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平成30(行ケ)10031審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成31年2月6日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官半田正人
原告株式会社創考テクノ
対象物 携帯用グリップ
法令 特許権
特許法29条2項1回
特許法157条2項4号1回
キーワード 審決78回
進歩性23回
実施4回
新規性4回
刊行物2回
優先権1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成27年10月9日(優先権主張:平成26年10月14日,日 本),発明の名称を「携帯用グリップ」とする国際出願をし,その後,国内移行の 手続を採った(特願2016-546535。以下「本願」という。)。(甲1, 2) (2) 原告は,平成29年6月15日付けで拒絶査定を受け,同年8月31日,こ れに対する不服の審判を請求し,同年11月30日付け手続補正書により,特許請 求の範囲を補正した(以下「本件補正」という。請求項の数2)。(甲5の4,6 の1・3) (3) 特許庁は,これを不服2017-12887号事件として審理し,平成30 年1月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記 載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年2月1日,原告に 送達された。(甲6の5) (4) 原告は,平成30年3月1日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し た。

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判決文

平成31年2月6日判決言渡
平成30年(行ケ)第10031号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成31年1月16日
判 決

原 告 株 式 会 社 創 考 テ ク ノ

同訴訟代理人弁理士 柴 大 介

被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 吉 村 尚
半 田 正 人
尾 崎 淳 史
佐 藤 聡 史
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2017-12887号事件について平成30年1月22日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,平成27年10月9日(優先権主張:平成26年10月14日,日
本),発明の名称を「携帯用グリップ」とする国際出願をし,その後,国内移行の
手続を採った(特願2016-546535。以下「本願」という。)。(甲1,

2)
(2) 原告は,平成29年6月15日付けで拒絶査定を受け,同年8月31日,こ
れに対する不服の審判を請求し,同年11月30日付け手続補正書により,特許請
求の範囲を補正した(以下「本件補正」という。請求項の数2)。(甲5の4,6
の1・3)
(3) 特許庁は,これを不服2017-12887号事件として審理し,平成30
年1月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記
載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年2月1日,原告に
送達された。(甲6の5)
(4) 原告は,平成30年3月1日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(下線部は,本件補正
による補正部分である。)。「/」は,原文の改行部分を示す(以下同じ。)。以
下,本件補正後の特許請求の範囲【請求項1】に記載された発明を「本願発明」と
いい,その明細書(甲1,4の2)を図面を含めて「本願明細書」という。
【請求項1】表面に沿って手のひらと指が接触して握持できる外部表面を有し,
前記外部表面の内側に嵌合スペースを有する携帯用グリップであって,/前記嵌合
スペースが,対象グリップの把持部を嵌合している場合に外部に開放されている開
放型嵌合スペースである場合,/前記外部表面は,その表面に沿って手のひらと指
を接触して握持したときに,手のひらが接触する手のひら接触面,指が曲がった状
態で接触する屈曲面及び指先が接触する指先接触面を備え,/前記手のひら接触面
から屈曲面を経由して指先接触面に至るまでこれらの面は連続して形成され,/前
記開放型嵌合スペースは前記指先接触面の裏面と,前記手のひら接触面の裏面とが
対向している空間に形成され,/屈曲して対向する前記開放型嵌合スペース内にお
ける間隙の距離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であり,/前記篏

合スペースは前記距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放されており,/前
記嵌合スペースが,前記対象グリップの把持部を着脱自在に嵌合し,/前記外部表
面に連結され,指の一部と係合する指係合部とを備えた形態と,/不特定の運搬用
手押し車のハンドルに一時的に装着される運搬用手押し車用ハンドルカバーの形態
と,/前記携帯用グリップが手首に装着されるバンドと連結された形態と,/前記
携帯用グリップを手のひらと指を接触して握持したときに,前記指先接触面と前記
手のひら接触面が前記対象グリップの把持部の形状に沿って変形し,この変形に伴
って前記指先接触面と前記手のひら接触面とが前記対象グリップの把持部の周方向
に伸ばされながら前記対象グリップの把持部を挟み込む形態とが除かれる携帯用グ
リップ。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本願発
明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに下記
イの周知例1及び下記ウの周知例2から認められる周知技術に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特
許を受けることができない,というものである。
ア 引用例:特開2006-232250号公報(甲7の1)
イ 周知例1:実用新案登録第3137833号公報(平成19年12月13日
発行。甲7の4)
ウ 周知例2 特開2014-227130号公報
: (平成26年12月8日公開。
甲7の5)
(2) 本件審決が認定した引用発明,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,
以下のとおりである。
ア 引用発明
所定の軸長を有する筒状体2により構成されている補助具本体1であって,/該
筒状体2は,軸方向両端を開口3せしめると共に,軸方向全長に渡るスリット4を

開設しており,該補助具本体1は柔軟性又は弾性を有して,容易にスリット4を広
げ,スリット4よりつり革5に取り付けることが出来,/補助具本体1は,キーホ
ルダーで鞄に取り付けるなどの方法で携帯でき,つり革につかまる際つかまる部分
に取り付けて,つり革と手指の間にはさみ込んで使用することで,「つかまる部分
が太くなり,手指との接地面も増えるため,力や体重が手指の一部分に集中せず,
手指全体で力を込めて握ることが出来るようになるものであり」,/つり革に装着
された補助具本体1の内径が,つり革のつかまる部分の外径におおよそ等しい補助
具本体1。
イ 一致点
表面に沿って手のひらと指が接触して握持できる外部表面を有し,前記外部表面
の内側に嵌合スペースを有する携帯用グリップであって,/前記嵌合スペースが,
対象グリップの把持部を嵌合している場合に外部に開放されている開放型嵌合スペ
ースである場合,/前記外部表面は,その表面に沿って手のひらと指を接触して握
持したときに,手のひらが接触する手のひら接触面,指が曲がった状態で接触する
面及び指先が接触する指先接触面を備え,/前記手のひら接触面から指が曲がった
状態で接触する面を経由して指先接触面に至るまでこれらの面は連続して形成され,
/前記開放型嵌合スペースは前記指先接触面の裏面と,前記手のひら接触面の裏面
とが対向している空間に形成され,/前記嵌合スペースが,前記対象グリップの把
持部を着脱自在に嵌合し,/前記外部表面に連結され,指の一部と係合する指係合
部とを備えた形態と,/不特定の運搬用手押し車のハンドルに一時的に装着される
運搬用手押し車用ハンドルカバーの形態と,/前記携帯用グリップが手首に装着さ
れるバンドと連結された形態と,/前記携帯用グリップを手のひらと指を接触して
握持したときに,前記指先接触面と前記手のひら接触面が前記対象グリップの把持
部の形状に沿って変形し,この変形に伴って前記指先接触面と前記手のひら接触面
とが前記対象グリップの把持部の周方向に伸ばされながら前記対象グリップの把持
部を挟み込む形態とが除かれる携帯用グリップ。

ウ 相違点1
本願発明は「指が曲がった状態で接触する屈曲面」を有するのに対して,引用発
明は「指が曲がった状態で接触する面」であって,「屈曲面」ではない点。
エ 相違点2
本願発明は「屈曲して対向する開放型嵌合スペース」を有するのに対して,引用
発明の開放型嵌合スペースは「屈曲して対向」するものではない点。
オ 相違点3
本願発明は「開放型嵌合スペース内における間隙の距離が対象グリップの把持部
の断面の最大径と同程度であり,前記篏合スペースは前記距離のまま前記開放型嵌
合スペース外部に開放」しているのに対して,引用発明の開放型嵌合スペースは,
そうではない点。
(3) 本件審決が認定した周知技術
本件審決は,周知例1及び2から,以下の周知技術を認定した。
ア 指が曲がった状態で接触する屈曲面(以下「周知技術1」という。)
イ 屈曲して対向する開放型嵌合スペース(以下「周知技術2」という。)
ウ 開放型嵌合スペース内における間隙の距離が対象グリップの把持部の断面の
最大径と同程度であり,前記篏合スペースは前記距離のまま前記開放型嵌合スペー
ス外部に開放(以下「周知技術3」という。)
(4) 本願発明に係る審査及び審判の経緯
ア 本願について,平成27年12月18日付け国際調査機関の見解書が作成さ
れた。同見解書は,当初の特許請求の範囲【請求項1】に記載された発明につき,
引用例に基づく新規性欠如及び進歩性欠如を説明するものであった。(甲3の1)
イ 原告は,平成28年7月13日,本願について,国内移行の手続を採るとと
もに,同日付け手続補正書により,特許請求の範囲を補正した(以下「第1補正」
という。)。(甲2,3の2)
ウ 特許庁審査官は,平成28年9月12日付け拒絶理由通知をした(以下「第

1拒絶理由通知」という。)。第1拒絶理由通知は,第1補正後の特許請求の範囲
【請求項1】に記載された発明につき,引用例及び特開平9-30306号公報に
基づく進歩性欠如等を理由とするものであった。(甲4の1)
エ 原告は,平成28年11月11日付け手続補正書により,特許請求の範囲及
び明細書を補正した(以下「第2補正」という。)。(甲4の2)
オ 特許庁審査官は,平成29年2月3日付け拒絶理由通知をした(以下「第2
拒絶理由通知」という。)。第2拒絶理由通知は,第2補正後の特許請求の範囲【請
求項1】に記載された発明につき,特開2011-11574号公報(以下「甲7
の3公報」という。)に基づく新規性欠如及び進歩性欠如,引用例及び実用新案登
録第3146270号公報(以下「甲7の6公報」という。)に基づく進歩性欠如
を理由とするものであった。(甲5の1)
カ 原告は,平成29年3月16日付け手続補正書により,特許請求の範囲を補
正した(以下「第3補正」という。)。(甲5の2)
キ 特許庁審査官は,平成29年6月15日付け拒絶査定をした(以下「本件拒
絶査定」という。)。本件拒絶査定は,第3補正後の特許請求の範囲【請求項1】
に記載された発明につき,甲7の3公報に基づく進歩性欠如を理由とするものであ
った。(甲5の4)
ク 原告は,平成29年8月31日,本件審判を請求した。(甲6の1)
ケ 特許庁審判合議体は,平成29年9月29日付け拒絶理由通知をした(以下
「審判拒絶理由通知」という。)。審判拒絶理由通知は,第3補正後の特許請求の
範囲【請求項1】に記載された発明につき,①引用例,周知例1及び周知例2に基
づく進歩性欠如,②周知例2に基づく新規性欠如を理由とするものであった。(甲
6の2)
コ 原告は,平成29年11月30日付け手続補正書により,特許請求の範囲を
補正した(本件補正)。(甲6の3)
サ 特許庁審判合議体は,平成30年1月22日付け不成立審決をした(本件審

決)。本件審決は,本願発明につき,前記ケ①の進歩性欠如を理由とするものであ
った。(甲6の5)
4 取消事由
(1) 手続違背(取消事由1)
(2) 進歩性判断の誤り(取消事由2)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(手続違背)について
〔原告の主張〕
(1) 審査差戻しも特許審決もせずに自判したこと
第2拒絶理由通知では,本願に係る発明と甲7の3公報に記載された発明との相
違点の認定も,当該相違点の容易想到性を導く論理付けもされておらず,本願に係
る発明の進歩性について実質的な判断はされていない。しかし,特許庁審査官は,
このような形式的理由でなされた第2拒絶理由通知を基礎として本件拒絶査定をし
た。これは,「発明に対する実質的判断が審査でされておらず,又は単に形式的理
由で拒絶されたとき」又は「意見を述べる機会を与えずに拒絶査定をしたとき」に
該当するから,審判合議体は,自判せずに審査へ差戻すべきであった。審判合議体
は,かかる手続を遺脱したから,本件審決は違法である。
また,審判合議体は,本件拒絶査定における理由によっては本願を拒絶すべきも
のではないと判断した。そして,審判合議体による新たな判断内容は極めて不当で
ある。したがって,審判合議体は,本願に係る発明について特許審決すべきであっ
た。しかし,審判合議体は,かかる手続を遺脱したから,本件審決は違法である。
(2) 自判内容が確定した拒絶理由の蒸し返しであること
第1拒絶理由通知及び第2拒絶理由通知では,引用例に基づく進歩性欠如の拒絶
理由が通知されたが,引用例を設計変更することには阻害要因が存在するとの原告
の反論を受け入れて,本件拒絶査定では,これが理由とはされず,当該拒絶理由が
解消したことは確定した。そして,審査官のかかる判断について,審判拒絶理由で

も,本件審決でも言及されていないから,引用例に基づく進歩性欠如の拒絶理由が
解消されたことは追認された。しかし,審判合議体は,副引用例(周知例)を入れ
替えることで,設計変更することに阻害要因が存在する引用例に基づき,本願発明
は進歩性を欠くと判断した。審判合議体は,拒絶理由を蒸し返すものであるから,
本件審決は違法である。
(3) 拒絶理由通知で指摘しなかった相違点に基づき拒絶審決をしたこと
本件補正前の本願に係る発明における「対向する開放型嵌合スペースの間隙の距
離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であ」るとの発明特定事項は,
ほぼ平滑な2つの面がほぼ平行に対向している形態に特定するものである。本願に
係る発明は,本件補正前後で実質的に同一であるにもかかわらず,本件審決は,審
判拒絶理由通知で認定していなかった相違点を,新たに相違点3として認定した。
本件審決は,審判拒絶理由通知で看過した相違点を認定した上で容易想到性の判断
をしたものであり,原告にとって不意打ちであるから,違法である。
(4) 容易想到性の判断において阻害要因を全く検討しなかったこと
原告は,本件補正の際に提出した意見書において,引用発明に周知例1及び2に
基づく周知技術を適用するには阻害要因が存在する旨具体的に指摘した。しかし,
本件審決は,阻害要因の存在を一切検討していないから,違法である。
(5) 審査・審理を通じて後出し認定がされたこと
審判拒絶理由通知で看過された相違点が,本件審決で相違点3として認定される
など,本件拒絶査定及び本件審決では,拒絶理由通知において告知すべきであった
事項が後出しで認定されている。厳格・公正・公平な審査・審判が担保されずに本
件審決がされているから,本件審決は違法である。
(6) 小括
以上のとおり,本件審決に係る手続は違法であるから,本件審決は取り消される
べきである。
〔被告の主張〕

(1) 審判合議体は,本願に係る発明について,本件拒絶査定の拒絶理由によって
は拒絶すべきではないが,新たな拒絶理由を発見したため,審判拒絶理由通知をし,
原告に意見を述べる機会を与えた。原告は,意見書を提出するとともに本件補正を
したことから,審判合議体は,これを考慮した上で,本願発明は,審判拒絶理由通
知で通知した引用例及び周知例に基づいて,当業者が容易に発明し得たものと判断
し,本件審決をするに至った。したがって,本件審決の手続には何らの誤りはない。
(2) 原告の主張について
ア 審査差戻しも特許審決もせずに自判したこと
第2拒絶理由通知は,本願に係る発明について,甲7の3公報に基づく新規性欠
如を指摘し,同公報に記載された発明との間に相違点が存するとしても,それが軽
微であるから,進歩性欠如も併せて指摘したものであり,実質的な判断をしている。
そして,特許庁審査官は,第3補正を受けて,さらに進歩性欠如の理由を説示して,
本件拒絶査定をした。特許庁審査官は,原告に意見を述べる機会を与えた上で,本
願に係る発明について実質的に判断したものである。
また,そもそも,審判合議体が,差戻すか否かは,自由裁量に委ねられている。
イ 自判内容が確定した拒絶理由の蒸し返しであること
本件拒絶査定では,引用例に基づく進歩性判断はされていないが,審判合議体は
これに拘束されない。そして,審判合議体は,阻害要因はないと判断して,審判拒
絶理由通知及び本件審決をしている。
また,第2拒絶理由通知は,引用発明に甲7の6公報に記載された事項を適用し
て進歩性欠如の判断をしているのに対し,審判拒絶理由通知は,引用発明に周知例
1及び2に記載された周知技術を適用して進歩性欠如の判断をしているから,論理
付けが全く異なり,拒絶理由の蒸し返しには当たらない。
ウ 拒絶理由通知で指摘しなかった相違点に基づき拒絶審決をしたこと
本件補正前の本願に係る発明における「対向する開放型嵌合スペースの間隙の距
離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であ」るとの発明特定事項にお

いては,「対向する開放型嵌合スペースの間隙」につき,対向する腕のどの箇所と
どの箇所の間の「間隙」であるかについて特定されていない。そして,本件補正に
より,本願に係る発明は,嵌合スペース内における間隙の距離が変化しない領域が
存在するものに限定されたから,本願に係る発明は,本件補正前後で実質的に同一
ではない。本件審決は,本件補正に対応して相違点3を認定したものであり,何ら
不意打ちではない。
エ 容易想到性の判断において阻害要因を全く検討しなかったこと
審判合議体は,阻害要因はないと判断して,審判拒絶理由通知及び本件審決をし
ている。
オ 審査・審理を通じて後出し認定がされたこと
審判拒絶理由通知において相違点の看過はなく,本件審決に「後出し認定」はな
い。
(3) 小括
以上のとおり,本件審決に係る手続に瑕疵はない。
2 取消事由2(進歩性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 本件審決が認定した引用発明,本願発明と引用発明との相違点1ないし3は
認める。しかし,本件審決は,一致点の認定を誤り,下記の相違点(以下「相違点
4」という。)を看過したものである。また,本件審決は周知技術の認定を誤った
ものであり,さらに,被告が本件訴訟で主張する周知技術は認められない。仮に被
告が主張する周知技術が認められたとしても,引用発明に当該周知技術を適用する
ことは容易に想到できるものではない。
(2) 相違点4の看過について
ア 本願発明と引用発明とは,次の相違点4においても相違する。
本願発明は,「前記嵌合スペースが,前記対象グリップの把持部を着脱自在に嵌
合」するのに対し,引用発明は,該補助具本体1は「容易にスリット4を広げ,ス

リット4よりつり革5に取り付けることが出来」るとしており,着脱自在とはいえ
ない点
イ すなわち,本願発明の「前記嵌合スペースが,前記対象グリップの把持部を
着脱自在に嵌合」するとの発明特定事項は,本願明細書【0037】で「開放型嵌
合スペース…の対象グリップの把持部を挿入する空間は,…対象グリップの把持部
に対して上下するだけで,嵌合の脱着を行うことができる」と説明されているほか,
【0039】や【図1】~【図3】,【図4】⒟,【図5】,【図6】⒠⒡,【図
10】のとおり,「上下するだけで嵌合の脱着を行うことができる」という技術的
意義を有する。「屈曲して対向する前記開放型嵌合スペース内における間隙の距離
が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であり,前記篏合スペースは前記
距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放されており,」との本件補正による
補正部分(下線部)は,本件補正前の「屈曲して対向する前記開放型嵌合スペース
内における間隙の距離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であり,」
との技術的意義を減縮するものではない。
一方,引用発明の補助具本体1は,つり革に対して上下するだけでは,つり革の
筒状体の内部空間への脱着ができない。
ウ したがって,本件審決は,一致点の認定を誤り,相違点4を看過したもので
ある。そして,相違点4の看過により,誤った審決が導かれたものである。
(3) 本件審決に係る周知技術の認定及び適用について
ア 本件審決に係る周知技術の認定
(ア) 本件審決は,周知技術1ないし3を認定したが,周知例1及び乙1公報か
ら,これらの周知技術を認定することはできない。
(イ) 周知例1からの周知技術の認定
周知例1に記載されたフック片3に備わる様々な細部の構成から,合理的理由な
しに,周知技術1ないし3を抽出することはできない。周知例1に記載された発明
は,つり革のつかまる部分を手指全体で握ることができないことを前提にしている。

そして,周知例1に記載された発明からバンド2を取り外したフック片3では,同
発明の目的を達成できないから,周知例1に接した当業者は,フック片3の形状を
「つり革のつかまる部分に手掛けるための独立した補助具」であると想到すること
はできない。
したがって,周知例1に記載された発明を,当該発明が予定する形態として使用
できない形態へと,上位概念化することはできない。
(ウ) 乙1公報からの周知技術の認定
乙1公報に記載された発明において,手袋1は,指紋のある部分で女性の身体を
故意に触ることを防止し,触れないことを証明できるという課題を達成する上で不
可欠であり,満員電車内で使用する際は指屈曲板2と不可分の一体的な構成である。
したがって,当業者が乙1公報の手指の屈曲保持具に接しても,手袋1を捨象した
指屈曲板2だけを抽出して「携帯用グリップ」として想起することはできない。
(エ) よって,本件審決は周知技術1ないし3の認定を誤ったものである。そも
そも,周知例1及び乙1公報というわずか2件の刊行物から,周知技術1ないし3
を認定することはできない。
イ 周知技術1ないし3の適用
(ア) 仮に,本件審決における周知技術1ないし3が認められたとしても,これ
らの周知技術を引用発明に適用することはできない。
(イ) 引用発明の課題及び課題解決手段
a 引用発明は,従来のつり革はつかまる部分が細いことによって,力や体重が
手指の一部分に集中してしまい,長時間つかまっている場合や乗り物が揺れた時な
どは特に,手指に痛みや疲れが生じてしまい,手指全体で力を込めて握ることが出
来ないため,電車やバスが揺れた時などは特に危険であるという課題に対し(【0
003】【0004】),つり革につかまる部分と引用発明に係る補助具本体1を
一体化し,補助具本体1に加えた握力及び重力を,つり革のつかまる部分にそのま
ま作用させて,その反作用力と補助具本体1の手指の接地面部分に生じる摩擦力を

そのまま利用できるようにするという課題解決手段を採用したものである(【00
05】【0014】【図2】)。
引用発明の課題解決手段においては,つかまる部分が太くなることで,手指との
接地面が増えるという効果を伴わなければならない。つかまる部分が太くなるよう
にするとは,補助具を使用してつかまる部分を,「軸周りに回転しない柱体」のま
ま,接地面が増えるように太くするということである。引用発明においては,補助
具本体1と「つり革のつかまる部分」とが一体化して,電車やバスに固定され,そ
れ自体が回転することなく,電車やバスとの相対的位置がほぼ不動であるように機
能することが必要である。【0014】には,「つり革のつかまる部分」に対して,
滑りにくいことが重要である旨説明されている。
b 被告は,引用発明の課題を,漠然と「力や体重が手指の一部分に集中」する
こと,「手指全体で力を込めて握ることが出来ない」ことと主張する。しかし,こ
れだけを課題としても,課題解決手段である実施例を構成する具体的な要素,例え
ば「接地面」「柔軟又は弾性を有する適宜の素材」「それ自体が滑りにくい素材」
「スリット」「内径がつり革のつかまる部分の外形にほぼ等しい筒状体」等を設計
できない。引用発明の課題は,「長時間つかまっている場合や乗り物が揺れた時な
どは特に,手指に痛みや疲れが生じてしまう」ように「力や体重が手指の一部分に
集中」すること(【0003】),「電車やバスが揺れた時などは特に危険である」
ように「手指全体で力を込めて握ることが出来ない」こと(【0004】)と,実
用上の具体的現象の範囲で限定されていると解釈すべきである。
(ウ) 動機付け
引用発明は,全体としては,つり革のつかまる部分に取り付けるためのものでは
あるが,「屈曲面」「開放型嵌合スペース」に相当する構成が存在しない。そして,
周知技術1ないし3は,部分的な構成にすぎず,引用発明のいかなる構成に該当す
るのか不明である。
また,周知例1に記載された発明は,つり革のつかまる部分が仮に太くても手指

全体で握ることができないことを前提にし,フック片をつり革のつかまる部分に引
っかけるだけであり,フック片とつり革のつかまる部分とを一体化することを前提
としていない。周知例1に記載された発明は,引用発明の技術的思想(課題及び課
題解決手段)とは全く異なり,引用発明の力学的原理を全く利用していない。
乙1公報に記載された手指の屈曲保持具は,引用発明のように「つり革のつかま
る部分は手指全体で力を込めて握ることができない」ことを課題にしておらず,「痴
漢事件の冤罪防止をはかる」ことを課題としている。また,乙1公報に記載された
手指の屈曲保持具の構成部品である指屈曲板2は,指屈曲板2自体が掌を内側に曲
げることを阻害し,つり革を「手指全体で力を込めて握ることができない」ものと
なっている。さらに,乙1公報に記載された手指の屈曲保持具は,「携帯用グリッ
プ」の技術分野に属するものでもない。
(エ) 阻害要因
a 周知例1に記載された発明からバンド2を取り外したフック片3は,手指全
体で力を込めて握ることができない大きさと形状であること,つり革につかまる部
分と一体化されていないこと,つり革につかまる部分がフック片3の屈曲内壁面上
部としか接していないことから,フック片3の外表面を手指で握っても,つり革に
つかまる部分と屈曲内壁面上部に生じる摩擦力だけが電車から受ける衝撃力への抗
力にすぎず,引用発明の力学的原理を全く利用できない。周知例1に記載された発
明を適用することには阻害要因がある。
b また,つり革を「手指全体で力を込めて握ることが出来る」という引用発明
に,乙1公報に記載された「第2~4指を屈曲状態に保持し各指を伸ばせない状態
に拘束する」指屈曲板2を適用すれば,指屈曲板2自体が掌を内側に曲げることを
阻害し,少なくとも第2~4指が指屈曲板2で拘束されるから,引用発明の作用効
果が阻害される。
(オ) したがって,引用発明に周知技術1ないし3を適用することは当業者にと
って容易に想到し得るものではない。

(4) 新たな周知技術の認定及び適用について
ア 新たな周知技術の認定
被告は,本件訴訟で,乙2ないし4公報から,後記の周知技術4が認められる旨
主張するが,このような周知技術4を認定することはできない。
すなわち,乙2ないし4公報に記載された「吊り手用把持具」は,「吊革に引っ
掛ける」機能と「手指で把持する」機能とが,それぞれ別個に構成されている「吊
革非接触の把持具」である。したがって,手指が接触することを予定していない「吊
革に引っ掛ける」ための構成には,「指が接触する面」「手のひらが接触する面」
及び「指が曲がった状態で接触する面」など存在し得ない。
イ 周知技術4の適用
乙2ないし4公報に記載された「吊り手用把持具」は,「吊革に引っ掛ける」機
能と「手指で把持する」機能とが,それぞれ別個に構成されている「吊革非接触の
把持具」である。「吊り手用把持具」を介して間接的につり革のつかまる部分を手
指で握ることすらできないものである。
そして,つり革のつかまる部分を「手指全体で力を込めて握ることが出来る」引
用発明に,「吊革非接触の把持具」を適用すれば,つり革のつかまる部分を「手指
全体で力を込めて握ることが出来る」ことが阻害される。
したがって,引用発明に周知技術4を適用することは当業者にとって容易に想到
し得るものではない。
(5) 小括
よって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものではない。
〔被告の主張〕
(1) 相違点4の看過について
本願発明の「前記嵌合スペースが,前記対象グリップの把持部を着脱自在に嵌合」
するとの記載は,単に,「嵌合の脱着を行うことができる」ことを意味するにすぎ

ず,嵌合スペースを広げる必要なしに,「上下するだけ」で脱着を行うことができ
る構成に限定されているものと解することはできない。
したがって,本件審決における一致点の認定に誤りはなく,本件審決は,相違点
4を看過したものではない。
(2) 本件審決に係る周知技術の認定及び適用について
ア 本件審決に係る周知技術の認定
(ア) 周知例1及び乙1公報によれば,周知技術1ないし3を認定することがで
きる。なお,周知例2は,本願優先日前の技術水準を構成するものではないから,
周知技術1ないし3を示す文献としては不適切なものであった。
(イ) 周知例1から認定できる技術事項
a 周知例1には,「手首に装着されるバンド2と,バンド2に基端側31が連
結され先端側32がフック状になったフック片3とから主に構成されている把持補
助具1であって,/フック片3の先端側32はフック状,つまり先端側32はU字
状になっていて,つり革に引っ掛けることができる形状になっており,フック片3
の幅を幅狭にした場合は,掌の内側に入る大きさ,つまり掌で隠せる大きさになっ
ており,つり革に装着してする際に掌でフック片3の外周側を包み込むことで,掌
の内側にフック片3はすっぽり納まり,フック片3の先端側32に指が掛けられて
いる把持補助具1」との事項が記載されている。
b そして,周知例1に記載された事項において,「把持補助具1」の「フック
片3」の「先端側32はU字状」をなしており,U字状部における指先が接触する
面と,手のひらが接触する面の間には,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」が
存在する。したがって,周知例1には,周知技術1に相当する構成が記載されてい
る。
また,周知例1に記載された事項のうち,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」,
「先端側32」,「基端側31」で三方を囲まれた空間が,つり革のつかまる部分
が引っ掛けられることは自明であるから,周知技術2に相当する。

さらに,周知例1に記載された事項のうち,「該U字状部における手のひらが接
触する面」の裏面と,「該U字状部における指先が接触する面」の裏面との間の距
離は,「対象グリップの把持部の最大径と同程度であり,その距離のまま前記開放
型嵌合スペース外部に開放」されている。したがって,周知例1には,周知技術3
に相当する構成が記載されている。
c 原告の主張について
引用例(周知例)から抽出した何らかの技術事項を周知技術として認定したとき,
当該技術事項と,当該引用例に記載されている他の構成とが,当該技術事項に係る
構成が果たす役割に照らして一体不可分なものでなければ,上記他の構成は認定し
た周知技術の妥当性に影響しない。
そして,周知例1には,周知技術1ないし3と一体不可分な他の構成は見当たら
ない。
(ウ) 乙1公報から認定できる技術事項
a 乙1公報には,「直接素手に手首バンド8と指先バンド9により固定して,
車内の吊り輪7や吊り革などに引っ掛けて保持することが出来る指屈曲板2であっ
て,/指屈曲板2の手のひらが接触する面は,屈曲面を経由して,指先が接触する
面まで連続し,/屈曲面において指が曲がった状態で接触しており,/指屈曲板2
の手指が接触する面の内側には,吊り輪7が嵌合される外部に開放された空間が設
けられ,/前記空間において,指屈曲板2の手のひらが接触する面と,指先が接触
する面の間隙の距離は,電車内の吊り輪7を挟み込める程度の寸法であり,/前記
空間は,前記寸法を保ったまま前記空間の外部に開放される指屈曲板2。」との事
項が記載されている。
b そして,乙1公報に記載された事項のうち,「屈曲面」が周知技術1に相当
する。
また,乙1公報に記載された事項のうち,「指屈曲板2の手のひらが接触する面」
と,「(指屈曲板2の)指先が接触する面」と,「屈曲面」とで三方を囲まれた空

間は,「三方を囲まれた空間」に吊り革のつかまる部分である「吊り輪7」が引っ
掛けられることは自明であるから,周知技術2に相当する。
さらに,乙1公報に記載された事項のうち,「指先が接触する面」と「手のひら
が接触する面」との間の距離は,「電車内の吊り輪7を挟み込める程度の寸法」で
あり,「当該寸法」が本願発明の「対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度」
の距離であることは自明である。また,これらの面の間隙は,「当該寸法を保った
まま」該空間の外部に開放されている。したがって,乙1公報には,周知技術3に
相当する構成が記載されている。
(エ) よって,周知技術1ないし3を認定した本件審決に誤りはない。
イ 本件審決に係る周知技術の適用
(ア) 動機付け
引用発明における,本願発明の「屈曲面」,「開放型嵌合スペース」,「開放型
嵌合スペース内における間隙の距離」に相当するものは,つり革のつかまる部分に
取り付けるためのものである。
そして,周知技術1ないし3も,つり革のつかまる部分に取り付けるためのもの
である。
したがって,引用発明と周知技術1ないし3とは,技術分野が共通しており,作
用機能も共通である。
(イ) 阻害要因
a 引用例の記載(【0003】【0004】)から,引用発明におけるつり革
の課題は「力や体重が手指の一部分に集中」すること,「手指全体で力を込めて握
ることが出来ない」ことであり,これらの課題の原因として「つり革のつかまる部
分が細い」ことが共通していることが理解できる。なお,「長時間つかまっている
場合や乗り物が揺れた時などは特に,手指に痛みや疲れが生じてしまう」ことは 【0

003】),「力や体重が手指の一部分に集中してしま」うという課題が解決され
れば,解決されるものである。同様に,「電車やバスが揺れた時などは特に危険で

ある」ことは(【0004】),「手指全体で力を込めて握ることが出来ない」と
いう課題が解決されれば,解決されるものである。
そして,引用発明は,「つり革につかまる際に使用する補助具を提供」するもの
であって(【0005】),「補助具を使用することによりつかまる部分が太くな
り,手指との接地面も増えるため,力や体重が手指の一部分に集中せず,手指全体
で力を込めて握ることが出来るようになり安全である」という効果を奏するもので
ある(【0006】)。したがって,「つかまる部分」の径を,つり革自体の径よ
りも大きくすることができれば,上記2つの課題が解決できるといえる。
そして,周知技術1ないし3は,いずれも,つり革に設置した場合,「つかまる
部分」の径を,つり革自体の径よりも大きくすることができることは明らかである。
したがって,引用発明に周知技術1ないし3を適用して,上記2つの課題を解決
可能であるから,周知技術1ないし3を引用発明に適用することに阻害要因はない。
b 原告の主張について
原告は,引用発明において,「つり革のつかまる部分」と一体化することに重要
な技術的意義があると主張する。しかし,引用発明の課題は「補助具を使用するこ
とによりつかまる部分が太く」なることによって解決されるものであり,補助具を
滑りにくくすることについては,あくまでも「好ましい」程度であるにすぎない 【0

014】)。
(3) 新たな周知技術の認定について
乙2ないし4公報によれば,次のとおり周知技術(以下「周知技術4」という。)
を認定することができる。
「少なくとも屈曲面を有し,電車,バス等の吊革の把持部に引っ掛けて使用する
ものにおいて,屈曲面を挟んで対向する開放型嵌合スペースを有し,開放型嵌合ス
ペース内における間隙の距離が把持部の断面の最大径と同程度であり,前記篏合ス
ペースは前記距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放する」
(4) 小括

よって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものである。
第4 当裁判所の判断
1 本願発明について
本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2【請求項1】に記載のと
おりであるところ,本願明細書(甲1,4の2)によれば,本願発明の特徴は次の
とおりである。なお,本願明細書には,別紙図面目録本願明細書のとおり【図1】,
【図10】⒜が記載されている。
(1) 本願発明は,携帯用グリップに関するものである。(【0001】)
(2) 本願発明は,吊り輪などの対象グリップの把持部への着脱が容易で,どのよ
うな対象グリップの把持部に対しても,同把持部を素手で接触しないように把持す
ることができる携帯用グリップを提供することを課題とする。(【0007】)
(3) 本願発明は,表面に沿って手のひらと指が接触して握持できる外部表面を有
し,同外部表面の内側に嵌合スペースを有し,同嵌合スペースが,対象グリップの
把持部を着脱自在に嵌合する携帯用グリップである。(【0008】)
2 取消事由1(手続違背)について
(1) 本願発明に係る審査及び審判の経緯は,前記第2の3(4)のとおりであり,
特許庁が,違法な手続により,本件審決をしたということはできない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,本願に対する審査が実質的にされていなかったにもかかわらず,審
判合議体が,審査に差し戻さなかったこと,又は,特許審決をしなかったことが,
違法である旨主張する。
しかし,本件拒絶査定は,本願に係る発明につき,甲7の3公報に記載された発
明に基づく進歩性欠如を理由とするものである。そして,本件拒絶査定は,甲7の
3公報の記載を摘示した上で,本願に係る発明は,甲7の3公報に記載された発明
に基づいて容易に発明をすることができた旨説示し,さらに,第3補正時における

原告の主張についても判断を示している。本件拒絶査定において,本願に対する審
査が実質的にされていることは明らかである。
イ 原告は,審判拒絶理由通知以前の段階で,引用発明に基づく進歩性欠如の拒
絶理由が解消されたにもかかわらず,審判合議体が,これを蒸し返し,本願発明は
引用発明に基づいて容易に発明をすることができた旨本件審決をしたことが,違法
である旨主張する。
しかし,審判合議体の判断は,審査段階における審査官の判断に拘束されるもの
ではない。また,審判拒絶理由通知は,本願に係る発明は,引用発明に,周知例1
及び2に記載された周知技術を適用することにより,容易に発明をすることができ
たというものであって,新たな拒絶理由が挙げられている。原告の上記主張は失当
である。
ウ 原告は,審判合議体が,審判拒絶理由通知で看過した相違点3を,本件審決
で新たに認定した上で,容易想到性の判断をしたことが,違法である旨主張する。
しかし,審判合議体は,審判拒絶理由通知に対して,原告が本件補正で追加した
発明特定事項に係る構成をもって,相違点3を認定したものと認められる(甲5の
2,6の2,6の3,6の5)。よって,本件補正前に行われた審判拒絶理由通知
に相違点3を記載することはできなかったものである。なお,審判合議体が,本願
に係る発明と引用発明との一致点及び相違点の認定を誤ったか否かは,進歩性につ
いての実体的判断の違法性に関するものであって,本件審決の手続の違法性に影響
を及ぼすものではない。
エ 原告は,原告が主張したにもかかわらず,審判合議体が,引用発明に周知技
術を適用するに当たっての阻害要因を検討しなかったことが,違法である旨主張す
る。
発明の進歩性については,引用発明に周知技術を適用する動機付けのみならず,
適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断
すべきである。原告は阻害要因があることを基礎付ける事実を主張しているのであ

るから(甲6の4),阻害要因の有無について審決書に具体的に説示しなかった本
件審決は,特許法157条2項4号の要求する理由が十分に記載されていないもの
として,違法なものといわざるを得ない。しかし,同号が審決書に理由を記載すべ
き旨定めている趣旨は,審判官の判断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して
審決の公正を保障すること,当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを
考慮するのに便宜を与えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確
にすることにあることに照らせば,かかる手続違反のみをもって,実体と無関係に
本件審決を取り消すべきものということはできないところ,後記3(4)イのとおり,
引用発明に周知技術1ないし3を適用することにつき阻害要因があるということは
できない。したがって,前記違法は結論に影響を及ぼすものではなく,これをもっ
て,本件審決を取り消すべきものということはできない。
オ その他,原告は,本件審決に至る手続が違法である旨るる主張するが,いず
れも採用できない。
(3) よって,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(進歩性判断の誤り)について
(1) 引用発明について
ア 引用例(甲7の1)には,次のとおり記載があるほか,別紙図面目録引用例
のとおり【図1】,【図2】が記載されている。
(ア) 技術分野
【0001】本発明は,電車やバスなどの乗り物のつり革につかまる際,つかま
る部分に取り付けるなどの方法でつり革と手指の間にはさんで使用する補助具に関
するものである。
(イ) 発明が解決しようとする課題
【0003】電車やバスなどの乗り物で使用されているつり革はつかまる部分が
細く,硬い素材で出来ている。そのため,力や体重が手指の一部分に集中してしま
い,長時間つかまっている場合や乗り物が揺れた時などは特に,手指に痛みや疲れ

が生じてしまう。
【0004】つり革はつかまる部分が細いため,手指全体で力を込めて握ること
が出来ない。そのため電車やバスが揺れた時などは特に危険である。
(ウ) 課題を解決するための手段
【0005】本発明はこのような問題を解決したつり革につかまる際に使用する
補助具を提供するものであり,電車やバスなどの乗り物に乗る際に携帯し,つり革
のつかまる部分に取り付けるなどの方法で,つり革と手指の間にはさみ込んで使用
する事により快適につかまることが出来るようにした。
(エ) 発明の効果
【0006】補助具を使用することによりつかまる部分が太くなり,手指との接
地面も増えるため,力や体重が手指の一部分に集中せず,手指全体で力を込めて握
ることが出来るようになり安全である。
【0007】補助具は柔軟性又は弾性を有する素材で出来ているため,つかまる
部分が硬い素材で出来ていることによって生じる手指の痛みや疲れを緩和できる。
(オ) 発明を実施するための最良の形態
【0010】以下図面に基づいて本発明の好ましい実施形態を詳述する。
【0011】図1に示すように,補助具本体1は親指を除く4本の指が収まると
共につり革に収まる所定の軸長を有する筒状体2により構成されており,例えば,
合成樹脂素材,天然又は合成ゴム素材等,柔軟性又は弾性を有する適宜の素材によ
り成形されている。
【0012】筒状体2は軸方向両端を開口3せしめると共に,軸方向全長に渡る
スリット4を開設しており,補助具本体1は柔軟性又は弾性を有しているため容易
にスリット4を広げ,スリット4よりつり革5に取り付けることが出来る。
【0013】図2は補助具を使用した際のつり革と補助具の断面図であり,図2
に示すとおり補助具本体1はつり革につかまる際つかまる部分に取り付けるなどの
方法で,つり革と手指の間にはさみ込んで使用するものである。

【0014】使用する素材によってはそれ自体が滑りにくい素材である場合もあ
るが,安全面からつり革と接する面には滑りにくいような加工を施すことが好まし
い。
【0015】つり革につかまる時に補助具をすぐ使用できるよう,キーホルダー
で鞄に取り付けるなどの方法で携帯できるようにすることが好ましい。
イ 引用例に,前記第2の3(2)アのとおり,引用発明が記載されていることは当
事者間に争いがない。そして,前記アによれば,引用例には,引用発明について,
次の事項が開示されているものと認められる。
(ア) 引用発明は,電車やバスなどの乗り物のつり革につかまる際,つり革と手
指の間にはさんで使用する補助具に関するものである。(【0001】)
(イ) 上記つり革はつかまる部分が細く,硬い素材で出来ているから,力や体重
が手指の一部分に集中してしまい,長時間つかまっている場合や乗り物が揺れた時
などは特に,手指に痛みや疲れが生じてしまう。また,つり革はつかまる部分が細
いから,手指全体で力を込めて握ることが出来ず,電車やバスが揺れた時などは特
に危険である。(【0003】,【0004】)
(ウ) 引用発明は,つり革につかまる際に使用する補助具を提供するものである。
引用発明の補助具を,つり革と手指の間に,はさみ込んで使用することにより快適
につかまることが出来る。(【0005】)
(エ) 引用発明の補助具を使用することにより,つかまる部分が太くなり,手指
との接地面も増えるため,力や体重が手指の一部分に集中せず,手指全体で力を込
めて握ることが出来るようになり安全である。また,つかまる部分が硬い素材で出
来ていることによって生じる手指の痛みや疲れを緩和できる。(【0006】,【0
007】)
(2) 相違点4の看過について
ア 本願発明と引用発明との相違点が,少なくとも,前記第2の3(2)ウないしオ
のとおりであることは,当事者間に争いがない。

イ 原告の主張について
原告は,本願発明は「上下するだけで嵌合の脱着を行うことができる」という技
術的意義を有するものであるが,引用発明の補助具本体1は「着脱自在」とはいえ
ないから,本願発明と引用発明とは,さらに相違点4においても相違する旨主張す
る。
しかし,本願発明の特許請求の範囲の記載「前記嵌合スペースが,前記対象グリ
ップの把持部を着脱自在に嵌合し」において,「着脱自在」の具体的方法は何ら限
定されていない。したがって,「着脱自在」との用語をもって,本願発明に係る携
帯用グリップが「上下するだけで嵌合の脱着を行うことができる」との構成に限定
されているものと解することはできない。
このことは,本願明細書【0040】において,「距離xを対象グリップの把持
部の断面の最大径よりも小さい距離にして,開放型嵌合スペース12の間隙の距離
が弾性的に変位するように開放型嵌合スペース12を構成する材質,構造を設計し,
対象グリップの把持部で開放型嵌合スペース12がスナップ式に嵌合を着脱できる
ように構成してもよい。」と記載され,本願発明が「スナップ式に嵌合を着脱でき
るように構成」される構成も含むことを前提にした説明がされていることからも明
らかである。
そして,本願明細書【0039】や図面の記載は,本願発明の実施例を説明する
ものにすぎない。
したがって,原告主張に係る相違点4は認められない。
ウ よって,本件審決における一致点の認定に誤りはなく,本件審決は相違点4
を看過したものということはできない。
(3) 本件審決に係る周知技術の認定について
ア 周知例1の記載
周知例1(甲7の4)には,次のとおり記載があるほか,別紙図面目録周知例1
のとおり,【図1】【図2】が記載されている。

【0001】この考案は,手指の不自由な人や手指の力が衰えた老人などが例え
ば電車やバスなどのつり革や掴み棒を掴んだり,例えば鞄や買い物袋などの重い手
荷物を持ちやすくするために手首に装着して使用する把持補助具に関するものであ
る。
【0004】この考案は,…その目的とするところは,フック片が連結されたバ
ンドを手首に装着し,そのフック片を例えば車内のつり革や掴み棒に引っ掛けるこ
とにより,手指の不自由な人や手指の力が衰えた老人などもつり革や掴み棒を掴み
やすくなると共に長時間掴んでも疲れにくくなり,また,そのフック片に例えば鞄
や買い物袋などの重い手荷物の把持部を引っ掛けることで把持部の一部が掌に食い
込むのを防いで持ちやすくすると共に長時間持ち続けることが可能な把持補助具を
提供することにある。
【0014】…把持補助具1は,手指の不自由な人や手指の力が衰えた老人など
が例えば電車やバスなどのつり革aや図示しない掴み棒を掴んだり,例えば鞄や買
い物袋などの重い手荷物を持つ場合に使用する器具で,手首に装着されるバンド2
と,バンド2に基端側31が連結され先端側32がフック状になったフック片3と
から主に構成されている。
【0022】フック片3の先端側32はフック状,つまり先端側32はU字状に
なっていて,つり革aや図示しない掴み棒に引っ掛けたり,手荷物の把持部bを吊
り下げることができる形状になっている。フック片3の先端側32は基端側31に
比べて途中から幅狭になっていて,引っ掛けや吊り下げが容易になるようになって
いる。
【0024】掌の内側で使用されるフック片3の幅は,図1(A)や図3のよう
に幅広にして,より掴みやすいよう形状や,図2,図4のように幅狭にして掌に隠
れるような形状でもよい。フック片3の幅が図1(A)や図3のように幅広の場合
には,幅広なフック片3の中間部位を手指で掴みやすく,しかも外部からも見える
ので,…色々なデザインで造られる。

イ 乙1公報(特開2011-1673号公報)の記載
乙1公報(乙1)には,次のとおり記載があるほか,別紙図面目録乙1公報のと
おり,【図4】【図6】が記載されている。
【0001】本発明は男性の手の指を内側に曲げた状態で強制的に保持すること
により,女性の身体へ故意に触る痴漢行為を防止し,且つ身体に巧く触れられない
という証明により痴漢事件の冤罪防止をはかろうとするものであり,また電車内の
吊り輪にも容易に手を引っ掛けられるし,日常生活においても重い手荷物も楽に提
げられて手を痛めない保護具としても活用できる手指の屈曲保持具に関するもので
ある。
【0005】従来の技術で電車用の模擬吊り輪が痴漢防止用具として開発され販
売されたが手を上に挙げて触れないようにすることが主目的であって直接に痴漢犯
罪防止や冤罪防止用の物証として有効性をなすものではなかったし,携帯が大変で
あり不便でもあった。
【0006】また高齢化社会が進行する現状において,高齢者や女性が買い物な
どで重い手荷物を提げる場合が多いが,特に手荷物の握り手部が手に食い込んで手
が痛くなるという問題が多かった。
【0007】本課題を解決する基本的手段を説明すれば,手袋1に手の指を内側
に曲げたような形状に屈曲した指屈曲板2を取付けた基本構成で,少なくとも第2
指や第3指や第4指を屈曲した状態に保持し各指を伸ばせない状態に拘束すること
を目的とした機構であり,指屈曲板2の屈曲形状は電車内の吊り輪7やカバン6等
の握り手を挟み込める程度の寸法とする。
【0012】本発明の効果を述べると…手袋1を嵌めていることにより指先で身
体を触ることが出来ないことの証明も可能となるため社会的な問題となっている痴
漢犯罪の減少や痴漢冤罪の減少に役立つものであり,高齢化社会において重い手荷
物を提げる際の手の痛みも緩和でき高齢者や女性の買物などにも便利ですし…
【0016】手袋1の指屈曲板2により,車内の吊り輪7や吊り革などに引っ掛

けて保持することが出来るし,握り手部があるカバン6や手荷物なども提げること
が出来る作用である。
【0019】また手袋1の外部内側に指屈曲板2を取付け,少なくても指屈曲板
2と手袋1の指先腹部と手首位置を固定した構成とするし,指屈曲板2を直接素手
に手首バンド8と指先バンド9により固定する構成とする。
【0021】…【図6】本発明の一例を示す,指屈曲板2を素手に取り付けた状
態の斜視図
ウ 周知技術の認定
(ア) 周知例1の把持補助具1も,乙1公報の指屈曲板2も,物を把持する際の
補助具である(周知例1【0001】,乙1公報【0001】)。
(イ) 周知技術1
周知例1の把持補助具1において,フック片3の先端側32はU字状になってお
り(【0022】),U字状部の先端側32には指が接触する面が,基端側31に
は手のひらが接触する面が形成されている(【図1】B及びC,【図2】)。した
がって,周知例1の把持補助具1のU字状部には,「指が曲がった状態で接触する
屈曲面」が認められる。
また,乙1公報の指屈曲板2は,全体としてJ字状をなし,指屈曲板2の手のひ
らが接触する面は,J字の屈曲部を形成する屈曲面を経由して,指先が接触する面
まで連続している(【図6】)。したがって,乙1公報の指屈曲板2のJ字状部に
は,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」が認められる。
このように,周知例1及び乙1公報によれば,物を把持する際の補助具という技
術分野において,当該補助具が「指が曲がった状態で接触する屈曲面」を有すると
いう構成は,周知であったというべきである。
(ウ) 周知技術2
周知例1の把持補助具1において,U字状部の一辺から先端側32が,他の一辺
から基端側31がそれぞれ延在して対向し,U字状部,先端側32及び基端側31

の三方で囲まれた空間が存在し,当該空間が,つり革のつかまる部分に引っ掛けら
れる(【0014】,【図1】B及びC,【図2】)。したがって,周知例1の把
持補助具1には,「屈曲して対向する開放型嵌合スペース」が認められる。
また,乙1公報の指屈曲板2において,指屈曲板2の手のひらが接触する面と,
指屈曲板2の指先が接触する面が,それぞれ対向し,これらの面と屈曲面の三方で
囲まれた空間が存在し,当該空間が,吊り輪7に引っ掛けられる(【図4】,【図
6】)。したがって,乙1公報の指屈曲板2には,「屈曲して対向する開放型嵌合
スペース」が認められる。
このように,周知例1及び乙1公報によれば,物を把持する際の補助具という技
術分野において,「屈曲して対向する開放型嵌合スペース」を有するという構成は,
周知であったというべきである。
(エ) 周知技術3
周知例1の把持補助具1において,つり革のつかまる部分に引っ掛けられる空間
を構成する先端側32の裏面と,基端側31の裏面との間の距離は,つり革のつか
まる部分の最大径と同程度であって,U字状部の反対方向に,そのまま開放されて
いる(【図1】B,【図2】)。したがって,周知例1の把持補助具1は,「開放
型嵌合スペースにおける間隙の距離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程
度であり,前記開放型嵌合スペース外部に開放」されていると認められる。
また,乙1公報の指屈曲板2において,指先が接触する面と手のひらが接触する
面との間の間隙は,電車内の吊り輪7の握り手を挟み込める程度の寸法であって,
その距離を保ったまま外部に開放されている 【0007】 【図4】 【図6】 。
( , , )
したがって,乙1公報の指屈曲板2は,「開放型嵌合スペース内における間隙の距
離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であり,前記篏合スペースは前
記距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放」されていると認められる。
このように,周知例1及び乙1公報によれば,物を把持する際の補助具という技
術分野において,「開放型嵌合スペース内における間隙の距離が対象グリップの把

持部の断面の最大径と同程度であり,前記篏合スペースは前記距離のまま前記開放
型嵌合スペース外部に開放」するという構成は,周知であったというべきである。
(オ) よって,本件審決における周知技術1ないし3の認定に誤りはない。
エ 原告の主張について
(ア) 原告は,周知例1から,バンド2を捨象したフック片3だけを抽出した上
で,周知技術を認定することはできない旨主張する。
しかし,周知例1には,補助具本体1の目的の一つとして,把持部にフック片3
を引っ掛けることで,把持部の一部が掌に食い込むのを防止する旨記載されており
(【0004】),この目的達成のためには,バンド2が不要であることは明らか
である。また,つり革等を掴みやすくするために,フック片3の幅を適宜調整でき
る旨記載されており(【0022】,【0024】),バンド2の有無とは無関係
に,掴みやすさの観点からフック片3に着目する記載もある。周知例1に開示され
た補助具本体1が,バンド2とフック片3から主に構成されている旨記載されてい
るとしても(【0014】),バンド2がフック片3と不可分の構成にあるという
ことはできない。
(イ) 原告は,乙1公報から,手袋1を捨象した指屈曲板2だけを抽出した上で,
周知技術を認定することはできない旨主張する。
しかし,乙1公報には,指屈曲板2を,手袋1を介さずに,直接素手に取り付け
る構成が開示されている(【0019】,【0021】,【図6】)。手袋1を嵌
めることによる効果が乙1公報に記載されているとしても,これは,効果の一つと
して記載されているにすぎないから(【0012】),手袋1が指屈曲板2と不可
分の構成にあるということはできない。
(ウ) 原告は,周知例1及び乙1公報というわずか2件の刊行物から,周知技術
1ないし3を認定することはできない旨主張する。
しかし,物を把持する際の補助具において,その特徴的部分である物を把持する
部分の形状は容易に着目されるものであって,周知技術1ないし3は,当該形状の

外観から容易に理解可能な技術である。そうすると,当業者において,周知例1及
び乙1公報から周知技術1ないし3を抽出することができるというべきである。
(エ) したがって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。
オ 以上によれば,物を把持する際の補助具という技術分野において,本件審決
が周知技術1ないし3を認定したこと自体には誤りはないというべきである。なお,
本件審決は,周知例1及び2から周知技術1ないし3を認定したものであるが,周
知例2(平成26年12月8日公開)は,本願の優先日である同年10月14日よ
り後に頒布されたものである。このような周知例2の記載をもって周知技術を認定
した本件審決には,結論には影響しないものの,違法があったというほかない。
(4) 本件審決に係る周知技術の適用について
ア 動機付け
(ア) 引用発明の補助具本体1は,電車やバスなどの乗り物のつり革につかまる
際,つり革と手指の間にはさんで使用する補助具に関するものである。
一方,周知技術1ないし3は,物を把持する際の補助具に関するものであって,
物と手指の間にはさんで使用する部分の構成に関するものである(周知例1【00
14】【0022】,【図1】B及びC,【図2】,乙1公報【0007】,【図
4】,【図6】)。
したがって,引用発明と周知技術1ないし3は,同一の技術分野に属するもので
ある。
(イ) また,引用発明の補助具本体1は,つり革のつかまる部分が細く,硬い素
材で出来ているから,力や体重が手指の一部分に集中してしまうことを課題の一つ
とし,補助具本体1をつり革と手指との間にはさみ込んで使用することにより,つ
かまる部分を太くして,力や体重が手指の一部分に集中しないようにするという作
用機能を有するものである(引用例【0003】,【0005】,【0006】)。
一方,周知例1の把持補助具1は,手荷物の把持部の一部が掌に食い込むのを防
ぐことを課題とし,掌の内側にあるフック片3により,手荷物を持ちやすくする作

用機能を有するものである(周知例1【0004】,【0022】,【図1】B及
びC)。また,乙1公報の指屈曲板2は,手荷物の握り手部が手に食い込んで手が
痛くなる問題を解決することを課題とし,指屈曲板2を素手の内側に固定し,手の
痛みを緩和する作用機能を有するものである(乙1公報【0001】 【0006】
, ,
【0012】,【0016】,【0019】,【図6】)。そして,周知例1の把
持補助具1及び乙1公報の指屈曲板2における上記課題及び作用機能は,手荷物を
釣り下げた場合を想定するものであるが,つり革につかまる場合と,手荷物を釣り
下げる場合とで,把持部から手指に係る力の作用が同様であることは明らかであっ
て,周知例1にも乙1公報にも,前者の場合と後者の場合が並列して記載されてい
る。そうすると,当業者であれば,周知例1の把持補助具1及び乙1公報の指屈曲
板2における上記課題及び作用機能が,つり革につかまる場合も同様であることを
容易に認識できる。
したがって,引用発明及び周知技術1ないし3の課題や作用・機能は,共通する
ということができる。
(ウ) さらに,引用例【0012】には,「補助具本体1は柔軟性又は弾性を有
しているため容易にスリット4を広げ,スリット4よりつり革5に取り付けること
ができる」との記載があるところ,同記載は,補助具本体1をつり革5に装着する
に当たり装着が容易であることが好ましい旨示唆するものといえる。
そして,周知例1【0004】には,「フック片に…重い手荷物の把持部を引っ
掛けることで」との記載があり,乙1公報【0001】には,「吊り輪にも容易に
手を引っ掛けられるし」との記載があるほか,それぞれの図面(周知例1【図2】,
乙1公報【図6】)の記載からも,周知例1の把持補助具1及び乙1公報の指屈曲
板2につき,把持部への装着が容易であることは明らかである。
そうすると,引用例には,周知技術1ないし3を適用することの示唆があるとい
うことができる。
(エ) よって,引用発明に周知技術1ないし3を適用して本願発明に至る動機付

けがあるというべきである。
イ 阻害要因
原告は,引用発明は,補助具本体1とつり革のつかまる部分とが一体化して機能
するのに対し,周知例1の把持補助具1は,つり革のつかまる部分と一体化してい
ない,乙1公報の指屈曲板2は,つり革を力を込めて握ることができないから,引
用発明に周知例1及び乙1公報から認定される周知技術1ないし3を適用すること
につき阻害要因がある旨主張する。
しかし,引用発明の補助具本体1は,①つり革のつかまる部分が細く,硬い素材
で出来ているから,力や体重が手指の一部分に集中してしまうことを課題にすると
ともに(【0003】),②つり革のつかまる部分が細いから,手指全体で力を込
めて握ることが出来ないことも課題とするものである(【0004】)。引用例に
は,①の課題及びその課題解決のための作用・機能(【0003】,【0006】)
と,②の課題及びその課題解決のための作用・機能(【0004】,【0006】)
が,並列して記載されており,その作用・機能も個別に解されるから,両者を満足
させるために,必ず一つの構成を採用しなければならないと理解されるものではな
い。また,引用例には,引用発明の補助具本体1について,柔軟性又は弾性を有す
る適宜の素材により成型されており,スリット4を広げることによりつり革5に取
り付けられるとの記載(【0011】,【0012】),つり革と接する面には滑
りにくいような加工を施すことが好ましいとの記載(【0014】),補助具本体
1がつり革の周囲を覆う図面の記載(【図2】)等があるものの,これらの記載を
もって,引用発明を,②の課題及びその課題解決のための作用・機能を有するもの
のみと解釈しなければならないものではない。
したがって,引用発明の技術的意義を,補助具本体1とつり革のつかまる部分と
が一体化して機能するものとして解釈する必要はないというべきである。
そして,引用発明の技術的意義は,①と②に区別して理解されるものであって,
引用発明に周知技術1ないし3を適用しても,①の課題解決のための作用・機能は

何ら阻害されるものではない。周知技術1ないし3を適用した場合に,②の課題解
決のための作用・機能が阻害されることがあったとしても,これをもって,引用発
明に周知技術1ないし3を適用することを阻害する要因があるということはできな
い。
よって,引用発明に周知例1及び乙1公報から認定される周知技術1ないし3を
適用することにつき阻害要因があるということはできない。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,引用発明の補助具本体1と周知例1の把持補助具1及び乙1公報
の指屈曲板2との課題及び課題解決手段の相違から,周知例1及び乙1公報から認
定される周知技術1ないし3を引用発明に適用する動機付けがない旨主張する。
しかし,前記のとおり,引用発明の技術的意義を,補助具本体1とつり革のつか
まる部分とが一体化して機能するものとして解釈する必要はなく,引用発明の技術
的意義は①と②に区別して理解されるものである。
そして,前記ア(イ)のとおり,引用発明の補助具本体1における①の課題及びそ
の課題解決のための作用・機能と,周知例1の把持補助具1及び乙1公報の指屈曲
板2の課題及びその課題解決のための作用・機能とは共通するものである。引用発
明の補助具本体1における②の課題及びその課題解決のための作用・機能を,周知
例1の把持補助具1及び乙1公報の指屈曲板2が有しないことをもって,引用発明
に周知技術1ないし3を適用する動機付けを欠くということはできない。
したがって,引用発明の技術的意義を狭く解釈した上で,周知技術1ないし3を
引用発明に適用する動機付けがないとする原告の上記主張は,その前提に誤りがあ
るから,採用できない。
(イ) 原告は,乙1公報の指屈曲板2は,痴漢事件の冤罪防止を図ることを課題
とする旨主張する。
しかし,乙1公報の指屈曲板2は,指先を固定することにより痴漢事件の冤罪防
止を図ることだけではなく,手荷物の握り手部が手に食い込んで手が痛くなる問題

を解決することも課題とする(【0005】,【0006】)。引用発明への適用
の動機付けを判断するに当たり,その課題を,痴漢事件の冤罪防止を図ることに限
定して解釈する必要はない。
したがって,乙1公報の指屈曲板2の課題を限定して解釈する原告の上記主張は
採用できない。
エ よって,相違点1ないし3に係る本願発明の構成は,引用発明に周知技術1
ないし3を適用することにより当業者が容易に想到できたものというべきである。
(5) 小括
以上によれば,引用発明に周知技術1ないし3を適用することにより本願発明を
容易に発明をすることができたということができる。
よって,取消事由2は理由がない。
4 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄
却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部


裁判長裁判官 高 部 眞 規 子


裁判官 杉 浦 正 樹


裁判官 片 瀬 亮


別紙

図面目録

本願明細書
【図1】 【図10】


引用例
【図1】 【図2】


周知例1
【図1】 【図2】


乙1公報
【図4】 【図6】

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