1) 原告の有する特許権原告は,以下の本件特許権を有している(以下,本件特許に係る明細書及5び図面を併せて「本件明細書」という。)。登 録 番 号 特許第3668240号出 願 日 平成14年6月5日優 先 日 平成13年9月28日登 録 日 平成17年4月15日10発明の名称 アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法(2) 本件発明の特許請求の範囲本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって,該方法が:1535ppm未満の遊離SO2 と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造するステップと;アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているツーピースアルミニウム缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が最小2520psiとなるように,前記缶をアルミニウムクロージャでシーリングするステップとを含む,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」(3) 本件発明の構成要件本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。25A アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって,該方法が:B 35ppm未満の遊離SO2 と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造するステップと;C アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているツー5ピースアルミニウム缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が最小25psiとなるように,前記缶をアルミニウムクロージャでシーリングするステップとD を含む,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法(4) 訂正請求及び訂正後の特許請求の範囲と構成要件10ア 被告大和製罐は,本件特許について無効審判請求をし(無効2016-800043),特許庁は,平成29年3月29日,本件特許請求の範囲請求項1ないし15(以下,単に「請求項1」などという。)に係る発明を全て無効とすべき旨の審決予告をした。原告は,同年7月4日,上記無効審判事件において,訂正請求をした(以下「本件訂正」という。)。(甲15122の1~3,乙75)イ 本件訂正発明は次のとおりである(下線部は本件訂正による訂正部分。なお,請求項2~15についても連動して訂正がされ,また,請求項1の訂正に整合するように本件明細書の段落【0005】も訂正された。)。(甲122の3)20「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって,該方法が:アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを意図して製25造するステップと;アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているツーピースアルミニウム缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が最小25psiとなるように,前記缶をアルミニウムクロージャでシーリングするステップとを含む,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」5ウ 本件訂正発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。A アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって,該方法が:B´アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800p10pm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを意図して製造するステップと;C アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているツーピースアルミニウム缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が最小25psiとなるように,前記缶をアルミニウムクロージャでシー15リングするステップとD を含む,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法(5) 被告らの行為ア 被告大和製罐は,平成23年から現在に至るまで,被告各製品(以下,別紙2記載の記号番号に従って,「プティモンテリア スパークリング」20をイ号製品,「プティモンテリア ブラン」をロ号製品,「プティモンテリア ルージュ」をハ号製品という。これに併せて,別紙1記載の各方法についても,同別紙記載の記号番号に従って「イ号方法」などという。)のための被告各アルミ缶を製造し,被告モンデ酒造に販売している。イ 被告モンデ酒造は,平成23年から現在に至るまで,被告大和製罐から25購入した被告各アルミ缶にワインを充填して被告各製品を製造し,被告伊藤忠食品に対し同各製品を販売している。ウ 被告伊藤忠食品は,平成23年から現在に至るまで,被告モンデ酒造から被告各製品を購入し,それらを販売している。エ 被告セブンイレブンは,平成23年から現在に至るまで,被告伊藤忠食品から被告各製品を購入し,消費者に対し販売している。5(6) 本件各特許の優先日前の先行文献の存在本件各特許の優先日(平成13年9月28日)の前には,以下の先行文献が存在する。ア 1992年(平成4年)に「NIGNEVINI Numero 5」に掲載されたR.Ferrarini らによる”Il condizionamento del vino in contenitore10d’alluminio”(訳:アルミニウム容器へのワインパッケージング)と題する文献(乙29。以下,同文献を「乙29文献」,乙29文献に記載された発明を「乙29発明」という。)イ 2001年(平成13年)4月に出版された”Schweiz Lebensmittelbuch”中の Kapitel 30,Richtlinien(訳:ガイドライン)13/14~14/14 頁の表15“Tabelle 30A.1”(乙30。以下,同文献を「乙30文献」,同表を「乙30表」という。)ウ 1974年(昭和49年)に出版された M.A.Amerine 及び C.S.Ough による“WINE AND MUST ANALYSIS”(訳:ワイン及び葡萄果汁成分分析)(甲24の1~3。以下,同文献を「甲24文献」という。)20 3 争点(1) 被告各方法は本件発明の技術的範囲に属するかア 本件発明は単純方法の特許かイ 構成要件Bの充足性(ア) 「35ppm未満の遊離SO2」を充足するか25(イ) 「塩化物」「スルフェート」を充足するかウ 構成要件Cの充足性(ア) 「耐食コーティング」を充足するか(イ) 「ツーピースアルミニウム缶」を充足するか(ウ) イ号方法に関し「缶内の圧力が最小25psi」を充足するかエ 構成要件Cについて均等侵害の成否5(2) 間接侵害の成否(3) 無効の抗弁の成否ア 乙29発明及び乙30文献による進歩性欠如イ 乙29発明による新規性欠如ウ 乙29発明及び甲24文献による進歩性欠如10エ 実施可能要件違反オ サポート要件違反(4) 訂正の再抗弁の成否ア 本件訂正の適法性イ 被告各方法は本件訂正発明の技術的範囲に属するか(構成要件B’の充15足性)ウ 本件訂正により無効理由が解消するか(5) 損害の発生の有無及びその額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(本件発明は単純方法の特許か)について20〔原告の主張〕本件発明は,物(缶入りワイン)を生産する方法の発明である。本件発明は,特許請求の範囲の記載によると「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」に関するものであるところ,同方法を用いた結果として,「アルミニウム缶にパッケージングされたワイン」という物が得られる25のであるから,本件発明は「物を生産する方法の発明」である。したがって,被告モンデ酒造らが,被告各製品を販売する行為は本件特許権を侵害する(特許法2条3項3号)。〔被告らの主張〕本件発明の特許請求の範囲に「・・・を製造する方法」等ではなく「ワインをパッケージングする方法」と記載されていることからすると,本件発明は,5物の生産方法の発明ではなく,単純方法の発明である。本件明細書においても,段落【0015】に「本発明の方法に必要となるワインは,下記のような特定のブドウ栽培及びワイン製造技術によって製造することができる。」と記載されているように,「方法」という文言と「製造」という文言とが明確に書き分けられている。10したがって,被告モンデ酒造らが被告各製品を販売する行為は,本件発明の実施に該当しない。 2 争点(1)イ(構成要件B充足性)について〔原告の主張〕(1) 「35ppm未満の遊離SO2」を充足するか15ア 構成要件Bの「35ppm未満の遊離SO2」は,ワイン中の遊離SO2の量が35ppm未満であることを要件とするものであるが,ここにいう遊離SO2は,ワインの充填時ではなく,ワイン消費時(市場販売時)における遊離SO2の濃度を意味していると解すべきである。亜硫酸ないし二酸化硫黄(遊離SO2)は,酸素と反応して消滅するもの20であるから,充填直後に急激に減少し,その後ゆるやかに時間の経過とともに減少する。遊離SO2は,ワインの殺菌・酸化防止のために添加されるものであることから,目標とするワイン消費時のSO2含有量を設定し,ワインが消費されるまでの期間中に減少する遊離SO2の量を勘案して充填時のSO2の添加量を決めるのが当業者の技術常識である。25イ 被告モンデ酒造作成の「詰前分析ノート」(甲66の1~4)によれば,平成25年10月22日から平成28年4月26日までの「詰前(濾過後)」時の遊離SO2は,イ号製品について平均32.0ppm(全測定データ166件中の120件が,35ppm未満),ロ号製品について平均44.4ppm,ハ号製品について平均45.9ppmである。そして,被告各製品を市場で購入し分析した結果は,イ号製品(詰前(濾5過後)38.4ppm。その約25~28日経過後に分析したもの)で29ppm,ロ号製品(詰前(濾過後)49.6ppm。その約3か月後に分析したもの)で19ppm,ハ号製品(詰前(濾過後)48.0ppm。その約2か月後に分析したもの)で18ppmであったというのであるから(甲64),遊離SO2濃度の減少の程度を踏まえると,被告各製品は,10通常で約1か月は経過しているワイン消費時(市場販売時)までに,全て35ppm未満となっている蓋然性が極めて高い。したがって,被告各方法は,構成要件Bに規定された「35ppm未満の遊離SO2」を充足する。ウ 仮に,「35ppm未満の遊離SO2」が充填時の測定値であったとして15も,被告モンデ酒造作成の「製品分析ノート」(甲67の1,2)によれば,ハ号製品の「充填後(工場出荷前)」の遊離SO2は,平均33.4ppmであり,上記のとおり,イ号製品の「詰前(濾過後)」時の遊離SO₂は平均32.0ppmであり,「充填後(工場出荷前)」は更にその数値が低くなることは技術常識である。そうすると,少なくとも,イ号方法及20びハ号方法は「35ppm未満の遊離SO2」を充足する。なお,被告モンデ酒造が作成した「D12」資料(甲54の2)記載の測定データ(以下,同資料を「甲54資料」,同資料記載の測定データを「甲54データ」という。)は,遊離SO2に関しては,サンプル数が少なすぎるので,遊離SO2の含有量が比較的高いサンプルのみが意図的に抽25出された疑いがある。(2) 「塩化物」「スルフェート」を充足するかア 構成要件Bの「塩化物」及び「スルフェート」は,それぞれ,本件明細書の原文である外国語特許出願の外国語書面(甲26)における「chloride」及び「sulfates」の訳語であるところ,ワイン中の成分について「chloride」(訳:「塩化物」)及び「sulfates」(訳:「スルフェート」又は「硫酸5塩」)との用語が使用された場合,それらは「塩化物イオン(Cl-)」及び「硫酸イオン(SO42-)」を意味するというのが,当業者の技術常識である。イ ワイン中の陰イオンの含有量を表す方法として,ワイン中の塩化物イオンについては,Cl-の量で直接表す方法とNaClの量に換算して表す10方法があり,硫化物イオンについては,SO42-の量で直接表す方法とK2SO4の量に換算して表す方法があるが,NaClやK2SO4の量に換算して表すときは,必ず「as NaCl」(訳:「NaClとして」),「asK2SO4」(訳:「K2SO4として」)等の注記がある。ウ そして,甲54資料記載のとおり,イ号製品は,平均70.00ppm15のCl-と,平均210.00ppmのSO42-とを有し,ロ号製品は,平均70.00ppmのCl-と,平均567.00ppmのSO42-とを有し,ハ号製品は,平均50.00ppmのCl-と,平均207.00ppmのSO42-とを有するものである。したがって,被告各方法は,構成要件Bの「300ppm未満の塩化物」20及び「800ppm未満のスルフェート」を充足する。〔被告らの主張〕(1) 「35ppm未満の遊離SO2」を充足するかア 構成要件Bの「35ppm未満の遊離SO2」は,ワイン消費時ではなく,ワインの充填時における遊離SO2の濃度を意味すると解すべきである。25構成要件Bは「35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造するステップ」であり,構成要件Cにワインを充填するステップが規定されている。これによると,構成要件Bに記載された「遊離SO2」の濃度はワイン製造時又は充填までの間の濃度であって,パッケージングされて市場で販売される時点での濃度ではないことは明らかである。5イ 被告各製品において,ワインの充填時の遊離SO2の量は,イ号製品で36.25ppm(平均値),ロ号製品で46.01ppm(平均値),ハ号製品では47.29ppm(平均値)であり(甲54の2),いずれの数値も,構成要件Bの「35ppm未満の遊離SO2」を充足しない。したがって,被告モンデ酒造による被告各製品のパッケージング方法は,10構成要件Bの「35ppm未満の遊離SO2」を充足しない。(2) 「塩化物」「スルフェート」を充足するかア 塩化物は「塩素と塩素より陽性な元素との化合物の総称」を意味する(乙17)から,構成要件Bの「300ppm未満の塩化物」中の「塩化物」は「化合物」を意味する。また,スルフェートは「硫酸H2SO4の水素が15金属に置換された組成の塩」を意味する(乙18)から,構成要件Bの「800ppm未満のスルフェート」中の「スルフェート」は「塩」を意味する。イ 請求項1には,「塩素イオン」ではなく「塩化物」と,「硫酸イオン」ではなく「スルフェート」とそれぞれ明記されている。その上で,本件明20細書の段落【0032】には,化合物としての塩化物と塩素イオンとが明確に書き分けられ,化合物としてのスルフェートと硫酸イオンについても同様である。このように,請求項1及び本件明細書の記載を参酌すると,請求項1の「塩化物」,「スルフェート」は塩化物ではなく,化合物を意味するものというべきである。25ウ そして,甲54データによれば,ロ号製品用のワインの硫酸イオン(SO42-)は567ppmであるが,これをK2SO4に換算すると1029(=567×174.26/96.06)ppmとなる(なお,K2SO4の分子量は174.26であり,SO42-の式量は96.06である。)。したがって,構成要件Bの「スルフェート」が,K2SO4に換算された化合物であるとすると,ロ号方法は構成要件Bを充足しない。5 3 争点(1)ウ(構成要件C充足性)について〔原告の主張〕(1) 「耐食コーティング」を充足するかア 構成要件Cの「アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされている」のうち,「耐食」とは「腐食しにくいこと」,「コーティン10グ」とは「布地・紙などを防水または耐熱加工するために,油・パラフィン・ゴム・合成樹脂などで処理する工程」をそれぞれ意味するから(乙19),アルミニウム缶の腐食を防止する目的で施されているコーティングであれば,その材料,材質等にかかわらず,構成要件Cの「耐食コーティング」に該当する。15イ 被告らは,被告各製品の腐食防止膜はラミネートタイプであるから「耐食コーティング」を充足しないと主張する。しかし,広辞苑第六版(乙19)においても,「コーティング」とは,「布地・紙などを防水または耐熱加工するために,油・パラフィン・ゴム・合成樹脂などで処理する工程」を意味するとされており,マグローヒル科学技術用語大辞典(甲103)20では,「被覆剤 coating 【材料】1.表面上に連続した薄い膜を形成する材料の総称。上記 1 項の材料で作られた膜。」と記載されている。このように「コーティング」は貼り付ける場合も除外していないので,貼付け(ラミネート)によって「膜」を形成する場合も「コーティング」に含まれる。25したがって,被告各方法は構成要件Cの「耐食コーティング」を充足する。(2) 「ツーピースアルミニウム缶」を充足するか構成要件Cは「ツーピースアルミニウム缶」であることを要するとしているところ,被告各製品は「スリーピース缶」ではなく「ツーピース缶」であるので,構成要件Cを充足する。5「ツーピース缶」か「スリーピース缶」かの違いは,製缶方法の違いを意味するものであるところ,被告各アルミ缶は,典型的なツーピース缶と同じ絞りしごき法(DI法)によって製缶されるもの(いわゆる「DI缶」)であり,そのため,「スリーピース缶」の外観上の特徴であるサイドシーム(継ぎ目)が存在しないので「ツーピース缶」に分類される。10スリーピース缶の缶胴にはサイドシーム(継ぎ目)があり,ツーピース缶の缶胴にはサイドシーム(継ぎ目)がないということは,当業者の技術常識である(甲4,5,9~12,16,18,21,28~36,53,71,72,乙25,27,42(枝番があるものは枝番を含む。))。被告大和製罐も,自らが出願人である特許出願公開公報(特開2005-14472158号。甲69)において,「ツーピース缶」は,「缶胴部に接合部がないことからシームレス缶とも呼ばれ」ると記載するなど,上記技術常識を認めている。したがって,被告各アルミ缶は「ツーピースアルミニウム缶」である。(3) イ号方法に関し「缶内の圧力が最小25psi」を充足するか20ア 構成要件Cは「缶内の圧力が最小25psiとなる」ことを要件としているところ,缶内圧力を付加することの技術的意義は,缶の強度を補強するためである(本件明細書の段落【0033】【0035】,甲32,34)から,構成要件Cの「缶内の圧力」の値は,缶内の圧力が安定した状態で測定すべきである。25イ 被告各製品の缶内圧力を測定したところ,イ号製品が約47psi,ロ号製品が約18.3psi,ハ号製品が約14.8psiであった(甲19の1~3)ので,イ号方法は上記要件を充足する。なお,ロ号及びハ号方法については,後記4〔原告の主張〕のとおり均等侵害を主張する。ウ 被告大和製罐の従業員が作成した分析報告書(乙28)に記載された測定結果は,充填直後の測定によるもので,缶内圧力が安定していない状態5であった蓋然性が高く,また,非常に低温で測定しているため,適切な温度(20℃程度)で測定した場合よりも缶内圧力が低くなっており,構成要件Cの「缶内の圧力」を正しく測定したものではない。〔被告らの主張〕(1) 「耐食コーティング」を充足するか10ア 被告各アルミ缶の内面には,内面がワインで腐食することを抑制するための腐食防止膜として,ポリエステル(熱可塑性樹脂)の膜が用いられている。被告各アルミ缶は,ポリエルテルの膜がラミネートされた(貼り付けられた)平板状のアルミニウム板を加工することによって製造されている(乙23,24)。15イ 原告の主張によれば,構成要件Cの「耐食コーティング」は,アルミニウム缶の腐食を防止する目的で施されているコーティングを意味するというのであるから,機能的クレームである。機能的クレームについては,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された具体的構成を参酌しながらその技術的範囲を解釈すべきである。20アルミニウム缶の内面に腐食防止膜を形成する方法は大きく分けて,アルミニウム缶の内面に架橋剤及び熱硬化性の合成樹脂を含む液体状組成物をコーティングしてこれを熱硬化させて膜を形成するタイプと,平板状のアルミニウムの板に腐食防止性を有するフィルムをラミネートした(貼り付けた)後,このフィルム付きの平板状のアルミニウムの板を缶に加工す25るというタイプがあるが,本件明細書の段落【0009】には「耐食コーティングが熱硬化性コーティングであることが好ましい。」との記載はあるが,フィルムをラミネートする方法を示唆する記載はない。以上によれば,本件発明の「耐食コーティング」は,「アルミニウム缶の内面に架橋剤及び熱硬化性の合成樹脂を含む液体状組成物をコーティングしてこれを熱硬化させて膜を形成するタイプ」をいうと解すべきであ5る。したがって,被告各方法は「耐食コーティング」を充足しない。(2) 「ツーピースアルミニウム缶」を充足するかア 「ツーピースアルミニウム缶」は,“two piece”(二つの部品・部材)のアルミニウム缶との名前のとおり,二つの部品から構成されるアルミニ10ウム缶をいうと解釈される。例えば,食品工業総合事典(甲9)やJIS規格(乙42)でも二つの部品からなるものと定義されているイ 被告各アルミ缶はボトル缶(ボトルの形をしており,従来ビンに使用されているスクリュー式のキャップで蓋をした缶)であるところ,平成12年にはツーピースタイプ及びスリーピースタイプのボトル缶が実用化され,15胴とキャップの二つの部品から構成されるものはツーピースボトル缶,缶底,胴,キャップの三つの部品から構成されるものはスリーピースボトル缶と分類されている。スリーピースタイプのボトル缶には,サイドシームのあるものとないものがあり,サイドシームの有無はツーピースとスリーピースの分類とは関係がない。20被告各アルミ缶は三つの部品から構成されるので,スリーピースボトル缶であり,「ツーピースアルミニウム缶」ではない。(3) イ号方法に関し「缶内の圧力が最小25psi」を充足するかア 本件発明に係る特許請求の範囲に「缶内の圧力が最小25psiとなるように,前記缶をアルミニウムクロージャでシーリングするステップ」と25記載されていることからして,本件発明においては,缶をアルミニウムクロージャでシーリングする際に缶内の圧力を最小25psiとなるようにするものと解釈される。本件明細書の段落【0035】にも「缶充填プロセスは,ほぼ0.1mlの液体窒素を,本体のクロージャのシーム形成直前に添加することに関与する。缶の内部圧力は,ほぼ25~40psiである。」と記載され,「缶充填プロセス」の段階でその缶内圧力を25~540psiとすることとされている。イ 被告大和製罐の従業員が作成した分析報告書(乙28)によれば,被告各製品について,アルミニウムの蓋でシーリングする際の缶内の圧力の測定値は,イ号製品が平均11.6psi,ロ号製品が平均15.7psi,ハ号製品が平均15.3psiであったから(乙28),被告各方法はい10ずれも構成要件Cの「缶内の圧力が最小25psi」を充足しない。 4 争点(1)エ(構成要件Cについて均等侵害の成否)について〔原告の主張〕(1) 相違部分についてア 「ツーピースアルミニウム缶」について15仮に,被告各方法が構成要件Cの「ツーピースアルミニウム缶」に文言上該当しないとしても,同構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する。イ 「缶内の圧力が最小25psi」についてロ号及びハ号方法については,構成要件Cの「缶内の圧力が最小25p20si」との要件を文言上充足していないが,同構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する。(2) 均等の5要件について上記(1)のとおりの相違部分があるとしても,次のとおり,被告各方法について均等侵害が成立する。25ア 第1要件(非本質的部分)本件発明は,ワイン等をパッケージングする金属缶の内面に耐食コーティングを設けることや,容器に充填する際などに酸化防止剤・抗菌剤として添加される亜硫酸(遊離SO2)のワイン中の濃度レベルを低くすることに加えて,ワイン中の生来的な成分である塩化物及びスルフェートに着目し,これらの陰イオンの濃度レベルの低いワインのみを金属缶へのパッケ5ージングの対象として選別することで,当該ワインをパッケージングした金属缶の腐食を防止し,ワインの品質を著しく損なうことのない長期間の保存安定性の達成を可能としたものである。本件発明の係る意義に照らせば,本件発明の本質的部分は,「300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを10特徴とするワイン」をアルミニウム缶にパッケージングする点にあるから,「ツーピースアルミニウム缶」であることや「缶内の圧力が最小25psi」であることは,本件発明の本質的部分ではない。イ 第2要件(置換可能性)「35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,80015ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワイン」をアルミニウム缶にパッケージングしている限り,どのようなアルミニウム缶を用いていようと,本件発明と同一の作用効果を奏する。また,ロ号方法及びハ号方法について「缶内圧力が最小25psi」の要件を文言上充足しないとしても,本件発明の上記構成を備えている限り,20本件発明と同一の作用効果を奏する。ウ 第3要件(置換容易性)従来のツーピース缶の代わりに,平成12年以降その需要が拡大しているボトル缶に置換することは,遅くとも平成23年当時の当業者にとって容易であった。25また,被告各アルミ缶は,トップドーム成形を施すことによって缶の強度が増していることから,ロ号及びハ号方法において,被告各アルミ缶を用いた場合に缶内の圧力を25psiより小さくすることは,当時の当業者にとって容易であった。エ 第4要件(公知技術等除外)被告各方法は,いずれも,本件特許出願時における公知技術と同一又は5当業者が同技術に基づき容易に推考し得たものではない。オ 第5要件(意識的除外)被告各アルミ缶のような形状のアルミ製ボトル缶は,本件特許権の優先日よりもわずか1年前に日本において登場したばかりで,優先日当時の日本でも一般的であったとはいえず,ましてや,本件特許権の優先権主張国10であるオーストラリアにおいてその存在が知られていたとは考え難い。そうすると,本件特許権の優先日当時,本件特許の出願人が,本件発明の技術的範囲から被告各アルミ缶を意識的に除外したということはできない。また,缶内圧力についても,本件特許権の出願手続において,ロ号方法やハ号方法程度の缶内圧力とすることにつき,本件特許の出願人が当該構15成を明確に認識し,これを特許請求の範囲から除外したことをうかがわせる証拠は存在しない。〔被告らの主張〕(1) 相違部分について原告の主張する相違点について均等侵害は成立しない。20(2) 均等の5要件についてア 第1要件(非本質的部分)本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載に加え,本件特許の優先日当時における技術(乙29,45~50,54(枝番があるものは枝番を含む。))を考慮すると,本件発明の課題は,ワインの品質が保25存中に著しく劣化しないようなアルミニウム缶内へのワインのパッケージング方法を提供することにあり,その解決手段は,①ワイン中の遊離二酸化硫黄レベルを35ppm未満等とすること,②密閉性に優れるツーピース缶を用いること,③ツーピース缶の耐食コーティングを適切に選択すること,④缶充填の際にほぼ0.1mlの液体窒素を本体のクロージャのシーム形成直前に添加することで缶内の圧力をほぼ25~40psiと5して頭隙の酸素レベルを極めて低くすることにあるといえる。したがって,原告の主張する相違部分は,本件発明の本質的部分に関するものであるということができる。イ 第2要件(置換可能性)被告各アルミ缶に使用されているスリーピース型のアルミニウムのボト10ル缶はスクリュー式のキャップと本体との密着性が弱く,酸素が缶内に侵入しやすいことから,ツーピースアルミニウム缶を用いた場合と比較して,ワインは初期状態から劣化することになる。したがって,本件発明のツーピースアルミニウム缶に代えてスリーピース型のアルミニウムのボトル缶に置換したとしても,本件発明と同一の作15用効果を奏しない。ウ 第3要件(置換容易性)被告各製品の商品化の時点において,密閉性に優れるツーピースアルミニウム缶を,酸素遮断性が大きく劣り,ワインが初期状態から劣化しやすくなるスリーピース型のアルミニウムのボトル缶に置き換えることは,保20存時のワインの味の劣化に関するクレームの発生を極力避けたいと考える当業者において容易に選択できる手法でなかった。また,パッケージング時の缶内圧力を下げると缶の強度が確保できなくなるというのであるから,パッケージング時の缶内圧力を下げることで他の利点が得られないのに,わざわざボトリング時の缶内圧力を下げて,缶25の強度を低下させた状態で商品を出荷し,市場で缶が損傷する危険性のあるパッケージング方法を採用することはあり得ない。したがって,被告各方法は,均等の第3要件を満たさない。エ 第4要件(公知技術等除外)原告の第3要件に係る主張に従えば,少なくとも,ツーピース缶をスリーピース型のボトル缶に変換し,さらにパッケージング時の缶内圧力を255psiより小さくすることは,本件特許の優先日当時,当業者にとって容易想到であったということになる。オ 第5要件(意識的除外)原告は,本件特許の審査過程において,平成17年1月6日付けの手続補正書(甲20の6)で特許請求の範囲を本件特許の内容に補正した上で10(請求項3を補正),同日付けで提出した意見書(甲20の7)において,「本発明は,請求項1に記載のとおり,ワインのパラメーターの組合せ要件を,パッケージングプロセス及び缶の耐食コーティングと組み合わせることで,この課題を解決しています。」と記載しているのであるから,この組合せ以外の構成を意識的に除外していたということができる。15被告各製品は,「ツーピースアルミニウム缶」との構成及び「缶内の圧力が最小25psi」との構成を有しない点で,本件発明の上記パッケージングプロセスを満たさないのであるから,被告各製品のパッケージング方法は,本件発明に係る特許請求の範囲から意識的に除外された構成であるというべきである。20 5 争点(2)(間接侵害の成否)について〔原告の主張〕被告各アルミ缶は,被告各製品それぞれに固有の印刷がなされたボトル缶であるから,本件発明の技術的範囲に属する被告各方法の使用にのみ用いる物である。25したがって,これらの被告各アルミ缶を製造,販売等する行為は,本件特許権の間接侵害となる(特許法101条4号)。〔被告らの主張〕特許法101条4号の間接侵害は,方法の発明の場合,その方法に「のみ」用いる物か否かで判断されるのであり,その発明に使用される缶に固有のデザインが印刷されているかどうかは,間接侵害の成否とは関係がない。また,被5告各製品のパッケージング方法は本件発明と相違するので,間接侵害に当たらない。 6 争点(3)ア(乙29発明及び乙30文献に基づく進歩性欠如)について〔被告らの主張〕(1) 乙29文献には,次の乙29発明が開示されている。10構成1A’アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって構成1B’4ppmの遊離SO2を有するスティルの白ワインに炭酸ガスを封入したスパークリングベース型の白ワインを製造するステップと;構成1C’アルミニウム本体の内面にワニスがコーティングされている容15器と蓋からなるアルミニウム容器の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が2atm(約29psi)以上となるように,アルミニウム容器をパッケージングするステップと構成1D’を含む,アルミニウム容器内にワインをパッケージングする方法20(2) 本件発明と乙29発明との対比ア 一致点本件発明の構成要件A及びDは,乙29発明と一致する。また,乙29発明の遊離SO2値が本件発明の数値範囲に含まれている点で一致する(構成要件B)。さらに,「(アルミニウム缶の本体に」ワインを充填し,25缶内の圧力が最小25psiとなるように前記缶をアルミニウムクロージャでシーリング」している点で一致する(構成要件C)。イ 相違点本件発明と乙29発明には次の相違点がある。① 本件発明ではワインが300ppm未満の塩化物を有するのに対し(構成要件B),乙29発明では炭酸ガスを封入してスパークリング型5にしたスティルの白ワイン中の塩化物の量が特定されていない点(相違点1)② 本件発明ではワインが800ppm未満のスルフェートを有するのに対し(構成要件B),乙29発明では炭酸ガスを封入してスパークリング型にしたスティルの白ワイン中のスルフェートの量が特定されてい10ない点(相違点2)③ 本件発明ではアルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているのに対し(構成要件C),乙29発明ではワニスがコーティングされている点(相違点3)④ 本件発明ではツーピース缶を用いるのに対し(構成要件C),乙2915発明ではこれが明らかではない点(相違点4)(3) 相違点について(容易想到性)ア 相違点1及び2スイスワインのガイドラインを示す乙30表によれば,スイスワインの組成のためのガイドライン値として,スティルの白及びロゼワインには1200~80mg/1ppmの塩化物が含まれているとされており,この数値範囲は「300ppm未満の塩化物」に含まれる。また,同表によれば,スイスワインの組成のためのガイドライン値として,白及びロゼワインには0.2~0.8g/1ppm(200~800ppm)の硫酸塩(スルフェート)が含まれているとされており,この数値範囲は「800ppm25未満のスルフェート」と重複している。スイスワインに限らず,世界中の平均的なワイン(ポルトガルワイン,スペインワインの一部を除く。)においては,塩化物の含有量が300ppm未満である。また,スルフェートについても,一部の国・地域(カリフォルニア,フランス,イスラエル,スペイン等)の一部のワインを除くと,その含有量は800ppmとなっている。このように,本件発明の塩5化物及びスルフェートの濃度はワインとして通常有する濃度を規定するにすぎない。また,乙29文献の表2,3には,塩酸と硫酸がワインの物理的・化学的安定に対して正の作用を有している旨が記載されている一方で,アルミ缶に負の作用を有している旨が記載されており,これらの記載は,ワイン10中の塩化物や硝酸塩の含有量を制御することが望ましいことを示唆している。したがって,相違点1及び2は,乙29発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到し得るものである。イ 相違点315本件発明の「耐食コーティング」を「腐食しにくくすることを目的とする処理膜」と解すると,「ワニス」は,腐食しにくくすることを目的とする処理膜であるから「耐食コーティング」に該当するので,相違点3は相違点に当たらない。仮に「耐食コーティング」を「ホルムアルデヒドを基剤とする架橋剤と20組み合わされたエポキシ樹脂のような熱硬化性の合成樹脂で形成された腐食防止膜」と解し,「ワニス」とは異なるものとした場合であっても,「耐食コーティング」をエポキシ樹脂とすることは周知なので(乙33~36),上記相違点は単なる周知技術を付加するものにすぎず,当業者が容易に想到し得るものである。25ウ 相違点4乙29発明では,「容器と蓋からなるアルミニウム容器」を用いるとされ,ツーピース缶(乙32)を用いていると解釈できるので,相違点4は実質的な相違点ではない。仮に相違点に当たるとしても,本件特許の優先日当時,アルミニウムのツーピース缶を金属缶として用いることは周知であった(乙31)から,5相違点4は当業者が適宜行う設計事項にすぎず,容易に想到できる。エ 結論したがって,本件発明は,乙29発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到できるものであって,特許法29条2項により特許を受けることができないものであるから,本件発明に係る特許は同法123条1項210号により無効とすべきものである。〔原告の主張〕(1) 乙29発明の構成及び本件発明と乙29発明との間に被告らの主張する相違点1,2があることは争わないが,下記(2)のとおり,相違点1,2は容易に想到し得るものではない。15また,構成要件Cの「耐食コーティング」には,乙29発明のワニスも含まれるので,被告らの主張する相違点3は相違点ではない。なお,相違点4については容易想到であることは争わない。(2) 相違点1及び2(容易想到性)ア 被告らは,スイスワインのガイドラインである乙30文献を根拠として,20相違点1及び2が容易想到であると主張するが,スイスワインは,世界中の様々な国で生産されているワインの中でも,塩化物及びスルフェートの濃度の平均レベルが最も低いワインであり,しかも,本件特許の優先日当時の世界シェアはわずかに0.4%程度しかない(甲50)。イ ワインの主要産地のほぼ全ての地域において,スルフェートの含有量が25800ppmを超えるものが存在することが示されているなど,本件発明が規定する構成要件Bの「300ppm未満の塩化物」及び「800ppm未満のスルフェート」との各陰イオンの濃度レベルは,決してワインとして通常有する濃度を規定するものではない。ウ 本件発明は,ワイン中の生来的な成分であり,生産国,土壌,品種,気候等によってワイン中の濃度が様々に異なり得る塩化物及びスルフェー5トに着目し,これらの陰イオンの濃度レベルの低いワインのみを金属缶へのパッケージングの対象として選別することで,当該ワインをパッケージングした金属缶の腐食を防止しようというものである。他方,乙29文献には,塩化物及びスルフェートのワイン中の濃度についての記載は一切存在しておらず,これらの濃度を低レベルに調整するこ10とについての示唆もない。被告らも指摘するとおり,硫酸及び塩酸はワインの物理的・化学的安定性に対して正の作用を有しており,その含有レベルを高くすることも考えられるのであるから,乙29の表2,3にその含有量を低くする旨の示唆があるということはできない。エ さらに,29文献記載の実験結果は,保存期間が2~3か月を超えた時15点でワインの品質(味,色,匂い)が商品として許容できない程度に劣化しており,商業的に利用できるレベルのものではなかったのであるから,当業者が乙29発明を参酌するとは考え難い。したがって,相違点1及び2は,本件特許の優先日当時の当業者にとって容易に想到し得るものではなかった。20 7 争点(3)イ(乙29発明による新規性欠如)について〔被告らの主張〕乙29文献はイタリアの論文であり,アルミニウム缶にパッケージングされたワインのテストはボローニャ大学で行われていること,イタリアワインが世界有数のワインの一つであることは技術常識であること(甲24),乙29文25献には外国産である旨の記載がないことからすれば,乙29文献におけるテストで使用された白ワインはイタリアワインと推認される。甲24文献の表32によれば,平均的なイタリアワインに含有される塩化物(Clで表現)は70ppmであり,スルフェート(K2SO4で表現)は750ppmである。本件発明の「塩化物」や「スルフェート」が陰イオン又はNaCl又はK2SO4の化合物を示すとの原告の主張を前提とした場合,平均的5なイタリアワインの塩化物の含有量は300ppm未満であり,スルフェートの含有量は800ppm未満である。そうすると,乙29文献には本件発明に係るワインが記載されているに等しい。したがって,本件発明は新規性違反の無効理由がある。〔原告の主張〕10被告らは,乙29文献のテストに使用されている白ワインがイタリアワインであると主張するが,乙29文献にはワインの産地の記載はなく,何ら証拠に基づかない主張である。仮にイタリアワインであったとしても,イタリアワインは多種多様であって,上記テストに用いられたワインが,「300ppm未満の塩化物(Cl-)」及び「800ppm未満のスルフェート(SO42-)」15を有するワインであったとはいえない。したがって,被告らの新規性欠如の主張は失当である。 8 争点(3)ウ(乙29発明及び甲24文献による進歩性欠如)について〔被告らの主張〕上記7に関し,仮に,乙29文献のテストで使用されたワインがイタリアワ20インでないとしても,乙29発明について平均的なイタリアワイン(甲24)を適用することに何らの困難性もない。したがって,本件発明には進歩性違反の無効理由がある。〔原告の主張〕イタリアワインは多種多様であり(甲111),「平均的なイタリアワイン」25というものが存在しない。また,仮に,乙29発明にイタリアワインを適用することを想到し得たとしても,甲24文献の表32から明らかであるように,イタリアワインは,塩化物(Cl-)を300ppm以上又はスルフェート(SO42-)を800ppm以上含む可能性を否定できないので,本件発明の構成は容易に想到し得るものではない。 9 争点(3)エ(実施可能要件違反)について5〔被告らの主張〕(1) 本件発明は「35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造するステップ(構成要件B)」を有する。しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,上記所定の組成を満たすワ10インの製造条件等が一切記載されていない。本件明細書の段落【0038】~【0042】に記載された試験に関しても,使用したワインの組成についての記載はなく,製造条件を変更した上での比較試験の記載もない。そして,本件明細書全体並びに本件特許の優先日及び出願日当時の技術常識に基づいても,当業者は上記所定の組成を有するワインの製造条件を想定することは15できない。原告は,本件明細書の段落【0015】から,ワインとミネラルウォーターなどをブレンドすることで上記所定の組成のワインを得ることが容易に想到し得ると主張するが,同段落の記載は「規定レベルよりも高いレベルの構成成分でワインを処理し,これらの構成成分を除去するか又はこれらの構成20成分の含有率を本発明に必要となる含有率まで低下させる」というもので,数値範囲外のワインを排除することや,遊離SO2,塩化物又はスルフェートの濃度が低いものを混ぜて成分を薄めることは記載されていない。したがって,当業者をしても,本件発明の所定の組成のワインのパッケージングする方法を使用することができず,本件発明を実施することができな25い。(2) 請求項1には「アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているツーピースアルミニウム缶」と記載されているところ,この「耐食コーティング」の具体的な材料については,本件明細書の発明の詳細な説明には,熱硬化性コーティングとすることが好ましい旨が記載されるとともに(段落【0009】),エポキシ樹脂とする旨が記載されているのみである(段5落【0034】)。ところが,耐食コーティングに用いる樹脂成分の違いにより,缶内の飲料に与える影響に大きな差があることは周知である(乙34~36)。したがって,当業者をしても,本件発明の「所定の組成のワインのパッケージングする方法」を使用することができず,本件発明を実施し得ない。10(3) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので,特許法36条4項1号の規定に違反し,特許を受けることができないものであり,本件特許は同法123条1項4号に該当し,無効とすべきで15ある。〔原告の主張〕(1) 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明に係るワインの製造方法が詳細に記載されており(段落【0015】~【0032】),同明細書に記載された特定のブドウ栽培及びワイン製造技術により製造することができる。20そもそも,当業者(ワインの製造業者)であれば,特段の記載がなくてもワインを製造できることは明らかであるし,自らワインを製造しなくても,ワイン製造業者の製造したワインを入手することが可能である。そして,塩化物及びスルフェートの濃度の分析・測定技術も確立していたのであるから,アルミニウム缶に充填する際に本件発明の数値の範囲外のワインを除外すれ25ば足りる。本件明細書の段落【0015】には「本発明において,『ワイン』という用語は,極めて広範囲に使用され,この用語には非発泡ワイン,発泡ワインならびに強化ワイン,及びミネラルウォーター及びフルーツジュースとブレンドされたワインが含まれる。」との記載があり,これによれば,塩化物やスルフェートの含有率の低いミネラルウォーター,フルーツジュース又はワ5インとブレンドすることによって,塩化物やスルフェートの含有率を本件発明に必要となる含有率まで低下させることも可能である。さらに,遊離SO2の含有量が経時的に減少することは当業者にとって周知であり,澱引きや過酸化水素水の使用によって二酸化硫黄を減少させる手法も当業者によく知られている(甲150)。10(2) アルミニウム缶の腐食を防止するために,缶内面に被覆するコーティングの材料として,エポキシ樹脂(熱硬化性樹脂),フェノール樹脂(熱硬化性樹脂),ポリ塩化ビニル樹脂(熱可塑性樹脂),ポリエステル樹脂(熱可塑性樹脂)など様々な樹脂を用いることが可能であること,及び,その中から目的に応じて最適なものを選んで用いればよいことは当業者にとって周知で15あった。また,本件発明は耐食コーティングの組成に係る発明ではなく,どのような種類の耐食コーティングであっても本件発明の実施において利用可能である。(3) したがって,本件発明は実施可能要件に違反するものではない。10 争点(3)オ(サポート要件違反)について20〔被告らの主張〕(1) 本件発明の課題は,アルミニウム缶内にワインをパッケージングしても,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しないようにすることである(本件明細書の段落【0004】)。この課題を解決するため,本件発明は「35ppm未満の遊離SO2 と,32500ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造するステップ」を有するが,その技術上の意義については本件明細書の発明の詳細な説明に一切説明がなく,当業者はその記載により本件発明の課題を解決できると認識することはできない。また,本件明細書には,パッケージングされたワインについて試験が行われた旨の記載はあるが,コーティングの条件について記載はなく,測定が行5われたとされる「頭隙酸素」や「目視検査」が行われたことをうかがわせる記載もないので,実際に実験が行われたかどうかも疑わしい。さらに,遊離SO2,塩化物,スルフェートが上記所定の組成を満たさない場合との比較試験の結果は示されていない。本件発明は化学成分の組成や缶内圧力など実験しないとその作用効果が確認できない構成要件を含む発明で10あるから,作用効果を確認するための十分な比較試験が必要である。加えて,本件特許の優先日又は出願日当時の技術常識に照らしても,当業者は,上記特定の組成を有するワインを用いることで本件発明の課題が解決できると認識することができない。(2) 請求項1には「アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングさ15れているツーピースアルミニウム缶」と記載されているところ,この「耐食コーティング」の具体的な材料については,本件明細書の発明の詳細な説明には,熱硬化性コーティングとすることが好ましい旨が記載されるとともに(段落【0009】),エポキシ樹脂とする旨が記載されているのみである(段落【0034】)。20本件明細書の同段落には,「良好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」との記載があり,これによれば,耐食コーティングの不透過性が不十分である場合にはワインの保存安定性が確保できないこととなるが,「良好に架橋された不透過性膜」とはどの程度架橋された膜をいうのか,エ25ポキシ樹脂以外の樹脂で本件発明の効果を奏するにはどうしたら良いのかについては本件明細書に記載はないことから,当業者は本件明細書の記載から本件発明の課題が解決できると認識することはできない。(3) したがって,本件発明についての特許は,特許法36条6項1号の規定に違反し,同法123条1項4号に該当し,無効とすべきである。〔原告の主張〕5(1) 本件発明の課題を解決できると認識できるかどうかという点に関し,遊離SO2が金属腐食性の強い物質であり,その含有量が低いほど金属缶入りワインの耐食性が向上することは当業者に周知の事項である(甲39,40,乙29)。また,塩化物イオン(Cl-)及びスルフェート(SO42-)についても,アルミニウム容器に対して負の影響を及ぼす因子であることは,一般10的な技術常識である(甲88~90)。「0~300ppm未満」の塩化物及び「0~800ppm未満」のスルフェートがそれぞれ相対的に低い濃度レベルであることは技術常識であるから,当業者には,本件発明に係るワインをアルミニウム缶にパッケージングした場合の方が,アルミニウム缶が腐食しにくいと容易に理解することができる。15本件発明の特徴的な部分は,ワイン中の生来的な成分である塩化物及びスルフェートに着目し,その濃度が低レベルのワインのみを選別して金属缶にパッケージングするという点にあり,これは従来存在しなかった技術思想であるから,構成要件Bに規定された各上限値を定めるに当たっての裏付けとなる実験結果の記載まで本件明細書の記載として求められるものではない。20また,構成要件Bの各数値範囲は,それぞれが相対的に低い濃度であることを示すという意義を有するものであり,臨界的な意義があるわけではない。臨界的な意義のない数値範囲については,その裏付けとなる実験結果等の記載がないとしてもサポート要件には違反しない。(2) 本件発明は,耐食コーティングとして用いる樹脂の組成に関するものでは25ない。「耐食コーティング」については,従来公知のものであれば,どのような種類のものでも本件発明の実施において利用可能であるから,エポキシ樹脂以外の樹脂を使用する場合についても,本件発明の課題を解決することができると当業者が認識できることは明らかである。なお,耐食コーティングの組成が異なれば,ガスバリヤー性及びフレーバー成分の吸着性の性能差に応じて,内容物に溶出する金属イオンの量,発生5する硫化水素の量,吸着されるフレーバー成分の量がそれぞれ異なり得ることは確かであるが,これはワイン中の成分の塩化物及びスルフェートの量に影響を及ぼすものではなく,本件発明の課題は,ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの含有量を所定値以下にすることにより達成される。(3) したがって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したもの10であるから,特許法36条6項1号の規定に違反しない。11 争点(4)ア(本件訂正の適法性)について〔原告の主張〕本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,適法である。15本件訂正は,「35ppm未満の遊離SO2 と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造するステップ」という発明特定事項を,より下位の「アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを20特徴とするワインを意図して製造するステップ」(下線部が訂正部分)とするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法134条の2第9項で準用する同法126条6項に適合する。〔被告らの主張〕25本件発明の構成要件Aの「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって…」及び構成要件Dの「を含む,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法。」の各文言に鑑みれば,訂正前の構成要件Bのステップで製造されるワインは,当然に,アルミニウム缶内にパッケージング対象となるワインであるから,構成要件Bに「アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして」との文言を加えても,これにより構成要件Bが限5定されることにはならない。また,構成要件Bの「製造する」という文言自体に「原料を加工して製品とする」との意味がある(乙92)から,構成要件Bに「…ワインを意図して製造する」との文言を加えても,これにより構成要件Bが限定されることにはならない。さらに,「意図して製造する」か「意図せずに製造する」かは,製造10を行う者の主観であって外形的・客観的な判断はできないから,「意図して製造する」との訂正が技術的に明確であるとはいえない。したがって,本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものではない。12 争点(4)イ(構成要件B’の充足性)について15〔原告の主張〕(1) 被告モンデ酒造による,アルミニウム缶にパッケージングされるワインの「製造」行為が,「アルミニウム缶にパッケージングする対象となるワインとして」当該パッケージングされるワインを製造するものであることは明らかである。20(2) 被告モンデ酒造の作成に係る甲54資料の左下の「充填仕様」の箇所には,イ号方法に係るワインについて,「遊離亜硫酸(F-SO2)」の「目標値」が「20(ppm)以上」,「管理範囲」が「20~30ppm」であることが,ロ号及びハ号方法に係るワインについて,「目標値」が「40(ppm)以上」,「管理範囲」が「40~50ppm」であることが明記されて25いる。そうすると,被告モンデ酒造は,充填時に上記「管理範囲」の遊離SO2 を含有するワインを「意図して」製造しており,ワイン消費時(市場販売時)に,イ号方法については「20~30ppm」よりも低い濃度の,ロ号及びハ号方法については約19~27ppmの遊離SO2 を含有するワインを「意図して」製造しているといえる(甲56)。(3) 被告大和製罐及び被告モンデ酒造は,平成20年3月に弁理士作成の調査5報告書(甲133)を,平成21年2月に弁理士作成の鑑定書(甲134)をそれぞれ取得し,被告大和製罐が検討していた実施案が本件特許を侵害しないとの意見を得たことから,被告各方法の使用を開始したものであり,遅くとも平成20年3月には本件発明に係るワインの三つの成分の含有量に着目していた。10また,被告モンデ酒造は,チリから原料となる輸入ワインを輸入しているが,チリの分析機関から成分分析証明書を入手していたので,当該輸入ワインが「300ppm未満の塩化物」及び「800ppm未満のスルフェート」を含有することを認識しつつ,被告アルミ缶にパッケージングするワインの原料として使用していたと考えられる。15仮にそのような事実が認められないとしても,被告モンデ酒造は,遅くとも,甲54資料のための分析(平成27年12月4日よりも前に実施)の後には,被告各製品が構成要件Bの規定する成分について所定の含有量を有することを認識していたから,上記意図を有していた。(4) 被告各方法が訂正前の構成要件Bを充足することは前記のとおりであり,20訂正により付加された構成も満たすことは上記(1)ないし(3)に記載のとおりであるから,被告各方法は,構成要件B’を充足する。〔被告らの主張〕前記のとおり,被告各方法は構成要件Bの各成分の濃度を満たさないから,構成要件B’も充足しないことは明らかである。25また,被告各製品の製造時又はパッケージング時の各成分の含有量の測定データが証拠上存在しないことからも,被告各製品のパッケージング方法において「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の含有量を意図して調整していないことは明らかである。13 争点(4)ウ(本件訂正により無効理由が解消するか)について〔原告の主張〕5(1) 本件訂正により,本件訂正発明は「アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして」所定の各成分を含有するワインを「意図して」製造し,パッケージする方法に限定されることとなったところ,乙29文献及び乙30文献には,「アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,10800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを意図して製造するステップ 」という構成は,開示も示唆もされていない。したがって,乙29発明に乙30文献を組み合わせても,本件訂正発明の構成にはなり得ないのであって,乙29発明による進歩性欠如の無効理由がないことはより明確となった。15(2) 本件訂正発明は,「35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワイン」を,「アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして」,「意図して」製造するものであることが明らかであり,当該「意図」を有さず偶然に上記数値範囲内のワインを製造する場合等が含まれないことは明ら20かである。したがって,本件訂正発明には,明確性要件違反の無効理由はない。(3) 本件訂正発明には,その余の無効理由もない。本件明細書の発明の詳細な説明には,所定のワインを「意図して製造」する方法が記載されているし,当業者であれば,本件明細書の記載及び技術常25識に基づいて,本件発明の所定のワインを意図して製造することは容易に実現可能である。〔被告らの主張〕(1) 本件訂正により,いずれの無効理由も解消していない。(2) 本件訂正後の本件明細書の発明の詳細な説明からは,「意図して」とはどういう場合をいうのか不明であって,サポート要件違反の無効理由があるし,5また,意図して所定の濃度の各成分を有するワインを製造する具体的な方法を知り得ないから,実施可能要件違反の無効理由がある。(3) 本件訂正により,新たに明確性要件違反の無効理由が生じた。「意図して製造する」か「意図せずに製造する」かは,製造を行う者の主観であって,どのような場合が「意図して製造する」場合で,どのような場10合が「意図せずに製造する」場合なのかは,外形的・客観的には判断できない。そうすると,特許権の権利範囲を確定する際の前提となる請求項に記載された発明を明確に把握できず,権利の及ぶ範囲が第三者に不明確となり不測の不利益を及ぼす状態にある。したがって,本件訂正発明は明確ではなく,特許法36条6項2号違反15の無効理由を有する。14 争点(5)(損害の発生の有無及びその額)について〔原告の主張〕(1) 本件における被告らの行為は,一連かつ極めて密接な関係にあるから,被告らの行為が客観的に関連し共同して原告に損害を加えたことは明らかであ20り,被告らには,共同不法行為が成立する。(2) 被告らの得た利益額被告セブンイレブンは,平成23年から被告各製品を1個285円(税抜)で販売しているところ(甲6参照),年間売上個数は250万個を下らないから,現在までの約4年間の売上合計額は,28億5000万円(285×25250万×4)を下らない。また,被告らが上記共同不法行為によって得られる各々の利益を合算した総利益の利益率は,20%を下らない。したがって,被告らが上記期間に被告各製品の販売によって得た利益は,5億7000万円を下らない。上記利益額は,上記の共同不法行為によって原告が受けた損害額と推定される(特許法102条2項)。5(3) 原告の請求額(一部請求)原告は,被告ら各自に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,5億7000万円及びこれに対する遅延損害金を請求する権利を有するが,原告は,その一部請求として,被告らに対し,連帯して8000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。10〔被告らの主張〕否認又は争う。第4 当裁判所の判断 1 本件発明の内容(1) 本件明細書等には次の各記載がある。15ア 技術分野・「本発明は,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法に関する。本発明はまた,本発明の方法に従ってワインが充填されたアルミニウム缶に関する。」(段落【0001】)イ 発明の背景20・「ワインは,古代ギリシャの時代から製造されている。ワインは多くのタイプの容器に保存されてきた。これらの容器には例えば,木材,陶器,皮革が含まれる。特に1リットル未満の量で保存される場合には,ワインの好ましい保存手段として,ガラス瓶の使用が発展した。ほとんど例外なしに瓶が使用されてはいるものの,瓶は比較的重く,かつ比較的壊25れやすいという欠点を有する。」(段落【0002】)・「ワイン以外の飲料,例えばビールやソフトドリンクの場合,金属缶やポリエチレンテレフタレート(PET)のような,代わりとなる包装容器が幅広く採用されている。これらの包装容器は,より軽量で,かつ耐破損性がより大きいという利点をもたらす。このような代わりの容器にワインを保存することが提案されている。しかし,ワインに対してこの5ようなタイプのパッケージングを利用しようという試みは概ね不成功に終わっている。いくつかの極めて低品質のワインは,ポリ塩化ビニル容器内に保存される。このような不成功の理由は,ワイン中の物質の比較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。ワインは典型的には3~104の範囲のpHを有する複雑な製品である。」(段落【0003】)・「アルミニウム缶内にワインをパッケージングし,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しないようにすることが望ましい。」(段落【0004】)ウ 発明の詳細な説明15・「本発明の方法に必要となるワインは,下記のような特定のブドウ栽培及びワイン製造技術によって製造することができる。あるいは,規定レベルよりも高いレベルの構成成分でワインを処理し,これらの構成成分を除去するか又はこれらの構成成分の含有率を本発明に必要となる含有率まで低下させることにより,ワインを製造してもよい。本発明におい20て,「ワイン」という用語は,極めて広範囲に使用され,この用語には非発泡ワイン,発泡ワインならびに強化ワイン,及びミネラルウォーター及びフルーツジュースとブレンドされたワインが含まれる。」(段落【0015】)・「白ワインに付随する全ての手順において,何があっても空気に対する25暴露は回避しなければならず,低温環境が実現される。上述のようにして製造されたワインは,35ppm未満の遊離二酸化硫黄レベルと,250ppm未満の総二酸化硫黄レベルとを有する。酸,塩化物,ニトレート及びスルフェートを形成することができる陰イオンレベルは,規定の最大値未満である。」(段落【0032】)・「本発明は,頭隙に窒素を必要としない発泡ワインに適用することもで5きる。それというのも,所要の缶強度を提供するのには二酸化炭素で充分だからである。」(段落【0033】)・「本発明に適したツーピース缶は,ソフトドリンク及びビール飲料に現在用いられている缶である。この缶のライニングも同様であり,典型的には,ホルムアルデヒドを基剤とする架橋剤と組み合わされたエポキシ10樹脂である。使用される膜厚は,典型的にはビール又はソフトドリンクに用いられているものよりは厚い。典型的には,175mg/375ml缶が,適切な膜厚をもたらすことが判った。内部をコーティングされた缶は,典型的には165~185℃の範囲の温度で20分間ベーキングすることができる。良好に架橋された不透過性膜によって,保存中に15過度のレベルのアルミニウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」(段落【0034】)・「缶充填プロセスは,ほぼ0.1mlの液体窒素を,本体のクロージャのシーム形成直前に添加することに関与する。缶の内部圧力は,ほぼ25~40psiである。」(段落【0035】)20・「上述のように,アルミニウム缶内でのワインの保存安定性は極めて重大である。頭隙が酸素を含むボトリングされたワインとは異なり,本発明の缶の頭隙が有する酸素レベルは極めて低い。すなわち,このワインは保存中「老化」しない。」(段落【0037】)・「試験を目的として,パッケージングされたワインを,周囲条件下で625ヶ月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の缶を倒立状態で保存する。」(段落【0038】)・「製品を2ヶ月の間隔を置いて,Al,pH,°ブリックス(Brix),頭隙酸素及び缶の目視検査に関してチェックする。1つの変数当たり,6つの缶を倒立させ,6つの缶を直立させる。目視検査は,ラッカー状態,ラッカーの汚染,シーム状態を含む。試料は12ヶ月保存しなければな5らない。官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用いる。」(段落【0039】)・「白ワインの保存評価の結果を表1に示す。白ワインは赤ワインよりも平均で,より低いpHを有し,白ワイン試験は保存安定性に関してより厳しい試験となる。」(段落【0040】)10・「表1保存 °ブリックス(20℃)配向 Al mg/L pH 初期に対するAl含有量上昇率(%)初期 6.7 - 0.5 3.40 -3ヶ月 6.9 直立 0.65 3.47 303ヶ月 6.5 倒立 0.68 3.47 366ヶ月 7.0 直立 0.72 3.49 446ヶ月 7.0 倒立 0.68 3.50 36」(段落【0041】)・「このデータは30℃で6ヵ月後の充分な保存状態を示す。許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された。」(段落【0042】)(2) 本件発明の意義前記(1)によれば,本件発明は,①アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法に関するものであって,②アルミニウム缶にワインをパッケージングしようとすると,ワイン中の物質の比較的攻撃的な性質やワインと容器との反応生成物がワインの品質に及ぼす悪影響により,ワインの保存中5にその品質が劣化するという課題を解決するため,③「35ppm未満の遊離SO2 と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造するステップ」(構成要件B)と「アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているツーピースアルミニウム缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が最小2105psiとなるように,前記缶をアルミニウムクロージャでシーリングするステップ」(構成要件C)を含む方法を採用することにより,④ワインの品質が保存中に著しく劣化しないという効果を奏するものであると認められる。 2 争点(3)オ(サポート要件違反)について15事案に鑑み,まず,争点(3)オについて判断する。(1) 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなければならないとしており,いわゆるサポート要件を規定している。特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特20許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか25否かを検討して判断すべきである(知的財産高裁平成17年11月11日判決・判例タイムズ1192号164頁参照)。(2) これを本件発明についてみると,本件特許の特許請求の範囲の記載は前記第2の2(2)記載のとおりである。本件発明の意義は,前記1(2)のとおり,アルミニウム缶にワインをパッケージングしようとすると保存中にその品質が劣化するという課題を解決するため,①「35ppm未満の遊離SO2 と,5300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有する」ワインを製造し,②「アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているツーピースアルミニウム缶の本体」を使用し,③「缶内の圧力が最小25psiとなるように,前記缶をアルミニウムクロージャでシーリングする」などの方法により,上記課題を解決し,ワインの品質が保存中に10著しく劣化しないという効果を実現しようとするものであると認められる。なお,本件特許の請求項3は「前記ワインがさらに,250ppm未満の総二酸化硫黄レベルを有する」こと,請求項4は「前記ワインがさらに,100ppm未満の総二酸化硫黄レベルを有する」こと,請求項5は「前記ワインがさらに,30ppm未満の総ニトレートと,900ppm未満の総ホ15スフェートと,6g/リットル~9g/リットルの範囲の酒石酸として算出された酸性度とを有する」こと,請求項8は「クロージャーによるシーリング後の頭隙が,80~97%v/vの窒素と,2~20%v/vの二酸化炭素との組成を有する」こと,請求項9は「シーリング後の前記頭隙は大部分が二酸化炭素になる」ことを発明特定事項としているが,請求項1にはその20ような特定はされていないので,そのような特定をすることなく本件発明に係る効果を奏することが前提とされていると考えられる。(3) 本件発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,特にワインの品質の劣化に関連すると考えられる上記(2)①,②について,対応する発明の詳細な説明の記載を検討する。25ア 上記(2)①(遊離SO2,塩化物及びスルフェートの濃度)について上記(2)①(構成要件B)は,「35ppm未満の遊離SO2 と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェート」を有するワインを製造するというものであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,上記の構成に関し,「上述のようにして製造されたワインは,35ppm未満の遊離二酸化硫黄レベルと,250ppm未満の総二酸化硫黄レ5ベルとを有する。酸,塩化物,ニトレート及びスルフェートを形成することができる陰イオンレベルは,規定の最大値未満である。」(段落【0032】)との記載が存在するにすぎない。このように,本件明細書の発明の詳細な説明には,ワインの品質に影響を与える成分の中から「遊離SO₂」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度範囲を特定することの技術10的な意義,本件発明の効果との関係,濃度の数値範囲の意義についての記載は見当たらない。次に,上記構成により本件発明の効果を実現できることが技術常識であったかどうかについて検討するに,まず,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」のうち,「遊離SO2」については,金属腐食性の強い物15質であり,その含有量が低いほど金属缶入りワインの耐食性が向上することは当業者に周知の事項であるということができる(甲39,40,乙29)。しかし,「塩化物」及び「スルフェート」については,アルミニウム容器に対して負の影響を及ぼす因子であることは技術常識であったとして20も,一方では,乙29文献の表2に,硫酸及び塩酸が「化学的/物理的安定性」については正の影響を与えることが示されているのであるから,ワインの品質の保持のためには,その濃度を高くすることも考え得るのであって,本件特許の出願日当時,本件発明の効果を実現するためにその濃度を低くすることが当然であるとの技術常識が存在したということはでき25ない。また,乙29文献の表2及び3によれば,ワインをパッケージングしたアルミニウム容器に対して負の影響を及ぼす成分等は他に複数あるものと認められるところ(例えば,リンゴ酸,クエン酸,炭酸ガス,酸素,銅イオン,亜鉛イオンなど),その中で「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の各成分の濃度を特定すれば,他の成分の濃度等を特定する5ことなく本件発明の効果を実現できることが技術常識であったと認めるに足りる証拠はない。むしろ,当業者であれば,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」以外の様々な成分等もアルミニウム缶にパッケージングされたワインの品質に影響を及ぼすと考えるのが通常であるということができる。10そうすると,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度のうち,特に「塩化物」及び「スルフェート」の濃度に係る構成については,その濃度範囲を特定することの技術的な意義,本件発明の効果との関係,濃度の数値範囲の意義についての記載がないと,当業者は,特許請求の範囲に記載された構成により本件発明の課題を解決し得ると認識すること15ができないというべきところ,本件明細書にはそのような記載がないことは前記判示のとおりである。イ 上記(2)②(耐食コーティング)について上記(2)②の「アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされている」ことに関し,本件明細書の発明の詳細な説明には,「この缶20のライニングも同様であり,典型的には,ホルムアルデヒドを基剤とする架橋剤と組み合わされたエポキシ樹脂である。…。典型的には,175mg/375ml缶が,適切な膜厚をもたらすことが判った。…良好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」(段落【0034】)25と記載されている。同記載によれば,本件発明の「耐食コーティング」は,アルミニウム缶の内面に架橋剤及び熱硬化性の合成樹脂を含む液体状組成物をコーティングしてこれを熱硬化させて膜を形成するタイプに限られず,平板状のアルミニウムの板に腐食防止性を有するフィルムをラミネートした後,このフィルム付きの平板状のアルミニウムの板を缶に加工するというタイプも含むと解するのが相当である。5ところで,耐食コーティングに用いる材料の種類や成分の違いにより,缶内の飲料に与える影響に大きな差があることは,本件特許の出願日当時,当業者に周知であるということができる(乙34~36)。例えば,特開平7-232737号公開特許公報(乙36)には,「エポキシ系樹脂組成物を被覆した場合,ワイン系飲料に含まれる亜硫酸ガス(SO2)をはじめと10するガスに対するガスバリヤー性が劣っており,かつフレーバー成分の収着性が高い。例えば,ワイン系飲料等を充填した場合,含有する亜硫酸ガス(SO2)が塗膜を通過して下地の金属面を腐食する虞があり,場合によっては内容物が漏洩することもある。この亜硫酸ガスは下地の金属と反応して硫化水素(H2S)を発生させるが,この硫化水素(H2S)は悪臭の15主要因となるばかりでなく,飲料の品質保持のため必要な亜硫酸ガス(SO2)を消費するため飲料の品質を劣化させフレーバーを損なうこととなる。また,この樹脂組成物は飲料中のフレーバーを特徴付ける成分を収着しやすく,飲料用金属容器の内面に被覆するには官能的に充分満足のできるものではない。」(段落【0004】),「一方,ビニル系樹脂組成物を被覆20した場合,…エポキシ系樹脂組成物と同様に亜硫酸ガス(SO2)等に対するガスバリヤー性に乏しく,やはり腐食や漏洩の危険性及び官能的な問題がある。」(段落【0005】)との記載がある。これによれば,耐食コーティングに用いる材料や成分が,ワイン中の成分と反応してワインの味質等に大きな影響を及ぼすことは,本件特許の出願日当時の技術常識であった25ということができる。上記のとおり,耐食コーティングに用いる材料の成分が,ワイン中の成分と反応してワインの味質等に大きな影響を及ぼし得ることに照らすと,本件明細書に記載された「エポキシ樹脂」以外の組成の耐食コーティングについても本件発明の効果を実現できることを具体例等に基づいて当業者が認識し得るように記載することを要するというべきである。5この点,原告は,本件発明の課題は,ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの含有量を所定値以下にすることにより達成されるのであり,耐食コーティングの種類によりその効果は左右されない旨主張する。しかし,塗膜組成物の組成を変えることにより塗膜の物性が大きく変動し,缶内の飲料に大きな影響を及ぼすことは周知であり(乙34の第1表,乙1035の第2,3表等),ワイン中の遊離SO2,塩化物及びスルフェートの含有量を所定値以下にすれば,コーティングの種類にかかわらず同様の効果を奏すると認めるに足りる証拠はない。(4) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,具体例の開示がなくとも当業者が本件発明の課題が解決できると認識するに十分な記載があると15いうことはできない。そこで,本件明細書に記載された具体例(試験)により当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得たかについて,以下検討する。ア 本件明細書には,「パッケージングされたワインを,周囲条件下で6ヶ月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の缶20を倒立状態で保存する。」(段落【0038】)との方法で試験が行われた旨の記載がある。しかし,本件明細書には,当該「パッケージングされたワイン」の「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度,その他の成分の濃度,耐食コーティングに用いる材料や成分等については何ら記載がなく,その記載からは,当該「パッケージングされたワイン」が25本件発明に係るワインであることも確認できない。イ また,本件明細書には,試験方法について,「製品を2ヶ月の間隔を置いて,Al,pH,°ブリックス(Brix),頭隙酸素及び缶の目視検査に関してチェックする。…目視検査は,ラッカー状態,ラッカーの汚染,シーム状態を含む。…官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用いる。」(段落【0039】)との記載がある。「頭隙酸素」については,5乙29文献(4頁下から2行~末行)に「ヘッドスペースの酸素は,アルミニウムの放出に関して非常に重大である」との記載があるとおり,ワインの品質に大きな影響を与え得る因子であり,「官能試験」はワインの味質の検査であるから,いずれもその方法や結果は効果の有無を認識する上で重要である。しかし,本件明細書には,「頭隙酸素」のチェック結果や10「目視検査」の結果についての記載はなく,「官能試験」についても「味覚パネルによる認識客観システム」についての説明や試験結果についての記載は存在しない。ウ さらに,本件発明に係る特許請求の範囲はワイン中の三つの成分を特定した上でその濃度の範囲を規定するものであるから,比較試験を行わない15と本件発明に係る方法により所望の効果が生じることが確認できないが,本件明細書の発明の詳細な説明には比較試験についての記載は存在しない。このため,当業者は,本件発明で特定されている「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」以外の成分や条件を同程度としつつ,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度を特許請求の範囲に記載20された数値の範囲外とした場合には所望の効果を得ることができないかどうかを認識することができない。加えて,耐食コーティングについては,試験で用いられたものが本件明細書に記載されている「エポキシ樹脂」かどうかも明らかではなく,まして,エポキシ樹脂以外の材料や成分においても同様の効果を奏することを25具体的に示す試験結果は開示されていない。エ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「試験」は,ワインの組成や耐食コーティングの種類や成分など,基本的な数値,条件等が開示されていないなど不十分のものであり,比較試験に関する記載も一切存在しない。また,当該試験の結果,所定の効果が得られるとしても,それが本件発明に係る「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の5濃度によるのか,それ以外の成分の影響によるのか,耐食コーティングの成分の影響によるのかなどの点について,当業者が認識することはできない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載された「試験」に関する記載は,本件発明の課題を解決できると認識するに足り10る具体性,客観性を有するものではなく,その記載を参酌したとしても,当業者は本件発明の課題を解決できるとは認識し得ないというべきである。オ この点,原告は,本件発明の特徴的な部分は,従来存在しなかった技術思想であり,「塩化物」等の濃度には臨界的な意義もないので,その裏付15けとなる実験結果等の記載がないとしてもサポート要件には違反しないと主張する。しかし,前記判示のとおり,特許請求の範囲に記載された構成の技術的な意義に関する本件明細書の記載は不十分であり,具体例の開示がなくても技術常識から所望の効果が生じることが当業者に明らかであるという20ことはできない。また,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」に係る濃度については,その範囲が数値により限定されている以上,その範囲内において所望の効果が生じ,その範囲外の場合には同様の効果が得られないことを比較試験等に基づいて具体的に示す必要があるというべきである。25したがって,原告の上記主張は理由がない。(5) 以上のとおり,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということはできないから,特許法36条6項1号に違反する。そして,この無効理由は,本件訂正によっても解消しない。よって,本件発明に係る特許は,特許法123条1項4号により特許無効5審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,特許法104条の3第1項により,本件発明に係る特許権を行使することができない。 3 争点(3)エ(実施可能要件違反)について続いて,争点(3)エについて判断する。(1) 明細書の発明の詳細な説明の記載は,経済産業省令で定めるところにより,10その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないから(特許法36条4項1号),方法の発明については,当業者が,明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。15(2) そこで,検討するに,被告は,「35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワイン」の製造条件を当業者が想定することはできないと主張する。確かに,本件明細書の段落【0016】~【0031】に記載されたブドウの栽培方法等に従った栽培を行うことにより「35ppm未満の遊離SO₂20と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワイン」が製造されるかどうかは明らかではない。また,本件明細書の段落【0015】に記載された「規定レベルよりも高いレベルの構成成分でワインを処理し,これらの構成成分を除去するか又はこれらの構成成分の含有率を本発明に必要となる含有率まで低下させる」方法も25開示されていない。しかし,同段落には,「本発明において,「ワイン」という用語は,極めて広範囲に使用され,この用語には…ミネラルウォーター及びフルーツジュースとブレンドされたワインが含まれる。」との記載があり,ワインとミネラルウォーター等をブレンドすることが示唆されているので,当業者であれば,こうした記載を参酌し,塩化物やスルフェートの含有率の低いミネラル5ウォーター,フルーツジュース又はワインとブレンドすることによって,塩化物やスルフェートの含有率を本件発明に必要となる含有率まで低下させることは可能であるというべきである。したがって,「35ppm未満の遊離SO2 と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワイン」10の製造条件を当業者が想定することが困難であるということはできない。(3) 他方,前記のとおり,乙29文献の表2及び3によれば,ワインをパッケージングしたアルミニウム容器に対して負の影響を及ぼす成分は他に複数あるものと認められ,「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度を特定すれば,他の成分の濃度いかんにかかわらず本件発明の効果を実現で15きるという技術常識が存在したと認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件発明に係る方法を使用するためには,本件明細書に「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度に加えて,本件発明に係る「ワイン」に含まれ,効果に影響を及ぼし得るその他の成分の濃度等についても具体的に記載されていないと,当業者はどのような組成のワインが本件発明に係る効20果を奏するかを確認することが困難であるが,本件明細書に記載された「試験」で使用されたワインの組成は「遊離SO2」,「塩化物」及び「スルフェート」の濃度すら明らかではなく,他の成分の種類や濃度も何ら開示されていないことは前記判示のとおりである。(4) また,耐食コーティングに用いる樹脂等の成分の違いにより,缶内の飲料25に与える影響に大きな差があることは前記のとおりであるところ,本件明細書には耐食コーティングの具体例として「エポキシ樹脂」が挙げられているのみで,他の種類のコーティングにおいても同様の効果を奏すると当業者が理解し得る記載は存在しない。また,そのような技術常識が本件特許の出願時に存在したと認めるに足りる証拠はない。また,本件明細書に記載された「試験」で用いられた耐食コーティングの5種類は明らかではなく,どのようなコーティングがワインの組成成分とあいまって本件発明に係る効果を奏するかを具体的に示す試験結果は存在しない。そうすると,当業者は,本件発明を実施するに当たって用いるべき耐食コーティングについても過度の試行錯誤することを要するというべきである。(5) 以上のとおり,本件発明に係るワインを製造することは困難ではないが,10本件発明の効果に影響を及ぼし得る耐食コーティングの種類やワインの組成成分について,本件明細書の発明の詳細な説明には十分な開示がされているとはいい難いことに照らすと,本件明細書の発明の詳細の記載は,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,特許法36条4項1号に違反するというべきである。そして,この無効理由は,15本件訂正によっても解消しない。よって,本件発明に係る特許は,特許法123条1項4号により特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,特許法104条の3第1項により,本件発明に係る特許権を行使することができない。 4 結論20以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第40部裁判長裁判官25佐 藤 達 文裁判官遠 山 敦 士5裁判官勝又来未子は,転補のため,署名押印することができない。裁判長裁判官佐 藤 達 文別紙1被告方法目録1.イ号方法イ号方法は,以下の構成a1~d1を有するアルミニウム缶内に白ワインに炭5酸ガスを封入する型のスパークリング白ワインをパッケージングする方法である。a1 アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって,該方法が:b1 アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,10(1) 詰前(濾過後)の時点での濃度が平均32.0ppm(全体の約72.3%が35ppm未満)であり,当該ワインを消費する時点での残存濃度が35ppm未満である遊離SO2 と,(2) 詰前(濾過後)の時点での濃度及び当該ワインを消費する時点での残存濃度がいずれも平均70.00ppm程度であるCl-と15(3) 詰前(濾過後)の時点での濃度及び当該ワインを消費する時点での残存濃度がいずれも平均210.00ppm程度であるSO42-とを有することを特徴とする白ワインに炭酸ガスを封入する型のスパークリング白ワインを意図して製造するステップと;c1 アルミニウムの内面に腐食の防止を目的とするポリエステルの膜がラミ20ネートされている,口頸部と肩部を有しかつ接合部のない胴部1と,底部2から成る,アルミニウムのボトル缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が平均46.90psiとなるように,前記缶をアルミニウム製のネジキャップ3でシーリングするステップとd1 を含む,アルミニウム缶内に白ワインに炭酸ガスを封入する型のスパー25クリング白ワインをパッケージングする方法。2.ロ号方法ロ号方法は,以下の構成a2~d2を有するアルミニウム缶内に白ワインをパッケージングする方法である。a2 アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって,該方法5が:b2 アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,(1) 詰前(濾過後)の時点での濃度が平均44.4ppmであり,当該ワインを消費する時点での残存濃度が35ppm未満である遊離SO2と,10(2) 詰前(濾過後)の時点での濃度及び当該ワインを消費する時点での残存濃度がいずれも平均70.00ppm程度であるCl-と(3) 詰前(濾過後)の時点での濃度及び当該ワインを消費する時点での残存濃度がいずれも平均567.00ppm程度であるSO42-とを有することを特徴とする白ワインを意図して製造するステップと;15c2 アルミニウムの内面に腐食の防止を目的とするポリエステルの膜がラミネートされている,口頸部と肩部を有しかつ接合部のない胴部1と,底部2から成る,アルミニウムのボトル缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が平均19.80psiとなるように,前記缶をアルミニウム製のネジキャップ3でシーリングするステップと20d2 を含む,アルミニウム缶内に白ワインをパッケージングする方法。3.ハ号方法ハ号方法は,以下の構成a3~d3を有するアルミニウム缶内に赤ワインをパッケージングする方法である。a3 アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって,該方法5が:b3 アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして,(1) 詰前(濾過後)の時点での濃度が平均45.9ppmであり,当該ワインを消費する時点での残存濃度が35ppm未満である遊離SO2 と,10(2) 詰前(濾過後)の時点での濃度及び当該ワインを消費する時点での残存濃度がいずれも平均50.00ppm程度であるCl-と(3) 詰前(濾過後)の時点での濃度及び当該ワインを消費する時点での残存濃度がいずれも平均207.00ppm程度であるSO42-とを有することを特徴とする赤ワインを意図して製造するステップと;15c3 アルミニウムの内面に腐食の防止を目的とするポリエステルの膜がラミネートされている,口頸部と肩部を有しかつ接合部のない胴部1と,底部2から成る,アルミニウムのボトル缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内の圧力が平均17.20psiとなるように,前記缶をアルミニウム製のネジキャップ3でシーリングするステップと20d3 を含む,アルミニウム缶内に赤ワインをパッケージングする方法。4.イ号方法,ロ号方法及びハ号方法に用いられるアルミニウム缶の構成の説明参考図(1)ネジキャップ3の開封前5(2)ネジキャップ3の開封後以 上別紙2被告各製品目録以下の商品名で特定されるアルミニウム缶に充填されたワインイ号 商品名: プティモンテリア スパークリングロ号 商品名: プティモンテリア ブランハ号 商品名: プティモンテリア ルージュ10以上別紙3被告各製品製造用アルミニウム缶目録 1 別紙1被告方法目録記載1の方法(イ号方法)を使用して別紙2被告各製品目録記載1の製品(「プティモンテリア スパークリング」)を製造するために使5用される,ワインをパッケージングする前のアルミニウムのボトル缶 2 別紙1被告方法目録記載2の方法(ロ号方法)を使用して別紙2被告各製品目録記載2の製品(「プティモンテリア ブラン」)を製造するために使用される,ワインをパッケージングする前のアルミニウムのボトル缶10 3 別紙1被告方法目録記載3の方法(ハ号方法)を使用して別紙2被告各製品目録記載3の製品(「プティモンテリア ルージュ」)を製造するために使用される,ワインをパッケージングする前のアルミニウムのボトル缶<参考写真:「プティモンテリア スパークリング」><参考写真:「プティモンテリア ブラン」><参考写真:「プティモンテリア ルージュ」>以上 |
事件の概要 | 1 被告らのうち,被告大和製罐は被告各アルミ缶を製造し,被告モンデ酒造は10 被告大和製罐から購入した被告各アルミ缶にワインを充填して被告各製品を 製造し,被告伊藤忠食品は被告モンデ酒造から被告各製品を購入し,被告セブ ンイレブンは被告伊藤忠食品から被告各製品を購入して消費者に販売してい るところ,本件は,発明の名称を「アルミニウム缶内にワインをパッケージン グする方法」とする発明についての特許権(請求項の数15。以下「本件特許15 権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」 という。)を有する原告が,被告各方法が本件発明若しくは原告による訂正請 求後の本件特許(以下,訂正請求後の特許請求の範囲請求項1の発明を「本件 訂正発明」という。)の技術的範囲に属すると主張し(予備的に均等侵害を主 張),又は被告各アルミ缶は本件特許権の実施のみに用いるものであると主張20 して,①被告モンデ酒造に対し,被告各方法の使用の差止め,②被告モンデ酒 造らに対し,被告各製品の販売の差止め及び廃棄,③被告大和製罐に対し,被 告各アルミ缶の製造・販売の差止め及び廃棄,④被告らに対し,不法行為(共 同不法行為)に基づく損害賠償金5億7000万円のうち8000万円及びこ |
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