ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成26(ワ)6361 特許権侵害差止等請求事件
| 裁判所 | 一部認容 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成30年3月22日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被告日本瓦斯株式会社 原告エヌ・ケイ・ケイ株式会社 |
| 対象物 | スプレー缶用吸収体およびスプレー缶製品 |
| 法令 |
特許権 特許法102条2項11回 特許法36条6項2号2回 特許法100条1項1回 民事訴訟法61条1回 特許法36条4項1号1回 |
| キーワード | 侵害33回 特許権26回 無効19回 実施18回 損害賠償10回 無効審判9回 差止8回 分割2回 |
| 主文 | 1 被告は,別紙「特定被告製品目録」記載1ないし5の製品を製造し,販売し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告は,原告に対し,738万円及びこれに対する平成28年2月29日か25ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,被告の負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 | 本件は,発明の名称を「スプレー缶用吸収体およびスプレー缶製品」とする特許 権を有する原告が,被告が製造,販売する別紙「被告製品目録」記載の製品(以下 「被告製品」といい,各製品を「被告製品1」などという。)中,その灰分含有量 を特定した特定被告製品の製造,販売が原告の特許権を侵害するとして,被告に対 し,①特許法100条1項に基づき,特定被告製品の製造,販売等の差止め,②同15 条2項に基づき,特定被告製品,その半製品及び特定被告製品の製造に供する金型 の廃棄を請求するとともに,③平成25年10月25日から平成28年2月29日 までの特許権侵害の不法行為に基づく損害(上記特許権を原告と共有していた者か ら譲り受けた被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権に係る損害を含む。) の一部738万円の賠償及びこれに対する損害賠償請求対象期間の最後の日である20 平成28年2月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 の支払を請求する事案である。 |
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平成30年3月22日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成26年(ワ)第6361号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成29年12月20日
判 決
原 告 エヌ・ケイ・ケイ株式会社
同訴訟代理人弁護士 小 松 陽 一 郎
同 川 端 さ と み
同 森 本 純
同 山 崎 道 雄
同 辻 淳 子
同 藤 野 睦 子
同 大 住 洋
同 中 原 明 子
被 告 日 本 瓦 斯 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 久 保 利 英 明
同 上 山 浩
同 井 上 拓
主 文
1 被告は,別紙「特定被告製品目録」記載1ないし5の製品を製造し,販売し,
輸入し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,原告に対し,738万円及びこれに対する平成28年2月29日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
5 第1 請求1 主文第1項及び第2項と同旨2 被告は,別紙「特定被告製品目録」記載1ないし5の製品(以下「特定被告製品」という。),その半製品(特定被告製品の構造を具備するが,製品として完成するに至らないもの)及び特定被告製品の製造に供する金型を廃棄せよ。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「スプレー缶用吸収体およびスプレー缶製品」とする特許権を有する原告が,被告が製造,販売する別紙「被告製品目録」記載の製品(以下「被告製品」といい,各製品を「被告製品1」などという。)中,その灰分含有量を特定した特定被告製品の製造,販売が原告の特許権を侵害するとして,被告に対し,①特許法100条1項に基づき,特定被告製品の製造,販売等の差止め,②同条2項に基づき,特定被告製品,その半製品及び特定被告製品の製造に供する金型の廃棄を請求するとともに,③平成25年10月25日から平成28年2月29日までの特許権侵害の不法行為に基づく損害(上記特許権を原告と共有していた者から譲り受けた被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権に係る損害を含む。)の一部738万円の賠償及びこれに対する損害賠償請求対象期間の最後の日である平成28年2月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。なお,原告の被告に対する特定被告製品が後記本件特許の請求項8に係る発明の技術的範囲に属することを理由とする差止め及び損害賠償請求等に係る訴えは,被告がその訴えの取下げに同意しないため訴訟として係属しているが,原告が特定被告製品が上記請求項8に係る発明の技術的範囲に属する旨の主張を撤回しているため,その請求に理由がないことが明らかである。そこで以下においては,その余の請求に係る訴え(平成29年5月31日付け請求の趣旨変更申立書2で整理された訴え)のみについて事実整理の上,当裁判所の判断を示すこととする。1 前提事実等(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨
5 により容易に認められる事実等)
(1) 当事者ア 原告は,エアゾール製品等の製造販売を目的とする株式会社である。イ 被告は,LPガス,高圧ガス,ガス機器,ガス空調機器等の製造販売等を目的とする株式会社である。
(2) 本件特許権原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明のうち,本件で行使されている請求項に係る発明を請求項の番号により「本件発明1」などという。また,本件特許の出願の願書に添付された明細書及び図面(補正後のもの)を「本件明細書」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。なお,本件特許の発明の詳細な説明及び図面は,本判決に添付した本件特許の特許公報記載のとおりである(甲1,甲2,甲24)。特許番号 特許第5396136号発明の名称 スプレー缶用吸収体およびスプレー缶製品出願日 平成21年4月20日登録日 平成25年10月25日特許請求の範囲【請求項1】噴射口を備えたスプレー缶に,可燃性液化ガスおよび保液用の吸収体を充填したスプレー缶製品であって,上記吸収体が,灰分を1重量%以上20重量%未満の範囲で含有するセルロース繊維集合体から構成され,上記スプレー缶内に,上記噴出口側に空間を有して,スプレー缶形状に対応する形状に成形された上記吸収体を収容し,上記空間と上記吸収体の間には,上記吸収体の表面を通気可能に保護する通気性蓋状部材を配設し,かつ,上記蓋状部材は,上記スプレー缶内に圧入されて上記吸収体表面に密接す
5 る円板状多孔質体,または上記吸収体表面に一体的に形成された多孔質保護層であることを特徴とするスプレー缶製品。【請求項2】上記吸収体が,灰分を1重量%以上12重量%未満の範囲で含有するセルロース繊維集合体から構成される請求項1記載のスプレー缶製品。【請求項3】上記通気性蓋状部材は,不織布または発泡性樹脂にて構成される請求項1または2記載のスプレー缶製品。【請求項4】上記吸収体が,古紙を粉砕または解繊して得た再生セルロース繊維を主原料とするセルロース繊維集合体から構成される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のスプレー缶製品。【請求項5】上記セルロース繊維集合体が,繊維長1.5mm以下のセルロース繊維を90質量%以上含有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のスプレー缶製品。【請求項6】上記液化ガスは,噴射剤または燃料として使用される可燃性液化ガスである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のスプレー缶製品。【請求項7】上記液化ガスは,オゾン層破壊係数が0であり,かつハイドロフルオロカーボンを含まないガスからなる請求項1ないし6のいずれか1項に記載のスプレー缶製品。【請求項8】上記セルロース繊維集合体は,スプレー缶形状に対応するブロック状に圧縮成形され,またはシート状に圧縮成形しスプレー缶形状に合わせて巻いた後,上記スプレー缶内に直接充填される請求項1ないし7のいずれか1項に記載のスプレー缶製
5 品。【請求項9】上記セルロース繊維集合体が,繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するセルロース繊維集合体にて構成されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載のスプレー缶製品。
(3) 本件発明1,2及び6の構成要件の分説ア 本件発明1は,次の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。A 噴射口を備えたスプレー缶に,可燃性液化ガスおよび保液用の吸収体を充填したスプレー缶製品であって,B 上記吸収体が,灰分を1重量%以上20重量%未満の範囲で含有するセルロース繊維集合体から構成され,C 上記スプレー缶内に,上記噴出口側に空間を有して,スプレー缶形状に対応する形状に成形された上記吸収体を収容し,上記空間と上記吸収体の間には,上記吸収体の表面を通気可能に保護する通気性蓋状部材を配設し,D かつ,上記蓋状部材は,上記スプレー缶内に圧入されて上記吸収体表面に密接する円板状多孔質体,または上記吸収体表面に一体的に形成された多孔質保護層であるE ことを特徴とするスプレー缶製品。イ 本件発明2は,次の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件F」などという。)。F 上記吸収体が,灰分を1重量%以上12重量%未満の範囲で含有するセルロース繊維集合体から構成されるG 請求項1記載のスプレー缶製品。ウ 本件発明6は,次の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件H」などという。)。
5 H 上記液化ガスは,噴射剤または燃料として使用される可燃性液化ガスであるI 請求項1ないし5のいずれか1項に記載のスプレー缶製品。
(4) 被告の行為ア 被告は遅くとも平成25年10月19日頃以降,吸収体として板紙を粉砕した物を綿状の繊維素材と混合した物を用いた被告製品1ないし4(同4については,一部。以下「第1世代製品」という。)を製造,販売した。また,被告は,平成26年10月から,板紙を粉砕した物の混合をやめ,綿状の繊維素材のみを用いた被告製品4,5(同4については,一部。以下「第2世代製品」という。)の製造,販売を開始し,第1世代製品の製造,販売を同年11月24日に終了した。さらに,被告は,平成28年7月25日以降,第2世代製品の内部の構造を設計変更した新たな製品(以下「第3世代製品」という。)の製造,販売を開始し,第2世代製品の製造,販売を同月に終了した(乙20,乙21)。イ 被告製品は,それぞれ別紙「被告製品説明書」の写真のとおりの外観を有しているエアダスター(スプレー缶製品)であり,いずれも,少なくとも次の各構成を有する。被告製品の次の構成a,d及びeは,本件発明1の構成要件A,D及びEに相当し,各構成要件をそれぞれ充足し,また,被告製品の構成cの「蓋」は,本件発明1の構成要件Cの「通気性蓋状部材」に相当する。a 噴出口を備えたスプレー缶に,ジメチルエーテル及び保液用の吸収体を充填したスプレー缶製品であって,b 上記吸収体がセルロース繊維集合体から構成され,c 上記スプレー缶内に,上記噴出口側に空間を有して,上記吸収体を収容し,上記空間と上記吸収体の間には,上記吸収体の表面を通気可能に保護する蓋を配設し,d かつ,上記蓋は,上記スプレー缶内に圧入されて上記吸収体表面に密接する円板状多孔質体である
5 e ことを特徴とするエアダスター。
(5)本件特許権の持分等の譲渡ア 本件特許権は,原告,王子ホールディングス株式会社及び王子キノクロス株式会社(以下,原告を除く会社をまとめて「訴外会社ら」という。)の共有に係る特許権(持分3分の1ずつ)として登録されたが,訴外会社らは,原告に対し,平成27年12月14日,本件特許権の持分を譲渡してその旨登録された(甲1,甲2,甲24)。イ 原告は,被告製品と競合するエアダスターを製造,販売し,他方,訴外会社らはその製造,販売をしていなかったが,上記アのとおり,本件特許権の持分を原告に譲渡するとともに,本件特許登録時から移転登録時までの間の被告に対する本件特許権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を原告に対して譲渡した(甲25の1,2)。2 争点
(1) 特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否)(争点1)ア 構成要件B及びFの充足性(争点1-1)イ 構成要件Cの充足性(争点1-2)ウ 構成要件G,H及びIの充足性(争点1-3)
(2) 特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(均等侵害の成否)(争点2)
(3) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点3)ア 実施可能要件違反(争点3-1)イ 明確性要件違反(争点3-2)
(4) 特定被告製品の製造,販売等の差止め及び特定被告製品等の廃棄の必要性(争点4)
(5) 原告が受けた損害の額(争点5)
5 第3 争点についての当事者の主張1 争点1-1(特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否)-構成要件B及びFの充足性)(原告の主張)
(1) 灰分の測定方法灰分とは,一般に「生物体・石炭・木炭などが完全燃焼後,残留する不燃焼性鉱物質」のことであり,本件に則して言えば,炉の中で試料を完全燃焼させた後に残る「残さ」のことである。本件で問題となるのは被告製品中の吸収体に含まれる灰分の割合(%)であるところ,これは,吸収体から採取した試料の①「絶乾質量(g)」(絶乾状態〔完全に乾燥している状態〕における質量)に占める②燃焼後の「残さ(g)」の割合として測定される。本件で用いられるべき測定方法を本件明細書の段落【0087】に基づき,また測定誤差をなくし公正な測定結果を得るという観点から整理すると次のとおりである。ア 測定対象測定対象は,使用後の被告製品から取り出した吸収体とする。なお,灰分それ自体が液化ガスの吸収性に寄与するという本件発明の技術的意義からしても,液化ガス等に無機物質が含まれている可能性があり,それが液化ガスの吸収性や保液性にわずかでも影響を与える可能性がある以上は(実際上は,そのような無機物質の量はごく微量であると考えられるが) これも含めて灰分量の測定を行うべきである。,イ 測定方法(ア) 絶乾率の測定a 前提として,試料を採取する吸収体については,厳密な調湿までは必要ないものの,試料を乾燥させた際に水分が残らないよう「JIS P8111」に規定された「標準状態」である室温23℃±1℃,湿度(50±2)%r.h.を上回らない湿度の実験室雰囲気に24時間以上試験片を晒し,調湿する。
5 b 調湿した吸収体から10グラムの試料をるつぼに採取,精秤する。c 105℃±2℃で3時間乾燥し,45分放置して絶乾率を測定する(「JIS P8203」に準拠して行う。)。(イ) 残さ質量の測定(「JIS P8251」の「7.e)ないし g)」に準拠して測定してもよい。)a 乾燥精秤(測定の精度は「JIS P8251」に準拠し,0.1mg以上とする。)後の試料を飛散が生じないよう観察しながら慎重に電熱器で燃やす。b さらに,電気炉(525℃±25℃)により,飛散が生じないよう慎重に温度管理と飛散監視を行いながら2時間燃焼させ,灰化する。c これをデシケーターに入れて室温まで冷却後,残さ質量を測定する。ウ 計算灰分量は,燃焼後の残さの質量(g)/絶乾質量(g)により求める。絶乾質量は,2回の絶乾率測定の平均値を用い算出する。
(2) 被告の主張についてア 被告は,被告製品の吸収体から混入物を取り除いて灰分を測定すべきであると主張している。しかし,本件発明の「セルロース繊維集合体」は古紙等の原料を粉砕,解繊し,微細化したものの集合体を指すものでしかないから,これには製造工程で古紙原料に添加される炭酸カルシウムやタルク等の無機物質が含まれる。そして,本件発明の技術思想からすれば,仮に灰分が塵や埃等に由来するものであったとしても,そのような灰分も含めて灰分量を測定することになるのは当然である。イ 被告は,ガス充填前の被告製品のセルロース集合体を用いて測定すべきように主張するが,本件明細書の段落【0087】には,測定の対象として,「液漏れ評価試験後のスプレー缶を開き,吸収体を取り出して」測定対象とする旨明記されており,段落【0085】でも「噴射剤として,可燃性の液化ガス…を充填して,本発明のスプレー缶製品…を製作した」とされているのであるから,本件では, ガ
5 ス充填後のスプレー缶から取り出した吸収体を測定の対象とすべきである。ウ 被告は,測定に当たり複数の試料を用いる必要がないように主張するが,均一さが明らかでない試料を対象とする場合には,測定誤差をなくすため,少なくとも二つ以上の試料を対象に測定を行い,測定された「絶乾率」の平均値をもって「絶乾質量」が算出されるべきである。これは,「JIS P8251」が引用する「JIS P8203」(紙,板紙及びパルプ-絶乾率の測定方法-」の3頁「8.」にも記載されているとおり,測定誤差をなくすため,当然に必要な工程である。
(3) 被告製品における特定被告製品の割合原告の複数回にわたる測定結果によれば,被告製品のほぼ全量が吸収体を構成するセルロース繊維集合体に含有されている灰分が1重量%以上20重量%(ないし12重量%)未満である特定被告製品であることが明らかである。なお,被告が,不純物を取り除かずにした測定結果(乙23)については,提出経緯に疑義があり,その測定結果は認められない。仮に測定結果を受け入れるとしても,特定被告製品の割合を,原告の第1世代製品の測定結果を含めて算出するか,
第1世代製品と第2世代製品の測定結果で特定被告製品が含まれる割合にほとんど
差がないことを踏まえ,第1世代製品と第2世代製品を区別することなく,61%(61本/100本)として認定されるべきである。
(4) したがって,特定被告製品は,構成要件B及びFを充足する。(被告の主張)
(1) 灰分の測定方法ア 本件発明の技術的意義(本件明細書の段落【0028】等)によれば,本件発明の灰分は液化ガスを吸収する前の状態の吸収体そのものに含まれる灰分を意味していることは明らかであり,その重量%は,液化ガスの影響を受けていない吸収体,すなわち,液化ガスを充填する前の吸収体を対象として計測すべきである(もっとも,液化ガスの充填の前後により,吸収体の灰分の重量%に変化はない。)。イ 構成要件Bの文言から明らかなとおり,構成要件Bの「灰分」は,セルロー
5 ス繊維集合体から構成される吸収体が含有する灰分を指すのであり,塵や埃状の物質である混入物が含有する灰分は含まないから,被告製品に含まれる混入物を除外して灰分量を計測することが必要である。ウ 原告は,複数の試料を用いない被告の測定方法に問題があるように主張するが,絶乾質量は,2回の絶乾率測定の平均値を用い算出するという主張は趣旨が不明であり,本件明細書の段落【0087】の記載に基づいていない。なお,原告が主張で引用するJIS P8251は紙,板紙及びパルプを対象とするものであるし,JIS P8203は105±2℃の温度で蒸発する水以外の揮発分を含むものは対象外であるから,本件発明の灰分量の測定においてこれらが参考にされることはあっても,厳密にその内容に準拠すべきとはいえない。
(2) 被告製品の構成ガス充填前に不純物を取り除いてする上記測定方法により測定した結果によると,被告製品は,第1世代製品であっても第2世代製品であっても,吸収体の灰分の重量%は,いずれも1重量%未満であって,特定被告製品は存在しない。
(3) 仮に原告主張のとおりガス充填後であり不純物を取り除かずに測定する方法によるとしても,特定被告製品で特定される灰分量を充足する被告製品の割合は,
第1世代製品(被告製品1ないし3,被告製品4の一部)において50%,第2世
代製品(被告製品4の一部,被告製品5)において62%にすぎない。2 争点1-2(特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否)-構成要件Cの充足性)(原告の主張)
(1) 構成要件Cの解釈構成要件Cには,吸収体の充填方法といった経時的な限定事項は記載されておらず,吸収体の構成,充填方法を限定する文言もない。また,本件特許では請求項1とは別に吸収体の充填方法を限定した請求項8が設けられており,これにつき本件明細書の段落【0036】では本件発明1と異なる作用効果が記載されている。そ
5 もそも,本件発明1は吸収体の構成・充填方法に係る発明ではなく,本件明細書でも吸収体の充填方法については任意に選択できるとされている(段落【0054】 。)そして,本件明細書では吸収体の充填方法として,予めスプレー缶形状に成形されないまま吸収体を充填し,その後にスプレー缶形状に成形する構成が明確に開示されている(段落【0080】)。したがって,構成要件Cは,物の発明としてのスプレー缶製品の構成部材である吸収体の客観的な構成(吸収体がスプレー缶内に成形された状態で充填されている 。)を特定するものでしかない。
(2) 被告の主張について本件特許の出願経過における意見書(甲8の8,乙41)に基づく被告の主張は否認し,争う。被告は同意見書の内容を指摘しているが,被告が指摘する箇所は吸収体の充填方法にかかる作用効果等とは全く無関係であり,その「予めスプレー缶形状に対応する形状の成形体として充填し」との記載は,吸収体の充填と蓋状部材配設との先後関係(吸収体を充填した後,蓋状部材を配設する。)を表すための記載でしかなく,吸収体の成形と充填の先後関係を限定するものではない。
(3) 特定被告製品の構成c特定被告製品の吸収体は,いずれもスプレー缶形状に対応する円筒状に成形されており,これは「スプレー缶形状に対応する形状」に相当する。そして,被告製品には,いずれも客観的な構成として,スプレー缶内にこのような吸収体が収容されている。
(4) 構成要件Cの充足以上より,特定被告製品は構成要件Cを充足する。(被告の主張)
(1) 構成要件Cの解釈ア 「スプレー缶形状に対応する形状に成形された上記吸収体を収容し」の要件につき, 「成形」とは,無定形状のものを一定の処理によりある形にすること,す
5 なわち所与の固定的形状を有するものとする工程を意味し,「収容」も工程を意味しており,いずれも製造方法に関する文言に他ならない。そこで,「成形」及び「収容」の各工程(ないし処理)をいずれの時点で行うかが問題となるが,スプレー缶に収容した後は吸収体には何らの手を加えることができないから,スプレー缶に「収容」する前に「成形」するという時間的先後関係が特定されていることになる(以上の問題は,通気性蓋状部材の「配設」についてもそのまま妥当する。)。そして,本件明細書には,吸収体を予めスプレー缶形状に対応する形状に成形してからスプレー缶に充填する構成のみが記載されており,その他の構成は記載されていないから,構成要件Cは,製造方法として特定されていると解すべきである。イ 原告は請求項8の存在を指摘しているが, 本件発明1が予めの成形方法を特に限定していないのに対して,請求項8の発明は,予めの成形方法を(i)セルロース繊維集合体をスプレー缶形状に対応するブロック状に圧縮成形する方法と, ii)(シート状に圧縮成形しスプレー缶形状に合わせて巻く方法の二つに限定することを特徴とする発明であるから,請求項8の発明との対比で,本件発明1の構成要件Cがセルロース繊維集合体を予め成形することが規定されていないとする原告主張は失当である。ウ 加えて,原告が本件特許の出願経過において提出した意見書(甲8の8,乙41)では,すべての請求項についての記載として,予め,スプレー缶形状に対応する形状に成形した成形体を作り,それをスプレー缶に充填するという構成が説明され,その作用効果が強調されていたから,このような出願経過に照らせば,構成要件Cが製造方法ではないとする原告の主張は包袋禁反言の点からも許されない。
(2) 特定被告製品の構成c特定被告製品の構成cに関する原告の主張は否認し,争う。特定被告製品の製造方法は,充填機内に圧縮空気を流すことで洗面器内の無定形状の吸収体を吸引し,空気の流れにより充填機のシリンダーに流し込むのみであり,そのような処理により無定形状の吸収体がスプレー缶形状に対応する形を維持する
5 状態になることはない。吸収体がスプレー缶内部に充填された時点でも,缶上部から盛り上がってはみ出している状態であり,スプレー缶に収容される前の段階でスプレー缶形状に対応する形を維持する状態にはなっていないから,原告が構成cとして主張するように,スプレー缶形状に対応する円筒状に成形されていない。
(3) 構成要件Cの非充足被告製品は,上記(2)の工程で製造されるものであり,上記(1)で示した構成要件Cを充足する工程を経るものではない。また,少なくとも,構成要件Cにいう「スプレー缶形状に対応する形状に成形された上記吸収体」とは,吸収体がスプレー缶形状に対応する形になっていることを意味するから,上記(2)のとおり,被告製品はこの要件を充足しない。したがって,特定被告製品は構成要件Cを充足しないから,本件発明のいずれの技術的範囲にも属さない。3 争点1-3(特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否)-構成要件G,H及びIの充足性)(原告の主張)特定被告製品に充填されているジメチルエーテルは,噴射剤として使用される可燃性液化ガスであるから,本件発明6の構成要件Hを充足する。そして,上記1及び2によれば,特定被告製品は本件発明1の構成要件AないしE及び本件発明2の構成要件Fを充足するから,構成要件G及びIも充足する。(被告の主張)特定被告製品にジメチルエーテルが充填されており,これが可燃性液化ガスであることは認め,原告のその余の主張は否認し,争う。4 争点2(特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(均等侵害の成否))(原告の主張)
(1) 仮に構成要件Cが吸収体を予め圧縮成形した上で,缶内に吸収体を充填する
5 構成に限定するものであると解すべきことから,吸収体を予め圧縮成形して充填していない特定被告製品が,構成要件Cの文言を充足していないとしても,以下のとおり,特定被告製品の吸収体充填方法は,本件発明の構成要件Cと均等なものであり,均等侵害が成立する。
(2) すなわち,スプレー缶内の吸収体に含まれる灰分含有量が客観的に本件発明の数値範囲内にある限り,吸収体を予め圧縮成形してから充填するか,予め圧縮成形しない状態で充填するかにかかわらず,高価な原料使用や複雑な製造工程を要することなく,液化ガスの吸収性,保持力に優れ,傾斜状態や倒立状態での使用又は保管時の液漏れを防止可能な吸収体を得る(本件明細書の段落【0016】等)という本件発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する(第2要件充足)。また,吸収体を充填するにあたって,予め圧縮成形して充填するか,あるいは充填後に成形するか等の吸収体の充填方法は任意に選択することができる(段落【0054】)のであるから,このような置換は,被告製品の製造時点において当業者が容易に想到できることは明らかである(第3要件充足)。そして,本件発明は,吸収体における灰分含有量を所定の数値範囲内に調整し,蓋状部材を設けることで,安価な古紙原料を用いた場合であっても,吸収性,保持力に優れた吸収体が得られるという点を従来技術と比較した特徴的部分とする発明であり,吸収体を予め圧縮成形して充填するかどうかという点は,非本質的部分である(第1要件充足)。
(3) 被告は第5要件を充足しない旨主張しているが,被告が指摘する意見書の記載は,いずれも吸収体の充填と蓋状部材配設の先後関係及び蓋状部材の作用効果について述べるものでしかなく,吸収体の成形と充填の先後関係や吸収体を予め成形して充填することの作用効果にかかるものではない。また,被告が指摘する補正は,単に,スプレー缶内に充填された吸収体の客観的な構成を特定したものでしかなく,被告が指摘する意見書の記載は,いずれも吸収体の充填方法を限定することの作用効果を強調するものなどでは全くない。したがって,原告が被告製品の吸収体の充
5 填方法に係る構成を意識的に除外したことはない。(被告の主張)
(1) 被告製品が構成要件Cの文言を充足しないことを前提とする原告の均等侵害の主張は,以下のとおり失当である。
(2) まず,本件明細書の段落【0016】及び本件特許の出願経過において提出された意見書(甲8の8,乙41)の記載から,本件発明が目的とする「保液性が確保できるスプレー缶製品を実現する」ための手段として,吸収体を「予め成形して収容」するという製造方法が採用されていることが明らかである。また,段落【0030】の記載から,本件発明が目的とする「低コスト」,「コスト低減」のための手段として,予め吸収体をスプレー缶形状に成形して充填するという製造方法が採用されており,これにより従来のように袋等に詰める工程が不要になり,材料コストを低減できるとともに,作業性,生産性,経済性に優れるという効果が得られることが明らかである。これらの記載によれば,本件発明は,「液化ガスの保液性」,「低コスト」及び「コスト低減」も目的とするものであり,吸収体を予めスプレー缶形状に対応する形状に成形して充填するという製造方法は,当該目的を実現するための必要不可欠な工程である。したがって,吸収体を予めスプレー缶形状に対応する形状に成形して充填するという製造方法は,本件発明の本質的部分に当たるが,被告製品においては,このような製造方法は用いられていない。また,上記意見書の記載から明らかなとおり,本件発明は,古紙原料特有の保液性劣化の問題を解決する手段として,セルロース繊維集合体が安定した充填状態を保つように,予め成形して収容するという構成を採用しているから,吸収体を予め成形して充填するか否かにより,保液性の効果に差異が生ずることになる。さらに,原告は段落【0054】の記載を根拠に置換は容易想到であると主張しているが,その記載は,吸収体を予め圧縮成形するための複数の方法,そしてその方法により得られた圧縮成形済の吸収体をスプレー缶に充填する方法を任意に選択可能であるというものにすぎない。したがって,その記載は置換容易性の根拠とは
5 ならない。以上より,均等侵害の第1ないし第3要件を欠いている。
(3) 原告は,本件特許の出願経過において意見書を提出し,かつそれと同時に補正により構成要件Cを加えて,それにより特許が付与された。したがって,吸収体を予め成形しないで充填する構成は,これにより意識的に除外されたことが明らかであるから,第5要件も欠くことが明らかである。5 争点3-1(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか-実施可能要件違反)(被告の主張)被告製品の灰分量の測定結果に大きなばらつきが生じているが,その原因は不明であり,測定結果を合わせるために必要な測定条件に関する事項が本件明細書に記載されていない。原告の主張するように,被告製品の灰分量の測定結果に大きな相違が生ずる原因が液化ガス充填の前後によるものであるとか,試料の均一性が欠けていることによるものであるとすると,それらの擾乱要因を除去して正確な測定を行うことのできる条件が本件明細書に記載されていない限り,当業者は,構成要件B及びFの条件に合致する吸収体を製造できない。したがって,本件特許は実施可能要件(特許法36条4項1号)を欠いており,特許無効審判により無効にされるべきものである。(原告の主張)被告製品の灰分量の測定結果にばらつきが生じるのは,古紙原料の混合割合や種類等が個体により均一でないという専ら被告製品の製造方法の問題であり,その原因は明確である。本件明細書の記載によれば,吸収体の灰分含有量は,吸収体原料である古紙原料に含まれる各種無機物質(炭酸カルシウム,タルクその他)によって決まり,通常,原料の種類によってほぼ一定している。そのため,各種古紙原料やそれ以外の原料
5 を適宜組み合わせることで所望の灰分含有量とすることができ,これを1重量%以上20重量%(ないし12重量%)未満とすることにより,本件発明にかかる吸収体を製造することができる。このように,本件明細書にはその物の製造方法が十分明確に記載されており,本件特許に実施可能要件違反の無効理由はない。6 争点3-2(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか-明確性要件違反)(被告の主張)構成要件Cの「成形」は,その工程の時期が吸収体の「充填」の前後いずれであったとしても,製造方法に関する記載であることがその文言自体から明白である。したがって,本件発明1,2及び6は,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に当たる。この場合,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在することを原告が証明できない限り,特許法36条6項2号の「発明が明確であること」の要件に違反することになるが,原告は上記の事情を何ら主張立証していない。したがって,本件特許は明確性要件(特許法36条6項2号)を欠いており,特許無効審判により無効にされるべきものである。(原告の主張)本件発明1は,スプレー缶内に収容された吸収体の客観的な構成を特定するだけで,吸収体の充填方法を何ら限定するものではない。したがって,本件発明1について明確性要件違反の疑義が生じる余地は全くない。7 争点4(特定被告製品の製造,販売等の差止め及び特定被告製品等の廃棄の必要性)(原告の主張)
(1) 被告は,業として,特定被告製品を含む被告製品を製造して販売等しており,特定被告製品に関するこれらの行為は,本件特許権を侵害する行為である。また,
5 被告は,特定被告製品の完成品,半製品及びその製造に供する金型を有している。
(2) 被告は被告製品の製造,販売に関わる事業を譲渡したと主張しているが,不知。また,仮に被告が事業譲渡したとしても,本件訴訟の経過等を踏まえると,将来,被告が特定被告製品の製造,販売を再開するおそれは十分に認められるから,本件特許権が侵害されるおそれは存在し,特定被告製品の製造,販売等を差し止める必要性がある。(被告の主張)
(1) 被告が業として特定被告製品を製造して販売していたことは認め,原告のその余の主張は否認し,争う。被告は特定被告製品,その半製品及び特定被告製品の製造に供する金型を有していない。
(2) 被告は,平成26年11月,第1世代製品の製造,販売を終了し,平成28年7月には,第2世代製品の製造,販売を終了した。そして,被告は平成29年3月末には,被告製品の製造,販売を含むエアゾール関連事業を他社に事業譲渡し,同製品の製造,販売に関する事業から撤退した。したがって,被告が今後,特定被告製品の製造,販売を行う可能性はないから,その製造,販売等をするおそれはなく,差止めの必要性を欠くことが明らかである。8 争点5(原告が受けた損害の額)(原告の主張)
(1) 原告は本件発明1,2及び6の実施品であるエアダスターを製造,販売しており,訴外会社らから,本件特許権の持分とともに,本件特許権侵害を理由として訴外会社らが被告に対して取得していた損害賠償請求権全部の譲渡を受けたから,本件特許が登録された平成25年10月25日から平成28年2月29日までの間に特許法102条2項に基づき認定される損害額相当額全額を被告に賠償請求することができる。
(2) 被告が受けた利益の額について計算鑑定で認定された利益額(平成25年10月25日から平成28年2月29
5 日までの分●(省略)●円)に,計算鑑定で控除された労務費を加えた金額が同期間の被告が特定被告製品の販売により受けた利益額であり,この額が原告の損害額計算の基礎にされるべきである。被告は人件費の一部を売上げから控除する経費に含めるべきと主張するが,人件費は典型的な固定費であり,被告製品の販売高との明確な因果関係も認められない。また,被告のように売上高が1000億円を超える大企業において,売上げのごくわずかな部分を占めるにすぎない侵害品の製造,販売による利益の計算について人件費の一部を控除することは認められるべきでない。
(3) 推定覆滅事由等について被告主張に係る推定覆滅事由は否認し,争う。そもそも特許法102条2項による推定は,侵害行為と原告の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情が被告によって具体的に主張・立証されて初めて覆滅され得るのであって,被告が主張する寄与率などという曖昧な概念による損害賠償額の減額は認められない。そして,被告主張の容易な代替技術の存在や,本件発明の技術内容が高度なものでないなどということは,上記相当因果関係を阻害するものではなく,主張自体失当である。むしろ,原告は本件発明に係るエアダスター製品について業界トップシェアを誇り,原告の製品が市場の半分以上を占めていて,被告による侵害行為が中止された結果,被告の取引先であった企業より,原告に70万本を超える引合いが新規にあって受注するに至ったから,被告による侵害行為と原告の製品の販売減少との間に相当因果関係が認められることは明らかである。また,本件明細書の段落【0028】及び【0030】記載の本件発明の作用効果に照らせば,本件発明の技術内容は消費者の購買動機に重要かつ大きな影響を与えているといえる。(被告の主張)
(1) 原告が本件発明1,2及び6の実施品であるエアダスターを製造,販売して
5 いることは不知。原告のその余の主張は否認し,争う。原告が特許法102条2項に基づき損害額の全額を請求できるのは本件特許権の持分が原告に譲渡された時点以降に限られ,それ以前は同項により算定される額のうち原告の持分割合に相当する3分の1に訴外会社らが同条3項に基づき被告に対して請求することができる額の合計額の限度で請求できるにすぎない。
(2) 被告が受けた利益の額について被告製品を製造している被告の取手工場においては,それ以外にもトイレ消臭用スプレーやシェービングフォームなど複数種類のエアゾール製品を製造している が,これらの複数種類の製品は,それぞれの製造量に応じて,ある日はエアダスター製品のみを製造し,他の日はトイレ消臭用スプレー等を製造するというように,時間帯を区切って作り分けている。そのため,取手工場でエアゾール製品の製造に携わっている従業者は,全員が被告製品の製造に携わっている。一方,被告製品を含むエアゾール製品の製造に携わる従業者は,その一部は正社員であるが,大半はパート従業者であり,パート従業者の人数は,製品の製造量に応じて定期的に調整が行われている。すなわち,被告製品の製造見込み量が増えれば,パート従業者の雇用人数を増やすといった対応をしており,そのため,パート従業者の雇用人数に応じて,その分の人件費も変動している。したがって,パート従業者の人件費の少なくとも一部は,被告製品の売上と連動しているのであり,これを前提として,パート従業者の人件費を経費として控除した計算鑑定の結果を採用すべきである。
(3) 推定覆滅事由等について以下の事実を総合的に考慮すれば,本件発明の寄与率は0であるか,せいぜい1%と評価することが妥当である。ア 原告の製品の市場シェアは高めに見積もっても60%であるから,被告製品の製造,販売がなされなかったとしても,その数量の40%は原告以外の第三者の製品が市場を代替することとなり,原告が製造,販売できたのは60%のみである。
5 したがって,市場シェアに関する寄与率として60%を乗じるべきである。イ また,本件発明の技術内容は,スプレー缶内部の吸収体の組成や蓋状部材に関するものであり,製品の外観からは認識できないものである。また,その作用効果も,液漏れを防止するというエアダスター製品であればどの製品でも当然に備えている機能に関するものでしかないから,消費者が製品を購入する際における動機とは何らの関連性も有しないことが明らかである。他方,エアダスター製品は,風量,使い勝手,無臭性及び捨てやすさという本件発明の技術内容とは無関係な事項で評価されているところ,被告製品の特徴(顧客吸引力)は本件発明と無関係の風量及び無臭性の項目で高く評価されている。風量に関しては,エアダスター製品の用途はOA機器等に付着した埃や塵をすばやく取り払うことであるところ,被告製品にはこの点に独自の工夫が施されていることが,高い評価につながっている。また,無臭性に関しては,被告製品においては,吸収体に古紙を使用しておらず,古紙に含まれる不純物が含まれないため,ほぼ無臭であり,この点も高い評価につながっている。このように本件発明の技術内容は,消費者が被告製品を選択する要素とは全く関連性を有していないのに対し,被告製品が市場において高い評価を獲得しているのは,本件発明とは無関係の,独自の技術によるものであるから,この点でも本件発明の寄与率は極めて小さいことが明らかである。ウ さらに,実開平6-7883号の公開実用新案公報(乙43の2)には本件発明の「通気性蓋状部材」(構成要件C,D)に相当する構成が開示されており,この通気性蓋状部材を用いない代替技術を採用することは容易であり,実際,第3世代製品においては,通気性蓋状部材を用いていない。したがって,この事情も本件発明の寄与率を減じる事由として考慮されるべきである。エ また,被告製品は,本件明細書に開示された灰分量を利用していない。すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明の実施例1には,10例のサンプルが
5 示されており,そのうち灰分が「1重量%以上6.6重量%未満の範囲」であるのはサンプルF,I及びJの三つである。しかし,いずれも古紙原料を含有していないし,段落【0088】の表1や図6の内容に照らせば,サンプルFでは10個中3個もの製品で合格判定基準の30秒をはるかに下回る短時間のうちに液漏れが生じているし,サンプルI及びJでは吸収体が不織布の袋に詰めた上でスプレー缶内に充填されているから,これらは本件発明の実施例ではない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,灰分が「1重量%以上6.6重量%未満の範囲」の開示がなく,本件発明の技術内容・程度が一定の存在意義を有すると仮定しても,それは「6.6重量%以上20重量%未満の範囲」にある侵害品との関係においてのみであるといえる。これに対し,特定被告製品の灰分含有量は最大でも3.7重量%にすぎず(乙23),本件明細書の発明の詳細な説明に開示されている技術的内容を利用しているとはいえない。したがって,本件発明の寄与率はないか,仮にあったとしても極めて小さいといわざるを得ない。オ さらに,本件発明の技術内容・程度は高度なものではないから,このことも寄与率を低くに認定する事由として考慮されるべきである。すなわち,本件発明の技術内容は,吸収体に含まれる灰分が保液性を改善する作用を有することに着目したものであるが,灰分が保液性を改善する作用を有することは,本件特許の出願時において周知の事項であった(乙31及び乙32参照)。そして,本件発明の構成は,そのすべてが公知技術(乙43の1ないし9)に開示があり,このような構成は,本件特許の出願時において広く知られた技術であったといえる。すなわち,本件特許の出願時において,噴射口を備えたスプレー缶に,可燃性液化ガス及び保液用の吸収体を充填したスプレー缶製品は周知であった(乙43の1)。また,「上記吸収体が,灰分を1重量%以上20重量%未満の範囲で含有するセルロース繊維集合体から構成され」るようにすることは,吸収体に古紙,LBKP等の未使用パルプ,オガクズ,もみがら等の各種資材を使用する場合には
5 必然の結果であり,自明の事項にすぎず(乙43の3ないし9参照),吸収体の灰分重量%を「1重量%以上20重量%未満」とすることに各別の技術的意義はない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1-1(特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否)-構成要件B及びFの充足性)
(1) 原告は,入手した被告製品の灰分量を測定し,その測定結果(甲7,甲14,甲15,甲22(枝番号を含む。以下同じ。))に基づき,被告製品のほぼ全量が灰分含有量を特定した特定被告製品であり,構成要件B及びFを充足する旨主張するところ,被告は,原告の用いた灰分量の測定方法そのものから争い,被告の測定方法及び測定結果(乙6)によれば,被告製品は構成要件B及びFを充足しないと主張する。
(2) そこで,まず灰分量の測定方法について検討すると,本件明細書の段落【0087】には,実施例における測定方法の記載があり,本件明細書中に他の測定方法の記載はみられないことから,測定方法は,この段落【0087】の記載の方法によるべきである。そして,そこに記載がない事項については,工業製品である 被告製品の性質上,紙,板紙及びパルプを525℃で燃焼した際の灰分を測定する 方法についての規定である日本工業規格のJIS P8251及びこれが引用するJIS P8203(甲9,甲11,乙43の3)を参考にするのが相当であり,以上の限度においては,原告及び被告ともに,その測定方法の理解に相違があるわけではない。
(3) 原告と被告が実施した測定方法の違いは,①原告は,試料となるセルロース繊維集合体をガス充填後のものを用い,被告は前のものを用いていること,②原告は,二つ以上の試料を用い,灰分量の計算の前提となる絶乾質量を2回の絶乾率測定の平均値を用いて算出しているが,被告はそうではないこと,③原告は,被告製品の内容物をそのまま試料としているが,被告は,これから不純物を除去しているという3点にある。
5 ①の点については,本件発明の構成要件AとBの関係から,灰分の含有量は,ガス充填後の試料を対象として測定すべきことは明らかであるが,他方で,被告が自らした測定結果(乙5)によれば,ガスの充填の有無は灰分量に影響しないと認められるから,この点で原告と被告の測定方法の優劣が決せられるとはいえない。次いで②の点については,被告が主張するように,被告製品における灰分量の測定については,JIS P8251は参考にとどまるから,二つ以上の試料からの測定が必須とならないという考えもあり得るが,被告自身の測定結果からも明らかなように,被告製品は,製品ごとの灰分量にばらつきがあるから,このように均一さが明らかでない試料を対象とする場合には,測定誤差をなくすため,少なくとも二つ以上の試料を対象に測定を行う方が相当といえ,したがって,これをしたことが明らかではない,被告の測定結果の信頼性はやや劣るものということができるが,被告製品では,個々の製品ごとの灰分量のばらつきが相当あることから,この点をもって,当該測定結果を,直ちに排除すべきほどの瑕疵とはいえない。最後の③の点については,被告のした測定結果(乙6)から明らかなように,灰分量の測定結果に直接影響を及ぼすものであるところ,以下に検討するとおり,本件発明にいう「セルロース繊維集合体」は,被告製品の内容物をいい,不純物が混入することも予め想定されているから,灰分量の測定は,被告製品の内容物をそのまま試料とすべきであり,これと異なり,これから不純物を除去したものを試料に用いた被告の測定結果(乙6)は採用できないということになる。すなわち,本件明細書の記載によれば,本件発明にいう「セルロース繊維集合体」は,古紙等の原料を粉砕,解繊し,微細化したものの集合体を指すものであって,セルロース繊維のみではなく,製紙工程で古紙原料に添加される炭酸カルシウムやタルク等の無機物質が含まれることが想定されているというのであり(本件明細書の段落【0027】,【0028】,【0039】,【0049】),また原料が古紙等に由来するものも含むということに加え,構成要件A及びBからすると,「セルロース繊維集合体」は,スプレー缶の内容物を指すと解されるから,その収容に
5 至るまでの一連の製造工程において塵や埃状の物質が混入することも避けられないと考えられるが,本件明細書に記載された灰分の測定方法(段落【0087】)には,混入物を除去することを示唆する記載は一切ない。また,実際問題として,被告が主張するように,被告製品に塵や埃状の物質,あるいは製造過程で意図せず混入した錆や塗料等に由来するものがあるとしても,除去すべきではないセルロース繊維は完全に残し,他方で,それ以外の不純物のみを完全に除去し切れるとはおよそ考えられないから,そのような作業は灰分量を測定する上で想定されているとは考えられない(被告の測定方法を説明した陳述書(2)(乙7)をみても,被告のいう不純物が,古紙由来の物質であるのか否かを的確に識別できるとは考えられない。)。したがって,被告製品の灰分の測定方法としては,被告製品の内容物をそのまま試料として用いるべきであって,不純物が含まれるとして,その一部を除去した対象を試料として測定した被告の測定結果(乙6)は採用できない。
(4) 被告製品の構成上記(3)で検討したところによれば,被告製品の灰分量の測定は,原告がしたように,①被告製品のガス充填後であって,②スプレー缶の内容物から不純物を取り除かないそのままを試料として,③灰分量の計算の前提となる絶乾質量を2回の絶乾率測定の平均値を用いて算出するという方法によるべきであるところ,これによって原告のした測定結果(甲7,甲14,甲15,甲22)によれば,第2世代製品について1本(甲14の4)が,吸収体を構成するセルロース繊維集合体中の灰分含有量が1重量%未満であることが認められるが,それ以外は,すべて吸収体を構成するセルロース繊維集合体中の灰分含有量が1重量%以上12重量%未満の範囲に属するものと認められる。他方,被告においても,上記①ないし③の条件を満たす測定方法に従い,検査機関に被告製品の灰分量の測定検査を委託しているが,その結果(乙23)では, 吸収体を構成するセルロース繊維集合体中の灰分含有量が1重量%以上12重量%未
5 満の範囲に属するものが,第1世代製品につき10本中5本,第2世代製品につき90本中56本であったことが認められており,不純物を除去しない測定方法によったとしても,なお原告と被告のそれぞれの測定結果に相当の乖離がある。このように測定方法を統一しても,被告製品の灰分量の測定結果についての原告と被告との対立は解消していないが,被告が上記条件を満たす測定方法を用いた測定の委託先は第三者機関であって,その測定結果の信頼性を疑わせる事情は認められないし,その測定は同一機会に同一条件下で100本の検体の測定を実施したものであることに照らせば,本件においては,被告製品の灰分量の測定結果について,上記被告が委託した検査機関の測定結果(乙23)によることが相当である。そして,その測定結果では,第1世代製品と第2世代製品では,検体の数に差があり,また被告製品中,構成要件B及びFを充足する灰分量を有する製品の割合に差異があるが,その差異は50%と約62%にとどまっていて,灰分含有率の分布にもそれほど変わりはないことからすると,第1世代製品と第2世代製品を区別せずに,被告製品のうち本件発明1,2及び6の技術的範囲に属する特定被告製品の割合を認定するのが相当である。そうすると,被告製品のうち特定被告製品に該当する割合は61%であると認められる。
(5) 以上より,被告製品のうち61%は,灰分含有量を特定した特定被告製品であるものと認められ,この特定被告製品は,構成要件B及びFを充足していると認められる。
2 争点1-2(特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否)-構成要件Cの充足性)(1) 構成要件Cの解釈についてア 構成要件Cの「スプレー缶形状に対応する形状に成形された上記吸収体を収容し」につき,原告は物の発明としてのスプレー缶製品の構成部材である吸収体の客観的な構成を特定するものでしかないと主張しているのに対し,被告はスプレー
5 缶に収容される前の段階で予め吸収体を「スプレー缶形状に対応する形状に成形」し,次いで上記吸収体をスプレー缶に収容することを意味すると解すべきであると主張している。被告の主張は,構成要件中,「成形」,「収容」,「配設」という文言が工程を意味しており,その先後関係が問題となることから製造方法を特定しているというものであるが,構成要件中に明示的な形で吸収体のスプレー缶内への収容と吸収体の成形の時間的な先後関係が触れられているわけではないから, この部分は,スプレー缶製品が完成した段階で,吸収体が客観的な構成として,スプレー缶形状に対応する形状に成形された状態でスプレー缶内に収容されているということを特定したと解することも可能である。イ そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,「セルロース繊維集合体のスプレー缶1への充填方法は,任意に選択することができる。通常は,予め一定量を集積させ,スプレー缶の内径に応じた円柱ブロック状に圧縮した繊維集合体に形成し,スプレー缶1に直接充填する。」(段落【0054】)との記載,「図4(c)のモノブロック缶の場合は,…減容圧縮成形工程において圧縮容器5にて二軸圧縮される成形体の外径を,頭部15の開口内径と一致させて,加圧圧縮された円柱ブロック状圧縮成形体を,頭部15の開口から充填することを繰り返し,所定重量の吸収体2とすることができる。その後,図5(a),(b)に示すように,吸収体2の表面を略平面状に整え,蓋状部材4を構成する発泡性樹脂の原料を充填して,吸収体2表面を均一に覆って,発泡させる。これにより,図5(c)に示すように,吸収体2の表面を保護する蓋状部材4を配置して,その上方に形成される空間12と区画することができる。図4(a),(b)に示す缶構成において,この方法を採用して蓋状部材4を形成することもできる。」(段落【0080】)との記載があって,少なくとも被告の構成要件Cの解釈,すなわち予め吸収体を「スプレー缶形状に対応する形状に成形」し,次いで上記吸収体をスプレー缶に収容する製造方法とは明らかに異なる製造方法が記載されている。
5 ウ さらに本件発明には,従属項として請求項8があるが,請求項8は,「上記セルロース繊維集合体は,スプレー缶形状に対応するブロック状に圧縮成形され,またはシート状に圧縮成形しスプレー缶形状に合わせて巻いた後,上記スプレー缶内に直接充填される請求項1ないし7のいずれか1項に記載のスプレー缶製品。 」というものであって,吸収体を構成するセルロース繊維集合体がスプレー缶形状に対応するブロック状に圧縮成形されるなどした後,スプレー缶内に直接充填されるという経時的要素が構成要件として製造方法をもって技術的範囲を特定しているから,これとの対比において,請求項1に請求項8に特定された経時的要素を解釈で読み込んで製造方法が記載されていると解釈することは不合理である。エ 以上のことを踏まえると,構成要件Cが,スプレー缶に収容される前の段階で予め吸収体を「スプレー缶形状に対応する形状に成形」し,次いで上記吸収体をスプレー缶に収容する構成に限られないことは明らかであり,構成要件Cの 「スプレー缶形状に対応する形状に成形された上記吸収体を収容し」という文言は,スプレー缶製品が完成した段階で,吸収体が客観的な構成として,スプレー缶形状に対応する形状に成形された状態でスプレー缶内に収容されているということを記載したものと解するのが相当である(なお,「スプレー缶形状に対応する形状に成形された上記吸収体」の意義については,その文言からして,吸収体がスプレー缶形状に対応する形になっていることを意味すると解すべきである。)。(2) 被告の主張についてア 被告は,請求項8の発明は,セルロース繊維集合体の予めの成形方法を二つに限定しているだけであり,本件発明1は成形方法を限定していないから,請求項8の存在により,本件発明1の構成要件Cが予めセルロース繊維集合体を成形するという経時的要素を含んで解することは妨げられないように主張するが,請求項8の発明をそのように解すべきとしても,そうだからといって,構成要件Cに経時的要素を読み込んで製造方法として特定されているように解釈されるわけではなく,被告の主張は失当である。
5 イ 被告は,原告が本件特許の出願経過において提出した意見書(甲8の8,乙41)で,予め,スプレー缶形状に対応する形状に成形した成形体を作り,それをスプレー缶に充填するという構成が説明され,その作用効果が強調されていたことから,構成要件Cは,被告主張のとおり解すべきと主張している。ウ そこで本件特許の出願経過についてみると,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。(ア) 本件特許の出願当初の願書に添付した特許請求の範囲は,次のとおりである(請求項3ないし5,7及び9の記載は省略)(甲1,甲2,甲8の1,3)。【請求項1】 噴射口を備えたスプレー缶に液化ガスとともに充填されて,該液化ガスを吸収保持するスプレー缶用吸収体であって,セルロース繊維集合体から構成され,灰分を1~25重量%の範囲で含有することを特徴とするスプレー缶用吸収体。【請求項2】 噴射口を備えたスプレー缶に,少なくとも液化ガスおよび保液用の吸収体を充填したスプレー缶製品であって,上記吸収体が,灰分を1~25重量%の範囲で含有するセルロース繊維集合体から構成され,上記スプレー缶内に,上記噴出口側に空間を有して上記吸収体を収容し,上記空間と上記吸収体の間には,上記吸収体の表面を通気可能に保護する通気性蓋状部材を配設したことを特徴とするスプレー缶製品。【請求項6】 上記液化ガスは,可燃性液化ガスである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のスプレー缶用吸収体またはスプレー缶製品。【請求項8】 上記セルロース繊維集合体は,スプレー缶形状に対応する形状に圧縮成形されて,上記スプレー缶内に直接充填される請求項1ないし7のいずれか1項に記載のスプレー缶用吸収体またはスプレー缶製品。(イ) 特許庁審査官は,平成25年6月頃,次のとおり,上記(ア)の出願に係る発明について拒絶理由通知をした(甲8の7,乙38)。
5 a 出願時の請求項1について古紙パルプを利用したセルロース繊維集合体において,その灰分の配合量として1ないし25重量%という数値範囲内の値は,公開特許公報(特開平10-314583。乙39)等に記載されているように一般的な値であり,公開特許公報(特開2008-180377。乙43の1。以下「乙43の1公報」という。)に記載されたスプレー缶用吸収体の灰分の配合量を1ないし25重量%とすることで,請求項1に係る発明とすることは,当業者にとって容易である。b 出願時の請求項2について乙43の1公報に記載されたスプレー缶製品における表面シートに代えて,周知の技術事項を適用し,通気性蓋状部材を備える構成とすることは,当業者にとって容易である。c 出願時の請求項3について蓋状部材の材料の種類は当業者が適宜選択し得た設計的事項であり,通気性材料として不織布や発泡体は一般によく知られているものである。d 出願時の請求項4ないし9について請求項4ないし9で特定する構成は,乙43の1公報に実質的に開示されている。また,セルロース繊維の原料や繊維長,液化ガスの種類やその充填方法等は,当業者が適宜選択し得た設計的事項である。(ウ) 原告及び訴外会社らは,同年8月30日,上記(ア)の出願時の請求項1を特許請求の範囲から削除するとともに,出願時の請求項2の内容を補正して新たな請求項1とするとともに,請求項2,6及び8等についても補正をした。補正後の請求項1,2,6及び8は上記第2の1(2)記載のとおりである。なお,補正後の請求項の記載に整合させるために,明細書の段落【0017】,【0055】等も併せて補正された(甲8の8,甲8の9,乙41,乙42)。(エ) 原告及び訴外会社らは,同日に提出した意見書において,補正後の請求項1は,出願時の請求項6の発明特定事項及び出願時の請求項8の発明特定事項の一部
5 を追加限定して,出願時の請求項2の「液化ガス」が「可燃性」であり,「吸収体」が「スプレー缶形状に対応する形状に成形された」ものであることを特定するとともに,「灰分」含有量を「20重量%未満」の範囲に限定し,さらに「蓋状部材」の具体的構成を特定するもので,本件明細書の段落【0057】,【0060】,【0062】,【0067】,【0091】,表1等の記載に基づくものと説明した。また,原告及び訴外会社らは,出願時の請求項2の補正については,「灰分」含有量をさらに「12重量%未満」の範囲に限定するもので,本件明細書の表1に記載されるサンプルB,E等の結果に基づくものと,出願時の請求項8の補正については,「吸収体」の形状をさらに具体的に特定したもので,本件明細書(ただし,補正前のもの)の段落【0054】,【0056】,図1,4,5等の記載に基づくものと説明した(甲8の8,乙41)。(オ) 上記(エ)の意見書には,上記記載のほか,次の記載がある(甲8の8,乙41)。a 本願発明のスプレー缶製品は,液化ガス,特に液漏れによる引火等の危険性がある可燃性液化ガスを,安全に保液することを課題とし,そのために,灰分を所定範囲で含有するセルロース繊維集合体からなる吸収体を用いることを特徴とする。具体的には,灰分含有量が1重量%以上20重量%未満(請求項1),好適には1重量%以上12重量%未満(請求項2)の範囲に調整された吸収体が,可燃性液化ガスの浸透性を高めて優れた保液性能を維持する。ここで,吸収体に含有される灰分は,主に古紙原料に由来するものであるため,コスト低減に有効であるが,古紙原料が多くなると充填後に割れ等が生じて,保液性能を低下させるおそれがある。そこで,本発明では,吸収体の性能を効果的に発揮するために,予めスプレー缶形状に対応する形状の成形体として充填し,その噴出口側の表面を保護する通気性蓋状部材を配設する(以下,第2段落の「ここで」からこの部分までの記載を「被
5 告引用部分1」という。)。通気性蓋状部材は,吸収体表面に密接するように円板状多孔質体を圧入し,または多孔質保護層を一体的に形成したもので,吸収体の成形形状を維持してスプレー缶内に安定して保持することができる。したがって,噴射剤または燃料である可燃性液化ガスが(請求項6),倒立または傾斜状態で連続噴射されても,液漏れを防止する効果が高く,安全性が大きく向上する。好適には,スプレー缶形状に対応させてブロック状に圧縮成形し,またはシート状に圧縮成形したものを巻いて,セルロース繊維集合体を構成し,スプレー缶に直接充填すると(請求項8),簡易な構成で安定した性能を発揮できる。b 本願発明は,安価な古紙原料のみでも液漏れを防止可能とするために,古紙に含まれる灰分と保液性能の関係に着目したものである。ただし,古紙原料を用いる場合には,繊維の傷みや品質のばらつきがあるために,セルロース繊維集合体が不均一になって保液力が安定しないおそれがある。そこで,スプレー缶内において,セルロース繊維集合体が安定した充填状態を保つように,予め成形して収容し,円板状多孔質体または多孔質保護層からなる蓋状部材で保護することで,保液性能とコスト低減を両立させている(以下,この部分を「被告引用部分2」という。) 。エ 以上により検討するに,被告が指摘する意見書は特許庁審査官による拒絶理由通知を受けて提出されたものであるが,上記認定のとおり拒絶理由通知では,吸収体を構成するセルロース繊維集合体中の灰分含有量や,通気性蓋状部材に関して想到容易であるとの指摘がされていたにすぎず,吸収体の成形時期や,吸収体のスプレー缶内への収容と吸収体の成形の時間的な先後関係について指摘されていたわけではないことが指摘できる。そして,意見書中の「好適には,スプレー缶形状に対応させてブロック状に圧縮成形し,またはシート状に圧縮成形したものを巻いて,セルロース繊維集合体を構成し,スプレー缶に直接充填すると(請求項8)」との明確な経時的工程を表現した記載との対比を踏まえて被告引用部分1及び2について検討すると,確かに,同
5 部分は,外形上,いずれも「本発明」又は「本願発明」に関する説明として記載されているが,被告引用部分1は,吸収体の性能を効果的に発揮するために通気性蓋状部材を配設し,それによって吸収体の成形形状を維持してスプレー缶内に安定して保持することができることを記載し,被告引用部分2は,スプレー缶内において,セルロース繊維集合体が安定した充填状態を保つように,これを蓋状部材で保護することで,保液性能とコスト低減を両立させていることを記載したものであって,いずれも通気性蓋状部材を配設することの技術的意義や作用効果を記載したにすぎないと理解し得る。すなわち,その記載内容に照らすと,被告引用部分1及び2は,通気性蓋状部材を配設する時点で,吸収体がスプレー缶形状に対応する形状に成形されていれば足りることを意味しているにすぎず,スプレー缶への収容の時点でそのような形状に成形されていることを要件としていると読み取ることはできない。また原告の上記意見書では,補正後の請求項1は,出願時の請求項2の「吸収体」を「スプレー缶形状に対応する形状に成形された」ものであることを特定したものと説明されているが,出願時の請求項2には吸収体の成形時期といった経時的要素に関する記載はなく,意見書でもその成形の時期には何ら触れられていない。出願時の請求項8の発明特定事項の一部を追加限定したとも説明されているが,本件明細書の段落【0036】や【0055】,図1等に基づく補正であるとは説明されておらず,補正によって請求項1に,出願時の請求項8にあった経時的要素が含まれることになったことはうかがえない。したがって,本件特許の出願経過に基づく被告の主張を採用することはできず,また原告の本件訴訟での主張が包袋禁反言に反するとまではいえないから,上記(1)のとおり構成要件Cの 「スプレー缶形状に対応する形状に成形された上記吸収体を収容し」という要件は,スプレー缶製品が完成した段階で,吸収体が客観的な構成として,スプレー缶形状に対応する形状に成形された状態でスプレー缶内に収容されているという意義で解されることになる。(3) 特定被告製品の構成と構成要件Cとの対比について
5 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨(別紙「被告製品説明書」の吸収体の写真)によれば,被告製品から取り出した吸収体はいずれも,スプレー缶製品が完成した段階で,吸収体が客観的な構成として,スプレー缶形状に対応する形状に成形された状態でスプレー缶内に収容されていると認められる。被告は,被告製品の製造方法では,スプレー缶に収容される前の段階で吸収体がスプレー缶形状に対応する形を維持する状態にはなっていない旨主張するところ,確かに証拠(乙2)によれば,被告製品1ないし3では,吸収体がスプレー缶内部に収容された時点で,缶上部から盛り上がってはみ出している状態であることが認められるが,それは天蓋を閉じていない未完成状態を指しているにすぎず,スプレー缶製品が完成した段階で,吸収体が客観的な構成として,スプレー缶形状に対応する形状に成形された状態でスプレー缶内に収容されていると認められることに変わりはない。そうすると,被告製品の吸収体は,客観的な構成としてスプレー缶形状に対応する形状に成形された状態でスプレー缶内に収容されていると認められるから,特定被告製品は構成要件Cのうち「スプレー缶形状に対応する形状に成形された…吸収体を収容し」という部分を充足し,被告製品の構成cの「蓋」は「通気性蓋状部材」に相当し,その他の部分の充足性については当事者間に争いがないから,構成要件Cを充足するということができる。
3 争点1-3(特定被告製品が本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するか(文言侵害の成否)-構成要件G,H及びIの充足性)被告製品に充填されているジメチルエーテルが可燃性液化ガスであることは当事者間に争いがなく,また被告製品はエアダスターであり,この液化ガスは噴射剤として使用されるものと認められるから,本件発明6の構成要件Hを充足する。そして,上記第2の1(4)イのとおり,被告製品は本件発明1の構成要件A,D及びEを充足し,上記1及び2によれば,特定被告製品は本件発明1の構成要件B及びCを充足し,本件発明2の構成要件Fも充足するから,被告製品の一部である特
5 定被告製品は本件発明2の構成要件G及び本件発明6の構成要件Iも充足する。
4 小括したがって,特定被告製品は,本件発明1,2及び6の技術的範囲に属するということができる。
5 争点3-1(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか-実施可能要件違反)(1) 被告は,被告製品の灰分量の測定結果に大きなばらつきが生ずる原因は不明であり,測定結果を合わせるために必要な測定条件に関する事項が本件明細書に記載されていないとして,実施可能要件違反があると主張している。しかし,本件発明は,再生セルロース繊維を含むセルロース繊維集合体中の灰分量を調整することで,液化ガスの吸収性,保持力を良好に保つ発明である(本件明細書の段落【0028】)ところ,段落【0048】では,吸収体の原料について,「古紙原料を100%とすることが,コスト面や環境負荷を小さくするために望ましいが,古紙原料に限ら」れず,灰分含有量が調整されていれば足りると記載され,段落【0049】以下で原料の解繊,粉砕の方法が記載されているほか,「古紙原料を用いた場合には,古紙原料100%のもの以外に,差し支えない範囲で他の原料を一部添加したものを使用することもできる。使用可能なセルロース繊維としては,針葉樹,広葉樹の漂白または未漂白化学パルプ,溶解パルプ,さらにはコットン等,任意のセルロース繊維が挙げられる。複数のセルロース繊維原料を適宜組み合わせて使用することもできる。この場合も,吸収体2となるセルロース繊維集合体の灰分含有量が,上記所定範囲となるように,原料を適宜組み合わせて調整する。」(段落【0048】)と記載されている。その上で,段落【0045】では,「古紙原料としては,新聞紙,広告紙,雑誌類をはじめ,段ボール,カタログ紙,コピー紙といった種々の古紙原料が,いずれも好適に使用できる。これら古紙原料の灰分含有量は,製紙工程にて添加される各種無機物質(炭酸カルシウム,タルクその他)によって決まり,通常,その種類に
5 よってほぼ一定している。例えば,新聞紙,雑誌類は,灰分含有量が比較的少なく,カラー印刷が増えると灰分含有量が多くなる傾向が見られるので,古紙原料を適宜組み合わせることで,所望の灰分含有量とすることができる。 と記載されており,」実施例として,吸収体の原料を変えた場合の灰分含有量と液漏れ評価試験の結果が記載されている(段落【0088】の表1等)。以上のことに加え,新聞紙や広告紙等の古紙等の原料ごとに概ねの灰分含有量が定まっていること(甲16の1,2,乙39,乙40,乙43の3ないし9)を踏まえると,本件明細書には,当業者が原料を適宜組み合わせて灰分含有量を調整し,構成要件B及びFの条件に合致する吸収体を成形し,スプレー缶製品を生産して,使用することができる程度の記載がされていると認められる。(2) したがって,本件特許が実施可能要件違反を理由として特許無効審判により無効にされるべきとは認められない。
6 争点3-2(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか-明確性要件違反)被告は,本件発明1,2及び6が,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に当たることを前提として,明確性要件違反があると主張している。しかし,上記2で認定説示のとおり,構成要件Cの「成形」や「収容」が製造方法に関する記載であるとは認められないから,被告の主張はその前提を欠き,採用することができない。したがって,本件特許が明確性要件違反を理由として特許無効審判により無効にされるべきとは認められない。
7 争点4(特定被告製品の製造,販売等の差止め及び特定被告製品等の廃棄の必要性)(1) 上記認定してきたところによれば,被告による特定被告製品の製造,販売行為は,本件特許権の侵害行為であるところ,被告は,エアゾール関連事業を第三者
5 に譲渡して同事業から撤退したことから,差止請求は認められない旨争っている。確かに,証拠(乙24の1ないし乙25,乙34,乙35,乙37)によれば,
上記事実関係は認められるが,被告は本件特許権の侵害の成否を争い,裁判所が侵
害心証を示して損害論の審理に入った後もなお平成28年7月まで特定被告製品を
含む被告製品を製造し続けていたというのであるから,このような経緯に照らすと,
被告には,なお本件特許権を侵害するおそれがあると認めるのが相当である。
(2) 他方,特定被告製品,その半製品及び特定被告製品の金型の廃棄請求につい
ては,口頭弁論終結時において被告が,当該製品や金型を所持又は占有しているこ
とが要件となるところ,上記認定のとおり,被告はエアゾール関連事業を第三者に
既に譲渡しており,被告が当該製品や金型を所持又は占有していることを認めるに
足りる証拠はないから,原告による廃棄請求には理由がない。
争点5(原告が受けた損害の額)
(1) 本件における損害額の算定方法について
原告は,平成27年12月14日までは本件特許権を不実施の訴外会社らと共有
していたが,上記第2の1(5)のとおり,不実施の訴外会社らが有していた損害賠償
請求権を本件特許権の持分とともに譲り受け,本件においてその損害賠償請求権も
併せて行使している(なお,この期間であっても,原告が本来有する特許法102
条2項に基づく損害の上限額が持分割合に応じて減じられるわけではない。)。そ
うすると,本件特許権が共有されていた期間であっても,原告の特許法102条2
項に基づく損害額を認定するに当たって不実施の共有者が同条3項に基づく損害賠
償請求権を有することは考慮する必要がなくなるから,以下においては,損害賠償
請求対象の全期間を区別することなく特許法102条2項の適用を前提として損害
額を認定していくこととする。
(2) 被告が受けた利益の額について
計算鑑定の結果によれば,本件特許が登録された平成25年10月25日から平
成28年2月29日までの期間の被告製品の売上額から被告製品の製造,販売のた
めに要した追加経費を除いた利益の額は合計●(省略)●円であると認められる。
原告は,計算鑑定の結果は,利益額の算定に当たりパート従業員の労務費(人件
費)を追加経費として控除しているが,これを控除せずに利益額を認定すべきであ
る旨主張している。
しかし,被告は取手工場において被告製品を製造しており,パート従業員が,そ
の製造に携わっているが,パート従業員は生産計画に応じてその勤務シフトが調整
されていたと認められる(乙33,計算鑑定の結果,弁論の全趣旨)から,このパ
ート従業員の労務費(人件費)は,被告製品の生産に伴う変動経費であると認めてよ
く,計算鑑定の結果のとおり,これを控除して利益額を算定するのが相当である。
以上より,被告が上記期間に特定被告製品を含む被告製品の製造,販売により受
けた利益の額は●(省略)●円と認められる。
そして,特定被告製品が被告製品に占める割合は,上記1(4)で認定したとおり6
%であるから,特許法102条2項の適用の前提となる被告が受けた利益の額は
●(省略)●円であるということになる。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本件発明の技術内容が製品の外観からは認識できないから購買動機
に関係せず,他方,被告製品は,独自の技術で評価を得ているから,本件発明の寄
与率は極めて小さいと主張している。
確かに,証拠(乙28)によれば,6社のエアダスター商品を比較した消費者向
け雑誌の記事において,商品評価の項目として,風量,使い勝手,無臭性,捨てや
すさが評価項目とされ,被告製品は,風量及び無臭性の項目で他社商品に比較して
高い評価を得ていることが認められるが,その評価項目の内容は,本件発明の技術
内容とは関係しないものである。
他方,本件発明の技術的意義は,吸収体について液化ガスの吸収性,保持力を良
好に保ち,液漏れを防止するというものであるところ,これもエアダスター(スプ
レー缶製品)としての性能評価に結びつくものであるが,上記の雑誌記事で評価項
目とされていないことからも明らかなように,消費者に対する商品の訴求力として
弱いことは否めず,そうであるなら,上記事由は,特許法102条2項の推定覆滅
事由として考慮すべき事情であるといえる。
イ また被告が,原告の製品の市場シェアは高めに見積もっても60%であるこ
とから,市場シェアに関する寄与率として60%を乗じるべきと主張しているとこ
ろ,侵害製品が存在しなかった場合の需要が権利者の商品に向けられるのか否かを
推定するという観点では,市場シェアは有力な手掛かりということができるから,
この事情は推定覆滅事由足り得るといえる。
しかし,本件においては,原告が,上記シェアを有する年間500万本(乙26,
乙27)の市場において,原告の製品と被告製品は同一価格帯で競合していたわけ
であるが,証拠(甲30)によれば,被告による事業譲渡の前後から原告の下に新
規取引の引合いがあり,原告が70万本もの新規取引を開始したことが認められて
いる。すなわち,原告の市場シェア率が上記のとおりであるにかかわらず,被告製
品が不在になった後の商品需要が,相当数,原告の製品に向けられた可能性もあり
得るから,これらの事情のもとでは,上記市場シェアに関する事情によって特許法
条2項に基づく推定が覆滅されるとまで認めることはできない。
ウ そのほか被告は,①構成要件の一部(通気性蓋状部材)については代替容易
な技術が存すること,②被告製品は,本件明細書記載の灰分量を利用していないこ
と,③本件発明の技術内容・程度は高度なものではないことなどを特許法102条
項の推定覆滅事由として主張しているがいずれも採用できない。
すなわち,特許法102条2項の推定の覆滅が認められるためには,侵害者にお
いて,侵害者による侵害品の売上が特許権者の売上減少との間に因果関係を有しな
いこと,具体的には,侵害品には,特許発明の特徴とは異なる部分に特徴があり,
これによって被告製品の購買者の需要が喚起されていたことが主張,立証される必
要があるが,上記①の代替技術が存するとか,③の特許発明の技術内容が高度では
ないとの事情は,仮にその事情が認められるとしても,それによって消費者の被告
製品の購入動機にいかなる影響を及ぼしているかについて主張立証されているわけ
ではない(なお本件発明の技術内容が高度か否かにかかわらず,それ自体,消費者
への訴求力が弱く,他方,被告製品には別の消費者に訴求する特徴があることから
推定覆滅事由となることは,上記アで説示したとおりである。)。
また,上記②の被告製品が本件明細書記載の灰分量を利用していないという点は,
仮にそうであったとしても,特定被告製品が,本件発明の技術的範囲に属すること
に変わりはない以上,これをもって特許法102条2項の推定覆滅事由ということ
はできない。
エ 以上より,被告主張の推定覆滅事由は,上記アの認定説示の限度で認められ,
覆滅率は40%とするのが相当である。
(4) 以上の認定・判示を踏まえ,上記(2)で認定した●(省略)●円を上記(3)で
認定した推定覆滅率40%の限度で減じると,認定損害額は●(省略)●円と認め
られ,原告の本件における請求額である738万円を上回っている。
結語
以上より,原告の請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるから,その限
度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担に
つき民事訴訟法61条,64条ただし書きを,仮執行の宣言につき同法259条1
項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。なお,主文第1項については,仮
執行の宣言を付すのは相当でないから,これを付さないこととする。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
森 崎 英 二
裁判官
野 上 誠 一
裁判官
大 川 潤 子
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