知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成30(行ケ)10051 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成30(行ケ)10051審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成31年2月27日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官仁木学
原告デウシップビルディングアリングカンパニーリミ
対象物 船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システム及び方法
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 審決25回
実施21回
進歩性4回
刊行物3回
特許権2回
ライセンス2回
優先権1回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 ⑴ 原告は,発明の名称を「船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システム及 び方法」とする発明について,平成25年10月24日(パリ条約による優先権主 張:外国庁受理2012年10月24日,韓国(KR),2013年5月23日, 韓国(KR))に特許出願をした(特願2014-543440号)。原告は,国 内書面提出期間内である平成26年4月10日に所定の書面を提出したが,平成2 7年12月22日,拒絶査定を受けた(甲4,5)。 ⑵ 原告は,平成28年5月2日,特許庁に対し,拒絶査定不服審判を請求し, 不服2016-6542号事件として係属した。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成31年2月27日判決言渡
平成30年(行ケ)第10051号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成31年1月16日
判 決
原 告 デウ シップビルディング
アンド マリーン エンジニ
アリング カンパニー リミ
テッド
同訴訟代理人弁理士 山 下 雅 昭
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 島 田 信 一
仁 木 学
関 口 哲 生
半 田 正 人
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を
30日と定める。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2016-6542号事件について平成29年11月27日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
⑴ 原告は,発明の名称を「船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システム及
び方法」とする発明について,平成25年10月24日(パリ条約による優先権主
張:外国庁受理2012年10月24日,韓国(KR),2013年5月23日,
韓国(KR))に特許出願をした(特願2014-543440号)。原告は,国
内書面提出期間内である平成26年4月10日に所定の書面を提出したが,平成2
7年12月22日,拒絶査定を受けた(甲4,5)。
⑵ 原告は,平成28年5月2日,特許庁に対し,拒絶査定不服審判を請求し,
不服2016-6542号事件として係属した。
⑶ 原告は,平成29年7月25日,特許請求の範囲の請求項の記載の変更を内
容とする手続補正書(甲9,10)を提出した(以下「本件補正」という。)。
⑷ 特許庁は,同年11月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,
同年12月19日,原告に送達された。
⑸ 原告は,本件審決を不服として,平成30年4月17日,本件訴えを提起し
た。
2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1に
係る発明を「本願発明」という。)。その明細書及び図面(甲4)を「本願明細書」
という。なお,文中の「/」は改行部分を示す(以下同じ。)。各請求項の記載中,
「BOG」とはボイルオフガス(Boil-Off Gas)を,「LNG」とは液化天然ガス
(Liquefied Natural Gas)をいう(以下「BOG」,「LNG」という。)。
【請求項1】
LNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGから発生するBOGを圧縮する圧縮装置と,
/前記LNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGが供給されて加圧する高圧ポンプと,
/前記高圧ポンプで加圧された前記LNGを気化させる気化器と,を含み,/前記
圧縮装置が,複数のコンプレッサ及び複数のインタークーラを含む多段圧縮機であ
って,BOGを多段圧縮機だけで150乃至400barに圧縮可能である燃料供
給システムにて,少なくとも天然ガスを燃料として使用可能な二元燃料エンジンと,
150乃至400barに圧縮された高圧ガスを燃料として使用する船舶用エンジ
ンとに燃料を供給するための燃料供給方法において,/前記二元燃料エンジンに,
前記多段圧縮機に含まれる複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮された前記
BOGを供給し,/前記LNG貯蔵タンクから発生する前記BOGを1セットのみ
の前記多段圧縮機により150乃至400barに圧縮してから前記船舶用エンジ
ンまで供給する経路を第1流路,前記LNG貯蔵タンクに貯蔵された前記LNGを
前記高圧ポンプにより150乃至400barに加圧してから前記気化器を介して
前記船舶用エンジンまで供給する経路を第2流路とし,これら二元化された燃料供
給流路の第1流路と第2流路との少なくとも一方により前記船舶用エンジンに燃料
を供給し,/前記多段圧縮機に故障が生じた場合に,第2流路によりLNG貯蔵タ
ンクに貯蔵された前記LNGを前記船舶用エンジンに燃料として供給することで前
記多段圧縮機に対して前記高圧ポンプが重複性を満たすようにしたことを特徴とす
る燃料供給方法。
【請求項2】
前記船舶用エンジン及び前記二元燃料エンジンの燃料として供給された後の残り
の前記BOGをガス燃焼装置で燃焼させることを特徴とする請求項1に記載の燃料
供給方法。
【請求項3】
前記LNG貯蔵タンクに設けられて前記LNG貯蔵タンクに貯蔵された前記LN
Gを燃料ポンプにより前記高圧ポンプに供給することを特徴とする請求項1に記載
の燃料供給方法。
【請求項4】
前記船舶は,130000乃至350000m 3 級のLNG運搬船であることを
特徴とする請求項1に記載の燃料供給方法。
3 本件審決の理由の要旨
⑴ 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本
願発明は,後記引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。),周知技術
及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,本願は拒絶すべきもの
である,というものである。
引用例:「LNG as fuel for 2-stroke propulsion of Merchant ships. Sept.2012
MAN Diesel&Turbo」(商業船の2ストローク推進用燃料としてのLNG 20
12年9月 マン ディーゼル アンド ターボ)(乙1。なお,甲1は,乙1の
抜粋である。)
⑵ 本件審決が認定した引用発明は,以下のとおりである。
LNGカーゴタンクに貯蔵されたLNGから発生するBOGを圧縮するBCA
Laby-GI圧縮機と,/前記LNGカーゴタンクに貯蔵されたLNGが供給さ
れて加圧するHP LNGポンプと,/前記HP LNGポンプで加圧された前記
LNGを気化させるHP気化器と,を含み,/前記BCA Laby-GI圧縮機
が,複数のコンプレッサを含む多段圧縮機であって,BOGを多段圧縮機だけで3
00barに圧縮可能である燃料供給システムにて,BOGを燃料として使用可能
なDF発電機と,300barに圧縮された高圧ガスを燃料として使用するME-
GIエンジンとに燃料を供給するための燃料供給方法において,/前記DF発電機
に,並列的に2セット配置された各々の前記BCA Laby-GI圧縮機に含ま
れる複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮された前記BOGが供給可能であ
り,/前記LNGカーゴタンクから発生する前記BOGを並列的に2セット配置さ
れた各々の前記BCA Laby-GI圧縮機により300barに圧縮してから
前記ME-GIエンジンまで供給可能な経路をBOGの流路,前記LNGカーゴタ
ンクに貯蔵された前記LNGを前記HP LNGポンプとHP気化器を介して30
0barに加圧してから前記ME-GIエンジンまで供給する経路をLNGの流路
とし,これら二元化された燃料供給流路のBOGの流路とLNGの流路とにより前
記ME-GIエンジンに燃料を供給する燃料供給方法。
⑶ 本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のと
おりである。
ア 一致点
LNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGから発生するBOGを圧縮する圧縮装置と,
/前記LNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGが供給されて加圧する高圧ポンプと,
/前記高圧ポンプで加圧された前記LNGを気化させる気化器と,を含み,/前記
圧縮装置が,複数のコンプレッサを含む多段圧縮機であって,BOGを多段圧縮機
だけで150乃至400barに圧縮可能である燃料供給システムにて,少なくと
も天然ガスを燃料として使用可能な二元燃料エンジンと,150乃至400bar
に圧縮された高圧ガスを燃料として使用する船舶用エンジンとに燃料を供給するた
めの燃料供給方法において,/前記二元燃料エンジンに,前記多段圧縮機に含まれ
る複数のコンプレッサのうちの一部を経て圧縮された前記BOGを供給し,/前記
LNG貯蔵タンクから発生する前記BOGを前記多段圧縮機により150乃至40
0barに圧縮してから前記船舶用エンジンまで供給する経路を第1流路,前記L
NG貯蔵タンクに貯蔵された前記LNGを前記高圧ポンプにより150乃至400
barに加圧してから前記気化器を介して前記船舶用エンジンまで供給する経路を
第2流路とし,これら二元化された燃料供給流路の第1流路と第2流路とにより前
記船舶用エンジンに燃料を供給し,これら二元化された燃料供給流路の第1流路と
第2流路とにより前記船舶用エンジンに燃料を供給する燃料供給方法。
イ 相違点
(ア) 相違点1
「多段圧縮機」に関し,/本願発明は,「複数のインタークーラを含」み,かつ
「1セットのみ」が設けられるのに対し,/引用発明は,インタークーラを含むも
のであるか明らかでなく,「並列的に2セット配置され」ていて,各々のBCA
Laby-GI圧縮機によりDF発電機及びME-GIエンジンに燃料が供給可能
である点。
(イ) 相違点2
本願発明は,「二元化された燃料供給流路の第1流路と第2流路との少なくとも
一方により前記船舶用エンジンに燃料を供給」する構成であり,「前記多段圧縮機
に故障が生じた場合に,第2流路によりLNG貯蔵タンクに貯蔵された前記LNG
を前記船舶用エンジンに燃料として供給することで前記多段圧縮機に対して前記高
圧ポンプが重複性を満たすようにした」のに対し,/引用発明は,かかる事項が特
定されていない点。
4 取消事由
本願発明に係る進歩性判断の誤り
⑴ 引用例の頒布日についての認定の誤り
⑵ 相違点1に係る構成の容易想到性判断の誤り
⑶ 相違点2に係る構成の容易想到性判断の誤り
第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
1 引用例の頒布日についての認定の誤り
引用例(ただし,本項では甲1を指す。)は,平成28年6月23日付け「刊行
物等提出書」で特許庁に提出され,同月24日に特許庁が受け付けたものである。
「刊行物等提出書」には,引用例につき,平成24年9月4日にデンマークのコペ
ンハーゲンで行われた MAN Diesel & Turbo 社(以下「MDT社」という。)主催
のセミナー(以下「本件セミナー」という。)での配布資料である旨が記載されて
いるところ,本件審決は,上記公表日を進歩性判断の基準日として判断をした。
しかし,引用例の記載を見ても,本件セミナーが実際に開催されたことを裏付け
るものはなく,頒布場所も不明である。また,引用例の各頁左下の「2012.03.05」
が頒布日を示すものかどうかも不明確である。仮に本件セミナーが開催されて資料
が頒布されたとしても,引用例がそのままの内容で本件セミナーの参加者等に実際
に頒布されたことを裏付ける客観的な証拠もない。
なお,マンディーゼルアンドターボ日本株式会社(以下「訴外会社」という。)
は,MDT社の日本法人であるところ,MDT社はME-GIエンジンを製造,販
売する者であり,直接の当事者ではないとはいえ,本件審決の是非につき利害関係
を有する者であり,また,MDT社は,原告保有特許権をもとに原告とライセンス
契約を締結し,原告に対して使用料を支払う立場にあることから,本件セミナーが
引用例記載の日付に実際に開催されたなどとする訴外会社の回答(乙3,4)は信
用性に欠ける。
以上を踏まえると,引用例の頒布日は,特許庁の受付日である平成28年6月2
4日とすべきであり,本願優先日前と認定することはできない。
2 相違点1に係る構成の容易想到性判断の誤り
引用例には,LNGカーゴタンクで発生したBOGを多段圧縮機だけで300b
arに圧縮した後,この圧縮したBOGを燃料としてME-GIエンジン(船舶用
エンジン)に供給する経路を備えることが図示されているが,当該経路には,多段
圧縮機が重複して2個並列に設置されている。本件審決は,この点について,多段
圧縮機を1セットのみ設けることに変更することは当業者であれば適宜になし得る
ことと判断した。
しかし,船舶によりLNGを海上輸送する際,船舶の運航に影響を与える重要な
装備に対しては,それが故障することに備えて重複化しなければならない。ここで,
重複化(Redundancy)とは,「余分な装備を構成して要求機能を行うための主構
成装備の動作時は待機状態に置き,主構成装備が故障などで作動できない場合に機
能を引き継いでその機能を行うことができるように重複設計すること」(本願明細
書【0046】)をいうところ,本願明細書のほか,甲11~13の記載からも,
LNG等の貨物を海上輸送する船舶においては,船舶用エンジン(ME-GIエン
ジン)に燃料を供給するための圧縮機を重複して2個並列に設置することは,本願
発明の属する分野における当業者の技術常識である。
そうすると,当業者であれば,圧縮機を重複して2個並列に設置することのみを
図示する引用例の記載から,上記技術常識を無視して,並列に設置すべき圧縮機を
1個のみに変更しようとするはずもない。
3 相違点2に係る構成の容易想到性判断の誤り
甲3(仮訳として,特表2014-515072号公報。以下,甲3の記載は仮
訳による。)には,BOG再液化装置が作動しない,又は貯蔵タンク11で発生す
るBOGの量が少ない場合,貯蔵タンク11内に設置されたLNG供給ポンプ57
及びLNG供給ラインL7を介して貯蔵タンク11に収容されたLNGをバッファ
タンク31に供給することによって燃料を供給できることが記載されている(【0
123】,図9b)。この点について,本件審決は,BOGの流路中の圧縮機が故
障した場合も「ボイルオフガス再液化装置が作動しない」場合と同列に扱い,BO
Gの流路を構成するシステムに故障がある場合にLNGの流路から燃料供給するこ
とを従来周知の技術と捉えられると判断した。
しかし,本願発明及び引用例の燃料供給方法は,LNG貯蔵タンク(LNGカー
ゴタンク)で発生したBOGを多段圧縮機によりME-GIエンジンで要求される
圧力まで圧縮し,この圧縮されたものを燃料としてME-GIエンジンに供給する
ものであり,甲3記載の燃料供給方法のように,BOGを再液化させて燃料供給が
できないというものではない。このため,引用例に甲3記載の事項を正しく適用す
るならば,「ボイルオフガス再液化装置」は,BOGの流路を構成するシステムと
はみなせないはずである。
また,甲3には,「ボイルオフガス再液化装置が作動しない」と記載されている
だけで,BOG圧縮部13の各BOG圧縮機14が故障した場合については全く記
載されていない。しかも,「ボイルオフガス再液化装置が作動しない」とは,直ち
に「システムの故障」を意味するものでもない。すなわち,甲3の記載によれば,
BOGの流路中の圧縮機を作動させたまま,意図的に再液化装置の作動を中止する
ことがあるところ,当業者であれば,「ボイルオフガス再液化装置が作動しない」
とは,システムの故障というより,意図的な停止を意味すると理解するはずである。
4 以上の点で,本件審決には結論に影響する認定・判断に誤りがあることから,
本件審決は取消しを免れない。
〔被告の主張〕
1 引用例の頒布日についての認定の誤りについて
乙1~6によれば,本件セミナーがコペンハーゲンにて平成24年9月2日から
同月8日まで実際に開催され,その際,同月4日に「LNG as fuel for 2-stroke
propulsion of Merchant ships」という講義が行われたこと,及び引用例(乙1)
が当該講義にて頒布されたことが合理的に推認できる。
したがって,引用例は,本願優先日前に本件セミナーの参加者に頒布されたもの
であり,この点に関する本件審決の認定に誤りはない。
2 相違点1に係る構成の容易想到性判断の誤りについて
⑴ 本件審決の認定に係る引用発明である「ME-GIエンジンに燃料を供給す
るための燃料供給方法」において,「圧縮機(多段圧縮機)」は「並列的に2セッ
ト配置され」なければ燃料が供給されないというものではなく,1セットであって
も燃料は供給される。そして,船舶用エンジンに燃料を供給するための圧縮機(多
段圧縮機)を1セット設置するものは,甲3のほか,乙7及び8にも開示されてい
るように,従来周知の技術である。
そうすると,「ME-GIエンジンに燃料を供給するための燃料供給方法」にお
いては,圧縮機(多段圧縮機)を,重複して2個並列に設置すること及び1セット
のみ設けることの両者を採用できるのであって,圧縮機を1セットのみ設けること
に変更することが技術常識を無視したものということはできない。
⑵ 甲11の「海洋で使用する小型圧縮機による解決策が,非常に限られた据付
スペースにおいても,圧縮機を重複設置する機会を提供する。」との記載は,圧縮
機を重複設置から1セットのみ設けることに変更することが技術常識を無視したも
のであることを意味するものではない。そもそも,甲11の公開日は不明であり,
本願優先日時点での技術を示す資料であるか否かも明らかではない。
甲12の「設計のオプションとして,1機目の主圧縮機が故障の際に手動で運転
開始可能な2機目の圧縮機を備えること(重複設計)」との記載は,オプションと
して重複設計するものであり,船舶用エンジン(ME-GIエンジン)に燃料を供
給するための圧縮機(多段圧縮機)を1セットのみ設けることに変更することが技
術常識を無視したものであることを意味するものではない。また,甲12も,本願
優先日時点での技術を示す資料であるか否か明らかでない。
甲13も同様に,「圧縮機を重複(redundant)して設置すること」との記載は,
船舶用エンジン(ME-GIエンジン)に燃料を供給するための圧縮機(多段圧縮
機)を重複して設置することから1セットのみ設けることに変更することが技術常
識を無視したものであることを意味するものでない。
3 相違点2に係る構成の容易想到性判断の誤りについて
⑴ 甲3【0123】は,同文献記載の第4実施形態に関する記載(【0116】
以下)であり,図9aに対応する。これに対し,原告の主張は,第6実施形態に関
する記載(【0170】)に基づくものであり,当該記載は図11に対応する。
そもそも,【0123】の記載の解釈を別の実施形態に関する【0170】の記
載に基づいて行うのは適切でなく,両者は別物として解釈すべきである。そして,
当業者が【0123】の記載から把握する状況は,「ボイルオフガス再液化装置が
作動しない,または貯蔵タンク11で発生するボイルオフガスの量が少ない場合」
に燃料の供給が十分でないという状況といえる。そうすると,当該「ボイルオフガ
ス再液化装置が作動しない」につき,BOG再液化装置の故障である場合を含めて
解釈することは,当業者にとってごく自然なことといえる。
したがって,「ボイルオフガス再液化装置が作動しない」につき,当業者は,意
図的な停止を意味すると理解するとの解釈は適当でない。
⑵ LNG船において,燃料ガス調整プラントの重要な構成要素(高圧ガス圧縮
機,熱交換器)の故障に対する対応として,代替の供給システムのバックアップに
より通常航海に支障をきたさないシステム構成にすることは,技術常識である。こ
の技術常識に倣えば,引用発明の「BCA Laby-GI圧縮機」の故障に対す
る対応として,代替の供給システムのバックアップにより通常航海に支障をきたさ
ないシステム構成にすることになるところ,そのようなシステム構成にすることは,
「BCA Laby-GI圧縮機」が引用発明のように2セットであっても,1セ
ットに変更された場合であっても,セット数に関係なく同様に妥当する。また,引
用発明では,既にME-GIエンジンへの代替の燃料供給方法として「前記LNG
カーゴタンクに貯蔵された前記LNGを前記HP LNGポンプとHP気化器を介
して300barに加圧してから前記ME-GIエンジンまで供給する経路をLN
Gの流路とし」て燃料供給することが確立されている。そうである以上,引用発明
において,代替の供給システムとして,当該「LNGの流路」を使用することは,
当業者が普通に想定できることである。
加えて,甲3に開示されているように,BOGの流路を構成するBOG再液化装
置の故障の場合,つまり,BOGの流路を構成するシステムに故障があるような場
合に,LNGの流路から燃料供給することは,従来周知の技術である。
したがって,BCA Laby-GI圧縮機に故障が生じた場合に,BCA L
aby-GI圧縮機に対してHP LNGポンプが重複性を満たすようにすること
は,当業者であれば適宜になし得ることである。
第4 当裁判所の判断
1 本願発明について
⑴ 本願発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項1】記載のとおり
である。また,本願明細書には,以下の記載がある(図面は別紙図面目録記載1参
照)。
ア 技術分野
本発明は,船舶用エンジンに対するハイブリッド燃料供給システムに関し,さら
に詳しくは,高圧ガス噴射エンジン,すなわち推進手段に対してLNG貯蔵タンク
内のBOG又はLNGを燃料として供給できる船舶用エンジンのハイブリッド燃料
供給システムに関する。(【0001】)
イ 背景技術
天然ガスの液化温度は,常圧で約-163℃の極低温であるため,LNGはその
温度が常圧-163℃より少し高いだけで容易に蒸発する。LNG運搬船のLNG
貯蔵タンクの場合は断熱処理が施されてはいるが,外部の熱がLNGに持続的に伝
達されるため,LNG運搬船によってLNGを輸送する途中にLNGがLNG貯蔵
タンク内で持続的に自然気化して,LNG貯蔵タンク内にボイルオフガス(BOG
…)が発生する。(【0003】)
BOGは,一種のLNG損失であって,LNGの輸送効率における重要な問題で
あり,LNG貯蔵タンク内にボイルオフガスが蓄積すると,LNG貯蔵タンク内の
圧力が過度に上昇しLNG貯蔵タンクが破損する危険があるため,LNG貯蔵タン
ク内で発生するBOGを処理するための様々な方法が研究されている。(【000
4】)
最近では,BOGの処理のために,BOGを再液化して貯蔵タンクに戻す方法,
BOGを船舶のエンジンのエネルギー源として使用する方法などが用いられている。
そして,残りのBOGに対してはガス燃焼装置(Gas Combustion Unit,GCU)
で燃焼させる方法を用いている。(【0005】)
ガス燃焼装置は,BOGを他に活用する方法がない場合に貯蔵タンクの圧力を調
節するために不可避的に残りのBOGを燃焼するものであって,BOGの持つ化学
エネルギーが燃焼によって浪費される結果を招くという問題がある。(【000
6】)
ウ 発明が解決しようとする課題
船舶の推進システムとして,DFエンジンが使用されており,また,高圧ガスを
噴射して利用するエンジンなども開発されている。このような船舶の推進システム
では,船級規定上装置の故障による運航中断に対応してエンジンの燃料供給装置の
重複化(redundancy)を行わなければならない。(【0008】)
LNGキャリアなどで高圧ガス噴射エンジンを推進システムに構成してLNGの
運搬時に発生するBOGを船舶用エンジンの燃料として供給する場合,2セットの
圧縮機10,20を具備すべきである。しかし,重複化規定のために使用されない
余分な装備を保有することはコスト面で非常に大きな負担になる。特に,BOGを
高圧に圧縮する圧縮機は高価な装備であるため,コスト負担が大きい。また,カー
ゴタンクにLNGが満タンの状態では発生するBOGが多いため圧縮して燃料とし
て供給できるが,LNGを荷役してカーゴタンクに積載されたLNGの量が少ない
場合は,発生するBOGが少ないため,強制的にBOGを発生させなければならな
い。(【0009】)
BOGの代わりにLNGをポンピング及び気化させて燃料として供給される高圧
ガス噴射エンジンを構成する場合,2セットのポンプ30,40を具備すべきであ
るが,ポンプの価格は圧縮機に比べて相対的に低く,装備保有の費用負担を軽減す
ることができ,カーゴタンクに貯蔵されたLNGを消費することになるので,安定
した燃料供給は可能である。一方で,LNGのフルロード状態で発生する多量のB
OGは活用できない虞があり,BOGを再液化させるための装置が要求される。
(【0010】)
したがって,コスト面で合理的で,発生するBOGを十分に活用するとともに,
BOGの発生量が少ない場合にも安定的に燃料を供給して船舶を推進できる燃料供
給システムが必要である。(【0011】)
エ 課題を解決するための手段
本発明のさらに他の側面によれば,船舶用エンジンの燃料供給システムであって,
船舶のLNG貯蔵タンクに連結され前記LNG貯蔵タンクに貯蔵された液化天然ガ
スから発生するBOG…を前記船舶の高圧ガス噴射エンジンに供給する第1流路と,
船舶のLNG貯蔵タンクに貯蔵された液化天然ガスをポンピング及び気化させて前
記高圧ガス噴射エンジンに供給する第2流路と,前記第1流路に設けられて前記B
OGを圧縮する圧縮機とを含み,前記高圧ガス噴射エンジンは,150乃至400
barの高圧に圧縮された高圧ガスを燃料として使用し,前記第1流路から分岐す
る第3流路をさらに含み,前記第3流路には前記BOGを供給されるDFDE(判
決注:二元燃料ディーゼルエンジン(Dual Fuel Diesel Engine)をいう。)が設
けられることを特徴とする船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システムが提供
され得る。(【0023】)
前記圧縮機は,複数のコンプレッサ及び複数のインタークーラを含み,多段で構
成され得る。(【0025】)
前記DFDEは,前記圧縮機のうち少なくとも一部を経て圧縮されたBOGを供
給され得る。(【0026】)
前記圧縮機は,多段で構成された1つのセットのみ設けられ得る。(【002
7】)
前記第2流路には,前記LNG貯蔵タンクの液化天然ガスを供給されて高圧でポ
ンピングする高圧ポンプ及び前記高圧ポンプでポンピングされた前記液化天然ガス
を気化させて前記高圧ガス噴射エンジンに供給する気化器が設けられ得る。(【0
028】)
オ 発明の効果
本発明の船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システムでは,高圧ガス噴射エ
ンジンが設けられた船舶で,第1流路及び第2流路を具備し,使用されない別の余
分な装備を設けることなく燃料供給の重複化が可能になる。(【0037】)
本発明は,BOGと液化天然ガスとを選択的に高圧ガス噴射エンジンに燃料とし
て供給することによって,船舶のバラスト状態でBOGの発生量が不足して高圧ガ
ス噴射エンジンへの燃料供給のために強制的にBOGを発生しなければならない問
題を解決することができ,積載状態で発生する多量のBOGを再液化させるコスト
も低減できる。(【0038】)
また,船舶のLNG貯蔵タンクで発生する多量のBOGを圧縮して高圧ガス噴射
エンジンの燃料として供給することによって,GCUで燃焼されて浪費されるBO
Gの量を低減し効果的にBOGを活用することができ,BOGの発生量が少ない時
は,液化天然ガスを高圧ガス噴射エンジンに供給するようにシステムを構成するこ
とによって安定的に燃料を供給できる。(【0039】)
カ 発明を実施するための形態
図3は,本発明の第1実施形態による船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給シ
ステムの構成を概略的に示す図である。(【0043】)
図3に示すように,本実施形態の船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システ
ムは,船舶用エンジンの燃料供給システムであって,船舶のLNG貯蔵タンクCT
に連結され,LNG貯蔵タンクCTに貯蔵された液化天然ガスから発生するBOG
…を船舶の高圧ガス噴射エンジン100に供給する第1流路L1と,船舶のLNG
貯蔵タンクCTに貯蔵された液化天然ガスをポンピング及び気化させて高圧ガス噴
射エンジン100に供給する第2流路L2と,第1流路L1に設けられてBOGを
圧縮する圧縮機200をと含み,高圧ガス噴射エンジン100は,150乃至40
0barの高圧に圧縮された高圧ガスを燃料として使用する。(【0044】)
本実施形態で,LNG貯蔵タンクCTで発生するBOGが高圧ガス噴射エンジン
100の燃料必要量を満たす場合は第1流路L1でBOGが供給され,BOGの発
生量が燃料必要量より少ない場合はポンピング及び気化された液化天然ガスのみが
供給される,またはBOGが供給されるとともに燃料の不足分だけのポンピング及
び気化された液化天然ガスが供給され得る。このように,本実施形態は,第1流路
L1と第2流路L2とに重複化された燃料供給流路を構成することによって,普段
は使用されないが,単に重複性を満たすために具備される余分な装備,例えば追加
圧縮機を構成しない。(【0045】)
重複化(Redundancy)とは,余分な装備を構成して要求機能を行うための主構
成装備の動作時は待機状態に置き,主構成装備が故障などで作動できない場合に機
能を引き継いでその機能を行うことができるように重複設計することをいうが,主
にローテートが行われる装備に対してこのような重複性を満たすための余分な装備
が重複設計される。本実施形態における燃料供給システムでは圧縮機やポンピング
のためのポンプなどがこれに該当する。(【0046】)
本実施形態で,圧縮機200は,複数のコンプレッサ201及び複数のインター
クーラ202を含み,多段で構成されることができ,圧縮機200は,このように
多段で構成された1つのセットのみ設けられ得る。(【0050】)
一方,第2流路L2にはLNG貯蔵タンクCTの液化天然ガスを供給されて高圧
でポンピングする高圧ポンプ300と,高圧ポンプ300でポンピングされた液化
天然ガスを気化させて高圧ガス噴射エンジン100に供給する気化器310とが設
けられることができ,LNG貯蔵タンクCTには高圧ポンプ300に液化天然ガス
を供給するFG(Fuel Gas)ポンプ320が設けられ得る。【0051】
高圧ガス噴射エンジン100は,例えば,150乃至400barに圧縮された
高圧ガスを燃料として供給されるME-GI(Main Engine Gas Injection)エン
ジンであり得る。(【0052】)
積載状態のようにBOGの発生量が多く,高圧ガス噴射エンジン100の燃料必
要量を満たす場合,第1流路L1に設けられた圧縮機200で高圧ガス噴射エンジ
ン100が必要とする圧力まで圧縮した後,供給するようになる。(【0058】)
次に,LNG貯蔵タンクCTでのBOGの発生量の少ないバラスト状態や第1流
路L1で装置に異常が発生した場合などは,高圧ポンプ300で高圧ガス噴射エン
ジン100で要求する圧力,例えば,ME-GIエンジンの場合は150乃至40
0baraに圧縮し,気化器310を経て強制気化させた液化天然ガスを高圧ガス
噴射エンジン100に供給する。(【0060】)
本実施形態は,第1流路L1から分岐して高圧ガス噴射エンジン100の燃料必
要量を超えるBOGをDFDE400…又はGCU410…に供給する第3流路L
3をさらに含むことができる。(【0062】)
本実施形態で,第3流路L3は,コンプレッサ201とインタークーラ202と
が多段で構成された圧縮機200部分のうち,DFDE400が必要とする圧力に
BOGが圧縮された地点で第1流路L1から分岐して設けられ得る。(【006
4】)
このように,船舶のLNG貯蔵タンクCTで多量のBOGが発生する時,例えば,
船舶の積載状態では,BOGを圧縮して高圧ガス噴射エンジン100の燃料として
供給し,BOGの発生量が少ない時,例えば,バラスト状態では,液化天然ガスを
高圧ガス噴射エンジン100に供給できるようにシステムを構成することによって,
重複性を満たすとともにエンジンに安定的に燃料を供給し,GCU410で燃焼さ
れて浪費されるBOGの量を低減し,効果的にBOGを活用できる。(【007
1】)
また,第1及び第2流路L1,L2を構成して重複性を満たしながらも,1セッ
トの圧縮機200のみを構成して圧縮機の数を減らすことで,コンパクトなシステ
ムを構成し,システムの設置及び管理費用を節減できる。(【0072】)
⑵ 本願発明の内容
本願発明に係る特許請求の範囲の記載及び前記⑴認定の各記載によれば,本願明
細書には,本願発明につき,以下の事項が開示されていることが認められる。
本願発明は,船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システム,とりわけ,高圧
ガス噴射エンジンに対してLNG貯蔵タンク内のBOG又はLNGを燃料として供
給できる船舶用エンジンのハイブリッド燃料供給システムに関するものである
(【0001】)。
LNG運搬船のLNG貯蔵タンクは断熱処理が施されてはいるが,外部の熱がL
NGに持続的に伝達されるため,LNG運搬船によってLNGを輸送する途中にL
NGがLNG貯蔵タンク内で持続的に自然気化して,LNG貯蔵タンク内にBOG
が発生する。BOGは,一種のLNG損失であって,LNGの輸送効率における重
要な問題であることなどから,LNG貯蔵タンク内で発生するBOGを処理するた
めの様々な方法が研究されており,最近では,BOGを再液化して貯蔵タンクに戻
す方法,BOGを船舶のエンジンのエネルギー源として使用する方法等が用いられ
ている。そして,残りのBOGに対してはガス燃焼装置(GCU)で燃焼させる方
法を用いている。ガス燃焼装置は,BOGを他に活用する方法がない場合に貯蔵タ
ンクの圧力を調節するために不可避的に残りのBOGを燃焼するものであるが,B
OGの持つ化学エネルギーが燃焼により浪費される結果を招くという問題がある
(【0003】~【0006】)。
船舶の推進システムでは,船級規定上装置の故障による運航中断に対応してエン
ジンの燃料供給装置の重複化を行わなければならない。そのため,LNGの運搬時
に発生するBOGを船舶用エンジンの燃料として供給する場合,2セットの圧縮機
を具備すべきである。しかし,これはコスト面で非常に大きな負担になる。特に,
BOGを高圧に圧縮する圧縮機は高価な装備であるため,コスト負担が大きい。ま
た,カーゴタンクに積載されたLNGの量が少ない場合は,発生するBOGが少な
いため,強制的にBOGを発生させなければならない。他方,BOGの代わりにL
NGをポンピング及び気化させて燃料として供給される高圧ガス噴射エンジンを構
成する場合,装備保有の費用負担の軽減及び安定した燃料供給は可能であるが,L
NGのフルロード状態で発生する多量のBOGは活用できないおそれがあり,BO
Gを再液化させるための装置が要求される。したがって,コスト面で合理的で,発
生するBOGを十分に活用するとともに,BOGの発生量が少ない場合にも安定的
に燃料を供給して船舶を推進できる燃料供給システムが必要である(【0008】
~【0011】)。
本願発明は,上記課題を解決するために,本願発明の構成を採用したものである
(【0023】,【0025】~【0028】,【0043】~【0046】,
【0050】~【0052】,【0058】,【0060】,【0062】,【0
064】,図3)。
本願発明の燃料供給方法では,BOGと液化天然ガスとを選択的に高圧ガス噴射
エンジンに燃料として供給することにより,船舶のLNG貯蔵タンクで発生する多
量のBOGを圧縮して高圧ガス噴射エンジンの燃料として供給し,BOGの発生量
が少ない時は,液化天然ガスを高圧ガス噴射エンジンに供給するようにシステムを
構成することによって,安定的に燃料を供給できるとともに,ガス燃焼装置で燃焼
されて浪費されるBOGの量を低減し,効果的にBOGを活用できる。また,第1
及び第2流路を構成して重複性を満たしながらも,1セットの圧縮機のみを構成し
て圧縮機の数を減らすことで,コンパクトなシステムを構成し,システムの設置及
び管理費用を節減できる(【0037】~【0039】,【0071】,【007
2】)。
2 取消事由(本願発明に係る進歩性判断の誤り)について
⑴ 引用例の記載,引用発明及び本願発明と引用発明との一致点・相違点
ア 引用例の頒布日等について
(ア) 引用例(乙1)のスライドには,以下の記載の存在が認められる。
a 1枚目中央部分に,「LNG as fuel for 2-stroke propulsion of Merchant
ships. Sept. 2012」(商業船の2ストローク推進用燃料としてのLNG 2012
年9月)とのタイトルが表示されている。
b 各頁の右上に半円の円弧に囲まれた「MAN」のロゴが置かれるとともに,
右下やや左寄りに「©MAN Diesel & Turbo」との表示がある。
c 表紙及び最終頁を除き,左下に「MAN Diesel & Turbo」との社名と見られ
る表示及び「2012.03.05」との日付と見られる記載がある。
d 表紙及び最終頁の右下に「Promotion Manager, ME-GI」との役職名と見ら
れる記載とともに,「A」との名前及び同人の社用メールアドレスと見られる記載
がある。
e 最終頁に,「Thank you for your kind attention」(ご清聴ありがとうござ
います。),「The presentation material will be available on the following link:
(省略)from 8 March 2012」(このプレゼンテーション資料は,2012年3月
8日から,以下のリンク:(省略)にて入手可能になります。)との記載がある。
他方,このスライドの入手に当たり,入手しようとする者はいずれかへの登録を要
する旨や何らかのパスワードを要する旨など,頒布先を特定の範囲に限定しようと
する作成者の意図をうかがわせる記載は,この最終頁を含むスライド全頁を通じて
見当たらず,また,入手者は秘密保持義務を負う旨など,スライドの記載内容の秘
密性を保持する意図をうかがわせる記載もない。
(イ) プログラム(乙2。以下「本件プログラム」という。)には,以下の記載
の存在が認められる。
a 「 Japanese Shipyards' Technical Seminar-from 2nd September to 8 th
September 2012 in Copenhagen」(日本の造船所技術セミナー 2012年9月
2日~同月8日 コペンハーゲンにて)とのタイトルの表示がある。
b 1枚目の右欄上部のうち,右側に半円状の円弧に囲まれた「MAN」のロゴ
が,左側に「MAN Diesel & Turbo」との社名と見られる記載がある。
c 1枚目の左欄下部に,連絡先とともに「MAN Diesel & Turbo」との記載が
ある。
d 2枚目の左欄に,「Tuesday 4th September」(9月4日火曜日)のスケジ
ュ ー ル と し て , 「 12:30 ME-GI LGI LNG as fuel for 2-stroke propulsion of
Merchant ships」(12:30 ME-GI LGI 商業船の2ストローク推
進用燃料としてのLNG)というセッション(以下「本件セッション」という。)
のタイトル,「A」との名前の記載がある。
(ウ) 上記各記載と,MDT社の日本法人である訴外会社の回答及びこれに添付
された資料(乙3~6)の内容は合致しており,上記回答等の内容自体も,その信
用性を疑うべき事情はない。
したがって,MDT社主催の本件セミナーが,平成24年9月2日から同月8日
にかけて開催され,同月4日には,同社の「Promotion Manager, ME-GI」との役
職名を有する「A」なる人物により,本件セッションが行われたこと,その際,引
用例が,出席者(日本の造船所,エンジンメーカの関係者)に頒布されたこと,引
用例は,入手可能な者を限定することも,入手した者に秘密保持義務を負わせるこ
ともなく,同年3月8日には同社のウェブページ上で入手可能な状態に置かれてい
たことが,それぞれ認められる。
そうすると,引用例は,遅くとも本件セッションが実施された平成24年9月4
日には本件セミナー参加者に対して頒布されていたものと認められる。
したがって,引用例は,本願優先日前に頒布された刊行物ということができる。
(エ) 原告の主張について
原告は,MDT社の本件審決に関する利害関係から,訴外会社の回答のみでは引
用例が実際に頒布されたことの裏付けとして不十分である旨主張する。
しかし,原告の指摘する利害関係とは,本願発明と関連性を有するME-GIエ
ンジンをMDT社が製造,販売しており,訴外会社はその日本法人であること,及
びME-GIエンジンに燃料を供給する技術に関する原告保有特許権をもとに,原
告とMDT社との間でライセンス契約が締結されているという事情に基づくものに
すぎない。本願発明につき特許査定がされることにつき,MDT社ないし訴外会社
が具体的にいかなる利害関係を持つかは不明である。また,乙3,4記載の被告に
よる照会の趣旨説明部分にも,その照会が本件審決又は原告と関連するものである
ことを示す記載はなく,それをうかがわせる記載も見当たらない。
これらの事情等を考慮すると,訴外会社の回答の信用性に疑義を抱くべき事情は
ないというべきであり,この点に関する原告の主張は採用できない。
イ 引用例の記載
引用例1には,上記ア(ア)aの記載のほか,スライド番号<20>に,別紙図面
目録記載2の図面がある。同図によれば,引用例には,LNG運搬船の燃料供給シ
ステムにつき,以下の構成が記載されていると認められる。
(ア) LNGカーゴタンク(LNG Cargo Tanks)に貯蔵されたLNGから発生す
るBOGは,並列的に2セット配置されたBCA Laby-GI圧縮機(BCA
Laby-GI compressor)にそれぞれ供給される。各BCA Laby-GI圧縮機
は,複数のコンプレッサを含む多段圧縮機であり,多段圧縮機に供給されたBOG
は,300barまで圧縮されて,ME-GIエンジン(ME-GI)に供給される。
(イ) 各BCA Laby-GI圧縮機に供給されたBOGの一部は,複数のコ
ンプレッサの一部を経て4-6barまで圧縮され,DF発電機(DF Gensets)
に供給される。
(ウ) LNGカーゴタンクに貯蔵されたLNGは, LNG供給ポンプ(LNG
Supply Pump),LNGブースターポンプ(LNG Booster Pump),HP LN
Gポンプ(HP LNG Pump)及びHP気化器(HP Vaporiser)を経て300ba
rに加圧され,ME-GIエンジン(ME-GI)に供給される。
(エ) 上記(イ),(ウ)のとおり,ME-GIエンジンに燃料を供給する燃料供給
路は,BOGの流路((イ))とLNGの流路((ウ))とに二元化されている。
ウ 引用発明及び本願発明と引用発明との一致点・相違点
引用例に本件審決の前記認定(第2の3⑵)の引用発明が記載されていること,
及びこれと本願発明との一致点・相違点が本件審決の前記認定(第2の3⑶)のと
おりであることについては,当事者間に争いがない。
⑵ 他の文献の記載
他の文献には,以下の記載がある(図面は別紙図面目録記載3~5参照)。
ア 甲3(国際公開第2012/128447号公報。平成24年9月27日公
開)
(ア) 本発明は,高圧天然ガス噴射エンジンのための燃料供給システムに関し,
さらに詳しくは,高圧天然ガス噴射エンジンで燃料として必要とするボイルオフガ
スの量より多い量のボイルオフガスが発生した場合,ボイルオフガス発生量とボイ
ルオフガス必要量との差に相当する超過ボイルオフガスを消費できる超過ボイルオ
フガス消費手段を備えた高圧天然ガス噴射エンジン用燃料供給システムに関する。
(【0001】)
(イ) 図3aは,本発明の第1実施形態による高圧天然ガス噴射エンジン,例え
ばME-GIエンジンを有する海上構造物,特に液化天然ガス運搬船の燃料供給シ
ステムを示した構成図である。(【0058】)
貯蔵タンク11内では液化ガスの蒸発が継続的に行われ,ボイルオフガスの圧力
を適正な水準に維持するために,ボイルオフガス排出ラインL1を介して貯蔵タン
ク11内部のボイルオフガスを排出させる。(【0061】)
排出されたボイルオフガスは,ボイルオフガス排出ラインL1を介してボイルオ
フガス圧縮部13に供給される。ボイルオフガス圧縮部13は,1つ以上のボイル
オフガス圧縮機14,及び該ボイルオフガス圧縮機14で圧縮されるとともに温度
が上昇したボイルオフガスを冷却させるための1つ以上の中間冷却器15を含む。
図3aでは,5つのボイルオフガス圧縮機14及び5つの中間冷却器15を含む5
段圧縮のボイルオフガス圧縮部13が例示されている。(【0062】)
コールドボックス21での熱交換を介して再液化されたボイルオフガスは,バッ
ファタンク31で気体状態と液体状態とに分離され,液体状態の液化ボイルオフガ
スのみが燃料供給ラインL3を介して高圧ポンプ33に供給される。高圧ポンプ3
3は,複数個,例えば2つが並列に設置され得る。(【0064】)
高圧ポンプ33では,液化ボイルオフガスを高圧天然ガス噴射エンジン(例えば
ME-GIエンジン)で要求する燃料供給圧力まで加圧して送出する。高圧ポンプ
33から送出される液化ボイルオフガスは,150~400bara(絶対圧)程
度の高圧を有する。(【0065】)
(ウ) 図9aは,本発明の第4実施形態による高圧天然ガス噴射エンジン(例え
ばME-GIエンジン)を有する海上構造物の燃料供給システムを示した構成図で
ある。(【0117】)
ボイルオフガス再液化装置が作動しない,または貯蔵タンク11で発生するボイ
ルオフガスの量が少ない場合,貯蔵タンク11内に設置されたLNG供給ポンプ5
7及びLNG供給ラインL7を介して貯蔵タンク11に収容されたLNGをバッフ
ァタンク31に供給することによって燃料を供給できる。(【0123】)
イ 甲13(「LNGガス化プラントにおけるBOG処理用圧縮機の運転適正化」
と題する論文。Ind. Eng. Chem. Res. 2007, 46, 6540-6545。平成19年(200
7年)8月28日発行)
3.3 安全のための重複設計圧縮機の運転
必要な圧縮機(複数台)だけを使用していると仮定し,これら圧縮機の1台が運
転中に故障したと仮定してみよう。新しい圧縮機を運転する必要があるが,圧縮機
は,試運転を開始して本運転に入る前に空(カラ)運転を行う必要がある。この空
運転期間Δtstartup 中にタンクの圧力は上昇し,この状態で事故が発生する可能性が
ある。従って,従来のBOG処理用圧縮機の運転には,そのような事態に備えて,
余分な圧縮機を空運転状態で運転することがよくある。(6542頁右欄16行目
~27行目)
ウ 甲14(平成28年9月14日付け上申書の添付資料1「船舶格付けのため
の規則」。同資料のうち,第1部第1章第1節(後記(ア))につき,平成24年
(2012年)1月発行,第4部第1章第3節(後記(イ))につき,同年7月発行)
(ア) A200 定義…
218 格付け関連の主要機能は,以下の通り:
- 強度
- 風密,耐水完全性
- 発電
- 推進
- 操舵
- 排水及びビルジ排水
- バラスト調整
- 係留(5頁15行目~6頁6行目)
(イ) B300 機能する能力及び冗長性
301 作動中の構成部品又はシステム…のいずれかが単独で故障しても,第1
部第1章第1節のA200で定める主要機能が313で定める時間を超えて失われ
ることのないように,構成部品及びシステムは,冗長性を持たせた構成にすること。
(8頁25行目~28行目)
エ 乙7(特開2005-186815号公報)
(ア) 本発明は,LNG貯蔵タンクからのボイル・オフ・ガスとLNGとを燃料
としてガスタービンに供給するガスタービン等ガス焚内燃機関への燃料供給装置お
よびこれを備えたLNG船に関するものである。(【0001】)
(イ) 図1は,本実施形態にかかるガスタービン等ガス焚内燃機関への燃料供給
装置1の構成を示すブロック図である。燃料供給装置1は,LNGを貯蔵するLN
G貯蔵タンク3と,LNG貯蔵タンク3で発生したボイル・オフ・ガスをガスター
ビン2へ供給するBOG供給ライン5と,LNG貯蔵タンク3のLNGを加圧気化
してガスタービンへ供給するLNG供給ライン7とを備えている。(【0021】)
BOG供給ライン5には,ボイル・オフ・ガスの流れ方向に沿って,入口緩熱器
(第一の緩熱器)9と,多段圧縮機(圧縮機)11の低圧段部分12と,インター
クーラ15と,中間緩熱器(第二の緩熱器)17と,多段圧縮機11の高圧段部分
13と,出口緩熱器(第三の緩熱器)19と,ガスヒータ21とが設けられている。
多段圧縮機11の低圧段部分12と多段圧縮機11の高圧段部分13とは,それ
ぞれ2段で構成されている。(【0022】)
(ウ) LNGタンク3で発生する略大気圧のボイル・オフ・ガスは,BOG供給
ライン5で供給される途中において,多段圧縮機11で加圧される。一方,LNG
タンク3に略大気圧で貯蔵されたLNGは,LNG供給ラインで供給される途中に
おいて,液体状態でブースタポンプ25により加圧され,次いでベーパライザ27
で気化される。これらの加圧された天然ガスがガスタービンに,燃料として供給さ
れる。(【0039】)
オ 乙8(特開2006-349084号公報)
(ア) この発明は,タンクを搭載し液化天然ガス…を運搬する液化天然ガス運搬
船…において,タンク内に貯留されている液化天然ガスから自然発生する,メタン
を主成分とする蒸発ガス(以下,BOGともいう)を燃料として使用するガスエン
ジンなどの主推進機関に前記蒸発ガスを供給するとともに,その蒸発ガスが不足す
る場合に前記液化天然ガスを蒸発器で強制的に蒸発させた蒸発ガスを燃料として使
用可能な蒸発ガス供給システムに関するものである。(【0001】)
(イ) 図2は本発明の蒸発ガス供給システムの第2実施例を示す系統図である。
図2に示すように,本実施例のBOG供給システム1-2が上記実施例と相違する
ところは,2段の遠心式圧縮機4・4を設けて,1段目の圧縮機4の入り口側の配
管および1段目と2段目の圧縮機4・4の中間の配管11にBOG冷却器7・7を
介設し,各BOG冷却器7の入り口と出口間にはバイパスライン13を設けて,B
OGの温度調節用バイパスバルブ8を介設したことである。各BOG冷却器7・7
には,タンク3内のLNGを冷媒として使用し,使用後は強制蒸発器5へ導いてガ
ス化し,BOGの不足を補うようにしている。本例の供給システム1-2は,BO
Gの圧縮能力との関係で単段の遠心圧縮機4ではガスエンジンの要求するBOGを
加圧できない場合の実施例である。…なお,本実施例では2段の圧縮機を示してい
るが,段数はこれに限らず増やすことができ,その場合はBOG冷却器7も圧縮機
の段数に応じて増やす方が望ましい。(【0036】)
カ 以上の文献の記載に照らすと,以下のとおり,本願優先日当時の周知技術を
認めることができる。
(ア) BOGを圧縮する多段圧縮機に「複数のインタークーラ」を設けること
甲3,乙7及び8の各記載(前記⑵ア(イ),エ(イ),オ(イ))によれば,LNG
タンクから発生するBOGを圧縮する多段圧縮機が複数のインタークーラを含むこ
とは,本願優先日当時において当業者に周知の技術であったと認められる。
(イ) BOGを圧縮する多段圧縮機の「セット数」
甲3には,LNGなどの液化ガスを貯蔵した貯蔵タンク11から排出されるボイ
ルオフガスを,ボイルオフガス圧縮部13に供給して圧縮し,コールドボックス2
1での熱交換を介して再液化した上,高圧ポンプ33にて加圧してME-GIエン
ジンに送出すること(前記⑵ア(イ)),ボイルオフガス圧縮部13は,5つのボイ
ルオフガス圧縮機14及び5つの中間冷却器15を含む多段圧縮機であること(前
記⑵ア(イ),図3a)が記載されている。また,高圧ポンプ33については並列し
て2つ設けることが記載されているが(前記⑵ア(イ)),ボイルオフガス圧縮部1
3についてはそのような記載はなく,図3a及び図9aには,本願発明の多段圧縮
機に相当するボイルオフガス圧縮部13は1セットのみ示されている。
乙7には,LNG貯蔵タンクからのBOGとLNGとを燃料としてガスタービン
に供給する燃料供給装置を備えたLNG船に関し,BOG供給ライン5に設ける多
段圧縮機11の低圧段部分12と高圧段部分13とをそれぞれ2段で構成すること
は記載されているが(前記⑵エ(ア)~(ウ)),多段圧縮機11を並列して設けるこ
とは記載されておらず,図1においても,多段圧縮機は1セットのみ示されている。
乙8には,LNG運搬船において,BOGを燃料として使用するガスエンジンな
どの主推進機関にBOGを供給するBOG供給システムに関し,2段の遠心式圧縮
機4・4を設けること,段数は増やすことができることが記載されているが(前記
⑵オ(ア),(イ)),圧縮機4・4を並列して設けることは記載されておらず,図2
においても,2段の圧縮機4・4は1セットのみ示されている。
以上によれば,本願優先日当時,LNGタンクから発生するBOGを圧縮する多
段圧縮機について,1セットのみ設けることは,当業者にとって周知の技術であっ
たと認められる。
⑶ 相違点1に係る構成の容易想到性について
ア 相違点1に係る構成の容易想到性
(ア) 前記⑵カ(ア)のとおり,LNGタンクから発生するBOGを圧縮する多段
圧縮機が複数のインタークーラを含むことは周知技術である。
また,引用発明のBCA Laby-GI圧縮機は,複数のコンプレッサを用い
てBOGを段階的に圧縮し,最終的には300barにまで加圧するものであり
(前記⑴イ(ア)),圧縮の度にBOGの温度が上昇していくことは,明らかである。
そうすると,引用例には明示の記載がないものの,引用発明の圧縮機は複数のイ
ンタークーラを当然に含んでいると認められる。仮にそうでないとしても,引用発
明において圧縮機に複数のインタークーラを含ませることは,前記周知技術に鑑み
当業者が適宜なし得ることといえる。
(イ) 前記⑵カ(イ)のとおり,本願優先日当時,LNGタンクから発生するBO
Gを圧縮する多段圧縮機について,1セットのみ設けることは当業者にとって周知
の技術であったと認められる。そうすると,BOGの流路における圧縮機を2セッ
ト並列に配置する引用発明において,同圧縮機を2セットから1セットに変更する
ことは,当業者が適宜なし得ることといえる。
そして,「高圧噴射式二元燃料ディーゼル機関の安全規準」(日本舶用機関学会
誌23巻8号12頁以下。昭和63年8月発行。乙9)は,LNG船のボイルオフ
ガスを事前に高圧に圧縮し,燃料としてシリンダに直接噴射される二元燃料ディー
ゼル主機関(高圧噴射式二元燃料ディーゼル主機関)及び関連装置の安全保持に関
し,運輸省(当時)及び日本海事協会の下部機構に設置された分科会が審議した結
果として昭和62年12月21日に運輸省(当時)に答申された「高圧噴射式二元
燃料ディーゼル主機関およびガス燃料供給装置に対する安全基準」の概要の紹介を
その内容とするものである。同文献には,「4.燃料ガス調整プラント」の項に,
「燃料ガス調整プラントの重要な構成要素…の故障に対する対応としては,…幾通
りかの対応が考えられる。基準では,これらの構成の詳細要件は規定せず,主機の
1次燃料供給システムが喪失した場合でも,適当な代替供給システム(燃料の種類
の変更による代替も含む)のバックアップにより通常航海に支障をきたさないシス
テム構成とすることが規定されている。」旨が記載されている。上記「基準」の上
記作成経緯をも踏まえると,上記記載は,高圧噴射式二元燃料ディーゼル機関の燃
料ガス調整プラントの重要な構成要素の故障に対する対応として,「主機の1次燃
料供給システムが喪失した場合でも,適当な代替供給システム(燃料の種類の変更
による代替も含む)」のバックアップにより通常航海に支障をきたさないシステム
構成とすることは,昭和62年12月21日又は遅くとも同文献の原稿受付日であ
る昭和63年3月28日の時点において,一般的に要請されていた技術常識である
ことを示すものと理解される。
ここで,引用発明においては,ME-GIエンジンに燃料を供給する燃料供給路
につき,BOGの流路とLNGの流路とで二元化が図られているといえる(前記⑴
イ(エ))。そうすると,引用発明において,BOGの流路における圧縮機を2セッ
トから1セットに変更したとしても,船舶の燃料供給システムに対する上記技術常
識に反することには必ずしもならない。
(ウ) 以上より,相違点1に係る本願発明の構成は,引用発明並びに周知技術及
び技術常識に基づき容易に想到し得るものである。
イ 原告の主張について
原告は,LNG等の貨物を海上輸送する船舶においては,船舶用エンジン(ME
-GIエンジン)に燃料を供給するための圧縮機(多段圧縮機)を重複して2個を
並列に設置することは当業者の技術常識であり,このような技術常識を無視して,
並列に配置すべき引用発明の圧縮機を1個のみに変更しようとするはずはないなど
と主張する。
しかし,原告が技術常識の裏付けとして挙げる書証のうち,甲11は,その記載
によってはそれが公開された日付が必ずしも明らかでない(なお,甲11の左上部
には「2018/4/13」との記載があるが,これはウェブサイトの印刷日と認められ
る。)。他方,甲12については,本文中に“Today, July 2014”との記載があり,
また,証拠説明書によれば平成26年(2014年)8月が作成日とされているこ
とに鑑みると,本願優先日以降に公開された文献と理解されることから,いずれも
本願優先日当時の技術常識を示すものとはいえない。
その点をおくとしても,甲11は,「重複設計による圧縮機の据付を行う可能性
がある」として,重複設計の可能性を記載するのみである。甲12も「過去4年間
の,圧縮機及びシステム開発の期間中,種々の設計オプションについて評価を行っ
てきた」ことを踏まえ,そのうちの1つの設計オプションに関して論じたものと理
解されるものである。このため,内容的にも,いずれも原告主張に係る技術常識を
示すものとはいえない。
次に,甲13には,LNGガス化プラントにおけるBOG処理用圧縮機について,
圧縮機を複数並列に配置し,故障に備えて余分な圧縮機を空運転状態で運転するこ
とが記載されている(前記⑵イ)。もっとも,当該記載は,圧縮機を複数並列に配
置することが必須であること,すなわち1セットのみ設けるものとすることはでき
ないことまでを示すものではない。
他方,甲14の添付資料1には,「作動中の構成部品又はシステム…のいずれか
が単独で故障しても,…A200で定める主要機能が313で定める時間を超えて
失われることのないように,構成部品及びシステムは,冗長性を持たせた構成にす
ること」と記載されているものの(前記⑵ウ(イ)),「冗長性を持たせた構成」と
される構成部品やシステムに関する具体的な記載はない。「A200で定める主要
機能」としても,「強度,風密,耐水完全性,発電,推進,操舵,排水及びビルジ
排水,バラスト調整,係留」(前記⑵ウ(ア))として,船舶における一般的な機能
が挙げられているのみである。そうすると,甲14の添付資料1をもって,圧縮機
を重複設計することが必須であることを示すものということはできない。
以上のとおり,本願優先日当時,船舶用エンジンに燃料を供給するための圧縮機
(多段圧縮機)を重複して2個並列に設置することが必須であったという技術常識
の存在を認めるに足りる証拠はない。そして,このように原告主張に係る技術常識
が認められない以上,本来重複設計されるべき重要装備が文献上1セットだけ図示
されていても,特段の事情がない限り,当業者であれば,2セットあるものと認識
するということもできない。
その他原告がるる指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用で
きない。
⑷ 相違点2に係る構成の容易想到性について
ア 前記(⑴イ(エ))のとおり,引用発明においては,ME-GIエンジンに燃
料を供給する燃料供給路につき,BOGの流路とLNGの流路とで二元化が図られ
ている。
また,LNG船の二元燃料ディーゼル主機関においては,燃料ガス調整プラント
の重要な構成要素の故障に対する対応として,「主機の1次燃料供給システムが喪
失した場合でも,適当な代替供給システム(燃料の種類の変更による代替も含む)
のバックアップにより通常航海に支障をきたさないシステム構成とすること」が一
般的に要請されており(前記⑶ア(イ)),この要請は,本願優先日当時の技術常識
であったと認められる。
この技術常識を踏まえれば,引用発明における上記二元化の技術的意義につき,
当業者であれば,一方のガス供給系統からの燃料供給がない場合に,他方のガス供
給系統を用いることとすることで,ME-GIエンジンへの安定した燃料供給を図
ることにあると理解できる。
したがって,ME-GIエンジンに燃料を供給する燃料供給路につきBOGの流
路とLNGの流路との二元化が図られている引用発明において,BOGの流路に設
けられたBCA Laby-GI圧縮機に故障が生じた場合に,LNGの流路によ
りLNG貯蔵タンクに貯蔵されたLNGをME-GIエンジンに燃料として供給す
ることで,BCA Laby-GI圧縮機に対してHP LNGポンプが重複性を
満たすようにすることは,当業者が当然に行い得ることにすぎない。
以上より,相違点2に係る本願発明の構成は,当業者が引用発明並びに周知技術
及び技術常識に基づいて容易に想到し得たものである。
イ 原告の主張について
原告は,本件審決による甲3の「ボイルオフガス再液化装置が作動しない」場合
に関する記載(前記⑵ア(ウ))の理解の誤りを主張する。
しかし,上記のとおり,相違点2に係る構成は,甲3を考慮するまでもなく容易
に想到し得たと認められるから,この点に関する原告の主張は,そもそもその前提
を欠く。その点をおくとしても,上記記載につき,ボイルオフガス再液化装置の故
障の場合を含まず,その意図的な停止の場合を意味すると解すべき理由はないから,
この点に関する原告の主張は採用できない。
⑸ 小括
以上のとおり,相違点1及び2に係る本願発明の構成は,引用発明並びに周知技
術及び技術常識から当業者が容易に想到し得たものであるから,本願発明は,引用
発明及び周知技術ないし技術常識に基づいて,当業者が容易に発明することができ
たものである。
したがって,本願発明が進歩性を欠くとした本件審決の判断に誤りはない。原告
主張に係る取消事由は理由がない。
3 結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 高 部 眞 規 子
裁判官 杉 浦 正 樹
裁判官 片 瀬 亮
(別紙)
図 面 目 録
1 本願明細書
【図3】
2 引用例
3 甲3
【図3a】
【図9a】
4 乙7
【図1】
5 乙8
【図2】

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (2月24日~3月2日)

2月26日(水) - 東京 港区

実務に則した欧州特許の取得方法

来週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

佐藤良博特許事務所

埼玉県久喜市久喜東6-2-46 パレ・ドール久喜2-203 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

弁理士法人NSI国際特許事務所

京都市東山区泉涌寺門前町26番地 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

特許業務法人 IPX

東京都港区北青山2丁目7番20号 第二猪瀬ビル3F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング