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平成28(ワ)37782損害賠償請求事件

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成31年1月31日
事件種別 民事
対象物 電気機械の制御
法令 特許権
特許法101条4号2回
特許法101条5号2回
民法709条1回
特許法102条1項1回
キーワード 特許権43回
実施25回
侵害9回
無効4回
訂正審判2回
優先権2回
無効審判2回
損害賠償2回
間接侵害2回
主文
事件の概要 1 事案の概要 本件は,発明の名称を「電気機械の制御」とする特許(特許第5189132 号。以下,「本件特許1」といい,本件特許1に係る特許権を「本件特許権1」と5 いう。)及び発明の名称を「高速電気システム」とする特許(特許第518913 3号。以下,「本件特許2」といい,本件特許2に係る特許権を「本件特許権2」 という。)を有する原告が,被告の製造販売に係る別紙物件目録記載のバッテリ 式真空掃除機(コードレスクリーナー。以下「被告製品」という。)及び被告製品 におけるモータの制御方法が本件特許権1の請求項1,6,8ないし12の発明10 の技術的範囲及び本件特許権2の請求項1,4ないし7の発明の技術的範囲に属 し,被告が被告製品を製造,販売等することは本件特許権1及び2を侵害すると 主張して,被告に対し,民法709条に基づく損害賠償金(一部請求)及び遅延 損害金の支払を求める事案である。

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判決文

平成31年1月31日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成28年(ワ)第37782号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成30年10月2日
判 決
原 告 ダイソン テクノロジー リミテッド
上記訴訟代理人弁護士 熊 倉 禎 男
同 相 良 由 里 子
10 同 松 野 仁 彦
上記訴訟代理人弁理士 渡 邊 徹
同 山 本 泰 史
被 告 東芝ライフスタイル株式会社
上記訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋
同 小 栗 久 典
同 和 田 祐 造
同 髙 野 芳 徳
20 主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
25 第1 請求
被告は,原告に対し,6億2236万円及びこれに対する平成28年11月12
日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,発明の名称を「電気機械の制御」とする特許(特許第5189132
5 号。以下,
「本件特許1」といい,本件特許1に係る特許権を「本件特許権1」と
いう。)及び発明の名称を「高速電気システム」とする特許(特許第518913
3号。以下,
「本件特許2」といい,本件特許2に係る特許権を「本件特許権2」
という。)を有する原告が,被告の製造販売に係る別紙物件目録記載のバッテリ
式真空掃除機(コードレスクリーナー。以下「被告製品」という。)及び被告製品
10 におけるモータの制御方法が本件特許権1の請求項1,6,8ないし12の発明
の技術的範囲及び本件特許権2の請求項1,4ないし7の発明の技術的範囲に属
し,被告が被告製品を製造,販売等することは本件特許権1及び2を侵害すると
主張して,被告に対し,民法709条に基づく損害賠償金(一部請求)及び遅延
損害金の支払を求める事案である。
15 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
易に認められる事実)
原告は,イギリスに本社を置く株式会社であり,主として掃除機,扇風機等
の家庭用電化製品の開発,製造,販売等を行っている。
(甲1,弁論の全趣旨)
被告は,いわゆる白物家電の開発,製造及び販売を主たる事業とする株式会
20 社である。(争いがない)
原告は,以下のとおり,本件特許権1及び本件特許権2を有している。
(甲1
ないし4)
ア 本件特許権1
特許番号 特許第5189132号
25 発明の名称 電気機械の制御
出願日 平成22年4月5日
公開日 平成22年10月28日
優先日 平成21年4月4日
優先権主張国 英国
登録日 平成25年2月1日
5 イ 本件特許権2
特許番号 特許第5189133号
発明の名称 高速電気システム
出願日 平成22年4月5日
公開日 平成22年10月28日
10 優先日 平成21年4月4日
優先権主張国 英国
登録日 平成25年2月1日
本件特許1の各請求項の記載は以下のとおりである(なお,本件特許1につ
いて,特許庁の訂正審判事件(訂正2017-390116)が確定している
15 ため,訂正後の請求項を記載している。。
)(争いがない,甲34)
ア 請求項1(以下,本件特許1の請求項1に係る発明を「本件特許発明1-
1」といい,本件特許1の各請求項に係る発明を「本件特許発明1」と総称
することがある。)
「単相永久磁石モータを制御する方法であって,先進角だけ巻線の逆起電
20 力のゼロ交差よりも前に励起電圧によって励起され,かつ整流前のフリーホ
イール角にわたってフリーホイールされる単相永久磁石モータの巻線を順
次励起してフリーホイールさせる段階と,前記励起電圧の変化に応答して前
記先進角及び前記フリーホイール角を変更する段階と,を含み,前記励起電
圧の低下に応答して,前記先進角が増加し,前記フリーホイール角が減少す
25 ることを特徴とする方法。」
イ 請求項6(以下,本件特許1の請求項6に係る発明を「本件特許発明1-
6」という。)
「前記単相永久磁石モータの速度の変化に応答して前記先進角及び前記
フリーホイール角の少なくとも一方を変更する段階を含むことを特徴とす
る請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。」
5 ウ 請求項8(以下,本件特許1の請求項8に係る発明を「本件特許発明1-
8」という。)
「前記速度の増大に応答して前記フリーホイール角が低減する段階を含
むことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。」
エ 請求項9(以下,本件特許1の請求項9に係る発明を「本件特許発明1-
10 9」という。)
「各電気半サイクルが,前記先進角から始まる単一駆動期間と,前記フリ
ーホイール角に対応する単一フリーホイール期間とからなり,前記駆動期間
中に前記巻線を励起する段階と,前記フリーホイール期間中に前記巻線をフ
リーホイールさせる段階と,を含むことを特徴とする請求項1~8のいずれ
15 か1項に記載の方法。」
オ 請求項10(以下,本件特許1の請求項10に係る発明を「本件特許発明
1-10」という。)
「単相永久磁石モータのための制御システムであって,請求項1~9のい
ずれか1項に記載の方法を実施する,ことを特徴とするシステム。」
20 カ 請求項11(以下,本件特許1の請求項11に係る発明を「本件特許発明
1-11」という。)
「単相永久磁石モータと,請求項10に記載の制御システムと,を含むこ
とを特徴とするバッテリ式製品。」
キ 請求項12(以下,本件特許1の請求項12に係る発明を「本件特許発明
25 1-12」という。)
「単相永久磁石モータと,請求項10に記載の制御システムと,を含むこ
とを特徴とする真空掃除機。」
本件特許2の各請求項の記載は以下のとおりである。(争いがない)
ア 請求項1(以下,本件特許2の請求項1に係る発明を「本件特許発明2-
1」といい,本件特許2の各請求項に係る発明を「本件特許発明2」と総称
5 することがある。)
「単相永久磁石電気機械と,60krpmを超える速度での負荷の下で前
記電気機械を駆動するための制御システムと,を含み,前記制御システムは,
励起電圧によって励起される前記電気機械の巻線を順次励起してフリーホ
イールさせ,前記電気機械が,60krpmよりも大きい最小値及び80k
10 rpmよりも大きい最大値を有する作動速度範囲にわたって,且つ,最大電
圧と前記最大電圧の80%未満である最小電圧の間に定められた励起電圧
範囲にわたって駆動されるように,前記制御システムは,前記励起電圧に応
答して,前記巻線が励起されるタイミング及び前記巻線がフリーホイールさ
れる期間を変更することを特徴とする電気システム。」
15 イ 請求項4(以下,本件特許2の請求項4に係る発明を「本件特許発明2-
4」という。)
「前記巻線は,先進期間だけ逆起電力のゼロ交差よりも前に励起され,整
流前のフリーホイール期間にわたってフリーホイールされ,前記制御システ
ムは,励起電圧の減少に応答して,前記進み期間を増大させ,前記フリーホ
20 イール期間を減少させることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に
記載の電気システム。」
ウ 請求項5(以下,本件特許2の請求項5に係る発明を「本件特許発明2-
5」という。)
「各電気半サイクルが,単一駆動期間と単一フリーホイール期間からなり,
25 前記制御システムは,前記駆動期間中に前記電気機械の巻線を励起し,かつ
前記フリーホイール期間中に前記巻線をフリーホイールさせることを特徴
とする請求項1~4のいずれか1項に記載の電気システム。」
エ 請求項6(以下,本件特許2の請求項6に係る発明を「本件特許発明2-
6」という。)
「前記電気機械は,10mm未満の直径を有する永久磁石回転子を有する
5 ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電気システム。」
オ 請求項7(以下,本件特許2の請求項7に係る発明を「本件特許発明2-
7」という。)
「バッテリパックと,請求項1~6のいずれか1項に記載の電気システム
と,を含み,前記巻線は,前記バッテリパックの電圧によって励起され,前
10 記制御システムは,前記バッテリパックの電圧に応答して,前記巻線が励起
されるタイミング及び前記巻線がフリーホイールされる期間を変更するこ
とを特徴とする製品。」
本件特許発明1は,以下のとおり分説することができる(以下,分説された
構成を構成要件1Aなどと表記する。なお,本件特許1については,特許庁の
15 訂正審判事件(訂正2017-390116)が確定しているため,訂正後の
請求項を基にしている。。

ア 本件特許発明1-1
1A 単相永久磁石モータを制御する方法であって,
1B 先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも前に励起電圧によっ
20 て励起され,かつ整流前のフリーホイール角にわたってフリーホイール
される単相永久磁石モータの巻線を順次励起してフリーホイールさせ
る段階と,
1C 前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリーホイー
ル角を変更する段階と,を含み,
25 1D 前記励起電圧の低下に応答して,前記先進角が増加し,前記フリー
ホイール角が減少する
1E ことを特徴とする方法。
イ 本件特許発明1-6
1F 前記単相永久磁石モータの速度の変化に応答して前記先進角及び
前記フリーホイール角の少なくとも一方を変更する段階を含む
5 1G ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
ウ 本件特許発明1-8
1H 前記速度の増大に応答して前記フリーホイール角が低減する段階
を含む
1I ことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
10 エ 本件特許発明1-9
1J 各電気半サイクルが,前記先進角から始まる単一駆動期間と,前記
フリーホイール角に対応する単一フリーホイール期間とからなり,
1K 前記駆動期間中に前記巻線を励起する段階と,
1L 前記フリーホイール期間中に前記巻線をフリーホイールさせる段
15 階と,
1M を含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方
法。
オ 本件特許発明1-10
1N 単相永久磁石モータのための制御システムであって,
20 1O 請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を実施する,ことを特徴
とするシステム。
カ 本件特許発明1-11
1P 単相永久磁石モータと,請求項10に記載の制御システムと,を含

25 1Q ことを特徴とするバッテリ式製品。
キ 本件特許発明1-12
1P 単相永久磁石モータと,請求項10に記載の制御システムと,を含

1R ことを特徴とする真空掃除機。
本件特許発明2は,以下のとおり分説することができる。
5 ア 本件特許発明2-1
2A 単相永久磁石電気機械と,60krpmを超える速度での負荷の下
で前記電気機械を駆動するための制御システムと,を含み,
2B 前記制御システムは,励起電圧によって励起される前記電気機械の
巻線を順次励起してフリーホイールさせ,
10 2C 前記電気機械が,60krpmよりも大きい最小値及び80krp
mよりも大きい最大値を有する作動速度範囲にわたって,且つ,最大電
圧と前記最大電圧の80%未満である最小電圧の間に定められた励起
電圧範囲にわたって駆動されるように,前記制御システムは,前記励起
電圧に応答して,前記巻線が励起されるタイミング及び前記巻線がフリ
15 ーホイールされる期間を変更する
2D ことを特徴とする電気システム。
イ 本件特許発明2-4
2E 前記巻線は,先進期間だけ逆起電力のゼロ交差よりも前に励起され,
整流前のフリーホイール期間にわたってフリーホイールされ,
20 2F 前記制御システムは,励起電圧の減少に応答して,前記進み期間を
増大させ,前記フリーホイール期間を減少させる
2G ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電気シス
テム。
ウ 本件特許発明2-5
25 2H 各電気半サイクルが,単一駆動期間と単一フリーホイール期間から
なり,
2I 前記制御システムは,前記駆動期間中に前記電気機械の巻線を励起
し,かつ前記フリーホイール期間中に前記巻線をフリーホイールさせる
2J ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の電気シス
テム。
5 エ 本件特許発明2-6
2K 前記電気機械は,10mm未満の直径を有する永久磁石回転子を有
する
2L ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電気シス
テム。
10 オ 本件特許発明2-7
2M バッテリパックと,
2N 請求項1~6のいずれか1項に記載の電気システムと,を含み,
2O 前記巻線は,前記バッテリパックの電圧によって励起され,
2P 前記制御システムは,前記バッテリパックの電圧に応答して,前記
15 巻線が励起されるタイミング及び前記巻線がフリーホイールされる期
間を変更することを特徴とする製品。
被告は,別紙物件目録記載のバッテリ式真空掃除機(コードレスクリーナー)
である被告製品を製造し,平成26年1月から販売を開始したが,現在は生産
を終了した。(争いがない)
20 被告製品又は被告製品のモータの制御方法は本件特許発明1の構成要件1
A,1E,1N,1Q及び1R並びに本件特許発明2の構成要件2A,2D,
2K,2M及び2Oを充足する。(争いがない,弁論の全趣旨)
3 争点
被告製品又は被告製品のモータの制御方法が本件特許発明1の技術的範囲
25 に属するか否か(争点1)
ア 構成要件1Bの充足性(争点1-1)
イ 構成要件1C及び1Dの充足性(争点1-2)
ウ 構成要件1F及び1Hの充足性(争点1-3)
エ 構成要件1J,1K及び1Lの充足性(争点1-4)
被告製品が本件特許発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2)
5 ア 構成要件2Bの充足性(争点2-1)
イ 構成要件2Cの充足性(争点2-2)
ウ 構成要件2E及び2Fの充足性(争点2-3)
エ 構成要件2H及び2Iの充足性(争点2-4)
オ 構成要件2Pの充足性(争点2-5)
10 間接侵害(特許権侵害行為)の成否(争点3)
本件特許1及び2が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4)
損害発生の有無及びその額(争点5)
4 争点に対する当事者の主張
被告製品又は被告製品のモータの制御方法が本件特許発明1の技術的範囲
15 に属するか否か(争点1)
ア 構成要件1Bの充足性(争点1-1)
(原告の主張)
被告製品を「強モード」で作動させた場合,先進角だけホール信号のエッ
ジよりも前に入力電圧によって励起(本件においては電圧がモータの巻線に
20 入力されることを意味する。したがって,以下においては,「励起電圧」と
「入力電圧」は実質的に同義であることを前提としている。)され,かつ,入
力電圧の反転前のフリーホイール角にわたってフリーホイールされる単相
永久磁石ブラシレスモータの巻線を順次励起してフリーホイールさせる段
階を有するから,被告製品におけるモータの制御方法は,構成要件1Bを充
25 足する。構成要件1Bは「モータ立ち上げ時の遷移途中の状態」について規
定したものではない。
(被告の主張)
構成要件1Bは「モータ立ち上げ時の遷移途中の状態」における段階を定
めたものである。被告製品は,モータの立ち上げに関わる制御として,モー
タ立ち上げ時の遷移途中の状態を制御する起動制御と,その後の安定状態を
5 制御する定常制御の2つの制御モードを有し,モータ立ち上げ時に起動制御
から定常制御に切り替わるようになっているが,モータ立ち上げ時の遷移途
中の状態を制御する起動制御では,先進角及びフリーホイール角がゼロであ
るため先進角及びフリーホイール角を用いた制御を行っていない。したがっ
て,被告製品におけるモータの制御方法は,構成要件1Bを充足しない。
10 イ 構成要件1C及び1Dの充足性(争点1-2)
(原告の主張)
原告が実施した実験の結果によれば,被告製品におけるモータの制御方
法は,入力電圧が17V以上の範囲において,入力電圧の変化に応答して
先進角及びフリーホイール角を変更する段階を有し,また,入力電圧の低
15 下に応答して,先進角が増加し,フリーホイール角が減少するから,構成
要件1C及び1Dを充足する。なお,原告は,被告製品におけるモータの
制御方法において,●(省略)●が行われる範囲に関しては,本件特許発
明1の実施に該当するとの主張はしないが,本件特許発明1は,作動電圧
範囲にフリーホイール角が変化しない範囲が含まれていることを排除す
20 るものではないから,●(省略)●が行われることは,構成要件1C及び
1Dの充足性の判断には影響しない。
被告は,構成要件1C及び1Dはモータの1回の半サイクル期間(以下,
単に「1回の半サイクル期間」ということがある。 における制御内容を意

味すると主張するが,本件明細書にそのような限定をする趣旨の記載は存
25 在しない。
被告製品におけるモータの制御方法においては,●(省略)●少なくと
も入力電圧が比較的高い範囲(18.2Vから18.7V)では,それら
の制御による通電時間の差は,実質的には問題にならない程度に小さいか
ら,長い期間(0.5秒)のフリーホイール期間の平均値は,当該期間の
入力電圧に対応するフリーホイール期間をほぼ正しく代表している。そも
5 そも,ある制御方法によって実現しようとする制御対象の動作について
種々の要因によって制御対象の実際の挙動が変動し,結果にばらつきが生
じることは当業者でもよく知られているのであって,このことは一定の電
圧の下において一定の速度で運転される電気モータにも当てはまる。そし
て,ばらつきのあるデータを扱う場合には個々のデータの分析から対象物
10 の情報を取得することは難しいため,従来からデータの平均値が用いられ
ているのであるから,本件においてもフリーホイール期間の傾向を知るた
めに平均値を用いることは有効な方法である。
被告は,被告製品で制御の対象となっているのはモータ通電角であって
フリーホイール角ではないと主張するが,被告製品でモータ通電角を制御
15 することはフリーホイール角を直接制御することと同義であるから,被告
製品はフリーホイール角を制御しているといえる。被告製品では,入力電
圧が比較的高い範囲(18.2Vないし18.7V)において,原則とし
て●(省略)●が行われ,例外的に●(省略)●を受けたり受けなかった
りするが,被告製品では●(省略)●が実行されている際にモータの安全
20 性を確保するために付加的,補助的に●(省略)●が行われているにすぎ
ない。実際にも,前記の高電圧の範囲においては●(省略)●の通電時間
と●(省略)●の通電時間は実質的に問題にならないほど小さい。このよ
うな場合にまで本件特許発明1及び2の実施が否定されるものではない。
被告は,被告製品におけるモータの制御方法は,入力電圧の値を用いて
25 制御していないことから,構成要件1C及び1Dの「電圧」に「応答」し
てという文言を充足しないと主張するが,
「応答」とは,
「入力・刺激など
に対する出力・反応」という意味であり,その文言の意味に照らせば,励
起電圧の変化や低下という刺激に対する反応としてフリーホイール角が
変更ないし減少すれば足りると解されるし,本件特許発明1の作用効果と
いう観点から見ても,結果的に励起電圧が変化ないし低下することに応答
5 してフリーホイール角が変更ないし減少するのであれば,同様の作用効果
を奏するから,励起電圧の値を直接的に用いるか間接的に用いるかは重要
ではない。また,実際の現象という観点から見ても,電流値は入力電圧の
値に大きく依存することは技術常識であり,被告製品の●(省略)●が入
力電圧以外の要素によって影響を受けるとしても構成要件充足性の判断
10 に大きな影響を及ぼすものではない。したがって,被告製品におけるモー
タの制御方法において,励起電圧の値ではなく●(省略)●を用いて制御
していることをもって,構成要件1C及び1Dの充足性は否定されない。
(被告の主張)
構成要件1Bの「先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも前に励起
15 電圧によって励起され,かつ整流前のフリーホイール角にわたってフリー
ホイールされる電気機械の巻線を順次励起してフリーホイールさせる段
階」との記載は,構成要件1Jなどの「各電気半サイクル」と同義であり,
1回の半サイクル期間における制御内容を意味するものであるから,それ
に対応する構成要件1C及び1Dも1回の半サイクル期間における制御
20 内容を意味する。
被告製品におけるモータの制御方法は,1回の半サイクル期間ごとに●
(省略)●によるものになったり,●(省略)●によるものになったり●
(省略)●によるものになったりするのであり,定常動作時における同一
の入力電圧下であっても,各回転におけるモータの●(省略)●が一定に
25 定まらず,フリーホイール期間の平均値を見ただけでは,ある1回の半サ
イクル期間において,当該1回の半サイクル期間における通電時間の制御
を●(省略)●のいずれで行っているのかを特定できないから,励起電圧
と,当該1回の半サイクル期間のフリーホイール期間の関係は明らかにな
らない。
また,被告が実施した実験の結果によれば,●(省略)●のフリーホイ
5 ール期間と●(省略)●のフリーホイール期間との差が約20μ秒になる
場合が示されており,その数値の変動は小さいものとはいえない。
構成要件1Cの「励起電圧の変化に応答して,フリーホイール角を変更
する」 構成要件1Dの
, 「励起電圧の低下に応答して,フリーホイール角が
減少する」とは,①フリーホイール角を直接の制御対象にしていること,
10 ②フリーホイール角が同一の励起電圧下では常に同一の制御内容により
定められることを意味する。
①について,被告製品におけるモータの制御方法は,モータ通電時間を
制御の対象としており,●(省略)●をする。被告製品は,モータの制御
方法として,そもそもフリーホイール角又はフリーホイール期間を制御の
15 対象にしておらず,モータ通電時間を対象とした制御を,モータの回転ご
とに,●(省略)●のいずれかによって行うものであり,フリーホイール
期間をどのような状態にするかということにつき何ら制御をするもので
はない。被告製品におけるモータの制御方法には入力電圧に応じた規則性
は存在し得ず,モータ通電時間を制御することによってフリーホイール期
20 間を制御することになるという関係性についても立証されていない。
②について,モータの●(省略)●はモータの速度,逆起電力,先進角
などの各要素が複雑に絡み合った結果として制御されるものであり,定常
動作時であってもモータの●(省略)●は一定に定まらないから,被告製
品におけるモータの制御方法は,定常動作時の同一の入力電圧下の動作で
25 あっても,通電時間の制御が,モータの回転ごとに●(省略)●によるも
のになったり,●(省略)●によるものになったり,●(省略)●による
ものになったりする。その結果,モータの通電時間は,同一の入力電圧下
であっても,制御内容が変わる結果,変動することになり,一定とならな
いから,フリーホイール角について,常に同一の入力電圧に対する同一の
制御があるとはいえない。
5 原告が実施した実験の結果において,被告製品におけるモータの制御方
法は,15Vから17Vの範囲ではフリーホイール角は変化していない。
仮に,被告製品におけるモータの制御方法において,入力電圧の値の変化
(低下)に基づいてフリーホイール角を制御し,変更しているのであれば,
同じ制御を行っている入力電圧17V以下の領域でも,フリーホイール角
10 が入力電圧の値の変化に応答して変化していないことについての説明が
つかない。
ウ 構成要件1F及び1Hの充足性(争点1-3)
(原告の主張)
原告が実施した実験の結果によれば,被告製品におけるモータの制御方法
15 は,単相永久磁石ブラシレスモータの速度の変化に応答してフリーホイール
角を変更する段階を有し,その速度の増大に応じてフリーホイール角が低減
する段階を有しているから,構成要件1F及び1Hを充足する。
構成要件1F及び1Hは,全ての機械の速度においてフリーホイール角が
機械の速度に応答することを要件としていない。原告は,78000回転/
20 分から87000回転/分の範囲における構成要件1F及び1Hの充足を
主張する。被告製品は,少なくとも87000回転/分のモータの速度にお
いてフリーホイール角がモータの速度の増大に応答して低減するのである
から,構成要件1F及び1Hを充足する。
(被告の主張)
25 被告製品におけるモータの制御方法は,モータの回転速度に基づいてフリ
ーホイール角の値を制御して変更するようなことは行っていない。原告が実
施した実験の結果を前提としても,87000回転/分超の速度の領域でフ
リーホイール角がモータの回転速度の変化に応じて変化しておらず,これは
被告製品が定常制御の状態でモータの回転速度の変化に基づいてフリーホ
イール角を変更する制御を行っていないことを裏付ける。したがって,被告
5 製品におけるモータの制御方法は,構成要件1F及び1Hを充足しない。
エ 構成要件1J,1K及び1Lの充足性(争点1-4)
(原告の主張)
原告が実施した実験の結果によれば,被告製品におけるモータの制御方法
は,各1回の半サイクル期間が,先進角から始まる単一駆動期間と,フリー
10 ホイール角に対応する単一フリーホイール期間からなり,駆動期間中に巻線
を励起する段階を有し,フリーホイール期間中に巻線をフリーホイールさせ
る段階を有しているから,構成要件1J,1K及び1Lを充足する。
(被告の主張)
構成要件1Jは,構成要件1Bにおける「先進角」及び「フリーホイール
15 角」並びに構成要件1C及び1Dにおける「前記先進角」及び「前記フリー
ホイール角」に関する構成であるところ,前記のとおり,被告製品における
モータ制御方法は構成要件1Bを充足しないため,被告製品におけるモータ
制御方法において構成要件1Bにおける「先進角」 「フリーホイール角」
及び
に対応する構成は存在しない。したがって,構成要件1Jの「前記先進角か
20 ら始まる単一駆動期間」「前記フリーホイール角に対応する単一フリーホイ

ール期間」に対応する構成はいずれも存在していない。
また,構成要件1K及び1Lは,いずれも構成要件1Jを更に規定するも
のであり,構成要件1Jを充足しない以上,構成要件1K及び1Lも充足し
ない。
25 被告製品が本件特許発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2)
ア 構成要件2Bの充足性(争点2-1)
(原告の主張)
原告が実施した実験の結果によれば,被告製品におけるモータの制御方法
(電気システム)は,励起電圧によって励起されるブラシレスモータの巻線
を順次励起してフリーホイールさせるから,構成要件2Bを充足する。
5 構成要件1Bと同様,構成要件2Bは「モータ立ち上げ時の遷移途中の
状態」を示したものではない。
(被告の主張)
構成要件1Bと同様,構成要件2Bは「モータ立ち上げ時の遷移途中の状
態」における段階を定めたものであるところ,被告製品におけるモータの制
10 御方法(電気システム)では,
「モータ立ち上げ時の遷移途中の状態」を制御
する起動制御において先進角及びフリーホイール角がゼロであるため,先進
角及びフリーホイール角を用いた制御を行っていないといえるから,構成要
件2Bを充足しない。
イ 構成要件2Cの充足性(争点2-2)
15 (原告の主張)
構成要件1C及び1Dと同様,被告製品におけるモータの制御方法(電
気システム)においては,励起電圧が17V以上の範囲で,励起電圧に応
答して巻線が励起されるタイミング及び巻線がフリーホイールされる期
間を変更している。なお,原告は,被告製品におけるモータの制御方法(電
20 気システム)で●(省略)●が行われる範囲については,本件特許発明2
の実施に該当するとの主張はしないが,本件特許発明2は,作動電圧範囲
にフリーホイール期間が変化しない範囲が含まれていることを排除する
ものではないから,この点は構成要件2Cの充足性の判断には影響しない。
原告が実施した実験の結果によれば,被告製品は,15Vから19Vの
25 入力電圧範囲でオリフィス径を10mmから19mmの範囲で変化させ
た場合の最小速度は75.4krpm,最大速度は87.4krpmであ
り,60krpmよりも大きい最小値(75.4krpm)及び80kr
pmよりも大きい最大値(87.4krpm)を有する作動速度範囲にわ
たって駆動される。
構成要件2Cは,電気機械が最大電圧と前記最大電圧の80%未満であ
5 る最小電圧の間に定められた励起電圧範囲にわたって駆動されることを
要件としたものであり,励起電圧の全範囲にわたってそのように駆動され
ることを要件とするものではないところ,原告が実施した実験の結果によ
れば,被告製品におけるモータの制御方法(電気システム)では,励起電
圧範囲のうち,少なくとも17Vから19Vの範囲において,巻線がフリ
10 ーホイールされる期間を変更する制御が行われている。
(被告の主張)
構成要件2Cにおける,励起電圧に応答して,巻線がフリーホイール
される期間を変更するという文言に関する主張は,構成要件1C及び1
Dについての主張と同様である。
15 被告製品を定常制御で作動させた場合の作動速度範囲は50krpm
を最小値とするものであるから,構成要件2Cにおける,電気機械が60
krpmよりも大きい最小値を有する作動速度範囲にわたって駆動され
るとの文言を充足しない。
原告が実施した実験の結果を前提とした場合,被告製品のモータが駆動
20 される励起電圧範囲は18.8Vから15V(又は14.6V)の範囲で
あるから,被告製品におけるモータの制御方法(電気システム)が構成要
件2Cを充足するためには,少なくとも18.8V(最大電圧)から15
V(又は14.6V)
(最大電圧の80パーセント未満の最小電圧)の励起
電圧範囲にわたって,当該励起電圧に応答して巻線がフリーホイールされ
25 る期間(フリーホイール期間)を変更するという制御が行われる必要があ
る。しかしながら,被告製品におけるモータの制御方法(電気システム)
において,フリーホイール期間に変化があるのは励起電圧が17Vを超え
る範囲に限られており,15V(又は14.6V)から17Vの範囲では
フリーホイール期間は変化しない。
原告が実施した実験の結果を前提とした場合,被告製品におけるモータ
5 の制御システムにおいて,15Vから17Vの範囲ではフリーホイール角
は変化していない。仮に,励起電圧の値の変化(低下)に基づいてフリー
ホイール角を制御し,それを変更しているのであれば,同じ制御を行って
いる励起電圧17V以下の領域でも,フリーホイール角が励起電圧の値の
変化に応答して変化していないことの説明がつかない。
10 ウ 構成要件2E及び2Fの充足性(争点2-3)
(原告の主張)
原告が実施した実験の結果によれば,被告製品におけるモータの制御方法
(電気システム)において,巻線は,先進期間だけホール信号のエッジより
も前に励起され,励起電圧の反転前のフリーホイール期間にわたってフリー
15 ホイールされ,また,励起電圧の減少に応答して,前記先進期間を増大させ,
前記フリーホイール期間を減少させることから,構成要件2E及び2Fを充
足する。
(被告の主張)
構成要件2Eに関する被告の主張は,構成要件1Jに関する主張と同様で
20 あり,被告製品は構成要件2Bを充足しないから,被告製品におけるモータ
の制御方法(電気システム)において構成要件2Eに対応する構成は存在し
ない。
構成要件2Fに関する被告の主張は,構成要件1C及び1D並びに2Cに
関する主張と同様であり,被告製品におけるモータの制御方法(電気システ
25 ム)は,励起電圧の変化に基づいてフリーホイール期間を制御し,それを変
更することをしていないため,構成要件2Fを充足しない。
エ 構成要件2H及び2Iの充足性(争点2-4)
(原告の主張)
被告製品におけるモータの制御システムは,各電気半サイクルが単一駆動
期間と単一フリーホイール期間からなり,前記駆動期間中に前記ブラシレス
5 モータの巻線を励起し,かつ前記フリーホイール期間中に前記巻線をフリー
ホイールさせることから,構成要件2H及び2Iを充足する。本件特許発明
2は被告製品における起動制御の段階の制御に関する発明ではないから,被
告の主張は失当である。
(被告の主張)
10 構成要件2Hは,全ての電気半サイクル中にフリーホイール期間が存在す
ることを前提としていると解されるところ,被告製品におけるモータの制御
方法(電気システム)は,モータ立ち上げ時の遷移途中の状態を制御する起
動制御の段階では電気半サイクル中にフリーホイール期間が存在していな
いから,構成要件2Hを充足しない。また,構成要件2Iは,構成要件2H
15 における「各電気半サイクル」中の「単一フリーホイール期間」を更に規定
するものであるところ,被告製品におけるモータの制御方法(電気システム)
は,構成要件2Hを充足しない以上,構成要件2Iも充足しない。
オ 構成要件2Pの充足性(争点2-5)
(原告の主張)
20 原告が実施した実験の結果によれば,被告製品は,励起電圧に応答して,
巻線が励起されるタイミング及び巻線がフリーホイールされる期間を変更
するという制御システムを特徴とする真空掃除機である。
(被告の主張)
構成要件2Cについての主張と同様である。
25 間接侵害(特許権侵害行為)の成否(争点3)
(原告の主張)
ア 特許法101条4号
被告製品におけるモータの制御方法は,励起電圧が17V以上の範囲(い
わゆる強モード)において,本件特許発明1-1,1-6,1-8及び1-
9の技術的範囲にそれぞれ属しているから,被告製品は少なくとも前記範囲
5 において前記各発明にかかるモータの制御方法を実施するものである。そし
て,被告製品において強モードは重要な機能であり,他のモードを使用し続
けながら強モードは全く使用しないという使用形態はおよそ非現実的であ
る。
したがって,被告製品は,本件特許発明1-1,1-6,1-8及び1-
10 9に係る「方法の使用にのみ用いる物」に該当し,被告による被告製品の製
造販売行為は,特許法101条4号に基づき,前記各発明にかかる特許権の
侵害行為とみなされる。
イ 特許法101条5号
本件特許発明1-1,1-6,1-8及び1-9に係るモータの制御方法
15 は被告製品によって実施されることに照らせば,被告製品は前記各発明によ
る課題の解決に不可欠なものである。原告は,平成27年3月4日及び同3
月6日,その当時,被告の親会社であった株式会社東芝に対し,被告製品の
製造,販売行為が本件特許権1及び2を侵害する違法な行為であることを通
知したから,被告は,少なくとも平成27年4月1日以降は,被告製品が本
20 件特許発明1-1,1-6,1-8及び1-9に係るモータの制御方法の実
施に用いられることを知っていた。
したがって,被告による被告製品の製造,販売行為は,特許法101条5
号に基づき,前記各発明にかかる特許権の侵害行為とみなされる。
(被告の主張)
25 否認ないし争う。
本件特許1及び2が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4)
(被告の主張)
ア 本件特許発明1及び2に共通する公知技術等
本件特許1及び2の優先日(平成21年4月4日)より前である平成18
年3月23日に出願公開された公開特許公報(乙9)には,
「モータ4の制御
5 装置が,インバータ3に供給される電圧が低下したことに応じて,回転子4
aの磁極位置に対して巻線が励起されるタイミングを早め,かつ,整流前の
期間にわたって巻線が未励磁状態にされる期間を短くする」技術(以下「乙
9技術」という。)が記載されている。
平成10年9月14日に出願公開された公開特許公報(乙10)には,
「モ
10 ータMの制御ユニットCが,モータ駆動用電源4の電圧に応じて,巻線が励
起されるタイミングを変更し,かつ,巻線が未励磁状態にされる期間を変更
する」技術(以下「乙10技術」という。)が記載されている。
平成元年4月26日に出願公開された公開特許公報(乙11)には,
「モー
タの制御回路が,モータ駆動時に巻線に生じる起電力のゼロ交差点に対して,
15 巻線を通電するタイミングを進めるように変更する」技術(以下「乙11技
術」という。)が記載されている。
平成10年6月9日に出願公開された公開特許公報(乙12)には,
「単相
モータの制御装置が,巻線に生じる起電力のゼロ交差点に対して,巻線を通
電するタイミングを進め,かつ,整流前の期間にわたって,巻線を未励磁状
20 態にする」技術(以下「乙12技術」という。)が記載されている。
平成19年7月26日に出願公開された公表特許公報(乙13)には,
「掃
除機のモータを,回転速度60,000rpm~100,000rpmで駆
動する」技術(以下「乙13技術」という。)が記載されている。
平成9年に発行された精密工学会誌報(乙14)には,
「希土類磁石で形成
25 されたモータのロータ直径を1.5mmや3mmとする」技術(以下「乙1
4技術」という。)が記載されている。
イ 本件特許発明1について
平成21年1月7日に出願公開された欧州公開特許公報には,以下の発
明(以下「乙8(1)発明」という。)が記載されている。乙8(1)発明
は,以下のとおり分説することができる(以下,分説された構成を「構成
5 1a」などと表記することがある。。

1a モータ本体100を制御する方法であって,
1b 逆起電力Ecのゼロ交差時の電気角との関係で励起電圧によって
励起され,かつ整流前の電気角期間にわたって未励磁状態にされるモー
タ本体100の電磁コイルを,順次,励磁区間は励起させ,非励磁区間
10 は未励磁状態にさせる段階と,
1c 任意に,前記電磁コイルが励起されるタイミング及び前記非励磁区
間の電気角期間を変更する段階と,を含み,
1d 任意に,前記電磁コイルが励起されるタイミングを早め,前記非励
磁区間の電気角期間を減少する
15 1e ことを特徴とする方法。
1f 前記モータ本体100の速度の変化に応答して,前記電磁コイルが
励起されるタイミング及び前記非励磁区間の電気角期間を変更する段
階を含む
1g 方法。
20 1h 前記モータ本体100の速度の増大に応答して,前記非励磁区間の
電気角期間が低減する段階を含む
1i 方法。
1j 各モータの半サイクル期間が,単一の励磁区間と,単一の非励磁区
間からなり,
25 1k 前記励磁区間中に前記電磁コイルを励起する段階と,
1l 前記非励磁区間中に前記非励磁区間を未励磁状態にさせる段階と,
1m を含む方法。
1n モータ本体100を駆動するための駆動制御回路200であって,
1o モータ本体100を駆動する方法を実施する,ことを特徴とする単
相モータを駆動するシステム。
5 1p モータ本体100と,駆動制御回路200と,を含む
1q ことを特徴とするバッテリを有する製品。
1p モータ本体100と,駆動制御回路200と,を含む
1r を特徴とする家電機器。
本件特許発明1-1と乙8(1)発明の対比
10 乙8(1)発明の構成1a及び1eは本件特許発明1-1の構成要件1
A及び1Eと一致する。また,乙8(1)発明の「電磁コイルを未励磁状
態にする」は本件特許発明1-1の「単相永久磁石モータの巻線をフリー
ホイールさせる」ことに相当し,乙8(1)発明の「非励磁区間の電気角
期間」は本件特許発明1-1の「フリーホイール角」に相当し,乙8(1)
15 発明の構成1bは,励磁区間と非励磁区間が順次存在するようになってい
ることから,構成要件1Bの「単相永久磁石モータの巻線を順次励起して
フリーホイールさせる」ことに相当する。
他方で,乙8(1)発明は,電磁コイルが逆起電力Ecのゼロ交差時の
電気角との関係で励起されるものではあるものの,逆起電力のゼロ交差よ
20 りも前に励起されるものではないから,構成要件1Bないし1Dの「先進
角」を有しておらず,構成要件1Dの「先進角が増大」するものにもなっ
ていない(以下「相違点1-1」という。。また,乙8(1)発明は電磁

コイルが励起されるタイミングの変更及び非励磁区間の電気角期間の変
更を「任意に」行うものであり,「励起電圧に応答して」(構成要件1C)
25 変更することが明記されていない(以下「相違点1-2」という。。さら

に,乙8(1)発明では,巻線が励起されるタイミングを早めること及び
非励磁区間の電気角期間の減少を「任意に」行うものであり,
「励起電圧の
減少に応答して」
(構成要件1D)行うことが明記されていない(以下「相
違点1-3」という。。

相違点1-1は,後記ウで説示する相違点2-4と実質的に同じである
5 から乙8(1)発明に乙11技術又は乙12技術を採用して容易に想到す
ることができ,相違点1-2及び1-3は,後記ウで説示する相違点2-
3及び2-5と実質的に同じであるから乙8(1)発明に乙9技術又は乙
10技術を採用して容易に想到することができた。
以上によれば,本件特許発明1-1は,当業者が容易に発明をすること
10 ができたものである。
本件特許発明1-6と乙8(1)発明の対比
乙8(1)発明の「前記モータ本体100の速度の変化に応答して,前
記電磁コイルが励起されるタイミング及び前記非励磁区間の電気角期間
を変更する」ことは,
「先進角」を有しない点を除き,本件特許発明1-6
15 の「前記単相永久磁石モータの速度の変化に応答して前記先進角及び前記
フリーホイール角の少なくとも一方を変更する」ことに相当する。
そして,前記の相違点は,相違点1-1と同様であるところ,相違点1
-1について当業者が容
りである。
である。
以上によれば,本件特許発明1-6は,当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
本件特許発明1-8と乙8(1)発明の対比
25 乙8(1)発明の「前記モータ本体100の速度の増大に応答して,前
記非励磁区間の電気角期間が低減する」ことは,乙8(1)発明の「前記
速度の増大に応答して前記フリーホイール角が低減する」ことに相当する。
である。
以上によれば,本件特許発明1-8は,当業者が容易に発明をすること
5 ができたものである。
本件特許発明1-9と乙8(1)発明の対比
乙8(1)発明の「各モータの半サイクル期間が,単一の励磁区間と,
単一の非励磁区間からな」ることは,本件特許発明1-9の「各電気半サ
イクルが,前記先進角から始まる単一駆動期間と,前記フリーホイール角
10 に対応する単一フリーホイール期間とからな」ることに相当する。また,
乙8(1)発明の「前記励磁区間中に前記電磁コイルを励起する」こと及
び「前記非励磁区間中に前記電磁コイルを未励磁状態にさせる」ことは,
本件特許発明1-9の「前記駆動期間中に前記巻線を励起する」こと及び
「前記フリーホイール期間中に前記巻線をフリーホイールさせる」ことに
15 相当する。したがって,本件特許発明1-9と乙8(1)発明は構成要件
1J,1K及び1Lにおいて共通する。
である。
以上によれば,本件特許発明1-9は,当業者が容易に発明をすること
20 ができたものである。
本件特許発明1-10,1-11と乙8(1)発明の対比
乙8(1)発明の「単相モータを駆動するシステム」は,本件特許発明
1-10の「システム」に相当する。また,乙8(1)発明の「バッテリ
を有する製品」は,本件特許発明1-11の「バッテリ式製品」に相当す
25 る。
なお,
である。
以上によれば,本件特許発明1-10,1-11は,当業者が容易に発
明をすることができたものである。
本件特許発明1-12と乙8(1)発明の対比
5 乙8(1)発明の「家電機器」と,本件特許発明1-12の「真空掃除
機」は相違するものの,モータを搭載した家電機器として真空掃除機が存
在することは周知であるから,乙8(1)発明の「家電機器」として「真
空掃除機」を採用することは当業者が容易に想到し得た。
なお,
10 である。
以上によれば,本件特許発明1-12は,当業者が容易に発明をするこ
とができたものである。
ウ 本件特許発明2について
平成21年1月7日に出願公開された欧州公開特許公報(乙8)には,
15 以下の発明(以下「乙8(2)発明」という。 が記載されている。 (2)
) 乙8
発明は,以下のとおり分説することができる(以下,分説された構成を「構
成2a」などと表記することがある。。

2a ロータ部30に永久磁石31~34を備えた単相モータとしての
モータ本体100と,所定の速度での負荷の下で前記モータ本体100
20 を駆動するための駆動制御回路200と,を含み,
2b 前記駆動制御回路200は,励起電圧によって励起される前記モー
タ本体100の電磁コイルを,順次,励磁区間は励起させ,非励磁区間
は未励磁状態にさせ,
2c 前記モータ本体100は,所定の作動速度範囲にわたって,且つ,
25 コイルに印加される電圧が10V~15Vの範囲で駆動されるように,
前記駆動制御回路200は,任意に,前記電磁コイルが励起されるタイ
ミングを変更し,かつ,前記電磁コイルが未励磁状態にされる期間を変
更する,
2d 単相モータを駆動するシステム。
2e 前記電磁コイルは,逆起電力Ecのゼロ交差時との関係で励起され,
5 整流前の期間にわたって未励磁状態にされ,
2f 前記駆動制御回路200は,任意に,前記電磁コイルが励起される
タイミングを早め,前記電磁コイルが未励磁状態にされる期間を減少さ
せる,
2g 前記単相モータを駆動するシステム。
10 2h 各モータの半サイクル期間は,単一の励磁区間と,単一の非励磁区
間からなり,
2i 前記駆動制御回路200は,前記励磁区間中に前記モータ本体10
0の電磁コイルを励起し,かつ前記非励磁区間中に前記電磁コイルを未
励磁状態にする,
15 2j 前記単相モータを駆動するシステム。
2k 前記モータ本体100は,所定の直径を有する永久磁石からなる回
転子を有する,
2l 前記単相モータを駆動するシステム。
2m 充電池と,
20 2n 前記単相モータを駆動するシステムと,を含み,
2o 前記電磁コイルが前記充電池の電圧によって励起され,
2p 前記駆動制御回路200は,任意に,前記電磁コイルが励起される
タイミングを変更し,かつ,前記電磁コイルが未励磁状態にされる期間
を変更する家電機器。
25 本件特許発明2-1と乙8(2)発明の対比
乙8(2)発明は,
「単相永久磁石電気機械と,所定の速度での負荷の下
で前記電気機械を駆動するための制御システムと,を含み,前記制御シス
テムは,励起電圧によって励起される前記電気機械の巻線を順次励起して
フリーホイールさせ,前記電気機械が,所定の作動速度範囲にわたって,
且つ,最大電圧と前記最大電圧の80%未満である最小電圧の間に定めら
5 れた励起電圧範囲にわたって駆動されるように,前記制御システムは,前
記巻線が励起されるタイミング及び前記巻線がフリーホイールされる期
間を変更することを特徴とする電気システム。」という点で,本件特許発
明2-1と一致する。
他方で,乙8(2)発明は,①モータ本体100が「60krpmを超
10 える速度」で駆動されることが明記されていない点(以下「相違点2-1」
という。,②モータ本体100の作動速度範囲が「60krpmよりも大

きい最小値及び80krpmよりも大きい最大値」の範囲であることが明
記されていない点(以下「相違点2-2」という。,③電磁コイルが励起

されるタイミングの変更及び電磁コイルが未励磁状態にされる期間の変
15 更が「励起電圧に応答して」行われることが明記されていない点(以下「相
違点2-3」という。)で,本件特許発明2-1と相違する。
相違点2-1及び2-2につき,乙13技術に基づき,乙8(2)発明
のモータ本体100の作動速度範囲を「60krpmよりも大きい最小値
及び80krpmよりも大きい最大値」の範囲にあるようにし,モータ本
20 体100を「60krpmを超える速度」で駆動するようにすることは当
業者が容易に想到し得た。
相違点2-3につき,乙8(2)発明において「電磁コイルが励起され
るタイミングの変更及び電磁コイルが未励磁状態にされる期間の変更」を
行うに当たり,乙9技術又は乙10技術を採用して,「励起電圧に応答し
25 て」これらの変更を行うことは当業者が容易に想到し得た。
したがって,本件特許発明2-1は当業者が容易に発明をすることがで
きたものである。
本件特許発明2-4と乙8(2)発明の対比
乙8(2)発明で電磁コイルが「整流前の期間にわたって未励磁状態に
され」ることは,本件特許発明2-4の「(巻線が)整流前のフリーホイー
5 ル期間にわたってフリーホイールされる」ことに相当する。
他方で,乙8(2)発明は,①構成要件2Eの「先進時間」を有してお
らず,構成要件2Fの「進み期間を増大」させるものでもない点(以下「相
違点2-4」という。,②巻線が励起されるタイミングを早めること及び

電磁コイルが未励磁状態にされる期間の減少を「励起電圧の減少に応答し
10 て」行うこと(構成要件2F)が明記されていない点(以下「相違点2-
5」という。)で,本件特許発明2-4と相違する。
相違点2-4につき,乙8(2)発明において「電磁コイルが励起され
るタイミングの変更」を行うに当たり,乙11技術又は乙12技術に基づ
き,電磁コイルを逆起電力のゼロ交差よりも「前に」励起させるように変
15 更して「先進時間」を有するようにし,
「進み期間を増大」させることに困
難性は存在しないから,相違点2-4は当業者が容易に想到し得た事項で
ある。
相違点2-5につき,乙9技術は構成要件2Fの「進み期間」を有する
か否かが明らかでない点を除き本件特許発明2-4の「励起電圧の減少に
20 応答して,前記進み期間を増大させ,前記フリーホイール期間を減少させ
る」に相当するところ,乙8(2)発明において乙9技術を採用すること
に困難性は存在しないことは前記で検討したとおり(相違点2-3)であ
るから,先進時間を備えた乙8(2)発明に乙9技術を採用して相違点2
-5を構成することは当業者が容易に想到し得た事項である。
25 なお,相違点2-1ないし2-3については,前記
である。
以上によれば,本件特許発明2-4は,当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
本件特許発明2-5と乙8(2)発明の対比
乙8(2)発明で「各モータの半サイクル期間は,単一の励磁区間と,
5 単一の非励磁区間」を有することは,本件特許発明2-5で「各電気半サ
イクルが,単一駆動期間と単一フリーホイール期間」からなることに相当
する。また,乙8(2)発明で「前記駆動制御回路200は,前記励磁区
間中に前記電気機械の巻線を励起し,かつ前記非励磁区間中に前記電磁コ
イルを未励磁状態にする」ことは,本件特許発明2-5で「前記制御シス
10 テムは,前記駆動期間中に前記電気機械の巻線を励起し,かつ前記フリー
ホイール期間中に前記巻線をフリーホイールさせる」ことに相当する。し
たがって,乙8(2)発明は構成要件2H及び2Iと一致する。
なお,相違点2-1ないし2-5については,前記
とおりである。
15 以上によれば,本件特許発明2-5は,当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
本件特許発明2-6と乙8(2)発明の対比
乙8(2)発明の「永久磁石からなる回転子」は,本件特許発明2-6
の「永久磁石回転子」に相当する。
20 他方で,乙8(2)発明では,構成要件2Kにいう回転子の直径が「1
0mm未満」であることが明記されていない(以下「相違点2-6」とい
う。。

相違点2-6につき,回転子の直径を「10mm未満」とすることの作
用効果は,乙8(2)発明との関係で異質なものではなく,顕著な効果を
25 示すものでもないから,乙8(2)発明において回転子の直径を「10m
m未満」とすることは,当業者が適宜行う数値範囲の最適化程度に過ぎな
い。また,乙8(2)発明に乙14技術を採用して相違点2-6を構成す
ることは当業者が容易に想到し得た事項であるともいえる。
なお,相違点2-1ないし2-5については,前記
とおりである。
5 以上によれば,本件特許発明2-6は,当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
本件特許発明2-7と乙8(2)発明の対比
乙8(2)発明の「充電池」は本件特許発明2-7の「バッテリパック」
に相当するから,乙8(2)発明にいう「前記電磁コイルが前記充電池の
10 電圧によって励起される」ことは,本件特許発明2-7にいう「前記巻線
は,前記バッテリパックの電圧によって励起され」ることに相当する。ま
た,乙8(2)発明にいう「前記電磁コイルが励起されるタイミングを変
更し,かつ,前記電磁コイルが未励磁状態にされる期間を変更する」こと
は,本件特許発明2-7にいう「前記巻線が励起されるタイミング及び前
15 記巻線がフリーホイールされる期間を変更すること」に相当する。さらに,
乙8(2)発明の「家電機器」は,本件特許発明2-7の「製品」に相当
する。
他方,乙8(2)発明では,電磁コイルが励起されるタイミングの変更
及び電磁コイルが未励磁状態にされる期間の変更について「励起電圧に応
20 答して」
(構成要件2P)行うことが明記されていないが,この点は相違点
2-3と同様であり,当業者が容易に想到し得た事項である。
なお,相違点2-1ないし2-6については,前記
したとおりである。
以上によれば,本件特許発明2-7は,当業者が容易に発明をすること
25 ができたものである。
本件特許発明2-1
と乙8(2)発明には看過された相違点1があると主張する。
しかし,本件特許発明2-1の構成要件2Cには「前記巻線が励起され
るタイミング」 「逆起電力Ecのゼロ交差時よりも前の場合に限られる」

であるとか,「前記巻線が励起されるタイミング及び前記巻線がフリーホ
5 イールされる期間」の「変更」を「逆起電力Ecのゼロ起電力の交差時と
逆起電力Ecの次のゼロ交差時との間で行う場合が除かれる」という限定
はないから,看過された相違点1は存在しない。
本件特許発明
2-4と乙8(2)発明には看過された相違点2があると主張するが,看
10 過された相違点2は,相違点2-4の中で実質的に評価されている内容で
あるから,看過されたものではない。
(原告の主張)
ア 本件特許発明1及び2に共通する公知技術等
乙9技術では,巻線が励起されるタイミングを,逆起電力のゼロ交差より
15 も前に早めることについて開示も示唆もされていない。乙9技術は,「三相
巻線を有するモータ4の制御装置が,インバータ3に供給される電圧が低下
したことに応じて,整流前の期間にわたって巻線が未励磁状態にされる期間
を短くする」ものと認定すべきである。
乙10技術では,どのような電圧の変化に対して,どのように電流値,進
20 角値,通電角及び相電流の波形を変更するのかという点について,具体的な
制御は一切開示されていない。乙10技術は,「三相巻線を有するモータM
の制御ユニットCが,モータ駆動用電源4の電圧に応じて,巻線が励起され
るタイミングや,巻線が未励磁状態にされる期間を,予め定める」ものであ
ると認定すべきである。
25 乙13技術は,スイッチングされるリラクタンス・モータに関するもので
あり,単相永久磁石モータとは構造も作動も全く異なっている。乙13技術
は,
「掃除機のスイッチトリラクタンス・モータを,回転速度60,000r
pm~100,000rpmで駆動する」ものであると認定すべきである。
なお,乙11技術,乙12技術及び乙14技術については,被告の主張を
特に争わない。
5 イ 本件特許発明1について
本件特許発明1-1と乙8(1)発明の対比
① 構成1bは,「逆起電力Ecのゼロ交差時よりも後で,逆起電力Ec
の次のゼロ交差時よりも前に励起電圧によって励起され,かつ整流前の
電気角期間にわたって未励磁状態にされるモータ本体100の電磁コ
10 イルを,順次,励磁区間は励起させ,非励磁区間は未励磁状態にさせる
段階と」とすべきである。また,構成1cおよび1dは,
「逆起電力Ec
のゼロ交差時と逆起電力Ecの次のゼロ交差時との間で,任意に,前記
電磁コイルが励起されるタイミング及び前記非励磁区間の電気角期間
を変更する段階と,を含み」「逆起電力Ecのゼロ交差時と逆起電力E

15 cの次のゼロ交差時との間で,任意に,前記電磁コイルが励起されるタ
イミングを早め,前記非励磁区間の電気角期間を減少する」とすべきで
ある。
したがって,相違点1-1は,乙8(1)発明は逆起電力Ecのゼロ
交差時と逆起電力Ecの次のゼロ交差時との間で電磁コイルが励起さ
20 れるタイミングを早めるものであるが,構成1bないし1dは逆起電力
のゼロ交差よりも前に励起電圧によって励起され,先進角を変更し,先
進角が増大するものになっていない点であると認定すべきである。
② 相違点1-1について
相違点2-4と同様の理由により(後記ウ),乙8(1)発明に乙11
25 技術又は乙12技術を採用して相違点1-1を構成することは,当業者
であればおよそ想到しないばかりか,組み合わせることに阻害要因があ
る。
③ 相違点1-2,1-3について
相違点2-3及び相違点2-5と同様の理由により(後記ウ),乙8
(1)発明に乙9技術又は乙10技術を採用して相違点1-2及び1-
5 3を構成することは,当業者はおよそ想到しない。
本件特許発明1-6,1-9,1-10,1-11,1-12と乙8(1)
発明の対比
又は乙12技術を採用して相違点1-1,1-2,1-3を構成すること
10 は,当業者はおよそ想到しない。
本件特許発明1-8と乙8(1)発明の対比
乙8(1)発明は,励磁区間を変化させた際の変化を観察した結果を示
しているに過ぎず,回転数に応答して励磁区間を変化させ,非励磁区間を
低減させるという制御を行うことについて開示するものではない(構成1
15 hは開示されていない)から,構成要件1Hは相違点として認定されるべ
きである。そして,速度の増大に応答してフリーホイール角が低減すると
いう前記の相違点は,被告が提出する証拠の内容から読み取れる制御方法
ではないから,この点について当業者が容易に発明することができたもの
とはいえない。
20 明に乙9技術,乙10技術,乙
11技術又は乙12技術を採用して相違点1-1,1-2,1-3を構成
することは,当業者はおよそ想到することはできない。
ウ 本件特許発明2について
本件特許発明2-1と乙8(2)発明の対比
25 ① 構成2cは,「前記モータ本体100は,所定の作動速度範囲にわた
って駆動されるように,前記駆動制御回路200は,逆起電力Ecのゼ
ロ交差時と逆起電力Ecの次のゼロ交差時との間で,任意に,前記電磁
コイルが励起されるタイミングを変更し,かつ,前記電磁コイルが未励
磁状態にされる期間を変更する」ものと認定されるべきである。
したがって,本件特許発明2-1では,巻線が励起されるタイミング
5 及びフリーホイールされる期間を変更するに際し,「最大電圧と前記最
大電圧の80%である最少電圧の間に定められた励起電圧範囲にわた
って駆動されるように」行われることが規定され,かつ,前記タイミン
グ及び期間には制限がないのに対し,乙8(2)発明では,励起電圧が
変化することを前提に,その電圧範囲にわたって駆動するように巻線が
10 励起されるタイミング及びフリーホイール期間を変更するようにはな
っておらず,それらを変更する際には「逆起電力Ecのゼロ交差時と逆
起電力Ecの次のゼロ交差時との間」で行うように制限されている点に
ついても,本件特許発明2-1と相違している(以下「看過された相違
点1」という。。

15 ② 相違点2-1及び2-2について
乙8(2)発明は,60krpmを超えるような速度を実現すること
を想定していない発明である。単相永久磁石モータにおいて60krp
m以上の高速度を実現しようとすれば,増大する逆起電力をどのように
制御するかについて工夫が必要となるが,乙8(2)発明におけるモー
20 タの制御は低速度によるモータの制御を開示しているのであって,高速
度におけるモータの制御について開示も示唆もしていない。
乙13技術は,掃除機のスイッチトリラクタンス・モータを回転速度
60,000rpm~100,000rpmで駆動するものであり,ス
イッチトリラクタンス・モータの巻線には先進角及びフリーホイール角
25 という概念がない。したがって,スイッチトリラクタンス・モータと乙
8(2)発明の単相永久磁石モータは,構造及び作動が根本的に異なっ
ており,当業者は,乙13技術を乙8(2)発明と組み合わせることは
考えない。
③ 相違点2-3及び看過された相違点1について
乙8(2)発明は,電源電圧が一定であることを前提としているので
5 あって,その技術思想において,電圧が変化することも電圧の変化を考
慮して励磁区間を制御することも,全く想定されていないから,電源電
圧に応じて,最適な電力削減率になるように励磁区間比を選択すること
は示唆されていない。
乙9技術は,三相巻線を有する固定子4bからなるブラシレスDCモ
10 ータ4に関するものであって,単相モータについての技術事項を開示す
るものではない。三相モータは,構造上の相違に起因して,スムーズな
回転力を生じる点において単相モータよりも有利であるし,巻線のうち
の1つを励起させたとき,少なくとも1つの他の巻線をそれと同時に励
起されなければならないため,単相モータの巻線を励起させるタイミン
15 グを決定するときに考慮すべき要因と,三相モータの巻線を励起させる
タイミングを決定するときに考慮すべき要因は異なっているから,その
ような構造上の相違を無視して単相モータに関する乙8(2)発明に三
相モータに関する乙9技術を組み合わせることはできない。また,仮に
乙8(2)発明に乙9技術を組み合わせたとしても,乙9技術は「励起
20 電圧の変化に応答して,巻線を励起するタイミングを変化させること」
については開示していないから,相違点2-3及び看過された相違点1
を構成することはできない。
乙10技術は,三相永久磁石式ブラシレスモータに関するものである
から,乙9技術と同様の理由により,単相モータに関する乙8(2)発
25 明に組み合わせることはできない。また,仮に,乙8(2)発明に乙1
0技術を組み合わせたとしても,乙10技術はどのような励起電圧の変
化に対してどのように「進角値」や「通電角」を変更させるのかという
点や,具体的な制御方法等については開示していないから,相違点2-
3及び看過された相違点1を構成することはできない。
本件特許発明2-4と乙8(2)発明の対比
5 ① 構成2eは,「前記電磁コイルは,逆起電力Ecのゼロ交差時から後
に,逆起電力のピーク値との関係で励起され,整流前の期間にわたって
未励磁状態にされ」るものと認定されるべきであり,構成2fは,
「前記
駆動制御回路200は,逆起電力Ecのゼロ交差時と逆起電力Ecの次
のゼロ交差時との間で任意に,前記電磁コイルが励起されるタイミング
10 を早め,前記電磁コイルが未励磁状態にされる期間を減少させる」もの
と認定されるべきである。
したがって,本件特許発明2-4は,逆起電力のゼロ交差よりも前に
巻線を励起し,励起電圧の減少に応答してフリーホイールされる期間を
減少させるのに対し,乙8(2)発明においては,巻線が励起されるタ
15 イミングが,逆起電力のゼロ交差ではなく逆起電力のピーク値との関係
で決定され,かつ,フリーホイール期間を変更する際には「逆起電力E
cのゼロ交差時と逆起電力Ecの次のゼロ交差時との間」で行うように
限定されている点でも本件特許発明2-4と相違している(以下「看過
された相違点2」という。。

20 ② 相違点2-4,2-5及び看過された相違点2について
乙8(2)発明では,逆起電力波形のゼロ交差時及びその近傍におい
てコイルに電圧を印加しないことが必須の構成となっている。
他方で,乙11技術は,モータの制御回路が,モータ駆動時に巻線に
生じる起電力のゼロ交差点に対して,巻線を通電するタイミングを進め
25 るように変更することが記載されている。また,乙12技術は,単相モ
ータの制御装置が,巻線に生じる起電力のゼロ交差点に対して,巻線を
通電するタイミングを進め,かつ,整流前の期間にわたって,巻線を未
励磁状態にすることが記載されている。
したがって,当業者は,乙8(2)発明の必須の構成に反して,逆起
電力波形のゼロ交差時よりも巻線に通電するタイミングを早める乙1
5 1技術又は乙12技術を乙8(2)発明に組み合わせることは通常考え
ない。むしろ,逆起電力波形のゼロ交差時及びその近傍においてコイル
に電圧を印加しない構成を必須とする乙8(2)発明に乙11技術又は
乙12技術を組み合せることには阻害要因があるといえる。
本件特許発明2-5,2-6及び2-7と乙8(2)発明の対比
10 本件特許発明2-5,2-6及び2-7のいずれについても,前記
乙10技術,乙11技術,乙
12技術又は乙13技術を組み合わせることはできないから,当業者が容
易に発明することができたとはいえない。
損害発生の有無及びその額(争点5)
15 (原告の主張)
被告は,平成26年 1 月以降,被告製品を3万1118台販売し,その売上
金額の総額は13億2776万0300円である。
原告は,本件特許発明1及び2の実施品であるコードレス真空掃除機を,被
告製品が発売された平成26年1月までには日本において販売していた。被告
20 が被告製品を前記のとおり販売したことにより,原告は,原告製品の販売機会
を喪失し,これにより得べかりし販売利益を喪失した。被告による被告製品の
販売行為がなければ原告が販売することができた製品の1個当たりの利益額
は,2万円を下らない。
したがって,被告による本件特許権の侵害により原告が受けた損害の額は,
25 特許法102条1項により6億2236万円(2万円×3万1118台)を下
らない。
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件特許発明1及び2の意義
5 本件特許1の明細書(以下「本件明細書1」という。)の発明の詳細な説明に
は,以下の記載がある(甲2)。
ア 技術分野
「本発明は,電気機械の制御に関する。」(段落【0001】)
イ 背景技術
10 「電気機械の永久磁石回転子が回転すると,それは,電気機械の巻線の逆
起電力を誘導する。回転子が加速すると,逆起電力のマグニチュードは増大
する。従って,電気機械内へ電流及び従って電力を駆動するのは次第に困難
になる。(段落【0002】
」 )
ウ 発明が解決しようとする課題
15 「その結果,電気機械の電力に対する制御が次第に困難になる。 段落

( 【0
003】)
エ 課題を解決するための手段
「本発明は,電気機械を制御する方法を提供し,本方法は,先進角だけ巻
線の逆起電力のゼロ交差よりも前に励起電圧によって励起され,かつフリー
20 ホイール角にわたってフリーホイールされる電気機械の巻線を順次励起し
てフリーホイールさせる段階と,励起電圧の変化に応答して先進角及びフリ
ーホイール角を変更する段階とを含む。励起電圧の変化に応答して先進角及
びフリーホイール角の両方を変更することにより,電気機械の効率及び電力
の両方に対するより良好な制御を達成することができる。例えば,先進角を
25 増加させることにより,電流は,より早期の段階で巻線内に駆動され,従っ
て,電力は増大する。同様に,フリーホイール角を低減することにより,電
流は,より長期間にわたって巻線内に駆動され,従って,電力は増大する。」
(【段落0004】)
「低下する逆起電力の領域においては,より少ないトルクが電流の所定の
レベルに対して達成される。従って,この領域内でフリーホイールさせるこ
5 とにより,より効率的な電気機械を達成することができる。更に,巻線の逆
起電力が低下すると,仮に励起電圧が,低下する逆起電力を超えたとしたら,
電流スパイクが起こるであろう。低下した逆起電力の領域内で巻線をフリー
ホイールさせることにより,電流スパイクは回避することができ,従って,
より滑らかな電流波形を達成することができる。(
」【段落0005】)
10 「好ましくは,励起電圧の低下に応答して先進角は増加され,かつフリー
ホイール角は低減される。その結果,励起電圧が低下すると,電流は,より
早期の段階で巻線内に駆動される。更に,電流は,より長期間にわたって巻
線内に駆動される。従って,励起電圧の降下にも関わらず,同じか又は類似
の電力を達成することができる。実際に,本方法は,好ましくは,電気機械
15 の電力が励起電圧の範囲にわたって実質的に一定であるように先進角及び
フリーホイール角を変更する段階を含む。この場合の実質的に一定の電力は,
電力の分散が±5%よりも大きくないことを意味することを理解すべきで
ある。(段落【0006】
」 )
「本方法は,有利な態様では,電気機械の効率(すなわち,出力電力対入
20 力電力の比率)が,励起電圧の範囲にわたって少なくとも75%であるよう
に先進角及びフリーホイール角を変更する段階を含む。従って,励起電圧の
範囲にわたって比較的良好な効率が達成される。励起電圧の範囲は,最小電
圧と最大電圧の間で延び,最小電圧は,最大電圧の80%未満とすることが
できる。こうして,これは,一定の電力及び/又は良好な効率を達成するこ
25 とができる電圧の比較的広い範囲を表している。その結果,バッテリパック
を励起源として用いることができる。使用に伴うバッテリ放電にも関わらず,
一定の電力及び/又は良好な効率を依然として達成することができる。(段

落【0007】)
「好ましくは,本方法は,電気機械の速度の変化に応答して先進角及びフ
リーホイール角の少なくとも一方を変更する段階を含む。従って,電力の良
5 好な制御は,励起電圧及び電気機械の速度の両方の変化に応答して達成する
ことができる。実際に,本方法は,好ましくは,速度の増大に応答して先進
角を増加させる段階及び/又はフリーホイール角を低減する段階を含む。従
って,電気機械の速度が増大し,従って,巻線の逆起電力が増加すると,電
流は,より早期の段階で巻線内に駆動され,及び/又は電流は,より長期間
10 にわたって巻線内に駆動される。従って,同じか又は類似の電力を電気機械
の速度の変化にも関わらず達成することができる。有利な態様においては,
各電気半サイクルは,単一駆動期間及び単一フリーホイール期間を含む。巻
線は,次に,駆動期間中に励起され,フリーホイール期間中にフリーホイー
ルされる。フリーホイール期間に続いて,巻線は整流される。(段落【00

15 12】)
本件特許2の明細書(以下「本件明細書2」という。)の発明の詳細な説明に
は,以下の記載がある(甲4)。
ア 技術分野
「本発明は,高速電気システムに関し,特に,単相永久磁石電気機械を含
20 むシステムに関する。(段落【0001】
」 )
イ 背景技術
「単相永久磁石電気機械は,単相巻線に電流を整流することによって駆動
される。電気機械の速度が増大すると,相巻線の逆起電力は増大する。従っ
て,相巻線内へ電流及び従って電力を駆動するのは次第に困難になる。更に,
25 単相機械回転子では,損失が,磁石の磁場を乱す電機子反作用により一般的
に高い。従って,高速システムは,一般的に,3つ又はそれよりも多くの位
相を有する電気機械を含む。(段落【0002】
」 )
ウ 発明が解決しようとする課題
「しかし,この追加の位相を設けることは,電気システムの費用を増大さ
せる。(段落【0003】
」 )
5 エ 課題を解決するための手段
「第1の態様では,本発明は,単相永久磁石電気機械と,60krpmを
超える速度での負荷の下で電気機械を駆動するための制御システムとを含
む電気システムを提供する。従って,比較的高い速度が,単一位相のみを有
する永久磁石電気機械に対して達成される。好ましくは,制御システムは,
10 60krpmよりも大きい最小値及び80krpmよりも大きい最大値を
有する作動速度範囲にわたる負荷の下で電気機械を駆動する。より好ましく
は,最大値は,100krpmよりも大きい。従って,制御システムは,高
速で電気機械を駆動するだけでなく様々な負荷を有する高速も維持する。」
(段落【0004】)
15 「制御システムは,電気システムが,好ましくは少なくとも80%の効率
(出力電力対入力電力の比率)を有するように電気機械を駆動する。従って,
高速かつ高効率の電気システムを達成することができる。有利な態様では,
電気システムの入力電力は,200Wを超えない。従って,電気機械は,比
較的低電力かつ比較的高速で駆動することができる。各電気半サイクルは,
20 理想的には,単一駆動期間及び単一フリーホイール期間を含む。制御システ
ムは,次に,駆動期間中に電気機械の巻線を励起し,フリーホイール期間中
に巻線をフリーホイールさせる。(段落【0005】
」 )
「低下する逆起電力の領域においては,より少ないトルクが電流の所定の
レベルに対して達成される。従って,この領域内で巻線をフリーホイールさ
25 せることにより,より効率的な電気機械を達成することができる。更に,巻
線の逆起電力が低下すると,仮に励起電圧が,低下する逆起電力を超えたと
したら,電流スパイクが起こるであろう。低下した逆起電力の領域内で巻線
をフリーホイールさせることにより,電流スパイクは回避することができ,
従って,より滑らかな電流波形を達成することができる。 段落

( 【0006】)
「制御システムは,電気システムの出力電力が作動速度範囲にわたって実
5 質的に一定であるように,巻線が励起される時間及び巻線がフリーホイール
される時間を変更することができる。特に,制御システムは,先進角だけ巻
線の逆起電力のゼロ交差よりも前に巻線を励起し,フリーホイール角にわた
って巻線をフリーホイールさせることができる。制御システムは,次に,電
気機械の速度の変化に応答して先進角及びフリーホイール角を変更する。」
10 (段落【0007】)
「制御システムは,更に,電気システムの出力電力が,巻線を励起するの
に用いる電圧の範囲にわたって実質的に一定であるように,巻線が励起され
る時間及び巻線がフリーホイールされる時間を変更することができる。特に,
制御システムは,先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも前に巻線を励
15 起し,フリーホイール角にわたって巻線をフリーホイールさせることができ
る。制御システムは,次に,励起電圧の変化に応答して先進角及びフリーホ
イール角を変更する。(段落【0008】
」 )
「励起電圧の範囲は,最小電圧と最大電圧の間で延びることができ,最小
電圧は,最大電圧レベルの80%未満である。こうして,これは,一定の出
20 力電力及び/又は良好な効率を達成することができる電圧の比較的広い範
囲を表している。電気機械は,理想的には,巻線が周りに巻かれるc字形固
定子を含む。こうして,これは,電気機械の組立を簡素化する。更に,高フ
ィル・ファクタが巻線に対して達成され,従って,銅損を低減し,効率を改
善することができる。電気機械は,10mm未満の直径を有する永久磁石回
25 転子を有することができる。従って,比較的小さな高速電気機械を達成する
ことができる。(段落【0009】
」 )
「第2の態様では,本発明は,バッテリパックと前段落のいずれか1つに
説明した電気システムとを含む製品を提供する。制御システムは,次に,バ
ッテリパックの電圧を用いて電気機械を駆動する。制御システムは,バッテ
リパックの電圧の変化に応答して電気機械の巻線が励起される時間及び/
5 又は巻線がフリーホイールされる時間を変更することができる。第3の態様
では,本発明は,前段落のいずれか1つに説明した電気システムを含む真空
掃除機を提供する。制御システムは,好ましくは,電気機械の巻線を励起し
てフリーホイールさせる。制御システムは,真空掃除機が負荷の範囲にわた
って実質的に一定の吸引を維持するために,巻線が励起される時間及び/又
10 は巻線がフリーホイールされる時間を変更することができる。更に,制御シ
ステムは,真空掃除機が励起電圧の変化に応答して実質的に一定の吸引を維
持するために,巻線が励起される時間及び/又は巻線がフリーホイールされ
る時間を変更することができる。特に,励起電圧がバッテリパックによって
供給される場合には,制御システムは,真空掃除機が,バッテリパックが放
15 電する時に実質的に一定の吸引を維持するように励起時間及び/又はフリ
ーホイール期間を変更する。(段落【0010】
」 )
前記 によれば,本件特許発明1は,先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差
よりも前に励起電圧により励起し,かつ整流前のフリーホイール角にわたって
フリーホイールすることにより,高速回転時の逆起電力の増大にもかかわらず
20 単相永久磁石モータ等の電気機械の駆動を可能にするとともに,励起電圧の低
下に応答して,先進角を増加させ,フリーホイール角を減少させることにより,
電気機械の効率及び電力の両方に対する良好な制御を達成することを目的と
する発明であるといえる。
本件特許発明2は,コスト面から単相永久磁石モータ(電
25 気機械)を採用することを前提とし,所定の作動速度範囲及び所定の励起電圧
範囲にわたって駆動されるように,励起電圧に応答して巻線が励起されるタイ
ミング及び巻線がフリーホイールされる期間を変更することにより,高速な作
動速度の範囲及び幅広い励起電圧範囲において,実質的に一定の出力電力及び
良好な効率を達成することを目的とする発明であるといえる。
2 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
5 本件特許発明1及び2におけるモータの制御方法等(甲2,4)
ア 本件特許発明1におけるモータの制御方法等について,本件明細書1には
以下のとおり記載されている。
段落【0016】
「電源2は,16.4VのDC電源を提供する4セルバッテリパック,
10 又は24.6VのDC電源を提供する6セルバッテリパックのいずれかで
ある。供給電圧の提供に加えて,電源は,バッテリパックの型に独特であ
る識別信号を出力する。ID信号は,バッテリパックの型により異なる周
波数を有する方形波信号の形態を取る。本発明の例では,4セルバッテリ
パックは,25Hz(20msパルス長)の周波数を有するID信号を出
15 力し,一方,6セルバッテリパックは,50Hz(10msパルス長)の
周波数を有するID信号を出力する。」
段落【0043】
「電源投入する時に,駆動コントローラ16は,電源ID信号,アクセ
サリ信号,及び電力モード信号の入力を記録する。これらの3つの信号に
20 基づいて,駆動コントローラ16は,メモリ31に格納されたパワーマッ
プを選択する。以下で説明するように,各パワーマップは,異なる出力電
力でモータ8を駆動するための制御値を格納する。表2から分るように,
駆動コントローラ16は,5つの異なるパワーマップを格納する。」
段落【0044】
25 「(表2)

段落【0060】
「「高速加速モード」におけるように,駆動コントローラ16は,順次巻
線19を励起してフリーホイールさせる。各電気半サイクルは,従って,
5 単一駆動期間とその後の単一フリーホイール期間とを継続して含む。更に,
巻線19は,位置センサ信号のエッジよりも前に,従って,逆起電力のゼ
ロ交差よりも前に励起される。しかし,固定時間が,先進時間及びフリー
ホイール時間に対して使用される「高速加速モード」と異なり,駆動コン
トローラ16は,ここでは,一定の出力電力を達成するように先進時間及
10 びフリーホイール時間を変更する。駆動コントローラ16は,電気角A_
ADVだけ位置センサ信号のエッジよりも前に巻線19を励起し,電気角
A_FREEにわたって巻線19をフリーホイールさせる。駆動コントロ
ーラ16は,一定の出力電力を達成するために,励起電圧(すなわち,電
源2のリンク電圧)及びモータ8の速度の変化に応答して,先進角A_A
15 DV及びフリーホイール角A_FREEの両方を変更する。」
段落【0061】
「電源2は,バッテリパックであり,従って,励起電圧は,バッテリパ
ックが使用と共に放電すると低下する。仮に巻線19が励起かつフリーホ
イールされる電気角が固定されたとすれば,運動系5の入力電力及び従っ
20 て出力電力は,電源2が放電すると低下するであろう。従って,一定の出
力電力を維持するために,駆動コントローラ16は,励起電圧の変化に応
答して,先進角A_ADV及びフリーホイール角A_FREEを変更する。
特に,励起電圧の低下と共に先進角A_ADVは増加し,フリーホイール
角A_FREEは減少する。先進角A_ADVを増加させることにより,
電流は,より早期の段階で巻線19内に駆動される。フリーホイール角A
_FREEを低減することにより,巻線19は,半サイクルにわたって長
5 期間励起される。正味の結果は,励起電圧の低下に応答して,より多くの
電流が,半サイクルにわたって巻線19内に駆動され,従って,一定の出
力電力が維持されることである。」
段落【0063】
「先進角及びフリーホイール角の分散は,パワーマップとして駆動コン
10 トローラ16によって格納される。各パワーマップは,複数の電圧レベル
の各々に対して先進時間及びフリーホイール時間を格納したルックアッ
プテーブルを含む。より詳細に以下に説明するように,駆動コントローラ
16は,電圧レベル信号をモニタして,パワーマップから対応する先進時
間及びフリーホイール時間を選択する。駆動コントローラ16は,次に,
15 パワーマップから得られた先進及びフリーホイール時間を用いて,巻線1
9の励起及びフリーホイールを制御する。その結果,一定の出力電力は,
励起電圧の変化に関係なく運動系5に対して達成される。表4は,167
Wパワーマップの一部分を示している。」
段落【0064】
20 「(表4)

段落【0065】
「この表の左側部分のみが,167Wパワーマップとして駆動コントロ
ーラ16によって格納される。右側部分は,本発明の説明の目的で含まれ
5 ており,パワーマップの一部を形成するものではない。表から分るように,
167Wパワーマップは,167Wの一定の出力電力を送出する先進時間
及びフリーホイール時間を格納する。」
段落【0066】
「パワーマップは,先進角及びフリーホイール角ではなく,先進時間及
10 びフリーホイール時間を格納する点に注意されたい。駆動コントローラ1
6は,タイマを用いて,巻線19を励起してフリーホイールさせる制御信
号S1-S4を発生させる。従って,角度ではなく先進及びフリーホイー
ル時間を格納することにより,駆動コントローラ16によって実施する命
令は,非常に簡素化される。それにも関わらず,パワーマップは,代替的
15 に,駆動コントローラ16が後で巻線19の励起及びフリーホイールを制
御するのに用いる先進角及びフリーホイール角を格納することができる
と考えられる。」
段落【0067】
「各先進及びフリーホイール角は,モータ8の速度に依存する対応する
時間を有する。各パワーマップに対して,駆動コントローラ16は,特定
の作動速度範囲内でモータ8を駆動する。各作動速度範囲は,先進時間及
びフリーホイール時間を計算するのに用いられる公称速度を有する。
T_ADV=(A_ADV/360°)*60/ωnominal
5 T_FREE=(A_FREE/360°)*60/ωnominal
ここで,ωnominal は,rpmによる公称速度である。表5は,様々な
パワーマップに対して作動速度範囲及び公称速度を列挙している。」
イ 本件特許発明2におけるモータの制御方法等について,本件明細書2には
以下のとおり記載されている。
10 段落【0012】
「電源2は,16.4VのDC電源を提供する4セルバッテリパック,
又は24.6VのDC電源を提供する6セルバッテリパックのいずれかで
ある。供給電圧の提供に加えて,電源は,バッテリパックの型に独特であ
る識別信号を出力する。ID信号は,バッテリパックの型により異なる周
15 波数を有する方形波信号の形態を取る。本発明の例では,4セルバッテリ
パックは,25Hz(20msパルス長)の周波数を有するID信号を出
力し,一方,6セルバッテリパックは,50Hz(10msパルス長)の
周波数を有するID信号を出力する。」
段落【0039】
20 「電源投入する時に,駆動コントローラ16は,電源ID信号,アクセ
サリ信号,及び電力モード信号の入力を記録する。これらの3つの信号に
基づいて,駆動コントローラ16は,メモリ31に格納されたパワーマッ
プを選択する。以下で説明するように,各パワーマップは,異なる出力電
力でモータ8を駆動するための制御値を格納する。表2から分るように,
25 駆動コントローラ16は,5つの異なるパワーマップを格納する。」
段落【0040】
「(表2)

段落【0057】
「電源2は,バッテリパックであり,従って,励起電圧は,バッテリパ
5 ックが使用と共に放電すると低下する。仮に巻線19が励起かつフリーホ
イールされる電気角が固定されたとすれば,運動系5の入力電力及び従っ
て出力電力は,電源2が放電すると低下するであろう。従って,一定の出
力電力を維持するために,駆動コントローラ16は,励起電圧の変化に応
答して,先進角A_ADV及びフリーホイール角A_FREEを変更する。
10 特に,励起電圧の低下と共に先進角A_ADVは増加し,フリーホイール
角A_FREEは減少する。先進角A_ADVを増加させることにより,
電流は,より早期の段階で巻線19内に駆動される。フリーホイール角A
_FREEを低減することにより,巻線19は,半サイクルにわたって長
期間励起される。正味の結果は,励起電圧の低下に応答して,より多くの
15 電流が,半サイクルにわたって巻線19内に駆動され,従って,一定の出
力電力が維持されることである。」
段落【0059】
「先進角及びフリーホイール角の分散は,パワーマップとして駆動コン
トローラ16によって格納される。各パワーマップは,複数の電圧レベル
20 の各々に対して先進時間及びフリーホイール時間を格納したルックアッ
プテーブルを含む。より詳細に以下に説明するように,駆動コントローラ
16は,電圧レベル信号をモニタして,パワーマップから対応する先進時
間及びフリーホイール時間を選択する。駆動コントローラ16は,次に,
パワーマップから得られた先進及びフリーホイール時間を用いて,巻線1
9の励起及びフリーホイールを制御する。その結果,一定の出力電力は,
励起電圧の変化に関係なく運動系5に対して達成される。表4は,167
5 Wパワーマップの一部分を示している。」
段落【0060】
「(表4)

段落【0061】
10 「この表の左側部分のみが,167Wパワーマップとして駆動コントロ
ーラ16によって格納される。右側部分は,本発明の説明の目的で含まれ
ており,パワーマップの一部を形成するものではない。表から分るように,
167Wパワーマップは,167Wの一定の出力電力を送出する先進時間
及びフリーホイール時間を格納する。」
15 段落【0008】
「制御システムは,更に,電気システムの出力電力が,巻線を励起する
のに用いる電圧の範囲にわたって実質的に一定であるように,巻線が励起
される時間及び巻線がフリーホイールされる時間を変更することができ
る。特に,制御システムは,先進角だけ巻線の逆起電力のゼロ交差よりも
前に巻線を励起し,フリーホイール角にわたって巻線をフリーホイールさ
せることができる。制御システムは,次に,励起電圧の変化に応答して先
進角及びフリーホイール角を変更する。」
段落【0009】
5 「励起電圧の範囲は,最小電圧と最大電圧の間で延びることができ,最
小電圧は,最大電圧レベルの80%未満である。こうして,これは,一定
の出力電力及び/又は良好な効率を達成することができる電圧の比較的
広い範囲を表している。電気機械は,理想的には,巻線が周りに巻かれる
c字形固定子を含む。こうして,これは,電気機械の組立を簡素化する。
10 更に,高フィル・ファクタが巻線に対して達成され,従って,銅損を低減
し,効率を改善することができる。電気機械は,10mm未満の直径を有
する永久磁石回転子を有することができる。従って,比較的小さな高速電
気機械を達成することができる。」
段落【0098】
15 「励起電圧及び速度の両方の変化に応答して先進角及びフリーホイール
角を制御することにより,制御システム9は,励起電圧及びモータ速度の
範囲にわたって一定の出力電力でモータ8を駆動することができる。本発
明の場合には,一定の出力電力は,モータ8の出力電力の分散が±5%よ
りも大きくないことを意味することを理解すべきである。制御システム9
20 は,一定の出力電力だけでなく,比較的高効率(すなわち,出力電力対入
力電力の比率)でもモータ8を駆動する。励起電圧及び速度の両方の変化
に応答して先進角及びフリーホイール角を制御することにより,少なくと
も75%の効率は,励起電圧及びモータ速度の範囲にわたって達成可能で
ある。実際に,表2に挙げたパワーマップに対して,少なくとも80%の
25 効率が達成可能である。例えば,表4に挙げた入力及び出力電力から分る
ように,約88%の効率は,167Wパワーマップの先進及びフリーホイ
ール角で得ることができる。」
段落【0099】
「一定の出力電力及び/又は高効率が達成される励起電圧の範囲は,比
較的広い。6セルバッテリパックに対して,励起電圧範囲は,16.8-
5 23.0Vであるが,4セルバッテリパックに対しては,励起電圧範囲は,
11.2-14.8である。両電圧範囲に対して,最小電圧は,最大電圧
の80%未満である。これは,一定の出力電力及び/又は高効率が達成さ
れる比較的大きな範囲を表している。」
被告製品の構成等(甲5,6,9,弁論の全趣旨)
10 ア 被告製品は,高効率ブラシレスモータを採用し,リチウムイオン電池を搭
載した真空掃除機である。
イ 被告製品の内部ではバッテリが電気配線を介してコネクタ,プリント回路
基板①,モータへと順次接続されていた。プリント回路基板①からは,二本
の電源ライン(赤,青)がモータに接続されていた。モータは,固定子と回
15 転子及び回転子を支持する樹脂ケース,プリント回路基板②を有していた。
固定子は,略C字形状の固定子鉄心と,固定子鉄心に取り付けられた樹脂部
材と,樹脂部材に巻かれた二つの回転子巻線と,樹脂部材に取り付けられた
二つの電源端子(青,赤)を有していた。固定子鉄心の両先端部には,回転
子の永久磁石を略半周にわたって包囲して対向する二つの突極が設けられ
20 ていた。回転子の永久磁石は回転軸に固定されていた。モータの電源端子(青)
からは二つのワイヤが延び,左側に延びるワイヤは反時計方向に巻かれ,右
側に延びるワイヤは時計方向に巻かれ,最後に左右のワイヤは両方とも電源
端子(赤)に延びており,単相巻線を形成するように互いに接続されていた。
ウ 回転子の永久磁石の直径は,約7.4ミリメートルであった。
25 エ 被告製品の作動電圧範囲は,プリント回路基板の入力端子部分において測
定した場合,モータへの電力供給開始直後の入力電圧が18.78V(約1
8.8V),モータが自動停止する直前の入力電圧が14.64V(約14.
6V)であった。
被告製品におけるモータの制御方法等(乙17,19)
ア ●(省略)●
5 被告製品を「強モード」で作動させた場合,被告製品は,モータに対する
制御として,モータ通電時間を制御の対象としていて,●(省略)●と呼ば
れる方法で制御している。●(省略)●を意図している。被告製品における
モータの●(省略)●に設定されている。
被告製品においてバッテリ電圧が低下した場合,駆動回路の駆動能力(駆
10 動回路を構成するトランジスタの駆動能力)が低下することとなり,モータ
の●(省略)●の検出値が目標値に達しにくくなる。この観点からは, (省

略)●は出力値(モータ通電時間)を長くする方向で作用する。他方,バッ
テリ電圧が低下した場合には,モータの回転数が低下し,モータ周期(モー
タの一回転分の時間)は長くなり,モータ巻線に生じる逆起電力は小さくな
15 るので,モータの●(省略)●の検出値が目標値に達しやすくなる。この観
点からは,●(省略)●は出力値(モータ通電時間)を短くするようにも作
用する。
イ ●(省略)●
被告製品においては,●(省略)●をしている。
20 ウ 被告製品における,入力電圧と前記の各制御方法の対応関係は以下のとお
りである。
15.0Vから17.1Vの範囲
●(省略)●が行われており,●(省略)●は行われていない。
17.2V
25 ●(省略)●が行われており,●(省略)●については,それを行って
いるサイクルと行っていないサイクルが混在している。
17.3V
●(省略)●が行われており,●(省略)●は行われていない。
17.4Vから17.5Vの範囲
●(省略)●が行われており,●(省略)●については,それを行って
5 いるサイクルと行っていないサイクルが混在している。
17.6Vから18.1Vの範囲
●(省略)●を行っているサイクルと●(省略)●を行っているサイク
ルが混在しており,●(省略)●については,それを行っているサイクル
と行っていないサイクルが混在している。
10 18.2Vから18.7Vの範囲
●(省略)●が行われており(●(省略)●は行われていない),●(省
略)●については,それを行っているサイクルと行っていないサイクルが
混在している。
被告製品における入力電圧とフリーホイール期間等の関係に関する実験
15 ア 原告が実施した実験(甲7,8,26,27)
甲7号証記載の実験(以下「原告甲7実験」という。)
① 実験に用いたシステム
被告製品のモータのプリント回路基板の正電圧ケーブルを,被告製品
のバッテリから切り離し,その代わりに直流電源に接続した。被告製品
20 のモータにつながっているダクトはエアワットボックスの側面に連結
されており,オリフィスを有するキャップはエアワットボックスの他の
側面に取り付けられていた。電力計により,被告製品のモータの入力電
圧,入力電流及び入力電力を測定した。3つのプローブを有するオシロ
スコープにより,被告製品のモータの相電圧,相電流及びホール信号を
25 測定した。
② 実験方法1
前記①のシステムを用いて被告製品のモータに電力を供給し,強力吸
引モードにセットした。異なる入力電圧及びオリフィス寸法における入
力電流,入力電力,相電圧,相電流及びホール信号を記録した。
入力電圧については直流電源を用いて調整した。オリフィスの寸法に
5 ついてはダクトを覆うキャップを変えることによって調整した。
これらのデータについて,被告製品のモータが安定状態に到達した後
に記録した。異なる入力電圧及びオリフィス寸法のそれぞれにつき相電
圧,相電流及びホール信号を0.5秒の期間全体にわたって0.4μ秒
ごとに記録した。これは,各信号につき,125万個のデータポイント
10 に対応する。
相電圧及びホール信号に関するデータからHALL(Hall期間で
あり,ホール信号のパルスの長さに対応する。,ADV(先進期間であ

り,モータの相巻線の励起の開始とHallパルスの立上りエッジとの
時間差に対応する。,COND(導通期間であり,相巻線が励起される

15 間の時間に対応する。,FW(フリーホイール期間であり,相巻線がフ

リーホイールされる間の時間に対応する。,X1(ホール信号のパルス

の立上りエッジと相巻線の励起の終了との間の時間差に対応する。)の
各パラメータを抽出し,それらについて0.5秒の期間にわたって平均
した。また,これらのパラメータを基に,モータの速度,先進角及びフ
20 リーホイール角を算出した。
③ 実験方法2
前記①のシステムを用いて,被告製品のモータに電力を供給し,強力
吸引モードにセットした。速度を80krpm及び85krpmに一定
にした上で,異なる入力電圧において入力電流,入力電力,相電圧,相
25 電流及びホール信号を記録した。
入力電圧については直流電源を用いて調整した。被告製品のモータの
速度については,寸法を変化させることができるオリフィスを有するキ
ャップでダクトを覆うことによって制御した。入力電圧への各調整の後,
オリフィスの寸法をモータの速度が80krpm及び85krpmの
いずれかで維持されるように調整した。
5 異なる入力電圧及び速度のそれぞれにつき相電圧,相電流及びホール
信号を0.5秒の期間全体にわたって0.4μ秒ごとに記録した。これ
は,各信号につき,125万個のデータポイントに対応する。そのうえ
で,相電圧及びホール信号に関するデータからHALL,ADV,CO
ND,FW,X1の各パラメータを抽出し,それらについて0.5秒の
10 期間にわたって平均した。そして,これらのパラメータを基に,モータ
の速度,先進角及びフリーホイール角を算出した。
④ 実験方法3
前記①のシステムを用いて,被告製品のモータに電力を供給し,強力
吸引モードにセットした。直流電源を,一定の入力電圧18.4Vを供
15 給するように制御した。異なる速度において,入力電流,入力電圧,入
力電力,相電圧,相電流及びホール信号を記録した。
モータの速度については,寸法を変化させることができるオリフィス
を有するキャップでダクトを覆うことによって制御した。
異なる速度につき,相電圧,相電流及びホール信号を0.5秒の期間
20 全体にわたって0.4μ秒ごとに記録した。これは,各信号につき,1
25万個のデータポイントに対応する。そのうえで,相電圧及びホール
信号に関するデータからHALL,ADV,COND,FW,X1の各
パラメータを抽出し,それらについて0.5秒の期間にわたって平均し
た。そして,これらのパラメータを基に,モータの速度,先進角及びフ
25 リーホイール角を算出した。
⑤ 実験方法1ないし3の結果
被告製品のモータの先進期間は入力電圧の変化に応じて変化する。具
体的には,先進期間は,入力電圧の低下に応じて増大する。
被告製品のモータのフリーホイール期間は入力電圧の変化に応じて
変化する。具体的には,モータの速度が80krpmの場合には入力電
5 圧が約17V以上の範囲において,モータの速度が85krpmの場合
には入力電圧が約18V以上の範囲において,入力電圧の低下に応じて
フリーホイール期間が減少する。
被告製品のモータの速度は,入力電圧が19.0Vであるとき,約8
2.0krpm(19mmオリフィス)から約87.9krpm(10
10 mmオリフィス)まで変化し,入力電圧が15.0Vであるとき,約7
5.4krpm(19mmオリフィス)から約83.0krpm(10
mmオリフィス)まで変化する。
被告製品のモータの先進角は,入力電圧の低下に応答して増大する。
モータの速度が80krpmの場合には入力電圧が約17V以上の
15 範囲において,モータの速度が85krpmの場合には入力電圧が約1
8V以上の範囲において,被告製品のモータのフリーホイール角は,入
力電圧の低下に応答して減少する。
被告製品のモータのフリーホイール角は,モータの速度の変化に応答
して変化する。具体的には,フリーホイール角は,モータの速度の増大
20 に応答して減少する。
甲8号証記載の実験(以下「原告甲8実験」という。)
① 実験に用いたシステム
被告製品のモータのプリント回路基板の正電圧ケーブルを,被告製品
のバッテリから切り離し,その代わりに直流電源に接続した。被告製品
25 のモータにつながっているダクトはエアワットボックスの側面に連結
されており,オリフィスを有するキャップはエアワットボックスの他の
側面に取り付けられていた。電力計により,被告製品のモータの入力電
圧,入力電流及び入力電力を測定した。3つのプローブを有するオシロ
スコープにより,被告製品のモータの相電圧,相電流及びホール信号を
測定した。
5 ② 実験方法
被告製品のモータに電力を供給し,強力吸引モードにセットした。異
なる入力電圧及び固定したオリフィス寸法9mm,10mm,11mm
及び12mmにおける入力電流,入力電力,相電圧,相電流及びホール
信号を記録した。入力電圧については直流電源を用いて調整した。オリ
10 フィスの寸法についてはダクトを覆うキャップを変えることによって
調整した。
これらのデータについて,被告製品のモータが安定状態に到達した後
に記録した。異なる入力電圧及びオリフィス寸法のそれぞれにつき相電
圧,相電流及びホール信号を0.5秒の期間全体にわたって0.4μ秒
15 ごとに記録した。これは,各信号につき,125万個のデータポイント
に対応する。そのうえで,相電圧及びホール信号に関するデータからH
ALL,ADV,COND,FW,X1の各パラメータを抽出し,それ
らについて0.5秒の期間にわたって平均した。そして,これらのパラ
メータを基に,モータの速度,先進角及びフリーホイール角を算出した。
20 ③ 実験結果
オリフィス寸法が固定されているとき,被告製品のモータの先進期間
は入力電圧の変化に応じて変化する。具体的には,先進期間は,入力電
圧の低下に応じて増大する。
オリフィス寸法が固定されているとき,被告製品のモータの先進角は
25 入力電圧の変化に応じて変化する。具体的には,先進角は,入力電圧の
低下に応じて増大する。
オリフィス寸法が固定されているとき,入力電圧が約17V以上の範
囲において,被告製品のモータのフリーホイール期間は入力電圧の変化
に応じて変化する。具体的には,フリーホイール期間は,入力電圧の低
下に応じて減少する。
5 オリフィス寸法が固定されているとき,入力電圧が約17V以上の範
囲において,被告製品のモータのフリーホイール角は入力電圧の変化に
応じて変化する。具体的には,フリーホイール角は,入力電圧の低下に
応じて減少する。
イ 被告が実施した実験(乙1,19)
10 乙1号証記載の実験(以下「被告乙1実験」という。)
① 実験に用いたシステム
被告製品のモータのプリント回路基板の正電圧ケーブルを,被告製品
のバッテリから切り離し,その代わりに直流電源に接続した。被告製品
のモータの入口間近に11mmのオリフィスを取り付け,ダクトを介し
15 て均圧容器に接続し,更に均圧容器の入口を乱流防止箱に接続した。電
力計によりモータの入力電圧を測定し,オシロスコープにより,モータ
の相電圧,相電流及びホール信号等の波形を測定し,また,ホール信号
から回転数計でモータの回転数を測定した。
② 実験方法
20 入力電圧とフリーホイール角及びフリーホイール期間の関係を確認
するため,入力電圧を0.2V刻みで異ならせ,モータの相電圧,相電
流及びホール信号のデータを収集し,各データからホール期間,フリー
ホイール期間を抽出し,フリーホイール角を算出した。オリフィス径は
11mmで固定した。
25 フリーホイール期間の抽出及びフリーホイール角の算出に当たって
は,各入力電圧で20点のフリーホイール期間の抽出及びフリーホイー
ル角の算出を行って,その平均値を用いた。
③ 実験結果
被告製品のモータのフリーホイール期間及びフリーホイール角は,入
力電圧に対して所定の幅で値がランダムに振れ,全体を通して入力電圧
5 に対する一定の変化傾向を示さない。また,被告製品のモータは入力電
圧が低下すると回転速度が低下する傾向があり,フリーホイール角は入
力電圧に対してランダムに変動するため,モータの回転速度の変化とフ
リーホイール角の変動との間には関係性がない。
乙19号証記載の実験(以下「被告乙19実験」という。)
10 ① 実験に用いたシステム
被告製品のモータのプリント回路基板の正電圧ケーブルを,被告製品
のバッテリから切り離し,その代わりに直流電源に接続した。被告製品
のモータの入口にラッパ管を取り付け,このラッパ管と均圧容器の出口
の間(均圧容器のラッパ管取り付け口)に,入力電圧18.5Vにおい
15 てモータの回転数が85krpmになるように10.4mmのオリフィ
スを取り付けた。その上で,均圧容器の入口を乱流防止箱に接続した。
電力計によりモータの入力電圧を測定し,オシロスコープによりモー
タの相電流及びホール信号の波形を測定し,ホール信号からモータの回
転数を測定した。
20 また,被告モータの制御において●(省略)●が行われていることを
示す信号を外部で測定できるようにするため,それらの制御の有無に対
応して所定の制御ピンに出力するようモータ制御ソフトに命令文を追
加した。
② 実験方法
25 入力電圧については,15.0Vから17.0Vの範囲では0.2V
刻みで異ならせ,17.0Vから18.7Vの範囲では0.1V刻みで
異ならせて測定した。
③ 実験結果
前記 ウ記載のとおりであり,被告製品のモータは,定常動作時にお
ける同一の入力電圧下において,モータの回転ごとに,モータの通電時
5 間の制御が●(省略)●によるものになったり,●(省略)●によるも
のになったり,●(省略)●によるものになったりした。
原告及び被告の実験結果におけるフリーホイール期間(甲7,乙19,弁論
の全趣旨)
ア 原告甲7実験
10 一つの特定の入力電圧及びオリフィス径における,1回の半サイクル期間
ごとのフリーホイール期間は,約20μ秒ないし約45μ秒の範囲で変動し
ていた。
イ 被告乙19実験
入力電圧18.5V,オリフィス径10.4mmにおける1回の半サイク
15 ル期間ごとのフリーホイール期間は,●(省略)●の場合には約40μ秒な
いし約55μ秒の範囲で,●(省略)●の場合には約35μ秒ないし約51
μ秒の範囲で,それぞれ変動していた。
3 構成要件1C及び1Dの充足性(争点1-2)について
構成要件1Cは,「前記励起電圧の変化に応答して前記先進角及び前記フリ
20 ーホイール角を変更する段階と,を含み,」というものであり,1Dは,
「前記
励起電圧の低下に応答して,前記先進角が増加し,前記フリーホイール角が減
少する」というものである。そして,本件明細書1の段落【0066】や【0
067】の記載(前記2 に照らせば,フリーホイール角は,モー
タの制御回路によって決定されたフリーホイール期間の間にモータが回る角
25 度を示すものと解されるから,構成要件1C及び1Dにおける励起電圧とフリ
ーホイール角についての関係性は,励起電圧とフリーホイール期間のそれと基
本的に同一であるといえる。
前記2 アのとおり,モータの制御に関する入力電圧と先進時間及びフリー
ホイール時間の関係について,本件明細書1の段落【0061】には,
「励起電
圧の低下に応答して,より多くの電流が,半サイクルにわたって巻線19内に
5 駆動され,従って,一定の出力電力が維持される」との記載があり,これは半
サイクル期間における電圧の低下や巻線内への駆動を前提とするものである
ことや,本件明細書1の段落【0060】には,
「励起電圧(すなわち,電源2
のリンク電圧)及びモータ8の速度の変化に応答して,先進角A_ADV及び
フリーホイール角A_FREEの両方を変更する」との記載があり,前記の「先
10 進角A_ADV」及び「フリーホイール角A_FREE」は本件明細書1の段
落【0054】【0055】及び【0057】などの記載に照らして半サイク

ル期間における先進角及びフリーホイール角を意味すると解されることなど
の本件明細書1の記載を参酌すれば,構成要件1C及び1Dは,1回の半サイ
クル期間における励起電圧の変化及び低下やフリーホイール角の変更を定め
15 たものであると解するのが相当である。
また,構成要件1Cの「前記励起電圧」「前記先進角」及び「前記フリーホ

イール角」,構成要件1Dの「前記励起電圧」「前記先進角」及び「前記フリー

ホイール角」という文言から明らかなように,構成要件1C及び1Dは構成要
件1Bの表現を引用しているところ,構成要件1Bは「先進角だけ巻線の逆起
20 電力のゼロ交差よりも前に励起電圧によって励起され,かつ整流前のフリーホ
イール角にわたってフリーホイールされる電気機械の巻線を順次励起してフ
リーホイールさせる段階と」というものである。そして,前記2 アのとおり,
本件明細書1の段落【0060】には,
「駆動コントローラ16は,順次巻線1
9を励起してフリーホイールさせる。各電気半サイクルは,従って,単一駆動
25 期間とその後の単一フリーホイール期間とを継続して含む。更に,巻線19は,
位置センサ信号のエッジよりも前に,従って,逆起電力のゼロ交差よりも前に
励起される」と記載されていることに照らせば,構成要件1Bは半サイクル期
間についての制御を特定するものであると解される。そして,構成要件1C及
び1Dが構成要件1Bの表現を引用していることからしても,構成要件1C及
び1Dは,半サイクル期間における制御を特定しているものと解するのが相当
5 である。
この点について,原告は,本件明細書1において,構成要件1Dを1回の半
サイクル期間における制御内容についてのものであるという限定をする趣旨
の記載は存在しないと主張し,フリーホイール期間の傾向を知るために平均値
を用いることが有効な方法であることなどを主張する。技術常識に照らし,モ
10 ータの実際の挙動が,制御対象の構造上のアンバランスのような内的要因や作
動環境のような外的要因によってばらつくこと自体はあり得ると認められ,こ
の観点から,モータの動作として,特定のサイクルの挙動のみを取り出すので
はなく,複数のサイクルにおける平均値を採用することが相当である場合があ
り得るとはいえる。もっとも,構成要件1C及び1Dは,上記のとおり,半サ
15 イクル期間における制御内容を特定していると解されるのであって,対象とな
る製品の制御内容を複数のサイクルにおける平均値を用いて特定する場合に
おいては,当該平均値をもって前記のとおり特定された構成要件を充足すると
いえるような関係がある必要があるといえる。
構成要件1Cは,「励起電圧の変化に応答して,フリーホイール角を変更す
20 る」というものであり,1Dは「励起電圧の低下に応答して,フリーホイール
角が減少する」というものである。
前記の「応答」という文言の国語的な意味が「入力・刺激などに対する出力・
反応」であるとされていること(甲28)などに照らせば,構成要件1C及び
1Dは,励起電圧の変化に応じて,フリーホイール角が変更される関係である
25 ことを意味するといえる。そして,励起電圧の変化に応じて,上記の変更がさ
れる関係であれば,その制御において,励起電圧そのものを測定し,それに従
って制御をしておらず,例えば, (省略)
● ●等を測定して制御を行った結果,
励起電圧の変化に応じてフリーホイール角が変更される関係があれば,「励起
電圧の変化に応答して,フリーホイール角を変更する」「励起電圧の低下に応

答して,フリーホイール角が減少する」といえると解される。
5 もっとも,励起電圧の変化に応じてフリーホイール角が変化するといえるた
めには,モータの実際の挙動について,制御対象の構造上のアンバランスのよ
うな内的要因や作動環境のような外的要因によってばらつくことがあるとい
う技術常識の範囲内での誤差は許容され得るとしても,励起電圧の変化に伴い,
フリーホイール角が変化するという規則的ないし原則的な関係が必要である
10 と解され,前記 に照らし,励起電圧の変化に応じて半サイクル期間における
フリーサイクル角が変化するという規則的ないし原則的な関係が必要である
と解される。
これに対し,被告は,被告製品のモータは,●(省略)●を行っており,モ
ータ通電時間を制御の対象とし,また,●(省略)●を行うものであるから,
15 フリーホイール期間をどのような状態にするかということにつき何ら制御を
するものではないし,被告製品におけるモータの制御方法に入力電圧に応じた
規則性は存在しないと主張する。このうち,原告は,●(省略)●がされてい
る場合について,被告製品のモータの制御方法が,構成要件1C及び1Dを充
足するとの主張はしていない。また,●(省略)●については,測定や制御の
20 対象となるのは電圧やフリーホイール角ではなく,●(省略)●やモータ通電
時間であるが,そのことのみをもって上記構成要件を充足しないとは解されず,
被告製品のモータの制御方法が上記構成要件を充足するかは,●(省略)●に
おいて,励起電圧の変化に伴って,上記のような関係があるか否かによって定
まるといえる。
25 ア 前記解釈を前提に,被告製品におけるモータの制御方法が構成要件1C及
び1Dを充足するか否かを検討する。
原告は,被告製品におけるモータの制御方法は,入力電圧が17V以上の
範囲において入力電圧の変化に応答して先進角及びフリーホイール角を変
更する段階を有し,入力電圧の低下に応答して,先進角が増加し,フリーホ
イール角が減少するから,構成要件1C及び1Dを充足すると主張し,原告
5 甲7実験及び原告甲8実験の実験結果(前記 をその根拠とする。
原告甲7実験及び原告甲8実験の実験結果は,相電圧及びホール信号に関
するデータからHALL,ADV,COND,FW,X1の各パラメータを
抽出し,それらについて,0.5秒の期間にわたって,0.4μ秒ごとに記
録したデータを平均したものである。そして,そのような測定方法において
10 は,入力電圧が約17Vないし18V以上の範囲において,入力電圧が低下
した場合にフリーホイール期間(角)が減少する関係にあるという結果とな
っている。
イ しかし,前記 被告製品におけるモータの制御方法では,一
定の入力電圧及びオリフィス径を前提とした場合においても,1回の半サイ
15 クル期間ごとのフリーホイール期間は,原告甲7実験では約20μ秒ないし
約45μ秒の範囲で変動し,被告乙19実験では約35μ秒ないし約55μ
秒の範囲で変動していた。被告乙1実験でも前記と同様に1回の半サイクル
期間ごとのフリーホイール期間には小さくない変動があることがうかがわ
れる(乙1・図3)。
20 そうすると,被告製品のモータでは,同一の入力電圧下においても,フリ
ーホイール期間は,相当に変動し,1回の半サイクル期間ごとのフリーホイ
ール期間の長さと比較して,その変動の割合は相当に大きいものといえる。
そして,その変動の大きさからすると,入力電圧が減少した場合,当該1回
の半サイクル期間におけるフリーホイール期間(角)は,入力電圧が減少す
25 る直前のそれと比較して減少する可能性も,逆に増加することも想定される
といえる。このような1回の半サイクル期間ごとのフリーホイール期間の変
動の幅の大きさからすると,被告製品におけるモータの制御方法において,
励起電圧の変化に伴いフリーホイール角が変化するという規則的ないし原
則的な関係があると認めるに足りず,前記の平均値に関する実験結果をもっ
て,入力電圧が低下した場合に基本的ないし原則的に1回の半サイクル期間
5 のフリーホイール期間(角)が減少する関係があると認めるには足りない。
したがって,原告甲7実験及び原告甲8実験の実験結果は,被告製品にお
けるモータの制御方法が構成要件1C及び1Dを充足すると認めるには足
りない。その他,本件記録を精査しても,構成要件1C及び1Dの充足性を
認めるに足りる証拠は見当たらない。
10 ウ これに対し,原告は,①長い期間(0.5秒)のフリーホイール期間(角)
の平均値は当該期間の入力電圧に対応するフリーホイール期間(角)をほぼ
正しく代表していること,②ばらつきのあるデータを扱う場合には従来から
データの平均値が用いられており,本件においてもフリーホイール期間(角)
の傾向を知るために平均値を用いることは有効な方法であることなどを主
15 張する。
前記 のとおり,技術常識に照らしてモータの挙動においてばらつきが生
ずること自体はあり得ることに照らせば,フリーホイール期間(角)の傾向
を知るために平均値を用いること自体が否定されるものではない。また,前
記 のとおり,励起電圧そのものを測定の対象としなくとも,構成要件1C
20 及び1Dを充足する場合はあると考えられるが,それは,励起電圧の変化に
伴い,フリーホイール角が変化するという規則的ないし原則的な関係が認め
られる場合であると解される。しかし,被告製品におけるモータの制御方法
においては, フリー
ホイール期間(角)には相当程度大きな変動がある。そして,当該平均値の
25 中には●(省略)●という性質の異なる制御方法による数値が混在している
ことなどの事情があるほかに,被告製品は,励起電圧そのものではなく,●
(省略)●を測定の対象として,通電時間の制御をしているのであり,その
ような制御方法も一因となって,励起電圧との関係で,同一の制御方法下で
も,上記のようなフリーホイール期間(角)に相当に大きなばらつきが生じ
ているといえる。このような事情を考えれば,構成要件1C及び1Dとの関
5 係において,原告甲7実験及び原告甲8実験で示された平均値が1回の半サ
イクル期間におけるフリーホイール期間(角)をほぼ正しく代表していると
は認められず,本件においてフリーホイール期間(角)の傾向を知るために,
原告甲7実験,原告甲8実験における平均値を用いることが有効な方法であ
るとも認められないから,原告の前記主張は採用できない。その他の原告の
10 主張,立証によっても前記認定を覆すには足りない。
以上の検討によれば,被告製品におけるモータの制御方法は,構成要件1C
及び1Dを充足しないから,他の構成要件の充足性を判断するまでもなく,本
件特許発明1-1の技術的範囲に属さない。
4 本件特許発明1-6,1-8,1-9,1-10,1-11及び1-12につ
15 いて
本件特許発明1-6は本件特許権1の請求項1ないし5を前提としている
ところ(構成要件1G),被告製品におけるモータの制御方法は前記のとおり
本件特許権1の請求項1(本件特許発明1-1)の技術的範囲に属さず,原告
から本件特許権1の請求項2ないし5の技術的範囲に属することについての
20 主張はされていないから,被告製品におけるモータの制御方法は,本件特許発
明1-6の技術的範囲に属さない。
本件特許発明1-8は本件特許権1の請求項6又は7を前提としていると
ころ(構成要件1I),被告製品におけるモータの制御方法は前記のとおり本
件特許権1の請求項6(本件特許発明1-6)の技術的範囲に属さず,原告か
25 ら本件特許権1の請求項7の技術的範囲に属することについての主張はされ
ていないから,被告製品におけるモータの制御方法は,本件特許発明1-8の
技術的範囲に属さない。
本件特許発明1-9は本件特許権1の請求項1ないし8を前提としている
ところ(構成要件1M),被告製品におけるモータの制御方法は前記のとおり
本件特許権1の請求項1,6及び8(本件特許発明1-1,1-6及び1-8)
5 の技術的範囲に属さず,原告から本件特許権1の請求項2ないし5及び請求項
7の技術的範囲に属することについての主張はされていないから,被告製品に
おけるモータの制御方法は,本件特許発明1-9の技術的範囲に属さない。
本件特許発明1-10は本件特許権1の請求項1ないし9を前提としてい
るところ(構成要件1O),被告製品におけるモータの制御方法は前記のとお
10 り本件特許権1の請求項1,6,8及び9(本件特許発明1-1,1-6,1
-8及び1-9)の技術的範囲に属さず,原告から本件特許権1の請求項2な
いし5及び請求項7の技術的範囲に属することについての主張はされていな
いから,被告製品は,本件特許発明1-10の技術的範囲に属さない。
本件特許発明1-11,1-12は本件特許権1の請求項10を前提として
15 いるところ(構成要件1P),被告製品は前記のとおり本件特許権1の請求項
10(本件特許発明1-10)の技術的範囲に属さないから,被告製品は本件
特許発明1-11,1-12の技術的範囲に属さない。
5 構成要件2Cの充足性(争点2-2)について
構成要件2Cは,「前記電気機械が,60krpmよりも大きい最小値及び
20 80krpmよりも大きい最大値を有する作動速度範囲にわたって,且つ,最
大電圧と前記最大電圧の80%未満である最小電圧の間に定められた励起電
圧範囲にわたって駆動されるように,前記制御システムは,前記励起電圧に応
答して,前記巻線が励起されるタイミング及び前記巻線がフリーホイールされ
る期間を変更する」というものである。
25 前記2 イのとおり,本件明細書2の段落【0008】には「制御システム
は,更に,電気システムの出力電力が,巻線を励起するのに用いる電圧の範囲
にわたって実質的に一定であるように,巻線が励起される時間及び巻線がフリ
ーホイールされる時間を変更することができる。,段落【0009】には「励

起電圧の範囲は,最小電圧と最大電圧の間で延びることができ,最小電圧は,
最大電圧レベルの80%未満である。こうして,これは,一定の出力電力及び
5 /又は良好な効率を達成することができる電圧の比較的広い範囲を表してい
る。,段落【0098】には「励起電圧及び速度の両方の変化に応答して先進

角及びフリーホイール角を制御することにより,制御システム9は,励起電圧
及びモータ速度の範囲にわたって一定の出力電力でモータ8を駆動すること
ができる。,段落【0099】には「一定の出力電力及び/又は高効率が達成

10 される励起電圧の範囲は,比較的広い。6セルバッテリパックに対して,励起
電圧範囲は,16.8-23.0Vであるが,4セルバッテリパックに対して
は,励起電圧範囲は,11.2-14.8である。両電圧範囲に対して,最小
電圧は,最大電圧の80%未満である。これは,一定の出力電力及び/又は高
効率が達成される比較的大きな範囲を表している。」との各記載がある。これ
15 らの記載を参酌すれば,構成要件2Cは,最大電圧と最小電圧を起点とする励
起電圧範囲の全ての範囲において,励起電圧に応答して励起のタイミングやフ
リーホイール期間を変更するという制御を行うことを定めていると解するの
が相当である。
これに対し,原告は,構成要件2Cは,最大電圧と最小電圧の範囲内で任意
20 に定められる励起電圧範囲において,励起電圧に応答して励起のタイミングや
フリーホイール期間を変更するという制御を行うことを定めたものであるな
どと主張するが,前記説示に照らして前記原告の主張は採用することができな
い。
前記解釈を前提に,被告製品が構成要件2Cを充足するか否かを検討する。
25 前記
ら17.1Vの入力電圧の範囲において●(省略)●のみが行われるところ,
●(省略)●から,前記の電圧範囲ではフリーホイール期間にも変更は生じな
い。また,原告甲7実験の結果(甲7・図7,図11)や原告甲8実験の結果
(甲8・図5)によっても,入力電圧が約17Vないし18V以下の範囲では
フリーホイール期間は変化していない。これらの実験結果に照らせば,被告製
5 品において,少なくとも入力電圧が17V以下の範囲で,入力電圧の変化に応
答してフリーホイール期間が変更される可能性は証拠上示されていないとい
える。
したがって,被告製品は,前記2 のとおり認定した最大電圧(約18.8
V)と,その最大電圧の80%(約15.0V)未満の数値で設定される最小
10 電圧の全範囲において,励起電圧の変化に応答してフリーホイール期間を変更
するものとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,構成要件2C
を充足しない。
以上の検討によれば,被告製品は,構成要件2Cを充足しないから,他の構
成要件の充足性を判断するまでもなく,本件特許発明2-1の技術的範囲に属
15 さない。
6 本件特許発明2-4,2-5,2-6,2-7について
本件特許発明2-4は,本件特許権2の請求項1ないし3を前提としている
ところ(構成要件2G) 被告製品におけるモータの制御方法
, (電気システム)
は前記のとおり本件特許権2の請求項1(本件特許発明2-1)の技術的範囲
20 に属さず,原告から本件特許権2の請求項2及び3の技術的範囲に属すること
についての主張はされていないから,被告製品は,本件特許発明2-4の技術
的範囲に属さない。
本件特許発明2-5は本件特許権2の請求項1ないし4を前提としている
ところ(構成要件2J),被告製品は前記のとおり本件特許権2の請求項1及
25 び4(本件特許発明2-1及び2-4)の技術的範囲に属さず,原告から本件
特許権2の請求項2及び3の技術的範囲に属することについての主張はされ
ていないから,被告製品は,本件特許発明2-5の技術的範囲に属さない。
本件特許発明2-6は本件特許権2の請求項1ないし5を前提としている
ところ(構成要件2L) 被告製品は前記のとおり本件特許権2の請求項1,
, 4
及び5(本件特許発明2-1,2-4及び2-5)の技術的範囲に属さず,原
5 告から本件特許権2の請求項2及び3の技術的範囲に属することについての
主張はされていないから,被告製品は,本件特許発明2-6の技術的範囲に属
さない。
本件特許発明2-7は本件特許権2の請求項1ないし6を前提としている
ところ(構成要件2N),被告製品は前記のとおり本件特許権2の請求項1,
10 4,5及び6(本件特許発明2-1,2-4,2-5及び2-6)の技術的範
囲に属さず,原告から本件特許権2の請求項2及び3の技術的範囲に属するこ
とについての主張はされていないから,被告製品は本件特許発明2-7の技術
的範囲に属さない。
7 小括
15 以上によれば,被告製品及び被告製品におけるモータの制御方法について,い
ずれも本件特許発明1及び2の技術的範囲に属すると認めることはできない。
第4 結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから
棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
25 裁判官 佐 藤 雅 浩
裁判官安岡美香子は差し支えのため署名押印できない。
裁判長裁判官 柴 田 義 明
(別紙)
物件目録
5 製品番号「VC-CL100」に係る真空掃除機

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