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平成29(行ケ)10196審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成30年11月21日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告メルク・シャープ・アンド・ドーム・ メルクシャープエンドドーム ら訴訟代理人弁護士城山康文 ら訴訟復代理人弁護士藤井駿太郎 ら訴訟代理人弁理士小野誠
対象物 ジペプチジルペプチダーゼ―IV阻害剤の新規結晶形
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 刊行物54回
実施43回
審決29回
優先権1回
進歩性1回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告らは,発明の名称を「ジペプチジルペプチダーゼ―IV阻害剤の新規 結晶形」とする発明について,平成24年6月25日(優先日平成23年6月 29日,優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2014-5 18879号。以下「本願」という。)をした。

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判決文

平成30年11月21日判決言渡
平成29年(行ケ)第10196号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成30年9月19日
判 決


原 告 メルク・シャープ・アンド・ドーム・
コーポレーション


原 告 メルク シャープ エンド ドーム
リミテッド

原告ら訴訟代理人弁護士 城 山 康 文
同 山 内 真 之
原告ら訴訟復代理人弁護士 藤 井 駿 太 郎
原告ら訴訟代理人弁理士 小 野 誠
同 坪 倉 道 明
同 安 藤 健 司

被 告 特許庁長官
指 定 代 理 人 佐 々 木 秀 次
同 河 本 充 雄
同 阿 曾 裕 樹
主 文
1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2016-15132号事件について平成29年6月29日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告らは,発明の名称を「ジペプチジルペプチダーゼ―IV阻害剤の新規
結晶形」とする発明について,平成24年6月25日(優先日平成23年6月
29日,優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2014-5
18879号。以下「本願」という。)をした。
原告らは,平成27年10月8日付けの拒絶理由通知(甲16)を受けたた
め,平成28年1月18日付けで,特許請求の範囲及び明細書について手続
補正(以下,この手続補正後の明細書を,図面を含めて「本願明細書」という。
甲17,27)をしたが,同年6月8日付けの拒絶査定(甲19)を受けた。
(2) 原告らは,平成28年10月7日,拒絶査定不服審判(不服2016-1
5132号事件)を請求するとともに,同日付けで,特許請求の範囲について
手続補正(以下「本件補正」という。甲20)をした。
その後,特許庁は,平成29年6月29日,本件補正を却下した上で,「本
件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を
し,その謄本は,同年7月11日,原告らに送達された。
(3) 原告らは,平成29年11月6日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を
提起した。
2 特許請求の範囲の記載

本件補正前の特許請求の範囲は,請求項1ないし12からなり,その請求項
1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」とい
う。甲17)。
【請求項1】
10.3±0.1 2θ,12.7±0.1 2θ,14.6±0.1 2
θ,16.1±0.1 2θ,17.8±0.1 2θ,19.2±0.1
2θ,22.2±0.1 2θ,24.1±0.1 2θおよび26.9±
0.1 2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークを粉末X線回
折パターンに有することを特徴とする,化合物Iの結晶質(2R,3S,5
R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニ
ル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イ
ル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)。
【化1】


3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公
開第2010/056708号パンフレット(以下「刊行物1」という。原文甲
1,訳文特表2012-508746号公報,原文及び訳文の対応表甲1の2)
に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び技術常識に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定

により特許を受けることができないというものである。
すなわち,本件審決は,下記のとおり,刊行物1に記載された発明として引用
発明,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を認定した上で,①本願の優
先日当時,一般に,医薬化合物については,安定性,純度,扱いやすさ等の観点
において結晶性の物質が優れていることから,その物質を結晶化することにつ
いては強い動機付けがあり,医薬化合物が結晶で得られる条件を検討すること
は,当業者がごく普通に行うことであり,また,結晶化の条件により得られる結
晶が異なることがあることも,よく知られていることからすると,化合物Pに
ついても,当業者が結晶を得られる条件を検討したり,得られた結晶について
分析することに十分な動機付けがある,②本願発明の形Iの結晶質の化合物P
を得るために本願明細書が開示した方法は,当業者が通常採用しないような手
法を用いているものではなく,特殊な条件設定が必要であるというものでもな
いから,形Iの結晶質の化合物Pは,当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤に
より,例えば引用発明の引用化合物(化合物P)の結晶を得る何れかの段階にお
いて再結晶の工程を置き換える等により,得られた結果物である結晶に過ぎな
い,③結晶性が期待される医薬化合物の分析のために,X線粉末回折を行うこ
とは,通常のことである,④本願発明の形Iの結晶質の化合物Pは,刊行物1に
より開示された化合物Pについて,結晶を得ることを意図し,酢酸エチルに溶
解及び/又は懸濁させて,結晶化させるという,当業者が通常採用する手法を
採用して,諸条件を検討したり,得られた結晶について分析することにより得
られた結果物である結晶に過ぎないものであるから,引用発明において,相違
点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは,当業者が容易に想到し得
ることである,⑤本願明細書の【0007】,【0019】及び【0033】の
記載は,本願明細書に記載された結晶形の形I~形IVの,何れであるかを特
定して記載したものではなく,一方,形Iについて特定した記載は,「13℃よ
り上で最も安定な相として形Iを有する」(【0070】)というものであり,

形Iの安定性が,通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであると
まで認めることはできないから,本願発明の形Iの結晶質の化合物Pの作用効
果は,格別顕著なものとまでいうことはできない旨判断し,本願発明の進歩性
を否定した。
(引用発明)
(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メ
チルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4
H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミンの結晶(以下,引用発明
の化合物を「化合物P」又は「引用化合物」という。)。
(一致点)
結晶質の化合物Pである点。
(相違点)
本願発明においては,結晶質の化合物Pが,「10.3±0.1 2θ,12.
7±0.1 2θ,14.6±0.1 2θ,16.1±0.1 2θ,17.
8±0.1 2θ,19.2±0.1 2θ,22.2±0.1 2θ,24.
1±0.1 2θおよび26.9±0.1 2θからなる群より選択される少な
くとも4つのピークを粉末X線回折パターンに有すること」を特徴とする「形
I」のものであることが,特定されているのに対し,引用発明においてそのよう
に特定されていない点。
第3 当事者の主張
1 原告らの主張
⑴ 相違点の容易想到性の判断の誤り
ア 引用発明の認定の誤り
刊行物1の実施例1には,「65i Biotage(商標)カラムに
より,得られた粗生成物を精製した。単離した物質を,60℃で5:1のE
tOAc/CH2Cl2から再結晶することにより更に精製した。結晶性生

成物を,冷却した2:1のEtOAc/ヘキサンで洗浄し,標題の化合物を
淡褐色の固体として得た。」(訳文【0192】)との記載がある。本願明
細書には,「本発明の結晶形は,薬理活性成分を含有する医薬製剤の調製の
際,国際公開第2010/056708号パンフレットに記載の化合物I
の非晶質遊離塩基を超える製薬上の利点を呈示する。」(【0019】)と
の記載があること,本願及び刊行物1 「国際公開第2010/05670

8号パンフレット」)に係る特許出願の出願人が一部共通することに照ら
すと,刊行物1の実施例1の最終生成物の「淡褐色の固体」は,非晶質の物
質であって,結晶とは異なる。
したがって,刊行物1には,化合物Pの記載はあるが,「化合物Pの結
晶」の記載はないから,本件審決における引用発明の認定には誤りがある。
なお,結晶性生成物が洗浄されるのみで非晶質となることが考えにくい
のであれば,刊行物1の洗浄前の「結晶性生成物」は非晶質である可能性が
高いというべきである。
そして,本願発明の形Iの結晶質は,結晶化原料,結晶化溶媒及び温度を
含む結晶化条件の多数の組合せの試行錯誤により初めて得たものであり,
また,結晶化すべき出発原料が非晶質であるか,結晶であるかによって結
晶を得るための試行錯誤の度合いが異なるから,引用発明の認定の誤りは
審決の結論を左右する。
イ 動機付けの不存在
一般に,医薬化合物について結晶化することの動機付けが存在し,また,
結晶多形の探索が通常検討すべき事項であったとしても,刊行物1には,
実施例1における溶媒洗浄後に得られた「淡褐色の固体」(非晶質の物質)
について,結晶多形の存在の示唆は一切ないから,刊行物1に接した当業
者において,結晶多形を得ることについての動機付けは存在せず,まして
や特定の結晶形である形Iを選択すべき動機付けは存在しない。

したがって,本件審決における動機付けに関する判断には誤りがある。
ウ 本願発明に係る結晶化条件の選択に多大な試行錯誤を要すること
化合物の結晶化においては,再結晶に用いる出発原料等の相違によって
得られる結晶形態が異なること,結晶多形の作成の予測が困難であること
は,本願の優先日当時の技術常識である(例えば,甲21ないし24)。
本願明細書の記載事項(【0069】,【0070】)によれば,本願発
明の形Iの結晶質は,オフホワイトの固体である非晶質遊離塩基を,「酢
酸エチル中」で「直接再結晶」することにより生成したものであり,言い
換えれば,結晶化する原料として非晶質遊離塩基を採用し,再結晶溶媒と
して酢酸エチルを用いて,13℃以上の温度で(【0070】の「13℃よ
り上で最も安定な相として形I」との記載による。),結晶化して得られ
た無水の結晶形である。このような本願発明における結晶化原料,結晶化
溶媒及び温度を含む結晶化条件の特定の組合せは,実際に多数の試行錯誤
を繰り返して初めて得られるものである。
一方,刊行物1においては,本願発明とは異なり,60℃で5:1のEt
OAc/CH2Cl2の溶媒を用いて再結晶を行っており,本願発明におけ
る結晶化条件の特定の組合せについての記載も示唆もない。
したがって,本願発明の形Iの結晶質は,当業者が通常なし得る範囲の
試行錯誤により,引用化合物の結晶を得る何れかの段階において再結晶の
工程を置き換える等により得られるものであるとした本件審決の判断には
誤りがある。
エ まとめ
以上のとおり,刊行物1に接した当業者において,刊行物1記載の化合
物Pの非晶質について,結晶多形を得ることについての動機付けは存在せ
ず,ましてや特定の結晶形である形Iを選択すべき動機付けは存在せず,
また,当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤により,化合物Pの非晶質か

ら化合物Pの形Iの結晶質(相違点1に係る本願発明の構成)を得られる
ものではないから,当業者が刊行物1及び技術常識に基づいて相違点1に
係る本願発明の構成を容易に想到することができたとした本件審決の判断
は誤りである。
(2) 予想できない顕著な効果についての判断の誤り
ア 本願明細書の記載事項(【0070】~【0072】等)によれば,形I
の結晶質が,形II~形IVと比べて最も安定であることを理解できるか
ら,本願明細書記載の発明の効果(【0007】,【0019】及び【00
33】)は,形Iを意図して記載されたものである。
イ 本願発明の形Iの結晶質の「13℃より上で最も安定な相」(本願明細
書の【0070】)として存在するという特性は,形Iの結晶質を得て初
めて判明するものであり,刊行物1から予測できない特性である。結晶化
プロセスにおいては,対象とする結晶を晶析するために溶媒を冷却するこ
とが一般的であるが(例えば,甲6,25),13℃以上の温度で安定とい
う特性を有するのであれば晶析の際に溶媒を冷却することは控えるべきで
あり,このことは,結晶化プロセスにおいては重要な情報であって,当業
者の予測できない有利な効果である。
加えて,本願発明の形Iの結晶質は,上記特性により,「医薬組成物の調
製の際,処理および結晶化の容易さ,取り扱い,応力に対する安定性なら
びに計量分配などの利点を有する。特に,それらは,改善された物理化学
的特性,例えば,応力に対する安定性を呈示し,こうした特性によりそれ
らは様々な医薬剤形の製造に特に好適なものになる」(本願明細書の【0
007】)という効果を奏する。具体的には,本願発明の形Iの結晶質は,
他の結晶形に比べて吸湿性に優れるという「物理化学的特性」(すなわち,
吸湿しにくい)を有し,医薬組成物の調製の際の取扱いにおいて利点を有
する。このことは,本願明細書記載の熱重量分析における重量損失の結果

(図2,7及び12)を比較すると,形Iの結晶形が他の結晶形と比べて
最も重量損失が少ないことが示している。また,本願明細書に具体的な記
載はなくとも,当業者であれば,安定な結晶形である形Iの結晶質が,応
力に対して結晶形が転移しにくいこと(粉砕,圧縮工程等における安定性),
取扱いの容易さ(製剤化における結晶形の移送性),乾燥(乾燥温度で転
移しない)など非晶質形態に対して顕著な効果を有していることを認識で
きるものである。
そして,刊行物1の実施例1の最終生成物が非晶質であることを考慮す
ると,本願発明の形Iの結晶質は,通常の結晶質から予測し得る範囲を超
える顕著な効果を有するというべきである。
(3) 小括
以上のとおり,本件審決は,相違点の容易想到性の判断及び本願発明の奏す
る予想できない顕著な効果の判断を誤った結果,本願発明は,刊行物1及び技
術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断
をしたものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 被告の主張
⑴ 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
ア 引用発明の認定について
本件審決は,刊行物1の実施例1の最終生成物の「淡褐色の固体」は「化
合物Pの結晶」であると認定し,これを引用発明として認定したものであ
る。
すなわち,刊行物1の実施例1の記載(訳文【0192】)によれば,5
:1のEtOAc/CH2Cl2 の溶媒を用いて再結晶により得られた結晶
性生成物を,EtOAc/ヘキサンで洗浄し,最終生成物の淡褐色の固体
を得ており,結晶化(再結晶)及び洗浄のいずれにも酢酸エチル(EtOA
c)を主とする溶媒を用いている。そして,結晶性生成物を洗浄したからと

いって非晶質になるとは考えられないこと,刊行物1には,実施例1の最
終生成物の淡褐色の固体が非晶質であることを示唆する記載はないことに
照らすと,最終生成物の淡褐色の固体は,結晶である。もっとも,本願明細
書の【0019】には「国際公開第2010/056708号パンフレット
に記載の化合物Iの非晶質遊離塩基」との記載があるが,本願明細書には,
上記記載が刊行物1の実施例1の最終生成物の淡褐色の固体を特定したも
のである旨の記載はないことに照らすと,上記記載は,刊行物1の実施例
1のいずれかの段階の「化合物P」,おそらくは再結晶する前の段階の「化
合物P」が非晶質の物質であることをうかがわせるにすぎない。
なお,本件審決は,結晶化条件(操作)の検討の出発物質は,刊行物1の
実施例1において化合物Pがひとたび得られた後の任意の段階の化合物P
でよいとしているのであるから,実施例1の最終生成物である「淡褐色の
固体」が,非晶質であるか結晶であるかは,審決の結論を左右するものでは
ない。
イ 動機付けについて
医薬化合物については,安定性,純度,扱いやすさ等の観点において結晶
性の物質が優れていることから,その物質を結晶化することについては,
強い動機付けがあり,望ましい性質を持つ結晶を得るために,結晶化条件
について試行錯誤したり,得られた結晶を粉末X線回折で分析することは,
本願の優先日当時の一般的な技術常識であり,当業者が通常行うことであ
る。
加えて,引用化合物(化合物P)は,既に結晶が得られることが知られて
いる化合物であること,一つの化合物に複数の結晶形がある場合があるこ
とは広く知られていることに照らすと,化合物Pについても,当業者が結
晶を得られる条件を検討したり,得られた結晶について分析することに十
分な動機付けがある。

この点に関し,原告らは,特定の結晶形である形Iを選択すべき動機付
けは存在しない旨主張する。
しかし,結晶を取得しようとする動機付けがあれば,当該動機付けに基
づいて結晶化条件を検討し,結晶多形を調査することで,具体的な結晶多
形に想到し得るのであるから,具体的な結晶多形を想定した動機付けまで
常に必要となるものではなく,原告らの上記主張は失当である。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 本願発明である形Iの結晶質の化合物Pの製造方法については,本
願明細書に「酢酸エチル中の化合物Iの非晶質遊離塩基の直接結晶化に
よって,形Iを生成した」(【0069】)との記載があるだけである。
本願明細書には,「酢酸エチル中の…直接結晶化」について,その具体
的な手法の開示はないが,文言上,酢酸エチル溶液から結晶化するか,又
は酢酸エチルに懸濁して結晶化するかのいずれかを意味するものと解さ
れる。これらは,いずれも結晶多形の探索では普通に採用される方法にす
ぎないものであり,溶媒として酢酸エチルを用いる点も,結晶化に用いら
れる普通の溶媒の中からの選択にすぎない。そして,「酢酸エチル溶液か
ら結晶化」であれば,結晶化に用いる材料が,結晶質であろうが非晶質で
あろうが溶液となるから,その違いが影響するものではなく,「酢酸エチ
ルに懸濁して結晶化」についても,溶媒に懸濁させた材料表面と溶媒が相
互作用して新たに結晶が成長するものであり,結晶化に用いる材料が結
晶質であろうが非晶質であろうが,適宜試してみればよいだけのことで
ある。
また,本願明細書には,温度や冷却速度,攪拌の有無などの結晶化条件
については明示的な記載はないが,本願明細書の記載に基づいて当業者
が生成できる結晶であると認識できることが前提であるから,その結晶
化条件は,当業者が採用する当然の試行錯誤の範囲の条件であると解さ

れる。
原告らが主張する「結晶化温度を13℃以上」とする方法については,
室温まで冷却して結晶を取得する方法,室温で溶媒を蒸発させる方法及
び室温で懸濁させる方法を含むものであり,これらは一般的な方法であ
って,当業者が適宜決定し得る事項である。
そして,室温で安定な結晶は,医薬品用途を考慮すれば,冷蔵保存しな
くてもよいので望ましいことが明らかであるから,結晶多形の探索に際
し,室温を含む温度範囲での安定性で評価し,結晶多形の検討の過程で得
られた結晶の中から,13℃より上の温度に該当する室温での安定性が
優れた結晶を選ぶことは,当業者が通常行うことである。
(イ) 以上によれば,刊行物1の実施例1の最終生成物に対して結晶化に
普通に用いられる溶媒(その中には酢酸エチルも含まれる。 からの直接

結晶化を室温で行い,得られた結晶の中から室温で安定な結晶を選ぶこ
とにより,相違点に係る本願発明の構成(化合物Pの形Iの結晶質)とす
ることは,当業者が通常なし得る試行錯誤の範囲にすぎないものであり,
当業者は,刊行物1及び技術常識に基づいて,容易に想到することができ
たものである。
したがって,本件審決における相違点の容易想到性の判断に誤りはな
い。
(2) 予想できない顕著な効果についての判断の誤りの主張に対し
ア 本願明細書の【0007】,【0019】及び【0033】の記載は,形
I~形IVの何れであるかを特定して記載したものでないことは,本件審
決認定のとおりである。そして,【0007】に記載された「処理および結
晶化の容易さ,取り扱い,応力に対する安定性ならびに計量分配などの利
点」,「改善された物理化学的特性,例えば,応力に対する安定性」につい
ては,本願明細書に具体的な記載はなく,【0019】に記載された「非晶

質遊離塩基を超える製薬上の利点」としての「化学的および物理的安定性」
についても,概念的に記載されているに過ぎないし,さらに,【0033】
に記載された「水への比較的高い溶解度(約2mg/ml)」についても,結晶
形を特定してその溶解度が示されているのではなく,比較の基準が明らか
ではない。
したがって,【0007】,【0019】及び【0033】の記載は,本
願発明の顕著な効果を示すものとはいえない。
イ 本願発明の形Iの結晶質が「13℃より上で最も安定な相」として存在す
るという特性を有するとしても,そのことは,当業者が通常なし得る範囲
の試行錯誤を行い,室温で安定な結晶を選んだ結果,その結晶がたまたま,
室温を含む13℃以上の温度で安定であったというだけのことであって,
格別のことではない。
したがって,本願発明の「13℃より上で最も安定な相」として存在する
という効果は,当業者の予測を超えるものではなく,一般に医薬化合物の
新たな結晶の目標となる「安定」な結晶に期待される効果を超えて,格別顕
著なものとはいえない。
ウ 本願明細書には,本願発明の形Iの結晶質が「13℃より上で最も安定
な相」として存在するという特性により,「処理および結晶化の容易さ,取
り扱い,応力に対する安定性,計量分配の利点を有し医薬剤形の製造に好
適という効果」(【0007】)を奏することについて,具体的な記載がな
い。
また,本願発明の形Iの結晶質が他の結晶形に比べて吸湿しにくいこと
は,本願明細書に記載はなく,図2,7及び12の熱重量分析の結果から導
出することもできない。仮に本願発明の形Iの結晶質が他の結晶形に比べ
て「吸湿性が低い」としても,吸湿性は,新たな結晶の探索に当たり当業者
が当然に注目する事項であるから,それをもって,予測し得る範囲を超え

る顕著な効果であるということはできない。
エ 前記アないしウによれば,本願発明の形Iの結晶質の化合物Pの作用効
果は,格別顕著なものとまでいうことはできないとした本件審決の判断に
誤りはない。
(3) 小括
以上によれば,本願発明は,刊行物1及び技術常識に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができたとした本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主
張の取消事由は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 相違点の容易想到性の判断の誤りについて
(1) 本願明細書の記載事項等について
ア 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとお
りである。
本願明細書(甲17,27)の「発明の詳細な説明」には,次のような
記載がある(下記記載中に引用する「図1ないし3,7,8,12,13,
15及び16」については別紙1を参照)。
(ア) 技術分野
【0001】
本発明は,ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤の新規結晶形に関
する。より詳細には,本発明は,ジペプチジルペプチダーゼ-IVの強
力な長時間作用性の阻害剤である,(2R,3S,5R)-2-(2,
5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6
-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テト
ラヒドロ-2H-ピラン-3-アミンの新規結晶形に関する。これら
の新規結晶形は,ジペプチジルペプチダーゼの阻害剤が指示される疾
患および状態,特に,2型糖尿病,肥満および高血圧の処置および予防

に有用である。本発明は,2型糖尿病,肥満および高血圧の処置に有用
な本発明の新規結晶形を含む医薬組成物,ならびにかかる形およびそ
れらの医薬組成物の調製方法にさらに関する。
(イ) 背景技術
【0002】
グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)およびグル
カゴン様ペプチド(GLP-1)両方を不活性化する酵素であるジペプ
チジルペプチダーゼ-IV(DP-IV)の阻害剤は,インスリン非依
存性真性糖尿病(NIDDM)としても公知の2型糖尿病の新規処置お
よび予防アプローチの代表である。2型糖尿病の処置についてのDP
-IV阻害剤の治療可能性は総説されている。…
【0003】
Merck & Co.に譲渡された特許文献1(2010年5月2
0日発行)には,DP-IVの強力な阻害剤であり,それ故,2型糖尿
病の処置に有用である,アミノテトラヒドロピランのクラスが記載さ
れている。具体的には,特許文献1には(2R,3S,5R)-2-(2,
5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6
-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テト
ラヒドロ-2H-ピラン-3-アミンが開示されている。
【0004】
しかし,本出願人は,今般,(2R,3S,5R)-2-(2,5-
ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジ
ヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒ
ドロ-2H-ピラン-3-アミン(化合物I)の新規結晶形を発見し
た。
(ウ) 課題を解決するための手段

【0007】
本発明は,ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DP-IV)阻害剤(2
R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-
(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾ
ール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(化
合物I)の新規結晶形に関する。一定の結晶形は,(2R,3S,5R)
-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニ
ル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)
-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミンの医薬組成物の調
製の際,処理および結晶化の容易さ,取り扱い,応力に対する安定性な
らびに計量分配などの利点を有する。特に,それらは,改善された物理
化学的特性,例えば,応力に対する安定性を呈示し,こうした特性によ
りそれらは様々な医薬剤形の製造に特に好適なものになる。本発明は,
その新規形を含有する医薬組成物,ならびに特に2型糖尿病,肥満およ
び高血圧の予防または処置のための,DP-IV阻害剤としてのそれ
らの使用方法にも関する。一定の実施形態では,結晶質(2R,3S,
5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルス
ルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4
H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミンと薬理学的に許
容され得る担体とを含む医薬組成物を,本明細書に記載する。
(エ) 発明を実施するための形態
【0009】
本発明は,化合物Iの結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-
ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジ
ヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒ
ドロ-2H-ピラン-3-アミン:

【0010】
【化1】


に関する。
【0011】
具体的な形名を与えない限り,用語「結晶質(2R,3S,5R)-
2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)
-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イ
ル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン」は,本明細書に記載す
る(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-
[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]
ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-ア
ミンのすべての結晶形を指す。本明細書に記載する結晶形は,(2R,
3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メ
チルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール
-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミンの無水
遊離塩基として存在する。
【0012】
本明細書に記載する結晶形の1つの実施形態は,(2R,3S,5R)
-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニ
ル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)
-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)である。下

記でさらに形Iを説明する。
【0019】
本発明の結晶形は,薬理活性成分を含有する医薬製剤の調製の際,国
際公開第2010/056708号パンフレットに記載の化合物Iの
非晶質遊離塩基を超える製薬上の利点を呈示する。特に,前記結晶形の
向上した化学的および物理的安定性は,薬理活性成分を含有する固体
医薬剤形の調製の際に有利な特性である。
【0020】
長時間作用性の強力なDP-IV阻害特性を呈示する本発明の結晶
形は,2型糖尿病,肥満および高血圧の予防または処置に特に有用であ
る。
(オ) 【0033】
本発明の化合物Iの結晶形は,水への比較的高い溶解度(約2mg/
ml)を有し,その結果,それらは,医薬品有効成分の比較的高濃度の
水溶液を必要とする製剤,特に鼻腔内および静脈内製剤の調製に特に
適したものになることが判明した。
(カ) 【0066】
(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-
[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]
ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-ア
ミン
【0067】
【化4】…
工程A:{(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)
-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4
-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-

3-イル}カルバミン酸tert-ブチル
容器にN,N-ジメチルアセトアミド(520.6kg),ベンゼン
スルホン酸2-(メチルスルホニル)-2,4,5,6-テトラヒドロ
ピロロ[3,4-c]ピラゾール-5-イウム(中間体2,30.0k
g,86.8mol)および[(2R,3S)-2-(2,5-ジフル
オロフェニル)-5-オキソテトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]
カルバミン酸tert-ブチル(中間体1,31.2kg,95.3m
ol)を投入した。室温で溶解した後,その溶液を0~10℃に冷却し,
トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(24kg,113mol)を
4等分して40分ごとに添加した。その後,その反応系を室温に温め,
さらに5時間撹拌した。その後,その溶液を5~15℃に冷却し, (6

72kg)を1~2時間にわたって添加した。得られたスラリーを濾過
し,ケークをN,N-ジメチルアセトアミドで,水で2回,そしてその
後,n-ヘプタンで順次洗浄した。固形物を真空下,40~60℃で乾
燥させて,{(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニ
ル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,
4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン
-3-イル}カルバミン酸tert-ブチルを得た。
【0068】
工程B:(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)
-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4
-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-
3-アミン
ベンゼンスルホン酸(32.95kg,271mol)を窒素下でジ
クロロメタン(1020kg)に溶解した。その後,溶液KFが0.2
%になるように880gの水を添加した。次に,{(2R,3S,5R)

-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニ
ル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)
-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル}カルバミン酸ter
t-ブチル(38.4kg,100mol)を3等分で30分にわたっ
て添加した。その後,反応系を一晩,室温で熟成させた。次に,水(7
33kg)を1時間にわたって添加し,その反応系を1時間,急速撹拌
した。その後,層を分離し,得られた有機層を廃棄した。水性層にジク
ロロメタン(510kg),続いてトリエチルアミン(22.4kg,
592mol)を投入した。撹拌後,層を分離し,水性部分をジクロロ
メタン(510kg)で抽出した。合わせた有機部分を7%NaHCO
3水溶液(2×410kg)およびブライン(386kg)で洗浄した。
その後,有機部分をNa2SO4で乾燥させ,濾過し,活性炭(6.2k
gのC-941)で処理した。炭素を濾過して除去し,濾液を真空下で
154~193Lに濃縮した。その後,この溶液を30~35℃に温め
て固形分を溶解した(固形分を溶解するために追加のジクロロメタン
を添加してもよい) 次に,
。 酢酸イソプロピル(338kg)を添加し,
その溶液を室温で1.5時間撹拌した。その後,n-ヘプタン(159
kg)をその容器に1滴ずつ投入し,3時間撹拌した。その後,そのス
ラリーを濾過し,ケークをn-ヘプタンで洗浄した。その後,この湿潤
ケークを,再び前のようにジクロロメタンに溶解して酢酸イソプロピ
ルおよびn-ヘプタンを添加することによって再結晶させ,濾過し,n
-ヘプタンで洗浄した。固形物を真空下,40~50℃で一晩乾燥させ
て,結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)
-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4
-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-
3-アミンを得,それを冷たい2:1 EtOAc/ヘキサンで洗浄し

て表題化合物をオフホワイトの固体として得た。1HNMR(500M
Hz,CD3OD):1.71(q,1H,J=12Hz),2.56
-2.61(m,1H),3.11-3.18(m,1H),3.36
-3.40(m,1H),3.48(t,1H,J=12Hz),3.
88-3.94(m,4H),4.30-4.35(m,1H),4.
53(d,1H,J=12Hz),7.14-7.23(m,2H),
7.26-7.30(m,1H),7.88(s,1H)。LC-MS
:399.04[M+1]。
(キ) 【0069】
形I
酢酸エチル中の化合物Iの非晶質遊離塩基の直接結晶化によって,形
Iを生成した。XRPD,ssNMR,DSC,TGAおよびIRにつ
いての特徴付け結果を以下に示す。
【0070】
形II
酢酸イソプロピルおよびヘプタン 1:1中,室温での形Iの再結晶
によって,結晶形IIを生成した。XRPD,ssNMR,DSC,T
GAおよびIRを用いて形IIを特徴付けた。形IIの形Iへの転化
は,DCM-ヘプタン 25℃ 2日にわたって,IPAc 25℃
17時間,IPAc 60℃1日, 2O
H 60℃ 2週間にわたって,
3日,NMP-水 1-1 35℃ 3日にわたってのものを含む5
0-50種結晶でのすべての転移実験において,遅いが観察される。形
Iと形IIとの関係は互変性であり,13℃より上で最も安定な相と
して形Iを有する。
【0071】
形III

MeOHに形Iを溶解し,溶媒を蒸発させ,続いて140℃に加熱し,
そして10分間等温加熱することによって,形IIIを生成した。この
相は,形Iおよび形IIに対して準安定性であり,その特徴付けは,利
用できるサンプルの量に限定される。形IIIをXRPDおよびDS
Cによって分析した。
【0072】
形IV
1 1
: THF-水に形Iを溶解し,溶媒を蒸発させることによって,
形IVを生成した。無水形IVは,形IおよびIIに対して準安定性で
あり,したがって,特徴付けは,利用できるサンプルの量に限定される。
XRPD,DSCおよびTGAを用いて形IVを分析した。
(ク) 【0073】
X線粉末回折
X線粉末回折研究を広範に用いて分子構造,結晶化度(crysta
linity),および多形を特徴付けた。PW3040/60コンソ
ールを備えたPhilips Analytical X’Pert
PRO X線回折システムで化合物Iの結晶形の固相についてのX線
粉末回折パターンを生成した。PW3373/00セラミックCu
LEF X線管Kα線を放射線源として使用した。28.443度の2
θ値を有するケイ素(内部標準)により回折ピーク位置を関係付けた。
これらの実験を周囲条件で分析した。
【0075】
図1は,表1に収載する選択d-間隔を有する化合物Iの形IのX線
粉末回折(XRPD)パターンである。
【0076】
【表1】

結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)
-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4
-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-
3-アミン(形I)は,10.3±0.1 2θ,12.7±0.1 2
θ,14.6±0.1 2θ,16.1±0.1 2θ,17.8±0.
1 2θ,19.2±0.1 2θ,22.2±0.1 2θ,24.
1±0.1 2θおよび26.9±0.1 2θからなる群より選択さ
れる少なくとも4つのピークをその粉末X線回折パターンに有するこ
とを特徴とする。結晶形1をその粉末X線回折パターンにおける次の
4ピークによって特徴付けることができる:17.8±0.1 2θ,
19.2±0.1 2θ,22.2±0.1 2θおよび24.1±0.
1 2θ。結晶形1を図3のその粉末X線回折パターンにおける次の
4つのピークによって特徴付けることができる。
(ケ) 【0089】
上記で説明したX線粉末回折パターンに加えて,本発明の化合物Iの
結晶形をそれらの示差走査熱量測定(DSC)曲線およびそれらの熱重
量分析(TGA)曲線によってさらに特徴付けた。

【0091】
結晶形Iを図3の示差走査熱量測定(DSC)曲線によってさらに特
徴付けることができる。結晶形IIを図8の示差走査熱量測定(DS
C)曲線によってさらに特徴付けることができる。結晶形IIIを図1
3の示差走査熱量測定(DSC)曲線によってさらに特徴付けることが
できる。結晶形IVを図16の示差走査熱量測定(DSC)曲線によっ
てさらに特徴付けることができる。
【0092】
TGA
Perkin Elmer model TGA 7を使用して熱
重量データを収集した。窒素流のもとでおおよそ250度の最高温度
への10℃/分の加熱速度を用いて実験を行った。天秤から自動的に
風袋を引いた後,5から20mgのサンプルを白金パンに添加し,加熱
炉を上昇させ,加熱プログラムを開始した。重量/温度データは,この
計器によって自動的に収集される。計器ソフトウェアの中のDelt
a Y機能を選択し,重量損失を計算すべき温度を選ぶことによって,
結果の分析を行った。分解/蒸発の開始までの重量損失が報告される。
結晶形Iを図2の熱重量分析(TGA)曲線によってさらに特徴付ける
ことができる。結晶形IIを図7の熱重量分析(TGA)曲線によって
さらに特徴付けることができる。結晶形IIIを図12の熱重量分析
(TGA)曲線によってさらに特徴付けることができる。結晶形IVを
図15の熱重量分析(TGA)曲線によってさらに特徴付けることがで
きる。
【0093】
上記で説明した方法に従ってDSCおよびTGAにより形Iの代表
サンプルを分析した。形Iは,Tonset=173.48℃,Tpe

ak=175.32℃およびΔH=82.28J/gを有する1つの吸
熱(形Iの融解をホットステージ顕微鏡法によって確認)を表示した
(図3) 熱重量分析は,室温と形Iの融点の間での有意な質量損失を

示した(図2)。
【0094】
上記で説明した方法に従ってDSC(図8)およびTGA(図7)に
より形IIの代表サンプルを分析した。DSC曲線の第1の吸熱は,T
onset=144.75℃,Tpeak=147.59℃およびΔH
=23.41J/gを有する形IIの融解と関連付けられる(図11)。
第1の吸熱に続いて,≒150℃で形Iを生成する結晶化事象が生じ,
最終的に,Tonset=170.18℃,Tpeak=172.95
℃およびΔH=57.45J/gを有する形Iの融解が生ずる。TG分
析は,室温と形Iの融解の間での最小重量損失(捕捉溶媒)を示す。
【0095】
形IIIのDSC(図13)は,Tonset=164.30℃,T
peak=169.38℃およびΔH=23.41J/gを有する形I
IIの融解と関連付けられる1つの吸熱を表示する。熱重量分析(図1
2)は,初期材料中の≒1%重量/重量の残留溶媒を示し,それを14
0℃で加熱して10分間保持することによって除去した。
【0096】
形IVのDSC(図16)は,Tonset=171.25℃,Tp
eak=172.30℃およびΔH=84.64J/gを有する形IV
の融解と関連付けられる1つの吸熱を表示する。TGAを用いると融
解までに1重量%未満の損失が認められる(図15)。(コ)
イ 前記アの記載事項によれば,本願明細書の「発明の詳細な説明」には,
本願発明に関し,次のような開示があることが認められる。

(ア) 「本発明」は,2型糖尿病の処置に有用なジペプチジルペプチダー
ゼ-IV(DP-IV)阻害剤である,「(2R,3S,5R)-2-
(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-
2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]
テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(化合物Ⅰ)」の新規結晶形
である(【0003】,【0004】)。
「本発明」の化合物Ⅰの結晶形は,「国際公開第2010/0567
08号パンフレット」
(刊行物1)記載の「化合物Iの非晶質遊離塩基」
を超える製薬上の利点を有し,特に,その向上した化学的及び物理的安
定性は,薬理活性成分を含有する固体医薬剤形の調製の際に有利な特
性である(【0007】,【0019】)。また,「本発明」の化合物
Ⅰの結晶形は,水への比較的高い溶解度(約2mg/ml)を有するた
め,医薬品有効成分の比較的高濃度の水溶液を必要とする製剤,特に鼻
腔内及び静脈内製剤の調製に特に適したものになる(【0033】)。
(イ) X線粉末回折における少なくとも4つのピークによって特徴付け
られる化合物Ⅰの形Iの結晶形(本願発明)は,「酢酸エチル中の化合
物Iの非晶質遊離塩基の直接結晶化」によって生成され,「13℃より
上で最も安定な相」として存在する(【0069】,【0070】,【0
076】)。
化合物Ⅰの結晶形の形Iないし形IVの関係は,形Iと形IIとは互
変性であり,形III及び形IVは,それぞれ形I及び形IIに対して
準安定性である(【0070】ないし【0072】)。
(2) 刊行物1記載の発明について
ア 刊行物1(甲1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用す
る「スキーム1ないし3」については別紙2を参照)。
(ア) 特許請求の範囲

「【請求項18】
【化10-1】
…からなる群から選択される化合物又は薬学的に許容されるその
塩。」(66頁~67頁,訳文7頁~9頁)
(イ) 「技術分野
本発明は,ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害剤(「DPP
-4阻害剤」)であり,糖尿病,特に2型糖尿病のような,ジペプチジ
ルペプチダーゼ-IV酵素が関与する疾患の治療又は予防に有用であ
る,新規の置換アミノテトラヒドロピランに関する。本発明は,また,
このような化合物を含む医薬組成物,並びにジペプチジルペプチダー
ゼ-IV酵素が関与する前記疾患の予防又は治療における,これらの
化合物及び組成物の使用に関する。」(1頁5行~12行,訳文【00
01】)
「一般的に認識されている2種の糖尿病の形態がある。1型糖尿病又
はインシュリン依存性糖尿病(IDDM)では,患者は,グルコース利
用を調節するホルモンであるインシュンをほとんど生成しないか,又
は全く生成しない。2型糖尿病又はインシュリン非依存性糖尿病(NI
DDM)では,患者は多くの場合において非糖尿病被験者と比べて同じ
であるか又は上昇さえしている血漿インシュリンレベルを有するが,
これらの患者は,筋肉,肝臓及び脂肪組織である主なインシュリン感受
性組織におけるグルコース及び脂質代謝に対するインシュリン刺激効
果への抵抗性を発生し,血漿インシュリンレベルは上昇しているが,顕
著なインシュリン抵抗性を克服するには不十分である。」(1頁26行
~33行,訳文【0003】)
「ジペプチジルペプチダーゼIV(「DPP-4」)酵素の阻害剤で
ある化合物は,糖尿病,特に2型糖尿病の治療に有用であることもわか

っている。」(2頁32行~33行,訳文【0008】)
「2型糖尿病の治療におけるDPP-4阻害剤の有用性は,DPP-
4がインビボでグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)及び胃阻害性
ペプチド(GIP)を容易に不活性化するという事実に基づいている。
GLP-1及びGIPはインクレチンであり,食物が消費される時に
生成する。インクレチンはインシュリンの生成を促進する。DPP-4
の阻害は,インクレチンの不活性化の減少をもたらし,このことは,次
に膵臓によるインシュリンの生成を促進するインクレチンの有効性の
増大をもたらす。従って,DPP-4の阻害は血清インシュリンレベル
の増加をもたらす。有利なことに,インクレチンは,食物が消費される
時にのみ身体により生成されるので,DPP-4の阻害は,過剰な低血
糖(低血糖症)をもたらす可能性がある食間のような不適切なときにイ
ンシュリンレベルを増加しないと予想される。従って,DPP-4の阻
害は,インシュリン分泌促進薬の使用に関連する危険な副作用である
低血糖症の危険性を増加することなく,インシュリンを増加すると予
想される。」(3頁10行~20行,訳文【0010】)
(ウ) 「発明の要旨
本発明は,新規置換3-アミノテトラヒドロピランに関し,これは,
ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害剤 「DPP-4阻害剤」
( )
であり,糖尿病,特に2型糖尿病のような,ジペプチジルペプチダーゼ
-IV酵素が関与する疾患の治療又は予防に有用である。本発明は,ま
た,このような化合物を含む医薬組成物,並びにジペプチジルペプチダ
ーゼ-IV酵素が関与する前記疾患の予防又は治療における,これら
の化合物及び組成物の使用に関する。 (4頁15行~22行, 【0
」 訳文
013】)
(エ) 「ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害剤として有用な本発明の化

合物の非限定的な例は,3個の不斉テトラヒドロフラン炭素原子にお
ける,示された絶対立体配置を有する以下の構造及び薬学的に許容さ
れるその塩である:
【化13ー1】


」(11頁18行~12
頁冒頭,訳文【0042】,【0043】)
(オ) 「【化17】


本発明の化合物は,標準的な還元的アミノ化条件,それに続く脱保護
を用いることにより,式II及びIII(式中,Ar及びVは前記で定
義した通りであり,Pは,tert-ブトキシカルボニル(BOC),
ベンジルオキシカルボニル(Cbz)又は9-フルオレニルメトキシカ
ルボニル(Fmoc)のような適切な窒素保護基である)の化合物のよ
うな中間体から調製することができる。これらの中間体の調製を下記
スキームに示す。【化18】
スキーム1…」(38頁1行~10行,訳文【0138】~【014
0】)
「【化19】
スキーム2…
式IIIの中間体は文献において公知であるか,又は当業者によく知
られている種々の方法により都合良く調製することができる。テトラ
ヒドロピロロピラゾールIIIaを調製するための1つの一般的な経
路をスキーム2に示す。 (39頁16行~26行, 【0142】
…」 訳文 ,
【0143】)
「【化20】
スキーム3…
スキーム3に示すように,構造式(I)の本発明の化合物は,ジクロ
ロメタン,テトラヒドロフラン又はメタノールのような溶媒中,シアノ
水素化ホウ素ナトリウム,デカボラン又はナトリウムトリアセトキシ
ボロハイドライドのような試薬を用いて,中間体IIIの存在下で,中

間体IIの還元的アミノ化により中間体IVを提供することにより調
製することができる。場合により,反応は,四塩化チタン又はオルトチ
タン酸テトライソプロピルのようなルイス酸の存在下で実施される。
反応は,酢酸のような酸を加えることによっても促進され得る。ある場
合には,中間体IIIは,塩酸塩又はトリフルオロ酢酸塩のような塩で
あってもよく,これらの場合には,反応混合物に,塩基,一般的にN,
N-ジイソプロピルエチルアミンを加えることが好都合である。次い
で,保護基を,例えば,Bocの場合にはトリフルオロ酢酸又はメタノ
ール性塩化水素を用い,Cbzの場合にはパラジウム-炭素及び水素
ガスを用いて除去して所望のアミンIを得る。必要に応じて,生成物
を,再結晶,粉砕,分取用薄層クロマトグラフィー,Biotage(登
録商標)装置を用いたもののようなシリカゲルによるフラッシュクロ
マトグラフィー又はHPLCにより精製する。HPLCにより精製さ
れた化合物は,対応する塩として単離することができる。」(40頁1
行~16行,訳文【0144】,【0145】)
「本発明の構造式Iの化合物は,適切な材料を用いて,以下のスキー
ム及び実施例の方法に従って調製することができ,以下の特定の実施
例により更に例示する。しかし,実施例に示す化合物は,本発明として
認められる種類のみを形成するとして解釈されるべきではない。実施
例は,本発明の化合物の調製の詳細をさらに示す。当業者は,以下の調
製手順の条件及び手段の公知の変形が,これらの化合物を調製するた
めに用いることができることを容易に理解するであろう。本発明の化
合物は,通常,本明細書に前述したような薬学的に許容される塩の形態
で単離される。単離される塩に対応するフリーのアミン塩基は,炭酸水
素ナトリウム水溶液,炭酸ナトリウム,水酸化ナトリウム及び水酸化カ
リウムのような適切な塩基による中和,遊離したアミンフリー塩基の

有機溶媒中への抽出,それに続く蒸発により生成することができる。こ
の方法で単離されたアミンフリー塩基は,有機溶媒中への溶解,それに
続く適切な酸の添加,並びにそれに続く蒸発,沈殿又は結晶化により更
に他の薬学的に許容される塩に変換することができる。…」(40頁2
3行~41頁13行,訳文【0147】)
(カ) 「中間体1
【化22】


tert-ブチル[(2R,3S)-5-オキソ-2-(2,4,5-
トリフルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カル
バメート
工程A:フェニル2,4,5-トリフルオロベンゾアート
フェノール(13.3g,141mmol)の無水ジクロロメタン(3
70mL)中の溶液を氷浴中で冷却し,N,N-ジイソプロピルエチル
アミン(34mL,193mmol)で処理し,次いで,2,4,5-
トリフルオロベンゾイルクロライド(25g,129mmol)を15
分間かけて滴下して加えた。氷浴を取り除き,室温で撹拌を2時間継続
し,次いで,溶液を分液漏斗に移し,有機層を塩酸溶液(2N,150
mL),飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(150mL)及び食塩水(1
50mL)で連続的に洗浄し,無水硫酸ナトリウムで乾燥し,ろ過し,
濃縮し,得られた固形生成物を,ヘキサン,次いでヘキサン中0~5%
エーテルの勾配様式で連続的に溶出し,シリカ上で何回に分けて精製

し,フェニル2,4,5-トリフルオロベンゾアートを白色固体として
得た。」(42頁12行~28行,訳文【0150】~【0152】)
「工程H:tert-ブチル (2R,
[ 3S)-5-オキソ-2-(2,
4,5-トリフルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イ
ル]カルバメート
tert-ブチル[(2R,3S)-5-ヒドロキシ-5-(ヒドロ
キシメチル)-2-(2,4,5-トリフルオロフェニル)テトラヒド
ロ-2H-ピラン-3-イル]カルバメート(223mg,0.59m
mol)のテトラヒドロフラン(4mL)中の溶液に,過ヨウ素酸ナト
リウム(143mg,0.67mmol)の水(1.3mL)中の溶液
を加え,混合物を3時間撹拌した。混合物を濃縮し,フラッシュクロマ
トグラフィー(シリカ,クロロホルム中5~20%酢酸エチルの勾配)
により精製し,tert-ブチル[(2R,3S)-5-オキソ-2-
(2,4,5-トリフルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-
3-イル]カルバメートを白色固体として得た。」(44頁36行~4
5頁6行,訳文【0159】)
(キ) 「中間体2
【化23】


tert-ブチル[(2R,3S)-5-オキソ-2-(2,5-ジフ
ルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カルバメー


工程A:1-(2,5-ジフルオロフェニル)-2-ニトロエタノール
5℃で,水酸化ナトリウム(1N,3L)及びメタノール(1500
mL)に,2,5-ジフルオロベンズアルデヒド(350g,2.46
mol)及びニトロメタン(157mL,2.9mol)のメタノール
(350mL)中の溶液を1時間かけて滴下して加えた。次いで,反応
混合物を氷酢酸(165mL)で中和した。ジエチルエーテル(150
0mL)を加え,層を分離した。有機層を,飽和炭酸ナトリウム水溶液
(1000mL)及び飽和食塩水(1000mL)で連続的に洗浄した。
有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過し,濃縮し,1-(2,
5-ジフルオロフェニル)-2-ニトロエタノールを得,これは更に精
製することなく工程Bで用いた。」(45頁8行~19行,訳文【01
60】,【0161】)
「工程I:tert-ブチル (2R,
[ 3S)-5-オキソ-2-(2,
5-ジフルオロフェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カ
ルバメート
0℃で,tert-ブチル[(2R,3S)-5-ヒドロキシ-5-
(ヒドロキシメチル)-2-(2,5-トリフルオロフェニル)テトラ
ヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カルバメート(10.5g)のメタ
ノール(100mL)中の溶液に,ピリジン(7.8mL)及び四酢酸
鉛(21.7g)を加えた。反応混合物を20分間撹拌した。酢酸エチ
ルによる水性の処理により,粗生成物を与え,これをクロマトグラフィ
ー(シリカ,0~50%酢酸エチル/ヘプタン)により精製し,ter
t-ブチル[(2R,3S)-5-オキソ-2-(2,5-ジフルオロ
フェニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3-イル]カルバメートを白
色固体として得た。」(46頁33行~47頁2行,訳文【0169】)
(ク) 「中間体3

【化24】


工程A:tert-ブチル(3Z)-3-[(ジメチルアミノ)メチレ
ン]-4-オキソピロリジン-1-カルボキシレート
tert-ブチル3-オキソピロリジン-1-カルボキシレート(4
0g,216mmol)の溶液をDMF-DMA(267g,2241
mmol)で処理し,105℃で40分間加熱した。溶液を冷却し,減
圧下で濃縮し,得られた橙色の固体をヘキサン(200mL)で処理し,
冷凍庫内で3日間冷却した。このようにして得られた黄褐色の固体を
ろ過により集め,乾燥し,更に精製することなく次の工程で用いた。」
(47頁4行~12行,訳文【0170】~【0172】)
「工程B:1,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,4-c]ピラ
ゾール
ヒドラジン(3mL)及びtert-ブチル(3Z)-3-[(ジメ
チルアミノ)メチレン]-4-オキソピロリジン-1-カルボキシレー
ト(19.22g)のエタノール(40mL)中の溶液を,密封チュー
ブ内,85℃で4時間加熱した。減圧下で溶媒を除去し,残渣をジクロ
ロメタン(160mL)及び酢酸エチル(15mL)で粉砕した。得ら
れた固体をろ過した。ろ液を濃縮し,得られた固体を再度粉砕し,ろ過
した。一緒にした固体を,メタノール中の4N塩酸(250mL)で処
理し,6時間撹拌した。反応混合物を濃縮し,乾燥させた。得られた固
体を,メタノール中の4N塩酸(250mL) 再度6時間処理した。
で,

濃縮し,乾燥させた後,得られた塩酸塩をメタノール中のアンモニア
(2N,300mL)及び水中の水酸化アンモニウム溶液(28%,3
0mL)で処理し,濃縮し,乾燥させた。得られた固体をメタノール(7
0mL)及び水(5mL)で処理し,Biotage Horizon
(登録商標)システム(シリカ,酢酸エチル中10%濃縮水酸化アンモ
ニウムを含む5~17%のメタノールの勾配)による3回のバッチで
精製し,1,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾー
ルを得た。1H NMR(500MHz,CD3OD):δ4.04(d,
4H);7.39(s,1H)。」(47頁14行~末行,訳文【01
73】)
(ケ) 「中間体5
【化26】


2-(メチルスルホニル)-2,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,
4-c]ピラゾール
工程A:tert-ブチル1-(メチルスルホニル)]-4,6-ジヒ
ドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(1H)-カルボキシレート
(A)及びtert-ブチル2-(メチルスルホニル)]-2,6-ジ
ヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-カルボキシレー
ト(B)
N-Boc-ピラゾロピロリジン(中間体3,工程B)(27.16
g,130mmol)の無水アセトニトリル(1.0L)中の懸濁液を
温度計及び添加漏斗を取り付けた2.0Lの三ツ口フラスコに入れ,窒

素雰囲気下,水素化ナトリウム(油中,60%分散液,6.23g,1
56mmol)で一度に処理した。反応混合物を室温で2時間撹拌し
た。次いで,得られた白色の懸濁液を氷浴中で冷却し,塩化メタンスル
ホニル(25.2mL,324mmol)を添加漏斗を通してゆっくり
と加えた。次いで,氷浴を取り除き,混合物を室温で1時間撹拌した。
水(500mL)を用いて反応混合物の反応を停止し,層を分離した。
次いで,水層を2×500mLのジクロロメタンで抽出した。一緒にし
た有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し,減圧下で濃縮し,生成物A及びB
の混合物を無色のシロップとして得た。CD3OD中のNMRは,生成
物A中のピラゾール環のプロトンが7.70ppmに現れるが,生成物
B中のプロトンが7.95ppmに現れる,2種の生成物の1:1混合
物であることを示した。LC-MS:288.08(M+1)。」(4
8頁31行~49頁18行,訳文【0179】~【0181】)
「工程B:2-(メチルスルホニル)-2,4,5,6-テトラヒド
ロピロロ[3,4-c]ピラゾール
0℃で,前記工程で調製した中間体A及びB(48.4g,168m
mol)をジクロロメタン(400mL)中に含む溶液に,トリフルオ
ロ酢酸(200mL)をゆっくりと加えた。加えた後,冷却槽を取り除
き,反応物を室温で2時間撹拌させた。減圧下で溶媒を除去し,次いで,
得られたトリフルオロ酢酸塩を,ジクロロメタン中の25%メタノー
ル及び2.5%水酸化アンモニウム500mLで中和した。溶媒を除去
した後,ジクロロメタン中,2.5~12.5%メタノール及び0.2
5~1.25%水酸化アンモニウムで溶出するBiotage(商標)
カラム(2×340g)によるクロマトグラフィーの後に,所望の中間
体5を得た。LC-MS:109.85(M+1)。」(49頁20行
~28行,訳文【0182】)

(コ) 「実施例1
【化28】


(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2
-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラ
ゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン
工程A:tert-ブチル{(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジ
フルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒ
ドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒド
ロ-2H-ピラン-3-イル}カルバメート
中間体2(26.3g,80mmol)及び2-(メチルスルホニル)
-2,4,5,6-テトラヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール(中
間体5)(15.07g,80mmol)の混合物を,無水メタノール
(1.5L)中,室温で2時間撹拌した。得られた白色の懸濁液に,デ
カボラン(2.95g,24.15mmol)を加え,混合物を室温で
一晩撹拌した。メタノールを除去し,残渣を,ジクロロメタン中5~5
0%酢酸エチルで溶出する,2本の65i Biotage(商標)カ
ラムにより精製し,標題の化合物を白色固体として得た。LC-MS:
499.10(M+1)。」(50頁末行~51頁12行,訳文【01
89】~【0191】)
「工程B:(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニ

ル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,
4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン
-3-アミン 室温で,ジクロロメタン(200mL)中のトリフル
オロ酢酸(100mL)を用い,工程A由来の生成物(13.78g,
27.67mmol)中のBOC基の除去を実施した。2時間撹拌した
後,反応物を濃縮し,ジクロロメタン中の25%MeOH及び2.5%
水酸化アンモニウムで中和した。減圧下で溶媒を除去し,ジクロロメタ
ン中の1.25~5%MeOH及び0.125~0.5%水酸化アンモ
ニウムで溶出する65i Biotage(商標)カラムにより,得ら
れた粗生成物を精製した。単離した物質を,60℃で5:1のEtOA
c/CH2Cl2から再結晶することにより更に精製した。結晶性生成
物を,冷却した2:1のEtOAc/ヘキサンで洗浄し,標題の化合物
を淡褐色の固体として得た。1H NMR(500MHz,CD3OD)
:1.71(q,1H,J=12Hz),2.56-2.61(m,1
H),3.11-3.18(m,1H),3.36-3.40(m,1
H),3.48(t,1H,J=12Hz),3.88-3.94(m,
4H),4.30-4.35(m,1H),4.53(d,1H,J=
12Hz),7.14-7.23(m,2H),7.26-7.30(m,
1H),7.88(s,1H)。LC-MS:399.04(M+1)。」
(51頁14行~27行,訳文【0192】)
(サ) 「医薬製剤の実施例
経口医薬組成物の具体的な実施態様として,100mgの力価の錠剤
を,実施例のいずれか1つに記載されたもの100mg,微結晶性セル
ロース268mg,クロスカルメロースナトリウム20mg及びステ
アリン酸マグネシウム4mgから構成する。活性成分,微結晶性セルロ
ース及びクロスカルメロースを最初に混合する。次いで,ステアリン酸

マグネシウムで混合物を滑沢とし,錠剤に圧縮する。」(59頁2行~
7行,訳文【0223】)
イ 原告らは,刊行物1の実施例1の最終生成物である「淡褐色の固体」は,
本願明細書にいう「化合物Iの非晶質遊離塩基」(化合物Pの「非晶質遊
離塩基」)であり,非晶質の物質であるから,本件審決が「化合物Pの結
晶」を刊行物1記載の引用発明として認定したのは誤りである旨主張す
る。
そこで検討するに,前記アの記載事項を総合すれば,刊行物1には,実
施例1において,①中間体2(【化23】の化合物)と中間体5(【化2
6】の化合物)の混合物を,無水メタノール中,室温で2時間撹拌して,
得られた白色の懸濁液に,デカボランを加え,室温で一晩撹拌した後,メ
タノールを除去し,「65i Biotage(商標)カラム」により残
渣をジクロロメタン中5~50%酢酸エチルで溶出して精製し,化合物
「tert-ブチル{(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロ
フェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ
[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピ
ラン-3-イル}カルバメート」を白色固体として得たこと 「工程A」 ,
( )
②室温で,ジクロロメタン中のトリフルオロ酢酸を用い,工程A由来の生
成物中のBOC基の除去を実施し,2時間撹拌した後,反応物を濃縮し,
ジクロロメタン中の25%MeOH及び2.5%水酸化アンモニウムで中
和し,減圧下で溶媒を除去し,「ジクロロメタン中の1.25~5%Me
OH及び0.125~0.5%水酸化アンモニウムで溶出する65i B
iotage(商標)カラム」により得られた「粗生成物」を精製し,単
離した物質を「60℃で5:1のEtOAc/CH2Cl2」から再結晶す
ることにより更に精製した「結晶性生成物」を,「冷却した2:1のEt
OAc/ヘキサン」で洗浄し,化合物「(2R,3S,5R)-2-(2,

5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-
ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒ
ドロ-2H-ピラン-3-アミン」(【化28】の化合物)を「淡褐色の
固体」として得たこと(「工程B」)の記載があることが認められる。
上記記載によれば,刊行物1の実施例1の工程Bにより生成された「淡
褐色の固体」は,【化28】の化合物,すなわち,化合物Pであることが
認められる。
そして,①刊行物1には,実施例1の「淡褐色の固体」が結晶であるこ
とについての明示の記載はないが,上記「淡褐色の固体」は,単離した物
質を「60℃で5:1のEtOAc/CH2Cl2」から再結晶することに
より更に精製した「結晶性生成物」を,「冷却した2:1のEtOAc/
ヘキサン」で洗浄し得られたものであり,洗浄前の「結晶性生成物」は,
単離した物質を「再結晶」することにより精製された生成物であるから,
結晶(結晶質)であると理解できること,②甲22(「医薬品開発におけ
る結晶多形の制御と評価」)には,「糖尿病薬トルブタミドにはForm
ⅠとFormⅡの多形があり,加熱時だけではなく冷却下での転移挙動も
異なる。」との記載があるが,この記載は,結晶多形間の加熱又は冷却に
よる形の転移を述べたものであって,加熱又は冷却により結晶質が非晶質
に転移することを述べたものではなく,他に上記「結晶性生成物」(結晶
質)を「冷却した2:1のEtOAc/ヘキサン」で洗浄することにより
非晶質に転移することをうかがわせる証拠はないこと,③本願明細書の
【0019】には「本発明の結晶形は,薬理活性成分を含有する医薬製剤
の調製の際,国際公開第2010/056708号パンフレットに記載の
化合物Iの非晶質遊離塩基を超える製薬上の利点を呈示する。」との記載
があるが,本願明細書には,「国際公開第2010/056708号パン
フレットに記載の化合物Iの非晶質遊離塩基」が刊行物1の実施例1の

「淡褐色の固体」を指すことについての具体的な記載はないことに照らす
と,刊行物1の実施例1の「淡褐色の固体」は,結晶(結晶質)と認める
のが相当である。
したがって,本件審決が「化合物Pの結晶」を刊行物1記載の引用発明
として認定したことに誤りがないから,原告らの上記主張は理由がない。
(3) 本願の優先日当時の技術常識について
ア 各文献の記載事項
(ア) 甲2(「医薬品の多形現象と晶析の科学」・2002年9月20日
発行)
a 「結晶の多形現象は,医薬だけでなく,固体の物質科学の中で一般
的に観測されている現象であるが,医薬品においては有効性,安全
性,品質の観点から考慮すべき極めて重要な項目の一つになってい
る。すなわち,固体状態における結晶多形や疑似多形,結晶化度の違
い,水や賦形剤との相互作用などの分子状態の差は,水や水溶液に
対する溶解度や溶解速度,また,融解温度,融解熱や格子エネルギー
等の物理的及び化学的諸性質に影響する。例えば,多形転移に基づ
く結晶成長のために,剤形破壊や適用性の低下が起こり得るし,ま
た,分子レベルの観点から考えた場合には,結晶中の分子間,または
原子間距離の違いによって,多形間で化学反応性に差異が生じ,原
薬および製剤の保存等において化学的安定性が異なることも考えら
れる。したがって,このような医薬品研究のマテリアルサイエンス
に従事する人々においては,医薬品の多形現象などの結晶物性につ
いて,熟知しておくことは当然必要なことである。」(3頁9行~1
8行)
「医薬品は複雑な化学構造を持っているために,固体の医薬原薬の
70%が結晶多形を示すと言われている。」(3頁19行~20行)

「同一の物質で結晶構造が異なるものを結晶多形と定義している
が,医薬品においては,安定性,溶解性や生体内での有用性に関わる
諸問題に関係することから,結晶特性の管理は極めて重要である。」
(4頁1行~3行)
「結晶多形は,溶けてしまえば皆同じであるが,とりわけ医薬品で
結晶多形が問題となるのは,結晶多形間で溶解性(溶解速度も含む)
が大きく異なる場合である。この場合には,薬物の吸収性に影響を
与える可能性が大きくなる。結晶多形の違いにより物質の物理化学
的性質が異なり,そのことが製剤上の問題となることがある。最も
大きな問題はバイオアベイラビリティーに対する影響の可能性であ
る。すなわち,結晶形が異なることにより,溶解度・溶解速度に違い
が生じ,吸収率にも違いが生じることによって薬効が変わってしま
う可能性がある。」(6頁1行~6行)
b 「原薬の塩・結晶形は,溶解度,固体安定性,分散性,固液分離特
性(精製効率)などに大きく影響する。特に経口薬では,その溶解性
がバイオアベイラビリティーに影響を及ぼす事から,医薬品の開発
研究において極めて重要な検討項目の一つである。 (14頁12行

~14行)
(イ) 甲4(「新製剤学」・1984年4月25日第2刷発行)
「多形は結晶中での分子や原子の配列が異なるので,その存在はX線
回折法,密度測定法,偏光顕微鏡法,赤外吸収スペクトル法により知る
ことができる。また熱力学的に多形は別の相として考えられ,各多形は
それぞれの融点や溶解度をもつ。」(103頁4行~7行)
「同一の薬であっても,結晶状態の安定度に異なるものがあれば,不
安定なものは,水に対する溶解性も高く,溶解速度も大となる。薬の吸
収速度に及ぼすものとして,多形(polymorph)と結晶水の影響が知ら

れている。」(232頁12行~14行)
(ウ) 甲6(「実験化学講座(続)2 分離と精製」・昭和42年1月2
5日発行)(下記記載中に引用する「表5・1」については別紙3を参
照)
「5・2・5 溶媒の効果
分離 精製における溶媒の主要な役割は析出させるべき化合物を溶解

し,ついでそれを冷却あるいは蒸発濃縮などによって沈殿(結晶)を析
出させることである。」(166頁17行~19行)
「水は最良の溶媒であるが,無機性溶媒としては硫酸,…液体アンモ
ニアなどがよく用いられている。有機溶媒として最も普通に利用され
ているものを表5・1にあげる。」(169頁1行~3行)
(エ) 甲7(International Journal of Pharmaceutics,283,2004・2
004年6月24日発行)
「多形スクリーニングは,様々な溶媒からの結晶化により,伝統的な
手法…又はハイスループット結晶化技術…により,日常的に行われて
いる。特定の溶媒から特定の結晶が優先的に結晶化することは,特に種
結晶が存在しないとき,しばしば観察される…。この現象は,核形成,
結晶成長,溶媒媒介多形転移…における,溶媒-溶質相互作用の規制効
果のせいであり,多形の出現に影響があるとされてきた。分子レベルの
溶媒-溶質相互作用に加え,溶媒の巨視的な性質,例えば粘度や表面張
力もまた,結晶化の動態および多形の出現に影響するかもしれない…。
それゆえ,多様な性質をもつ溶媒群を用いると,多形スクリーニングの
間に新規な多形を発見する成功率が増加するであろう…。」(117頁
左欄1行~118頁左欄8行・訳文1頁)
(オ) 甲9 「実験化学講座1
( 基本操作Ⅰ」・平成2年11月5日発行)
a 「a.再結晶 物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本

的操作である。再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液
とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶
質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶
液に留まる。…不純物…は再結晶により除去できることになる。」
(184頁20行~32行)
「(ii) 溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけ
でなく,試行錯誤により選択するのが基本である。したがって,試料
約20mg 程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみる
とよい。既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解
度を調べるのがよい。未知化合物においても,同族体の既知化合物
のデータを参照するとよい。しかし,古くから,同族体は同族体をよ
く溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択が
できる。つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか
非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオ
ン性であるかどうかなどである。一般には水素結合性,極性を考慮
すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう。
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水
(極性小から大)」(185頁8行~17行)
b 「(iv) 結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶
媒,濃度などによって異なる。時には結晶組成が異なってしまうこ
ともある。…結晶化が起きにくい場合には,①放冷を徐々に行う(湯
浴に浸したままにしておく) ②結晶の種を入れる。
。 ③管壁をガラス
棒などで擦り,種をつくる。④冷蔵庫内に数日から数か月放置する。
⑤混合溶媒にして溶解度を下げる。⑥自然蒸発を待つ。急冷すると
結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い。」(18
5頁27行~186頁3行)

(カ) 甲10(Pharmaceutical Research,12(7),1995・1995年7
月発行)
a 「医薬品固体の対象における興味は,“適切な”分析手法を用いて
原薬の多形,水和,又は無定形を検出すべきであるとする,食品医薬
品局(FDA)の原薬ガイドラインに部分的に由来する。これらのガ
イドラインは,原薬の結晶形態を制御することの重要性を示す。ガ
イドラインはまた,原薬の結晶形態を制御すること,及びバイオア
ベイラビリティが影響されるならば,その制御方法の妥当性を実証
することは,申請者の責任であるとしている。
したがって,新薬申請(NDA)は,特にバイオアベイラビリティ
が問題となる場合には,固体状態に関する情報が含まれていなけれ
ばならないことが明らかである一方で,申請者は,情報収集への科
学的アプローチやどのような情報が必要とされるのかについて,確
信が持てないであろう。この総説は,一連のガイドラインや規則で
はなく,フローチャートの形でコンセプトやアイディアを示すこと
により,こうした不確かさの大部分を取り除くための戦略的なアプ
ローチを提供することを目的とする。個別の化合物はそれぞれ,ア
プローチの柔軟性を必要とする特有の特性を有するため,このこと
は特に重要である。」(945頁左欄1行~21行・訳文1頁)
「既に述べたように,原薬の多形及び水和物の存在について調べる
ことが得策である。というのは,これらは医薬品製造プロセスの何
れかの段階で,又は原薬若しくは製剤の貯蔵に際して遭遇し得るか
らである。」(946頁左欄下から5行~末行・訳文2頁)
b 「A.多形の形成―多形は発見されているか?
多形決定ツリーの最初のステップは,多形は可能かという質問へ
の回答を試みるために,その物質を多数の異なる溶媒から結晶化さ

せることである。溶媒は,最終結晶化工程で用いられるもの,及び製
剤化や加工工程で用いられるものを含み,水,メタノール,エタノー
ル,プロパノール,イソプロパノール,アセトン,アセトニトリル,
酢酸エチル,ヘキサン,及び適切であればこれらの混合物を使用で
きる。」(946頁右欄19行~28行・訳文2頁)
c 「多形のための試験
-X線粉末回折
-示差走査熱量分析
-顕微鏡
-赤外吸収スペクトル
-固体NMR」(946頁図1・訳文2頁)
(キ) 甲13(Chemistry & Industry,21 August 1989・1989年8月
21日発行)
「結晶性製品は,一般に,単離し,精製し,乾燥するのに,そしてバ
ッチプロセスにおいては取扱い,製剤化するのに,最も容易である。」
(527頁左欄1行~3行・訳文1頁)
「可能性のあるいかなる多形が得られるかは,結晶化が生じる温度,
溶媒の性質(親水性か,疎水性か),そして結晶化が始まる過飽和の程
度,といった様々なファクターに依存するようである。種結晶の使用
は,目的とする多形を得るために有用である。」(527頁右欄9行~
14行・訳文1頁)
「少数の化合物しか開発に至らないうえ,市販されるものはさらに少
ない。各開発候補品に進展のための最良の機会を与えるには,多形が現
れるのを成行き任せにしてその結果混乱を来すよりも,多形について
調査するほうが良いと思われる。多形を得ようとする試みにおいて用
いられる手法には,急速に溶液を冷却するか,溶質の溶けにくい第二の

溶媒を加えるか,過剰の固体を溶媒と共に激しく攪拌するか,過剰の固
体を高沸点溶媒と共に加熱するか,昇華させるか,及び溶液のpHを急
激に変化させて酸性又は塩基性の物質を沈殿させるかという方法によ
り,異なる温度下で様々な溶媒(極性及び非極性,親水性及び疎水性)
から結晶化させることが含まれる。」(528頁左欄2行~14行・訳
文1頁)
(ク) 乙4(「医薬品結晶の分子状態に関する物性評価(12) 塩・結晶形
の最適化と結晶化技術」・平成14年9月1日発行)(下記記載中に引
用する「表2」については別紙3を参照)。
a 「医薬品開発を迅速かつ効率的に進めるためには,開発する原薬の
基本形となる塩形の選定と共に多形選定が重要な鍵を握っている。」
(81頁2行~4行)
b 「2.結晶化条件
医薬品原薬の多くは,合成工程の精製などの最終工程において結
晶状態として製造されることが多い。このことは,結晶は原子,分子
が立体的に規則正しく配列するために,一定品質の原薬を安定的に
製造することが可能であるとの考えに基づいていると思われる。ま
た,液体に較べ,化学的な安定性に優れ,計量や製剤加工などの取り
扱いにおいても,はるかに利便性が高いと考えられる理由かもしれ
ない。このように液体に較べ,品質的には均質な原薬結晶ではある
が,固体の存在形態を制御し,恒常的に安定製造するためには,結晶
化条件についての最適化が必要とされる。結晶は,溶液からの晶析
による結晶化によって調製されることが多く,晶析条件に応じて,
さまざまな結晶形,形状,大きさ,凝集塊の生成などの現象が観測さ
れることも多い。
晶析操作で,結晶多形を制御する際に基本となるのは,各結晶の結

晶化に使用する溶媒に対する溶解度の情報である。一般に医薬品の
場合には,図2に示したような温度による溶解度差を利用した冷却
晶析が多く,温度-溶解度曲線を作成することが基本となる。通常
の晶析操作においては,析出させる結晶相は1種類を想定するため
に,化合物が決まれば一義的に決まると考えがちであるが,現実的
には多形の出現により状況が大きく異なる場合も存在することにな
る。また,溶媒中で固相が転移する場合は,その溶媒中で転移以前に
結晶を恒常的に得るのは困難な場合が多い。
このように結晶化は溶液中で実施する操作が多く行われている
が,医薬品製造に使用する結晶化溶媒はどのようなものでも許容さ
れるわけではない。人類の生命と健康に直接に関与している医薬品
であるがゆえに,結晶製造に使用する溶媒と言えども十分に考慮し
て使用することがよい。このような視点からICHのガイドライン,
Q3Cには,表1に示す目的,原薬製造の結晶化に使用する溶媒が
分類して示されている。
(1) 結晶化に使用する溶媒
原薬製造の結晶化に使用する溶媒は先に述べたように,理想的に
はICHの「医薬品の残留溶媒ガイドライン」に記載されている安
全性の高いクラス3の溶媒を使用することを推奨している。ICH
のガイドラインに区分けされている溶媒,クラス3,クラス2,クラ
ス1,およびその他の溶媒について表2~5に示した。」(82頁右
欄7行~84頁左欄2行)
c 「(3) 結晶化の方法について
晶析操作線図で示したように,溶液から薬物を結晶化するには飽
和溶液を調整し,ゆっくりと過飽和状態に変化することによって所
望する結晶を得ることができる。多くの場合,静置により過飽和溶

液は比較的大きな結晶を得ることができる。また,工業晶析では,撹
拌したり振動したりすることにより,多数の微結晶が析出するが,
種結晶の添加による結晶製造の制御も行われている。結晶化は過飽
和溶液からの晶析が基本原理であるが,結晶化の方法は,所望する
結晶の用途と目的により多くの試みが行われる。例えば,所望する
のが結晶構造解析用の単結晶であれば,静置によって均質で比較的
大きな結晶が得られるような方法を選択するが,工業晶析が目的で
あれば粒度が制御され,一定品質の多結晶体が高収率で得られるこ
とを目標とする。晶析は過飽和域で行われるために,溶液を過飽和
状態にしなければならない。溶液を過飽和状態にするための方法と
して次の5つをあげたい。それぞれに特徴があるので,目的に適し
た方法を選定することが必要である。
① 温度変化を制御する結晶化法…
② 溶媒蒸発による結晶化法…
③ 蒸気拡散による結晶化法…
④ 反応晶析法…
⑤ 加圧による圧力晶析法…」
(86頁左欄21行~87頁左欄18
行)
d 「4.結晶多形の検索事例,結晶化条件の探索事例
多形検索は,溶媒の種類だけでなく,冷却法や溶媒の蒸発法を組み
合わせた方法,温度や過飽和度の異なる条件などを設定することに
より,ある程度,多形の存在を明らかにすることができるが,現実に
は試行錯誤を繰り返し,偶然に見出されることを期待する以外に,
定まった方法があるわけではない。
松田らは,結晶多形に重要な影響を与えると思われる各因子を適
宜組み合わせ,比較的簡便な方法でフロセミドの多形探索を行い,

その条件を報告しており,結晶化の条件検討の参考になる。」(87
頁左欄19行~30行)
e 「開発候補化合物の物性評価
開発候補化合物を決める前の段階で,周辺化合物の物性評価も考
慮し,化合物の物性評価を行いながら塩・結晶形についての評価を
行う必要がある。
とりわけ,固体の経口投与製剤の場合では,探索の最終段階におけ
る開発候補化合物の選定において,塩・結晶形と物性評価が必要と
考えられる。物性評価項目としては,橋田らの報告にあるように,化
学的安定性,経口吸収性,物理的安定性(結晶化度,水和度)などの
評価が優先して行われるべきと考えられる。そして,開発候補化合
物の物性の評価項目としては下記の内容があげられる。
①結晶性の評価
結晶は,化学的な安定性,溶解性,経口吸収性,物理的な安定性(結
晶化度,水和度)ならびに原薬・製剤の製造に対して影響を与える重
要な基礎物性である。このために,X線回折,熱分析,赤外線吸収ス
ペクトル,自動水分吸着脱着測定などの評価方法を必要に合わせて
適宜用いることになる。このことで結晶多形,結晶化度,結晶形間の
相転移を評価するとともに,種々の溶媒を用いて,塩形・結晶形の探
索を行って開発候補化合物としての適格性を予測しておく。
②化学的な安定性の評価…
③溶解性の評価…
④物理的な安定性
原薬結晶の物理的安定性,すなわち,結晶化度ならびに水和度は,
結晶性の評価とともに重要性は高い。水和物の水和数などの水和度
は,水の吸着や再結晶工程において,水分子が結晶構造へ取り込ま

れる過程でその数が変化する場合が多々ある。種々の溶媒を用いた,
塩形・結晶形の探索の中で,結晶形間の相転移を評価するとともに,
加温や粉砕によって生じる非晶質化のようなメカノケミカルな安定
性を把握することも含めて,開発候補化合物としての適格性を予測
しておくことが重要である。」(94頁左欄1行~右欄15行)
イ 医薬化合物の結晶化に係る技術常識
前記アの記載事項を総合すると,本願の優先日(平成23年6月29日)
当時,①結晶性製品は一般に取扱い及び製剤化が容易であるため,医薬品
原薬の多くは最終工程において結晶状態として製造され,また,医薬品に
おいては,結晶多形が安定性,溶解性,バイオアベイラビリティに影響を
及ぼし得ることから,医薬品開発においては,医薬品原薬を恒常的に安定
製造するための結晶化条件の最適化の検討が必要であるとともに,結晶多
形の最適化ための結晶多形の探索ないし多形スクリーニングが必要であ
ること,②結晶多形の存在及びその分析のために,X線粉末回折が通常用
いられること,③酢酸エチルは,結晶化溶媒として,安全性が高く,最も
普通に使用される溶媒の一つであることは,技術常識であったものと認め
られる。
(4) 相違点の容易想到性の有無について
ア 刊行物1には,実施例1の最終生成物の化合物Pを含む医薬組成物は,
ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害剤として,糖尿病,特に2型
糖尿病のようなジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与する疾患の
治療又は予防に有用であることの記載(前記(2)ア(イ)ないし(エ),(サ))
があるから,実施例1の最終生成物の化合物Pは医薬化合物であるものと
認められる。
前記(3)イ認定の本願の優先日当時の技術常識に照らすと,刊行物1に
接した当業者においては,医薬化合物である実施例1の最終生成物の化合

物P(引用発明)について,医薬品原薬を恒常的に安定製造するための結
晶化条件の最適化の検討を行うとともに,結晶多形の最適化のための結晶
多形の探索ないし多形スクリーニングを行う動機付けがあるものと認め
られる。
そして,室温で安定な結晶は,冷蔵保存の必要がないため医薬品化合物
として望ましいことは自明であるから,結晶多形の探索ないし多形スクリ
ーニングに際し,結晶化温度を室温を含む温度範囲,結晶化溶媒を最も普
通に使用される溶媒の一つである酢酸エチルとし,X線粉末回折を用いて
結晶多形の存在及びその分析を行い,得られた結晶の中から室温での安定
性が優れた結晶を選ぶことは,当業者が通常行うことであるものと認めら
れる。
一方,本願明細書の「酢酸エチル中の化合物Iの非晶質遊離塩基の直接
結晶化によって,形Iを生成した。」(【0069】),「13℃より上
で最も安定な相として形Iを有する。」(【0070】)との記載に照ら
すと,本願明細書には,結晶化温度を室温を含む13℃より上の温度,結
晶化溶媒を酢酸エチルとして,「化合物I」(化合物P)の結晶化を行う
ことにより,形Iの結晶質が得られることの開示があるものと認められ
る。
そうすると,当業者は,通常なし得る試行錯誤の範囲で,刊行物1の実
施例1の最終生成物の化合物Pについて上記結晶多形の探索ないし多形
スクリーニングを行うことにより,室温での安定性が優れた結晶として形
Iの結晶質を得ることができたものと認められる。
以上によれば,刊行物1に接した当業者は,刊行物1及び上記技術常識
に基づいて,引用発明について相違点に係る本願発明の構成(化合物Pの
形Iの結晶質の構成)とすることを容易に想到することができたものと認
められる。

したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ(ア) これに対し,原告らは,刊行物1の実施例1の最終生成物の「淡褐
色の固体」が非晶質の物質であることを前提として,刊行物1には,結
晶多形の存在の示唆は一切ないから,刊行物1に接した当業者におい
て,結晶多形を得ることについての動機付けは存在せず,ましてや特定
の結晶形である形Iを選択すべき動機付けは存在しない旨主張する。
しかしながら,刊行物1の実施例1の「淡褐色の固体」(化合物P)
は,結晶(結晶質)と認めるのが相当であることは,前記(2)イで説示
したとおりである。
また,前記アのとおり,刊行物1に接した当業者においては,医薬化
合物である実施例1の最終生成物の化合物Pについて,医薬品原薬を
恒常的に安定製造するための結晶化条件の最適化の検討を行うととも
に,結晶多形の最適化のための結晶多形の探索ないし多形スクリーニ
ングを行う動機付けがあるというべきであり,このことは,実施例1の
最終生成物の化合物Pが結晶(結晶質)であるか,非晶質であるかによ
って左右されるものではないというべきである。
さらに,結晶多形の探索においては,溶媒の種類,結晶化方法,温度
等の異なる結晶条件を設定することにより,ある程度,多形の存在を明
らかにすることができるが,現実には試行錯誤を繰り返すことにより,
多形が検索されるものであること(前記(3)ア(ク)d)に照らすと,あ
らかじめ特定の結晶形を選択すべき動機付けがなければ検索できない
というものではない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(イ) また,原告らは,本願発明は,結晶化する原料として非晶質遊離塩
基を採用し,再結晶溶媒として酢酸エチルを用いて,13℃以上の温度
で,結晶化して得られた無水の結晶形であり,このような本願発明にお

ける結晶化原料,結晶化溶媒及び温度を含む結晶化条件の特定の組合
せは,実際に多数の試行錯誤を繰り返して初めて得られるものである
が,刊行物1には,本願発明における結晶化条件の特定の組合せについ
ての記載も示唆もないから,刊行物1に接した当業者は,通常なし得る
範囲の試行錯誤により,本願発明の形Iの結晶質を得ることはできな
い旨主張する。
しかしながら,前記ア認定のとおり,結晶多形の探索ないし多形スク
リーニングに際し,結晶化温度を室温を含む温度範囲,結晶化溶媒を一
般に使用される溶媒の一つである酢酸エチルとし,X線粉末回折を用
いて結晶多形の存在及びその分析を行い,得られた結晶の中から室温
での安定性が優れた結晶を選ぶことは,当業者が通常行うことであっ
て,本願発明における結晶化条件の特定の組合せを採用することは格
別のこととはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。
ウ 以上のとおり,本件審決における相違点の容易想到性の判断に誤りは
ない。
2 予想できない顕著な効果についての判断の誤りについて
原告らは,①本願発明の形Iの結晶質の「13℃より上で最も安定な相」と
して存在するという特性は,形Iの結晶質を得て初めて判明するものであり,
刊行物1から予測できない特性であり,この特性を有するのであれば晶析の
際に溶媒を冷却することは控えるべきであり,このことは,結晶化プロセスに
おいては重要な情報であって,当業者の予測できない有利な効果であること,
②本願発明の形Iの結晶質は,上記特性により,他の結晶形に比べて吸湿性に
優れるという「物理化学的特性」(すなわち,吸湿しにくい)を有し,医薬組
成物の調製の際の取扱いにおいて利点を有し,このことは,本願明細書記載の
熱重量分析(図2,7及び12)における形Iの結晶質の重量損失が最も少な
いことが示しており,また,本願明細書に本願発明の顕著な効果について具体

的な記載はなくとも,当業者であれば,安定な結晶形である形Iの結晶質が,
応力に対して結晶形が転移しにくいこと(粉砕,圧縮工程等における安定性),
取扱いの容易さ(製剤化における結晶形の移送性),乾燥(乾燥温度で転移し
ない)など非晶質形態に対して顕著な効果を有していることを認識できるこ
と,③刊行物1の実施例1の最終生成物が非晶質であることを考慮すると,本
願発明の形Iの結晶質は,通常の結晶質から予測し得る範囲を超える顕著な
効果を有するというべきであるから,本願発明の作用効果は格別顕著なもの
とはいえないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,刊行物1の実施例1の「淡褐色の固体」(化合物P)は,結
晶(結晶質)と認めるのが相当であることは,前記1(2)イで説示したとおり
であるから,これが非晶質であることを前提とする原告らの主張は,その前提
において誤りがある。
次に,本願発明の形Iの結晶質が「13℃より上で最も安定な相」として存
在するという特性を有するとしても,そのことは,室温を含む13℃以上の温
度で安定であることを意味するものにすぎず,格別顕著なものとはいえない。
また,本願明細書には,本願発明の形Iの結晶質が「13℃より上で最も安定
な相」として存在するという特性により,「処理および結晶化の容易さ,取り
扱い,応力に対する安定性,計量分配の利点を有し医薬剤形の製造に好適とい
う効果」(【0007】)を奏するとの記載はなく,これらが形Iの効果であ
ることを認識することは困難である。
さらに,仮に本願発明の形Iの結晶質が他の結晶形に比べて「吸湿性が低い」
としても,それをもって,予測し得る範囲を超える顕著な効果であるというこ
とはできない。
したがって,原告らの上記主張は,理由がない。
このほか,原告らは,縷々主張するが,本願発明の形Iの結晶質が予想でき
ない顕著な効果を有することの根拠となるものではない。

3 結論
前記1及び2によれば,本願発明は,刊行物1及び技術常識に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判断に誤りはないか
ら,原告ら主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法
は認められない。
したがって,原告らの請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 大 鷹 一 郎


裁判官 古 河 謙 一


裁判官 関 根 澄 子


(別紙1)
【図1】 【図2】


【図3】 【図7】


【図8】 【図12】


【図13】 【図15】


【図16】


(別紙2)


(別紙3)
【甲6】


【乙4】
表2 ICHのガイドライン,クラス3の溶媒
GMPまたはその他の品質基準により規制されるべき溶媒
酢酸 酢酸エチル メチルイソブチルケトン
アセトン ジエチルエ-テル 2-メチル-1-プロパノール
アニソール ギ酸エチル ペンタン
1-ブタノール ギ酸 1-ペンタノール
2-ブタノール ヘプタン 1-プロパノール
酢酸 n-ブチル 酢酸イソブチル 2-プロパノール
t-ブチルメチルエーテル 酢酸イソプロピル 酢酸プロピル
クメン 酢酸メチル N-メチルピロリドン
ジメチルスルホキシド 3-メチル-1-ブタノール
エタノール メチルエチルケトン

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