ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成28(ワ)41720 損害賠償請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成30年5月31日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被告国 |
| 対象物 | 地震到来予知システム |
| 法令 |
特許権 特許法102条3項2回 特許法36条6項2号2回 |
| キーワード | 実施9回 進歩性9回 無効8回 特許権6回 侵害3回 損害賠償2回 審決1回 ライセンス1回 新規性1回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。20 |
| 事件の概要 | 本件は,発明の名称を「地震到来予知システム」とする特許権を有する原告が, 被告の組織の一部である気象庁において行う緊急地震速報が原告の上記特許権 を侵害していると主張して,被告に対し,民法709条,特許法102条3項に 基づき,損害賠償金2億7000万円の一部請求として1000万円及びこれに 対する訴状送達日の翌日である平成29年1月14日から支払済みまで民法所5 定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めると共に,特許法106条に基 づき,信用回復措置として謝罪広告の新聞掲載を求める事案である。 |
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
平成30年5月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成28年(ワ)第41720号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成30年2月19日
判 決
原 告 A
同訴訟代理人弁護士 中 村 優 文
同訴訟代理人弁理士 中 村 繁 元
被 告 国
同代表者法務大臣 上 川 陽 子
同 指 定 代 理 人 河 野 申 二 郎
同 進 藤 昌 子
同 岩 下 隆 広
同 池 田 正 樹
同 志 賀 紹 子
同 小 川 智 大
同 阿 南 恒 明
同 五 十 嵐 陽 子
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成29年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 被告は,別紙1記載の要領をもって,別紙2記載の広告をせよ。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「地震到来予知システム」とする特許権を有する原告が,被告の組織の一部である気象庁において行う緊急地震速報が原告の上記特許権を侵害していると主張して,被告に対し,民法709条,特許法102条3項に基づき,損害賠償金2億7000万円の一部請求として1000万円及びこれに
5 対する訴状送達日の翌日である平成29年1月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めると共に,特許法106条に基づき,信用回復措置として謝罪広告の新聞掲載を求める事案である。1 前提事実(証拠を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者ア 原告は個人である。イ 被告は国であり,その組織の一部に気象庁を含む。
(2) 原告の有する特許権ア 原告は,次の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有している(甲1,2)。特許番号 第4041941号発明の名称 地震到来予知システム出願日 平成12年3月24日登録日 平成19年11月22日イ 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。。)「3箇所以上に配置した検出器であって,地震計を含み,該地震計の出力による震度,位置及び時刻からなる検出データを出力する検出器と,前記検出器から出力された検出データを受信・データ処理して震源の震度,位置及び時刻からなる地震データを出力する検出センタと,前記検出センタから出力された地震データを放送局,電話局,データ端末,インターネットなどを介して受信機へ送信する手段と,を備え,前記受信機は前記地震データ,該受信機の位置,及び時計を用いて受信点における地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を演算し,演算された地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を警報・通報する,ことを特徴とした地震到来予知システム。」
5 ウ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
(1) 3箇所以上に配置した検出器であって,地震計を含み,該地震計の出力による震度,位置及び時刻からなる検出データを出力する検出器と,
(2) 前記検出器から出力された検出データを受信・データ処理して震源の震度,位置及び時刻からなる地震データを出力する検出センタと,
(3) 前記検出センタから出力された地震データを放送局,電話局,データ端末,インターネットなどを介して受信機へ送信する手段と,を備え,
(4) 前記受信機は前記地震データ,該受信機の位置,及び時計を用いて受信点における地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を演算し,
(5) 演算された地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を警報・通報する,ことを特徴とした
(6) 地震到来予知システム。
(3) 被告の行為ア 被告は,平成19年10月1日から,その組織の一部である気象庁を通じて,緊急地震速報の発表を行っている。イ 緊急地震速報の構成は,次のとおりである(乙1ないし5)。
(1) 1箇所以上に配置され,観測した最大加速度,最大速度,最大変位,検測時刻,震央方位と震央距離,及び観測点番号等からなるデータを出力する地震計と
(2) 前記地震計から出力された最大加速度,最大速度,最大変位,検測時刻,震央方位と震央距離,及び観測点番号等からなるデータを受信・解析処理して地震の規模(マグニチュード),震源の位置,地震の発生時刻,強く揺れると予測した地域の名称,各地域の予想震度とその到達予想時刻からなるデータを出力する処理装置と
(3) 前記検出手段から出力されたデータを専用回線等のネットワークを通じ,NHKや民放各局のテレビやラジオの各放送局,携帯電話(緊急速
5 報メール)等やエンドユーザーの受信端末へ送信する手段と,を備える
(4) 緊急地震速報2 争点
(1) 緊急地震速報は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア 文言侵害の成否(構成要件(1)ないし(5)の充足性)イ 均等侵害の成否(「震度」と「マグニチュード」との相違について)
(2) 本件特許に係る無効理由があるか(争点2)ア 特開平6-331753号公報(乙25,以下「乙25文献」という。)に記載された発明(以下「主引用発明」という。)からの進歩性欠如の有無イ 明確性要件違反の有無ウ 実施可能要件違反の有無エ サポート要件違反の有無
(3) 原告の損害額(争点3)
(4) 信用回復措置としての謝罪広告掲載の必要性があるか(争点4)3 争点に対する各当事者の主張
(1) 争点1(本件発明の技術的範囲への属否)について【原告の主張】ア 構成要件(1)について緊急地震速報における地震計から出力される「観測点番号」は,「位置」のデータにほかならない。すなわち,地震計の位置に対応する観測点番号(例えば,1,2,3,・・・の番号)が付与されているのであって,観測点番号がデータ処理時に対応する位置データに変換されることが前提である。したがって,「位置」のデータは出力されており,緊急地震速報は,本件発明の構成要件(1)を充足している。イ 構成要件(2)について「震源」は「地震のおこった場所」という広い幅を持たせた意味でも使わ
5 れる。そして,「震度」 「ある場所における,が 地震による地面の震動の強さ」を意味するとき,この「震度」を修飾する「震源の」は,地面の震動の強さを修飾しているから,「震源」を地中に限定した意味で理解するのではなく意味が通じるように「地震の起こった場所」という意味で理解すべきである。そうすると, 震源の震度」「 とは, 地震の起こった場所の地面の震動の強さ」「という意味になり,これは,要するに「震源付近の震度」のことである。「震源の震度」を以上のように意味が通じるように理解することは自然なことである。したがって,「各地域の予想震度」の中には「震源の震度」又は「震源付近の震度」も含まれるものである。また,被告は,構成要件(1)に関する主張において,「緊急地震速報における地震計」から「震度」のデータが出力されることを否定してはいない。そして,乙4には,「前述の処理により得られた震源と各観測点の最大振幅を用いてマグニチュード(M)計算を行う。」と記載されており(6頁「(2)マグニチュード(M)計算方法」,)「マグニチュード」の情報には,「震度」の情報が含まれるものである。要するに,「震度」も「マグニチュード」も,「最大振幅」のデータを元にして加工して得られるデータであることに変わりはない。以上によれば,緊急地震速報は,本件発明の構成要件(2)を充足している。ウ 構成要件(3)について「緊急地震速報において出力されるデータ」である「各地域の予想震度」の中には「震源の震度」又は「震源付近の震度」も含まれるものもある。したがって,緊急地震速報は,本件発明の構成要件(3)を充足している。エ 構成要件(4)及び(5)について甲5に示すとおり,緊急地震速報(予報)に関しては,予報業務許可事業者が独自の予想結果を配信等している。ここで,予報業務許可事業者が行う「独自の予想結果の配信等」の内容については,被告が事前に把握し,審査
5 の上で「許可」しているのであるから,構成要件(4)及び(5)は,構成要件(1)ないし(3)と不可分一体であると考えるのが当然である。また,本件発明における「警報・通報」とは,音声の場合,文字で表示する場合,図や画像で表示する場合,又はそれらの組合せを含む意味であり,例えば,震源地の位置と受信機の位置とが図示されていれば(甲5参照) 地,震の到来方向が表示されているといえる。なお,被告は,「地震の到来方向の演算・表示」について狭小化した独自の解釈をするが,出願時に提出した意見書等にそのような記載はなく,全く根拠のない主張である。したがって,緊急地震速報は,本件発明の構成要件(4)及び(5)を充足する。オ 均等論について(「震度」と「マグニチュード」について)(ア) 被告の緊急地震速報との相違部分が本件発明の本質的部分ではないこと(第1要件)仮に,被告の緊急地震速報が「各地域の予想震度」の出力に際して用いるデータに「震度」を用いておらず,「マグニチュード」を用いていたとしても,この相違点は,本件発明の本質的部分ではない。乙4には,「前述の処理により得られた震源と各観測点の最大振幅を用いてマグニチュード(M)計算を行う。」と記載されており(6頁「(2)マグニチュード(M)計算方法」,)「震度」も「マグニチュード」も「最大振幅」のデータを元にして加工して得られるデータであることに変わりはない。また,本件特許出願は,審査段階では,公知文献を引用されて発明の進歩性が否定されているが,最終的に特許請求の範囲に記載された発明に新規性及び進歩性が認められて特許が付与されている。すなわち,構成要件
(1)ないし(6)を組み合わせたことが本件発明の本質的部分であり,「各地域の予想震度」の出力に際して用いるデータに「震度」ではなく,「マグニチュード」を用いることが本件発明の本質的部分であるとはいえない。
5 (イ) 相違部分を被告の緊急地震速報におけるものと置き換えても,本件発明と同一の作用効果を奏すること(第2要件)構成要件(2)における受信・データ処理される「前記検出器から出力された検出データ」 「震度」 「マグニチュード」の を, に置き換えたとしても,「最大振幅」のデータを元にして加工して得られるデータであることに変わりはなく,本件発明の「地震が到達する前に,震度・到来時刻・到来方向の情報を伝えるという」目的を達成することができ,「地震が到達する前に,人々の建物内の安全位置への移動や避難場所への移動が可能となり,地震による被害を最小限にとどめることができる。」という作用効果を奏することができる。(ウ) 相違部分を被告の緊急地震速報におけるものと置き換えることが,緊急地震速報の運用開始時点において容易に想到できたこと(第3要件)緊急地震速報が「各地域の予想震度」の出力に際して用いるデータは「震源(緯度,経度,深さ),マグニチュード,地盤増幅度」であると被告が主張していること,「震度」も「マグニチュード」も「最大振幅」のデータを元にして加工して得られるデータであること,「マグニチュード」は,被告の緊急地震速報の運用開始時においても地震研究の分野では地震が発するエネルギーの大きさを対数で表した指標値として基本的な用語であること等からして,「震度」を「マグニチュード」に置き換えることは,緊急地震速報の運用開始時点において容易に想到できたことである。(エ) その他の要件について被告の緊急地震速報は,本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件),緊急地震速報が本件特許の出願手続においてクレームから意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない(第5要件)。(オ) 以上のとおり,被告の緊急地震速報が「各地域の予想震度」の出力に際
5 して用いるデータに「震度」を用いておらず,「マグニチュード」を用いていたとしても,均等論が適用されることから,被告の緊急地震速報は,本件発明の技術的範囲に含まれる。【被告の主張】ア 本件発明の構成要件(1)は,「3箇所以上に配置した検出器であって,地震計を含み,該地震計の出力による震度,位置及び時刻からなる検出データを出力する検出器と,」とされている。しかし,緊急地震速報における地震計からは,「最大加速度,最大速度,最大変位,検測時刻,震央方位と震央距離,及び観測点番号等からなるデータ」が出力される構成となっており,「位置」のデータが出力されることはない。したがって,緊急地震速報は,本件発明の構成要件(1)を充足しない。なお,緊急地震速報においては,パラメータの維持管理が煩雑にならないように,地震計から出力する情報につき,具体的な緯度・経度ではなく,抽象的な観測点番号を用いているのであり,観測点番号と位置データとでは,その意味や効果が全く異なるものである。イ 本件発明の構成要件(2)は,「前記検出器から出力された検出データを受信・データ処理して震源の震度,位置及び時刻からなる地震データを出力する検出センタと,」とされている。しかし,緊急地震速報において出力するデータは「各地域の予想震度」等であって,「震源の震度」なるものではないから,この点で本件発明と緊急地震速報とは相違している。さらに,本件発明の構成要件(1)によれば,本件発明の構成要件(2)の受信・データ処理される「前記検出器から出力された検出データ」とは,「震度,位置及び時刻からなる」ものを指すところ,緊急地震速報が「各地域の予想震度」の出力に際して解析処理の対象とするデータには,「震度」は含まれていない。緊急地震速報が「各地域の予想震度」の出力に際して用いるデー
5 タは,「震源(緯度,経度,深さ),マグニチュード,地盤増幅度」とされており,本件発明のように「震度」を用いていないことは明らかである。したがって,この点からも本件発明と緊急地震速報とは明らかに相違しているから,緊急地震速報は本件発明の構成要件(2)を充足しない。なお,「震源」が地下の特定の場所を,「震度」が地上ないし地表における現象を意味することからすると,両者は相容れない概念であり,「震源の震度」なるものが,緊急地震速報の処理装置から出力される余地はない。また,震源決定手法により推定した震源と各観測点の地震波の最大振幅のいずれにも「震度」の情報は含まれておらず,またマグニチュードの計算過程でも「震度」は用いられていないので,マグニチュードに「震度」の情報が含まれるとの原告の主張は誤りである。ウ 本件発明の構成要件(3)は,「前記検出センタから出力された地震データを放送局,電話局,データ端末,インターネットなどを介して受信機へ送信する手段と,を備え,」とされている。本件発明の構成要件(2)によれば,本件発明の構成要件(3)の「前記検出センタから出力された地震データ」には「震源の震度」が含まれるところ,緊急地震速報において出力されるデータに「震源の震度」は含まれていない。したがって,緊急地震速報は本件発明の構成要件(3)を充足しない。エ 本件発明の構成要件(4)は,「前記受信機は前記地震データ,該受信機の位置,及び時計を用いて受信点における地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を演算し,」とされている。しかし,被告は,地震の観測,データ処理及び発表行為をしているにすぎず,受信はしていないから,かかる構成要件を充足する余地はない。この点を措くとしても,緊急地震速報は,強い揺れに警戒する必要があることを端的に伝えることを目的としているため,「地震の到来方向」は必要ではなく,このため緊急地震速報においては,「受信機」が「受信点におけ
5 る地震の到来方向…を演算」することは想定していない。すなわち,緊急地震速報での発表内容は,緊急地震速報(警報)が,「地震の発生時刻,震源の位置,強い揺れ(震度5弱以上)及び震度4が予想される地域の名称」である一方,緊急地震速報(予報)が,「地震の発生時刻,震源の位置,地震の規模(マグニチュード),強い揺れ(震度5弱以上)及び震度4が予想される地域の名称,予想される震度,主要動の到達予想時刻」とされており,「受信点における地震の到来方向」は含まれていない。そして,緊急地震速報(警報)は,気象庁以外の者が行うことは禁止されているため,気象庁による発表内容がそのまま配信・受信される。また,緊急地震速報(予報)に関しては,予報業務許可事業者が独自の予想結果を配信等する場合はあり得るが,その場合であっても,「受信点における地震の到来方向」について予想することは想定していない。したがって,緊急地震速報においては,受信端末で「受信点における地震の到来方向」を演算することは想定しておらず,本件発明と緊急地震速報とは明らかに相違しているから,緊急地震速報は本件発明の構成要件(4)を充足しない。なお,被告は,地震動の予報業務の許可に当たって,個々の予報業務の申請者が行おうとする予報内容の表現等について,具体的かつ網羅的に事前に把握・確認しているわけではなく,また予報業務許可事業者が独自の予想結果を配信等する場合でも,「受信点における地震の到来方向」について予想することは想定されていないから,構成要件(4)及び(5)が構成要件(1)ないし(3)と不可分一体であるとの原告の主張は誤りである。このほか,本件特許の出願経過などからしても,「地震の到来方向」は,受信者が当該受信者の思考又は判断を何ら介することなく,その受信点におけるどの方向から地震が到来するかを認識可能となるような情報を意味するというべきであり,震源地の位置と受信機の位置が図示されていれば,地
5 震の到来方向が表示されているとの原告の主張は誤りである。オ 本件発明の構成要件(5)では,「演算された地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を警報・通報する,」とされている。しかし,前記エのとおり,被告は,地震の観測,データ処理及び発表行為をしているにすぎず,受信はしていないから,かかる構成要件を充足する余地はない。この点を措くとしても,緊急地震速報では,受信端末で「地震の到来方向」を警報・通報することは一切想定していないから,本件発明の構成要件(5)を充足しない。カ 均等論について(ア) 第1要件について,特許発明の本質的部分が何かを判断するに当たっては,特許発明を先行技術と対比して課題の解決手段における技術的原理を確定した上で,対象製品等の解決手段が特許発明の解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれと異なる原理に属するものかという点から判断されるべきである。そうすると,「震度」と「マグニチュード」がいかなるデータに基づいて算出されているかという原告の指摘と,本件発明の本質的部分の判断との結びつきは,全く明らかではない。また,公知技術を理由に進歩性が否定されて特許出願が拒絶されていたという特許出願の経過によって,なぜ,「各地域の予想震度」の出力に際して用いるデータに「震度」を用いることが本質的部分に当たらないとの結論が導かれることになるのかも,理解困難というほかない。さらに,原告が本件発明の本質的部分であると主張する「構成要件(1)ないし(6)を組み合わせたこと」自体が何を意味するのかも不明である。以上のとおり,均等の第1要件を充足する旨の原告の主張には理由がない。
5 (イ) 第2要件について,本件発明の地震計から出力される「震度」の算出過程について,原告は何ら主張立証をしていないから,「震度」が「最大振幅」のデータを用いて算出されているとする原告の主張の真偽は不明である。また,ある特定のデータの計算過程,当該過程で用いられる他のデータの内容,種類等によって,性質・内容を全く異にする計算結果が得られることは技術常識に属する事項であるところ,各地の地表での揺れの程度を意味し,「地震動」の強さを表す尺度である「震度」と,地震の規模を地震によって放出されたエネルギーの総量を表す尺度である「マグニチュード」とは性質を全く異にする概念である。そうすると,「震度」と「マグニチュード」が「最大振幅」を加工して算出されたことを前提に,同一の作用効果を奏するとの原告の主張に理由がないことは明らかである。(ウ) 第3要件について,置換容易性は,当該特許請求の範囲を当業者が見れば,格別の努力をしなくても当該置換を容易になし得ること,すなわち,対象製品等の構成を採用しても,特許発明と同一の作用効果を奏することが,容易に想到できることを意味する。そして,「緊急地震速報が『各地域の予想震度』の出力に際して用いるデータは『震源(緯度,経度,深さ),マグニチュード,地盤増幅度』であると被告が主張していること」は,容易想到性との結びつきが全く明らかでない。また,「『震度』も『マグニチュード』も『最大振幅』のデータを元にして加工して得られるデータであること」は,「震度」と「マグニチュード」とは全く概念を異にするものであるから,算出過程に用いるデータが共通しているとしても,置換を容易になし得ることにはならない。さらに,「『マグニチュード』は,被告の緊急地震速報の運用開始時においても地震研究の分野では地震が発するエネルギーの大きさを対数で表した指標値として基本的な用語であること」も,当業者がかかる概念を知っていたこと以上の意味はない。し
5 たがって,原告は,何ら容易想到性に関する主張立証をしていない。(エ) 第4要件について,緊急地震速報は,本件発明の出願時における公知技術である乙25文献記載の主引用発明と同一又は当業者がこれから当該特許出願時に容易に推考できたものである。また,仮にそうでないとしても,緊急地震速報は,当業者が乙25文献のほか,特開平9-54895号公報(乙24)及び乙30から当該特許出願時に容易に推考できたものであるから,第4要件の充足性は否定される。(オ) 上記のとおり,均等の第1要件ないし第3要件に係る原告の主張は誤りであるほか,緊急地震速報は,本件特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから特許出願時に容易に推考できたものであり,均等の第4要件の充足性も否定されるべきであるから,緊急地震速報が本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するものとはいえない。
(2) 争点2(本件特許に係る無効理由の存否)について【被告の主張】ア 進歩性欠如(ア) 本件発明は,以下のとおり,乙25文献に記載された主引用発明に,特開平11-160447号公報(乙23,以下「乙23文献」という。)記載の発明,平成9年1月付け東京ガス株式会社作成の「地震時導管網警報システムSIGNAL」に関するパンフレット(乙29,以下「乙29文献」という。)記載の発明を適用することで,容易に想到できるから,進歩性を欠き,無効である。まず,主引用発明と本件発明とは,以下の点で一致している。a 3箇所以上に配置した検出器であって,地震計を含み,該地震計の出力による震度,位置及び時刻からなる検出データを出力する検出器と,b 前記検出器から出力された検出データを受信・データ処理して震源の
5 震度,位置及び時刻からなる地震データを出力する検出センタと,c 前記検出センタから出力された前記地震データを電話局,データ端末,インターネット等のネットワークを介して受信機へ送信する手段と,を備え,d 前記受信機は前記地震データ,各地の予想される震度を警報・通報することを特徴とした,e 地震到来予知システム他方で,主引用発明と本件発明とを対比すると,本件発明では, 「受その信機」において,「地震データ,受信機の位置,及び時計を用いて受信点における地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を演算し,演算された地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を警報・通報する」構成となっているのに対し,主引用発明では,地震の到来方向,予想震度及び到達時刻の演算及び警報・通報を,受信機では行っていない点で相違している。しかし,乙23文献には「地震の到来方向及び到達時刻を予測する」構成が明らかにされており,「予想された地震の到来方向,予想震度及び到達時刻」を示す情報を検出センタから受信機(端末装置)に送信して表示/通報させることも,他の引用文献の記載により阻害されるものではない。また,乙29文献には,「液状化情報,SI値/最大加速度情報及び加速度波形情報を独自に収集し,ガスの導管に関する被害予測を行って表示用端末に表示すること」が開示されており, 「SI値/最大加速度情報」またを公開して「地震防災などの研究の一助」にすることが想定されていることが記載されている。そうすると,乙29文献記載の発明を,乙25文献及び乙23文献記載の各発明と組み合わせることは,本件特許の出願時において,当業者にとって想到容易であったというべきである。以上からすると,地震計からの各種データを公開して(ユーザの受信機
5 に送信して)地震防災などの研究の一助としての地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を当該受信機において演算させる構成は,乙25文献,乙23文献,乙29文献において示唆されていたというべきであり,かつ,このように構成することは当業者にとって想到容易であるから,進歩性が否定される。(イ) 本件発明により地震波の到来方向を通知された人が,その避難すべき「方向」を具体的に認識できたとしても,一般に「地震時の防災行動」が,認識した到来方向によって変わることはない。したがって,本件発明としての効果(人々の建物内の安全位置への移動や避難場所への移動が可能になること)を奏するために,地震波の到来方向の警報・通報は意味がないから,当該到来方向の通知の仕組みに基づいて主張される,本件発明の進歩性は否定されるべきである。また,人は,通常,自分の現在位置における「自身の姿勢」として,「自分がどの方向に向いているか」を認識して行動することはないから,地震波の到来方向に関する情報を表示されても,避難方向を瞬時に理解して避難することは不可能である。このように,地震波の到来方向を通知されても,本件発明の上記効果を奏することはできないから,本件発明の進歩性は否定されるべきである。イ 明確性要件違反「震源の震度」なる用語は,請求項1で何らの定義もないほか,明細書にも記載されていないことに加え,その意義も概念的にあり得ないものであり,不明確というほかない。そうすると,構成要件(2)の「検出センタ」から出力される「地震データ」が何を意味するのかも不明確となるから,「検出センタ」においてどのような処理が行われているのかも必然的に不明確である。さらに,構成要件(3)の「送信する手段」から受信機へ送信される「地震データ」が何を意味するかも不明確であるから,「送信する手段」においてど
5 のような処理が行われているのかも不明確である。その上,「送信する手段」から「地震データ」を用いて地震の到来方向等を演算する,構成要件(4)及び構成要件(5)の「受信機」における処理も不明確である。以上のとおり,「震源の震度」の意義を含めた,上記種々の用語が不明確であるため,本件発明は特許法36条6項2号の要件を充足せず,明確性要件違反であるから,本件特許は,同法123条1項4号の規定により無効にされるべきである。ウ 実施可能要件違反前記イのとおり,請求項1のみで記載された「震源の震度」は,不明確ないし概念的にあり得ない用語であるところ,明細書においても「震源の震度」に関する定義はないほか,その算出方法も明確にされていない。加えて,地震学上もかかる用語は存在しないから,出願時の技術常識に照らしても,「震源の震度」の意義は明らかになっていない。そうすると,本件発明は,発明の詳細な説明において,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず,実施可能要件に違反し,同法36条4項1号の要件を充足しないから,本件特許は,同法123条1項4号の規定により無効にされるべきである。エ サポート要件違反前記イのとおり,「震源の震度」なる用語は,請求項1で何らの定義もないほか,明細書にも記載されていないことに加え,その意義も概念的にあり得ないものである。そうすると,不明確又は概念的にはあり得ない意義を有する用語が請求項1に記載されている以上,請求項1には明細書の範囲を超えた事項が記載されているというほかないから,同法36条6項1号の要件を充足しない。したがって,本件特許は,同法123条1項4号の規定により無効にされるべきである。
5 【原告の主張】ア 進歩性欠如について(ア) 乙23文献の図1は,【図面の簡単な説明】に記載されているように,「本発明の地震警報システムの一実施の形態例を示す構成図」である。そして,「地震の発生から警報を発するまでの手順を説明する。」と記載されており(段落【0025】,) 図1は出願明細書における説明図にすぎない。また,乙23文献の明細書の説明における「前進基地局Sf,Sg,Se」等は,計測震度計装置が設置されている場所である。また,明細書における「中央監視局M」は本件発明における「検出センタ」に対応する構成である。したがって,乙23文献は,本件発明の構成要件(1)と構成要件(2)の構成を開示しているにすぎず,本件発明の構成要件(4)の中の「受信機が受信点における地震の到来方向,到達時刻を演算する」構成,及び構成要件(5)の中の「演算された地震の到来方向,到達時刻を警報・通報する」構成が何ら開示されていない。すなわち,乙25文献に開示されている構成を超える新たな構成を何ら開示するものではないので,被告の主張は失当である。また,乙29文献には,本件発明の構成要件(4)の中の「受信機が受信点における地震の到来方向,到達時刻を演算する」構成,及び構成要件(5)の中の「演算された地震の到来方向,到達時刻を警報・通報する」構成が何ら開示されていない。すなわち,乙25文献に開示されている構成を超える新たな構成を何ら開示するものではないので,被告の主張は失当である。以上からすると,乙25文献と,乙23文献及び乙29文献を組み合わせたとしても,本件発明の構成要件(4)の中の「受信機が受信点における地震の到来方向,到達時刻を演算する」構成と,構成要件(5)の中の「演算された地震の到来方向,到達時刻を警報・通報する」構成を容易に想起することはできないから,本件発明は進歩性を備えており,被告の主張する
5 無効理由は存在しない。(イ) 地震の到来方向を警報・通報することで,①有効な対処方法を採ることができ,②地震が頻繁に続く場合の避難行動を判断する情報となり,③巨大地震における避難行動の判断情報となるなどの効果がある。このように,地震の到来方向を警報・通報することには非常に重要な意味があり,意味がないとする被告の主張は失当である。イ 記載要件違反について本件特許は,被告の行政機関である経済産業省の外局である特許庁の審判において,特許法36条6項2号に規定する要件を満たさない旨の拒絶理由通知(乙17)を受け,原告が,特許庁に対し,請求項1を補正し,本件発明の請求項1と同一の内容となる手続補正書(乙18)及び意見書(乙19)を提出したところ,特許庁は,拒絶査定を取り消し,本願の発明は特許すべきである旨の審決をした(乙20)のであるから,特許庁の審判において,3人の審判官の合議体によって,被告が主張する記載要件違反の無効理由は存在しないとの判断がなされていることは明確であり,被告の主張は失当である。なお,「震源」は「地震のおこった場所」という広い幅を持たせた意味でも使われる。そして,「震度」が「ある場所における,地震による地面の震動の強さ」を意味するとき,この「震度」を修飾する「震源の」は,地面の震動の強さを修飾しているから,「震源」を地中に限定した意味で理解するのではなく,意味が通じるように「地震の起こった場所」という意味で理解すべきである。そうすると,「震源の震度」とは,「地震の起こった場所の地面の震動の強さ」という意味になり,これは,要するに「震源付近の震度」のことである。「震源の震度」を以上のように意味が通じるように理解することは自然なことである。実際,特許出願の審査においても「震源の震度」が意味不明であるとは指摘されていない。したがって,「震源の震度」の用語が不
5 明確であるとの被告の主張は失当である。
(3) 争点3(原告の損害額)について【原告の主張】本件発明は,地震の被害を最小限にとどめることができる画期的な発明であり,そのライセンス料は,少なくとも年間3000万円を下回るものではない。したがって,原告は,被告による緊急地震速報の実施により,現在までの約9年間で,合計2億7000万円の損害を受けた(特許法102条3項に基づくもの)ものであるが,そのうち1000万円の支払を請求する。【被告の主張】争う。
(4) 争点4(謝罪広告掲載の必要性の有無)について【原告の主張】原告は,被告が行う緊急地震速報の真の発明者であり,かつ,本件特許権を有するにもかかわらず,被告は,原告に無断で緊急地震速報を実施した。そのため,原告が本件発明により得られるはずであった業務上の信用が失われた。この信用を回復するためには,被告に,別紙1記載の要領で,別紙2記載の謝罪広告をさせることが必要かつ相当である。【被告の主張】争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1(本件発明の技術的範囲への属否)について
事案に鑑み,構成要件(4)及び(5)の充足性から検討する。
(1) 本件発明の構成要件(4)及び(5)は,次のとおりである。
「前記受信機は前記地震データ,該受信機の位置,及び時計を用いて受信点における地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を演算し,「演算された地震の」到来方向,予想震度及び到達時刻を警報・通報する,ことを特徴とした」
5 (2) 本件特許に係る明細書(甲2)には以下の記載がある。
ア【従来の技術】「従来の地震通報システムでは,気象庁,地震研究機関などにより,過去の地震情報は伝えられるが,規則上,配信上この情報を,本発明のシステムに適用することは困難である。そこで携帯可能な検出器で本システムを簡単に構築して現在進行予想方位の地震データを得ようとするものである。(段落【0002】」 )イ【発明が解決しようとする課題】「次に,この地震データを伝送して広域の任意の受信地点で演算処理・警報・通報を行うことが要求されるが従来は実施されていない。たとえば,放送は広域の任意の場所において受信できる非常に便利なメディアであるが,通常の受信だけでは地震データが伝送されても,放送エリア内は同一の伝送内容の地震データにとどまる。(段」落【0003】)ウ【課題を解決するための手段】「上記課題を解決するために,請求項1記載の地震到来予知システムは,受信点が家庭など固定位置であれば位置設定を手動で,携帯・移動位置ならばGPSなどの自動位置設定で,かつ時間計を併用して受信した地震データとの演算の結果を得て,地震到来予知情報に変換して出力することとした。(段落【0004】」 )「地震到来予知出力としては,震度5以上の強震が予想される場合にのみ作動させることが必要で,まず警報を発し,ただちに地震の到来方向,距離から想定される予想震度,到着予定時間および時刻を通報(音声・文字・画像の形)フォーマットしたコメントを選択付加する。(段落【00」05】)エ【発明の効果】「本発明は以上に説明したような構成により,次のような効果を奏する。これまで地震は,天災として避けることのできないものとして扱われてきた。これまで地震発生については事後の報道だけであって被災回避の観点からはほとんど意味のないものであった。また,地震予知す
5 る科学もあまり進展しておらず,これまでのきめ細かい台風情報に代わる
地震情報の伝達が期待されるのであるがこれまで適切な方法がなかった。しかしながら,発生した強烈な震源がある地点から手元に伝え得るならば,到来時刻・方向・震度などを警報・表示で知らせて,震源地点や直下地震のような特異な場所でない限り,人々の建物内の安全位置への移動や避難場所への移動が可能となり本システムによって被害は可能な限り最小限にとどめることができる。…」(段落【0015】)
(3) 本件特許に係る平成15年6月9日(起案日)付け拒絶理由通知書(乙9)
に対する同年8月13日付け手続補正書(乙10)において,請求項1につき「…個人あるいは集団に緊急警報と音声・文字・画像を通報して,事前に所要の準備期間内に到達時間や時刻,到来方向,予想震度を告知することを特徴とした地震到来予知システム」と下線部が挿入されている。また,同日付け意見書(乙11)において,「すなわち,地震到来予知において必要な情報は,被害を与える震度・到来時刻・のほかに到来方向が非常に重要であると考えています。あらかじめの訓練も当然必要でしょうが,到来方向に向かって人は非常時の対処方法も知ることは,自動車事故から身を守るとっさの安全性の高い対応からみてもわかるように重要であります。震度と時間や時刻情報だけでは,ただ身構えるだけで,どのようにの情報が足りないのです。 との記載がある」 (2頁の(2)引用文献1に対応する欄参照)。また,同意見書(乙11)の「(11)まとめ」には,「まとめとして,本願発明は地震発生に伴う震度・位置・時刻からなる地震データを任意の必要位置(固定位置・携帯移動位置)に合わせて到来予知情報に変換提供することを課題としています。言い換えれば,到来予知を希望する個別の人々に,現時点で,最もふさわしい地震情報を提供しようとすることが主眼であります。…」と記載されている。さらに,平成16年3月18日(起案日)付け拒絶理由通知書(乙12)に対する同年5月20日付け意見書(乙14)の「(8)まとめ」欄には,上記意見
5 書(乙11)とほぼ同様の記載がある。
このほか,平成17年2月15日付け審判請求書(乙16)には,「(2)引用文献1(特開2000-57457)」欄に,「これに対して,本装置は,地震データを放送することは類似しているものの,これをそのまま告知に利用するのではなく,あくまでも,検出した地震データ(震源の震度,位置,検出,時刻)と受信位置(位置,時刻)に居る個人または集団を対象に,相互に演算した結果により告知(到来時間,時刻,到来方向,予想震度)します。これは,すなわち,放送エリア内は同一であっても受信位置が異なれば全部違うということは当然で,極めて現実であって,引用文献とは根本的に大きく異なります。」との記載がある(3頁3行~9行)。
(4) 前記(1)のとおりの構成要件(4)及び(5)の文言に加え,前記(2)のとおりの明
細書(甲2)の記載(とりわけ【発明が解決しようとする課題】(段落【0003】)及び【課題を解決するための手段】(段落【0004】)の記載)を総合すると,構成要件(4)及び(5)の「地震の到来方向,予想震度及び到達時刻」 「警の報・通報」とは,個々の受信機において,「地震データ」に加え「該受信機の位置」及び「時計」を用いて,個々の受信機における「地震の到来方向」が「予想震度」及び「到達時刻」とともに「演算」されて,それが「警報・通報」されるものと解すべきであり,それ故に,地震データをそのまま告知に利用するのでは足りず,個々の受信機の受信位置ごとに異なる個別の情報を提供することを意味し,受信機における何らかの表示から地震の到来方向等が判断できればよいとするものではないというべきである。上記解釈は,上記(3)のとおりの本件特許の出願段階において原告(出願人)が提出した書面の記載内容からも裏付けられる。
(5) 他方,第2,1前提事実(3)イのとおり,被告が行う緊急地震速報の構成は次
のとおりである。
(1) 1箇所以上に配置され,観測した最大加速度,最大速度,最大変位,検
5 測時刻,震央方位と震央距離,及び観測点番号等からなるデータを出力
する地震計と
(2) 前記地震計から出力された最大加速度,最大速度,最大変位,検測時刻,
震央方位と震央距離,及び観測点番号等からなるデータを受信・解析処理して地震の規模(マグニチュード),震源の位置,地震の発生時刻,強く揺れると予測した地域の名称,各地域の予想震度とその到達予想時刻からなるデータを出力する処理装置と
(3) 前記検出手段から出力されたデータを専用回線等のネットワークを通
じ,NHKや民放各局のテレビやラジオの各放送局,携帯電話(緊急速報メール)等やエンドユーザーの受信端末へ送信する手段と,を備える
(4) 緊急地震速報
(6) さらに,証拠(乙1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,被告が行う緊急
地震速報に関して,以下の事実が認められる。ア 緊急地震速報は,地震の発生直後に各地での強い揺れの到達時刻や震度を予想し,可能な限り素早く知らせる情報である。地震の揺れよりも情報の伝達のスピードが速いことを利用し,震源に近い地震計で検知した揺れのデータを元に,各地での揺れの到達時刻や震度等を即座に推定し,気象庁から情報として発表する。イ 気象庁では,緊急地震速報(警報)及び緊急地震速報(予報)を広く一般に発表している。緊急地震速報で発表する内容は以下のとおりである。(ア) 緊急地震速報(警報)・地震の発生時刻,震源の位置・強い揺れ(震度5弱以上)及び震度4の地域の名称(イ) 緊急地震速報(予報)・地震の発生時刻,震源の位置,地震の規模(マグニチュード)
5 ・強い揺れ(震度5弱以上)及び震度4の地域の名称
・予想される震度・主要動の到達予想時刻ウ 緊急地震速報の処理の流れは,以下のとおりである。(ア) 観測点における震源推定処理地震波を検知した観測点において地震波形を解析し,P波初動の時刻,震央距離(B-Δ法による) 震央方向, (主成分分析法による) 最大振幅,,リアルタイム震度等を求める。この処理は地震検知を契機に実施され,その後毎秒,処理中枢(気象庁本庁・大阪管区気象台の処理中枢:EPOS)に送信される。(イ) EPOS中枢処理における震源推定処理EPOSにおいて震源を推定する処理では,最初にどこかの観測点で地震波を検知してから,時間が経過して「地震波を検知する観測点が増える」のに合わせ,様々な手法により震源計算を繰り返す。震源計算の手法には,IPF法,着未着法,EPOSによる自動震源決定処理があり,概ね時間とともに精度が高くなる。(ウ) マグニチュードの計算前記の処理で推定した震源と観測した地震波の最大振幅を用いて,地震の規模(マグニチュード)を毎秒推定する。(エ) 震度等の予想震源とマグニチュードを元に,地震波の減衰に関する経験式などを適用して各地の震度とS波の到達時間を予想する。震源推定精度の向上に伴い,予想震度の精度も時間の経過とともに向上することが期待できる。(オ) 情報の発表震度等の計算結果が,発表条件・更新条件を満たすと,人手を介することなく直ちに緊急地震速報を発表する。
5 (7) 上記(5),(6)のとおり,被告(気象庁)が行う緊急地震速報では,地震の観
測,データ処理,情報の発表を行うにすぎず,「受信」行為を行っていない(緊急地震速報を受信するのは,被告(気象庁)以外の第三者である。。)また,仮に上記第三者の受信行為まで考慮に入れたとしても,被告の緊急地震速報では,本件発明の「検出センタ」に相当する処理装置から「予想震度」や「到達予想時刻」が出力されており,受信機側で「予想震度」や「到達時刻」の演算が行われることは想定されておらず,したがって,個々の受信位置ごとに異なる個別の情報が提供されることもない。さらに,被告の緊急地震速報で発表される情報は,上記(6)イのとおりであり,その中に「地震の到来方向」は含まれていない。なお,インターネット検索サイト Yahoo!JAPAN のニュースサイトに掲載された,高度利用者向け受信端末の緊急地震速報に係る画像(甲5)上も,各地の予想震度を1つの地図内に図示しているにすぎず,地震データをそのまま告知に利用しており,個々の受信機の受信位置ごとに異なる個別の情報である「地震の到来方向」を提供していない。したがって,上記地図をみた者は,自らの所在地と震源地とを比較することで「地震の到来方向」を判断できるとしても,同地図上,「地震の到来方向」自体が「警報・通報」されているものとはいえない。このように,被告が行う緊急地震速報は,①「受信」行為が含まれていないほか,仮に第三者の受信行為まで考慮に入れたとしても,②受信機側で「予想震度」や「到達時刻」の演算が行われることが想定されておらず,③地震データをそのまま告知に利用しており,「地震の到来方向」を演算したり,これを警報・通報することを想定していないから,いずれにしても,本件発明の構成要件(4)及び(5)を充足しない。これに反する
(原告の主張)
は,上記説示に照らして採用できない。
2 結論
以上によれば,その余について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理
5 由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部裁判長裁判官 沖 中 康 人裁判官 髙 櫻 慎 平裁判官矢口俊哉は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 沖 中 康 人(別紙省略)
| 特許裁判例 実用新案裁判例 |
| 意匠裁判例 商標裁判例 |
| 不正競争裁判例 著作権裁判例 |
| 特許判例 実用新案判例 |
| 意匠判例 商標判例 |
| 不正競争判例 著作権判例 |
10月21日(水) - オンライン
〜発明が生まれる開発現場の知財力を強化する~一枚図解でわかる 新規性・進歩性 ──発明とは何なのかを理解して、その先のイノベーションへ!
10月21日(水) - オンライン
10月21日(水) - オンライン
公正取引委員会 も注視する“不当なノウハウ流出”の現場と対策セミナー 「電子公証サービス」で証拠を残す 共同研究や取引交渉で負けない知財戦略
10月22日(木) - オンライン
10月22日(木) - オンライン
10月22日(木) - オンライン
10月22日(木) - 東京 町田市
10月22日(木) - オンライン
10月22日(木) - オンライン
10月23日(金) - 大阪 大阪市
10月23日(金) - 大阪 大阪市
10月23日(金) - オンライン
10月23日(金) - オンライン
10月21日(水) - オンライン
〜発明が生まれる開発現場の知財力を強化する~一枚図解でわかる 新規性・進歩性 ──発明とは何なのかを理解して、その先のイノベーションへ!
10月26日(月) - オンライン
10月26日(月) - オンライン
商標的使用論・商標機能論・商標法26条・権利濫用論等の違いからみた『商標権侵害と対応策』 ~どのように攻め、どのように守るか~
10月26日(月) - オンライン
10月26日(月) - オンライン
10月27日(火) - 東京 千代田
10月27日(火) - 千葉 千葉市
10月27日(火) - 東京 港区
10月28日(水) - オンライン
英文契約の実務(基礎から読解・作成のポイントまで)―日本語契約との違いや起こりやすいトラブル、悩ましい英文も解説します―
10月28日(水) - オンライン
最新の制度改正を反映 海外の特許制度と実務上の留意点(米国・欧州(EPC)・中国) ~米国ならびに EPC (欧州特許条約)・中国の各制度の下でのグローバル特許取得の基本的な知識と留意点を解説します~
10月28日(水) - 東京 千代田
10月28日(水) - オンライン
10月28日(水) - オンライン
10月29日(木) - オンライン
10月29日(木) - オンライン
10月29日(木) - オンライン
10月29日(木) - オンライン
10月30日(金) - オンライン
10月26日(月) - オンライン
〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅三丁目13番24号 第一はせ川ビル6階 特許・実用新案 意匠 商標 訴訟 鑑定 コンサルティング
名古屋本部オフィス 〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅3-13-24 第一はせ川ビル6F http://aigipat.com/ 岐阜オフィス 〒509-0124 岐阜県各務原市鵜沼山崎町3丁目146番地1 PACビル2階(旧横山ビル) http://gifu.aigipat.com/ 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング
バーチャルオフィス化(個人宅をワークスペースにしており、原則として各人がリモートワークをしております。)に伴い、お客様、お取引先様にのみ個別にご案内させていただいております。 特許・実用新案 商標 外国特許 外国商標 コンサルティング