ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成29(行ウ)363 手続却下処分取消請求事件
裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
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裁判年月日 | 平成30年5月24日 |
事件種別 | 民事 |
当事者 | 被告国 原告ジボダンエスエー |
法令 |
行政訴訟 特許法184条の43回 実用新案法2条の51回 |
キーワード | |
主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。事 実 及 び 理 由25第1 請求 1 特願2014-559111号について特許庁長官が平成27年8月6日にした平成26年8月29日付け提出の国内書面に係る手続を却下する処分(以下「本件却下処分1」という。)を取り消す。 2 特願2014-559111号について特許庁長官が平成29年4月27日にした平成27年7月24日付け提出の出願審査請求書に係る手続を却下する5処分(以下「本件却下処分2」という。)を取り消す。 3 特願2014-559111号について特許庁長官が平成29年4月27日にした平成27年7月24日付け提出の手続補正書に係る手続を却下する処分(以下「本件却下処分3」という。)を取り消す。第2 事案の概要10本件は,原告が,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下「特許協力条約」という。)に基づいて行った国際特許出願について,特許庁長官に対し,特許法(以下「法」ということがある。)184条の5第1項に規定する書面並びに同書面に添付して法184条の4第1項に規定する明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文を提出し,また,上記15国際特許出願について手続補正書及び出願審査請求書を提出したところ,特許庁長官から上記各書面に係る手続の却下処分(本件却下処分1ないし3)を受けたことから,各処分の取消しを求める事案である。 1 特許法の定め法184条の420ア 1項外国語でされた国際特許出願(以下「外国語特許出願」という。)の出願人は,特許協力条約2条(xi)の優先日(以下「優先日」という。)から2年6月(以下「国内書面提出期間」という。)以内に,特許協力条約3条(2)に規定する明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文を,特許25庁長官に提出しなければならない。ただし,国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に法184条の5第1項に規定する書面を提出した外国語特許出願(当該書面の提出の日以前に当該翻訳文を提出したものを除く。)にあっては,当該書面の提出の日から2月(以下「翻訳文提出特例期間」という。)以内に,当該翻訳文を提出することができる。イ 3項5国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に1項に規定する明細書の翻訳文等(以下「明細書等翻訳文」という。)の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。ウ 4項3項の規定によって取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出10願人は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて正当な理由があるときは,経済産業省令で定める期間内に限り,明細書等翻訳文並びに第1項に規定する図面及び要約の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。法184条の515ア 1項国際特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に,次に掲げる事項を記載した書面(以下「国内書面」という。)を特許庁長官に提出しなければならない。1号 出願人の氏名又は名称及び住所又は居所202号 発明者の氏名及び住所又は居所3号 国際出願番号その他の経済産業省令で定める事項イ 2項特許庁長官は,次に掲げる場合は,相当の期間を指定して,手続の補正をすべきことを命ずることができる。251号 国内書面を,国内書面提出期間内に提出しないとき(以下略)ウ 3項特許庁長官は,前項の規定により手続の補正をすべきことを命じた者が同項の規定により指定した期間内にその補正をしないときは,当該国際特許出願を却下することができる。5 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者原告は,スイス国に本店を有する外国法人であり,法8条の規定による特許管理人を選任している。10原告による国際出願原告は,平成24年7月26日,平成23年7月26日を先の優先日(英国出願1112787.5),平成24年5月31日を後の優先日(英国出願1209657.4),受理官庁を欧州特許庁,国際出願言語を英語として,特許協力条約に基づく国際出願(PCT/EP2012/064697。以下「本件15国際出願」という。)をした。本件国際出願は,特許協力条約4条(1)(ii)の指定国に日本国を含むものであるから,法184条の3第1項に基づき,当該国際出願日である平成24年7月26日に日本国にされた特許出願(特願2014-559111号。以下「本件国際特許出願」という。)とみなされた。20本件訴訟に至る経緯ア 本件国際特許出願における,明細書等翻訳文の提出期間は,優先日から2年6月以内である平成26年1月26日までであったが(法184条の4第1項),原告は,同日までに明細書等翻文を提出しなかったため,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされた(法184条の4第3項)。25イ 原告は,平成26年8月29日,国内書面(甲1の1枚目)に添付して明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文(甲1の2枚目以下。以下「本件翻訳文」という。)を提出し(以下「本件翻訳文提出手続」という。),併せて回復理由書(甲2)を提出した。ウ 特許庁長官は,平成27年3月25日付け(同日31日発送)「却下理由通知書」(甲3。以下「本件却下理由通知書1」という。)により,原告に対し,5本件翻訳文提出手続について,原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことにつき「正当な理由」があるとはいえず,法184条の4第4項に規定する要件を満たさないとして,不適法な手続であるとする却下理由の通知をした。エ 原告は,平成27年7月24日,特許庁長官に対し,本件国際特許出願に10ついて手続補正書(甲5)を提出し(以下「本件手続補正書提出手続」という。),併せて出願審査請求書(甲6)を提出した(以下「本件出願審査請求書提出手続」という。)。オ 特許庁長官は,平成27年8月6日付け(同月7日発送)「手続却下の処分」と題する文書(甲7)により,原告に対し,本件翻訳文提出手続につい15て,本件却下理由通知書1に記載した理由により却下する旨の手続却下処分(本件却下処分1)をした。また,特許庁長官は,平成27年8月6日付け(同月7日発送)「却下理由通知書」2通(甲8,9)により,原告に対し,本件手続補正書提出手続及び本件出願審査請求書提出手続について,本件国際特許出願が本件翻訳文の20回復理由が認められなかったことにより取り下げられたものとみなされているから,客体のない出願について提出された不適法な手続であるとする却下理由の通知をした(以下,それぞれ「本件却下理由通知書2」及び「本件却下理由通知書3」という。)。カ 原告は,平成27年10月6日,特許庁長官に対し,本件却下処分1の取25消しを求めて,行政不服審査法(平成26年法律第68号による改正前のもの)に基づく異議申立てを行ったが,同申立ては,平成29年2月7日付けで棄却決定され,同決定(甲14)は,同月8日に原告代理人に送達された。キ 特許庁長官は,平成29年4月27日付け(同年5月8日発送)「手続却下の処分」と題する書面2通(甲15,16)により,原告に対し,本件手続補正書提出手続及び本件出願審査請求書提出手続について,本件却下理由通5知書2及び本件却下理由通知書3に記載した理由により却下する旨の手続却下処分(本件却下処分2及び本件却下処分3)をした。ク 原告は,平成29年8月4日,本件訴訟を提起した。 3 争点特許法184条の4第3項及び法184条の5第2項の規定が内国民待遇10の原則に違反するか原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかったことについて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか本件却下処分1が違法であることから,本件却下処分2及び本件却下処分3も違法となるか15 4 争点に関する当事者の主張法184条の4第3項及び法184条の5第2項の規定が内国民待遇の原則に違反するか)について(原告の主張)特許庁長官は,国際特許出願の出願人が国内書面提出期間内に国内書面を提20出しないときは,相当の期間を指定して,手続の補正をすべきことを命ずることができ(法184条の5第2項1号),当該補正命令を受けた出願人が所定の期間内に補正をしないときは当該国際特許出願を却下することができる(同条3項)。しかしながら,国際特許出願が外国語特許出願である場合,出願人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなければ,特許庁長官から補正25命令を受ける機会もなく,その国際特許出願は取下擬制となる(法184条の4第3項)。特許法の上記各規定によれば,日本語で出願された国際特許出願(以下「日本語特許出願」という。)の出願人は,国内書面を国内書面提出期間内に提出しなくても,補正命令を受ける機会が与えられる。他方,外国語特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなければ,補正命令は受5けられず,当該出願は取下擬制となる。外国語特許出願の出願人が,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文は提出し,国内書面は提出しなかったという場合には補正命令の対象となるが,このようなケースは通常は考えられないから,事実上,外国語特許出願の出願人には,補正命令を受ける機会は与えられていない。10そして,直近18年間の日本語特許出願のうち,筆頭出願人の住所又は住所がない場合にはその国籍が日本国である出願人による出願が約99.5%を占めていること(甲23)からも明らかなとおり,日本語特許出願を日本国民以外の外国国民が行うことは実質的に皆無であることからすれば,特許法は,外国国民には補正命令を受ける機会は与えず,他方,日本国民には補正命令を受15ける機会を与えているといえる。このように,法184条の4第3項及び法184条の5第2項は,補正命令を受ける機会の付与ついて,形式上は言語によって異なる取扱いをしているが,結果として実質的に外国国民が受ける利益と日本国民が受ける利益との間に大きな不平等を生じさせているから,内国民待遇の原則(工業所有権の保護に20関する1883年3月20日のパリ条約(以下「パリ条約」という。)2条及び世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO協定)の附属書1C「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(以下「TRIPS協定」という。)3条に違反するものであって効力を有しないというべきであるから(法26条),法184条の4第3項に基づく本件却下処分1も違法であり,取り消されるべ25きである。なお,世界貿易機関(WTO)パネル報告「WT/DS174/R」において,形式的には国籍による取扱いの差異ではなくても,国籍と密接な関係のあるほかの基準により異なる取扱いがなされている結果,内外人不平等が生じている場合にもTRIPS協定3条1項の内国民待遇義務に違反するおそれがある旨指摘されており(甲26の1),このような見解は,我が国の特許庁も採5用している(甲27)。(被告の主張)内国民待遇の原則とは,同盟国の国民が内国民と同じ条件及び手続に従う限り,内国民と同じ取扱いを受けることを意味する。そして,法184条の5第2項は,国内書面を国内書面提出期間内に提出しないときに補正を命じること10ができる旨を定めているのであって,ここに国籍又は言語による差異は存在しない。また,内国民であっても外国語により国際特許出願を行えば,当然に明細書等翻訳文の提出が必要となるのであり,他方,外国国民が日本語により国際特許出願を行えば,明細書等翻訳文の提出は不要であり,法184条の4第3項は国籍によって取扱いに差異がないことは明らかであって,内国民待遇の15原則に違反するものではない。また,法184条の4第3項は,特許協力条約24条(1)(iii)に準拠したものであり,特許協力条約24条(1)(iii)は,出願人が特許協力条約22条に規定する行為(指定官庁に対する翻訳文の提出を含む。)を該当する期間内にしなかった場合に,特許協力条約11条(3)に定める国際出願の効果20は,指定国において当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅するとし,他方,特許協力条約24条(2)において同条(1)の規定にかかわらず指定官庁は国際出願の効果を維持することができる旨定めている。そうすると,特許協力条約が,翻訳文の提出がない場合の国際出願の効果について,特許協力条約24条(2)を採用するか否かを各締約国の選25択に委ねていることは同条の文言から明らかなのであって,特許協力条約24条(2)を採用しないことは,同条約自体が許容した取扱いである。したがって,特許協力条約24条(1)(iii)に準拠した特許法184条の4第3項による取下擬制が言語による取扱いの差異であるとしても,それは特許協力条約24条(2)を採用しないこととした結果にすぎず,特許協力条約自体が許容する範囲内であり,内国民待遇の原則に反するとはいえない。5争点 (原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかったことについて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか)について(原告の主張)ア 「正当な理由」の解釈「正当な理由」があるときとは,特段の事情がない限り,国際特許出願を10行う出願人及びその代理人として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的に見て国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいう。そして,法184条の4第4項は,特許法等の一部を改正する法律(平成23年法律第63号。以下「平成23年改正法」という。)による改正により15新設されたものであり,ユーザーフレンドリーな手続の導入及び国際的な手続調和を目的とした特許法条約(Patent Law Treaty。以下「PLT」という。)に基づいて導入された規定であること,PLT12条(1)は,加盟国に対し,手続期間の徒過した場合の救済を認める要件として,「Due care」(相当な注意)又は「Unintentional」(故意ではない)のいずれかを選択す20ることを認めているところ,我が国においては「Due care」(相当な注意)の基準を採用することとし,具体的な条文の文言は,行政事件訴訟法14条1項等にならい,「その責めに帰することができない理由」に比して緩やかな要件である「正当な理由」としたこと,「その責めに帰することができない理由」とは,通常の注意力を有する当事者が「万全の注意」を払っても,期間25内に手続をすることができなかったような場合に限らず,通常の注意力を有する当事者が「通常期待される注意」を尽くしても,なお期間内に手続をすることができなかったような場合を意味するものと解されていることからすると,法184条の4第4項の「正当な理由」において求められる「相当な注意」とは,「その責めに帰することができない理由」において求められる「通常期待される注意」に比較して緩やかに解釈されるべきであり,通常の5注意力を有する当事者による「万全の注意」までは要求されない。また,法184条の4第4項の「正当な理由」の解釈に当たっては,PLT締約国及びPCT締約国に求められる水準に基づいて行う必要があり,各締約国においては課されていない過重な要件を課してはならない。「正当な理由」の解釈に当たっては,内国民待遇の原則及び立法目的による制限を受10けるというべきであるところ,4第3項及び法184条の5第2項1号は事実上,内外人不平等を生じさせるものであるから,仮に,当該各規定が内国民待遇の原則に反することなく有効な規定であるとしても,「正当な理由」は,原告が指摘した内外人不平等を是正できる程度に柔軟に解釈すべきである。15イ 本件において「正当な理由」があること「正当な理由」における相当な注意の有無については,PCT受理官庁ガイドラインの166M「(f)代理人又は出願人の職員による人為的過誤」(甲19)が参考になる。PCT受理官庁ガイドラインによれば,国際出願の記録管理,監視,準備又は提出に関するアシスタントの人為的過誤につい20ては,①経験豊富で適切に訓練を受けて監督されている従業員を慎重に人選し,訓練及び業務の監視を行っていること,②出願人又はその代理人が,当該アシスタントの管理において「相当な注意」を払っていること,③当該事例において優先期間内に提出できなかったことが単独の人為的過誤であったことを示すことができれば,「正当な理由」における「相当な注意」があっ25たということができる。過誤の発生経緯原告の従業員であり,国際特許部門の部門長の補助者(以下「本件原告補助者」という。)は,平成25年12月20日(スイス時間同月19日)に,原告補佐人弁理士(以下「原告補佐人」という。)に対し,本件国際出願の国内移行手続を依頼する旨の電子メール(以下「本件メール」という。)5を送信した。しかしながら,本件原告補助者は,本件メールを原告補佐人事務所の代表メールアドレス(以下「本件代表アドレス」という。)に送信すべきところを誤って原告補佐人のプライベートアドレス(以下「本件プライベートアドレス」という。)に送信したため,原告補佐人や原告補佐人事務所に所属する者は本件メールに気付かなかった。また,本件原告補助10者には本件メールの不達通知が送信されなかったため,本件原告補助者もメールの誤送信に気付かなかった。その結果,原告補佐人は,本件国際出願の国内書面提出期限である平成26年1月26日までに本件国際出願の国内移行手続(国内書面提出手続及び明細書等翻訳文提出手続)を行わなかった。15本件原告補助者は,原告補佐人事務所から国内移行手続が完了した旨の報告がなかったことから,平成26年7月3日,国内移行手続が完了したかを確認するメールを本件代表アドレスに送信し,原告補佐人が当該メールを受けて調査したところ,本件メールが本件プライベートメールに送信されていることを認識した。20PCT受理官庁ガイドラインへのあてはめ① 原告では,長年,企業の知財部員を努めた経験を有し,欧州弁理士の資格も有する部門長による的確な指導監督の下,同部門長に任命された担当者が,出願手続業務を行っており,本件原告補助者はその一人であり,平成25年2月から知財部門のパラリーガルとして勤務していた。25② 原告では,部門長が国内移行手続を統括し,実際に国内移行手続を行う場合には,当該業務に精通した本件原告補助者が業務指示のメールを原告補佐人の本件代表アドレスに送信する方法により行っている。また,原告補佐人においては,電子メールアドレスに関する過誤等を回避するため,平成25年10月24日から,外国の顧客に送信するメールに,「Please Note: For efficient handling of incoming emails, please5send all your emails to our general email address:(本件代表アドレス)」(ご注意:受信電子メールを適切にお取扱いするために,全ての貴電子メール送信は,弊所代表電子メールアドレス:(本件代表アドレス)宛にお願いいたします)と赤字で記載し,原告補佐人事務所の代表アドレスへの送信を徹底するよう,注意喚起を行っている。10③ 本件の過誤は,本件原告補助者が,本件メールを本件代表アドレスに送信すべきところを誤って本件プライベートアドレスに送信したことに起因するものであり,本件原告補助者による単独の人為的過誤である。このことは,本件の過誤が発生するまで,原告の原告補佐人に対する業務指示のメールが本件プライベートアドレスに送信されたことがなか15ったことから明らかであり,原告は本件メールが到達していない可能性を予測することはできなかった。以上のとおり,本件においては,PCT受理官庁ガイドラインの基準を全て満たしており,原告及び原告補佐人は相当な注意を払っていたのであるから,本件において,原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提20出することができなかったことについて「正当な理由」がある。ウ 特許庁のガイドライン及び欧州特許庁の審判例等について特許庁が平成24年3月に策定,公表した「期間徒過後の手続に関する救済規定に係るガイドライン【四法共通】」(甲20。以下「本件ガイドライン」という。)には,期間徒過を回避できなかった事例として,代理人の補助者の25錯誤により,出願人Aに対し,出願人Bの情報を送信し,出願人Aは自分の出願に係る情報だと思い込み,送信した補助者自身も,送信記録から正しい宛先(出願人A)に情報が送信されていることから適切に期限告知を行ったものと信じ込み,代理人に対しその旨報告したことから,送信の誤りに気づいたのは期間徒過後であったという事例が紹介されている(本件ガイドライン18頁の脚注22)。本件における過誤は,明らかに誤送信と判別される5べき上記事例とは異なり,本件プライベートアドレスが,原告補佐人の名前の入った非常に紛らわしいアドレスであったため,本件代表アドレスに送信すべきものの誤送信であることすら気付き難い事情があること,また,本件原告補助人は,本件メールの送信と同時に別の案件についての依頼メールを本件代表アドレスに送信し,その後,当該メールに対する受信確認メールを10送信したため,当該受信確認メールによって,当該別案件だけでなく,本件メールに係る依頼についても受任されたと思い込んだという事情があることからすれば,上記事例と比べてもより救済すべき事案である。また,法184条の4第4項所定の「正当な理由」の解釈については,同様にPLT12条の「相当な注意」の基準を採用する欧州特許庁の審判例を15参考とすべきであるところ,欧州特許庁の審判例(T0612/90)では,代理人が,審判請求人から送付された決定書の日付を期限管理システムに誤入力した事例について,日付の誤入力を一定の期間の経過後にさらに見直すことは困難であることなどを理由に権利の回復を認めており(甲29の1),本件における過誤も,本件原告補助者によるメールの誤送信について一定期20間の経過後にさらに見直すことは困難であったから,上記審判例と同様に救済されるべき事案である。したがって,本件ガイドライン及び欧州特許庁の審判例に照らせば,本件についても「正当な理由」が認められるべきである。(被告の主張)25ア 「正当な理由」の解釈法184条の4第4項は,個別事案における様々な事情を配慮しつつ,柔軟な救済を図ることができるよう新設され,我が国では,第三者の監視負担に配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件として「Due care」(相当な注意)の基準を採用したものであるから,「正当な理由」とは,出願人及びその代理人が講じていた措置が,状況に応じて必要とされるしかるべき措置,す5なわち,相応の措置であったといえる場合に,それにもかかわらず,何らかの理由により期間徒過に至ったときに認められるものと解すべきである。そして,およそ法令において手続についての期間制限が設けられている以上,その手続を利用しようとする者は,当該期間を徒過しないよう,注意を払うことが要求される。さらに,本件で問題となる国際特許出願については,明10細書等翻訳文の提出期間を徒過することによって,当該国際特許出願は取下擬制となるのであるから(法184条の4第3項),明細書等翻訳文の提出期間は出願人の権利得喪に関わる極めて重要な期間であり,出願人及びその代理人は明細書等翻訳文の提出期間を徒過しないよう細心の注意を払うことが要求される。15したがって,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があると認められるためには,出願人及びその代理人において,上記のような注意義務を負うことを前提に,期間徒過を回避するための相応の措置を講じていたと認められることが必要である。イ 原告の措置が相応の措置か否かについて20メール誤送信の回避について原告は,本件補助者がメールの不達通知を受領していないこと,本件の過誤が発生するまで,原告の原告補佐人に対する業務指示のメールが本件プライベートアドレスに送信されたことがなかったことから,原告は本件メールが到達していない可能性を予測することはできなかったと主張す25る。しかしながら,そもそも電子メールはメールアドレスの単純な打ち間違いや登録されているメールアドレスの選択ミスによって第三者に送信されてしまう過誤が生じやすい連絡手段であり,本来送信すべきではないメールアドレスを宛先として設定する可能性があることは当然に予想できるから,原告は,電子メールの宛先が誤って設定されることを回避するた5めの措置を講ずべきであったにもかかわらず,そのような措置を講じていなかった。また,原告補佐人も,原告に二つのメールアドレスを知らせていた以上,誤送信の可能性を当然に予想できたにもかかわらず,回避するための措置を講じていなかった。管理者による補助者の管理・監督について10原告の管理者は,本件補助者による国内移行の指示メールの誤送信によって国内移行期間を徒過してしまう可能性があることは容易に予想できるから,これを回避するために必要な措置を講じるべきであり,また,国内移行手続を補助者に行わせるのであれば,国内移行手続の遂行に適任な者を選任し,原告補佐人に業務指示のメールを送信した後も,作業の進捗15状況を把握させ,原告補佐人からの応答を確認させ,応答がなければ期間経過前に原告補佐人に手続の実行を督促するなどの措置を講ずるべきだったにもかかわらず,そのような措置を講じていなかった。以上によれば,本件において,相応の措置が講じられていたということはできず,本件において,原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を20提出することができなかったことについて「正当な理由」があるとはいえない。ウ 特許庁のガイドライン及び欧州特許庁の審判例等について原告は,本件ガイドライン18頁脚注22の事例に照らし,本件は「正当な理由」があると主張する。しかしながら,本件ガイドライン18頁脚注2252の事例は,補助者は送信先の宛先確認を行っていることを前提として,管理者が補助者に対して作業結果の報告を徹底させる態勢であったにもかかわらず,補助者による錯誤が原因で期間徒過を回避できなかった事例として紹介されているものである。これに対し,本件期間徒過は,上記イのとおり,本件期間徒過の原因となった事象を回避するために相応の措置を講じていたとはいえないのであるから,たとえ補助者による錯誤という点で類似して5いるとしても,本件ガイドライン18頁脚注22の事例とは事案を異にする。また,原告は欧州特許庁における審判例に照らし,本件は「正当な理由」があると主張する。しかしながら,PLT12条の「相当な注意」の解釈及び運用は各締結国に委ねられており,欧州特許庁における審判例が,我が国における「正当な理由」の解釈及び運用に影響を与えるものではないし,ま10た,本件と当該審判例とでは事案に異にする。したがって,本件ガイドライン及び欧州特許庁の審判例を踏まえても,本件について「正当な理由」があるとはいえない。争点 (本件却下処分1が違法であることから,本件却下処分2及び本件却下処分3も違法となるか)について15(原告の主張)特許庁は,原告が法184条の4第4項の規定により提出した本件明細書等翻訳文の回復理由は認められず,本件国際特許出願は法184条の4第3項の規定により取下擬制となったことを理由として,本件手続補正書提出手続及び本件出願審査請求書提出手続を却下する旨の手続却下処分(本件却下処分2及20下処分1は取り消されるべき違法な処分であって,本件国際特許出願は取下擬制とはならないから,本件却下処分2及び本件却下処分3はその前提を欠く違法な処分であり,取り消されるべきである。(被告の主張)25本件却下処分1は適法であり,原告が法184条の4第4項の規定により提出した本件明細書等翻訳文の回復理由は認められず,本件手続補正書提出手続及び本件出願審査請求書提出手続については,本件国際特許出願の取下擬制(法184条の4第3項)により客体が存在しないことになるから,本件却下処分2及び本件却下処分3は適法である。第3 当裁判所の判断5 1 法184条の4第3項及び法184条の5第2項の規定が内国民待遇の原則に違反するか)について原告は,法184条の4第3項及び法184条の5第2項が,パリ条約2条及びTRIPS協定3条に定める内国民待遇の原則に違反すると主張する。特許協力条約に基づく国際特許出願(法184条の3)の出願人は,国内書10面を国内書面提出期間内に提出しなければならず,法は,国内書面を提出期間内に提出しなかったときは,相当の期間を指定して,補正命令を行う旨規定している(法184条の5第2項1号)。国際特許出願のうち,外国語でされた外国語特許出願について,出願人は,国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に明細書等翻訳文を提出しなければならず,法は,その提出がなかったとき15は,当該国際特許出願は取り下げたものとみなされる旨規定している(法184条の4第1項,3項)。法184条の5第2項は,国際特許出願について,国内書面を国内書面提出期間内に提出しないときに補正を命じることができる旨を定めているのであって,ここに国籍又は言語による取扱いの差異は存在しない。また,国際特許20出願のうち,外国語特許出願については,内国民であっても外国語特許出願を行えば,当然に明細書等翻訳文の提出が必要となるのであり,他方,外国国民であっても日本語で国際特許出願を行えば,明細書等翻訳文の提出は不要であり,特許法184条の4第3項において国籍による取扱いの差異はない。したがって,法184条の4第3項及び法184条の5第2項の規定が内国25民待遇の原則に違反するとはいえない。これに対し,原告は,過去の出願状況に照らして日本語特許出願を日本国民以外の外国国民が行うことは実質的に皆無であり,明細書等翻訳文の提出期間を徒過した外国国民の出願人には補正命令を受ける機会が与えられず,他方,国内書面の提出期間を徒過した内国民の出願人には補正命令を受ける機会が与えられることになることなどから,これは形式的には言語による取扱いの差5異ではあるが,実質的には内外人不平等を生じさせており,特許法の上記各規定は,内国民待遇の原則に反すると主張する。しかしながら,明細書等翻訳文の提出が必要とされる理由と国内書面の提出が必要とされる理由は異なり,明細書等翻訳文提出手続と国内書面提出手続は別個に行うことができる異なる趣旨の別個の手続である。外国語特許出願の出10願人も,期間内に明細書等翻訳文を提出したが,別個の趣旨に基づく別個の手続に関する国内書面を提出しなかった場合には,補正命令を受ける機会がある。明細書等翻訳文の提出期間を徒過した外国語特許出願の出願人に対する取扱いと,国内書面の提出期間を徒過した国際特許出願の出願人に対する取扱いが異なったとしても,そのことが問題となるものではなく,上記出願人間の取扱15いが異なることが問題であることを前提とする原告の主張は採用することができない。したがって,法184条の4第3項及び法184条の5第2項号の規定が内国民待遇の原則に反するとはいえない。 2 争点 (原告が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかったことに20ついて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか)について後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。ア 原告の特許出願については,国際特許部門が統括して管理し,同部門の部門長が任命した担当者が出願手続業務を行っており,本件原告補助者はその一人である(甲2の1枚目)。25イ 原告は,平成15年4月3日,原告補佐人を法8条及び実用新案法2条の5第2項の規定による特許管理人に選任し,日本国による特許出願及び実用新案登録出願手続等に関する一切の手続を委任した(甲2の10枚目)。ウ 原告と原告補佐人は,平成24年以降,原則として電子メールのみで連絡を行っており,原告の国際特許部門の担当者が,原告補佐人の事務所に対して業務指示の連絡を行う場合には,本件代表アドレスに電子メールを送信し5ていた。本件代表アドレスは,顧客と連絡を行うために原告補佐人事務所が管理していたメールアドレスであり,事務所に所属する正規所員全員がアクセスすることが可能であった。(甲2の2・13~15枚目)原告補佐人は,平成25年10月24日以降,外国人顧客への電子メールに「Please Note: For efficient handling of incoming emails, please10send all your emails to our general email address:(本件代表アドレス)」(ご注意:受信電子メールを適切にお取扱いするために,全ての貴電子メール送信は,弊所代表電子メールアドレス:(本件代表アドレス)宛にお願いいたします)」と赤字で記載していた(甲2の3・27枚目)。エ 本件原告補助者は,平成25年12月20日(スイス時間同月19日),本15件プライベートアドレスに,本件国際出願の国内移行の手続(国内書面提出手続及び明細書等翻訳文提出手続)を依頼する旨の本件メールを送信した。本件プライベートアドレスは,原告補佐人が個人用のメールアドレスとして使用しているものであり,原告補佐人のみがアクセスすることができた。本件プライベートアドレスは,原告補佐人事務所の業務に用いられるものでは20なかったが,原告補佐人は,以前,個人的に親交があった当時の原告の国際特許部門の部門長に対して本件プライベートアドレスを教えたことがあり,本件原告補助者は当該部門長を通じて本件プライベートアドレスを知っていた。(甲2の1・2枚目)オ 本件メールは本件プライベートアドレスに到達したため,本件原告補助者25に対して不達通知が送信されることはなく,本件原告補助者は,本件メールを本件プライベートアドレスに送信したことに気付かなかった(甲4)。また,原告補佐人及び原告補佐人事務所の所員も,本件プライベートアドレスに本件メールが送信されたことに気付かず,本件国際出願の国内書面提出期限である平成26年1月26日までに国内書面提出手続及び明細書等翻訳文提出手続を行わなかった(甲2の1枚目)。5カ 本件原告補助者は,原告補佐人事務所から国内移行手続が完了した旨の報告がなかったことから,平成26年7月3日,本件代表アドレスに国内移行手続が完了したかを確認するメールを送信し,原告補佐人が当該メールを受けて調査し,本件メールが本件プライベートメールに送信されていることが発覚した(甲2の1枚目)。10法184条の4第4項は,平成23年改正法による改正により新設された規定である。PLTにおいて手続期間の経過によって出願又は特許に関する権利の喪失を引き起こした場合の「権利の回復」に関する規定が設けられ,加盟国に 対 し て 救 済 を 認 め る 要 件 と し て 「 Due care 」( 相 当 な 注 意 ) 又 は「Unintentional」(故意ではない)のいずれかを選択することを認めていると15ころ(PLT12条),同項新設当時,我が国はPLTに未加盟であったものの,国際的調和の観点から,外国語特許出願の出願人に対し,期間の徒過があった場合でも柔軟な救済を図ることとし,上記のうち「Due care」(相当な注意)基準を採用して,同項を新設したものと解される。そして,法184条の4第4項所定の「正当な理由」の意義を解するに当た20っては,特許協力条約に基づく外国語特許出願は,国内書面提出期間に明細書等翻訳文を提出することによって,我が国において,国際出願日にされた特許出願とみなされるというものであって,同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願人には,自ら国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することが求められていることや,国内書面提出期間経過後の当該外国語特許出願が取25り下げられたものとみなされたか否かについての第三者の監視負担を考慮する必要がある。これらを考慮すると,法184条の4第4項の「正当な理由」があるときとは,特段の事情のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうと解するのが相当である。5本件においては,上記 ウのとおり,原告が原告補佐人に対して業務指示を出す場合,原則として電子メールを用い,原告の担当者が,送信先のメールアドレスを選択して,メールを送信していた。電子メールで連絡を行う場合,送付先のメールアドレスを打ち間違うことがあることを想定することができるほか,メールアドレスとしては実在するが宛先として正しいメールアドレスと10は異なるメールアドレスを送付先のメールアドレスとして選択することがあることも当然に想定することができる。そして,実在のメールアドレスに送信した場合には,当該メールについての不達通知が送信されることはないから,送信者が不達通知によって誤送信に気付くことはできない。原告は,原告が原告補佐人の事務所に対して業務指示の連絡を行う場合は,15本件代表アドレスに電子メールを送信することになっていたにもかかわらず,本件原告補助者が本件プライベートアドレスに本件メールを送信したことが誤送信であると主張する。そうすると,原告においては,原告補佐人に関係する二つのメールアドレスを認識し,本件では,連絡の際に使用してはならないメールアドレスを使用したこととなる。上記のとおり,電子メールの送信に当20たり,宛先として正しいメールアドレスとは異なるメールアドレスを送付先のメールアドレスとして選択することがあることも当然に想定することができるところ,原告において,上記二つのメールアドレスを認識し,そのうちの一つは連絡の際に使用してはならないものであったにもかかわらず,本件原告補助者に対し宛先として正しいメールアドレスを選択するよう,適切に管理,監25督していたことを認めるに足りる証拠はない。また,明細書等翻訳文の不提出は期間の経過により出願の取下擬制となるという重大な効果が発生するところ,上記のとおり,実在のメールアドレスに送信した場合には,当該メールについての不達通知が送信されることはなく,送信者が不達通知によって誤送信に気付くことができないにもかかわらず,上記のような管理等の態勢であった原告において,原告補佐人に対して電子メールの受信の有無の確認等をしたと5は認められず,その確認等をしなかったことを正当化する状況があったことを認めるに足りる証拠はないし,また,原告として受信の有等を確認等するための態勢があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の主張中には,当時,本件原告補助者と原告補佐人との間で別の案件の電子メールのやり取りがあり,当該別の案件についての受信確認メールによって,当該別の案件だけでな10く,本件メールに係る依頼についても受任されたと思い込んだと主張する部分もあるが,本件メールの受信の確認がされていない以上,同事実は,本件メールの受信の確認に代わるものとはいえないし,その確認等をしなかったことを正当化する理由ともならない。以上によれば,原告は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出するこ15とについて相当な注意を尽くしていたとはいえないと解するのが相当である。これに対し,原告は,電子メールの送信後,その宛先を確認すること,又は,電子メールを送信した後も,受信者からの応答を確認し,応答がなければ受信者に確認すること等の措置を講じることを要求することは,法184条の4第4項所定の「正当な理20ころに照らし採用することはできない。また,原告は,原告補佐人に対して特許出願等の業務の委任を開始した平成15年から現在まで,業務指示のメールが本件プライベートアドレスに送信されたことは本件メールを除いて1件もなかったことから,補助者に対し十分な管理,監督を行える態勢であったと主張するが,そのような結果をもって,直25ちに原告が補助者に対し十分な管理,監督を行える態勢であったと認めることはできない。さらに,原告は,本件ガイドライン(甲20)18頁の脚注22の事例や欧州特許庁の審判例(甲29の1)に照らせば,本件についても「正当な理由」が認められるべきであると主張するが,本件ガイドラインや欧州特許庁の審判例は,上記に述べたところに照らし,いずれも本件とは事案を異にする。5その他,原告は,平成25年10月以降,原告補佐人は原告補佐人への連絡を本件代表アドレスにするよう電子メールに記載したこと( )を指摘するが,同事実があったとしても,そのことによって,原告において,原告補助者に対する適切な管理,監督等がされていたということにはならない。また,原告の主張中には,本件プライベートアドレスが,原告補佐人の名前の入った10紛らわしいアドレスであったことを述べる部分もあるが,メールアドレスには類似するものも多いのであり,同事実が認められるとしても,本件において原告が相当な注意を払ったとはいえない。なお,原告は,内国民待遇の原則を考慮して「正当な理由」があるときの意義を解釈すべきであるとも主張するが,上記1に述べたところと同様の理由に15より,内国民待遇の原則により,「正当な理由」があるときの解釈,適用が左右されるものではない。以上によれば,本件において,原告が国内書面提出期間内に特許庁に対し翻訳文等翻訳文を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときであったということはできない。20 3 争点 (本件却下処分1が違法であることから,本件却下処分2及び本件却下処分3も違法となるか)について上記1及び2のとおり,本件却下処分1は適法であり,原告が法184条の4第4項の規定により提出した本件明細書等翻訳文の回復理由は認められず,本件手続補正書提出手続及び本件出願審査請求書提出手続については,本件国際特許25出願の取下擬制(法184条の4第3項)により客体が存在しないことになるから,本件却下処分2及び本件却下処分3は適法である。 4 結論よって,原告の請求はいずれも理由がないことから棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 柴 田 義 明裁判官 大 下 良 仁裁判官林雅子は,差支えのため署名押印できない。裁判長裁判官 柴 田 義 明 |
事件の概要 | 本件は,原告が,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協 力条約」(以下「特許協力条約」という。)に基づいて行った国際特許出願につい て,特許庁長官に対し,特許法(以下「法」ということがある。)184条の5第 1項に規定する書面並びに同書面に添付して法184条の4第1項に規定する 明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文を提出し,また,上記15 国際特許出願について手続補正書及び出願審査請求書を提出したところ,特許庁 長官から上記各書面に係る手続の却下処分(本件却下処分1ないし3)を受けた ことから,各処分の取消しを求める事案である。 |
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