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平成29(ワ)16468特許権侵害差止請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所
裁判年月日 平成31年1月17日
事件種別 民事
当事者 被告サノフィ株式会社東崎賢治
原告アムジエン・インコーポレーテツド
対象物 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質
法令 特許権
民事訴訟法61条1回
キーワード 実施74回
特許権13回
差止13回
進歩性11回
無効6回
優先権3回
侵害3回
分割2回
無効審判1回
主文 1 被告は,別紙被告製品目録記載の製剤の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。25
2 被告は,別紙被告モノクローナル抗体目録記載のモノクローナル抗体の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。
3 被告は,別紙被告製品目録記載の製剤を廃棄せよ。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。5
事件の概要 本件は,発明の名称を「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシ ン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」とする特許権(同一名称 の2件の特許権)を有する原告が,被告に対し,被告による別紙被告製品目録 記載の製剤(以下「被告製品」という。)及び被告製品の原薬である別紙被告15 モノクローナル抗体目録記載のモノクローナル抗体(以下「被告モノクローナ ル抗体」という。)の生産,販売等が,原告の特許権を侵害する旨を主張して, 被告製品及び被告モノクローナル抗体の生産等の差止め及び廃棄を求める事案 である。

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判決文

平成31年1月17日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成29年(ワ)第16468号 特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 平成30年10月9日
判 決


原 告 アムジエン・インコーポレーテツド

同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
10 山 口 裕 司
多 田 宏 文
同補佐人弁理士 森 田 裕

被 告 サ ノ フ ィ 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 三 村 量 一
東 崎 賢 治
中 島 慧
松 下 昂 永
20 同訴訟代理人弁理士 南 条 雅 裕
っっっっっっ同 補 佐 人 弁 理 士 瀬 田 あ や 子
伊 波 興 一 朗
主 文
1 被告は,別紙被告製品目録記載の製剤の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出を
25 してはならない。
2 被告は,別紙被告モノクローナル抗体目録記載のモノクローナル抗体の生産,
譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。
3 被告は,別紙被告製品目録記載の製剤を廃棄せよ。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
5 6 原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主文第1項ないし3項と同旨
2 被告は,別紙被告モノクローナル抗体目録記載のモノクローナル抗体を廃棄
10 せよ。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシ
ン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」とする特許権(同一名称
の2件の特許権)を有する原告が,被告に対し,被告による別紙被告製品目録
15 記載の製剤(以下「被告製品」という。)及び被告製品の原薬である別紙被告
モノクローナル抗体目録記載のモノクローナル抗体(以下「被告モノクローナ
ル抗体」という。)の生産,販売等が,原告の特許権を侵害する旨を主張して,
被告製品及び被告モノクローナル抗体の生産等の差止め及び廃棄を求める事案
である。
20 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
当事者
原告は,医薬品等の製造,販売及び輸出等を業とするアメリカ合衆国法人
である。
25 被告は,医薬品等の製造,販売,輸入等を業とする株式会社である。
原告の特許権
ア 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許を「本
件特許1」といい,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本
件明細書1」という。)を有している(甲1,2)。
特許番号 第5705288号
5 登録日 平成27年3月6日
出願番号 特願2013-195240
出願日 平成25年9月20日(特願2010-522084の分
割)
原出願日 平成20年8月22日
10 優先日 平成20年1月9日,同年8月4日(以下「本件優先日」
という。)
優先権主張国 米国
発明の名称 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型
(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質
15 イ 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権2」といい,その特許を「本
件特許2」といい,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本
件明細書2」という。また,本件特許1及び2を併せて「本件各特許」と
いい,本件特許権1及び2を併せて「本件各特許権」といい,本件明細書
1及び2を併せて「本件各明細書」という。以下,本件各明細書として示
20 す段落番号は,本件明細書1及び2の同一の段落番号を指す。 を有してい

る(甲3,4)。
特許番号 第5906333号
登録日 平成28年3月25日
出願番号 特願2015-33054
25 出願日 平成27年2月23日(特願2013-195240の分
割)
原出願日 平成20年8月22日
優先日 平成20年1月9日,同年8月4日(以下「本件優先日」
という。)
優先権主張国 米国
5 発明の名称 プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型
(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質
構成要件の分説
ア 本件特許1
本件特許1の請求項1記載の発明(以下「本件発明1-1」という。)
10 は,次のとおり分説することができる(以下,それぞれの構成要件を「構
成要件1A」などという)。
1A PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
1B PCSK9との結合に関して,配列番号368,175及び18
0のアミノ酸配列からそれぞれなるCDR1,2及び3を含む重鎖
15 と,配列番号158,162及び395からそれぞれなるCDR1,
2及び3を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,
1C 単離されたモノクローナル抗体。
本件特許1の請求項9記載の発明のうち請求項1に関する発明(以下
「本件発明1-2」といい,本件発明1-1と併せて「本件発明1」と
20 いう。)は,上記構成要件1A,1B,1Cのほか,次のとおり分説する
ことができる。
1D を含む,医薬組成物。
イ 本件特許2
本件特許2の請求項1記載の発明(以下「本件発明2-1」という。)
25 は,次のとおり分説することができる。
2A PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
2B PCSK9との結合に関して,配列番号247,256及び26
5のアミノ酸配列からそれぞれなるCDR1,2及び3を含む重鎖
と,配列番号222,229及び238からそれぞれなるCDR1,
2及び3を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,
5 2C 単離されたモノクローナル抗体。
本件特許2の請求項5記載の発明のうち請求項1に関する発明(以下
「本件発明2-2」といい,本件発明2-1と併せて「本件発明2」と
いう。)は,上記構成要件2A,2B,2Cのほか,次のとおり分説する
ことができる。
10 2D を含む,医薬組成物。
訂正請求及び訂正後の構成要件
原告は,本件各特許の無効審判請求(本件特許1につき無効2016-8
00004,本件特許2につき無効2016-800066)において,平
成29年5月8日付けで,本件各特許の特許請求の範囲を訂正することを請
15 求した(甲11の1,2。以下「本件訂正請求」という。。

ア 本件特許1
訂正後の本件特許1の請求項1記載の発明(以下「本件訂正発明1-
1」という。)は,次のとおり分説することができる。
1A PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
20 1B’PCSK9との結合に関して,配列番号49のアミノ酸配列から
なる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号23のアミノ酸配列から
なる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,
1C 単離されたモノクローナル抗体。
訂正後の本件特許1の請求項9記載の発明のうち請求項1に関する
25 発明(以下「本件訂正発明1-2」といい,本件訂正発明1-1と併せ
て「本件訂正発明1」という。)は,上記構成要件1A,1B’,1Cの
ほか,次のとおり分説することができる。
1D を含む,医薬組成物。
イ 本件特許2
訂正後の本件特許2の請求項1記載の発明(以下「本件訂正発明2-
5 1」という。)は,次のとおり分説することができる。
2A PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,
2B’PCSK9との結合に関して,配列番号67のアミノ酸配列から
なる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列から
なる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,
10 2C 単離されたモノクローナル抗体。
本件特許2の請求項5記載の発明のうち請求項1に関する発明(以下
「本件訂正発明2-2」といい,本件訂正発明2-1と併せて「本件訂
正発明2という。)は,上記構成要件2A,2B’,2Cのほか,次のと
おり分説することができる。
15 2D を含む,医薬組成物。
本件発明1の構成要件1Bの「抗体」は,本件明細書1で21B12抗体
と呼ばれる抗体(以下「21B12参照抗体」という。)と同一の重鎖及び軽
鎖のCDR1~3のアミノ酸配列を有する抗体であり,本件訂正発明1の構
成要件1B’は,21B12参照抗体を重鎖可変領域のアミノ酸配列と軽鎖
20 可変領域のアミノ酸配列で特定したものである。
また,本件発明2の構成要件2Bの「抗体」は,本件明細書2で31H4
抗体と呼ばれる抗体(以下「31H4参照抗体」という。)と同一の重鎖及び
軽鎖のCDR1~3のアミノ酸配列を有する抗体であり,本件訂正発明2の
構成要件2B’は,31H4参照抗体を重鎖可変領域のアミノ酸配列と軽鎖
25 可変領域のアミノ酸配列で特定したものである(以下,21B12参照抗体
又は31H4参照抗体について, 「本件参照抗体」
単に ということがある。 。

被告の行為
被告は,被告製品の輸入,譲渡,譲渡の申出を行っている。
2 争点
被告製品及び被告モノクローナル抗体は本件発明1及び本件訂正発明1並
5 びに本件発明2及び本件訂正発明2(以下「本件各発明」と総称する。)の技
術的範囲に属するか
本件各特許の無効理由の有無
被告は,本件各特許には以下の無効事由(本件特許1及び本件特許2に共
通する無効事由)があると主張する。
10 ア サポート要件違反
イ 実施可能要件違反
ウ Thomas A. Lagace ら著,The Journal of Clinical Investigation,116
巻 11 号(乙1。平成18年11月発行。以下「乙1文献」という。)記載
の発明に基づく進歩性欠如
15 被告製品についての生産の差止め及び被告モノクローナル抗体についての
生産,譲渡等の差止めの必要性の有無
3 争点に関する当事者の主張
被告製品及び被告モノクローナル抗体は本件各発明の技術的範囲
に属するか)について
20 (原告の主張)
ア 被告モノクローナル抗体は,本件発明1-1,本件訂正発明1-1,本
件発明2-1及び本件訂正発明2-1の技術的範囲に属し,また,被告製
品は,本件発明1-2,本件訂正発明1-2,本件発明2-2及び本件訂
正発明2-2の技術的範囲に属する。
25 イ これに対し,被告は,本件各発明は,本件参照抗体と競合するという特
性(構成要件1B,1B’,2B,2B’)で特定されるいわゆる機能的ク
レームであり,機能的クレームは明細書に開示された技術思想とは全く異
なるものまでも,文言上その技術的範囲に含まれることになるから,クレ
ームの記載に加え,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,出願人が
明細書で開示した具体的な構成に示された技術思想に基づいて当該発明の
5 技術的範囲を確定すべきであり,明細書の記載から当業者が実施し得る範
囲に限定すべきであるなどと主張する。しかしながら,本件各発明は,本
件各明細書に開示された技術思想とは異なるものまでも技術的範囲に含む
ものではない。また,発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づ
き,明細書の記載を考慮して解釈すれば足り,機能的クレームであること
10 を理由として解釈の手法を変更する必要はない。
ウ 被告は,本件各明細書には,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体が
PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができる抗体(以
下「PCSK9-LDLR結合中和抗体」という。)であることの根拠は全
く示されていないと主張する。しかしながら,本件各明細書には,21B
15 12参照抗体及び31H4参照抗体が,PCSK9とLDLRの相互作用
を遮断するのにも効果的な位置に結合する抗体であり【図19】図20】
( 【
【図27】,PCSK9に対して極めて強い結合を示すこと(段落【03

72】,21B12参照抗体及び31H4参照抗体は上記特性のためにP

CSK9とLDLRとの相互作用を効果的に中和することができること
20 (段落【0378】)が記載されている。そして,21B12参照抗体及び
31H4参照抗体は,LDLRのEGFaドメインと直接相互作用するP
CSK9上の小さいが重要な領域に結合するため,本件参照抗体と競合す
る中和抗体は同じメカニズムでPCSK9とLDLRの結合を中和するこ
とができるから(段落【0269】等),本件参照抗体と競合するという特
25 性がPCSK9とLDLRとの相互作用を中和するよい指標となる。この
ように,本件各明細書には,本件参照抗体と競合する抗体の特性の有用性
が科学的に示されている。
エ 被告は,A教授の供述書(乙4)に基づき,本件参照抗体と競合する抗
体はPCSK9-LDLR結合中和抗体であるとは限らないと主張する。
しかしながら,B教授が意見書(甲34)において指摘するとおり,A教
5 授の分析は参照抗体のエピトープ外周の2アミノ酸から20Åの領域に
結合する抗体が全て参照抗体と結合する等の誤った前提に基づくもので
ある。また,A教授はPCSK9の表面の立体形状を無視しており,A教
授が「競合領域」と称する領域は,PCSK9-LDLR中和抗体ではあ
るが,参照抗体と競合しない抗体が結合する領域を含んでいる。このよう
10 にA教授の分析は技術常識に反するものである。
(被告の主張)
ア 特許請求の範囲が作用的又は機能的な表現で記載されている場合(いわ
ゆる機能的クレーム) 当該機能ないし作用効果を果たし得る構成全てを技

術的範囲に含まれると解すると,明細書に開示された技術思想と異なるも
15 のも発明の技術的範囲に含まれ得ることとなり,出願人が発明した範囲を
超えて特許権による保護を与える結果となるから,機能的クレームについ
ては,クレームの記載に加え,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,
出願人が明細書で開示した具体的な構成に示された技術思想に基づいて当
該発明の技術的範囲を確定すべきであり,明細書の記載から当業者が実施
20 し得る範囲に限定すべきである。
本件各発明は,抗体のアミノ酸配列を全く特定せず,本件参照抗体と競
合する機能のみによって発明を特定する機能的クレームであり,PCSK
9-LDLR結合中和抗体であれば,本件参照抗体とは全く異なるアミノ
酸配列を有する抗体も,本件参照抗体と競合する限り本件各発明の範囲に
25 含まれることになる。本件参照抗体と競合するPCSK9-LDLR結合
中和抗体は多種多様なものが想定され,未だ知られていない膨大な数の抗
体が含まれ得ることになる。
そこで,本件各発明についても,本件各明細書に開示されている具体的
な構成に示された技術思想に基づいて技術的範囲を確定する必要がある。
イ 本件優先日当時,PCSK9の存在やその配列,PCSK9がLDLR
5 の分解を通じてLDL-Cを調節することは既に知られており,PCSK
9を阻害することにより血中コレステロールを低下させること,抗体によ
ってPCSK9とLDLRとの結合を阻害することによる高脂血症の治療
方法も既に提案されていたから,本件各発明の特徴は,PCSK9-LD
LR結合中和抗体自体を見出したことではなく,本件参照抗体と競合する
10 という特性を見出した点にある。
しかしながら,本件各明細書では,本件参照抗体と競合するか否かの試
験を行う前に,PCSK9とLDLRとの結合を中和することができる抗
体をスクリーニングし,PCSK9に対する抗体の最も高い力価を有する
ハイブリドーマを同定しているから(段落【0171】
【0326】~【0
15 336】【0373】~【0376】【0489】~【0495】 ,PCS

K9との結合に関して,本件参照抗体と競合する抗体であれば,PCSK
9とLDLRの結合を中和することができるという技術思想を読み取る
ことはできない。
また,本件各明細書においては,本件発明1及び本件訂正発明1に含ま
20 れ得る抗体として,27E7抗体,1A12抗体,23B5抗体及びこれ
らの抗体の変異体の3グループの抗体が,本件発明2及び本件訂正発明2
に含まれ得る抗体として,31H4抗体,28D6抗体及びその変異体の
2グループ抗体が,それぞれ開示されているにすぎない(段落【0138】
【0171】【0489】~【0495】 。

25 抗体の技術分野においては,抗体のアミノ酸配列において,わずか一つ
のアミノ酸が置換,付加,欠失しただけでも,置換等の位置や種類によっ
ては,結合特異性をほとんど失うことは顕著な技術常識である。実験によ
り具体的に特定の種類のアミノ酸への置換が許容されることが示された
アミノ酸については,例外的に同種アミノ酸への置換が許容され得ること
を認識し得るにすぎず,その他のアミノ酸については,1アミノ酸が置換,
5 付加,欠失しただけでも,結合特異性をほとんど失う可能性があるから,
本件各明細書の実施例に記載された3グループないし2グループの抗体
のみによって,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体全てがPCSK9
-LDLR結合中和抗体であるとはおよそいえず,本件各明細書には,本
件参照抗体と競合する膨大な数の抗体がPCSK9-LDLR結合中和
10 抗体であることの根拠は全く示されていない。
そもそも,ある抗体が本件参照抗体と競合するという意味は,当該抗体
が,本件参照抗体と物理的な障害を生じさせる位置でPCSK9に結合す
ることを意味するが,当該位置がPCSK9とLDLRとの結合を阻害す
る位置であるとは限らないから,本件参照抗体と競合する抗体がPCSK
15 9-LDLR結合中和抗体であるとは限らない。A教授も供述書(乙4)
において,本件参照抗体と競合するPCSK9-LDLR結合中和抗体が
結合し得る領域を解析した上で,本件参照抗体と競合する抗体であれば,
PCSK9-LDLR結合中和抗体であるとはいえないと結論付けてい
る。
20 そうすると,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲は,本件
各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ
酸の1若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体
に限られるから,本件各発明の技術的範囲は,本件各明細書にアミノ酸配
列が記載された具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ
25 酸の1若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体
に限定される。具体的には,本件発明1-1の技術的範囲は,別紙表Aの
アミノ酸配列を有する抗体又はこの抗体に対して特定の位置のアミノ酸
の1若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体で
あって,構成要件1A及び1Cを充足する抗体であり,本件発明1-2の
技術的範囲は,本件発明1-1の技術的範囲に属する抗体を含む医薬組成
5 物であり,本件発明2-1の技術的範囲は,別紙表Bのアミノ酸配列を有
する抗体又はこの抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個
のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体であって,構成要件2
A及び2Cを充足する抗体であり,本件発明2-2の技術的範囲は,本件
発明2-1の技術的範囲に属する抗体を含む医薬組成物であると解され
10 る。また,本件訂正発明1の技術的範囲は本件発明1の技術的範囲を実質
的に変更するものではなく,本件訂正発明2の技術的範囲は本件発明2の
技術的範囲を実質的に変更するものではない。
そして,被告モノクローナル抗体のアミノ酸配列は,上記各抗体又は当
該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のアミノ酸が置
15 換されたアミノ酸配列とは全く異なるものであるから,被告モノクローナ
ル抗体及び被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属しない。
ウ これに対し,原告は,本件参照抗体はPCSK9とLDLRとの相互作
用を効果的に中和することができること,本件参照抗体は,LDLRのE
GFaドメインと直接相互作用するPCSK9上の小さいが重要な領域
20 に結合するため,本件参照抗体と競合する中和抗体は,本件参照抗体と同
じメカニズムでPCSK9とLDLRの結合を中和することができるか
ら,本件参照抗体と競合するという特性がPCSK9とLDLRとの相互
作用を中和するよい指標となると主張する。
しかしながら,本件参照抗体と競合する抗体のPCSK9上の結合位置
25 は具体的に明らかではない。かえって,A教授が供述書(乙4)で指摘す
るとおり,本件参照抗体と競合する抗体の結合位置は,PCSK9の表面
積の約3分の1を占め,LDLRとの結合を中和することのできない範囲
に及ぶこと,本件参照抗体と競合する抗体ではあるが,本件参照抗体と同
様に効果的な結合部位でPCSK9に結合しない抗体も容易に想定でき
ることからすれば,本件参照抗体と競合する中和抗体が,本件参照抗体と
5 同じメカニズムでPCSK9とLDLRの結合を中和することができる
とはいえない。
また,本件参照抗体と競合する抗体の結合親和性は明らかではなく,本
件参照抗体と競合するという特性と抗体の結合親和性には何らの関係性
もない。
10 したがって,本件参照抗体と競合するという特性がPCSK9とLDL
Rとの相互作用を中和するよい指標となるとはいえない。
争点 -ア(サポート要件違反)について
(被告の主張)
ア 前記 のとおり,本件各発明は,抗体のアミノ酸配列を全
15 く特定せず,本件参照抗体と競合する機能によって発明を特定する機能的
クレームであり,膨大な数の抗体が発明の範囲に含まれ得るが,本件各明
細書においては,本件各発明に文言上含まれ得る抗体として,わずか3グ
ループ又は2グループの抗体しか提供されておらず,本件参照抗体と競合
する膨大な数の抗体全てがPCSK9-LDLR結合中和抗体である根拠
20 は全く示されていない。抗体の技術分野においては,抗体のアミノ酸配列
において,わずか1つのアミノ酸が置換,付加,欠失しただけでも,置換
等の位置や種類によっては,結合特異性をほとんど失うことは顕著な技術
常識であるから,当業者が,本件各明細書の記載から,本件各明細書記載
の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは
25 数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体以外の,本件参照
抗体と競合する膨大な数の抗体全てがPCSK9-LDLR結合中和抗体
であると認識することはできない。
また, 本件参照抗体と競合する抗体がP
CSK9-LDLR結合中和抗体であるとは限らないから,当業者が,本
件各明細書の記載から,本件参照抗体と競合する抗体がPCSK9-LD
5 LR結合中和抗体であると認識することはできない。
さらに,本件各発明は,抗体のアミノ酸配列を全く特定せず,抗体の選
別,取得方法(スクリーニング方法)によって特定される発明であるとも
いえるところ,前記 のとおり,本件各明細書には,本件参
照抗体と競合するか否かの試験を行う前に,PCSK9とLDLRとの結
10 合を中和することができる抗体をスクリーニングし,PCSK9に対する
抗体の最も高い力価を有するハイブリドーマを同定しているから,当業者
は,本件各明細書の記載のスクリーニング方法から,本件参照抗体と競合
する抗体がPCSK9-LDLR結合中和抗体であると認識することはで
きない。
15 なお,本件各発明は,解決すべき課題である「PCSK9とLDLRタ
ンパク質の結合を中和することができる抗体」が,本件発明の特許請求の
範囲となっているが(構成要件1A,構成要件2A),発明における解決す
べき課題を発明特定事項とするだけで,直ちにサポート要件に適合するこ
とにならないから,解決すべき課題が特許請求の範囲に記載されているこ
20 とは,サポート要件を充足することを肯定する根拠とはならない。
イ 原告は,本件参照抗体と競合する中和抗体は同じメカニズムでPCSK
9とLDLRの結合を中和することができるから,本件参照抗体と競合す
るという特性がPCSK9とLDLRとの相互作用を中和するよい指標と
なると主張するが,本件各明細書には,本件参照抗体と競合する抗体が本
25 件参照抗体と同じメカニズムでPCSK9とLDLRの結合を中和するこ
とや,本件参照抗体と競合するという特性がPCSK9とLDLRとの相
互作用を中和するよい指標となることの根拠は何ら示されておらず,当業
者が本件各明細書から,本件参照抗体と競合するという特性がPCSK9
とLDLRとの相互作用を中和するよい指標となると認識することはでき
ない。
5 ウ したがって,当業者は本件各明細書の記載からPCSK9-LDLR結
合中和抗体の提供という本件各発明の課題を解決できると認識すること
はできず,本件各発明はサポート要件に違反する。
(原告の主張)
ア 前記 の原告の主張のとおり,本件各明細書には,21B12参照抗体
10 及び31H4参照抗体が,PCSK9とLDLRの相互作用を遮断するの
にも効果的な位置に結合する抗体であり,PCSK9に対して極めて強い
結合を示すこと,21B12参照抗体及び31H4参照抗体は上記特性の
ためにPCSK9とLDLRとの相互作用を効果的に中和することがで
きること,本件参照抗体と競合する中和抗体は同じメカニズムでPCSK
15 9とLDLRの結合を中和することができるから,本件参照抗体と競合す
るという特性がPCSK9とLDLRとの相互作用を中和するよい指標
となることが記載されている。なお,例外的に,本件参照抗体と競合する
が,PCSK9-LDLR結合中和抗体ではない抗体があったとしても,
PCSK9とLDLRとの結合を中和するか否かを確認することで容易
20 に取り除くことができ,本件各発明は,PCSK9-LDLR結合中和抗
体であることを構成要件とするものであるから(構成要件1A,2A),
上記のような例外的な抗体は本件各発明の技術的範囲に含まれない。
したがって,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9-LDL
R結合中和抗体の提供という本件各発明の課題を解決できると認識する
25 ことができるから,本件各発明はサポート要件に違反するとはいえない。
イ 被告は,本件各発明は,抗体のアミノ酸配列を全く特定せず,本件参照
抗体と競合する特性によって発明を特定する機能的クレームであり,膨大
な数の抗体が発明の範囲に含まれ得るが,抗体は1アミノ酸が置換,付加,
欠失しただけでも,置換等の位置や種類によっては,結合特異性をほとん
ど失う可能性があり,本件参照抗体と競合することという抗体が有すべき
5 機能が特定されたからといって,当該機能を有する抗体の構造を当業者が
理解することはできないなどと主張する。
しかしながら,当業者は,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体のア
ミノ酸配列を知らなくても,本件各明細書記載のスクリーニング方法によ
って,本件参照抗体と競合し,PCSK9とLDLRの結合を中和する特
10 性を有する抗体を特定することができるから,抗体を作製し,特性を特定
する前に,アミノ酸配列を把握することは必要ではなく,アミノ酸配列が
特定されていないからといってサポート要件に違反するとはいえない。
争点 -イ(実施可能要件違反)について
(被告の主張)
15 前記 の被告の主張のとおり,本件各発明は,抗体のアミノ酸配列を全く
特定せず,本件参照抗体と競合する機能によって発明を特定する機能的クレ
ームであり,膨大な数の抗体が発明の範囲に含まれ得る。抗体は1アミノ酸
が置換,付加,欠失しただけでも,置換等の位置や種類によっては,結合特
異性をほとんど失う可能性があることは顕著な技術常識であるから,本件参
20 照抗体と競合することという抗体が有すべき機能が特定されたからといって,
当該機能を有する抗体の構造を当業者が理解することはできず,当業者は,
本件各明細書の実施例で開示された抗体以外の,構造が特定されていない本
件発明に含まれる,ありとあらゆる抗体を取得するには,無数の抗体を製造
し続け,各試験を行い続ける必要がある。
25 本件各発明は物の発明であり,特許請求の範囲全体に含まれる個々の抗体
について,実施可能要件を充足する必要があるが,上記のとおり,本件各明
細書で開示されている具体的な抗体以外の,文言上は本件各発明の範囲に含
まれる膨大な抗体全体を得るためには,本件各明細書に記載された作業を遙
かに上回る,莫大な試行錯誤が必要となり,実施可能要件に違反する。
また,医薬等の物の発明が,スクリーニング方法によって特定される場合,
5 当業者がそのような医薬等を製造するためには,明細書の記載から有効成分
たる化合物が何であるかを理解・把握する必要があり,その際は,有効成分
たる化合物を化学構造の観点から化合物自体として把握する必要があるとこ
ろ,医薬等をスクリーニング方法で特定したところで,ある化学構造の化合
物を含む組成物が当該発明に該当するかどうかを認識・判断することはでき
10 ないから,スクリーニング方法によって特定される物の発明が実施可能要件
を満たすことはない。
(原告の主張)
前記 の原告の主張のとおり,当業者は,本件各発明の技術的範囲に含ま
れる抗体のアミノ酸配列を知らなくても,本件各明細書記載のスクリーニン
15 グ方法によって,本件参照抗体と競合し,PCSK9とLDLRの結合を中
和する特性を有する抗体を作製することができる。被告が主張するように,
本件各発明を実施するために技術的範囲に含まれるあらゆる抗体のアミノ
酸配列を把握する必要はなく,本件各発明の範囲に含まれる抗体を得るため
に莫大な試行錯誤が要求されることはない。したがって,本件各発明は実施
20 可能要件に違反しない。
争点 -ウ(乙1文献記載の発明に基づく進歩性欠如)について
(被告の主張)
ア 乙1文献は,PCSK9がLDLRに対して細胞外で作用し,血液中の
PCSK9が細胞表面のLDLRを減少させ,血中コレステロールの濃度
25 を上昇させること,PCSK9とLDLRタンパク質との相互作用をブロ
ックする抗体を用いて,PCSK9の活性を中和することが高コレステロ
ール血症の治療のために有用であり得ることが記載されており,乙1文献
によって,当業者は,PCSK9とLDLRとの結合を阻害することで,
コレステロール濃度の上昇が抑制できることを当然に理解することができ,
PCSK9-LDLR結合中和抗体を取得し,その有用性を試験すること
5 を明示的に動機付けられている。この点に関し,原告は,乙1文献には,
PCSK9の作用部位が細胞内で機能するのか,細胞外で機能するのか記
載されておらず,また,PCSK9-LDLR結合中和抗体は取得されて
いないと主張する。しかしながら,原告は乙1文献の記載を恣意的に部分
的に引用しており,乙1文献は,PCSK9のLDLRに対する作用機序
10 として,PCSK9がLDLRに対して細胞外で作用することが明示され
ており,PCSK9-LDLR結合中和抗体が実際には取得されていない
としても,高コレステロール血症の治療のためのPCSK9-LDLR結
合中和抗体という技術思想自体は明示されている。したがって,乙1文献
は,当業者に対してPCSK9-LDLR結合中和抗体の開発を明示的に
15 動機付けているといえる。
イ そこで,当業者が乙1文献から取得することができる抗体と本件各発明
を対比すると,PCSK9-LDLR結合中和抗体である(構成要件1A,
2A)という点で一致するが,乙1文献には,①当該抗体が,本件参照抗
体と競合すること(構成要件1B,1B’,2B,2B’ ,②単離されたモ

20 ノクローナル抗体であること(構成要件1C,2C)については明示的に
記載されていない。なお,本件発明1-2及び本件訂正発明1-2の構成
要件1D並びに本件発明2-2及び本件訂正発明2-2の構成要件2Dの
「医薬組成物」については,乙1文献には,PCSK9-LDLR結合中
和抗体の用途として,
「高コレステロール血症の治療」が明示的に記載され
25 ており,これは,当業者にとって,PCSK9-LDLR結合中和抗体を
「医薬組成物」
(構成要件1D,2D)として用いることを意味することは
明らかであるから,相違点ではない。
相違点①について,本件各明細書には,本件参照抗体と競合するか否か
を何ら指標とすることなく,PCSK9-LDLR結合中和抗体を複数作
製したところ,そのような抗体のほとんどが,本件参照抗体と競合するも
5 のであったが記載されている。また,A教授が供述書(乙4)で指摘する
とおり,PCSK9-LDLR結合中和抗体を取得した場合,その中には
本件参照抗体と競合する抗体が多く含まれており,少なくとも所定の割合
で含まれているから,当業者は,乙1文献及び周知技術に基づき,何らか
のPCSK9-LDLR結合中和抗体をいくつか作製するだけで,本件参
10 照抗体と競合する結合中和抗体を取得し得た。また,本件参照抗体と競合
する抗体がPCSK9-LDLR結合中和抗体であるとは限らないこと
から,本件参照抗体と競合するとの特性に技術的な意義は全くなく,本件
参照抗体と競合するとの発明特定事項(構成要件1B,1B’ 2B,
, 2B’)
は,本件各発明に対して進歩性を付与するものではない。
15 また,相違点②について,乙1文献によってPCSK9-LDLR結合
中和抗体の取得を動機付けられた当業者は,本件優先日当時の標準的な技
術であるモノクローナル抗体作製方法を用いて,例えば,抗原としてPC
SK9を用いて動物を免疫化することにより,PCSK9に特異的に結合
するモノクローナル抗体を特段の困難もなく取得することができる。そし
20 て,そのようにして種々のモノクローナル抗体を取得した上で,本件優先
日当時の標準的な技術であるスクリーニング方法を用いて,それら種々の
モノクローナル抗体が,PCSK9とLDLRとの結合を中和するか否か
を試験し,そのような結合中和抗体を選別することも可能である。したが
って,乙1文献及び周知技術に基づき,当業者は,何らかのPCSK9-
25 LDLR結合中和抗体を単離されたモノクローナル抗体として容易に取
得し得た。
ウ したがって,本件各発明はいずれも乙1文献及び周知技術に基づき進歩
性を欠く。
(原告の主張)
ア 乙1文献には,PCSK9とLDLRとの相互作用を中和する抗体の開
5 示すらないから,PCSK9-LDLR結合中和抗体である点(構成要件
1A,2A)も相違点となる。
PCSK9-LDLR結合中和抗体を得るためには,スクリーニングの
ための適切な特性を規定し,適切なスクリーニング方法を構築し,実施す
る必要があるが,乙1文献には,単にPCSK9タンパク質が記載されて
10 いるにとどまり,PCSK9-LDLR結合中和抗体を得るための特性や
スクリーニング方法等は一切記載されていないから,乙1文献には,PC
SK9-LDLR結合中和抗体は記載されているとはいえず,記載されて
いるに等しいともいえない。
現在では,高コレステロール血症の患者において,PCSK9の機能の
15 一部を細胞外で阻害することが有効であることが知られているが,本件優
先日当時は,PCSK9の機能や作用部位は明らかになっておらず,世界
中の企業や研究者は,PCSK9の機能や作用部位,抑制方法を探ってい
たが,PCSLK9-LDLR結合中和抗体の研究を進めている者は皆無
であった。乙1文献にも記載されているとおり,PCSK9の作用部位が
20 細胞内で機能するのか,細胞外で機能するのかも明らかではなかった。し
たがって,当業者が,乙1文献に基づき,高コレステロール血症の治療薬
を開発するために,PCSK9-LDLR中和抗体を開発するという動機
付けは存在しない。
また,本件各明細書に記載された抗体の作製方法や固相化法は原告が本
25 件発明のために開発した新技術であり,乙1文献や本件優先日前の抗体の
取得方法に関する周知技術を用いても,PCSK9-LDLR中和抗体を
得ることは,特に固相化等に技術的障壁となり,不可能であった。
さらに,乙1文献には,本件参照抗体と競合するという特性を得る記載
もなく,その示唆もないから,当時の技術水準に基づき取得可能なPCS
K9-LDLR結合中和抗体があるとしても,そのような抗体の中から,
5 所定の割合でしか含まれない本件参照抗体と競合する抗体を選択するこ
との動機付けはない。
被告は,A教授の供述書(乙4)に基づき,PCSK9-LDLR結合
中和抗体のほとんどが本件参照抗体と競合するから,PCSK9-LDL
R結合中和抗体を作製すれば,本件参照抗体と競合する抗体を得ることが
10 できると主張するが,A教授の分析が技術常識に反することは前記 の原
告の主張のとおりである。むしろ,本件各明細書には,PCSK9とLD
LRとの結合を90%以上中和できる抗体が100種類得られ,そのうち
の一部が本件参照抗体と競合することが示されており(段落【0332】
【0493】),PCSK9-LDLR結合中和抗体のほとんどが,本件
15 参照抗体と競合するとはいえない。
なお,被告は,本件参照抗体と競合するとの特性に技術的な意義はない
の原告の主張のとおり,本件参照抗体と競合す
るとの特性はPCSK9とLDLRとの相互作用を中和するよい指標と
なり,技術的意義を有する。
20 したがって,本件各発明が,乙1文献記載の発明及び周知技術に基づき
進歩性を欠くとはいえない。
争点 (被告製品についての生産の差止め及び被告モノクローナル抗体に
ついての生産,譲渡等の差止めの必要性)について
(原告の主張)
25 被告は,被告製品の輸入,販売,販売の申出を行っていることについては
認めるものの,被告製品の生産を行っていることを否認し,また,被告製品
の原薬である被告モノクローナル抗体の生産,輸入,販売,販売の申出をす
る予定は全くないと主張する。
しかしながら,仮に,現時点では被告が被告製品の生産を行っていないと
しても,被告は,その親会社等から原薬である被告モノクローナル抗体を輸
5 入し,これを容器に充填すれば,極めて容易に被告製品を生産することがで
きるから,被告が,今後,被告モノクローナル抗体の輸入及び被告製品の生
産を行うおそれはある。また,被告モノクローナル抗体は,被告モノクロー
ナル抗体産生細胞株をクローン培養しさえすれば極めて容易に生産できる
のであるから,被告が被告モノクローナル抗体を生産するおそれがあり,ま
10 た被告が被告製品を生産し,これを販売等するおそれがあることも明らかで
ある。
したがって,被告製品についての生産の差止め及び被告モノクローナル抗
体についての生産,譲渡等の差止めの必要性はある。
(被告の主張)
15 被告は,被告製品を生産しておらず,また,被告製品の原薬である被告モ
ノクローナル抗体を生産,輸入,販売,販売の申出等をする予定はないから,
被告製品についての生産の差止め及び被告モノクローナル抗体についての生
産,譲渡等の差止めの必要性はない。
第3 当裁判所の判断
20 1 本件各発明について
本件各明細書(本件明細書1(甲2)及び本件明細書2(甲4))の発明の
詳細な説明欄には,以下の記載がある。なお,本件特許1及び2はいずれも
平成20年8月22日を国際出願日(優先権主張国米国)とする特許出願(特
願2010-522084号)の分割出願に係る特許であり,以下の記載は,
25 本件明細書1及び2に共通する。
ア 発明の分野
「発明の分野
本発明は,プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(P
CSK9)に結合する抗原結合タンパク質並びに該抗原結合タンパク質を
使用及び作製する方法に関する。(段落【0002】
」 )
5 イ 背景技術
「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK
9)は,低密度リポタンパク質受容体(LDLR)タンパク質のレベルの
制御に関与するセリンプロテアーゼである(Horton et al.,
2007;Seidah and Prat, 2007)。インビトロ実
10 験は,HepG2細胞へのPCSK9の添加は細胞表面LDLRのレベル
を低下させることを示している(Benjannet et al. 2

004;Lagace et al. 2006;Maxwell
, et
al. 2005;Park
, et al. 2004)
, 。マウスを用い
た実験は,PCSK9タンパク質レベルを増加させることが肝臓中のLD
15 LRタンパク質のレベルを減少させる(Benjannet et a
l., 2004; Lagace et al., 2006; Max
well et al., 2005; Park et al., 20
04)が,PCSK9ノックアウトマウスは肝臓中のLDLRの増加した
レベルを有する(Rashid et al. 2005)
, ことを示した。
20 さらに,血漿LDLの増加又は減少したレベルの何れかをもたらす様々な
ヒトPCSK9変異が同定されている (Kotowski et a
l. 2006;Zhao
, et al. 2006)
, 。PCSK9は,
LDLRタンパク質と直接相互作用し,LDLRとともに細胞内に取り込
まれ,エンドソーム経路全体を通じてLDLRと同時に免疫蛍光を発する
25 (Lagace et al. 2006)ことが示されている。PCS

K9によるLDLRの分解は観察されておらず,細胞外LDLRタンパク
質レベルを低下させる機序は不明である。」
「PCSK9は,セリンプロテアーゼのスブチリシン(S8)ファミリ
ー中のプロホルモン-プロタンパク質コンベルターゼである(Seida
h et al., 2003)。ヒトは,S8AとS8Bサブファミリー
5 に分けることができる9つのプロホルモン-プロタンパク質コンベルタ
ーゼを有する(Rawlings et al, 2006) フューリン,

PC1/PC3,PC2,PACE4,PC4,PC5/PC6及びPC
7/PC8/LPC/SPC7は,サブファミリーS8Bに分類される。
マウスフューリン及びPC1由来の異なるドメインの結晶及びNMR構
10 造は,スブチリシン様プロドメイン及び触媒ドメイン並びに触媒ドメイン
のすぐC末端のPドメインを明らかにする(Henoch et al,
2003;Tangrea et al, 2002)。このサブファミリ
ー内のアミノ酸配列の類似性に基づいて,7つのメンバー全てが類似の構
造を有すると予想される(Henrich et al., 2005)。
15 SKI-1/S1P及びPCSK9は,サブファミリーS8Aに分類され
る。これらのタンパク質との配列比較は,スブチリシン様プロドメイン及
び触媒ドメインの存在も示唆する(Sakai et al., 199
8; Seidah et al., 2003; Seidah et
al, 1999)。これらのタンパク質では,触媒ドメインに対してC末
20 端のアミノ酸配列は,より可変的であり,Pドメインの存在を示唆しない。」
(段落【0003】【0004】)
ウ 発明を実施するための形態
「PCSK9に結合する抗原結合タンパク質(抗体及びその機能的結合
断片など)が,本明細書に開示されている。幾つかの実施形態において,
25 抗原結合タンパク質はPCSK9に結合し,様々な様式でPCSK9が機
能を発揮するのを妨げる。幾つかの実施形態において,抗原結合タンパク
質は,PCSK9が他の物質と相互作用する能力を遮断し,又は低下させ
る。例えば,幾つかの実施形態において,抗原結合タンパク質は,PCS
K9がLDLRに結合する可能性を妨げ,又は低下させる様式で,PCS
K9に結合する。他の実施形態において,抗原結合タンパク質はPCSK
5 9に結合するが,PCSOがLDLRと相互作用する能力を遮断しない。
幾つかの実施形態において,抗原結合タンパク質は,ヒトモノクローナル
抗体である。」
「当業者によって理解されるように,本発明の開示に照らせば,PCS
K9とLDLRの間の相互作用を変化させることは,LDLへの結合に利
10 用可能なLDLRの量を増加させ,続いて,これは,対象中の血清LDL
の量を減少させ,対象の血清コレステロールレベルの低下をもたらす。従
って,PCSK9に対する抗原結合タンパク質は,上昇した血清コレステ
ロールレベルを有する対象,上昇した血清コレステロールレベルのリスク
を有する対象又は血清コレステロールレベルの低下が有益であり得る対
15 象を治療するための様々な方法及び組成物において使用することができ
る。従って,血清コレステロールの増加を低下させ,維持し,又は妨げる
ための様々な方法及び技術も,本明細書中に記載されている。幾つかの実
施形態において,抗原結合タンパク質はPCSK9とLDLRの間の結合
を可能とするが,抗原結合タンパク質はLDLRに対するPCSK9の有
20 害な活性を妨げ,又は低下させる。幾つかの実施形態において,抗原結合
タンパク質は,LDLRへのPCSK9の結合を妨げ,又は低下させる。」
(段落【0065】【0066】)
「「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型」又は「P
CSK9」という用語は,配列番号1及び/又は3に記載されているポリ
25 ペプチド又はその断片,並びに対立遺伝子バリアント,スプライスバリア
ント,誘導体バリアント,置換バリアント,欠失バリアント及び/又は挿
入バリアント(N末端メチオニンの付加を含む。,融合ポリペプチド及び

種間相同体を含む(但し,これらに限定されない。)関連ポリペプチドを表
す。ある種の実施形態において,PCSK9ポリペプチドは,リーダー配
列残基,標的化残基,アミノ末端メチオニン残基,リジン残基,タグ残基
5 及び/又は融合タンパク質残基などの(但し,これらに限定されない。)末
端残基を含む。
「PCSK9」は,FH3,NARC1,HCHOLA3,
プロタンパク質コンベルターゼスブチリシン/ケクシン9型及び神経ア
ポトーシス制御コンベルターゼ1とも称されている。PCSK9遺伝子は,
分泌性スブチラーゼファミリーのプロテイナーゼKサブファミリーに属
10 するプロタンパク質コンベルターゼタンパク質をコードする。「PCSK
9」という用語は,プロタンパク質及びプロタンパク質の自己触媒後に生
成される産物の両方を表す。
(例えば,切断されたPCSK9に選択的に結
合する抗原結合タンパク質に対して)自己触媒された産物のみが引用され
ている場合には,タンパク質は,
「成熟」「切断された」「プロセッシング
, ,
15 された」又は「活性な」PCSK9と称され得る。非活性形態のみが引用
されている場合には,タンパク質は,PCSK9の「非活性」 「プロ型」

又は「プロセッシングを受けていない」形態と称され得る。本明細書にお
いて使用されるPCSK9という用語は,変異D374Y,S127R及
びF216Lなどの天然に存在する対立遺伝子も含む。PCSK9という
20 用語は,グリコシル化,PEG化されたPCSK9配列,そのシグナル配
列が切断されたPCSK9配列,触媒ドメインからそのプロドメインから
切断されているが,触媒ドメインから分離されていないPCSK9配列
(例えば,図1A及び1B)など,PCSK9アミノ酸配列の翻訳後修飾
を取り込んだPCSK9分子も包含する。」
25 「「PCSK9活性」という用語は,PCSK9のあらゆる生物学的効果
を含む。ある種の実施形態において,PCSK9活性は,基質若しくは受
容体と相互作用し,又は基質若しくは受容体に結合するPCSK9の能力
を含む。幾つかの実施形態において,PCSK9活性は,LDL受容体(L
DLR)に結合するPCSK9の能力によって表される。幾つかの実施形
態において,PCSK9は,LDLRを含む反応に結合し,触媒する。幾
5 つかの実施形態において,PCSK9活性は,LDLRの利用可能性を変
化させる(例えば,低下させる)PCSK9の能力を含む。幾つかの実施
形態において,PCSK9活性は,対象中のLDLの量を増加させるPC
SK9の能力を含む。幾つかの実施形態において,PCSK9活性は,L
DLへの結合に利用可能なLDLRの量を減少させるPCSK9の能力
10 を含む。幾つかの実施形態において,
「PCSK9活性」は,PCSK9シ
グナル伝達から生じるあらゆる生物活性を含む。典型的な活性には,LD
LRへのPCSK9の結合,LDLR又は他のタンパク質を切断するPC
SK9酵素活性,PCSK9作用を促進するLDLR以外のタンパク質へ
のPCSK9の結合,APOB分泌を変化させるPCSK9(・・・),肝
15 臓の再生及び神経細胞の分化におけるPCSK9の役割・・・が含まれる
が,これらに限定されない。」
「本明細書において使用される「高コレステロール血症」という用語は,
コレステロールレベルが所望のレベルを上回って上昇している症状を表す。
幾つかの実施形態において,これは,血清コレステロールレベルが上昇し
20 ていることを表す。幾つかの実施形態において,所望のレベルは,当業者
に公知である(及び,本明細書に記載され,又は引用されている)様々な
「リスク因子」を考慮に入れる。(段落【0070】~【0072】
」 )
「本明細書において使用される「抗原結合タンパク質」「ABP」
( )は,
特定された標的抗原を結合するあらゆるタンパク質を意味する。本願にお
25 いて,特定された標的抗原は,PCSK9タンパク質又はその断片である。
「抗原結合タンパク質」には,抗体及びその結合部分(免疫学的に機能的
な断片など)が含まれるが,これらに限定されない。ペプチボディは,抗
原結合タンパク質の別の例である。本明細書において使用される抗体又は
免疫グロブリン鎖(重鎖又は軽鎖)抗原結合タンパク質の「免疫学的に機
能的な断片」(又は単に「断片」)という用語は,完全長の鎖中に存在する
5 アミノ酸の少なくとも幾つかを欠如するが,抗原になお特異的に結合する
ことができる抗体の部分(当該部分がどのようにして取得され,又は合成
されたかを問わない。 を含む抗原結合タンパク質の種である。
) このような
断片は,標的抗原に結合し,あるエピトープへの結合に関して,完全な状
態の抗体を含む他の抗原結合タンパク質と競合し得るという点で生物学的
10 に活性を有する。幾つかの実施形態において,断片は,中和断片である。
幾つかの実施形態において,断片は,LDLRとPCSK9の間の相互作
用の可能性を遮断し,又は低下させることができる。一態様において,こ
のような断片は,完全長の軽鎖又は重鎖中に存在する少なくとも1つのC
DRを保持し,幾つかの実施形態において,単一の重鎖及び/又は軽鎖又
15 はその一部を含む。これらの生物学的に活性な断片は,組換えDNA技術
によって作製することが可能であり,又は完全な状態の抗体を含む抗原結
合タンパク質の酵素的若しくは化学的切断によって作製することが可能で
ある。免疫学的に機能的な免疫グロブリン断片には,Fab,ダイアボデ
ィ(同一鎖上の2つのドメイン間での対形成を可能にするには短すぎる短
20 いペプチドリンカーを介して接続された,軽鎖可変ドメインと同一のポリ
ペプチド上の重鎖可変ドメイン),Fab’,F(ab’ 2 ,Fv,ドメイ

ン抗体及び一本鎖抗体が含まれるが,これらに限定されず,ヒト,マウス,
ラット,ラクダ科の動物又はウサギなどの(但し,これらに限定されない)
あらゆる哺乳動物源に由来し得る。本明細書中に開示されている抗原結合
25 タンパク質の機能的部分,例えば,1つ又はそれ以上のCDRは,体内の
特定の標的に誘導され,二機能性治療特性を有し,又は延長された血清半
減期を有する治療剤を作製するために,第二のタンパク質又は小分子に共
有結合され得る。当業者によって理解されるように,抗原結合タンパク質
は,非タンパク質成分を含むことができる。本開示の幾つかの節において,
ABPの例は,「数字/文字/数字」(例えば,25A7)の形式で本明細
5 書中に記載されている。これらの場合,正確な名前は特異的抗体を表す。
すなわち,25A7という名前のABPは,
(本明細書において,同じであ
ることが明示的に教示されていなければ(例えば,25A7及び25A7.
3),
)必ずしも25A7.1という名前の抗体と同じであるとは限らない。
当業者によって理解されるように,幾つかの実施形態において,LDLR
10 は抗原結合タンパク質ではない。幾つかの実施形態において,LDLRの
結合サブセクションは,抗原結合タンパク質ではない(例えば,EGFa)。
幾つかの実施形態において,PCSK9がそれを通じてインビボでシグナ
ル伝達する他の分子は,抗原結合タンパク質でない。このような実施形態
は,そのようなものとして明示的に特定される。(段落【0109】
」 )
15 「中和抗原結合タンパク質」又は「中和抗体」という用語は,リガンド
に結合し,そのリガンドの生物学的効果を妨げ,又は低下させる,それぞ
れ,抗原結合タンパク質又は抗体を表す。これは,例えば,リガンド上の
結合部位を直接封鎖することによって,又はリガンドに結合し,間接的な
手段(リガンド中の構造的又はエネルギー的変化など)を通じて,リガン
20 ドの結合能を変化させることによって行うことができる。幾つかの実施形
態において,この用語は,それが結合しているタンパク質が生物学的機能
を発揮するのを妨げる抗原結合タンパク質も表し得る。抗原結合タンパク
質(例えば,抗体又は免疫学的に機能的なその断片)の結合及び/又は特
異性を評価する際に,抗体の過剰が(インビトロ競合的結合アッセイで使
25 用された場合に)少なくとも約1から20,20から30%,30から4
0%,40から50%,50から60%,60から70%,70から80%,
80から85%,85から90%,90から95%,95から97%,9
7から98%,98から99%又はそれ以上,リガンドに結合された結合
対の量を低下させるときに,抗体又は断片はその結合対へのリガンドの結
合を大幅に阻害することができる。幾つかの実施形態において,PCSK
5 9抗原結合タンパク質の場合には,このような中和分子は,PCSK9が
LDLRを結合する能力を低減させることができる。幾つかの実施形態に
おいて,競合アッセイを介して,中和能力を性質決定し,及び/又は記載
する。幾つかの実施形態において,中和能力は,IC 50又はEC50値の観
点で記載される。幾つかの実施形態において,ABP27B2,13H1,
10 13B5及び3C4は,非中和ABPであり,3B6,9C9及び31A
4は弱い中和物質であり,表2中の残りのABPは強い中和物質である。
幾つかの実施形態において,抗体又は抗原結合タンパク質は,PCSK9
へ結合し,PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる(又はPCSK9
がLDLRに結合する能力を低下させる)ことによって中和する。幾つか
15 の実施形態において,抗体又はABPは,PCSK9に結合し,PCSK
9をLDLRへ結合させながら,LDLRのPCSK9媒介性分解を妨げ,
又は低下させることによって中和する。従って,幾つかの実施形態におい
て,中和ABP又は抗体は,PCSK9/LDLR結合をなお可能にしな
がら,PCSK9が関与するLDLRのその後の分解を妨げる(又は低下
20 させる)」
。(段落【0138】)
「同じエピトープに対して競合する抗原結合タンパク質(例えば,中和
抗原結合タンパク質又は中和抗体)という文脈において使用される場合の
「競合する」という用語は,検査されている抗原結合タンパク質(例えば,
抗体又は免疫学的に機能的なその断片)が共通の抗原(例えば,PCSK
25 9又はその断片)への参照抗原結合タンパク質(例えば,リガンド又は参
照抗体)の特異的結合を妨げ,又は阻害する(例えば,低下させる)アッ
セイによって測定された抗原結合タンパク質間の競合を意味する。ある抗
原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどうかを決定
するために,競合的結合アッセイの多数の種類,例えば,固相直接又は間
接ラジオイムノアッセイ(RIA) 固相直接又は間接酵素イムノアッセイ

5 (EIA),サンドイッチ競合アッセイ(例えば,Stahli et a
l, 1983, Methods in Enzymology 9:
242-253参照)
;固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば,Ki
rkland et al, 1986, J.Immunol.137:
3614-3619参照) 固相直接標識アッセイ,
, 固相直接標識サンドイ
10 ッチアッセイ(例えば,Harlow and Lane, 1988,
Antibodies, A Laboratory Manual,
Cold Spring Harbor Press);I-125標識
を用いた固相直接標識RIA(例えば,Morel et al, 19
88,Molec.Immunol.25:7-15)
;固相直接ビオチン
15 -アビジンEIA(例えば,Cheung, et al. 1990,

Virology 176:546-552参照);及び直接標識RIA
(Moldenhauer et al. 1990, Scand.
, J.
Immunol.32:77-82参照)を使用することができる。典型
的には,このようなアッセイは,これらの何れかを有する固体表面又はセ
20 ルに結合された精製抗原,標識されていない検査抗原結合タンパク質及び
標識された基準抗原結合タンパク質を使用することを含む。競合的阻害は,
検査抗原結合タンパク質の存在下で,固体表面又はセルに結合された標識
の量を測定することによって測定される。通常,検査抗原結合タンパク質
は過剰に存在する。競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質
25 (競合抗原結合タンパク質)には,基準抗原結合タンパク質と同じエピト
ープに結合する抗原結合タンパク質及び立体的妨害が生じるのに,基準抗
原結合タンパク質によって結合されるエピトープに十分に近接した隣接
エピトープに結合する抗原結合タンパク質が含まれる。競合結合を測定す
るための方法に関するさらなる詳細は,本明細書中の実施例に提供されて
いる。通常,競合抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合には,少なく
5 とも40から45%,45から50%,50から55%,55から60%,
60から65%,65から70%,70から75%又は75%又はそれ以
上,共通の抗原への基準抗原結合タンパク質の特異的結合を阻害する(例
えば,低下させる)。幾つかの事例において,少なくとも80から85%,
85から90%,90から95%,95から97%又は97%又はそれ以
10 上,結合が阻害される。(段落【0140】
」 )
「「エピトープ」という用語は,抗体又はT細胞受容体などの抗原結合タ
ンパク質によって結合され得るあらゆる決定基を含む。エピトープは,そ
の抗原を標的とする抗原結合タンパク質によって結合される抗原の領域
であり,抗原がタンパク質である場合,抗原結合タンパク質に直接接触す
15 る特定のアミノ酸を含む。最も頻繁には,エピトープはタンパク質上に存
在するが,幾つかの事例では,核酸などの分子の他の種類上に存在するこ
とができる。エピトープ決定基は,アミノ酸,糖側鎖,ホスホリル又はス
ルホニル基などの分子の化学的に活性な表面基を含むことができ,特異的
な三次元構造の特徴及び/又は特異的な電荷的特長を有することができ
20 る。一般に,特定の標的抗原に対して特異的な抗体は,タンパク質及び/
又は高分子の複雑な混合物中において,標的抗原上のエピトープを優先的
に認識する。(段落【0142】
」 )
「ヒトPCSK9を含むPCSK9を結合する抗原結合タンパク質(A
BP)は,本明細書中に記載されている。幾つかの実施形態において,提
25 供される抗原結合タンパク質は,本明細書に記載されているように,1つ
又はそれ以上の相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドである。同
じ抗原結合タンパク質において,CDRは,CDRの適切な抗原結合特性
が達成されるようにCDRを方向付ける「フレームワーク」領域中に包埋
されている。幾つかの実施形態において,本明細書中に提供されている抗
原結合タンパク質は,PCSK9とLDLR間の相互作用を妨害し,遮断
5 し,低下させ,又は調節することができる。このような抗原結合タンパク
質は,
「中和」と表される。幾つかの実施形態において,抗原結合タンパク
質が中和性であり,PCSK9に結合されている場合でさえ,PCSK9
とLDLR間の結合はなお起こり得る。例えば,幾つかの実施形態におい
て,ABPは,PCSK9上のLDLR結合部位を封鎖することなく,L
10 DLRに対するPCSK9の悪影響を妨げ,又は低下させる。従って,幾
つかの実施形態において,ABPは,PCSK9とLDLR間の結合相互
作用を抑制する必要なしに,LDLRの分解をもたらすPCSK9の能力
を調節し,又は変化させる。このようなABPは,
「非競合的に中和する」
ABPと特に記載することができる。幾つかの実施形態において,中和A
15 BPは,PCSK9がLDLRに結合するのを妨げる位置及び/又は様式
で,PCSK9に結合する。このようなABPは,
「競合的に中和する」A
BPと特に記載することができる。上記中和物質は何れも,対象中に存在
している遊離のLDLRのより大きな量をもたらすことができ,これによ
り,LDLに結合しているより多くのLDLRがもたらされる(これによ
20 り,対象中のLDLの量を低下させる。。続いて,これは,対象中に存在

する血清コレステロールの量の低下をもたらす。(段落【0155】
」 )
「幾つかの実施形態において,抗原結合タンパク質は,配列番号1又は
配列番号303のアミノ酸:162,164,167,207及び/又は
208の少なくとも1つを含有する領域に結合する。幾つかの実施形態に
25 おいて,同定された残基の2以上(例えば,2,3,4又は5)がABP
によって結合される領域の一部である。幾つかの実施形態において,AB
PはABP21B12と競合する。」
「幾つかの実施形態において,抗原結合タンパク質は,配列番号1又は
配列番号303のアミノ酸185の少なくとも1つを含有する領域に結
合する。幾つかの実施形態において,ABPはABP31H4と競合する。」
5 (段落【0261】【0262】)
「競合する抗原結合タンパク質
別の態様において,PCSK9への特異的結合に関して,本明細書中に
記載されているエピトープに結合する例示された抗体又は機能的断片の
1つと競合する抗原結合タンパク質が提供される。このような抗原結合タ
10 ンパク質は,本明細書中に例示されている抗原結合タンパク質の1つと同
じエピトープ又は重複するエピトープにも結合し得る。例示された抗原結
合タンパク質と同じエピトープと競合し,又は結合する抗原結合タンパク
質及び断片は,類似の機能的特性を示すと予想される。例示された抗原結
合タンパク質及び断片は,重鎖及び軽鎖可変領域ドメイン並びに表2及び
15 /又は図2から3及び15に含まれるCDRを有するものなど,上述され
ているものを含む。従って,具体例として,提供される抗原結合タンパク
質には,
(a)図2から3及び15に列記されている抗体に対して列記されている
CDRの6つ全て;
20 (b)表2中に列記されている抗体に対して列記されているVH及びVL;
又は
(c)表2に列記されている抗体に対して明記されている2つの軽鎖及び
2つの重鎖
を有する抗体又は抗原結合タンパク質と競合するものが含まれる。」
25 「ある種の治療的用途及び医薬組成物
ある種の事例において,PCSK9活性は,多数のヒトの病状と相関す
る。例えば,ある種の事例において,高すぎる又は低すぎるPCSK9活
性は,高コレステロール血症などのある種の症状と相関する。従って,あ
る種の事例において,PCSK9活性を調節することは治療的に有用であ
り得る。ある種の実施形態において,PCSK9に対する中和的抗原結合
5 タンパク質は,少なくとも1つのPCSK9活性(例えば,LDLRへの
結合)を調節するために使用される。このような方法は,上昇した血清コ
レステロールレベルと関連する,又は上昇したコレステロールレベルが関
連する疾患を治療し,及び/又は予防し,及び/又は疾患のリスクを低減
することができる。」
10 「当業者によって理解されるように,本開示に照らして,変動したコレ
ステロール,LDL又はLDLRレベルと関連し,変動したコレステロー
ル,LDL又はLDLRレベルを伴い,又は変動したコレステロール,L
DL又はLDLRレベルによって影響を受け得る疾患は,抗原結合タンパ
ク質の様々な実施形態によって対処することができる。幾つかの実施形態
15 において,「血清コレステロール関連疾患」を含む)
( 「コレステロール関連
疾患」には,例えば,上昇した総血清コレステロール,上昇したLDL,
上昇したトリグリセリド,上昇したVLDL及び/又は低HDLを呈し得
る以下のもの:高コレステロール血症,心臓病,メタボリックシンドロー
ム,糖尿病,冠状動脈性心臓病,卒中,心血管疾患,アルツハイマー病及
20 び脂質異常症全般の何れか1つ又はそれ以上が含まれる。
・・・」
(段落【0
269】~【0271】)
「幾つかの実施形態において,PCSK9に対する抗原結合タンパク質
は,異常に高いレベル又は正常なレベルからPCSK9活性の量を減少さ
せるために使用される。幾つかの実施形態において,PCSK9に対する
25 抗原結合タンパク質は,高コレステロール血症を治療若しくは予防するた
めに,並びに/又は高コレステロール血症及び/若しくは他のコレステロ
ール関連疾患(本明細書中に記載されているものなど)に対する医薬の調
製において使用される。ある種の実施形態において,PCSK9に対する
抗原結合タンパク質は,PCSK9活性が正常である高コレステロール血
症などの症状を治療又は予防するために使用される。このような症状にお
5 いて,例えば,正常を下回るPCSK9活性の低下は,治療効果を提供す
ることができる。(段落【0276】
」 )
前記 の本件各明細書の記載によれば,21B12参照抗体及び31H4
参照抗体はPCSK9-LDLR結合中和抗体であるところ,本件各発明は,
本件参照抗体がPCSK9に結合するエピトープと同じエピトープに結合す
10 る抗体,又は,本件参照抗体とPCSK9との結合を立体的に妨害するよう
な上記エピトープに隣接するエピトープに結合する抗体である,21B12
参照抗体(本件発明1)又は31H4参照抗体(本件発明2)と競合する単
離されたモノクローナル抗体又はそれを含む医薬組成物が,PCSK9とL
DLRの結合を中和してLDLRの量を増加させることによって,対象中の
15 血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,また,この効果により,
高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患
を治療又は予防することを目的とするものであると認められる。

属するか)について
20 被告は,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲は,本件各明細
書にアミノ酸配列が記載された具体的な抗体(本件発明1及び本件訂正発明
1について別紙表Aの各抗体,本件発明2及び本件訂正発明2について別紙
表Bの各抗体)又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数
個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限られると主張する。
25 そして,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体又は医薬組成物は,上記抗
体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のアミノ酸
が置換されたアミノ酸配列を有する抗体又はそれを含む医薬組成物に限定さ
れるところ,被告モノクローナル抗体のアミノ酸配列は,上記各抗体又は当
該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のアミノ酸が置換さ
れたアミノ酸配列とは全く異なるものであるから,被告モノクローナル抗体
5 及び被告製品はいずれも本件各発明の技術的範囲に属しないと主張する。
本件各明細書には,21B12参照抗体や31H4参照抗体及びこれらの
参照抗体と競合するPCSK9-LDLR結合中和抗体並びにその取得方法
等について,以下の記載がある。
ア 21B12参照抗体及び31H4参照抗体は,PCSK9-LDLR結
10 合中和抗体であり,細胞へのLDLRの取り込みを遮断する(段落【01
38】【0336】【0377】~【0381】 。

イ 本件参照抗体と競合する単離されたモノクローナル抗体は,PCSK9
がLDLRに結合するのを妨げる位置,様式でPCSK9に結合し,PC
SK9とLDLR間の相互作用を妨害,遮断,低下又は調節する,PCS
15 K9-LDLR結合中和抗体である(段落【0138】【0140】【01
55】【0171】【0261】【0262】【0269】。

ウ PCSK9-LDLR結合中和抗体を得るために,ヒト免疫グロブリン
遺伝子を含有する2つのグループのマウスを使用した。両グループのマウ
スに本件各明細書の表3記載の用量,方法でヒトPCSK9を合計11回
20 注射し,免疫化した。免疫化したマウスのうち,PCSK9に対して特異
的であるように見受けられる10匹のマウスを選択した。それらのマウス
から得た細胞を用い,PCSK9に対する抗原結合タンパク質を産生する
ハイブリドーマを作製し,一次スクリーニングによって合計3104の抗
原特異的ハイブリドーマを得,そのうち3000のハイブリドーマに対し
25 て更にマウス交叉反応スクリーニング,大規模受容体リガンド遮断スクリ
ーニング等の複数のスクリーニングを行い,PCSK9とLDLRウェル
間での相互作用を遮断する384の抗体が同定された。そのうち100の
抗体は,PCSK9とLDLRの結合相互作用を90%超阻害した。
(段落
【0312】~【0332】。

エ 前記ウで同定された384の抗体に対して受容体リガンド結合アッセイ
5 を行い,PCSK9変異体酵素とLDLRの間の相互作用を90%超遮断
する85の抗体が同定された(段落【0333】【0334】。

オ 前記ウの一時スクリーニング等によって得られた3000のハイブリド
ーマのうち,野生型PCSK9に結合するが,D374Y変異体に結合し
ないことが示された86の抗体に対して受容体リガンド結合アッセイを行
10 った(段落【0335】。

カ 上記のスクリーニング等によって,PCSK9に対する抗体の最も高い
力価を有するハイブリドーマが同定され,表2に記載される32の抗体が
得られた。32の抗体のうち,27B2,13H1,13B5及び3C4
は非PCSK9-LDLR結合中和抗体,3B6,9C9及び31A4は
15 弱いPCSK9-LDLR結合中和抗体,その他(21B12参照抗体及
び31H4参照抗体を含む。 は,
) 強いPCSK9-LDLR結合中和抗体
である(段落【0138】
【0336】 。この32の抗体に対するエピトー

プビニングの結果によれば,21B12参照抗体と競合するが,31H4
参照抗体と競合しない抗体(ビン1)が19個,21B12参照抗体と3
20 1H4参照抗体のいずれとも抗体する抗体(ビン2)が1個,31H4参
照抗体と競合するが,21B12参照抗体と競合しない抗体(ビン3)が
7個であり,本件参照抗体のいずれとも競合しない抗体(ビン4)が1個
である(段落【0373】【0374】【0494】。そして,上記ビン1

の抗体19個とビン3の抗体7個は,いずれもPCSK9-LDLR結合
25 中和抗体である。
キ また,上記カとは別の組(合計39抗体)に対するエピトープビニング
の結果によれば,21B12参照抗体と競合するが,31H4参照抗体と
競合しない抗体(ビン1)が19個,21B12参照抗体と31H4参照
抗体のいずれとも抗体する抗体(ビン2)が3個,31H4参照抗体と競
合するが,21B12参照抗体と競合しない抗体(ビン3)が10個であ
5 り,本件参照抗体のいずれとも競合しない抗体(ビン4)が2個である。
そして,ビン1に属する抗体のうち16個,ビン2に属する抗体のうち2
個及びビン3に属する抗体のうち7個は,表2に記載された抗体であり,
これら16個と2個と7個の抗体のうち,27B2抗体を除く少なくとも
22個はPCSK9-LDLR結合中和抗体であることが確認されている
10 (段落【0138】【0489】~【0495】。

本件参照抗体と競合する,PCSK
9-LDLR結合中和抗体を同定,取得するための,免疫プログラムの手順
及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製方法,ハイブリドーマの作製
方法,スクリーニング方法及びエピトープビニングアッセイの方法等が記載
15 されている。そして,当該方法によれば,本件各明細書で具体的に開示され
た以外の本件参照抗体と競合する抗体も得ることができるといえる。
そうすると,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲が,本件各
明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1
若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限られる
20 とはいえない。したがって,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範
囲が本権各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定のアミノ酸
の1もしくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限ら
れることを前提として,本件各発明の技術的範囲が本件各明細書記載の具体
的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のア
25 ミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限定されるとの被告の主張
は採用することができない。
また,被告は,①本件各明細書では,本件参照抗体と競合する抗体であれ
ば,PCSK9とLDLRの結合を中和することができるという技術思想を
読み取ることはできない,②本件各明細書の実施例に記載された3グループ
ないし2グループの抗体のみによって,本件参照抗体と競合する膨大な数の
5 抗体全てがPCSK9-LDLR結合中和抗体であるとはいえず,本件各明
細書には,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体がPCSK9-LDLR
結合中和抗体であることの根拠は全く示されていないと主張する。
しかしながら,前記 のとおり,本件各明細書には,本件参照抗体がP
CSK9-LDLR結合中和抗体であること,本件参照抗体がPCSK9に
10 結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体,又は,本件参照抗体
とPCSK9との結合を立体的に妨害するような上記エピトープに隣接する
エピトープに結合する抗体である,本件参照抗体と競合する抗体は,本件参
照抗体と類似した機能的特性を有すると予想されることが記載されている。
そして,前記 のとおりのスクリーニング等によって得られた本件各明細書
15 の表2記載の30の抗体(21B12参照抗体と31H4参照抗体を除く。)
のうち,24の抗体はPCSK9-LDLR結合中和抗体であり,かつ,本
件参照抗体と競合する抗体であること,表37.1.のビン1(21B12
参照抗体と競合し,31H4参照抗体と競合しない抗体)に属する19の抗
体のうち16個,ビン2(21B12参照抗体とも,31H4参照抗体とも
20 競合する抗体)に属する抗体のうち2個及びビン3(31H4参照抗体と競
合し,21B12参照抗体と競合しない抗体)に属する10の抗体のうちの
7個は,表2に記載された抗体であり,これら16個と2個と7個の抗体の
うち,27B2抗体並びに21B12参照抗体及び31H4参照抗体を除く
少なくとも20個はPCSK9-LDLR結合中和抗体であることが記載さ
25 れている。そうすると,本件各明細書には,特定のスクリーニング等を経て
得られた抗体のうち,本件参照抗体と競合する複数の抗体がPCSK9-L
DLR結合中和抗体であることが示されているといえる。
なお,この点に関係し,被告は,本件参照抗体と競合する膨大な数の抗体
がPCSK9-LDLR結合中和抗体であることの根拠は全く示されていな
いと主張するが,本件各明細書に記載された抗体以外に,本件参照抗体と競
5 合するがPCSK9-LDLR結合中和抗体ではない具体的な抗体が示され
ているものではなく,また,本件参照抗体と競合する抗体中,PCSK9-
LDLR結合中和抗体でないものの割合が大きいことも明らかではない。
さらに,被告は,本件参照抗体と競合する抗体は,PCSK9-LDLR
結合中和抗体であるとは限らないとも主張する。しかし,本件各発明は,P
10 CSK9-LDLR結合中和抗体であることを構成要件とするものであるか
ら(構成要件1A,2A),上記のような例外的な抗体は本件各発明の技術
的範囲に含まれない。
証拠(甲5,7の1,2,甲8~10)及び弁論の全趣旨によれば,本件
各発明について,被告が主張する限定的な解釈を採らない限り,被告モノク
15 ローナル抗体は,本件発明1-1及び本件発明2-1の各構成要件を全て充
足し,被告製品は,本件発明1-2及び本件発明2-2の各構成要件を全て
充足すると認められるから,被告モノクローナル抗体は,本件発明1-1及
び本件発明2-1の技術的範囲に属し,被告製品は,本件発明1-2及び本
件発明2-2の技術的範囲に属すると認められる。なお,被告モノクローナ
20 ル抗体は,本件訂正発明1-1及び本件訂正発明2-1の技術的範囲にも属
し,被告製品は,本件訂正発明1-2及び本件訂正発明2-2の技術的範囲
にも属すると認められる。
3 争点 -ア(サポート要件違反)について
前記2のとおり,本件各明細書の記載から,当業者は,本件各明細書の記載
25 のスクリーニング方法等を用いることによって,本件各明細書で開示された抗
体以外にも,本件参照抗体と競合し,PCSK9とLDLRとの結合を中和す
る様々なPCSK9-LDLR結合中和抗体を得ることができると認識する
ことができる。
また,本件各明細書の高コレステロール血症などの上昇したコレステロール
レベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減することが
5 できるので,治療的に有用であり得ることの記載(段落【0155】【027
0】
【0271】
【0276】)から,当業者は,本件発明1-1,本件発明2-
1の各抗体を医薬組成物として使用できることを認識することができる。
したがって,本件発明1及び2は,いずれもサポート要件に違反するとはい
えず,また,本件訂正発明1及び2がいずれもサポート要件に違反するとはい
10 えない。
4 争点 -イ(実施可能要件違反)について
前記2のとおり,本件各明細書の記載から,当業者は,本件各明細書の記載
のスクリーニング方法等を用いることによって,本件各発明の抗体及び医薬組
成物を作製し,使用することができるものと認められるから,本件各明細書は,
15 当業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したも
のであるといえ,本件発明1及び2は,いずれも実施可能要件に違反するとは
いえず,また,本件訂正発明1及び2がいずれも実施可能要件に違反するとは
いえない。
5 進歩性欠如)について
20 乙1文献には,以下の記載がある。
ア 「我々は,HepG2細胞の培養液に添加された精製PCSK9が用量
及び時間依存的な態様で細胞表面のLDLRの数を減少させることを示す。
この活性は,高コレステロール血症を引き起こす,機能獲得型変異,PC
SK9(D374Y)の場合,約10倍大きかった。PCSK9の結合及
25 び取り込みは,LDLRの存在に大きく依存した。共免疫沈降及びリガン
ドブロッティングの試験は,PCSK9とLDLRとが直接結合すること
を示し,両方のタンパク質は後期エンドサイトーシスの小胞へ共局在化し
た。(2995頁要約3~7行)

イ 「並体結合の後,分泌されたPCSK9は,野生型マウスの循環血中へ
と運ばれ,肝臓のLDLRの数を,ほぼ検知できないレベルにまで減少さ
5 せた。我々は,分泌されたPCSK9がLDLRと結合して肝臓のLDL
Rタンパク質レベルを低下させると結論づけた。(2995頁要約12~

14行)
ウ 「本研究において,我々は,細胞外のPCSK9が,LDLRに大きく
依存する態様で,培養された肝細胞及び線維芽細胞によって内在化され得
10 る証拠を提供する。細胞外PCSK9とのインキュベーションは,細胞表
面からのLDLRの喪失と肝臓由来細胞におけるLDLRの促進された分
解をもたらした。最終的に,我々は,マウスの循環血中における増加した
PCSK9のレベルが,肝臓における減少したLDLRタンパク質,及び
増大した血漿コレステロールレベルをもたらすことを実証した。(299

15 5頁右欄下から4行~2996頁左欄4行)
エ 「図2
細胞培養液に組換え精製PCSK9を添加した後のHepG2細胞にお
ける内在性LDLRの減少。
(A)HepG2細胞における細胞外PCSK
9-仲介型LDLR分解の投与量応答性。(2996頁左欄図2の説明の

20 1~4行)
オ 「図2Aに示されるように,生理学的に適切な濃度である,PCSK9
の0.5μg/mlとともにインキュベーションした後,細胞表面のLD
LRの数は,約50%減少した(レーン2)。そして,PCSK9の2.5
μg/mlへの接触後には,ほぼ検出不能となった(レーン4) 」
。(299
25 7頁左欄11~15行)
カ 「図3
HepG2細胞の培養液中への精製された変異体PCSK9(D374Y)
の添加による増大された細胞結合及びLDLR分解。細胞は培養液C
(mediumC)中で18時間培養され,精製されたヒトPCSK9又はP
CSK9(D374Y)の示された量とともに4時間インキューベートさ
5 れた。LDLR,FLAG-タグ化PCSK9,及び,トランスフェリン
受容体のイムノブロット分析が,図2の説明文において記載されているよ
うに行われた。アステリスクは非特異的バンドを示す。同様の結果が,3
回の独立した実験において得られた。(2997頁図3)

キ 「導入部において述べたとおり,PCSK9のある種の点突然変異は,
10 高コレステロール血症を引き起こす。そのようなある1つの突然変異が細
胞ベースのアッセイにおけるPCSK9の活性を増加させるのか否かを決
定するために,様々な量の野生型PCSK9及びPCSK9変異体D37
4(4)がHepG2細胞に加えられ,その後LDLRタンパク質レベル
が測定された(図3)。D374Y変異体は,この変異を有する人は重篤な
15 高コレステロール血症にかかることが示されていることから研究対象に選
ばれた(16)。PCSK9(D374Y)は,野生型PCSK9よりも少
なくとも10倍,細胞表面LDLRを減少させる活性が高かった。すなわ
ち,0.25μg/mlのPCSK9(D374Y)は,少なくとも,2.
5μg/mlの野生型PCSK9と同程度に効果的であった(5レーンと
20 11レーンとの比較) 野生型PCSK9とインキュベーションした後,
。 L
DLRの数は,細胞全体抽出物において顕著に減少し,同様の結果はPC
SK9(D374Y)の10倍低い濃度において観察された(レーン13
~24) 異なる濃度が用いられたにもかかわらず,
。 細胞抽出物において測
定された野生型及び変異型のPCSK9の量は同様であり,当該変異型タ
25 ンパク質は,野生型タンパク質に比べて約10倍の効率で細胞によって取
り込まれたことを示している。(2997頁左欄30行~右欄7行)

ク 「PCSK9(D374Y)変異体は,LDLRタンパク質に対してよ
り大きい親和性で結合するものと見える。合わせれば,これらの研究の結
果は,PCSK9(D374Y)が,野生型PCSK9よりも高い親和性
で,LDLRに対して結合することを示しており,この知見は,当該PC
5 SK9変異体のLDLRを破壊する増強された能力と相関する。 (299

8頁右欄21~25行)
ケ 「本報告において,我々は,内因性のPCSK9が細胞から急速に分泌
されること,分泌されたPCSK9は培養されたHepG2細胞及びマウ
ス初代肝細胞の培養液に添加されるとLDLRを破壊することを実証した。
10 培養細胞においてLDLRの数を減少させるのに有効なPCSK9の濃度
はヒト血漿中において測定される血漿PCSK9の濃度と同等の範囲であ
った。PCSK9の細胞との会合と細胞への取り込みがLDLRへの結合
を介して生じ,両方のタンパク質は,後期エンドサイトーシスの/リソソ
ームの部分に共局在化される。PCSK9がLDLRタンパク質レベルを
15 減少させるにはPCSK9のLDLRを伴うエンドソームの/リソソーム
の部分への内在化が必要であり,なぜなら,この活性はARHの不存在下
においてブロックされるからである。最後に,我々は,PCSK9はトラ
ンスジェニックマウスの血漿中に存在し,その分泌されたタンパク質は,
肝臓のLDLRの破壊において活性であることを示した。分泌されたPC
20 SK9の活性のメカニズムについての洞察は,MEFs及びマウス肝細胞
における研究に由来し,それらはLDLRがPCSK9の大部分が細胞表
面に結合するのに必要とされることを示した(図4A及び図6B) これら

の研究は,LDLRとPCSK9が直接相互作用しうることを示唆し,こ
のことは,LDLRとPCSK9についての免疫共沈降及びリガンドブロ
25 ッティングの研究により確認された(図5) 」
。(3001頁左欄下から24
行~下から2行)
コ 「これらを合わせ考えると,現在入手可能なデータは,PCSK9が細
胞外と細胞内とで機能し得ることを示唆するが,しかし,いずれの経路が
通常のおよび/または病的条件下において優位であるのか分からない。現
在,当該タンパク質が細胞内で作用することを示唆するすべての研究は,
5 強力なCMVプロモーターを通じたPCSK9過剰発現を用いて行われた
ものである。過剰発現は,生理学的に生じない細胞内分画におけるPCS
K9とLDLRとの結合を許容する可能性がある。本研究において,我々
は,生理学的に適切な濃度のPCSK9がHepG2細胞に添加されたと
きに細胞表面のLDLRの数を著しく減少させたことを実証することがで
10 きた(図2および図3)」
。(3002頁左欄下から7行~右欄4行)
サ 「PCSK9の機能喪失型変異体を有するヒトからの遺伝学的データと
PCSK9を欠損したノックアウトマウスにおける研究を組み合わせると,
タンパク質分解酵素の阻害剤が高コレステロール血症の治療に対して治療
学的に有益であり得ることが明確に示される。マウスにおける酵素的に不
15 活性な形態のPCSK9の過剰発現は,LDLRタンパク質レベルを変化
させなかったことのみからすれば(文献[9],小胞体におけるPCSK

9のプロテアーゼ活性の阻害剤は,LDLRタンパク質レベルを減少させ
る能力を阻害するのに十分であろう。本研究のデータが示唆するとおりに,
PCSK9が分泌因子として機能するならば,LDLRとの相互作用を遮
20 断する抗体,または血漿におけるその活性を遮断する阻害剤の開発などの,
PCSK9の活性を中和する追加の手法が,高コレステロール血症の治療
として探求し得る。 (3002頁右欄下から13行~最終行)

前記 の記載のとおり,乙1文献には,PCSK9が細胞表面のLDLR
の数を減少させること,PCSK9はLDLRと結合して肝臓のLDLRタ
25 ンパク質のレベルを低下させること,増加したPCSK9のレベルが肝臓に
おける減少したLDLRタンパク質及び増大した血漿コレステロールレベル
をもたらすこと,LDLRとPCSK9が直接相互作用し得ることが確認さ
れたこと,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)を遮断する抗体又は
血漿におけるその活性を遮断する阻害剤の開発などのPCSK9の活性を中
和する追加の手法が高コレステロール血症の治療として探求し得ること等が
5 記載されている。
そうすると,乙1文献には,PCSK9とLDLRとの相互作用(結合)
を遮断する何らかの抗体を含む医薬組成物の発明が記載されているといえる。
被告は,乙1文献に高コレステロール血症の治療のためのPCSK9-L
DLR結合中和抗体という技術思想が明示されていると主張する。しかし,
10 乙1文献には,「LDLRとの相互作用を遮断する抗体」の記載 サ)
があるにとどまり,この抗体がPCSK9-LDLR結合中和抗体であると
PCSK9とLDLR
との相互作用(結合)を遮断する抗体によるPCSK9の活性を中和する手
法が高コレステロール血症の治療として探求し得る旨の記載 サ)も
15 あるが,このような作用を有する具体的な抗体の記載は全くないことから,
乙1文献にPCSK9-LDLR結合中和抗体の開示があるとはいえない。
本件発明1-1と乙1文献に記載された発明とを対比すると,①本件発明
1-1はPCSK9-LDLR結合中和抗体であるのに対し,乙1文献に記
載された発明はPCSK9-LDLR結合中和抗体であるかどうか明らかで
20 ない点(以下「相違点①-1」という。,②本件発明1-1は21B12参

照抗体と競合する抗体であるのに対し,乙1文献に記載された発明は21B
12参照抗体と競合するかどうか明らかでない点(以下「相違点②-1」と
いう。,
)③本件発明1-1は単離されたモノクローナル抗体であるのに対し,
乙1文献に記載された発明はモノクローナル抗体であるかどうか明らかでは
25 ない点(以下「相違点③-1」という。)で相違するといえる。本件発明1-
2,本件訂正発明1-1及び本件訂正発明1-2と乙1文献に記載された発
明も,相違点①-1,②-1,③-1で相違する。
本件発明2-1と乙1文献に記載された発明とを対比すると,①本件発明
2-1はPCSK9-LDLR結合中和抗体であるのに対し,乙1文献に記
載された発明はPCSK9-LDLR結合中和抗体であるかどうか明らかで
5 ない点(以下「相違点①-2」という。,②本件発明2-1は31H4参照

抗体と競合する抗体であるのに対し,乙1文献に記載された発明は31H4
参照抗体と競合するかどうか明らかでない点(以下「相違点②-2」という。,

③本件発明2-1は単離されたモノクローナル抗体であるのに対し,乙1文
献に記載された発明はモノクローナル抗体であるかどうか明らかではない点
10 (以下「相違点③-2」という。)で相違するといえる。本件発明2-2,本
件訂正発明2-1及び本件訂正発明2-2と乙1文献に記載された発明も,
相違点①-2,②-2,③-2で相違する。
相違点②-1について,本件発明1-1は,アミノ酸配列で特定されたP
CSK9-LDLR結合中和抗体である21B12参照抗体について,それ
15 とPCSK9との結合において競合する抗体が21B12参照抗体と類似の
機能的特性を示すと予想され,前記のとおり,一定の抗体に対するエピトー
プビニングをして,21B12参照抗体と競合することを要件(構成要件1
B)としたものである。そして,乙1文献に記載された発明において,アミ
ノ酸配列で特定された21B12参照抗体についての具体的な記載はないし,
20 同抗体に着目する示唆もない。証拠(乙15ないし19)及び弁論の全趣旨
によれば,本件優先日当時,動物免疫法又はファージディスプレイ法により,
抗原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を作製する方法,その作
製工程において,ヒト抗体を作製するための遺伝子導入マウスの使用,抗体
のスクリーニングのために抗原をビオチン化により固相化する方法,ファー
25 ジディスプレイライブラリを得る手段等は周知であったことが認められる。
しかし,本件明細書1には,特定のプロトコールのスクリーニングを組み合
わせて実施した結果として,21B12参照抗体が得られたことが記載され
ていて(段落【0312】~【0314】【0320】【0322】~【0
336】【0377】~【0379】),それは上記周知技術とは異なるも
のであり,上記周知技術に基づいて,本件優先日当時,当業者が,アミノ酸
5 配列が特定された21B12参照抗体を容易に得ることができたことを認め
るには足りない。これらによれば,当業者は,具体的な21B12参照抗体
を容易に得ることができたことも,21B12参照抗体に着目してそれと競
合する抗体に着目したことも認められず,構成要件1Bに係る相違点である
相違点②-1に容易に想到することができたとは認められない。
10 以上によれば,本件優先日当時,当業者は,乙1文献に記載された発明及
び周知技術に基づいて,相違点②-1に係る本件発明1-1の構成に容易に
想到することができたとは認められず,本件発明1-1を容易に発明するこ
とができたとは認められない。そして,同様の理由により,乙1文献に記載
された発明及び周知技術に基づいて,本件優先日当時,当業者は,本件発明
15 1-2を容易に発明することができたとは認められず,また,本件訂正発明
1-1,1-2を容易に発明することができたとも認められない。
また,本件発明2-1と乙1文献に記載された発明は,相違点②-2にお
いて異なるところ,本件発明2-1は,アミノ酸配列で特定されたPCSK
9-LDLR結合中和抗体である31H4参照抗体について,それとPCS
20 K9との結合において競合する抗体が31H4参照抗体と類似の機能的特性
を示すと予想され,前記のとおり,一定の抗体に対するエピトープビニング
をして,構成要件2Bにおいて31H4参照抗体と競合する抗体であるとし
たものである。そして,乙1文献に記載された発明において,アミノ酸配列
で特定された31H4参照抗体についての具体的な記載はないし,同抗体に
25 着目する示唆もない。本件明細書2には,31H4参照抗体も,21B12
参照抗体と同様に特定のプロトコールのスクリーニングを組み合わせて実施
した結果として得られたことが記載されていて(段落【0312】~【03
14】【0320】【0322】 【0336】
~ 【0377】 【0379】 ,
~ )
同様,その方法は上記周知技術とは異なるものであり,当業者が,
周知技術に基づいてアミノ酸配列が特定された31H4参照抗体を容易に得
5 ることができたことを認めるには足りない。これらによれば,当業者は,具
体的な31H4参照抗体を容易に得ることができたことも,31H4参照抗
体に着目してそれと競合する抗体に着目したことも認められず,構成要件2
Bに係る相違点である相違点②-2に容易に想到することができたとは認め
られない。したがって,本件優先日当時,当業者は,本件発明2-1を容易
10 に発明することができたとは認められない。そして,同様の理由により,乙
1文献に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件優先日当時,当業者
は,本件発明2-2を容易に発明することができたとは認められず,また,
本件訂正発明2-1,2-2を容易に発明することができたとも認められな
い。
15 上記に対し,被告は,本件各明細書によれば,本件参照抗体と競合するか
否かを何ら指標とすることなく,PCSK9-LDLR結合中和抗体を複数
作製したところ,そのような抗体の多くが本件参照抗体と競合するものであ
ったこと,A教授が供述書(乙4)で指摘するとおり,PCSK9-LDL
R結合中和抗体を取得した場合,その中には本件参照抗体と競合する抗体が
20 多く含まれており,少なくとも所定の割合で含まれているから,当業者は,
何らかのPCSK9-LDLR結合中和抗体をいくつか作製するだけで,本
件参照抗体と競合する結合中和抗体を取得し得たこと,本件参照抗体と競合
する抗体がPCSK9-LDLR結合中和抗体であることは限らないことか
ら,21B12参照抗体又は31H4抗体と競合するとの発明特定事項は本
25 件各発明に進歩性を付与するものではないことを主張する。
本件各明細書には,PCSK9-LDLR結合中和抗体を同定,取得する
ための,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウスの作
製方法,ハイブリドーマの作製方法,スクリーニング方法及びエピトープビ
ニングアッセイの方法等が記載された上で,その具体的な方法等に従って抗
体を作製して,PCSK9-LDLR結合中和抗体を作製したことや,その
5 抗体に,本件参照抗体と競合する抗体が多く見られたことが記載されている。
しかし,その方法は本件各明細書に記載されているものであり,前記 の周
知技術そのものではなく,本件優先日当時,当業者が,本件各明細書に記載
されているのと同様の方法を用いて本件各明細書に記載されているPCSK
9-LDLR結合中和抗体を作製することができたことを認めるに足りる証
10 拠はない。また,前記のとおり,本件優先日当時,当業者が本件参照抗体を
容易に作製することができたとも認められない。被告が指摘する本件各明細
書の記載をもって,本件参照抗体と競合するとの発明特定事項が本件各発明
に進歩性を付与するものではないと認めることはできない。
また, A教授の供述書(乙4)は,競合に関して実証的なデータが示され
15 ているものではないほか,前記のとおり,本件優先日当時,本件参照抗体を
容易に作製することができたとは認められないことなど前記の事情に照らせ
ば,同供述書に記載された事項によって,本件参照抗体と競合するとの発明
特定事項は本件各発明に進歩性を付与するものではないとは認められない。
更に,本件参照抗体と競合する抗体中,PCSK9-LDLR結合中和抗体
20 でないものの割合が大きいことも明らかではない。
したがって,被告の主張は採用することができない。
以上によれば,本件発明1及び2は,いずれも乙1文献及び周知技術に基
づいて,容易に想到することができたとはいえず,進歩性を欠くとはいえな
い。なお,本件訂正発明1及び2も,いずれも乙1文献及び周知技術に基づ
25 いて容易に想到することができたとはいえず,進歩性を欠くとはいえない。
6 争点 (被告製品についての生産の差止め及び被告モノクローナル抗体につ
いての生産,譲渡等の差止めの必要性の有無)について
以上によれば,被告による被告製品の輸入,販売,販売の申出は,本件各特
許権の侵害行為に該当する。
被告は,被告製品の輸入,販売,販売の申出を行っていることについては認
5 めるものの,被告製品の生産を行っていることを否認し,また,被告製品の原
薬である被告モノクローナル抗体の生産,輸入,販売,販売の申出をする予定
はないと主張する。
しかしながら,被告は,被告製品の輸入,販売,販売の申出を行っているこ
と,また,弁論の全趣旨によれば,被告は,その親会社等から原薬である被告
10 モノクローナル抗体を輸入するなどした上で,被告製品を生産することができ
ること,被告モノクローナル抗体は,被告モノクローナル抗体産生細胞株をク
ローン培養しさえすれば極めて容易に生産できること,被告は本件訴訟におい
て,被告モノクローナル抗体や被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するこ
とや,本件各特許の有効性を争っていることからすれば,被告製品の生産や被
15 告製品の原薬である被告モノクローナル抗体の生産,輸入,販売,販売の申出
についても,差止めの必要性は否定できないというべきである。もっとも,現
在,被告が被告製品に加えて被告モノクローナル抗体を有しているとは認めら
れず,被告モノクローナル抗体の廃棄の必要性があるとは認められない。
7 結論
20 よって,原告の請求は主文第1項ないし第3項の限度で理由があるからこれ
らを認容し,原告のその余の請求は理由がないから棄却することとし,主文第
1項ないし第3項について仮執行宣言を付すのは相当でないからこれを付さな
いこととし,民事訴訟法61条,64条ただし書を適用して訴訟費用は被告に
全部負担させることとして,主文のとおり判決する。
25 東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官 柴 田 義 明


5 裁判官 安 岡 美 香 子


裁判官 大 下 良 仁


(別紙)

被告製品目録

プラルエント® (英語名:Praluent®)

以上


(別紙)

被告モノクローナル抗体目録

アリロクマブ(一般名)(英語名:Alirocumab)

以上


(別紙)
表A
グループ
軽鎖CDR1 軽鎖CDR2 軽鎖CDR3 重鎖CDR1 重鎖CDR2 重鎖CD R3
27E7 T G T S S D V G G Y N S V S E V S N R P S S S Y T S T S M V G Y S L T S Y G I S W I S A Y N G N T N Y A Q K V Q G G Y G M DV
30B9 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . P . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..
27H5 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . T . . . . . . . . . . V . . . . . . . . . . . . . . . . . ..
23G1 . . . . . . . . . . . . . . . . T . . . . N . . . . . . . . . . T . . . . . . . . V . F . . . . . . . . . . L . . . . . . ..
26H5 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . T . . . . . . . . . . F . . . . . . . . . . . . . . . . . ..
17C2 . . . . . . . . A . . . . . . . . . . . . . . . . . . N . . . . . F . . . . . . . V . . . . . . . . . . . . F . . . . V . ..
19H9 . . . N . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . A . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..
21B12 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . N . . . . . . . . . . T . . . . . . . . V . F . . . . . . . . . . L . . . . . . ..

グループ
軽鎖CDR1 軽鎖CDR2 軽鎖CDR3 重鎖CDR1 重鎖CDR2 重鎖CDR3
1A12 S G S S S N I G S K T V N S N N R R P S A A W D D S L N W V G L T F S N F W M S N I K Q D G S E K Y Y V D S V K G E S N W GFAFDI
9H6 . . . . . . . . . N . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . F . . . R Y . . . . . . H . . . . . . . . . . . . . . . . . .....V
9C9 . . . . . . . . . . . . . R . . Q . . L . . . . . . . . . . . F . . . S Y . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ......

グループ
軽鎖CDR1 軽鎖CDR2 軽鎖CDR3 重鎖CDR1 重鎖CDR2 重鎖CDR3
23B5 R A S Q S I S S Y L N A A S S L Q S Q Q S Y S S P I T G F T F S S Y A M N T I S G S G D N T Y Y A D S V K G K F V L M V Y AMLDY
25G4 . . . . . . . I . . . . . A . . . . . . . . . A . . . . . . . . . . . . . . . . . . . G . . . . . . . . . . . . . . . . . .....


表B
グループ
軽鎖CDR1 軽鎖CDR2 軽鎖CDR3 重鎖CDR1 重鎖CDR2 重鎖CDR3
31H4 T G S S S N I G A G Y D V H G N S N R P S Q S Y D S S L S GSV G F T F S S Y S M N S I S S S S S Y I S Y A D S V K G D Y D F WSAYYDAFDV

グループ
軽鎖CDR1 軽鎖CDR2 軽鎖CDR3 重鎖CDR1 重鎖CDR2 重鎖CDR3
28D6 S G S S S N I G N N F V S D Y N K R P S G T W D S S L S GYV G F T F S S F G M H L I W N D G S N K Y Y A D S V K G A I A A LYYYYGMDV
16F12 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . A.. . . . . N . . . . . . . . S . . . D E . . . . . . . . . . . . .........
27A6 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . S.. . . . . N . . . . . . . . S . . . D . . . . . . . . . . . . . .........
31G11 . . . . . . . . . . . . . . S . . . . . . . . . . . . . A.. . . . . R . Y . . . . . . H . . . . T . . V . . . . . G . . V A........

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クレオ国際法律特許事務所

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創英国際特許法律事務所

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特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

あいぎ特許事務所【名古屋・岐阜】

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康信国際特許事務所(北京康信知識産権代理有限責任公司)

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SAHARA特許商標事務所

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