ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成26(ワ)12573 育成者権に基づく差止請求権不存在確認請求事件
| 裁判所 | 一部認容 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成30年6月21日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 対象物 | トットリフジタ1号 |
| 法令 |
その他 特許法104条の34回 特許法167条3回 特許法104条の41回 民事訴訟法61条1回 |
| キーワード | 侵害36回 無効24回 実施12回 差止9回 許諾8回 新規性5回 損害賠償5回 無効審判5回 審決3回 特許権2回 |
| 主文 | 1 別紙「原告製品目録1」及び別紙「原告製品目録2」記載の製品に使用する別紙「種苗目録1」及び別紙「種苗目録2」記載の種苗を,原告が生産し,調20整し,譲渡の申出をし,譲渡し,輸出し,輸入し,又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為につき,被告が,品種登録第15866号及び品種登録第15867号の各育成者権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。 2 別紙「種苗目録1」及び別紙「種苗目録2」記載の種苗を使用した別紙「原告製品目録1」及び別紙「原告製品目録2」記載の製品を,原告が販売する行25為につき,被告が,品種登録第15866号及び品種登録第15867号の各育成者権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。事 実 及 び 理 由5第1 請求 1 主文第1項同旨 2 主文第2項同旨 3 別紙「種苗目録3」記載の種苗を使用した別紙「原告製品目録3」記載の製品を,原告が南海辰村建設株式会社に販売した行為につき,被告が,品種登10録第15866号の育成者権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認する。第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,登録品種の名称を「トットリフジタ1号」,「トットリフジタ215号」とする各登録種苗について育成者権を有する被告に対し,①別紙「種苗目録1」及び別紙「種苗目録2」記載の種苗(以下「本件種苗1」,「本件種苗2」ということがある。)を生産等する行為,並びに本件種苗1及び2を使用した別紙「原告製品目録1」及び別紙「原告製品目録2」記載の製品(以下「原告製品1」,「原告製品2」ということがある。)を販売する行為について,被告の各育成者権に基20づく差止請求権が存在しないことの確認を求めるとともに,②別紙「種苗目録3」記載の種苗(以下「本件被疑種苗」という。)を使用した別紙「原告製品目録3」記載の製品(以下「原告製品3」ということがある。)を販売した行為につき,被告のトットリフジタ1号に係る育成者権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めた事案である。25 2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお,書証の枝番号は,特に記載しない限り,その全てを示す趣旨である。以下,同様である。)(1) 当事者等原告は,緑化事業の設計,施工,維持管理及びコンサルタント等を目的として,平成16年12月24日に設立された会社である。P2は,原告からの委託5を受け,兵庫県洲本市所在の畑等において,植物の栽培等を行っていた。P2は,兵庫県南あわじ市所在のP3らを下請け農家としていた。被告は,品種登録第15866号及び同第15867号の育成者権者であり,鳥取県岩美郡<以下略>所在のP4の監査役の地位にある。P5は,被告の夫で,P4の代表取締役であり,P6は,P4の専務取締役である。10(2) 被告の育成者権被告は,次の育成者権1及び2を有している(甲8ないし13)。ア 育成者権1(以下「本件育成者権1」といい,この品種登録を「本件品種登録1」という。)出願番号 第16646号15出願年月日 平成16年2月10日出願者 P1出願品種の名称(出願時) 常緑キリンソウフジタ1号品種登録の番号 第15866号登録年月日 平成19年12月17日20農林水産植物の種類 Phedimus kamtschaticus (Fisch.) 't Hart(和名:エゾノキリンソウ種)登録品種の名称 トットリフジタ1号品種育成をした者の氏名 P5育成者権者 P125イ 育成者権2(以下「本件育成者権2」とい,本件育成者権1と併せて「本件育成者権」という。)出願番号 第16647号出願年月日 平成16年2月10日出願者 P1出願品種の名称(出願時) 常緑キリンソウフジタ2号5品種登録の番号 第15867号登録年月日 平成19年12月17日農林水産植物の種類 Phedimus kamtschaticus (Fisch.) 't Hart(和名:エゾノキリンソウ種)登録品種の名称 トットリフジタ2号10品種育成をした者の氏名 P5育成者権者 P1(3) トットリフジタ1号の重要な形質に係る特性トットリフジタ1号に係る審査基準は,別紙「審査基準」のとおりであり(以下「本件審査基準」という。甲16,甲120),トットリフジタ1号の品種登録簿15における重要な形質に係る特性の記載は,別紙「トットリフジタ1号の特性」(以下「本件特性表」という。)のとおりである(甲8)。トットリフジタ1号は,農林水産省の審査において,繁殖の方法について「栄養繁殖」,特性の概要について「この品種は,新潟県在来種の自然交雑実生から選抜して育成されたものであり,葉の色は緑色で冬期の茎の伸長程度が強く地上部が20枯死しないグランドカバー向きの品種である。」等,区別性について「『新潟在来』及び『佐渡在来』と比較して,冬期の茎の伸長程度が強いこと等で区別性が認められる。」と認定されて,登録が認められた(甲92)。(4) 原告とP4との取引関係ア P4は,被告の許諾を得て,鳥取県岩美郡<以下略>所在の自社の圃場25のビニールハウスでトットリフジタ1号を栽培し,カット苗(挿し木用に茎の先端の3cm から4cm 程度を切った苗),プラグ苗(カット苗を少量の土に植えて少し根を生やした状態の株),ポット苗(円上のポットに植えられ相当程度に育った株)の形で,「常緑キリンソウ」として販売していた(甲110,乙14p3)。原告は,従前,P4及びP7との間で覚書(甲38及び39)を作成して,P4が生産したトットリフジタ1号のカット苗等を,P7を介して正規に購入し,これ5をP2らに栽培させて,屋上緑化商品として販売していた。原告が販売していた屋上緑化商品には,メキシコマンネングサを使用した「てまいらず」,トットリフジタ1号4株とメキシコマンネングサ5株をトレイに植えた「みずいらず」(原告製品3),トットリフジタ1号の5株(場合により9株)をトレイに植えた「みずいらずスーパー」の3種類があった(乙11p3)。10イ P4側は,平成24年1月31日付けのP7宛の文書により,原告に対し,P7を介したトットリフジタ1号のカット苗の販売を同年3月31日限りで中止することを通知した(甲40)。(5) 原告の阪神高速への納品原告は,平成24年9月2日,南海辰村建設株式会社から,阪神高速大和川線の15三宅西入口・出口料金所(以下「本件入口料金所」,「本件出口料金所」といい,併せて「本件料金所」という。)の屋上緑化工事を請け負った。原告は,平成25年2月,P2の下でP3が栽培していた「みずいらず」453トレイを上記工事のために出荷した(なお,これに使用された本件被疑種苗がトットリフジタ1号であるか否かについては争いがある。)。(以上,乙15添付資料)。20(6) 刑事手続ア P6は,平成25年4月23日,P2の農場に赴き,P2がトットリフジタ1号又はトットリフジタ2号の違法増殖をしていると考えたことから,同年5月,鳥取警察署にこの件を相談した(乙33及び35)。イ 原告,原告代表者及びP2は,平成27年2月15日,次のような種苗25法違反の事実を公訴事実として鳥取地方裁判所に起訴され,いずれも有罪判決がされた(以下「本件刑事事件」という。乙1)。「原告代表者及びP2は,共謀の上,原告の業務に関して育成者権者の承諾なく平成24年8月下旬頃から平成25年2月6日頃までの間,兵庫県南あわじ市所在のP3の畑で,情を知らないP3に,トットリフジタ1号8000株を育成させて生産した上,同月6日頃,原告が南海辰村建設株式会社から請け負った阪神高速道5路大和川線三宅西出入口料金所新築その他工事に伴う屋根工事に関し,P3の畑から前記生産に係るトットリフジタ1号約1812株をトレイに植え込んだ商品名「みずいらず」453トレイ(設置工費込み代金127万9720円)を,前記三宅出入口料金所新築その他工事現場に発送し,同月8日頃にこれを同所に到達させて南海辰村建設株式会社に譲渡し,もって育成者権を侵害した。」10(7) 比較栽培試験鳥取警察署は,本件刑事事件の捜査のために,平成25年8月22日及び同年9月6日,独立行政法人種苗管理センター(以下「種苗管理センター」という。)に対し,本件料金所の建物屋上から採取した本件被疑種苗と,P5及びP6が「トットリフジタ1号」であるとして捜査機関に提出した植物体について,比較栽培によ15る品種類似性試験を内容とする鑑定を嘱託し,比較栽培試験が実施された(以下,これらの試験をまとめて「本件比較栽培試験」といい,それに基づく鑑定を「本件比較栽培試験鑑定」という。甲100,101,乙49ないし51)。これらの鑑定試料のうち,P6が平成25年8月20日に提出した植物体は,鑑定時に「トットリフジタ1号(2年生株)」と呼称され(以下,これを「鑑定フジ20タ2年生」という。),P5が平成25年9月5日に提出した植物体(甲131ないし甲133)は,鑑定時に「トットリフジタ1号(1年生株)」と呼称された(以下,これを「鑑定フジタ1年生」という。)。本件比較栽培試験の結果,鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗とは特性において明確に区別されると判定され,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗とは,特性において25明確に区別されないと判定された(以上,甲100,101,乙50,51)。(8) DNA鑑定鳥取大学乾燥地研究センター教授で,植物遺伝育種学を専門とするP8(以下「P8教授」という。)は,平成26年1月30日付け及び同年2月19日付けの鳥取警察署からの鑑定嘱託に応じて,10マーカーを用いて,P4側が提出したトットリフジタ1号と,本件料金所から採取した本件被疑種苗とのDNA情報の同一性に5ついて鑑定を行い,トットリフジタ1号と本件被疑種苗とのDNA情報は同一であるが,トットリフジタ2号と本件被疑種苗とのDNA情報は異なるとの結論を得た(以下「本件DNA鑑定1」という。乙53ないし乙60)。また,P8教授は,平成27年1月27日付け及び同年4月1日付けの鳥取警察署からの鑑定嘱託に応じて,20マーカーを用いて,トットリフジタ1号と本件被10疑種苗とのDNAの同一性について鑑定を行い,両者のDNA情報は同一であるとの結論を得た(以下「本件DNA鑑定2」といい,本件DNA鑑定1と併せて「本件DNA鑑定」という。甲106)。(9) 原告のカタログ等の記載平成26年4月発行の原告発行の屋上緑化総合カタログ(甲27)では,原告が15販売する屋上緑化用商品として,①みずいらず:「常緑キリンソウ」とメキシコマンネングサの混植,②みずいらずスーパー:「常緑キリンソウ」100%とされ,「ブルージー・プロが現在使用している常緑キリンソウは,1919年東京大学の中井教授により,その存在が確認されたタケシマキリンソウを採用しています」と記載されている(甲27)。20また,平成26年12月4日時点の原告のウェブサイトにおいても,同様の記載がある(甲24)。 3 争点(1) 請求第1項及び第2項関係確認の利益の有無(争点1)25(2) 請求第3項関係ア 本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に区別されない品種か(争点2)イ 被告の本件育成者権1に基づく請求は,本件品種登録1に無効・取消理由があることにより,権利濫用として許されないか(ア) 原始的瑕疵1・育成者性の欠如(争点3-1)5(イ) 原始的瑕疵2・区別性の欠如(争点3-2)(ウ) 原始的瑕疵3・未譲渡性(新規性)の欠如(争点3-3)(エ) 後発的瑕疵1・均一性,安定性の喪失(争点3-4)(オ) 後発的瑕疵2・均一性の喪失(争点3-5)ウ 消尽の成否(争点4)10 4 当事者の主張(1) 争点1(確認の利益の有無)について(原告の主張)原告は,原告製品1及び2がタケシマキリンソウを使用した製品であることを従前より対外的に説明していたし,もちろん現在も説明している。被告は,以上の事15実を知りながら,平成26年11月11日,あえて警告対象の製品を発見した経緯,時期,場所などを一切特定せず,原告の現行製品を対象として,被告の育成者権を侵害することを理由に,その生産販売の即時中止を求める警告書を原告に送付し(甲45),原告が回答書(甲46)でいつ誰に販売した製品を警告の対象とするのか特定を求めたのにあえてこれを無視し,本訴の提起前に何も応答しなかったという20のが事実である。そして,被告は,平成27年4月30日,本訴の被告第2準備書面において,初めてタケシマキリンソウ由来の製品は侵害品ではないと答弁したのであるが,対外的には,タケシマキリンソウ由来の製品が侵害品ではないことを一切認めていない。被告は,原告の販売先に対しても原告が育成者権を侵害しているので原告の製品25を取り扱わないよう触れ回っていたし,刑事事件がマスコミで報道された後には,同様にその由来や販売時期を特定することなく,例えば建築士事務所などの緑化事業に関係する不特定多数の者に対して侵害品を扱わないよう伝えて営業活動を行っていた(甲87)。また,被告は,本訴ではタケシマキリンソウ由来の製品は侵害品ではないと答弁しておきながら,一方で,対外的には,常緑キリンソウと認められている物はトッ5トリフジタ1号及び2号のみであると虚偽の説明をして,常緑性であって誰でも自由に扱えるはずのタケシマキリンソウを未だに認めていない。つまり,被告関係者らは,訴訟外では,緑化事業の関係者に対し,常緑キリンソウを使用する場合はトットリフジタ1号及び2号以外の選択肢はないかのように誤解させる説明を続けているのである(甲37の2,甲89)。10このような事実からすると,被告は,今もなお,対外的には,原告製品1及び2を販売している原告の法的地位を否定しているに等しく,原告の取引先に不安を与えることで原告の事業活動を妨害しているから,本件に確認の利益が認められることは明らかである。(被告の主張)15タケシマキリンソウである本件種苗1及び2は,トットリフジタ1号及びトットリフジタ2号と特性により明確に区別される別品種である。したがって,これらの生産行為等及びこれらを用いた原告製品1及び原告製品2の販売行為について,被告の育成者権1及び2に基づく差止請求権が存在しないことは争わない。20そもそも被告は,タケシマキリンソウの生産行為等が被告の育成者権を侵害するなどと主張した事実はないから,請求の趣旨1及び2について,即時確定の利益はない。甲89には,「常緑キリンソウ」と「トットリフジタ(1号)」が多数併記されており,このウェブページを閲覧した者が,同ページにおける「常緑キリンソウ」25はそもそもトットリフジタ1号の意味で用いられていると理解するのは自明である。(2) 争点2(本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に区別されない品種か)について(被告の主張)以下のとおり,本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に区別されない品種であることは明らかである。5ア 比較栽培試験の結果現物主義の観点から,トットリフジタ1号である鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗について比較栽培試験を実施した結果,両者は特性において明確に区別されないものとされた(乙50,51)。イ DNA鑑定の結果10本件被疑種苗とトットリフジタ1号に関し,鳥取大学のP8教授が10マーカーを用いてDNA鑑定を実施した結果(乙56,58),これらのDNA情報は同一であると結論付けられた。このDNA鑑定は,妥当性が検証されたDNA鑑定(マーカー数18,乙67)と比較すると,マーカー数の相違から精度が落ちることは否定できない。しかし,15乙67に定めるDNA鑑定の手法は,若干の問題点の指摘はあるものの「したがって,提供されたマニュアルは,今回の検証に用いられたサンプルを対象とする限り,検査対象がトットリフジタ1号またはトットリフジタ2号であるか否かは正確に識別可能なマニュアルであると言える」(乙67p21表13)と評価されている。それゆえ,精度に差はあるものの同一人であるP8教授が行った乙56及び乙5820に基づくDNA鑑定の正確性を否定する理由とはならない。なお,原告もDNA試験を行っているが(甲76及び甲77),これらの試験はマーカーを用いず「科」レベルの一致しか導けないものであり(乙6,甲76及び甲77の考察における「検体はタケシマキリンソウ又はこれと近縁なベンケイソウ科植物に由来する可能性が高いと考えられた」),マーカーを用いた乙56及び乙2558とは異なり,品種レベルでの同一性ないしは相違性の判断はおよそ不可能な試験である。ウ 原告は,トットリフジタ1号の育成者権を侵害している事実を隠蔽するために多数の偽装工作を検討するとともに実行している。① 原告は,平成25年4月24日,P6が原告に対し,P2が被告の許諾なくトットリフジタ1号の種苗を増殖している事実を電話で伝えた後,トットリ5フジタ1号の処分をP2に命じた。② 原告は,平成23年5月頃に,トットリフジタ1号を被告の許諾を得ないで増殖を開始したが,その後,これと並行して,平成24年2月頃からタケシマキリンソウの増殖を開始した。原告は,当該事実を奇貨として,真実は異なるにもかかわらず,平成24年2月頃から,P9からP2の農場に,既に大量のタケシ10マキリンソウを仕入れていた事実を偽装しようとP2に提案し,ポストイットに購入を偽装する本数を記載してP2に交付した。③ P10は,原告が育成者権を侵害していると認識し,原告に対し,「念のために当方から苗を購入したことにしませんか?平成23年の春にタケシマキシンソウの苗を販売した事として,納品書,請求書,領収書を準備いたします。」と15の提案を行った。④ 原告又は原告代表者も,被告の許諾なく先にトットリフジタ1号を増殖して,後で増殖分を購入しようと考えていたと供述し,被告のトットリフジタ1号の育成者権を侵害している事実を認めている。なお,原告は無断増殖分の代金を現在に至るまで被告や,P4,P7に支払った20事実はなく,当該後払方式をとることの許諾を,被告やP4,P7から得た事実もない。そして無断増殖したトットリフジタ1号の数量は,少なくとも2万4200株(11200株+13000株)にのぼる(乙28資料1-1,乙108の1のp31)。エ 原告の主張について25(ア) 原告は,比較栽培試験においては,品種登録時の現物との比較検討が必要であると主張する。しかし,種苗法の保護の対象となる「品種」とは植物体の集合であり(種苗法2条2項),育成者権の存続期間が登録より25年(同法19条2項)とされていることからすれば,必ず現物との比較が必要であるとすれば,育成者権の侵害立証は極めて困難となり(植物体によっては寿命が短いものも存在する),種苗法の目的5とする品種の育成の振興と種苗の流通の適性化との趣旨(同法1条)を没却しかねない。そもそも,品種登録の要件には安定性が要件となっており,甲93の2においても「現地調査において,特性に変異がみられなかったこと及び栄養繁殖性品種であり,一般に遺伝的に同一であることから,安定性の要件を満たしていると判断する。」10(甲93の2のp3)とされており,特に被告においてトットリフジタ1号が別の品種に変わったという特段の事情のない限り,被告(ないしは被告から許諾を受けたP4)が育成しているトットリフジタ 1 号をもって,登録品種とすることに問題はない。また,原告は,乙50及び51の試験に供された鑑定フジタ1年生及び鑑定フジ15タ2年生が登録品種たるトットリフジタ1号であることが証明されていないと主張する。しかし,トットリフジタ1号は,フジタにおいて栄養繁殖(挿し木)の方法で継続的に栽培を行い,譲渡しているものであるから,品種登録時と特性が変化することは一般的には考えられない。そして,栽培は区別されたビニールハウスの中で行っており(乙70p58),他の品種が紛れる可能性はない。20(イ) 鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗との間に区別性が認められたのは,鑑定フジタ1年生が1年生株,本件被疑種苗が2年生株であり,齢が異なるためであって,このことが育成者権侵害を否定する事実とはなり得ない。トットリフジタ1号のように,栄養繁殖によって得られる植物はいわばクローンであるため,栽培条件以外の影響により特性に変異が生じることは考えられない。25(ウ) 原告は,鑑定フジタ2年生の平均値と,本件被疑種苗の測定値を対比すると,本件被疑種苗の株の一部に区別性が認められることから,侵害が否定される旨主張する。しかしながら,なめこ事件知財高裁判決が判示するとおり,「特性差が上記の範囲内にとどまらないとしても,相違する項目やその程度,植物体の種類,性質等を総合的に考慮して,『登録品種と特性により明確に区別されない品種』への該当性5を肯定することができる場合もある」のであり,階級幅の比較を「平均値(中間幅)」を用いて比較することは極めて合理的である。この点を措くとしても,原告が指摘する一部区別性の主張は全株数中の一部に留まるのであり,原告の主張によっても,本件被疑種苗の全てと鑑定フジタ2年生との間に区別性が認められるわけではない。この点において,原告の主張は訴訟物と10の関係で意味のないものといわざるを得ない。(原告の主張)ア 比較栽培試験について以下のとおり,本件比較栽培試験には様々な問題があるから,その結果を信用することはできない。15(ア) 現物主義に反する本件比較栽培試験の根本的な欠陥a 現物主義の観点から,比較栽培試験は,登録種苗そのものと本件被疑種苗とを用いて行われるべきであるが,本件比較栽培試験は,登録種苗であるトットリフジタ1号そのものではなく,P6らによって持ち込まれた鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗とを用いて行われているという根本的な欠20陥がある。本来は,「品種登録出願の審査・登録時の植物体の現物」と,侵害が指摘される植物体の個体との同定作業(各特性の比較)が必要であり,同一品種といえるためには,特性表に列記されている各種の特性項目の全てにおいて,登録品種の登録時の審査基準に従った比較の結果,同じ特性であるといえなければならない。25b トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生は,特性において大きく異なり,同一性や連続性は認められないものであるから,鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生は,トットリフジタ1号が栄養繁殖されたものとは考えられない。(イ) 鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との齢及び環境条件の同一性が担保されていないこと5本件においては,本件被疑種苗も含めて,挿し木の正確な時期は不明である。まず,鑑定フジタ2年生株とされているものについてみると,種苗管理センターに平成25年8月30日に持ち込まれた植物体は,「苗の齢が分からなかった」というのであり,これが「2年生株」であったかどうかも明らかではない。次に,鑑定フジタ1年生とされているものについてみると,種苗管理センターの10担当者は,比較栽培試験において「苗の齢がそろっていないと正確な結果が得られない」が,「(8月30日に持ち込まれたものの)苗の齢が分からなかった」ことから,「植苗後10か月程度育てたトットリフジタ1号」の提出を警察に求めたと証言している(乙71)ところ,この求めに応じて,同年9月6日,鳥取警察署が種苗管理センターに種苗を送ったものが「1年生」とされたものである。このこと15は,P5から,「当社で10か月程度育てたトットリフジタ1号」の提出があったので領置したとの捜査報告書(乙75添付資料)の記載からも明らかであって,「警察から1年生株,2年生株を求められたときもこの区別で提出した」とのP5の証言(乙72)は虚偽である。そして,種苗管理センターが「植苗後10か月程度育てたトットリフジタ1号」20の提出を求めたのは平成25年9月初めであるから,「植苗後10か月程度育てたトットリフジタ1号」の「植苗」時期は平成24年10月か11月頃ということになり,そうすると,鳥取警察署から種苗管理センターに9月6日に宅配便で送られてきた植物体は,明らかに冬を越しており,冬を経験していないものが「1年生株」,冬を経験したものが「2年生株」であるとするP5の定義によれば,これは「2年25生株」とされるべきものであるのもかかわらず,「1年生株」と呼称されている。他方,本件被疑種苗については,P6が,平成25年8月1日に本件料金所から領置された苗の写真を見て,「1冬超した,2年生株くらいで間違いない。」と思ったと証言しており,種苗管理センターにおいても,「2年生株」とされたものであるが,その作型や定植・挿し木の正確な時期は不明であり,トットリフジタ1号や鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生と「同一の栽培条件」であるかを検討しよ5うがない。(ウ) 本件比較栽培試験が,種苗管理センターが自ら定めた「比較栽培試験」方法に違反していること本件比較栽培試験では,種苗管理センター業務方法書(甲157)第7条の「栽培試験の実施に当たっては,農林水産省食料産業局長が定める一般審査基準及び種10類別審査基準に準拠するとともに,センターが植物の種類ごとに定める栽培特性調査マニュアルに基づき行うものとする。」とする規定に反し,「栽培特性調査マニュアル」は作成されていない。また,種苗管理センター育成者権侵害対策実施細則(甲157)の第2の2項には,「比較栽培試験」は,「品種登録に係る栽培試験と同一の方法」で行わなけれ15ばならないと書かれており,具体的には,「耕種概要」に書かれている方法によることになるにもかかわらず,本件では,「耕種概要」に記載された栽培方法と,種苗管理センターの「比較栽培試験」の栽培方法とは大きく異なっている。具体的には,「耕種概要」には,キリンソウの栽培条件について,「作型 雨除け無加温 鉢栽培,挿し木 春(4~5月),天挿し,無摘心,定植 6月下 520号鉢」とされているのに対し,本件比較栽培試験の栽培条件は,「作型 露地鉢栽培, 登録品種(鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生)・比較品種(本件被疑種苗)の定植 平成25年9月9日,標準品種の挿し木 平成25年9月18日」とされたものである。さらに,トットリフジタ1号の「特性」については,「特性審査基準(案)」(甲25146)に記載されているところ,階級値の記載はあるが,量的形質についての階級幅の記載はないことから,量的形質については,トットリフジタ1号の形質と比較のしようがない。また,本件比較栽培試験の判定に用いられた「キリンソウ階級値設定表(平成26年種苗管理センター本所)」(乙50p10)の階級値は,本比較栽培試験の測定値及び観測結果をもとに物差しを作ったもので,鑑定方法が杜撰である。5そもそも階級値設定表作成権限は農林水産省にあり,品種類似試験で種苗管理センターに階級値設定表作成権限はない。階級値設定表は品種類似性試験の結果を判断する「ものさし」であるのに,その物差しを試験結果データをもとに作ること自体が重大な論理矛盾である。また,「キリンソウ階級値設定表(平成26年種苗管理センター本所)」の下(乙1050p11)には,「階級値設定表は,標準品種が設定されている形質は標準品種を使用し,標準品種が設定されていない形質及び,今回試供していない標準品種が設定してある形質は登録品種の登録値を基に設定した」とあり,具体的には富山在来,佐渡在来のきりんそうが標準品種として指定されている形質では今回の試験で富山在来と佐渡在来のキリンソウを試供したものであるが,一部形質では登録品種15だけを基に階級値,階級値幅を決定している。本件審査基準で,標準品種は形質ごとに決められ,その階級値も決められているのに,大雪山,ヴァリエガーツム,新潟在来は供試すらされておらず,その点でも杜撰な鑑定方法である。(エ) 特性の比較a トットリフジタ1号と,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生及び20本件被疑種苗の特性が大きく異なっていること① トットリフジタ1号と本件被疑種苗(本件入口料金所から領置した株)の特性の差異(別紙「特性対比表1」)別紙「特性対比表1」のとおり,トットリフジタ1号と本件被疑種苗(入口)の特性には,以下のとおり8点の特性の差がある。(トットリフジタ1号の量的形質に25は測定値の記載がないため,階級差が1のものでも階級幅が1階級分以上かどうか判断できない。したがって,量的形質については階級差が2以上の場合を,「明確に区別される」程度の差異があるとした。)・ 「7 茎の長さⅠ」(量的形質) 階級差2・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)階級差2・ 「11 茎の色Ⅰ」(質的・疑似質的形質)階級差55・ 「14 葉形Ⅰ」(質的・疑似質的形質)階級差1・ 「24 葉のアントシアニンの着色部位」(質的・疑似質的形質)階級差1・ 「25 葉のアントシアニンの色」(質的形質・疑似の質的形質)登録時のトットリフジタ1号は階級値なし,「阪神高速道路三宅西出口料金所から領置した株」は階級値4,階級差は比較なし10・ 「40 花序の幅」(量的形質)階級差は3・ 「48 葯の色」(質的・疑似質的形質)階級差は2② トットリフジタ1号と本件被疑種苗(本件出口料金所から領置した株)の特性の差異(別紙「特性対比表2」)別紙「特性対比表2」のとおりトットリフジタ1号と本件被疑種苗(出口)の特15性には,以下のとおり10点の特性の差がある。(なお①と同様に量的形質については階級差が2以上の場合を,「明確に区別される」程度の差異があるとした。)・ 「3 株張り」(量的形質) 階級差は2・ 「7 茎の長さⅠ」(量的形質)階級差は2・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)階級差は220・ 「11 茎の色Ⅰ」(質的・疑似質的形質)階級差は5・ 「14 葉形Ⅰ」(質的・疑似質的形質)階級差は1・ 「24 葉のアントシアニンの着色部位」(質的・疑似質的形質)階級差1・ 「25 葉のアントシアニンの色」(質的形質・疑似の質的形質)登録時のトットリフジタ1号は階級値なし,「本件出口料金所から領25置した株」は階級値4,階級差は比較なし・ 「40 花序の幅」(量的形質)階級差は3・ 「45 花冠裂片の長さ」(量的形質)階級差は2・ 「48 葯の色」(質的・疑似質的形質)階級差は2③ 以上のとおり,トットリフジタ1号と本件被疑種苗(入口)及び(出口)とでは,特性に大きな差異があることから,トットリフジタ1号と本件被5疑種苗は,特性上,明確な区別性があり,「同一性」はないものというべきであり,トットリフジタ1号と本件被疑種苗が同一の植物体であることを前提とする被告の主張には理由がない。b トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生の特性の差異10① トットリフジタ1号と鑑定フジタ 1 年生の特性の差異(別紙「特性対比表3」)別紙「特性対比表3」のとおり,トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生の特性には,次の10点の特性の差がある。(前記と同様に量的形質については階級差が2以上の場合を,「明確に区別される」程度の差異があるとしている。)15・ 「7 茎の長さⅠ」(量的形質)階級差は3・ 「8 茎の長さⅡ」(量的形質)階級差は2・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)階級差は2・ 「11 茎の色Ⅰ」(質的形質・疑似の質的形質)階級差は5・ 「14 葉形Ⅰ」 階級差は120・ 「24 葉のアントシアニンの着色部位」(質的形質・疑似の質的形質)階級差は1・ 「25 葉のアントシアニンの着色部位」(質的形質・疑似の質的形質)「登録時トットリフジタ1号」は階級値なし,鑑定フジタ1年生は階級値4,階級差は比較なし25・ 「39 花序の長さ」(量的形質) 階級差は2・ 「45 花冠裂片の長さ」(量的形質) 階級差は2・ 「48 葯の色」(質的形質) 階級差は2② トットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性の差異(別紙「特性対比表4」)別紙「特性対比表4」のとおり,トットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性5には,次の9点の特性の差がある。(前記の同様に量的形質については階級差が2以上の場合を,「明確に区別される」程度の差異があるとしている。)・ 「7 茎の長さⅠ」(量的形質) 階級差は2・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質) 階級差は2・ 「11 茎の色Ⅰ」(質的形質・疑似の質的形質) 階級差は510・ 「14 葉形Ⅰ」(質的形質・疑似の質的形質) 階級差は1・ 「24 葉のアントシアニンの着色部位」(質的形質・疑似の質的形質)階級差は1・ 「25 葉のアントシアニンの色」(質的形質・疑似の質的形質)「登録時トットリフジタ1号」は階級値なし,鑑定フジタ2年生は階級15値7,階級差は比較なし・ 「40 花序の幅」(量的形質) 階級差は3・ 「45 花冠裂片の長さ」(量的形質) 階級差は2・ 「48 葯の色」(質的形質・疑似の質的形質) 階級差は2③ 以上のとおり,トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生及び鑑定20フジタ2年生とでは,特性に大きな差異があることから,トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生との間に同一性はない。(オ) トットリフジタ1号,鑑定フジタ1年生及び本件被疑種苗との区別性について本件比較栽培試験の問題点を措くとしても,鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗25との比較栽培試験の結果,両種苗には区別性があると判定されたものであるから,仮に本件比較栽培試験の結果が妥当であれば,トットリフジタ1号,鑑定フジタ1年生及び本件被疑種苗には明確区別性が認められることになる。(カ) 鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との区別性についてa 比較栽培試験の結果について種苗管理センターの比較栽培試験の結果では,鑑定フジタ1年生と本件被疑種5苗との間には区別性が認められたが,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との間には区別性が認められなかったとされている。この点,鑑定フジタ1年生とされているのは,種苗管理センターは比較栽培試験にあたって,本件被疑種苗の「齢」と同程度,すなわち「植苗後10か月程度」と判断したものであり,これについて,本件被疑種苗との区別性が認められると10されたにもかかわらず,種苗管理センターが本件被疑種苗と「齢」すなわち「定植時期」が異なっていると判断した鑑定フジタ2年生では「区別性」が認められなかったという結果は,「苗の齢がそろっていないと正確な結果が得られない」との種苗管理センター担当者の証言(乙71)からすれば,不可解な試験結果というほかない。15b 個別株の特性では「区別性」が認められること比較栽培試験において,階級幅の比較を「平均値(中間幅)」を用いて比較するという決まりなどはなく,個別苗において,以下のように多くの階級幅を超える「区別性」が認められている,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(出入口)に「区別性」がないとすることはできない。20① 鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(入口)の特性の差異(別紙「表5」)表5は鑑定フジタ2年生のそれぞれの形質の測定値(平均値)に対し1階級値を超える本件入口料金所から領置した株の株数を記載したものであるところ,以下のとおり4形質において特性に差がある株がある。25・ 「5 草丈Ⅱ」(量的形質)鑑定フジタ2年生の平均値5.8に対し本件被疑種苗(入口)は試験した20株の内5株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株を比較すると,その差は最大3階級値幅あった。・ 「8 茎の長さⅡ」(量的形質)鑑定フジタ2年生の平均値4.1に対し本件被疑種苗(入口)は試験した20株5の内4株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株を比較すると,その差は最大3階級値幅あった。・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)鑑定フジタ2年生の平均値3.5に対し本件被疑種苗(入口)は試験した20株の内4株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株を比較すると,10その差は最大3階級値幅あった。・ 「39 花序の長さ」(量的形質)鑑定フジタ2年生の平均値2.8に対し本件被疑種苗(入口)は試験した7株の内1株において1階級値を超える差があった。② 鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(出口)の特性の差異(別紙「表156」)表6は 鑑定フジタ2年生のそれぞれの形質の測定値(平均値)に対し1階級値を超える本件出口料金所から領置した株の株数を記載したものであり,以下のとおり6形質において特性に差がある株がある。・ 「3 草丈Ⅱ」(量的形質)20鑑定フジタ2年生の平均値37.7に対し本件被疑種苗(出口)は試験した5株の内3株において1階級値を超える差があった。・ 「5 株張り」(量的形質)鑑定フジタ2年生の平均値5.8に対し本件被疑種苗(出口)は試験した20株の内6株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株6株を比較す25ると,その差は最大3階級値幅あった。・ 「8 茎の長さⅡ」(量的形質)鑑定フジタ2年生の平均値4.1に対し本件被疑種苗(出口)は試験した20株の内3株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株3株を比較すると,その差は2階級値幅以上あった。・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)5鑑定フジタ2年生の平均値3.5に対し本件被疑種苗(出口)は試験した20株の内7株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株7株を比較すると,その差は3階級値幅以上あった。・ 「31 葉幅Ⅰ」(量的形質)鑑定フジタ2年生の平均値2.1に対し本件被疑種苗(出口)は試験した5株の10内1株において1階級値を超える差があった。・ 「38 葉の枚数Ⅱ」(量的形質)鑑定フジタ2年生の平均値28.3に対し本件被疑種苗(出口)は試験した20株の内2株において1階級値を超える差があった。③ 小括15以上のとおり,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(入口)では4形質で階級幅を超える特性の差があり,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(出口)では6形質で階級幅を超える特性の差があり,いずれについても「区別性」が認められる。イ DNA鑑定について(ア) P8教授のDNA鑑定によっては,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗20との同一性は証明されていない。「きりんそう」については,品種分析手法としての妥当性が確認されておらず,そもそも植物に関するDNA鑑定は,人間に対するDNA鑑定と異なり,裁判で証拠として用いられるレベルに達していない。(イ) 前記のとおり,現物主義からすれば,DNA鑑定も,登録されたトッ25トリフジタ1号と本件被疑種苗とのDNA鑑定が行われるべきことになる。しかし,P8教授のDNA鑑定は,P5がトットリフジタ1号であると主張する権利行使時の植物体と本件被疑種苗とのDNA鑑定しか行っていない。(ウ) DNA鑑定を行ったP8教授は,捜査機関やP4との癒着があり,その中立性に重大な疑問があるうえ,農林水産省が定めた「DNA品種識別技術の妥当性確認のためのガイドライン」に従って鑑定をしていない。5具体的には,ガイドラインには品種間の多型性が高く,識別しやすいマーカーであることが重要とされているが,P8教授はマーカーの独立性を確認していないことを自認しており,明らかにガイドラインに反している。また,P8教授は,特定非営利活動法人DNA鑑定学会(以下「DNA鑑定学会」という。)が定めたマーカー開発規則に反し,マーカーの再現性の確認も行っていない。他にも,分析する10植物の由来を正確に把握せず,サンプルの混同を避けるための適切な措置も講じないなど,鑑定手法として杜撰である。(エ) P8教授のDNA鑑定手法については,鑑定前に査読を経た論文発表がされていない。また,捜査段階での鑑定実施後,DNA鑑定学会の妥当性検証を受けたP8教授15のDNAマーカー開発マニュアルについて,同学会の妥当性検証報告書では,主観的な手法であり個々のデータに対する精度の議論が不可能な曖昧な手法であるとか,通常の品種識別マニュアルのレベルには至っていない,など,P8教授のDNA鑑定手法に対する否定的な評価がなされている。(オ) 捜査段階で行われたDNA鑑定に使われたDNAマーカーは10で20あるのに対し,DNA鑑定学会が妥当性検証を行ったDNAマーカーは20であり,マーカー数が異なっている。しかも,その20マーカーのうち,DNA鑑定学会が不適切とした2つのSTSマーカー(A-10,A-16)は,捜査段階のDNA鑑定で使われていたマーカーである。(カ) P8教授がDNA鑑定学会に提出した「バンドパターン判別表」にお25ける判断と,P8教授が鳥取警察からトットリフジタ1号とタケシマキリンソウ(1ないし8)とのDNA鑑定を嘱託されて鑑定した結果を記載した文書における判断には,次のとおり齟齬があり,信用できない。① タケシマキリンソウ1における判断の齟齬・マーカー251バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号とタケ5シマキリンソウ1はそれぞれ異なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号とタケシマキリンソウ1は全て同じと判断している。・マーカー263バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ1は異10なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ1は同じと判断している。・マーカー274バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ1は異なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソ15ウ1は同じと判断している。・マーカー332バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ1は異なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ1は同じと判断している。20② タケシマキリンソウ2における判断の齟齬・マーカー251バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号,トットリフジタ1号と「タケシマキリンソウ2は異なる,トットリフジタ2号とタケシマキリンソウ2は同じと判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号と25トットリフジタ2号とタケシマキリンソウ2は全て同じと判断している。・マーカー263バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ2は異なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ2は同じと判断している・マーカー2745バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ2は異なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ2は同じと判断している。③ タケシマキリンソウ3における判断の齟齬・マーカー25110バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ3は異なる,トットリフジタ2号とタケシマキリンソウ3は同じと判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号とタケシマキリンソウ3は全て同じと判断している。④ タケシマキリンソウ6ないし8における判断の齟齬15・マーカー251バンドパターン判別表では,トットリフジタ2号とタケシマキリンソウ7とタケシマキリンソウ8は全て同じと判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ2号とタケシマキリンソウ7とタケシマキリンソウ8は全て異なると判断している。20・マーカー274バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号とタケシマキリンソウ6ないし8は全て同じと判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号とは同じ,タケシマキリンソウ6ないし8は全て同じ,トットリフジタ1号及びトットリフジタ2号とタケシマキリンソウ6ない25し8は異なると判断している。・マーカー293バンドパターン判別表では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は同じと判断しているが,鑑定意見書では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は異なると判断している。・マーカー3325バンドパターン判別表では,タケシマキリンソウ7とタケシマキリンソウ8は同じ,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7及び8は異なると判断しているが,鑑定意見書では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は同じ,タケシマキリンソウ6及び7とタケシマキリンソウ8は異なると判断している。・マーカー36610バンドパターン判別表では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は同じ,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ6及び7は異なると判断しているが,鑑定意見書では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は異なる,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ7は同じと判断している。ウ 被告の主張について15(ア) 原告がP2のもとでタケシマキリンソウの増殖を開始したのは平成23年12月頃である。原告がP9からタケシマキリンソウを仕入れていたことにするため,P2に「タケシマ」,「株数」を書いたポストイットを手渡したことは事実である。しかし,これは,平成23年4月頃に,トットリフジタ1号が大量に枯れ,急遽苗を購入しなければならない事態となった際,やむを得ず,P4やP720の事前の了解なく増殖をし,後日同量分を購入する「後払い」方式を採ったものの,その後払いができていなかったことから,P9のP11からタケシマキリンソウを仕入れていたことにして辻褄を合わせるために行ったことである。(イ) 原告は,被告の育成者権を侵害した事実がなかったことから,P10の提案には応じていない。25(3) 争点3(被告の本件育成者権1に基づく請求は,本件品種登録1に無効・取消理由があることにより,権利濫用として許されないか)について(原告の主張)ア 原始的瑕疵1(育成者性の欠如)被告は,P5がトットリフジタ1号を「育成」(人為的変異又は自然的変異に係る特性(重要な形質に係る特性)を固定し又は検定すること)したとして品種登録5を受けているが,真実は,単に桐蔭横浜大学准教授(当時)のP12(以下「P12准教授」という。)から譲り受けたタケシマキリンソウをそのまま登録したにすぎない。トットリフジタ1号は公知の植物体であるタケシマキリンソウにすぎないのであるから,そもそも品種登録の要件を満たさないものであるが,仮に品種登録の要件10を満たすとしても,「育成者」と認定される可能性があるのはP12准教授である。したがって,本件品種登録1は「育成者」でない者が出願した冒認出願であり,無効又は取消事由がある。万が一,トットリフジタ1号が品種登録の要件を満たしたうえ,P5がその育成に何らかの寄与をしたとしても,P12准教授に無断で行った出願は共同出願違反15であるから,本件品種登録1は無効又は取消事由がある。イ 原始的瑕疵2(区別性の欠如)(予備的主張)トットリフジタ1号はP5がP12准教授から譲り受けたタケシマキリンソウなのであるから,その「タケシマキリンソウ」と明確区別性などない。このことは,次の事実から明らかである。20(ア) 一般社団法人日本食品分析センター(以下「日本食品分析センター」という。)によるDNA塩基配列解析試験の「試験報告書」(甲63)の鑑定結果は,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウが遺伝子のレベルで同一の品種であること,トットリフジタ1号がキリンソウとは別種であることを示している。また,P12准教授のタケシマキリンソウとトットリフジタ1号はP8教授のD25NA鑑定において一致しており(甲140,141),P8教授自身両者について「同一の植物,クローンだと思います」と述べている(甲102の2p91)。(イ) そもそもトットリフジタ1号はキリンソウ由来ではなく,タケシマキリンソウ由来であり,また,P12准教授は,P5に,同人が品種登録の申請を行う前にタケシマキリンソウを譲渡したものである。(ウ) トットリフジタ1号は,P11が保有していたイエリト社から購入し5たタケシマキリンソウとも明確区別性がない。このことは,①トットリフジタ1号と「タケシマキリンソウ」の区別はできない旨P11が述べていること(甲149),②P8教授のDNA鑑定の結果,トットリフジタ1号と一致したとされるP11・1ないし5(甲150)とP11・20ないし22(甲144)はイエリト社から購入したタケシマキリンソウであること(甲148)から明らかである。10(エ) トットリフジタ1号とタケシマキリンソウは,ともに多くの花を付ける特性を有するものであり,このことは,これらの品種登録願に添付された写真から明らかである。(オ) 種苗法68条は「詐欺の行為により品種登録を受けた者」に対する処罰を規定している。育成者権者が,トットリフジタ1号がP12准教授から譲り受15けたタケシマキリンソウであることを秘して,柏崎産のキリンソウ由来である旨を故意に申告し,又は育成者と認定されるべきP12准教授に無断で品種登録を受けたというのであれば,種苗法68条に該当する行為であり,許されるものではない。したがって,本件品種登録1は無効又は取消事由がある。ウ 原始的瑕疵3(未譲渡性(新規性)の欠如)20トットリフジタ1号はP5がP12准教授から譲り受けたタケシマキリンソウであるところ,P12准教授は,そのタケシマキリンソウをP5だけでなく緑化関係の企業数社に配った旨証言している。そして,仮にトットリフジタ1号が品種登録の要件を満たすとすれば,育成権者はP12准教授と認定されるべきであるところ,そのP12准教授が守秘義務を課25すことなく「業として」タケシマキリンソウを譲渡していたのであるから,当該品種登録は未譲渡性(新規性)の要件を満たさない。なお,P12准教授がタケシマキリンソウを「業として」譲渡していたという事実は,タケシマキリンソウが公知の植物体であったことを示す事実でもある。したがって,本件品種登録1は無効又は取消事由がある。エ 後発的瑕疵1(均一性,安定性の喪失)5登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生,登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の特性をそれぞれ比較すると,それぞれが特性において「明確に区別される」ことが明らかである。(ア) 登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生の特性の差異(別紙「特性対比表①」)10上記のとおり登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生の特性の差異は10点である。(イ) 登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性の差異(別紙「特性対比表②」)上記のとおり,登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性の差異は159点である。(ウ) 鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の特性の差異(別紙「特性対比表③」)別紙「特性対比表③」のとおり,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の特性の差異は,次の4点である。なお,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の量的形質20については,測定値が記載されているため,階級差が1のものでも階級幅が1以上かどうか判断できる。したがって,それら階級差が1で階級幅が1以上の量的形質も,「明確に区別される」程度の差異があるとして以下記載している。a 「7 茎の長さⅠ」(量的形質) 階級差は1b 「8 茎の長さⅡ」(量的形質) 階級差は125c 「39 花序の長さ」(量的形質)階級差は3d 「40 花序の幅」 階級差は2(エ) なお,登録時のトットリフジタ1号と登録時のトットリフジタ2号の特性の差異は,次の4点である。(別紙「特性対比表④」)a 「5 草丈Ⅱ」(量的形質)階級差は2b 「6 茎の伸長程度」(質的形質・疑似の質的形質)階級差は25c 「8 茎の長さⅡ」(量的形質)階級差は2d 「19 葉の鋸葉の形」(質的形質・疑似の質的形質)階級差は3(オ) まとめ以上からすると,登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生の特性の差異は,「明確に区別される」とされている登録時のトットリフ10ジタ1号と登録時のトットリフジタ2号の特性の差異よりも,数も多ければ階級差も大きいものもある。そして,登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性の差は前記のとおりであり,鑑定フジタ2年生は平成23年8月頃に挿し木をした株であることからすると,遅くとも平成23年8月頃までには,登録時のトットリフジタ1号と区15別性を有し,種苗法3条1項3号(安定性)の登録要件を欠くに至っていたというべきである。そして,この事実は,平成23年8月の状況として,同一の繁殖の段階にある個体数に対し,相当に高い割合で異型個体(トットリフジタ1号と区別性が認められる個体)が存在し,トットリフジタ1号が均一性を欠いていたことを強く示唆して20いる。また,鑑定フジタ1年生と登録時のトットリフジタ1号の特性の差異は前記のとおりであり,挿し木をしてから1年程度経過した株と考えられる鑑定フジタ1年生は,鳥取警察署への提出日が平成25年9月5日であることからすると,平成24年8月頃に挿し木をした株ということになるから,遅くとも平成24年8月頃まで25には,登録時のトットリフジタ1号とは区別性があり,種苗法3条1項3号(安定性)の登録要件を欠くに至っていたというべきであり,いずれにしても後発的取消事由(同法49条1項2号)を有することが明らかとなっている。そして,前記同様に,この事実は,平成24年8月の状況として,トットリフジタ1号が均一性を欠いていたことを強く示唆している。さらに,鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生の特性も,「明確に区別される」5程度に異なっていることから,トットリフジタ1号は,遅くとも平成24年8月頃には均一性・安定性の要件を充たしておらず,トットリフジタ1号の登録は取消事由があることが明白である。オ 後発的瑕疵2(均一性の喪失)本件比較栽培試験に用いられた鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生は,個別の10株ごとに見ると,形質ごとの平均値から1階級値以上異なった物も多くある。したがって,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生は,個別の株ごとでは「明確に区別される」と判断されることとなり,均一性の要件に欠ける。すなわち,別紙⑤,別紙⑥から明らかなとおり,形質№5「草丈Ⅱ」は①鑑定フジタ1年生においては20株中10株が平均値から1階級値以上離れており,②鑑15定フジタ2年生においては20株中7株が平均値から1階級値以上離れている。また,形質№10「茎の太さⅡ」は①鑑定フジタ1年生においては20株中4株が平均値から1階級値以上離れており,②鑑定フジタ2年生においては20株中4株が平均値から1階級値以上離れている。したがって,本件品種登録1は取消事由があることが明白である。20カ 被告の主張について(ア) 特許法104条の4で特許侵害訴訟において主張が制限されるのは「当該特許を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決」が確定した時であり,行政手続において取り消さない(無効でない)という判断がされたときは,主張は制限されない。また,特許無効審判においても,一度確定した審判につき「当25事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいて」(特許法167条)再度審判を求めることはできないとされている。しかし,原告の申立てにかかる異議決定(甲14)では,「品種登録制度における登録の単位は『種』よりも小さい集団である『品種』であり,・・・異議申立人が添付している証拠は,いずれもタケシマキリンソウの『種』に関する記述にとどまり,タケシマキリンソウ種に属する特定の『品種』が公然知られていたことを示すものではない。」(4p)という理5由によって申立てが棄却されているのであるから,抽象的な主張であったことが問題とされたもので,実質的に具体的な判断がなされたものではない。また,P10の異議申立て及びP13の異議申立て並びにこれらに対する取消請求訴訟の存在は,そもそも本件訴訟の当事者ではない者の手続であるから,特許法104条の3の趣旨を勘案しても主張が排斥される根拠とはなり得ないものである。加えて,本件に10おいては行政手続に提出されていない事実,証拠に基づいて種苗登録の無効又は取消事由を主張しているのであるから,被告の主張には理由がない。また,異議申立棄却決定に対する取消訴訟において判断されたのは,主として行政事件訴訟法上の論点であり,トットリフジタ1号の無効ないし取消原因の有無については判断されていない。15(イ) トットリフジタ1号は,量的形質に関し,鑑定フジタ2年生とは4項目,鑑定フジタ1年生とは5項目もの相違が確認されているところ,これは被告のいうような生育環境の違いでは説明のつかない程度の差異である。また,トットリフジタ1号は,鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生と,生育環境の影響を受けにくい質的形質及び疑似の質的形質においても明らかに相違しており,これも,被20告のいうような栽培地や栽培年の違いでは説明がつかないものである。(ウ) 農水省登録出願審査要綱の「第5 安定性の判定に関する基準」では,「2 安定性は出願品種について・・・全ての繁殖の段階の個体」で「安定性」が必要とされ,また,種苗法第3条1項3では,「繰返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないこと」とされており,繁殖の段階の規定はない。すなわち,25仮に「1年生株」と「2年生株」があるとしても,「1年生株」も「2年生株」もその特性が「同じでなければならず」,「1冬越したものと2冬越したもの」の特性が違っていてよいことにはならない。(被告の主張)ア 原始的瑕疵1(育成者性の欠如)の主張についてP5がトットリフジタ1号の育成を開始したのは平成10年4月であるのに対し,5P12准教授がP5にタケシマキリンソウを譲渡したのは平成12年である(乙74の4p及び14p)から,トットリフジタ1号を育成した者がP12准教授であるとは認められず,P5の育成に関与(共同育成者)したとも認められない。イ 原始的瑕疵2(区別性の欠如)の主張について(ア) 複数の異議申立ての事実と原告の異議申立て10トットリフジタ1号については,農林水産省に対して次のとおり主張する異議申立てがなされている。① 原告(甲14)トットリフジタ1号は公然知られた品種であるタケシマキリンソウと明確に区別されず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである。15② P10(甲15)トットリフジタ1号及び2号は公然知られた品種であるタケシマキリンソウと明確に区別されず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである。③ P13(乙82及び乙83)別種を親と偽った登録申請である。20トットリフジタ1号及び2号は公然知られた品種であるタケシマキリンソウと明確に区別されず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである。そして,これらの異議申立ては全て棄却(甲14及び甲15)又は却下(乙83)されており,②の異議棄却決定に対しては取消訴訟が提起されたが,P10の請求棄却判決が確定している(乙80及び乙81)。特に重要な事実は,原告自身が「ト25ットリフジタ1号は公然知られた品種であるタケシマキリンソウと明確に区別されず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである」との異議申立てを行い,これが棄却されている事実である(甲14)。種苗法そのものには準用はないが,登録要件を欠く育成者権の行使が権利の濫用であると解釈されることからすれば(知財高判平成18年12月21日平成18年(ネ)第10059号[エリンギ事件高裁判決]),行政手続において一旦争い確定した事実を,再度主張すること5は,特許法104条の3の趣旨からして,「特許無効審判により・・・無効にされるべきものと」認められないことから,事実上排斥されるべきこととなる。また,訴訟法的にも異議申立ての蒸し返しであり,特許法104条の3第2項の趣旨からも,そもそも当該主張自体許されないものと解される。よって,原告主張の無効又は取消事由のうち,「トットリフジタ1号は公然知ら10れた品種であるタケシマキリンソウと明確に区別されず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである。」との主張は,そもそも主張自体失当である。(イ) 特性が異なることタケシマキリンソウは花が沢山咲くのに対し,トットリフジタ1号は花があまり咲かない(乙43P10供述調書 3p)。また,甲79に記載のとおり,これら15は葉形,葉長等も異なるものである。また,トットリフジタ1号が他の品種と区別性が認められた特徴部分は「『新潟在来』及び『佐渡在来』と比較して,冬季の茎の伸長程度が強く,萌芽が早いこと等」である(甲92の2「(4)区別性について」,甲92の4)ところ,登録時のトットリフジタ1号,鑑定フジタ2年生及び鑑定フジタ1年生は,いずれも冬季20の茎の伸長程度(番号6)は「強」とされている(乙50,乙51,甲100の1及び甲100の2)。これに対し,タケシマキリンソウは,冬季(12月ないし1月)において,ほとんど茎の伸長が認められない。以上のとおり,少なくとも,①花の咲く数,②冬の茎の伸長程度の2点において,25トットリフジタ1号とタケシマキリンソウとは明確に異なることから,両品種の間に明確区別性が認められることは明らかである。(ウ) DNAが異なること原告は,トットリフジタ1号とキリンソウのDNAが異ならないことを理由に,新潟県柏崎産のキリンソウが母親であるとする被告の主張は虚偽であるとして,P5が育成者であることを否定する。5しかし,原告の根拠とするDNA分析結果は,日本食品分析センターの鑑定結果にすぎない。そもそも,現在国として植物のDNA分析技術が開発され,又は開発中のものは稲などにとどまり,キリンソウは含まれていない。すなわち,キリンソウ自体のDNA分析技術は開発されていないものであるから,原告のいうDNA分析結果は信用性がない。10(エ) P12准教授及びP11のタケシマキリンソウとトットリフジタ1号とがP8教授のDNA鑑定において一致したとの主張についてP12准教授もP11もトットリフジタ1号をタケシマキリンソウとあわせて育成していたことから,DNA鑑定(甲140,甲144)においてトットリフジタ1号とDNA情報が同一であるとされたキリンソウは,いずれもトットリフジタ115号であると認められる。また,DNA鑑定(甲140,甲144)に供された「タケシマキリンソウ平成11年鉾葉」は,真実は平成25年頃にP12准教授が入手したものであることから,当該「タケシマキリンソウ平成11年鉾葉」が「トットリフジタ1号」との間でDNA鑑定によれば同一品種と認められるとしても,トットリフジタ1号の品種20登録出願日後の品種と一致しているにすぎず,区別性欠如の理由として失当である。トットリフジタ1号と混入可能性のない場所で育成されたタケシマキリンソウは,いずれもトットリフジタ1号とはDNA情報が異なるとの鑑定結果が出ている。そもそも,DNA鑑定の結果は間接証拠にすぎず,原告自身もその妥当性,信用性を否定している。25区別性有無の判断において最も重要なのは比較栽培試験であるにもかかわらず,本件では,タケシマキリンソウとトットリフジタ1号との比較栽培試験が行われていない。ウ 原始的瑕疵3(未譲渡性(新規性)欠如)の主張についてタケシマキリンソウは出願品種であるトットリフジタ1号とは区別される異なる品種であることから,原告の主張は前提において失当である。5加えて,P12准教授がトットリフジタ1号の出願日(平成16年2月10日)前にタケシマキリンソウを第三者に譲渡したことは認めるが,当該譲渡が「業として」なされたことは否認する。エ 後発的瑕疵1(均一性,安定性の喪失)の主張について(ア) 栽培条件の相違について10植物体の生育には,土壌,気温(寒暖差含む),湿度,日照,通風等,種々の条件が影響する。したがって,栽培条件が異なる植物体を比較しても,均一性や安定性の有無を判断することはできないから,登録時のトットリフジタ1号と,異なる栽培条件における鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生との均一性・安定姓の喪失を主張する原告の主張は,前提において理由がない。15すなわち,登録時のトットリフジタ1号は平成19年1月12日の鳥取県岩美郡<以下略>における特性を調査したものである(甲92の2ないし4)。これに対し,鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生は,いずれも平成26年1月ないし8月における,茨城県つくば市<以下略>における特性を調査したものである(乙50及び乙51)。このように場所も時期も異なることからすれば,その20土壌,気温,日照時間,通風等全て異なるのであり,登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生の栽培条件が異なるものであることは自明であり,異なる栽培条件であることを無視した原告の主張は理由がない。原告は,質的形質及び疑似の質的形質は生育環境の影響を受けにくいと主張するが,「11 茎の色」,「24 葉のアントシアニンの着色部位」は日照条件の影25響を少なからず受けるのであり,「14 葉形」,「48 葯の色」も連続して変異するものであるから,栽培条件で説明がつかないものではない。(イ) 原告の主張に理由がないことは,均一性(種苗法3条1項2号)の要件が,「同一の繁殖の段階(同一世代)に属する植物体の全てが特性の全部において十分に類似していること」と,同一世代であることを要求していることから自明である。5すなわち,均一性の要件は「同一の繁殖の段階」の比較が必要であり,齢の異なる植物体を比較することに意味はない。オ 後発的瑕疵2(均一性の喪失)の主張について上記なめこ事件知財高裁判決が判示するとおり「特性差が上記の範囲内にとどまらないとしても,相違する項目やその程度,植物体の種類,性質等を総合的に考慮10して,『登録品種と特性により明確に区別されない品種』への該当性を肯定することができる場合もある」のである。そして,トットリフジタ1号が他の品種と区別性が認められた特徴部分は「『新潟在来』及び『佐渡在来』と比較して,冬季の茎の伸長程度が強く,萌芽が早いこと等」である(甲92の2「(4)区別性について」,甲92の4)。15この点,登録時のトットリフジタ1号,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生は,いずれも冬季の茎の伸長程度(番号6)は「強」とされている(乙50,乙51,甲100の1及び甲100の2)。よって,それ以外の特性において差異が生じていることを理由に均一性の欠如をいう原告の主張には理由がない。20(4) 争点4(消尽の成否)について(原告の主張)原告製品3には,被告から許諾を受けたフジタが生産しP7を介して原告に販売したトットリフジタ1号が使用されていた(甲28,甲38,甲39)。種苗法21条4項は,「専用利用権者若しくは通常利用権者の行為により登録品25種等の種苗,収穫物又は加工品が譲渡されたときは,当該登録品種の育成者権の効力は,その譲渡された種苗,収穫物又は加工品の利用には及ばない」と規定されている。よって,原告製品3については,最初の譲渡の時点で被告の育成者権は消尽しており,その効力は「その譲渡された種苗,収穫物又は加工品の利用」には及ばない。5また,原告製品3に使用されていたメキシコマンネングサが,トットリフジタ1号と特性により明確に区別されることは既に説明した。したがって,原告が原告製品3を販売する行為について,被告の本件育成者権1侵害に基づく損害賠償請求権は存在しない。(被告の主張)10原告は,被告に無断でトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号の種苗を増殖しているものであるから(種苗法21条4項但書き),最初の譲渡の時点で被告の育成者権は消尽しているとの主張は失当である。第3 当裁判所の判断 1 争点1(確認の利益の有無)について15(1) 確認の利益が認められるためには,原告の権利又は法律的地位に危険・不安が現存し,かつ,その危険・不安を除去する方法として原告被告間に当該請求について確認判決をすることが有効適切であることが必要である。ところで,本件では,争点1に関する当事者の主張のとおり,本件種苗1及び2であるタケシマキリンソウがトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号と特性に20より明確に区別される別品種であることは当事者間に争いがなく,そのため,被告は,原告が同種苗を生産等する行為やそれを使用した原告製品1及び2を販売する行為について,被告が本件育成者権に基づく差止請求権を有しないことを争っていない。そこで,原告の請求第1項及び第2項に係る差止請求権不存在確認の訴えについて,確認の利益が認められるかが問題となる。25(2) 証拠及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。ア P14は,平成26年10月7時点のウェブページにおいて,「植物における登録品種は財産です!」との表題の文書を掲載していた(甲37)。そこでは,「屋上緑化や壁面緑化で使用されている常緑キリンソウ(トットリフジタ1号(登録番号15866号))は,種苗法で保護された植物です。」,「常緑キリンソウの正規品の利用に当たりましては,常緑キリンソウ普及協会において物件登録5…を行い管理しております。購入に当たりましては,正規品・正規取扱店をご利用下さい。」と記載し,正規取扱店として,P15,P16,P14を記載していた。なお,P15は,P4と本店所在地及び代表者を共通にする会社である(甲36)。イ 被告の代理人弁護士は,原告に対し,同年11月11日付けの通知書において,「貴社は,通知人に無断で,トットリフジタ1号,トットリフジタ2号を10業として生産,販売しており,通知人の育成者権を侵害するものと思料されます。」として,その生産販売等の中止を求めた(甲45)。ウ 常緑キリンソウ普及協会は,平成27年1月26日以降,「建築士事務所各位様」宛てに,「常緑キリンソウ増殖品にご注意ください」とのタイトルの下に,「最近「常緑キリンソウ」(トットリフジタ1号:品種登録番号15866号)15を違法に増殖したもの(種苗法違反)が出回っていることが確認されています。「常緑キリンソウ」をご使用の際は,正規の販売代理店でお買い求めいただきますようお願い申し上げます。」,「*種苗法の適用範囲は工事を行った業者も流通業者も適用範囲となります。」,「逮捕者 罪名 種苗法違反 会社名ブルージー・プロ株式会社 役員 P17」などと記載し,原告代表者が逮捕されたことを報じる読20売新聞の記事を添付した書面を建築士らに配布したが,同書面では,常緑キリンソウ普及協会の構成員として,P14とP15が記されていた(甲87)。エ P16は,平成27年7月7日,原告の取引関係者に対し,「鳥取地方裁判所にて,常緑キリンソウを無断名で増殖した農業経営者P2の判決がありました。…よって主犯格のP17社長もこれで有罪が確定しました。もし御社でブルー25ジー・プロの取引(施工)がされているところがあればお知らせ願います。このまま,対処しないで放置しておきますと,施主様にご迷惑をおかけすることになります。」などと記載した電子メールを送付した(甲88)。オ P14の平成27年11月2日時点のウェブページには,「常緑キリンソウに関する重要なお知らせ 常緑キリンソウ違法増殖販売者に種苗法違反との有罪判決」と題し,「常緑キリンソウ「トットリフジタ1号」を違法増殖販売してい5た容疑(種苗法違反)で,2015年1月25日に逮捕された緑化事業会社が,同年2月15日に起訴されました。同年5月25日,植物を生産していた農場経営者は罪を認め,検察が求刑し,同年7月6日,種苗法違反の罪で1年2か月執行猶予3年の有罪判決が下されました。」と記載する記事が掲載されている。同記事の中では,「常緑キリンソウを購入する際には,必ず下記の点を確認しましょう。1 常10緑キリンソウの正規品・正規品取扱店なのか確認しましょう。2 常緑キリンソウ(トットリフジタ1号)と違う場合には,必ず使用されている品種を確認しましょう。…4 トットリフジタ1号との明確な特性の違いがあるかを確認しましょう。」,「落葉のキリンソウは何ら問題はありませんが,常緑キリンソウと認められている物はトットリフジタ1号及び2号のみです」,「常緑キリンソウとしてトットリフ15ジタ1号及び2号と名前が違う形で販売されている物には,特に注意が必要です。」などと記載されている(甲89)。(3) 前提事実のとおり,平成26年4月発行の原告の屋上緑化総合カタログでは,原告が販売している「みずいらず」及び「みずいらずスーパー」にはタケシマキリンソウを使用している旨が記載されているところ,後記争点2に関する判断の20とおり,原告は,平成24年2月頃以降,商品に用いるきりんそうをトットリフジタ1号からタケシマキリンソウに切り換えるべく,P2にアルペンガーデンやまくさ(以下「やまくさ」という。)等から購入したタケシマキリンソウを栽培させるようになり,同年10月の営業会議ではタケシマキリンソウを本格採用する方針とし(甲140),平成25年5月にはトットリフジタ1号の在庫を処分し(乙25,25乙46),同年4月19日以降はP11がドイツのイエリト社から購入して生産したタケシマキリンソウの出荷を受けるようになったこと(乙41及び42)からすると,少なくとも平成26年5月以降の「みずいらず」及び「みずいらずスーパー」には,本件種苗1及び2のタケシマキリンソウを使用していると認めるのが相当であり,同時期以降のそれら商品は,それぞれ原告製品1及び原告製品2であると認めるのが相当である。5そして,前提事実のとおり,原告は,原告製品1及び原告製品2を「常緑キリンソウ」を使用するものと宣伝しているところ,「常緑キリンソウ」とは冬期も枯れない常緑性のキリンソウという程度の意味と解され,タケシマキリンソウが文献において,着葉状態で越冬する「常緑系キリンソウ」として紹介されていること(甲55)からすると,原告がタケシマキリンソウを「常緑キリンソウ」と呼んで販売10することは不合理なことではないこれに対し,上記認定のとおり,常緑キリンソウ普及協会が配布した書面((2)ウ)では,「最近『常緑キリンソウ』(トットリフジタ1号:品種登録番号15866号)を違法に増殖したもの(種苗法違反)が出回っていることが確認されています。」として,トットリフジタ1号を明記する文脈もあるものの,「『常緑キリ15ンソウ』をご使用の際は,正規の販売代理店でお買い求めいただきますようお願い申し上げます。」とも記載していることからすると,「常緑キリンソウ」という名前の種苗の正規品はトットリフジタ1号しかないとの認識を配布を受けた者に生じさせるおそれがある。また,同じく常緑キリンソウ普及協会の構成員であるP14が原告の取引関係者20に送付したメール((2)エ)にも,「常緑キリンソウ」を無断で増殖したことにより原告代表者らが有罪となった旨や,原告の取引をしているところがあれば知らせるよう願う旨が記載されており,これらを見た者は,原告による「常緑キリンソウ」の販売行為全般が種苗法違反となるものと理解するおそれがあるというべきである。さらに,P14は,ウェブページ((2)オ)において,「常緑キリンソウと認められ25ている物は,『トットリフジタ1号及び2号』のみです。」とまで記載しており,これは,原告による「常緑キリンソウ」の販売行為全般が種苗法違反となるものと理解させるに足りる記載であるといえる。これらからすると,本件においては,原告の取引関係者等が,「常緑キリンソウ」であるタケシマキリンソウを使用した原告製品1及び原告製品2が,被告の本件育成者権を侵害する侵害品であると考え,その購入を躊躇しかねない状況が生じてい5るといえ,原告の権利又は法律的地位に不安が存するというべきである。そして,常緑キリンソウ普及協会には,被告の夫のP5が代表取締役を務めるP15が構成員となっているほか,P14も常緑キリンソウ普及協会の構成員で,トットリフジタ1号の正規販売店であることからすると,常緑キリンソウ普及協会及びP14のウェブサイトや書面の記載には,被告及びP4の意向が相当程度反映し10ていると推認され,現に被告は,原告に対し,原告が生産販売しているものがトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号であるとの認識の下に通知書を送付しているから,原告の権利又は法律的地位に生じた不安を除去する方法としては,トットリフジタ1号及びトットリフジタ2号の育成者権者である被告との間で,タケシマキリンソウの生産等,並びにタケシマキリンソウを用いた原告製品1及び原告製品152の販売につき,被告が本件育成者権に基づく差止請求権を有しないことにつき,判決をすることが有効適切であるというべきである。したがって,請求第1項及び第2項に係る訴えについては確認の利益が認められ,被告がそれらの請求に係る差止請求権を有しないことは当事者間に争いがないから,原告の同請求は理由がある。20 2 争点2(本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に区別されない品種か)について(1) 本件被疑種苗の株分けの経緯についてア 前提事実に加え,証拠によれば,次の事実が認められる。(ア) 原告は,平成20年6月23日と平成21年4月16日にP4及びP257と覚書(甲38及び39)を作成して,トットリフジタ1号を正規購入し,P2らに商品化のための栽培をさせていた。同覚書では,施工現場にて生育したきりんそうをカットした補植のみ認めるが,増殖は行わない旨が定められていた。原告は,「みずいらず」等の商品を50cm×50cm のトレイで出荷しており,春は2月後半から7月にトレイを作り,秋は9月から11月にトレイを作り,商品とするにはトレイの被覆率が60%以上を目標とし(乙13p1),P2は50%を5目安としていた(乙23p2。なお,乙17添付資料の請求書の被覆率欄を見ると,平成23年頃以降は被覆率が50%以上とされている。)。P2は,毎月末日締めで,当該月の生産量・出荷量や当該月末時点での在庫量等を記載した育苗状況報告書と請求書を作成して,原告に送付していた(甲117など。それらをまとめたものが乙46,乙84別表である。)。10原告代表者は,1か月に1回程度,P2の農場を訪れていた(乙108の2p53)。(イ) 原告は,平成23年5月15日,P2に対し,ファックスを送信した(乙14添付資料2)。そこでは,「常緑キリンソウの切り株→根付化を11200株お願いします。」,「なお,産地で根付化した植え付けは後日購入します。覚15書に違反し増殖するものではありません。誤解のないようにお願いします。」と記載されていた。そこで,P2は,この頃から,P4から送付を受けずに,栽培するトットリフジタ1号からカット苗を切り出して,トレイを作るようになった(乙78p5,甲108の1p127)。20(ウ) 平成23年11月2日,P4からP2に対し,カット苗1万本が送付されたが,これが正規品の最後の納品となった(甲120)。(エ) 原告代表者は,平成22年から平成23年頃に,造園業を営むP10から,常緑性のキリンソウとしてタケシマキリンソウを紹介されていたことから(乙16及び43),平成23年11月にグリーンマーケットからタケシマキリンソウ25を6株と5株の合計11株購入し,うち後者の5株については原告の仕入先であるP9のP11に直送した。また,原告代表者は,同年12月にやまくさからタケシマキリンソウ4株を購入し,それらをP2に直送し,増殖するよう指示した。(以上,乙16及びその添付資料)なお,原告代表者は,本件刑事事件の公判段階において,これ以外にP10とグリーンマーケットから入手して増殖した50株を平成24年1月頃にP2に渡した5と述べ(甲108の2p23ないし26),P2も,本件刑事事件の捜査段階の供述において,原告代表者が30ないし40ポットのタケシマキリンソウを持ってきたと述べている(乙23p4)ことからすると,原告代表者が自分で増殖したタケシマキリンソウ数十株程度をP2に渡したことは認められる。しかし,P10は,平成23年11月頃までの間に原告にサンプルを渡したことはないと述べており10(乙43),原告代表者も,本件刑事事件の捜査段階では,P10からタケシマキリンソウの紹介を受けたときにサンプルはもらっていないと述べ(乙16p2),それ以外でもP10からタケシマキリンソウをもらったとは供述していない。確かに,P10の平成25年2月5日のメール(乙43資料4)には,「P17社長からキリンソウ類のサンプルを求められ,お送りしました。」との記載があるが,P1510は,そこで送付したのはタケシマキリンソウではなくエゾノキリンソウ種のオオミエゾ3号のサンプルであると述べており(乙43p12),上記のメール中でも,「タケシマキリンソウ」と「キリンソウ類」を書き分けているから,P10の上記供述は信用できる。また,P10は,平成24年1月16日に原告代表者に送ったメールの中で,「手直しに使いたいとのことでお譲りしたタケシマキリンソウ20やその他のキリンソウの苗が少量ですが同業者に渡ってしまっていたようです。」とも記載しているが,文脈からして,これが原告代表者にタケシマキリンソウを譲ったとの趣旨とは認められない。以上からすると,原告代表者の上記公判段階の供述のうち,P10が原告代表者にタケシマキリンソウのサンプルを渡したとの部分は採用できないから,原告代表者が増殖してP2に渡した上記のタケシマキリンソ25ウ数十株はグリーンマーケットから入手したものと認めるのが相当である。(オ) P2は,原告代表者の指示を受け,平成24年2月頃からタケシマキリンソウの増殖を開始した(甲115,乙17p1,乙27p4,乙78p32)。また,同月10日の原告の営業会議において,「現在,タケシマキリンソウの使用を検討しています。てまいらず,みずいらずにどのように使用していくかは,検討中です。」との報告がされた(甲140)。なお,P2は,本件刑事事件の公判段5階においては,平成23年11月頃からタケシマキリンソウの生産を開始したとも供述している(乙78p7)が,そのもとになったのはやまくさから送られてきた苗だとも供述していることや,捜査段階では一貫して生産の開始は平成24年2月からであると述べていること,上記の社内会議での報告時期からすると,P2の上記供述は採用できない。10タケシマキリンソウのカット苗は,冬場でもハウスの中であれば1か月程度で根付くものであり(乙78p82),根付けばそこから1本のカット苗が採れる(同p84)。また,タケシマキリンソウは,冬場の12月から3月までは成長しないが,春(4月から6月頃)になると成長が早まる(同p84,87)。タケシマキリンソウのカット苗を挿し木してから,被覆率が50%になるまでには5か月から156か月を要する(乙23p3,乙78p9)。十分に成長したタケシマキリンソウについては,1株から10ないし15株程度のカット苗を採ることができる(乙78p88)。(カ) 平成24年春頃,P2は,P3を含む下請け農家に対し,タケシマキリンソウのポット苗を10株ほど渡した(乙23p5)。この際,P2はP3に対20し,少しでも多くタケシマキリンソウから商品を作るように指示した(乙23p5)。また,平成24年6月頃には,P2の農場にタケシマキリンソウが200ないし300トレイ分(800ないし1200株程度。乙23p2)又は,400ないし500トレイ分(1600ないし2000株程度。甲115p3,乙78p88)あった。なお,この時点でこれだけのタケシマキリンソウが存在したことの直接の25裏付けはないが,上記の趣旨はP2が本件刑事事件の捜査段階において既に述べていることや,同月の時点でタケシマキリンソウのトレイの作成を既に行っていたことは次のアルバイトの記録から認めることができるから,上記のとおり認めるのが相当である。(キ) P2は,平成24年6月24日に息子のアルバイトにより,タケシマキリンソウ16トレイを作った(甲115添付資料2,116)。5また,P2の妻が作成していた「24年株分出荷」と題するファイル(甲116)の「アルバイト」の項には,P2の息子らが,①平成24年5月に「キリンカット苗」を合計1万5300本作成したこと,②同年6月24日に「キリンカット苗」を合計2万6850本作成するとともに,上記のとおり「タケシマ」を16トレイ作成したこと,③同年9月3日と5日に「キリンカット」を2万本,同月17日に10「キリンカット」を2万97本作成したことが記載されており,それらの「キリンカット(苗)」分については,各該当月の育苗状況報告書(乙22添付資料)の出荷数欄において「キリンカット苗」として記載されている。このようにタケシマキリンソウのトレイは,順次作られていったが,P2が原告に毎月提出する育苗状況報告書には記載されなかった(乙23p3ないし4)。15(ク) 他方,平成24年2月以降も,それ以前に正規に購入したトットリフジタ1号を栽培した残りの532トレイ(これはP2の農園にあり,製品としては売れ残り,カット苗を作るための元苗として使用していた。乙25p5)や,違法に増殖したトットリフジタ1号があった(甲22添付資料,乙46)。(ケ) 平成24年8月9日,原告の従業員が原告代表者に対し,「原価計算20表が2通りあります。どちらが正しいですか? みずいらずの値段が違います。」とのメールを送ったのに対し,原告代表者は,同日,「9月以降 常緑キリンソウP4仕入れ→タケシマキリンソウ(アワジ,P9で生産)のため変えています。」との返信メールを送信した(甲112添付資料)。(コ) P2は,原告代表者から,「みずいらず」を5000トレイ準備する25ように指示を受け,平成24年8月28日,自らの農場にあった苗からカット苗2万株を採り(以下「本件株分け」という。),下請農家のP3に対してはそのうち2000トレイ分(8000株)の苗及びトレイを交付した。このことは,同年9月の育苗状況報告書に「カット キリン苗9月みずいらず植えに使用5000トレイ分」として記載され,同月の請求書には「(品種)キリンカット苗」,「(数量)20000」,「(単価)10」,「(備考)みずいらず植えに使用5000トレイ」5と記載された。(以上,乙28及びその添付資料)この請求書に対し,原告代表者は,平成24年9月19日,P2にファックスを送信した(甲115添付資料)。そこでは,上記の2万株分を含めた元苗代について,出荷時の精算で支払うようにすることを求め,具体的には,「みずいらず」については,元苗代が「常緑キリンソウ」単価10円・4株で40円を前提にメキシ10コマンネングサと併せて1トレイ55円とし,それを育苗代1トレイ250円に加算して1トレイ305円を出荷時に請求するよう求めた。これを受けて,P2は,従来の例えば平成24年6月の請求書(甲17添付資料)では,新たに作成した「キリンカット苗」として単価10円を請求し,「みずいらず」については1トレイ250円を請求していたのを,同年10月以降の請求書で15は,「みずいらず」について1トレイ305円を請求するようになった(甲17添付資料)。(サ) 原告代表者は,平成24年10月12日の営業会議において,「『タケシマキリンソウ』を本格採用しますが,社外には絶対に口外しないようにお願いします。」と報告した(甲140)。20(シ) P2が作成した平成24年10月の育苗状況報告書及び請求書では,上記(コ)で作成した「みずいらず」5000トレイのうち468トレイは,同月19日から20日に,平成23年秋作成の「みずいらず」1527トレイと共に,被覆率50%以上として,姫路庁舎向けに出荷され,その残が4532トレイとなり,このほかに,平成23年秋株分けの「みずいらずスーパー」の残が991トレイあ25った。他方,翌11月の育苗状況報告書では,上記(コ)で作成した「みずいらず」の残トレイが5523トレイ(991トレイ増)となった反面,上記平成23年秋作成の「みずいらずスーパー」の残トレイが0トレイとなり,そうでありながら同月の「みずいらずスーパー」の出荷は報告されていない。(以上,乙17添付資料)。ここでの「みずいらずスーパー」は,トレイ作成の時期から見てトットリフジタ51号であると認められるところ,上記の推移からすると,この「みずいらずスーパー」991トレイは,上記の「みずいらず」に流用されたと認められる。(ス) P3は,上記(コ)でP2から渡された2000トレイ(8000株)を栽培し,平成25年2月6日,本件料金所用に453トレイ(原告製品3)を出荷した(乙23及びその添付資料)。10(セ) P2は,平成25年4月23日,P6と共にP2の農場を訪れたP14の代表者らに対して,P2の農場に,違法に増殖させたトットリフジタ1号の苗があることをほのめかし,それをタケシマキリンソウとして販売していることを認める供述をし,P6はその様子をビデオに撮影した(乙2の1)。このため,P6は,同月26日,原告代表者に対し,撮影したビデオを送付して,種苗法違反を指15摘した(乙34添付資料)。そこで,原告代表者は,同月頃,P2に対し,平成24年2月から6月にかけて農場にP9からある程度の数のタケシマキリンソウの送付があったことにしようという提案をし,P2に対して「24年2月3000株,3月3000株,4月3000株,5月5000株,6月5380株」との虚偽の事実を記載したポストイッ20トを交付した(乙16p10,乙29p2,甲108の2p15)。その後,P2は,平成25年5月,原告代表者から,トットリフジタ1号を捨てるよう指示され,前記(ク)のトットリフジタ1号532トレイ分を処分した(乙25,乙27p5)。イ 以上に基づき,本件料金所用に出荷された453トレイ(原告製品3)25に使用された苗(別紙「種苗目録3」記載の本件被疑種苗1812株分)がトットリフジタ1号であると認められるか否かを検討する。(ア) 前記認定事実からすると,原告製品3に使用されたカット苗が株分けされた平成24年8月28日の本件株分けの時点において,P2の農場には,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ(グリーンマーケット又はやまくさから原告代表者が購入したもの)の双方が栽培されており,これ以外に栽培されていた植物5が存したことは何らうかがわれないから,本件株分けに係る2万株は,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウのいずれか又は双方ということになる。(イ) そこでまず,タケシマキリンソウのみであったと認められるかを検討すると,原告代表者は,本件刑事事件の公判段階での供述において,商品に使用する植物としてタケシマキリンソウへの切替えが完了したのは平成24年9月頃であ10ると述べる(甲108の1p27)。そして,前記認定のとおり,平成24年6月頃の時点でタケシマキリンソウが200トレイから500トレイ(800株から2000株)存在しており,十分に成長した1株からは10株以上を株分けできることからすると,単純計算ではそれらのタケシマキリンソウから2万株を株分けすることは可能であることになり,原告代表者が本件刑事事件の公判段階での供述で述15べる増殖の検証(甲108の1p67ないし73)によっても同様となる。また,前記ア(ケ)での原価計算に関するメールからすると,原告代表者は同年8月の時点で同年9月から商品に使用する苗をタケシマキリンソウに変更することを予定していたことがうかがわれる上,原告代表者は,本件刑事事件の公判段階において,前記ア(サ)の原告の営業会議での報告内容は,タケシマキリンソウに変更したことで社内20原価を下げていることを客先に知られないように指示する趣旨であると述べており(甲108の1p28ないし29),これらは平成24年9月頃にタケシマキリンソウへの切替えが完了した旨の原告代表者の上記供述に沿う。しかし,実際にP2がタケシマキリンソウを栽培増殖していた状況が,上記のような増殖可能性の計算や原告代表者による検証のとおりであったことは明らかでな25く,また,上記の原価計算に関するメールも原告代表者の事前の予定を物語るにとどまる。また,原告代表者が述べる社内原価の変更については,前記ア(コ)の事実からすると,平成24年9月分から,元苗代を出荷時に精算する扱いに変えたことは認められるものの,元苗代とトレイ代の各単価自体に変更はないから,原価たる仕入価格に変更があったと見ることはできない。前記ア(サ)の平成24年10月12日の営業5会議において,タケシマキリンソウを「本格採用」するというのも,タケシマキリンソウを使用したトレイの生産を本格的に開始するという意味に理解することもできる。以上からすると,上記の諸点をもって,原告代表者が述べるような平成24年9月頃にタケシマキリンソウへの切替えが終了したと認めることはできない。かえっ10て,前記ア(キ)③のとおり,P2は,平成24年8月28日の本件株分けの後も,同年9月に息子らのアルバイトにより「キリンカット」を合計4万本以上作成しているが,前記認定の栽培状況からすると,これらを全てまかなうだけのタケシマキリンソウは存在していなかったと考えられる上,前記ア(シ)のとおり,同年11月の時点でもトットリフジタ1号を増殖させた「みずいらずスーパー」を「みずいらず」15に流用していることからすると,平成24年9月の時点では,未だタケシマキリンソウへの切替えは完了していなかったと認められ,このことは,P2が,本件刑事事件の捜査段階においては,本件株分けをタケシマキリンソウのみで行うのは無理であったと一貫して述べていることと整合している。また,それにとどまらず,前記ア(キ)のアルバイトの項の記載からすると,P2及びその妻は,帳簿を作成するに20当たり,「キリンカット」ないし「キリンカット苗」と「タケシマ」とを区別して記載していたと認められるところ,平成24年9月の育苗状況報告書にも請求書にも,2万株の本件株分けについて,従前と変わらず「カットキリン苗」や「キリンカット苗」と記載されていることからすると,その全てをトットリフジタ1号から作成した疑いが濃厚にあるというべきである。25以上からすると,平成24年8月28日の本件株分けの時点で,タケシマキリンソウへの切替えが完了していたとは考え難く,それより後の10月以降にタケシマキリンソウを使用した商品の生産が本格的に開始されたともうかがわれる営業会議の記録(前記ア(サ))もあることからすると,本件株分けには全てトットリフジタ1号が使用された疑いが濃厚にあるが,他方,本件株分けの時点で,P2の農場には既に相当数のタケシマキリンソウが栽培されていたとは認められるから,本件株分5けの全てがトットリフジタ1号を使用してなされたとまで認定することができるかについては,なお検討を要するというべきである。そこで,この点について,さらにDNA鑑定の結果を踏まえて検討する。(2) DNA鑑定についてア 前提事実記載のP8教授によるDNA鑑定の手法は,次のとおりと認め10られる(甲102,103,106及び107)。(ア) 品種が違うとDNAはどこかが異なることから,DNA鑑定では,DNAのうち品種間で異なりやすい部分を抽出・比較して,品種の異同を判定するが,そのような異なりやすい領域部分としては,一般にSSR(Simple sequence Repeat,マイクロサテライト)と呼ばれる部分が知られている。これは,DNAの塩基配列15の中で,偶然にACACACACというように単純な配列が何回も繰り返す部分があり,このような部分は,繰返し回数が変化しやすい部分で,DNA中に複数箇所ある。そして,この繰返し回数の多寡は,当該部分の長短となって表れることから,各検体について,この領域部分を分離増幅して,その長さを測ることによって,繰返し回数の同一性を判定し,それにより品種の異同を判定することができる。そし20て,DNA中で特定の塩基配列に挟まれた部分を分離して増幅する手法としてPCRが知られており,PCRにおいて,この特定部分を挟み込んで分離増幅するための塩基配列をプライマーといい,検体における特定のSSR領域のDNA断片のみを大量に合成するためのプライマーを,SSRマーカーという。(イ) DNA鑑定を行うには,まず,このようなSSR領域をDNAの中か25ら探し出し,それをPCRにより大量合成するためのSSRマーカーを設計することが必要となるが,P8教授は,当初は,SSRマーカーではなく,RAPD-STSマーカー(市販されているが精度の低いRAPDマーカーから,識別度の高い部分を抽出してSTS化したマーカー。単にSTSマーカーともいう。)を開発し,その後,他の研究者の方法を参考にして,独自の方法でSSRマーカーを開発した。その方法は,①抽出したDNAを制限酵素によって断片化し,その両端に既知の5塩基配列(アダプター)を付加する,②このアダプターと相補的な20塩基の配列(AP2),及び,ACやAG等の2塩基が10回繰り返す塩基配列(AC10,AG10)をプライマーとしてPCRを行うと,DNA断片中にAP2とAC10,AG10で挟まれた領域がある場合にその領域のみが分離増幅される,③この増幅した領域の塩基配列を解読して,SSR部分を含む更に短い領域がPCRによって10分離増幅されるようにプライマー(IP1,IP2)を設計する,④再び,抽出したDNAを制限酵素によって断片化し,両端にアダプターを付加したものに,今度はアダプターと相補的な20塩基の配列(AP1,AP2),及び,プライマー(IP1,IP2)をプライマーとしてPCRを行い,分離増幅した領域の塩基配列を解読し,プライマーIP1,IP2と共にSSR部分を挟み込むようなプライマー15(IP3)を設計する,⑤それらIP1ないしIP3からなるプライマーセットをSSRマーカーとする,というものである。(ウ) このようなマーカーを用いてDNA鑑定を行うには,各検体からDNAを抽出し,これにマーカーを用いてPCRを行いてDNA断片を分離増幅し,マーカーに対応するSSR領域のDNA断片を大量に合成する。そして,それらをア20ガロースゲルで作られたシートに入れ,緩衝液の中で下側がプラス極になるように電気をかけると,DNA断片は,マイナスに帯電していることから,ゲルの中をプラス極側に移動(電気泳動)するが,ゲルの中はDNAの移動にとって障害になる構造を有していることから,DNA断片が短い方がより長い距離を移動することになり,移動後の位置が帯(バンド)として表れる。そこで,DNAだけを特異的に25染める蛍光物質を用いてDNA断片を染め,移動したDNA断片のバンドの位置(マーカーの移動距離)の違いを目視で観察することにより,各検体の当該SSR領域の長さ(単純な塩基配列の繰返し回数)の異同が判明することから,それにより,各検体の品種の異同を判別する。このようにSSR領域を用いて遺伝型の同一性を判定する手法は,様々な動植物において親子鑑定や品種識別の手法として利用されている(独立行政法人種苗管理5センターが平成20年3月に作成した「DNA品種識別技術の妥当性確認のためのガイドライン-SSRを中心として-」[甲129]p3。以下「妥当性確認ガイドライン」という。)。(エ) 二つの検体について,DNA中に複数存在するSSR領域のうちの一つでも異なれば,両者の品種は異なると判定される。したがって,複数のマーカー10を用いて電気泳動を行った場合,マーカーのうちの一つでもバンドパターンが異なれば,それだけで両者の品種は異なると判定される。他方,あるマーカーによるバンドパターンが一致しても,そのSSR領域が一致していることがわかるだけで,他のSSR領域では一致していない可能性があることから,直ちに両者の品種が同じであるとは断定できない。しかし,マーカーの数を増やしていくと,その全てに15おいてバンドパターンが一致していながら別品種であるという確率が低下していくことになる。P8教授は,本件鑑定1では10個のマーカー(うち3個がRAPD-STSマーカー,7個がSSRマーカー)を用いて鑑定し,本件鑑定2では20個のマーカーを用いて鑑定した。P8教授は,20個のマーカー(うち3個がRAPD-ST20Sマーカー,17個がSSRマーカー)を用いてそれら全てでバンドパターンが一致する場合には,別品種でありながら偶然に20個も一致することは統計学的に見てあり得ないと考えている。(以上,甲102の1p7ないし22,甲103p27ないし33)なお,妥当性確認ガイドラインでは,①品種識別の精度を確保するために2個以25上のマーカーを用いる場合には,それらが遺伝的に独立に分離することを確認する必要がある,②この場合の独立とは,複数の遺伝子座のそれぞれの対立遺伝子の組合せがランダムに起こり,確率の法則に従うことであるが,用いるマーカーが連鎖していると,複数のマーカーの分析結果から得られるマーカー遺伝子型に違いがなく,品種識別の精度の向上にはつながらない,③サンプル間で分析結果が異なる場合には,マーカーの独立性が確認されている場合も確認されていない場合も,品種5内多型等の問題がない場合は,異なる品種であるといえる,④サンプル間で分析結果が同じ場合には,マーカーの独立性が確認されていれば,品種識別率から同一品種である確率を算出することができるが,マーカーの独立性が確認されていなければ,分析結果から品種を特定するには,a:サンプルがいくつかの候補(の品種)に絞られていること,b:その候補の全てがそのマーカーで作成されたデータベー10スに載っていること,c:そのデータベース上で少なくとも候補となる品種は全ての品種と識別できること,の条件を満たしている必要があるとされている(甲129p27ないし28)。これに対し,P8教授の鑑定手法では,マーカーの独立性は確認されていない(甲102の1p87)。(オ) また,P8教授は,10マーカーを用いていた時期には,DNAだけ15を特異的に染める蛍光物質としてゲルグリーンを使っていたが,それでは解像度が悪く,バンドの像が見えにくい傾向にあったことから,20マーカーを用いるときには,エチジウムブロマイドを使用した(甲102の2p80)。(カ) 本件鑑定1では,10マーカー全てについて,トットリフジタ1号と本件被疑種苗とで同一サイズのバンドを確認したとして,そのDNA情報は同一で20あると判定された。また,本件鑑定2でも,20マーカーについて,同様であると判定された。(キ) DNA鑑定学会の妥当性委員会は,P8教授が作成した20マーカーによる「SSRマーカー及びSTSマーカーによる常緑キリンソウ品種のDNA品種識別マニュアル」について,妥当性確認ガイドラインに基づいて,マーカーと識25別手法の妥当性の検証を行った(乙67)。そこでは,品種識別の検査を実施する検証機関として3機関を選定した上で,基準3品種(トットリフジタ1号,トットリフジタ2号,TF3)のDNAを基準として,実際のトットリフジタ1号株5サンプル,トットリフジタ2号株5サンプル,TF3株5サンプルのほか,それら以外の8種類のタケシマキリンソウ各1サンプル,3種類のキリンソウ野生系統(富山,柏崎,佐渡)各1サンプルについて,25回ずつ(合計52サンプル)のブラインド試験により,各マーカーごとのバンドパターンを判定し,予め確認してあるバンドパターンとの照合により正答率を確認した。上記マニュアルには20マーカーが記載されていたが,DNA鑑定学会によってその妥当性が検討される過程で,同学会が,検体によりバンドが表示されないもの10があるとして不適切と判断した2つのマーカー(RAPD-STSマーカーのA-10,A-16)が削除され,最終的には18マーカーによる検証が行われた(甲102の2p12ないしp13,乙67)。この削除された2つのマーカーは,本件鑑定1において用いられた10マーカーに含まれている(乙53ないし60)。この検証の結果,マーカータイプ一致率は,トットリフジタ1号及びトットリフ15ジタ2号がいずれも99%,TF3が62%,その他が90%となった。これを踏まえて,DNA鑑定学会は,「提供されたマニュアルは,今回の検証に用いられたサンプルを対象とする限り,検査対象がトットリフジタ1号またはトットリフジタ2号であるか否かは正確に識別可能なマニュアルであると言える・・・しかしながら,本文中でも指摘したように,本マニュアルは,個々のマーカーの異同判定につ20いては,マーカー鎖長の異同判定のように数値に基づく客観的な判定ではなく,電気泳動像のバンドの相対的な位置判断という主観的な手法である。検証を行った機関からは,マニュアル記載の電気泳動写真では区別が判らないマーカーが多々あるのでせめてフラグメントサイズの記載は必要である,との苦情が寄せられた。個々のマーカーの判定精度が不明なものを寄せ集めて正しい判定ができる,というシス25テム自体の是非が問われるべきであろう。」等と評価した。(ク) P8教授の鑑定手法について,上記妥当性委員会の委員長を務めたP18(以下「P18委員長」という。)は,本件刑事事件の証言において,①アガロースゲルの電気泳動を用いた方法では,DNA断片の塩基配列について,50塩基差以下を分離識別することができないから不正確であり,これに対してアクリルアミドゲルの電気泳動を用いた方法であれば,1塩基差の分離まで可能である,②5アガロースゲルの電気泳動を用いた方法は,バンド位置を目視で判別する主観的な方法であるから不正確であり,キャピラリー式電気泳動装置による解析のように当該領域のフラグメントサイズを客観的に測定することが必要である,③DNA鑑定学会の評価は,使用されたマーカーについて,今回の検証で用いられた14サンプルの範囲の限りでの識別可能性をいうものにすぎないと述べた(甲103p34な10いし49)。(ケ) P8教授は,20マーカーを用いて別に行ったDNA鑑定(甲144)では,例えばマーカー251を用いた場合について,資料2と資料3のDNA型は異なると判定したが,DNA鑑定学会の妥当性検証の際に提出したバンドパターン判別表(乙67)では,同じ検体であるタケシマ7とタケシマ8のバンドパターン15が同じであるとしている(甲102の2p82ないし86)。(コ) 上記のDNA鑑定学会による妥当性検証(乙67)においては,トットリフジタ1号についての品種内多型の調査も行った。そこでは,鳥取大学から提供されたトットリフジタ1号のポット苗90株を,3つの検査機関で30株ずつ,マーカータイプの判定を行ったところ,2社では一致率100%,1社では一致率2099.8%(1株の判定のみ不一致)という結果となった。ただし,DNA鑑定学会は,試験に供された90サンプルの全てが異なる個体であり,同一株由来のサンプルではないこと,実験回数が1サンプル当たり1回であることから,不一致とされた1株については,それが実験誤差に由来するものなのか,実際にその個体がそのマーカーに多型を持つ個体であったのかを判定することができないとされた(乙2567p19)。イ 本件鑑定1及び本件鑑定2に供された鑑定試料の入手方法は,次のとおりと認められる。(ア) トットリフジタ1号は,本件鑑定1では平成25年9月20日にP5が鳥取警察署に任意提出したものであり(乙53,55,57及び59),本件鑑定2でも同様にP5又はP6が任意提出したものである(弁論の全趣旨)。5(イ) 本件料金所の本件被疑種苗は,①本件鑑定1のうち乙58及び60のものは,平成25年8月1日に本件出口料金所と本件入口料金所において,それぞれ分散した場所から採取したものを,後に株分けしたものであり(乙57及び59,乙75p4ないし7),②本件鑑定1のうち乙54及び56のものは,平成26年1月29日に本件出口料金所と本件入口料金所において,①とは異なるトレイから10採取したものを,同様に任意提出したものである(乙53,55,57及び59,乙75p25ないし27)。また,③本件鑑定2のものは,平成27年2月27日に本件出口料金所と本件入口料金所において,南東エリアの1か所,南西エリアと北東エリアの各2か所の前の2回とは異なるトレイから,5株ずつを採取したものである(乙75p29)。15ウ P4でのトットリフジタ1号の栽培状況については,次のとおり認められる。(ア) P4は,被告が平成16年に品種登録出願をして以来,現在に至るまで,トットリフジタ1号を全て挿し木の方法で増殖し,販売している。挿し木とは,元の株から10㎝程度の芽をカットして採取し,これを土に挿すことによって増殖20させる方法(いわゆる栄養繁殖)である。トットリフジタ1号には7月中旬から終わりにかけて花が咲き,9月から10月頃に種が付くことから,種子繁殖させることも可能であるが,P4では,トットリフジタ1号は,種が小さく,発芽率が悪いことを考慮し,効率のよい挿し木の方法で増殖させている(乙73p2ないし3及び104)。25一般に,栄養繁殖は,クローン繁殖とも言われ,親株と同じ遺伝子を子が持つことになるため,突然変異がない限り,親株と同じ遺伝子組成を持つ個体を増やすことができる(甲104p8)。(イ) P4は,トットリフジタ1号を自社の圃場のビニールハウスで栽培して販売しているところ(乙30),品種の混在は会社の信用失墜につながるため,品種ごとにハウスを分けて管理している。これまでP4においてトットリフジタ1号5を増殖させてきた中で,葉に白いラインが入る斑入という突然変異が生じたことが一度あったが,その際は,他の苗への感染を防ぐため,すぐにその株を隔離した。(乙74p3ないし4及び97)エ 以上に基づき本件鑑定1及び本件鑑定2の信用性を検討するに当たり,まず,鑑定試料として供されたトットリフジタ1号と,本件育成者権1に係る種苗10として登録されたトットリフジタ1号との同一性について検討する。種苗法施行規則4条は,種子又は種菌を種苗とする品種について品種登録出願をするときは,当該品種の種子又は菌株を提出しなければならないと定めることから,こうして提出された種子又は菌株については種苗管理センターで保管されるが,栄養繁殖性植物については,このような定めがないため,登録品種のオリジナルの植15物体は育成者自らが保存することとなっている(甲97)。このため,栄養繁殖性植物であるトットリフジタ1号については,オリジナルの種苗が公式に保管されておらず,上記のとおり,鑑定に供したトットリフジタ1号は,P4自身がトットリフジタ1号であるとして鳥取警察署に提出したものである。しかし,前記認定のとおり,P4においては,平成16年に品種登録出願された20トットリフジタ1号について,生産効率の観点から挿し木の方法による増殖を繰り返しており,育成に当たっては,他の品種の混入を防ぐため,ハウスを分けて管理しており,種苗販売会社であるフジタが品種混入を防止すべき営業上の必要性の高さに鑑みると,品種の管理は適切にされていたものと推認され,これらの趣旨を述べる本件刑事事件でのP6の証言に特段疑うべき点は見当たらない。そして,P425においては挿し木の方法による増殖,すなわち栄養繁殖が行われており,栄養繁殖の場合,増殖された苗は,もとの苗と同一の遺伝子情報を持つクローンであるとされていることからすると,鑑定試料としてP4から提供されたトットリフジタ1号は,品種登録時のトットリフジタ1号を栄養繁殖させたものとして,トットリフジタ1号と同一の遺伝子情報を有すると推認されるから,同一の種苗と評価すべきものである。5したがって,鑑定試料として供されたトットリフジタ1号については,本件育成者権1に係る品種として登録されたトットリフジタ1号との同一性を認めるのが相当である。なお,本件被疑種苗については,いずれも本件料金所から採取されたものであり,これらが採取されるまでに同所に本件被疑種苗以外の植物体が植え込まれたことを10うかがわせる証拠はないから,適正な鑑定試料であると認められる。オ そこで次に,本件DNA鑑定の信用性について検討する。前記認定に係るP8教授のDNA鑑定手法は,品種によって変化しやすいSSR領域を特異的に増幅し,電気泳動距離の異同によって品種の同一性を判定するというもので,親子鑑定や品種識別にも用いられる手法である。また,そのようなSS15R領域を抽出するためのマーカーの作成過程も合理的であるから,DNA鑑定学会により不適切と判断されたA-10及びA-16を除くマーカーは,その合理性を肯定し得る。したがって,本件でのDNA鑑定の手法は,原理的には信頼し得るものであるといえ,DNA鑑定学会による妥当性確認においても,少なくともトットリフジタ1号については,同確認検証に供されたサンプルに関するものではあるも20のの,99%という極めて高い同定識別率であり,また,品種内多型についても,ほぼ100%の一致率であった。また,マーカー数が,DNA鑑定学会により不適切と判断されたものを除いたSSRマーカーだけでも17マーカーと多く,それらのマーカーの独立性が確認されていないことを考慮しても,それが全てにおいてDNA型が一致する確率は相当に低いと考えられる。25しかし,DNA鑑定学会とそのP18委員長が指摘するとおり,この鑑定手法には,アガロースゲルを用いるため,塩基差が50以下の場合の電気泳動像には差が生じず,識別精度に限界があるという問題点や,電気泳動結果のバンド位置の同一性を判定者が目視で観察して判定するものであるため,判断の客観性が確保されないという問題点があり,現に後者の点については,前記ア(ケ)の認定のとおり,同じマーカーを用いて同じ検体について行った判断結果が食い違うことが生じている5(原告が種々主張する,鑑定意見書とバンドパターン判別表での判断の齟齬についても同様である。)。また,マーカーの独立性が確認されていないとの点も厳密には残る。これらのことからすると,P8教授の鑑定において2つの鑑定試料のDNA型が同一であると判定された場合でも,両者の間には50以内の塩基差がある可能性が10あり,また,電気泳動像を同一と判定するか否かについても,判断の安定性に疑問を挟む余地があるというべきである。したがって,本件DNA鑑定において,トットリフジタ1号と本件被疑種苗とのDNA型が同一であると判定されたとしても,それはアガロースゲル電気泳動像において明確に区別されない程度に類似しているといえるにとどまり,DNA型が一致していると断定することまではできないとい15うべきである(なお,原告は他に,本件DNA鑑定は,マーカーの再現性が確認されていないことや,サンプルの入手方法や保存方法が不適切であり,また,本件DNA鑑定に係る技術について,査読を経た論文発表がなされていないなどの点を指摘し,本件DNA鑑定の信用性を否定する主張をするが,これまで検討した以上に本件DNA鑑定の信用性を疑うべき事情があるとは認められない。)。20したがって,本件DNA鑑定の結果から直ちに,本件被疑種苗とトットリフジタ1号のDNA型が同一であり,両者が同一の品種であると結論付けることはできない。カ もっとも,上記の検討からすると,P8教授のDNA鑑定手法によっても,アガロースゲル電気泳動像において,2つの鑑定試料のバンド位置が明確に区25別し得る場合には,バンド位置の区別の有無が微妙である場合と異なり,識別精度の問題や視認による判断の主観性の問題は生じない(原告が主張する鑑定意見書とバンドパターン判別表での判断の齟齬の問題についても同様である。)から,両者のDNA型は異なると断定することができるといえ,マーカーの独立性が確認されていない場合でもそのことに変わりはない。そして,先に(1)で検討したとおり,平成24年8月28日にP2が本件株分けを行ったときには,P2の農場には,トッ5トリフジタ1号とタケシマキリンソウ(原告代表者がグリーンマーケット又はやまくさから購入したもの)のみが栽培されていたのであるから,本件被疑種苗がそれらのタケシマキリンソウでないと判定されるときには,P2が本件株分けに用いたのはトットリフジタ1号であるといえることとなる。そこで,次に,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウとのDNA鑑定結果について検討する。10(ア) 証拠によれば,以下の事実が認められる。a P11は,P9の屋号で主に公共工事の植栽に使用する地覆植物の生産販売を行う者であり,従前,原告が屋上緑化に使うメキシコマンネングサ等を原告に販売していたが,①平成21年ないし平成22年頃,P9の敷地で,トットリフジタ1号を試験的に増殖し,また,②平成22年ないし平成23年頃,原告の15下請農家からキリンソウが地面に活着しないとの相談を受けて,そのダンボール1箱分を地面に活着させるために育てるとともに補植用に増殖させるなどしていた。その後,③P11は,平成23年11月29日,原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウの苗の送付を受けた(前記(1)ア(エ))ほか,平成24年中に2回,原告代表者からタケシマキリンソウの苗の送付を受け,増殖を20依頼されたことから,P9の敷地で育てた。また,P11は,④同年12月にはドイツの種苗店のイエリト社からタケシマキリンソウの種を購入し,P9で育てた。そして,P11は,平成25年4月19日以降,原告向けにタケシマキリンソウの出荷を開始した。(以上,乙41及び42)25b 鳥取警察署は,平成26年12月1日,P9から,きりんそう様のものを採取して任意提出を受け,それらに「P11・1」から「P11・15」の符号を付した。また,鳥取警察署は,平成27年1月31日,P9から,きりんそう様のものを採取して任意提出を受け,それらに「P11・16」から「P11・22」の符号を付した。c 上記の採取当時,P9の敷地内で栽培されていたトットリフジタ15号とタケシマキリンソウには,上記aの①ないし④のもののほか,⑤原告代表者が持ってきたトットリフジタ1号,⑥公証人に確認してもらいながら播いたイエリト社から購入したタケシマキリンソウがあったところ,それらのきりんそう様のものは,それぞれ次のものである(甲147)。(a) P11・1ないしP11・5は,P11が商品用に育てていたも10ので,原告代表者から送付を受けた③のタケシマキリンソウ(P11はグリーンマーケットから原告代表者が購入したものと聞いている。)と④のイエリト社から購入したキリンソウが主だが,トットリフジタ1号も一部混ざっている可能性がある。(b) P11・6ないし10は,上記①のトットリフジタ1号である。(c) P11・11ないし15は,上記③のタケシマキリンソウと上記15⑤のトットリフジタ1号である。(d) P11・16は,上記⑥のイエリト社のタケシマキリンソウである。(e) P11・17は,(a)と同じである。(f) P11・18及びP11・19は,上記③のタケシマキリンソウ20である。(g) P11・20ないしP11・22は,(a)と同じである。d P8教授は,鳥取警察署からの鑑定嘱託に対し,その鑑定手法により,P11・1ないしP11・15を10マーカーを用いて,その後,P11・16ないしP11・22を20マーカーを用いて,それらとトットリフジタ1号との25DNA型の異同を鑑定した(甲144及び150)。その鑑定結果は,以下のとおりである。(a) P11・1ないしP11・15は全てDNA型が同一であり,それらとトットリフジタ1号とはDNA型が同一である。(b) P11・16は,P11・17以下とDNA型が異なり,トットリフジタ1号ともDNA型が異なる。5(c) P11・17は,P11・16及びP11・18以下とDNA型が異なり,トットリフジタ1号ともDNA型が異なる。(d) P11・18ないしP11・20は,DNA型が同一であるが,トットリフジタ1号とはDNA型が異なる。(e) P11・21及びP11・22は,DNA型が同一であり,トッ10トリフジタ1号ともDNA型が同一である。e また,P8教授は,鳥取警察署からの鑑定嘱託に対し,その鑑定手法により,10マーカーを用いて,やまくさで購入したタケシマキリンソウとトットリフジタ1号とのDNA型の異同を鑑定し,両者のDNA情報は異なるとの鑑定結果を得た(甲138)。15(イ) 以上に基づき検討する。a まず,20マーカーの鑑定結果であるP11・16ないしP11・22について見ると,P11・16は前記⑥のイエリト社から購入したタケシマキリンソウであり,トットリフジタ1号とはDNA型が異なると判定されており,実際にも甲144の電気泳動写真において,P11・16(写真符号1)とトットリ20フジタ1号(写真符号1A)のバンド帯は,例えばSSRマーカー293において顕著に異なっているから,判定は信用し得る。次に,P11・18及びP11・19は,前記③の原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウであるが,これは,トットリフジタ1号とDNA型が異なると判定されており,実際にも甲144の電気泳動写真において,P2511・18(写真符号3)及びP11・19(写真符号4)とトットリフジタ1号(写真符号1A)のバンド帯は,例えばSSRマーカー293及び同260において顕著に異なっているから,判定は信用し得る。次に,P11・17は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1P11・516とも,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウであるP11・18及びP11・19とも,トットリフジタ1号ともDNA型が異なると判定されており,実際にも,甲144の電気泳動写真において,P11・17(写真符号2)は,P11・16(写真符号1)とはSSRマーカー251及び260で,P11・18及びP11・19(写真符号3及び4)とはSSRマーカー332及10び353で,トットリフジタ1号(写真符号1A)とはSSRマーカー293及び260で顕著に異なっている。そうすると,P11・17は,上記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウと認めるのが相当である。次に,P11・21及び22は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリ15フジタ1号のいずれかであるが,それらは,上記で上記④のイエリト社から購入したキリンソウと認められたP11・17,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウと認められたP11・18及び19のいずれともDNA型が異なると判定されており,実際にも,P11・21及びP11・22(写真符号6及び7)は,P11・17(写真符号2)ともP11・18及びP11・19(写20真符号3及び4)ともSSRマーカー293及び260で顕著に異なっている。そうすると,P11・21及びP11・22は,トットリフジタ1号と認めるのが相当であり,これらのDNA型が同一と判定されたことは,これに沿うものである。最後に,P11・20は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ251号のいずれかであるが,上記で前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウと認められたP11・17,トットリフジタ1号と認められたP11・21及び22のいずれともDNA型が異なると判定されている反面,前記③の原告代表者がグリーンマーケットから購入したキリンソウと認められたP11・18及び19とDNA型が同一であると判定されているから,P11・18及びP11・19と同じく,前記③の原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソ5ウであると認めるのが相当である。以上からすると,トットリフジタ1号は,原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウとはDNA型が明確に区別できて異なるのに対し,本件被疑種苗とはDNA型が明確に区別されないのであるから,原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウと本件被疑種苗のDNA型は異なる10といえる。b もっとも,10マーカーでの鑑定結果によれば,P11・1ないし15とトットリフジタ1号とのDNA型が全て同一であるとされているところ,このうちP11・1ないしP11・5は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トッ15トリフジタ1号のいずれかであり,P11・11ないしP11・15は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1号のいずれかである。そして,無作為に採取したはずのP11・1ないしP11・5とP11・11ないしP11・15の全てが偶然にトットリフジタ1号であったとは考え難いから,10マーカーの鑑定結果は,20マーカーの鑑定結果との間に齟齬があ20ることになる。そして,実際にも,例えば同じSSRマーカー251や同263において,10マーカーの鑑定(甲150)では,全ての試料のDNA型が同一であると判定されているのに対し,20マーカーの鑑定(甲144)では,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1号との間でDNA型が異なるとされて25おり,両者には齟齬がある。しかし,前記ア(オ)の認定のとおり,P8教授は,10マーカーを用いていた時期には,DNAだけを特異的に染める蛍光物質としてゲルグリーンを使っていたが,それでは解像度が悪く,バンドの像が見えにくい傾向にあったことから,20マーカーを用いるときには,エチジウムブロマイドを使用したと認められ,20マーカーの方が識別精度が高いと認められるから,20マーカーによる電気泳動の結果を5採用して,上記のとおり認定するのが相当である。c また,前記認定によれば,やまくさから購入したタケシマキリンソウは,トットリフジタ1号とDNA型が異なると判定されており,実際にも甲138の電気泳動写真において,やまくさのタケシマキリンソウ(写真符号S)とトットリフジタ1号(写真符号1Aないし1E)のバンド帯は,例えばSSRマーカー10293及び同353において顕著に異なっており,判定は信用し得る。もっとも,これは10マーカーでの試験であるが,20マーカーの場合はバンドの識別精度がより向上するのであるから,10マーカーでの試験においてバンド帯の位置が顕著に異なると判定される以上,DNA型が異なると認めて差し支えはない。そうすると,グリーンマーケットの場合と同様に,やまくさが販売するタケシマ15キリンソウについても,本件被疑種苗とDNA型が異なるといえる。キ 以上の検討によれば,前記(1)のとおりP2が本件株分けに使用した株は,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ(やまくさ又はグリーンマーケットから購入したもの)のいずれかであるところ,やまくさ及びグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウは,そのいずれもが本件被疑種苗とDNA型において異20なる反面,本件被疑種苗はトットリフジタ1号とDNA型が明確に区別されないのであるから,20マーカーを使用した本件鑑定2に供された本件被疑種苗はトットリフジタ1号と認めるのが相当である(なお,トットリフジタ1号が,やまくさ及びグリーンマーケットから購入した以外の公知のタケシマキリンソウと区別性を欠く品種であるか否かは,原告が主張する原始的瑕疵2の問題として後に検討する。)。25そして,20マーカーを使用した本件鑑定2のための本件被疑種苗の採取においては,本件出口料金所及び本件入口料金所において,南東エリアの1か所,南西エリアと北東エリアの各2か所のトレイから,それぞれ5株ずつを採取しており,こうして無作為に採取した試料について前記のようなDNA鑑定の結果が得られたことや,前記のとおりP2の記録の記載方法として,トットリフジタとタケシマキリンソウは区別されているところ,本件株分けに係る育苗状況報告書にはそれまでト5ットリフジタの趣旨で記載されていたのと同じ「カット苗 キリン」,「キリンカット苗」との語が使われていることを考慮すると,本件株分けに係る本件被疑種苗は,全てトットリフジタ1号であったと認めるのが相当である。(3) 比較栽培試験について本件では,被告は,本件比較栽培試験も,原告がトットリフジタ1号を増殖した10ことの根拠として主張していることから,その信用性についても検討する。ア 証拠(乙71のほか後掲のもの)によれば,以下の事実が認められる。(ア) 比較栽培試験に用いられる審査基準等a 種苗管理センターの業務方法書(以下,「業務方法書」ということがある。)第7条には,「栽培試験の実施にあっては,農林水産省食料産業局長が15定める一般審査基準及び種類別審査基準に準拠するとともに,センターが植物の種類ごとに定める栽培特性調査マニュアルに基づき行うものとする。」と規定されている(甲157)。この業務方法書7条にいう「一般審査基準」は,「区別性,均一性及び安定性(DUS)審査のための一般基準」(甲119の「登録出願品種審査要領」の別添4,20以下「一般基準」という。)である。また,同条の「種類別審査基準」に該当するのが本件審査基準であり,ベンケイソウ科マンネングサ属の「きりんそう」と呼ばれるアイゾーン種とカムチャティカム種を対象植物とする。なお,キリンソウに関しては,同条にいう「特性調査マニュアル」は存在しない(甲100の1,乙71p99)。25b 上記の種類別審査基準が定める形質には,質的形質,疑似の質的形質及び量的形質がある。質的形質とは,植物の雄雌,倍数性等階級値が個々に不連続となる形質であり,階級値が異なれば品種間に区別性があるとされる。疑似の質的形質とは,例えば形に関する形質で,ある程度連続して変異するが,直線的連続ではなく曲線等2次元以上の複雑な変異をするもので,この場合は,卵形,長円形,円形,倒卵形のように区切って質的形質と同様の取扱いを行い,原則として階級値5が異なれば区別性があると判定されるが,連続して変異することを考慮して,明確な差異があることを確認しなければならないとされる。量的形質とは,植物の茎の長さのように直線的に連続して変異するものであり,原則として1階級値の幅以上異なれば区別性があると判定される。(以上,一般基準第3の6)本件審査基準において,きりんそうについて定められた51形質のうち,調査方10法が「観察」とされる項目は,質的形質又は疑似の質的形質であり,調査方法が「測定」とされる項目は,量的形質である(ただし形質番号50を除く。)。また,本件審査基準に定められた形質は,1月の厳冬期に調査すべき「常緑性の品種のみ」のものと,それ以外の6月から7月の花序の50%開花時に調査すべきものとがある。15また,種類別審査基準では,特に量的形質については標準品種が定められる。植物は,栽培環境が異なると生育状態が変化することから,栽培環境が変わっても評価される階級値が変わらないように,標準品種との相対評価を行うためである(甲104p16ないし17)。本件審査基準でも,量的形質については全て標準品種が設定されている。20c 上記の種苗管理センターの業務方法書には,品種類似性試験について,次のとおり規定されている(甲157条)。「第69条の4第1項 センターは,育成者権者等からの依頼に基づき,育成者権を侵害した種苗等を判定するための品種の類似性に関する試験(以下「品種類似性試験」とい25う。)を行うものとする。第3項 品種類似性試験は,次に掲げる事項のうち試験依頼者の依頼する事項について行うものとする。(1) 登録品種及び出願品種(以下「登録品種等」という。)と当該登録品種等に係る育成者権の侵害が疑われる品種との特性比較(2) 登録品種及び当該登録品種等に係る育成者権の侵害が疑われる品種との5比較栽培」また,これらの品種類似性試験について,種苗管理センター育成者権侵害対策実施細則には,次のとおり規定されている(甲157)。「業務方法書第69条の4第3項(1)の特性比較とは,品種類似性試験を依頼しようとする者(以下「試験依頼者」という。)から独立行政法人種苗管理センター(以10下「センター」という。)に提出された植物体同士を目視及び計測により比較し,必要な項目について種類別審査基準を用いて特性を調査する試験をいう。なお,植物体の形質は栽培環境により変動するため,特性比較の結果区別性が認められたことをもって,比較した植物体同士が同一の品種でないとするものではなく,このことを確認するためには次項の比較栽培の実施が必要であることを,センターはあら15かじめ試験依頼者に説明するものとする。」「業務方法書69条の4第3項(2)の比較栽培とは,試験依頼者から提出された種苗又は提出された植物体から生産された種苗を業務方法書第4条の品種登録に係る栽培試験と同一の方法で栽培し,必要な項目について種類別審査基準を用いて特性を調査する試験をいう。」20(イ) 本件比較栽培試験の鑑定試料a 本件被疑種苗は,平成24年8月28日に株分けされ,淡路島のP3の畑(乙24)で露天栽培された(ただし冬場はナイロン製のビニールをかぶせる。乙78p11)後,平成25年2月6日,本件料金所用に453トレイ(原告製品3)が出荷された。その後,同年8月1日,鳥取警察署司法警察員は,本件料25金所において,同所に移されていた本件被疑種苗を採取して任意提出を受け,これを領置した(乙49)。採取に当たっては,北東側,南東側,南西側,北西側から分散させて,入口・出口について各30株を,スコップで掘り出して採取し,トレイにポット苗として植え替えて,茨城県つくば市の種苗管理センターに持ち込んだ(乙75p6ないし8及び17,甲105)。b P6は,平成25年8月20日,鳥取県<以下略>所在の自社の圃5場のビニールハウスで栽培していた鑑定フジタ2年生30株とトットリフジタ2号30株(以下「鑑定フジタ2号」という。)を鳥取警察署に提出した。P6は,同年8月に,警察が領置した本件被疑種苗を見る機会があり,それが前年9月頃に植え付けられたものと考え,それと同じような年頃のものを選出して提出した。(乙73p31,34ないし35)10c 種苗管理センターでは,栽培試験を行うには苗の齢がそろっていなければ正確な試験結果を得られないところ(甲105),本件被疑種苗の齢が不明であったことから,植苗後10か月程度育てたトットリフジタ1号を鑑定に使用したい旨,鳥取警察署に申し出た。そこで,P5は,平成25年9月5日,鳥取警察署の要請を受け,フジタで10か月程度育てたトットリフジタ1号であるとして,15鑑定フジタ1年生を30株提出した。(乙71p7及び93,乙72p9,乙75別紙14の捜査報告書)d なお,フジタでは,挿し木の時期に関わらず,挿し木してから一冬を越えたものを2年生と呼び,冬を越えていないものを1年生と呼んでいる。2年生には,冬を越すことで,根付近が茶色く変色する木質化が生じる。(乙72p4,20乙73p105)(ウ) 本件比較栽培試験の実施方法及び本件比較栽培試験鑑定の判定方法a 本件比較栽培試験では,平成25年9月9日,フジタから提供を受けた鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生及び本件被疑種苗の苗をポリポットに定植した(乙50,乙51,甲100の1,2)。25b 本件比較栽培試験において標準品種として使用した富山在来種と佐渡在来種については,挿し穂(カット苗)を各50本用意し,平成25年9月18日に挿し木をし,同年10月15日にポリポットに移植し,同年12月26日にポリポットに定植した(乙50,乙51,甲100の1,2)。c 本件審査基準では,量的形質について,富山在来と佐渡在来のほかに,新潟在来と大雪山が標準品種として定められているが,種苗管理センターでは,5後二者は手元になかったため,前二者のみを本件比較栽培試験に供試した(乙71p102)。d 種苗管理センターでは,色の調査にはRHSカラーチャートを用い,測定にはノギス,メジャー,シックネスゲージ等の器具を用いるなどした。質的形質については担当者3人が協議し,階級値を決定した。他方,量的形質については,10階級値を決定する前提として階級幅を設定した上で,階級値設定表(乙50等に添付)を作成し,それに今回の平均実測値を当てはめて,階級値を決定した(乙71p12ないし16)。階級幅の設定方法は,①本件比較栽培試験における標準品種の測定値と,本件比較栽培試験におけるトットリフジタ1号(鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生)15及びトットリフジタ2号(鑑定フジタ2号)の測定値の平均値との差を算出し,それを,種類別審査基準における標準品種の階級値と,品種登録簿の特性表記載のトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号の階級値との階級差で除することにより,本件比較栽培試験における階級幅及び階級範囲の数値を設定する方法(例えば形質番号3),②本件比較栽培試験における標準品種の測定値と,登録審査の特性調査20時の測定値とを対比して生育比を求め,本件特性表の作成時に設定された階級幅及び階級範囲として判明している数値にこれを乗じて,本件比較栽培試験における階級幅及び階級範囲の数値を設定する方法(例えば形質番号4),③本件比較栽培試験における標準品種の平均実測値を,本件審査基準における標準品種の階級の中間値(例えば階級が5であれば中間値は4.5となる。)で除して,階級幅を設定す25る方法(例えば形質番号39),④本件比較栽培試験におけるトットリフジタ1号(鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生)とトットリフジタ2号(鑑定フジタ2号)の測定値の平均値の差を,本件特性表におけるこれら2つの登録品種の階級値の差で除することにより,本件比較栽培試験における階級幅を算出し,その階級幅をもとに階級範囲の数値を設定する方法(例えば形質番号8)が採られた(乙71p46ないし52)。5(エ) 本件比較栽培試験鑑定の結果a 鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗との区別性鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗(本件入口料金所)とは,いずれも量的形質である茎の長さ(形質番号7),冬期の茎の長さ(同8),花序の長さ(同39),花序の幅(同40)で階級値が異なり,前二者は1階級幅以上,後二者は2階級幅10以上の相違があることから,両品種間には区別性が認められ,類似性が高くないと判定された(甲100の2)。また,鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗(本件出口料金所)とは,いずれも量的形質である株張り(形質番号3),茎の長さ(同7),冬期の茎の長さ(同8),花序の長さ(同39),花序の幅(同40)で階級値が異なり,前二者は1階級幅15以上,後三者は2階級幅以上の相違があることから,前記同様に,両品種間の区別性が認められ,類似性が高くないと判定された(甲100の1)。b 鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との区別性鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(本件入口料金所)とは,いずれも量的形質である冬期の葉の厚さ(形質番号34),花冠裂片の長さ(同45),開花の早晩性20(同50)で階級値が異なったが,平均実測値の差がいずれも階級値設定表の1階級幅に満たないことから,明確な区別性が認められず,非常に類似性が高いと判定された(乙50)。また,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(本件出口料金所)とは,いずれも量的形質である株張り(形質番号3),冬期の茎の長さ(同8),冬期の葉長(同30),25花序の長さ(同39),開花の早晩性(同50)で階級値が異なったが,平均実測値の差がいずれも階級値設定表の1階級幅に満たないことから,明確な区別性が認められず,非常に類似性が高いと判定された(乙51)。なお,本件比較栽培試験鑑定によって決定された鑑定フジタ2年生の階級値は,本件特性表上の階級値と異なっているものがある(形質番号3,4,7,8,10,11,14など)。この要因について,農林水産省で品種登録審査を担当するP159は,①登録審査時は鳥取県<以下略>のP4の圃場で現地調査が行われたのに対し,本件比較栽培試験は茨城県つくば市のセンターで行われており,栽培環境が大幅に異なることが影響している,②通常の審査では,出願品種と標準品種の苗を定植する時期を合わせるが,本件比較栽培試験では,標準品種の定植が,本件被疑種苗や鑑定フジタ2年生等を定植した時期より約3か月遅れていることが考えられる10と述べている(甲104p16ないしp17)。イ 以上を踏まえ,本件比較栽培試験鑑定における鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との間に明確区別性が認められないとの鑑定結果に基づき,本件被疑種苗がトットリフジタ1号と特性により明確に区別されない品種と認められるかについて検討する。15(ア) まず,鑑定試料について検討するに,鑑定試料たる鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生と品種登録されたトットリフジタ1号との同一性については,先にDNA鑑定について述べたとおり,同一性を有すると認められるから,この点に特段の問題はない。この点について原告は,いわゆる現物主義に反すると主張するが,登録品種と同一性の認められる種苗である限り,それを用いて比較栽培試験20を実施することは,何ら現物主義の趣旨に反しないというべきである。また,本件被疑種苗についても,同様に実際にP3の農場から出荷され,本件料金所に移されたものであると認められる。(イ) 次に試験方法について検討する。a 前記認定のとおり,種苗管理センターが行う比較栽培試験は,試験25依頼者から提出された種苗又は提出された植物体から生産された種苗を,品種登録に係る栽培試験と同一の方法で栽培し,必要な項目について種類別審査基準を用いて特性を調査する試験であるが,その趣旨は,登録品種と被疑品種について,登録審査時と同様の比較栽培試験と判定を行うことによって,審査基準を拠り所にして,両者間に区別性が認められるか否かを判断しようとするものであると解され,合理的なものである。5b ところで,比較栽培試験を適正に行うためには,鑑定試料間の生育期間と栽培環境を揃える必要があるところ,明確区別性が認められないと判定された鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗を見ると,本件被疑種苗は平成24年8月28日に株分けされ,同年9月に挿し木されたものであり,鑑定フジタ2年生は,P6が,本件被疑種苗が同年9月に挿し木されたと考えてそれと同程度の齢のものを自10社の圃場から採取して提出したものであるから,同じく平成24年9月頃に挿し木されたものと推認される。したがって,両者の苗の生育期間は揃っているといえる。他方,本件被疑種苗と鑑定フジタ2年生の挿し木後・種苗管理センターに搬入されるまでの栽培状況は,本件被疑種苗は平成25年2月6日まで淡路島のP3の農場で露天(冬期はビニールシートをかぶせる)で栽培され,同日以後は本件料金所15の屋上に露天で生育していたのに対し,鑑定フジタ2年生は鳥取県<以下略>のP4の圃場のビニールハウス内で栽培されていたのであり,栽培環境が異なる。もっとも,いずれも冬期はビニールシート又はビニールハウス内で栽培されているから,その期間の栽培環境の相違が大きいとはいえない。また,本件被疑種苗が本件料金所に移された平成25年2月以降は,季節的にみてハウス内外での温度差20がそれほど顕著となるとはいえない時期である。さらに,P6は,警察が領置した本件被疑種苗を実際に見た上で,それと同じ年頃の鑑定フジタ2年生を鑑定資料として提出したのであるから,鑑定フジタ2年生の提出時点において,本件被疑種苗と鑑定フジタ2年生との形質には大差がなかったものと推認することができる。これらのことを考慮すると,種苗管理センターに搬入されるまでの栽培環境の相違が,25形質の相違に大きく影響したとまで認めることは相当でないというべきである。なお,鑑定フジタ1年生については,本件被疑種苗と特性において明確に区別されるとの鑑定結果となっているが,鑑定フジタ1年生は,P5が,平成25年9月5日,鳥取警察署から,植苗後10か月程度経ったトットリフジタ1号の種苗の提出を求められたのに応じ,これに該当する種苗として自社の圃場で栽培していたものを提出したものである。そして,P5は,長年にわたってトットリフジタ1号の5生産に携わってきたのであり,相応の生産管理もされていたはずであるから,そのP5が10か月程度の種苗を提出するよう指定を受けた際,これに対応する種苗を正確に選別して提出することは容易であったと推認される。そうすると,鑑定フジタ1年生が挿し木された時期は,平成25年9月から10か月程度さかのぼった平成24年11月頃と認めるのが相当であり,本来的には2年生と呼称されるべきも10のである(なお,P5は,本件刑事事件の公判段階で,この鑑定フジタ1年生は,木質化がほぼ確認できないような状態のものを選抜して提出したと述べる[乙72p10]が,植苗後10か月程度のものとの指定に反するものを提出したとは考え難いから,同供述は採用できない。)。しかし,そうであるとしても,本件被疑種苗の生育期間との差は2か月から3か月程度存するところ,前記ア(エ)bのとおり農15林水産省のP19が標準品種の3か月の定植遅れについて述べるところからすると,3か月程度の生育期間の差であっても,特性に影響を及ぼすことが考えられるというべきである。そうすると,鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ1年生については,両者の栽培環境はほぼ同じであるのに対し,生育期間は鑑定フジタ2年生の方が本件被疑種苗と近似しているから,比較栽培試験の結果については,鑑定フジタ2年生20によるものの方が信用し得るというべきである。c なお,それらの栽培開始時期(9月)は本件審査基準の耕種概要の栽培開始時期(春4月から5月)と合致していないが,比較栽培試験は,各形質に係る観察結果又は測定値そのものが重視されるのではなく,標準品種を用いた上で,対象種苗間の特性差を相対的に捉えることにより,区別性の有無を判断するもので25あることからすれば,栽培条件に有意な差がない限り,耕種概要との上記の時期のずれ自体が,比較栽培試験の結果の信用性に影響を及ぼすものとは認められない。なお,トットリフジタ1号は,通常,春植え(2月後半から7月頃)及び秋植え(9月頃から11月頃)が行われるものであり(乙13p2),本件比較栽培試験のように,9月頃に挿し木されること自体特異なことではないことからすると,この点に係る耕種概要との時期のずれも,本件比較栽培試験の信用性には影響するとはい5えない。(ウ) 次に,判定方法について検討する。a 質的形質及び疑似の質的形質については,観察結果を階級値にあてはめるに当たり,3人の担当者の協議によっており,判定方法として適正であると認められる。10b 他方,量的形質の判定方法については検討を要する。前記認定のとおり,本件比較栽培試験鑑定においては,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との間で,複数の量的形質において階級値の相違があるが,いずれも本件比較栽培試験の平均実測値を踏まえて設定した1階級幅の範囲内であることから両者に明確な区別性は認められないと判定されている。このような判定手法は,審15査時に,登録品種が,設定された特定の階級幅を前提として,1階級幅の範囲内に公知品種が存しないことにより区別性があると判定されたことを踏まえて,本件比較栽培試験において区別性の有無を判定する際には,審査時に設定された階級幅と同等のものを,生育環境の相違に対応する補正を施した上で再現して,トットリフジタ1号と被疑侵害品種の量的形質の差がその1階級幅の範囲内にとどまる場合に20は,区別性がないと判定する趣旨と解され,判定基準としては合理的なものである(ただし,差が1階級幅の範囲を超える量的形質がある場合でも,その形質の性質や程度,植物体の種類及び性質等を総合的に考慮して,「登録品種と特性により明確に区別されない品種」[種苗法20条1項]に属すると判断される場合もあり得ると解される。)。この点について,原告は,「特性審査基準(案)」や本件審査25基準に階級幅の記載がないことから,トットリフジタ1号と本件被疑種苗との量的形質の比較はできないと主張するが,本件審査基準に標準品種及びその階級値が記載され,本件特性表に標準品種及び登録種苗の階級値が記載され,登録審査時の測定データが保存されている限り,上記のような方法で比較栽培試験に使用する階級幅及び階級範囲を設定することが可能であるから,原告の主張は失当である。しかし,本件では,判定基準となる階級幅の具体的設定に問題がある。すなわち,5登録品種の特性のうち特に量的形質に係る階級値は,標準品種との相対的な関係によって,栽培環境が変わっても維持されるものとして把握されているのであり,その相対的な関係を把握するための尺度が階級幅であるから,階級幅は,標準品種を考慮して設定すべき性質のものである。ところが,本件では,一部の標準品種しか供試されなかった結果,本件審査基準において標準品種が定められた量的形質のう10ちの11形質(形質番号5,8,9,10,29ないし34,38)において標準品種の実測値が存しないこととなっている。また,標準品種が供試された形質項目でも,供試された標準品種は,本件被疑種苗や鑑定フジタ2年生等と異なり挿し木から栽培を始めた上で,定植も本件被疑種苗等から約3か月遅い(鑑定フジタ2年生等の挿し木の時期から比べるとこの差は更に拡大する。)こととなっている。そ15して,このような生育環境と生育期間の差によって標準品種との相対的関係に影響が生じ得ることは,前記ア(エ)bのとおり農林水産省のP19も述べているところである。そうすると,標準品種が供試された形質項目についても,その実測値を前提として階級幅を設定することは適切でないというべきである(なお,階級幅を設定する上で,トットリフジタ1号の平均実測値を算出するに当たり,本件被疑種苗と20生育期間の異なる鑑定フジタ1年生の実測値も含めた平均値を算出した点も適切でないというべきである。)。したがって,本件比較栽培試験においては,量的形質の区別性に関して,判定基準となる階級幅を適正に設定することができないというべきである。c なお,原告は,鑑定フジタ2年生の平均値と,本件被疑種苗(入口)25及び本件被疑種苗(出口)各20株の各数値を対比し,平均値と1階級値を超える差異を有する株数が多数存在するとして,本件被疑種苗(入口),本件被疑種苗(出口)のいずれも,鑑定フジタ2年生と区別性を有するものであると主張し,また,階級幅は,平均値(中間幅)を用いて比較する決まりなどないとする。しかし,同一種苗内でも生育差によるばらつきが生じるのが通常であるところ,複数の個体を試験に供して得られた平均値こそが偏りのないデータであり(乙71p51),そ5れをもとに特性を比較するのが最も判定の正確性を担保できる方法というべきであって,「特定検定のための栽培試験方法」において,供試個体数が30株とされているのもその趣旨であると考えられる。したがって,原告の主張は採用できない。(エ) 以上からすると,鑑定フジタ2年生と本件種苗とが特性において明確に区別されないという本件比較栽培試験鑑定の判定は,量的形質に関する限り,判10定過程に問題があり,そのまま採用することはできないというべきである。したがって,本件比較栽培試験の結果をもって,直ちに本件被疑種苗がトットリフジタ1号と特性において明確に区別されない品種であるとの結論を導くことはできないが,他方で,両者が明確に区別されない品種ではないという結論も導くことはできないから,結局,本件比較栽培試験の結果をもって何らかの結論を得ることはできない15というべきである。もっとも,上記のように標準品種の実測値を用いて階級幅を適正に設定することができないとしても,本件比較栽培試験では,鑑定フジタ2年生のほかに,トットリフジタ1号と登録審査時に同一の審査基準に基づき同一の機会に同一の階級幅に基づいて審査された登録品種(甲92及び93)として,トットリフジタ2号(鑑20定フジタ2号)が供試されている。そして,登録品種たるトットリフジタ2号は区別性と均一性と安定性を満たすと判断されて,審査時の環境の下で,トットリフジタ1号と同じ標準品種との相対関係での階級値を与えられている一方,本件比較栽培試験に供された鑑定フジタ2号は,鑑定フジタ2年生と同様にP6がP4の圃場で栽培していたものを提出しており,鑑定フジタ2年生と生育環境及び生育期間を25同じくしているのであるから,鑑定フジタ2号と鑑定フジタ2年生との相対関係を用いて階級幅を設定することも考えられ,前記ア(ウ)dの階級幅の設定方法の④はこのような考え方によるものと解される。そして,この方法は,標準品種というものが,当該形質においてその特性が安定的に出るものとして選ばれていること(乙71p16)からすると,標準品種を用いた本来の階級幅の設定に比べると精度が劣るといわざるを得ないが,それでも,参考程度には利用し得ると考えられる。そこ5で,この方法による階級幅の設定を検討すると,①トットリフジタ1号とトットリフジタ2号の登録された階級値が異なる場合には,本件比較栽培試験におけるトットリフジタ1号(鑑定フジタ2年生)とトットリフジタ2号(鑑定フジタ2号)の測定値の平均値の差を,本件特性表におけるこれら2つの登録品種の階級値の差で除する方法によるのが合理的であり(本件比較栽培試験鑑定における前記ア(ウ)dの10④),②トットリフジタ1号とトットリフジタ2号の登録された階級値が同一の場合には,鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ2号の各実測値平均の平均値を,登録された階級値が属する階級の中間値で除する方法によるのが合理的である(本件比較栽培試験鑑定において,この場合にどのようにして階級幅を設定したのかは明らかでないが,前記ア(ウ)dの③の方法を参酌すると,この方法によるのが合理的であると15考えられる。)。そして,「野帳」と呼ばれる本件比較栽培試験の生データ(甲118)に基づき鑑定フジタ2年生及び鑑定フジタ2号の各平均値を算出すると別紙「鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ2号の平均値」のとおりであり,これを踏まえて上記の方法により階級幅を設定し,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との差を見てみると,別紙「鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗の差」のとおり,全て1階級幅の20範囲内にあると認められるから,この方法によっても,本件被疑種苗がトットリフジタ1号であるとの前記認定を妨げるものではない。(4) 小括以上によれば,①本件株分けの経緯からすると,本件株分けに使用された植物体は,トットリフジタ1号かタケシマキリンソウ(原告代表者がグリーンマーケット25又はやまくさから購入したもの)のいずれかであると認められるところ,②DNA鑑定の結果によれば,本件被疑種苗は上記のタケシマキリンソウでないと認められる一方,トットリフジタ1号とはDNA型が明確には異ならないと認められるから,本件被疑種苗はトットリフジタ1号であると認められ,③本件比較栽培試験の結果によってもこの認定は妨げられないと認められる。そして,本件株分けの経緯での検討からすると,本件被疑種苗は,原告において,5P2に指示してトットリフジタ1号を違法に増殖し,譲渡したものと認められるから,原告の行為は,「品種登録を受けている品種…を業として利用する」(種苗法20条1項))ものと認められる。 3 争点3-1(原始的瑕疵1・育成者性の欠如),争点3-2(原始的瑕疵2・区別性の欠如),争点3-3(原始的瑕疵3・未譲渡性(新規性)の欠如)につい10て(1) 品種登録が重大・明白な瑕疵により無効とされる場合は,当該品種登録に係る育成者権の権利行使は許されない。また,種苗法には特許法104条の3第 1項のような規定がないが,種苗法にかかる品種登録についても,品種登録が種苗法49条1項1号所定の要件に違反してされたことが判明したときは,農林水産大臣15はその品種登録を取り消さなければならならず,その場合,育成者権は品種登録の時に遡って消滅したものとみなされる(同条4項1号)ことから,当該品種登録がそれらの要件に違反して登録され,取り消されるべきことが明らかであるときは,その育成者権による権利行使は,権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である(最高裁判所平成12年4月11日判決・民集54巻4号1368号参照)。20そして,原告が原始的瑕疵1ないし3として主張する無効・取消事由は,いずれも種苗法49条1項1号所定の要件違反をいうものである。(2) ところで,被告は,原告を含む複数人が本件品種登録1について区別性の欠如を理由としてした異議申立てについて,これを棄却する決定が確定したことに基づき,本件で原告が区別性の欠如に基づく原始的瑕疵2を主張することは許され25ないと主張する。ア 特許法167条(平成23年法律第63号による改正後のもの)は,「特許無効審判…の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」と定めている。この趣旨は,審決が確定した後に同一の当事者等が同一の事実及び証拠に基づいて再び審判を請求することは,解決済みの紛争の蒸し返しにほかならず,不合理であるとの点5にある。そうすると,同条に当たる事情が存するときは,同法104条の3の「当該特許が特許無効審判により…無効にされるべきものと認められるとき」に当たらず,特許権侵害訴訟における同条の主張は認められないと解するのが相当である。そして,種苗法51条が品種登録に対する異議申立ての期間制限を設けないこととしたのは,育成者権が登録品種及び当該登録品種と特性により明確に区別されな10い品種を業として利用する権利を専有するという強力な独占権であり(同法20条1項),その存続期間が品種登録の日から原則として25年と長期間にわたり(同法19条),存続期間満了後にも存続期間中の侵害行為に対する権利行使が可能であるため,第三者の権利利益に与える影響が大きいことから,品種登録に対する異議申立てに特許無効審判に類似した機能を持たせる趣旨であると解される。このこ15とからすると,前記の特許権侵害訴訟の場合と同様に,品種登録に対する異議申立てに係る決定が確定したときは,育成者権侵害訴訟において,当該異議申立ての当事者が,当該異議申立てと同一の事実及び証拠に基づく登録無効・取消事由を主張して権利濫用の主張をすることは,紛争の蒸し返しとして許されないと解するのが相当である。なお,被告は,原告以外の者がした異議申立てに係る決定が確定した20場合も同様に解するべきであると主張する趣旨のようにも解されるが,特許法167条が従前は当事者及び参加人以外の第三者にも一事不再理効を及ぼしていたのを,手続保障のない第三者に効力を及ぼすのは妥当性を欠くとして,平成23年法律第63号により現行法のように改正された経緯に照らして採用できない。そこでまず,原告による原始的瑕疵2に係る無効・取消事由に基づく権利濫用の25主張の適否について検討する。イ 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(ア) 原告は,平成25年8月12日,トットリフジタ1号に係る品種登録について農林水産大臣宛てに異議申立てをした(以下「本件異議申立て」という。)。その異議申立書(甲21)において主張された取消事由は,トットリフジタ1号は,タケシマキリンソウと特性の全部又は一部によって明確に区別されず,明確区別性5を欠いており,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものであるとの点にある。上記の異議申立書では,公知のタケシマキリンソウは,韓国の鬱陵島に自生する植物で1917年に中井猛之進によって採取された「Sedum takesimese Nakai」であり,①P12准教授が「日緑工誌」に掲載した「緑化植物ど・こ・ま・で・き・10わ・め・る」と題するコラムでは,タケシマキリンソウを平成8年6月に多肉植物の趣味家仲間から苗を譲り受けて栽培するとともに,同年10月から1年間生育・越 冬 試 験 を し た 旨 が 掲 載 さ れ て い る こ と , ② 平 成 8 年 発 行 の「Phytochemistry,Vol.41,No.5」に掲載されたアジアのセダムのアルカロイドに関する論文で,ベンケイソウ科キリンソウ属の植物として上記のタケシマキリンソウ15が記載されていることから,上記のタケシマキリンソウは公知であると主張している。そして,上記の異議申立書では,①P11が作成したトットリフジタ1号とタケシマキリンソウの特性を対比した報告書に基づき,本件審査基準に定める特性において両者に明確な区別性が認められない旨を主張するとともに,②日本食品分析セ20ンターが行ったDNA塩基配列解析試験によれば,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウは,リボソームDNAのITS領域の塩基配列が異ならないことから,両者が遺伝子レベルで客観的に同一の品種である疑いがあり,少なくとも両者がその特性において明確に区別されない旨と,トットリフジタ1号の母親が新潟在来のタケシマキリンソウである可能性が低く,その旨の願書の記載は疑わしい旨を主張25して,以上から,両者は特性には明確な区別性がないと主張した。そして,原告は,証拠として甲1から甲16(以下,本件異議申立てでの書証番号を「異議甲1」などという。)を提出したが,それらには,①トットリフジタ1号の登録内容等に関するもの(異議甲1,4ないし7),②原告が利害関係人であることに関するもの(異議甲2及び3),③キリンソウが公知品種であることに関するもの(異議甲8ないし12),④トットリフジタ1号がタケシマキリンソウと5明確区別性を欠くことに関するもの(異議甲13ないし16)があった。なお,上記のP12准教授のコラム(異議甲10)は,本件での甲55であり,上記のP11による特性対比の報告書(異議13)は,ほぼ同一のものが本件での甲74であり,上記のNA塩基配列解析試験の報告書(異議甲16)は,本件での甲63である。10(イ) これに対し,農林水産大臣は,平成26年4月21日,異議申立てを棄却する旨の決定をした(以下「本件異議申立て決定」という。甲14)。そこでは,理由として,①品種登録制度における登録の単位は,「種」よりも小さい集団である「品種」であるのに対し,原告が添付している証拠は,いずれもタケシマキリンソウの「種」に関する記述にとどまり,タケシマキリンソウ種に属する特定の15「品種」が公然知られていたことを示すものではなく,原告提出の証拠によっても,タケシマキリンソウには特性が異なる複数の系統が存在することがうかがわれること,②証拠として提示されている特性対比及びDNA塩基配列解析試験について,供試したタケシマキリンソウの系統が,トットリフジタ1号の品種登録出願前に公知となっていた証拠が示されていないことが示された。20(ウ) 本件異議申立て決定については,原処分の取消しの訴え及び裁決取消しの訴えが所定期間内に提起されず,確定した(弁論の全趣旨)。ウ 以上に基づき,まず原告が原始的瑕疵2として主張する無効・取消事由が,本件異議申立てと同一の事実及び証拠に基づくものであるかを検討すると,本件で,原告が原始的瑕疵2として主張する無効・取消事由は,公知のタケシマキリ25ンソウとの間で特性において明確区別性を欠くというものであり,種苗法3条1項1号違反をいうものであるから,本件異議申立てで主張された取消事由と同一の事実に基づくものである。そこで,証拠の同一性を見ると,前記認定のとおり,本件で原告がトットリフジタ 1 号と公知のタケシマキリンソウの明確区別性の欠如を立証するために提出した証拠は,その多くにおいて本件異議申立てで提出したものと重複している。しかし,5本件では,P8教授によるDNA鑑定の証拠が追加されており,この証拠は本件異議申立てでの証拠を補足するにとどまるものではない。このことからすると,本件における原始的瑕疵2の主張が,本件異議申立てと同一の証拠によりされていると認めることはできないから,その主張が妨げられることはないというべきである。そこで,次に,原告主張の原始的瑕疵1ないし3が存することが明らかであると10認められるかについて検討する。(3) 原告主張の原始的瑕疵1ないし3についてア トットリフジタ1号とタケシマキリンソウの重要な形質に係る特性について植物は生育期間や生育環境により生長具合に影響を受けることから,二つの植物15体の特性を直接に比較するには,生育条件を揃えた適正な比較栽培事件によることが必要である。しかし,本件では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウについて,そのような比較栽培試験を行った結果は示されておらず,P11による甲74の特性比較報告書もどのような比較栽培を行ったのか明らかでない。また,その点を措くとしても,トットリフジタ1号については,農林水産省の調20査担当審査官が作成したトットリフジタ1号の出願品種の審査結果を記載した決裁文書(甲92の2)及び同決裁文書に添付された現地調査報告書(甲92の4)には,「「新潟在来」及び「佐渡在来」と比較して,冬期の茎の伸長程度が強く,萌芽が早いこと等で区別性が認められる」と記載されており,種々の特性の中で,これが最も重要な特性であると認められる。他方,タケシマキリンソウについては,25①P12准教授のコラム「緑化植物 ど・こ・ま・で・き・わ・め・る」(甲55)には,「栽培事例に関する報文によれば,英国の栽培家では遅霜によって植物に被害が出やすい時でさえ十分に生育し,また多くの植物が休眠する冬季にほとんど被害を受けず落葉せずに維持され,冬季も着葉していると報じている」旨が記載され,P12准教授も,本件刑事事件での証言において,茎と葉が一体となったシュートと呼ばれる芽が秋口から生長を始め,常緑ともとれる生長を示すと述べ(乙74p511),②千葉県立農業大学校研究科課長P20は,タケシマキリンソウも秋から春にかけて生育すると述べ(甲64),③上記のP11の特性対比報告書(甲74)では,「茎の伸長程度」(形質番号6)について,「強」とされているが,これらによっても,タケシマキリンソウの冬期の茎の伸張程度がどの程度であるのかは必ずしも明らかでない。かえって,④P12准教授の「日本のクライメートゾーン810に相当する2地点におけるセダムの生育と越冬性について」(乙3)には,各照射条件下における生息反応として平成11年10月から平成12年10月まで,1か月ごと又は2か月ごとに茎長を測定した結果がグラフ化されて掲載されており,それによれば,タケシマキリンソウは,他の種類と同様,冬期に当たる12月から2月にかけていずれの条件下でもほとんど茎長に変化がなかったグラフとなっており,15また,⑤P5は,本件刑事事件の証言において,アルペンガーデンから入手したタケシマキリンソウは10月から2月にかけてはほとんど伸びないと述べている(乙70p25)。これらからすると,タケシマキリンソウが,冬期の茎の伸長程度が強いというトットリフジタ1号の最も重要な特性を有するかについては明らかでないというべきである。20また,P12准教授は,本件刑事事件の証言において,自分の栽培していたタケシマキリンソウは葉の形等に変異が多く出たが,トットリフジタ1号は変異が出なかったと述べており(乙74p21ないし22),このことからしても,両者が重要な形質において明確区別性を欠くと認めることは困難である。イ DNA鑑定について25(ア) 前記2(2)オのとおり,P8教授によるDNA鑑定は,アガロースゲル電気泳動像において,2つの鑑定試料のバンド位置が明確に区別し得る場合には,両者のDNA型は異なると断定することができる点において,品種識別としての信用性を有すると認められる。(イ) P8教授によるDNA鑑定のうちタケシマキリンソウが鑑定試料に含まれる可能性のあるもの(甲136,138,140,142,144,150)5において,鑑定試料とトットリフジタ1号のDNA情報が同一であるとされたものは2つある。そのうちの一つは,10マーカーを用いた甲150のDNA鑑定において,P9から採取したタケシマキリンソウを含む可能性のあるP11・1ないしP11・15のDNA型が,トットリフジタ1号のものと同一であるとされたものである。10しかし,同じくP9から採取した鑑定試料について,20マーカーを用いた甲144のDNA鑑定では,タケシマキリンソウと認められるP11・16ないしP11・20について,DNA型がトットリフジタ1号のものと明確に区別することができる結果となっており,しかも,P11・16ないしP11・20にはP11が甲147でタケシマキリンソウを入手したルートとして述べる全てのルートに係る15ものが含まれている。そして,前記2(2)カ(イ)bのとおり10マーカーによる甲150のDNA鑑定は,識別精度において20マーカーによるものに劣り,採用できないものである。したがって,甲150の結果をもってタケシマキリンソウとトットリフジタ1号のDNA情報が同一であると認めることはできない。(ウ) 他にトットリフジタ1号と同一のDNA型を有すると判定された鑑20定結果としては,「タケシマキリンソウ(鉾葉,平成11年ころ入手 桐蔭横浜大学で保管していたもの) 1株」について,トットリフジタ1号とDNA情報が同一であると判定された甲140の鑑定(10マーカー)がある。しかし,前記2(2)オのとおり,そもそもP8教授によるDNA鑑定の手法では,DNA情報が同一であると判断された場合でも,DNA情報が明確に区別できない25ということが認められるにとどまり,同一であるとまで認定することはできない。また,10マーカーによる鑑定は,識別精度が低いと認められることも前記のとおりである。そうすると,上記の甲140の鑑定をもって,トットリフジタ1号と上記試料でタケシマキリンソウとされた試料とのDNA情報が同一であると認めることはできない。また,その点を措くとしても,甲140の鑑定の試料となった「タケシマキリン5ソウ」は,平成11年に入手したものとされているが,P12准教授によれば,これは,平成25年頃に,P12准教授が,平成11年の入手先から,当時と同一の種苗と指定した上で再入手しようとしたところ,入手先が別の譲渡先に譲渡していたものを再入手したものである(乙74p18,p33,p34)。そして,この間が14年も離れていることからすると,こうして入手した鑑定試料が平成11年10当時にP12准教授のもとにあったタケシマキリンソウを増殖したものであるとは直ちに推認できず,結局,この鑑定試料がタケシマキリンソウであることを認めるに足りる的確な証拠はないというほかはない。したがって,甲140の鑑定結果をもって,タケシマキリンソウとトットリフジタ1号のDNA情報が同一であると認めることはできない。15(エ) 日本食品分析センターによる「タケシマキリンソウ」とトットリフジタ1号のDNA塩基配列解析試験(甲63)では,原告が提供したトットリフジタ1号とタケシマキリンソウのDNA塩基配列解析の結果,核リボソームDNA ITS1領域においては100%,核リボソームDNA ITS2領域においては99%一致し,トットリフジタ1号はタケシマキリンソウと同一又は近縁なベンケイ20ソウ科植物に由来する可能性が高いと判断された。しかし,同センター自ら,このDNA塩基配列解析試験は,品種ではなく,種までの識別を目的とした試験であり,品種の識別を行う場合は,DNAマーカーを用いた方法が一般的であると説明していること(乙6)からすると,上記DNA塩基配列解析試験の結果をもって,タケシマキリンソウとトットリフジタ1号のDNA情報が同一であると認めることはで25きない。(オ) なお,上記の甲144のDNA鑑定によれば,いずれもタケシマキリンソウと認められるP11・16とP11・17とP11・18ないし20とは,それぞれDNA型が明確に異なっていると認められるから,本件異議申立て決定が述べるとおり,タケシマキリンソウには複数の系統が存在することがうかがわれ,上記の各種試験に供試したタケシマキリンソウの系統が,トットリフジタ1号の品5種登録出願前に公知となっていたことを認めるに足りる証拠はないというべきである。(カ) 以上によれば,DNA鑑定に基づいて,トットリフジタ1号がタケシマキリンソウと特性において明確に区別できない品種である(原始的瑕疵2)とは認められず,P12准教授が第三者に譲渡したのがトットリフジタ1号である(原10始的瑕疵3)とも認められない。ウ P12准教授の本件刑事事件における証言についてP12准教授は,本件刑事事件において,①平成10年か平成11年頃,セダムソサエティの会員である友人から常緑性のタケシマキリンソウを入手し,自ら栽培研究する一方,平成12年頃にP5に対して常緑性のものとして渡したほか,緑化15関係企業数社にも配ったこと,②P12准教授は,タケシマキリンソウ以外にも種々の苗をP5に渡しており,それらについてP5から共同出願の提案があったことを述べる(乙74p3ないし15)。しかし,P5は,P12准教授からタケシマキリンソウやツルマンネングサ等の苗をもらったことは認めつつ,トットリフジタ1号は,当時に各地から収集してきたキリンソウを自社の圃場で区画を区切って栽培20していた中から発見したものと述べている(乙70p34ないし36)。このことに加え,P12准教授自身,P5からの共同出願の提案について,タケシマキリンソウの共同出願の話だったのか曖昧であることを自認している(乙74p14)ことを考慮すると,P5がP12准教授に対して,タケシマキリンソウの共同出願を提案したと認めることはできず,また,仮にそのような提案をしたとしても,その25ことから,被告において,P5がP12准教授から譲り受けたタケシマキリンソウをトットリフジタ 1 号として品種登録出願した(原始的瑕疵1)と推認することはできない。エ 以上によれば,争点3-1ないし争点3-3に係る原告の原始的瑕疵1ないし3の主張はいずれも理由がない。 4 争点3-4(後発的瑕疵1・均一性,安定性の喪失)について5(1) 種苗法49条1項2号は,品種登録がされた後において,登録品種が同号所定の要件を備えなくなったことが判明したときは,農林水産大臣はその品種登録を取り消さなければならないと規定し,その場合,育成者権は,取消しの時点から消滅するとしている(同条4項柱書き)。登録品種にこのような後発的取消事由が生じた場合には,当該育成者権は保護されるべき実質的価値を欠くものとなったと10いえるが,その場合でも育成者権の消滅に後発的取消事由が生じた時点までの遡及効を認めなかったのは,登録品種の特性が保持されなくなったと判定するためには,審査時と同様の現地調査や栽培試験によってそのことを確認することを要する(種苗法47条)ことから,その確認ができた時点以前の特性喪失を認定することができないという点にあると解される。この趣旨からすると,登録品種に後発的取消事15由が生じ,侵害訴訟において当該品種登録が取り消されるべきことが明らかになったときは,農林水産大臣による取消し前であっても,後発的取消事由の発生が明らかに認められる時点以後の当該育成者権による権利行使は,権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。(2) 原告は,後発的瑕疵1として,本件特性表記載のトットリフジタ1号の特20性と,本件比較栽培試験における鑑定フジタ 1 年生の特性と,本件比較栽培試験における鑑定フジタ2年生の特性とが,それぞれ特性において明確に区別されるとして,遅くとも平成24年8月頃には,トットリフジタ1号が均一性,安定性を欠くに至っていたと主張する。しかし,本件特性表記載のトットリフジタ1号の特性と,本件比較栽培試験にお25ける鑑定フジタ 1 年生・鑑定フジタ2年生の特性の比較をいう点については,本件特性表記載のトットリフジタ1号の特性は登録審査時の栽培状況に基づくものであるのに対し,鑑定フジタ1年生・鑑定フジタ2年生の特性は本件比較栽培試験時の栽培状況に基づくものである上,登録審査時のトットリフジタ1号の齢と,鑑定フジタ1年生・鑑定フジタ2年生の齢とがそれぞれ同一であると認めるに足りる証拠はないから,それらの生育環境及び生育期間の相違により特性に相違が生じた可能5性がある(甲104p16ないし20)。また,前記のとおり本件比較栽培試験は,標準品種を供試していない等のために量的形質についての判定過程に問題があり,その階級幅の設定及びそれに基づく階級値の判定を直ちに採用することはできない。そうすると,原告のいうような差異があることをもって,トットリフジタ1号が安定性又は均一性を欠くに至ったと認めることはできない。10また,本件比較栽培試験における鑑定フジタ1年生の特性と鑑定フジタ2年生の特性の比較をいう点については,前記のとおり,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生とでは,挿し木された時期が2か月から3か月程度異なっており,その程度の齢の差が,特性の差異に反映されている可能性がある上,本件比較栽培試験における階級値の判定を直ちに採用できないことは前記のとおりであるから,鑑定フジタ151年生と鑑定フジタ2年生の特性の差異をもって,トットリフジタ1号が安定性又は均一性を欠くに至ったと認めることはできない。なお,原告は,登録時のトットリフジタ1号,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生の間に生じている特性の差異は,栽培環境や栽培齢の差異では説明がつかないものであると主張するが,そのように言えるだけの根拠は示されていない。また,20原告は,安定性の検討において齢の差は無関係であると主張するが,齢の差が特性に影響を及ぼす可能性がある以上,異なる世代間での安定性を判定するには,各世代における同一の齢の種苗を対比する必要があるから,この点に関する原告の主張も失当である。(3) 以上から,原告の主張する後発的瑕疵1は理由がない。25 5 争点3-5(後発的瑕疵2・均一性の喪失)について(1) 原告は,後発的瑕疵2として,本件比較栽培試験に供試された鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生の各20株について,形質ごとの平均値から1階級値以上異なった株も数多くあることから,遅くとも平成24年8月頃には,トットリフジタ1号が均一性を欠くに至っていたと主張する。(2) 品種登録出願の審査に用いられる一般基準(「区別性,均一性及び安定性5(DUS)審査のための一般基準」)の「第4 均一性判定に関する基準」には,次のとおり規定されている(甲119)。「均一性の審査は,有性繁殖又は栄養繁殖をすることから予測できる変異を除いて,法第3条第1項第2号に規定する要件(同一の繁殖の段階に属する植物体の全てが特性の全部において十分に類似していること)を満たすものであるか否かにつ10いて行う。」,「栄養繁殖性品種…の場合,異型個体の混入数が繁殖された出願品種の個体数に応じ次に掲げる最大混入許容数を超えないとき,均一性があると判定する。この場合の異型個体とは,出願品種と第3による区別性が認められる個体数をいう。出願品種の個体数 最大混入許容数15≦ 5 06~35 136~82 283~137 3」また,ここで参照される一般基準の「第3 区別性の判定に関する基準」の6(3)20には,「量的形質とは,植物の茎の長さのように直線的に連続して変異するものをいう。原則として量的形質が1階級値の幅以上異なる場合には,区別性があると判定する。」とされている。これらの一般基準からすると,栄養繁殖品種における均一性は,同一世代に属する齢が同じ植物体の中での異型個体数が,全体個体数の範囲ごとに定められる最大25混入許容数を超える場合に否定され,異型個体であるか否かは,量的形質については,1階級幅以上の相違があるか否かによって判定すべきものと認められる。(3) 本件の場合,本件比較栽培試験には,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生いずれも20株ずつを試験に供したことから,異型個体の最大許容混入数はいずれも1株ということになる。5そして,本件比較栽培試験の生データ(甲118)によれば,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生について,それぞれ冬期及び開花盛期に測定された量的形質に係る測定値は別紙「冬期鑑定フジタ1年生の測定値等」,別紙「冬期鑑定フジタ2年生の測定値等」,別紙「開花盛期鑑定フジタ1年生の測定値等」,別紙「開花盛期鑑定フジタ2年生の測定値等」の各「測定値」欄記載のとおりであり,平均値と各10株の測定値との差は「平均値との差」欄記載のとおりであり,「平均値との差」を本件比較栽培試験鑑定で用いられた階級幅で除すことにより算出した各測定値と平均値との階級差は「平均との階級差」欄記載のとおりであり,網がけしたものが1階級幅以上の差がある株である。これによれば,本件比較栽培試験鑑定で用いられた階級幅の下では,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生のいずれについても,複15数の量的形質の項目で,1階級幅以上の差がある株数が前記の最大許容混入数を上回っている。もっとも,上記の検討は,本件比較栽培試験鑑定において設定された階級幅に基づくものであり,前記2(3)イ(ウ)bのとおり適正なものとはいえない。そこで,本来より精度は劣るが,前記2(3)イ(エ)で算出した鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ220号を用いた階級幅により,同様にして各株の平均値からの乖離度を算出すると,鑑定フジタ2年生については別紙「鑑定フジタ2年生の均一性」,鑑定フジタ1年生については別紙「鑑定フジタ1年生の均一性」のとおりであり,いずれも形質番号5に限り,1階級幅以上の差がある株数が前記の最大許容混入数を上回っている。このように,鑑定フジタ1年生についても鑑定フジタ2年生についても,均一性25の基準を逸脱する結果となっているように見え(なお,上記の形質番号5の冬期の草丈も,トットリフジタ1号の最も重要な特性である冬期の茎の伸張程度と密接に関連する形質であるから,この形質が重要でないとはいえない。),このことから,トットリフジタ1号が均一性を喪失するに至っている可能性は否定できない。しかし,前記2(3)イ(ウ)bのとおり,本件比較栽培試験は,そもそも量的形質について適正な階級幅を設定することができないものであり,上記の検討も,適正とは認め5られないか精度の劣る階級幅を用いたものであるにすぎない。そうすると,本件比較栽培試験の結果に基づいて均一性の喪失の有無を最終的に判定することはできないというべきである。そして,他にトットリフジタ1号が均一性を喪失したと認めるに足りる証拠はない。10(4) 以上によれば,後発的瑕疵2に係る原告の主張は理由がない。 6 争点4(消尽の成否)について種苗法21条4項本文は,育成者権者が登録品種等の種苗,収穫物又は加工品を譲渡した場合には,当該種苗,収穫物又は加工品自体の利用には育成者権の効力は及ばないとし,譲渡された種苗に関する育成者権者の権利の消尽を規定している。15しかし,これに続く但書きにおいては,「当該登録種苗等の種苗を生産する行為…については,この限りでない」とされており,これらの規定を総合すれば,権利者から譲渡を受けた登録品種の種苗等を再度譲渡した場合には,育成者権の権利は消尽しており,当該種苗に対して育成権者の権利は及ばないものであるが,本件のように,権利者から譲渡された登録品種の種苗等を増殖した上で譲渡する場合,その20増殖は登録種苗の「生産」に当たることから,同条但書きの適用を受けることとなり,当該種苗に対して育成者権の効力はなお及ぶものと解するべきである。本件において原告は,被告から正規に入手した登録種苗であるトットリフジタ1号を無許諾で増殖し,それを使用して「みずいらず」という名称の製品として販売したものであり,このように,登録種苗を「生産」した当該製品に対しては,当然25に被告の育成者権は及ぶものというべきである。 7 小括以上のとおり,原告が本件被疑種苗を使用した原告製品3を販売した行為は,被告の本件育成者権1を侵害する行為に当たるものであり,被告の本件育成者権1の行使が権利濫用として許されないということはできず,また,被告の本件育成者権1は原告製品3に対しても及ぶものである。5したがって,被告は原告に対し,本件育成者権1侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有するものというべきであるから,原告の請求第3項の請求は理由がない(なお,原告は,同請求は,損害賠償請求権の不存在確認のみを求める趣旨であり,存在が認められる場合の損害額の確認までを求める趣旨ではない旨を明確にしている。)。10 8 まとめ以上の次第で,原告の請求のうち,請求第1項及び第2項については,確認の利益が認められ,それらの請求には理由があるから認容することとし,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。15大阪地方裁判所第26民事部裁判長裁判官髙 松 宏 之裁判官野 上 誠 一5裁判官大川潤子は,転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官髙 松 宏 之 |
| 事件の概要 | 1 事案の概要 本件は,原告が,登録品種の名称を「トットリフジタ1号」,「トットリフジタ215 号」とする各登録種苗について育成者権を有する被告に対し,①別紙「種苗目録1」 及び別紙「種苗目録2」記載の種苗(以下「本件種苗1」,「本件種苗2」という ことがある。)を生産等する行為,並びに本件種苗1及び2を使用した別紙「原告 製品目録1」及び別紙「原告製品目録2」記載の製品(以下「原告製品1」,「原 告製品2」ということがある。)を販売する行為について,被告の各育成者権に基20 づく差止請求権が存在しないことの確認を求めるとともに,②別紙「種苗目録3」 記載の種苗(以下「本件被疑種苗」という。)を使用した別紙「原告製品目録3」 記載の製品(以下「原告製品3」ということがある。)を販売した行為につき,被 告のトットリフジタ1号に係る育成者権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求 権が存在しないことの確認を求めた事案である。25 2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定で きる事実。なお,書証の枝番号は,特に記載しない限り,その全てを示す趣旨であ る。以下,同様である。) |
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平成30年6月21日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成26年(ワ)第12573号 育成者権に基づく差止請求権不存在確認請求事
件
口頭弁論終結日 平成30年2月7日
判 決
原 告 ブルージー・プロ株式会社
同訴訟代理人弁護士 溝 上 哲 也
同 河 原 秀 樹
同 早 川 光 俊
同 髙 須 賀 彦 人
同 中 谷 彩
被 告 P1
同訴訟代理人弁護士 松 本 司
同 井 上 裕 史
同 田 上 洋 平
同 上 田 雅 稔
同訴訟復代理人弁護士 冨 田 信 雄
主 文
1 別紙「原告製品目録1」及び別紙「原告製品目録2」記載の製品に使用する
別紙「種苗目録1」及び別紙「種苗目録2」記載の種苗を,原告が生産し,調
整し,譲渡の申出をし,譲渡し,輸出し,輸入し,又はこれらの行為をする目
的をもって保管する行為につき,被告が,品種登録第15866号及び品種登
録第15867号の各育成者権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
2 別紙「種苗目録1」及び別紙「種苗目録2」記載の種苗を使用した別紙「原
告製品目録1」及び別紙「原告製品目録2」記載の製品を,原告が販売する行
為につき,被告が,品種登録第15866号及び品種登録第15867号の各
育成者権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担と
する。
5 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主文第1項同旨
2 主文第2項同旨
3 別紙「種苗目録3」記載の種苗を使用した別紙「原告製品目録3」記載の製
品を,原告が南海辰村建設株式会社に販売した行為につき,被告が,品種登
録第15866号の育成者権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権を
有しないことを確認する。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,原告が,登録品種の名称を「トットリフジタ1号」,「トットリフジタ2
号」とする各登録種苗について育成者権を有する被告に対し,①別紙「種苗目録1」
及び別紙「種苗目録2」記載の種苗(以下「本件種苗1」,「本件種苗2」という
ことがある。)を生産等する行為,並びに本件種苗1及び2を使用した別紙「原告
製品目録1」及び別紙「原告製品目録2」記載の製品(以下「原告製品1」,「原
告製品2」ということがある。)を販売する行為について,被告の各育成者権に基
づく差止請求権が存在しないことの確認を求めるとともに,②別紙「種苗目録3」
記載の種苗(以下「本件被疑種苗」という。)を使用した別紙「原告製品目録3」
記載の製品(以下「原告製品3」ということがある。)を販売した行為につき,被
告のトットリフジタ1号に係る育成者権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求
権が存在しないことの確認を求めた事案である。
2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定で
きる事実。なお,書証の枝番号は,特に記載しない限り,その全てを示す趣旨であ
る。以下,同様である。)
(1) 当事者等
原告は,緑化事業の設計,施工,維持管理及びコンサルタント等を目的とし
5 て,平成16年12月24日に設立された会社である。P2は,原告からの委託
を受け,兵庫県洲本市所在の畑等において,植物の栽培等を行っていた。P2
は,兵庫県南あわじ市所在のP3らを下請け農家としていた。
被告は,品種登録第15866号及び同第15867号の育成者権者であり,鳥
取県岩美郡<以下略>所在のP4の監査役の地位にある。P5は,被告の夫で,P
4の代表取締役であり,P6は,P4の専務取締役である。
(2) 被告の育成者権
被告は,次の育成者権1及び2を有している(甲8ないし13)。
ア 育成者権1(以下「本件育成者権1」といい,この品種登録を「本件品
種登録1」という。)
出願番号 第16646号
出願年月日 平成16年2月10日
出願者 P1
出願品種の名称(出願時) 常緑キリンソウフジタ1号
品種登録の番号 第15866号
登録年月日 平成19年12月17日
農林水産植物の種類 Phedimus kamtschaticus (Fisch.) 't Hart
(和名:エゾノキリンソウ種)
登録品種の名称 トットリフジタ1号
品種育成をした者の氏名 P5
育成者権者 P1
イ 育成者権2(以下「本件育成者権2」とい,本件育成者権1と併せて「本
件育成者権」という。)
出願番号 第16647号
出願年月日 平成16年2月10日
出願者 P1
5 出願品種の名称(出願時) 常緑キリンソウフジタ2号
品種登録の番号 第15867号
登録年月日 平成19年12月17日
農林水産植物の種類 Phedimus kamtschaticus (Fisch.) 't Hart
(和名:エゾノキリンソウ種)
登録品種の名称 トットリフジタ2号
品種育成をした者の氏名 P5
育成者権者 P1
(3) トットリフジタ1号の重要な形質に係る特性
トットリフジタ1号に係る審査基準は,別紙「審査基準」のとおりであり(以下
「本件審査基準」という。甲16,甲120),トットリフジタ1号の品種登録簿
における重要な形質に係る特性の記載は,別紙「トットリフジタ1号の特性」(以
下「本件特性表」という。)のとおりである(甲8)。
トットリフジタ1号は,農林水産省の審査において,繁殖の方法について「栄養
繁殖」,特性の概要について「この品種は,新潟県在来種の自然交雑実生から選抜
して育成されたものであり,葉の色は緑色で冬期の茎の伸長程度が強く地上部が
枯死しないグランドカバー向きの品種である。」等,区別性について「『新潟在来』
及び『佐渡在来』と比較して,冬期の茎の伸長程度が強いこと等で区別性が認めら
れる。」と認定されて,登録が認められた(甲92)。
(4) 原告とP4との取引関係
ア P4は,被告の許諾を得て,鳥取県岩美郡<以下略>所在の自社の圃場
のビニールハウスでトットリフジタ1号を栽培し,カット苗(挿し木用に茎の先端
の3cm から4cm 程度を切った苗),プラグ苗(カット苗を少量の土に植えて少し根
を生やした状態の株),ポット苗(円上のポットに植えられ相当程度に育った株)
の形で,「常緑キリンソウ」として販売していた(甲110,乙14p3)。
原告は,従前,P4及びP7との間で覚書(甲38及び39)を作成して,P4
5 が生産したトットリフジタ1号のカット苗等を,P7を介して正規に購入し,これ
をP2らに栽培させて,屋上緑化商品として販売していた。原告が販売していた屋
上緑化商品には,メキシコマンネングサを使用した「てまいらず」,トットリフジ
タ1号4株とメキシコマンネングサ5株をトレイに植えた「みずいらず」(原告製
品3),トットリフジタ1号の5株(場合により9株)をトレイに植えた「みずい
らずスーパー」の3種類があった(乙11p3)。
イ P4側は,平成24年1月31日付けのP7宛の文書により,原告に対
し,P7を介したトットリフジタ1号のカット苗の販売を同年3月31日限りで中
止することを通知した(甲40)。
(5) 原告の阪神高速への納品
原告は,平成24年9月2日,南海辰村建設株式会社から,阪神高速大和川線の
三宅西入口・出口料金所(以下「本件入口料金所」,「本件出口料金所」といい,
併せて「本件料金所」という。)の屋上緑化工事を請け負った。
原告は,平成25年2月,P2の下でP3が栽培していた「みずいらず」453
トレイを上記工事のために出荷した(なお,これに使用された本件被疑種苗がトッ
トリフジタ1号であるか否かについては争いがある。 。
)(以上,乙15添付資料)。
(6) 刑事手続
ア P6は,平成25年4月23日,P2の農場に赴き,P2がトットリフ
ジタ1号又はトットリフジタ2号の違法増殖をしていると考えたことから,同年5
月,鳥取警察署にこの件を相談した(乙33及び35)。
イ 原告,原告代表者及びP2は,平成27年2月15日,次のような種苗
法違反の事実を公訴事実として鳥取地方裁判所に起訴され,いずれも有罪判決がさ
れた(以下「本件刑事事件」という。乙1)。
「原告代表者及びP2は,共謀の上,原告の業務に関して育成者権者の承諾なく
平成24年8月下旬頃から平成25年2月6日頃までの間,兵庫県南あわじ市所在
のP3の畑で,情を知らないP3に,トットリフジタ1号8000株を育成させて
5 生産した上,同月6日頃,原告が南海辰村建設株式会社から請け負った阪神高速道
路大和川線三宅西出入口料金所新築その他工事に伴う屋根工事に関し,P3の畑か
ら前記生産に係るトットリフジタ1号約1812株をトレイに植え込んだ商品名
「みずいらず」453トレイ(設置工費込み代金127万9720円)を,前記三
宅出入口料金所新築その他工事現場に発送し,同月8日頃にこれを同所に到達させ
て南海辰村建設株式会社に譲渡し,もって育成者権を侵害した。」
(7) 比較栽培試験
鳥取警察署は,本件刑事事件の捜査のために,平成25年8月22日及び同年9
月6日,独立行政法人種苗管理センター(以下「種苗管理センター」という。)に
対し,本件料金所の建物屋上から採取した本件被疑種苗と,P5及びP6が「トッ
トリフジタ1号」であるとして捜査機関に提出した植物体について,比較栽培によ
る品種類似性試験を内容とする鑑定を嘱託し,比較栽培試験が実施された(以下,
これらの試験をまとめて「本件比較栽培試験」といい,それに基づく鑑定を「本件
比較栽培試験鑑定」という。甲100,101,乙49ないし51)。
これらの鑑定試料のうち,P6が平成25年8月20日に提出した植物体は,鑑
定時に「トットリフジタ1号(2年生株)」と呼称され(以下,これを「鑑定フジ
タ2年生」という。),P5が平成25年9月5日に提出した植物体(甲131な
いし甲133)は,鑑定時に「トットリフジタ1号(1年生株)」と呼称された(以
下,これを「鑑定フジタ1年生」という。)。
本件比較栽培試験の結果,鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗とは特性において明
確に区別されると判定され,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗とは,特性において
明確に区別されないと判定された(以上,甲100,101,乙50,51)。
(8) DNA鑑定
鳥取大学乾燥地研究センター教授で,植物遺伝育種学を専門とするP8(以下「P
8教授」という。)は,平成26年1月30日付け及び同年2月19日付けの鳥取
警察署からの鑑定嘱託に応じて,10マーカーを用いて,P4側が提出したトット
5 リフジタ1号と,本件料金所から採取した本件被疑種苗とのDNA情報の同一性に
ついて鑑定を行い,トットリフジタ1号と本件被疑種苗とのDNA情報は同一であ
るが,トットリフジタ2号と本件被疑種苗とのDNA情報は異なるとの結論を得た
(以下「本件DNA鑑定1」という。乙53ないし乙60)。
また,P8教授は,平成27年1月27日付け及び同年4月1日付けの鳥取警察
署からの鑑定嘱託に応じて,20マーカーを用いて,トットリフジタ1号と本件被
疑種苗とのDNAの同一性について鑑定を行い,両者のDNA情報は同一であると
の結論を得た(以下「本件DNA鑑定2」といい,本件DNA鑑定1と併せて「本
件DNA鑑定」という。甲106)。
(9) 原告のカタログ等の記載
平成26年4月発行の原告発行の屋上緑化総合カタログ(甲27)では,原告が
販売する屋上緑化用商品として,①みずいらず:「常緑キリンソウ」とメキシコマ
ンネングサの混植,②みずいらずスーパー:「常緑キリンソウ」100%とされ,
「ブルージー・プロが現在使用している常緑キリンソウは,1919年東京大学の
中井教授により,その存在が確認されたタケシマキリンソウを採用しています」と
記載されている(甲27)。
また,平成26年12月4日時点の原告のウェブサイトにおいても,同様の記載
がある(甲24)。
3 争点
(1) 請求第1項及び第2項関係
確認の利益の有無(争点1)
(2) 請求第3項関係
ア 本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に区別さ
れない品種か(争点2)
イ 被告の本件育成者権1に基づく請求は,本件品種登録1に無効・取消理
由があることにより,権利濫用として許されないか
5 (ア) 原始的瑕疵1・育成者性の欠如(争点3-1)
(イ) 原始的瑕疵2・区別性の欠如(争点3-2)
(ウ) 原始的瑕疵3・未譲渡性(新規性)の欠如(争点3-3)
(エ) 後発的瑕疵1・均一性,安定性の喪失(争点3-4)
(オ) 後発的瑕疵2・均一性の喪失(争点3-5)
ウ 消尽の成否(争点4)
4 当事者の主張
(1) 争点1(確認の利益の有無)について
(原告の主張)
原告は,原告製品1及び2がタケシマキリンソウを使用した製品であることを従
前より対外的に説明していたし,もちろん現在も説明している。被告は,以上の事
実を知りながら,平成26年11月11日,あえて警告対象の製品を発見した経緯,
時期,場所などを一切特定せず,原告の現行製品を対象として,被告の育成者権を
侵害することを理由に,その生産販売の即時中止を求める警告書を原告に送付し(甲
45),原告が回答書(甲46)でいつ誰に販売した製品を警告の対象とするのか
特定を求めたのにあえてこれを無視し,本訴の提起前に何も応答しなかったという
のが事実である。
そして,被告は,平成27年4月30日,本訴の被告第2準備書面において,初
めてタケシマキリンソウ由来の製品は侵害品ではないと答弁したのであるが,対外
的には,タケシマキリンソウ由来の製品が侵害品ではないことを一切認めていない。
被告は,原告の販売先に対しても原告が育成者権を侵害しているので原告の製品
を取り扱わないよう触れ回っていたし,刑事事件がマスコミで報道された後には,
同様にその由来や販売時期を特定することなく,例えば建築士事務所などの緑化事
業に関係する不特定多数の者に対して侵害品を扱わないよう伝えて営業活動を行っ
ていた(甲87)。
また,被告は,本訴ではタケシマキリンソウ由来の製品は侵害品ではないと答弁
5 しておきながら,一方で,対外的には,常緑キリンソウと認められている物はトッ
トリフジタ1号及び2号のみであると虚偽の説明をして,常緑性であって誰でも自
由に扱えるはずのタケシマキリンソウを未だに認めていない。つまり,被告関係者
らは,訴訟外では,緑化事業の関係者に対し,常緑キリンソウを使用する場合はト
ットリフジタ1号及び2号以外の選択肢はないかのように誤解させる説明を続けて
いるのである(甲37の2,甲89)。
このような事実からすると,被告は,今もなお,対外的には,原告製品1及び2
を販売している原告の法的地位を否定しているに等しく,原告の取引先に不安を与
えることで原告の事業活動を妨害しているから,本件に確認の利益が認められるこ
とは明らかである。
(被告の主張)
タケシマキリンソウである本件種苗1及び2は,トットリフジタ1号及びトット
リフジタ2号と特性により明確に区別される別品種である。
したがって,これらの生産行為等及びこれらを用いた原告製品1及び原告製品2
の販売行為について,被告の育成者権1及び2に基づく差止請求権が存在しないこ
とは争わない。
そもそも被告は,タケシマキリンソウの生産行為等が被告の育成者権を侵害する
などと主張した事実はないから,請求の趣旨1及び2について,即時確定の利益は
ない。
甲89には,「常緑キリンソウ」と「トットリフジタ(1号)」が多数併記され
ており,このウェブページを閲覧した者が,同ページにおける「常緑キリンソウ」
はそもそもトットリフジタ1号の意味で用いられていると理解するのは自明である。
(2) 争点2(本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に
区別されない品種か)について
(被告の主張)
以下のとおり,本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に
5 区別されない品種であることは明らかである。
ア 比較栽培試験の結果
現物主義の観点から,トットリフジタ1号である鑑定フジタ2年生と本件被疑種
苗について比較栽培試験を実施した結果,両者は特性において明確に区別されない
ものとされた(乙50,51)。
イ DNA鑑定の結果
本件被疑種苗とトットリフジタ1号に関し,鳥取大学のP8教授が10マーカー
を用いてDNA鑑定を実施した結果(乙56,58),これらのDNA情報は同一
であると結論付けられた。
このDNA鑑定は,妥当性が検証されたDNA鑑定(マーカー数18,乙67)
と比較すると,マーカー数の相違から精度が落ちることは否定できない。しかし,
乙67に定めるDNA鑑定の手法は,若干の問題点の指摘はあるものの「したがっ
て,提供されたマニュアルは,今回の検証に用いられたサンプルを対象とする限り,
検査対象がトットリフジタ1号またはトットリフジタ2号であるか否かは正確に識
別可能なマニュアルであると言える」(乙67p21表13)と評価されている。
それゆえ,精度に差はあるものの同一人であるP8教授が行った乙56及び乙58
に基づくDNA鑑定の正確性を否定する理由とはならない。
なお,原告もDNA試験を行っているが(甲76及び甲77),これらの試験は
マーカーを用いず「科」レベルの一致しか導けないものであり(乙6,甲76及び
甲77の考察における「検体はタケシマキリンソウ又はこれと近縁なベンケイソウ
科植物に由来する可能性が高いと考えられた」),マーカーを用いた乙56及び乙
58とは異なり,品種レベルでの同一性ないしは相違性の判断はおよそ不可能な試
験である。
ウ 原告は,トットリフジタ1号の育成者権を侵害している事実を隠蔽する
ために多数の偽装工作を検討するとともに実行している。
① 原告は,平成25年4月24日,P6が原告に対し,P2が被告の許
5 諾なくトットリフジタ1号の種苗を増殖している事実を電話で伝えた後,トットリ
フジタ1号の処分をP2に命じた。
② 原告は,平成23年5月頃に,トットリフジタ1号を被告の許諾を得
ないで増殖を開始したが,その後,これと並行して,平成24年2月頃からタケシ
マキリンソウの増殖を開始した。原告は,当該事実を奇貨として,真実は異なるに
もかかわらず,平成24年2月頃から,P9からP2の農場に,既に大量のタケシ
マキリンソウを仕入れていた事実を偽装しようとP2に提案し,ポストイットに購
入を偽装する本数を記載してP2に交付した。
③ P10は,原告が育成者権を侵害していると認識し,原告に対し,「念
のために当方から苗を購入したことにしませんか?平成23年の春にタケシマキシ
ンソウの苗を販売した事として,納品書,請求書,領収書を準備いたします。」と
の提案を行った。
④ 原告又は原告代表者も,被告の許諾なく先にトットリフジタ1号を増
殖して,後で増殖分を購入しようと考えていたと供述し,被告のトットリフジタ1
号の育成者権を侵害している事実を認めている。
なお,原告は無断増殖分の代金を現在に至るまで被告や,P4,P7に支払った
事実はなく,当該後払方式をとることの許諾を,被告やP4,P7から得た事実も
ない。そして無断増殖したトットリフジタ1号の数量は,少なくとも2万4200
株(11200株+13000株)にのぼる(乙28資料1-1,乙108の1の
p31)。
エ 原告の主張について
(ア) 原告は,比較栽培試験においては,品種登録時の現物との比較検討が
必要であると主張する。
しかし,種苗法の保護の対象となる「品種」とは植物体の集合であり(種苗法2
条2項),育成者権の存続期間が登録より25年(同法19条2項)とされている
ことからすれば,必ず現物との比較が必要であるとすれば,育成者権の侵害立証は
5 極めて困難となり(植物体によっては寿命が短いものも存在する),種苗法の目的
とする品種の育成の振興と種苗の流通の適性化との趣旨(同法1条)を没却しかね
ない。
そもそも,品種登録の要件には安定性が要件となっており,甲93の2において
も「現地調査において,特性に変異がみられなかったこと及び栄養繁殖性品種であ
り,一般に遺伝的に同一であることから,安定性の要件を満たしていると判断する。」
(甲93の2のp3)とされており,特に被告においてトットリフジタ1号が別の
品種に変わったという特段の事情のない限り,被告(ないしは被告から許諾を受け
たP4)が育成しているトットリフジタ 1 号をもって,登録品種とすることに問題
はない。
また,原告は,乙50及び51の試験に供された鑑定フジタ1年生及び鑑定フジ
タ2年生が登録品種たるトットリフジタ1号であることが証明されていないと主張
する。しかし,トットリフジタ1号は,フジタにおいて栄養繁殖(挿し木)の方法
で継続的に栽培を行い,譲渡しているものであるから,品種登録時と特性が変化す
ることは一般的には考えられない。そして,栽培は区別されたビニールハウスの中
で行っており(乙70p58),他の品種が紛れる可能性はない。
(イ) 鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗との間に区別性が認められたのは,
鑑定フジタ1年生が1年生株,本件被疑種苗が2年生株であり,齢が異なるためで
あって,このことが育成者権侵害を否定する事実とはなり得ない。
トットリフジタ1号のように,栄養繁殖によって得られる植物はいわばクローン
であるため,栽培条件以外の影響により特性に変異が生じることは考えられない。
(ウ) 原告は,鑑定フジタ2年生の平均値と,本件被疑種苗の測定値を対比
すると,本件被疑種苗の株の一部に区別性が認められることから,侵害が否定され
る旨主張する。
しかしながら,なめこ事件知財高裁判決が判示するとおり,「特性差が上記の範
囲内にとどまらないとしても,相違する項目やその程度,植物体の種類,性質等を
5 総合的に考慮して,『登録品種と特性により明確に区別されない品種』への該当性
を肯定することができる場合もある」のであり,階級幅の比較を「平均値(中間幅)」
を用いて比較することは極めて合理的である。
この点を措くとしても,原告が指摘する一部区別性の主張は全株数中の一部に留
まるのであり,原告の主張によっても,本件被疑種苗の全てと鑑定フジタ2年生と
の間に区別性が認められるわけではない。この点において,原告の主張は訴訟物と
の関係で意味のないものといわざるを得ない。
(原告の主張)
ア 比較栽培試験について
以下のとおり,本件比較栽培試験には様々な問題があるから,その結果を信用す
ることはできない。
(ア) 現物主義に反する本件比較栽培試験の根本的な欠陥
a 現物主義の観点から,比較栽培試験は,登録種苗そのものと本件被
疑種苗とを用いて行われるべきであるが,本件比較栽培試験は,登録種苗であるト
ットリフジタ1号そのものではなく,P6らによって持ち込まれた鑑定フジタ1年
生及び鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗とを用いて行われているという根本的な欠
陥がある。
本来は,「品種登録出願の審査・登録時の植物体の現物」と,侵害が指摘される
植物体の個体との同定作業(各特性の比較)が必要であり,同一品種といえるため
には,特性表に列記されている各種の特性項目の全てにおいて,登録品種の登録時
の審査基準に従った比較の結果,同じ特性であるといえなければならない。
b トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生は,
特性において大きく異なり,同一性や連続性は認められないものであるから,鑑定
フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生は,トットリフジタ1号が栄養繁殖されたもの
とは考えられない。
(イ) 鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との齢及び環境
5 条件の同一性が担保されていないこと
本件においては,本件被疑種苗も含めて,挿し木の正確な時期は不明である。
まず,鑑定フジタ2年生株とされているものについてみると,種苗管理センター
に平成25年8月30日に持ち込まれた植物体は,「苗の齢が分からなかった」と
いうのであり,これが「2年生株」であったかどうかも明らかではない。
次に,鑑定フジタ1年生とされているものについてみると,種苗管理センターの
担当者は,比較栽培試験において「苗の齢がそろっていないと正確な結果が得られ
ない」が,「(8月30日に持ち込まれたものの)苗の齢が分からなかった」こと
から,「植苗後10か月程度育てたトットリフジタ1号」の提出を警察に求めたと
証言している(乙71)ところ,この求めに応じて,同年9月6日,鳥取警察署が
種苗管理センターに種苗を送ったものが「1年生」とされたものである。このこと
は,P5から,「当社で10か月程度育てたトットリフジタ1号」の提出があった
ので領置したとの捜査報告書(乙75添付資料)の記載からも明らかであって,「警
察から1年生株,2年生株を求められたときもこの区別で提出した」とのP5の証
言(乙72)は虚偽である。
そして,種苗管理センターが「植苗後10か月程度育てたトットリフジタ1号」
の提出を求めたのは平成25年9月初めであるから,「植苗後10か月程度育てた
トットリフジタ1号」の「植苗」時期は平成24年10月か11月頃ということに
なり,そうすると,鳥取警察署から種苗管理センターに9月6日に宅配便で送られ
てきた植物体は,明らかに冬を越しており,冬を経験していないものが「1年生株」,
冬を経験したものが「2年生株」であるとするP5の定義によれば,これは「2年
生株」とされるべきものであるのもかかわらず,「1年生株」と呼称されている。
他方,本件被疑種苗については,P6が,平成25年8月1日に本件料金所から
領置された苗の写真を見て,「1冬超した,2年生株くらいで間違いない。」と思
ったと証言しており,種苗管理センターにおいても,「2年生株」とされたもので
あるが,その作型や定植・挿し木の正確な時期は不明であり,トットリフジタ1号
5 や鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生と「同一の栽培条件」であるかを検討しよ
うがない。
(ウ) 本件比較栽培試験が,種苗管理センターが自ら定めた「比較栽培試験」
方法に違反していること
本件比較栽培試験では,種苗管理センター業務方法書(甲157)第7条の「栽
培試験の実施に当たっては,農林水産省食料産業局長が定める一般審査基準及び種
類別審査基準に準拠するとともに,センターが植物の種類ごとに定める栽培特性調
査マニュアルに基づき行うものとする。」とする規定に反し,「栽培特性調査マニ
ュアル」は作成されていない。
また,種苗管理センター育成者権侵害対策実施細則(甲157)の第2の2項に
は,「比較栽培試験」は,「品種登録に係る栽培試験と同一の方法」で行わなけれ
ばならないと書かれており,具体的には,「耕種概要」に書かれている方法による
ことになるにもかかわらず,本件では,「耕種概要」に記載された栽培方法と,種
苗管理センターの「比較栽培試験」の栽培方法とは大きく異なっている。
具体的には,「耕種概要」には,キリンソウの栽培条件について,「作型 雨除
け無加温 鉢栽培,挿し木 春(4~5月),天挿し,無摘心,定植 6月下 5
号鉢」とされているのに対し,本件比較栽培試験の栽培条件は,「作型 露地
鉢栽培, 登録品種(鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生)・比較品種(本件被
疑種苗)の定植 平成25年9月9日,標準品種の挿し木 平成25年9月18日」
とされたものである。
さらに,トットリフジタ1号の「特性」については,「特性審査基準(案)」(甲
146)に記載されているところ,階級値の記載はあるが,量的形質についての階
級幅の記載はないことから,量的形質については,トットリフジタ1号の形質と比
較のしようがない。
また,本件比較栽培試験の判定に用いられた「キリンソウ階級値設定表(平成2
6年種苗管理センター本所)」(乙50p10)の階級値は,本比較栽培試験の測
5 定値及び観測結果をもとに物差しを作ったもので,鑑定方法が杜撰である。
そもそも階級値設定表作成権限は農林水産省にあり,品種類似試験で種苗管理セ
ンターに階級値設定表作成権限はない。階級値設定表は品種類似性試験の結果を判
断する「ものさし」であるのに,その物差しを試験結果データをもとに作ること自
体が重大な論理矛盾である。
また,「キリンソウ階級値設定表(平成26年種苗管理センター本所)」の下(乙
50p11)には,「階級値設定表は,標準品種が設定されている形質は標準品種
を使用し,標準品種が設定されていない形質及び,今回試供していない標準品種が
設定してある形質は登録品種の登録値を基に設定した」とあり,具体的には富山在
来,佐渡在来のきりんそうが標準品種として指定されている形質では今回の試験で
富山在来と佐渡在来のキリンソウを試供したものであるが,一部形質では登録品種
だけを基に階級値,階級値幅を決定している。本件審査基準で,標準品種は形質ご
とに決められ,その階級値も決められているのに,大雪山,ヴァリエガーツム,新
潟在来は供試すらされておらず,その点でも杜撰な鑑定方法である。
(エ) 特性の比較
a トットリフジタ1号と,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生及び
本件被疑種苗の特性が大きく異なっていること
① トットリフジタ1号と本件被疑種苗(本件入口料金所から領置し
た株)の特性の差異(別紙「特性対比表1」)
別紙「特性対比表1」のとおり,トットリフジタ1号と本件被疑種苗(入口)の
特性には,以下のとおり8点の特性の差がある。
(トットリフジタ1号の量的形質に
は測定値の記載がないため,階級差が1のものでも階級幅が1階級分以上かどうか
判断できない。したがって,量的形質については階級差が2以上の場合を,
「明確に
区別される」程度の差異があるとした。)
・ 「7 茎の長さⅠ」(量的形質) 階級差2
・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)階級差2
5 ・ 「11 茎の色Ⅰ」(質的・疑似質的形質)階級差5
・ 「14 葉形Ⅰ」(質的・疑似質的形質)階級差1
・ 「24 葉のアントシアニンの着色部位」(質的・疑似質的形質)階級差1
・ 「25 葉のアントシアニンの色」
(質的形質・疑似の質的形質)登録時のト
ットリフジタ1号は階級値なし,阪神高速道路三宅西出口料金所か
「
ら領置した株」は階級値4,階級差は比較なし
・ 「40 花序の幅」(量的形質)階級差は3
・ 「48 葯の色」(質的・疑似質的形質)階級差は2
② トットリフジタ1号と本件被疑種苗(本件出口料金所から領置し
た株)の特性の差異(別紙「特性対比表2」)
別紙「特性対比表2」のとおりトットリフジタ1号と本件被疑種苗(出口)の特
性には,以下のとおり10点の特性の差がある。
(なお①と同様に量的形質について
は階級差が2以上の場合を,「明確に区別される」程度の差異があるとした。)
・ 「3 株張り」(量的形質) 階級差は2
・ 「7 茎の長さⅠ」(量的形質)階級差は2
・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)階級差は2
・ 「11 茎の色Ⅰ」(質的・疑似質的形質)階級差は5
・ 「14 葉形Ⅰ」(質的・疑似質的形質)階級差は1
・ 「24 葉のアントシアニンの着色部位」(質的・疑似質的形質)階級差1
・ 「25 葉のアントシアニンの色」(質的形質・疑似の質的形質)
登録時のトットリフジタ1号は階級値なし, 本件出口料金所から領
「
置した株」は階級値4,階級差は比較なし
・ 「40 花序の幅」(量的形質)階級差は3
・ 「45 花冠裂片の長さ」(量的形質)階級差は2
・ 「48 葯の色」(質的・疑似質的形質)階級差は2
③ 以上のとおり,トットリフジタ1号と本件被疑種苗(入口)及び
5 (出口)とでは,特性に大きな差異があることから,トットリフジタ1号と本件被
疑種苗は,特性上,明確な区別性があり,「同一性」はないものというべきであり,
トットリフジタ1号と本件被疑種苗が同一の植物体であることを前提とする被告の
主張には理由がない。
b トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生の特性
の差異
① トットリフジタ1号と鑑定フジタ 1 年生の特性の差異(別紙「特
性対比表3」)
別紙「特性対比表3」のとおり,トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生の特性
には,次の10点の特性の差がある。
(前記と同様に量的形質については階級差が2
以上の場合を,「明確に区別される」程度の差異があるとしている。)
・ 「7 茎の長さⅠ」(量的形質)階級差は3
・ 「8 茎の長さⅡ」(量的形質)階級差は2
・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)階級差は2
・ 「11 茎の色Ⅰ」(質的形質・疑似の質的形質)階級差は5
・ 「14 葉形Ⅰ」 階級差は1
・ 「24 葉のアントシアニンの着色部位」(質的形質・疑似の質的形質)
階級差は1
・ 「25 葉のアントシアニンの着色部位」(質的形質・疑似の質的形質)
「登録時トットリフジタ1号」は階級値なし,鑑定フジタ1年生は階級
値4,階級差は比較なし
・ 「39 花序の長さ」(量的形質) 階級差は2
・ 「45 花冠裂片の長さ」(量的形質) 階級差は2
・ 「48 葯の色」(質的形質) 階級差は2
② トットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性の差異(別紙「特
性対比表4」)
5 別紙「特性対比表4」のとおり,トットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性
には,次の9点の特性の差がある。
(前記の同様に量的形質については階級差が2以
上の場合を,「明確に区別される」程度の差異があるとしている。)
・ 「7 茎の長さⅠ」(量的形質) 階級差は2
・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質) 階級差は2
・ 「11 茎の色Ⅰ」(質的形質・疑似の質的形質) 階級差は5
・ 「14 葉形Ⅰ」(質的形質・疑似の質的形質) 階級差は1
・ 「24 葉のアントシアニンの着色部位」(質的形質・疑似の質的形質)
階級差は1
・ 「25 葉のアントシアニンの色」(質的形質・疑似の質的形質)
「登録時トットリフジタ1号」は階級値なし,鑑定フジタ2年生は階級
値7,階級差は比較なし
・ 「40 花序の幅」(量的形質) 階級差は3
・ 「45 花冠裂片の長さ」(量的形質) 階級差は2
・ 「48 葯の色」(質的形質・疑似の質的形質) 階級差は2
③ 以上のとおり,トットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生及び鑑定
フジタ2年生とでは,特性に大きな差異があることから,トットリフジタ1号と鑑
定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生との間に同一性はない。
(オ) トットリフジタ1号,鑑定フジタ1年生及び本件被疑種苗との区別
性について
本件比較栽培試験の問題点を措くとしても,鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗
との比較栽培試験の結果,両種苗には区別性があると判定されたものであるから,
仮に本件比較栽培試験の結果が妥当であれば,トットリフジタ1号,鑑定フジタ
1年生及び本件被疑種苗には明確区別性が認められることになる。
(カ) 鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との区別性について
a 比較栽培試験の結果について
5 種苗管理センターの比較栽培試験の結果では,鑑定フジタ1年生と本件被疑種
苗との間には区別性が認められたが,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との間に
は区別性が認められなかったとされている。
この点,鑑定フジタ1年生とされているのは,種苗管理センターは比較栽培試
験にあたって,本件被疑種苗の「齢」と同程度,すなわち「植苗後10か月程度」
と判断したものであり,これについて,本件被疑種苗との区別性が認められると
されたにもかかわらず,種苗管理センターが本件被疑種苗と「齢」すなわち「定
植時期」が異なっていると判断した鑑定フジタ2年生では「区別性」が認められな
かったという結果は,「苗の齢がそろっていないと正確な結果が得られない」との
種苗管理センター担当者の証言(乙71)からすれば,不可解な試験結果という
ほかない。
b 個別株の特性では「区別性」が認められること
比較栽培試験において,階級幅の比較を「平均値(中間幅)」を用いて比較すると
いう決まりなどはなく,個別苗において,以下のように多くの階級幅を超える「区
別性」が認められている,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(出入口)に「区別性」
がないとすることはできない。
① 鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(入口)の特性の差異(別紙「表
5」)
表5は鑑定フジタ2年生のそれぞれの形質の測定値(平均値)に対し1階級値を
超える本件入口料金所から領置した株の株数を記載したものであるところ,以下の
とおり4形質において特性に差がある株がある。
・ 「5 草丈Ⅱ」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値5.8に対し本件被疑種苗(入口)は試験した20株
の内5株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株を比較すると,
その差は最大3階級値幅あった。
・ 「8 茎の長さⅡ」(量的形質)
5 鑑定フジタ2年生の平均値4.1に対し本件被疑種苗(入口)は試験した20株
の内4株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株を比較すると,
その差は最大3階級値幅あった。
・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値3.5に対し本件被疑種苗(入口)は試験した20株
の内4株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株を比較すると,
その差は最大3階級値幅あった。
・ 「39 花序の長さ」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値2.8に対し本件被疑種苗(入口)は試験した7株の
内1株において1階級値を超える差があった。
② 鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(出口)の特性の差異(別紙「表
6」)
表6は 鑑定フジタ2年生のそれぞれの形質の測定値(平均値)に対し1階級値
を超える本件出口料金所から領置した株の株数を記載したものであり,以下のとお
り6形質において特性に差がある株がある。
・ 「3 草丈Ⅱ」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値37.7に対し本件被疑種苗(出口)は試験した5株
の内3株において1階級値を超える差があった。
・ 「5 株張り」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値5.8に対し本件被疑種苗(出口)は試験した20株
の内6株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株6株を比較す
ると,その差は最大3階級値幅あった。
・ 「8 茎の長さⅡ」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値4.1に対し本件被疑種苗(出口)は試験した20株
の内3株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株3株を比較す
ると,その差は2階級値幅以上あった。
5 ・ 「10 茎の太さⅡ」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値3.5に対し本件被疑種苗(出口)は試験した20株
の内7株において1階級値を超える差があった。1階級値を超える株7株を比較す
ると,その差は3階級値幅以上あった。
・ 「31 葉幅Ⅰ」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値2.1に対し本件被疑種苗(出口)は試験した5株の
内1株において1階級値を超える差があった。
・ 「38 葉の枚数Ⅱ」(量的形質)
鑑定フジタ2年生の平均値28.3に対し本件被疑種苗(出口)は試験した20
株の内2株において1階級値を超える差があった。
③ 小括
以上のとおり,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(入口)では4形質で階級幅を
超える特性の差があり,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(出口)では6形質で階
級幅を超える特性の差があり,いずれについても「区別性」が認められる。
イ DNA鑑定について
(ア) P8教授のDNA鑑定によっては,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗
との同一性は証明されていない。
「きりんそう」については,品種分析手法としての妥当性が確認されておらず,
そもそも植物に関するDNA鑑定は,人間に対するDNA鑑定と異なり,裁判で証
拠として用いられるレベルに達していない。
(イ) 前記のとおり,現物主義からすれば,DNA鑑定も,登録されたトッ
トリフジタ1号と本件被疑種苗とのDNA鑑定が行われるべきことになる。しかし,
P8教授のDNA鑑定は,P5がトットリフジタ1号であると主張する権利行使時
の植物体と本件被疑種苗とのDNA鑑定しか行っていない。
(ウ) DNA鑑定を行ったP8教授は,捜査機関やP4との癒着があり,そ
の中立性に重大な疑問があるうえ,農林水産省が定めた「DNA品種識別技術の妥
5 当性確認のためのガイドライン」に従って鑑定をしていない。
具体的には,ガイドラインには品種間の多型性が高く,識別しやすいマーカーで
あることが重要とされているが,P8教授はマーカーの独立性を確認していないこ
とを自認しており,明らかにガイドラインに反している。また,P8教授は,特定
非営利活動法人DNA鑑定学会(以下「DNA鑑定学会」という。)が定めたマー
カー開発規則に反し,マーカーの再現性の確認も行っていない。他にも,分析する
植物の由来を正確に把握せず,サンプルの混同を避けるための適切な措置も講じな
いなど,鑑定手法として杜撰である。
(エ) P8教授のDNA鑑定手法については,鑑定前に査読を経た論文発表
がされていない。
また,捜査段階での鑑定実施後,DNA鑑定学会の妥当性検証を受けたP8教授
のDNAマーカー開発マニュアルについて,同学会の妥当性検証報告書では,主観
的な手法であり個々のデータに対する精度の議論が不可能な曖昧な手法であるとか,
通常の品種識別マニュアルのレベルには至っていない,など,P8教授のDNA鑑
定手法に対する否定的な評価がなされている。
(オ) 捜査段階で行われたDNA鑑定に使われたDNAマーカーは10で
あるのに対し,DNA鑑定学会が妥当性検証を行ったDNAマーカーは20であり,
マーカー数が異なっている。しかも,その20マーカーのうち,DNA鑑定学会が
不適切とした2つのSTSマーカー(A-10,A-16)は,捜査段階のDNA
鑑定で使われていたマーカーである。
(カ) P8教授がDNA鑑定学会に提出した「バンドパターン判別表」にお
ける判断と,P8教授が鳥取警察からトットリフジタ1号とタケシマキリンソウ(1
ないし8)とのDNA鑑定を嘱託されて鑑定した結果を記載した文書における判断
には,次のとおり齟齬があり,信用できない。
① タケシマキリンソウ1における判断の齟齬
・マーカー251
5 バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号とタケ
シマキリンソウ1はそれぞれ異なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリ
フジタ1号とトットリフジタ2号とタケシマキリンソウ1は全て同じと判断してい
る。
・マーカー263
バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ1は異
なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソ
ウ1は同じと判断している。
・マーカー274
バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ1は異
なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソ
ウ1は同じと判断している。
・マーカー332
バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ1は異
なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソ
ウ1は同じと判断している。
② タケシマキリンソウ2における判断の齟齬
・マーカー251
バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号,トッ
トリフジタ1号と「タケシマキリンソウ2は異なる,トットリフジタ2号とタケシ
マキリンソウ2は同じと判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号と
トットリフジタ2号とタケシマキリンソウ2は全て同じと判断している。
・マーカー263
バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ2は異
なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソ
ウ2は同じと判断している
5 ・マーカー274
バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ2は異
なると判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソ
ウ2は同じと判断している。
③ タケシマキリンソウ3における判断の齟齬
・マーカー251
バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号,トッ
トリフジタ1号とタケシマキリンソウ3は異なる,トットリフジタ2号とタケシマ
キリンソウ3は同じと判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジタ1号とト
ットリフジタ2号とタケシマキリンソウ3は全て同じと判断している。
④ タケシマキリンソウ6ないし8における判断の齟齬
・マーカー251
バンドパターン判別表では,トットリフジタ2号とタケシマキリンソウ7とタ
ケシマキリンソウ8は全て同じと判断しているが,鑑定意見書では,トットリフジ
タ2号とタケシマキリンソウ7とタケシマキリンソウ8は全て異なると判断してい
る。
・マーカー274
バンドパターン判別表では,トットリフジタ1号とトットリフジタ2号とタケ
シマキリンソウ6ないし8は全て同じと判断しているが,鑑定意見書では,トット
リフジタ1号とトットリフジタ2号とは同じ,タケシマキリンソウ6ないし8は全
て同じ,トットリフジタ1号及びトットリフジタ2号とタケシマキリンソウ6ない
し8は異なると判断している。
・マーカー293
バンドパターン判別表では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は
同じと判断しているが,鑑定意見書では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリン
ソウ7は異なると判断している。
5 ・マーカー332
バンドパターン判別表では,タケシマキリンソウ7とタケシマキリンソウ8は
同じ,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7及び8は異なると判断してい
るが,鑑定意見書では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は同じ,タ
ケシマキリンソウ6及び7とタケシマキリンソウ8は異なると判断している。
・マーカー366
バンドパターン判別表では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は
同じ,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ6及び7は異なると判断している
が,鑑定意見書では,タケシマキリンソウ6とタケシマキリンソウ7は異なる,ト
ットリフジタ1号とタケシマキリンソウ7は同じと判断している。
ウ 被告の主張について
(ア) 原告がP2のもとでタケシマキリンソウの増殖を開始したのは平成
23年12月頃である。原告がP9からタケシマキリンソウを仕入れていたことに
するため,P2に「タケシマ」,「株数」を書いたポストイットを手渡したことは
事実である。しかし,これは,平成23年4月頃に,トットリフジタ1号が大量に
枯れ,急遽苗を購入しなければならない事態となった際,やむを得ず,P4やP7
の事前の了解なく増殖をし,後日同量分を購入する「後払い」方式を採ったものの,
その後払いができていなかったことから,P9のP11からタケシマキリンソウを
仕入れていたことにして辻褄を合わせるために行ったことである。
(イ) 原告は,被告の育成者権を侵害した事実がなかったことから,P10
の提案には応じていない。
(3) 争点3(被告の本件育成者権1に基づく請求は,本件品種登録1に無効・
取消理由があることにより,権利濫用として許されないか)について
(原告の主張)
ア 原始的瑕疵1(育成者性の欠如)
被告は,P5がトットリフジタ1号を「育成」(人為的変異又は自然的変異に係
5 る特性(重要な形質に係る特性)を固定し又は検定すること)したとして品種登録
を受けているが,真実は,単に桐蔭横浜大学准教授(当時)のP12(以下「P12
准教授」という。)から譲り受けたタケシマキリンソウをそのまま登録したにすぎ
ない。
トットリフジタ1号は公知の植物体であるタケシマキリンソウにすぎないのであ
るから,そもそも品種登録の要件を満たさないものであるが,仮に品種登録の要件
を満たすとしても,
「育成者」と認定される可能性があるのはP12准教授である。
したがって,本件品種登録1は「育成者」でない者が出願した冒認出願であり,無
効又は取消事由がある。
万が一,トットリフジタ1号が品種登録の要件を満たしたうえ,P5がその育成
に何らかの寄与をしたとしても,P12准教授に無断で行った出願は共同出願違反
であるから,本件品種登録1は無効又は取消事由がある。
イ 原始的瑕疵2(区別性の欠如)(予備的主張)
トットリフジタ1号はP5がP12准教授から譲り受けたタケシマキリンソウな
のであるから,その「タケシマキリンソウ」と明確区別性などない。このことは,
次の事実から明らかである。
(ア) 一般社団法人日本食品分析センター(以下「日本食品分析センター」
という。)によるDNA塩基配列解析試験の「試験報告書」(甲63)の鑑定結果
は,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウが遺伝子のレベルで同一の品種であ
ること,トットリフジタ1号がキリンソウとは別種であることを示している。
また,P12准教授のタケシマキリンソウとトットリフジタ1号はP8教授のD
NA鑑定において一致しており(甲140,141),P8教授自身両者について
「同一の植物,クローンだと思います」と述べている(甲102の2p91)。
(イ) そもそもトットリフジタ1号はキリンソウ由来ではなく,タケシマキ
リンソウ由来であり,また,P12准教授は,P5に,同人が品種登録の申請を行
う前にタケシマキリンソウを譲渡したものである。
5 (ウ) トットリフジタ1号は,P11が保有していたイエリト社から購入し
たタケシマキリンソウとも明確区別性がない。このことは,①トットリフジタ1号
と「タケシマキリンソウ」の区別はできない旨P11が述べていること(甲149),
②P8教授のDNA鑑定の結果,トットリフジタ1号と一致したとされるP11・
1ないし5(甲150)とP11・20ないし22(甲144)はイエリト社から
購入したタケシマキリンソウであること(甲148)から明らかである。
(エ) トットリフジタ1号とタケシマキリンソウは,ともに多くの花を付け
る特性を有するものであり,このことは,これらの品種登録願に添付された写真か
ら明らかである。
(オ) 種苗法68条は「詐欺の行為により品種登録を受けた者」に対する処
罰を規定している。育成者権者が,トットリフジタ1号がP12准教授から譲り受
けたタケシマキリンソウであることを秘して,柏崎産のキリンソウ由来である旨を
故意に申告し,又は育成者と認定されるべきP12准教授に無断で品種登録を受け
たというのであれば,種苗法68条に該当する行為であり,許されるものではない。
したがって,本件品種登録1は無効又は取消事由がある。
ウ 原始的瑕疵3(未譲渡性(新規性)の欠如)
トットリフジタ1号はP5がP12准教授から譲り受けたタケシマキリンソウで
あるところ,P12准教授は,そのタケシマキリンソウをP5だけでなく緑化関係
の企業数社に配った旨証言している。
そして,仮にトットリフジタ1号が品種登録の要件を満たすとすれば,育成権者
はP12准教授と認定されるべきであるところ,そのP12准教授が守秘義務を課
すことなく「業として」タケシマキリンソウを譲渡していたのであるから,当該品
種登録は未譲渡性(新規性)の要件を満たさない。
なお,P12准教授がタケシマキリンソウを「業として」譲渡していたという事
実は,タケシマキリンソウが公知の植物体であったことを示す事実でもある。
したがって,本件品種登録1は無効又は取消事由がある。
5 エ 後発的瑕疵1(均一性,安定性の喪失)
登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生,登録時のトットリフジタ1号
と鑑定フジタ2年生,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の特性をそれぞれ比較
すると,それぞれが特性において「明確に区別される」ことが明らかである。
(ア) 登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生の特性の差異(別紙
「特性対比表①」)
上記のとおり登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生の特性の差異は1
0点である。
(イ) 登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性の差異(別紙
「特性対比表②」)
上記のとおり,登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性の差異は
9点である。
(ウ) 鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の特性の差異(別紙「特性対比
表③」)
別紙「特性対比表③」のとおり,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の特性の
差異は,次の4点である。なお,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の量的形質
については,測定値が記載されているため,階級差が1のものでも階級幅が1以上
かどうか判断できる。したがって,それら階級差が1で階級幅が1以上の量的形質
も,「明確に区別される」程度の差異があるとして以下記載している。
a 「7 茎の長さⅠ」(量的形質) 階級差は1
b 「8 茎の長さⅡ」(量的形質) 階級差は1
c 「39 花序の長さ」(量的形質)階級差は3
d 「40 花序の幅」 階級差は2
(エ) なお,登録時のトットリフジタ1号と登録時のトットリフジタ2号の
特性の差異は,次の4点である。(別紙「特性対比表④」)
a 「5 草丈Ⅱ」(量的形質)階級差は2
5 b 「6 茎の伸長程度」(質的形質・疑似の質的形質)階級差は2
c 「8 茎の長さⅡ」(量的形質)階級差は2
d 「19 葉の鋸葉の形」(質的形質・疑似の質的形質)階級差は3
(オ) まとめ
以上からすると,登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ1年生及び鑑定フジ
タ2年生の特性の差異は,「明確に区別される」とされている登録時のトットリフ
ジタ1号と登録時のトットリフジタ2号の特性の差異よりも,数も多ければ階級差
も大きいものもある。
そして,登録時のトットリフジタ1号と鑑定フジタ2年生の特性の差は前記のと
おりであり,鑑定フジタ2年生は平成23年8月頃に挿し木をした株であることか
らすると,遅くとも平成23年8月頃までには,登録時のトットリフジタ1号と区
別性を有し,種苗法3条1項3号(安定性)の登録要件を欠くに至っていたという
べきである。
そして,この事実は,平成23年8月の状況として,同一の繁殖の段階にある個
体数に対し,相当に高い割合で異型個体(トットリフジタ1号と区別性が認められ
る個体)が存在し,トットリフジタ1号が均一性を欠いていたことを強く示唆して
いる。
また,鑑定フジタ1年生と登録時のトットリフジタ1号の特性の差異は前記のと
おりであり,挿し木をしてから1年程度経過した株と考えられる鑑定フジタ1年生
は,鳥取警察署への提出日が平成25年9月5日であることからすると,平成24
年8月頃に挿し木をした株ということになるから,遅くとも平成24年8月頃まで
には,登録時のトットリフジタ1号とは区別性があり,種苗法3条1項3号(安定
性)の登録要件を欠くに至っていたというべきであり,いずれにしても後発的取消
事由(同法49条1項2号)を有することが明らかとなっている。そして,前記同
様に,この事実は,平成24年8月の状況として,トットリフジタ1号が均一性を
欠いていたことを強く示唆している。
5 さらに,鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生の特性も,「明確に区別される」
程度に異なっていることから,トットリフジタ1号は,遅くとも平成24年8月頃
には均一性・安定性の要件を充たしておらず,トットリフジタ1号の登録は取消事
由があることが明白である。
オ 後発的瑕疵2(均一性の喪失)
本件比較栽培試験に用いられた鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生は,個別の
株ごとに見ると,形質ごとの平均値から1階級値以上異なった物も多くある。した
がって,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生は,個別の株ごとでは「明確に区別
される」と判断されることとなり,均一性の要件に欠ける。
すなわち,別紙⑤,別紙⑥から明らかなとおり,形質№5「草丈Ⅱ」は①鑑定フ
ジタ1年生においては20株中10株が平均値から1階級値以上離れており,②鑑
定フジタ2年生においては20株中7株が平均値から1階級値以上離れている。
また,形質№10「茎の太さⅡ」は①鑑定フジタ1年生においては20株中4株
が平均値から1階級値以上離れており,②鑑定フジタ2年生においては20株中4
株が平均値から1階級値以上離れている。
したがって,本件品種登録1は取消事由があることが明白である。
カ 被告の主張について
(ア) 特許法104条の4で特許侵害訴訟において主張が制限されるのは
「当該特許を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決」が確定した時であ
り,行政手続において取り消さない(無効でない)という判断がされたときは,主
張は制限されない。また,特許無効審判においても,一度確定した審判につき「当
事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいて」(特許法167条)再
度審判を求めることはできないとされている。しかし,原告の申立てにかかる異議
決定(甲14)では,「品種登録制度における登録の単位は『種』よりも小さい集
団である『品種』であり,・・・異議申立人が添付している証拠は,いずれもタケ
シマキリンソウの『種』に関する記述にとどまり,タケシマキリンソウ種に属する
5 特定の『品種』が公然知られていたことを示すものではない。」(4p)という理
由によって申立てが棄却されているのであるから,抽象的な主張であったことが問
題とされたもので,実質的に具体的な判断がなされたものではない。また,P10
の異議申立て及びP13の異議申立て並びにこれらに対する取消請求訴訟の存在は,
そもそも本件訴訟の当事者ではない者の手続であるから,特許法104条の3の趣
旨を勘案しても主張が排斥される根拠とはなり得ないものである。加えて,本件に
おいては行政手続に提出されていない事実,証拠に基づいて種苗登録の無効又は取
消事由を主張しているのであるから,被告の主張には理由がない。
また,異議申立棄却決定に対する取消訴訟において判断されたのは,主として行
政事件訴訟法上の論点であり,トットリフジタ1号の無効ないし取消原因の有無に
ついては判断されていない。
(イ) トットリフジタ1号は,量的形質に関し,鑑定フジタ2年生とは4項
目,鑑定フジタ1年生とは5項目もの相違が確認されているところ,これは被告の
いうような生育環境の違いでは説明のつかない程度の差異である。また,トットリ
フジタ1号は,鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生と,生育環境の影響を受け
にくい質的形質及び疑似の質的形質においても明らかに相違しており,これも,被
告のいうような栽培地や栽培年の違いでは説明がつかないものである。
(ウ) 農水省登録出願審査要綱の「第5 安定性の判定に関する基準」では,
「2 安定性は出願品種について・・・全ての繁殖の段階の個体」で「安定性」が
必要とされ,また,種苗法第3条1項3では,「繰返し繁殖させた後においても特
性の全部が変化しないこと」とされており,繁殖の段階の規定はない。すなわち,
仮に「1年生株」と「2年生株」があるとしても,「1年生株」も「2年生株」も
その特性が「同じでなければならず」,「1冬越したものと2冬越したもの」の特
性が違っていてよいことにはならない。
(被告の主張)
ア 原始的瑕疵1(育成者性の欠如)の主張について
5 P5がトットリフジタ1号の育成を開始したのは平成10年4月であるのに対し,
P12准教授がP5にタケシマキリンソウを譲渡したのは平成12年である(乙7
4の4p及び14p)から,トットリフジタ1号を育成した者がP12准教授であ
るとは認められず,P5の育成に関与(共同育成者)したとも認められない。
イ 原始的瑕疵2(区別性の欠如)の主張について
(ア) 複数の異議申立ての事実と原告の異議申立て
トットリフジタ1号については,農林水産省に対して次のとおり主張する異議申
立てがなされている。
① 原告(甲14)
トットリフジタ1号は公然知られた品種であるタケシマキリンソウと明確に区別
されず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである。
② P10(甲15)
トットリフジタ1号及び2号は公然知られた品種であるタケシマキリンソウと明
確に区別されず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである。
③ P13(乙82及び乙83)
別種を親と偽った登録申請である。
トットリフジタ1号及び2号は公然知られた品種であるタケシマキリンソウと明
確に区別されず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである。
そして,これらの異議申立ては全て棄却(甲14及び甲15)又は却下(乙83)
されており,②の異議棄却決定に対しては取消訴訟が提起されたが,P10の請求
棄却判決が確定している(乙80及び乙81)。特に重要な事実は,原告自身が「ト
ットリフジタ1号は公然知られた品種であるタケシマキリンソウと明確に区別され
ず,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものである」との異議申立て
を行い,これが棄却されている事実である(甲14)。種苗法そのものには準用は
ないが,登録要件を欠く育成者権の行使が権利の濫用であると解釈されることから
すれば(知財高判平成18年12月21日平成18年(ネ)第10059号[エリン
5 ギ事件高裁判決]),行政手続において一旦争い確定した事実を,再度主張すること
は,特許法104条の3の趣旨からして,「特許無効審判により・・・無効にされ
るべきものと」認められないことから,事実上排斥されるべきこととなる。また,
訴訟法的にも異議申立ての蒸し返しであり,特許法104条の3第2項の趣旨から
も,そもそも当該主張自体許されないものと解される。
よって,原告主張の無効又は取消事由のうち,「トットリフジタ1号は公然知ら
れた品種であるタケシマキリンソウと明確に区別されず,種苗法3条1項1号の規
定に違反して登録されたものである。 との主張は,
」 そもそも主張自体失当である。
(イ) 特性が異なること
タケシマキリンソウは花が沢山咲くのに対し,トットリフジタ1号は花があまり
咲かない(乙43P10供述調書 3p)。また,甲79に記載のとおり,これら
は葉形,葉長等も異なるものである。
また,トットリフジタ1号が他の品種と区別性が認められた特徴部分は「『新潟
在来』及び『佐渡在来』と比較して,冬季の茎の伸長程度が強く,萌芽が早いこと
等」である(甲92の2「(4)区別性について」,甲92の4)ところ,登録時
のトットリフジタ1号,鑑定フジタ2年生及び鑑定フジタ1年生は,いずれも冬季
の茎の伸長程度(番号6)は「強」とされている(乙50,乙51,甲100の1
及び甲100の2)。
これに対し,タケシマキリンソウは,冬季(12月ないし1月)において,ほと
んど茎の伸長が認められない。
以上のとおり,少なくとも,①花の咲く数,②冬の茎の伸長程度の2点において,
トットリフジタ1号とタケシマキリンソウとは明確に異なることから,両品種の間
に明確区別性が認められることは明らかである。
(ウ) DNAが異なること
原告は,トットリフジタ1号とキリンソウのDNAが異ならないことを理由に,
新潟県柏崎産のキリンソウが母親であるとする被告の主張は虚偽であるとして,P
5 5が育成者であることを否定する。
しかし,原告の根拠とするDNA分析結果は,日本食品分析センターの鑑定結果
にすぎない。そもそも,現在国として植物のDNA分析技術が開発され,又は開発
中のものは稲などにとどまり,キリンソウは含まれていない。すなわち,キリンソ
ウ自体のDNA分析技術は開発されていないものであるから,原告のいうDNA分
析結果は信用性がない。
(エ) P12准教授及びP11のタケシマキリンソウとトットリフジタ1
号とがP8教授のDNA鑑定において一致したとの主張について
P12准教授もP11もトットリフジタ1号をタケシマキリンソウとあわせて育
成していたことから,DNA鑑定(甲140,甲144)においてトットリフジタ
1号とDNA情報が同一であるとされたキリンソウは,いずれもトットリフジタ1
号であると認められる。
また,DNA鑑定(甲140,甲144)に供された「タケシマキリンソウ平成
11年鉾葉」は,真実は平成25年頃にP12准教授が入手したものであることか
ら,当該「タケシマキリンソウ平成11年鉾葉」が「トットリフジタ1号」との間
でDNA鑑定によれば同一品種と認められるとしても,トットリフジタ1号の品種
登録出願日後の品種と一致しているにすぎず,区別性欠如の理由として失当である。
トットリフジタ1号と混入可能性のない場所で育成されたタケシマキリンソウは,
いずれもトットリフジタ1号とはDNA情報が異なるとの鑑定結果が出ている。
そもそも,DNA鑑定の結果は間接証拠にすぎず,原告自身もその妥当性,信用
性を否定している。
区別性有無の判断において最も重要なのは比較栽培試験であるにもかかわらず,
本件では,タケシマキリンソウとトットリフジタ1号との比較栽培試験が行われて
いない。
ウ 原始的瑕疵3(未譲渡性(新規性)欠如)の主張について
タケシマキリンソウは出願品種であるトットリフジタ1号とは区別される異なる
5 品種であることから,原告の主張は前提において失当である。
加えて,P12准教授がトットリフジタ1号の出願日(平成16年2月10日)
前にタケシマキリンソウを第三者に譲渡したことは認めるが,当該譲渡が「業とし
て」なされたことは否認する。
エ 後発的瑕疵1(均一性,安定性の喪失)の主張について
(ア) 栽培条件の相違について
植物体の生育には,土壌,気温(寒暖差含む),湿度,日照,通風等,種々の条
件が影響する。したがって,栽培条件が異なる植物体を比較しても,均一性や安定
性の有無を判断することはできないから,登録時のトットリフジタ1号と,異なる
栽培条件における鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生との均一性・安定姓の喪
失を主張する原告の主張は,前提において理由がない。
すなわち,登録時のトットリフジタ1号は平成19年1月12日の鳥取県岩美郡
<以下略>における特性を調査したものである(甲92の2ないし4)。
これに対し,鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生は,いずれも平成26年1
月ないし8月における,茨城県つくば市<以下略>における特性を調査したもので
ある(乙50及び乙51)。このように場所も時期も異なることからすれば,その
土壌,気温,日照時間,通風等全て異なるのであり,登録時のトットリフジタ1号
と鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生の栽培条件が異なるものであることは自
明であり,異なる栽培条件であることを無視した原告の主張は理由がない。
原告は,質的形質及び疑似の質的形質は生育環境の影響を受けにくいと主張する
が,「11 茎の色」,「24 葉のアントシアニンの着色部位」は日照条件の影
響を少なからず受けるのであり,「14 葉形」,「48 葯の色」も連続して変
異するものであるから,栽培条件で説明がつかないものではない。
(イ) 原告の主張に理由がないことは,均一性(種苗法3条1項2号)の要
件が,「同一の繁殖の段階(同一世代)に属する植物体の全てが特性の全部におい
て十分に類似していること」と,同一世代であることを要求していることから自明
5 である。
すなわち,均一性の要件は「同一の繁殖の段階」の比較が必要であり,齢の異な
る植物体を比較することに意味はない。
オ 後発的瑕疵2(均一性の喪失)の主張について
上記なめこ事件知財高裁判決が判示するとおり「特性差が上記の範囲内にとどま
らないとしても,相違する項目やその程度,植物体の種類,性質等を総合的に考慮
して,『登録品種と特性により明確に区別されない品種』への該当性を肯定するこ
とができる場合もある」のである。
そして,トットリフジタ1号が他の品種と区別性が認められた特徴部分は「『新
潟在来』及び『佐渡在来』と比較して,冬季の茎の伸長程度が強く,萌芽が早いこ
と等」である(甲92の2「(4)区別性について」,甲92の4)。
この点,登録時のトットリフジタ1号,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生は,
いずれも冬季の茎の伸長程度(番号6)は「強」とされている(乙50,乙51,
甲100の1及び甲100の2)。
よって,それ以外の特性において差異が生じていることを理由に均一性の欠如を
いう原告の主張には理由がない。
(4) 争点4(消尽の成否)について
(原告の主張)
原告製品3には,被告から許諾を受けたフジタが生産しP7を介して原告に販
売したトットリフジタ1号が使用されていた(甲28,甲38,甲39)。
種苗法21条4項は,「専用利用権者若しくは通常利用権者の行為により登録品
種等の種苗,収穫物又は加工品が譲渡されたときは,当該登録品種の育成者権の
効力は,その譲渡された種苗,収穫物又は加工品の利用には及ばない」と規定され
ている。
よって,原告製品3については,最初の譲渡の時点で被告の育成者権は消尽し
ており,その効力は「その譲渡された種苗,収穫物又は加工品の利用」には及ばな
5 い。
また,原告製品3に使用されていたメキシコマンネングサが,トットリフジタ
1号と特性により明確に区別されることは既に説明した。
したがって,原告が原告製品3を販売する行為について,被告の本件育成者権
1侵害に基づく損害賠償請求権は存在しない。
(被告の主張)
原告は,被告に無断でトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号の種苗を増殖
しているものであるから(種苗法21条4項但書き),最初の譲渡の時点で被告の
育成者権は消尽しているとの主張は失当である。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(確認の利益の有無)について
(1) 確認の利益が認められるためには,原告の権利又は法律的地位に危険・不
安が現存し,かつ,その危険・不安を除去する方法として原告被告間に当該請求について確認判決をすることが有効適切であることが必要である。ところで,本件では,争点1に関する当事者の主張のとおり,本件種苗1及び2であるタケシマキリンソウがトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号と特性により明確に区別される別品種であることは当事者間に争いがなく,そのため,被告は,原告が同種苗を生産等する行為やそれを使用した原告製品1及び2を販売する行為について,被告が本件育成者権に基づく差止請求権を有しないことを争っていない。そこで,原告の請求第1項及び第2項に係る差止請求権不存在確認の訴えについて,確認の利益が認められるかが問題となる。
(2) 証拠及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
ア P14は,平成26年10月7時点のウェブページにおいて,「植物における登録品種は財産です!」との表題の文書を掲載していた(甲37)。そこでは,「屋上緑化や壁面緑化で使用されている常緑キリンソウ(トットリフジタ1号(登録番号15866号))は,種苗法で保護された植物です。」,「常緑キリン
5 ソウの正規品の利用に当たりましては,常緑キリンソウ普及協会において物件登録
…を行い管理しております。購入に当たりましては,正規品・正規取扱店をご利用下さい。」と記載し,正規取扱店として,P15,P16,P14を記載していた。なお,P15は,P4と本店所在地及び代表者を共通にする会社である(甲36)。イ 被告の代理人弁護士は,原告に対し,同年11月11日付けの通知書において,「貴社は,通知人に無断で,トットリフジタ1号,トットリフジタ2号を業として生産,販売しており,通知人の育成者権を侵害するものと思料されます。」として,その生産販売等の中止を求めた(甲45)。ウ 常緑キリンソウ普及協会は,平成27年1月26日以降,「建築士事務所各位様」宛てに,「常緑キリンソウ増殖品にご注意ください」とのタイトルの下に,「最近「常緑キリンソウ」(トットリフジタ1号:品種登録番号15866号)を違法に増殖したもの(種苗法違反)が出回っていることが確認されています。「常緑キリンソウ」をご使用の際は,正規の販売代理店でお買い求めいただきますようお願い申し上げます。」,「*種苗法の適用範囲は工事を行った業者も流通業者も適用範囲となります。」,「逮捕者 罪名 種苗法違反 会社名ブルージー・プロ株式会社 役員 P17」などと記載し,原告代表者が逮捕されたことを報じる読売新聞の記事を添付した書面を建築士らに配布したが,同書面では,常緑キリンソウ普及協会の構成員として,P14とP15が記されていた(甲87)。エ P16は,平成27年7月7日,原告の取引関係者に対し,「鳥取地方裁判所にて,常緑キリンソウを無断名で増殖した農業経営者P2の判決がありました。…よって主犯格のP17社長もこれで有罪が確定しました。もし御社でブルージー・プロの取引(施工)がされているところがあればお知らせ願います。このまま,対処しないで放置しておきますと,施主様にご迷惑をおかけすることになります。」などと記載した電子メールを送付した(甲88)。オ P14の平成27年11月2日時点のウェブページには,「常緑キリンソウに関する重要なお知らせ 常緑キリンソウ違法増殖販売者に種苗法違反との有
5 罪判決」と題し,「常緑キリンソウ「トットリフジタ1号」を違法増殖販売してい
た容疑(種苗法違反)で,2015年1月25日に逮捕された緑化事業会社が,同年2月15日に起訴されました。同年5月25日,植物を生産していた農場経営者は罪を認め,検察が求刑し,同年7月6日,種苗法違反の罪で1年2か月執行猶予3年の有罪判決が下されました。」と記載する記事が掲載されている。同記事の中では,「常緑キリンソウを購入する際には,必ず下記の点を確認しましょう。1 常緑キリンソウの正規品・正規品取扱店なのか確認しましょう。2 常緑キリンソウ(トットリフジタ1号)と違う場合には,必ず使用されている品種を確認しましょう。…4 トットリフジタ1号との明確な特性の違いがあるかを確認しましょう。,」「落葉のキリンソウは何ら問題はありませんが,常緑キリンソウと認められている物はトットリフジタ1号及び2号のみです」,「常緑キリンソウとしてトットリフジタ1号及び2号と名前が違う形で販売されている物には,特に注意が必要です。」などと記載されている(甲89)。
(3) 前提事実のとおり,平成26年4月発行の原告の屋上緑化総合カタログで
は,原告が販売している「みずいらず」及び「みずいらずスーパー」にはタケシマキリンソウを使用している旨が記載されているところ,後記争点2に関する判断のとおり,原告は,平成24年2月頃以降,商品に用いるきりんそうをトットリフジタ1号からタケシマキリンソウに切り換えるべく,P2にアルペンガーデンやまくさ(以下「やまくさ」という。)等から購入したタケシマキリンソウを栽培させるようになり,同年10月の営業会議ではタケシマキリンソウを本格採用する方針とし(甲140) 平成25年5月にはトットリフジタ1号の在庫を処分し, (乙25,乙46),同年4月19日以降はP11がドイツのイエリト社から購入して生産したタケシマキリンソウの出荷を受けるようになったこと(乙41及び42)からすると,少なくとも平成26年5月以降の「みずいらず」及び「みずいらずスーパー」には,本件種苗1及び2のタケシマキリンソウを使用していると認めるのが相当であり,同時期以降のそれら商品は,それぞれ原告製品1及び原告製品2であると認
5 めるのが相当である。
そして,前提事実のとおり,原告は,原告製品1及び原告製品2を「常緑キリンソウ」を使用するものと宣伝しているところ,「常緑キリンソウ」とは冬期も枯れない常緑性のキリンソウという程度の意味と解され,タケシマキリンソウが文献において,着葉状態で越冬する「常緑系キリンソウ」として紹介されていること(甲55)からすると,原告がタケシマキリンソウを「常緑キリンソウ」と呼んで販売することは不合理なことではないこれに対し,上記認定のとおり,常緑キリンソウ普及協会が配布した書面((2)ウ)では,「最近『常緑キリンソウ』(トットリフジタ1号:品種登録番号15866号)を違法に増殖したもの(種苗法違反)が出回っていることが確認されています。」として,トットリフジタ1号を明記する文脈もあるものの,「『常緑キリンソウ』をご使用の際は,正規の販売代理店でお買い求めいただきますようお願い申し上げます。」とも記載していることからすると,「常緑キリンソウ」という名前の種苗の正規品はトットリフジタ1号しかないとの認識を配布を受けた者に生じさせるおそれがある。また,同じく常緑キリンソウ普及協会の構成員であるP14が原告の取引関係者に送付したメール((2)エ)にも,「常緑キリンソウ」を無断で増殖したことにより原告代表者らが有罪となった旨や,原告の取引をしているところがあれば知らせるよう願う旨が記載されており,これらを見た者は,原告による「常緑キリンソウ」の販売行為全般が種苗法違反となるものと理解するおそれがあるというべきである。さらに,P14は,ウェブページ((2)オ)において,「常緑キリンソウと認められている物は,『トットリフジタ1号及び2号』のみです。」とまで記載しており,これは,原告による「常緑キリンソウ」の販売行為全般が種苗法違反となるものと理解させるに足りる記載であるといえる。これらからすると,本件においては,原告の取引関係者等が,「常緑キリンソウ」であるタケシマキリンソウを使用した原告製品1及び原告製品2が,被告の本件育
5 成者権を侵害する侵害品であると考え,その購入を躊躇しかねない状況が生じてい
るといえ,原告の権利又は法律的地位に不安が存するというべきである。そして,常緑キリンソウ普及協会には,被告の夫のP5が代表取締役を務めるP15が構成員となっているほか,P14も常緑キリンソウ普及協会の構成員で,トットリフジタ1号の正規販売店であることからすると,常緑キリンソウ普及協会及びP14のウェブサイトや書面の記載には,被告及びP4の意向が相当程度反映していると推認され,現に被告は,原告に対し,原告が生産販売しているものがトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号であるとの認識の下に通知書を送付しているから,原告の権利又は法律的地位に生じた不安を除去する方法としては,トットリフジタ1号及びトットリフジタ2号の育成者権者である被告との間で,タケシマキリンソウの生産等,並びにタケシマキリンソウを用いた原告製品1及び原告製品2の販売につき,被告が本件育成者権に基づく差止請求権を有しないことにつき,判決をすることが有効適切であるというべきである。したがって,請求第1項及び第2項に係る訴えについては確認の利益が認められ,被告がそれらの請求に係る差止請求権を有しないことは当事者間に争いがないから,原告の同請求は理由がある。
2 争点2(本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に区
別されない品種か)について
(1) 本件被疑種苗の株分けの経緯について
ア 前提事実に加え,証拠によれば,次の事実が認められる。(ア) 原告は,平成20年6月23日と平成21年4月16日にP4及びP7と覚書(甲38及び39)を作成して,トットリフジタ1号を正規購入し,P2らに商品化のための栽培をさせていた。同覚書では,施工現場にて生育したきりんそうをカットした補植のみ認めるが,増殖は行わない旨が定められていた。原告は,「みずいらず」等の商品を50cm×50cm のトレイで出荷しており,春は2月後半から7月にトレイを作り,秋は9月から11月にトレイを作り,商品と
5 するにはトレイの被覆率が60%以上を目標とし(乙13p1),P2は50%を
目安としていた(乙23p2。なお,乙17添付資料の請求書の被覆率欄を見ると,平成23年頃以降は被覆率が50%以上とされている。)。P2は,毎月末日締めで,当該月の生産量・出荷量や当該月末時点での在庫量等を記載した育苗状況報告書と請求書を作成して,原告に送付していた(甲117など。それらをまとめたものが乙46,乙84別表である。)。原告代表者は,1か月に1回程度,P2の農場を訪れていた(乙108の2p53)。(イ) 原告は,平成23年5月15日,P2に対し,ファックスを送信した(乙14添付資料2)。そこでは,「常緑キリンソウの切り株→根付化を11200株お願いします。」,「なお,産地で根付化した植え付けは後日購入します。覚書に違反し増殖するものではありません。誤解のないようにお願いします。」と記載されていた。そこで,P2は,この頃から,P4から送付を受けずに,栽培するトットリフジタ1号からカット苗を切り出して,トレイを作るようになった(乙78p5,甲108の1p127)。(ウ) 平成23年11月2日,P4からP2に対し,カット苗1万本が送付されたが,これが正規品の最後の納品となった(甲120)。(エ) 原告代表者は,平成22年から平成23年頃に,造園業を営むP10から,常緑性のキリンソウとしてタケシマキリンソウを紹介されていたことから(乙16及び43),平成23年11月にグリーンマーケットからタケシマキリンソウを6株と5株の合計11株購入し,うち後者の5株については原告の仕入先であるP9のP11に直送した。また,原告代表者は,同年12月にやまくさからタケシマキリンソウ4株を購入し,それらをP2に直送し,増殖するよう指示した。(以上,乙16及びその添付資料)なお,原告代表者は,本件刑事事件の公判段階において,これ以外にP10とグ
5 リーンマーケットから入手して増殖した50株を平成24年1月頃にP2に渡した
と述べ(甲108の2p23ないし26),P2も,本件刑事事件の捜査段階の供述において,原告代表者が30ないし40ポットのタケシマキリンソウを持ってきたと述べている(乙23p4)ことからすると,原告代表者が自分で増殖したタケシマキリンソウ数十株程度をP2に渡したことは認められる。しかし,P10は,平成23年11月頃までの間に原告にサンプルを渡したことはないと述べており(乙43),原告代表者も,本件刑事事件の捜査段階では,P10からタケシマキリンソウの紹介を受けたときにサンプルはもらっていないと述べ(乙16p2),それ以外でもP10からタケシマキリンソウをもらったとは供述していない。確かに,P10の平成25年2月5日のメール(乙43資料4)には,「P17社長からキリンソウ類のサンプルを求められ,お送りしました。」との記載があるが,P10は,そこで送付したのはタケシマキリンソウではなくエゾノキリンソウ種のオオミエゾ3号のサンプルであると述べており(乙43p12),上記のメール中でも,「タケシマキリンソウ」と「キリンソウ類」を書き分けているから,P10の上記供述は信用できる。また,P10は,平成24年1月16日に原告代表者に送ったメールの中で,「手直しに使いたいとのことでお譲りしたタケシマキリンソウやその他のキリンソウの苗が少量ですが同業者に渡ってしまっていたようです。」とも記載しているが,文脈からして,これが原告代表者にタケシマキリンソウを譲ったとの趣旨とは認められない。以上からすると,原告代表者の上記公判段階の供述のうち,P10が原告代表者にタケシマキリンソウのサンプルを渡したとの部分は採用できないから,原告代表者が増殖してP2に渡した上記のタケシマキリンソウ数十株はグリーンマーケットから入手したものと認めるのが相当である。(オ) P2は,原告代表者の指示を受け,平成24年2月頃からタケシマキリンソウの増殖を開始した(甲115,乙17p1,乙27p4,乙78p32)。また,同月10日の原告の営業会議において,「現在,タケシマキリンソウの使用を検討しています。てまいらず,みずいらずにどのように使用していくかは,検討
5 中です。」との報告がされた(甲140)。なお,P2は,本件刑事事件の公判段
階においては,平成23年11月頃からタケシマキリンソウの生産を開始したとも供述している(乙78p7)が,そのもとになったのはやまくさから送られてきた苗だとも供述していることや,捜査段階では一貫して生産の開始は平成24年2月からであると述べていること,上記の社内会議での報告時期からすると,P2の上記供述は採用できない。タケシマキリンソウのカット苗は,冬場でもハウスの中であれば1か月程度で根付くものであり(乙78p82),根付けばそこから1本のカット苗が採れる(同p84)。また,タケシマキリンソウは,冬場の12月から3月までは成長しないが,春(4月から6月頃)になると成長が早まる(同p84,87)。タケシマキリンソウのカット苗を挿し木してから,被覆率が50%になるまでには5か月から6か月を要する(乙23p3,乙78p9)。十分に成長したタケシマキリンソウについては,1株から10ないし15株程度のカット苗を採ることができる(乙78p88)。(カ) 平成24年春頃,P2は,P3を含む下請け農家に対し,タケシマキリンソウのポット苗を10株ほど渡した(乙23p5)。この際,P2はP3に対し,少しでも多くタケシマキリンソウから商品を作るように指示した(乙23p5)。また,平成24年6月頃には,P2の農場にタケシマキリンソウが200ないし300トレイ分(800ないし1200株程度。乙23p2)又は,400ないし500トレイ分(1600ないし2000株程度。甲115p3,乙78p88)あった。なお,この時点でこれだけのタケシマキリンソウが存在したことの直接の裏付けはないが,上記の趣旨はP2が本件刑事事件の捜査段階において既に述べていることや,同月の時点でタケシマキリンソウのトレイの作成を既に行っていたことは次のアルバイトの記録から認めることができるから,上記のとおり認めるのが相当である。(キ) P2は,平成24年6月24日に息子のアルバイトにより,タケシマ
5 キリンソウ16トレイを作った(甲115添付資料2,116)。
また,P2の妻が作成していた「24年株分出荷」と題するファイル(甲116)の「アルバイト」の項には,P2の息子らが,①平成24年5月に「キリンカット苗」を合計1万5300本作成したこと,②同年6月24日に「キリンカット苗」を合計2万6850本作成するとともに,上記のとおり「タケシマ」を16トレイ作成したこと,③同年9月3日と5日に「キリンカット」を2万本,同月17日に「キリンカット」を2万97本作成したことが記載されており,それらの「キリンカット(苗)」分については,各該当月の育苗状況報告書(乙22添付資料)の出荷数欄において「キリンカット苗」として記載されている。このようにタケシマキリンソウのトレイは,順次作られていったが,P2が原告に毎月提出する育苗状況報告書には記載されなかった(乙23p3ないし4)。(ク) 他方,平成24年2月以降も,それ以前に正規に購入したトットリフジタ1号を栽培した残りの532トレイ(これはP2の農園にあり,製品としては売れ残り,カット苗を作るための元苗として使用していた。乙25p5)や,違法に増殖したトットリフジタ1号があった(甲22添付資料,乙46)。(ケ) 平成24年8月9日,原告の従業員が原告代表者に対し,「原価計算表が2通りあります。どちらが正しいですか? みずいらずの値段が違います。」とのメールを送ったのに対し,原告代表者は,同日,「9月以降 常緑キリンソウP4仕入れ→タケシマキリンソウ(アワジ,P9で生産)のため変えています。」との返信メールを送信した(甲112添付資料)。(コ) P2は,原告代表者から,「みずいらず」を5000トレイ準備するように指示を受け,平成24年8月28日,自らの農場にあった苗からカット苗2万株を採り(以下「本件株分け」という。),下請農家のP3に対してはそのうち2000トレイ分(8000株)の苗及びトレイを交付した。このことは,同年9月の育苗状況報告書に「カット キリン苗9月みずいらず植えに使用5000トレイ分」として記載され,同月の請求書には「(品種)キリンカット苗」,「(数量)
5 20000」,「(単価)10」,「(備考)みずいらず植えに使用5000トレイ」
と記載された。(以上,乙28及びその添付資料)この請求書に対し,原告代表者は,平成24年9月19日,P2にファックスを送信した(甲115添付資料)。そこでは,上記の2万株分を含めた元苗代について,出荷時の精算で支払うようにすることを求め,具体的には,「みずいらず」については,元苗代が「常緑キリンソウ」単価10円・4株で40円を前提にメキシコマンネングサと併せて1トレイ55円とし,それを育苗代1トレイ250円に加算して1トレイ305円を出荷時に請求するよう求めた。これを受けて,P2は,従来の例えば平成24年6月の請求書(甲17添付資料)では,新たに作成した「キリンカット苗」として単価10円を請求し,「みずいらず」については1トレイ250円を請求していたのを,同年10月以降の請求書では,「みずいらず」について1トレイ305円を請求するようになった(甲17添付資料)。(サ) 原告代表者は,平成24年10月12日の営業会議において,「『タケシマキリンソウ』を本格採用しますが,社外には絶対に口外しないようにお願いします。」と報告した(甲140)。(シ) P2が作成した平成24年10月の育苗状況報告書及び請求書では,上記(コ)で作成した「みずいらず」5000トレイのうち468トレイは,同月19日から20日に,平成23年秋作成の「みずいらず」1527トレイと共に,被覆率50%以上として,姫路庁舎向けに出荷され,その残が4532トレイとなり,このほかに,平成23年秋株分けの「みずいらずスーパー」の残が991トレイあった。他方,翌11月の育苗状況報告書では,上記(コ)で作成した「みずいらず」の残トレイが5523トレイ(991トレイ増)となった反面,上記平成23年秋作成の「みずいらずスーパー」の残トレイが0トレイとなり,そうでありながら同月の「みずいらずスーパー」の出荷は報告されていない。(以上,乙17添付資料)。
5 ここでの「みずいらずスーパー」は,トレイ作成の時期から見てトットリフジタ
1号であると認められるところ,上記の推移からすると,この「みずいらずスーパー」991トレイは,上記の「みずいらず」に流用されたと認められる。(ス) P3は,上記(コ)でP2から渡された2000トレイ(8000株)を栽培し,平成25年2月6日,本件料金所用に453トレイ(原告製品3)を出荷した(乙23及びその添付資料)。(セ) P2は,平成25年4月23日,P6と共にP2の農場を訪れたP14の代表者らに対して,P2の農場に,違法に増殖させたトットリフジタ1号の苗があることをほのめかし,それをタケシマキリンソウとして販売していることを認める供述をし,P6はその様子をビデオに撮影した(乙2の1)。このため,P6は,同月26日,原告代表者に対し,撮影したビデオを送付して,種苗法違反を指摘した(乙34添付資料)。そこで,原告代表者は,同月頃,P2に対し,平成24年2月から6月にかけて農場にP9からある程度の数のタケシマキリンソウの送付があったことにしようという提案をし,P2に対して「24年2月3000株,3月3000株,4月3000株,5月5000株,6月5380株」との虚偽の事実を記載したポストイットを交付した(乙16p10,乙29p2,甲108の2p15)。その後,P2は,平成25年5月,原告代表者から,トットリフジタ1号を捨てるよう指示され,前記(ク)のトットリフジタ1号532トレイ分を処分した(乙25,乙27p5)。イ 以上に基づき,本件料金所用に出荷された453トレイ(原告製品3)に使用された苗(別紙「種苗目録3」記載の本件被疑種苗1812株分)がトットリフジタ1号であると認められるか否かを検討する。(ア) 前記認定事実からすると,原告製品3に使用されたカット苗が株分けされた平成24年8月28日の本件株分けの時点において,P2の農場には,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ(グリーンマーケット又はやまくさから原告
5 代表者が購入したもの)の双方が栽培されており,これ以外に栽培されていた植物
が存したことは何らうかがわれないから,本件株分けに係る2万株は,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウのいずれか又は双方ということになる。(イ) そこでまず,タケシマキリンソウのみであったと認められるかを検討すると,原告代表者は,本件刑事事件の公判段階での供述において,商品に使用する植物としてタケシマキリンソウへの切替えが完了したのは平成24年9月頃であると述べる(甲108の1p27)。そして,前記認定のとおり,平成24年6月頃の時点でタケシマキリンソウが200トレイから500トレイ(800株から2000株)存在しており,十分に成長した1株からは10株以上を株分けできることからすると,単純計算ではそれらのタケシマキリンソウから2万株を株分けすることは可能であることになり,原告代表者が本件刑事事件の公判段階での供述で述べる増殖の検証(甲108の1p67ないし73)によっても同様となる。また,前記ア(ケ)での原価計算に関するメールからすると,原告代表者は同年8月の時点で同年9月から商品に使用する苗をタケシマキリンソウに変更することを予定していたことがうかがわれる上,原告代表者は,本件刑事事件の公判段階において,前記ア(サ)の原告の営業会議での報告内容は,タケシマキリンソウに変更したことで社内原価を下げていることを客先に知られないように指示する趣旨であると述べており(甲108の1p28ないし29),これらは平成24年9月頃にタケシマキリンソウへの切替えが完了した旨の原告代表者の上記供述に沿う。しかし,実際にP2がタケシマキリンソウを栽培増殖していた状況が,上記のような増殖可能性の計算や原告代表者による検証のとおりであったことは明らかでなく,また,上記の原価計算に関するメールも原告代表者の事前の予定を物語るにとどまる。また,原告代表者が述べる社内原価の変更については,前記ア(コ)の事実からすると,平成24年9月分から,元苗代を出荷時に精算する扱いに変えたことは認められるものの,元苗代とトレイ代の各単価自体に変更はないから,原価たる仕入価格
5 に変更があったと見ることはできない。前記ア(サ)の平成24年10月12日の営業
会議において,タケシマキリンソウを「本格採用」するというのも,タケシマキリンソウを使用したトレイの生産を本格的に開始するという意味に理解することもできる。以上からすると,上記の諸点をもって,原告代表者が述べるような平成24年9月頃にタケシマキリンソウへの切替えが終了したと認めることはできない。かえって,前記ア(キ)③のとおり,P2は,平成24年8月28日の本件株分けの後も,同年9月に息子らのアルバイトにより「キリンカット」を合計4万本以上作成しているが,前記認定の栽培状況からすると,これらを全てまかなうだけのタケシマキリンソウは存在していなかったと考えられる上,前記ア(シ)のとおり,同年11月の時点でもトットリフジタ1号を増殖させた「みずいらずスーパー」を「みずいらず」に流用していることからすると,平成24年9月の時点では,未だタケシマキリンソウへの切替えは完了していなかったと認められ,このことは,P2が,本件刑事事件の捜査段階においては,本件株分けをタケシマキリンソウのみで行うのは無理であったと一貫して述べていることと整合している。また,それにとどまらず,前記ア(キ)のアルバイトの項の記載からすると,P2及びその妻は,帳簿を作成するに当たり,「キリンカット」ないし「キリンカット苗」と「タケシマ」とを区別して記載していたと認められるところ,平成24年9月の育苗状況報告書にも請求書にも,2万株の本件株分けについて,従前と変わらず「カットキリン苗」や「キリンカット苗」と記載されていることからすると,その全てをトットリフジタ1号から作成した疑いが濃厚にあるというべきである。以上からすると,平成24年8月28日の本件株分けの時点で,タケシマキリンソウへの切替えが完了していたとは考え難く,それより後の10月以降にタケシマキリンソウを使用した商品の生産が本格的に開始されたともうかがわれる営業会議の記録(前記ア(サ))もあることからすると,本件株分けには全てトットリフジタ1号が使用された疑いが濃厚にあるが,他方,本件株分けの時点で,P2の農場には
5 既に相当数のタケシマキリンソウが栽培されていたとは認められるから,本件株分
けの全てがトットリフジタ1号を使用してなされたとまで認定することができるかについては,なお検討を要するというべきである。そこで,この点について,さらにDNA鑑定の結果を踏まえて検討する。
(2) DNA鑑定について
ア 前提事実記載のP8教授によるDNA鑑定の手法は,次のとおりと認められる(甲102,103,106及び107)。(ア) 品種が違うとDNAはどこかが異なることから,DNA鑑定では,DNAのうち品種間で異なりやすい部分を抽出 比較して,・ 品種の異同を判定するが,そのような異なりやすい領域部分としては,一般にSSR(Simple sequence Repeat,マイクロサテライト)と呼ばれる部分が知られている。これは,DNAの塩基配列の中で,偶然にACACACACというように単純な配列が何回も繰り返す部分があり,このような部分は,繰返し回数が変化しやすい部分で,DNA中に複数箇所ある。そして,この繰返し回数の多寡は,当該部分の長短となって表れることから,各検体について,この領域部分を分離増幅して,その長さを測ることによって,繰返し回数の同一性を判定し,それにより品種の異同を判定することができる。そして,DNA中で特定の塩基配列に挟まれた部分を分離して増幅する手法としてPCRが知られており,PCRにおいて,この特定部分を挟み込んで分離増幅するための塩基配列をプライマーといい,検体における特定のSSR領域のDNA断片のみを大量に合成するためのプライマーを,SSRマーカーという。(イ) DNA鑑定を行うには,まず,このようなSSR領域をDNAの中から探し出し,それをPCRにより大量合成するためのSSRマーカーを設計することが必要となるが,P8教授は,当初は,SSRマーカーではなく,RAPD-STSマーカー(市販されているが精度の低いRAPDマーカーから,識別度の高い部分を抽出してSTS化したマーカー。単にSTSマーカーともいう。 を開発し,)その後,他の研究者の方法を参考にして,独自の方法でSSRマーカーを開発した。
5 その方法は,①抽出したDNAを制限酵素によって断片化し,その両端に既知の
塩基配列(アダプター)を付加する,②このアダプターと相補的な20塩基の配列(AP2),及び,ACやAG等の2塩基が10回繰り返す塩基配列(AC10,AG10)をプライマーとしてPCRを行うと,DNA断片中にAP2とAC10,AG10で挟まれた領域がある場合にその領域のみが分離増幅される,③この増幅した領域の塩基配列を解読して,SSR部分を含む更に短い領域がPCRによって分離増幅されるようにプライマー(IP1,IP2)を設計する,④再び,抽出したDNAを制限酵素によって断片化し,両端にアダプターを付加したものに,今度はアダプターと相補的な20塩基の配列(AP1,AP2),及び,プライマー(IP1,IP2)をプライマーとしてPCRを行い,分離増幅した領域の塩基配列を解読し,プライマーIP1,IP2と共にSSR部分を挟み込むようなプライマー(IP3)を設計する,⑤それらIP1ないしIP3からなるプライマーセットをSSRマーカーとする,というものである。(ウ) このようなマーカーを用いてDNA鑑定を行うには,各検体からDNAを抽出し,これにマーカーを用いてPCRを行いてDNA断片を分離増幅し,マーカーに対応するSSR領域のDNA断片を大量に合成する。そして,それらをアガロースゲルで作られたシートに入れ,緩衝液の中で下側がプラス極になるように電気をかけると,DNA断片は,マイナスに帯電していることから,ゲルの中をプラス極側に移動(電気泳動)するが,ゲルの中はDNAの移動にとって障害になる構造を有していることから,DNA断片が短い方がより長い距離を移動することになり,移動後の位置が帯(バンド)として表れる。そこで,DNAだけを特異的に染める蛍光物質を用いてDNA断片を染め,移動したDNA断片のバンドの位置(マーカーの移動距離)の違いを目視で観察することにより,各検体の当該SSR領域の長さ(単純な塩基配列の繰返し回数)の異同が判明することから,それにより,各検体の品種の異同を判別する。このようにSSR領域を用いて遺伝型の同一性を判定する手法は,様々な動植物
5 において親子鑑定や品種識別の手法として利用されている(独立行政法人種苗管理
センターが平成20年3月に作成した「DNA品種識別技術の妥当性確認のためのガイドライン-SSRを中心として-」[甲129]p3。以下「妥当性確認ガイドライン」という。)。(エ) 二つの検体について,DNA中に複数存在するSSR領域のうちの一つでも異なれば,両者の品種は異なると判定される。したがって,複数のマーカーを用いて電気泳動を行った場合,マーカーのうちの一つでもバンドパターンが異なれば,それだけで両者の品種は異なると判定される。他方,あるマーカーによるバンドパターンが一致しても,そのSSR領域が一致していることがわかるだけで,他のSSR領域では一致していない可能性があることから,直ちに両者の品種が同じであるとは断定できない。しかし,マーカーの数を増やしていくと,その全てにおいてバンドパターンが一致していながら別品種であるという確率が低下していくことになる。P8教授は,本件鑑定1では10個のマーカー(うち3個がRAPD-STSマーカー,7個がSSRマーカー)を用いて鑑定し,本件鑑定2では20個のマーカーを用いて鑑定した。P8教授は,20個のマーカー(うち3個がRAPD-STSマーカー,17個がSSRマーカー)を用いてそれら全てでバンドパターンが一致する場合には,別品種でありながら偶然に20個も一致することは統計学的に見てあり得ないと考えている。(以上,甲102の1p7ないし22,甲103p27ないし33)なお,妥当性確認ガイドラインでは,①品種識別の精度を確保するために2個以上のマーカーを用いる場合には,それらが遺伝的に独立に分離することを確認する必要がある,②この場合の独立とは,複数の遺伝子座のそれぞれの対立遺伝子の組合せがランダムに起こり,確率の法則に従うことであるが,用いるマーカーが連鎖していると,複数のマーカーの分析結果から得られるマーカー遺伝子型に違いがなく,品種識別の精度の向上にはつながらない,③サンプル間で分析結果が異なる場
5 合には,マーカーの独立性が確認されている場合も確認されていない場合も,品種
内多型等の問題がない場合は,異なる品種であるといえる,④サンプル間で分析結果が同じ場合には,マーカーの独立性が確認されていれば,品種識別率から同一品種である確率を算出することができるが,マーカーの独立性が確認されていなければ,分析結果から品種を特定するには,a:サンプルがいくつかの候補(の品種)に絞られていること,b:その候補の全てがそのマーカーで作成されたデータベースに載っていること,c:そのデータベース上で少なくとも候補となる品種は全ての品種と識別できること,の条件を満たしている必要があるとされている(甲129p27ないし28)。これに対し,P8教授の鑑定手法では,マーカーの独立性は確認されていない(甲102の1p87)。(オ) また,P8教授は,10マーカーを用いていた時期には,DNAだけを特異的に染める蛍光物質としてゲルグリーンを使っていたが,それでは解像度が悪く,バンドの像が見えにくい傾向にあったことから,20マーカーを用いるときには,エチジウムブロマイドを使用した(甲102の2p80)。(カ) 本件鑑定1では,10マーカー全てについて,トットリフジタ1号と本件被疑種苗とで同一サイズのバンドを確認したとして,そのDNA情報は同一であると判定された。また,本件鑑定2でも,20マーカーについて,同様であると判定された。(キ) DNA鑑定学会の妥当性委員会は,P8教授が作成した20マーカーによる「SSRマーカー及びSTSマーカーによる常緑キリンソウ品種のDNA品種識別マニュアル」について,妥当性確認ガイドラインに基づいて,マーカーと識別手法の妥当性の検証を行った(乙67)。そこでは,品種識別の検査を実施する検証機関として3機関を選定した上で,基準3品種(トットリフジタ1号,トットリフジタ2号,TF3)のDNAを基準として,実際のトットリフジタ1号株5サンプル,トットリフジタ2号株5サンプル,TF3株5サンプルのほか,それら以外の8種類のタケシマキリンソウ各1サンプ
5 ル,3種類のキリンソウ野生系統(富山,柏崎,佐渡)各1サンプルについて,2
回ずつ(合計52サンプル)のブラインド試験により,各マーカーごとのバンドパターンを判定し,予め確認してあるバンドパターンとの照合により正答率を確認した。上記マニュアルには20マーカーが記載されていたが,DNA鑑定学会によってその妥当性が検討される過程で,同学会が,検体によりバンドが表示されないものがあるとして不適切と判断した2つのマーカー(RAPD-STSマーカーのA-10,A-16)が削除され,最終的には18マーカーによる検証が行われた(甲102の2p12ないしp13,乙67)。この削除された2つのマーカーは,本件鑑定1において用いられた10マーカーに含まれている(乙53ないし60)。この検証の結果,マーカータイプ一致率は,トットリフジタ1号及びトットリフジタ2号がいずれも99%,TF3が62%,その他が90%となった。これを踏まえて,DNA鑑定学会は,「提供されたマニュアルは,今回の検証に用いられたサンプルを対象とする限り,検査対象がトットリフジタ1号またはトットリフジタ2号であるか否かは正確に識別可能なマニュアルであると言える・・・しかしながら,本文中でも指摘したように,本マニュアルは,個々のマーカーの異同判定については,マーカー鎖長の異同判定のように数値に基づく客観的な判定ではなく,電気泳動像のバンドの相対的な位置判断という主観的な手法である。検証を行った機関からは,マニュアル記載の電気泳動写真では区別が判らないマーカーが多々あるのでせめてフラグメントサイズの記載は必要である,との苦情が寄せられた。個々のマーカーの判定精度が不明なものを寄せ集めて正しい判定ができる,というシステム自体の是非が問われるべきであろう。」等と評価した。(ク) P8教授の鑑定手法について,上記妥当性委員会の委員長を務めたP18(以下「P18委員長」という。)は,本件刑事事件の証言において,①アガロースゲルの電気泳動を用いた方法では,DNA断片の塩基配列について,50塩基差以下を分離識別することができないから不正確であり,これに対してアクリル
5 アミドゲルの電気泳動を用いた方法であれば,1塩基差の分離まで可能である,②
アガロースゲルの電気泳動を用いた方法は,バンド位置を目視で判別する主観的な方法であるから不正確であり,キャピラリー式電気泳動装置による解析のように当該領域のフラグメントサイズを客観的に測定することが必要である,③DNA鑑定学会の評価は,使用されたマーカーについて,今回の検証で用いられた14サンプルの範囲の限りでの識別可能性をいうものにすぎないと述べた(甲103p34ないし49)。(ケ) P8教授は,20マーカーを用いて別に行ったDNA鑑定(甲144)では,例えばマーカー251を用いた場合について,資料2と資料3のDNA型は異なると判定したが,DNA鑑定学会の妥当性検証の際に提出したバンドパターン判別表(乙67)では,同じ検体であるタケシマ7とタケシマ8のバンドパターンが同じであるとしている(甲102の2p82ないし86)。(コ) 上記のDNA鑑定学会による妥当性検証(乙67)においては,トットリフジタ1号についての品種内多型の調査も行った。そこでは,鳥取大学から提供されたトットリフジタ1号のポット苗90株を,3つの検査機関で30株ずつ,マーカータイプの判定を行ったところ,2社では一致率100%,1社では一致率99.8%(1株の判定のみ不一致)という結果となった。ただし,DNA鑑定学会は,試験に供された90サンプルの全てが異なる個体であり,同一株由来のサンプルではないこと,実験回数が1サンプル当たり1回であることから,不一致とされた1株については,それが実験誤差に由来するものなのか,実際にその個体がそのマーカーに多型を持つ個体であったのかを判定することができないとされた(乙67p19)。イ 本件鑑定1及び本件鑑定2に供された鑑定試料の入手方法は,次のとおりと認められる。(ア) トットリフジタ1号は,本件鑑定1では平成25年9月20日にP5が鳥取警察署に任意提出したものであり(乙53,55,57及び59),本件鑑
5 定2でも同様にP5又はP6が任意提出したものである(弁論の全趣旨)。
(イ) 本件料金所の本件被疑種苗は,①本件鑑定1のうち乙58及び60のものは,平成25年8月1日に本件出口料金所と本件入口料金所において,それぞれ分散した場所から採取したものを,後に株分けしたものであり(乙57及び59,乙75p4ないし7),②本件鑑定1のうち乙54及び56のものは,平成26年1月29日に本件出口料金所と本件入口料金所において,①とは異なるトレイから採取したものを,同様に任意提出したものである(乙53,55,57及び59,乙75p25ないし27)。また,③本件鑑定2のものは,平成27年2月27日に本件出口料金所と本件入口料金所において,南東エリアの1か所,南西エリアと北東エリアの各2か所の前の2回とは異なるトレイから,5株ずつを採取したものである(乙75p29)。ウ P4でのトットリフジタ1号の栽培状況については,次のとおり認められる。(ア) P4は,被告が平成16年に品種登録出願をして以来,現在に至るまで,トットリフジタ1号を全て挿し木の方法で増殖し,販売している。挿し木とは,元の株から10㎝程度の芽をカットして採取し,これを土に挿すことによって増殖させる方法(いわゆる栄養繁殖)である。トットリフジタ1号には7月中旬から終わりにかけて花が咲き,9月から10月頃に種が付くことから,種子繁殖させることも可能であるが,P4では,トットリフジタ1号は,種が小さく,発芽率が悪いことを考慮し,効率のよい挿し木の方法で増殖させている(乙73p2ないし3及び104)。一般に,栄養繁殖は,クローン繁殖とも言われ,親株と同じ遺伝子を子が持つことになるため,突然変異がない限り,親株と同じ遺伝子組成を持つ個体を増やすことができる(甲104p8)。(イ) P4は,トットリフジタ1号を自社の圃場のビニールハウスで栽培して販売しているところ(乙30),品種の混在は会社の信用失墜につながるため,品
5 種ごとにハウスを分けて管理している。これまでP4においてトットリフジタ1号
を増殖させてきた中で,葉に白いラインが入る斑入という突然変異が生じたことが一度あったが,その際は,他の苗への感染を防ぐため,すぐにその株を隔離した。(乙74p3ないし4及び97)エ 以上に基づき本件鑑定1及び本件鑑定2の信用性を検討するに当たり,まず,鑑定試料として供されたトットリフジタ1号と,本件育成者権1に係る種苗として登録されたトットリフジタ1号との同一性について検討する。種苗法施行規則4条は,種子又は種菌を種苗とする品種について品種登録出願をするときは,当該品種の種子又は菌株を提出しなければならないと定めることから,こうして提出された種子又は菌株については種苗管理センターで保管されるが,栄養繁殖性植物については,このような定めがないため,登録品種のオリジナルの植物体は育成者自らが保存することとなっている(甲97)。このため,栄養繁殖性植物であるトットリフジタ1号については,オリジナルの種苗が公式に保管されておらず,上記のとおり,鑑定に供したトットリフジタ1号は,P4自身がトットリフジタ1号であるとして鳥取警察署に提出したものである。しかし,前記認定のとおり,P4においては,平成16年に品種登録出願されたトットリフジタ1号について,生産効率の観点から挿し木の方法による増殖を繰り返しており,育成に当たっては,他の品種の混入を防ぐため,ハウスを分けて管理しており,種苗販売会社であるフジタが品種混入を防止すべき営業上の必要性の高さに鑑みると,品種の管理は適切にされていたものと推認され,これらの趣旨を述べる本件刑事事件でのP6の証言に特段疑うべき点は見当たらない。そして,P4においては挿し木の方法による増殖,すなわち栄養繁殖が行われており,栄養繁殖の場合,増殖された苗は,もとの苗と同一の遺伝子情報を持つクローンであるとされていることからすると,鑑定試料としてP4から提供されたトットリフジタ1号は,品種登録時のトットリフジタ1号を栄養繁殖させたものとして,トットリフジタ1号と同一の遺伝子情報を有すると推認されるから,同一の種苗と評価すべきも
5 のである。
したがって,鑑定試料として供されたトットリフジタ1号については,本件育成者権1に係る品種として登録されたトットリフジタ1号との同一性を認めるのが相当である。なお,本件被疑種苗については,いずれも本件料金所から採取されたものであり,これらが採取されるまでに同所に本件被疑種苗以外の植物体が植え込まれたことをうかがわせる証拠はないから,適正な鑑定試料であると認められる。オ そこで次に,本件DNA鑑定の信用性について検討する。前記認定に係るP8教授のDNA鑑定手法は,品種によって変化しやすいSSR領域を特異的に増幅し,電気泳動距離の異同によって品種の同一性を判定するというもので,親子鑑定や品種識別にも用いられる手法である。また,そのようなSSR領域を抽出するためのマーカーの作成過程も合理的であるから,DNA鑑定学会により不適切と判断されたA-10及びA-16を除くマーカーは,その合理性を肯定し得る。したがって,本件でのDNA鑑定の手法は,原理的には信頼し得るものであるといえ,DNA鑑定学会による妥当性確認においても,少なくともトットリフジタ1号については,同確認検証に供されたサンプルに関するものではあるものの,99%という極めて高い同定識別率であり,また,品種内多型についても,ほぼ100%の一致率であった。また,マーカー数が,DNA鑑定学会により不適切と判断されたものを除いたSSRマーカーだけでも17マーカーと多く,それらのマーカーの独立性が確認されていないことを考慮しても,それが全てにおいてDNA型が一致する確率は相当に低いと考えられる。しかし,DNA鑑定学会とそのP18委員長が指摘するとおり,この鑑定手法には,アガロースゲルを用いるため,塩基差が50以下の場合の電気泳動像には差が生じず,識別精度に限界があるという問題点や,電気泳動結果のバンド位置の同一性を判定者が目視で観察して判定するものであるため,判断の客観性が確保されないという問題点があり,現に後者の点については,前記ア(ケ)の認定のとおり,同じ
5 マーカーを用いて同じ検体について行った判断結果が食い違うことが生じている
(原告が種々主張する,鑑定意見書とバンドパターン判別表での判断の齟齬についても同様である。)。また,マーカーの独立性が確認されていないとの点も厳密には残る。これらのことからすると,P8教授の鑑定において2つの鑑定試料のDNA型が同一であると判定された場合でも,両者の間には50以内の塩基差がある可能性があり,また,電気泳動像を同一と判定するか否かについても,判断の安定性に疑問を挟む余地があるというべきである。したがって,本件DNA鑑定において,トットリフジタ1号と本件被疑種苗とのDNA型が同一であると判定されたとしても,それはアガロースゲル電気泳動像において明確に区別されない程度に類似しているといえるにとどまり,DNA型が一致していると断定することまではできないというべきである(なお,原告は他に,本件DNA鑑定は,マーカーの再現性が確認されていないことや,サンプルの入手方法や保存方法が不適切であり,また,本件DNA鑑定に係る技術について,査読を経た論文発表がなされていないなどの点を指摘し,本件DNA鑑定の信用性を否定する主張をするが,これまで検討した以上に本件DNA鑑定の信用性を疑うべき事情があるとは認められない。)。したがって,本件DNA鑑定の結果から直ちに,本件被疑種苗とトットリフジタ1号のDNA型が同一であり,両者が同一の品種であると結論付けることはできない。カ もっとも,上記の検討からすると,P8教授のDNA鑑定手法によっても,アガロースゲル電気泳動像において,2つの鑑定試料のバンド位置が明確に区別し得る場合には,バンド位置の区別の有無が微妙である場合と異なり,識別精度の問題や視認による判断の主観性の問題は生じない(原告が主張する鑑定意見書とバンドパターン判別表での判断の齟齬の問題についても同様である。)から,両者のDNA型は異なると断定することができるといえ,マーカーの独立性が確認されていない場合でもそのことに変わりはない。そして,先に(1)で検討したとおり,平
5 成24年8月28日にP2が本件株分けを行ったときには,P2の農場には,トッ
トリフジタ1号とタケシマキリンソウ(原告代表者がグリーンマーケット又はやまくさから購入したもの)のみが栽培されていたのであるから,本件被疑種苗がそれらのタケシマキリンソウでないと判定されるときには,P2が本件株分けに用いたのはトットリフジタ1号であるといえることとなる。そこで,次に,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウとのDNA鑑定結果について検討する。(ア) 証拠によれば,以下の事実が認められる。a P11は,P9の屋号で主に公共工事の植栽に使用する地覆植物の生産販売を行う者であり,従前,原告が屋上緑化に使うメキシコマンネングサ等を原告に販売していたが,①平成21年ないし平成22年頃,P9の敷地で,トットリフジタ1号を試験的に増殖し,また,②平成22年ないし平成23年頃,原告の下請農家からキリンソウが地面に活着しないとの相談を受けて,そのダンボール1箱分を地面に活着させるために育てるとともに補植用に増殖させるなどしていた。その後,③P11は,平成23年11月29日,原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウの苗の送付を受けた(前記(1)ア(エ))ほか,平成24年中に2回,原告代表者からタケシマキリンソウの苗の送付を受け,増殖を依頼されたことから,P9の敷地で育てた。また,P11は,④同年12月にはドイツの種苗店のイエリト社からタケシマキリンソウの種を購入し,P9で育てた。そして,P11は,平成25年4月19日以降,原告向けにタケシマキリンソウの出荷を開始した。(以上,乙41及び42)b 鳥取警察署は,平成26年12月1日,P9から,きりんそう様のものを採取して任意提出を受け,それらに「P11・1」から「P11・15」の符号を付した。また,鳥取警察署は,平成27年1月31日,P9から,きりんそう様のものを採取して任意提出を受け,それらに「P11・16」から「P11・22」の符号を付した。
5 c 上記の採取当時,P9の敷地内で栽培されていたトットリフジタ1
号とタケシマキリンソウには,上記aの①ないし④のもののほか,⑤原告代表者が持ってきたトットリフジタ1号,⑥公証人に確認してもらいながら播いたイエリト社から購入したタケシマキリンソウがあったところ,それらのきりんそう様のものは,それぞれ次のものである(甲147)。
(a) P11・1ないしP11・5は,P11が商品用に育てていたも
ので,原告代表者から送付を受けた③のタケシマキリンソウ(P11はグリーンマーケットから原告代表者が購入したものと聞いている。)と④のイエリト社から購入したキリンソウが主だが,トットリフジタ1号も一部混ざっている可能性がある。
(b) P11・6ないし10は,上記①のトットリフジタ1号である。
(c) P11・11ないし15は,上記③のタケシマキリンソウと上記
⑤のトットリフジタ1号である。
(d) P11・16は,上記⑥のイエリト社のタケシマキリンソウであ
る。
(e) P11・17は,(a)と同じである。
(f) P11・18及びP11・19は,上記③のタケシマキリンソウ
である。
(g) P11・20ないしP11・22は,(a)と同じである。
d P8教授は,鳥取警察署からの鑑定嘱託に対し,その鑑定手法により,P11・1ないしP11・15を10マーカーを用いて,その後,P11・16ないしP11・22を20マーカーを用いて,それらとトットリフジタ1号とのDNA型の異同を鑑定した(甲144及び150)。その鑑定結果は,以下のとおりである。
(a) P11・1ないしP11・15は全てDNA型が同一であり,そ
れらとトットリフジタ1号とはDNA型が同一である。
(b) P11・16は,P11・17以下とDNA型が異なり,トット
5 リフジタ1号ともDNA型が異なる。
(c) P11・17は,P11・16及びP11・18以下とDNA型
が異なり,トットリフジタ1号ともDNA型が異なる。
(d) P11・18ないしP11・20は,DNA型が同一であるが,
トットリフジタ1号とはDNA型が異なる。
(e) P11・21及びP11・22は,DNA型が同一であり,トッ
トリフジタ1号ともDNA型が同一である。e また,P8教授は,鳥取警察署からの鑑定嘱託に対し,その鑑定手法により,10マーカーを用いて,やまくさで購入したタケシマキリンソウとトットリフジタ1号とのDNA型の異同を鑑定し,両者のDNA情報は異なるとの鑑定結果を得た(甲138)。(イ) 以上に基づき検討する。a まず,20マーカーの鑑定結果であるP11・16ないしP11・22について見ると,P11・16は前記⑥のイエリト社から購入したタケシマキリンソウであり,トットリフジタ1号とはDNA型が異なると判定されており,実際にも甲144の電気泳動写真において,P11・16(写真符号1)とトットリフジタ1号(写真符号1A)のバンド帯は,例えばSSRマーカー293において顕著に異なっているから,判定は信用し得る。次に,P11・18及びP11・19は,前記③の原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウであるが,これは,トットリフジタ1号とDNA型が異なると判定されており,実際にも甲144の電気泳動写真において,P11・18(写真符号3)及びP11・19(写真符号4)とトットリフジタ1号(写真符号1A)のバンド帯は,例えばSSRマーカー293及び同260において顕著に異なっているから,判定は信用し得る。次に,P11・17は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1
5 P11・
16とも,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウであるP11・18及びP11・19とも,トットリフジタ1号ともDNA型が異なると判定されており,実際にも,甲144の電気泳動写真において,P11・17(写真符号2)は,P11・16(写真符号1)とはSSRマーカー251及び260で,P11・18及びP11・19(写真符号3及び4)とはSSRマーカー332及び353で,トットリフジタ1号(写真符号1A)とはSSRマーカー293及び260で顕著に異なっている。そうすると,P11・17は,上記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウと認めるのが相当である。次に,P11・21及び22は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1号のいずれかであるが,それらは,上記で上記④のイエリト社から購入したキリンソウと認められたP11・17,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウと認められたP11・18及び19のいずれともDNA型が異なると判定されており,実際にも,P11・21及びP11・22(写真符号6及び7)は,P11・17(写真符号2)ともP11・18及びP11・19(写真符号3及び4)ともSSRマーカー293及び260で顕著に異なっている。そうすると,P11・21及びP11・22は,トットリフジタ1号と認めるのが相当であり,これらのDNA型が同一と判定されたことは,これに沿うものである。最後に,P11・20は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1号のいずれかであるが,上記で前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウと認められたP11・17,トットリフジタ1号と認められたP11・21及び22のいずれともDNA型が異なると判定されている反面,前記③の原告代表者がグリーンマーケットから購入したキリンソウと認められたP11・18及び19とDNA型が同一であると判定されているから,P11・18及びP11・19と
5 同じく,前記③の原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソ
ウであると認めるのが相当である。以上からすると,トットリフジタ1号は,原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウとはDNA型が明確に区別できて異なるのに対し,本件被疑種苗とはDNA型が明確に区別されないのであるから,原告代表者がグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウと本件被疑種苗のDNA型は異なるといえる。b もっとも,10マーカーでの鑑定結果によれば,P11・1ないし15とトットリフジタ1号とのDNA型が全て同一であるとされているところ,このうちP11・1ないしP11・5は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1号のいずれかであり,P11・11ないしP11・15は,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1号のいずれかである。そして,無作為に採取したはずのP11・1ないしP11・5とP11・11ないしP11・15の全てが偶然にトットリフジタ1号であったとは考え難いから,10マーカーの鑑定結果は,20マーカーの鑑定結果との間に齟齬があることになる。そして,実際にも,例えば同じSSRマーカー251や同263において,10マーカーの鑑定(甲150)では,全ての試料のDNA型が同一であると判定されているのに対し,20マーカーの鑑定(甲144)では,前記③のグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウ,前記④のイエリト社から購入したタケシマキリンソウ,トットリフジタ1号との間でDNA型が異なるとされており,両者には齟齬がある。しかし,前記ア(オ)の認定のとおり,P8教授は,10マーカーを用いていた時期には,DNAだけを特異的に染める蛍光物質としてゲルグリーンを使っていたが,それでは解像度が悪く,バンドの像が見えにくい傾向にあったことから,20マーカーを用いるときには,エチジウムブロマイドを使用したと認められ,20マーカ
5 ーの方が識別精度が高いと認められるから,20マーカーによる電気泳動の結果を
採用して,上記のとおり認定するのが相当である。c また,前記認定によれば,やまくさから購入したタケシマキリンソウは,トットリフジタ1号とDNA型が異なると判定されており,実際にも甲138の電気泳動写真において,やまくさのタケシマキリンソウ(写真符号S)とトットリフジタ1号(写真符号1Aないし1E)のバンド帯は,例えばSSRマーカー293及び同353において顕著に異なっており,判定は信用し得る。もっとも,これは10マーカーでの試験であるが,20マーカーの場合はバンドの識別精度がより向上するのであるから,10マーカーでの試験においてバンド帯の位置が顕著に異なると判定される以上,DNA型が異なると認めて差し支えはない。そうすると,グリーンマーケットの場合と同様に,やまくさが販売するタケシマキリンソウについても,本件被疑種苗とDNA型が異なるといえる。キ 以上の検討によれば,前記(1)のとおりP2が本件株分けに使用した株は,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウ(やまくさ又はグリーンマーケットから購入したもの)のいずれかであるところ,やまくさ及びグリーンマーケットから購入したタケシマキリンソウは,そのいずれもが本件被疑種苗とDNA型において異なる反面,本件被疑種苗はトットリフジタ1号とDNA型が明確に区別されないのであるから,20マーカーを使用した本件鑑定2に供された本件被疑種苗はトットリフジタ1号と認めるのが相当である(なお,トットリフジタ1号が,やまくさ及びグリーンマーケットから購入した以外の公知のタケシマキリンソウと区別性を欠く品種であるか否かは,原告が主張する原始的瑕疵2の問題として後に検討する。 。)そして,20マーカーを使用した本件鑑定2のための本件被疑種苗の採取においては,本件出口料金所及び本件入口料金所において,南東エリアの1か所,南西エリアと北東エリアの各2か所のトレイから,それぞれ5株ずつを採取しており,こうして無作為に採取した試料について前記のようなDNA鑑定の結果が得られたことや,前記のとおりP2の記録の記載方法として,トットリフジタとタケシマキリ
5 ンソウは区別されているところ,本件株分けに係る育苗状況報告書にはそれまでト
ットリフジタの趣旨で記載されていたのと同じ「カット苗 キリン」,「キリンカット苗」との語が使われていることを考慮すると,本件株分けに係る本件被疑種苗は,全てトットリフジタ1号であったと認めるのが相当である。
(3) 比較栽培試験について
本件では,被告は,本件比較栽培試験も,原告がトットリフジタ1号を増殖したことの根拠として主張していることから,その信用性についても検討する。ア 証拠(乙71のほか後掲のもの)によれば,以下の事実が認められる。(ア) 比較栽培試験に用いられる審査基準等a 種苗管理センターの業務方法書(以下,「業務方法書」ということがある。)第7条には,「栽培試験の実施にあっては,農林水産省食料産業局長が定める一般審査基準及び種類別審査基準に準拠するとともに,センターが植物の種類ごとに定める栽培特性調査マニュアルに基づき行うものとする。」と規定されている(甲157)。この業務方法書7条にいう「一般審査基準」は,「区別性,均一性及び安定性(DUS)審査のための一般基準」(甲119の「登録出願品種審査要領」の別添4,以下「一般基準」という。)である。また,同条の「種類別審査基準」に該当するのが本件審査基準であり,ベンケイソウ科マンネングサ属の「きりんそう」と呼ばれるアイゾーン種とカムチャティカム種を対象植物とする。なお,キリンソウに関しては,同条にいう「特性調査マニュアル」は存在しない(甲100の1,乙71p99)。b 上記の種類別審査基準が定める形質には,質的形質,疑似の質的形質及び量的形質がある。質的形質とは,植物の雄雌,倍数性等階級値が個々に不連続となる形質であり,階級値が異なれば品種間に区別性があるとされる。疑似の質的形質とは,例えば形に関する形質で,ある程度連続して変異するが,直線的連続ではなく曲線等2次元以上の複雑な変異をするもので,この場合は,卵形,長円形,
5 円形,倒卵形のように区切って質的形質と同様の取扱いを行い,原則として階級値
が異なれば区別性があると判定されるが,連続して変異することを考慮して,明確な差異があることを確認しなければならないとされる。量的形質とは,植物の茎の長さのように直線的に連続して変異するものであり,原則として1階級値の幅以上異なれば区別性があると判定される。(以上,一般基準第3の6)本件審査基準において,きりんそうについて定められた51形質のうち,調査方法が「観察」とされる項目は,質的形質又は疑似の質的形質であり,調査方法が「測定」とされる項目は,量的形質である(ただし形質番号50を除く。)。また,本件審査基準に定められた形質は,1月の厳冬期に調査すべき「常緑性の品種のみ」のものと,それ以外の6月から7月の花序の50%開花時に調査すべきものとがある。また,種類別審査基準では,特に量的形質については標準品種が定められる。植物は,栽培環境が異なると生育状態が変化することから,栽培環境が変わっても評価される階級値が変わらないように,標準品種との相対評価を行うためである(甲104p16ないし17)。本件審査基準でも,量的形質については全て標準品種が設定されている。c 上記の種苗管理センターの業務方法書には,品種類似性試験について,次のとおり規定されている(甲157条)。「第69条の4
第1項 センターは,育成者権者等からの依頼に基づき,育成者権を侵害した
種苗等を判定するための品種の類似性に関する試験(以下「品種類似性試験」という。)を行うものとする。
第3項 品種類似性試験は,次に掲げる事項のうち試験依頼者の依頼する事項
について行うものとする。
(1) 登録品種及び出願品種(以下「登録品種等」という。)と当該登録品種
等に係る育成者権の侵害が疑われる品種との特性比較
5 (2) 登録品種及び当該登録品種等に係る育成者権の侵害が疑われる品種との
比較栽培」また,これらの品種類似性試験について,種苗管理センター育成者権侵害対策実施細則には,次のとおり規定されている(甲157)。「業務方法書第69条の4第3項(1)の特性比較とは,品種類似性試験を依頼しようとする者(以下「試験依頼者」という。)から独立行政法人種苗管理センター(以下「センター」という。)に提出された植物体同士を目視及び計測により比較し,必要な項目について種類別審査基準を用いて特性を調査する試験をいう。なお,植物体の形質は栽培環境により変動するため,特性比較の結果区別性が認められたことをもって,比較した植物体同士が同一の品種でないとするものではなく,このことを確認するためには次項の比較栽培の実施が必要であることを,センターはあらかじめ試験依頼者に説明するものとする。」「業務方法書69条の4第3項(2)の比較栽培とは,試験依頼者から提出された種苗又は提出された植物体から生産された種苗を業務方法書第4条の品種登録に係る栽培試験と同一の方法で栽培し,必要な項目について種類別審査基準を用いて特性を調査する試験をいう。」(イ) 本件比較栽培試験の鑑定試料a 本件被疑種苗は,平成24年8月28日に株分けされ,淡路島のP3の畑(乙24)で露天栽培された(ただし冬場はナイロン製のビニールをかぶせる。乙78p11)後,平成25年2月6日,本件料金所用に453トレイ(原告製品3)が出荷された。その後,同年8月1日,鳥取警察署司法警察員は,本件料金所において,同所に移されていた本件被疑種苗を採取して任意提出を受け,これを領置した(乙49)。採取に当たっては,北東側,南東側,南西側,北西側から分散させて,入口・出口について各30株を,スコップで掘り出して採取し,トレイにポット苗として植え替えて,茨城県つくば市の種苗管理センターに持ち込んだ(乙75p6ないし8及び17,甲105)。
5 b P6は,平成25年8月20日,鳥取県<以下略>所在の自社の圃
場のビニールハウスで栽培していた鑑定フジタ2年生30株とトットリフジタ2号30株(以下「鑑定フジタ2号」という。)を鳥取警察署に提出した。P6は,同年8月に,警察が領置した本件被疑種苗を見る機会があり,それが前年9月頃に植え付けられたものと考え,それと同じような年頃のものを選出して提出した。(乙73p31,34ないし35)c 種苗管理センターでは,栽培試験を行うには苗の齢がそろっていなければ正確な試験結果を得られないところ(甲105),本件被疑種苗の齢が不明であったことから,植苗後10か月程度育てたトットリフジタ1号を鑑定に使用したい旨,鳥取警察署に申し出た。そこで,P5は,平成25年9月5日,鳥取警察署の要請を受け,フジタで10か月程度育てたトットリフジタ1号であるとして,鑑定フジタ1年生を30株提出した。(乙71p7及び93,乙72p9,乙75別紙14の捜査報告書)d なお,フジタでは,挿し木の時期に関わらず,挿し木してから一冬を越えたものを2年生と呼び,冬を越えていないものを1年生と呼んでいる。2年生には,冬を越すことで,根付近が茶色く変色する木質化が生じる。(乙72p4,乙73p105)(ウ) 本件比較栽培試験の実施方法及び本件比較栽培試験鑑定の判定方法a 本件比較栽培試験では,平成25年9月9日,フジタから提供を受けた鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生及び本件被疑種苗の苗をポリポットに定植した(乙50,乙51,甲100の1,2)。b 本件比較栽培試験において標準品種として使用した富山在来種と佐渡在来種については,挿し穂(カット苗)を各50本用意し,平成25年9月18日に挿し木をし,同年10月15日にポリポットに移植し,同年12月26日にポリポットに定植した(乙50,乙51,甲100の1,2)。c 本件審査基準では,量的形質について,富山在来と佐渡在来のほか
5 に,新潟在来と大雪山が標準品種として定められているが,種苗管理センターでは,
後二者は手元になかったため,前二者のみを本件比較栽培試験に供試した(乙71p102)。d 種苗管理センターでは,色の調査にはRHSカラーチャートを用い,測定にはノギス,メジャー,シックネスゲージ等の器具を用いるなどした。質的形質については担当者3人が協議し,階級値を決定した。他方,量的形質については,階級値を決定する前提として階級幅を設定した上で,階級値設定表(乙50等に添付)を作成し,それに今回の平均実測値を当てはめて,階級値を決定した(乙71p12ないし16)。階級幅の設定方法は,①本件比較栽培試験における標準品種の測定値と,本件比較栽培試験におけるトットリフジタ1号(鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生)及びトットリフジタ2号(鑑定フジタ2号)の測定値の平均値との差を算出し,それを,種類別審査基準における標準品種の階級値と,品種登録簿の特性表記載のトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号の階級値との階級差で除することにより,本件比較栽培試験における階級幅及び階級範囲の数値を設定する方法(例えば形質番号3),②本件比較栽培試験における標準品種の測定値と,登録審査の特性調査時の測定値とを対比して生育比を求め,本件特性表の作成時に設定された階級幅及び階級範囲として判明している数値にこれを乗じて,本件比較栽培試験における階級幅及び階級範囲の数値を設定する方法(例えば形質番号4),③本件比較栽培試験における標準品種の平均実測値を,本件審査基準における標準品種の階級の中間値(例えば階級が5であれば中間値は4.5となる。)で除して,階級幅を設定する方法(例えば形質番号39),④本件比較栽培試験におけるトットリフジタ1号(鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生)とトットリフジタ2号(鑑定フジタ2号)の測定値の平均値の差を,本件特性表におけるこれら2つの登録品種の階級値の差で除することにより,本件比較栽培試験における階級幅を算出し,その階級幅をもとに階級範囲の数値を設定する方法(例えば形質番号8)が採られた(乙71
5 p46ないし52)。
(エ) 本件比較栽培試験鑑定の結果a 鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗との区別性鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗(本件入口料金所)とは,いずれも量的形質である茎の長さ(形質番号7),冬期の茎の長さ(同8),花序の長さ(同39),花序の幅(同40)で階級値が異なり,前二者は1階級幅以上,後二者は2階級幅以上の相違があることから,両品種間には区別性が認められ,類似性が高くないと判定された(甲100の2)。また,鑑定フジタ1年生と本件被疑種苗(本件出口料金所)とは,いずれも量的形質である株張り(形質番号3),茎の長さ(同7),冬期の茎の長さ(同8),花序の長さ(同39),花序の幅(同40)で階級値が異なり,前二者は1階級幅以上,後三者は2階級幅以上の相違があることから,前記同様に,両品種間の区別性が認められ,類似性が高くないと判定された(甲100の1)。b 鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との区別性鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(本件入口料金所)とは,いずれも量的形質である冬期の葉の厚さ(形質番号34),花冠裂片の長さ(同45),開花の早晩性(同50)で階級値が異なったが,平均実測値の差がいずれも階級値設定表の1階級幅に満たないことから,明確な区別性が認められず,非常に類似性が高いと判定された(乙50)。また,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗(本件出口料金所)とは,いずれも量的形質である株張り(形質番号3) 冬期の茎の長さ, (同8) 冬期の葉長, (同30),花序の長さ(同39),開花の早晩性(同50)で階級値が異なったが,平均実測値の差がいずれも階級値設定表の1階級幅に満たないことから,明確な区別性が認められず,非常に類似性が高いと判定された(乙51)。なお,本件比較栽培試験鑑定によって決定された鑑定フジタ2年生の階級値は,本件特性表上の階級値と異なっているものがある(形質番号3,4,7,8,10,
5 11,14など)。この要因について,農林水産省で品種登録審査を担当するP1
9は,①登録審査時は鳥取県<以下略>のP4の圃場で現地調査が行われたのに対し,本件比較栽培試験は茨城県つくば市のセンターで行われており,栽培環境が大幅に異なることが影響している,②通常の審査では,出願品種と標準品種の苗を定植する時期を合わせるが,本件比較栽培試験では,標準品種の定植が,本件被疑種苗や鑑定フジタ2年生等を定植した時期より約3か月遅れていることが考えられると述べている(甲104p16ないしp17)。イ 以上を踏まえ,本件比較栽培試験鑑定における鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との間に明確区別性が認められないとの鑑定結果に基づき,本件被疑種苗がトットリフジタ1号と特性により明確に区別されない品種と認められるかについて検討する。(ア) まず,鑑定試料について検討するに,鑑定試料たる鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年生と品種登録されたトットリフジタ1号との同一性については,先にDNA鑑定について述べたとおり,同一性を有すると認められるから,この点に特段の問題はない。この点について原告は,いわゆる現物主義に反すると主張するが,登録品種と同一性の認められる種苗である限り,それを用いて比較栽培試験を実施することは,何ら現物主義の趣旨に反しないというべきである。また,本件被疑種苗についても,同様に実際にP3の農場から出荷され,本件料金所に移されたものであると認められる。(イ) 次に試験方法について検討する。a 前記認定のとおり,種苗管理センターが行う比較栽培試験は,試験依頼者から提出された種苗又は提出された植物体から生産された種苗を,品種登録に係る栽培試験と同一の方法で栽培し,必要な項目について種類別審査基準を用いて特性を調査する試験であるが,その趣旨は,登録品種と被疑品種について,登録審査時と同様の比較栽培試験と判定を行うことによって,審査基準を拠り所にして,両者間に区別性が認められるか否かを判断しようとするものであると解され,合理
5 的なものである。
b ところで,比較栽培試験を適正に行うためには,鑑定試料間の生育期間と栽培環境を揃える必要があるところ,明確区別性が認められないと判定された鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗を見ると,本件被疑種苗は平成24年8月28日に株分けされ,同年9月に挿し木されたものであり,鑑定フジタ2年生は,P6が,本件被疑種苗が同年9月に挿し木されたと考えてそれと同程度の齢のものを自社の圃場から採取して提出したものであるから,同じく平成24年9月頃に挿し木されたものと推認される。したがって,両者の苗の生育期間は揃っているといえる。他方,本件被疑種苗と鑑定フジタ2年生の挿し木後・種苗管理センターに搬入されるまでの栽培状況は,本件被疑種苗は平成25年2月6日まで淡路島のP3の農場で露天(冬期はビニールシートをかぶせる)で栽培され,同日以後は本件料金所の屋上に露天で生育していたのに対し,鑑定フジタ2年生は鳥取県<以下略>のP4の圃場のビニールハウス内で栽培されていたのであり,栽培環境が異なる。もっとも,いずれも冬期はビニールシート又はビニールハウス内で栽培されているから,その期間の栽培環境の相違が大きいとはいえない。また,本件被疑種苗が本件料金所に移された平成25年2月以降は,季節的にみてハウス内外での温度差がそれほど顕著となるとはいえない時期である。さらに,P6は,警察が領置した本件被疑種苗を実際に見た上で,それと同じ年頃の鑑定フジタ2年生を鑑定資料として提出したのであるから,鑑定フジタ2年生の提出時点において,本件被疑種苗と鑑定フジタ2年生との形質には大差がなかったものと推認することができる。これらのことを考慮すると,種苗管理センターに搬入されるまでの栽培環境の相違が,形質の相違に大きく影響したとまで認めることは相当でないというべきである。なお,鑑定フジタ1年生については,本件被疑種苗と特性において明確に区別されるとの鑑定結果となっているが,鑑定フジタ1年生は,P5が,平成25年9月5日,鳥取警察署から,植苗後10か月程度経ったトットリフジタ1号の種苗の提出を求められたのに応じ,これに該当する種苗として自社の圃場で栽培していたも
5 のを提出したものである。そして,P5は,長年にわたってトットリフジタ1号の
生産に携わってきたのであり,相応の生産管理もされていたはずであるから,そのP5が10か月程度の種苗を提出するよう指定を受けた際,これに対応する種苗を正確に選別して提出することは容易であったと推認される。そうすると,鑑定フジタ1年生が挿し木された時期は,平成25年9月から10か月程度さかのぼった平成24年11月頃と認めるのが相当であり,本来的には2年生と呼称されるべきものである(なお,P5は,本件刑事事件の公判段階で,この鑑定フジタ1年生は,木質化がほぼ確認できないような状態のものを選抜して提出したと述べる[乙72p10]が,植苗後10か月程度のものとの指定に反するものを提出したとは考え難いから,同供述は採用できない。)。しかし,そうであるとしても,本件被疑種苗の生育期間との差は2か月から3か月程度存するところ,前記ア(エ)bのとおり農林水産省のP19が標準品種の3か月の定植遅れについて述べるところからすると,3か月程度の生育期間の差であっても,特性に影響を及ぼすことが考えられるというべきである。そうすると,鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ1年生については,両者の栽培環境はほぼ同じであるのに対し,生育期間は鑑定フジタ2年生の方が本件被疑種苗と近似しているから,比較栽培試験の結果については,鑑定フジタ2年生によるものの方が信用し得るというべきである。c なお,それらの栽培開始時期(9月)は本件審査基準の耕種概要の栽培開始時期(春4月から5月)と合致していないが,比較栽培試験は,各形質に係る観察結果又は測定値そのものが重視されるのではなく,標準品種を用いた上で,対象種苗間の特性差を相対的に捉えることにより,区別性の有無を判断するものであることからすれば,栽培条件に有意な差がない限り,耕種概要との上記の時期のずれ自体が,比較栽培試験の結果の信用性に影響を及ぼすものとは認められない。なお,トットリフジタ1号は,通常,春植え(2月後半から7月頃)及び秋植え(9月頃から11月頃)が行われるものであり(乙13p2),本件比較栽培試験のように,9月頃に挿し木されること自体特異なことではないことからすると,この点
5 に係る耕種概要との時期のずれも,本件比較栽培試験の信用性には影響するとはい
えない。(ウ) 次に,判定方法について検討する。a 質的形質及び疑似の質的形質については,観察結果を階級値にあてはめるに当たり,3人の担当者の協議によっており,判定方法として適正であると認められる。b 他方,量的形質の判定方法については検討を要する。前記認定のとおり,本件比較栽培試験鑑定においては,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との間で,複数の量的形質において階級値の相違があるが,いずれも本件比較栽培試験の平均実測値を踏まえて設定した1階級幅の範囲内であることから両者に明確な区別性は認められないと判定されている。このような判定手法は,審査時に,登録品種が,設定された特定の階級幅を前提として,1階級幅の範囲内に公知品種が存しないことにより区別性があると判定されたことを踏まえて,本件比較栽培試験において区別性の有無を判定する際には,審査時に設定された階級幅と同等のものを,生育環境の相違に対応する補正を施した上で再現して,トットリフジタ1号と被疑侵害品種の量的形質の差がその1階級幅の範囲内にとどまる場合には,区別性がないと判定する趣旨と解され,判定基準としては合理的なものである(ただし,差が1階級幅の範囲を超える量的形質がある場合でも,その形質の性質や程度,植物体の種類及び性質等を総合的に考慮して,「登録品種と特性により明確に区別されない品種」[種苗法20条1項]に属すると判断される場合もあり得ると解される。)。この点について,原告は,「特性審査基準(案)」や本件審査基準に階級幅の記載がないことから,トットリフジタ1号と本件被疑種苗との量的形質の比較はできないと主張するが,本件審査基準に標準品種及びその階級値が記載され,本件特性表に標準品種及び登録種苗の階級値が記載され,登録審査時の測定データが保存されている限り,上記のような方法で比較栽培試験に使用する階級幅及び階級範囲を設定することが可能であるから,
(原告の主張)
は失当である。
5 しかし,本件では,判定基準となる階級幅の具体的設定に問題がある。すなわち,
登録品種の特性のうち特に量的形質に係る階級値は,標準品種との相対的な関係によって,栽培環境が変わっても維持されるものとして把握されているのであり,その相対的な関係を把握するための尺度が階級幅であるから,階級幅は,標準品種を考慮して設定すべき性質のものである。ところが,本件では,一部の標準品種しか供試されなかった結果,本件審査基準において標準品種が定められた量的形質のうちの11形質(形質番号5,8,9,10,29ないし34,38)において標準品種の実測値が存しないこととなっている。また,標準品種が供試された形質項目でも,供試された標準品種は,本件被疑種苗や鑑定フジタ2年生等と異なり挿し木から栽培を始めた上で,定植も本件被疑種苗等から約3か月遅い(鑑定フジタ2年生等の挿し木の時期から比べるとこの差は更に拡大する。)こととなっている。そして,このような生育環境と生育期間の差によって標準品種との相対的関係に影響が生じ得ることは,前記ア(エ)bのとおり農林水産省のP19も述べているところである。そうすると,標準品種が供試された形質項目についても,その実測値を前提として階級幅を設定することは適切でないというべきである(なお,階級幅を設定する上で,トットリフジタ1号の平均実測値を算出するに当たり,本件被疑種苗と生育期間の異なる鑑定フジタ1年生の実測値も含めた平均値を算出した点も適切でないというべきである。)。したがって,本件比較栽培試験においては,量的形質の区別性に関して,判定基準となる階級幅を適正に設定することができないというべきである。c なお,原告は,鑑定フジタ2年生の平均値と,本件被疑種苗(入口)及び本件被疑種苗(出口)各20株の各数値を対比し,平均値と1階級値を超える差異を有する株数が多数存在するとして,本件被疑種苗(入口),本件被疑種苗(出口)のいずれも,鑑定フジタ2年生と区別性を有するものであると主張し,また,階級幅は,平均値(中間幅)を用いて比較する決まりなどないとする。しかし,同一種苗内でも生育差によるばらつきが生じるのが通常であるところ,複数の個体を
5 試験に供して得られた平均値こそが偏りのないデータであり(乙71p51),そ
れをもとに特性を比較するのが最も判定の正確性を担保できる方法というべきであって,「特定検定のための栽培試験方法」において,供試個体数が30株とされているのもその趣旨であると考えられる。したがって,
(原告の主張)
は採用できない。(エ) 以上からすると,鑑定フジタ2年生と本件種苗とが特性において明確に区別されないという本件比較栽培試験鑑定の判定は,量的形質に関する限り,判定過程に問題があり,そのまま採用することはできないというべきである。したがって,本件比較栽培試験の結果をもって,直ちに本件被疑種苗がトットリフジタ1号と特性において明確に区別されない品種であるとの結論を導くことはできないが,他方で,両者が明確に区別されない品種ではないという結論も導くことはできないから,結局,本件比較栽培試験の結果をもって何らかの結論を得ることはできないというべきである。もっとも,上記のように標準品種の実測値を用いて階級幅を適正に設定することができないとしても,本件比較栽培試験では,鑑定フジタ2年生のほかに,トットリフジタ1号と登録審査時に同一の審査基準に基づき同一の機会に同一の階級幅に基づいて審査された登録品種(甲92及び93)として,トットリフジタ2号(鑑定フジタ2号)が供試されている。そして,登録品種たるトットリフジタ2号は区別性と均一性と安定性を満たすと判断されて,審査時の環境の下で,トットリフジタ1号と同じ標準品種との相対関係での階級値を与えられている一方,本件比較栽培試験に供された鑑定フジタ2号は,鑑定フジタ2年生と同様にP6がP4の圃場で栽培していたものを提出しており,鑑定フジタ2年生と生育環境及び生育期間を同じくしているのであるから,鑑定フジタ2号と鑑定フジタ2年生との相対関係を用いて階級幅を設定することも考えられ,前記ア(ウ)dの階級幅の設定方法の④はこのような考え方によるものと解される。そして,この方法は,標準品種というものが,当該形質においてその特性が安定的に出るものとして選ばれていること(乙71p16)からすると,標準品種を用いた本来の階級幅の設定に比べると精度が劣
5 るといわざるを得ないが,それでも,参考程度には利用し得ると考えられる。そこ
で,この方法による階級幅の設定を検討すると,①トットリフジタ1号とトットリフジタ2号の登録された階級値が異なる場合には,本件比較栽培試験におけるトットリフジタ1号(鑑定フジタ2年生)とトットリフジタ2号(鑑定フジタ2号)の測定値の平均値の差を,本件特性表におけるこれら2つの登録品種の階級値の差で除する方法によるのが合理的であり(本件比較栽培試験鑑定における前記ア(ウ)dの
④),②トットリフジタ1号とトットリフジタ2号の登録された階級値が同一の場
合には,鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ2号の各実測値平均の平均値を,登録された階級値が属する階級の中間値で除する方法によるのが合理的である(本件比較栽培試験鑑定において,この場合にどのようにして階級幅を設定したのかは明らかでないが,前記ア(ウ)dの③の方法を参酌すると,この方法によるのが合理的であると考えられる。)。そして,「野帳」と呼ばれる本件比較栽培試験の生データ(甲118)に基づき鑑定フジタ2年生及び鑑定フジタ2号の各平均値を算出すると別紙「鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ2号の平均値」のとおりであり,これを踏まえて上記の方法により階級幅を設定し,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との差を見てみると,別紙「鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗の差」のとおり,全て1階級幅の範囲内にあると認められるから,この方法によっても,本件被疑種苗がトットリフジタ1号であるとの前記認定を妨げるものではない。
(4) 小括
以上によれば,①本件株分けの経緯からすると,本件株分けに使用された植物体は,トットリフジタ1号かタケシマキリンソウ(原告代表者がグリーンマーケット又はやまくさから購入したもの)のいずれかであると認められるところ,②DNA鑑定の結果によれば,本件被疑種苗は上記のタケシマキリンソウでないと認められる一方,トットリフジタ1号とはDNA型が明確には異ならないと認められるから,本件被疑種苗はトットリフジタ1号であると認められ,③本件比較栽培試験の結果によってもこの認定は妨げられないと認められる。
5 そして,本件株分けの経緯での検討からすると,本件被疑種苗は,原告において,
P2に指示してトットリフジタ1号を違法に増殖し,譲渡したものと認められるから,原告の行為は,「品種登録を受けている品種…を業として利用する」(種苗法20条1項))ものと認められる。
3 争点3-1(原始的瑕疵1・育成者性の欠如),争点3-2(原始的瑕疵2・
区別性の欠如),争点3-3(原始的瑕疵3・未譲渡性(新規性)の欠如)について
(1) 品種登録が重大・明白な瑕疵により無効とされる場合は,当該品種登録に
係る育成者権の権利行使は許されない。また,種苗法には特許法104条の3第 1項のような規定がないが,種苗法にかかる品種登録についても,品種登録が種苗法49条1項1号所定の要件に違反してされたことが判明したときは,農林水産大臣はその品種登録を取り消さなければならならず,その場合,育成者権は品種登録の時に遡って消滅したものとみなされる(同条4項1号)ことから,当該品種登録がそれらの要件に違反して登録され,取り消されるべきことが明らかであるときは,その育成者権による権利行使は,権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である(最高裁判所平成12年4月11日判決・民集54巻4号1368号参照)。そして,原告が原始的瑕疵1ないし3として主張する無効・取消事由は,いずれも種苗法49条1項1号所定の要件違反をいうものである。
(2) ところで,被告は,原告を含む複数人が本件品種登録1について区別性の
欠如を理由としてした異議申立てについて,これを棄却する決定が確定したことに基づき,本件で原告が区別性の欠如に基づく原始的瑕疵2を主張することは許されないと主張する。ア 特許法167条(平成23年法律第63号による改正後のもの) 「特は,許無効審判…の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」と定めている。この趣旨は,審決が確定した後に同一の当事者等が同一の事実及び証拠に基づいて再び審判
5 を請求することは,解決済みの紛争の蒸し返しにほかならず,不合理であるとの点
にある。そうすると,同条に当たる事情が存するときは,同法104条の3の「当該特許が特許無効審判により…無効にされるべきものと認められるとき」に当たらず,特許権侵害訴訟における同条の主張は認められないと解するのが相当である。そして,種苗法51条が品種登録に対する異議申立ての期間制限を設けないこととしたのは,育成者権が登録品種及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種を業として利用する権利を専有するという強力な独占権であり(同法20条1項),その存続期間が品種登録の日から原則として25年と長期間にわたり(同法19条),存続期間満了後にも存続期間中の侵害行為に対する権利行使が可能であるため,第三者の権利利益に与える影響が大きいことから,品種登録に対する異議申立てに特許無効審判に類似した機能を持たせる趣旨であると解される。このことからすると,前記の特許権侵害訴訟の場合と同様に,品種登録に対する異議申立てに係る決定が確定したときは,育成者権侵害訴訟において,当該異議申立ての当事者が,当該異議申立てと同一の事実及び証拠に基づく登録無効・取消事由を主張して権利濫用の主張をすることは,紛争の蒸し返しとして許されないと解するのが相当である。なお,被告は,原告以外の者がした異議申立てに係る決定が確定した場合も同様に解するべきであると主張する趣旨のようにも解されるが,特許法167条が従前は当事者及び参加人以外の第三者にも一事不再理効を及ぼしていたのを,手続保障のない第三者に効力を及ぼすのは妥当性を欠くとして,平成23年法律第63号により現行法のように改正された経緯に照らして採用できない。そこでまず,原告による原始的瑕疵2に係る無効・取消事由に基づく権利濫用の主張の適否について検討する。イ 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(ア) 原告は,平成25年8月12日,トットリフジタ1号に係る品種登録について農林水産大臣宛てに異議申立てをした(以下「本件異議申立て」という。 。)その異議申立書(甲21)において主張された取消事由は,トットリフジタ1号は,
5 タケシマキリンソウと特性の全部又は一部によって明確に区別されず,明確区別性
を欠いており,種苗法3条1項1号の規定に違反して登録されたものであるとの点にある。上記の異議申立書では,公知のタケシマキリンソウは,韓国の鬱陵島に自生する植物で1917年に中井猛之進によって採取された「Sedum takesimese Nakai」であり,①P12准教授が「日緑工誌」に掲載した「緑化植物ど・こ・ま・で・き・わ・め・る」と題するコラムでは,タケシマキリンソウを平成8年6月に多肉植物の趣味家仲間から苗を譲り受けて栽培するとともに,同年10月から1年間生育・越 冬 試 験 を し た 旨 が 掲 載 さ れ て い る こ と , ② 平 成 8 年 発 行 の「Phytochemistry,Vol.41,No.5」に掲載されたアジアのセダムのアルカロイドに関する論文で,ベンケイソウ科キリンソウ属の植物として上記のタケシマキリンソウが記載されていることから,上記のタケシマキリンソウは公知であると主張している。そして,上記の異議申立書では,①P11が作成したトットリフジタ1号とタケシマキリンソウの特性を対比した報告書に基づき,本件審査基準に定める特性において両者に明確な区別性が認められない旨を主張するとともに,②日本食品分析センターが行ったDNA塩基配列解析試験によれば,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウは,リボソームDNAのITS領域の塩基配列が異ならないことから,両者が遺伝子レベルで客観的に同一の品種である疑いがあり,少なくとも両者がその特性において明確に区別されない旨と,トットリフジタ1号の母親が新潟在来のタケシマキリンソウである可能性が低く,その旨の願書の記載は疑わしい旨を主張して,以上から,両者は特性には明確な区別性がないと主張した。そして,原告は,証拠として甲1から甲16(以下,本件異議申立てでの書証番号を「異議甲1」などという。)を提出したが,それらには,①トットリフジタ1号の登録内容等に関するもの(異議甲1,4ないし7),②原告が利害関係人であることに関するもの(異議甲2及び3),③キリンソウが公知品種であることに関
5 するもの(異議甲8ないし12),④トットリフジタ1号がタケシマキリンソウと
明確区別性を欠くことに関するもの(異議甲13ないし16)があった。なお,上記のP12准教授のコラム(異議甲10)は,本件での甲55であり,上記のP11による特性対比の報告書(異議13)は,ほぼ同一のものが本件での甲74であり,上記のNA塩基配列解析試験の報告書(異議甲16)は,本件での甲63である。(イ) これに対し,農林水産大臣は,平成26年4月21日,異議申立てを棄却する旨の決定をした(以下「本件異議申立て決定」という。甲14)。そこでは,理由として,①品種登録制度における登録の単位は,「種」よりも小さい集団である「品種」であるのに対し,原告が添付している証拠は,いずれもタケシマキリンソウの「種」に関する記述にとどまり,タケシマキリンソウ種に属する特定の「品種」が公然知られていたことを示すものではなく,原告提出の証拠によっても,タケシマキリンソウには特性が異なる複数の系統が存在することがうかがわれること,②証拠として提示されている特性対比及びDNA塩基配列解析試験について,供試したタケシマキリンソウの系統が,トットリフジタ1号の品種登録出願前に公知となっていた証拠が示されていないことが示された。(ウ) 本件異議申立て決定については,原処分の取消しの訴え及び裁決取消しの訴えが所定期間内に提起されず,確定した(弁論の全趣旨)。ウ 以上に基づき,まず原告が原始的瑕疵2として主張する無効・取消事由が,本件異議申立てと同一の事実及び証拠に基づくものであるかを検討すると,本件で,原告が原始的瑕疵2として主張する無効・取消事由は,公知のタケシマキリンソウとの間で特性において明確区別性を欠くというものであり,種苗法3条1項1号違反をいうものであるから,本件異議申立てで主張された取消事由と同一の事実に基づくものである。そこで,証拠の同一性を見ると,前記認定のとおり,本件で原告がトットリフジタ 1 号と公知のタケシマキリンソウの明確区別性の欠如を立証するために提出した
5 証拠は,その多くにおいて本件異議申立てで提出したものと重複している。しかし,
本件では,P8教授によるDNA鑑定の証拠が追加されており,この証拠は本件異議申立てでの証拠を補足するにとどまるものではない。このことからすると,本件における原始的瑕疵2の主張が,本件異議申立てと同一の証拠によりされていると認めることはできないから,その主張が妨げられることはないというべきである。そこで,次に,原告主張の原始的瑕疵1ないし3が存することが明らかであると認められるかについて検討する。
(3) 原告主張の原始的瑕疵1ないし3について
ア トットリフジタ1号とタケシマキリンソウの重要な形質に係る特性について植物は生育期間や生育環境により生長具合に影響を受けることから,二つの植物体の特性を直接に比較するには,生育条件を揃えた適正な比較栽培事件によることが必要である。しかし,本件では,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウについて,そのような比較栽培試験を行った結果は示されておらず,P11による甲74の特性比較報告書もどのような比較栽培を行ったのか明らかでない。また,その点を措くとしても,トットリフジタ1号については,農林水産省の調査担当審査官が作成したトットリフジタ1号の出願品種の審査結果を記載した決裁文書(甲92の2)及び同決裁文書に添付された現地調査報告書(甲92の4)には,「「新潟在来」及び「佐渡在来」と比較して,冬期の茎の伸長程度が強く,萌芽が早いこと等で区別性が認められる」と記載されており,種々の特性の中で,これが最も重要な特性であると認められる。他方,タケシマキリンソウについては,
①P12准教授のコラム「緑化植物 ど・こ・ま・で・き・わ・め・る」(甲55)
には,「栽培事例に関する報文によれば,英国の栽培家では遅霜によって植物に被害が出やすい時でさえ十分に生育し,また多くの植物が休眠する冬季にほとんど被害を受けず落葉せずに維持され,冬季も着葉していると報じている」旨が記載され,P12准教授も,本件刑事事件での証言において,茎と葉が一体となったシュート
5 と呼ばれる芽が秋口から生長を始め,常緑ともとれる生長を示すと述べ(乙74p
11),②千葉県立農業大学校研究科課長P20は,タケシマキリンソウも秋から春にかけて生育すると述べ(甲64),③上記のP11の特性対比報告書(甲74)では,「茎の伸長程度」(形質番号6)について,「強」とされているが,これらによっても,タケシマキリンソウの冬期の茎の伸張程度がどの程度であるのかは必ずしも明らかでない。かえって,④P12准教授の「日本のクライメートゾーン8に相当する2地点におけるセダムの生育と越冬性について」(乙3)には,各照射条件下における生息反応として平成11年10月から平成12年10月まで,1か月ごと又は2か月ごとに茎長を測定した結果がグラフ化されて掲載されており,それによれば,タケシマキリンソウは,他の種類と同様,冬期に当たる12月から2月にかけていずれの条件下でもほとんど茎長に変化がなかったグラフとなっており,また,⑤P5は,本件刑事事件の証言において,アルペンガーデンから入手したタケシマキリンソウは10月から2月にかけてはほとんど伸びないと述べている(乙70p25)。これらからすると,タケシマキリンソウが,冬期の茎の伸長程度が強いというトットリフジタ1号の最も重要な特性を有するかについては明らかでないというべきである。また,P12准教授は,本件刑事事件の証言において,自分の栽培していたタケシマキリンソウは葉の形等に変異が多く出たが,トットリフジタ1号は変異が出なかったと述べており(乙74p21ないし22),このことからしても,両者が重要な形質において明確区別性を欠くと認めることは困難である。イ DNA鑑定について(ア) 前記2(2)オのとおり,P8教授によるDNA鑑定は,アガロースゲル電気泳動像において,2つの鑑定試料のバンド位置が明確に区別し得る場合には,両者のDNA型は異なると断定することができる点において,品種識別としての信用性を有すると認められる。(イ) P8教授によるDNA鑑定のうちタケシマキリンソウが鑑定試料に
5 含まれる可能性のあるもの(甲136,138,140,142,144,150)
において,鑑定試料とトットリフジタ1号のDNA情報が同一であるとされたものは2つある。そのうちの一つは,10マーカーを用いた甲150のDNA鑑定において,P9から採取したタケシマキリンソウを含む可能性のあるP11・1ないしP11・15のDNA型が,トットリフジタ1号のものと同一であるとされたものである。しかし,同じくP9から採取した鑑定試料について,20マーカーを用いた甲144のDNA鑑定では,タケシマキリンソウと認められるP11・16ないしP11・20について,DNA型がトットリフジタ1号のものと明確に区別することができる結果となっており,しかも,P11・16ないしP11・20にはP11が甲147でタケシマキリンソウを入手したルートとして述べる全てのルートに係るものが含まれている。そして,前記2(2)カ(イ)bのとおり10マーカーによる甲150のDNA鑑定は,識別精度において20マーカーによるものに劣り,採用できないものである。したがって,甲150の結果をもってタケシマキリンソウとトットリフジタ1号のDNA情報が同一であると認めることはできない。(ウ) 他にトットリフジタ1号と同一のDNA型を有すると判定された鑑定結果としては,「タケシマキリンソウ(鉾葉,平成11年ころ入手 桐蔭横浜大学で保管していたもの) 1株」について,トットリフジタ1号とDNA情報が同一であると判定された甲140の鑑定(10マーカー)がある。しかし,前記2(2)オのとおり,そもそもP8教授によるDNA鑑定の手法では,DNA情報が同一であると判断された場合でも,DNA情報が明確に区別できないということが認められるにとどまり,同一であるとまで認定することはできない。また,10マーカーによる鑑定は,識別精度が低いと認められることも前記のとおりである。そうすると,上記の甲140の鑑定をもって,トットリフジタ1号と上記試料でタケシマキリンソウとされた試料とのDNA情報が同一であると認めることはできない。
5 また,その点を措くとしても,甲140の鑑定の試料となった「タケシマキリン
ソウ」は,平成11年に入手したものとされているが,P12准教授によれば,これは,平成25年頃に,P12准教授が,平成11年の入手先から,当時と同一の種苗と指定した上で再入手しようとしたところ,入手先が別の譲渡先に譲渡していたものを再入手したものである(乙74p18,p33,p34)。そして,この間が14年も離れていることからすると,こうして入手した鑑定試料が平成11年当時にP12准教授のもとにあったタケシマキリンソウを増殖したものであるとは直ちに推認できず,結局,この鑑定試料がタケシマキリンソウであることを認めるに足りる的確な証拠はないというほかはない。したがって,甲140の鑑定結果をもって,タケシマキリンソウとトットリフジタ1号のDNA情報が同一であると認めることはできない。(エ) 日本食品分析センターによる「タケシマキリンソウ」とトットリフジタ1号のDNA塩基配列解析試験(甲63)では,原告が提供したトットリフジタ1号とタケシマキリンソウのDNA塩基配列解析の結果,核リボソームDNA ITS1領域においては100%,核リボソームDNA ITS2領域においては99%一致し,トットリフジタ1号はタケシマキリンソウと同一又は近縁なベンケイソウ科植物に由来する可能性が高いと判断された。しかし,同センター自ら,このDNA塩基配列解析試験は,品種ではなく,種までの識別を目的とした試験であり,品種の識別を行う場合は,DNAマーカーを用いた方法が一般的であると説明していること(乙6)からすると,上記DNA塩基配列解析試験の結果をもって,タケシマキリンソウとトットリフジタ1号のDNA情報が同一であると認めることはできない。(オ) なお,上記の甲144のDNA鑑定によれば,いずれもタケシマキリンソウと認められるP11・16とP11・17とP11・18ないし20とは,それぞれDNA型が明確に異なっていると認められるから,本件異議申立て決定が述べるとおり,タケシマキリンソウには複数の系統が存在することがうかがわれ,
5 上記の各種試験に供試したタケシマキリンソウの系統が,トットリフジタ1号の品
種登録出願前に公知となっていたことを認めるに足りる証拠はないというべきである。(カ) 以上によれば,DNA鑑定に基づいて,トットリフジタ1号がタケシマキリンソウと特性において明確に区別できない品種である(原始的瑕疵2)とは認められず,P12准教授が第三者に譲渡したのがトットリフジタ1号である(原始的瑕疵3)とも認められない。ウ P12准教授の本件刑事事件における証言についてP12准教授は,本件刑事事件において,①平成10年か平成11年頃,セダムソサエティの会員である友人から常緑性のタケシマキリンソウを入手し,自ら栽培研究する一方,平成12年頃にP5に対して常緑性のものとして渡したほか,緑化関係企業数社にも配ったこと,②P12准教授は,タケシマキリンソウ以外にも種々の苗をP5に渡しており,それらについてP5から共同出願の提案があったことを述べる(乙74p3ないし15)。しかし,P5は,P12准教授からタケシマキリンソウやツルマンネングサ等の苗をもらったことは認めつつ,トットリフジタ1号は,当時に各地から収集してきたキリンソウを自社の圃場で区画を区切って栽培していた中から発見したものと述べている(乙70p34ないし36)。このことに加え,P12准教授自身,P5からの共同出願の提案について,タケシマキリンソウの共同出願の話だったのか曖昧であることを自認している(乙74p14)ことを考慮すると,P5がP12准教授に対して,タケシマキリンソウの共同出願を提案したと認めることはできず,また,仮にそのような提案をしたとしても,そのことから,被告において,P5がP12准教授から譲り受けたタケシマキリンソウをトットリフジタ 1 号として品種登録出願した(原始的瑕疵1)と推認することはできない。エ 以上によれば,争点3-1ないし争点3-3に係る原告の原始的瑕疵1ないし3の主張はいずれも理由がない。
5 4 争点3-4(後発的瑕疵1・均一性,安定性の喪失)について
(1) 種苗法49条1項2号は,品種登録がされた後において,登録品種が同号
所定の要件を備えなくなったことが判明したときは,農林水産大臣はその品種登録を取り消さなければならないと規定し,その場合,育成者権は,取消しの時点から消滅するとしている(同条4項柱書き)。登録品種にこのような後発的取消事由が生じた場合には,当該育成者権は保護されるべき実質的価値を欠くものとなったといえるが,その場合でも育成者権の消滅に後発的取消事由が生じた時点までの遡及効を認めなかったのは,登録品種の特性が保持されなくなったと判定するためには,審査時と同様の現地調査や栽培試験によってそのことを確認することを要する(種苗法47条)ことから,その確認ができた時点以前の特性喪失を認定することができないという点にあると解される。この趣旨からすると,登録品種に後発的取消事由が生じ,侵害訴訟において当該品種登録が取り消されるべきことが明らかになったときは,農林水産大臣による取消し前であっても,後発的取消事由の発生が明らかに認められる時点以後の当該育成者権による権利行使は,権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。
(2) 原告は,後発的瑕疵1として,本件特性表記載のトットリフジタ1号の特
性と,本件比較栽培試験における鑑定フジタ 1 年生の特性と,本件比較栽培試験における鑑定フジタ2年生の特性とが,それぞれ特性において明確に区別されるとして,遅くとも平成24年8月頃には,トットリフジタ1号が均一性,安定性を欠くに至っていたと主張する。しかし,本件特性表記載のトットリフジタ1号の特性と,本件比較栽培試験における鑑定フジタ 1 年生・鑑定フジタ2年生の特性の比較をいう点については,本件特性表記載のトットリフジタ1号の特性は登録審査時の栽培状況に基づくものであるのに対し,鑑定フジタ1年生・鑑定フジタ2年生の特性は本件比較栽培試験時の栽培状況に基づくものである上,登録審査時のトットリフジタ1号の齢と,鑑定フジタ1年生・鑑定フジタ2年生の齢とがそれぞれ同一であると認めるに足りる証拠
5 はないから,それらの生育環境及び生育期間の相違により特性に相違が生じた可能
性がある(甲104p16ないし20) また,。 前記のとおり本件比較栽培試験は,標準品種を供試していない等のために量的形質についての判定過程に問題があり,その階級幅の設定及びそれに基づく階級値の判定を直ちに採用することはできない。そうすると,原告のいうような差異があることをもって,トットリフジタ1号が安定性又は均一性を欠くに至ったと認めることはできない。また,本件比較栽培試験における鑑定フジタ1年生の特性と鑑定フジタ2年生の特性の比較をいう点については,前記のとおり,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生とでは,挿し木された時期が2か月から3か月程度異なっており,その程度の齢の差が,特性の差異に反映されている可能性がある上,本件比較栽培試験における階級値の判定を直ちに採用できないことは前記のとおりであるから,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生の特性の差異をもって,トットリフジタ1号が安定性又は均一性を欠くに至ったと認めることはできない。なお,原告は,登録時のトットリフジタ1号,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生の間に生じている特性の差異は,栽培環境や栽培齢の差異では説明がつかないものであると主張するが,そのように言えるだけの根拠は示されていない。また,原告は,安定性の検討において齢の差は無関係であると主張するが,齢の差が特性に影響を及ぼす可能性がある以上,異なる世代間での安定性を判定するには,各世代における同一の齢の種苗を対比する必要があるから,この点に関する
(原告の主張)
も失当である。
(3) 以上から,
(原告の主張)
する後発的瑕疵1は理由がない。
5 争点3-5(後発的瑕疵2・均一性の喪失)について
(1) 原告は,後発的瑕疵2として,本件比較栽培試験に供試された鑑定フジタ
1年生及び鑑定フジタ2年生の各20株について,形質ごとの平均値から1階級値以上異なった株も数多くあることから,遅くとも平成24年8月頃には,トットリフジタ1号が均一性を欠くに至っていたと主張する。
5 (2) 品種登録出願の審査に用いられる一般基準(「区別性,均一性及び安定性
(DUS)審査のための一般基準」)の「第4 均一性判定に関する基準」には,次のとおり規定されている(甲119)。「均一性の審査は,有性繁殖又は栄養繁殖をすることから予測できる変異を除いて,法第3条第1項第2号に規定する要件(同一の繁殖の段階に属する植物体の全てが特性の全部において十分に類似していること)を満たすものであるか否かについて行う。」,「栄養繁殖性品種…の場合,異型個体の混入数が繁殖された出願品種の個体数に応じ次に掲げる最大混入許容数を超えないとき,均一性があると判定する。この場合の異型個体とは,出願品種と第3による区別性が認められる個体数をいう。出願品種の個体数 最大混入許容数≦ 5 06~35 136~82 283~137 3」また,ここで参照される一般基準の「第3 区別性の判定に関する基準」の6(3)には,「量的形質とは,植物の茎の長さのように直線的に連続して変異するものをいう。原則として量的形質が1階級値の幅以上異なる場合には,区別性があると判定する。」とされている。これらの一般基準からすると,栄養繁殖品種における均一性は,同一世代に属する齢が同じ植物体の中での異型個体数が,全体個体数の範囲ごとに定められる最大混入許容数を超える場合に否定され,異型個体であるか否かは,量的形質については,1階級幅以上の相違があるか否かによって判定すべきものと認められる。
(3) 本件の場合,本件比較栽培試験には,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年
生いずれも20株ずつを試験に供したことから,異型個体の最大許容混入数はいず
5 れも1株ということになる。
そして,本件比較栽培試験の生データ(甲118)によれば,鑑定フジタ1年生,鑑定フジタ2年生について,それぞれ冬期及び開花盛期に測定された量的形質に係る測定値は別紙「冬期鑑定フジタ1年生の測定値等」,別紙「冬期鑑定フジタ2年生の測定値等」,別紙「開花盛期鑑定フジタ1年生の測定値等」,別紙「開花盛期鑑定フジタ2年生の測定値等」の各「測定値」欄記載のとおりであり,平均値と各株の測定値との差は「平均値との差」欄記載のとおりであり,「平均値との差」を本件比較栽培試験鑑定で用いられた階級幅で除すことにより算出した各測定値と平均値との階級差は「平均との階級差」欄記載のとおりであり,網がけしたものが1階級幅以上の差がある株である。これによれば,本件比較栽培試験鑑定で用いられた階級幅の下では,鑑定フジタ1年生と鑑定フジタ2年生のいずれについても,複数の量的形質の項目で,1階級幅以上の差がある株数が前記の最大許容混入数を上回っている。もっとも,上記の検討は,本件比較栽培試験鑑定において設定された階級幅に基づくものであり,前記2(3)イ(ウ)bのとおり適正なものとはいえない。そこで,本来より精度は劣るが,前記2(3)イ(エ)で算出した鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ2号を用いた階級幅により,同様にして各株の平均値からの乖離度を算出すると,鑑定フジタ2年生については別紙「鑑定フジタ2年生の均一性」,鑑定フジタ1年生については別紙「鑑定フジタ1年生の均一性」のとおりであり,いずれも形質番号5に限り,1階級幅以上の差がある株数が前記の最大許容混入数を上回っている。このように,鑑定フジタ1年生についても鑑定フジタ2年生についても,均一性の基準を逸脱する結果となっているように見え(なお,上記の形質番号5の冬期の草丈も,トットリフジタ1号の最も重要な特性である冬期の茎の伸張程度と密接に関連する形質であるから,この形質が重要でないとはいえない。 ,) このことから,トットリフジタ1号が均一性を喪失するに至っている可能性は否定できない。しかし,前記2(3)イ(ウ)bのとおり,本件比較栽培試験は,そもそも量的形質について
5 適正な階級幅を設定することができないものであり,上記の検討も,適正とは認め
られないか精度の劣る階級幅を用いたものであるにすぎない。そうすると,本件比較栽培試験の結果に基づいて均一性の喪失の有無を最終的に判定することはできないというべきである。そして,他にトットリフジタ1号が均一性を喪失したと認めるに足りる証拠はない。
(4) 以上によれば,後発的瑕疵2に係る
(原告の主張)
は理由がない。
6 争点4(消尽の成否)について
種苗法21条4項本文は,育成者権者が登録品種等の種苗,収穫物又は加工品を譲渡した場合には,当該種苗,収穫物又は加工品自体の利用には育成者権の効力は及ばないとし,譲渡された種苗に関する育成者権者の権利の消尽を規定している。しかし,これに続く但書きにおいては,「当該登録種苗等の種苗を生産する行為…については,この限りでない」とされており,これらの規定を総合すれば,権利者から譲渡を受けた登録品種の種苗等を再度譲渡した場合には,育成者権の権利は消尽しており,当該種苗に対して育成権者の権利は及ばないものであるが,本件のように,権利者から譲渡された登録品種の種苗等を増殖した上で譲渡する場合,その増殖は登録種苗の「生産」に当たることから,同条但書きの適用を受けることとなり,当該種苗に対して育成者権の効力はなお及ぶものと解するべきである。本件において原告は,被告から正規に入手した登録種苗であるトットリフジタ1号を無許諾で増殖し,それを使用して「みずいらず」という名称の製品として販売したものであり,このように,登録種苗を「生産」した当該製品に対しては,当然に被告の育成者権は及ぶものというべきである。
7 小括
以上のとおり,原告が本件被疑種苗を使用した原告製品3を販売した行為は,被告の本件育成者権1を侵害する行為に当たるものであり,被告の本件育成者権1の行使が権利濫用として許されないということはできず,また,被告の本件育成者権
5 1は原告製品3に対しても及ぶものである。
したがって,被告は原告に対し,本件育成者権1侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有するものというべきであるから,原告の請求第3項の請求は理由がない(なお,原告は,同請求は,損害賠償請求権の不存在確認のみを求める趣旨であり,存在が認められる場合の損害額の確認までを求める趣旨ではない旨を明確にしている。)。
8 まとめ
以上の次第で,原告の請求のうち,請求第1項及び第2項については,確認の利益が認められ,それらの請求には理由があるから認容することとし,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第26民事部裁判長裁判官髙 松 宏 之裁判官
5 野 上 誠 一
裁判官大川潤子は,転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官髙 松 宏 之
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