ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成30(行ケ)10133 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和1年7月18日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被告特許庁長官 原告レクサンファーマシューティカルズ コーリアリサーチインスティテュート ら訴訟代理人弁護士山本健策 ら訴訟代理人弁理士山本秀策 |
| 対象物 | 1-[(6,7-置換―アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体 |
| 法令 |
特許権 特許法126条1項9回 特許法126条6項7回 特許法36条5項1回 特許法128条1回 |
| キーワード | 審決23回 実施12回 拒絶査定不服審判8回 特許権2回 訂正審判1回 優先権1回 |
| 主文 | 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告らは,発明の名称を「1-[(6,7-置換―アルコキシキノキサリ ニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体」と する発明について,平成17年10月18日(優先日平成16年11月17 日,優先権主張韓国)を国際出願日とする特許出願(特願2007-542 886号。以下「本件出願」という。)をし,平成29年3月3日,特許権 の設定登録(特許第6097946号。請求項の数8。以下,この特許を「本 件特許」という。甲2,19)を受けた。 (2) 原告らは,平成29年11月20日,請求項1ないし8を一群の請求項と して,請求項1を訂正し,請求項2ないし5を削除する旨の訂正審判(訂正 2017-390124号事件)を請求したが(甲3),平成30年1月5 日付けの訂正拒絶理由通知(甲6)を受けたため,同年3月1日付けの意見 書(甲7)を提出した。 |
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令和元年7月18日判決言渡
平成30年(行ケ)第10133号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和元年6月20日
判 決
原 告 レクサン ファーマシューティカルズ
インコーポレイテッド
原 告 コーリア リサーチ インスティテュート
オブ ケミカル テクノロジー
原告ら訴訟代理人弁護士 山 本 健 策
同 福 永 聡
同 三 坂 和 也
原告ら訴訟代理人弁理士 山 本 秀 策
同 森 下 夏 樹
同 長 谷 部 真 久
同 馰 谷 剛 志
同 飯 田 貴 敏
同 石 川 大 輔
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 佐 藤 健 史
同 瀬 良 聡 機
同 菅 原 洋 平
同 原 賢 一
同 阿 曾 裕 樹
主 文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が訂正2017-390124号事件について平成30年5月8日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告らは,発明の名称を「1-[(6,7-置換―アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体」とする発明について,平成17年10月18日(優先日平成16年11月17日,優先権主張韓国)を国際出願日とする特許出願(特願2007-542886号。以下「本件出願」という。)をし,平成29年3月3日,特許権の設定登録(特許第6097946号。請求項の数8。以下,この特許を「本件特許」という。甲2,19)を受けた。
(2) 原告らは,平成29年11月20日,請求項1ないし8を一群の請求項として,請求項1を訂正し,請求項2ないし5を削除する旨の訂正審判(訂正2017-390124号事件)を請求したが(甲3),平成30年1月5日付けの訂正拒絶理由通知(甲6)を受けたため,同年3月1日付けの意見書(甲7)を提出した。その後,特許庁は,同年5月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月17日,原告らに送達された。
(3) 原告らは,平成30年9月12日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。特許請求の範囲の記載
(1) 本件訂正前本件訂正前(本件特許の設定登録時)の特許請求の範囲の請求項1ないし9の記載は,以下のとおりである(甲2)。【請求項1】下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。前記化学式1において,X及びYは各々NまたはC-R⁷ であり,R¹はフッ素であり,R²は塩素であり,R³はC1-C3 アルキルであり,R⁴ ,R⁵ ,R⁶ 及びR⁷ は各々水素,C1-C3 アルコキシ,C1-C3 アルキル,C1-C3 ハロアルキル,C1-C3 アルキルカルボニル,ハロゲン,シアノまたはニトロである。ただし,R¹及びR²が同時に水素原子であることはない。【請求項2】X及びYは各々N,C-H,C-F,C-Cl,C-CN,C-CH3 またはC-OCH3 であることを特徴とする,請求項1記載の化学式1で表される化合物。【請求項3】R³はメチルであることを特徴とする,請求項1記載の化学式1で表される化合物。【請求項4】R⁴ ,R⁵ 及びR⁶ は各々水素原子,Cl,Br,ニトロ,メチル,トリフルオロメチル,メトキシまたはアセチルであることを特徴とする,請求項記載の化学式1で表される化合物。【請求項5】R⁷ は水素原子,F,Cl,シアノ,メチルまたはメトキシであることを特徴とする,請求項1記載の化学式1で表される化合物。【請求項6】1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体の製造方法であって,下記化学式6で表される化合物を,ジメチルスルホキシド溶媒中,1.0~5.0等量の2,4-ジメトキシベンジルアミンと反応させて下記化学式で表される化合物を得る工程,前記化学式7で表される化合物を,ジクロロメタン溶媒中,トリフルオロ酢酸(TFA)と反応させて下記化学式2で表される化合物を得る工程,下記化学式2で表される6,7-置換-2-アルコキシ-3-アミノキノキサリンを,1.0~1.5等量のL-C(=O)-L'基で表される供与試薬を塩基存在下で溶媒の中で,室温~100℃の温度で反応させ,下記化学式3で表される化合物を得る工程,及び,前記製造された化学式3で表される化合物を,1.0~1.5等量の下記化学式4で表される1-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体と塩基存在下で溶媒の中で,50℃~100℃で反応させ,下記化学式1で表される化合物を得る工程を含むことを特徴とする方法。前記化学式において,X,Y,R¹,R²,R³,R⁴ ,R⁵ 及びR⁶ は請求項1で定義した通りであり,L及びL'は各々イミダゾール,Cl,エトキシ,フェノキシまたは4-ニトロフェノキシである。【請求項7】請求項1記載の化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なその塩,及び薬剤学的に許容可能な希釈剤または担体を含有することを特徴とする薬剤組成物。【請求項8】抗増殖剤である請求項7記載の薬剤組成物。
(2) 本件訂正後本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,6ないし8の記載は,以下のとおりである(下線部は本件訂正による訂正箇所である。甲3)。【請求項1】下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。前記化学式1において,X及びYはC-Hであり,R¹はフッ素であり,R²は水素であり,R³はメチルであり,R⁴ はメトキシであり,R⁵ は水素であり,そしてR⁶ はメトキシである。【請求項6】1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体の製造方法であって,下記化学式6で表される化合物を,ジメチルスルホキシド溶媒中,1.0~5.0等量の2,4-ジメトキシベンジルアミンと反応させて下記化学式で表される化合物を得る工程,前記化学式7で表される化合物を,ジクロロメタン溶媒中,トリフルオロ酢酸(TFA)と反応させて下記化学式2で表される化合物を得る工程,下記化学式2で表される6,7-置換-2-アルコキシ-3-アミノキノキサリンを,1.0~1.5等量のL-C(=O)-L'基で表される供与試薬を塩基存在下で溶媒の中で,室温~100℃の温度で反応させ,下記化学式3で表される化合物を得る工程,及び,前記製造された化学式3で表される化合物を,1.0~1.5等量の下記化学式4で表される1-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体と塩基存在下で溶媒の中で,50℃~100℃で反応させ,下記化学式1で表される化合物を得る工程を含むことを特徴とする方法。前記化学式において,X,Y,R1,R2,R3,R4,R5 及びR6 は請求項1で定義した通りであり,L及びL'は各々イミダゾール,Cl,エトキシ,フェノキシまたは4-ニトロフェノキシである。【請求項7】請求項1記載の化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なその塩,及び薬剤学的に許容可能な希釈剤または担体を含有することを特徴とする薬剤組成物。【請求項8】抗増殖剤である請求項7記載の薬剤組成物。本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。その要旨は,①本件訂正のうち,請求項1に係る訂正事項2は,特許法126条1項ただし書各号及び同条6項に規定する要件に適合しないから,訂正事項2による訂正を認めることができない,②一群の請求項である請求項1ないし5に係る訂正事項1,3ないし13による訂正も,訂正事項2による訂正を認めることができない以上,認めることはできないというものである。請求項1に係る訂正事項及びそのうちの訂正事項2についての本件審決の判断は,以下のとおりである。
(1) 請求項1に係る訂正事項ア 訂正事項1本件訂正前の請求項1の「X及びYは各々NまたはC-R7 であり」 「Xを及びYはC-Hであり」と訂正する。イ 訂正事項2本件訂正前の請求項1の「R2 は塩素であり」を「R2 は水素であり」と訂正する。ウ 訂正事項3本件訂正前の請求項1の「R3 はC1-C3 アルキルであり」を「R3 はメチルであり」と訂正する。エ 訂正事項4本件訂正前の請求項1の「R4,」を「R4 はメトキシであり,」と訂正する。オ 訂正事項5本件訂正前の請求項1の「R5,」を「R5 は水素であり,」と訂正する。カ 訂正事項6本件訂正前の請求項1の「R6 及び」を「そしてR6 はメトキシである」と訂正する。キ 訂正事項7本件訂正前の請求項1の「R7 は」との記載を削除する。ク 訂正事項8本件訂正前の請求項1の「各々水素,C1-C3 アルコキシ,C1-C3 ルキル,C1-C3 ハロアルキル,C1-C3 アルキルカルボニル,ハロゲン,シアノまたはニトロである。」との記載を削除する。ケ 訂正事項9本件訂正前の請求項1の「ただし,R1 及びR2 が同時に水素原子であることはない。」との記載を削除する。
(2) 訂正事項2についての判断ア 特許法126条1項ただし書各号の要件の適合性(ア) 明瞭でない記載の釈明(特許法126条1項ただし書3号)について訂正が「明瞭でない記載の釈明」を目的とするというためには,特許がされた明細書又は特許請求の範囲のそれ自体意味の不明瞭な記載,又は,特許がされた明細書又は特許請求の範囲の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載を正し,その本来の意味を明らかにするものであることが必要である。本件訂正前の請求項1の「R2 は塩素であり」との記載は,それ自体からみて不明瞭ではなく,本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の記載からも不合理を生じておらず,請求項1の「ただし,R1 とR2 が同時に水素原子であることはない。」との記載があることにより,不合理を生じているとはいえず,また,R2 を「水素」とすることが,本来の意味を明らかにする訂正であるとはいえないから,訂正事項2が不明瞭となっている記載を正し,その本来の意味を明らかにする訂正であるとはいえない。したがって,訂正事項2は,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正でない。(イ) 特許請求の範囲の減縮(特許法126条1項ただし1号)について訂正事項2は,本件訂正前の請求項1において,化合物1中の置換基である「R2 は塩素であり」とあるのを「R2 は水素であり」と訂正するものであり,特許請求の範囲が変更されているから,特許請求の範囲を減縮するものでないことは明らかである。(ウ) 誤記又は誤訳の訂正(特許法126条1項ただし書2号)についてa 誤記の訂正について本件訂正前の請求項1の化学式1で表される化合物の置換基であるR2 が塩素であることは,技術的に何ら不合理な点はなく,ただし書の記載と両立するものであるから,請求項中の記載が,それ自体で,誤りであることが明らかであるとはいえない。また,本件明細書には,一般式1において,「R2」が塩素であることは,具体的な記載を伴って記載されているといえるから,請求項中の記載が,特許がされた明細書の記載との関係で,誤りであることが明らかであるとはいえない。さらに,本件明細書には,「R2」の選択肢として様々な置換基が記載され,実施例としても複数の化合物が記載されており,「R1」 「フがッ素」の場合であっても,「R2」は「水素又はフッ素」の2種類の化合物群が記載されていることからすれば,「R2 は水素であり」という記載が,正しい記載であり,それが自明な事項として定まるとまではいえない。したがって,訂正事項2は,誤記の訂正を目的とする訂正でない。b 誤訳の訂正についてR2について,国際出願日における明細書及び請求の範囲(以下「国際出願日における国際出願の明細書等」という。甲17)の請求の範囲1項及び明細書の[22]及び[23]の記載と本件明細書(甲2)の【0009】の「…R2 は各々水素原子,C1-C6 アルコキシ,C1-C6 アルキルまたはハロゲンであり…前記ハロゲンはフッ素,塩素,臭素またはヨー素を意味する。」との記載によれば,特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載の意味が国際出願日における国際出願の明細書等に対応する記載の意味と異なるところはないから,訂正事項2は,誤訳の訂正を目的とする訂正でない。(エ) 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正(特許法126条1項ただし書4号)について訂正事項2が,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正でないことは明らかである。イ 特許法126条6項の要件の適合性訂正事項2は,本件訂正前の請求項1の「R2 は塩素であり」を「R2 は水素であり」と訂正するものであって,本件訂正前の請求項1に係る特許請求の範囲に記載された化合物群を,本件訂正後の異なる化合物群に変更するものであるから,実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明らかである。したがって,訂正事項2は,特許法126条6項の要件に適合しない。ウ まとめ以上のとおり,請求項1に係る訂正事項2は,特許法126条1項ただし書各号のいずれも目的とするものではなく,また,同条6項に規定する要件に適合しないから,訂正事項2による訂正を認めることはできない。
第3 当事者の主張
原告らの主張
(1) 訂正事項2の目的要件の判断の誤り
本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載は,文言上はR1 及びR2 が水素を包含しないが,実質的に理解されるR1 の定義は「フッ素又は水素」,R2 の定義は「塩素又は水素」であるところ,訂正事項2は,訂正によりR2 の定義に水素を文言上明確に記載して明瞭にし,塩素を削除して実質的に理解されるR2 の定義の範囲を減縮するものであるから,明瞭でない記載の釈明(特許法126条1項ただし書3号)及び特許請求の範囲の減縮(同項ただし書1号)を目的とし,さらに,本件特許の出願経過を参酌すれば,本件訂正前の請求項1の「R2 は塩素であり」との記載は誤記又は誤訳であるから,訂正事項2は,誤記又は誤訳の訂正(同項ただし書2号)を目的とするものであって,訂正事項2は,同項ただし書各号に規定する要件に適合しないとした本件審決の判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。ア 訂正事項2は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであること(ア) 本件訂正前の請求項1のただし書の「ただし,R1 及びR2 が同時に水素原子であることはない。」との記載は,いわゆる「除くクレーム」の記載であり,ただし書よりも前の本文に原則となる範囲が記載されていることを前提とし,その本文の範囲から例外的に除外される部分を規定するクレーム記載形式である。しかしながら,ただし書の記載は,本文の範囲(「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載)に文言上包含されていない部分(「R1 及びR2 が同時に水素原子である」との部分)を,本文の範囲から除外しようとするものであるから,本文の記載とただし書の記載に矛盾があり,両者の関係が不明瞭である。また,ただし書における「同時に水素原子であることはない」との記載は,「いずれか片方が水素であってもよい」こと,すなわち,R1 及びR2 のいずれか片方が水素である化合物は除かずに維持することを明示するものであり,R1 及びR2 のそれぞれが水素であり得ることを前提としているが,本文においては,文言上R1 及びR2 の選択肢に水素が含まれていないから,本文の記載とただし書の関係は不明瞭である。そうすると,本件訂正前の請求項1の本文のR1 及びR2 の範囲には,水素を含むはずであり,このことは,本件明細書に具体的に記載されているR1 とR2 の組合せ(表1の化合物1ないし196)の大部分(化合物1ないし168)がR1 又はR2 が水素であることとも整合している。したがって,本件訂正前の請求項1の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載を考慮すると,本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載において実質的に理解されるR1の定義は「フッ素又は水素」,R2 の定義は「塩素又は水素」であるというべきであるから,本文の上記記載は不明瞭である。クーパー博士の宣誓供述書(甲14)においても,これと同旨の意見が述べられている。(イ)a 本件特許の出願経過によれば,本件訂正前(本件特許の設定登録時)の請求項1は,平成20年3月25日付けの手続補正により補正された請求項1が平成23年1月20日付けの手続補正(以下「第1次補正」という場合がある。甲13)により補正された後,同年2月14日付け拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。甲16)に対する同年6月20日付けの拒絶査定不服審判(以下「本件拒絶査定不服審判」という。)の請求とともにされた同日付けの手続補正(以下「第2次補正」という場合がある。甲15)により補正されたものである。本件訂正前の請求項1のただし書の「ただし,R1 及びR2 が同時に水素原子であることはない。」との記載は,第1次補正により追加されたものであり,第1次補正後の請求項1の本文は,「R¹及びR²は各々水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたはハロゲンであり」である。本文で示されていたR1 及びR2の組合せは,下記の表(以下「本件表」という。)のとおりであり,ただし書の記載は,A1の組合せのみを除き,R¹及びR²の片方が水素であるA2ないし4,C1,D1の組合せは除かずに維持するものであるから,本文の記載とただし書の記載との関係は明瞭である。また,第1次補正とともに提出された同年1月20日付けの意見書(甲18)には,平成22年7月8日付けの拒絶理由通知で引用された「引用文献3(特表2002-538153号公報)」(以下「引用文献3」という。)の実施例に記載されたR1 及びR2が同時に水素原子である化合物に比して「本願発明」の化合物が優れた効果を奏する旨の記載がある。この記載も,A1の組合せのみが除かれて,R¹及びR²の片方が水素であるA2ないし4,C1,D1の組合せを維持することと整合する。その後,第2次補正により,第1次補正後の請求項1の本文が補正されて,R1が「フッ素」,R2 が「塩素又は水素」のB3の組合せのみが記載された一方で,ただし書は補正されなかったのであるから,ただし書の記載により,依然としてR¹及びR²の片方が水素であるAないし4,C1,D1の組合せを維持することが示されているといえる。記R2水素 フッ素 塩素 その他(注)水素 A1 A2 A3 A4R1 フッ素 B1 B2 B3 B4塩素 (C1) (C2) (C3) (C4)その他(注) (D1) (D2) (D3) (D4)注:フッ素及び塩素以外のハロゲン,C1-C3 アルコキシ,C1-C3 アルキル以上のような本件特許の出願経過を参酌すれば,本件訂正前(本件特許の設定登録時)の請求項1(第2次補正後の請求項1)の本文の記載とただし書の記載の関係が不明瞭であることは明らかである。b 次に,本件拒絶査定不服審判の原告らの代理人であった小川信夫弁理士(以下「小川弁理士」という。)は,本件拒絶査定がされた後,平成23年6月8日,特許庁の審査官との間で,電話により,本件出願の請求項1におけるR1 及びR2 の定義について,「R1 はフッ素であり,R2 は水素原子,C1-C3 アルコキシ,C1-C3 アルキルまたは塩素であり」と補正することを合意したが,上記合意を踏まえて提出した同月20日付けの第2次補正に係る手続補正書(甲15)には,請求項1の本文で「R2 は塩素であり」と記載されており,これは,上記合意の内容と整合しない。また,審査官は,本件拒絶査定において,「本願発明の化合物10は,引用文献3の化合物42に比して優れた抗腫瘍活性を示すものと認められる」と述べ, 1=F及びR2=Hを有する化合物10が特許R性を有することを認めたことからすると,本件拒絶査定を踏まえて第2次補正を行う際,特許性が認められた範囲を除外することは,極めて不可解であり,常識的には考えられない。ところが,第2次補正後の請求項1の文言には,R1=F及びR2=Hが含まれていない。以上のような本件特許の出願経過を参酌すれば,本件訂正前(本件特許の設定登録時)の請求項1(第2次補正後の請求項1)の本文のR1 及びR2 についての記載は不明瞭であるといえる。(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件訂正前の請求項1の本文のR1 及びR2 についての記載はただし書の記載との関係において不明瞭であり,Rの範囲には水素が含まれるはずであると合理的に解釈されるから,訂正事項2により,本文のR2 の範囲に水素を記載することは,本来の意味を明らかにする訂正に該当する。したがって,訂正事項2は,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。イ 訂正事項2が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであること前記アのとおり,本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載は,ただし書の記載との関係が不明瞭であり,実質的に理解されるR1の定義は「フッ素又は水素」,R2 の定義は「塩素又は水素」であるというべきであるから,R1 とR2 の組合せは,①R1 はフッ素であり,R2 は塩素である,②R1 はフッ素であり,R2 は水素である,
③R1 は水素であり,R2 は塩素であるの3つである。
訂正事項2は,本件訂正前の請求項1の記載に基づいて理解される本文のR2 の範囲から塩素を削除することによりR2 の範囲を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。そして,本件明細書の実施例には,上記①の組合せが具体的に記載されていないこと,本件拒絶査定において特許性が認められた化合物10は,上記①の組合せを有すること,本件拒絶査定において上記③の組合せを有する実施例の化合物115が顕著な効果を示さないとして拒絶されていることを踏まえると,R1 及びR2 を上記②の組合せに限定することは,極めて合理的な訂正であるといえる。ウ 訂正事項2が誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであること(ア) 誤記の訂正について前記アのとおり,本件訂正前の請求項1においては,R1 及びR2 に関して,本文の記載とただし書の記載との間に矛盾があるのであるから,R1 及びR2 に関する記載に何らかの誤記があることが当然に理解される。そして,前記ア(イ)bの本件特許の出願経過によれば,第2次補正に係るR2 を塩素に限定する補正が小川弁理士の錯誤によってされたものであり,誤記により水素が脱落したことを合理的に理解される。また,前記ア(イ)bのとおり,第2次補正後の請求項1の本文の「R2は塩素であり」との記載は,小川弁理士と審査官の合意の内容と整合しないこと,審査官が,本件拒絶査定において,R1=F及びR2=Hを有する化合物10が特許性を有することを認めたことからも,請求項1において,R1=F及びR2=Hが含まれるはずであると理解される。したがって,本件特許の出願経過を参酌すれば,本件訂正前の請求項1の本文の「R2 が塩素であり」の記載が誤記であって,R2 が水素を含むことが意図されていたことが明らかであるから,訂正事項2は,誤記の訂正を目的とする訂正である。(イ) 誤訳の訂正について国際出願日における国際出願の明細書等(甲17)には,「R1 がフッ素であり,R2 が塩素であり,かつ,R1 及びR2 が同時に水素原子であることはない」という不明瞭な定義に相当する英文は記載されていないから,本件訂正前の請求項1は,誤訳があるために定義が不明瞭になったと理解される。他方,国際出願日における国際出願の明細書等の特許請求の範囲の請求項1及び請求項4には, 1 の選択肢としてフッ素を記載Rし,R2 の選択肢として水素を記載しており,その明細書には,本件訂正後の請求項1の全ての定義を満たす化合物4が具体的に記載されている([76]ないし[78],[723])。したがって,訂正事項2は,誤訳の訂正を目的とする訂正である。エ まとめ以上のとおり,訂正事項2は,明瞭でない記載の釈明,特許請求の範囲の減縮及び誤訳の訂正を目的とするものであるから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(2) 訂正事項2の特許法126条6項の要件の適合性の判断の誤り
前記(1)のとおり,本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり,R は塩素であり」との記載は,ただし書の「R1 及びR2 が同時に水素原子であることはない。」との関係が不明瞭であり,実質的に,本文のR1 及びRの範囲は,塩素だけではなく水素を含むはずであると理解される。そして,訂正事項2は,本件訂正前の請求項1の記載に基づいて理解されるR2 の範囲から塩素を削除することによりR2 の範囲を限定するものであり,実質上特許請求の範囲を変更する訂正ではないことは明らかであるから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(3) 小括
以上によれば,請求項1に係る訂正事項2は,特許法126条1項ただし書各号及び同条6項の要件に適合するから,これらの要件に適合しないとし本件審決の判断には誤りがあり,また,訂正事項2による訂正を認めることができない以上,一群の請求項である請求項1ないし5に係る訂正事項1,3ないし13による訂正も認めることはできないとした本件審決の判断にも誤りがある。したがって,本件訂正は訂正要件に適合しないとした本件審決の判断に誤りがあるから,本件審決は取り消されるべきである。
(被告の主張)
(1) 訂正の目的要件の判断の誤りの主張に対し
ア 訂正事項2が明瞭でない記載の釈明を目的とするものではないこと(ア) 化合物の化学式が技術常識からみて矛盾なく記載されていれば,その化合物は明確である。本件訂正前の請求項1において,化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体は,ただし書の「ただし,R1 及びR2 が同時に水素原子であることはない」の記載に先立つ記載として,「R 1はフッ素であり,R2 は塩素であり」と特定されているから,R1 及びR2は同時に水素原子でないことは当然のことである。そして,ただし書の記載は,このR1 とR2 の組合せの特定に矛盾するものではないことからすると,「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であ」る化学式1で表される化合物を繰り返して特定して重畳的に記載した事項であるといえる。したがって,本件訂正前の請求項1において,本文の「R1 はフッ素であり, 2 は塩素であり」R との記載とただし書の記載の関係は不明瞭であるとはいえないし,R1 及びR2 の範囲に水素が含まれることはない。また,本件明細書記載の実施例には,R1 とR2 の組合せに水素を含まない化合物も記載されており(化合物169~196),実施例の大部分のR1 又はR2 に水素が存在するからといって,「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」というように明確に特定して記載された特許請求の範囲において, 1 及びR2 は水素を含むはずであるということはできない。R(イ) 原告らは,本件特許の出願経過によれば,①第2次補正により,第1次補正後の請求項1の本文が補正されて, 1が「フッ素」,R2 が「塩R素又は水素」の組合せ(本件表のB3)のみが記載された一方で,ただし書は補正されなかったことからすると,ただし書の記載により,依然としてR1 及びR2 の片方が水素である組合せ(本件表のA2ないし4,C1,D1)を維持することが示されているといえるから,本件訂正前の請求項1(第2次補正後の請求項1)のR1 及びR2 は水素を含むはずであり,本文の「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載は不明瞭である,②第2次補正における「R2 は塩素であり,」との記載は,審査官と原告らの代理人の小川弁理士の補正に関する合意の内容と整合せず,また,審査官が本件拒絶査定において特許性が認められた範囲を除外することになるので,極めて不可解であり,常識的には考えられないことからすると,本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載は不明瞭である旨主張する。しかしながら,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正かどうかを検討するに当たっては,特許の設定登録時の特許請求の範囲及び明細書の記載から判断すべきであり,特許の出願経過は参酌されるべきではないから,原告らの上記主張は,その前提において失当である。仮に本件特許の出願経過を参酌するとしても,上記①の点については,本件訂正前の請求項1においては,ただし書に先立ち,「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」と特定して記載されており,第2次補正によって,原告らが自らR1 とR2 の組合せとして本件表中のA2ないしA4,B1,C1及びD1を除外し,B3の組合せのみに特定したにすぎないものであり,上記特定された記載以外に他に解釈する余地はない。次に,上記②の点については,原告ら主張の合意の成立は認められないし,仮にそれが認められるとしても,原告ら主張の合意の内容は, R「はフッ素であり,R2 は水素原子,C1-C3 アルコキシ,C1-C3 アルキルまたは塩素であり」と補正するものであるから,「R2 は塩素」であることは合意されたR2 の範囲に含まれており,本件訂正前の請求項1は合意の内容に反するものではない。また,原告らが提出した第2次補正に係る手続補正書及び本件拒絶査定不服審判の審判請求書に請求項1について「R2 は塩素であり」と記載されていること,上記審判請求書に「R2 を塩素に限定し」と記載されていること,本件拒絶査定の「本願発明の化合物10は,引用文献3の化合物42に比して優れた抗腫瘍活性を示すものと認められる」との記載は,審査官が化合物10を特許請求の範囲の記載に包含させなくてはならないことを意図して記載したものではなく,原告らは,自らの責任で特許請求の範囲の記載を選択すべきであることからすると,原告らは,自らの責任で,本件訂正前の請求項1において「R1 はフッ素であり,R 2は塩素であり」と記載したといわざるを得ない。したがって,本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり,R 2は塩素であり」との記載は不明瞭であるとの原告らの主張は理由がない。(ウ) 原告らは,訂正事項2により,本文のR2 の範囲に水素を記載することは,本来の意味を明らかにする訂正に該当する旨主張する。しかしながら,本件明細書には,化学式1で表される化合物の「R2」について,「水素原子,C1-C6 アルコキシ,C1-C6 アルキルまたはハロゲンであり」,「前記ハロゲンはフッ素,塩素,臭素またはヨー素を意味する。 (」 【0009】 との記載があり,) 実施例においても,「H,F,Cl,Me,MeO」という具体例(【0023】ないし【0246】)が記載されていることからすると,R2 を「水素」とすることが,本来の意味を明らかにする訂正であるとはいえない。また,R1 が「フッ素」で,R2 が「水素」である組合せの化合物が優れた効果を奏するからといって,R1 が「フッ素」で,R2 が「水素」とすることが本来の意味を明らかにするものであるという理由にならない。したがって,原告らの上記主張は理由がない。(エ) 以上によれば,訂正事項2は,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるとは認められない。イ 訂正事項2が特許請求の範囲の減縮を目的とするものではないこと本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載は,ただし書の記載との関係が不明瞭であるとはいえず,明確であるから,実質的に理解されるR1の定義は「フッ素又は水素」,R2 の定義は「塩素又は水素」であるとの原告らの主張は理由がないことは,前記アのとおりである。そうすると,実質的にR2 が「塩素又は水素」であることを前提に,訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるとの原告らの主張は,その前提において理由がない。ウ 訂正事項2が誤記又は誤訳の訂正を目的とするものはないこと(ア) 誤記の訂正について内容に誤りがない記載を訂正する場合や,訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表すと当業者や第三者が理解するとはいえない場合には,誤記の訂正を目的とする訂正に該当しない。しかるところ,前記アのとおり,本件訂正前の請求項1に記載された化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体は,置換基であるR2 が塩素であることは,技術的に何ら不合理な点はなく,ただし書の記載と両立するものであるから,請求項中の記載が,それ自体で,誤りであることが明らかであるとはいえない。また,本件明細書には,化学式1について,一般的な記載として,R2が塩素であること(【0009】)の記載があり,実施例においても,化合物106~126,176~182は, 2 が塩素である化合物が具R体的な製造方法とともに記載されていることからすると,請求項中の記載が,特許がされた明細書の記載との関係で,誤りであることが明らかであるとはいえない。したがって,訂正事項2は誤記の訂正を目的とする訂正であるとの原告らの主張は,その前提において理由がない。(イ) 誤訳の訂正について国際出願日における国際出願の明細書等には,請求の範囲1項にR2の 選 択 肢 と し て 「 halogen 」 が 記 載 さ れ , 明 細 書 に , 「 'halogen'represents F, Cl, Br, or I」と記載がされているから,R2 の選択肢として塩素が記載されていることは明らかである。また,上記明細書には,具体的な化合物としてR2 が塩素の化合物も記載されており,誤訳はない。したがって,訂正事項2は誤訳の訂正を目的とする訂正であるとの原告らの主張は,理由がない。エ まとめ以上のとおり,本件審決における訂正事項2の目的要件の判断に誤りがあるとの原告らの主張は理由がない。
(2) 特許法126条6項の要件の適合性についての判断の誤りの主張に対し
訂正事項2は,本件訂正前の特許請求の範囲(請求項1)に記載された化合物1の置換基である「R2」が塩素である化合物群を,「R2」が水素である異なる化合物群に変更するものであるから,実質上特許請求の範囲を変更するものである。原告らは,本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載は,ただし書の「R1 及びR2 が同時に水素原子である」との関係が不明瞭であり,実質的に,本文のR1 及びR2 の範囲は,塩素だけではなく水素を含むはずであると理解されることを前提として,訂正事項2は実質上特許請求の範囲を変更する訂正ではない旨主張するが,前記(1)アのとおり,原告らの主張は,その前提において失当である。
(3) 小括
以上のとおり,請求項1に係る訂正事項2は,特許法126条1項ただし書各号及び同条6項の要件に適合しないから,訂正事項2による訂正を認めることができないとした本件審決の判断に誤りはなく,また,訂正事項2による訂正を認めることができない以上,一群の請求項である請求項1ないし5に係る訂正事項1,3ないし13による訂正も認めることはできないとした本件審決の判断にも誤りはない。したがって,原告ら主張の取消事由は理由がない。
第4 当裁判所の判断
訂正事項2の特許法126条6項の要件の適合性について
(1) 本件明細書の記載事項についてア 本件明細書(甲2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する表1及び表2については別紙を参照)。(ア) 【0001】本発明は新規キノキサリンピペラジン化合物である1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体と薬学的に許容可能なその塩,その化合物の製造方法,及びキノキサリンピペラジン化合物の癌を含む過剰増殖性疾患の治療方法に関する。【0002】背景技術化学療法は様々な細胞分裂工程の段階を阻害して癌細胞を死滅させ,化学療法にはアルカリ化剤(例えば,シクロホスファミド,カルマスティン,シスプラチン),代謝拮抗物質(例えば,メトトレキサート,5-FU,ゲムシタビン),細胞毒性抗生物質(例えば,ドキソルビシン,マイトマイシン),及び植物性誘導体(例えば,パクリタキセル,ビンクリスチン,エトポシド)。を含む数種類の化学療法がある。また,化学療法は白血病,その他の血液癌,及び手術のできない固形癌や転移性固形癌用の主要治療剤として使用される。しかし,既存の化学療法薬は,有効成分が限られており,副作用と多剤耐性の発達を弱化させるという問題点がある。新規ピペラジン化合物は主要のような疾患を治療するために有力で新規の治療的分子をを提供する。抗腫瘍剤の新規開発に関し,米国特許出願公開第2003/0092910号には下記化学式(A)で表されるピペラジン化合物が提示されている。【0003】化学式A【0004】米国特許出願公開第2003/0092910号には,Ra 及びRbが結合したC3-C4不飽和環形態の1-[(2-アルコキシキノキサリン-3-イル]アミノカルボニル-4-アリールピペラジンの生成について提示されている。しかし,化学式(A)の化合物はキノキサリン環のC-5,C-6,C-7及びC-8の位置に水素原子しか置換することができない。即ち,米国特許出願公開第2003/0092910号に記載された化合物は,1-[(2-アルコキシキノキサリン-3-イル)アミノカルボニル-4-アリールピペラジンのキノキサリン環のC-6の位置に水素ではない他の置換基はなく,キノキサリンのC-6の位置に水素ではない他の置換基の化合物は製造されず,抗腫瘍剤としての実験は行われていない。(イ) 【0005】本発明は1-[(2-アルコキシキノキサリン-3-イル)アミノカルボニル-4-アリールピペラジン誘導体の優れた抗腫瘍活性と非常に低い毒性に着眼して開発されたものであり,キノキサリン環のC-6の位置に水素ではない他の官能基による新規1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリン)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体,及びこれら新規の化合物の強い抗腫瘍活性と製造方法を提示している。従って,本発明の目的は,新規化合物である1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体を提供することである。また,本発明の別の目的は,新規化合物である1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体の製造方法を提供することである。更に,本発明のまた別の目的は,1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体の抗腫瘍剤としての用途を提供することである。【0007】本発明は下記化学式1で表される新規キノキサリン-ピペラジン誘導体,またはその薬剤学的に許容可能な塩,その製造方法,及び過剰増殖性疾患,疾病,対象(例えばヒトの患者または別の動物対象)の病気の治療での用途を含む。本発明による方法は物質をキノキサリン-ピペラジン化合物効果的な投与量を含む。このような治療は過剰増殖性の病気を防止,改善及び/または抑制することができ,及び/または悪性腫瘍のような腫瘍の細胞増殖または成長を防止または抑制することができる。本発明の治療法は少なくとも測定不可能な程度の全身腫瘍組織量を減少させ,過剰増殖性の病気を患う患者の生存を改善させる。病気のうち,本発明による腫瘍と感染性疾患の治療剤は腫瘍,更に詳しくは様々な原因による腫瘍(肺,大腸,胃,平滑筋,食道,非ホジキンリンパ腫,非小細胞肺癌など)である。(ウ) 【0008】本発明による方法で使用される化合物本発明による方法で使用される化合物は化学式1で表される1-[6,7-置換アルコキシキノキサリニル]アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体を有するキノキサリン-ピペラジン誘導体を含む。【0009】化学式1前記化学式1において,X及びYは各々NまたはC-R7 であり,R1 及びR2 は各々水素原子,C1-C6 アルコキシ,C1-C6 アルキルまたはハロゲンであり,R3 はC1-C6 アルキルであり,R4,R5,R6 及びR7 は各々水素,C1-C6 アルコキシ,C1-C6 アルキル,C1-C6 ハロアルキル,C1-C6 アルキルカルボニル,ハロゲン,シアノまたはニトロである。前記ハロゲンはフッ素,塩素,臭素またはヨー素を意味する。前記アルコキシとはメトキシ,エトキシ,プロポキシ,イソプロポキシ,ブトキシ,イソブトキシ及びt-ブトキシを含むC1-C6 アルコキシを意味する。前記アルキルはメチル,エチル,プロピル,イソプロピル,n-ブチル,イソブチル,t-ブチル,n-ペンチル,イソペンチル,n-ヘキシル,イソヘキシル及びシクロヘキシルを含むC1-C6 アルキルを意味する。前記ハロアルキルはトリフルオロメチルのようにF,Clなどのハロゲンで置換されたC1-C6 アルキルを意味する。前記アルキルカルボニルはメチルカルボニルまたはエチルカルボニルのようにアルキルによりケトン化されたカルボニルを意味する。【0010】本発明による前記化学式1で表される化合物において,特に好ましくは,X及びYは各々N,C-H,C-F,C-Cl,C-CN,C-CH₃ またはC-OCH₃ であり,R¹及びR²は水素原子,F,Cl,メチルまたはメトキシであり,R3 はメチルであり,R4,R5 及びR6 は各々水素原子,Cl,Br,ニトロ,メチル,トリフルオロメチル,メトキシまたはアセチルであり,R⁷ は水素原子,F,Cl,シアノ,メチルまたはメトキシである。(エ) 【実施例】【0023】以上説明した本発明は下記実施例及び実験例により更に詳しく説明するが,本発明がこれに限定されるわけではない。(実施例1)…(化合物1)…【0246】(実施例196)…(化合物196)…【0247】化合物1~196の構造を下記表1に示す。【0256】動物実験1.癌細胞株の成長この研究に使用された癌細胞はキナゾリン化合物の効果を説明するために使用され,下記から得られた:ヒトOVCAR-3(卵巣),MCF-7(乳房,ホルモン依存性),MDA-MB-231(乳房),PC3(前立腺),HepG2(肝臓),A549(肺臓),Caki-1(腎臓),HT-29(大腸),HCT116(大腸)及びPANC-1(膵臓)は American Type Culture Collection(ATCC)(Manassas,VA)から確保し,MKN-45(胃)はDSMZ(独)から確保し,UMRC2(腎臓)は米国国立癌研究所(Bethesda,MD)から確保し,Huvec(ヒト臍静脈内皮細胞),HEK293(ヒト胎児腎)及びSK-OV-3(卵巣)は韓国細胞株銀行(Seoul,韓国)から確保した。…全ての細胞株は37℃,5%CO2 湿度下で培養した。【0257】2.細胞成長抑制実験様々なヒトの腫瘍細胞に対する置換されたキノキサリン-ピペラジン化合物の成長抑制を評価し,化合物の特定置換グループの相対的重要度もまた研究した。置換されたピペラジン誘導体化合物(先に製造された)を対照としてDMSOを使用して試験を行った。…OD 530 値から各ウェル当りの生きている細胞に換算するために,OD 530 値を標準OD530 値対各細胞株に対する細胞数曲線に代入した。%生存率は下記数学式により計算した。%生存率=生きている細胞数[実験群]/生きている細胞数[対照群]×100そして,IC50 値は非線型回帰分析により計算した。QSAR及び組み合わせ化学技術を使用して,前記図1a~1fに示した化合物を含む化合物の大数を合成した。合成化合物を約1μMの濃度で,3つの細胞株(PANC-1,MDA-MB-231及びUMRC2)に対して選別した。これらの細胞株の中,活性を見せる化合物を少なくとも1つ,更に選別した。これらの化合物から,下記表2に表される広範囲のスペクトル抗増殖剤として50個の化合物を更に選別した。【0260】産業上の利用可能性本発明による新規化合物は新規のキノキサリン-ピペラジン誘導体または強力な抗増殖性効果を有する薬剤学的に許容可能なその塩を提供し,キノキサリン-ピペラジン化合物を投与することで,癌を含む過剰増殖性疾患の治療に有効である。イ 前記アの記載事項によれば,本件明細書には,次のような開示があることが認められる。(ア) 「本発明」は,1-[(2-アルコキシキノキサリン-3-イル)アミノカルボニル-4-アリールピペラジン誘導体の優れた抗腫瘍活性と非常に低い毒性に着眼して開発されたものであり,キノキサリン環のC-6の位置に水素ではない他の官能基による新規1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリン)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体,及びこれら新規の化合物の強い抗腫瘍活性と製造方法を提示するものである(【0005】)。(イ) 「本発明」による治療は,過剰増殖性の病気を防止,改善及び(又は)抑制することができ,過剰増殖性の病気を患う患者の生存を改善させるという効果を奏する(【0005】,【0007】)。
(2) 訂正事項2が実質上特許請求の範囲を変更するものであるか否かについてア 訂正をすべき旨の審決が確定したときは,訂正の効果は出願時に遡って生じ(特許法128条),訂正された特許請求の範囲の記載に基づいて技術的範囲が定められる特許発明の特許権の効力は第三者に及ぶことに鑑みると,同法126条6項の「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの」であるか否かの判断は,訂正の前後の特許請求の範囲の記載を基準としてされるべきであり,「実質上」の拡張又は変更に当たるかどうかは訂正により第三者に不測の不利益を与えることになるかどうかの観点から決するのが相当である。また,特許請求の範囲の記載に関し,同法36条5項前段は,特許請求の範囲には,請求項に区分して,各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならないと規定している。この規定の趣旨は,一つの請求項から発明が把握されるようにするため,各請求項ごとに特許出願人自らが「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」と判断した事項を特許請求の範囲に記載することを求めたものと解されるから,客観的にみると,一つの請求項に内容的に重複する記載がある場合であっても,相互に矛盾するものでなければ,特許出願人自らが「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項」と判断したものとして解釈するのが相当である。以上を前提に,訂正事項2が実質上特許請求の範囲を変更するものであるか否かについて判断する。イ 本件訂正前の請求項1のただし書の「ただし,R1 及びR2 が同時に水素原子であることはない。」との文言は,その文理上,R1 及びR2 の両方が水素原子でないことを特定するにとどまり,R1 又はR2 のいずれか一方が必ず水素原子であることまで特定したものと理解することはできない。しかるところ,本件訂正前の請求項1の記載全体をみると,「R1 はフッ素であり」及び「R2 は塩素であり」との記載があり,この記載は,「R1」を「フッ素」に,「R2」を「塩素」にそれぞれ特定したものであることは明らかである。そして,この記載は,R1 及びR2 の両方が水素原子でないことをも意味するものと理解できるから,その点においては,ただし書の記載と重複する内容を含むものであるが,相互に矛盾するものではない。また,本件明細書の「前記化学式1において,…R1 及びR2 は各々水素原子,C1-C6 アルコキシ,C1-C6 アルキルまたはハロゲンであり,…前記ハロゲンはフッ素,塩素,臭素またはヨー素を意味する。」(【0009】)及び「本発明による前記化学式1で表される化合物において,特に好ましくは,…R1 及びR2 は水素原子,F,Cl,メチルまたはメトキシであり」(【0010】)との記載中には,化学式1のR1 及びR2 の例としてF(フッ素)及びCl(塩素)が開示されているから,本件訂正前の請求項1において「R1」を「フッ素」に,「R2」を「塩素」に特定することは,本件明細書の記載との関係においても整合するものである。そうすると,ただし書の記載と「R1 はフッ素であり」及び「R2 は塩素であり」との記載は,「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項」であると理解できるものであり,本件訂正前の請求項1におけるR1 及びR2 の定義が不明瞭であるということはできない。このように訂正事項2は,本件訂正前の請求項1記載の「R2」の「塩素」を「水素」に訂正するものであるから,特許請求の範囲を変更するものである。また,本件訂正前の請求項1の「R1 はフッ素であり」及び「R2 は塩素であり」との記載文言から,R1 は「フッ素又は水素」を,R2 は「フッ素又は水素」を実質的に意味するものと理解することはできないから,訂正事項2による特許請求の範囲の変更は,減縮的な変更には当たらない。そして,訂正事項2により,請求項1に係る発明は,本件訂正前の請求項1に記載される化合物1の置換基である「R2」が塩素である化合物群から訂正後の「R2」が水素である化合物群に変更されることになるから,この変更により,本件訂正前の請求項1の記載の表示を信頼した第三者に不測の不利益を与えることになることは明らかである。したがって,訂正事項2は,実質上特許請求の範囲を変更するものと認められるから,特許法126条6項の要件に適合しないというべきである。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(3) 原告らの主張について原告らは,本件訂正前の請求項1の記載及び本件明細書の記載を考慮し,また,本件特許の出願経過を参酌すれば,本件訂正前の請求項1の本文の「R はフッ素であり,R2 は塩素であり」との記載は,ただし書の「R1 及びR2 が同時に水素原子であることはない。」との関係が不明瞭であり,実質的に,本文のR1 及びR2 の範囲は,塩素だけではなく水素を含むはずであると理解され,訂正事項2は,実質的に理解されるR2 の範囲から塩素を削除することによりR2 の範囲を限定するものであるから,実質上特許請求の範囲を変更する訂正ではない旨主張する。しかしながら,前記(2)イのとおり,本件訂正前の請求項1の特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正前の請求項1の本文の「R1 はフッ素であり」及び「R2 は塩素であり」との記載は,「R1」を「フッ素」に,「R2」を「塩素」にそれぞれ特定したものであることは明らかであり,ただし書の「R1及びR が同時に水素原子であることはない。」との記載と重複する内容を含むものであるが,相互に矛盾するものではなく,本件明細書の記載との関係においても整合するものであるから,本文の記載とただし書の記載が不明瞭であるということはできない。次に,本件特許の出願経過によれば,本件訂正前(本件特許の設定登録時)の請求項1は,本件拒絶査定不服審判の請求とともにされた第2次補正により第1次補正後の請求項1が補正されたものであるが,本件拒絶査定不服審判の審判請求書(乙3)には,「3.2.上記補正は,請求項1において,R1 をフッ素に限定し,R2 を塩素に限定し(特許請求の範囲の限定的減縮にあたります),…適正な補正です。」,「3.3.上記補正により,本願発明の化合物は,本願明細書の表2に記載される薬理試験結果において,当業者が予測し得ない程度の優れた抗腫瘍活性を奏するもの及びこれらと同視される化合物に限定され,審査官殿が指摘された,「引用文献3の化合物42と同程度の活性又は劣る活性を示す化合物(例えば化合物52,73,11,136,157,193など)」は明確に排除されています。」との記載があり,この記載から,上記補正は,請求項1におけるR1 をフッ素に限定し,R2 を塩素に限定するものであることを明確に理解できる。そして,本件明細書記載の化合物52,73にはR2 に水素が,化合物115,136,1にはR1 に水素が含まれており,本件拒絶査定不服審判の審判請求書の上記記載は,本件明細書の記載とも整合することからすると,本件訂正前の請求項1におけるR1 及びR2 の定義が不明瞭であるということはできない。また,本件拒絶査定(甲16)には,「本願発明の化合物10は,引用文献3の化合物42に比して優れた抗腫瘍活性を示すものと認められる」との記載があるが,この記載は,原告らが述べるような審査官が化合物10を特許請求の範囲の記載に包含させなくてはならないことを意図して記載したものとはいえないし,特許請求の範囲の記載は特許許出願人自らが「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項」を記載すべきものであり(特許法36条5項),原告らは,自らの責任で特許請求の範囲の記載を選択すべきであることからすると,本件拒絶査定の上記記載を参酌することにより,本件訂正前の請求項1におけるR1 及びR2 の定義が不明瞭であるということはできない。さらに,原告らは,本件特許の出願経過として参酌されるべき事情として,
第2次補正における「R2 は塩素であり,」との記載は,審査官と原告らの代
理人の小川弁理士の補正に関する合意の内容と整合しないことを指摘するが,原告ら主張の合意は,第三者との関係からすれば,出願経過における願書,願書に添付した明細書,特許請求の範囲,図面等の審査に係る書類,拒絶査定不服審判に係る書類等の手続書類と同列に扱うことはできず,本件訂正前の請求項1の解釈において参酌することはできない。したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(4) 小括以上のとおり,訂正事項2は,特許法126条6項の要件に適合しないから,その余の点について判断するまでもなく,請求項1に係る訂正事項2による訂正を認めることはできない。そして,請求項1に係る訂正事項2による訂正が認められない以上,一群の請求項である請求項1ないし5に係る訂正事項1,3ないし13による訂正も認めることはできない。したがって,本件訂正は訂正要件に適合しないとした本件審決の判断に誤りはない。結論以上によれば,原告ら主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。したがって,原告らの請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 國 分 隆 文
裁判官 筈 井 卓 矢
(別紙)
表1表2
| 特許裁判例 実用新案裁判例 |
| 意匠裁判例 商標裁判例 |
| 不正競争裁判例 著作権裁判例 |
| 特許判例 実用新案判例 |
| 意匠判例 商標判例 |
| 不正競争判例 著作権判例 |
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