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平成30(ネ)10065特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成31年3月4日
事件種別 民事
法令 特許権
キーワード ライセンス123回
特許権67回
侵害36回
実施29回
損害賠償23回
無効1回
差止1回
主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの当審における訴えの変更を許さない。
3 控訴費用は控訴人らの負担とする。
4 控訴人アップル インコーポレイテッドのために,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 控訴人らの請求 本件は,控訴人らが,被控訴人らに対し,控訴人らによる本件口頭弁論終結日ま での下記の行為が本件特許権の侵害に当たらないなどと主張し,①被控訴人クアル コムについては,本件特許権の侵害に基づき,②被控訴人QTI,同QCTAP及 び同クアルコムジャパン合同会社(以下,これら子会社3社を併せて「被控訴人ク アルコム子会社」という。)については,実施料債権が侵害されたことを理由とし て,自ら又は被控訴人クアルコムに代位して,被控訴人らが損害賠償請求権及び実 施料請求権を有しないことの確認を求めて,下記の請求をした事案である。

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判決文

平成31年3月4日判決言渡
平成30年(ネ)第10065号 特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請
求控訴事件
原審 東京地方裁判所平成29年(ワ)第5273号
口頭弁論終結の日 平成31年1月23日
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らの当審における訴えの変更を許さない。
3 控訴費用は控訴人らの負担とする。
4 控訴人アップル インコーポレイテッドのために,この判決に
対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
第2 事案の概要等(特に断らない限り,略称は原判決に従う。)
1 控訴人らの請求
本件は,控訴人らが,被控訴人らに対し,控訴人らによる本件口頭弁論終結日ま
での下記の行為が本件特許権の侵害に当たらないなどと主張し,①被控訴人クアル
コムについては,本件特許権の侵害に基づき,②被控訴人QTI,同QCTAP及
び同クアルコムジャパン合同会社(以下,これら子会社3社を併せて「被控訴人ク
アルコム子会社」という。)については,実施料債権が侵害されたことを理由とし
て,自ら又は被控訴人クアルコムに代位して,被控訴人らが損害賠償請求権及び実
施料請求権を有しないことの確認を求めて,下記の請求をした事案である。

被控訴人らは,控訴人らによる原判決別紙物件目録記載の各製品(以下「原告製
品1」という。)の生産,譲渡,貸渡し,輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出
(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)につき,特許第4913343号の
特許権に基づく損害賠償請求権及び実施料請求権を有しないことを確認する。
2 訴訟の経緯
原判決は,控訴人らの本件訴えはいずれも確認の利益を欠く不適法なものである
として,これらを却下した。
控訴人らは,いずれもこれを不服として控訴し,東京地方裁判所への差戻しを求
めた。
また,控訴人らは,当審において,平成30年11月15日付け訴えの変更申立
書により,別紙物件目録2記載の各製品(以下「原告製品2」という。)を対象製
品に追加することを求めた。
3 前提事実
前提事実は,原判決3頁7行目の末尾に改行の上,以下のとおり付加するほかは,
原判決「事実及び理由」の第2の1(原判決1頁25行目~3頁7行目)に記載の
とおりであるから,これを引用する。
「⑶ 本件特許権の特許請求の範囲請求項9及び26に係る各発明(以下,それ
ぞれ「本件発明1」,「本件発明2」という。)の構成要件の分説
ア 本件発明1
1-A 伝送サブシステムと,
1-B 前記伝送サブシステムに結合されていて前記伝送サブシステムのデータ
伝送速度を制御するように構成されているプロセッサと,伝送待ち行列と,を具備
し,
1-C 前記プロセッサは,現行のデータ伝送速度から限られた量だけ低下する
ように制約されている新たなデータ伝送速度を決定するように構成されており,
1-D 前記プロセッサは,複数の制限を行うデータ速度を決定することによっ
て及び前記制限を行うデータ速度のうちで最も遅いデータ速度を前記新たなデータ
伝送速度として選択することによって前記新たなデータ伝送速度を決定するように
構成されており,
1-E 前記制限を行うデータ速度は,前記伝送待ち行列内のデータ量に対応す
るデータに基づいて正当化されるデータ速度を少なくとも具備する,装置。
イ 本件発明2
2-A 伝送サブシステムと,
2-B 前記伝送サブシステムに結合されておりさらに前記無線通信システムが
ビジーでない状態のときに複数の制限を行うデータ速度から新たなデータ伝送速度
を選択することによって前記伝送サブシステムの前記新たなデータ伝送速度を決定
するように構成されているプロセッサと,を具備し,
2-C 前記制限を行うデータ速度は,現行データ伝送速度及びスティッキーレ
ートのうちのいずれか速い方の速度と等しい速度に設定されるランプアップに基づ
いて制限されるデータ速度を含む,装置。」
4 争点
本件における争点は,原判決「事実及び理由」の第2の2(原判決3頁8行目~
12行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3 当事者の主張
1 原判決の引用
当事者の主張は,原判決11頁13行目冒頭から21行目末尾までを以下のとお
り改めるとともに,後記2のとおり当審における主張を付加するほかは,原判決
「事実及び理由」の第2の3(原判決3頁13行目~12頁10行目)に記載のと
おりであるから,これを引用する。
「原告製品1及び2は3G/UMTS規格に準拠した製品であるところ,少なく
とも本件発明1の構成要件1-Cは,当該規格において必須とされていない。この
ため,本件特許は3G/UMTS規格における必須特許ではないから,原告製品1
及び2は,少なくとも構成要件1-Cを充足しない。
同様に,少なくとも本件発明2の構成要件2-Cは3G/UMTS規格において
必須とされていないことから,原告製品1及び2は,少なくとも構成要件2-Cを
充足しない。
したがって,原告製品1及び2は,本件発明1及び2の技術的範囲に属しないか
ら,控訴人らが原告製品1及び2を実施しても,本件発明1及び2の実施に当たら
ない。
以上より,控訴人らが原告製品1及び2を生産,譲渡等する行為は,本件特許権
を侵害しない。」
2 当審における主張
〔控訴人らの主張〕
原判決は,主として以下の4点において判断を誤ったものである。
⑴ CMライセンス契約について
ア 原判決は,本件特許権が,被控訴人クアルコムと控訴人アップルの製造受託
業者(CM)との間のライセンス契約(CMライセンス)の対象特許に含まれると
の,客観的証拠に基づかない誤った事実認定を行った。
イ 控訴人アップルは,被控訴人クアルコムと特許ライセンスを締結したことは
なく,原告製品1及び2は,これを製造するCMが受けているCMライセンスに依
拠していた。
しかるに,本件ライセンス交渉当時,突如,被控訴人クアルコムがCMライセン
スの対象特許について主張を変遷させ,CMライセンスの対象範囲は限定的である
と示した上,CMライセンスの対象及び内容を明らかにしなかった。また,被控訴
人クアルコムが,ドイツでの訴訟(事件番号第2O128/17号。以下「ドイツ
訴訟」という。)において,CMライセンスの有効期間の延長を含めた再交渉義務
があるにもかかわらず平成28年第4四半期以降そのような交渉がされていないこ
とを自認したことや,台湾の競争当局である公平交易委員会によってCMライセン
スの再交渉が命じられ,これを受けて再交渉が開始されたことにも見られるとおり,
現在,CMライセンスは再交渉を要する状況にある。これにより,本件特許権がC
Mライセンスの対象特許であることに疑義が生じ,本件特許権に基づく損害賠償請
求権等に関する紛争による現実の不安が顕在化した。
ウ 本件特許がCMライセンスの対象特許であるか否かは,被控訴人クアルコム
による本件特許権に基づく権利行使の現実的な危険があるか,という評価に関わる
とともに,被控訴人らによる損害賠償請求権等の不存在の自認は,CMライセンス
の対象に本件特許が含まれていることを前提とすることから,本件訴訟における重
要な争点である。それゆえ,この点に関する事実認定は,客観的な証拠に基づいて
行われるべきである。
しかし,本件において,CMライセンス契約が現時点においても有効に存続して
いることを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。
CMライセンスは,被控訴人クアルコムとCMとの間のライセンス契約であり,
その対象範囲を含め,控訴人らは全くうかがい知ることができない。他方,被控訴
人らは,自らが当事者であるCMライセンスの対象範囲につき,CMライセンスの
抜粋等を提出するなど,客観的に明らかな方法でこれを容易に主張立証することが
できる立場にあるにもかかわらず,一切行っていない。被控訴人らは,控訴人らが,
本件ライセンス交渉の当時から繰り返し開示を求め,本件訴訟でもこれを求めたに
もかかわらず,なおCMライセンスの開示を拒んでいる。このような拒絶の事実自
体,本件特許がCMライセンスの対象特許であることに強い疑義を生じさせる。
そうである以上,CMライセンスにおいて,本件特許がライセンス対象特許とな
っていることを認めることはできない。
⑵ 本件ライセンス交渉時における被控訴人クアルコムの主張に関する評価につ
いて
ア 原判決は,上記⑴の誤った事実認定を前提として,控訴人アップル及び被控
訴人クアルコムとの間の本件ライセンス交渉におけるやり取りを誤解し,「被控訴
人クアルコム担当者作成に係る…レターにおける原告製品が被控訴人クアルコムの
保有する多くの特許を侵害する旨の記載は,…これらの特許権をライセンス供与の
対象とすべきであるとの意見の表明にすぎない」と認定し,これに基づき,本件ラ
イセンス交渉の過程において,被控訴人クアルコムが,控訴人アップルに対し,特
許権侵害に基づく損害賠償請求権を有し,又はこれを行使する意思を有しているこ
とを表明したと認めるに足りる証拠はないとの誤った判示を行った。
イ 本件ライセンス交渉における被控訴人クアルコムのレター中の「控訴人アッ
プルの製品が被控訴人クアルコムの保有する多くの特許を侵害する」旨の記載は,
両当事者間に本件特許を対象特許に含むライセンスが存在しないことから,被控訴
人クアルコムによる控訴人アップルの製品(原告製品1及び2を含む。)について
の侵害主張にほかならない。被控訴人クアルコムが控訴人アップルの製品による侵
害を認識していた以上,被控訴人クアルコムは,控訴人らに対し,いつ本件特許権
に基づく権利を行使してもおかしくない状況にあった。
以上のとおり,被控訴人クアルコムの認識を前提とすれば,上記記載につき「ラ
イセンス供与の対象とすべきであるとの意見の表明」ということはできない。
ウ 被控訴人クアルコムの前記レター中の「ライセンスなしでは(absent a
license)」という記載は,「CMライセンスなしでは」という意味ではない。C
Mライセンスからの切替えを前提として当該記載を解釈したとしても,前記のとお
り,CMライセンスの有効な存続及びその対象特許は,客観的証拠によって認定で
きない。そうである以上,CMライセンスの存在により,対象特許につき被控訴人
クアルコムは控訴人アップルに権利行使できないという評価は成り立たない。
⑶ 被控訴人クアルコムによる米国訴訟における訴訟追行と本件訴訟における被
控訴人らの表明について
ア 原判決は,被控訴人クアルコムの米国訴訟(Case No.17-cv-
0108 GPC MDD。以下「米国訴訟」という。)における行動は,被控訴
人クアルコムの本件訴訟での表明と矛盾する行動であるにもかかわらず,その評価
を誤り,「被控訴人クアルコムは,本件特許に対応する米国特許侵害に基づく損害
賠償請求権を有することの確認を求めているものではない」ことから,米国訴訟に
おける行動をもって,権利行使の現実的な危険があるということはできないと判断
した。
イ 被控訴人クアルコムは,米国訴訟において,実質的に,原告製品1及び2に
対する本件特許権も含めた侵害の主張を行っている。すなわち,被控訴人クアルコ
ムは,米国訴訟において,控訴人アップルに提示したライセンス案がFRAND条
件を満たしていたことの確認や,仮にこれに適合していないとする場合のFRAN
D条件によるロイヤルティの確認の申立てを行っていた。この申立ては,控訴人ア
ップルによる当該申立対象特許全ての侵害を主張し,かつ,「米国特許侵害に基づ
く損害賠償請求権を有することの確認を求めていること」にほかならない。このこ
とは,被控訴人クアルコムが,米国訴訟において,控訴人アップルが本件特許の米
国対応特許を侵害している旨述べられている専門家意見書を提出したことにより,
更に明らかとなった。
ウ なお,被控訴人クアルコムは,米国訴訟において,上記FRAND条件での
ロイヤルティの確認を求める申立てを取り下げた。しかし,被控訴人クアルコムは,
米国訴訟において,いまだに控訴人アップルが真摯にライセンスを受ける意思を有
しない者であるとの確認判決を求める申立てを維持するとともに,その主張書面に
おいて,繰り返し,控訴人アップルが「クアルコムのFRAND宣言による利益を
享受する地位をもはや有しない」と主張している。このような被控訴人クアルコム
の米国訴訟における主張は,同被控訴人が,本件特許を含む自社の必須宣言特許に
基づき,控訴人アップルに対して,差止請求又はFRAND料率を超える料率での
ライセンス料相当額の損害賠償請求を行う意思を有していることを示す事情にほか
ならない。
また,このように,被控訴人クアルコムは,自らが戦略上有利な立場に立とうと
いう意図のみをもって,いつ,いかなる主張を行うか(又は行わないか)を絶えず
変遷させている。被控訴人クアルコムの米国訴訟における上記主張の変遷は,日本
においても容易に主張を変更するであろうことを強く示す事実であり,確認判決の
必要性を裏付ける。
⑷ 被控訴人クアルコム子会社に係る確認の利益について
ア 原判決は,被控訴人クアルコム子会社についても,何ら具体的な検討を行わ
ないまま,確認の利益が存しないとの誤った判断を行った。
イ 被控訴人クアルコム子会社は,控訴人らが主張した被控訴人クアルコム子会
社の具体的な役割について認否すら行っていない。そうである以上,被控訴人クア
ルコム子会社によって控訴人らの法律上の地位にいかなる危険又は不安が生じるか
については十分な検討を行うことができないのであり,このような段階で,被控訴
人クアルコム子会社との関係で確認の利益が存しないということはできない。
〔被控訴人らの主張〕
⑴ CMライセンス契約について
ア 控訴人らは,被控訴人クアルコムの主張が変遷した旨主張する。
しかし,それらがそれぞれどのような表明であったかを裏付ける客観的な証拠は
示されておらず,控訴人らの主観を述べるにとどまるものというほかない。
イ 控訴人らは,CMライセンスにつき再交渉を要する状況にある旨主張する。
しかし,被控訴人クアルコムが,ドイツ訴訟においてCMとのライセンス契約の
再交渉を行っていないことを認めた点については,現行のライセンス契約が引き続
き有効に存在し,再交渉を行う理由がないからであり,むしろCMとのライセンス
契約が有効に存続することを示すものである。また,被控訴人クアルコムが台湾の
公平交易委員会の決定に従ってCM等とのライセンス契約の再交渉を行っていると
する点については,現時点において,控訴人らのいう再交渉は開始されておらず,
ライセンス契約の条件が変更されたという事実もない。
ウ 控訴人らは,被控訴人らがCMライセンスの対象範囲につき主張立証し得る
立場であるにもかかわらず,これを行っていないと主張する。
しかし,訴えの利益が存在することの立証責任を負うのは控訴人らである。また,
本件においては,被控訴人らによる権利不行使の表明によって確認の利益を確定的
に欠いているのであるから,CMとのライセンス契約を開示する必要性はない。
エ 被控訴人らは,原告製品1の生産,譲渡等につき,本件特許権に基づく損害
賠償請求権及び実施料請求権を有するものではないし,被控訴人らとして,控訴人
らに対し当該請求権を行使する意思もない。
したがって,本件口頭弁論終結時において,現に控訴人らの有する権利又はその
法律上の地位に危険又は不安が生じてはおらず,本件訴えが確認の利益を欠くこと
は明らかである。なお,被控訴人クアルコムは,米国において,控訴人アップルに
対し,本件特許の米国対応特許に基づく訴訟を提起しないことを内容とする,全世
界的かつ撤回不可能な誓約を行っている。
オ 将来事情が変化して権利主張をされるおそれがあることは,確認の利益を肯
定する事情にはならない。確認判決は,口頭弁論終結時に,現に原告の権利又は法
律上の地位に危険又は不安が存在する場合に,当該時点を基準時とする確認判決に
よって,原告をその危険又は不安から解放する制度であり,将来事情が変化して権
利主張をされる危険から原告を解放するためのものではない。
⑵ 本件ライセンス交渉時における被控訴人クアルコムの主張に関する評価につ
いて
ア 控訴人アップルと被控訴人クアルコムの本件ライセンス交渉は,CMへの既
存のライセンスに依拠することに代えて,控訴人アップルに直接ライセンスを付与
することを目的とし,直接ライセンスが成立すれば,その直接ライセンスが被控訴
人クアルコムとCMとのライセンス契約のうち原告製品1に係る部分に実質的に置
き換わるとの共通の前提を有していた。本件ライセンス交渉における控訴人アップ
ルと被控訴人クアルコムとのやり取りは,この前提に立って理解される必要がある。
イ 被控訴人クアルコムは,控訴人アップルに対し,平成28年3月18日付け
で,被控訴人クアルコムがETSIに開示した特許の一覧表(本件特許の特許番号
を含む。)を送付し,同年12月頃,被控訴人クアルコムが保有する特許権の一部
が記載された「クレームチャート一覧サンプル」を提供している。また,被控訴人
クアルコムは,同年6月12日付けレターにおいて,控訴人アップルの製品は,も
しライセンスがなければ(absent a license)被控訴人クアルコムの多くの特許を
侵害することとなると考えていることに言及している。
これらの対応のうち,被控訴人クアルコムが特許の一覧表及びクレームチャート
一覧サンプルを提供したのは,控訴人アップルの要請に応じたものである。また,
同年6月12日付けレターは,被控訴人クアルコムが,通信機器が特定の通信規格
を利用していれば,当該通信機器は必然的に当該通信規格に必須とされる標準必須
特許を実施することになるとの一般的な(かつ当然の)認識を示すとともに,控訴
人アップルの要請に応えて特許の一覧表及びクレームチャート一覧サンプルを提供
した旨を説明するものにすぎない。加えて,当該レターの目的は,本件ライセンス
交渉において被控訴人クアルコムがこれまで取ってきた行動を説明し,交渉態度を
明確にすることにあり,特定の特許権の行使を行うことにあったのではない。
このように,以上のやり取りは,CMへのライセンスに依拠することに代えて,
被控訴人クアルコムと控訴人アップルとの間の直接ライセンスの成立を目指す交渉
の中で,そのライセンスの範囲の説明・検討のために行われたものである。その中
で,被控訴人クアルコムが特定の特許権である本件特許権に基づく損害賠償請求権
及び実施料請求権を行使し,又は行使する旨の予告と解される発言はない。また,
被控訴人クアルコムは,CMライセンスの存在を否定する発言も行っていないし,
CMライセンスが存在するにもかかわらず本件特許権を行使するとの発言を行った
こともない。
ウ 以上の事実関係を前提とすれば,被控訴人クアルコムのレター中の「控訴人
アップルの製品が被控訴人クアルコムの保有する多くの特許を侵害する」旨の記載
につき,被控訴人クアルコムによる原告製品1についての侵害主張と理解すること
はできない。また,CMライセンスの存在により,対象特許につき被控訴人クアル
コムは控訴人アップルに権利行使できないという評価が成り立たないということも
できない。
⑶ 被控訴人クアルコムによる米国訴訟における訴訟追行と本件訴訟における被
控訴人らの表明について
ア 前記のとおり,被控訴人クアルコムは,米国において,控訴人アップルに対
し本件特許の米国対応特許に基づく訴訟を提起しないことを内容とする,全世界的
かつ撤回不可能な誓約を行っている。このため,米国訴訟における被控訴人クアル
コムの行為は,もはやいかなる意味においても本件における確認の利益を基礎付け
るものではない。
イ 被控訴人クアルコムが,米国訴訟において,控訴人アップルに提示したライ
センス案がFRAND条件を満たしていたことの確認や,仮にこれに適合していな
いとする場合のFRAND条件によるロイヤルティの確認の申立てを行っていたこ
とは,本件特許権の行使又は行使の意思の表明をなすものではない。
すなわち,被控訴人クアルコムは,既に上記申立てのうちFRAND条件でのラ
イセンス料の確認を求める申立ては取り下げている。仮に控訴人らの主張を前提と
しても,被控訴人クアルコムは,本件ライセンス交渉において,平成28年6月及
び同年7月,自らがFRANDと考える条件でライセンスの申入れをした。しかし,
この提案は,FRAND宣言に適合していないとして,控訴人アップルにより拒絶
された。そこで,被控訴人クアルコムは,上記申立てを行ったものである。このよ
うな経緯及び前記本件ライセンス交渉の性質に照らせば,上記申立ては,CMライ
センスの存在を否定するものでも,本件特許権の行使又は行使の予告と評価される
べきものでもないことは明らかである。
ウ 本件訴訟における確認の対象は,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び実
施料請求権の存否という最終的な法的権利の存否である。これに対し,米国訴訟に
おける確認の対象は,当該訴訟の対象特許は控訴人アップルが使用する規格に必須
のものではないため特許の侵害がないということ,当該特許が無効であること,
(それが認められない場合には)チップセットの販売により特許権が消尽したため
執行不能であること等であって,確認対象が異なる。
そうである以上,被控訴人クアルコムによる本件訴訟での表明と米国訴訟におけ
る被控訴人クアルコムの請求内容は,矛盾するものではない。
エ 被控訴人クアルコムが,米国訴訟において,控訴人アップルが「真摯にライ
センスを受ける意思を有しない者」であるとの確認を求める請求を維持し,主張書
面でも控訴人アップルがFRAND宣言による利益を享受する地位を有しないと主
張しているのは,控訴人アップルが非合理的かつ不誠実な交渉戦術をとったことを
理由とするものであり,CMライセンスの存在にもかかわらず控訴人らに対して本
件特許権を行使する意思を示したものではない。
⑷ 被控訴人クアルコム子会社に係る確認の利益について
前記のとおり,被控訴人クアルコムに対する訴えは確認の利益を欠く。
また,本件特許権を有しない者がその実施品に関する事業等を行っているからと
いって,当然に本件特許権自体や実施料請求権を保有又は行使しているということ
はできないし,被控訴人クアルコム子会社による権利行使は立証されていない。
したがって,被控訴人クアルコム子会社はおよそ本件特許権を有しない以上,被
控訴人クアルコム子会社に対する訴えも確認の利益はない。
⑸ 控訴人アップルジャパンの訴えに係る確認の利益の欠如
控訴人アップルジャパンに対する本件特許権に基づく損害賠償請求権及び実施料
請求権の行使についての具体的な主張立証はない。
したがって,控訴人アップルの訴えが確認の利益を欠く以上,控訴人アップルジ
ャパンの訴えについて確認の利益が認められる余地はない。
⑹ 以上のとおり,原判決の判断は正当であり,控訴人らの主張はいずれも理由
がない。
第4 当裁判所の判断
当裁判所も,本件訴えは訴えの利益を欠く不適法なものであるから,これを却下
すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 国際裁判管轄について
本件は,控訴人らが,被控訴人らに対し,控訴人らによる原告製品1の生産譲渡
等の行為が本件特許権の侵害に当たらないなどと主張し,①被控訴人クアルコムに
ついては,本件特許権の侵害に基づき,②被控訴人クアルコム子会社については,
実施料債権が侵害されたことを理由として,自ら又は被控訴人クアルコムに代位し
て,被控訴人らが損害賠償請求権及び実施料請求権を有しないことの確認を求めた
事案である。
まず,被控訴人クアルコムジャパンの本店所在地は日本国内にあるから,主たる
事務所又は営業所が日本国内にあることによる管轄権(民訴法3条の2第3項)が
認められる。
また,本件は,特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権の不存在が確認の対象
とされていることから,不法行為に関する訴えに該当する。不法行為に関する訴え
については,「不法行為があった地が日本国内にあるとき」に我が国に国際裁判管
轄が認められる(同法3条の3第8号)。本件では,被控訴人クアルコムの有する
日本の特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権の不存在が確認の対象とされ,控
訴人らが日本国内において原告製品1の輸入販売等の行為を行っていることが認め
られることから(弁論の全趣旨),日本の裁判所が管轄権を有する。
そして,他の被控訴人らとの関係では,不存在確認の対象とされる被控訴人らの
控訴人らに対する権利は同一の事実上の原因に基づくものであるから,少なくとも
併合請求における管轄権(同法3条の6,38条前段)が認められる。
なお,本件において,訴えを却下すべき特別の事情(同法3条の9)を認めるこ
とはできない。
したがって,本件においては,日本の裁判所が管轄権を有する。
2 訴えの変更について
控訴人らは,本件訴えの対象となる製品につき,別紙物件目録2記載の各製品
(原告製品2)を追加する旨の訴えの変更を申し立てた。
しかし,原審においては,専ら確認の利益の有無及び国際裁判管轄の有無につい
て審理が行われ,原判決は,このうち確認の利益を欠くことを理由に,本件訴えは
不適法である旨判断したものであり,本件特許権に基づく損害賠償請求権又は実施
料請求権の有無に関する審理は全く行われていない。もとより,追加が申し立てら
れている原告製品2についても,こうした観点からの審理は行われていない。
加えて,被控訴人らは,控訴人らの訴え変更の申立てにつき,不適法であるとと
もに著しく訴訟手続を遅延させるものであるとして,これを許さない旨の決定を求
めている。
このような場合に,控訴審において訴えの追加的変更を認めた上で実体審理を行
うとすれば,被控訴人らの審級の利益が侵害されることとなるとともに,被控訴人
らにおいて追加に係る原告製品2がCMライセンスの対象か否かの調査を要するこ
とも含め,訴訟手続を著しく遅延させるものというべきである。
したがって,上記訴えの変更申立ては許されない。
3 認定事実
前提事実に加え,当事者間に争いのない事実,証拠(後記文中及び末尾掲記の各
証拠)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
⑴ 控訴人らと被控訴人クアルコムとの関係
被控訴人クアルコムは,同社が保有する特許権の一部(本件特許権を含む。)に
つき,原告製品1のCM(製造受託業者)である4社(以下「CM4社」というこ
とがある。)に対し,原告製品1の生産,譲渡等に関しライセンス(CMライセン
ス)を付与しており,控訴人らは,CM4社から,全ての原告製品1の供給を受け
ている。(乙4,弁論の全趣旨)
⑵ 本件ライセンス交渉の経過
控訴人アップルと被控訴人クアルコムは,平成26年頃,被控訴人クアルコムが
保有する本件通信規格に関する全世界的な必須宣言特許ポートフォリオについて,
控訴人アップルが被控訴人クアルコムから直接ライセンスの付与を受けることを目
的とした交渉(本件ライセンス交渉)を開始した。
本件ライセンス交渉の経過は,以下のとおりである。
ア 控訴人アップル担当者は,被控訴人クアルコム担当者に対し,以下の内容を
含む平成28年2月5日付けレター(甲9)を送付した。
(●省略●)
イ 被控訴人クアルコム担当者は,控訴人アップル担当者に対し,以下の内容を
含む平成28年2月17日付けレター(甲10)を送付した。
(●省略●)
ウ 被控訴人クアルコム担当者は,控訴人アップル担当者に対し,同年3月18
日付けで,被控訴人クアルコムがETSIに開示した多数の特許が記載された一覧
表を送付し,同一覧表のうち,控訴人アップルの製品が実施していない特許があれ
ば知らせるよう求めた(甲7)。同一覧表には,本件特許の米国又は中国対応特許
の「付与/公開/出願番号」,「名称」,「要約」,「規格公開」及び「地理的範
囲」が記載されており,本件特許権の特許番号(「日本:4913343」)も掲
載されている(甲7添付の一覧表2頁目)。
エ 控訴人アップル担当者は,被控訴人クアルコム担当者に対し,以下の内容を
含む同年4月18日付けレター(甲11)を送付した。
(●省略●)
オ 被控訴人クアルコム担当者は,控訴人アップル担当者に対し,以下の内容を
含む同年6月12日付けレター(甲6)を送付した。
(●省略●)(以下,この記載を「本件記載」という。)
被控訴人クアルコムは,控訴人アップルに対し,携帯通信規格に必須である請求
項(FRAND提案の対象となる特許の請求項)が含まれている可能性があると認
識する全ての特許のリストを提供し,かかる規格の中でこれらの請求項が適用され
る部分を示した。
(●省略●)
カ 被控訴人クアルコム担当者は,控訴人アップル担当者に対し,以下の内容を
含む同年7月15日付けレター(甲15)を送付した。
(●省略●)
キ 控訴人アップルは,被控訴人クアルコムの上記提案をFRAND義務に違反
するとして拒絶し,同年9月,被控訴人クアルコムに対し,それぞれの携帯電話の
標準必須特許について相互ライセンスをすることを提案した(甲8)。
これに対し,被控訴人クアルコム担当者は,控訴人アップル担当者に対して同年
10月12日付けレター(甲13)を送付し,控訴人アップルの主張する特許消尽
は本件ライセンス交渉とは無関係であり,特許消尽理論は,特許権を具現化した製
品の販売を購買者と合意するに当たり,別個に計算された特許ライセンス料の支払
を当該製品の購買者に求めることを禁じていないなどと主張し,控訴人アップルの
提案を拒絶した。(甲8)
ク 被控訴人クアルコムは,同年12月頃,控訴人アップルに対し,被控訴人ク
アルコムが保有する特許権の一部について,「クレームチャート一覧サンプル」を
提供した(甲8,14)。当該クレームチャート一覧サンプルには,本件特許米国
対応特許(特許番号7095725)が記載されている。
⑶ 中国での訴訟及び米国訴訟
ア 被控訴人クアルコムは,平成28年6月,中国において,携帯通信端末メー
カーであるメイズ社を被告として,本件特許に対応する中国特許に係る特許権につ
き侵害訴訟を提起した(甲8)。
イ 控訴人アップルは,平成29年1月20日,被控訴人クアルコムを被告とし
て,米国南カリフォルニア地区連邦地方裁判所に訴訟(米国訴訟)を提起した。
控訴人アップルは,米国訴訟において,被控訴人クアルコムによるCMへの被控
訴人クアルコム製ベースバンド・プロセッサ・チップセットの販売行為が,同チッ
プセットに包含される特許権に関する被控訴人クアルコムの特許権を消尽させるこ
との確認,被控訴人クアルコムが控訴人アップルに対し,合理的な実施料率及び合
理的な条件による非差別的なライセンスの申出をしていないことの確認,控訴人ア
ップルが実施する被控訴人クアルコムが保有する特許について,合理的な実施料率
を用いたFRAND料率の設定等を求めた。
これに対し,被控訴人クアルコムは,同年5月24日付け第1修正反訴状におい
て,救済を求める事項として,①被控訴人クアルコムが本件ライセンス交渉におい
て控訴人アップルに示したライセンス提案がFRAND条件を充足していること,
②仮に,裁判所が,控訴人アップルにはなお被控訴人クアルコムからFRAND条
件による申入れを受ける権利があると判断する場合は,移動体通信SEPのポート
フォリオ・ライセンスのためのFRAND条件によるロイヤルティが既に申し入れ
られている旨を確認すること等を求めた。
もっとも,被控訴人クアルコムは,平成30年9月14日,本件特許の米国対応
特許を含む9つの特許のいずれの請求項についても,誓約の発行日以前,当日又は
以後に,控訴人アップル等が製造,使用,販売,販売の申出又は輸入を行った製品
に関して,控訴人アップル等に対し,米国特許法によって生じ得る訴訟原因に基づ
く請求又は要求を行わないことを内容とする,無条件かつ撤回不能な誓約を行った。
また,被控訴人クアルコムは,同年4月11日付け第2修正反訴状において,上
記①の確認の申立ては維持する一方,上記②は取り下げた。(甲17,18,33,
乙2,4,6,7)
⑷ 被控訴人らの対応
被控訴人らは,原審において,被控訴人クアルコムは,原告製品1のCM4社に
対して本件特許権を含む特許権のライセンス(CMライセンス)を付与しており,
控訴人アップルはCM4社から原告製品1全ての供給を受けているから,被控訴人
らは,控訴人らに対し,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び実施請求権を有す
るものではなく,行使する意思もない旨表明している。
また,被控訴人らは,当審においても,控訴人らに対し,原告製品1の生産,譲
渡等につき,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び実施料請求権を有するもので
はなく,また,これらの請求権を行使する意思もない旨明言している。
4 争点⑵(確認の利益の有無)について
⑴ 争点⑵(確認の利益の有無)については,原判決19頁26行目の「原告に
対し」を「控訴人らに対し」に改めるとともに,控訴人らの当審における主張につ
いて後記⑵のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」第3の2(原判決1
7頁17行目~21頁16行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
⑵ 控訴人らの当審における主張について
ア CMライセンス契約について
(ア) 控訴人らが主張するとおり,本件において,CMライセンス契約の成立時
期,対象範囲その他の詳細を客観的に示す証拠はない。
しかし,本件において,被控訴人らは,原審から当審までを通じ,口頭弁論終結
に至るまで,「原告製品1のCM4社に対する本件特許権を含む特許権のライセン
ス(CMライセンス)の供与及び控訴人アップルが当該CM4社から原告製品1全
ての供給を受けているという事実によれば,被控訴人らは,控訴人らに対し,本件
特許権に基づく損害賠償請求権及び実施料請求権を有するものではなく,また,こ
れらの請求権を行使する意思もない」旨を繰り返し明確に表明している。
他方,被控訴人クアルコムが,ドイツ訴訟においてCMとのライセンス契約の再
交渉を行っていないことを自認したとしても,本件におけるCMライセンスが現在
効力を有しないことを示すものとは必ずしもいえない。また,台湾の公平交易委員
会の決定に基づくCM等とのライセンス契約の再交渉に関しては,これを裏付ける
証拠がないし,仮に認められるとしても上記と同様である。
これらの点に鑑みれば,少なくとも,本件口頭弁論終結時において,CMライセ
ンス契約が有効に存続しており,原告製品1のCMに供与されたCMライセンスの
対象に本件特許権が含まれることが認められる。
(イ) 控訴人らは,本件ライセンス交渉当時,被控訴人クアルコムがCMライセ
ンスの対象特許について主張を変遷させたことなどから,本件特許権がCMライセ
ンスの対象特許であることなどに疑義が生じた旨主張する。
しかし,前記認定事実のとおり,そもそも,本件ライセンス交渉は,従前はCM
ライセンスに基づき製造された原告製品1全ての供給を控訴人アップルが受けてい
たところ,被控訴人クアルコムが保有する本件通信規格に関する全世界的な必須宣
言特許ポートフォリオにつき,控訴人アップルが被控訴人クアルコムから直接ライ
センスの付与を受けることを目的として,控訴人アップルからの申入れを契機に開
始したものであり,原告製品1が本件特許権を含む被控訴人クアルコムの特許権を
侵害している(ないしその可能性がある)との警告ないし問題意識から開始された
ものではない。また,被控訴人クアルコム担当者の控訴人アップル担当者に対する
平成28年6月12日付けレター(甲6)の「控訴人アップルの製品が被控訴人ク
アルコムの多くの特許を(ライセンスがないとすると)侵害しており」との本件記
載は,控訴人アップル担当者の被控訴人クアルコム担当者に対する同年2月5日付
けレター(甲9)において,控訴人アップル側が,(ライセンスがないとすると
(absent a license))控訴人アップルの製品が侵害していると被控訴人クアルコ
ムが考える携帯通信の必須特許全てのリストの提示を求めたこと,控訴人アップル
担当者の被控訴人クアルコム担当者に対する同年4月18日付けレター(甲11)
において,控訴人アップル側が,重ねてこれを求めたことを受け,これに対応する
ものとして記載されたことがうかがわれる。しかも,本件記載には,被控訴人クア
ルコムからCMライセンスの供与を受け,被控訴人クアルコムにロイヤルティを支
払っているCMが製造した控訴人アップルの製品を,それと理解した上で控訴人ア
ップルが購入しているとの認識を被控訴人クアルコムが示しているものと理解され
る記載が先行している。現に,この本件ライセンス交渉の過程で,控訴人アップル
の製品の全部又は一部が本件特許権を含む被控訴人クアルコムの特許権を侵害する
(infringe)旨の記載は,この「(absent a license)」との文言が付されたものし
か見当たらない。
このような本件ライセンス交渉の経緯や上記レター自体の文脈を踏まえると,上
記レターの本件記載は,本件特許権との関係につき,CMライセンスその他何らか
のライセンスがなければ特許権侵害となる旨の被控訴人クアルコムの意見ないし見
解を表明したものと理解するのが相当である。そうすると,本件記載をもって,控
訴人ら主張に係る被控訴人クアルコムの主張の変遷を示すものということはできな
い。このことは,CMライセンスに関する客観的な証拠の有無に関わりがない。
その他本件特許権とCMライセンスとの関係に係る被控訴人クアルコムの主張に
変遷があることを認めるに足りる証拠はない。
イ 本件ライセンス交渉時における被控訴人クアルコムの主張に関する評価につ
いて
控訴人らは,本件記載は被控訴人クアルコムによる原告製品1についての侵害主
張にほかならないなどと主張する。
しかし,本件ライセンス交渉の過程で,本件記載以外に,原告製品1が本件特許
権を含む被控訴人クアルコムの特許権を侵害することに関連する言及はない。また,
本件記載については,本件特許権との関係につき,CMライセンスその他何らかの
ライセンスがなければ特許権侵害となる旨の被控訴人クアルコムの意見ないし見解
を表明したものと理解されることは,前記アのとおりである。
ウ 被控訴人クアルコムによる米国訴訟における訴訟追行と本件訴訟における被
控訴人らの表明について
控訴人らは,被控訴人クアルコムは,米国訴訟において,実質的に原告製品1に
対する本件特許権も含めた侵害の主張を行っているなどと主張する。
しかし,前記認定事実のとおり,米国訴訟は,控訴人アップルが,被控訴人クア
ルコムが控訴人アップルに対し合理的な実施料率及び合理的な条件による非差別的
なライセンスの申出をしていないことの確認や,控訴人アップルが実施する被控訴
人クアルコムの特許について,合理的な実施料率を用いたFRAND料率の設定等
を求め,これに対する反訴として,被控訴人クアルコムが,①被控訴人クアルコム
が本件ライセンス交渉において控訴人アップルに示したライセンス提案がFRAN
D条件を充足していること,②仮に,裁判所が,控訴人アップルにはなお被控訴人
クアルコムからFRAND条件による申入れを受ける権利があると判断する場合は,
移動体通信SEPのポートフォリオ・ライセンスのためのFRAND条件によるロ
イヤルティが既に申し入れられている旨を確認すること等を求めたものである。し
かも,被控訴人クアルコムは,後に②の申立てを取り下げている。このように,米
国訴訟における被控訴人クアルコムの申立て及びこれに関する主張は,控訴人アッ
プルが被控訴人クアルコムから直接ライセンスの付与を受けることを前提とする控
訴人アップルの申立てに対抗して行われたものであって,その限度を超えて,本件
特許の米国対応特許の侵害に基づく損害賠償請求権を有することの確認を求めるも
のとは理解できない。控訴人ら指摘に係る専門家意見書についても,このような米
国訴訟の証拠として提出されたものにとどまることから,このような理解を左右す
るものではない。
エ 被控訴人クアルコム子会社に係る確認の利益について
控訴人らは,被控訴人クアルコム子会社は,いずれも被控訴人クアルコムの指揮
命令の下に本件特許権のライセンス料を請求・徴収しているものであり,控訴人ら
による本件口頭弁論終結日までの原告製品1の生産,譲渡,貸渡し,輸入又はその
譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)につき,
実施料債権が侵害されたことを理由とする,自ら又は被控訴人クアルコムを代位し
て損害賠償請求権及び実施料請求権を行使する現実の危険があるとし,被控訴人ク
アルコム子会社に係る確認の利益につき,なおこれが存しないということはできな
い旨主張する。
しかし,前記のとおり,本件特許権を有する被控訴人クアルコムとの関係におい
ても,本件訴えにつき確認の利益は認められないところ,控訴人ら主張に係る被控
訴人クアルコム子会社に対する訴えの確認の利益は,被控訴人クアルコムに対する
訴えの確認の利益の存在を前提とする。
また,そもそも,被控訴人クアルコム子会社は,いずれも本件特許権を有しない
ことから,その実施品に関する事業等を行っていることのみをもって,控訴人らに
対し,本件特許権に基づく損害賠償請求権又は実施料請求権を有し,又は行使して
いるということはできない。被控訴人クアルコム子会社のいずれかが,実際にこれ
らの権利を行使したことを認めるに足りる証拠もない。
そうである以上,被控訴人クアルコム子会社がこれらの権利を行使する具体的な
おそれがあるとはいえず,これらに対する本件訴えにつき確認の利益がないことは
明らかである。
オ その他控訴人らがるる指摘する事情を考慮しても,この点に関する控訴人ら
の主張は採用できない。
5 結語
以上のとおり,本件訴えは訴えの利益(確認の利益)を欠く不適法なものであり,
これを却下すべきである。これと同旨の原判決は相当であるから,本件控訴は理由
がない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官 高 部 眞 規 子


裁判官 杉 浦 正 樹


裁判官 片 瀬 亮
(別紙)
当事者目録


控 訴 人 Apple Japan合同会社


控 訴 人 アップル インコーポレイテッド

控訴人ら訴訟代理人弁護士
長 沢 幸 男
矢 倉 千 栄
稲 瀬 雄 一
石 原 尚 子
雲 居 寛 隆
同 弁理士 大 塚 康 徳
同補佐人弁理士 大 塚 康 弘
江 嶋 清 仁
前 田 浩 次
吉 田 晴 人
西 守 有 人


被 控 訴 人 クアルコム インコーポレイ
テッド


被 控 訴 人 クアルコム テクノロジーズ
インク


被 控 訴 人 クアルコム シーディーエム
エー テクノロジーズ アジ
ア-パシフィック ピーティ
ーイー エルティーディー


被 控 訴 人 クアルコムジャパン合同会社


被控訴人ら訴訟代理人弁護士
城 山 康 文
早 田 尚 貴
岩 瀬 吉 和
柴 田 義 人
高 橋 綾
小 島 諒 万
宗 川 帆 南
同訴訟代理人弁理士 市 川 祐 輔
同補佐人弁理士 市 川 英 彦


(別紙)
物件目録2

40 iPhone XS 64GB
41 iPhone XS 256GB
42 iPhone XS 512GB
43 iPhone XS Max 64GB
44 iPhone XS Max 256GB
45 iPhone XS Max 512GB
46 iPhone XR 64GB
47 iPhone XR 128GB
48 iPhone XR 256GB
以 上

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5月29日(水) - 東京 港区

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5月30日(木) - 東京 港区

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