ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成30(ワ)11967 損害賠償請求事件
| 裁判所 | 一部認容 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成31年3月1日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
不正競争 民法709条3回 |
| キーワード | 損害賠償11回 侵害10回 許諾1回 |
| 主文 | 1 被告は,原告に対し,55万円及びこれに対する平成30年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被15告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 | 1 本件は,原告から食品の包装デザインを受託していた被告が,原告の営業上の25 信用を害する虚偽の事実を原告の取引先に告知したとして,原告が,被告に対し, 主位的に不正競争防止法(以下「不競法」という。)4条,予備的に民法709 条に基づき,損害賠償金550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用相当損害 金50万円の合計)及びこれに対する不法行為の日である平成30年3月18日 から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事 案である。5 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨 により認定することができる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合に は,特に断らない限り,枝番を含むものとする。) (1) 当事者 ア 原告は,紙,セロファン,ポリエチレン及びビニールの印刷等を業とし,10 食品メーカーからデザインを含めた包装フィルムの製造を受託している。 イ 被告は,デザイン作成を請け負う個人事業主である。 |
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平成31年3月1日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(ワ)第11967号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成31年1月11日
判 決
原 告 朋 和 産 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 嶋 寺 基
廣 瀬 崇 史
長 谷 部 陽 平
同訴訟復代理人弁護士 和 田 祐 以 子
被 告 A
主 文
1 被告は,原告に対し,55万円及びこれに対する平成30年3月20
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被
告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成30年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 訴訟費用は被告の負担とする。3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,原告から食品の包装デザインを受託していた被告が,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を原告の取引先に告知したとして,原告が,被告に対し,主位的に不正競争防止法(以下「不競法」という。)4条,予備的に民法709条に基づき,損害賠償金550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用相当損害金50万円の合計)及びこれに対する不法行為の日である平成30年3月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事
5 案である。2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1) 当事者ア 原告は,紙,セロファン,ポリエチレン及びビニールの印刷等を業とし,食品メーカーからデザインを含めた包装フィルムの製造を受託している。イ 被告は,デザイン作成を請け負う個人事業主である。
(2) 原告の被告への業務委託原告は,被告に対し,平成24年7月頃から平成28年までの間,食品のパッケージデザインの作成業務を委託していたが,同年8月頃に取引が終了した。
(3) 別件の訴訟等ア 被告は,平成28年7月15日,原告に対し,原告から委託を受けて被告が作成した食品のパッケージデザイン(以下「被告デザイン」という。)を原告が無断で修正し,被告の著作権(複製権,翻案権及び譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害したなどと主張し,不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(同裁判所平成28年(ワ)
第23604号損害賠償請求事件。以下「前訴」という。)。
同裁判所は,平成29年11月30日,原告が被告デザインを使用・修正することを被告は当初から包括的に承諾していたことなどを理由に,被告の請求をいずれも棄却する旨の判決(以下「前訴判決」という。)をし,同判決は確定した。(甲2)イ 被告は,平成29年11月7日,原告に対し,被告デザイン(上記アとは異なるもの)を原告が修正等して利用する行為は著作権(複製権,翻案権及び譲渡権)や著作者人格権(同一性保持権)を侵害するなどと主張し,千葉地方裁判所に対し損害賠償等を求める訴えを提起した(同裁判所平成29年
5 (ワ)第2327号損害賠償請求事件。以下「別訴」という。)。(甲3)
(4) 被告の行為被告は,平成30年3月,原告の顧客である米屋株式会社(以下「本件顧客」という。)に対し,通知書等の書面(以下「本件書面」という。甲4)をファックス送信した。本件書面(全8頁)の構成及び記載内容は,以下のとおりである。ア 本件書面(1~2頁目)には,以下の記載がある(明白な誤記等は訂正した。)。(ア) 「貴社は朋和産業株式会社…を通し,平成25年頃Style ONE「どら焼」,「栗どら焼」を印刷されましたが,Style ONE「どら焼」,「栗どら焼」の原画はAの著作物(絵画)であり,朋和産業株式会社マーケティング部が無断でAの著作物を,改変や改ざんや複製や印刷等を行い,貴社に印刷物を売り渡しました。」,「印刷会社である朋和産業株式会社マーケティング部が著作者になりすまし,無断で改変や改ざんや版下や印刷等を行い顧客に売り渡す等した後で,取引を無断で終了させ,現在訴訟中です。」(下線部を「本件記載1」という。)(イ) 「貴社におかれましては,知らずに朋和産業株式会社へ高額の印刷代金や修正代金等を支払われてしまい被害を受けてしまった可能性も高いと思われます。…朋和産業株式会社は貴社へ売り渡した印刷物のことなど一切考えず,貴社の被害も貴社に知らせずに,貴社の被害など一切無視しております。…朋和産業株式会社は貴社の受けた被害を隠しており」(下線部を「本件記載2」という。)(ウ) 「朋和産業株式会社マーケティング部は,全ての採用報告を怠り,A自身が無断で印刷された印刷物を探し出さねばならず,貴社の損害(印刷物や修正費等で支払った代金)は一部しか発見できておりません。」(下線部を「本件記載3」という。)
5 イ 本件書面には,Style ONE「どら焼」,「栗どら焼」のパッケージデザインのコピー(3頁目),「<謝罪広告を求めている>判明している対象商品」と題する書面(4~5頁目),平成29年11月8日付け千葉日報と同月9日及び同月21日付け東京新聞の新聞記事の写し(6~8頁目)が添付されている。このうち,「<謝罪広告を求めている>判明している対象商品」(他,未判明 約1100点」と題する書面には,訴状別紙2に記載された取引先及びその商品が列挙され,同書面の末尾には「各メーカー様におかれましては,採用され印刷されてしまったかのご確認を行うために,未判明分のご確認をお願いする予定もございます。 との記載がある。」 (下線部を「本件記載4」という。以下,本件記載1~4を総称して「本件各記載」という。)3 争点
(1) 不競法4条に基づく損害賠償請求権の有無(争点1)
(2) 民法709条に基づく損害賠償請求権の有無(争点2)
(3) 原告の損害額(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(不競法4条に基づく損害賠償請求権の有無)について
(原告の主張)
(1) 競争関係
原告は,食品メーカー等に対するパッケージデザインの作成等を事業としているところ,被告は,食品等のパッケージデザインの作成等を業としている個人事業主であるから,原告と被告は競争関係にある。
(2) 営業上の信用を害する虚偽の事実の告知
被告は,平成30年3月18日,原告の取引先である本件顧客に対して本件書面を送付し,次のとおり,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する不正競争行為を行った。
5 ア 本件書面には,次の趣旨の記載がある。
(ア) 本件書面には「朋和産業株式会社マーケティング部が無断でAの著作物を,改変や改ざんや複製や印刷等を行い,貴社に印刷物を売り渡しました。」など,原告が被告デザインを無断で改変している旨の記載(本件記載1)がある。(イ) 本件書面には「朋和産業株式会社は貴社へ売り渡した印刷物のことなど一切考えず,貴社の被害も貴社に知らせずに,貴社の被害など一切無視しております。」,「朋和産業株式会社は貴社の受けた被害を隠しており」など,原告の取引先に被害が生じ,原告が取引先の被害を無視している旨の記載(本件記載2)がある。(ウ) 本件書面には「朋和産業株式会社マーケティング部は,全ての採用報告を怠り」など,原告が被告に対し,被告デザインに関し,一度も採用報告をしていない旨の記載(本件記載3)がある。(エ) 本件書面には「<謝罪広告を求めている>判明している対象商品(他,未判明 約1100点)」,「各メーカー様におかれましては,採用され印刷されてしまったかのご確認を行うために,未判明分のご確認をお願いする予定もございます。」など,本件顧客以外の顧客についても原告が被告デザインを無断で改変している旨の記載(本件記載4)がある。イ 原告は,被告デザインを改変することについて被告から包括的な承諾を得ていたから,本件記載1及び4は虚偽であり,原告の取引先には被害が生じていないので,本件記載2は虚偽である上,原告は被告に対し被告デザインを採用した旨の報告をしていたから,本件記載3も同様に虚偽である。
(3) 営業上の利益の侵害
被告の不正競争行為により,原告の社会的信用が毀損され,その営業上の利益が侵害された。
(4) 故意・過失
5 被告は,本件各記載の内容が虚偽であることを認識したか,少なくとも容易
に認識することができたから,被告には故意又は過失がある。
(被告の主張)
不正競争行為の成立は争う。
(1) 競争関係について
原告と被告は,いわば親会社と子会社(下請)の関係にあるので,原告社内でデザイナーを雇い,補助的にデザインを提供していたとしても,デザインの専門家業を営む個人事業主の被告と,印刷業を営む原告との間に,競争関係はない。
(2) 営業上の信用を害する虚偽の事実の告知について
ア 本件書面は,被告が原告の顧客に対し,被告デザインの内容,原被告間で訴訟上争われている事実並びに印刷会社はその印刷物にトラブルが発生したときは直ちに顧客にその旨を知らせ,印刷物の回収等を行うという管理責任及び注意責任があることを通知しただけであり,原告の著作権侵害を訴えるものではない。本件記載1及び4は,原告が下請法違反,不法行為,詐欺を行い,原告との取引を無断で終了させたこと,及び,原告が被告デザインの著作者になりすまし,顧客をだまして,部分的に異なる不法印刷物を売り渡したことを伝えたものである。本件記載2は,虚偽ではない。原告の顧客は,原告が著作権者である被告から何らの許諾も得ていないのに,原告から「原告に印刷を依頼すれば,独占的に印刷物を利用できる」とだまされて,不法印刷物に対して代金を支払ってしまったのであるから,損害を受けている。本件記載3も,原告は,被告に対し,被告デザイン全てについて採用又は不採用の報告を行っていなかったから,虚偽ではない。イ 原告は,被告との取引において,多数の下請法違反,独占禁止法違反の行
5 為や,被告の知的財産権の侵害,詐欺,横領等の不法行為を行ってきた。被
告は,別訴において,そのことを立証するため,原告に対し,被告デザインに係る印刷物の提出を求めたが,原告はこれを拒んだ。そのため,被告は,原告が被告に無断で作成した印刷物を入手するため,本件顧客に本件書面をFAX送信したのであり,被告の行為は,訴訟活動として正当になされたものであるから,正当な権利行使の一環として違法性が阻却される。本件訴訟は,被告の立証活動を妨害するために提起したいわゆるスラップ訴訟であり濫訴である。
(3) 営業上の利益の侵害について
被告が本件顧客に通知した内容は上記のとおりであるから,原告の営業上の信用を害するものではない。原告の営業上の信用が害されたのだとすれば,その原因は,原告が,印刷会社としての管理責任及び注意責任を怠ったこと,被告デザインを忠実に再現する義務を怠ったこと及び原告の顧客に別訴のことを知らせなかったことにある。
(4) 故意・過失について
争う。
2 争点2(民法709条に基づく損害賠償請求権の有無)について
(原告の主張)
被告が本件書面により原告の取引先に対して虚偽の事実を告知する行為は原告の社会的信用を毀損するものであるから,民法709条の不法行為を構成する。
(被告の主張)
否認し,争う。本件書面に記載された事実は全て真実であり,前記のとおり,原告がその顧客に対して別訴の存在を隠していたことが原告の社会的評価を低下させた原因である。
3 争点3(原告の損害額)について
5
(原告の主張)
(1) 被告の不正競争行為により原告の社会的信用が毀損され,原告には甚大な無
形的損害が生じた。そして,被告が多数の原告の顧客に対して面談,電話,文書を交付するなどの複数の方法で,執拗に虚偽の事実を告知するなど,違法な侵害行為を反復継続している。原告が著作権侵害の犯罪行為を行っているという本件各記載の内容は,原告の社会的評価を根本的に損なうものであり,原告の主たる事業である包装フィルムの製造販売事業の本質的部分に悪影響を及ぼすものである。さらに,被告が前訴判決で敗訴しながら紛争を蒸し返し,原告の顧客にまで紛争の範囲を拡大していること,被告の不正競争行為により原告の営業秘密である顧客情報の流出をも引き起こしていることなどからすれば,原告に生じた無形的損害の金銭的な評価は,500万円を下らない。
(2) 本件を解決するために原告が支出した弁護士費用に係る損害は,少なくとも
50万円を下らない。
(被告の主張)
否認し,争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(不競法4条に基づく損害賠償請求権の有無)について
(1) 原告と被告の競争関係の有無について前記前提事実及び証拠(甲9)によれば,原告は,食品メーカーからデザインを含めた包装フィルムの製造委託を受け,そのデザイン作成業務を社内のデザイナーにより,又は,社外のデザイナーに委託することにより行っていることが認められる。他方,被告はデザイン業務全般等を請け負う個人事業主であるから,原告と被告は,デザイン業務について,その需要者又は取引者を共通にする可能性があるので,競争関係にあるものと認められる。
(2) 原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知の有無についてア 本件各記載が摘示する事実
5 本件書面の各記載の内容によれば,①本件記載1は,原告が本件顧客に納入した被告の著作物である被告デザインを無断で改変等した事実,②本件記載2は,原告の取引先である本件顧客が上記①の事実を知らないまま高額の印刷代金等を支払うなどの被害が生じている可能性が高いが,原告はそのことを本件顧客に知らせていない事実,③本件記載3は,原告が,被告に対し,被告デザインの採用又は不採用の報告を全くしなかった事実,④本件記載4は,本件顧客以外の顧客についても原告が被告デザインを無断で改変等している事実を摘示するものということができる。これに対し,被告は,本件記載1及び4について,原告が下請法違反等の行為を行い,原告との取引を無断で終了させたこと,及び,原告が被告デザインの著作者になりすまし,顧客を欺罔するなどして部分的に異なる不法印刷物を売り渡したことを伝えたものであると主張する。しかし,本件記載1は「朋和産業株式会社マーケティング部が無断でAの著作物を,改変や改ざんや複製…を行い」というものであり,同記載が上記①の事実を摘示していることは明らかである。また,本件記載4が記載されている別添書面(本件書面の4頁目,5頁目)は,本件書面に添付されているものであり,同別添書面の趣旨は,そこに連挙されている商品に関する被告デザインが本件顧客の商品である「栗どら焼」等に関する被告デザインと同様,原告により無断で改変されたことから,原告に対して「謝罪広告を求めている」ものと考えられる。そうすると,本件記載4は上記④の事実を摘示するものということができる。イ 認定事実前提事実に加え,証拠(後記文中及び末尾掲記の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(ア) 被告は,平成3年頃から,原告とも取引のある有限会社スタジオパレットの専属デザイナーとしての経験を有していたところ,平成24年頃,原
5 告に外部デザイナーとしての採用を依頼し,原告の担当者から面接を受けた。同担当者は,その際,被告に対し,①社外デザイナーは社内デザイナーと作業を分担するなどして協働してデザインを作成していること,②作業の割振りは,原告のデザイン受付窓口が行うこと,③外部デザイナーは,顧客の意向を踏まえた修正・調整を行う必要があるため,PDFファイル(メールによる提出)とAIファイル(ソフトウェア「イラストレータ」で使用する形式のファイル。外部サーバーにアップロード)等を提出する必要があること,④デザインの管理のための管理番号の仕組み及びルール等を説明した。被告は,原告の担当者の説明に対し,特に異議を述べることなく承諾した。(甲10,11)(イ) 原告においては,顧客から受注したパッケージデザインについて,その原案の作成から完成までの間,顧客の要望を踏まえ,平均して4~5回の修正がされていた。外部デザイナーが担当したパッケージデザインの修正作業は,当該デザイナーに依頼をすることもあるが,内部デザイナーが外部デザイナーの個別の同意を得ることなくアップロードされたAIデータに基づき行うこともあり,また,双方が行うこともある。被告は,その担当したパッケージデザインについて,原告から修正の依頼を受けると,特に異議を述べることなく,これに応じていた。(甲10,11,18~22,24~26,41~45,57)(ウ) 原告においては,パッケージデザインの作成作業を効率的に行うため,管理番号を用いている。管理番号は,デザインごとに付される番号,作成・修正番号,作業者コード(被告の場合は当初「DS」であり、その後「FB」に変更されている。)から成り,外部デザイナーが依頼されたデザインを提出する際は,管理番号のルールに従い,提出データにファイル名を付して提出していた。被告は,外部サーバーにデータをアップロードする際などに社内デザイナーなどが同データを修正した履歴を確認することがで
5 きたが,平成28年7月に前訴を提起するまでの間,被告のデザインを社内デザイナーが修正することについて異議を述べたことはない。(甲11,14,27~29,48~53)(エ) 原告は,平成26年7月2日,被告に対し,被告がパッケージデザインを作成した「桜島小みかんロール製品」が販売されている旨の報告をするとともに,平成27年1月5日,被告デザイン8点について,顧客に採用された旨の報告をした。(甲6の1・2)ウ(ア) 上記イの事実からすれば,被告は,原告からの依頼に基づいて作成された被告デザインにつき,原告が使用し,修正を加えることを,その取引の当初から包括的に承諾し,原告との取引が継続している間においても特に異議は述べていないということができる。そうすると,原告が,本件顧客や他の原告の顧客に納入した被告デザインを無断で改変しているとの本件記載1及び4の摘示する事実は虚偽であるというべきである。(イ) 原告が被告デザインを使用,修正することについて被告が包括的に承諾していたのは上記(ア)のとおりであり,原告の顧客が原告から修正済みのパッケージデザインの納入を受け,その代金を支払うことにより何らかの被害を受けたということはできないので,本件記載2が摘示する事実は虚偽であるということができる。(ウ) 原告が,被告に対し,被告デザインの採用報告を全くしなかった事実を摘示するものであるが,前記のとおり,原告は被告に対して被告デザインを採用した旨の報告をしていたことを認めることができるので,本件記載3が摘示する事実は虚偽であるということができる。エ 原告の営業上の信用を害すること本件記載1~4は,これに接する者に対して,原告が本件顧客や他の顧客に納入した被告の著作物である被告デザインを無断で改変するなどの違法
5 行為を行い,顧客に生じた被害についても伝えないなど無責任な対応をする会社であるとの印象を与えるものであるから,原告の社会的信頼等の外部的信用,すなわち原告の営業上の信用を害するものであるということができる。オ 不正競争行為の成立以上によれば,被告は,競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したということができ,被告のかかる行為は,不競法2条1項15号の不正競争行為に該当する。これに対し,被告は,被告が本件書面を本件顧客に送付したのは,別訴の証拠収集のための正当な訴訟活動としてしたものであるから,同行為の違法性は阻却されるなどと主張する。しかし,証拠収集の目的であっても,原告の顧客に対して虚偽の事実を告知することは社会的相当性の範囲を逸脱するものであり,被告の行為の違法性が阻却されるということはできない。カ 被告の故意・過失被告が前訴判決を受けていたことや,原告が被告に対して被告デザインを採用した旨の報告をしていたことからすれば,被告は,前記の不正競争行為を行ったことにつき,少なくとも過失がある。
2 争点3(原告の損害額)について本件書面は,前記のとおり,原告の取引先である本件顧客に対し,原告が被告に無断で同社に納入した被告デザインを改変等し,それにより本件顧客も被害を受けた可能性が高いことなどを告知するものであり,その内容は原告とその取引先の信頼関係に悪影響を及ぼし,原告の営業上の信用を毀損するものであって,原告の営業部の幹部社員は,その信用回復のため,本件顧客を往訪し,謝罪と説明を行ったとの事実が認められる(甲78)。また,被告は,原告の行為が違法行為に当たらないとの前訴判決を受けていたにもかかわらず,原告の営業上の信用を毀損する行為に及んでいる上,本件顧客以外の原告の複数の取引先に対して同様の内容の通知等をし,原告はこれらの取
5 引先に対しても謝罪と説明を行っているなどの事情もうかがわれる(甲5,8,78)。他方,原告が本訴において被告の不正競争行為として問題とするのは,本件顧客に対する本件書面の送付による虚偽の事実の告知という1件の行為のみであり,既に前訴判決が確定していたことからすると,同社に生じ得る誤解の解消は比較的容易であったとも考えられる。以上の点も含め,本件に現れた全ての事情を総合考慮すると,原告の無形的損害に係る損害額としては,50万円を認めるのが相当である。また,本件事案の性質,認容額,難易の程度等の諸般の事情を考慮すると,被告の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は5万円であると認めるのが相当である。なお,被告が本件の不正競争行為を行った日は平成30年3月20日であると認められるから(甲78),遅延損害金の起算日は同日となる。
3 よって,原告の請求は,不競法4条に基づく損害賠償金55万円及びこれに対する不正競争行為の日である平成30年3月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がないから,原告の請求を上記の限度で認容し,その余は棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
裁判官
三 井 大 有
裁判官
遠 山 敦 士
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