平成29(ワ)30826特許権侵害行為差止等請求事件
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裁判所 |
東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成31年3月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告光村印刷株式会社
製品の譲渡等は上記特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項及び
は,写真,製版,印刷,製本加工,帳票の製作,紙器製造並びにその製
製品は,別紙目録記載1のとおり,
は,平成29年1月27日に本件本体ブックを,同月30日に本件シー
は,本件シールブックにある本件パーツシール及び本件トレジャーシ
は,本件明細書の発明が解決しようとする課題における「容易に製
は,本件相違点に係る本件発明1の構成について,容易に想到する
製品の売上は1380万円である。 原告株式会社ウイル・コーポレーション
は,印刷業,製版業,製本業等を目的とする株式会社である。
の特許権
は,被告製品が本件方法によって製造されたと主張する。
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対象物 |
シール付き印刷物及びその製造方法 |
法令 |
特許権
特許法100条1項1回 特許法102条2項1回 特許法104条の31回
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キーワード |
実施14回 進歩性11回 特許権10回 侵害7回 無効5回 差止4回 刊行物3回 無効審判2回 損害賠償1回
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主文 |
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事件の概要 |
本件は,発明の名称を「シール付き印刷物及びその製造方法」とする特許権を10
有する原告が,被告が製造,販売等した別紙目録記載1の製品(以下「被告製品」
という。)が上記特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明1」
という。)の技術的範囲に属するとともに,被告製品を製造する方法は同目録記
載2の製造方法(以下「本件方法」という。)であり,本件方法は特許請求の範囲
請求項4記載の発明(以下「本件発明2」という。)の技術的範囲に属し,被告に15
よる被告製品の製造,譲渡等並びに本件方法の使用及び本件方法により製造した
被告製品の譲渡等は上記特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項及び
2項に基づき被告製品の製造,譲渡等の差止め,本件方法の使用の差止め,本件
方法により製造した被告製品の譲渡等の差止め及び被告製品の廃棄を求めると
ともに,民法709条,特許法102条2項に基づき損害賠償金220万円及び20
これに対する不法行為後の日である平成29年9月16日(訴状送達日の翌日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事
案である。 |
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判決文
平成31年3月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成29年(ワ)第30826号 特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成31年1月18日
判 決
原 告 株式会社ウイル・コーポレーション
A
同訴訟代理人弁護士 西 脇 怜 史
同 宮 島 明 紀
10 同訴訟復代理人弁護士 星 野 真 太 郎
同訴訟代理人弁理士 横 山 正 治
被 告 光 村 印 刷 株 式 会 社
B
15 同訴訟代理人弁護士 三 好 重 臣
同 弘 中 徹
同訴訟代理人弁理士 福 田 伸 一
同 水 崎 慎
同補佐人弁理士 高 橋 克 宗
20 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
25 1 被告は,別紙目録記載1の印刷物を製造し,譲渡し,又は譲渡の申出をしては
ならない。
2 被告は,別紙目録記載2の方法を使用してはならない。
3 被告は,別紙目録記載2の方法により製造した別紙目録記載1の印刷物を譲渡
し,又は譲渡の申出をしてはならない。
4 被告は,別紙目録記載1の印刷物を廃棄せよ。
5 5 被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は被告の負担とする。
7 仮執行宣言
第2 事案の概要
10 本件は,発明の名称を「シール付き印刷物及びその製造方法」とする特許権を
有する原告が,被告が製造,販売等した別紙目録記載1の製品(以下「被告製品」
という。 が上記特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明
) (以下「本件発明1」
という。)の技術的範囲に属するとともに,被告製品を製造する方法は同目録記
載2の製造方法(以下「本件方法」という。)であり,本件方法は特許請求の範囲
15 請求項4記載の発明(以下「本件発明2」という。)の技術的範囲に属し,被告に
よる被告製品の製造,譲渡等並びに本件方法の使用及び本件方法により製造した
被告製品の譲渡等は上記特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項及び
2項に基づき被告製品の製造,譲渡等の差止め,本件方法の使用の差止め,本件
方法により製造した被告製品の譲渡等の差止め及び被告製品の廃棄を求めると
20 ともに,民法709条,特許法102条2項に基づき損害賠償金220万円及び
これに対する不法行為後の日である平成29年9月16日(訴状送達日の翌日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事
案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によ
25 り容易に認められる事実)
当事者
原告は,印刷業,製版業,製本業等を目的とする株式会社である。
被告は,写真,製版,印刷,製本加工,帳票の製作,紙器製造並びにその製
品の販売等を目的とする株式会社である。
原告の特許権
5 ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」
といい,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」
という。)の特許権者である(甲1,2)。
特許番号 第5773395号
出 願 日 平成25年11月12日
10 (特願2013-234320号)
登 録 日 平成27年7月10日
イ 本件特許権の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである。
「シールと剥がした前記シールを貼り付ける台紙とが一体になったシール
付き印刷物であって,少なくとも前記シール及び前記台紙となる印刷が施さ
15 れた紙本体と,前記紙本体の少なくとも一箇所を折り重ねることによって形
成されるシール領域と,前記シール領域以外の前記紙本体に形成される台紙
領域とを備え,前記シール領域に形成されるシールの少なくとも一つは,本
体を横断する起立用折目と,前記起立用折目を境に裏面の両側にそれぞれ形
成される粘着部及び非粘着部とを有する起立シールであることを特徴とす
20 るシール付き印刷物。」
ウ 本件特許権の特許請求の範囲請求項4の記載は次のとおりである。
「請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシール付き印刷物の製造方法で
あって,前記紙本体に少なくとも前記シール及び前記台紙となる印刷を施す
工程と,前記紙本体の第1面の前記シールの剥離面とする領域にコーティン
25 グ層を形成する工程と,前記紙本体の第1面の前記シール領域の前記起立シ
ールの非粘着部以外に粘着層を形成する工程と,前記紙本体を折り曲げるこ
とによって前記粘着層と前記コーティング層とを貼り合わせてシール領域
を形成する工程と,前記シール領域において前記紙本体の上層を切り抜いて
前記起立シールを含むシール形状を形成する工程とを備えたことを特徴と
するシール付き印刷物の製造方法。」
5 エ 本件発明1は,次のとおり構成要件に分説することができる(以下,それ
ぞれの構成要件を「構成要件1A」などという。。
)
1A シールと剥がした前記シールを貼り付ける台紙とが一体になったシ
ール付き印刷物であって,
1B 少なくとも前記シール及び前記台紙となる印刷が施された紙本体と,
10 1C 前記紙本体の少なくとも一箇所を折り重ねることによって形成され
るシール領域と,
1D 前記シール領域以外の前記紙本体に形成される台紙領域とを備え,
1E 前記シール領域に形成されるシールの少なくとも一つは,本体を横
断する起立用折目と,前記起立用折目を境に裏面の両側にそれぞれ形成
15 される粘着部及び非粘着部とを有する起立シールである
1F ことを特徴とするシール付き印刷物。
オ 本件発明2は,次のとおり構成要件に分説することができる。
2A 請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシール付き印刷物の製造方
法であって,
20 2B 前記紙本体に少なくとも前記シール及び前記台紙となる印刷を施す
工程と,
2C 前記紙本体の第1面の前記シールの剥離面とする領域にコーティン
グ層を形成する工程と,
2D 前記紙本体の第1面の前記シール領域の前記起立シールの非粘着部
25 以外に粘着層を形成する工程と,
2E 前記紙本体を折り曲げることによって前記粘着層と前記コーティン
グ層とを貼り合わせてシール領域を形成する工程と,
2F 前記シール領域において前記紙本体の上層を切り抜いて前記起立シ
ールを含むシール形状を形成する工程とを備えた
2G ことを特徴とするシール付き印刷物の製造方法。
5 ⑶ 被告製品
被告製品は,別紙目録記載1のとおり,
「好きな色に塗って博物館を作ろう!
飛び出す始祖鳥ぬりえ」と題する冊子と,
「好きな色に塗って博物館を作ろう!
飛び出す始祖鳥ぬりえシールブック」と題する冊子との2冊の印刷物から構成
されている(以下,前者を「本件本体ブック」,後者を「本件シールブック」と
10 いう。。
)
本件シールブックは,見開き1枚の印刷物である。閉じた状態において,表
紙部分には「好きな色に塗って博物館を作ろう!飛び出す始祖鳥ぬりえシール
ブック」との表題,2パターンの始祖鳥の塗り絵のイメージ,
「自分の想像力で
始祖鳥を完成させてね!」「始祖鳥の化石が日本にやってくる!大英自然史博
,
15 物館展」等の記載があり,裏表紙部分には「本キットの楽しみ方」として,被
告製品を使用した遊び方が記載されている。シールブックを開いた状態におい
て,見開き部分の概ね左半分には始祖鳥の塗り絵が印刷されており,その印刷
部分は「パーツシール」として本体シールブックから剥がしてシールとして貼
り付けることができ(以下「本件パーツシール」という。,右半分には「トレ
)
20 ジャーシール」として大英自然史博物館の複数の収蔵品が印刷されていて,そ
の印刷部分は「トレジャーシール」として本件シールブックから剥がしてシー
ルとして貼り付けることができる(以下「本件トレジャーシール」という。。
)
本件本体ブックも,見開き1枚の印刷物であり,開くと,中央部分に始祖鳥
の骨格が印刷された紙部分が起き上がる仕組みになっていて,始祖鳥の骨格が
25 印刷された紙部分には本件パーツシールの番号に対応した番号が記載されて
いる。
本件シールブックの裏表紙には,上記のとおり,被告製品の遊び方が記載さ
れているところ,そこには,本件パーツシールに色を塗ること,シールブック
の本件パーツシールを剥がして,本体ブックの始祖鳥の骨格が印刷された部分
に貼ること,本件トレジャーシールをその周りに貼ることが記載され,本件本
5 体ブックの始祖鳥の骨格が印刷されている部分に色を塗った本件パーツシー
ルが貼られ,本体ブックのそれ以外の部分にトレジャーシールを貼った写真が
掲載されている。(乙1の1,1の2)
⑷ 被告の行為
被告は,平成29年1月27日に本件本体ブックを,同月30日に本件シー
10 ルブックをそれぞれ製造し,読売新聞社に対して譲渡した(乙12ないし14)。
2 争点
⑴ 被告製品は本件発明1の技術的範囲に属するか否か(争点1)
(なお,被告は
構成要件1Eの充足性を争っていない。)
ア 「台紙」「台紙領域」の充足性(構成要件1A,1D)
, (争点1-1)
15 イ 「紙本体」の充足性(構成要件1B,1D)(争点1-2)
ウ 「折り重ねることによって形成」の充足性(構成要件1C。文言侵害及び
均等侵害)(争点1-3)
⑵ 被告製品は本件方法により製造されたか否か(争点2)
⑶ 本件発明1に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点
20 3)
ア 乙2を主引例とする本件発明1の進歩性欠如(争点3-1)
イ 乙5を主引例とする本件発明1の進歩性欠如(争点3-2)
⑷ 原告の損害の額(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
25 ⑴ 争点1-1(「台紙」「台紙領域」の充足性)について
,
(原告の主張)
ア 「台紙」
(構成要件1A)とは,物を張りつける土台とする紙であるから,
客観的・物理的にシールを貼り付けることができる紙であれば「台紙」とな
り得る。
また「台紙領域」(構成要件1D)は「前記シール領域以外の前記紙本体
5 に形成される台紙領域」(構成要件1D)「このシールブック1は,両面に
,
印刷が施された紙本体2と,紙本体2に形成されるシール領域3と,シール
領域3以外の紙本体2に形成される台紙領域4とを主に備えている。」
(本件
明細書の段落【0019】)との記載からすれば,本件発明1に係るシール
付き印刷物のうち,紙本体に形成されるシール領域以外の部分であり,シー
10 ル付き印刷物の表紙をも含むと解すべきである。
イ 本件シールブックは,表紙を含め,剥がした本件パーツシール及び本件ト
レジャーシールを客観的・物理的に貼り付けることができる部分を備えてい
ることから,「台紙」を充足する。
被告は,本件シールブックにある本件パーツシール及び本件トレジャーシ
15 ールは本件本体ブックに貼り付けるために存在するから,本件シールブック
は「台紙」を備えていないと主張するが,提供者の想定する遊び方や一般人
の認識といった主観によって「台紙」であるか否かが決まるものではない。
(被告の主張)
ア 本件明細書の発明の詳細な説明及び図1の記載を参酌すると,本件発明1
20 の起立シールはこれを貼り付けるよう誘導された箇所に貼り付けられてい
るといえる。また,本件明細書の発明が解決しようとする課題には「そこで,
本発明は,立体的な広がりのある使い方が可能なうえ,容易に製造すること
が可能なシール付き印刷物及びその製造方法を提供することを目的として
いる。」と記載されているから,本件発明1のシール付き印刷物は,その使
25 い方に重要な意義があると解される。シールを貼り付けることが想定されて
いない部分を「台紙」あるいは「台紙領域」と解釈することは,本件発明1
の上記使い方を無視した恣意的な解釈である。
イ 被告製品は,本件シールブックと本件本体ブックの2冊の印刷物からなり,
本件シールブックに設けられた本件パーツシール及び本件トレジャーシー
ルは,本件本体ブックに貼り付けるために存在するから,本件シールブック
5 は,シールを貼り付ける台紙を備えるものではない。被告製品に接する一般
人も上記各シールは本件本体ブックに貼り付けると認識する。
したがって,本件シールブックは「台紙」「台紙領域」を充足しない。
,
⑵ 争点1-2(「紙本体」の充足性)について
(原告の主張)
10 ア 特許請求の範囲の記載によれば,シール及び台紙となる印刷が施された紙
を「紙本体」としており,「紙本体」の用語はシール付き印刷物の基本構成
となる紙という程度の意味に理解されるべきである。
イ 本件シールブックは,シールと台紙となる印刷が施された紙を基本構成と
して製造されたものであるから,「紙本体」を充足する。
15 (被告の主張)
ア 特許請求の範囲における「前記シール及び前記台紙となる印刷が施された
紙本体と,前記紙本体の少なくとも一箇所を折り重ねることによって形成さ
れるシール領域と」との記載からすれば,「紙本体」とは,①シール付き印
刷物のシール領域及び台紙領域を構成するものであり,かつ,②シール領域
20 は少なくとも一箇所が折り重ねてシール領域を形成するものであることを
要する。
イ 本件シールブックは,シール領域が折り重ねて形成されているものではな
いし,折り重ねる箇所も観念できないから,上記②の要件を満たさず,「紙
本体」を充足しない。
25 ⑶ 争点1-3(「折り重ねることによって形成」の充足性)について
(原告の主張)
ア 本件明細書の発明の効果において「紙本体にコーティング層と粘着層を形
成して貼り合わせることでシール領域となる。(段落【0016】
」 )と端的
に記載されているとおり,紙本体のコーティング層と粘着層を重ねて貼り合
わせることでシール領域を形成するのであれば,紙本体を重ねる方法は「折
5 り重ねる」場合に限定されない。したがって,構成要件1Cにおける「折り
重ね」は,「重ねて貼り合わせ」たものであれば足りるというべきである。
なお,「少なくとも一箇所を折り重ねることによって」は,単に紙本体に
シール領域が形成されている状態を示すために,紙が重なっているという物
の構造及び特性を特定しているにすぎず,いわゆる「プロダクト・バイ・プ
10 ロセスクレーム」には該当しない。
本件シールブックは,2枚の紙を重ねて貼り合わせていることでシール領
域を形成しているから,「折り重ねることによって形成」を充足する。
イ 仮に,本件発明1と本件シールブックとは,本件発明1が「1枚の紙を折
り重ねて」形成されているのに対し,本件シールブックが「2枚の紙を貼り
15 合わせて」形成されている点が相違する(以下「本件相違点」という。)と
しても,本件は以下の均等の第1要件から第3要件までを満たし,第4要件
及び第5要件を否定する事情がないから,本件シールブックは本件発明1の
構成と均等なものとして,本件発明1の技術的範囲に属する。
第1要件(相違点の本質的部分非該当性)
20 本件明細書の記載によれば,本件発明1は,立体的な広がりのある使い
方が可能な上に,容易に製造できるシール付き印刷物を提供することを
目的としている。そして,この目的は,同種の紙素材を重ねて貼り合わせ
てシール領域と台紙領域を形成することで初めて実現されるのであり,
これこそが,
「タック紙」と呼ばれる紙本体と粘着剤と剥離材とが一体と
25 なった用紙に印刷を施して製造する,従来技術に見られない特有の技術
的思想を構成する特徴的部分といえる。
したがって,
「同種の紙素材を重ねて貼り合わせてシール領域と台紙領
域を形成すること」が本件発明1の本質的部分である。
これに対し,本件相違点は,シール領域を形成するために,1枚の紙を
折り曲げるか,2枚の紙を貼り合わせるかという手段の違いにすぎず,本
5 件発明1の非本質的部分である。
被告は,本件明細書の発明が解決しようとする課題における「容易に製
造することが可能」とは,紙本体を折り重ねることで容易に製造できるこ
とを意味し,これが本件発明1の本質的部分である旨主張するが,本件明
細書の段落【0016】及び【0049】の記載からすれば,製造工程の
10 一貫性,すなわちシールと台紙とで別々の工程を用意することが不要と
なったことをもって「容易に製造することが可能」と評していることは明
らかであり,紙本体を折り重ねることとは関係がない。
第2要件(相違点の置換可能性)
本件発明1の,起立シールを備え,かつ剥がした当該起立シールを印刷
15 物自体に貼り付けることができるとの作用効果は,シール領域を形成す
るために1枚の紙を折り重ねることから,本件シールブックのように2
枚の紙を貼り合わせることに置換したとしても差異はなく,同一の作用
効果を奏する。
第3要件(相違点の置換容易性)
20 シールの一般的な製造方法は,剥離紙と表面基材の2種類のシートを
貼り合わせるというものであり,2枚のシートを貼り合わせる方法は当
業者において広く知られた技術である。したがって,1枚の紙を折り曲げ
る代わりに2枚の紙を貼り合わせた本件シールブックは,当業者が本件
発明1から容易に想到することができたといえる。
25 第4要件(公知技術等除外)
本件発明1におけるシール付き印刷物は同種の紙素材を貼り合わせて
いるのに対し,本件発明1の特許出願時における公知技術は異なる素材
(表面基材と剥離紙)を貼り合わせている点において明白な差異が認め
られる。したがって,本件シールブックは公知技術と同一又は当業者がこ
れから同出願時に容易に推考できたものとはいえない。
5 第5要件(意識的除外等の特段の事情)
被告は,本件相違点に係る本件発明1の構成について,容易に想到する
ことができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった
ことしか主張していないが,それだけでは,意識的に除外されたものとは
いえない。
10 (被告の主張)
ア 本件明細書の段落【0021】及び【図2】及び【図4】の各記載からす
れば,本件発明1のシール付き印刷物におけるシール領域は「紙本体の両側
を折り畳み,重ね合わせることで,初めてシール領域が形成される」ことは
明らかである。
15 また段落【0055】には,
「さらに,前記実施の形態では,紙本体2の両
側を折り曲げて全体が上層と下層の2層構造になるシールブック1につい
て説明したが,これに限定されるものではなく,紙本体2の一部だけを折り
曲げてシール領域3を形成することもできる。」と記載されているが,これ
ら以外のシール領域の形成の方法は,明細書等に何ら記載・示唆されていな
20 い。
したがって,本件発明1は,折り重ねることがシール領域を形成するため
の唯一の要件であり,折り重ねることなくシール領域を形成するものを含ま
ない。
本件シールブックは,第一用紙の一方の面に表紙と裏表紙に関する印刷が
25 施され,第二用紙の一方の面にシールに対応する印刷が施され,両用紙の他
方の面同士を貼り合わせて必要箇所が型抜きされたものであり,2つのシー
トを貼り合わせるという手段(手法)によってシール領域が形成されている
のであるから,「折り重ねることによって形成」を充足しない。
イ また,次のとおり,均等の要件を満たさないから,本件シールブックは本
件発明1の構成と均等とはいえない。
5 第1要件(相違点の本質的部分非該当性)
本件明細書には,解決しようとする課題(段落【0007】)として「容
易に製造することが可能なシール付き印刷物及びその製造方法を提供す
ることを目的としている。」と記載されているから,本件発明1は,その
目的の一つが,容易に製造することが可能なシール付き印刷物(及びその
10 製造方法)を提供することであると理解することができる。そして,この
「容易に製造することが可能な」という文言は,シール付印刷物の製造工
程において,
「紙本体を折り重ねることで容易に製造できること」を意味
していると解される。
また,本件明細書には発明の効果(段落【0013】)として「このよ
15 うに構成された本発明のシール付き印刷物は,シール及び台紙となる印
刷がされた紙本体を折り重ねることでシール領域が形成される。」と記載
されている。発明の効果に記載されている構成は,従来の技術よりも有利
な効果を生じさせるために必要な構成,すなわち発明の本質的部分の一
つであると理解することができる。
20 したがって,
「紙本体の少なくとも一箇所を折り重ねることによって形
成されるシール領域」という部分は,本件発明1の本質的部分である。
第2要件(相違点の置換可能性)
本件シールブックは,2枚の紙を貼り合わせることによってシール領
域を形成するものであり,紙本体を折り重ねることによってシール領域
25 を形成するものではないから,本件シールブックは発明の効果である「容
易に製造することが可能なシール付き印刷物を提供すること」を達成す
ることができず,本件発明1と同一の作用効果を奏することはない。
第4要件(公知技術等除外)
シールを剥離紙と表面基材の2種類のシートを貼り合わせるという方
法で製造することは,当業者において広く知られた技術であるから,2枚
5 の紙を貼り合わせることによってシール領域を形成させることは,当業
者が容易に推考できたものである。
第5要件(意識的除外等の特段の事情)
本件発明1の出願人である原告は,出願時において,紙本体を折り重ね
ること以外に,同種の紙素材を2枚貼り合わせることによってもシール
10 領域が形成されることを十分に理解・認識しており,
「同種の紙素材を重
ねて貼り合わせることで形成されるシール領域」とする権利を請求でき
たにもかかわらず,自らの判断で「前記紙本体の少なくとも一箇所を折り
重ねることによって形成されるシール領域」と限定して権利を請求した
のであるから,原告は,本件シールブックの構成を意識的に除外したとい
15 える。
⑷ 争点2(被告製品は本件方法により製造されたか否か)について
(原告の主張)
ア 本件シールブックは,本件方法によって製造された。
イ 本件方法は,本件発明2の構成要件をいずれも充足する。
20 (被告の主張)
ア 本件シールブックは原告が主張する本件方法によって製造されたもので
はないから,本件発明2の構成要件を充足しない。すなわち,●(省略)●
イ また,本件シールブックを製造する方法は,本件発明2の構成要件を充足
しない。すなわち,本件発明2の製造方法は,紙本体という構成を中心に展
25 開され,1枚の紙本体に対して,印刷,コーティング層の形成,粘着層の形
成,折り曲げて貼り合わせ,切り抜きを行うことで印刷物を製造するという
方法である。これに対し,●(省略)●本件発明2にあるような「紙本体」
という構成は存在しないから,本件シールブックを製造する方法は少なくと
も本件発明2の構成要件2Bないし2Fを充足しない。
⑸ 争点3(本件発明1に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきもの
5 か)について
(被告の主張)
以下のとおり,本件発明1は乙2に開示された発明または乙5に開示された
発明から容易に発明することができたものであり,本件特許には進歩性欠如の
無効理由があるから,原告は,特許法104条の3第1項により,本件特許権
10 を行使することができない。
ア 争点3-1(乙2を主引例とする進歩性欠如)
乙2記載の発明の内容
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である乙2の公開特許公報
(特開2004―314621号)には,次の発明が開示されている(以
15 下「乙2発明」という。。
)
a シールの群れと,剥がした前記シールを貼り付けるスペース群とが
一体になったシール付き印刷物であって,
b 少なくとも前記シール及び前記スペース群となる印刷が施されたシ
ート材と,
20 c 前記シート材の少なくとも一箇所に形成されるシールの群れと,
d 前記シール以外のシート材に形成されるスペース群を備えるシール
付き印刷物。
本件発明1と乙2発明の相違点
本件発明1と乙2発明とは,次の点で相違し,その余の点で一致する。
25 a 本件発明1は,シール領域に形成されるシールの少なくとも一つが
本体を横断する起立用折目と,前記起立用折目を境に裏面の両側にそ
れぞれ形成される粘着部及び非粘着部とを有する起立シールであるの
に対して,乙2発明には起立シールが存在しない点(以下「相違点1-
1」という)
b 紙本体に形成されるシール領域につき,本件発明1は紙本体の少な
5 くとも一箇所を折り重ねることによって形成されるものであるのに対
して,乙2発明はどのようにして形成されるものであるか定かでない
点(以下「相違点1-2」という)
相違点1-1
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である乙3の公開特許公報
10 (特開2013-68697号)には,本体を横断する折り線と,前記折
り線を境に裏面の両側にそれぞれ形成される粘着部及び非粘着部とを有
する起立シールに係る発明が開示されている(以下「乙3発明」という。。
)
乙2発明はシールを備える印刷物に関する発明であり,乙3発明はシー
ル(ラベル)自体に関する発明であって,両者にはその技術分野において
15 大きな違いは存在しない。
したがって,乙2発明のシールを起立シールすることは,乙2発明に乙
3発明を適用することにより,当業者は容易に想到することができた。
相違点1-2
本件発明1の課題及び効果は,相違点1-1に対応する「起立シールを
20 採用することによる立体的な広がりのある使い方」にあると認められ,相
違点1-2は微細な相違であって,それによって進歩性を充足するとい
うことはできない。
また,本件特許の出願日前に頒布された刊行物である乙4の公開特許
公報(特開平8-179691号)記載の発明(以下「乙4発明」という。)
25 は,基材を折り重ねるようにして,その表面に二つのシール領域を形成す
るものであって,当該発明は相違点1-2に係る構成を開示していると
いえる。
イ 争点3-2(乙5を主引例とする進歩性欠如)
乙5記載の発明の内容
本件特許の出願日前に発行され,公然知られるに至った乙5の印刷物
5 には,次の発明が開示されている(以下「乙5発明」という。。
)
シールと剥がしたシールを貼り付ける台紙とが一体となったシール付
き印刷物であり,シール領域と台紙領域とを備えている。より具体的には,
リング状の綴り具によって複数の用紙が一体になるように綴った印刷物
であって,そこには,剥がすことが可能なシールが備えられたページと,
10 剥がしたシールを貼り付ける台紙となるページが存在する。
本件発明1と乙5発明の相違点
本件発明1と乙5発明は,次の点で相違し,その余の点で一致する。
a 本件発明1は,シール領域に形成されるシールの少なくとも一つが
本体を横断する起立用折目と,前記起立用折目を境に裏面の両側にそ
15 れぞれ形成される粘着部及び非粘着部とを有する起立シールであるの
に対して,乙5発明には起立シールが存在しない点(以下「相違点2-
1」という。。
)
b 紙本体に形成されるシール領域につき,本件発明1は紙本体の少な
くとも一箇所を折り重ねることによって形成されるものであるのに対
20 して,乙5発明はシール領域を備えているが,そのシール領域は「紙本
体の少なくとも一箇所を折り重ねることによって形成される」もので
はない点(以下「相違点2-2」という。。
)
相違点2-1
本件特許の出願日前に発行され,公然知られるに至った乙6の印刷物
25 には,平面的なシールと立体的なシールが備えられた頁が存在するシー
ル付き印刷物に係る発明が開示されているところ(以下「乙6発明」とい
う。 ,乙5発明と乙6発明はともにシールを備える印刷物に関する発明
)
であり,乙3発明はシール(ラベル)に関する発明であって,両者はその
技術分野において大きな違いは存在しない。
したがって,乙5発明の各種シールの一部を起立シールとすることは,
5 乙5発明にある各種シールの一部を乙6発明にある立体的なシールに変
更し,かつ,その立体的なシールの具体的な構成を乙3発明にあるシール
とすることにより,当業者は容易に想到することができた。
相違点2-2
前記ア で述べたとおり,相違点2-2は微細な相違であって,それに
10 よって進歩性を充足するということはできない。
また,前記ア で述べたとおり,乙4発明は相違点2-2に係る構成を
開示しているといえる。
(原告の主張)
ア 争点3-1(乙2を主引例とする進歩性欠如)
15 主引例としての適格性
本件発明1の解決しようとする課題は,立体的な広がりのある使い方
が可能な上に,容易に製造することが可能なシール付き印刷物を提供す
ることであるのに対し,乙2発明の解決しようとする課題は,薬の服用者
の服用忘れと二重服用を防ぎ,さらに薬の服用に伴う暗さを軽減するこ
20 とにあるから,両発明に課題の共通性はなく,乙2発明には両者を結びつ
ける動機付けもないから,主引例としての適格性を欠く。
乙2発明の内容
仮に乙2発明に主引例としての適格性があるとしも,乙2発明は,被告
の主張よりも限定され,
「シールと,剥がした前記シールを貼り付けるス
25 ペースとが一体になった一般のシールからなるシール付き印刷物」と認
定されるものである。
本件発明1と乙2発明の相違点
相違点1-1が存在することは認め,相違点1-2については,本件発
明1が紙本体から構成されるのに対し,乙2発明が通常のシール(一般の
シール)からなる点と認定すべきである。
5 相違点1-1
乙2発明の技術分野は,薬の服用済みをチェックするシール台紙であ
るところ,乙3発明の技術分野は,店舗等で販売される個々の商品に添付
されて当該商品を消費者にアピールすることが可能な起立手段を備えた
ラベルであるから,技術分野の関連性はない。
10 また,乙3発明の課題は,①安定して起立させることが可能な起立手段
を備えたラベルを提供すること,②商品に貼付した状態で梱包等が可能
な起立手段を備えたラベルを提供すること,③狭い面積でも貼付するこ
とができる起立手段を備えたラベルを提供することの3点であるのに対
し,乙2発明の課題は,薬の服用者の服用忘れと二重服用を防ぎ,さらに
15 薬服用に伴う暗さを軽減することにあり,課題の共通性も両者を結びつ
ける動機付けもない。
さらに,乙2発明の作用は,癒やしのスペースによって与えられた彩り
によって,薬の服用のおっくうさを軽減させるとともに,シールの張り替
え作業により服用の有無をチェックすることができるようになる点であ
20 るのに対し,乙3発明の作用は,商品に貼付した際に安定して起立させる
ことができるとともに,商品に貼付した状態での梱包等が可能であり,か
つ飲料の頂部のキャップ上面等の狭い面積でも容易に貼付することがで
きる点であり,両者に作用,効果の共通性はない。
したがって,乙2発明と乙3発明を組み合わせる動機付けはないため,
25 相違点1-1は解消されず,本件発明1の進歩性は否定されない。
相違点1-2
本件発明1はシール領域及び台紙領域のいずれもが紙本体によって構
成される構成となっているため,紙本体を印刷する工程の延長線上で容
易に製造することができるという作用効果を奏し,また印刷が容易な紙
本体を台紙領域にするため,シール領域の範囲を超えて任意の大きさに
5 シールを貼り付けるための領域を容易に形成することができる。このよ
うに,シール領域と台紙領域とを同じ紙本体で構成したことによって本
件発明1は顕著な作用効果が得られるため,進歩性は否定されない。
また,乙4発明の課題は,①先行文献記載のセパレータを必要としない
粘着シールは,2枚のシールから構成されているため,1枚しか必要とし
10 ない場合,残りの1枚は従来のセパレータ同様に廃棄処分するしかなく,
無駄となる上,この1枚は裏面に粘着加工がなされているため,廃棄処分
が面倒であること,②剥離した2枚のシールを,粘着剤と剥離剤とが互い
に齟齬するように重合し直し,再び先行文献記載のセパレータを必要と
しない粘着シールの形状とすることは困難であり,そのため,粘着対象物
15 から剥離した後,裏面の粘着感を損なわずに保管することは困難である
たとおりであり,両者の解決しようとする課題は共通性がなく,また作用,
機能の共通性もないことから,乙2発明と乙4発明を結びつける動機付
けはない。
20 さらに,仮に乙2発明に乙4発明を組み合わせる動機付けが認められ
たとしても,乙4発明のシールはセパレータを不要とするシールである
ため,すべてがシールとなって台紙領域を設ける余地はなく,「紙本体」
とはなり得ないから,乙4発明は相違点1-2に対応するものではなく,
相違点1-2は解消されない。
25 イ 争点3-2(乙5発明を主引例とする進歩性欠如)
乙5発明の内容
乙5発明は,シールと剥がしたシールを貼り付ける台紙とを,リング状
綴り具によって綴った出版物であり,シール用の印刷を施したタック紙
のページと,台紙用の印刷を施した色上質紙のページとを備えた出版物
と認定されるべきである。
5 本件発明1と乙5発明の相違点
本件発明1と乙5発明の共通点は,シールと台紙を備える点のみであ
り,相違点は,シールと台紙とを一体としたこと,同種類の紙素材から構
成したこと,シールが起立シールであること等,多岐にわたる。乙5発明
は,この程度の微細な共通点を持つに過ぎない発明であるから,主引例と
10 しての適格性を欠く。
相違点2-1
乙6発明は,シールを形成したタック紙を束ねて粘着製本した出版物
にすぎず,上記 で述べた多数の相違点については何ら開示されていな
い。また,乙6発明のシールは非粘着部も起立用折目も設けることなく,
15 シールを折り畳むことで起立させた使い方が事実上可能となったにすぎ
ず,本件発明1における起立シールとは技術的発想が全く異なるから,乙
6発明によって相違点2-1は解消されない。
⑹ 争点4(原告の損害の額)
(原告の主張)
20 被告製品は,少なくとも20万7183部以上販売されており,被告の売上
は1000万円を下らず,被告の得た利益はその20%である200万円を下
らない。
したがって,被告の本件特許の侵害行為による原告の損害は200万円を下
らない(特許法102条2項) また弁護士費用相当額は20万円を下らない。
。
25 (被告の主張)
否認ないし争う。
被告製品の売上は1380万円である。
第3 当裁判所の判断
1 本件発明1及び2の技術的意義
本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明欄には,次の記載がある。
5 ア 技術分野
「本発明は,広告や宣伝のために配布されるチラシ,ブック状玩具,子供
向け教材,又は雑誌や本の綴込みなどに使用されるシール付き印刷物及びそ
の製造方法に関するものである。(段落【0001】
」 )
イ 背景技術
10 「特許文献1に示すように,シールの表面に伝達したい情報と広告との両
方が印刷された広告付きシールが知られている。この広告付きシールは,剥
離紙から剥がして商品などに貼り付けられ,剥離紙はそのまま処分される。」
(段落【0002】)
「また,特許文献2では,宅配便の送り状がシールとなっており,配送情
15 報が記載されたシールをめくると,剥離紙側に印刷された広告が露出する構
成となっている。(段落【0003】
」 )
「さらに,特許文献3には,薬の服用忘れを防ぐための広告欄付きシール
台紙が開示されている。この広告欄付きシール台紙には,シールと剥がした
シールを貼り付ける台紙とが一枚のシートになった構成が開示されている。」
20 (段落【0004】)
ウ 発明が解決しようとする課題
「しかしながら特許文献1-3に開示されたシール付き印刷物では,シー
ル及びシール台紙は平面状であるため,立体的な広がりのある使い方を提供
できるものではない。また,特許文献1-3には製造方法は開示されていな
25 いが,これらの構成から通常のシールを製造する方法が適用されると考えら
れる。(段落【0006】
」 )
「そこで,本発明は,立体的な広がりのある使い方が可能なうえに,容易
に製造することが可能なシール付き印刷物及びその製造方法を提供するこ
とを目的としている。(段落【0007】
」 )
エ 課題を解決するための手段
5 「前記目的を達成するために,本発明のシール付き印刷物は,シールと剥
がした前記シールを貼り付ける台紙とが一体になったシール付き印刷物で
あって,少なくとも前記シール及び前記台紙となる印刷が施された紙本体と,
前記紙本体の少なくとも一箇所を折り重ねることによって形成されるシー
ル領域と,前記シール領域以外の前記紙本体に形成される台紙領域とを備え,
10 前記シール領域に形成されるシールの少なくとも一つは,本体を横断する起
立用折目と,前記起立用折目を境に裏面の両側にそれぞれ形成される粘着部
及び非粘着部とを有する起立シールであることを特徴とする。(段落【00
」
08】)
「さらに,本発明のシール付き印刷物の製造方法は,上記いずれかに記載
15 のシール付き印刷物の製造方法であって,前記紙本体に少なくとも前記シー
ル及び前記台紙となる印刷を施す工程と,前記紙本体の第1面の前記シール
の剥離面とする領域にコーティング層を形成する工程と,前記紙本体の第1
面の前記シール領域の前記起立シールの非粘着部以外に粘着層を形成する
工程と,前記紙本体を折り曲げることによって前記粘着層と前記コーティン
20 グ層とを貼り合わせてシール領域を形成する工程と,前記シール領域におい
て前記紙本体の上層を切り抜いて前記起立シールを含むシール形状を形成
する工程とを備えたことを特徴とする。(段落【0011】
」 )
オ 発明の効果
「このように構成された本発明のシール付き印刷物は,シール及び台紙と
25 なる印刷がされた紙本体を折り重ねることでシール領域が形成される。また,
シール領域に形成される起立シールは,起立用折目と,そこを境に両側にそ
れぞれ形成される粘着部及び非粘着部とを有している。このため,起立用折
目を折り曲げて粘着部を台紙領域に貼り付けることで,起立シールを立たせ
た立体的な広がりのある使い方をすることができる。(段落【0013】
」 )
「また,紙本体を印刷する工程の延長線上で,紙本体にコーティング層と
5 粘着層を形成して貼り合わせることでシール領域となるため,起立シールを
含むシール付き印刷物を容易に製造することができる。 段落
」
( 【0016】)
カ 発明を実施するための形態
「このシールブック1は,両面に印刷が施された紙本体2と,紙本体2に
形成されるシール領域3と,シール領域3以外の紙本体2に形成される台紙
10 領域4とを主に備えている。(段落【0019】
」 )
「この長方形に形成される紙本体2には,図1,3に示すように,上面と
なる第1面21に台紙領域4としての図や文字情報などの印刷が施される。
また,下面となる第2面22にも,周辺台紙部4cとしての図や文字情報な
どの印刷が施される。(段落【0020】
」 )
15 「さらに,シール領域3の図や文字情報なども,紙本体2に施された両面
印刷によって形成される。すなわちこのシール領域3は,図2に示すように,
紙本体2を折り重ねることによって形成される。このため,後述する起立シ
ール5及びシール6の表面は紙本体2の第2面22への印刷によるもので,
起立シール5及びシール6の裏面は紙本体2の第1面21への印刷による
20 ものである。(段落【0021】
」 )
「この台紙領域4は,シール領域3にあるシール6,・・・や起立シール
5,・・・を剥がして貼り付けるための台紙となる。このため台紙領域4に
は,シール6,
・・・や起立シール5,
・・・の絵や模様等に合わせた図や文
字情報などが掲載されている。(段落【0036】
」 )
25 「このように構成された本実施の形態のシールブック1は,シール(5,
6)及び台紙(4)となる印刷がされた紙本体2を折り重ねることでシール
領域3と台紙領域4が形成される。このようにシール(5,6)と台紙領域
4とが一体になっていると,剥離紙がごみになったり,シール(5,6)が
家具や壁などの望ましくない場所に貼り付けられたりすることを防ぐこと
ができる。(段落【0046】
」 )
5 「また,紙本体2を印刷する工程の延長線上で,紙本体2にコーティング
層32と粘着層31A,31Bを形成して貼り合わせることでシール領域3
となるため,起立シール5を含むシールブック1を容易に製造することがで
きる。(段落【0049】
」 )
「さらに,前記実施の形態では,紙本体2の両側を折り曲げて全体が上層
10 と下層の2層構造になるシールブック1について説明したが,これに限定さ
れるものではなく,紙本体2の一部だけを折り曲げてシール領域3を形成す
ることもできる。(段落【0055】
」 )
前記 によれば,本件発明1及び2は,シールとこれを貼り付ける台紙とが
一体となったシール付き印刷物及びその製造方法に関する発明であり,シール
15 及び台紙となる印刷がされた紙本体を折り重ねてシール領域を形成すること
によって,起立シールを含むシール付き印刷物を容易に製造することができ,
また起立シールを立たせた立体的な広がりのある使い方をすることができる
という点に技術的意義があると認められる。
2 争点1-1(「台紙」「台紙領域」の充足性)について
,
20 本件発明1に係る特許請求の範囲によれば,
「台紙」について,
「剥がした前
記シールを貼り付ける台紙」(構成要件1A)「前記台紙となる印刷が施され
,
た紙本体」
(構成要件1B)との記載があり,
「台紙領域」について,
「前記シー
ル領域以外の前記紙本体に形成される台紙領域」(構成要件1D)との記載が
ある。
25 台紙とは,一般的に「物を貼りつける土台とする紙」という意味を有すると
ころ(甲9) 上記特許請求の範囲の記載によれば,
, 本件発明1における「台紙」
とは,同印刷物から剥がしたシールを貼り付ける土台となる紙部分であり,シ
ールが印刷されたシール領域以外に形成され,台紙として利用するための印刷
が施されたものを意味すると解され,
「台紙領域」は,紙本体のうち,シール領
域以外の領域であり,台紙となる領域を意味すると解される。
5 また,本件明細書の発明の詳細な説明欄には,前記1⑴の記載があるほか,
発明を実施するための形態として,
【図1】及び【図4】として,シール付き印
刷物(「シールブック1」)が開示されているところ,
「台紙領域4には,シール
6,
・・・や起立シール5,
・・・の絵や模様等に合わせた図や文字情報などが
掲載されている。」
(段落【0036】 と説明され,
) 【図1】では,台紙領域(4)
10 において,貼り付けるシールの絵柄の背景となるような絵柄が印刷され,その
絵柄の周囲にシールが貼り付けられていることが示されている。また,本件明
細書では, このようにシール
「 (5, と台紙領域4とが一体になっていると,
6)
剥離紙がごみになったり,シール(5,6)が家具や壁など望ましくない場所
に貼り付けられたりすることを防ぐことができる。」
(段落【0046】 とも説
)
15 明されている。
これらによれば,本件明細書においても,発明の構成につき特許請求の範囲
の記載と同様の記載がされ,その実施例においても,台紙領域には,貼り付け
るシールの絵柄に合わせた図柄が印刷されているとの説明がされているほか,
シール付き印刷物に台紙領域が存在することによって,シールがシール付き印
20 刷物以外の部分に貼り付けられることを防止する効果があると説明されてい
るから,本件発明1における「台紙」とは,上記のとおり台紙として利用する
ための印刷が施されたものと解するのが相当である。
⑵ これに対し,原告は,客観的・物理的にシールを貼り付けることができる紙
であれば「台紙」になり得るとし,
「台紙」とは紙本体に形成されるシール領域
25 以外の部分であり,シール付き印刷物の表紙をも含むとし,提供者の想定する
遊び方や一般人の認識といった主観によって「台紙」となるか否かが決められ
るものではないと主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,
「台紙となる印刷が施された紙本体」との
特許請求の範囲における文言に反する上,利用者がシールを貼り付けるための
台紙部分と認識できないような紙部分も「台紙」に含まれるとすれば,
「シール
5 (5,6)が家具や壁など望ましくない場所に貼り付けられたりすることを防
ぐ」との効果も実現し得ない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
⑶ 前記前提事実⑶で述べたとおり,被告製品は本件本体ブックと本件シールブ
ックの2冊の印刷物から構成されているところ,原告は本件シールブックにつ
10 き,本件発明1及び2の構成要件を充足すると主張し,以下,本件シールブッ
クについて検討する。
証拠(甲5,乙1の1,1の2)及び弁論の全趣旨によれば,本件シールブ
ックの表紙部分には表題が,見開き部分には本件パーツシール及び本件トレジ
ャーシールが,裏表紙部分には被告製品を使用した遊び方が印刷されており,
15 本件パーツシール及び本件トレジャーシールを貼り付ける土台として利用す
るための絵柄その他の印刷が施された部分は存在しない。なお,本件シールブ
ックの裏表紙部分には,前記のとおり,被告製品を使用した遊び方として,本
件パーツシール及び本件トレジャーシールについて,本件本体ブックに貼り付
けることが記載されている。
20 このことに,前記 の「台紙」「台紙領域」の意義を考慮すると,本件シー
,
ルブックは,
「台紙」「台紙領域」
, (構成要件1A,1D)を有しているとはい
えず,これらの構成要件を充足しない。
3 争点1-2(「紙本体」の充足性)について
構成要件1Bは「紙本体」について,
「少なくとも前記シール及び前記台紙とな
25 る印刷が施された紙本体」と規定する。
そうすると,本件発明1における「紙本体」は,
「前記シール及び前記台紙とな
る印刷が施された」ものと解されるところ,前記2で述べたとおり,本件シール
ブックには「台紙となる印刷」は施されていない。そうすると,本件シールブッ
クは「紙本体」を充足しない。
これに対し,原告は,
「紙本体」とはシール付き印刷物の基本構成となる紙とい
5 う程度の意味に理解されるべきと主張するが,構成要件1Bにおいて「少なくと
も前記シール及び前記台紙となる印刷が施された紙本体」との限定が付されてい
ることに反し,採用できない。
4 争点1-3(「折り重ねることによって形成」の充足性)
⑴ 文言侵害について
10 ア 構成要件1Cは,「前記紙本体の少なくとも一箇所を折り重ねることによ
って形成されるシール領域」と規定しているところ,「折り重ねる」とは,
一般的に「折って,上へ積み重ねる。畳んで重ねる」ことを意味する(乙8)
。
したがって,特許請求の範囲の記載から,シール領域は,紙本体の少なくと
も一箇所を折り,その紙本体を重ねることで形成されているといえる。
15 本件明細書の発明の詳細な説明欄には,前記1 のとおり,特許請求の範
囲の記載と同旨の記載があるほか,発明を実施するための形態として,【図
1】及び【図4】のシール付き印刷物が開示されている。そして,「このシ
ール領域3は,図2に示すように,紙本体2を折り重ねることによって形成
される。(段落【0021】
」 )と説明され,また,
「シール領域3となる範囲
20 には,図2に示すように,紙本体2の第1面21において,粘着層31A,
31Bとコーティング層32と非粘着層33とが形成される。(段落【00
」
25】)と記載され,本判決別紙図面である【図2】において,印刷物の「粘
着層」「コーティング層」及び「非粘着層」が1枚の紙表面に形成された上
,
で,その両側を中央側に折り,それを重ねることでシール領域が形成されて
25 いることが示されている。また,「前記実施の形態(判決注:図2で示され
る実施の形態)では,紙本体2の両側を折り曲げて全体が上層と下層の2層
構造になるシールブック1について説明したが,これに限定されるものでは
なく,紙本体2の一部だけを折り曲げてシール領域3を形成することもでき
る。(段落【0055】
」 )として,紙本体の一部を折り曲げてシール領域が
形成される形態も発明の実施の形態であることが示されていて,図2とは別
5 の形態も示されているが,そこでも,紙本体が折られて,重ねることでシー
ル領域が形成されることが記載されている一方で,「折り重ねることによっ
て形成」に関して他の実施の形態の説明はない。
これらによれば,本件明細書においても,発明の構成につき特許請求の範
囲の記載と同様の記載がされ,その実施例においても,シール領域は,1枚
10 の紙表面に形成された粘着層,コーティング層及び非粘着層を,その一部を
折り,その紙を重ねることで形成されることが示されているといえるから,
本件発明1における「折り重ねる」とは,紙本体を折って,1枚の紙本体を
重ねることを意味し,「折り重ねることによって形成されるシール領域」と
は,紙本体の少なくとも一箇所を折って重ねた構造のシール領域をいうもの
15 と解するのが相当である。
イ これに対し,原告は,本件明細書の「紙本体にコーティング層と粘着層を
形成して貼り合わせることでシール領域となる」
(段落【0016】)等との
記載を根拠に,紙本体のコーティング層と粘着層を重ねて貼り合わせること
でシール領域を形成するのであれば,紙本体を重ねる方法は「折り重ねる」
20 場合に限定されず,「折り重ね」は,重ねて貼り合わせたものであれば足り
ると主張する。
本件明細書の段落【0016】及び【0049】には「紙本体にコーティ
ング層と粘着層を形成して貼り合わせることでシール領域となる」との記載
があるが,構成要件1Cの「折り重ねる」との表現や上記アの本件明細書の
25 記載や実施の形態に照らし,上記記載は,1枚の紙本体にコーティング層と
粘着層を形成し,紙本体を折って重ねて貼り合わせることでシール領域を形
成するに当たって,紙本体を貼り合わせる過程があることを述べているもの
と理解することができるものである。本件明細書には,他の箇所も含めて1
枚の紙本体を折って折り重ねるのではなく,2枚の紙を単に重ねて貼り合わ
せることを示唆する記載はないことも考慮すると,上記記載は,構成要件1
5 C「折り重ねる」の「折り」との構成が不要になると解する根拠とはならな
い。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
ウ 証拠(乙13,14)によれば,●(省略)●これを覆すに足りる証拠は
ない。
10 そうすると,本件シールブックのシール領域は,シートの少なくとも一箇
所を折って重ねた構造であるとは認められないから,本件シールブックは構
成要件1C「折り重ねることによって形成」を充足しない。
⑵ 均等侵害について
ア 原告は,本件シールブックが「折り重ねることによって形成されるシール
15 領域」を有していないという相違点(本件相違点)があるとしても,本件シ
ールブックは本件発明1の構成と均等なものとして,本件発明1の技術的範
囲に属すると主張する。本件シールブックが本件発明1の構成と均等である
というためには,特許請求の範囲に記載された構成中被告製品と異なる部分
が特許発明の本質的部分でないことが必要である。
20 そして,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明に係る特許請求
の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特
徴的部分であると解すべきであり,特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細
な説明の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその作用効果を把
握した上で,特許発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見ら
25 れない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定するこ
とによって認定されるべきである。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと,本件発明1は,シール
付き印刷物に関する発明であり,それまで知られていた特許文献1ないし3
(特開2007-334037号公報,特開2006-82542号公報,
特開2004-314621号公報〔乙2〕)に開示されたシール付き印刷
5 物では,「シール及びシール台紙は平面状であるため,立体的な広がりのあ
る使い方を提供できるものではな」く,また「通常のシールを製造する方法
が適用される」ため製造が容易でないとの課題が存在した(段落【0006】,
【0007】。ここにいう「通常のシールを製造する方法」は,本件明細書
)
には直接記載はされていないが,上記各特許文献において,紙本体の少なく
10 とも一箇所を折り重ねることによってシール領域を形成する方法が開示さ
れていたと認めるに足りる証拠はない。
本件発明1は,従来技術における上記課題を踏まえ,「容易に製造するこ
とが可能」なシール付き印刷物を提供することを目的の1つとしており(段
落【0007】,本件特許請求の範囲記載の構成,具体的には,シール及び
)
15 台紙となる印刷が施された紙本体と,その少なくとも一箇所を折り重ねるこ
とによって形成されるシール領域との構成を有するシール付き印刷物とし,
紙本体を折り重ねることで形成されたシール領域を有するもの(段落【00
13】)と認められる。
また,実施例である【図1】及び【図2】については,
「シール(5,6)
20 及び台紙(4)となる印刷がされた紙本体2を折り重ねることでシール領域
3と台紙領域4が形成される。(段落【0046】,
」 )「紙本体2を印刷する
工程の延長線上で,紙本体2にコーティング層32と粘着層31A,31B
を形成して貼り合わせることでシール領域3となるため,起立シール5を含
むシールブック1を容易に製造することができる」
(段落【0049】)と説
25 明されている。
これらの本件明細書における記載からすれば,本件発明1が解決しようと
する課題である「容易に製造することが可能」となるための構成には,少な
くとも,1枚の「紙本体2」の両面に印刷を施した上で(段落【0020】
【0021】,図3)「紙本体2」を折り重ねて貼り合わせることによって
,
シール領域を形成することにより(段落【0021】【0046】,製造さ
)
5 れたシール付き印刷物であるという構成を有することが含まれていると解
することができる。
したがって,本件特許請求の範囲の記載のうち,「紙本体の少なくとも一
箇所を折り重ねることによって形成されるシール領域」との構成は,従来技
術に見られない特有の技術的思想を構成する本件発明の特徴的部分である
10 といえる。
ウ これに対し,原告は,本件発明の本質的部分は,同種の紙素材を重ねて貼
り合わせてシール領域と台紙領域を形成することであり,「折り重ねること
によって形成されるシール領域」は本件発明1の本質的部分ではないと主張
する。
15 しかし,前記イのとおり,「紙本体の少なくとも一箇所を折り重ねること
によって形成されるシール領域」との構成は,従来技術に見られない特有の
技術的思想を構成する本件発明の特徴的部分であり,原告の主張は採用する
ことができない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
20 エ 前記のとおり,被告製品である本件シールブックは,構成要件1Cの「折
り重ねることによって形成」との文言を充足しないから,本件発明1とはそ
の本質的部分において相違し,少なくとも均等の第1要件を充足しない。
したがって,被告製品である本件シールブックは,本件発明1と均等なも
のとして,その技術的範囲に属するものとは認められない。
25 5 争点2(被告製品は本件方法により製造されたか)
原告は,被告製品が本件方法によって製造されたと主張する。
しかし,●(省略)●
そうすると,被告製品(本件シールブック)は本件方法によって製造されたも
のではなく,被告が本件方法を使用したとは認められない。したがって,被告が
本件方法を使用したことを理由として,被告に対し,本件方法の使用及び本件方
5 法により製造した印刷物の譲渡等の停止を求める原告の請求には理由がない。
なお,被告製品(本件シールブック)を製造する方法は,紙本体を折り曲げる
ことによって粘着層とコーティング層を貼り合わせてシール領域を形成する工
程(構成要件2E)を備えておらず,前記1の説示に照らしても,その余の構成
要件について検討するまでもなく,本件発明2の技術的範囲に属さない。
10 6 結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の本件請求は
いずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
15 裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 安 岡 美 香 子
裁判官 大 下 良 仁
(別紙)
目録
1 「好きな色に塗って博物館を作ろう!飛び出す始祖鳥ぬりえ」と題する冊子と「好
きな色に塗って博物館を作ろう!飛び出す始祖鳥ぬりえシールブック」と題する冊
子との2冊の冊子からなる印刷物
2 上記1記載の印刷物のうち,「好きな色に塗って博物館を作ろう!飛び出す始祖
鳥ぬりえシールブック」と題する冊子であるシールブックの製造方法であって,シ
ールブックの紙本体に第A面から第D面の印刷を施す工程と,トレジャーシールの
剥離面となる領域にコーティング層を形成する工程と,トレジャーシールの非粘着
部以外に粘着層を形成する工程と,紙本体を折り曲げることによって前記粘着層と
前記コーティング層とを貼り合わせてシール領域を形成する工程と,前記シール領
域における紙本体の上層を切り抜いて,トレジャーシールを形成する工程とを備え
たことを特徴とするシール付き印刷物の製造方法。
以 上
(別紙省略)
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