平成23(ワ)7674実用新案権侵害差止等請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成25年1月10日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社コーセー 原告株式会社UnitJAPAN
|
対象物 |
化粧品容器用漏れ止め構造 |
法令 |
実用新案権
実用新案法3条1項3号4回 実用新案法3条2項3回 特許法104条の32回 実用新案法5条6項2号1回 実用新案法5条6項1号1回 実用新案法27条1項1回 実用新案法29条2項1回 民事訴訟法61条1回
|
キーワード |
無効24回 実用新案権17回 新規性16回 無効審判12回 進歩性9回 侵害5回 損害賠償2回 差止2回 刊行物1回
|
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,考案の名称を「化粧品容器用漏れ止め構造」とする実用新案第31
56963号の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有する原告が,
被告による別紙物件目録記載の物件(以下「被告製品」という。)の製造販売等
が本件実用新案権を侵害すると主張して,被告に対し,実用新案法27条1項,
2項に基づき,被告製品の製造販売等の差止め及び廃棄等を求めると共に,実
用新案権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金 億3200万円及びこれに対
する不法行為の日の後である平成23年6月22日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 実用新案権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成25年1月10日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成23年(ワ)第7674号 実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成24年9月10日
判 決
原 告 株式会社Unit JAPAN
同訴訟代理人弁護士 田 中 崇 公
同 田 邉 絵 理 子
被 告 株 式 会 社 コ ー セ ー
同訴訟代理人弁護士 宮 川 美 津 子
同 加 藤 恭 子
同 石 堂 瑠 威
同補佐人弁理士 江 口 昭 彦
同 中 塚 隆 志
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の物件を製造し,販売し,輸入し又は販売の申出
をしてはならない。
2 被告は,別紙物件目録記載の物件を廃棄し,同物件の製造に必要な金型を除
去せよ。
3 被告は,原告に対し,金1億3200万円及びこれに対する平成23年6月
22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,考案の名称を「化粧品容器用漏れ止め構造」とする実用新案第31
56963号の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。 を有する原告が,
)
被告による別紙物件目録記載の物件(以下「被告製品」という。)の製造販売等
が本件実用新案権を侵害すると主張して,被告に対し,実用新案法27条1項,
2項に基づき,被告製品の製造販売等の差止め及び廃棄等を求めると共に,実
用新案権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金 億3200万円及びこれに対
する不法行為の日の後である平成23年6月22日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 判断の基礎となる事実
以下の事実については,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨より認めら
れる。
(1) 当事者
原告は,美容機器の製造販売等を業とする会社であり,被告は,化粧品の
製造販売等を業とする会社である。
(2) 本件実用新案権
ア 原告は,本件実用新案権を有しており,その内容は下記のとおりである
(以下,下記の実用新案登録を「本件実用新案登録」という。また,本件
実用新案登録に係る明細書を「本件明細書」といい,下記実用新案登録請
求の範囲の【請求項1】∼ 【請求項6】の各考案を「本件考案1」∼ 「本
件考案6」といい,本件考案1∼ 6を併せて「本件考案」ともいう。。
)
なお,本件実用新案権の権利者は,登録時は,原告代表者P1(以下「訴
外P1」という。)であり,原告は,平成23年4月7日頃,同権利の譲
渡を受けた。
記
登 録 番 号 第3156963号
考 案 の 名 称 化粧品容器用漏れ止め構造
出 願 日 平成21年10月27日
登 録 日 平成22年1月6日
実用新案登録請求の範囲 別紙本件明細書記載のとおり
イ 本件考案1∼ 6は,以下の構成要件に分説することができる。
(ア) 本件考案1
A:本体と,ブラシロッドと,ビンと,を含む化粧品容器用漏れ止め構
造であって,
B:前記本体は,収容空間を有し,前記収容空間には,電源ユニットと,
前記電源ユニットと電気的に連接するモータと,連結具と,が設け
られ,
C:前記連結具は,前記本体の内部に回動可能に設けられ,
D:前記モータに駆動可能であり,
E:前記ブラシロッドは,一端が前記連結具と同軸し前記連結具に連結
され,他端にブラシヘッドが設けられ,
F:前記ビンは,液体収容チェンバーと,前記ビンの一端に設けられる
開口と,を有し,前記ブラシロッドは前記開口を経由して前記液体
収容チェンバーに挿入される一方,
G:前記ブラシロッドに密封ブッシュが設けられ,
H:前記本体と前記ビンを結合するときには,前記密封ブッシュの前縁
が前記開口に密着されることを特徴とする,化粧品容器用漏れ止め
構造。
(イ) 本件考案2
I:前記モータと前記連結具の間には,更に,減速手段が設けられるこ
とを特徴とする,
請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
(ウ) 本件考案3
J:前記本体の側面にレールが設けられ,前記レールにスイッチが摺動
可能に設けられ,前記スイッチは前記レールに沿って摺動し,これ
により,前記スイッチは前記電源ユニットのオン・オフを切替える
ことができることを特徴とする,
請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
(エ) 本件考案4
K:前記減速手段には,幾何形状断面シャフトが設けられ,前記連結具
の末端には,幾何形状穴が設けられ,前記幾何形状断面シャフトが
前記幾何形状穴に挿入され,そうすると,前記幾何形状断面シャフ
トは前記連結具と同期に回転することができることを特徴とする,
請求項2に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
(オ) 本件考案5
L:前記ブラシヘッドは,マスカラ又はグロスを付けるためのブラシで
あることを特徴とする,
請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
(カ) 本件考案6
M:更に,内ねじ付きブッシュを含み,前記内ねじ付きブッシュは,前
記本体の前端に設けられ,内ねじを有し,
N:前記開口の外面に外ねじが設けられ,前記外ねじが前記内ねじ付き
ブッシュの内ねじと螺合し,
O:前記開口の内面に樹脂ブッシュが設けられ,
P:前記ブラシロッドが前記樹脂ブッシュを経由して前記液体収容チェ
ンバーに挿入し,前記本体と前記ビンを結合するときには,前記密
封ブッシュの前縁が前記樹脂ブッシュに密着されることを特徴と
する,
請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。
(3) 被告の行為
被告は,本件実用新案権が登録された平成22年1月6日以降,被告製品
を業として製造販売していた。
(4) 実用新案技術評価書の提示
訴外P1は,平成22年10月頃,被告に対し,本件実用新案登録に係る
実用新案技術評価書を提示した。
2 争点
(1) 被告製品は本件考案 1∼ 6の技術的範囲に属するか(争点1)
(2) 本件実用新案登録は実用新案登録無効審判により無効にされるべきもので
あるか(争点2)
(3) 原告の損害(争点3)
第3 争点に係る当事者の主張
1 争点1(被告製品は本件考案1∼ 6の技術的範囲に属するか)
【原告の主張】
(1) 被告製品の構成
被告製品の構成は,別紙被告製品説明書(原告の主張)記載のとおりであ
る(以下,被告製品の構成のうち同別紙の各記号に該当する個所を,同記号
に従い「構成a」などといい,被告製品において,本体,ブラシロッド,ビ
ンを結合した場合に,本体からビンの側へ向かう方向を前方又は前側,その
反対方向を後方又は後側という。乙19,20の各文献に記載された考案に
ついても同様とする。 。また,被告製品の図面は,別紙被告製品説明図(原
)
告の主張)記載のとおりである。
(2) 被告製品の構成要件充足性
被告製品が構成要件A∼ F,I,J,L∼ Oを充足することは明らかであ
り,以下に述べるとおり,被告製品は構成要件G,H,K,Pをいずれも充
足するから,被告製品は本件考案1∼ 6の技術的範囲に属する。
ア 構成要件G,Hについて
(ア) 構成要件Hの「前縁」「開口」
,
構成要件Hは「前記密封ブッシュ(22)の前縁が前記開口(42)
に密着される」ことを内容とする。ここでいう「前縁」(前記開口と密
着する部分)とは,前方の固定端から連結具へ拡径して密封機能を果た
す傘形状の部分の周縁のうち,前側を向く部分(前方に投影可能な面を
有する部分)を意味する。また,「開口」(密封ブッシュの前縁と密着す
る部分)とは,ビンの一端における開放部分を指す。
被告は,
「開口」について,ビンの先端部分に限定されると主張するが,
このように限定すべき理由はない。
(イ) 構成要件G,Hの充足性
被告製品は,内ねじ付きブッシュを装着したときに,傘形状ブッシュ
が拡径し,その前縁がビンの開口に密着することにより「前縁」と「開
口」が接し(甲8∼ 10),液漏れを防止しているため(甲11,12),
構成要件Gの「密封ブッシュ」,構成要件Gの「化粧品漏れ止め防止構
造」を充足する。
被告は,傘形状ブッシュは,ビンの開口の内壁に付着したマスカラ液
を掻き落としてビンの中に押し戻す機能を有すると主張するが,ブラシ
ヘッドの幅が最大約7.2mmであるのに対し,傘形状ブッシュの幅は
最大約6.8mmであることからすれば,ビンの開口の内壁に付着した
マスカラ液は,ブラシヘッドによって掻き落とされるのであり,傘形状
ブッシュによって掻き落とされるのではない。
イ 構成要件Kについて
(ア) 「幾何形状穴」
「幾何形状」とは,幾何学的に認識できる形状であればよく,円形単
独であっても,幾何形状に当たる。被告製品の連結具の末端に設けられ
た穴は,「幾何形状穴」を充足する。
(イ) 被告製品のOリング
構成要件Kは,幾何形状断面シャフトを連結具に挿入して回転すると
きに,別部材を介在させないことまで限定しているわけではなく,被告
製品のOリングは,構成要件Kの充足性に影響しない。
ウ 構成要件Pについて
被告製品が構成要件Pを充足する理由は,上記アと同様である。
【被告の主張】
(1) 被告製品の構成
被告製品の構成a∼ f,i,j,l∼ oについては認め,被告製品の構成
g,h,k,pは否認する。
構成gについて,傘形状ブッシュ(スクレーパー)は,ブラシロッドに固
定されておらず,弾性体としての復元力を活かし,ブラシロッドの取付溝に
嵌め込まれている。
構成hについて,傘形状ブッシュ(スクレーパー)の前縁は,ビンの開口
に密着していない(構成pについても同様である。。
)
構成kについて,被告製品の連結具の末端に設けられているのは,幾何形
状穴ではなく円型の穴である。また,被告製品は,幾何形状断面シャフトを
円形の穴に挿入することだけでは,幾何形状断面シャフトと連結具が同期に
は回転せず,Oリングと共に円形の穴に挿入する必要がある。
(2) 構成要件充足性
被告製品が構成要件A∼ F,I,J,L∼ Oを充足することは認めるが,
以下に述べるとおり,被告製品は構成要件G,H,K,Pを充足しない。
ア 構成要件Hの「前縁」「開口」
,
(ア) 解釈
ブラシロッドに一体又は別体で設けた部材により化粧品の漏出を防止
した構造は周知であるから,「前縁」については字義どおり厳格に解し
て,密封ブッシュとブラシロッドの境界を示す密封ブッシュの前方の端
と解釈すべきであり(別紙被告製品説明図(被告の主張)記載1参照),
仮にそうでないとしても,密封ブッシュの前方の端から拡径を始める境
界までの部分と解釈すべきである(別紙被告製品説明図(被告の主張)
記載2参照)。また,「開口」とは,ビンの後方の先端の部分に限定され
る。
(イ) 充足性
被告製品については,傘形状ブッシュ(スクレーパー)の前縁は,ビ
ンの開口に密着しておらず,構成要件Hを充足しない。
イ 構成要件Gの「密封ブッシュ」,構成要件Hの「化粧品漏れ止め構造」
被告製品の傘形状ブッシュ(スクレーパー)は,樹脂ブッシュ(シゴキ)
に付着したマスカラ液を掻き落としてビンの中に押し戻すためのもので
ある。傘形状ブッシュ(スクレーパー)と樹脂ブッシュ(シゴキ)はいず
れも柔らかく変形する部材であるため,接触時に互いの変形により,完全
に液漏れを防止するようには密着せず,液漏れ防止の十分な機能を有して
いない。
なお,被告製品は,樹脂ブッシュ(シゴキ)の後端の突起部が,本体の
内ねじ付きブッシュの後側内壁に密着することによって,液漏れ防止を果
たしている。
ウ 構成要件K
(ア) 「幾何形状穴」
「幾何形状」とは,三角形,方形,多角形,円形などを組み合わせた
複雑な形状を指し,単純な四角形,円形などの形状は含まれない。被告
製品の連結具の末端に設けられているのは円形の穴であるため,「幾何
形状穴」を充足しない。
(イ) 被告製品のOリング
本件考案では,「幾何形状断面シャフトが前記幾何形状穴に挿入され,
そうすると,前記幾何形状断面シャフトは前記連結具と同期に回転する
ことができる」のに対し,被告製品では,幾何形状断面シャフトを円形
の穴に挿入するだけでは連結具と同期に回転せず,円形の穴の内壁面に
ゴム製のOリングを嵌め込み,そこに幾何形状断面シャフト(十字型)
を挿入しているため,構成要件Kを充足しない。
エ 構成要件P
被告製品が構成要件Pを充足しない理由は,上記ア,イと同様である。
2 争点2(本件実用新案登録は実用新案登録無効審判により無効にされるべき
ものであるか)
【被告の主張】
(1) 乙19文献による主張
以下のとおり,本件考案1∼ 5は,乙19文献に記載された考案(別紙乙
19文献図8参照)と同一であることから新規性(実用新案法3条1項3号)
を欠き,本件考案3,6は,乙19文献に記載された考案から当業者が容易
に想到することができたものであるから進歩性(同条2項)を欠く。
したがって,本件実用新案登録は,実用新案登録無効審判により無効にさ
れるべきものである(同法37条1項2号,同法30条,特許法104条の
3第1項)。
ア 乙19文献と本件考案1との対比
(ア) 構成要件Aについて
乙19文献には,構成要件Aの「本体」「ブラシロッド」「ビン」に
, ,
相当するマスカラカバー20,棒70及びマスカラ容器10が開示され
ており,構成要件Aの「化粧品容器用漏れ止め構造」に相当する構成が
開示されている(段落7,55)。
(イ) 構成要件Bについて
乙19文献には,構成要件Bの「本体」「電源ユニット」「モータ」
, , ,
「連結具」に相当するマスカラカバー20,バッテリ3,モータ1及び
棒70の一部(棒70の部分のうち回転軸2aが挿入されている部分)
が開示されており,構成要件Bに相当する構成が開示されている(段落
57,62,65,81,図8,19)。
本件考案の「連結具」は,本件明細書の段落【0015】に「もちろ
ん,前記ブラシロッド20と前記連結具15は一体成形されるものでも
よい。 と記載されているとおり,
」 ブラシロッドの一部である場合も含む
と解釈される。乙19文献の棒70のうち,回転軸2aが挿入されてい
る部分は,マスカラカバー20の収容空間に設けられ(構成要件B),マ
スカラカバー20の内部に回動可能に設けられ(同C) 回転軸2a及び
,
減速器2を介してモータ1に駆動可能であり(同D) 棒70の一端と同
,
軸し連結しているから(同E),機能的には本件考案1の「連結具」に当
たる。
(ウ) 構成要件C,Dについて
乙19文献には,構成要件C,Dの「連結具」「本体」及び「モータ」
,
に相当する棒70の一部,マスカラカバー20及びモータ1が開示され
ており,構成要件C,Dに相当する構成が開示されている(段落57,
62,図8,10)。
(エ) 構成要件Eについて
乙19文献には,構成要件Eの「ブラシロッド」「連結具」及び「ブ
,
ラシヘッド」に相当する棒70,棒70の一部及びゴムブラシ80が開
示されており,構成要件Eに相当する構成が開示されている(段落62,
図8,10)。
(オ) 構成要件Fについて
乙19文献には,構成要件Fの「ビン」「ブラシロッド」及び「開口」
,
に相当するマスカラ容器10,棒70及び開口部が開示されている。ま
た,本件考案の「液体チェンバー」は,「ビン」の一部分のことをいう
と解されるから(段落【0017】参照),乙19文献のマスカラ容器
10の一部分が「液体収容チェンバー」に相当する。さらに,乙19文
献には,構成要件Fに相当する構成が開示されている(段落55,56,
83,図8,10)。
(カ) 構成要件Gについて
乙19文献には,構成要件Gの「ブラシロッド」に相当する棒70が
開示されている。
本件考案の「密封ブッシュ」は,本件明細書の段落【0018】に「前
記ブラシロッド20に密封ブッシュが一体に成形され,前記密封ブッシ
ュは,傘形状を呈していもいいし,ボール形状を呈していもいいし,そ
の他適当な形状を呈していてもよい。(原文ママ)と記載されていると
」
おり,ブラシロッドの一部である場合も含むと解釈される(実際,本件
明細書で図示されているのは,一体に成形された態様のみである。。乙
)
19文献の棒70の後部には,略円錐台形状の拡径部及び拡径部から水
平方向に伸びる鍔部が形成されている。そして,拡径部及び鍔部の前方
を向いた面の一部は,前方にブレード11を有するブッシュに接触して
おり,拡径部及び鍔部からなる部位は,「密封ブッシュ」に相当する。
したがって,乙19文献には,構成要件Gに相当する構成が開示されて
いる。
なお,密封ブッシュは,様々な形状のものが周知技術として使用され
ている(乙21,32,34∼ 39)。
(キ) 構成要件Hについて
乙19文献には,構成要件Hの「本体」「ビン」及び「開口」に相当
,
するマスカラカバー20,マスカラ容器10及び開口部が開示されてい
る。また,乙19文献には,「密封ブッシュ」に相当する棒70の拡径
部が開示され,拡径部の斜面の一部が,前方にブレード11を有するブ
ッシュの後方内周面に接触することで,密封構造を実現することが図示
されている。したがって,乙19文献には,構成要件Hに相当する構成
が開示されている(図8)。
(ク) 小括
上記のとおり,乙19文献には,構成要件A∼ Hに相当する構成が開
示されており,本件考案1は,乙19文献によって新規性を欠く。
イ 乙19文献と本件考案2との対比
(ア) 構成要件Iについて
乙19文献には,構成要件Iの「モータ」「連結具」及び「減速手段」
,
に相当するモータ1,棒70の一部及び減速器2の歯車列が開示されて
おり,構成要件Iに相当する構成が開示されている(図8,10)。
(イ) 小括
したがって,本件考案2は,乙19文献によって新規性を欠く。
ウ 乙19文献と本件考案3との対比
(ア) 構成要件Jについて
乙19文献には,構成要件Jの「本体」「レール」「スイッチ」及び
, ,
「電源ユニット」に相当するマスカラカバー20,動作溝22a,22
b,ロータリースイッチ50及びバッテリ3が開示されており,構成要
件Jに相当する構成が開示されている(段落65,66,74,84,
85,図8,10)。
なお,仮に,乙19文献のロータリースイッチ50が構成要件Jの「ス
イッチ」に相当しないとしても,構成要件Jに相当する構成は周知技術
である(乙22∼ 24)。
(イ) 小括
したがって,本件考案3は,乙19文献によって新規性を欠いており,
仮にそうでないとしても,乙19文献及び周知技術によって進歩性を欠
く。
エ 乙19文献と本件考案4との対比
(ア) 構成要件Kについて
乙19文献には,構成要件Kの「減速手段」 幾何形状断面シャフト」
,
「 ,
「連結具」及び「幾何形状穴」に相当する減速器2の歯車列,回転軸2
a,棒70の一部及びD字切欠き穴71が開示されており,構成要件K
に相当する構成が開示されている(段落62,81,図8,10)。
(イ) 小括
したがって,本件考案4は,乙19文献によって新規性を欠く。
オ 乙19文献と本件考案5との対比
(ア) 構成要件Lについて
乙19文献には,構成要件Lの「ブラシ」に相当するゴムブラシ80
が開示されており,構成要件Lに相当する構成が開示されている(段落
55)。
(イ) 小括
したがって,本件考案5は,乙19文献によって新規性を欠く。
カ 乙19文献と本件考案6との対比
(ア) 相違点
乙19文献と本件考案6を対比すると,両者は以下の点で相違する(そ
の余は一致する。。
)
相違点1:本件考案6は「内ねじ付きブッシュ」(構成要件M,N)を
具備するのに対し,乙19文献は「内ねじ付きブッシュ」を
具備しない点
相違点2:ビンの開口の内面に設けられるブッシュについて,本件考案
6では当該ブッシュの材質が「樹脂」であるのに対し,乙1
9文献では当該部分の材質が不明である点
(イ) 相違点についての検討
相違点1について,
「内ねじ付きブッシュ」は周知技術である(乙28
∼ 33)。また,相違点2について,ビンの開口内面に設けられるブッ
シュの材質が「樹脂」である構成も周知技術である(乙29,31,3
3∼ 35)。
(ウ) 小括
したがって,本件考案6は,乙19文献及び周知技術によって進歩性
を欠く。
(2) 乙20文献による主張
以下のとおり,本件考案1,2,5は,乙20文献に記載された考案(別
紙乙20文献図1参照)と同一であることから新規性(実用新案法3条1項
3号)を欠き,本件考案3,4,6は,乙20文献に記載された考案から当
業者が容易に想到することができたものであるから進歩性(同条2項)を欠
く。
したがって,本件実用新案登録は,実用新案登録無効審判により無効にさ
れるべきものである(同法37条1項2号,30条,特許法104条の3第
1項)。
ア 乙20文献と本件考案1との対比
(ア) 構成要件Aについて
乙20文献には,構成要件Aの「本体」「ブラシロッド」「ビン」に
, ,
相当する蓋体1,軸体5及び容器8が開示されており,構成要件Aの「化
粧品容器用漏れ止め構造」に相当する構成が開示されている(乙20・
2頁18∼ 29行目,図1)。
(イ) 構成要件Bについて
乙20文献には,構成要件Bの「本体」「電源ユニット」「モータ」
, , ,
「連結具」に相当する蓋体1,乾電池3,モータ4及び軸体5の一部(モ
ータ側から伸びた軸状部材が挿入されている部分)が開示されており,
構成要件Bに相当する構成が開示されている。
本件考案の「連結具」は,上記のとおり,
「ブラシロッド」の一部であ
る場合も含むと解釈される。乙20文献の軸体5のうち,モータ4から
伸びた軸状部材が挿入されている部分は,蓋体1の収容空間に設けられ
(構成要件B),蓋体1の内部に回動可能に設けられ(同C),モータ4
に駆動可能であり(同D),軸体5の一端と同軸し連結しているから(同
E),機能的には本件考案1の「連結具」に当たる。
(ウ) 構成要件C,Dについて
乙20文献には,構成要件C,Dの「連結具」「本体」及び「モータ」
,
に相当する軸体5の一部,蓋体1及びモータ4が開示されており,構成
要件C,Dに相当する構成が開示されている(乙20・2頁18∼ 24
行目,図1)。
(エ) 構成要件Eについて
乙20文献には,構成要件Eの「ブラシロッド」「連結具」及び「ブ
,
ラシヘッド」に相当する軸体5,軸体5の一部及びブラシ6が開示され
ており,構成要件Eに相当する構成が開示されている(乙20・2頁1
8∼ 24行目,図1)。
(オ) 構成要件Fについて
乙20文献には,構成要件Fの「ビン」「ブラシロッド」に相当する
,
容器8及び軸体5が開示されている。また,本件考案の「液体チェンバ
ー」は,「ビン」の一部分のことをいうと解されるから(段落【001
7】参照),乙20文献の容器8の一部が「液体収容チェンバー」に相
当する。さらに,乙20文献には,構成要件Fに相当する構成が開示さ
れている(乙20・2頁25∼ 29行目,図1)。
(カ) 構成要件Gについて
乙20文献には,構成要件Gの「ブラシロッド」に相当する軸体5が
開示されている。
本件考案の「密封ブッシュ」は,上記のとおり,
「ブラシロッド」の一
部である場合も含むと解釈される(実際,本件明細書で図示されている
のは,一体に成形された態様のみである。。乙20文献の軸体5の後部
)
には,略円錐台形状の拡径部が形成されている。そして,拡径部の前方
を向いた面の一部は密閉部材7に接触しており,かかる接触により「マ
スカラ内容物の揮発を防止することができる」(乙20・2頁25∼ 2
9頁)とされていることから,拡径部は,
「密封ブッシュ」に相当する。
したがって,乙20文献には,構成要件Gに相当する構成が開示されて
いる。
なお,密封ブッシュは,上記のとおり様々な形状のものが周知技術と
して使用されている(乙21,32,34∼ 39)。
(キ) 構成要件Hについて
乙20文献には,構成要件Hの「本体」及び「ビン」に相当する蓋体
1及び容器8が開示され,軸体の拡径部の一部が,容器の開口に設けら
れた密閉部材の上部内周面に密着していることが図示されている。した
がって,乙20文献には,構成要件Hに相当する構成が開示されている
(図1)。
(ク) 小括
上記のとおり,乙20文献には,構成要件A∼ Hに相当する構成が開
示されており,本件考案1は,乙20文献によって新規性を欠く。
イ 乙20文献と本件考案2との対比
(ア) 構成要件Iについて
乙20文献には,構成要件Iの「モータ」「連結具」及び「減速手段」
,
に相当するモータ4,軸体5の一部及び減速ギアが開示されており,構
成要件Iに相当する構成が開示されている(乙20・2頁18∼ 24行
目,図1)。
(イ) 小括
したがって,本件考案2は,乙20文献によって新規性を欠く。
ウ 乙20文献と本件考案3との対比
(ア) 相違点
乙20文献と本件考案3を対比すると,両者は以下の点で相違する(そ
の余は一致する。。
)
相違点:本件考案3は本体の側面に設けられたレールにスイッチが摺動
可能に設けられるのに対し,乙20文献はロータリ式スイッチ
2の配設態様が明らかではない点。
(イ) 相違点についての検討
上記相違点に係る本件考案3の構成は,周知技術である(乙22∼ 2
4)。乙22∼ 24記載の技術はいずれも電動マスカラに関するもので,
乙20文献のロータリ式スイッチに変えて,摺動可能なスライド式スイ
ッチを適用することに,何ら阻害要因はない。
(ウ) 小括
したがって,本件考案3は,乙20文献及び周知技術によって進歩性
を欠く。
エ 乙20文献と本件考案4との対比
(ア) 相違点
乙20文献と本件考案4を対比すると,両者は以下の点で相違する(そ
の余は一致する。。
)
相違点:本件考案4は減速手段及び連結具が,「幾何形状断面シャフト」
及び「幾何形状」を設けられた態様で互いに連結されて同期に
回転するのに対し,乙20文献では,減速ギア及び軸体5の一
部がそれぞれ「幾何形状断面シャフト」及び「幾何形状穴」を
設けない態様で互いに連結されてい同期に回転する点
(イ) 相違点についての検討
乙19文献には,上記相違点に係る本件考案4の構成が開示されてい
るところ,乙20文献と乙19文献とは,共に技術分野が電動マスカラ
に関するものであり,当業者は乙20文献に乙19文献の構成を適用す
ることを容易に想到することができ,阻害要因もない。
また,上記相違点に係る本件考案4の構成は,周知技術である(乙1
9,23,25∼ 27)。
(ウ) したがって,本件考案4は,乙20文献及び周知技術によって進歩性
を欠く。
オ 乙20文献と本件考案5との対比
(ア) 構成要件Lについて
乙20文献には,構成要件Lの「ブラシ」に相当するブラシ6が開示
されており,構成要件Lに相当する構成が開示されている(乙20・2
頁18∼ 29頁,図1)。
(イ) 小括
したがって,本件考案5は,乙20文献によって新規性を欠く。
カ 乙20文献と本件考案6との対比
(ア) 相違点
乙20文献と本件考案6を対比すると,両者は以下の点で相違する(そ
の余は一致する。。
)
相違点1:本件考案6は「内ねじ付きブッシュ」を含み,「前記内ねじ
付きブッシュは,前記本体の前端に設けられ,内ねじを有し,
前記開口の外面に外ねじが設けられ,前記外ねじが前記内ね
じ付きブッシュの内ねじと螺合」している(構成要件M,N)
のに対し,乙20文献は「内ねじ付きブッシュ」を具備せず,
容器8の「開口の外面に外ねじ」が設けられているかが明ら
かではない点
相違点2:ビンの開口の内面に設けられるブッシュについて,本件考案
6では当該ブッシュの材質が「樹脂」であるのに対し,乙2
0文献では密閉部材7の材質が不明である点
(イ) 相違点についての検討
相違点1について,
「内ねじ付きブッシュ」は周知技術である(乙28
∼ 33)。また,「内ねじ付きブッシュ」に対応するように容器の開口の
外面に「外ねじ」を設けることも,周知技術である(乙28∼ 33)。
相違点2について,ビンの開口内面に設けられるブッシュの材質が「樹
脂」である構成も周知技術である(乙29,31,33∼ 35)。
(ウ) 小括
したがって,本件考案6は,乙20文献及び周知技術によって進歩性
を欠く。
(3) 明確性要件違反
本件考案の効果 「回転可能な部材と回転不能な部材の間に,
( 化粧液が漏れ
出して侵入することがない」【0011】
。 )を奏するためには,少なくとも,
①回転可能な部材(ブラシロッド,連結具),回転不能な部材(本体)と密封
ブッシュとの関係,②回転可能な部材と回転不能な部材との隙間と,密封ブ
ッシュの前縁が開口に密着する位置との関係が特定されている必要がある。
しかし,本件考案1では,密封ブッシュと回転不能な部材(本体)との位
置関係,密封ブッシュと回転可能な部材(連結具)との位置関係がいずれも
特定されていない。加えて,本件考案1では,回転可能な部材(ブラシロッ
ド,連結具)と回転不能な部材(本体)との間の隙間と,密封ブッシュの前
縁が開口に密着する位置との関係も特定されていない。このため,いかなる
場合に上記効果を奏するかは,請求項1の記載から把握することができず不
明確である(この点,請求項1を引用する請求項2∼ 6についても同様であ
る。。
)
また,本件考案の請求項6では,密封ブッシュと回転不能な部材(内ねじ
付きブッシュ)との位置関係,回転可能な部材(ブラシロッド,連結具)と
回転不能な部材(内ねじ付きブッシュ)との間の隙間と,密封ブッシュの前
縁が樹脂ブッシュに密着する位置との関係も特定されていない。このため,
いかなる場合に,上記効果を奏するかは,請求項6の記載から把握すること
ができず,考案が不明確である。
よって,請求項1∼ 6に係る考案は明確でないから,本件実用新案登録は
実用新案法5条6項2号に規定する要件を満たさない。
(4) サポート要件違反
本件考案の考案の詳細な説明には,回転可能な部材と回転不能な部材の間
「
に,化粧液が漏れ出して侵入することのない化粧品容器用漏れ止め構造」
(【0
004】)を課題とし,当該課題を解決するために,密封ブッシュが回転可能
な連結具15と回転不能な凸縁11の一端とを覆う点が記載されている。
しかしながら,本件考案の請求項1∼ 6には,密封ブッシュの前縁が開口
に密着されることは記載されているが,密封ブッシュの前縁がどのように回
転可能な連結具と回転不能な凸縁の一端(本体の前端)とを覆うのかについ
ては記載がなく,課題を解決するための手段が反映されていない。したがっ
て,本件考案の請求項1∼ 6には,考案の詳細な説明に記載された,課題を
解決するための手段が反映されておらず,考案の詳細な説明に記載した範囲
を超えている。
よって,請求項1∼ 6に係る考案は,考案の詳細な説明に記載したもので
はないから,本件実用新案登録は実用新案法5条6項1号に規定する要件を
満たさない。
【原告の主張】
(1) 乙19文献による主張について
ア 被告は,乙19文献の棒70の端部(拡径部)が,構成要件Gの「密封
ブッシュ」に相当すると主張する。
しかしながら,
「密封ブッシュ」は,開口に密着して化粧液などの液体が
漏れ出ることを防ぐ機能を有し,軸を受ける筒状の部材と解されるとこ
ろ,乙19文献の棒70の端部(図8参照)は,軸である棒70の一部に
過ぎず,「密封ブッシュ」に該当しない。なお,図4で,韓国登録実用新
案第356873号に開示された封止構造を有する他の電動マスカラが
示されているが,これについても,実質的にどの構造が何をどこでどのよ
うに封止しているかについては何ら記載がない。被告の主張は,本件考案
の内容を知った上で,事後的に棒70の端部が「密封ブッシュ」に相当す
ると述べているにすぎない。
なお,被告は,乙19,23,34∼ 39により「密封ブッシュ」は周
知であると主張するが,上記各文献はいずれも電動マスカラの部材に関す
るものではないから,「密封ブッシュ」が周知であったとはいえず,また
これらを適用する動機付けも存しない。
イ また,被告は,乙19文献の棒70の一部が,構成要件B,C,E,I,
Kの「連結具」に相当すると主張する。
しかしながら,構成要件Eで「前記ブラシロッドは,一端が…前記連結
具に連結され」とされているとおり,「連結具」は,ブラシロッドとは異
なる部材であるところ,乙19文献の棒70の一部は,棒70を構成する
部分であることから,本件考案の「連結具」ではない。
ウ 以上のとおり,本件考案1は,乙19文献に対し新規性を有しており,
本件考案1が新規性を有しないことを前提とする本件考案2,4,5の新
規性欠如の主張,本件考案3,6の進歩性欠如の主張にも理由がない。
(2) 乙20文献による主張について
ア 被告は,乙20文献の軸体5の端部が,構成要件Gの「密封ブッシュ」
に相当すると主張する。
しかしながら,
「密封ブッシュ」は,開口に密着して化粧液などの液体が
漏れ出ることを防ぐ機能を有し,軸を受ける筒状の部材であるところ,乙
20文献の軸体5の端部(図8参照)は,軸体5の一部に過ぎず「密封ブ
ッシュ」に該当しない。
イ また,被告は,乙20文献の軸体5の一部が,構成要件B,C,E,I,
Kの「連結具」に相当すると主張する。
しかしながら,構成要件Eで「前記ブラシロッドは,一端が…前記連結
具に連結され」とされているとおり,「連結具」は,ブラシロッドとは異
なる部材であるところ,乙20文献の「軸体5」の一部は,軸体5を構成
する部分であることから,本件考案の「連結具」ではない。
ウ 以上のとおり,本件考案1は,乙20文献に対し新規性を有しており,
本件考案1が新規性を有しないことを前提とする本件考案2,5の新規性
欠如の主張,本件考案3,4,6の進歩性欠如の主張にも理由がない。
(3) 明確性要件違反について
請求項1には,回動可能な部材である連結具(構成要件C)と,一端がそ
の連結具と同軸して連結され他端にブラシヘッドが設けられているブラシロ
ッド(同E)とを具備し,そのブラシロッドに密封ブッシュを設ける(同G)
構成が開示されており,各部材の関係性は明確である。
なお,本件考案の課題は,構成要件A∼ Gに加え,構成要件Hの密封ブッ
シュの前縁が開口に密着する構成により解決できるのであるから,それ以上
に,化粧液の侵入先と密封ブッシュの前縁が開口に密着する位置との関係ま
で特定しなければ明確性を欠くとする被告の主張には根拠がない。
(4) サポート要件違反について
本件考案の課題を解決するためには,密封ブッシュの前縁がどのようにし
て回転可能な連結具と回転不能な凸縁の一端(本体の前端)とを覆うかまで
特定しなくとも,密封ブッシュの前縁が開口に密着されることが記載されて
いることにより,その密着する箇所を越えて液体が漏れ出ることがない構成
が開示されているのであるから,当業者は考案の詳細な説明に記載された上
記課題を解決するための手段が反映されていることを認識することができる。
したがって,請求項1∼ 6に係る考案は,考案の詳細な説明に記載されて
いるといえ,被告のサポート要件違反の主張には理由がない。
3 争点3(原告の損害)について
【原告の主張】
(1) 被告は,本件実用新案権の設定登録後,被告製品を少なくとも12万個販
売したが,被告製品1個あたりの利益額は1000円を下らず,被告製品の
販売による利益は1億2000万円を下らない。
また,弁護士費用として上記金員の10パーセントに相当する1200万
円が損害額に加算されるべきである。
したがって,被告が本件実用新案権を侵害したことにより原告が被った損
害額は少なくとも1億3200万円であると算定される(実用新案法29条
2項)。
(2) なお,原告は,訴外P1から本件実用新案権の譲渡を受けているが,当該
譲渡以前に発生した損害賠償請求権については,訴外P1から債権譲渡を受
けている(甲6の1・2)。
【被告の主張】
損害に関する原告の主張は,否認し争う。原告が被告製品の発注先に対し,
被告製品が本件実用新案権を侵害している旨告知したため,被告は,平成23
年1月17日以降,被告製品を製造せず,同年2月1日以降,被告製品を販売
していない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告製品は本件考案 1∼ 6の技術的範囲に属するか)について
(1) 被告製品の構成について
ア 傘形状ブッシュとビンとの接触状況(構成h)
株式会社コーケンによる放射線透過写真(甲9の1・2),地方独立行政
法人東京都立産業技術研究センター技師による放射線透過写真(乙41∼
43)によると,被告製品で本体,ブラシロッド,ビンを結合した状態に
おいて,傘形状ブッシュは,その後方内周側が裏側で内ねじ付きブッシュ
前方の凸縁と接触し,傘形状ブッシュは弾性素材でできていることから,
当該接触によりやや拡径しているものと認められ,これによって,製品ご
とに程度差はあるものの,傘形状ブッシュの後方外周側の端が,ビンの後
部に取り付けられた樹脂ブッシュ(シゴキ)の内側に接触していることが
認められる。
原告が提出する被告製品の一部を切り欠き内部を視認可能にした写真
においても(甲8,16∼ 18),上記認定を覆すものはない。なお,被
告製品の写真撮影報告書(乙14)で撮影された被告製品は,傘形状ブッ
シュが樹脂ブッシュ(シゴキ)の内側にほとんど接触していない部分があ
るともいえるが(乙14),接触がないとまではいえない上,同製品は被
告製品を加工したものであることからすれば,上記認定を覆すものではな
い(なお,被告も本件において接触がないとまで主張するものではない。。
)
イ 漏れ止め防止構造(構成h)
原告は,財団法人化学研究評価機構高分子試験・評価センターにおいて,
①被告製品,②被告製品のビンの後部に取り付けられた樹脂ブッシュ(シ
ゴキ)の後端を切断したもの,③被告製品の傘形状ブッシュの本体側を切
断したものの3種類の試料につき,回転可能な部材である連結具と回転不
能な部材である内ねじ付きブッシュとの間からの液漏れの有無を試験し
たところ(甲10,11,19の1・2),③被告製品の傘形状ブッシュ
の後端を切断したものについてのみ液漏れが見られた。
上記実験結果によれば,被告製品においては,傘形状ブッシュの後端が
化粧品の漏れ止め防止の機能を担っており,具体的には,傘形状ブッシュ
の後方外周側の端が,樹脂ブッシュ(シゴキ)と接触することによって,
化粧品の容器外部への漏れ止め防止を果たしており,これによって回転可
能な部材と回転不能な部材との間への漏れ止め防止機能も果たしている
と認められる(なお,被告は,被告製品では,傘形状ブッシュと内ねじ付
きブッシュが密着することにより回転可能な部材と回転不能な部材との
間への漏れ止め防止が果たされていると主張するが,当該構造を前提とし
ても,上記実験結果に従えば,傘形状ブッシュと樹脂ブッシュ(シゴキ)
との接触によって漏れ止め防止が果たされているといえる。。
)
被告は,被告製品では,傘形状ブッシュ(スクレーパー)は,前記樹脂
ブッシュ(シゴキ)の内壁に付着したマスカラ液をビンの中に掻き落とす
ことにより,樹脂ブッシュ(シゴキ)にマスカラ液が溜まり,開口からあ
ふれるのを防止する機能を有するものであるところ,傘形状ブッシュ(ス
クレーパー)と樹脂ブッシュ(シゴキ)との接触は,素材自体が柔らかく
変形できる部材(ゴム製樹脂)同士の接触であるため,互いの変形によっ
てマスカラ液の漏出を完全に阻止するようには密着しないと主張するが,
上記アのとおり傘形状ブッシュは,内ねじ付きブッシュの凸縁により拡径
して樹脂ブッシュ(シゴキ)と接触していることからすれば,当該接触に
よって密封機能を果たしているといえるのであって,樹脂ブッシュがゴム
製であることは,当該機能には影響しないといえる。また,被告製品の傘
形状ブッシュ(スクレーパー)が,樹脂ブッシュ(シゴキ)の内壁に付着
したマスカラ液をビンの中に掻き落とす機能を有していることは,上記密
封機能を有することと矛盾せず,上記認定を覆すものではない。
(2) 構成要件G,Hの充足性
ア 構成要件の解釈
(ア) 構成要件Hは,「前記本体と前記ビンを結合するときには,前記密封
ブッシュの前縁が前記開口に密着されることを特徴とする,化粧品容器
用漏れ止め構造」であり,ブラシロッドに設けられた密封ブッシュの「前
縁」(構成要件G参照)とビンの一端に設けられる「開口」(構成要件F
参照)が密着することが必要とされている。
(イ) そこで,まず「開口」の解釈について検討するに,
「開口」が,文言上,
ビンの最後方の端部のみを指すと解すべき理由はないし,本件明細書の
請求項6では,「前記開口(42)の外面に外ねじが設けられ,前記外
ねじが設けられ,前記外ねじが前記内ねじ付きブッシュ(30)の内ね
じと螺合し,前記開口(42)の内面に樹脂ブッシュ(43)が設けら
れ」とされており,「開口」は外面に外ねじ,内面に樹脂ブッシュを設
けることが予定されていることからすれば,「開口」は,ビンの最後方
の先端部に限られず,広くビンの開放部分を指すと解釈するのが相当で
ある(本件明細書の【図1】【図3】∼ 【図5】においても,ビンの本
,
体側の凸部が「開口」(42)として図示されている。。
)
(ウ) また,
「前縁」の意義について解釈するに,本件明細書では,密封ブッ
シュの一部を指す用語として用いられているところ,密封ブッシュ(傘
形状ブッシュ)は,凸縁と連結具の一端を覆うことによって,化粧液が
漏れ出すのを防ぐことからすれば(段落【0018】,ここにいう「前」
)
とは,化粧液のあるブラシヘッド側と解するのが相当であり,「縁」は,
物の端,へり等のほか,まわりを表す意味もあること(乙15,16)
からすれば,「前縁」とは,傘形状ブッシュのうち広くブラシヘッド側
となる部分を指すと解するのが相当である。
被告は,
「前縁」の範囲は字義どおり厳格に解すべきであるとして,傘
形状ブッシュの前方の端又は拡径を始める境界までを指すと主張する
が,採用できない。
イ 充足性
被告製品では,上記(1)で認定したとおり,傘形状ブッシュの後方外周側
の端がビンの後部に取り付けられた樹脂ブッシュ(シゴキ)の内側に接触
し,これが密着することによって漏れ止め防止構造を果たしていると認め
られる。
そして,傘形状ブッシュの後方外周部分の端はその「前縁」に当たると
いうことができ,ビンと一体を成す樹脂ブッシュの内側はビンの「開口」
に該当し,そして,傘形状ブッシュの後方外周の端は開口部に押し付けら
れて密着することにより「化粧品の漏れ止め防止構造」を果たしていると
認められる(したがって,被告製品の傘形状ブッシュは「密封ブッシュ」
にも該当する。。
)
したがって,被告製品は,構成要件G,Hを充足する。
(3) 構成要件Kの充足性
被告製品の構成kは,連結具の末端に,円形の穴が設けられており,そこ
にゴム製のOリングを介して十字形状シャフトを挿入することにより,十字
形状シャフトと連結具を同期に回転する構成であると認められる(弁論の全
趣旨)。
構成要件Kは,
「前記減速手段には,幾何形状断面シャフトが設けられ,前
記連結具の末端には,幾何形状穴が設けられ,前記幾何形状断面シャフトが
前記幾何形状穴に挿入され,そうすると,前記幾何形状断面シャフトは前記
連結具と同期に回転することができることを特徴とする」である。この「幾
何形状穴」については,本件明細書上何ら限定はないが,シャフトの幾何形
状が連結具の穴の幾何形状と係合することによって,シャフトが連結具と同
期に回転するものでなければならない。
被告製品においては,上記のとおり,連結具の穴は円形であるのに,そこ
に挿入されるシャフトの断面形状は十字形状であるから,両者がその幾何形
状によって係合し同期に回転することはなく,Oリングを介することにより,
その抵抗によって同期に回転しているに過ぎない。
したがって,被告製品は,構成要件Kを充足しない。
(4) 構成要件Pの充足性
構成要件Pは,前記ブラシロッドが前記樹脂ブッシュを経由して前記液体
「
収容チェンバーに挿入し,前記本体と前記ビンを結合するときには,前記密
封ブッシュの前縁が前記樹脂ブッシュに密着されることを特徴とする」であ
るところ,上記のとおり,被告製品は傘形状ブッシュの前縁が開口に密着し
ており,開口の内面に設けられた樹脂ブッシュにも密着していると認められ
る。
したがって,被告製品は,構成要件Pを充足する。
(5) 小括
以上のとおり,被告製品は,構成要件A∼ F,I,J,L∼ Oを充足する
ことは争いがなく,構成要件Kを充足しないが,構成要件G,H,Pについ
ては充足すると認められるので,本件考案1∼ 3,5及び6の技術的範囲に
属する。
2 争点2(本件実用新案登録は実用新案登録無効審判により無効にされるべき
ものであるか)について
当裁判所は,乙20文献に記載された考案に基づき,本件実用新案登録は,
実用新案登録無効審判により無効にされるべきであると判断する。
(1) 乙20文献の記載
本件実用新案登録出願前に頒布された刊行物である乙20文献(訳文)に
は,以下の記載がある(以下に開示された乙20文献に記載された考案を「乙
20考案」という。。
)
ア (2頁18∼ 24行目)
このような従来のマスカラブラシの問題点を解決するために,多数の電
動式マスカラが案出されており,例えば,図1に示されているように,従
来の電動式マスカラにおいては,睫毛の化粧をするときに,蓋体(1)の
外部に位置したロータリ式スイッチ(2)を回転させて作動させると,乾
電池(3)の電源がモータ(4)に供給されてモータ(4)が回転を開始
し,モータ(4)の動力が,図示されていない回転軸に設置されたピニオ
ンギア及び減速ギアなどを介して軸体(5)に伝達されることより,軸体
(5)が回転する。
このように軸体(5)が回転すると, (5)
軸体 に設置されたブラシ(6)
が連動し,軸体(5)と一緒に連動するブラシ(6)を睫毛に当てると,
睫毛が自動的に巻き上げられて睫毛の化粧が行われることになる。
イ (2頁25∼ 29行目)
図1に示されている従来の電動式マスカラにおいては,密閉部材(7)
は,マスカラの揮発を防止すると同時に,容器(8)からブラシ(6)を
抜き出すときに,ブラシに過度に付着しているマスカラ溶液を除去する役
割を果たしており,マスカラ内容物の揮発性が高いため,蓋体(1)を容
器(8)に装着するときに,密閉部材(7)が圧着する程度にしっかりと
装着した場合にのみ,マスカラ内容物の揮発を防止することができる。
(2) 本件考案1と乙20考案との対比
ア 構成要件A
構成要件Aは,「本体と,ブラシロッドと,ビンと,を含む化粧品容器
用漏れ止め構造であって,」であるところ,乙20考案には,構成要件A
の「本体」「ブラシロッド」「ビン」に相当する蓋体(1)
, , ,軸体(5)
及び容器(8)が開示されている。また,乙20考案には,マスカラ内容
物の揮発を防止することが開示されているところ,これは,容器の気密構
造を開示したものであることから,「化粧品容器用漏れ止め構造」である
ことが開示されているといえる。
したがって,乙20考案は,構成要件Aに相当する構成を有するといえ
る。
イ 構成要件B
構成要件Bは,「前記本体は,収容空間を有し,前記収容空間には,電
源ユニットと,前記電源ユニットと電気的に連接するモータと,連結具と,
が設けられ,」であるところ,乙20考案には,
「本体」「電源ユニット」
, ,
「モータ」に相当する蓋体(1),乾電池(3),モータ(4)が開示され
ている(当事者間に争いがない。。
)
また,本件考案1の「連結具」は,本体の収容空間内で回動可能に設け
られ(構成要件B,C)「ブラシロッド」と同軸に連結されるものである
,
ところ(構成要件E),乙20考案の軸体(5)は,一方の端でブラシ(6)
と接続しており,他方の端では,軸体(5)と同軸に挿入された軸状部材
を介して,モータ(4)に接続されており,その軸状部材の周辺部におい
て,上記「連結具」に相当することと認められる。
原告は,構成要件Bの「連結具」は,「ブラシロッド」とは異なる部材
であるところ,乙20文献の軸体(5)の軸状部材の周辺部は,軸体(5)
を構成する部分であることから,「連結具」には相当しないと主張する。
しかしながら,「連結具」が「ブラシロッド」と異なる部材でなければな
らないと解する理由はなく,この点は,本件明細書で「もちろん,前記ブ
ラシロッド20と前記連結具15は一体成形されるものでもよい。」(段
落【0015】)と記載されていることからも明らかである(仮に相違点
と捉えるとしても,単なる設計事項に過ぎないというべきである。。
)
したがって,乙20考案は,構成要件Bに相当する構成を有するといえ
る。
ウ 構成要件C・D
構成要件Cは,
「前記連結具は,前記本体の内部に回動可能に設けられ,」
であり,構成要件Dは,「前記モータに駆動可能であり,」であるところ,
乙20考案には,「連結具」「本体」及び「モータ」に相当する軸体(5)
,
の一部(軸状部材の周辺部),蓋体(1)及びモータ(4)が開示されて
いる。そして,乙20考案には,「連結具」に相当する軸体(5)の一部
(軸状部材の周辺部)は,蓋体(1)の内部に回動可能に設けられ,モー
タ(4)に駆動可能であることが開示されている。
したがって,乙20考案は,本件考案1の構成要件C及びDに相当する
構成を有するといえる。
エ 構成要件E
構成要件Eは,
「前記ブラシロッドは,一端が前記連結具と同軸し前記連
結具に連結され,他端にブラシヘッドが設けられ,」であるところ,乙20
考案には,
「ブラシロッド」「連結具」及び「ブラシヘッド」に相当する軸
,
体(5),軸体(5)の一部(軸状部材の周辺部)及びブラシ(6)が開示
されている。そして,乙20考案には,軸体(5)は,一端が軸体(5)
の一部(軸状部材の周辺部)と同軸し,当該部分に連結され,他端にブラ
シ(6)が設けられていることが開示されている。
したがって,乙20考案は,本件考案1の構成要件Eに相当する構成を
有するといえる。
オ 構成要件F
構成要件Fは,「前記ビンは,液体収容チェンバーと,前記ビンの一端
に設けられる開口と,を有し,前記ブラシロッドは前記開口を経由して前
記液体収容チェンバーに挿入される一方,」であるところ,乙20考案に
は,「ビン」「ブラシロッド」に相当する容器(8)及び軸体(5)が開
,
示されている。また,本件考案1の「液体収容チェンバー」は,「ビン」
の一部分であると解されるから,乙20考案の容器(8)の一部が「液体
収容チェンバー」に相当する。
そして,乙20考案には,容器(8)の一部と,容器(8)の一端に設
けられる開口とを有し,軸体(5)は前記開口を経由して,容器(8)に
挿入されることが開示されている。
したがって,乙20考案は,本件考案1の構成要件Fに相当する構成を
有するといえる。
カ 構成要件G
構成要件Gは「前記ブラシロッドに密封ブッシュが設けられ,」である
ところ,乙20考案には,「ブラシロッド」に相当する軸体(5)が開示
されている。
また,本件考案1の「密封ブッシュ」は,
「ブラシロッド」に設けられ,
その前縁が「ビン」の開口に密着されることにより,漏れ止め防止の機能
を果たすものであるところ(構成要件G,H),乙20考案の軸体(5)
は,上記軸状部材と接続されている後方端部において,より太くなってお
り,これが容器(8)の開口部に備えられた密閉部材(7)と接触するこ
とによって,一定の漏れ止め防止の機能を果たしていることから,その後
方端部において,上記「密封ブッシュ」に相当することが認められる。
原告は,「密封ブッシュ」は,開口に密着して化粧液などの液体が漏れ
出ることを防ぐ機能を有する,軸を受ける筒状の部材であるところ,乙2
0考案の軸体(5)の後方端部は,軸体を構成する部分であることから,
「密封ブッシュ」に該当しないと主張する。確かに,「ブッシュ」につい
ては,軸受筒などの意味で使用されるといえるが(甲13∼ 15)「密封
,
ブッシュ」が「ブラシロッド」と異なる部材でなければならないと解する
理由はなく,この点は,本件明細書で「前記ブラシロッド20に密封ブッ
シュが一体に成形され,前記密封ブッシュは,傘形状を呈していもいいし,
ボール形状を呈していもいいし,その他の適当な形状を呈してもよい。」
(段落【0018】。原文ママ)と記載されていることからも明らかであ
る(仮に相違点と捉えるとしても,単なる設計事項に過ぎないというべき
である。。
)
したがって,乙20考案は,本件考案1の構成要件Gに相当する構成を
有しているといえる。
キ 構成要件H
構成要件Hは「前記本体と前記ビンを結合するときには,前記密封ブッ
シュの前縁が前記開口に密着されることを特徴とする,化粧品容器用漏れ
止め構造。 であるところ,
」 本件考案1には,構成要件Hの「本体」及び「ビ
ン」に相当する蓋体(1)及び容器(8)が開示されている。そして,乙
20考案には,蓋体(1)と容器(8)を結合するときに,軸体(5)の
後方端部の前縁を開口に備えられた密閉部材(7)に密着させ,それによ
って溶液の揮発成分を密封することが開示されている。
したがって,乙20考案は,本件考案1の構成要件Hに相当する構成を
有しているといえる。
カ 小括
以上のとおり,乙20考案は,本件考案1の構成を全て有するものと認
められる。
したがって,本件考案1はその特許出願前に頒布された乙20文献に記
載された考案であり,本件実用新案登録は,実用新案法3条1項3号に違
反し,実用新案登録無効審判により無効にされるべきものであるから,原
告は,被告に対し,本件実用新案権を行使することができない。
(2) 本件考案2,5について
ア 本件考案2は,本件考案1の従属項であって,構成要件I「前記モータ
と前記連結具の間には,更に,減速手段が設けられることを特徴とする,
請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。が追加されたものであると
」
ころ,乙20考案には,
「モータ」「連結具」「減速手段」に相当するモー
, ,
タ(4),軸体(5)の一部(軸状部材の周辺部)及び減速ギアが開示され
ている。そして,乙20考案は,モータ(4)と軸体(5)の一部との間
に,減速ギアが設けられていることが開示されている。
したがって,乙20考案は,本件考案2の構成要件Iに相当する構成を
有しており,乙20考案は,本件考案2の構成を全て有するものと認めら
れる。
イ 本件考案5は,本件考案1の従属項であって,構成要件L「前記ブラシ
ヘッドは,マスカラ又はグロスを付けるためのブラシであることを特徴と
する,請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。」が追加されたもの
であるところ,乙20考案には,「ブラシヘッド」に相当するブラシ(6)
が開示されている。そして,乙20考案には,ブラシ(6)がマスカラを
付けるためのブラシであることが開示されている。
したがって,乙20考案は,本件考案5の構成要件Lに相当する構成を
有しており,乙20考案は,本件考案5の構成を全て有するものと認めら
れる。
ウ 以上のとおり,本件考案2,5については,その特許出願前に頒布され
た乙20文献に記載された考案であり,本件実用新案登録は,実用新案法
3条1項3号に違反し,実用新案登録無効審判により無効にされるべきも
のであるから,原告は,被告に対し,本件実用新案権を行使することがで
きない。
(3) 本件考案3
ア 本件考案3は,本件考案1の従属項であって,構成要件J「前記本体の
側面にレールが設けられ,前記レールにスイッチが摺動可能に設けられ,
前記スイッチは前記レールに沿って摺動し,これにより,前記スイッチは
前記電源ユニットのオン オフを切替えることができることを特徴とする,
・
請求項1に記載の化粧品容器用漏れ止め構造。」が追加されたものである。
イ 構成要件Jについて,乙20考案には,
「本体」「スイッチ」「電源ユニ
, ,
ット」に相当する蓋体(1),ロータリ式スイッチ(2)及び乾電池(3)
が開示されている。そして,乙20考案には,ロータリ式スイッチ(2)
が,乾電池(3)のオン・オフを切り替えることができることが開示され
ている。
一方,乙20考案では,ロータリ式スイッチ(2)が,蓋体(1)の側
面に設けられたレールに摺動可能に設けられており,レールに沿って摺動
するか否かは明らかではなく,以下の相違点が存する。
相違点: 本件考案2は,スイッチが,本体側面に設けられたレールに摺
動可能に設けられており,レールに沿って摺動する構造を有する
のに対し,乙20考案は,ロータリ式スイッチ(2)の配設態様
が明らかではない点。
ウ しかしながら,上記相違点に係る本件考案2の構成は,電動マスカラに
おいて,本件実用新案登録出願以前において採用されていた周知技術と認
められるのであって(乙22∼ 24),乙20考案に当該周知技術を適用
することについて,困難となるような事情も認められない。
したがって,本件考案3については,その特許出願前に頒布された乙2
0文献に記載された考案に基づき,極めて容易に考案をすることができた
ものといえ,本件実用新案登録は,実用新案法3条2項に違反し,実用新
案登録無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に
対し,本件実用新案権を行使することができない。
(4) 本件考案4
ア 本件考案4は,本件考案1の従属項であって,構成要件K「前記減速手
段には,幾何形状断面シャフトが設けられ,前記連結具の末端には,幾何
形状穴が設けられ,前記幾何形状断面シャフトが前記幾何形状穴に挿入さ
れ,そうすると,前記幾何形状断面シャフトは前記連結具と同期に回転す
ることができることを特徴とする,請求項2に記載の化粧品容器用漏れ止
め構造。」が追加されたものである。
イ 構成要件Kについて,乙20考案には,本件考案4の「減速手段」及び
「連結具」にそれぞれ相当する減速ギア及び軸体(5)の一部(軸状部材
の周辺部)が開示されている。そして,乙20考案は,減速ギアと軸体(5)
の一部(軸状部材の周辺部)は同期に回転することが開示されている。
一方,乙20考案では,減速ギアと軸体(5)との連結態様が明らかで
はなく,以下の相違点が認められる。
相違点: 本件考案4では,減速手段及び連結具がそれぞれ「幾何形状断
面シャフト」及び「幾何形状穴」を設けられた態様で互いに連結
された構造であるのに対し,乙20考案では,減速ギア及び軸体
(5)の連結態様が明らかではない点
ウ しかしながら,上記相違点に係る本件考案4の構成は,電動マスカラに
おいて,本件実用新案登録出願以前において採用されていた周知技術と認
められるのであって(乙19,23,25参照),乙20考案に当該周知
技術を適用することについて,困難となるような事情も認められない。
被告製品が構成要件Kを充足しないことは既に述べたとおりであるが,
本件考案4については,その特許出願前に頒布された乙20文献に記載さ
れた考案に基づき,極めて容易に考案をすることができたものといえ,本
件実用新案登録は,実用新案法3条2項に違反し,実用新案登録無効審判
により無効にされるべきものである。
(5) 本件考案6
ア 本件考案6は,本件考案1の従属項であって,構成要件M∼ Pが追加さ
れたものである。
(ア) 構成要件M
構成要件Mは「更に,内ねじ付きブッシュを含み,前記内ねじ付きブ
ッシュは,前記本体の前端に設けられ,内ねじを有し,」であるところ,
乙20考案では,「本体」に相当する蓋体(1)が開示されているが,
蓋体(1)の前端の構造は明らかではない。
(イ) 構成要件N
構成要件Nは「前記開口の外面に外ねじが設けられ,前記外ねじが前
記内ねじ付きブッシュの内ねじと螺合し,」であるところ。乙20考案
では,蓋体(1)と容器(8)の連結構造は明らかではない。
(ウ) 構成要件O
構成要件Oは「前記開口の内面に樹脂ブッシュが設けられ, であると
」
ころ,乙20考案では,開口の内面に密閉部材(7)が設けられている
が,その材質が樹脂であるかについては明らかではない。
(エ) 構成要件P
構成要件Pは「前記ブラシロッドが前記樹脂ブッシュを経由して前記
液体収容チェンバーに挿入し,前記本体と前記ビンを結合するときには,
前記密封ブッシュの前縁が前記樹脂ブッシュに密着されることを特徴
とする,」であるところ,乙20考案では,「ブラシロッド」「樹脂ブッ
,
シュ」「液体収容チェンバー」「本体」「ビン」「密封ブッシュ」に相
, , , ,
当する軸体(5),密閉部材(7),容器(8)の一部,蓋体(1),容
器(8),軸体(5)の一部(後方端部)が開示されている。そして,
乙20考案には,軸体(5)は密閉部材(7)を経由して容器(8)の
内部に挿入され,蓋体(1)と容器(8)を結合させるときには,軸体
(5)の一部(後方端部)の前縁が密閉部材(7)に密着することが開
示されている。
一方,上記のとおり,乙20考案では,密閉部材の材質が樹脂である
かについては明らかではない。
イ 以上を踏まえると,乙20考案と本件考案6は,以下の相違点が存する。
相違点1: 本件考案6は「内ねじ付きブッシュを含み,前記内ねじ付き
ブッシュは,前記本体の前端に設けられ,内ねじを有し,前記
開口の外面に外ねじが設けられ,前記外ねじが前記内ねじ付き
ブッシュの内ねじと螺合し」(構成要件M及びN)ているのに
対し,乙20考案は,蓋体(1)と容器(8)の連結構造が明
らかではない点。
相違点2: 本件考案6では,ビンの開口の内面に設けられるブッシュの
材質が「樹脂」であるのに対し,乙20文献では密閉部材(7)
の材質が不明である点
ウ しかしながら,上記相違点1に係る本件考案6の構成は,電動マスカラ
において,本件実用新案登録出願以前において採用されていた周知技術と
認められるのであって(乙28∼ 33参照) 乙20考案に当該周知技術を
,
適用することについて,困難となるような事情も認められない。また,上
記相違点6に係る本件考案6の構成についても,本件実用新案登録出願以
前において採用されていた周知技術と認められるのであって(乙29,3
1,33∼ 35参照) 乙20考案に当該周知技術を適用することについて,
,
困難となるような事情も認められない。
したがって,本件考案6については,その特許出願前に頒布された乙2
0文献に記載された考案に基づき,極めて容易に考案をすることができた
ものといえ,本件実用新案登録は,実用新案法3条2項に違反し,実用新
案登録無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に
対し,本件実用新案権を行使することができない。
3 小括
以上検討したところによれば,本件実用新案登録は実用新案登録無効審判に
より無効にされるべきものと認められ,原告の請求は,その余について検討す
るまでもなく理由がない。
第5 結語
よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき
民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有 恒
裁判官 松 川 充 康
裁判官 網 田 圭 亮
別紙
物件目録
「ビューティヴィジョン エレクトロールマスカラ」の商品名で特定される電動
マスカラ
以上
別紙
被告製品説明書(原告の主張)
被告製品の化粧品容器用漏れ止め構造は,別紙被告製品説明図に示す各要素から
なり,その構成を分説すると,以下のとおりである。
a:本体と,ブラシロッドと,ビンと,を含む化粧品容器用漏れ止め構造であって,
b:前記本体は,収容空間を有し,前記収容空間には,電源ユニットと,前記電源
ユニットと電気的に連接するモータと,連結具と,が設けられ,
c:前記連結具は,その基端部が本体に設けられた減速手段の幾何形状断面シャフ
トと連結することで,本体の内部に回動可能に設けられ,
d:前記モータに駆動可能であり,
e:前記ブラシロッドは,一端が前記連結具と同軸し前記連結具に連結され,他端
にブラシヘッドが設けられ,
f:前記ビンは,液体収容チェンバーと,ビンの一端に設けられる開口とを有し,
前記ブラシロッドは前記開口を経由して前記液体収容チェンバーに挿入される
一方,
g:前記ブラシロッドには傘形状ブッシュが固定され,
h:前記本体と前記ビンを結合するときには,前記傘形状ブッシュの前縁が前記開
口に密着される,化粧品容器用漏れ止め構造。
i:前記モータと前記連結具の間には,更に,減速手段が設けられる。
j:前記本体の側面にはレールが設けられ,前記レールにスイッチが摺動可能に設
けられ,前記スイッチは前記レールに沿って摺動し,これにより,前記スイッチ
は前記電源ユニットのオン・オフを切替えることができる。
k:前記減速手段には,幾何形状断面シャフトが設けられ,前記連結具の末端には,
幾何形状穴が設けられ,前記幾何形状断面シャフトが前記幾何形状穴に挿入され,
そうすることで,前記幾何形状断面シャフトは前記連結具と同期に回転すること
ができる。
l:前記ブラシヘッドは,マスカラを付けるためのブラシである。
m:更に,内ねじ付きブッシュを含み,この内ねじ付きブッシュは,前記本体の前
端に設けられ,ビン側へ伸長する枠状部分の内面に内ねじを有し,
n:前記ビンは,前記開口の外面に外ねじが設けられ,前記外ねじが前記内ねじ付
きブッシュの内ねじと螺合し,
o:前記開口の内面に樹脂ブッシュが設けられ,
p:前記ブラシロッドが前記樹脂ブッシュを経由して前記液体収容チェンバーに挿
入し,前記本体と前記ビンを結合するときには,前記傘形状ブッシュの前縁が前
記樹脂ブッシュに密着される。
以上
別紙
被告製品説明図(原告の主張)
★ X1p9∼ 11
別紙
被告製品説明図(被告の主張)
1 主位的主張
前縁
<図I(被告製品図)>
2 予備的主張
前縁(予備
的主張)
<図L(被告製品図)>
別紙
本件明細書
★ 甲2を添付
別紙
乙19文献図8
別紙
乙20文献図1
最新の判決一覧に戻る