ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成28(ワ)26919等 不正競争行為差止請求事件
| 裁判所 | 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成30年9月27日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
不正競争 |
| キーワード | 実施4回 侵害4回 差止3回 損害賠償2回 |
| 主文 | |
| 事件の概要 | 1 事案の概要5 本件は,原告が経営するまつ毛サロン「(省略)」(以下「原告店舗」というが, 原告と原告店舗を区別する必要がない場合には,単に「原告」と表記することが ある。)で勤務していたA及びB(以下,AとBを「被告ら」と総称する。)が, 原告を退職した後に勤務しているまつ毛サロン「(省略)」(以下「被告店舗」とい う。)で,原告から示された営業秘密(ノウハウ)を,不正に利益を得る目的で使10 用又は開示していることを理由として,原告が,被告らに対し,不正競争防止法 (以下「不競法」という。)2条1項7号及び同法3条1項に基づき上記ノウハウ の使用又は開示の差止めを求めるとともに,不競法2条1項7号及び同法4条に 基づき損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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平成30年9月27日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成28年(ワ)第26919号 不正競争行為差止請求事件(第1事件)
平成28年(ワ)第39345号 不正競争行為差止請求事件(第2事件)
口頭弁論終結日 平成30年7月4日
判 決
原 告 株式会社サロン・ド・ヒロコ
上記訴訟代理人弁護士 服 部 誠
同 大 西 ひ と み
第 1 事 件 被 告 A
(以下「A」という。)
第 2 事 件 被 告 B
(以下「B」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 野 﨑 修
同 佐 々 木 茂
同 菊 地 康 太
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告らは,別紙ノウハウ目録記載のノウハウを使用し,又は開示してはならない。2 被告らは,原告に対し,連帯して537万5000円及びこれに対する平成30年2月10日(平成30年2月9日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
5 1 事案の概要本件は,原告が経営するまつ毛サロン「(省略)(以下「原告店舗」というが,」原告と原告店舗を区別する必要がない場合には,単に「原告」と表記することがある。)で勤務していたA及びB(以下,AとBを「被告ら」と総称する。)が,原告を退職した後に勤務しているまつ毛サロン「(省略)(以下「被告店舗」とい」う。)で,原告から示された営業秘密(ノウハウ)を,不正に利益を得る目的で使用又は開示していることを理由として,原告が,被告らに対し,不正競争防止法(以下「不競法」という。 2条1項7号及び同法3条1項に基づき上記ノウハウ)の使用又は開示の差止めを求めるとともに,不競法2条1項7号及び同法4条に基づき損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)まつ毛パーマとは自まつ毛を上向きにカールさせる施術をいい,まつ毛エクステンションとは人工のまつ毛を瞬間的に接着するためのグルー(糊)を使用して自まつ毛に装着する施術をいい,アイブロウとは眉毛のカットや脱毛を行うことで眉毛の形を整える施術をいう。(争いがない)まつ毛パーマ,まつ毛エクステンション,アイブロウ等の施術を行うスタッフをアイリストと呼ぶことがある。(甲8〔3頁〕)原告代表者の母であるC(以下「C」という。)は,平成7年12月頃に原告店舗を開店し,平成20年4月30日に株式会社である原告を設立した。原告店舗はまつ毛パーマ,まつ毛エクステンション,アイブロウ等の施術メニューを展開するサロンであり,最寄り駅は東京都港区所在の表参道駅である。(争いがない,原告代表者22頁,弁論の全趣旨)Aは,平成24年9月1日に有期契約社員として原告に入社して研修を受け,同年12月1日から正社員となり,以後,原告においてアイリストとして顧客に施術をするようになった。(争いがない)
5 Bは,平成25年1月1日に有期契約社員として原告に入社して研修を受け,同年5月1日から正社員となり,以後,原告においてアイリストとして顧客に施術をするようになった。(争いがない)被告らは,原告に入社する以前は,美容師として働いていて,アイリストとしての経験はなかった。(争いがない,乙19〔1頁〕,20〔1頁〕)被告らは,原告の正社員になった後も,1年以上にわたりCや先輩社員からトレーニングを受けるなどして,アイリストとして勤務するための必要な技能を身に付けた。(争いがない)Aは,平成25年12月から,原告の経営幹部候補生として主任に就任し,原告の経営計画等を共有していた。(争いがない,甲23〔8頁〕,弁論の全趣旨)Cは平成26年5月1日に亡くなり,同日から,原告代表者が原告の代表取締役となった。(甲1〔1頁〕,9〔1頁〕)被告らは,平成27年5月頃,原告に対して退職の希望を伝え,同年11月末日まで原告で勤務した後,有給休暇を消化し,Aは同年12月8日をもって,Bは同月16日をもって,それぞれ原告を退職した。(争いがない)被告らは,平成27年12月1日から,表参道駅を最寄り駅とする立地で,まつ毛パーマ,まつ毛エクステンション及びアイブロウ等の施術メニューを展開するサロンである被告店舗を開業し,現在に至るまで被告店舗でアイリストとして勤務している。被告店舗では,開業から現在に至るまで被告ら以外のアイリストは在籍していない。(争いがない)原告は,平成28年度(12月決算)において,平成20年に株式会社を設立して以来,初めての赤字を計上した。(甲8〔24,25頁〕)3 争点別紙ノウハウ目録記載のノウハウ(以下,同目録に記載されたノウハウの全体を「本件ノウハウ」と総称し,個別のノウハウを摘示する場合には同目録に
5 と表記する。)が営業秘密(不競法2条6項)に該当するか(争点1)ア 本件ノウハウが「秘密として管理されている」(以下「秘密管理性」という。)という要件に該当するか(争点1-1)イ 本件ノウハウが「有用な技術上又は営業上の情報」(以下「有用性」という。)及び「公然と知られていない」(以下「非公知性」という。)という要件に該当するか(争点1-2)被告らが,不正の利益を得る目的で,原告の営業秘密である本件ノウハウを被告店舗で使用又は開示しているか否か(争点2)営業上の利益の侵害又はそのおそれの有無(争点3)損害の発生の有無及び損害額(争点4)4 争点に関する当事者の主張争点1-1(秘密管理性の有無)について(原告の主張)原告は,就業規則において,本件ノウハウを含む会社の業務上の機密を他に漏らしてはならず,会社の許可なくマニュアル類等の重要物の複製や持ち出しを行ってはならないことや,退職時に守秘義務等について明記した誓約書を提出することなどを定めており,実際に,原告は,従業員が退職する際には,当該従業員に,本件ノウハウを含む原告の機密情報を一切漏らさない旨を誓約させ,退職する従業員にも秘密保持義務を負わせている。また,原告は,従業員に対し,顧客に施術内容を説明するときであっても本件ノウハウに言及しないよう指導していた。さらに,本件ノウハウは,習得に長い時間と多大な労力を要するものであり,原告と競業他社との差別化を可能にする経営の根幹をなす情報である。このような本件ノウハウの性質からすれば,本件ノウハウが競業他社によって使用され,又は第三者に開示された場合に,原告に甚大な不利益が生じることは,本
5 件ノウハウを知る者であれば当然認識している。実際に,原告は従業員を採用する際に,当該従業員に対し,原告において技術を取得して将来は他のサロンで施術をするなどといった目的を有していないことを確認しており,他のまつ毛サロンで本件ノウハウを使用又は開示することは許されない旨が従業員に明確に示されている。したがって,本件ノウハウには秘密管理性が認められる。(被告らの主張)秘密管理性の要件を満たすためには,その情報が営業秘密であることを第三者が認識できることが必要であると解される。しかしながら,原告の就業規則においても,被告らが原告に対して退職時に提出した誓約書においても,本件ノウハウが業務上の機密又は機密情報に該当するか否かは定かではない。また,原告が従業員に対して顧客に施術内容を説明するときに本件ノウハウには言及しないよう指導していたことはなかった。さらに,本件ノウハウは抽象的であり,営業秘密としては管理されていなかった。したがって,原告においては,本件ノウハウが営業秘密であることを第三者が認識できるようにされていたとは認められないから,秘密管理性の要件を満たさない。争点1-2(有用性及び非公知性の有無)について(原告の主張)本件ノウハウは,いずれも原告と競業他社との差別化を可能にする技術又は営業上の情報であるから有用性が認められる。また,本件ノウハウはいずれも原告において秘密として管理されており,第三者への開示が禁止された非公知の情報である。被告らは,本件ノウハウについて,インターネット上の情報で公開されていたり,当業者であれば誰でも容
5 易に思い付くことができたりするものであって,ありふれた情報であるから非公知性は認められないなどと主張するが,それらの情報と本件ノウハウはいずれも全く異なるものであるから,本件ノウハウに非公知性が認められることは明らかである。(被告らの主張)以下のとおり,本件ノウハウは,有用性がないか,非公知性が認められないものである。ア原告は, 当初,顧客の希望はロッドを選択する上での一要素という位置づけで主張をしていたのに,その後,顧客の希望はロッドを選択する目的として位置づけられるに至っており,その内容が変遷しているため曖昧かつ抽象的である。また,顧客の目もとの状態を考慮して最適なロッドを選択するという情報は抽象的である。したがって,本件ノついて,有用性は認められない。また,まつ毛パーマの施術を長年行い,多くの瞼の形等を見ていれば,施術者の経験と感覚によってロッドの選定の方法を工夫することは当然であり,希望する仕上がりとロッドの形状を単純に一対一で対応させているとは考えられない。むしろ,常識的に考えて,顧客の目もとの状態を考慮して最適なロッドを選択することは原告店舗以外のサロンでも当然に行っているされた判断方法が原告固有のノウハウであると認めるに足りる証拠はない。したがって,本件ノウハウ1非公知性は認められない。イまつ毛パーマの施術をする場合,ロッドをまつ毛の生え際に装着するという情報は一般に市販されているロッドの説明書に記載されていて,この記載が●(省略)●を意味していることは容易に想像できる。ロッドの置き方に
5 ついても,まつ毛とロッドの位置が遠くなればパーマのかかりが悪くなることは容易に想像できるから,●(省略)●もアイリストとして当然思い付く非公知性は認められない。ウ原告は,被告らに対し,基準列から約2ミリメートル以上という判断基準を教えていなかったことを自認している。また,そもそも,約2ミリメートイについて,有用性は認められない。エ●(省略)●というものであるところ,インターネット上では「まつ毛をきれいに貼り付けるコツとしては,爪楊枝やピンセットを使って,ロッドと垂直にまつ毛を貼り付けます。まつ毛が重なりあったり,クロスしないように丁寧に貼り付けて下さい。」と説明されている動画や,実際にまつ毛が重なり合ったりクロスしたりしないように貼り付けられている画像が公開されている。まつ毛をロッドに巻き付ける際に,●(省略)●は,いずれもまつ毛を素早く丁寧にロッドに巻き付けようとした場合に容易に想像できるものであって,アイリストとして当然思い付く工夫である。●(省略)●も,まつ毛を素早く丁寧にロッドに巻き付けようとした場合に容易に想像できるありふれた情報であるし,そのような爪楊枝の使い方はインターネット上の動画でも公開されている。オ原告が主張するデザインは,例えば●(省略)●などという幅のある内容であり,いずれも
5 について,有用性は認められない。●(省略)●であるところ,デザインは顧客が自ら確認して選ぶものであり,そのデザインが特定されればまつ毛の巻き方等の調整方法は概ね限定されるいて,非公知性は認められない。カ●(省略)●が原告独自のノウハウといえるのか不明である。したがって,認められない。キ対象となる毛を引っ張ってから巻いた方がより綺麗な仕上がりになることは髪の毛のパーマの場合も全く同じであり,美容師の業界では常識であるから,まつ毛パーマをきちんとかけるために,対象となるまつ毛を強く引っ張った方がよいことは容易に想像できる。また,原告は,まつ毛パーマをかける際に対象となるまつ毛を1回しか引っ張っていないとすれば顧客の満足を得られるはずがないと主張するが,そうであれば,複数回のテンションをかけることはまつ毛パーマをかける際の常識になっているはずである。したがって, 非公知性は認められない。クパーマをかける際に●(省略)●は,美容師の業界では常識である。原告が主張するパーマ液の塗布位置の具体例についても●(省略)●などというものであり,その内容は何ら特別なものではなく,美容師としての経験を有する被告らにとってはについて,非公知性は認められない。ケ美容師が備忘のために施術における調整方法を記録することは一般的に行われている。●(省略)●は何ら特別なことではない。したがって,本件
5 非公知性は認められない。コパーマ液の放置時間については,市販のパーマ液の取扱説明書等に記載されているし,顧客の毛質によってパーマ液の放置時間を長くしたりパーマ液を二度付けしたりすることは,美容師の業界では常識である。また,●(省略)●という内容も,効率的に施術をしようとした場合に容易に思い付くも非公知性は認められない。サインターネット上では「綿棒に水を含ませて瞼とロッドの間に滑り込ませながら取ると,わりときれいに取れます。 などとして,」 瞼からロッドを外す場面で水分を含ませた綿棒を使用することを説明する動画が公開されている。そして,瞼からロッドを外す際に取り除く糊とロッドからまつ毛を外す際に取り除く糊は同じものであるから,上記の公開情報を参考として,ロッドからまつ毛を外す場面でも水分を含ませた綿棒を使用しようと考えることは,まつ毛パーマに関する施術を行っていれば容易に思い付く。また,まつ毛に糊のかすが残った場合に,綿棒だけでは取りにくいものがあれば,●(省略)●それを取り除くという発想は,素人であっても容易に思い付く。ついて,非公知性は認められない。シトリートメント剤を使用する際,希釈する割合を示すことなく単に水分量を調整して使用するという情報には,有用性は認められない。また,トリートメント剤を小筆で塗布することについては,筆を使用するタイプのまつ毛美容液が市販されていることに鑑みれば,一般的に行われており,ありふれた情報であるし,「まつ毛美容液 小筆」という用語をインターネットで検索すると,小筆を使用して塗る形状のトリートメント剤が散見
5 される。したがって, 非公知性は認められない。ス具体的な方法を示すことなく,単にトリートメント剤を全てのまつ毛に漏れがないように塗布するという情報には,有用性は認められない。また,トリートメント剤を塗布する場合,全てのまつ毛に漏れがないように塗布することは当然のことであるし,その場合に●(省略)●トリートメント剤を塗布することはありふれた方法である。したがって,本件ノウハウ非公知性は認められない。セ具体的な調整の方法を示すことなく,単にパーマの施術においてカールを調整するという情報には,有用性は認められない。また,●(省略)●は,まつ毛エクステンション用のパーマを実施する者て,非公知性は認められない。ソ具体的な顧客の皮膚の状態や,保護クリームの名称,メーカー,成分等を示すことなく,単に保護クリームを塗布するという情報には,有用性は認められない。また,まつ毛パーマの施術において保護クリームを使用することは,あり非公知性は認められない。タ被告らはフリーハンドで眉毛を書いているが,このことは何ら珍しいことではない 。チ
5 ●(省略)●は,その使用の際に顧客の目に触れる上,市販のものを使用しているにすぎない。原告は,眉のデザインの仕方を過去にブログで公開しているし, (省略)●●眉をデザインするとバランスよく見えることは常識である。ツクレンジングを含ませた綿棒は,ポイントメイク直しのための商品として市販されている 認められない。テ眉のデザインは,施術前に顧客の希望を確認すれば定まるものであり,ノ有用性や非公知性は認められない。ト●(省略)●という対応は,眉カットの場合に限られるものではなく,美容師が顧客の髪をカットする場合にも同様のことを行うし,素人であっても自分で眉毛を切ろうとしたら同じことを行う。したがって,本件ノウハウ3非公知性は認められない。ナうぶ毛を抜くという発想や行為は,美容業界においてありふれたものであるし,施術を受けている顧客自身も施術においてうぶ毛を抜かれていることを認識できる。不必要なうぶ毛があればそれを抜くことは,顧客が横になった状態であっても座った状態であっても同じことであり,特別なことではない。したがって, ,非公知性は認められない。争点2(不正競争行為の有無)について(原告の主張)
5 被告らは,原告に入社する以前は美容師として稼働しており,アイリストの経験はなかったところ,美容師の経験があったとしてもまつ毛パーマ,まつ毛エクステンション及びアイブロウ等の施術はできないのであるから,被告らが有するアイリストとしての技術は全て原告でのトレーニングを経て習得されたものである。そして,被告らは,原告での最終勤務日の翌日から被告店舗で施術を開始しているところ,原告において3年以上にわたって本件ノウハウに係る技術だけを使用して施術を行っていた被告らが,その施術方法を直ちに一般的に普及している方法に変更した上で,原告と同水準の仕上がりを実現することは現実的に不可能である。現に,原告の従業員(アイリスト)2名が被告店舗を訪れ,実際に施術を受けたところ,被告店舗で本件ノウハウが使用されていることが確認できた。また,Bは,顧客からの電話での問合せに応対する中で,被告店舗で原告と同様の施術が行われている旨を明確に述べた。したがって,被告らは,被告店舗において,本件ノウハウを使用又は開示して施術を行っていることが強く推認される。以上によれば,被告は,原告在職中に,本件ノウハウの保有者である原告から指導を受けて本件ノウハウを習得し,秘密保持義務に反して利益を得る目的で被告店舗において本件ノウハウを使用して施術を行い,又は被告店舗において本件ノウハウを開示しているから,被告らの行為は,不競法2条1項7号の不正競争行為に該当する(以下,原告の主張する被告らの不正競争行為を「本件行為」という。。)(被告らの主張)以下のとおり,被告らは本件ノウハウを使用していない。ア被告店舗では,2種類の株式会社HAHONICOのトリートメント剤を
5 使用しており,●(省略)●は使用していない。したがって,被告らにおいて, 。イ被告店舗では,ロッドのパッケージ等に記載されたロッドの選定基準に従ってロッドを選定している。したがって,被告らにおいて,本件ノウハウ1使用していない。ウ被告店舗では,●(省略)●を使用していない。したがって,被告らにおエ被告店舗では,基準列から明らかにはみ出して生えているまつ毛についてはロッドの下敷きにしており,巻き付けることはしていない。すなわち,漏れ毛の長さや生え方によって巻き付ける方法が異なったり,ロッドに巻き付けないと判断したりすることはない。したがって,被告らにおいて,本件ノオ被告店舗では,まつ毛の量が多く束になっている部分があるときに,爪楊枝を●(省略)●使用していない。したがって,被告らにおいて,本件ノウカ被告店舗では,目頭付近のまつ毛を●(省略)●ロッドに巻き付けること使用していない。キ被告店舗では,まつ毛の根本から毛先までを引っ張るようにして一気にロッドに巻き付けており,テンポよく複数回まつ毛を引っ張ることでテンショ
5 ンをかけることはしていない。また,被告店舗では,全部のまつ毛に強くテンションをかけており,場所によって差をつけることはしていない。さらに,被告らは,まつ毛をブロックに分けても効率的に施術できるわけではなかったため原告在職中からまつ毛をブロックに分けて施術することも,利き手から遠いブロックから順に施術することもしていない。被告店舗では,利き手から近い目の目尻から始め,目頭まで施術した後,逆の目の目尻から始め,目頭まで施術している。ク被告店舗では,顧客のカルテにパーマ液の塗布位置を記録する際,●(省略)●を基準とした数値を使用していない。したがって,被告らにおいて,ケ 本件ノウハウ1被告店舗でまつ毛をロッドから外した後に綿棒を使用しているのは,アルカリ除去剤を染み込ませた綿棒でまつ毛を掃除することでアルカリ成分を取り除き,まつ毛が痛まないようにするためであり,糊のかすを取り除くためではない。被告店舗では,まつ毛に糊のカスが残った場合にはコームで取り除いており,●(省略)●取り除くことはしていない。したがって,被告コ被告店舗では,ロッドを瞼から外す際にリムーバーを使用していない。しサ被告店舗では,ロッドを瞼から外した後,皮膚に軟膏を塗ることはしていない。
5 シ 及びイ被告店舗では,株式会社HAHONICOのトリートメント剤(2種類)を使用しており,●(省略)●は使用していない。したがって,被告らにお及びイは使用していない。ス被告店舗では,まつ毛パーマの施術で促進剤を使用したことがない。したセ被告店舗では,つけまつげ用パーマの施術を行っていない。したがって,ソ被告店舗では,パーマ液をまつ毛の根本から塗布することはしていない。タ被告店舗では,ロッドを瞼に置く前に●(省略)●を使用していない。しチ被告店舗では,●(省略)●の施術を行っていない。したがって,被告らツ被告店舗では,まつ毛エクステンションの施術前に,人工まつ毛を●(省略)●することはしていない。したがって,被告らにおいて,本件ノウハウテ被告店舗では,アイブロウに使用するワックスとして,「GiGiオールパーパス」を使用しており,●(省略)●は使用していない。したがって,ト被告店舗では,眉毛を描く際,基本的に修正を行わないし,修正が必要な場合も,リムーバーを使用することはなく,キャリアオイルを使用している。原告は,●(省略)●が重要であると主張するが,被告店舗の施術方法はあくまで1回で書き切ろうとするものであり,大まかに書いた眉を消しながら形を整えようとするものではない。したがって,被告らにおいて,本件ノウナ被告店舗では,顧客の眉があまりにも乱れていたり,絡まっていたりする場合にコームを使用しているにすぎず,●(省略)●するためには使用していない。い。ニ被告店舗では,肌に赤みが出た場合に水を含ませて冷やしたコットンを眉周辺の肌に乗せているだけであり,ワックスを使用した後に●(省略)●を使用することはない。用していない。争点3(営業上の利益の侵害又はそのおそれの有無)について(原告の主張)本件行為は原告が本件ノウハウによって他のサロンとの差別化を図ることによって維持してきた競争力を著しく低下させるものであるから,原告は,本件行為により営業上の利益を侵害され,又は少なくとも営業上の利益を侵害されるおそれがある。(被告らの主張)否認ないし争う。
5 争点4(損害の発生の有無及び損害額)について(原告の主張)被告らは,少なくとも平成27年12月1日から平成30年2月9日付け訴えの変更申立書が被告らに送達された平成30年2月9日までの約2年2か月間にわたり,故意又は過失により共同して本件行為を行っているところ,被告らは,本件行為によって少なくとも年間250万円の利益を受けていると推定されるから,被告らが本件行為により受けた利益の額は,537万5000円(250万円/年×2.15(年))を下らない。したがって,原告は,被告らに対し,少なくとも537万5000円の損害賠償請求権を有する(不競法5条2項)。(被告らの主張)否認ないし争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1-1について
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。ア 原告の就業規則では,服務心得として「会社の業務上の機密および会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと」(36条5号) 「会社の許可なくやソフトウェア,マニュアル類,メニューブックなどの重要物のコピーや持ち出しを行わないこと」(36条8号)が定められ,懲戒解雇事由として「退職中および退職後におけるお客様の引き抜き行為,他店への就職および独立,個人の利益のための秘密情報やノウハウを持ち出すなどの行為」(49条8号)が定められていた。また,退職手続として「退職時(自己都合,解雇,懲戒など全てを含む。)は個人情報の漏洩や守秘義務,退職後の注意事項などを明記した,誓約書に署名・捺印したものを提出すること」(52条4項)と定められていた。原告の就業規則に,何が機密,秘密情報に当たるかについての定めはなかった。(甲4)
5 イ Cは,アメリカでアイリストとしての基礎技術を学んだ後,それを長年の
経験を踏まえて改良することにより原告店舗で使用する技術を確立していった。(甲1〔3頁〕,原告代表者21ないし23頁)原告は,以下のウのとおり,原告において施術されるまつ毛パーマ,アイブロウ及びまつ毛エクステンションに関する技術等を分類し,従業員に対するトレーニングを行っていた。原告は,被告らが入社する前から,ミーティングの機会等を通じて,従業員が自己流の技術を使って施術することを禁止しようとしていた。もっとも,原告におけるトレーニング(後記 )では,CとアイリストであるD(以下「D」という。)とで,パーマの巻き方の手順やテンションのかけ方についての指導内容が異なることがあり,個々のスタッフによってまつ毛パーマの巻き方や手順が異なることもあった。(乙20〔26頁〕,A6,13,35頁,B7,17,20ないし22,23,32ないし33頁)本件ノウハウは,まつ毛パーマ,アイブロウ及びまつげエクステンションに関する技術情報であるが,被告らが原告に勤務していた期間中,本件ノウハウが網羅的に記載された書面は存在していなかった。別紙ノウハウ目録は,平成29年10月31日に提出された原告第4準備書面の別紙であり,本件訴訟で裁判所に提出する目的で作成されたものである。(原告代表者20頁,A3頁,B3ないし4頁)また,被告らの在職中,原告において使用される技術が秘密であることを示した文書は存在せず,原告において,被告らが,原告のまつ毛パーマ,アイブロウ及びまつげエクステンションに関する特定の技術について,それが秘密であると告げられたことはなかった。(弁論の全趣旨,下記カの補足説明)原告では,まつ毛パーマ,アイブロウ及びまつ毛エクステンションのそれぞれについて,顧客の要望に応えるために必要とされる技術を難易度に
5 よりレベルAからEに分類していた。従業員は,自己が該当するレベルの
技術を全て習得したと認められた場合にそのレベルに合格したとして,次のレベルに合格するためのトレーニングに移行することになっていた。(甲9)例えば,まつ毛パーマのレベルAは,評価基準として「まつ毛パーマ1,ロッド:ベタ,デザイン:内向き」,チェックポイント・評価基準の説明として「時間:●(省略)●分,●(省略)●分,テンション,仕上がりの毛の方向,左右のバランス,巻きもれがないか」という内容が定められていた。(甲9(添付資料1))原告におけるまつ毛パーマのトレーニングの内容は,概ね以下のとおりであった。(甲9,11)a 初日に,座学によって,まつ毛パーマの技術を身につけるために必要となる基礎知識を伝える。その内容は,まつ毛の構造,まつ毛の毛質,まつ毛パーマの施術の基礎説明,まつ毛パーマのメリット・デメリット,使用材料の説明,ロッドの種類の説明,まつ毛の巻き方の種類の説明というものである。b 上記aの後は,基本的に実際に手を動かすことで技術を体に染み込ませていく。カリキュラムの大まかな流れは,①人形を使って瞼にロッドを置く練習をする,②人形を使ってまつ毛を巻く練習をする,③スタッフ同士で瞼にロッドを置く練習とまつ毛を巻く練習をする,④スタッフ同士で一連の施術の流れ(まぶたの保護のための下処理,パーマ液の除去,ロッドの除去,拭き取り,目の周りのマッサージなど)の練習をする,⑤ロッドにどのようにパーマ液を塗布すると,どのようにカールして仕上がるのかという説明をする,⑥まつ毛パーマ液を塗布する位置を説明し,スタッフ同士で実際にパーマ液を塗布してパーマをかける練習をするというものであり,これらを上記の座学後の1週間で実施し,そ
5 の後は,⑦スタッフ同士ではなく,実際のモデルに施術する練習を繰り
返し実施する。c CやDは,トレーナーとしてトレーニングの仕上がり等をチェックして,従業員のアイリストに対して,次回のトレーニングで気をつける点や細かい技術等を指導していた。原告におけるアイブロウのトレーニングの内容は,概ね以下のとおりであった。(甲9)a 特に座学を行うことはなく,初日から実際の施術の練習を行う。カリキュラムの大まかな流れは,①デモンストレーション(CやDが基本的なアイブロウのデザインについてスタッフの眉を使って説明)をする,
②デザインサンプルを見ながら,方眼紙に各眉のデザインを鉛筆で描い
てデザインの特徴を習得する,③スタッフの眉に各眉のデザインのアウトラインをアイブロウペンシルで描く練習をする,④スタッフ同士でワックスを塗る練習とそのワックスをはがして眉毛を除毛する練習をする,⑤実際のモデルに対して施術をする,というものである。b CやDはトレーナーとして横につくなどして,細かい技術を教えたり修正したものを見せたりしながら指導していた。原告には,トレーニングのカリキュラムに対応する形で,例えば「ステップ1」「施術の種類, まつげ」「内容, 3つのロッド(ベタ・T・F)をつかい,6つの巻き方で巻けるようにする。各ロッドをキレイにアウトできるようにする。,」「トレーニング解説 人形に,以下の①~⑥の組み合わせのロッドと巻き方をキレイに巻けるように練習してください。」等というようにトレーニングの内容等を記載した書面や,従業員がトレーニングの内容や結果等を記載するためのトレーニングカリキュラムチェックシート及びトレーニングメモ等が存在しており,トレーニングを受けた従業員は,それらの書面にCやDから指導された内容等を適宜メモしてい
5 た。
(甲13,19(枝番を含む。以下同じ。,20,原告代表者3ないし)4頁)また,原告には,ポイントの置き方など,アイブロウの施術内容を説明した「アイブロー施術の流れ」という書面が存在していた。(甲22)エ 原告代表者は,平成27年11月29日,被告らに対して退職に際して提出すべき誓約書を交付し,被告らは,同日,原告に対し,「貴社在職中に知り得た貴社の機密情報および貴社の取得した個人情報(顧客情報のみならず従業員情報も含む)を一切漏らさないことを誓います。,」「貴社在職中に職務遂行上の必要から交付を受けた業務上の資料および貴社顧客から貴社が交付を受けた資料ならびにその複製物の一切を貴社に返還いたします。」等といった事項を遵守する旨の誓約書を提出した。(甲3の1及び2)上記誓約書には何が機密情報に当たるかが記載されていなかったほか,原告代表者は,退職に際し,誓約書にいう機密情報は具体的にどのようなものであるかについての説明はしなかった。(原告代表者19頁,A2頁,B2ないし3頁)オ Cは,平成21年4月頃から「目力(メヂカラ)は新たな“オンナの命”」と題するブログを開設しており,同年7月末頃から複数回にわたって「定規1本で出来る!美眉マスター講座」と題する記事を投稿していた。Cは,それらの記事において,眉頭・眉山・眉尻のポイントの置き方,それらのポイントを線でつなぐ方法,眉のデザインやその描き方等を図や写真を交えながら具体的に公開しており,また,「ブログ記事だけではわかりづらいときは,いつでもサロンスタッフにご相談くださいね」等と記載していた。それらの記事は,少なくとも平成29年11月25日までは,第三者において閲覧することが可能な状態であった。(乙18)また,Cは,原告のスタッフや外部の人間を対象として,最初に会費を支払い,その後,複数回にわたってまつ毛パーマの内容や方法等を指導するス
5 クールを開催していた。(甲23〔12頁〕,乙20〔2頁〕,B33頁)
カ 事実認定の補足説明原告は,従業員に対し,顧客に施術内容を説明するときであっても本件ノウハウには言及しないように指導していたと主張し,原告代表者も,従業員に対し,原告においては特別な技術を実施していると告げて上記指導を行っていた旨供述した上で,原告の従業員は原告で教わった技術を外部に漏らしてはいけないことを分かっていたと思うと述べる(甲1〔4頁〕 17, 〔24,25頁〕,原告代表者10頁)。しかし,上記指導を裏付ける客観的な証拠はないこと,被告らが原告から本件ノウハウは外部に漏らしてはいけない情報であると説明を受けたことはないと供述すること(A3頁,B4頁)などからすると上記指導を直ちに認めるに足りず,原告代表者の供述も上記のようなものであって,少なくとも,原告において,被告らが,原告のまつ毛パーマ,アイブロウ及びまつげエクステンションに関する特定の技術について,それが秘密であると告げられたことがあったと認めることはできない。アのとおり,原告の就業規則では秘密保持についての定めが置かれていたものの,具体的にどのような情報が機密情報ないし秘密情報に該当するのかは明らかではなかった。また,上記 エのとおり,被告らが原告を退職する際に提出した誓約書に記載された機密情報の具体的内容についても同様であった。そして,本件で,原告が営業秘密であると主張する本件ノウハウは,原告で施術されるまつ毛パーマ,アイブロウ及びまつ毛エクステンションの技術に関する情報であるところ,原告においては,同技術が蓄積されていて,従業員に対して,その技術を幅広くトレーニング等で伝えていたことが認められる。しかしながら, それらの技術について,秘密であることを示す文書はなかったし,従業員が特定の技術を示されてそれが秘密であると告げられていたものではなく,また,その技術の一部といえる本件で原告が
5 営業秘密であると主張する本件ノウハウについて,網羅的に記載された書面は
なく,従業員もそれが秘密であると告げられていなかった。他方, 原告店舗で使用する技術はCによって確立されたものであるところ, Cは,アイブロウに関する技術を自らのブログで公開するとともに,そのブログに記載された情報以外についても原告店舗のスタッフに相談することで個別に指導を受けることが可能であるかのような記載をしたり,まつ毛パーマについて原告の従業員のみならず第三者をも対象としたスクールを開催したりしていた。また, ウのとおり,原告においては,技術等を分類して従業員に対するトレーニングを行っていたが,実際には異なる技術が指導されたり,使用されたりすることがあった。以上によれば,本件ノウハウについて,原告において秘密として管理するための合理的な措置が講じられていたとは直ちには認められない。また,まつ毛パーマ等に関する技術については一般的なものも含めて様々なものがあることも考慮すると,上記のような状況下で,被告らにおいて,本件ノウハウについて,秘密として管理されていることを認識することができたとは認められない。そうすると,本件ノウハウは,「秘密として管理されている」(不競法2条6項)とはいえないから,その余の要件について判断するまでもなく,営業秘密には該当するということはできない。
2 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求にはいずれも理
由がない。
第4 結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 柴 田 義 明裁判官 佐 藤 雅 浩裁判官 大 下 良 仁(別紙省略)
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