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平成30(行ケ)10106審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和1年8月8日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社神戸製鋼所松井保仁
原告株式会社前川製作所金子明
対象物 油冷式スクリュ圧縮機
法令 特許権
特許法153条2項6回
特許法29条1項3号2回
キーワード 刊行物25回
新規性25回
審決22回
進歩性16回
実施13回
無効9回
無効審判2回
侵害1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,新規 性,進歩性の有無である。

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判決文

令和元年8月8日判決言渡
平成30年(行ケ)第10106号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和元年7月30日
判 決

原 告 株 式 会 社 前 川 製 作 所

同訴訟代理人弁護士 山 﨑 順 一
金 子 明
木 村 祐 太
平 井 佑 希
同訴訟代理人弁理士 石 橋 克 之
大 木 利 恵

被 告 株 式 会 社 神 戸 製 鋼 所

同訴訟代理人弁護士 松 本 好 史
松 井 保 仁
岩 崎 浩 平
同訴訟代理人弁理士 言 上 惠 一
前 堀 義 之
奥 西 祐 之
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由

第1 請求
特許庁が無効2017-800059号事件について平成30年6月26日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,新規
性,進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「油冷式スクリュ圧縮機」とする発明につき,平成8年1
0月25日(以下「本件出願日」という。,特許出願(特願8-283677号)

をし,平成18年2月3日,設定登録(特許第3766725号)を受けた(請求
項の数2。甲25。以下「本件特許」という。。

原告は,平成29年4月28日,本件特許の請求項1について特許無効審判請求
をした(無効2017-800059号。甲26)。
特許庁は,平成30年6月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決(以下「本件審決」という。)をし,同審決謄本は,同年7月5日,原告に送達さ
れた。
2 本件発明の要旨
本件特許の請求項1に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲25。
以下,同発明を「本件発明」といい,本件特許の明細書及び図面を「本件明細書」
という。。

「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に
溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,ス
クリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入
力軸を吸込側のロータ軸とし,吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリ
ュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,上
記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランス

ピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力
遮断する仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜
まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成したことを特徴とする油
冷式スクリュ圧縮機。」
3 本件審決の理由の要点
(1) Howden Compressor 社(以下「ハウデン社」という。)の発行した平成7年
5月付けのパンフレットである「HOWDEN AUTO VARIABLE Vi OPTIONS FOR XRV
RANGE COMPRESSORS」
(甲8。以下「甲8パンフレット」という。)に基づく新規
性欠如の主張について
甲8パンフレットが本件出願日前に頒布された刊行物であるか否かについては争
いがあるが,事案に鑑み,新規性の有無について判断する。
ア 甲8パンフレットには,以下の発明(以下「甲8発明」という。)が開示
されている。
「油とともに吐出された冷媒ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり
部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に備える一方,
スクリュロータの両側に延びるロータ軸を円筒ころ軸受により回転可能に支持し
て入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記円筒ころがり軸受よりもスクリュロータから離れた位置
にてスラスト玉軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラ スト玉 軸受 よりもス クリュ ロー タから離 れた位 置に て上記ロ ータ
軸にバランスピストンを設け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設け,
バランスピストンに向かって上記油溜まり部の油を加圧することなく導く流路の
途中に並列に始動ポンプを介して導く流路を設けて形成した,
油冷式スクリュ圧縮機。」
イ 本件発明と甲8発明との対比

(ア) 一致点
「油とともに吐出された冷媒ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり
部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,
スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持し
て入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて
スラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバラ
ンスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設け,
このバランスピストンに向けて上記油溜まり部の油を導く流路を設けて形成した,
油冷式スクリュ圧縮機。」の点
(イ) 相違点8-1
本件発明では「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する
仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の
油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」のに対して,甲8発明では,
「壁」がスラスト軸受とバランスピストンの間を圧力遮断する「仕切り壁」か否か
特定されず,少なくとも起動直後には均圧流路が形成されず,流路が導かれる空間
も特定されていない点
ウ 相違点についての判断
甲8パンフレットには,本件発明の「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧
流路」については記載も示唆もないし,また,これが技術常識であるともいえない
から,相違点8-1における本件発明の構成は,甲8パンフレットに記載されたに
等しい事項とはいえない。
エ したがって,本件発明は,甲8パンフレットに記載された発明(甲8発
明)ではない。

(2) ハウデン社の発行する宣伝リーフレットである「HOWDEN COMPRESSORS
INTRODUCES ITS LATEST RANGE OF REFRIGERATION COMPRESSORS The XRV」(甲9。
以下「甲9文献」という。)に基づく新規性欠如の主張について
甲9文献が本件出願日前に頒布された刊行物であるか否かについては争いがある
が,事案に鑑み,新規性の有無について判断する。
ア 甲9文献には,以下の発明(以下「甲9発明」という。)が開示されて
いる。
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸を円筒ころ軸受により回転可能に支持
して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記円筒ころ軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて
スラスト玉軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト玉軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバ
ランスピストンを設け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設け,
吐出圧があまり高くない範囲(5~9bara以下)の領域では,オイルポンプが使用
される,
スクリュ圧縮機。」
イ 本件発明と甲9発明との対比
(ア) 一致点
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持
して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記円筒ころ軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて
スラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバラ
ンスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設けた,

スクリュ圧縮機。」の点
(イ) 相違点
a 相違点9-1
本件発明では,
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の
油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設
ける」「油冷式スクリュ圧縮機」であるのに対して,甲9発明では,スクリュ圧縮

機であるものの,「油分離回収器」についての特定がなされていないとともに,「油
冷式」であることも特定されていない点
b 相違点9-2
本件発明では「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する
仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の
油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」のに対して,甲9発明では,
「上記スラスト玉軸受(スラスト軸受)とこのバランスピストンとの間に壁を設け」
るものの,壁」
「 がスラスト軸受とバランスピストンの間を圧力遮断する「仕切り壁」
か否か特定されず,吐出圧があまり高くない範囲(5~9bara以下)の領域では,
オイルポンプが使用されるものであって,「油溜まり室からバランスピストンに向
けて油を導く流路」及び当該流路の導かれる空間も特定されていない点
ウ 相違点についての判断
(ア) 相違点9-1について
相違点9-1の本件発明の構成は,甲9文献に記載も示唆もなく,甲9発明が「油
分離回収器」を備えているのか否かや「油冷式」であるかのか否かは不明といわざ
るを得ないから,甲9文献に記載されているに等しい事項ともいえない。
(イ) 相違点9-2について
甲9文献において,本件発明の「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流
路」については記載も示唆もなく,
「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流
路」が設けられているのかは不明といわざるを得ないから,相違点9-2における

本件発明の構成は,甲9文献に記載されたに等しい事項とはいえない。
エ したがって,本件発明は,甲9文献に記載された発明(甲9発明)では
ない。
(3) 特開昭57-159993号公報(甲1。以下「甲1文献」という。)に基
づく進歩性欠如の主張について
ア 甲1文献には,以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されて
いる。
「吐出された油を多量に含む圧縮ガスから油を分離し,油を一旦油溜まり部に溜
め,油と分離された圧縮ガスを吐出す油分離器52を吐出配管50に接続する一方,
スクリューロータの両側に延びる軸部4a,4b,5a,5bをジャーナル軸受
6,7,8,9により回転可能に支持して入力軸を吐出側の軸端部4cとし,
吐出側の上記軸部4a,5aを上記ジャーナル軸受8,9よりもスクリュロータ
から離れた位置にてスラスト玉軸受12,13により回転可能に支持するとともに,
上記吸引側のジャーナル軸受6,7よりもスクリューロータから離れた位置にて
上記軸部4bの端にバランスピストン32を係止し,
かつ,このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側
の位置にカバー21を設け,
このバランスピストン32のカバー21側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧
することなく導く配管58を設けて形成した,
油冷式スクリュー圧縮機。」
イ 本件発明と甲1発明との対比
(ア) 一致点
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦油溜まり部に溜め,
油と分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,
スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持し
て入力軸をロータ軸とし,

吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて
スラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
スクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,
かつ,壁を設け,
このバランスピストンの壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく
導く均圧流路を設けて形成した,
油冷式スクリュ圧縮機。」の点
(イ) 相違点
a 相違点1-1
油分離回収器に関して,本件発明では,油を一旦「下部の」油溜まり部に溜めて
いるのに対して,甲1発明では,油を一旦油溜まり部に溜めるものの,油溜まり部
が「下部」にあることが特定されていない点
b 相違点1-2
本件発明では,
「入力軸を吸込側のロータ軸とし,」
「上記スラスト軸受よりもスク
リュロータから離れた位置にて上記(吐出側の)ロータ軸にバランスピストンを取
り付け,かつ上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切
り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を
加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」のに対して,甲1発明では,入
力軸を「吐出側」の軸端部4c(ロータ軸)とし,
「上記吸引側のジャーナル軸受6,
7(ラジアル軸受)」よりもスクリューロータ(スクリュロータ)から離れた位置に
て上記軸部4b(ロータ軸)の端にバランスピストン32を係止し(取り付け),か
つ,「このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側
の位置にカバー21(壁) を設け,
」 このバランスピストン32の「カバー21(壁)」
側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58(均圧配管)を
設けて形成したものの,入力軸が吸込側でなく,バランスピストンの取り付け位置
が異なり,壁が上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間を圧力遮断するも

のではなく,均圧流路を導く空間が,バランスピストンと上記スラスト軸受とこの
バランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁側ではない点
ウ 相違点についての判断
(ア) 相違点1-1について
甲1文献の第5図を参照すると油分離器52の下部から油圧の配管58,53が
出ているから,油分離器52(油分離回収器)の油溜まり部を下部に設けることが
自然であり,相違点1-1における本件発明の構成とすることは,甲1発明及び甲
1文献に記載された事項から当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
(イ) 相違点1-2について
a(a) 甲1発明の課題と本件発明の課題とは,逆スラスト荷重の発生を
なくす点では共通している。
(b) しかし,相違点1-2における本件発明の構成について検討する
と,次のとおり,当業者が適宜選択しえる事項とまではいえない。
甲1発明における入力軸を「吐出側」のロータ軸から「吸込側」のロータ軸にす
ることについては,
「吐出側」「吸込側」のどちらに入力軸を設けることも知られて

いるから,それ自体は,単なる設計変更であるといえる余地はある。しかし,入力
軸を「吸込側」のロータ軸にすると,甲1発明の課題解決手段であるバランスピス
トン室34(吸込側に設けられている。 をそのまま維持することができないことに

なるし,また,バランスピストン室を吐出側に移転させようとしても,どのように
構成すればよいのかは,多くの改変を要することからして,当業者であっても,困
難であるといわざるを得ない。これらの多くの改変を行って,甲1発明から相違点
1-2における本件発明の構成とすることは,当業者が適宜選択し得る事項とまで
はいえない。
ⅰ 例えば,バランスピストン室を吐出側に移転する際に,甲1発
明における「上記吸引側のジャーナル軸受6,7(ラジアル軸受)」よりもスクリュ
ーロータ(スクリュロータ)から離れた位置にて上記軸部4b(ロータ軸)の端に

バランスピストン32を係止し(取り付け)」たものをどこに配置するのかは,バラ
ンスピストンとしての作用効果を得ることができるものであればどこでもよいとこ
ろ,あえて,相違点1-2のような「上記スラスト軸受よりもスクリュロータから
離れた位置にて上記(吐出側の)ロータ軸にバランスピストンを取り付け」るよう
な箇所とする動機付けは存在しない。
ⅱ また,本件発明の上記「スラスト軸受とこのバランスピストン
の間に圧力遮断する仕切り壁」との文言からすると,「仕切り壁」は,「スラスト軸
受」のすべての部分を含む空間と「バランスピストン」のすべての部分を含む空間
とを圧力遮断するものと解するのが自然である。そして,甲1発明における「この
バランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側の位置にカバ
ー21(壁)」を設けたものを,「スラスト軸受とこのバランスピストンの間に圧力
遮断する仕切り壁」とすること,いいかえると,壁を「スラスト軸受」のすべての
部分を含む空間と「バランスピストン」のすべての部分を含む空間とを圧力遮断す
る仕切り壁とすることには,相当の困難が伴う。
ⅲ さらに,甲1発明におけるバランスピストン32の「カバー2
1(壁) 側の空間に,
」 油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58(均圧配管)
を設けて形成したものを,
「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜
まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」とすることにも,
困難が伴う。
(c) 相違点1-2における本件発明の構成のうち,
「入力軸を吸込側の
ロータ軸とし,「スラスト軸受とこのバランスピストンの間に圧力遮断する仕切り

壁」とすること,いいかえると,壁を上記「スラスト軸受」のすべての部分を含む
空間と「バランスピストン」のすべての部分を含む空間とを圧力遮断する「仕切り
壁」とすること,及び,
「このバランスピストンの仕切り壁側の空間に」上記油溜ま
り部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した構成により,甲1発明
では奏することのない,負荷容量の大きなスラスト軸受を採用し,単純かつコンパ

クトな構造のスクリュ圧縮機とする格別な効果を奏するものである。
(d) そうすると,本件発明は,甲1発明のみから容易に想到し得たもの
ではない。
b 国際公開第93/10333号(甲2。以下「甲2文献」という。)
に開示された事項を適用した場合について
(a) 甲2文献には,以下の事項(以下「甲2文献に開示された事項」
という。)が開示されている。
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸を軸受又はラジアル軸受により回
転可能に支持して入力軸を吸入側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸をラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラ
スト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト玉軸受11
の外側リング17にバランスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト軸受とバランスピストンとの間に壁を設け,
カップスプリング12は,上記スラスト軸受の外側リングをクランプし,そのク
ランプ力は,スリーブ20及び壁によって伝達され,
バランスピストンの壁側の空間に,圧縮機の吐出側の作動流体を加圧することな
く導く均圧流路を設けて形成した,スクリュ圧縮機。」
(b) 甲1発明の構成に甲2文献に開示された事項を適用しても,バラ
ンスピストンをロータ軸ではなく,スラスト玉軸受11を介してロータ軸に取り付
けるものとなる上に,壁が上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間を圧力
遮断するものではなく,均圧流路を導く空間が,バランスピストンと上記スラスト
軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁側ではない点が依然と
して解消しないから,本件発明の構成とはならない。
(c) また,甲2文献は,ガスが環状チャンバ23に導かれる構成
となっているため,環状部材19はロータ軸に取り付けられず回転しない構造(以

下「非回転式」という。)にせざるを得ないのであり,したがって,非回転式である
ことを捨象して,甲2文献の「バランスピストン」(環状部材19)及び「壁」(環
状部材18)の配列をそれぞれ「(吐出側の)上記スラスト軸受よりもスクリュロー
タから離れた位置」や「上記スラスト軸受とバランスピストンの間」の位置と抽象
化して認定することはできない。
(d) さらに,甲1発明の「バランスピストンを(吸込側の)ロータ軸
に取り付けた」ものに甲2文献に開示された事項の「上記スラスト軸受よりもス
ク リ ュロータから離れた位置にてスラスト玉軸受11の外側リングにバ ラ ン
スピストンを取り付け」たことを適用する際に,
「バランスピストンを上記(吐出側
の)スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置」のロータ軸に取り付けた
ものとすることは,甲1発明の「バランスピストンをロータ軸に取り付けた」まま
で,甲2文献の「(吐出側の)上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位
置」に取り付けるという,都合の良い方を選択して適用するものであり,無条件に
組み合わせられるものではないから,当業者が容易に想到し得るものではない。
エ したがって,本件発明は,甲1発明のみから,又は,甲1発明に甲2文
献に開示された事項を適用することにより,本件出願日前に当業者が容易に想到し
得たものとはいえない。
(4) 甲9文献に基づく進歩性欠如の主張について
ア(ア) 国際公開第95/10708号(甲3。以下「甲3文献」という。)に
は,以下の事項(以下「甲3文献に開示された事項」という。)が開示されている。
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり
部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に
接続し,
シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に,上記油溜まり部
の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した,
油冷式スクリュー圧縮機1。」

(イ) 米国特許第4462769号明細書(甲4。 「甲4文献」
以下 という。)
には,以下の事項(以下「甲4文献に開示された事項」という。 が開示されている。

「オイルセパレータをスクリュー圧縮機の吐出配管システムに設け,
バランスピストン19に面する圧力スペース21に,オイルセパレータからの油
を導くための油入口孔22を設けて形成した,油冷式スクリュー圧縮機。」
(ウ) 実願昭62-128114号(実開昭64-34493号)のマイクロ
フィルム(甲5。以下「甲5文献」という。)には,以下の事項(以下「甲5文献に
開示された事項」という。)が開示されている。
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜30
に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続
し,
スペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく
導く配管28を接続した,油冷式スクリュ圧縮機。」
イ 相違点9-2についての判断
(ア) 甲9文献には,油ポンプは通常不要,最小限の油ポンプ要求という記載
はあるが,吐出圧(縦軸;
「DISCHARGE PRESSURE」)があまり高くない範囲(5~9
bar a以下)の領域では,油ポンプ(オイルポンプ)を使用することは当業者から
みれば不可欠である。
それに対して,甲1文献,甲3文献~甲5文献に開示された事項の課題又は目的
は,スクリュ圧縮機におけるスラスト荷重を均衡させるためのバランスピストンへ
の油の加圧方法といえる。甲9発明は,油ポンプを通常不要とするものであるとし
ても,起動直後等の吐出圧があまり高くない領域においては,油ポンプを使用する
ことは当業者からみれば不可欠であるから,甲1文献,甲3文献~甲5文献に開示
された事項を適用して,起動直後に油ポンプを使用せずに加圧することなく導く均
圧流路を設けることとするためには阻害事由があるといえる上に,積極的な動機付
けがあるともいえない。

(イ) 甲1文献,甲3文献~甲5文献は,スラスト軸受とバランスピストンと
の間に「圧力遮断する仕切り壁」を設けるという構成,及び,バランスピストンの
当該「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設
けたという構成を開示していないから,仮に,甲9発明に甲1文献,甲3文献~甲
5文献に開示された事項を適用できたとしても,本件発明のスラスト軸受とバラン
スピストンとの間に「圧力遮断する仕切り壁」を設けるという構成,バランスピス
トンの「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を
設けたという構成にはならない。
ウ したがって,本件発明は,甲9発明に,甲1文献,甲3文献~甲5文献
に開示された事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができた
とはいえない。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(甲8発明に基づく新規性欠如の主張を否定した判断の誤り)
(1) 甲8パンフレットは,本件出願日前に頒布された刊行物であること
ア 一体性
(ア) 甲8パンフレットには,文書としての完全な一体的連続性がある一方,
1枚目表面と以降の頁における使用フォントの相違,
「Index」と本文の間の意
味内容に影響しない僅かな用語の不一致等から,それは,ハウデン社が平成7年5
月頃,XRVレンジの新機構である自動可変Vi機構について,既に作成されたも
のを含む複数の文書を合体し,パッケジャー等の冷凍・冷蔵用圧縮機業界関係者向
けに作成した一体の販売促進文書であると認められる。
(イ) 各種資料について
a 原告の姉妹会社であるマエカワ・イタリア社の社員であるA(以下
「A」という。)は,甲8パンフレットのほか,以下の資料を保管していた。
(a) 「典型的自動可変Viシステム配置(オイルクーラー及び始動ポン
プ付き)(図面番号:XR21000-0,作成時期:平成8年4月)と題する図


面(甲59の1。以下「甲59-1図面」という。)
(b) 「典型的自動可変Viシステム配置(オイルクーラー付き)(図面

番号:XR21001-0,作成時期:平成8年4月)と題する図面(甲59の2。
以下「甲59-2図面」という。)
(c) ハウデン社の発行した平成8年4月付けのパンフレットである
「HOWDEN AUTO VARIABLE Vi CONTROL FOR XRV RANGE COMPRESSORS」(甲
60。以下「甲60パンフレット」という。)
b ハウデン社は,取引先に対し,XRV圧縮機についての技術資料を
綴った「XRV圧縮機データブック」と題したバインダーを提供していたが,Aは,
同バインダーを保管しており(Aが保管していたバインダーを,以下「バインダー
1」という。,同バインダーには,甲59-1図面及び甲59-2図面が綴られ,

そのクリアポケットには,甲8パンフレットと甲60パンフレットが収めて綴じら
れていた。また,ハウデン社が,他の取引先に提供した技術資料のバインダー(以
下「バインダー2」という。)には,甲59-1図面及び甲59-2図面と同一の図
面(甲61の1・2。以下,同図面をそれぞれ,
「甲61-1図面」「甲61-2図

面」という。)が綴られていた。
甲8パンフレット及び甲60パンフレットは,一体穿孔された21の長方形綴穴
が穿たれた文書であり,綴穴がバインダーに合う丸4穴ではなく,バインダー1の
データブック用資料とは別に提供されたことが明らかである。
c 甲60パンフレットの1枚目は甲8パンフレットの1枚目に酷似し
た目次に相当する「INDEX(索引)」があり,発行日として「1996年4月」
と記載され,以降は1~29まで頁数が記され,本文は1枚目の索引の記載項目ど
おりの構成となっており,その23頁には甲8パンフレットの10枚目表面の図面
(以下「図8-A」という。)と同一の図面が記載されており,そのほか少なくとも
3~5頁,19頁裏面,20頁は甲8パンフレットと同一である。
このように,甲60パンフレットは,甲8パンフレットの記載事項に加えてより

詳細な技術情報を販売業者及びパッケジャーに広く提供する内容のものであること,
その発行日として「1996年4月」と記載されていることからすると,甲8パン
フレットも,甲60パンフレットと同様に,文書として一体であり,甲60パンフ
レットに先立ち「1995年5月」に発行された刊行物であることが認められる。
d 甲59-1図面,甲59-2図面,甲61-1図面,甲61-2図
面は,いずれも,作成時期として平成8年4月と記載され,このうち甲59-1図
面,甲61-1図面は図8-Aと同一の圧縮機を中心とするほぼ同一のシステム配
置図面である。
イ 発行時期
甲8パンフレットの1枚目表面の記載から,甲8パンフレットは,平成7年5月
頃に発行されたものと認められる。そして,この時期は,ハウデン社のグローバル・
プロダクト・リーダー兼社長であるBの平成28年12月20日付け書面(甲22。
以下「甲22書面」という。)の「XRV圧縮機のVi自動可変機能は1995年初
め頃に導入されました。」との記載とも符合する。
また,バインダー1には,
「XRV/163 自動Vi垂直断面配置」
(甲66。以
下「甲66図面」という。)が入っており,同図面には,「日付 95/2」と記載
されているから,甲66図面は,遅くとも平成7年2月には存在していることが認
められるところ,甲8パンフレットは,甲66図面のコンプレッサーの新機構とし
て紹介するためのパンフレットであるから,甲8パンフレットの上記発行日の記載
は信用できる。
ウ 刊行物性
特許法29条1項3号にいう「頒布された刊行物」とは,公衆に対し,頒布によ
り公開することを目的として複製された文書,図画等を意味するところ,甲8の2
枚目表面の「INTRODUCTION(イントロダクション)」の下の冒頭の段落
には,
「本パンフレットは,Howden Compressors XRVレンジ(製品群)の販売業者及
びパッケージ業者の方々に採用可能となった代替的な可変体積率(Vi)制御装

置・・・をご紹介するためにご提供申し上げるものです。」とあるとおり,従来型の
XRV圧縮機にはなかった機能が新たに利用可能となったことを広く宣伝する文書
であり,コンプレッサー・冷凍機業界においてハウデン社製品を取り扱う可能性の
ある不特定の者に対して頒布するために作成された販促文書であることは明確であ
る。文書に秘密であることの表示はなく,その閲覧につき格別の身分,資格も要求
されておらず,これを更に他者に交付し,閲覧させることについて何らの制約も付
されていないことから,それが「外国において頒布された刊行物」に該当すること
は明白である。
また,甲8パンフレットが公開されたものであることは,平成7年5月頃に作成
された一般公開宣伝パンフレットであることが明白な「HOWDEN COMPRESSORS」
(甲49の1。以下「甲49の1パンフレット」という。)の7頁には,甲8パンフ
レットに記載されているグラフや図がそのまま記載されていることからも裏付けら
れる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲8パンフレットを現物確認すると,一部が相当程度破損して
いる状態にあり,クリアポケットに収められて手付かずのまま保管されていたとは
考えられないから,甲8パンフレットは,個人ファイルに入れ,ほとんど手付かず
のままにしていたとの原告の主張は信用できないと主張する。
しかし,本件訴訟において意味があるのは,甲8のハウデン社作成の頒布文書と
しての存在とその記載内容であり,その綴じ穴外の数箇所が破損していることの経
緯などではない。
また,甲8パンフレットは,1枚目の長方形21穴の外側の細い帯状の紙が数箇
所でなくなっていたり,残ったままであるが切れた状態となっている他は,目立っ
た破損はないことから文書の毀損は皆無であり,被告の「相当程度破損している」
との主張は明らかな誇張であり,この程度の文書の状態の変化が,その取扱い中で
発生することは何の不思議もない。

したがって,甲8パンフレットの書証としての信用性が損なわれることはなく,
被告の上記主張は理由がない。
(イ) 被告は,バインダー1は「個人ファイル」ではないから,Aがスルツ
ァー・イタリアSpA退職後にも「個人ファイル」としてバインダー1を保持し続
けていた経緯,理由,権限等が不明であるなどと主張する。
しかし,本件訴訟との関係において肝心な点は,バインダー1がハウデン社から
の配布文書として客観的に存在することであり,Aによる入手経緯などではないか
ら,被告の上記主張は意味がない。
(ウ) 被告は,甲8パンフレットには,ハウデン社の所在地・電話番号・フ
ァックス番号の記載が一切ないから,甲8パンフレットが,ハウデン社の一般的な
販売促進活動のための文書とは考え難いと主張するが,既に取引のある冷凍業者に
対する販売促進文書であれば,所在地,電話番号等は,必ずしも必須の記載ともい
えないから,被告の上記主張は理由がない。
(2) 甲8パンフレットに基づく新規性欠如
以下のとおり,甲8発明は,本件発明の構成要件をすべて具備しているから,両
発明は同一の発明である。
ア 甲8発明の始動ポンプを使用する流路は付加的オプション流路であるこ

(ア) 甲8発明においてポンプ非加圧流路が設けられていることは,図8-
Aにおいて,「分離器/油溜まり」から下方へ伸びる緑色の流路が油冷却器を経て,
ポンプを経ることなく,
「バランスピストン及び軸受供給」流路につながっていると
おりである。このように非加圧流路の油が油冷却器を経て供給されるのは,この油
がローターによる圧縮によって加熱,加圧されて吐出され,冷却を要する高熱の油
であるからである。
したがって,甲8発明の圧縮システムにおいては,定常運転時には,専ら非加圧
流路(本件発明にいう「均圧流路」)のみが流路として使用されるのであり,油冷却

器を経ない始動ポンプ加圧流路は使用することができず,それがシステムに補助的
に付加された従たる流路であることは明らかである。
(イ) 始動ポンプは,その語から圧縮機システムの起動時に油を加圧し供給
する機能を有することは理解でき,原告の争うところではない。しかし,甲8パン
フレットには,その具体的な使用方法,使用条件は記載されていない上,甲8パン
フレットの7枚目の裏面,8枚目の表面及び9枚目の表面には,もし始動ポンプが
必須であれば,その言及がないはずはないにもかかわらず,一切その記載がないこ
とからすると,この付加的流路が圧縮機の使用条件によって選択的に使用されるに
すぎないものではなく,起動時に必ず使用しなければならないものであると判断す
る根拠はない。
この点について,図8-Aについては,甲8パンフレットの表紙に「典型的シス
テム構成」との記載があり,図8-Aの前頁にも「典型的システム構成」との標題
が記されているところ,XRV圧縮機等の圧縮機を使用した冷媒圧縮システムは,
一般に,
「パッケージャー」と呼ばれる業者により,圧縮機を中心として,冷凍プラ
ント毎にシステムが設計され,圧縮機と組み合わせる油分離器,フィルター,さら
に,凝縮器,蒸発器もシステム毎に選択し調達され,納入先工場で組み立てられる
のであり,圧縮機には構造上油ポンプを必須とするものがあるが,それ以外の圧縮
機において始動ポンプをシステムに設けるか否かは,システムの使用条件に応じて
パッケージャーが行うシステム設計上の選択事項であり,圧縮機の選択により一義
的に決定されるものではないことは,当業者の常識である。したがって,図8-A
が「典型的システム構成」であるとされることは,XRV圧縮機を使用するシステ
ムとしては図示以外の構成とすることが可能であることが当業者に対して明示され
ているといえる。
(ウ) 平成7年5月(甲8パンフレットの発行月)~平成8年10月25日の
本件出願日までの当業者の油冷式スクリュ圧縮機に関する技術常識からすると,甲
8パンフレットに示された構成の圧縮機を使用するシステムにおいては,使用条件

に応じて,始動ポンプを使用することなく起動し,定常運転に移ることができるシ
ステムであり得ることは容易に理解できるところであった。
上記技術常識を示す文献としては,以下のものがある。
a 実全昭51-105602(甲42。以下「甲42文献」という。)
「ここで,ロータの軸受部への給油を油ポンプPを介して行なうのは,この部分
は高圧(吐出圧)が作用していることと,スクリュー圧縮機においては特に圧縮比
が大きくロータの軸受部分の荷重が大であるため,ほとんどすべり軸受が使用され,
大なる油圧を必要とするからである。
しかし,大なる油量が必要でない軸受を使用した場合,あるいは軸受部をシール
して閉じ込み後のロータの低圧部と連通した場合には,油ポンプを使用しなくてよ
い。(5頁6行~15行)

「本考案によれば高圧多量の油を必要とする部分にのみ油ポンプで昇圧して油を
供給し,その他の部分には圧縮機の吐出圧を用いて給油するため油ホンプ容量は小
さなものを使用するか廃止することができ,安価な注油式スクリュー冷凍圧縮機と
することができ,圧縮機起動時において軸受部に充分に油を供給できる。(5頁1

6行~6頁3行)
b 森山浩三「スクリュ圧縮機(二軸型)(社団法人日本冷凍協会機関

紙「冷凍」,平成6年9月号)(甲43。以下「甲43文献」という。)
「スクリュー圧縮機の軸受については,従来ラジアル荷重を受けるスリーブ軸受
とスラスト荷重を受けるアンギュラ型玉軸受とで構成されていた。比較的小形のも
のについては,高負荷タイプのころがり軸受が開発されていたこともあり,従来の
スリーブ軸受に替わってころがり軸受でラジアル荷重を受ける事が可能となり,全
ころがり軸受で構成されるようになった。これは,従来のスリーブ軸受では潤滑に
必要な油膜保持の為,油ポンプが必要であったものが,不要になったことを意味す
る。潤滑油は吐出圧力に近い給油圧力と,吸込圧力に近い排油圧力との差圧により
自給される。」

c 甲4文献
「例えば,外付けの油ポンプ又は油注入スクリュ圧縮機の吐出配管システムに従
来から用いられているオイルセパレータのような任意の適切な手段によって供給可
能である。(甲4の3枚目右欄9行~12行,抄訳14行~16行)

d 常富実外3名「日立パッケージ形スクリュー圧縮機『OS-Pシリー
ズ』(日立評論59巻10号。昭和52年発行)
」 (甲44。以下「甲44文献」とい
う。)
「オイルセパレーターで分離された油はオイルクーラで冷却され,オイルセパレ
ータ内の圧力と圧縮機本体の圧力差によって圧縮機内に噴射され,圧縮空気の冷却,
ロータの潤滑,ロータシールラインのシール及びベアリングの潤滑を行なう。(5

8頁右欄8行~11行)
59頁の図4「フローシート」には,ポンプを具備せず,オイルセパレータ内の
油を油供給先に差圧によって給油するようにしたスクリュー圧縮機が記載されてい
る。
e ピーター・A・オニール「INDUSTRIAL COMPRESSORS(産業用コン
プレッサ)(平成5年発行)
」 (甲47。以下「甲47文献」という。)
「吐出圧給油システムは,オイルタンク/セパレータに存在する圧縮機自身の吐
出圧力を用いてオイルを循環させる。(376頁の「15.13.13.1」の次

の行とその次の行,抄訳5頁9行~10行)
f 甲48の添付資料
① 添付資料1(スタール社の平成3年6月配布の同社製スクリュ圧
縮機「Stal-Mini Mk Ⅱ」カタログ)
「要求‐運転油ポンプは,
「スタール・ミニ圧縮機」の追加オプションです。オイ
ル供給は,通常,コンプレッサを横断する圧力差によって提供されますが,例えば,
圧力差の小さい場合にブースター運転をする場合には,要求―運転油ポンプが必要
になります。」

② 添付資料2-1(フリック社製圧縮機「RXB SCREW COMPRESSOR
UNIT」のカタログ。添付資料2-2から,同圧縮機は平成4年9月3日以前に存
在したことは明らかである。)
「通常の高(圧力)段階での使用において,油ポンプは必要ありません。」
(エ) XRVコンプレッサーにおいて,実際にポンプを具えないVRVコン
プレッサーを使用した冷凍・冷蔵システムが国外において製作,納入された事実は
Cの宣誓供述書(甲11),D(以下「D」という。)の宣誓供述書(甲45)記載
のとおりである。
また,本件出願日前に作成されたXRVコンプレッサを使用したポンプ非装備シ
ステム4例の使用配置図面は多数存在する(甲51~54)。
さらに,甲49の1の7頁右上には「XRVコンプレッサーの特徴及び長所」と
して,「ローラーベアリングの使用 90%超の設置例についてオイルポンプなし」
と記載されており(甲49の2),同頁の二つの圧力包絡線グラフ,二つの装置断面
は,甲8パンフレットにおけるものと同一であり,また,11頁下段の表は甲8パ
ンフレットの6枚目の表面の図の製品型式番号と同じであることから,甲8記載の
XRVコンプレッサー設置例において油ポンプ非装備システムは,設置例の90%
を超えていたことになる。
イ 甲8パンフレットに「流路が導かれる空間」が特定されていること
(ア) 甲8パンフレットの「流路が導かれる空間」 以下の
は, 「参考図8-C」
のバランスピストンの仕切り壁側の空間と特定することができる。


(イ) 被告は,油が供給される場所は,参考図8-Cのバランスピストンの右
側であり,ケーシングが圧力遮断する仕切り壁であると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり不合理である。
a 被告の主張によると,バランスピストンはスラスト力(FTH)と同
方向(左方向)の力をスラスト軸受に加えることになり,不自然である。
b L字形状の部材とロックナットはスラスト方向の力に対してバラン
スピストンを支えるようには働かない一方,バランスピストンに働く左方向の力は,
軸径が大きくなっているロータ軸の段差によって受け止められるため,右側でロッ
クナットにより締付ける必要がない。
c 被告の主張によると,スラスト軸受との間に図のような仕切り壁を
わざわざ設けて閉鎖空間である別の室を形成する理由がないばかりか,バランスピ
ストン室の油は,ピストン外周とケーシング内壁と間に設けられたラビリンスシー
ルを通って室外に流出し循環するようにしなければならないため,壁側のこの閉鎖
空間にもラビリンスシールを通じて油が供給され,バランスピストンがスラスト力
と同方向に圧されるとバランスピストン室にはこれとは反対方向の圧力が発生して
バランスピストンを押し返し,その作用を相殺することになるから不合理である。

d バランスピストンとケーシングとの間の空間がバランスピストン室
であるとすれば,参考図8-Cに見られるとおり,その空間はスラスト軸受側の壁
とバランスピストンにより形成される空間に比してはるかに容積が大きく,形状も
複雑であり,このような空間全部に油を満たして圧力を保持しなければならないと
いう点でも極めて不合理な設計となる。
e 被告は,原告主張の仕切り壁は,スラスト軸受に供給される潤滑油
が吐出側バランスピストンの内側の空間に漏洩することを防ぐものであると主張す
るが,バランスピストンと仕切り壁の間の空間は圧力が高いから,この空間にスラ
スト軸受に供給される潤滑油が漏洩することはない。
(ウ) 原告の社員であるE(以下「E」という。)がハウデン社のスクリュー
圧縮機XRV204145を調査したところ,油が吐出側ケーシングのオイル供給
口からバランスピストンと仕切り壁(バランスピストンとスラスト軸受の間に設け
られた壁)の間に供給されていることが明らかになった(甲63,64)。
ウ 甲8発明には「スラスト軸受とバランスピストンの間に設けられた圧力
遮断する仕切り壁」が設けられていること
前記イのとおり,甲8発明の壁が圧力遮断する仕切り壁であることについては,
明確な開示がある。
(3) したがって,甲8発明に基づく新規性欠如を否定した本件審決の判断は誤
りである。
2 取消事由2(甲9発明に基づく新規性欠如の主張を否定した判断の誤り)
(1) 甲9文献は,本件出願日前に頒布された刊行物であること
甲9文献は展示会来訪者等に向けた一般公開宣伝リーフレットであることは一見
して明らかである。
そして,その刊行時期についての記載はないが,それが遅くとも本件出願日であ
る平成8年10月25日より前であることは,以下の証拠から明らかである。
ア 甲9文献には,冒頭に見る人の注目を特に惹くよう,赤色大文字で「N

EW(新製品) と斜めに印刷されXRVコンプレッサーが新製品であることが強調

されているが,裏面のコンプレッサーの断面図2枚には,自動可変Vi機構が装備
されていない。この機構は,甲22書面によると,平成7年初め頃に導入したとさ
れることから,甲9文献記載の圧縮機は旧型に属し,それが甲8パンフレットが刊
行された平成7年において「新製品」として宣伝されるはずはなく,したがって,
それは,平成7年より前のXRV圧縮機の宣伝リーフルレットであると判断される。
イ 「HOWDEN COMPRESSORS/XRV REFRIGERATION COMPRESSORS」と
題されたハウデン社による製品紹介パンプレット(甲23。以下「甲23パンフレ
ット」という。)の4頁,5頁には,甲9文献の裏面に記載されたものと同一の旧型
コンプレッサーの断面図2枚が記載されているところ,甲23パンフレットの刊行
時期は,平成7年4月16日以前であると判断され(甲23パンフレット裏表紙の
ハウデン社本社の電話及びファックス番号の市外局番は「+44(0)41」で始
まっているが,英国において「0」で始まる地域コード(市外局番)は,平成7年
4月16日をもって一斉に「01」で始まるよう変更され(甲50),ハウデン社が
所在するグラスゴーの市外局番は「041」から「0141」となったため,甲2
3パンフレットが同日より前に刊行されたことは間違いない。 ,したがって,甲2

3パンフレットとの対比からも,甲9文献は,平成7年4月16日以前の旧型XR
Vコンプレッサーを「新製品」として宣伝するリーフレットであると判断される。
ウ 甲9文献の裏面に印刷された米国のハウデン社の住所は,コネチカット
州ブルームフィールドであるが,同社は,Dの宣誓供述書(甲19)記載のとおり,
平成7年にペンシルベニア州ラングホーンに移転した。
エ 甲9文献の裏面の図に続く段落には「ハウデン社が世界で最初にロータ
リスクリュ圧縮機を商業的に製造してから今や50年を超えました。」と記載され
ており,他方,甲23パンフレットの2頁左欄には「1939年に,ハウデン社が
スクリュー回転圧縮機を商業的に生産した世界初の会社となった。」との記載があ
り,1939年から50年後に当たるのは1989年であるところから,甲9文献

は平成3年(1991年)に米国のハウデン社が作成したものであるとのDの各宣
誓供述書(甲10,19)の記載は作成に関与した当事者の供述として疑う理由が
ない。
(2) 甲9文献に基づく新規性欠如
ア 甲9文献には油冷式の圧縮機が記載されていること等
甲9文献においては,
「油ポンプは通常不要」との記載により,甲9文献に記載さ
れた圧縮機が油冷式であることが明瞭に記載されている。なぜなら,もし甲9文献
記載の圧縮機が油冷式でないとすると,油冷式における圧縮機―油分離器―冷却器
を循環する冷却・潤滑油の流路は存在しないことになるから,油ポンプは圧縮機の
運転のために潤滑油を独立に供給する独立の不可欠なポンプであることになり,需
要者向け文書である甲9文献に「ポンプは通常不要」などの記載が用いられること
はあり得ないからである。
また,甲9文献の圧縮機は,ハウデン社のXRV圧縮機であるところ,同社のX
RVシリーズの圧縮機は油冷式である(甲12,13)。
そして,圧縮機が油冷式である場合に,吐出口から圧縮媒体と共に吐出される油
を分離する「油分離回収器」を設けることは,必須かつ自明の構成である。
イ 甲9文献には,「スラスト軸受とバランスピストンの間に設けられた壁」
が存すること
甲9文献には,以下の図面が記載されており,同図面には,スラスト軸受とバラ
ンスピストンの間に設けられた壁が存在する。


仕切り壁 バランスピストン


仕切り壁 バランスピストン
ウ 甲9発明の冷凍システムは通常油ポンプ不要であること
(ア) 甲9文献には「油ポンプは通常不要」「最小限の油ポンプ要求」と記載

されており,この記載からは,甲9文献の圧縮機を使用する冷凍システムにおいて

は,通常油ポンプが不要であるが,必要となるシステムの場合であっても必要とな
る範囲は最小限でよいことが記載されていると理解することが当然であり,もし,
起動に必ずポンプを要するのであれば,
「最小限の油ポンプ要求」と記載することは
あっても,それと併せて需要者に対して,
「油ポンプは通常不要」などと記載するこ
とはあり得ないというべきである。
甲9文献の裏面に記載された運転圧力範囲図(以下「甲9グラフ」という。)は起
動後の通常運転時において吐出圧と吸込圧の圧力差が4bar a 以上確保できない通
常運転においては,差圧給油を補助するためのポンプを要する範囲を示したもので
あることは明らかであり,上記の図から甲9文献記載のXRV圧縮機において起動
時には常に油ポンプを使用することを要するとの判断を導くことは論理的に不可能
である。
(イ) そして,前記1(2)ア(ウ)のとおり,甲9文献記載の圧縮機のように,ラ
ジアル軸受をローラー式とし,スラスト軸受をボールベアリング式とする圧縮機に
おいては,油ポンプを使用しないで起動するシステムとすることが可能であり,か
つ,定常運転時において吐出圧と吸込圧の圧力差が十分であれば,起動後に油ポン
プは不要とすることができることは,当業者にとっては既に周知であったのである
から,使用者が設定又は想定する定常運転条件における吐出圧と吸込圧の圧力差が
小さい範囲(甲9グラフの青色の領域)である圧縮システムにおいては,油ポンプ
が必要となるが,それ以外の通常のシステムにおいては,始動ポンプ及び定常運転
用ポンプのいずれも不要であると解するのが当然である。このことは,Dの宣誓供
述書(甲45)にも記載されている。
(ウ) バインダー1には,甲59の3の図面(図面番号:XR21002-
0。以下「甲59-3図面」という。)及び甲59の4の図面(図面番号:XR21
003-0。以下「甲59-4図面」という。)が,バインダー2には,甲59-3
図面と同一の図面である甲61の3の図面(図面番号:XR21002-0。以下
「甲61-3図面」という。 及び甲59-4図面と同一の図面である甲61の4の


図面(図面番号:XR21003-0。以下「甲61-4図面」という。)がそれぞ
れ綴られている。
これらの図面におけるXRV圧縮機本体は,自動可変Vi機構を備えないほかは,
図8-A,甲59-1図面,甲59-2図面,甲61-1図面,甲61-2図面の
圧縮機と同一であり,甲9文献に記載されたXRV圧縮機とも同じであることは図
面の比較から明らかであるところ,甲59-3図面及び甲61-3図面には,図面
名として「典型的手動Viシステム配置(オイルクーラー及び始動ポンプ付き)」と
記載され,甲59-4図面及び甲61-4図面のシステムには,「START UP PUMP
(始動ポンプ)」がなく,図面名は「典型的手動Viシステム配置(オイルクーラー
付き)」と記載されている。これらの証拠からすると,甲9文献記載のXRV圧縮機
を使用した圧縮システムにとって始動ポンプが必須の構成でなく,非加圧回路のみ
を使用して始動し通常運転することが可能であることは明白であり,かつ, このこ
とは本件出願日前の技術常識により,甲9文献に接した当業者が当然に理解すると
ころであったということができる。
エ 甲9文献には,バランスピストンに向けて油を導く流路及び当該流路の
導かれる空間が開示されていること
以上からすると,甲9文献記載の圧縮機を使用して構成される圧縮システムにお
いては,油冷式スクリュー圧縮機であることにより,油分離器からの油を軸受及び
バランスピストンへ導く流路が設けられることは自明であり,かつ,そのシステム
においては油ポンプによる加圧が通常不要なのであるから,甲9文献には,本件発
明の均圧流路が開示されているといえる。
なお,Eがハウデン社のスクリュー圧縮機XRV204145を調査した結果は,
前記1(2)イ(ウ)のとおりである。
オ 被告の主張について
被告は,甲9グラフについて,起動直後であるにもかかわらず,突如として,吐
出圧力が吸込圧力を大きく上回る状態,例えば,吸込圧力が2bar a,吐出圧力が1

0bar a などという状態にはならないと主張する。
しかし,被告の上記主張は,始動ポンプの要否と定常運転におけるポンプの要否
を混同しているうえ,突如」
「 とはいかなる時間をいうのか基準がなく不明であるし,
吸込圧力が2bar a,吐出圧力が10bar a などという組合せも不自然である(吐出圧
力が10bar a に対応する吸込圧力は6bar a 強であると解するのが自然である。。

甲9グラフにおいて「OIL PUMP」不要の領域の下端辺は吐出圧5bar a 付
近・吸込圧力1bar a 付近の点と吐出圧約9.5bar a 付近・吸込圧力約6.5bar a 付
近を結んだ斜線であるから,甲9グラフにおいては,定常運転時において最低吐出
圧力5bar a 付近・吸込圧力1bar a 付近を超える圧力と約4bar a 程度の圧力差があ
れば
「OIL PUMP」が不要であることが表示されていることは明らかである。
そして,圧縮機の駆動モーターは,50ヘルツ交流電源では,毎秒50回転(1
分間3,000回転) 60ヘルツ交流電源では毎秒60回転
, (1分間3,600回転)
し,これに直接駆動される雄ローターは毎秒50回転,60回転して圧縮が行われ
る(ただし,最近においては,インバーターにより回転数は電源周波数に制限される
ことなく大幅な増減が可能である。 のであり,
) 甲8発明のようにころがり軸受を使
用したスクリュー圧縮機においては,軸受への事前給油を要さず直ちにモーターを
起動して速やかに定常回転に入ることができ,ローターによる圧縮が開始されるの
であるから,通常であれば,1,2分以内に4bar a 程度の吐出圧・吸込圧差は容易に
実現できることは,技術常識である。ただし,主に,油流路の中間機器による減圧
や,蒸発器,凝縮器等の冷媒循環系統における使用者側の圧力設定,装置の設置環
境等の圧縮機にとって外部的要因のため,吐出圧力が低く,吸込側の圧力差が4bar
a 以上にとれず,圧力差による潤滑油の循環が確保できない場合があるため,甲9
グラフは,そのような圧力条件で使用するシステムにおいては,定常運転時におい
て油ポンプが必要であることを表示しているものであり,始動時の問題でないこと
は,当業者であれば容易に理解できることである。
XRV圧縮機の通常の設置例(甲49の1によると90%超)における定常運転

時の吐出圧力,吸込圧力条件は,上記グラフの「OIL PUMP」不要の領域に
あり,それ故に,甲9文献の表面には,「油ポンプは通常不要」 と記載されたもの
と解するのが当然である。もし,甲9文献のXRV圧縮機使用のシステムには始動
ポンプが必ず必要であったとすれば,
「油ポンプは通常不要」との表示は,需要者か
らすれば明らかな虚偽広告となる。
(3) したがって,甲9発明に基づく新規性欠如を否定した本件審決の判断は誤
りである。
3 取消事由3(甲9発明に基づく進歩性欠如の主張を否定した判断の誤り)
(1) 前記2(1)のとおり,甲9文献は,本件出願日前に頒布された刊行物であ
る。
(2)ア 前記2(2)のとおり,甲9文献においては,バランスピストン及びスラス
ト軸受とバランスピストンの間を圧力遮断する仕切り壁が設けられているのである
から,この仕切り壁とバランスピストンとの間に油を導く流路を設けることは甲9
文献自体から当然に動機付けられることである。
そして,上記流路と油分離器を設けることは,甲1文献,甲3文献~甲5文献に
開示されているから,甲9発明に,甲1文献,甲3文献~甲5文献に開示された上
記構成を適用して本件発明の構成に想到することは容易である。
イ 本件審決は,甲1文献,甲3文献~甲5文献には,「『スラスト軸受と
バランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁』を設けるという構成及びバラン
スピストンの『仕切り壁』側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧
流路を設けるという構成を開示していない。」と判断する。
しかし,甲1文献,甲3文献~甲5文献は,甲9文献の開示を前提として,バラ
ンスピストン室に油を加圧することなく導く流路を設けることの容易性を証する公
知例として意味があり,これら公知例における仕切り壁やスラスト軸受の部材配列
順や位置に係わるものではないから,本件審決の上記理由付けは的外れである。
(3) したがって,甲9発明に基づく進歩性欠如の主張を否定した本件審決の判

断は誤りである。
4 取消事由4(甲1発明に基づく進歩性欠如の主張を否定した判断の誤り)
(1) 入力軸位置変更の容易性
ア(ア) スクリュ圧縮機の入力軸を吐出側とするか吸込側とするかは単純かつ
周知の設計上の二者択一的選択事項であり,自動車の右ハンドルと左ハンドルの選
択と大差がなく,設計変更により,入力軸吸込側モデルの圧縮機については吐出側
モデルを,吐出側モデルについては吸込側モデルを製品群の選択肢に加える動機が
常にあるいうことができる。
そして,吐出側モデルである甲1発明の実施例において,吸込側モデルとする設
計変更をする場合,ロータの回転安定のため「スクリュロータの両側に延びるロー
タ軸をラジアル軸受により回転可能に支持」 スラスト力が発生する側にある
し, 「吐
出側ロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラス
ト軸受により回転可能に支持」することは必然的構成であり,甲2,4,6~9,
23,46にも使用されている慣用技術であって,甲1発明も同じ部材配列をとっ
ており,その吸込側モデルへの設計変更においてこの配列を変更する理由も必要も
ない。
次に,バランスピストンをシャフトの中間部に取り付けることが当然に排除され
るわけではないが,スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて,ロー
タ軸にバランスピストンを取り付けることは,吐出側モデルと反対のローター軸端
に設けることが,設計上の自由度も大きく,特に考えることもなく想到する最も自
然で合理的な選択であるということができる。そして,バランスピストンとは,こ
れに対面する仕切り壁との間に形成されるバランスピストン室に油が供給され,そ
の圧力の作用により,圧縮媒体の吐出圧力のためロータに対して吐出側から吸込側
方向へ働くスラスト力を緩和する装置であるから,圧力保持のための仕切り壁は,
バランスピストンを吐出側に設ける場合(入力軸吸込側モデル)にはバランスピス
トンを挟んでロータ側に,吸込側に設ける場合(入力軸吐出側モデル)にはバラン

スピストンを挟んでロータとは反対側に設けられなければならず,バランスピスト
ンの仕切り壁側の空間に上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設
けることも必然である。そして,バランスピストンと仕切り壁により形成されるバ
ランスピストン室に圧力媒体を導く流路が設けられなければならないことは,自明
の事理である。
そうすると,甲1発明の実施例を前提として,その入力軸取付位置を吐出側から
吸込側へ設計変更する(同変更を, 「原告甲1変更」
以下 という。 選択をした場合,

これに伴う他の部材配置の変更は,基本的に次の3点で足り,かつ,この3点は独
立のものではなく,不可分的であり,単なる一つの変更の3側面にすぎないといえ
るものであるから,多くの改変を要することはなく,それらはすべて,格別の設計
上の検討を要しない自明かつ必然の変更であり,当業者にとって何の技術的困難も
ないことが明らかである。
変更① バランスピストンを吐出側ロータ軸端に取り付ける。
(以下「変更①」と
いう。)
変更② バランスピストンとスラスト軸受の間に圧力遮断する仕切壁を設ける。
(以下「変更②」という。)
変更③ バランスピストンと仕切壁の間に油分離器からの油が導かれる流路を設
ける。(以下「変更③」という。)
(イ) 前記の変更①~③を,入力軸をIS,ラジアル軸受をRB,ローター
をSR,スラスト軸受をTB,圧力遮断する仕切り壁をPW,バランスピストンを
BPと略記し,甲1発明の部材配列を甲1文献の【図3】のとおり表すと
[PW-BP]-[RB-SR-RB-TB]-[IS]
であり,本件発明の部材配列は,
[IS]-[RB-SR-RB-TB]-[PW-BP]
である。しかして,[PW-BP]の配列順序は,前述のとおり,バランスピストン
がスラスト力に対抗するよう動作するためには必須であり,RB-SR-RB-TB]


の配列順序も上記のとおり慣用のものであり,本件発明に接してはじめて想到する
ようなものでなく,合理的理由のある配列であるから,必要な変更は,結局,
[PW
-BP]と[IS]を[RB-SR-RB-TB]を中心として左右反転するという実
質的に一つの変更のみである。
これを図3に基づき図示すると,以下のとおりであり,その結果は,本件発明の
構成と完全に一致する圧縮機となるから,本件発明が甲1発明の圧縮機の設計変更
例の一つにすぎないことは明らかというべきである。


甲1【図3】入力軸吐出側モデル


【入力軸吸込側モデル】


仕切り壁
油供給非加圧流路
イ そして,前記アの変更①~③は,以下のとおりいずれも容易である。
(ア) 変更①について
吐出側ロータ軸にバランスピストンを取り付ける場合,ラジアル軸受をロータの
両側に直結して設けることは当然の配置であり,残るのは,スラスト軸受をラジア
ル軸受に続く位置に配するか,バランスピストン室をその間に配するかの選択でし

かなく,いずれの配置も可能ではあるが,スラスト力を主に支えるのはスラスト軸
受であること,また,バランスピストン室をラジアル軸受側に配置した場合にはバ
ランスピストンを貫通するロータ軸をスラスト軸受部まで延長しなければならない
ことからすると,ロータ-ラジアル軸受-スラスト軸受-バランスピストン室(仕
切り壁-バランスピストン)の部材配置順とすることに本来合理的動機があり,か
つそのために格別の工夫を要しないから,上記の部材配置順とすることは設計上の
選択事項にすぎない。このような配置は,甲2,4,6~9,23,46において
採用されており,慣用技術にすぎない。
(イ) 変更②について
甲1文献の図3におけるカバー21は,バランスピストンとの関係においては,
バランスピストンのカバー21側の面と対面してバランスピストン室34を構成す
る圧力遮断する仕切り壁として機能しており,上記図の入力軸吸込側モデル圧縮機
において,このような仕切り壁を,スラスト軸受とバランスピストンとの間に設け
ることに技術的困難がないことは明らかである。
甲1発明において,入力軸を吸込側に替えることに伴い,部材配列順をロータ-
ラジアル軸受-スラスト軸受-バランスピストンという設計事項に属する選択をし
た場合,バランスピストンのロータ側の面に対面する仕切り壁を設けてバランスピ
ストン室を形成し,バランスピストン室の油の漏出を抑止して室内圧力を保持する
ことは,バランスピストンを配置するというのと同義といえる当然の設計事項であ
る。そして,そうすることにより甲1文献の実施例を設計変更した吸込側入力軸モ
デルにおいて,
「『スラスト軸受』のすべての部分を含む空間と『バランスピストン』
のすべての部分を含む空間とを圧力遮断する仕切り壁」が形成されることは,前記
ア(イ)の図【入力軸吸込側モデル】のとおりである。
(ウ) 変更③について
甲1の壁(カバー)とバランスピストンとの配置関係(PW-BP)をそのままロ
ータの反対側に移し,カバーではなく独立の仕切り壁を設けてバランスピストン室

を形成し,甲1文献の図3の入口48からバランスピストン室34に至るポンプ加
圧のない油供給路を,このバランスピストン室への油供給がされる位置に形成する
ことは当然の設計事項である。
ウ また,本件明細書の段落【0006】には,
「図9に示すスクリュ圧縮機
は,図7に示す圧縮機とは,図面上,入力軸15を吐出側に配置した点,バランス
ピストン17を入力軸15とは反対側の吸込側に配置した点を除き,他は実質的に
同一であり,互いに対応する部分については同一番号を付して説明を省略する。 と

あり,被告自身が,両者を「実質的に同一」として認識していることが示されてい
る。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,原告甲1変更に従うと,甲 1 発明の構成上は明らかに不要な
構成である独立した仕切り壁を追加して設けなければならなくなると主張する。
しかし,以下の設計変更図1のとおり仕切壁を設けることを想到し,実施するこ
とに何ら困難はない。
設計変更図1


(イ) 被告は,油流路について,原告甲1変更に従えば,①吐出側にバランス
ピストン室を形成するために,カバー16が物理的に分断されることになり,通路
42に至る構成が不明である,②室45と見るべきものが存在しない,③油路38
から吸込側に位置する軸封装置18に至る構成が不明である,④吸込側にライナー

リングが不存在であるようにも見え,ライナーリング19と軸部4aの隙間にいた
る構成も不明で,通路42に至る構成も不明であると主張する。
a しかし,甲1文献の油流路の基本構成は,以下の甲1.第5図に示
されるとおりであり,入力軸取付位置の設計変更に伴い必要となる変更は,以下の
設計変更図2のとおり,バランスピストン室への流路58の接続位置を吐出側に設
計変更するだけでよく,それ以外の甲1.第5図の流路の基本構成の変更は不要で
ある。
この変更は,変更③に必然的に付随する自明の設計変更であり,かつその実施に
何の困難もない。
甲1.第5図


設計変更図2


b そして,以下のとおり,被告の主張する上記①~④は,何らこの点
を左右するものではない。
(a) 通路42に至る構成とは,甲1文献の第3図において「入口35よ
り供給された圧油は油路36より(ラジアル)軸受8,9へ流れて潤滑冷却し,夫々
の軸受端よりスラスト玉軸受12,13をとおり,カバー16内より(第2図の)
通路42をとおり,吐出通路25に出る。(甲1の4頁上右欄15行~19行)と

いうものであって,ラジアル軸受,スラスト軸受に供給された油が吐出路を通じて
排出されて油溜まりに回収される経路のことであるところ,油冷式スクリュー圧縮
機において,軸受部の油や軸封部及びバランスピストンから漏出した油は圧力差に
より低圧側であるローター室の吸込側に流れローターに吸い込まれて回収されるの
が通常の構成であり,そのためには油がローター室に流れる通路を設ければ足りる
のであり,これは周知かつ自明の構成であって格別の変更ではなく,甲1文献の第
3図の通路42を設けなくとも,油の循環に何ら支障をきたすような点はない。
(b) 室45は,甲1発明においてバランスピストン室の油がラビリン
スシールを通過して漏出する空間であり,上記設計変更図1においては,バランス
ピストンの右側とケーシングの間の空間として形成されている。この空間の圧力は

甲3文献が開示するとおり,ラビリンスシールを通じてバランスピストン室につな
がっているためバランスピストン室よりは低く,ローター室よりは高い関係にある
から,両室をつなぐ流路をローター室の下に設けることで油は自然にローター室に
流れ,循環することになる。
(c) 甲1文献の第3図の油路38から吸込側に位置する軸封装置18
に至る構成は,入力軸の取付け位置変更に伴い,上記設計変更図1のとおり,入口
35から入って図左に延びる流路に軸封部に至る流路を設ける構成となることは自
明である。そして軸封部からの油も圧力差によりローター室に流れローターに吸い
込まれて回収されることも自明である。
(d) 吸込側のライナーリングについては,設計変更図1には甲1文献
の第3図のライナーリング19と同様の構成が記載されている。
(ウ) 被告は,甲1文献の第2図のスライドバルブ機構の設計変更図1に示さ
れる変更について,原告甲 1 変更では,スライドバルブ31・ピストンロッド29等
が吸込側から吐出側にすベて付け替えられることになり問題があると主張する。
a しかし,スライドバルブは,被告のいうとおり「吸込側容積を変化さ
せて吸込量を調節する」ための機構であるから,スライドバルブ本体をローター吸
込側との位置関係において付け替えるなどということはあり得ないことであり,被
告の主張はその前提において誤りである。
b また,ピストンロッド取付け位置の変更は,スライドバルブの機能自
体からすれば,以下の設計変更図3-2に示すとおり,甲1文献の第2図と同じ配
置のままでも全く問題はなく,必須の変更ではないが,その場合,甲1文献の第2
図のローター室の下で左側に突出しているピストンロッドのカバー部と入力軸及び
モーターとの上下の位置的重なりから,甲1発明の設計変更としては,以下の設計
変更図3-1のようにしたほうがより自然な選択と考えられるという程度の変更に
すぎない。
なお,設計変更図3-1は,スライドバルブはローター吸込側との位置関係はそ

のままにして,ピストンロッド29とピストン28を吐出側に反転したものである。
この場合,ピストンロッドは,吐出通路25の空間を通して吐出側方向に延びるよ
うに取り付ければよく,問題なく維持できる。また,シリンダー部26は,そのま
まのとおり吐出側に平行移動させることにより確保される。
なお,ピストンロッドの取付けを吸込側とするか,吐出側とするかは,等価の設
計上の選択でしかないことは,特開平5-157072(甲56)からも明らかで
ある。
設計変更図3-1


設計変更図3-2


(2) 本件発明の部材配列に構造上格別の効果がないこと
ア 入力軸を吸込側とすることに新規性・進歩性がないこと
入力軸を吸込側に配置することにより,抽象的,観念的には設計上の自由度がい
くらかは大きくなり得るとしても,それは,入力軸を吸込側に配置するという慣用
の設計上の選択に必ず伴うものであるから,本件発明が入力軸を吸込側とすること
を構成要件の一つとして選択しているからといって,そのこと自体にいかなる新規
性,進歩性も認められないのであり,このような選択をしたことに格別の作用効果
を認める余地もない。
甲1発明との比較については,本件明細書の図2「本件発明の実施形態」のスラ
スト軸受の形状からすると,そこで想定されているスラスト軸受はローター軸に取
り付けられたディスク状の面により支承するすべり軸受であると解されるところ,
甲1発明の実施例の圧縮機のスラスト軸受は甲1文献の第3図のとおりボールベア
リングを用いるころがり軸受であり,ロータに取り付けられたものでもないという
重大な相違があり,支承態様を異にするものであるから,このような軸受構造の相
違を無視して,本件発明のスラスト軸受が甲1発明では得られない負荷容量の大き
なスラスト軸受であるといえる根拠はない。また,バランスピストンについては,
甲1発明の実施例のバランスピストンの受圧面がローターシャフト端の外側にある
構造のため,シャフトの軸径に影響されることなく定めることができ,設計自由度
は高いので,本件発明に優位性は全くない。
イ スラスト軸受とバランスピストンの間の圧力遮断する仕切り壁に格別の
効果はないこと
油冷式圧縮機のバランスピストンにおいて,バランスピストと仕切り壁の間のバ
ランスピストン室が圧縮機の他のすべての空間から圧力遮断されることは必須の構
成であり,この点は,甲1発明を含め本件で公知例として提出されたバランスピス
トンを備えるすべての油冷式圧縮機に該当するものであり,本件発明に特有のもの
ではない。

ウ 均圧流路は「単純かつコンパクト構造とする」こと等と無関係であるこ

甲1発明の「油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58」が本件発明の「油
溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」に相当し,この流路を設けること
により,圧縮機を「単純かつコンパクト構造とする」効果を奏するという根拠がな
い。
エ 以上のとおり,本件発明の入力軸-ラジアル軸受-ロータ-ラジアル軸
受-スラスト軸受-仕切り壁-バランスピストンの部材配列は周知であり,同配置
自体に格別の作用効果はなく,かつ,この配列と「均圧流路」の構成とが組み合わ
せによる格別の作用効果はなく,両者の構成は単に並存するだけである。
(3) 以上のとおり,本件発明は,甲1発明に基づき容易に想到できたものであ
るから,甲1発明に基づく進歩性欠如の主張を否定した本件審決の判断は誤りであ
る。
5 取消事由5(特許法153条2項違反)
本件審決は,①甲8発明について,被告が甲8パンフレットに本件発明の構成要
件A~E,Gが記載されていることを認め,唯一の相違点として構成要件Fについ
て,均圧流路の油がバランスピストンの仕切り壁側の空間に導かれることが記載さ
れていないことのみを主張したにもかかわらず,始動ポンプを経由する流路の存在
が別の相違点となるか否かを審理事項とすることのないまま,本件審決において突
如一方的に甲8発明と本件発明との相違点であると認定し,②甲9発明について,
被告が甲9文献に構成要件A~E,Gが記載されていることを認めているにかかわ
らず,甲9文献記載の圧縮機が油冷式であるか否かを審理事項とすることのないま
ま,油冷式であるとの特定がないとして,これを相違点と認定し,③甲9発明につ
いて,甲9文献記載の運転圧力範囲図の意味について被告が何らの主張もしていな
いにかかわらず,これを審理事項とすることのないまま,同図を理由に甲9発明に
おいては起動時にポンプによる給油が必要であるとし,これを相違点として認定し

た。
上記①~③の判断は,すべて,無効請求が成り立たないとの結論の理由となる本
件発明と引用例との相違点の認定判断であり,主要事実であり,無効事由を定めた
法条に該当する具体的事実の認定判断である。また,上記各判断は,いずれも,審
決の結論に直接影響するものである。
したがって,本件審決は,特許法153条2項に違反し,取り消されるべきであ
る。
第4 被告の主張
1 取消事由1について
(1) 甲8パンフレットは,本件出願日前に頒布された刊行物とはいえないこと
ア 原告は,A作成に係る宣誓供述書(甲20。以下「A供述書」という。)
によって,甲8パンフレットの入手経緯等を立証しようとしているが,以下のとお
り,A供述書の内容は信用できない。
(ア) A供述書によると,Aは,
「2012年以来,マエカワ・イタリアs.r.
l.の地域マネージャーとして働いて」いるのであるから,Aは,原告と高度の利害
関係を有している。
(イ) Aは,甲8パンフレットの入手時期,入手態様及び入手経緯について
は,何ら正確に記憶しておらず,原告の主張に沿う形で憶測に基づき主張している
にすぎない。
Aの供述内容は,20数年も過去の他社勤務時の事柄で,また,甲8パンフレッ
トは,Aの主張を前提にしても,Aの職務と無関係で,個人ファイルに入れ,ほと
んど手付かずのままにしていた書類にすぎなかったのであるから,Aが甲8パンフ
レットの入手時期,入手態様及び入手経緯について正確に記憶していないことは当
然である。
イ A供述書及び原告の主張によると,甲8パンフレットは,個人ファイル
に入れ,ほとんど手付かずのままにしていたとのことであるが,甲8パンフレット

を現物確認すると,一部(特に1枚目長方形21穴の箇所)が相当程度破損してい
る状態にあり,クリアポケットに収められて手付かずのまま保管されていたとは考
えられない。
このことは,甲8パンフレットの入手経緯等に関するAの説明及び原告の主張の
信用性に疑義を生じさせるものである。
ウ バインダー1については,表面に「XRV圧縮機データブック」と明記
され(甲58の写真1) ハウデン社の機密として保持されるべき技術資料が複数含

まれ,原告も「ハウデン社が,かつて取引先のパッケージャー(冷凍設備業者)等
に対して不定期差替え形式で提供していたXRV圧縮機についての技術資料の加除
式バインダー」
(甲58)と述べているように,冷凍設備業者等がその内部で保持す
べきXRV圧縮機のデータブックであると認められるから,バインダー1は,
「個人
ファイル」ではない。
A供述書には,
「ハウデンXRVコンプレッサは,主に食品冷蔵システム用で,私
の専門である化学・石油化学分野の冷蔵用施設とは異なっており,私の当時の日常
業務からするとXRVについての情報は,特に必要なものではなかった」 (甲8パ


ンフレットも)実務的に私の職務と無関係だった」と記載されているが,平成7年
5月頃のAの「職務」は「スルツァー・イタリアSpA」の「セールス・マネージ
ャー」であったとのことであるから,上記のようなバインダー1を,Aがスルツァ
ー・イタリアSpA在籍時に「個人ファイル」として保持していたということは,
不合理である。さらに,上記のようなバインダー1を,Aがスルツァー・イタリア
SpA退職後にも「個人ファイル」として更に保持し続けていたということは,そ
の経緯,理由,権原等も不明であって,尚一層不合理である。
このことは,甲8パンフレットの入手経緯等に関するAの説明及び原告の主張の
信用性に疑義を生じさせるものである。
エ 甲8パンフレットは,粗雑な複写物である上,甲8パンフレットには,
ハウデン社の所在地・電話番号・ファックス番号の記載が一切ないなど,ハウデン

社の他のパンフレット(甲49の1)の体裁と明らかに異なるから,甲8パンフレ
ットが,ハウデン社という企業の営業担当者が業界関係者への一般的な販促活動の
一部として手渡しする文書とは考え難い。
オ Dの各宣誓供述書(甲10,19)の甲8パンフレットに係る供述も,
Dが高度の利害関係を有していることや,Dがハウデン社退職後の事実であること
などからすると信用することができない。
カ したがって,甲8パンフレットの頒布等の事実は認められない。
(2) 原告の甲8パンフレットに基づく新規性欠如の主張について
ア 起動直後の油ポンプ使用について
本件発明は,少なくとも起動直後においては,油溜まり部の油を加圧することな
く導くことを要するところ,以下のとおり,甲8発明においては,少なくとも起動
直後には均圧流路が形成されておらず,この点は,本件発明との相違点となる。
(ア) 甲8パンフレットの図8-Aでは,「始動ポンプ」「ポンプ」と明記し
て,少なくとも起動直後の「ポンプ」の使用が必須であることを示している。
(イ) 甲8パンフレットの3枚目表面のグラフ(以下「甲8グラフ」という。)
のうち,
「OIL PUMP」と表記される領域(平行四辺形で赤色の領域)は,甲
9文献の裏面の甲9グラフのうち,
「OIL PUMP」と表記される領域(平行四
辺形で色の濃い領域)と同様である。甲8グラフの横軸(蒸発器圧力),縦軸(凝縮
器圧力)は,甲9グラフの横軸(吸込圧力) 縦軸
, (吐出圧力)にそれぞれ対応する。
したがって,甲8グラフも,やはり,少なくとも起動直後の「OIL PUMP」
の使用が必須であることを示している。
(ウ) 甲8パンフレットでは,
「始動ポンプ」を使用しない構成は何ら記載さ
れておらず,「始動ポンプ」を使用する構成が記載されているのみである。
(エ) 原告は,別件侵害訴訟(大阪地裁平成28年(ワ)第4815号)に
おいて,
「乙19発明においては,バランスピストン室への油の供給は,起動時にの
み油ポンプによる加圧が使用され,通常運転時には,非加圧流路が使用されると解

するのが合理的である。そうである以上,この点を乙19発明と本件発明との相違
点として認定することが誤りであるとはいえない。」と主張している(上記の「乙1
9発明」は甲8発明を意味する。。

(オ) 甲48の添付資料2-1には,
「定常の高(圧)段階での使用のために
は,油ポンプは必要ありません。」との記載がある。当該記載は,起動直後等の「定
常の高(圧)段階での使用」以外の場面では油ポンプが必要になることを示すもの
である。
イ 流路接続先について
(ア) 甲8発明における流路接続先は,吸込側バランスピストンの外側の空
間及び吐出側バランスピストンの外側の空間になるのであって,甲8パンフレット
には,流路接続先が吐出側バランスピストンの内側の空間(仕切り壁側の空間)で
あることは何ら記載されていない。
(イ) 原告の主張について
a 原告は,被告の主張によると,バランスピストンはスラスト力(F
TH )と同方向(左方向)の力をスラスト軸受に加えることになり,不自然であると
主張する。
しかし,甲8発明は吸込側バランスピストンを有することから,FTHに対抗する
力(→方向)を吸込側バランスピストンに付与するために,流路接続先は,甲8パ
ンフレットの10枚目の図(図8-A)中,吸込側バランスピストン付近を拡大し
た下図のとおり,吸込側バランスピストンの(内側ではなく)外側の空間とする必
要がある。吸込側バランスピストンの外側の空間とは,吸込側バランスピストンが
下記の図①に示す部分である場合であっても,あるいは吸込側バランスピストンが
下記の図②に示す部分である場合であっても,吸込側バランスピストンの図におい
て左側の空間を意味する。

【図①】

【図②】


このように,甲8発明においては,吸込側バランスピストンが平常運転時のFTH
に対抗する設計となっているため,これと反対側の吐出側バランスピストンに関し
ては,運転状況によって起こり得るFTHとは逆方向の荷重,すなわち,ロータ軸の
吸込側から吐出側に掛かる荷重に対抗する力(←方向)を吐出側バランスピストン

に付与する設計とするのが合理的であり,流路接続先は,吐出側バランスピストン
の(内側ではなく)外側の空間になる。
流路接続先を,無理に吸込側バランスピストン及び吐出側バランスピストンの各
左側の空間として揃え,これら二つのバランスピストンを同時に作用させてF THに
対抗する力(→方向)を付与しようとすることは,FTHに対抗する力として過剰で
あり,しかも,運転状況によって起こり得るFTHとは逆方向の荷重及びこれに対抗
する力の必要性を殊更無視することになるため,不合理である。甲8発明において,
仮に吐出側バランスピストンの内側の空間に油回収器の油を供給してしまうと,逆
スラスト荷重を助長するのみでこれを抑制する手段を欠くことになる。
したがって,甲8パンフレットにおいては,流路接続先が明示されていないばか
りか,その具体的な構成を前提とすると,流路接続先は,本件発明とは異なり,吐
出側バランスピストンの外側の空間であって,吐出側バランスピストンの「仕切り
壁側の空間」ではない。
b 原告は,バランスピストンに働く左方向の力は,軸径が大きくなっ
ているロータ軸の段差によって受け止められるため,右側でロックナットにより締
付ける必要がないと主張する。
しかし,吐出側バランスピストンをロータ軸(回転体)に取り付けるためには,
吐出側バランスピストンを「ロータ軸の段差」と「ロックナット」とで挟み込んで
固定する必要がある。仮に「ロックナット」がなければ,スクリュ圧縮機の運転中
にロータ軸とバランスピストンとの結合部で緩みが発生した際にバランスピストン
にがたつきが生じ,場合によってはバランスピストンがロータ軸から外れて機械損
傷という重大事故に繋がる。
「ロックナット」は,上記結合部で緩みが発生した際で
もバランスピストンにがたつきが生じることを防ぐという重要な役割を担う部品で
あって,バランスピストンへの負荷方向に合わせて不要とされるものではない。
c 原告は,被告の主張によると,スラスト軸受との間に仕切り壁を設
けて閉鎖空間である別の室を形成する理由がないと主張する。

しかし,原告がスラスト軸受と吐出側バランスピストンとの間に位置する「仕切
り壁」と称する壁は,吐出側バランスピストンよりも内側(ロータ側)に位置する
スラスト軸受に供給される潤滑油が,吐出側バランスピストンの内側の空間に漏洩
し,当該内側の空間に充満するのを防止していると考えられる。仮に,スラスト軸
受に供給される潤滑油が吐出側バランスピストンの内側の空間に充満すると,吐出
側バランスピストン等による潤滑油の攪拌に起因する損失を生じ得るし,スラスト
軸受に対する潤滑油の総供給量も増大する。このように,原告がスラスト軸受と吐
出側バランスピストンとの間に位置する「仕切り壁」と称する壁は,潤滑油の攪拌
に起因する損失低減と,潤滑油の総供給量の低減のために設けられていると考えら
れる。
d 原告は,被告の主張によると,バランスピストン室の油は,ピスト
ン外周とケーシング内壁と間に設けられたラビリンスシールを通って室外に流出し
循環するようにしなければならないため,壁側のこの閉鎖空間にもラビリンスシー
ルを通じて油が供給され,バランスピストンがスラスト力と同方向に圧されるとバ
ランスピストン室にはこれとは反対方向の圧力が発生してバランスピストンを押し
返し,その作用を相殺することになるから不合理であると主張する。
しかし,バランスピストン室(甲8発明における吐出側バランスピストンの外側
の空間)から内側の空間に「ラビリンスシール」を通じて油が一定量漏れたところ
で,
「ラビリンスシール」がシールとして機能する以上,バランスピストンの両側の
空間の相対的な圧力差が失われバランスピストンの機能が損なわれるはずがない。
e 原告は,バランスピストンとケーシングとの間の空間がバランスピ
ストン室であるとすれば,参考図8-Cに見られるとおり,その空間はスラスト軸受
側の壁とバランスピストンにより形成される空間に比してはるかに容積が大きく,
形状も複雑であり,このような空間全部に油を満たして圧力を保持しなければなら
ないという点でも極めて不合理な設計となると主張する。
しかし,甲8パンフレットの記載内容の不明確性等を無視して,吐出側バランス

ピストンの外側の空間の形状が「複雑」であると断ずる根拠を欠く上に,吐出側バ
ランスピストンの外側の空間には流体である油が多量に導かれ続けるのであるから,
当該空間を油で満たすことは容易であって,何ら不合理ではない。
ウ 仕切り壁について
原告は,甲8発明の壁が圧力遮断する仕切り壁であることについては,明確な開
示があると主張するが,原告の同主張は,流路接続先が吐出側バランスピストンの
内側の空間であるとの前提に立っており,前記イのとおり,同前提が誤りであるか
ら,理由がない。
エ 以上のとおり,甲8発明は本件発明と上記ア~ウのとおりの相違がある
から,仮に,甲8パンフレットが本件出願日前に頒布された刊行物であるとしても,
本件発明は,甲8発明を根拠に新規性が欠如することはない。
2 取消事由2について
(1) 甲9文献は,本件出願日前に頒布された刊行物とはいえないこと
Dの宣誓供述書(甲10)には,甲9文献は,平成3年1月にニューヨーク市で
行われた展示会のために準備した旨記載されているが,同展示会についての裏付資
料は提出されていないから,Dの宣誓供述書を根拠に甲9文献が本件出願日前に頒
布された刊行物と認めることはできない。
(2) 原告の甲9文献に基づく新規性欠如の主張について
ア 本件発明は,少なくとも起動直後においては,油溜まり部の油を加圧す
ることなく導くことを要するところ,甲9グラフは,以下のとおり,少なくとも起
動直後の「油ポンプ」の使用が必須であることを示しており,この点は本件発明と
の相違点となる。
(ア) 甲9グラフは,冷凍機等の作動条件による吸込圧力(SUCTION
PRESSURE)の変化を想定して,所定の範囲,具体的には1.5bar a 程度か
ら6.0bar a 程度の範囲を横軸に表記し,吐出圧力(DISCHARGE PRE
SSURE)の範囲を縦軸に表記している。また,甲9グラフ中の「OIL PU

MP」と表記される領域(平行四辺形で色の濃い領域)は,現に「OIL PUM
P」が使用される状態にあることを示している。
スクリュ圧縮機は,起動後,吸込口からガスが吸い込まれ,スクリュロータが回
転することによりガスが圧縮され,吐出口から圧縮ガスが吐出されるものであって,
これらの過程を経ることで吐出圧力が吸込圧力を大きく上回る状態になるものであ
るから,起動直後であるにもかかわらず,突如として,吐出圧力が吸込圧力を大き
く上回る状態にはならない。
甲9グラフに即していえば,甲9の圧縮機の起動直後は,吐出圧力が吸込圧力と
同程度の圧力にとどまるから,
「OIL PUMP」と表記される領域(平行四辺形
で色の濃い領域)内に入る状態,すなわち,現に「OIL PUMP」が使用され
る状態になる。甲9の圧縮機が,起動直後であるにもかかわらず,突如として,
「O
IL PUMP」と表記されない領域(台形で色の薄い領域)に含まれる状態,例
えば,吸込圧力が2bar a,吐出圧力が10bar a などという状態に至ることはない。
(イ) 甲9文献の表面には,
「最小限の油ポンプ要求」として,油ポンプが必
要であることが示されている。甲9文献の表面の「油ポンプは通常不要」との記載
は,甲9グラフの「OIL PUMP」と表記される領域(平行四辺形で色の濃い
領域)(起動直後等)内では油ポンプが使用され,「OIL PUMP」と表記され
ない領域(台形で色の薄い領域)内では油ポンプが使用されないことを示すにすぎ
ず,油ポンプが必要であること自体を否定するものにはなり得ない。
(ウ) 仮に,甲9発明においては,起動直後等に「OIL PUMP」が不
要であるのであれば,甲9文献に,その旨明記し,その技術的優位性を需要者に対
して明確に宣伝するはずであるが,そのような記載はない。
イ 均圧流路,流路接続先について
(ア) 甲9文献における流路接続先については,吐出側バランスピストンの
内側の空間(仕切り壁側の空間)であることは何ら記載されておらず,また,甲8
発明における流路接続先について主張したところが妥当する。

したがって,甲9発明では,油溜まり室からバランスピストンに向けて油を導く
流路及び当該流路の導かれる空間も特定されていない点で,本件発明と相違する。
(イ) 原告は,甲9文献記載の圧縮機を使用して構成される圧縮システムに
おいては,油冷式スクリュー圧縮機であることにより,油分離器からの油を軸受及
びバランスピストンへ油を導く流路が設けられることは自明であり,かつ,そのシ
ステムにおいては油ポンプによる加圧が通常不要であるから,甲9文献には,均圧
流路が開示されていると主張するが,同主張によっても,甲9文献において,均圧
流路が特定されておらず,また,流路接続先が吐出側バランスピストンの内側の空
間(仕切り壁側の空間)であることが記載されていないことには,何ら変わりがな
い。
ウ 仕切り壁について
本件発明の「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕
切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油
を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」という構成において,
「仕切り
壁」は,「スラスト軸受とこのバランスピストンとの間」に位置して,「バランスピ
ストン」との間の空間が流路接続先となるものである。
ところが,甲9発明における流路接続先は吐出側バランスピストンの(内側では
なく)外側の空間であるから,原告の主張する「壁」は,
「スラスト軸受とこのバラ
ンスピストンとの間」に位置するものの,
「バランスピストン」との間の空間が流路
接続先となっていないため,本件発明の仕切り壁にならない。
エ 以上のとおり,甲9発明は本件発明と相違するから,本件発明は,甲9
を根拠に新規性が欠如することはない。
3 取消事由3について
(1) 前記2のとおり,甲9文献が,本件出願日前に頒布された刊行物とは認め
られない。
(2) 甲9発明において,起動直後に油ポンプを使用せずに加圧することなく導

く均圧流路を設けることとするためには阻害事由があるといえる上に積極的な動機
付けがあるともいえず,さらには,甲1文献,甲3文献~甲5文献には,バランス
ピストンの当該「仕切り壁」側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均
圧流路を設けたという構成等が開示されていないため,甲1文献,甲3文献~甲5
文献の開示事項を甲9発明に適用しても本件発明の構成にはならない。
(3) したがって,本件発明が,甲9文献に基づいて進歩性を欠如することはな
い。
4 取消事由4について
(1) 甲1発明について,入力軸吐出側モデルを入力軸吸込側モデルに変更する
こと(原告甲1変更)は,設計事項ではないこと
ア 甲1発明について問題とされる点は,本件特許の出願より前に,入力軸
を吸込側とするスクリュ圧縮機が存在したか否かではない。甲1発明について問題
とされるべきは,甲1発明が明らかに入力軸を吐出側とするスクリュ圧縮機として
具体的構成 配置が確定されているにもかかわらず,
・ これに反する原告甲1変更が,
当業者が適宜選択し得る事項といえるかである。
そもそも,原告の主張する「入力軸吸込側モデル」なるものが,スクリュ圧縮機
の具体的構成・配置を自ずと確定できる「モデル」として存在しないことは,例え
ば,甲3文献において,吸込側の入力軸(シャフト延長部15)にバランスピスト
ン11が設置されていることのみからも明らかである。
この点,原告は,スラスト力が発生する側(高圧側)にある吐出側ロータ軸をラ
ジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能
に支持することは必然的構成であると主張して,甲4文献等を根拠に挙げるが,甲
4文献は,低圧側にスラスト軸受(アキシャル軸受18)を組み込んでいるのであ
って,何ら必然的構成ではない。
イ 原告甲1変更を行うには,原告が主張する変更①~③以外にも,例えば,
以下のとおり,多くの改変を要し,この改変は困難である。

(ア) スライドバルブ31,ピストンロッド29,ピストン28,カバー2
7,シリンダ26
a スクリュ圧縮機においては,圧縮ガスの吐出量制御(容量制御)の
一つとして,スライドバルブ(スライド弁)による方法が存在する。スライドバル
ブによる容量制御は,スライドバルブをスクリュ圧縮機の吸込側(かつ雄ロータ・
雌ロータの噛み合い部分下部)に取り付け,これをスクリュロータの軸方向にスラ
イドさせることにより,ガスの吸込量を制御し,ひいては圧縮ガスの吐出量を制御
するものである(甲47)。
甲1発明では,スライドバルブによる容量制御が採用されており,そのために,
以下の図のとおり,スライドバルブ31・ピストンロッド29・ピストン28・カ
バー27・シリンダ26という各構成(以下「スライドバルブ31・ピストンロッ
ド29等」と総称する。)の配置が確定されている。


スライドバルブ31 ピストンロッド29 ピストン28 カバー27
シリンダ26 吐出通路25


スライドバルブ31 雄ロータ5 雌ロータ4
b スライドバルブ31・ピストンロッド29等は,甲1発明の「起動
時,運転中に限らずロータが移動せず,油ポンプの容量を増大させないようなバラ
ンスピストンの加圧方法を得る」という目的・課題解決手段に直接関連するもので
ある。
また,スライドバルブ31・ピストンロッド29等は,
「吸込側容積を変化させて
吸込量を調節する」ため,吸込側に配置されている(甲1の3頁右上欄下から1行)。
甲1文献の第2図,第4図を見れば明らかなように,スライドバルブ31は,雄ロ
ータ4・雌ロータ5の噛み合い部分下部に配置され,また,ピストンロッド29は,
スライドバルブ31に固定されて吸込ケーシング2の孔に嵌め込まれた密封輪を通
じて吸込側に延出されている(甲1の3頁右上欄下から2行~3行)。
ところが,原告甲1変更では,このようなスライドバルブ31・ピストンロッド
29等が吸込側から吐出側にすべて付け替えられることになり,そのまま維持され
ていない。そもそも,スライドバルブ31・ピストンロッド29等は,
「吸込側容積
を変化させて吸込量を調節する」ための構成であって,甲1発明において吐出側に

そのまま付け替えて機能させることはできない。さらには,原告甲1変更のように,
スライドバルブ31・ピストンロッド29等を無理に吐出側に付け替えようとして
も,吐出通路25と干渉することになってしまうため,吐出通路25をそのまま維
持することもできない。加えて,スライドバルブ31・ピストンロッド29等を無
理に吐出側に付け替えたときには,油路をどのように構成すればよいのかも不明で
ある。
(イ) 油路
a 甲1発明においては,
「高温の油は・・・油ポンプ57により・・・
入口35・・・よりスクリュー圧縮機内に入り・・・各軸受,軸封装置に送られ,
冷却,潤滑され,又,ロータ圧縮空間に送られロータの潤滑,シールが計られる。」
(甲1の4頁左下欄下から2行~右下欄6行)という構成であるため,油ポンプ5
7→入口35→油路36,37,38→・・・という構成とされている。


入口35 油路36 油路37 油路38


吐出口24 吐出通路25
b まず,油路36については,概要,次の流路となる(甲1の3頁右
下欄下から7行以下,4頁右上欄下から6行以下)。
油ポンプ57→入口35→油路36→軸受8,9→スラスト玉軸受12,13→
カバー16内→通路42→吐出通路25
ところが,原告甲1変更によると,吐出側にバランスピストン室を形成するため
に,カバー16が物理的に分断されることになり,通路42に至る構成が不明であ
る。
c 次に,油路37については,概要,次の流路となる(甲1の4頁左
上欄7行以下,4頁右上欄下から1行以下)。
油ポンプ57→入口35→油路37→ロータケーシング1中→ジャーナル軸受6,
7→油溝43,44→室45,46→油路47→吐出口24→吐出流路25
ところが,原告甲1変更によると,吸込側には,室45と見るべきものは存在し
ない。
d また,油路38については,概要,次の流路となる(甲1の4頁右
上欄2行以下,4頁左下欄上から10行以下)。

油ポンプ57→入口35→油路38→カバー16中→カバー17中→軸封装置1
8→ライナリング19と軸部4aの隙間→カバー16内→通路42→吐出通路25
ところが,原告甲1変更によると,吐出側へ向かう油路38から,吸込側に位置
する軸封装置18に至る構成が不明である上に,原告甲1変更では吸込側にライナ
リング19が不存在であるようにも見え,ライナリング19と軸部4aの隙間に至
る構成も不明で,通路42に至る構成も不明である。
(ウ) 仕切り壁
原告甲1変更では,変更前のバランスピストン室34を構成する壁(カバー21
の一部)がカバー21として削除されないまま,吐出側にバランスピストン室を形
成するために,「圧力遮断する仕切り壁」を別途設けなければならない。
当業者から見れば,原告甲1変更に従うと,甲1発明の構成上は明らかに不要な
構成(「カバーではなく独立の仕切り壁」)を追加して設けなければならなくなる。
ウ 以上より,原告甲1変更は,当事者が適宜選択し得る事項ではない。
(2) 格別の効果を奏すること
本件発明は,その各構成(位置関係を含む。)をすべて採用することにより,入力
軸,ラジアル軸受,スラスト軸受の各径に左右されず,バランスピストンの軸径を
小さくすることができる,バランスピストンのロータ軸への直接的な取付構造(審
決45頁参照)によりバランスピストンの内径をロータ軸の軸径として小さくする
ことができる,バランスピストンがスラスト軸受から独立してスラスト軸受の負荷
容量に依存せずに機能を発揮することができる,スラスト軸受の内径を小さくして
その負荷容量を大きくすることができる,バランスピストン(吐出側)の仕切り壁
側の空間に均圧流路を導く構成等により逆スラスト荷重状態の発生を防止すること
ができる,従来技術で必要な油ポンプ及びその稼働を一部不要とし,ケーシング内
に内部流路を形成するなどして,単純かつコンパクトな構造で,振動,騒音を低減
させることができるなど,格別の効果を奏するものである。
そして,上記の格別の効果は,甲1発明の場合には,例えば,流路48が吸込側

のバランスピストン32の外側の空間に導かれること,吐出側のスラスト軸受12
の内径を軸端部4cの径よりも大きくする構成であること(スラスト軸受の負荷容
量が小さくなる)などから,甲1発明では奏することのないものである。
(3) 以上より,本件発明は,甲1発明に基づき容易に想到できたものとはいえ
ない。
5 取消事由5について
原告の挙げる①~③は,いずれも,本件審決が原告の主張に係る無効理由を否定
すべきであるとの結論に至るまでの論理過程を具体的に説示したにすぎないもので
あって,登録無効事由を定めた法条に該当する具体的事実を認定したものではない。
また,原告は,上記①について,本件発明は,起動直後に均圧流路を使用しない
ものであることを主張していた(甲30,41)。
したがって,本件審決の判断は特許法153条2項に反するものではない。
第5 当裁判所の判断
1 本件明細書及び甲1文献の記載
(1) 本件明細書には,以下のとおりの記載がある(甲25)。
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,スクリュロータに作用するスラスト力を軽減するようにした油冷式スク
リュ圧縮機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来,スクリュロータに作用するスラスト力を軽減するようにした図6~図10に
示すスクリュ圧縮機が公知である。
まず,図6,7に示す油冷式スクリュ圧縮機は,一方が吸込流路1に,他方が吐出
流路2に接続した圧縮機本体3および吐出流路2に設けた油分離回収器4の下部の
油溜まり部5から油ポンプ6を経由して圧縮機本体3内の軸受,軸封部等の給油箇

所に通じる油供給流路7により形成されている。さらに詳説すれば,図7に示すよ
うに,圧縮機本体3内には,互いに噛合う雌雄一対のスクリュロータ11 ,12が,
各々の両側に延びるロータ軸にてラジアル軸受13 ,14により回転可能に支持
されている。図7において,左側が吸込側で,右側が吐出側になっており,左側の
二つの矢印は吸込ガスの流入,右側の矢印は吐出ガスの流出を示している。
【0003】
また,図7に示す圧縮機の場合,雄ロータ12の左側に延びるロータ軸が図示しな
いモータによる回転駆動力を受ける入力軸15となっている。さらに,雌ロータ1
1 ,雄ロータ12の吐出側のラジアル軸受14の右側のロータ軸にはスラスト軸
受16が設けてあり,かつラジアル軸受14とスラスト軸受16との間のロータ軸
にはスクリュロータ11 ,12に作用するスラスト力,即ち吐出側から吸込側に向
かう方向に作用するスラスト力を軽減するバランスピストン17が設けてある。
【0004】
図6に示すように,多少の圧力変化はあるとしても,基本的には,吸込流路1は吸
込圧力Ps,吐出流路2は吐出圧力Pd,油供給流路7の油ポンプ6の一次側は吐出
圧力Pd ,油ポンプ6の二次側は給油圧力Pd+α(α>0)の状態にあり,各圧力
の大小関係はPs<Pd<Pd+αとなっている。
そして,油ポンプ6から給油圧力Pd+αの油が圧縮機本体3内の軸受,軸封部(但
し,軸封部は図示せず)に送られ,かつバランスピストン17のラジアル軸受14
側の面に作用して,上記スラスト力を軽減するようになっている。
【0006】
図9に示すスクリュ圧縮機は,図7に示す圧縮機とは,図面上,入力軸15を吐出
側に配置した点,バランスピストン17を入力軸15とは反対側の吸込側に配置し
た点を除き,他は実質的に同一であり,互いに対応する部分については同一番号を
付して説明を省略する。
そして,図9においてバランスピストン17の左側の面,即ちラジアル軸受13と

は反対側の面に圧力を作用させて,上記スラスト力を軽減するようになっている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述した図6,7に示すスクリュ圧縮機の場合,ラジアル軸受14と隣合わせでバ
ランスピストン17を配置した構造になっており,かつバランスピストン17のラ
ジアル軸受14側の面が受圧面になっている。このため,バランスピストン17に
おいて受圧のための十分な表面積を確保するのが難しい。また,圧縮機の起動後は,
ラジアル軸受13 ,14には給油圧力Pd+αが常に作用する一方,起動直後,或
はアンロード運転時等のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合があ
る。このような場合,吐出側から吸込側に向かう方向にスクリュロータ11 ,12
に作用する力より大きい力がバランスピストン17に作用し,いわゆる逆スラスト
荷重状態となりスクリュロータ11, 12を吐出側に押すようになる。スクリュロ
ータ11,12の吐出側端面とこれらを収容するロータ室との間の隙間は,圧縮機
の性能の向上のためにできるだけ狭くしてあり,軸受摩耗が進行した状態下では,
スクリュロータ11,12とロータ室の壁部とが接触し,破損事故を起こしかねな
いという問題がある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために,第1発明は,油とともに吐出された圧縮ガスから油を
分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分
離回収器を吐出流路に設ける一方,スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジ
アル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,吐出側のロー
タ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受に
より回転可能に支持するとともに,上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離
れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受
とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,このバランスピス

トンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路
を設けて形成した。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に,本発明の実施の一形態を図面にしたがって説明する。
図1~3は,第1発明の第1の実施形態に係るスクリュ圧縮機を示し,図6,7に
示すスクリュ圧縮機と互いに共通する部分については,同一番号を付して説明を省
略する。
この圧縮機の場合,油ポンプ6の一次側にて油供給流路7から分岐させた均圧流路
8が設けてあり,油ポンプ6の二次側に続く油供給流路7の部分はラジアル軸受1
3,14の箇所に導き,均圧流路8はバランスピストン17の箇所に導くように形
成してある。この圧縮機本体3内の構造について,さらに詳説すれば,図2,3に
示すように,圧縮機本体3の吐出側のロータ軸に,スクリュロータ11,12側か
ら順番に,ラジアル軸受14,スラスト軸受16,バランスピストン17を設ける
とともに,スラスト軸受16とバランスピストン17との間に仕切り壁31を設け
てある。この仕切り壁31は内周部に軸封手段32を備え,スラスト軸受16を収
容している空間Aとバランスピストン17を収容している空間Bとを圧力遮断して,
空間Bを,入力軸15,スラスト軸受16,ラジアル軸受13,14等の他の構成
要素とは独立させてある。
【0014】
そして,空間Aには吸込圧力Psを導き,空間Bのバランスピストン17のスラスト
軸受16側の面には均圧流路8により吐出圧力Pd を導いている。
上述したように,入力軸15を吸込側に配置してあるためスラスト軸受部の径はラ
ジアル軸受14,入力軸15の径によって左右されず,スラスト軸受16の内径を
小さくして,その負荷容量を大きくすることができる。また,空間Bを他の構成要
素から独立させてあるので,バランスピストン17の軸径,外径を他の構成要素に

左右されることなく定めることができる。
バランスピストン17に作用する力Fは,次式で表される。
F=(D2-d2)(π/4)×Pd

ここで,Dはバランスピストン17の外径,dはバランスピストン17の軸径であ
り,したがって,十分にスラスト力を軽減するためには,力Fを大きくすればよく,
そのためには(D2-d2) を大きくして,バランスピストン17の必要な受圧面積
を確保すればよい。即ち,バランスピストン17の外径Dを大きく,軸径dを小さ
くすればよい。
【0015】
また,この圧縮機では,バランスピストン17には吐出圧力Pd を作用させるように
してあり,上記力Fは吐出圧力に比例するため,上述した圧縮機の起動直後,アン
ロード運転時等のように,吐出側から吸込側に向かう方向にスクリュロータ11,
12に作用する力が小さい場合には,力Fも小さくなり,逆スラスト荷重状態が発
生せず,軸受の摩耗時でもスクリュロータ11,12とロータ室の壁部との接触事
故は防止される。
【0019】
【発明の効果】
以上の説明より明らかなように,第1発明によれば,油とともに吐出された圧縮ガ
スから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送
り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,スクリュロータの両側に延びるロー
タ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,吐
出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラ
スト軸受により回転可能に支持するとともに,上記スラスト軸受よりもスクリュロ
ータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ上記ス
ラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,このバ
ランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導

く均圧流路を設けて形成してある。
このため,バランスピストンの受圧面積を大きくし,負荷容量の大きなスラスト軸
受を採用し,逆スラスト荷重状態の発生をなくし,単純かつコンパクトな構造で,
振動, 騒音を低減させることができる等の効果を奏する。
【図1】


【図2】


【図3】


【図6】


【図7】


【図9】


(2) 上記(1)の記載によると,本件発明は,次のようなものであると認められ
る。
ア 本件発明は,スクリュロータに作用するスラスト力を軽減するようにし
た油冷式スクリュ圧縮機に関するものである(段落【0001】。

イ 従来,スクリュロータに作用するスラスト力を軽減するようにしたスク
リュ圧縮機が公知である(段落【0002】~【0004】【0006】。
, )
ウ 上記イの公知のスクリュ圧縮機の場合,ラジアル軸受と隣合わせでバラ

ンスピストンを配置した構造になっており,かつバランスピストンのラジアル軸受
側の面が受圧面になっている。このため,バランスピストンにおいて受圧のための
十分な表面積を確保するのが難しい。また,圧縮機の起動後は,ラジアル軸受には
給油圧力Pd+αが常に作用する一方,起動直後,又はアンロード運転時等のよう
に圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合がある。このような場合,吐出側
から吸込側に向かう方向にスクリュロータに作用する力より大きい力がバランスピ
ストンに作用し,いわゆる逆スラスト荷重状態となりスクリュロータを吐出側に押
すようになる。スクリュロータの吐出側端面とこれらを収容するロータ室との間の
隙間は,圧縮機の性能の向上のためにできるだけ狭くしてあり,軸受摩耗が進行し
た状態下では,スクリュロータとロータ室の壁部とが接触し,破損事故を起こしか
ねないという問題がある。さらに,吐出側のスラスト軸受部の径が,入力軸の径,
ラジアル軸受の径によって決まるため,内径の大きなスラスト軸受を採用せざるを
得ず,その結果,スラスト軸受の負荷容量を大きくすることができないという問題
がある。(以上につき,段落【0008】【0009】
, )
エ 上記ウの課題を解決するために,本件発明は,油とともに吐出された圧
縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガス
を送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,スクリュロータの両側に延びる
ロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてス
ラスト軸受により回転可能に支持するとともに,上記スラスト軸受よりもスクリュ
ロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ上記
スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,この
バランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく
導く均圧流路を設けて形成した(段落【0011】。

オ 本件発明によると,バランスピストンの受圧面積を大きくし,負荷容量
の大きなスラスト軸受を採用し,逆スラスト荷重状態の発生をなくし,単純かつコ

ンパクトな構造で,振動,騒音を低減させることができる等の効果を奏する(段落
【0019】。

(3) 甲1文献には,以下のとおりの記載がある(甲1)。
ア 「本発明は,互に噛み合う一対のスクリューロータをロータ室で回転せ
しめて気体を圧縮する噴射式スクリュー圧縮機の運転中に生じる軸方向推力を打消
すバランスピストンに関するものである。」(1頁右欄11行~15行)
イ 「従来,この種の圧縮機は雄ロータを含む縦断面図の第1図に示される
ようにロータケーシング1の両側は吸込側端壁及び吐出側端壁をなしており,吸込
ケーシング2,吐出ケーシング3により密閉され,雄ロータ4と図示されない雌ロ
ータがかみ合っており,両ロータはケーシング1の吐出し側の双円弧形外周と接し
ている。雄ロータ4は吸込ケーシング1中のジャーナル軸受6,吐出ケーシング3
中のジャーナル軸受8,スラスト玉軸受12により支承され,軸封装置18にて軸
封され駆動端が機外に突出している。軸受6側の軸部4bは延出され軸端にはバラ
ンスピストン32が固定され,吸込ケーシング2に直接又は固定されたシリンダ中
を滑動して回転するようになっている。
・・・31はスライドバルブである。スクリ
ュー圧縮機が運転されると雄ロータ4と雌ロータはかみ合ってその間の作用空間が
吐出側へ移行して冷媒は圧縮され吐出口より吐出通路25へ吐出される。一方,軸
受及びロータ間及びロータとロータケーシング1間の潤滑,冷却,密封を行う油は
吐出されたガスと共に吐出配管50をとおり油分離器52に入りそこで分離されて
油配管53により油冷却器55に送られて冷却され,フイルタ56にて沪過されて
,油ポンプ57により昇圧されて,軸受6,8,12等の各軸受,軸封装置18,
スライドバルブ31ほかを介してロータ作用空間へ送られる。同じく送油された油
ポンプ57からの圧油はバランスピストン室34に送られ,発生するロータの推力
と均衡するようになっており,これらの給油は吐出通路25に再び出て合流する。
」(1頁右欄12行~2頁右上欄10行)
ウ 「このような従来のスクリュー圧縮機のバランスビストンは油ポンプで

加圧された潤滑・冷却・シール用の圧油を作動油として供給しているため次の欠点
があった。
(1) 設計圧縮比より小さい圧縮比での運転が必要になった場合油ポンプの油圧を
利用するとむしろ吐出側に押される傾向になる。
(2) 特に起動時圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポン
プにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることによりロータが
吐出側に推されスラスト軸受およびスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかり
しかも起動のたびに繰返えされるため疲労変形の恐れがある。また,ロータ吐出側
端面と吐出ケーシング端面が接触し,両端面が損傷したり発熱し,その発熱により
ラジアル軸受メタルが溶融して流出することも起り得る。(2頁右上欄11行~左

下欄8行)
エ 「本発明はスクリュー圧縮機における従来のバランスピストンの加圧方
法の問題点に鑑みなされたもので吐出圧の変動によるロータ推力に均衡し,従って
起動時,運転中に限らずロータが移動せず,油ポンプの容量を増大させないような
バランスピストンの加圧方法を得ることを目的とするものである。(2頁左下欄1

6行~右下欄2行)
オ 「本発明はスクリュー圧縮機において,吐出流体と共に潤滑,冷却,密
封用の油が油分離機により回収され,油ポンプにより圧縮機各部に給油され,吸込
ケーシングに設けたロータ軸端の突出する空間にロータ軸に固定したピストンと吸
込ケーシングに固定したシリンダをすきま少く嵌入してピストンの反吐出側に圧縮
機の吐出圧力を受けた油を供給したことを特徴とするものである。(2頁右下欄3

行~11行)
カ 「以下,本発明の実施例について図面に従って説明する。図面は何れも
スクリュー圧縮機を示し,第2図は縦断面図,第3図は第2図のA-A断面図,第
4図は第2図のB-B断面図である。
・・・雄ロータ4,雌ロータ5は一体となった
軸部4a,4b,5a,5bが夫々吸込ケーシング2に嵌入したジャーナル軸受6,

7及び夫々吐出ケーシング3に嵌入したジャーナル軸受8,9によりラジアル方向
荷重を支承され,吐出ケーシング3に嵌入したスラスト玉軸受12,13の内輪に
雄ロータ4の軸部4a,雌ロータ5の軸部5aの軸部が嵌入して段部との間におい
て夫々の軸部にねじ込まれたナット14,15により軸方向移動を制止されている。
雄ロータ4の一体となった軸部4aは機外に突出して軸端部4cとなっており,
軸端部4cにより雄ロータ4が駆動されるようになっている。(2頁右下欄12行

~3頁左上欄18行)
キ 「軸部4a端には雄ロータ4と雌ロータ5の推力のバランスをとるため
のバランスピストン32が係止され,ピストン32は吸込ケーシング2中に固定せ
られたシリンダ33に滑入していてバランスピストン室34,及びその背部に軸受
6側の室45が形成されている。(3頁左下欄7行~12行)

ク 「第5図は油圧回路図を示す図面である。吐出通路25に吐き出された
油を多量に含む圧縮ガスは吐出配管50を通り油分離器52に導かれ,圧縮ガスと
油とに分離されたのち圧縮ガスは配管51から吐出され,油は油配管53により油
冷却器55に導かれる。高温の油は油冷却器55で冷却水により冷却されたのち,
フイルタ56を経由して油ポンプ57により吐出圧力より1~3kg/cm2加圧
され入ロ35,47よりスクリュー圧縮機内に入り既にのべたように各軸受,軸封
装置に送られ,冷却,潤滑され,又,ロータ圧縮空間に送られロータの潤滑,シー
ルが計られる。(4頁左下欄14行~右下欄6行)

ケ 「油分離器52より分離された油の一部はフイルタ59を途中に備える
配管58を通じてバランスピストン室34へ送られる。バランスピストン32には
従って吐出圧縮ガス圧力に追従して変化する油圧力が加わる。バランスピストン3
2とシリンダ33はバランスピストン32の外周に備える複数のラビリンス群とそ
れらの間の少ない隙間により若干量の油がバランスピストン室34から室45に洩
れる。
圧縮により発生する雄雌ロータ4,5の推力は夫々スラスト玉軸受12,13に

て担持されるがその推力を減少させるためバランスピストン室34に圧力流体が供
給されるが本発明によれば発生する吐き出しガス圧に従うロータ推力の増滅に従っ
て油分離器52の圧力が増減し,分離された油もその圧力を受けているのでバラン
スピストン室34にはロータ推力の増減に従って増減する圧力をもつ油が供給され,
バランスピストン32はロータ推力の増減につれてその対抗推力を増減させる。バ
ランスピストン32の背圧は吸込ガス圧よりわずかに高い圧力である。(4頁右下

欄7行~5頁左上欄7行)
コ 「以上のとおり,本発明のスクリュー圧縮機においては圧縮機吐き出し
ガスを導いた油分離機より分離した吐き出しガス圧を受ける油をバランスピストン
室に導いたので,吐き出し圧に従って変化するロータ推力に対抗応動してバランス
ピストンに推力が生ずるので,起動時,負荷変動時に生ずるロータ推力とバランス
ピストンの推力差は少く,雄ロータ4,雌ロータ5が推力軸受12,13に過大負
荷を与えたり,バランスピストン室のみ油の圧力が高くなってロータを吐出側の吐
出ケーシング端壁に衝接させるということがなくなり,耐久性の向上に寄与する処
が大である。(5頁右上欄2行~14行)



2 取消事由1(甲8発明に基づく新規性欠如の主張を否定した判断の誤り)に
ついて
(1) 甲8パンフレットは,本件出願日前に頒布された刊行物といえるかについ


ア 原告は,甲8パンフレットは,ハウデン社が,平成7年5月頃,既に作
成されたものを含む複数の文書を合体し,パッケジャー等の冷凍・冷蔵用圧縮機業
界関係者向けに作成した一体の販売促進文書であり,原告の姉妹会社であるマエカ
ワ・イタリア社の社員であるAが保管していたものであると主張する。
イ 証拠(甲8,20)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認めら
れる。
(ア)a 甲8パンフレットは,10枚の書面から成るが,同書面は綴じられて
おらず,また,頁番号も付されていない。
甲8パンフレットの1~6,9枚目はA4であり,7,8,10枚目はA3であ
るが,2~5,7~9枚目には裏面がある。甲8パンフレットの7枚目の表面と1
0枚目の表面は,圧縮機の図面となっている(10枚目表面の図面は図8-Aであ
る。。

b 甲8パンフレットには,以下のとおりの記載がある。
1枚目の表面には,「XRVレンジ圧縮機のためのHOWDEN自
動可変Viオプション」との表題の下に,「索引」との表示があり,同索引として,
以下の9個の項目が記載されている。
①イントロダクション,②概説,③節電,④部分負荷運転,⑤自動Vi制御モジ
ュール,⑥XRV163圧縮機の縦断面,⑦典型的な運転シーケンス,⑧制御原理,
⑨典型的なシステム配置
(b) 2枚目の表面には「イントロダクション」,2枚目の裏面には「H
OWDEN自動可変内部容積比システム概説」,3枚目の裏面には「節電」,4枚目
の裏面には「部分負荷運転」,5枚目の裏面には「自動Vi制御モジュール」,7枚
目の表面には「XRV圧縮機の縦断面図」,7枚目の裏面には「典型的な運転シーケ
ンス」 8枚目の裏面には
, 「制御原理」 9枚目の裏面には
, 「典型的なシステム配置」,
10枚目の表面には「自動可変Viシステム配置」との各表題が表示されている。

(c) 5枚目の裏面には,
「163型と204型で使用されている自動V
i制御モジュールが反対頁とその次の頁に示されています。,7枚目の裏面には,

「典型的な運転シーケンスが本頁と続く2頁に示されています。,9枚目の裏面に

は,「典型的なシステム配置が反対頁に示されています。」との各記載がある。
(d) 1枚目の表面には,「発行日:1995年5月」との記載がある。
(イ) A供述書には,以下のとおりの記載がある。
a Aは,昭和60年から平成13年までスルツァー・イタリアSpA
で,同年から平成16年までスルツァー・シッティン・レフリジェレーションで働
き,平成24年以降,マエカワ・イタリア社で働いている。スルツァー・イタリア
SpAでは,セールスマネージャーの地位にあった。
b Aは,平成7年5月頃,ハウデン社から,甲8パンフレットを受領
した。ハウデン社は,業界関係者への一般的な販売促進活動の一部として,甲8パ
ンフレットをAに交付した。
c 甲8パンフレットは,リング綴用の1列の長方形の穴が付いている
が,綴じられていない,ばらのルーズリーフの状態であった。
d 甲8パンフレットは,Aの職務と無関係であったため,Aは,個人
ファイルに入れ,ほとんど手付かずのままにしていた。甲8パンフレットは,1枚
目表ページのインデックスに1~9と記載されたとおりの九つの創作部分からなる
一体の文書である。
ウ 上記イの事実を前提に検討する。
(ア)a 製品のパンフレットであれば,綴じられた状態で作成されるのが通
常であると考えられるが,甲8パンフレットは,バインダーで綴るための穴が開い
ており,綴じられていない状態である。そして,このことに,甲8パンフレットを
構成する各書面の変色の度合いが一定ではないことを総合すると,甲8パンフレッ
トは加除式であって,書面の一部を差し替えたり,付け加えることを予定したもの
であると認められる。

b また,甲8パンフレットの5枚目の裏面には,
「163型と204型
で使用されている自動Vi制御モジュールが反対頁とその次の頁に示されていま
す。 との記載があり,
」 9枚目の裏面には「典型的なシステム配置」との表題のもと,
「典型的なシステム配置が反対頁に示されています。 と記載されているが,
」 5枚目
の表面及び9枚目の表面には,上記各記載に対応する記載はない(甲8)。さらに,
7枚目の裏面には,典型的な運転シーケンスが本頁と続く2頁に示されています。
「 」
と記載されているが,8枚目裏面には上記記載に対応する記載はない(甲8)。
このように,甲8パンフレットの各書面の記載は整合しておらず,この点からも,
甲8パンフレットが加除式のものであり,差し替えれられたり,付け加えることを
予定したものであると認められる。
c この点,A供述書には,甲8パンフレットをハウデン社から受領し
た後,個人ファイルに入れ,ほとんど手付かずのまま保管しており,甲8パンフレ
ットは,1枚目表ページのインデックスに1~9と記載されたとおりの九つの創作
部分からなる一体の文書であるとの記載がある。
しかし, A供述書によると,Aが当時勤務していたスルツァー・イタリアSpA
の取引先であるハウデン社から販売促進活動の一環として受領した製品のパンフレ
ットである甲8パンフレットを個人として保管していたことになるが,取引先から
販売促進活動として製品についてのパンフレットの交付を受けたのであれば,同パ
ンフレットは会社が保管すべき資料となり,従業員が個人の資料として保管するこ
とにはならないから,A供述書の上記部分は不自然である。また,A供述書による
と,甲8パンフレットは,Aの職務と無関係であったため,個人ファイルに入れ,
ほとんど手付かずのままにしていたということであるが,それにもかかわらず,A
は,甲8パンフレットをスルツァー・イタリアSpAを退職してから15年以上も
保管していたことになり,この点も不自然である。さらに,Aは原告の関連会社の
社員であることをも総合すると,A供述書は信用性が低く,その記載内容を直ちに
信用することはできない。

(イ) また,原告は,甲8パンフレットの10枚目の図面である図8-Aに
均圧油路が記載されているとして,本件発明の新規性の欠如を主張するところ,証
拠(甲8,甲59の1・2,甲61の1・2)及び弁論の全趣旨によると,図8-
Aは,甲59-1図面,甲59-2図面,甲61-1図面及び甲61-2図面の図
面部分とほぼ同一であると認められる(ただし,甲59-2図面及び甲61-2図
面には,図8-Aの始動ポンプは記載されていないが,この点以外はほぼ同一であ
ると認められる。)が,証拠(甲59の1・2,甲61の1・2)によると,これら
の甲59-1図面,甲59-2図面,甲61-1図面及び甲61-2図面には,
「©
ハウデンコンプレッサーズリミテッド 本図面は,機密であり,かつ,ハウデンコ
ンプレッサーズリミテッドの財産である。該図面又はその如何なる部分も,複写そ
の他の再製が禁じられ,如何なる他者への漏洩も禁じられ,該会社の明確な書面に
よる許可なく製造若しくはその他の目的での使用も禁じられている。」と記載され
ているから,これらの図面は,これらが作成された平成8年4月の時点では,機密
文書であったと認められる。したがって,図8-Aは,平成8年4月の時点では,
未だ機密文書であったと認められるから,それより前の平成7年5月頃に図8-A
が販売促進活動として取引先に頒布されたというのは著しく不自然である。
(ウ) 以上のとおり,甲8パンフレットは,加除式のもので,差替えや追加
が予定されているものである上,図8-Aは平成8年4月当時機密文書であったの
であるから,図8-Aを含む内容の甲8パンフレットが本件出願日前に「頒布され
た刊行物」に当たると認めることはできない。
(エ) なお,平成6年2月までハウデン社に勤務していたDの各宣誓供述書
(甲10,19)には,甲8パンフレットは,平成7年5月にハウデン社が作成し,
取引先等に頒布された旨の記載があるが,Dが,ハウデン社を退職した後の,しか
も20年以上も前の事実に関する記載であるから,上記供述書によっても,図8-
Aを含む内容の甲8パンフレットが本件出願日前に「頒布された刊行物」に当たる
と認めることはできない。

エ 原告の主張について
(ア) 原告は,Aが,甲8パンフレットと同様に,バインダー1のクリアポ
ケットに入れて保管していた甲60パンフレットは,その発行日として「1996
年4月」と記載されているところ,甲60パンフレットは,一体の文書であり,甲
8パンフレットの記載事項に加えてより詳細な技術情報を販売業者及びパッケジャ
ーに広く提供する内容のものであることからすると,甲8パンフレットも甲60パ
ンフレットと同様に,一体の文書であった旨主張する。
しかし,証拠(甲8,60)によると,甲60パンフレットも,バインダーで綴
るための穴が開いており,綴じられていない状態であること,甲60パンフレット
を構成する各書面の変色の度合いが一定ではないこと,甲60パンフレットの23
頁の図面は図8-Aと同一の図面であることが認められるから,甲60パンフレッ
トも,差替えや追加を予定した加除式のものであって,本件出願日前に,図8-A
と同様の図面である23頁の図面を含む内容の甲60パンフレットが頒布されたと
は認められない。したがって,甲60パンフレットの存在は,上記ウ(ウ)の判断を左
右するものではない。
(イ) 原告は,Aが,甲8パンフレットと同様に,バインダー1に綴って保管
していた甲59-1図面及び甲59-2図面は,図8-Aとほぼ同一の図面である
ところ,甲59-1図面及び甲59-2図面には,作成時期として平成8年4月と
記載されていると主張し,また,甲59-1図面及び甲59-2図面と同一の図面
である甲61-1図面及び甲61-2図面が,ハウデン社が取引先に提供したバイ
ンダー2に綴られていた旨主張する。
しかし,上記ウ(イ)のとおり,甲59-1図面,甲59-2図面,甲61-1図面
及び甲61-2図面は,これらの文書が作成された平成8年4月の時点では機密文
書であったと認められるから,同図面とほぼ同一の図面である図8-A も機密文書
であったと認められ,したがって,甲8パンフレットが,本件出願日前に「頒布さ
れた刊行物」に当たると認めることはできない。

(ウ) 原告は,甲22書面の「XRV圧縮機Vi自動可変機能は1995年初
め頃に導入されました。」との記載や,バインダー1には甲66図面が入っており,
同図面には,
「日付 95/2」と記載されていることを主張するが,これらは,V
i自動可変機能を有するXRV圧縮機が平成7年2月頃存在していたことを示すの
みであって,何ら上記ウ(ウ)の判断を左右するものではない。
(エ) 原告は,平成7年5月頃に作成された甲49-1パンフレットに甲8
パンフレットと同じグラフや図が記載されていると主張するが,図8-Aは,甲4
9-1パンフレットには記載されていないから,このことは,かえって,図8-A
を含む甲8パンフレットが本件出願日前に「頒布された刊行物」に当たらないこと
を示しているということができる。
(2) 以上のとおり,図8-Aを含む内容の甲8パンフレットは,本件出願日前に
「頒布された刊行物」とは認められず,したがって,そのことを前提とする原告の
取消事由1の主張は,理由がない。
なお,甲8パンフレットには,圧縮機の図面として,甲8-Aのほかに7枚目表
面の図面があるが,同図面は,油の流路が全く記載されておらず,甲8パンフレッ
ト中にそのことについて説明があるとも認められないから,バランスピストンとス
ラスト軸受の間に仕切り壁があるか,その壁とバランスピストンとの間の空間に油
を導く流路が存在するかどうか,仮にその流路が存在するとしてもその流路が均圧
流路であるかどうかは明らかでなく,上記の7枚目表面の図面から本件発明が新規
性を欠くものということはできない。
3 取消事由2(甲9発明に基づく新規性欠如の主張を否定した判断の誤り)及
び取消事由3(甲9発明に基づく進歩性欠如の主張を否定した判断の誤り)につい

(1) 甲9文献は,次のようなものであることが認められる。
甲9文献は,
「新製品 紹介:HOWDEN COMPRESSORS 社の最新レンジの冷凍圧
縮機 TheXRV」と題する表裏から成る文書であり,以下の事項が記載されているほ

か,ハウデン社の住所,電話番号等が記載されている。
ア 「油ポンプは通常不要」「最小限の油ポンプ要求」(表面)
イ XRV圧縮機横断面


XRV圧縮機縦断面


XRV運転圧力範囲


(裏面)

(2) 甲9文献は,本件出願日前に頒布された刊行物といえるかについて
ア Dの各宣誓供述書(甲10,19,24,45)には,以下のとおりの
記載がある。
(ア) Dは,平成6年2月まで,ハウデン社の米国子会社に勤務していたが,
現在は,冷蔵,空調分野において工業製品の販売やコンサルティングを業とするD
社のCEOに就任しており,また,平成28年7月からは,Maekawa USA のビジネ
ス市場開拓に携わっている。
(イ) Dは,ハウデン社を退職した後も,ハウデン社とは仕事上関係があり,
ハウデン社の製品を販売しており,ハウデン社の事務所にもよく出かけていた。
(ウ) 甲9文献は,展示会のような機会に新しい機械を宣伝するためのリー
フレットであり,Dが,コネチカット州ブルームフィールドの事務所で勤務してい
た平成3年1月に,新しい油冷式圧縮機であるXRVレンジの販売促進をするため
に作成した。
甲9文献は,平成3年1月にニューヨーク市の Jacob Javitt センターで行われた
ASHRAE ショー(展示会)のために準備されたものである。この展示会は,XRV
シリーズの圧縮機を米国市場に紹介する機会として活用し,同展示会で,XRV2
04圧縮機を展示した。同展示会の反応は好評であった。Dがハウデン社の退職前
に甲9文献が発行されたことは間違いがない。
イ 特許法29条1項3号の「頒布」とは,一般公衆による閲覧可能な状態
に置かれることをいうところ,本件において,甲9文献が一般公衆による閲覧可能
な状態に置かれたことを認めるに足る客観的証拠は提出されていない。
この点,前記アのとおり,Dの宣誓供述書には,D自身が甲9文献を,平成3年
1月にニューヨーク市の Jacob Javitt センターで行われた ASHRAE ショー(展示会)
のために作成した旨記載されているが,同展示会が実際に開催されたことを示す客
観的な証拠は提出されておらず,同展示会の内容等も不明であり,さらに,同供述
書には,「私の記憶が正しければ,」と記載されており,Dの記憶が必ずしも確かな

ものではないことが示されている。
したがって,甲9文献が,本件出願日前に「頒布された刊行物」に当たると認め
ることはできない。
この点,原告は,甲9文献の刊行時期は,本件出願日前であると主張する(前記
第3の2(1)ア~エ)が,これらの主張によっても甲9文献に記載されている事項が
本件出願日前の事実であることが認められるにすぎず,甲9文献が「頒布」された
ことまでが認められるものではない。
したがって,甲9発明に基づく新規性及び進歩性欠如の主張は理由がない。
(3) 前記(2)のとおり,甲9文献は,本件出願日前に「頒布された刊行物」と認め
ることはできないが,事案に鑑み,甲9発明に基づき,本件発明の新規性,進歩性
が欠如するかについて検討する。
ア 本件発明の新規性の有無について
(ア) 前記第2の2で認定した本件発明の構成及び甲9によると,甲9発明
の構成並びに本件発明と甲9発明との一致点及び相違点は,以下のとおりであると
認められる。
a 甲9発明の構成
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸を円筒ころ軸受により回転可能に支持
して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記円筒ころ軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて
スラスト玉軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト玉軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバ
ランスピストンを設け,
かつ上記スラスト玉軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設け,
吐出圧があまり高くない範囲(5~9bara以下)の領域では,油ポンプが使用さ
れる,
スクリュ圧縮機。」

b 一致点
「スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持
して入力軸を吸込側のロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて
スラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバラ
ンスピストンを取り付け,
かつ上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に壁を設けた,
スクリュ圧縮機。」
c 相違点
(a) 本件発明では,
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収
し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器
を吐出流路に設ける」,
「油冷式スクリュ圧縮機」であるのに対して,甲9発明では,
スクリュ圧縮機であるものの,
「油分離回収器」についての特定がされていないとと
もに,「油冷式」であることも特定されていない点(相違点9-1)。
(b) 本件発明では,スラスト軸受とバランスピストンとの間に圧力遮
断する仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜ま
り部の油を導く流路としては油ポンプを使用しない均圧流路を設けたのに対して,
甲9発明では,上記スラスト軸受と上記バランスピストンとの間に壁を設けるもの
の,この壁がスラスト軸受とバランスピストンの間を圧力遮断する仕切り壁か否か
特定されず,吐出圧があまり高くない範囲(5~9bara以下)の領域では,油ポン
プが使用されるものであって,また,油溜まり室からバランスピストンに向けて油
を導く流路及び当該流路の導かれる空間も特定されていない点(相違点9-2)。
(イ) 相違点9-2についての説明
a 加圧油路(相違点9-2)について
前記(ア)のとおり,甲9文献からは,甲9文献記載のスクリュ圧縮機には,バラン

スピストンとスラスト軸受との間に壁があるが,この壁がスラスト軸受とバランス
ピストンの間を圧力遮断する仕切り壁であるか否か,この壁とバランスピストンと
の間の空間に油が導かれるのか否かは不明である。
また,仮に,上記の壁が,スラスト軸受とバランスピストンの間を圧力遮断する
仕切り壁であり,この仕切り壁とバランスピストンとの間の空間に油が導かれると
しても,甲9文献には,
「油ポンプは通常不要」「最小限の油ポンプ要求」との記載

があることから,甲9文献のスクリュ圧縮機は,通常の運転時には油ポンプを使用
せず,そうでない場合は油ポンプを使用するものと認められる。したがって,同ス
クリュ圧縮機には,油ポンプによって加圧される流路と油ポンプによって加圧され
ない流路が存在しているものと認められるが,それらの流路を通過する油が,どの
部位に導かれるかについては全く特定されておらず,油ポンプによる加圧を不要と
する流路が,バランスピストンの仕切り壁側の空間に油を導く流路(以下「バラン
スピストン室導入流路」という。)であるかは明らかではないから,甲9文献には,
バランスピストン室導入流路を均圧流路とする構成(以下「均圧流路構成」という。)
が記載されているとはいえない。
以上の点は,甲9発明と本件発明との間の実質的な相違点である。
b 油ポンプの使用(相違点9-2)について
本件特許の請求項1は,前記第2の2で認定したとおり,「・・・
このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧すること
なく導く均圧流路を設けて形成したことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機」とい
うものであり,均圧流路構成を設けること,すわなち,バランスピストン室導入流
路を均圧流路とすることをその構成としている。
そして,前記1(1)で認定した本件明細書の記載によると,本件発明は,スクリュ
圧縮機においては,バランスピストン室導入流路を加圧流路とすると,起動直後や
アンロード運転時等のように圧縮機の負荷が小さくスラスト力が小さい場合に,吐
出側から吸込側に向かう方向にスクリュロータに作用する力より大きい力がバラン

スピストン17に作用するため,いわゆる逆スラスト荷重状態となって,スクリュ
ロータを吐出側に押すようになり,その結果,スクリュロータとロータ室の壁部と
が接触し,破損事故を起こす可能性が生じることから,同課題を解決するために,
バランスピストン室導入流路を均圧流路とする構成(均圧流路構成)を採用したも
のと認められる。
以上のような特許請求の範囲及び明細書の記載によると,本件発明は,少なくと
も,起動直後やアンロード運転時のような圧縮機の負荷が小さい場合には,油を加
圧しない構成を有するものと認められる。
(b) ところで,甲9文献には,前記(1)のとおり,以下の甲9グラフが記
載されている。


甲9グラフは,横軸を吸込圧力とし,縦軸は吐出圧力とし,また,
「OIL PU
MP」と表記される領域(平行四辺形で色の濃い領域)は,現に「OIL PUM
P」が使用される状態にあることを示しているものと認められるから,甲9グラフ
は,吐出圧力があまり高くない範囲(5~9bara以下)の領域では,油ポンプが使
用されることを意味しているものと理解される。

このことに,甲9文献には,
「油ポンプは通常不要」「最小限の油ポンプ要求」と

の記載があることを併せ考慮すると,甲9発明は,吐出圧力が高い領域では油ポン
プは使用されないが,同圧力が高くない範囲(5~9bara以下)の領域では,油ポ
ンプが使用される構成を有しているものと認められる。そして,起動直後等の圧縮
機の負荷が小さい場合は,吐出圧力が高くない場合に当たるものと認められる。以
上に反するDの宣誓供述書(甲45)の記載を採用することはできない。
(c) したがって,仮に,甲9発明において,バランスピストン室に加圧
をしない流路を通じて油が導かれると認められるとしても,起動直後等の圧縮機の
負荷が小さい場合に加圧流路を設けている点で本件発明と実質的に相違する。
(ウ) 原告の主張について
a 原告は,甲9グラフは,起動後の通常運転時において吐出圧と吸込
圧の圧力差が4bar a 以上確保できない通常運転においては,差圧給油を補助するた
めのポンプを要する範囲を示したものであることは明らかであり,同図から甲9文
献記載の圧縮機において起動時には常に油ポンプを使用することを要するとの判断
を導くことは論理的に不可能であると主張する。
しかし,前記(イ)b(b)のとおり,甲9グラフには,吐出圧力があまり高くない範囲
(5~9bara以下)の領域では,油ポンプが使用されることが示されており,甲9
グラフを見た当業者も,そのように理解するものと認められるところ,圧縮機の起
動直後は,吐出圧力は高くないものと認められるから,甲9グラフは,圧縮機の起
動直後は,油ポンプを使用することを示しているものと認められる。
そして,吐出圧力が高くない場合に油ポンプを使用することは,本件発明の技術
思想に反するものであるから,甲9発明においてこの場合に常に油ポンプを使用す
るかどうかにかかわらず,実質的な相違点となるというべきである。
この点,原告は,ころがり軸受を使用したスクリュー圧縮機においては,通常で
あれば,1,2分以内に4bar a 程度の吐出圧・吸込圧差は容易に実現できる旨主張
するが,原告の同主張によっても,起動直後は,吐出圧・吸込圧差は4bar a を超え

ていないし,また,仮に,起動直後に油ポンプを使用しない場合があったとしても,
油ポンプの使用が甲9発明と本件発明の実質的な相違点となることは上記のとおり
である。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
b 原告は,甲9文献記載の圧縮機においては,油ポンプを使用しない
で起動するシステムとすることが可能であり,かつ,定常運転時において吐出圧と
吸込圧の圧力差が十分であれば,起動後に油ポンプは不要とすることができること
は,周知であったと主張し,その証拠として,甲4,42~44,47,48を挙
げる。
しかし,甲9文献記載の圧縮機は,吐出圧力があまり高くない範囲において油ポ
ンプを使用するものと解され,また,以下のとおり,原告が挙げる上記各文献には,
油ポンプによって加圧されていない油路からの油が,バランスピストン室へ送られ
ることについての記載がなく,上記各文献は,バランスピストン室導入流路を均圧
流路とするという技術思想から油ポンプを不要としたものではない。
したがって,上記各文献に記載された油ポンプを不要とするという技術を参酌し
て,甲9発明が,均圧流路構成を実質的に備えていると認めることはできない。
甲4文献について
甲4文献には,
「前記バランスピストン19は,加圧された油が油入口孔22を介
して外部から供給可能な圧力スペース21に設けられている。加圧された油は,例
えば,外付けの油ポンプ又は油注入スクリュ圧縮機の吐出配管システムに従来から
用いられているオイルセパレータのような任意の適切な手段によって供給可能であ
る。」との記載がある。
上記記載からすると,甲4文献においては,加圧するための油ポンプが外付けで
もよいことが記載されているにすぎないというべきであり,油ポンプの要否までを
開示するものではない。
(b) 甲42文献について

ⅰ 甲42文献には,以下の記載がある。
「2.実用新案登録請求の範囲
吐出気体中の油分を油回収器により分離したのち,圧縮機本体部分に注入させて
油を循環させるようにした注油式スクリュー冷凍機において,該圧縮機の本体注油
部分の全部または一部に上記油回収器で分離した油を油回収器の圧力を利用して給
油する一方,本体注油配管中に絞り装置を設けると共に運転中に油回収器内圧力よ
りも高くなる配管部分に逆流防止装置を設けたことを特徴とする注油式スクリュー
圧縮機」(明細書1頁3行~12行)
「冷凍用圧縮機においては,一般に使用条件によって吸込側圧力と吐出側圧力と
の差が最大1:40程度になる。従って,軸受荷重が大きくほとんどの注油式スク
リュー冷凍圧縮機においては,ころがり軸受では使用に耐えず,すべり軸受が用い
られている。(2頁12行~17行)

「このようにすベり軸受を用いた場合には常に軸受部で有効な油膜を確保するた
めに充分な油量を供給しなければならず,油ポンプを用いて確実に油を供給してい
た。(3頁1行~4行)

「図面は従来公知の注油式スクリュー冷凍圧縮機により冷凍装置を構成したもの
で,圧縮機1の吐出側は油回収器2に連通し,吐出冷媒中の油分を上記油回収器2
により除去したのち,凝縮器3,受液器4,膨張弁5,蒸発器6を経て上記圧縮機
1の吸込側7に吸込まれる。また,上記油回収器2の下部に貯留された油は油回収
器2内の圧力により油冷却器8を介して一部は絞り弁9により流量調節されて圧縮
機1へ連通する。また,上記油冷却器8からの油の一部は油ポンプ P により昇圧さ
れて圧縮機1の雌雄一対のロータにおける吐出側軸受部12a,12bに連通して
いる。なお,上記油冷却器8から昇圧されないで注油される油は上記ロータのロー
タ室等に連通している。(4頁9行~5頁2行)

「ここで,ロータの軸受部への給油を油ポンプPを介して行なうのは,この部分
は高圧(吐出圧)が作用していることと,スクリュー圧縮機においては特に圧縮比

が大きくロータの軸受部分の荷重が大であるため,ほとんどすべり軸受が使用され,
大なる油圧を必要とするからである。
しかしながら,大なる油量が必要でない軸受を使用した場合,あるいは軸受部を
シールして閉じ込み後のロータの低圧部と連通した場合には,油ポンプを使用しな
くてよい。(5頁6行~15行)

「本考案によれば高圧多量の油を必要とする部分にのみ油ポンプで昇圧して油を
供給し,その他の部分には圧縮機の吐出圧を用いて給油するため油ホンプ容量は小
さなものを使用するか廃止することができ,安価な注油式スクリュー冷凍圧縮機と
することができ,圧縮機起動時において軸受部に充分に油を供給できる。(5頁1

6行~6頁3行)
ⅱ 前記ⅰからすると,甲42文献には,油回収器から油冷却器に
送られた油は,複数の油路を通じて,軸受部やロータ室に送られていること,それ
らの油路には,油ポンプによって加圧されるものと,加圧されないものがあること
が記載されていることが認められるが,甲42文献の他の記載を併せて参照しても,
加圧されない油路からの油が,バランスピストン室へ送られることについては記載
がないものと認められる。
したがって,甲42文献には,均圧流路構成が開示されているとは認められない。
(c) 甲43文献について
甲43文献には,
「スクリュー圧縮機の軸受については,従来ラジアル荷重を受け
るスリーブ軸受と,スラスト荷重を受けるアンギュラ型玉軸受とで構成されていた。
比較的小形のものについては,高負荷タイプのころがり軸受が開発されていたこと
もあり,従来のスリーブ軸受に替わってころがり軸受でラジアル荷重を受ける事が
可能になり,全ころがり軸受で構成されるようになった。これは,従来のスリーブ
軸受では潤滑に必要な油膜保持の為,油ポンプが必要であったものが,不要になっ
たことを意味する。潤滑油は吐出圧力に近い給油圧力と,吸込圧力に近い排油圧力
との差圧により自給される。との記載があるが,
」 同記載からすると,甲43文献は,

軸受を円滑に作動させるために必要な油の油路について加圧が不要であることを示
したものと認められ,甲43文献に,バランスピストン室へ送られる油の油路につ
いて加圧を不要とすることは記載されていない。
したがって,甲43文献には,均圧流路構成が開示されているとは認められない。
(d) 甲44文献について
甲44文献には,「オイルセパレーターで分離された油はオイルクーラで冷却さ
れ,オイルセパレータ内の圧力と圧縮機本体の圧力差によって圧縮機内に噴射され,
圧縮空気の冷却,ロータの潤滑,シールラインのシール及びベアリングの潤滑を行
なう。(58頁右欄8行~11行)との記載があり,また,甲44文献の59頁の

図4「フローシート」には,ポンプを具備せず,オイルセパレータ内の油を油供給
先に差圧によって給油するようにしたスクリュー圧縮機が記載されている。
甲44文献の上記記載からすると,甲44文献には,圧縮空気の冷却,ロータの
潤滑,シールラインのシール及びベアリングの潤滑のための油の油路について,加
圧が不要であることが記載されていると認められるが,スラスト力を軽減させるた
めにバランスピストン室へ送られる油の油路については何ら記載されていないから,
甲44文献に,均圧流路構成が開示されているとは認められない。
(e) 甲47文献について
ⅰ 甲47文献には,以下のとおりの記載がある(甲47)。
「スクリュ圧縮機に一般的に使用される軸受には,減摩式(anti-fric
tion)と流体力学式又は油膜式(oil film)の2種類がある。(32

6頁下から8行~9行,訳文1枚目4行~5行)
「減摩式とは,ボール,アンギュラコンタクトボール,平行ローラ,ニードルロ
ーラ,テーパーローラなどのボール,ローラ軸受,それらから派生した軸受に与え
られる総称である。(326頁下から5行~6行,訳文1枚目7行~8行)

「給油システムには圧縮機の構造と用途に応じて使用される2種類がある。減摩
軸受を備えスライドバルブのない圧縮機において最も頻繁に使用される吐出圧給油

システムと,すべり(スリーブ)軸受とスライドバルブを備えた圧縮機のためのポ
ンプ給油システムである。 (376頁下から19行~22行,訳文5枚目5行~7

行)
「吐出圧給油システムは,オイルタンク/セパレータに存在する圧縮機自身の吐
出圧力を用いてオイルを循環させる。(376頁下から16行~17行,訳文5枚

目9行~10行)
「このシステムは,一般に減摩軸受を使用し,スライドバルブを備えていない小
型冷凍/ガスオイル注入スクリュ圧縮機にも使用されている。 (376頁下から5

行~6行,訳文5枚目18行~19行)
「ポンプ潤滑システムは,オイルセパレータはやはりオイルタンクであり,これ
が常に吐出圧力下にある点では同じである。しかし,吐出圧力を使用してオイルを
循環させ,圧縮機のガス吐出圧力マイナスの油圧とする代わりに,圧縮機のガス吐
出圧力プラスの油圧を生成するオイルポンプが組み込まれる。(377頁7行~1

1行〔図を除く〕,訳文6枚目4行~7行)
ⅱ 甲47文献の上記記載によると,甲47文献には,スクリュ圧
縮機の給油システムにおいて,圧縮機の吐出圧力を用いてオイルを循環させること
が記載されていると認められるが,バランスピストン室導入流路についての加圧の
要否については記載されていないから,甲47文献に,均圧流路構成が開示されて
いるとは認められない。
(f) 甲48の報告書に添付された添付資料1,2-1にも,バランス
ピストン室へ送られる油の油路について加圧が不要であることが開示されていると
は認められない。
c 原告は,甲59-3図面及び甲61-3図面には,図面名として「典
型的手動Viシステム配置(オイルクーラー及び始動ポンプ付き)」と記載され,甲
59-4図面及び甲61-4図面のシステムには,始動ポンプがなく,図面名とし
て「典型的手動Viシステム配置(オイルクーラー付き)」と記載されていることか

らすると,甲9文献記載の圧縮機は,始動ポンプが必須の構成でなく,非加圧回路
のみを使用して始動し通常運転することが可能であることは明白であると主張する。
しかし,原告の挙げる上記各図面には,いずれも機密である旨の記載がある(甲
59の3・4,甲61の3・4)から,同図面から,油ポンプを使用しない圧縮機
が周知であると認めることはできず,これらの各図面を基に甲9文献の記載を理解
することはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
d 原告は,Eがハウデン社のスクリュー圧縮機XRV204145を
調査した結果について主張するが,それに基づいて甲9文献の記載を解釈すべきと
はいえないから,理由がない。
(エ) したがって,仮に,甲9文献が本件出願日前に頒布された刊行物である
としても,甲9発明に基づき本件発明の新規性が欠けるとする原告の主張は理由が
ない。
イ 本件発明の進歩性の有無について
(ア) 甲1文献には前記1(3)のとおりの記載があり,甲4文献には前記ア
(ウ)b(a)のとおりの記載がある。
a 甲3文献には,以下のとおりの記載がある。
「公知の装置によれば,通常のケースにおいて,スラスト荷重を適切に低減
することができる。しかしながら,出口圧が変化し,特に入口圧も変化するとき,
問題が発生する。このような運転条件では,軸方向ガス力が変化し,結果として,
バランスピストンの寸法や種々の運転条件によって,ロータがアンダーバランス又
はオーバーバランスの状態になってしまうかもしれない。この結果は,スラスト軸
受の寿命を減少させるであろう。(1頁7行~12行)

「本発明の目的は,問題になっている圧縮機における種々の運転条件(特に,高
い入口圧及び出口圧で運転するための運転条件)へのスラストバランスの自動的な
適応のための簡素且つ信頼性の高い手段を達成することである。 (1頁25行~2


7行)
「圧縮機1は,互いに噛み合う一対のスクリュロータを備えた回転スクリュ
ータイプのものであり,低圧入口2と高圧出口3とを有する。一方のロータは不図
示の駆動手段に連結されるシャフト延長部15を有し,シャフト延長部はシリンダ
14内にバランスピストン11を有する。圧縮機には油が注入され,オイルセパレ
ータ10が出口配管8に設けられている。オイルセパレータからのガスはデリバリ
パイプ9を介して排出され,分離された油は配管6及び油注入手段4を介して作動
スペースに戻るようになっている。配管6には,オイルセパレータに隣接して第1
スロットル5が設けられており,油注入手段が第2スロットル4を構成している。
第1スロットル5及び第2スロットル4の間において,配管6には,シリンダ14
まで分岐配管が到達している。(2頁18行~26行)

「運転時,圧縮機の高圧端から低圧端に向かう方向(即ち,図中左側)の軸方向
のガス力Fが各ロータに作用し,このガス力はps及びpdの関数である。ピスト
ン11からのバランス力Fbは,ピストンの有効加圧面積12に依存し,pb及び
paの関数である。バランス力はガス力未満であるべきであり,合力FR=F-F
Bはスラスト軸受によって負担されるべきである。合力は,所定範囲(Fmin<
FR<Fmax)内に収まるべきである。但し,Fmin及びFmaxは,スラス
ト軸受の負荷要求によって定まる。(3頁7行~14行)

b 甲5文献には,以下のとおりの記載がある。
「(産業上の利用分野)
本考案は,スクリュ圧縮機のロータ軸に作用するスラスト力の釣合装置に関する
ものである。(2頁17行~19行)

「さらに,オスロータ3側のベアリング12と該ロータの端面21間には,外周
面にラビリンス溝を有する大径部14と小径部15より成るスペーサ16が嵌着し,
該ロータと吐出ケーシング9間の吐出端面スキマを保持している。さらに,前記大
径部14と小径部15の双方は,吐出ケーシング9の端壁22に形成する大径穴と

小径穴とから成る軸封穴17内に密封摺動自在に挿通すると共に,前記スペーサの
大径部14と小径部15との境にある段部18と,前記軸封穴17間に形成される
作用室19を,連通孔20を介してメスロータ4に嵌着する軸封カラー25の油溝
26と連通している。
この油溝26は,前記軸封カラーの略中央部に全周にわたって形成されているも
ので,吐出ケーシング9に穿設した給油孔27と連通し,さらに配管28を介して
セパレータタンク29内の油溜30と接続している。(6頁12行~7頁8行)

「圧縮機を運転すると,吸入口45から吸入されたガスはオス・メスロータ3・
4の噛み合いによって圧縮され,吐出口46より吐出され,図示せざる吐出配管を
介してセパレータタンク29内に圧送される。
これにより,油溜30内の潤滑油は前記圧縮ガス圧力により押し出され,配管2
8,給油孔27を介してメスロータ4の軸封カラー25外周部に形成された油溝2
6を経て,オスロータ3に設けられたスペーサ16の作用室19内に圧送される。
したがって,オスロータ3には常時圧縮ガス圧力に比例した図中A方向のスラス
ト荷重が作用する。
一方,前記したオス・メスロータの噛み合い回転に伴う圧縮作用により,両ロー
タには圧縮ガス反力としてラジアル荷重と図中B方向へのスラスト荷重が作用する
が,このオスロータ側のスラスト荷重を前記作用室19内の油圧によってスペーサ
16に作用する図中A方向のスラスト力が相殺し,ベアリング12に加わるスラス
ト荷重を軽減する。
即ち,前記A及びB方向のスラスト荷重は常に圧縮ガス圧に比例した力で作用す
るので,前記圧縮ガス圧力の変動に係わらず常に均衡のとれた釣合が成される。」
(7頁12行~8頁16行)
(イ) 原告は,甲1文献,甲3文献~甲5文献には,仕切り壁とバランスピ
ストンとの間に油を導く流路(バランスピストン室導入流路)と油分離器を設ける
構成,及び上記のバランスピストン室導入流路を均圧流路とする構成(均圧流路構

成)が開示されており,甲9発明に上記の均圧流路構成を適用して本件発明の構成
とすることは容易に想到できると主張する。
しかし,前記ア(イ)のとおり,甲9文献には,「油ポンプは通常不要」「最小限の

油ポンプ要求」との記載があり,また,吐出圧力が高くない領域では油ポンプを使
用することを示した甲9グラフが記載されていて,吐出圧力が高くない場合に油ポ
ンプを使用しないことについての説明はないことからすると,甲9文献を見た当業
者は,吐出圧力が高くない場合には,油ポンプを使用することを所与のものと理解
するほかなく,甲1文献,甲3文献及び甲5文献に記載された技術を適用して,バ
ランスピストン室導入流路を均圧流路とする構成にしようとは考えないというべき
である。なお,甲4文献にバランスピストン室導入流路を均圧流路とする構成が開
示されていないことは前記ア(ウ)
また,前記ア(イ)aのとおり,甲9文献からは,甲9文献記載のスクリュー圧縮機
には,バランスピストンとスラスト軸受との間に壁があるが,この壁がスラスト軸
受とバランスピストンの間の圧力遮断する仕切り壁であるか否か,この壁とバラン
スピストンとの間の空間に油が導かれるのか否かは不明であるところ,甲1文献,
甲3文献~甲5文献のいずれにも,スラスト軸受とバランスピストンとの間に圧力
を遮断する仕切り壁を設けるという構成やバランスピストンの当該仕切り壁側の空
間に油が導かれる構成は記載されていないから,甲9文献に甲1文献,甲3文献~
甲5文献に記載されている事項を適用しても本件発明に至らないことは明らかであ
る。
(ウ) したがって,仮に,甲9文献が本件出願日前に頒布された刊行物であ
るとしても,甲9発明に甲1文献,甲3文献~甲5文献記載の技術事項を適用する
と,本件発明の進歩性が欠けるとする原告の主張は理由がない。
(4) 以上より,原告の主張する取消事由2,3は理由がない。
4 取消事由4(甲1発明に基づく進歩性欠如の主張を否定した判断の誤り)に
ついて

(1) 甲1文献には,前記1(3)のとおりの記載があり,同記載によると,甲1文献
には,以下のとおりの発明(甲1発明)が開示されていると認められる。
「吐出された油を多量に含む圧縮ガスから油を分離し,油を一旦油溜まり部に溜
め,油と分離された圧縮ガスを吐出す油分離器52を吐出配管50に接続する一方,
スクリューロータの両側に延びる軸部4a,4b,5a,5bをジャーナル軸受
6,7,8,9により回転可能に支持して入力軸を吐出側の軸端部4cとし,
吐出側の上記軸部4a,5aを上記ジャーナル軸受8,9よりもスクリュロータ
から離れた位置にてスラスト玉軸受12,13により回転可能に支持するとともに,
上記吸引側のジャーナル軸受6,7よりもスクリューロータから離れた位置にて
上記軸部4bの端にバランスピストン32を係止し,
かつ,このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側
の位置にカバー21を設け,
このバランスピストン32のカバー21側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧
することなく導く配管58を設けて形成した,
油冷式スクリュー圧縮機。」
(2) 本件発明と甲1発明との一致点及び相違点
前記第2の2で認定した本件発明の構成及び前記(1)の甲1発明の構成によると,
本件発明と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
ア 一致点
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦油溜まり部に溜め,
油と分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,
スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持し
て入力軸をロータ軸とし,
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて
スラスト軸受により回転可能に支持するとともに,
スクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,

かつ,壁を設け,
このバランスピストンの壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく
導く均圧流路を設けて形成した,
油冷式スクリュ圧縮機。」の点
イ 相違点
(a) 相違点1-1
油分離回収器に関して,本件発明では,油を一旦「下部の」油溜まり部に溜めて
いるのに対して,甲1発明では,油を一旦油溜まり部に溜めるものの,油溜まり部
が「下部」にあることが特定されていない点
(b) 相違点1-2
本件発明では,
「入力軸を吸込側のロータ軸とし,」
「上記スラスト軸受よりもスク
リュロータから離れた位置にて上記(吐出側の)ロータ軸にバランスピストンを取
り付け,かつ上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切
り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を
加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した」のに対して,甲1発明では,入
力軸を「吐出側」の軸端部4c(ロータ軸)とし,
「上記吸引側のジャーナル軸受6,
7(ラジアル軸受)」よりもスクリューロータ(スクリュロータ)から離れた位置に
て上記軸部4b(ロータ軸)の端にバランスピストン32を係止し(取り付け),か
つ,「このバランスピストン32の上記吸引側のジャーナル軸受6側とは反対側
の位置にカバー21(壁) を設け,
」 このバランスピストン32の「カバー21(壁)」
側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管58(均圧配管)を
設けて形成したものの,入力軸が吸込側でなく,バランスピストンの取り付け位置
が異なり,壁が上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間を圧力遮断するも
のではなく,均圧流路を導く空間が,バランスピストンと上記スラスト軸受とこの
バランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁側ではない点
(3) 相違点1-2についての検討

ア 前記1(3)で認定した甲1文献の記載からすると,甲1発明は,従来技術
においては,圧縮機の起動時等の吸入側と吐出側の圧力差が大きくない場合に,油
ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロ
ータが吐出側に押され,ロータ吐出側端面と吐出ケーシング端面が接触し,両部材
が損傷するなどの課題があったため,油ポンプによる加圧をせずに,吐き出しガス
圧を受ける油をバランスピストン室に導くという構成を採用して,吐き出し圧に従
って変化するロータ推力に対抗応動してバランスピストンに推力を生じさせること
により,ロータが吐出側の吐出ケーシング端面に接触することを避けようとしたも
のであることが認められる。
また,前記1(1)で認定した本件明細書の記載からすると,本件発明も,甲1発明
と同様に,起動直後等における逆スラスト荷重状態による部材の接触を避けるため
に,均圧流路構成を採用したことが認められるが,さらに,上記記載からすると,
本件発明は,バランスピストンとスラスト軸受の配置について,バランスピストン
をスラスト軸受よりもスクリュロータに近い位置に設置すると,バランスピストン
において受圧のための十分な表面積を確保するのが困難であることから,これを解
決するために,バランスピストンをスラスト軸受よりもスクリュロータから離れた
位置に設置する構成を採用したことが認められる。
イ(ア) 甲1発明は,前記(1)のとおり,入力軸を吐出側とした圧縮機であり,
吸込側を左側,吐出側を右側として見た場合,左から,バランスピストン室,バラ
ンスピストン,ジャーナル軸受(ラジアル軸受),スクリュロータ,ジャーナル軸受
(ラジアル軸受),スラスト玉軸受の順に配置され,バランスピストン室は,圧縮機
の外面を構成するカバーとバランスピストン等の部材によって形成され,圧縮機の
吸込側端部に配置されているところ,甲1発明において,入力軸を吸込側に変更し
た場合は,バランピストン室を圧縮機の吸込側端部に配置することはできないため,
その配置を変更する必要が生じるが,変更後の位置としては,種々の位置が考えら
れ,必ずしも,スラスト玉軸受の右側とする必要はない。

(イ) そして,甲1文献には,バランスピストンの受圧のための表面積を大き
くするために,バランスピストンをスラスト軸受よりもスクリュロータから離れた
位置に配置するとの技術思想に関する記載はなく,甲1文献の実施例においても,
スクリュロータの左側には,スラスト玉軸受は存在しないから,甲1文献からは,
バランスピストンをスラスト玉軸受よりもスクリュロータから離れた位置に配置す
るという本件発明の上記技術思想を読み取ることはできないというべきである。
したがって,甲1発明において,バランスピストンを吐出側(スクリュロータの
右側)に設置することとした場合,甲1文献からは,バランスピストンの位置を,
スラスト玉軸受よりもスクリュロータから離れた位置に設置しようとする動機は生
じないというべきである。
(ウ) また,バランスピストンは,吐出側(右側)から吸込側(左側)へ向か
うスラスト力を緩和するために設置されるのであるから,吸込側を左側,吐出側を
右側として見た場合,甲1発明のように,バランスピストン室を吸込側に配置する
ときは,バランスピストン室は,必然的にバランスピストンの左側に形成する必要
があり,そうすると,入力軸を吐出側とした場合は,バランスピストン室を吸込側
端部に配置することができるのであって,そのような配置にすれば,圧縮機の外面
を構成するカバーを利用してバランスピストン室を形成することができる。これに
対し,本件発明のように,バランスピストンを吐出側(スクリュロータの右側)に
設置する場合は,バランスピストン室はその左側に形成する必要があるから,その
形成のために圧縮機の外面を構成するカバーを利用することはできず,バランスピ
ストンをどの位置に配置する場合でも,別途,軸受部材との間に圧力遮断をするた
めの仕切り壁を設置する必要があるから,バランスピストンを吐出側端部に形成す
る合理性は失われ,また,そのように形成する動機も生じない。
(エ) 以上からすると,甲1発明において,入力軸を吸込側に変更した場合
に,バランスピストンをスラスト玉軸受よりもスクリュロータから離れた位置に配
置する構成を採用することの動機付けはないというべきであり,このことは,甲2

文献,甲4文献,甲6~9,23及び46に開示された事項を考慮しても同様であ
る。
ウ 原告の主張について
(ア) 原告は,甲1発明の入力軸を吸込側に変更した場合に,バランスピスト
ンをスラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置に取り付けることは,設計
上の自由度も大きく,最も自然で合理的な選択であると主張する。
しかし,前記アのとおり,本件発明は,バランスピストンの受圧のための表面積
を大きくするために,バランスピストンをスラスト軸受よりもスクリュロータから
離れた位置に配置したものであるが,本件出願日当時,この技術思想が周知であっ
たとは認めるに足りない。そして,上記の観点を離れて,バランスピストンをスラ
スト軸受よりもスクリュロータから離れた位置に配置することが最も自然で合理的
であると認めるに足りる証拠もない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(イ) 原告は,吐出側ロータ軸にバランスピストンを取り付ける場合,ラジア
ル軸受をロータの両側に直結して設けることは当然の配置であり,残るのは,スラ
スト軸受をラジアル軸受に続く位置に配するか,バランスピストン室をその間に配
するかの選択でしかなく,いずれの配置も可能ではあるが,スラスト力を主に支え
るのはスラスト軸受であること,また,バランスピストン室をラジアル軸受側に配
置した場合にはバランスピストンを貫通するロータ軸をスラスト軸受部まで延長し
なければならないことからすれば,ロータ-ラジアル軸受-スラスト軸受-バラン
スピストン室(仕切り壁-バランスピストン)の部材配置順とすることに本来合理
的動機があり,かつそのために格別の工夫を要しないと主張する。
しかし,スラスト力を主に支えるのはスラスト軸受であることや,バランスピス
トン室をラジアル軸受側に配置した場合にはバランスピストンを貫通するロータ軸
をスラスト軸受部まで延長しなければならないことから,直ちに,バランスピスト
ンをスラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置に取り付けることが合理的

であるということはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 原告は,甲1発明の入力軸を吸込側に変更した場合に,スラスト軸受と
バランスピストンとの間に,圧力遮断をする仕切り壁を設けることに技術的困難は
ないと主張する。
しかし,スラスト軸受とバランスピストンとの間に,圧力遮断をする仕切り壁を
設けることに技術的な困難性はないとしても,そのことのみで動機付けを基礎付け
ることはできないというべきである。
エ したがって,相違点1-2については,容易に想到することはできない
というべきである。
(4) 以上より,本件発明は,甲 1 発明に基づき,容易に発明できたとはいえず,
原告の主張する取消事由4は理由がない。
5 取消事由5(特許法153条2項違反)について
特許法153条2項の「当事者の申し立てない理由」とは,新たな無効理由の根
拠法条の追加や引用例の追加等,不利な結果を受ける当事者にとって不意打ちとな
りあらかじめ通知を受けて意見を述べる機会を与えなければ著しく不公平となるよ
うな重大な理由を意味し,容易想到性の判断の過程における相違点の認定や相違点
認定の判断過程における証拠に基づく事実の認定は,上記の「当事者の申し立てな
い理由」には当たらないと解するのが相当である。
原告が特許法153条2項に違反すると主張する前記第3の5の①~③の点は,
相違点の認定又は相違点認定の判断過程における証拠に基づく事実の認定に係るも
のであるから,同項の「当事者の申し立てない理由」に当たらないというべきであ
る。
したがって,本件審決は,特許法153条2項に違反せず,原告の主張する取消
事由5は理由がない。
第6 結論

よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部


裁判長裁判官
森 義 之


裁判官
佐 野 信


裁判官
熊 谷 大 輔

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