平成30(ワ)10130特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成31年4月24日 |
事件種別 |
民事 |
対象物 |
会計処理方法および会計処理プログラムを記録した記録媒体 |
法令 |
特許権
特許法36条6項1号3回 特許法102条3項2回 特許法100条1項1回 民法1条3項1回 特許法30条1項1回 特許法36条6項2号1回
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キーワード |
特許権11回 ライセンス6回 実施5回 進歩性4回 無効4回 刊行物3回 侵害2回 無効審判2回 差止2回 新規性2回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は,発明の名称を「会計処理方法および会計処理プログラムを記録した記録
媒体」とする特許第4831955号の特許権(以下「本件特許権」といい,この
特許を「本件特許」という。また,本件特許に係る明細書及び図面を一括して「本20
件明細書」という。)を有する原告が,被告において生産し,使用する別紙2物件
目録記載1ないし3の各製品(以下,これらを一括して「被告製品」という。)は
本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の技
術的範囲に属するから,被告による被告製品の生産,使用は本件特許権を侵害する
と主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の生産,使用の25
差止め,同条2項に基づき,被告製品の廃棄を求めるとともに,不法行為による損
害賠償請求権(対象期間は平成29年1月1日から平成30年3月31日までであ
ると解される。)に基づき,2800万円及びこれに対する不法行為後の日である
平成30年4月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成31年4月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(ワ)第10130号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成31年2月7日
判 決
5 当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
10 第1 請求
1 被告は,別紙2物件目録記載1ないし3の各製品を生産し,又は使用しては
ならない。
2 被告は,別紙2物件目録記載1ないし3の各製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,2800万円及びこれに対する平成30年4月7日か
15 ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,発明の名称を「会計処理方法および会計処理プログラムを記録した記録
媒体」とする特許第4831955号の特許権(以下「本件特許権」といい,この
20 特許を「本件特許」という。また,本件特許に係る明細書及び図面を一括して「本
件明細書」という。)を有する原告が,被告において生産し,使用する別紙2物件
目録記載1ないし3の各製品(以下,これらを一括して「被告製品」という。)は
本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の技
術的範囲に属するから,被告による被告製品の生産,使用は本件特許権を侵害する
25 と主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の生産,使用の
差止め,同条2項に基づき,被告製品の廃棄を求めるとともに,不法行為による損
害賠償請求権(対象期間は平成29年1月1日から平成30年3月31日までであ
ると解される。)に基づき,2800万円及びこれに対する不法行為後の日である
平成30年4月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
5 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下,書証番号は
特記しない限り枝番の記載を省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認められ
る事実)
⑴ 当事者
ア 原告は,後記⑵の本件特許権を有する個人である。
10 イ 被告は,地方公共団体の行政効率向上のため受託する計算センターの経営,
コンピューター・ソフトウエアの開発,保守及び販売,インターネット・サービ
ス・プロバイダとしての事業,並びにクラウド・コンピューティング・サービス・
プロバイダとしての事業等を目的とする株式会社である。
⑵ 本件特許権
15 ア 本件特許権の出願日等は次のとおりである(甲1,2)。
出願日 平成16年11月29日(以下「本件出願日」という。)
登録日 平成23年9月30日
特許番号 特許第4831955号
発明の名称 会計処理方法および会計処理プログラムを記録した記録媒体
20 新規性喪失の例外の表示
特許法30条1項適用 平成16年10月15日株式会社弘文堂発
行の「現代企業法・金融法の課題」
特許法30条1項適用 平成16年10月20日株式会社講談社発
行の「公会計革命-「国ナビ」が変える日本の財政戦略」(乙5,
25 37)
イ 本件発明の特許請求の範囲は,別紙3「特許請求の範囲(本件発明)」のと
おりである。
⑶ 本件発明の構成要件の分説
本件発明は,次のとおり,構成要件に分説することができる(以下,分説に係る
各構成要件を符号に対応させて「構成要件A」などという。)。
5 A 財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステムであって,
B1 予算を含む,従来の単式簿記システムにより作成された伝票データから
資金(現金及び現金同等物)の受入(A1)と払出(A2)を有する資金収支計
算書勘定(A)を記録する資金収支計算書勘定記憶手段と,
B2 資金収支計算書勘定記憶手段から,前記伝票データを変換して複式簿記
10 での伝票データとした複式仕訳データを用いて,企業会計における複式簿記・発
生主義会計として用いられてきた閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)(B1~B4)
と損益勘定(行政コスト計算書勘定)(B5~B7)を作成・記録する閉鎖残高
勘定及び損益勘定作成・記録手段と,
B3 前記資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・
15 記録手段から,さらに,前記複式仕訳データを用いて,国家の政策レベルの意思
決定を記録・会計処理するために,拡張された処分・蓄積勘定(損益外純資産変
動計算書勘定)(C1~C4)を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作
成・記録手段と,
C 処理された結果で,資金収支計算書,貸借対照表,損益外純資産変動計算
20 書,損益勘定行政コスト計算書をふくむ,少なくとも1つ以上の財務諸表を作成
する財務諸表作成手段と,
D 作成した財務諸表を表示する財務諸表表示手段とを備え,
E 資金収支計算書勘定(A)の期末の収支尻(貸借差額)(A3)が,当期
資金増減額として,貸借対照表上の資金勘定(B1)に振替えられ,資金収支計
25 算書勘定と貸借対照表勘定の間での勘定連絡であり,
F 損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段の記録は,その期における損
益外の純資産増加(C3,C4)と純資産減少(C1,C2)の2つで構成され,
前記損益勘定(行政コスト計算書勘定)の収支尻(貸借差額)である純経常費用
(B7)が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の(C1)に
振替えられ,
5 G 処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の貸方と借方の差
額(収支尻)が,当期純資産変動額(C5)という形で,最終的には(B)の閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)(B4)の部に振り替えら
れて,(B)の閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の借方(左側)と貸方(右側)
がバランスし,
10 H 一方で,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の借方側
(勘定の左側)には純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目も
あるが,これは具体的に言えば社会保障給付や,インフラ資産を整備した際の資
本的支出のような,損益外で財源を費消する取引のことを指しており,
I 処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の貸方側(勘定の右
15 側)に計上される資産形成充当財源(C4)は,財源措置として支出がなされた場
合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将来にわたって利
用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政府の純資産(国民持分)
がまるまる毀損したわけではなく,何らかの資源が現金以外の形で会計主体として
の政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資産が,当
20 期どれだけ増加したかを示しているのが資産形成充当財源(C4)であることを特
徴とする
J 会計処理コンピュータシステム。
⑷ 被告の行為
ア 被告は,遅くとも平成28年12月31日頃から,被告製品を生産し,自ら
25 被告製品を使用するとともに,地方公共団体に対して有償で提供している。
イ 被告製品による財務書類作成の流れは,概要,総務省が平成27年1月に作
成した「統一的な基準による地方公会計マニュアル」(以下,同マニュアルで説明
されている基準を「本件基準」という。)で説明されているとおりであり,これを
図示すると,別紙4被告製品説明書記載1のとおりである。すなわち,取引を仕訳
5 して記録する仕訳帳,勘定科目ごとに金額の増減を記録・計算する総勘定元帳,総
勘定元帳の勘定科目ごとの残高と合計額を表示した一覧表である合計残高試算表,
合計残高試算表の残高について財務書類ごとに表示した一覧表である精算表を,順
次,作成した上で,同別紙記載2の様式の貸借対照表,同別紙記載3の様式の行政
コスト計算書,同別紙記載4の様式の純資産変動計算書及び同別紙記載5の様式の
10 資金収支計算書の財務書類4表を作成する。また,これらの財務書類の相互関係を
図示すると,概要,同別紙記載6のとおりである(甲3,6,7,乙4,29)。
ウ 被告製品は,構成要件A,C,D,Jを充足する。
3 争点
⑴ 被告製品は,文言上,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
15 ア 被告製品は構成要件B1を充足するか(争点1-1)
イ 被告製品は構成要件B2を充足するか(争点1-2)
ウ 被告製品は構成要件B3を充足するか(争点1-3)
エ 被告製品は構成要件Eを充足するか(争点1-4)
オ 被告製品は構成要件Fを充足するか(争点1-5)
20 カ 被告製品は構成要件Gを充足するか(争点1-6)
キ 被告製品は構成要件Hを充足するか(争点1-7)
ク 被告製品は構成要件Iを充足するか(争点1-8)
⑵ 被告製品は,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するか(争
点2)
25 ⑶ 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3)
ア 本件発明は進歩性を欠くか(争点3-1)
イ 本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか(争点3-2)
ウ 本件特許は特許法36条6項2号に違反しているか(争点3-3)
⑷ 原告の請求は権利の濫用か(争点4)
⑸ 損害の発生の有無及びその額(争点5)
5 第3 争点に対する当事者の主張
1 争点1(被告製品は,文言上,本件発明の技術的範囲に属するか)について
⑴ 争点1-1(被告製品は構成要件B1を充足するか)について
【原告の主張】
被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「原告」欄中の該当箇所に記載のと
10 おりの構成を備えており,以下のとおり,構成要件B1を充足する。
ア 「資金収支計算書勘定」,「資金収支計算書勘定記憶手段」について
(ア) 本件発明の「○○計算書勘定」と「○○計算書」,すなわち,「資金収支計
算書勘定」と「資金収支計算書」,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」と「貸借
対照表」,「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」と「損益計算書」,「処分・蓄
15 積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」と「損益外純資産変動計算書」は,いず
れも同一の概念である。そもそも,上記の各財務書類の内容は,対応する各勘定の
内容と同一でなければ意味をなさないところ,本件明細書の図1でも,「○○計算
書勘定」と「○○計算書」を同一のものと扱っている。また,このような理解は,
企業会計と公会計のいずれにも妥当する技術常識である(乙1)。
20 (イ) 被告製品は,資金収支計算書,貸借対照表,行政コスト計算書及び純資産変
動計算書を作成するものであるが,これらの財務書類の作成は,相互に有機的に関
連付けられた資金収支計算書勘定,貸借対照表勘定,行政コスト計算書勘定及び純
資産変動計算書勘定の存在を不可欠の前提としている。
被告製品は,資金収支計算書勘定及び記録手段(Ⅰ)を備えており,「資金収支
25 計算書勘定」及び「資金収支計算書勘定記憶手段」を充足する。
イ 「伝票データから…資金収支計算書勘定(A)を記録する」について
(ア) 本件発明の「資金収支計算書勘定」が複式の伝票データに基づき作成される
ことは,本件明細書の図1及び図5から明らかである。また,単式会計により作成
された伝票データを複式会計に変換する場合に,複式データに変更する必要がある
ことは技術常識である。
5 (イ) 被告製品は,複式仕訳データに基づき資金収支計算書を作成するから,「伝
票データから…資金収支計算書勘定(A)を記録する」を充足する。
ウ 「予算を含む」について
(ア) 「予算を含む」は,その直後の「従来の単式簿記システム」を修飾しており,
「従来の単式簿記システム」が決算及び予算のいずれにも存在することは技術常識
10 であるから,「予算を含む,従来の単式簿記システム」は,決算及び予算のいずれ
も伝票データを作成するシステムが単式簿記システムであることを示している。
(イ) 被告製品は,決算及び予算のいずれも伝票データを単式簿記システムで作成
する構成を有しており,「予算を含む,従来の単式簿記システム」を充足する。
【被告の主張】
15 ア 「資金収支計算書勘定」,「資金収支計算書勘定記憶手段」について
(ア) 本件特許の特許請求の範囲には,「資金収支計算書勘定」,「閉鎖残高勘定
(貸借対照表勘定)」,「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」,「処分・蓄積勘
定(損益外純資産変動計算書勘定)」という「勘定」と,「資金収支計算書」,
「貸借対照表」,「損益外純資産変動計算書」,「損益勘定行政コスト計算書」と
20 いう「計算書」という二つの表現が見られるが,文言上,「勘定」の作成と「計算
書」の作成は別々に行われており,本件明細書にも同様に記載されているから,本
件発明の「勘定」と「計算書」は,それぞれ別々に作成される異なる概念である。
(イ) 被告製品は,資金収支計算書勘定及び記録手段(Ⅰ)がないから,「資金収
支計算書勘定」及び「資金収支計算書勘定記憶手段」を充足するとはいえない。
25 イ 「伝票データから…資金収支計算書勘定(A)を記録する」について
(ア) 構成要件B1ないしB3の各文言と対比すると,伝票データを複式簿記での
伝票データに変換する場合には構成要件B2及びB3のように記載されていること
が分かるから,そのように記載されていない構成要件B1の「伝票データから…資
金収支計算書勘定(A)を記録する」は,伝票データから,直接,資金収支計算書
勘定を作成,記録することを意味すると解すべきである。
5 (イ) 被告製品は,単式簿記システムにより作成された伝票データから変換された
複式仕訳データに基づき資金収支計算書を作成しており,伝票データから,直接,
資金収支計算書を作成していないから,「伝票データから…資金収支計算書勘定
(A)を記録する」を充足するとはいえない。
ウ 「予算を含む」について
10 (ア) 「予算を含む,…」と読点が入っていること,平成23年2月18日付け手
続補正書(乙8)で,特許請求の範囲に「予算を含む伝票データから従来の単式簿
記・現金主義会計で扱ってきた資金(現金及び現金同等物)の受入(A1)と払出
(A2)を有する資金収支計算書勘定(A)を記録する資金収支計算書勘定記憶手
段」と規定されていたことからすると,構成要件B1の「予算を含む」は「伝票デ
15 ータ」を修飾すると解されるから,「伝票データ」には「予算」が含まれている必
要がある。
(イ) 被告製品における伝票データは,本件基準と同様に,取引,すなわち,過去
の事象を対象とし,「予算」を含まないから,被告製品が「予算を含む…伝票デー
タ」を充足するとはいえない。
20 ⑵ 争点1-2(被告製品は構成要件B2を充足するか)について
【原告の主張】
被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「原告」欄中の該当箇所に記載のと
おりの構成を備えており,以下のとおり,構成要件B2を充足する。
ア 「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」,「損益勘定(行政コスト計算書勘
25 定)」,「閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」について
(ア) 前記⑴【原告の主張】ア(ア)のとおり,本件発明の「勘定」と「計算書」は
同一の概念である。また,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「閉鎖残高勘定」
と「貸借対照表勘定」は同じ意味で,資産(資金),負債,純資産の状態を記録・
会計処理する勘定を意味し,「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」の「損益勘定」
と「行政コスト計算書勘定」は同じ意味で,費用,収益を記録・会計処理する勘定
5 を意味する。
(イ) 被告製品は,貸借対照表勘定,行政コスト計算書勘定,財務諸表作成手段
(Ⅳ)及び記録手段(Ⅱ)を備えており,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」,
「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」及び「閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記
録手段」を充足する。
10 イ 「複式仕訳データを用いて…閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)…と損益勘定
(行政コスト計算書勘定)…を作成」について
被告製品は,複式仕訳データを用いて,貸借対照表勘定及び行政コスト計算書勘
定を作成しているから,「複式仕訳データを用いて…閉鎖残高勘定(貸借対照表勘
定)…と損益勘定(行政コスト計算書勘定)…を作成」を充足する。
15 【被告の主張】
ア 「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」,「損益勘定(行政コスト計算書勘
定)」,「閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」について
(ア) 前記⑴【被告の主張】ア(ア)のとおり,本件発明の「勘定」と「計算書」は,
それぞれ別々に作成される異なる概念であり,被告製品は,貸借対照表勘定,行政
20 コスト計算書勘定,財務諸表作成手段(Ⅳ)及び記録手段(Ⅱ)がないから,「閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」,「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」,「閉
鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」を充足するとはいえない。
(イ) また,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「閉鎖残高勘定」と「貸借対
照表勘定」,「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」の「損益勘定」と「行政コス
25 ト計算書勘定」はいずれも異なる意味で作成段階も異なる。仮に,「閉鎖残高勘定
(貸借対照表勘定)」を,有高に属する勘定(貸借対照表勘定)を一個所に集め,
期末現在において企業の有する資産,負債および資本状態を一覧できるようにする
目的を満たすために設けられた勘定という「閉鎖残高勘定」の意味に解し,「損益
勘定(行政コスト計算書勘定)」を,損益に属する諸勘定(収益・費用勘定)に基
づき純損益を算定するために,収益・費用の諸勘定を一個所に集める目的で設定さ
5 れる勘定という「損益勘定」の意味に解すると,被告製品は,これらに対応する構
成を有していないから,その意味でも,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」,
「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」及び「閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記
録手段」を充足するとはいえない。
イ 「複式仕訳データを用いて…閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)…と損益勘定
10 (行政コスト計算書勘定)…を作成」について
仮に,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」を,資本勘定・固定資産勘定・棚卸
資産勘定・第三者勘定・財務勘定の総称である「貸借対照表勘定」の意味に解し,
「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」を,費用勘定と収益勘定の総称である「行
政コスト計算書勘定」の意味に解すると,被告製品は,複式仕訳データを用いるこ
15 となく「貸借対照表勘定」及び「行政コスト計算書勘定」を作成するから,「複式
仕訳データを用いて…貸借対照表勘定…と行政コスト計算書勘定…を作成」を充足
するとはいえない。
⑶ 争点1-3(被告製品は構成要件B3を充足するか)について
【原告の主張】
20 被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「原告」欄中の該当箇所に記載のと
おりの構成を備えており,以下のとおり,構成要件B3を充足する。
ア 「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
段」,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」,「損益外純資産変動
計算書勘定作成・記録手段」について
25 (ア) 前記⑴【原告の主張】ア(ア),前記⑵【原告の主張】ア(ア)のとおり,本件発
明の「勘定」と「計算書」は同一の概念であり,また,「閉鎖残高勘定(貸借対照
表勘定)」は,資産(資金),負債,純資産の状態を記録,会計処理する勘定を意
味し,「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」は,費用,収益を記録,会計処理す
る勘定を意味する。
(イ) 被告製品は,純資産変動計算書勘定,記録手段(Ⅰ),財務諸表作成手段
5 (Ⅳ)及び記録手段(Ⅱ,Ⅲ)を備えており,「資金収支計算書勘定記憶手段及び
閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変
動計算書勘定)」,「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段」を充足する。
(ウ) また,構成要件B3及び本件明細書の段落【0025】ないし【0030】
(以下,本件明細書の段落については,単に「【0025】」などと示す。)によ
10 れば,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を表示できるものであれば,被
告が主張する財源仕訳が行われているか否かにかかわらず,「国家の政策レベルの
意思決定を記録・会計処理するため」に作成,記録される「処分・蓄積勘定(損益
外純資産変動計算書勘定)」に該当すると解すべきである。
もっとも,財源仕訳とは,世代間にわたる資源配分の公平性を認識,測定するた
15 め,純資産における内部変動を記録,計算する仕訳であり,財源仕訳をしなければ
純資産変動計算書を作成することは不可能であるところ,本件基準も財源仕訳を行
うことを当然の前提としており,被告製品でも財源仕訳は行われている。すなわち,
被告製品の純資産変動計算書の「余剰分(不足分)」の「不足分」は「財源措置
(C2)」に,「固定資産等の変動」の「固定資産等形成分」は「資産形成充当財
20 源(C4)」にそれぞれ該当する。
イ 「複式仕訳データを用いて…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
…を作成」について
被告製品は,複式仕訳データを用いて,純資産変動計算書勘定を作成しているか
ら,「複式仕訳データを用いて…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
25 …を作成」を充足する。
ウ 「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
段から…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)…を作成・記録」につい
て
(ア) 「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
段から…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)…を作成・記録」は,処
5 分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)が,資金収支計算書勘定,閉鎖残高
勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)との勘定科目間の
金額の連動(以下「勘定連絡」という。)を通じて作成,記録されること,すなわ
ち,ある取引を行った際に,財務諸表4表の勘定連絡を通じて,財務諸表4表の勘
定の金額が整合的に変動することを規定したものと解すべきである(本件明細書の
10 【0031】,図1等参照)。
(イ) 被告製品は,純資産変動計算書勘定が資金収支計算書勘定,行政コスト計算
書勘定及び貸借対照表勘定との勘定連絡を通じて作成,記録されるから,「資金収
支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段から…処分・
蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)…を作成・記録」を充足する。
15 【被告の主張】
ア 「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
段」,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」,「損益外純資産変動
計算書勘定作成・記録手段」について
(ア) 前記⑴【被告の主張】ア(ア)のとおり,本件発明の「勘定」と「計算書」は,
20 それぞれ別々に作成される異なる概念であり,被告製品は,純資産変動計算書勘定,
記録手段(Ⅰ),財務諸表作成手段(Ⅳ)及び記録手段(Ⅱ,Ⅲ)がないから,
「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」を
充足するとはいえない。
(イ) 仮に,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」及び「損益勘定(行政コスト計
25 算書勘定)」を前記⑵【被告の主張】ア(イ)のように解すると,被告製品は,対応
する構成を有していないから,その意味でも「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉
鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」を充足するとはいえない。
(ウ) 構成要件H及びIには,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」
は,借方に「純経常費用(C1)」及び「財源措置(C2)」を,貸方に「資産形
成充当財源(C4)」を備えることが明記されているところ,このように勘定科目
5 を用いて借方,貸方に記録するためには財源仕訳を行うことが不可欠であるが,本
件基準では財源仕訳が廃止されており,被告製品でも財源仕訳が行われていない。
したがって,被告製品の純資産変動計算書には,「財源措置(C2)」及び「資
産形成充当財源(C4)」に相当する勘定科目が存在せず,被告製品は,その意味
でも「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)」及び「損
10 益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段」を充足するとはいえない。
なお,被告製品の純資産変動計算書の「余剰分(不足分)」には,資金収支計算
書から転記された数字や転記された数字の正負を逆にした数字が記載されているが,
これらは財源仕訳によって得られた数字ではない。
イ 「複式仕訳データを用いて…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
15 …を作成」について
仮に,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」及び「損益勘定(行政コスト計算書
勘定)」を前記⑵【被告の主張】イのように解すると,被告製品は,複式仕訳デー
タを用いることなく「純資産変動計算書勘定」を作成するから,「複式仕訳データ
を用いて…損益外純資産変動計算書勘定…を作成」を充足するとはいえない。
20 ウ 「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
段から…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)…を作成・記録」につい
て
(ア) 被告製品の純資産変動計算書は,単式簿記システムにより作成された伝票デ
ータから変換した複式仕訳データに基づき作成されるから,「資金収支計算書勘定
25 記憶手段…損益勘定作成・記録手段から」を充足するとはいえない。
(イ) また,構成要件EないしGでは,勘定連絡について,「勘定連絡」,「振替
えられ」,「振り替えられ」という表現で規定されていることからすると,構成要
件B3の「…作成・記録手段から…」の「から」は,原告が主張するように,勘定
連絡について規定したものではないと解される。
(ウ) いずれにしても,被告製品は,純資産変動計算書の作成に貸借対照表が関係
5 しておらず,純資産変動計算書が資金収支計算書勘定,行政コスト計算書勘定及び
貸借対照表勘定との勘定連絡を通じて作成されていないから,「資金収支計算書勘
定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段から…処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)…を作成・記録」を充足するとはいえない。
⑷ 争点1-4(被告製品は構成要件Eを充足するか)について
10 【原告の主張】
被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「原告」欄中の該当箇所に記載のと
おりの構成を備えており,以下のとおり,構成要件Eを充足する。
ア 「資金収支計算書勘定」,「振替えられ」について
前記⑴【原告の主張】ア (イ)のとおり,被告製品は,資金収支計算書勘定を備え
15 ており,勘定連絡によって貸借対照表への振替が行われているから,「資金収支計
算書勘定」及び「振替えられ」を充足する。
イ 「資金収支計算書勘定(A)の期末の収支尻(貸借差額)(A3)が,当期
資金増減額として」について
(ア) 「振替」は,当期純資産変動額を,勘定連絡を通じて当期末の貸借対照表上
20 の純資産勘定に反映させる会計処理を意味するところ,本件明細書に,本件発明が,
会計期間の公準に従い,前年度期末残高を所与として各会計年度の資産変動を明確
にするものであることが示されていること(【0008】,【0010】,【00
21】),図2に,「前期末残高」,「当期純変動 将来世代の負担増減額」,
「当期末残高」と表示され,財務諸表が前年度末残高を取り込んで会計処理した上
25 で作成されることが明記されていることなどに照らせば,本件発明の「振替」は,
前年度末残高を踏まえて会計処理をするものと解すべきである。
(イ) 被告製品は,資金収支計算書の期末収支尻が当期資金増減残高として貸借対
照表上の現金預金勘定に振り替えられており,構成要件Eを充足する。
なお,被告製品は,歳計外現金を資金収支計算書に計上せずに貸借対照表に計上
しているが,このことは本件発明と矛盾するものではない。
5 【被告の主張】
ア 「資金収支計算書勘定」,「振替えられ」について
前記⑴【被告の主張】ア(イ)のとおり,被告製品は,資金収支計算書勘定がなく,
勘定間の勘定連絡を前提とする振替も行われていないから,「資金収支計算書勘定」
及び「振替えられ」を充足するとはいえない。
10 イ 「資金収支計算書勘定(A)の期末の収支尻(貸借差額)(A3)が,当期
資金増減額として」について
「資金収支計算書勘定(A)の期末の収支尻(貸借差額)」が「当期資金増減額」
である以上,資金収支計算書勘定が前年度末資金残高を加味しないことは明らかで
あるところ,被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「被告」欄中の該当箇所
15 に記載のとおり,「資金収支計算書の本年度末資金残高(本年度資金収支額+前年
度末資金残高)に本年度末歳計外現金残高を足したもの」が貸借対照表の現金預金
の額に対応しており,そこに資金収支計算書の「前年度末資金残高」及び「本年度
末歳計外現金残高」が含まれている点で,「資金収支計算書勘定(A)の期末の収
支尻(貸借差額)(A3)が,当期資金増減額として」を充足するとはいえない。
20 ⑸ 争点1-5(被告製品は構成要件Fを充足するか)について
【原告の主張】
被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「原告」欄中の該当箇所に記載のと
おりの構成を備えており,以下のとおり,構成要件Fを充足する。
ア 「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段」,「処分・蓄積勘定(損益
25 外純資産変動計算書勘定)」について
前記⑶【原告の主張】ア(イ)のとおり,被告製品は,純資産変動計算書勘定,財
務諸表作成手段(Ⅳ)及び記録手段(Ⅲ)を備えているから,「損益外純資産変動
計算書勘定作成・記録手段」及び「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)」を充足する。
イ 「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段の記録は,その期における損
5 益外の純資産増加(C3,C4)と純資産減少(C1,C2)の2つで構成され」
について
前記⑶【原告の主張】ア(ウ)のとおり,被告製品は,「財源措置(C2)」及び
「資産形成充当財源(C4)」に相当する構成を有しており,「損益外純資産変動
計算書勘定作成・記録手段の記録は,その期における損益外の純資産増加(C3,
10 C4)と純資産減少(C1,C2)の2つで構成され」を充足する。
ウ 「純経常費用(B7)が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
(C)の(C1)に振替えられ」について
構成要件Fの振替は,複式簿記の会計原則上,行政コスト計算書勘定の期末にお
ける貸方借方の差額(収支尻)が,当期期末の処分・蓄積勘定の純経常費用勘定に
15 勘定連絡を通じて反映される会計処理を意味する。
被告製品は,行政コスト計算書勘定の費用と収益の差額が,純行政コストとして,
純資産変動計算書の「財源の使途(うち純行政コスト)」に勘定連絡を通じて反映
されるから,「純経常費用(B7)が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)(C)の(C1)に振替えられ」を充足する。
20 【被告の主張】
ア 「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段」,「処分・蓄積勘定(損益
外純資産変動計算書勘定)」について
前記⑶【被告の主張】ア(ア),(ウ)のとおり,被告製品は,純資産変動計算書勘定,
財務諸表作成手段(Ⅳ)及び記録手段(Ⅲ)がないから,「損益外純資産変動計算
25 書勘定作成・記録手段」及び「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」
を充足するとはいえない。
イ 「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段の記録は,その期における損
益外の純資産増加(C3,C4)と純資産減少(C1,C2)の2つで構成され」
について
被告製品の純資産変動計算書は,別紙4被告製品説明書記載7の「被告」欄中の
5 該当箇所に記載のとおり,「その期における,前年度末純資産残高,純行政コスト,
財源,固定資産等の変動,資産評価差額,無償所管換等,その他及び本年度末純資
産残高」で構成されており,このうち,「その期における…純行政コスト」は構成
要件Fの「その期における…純資産減少(C1)」に,「その期における…財源」
は構成要件Fの「その期における損益外の純資産増加(C3)」にそれぞれ相当す
10 るものの,その他のものは構成要件Fに対応する構成が示されていない。
したがって,被告製品は,「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段の記録
は,その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資産減少(C1,C2)
の2つで構成され」を充足するとはいえない。
ウ 「純経常費用(B7)が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
15 (C)の(C1)に振替えられ」について
被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「被告」欄中の該当箇所に記載のと
おり,行政コスト計算書の純行政コストが純資産変動計算書の純行政コストに記載
されるのであって,振り替えられるわけではないから,「純経常費用(B7)が処
分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の(C1)に振替えられ」を
20 充足するとはいえない。
⑹ 争点1-6(被告製品は構成要件Gを充足するか)について
【原告の主張】
被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「原告」欄中の該当箇所に記載のと
おりの構成を備えており,以下のとおり,構成要件Gを充足する。
25 ア 「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」,「閉鎖残高勘定(貸
借対照表勘定)」について
前記⑵【原告の主張】ア(ア),前記⑶【原告の主張】ア(イ)のとおり,被告製品は,
純資産変動計算書勘定及び貸借対照表勘定を備えているから,「処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)」及び「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」を充
足する。
5 イ 「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の貸方と借方の差
額(収支尻)が,当期純資産変動額(C5)という形で…振り替えられて」につい
て
前記⑷【原告の主張】イ(ア)のとおり,本件発明の「振替」は,前年度末残高を
踏まえて会計処理をするものであるところ,被告製品も,「財源の使途(うち行政
10 コスト)」と「財源の調達」及び「固定資産等の変動」の収支尻(貸借差額)であ
る当期純資産変動額が貸借対照表上の純資産勘定に増減額として振替えられている
から,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の貸方と借方の差
額(収支尻)が,当期純資産変動額(C5)という形で…振り替えられて」を充足
する。
15 ウ 「振り替えられて…バランスし」について
被告製品の貸借対照表には,純資産変動計算書の本年度末純資産残高のうち「固
定資産等形成分」,「余剰分(不足分)」ともに記載されており,貸借対照表の純
資産の部に振り替えられて借方と貸方がバランスしているから,「振り替えられて
…バランスし」を充足する。
20 【被告の主張】
ア 「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」,「閉鎖残高勘定(貸
借対照表勘定)」について
前記⑵【被告の主張】ア(ア),前記⑶【被告の主張】ア(ア),(ウ)のとおり,被告
製品は,純資産変動計算書勘定及び貸借対照表勘定がなく,「処分・蓄積勘定(損
25 益外純資産変動計算書勘定)」及び「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」を充足す
るとはいえない。
イ 「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の貸方と借方の差
額(収支尻)が,当期純資産変動額(C5)という形で…振り替えられて」につい
て
処分・蓄積勘定の貸方と借方の差額(収支尻)が「当期純資産変動額(C5)」
5 である以上,前年度末純資産残高を加味したものではない。
被告製品では,別紙4被告製品説明書記載7の「被告」欄中の該当箇所に記載の
とおり,貸借対照表に記載されるのは純資産変動計算書の本年度末純資産残高のう
ち「固定資産等形成分」であり,これは前年度末純資産残高を加味したものである。
したがって,被告製品は,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
10 (C)の貸方と借方の差額(収支尻)が,当期純資産変動額(C5)という形で…
振り替えられて」を充足するとはいえない。
ウ 「振り替えられて…バランスし」について
被告製品は,純資産変動計算書の本年度末純資産残高のうち「余剰分(不足分)」
が貸借対照表に記載されない点で本件基準と異なっており,貸借対照表の「余剰分
15 (不足分)」は,純資産合計から「固定資産等形成分」を控除する計算によって算
出しているものであり,純資産変動計算書の本年度末純資産残高のうち「固定資産
等形成分」を貸借対照表の「固定資産等形成分」に記載した結果,貸借対照表の資
産合計と負債及び純資産合計がバランスするものではないから,「…振り替えられ
て…バランスし」を充足するとはいえない。
20 ⑺ 争点1-7(被告製品は構成要件Hを充足するか)について
【原告の主張】
被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「原告」欄中の該当箇所に記載のと
おりの構成を備えており,以下のとおり,構成要件Hを充足する。
ア 「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」,「財源措置」につい
25 て
前記⑶【原告の主張】ア(イ),(ウ)のとおり,被告製品は,純資産変動計算書勘定
を備えており,財源措置に相当する構成を備えているから,「処分・蓄積勘定(損
益外純資産変動計算書勘定)」及び「財源措置」を充足する。
イ 「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目もあるが,これ
は具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」について
5 (ア) 本件明細書には,財源措置が当期に費消した資源の総額を意味すること
(図1等)や「純経常費用(C1)」の内容が「純経常費用への財源措置」である
こと(【0026】等)が記載されており,「純経常費用(C1)」も,「財源措
置(C2)」と同様に,当期において費消した資源の総額である財源措置の一部で
あるから,「これは具体的に言えば…」の「これ」は,当期において費消した資源
10 の総額を示す財源措置,すなわち,「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C
2)」を指すと解すべきである。
また,本件明細書にも,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれるこ
とは明記されていない。
したがって,「社会保障給付」は「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C
15 2)」に含まれる具体例であると解すべきである。
(イ) 被告製品の社会保障給付は,行政コスト計算書勘定の「純行政コスト」に計
上され,純資産変動計算書の「財源の使途」に振り替えられており,この「財源の
使途」は「純経常費用(C1)」に該当する。
したがって,被告製品は,「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)とい
20 う項目もあるが,これは具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」を充足す
る。
【被告の主張】
ア 「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」,「財源措置」につい
て
25 前記⑶【被告の主張】ア(ア),(ウ)のとおり,被告製品は,純資産変動計算書勘定
及び「財源措置」に相当する勘定科目がないから,「処分・蓄積勘定(損益外純資
産変動計算書勘定)」及び「財源措置」を充足するとはいえない。
イ 「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目もあるが,これ
は具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」について
(ア) 「これ」が単数を示す指示語であることや,本件明細書【0026】,【0
5 027】,【0040】等によれば,「これは具体的に言えば…」の「これ」は
「財源措置(C2)」を指すと解すべきである。
したがって,社会保障給付は「財源措置(C2)」に含まれる。
(イ) 被告製品は,社会保障給付が行政コスト計算書の「純行政コスト」に計上さ
れるから,「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目もあるが,
10 これは具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」を充足するとはいえない。
⑻ 争点1-8(被告製品は構成要件Iを充足するか)について
【原告の主張】
被告製品は,別紙4被告製品説明書記載7の「原告」欄中の該当箇所に記載のと
おりの構成を備えており,以下のとおり,構成要件Iを充足する。
15 前記⑶【原告の主張】ア(イ),(ウ)のとおり,被告製品は,純資産変動計算書勘定
を備えており,資産形成充当財源及び財源措置に該当する構成を備えているから,
「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」,「資産形成充当財源」及び
「財源措置」を充足する。
【被告の主張】
20 前記⑶【被告の主張】ア(ア),(ウ)のとおり,被告製品は,純資産変動計算書勘定,
「資産形成充当財源」及び「財源措置」に相当する勘定科目がないから,「処分・
蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」,「資産形成充当財源」及び「財源措
置」を充足するとはいえない。
2 争点2(被告製品は,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属す
25 るか)について
【原告の主張】
仮に,構成要件Hの「これ」が「財源措置(C2)」を指し,社会保障給付は
「財源措置(C2)」に含まれると解したとしても,以下のとおり,社会保障給付
を行政コスト計算書に計上する被告製品は,本件発明と均等なものとして,その技
術的範囲に属する。
5 ⑴ 第1要件(非本質的部分)について
以下のとおり,社会保障給付を処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
の「財源措置(C2)」に含める構成は,本件発明の非本質的部分である。
ア 本件発明は,政策レベルの意思決定を正面から記録,計算する勘定がないた
めに政策立案に利用することが困難であった公会計に関する従来技術に対し,政策
10 レベルの意思決定を直接記録,計算する純資産変動計算書勘定を新たに設定し,当
該年度の政策決定による資産変動等を明確にするとともに,資金収支計算書勘定,
閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コスト計算書勘定)及び処分・
蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の4つの勘定の勘定連絡を設定すること
により,政策レベルの意思決定と将来の国民の負担をシミュレーションできる会計
15 処理方法をコンピュータで処理することを可能とし,今後の政策の方向性を決定す
ることを支援できるものであるから,本件発明の技術的思想の中核をなす特徴的原
理は,純資産変動計算書勘定の存在,上記4つの勘定の勘定連絡の設定,自動仕訳
と勘定連絡を通じ政策レベルの意思決定と将来の国民の負担をシミュレーションで
きる会計処理方法のプログラミングにある(本件明細書【0008】,【001
20 0】,【0021】,【0031】参照)。
これに対し,社会保障給付を行政コスト計算書に計上する被告製品の構成は,上
記の本件発明の特徴的原理と無関係の非本質的部分である。
イ また,社会保障給付を処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借
方の財源措置に計上する構成を,損益勘定(行政コスト計算書勘定)に計上する構
25 成に置換したとしても,損益勘定(行政コスト計算書勘定)は処分・蓄積勘定(損
益外純資産変動計算書勘定)に振り替えられるから,処分・蓄積勘定(損益外純資
産変動計算書勘定)の借方と貸方の差額(収支尻)に示されている損益外の純資産
変動額は同額となり,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を財務諸表の中
に表示することにより当該年度の政策決定による資産変動を明確にするとともに,
将来の国民の負担をシミュレーションできるという同一の作用効果を奏するから,
5 非本質的部分における相違にすぎない。
ウ また,3⑴【原告の主張】で後述するとおり,本件発明の構成は,「公会計
概念フレームワーク」(乙12の1)及び「別添ワークシート」(乙12の2。以
下,これらを一括して「乙12文献」という。)及び「憲法における公会計制度の
位置付けについて」(乙24。以下「乙24文献」という。)等によって容易に想
10 到し得たとはいえず,従来技術に対する本件発明の貢献の程度は大きいから,本件
発明の本質的部分は,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の導入に
より,将来世代に対して負担が現実的に先送りされた金額や将来利用可能な資源の
増加額を可視化する」という構成要件Hを上位概念化したものであって,被告製品
は,そのような構成を備えている。
15 ⑵ 第2要件(置換可能性)について
前記⑴イのとおり,社会保障給付を処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)の借方の財源措置に計上する構成を,損益勘定(行政コスト計算書勘定)に計
上する構成に置換したとしても,作用効果は同一である。
⑶ 第3要件(置換容易性)について
20 社会保障給付を行政コスト計算書に計上する被告製品の構成は,総務省が平成2
7年1月に作成した本件基準に示されているから,被告製品の製造時には,容易に
想到し得た。
⑷ 第5要件(意識的除外)について
社会保障給付を行政コスト計算書に計上する被告製品の構成は,本件特許の特許
25 請求の範囲から意識的に除外されていたとはいえない。その理由は次のとおりであ
る。
ア 原告は,本件特許の出願過程で,社会保障給付を行政コスト計算書に計上す
る被告製品の構成をあえて除外した又は放棄したという信頼を惹起させるような客
観的,外形的な表示を行っていない。
イ 社会保障給付を行政コスト計算書に計上する被告製品の構成を本件特許の特
5 許請求の範囲に記載しなかったというだけでは,当該構成が特許請求の範囲から意
識的に除外されていたとはいえない。
ウ 本件明細書に,社会保障給付を処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)の財源措置に計上する本件発明の構成を,行政コスト計算書に計上する被告製
品の構成に置換できる旨の記載はない。
10 エ 仮に,原告が本件出願日当時に公表した著書に,社会保障給付を国家の意思
決定の対象とすることが記載されていたとしても,社会保障給付を行政コスト計算
書に計上する被告製品の構成が本件特許の特許請求の範囲から意識的に除外された
などの第三者の信頼が生ずるとはいえない。
【被告の主張】
15 ⑴ 第1要件(非本質的部分)について
以下のとおり,社会保障給付を処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
の「財源措置(C2)」に含める構成は,本件発明の本質的部分である。
ア 本件出願日前に頒布された刊行物である乙12文献には,本件発明と同様の
課題を「財源措置・納税者持分増減計算書」を導入することによって解決すること
20 が記載されているから,本件明細書の課題の記載は,本件出願日当時の技術常識に
照らして客観的に見て不十分である。3⑴【被告の主張】で後述するとおり,本件
発明の構成は,乙12文献,乙24文献等によって容易に想到し得たものであり,
従来技術と比較して本件発明の貢献の程度は大きくないから,本件発明の本質的部
分は特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものである。
25 イ 社会保障給付を「純経常費用(C1)」に含めると,利益概念に無関係な社
会保障給付を損益勘定外で処理するために処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算
書勘定)を新たに導入した意義が失われる。
ウ 本件明細書【0008】に照らすと,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計
算書勘定)を新たに設定したことは,本件発明の本質的部分である。また,処分・
蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)は損益外の純資産変動を把握するための
5 ものであるから,損益外の取引である社会保障給付を,損益勘定(行政コスト計算
書勘定)ではなく,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に含めること
は,本件発明の本質的部分である。
エ 処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)は「国家の政策レベルの意
思決定を記録・会計処理するために」(構成要件B3)新たに導入されたものであ
10 るから,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の内容を規定した構成要
件Hも,本件発明の本質的部分である。
⑵ 第2要件(置換可能性)について
本件発明は,社会保障給付等の将来に対する影響の大きな支出を国家の政策レベ
ルの意思決定の対象とするために処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
15 を新たに導入したものであるのに対し,社会保障給付を損益勘定(行政コスト計算
書勘定)に計上すると,社会保障給付は政策レベルの意思決定の対象から外れ,政
策レベルの意思決定を支援する会計処理ができなくなるから,これらが同一の作用
効果を奏するとはいえない。
⑶ 第3要件(置換容易性)について
20 争う。
⑷ 第5要件(意識的除外)について
社会保障給付を行政コスト計算書に計上する被告製品の構成は,本件特許の特許
請求の範囲から意識的に除外されていた。その理由は次のとおりである。
ア 構成要件Hは,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の「財源措
25 置」が「損益外で財源を費消する取引」であり,損益勘定(行政コスト計算書勘定)
で処理されるものに当たらないことを明確に規定しているから,特許請求の範囲の
文言上,損益外の取引である社会保障給付が行政コスト計算書で処理される構成は
意識的に除外されている。
イ 本件明細書でも,社会保障給付は,国家の政策レベルの意思決定の対象とす
ることが明示されており,損益勘定(行政コスト計算書勘定)において行政レベル
5 の業務執行上の意思決定の対象とすることは除外されている。
ウ 社会保障給付を行政コスト計算書に計上する構成は,本件特許の出願当初の
明細書でも除外されており,平成23年2月18日付け手続補正書(乙8)による
補正においても,特許請求の範囲に記載されていないから,原告は,被告製品の構
成が本件発明の技術的範囲に属さないことを承認したか,外形的にそのように解さ
10 れるような行動をとったといえる。
エ 本件特許の出願過程で新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書として
提出された文献(乙5,37)及び同文献をより専門的に説明した原告の著書(乙
38)からも,社会保障給付を行政コスト計算書に計上する構成が本件発明から除
外されていることは明らかであり,第三者もそのように信頼する。
15 3 争点3(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
⑴ 争点3-1(本件発明は進歩性を欠くか)について
【被告の主張】
本件発明は,本件出願日前に頒布された刊行物である乙12文献に記載された発
明(以下「乙12発明」という。)等に基づき,当業者が容易に想到し得たもので
20 あり,進歩性を欠く。その理由は次のとおりである。
ア 本件発明と乙12発明の相違点
(ア) 乙12発明は,別紙5「乙12発明」のとおりのものであり,本件発明と次
の各点で相違するものの,その余の構成で一致する。
a 本件発明(構成要件A,C)は,財務諸表を作成する工程が「会計処理のた
25 めのコンピュータシステム」により実現されるのに対し,乙12発明は,財務諸表
を作成する工程がコンピュータを用いて実現されているかが明らかでない点(以下
「相違点1」という。)。
b 本件発明(構成要件B1)は,「予算を含む,従来の単式簿記システムによ
り作成された伝票データから」資金(現金及び現金同等物)の受入と払出を有する
資金収支計算書勘定を作成,記録する「資金収支計算書勘定記憶手段」を有するの
5 に対し,乙12発明は,「予算を含む,従来の単式簿記システムにより作成された
伝票データから」資金収支計算書勘定が作成されるかが明らかでなく,作成した資
金収支計算書勘定を記録しているかも明らかでない点(以下「相違点2」とい
う。)。
c 本件発明(構成要件B2)は,「資金収支計算書勘定記憶手段から,前記伝
10 票データを変換して複式簿記での伝票データとした複式仕訳データを用いて」閉鎖
残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)を作成してお
り,また,作成した閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)と損益勘定(行政コスト計算
書勘定)を記録する「閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」を有するのに対
し,乙12発明は,「…複式仕訳データを用いて」閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)
15 及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)を作成するかが明らかでなく,作成した閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)と損益勘定(行政コスト計算書勘定)を記録する手
段を有しているかも明らかでない点(以下「相違点3」という。)。
d 本件発明(構成要件B3)は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高
勘定及び損益勘定作成・記録手段から,さらに,前記複式仕訳データを用いて,国
20 家の政策レベルの意思決定を記録・会計処理するために」処分・蓄積勘定(損益外
純資産変動計算書勘定)を作成し,また,作成した処分・蓄積勘定(損益外純資産
変動計算書勘定)を記録する「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段」を有
するのに対し,乙12発明は,これらに対応する構成を有するかが明らかでない点
(以下「相違点4」という。)。
25 e 本件発明(構成要件D)は,「作成した財務諸表を表示する財務諸表表示手
段」を備えるのに対し,乙12発明は,対応する構成を備えているか明らかでない
点(以下「相違点5」という。)。
f 本件発明(構成要件E)は,「資金収支計算書勘定(A)の期末の収支尻
(貸借差額)(A3)が,当期資金増減額として,貸借対照表上の資金勘定(B1)
に振替えられ」るのに対し,乙12発明は,そのような振替えが行われているか明
5 らかでない点(以下「相違点6」という。)。
g 本件発明(構成要件F)は,「損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段
の記録」が「その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資産減少(C
1,C2)の2つで構成され」ているのに対し,乙12発明は,対応する構成を有
するかが明らかでない点(以下「相違点7」という。)。
10 h 本件発明(構成要件I)は,「資産形成充当財源」が「処分・蓄積勘定(損
益外純資産変動計算書勘定)(C)の貸方側(勘定の右側)に計上される」のに対
し,乙12発明は,「税資金による資本形成見返負債」が「貸借対照表の貸方側
(勘定の右側)に計上される」点(以下「相違点8」という。)。あるいは,本件
発明(構成要件I)は,「資産形成充当財源」が「処分・蓄積勘定(損益外純資産
15 変動計算書勘定)」(C)の貸方側(勘定の右側)に計上され」,「将来世代も利
用可能な資産が,当期どれだけ増加したかを示している」のに対し,乙12発明は,
「税資金による資本形成見返負債」が「貸借対照表の貸方側(勘定の右側)に計上
され」るものの,「将来世代も利用可能な資産が,当期どれだけ増加したかを示し
ている」かが明らかでない点(以下「相違点8´」という。)。
20 i 本件発明(構成要件J)は,「会計処理コンピュータシステム」であるのに
対し,乙12発明は,そのような構成を有するか明らかでない点(以下「相違点9」
という。)。
(イ) 以下のとおり,原告が主張する相違点は認められない。
a 原告は,構成要件B2との関係で,乙12発明は,公会計貸借対照表勘定が
25 「一般会計関連調整勘定」という勘定科目を含むことからも本件発明と相違する旨
主張するが,本件発明は,閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の構成要素として「資
金(現金及び現金同等物)(B1)」,「資産(資金以外)(B2)」,「負債
(B3)」,「純資産(B4)」を規定するにとどまり,他の構成要素を限定して
いないから,本件発明と乙12発明が上記の点で相違するとはいえない。
b 原告は,構成要件B3及びFとの関係で,乙12発明は,財源措置・納税者
5 持分増減計算書勘定が「資産形成充当財源(C4)」に対応する構成を有していな
い点でも本件発明と相違する旨主張するが,構成要件B3及びFでは,処分・蓄積
勘定(損益外純資産変動計算書勘定)が「資産形成充当財源(C4)」を有すると
いう特定はされていないから,本件発明と乙12発明が上記の点で相違するとはい
えない。
10 c 原告は,構成要件Gとの関係でも,乙12発明は本件発明と相違する旨主張
するが,別紙5「乙12発明」該当欄のとおり,乙12文献には,財源措置・納税
者持分増減計算書勘定の貸方と借方の差額(収支尻)が公会計貸借対照表勘定の納
税者持分の部に要約される構成が開示されているから,本件発明と乙12発明が上
記の点で相違するとはいえない。
15 d 原告は,構成要件Iとの関係で,乙12発明の「税資金による資本形成見返
負債」が「資産形成充当財源(C4)」と対応しないことを主張するが,別紙5
「乙12発明」該当欄のとおり,構成要件Iに係る相違点8又は8´以外の構成は
乙12文献に開示されている。
イ 周知技術等
20 原告が主張するように,資金収支計算書勘定と資金収支計算書,貸借対照表勘定
と貸借対照表,行政コスト計算書勘定と行政コスト計算書,純資産変動計算書勘定
と純資産変動計算書がいずれも同じ意味であるとすると,本件出願日当時,①財務
諸表を会計処理のためにコンピュータシステムにより作成する技術(乙13ないし
18),②仕訳データから資金収支計算書勘定を作成する技術(乙13ないし1
25 6),③単式簿記システムにより作成された伝票データから仕訳データを作成する
技術(乙18ないし21),④作成された財務諸表に対応する勘定を記憶手段に記
憶する技術(乙16,22,23),⑤複式仕訳データから貸借対照表勘定,行政
コスト計算書勘定を作成する技術(乙13ないし16,18,21),⑥国家の政
策レベルの意思決定を記録・会計処理する技術(乙24,25),⑦作成した財務
諸表を表示する技術(乙13,15,16,18),⑧期末の収支尻が当期資金増
5 減額として貸借対照表上の資金勘定に振り替えられる技術(乙26,27),⑨資
産形成充当財源が損益外純資産変動計算書勘定の貸方側(勘定の右側)に計上され
る技術(乙24,39)はいずれも周知であった(以下,番号順に「周知技術1」
などという。)。
周知技術9については,仮に周知のものでなかったとしても,本件出願日当時,
10 乙24文献,「公会計制度改革の理論と実践」(乙39。以下「乙39文献」とい
う。)から公知技術であったといえる(以下,乙24文献に基づく公知技術を「公
知技術1」といい,乙39文献に基づく公知技術を「公知技術2」という。)。
また,本件出願日当時,コンピュータシステムによって作成した財務諸表に対応
する勘定をコンピュータ上に記憶することは技術常識(以下「本件技術常識」とい
15 う。)であった。
ウ 容易想到性
周知技術1ないし9,公知技術1及び2,本件技術常識は,いずれも財務諸表の
作成に関する乙12発明と同一の技術分野に属するものであり,乙12発明に適用
する動機付けがあるから,以下のとおり,当業者は,乙12発明にこれらを適用し
20 て相違点1ないし8又は8´に係る本件発明の構成を容易に想到し得た。
(ア) 相違点1及び9
当業者は,乙12発明に周知技術1を適用して本件発明の構成とすることを容易
に想到し得た。
(イ) 相違点2
25 当業者は,乙12発明に周知技術2ないし4又は周知技術2,3及び本件技術常
識を適用して本件発明の構成とすることを容易に想到し得た。
(ウ) 相違点3
当業者は,乙12発明に周知技術3ないし5を適用して本件発明の構成とするこ
とを容易に想到し得た。
(エ) 相違点4
5 当業者は,乙12発明に周知技術6を適用して本件発明の構成とすることを容易
に想到し得た。
(オ) 相違点5
当業者は,乙12発明に周知技術7を適用して本件発明の構成とすることを容易
に想到し得た。
10 (カ) 相違点6
当業者は,乙12発明に周知技術8を適用して本件発明の構成とすることを容易
に想到し得た。
(キ) 相違点7
当業者は,乙12発明に周知技術4又は本件技術常識を適用して本件発明の構成
15 とすることを容易に想到し得た。
(ク) 相違点8又は8´
当業者は,乙12発明に周知技術9を適用して,又は,公知技術1又は2を適用
して本件発明の構成とすることを容易に想到し得た。
また,「資産形成充当財源」が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
20 の貸方と貸借対照表の貸方のどちらに計上されても,将来世代も利用可能な資産が
当期どれだけ増加したかを示していることに変わりないから,当業者は,乙12発
明の構成を適宜に変更して本件発明の構成とすることを容易に想到し得た。
【原告の主張】
本件発明は,乙12発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。その理由は次の
25 とおりである。
ア 本件発明と乙12発明の相違点
本件発明と乙12発明は,被告が主張する相違点1ないし7及び9に加えて,次
の各点でも相違する。
(ア) 本件発明の「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」は,「企業会計における複
式簿記・発生主義会計として用いられてきた」(構成要件B2)ものであるのに対
5 し,乙12発明の公会計貸借対照表勘定は,「一般会計関連調整勘定」という公会
計に特有の勘定科目を含む点で「企業会計における複式簿記・発生主義会計として
用いられてきた」ものではない点(以下「相違点10」という。)。
(イ) 本件発明の「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」(構成要件
B3,F)は,当期純資産変動額というフロー情報のみならず,「財源措置として
10 支出がなされ,財源を費消することにより増加した,将来世代も利用可能な資産の
額」というストック情報も表示する「資産形成充当財源(C4)」を構成要素とす
るものであるのに対し,乙12発明の財源措置・納税者持分増減計算書勘定は,フ
ロー情報のみを構成要素としており,「資産形成充当財源(C4)」に対応する構
成を有していない点(以下「相違点11」という。)。
15 (ウ) 本件発明(構成要件G)は,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)(C)の貸方と借方の差額(収支尻)が,当期純資産変動(C5)という形で,
最終的には(B)の閉鎖残高勘定(貸借対照表)の純資産(国民持分)(B4)の
部に振り替えられ」るのに対し,乙12発明は,これに対応する構成を有している
かが明らかでない点(以下「相違点12」という。)。
20 (エ) 本件発明(構成要件I)は,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)(C)の貸方側(勘定の右側)に計上される資産形成充当財源(C4)は,財
源措置として支出がなされた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ
資産のように将来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時
点で政府の純資産(国民持分)がまるまる毀損したわけではなく,何らかの資源が
25 現金以外の形で会計主体としての政府の内部に残っていると考えることができ,将
来世代も利用可能な資産が,当期どれだけ増加したかを示しているのが資産形成充
当財源(C4)であることを特徴とする」のに対し,乙12発明は,これに対応す
る構成を有していない点。
なお,乙12発明の「税資金による資本形成見返負債」は,財源措置としての支
出相当額を計上するものであり,「固定資産等(インフラ資産のように将来にわた
5 って利用可能な資産)の残高」を計上する「資産形成充当財源(C4)」と対応し
ない。
イ 周知技術等
被告が主張する周知技術等は,いずれも企業会計における財務諸表作成に関する
ものであり,公会計における財務諸表作成に関するものではない。
10 ウ 容易想到性
以下のとおり,当業者において,少なくとも,相違点8又は8´,10及び12
に係る本件発明の構成を容易に想到し得たとはいえない。
(ア) 相違点8又は8´
a 前記のとおり,乙12発明の財源措置・納税者持分増減計算書は,フロー情
15 報のみを構成要素とし,「税資金による資本形成見返負債」は,ストック情報を示
す貸借対照表勘定に計上されるから,乙12発明の構成を本件発明の構成に変更す
るためには,勘定組織,勘定体系の重要な体系変更が必要となる。
しかしながら,ストック情報をも示す「資産形成充当財源」が処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)の構成要素となることは乙12文献,乙24文献
20 及び乙39文献に記載されていないから,当業者が本件発明の構成を想到すること
は不可能又は著しく困難である。
b 乙12文献は,公会計の会計基準の理論的側面に偏重した文献であり,公会
計の会計基準を実務的使用に耐え得る形で完成させた本件発明をする動機付けがな
い。
25 (イ) 相違点10
乙12発明の構成から本件発明の構成に変更するためには,貸借対照表勘定の貸
方に「税資金による資本形成見返負債」を計上する構成を,処分・蓄積勘定(損益
外純資産変動計算書勘定)の貸方に「資産形成充当財源」を計上する構成に置換す
る必要があるが,同一の経済事象を異なる勘定科目に計上することは,仕訳の内容
及び財務諸表の体系の変更を伴い,適切な勘定連絡の設定が必要となる。
5 しかしながら,被告が指摘する乙12文献等に,仕訳の内容及び財務諸表の体系
の変更,各勘定間の勘定連絡等について示唆する記載はなく,当業者が本件発明の
構成を想到することは不可能又は著しく困難である。
(ウ) 相違点12
乙12発明の財源措置・納税者持分増減計算書勘定は従来技術に見られないもの
10 であるが,被告が指摘する乙12文献等に,どのように勘定連絡を行うかは記載さ
れていないから,当業者が本件発明の構成を想到することは不可能又は著しく困難
である。
⑵ 争点3-2(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)について
【被告の主張】
15 次のア,イの各点で,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は本件明細書によっ
てサポートされておらず,本件特許は特許法36条6項1号に違反している。
ア 構成要件B1「伝票データから…資金収支計算書勘定(A)を記録する」に
ついて
前記1⑴【被告の主張】イ(ア)のとおり,「伝票データから…資金収支計算書勘
20 定(A)を記録する」は,伝票データから,直接,資金収支計算書勘定を作成,記
録することを意味すると解すべきであるが,本件明細書【0065】ないし【00
68】には,従来の単式簿記システムにより作成された伝票データを変換して複式
簿記でのデータとした複式仕訳データを使用することを前提とする記載があるから,
当業者は,伝票データから複式仕訳データに変換することなく,資金収支計算書勘
25 定を記録すると認識することはできず,また,「国民が将来負担するべき負債や将
来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援できる会計処理方法
および会計処理を行うためのプログラムを記録した記憶媒体を提供する」(本件明
細書【0007】)という本件発明の課題を解決できると認識することもできない。
イ 構成要件B2及びB3「複式仕訳データ」について
構成要件B2及びB3には,「複式仕訳データ」を用いて,閉鎖残高勘定(貸借
5 対照表勘定),損益勘定(行政コスト計算書勘定)及び処分・蓄積勘定(損益外純
資産変動計算書勘定)を作成することが規定されているが,本件明細書には,「複
式仕訳データ」について,仕訳マスタに関する記載(【0066】,【0067】)
がある程度であるから,当業者は,「複式仕訳データ」を用いて,上記の各勘定を
作成すると認識することはできない。
10 【原告の主張】
以下のとおり,本件特許は特許法36条6項1号に違反しているとはいえない。
ア 構成要件B1「伝票データから…資金収支計算書勘定(A)を記録する」に
ついて
前記1⑴【原告の主張】イ(ア)のとおり,「伝票データから…資金収支計算書勘
15 定(A)を記録する」が,伝票データから,直接,資金収支計算書勘定を作成,記
録することを意味するものと解することはできないから,被告の主張は前提を欠く。
イ 構成要件B2及びB3「複式仕訳データ」について
本件明細書の図5は,単式簿記データである歳入歳出予算又は決算から複式仕訳
に自動変換するなど複式簿記による自動仕訳がされ,各勘定間の勘定連絡を通じて
20 財務諸表4表が自動仕訳により作成されることを示している。この複式仕訳データ
は,資金収支計算書勘定のほか,閉鎖残高勘定,損益勘定及び処分・蓄積勘定を作
成,記録する際にも用いられるから,本件発明の財務諸表4表に複式仕訳データを
利用することは当然の前提である。
したがって,当業者が,複式仕訳データを用いて,閉鎖残高勘定(貸借対照表勘
25 定),損益勘定(行政コスト計算書勘定)及び処分・蓄積勘定(損益外純資産変動
計算書勘定)を作成すると認識することができないとはいえない。
⑶ 争点3-3(本件特許は特許法36条6項2号に違反しているか)について
【被告の主張】
次のアないしエの各点で,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は明確でなく,
本件特許は特許法第36条第6項第2号に違反している。
5 ア 構成要件B1「予算を含む」について
前記1⑴【被告の主張】ウ(ア)のとおり,「予算を含む」は「伝票データ」を修
飾すると解されるが,そうすると,「予算を含む…伝票データ」は,過去の事象を
対象とする「伝票データ」に過去のものでない「予算」が含まれることになってし
まい,意味するところが不明である。
10 イ 構成要件B2「資金収支計算書勘定記憶手段から」について
「資金収支計算書勘定記憶手段から」が,どの用語を修飾するか不明である。
ウ 構成要件B2「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」,「損益勘定(行政コス
ト計算書勘定)」について
「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」及び「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」
15 という記載から,「閉鎖残高勘定」と「貸借対照表勘定」,「損益勘定」と「行政
コスト計算書勘定」はいずれも同じ意味のように読めるが,企業会計における複式
簿記,発生主義会計として用いられてきた「閉鎖残高勘定」と「貸借対照表勘定」,
「損益勘定」と「行政コスト計算書勘定」はいずれも異なる意味であるから,「閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」が,企業会計における複式簿記,発生主義会計と
20 して用いられてきた「閉鎖残高勘定」又は「貸借対照表勘定」のいずれの意味か,
別の意味か,また,「損益勘定(行政コスト計算書勘定)」が,企業会計における
複式簿記,発生主義会計として用いられてきた「損益勘定」又は「損益計算書勘定」
のいずれの意味か,別の意味か不明である。
エ 構成要件B3「前記資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益
25 勘定作成・記録手段から」について
「前記資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
段から」が,どの用語を修飾するか不明である。
【原告の主張】
以下のとおり,本件特許は特許法第36条第6項第2号に違反しているとはいえ
ない。
5 ア 構成要件B1「予算を含む」について
前記1⑴【原告の主張】ウ(ア)のとおり,「予算を含む」は,その直後の「従来
の単式簿記システム」を修飾しており,「予算を含む,従来の単式簿記システム」
が,決算及び予算のいずれも伝票データを作成するシステムが単式簿記システムで
あることを意味することは明確である。
10 イ 構成要件B2「資金収支計算書勘定記憶手段から」について
本件明細書【0023】ないし【0026】,【0030】,図1,図2に照ら
せば,「資金収支計算書勘定記憶手段から」の「から」が,閉鎖残高勘定,損益勘
定及び処分・蓄積勘定との勘定連絡を通じて,閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及
び損益勘定(行政コスト計算書勘定)を作成,記録することを意味することは明確
15 である。
ウ 構成要件B2「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」,「損益勘定(行政コス
ト計算書勘定)」について
前記1⑵【原告の主張】ア(ア)のとおり,「閉鎖残高勘定」と「貸借対照表勘
定」,「損益勘定」と「損益計算書勘定」はいずれも同じ意味であると理解するの
20 が通常であり,その意味は明確である。
エ 構成要件B3「前記資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益
勘定作成・記録手段から」について
「前記資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
段から」が「拡張された処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~
25 C4)を作成・記録する」を修飾することは明らかである。また,前記1⑶【原告
の主張】ウ(ア)のとおり,「前記資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及
び損益勘定作成・記録手段から…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
…を作成・記録」は,処分・蓄積勘定が,資金収支計算書勘定,閉鎖残高勘定及び
損益勘定との勘定連絡を通じて作成,記録されることを規定したものであり,その
解釈は一義的で明確である。
5 4 争点4(原告の請求は権利の濫用か)について
【被告の主張】
仮に被告製品が本件発明の技術的範囲に属するとしても,原告の請求は権利の濫
用(民法1条3項)に当たり許されない。その理由は次のとおりである。
⑴ 本件基準は,総務省が作成した財務諸表の作成基準であるから,被告のよう
10 に本件基準に準拠した製品を製造,販売しようとする第三者は,少なくとも過去に
総務省による財務書類の作成基準の作成に関与した者が保有する特許については,
将来,無償のライセンスを受けられるであろうと信頼する。
⑵ 原告は,本件基準の作成に関与しているほか,総務省が作成した財務書類の
作成基準である「基準モデル」の作成者として氏名が公表されており,本件特許に
15 ついては,将来,無償のライセンスを受けられるであろうという信頼を惹起してい
るから,本件基準に準拠した被告製品を製造,販売する被告に対し,原告が本件特
許権に基づき権利行使することを許容することは,上記の信頼を害する。
【原告の主張】
原告の請求が権利の濫用に当たるとはいえない。その理由は次のとおりである。
20 ⑴ 特許権の行使が権利濫用となるのは,専ら権利行使の相手方を害する意図や
不当な図利目的を有する場合など特許法の目的に明確に反する場合に限定すべきと
ころ,原告はそのような意図や目的を有していない。
⑵ 第三者に対し,将来,無償のライセンスを受けることができるという正当な
信頼を惹起させたというためには,少なくとも,FRAND宣言のように,特許権
25 者が,第三者に対し,将来,ライセンス契約締結に応じる旨の積極的な意思表明等
をする必要があるところ,原告はそのような積極的な意思表明等を行っていない。
⑶ 地方公共団体が本件基準に従って財務書類を作成する義務を負わない以上,
被告のような会計処理システムの開発ベンダーは,必ずしも本件基準に準拠する公
会計処理システムを開発しなければならないものではない。
⑷ 原告は,被告との間でライセンス交渉を行っていたものの,その際,被告は,
5 ライセンス契約に応じる意向を全く示さなかった。そのような被告との関係で,原
告が本件特許権を行使することが権利の濫用となることはない。
5 争点5(損害の発生の有無及びその額)について
【原告の主張】
⑴ 特許法102条3項
10 被告製品の平成29年1月1日から平成30年3月31日までの売上は,2億5
500万円を下らない。
また,本件発明の技術分野,被告製品の市場,コスト構造,類似事例,実務慣行
に照らせば,本件発明の実施に係る相当な実施料率は,10%を下らない。
したがって,原告が被った損害額(特許法102条3項)は,2550万円を下
15 らない。
⑵ 弁護士費用
弁護士費用に係る損害額は,250万円が相当である。
【被告の主張】
争う。
20 第4 当裁判所の判断
1 本件発明の概要に関する事実認定について
⑴ 本件明細書の発明の詳細な説明
本件明細書の発明の詳細な説明は,概要,次のとおりであり,引用される図1,
図2(以下,別紙6「図面(本件明細書)」の番号に従い,「図1」 「図2」とい
,
25 う。)は,別紙6「図面(本件明細書)」記載1,2のとおりである(甲2)。
ア 技術分野
「本発明は,会計処理方法であって,特に,国や地方自治体などの公会計におけ
る会計処理方法および当該会計処理をコンピュータで処理するためのプログラムを
記録した記録媒体に関する。(
」【0001】)
イ 背景技術
5 「公会計は,国家の政策レベルの意思決定,すなわち国家の行く末や進むべき方
向性に関するビジョンの設定,さらに予算を通じた大枠としての資源の調達と配分
に関する意思決定をその対象とする。そして公会計の目的は,単なる企業会計と同
様の会計処理の観点にとどまらず,むしろそのような国家の政策レベルの意思決定
の責任と是非について検証可能な情報を提供することを通じて,政策レベルの意思
10 決定そのものを方向付け,また規律付けるという政治の観点を含むものである。従
って企業会計のように,「損益勘定」を重視するのではなく,政策レベルの意思決
定を直接,記録・会計処理することが重要である。(
」【0002】)
「従来の現金主義に基づく公会計は,政府としての政策レベルの意思決定を示し
ていることは間違いない。しかし,資金勘定(資金収支計算書勘定)が示している
15 のは資金(現金及び現金同等物)の増減にすぎない。(
」【0003】)
「これまでの資金勘定(資金収支計算書勘定)が公会計のメインフレームとして
使われていた理由は,国家の所有者である国民の代表者が国会で決めた予算に対し
て,法規範性を持たせて厳しくチェックするためには,どこから財源を調達してど
のように使ったのかを完全に把握する必要があったからである。 (
」 【0004】)
20 「従来の現金主義に基づく公会計は,政策レベルの意思決定を反映する「鏡」の
ようなものだと考えることができ,資金(現金及び現金同等物)の増減という「鏡」
を見ることで,間接的に国家の政策レベルの意思決定を把握することができるが非
常に分かりづらく,政策レベルの意思決定に利用することは困難である。これに対
して,政策レベルの意思決定を正面から記録・計算する勘定が要求される。 (
」 【0
25 005】)
ウ 発明が解決しようとする課題
「本発明の課題は,国民が将来負担するべき負債や将来利用可能な資源を明確に
して,政策レベルの意思決定を支援できる会計処理方法および会計処理を行うため
のプログラムを記録した記憶媒体を提供することである。 (
」【0007】)
エ 課題を解決するための手段
5 「本発明では,上記の課題を解決するために,純資産の変動計算書勘定を新たに
設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にするとともに,将来の国民の
負担をシミュレーションできる会計処理方法を提案した。(
」【0008】)
「このような会計処理により,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を財
務諸表のなかに表示することができるので,国民の資産が当期の予算措置で増える
10 のかまたは減るのか,また,その財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増える
のかまたは減るのかを一目で知ることが出来る。したがって,政策決定者は純資産
変動額を勘案して政策を遂行することができる。(
」【0010】)
オ 発明の効果
「本発明によれば,純資産の変動計算書勘定を新たに設定し,当該年度の政策決
15 定による資産変動を明確にするとともに,将来の国民の負担をシミュレーションで
きる会計処理方法をコンピュータで処理することができる。これにより,政策の意
思決定者が汎用のコンピュータを使ってデータを入力するだけで,当期における純
資産の変動額に関する会計処理ができ,さらに,シミュレーションを行い,その結
果を政策の意思決定に反映させることができる。さらに,純資産の変動額を織り込
20 んだ貸借対照表を作成することができ,国が所有する国民の資産と負債の総額が明
確になり,償還するべき負債総額と財政収入のバランスから,今後の政策の方向性
を決定するのを支援できる効果を発揮する。 (
」 【0021】)
カ 発明を実施するための最良の形態
「まず,図1の(A)の部分が示すのは,従来,単式簿記・現金主義会計で扱っ
25 てきた資金(現金及び現金同等物)の受入と払出を記録・会計処理する資金収支計
算書勘定である。期末の収支尻(貸借差額)が,当期資金増減額として,図 1 の
(B)貸借対照表上の資金勘定に振替えられることとなる。これが資金勘定(資金
収支計算書勘定)と閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の間での勘定連絡である。」
(【0023】)
「次に,(B)の部分が示すのは,従来,企業会計における複式簿記・発生主義
5 会計として用いられてきた閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)と損益勘定(行政コス
ト計算書勘定)である。なお,現在,証券取引法適用企業についてはキャッシュフ
ロー計算書の作成も義務付けられているが,通常,キャッシュフロー計算書は,期
中の仕訳を経ずに期末に貸借対照表及び損益計算書を組替えて作成されるにとどま
っている。従って,現在,企業会計で用いられている勘定体系の中心は,(B)の
10 部分の閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)と損益勘定(行政コスト計算書勘定)であ
る。(
」【0024】)
「そして,(C)の部分が,主として国家の政策レベルの意思決定を記録・会計
処理するために,本発明により拡張された処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算
書勘定)である。処分・蓄積勘定は,(B)の損益勘定(行政コスト計算書勘定)
15 の収支尻を「純経常費用」として受入れるとともに,処分・蓄積勘定自体の収支尻
である「当期純資産変動額」を(B)の貸借対照表上の純資産の部に振替えること
となる。(
」【0025】)
「(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の構成は,その期に
おける損益外の純資産増加と純資産減少の二つである。まず,(B)の損益勘定
20 (行政コスト計算書勘定)の収支尻(貸借差額)である純経常費用が(C)の処
分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に振替えられてくる。公共部門の場
合は,一般事業会社と違って自分で収益を上げるということはほとんど想定されて
いないので,(B)の損益勘定(行政コスト計算書勘定)の収支尻(貸借差額)は
赤字になると考えられる。そこで,ここではマイナスの形で表現しているが,それ
25 がそのまま(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方側(勘
定の左側)に純経常費用への財源措置として振り替えられてくる。これは人件費や
旅費等の純経常費用(収益-費用)として,財源が費消されていることを意味する。
それに対する財源の調達は,税収等の形でなされるものであるが,それは当期利用
可能な資源,すなわち財源の増加額として貸方側(勘定の右側)に計上される。」
(【0026】)
5 「一方で,(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方側
(勘定の左側)には純経常費用と並んで財源措置という項目もあるが,これは具体
的に言えば社会保障給付や,インフラ資産を整備した際の資本的支出のような,損
益外で財源を費消する取引のことを指している。(
」【0027】)
「最後に,(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方側
10 (勘定の右側)に計上される資産形成充当財源について説明する。財源措置として
支出がなされた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように
将来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政府の純
資産(国民持分)がまるまる毀損したわけではなく,何らかの資源が現金以外の形
で会計主体としての政府の内部に残っていると考えることができる。そこで,将来
15 世代も利用可能な資産が,当期どれだけ増加したかを示しているのが資産形成充当
財源である。(
」【0028】)
「別の言い方をすれば,財源とは,税収や他会計からの繰入金のように現金など
の形で流動性の高い資源として流入してきた未使用の資源を意味する一方で,資産
形成充当財源とは,そのような財源が固定資産などに転化したもの,すなわち税収
20 等の財源が使用されて減少したが,将来世代が利用可能な資産の形で増加したと解
釈できるものを計上することになる。 (
」【0029】)
「そして,(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方と借
方の差額(収支尻)が,当期純資産変動額という形で,最終的には(B)の閉鎖残
高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)の部に振り替えられて,(B)の
25 閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の借方(左側)と貸方(右側)がバランスするこ
とになる。(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の収支尻(貸
借差額)である当期純資産変動額がここで表現されているようにマイナスになる場
合は,国民の持分である純資産を食い潰していることを意味する。これは本来であ
れば当期において現役世代の負担において財源の手当てをすべきだったのに,財源
不足に陥ったため,将来の利用可能な資産か純資産(国民持分)の一部を食い潰し
5 たということであり,将来世代がいずれこの部分を穴埋めしなければならなくなる。
従って,マイナスの当期純資産変動額とは,当期に処理しきれなかった歪みであっ
て,将来世代に対して負担が現実的に先送りされた金額だと考えることができる。」
(【0030】)
「このようにして,この発明による会計処理方法によって表示・計算される将来
10 利用可能な資源の増加額や,将来世代への負担の先送り金額が明らかになることと
なる。そして,こうした勘定連絡(勘定科目間の金額の連動)をきちんと設定して
おくことによって,本発明による会計処理の特徴であるシミュレーション機能が現
実に可能となる。一つの勘定科目の金額が変動した場合に,公会計の勘定体系であ
る(A)(B)(C)のすべてが連動して他の勘定科目に対する金額的な波及効果が
15 完全に計算可能となるからである。(
」【0031】)
「予算編成上の意思決定を行うためには,財政政策による資源配分の変更を行う
ことによって政府の財務諸表上にどのような波及効果が生じるのかを予測しながら
意思決定を行わなければならない。これを可能とするために,本発明による会計処
理の勘定連絡の設定が有効に機能する。(
」【0032】)
20 「図2に,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の一実施例を示す。
…」【0033】
( )
「図2において,左側上部の行政コスト(経常損益)すなわち行政にかかる費用
は,当期中に損益勘定(行政コスト計算書勘定)で処理すべき総費用及び総収益を
計上する。この表では,とりあえず通常の企業会計で用いられる発生形態別分類に
25 準拠して経常費用を計上することとしているが,勘定科目の設定は,現在,政府で
用いている歳入・歳出項目であっても差し支えない。(
」【0034】)
「行政コスト(経常損益)の小計,すなわち経常損益財源の変動は,図1で示し
た損益勘定(行政コスト計算書勘定)の収支尻(貸借差額)である純経常費用に一
致する。その金額は,純経常費用を補填するための財源措置として図1の(C)で
表される損益外純資産変動計算区分の最上部に計上される。(
」【0035】)
5 「損益勘定(行政コスト計算書勘定)は,主として行政レベルの業務執行上の意
思決定を対象とするので,行政コスト(損益)計算区分に計上される行政コスト
(経常損益)は少なければ少ないほど効率的な行政運営であることを意味する。」
(【0036】)
「図2において,左側中段にある財源の使途(損益外財源の減少)に属する勘定
10 科目群は,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方側に計上される
科目である。ここは主として国家の政策レベルの意思決定として,どこにどれだけ
の資源を配分するかということを表示する部分である。これは現役世代によって構
成される内閣及び国会が,予算編成上,どこにどれだけの資源を配分すべきかを意
思決定し,当該会計期間中に費消する資源の金額である。(
」【0037】)
15 「財源の使途(損益外財源の減少)とは,当該会計期間中における損益勘定(行
政コスト計算書勘定)に計上されない純資産(国民持分)の減少原因であって,当
期に費消可能な資源の流出をいう。この表では,その金額を損益外純資産変動計算
区分において財源措置(当期費消する資源の総額)として計上している。 (
」 【00
38】)
20 「具体的には,まず資本形成への財源措置として,固定資産形成のための資本的
支出額を計上している。例えば文教関連であれば,国立大学法人で施設整備する場
合の資本的支出額を計上する。通常の公共事業の場合は道路や橋への資本的支出額
を計上する。次に,貸付金・出資金への財源措置として,金融資産を形成すること
となる貸付・出資金額を計上する。例えば中小企業対策として国民金融公庫などの
25 連結対象特殊法人等を経由して,当期に(期間一年以上の)貸付を行った金額を計
上する。経済協力の場合も,例えば円借款でどの国にいくら貸付を行ったか,その
金額を計上する。さらに預金保険機構を通じて金融機関に対する資本注入を行った
場合も,その出資金額を計上することとなる。これらは,国民の純資産として将来
に残る資産の科目からなる財源措置と区分される。(
」【0039】)
「そして補助金・社会保障給付等の移転支出への財源措置については,非交換性
5 の支出(対価なき移転支出)金額を計上する。その他,国債整理基金のような減債
基金を設定している場合には,減債基金への繰入額(元本分)を計上する。これら
は,国民の純資産として将来に残る資産の科目以外の科目からなる財源措置と区分
される。(
」【0040】)
「この表では財源の使途(損益外財源の減少)の勘定科目分類として,とりあえ
10 ず性質別に固定資産形成,金融資産形成,非交換性の支出という形式としているが,
この他にももちろん事務事業・施策単位など別の勘定科目分類を設定することも可
能であり,国民の純資産として将来に残る資産の科目とそれ以外の科目に区分でき
ればよい。(
」【0041】)
「このようにして,会計処理に必要なデータが揃うと,図2に示すような損益外
15 純資産変動計算書をはじめ貸借対照表,損益計算書,資金収支計算書などの財務諸
表を同時に作成することができる。(
」【0068】)
「次に,本発明の特徴であるシミュレーションについて説明する。損益外純資産
変動計算書には,行政コストと,当期に費消する財源措置で国民の純資産として将
来に残る資産の科目からなる財源措置とそれ以外の科目からなる財源措置と,当期
20 に調達する財源で国民の純資産として将来に残る資産の科目からなる財源とそれ以
外の科目からなる財源と,国民の純資産として将来に残る資産の原因別増減額と,
再評価による差額と,国民の純資産として将来に残る資産の原因別増減額充当のた
めに手当てされた財源と,会計処理により,それらから導き出された現役世代の負
担額と,将来世代の負担額,赤字公債相当額,建設公債相当額などの金額が表の中
25 に表示される。(
」【0069】)
「本発明によるシミュレーションは,現役世代の負担額と,将来世代の負担額,
赤字公債相当額,建設公債相当額などの金額に,目標とするべき金額を設定して,
行政コストや財源措置をどのように調整すれば目標とするべき金額が達成できるか
を演算するための手順を予め複数のプログラムとして設定する。 (
」 【0070】)
「例えば,将来世代の負担額を,最初に作成した損益外純資産変動計算書での金
5 額に対してX%減額した金額(シミュレーション時に入力する)を目標とするとき,
この減額を,行政コストの削減と整備新幹線の財源措置からの削減と住宅補助の財
源措置からの削減を行うとして,それぞれの削減額の限度を設けて増減額を変数と
し,その組み合わせを求める演算手順をシミュレーションの手順として設定する。」
(【0071】)
10 「このようなシミュレーションの手順は,目標を設定する項目と,増減を行う財
政措置の項目を選択して変数とする複数のプログラムとして設定され,政策決定を
行うユーザが何れかのプログラムを選択できるようにしている。シミュレーション
の結果は,複数の増減額の組み合わせの表またはグラフとして表示される。 (
」 【0
072】)
15 「例えば,政策決定者が,将来世代の負担額を,最初に作成した損益外純資産変
動計算書での金額に対して20%減額した金額を目標とするとき,例えば,行政コ
ストと住宅補助を10%以下の削減にとどめ,整備新幹線の財源措置を増減すると
したら,どのような増減額の組み合わせができるかをシミュレーションすることが
できる。政策決定者は,その結果を比較検討して,どの財源措置をどう変更するの
20 が,現在と将来のために最もよいのかを,予算立案時に,具体的に検討することが
できる。(
」【0073】)
⑵ 本件発明の概要
前記第2の2⑵イ認定の本件特許の特許請求の範囲,前記⑴認定の本件明細書の
発明の詳細な説明及び図面に照らせば,本件発明の概要は次のとおりであると認め
25 られる。
ア 本件発明は,会計処理方法であって,特に,国や地方自治体などの公会計に
おける会計処理方法及び当該会計処理をコンピュータで処理するためのプログラム
を記録した記録媒体に関する(【0001】 。
)
イ 従来の現金主義に基づく公会計は,資金(現金及び現金同等物)の増減を見
ることによる間接的な政策レベルの意思決定の把握を可能とするものであったが,
5 わかりづらいものであり(【0005】 ,本件発明は,このことに鑑みて,国民が
)
将来負担するべき負債や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定
を支援することができる会計処理方法及び会計処理を行うためのプログラムを記録
した記憶媒体を提供することを課題とし(【0007】 ,この課題を解決するため
)
の手段として,純資産の変動計算書勘定を新たに設定し,当該年度の政策決定によ
10 る資産変動を明確にするとともに,将来の国民の負担をシミュレーションすること
ができる会計処理方法を提案するものである(【0008】。
)
ウ より具体的な作用効果をみると,本件発明は,従来の公会計において単式簿
記システムで扱ってきた資金(現金及び現金同等物)の受入と払出を記録する資金
収支計算書勘定,企業会計における複式簿記・発生主義会計として用いられてきた
15 閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)に加えて,
国家の政策レベルの意思決定を記録し,会計処理をするために,処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)を新たに設定し(構成要件B1ないしB3),資
金収支計算書勘定と閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コスト計算
書勘定)と処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定),処分・蓄積勘定(損
20 益外純資産変動計算書勘定)と閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の各勘定連絡を前
提として(構成要件EないしG),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
に,当該年度における純資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,C2)並
びにこれらの差額(収支尻)である純資産変動額(C5)が表示される構成を採用
することにより(構成要件FないしI),当該年度の政策決定による資産変動を明
25 確にするとともに,将来の国民の負担をシミュレーションすることができるという
ものである(【0008】【0010】【0021】。
, , )
2 争点1(被告製品は,文言上,本件発明の技術的範囲に属するか)について
事案に鑑み,争点1-3及び争点1-7について検討する。
⑴ 争点1-3(被告製品は構成要件B3を充足するか)について
ア 「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
5 段から…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)…を作成・記録」の意義
(ア) 構成要件B3は,「前記資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び
損益勘定作成・記録手段から,さらに,前記複式仕訳データを用いて,国家の政策
レベルの意思決定を記録・会計処理するために,拡張された処分・蓄積勘定(損益
外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)を作成・記録する損益外純資産変動計算
10 書勘定作成・記録手段と」というものであり,「前記資金収支計算書勘定記憶手段
及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段から」との部分は「拡張された処
分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1~C4)を作成・記録する」
という文言を修飾する表現であると認められるところ,「から」は起点を示す助詞
であり,作成,記録されるのは「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」
15 という「勘定」である。そうすると,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高
勘定及び損益勘定作成・記録手段から…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)…を作成・記録」の意義は,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
が,「資金収支計算書勘定記憶手段」に記憶される資金収支計算書勘定並びに「閉
鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手段」に作成,記録される閉鎖残高勘定(貸借
20 対照表勘定)及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)を基に作成,記録されるもの
と解するのが文理上自然であり,相当である。
(イ) この点,原告は,構成要件B3について,処分・蓄積勘定(損益外純資産変
動計算書勘定)が,資金収支計算書勘定,閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損
益勘定(行政コスト計算書勘定)との勘定連絡を通じて作成,記録されること,す
25 なわち,ある取引を行った際に,財務諸表4表の勘定連絡を通じて,財務諸表4表
の勘定の金額が整合的に変動することを規定したものと解すべきである(本件明細
書【0031】,図1等参照)と主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,その主張を裏付けるものとして本件明細書の
【0031】の記載や図1を掲げていることからすれば,処分・蓄積勘定(損益外
純資産変動計算書勘定)が,資金収支計算書勘定との直接の勘定連絡がないものを
5 含むものをいうと解されるところ,これは,構成要件B3にいう「から」について,
勘定連絡があることを意味するとの解釈を前提とするとしても,構成要件B3の
「資金収支計算書勘定記憶手段…から…処分・蓄積勘定…を作成・記録」との文言
に反するものであって,採用することはできない。
そして,本件明細書の【0031】の記載や図1は,その前後の記載とともに,
10 カ及び図1のとおり,Aで
示される資金収支計算書勘定(以下「A部分」ということもある。)とBで示され
る閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)(以下
「B部分」ということもある。)との間,B部分とCで示される処分・蓄積勘定
(損益外純資産変動計算書勘定)(以下「C部分」ということもある。)との間で,
15 それぞれ勘定連絡が図られている会計処理方法を示すものであるところ,ここでは,
C部分について,B部分だけではなくA部分との勘定連絡があることが示されてい
ないから,A部分とC部分との勘定連絡を説明していない点で,構成要件B3を説
明するものではなく,ここで示される構成が構成要件B3に含まれると解すること
はできない。
20 イ 被告製品の充足性
これを被告製品についてみると,別紙4被告製品説明書記載3ないし6のとおり,
被告製品では,純資産変動計算書の「純行政コスト△」が行政コスト計算書の借方
と貸方の差額(収支尻)である「純行政コスト」から振替を受けているものの,純
資産変動計算書が資金収支計算書及び貸借対照表から振替を受けているとは認めら
25 れない。
そうすると,被告製品の純資産変動計算書が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動
計算書勘定)に対応する構成を備え,行政コスト計算書が損益勘定(行政コスト計
算書勘定)に対応する構成を備えていること,純資産変動計算書が行政コスト計算
書から振替を受けていることをもって,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)が損益勘定(行政コスト計算書勘定)によって作成,記録されているといる
5 ことを前提とするとしても,被告製品は,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算
書勘定)が資金収支計算書勘定及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)によって作成,
記録される構成を有するとはいえない。
したがって,被告製品は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び
損益勘定作成・記録手段から…処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)…
10 を作成・記録」を充足するとはいえない。
⑵ 争点1-7(被告製品は構成要件Hを充足するか)について
ア 「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目もあるが,これ
は具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」の意義
(ア)a 構成要件Hは,「一方で,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
15 (C)の借方側(勘定の左側)には純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)
という項目もあるが,これは具体的に言えば社会保障給付や,インフラ資産を整備
した際の資本的支出のような,損益外で財源を費消する取引のことを指しており」
というものであり,「これ」が指すものは,上記の文脈及び「これ」が単数を示す
指示語であることに加えて,文理上,「損益外で財源を費消する取引」を計上する
20 ものを指すと認められることからすれば,その直前の「財源措置(C2)」であり,
その具体例として「社会保障給付」や「インフラ資産を整備した際の資本的支出」
が挙げられていると認めるのが相当である。すなわち,処分・蓄積勘定(損益外純
資産変動計算書勘定)は「国家の政策レベルの意思決定を記録・会計処理するため」
(構成要件B3)に作成,記録されるものではあるものの,その借方に計上される
25 「純経常費用(C1)」は,「企業会計における複式簿記・発生主義会計として用
いられてきた…損益勘定(行政コスト計算書勘定)」(構成要件B2)の「収支尻
(貸借差額)である純経常費用(B7)が…振り替えられ」(構成要件F)るもの
にすぎないから,「損益外で財源を費消する取引」が計上されるものではない。
b そして,上記のような解釈は,次の本件明細書の説明とも整合する。
すなわち,本件明細書には,図2で,本件発明の処分・蓄積勘定(損益外純資産
5 変動計算書勘定)の実施例が開示されているところ,図2の「行政コスト(経常損
益)」に関しては,「左側上部の行政コスト(経常損益)すなわち行政にかかる費
用は,当期中に損益勘定(行政コスト計算書勘定)で処理すべき総費用及び総収益
を計上する。」(【0034】),「行政コスト(経常損益)の小計,すなわち,
経常損益財源の変動は,…損益勘定(行政コスト計算書勘定)の収支尻(貸借差額)
10 である純経常費用に一致する。その金額は,純経常費用を補填するための財源措置
として図1の(C)で表される損益外純資産変動計算区分の最上部に計上される。」
(【0035】 ,「損益勘定(行政コスト計算書勘定)は,主として行政レベルの
)
業務執行上の意思決定を対象とする」 【0036】
( )などと記載されているのに対
し,図2の「財源の使途(損益外財源の減少)」に関しては,「ここは主として国家
15 の政策レベルの意思決定として,どこにどれだけの資源を配分するかということを
表示する部分である。 (
」 【0037】,
)「財源の使途(損益外財源の減少)とは,当
該会計期間中における損益勘定(行政コスト計算書勘定)に計上されない純資産
(国民持分)の減少原因であって,当期に費消可能な資源の流出をいう。この表で
は,その金額を損益外純資産変動計算区分において財源措置(当期費消する資源の
20 総額)として計上している。」【0038】
( )などと説明されている。
これらの説明に照らせば,図2の「行政コスト(経常損益)」は,行政レベルの
業務執行上の意思決定の対象を示すものであり,その小計,すなわち,収支尻が処
分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に計上されるものであるから,本件
発明の「純経常費用(C1)」に対応すると認められるのに対し,図2の「財源の
25 使途(損益外財産の減少)」は,国家の政策レベルの意思決定の対象を示すもので
あり,損益勘定(行政コスト計算書勘定)に計上されない純資産の減少原因を示す
ものであるから,本件発明の「財源措置(C2)」に対応すると認められる。
また,本件明細書は,「財源の使途(損益外財源の減少)」について,上記の
【0038】の説明に続けて,「具体的には,まず資本形成への財源措置として,
固定資産形成のための資本的支出額を計上している。…次に,貸付金・出資金への
5 財源措置として,金融資産を形成することとなる貸付・出資金額を計上する。…こ
れらは,国民の純資産として将来に残る資産の科目からなる財源措置と区分され
る。(
」【0039】,
) 「そして補助金・社会保障給付等の移転支出への財源措置につ
いては,非交換性の支出(対価なき移転支出)金額を計上する。その他,国債整理
基金のような減債基金を設定している場合には,減債基金への繰入額(元本分)を
10 計上する。これらは,国民の純資産として将来に残る資産の科目以外の科目からな
る財源措置と区分される。」 【0040】 ,
( ) 「この表では財源の使途(損益外財源
の減少)の勘定科目分類として,とりあえず性質別に固定資産形成,金融資産形成,
非交換性の支出という形式としているが…」 【0041】
( )などとして,社会保障
給付が,非交換性の支出(対価なき移転支出)であり,将来に残る資産の科目以外
15 の科目として,「財源の使途(損益外財源の減少)」に含まれることを示している。
c 以上のとおり,構成要件Hの「これ」は「財源措置(C2)」を指しており,
社会保障給付は「財源措置(C2)」に含まれるものと解すべきである。
(イ) この点,原告は,「社会保障給付」は「純経常費用(C1)と並んで財源措
置(C2)」に含まれる具体例であると解すべきであるとし,その理由として,①
20 本件明細書には,財源措置が当期に費消した資源の総額を意味すること(図1等)
や「純経常費用(C1)」の内容が「純経常費用への財源措置」であること(【0
026】等)が記載されており,「純経常費用(C1)」も,「財源措置(C2)」
と同様に,当期において費消した資源の総額である財源措置の一部であるから,
「これは具体的に言えば…」の「これ」は,当期において費消した資源の総額を示
25 す財源措置,すなわち,「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)」を指す
と解すべきであること,②本件明細書に「社会保障給付」が「財源措置(C2)」
に含まれることは明記されていないことなどを主張する。
しかしながら,「これ」が「損益外で財源を費消する取引」を指すものであるこ
とは構成要件Hの文理上明らかであるから,ここに「純経常費用(C1)」が含ま
れると解することはできない。このことをひとまず措くとしても,「純経常費用
5 (C1)」と「財源措置(C2)」は,いずれも当該年度における純資産の変動を
示す処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方に計上されるものであ
って,これらが当期に費消した資源に係るものであるのは当然であるところ,前記
のとおり,「純経常費用(C1)」は,行政レベルの業務執行上の意思決定の対象
を示すものであり,損益勘定(行政コスト計算書勘定)から振替を受けるものであ
10 るのに対し,「財源措置(C2)」は,国家の政策レベルの意思決定の対象を示す
ものであり,損益勘定(行政コスト計算書勘定)に計上されない純資産の減少原因
を示すものであって,両者は性質を異にしているから,「これ」という単数を示す
指示語が「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)」という性質の異なる二
つのものを指すという原告の上記①の主張は採用することができない。
15 また,前記のとおり,本件明細書には,「財源措置(C2)」に対応する構成と
して,「財源の使途(損益外財源の減少)」が開示されており,社会保障給付は,
非交換性の支出(対価なき移転支出)であり,将来に残る資産の科目以外の科目と
して,「財源の使途(損益外財源の減少)」に含まれることが示されているから,原
告の上記②の主張も採用することができない。
20 イ 被告製品
これを被告製品についてみると,別紙4被告製品説明書記載3,4のとおり,被
告製品では,社会保障給付は,補助金等と共に行政コスト計算書に計上されており,
行政コスト計算書の借方と貸方の差額(収支尻)である「純行政コスト」が純資産
変動計算書の「純行政コスト(△)」に振り替えられているものの,純資産変動計
25 算書には,この収支を基礎付ける勘定科目(社会保障給付を含む)及びその金額が
示されていないことが認められる。
そうすると,被告製品の行政コスト計算書が損益勘定(行政コスト計算書勘定)
に対応する構成を備え,純資産変動計算書が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計
算書勘定)に対応する構成を備えていること,行政コスト計算書の「純行政コスト」
から純資産変動計算書の「純行政コスト(△)」への振替をもって,社会保障給付
5 が「純経常費用(C1)」に含まれているといえることを前提とするとしても,被
告製品は,社会保障給付が「財源措置(C2)」に含まれているとは認められない。
したがって,被告製品は,「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)とい
う項目もあるが,これは具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」を充足す
るとはいえない。
10 ⑶ 小括
以上のとおり,被告製品は,少なくとも構成要件B3及びHを充足するとはいえ
ない。
3 争点2(被告製品は,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属す
るか)について
15 前記2のとおり,被告製品は,少なくとも,①純資産変動計算書が資金収支計算
書及び貸借対照表から振替を受けておらず,構成要件B3を充足しない点,②社会
保障給付が行政コスト計算書に計上されており,構成要件Hを充足しない点で本件
発明と異なる部分が存するところ,原告は,上記②について,被告製品は,本件発
明と均等なものとして,その技術的範囲に属すると主張するので,以下に検討する。
20 ⑴ 均等の要件
特許請求の範囲に記載された構成に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法
(対象製品等)と異なる部分が存する場合であっても,①当該部分が特許発明の本
質的部分ではなく(第1要件),②当該部分を対象製品等におけるものと置き換え
ても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって
25 (第2要件),③そのように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の
時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),④対象製品等
が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該出願時に容易
に推考できたものではなく(第4要件),かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出
願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の
事情もないとき(第5要件)は,当該対象製品等は,特許請求の範囲に記載された
5 構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解される(最高裁
平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号
113頁,最高裁平成28年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判
決・民集71巻3号359頁参照)。
⑵ 第1要件(非本質的部分)
10 ア 特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なか
った技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想
に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあることに照らす
と,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のう
ち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべ
15 きである。
イ これを本件についてみると,前記のとおり,本件発明は,従来の現金主義に
基づく公会計では,政策レベルの意思決定に利用することは困難であったことに鑑
みて,国民が将来負担するべき負債や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベ
ルの意思決定を支援することができる会計処理方法及び会計処理を行うためのプロ
20 グラムを記録した記憶媒体を提供することを課題とし,その課題を解決するための
手段として,純資産の変動計算書勘定を新たに設定し,当該年度の政策決定による
資産変動を明確にするとともに,将来の国民の負担をシミュレーションすることが
できる会計処理方法を提案するものである。
そして,前記のとおり,本件発明の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
25 定)は,国家の政策レベルの意思決定を記録,会計処理するために設定された勘定
であるのに対し,資金収支計算書勘定は,従来の公会計において単式簿記システム
で扱ってきた資金(現金及び現金同等物)の受入と払出を記録するものであり,閉
鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定(行政コスト計算書勘定)も,企業会
計における複式簿記・発生主義会計として用いられてきたものであるから,本件発
明の課題解決手段である当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の国民
5 の負担のシミュレーションは,国家の政策レベルの意思決定を対象とする処分・蓄
積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)によって行われるものと解するのが相当で
ある。その上で,本件発明は,資金収支計算書勘定と閉鎖残高勘定(貸借対照表勘
定),損益勘定(行政コスト計算書勘定)と処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計
算書勘定),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と閉鎖残高勘定(貸
10 借対照表勘定)の各勘定連絡を前提として,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計
算書勘定)に,当該年度における純資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,
C2)並びにこれらの差額(収支尻)である純資産変動額(C5)が表示される構
成を採用しており,将来の国民の負担をシミュレーションするためには資産変動の
内訳も認識される必要があると認められることにも照らせば,本件発明の課題解決
15 手段である当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の国民の負担のシミ
ュレーションは,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に表示される純
資産増加(C3,C4)及び純資産減少(C1,C2)並びにこれらの差額(収支
尻)である純資産変動額(C5)によって行われるものと解するのが相当である。
また,上記のような解釈は,本件発明によるシミュレーションに関する本件明細
20 書の説明とも整合する。すなわち,本件明細書には,「次に,本発明の特徴である
シミュレーションについて説明する。損益外純資産変動計算書には,行政コストと,
当期に費消する財源措置で国民の純資産として将来に残る資産の科目からなる財源
措置とそれ以外の科目からなる財源措置と,当期に調達する財源で国民の純資産と
して将来に残る資産の科目からなる財源とそれ以外の科目からなる財源と,国民の
25 純資産として将来に残る資産の原因別増減額と,再評価による差額と,国民の純資
産として将来に残る資産の原因別増減額充当のために手当てされた財源と,会計処
理により,それらから導き出された現役世代の負担額と,将来世代の負担額,赤字
公債相当額,建設公債相当額などの金額が表の中に表示される。 (
」 【0069】 ,
)
「本発明によるシミュレーションは,現役世代の負担額と,将来世代の負担額,赤
字公債相当額,建設公債相当額などの金額に,目標とするべき金額を設定して,行
5 政コストや財源措置をどのように調整すれば目標とするべき金額が達成できるかを
演算するための手順を予め複数のプログラムとして設定する。(
」 【0070】)など
として,本件発明によるシミュレーションについて,損益外純資産変動計算書に表
示される行政コスト,財源措置,財源及び資産の原因別増減額等から導き出される
現役世代の負担額,将来世代の負担額,赤字公債相当額及び建設公債相当額等によ
10 って行われることが説明されており,本件発明の課題解決手段である当該年度の政
策決定による資産変動の明確化や将来の国民の負担のシミュレーションが処分・蓄
積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に表示される純資産増加(C3,C4)及
び純資産減少(C1,C2)並びに純資産変動額(C5)によって行われるという
上記の解釈と整合する。
15 そうすると,本件発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,国家の政策レベルの
意思決定に係る会計処理を対象とする処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘
定)を採用した上で,同勘定に表示される純資産減少(C1,C2)を構成する勘
定科目の内容を具体的に規定する構成要件Hは,本件発明の課題解決手段を具体化
する特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると認めるのが相当である。
20 したがって,本件発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,社会保障給付等の損
益外で財源を費消する取引を「財源措置(C2)」に含める構成(構成要件H)は,
本件発明の本質的部分であると認められる。
ウ この点,原告は,社会保障給付を処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書
勘定)の「財源措置(C2)」に含める構成は,本件発明の非本質的部分であると
25 し,その理由として,①本件発明の技術的思想の中核をなす特徴的原理は,純資産
変動計算書勘定の存在,4つの勘定の勘定連絡の設定,自動仕訳と勘定連絡を通じ
政策レベルの意思決定と将来の国民の負担をシミュレーションできる会計処理方法
のプログラミングにあり(本件明細書【0008】,【0010】,【0021】,
【0031】参照),社会保障給付を行政コスト計算書に計上する被告製品の構成
は,本件発明の特徴的原理と無関係であること,②社会保障給付を処分・蓄積勘定
5 (損益外純資産変動計算書勘定)の借方の財源措置に計上する構成を,損益勘定
(行政コスト計算書勘定)に計上する構成に置換したとしても,損益勘定(行政コ
スト計算書勘定)は処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)に振り替えら
れるから,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方と貸方の差額
(収支尻)に示されている損益外の純資産変動額は同額となり,純資産変動額や将
10 来償還すべき負担の増減額を財務諸表の中に表示することにより当該年度の政策決
定による資産変動を明確にするとともに,将来の国民の負担をシミュレーションで
きるという同一の作用効果を奏することなどを主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件発明は,国家の政策レベルの意思決定を対象
とするものとして,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)という新たな
15 勘定を設定するものであり,当該年度の政策決定による資産変動の明確化や将来の
国民の負担のシミュレーションを通じた政策レベルの意思決定の支援は,処分・蓄
積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)によって実現されるものと解するのが相当
であり,本件明細書においても,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
以外の勘定を用いて将来の国民の負担のシミュレーション等が行われることは説明
20 されていない(原告が指摘する本件明細書【0031】は,適切な勘定連絡を設定
することがシミュレーションをする前提として必要になることを説明するものであ
り,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)以外の勘定を用いてシミュレ
ーションを行うことを説明するものとは認められない。)。
そうすると,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の借方に計上され
25 る金額の総額及び貸借差額が結果的に同一になるとしても,処分・蓄積勘定(損益
外純資産変動計算書勘定)以外の勘定を参照しなければ,国家の政策レベルの意思
決定に関する勘定科目(社会保障給付を含む)及びその金額が明らかにならないよ
うな構成は,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)を通じて国家の政策
レベルの意思決定を支援する本件発明とは作用効果が異なるというべきである。
エ また,原告は,従来技術に対する本件発明の貢献の程度は大きいから,本件
5 発明の本質的部分は,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の導入に
より,将来世代に対して負担が現実的に先送りされた金額や将来利用可能な資源の
増加額を可視化する」という構成要件Hを上位概念化したものであって,被告製品
は,そのような構成を備えていると主張する。
原告の主張は必ずしも明確でないが,従来技術に対する本件発明の貢献の程度に
10 照らし,本件発明の構成のうち,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)
の設定以外のものは非本質的部分であると主張する趣旨であれば,本件出願日前に
頒布された刊行物である乙12文献において,資金収支計算書勘定,貸借対照表勘
定及び行政コスト計算書勘定に加えて,納税者,すなわち,国民の資産の変動を明
らかにするための勘定として,財源措置・納税者持分増減計算書勘定を設ける構成
15 が示されていることに照らし,少なくとも,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計
算書勘定)の設定のみを従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的
部分であると認めることはできないから,採用することができない。
オ そこで,被告製品をみると,被告製品では,前記のとおり,社会保障給付が
行政コスト計算書に計上されており,純資産変動計算書には,行政コスト計算書の
20 収支を基礎付ける勘定科目(社会保障給付を含む)及びその金額が示されていない
ことが認められ,「純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目もあ
るが,これは具体的に言えば社会保障給付や…を指しており」(構成要件H)を充
足するとはいえないから,本件発明と本質的部分において相違する。したがって,
被告製品は,均等の第1要件を満たすとはいえない。
25 ⑶ 小括
以上のとおり,被告製品は,均等の第1要件を満たさないから,被告製品が,本
件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するとはいえない。
第5 結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれ
も理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
10 山 田 真 紀
裁判官
15 西 山 芳 樹
裁判官棚橋知子は,転補のため,署名押印をすることができない。
裁判長裁判官
山 田 真 紀
(別紙一覧)
別紙1 当事者目録
別紙2 物件目録
5 別紙3 特許請求の範囲(本件発明)
別紙4 被告製品説明書
別紙5 乙12発明
別紙6 図面(本件明細書)
(別紙1)
当事者目録
原 告 Z
5 同訴訟代理人弁護士 生 田 哲 郎
同 高 橋 隆 二
同 寺 島 英 輔
被 告 株 式 会 社 T K C
10 同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋
同 和 田 祐 造
同 梶 井 啓 順
同 山 口 宏
同 高 島 良 樹
15 同 大 澤 光
同 大 友 潤
同補佐人弁理士 蔵 田 昌 俊
同 野 河 信 久
同 峰 隆 司
20 同 中 島 千 尋
(別紙2)
物件目録
1 TASKクラウド会計システム
5 2 TASKクラウド固定資産管理システム
3 TASKクラウド連結財務書類作成システム
(別紙3)
特許請求の範囲(本件発明)
財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステムであって,
5 予算を含む,従来の単式簿記システムにより作成された伝票データから資金(現
金及び現金同等物)の受入(A1)と払出(A2)を有する資金収支計算書勘定
(A)を記録する資金収支計算書勘定記憶手段と,
資金収支計算書勘定記憶手段から,前記伝票データを変換して複式簿記での伝
票データとした複式仕訳データを用いて,企業会計における複式簿記・発生主義
10 会計として用いられてきた閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)(B1~B4)と損
益勘定(行政コスト計算書勘定)(B5~B7)を作成・記録する閉鎖残高勘定
及び損益勘定作成・記録手段と,
前記資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定及び損益勘定作成・記録手
段から,さらに,前記複式仕訳データを用いて,国家の政策レベルの意思決定を
15 記録・会計処理するために,拡張された処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算
書勘定)(C1~C4)を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記
録手段と,
処理された結果で,資金収支計算書,貸借対照表,損益外純資産変動計算書,損
益勘定行政コスト計算書をふくむ,少なくとも1つ以上の財務諸表を作成する財
20 務諸表作成手段と,
作成した財務諸表を表示する財務諸表表示手段とを備え,
資金収支計算書勘定(A)の期末の収支尻(貸借差額)(A3)が,当期資金
増減額として,貸借対照表上の資金勘定(B1)に振替えられ,資金収支計算書
勘定と貸借対照表勘定の間での勘定連絡であり,
25 損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段の記録は,その期における損益外
の純資産増加(C3,C4)と純資産減少(C1,C2)の2つで構成され,前
記損益勘定(行政コスト計算書勘定)の収支尻(貸借差額)である純経常費用
(B7)が処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の(C1)に
振替えられ,
処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の貸方と借方の差額
5 (収支尻)が,当期純資産変動額(C5)という形で,最終的には(B)の閉鎖
残高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)(B4)の部に振り替えられ
て,(B)の閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の借方(左側)と貸方(右側)が
バランスし,
一方で,処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の借方側(勘
10 定の左側)には純経常費用(C1)と並んで財源措置(C2)という項目もある
が,これは具体的に言えば社会保障給付や,インフラ資産を整備した際の資本的
支出のような,損益外で財源を費消する取引のことを指しており,
処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C)の貸方側(勘定の右側)に
計上される資産形成充当財源(C4)は,財源措置として支出がなされた場合,財
15 源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将来にわたって利用可能
な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政府の純資産(国民持分)がまる
まる毀損したわけではなく,何らかの資源が現金以外の形で会計主体としての政府
の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資産が,当期どれ
だけ増加したかを示しているのが資産形成充当財源(C4)であることを特徴とす
20 る会計処理コンピュータシステム。
(別紙4)
被告製品説明書
1 財務書類作成の流れ(本件基準)
2 貸借対照表(本件基準様式第1号)
別添
3 行政コスト計算書(本件基準様式第2号)
別添
4 純資産変動計算書(本件基準様式第3号)
5 資金収支計算書(本件基準様式第4号)
別添
6 財務書類4表構成の相互関係(本件基準)
7 主張対比表
構成 原告 被告
財務諸表を作成する会計処理の
a ためのコンピュータシステムで
あり
予算上の単式簿記に基づく伝票 資金収支計算書勘定はな く,これ
データから収入と支出が記載さ を 記 録 す る 記 録 手 段 ( Ⅰ ) も な
b1 れた資金収支計算書勘定を記録 い。また,「予算上の単式簿記に
する記録手段(I)と, 基づく伝票データから」 資金収支
計算書を作成,記録していない。
伝票データを複式簿記での伝票 貸借対照表勘定及び行政コスト計
データに変換して複式仕訳デー 算書勘定はなく,これらを作成・
タとして用い,貸借対照表勘定 記録する財務諸表作成手段(Ⅳ)
b2
と 行 政 コ ス ト 計 算 書 勘 定 を 作 及び記録手段(Ⅱ)もない。
成・記録する財務諸表作成手段
(Ⅳ)及び記録手段(Ⅱ)と,
記録手段(Ⅰ),財務諸表作成 記録手段(Ⅰ),財務諸表作成手
手段(Ⅳ)及び記録手段(Ⅱ) 段(Ⅳ)及び記録手段(Ⅱ )はな
から複式仕訳データを用いて純 い。また,純資産変動計算書勘定
b3
資産変動計算書勘定を作成・記 はなく,これを作成・記録する財
録する財務諸表作成手段(Ⅳ) 務諸表作成手段(Ⅳ)及び記録手
及び記録手段(Ⅲ)と, 段(Ⅲ)もない。
資金収支計算書,貸借対照表,
c 行政コスト計算書,純資産変動
計算書の財務諸表を作成する財
務諸表作成手段(Ⅳ)と,
作成した財務諸表を表示する表
d
示手段を備え,
資金収支計算書勘定における収 資金収支計算書の本年度末資金残
入と支出の差額が,当期資金増 高(本年度資金収支額+前年度末
e 減額として貸借対照表上の現金 資金残高)に本年度末歳計外現金
預金勘定に振替えられ, 残高を足したものが貸借対照表の
現金預金の額に対応し,
純資産変動計算書勘定は,その 純資産変動計算書がその期におけ
期における損益外の純資産増加 る,前年度末純資産残高,純行政
と損益外の純資産減少の勘定科 コ ス ト , 財 源 , 固 定 資 産 等 の 変
目を含み,行政コスト計算書勘 動 , 資 産 評 価 差 額 , 無 償 所 管 換
f 定の収支尻(貸借差額)である 等,その他及び本年度末純資産残
純行政コストが純資産変動計算 高で構成され,行政コスト計算書
書勘定の財源の使途勘定の中に の純行政コストが純資産変動計算
振替えられ, 書の純行政コストに記載される。
また,左記の各勘定はない。
純資産変動計算書勘定のうち, 純資産変動計算書の本年度末純資
損益外の純資産減少の勘定科目 産残高のうち固定資産等形成分が
と損益外の純資産増加の勘定科 貸借対照表の固定資産等形成分に
g 目の差額が,貸借対照表勘定の 記載され,純資産変動計算書の本
純資産の部に振替えられて借方 年度末純資産残高のうち余分(不
と貸方がバランスし, 足分)は貸借対照表の余剰分(不
足分)に記載されない。
h 純資産変動計算書勘定の借方に 純資産変動計算書には純行政コス
は,純行政コストを含む「財源 トの項目があり,当該純行政コス
の使途」と並んで「固定資産等 トは行政コスト計算書の純行政コ
の減少」を計上する勘定科目が ストが記載されたものであり,当
あり,これらには社会保障給付 該行政コスト計算書の純行政コス
やインフラ資産を整備した際の トには社会保障給付が含まれる。
資本的支出が含まれており, 社会保障給付は「財源の使途」及
び「固定資産等の減少」に含まれ
ない。また,「財源の使途」はな
い。
純資産変動計算書勘定の貸方に 純資産変動計算書には「有形固定
は,税収等を計上する「財源の 資産等の増加」という科目がある
i
調達」のほか,「固定資産等の ことを特徴とする。 また,「財源
増加」の勘定科目がある の調達」はない。
j 会計処理コンピュータシステム
(別紙5)
乙12発明
a 財務諸表を作成する工程であって,
5 b-1 資金(現金及び現金同等物)の流入と流出を有する資金収支計算書勘
定を作成する工程と,
b-2 企業会計における複式簿記・発生主義会計として用いられてきた貸借
対照表勘定(資金,非資金資産,負債,納税者持分)及び行政コスト計
算書勘定(費用,収益,純経常費用)を作成する工程と,
10 b-3 拡大された財源措置・納税者持分増減計算書勘定(純経常費用への財
源措置,財源措置,財源措置の増加,資産・負債再評価差額)を作成す
る工程と,
c 処理された結果で,資金収支計算書,公会計貸借対照表,財源措置・
納税者持分増減計算書,行政コスト計算書をふくむ,少なくとも1つ以
15 上の財務諸表を作成する工程と,
e 資金収支計算書勘定の期末の収支尻(貸借差額)が,公会計貸借対照
表上の資金勘定に要約(振替)され,資金収支計算書勘定と公会計貸借
対照表の間での勘定連絡であり,
f 財源措置・納税者持分増減計算書勘定は,その期における損益外の財
20 源措置・納税者持分の増加と財源措置・納税者持分の減少の2つで構成
され,前記行政コスト計算書の収支尻(貸借差額)である純経常費用が
財源措置・納税者持分増減計算書勘定の純経常費用への財源措置に振り
替えられ,
g 財源措置・納税者持分増減計算書勘定の貸方と借方の差額(収支尻)
25 が,当期の財源措置・納税者持分増減額という形で,最終的には公会計
貸借対照表勘定の納税者持分の部に要約されて,公会計貸借対照表勘定
の借方(左側)と貸方(右側)がバランスし,
h 一方で,財源措置・納税者持分増減計算書勘定の借方側(勘定の左側)
には純経常費用への財源措置と並んで財源措置(税資金(特定財源)に
よる資本形成への財源措置,一般会計繰入金による資本形成への財源措
5 置)という項目もあるが,これは具体的に言えば,社会保障給付や,イ
ンフラ資産を整備した際の資本的支出のような,損益外で財源を費消す
る取引のことを指しており,
i 貸借対照表の貸方側(勘定の右側)に計上される税資金による資本形
成見返負債は,財源措置として支出がなされた場合,財源は費消される
10 が,その一部分は,インフラ資産のように将来にわたって利用可能な資
産形成に充当されるため,その支出の時点で政府の純資産(国民持分)
がまるまる毀損したわけではなく,何らかの資源が現金以外の形で会計
主体としての政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も
利用可能な資産が,当期どれだけ増加したかを示しているのが税資金に
15 よる資本形成見返負債であることを特徴とする
(別紙6)
図面(本件明細書)
1 図1
2 図2
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