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平成29(ワ)1443損害賠償請求事件

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裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成30年4月24日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社JAM 代表者による原告工場の見学の経緯等 の競業行為の開始 は,平成28年9月頃から,生春巻きを製造し,関西圏の大手スーパーに卸 は原告主張の営業秘密を不正取得したか。 は原告主張の営業秘密を流布したか。 代表者が原告工場を見学した経緯等は次のとおりである。 代表者が,原告工場を見学した経緯は次のとおりである。 代表者は,平成25年秋頃,ある商社が主催した会合で,「生春巻きは量産
法令 不正競争
不正競争防止法2条1項4号2回
不正競争防止法2条6項2回
不正競争防止法4条1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 損害賠償6回
侵害3回
許諾1回
実施1回
主文
事件の概要 本件は,原告が被告に対し,原告において製造販売している生春巻きの製造方法 が不正競争防止法上の営業秘密に該当することを前提に,被告が当該営業秘密を不 正に取得して競業行為をなし,また当該営業秘密を第三者に吹聴していると主張し20 て,営業秘密の不正取得を理由とする不正競争防止法4条本文に基づく損害賠償と して逸失利益の一部2000万円を,営業秘密の第三者に対する吹聴を理由とする 不法行為に基づく損害賠償として1000万円を請求するほか,本訴提起に要した 弁護士費用相当額の損害の300万円の合計3300万円とこれに対する不法行為 の後の日である平成29年2月24日から支払済みまで年6分の割合による金員の25 支払を求めた事案である。

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判決文

平成30年4月24日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官

平成29年(ワ)第1443号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成30年3月5日

判 決

原 告 株式会社崔さんのお店

同訴訟代理人弁護士 奥 村 裕 和

被 告 株 式 会 社 J A M

同訴訟代理人弁護士 菊 澤 俊 輔

同 佐 井 萌 子

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は,原告に対し,3300万円及びこれに対する平成29年2月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,原告が被告に対し,原告において製造販売している生春巻きの製造方法が不正競争防止法上の営業秘密に該当することを前提に,被告が当該営業秘密を不正に取得して競業行為をなし,また当該営業秘密を第三者に吹聴していると主張して,営業秘密の不正取得を理由とする不正競争防止法4条本文に基づく損害賠償として逸失利益の一部2000万円を,営業秘密の第三者に対する吹聴を理由とする不法行為に基づく損害賠償として1000万円を請求するほか,本訴提起に要した弁護士費用相当額の損害の300万円の合計3300万円とこれに対する不法行為の後の日である平成29年2月24日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求めた事案である。1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者ア 原告は,●(省略)●に本社と工場(以下「原告工場」という。)を有する

5 株式会社であり,生春巻きのサラダ,ドレッシングなどを主な商品として,全国的に「崔さんのお店」のブランドを展開し,大手のコンビニエンスストア,スーパーなどで販売している。イ 被告は,平成18年9月1日,被告の現代表者が設立した株式会社であり,青果物及び食料品の販売業等を業とし,カット野菜等を製造し,スーパー等の取引先に卸すなどして業績を上げている。ウ 被告代表者の父は,大阪府岸和田市に本社のある P1 の代表者であり,同社は,同市に工場を有し,カット野菜などの卸業をしている。

(2) 被告代表者による原告工場の見学の経緯等ア 被告は,取引先から生春巻きを製造するよう求められ,その検討のため,被告代表者において,平成25年7月頃,紹介を受けた原告に電話をかけて生春巻きの製造工場の見学を依頼した。イ 原告は,被告代表者の求めに応じて工場を見学させることとし,同月3日,原告工場を訪れた被告代表者を案内して,生春巻きの製造工程を見学させるとともに,製造方法を説明し,また被告代表者に写真撮影を許可した。ウ 被告代表者は,その当日の午後6時過ぎ,原告代表者宛て工場見学のお礼のメールをしたが,そのメールは以下の内容を含んでいた。「本日の P2社長から頂いた貴重なお話のおかげで生春巻きやトルティーヤ等のノウハウは勿論九州での商談における自信と強みを頂いたように感じ大変感激しております。・・・是非,鹿児島は勿論のこと大阪の工場にもいらしてください。」また,上記メールに対する原告代表者の返信メールは以下の内容を含んでいた。「あなたのような後継者がおられるお父様が羨ましいです。(笑)弊社の事も今後とも宜しくお願いします。」エ その後,原告は,被告が九州における原告の協力工場として取引をすることを前提に,原告の社員が被告の鹿児島工場を訪問するなど取引開始に向けての話を進めようとした。しかし,被告は,原告の提案する内容での契約に応じず,結局,

5 その話合いは同年8月頃打ち切られた。また被告は,その後,直ちに取引先の求めで生春巻きを製造するということもなかった。

(3) 被告の競業行為の開始被告は,平成28年9月頃から,生春巻きを製造し,関西圏の大手スーパーに卸している。2 争点

(1) 原告主張の営業秘密は,不正競争防止法上の営業秘密といえるか。

(2) 被告は原告主張の営業秘密を不正取得したか。

(3) 被告は原告主張の営業秘密を流布したか。

(4) 原告の受けた損害の額

第3 争点に関する当事者の主張

1 原告主張の営業秘密は,不正競争防止法上の営業秘密といえるか。

(原告の主張)

(1) 営業秘密の内容

原告の営業秘密は,生春巻きを大量に安定的に生産するため,ライン上で全工程を行うとともに,通常は水で戻すライスペーパーを,状況に応じた適切な温度の湯で戻すという生春巻きの製造方法である。上記製造方法は,湯を用い,ライスペーパーを一瞬くぐらせ,完全に戻り切っていない状態でラインに乗せている。こうすることにより,最初は固くて巻くことが出来ない状態のライスペーパーが,ラインを流れる間に湯で段々と戻り,最終の巻きの工程の場面で,柔らかくなって綺麗に巻き工程を行うことができるようになっている。つまり,ラインを移動する間に,湯の力でライスペーパーを戻し,最終工程で戻った状態に持って行くという方法である。そのためには,ラインの長さ,作業時間,ライスペーパーの質,ラインを流す速度,工場の状況などを踏まえて温度を管理することが必要になるが,ライスペーパーを戻す湯の温度は,製造する本数に応じてラインの速度を変え,それに応じて4

5 0度から80度までの幅で変えている。

温度を40度から50度程度に設定する場合は,ラインの人数を10名程度にし,一つのラインでの1時間の製造本数を400本から500本程度としている。温度を60度から80度に設定する場合は,ラインの人数を12名程度に増やし,一つのラインでの1時間の製造本数を600本から800本程度としている。

(2) 不正競争防止法上の営業秘密であること

ア 秘密管理性上記の製造方法は,工場を見学することで分かり得ることであるので,原告では,工場の入り口を決め,部外者は立ち入らせず,原告が許容した人間だけが出入り可能としている。また原告では,食品関係者の工場見学は,小売りのスーパーなどの紹介で協力工場となる会社の場合など特別な理由がない限り絶対に許していない。さらに原告では,従業員を採用する際にも,従業員を潜り込ませてノウハウを盗もうとする人間がいる可能性があるため,同業他社で働いていた人間は採用しないこととしているし,従業員には,退社時に誓約書(甲5)を作成させ,従業員からの秘密漏洩にも,出来る限りの処置をしている。イ 非公知性ラインで製造すること,戻す温度を微妙に調節すること,巻く工程まで全てライン上で行うという上記生春巻きの製造方法は,同業者も知らないことであり,公然とは知られていない。原告は,同業者のなかでも最初に生春巻きの大量生産を可能にしたとの評価が確立している。ウ 有用性原告の生春巻きの製造方法は,手作りの生春巻きを大量に安定的に生産するための有用性がある。

(被告の主張)

(原告の主張)

する営業秘密は,生春巻きの製造工程に関し,①ライスペーパーを戻

5 す際の水温管理と,②ライン上で生春巻き製造の全工程を行うことをもって営業秘

密というものと理解できるが,これらは不正競争防止法上の営業秘密に当たらない。

(1) 秘密管理性について

ア 原告工場への立入りの管理状況について原告は,原告工場の立ち入りを厳重に管理しているように主張するが,被告代表者が原告工場を見学した時点で,原告工場内への部外者の立入りを厳重に管理していたことを示す根拠は一切示されていない。加えて,一般企業において,会社関係者以外の者(部外者)を施設・建物内に立ち入らせないようにするという対応は,いわば常識であり,そもそも部外者を許可なく自由に施設・建物内に立ち入ることを予め許諾している一般企業は,社会通念上およそあり得ないから,それだけでは秘密管理をしているとはいえない。また原告は,食品衛生法上の食品等事業者(同法3条1項)にも該当する食品製造・加工業者であるから,原告が主張する上記管理状況は,あくまで同法その他関係法令及びガイドライン等において衛生管理・防御上講ずべき措置として求められている管理状況・対策の域を超えるものではない。さらに,原告は,協力会社となる会社でない限り,会社外部の食品関係者には工場に出入りさせていないとも主張しているが,被告代表者が原告工場を見学した当時,原告がそのような対応をとっていたことを示す根拠は何一つ示されておらず,また,仮にそのような対応をとっていたとしても,そのことが秘密管理性を基礎づける事実にも当たらない。イ 従業員の退社時に作成させているという誓約書(甲5)について原告は,従業員をして退社時に誓約書を作成させていると主張するが,証拠として提出された誓約書(甲5)は,従業員が実際に署名捺印したものではなくインターネット上で広く流布している定型的な書式にすぎず,実際に主張するように従業員に退職時に同書を作成させているのか不明であり,同書の存在をもって,秘密管理を立証するための証拠としての価値はない。

5 また,原告において,退職後の元従業員から情報の漏洩を防止するのであれば,

就職時・入社時の雇用契約の締結と併せて秘密保持契約も締結することが通常の対応であるが,実際にはそのような対応を一切行っておらず,極めて不合理かつ不自然である。さらに言えば,原告としては,本来,情報漏洩を防止する策として,従業員の規範意識を高めるべく,誓約書の条項中に,当該方法を明示し,元従業員が保持すべき秘密の具体的な内容及び対象,並びに,禁止される方法・行為態様を特定しておく必要があるが,そうではなく,原告主張の製造方法が誓約書記載の秘密に当たると原告が認識している事実が従業員らにおいても周知徹底されて共通認識となっていたという事実もない以上,退職後の元従業員が同方法を秘密として認識して情報漏洩防止に努めることは事実上不可能である。ウ 被告代表者による原告工場見学時に秘密保持契約書その他の書類が何一つ作成されておらず,また,当該書類の作成を求められた事実もないこと通常,「営業秘密」を会社関係者以外の者に開示する場合,その開示前に秘密保持契約書その他の書類を作成しておき,当該秘密が外部に洩れないように,その都度対処して然るべきであるが,原告は,被告代表者による原告工場見学に際し,会社関係者以外の者である被告代表者に対して秘密保持契約書その他の書類を何一つ作成させておらず,また,当該書類の作成を要求したこともなく,原告主張の方法が「営業秘密」であると考える者の行動として,極めて不自然・不合理である。エ そして,上記アないしウのほか,誰でもアクセスできる原告のウェブサイトには,被告代表者が原告工場を見学した当時,生春巻きの製造工程が公開されており,原告主張の営業秘密のうち,ライン上で生春巻き製造を行うということは公知にされていた。オ 以上の事実関係によれば,原告主張の営業秘密は,秘密として管理されていたとはいえない。

(2) 非公知性

5 ア 原告は,ライスペーパーを戻す際の水温設定について,単位時間(1時間)

当たりの生春巻きの製造本数に応じて(言い換えると,ラインの設定速度に応じて)水温設定を変更している旨主張しており,その具体的内容は,以下のとおり整理することができる。(ア) 1時間当たりの生春巻きの製造本数:400本~500本程度水温設定:40℃から50℃(イ) 1時間当たりの生春巻きの製造本数:600本~800本程度水温設定:60℃から80℃しかし,そもそも

(原告の主張)

内容は,製造本数の違いによって,一本の生春巻きがライン上を流れている時間(ライスペーパーを湯で戻した後,巻きの工程に移るまでの時間)が何秒ほど変わり,また,そのような時間を変化させた場合に,これに伴って水温をどれほど変化させ,さらに,その僅かな違いによって,最終的に消費者が購入をして食卓に並ぶ際の食感にどこまで差異が生じるというのか何ら立証されておらず,それどころか特定すらなされていない。したがって,原告主張の営業秘密が如何に非公知であるといえるのか,原告の主張内容がそもそも不明であり,主張自体失当である。イ また原告は,ライスペーパーを戻す際には,通常,水を用いるなどと主張するが,インターネット上で「ライスペーパー 戻し方」というキーワードだけを用いて検索を行うと,ライスペーパーを戻す際に湯を用いる方法を紹介しているウェブページを容易に複数発見することができるし,一般市場で販売されているライスペーパーの中には,湯で戻すことを推奨している商品も複数存在しているから,ライスペーパーを戻す際に湯を用いるという方法自体は,明らかに周知の方法であって営業秘密足り得ない。ウ 以上より,原告主張の営業秘密は非公知とはいえない。

(3) 有用性

原告主張の営業秘密は,公然と知られていることであり,何の目新しさもなく,

5 これを保有することによって他の業者より優位に立てるようなものではないから,

有用性を欠くというべきである。

2 被告は原告主張の営業秘密を不正取得したか。

(原告の主張)

(1) 被告代表者が原告工場を見学した経緯等は次のとおりである。

ア 原告代表者は,平成25年7月2日,被告代表者から「九州でカット野菜の会社をしている。九州地区のスーパーから生春巻きを扱いたいと言われている。スーパーから崔さんのお店で指導を受けたらどうかと言われたので,是非工場を見学したい。」との連絡を受けた。原告は,協力工場となる場合でなければ工場を見学させることはないため,原告代表者において,「ノウハウをお見せするかわりに弊社ライスペーパーのほか,指定食材がありそれを買っていただく,現在取引先で大阪から九州へ納品しているお客様への供給もしていただける事が条件です。それでよろしかったら是非見に来てください。」と説明したところ,被告代表者が快諾し,翌日,工場見学を受け入れることになった。イ 同月3日,実際に行われた工場見学の場において,被告代表者は,原告の担当者からライスペーパーを戻す温度のことや,人員の配置などについて説明を受け,自らも疑問点などについて原告担当者に質問をし,営業秘密たる生春巻きの製造方法の重要な部分を取得していた。さらに,被告代表者は,原告工場内を撮影し,工場でのラインの配置,人員の配置などの情報を取得した。その後,原告の社長室に移り,事前の話のとおりに,指定食材があるので,原告から見積りを送ること,また現在九州地区まで運んでいる取引先の仕事もできれば受けていただきたいことなどを被告代表者に話したところ,被告代表者は,数量が増えるのはありがたい,九州地区は任せてくださいと述べた。ウ 同月20日には,原告代表者らほか2名と被告代表者と食事もした。その際,

5 被告代表者は「父親が同じ職種の仕事をしていて,同業の大阪の工場にも助けても

らっている。崔さんのお店にもできればカットサラダをやってほしいくらい忙しい。」,「大阪の東部市場あたりが工場で,マルマサさんは当初私も大変お世話になり,堺の工場が建った時は,見に行かせていただいた。」というような話をしていた。原告代表者らは,被告は九州でエリアを広げようとしており,大阪の事務所は事務所としておいているだけであり,大阪のカット野菜などの仕事はOEMで生産し,被告が買い上げてスーパー関係に販売していると理解した。エ その後同月24日には,原告と被告の取引契約のため,原告担当者が,被告の九州工場(鹿児島)を視察した。オ 以上の経緯で,原告は,被告が原告の協力工場になることを疑っていなかったが,同年8月になると,被告代表者は,今まで説明も受けていたにもかかわらず,ライスペーパーは買えないなどと言い出し,結局契約に至らなかった。カ そして,ほどなく被告代表者の父が,原告とまさに商圏が重なる岸和田市にある P1 の代表者であることが分かり,原告代表者は騙されたことを悟った。同年10月頃,原告代表者は,被告代表者の父に出会った際,同人から,「このたびは息子がえらい迷惑をかけまして。」とばつが悪そうに話されたことがあった。

(2) 以上のように,被告は,虚偽の事実を告げ,商圏が重ならない九州の業者で

あるかのように装い,あたかも協力工場となるように原告を誤信させて原告工場の見学を行ったのであり,これは不正競争防止法2条1項4号にいう「不正の手段」に当たり,被告において,不正の手段により原告工場内に入り込み,説明を受けた上で撮影までしていった行為は,「不正の手段により営業秘密を取得」したとして同号の不正競争に該当する。

(被告の主張)

(1) 被告代表者が,原告工場を見学した経緯は次のとおりである。

ア 被告は,青果物及び食料品の販売業等を業とする株式会社であり,カット野菜等を製造し,スーパー等の取引先に卸すなどして業績を上げていたところ,平成

5 25年7月頃までに,取引先関連企業(マックスバリュ九州)から,生春巻きを製

造して,同企業が九州全域で展開するスーパーマーケットに納品して欲しい旨の依頼を受けた。イ 被告は,取引先関連企業からの依頼ということもあって,生春巻きの製造を検討することとし,被告代表者において,同月3日の午前中,取引先のスーパーマーケット(ハローズ)に相談したところ,同スーパーマーケットから,原告に対して生春巻きの製造工程の見学についてお願いをしてみてはどうかと提案された。ウ そこで被告代表者は,原告のウェブサイトを検索し,同日の午後,原告の代表番号に電話をかけ,被告の業種・業態を説明した上で,生春巻きの製造工程を一度見学させて欲しい旨の依頼をしたところ,原告代表者から特段の条件を付することなく快諾され,その日に工場見学が行われることになった(会話時間としては,10分程度であった。)。なお,上記電話の際,原告代表者は,原告が大手飲食チェーン店「くら寿司」の九州地方の店舗に生春巻きを卸しているものの,大阪府から九州地方への輸送コスト等の負担が大きい状況であり,この負担を減らすべく「協力工場」を探しており,被告が了承してくれるのであれば,九州地方の上記店舗に生春巻きを卸すことに協力して欲しいという程度のことを述べていた(このとき,原告代表者から,「協力工場」の趣旨についての具体的な説明はなかったが,少なくとも被告代表者としては,被告が原告から生春巻きの材料を購入したり,原告が被告から生春巻きを購入したりすることだと考えていた。)。これに対して被告代表者は,協力すること自体は吝かではなかったため,前向きに検討したい旨を伝えるにとどめ,何ら合意には至っていない。エ 上記電話から約1時間後,被告代表者は,原告工場を訪れ,原告の応接室にて,原告代表者と名刺交換(同名刺には,会社住所として「●(省略)●」と記載されている。)や自己紹介等(被告代表者の父が大阪府岸和田市にカット野菜の工場を有していることや,被告の事務所が●(省略)●の●(省略)●公園付近に存

5 すること等を含む。)を行った。

その際,原告代表者は,生春巻きを九州地方の「くら寿司」の店舗に納品することについて協力をして欲しいということや,生春巻きの材料であるライスペーパーを購入して欲しいということを述べ,被告代表者は,前記同様,具体的な契約内容・契約条件次第では前向きに検討することも可能である旨の回答を行っただけで何らかの合意が成立するというようなことはなかった。オ その後,被告代表者は,原告代表者の案内の下,原告工場を20分ほど見学したが,工場見学前から念頭に置いていた生春巻きの製造工程及び作業内容に他ならないものであった。見学の最中は,原告代表者からは,主に生春巻きを巻く工程についての説明を受けただけであり,特定の作業工程等が営業秘密に該当するなどといった説明も一切なかった。カ 原告工場見学直後,原告代表者は,被告代表者に対し,協力工場になるかどうかは措いたとして,今後,生春巻きを製造するというのであれば,せめて原告が取り扱っているライスペーパーだけでも購入して欲しい旨の申入れを再度行ってきたが,被告代表者は,ライスペーパーの購入に関する契約書及び見積書を確認した上で検討する旨回答した。なお,それ以上に具体的な契約内容・契約条件に関する協議交渉は,その場では一切行われなかった。キ 原告工場見学後,被告代表者は,原告代表者に対し,工場見学を実施してくれたことに対するお礼のメールを送り,その後,原告から被告に対し,見積書や契約書がメールにてあくまで参考資料として添付送信されるなどしたが,具体的な契約内容に関する協議交渉が行われることもなく,かつ,原告からも契約締結に関する催促等も一切なされるようなこともないままであった。ク 原告工場を見学してから約2年近く経過した平成27年6月25日になって,突然,原告から被告に対して通知書が送付され,上記事実と異なる主張がなされるなどして,本件訴訟に至った。

(2) 以上のとおり,被告は,原告に対し,虚偽の情報を伝えたことなど一切ない

5 ので,そもそも「不正の手段」なるものを用いた事実がない。また,原告工場にお

ける生春巻きの製造工程というものも,よくある製造ラインを使用して生春巻きを製造していたというだけのことであり,一体何をもって「ノウハウ」ないし「営業秘密」であると主張しているのかが不明である。

(3) また,そもそも被告の用いている生春巻きの製造におけるライスペーパーを

戻す際の水温管理方法などは,被告の取引先からのライスペーパーの食感に関する要望に基づき,平成28年6月頃,試作を繰り返して得られたものであって,原告が営業秘密として主張しているのとは異なり,被告が不正に取得したものではない。

(4) したがって,被告が「不正の手段により営業秘密を取得する行為」(不正競

争防止法2条1項4号)に及んだ事実はない。

3 被告は原告主張の営業秘密を流布したか。

(原告の主張)

被告代表者は,平成25年秋頃,ある商社が主催した会合で,「生春巻きは量産が難しいと言っているけれど,あれはライスペーパーを戻す温度が問題で,60度から80度くらいで戻すと上手くいくんだぞ」と,さも自分が考えたかのように,皆の前で吹聴していた。生春巻きを大量に安定的に製造するノウハウを,みだりに吹聴し流布する行為は,原告の営業上の利益を侵害する違法な行為である。

(被告の主張)

(原告の主張)

は否認する。

4 原告の受けた損害の額

(原告の主張)

(1) 営業秘密の不正取得による損害

ア 被告が原告の協力工場になるかのように偽り,九州が商圏であるかのように偽って営業秘密を不正取得した行為に故意があったことは明らかである。イ 被告が原告から営業秘密を不正に取得し,その営業秘密を用いて,生春巻き

5 を製造して関西のスーパーで販売したため,原告はそれらのスーパーで生春巻きを

販売することができなくなったが,原告は,関西圏では,生春巻きの製造販売で有名であり,被告が販売しなければ,それらのスーパーで販売できていた可能性が高く,販売できていれば,売上げも1年間で7000万円ないし8000万円は上がり,原告は今後3年間で2000万円以上の利益を得ていたと考えられる。ウ したがって,少なくとも2000万円が被告の営業秘密の不正取得による損害の額である。

(2) 営業秘密の流布による損害

ア 被告は,自らも生春巻きの大量生産が難しいことを認識しており,そのノウハウを吹聴する行為に故意があることは明らかである。仮に故意がないとしても,原告が持っていた生春巻きを大量生産する営業秘密をみだりに第三者に開示すれば,それが利用されて原告の営業上の利益が失われることは十分に予見可能であるところ,原告のノウハウを取得した被告は,当該ノウハウをみだりに第三者に開示しない注意義務を条理上負っているというべきであるから,被告には注意義務違反の過失があるというべきである。イ 原告の営業秘密は年間700万円の利益を生み出す可能性があるノウハウであるから,流出したことによる損害は1000万円を下らない。

(3) 弁護士費用

原告は,本件訴訟によって弁護士費用の支出を余儀なくされており,その額は300万円を下らない。

(被告の主張)

(原告の主張)

はすべて否認ないし争う。

第4 当裁判所の判断

1 争点(1) 原告主張の営業秘密は,( 不正競争防止法上の営業秘密といえるか。)について

(1) 原告が主張する営業秘密は,訴訟提起段階から変遷しているが,最終的に確

5 定したところよると,生春巻きを大量に安定的に生産するために,ライン上で全工程を行うとともに,通常は水で戻すライスペーパーを,状況に応じた適切な温度の湯で戻すという生春巻きの製造方法であり,ラインの長さ,作業時間,ライスペーパーの質,ラインを流す速度,工場の状況などを踏まえて,温度を管理するものであって,ライスペーパーを戻す湯の温度は,製造する本数に応じて,ラインの速度を変え,それに応じて40度から80度までの幅で変えることに特徴があり,具体的には,温度を40度から50度程度に設定する場合は,ラインの人数を10名程度にし,一つのラインでの1時間の製造本数を400本から500本程度とし,温度を60度から80度に設定する場合は,ラインの人数を12名程度に増やし,一つのラインでの1時間の製造本数を600本から800本程度とするというものである。

(2)ア そこで,まず上記主張に係る製造方法が「秘密として管理されている」(不正競争防止法2条6項)といえるか検討するに,原告は,①原告工場の立ち入りを厳重に管理し,食品関係者の工場見学は,紹介により協力工場となる会社の場合などに限られていること,②従業員は競業他社の関係者が入社しないよう注意し,退社時に秘密保持誓約書を作成させ徴求していることを主張している。イ しかし,前者については,原告の主張する第三者の出入りの管理は,それ自体は,証拠(乙8,乙9)により認められる食品工場の場合における衛生管理のためにする人の出入りの管理と何ら変わらないものであるし,食品関係者の工場見学は紹介により協力工場となる会社に限られるとの点も,現に被告の場合は,前日か当日かの争いはあるとしても,短い電話による依頼だけで工場見学を許されており,原告主張のような厳格な扱いがされていたとは認められない。この点,原告は,被告が協力工場となることを見学の条件とし,被告がこれを承諾したように主張するが,協力工場となる以上,事業者間で継続的契約が締結される必要があるから,短時間の電話のやり取りだけで取引条件の詳細を詰めずに確定的な合意に至ったとはおよそ考えられず,むしろ原告代表者の陳述書(甲6)は,

5 工場見学前に協力工場になることの条件を承諾した旨の記載がないだけでなく,かえって工場見学後の被告代表者の話し振りから「私はもうすっかり協力工場になってくれるものと信じていました。」との記載があり,結局,協力工場になることが確定的でない状態で原告工場の見学をさせたことを自認する内容になっている。なお,その後,原告担当者が被告の九州工場を視察していることからすると,被告代表者は,協力工場となることに対して積極的方向で回答をしたことは優に認められるが,そうであったとしても,それをもって事業者間での法的拘束力のある合意と評価できないことはいうまでもない。したがって,原告主張の工場見学の条件は,結局,その実質は,当面の競業会社ではなく協力関係となることが十分期待できるということと変わりがないことになるのであって,秘密管理のための工場見学の制限としては不十分といわなければならない。ウ また後者の従業員に対する管理の点についても,入社時の選別を実際になしている点の証拠はないし,退職時の秘密保持誓約書(甲5)が実際に用いられているか否かをさておき,少なくとも,入社時に同趣旨の誓約書が徴求されているわけではなく,また在職中の守秘義務について定めたものは認められないから,これでは従業員に対する関係でも秘密管理が十分なされていたとはいえない。そのほか,証拠(甲6,乙10,乙19)及び弁論の全趣旨によれば,①被告代表者は,平成25年7月3日,原告工場を原告代表者の案内で見学するとともに,工場内施設の撮影もし,また原告代表者からは,生春巻きの製造方法の説明も受けたが,それに先立ち,見学で得られる技術情報について秘密管理に関する合意は原告と被告間でなされなかったばかりか,原告代表者からその旨の求めもなされなかったこと,②原告のウェブサイトには,原告工場内で商品を生産している状況を説明している写真が掲載されており,その中には生春巻きをラインで製造している様子が分かる写真も含まれていることが認められ,これらの事実からも,原告において,その主張に係る営業秘密の管理が十分なされていなかったことが推認できる。

5 エ したがって,原告主張の製造方法は,不正競争防止法2条6項の要件にいう「秘密として管理」されていたとは認められないから,原告主張の製造方法をもって同法の「営業秘密」として認められず,「営業秘密」であることを前提とする損害賠償請求は,その余の点の判断に及ぶまでもなく理由がない。なお,原告は,被告代表者が工場訪問のお礼のメールに「ノウハウ」を教えてもらったことを感謝する記載があることを指摘するが,そのメールをした真意はさておき,ここで問題にしているのは,原告自身が営業秘密の要件を満たす秘密管理をしていたか否かであって,被告代表者が「ノウハウ」としての価値を認め,すなわち非公知で有用なノウハウであると評価していたからといって,秘密管理性の欠如が補えるわけではない。また原告主張の製造方法中,温度を40度から50度程度に設定する場合は,ラインの人数を10名程度にし,一つのラインでの1時間の製造本数を400本から500本程度としている,温度を60度から80度に設定する場合は,ラインの人数を12名程度に増やし,一つのラインでの1時間の製造本数を600本から800本程度としているとの具体的製造条件は,これが不正競争防止法上の営業秘密足り得る非公知性,有用性を備えているとしても,工場の製造ラインを,短時間,見学しただけでは理解できるものとは考えられないから,仮にその秘密管理性が肯定されて営業秘密であることが認められたとしても,見学だけによって被告代表者がこれを取得できたとは認められない。そして,もし原告工場見学の機会に被告代表者が,そのような製造条件に関する情報を取得する機会があったとするなら,それは原告代表者による口頭での説明を通してということしか考えられないから,これでは秘密として管理されていなかったということになり,そもそも不正競争防止法上の営業秘密といえないことに帰着する。したがって,原告工場見学の際に,被告代表者によって,不正競争防止法上の「営業秘密」が不正に取得されたとは認められないから,そのことを前提とする損害賠償請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。

5 2 争点(3)(被告は原告主張の営業秘密を流布したか。)について原告は,平成25年秋頃,被告代表者が会合の場で,生春巻きを量産するための温度管理を吹聴したことが原告の営業上の利益を侵害する違法な行為である旨主張する。上記違法主張の根拠が,原告の営業秘密であることを前提とするのなら,上記1で判示したとおり,原告主張の営業秘密は,「営業秘密」とはいえないから,その主張には理由がない。また,原告由来の製造方法を吹聴することによる営業妨害の趣旨をいうのだとしても,証拠(乙4ないし乙7)によれば,製造方法を吹聴したとされる平成25年秋頃から約3年が経過した平成28年6月当時においてもなお,被告は,顧客の要望に応える生春巻きを製造するため適切な管理温度を探るための実験をしていたことが認められ,そうであれば被告代表者の吹聴した内容は,それだけでは生春巻きの量産方法に関する情報として不十分であり,実際の温度管理に当たっては,より緻密で正確な温度等の情報が必要であったことになるから,仮に,原告が主張する程度の内容が吹聴されたとしても,それによって原告の営業上の利益が侵害されるようなものとはいえず,違法な行為とはいえない。なお,原告代表者の陳述書(甲6)には,被告代表者が上記事項を吹聴したのは平成28年9月頃であるとの記載があるが,この時期の行為を問題にするとしても,証拠(乙4ないし乙7)によれば,被告はその直前に顧客との間で,生春巻きの製品品質向上のため湯戻しの温度設定について実験を繰り返していた事実が認められるから,上記陳述書記載の被告代表者の吹聴行為が認められるとしても,それは被告の実験成果を自慢したにすぎないものと認められ,いずれにしても,原告に対する違法行為になるものではない。したがって,被告代表者の吹聴行為を不法行為とする原告の損害賠償請求は,その余の点の判断に及ぶまでもなく理由がない。

3 以上によれば,原告の被告に対する請求は,すべて理由がないから,棄却す

5 ることとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部

裁判官

野 上 誠 一

裁判長裁判官森崎英二及び裁判官大川潤子は転補により署名押印すること

ができない。

裁判官

野 上 誠 一

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