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平成30(ネ)10006等特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和1年9月11日
事件種別 民事
当事者 控訴人兼附帯被 株式会社カプコン
被控訴人兼附帯控訴人株式会社コーエーテクモゲームス
対象物 システム作動方法
法令 特許権
特許法101条4号13回
特許法102条3項11回
特許法101条1号4回
キーワード 実施174回
特許権76回
侵害75回
無効28回
間接侵害24回
進歩性24回
ライセンス18回
許諾15回
損害賠償8回
無効審判8回
審決7回
新規性7回
刊行物5回
訂正審判1回
差止1回
商標権1回
主文 1 控訴人の本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。⑴ 被控訴人は,控訴人に対し,1億4384万3710円及びこれに対する平成26年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。⑵ 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審を通じてこれを7分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
4 この判決の第1項⑴は,仮に執行することができる。
事件の概要 1 事案の要旨 本件は,発明の名称を「システム作動方法」とする特許(特許第33507 73号。請求項の数3。以下「本件特許A」といい,本件特許Aに係る特許権 を「本件特許権A」という。)及び発明の名称を「遊戯装置,およびその制御 方法」とする特許(特許第3295771号。請求項の数12。以下「本件特 許B」といい,本件特許Bに係る特許権を「本件特許権B」という。)の特許 権を有していた控訴人が,①被控訴人が業として,原判決別紙「イ号製品目録」 記載の各ゲームソフト(以下,同別紙の「番号」に従い「イ-1号製品」など という。また,これらを併せて「イ号製品」と総称することがある。)を製造, 販売又は販売の申出をしたことは,本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1及 び2に係る発明についての本件特許権Aの間接侵害(特許法101条4号)に 該当する,又は,侵害行為を惹起したことにつき不法行為が成立する,②被控 訴人が業として,原判決別紙「ロ号製品目録」記載の各ゲームソフト(以下, 同別紙の「番号」に従い「ロ-1号製品」などという。また,これらを併せて 「ロ号製品」と総称することがある。)を製造,販売したことは,本件特許B

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判決文

令和元年9月11日判決言渡
平成30年(ネ)第10006号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件・同年(ネ)
第10022号 同附帯控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成26年(ワ)第61
63号)
口頭弁論終結日 令和元年5月27日
判 決
控訴人兼附帯被控訴人 株 式 会 社 カ プ コ ン
(以下「控訴人」という。)
訴訟代理人弁護士 金 井 美 智 子
同 重 冨 貴 光
同 古 庄 俊 哉
同 長 谷 部 陽 平
同 澤 祥 雅
補 佐 人 弁 理 士 廣 瀬 文 雄
被控訴人兼附帯控訴人 株式会社コーエーテクモゲームス
(以下「被控訴人」という。)
訴訟代理人弁護士 佐 藤 安 紘
同 高 橋 元 弘
同 吉 羽 真 一 郎
同 末 吉 亙
訴訟代理人弁理士 鶴 谷 裕 二
主 文
1 控訴人の本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
⑴ 被控訴人は,控訴人に対し,1億4384万3710円及びこれ
に対する平成26年7月11日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
⑵ 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審を通
じてこれを7分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の
負担とする。
4 この判決の第1項⑴は,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
⑴ 原判決のうち控訴人敗訴部分を取り消す。
⑵ 被控訴人は,控訴人に対し,9億8323万1115円及びこれに対する
平成26年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 附帯控訴の趣旨
⑴ 原判決のうち被控訴人敗訴部分を取り消す。
⑵ 控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要(略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。)
1 事案の要旨
本件は,発明の名称を「システム作動方法」とする特許(特許第33507
73号。請求項の数3。以下「本件特許A」といい,本件特許Aに係る特許権
を「本件特許権A」という。)及び発明の名称を「遊戯装置,およびその制御
方法」とする特許(特許第3295771号。請求項の数12。以下「本件特
許B」といい,本件特許Bに係る特許権を「本件特許権B」という。)の特許
権を有していた控訴人が,①被控訴人が業として,原判決別紙「イ号製品目録」
記載の各ゲームソフト(以下,同別紙の「番号」に従い「イ-1号製品」など
という。また,これらを併せて「イ号製品」と総称することがある。)を製造,
販売又は販売の申出をしたことは,本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1及
び2に係る発明についての本件特許権Aの間接侵害(特許法101条4号)に
該当する,又は,侵害行為を惹起したことにつき不法行為が成立する,②被控
訴人が業として,原判決別紙「ロ号製品目録」記載の各ゲームソフト(以下,
同別紙の「番号」に従い「ロ-1号製品」などという。また,これらを併せて
「ロ号製品」と総称することがある。)を製造,販売したことは,本件特許B
の特許請求の範囲の請求項1及び8に係る発明についての本件特許権Bの間接
侵害(同条1号,4号)に該当する,又は,侵害行為を惹起したことにつき不
法行為が成立する旨主張して,被控訴人に対し,本件特許権A及び本件特許権
B侵害の不法行為又は一般不法行為に基づく損害賠償として,9億8323万
1115円(本件特許Aの実施料相当額8億9123万1115円,本件特許
Bの実施料相当額4700万円,弁護士・弁理士費用相当額4500万円の合
計額)及びこれに対する不法行為の後である平成26年7月11日(訴状送達
の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める事案である。
なお,本件特許権Aに関する各請求,本件特許権Bに関する各請求の関係は,
それぞれ選択的併合の関係にあると解される。
原判決は,①本件特許Aの特許出願前に日本国内で販売されていたゲーム装
置「ファミリーコンピュータ」及び「ファミリーコンピューターディスクシス
テム」,ゲームソフト「魔洞戦紀」及び「勇士の紋章」並びにテレビを用いて
実現されるゲームシステム(以下「本件ゲームシステムA1」という。)によ
り公然知られた発明又は公然実施をされた発明と,本件特許Aの特許請求の範
囲の請求項1及び2に係る発明は同一であるから,これらの発明に係る本件特
許Aは,新規性欠如の無効理由があり,かかる無効の抗弁に対する訂正の再抗
弁も認められないものであって,特許無効審判により無効にされるべきものと
認められるため,本件特許権Aの侵害に基づく損害賠償請求は理由がない,②
ロ号製品を用いた遊戯装置は本件特許Bの特許請求の範囲の請求項1に係る発
明の技術的範囲に属し,ロ号製品は本件発明B1に係る物の生産にのみ用いる
物であるから,ロ号製品を製造,販売することは,本件特許権Bの間接侵害(特
許法101条1号)に該当する,また,上記発明に係る本件特許Bは特許無効
審判により無効にされるべきものとは認められないから,本件特許権Bの侵害
に基づく損害賠償請求は,517万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求
める限度で理由があるとして,上記金員に係る請求のみを認容し,その余の控
訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決のうち控訴人敗訴部分を不服として,本件控訴を提起した。
被控訴人は,原判決のうち被控訴人敗訴部分を不服として,本件附帯控訴を
提起した。
2 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認めら
れる事実)
⑴ 当事者
控訴人は,ゲーム機器,ソフトウェア及び玩具等の企画,開発,製造,販
売等を業とする株式会社である。
被控訴人は,コンピューターソフトウェア及びハードウェア並びにゲーム
用娯楽機器の製造,制作,企画,販売等を業とする株式会社である。
⑵ 本件特許権A
ア 控訴人は,平成6年12月9日,発明の名称を「システム作動方法」と
する発明について特許出願(特願平6-306428号。以下「本件特許
出願A」といい,本件特許出願Aの願書に添付した明細書を,図面も含め
て「本件明細書A」という。)をし,平成14年9月20日,本件特許権
Aの設定登録を受けた(特許第3350773号。甲A2,69)。
イ(ア) 控訴人は,平成26年7月4日,原審に本件訴訟を提起した。その後,
本件特許権Aは,同年12月9日の経過をもって存続期間が満了した。
(イ) 被控訴人は,平成27年4月17日,本件特許Aについて,本件ゲー
ムシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をされた発明と同
一であり新規性欠如の無効理由があることを理由として,特許無効審判
(無効2015-800110号事件。)を請求した(甲A48)。
特許庁は,平成28年1月25日に口頭審理を行った後,同年6月2
1日付けで,本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1に係る発明は本件
ゲームシステムA1により公然知られた発明と同一であって新規性欠如
の無効理由があり,同請求項2に係る発明は本件ゲームシステムA1に
より公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づき容易に発明を
することができたものであって進歩性欠如の無効理由があるから,これ
らの発明についての本件特許Aを無効とする旨の審決の予告(乙A31)
をした。
これに対し控訴人は,同年7月28日付けで,請求項1ないし3から
なる一群の請求項について,請求項1及び2を訂正し,請求項3を削除
する旨の訂正請求(甲A42,43)をした後,同年11月22日付け
の訂正拒絶理由通知(甲A47)を受けたため,同年12月5日付けで,
訂正請求を補正(補正後の訂正を,以下「本件訂正A」という。甲A4
4~46)した。
特許庁は,平成29年3月24日,本件訂正Aを認めた上,「請求項
3に係る請求を却下する。請求項1及び2に係る請求は成り立たない。」
との審決(以下「審決A」という。甲A48)をした。
(ウ) 被控訴人は,審決Aの取消しを求める審決取消訴訟を提起したが(平
成29年(行ケ)第10097号),知的財産高等裁判所は,平成30
年3月29日,被控訴人の請求を棄却する判決(以下「判決A」という。)
をした(甲A51)。
被控訴人は,判決Aに対する上告受理申立てをしたが,平成31年3
月7日,上告不受理の決定(甲A68)がされたため,判決Aは確定し,
それと共に審決Aも確定した(甲A69)。
その間に,原審は,平成29年12月14日,本件特許Aの特許請求
の範囲の請求項1及び2に係る発明は本件ゲームシステムA1により公
然知られた発明又は公然実施をされた発明と同一であるから,これらの
発明に係る本件特許Aは特許無効審判により無効にすべきものと認めら
れるとして,本件特許権Aの侵害に基づく損害賠償請求は理由がないと
する旨の原判決をした。
ウ 本件訂正A後の本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,
次のとおりである(甲A46)。
【請求項1】
ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲー
ム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶
可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを
作動させる方法であって,
上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/または
データと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲーム
プログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムお
よび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,
上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプ
ログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加および
/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張
および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/
またはデータであり,
上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装
置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラ
ムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデー
タの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込んでい
ない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによ
ってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。
【請求項2】
ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲー
ム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,半導体ROMカセッ
トを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記
ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,
上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/または
データと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲーム
プログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムお
よび/またはデータを包含するとともに所定の制御プログラムを包含する
第2の記憶媒体とが準備されており,
上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプ
ログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加および
/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張
および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/
またはデータであり,
上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され,かつ,上記所定のキ
ーが読み込まれていないときのみに,この第2の記憶媒体中の上記制御プ
ログラムは,上記ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるインストラクシ
ョンを表示させ,このインストラクションにしたがって装填された他の記
憶媒体が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体である場合には,
上記第2の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ
に加えて上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によって
ゲーム装置を作動させ,他の記憶媒体が装填されない場合または装填され
た記憶媒体が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体でない場合に
は,上記第2の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデ
ータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシス
テム作動方法。
エ 本件訂正A後の本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以
下「本件発明A1」という。)及び請求項2に係る発明(以下「本件発明
A2」という。)を構成要件に分説すると,次のとおりである。
(ア) 本件発明A1
A ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定の
ゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデー
タを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲー
ムシステムを作動させる方法であって,
B 上記記憶媒体は,少なくとも,
B-1 所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキー
とを包含する第1の記憶媒体と,
B-2 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所
定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2
の記憶媒体とが準備されており,
C 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲー
ムプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増
加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/また
は場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプ
ログラムおよび/またはデータであり,
D 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,
D-1 上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,
上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲー
ムプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を
作動させ,
D-2 上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲーム
プログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動
させることを特徴とする,
E ゲームシステム作動方法。
(イ) 本件発明A2
F ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定の
ゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,半導体RO
Mカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除
く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法
であって,
G 上記記憶媒体は,少なくとも,
G-1 所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキー
とを包含する第1の記憶媒体と,
G-2 所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所
定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含するとと
もに所定の制御プログラムを包含する第2の記憶媒体とが準備さ
れており,
H 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲー
ムプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増
加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/また
は場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプ
ログラムおよび/またはデータであり,
I 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され,かつ,上記所定
のキーが読み込まれていないときのみに,この第2の記憶媒体中の上
記制御プログラムは,上記ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるイ
ンストラクションを表示させ,
I-1 このインストラクションにしたがって装填された他の記憶媒体
が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体である場合には,
上記第2の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/また
はデータに加えて上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデー
タの双方によってゲーム装置を作動させ,
I-2 他の記憶媒体が装填されない場合または装填された記憶媒体が
上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体でない場合には,
上記第2の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/また
はデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,
J ゲームシステム作動方法。
⑶ 本件特許権B
ア 控訴人は,平成6年5月31日,発明の名称を「遊戯装置,およびその
制御方法」とする発明について特許出願(特願平6-119347号。以
下「本件特許出願B」といい,本件特許出願Bの願書に添付した明細書を,
図面も含めて「本件明細書B」という。)をし,平成14年4月12日,
本件特許権Bの設定登録を受けた(特許第3295771号。甲B1, 。
2)
本件特許権Bは,平成26年5月31日の経過をもって存続期間が満了
した。
イ 控訴人は,平成27年9月9日,本件特許Bの特許請求の範囲の請求項
1,4及び8の訂正(以下「本件訂正B」という。)を内容とする訂正審
判を請求(訂正2015-390098号事件。甲B17)し,同年12
月3日,特許庁は,本件訂正Bを認める審決(甲B24)をした。
ウ 本件訂正B後の本件特許Bの特許請求の範囲の請求項1及び8の記載は,
次のとおりである(甲B24)。
【請求項1】
遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲー
ムの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム
進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操
作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段
とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,
上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中にお
ける遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状
況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,
上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画
像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に
応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信
号として送出する振動情報制御手段と,
上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさ
せる振動発生手段と,
を備えたことを特徴とする,遊戯装置。
【請求項8】
遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲー
ムの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム
進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操
作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段
とを有するゲーム機を備えた遊戯装置の制御方法であって,
上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中にお
ける遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状
況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,
上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周
期を異ならせるための体感振動情報信号として振動発生手段に送出するよ
うにしたことを特徴とする,遊戯装置の制御方法。
エ 本件訂正B後の本件特許Bの特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以
下「本件発明B1」という。)及び請求項8に係る発明(以下「本件発明
B8」という。)を構成要件に分説すると,次のとおりである。
(ア) 本件発明B1
A 遊戯者が操作する入力手段と,
B この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるい
は制御するゲーム進行制御手段と,
C このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が
上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情
報を出力する出力手段と
D を有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,
E 上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中
における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が
特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,
F 上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上
記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれてい
る状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体
感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,
G 上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生
じさせる振動発生手段と,
H を備えたことを特徴とする,遊戯装置。
(イ) 本件発明B8
I 遊戯者が操作する入力手段と,
J この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるい
は制御するゲーム進行制御手段と,
K このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が
上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情
報を出力する出力手段と
L を有するゲーム機を備えた遊戯装置の制御方法であって,
M 上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中
における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が
特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識でき
ない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生
じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として振動
発生手段に送出するようにしたことを特徴とする,
N 遊戯装置の制御方法。
⑷ イ号製品の製造販売
被控訴人は,業として,イ号製品を製造し,別紙1「販売開始日一覧表」
記載の販売開始日に,イ号製品の販売を開始した。
⑸ ロ号製品の製造販売
被控訴人は,業として,ロ号製品を製造し,別紙1「販売開始日一覧表」
記載の販売開始日に,ロ号製品の販売を開始した。
3 争点
⑴ 本件特許権Aについて
ア イ号製品を用いたゲームの作動方法は本件発明A1及びA2の技術的範
囲に属するか(争点1-1)
(ア) 文言侵害の成否(争点1-1-1)
(イ) 均等侵害の成否(争点1-1-2)
(ウ) 間接侵害(特許法101条4号)の成否(争点1-1-3)
(エ) 実施行為の惹起行為による不法行為の成否(争点1-1-4)
イ 本件発明A1及びA2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべ
きものか(争点1-2)
(ア) 本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をさ
れた発明に基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無(争点1
-2-1)
(イ) MSX規格用のゲームソフト「ぎゅわんぶらあ自己中心派」及び「ぎ
ゅわんぶらあ自己中心派2 自称!強豪雀士編」並びにMSX規格のマ
シンを用いて実現されるゲームシステムにより公然知られた発明に基づ
く本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無(争点1-2-2)
ウ 控訴人の損害の有無及び損害額(争点1-3)
⑵ 本件特許権Bについて
ア ロ号製品を用いた遊戯装置及びその制御方法は本件発明B1及びB8の
技術的範囲に属するか(争点2-1)
(ア) 文言侵害の成否(争点2-1-1)
(イ) 間接侵害(特許法101条1号)の成否(争点2-1-2)
(ウ) 間接侵害(特許法101条4号)の成否(争点2-1-3)
(エ) 実施行為の惹起行為による不法行為の成否(争点2-1-4)
イ 本件発明B1及びB8に係る特許は特許無効審判により無効にされるべ
きものか(争点2-2)
(ア) 「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置によ
り公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発明B1の
進歩性の欠如の有無(争点2-2-1)
(イ) 「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置の制
御方法により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件
発明B8の進歩性の欠如の有無(争点2-2-2)
ウ 控訴人の損害の有無及び損害額(争点2-3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 本件特許権Aについて
⑴ 争点1-1-1(文言侵害の成否)について
ア 控訴人の主張
イ号製品を用いたゲームシステムの作動方法(以下,原判決別紙「イ号
製品目録」の「番号」に従い「イ-1号方法」などといい,これらを併せ
て「イ号方法」と総称することがある。)は,別紙2「イ号方法説明書(控
訴人)」記載のとおりである。
そして,本件発明A1及びA2の構成要件とイ号方法の構成との対比は
別紙2「イ号方法説明書(控訴人)」記載のとおりであるから,イ号方法
は,本件発明A1及びA2の構成要件をすべて充足するものであって,本
件発明A1及びA2の技術的範囲に属する。
被控訴人は,①イ号方法はいずれも,構成要件D,D-1及びD-2,
構成要件I及びI-2を充足せず,②イ号方法のうち,イ-1ないし8,
10ないし15及び23①号方法(以下「イ-1号方法等」と総称するこ
とがある。 は,
) 構成要件B,G等を充足するものではない旨主張するが,
以下のとおり理由がない。
(ア) 構成要件D,D-1及びD-2について
被控訴人は,本件発明A1の特許請求の範囲の記載,本件明細書Aの
記載,本件特許出願Aの出願審査の際に控訴人が提出した意見書(乙A
14の1,2)の記載によれば,本件発明A1は,第2の記憶媒体がゲ
ーム装置に装填された直後のステップで,「所定のキー」を読み込んで
いるか否かを判定することを必要とすると解されるところ,イ号方法で
は,第2の記憶媒体がゲーム装置に装填された直後のステップで,「所
定のキー」を読み込んでいるか否かを判定していないから,構成要件D,
D-1及びD-2を充足しない旨主張する。
しかしながら,本件発明A1は,その特許請求の範囲の文言上,「上
記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填される」(構成要件D)場面
において,「ゲーム装置が所定のキーを読み込んでいる」という客観的
条件を充足している場合には,「標準ゲームプログラムおよび/または
データと拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲ
ーム装置を作動させ」(構成要件D-1),かかる客観的条件を充足し
ていない場合には,「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみ
によってゲーム装置を作動させる」(構成要件D-2)ことを構成要件
とする発明であり,上記客観的条件の充足をどのようなタイミングで「判
定する」かという事項を,構成要件として特定してはいない。
そして,本件明細書Aの記載によれば,本件発明A1は,ゲーム装置
が所定のキーを読み込んでいるか否かという場合分けによって,ゲーム
装置を標準ゲームプログラム及び/又はデータと拡張ゲームプログラム
及び/又はデータの双方により作動させるか,標準ゲームプログラム及
び/又はデータのみにより作動させるかを決定する点に特徴を有するも
のであり,プログラム及び/又はデータを読み込む順序,所定のキーを
読み込むタイミング,所定のキーを読み込んでいるか否かを判定するタ
イミングは,本件発明A1の解決課題,解決手段,発明の特徴等と全く
関係がないから,これらの要素を構成要件D,D-1及びD-2におい
て特定する解釈を採用すべき理由はない。
また,被控訴人が指摘する控訴人の意見書(乙A14の1,2)の記
載は,拒絶理由通知における引用例と本件発明A1との相違点が,標準
ゲームプログラムの内容の拡張の有無であることを説明する記述の一部
であって,プログラム及び/又はデータを読み込む順序や,読込み・判
定のタイミングを本件発明A1の構成要件として特定することを意図し
た記載ではない。
したがって,イ号方法の第2の記憶媒体が,ゲーム装置に装填された
直後のステップで,「第1の記憶媒体に包含された特定のゲームプログ
ラムおよび/またはデータ」(所定のキー)を読み込んでいるか否かを
判定していないとしても,イ号方法は,構成要件D,D-1及びD-2
を充足する。
(イ) 構成要件I及びI-2について
被控訴人は,本件発明A2の特許請求の範囲の記載及び本件明細書A
の記載によれば,構成要件I及びI-2は,第2の記憶媒体がゲーム装
置に装填された直後のステップでインストラクションを表示させ,イン
ストラクションが表示される前には標準ゲームプログラムによりゲーム
装置を作動させないというものであり,かつ,標準ゲームプログラムに
よりゲーム装置を作動させる前に,「所定のキー」を読み込んでいるか
否かを判定するステップを含むものであるところ,イ号方法では,第2
の記憶媒体がゲーム装置に装填された後,インストラクションが表示さ
れる前であって,かつ,「第1の記憶媒体に包含された特定のゲームプ
ログラムおよび/またはデータ」(所定のキー)が読み込まれる前に,
標準ゲームプログラムによりゲーム装置が作動されるから,構成要件I
及びI-2を充足しない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)と同様の理由により,本件発明A2が,インス
トラクションを表示させる前に標準ゲームプログラムによりゲーム装置
を作動させないという事項や,標準ゲームプログラムによりゲーム装置
を作動させる前に「所定のキー」を読み込んでいるか否かを判定すると
いう事項を構成要件として含むと解することはできない。
したがって,イ号方法の標準ゲームプログラムによるゲーム装置の作
動時期が,第2の記憶媒体がゲーム装置に装填された後,インストラク
ションが表示される前であり,かつ,「第1の記憶媒体に包含された特
定のゲームプログラムおよび/またはデータ」(所定のキー)が読み込
まれる前であったとしても,イ号方法は,構成要件I及びI-2を充足
する。
(ウ) 構成要件B,G等について
被控訴人は,イ-1号方法等について,①アペンドディスク(第2の
記憶媒体)に記録された本編ディスクプログラムの一部は,本編ディス
ク(第1の記憶媒体)に記録された本編ディスクプログラムの残りの一
部と組み合わせられない限り,ゲーム機能の豊富化を達成することがで
きないため,第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム」は存在しない,
②「所定のキー」と「拡張ゲームプログラム」は相互に排他的・択一的
な概念であり,「拡張ゲームプログラム」に該当するゲームプログラム
及び/又はデータは「所定のキー」に該当しないところ,イ-1号方法
等において,第1の記憶媒体から読み込まれるデータは場面の拡張等に
寄与しているから,これが「拡張ゲームプログラム」に該当するのであ
れば「所定のキー」に該当しない旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,本件発明A1及びA2におい
て,「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲーム
プログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加お
よび/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面
の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラム
および/またはデータであり」(構成要件C,H),「より高度かつ豊
富なゲーム内容を実現するためのものである」(本件明細書Aの【00
30】)ところ,「ため」の辞書的な意味は「役に立つこと」(甲A4
0)であるから,「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,
より高度かつ豊富なゲーム内容を実現するのに「役に立つ」ゲームプロ
グラム及び/又はデータを意味するものであって,「単独で」より高度
かつ豊富なゲーム内容を実現するゲームプログラム及び/又はデータを
意味するものでない。
また,本件発明A1及びA2の特徴は,前作ソフトとの組合せにより,
後作ソフト単体では実現できない,ゲームキャラクタの増加,場面の拡
張等の特典を開放すること(以下「特典開放」という。)にあるところ,
PlayStation2が,その作動に際しプログラム及び/又はデ
ータの処理のために使用できるRAMの容量は32MBに過ぎない。そ
して,RAMの容量は,イ号製品に包含されたプログラム及び/又はデ
ータの処理のためにも使用されることを考慮すると,イ-1号方法等に
おいて,イ号製品とシリーズものの関係にある本編ディスクから読み込
んでRAMに格納されるプログラム及び/又はデータの容量はごく限ら
れたものとならざるを得ないから,イ-1号方法等における場面の拡張
等を達成するプログラム及び/又はデータの大部分はイ号製品に記録さ
れており,かかるプログラム及び/又はデータにより,構成要件C,H
の「ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機
能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達
成」していると推測するのが合理的である。
次に,上記②の点については,「所定のキー」と「拡張ゲームプログ
ラム」とが異なる概念であることは,両概念が相互に排他的・択一的な
関係にあることを意味するものではない。本件明細書Aにも,両者が排
他的・択一的関係にあることを明記又は示唆する記載はなく,むしろ,
「所定のキー」の意義に関し「狭義には,ゲームのタイトル,バージョ
ンNo.リリース時期,仕向先等,ゲーム内容に直接関係しない情報で
あってよいが,ゲーム結果等のゲームデータやプログラムの一部を含む
ことを妨げない。」と記載され(【0032】),「所定のキー」がゲ
ームデータやプログラム等を含む広い概念であることが明らかにされて
いる。
したがって,イ-1号方法等において,第1の記憶媒体から読み込ま
れるデータが場面の拡張等に寄与しているとしても,それが同時に特典
開放を行うか否かのキーとなるものであれば,「所定のキー」に該当す
る。
以上によれば,イ-1号方法等は,構成要件B,G等を充足する。
イ 被控訴人の主張
イ号製品を用いたゲームシステムの作動方法(イ号方法)は,別紙3「イ
号方法説明書(被控訴人)」記載のとおりであり,イ号方法に共通する基
本的な構成は,以下のとおりである(以下,戦国無双猛将伝,戦国無双2
猛将伝,戦国無双3猛将伝,真・三國無双2猛将伝,真・三國無双3猛将
伝,真・三國無双4猛将伝,真・三國無双6猛将伝,真・三國無双7猛将
伝,遙かなる時空の中で3十六夜記の各ディスクを総称して「アペンドデ
ィスク」,戦国無双,戦国無双2,戦国無双3,真・三國無双2,真・三
國無双3,真・三國無双4,真・三國無双6,真・三國無双7,遙かなる
時空の中で3の各ディスクを総称して「本編ディスク」,アペンドディス
クにおいて本編ディスクプログラムをプレイできるようにするメニューを
「MIXJOY」という。)。
① アペンドディスクをゲーム装置に装填する。
② アペンドディスクプログラムによってゲーム装置を作動させる。
③ アペンドディスクプログラムにより複数のモードが表示され,そのい
ずれかを選択する。
④ 上記③のモードのうち特定のゲームモードを選択するとゲーム画面に
遷移しゲームをプレイできる。
⑤ 上記③のモードのうちMIXJOYを選択した場合,本編ディスクを
装填するようメッセージが表示される。
⑥ メッセージに従ってアペンドディスクを取り出し,本編ディスクを装
填する。
⑦ アペンドディスクを装填するようメッセージが表示される。
⑧ メッセージに従って本編ディスクを取り出し,アペンドディスクを装
填する。
⑨ アペンドディスクにおいて,本編ディスクプログラム及びアペンドデ
ィスクプログラムによってゲーム装置を作動させ,追加されたキャラク
タを選択できるようになったり,他のモードでプレイすることができる
ようになる。
⑩ 本編ディスクではない他のゲームディスクを装填すると,本編ディス
クを装填するようメッセージが表示される。
⑪ 上記⑤においてMIXJOYを選択した後であって,本編ディスクを
装填する前であれば,MIXJOYをキャンセルできる。
以下のとおり,①イ号方法はいずれも,構成要件D,D-1及びD-2,
構成要件I及びI-2を充足せず,②イ-1号方法等は,構成要件B,G
等を充足しない。したがって,イ号方法は,本件発明A1及びA2の技術
的範囲に属するものではない。
(ア) 構成要件D,D-1及びD-2について
構成要件D,D-1及びD-2は,「第2の記憶媒体が上記ゲーム装
置に装填されるとき」に,標準ゲームプログラム等と拡張ゲームプログ
ラム等の双方によってゲーム装置を作動させるか,標準ゲームプログラ
ム等のみによってゲーム装置を作動させるかを決定するため,その文言
上,「所定のキー」を読み込んでいるかどうかを判定することを当然の
前提とする。また,本件発明A1は方法の発明であるから,経時的な要
素を無視して構成要件の解釈をすることはできないところ,本件発明A
1が,「装填」→「所定のキーが読み込まれているか判断」→「ゲーム
装置の作動」という経時的な要素を組み合わせることにより技術的思想
を実現していることは明らかである。
そして,本件明細書Aにも,【発明の作用および効果】として,「装
填」 「所定のキーが読み込まれているか判断」 「ゲーム装置の作動」
→ →
というステップから本件発明A1の技術的思想が実現されることが明記
されている(【0018】)。
加えて,控訴人は,本件特許出願Aの出願審査の際に提出した意見書
(乙A14の1,2)に,本件発明A1が「特に特徴を有」する点とし
て,「第2の記憶媒体が包含する制御プログラムまたはゲーム機にあら
かじめ装備する制御プログラムは,この第2の記憶媒体がゲーム機に装
填されたとき,ゲーム機が所定のキーを読み込んでいるか否かを判断し,
読み込まれていない場合には,この第2の記憶媒体に記憶されているゲ
ーム内容のうち,標準のゲーム内容を作動させる一方,上記所定のキー
が読み込まれている場合には,標準のゲーム内容および拡張したゲーム
内容を作動させる。」と記載しており,本件発明A1においては,記憶
媒体が装填された後に,所定のキーが読み込まれているか否かを判定す
るステップがあることが当然の前提とされていた。
以上によれば,構成要件D,D-1及びD-2は,第2の記憶媒体に
よりゲーム装置を作動させる前に,「所定のキー」が読み込まれている
か否かを判定することを前提とするものといえる。
一方,イ号方法では,アペンドディスクがゲーム機に装填されるとき
に「所定のキー」を読み込んでいるか否かを判定するという手順は取ら
れず,「所定のキー」を読み込んでいるか否かに関わりなく,アペンド
ディスクプログラムによってゲーム機が作動する。
したがって,仮に,イ号方法のアペンドディスクが本件発明A1の「第
2の記憶媒体」に該当するとしても,イ号方法は,構成要件D,D-1
及びD-2を充足しない。
(イ) 構成要件I及びI-2について
前記(ア)と同様の理由により,構成要件I及びI-2は,「標準ゲーム
プログラム」を作動させる前に「所定のキー」が読み込まれているか否
かを判定すること,「第2の記憶媒体」がゲーム装置に装填された直後
のステップで「インストラクションを表示」させ,「インストラクショ
ン」が表示される前にゲーム装置を作動させないことを前提とするもの
である。
一方,イ号方法は,アペンドディスクがゲーム機に装填されると,「所
定のキー」を読み込んでいるか否かに関わりなく,アペンドディスクプ
ログラムによりゲーム機が作動され,その時点で,本編ディスクプログ
ラムを装填するようメッセージを表示させることはなく,MIXJOY
を選択した場合に初めて,本編ディスクを装填するメッセージを表示さ
せる。
したがって,イ号方法は,構成要件I及びI-2を充足しない。
(ウ) 構成要件B,G等について
構成要件B-2及びG-2の「拡張ゲームプログラム」は,「第2の
記憶媒体」に包含されるものであって,「ゲームキャラクタの増加およ
び/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の
拡張および/または音響の豊富化を達成するように形成された」プログ
ラムである(構成要件C,H)。
一方,イ-1号方法等は,本編ディスクプログラムの全てがアペンド
ディスクに記録されているわけではなく,本編ディスクに記録された本
編ディスクプログラムの一部をゲーム機に読み込み,アペンドディスク
に記録された本編ディスクプログラムの残りの一部と組み合わせること
により,本編ディスクプログラムが完成し,ゲーム機が作動するもので
ある。すなわち,イ-1号方法等では,アペンドディスクプログラムに
記録された本編ディスクプログラムが本編ディスクプログラムに記録さ
れたプログラム及び/又はデータと組み合わされなければ,「ゲームキ
ャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化お
よび/または場面の拡張および/または音響の豊富化」を達成すること
はできないのであるから,イ-1号方法等には,「拡張ゲームプログラ
ム及び/又はデータ」及びそれを包含した「第2の記憶媒体」(構成要
件B-2,G-2)は存在せず,構成要件C及びHも充足しない。
また,本件発明A1及びA2は,「所定のキー」と「拡張ゲームプロ
グラム」を別個の概念として規定するから,「拡張ゲームプログラム」
として機能するキー情報が「拡張ゲームプログラム」に該当する場合に
は,当該キー情報は「所定のキー」になり得ない。
したがって,仮に,イ-1号方法等において,本編ディスク及びアペ
ンドディスクに記録された本編ディスクプログラムが,全体として「拡
張ゲームプログラム」に該当するとすれば,「所定のキー」(構成要件
B-1,D-1,D-2,G-1,I-1,I-2)が存在せず,それ
を包含する「第1の記憶媒体」(構成要件B-1,G-1)も存在しな
い。
⑵ 争点1-1-2(均等侵害の成否)について
ア 控訴人の主張
(ア) 構成要件D,D-1及びD-2について
本件発明A1は,ゲーム装置を標準ゲームプログラム及び/又はデー
タと拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方により作動させるか,
標準ゲームプログラム及び/又はデータのみにより作動させるかを,ゲ
ーム装置が所定のキーを読み込んでいる場合/読み込んでいない場合と
いう場合分けによって決定する点に特徴がある。
そうすると,仮に,構成要件D,D-1及びD-2が,第2の記憶媒
体がゲーム装置に装填された直後のステップで「所定のキー」を読み込
んでいるか否かを判定することを必要とするとしても,プログラム及び
/又はデータを読み込む順序,所定のキーを読み込むタイミング,所定
のキーを読み込んでいるか否かを判定するタイミングは,本件発明A1
の本質的部分ではない。
そして,イ号方法においても本件発明A1と同一の作用効果を達成す
ることができ,イ号方法実施時点において構成要件D,D-1及びD-
2の構成をイ号方法の構成に置換することは容易であったから,イ号方
法は,本件発明A1の構成と均等であって,その技術的範囲に属する。
(イ) 構成要件I及びI-2について
仮に,構成要件I及びI-2が,第2の記憶媒体がゲーム装置に装填
された直後のステップでインストラクションを表示させ,同表示がされ
る前に標準ゲームプログラムによりゲーム装置を作動させず,かつ,標
準ゲームプログラムによりゲーム装置を作動させる前に「所定のキー」
を読み込んでいるか否かを判定するステップを含むものであるとしても,
前記(ア)と同様の理由により,インストラクション表示の手順やタイミ
ング,インストラクション表示前のゲーム装置の作動,所定のキーを読
み込むタイミング,所定のキーを読み込んでいるか否かを判定するタイ
ミングは,本件発明A2の本質的部分ではない。
そして,イ号方法においても本件発明A2と同一の作用効果を達成す
ることができ,イ号方法実施時点において構成要件I及びI-2の構成
をイ号方法の構成に置換することは容易であったから,イ号方法は,本
件発明A2の構成と均等であって,その技術的範囲に属する。
イ 被控訴人の主張
(ア) 構成要件D,D-1及びD-2について
本件発明A1は,構成要件D,D-1及びD-2が定める所定のキー
を読み込むタイミング及び標準ゲームプログラムの作動タイミングによ
って,「第1のCD-ROMと第2のCD-ROMとを所有するユーザ
は,この第2のCD-ROMをゲーム機に装填したとき,この第2のC
D-ROMに記憶されている標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲー
ム内容を楽しむことが可能となる。」(本件明細書Aの【0020】)
との効果を奏するものであるから,かかる構成要件は本件発明A1の本
質的部分である。
また,本件特許出願A前に,本件ゲームシステムA1は公知の技術と
なっていたから,本件ゲームシステムA1と同様の構成を有するイ号方
法は,本件特許出願Aの当時の公知技術と同一である,又はかかる公知
技術から容易に推考できたものである。
以上のとおり,イ号方法は,少なくとも均等の第1要件及び第4要件
を満たさないから,本件発明A1の構成と均等なものではなく,本件発
明A1の技術的範囲に属しない。
(イ) 構成要件I及びI-2について
前記(ア)と同様の理由により,構成要件I及びI-2は本件発明A2
の本質的部分であり,イ号方法は,本件特許出願Aの当時の公知技術と
同一である,又はかかる公知技術から容易に推考できたものであるから,
イ号方法は本件発明A2の構成と均等なものではなく,本件発明A2の
技術的範囲に属しない。
⑶ 争点1-1-3(間接侵害(特許法101条4号)の成否)について
ア 控訴人の主張
(ア) イ号製品は,これを購入したユーザが,ゲーム装置に装填してゲーム
システムを作動させるに当たり,必然的に本件発明A1及びA2に係る
方法(イ号方法)の使用にのみ用いられる。
したがって,被控訴人がイ号製品を製造,販売又は販売の申出をする
ことは,特許法101条4号所定の間接侵害行為に該当する。
(イ) 被控訴人は,①イ号製品のみを有するユーザは本件発明A1及びA
2の方法を実施することがなく,かつ,イ号製品には,単独でも十分楽
しめる内容のゲームプログラムが備わっているから,イ号製品は,本件
発明A1及びA2の方法の使用「にのみ」用いる物ではない,②イ号製
品はイ号方法を実施する装置の生産に用いられる物に過ぎないから,イ
号製品を製造,販売又は販売の申出をすることは間接侵害行為に該当し
ない旨主張する。
しかしながら,上記①の点について,本件発明A1及びA2は,標準
ゲームプログラム及び/又はデータのみによってゲーム装置を作動させ
る構成と,標準ゲームプログラム及び/又はデータと拡張ゲームプログ
ラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる構成の両
構成を特定している点に特徴があるものであって,第2の記憶媒体を保
有するユーザであれば,第1の記憶媒体を保有していなくとも,同発明
の実施が可能である。本件発明A1及びA2の「準備されており」(構
成要件B-2,G-2)とは,ユーザが第1の記憶媒体と第2の記憶媒
体とを現に保有することではなく,第1の記憶媒体と第2の記憶媒体が
ユーザにより購入可能な形で提供されている状態を意味するものである
から,本件発明A1及びA2を実施する前提として,ユーザが第1の記
憶媒体を保有している必要はない。
次に,上記②の点について,「その方法の使用にのみ用いる物」(特
許法101条4号)には,単独で特許発明を実施する物だけでなく,他
の物と組み合わせることにより特許発明を実施できる物も含まれると解
すべきである。
したがって,被控訴人の上記主張は失当である。
イ 被控訴人の主張
(ア) 本件発明A1及びA2の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが
準備されており」(構成要件B-2,G-2)とは,実施行為者におい
て各記憶媒体がゲーム装置に装填可能に準備することを意味する。
一方,イ号製品(アペンドディスク)が装填されたゲーム機において
は,MIXJOYを選択した場合に初めて「所定のキー」を読み込んで
いるか否かによってゲーム装置を作動させるゲームプログラムが選択さ
れ,「インストラクションの表示」がされるところ,本編ディスクを保
有していない場合はMIXJOYを選択することはないから,イ号製品
のみを保有している場合に,本件発明A1及びA2の方法を実施するこ
とはない。
そして,イ号製品には,現に,同製品しか有しておらず,同製品のみ
によりゲームを楽しむユーザが一定数存在するように,それ単独でも十
分楽しめる内容のゲームプログラムが備わっているから,社会通念上,
経済的,商業的又は実用的な他の用途がある。
したがって,イ号製品は,本件発明A1及びA2の方法の使用「にの
み」用いる物ではない。
(イ) 本件発明A1及びA2を実施する物は,
「本編ディスク及びアペンド
ディスクを装填したプレイステーションからなるゲームシステム」であ
る。
一方,イ号製品は,イ号方法を実施する装置の生産に用いられる物に
過ぎないから,「その方法の使用に…用いる物」(特許法101条4号)
に該当しない。
(ウ) 以上によれば,イ号製品の製造,販売又は販売の申出をすることは,
特許法101条4号の間接侵害行為に該当しない。
⑷ 争点1-1-4(実施行為の惹起行為による不法行為の成否)について
ア 控訴人の主張
イ号方法を使用する行為は本件発明A1及びA2の実施行為に当たると
ころ,イ号方法の使用を直接的に行う主体は,イ号製品によるゲームをプ
レイするユーザである。
そうすると,被控訴人によるイ号製品の製造,販売及び販売の申出は,
ユーザによる本件発明A1及びA2の実施行為を惹起する行為であるから,
ユーザが「業として」特許発明を実施しないために直接侵害が成立しない
としても,被控訴人の行為は不法行為を構成する。
イ 被控訴人の主張
ユーザの行為は,業として方法の発明を実施するものではないから,特
許権侵害は成立し得ない。したがって,ユーザの行為を教唆ないし幇助す
る行為は不法行為を構成しない。
⑸ 争点1-2-1(本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公
然実施をされた発明に基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無)
について
ア 本件発明A1の進歩性の欠如の有無について
(ア) 被控訴人の主張
a 本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をさ
れた発明
本件特許出願A前から,ゲーム装置「ファミリーコンピュータ」及
び「ファミリーコンピューターディスクシステム」 ゲームソフト
, 「魔
洞戦紀」及び「勇士の紋章」並びにテレビを用いて実現される本件ゲ
ームシステムA1は,公然知られた発明又は公然実施をされた発明で
あった。
本件ゲームシステムA1の構成は,原判決別紙「公知発明1の構成
(被告主張)」記載のとおりである(以下「公知発明1」という。)。
b 本件発明A1と公知発明1の対比
本件発明A1と公知発明1との相違点は,以下のとおりである。な
お,公知発明1は「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を
有するから,控訴人が主張する相違点1-3ないし1-5は存在しな
い。
(相違点1-1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(た
だし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対
し,公知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である
点。
(相違点1-2)
本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な
記憶媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに
対し,公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」
が,魔洞戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀D
DIにセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報
である点。
c 相違点の容易想到性
(a) 相違点1-1
読み出し専用の記憶媒体を用いた記憶媒体は,ゲームプログラム
を記憶するCD-ROMとして,本件特許出願A前に周知であった
から,上記周知技術を適用して,公知発明1の記憶媒体を「記憶媒
体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」とす
ることは,当業者が容易に想到できたものである。
⒝ 相違点1-2
相違点1-2に係る本件発明A1の構成は,本件特許出願A前に
公然実施をされた,以下の先行技術等に開示されていた(乙A16
の2,36の1~4,37の1・2,38~40)。
① ゲーム装置「MSX」,ゲームソフト「沙羅曼蛇」及びゲーム
ソフト「グラディウス2」を用いたゲームシステムの作動方法。
② ゲーム装置「MSX2+」,ゲームソフト「プロ野球ファミリ
ースタジアムペナントレース」及び「プロ野球ファミリースタジ
アムホームランコンテスト」を用いたゲームシステム作動方法。
③ ゲーム装置「MSX2」,ゲームソフト「ぎゅわんぶらあ自己
中心派」 「ぎゅわんぶらあ自己中心派2
及び 自称!強豪雀士編」
を用いたゲームシステムの作動方法。
また,複数の媒体を買いそろえていき,これら複数の媒体を用い
てゲームプログラムを作動させることにより,ゲームシナリオの豊
富化による場面の拡張及びキャラクタの増加,音響等の豊富化等を
達成することは,ゲームソフト「ソーサリアン」,「大戦略Ⅱ」と
「データコレクション」,「太平洋の嵐DX」と「バンディッツ」,
「信長の野望・武将風雲録」により,本件特許出願A前に周知であ
った。
しかるところ,公知発明1と上記先行技術及び周知技術は,いず
れも,ビデオゲームという技術分野が同一であり,複数の媒体を買
いそろえていき,これら複数の媒体を用いて標準ゲームプログラム
及び/又はデータのみならず拡張ゲームプログラム及び/又はデー
タを作動させる点で,技術思想が同一である。
そして,公知発明1における「所定のキー」に相当する「キャラ
クタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは,
①魔洞戦紀DDⅠが装填されたことを示すデータ及び②キャラクタ
(じゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータであるところ,
上記②の「キャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上である」と
いう条件は,ゲームの難易度を適切なレベルに設定したり,娯楽性
を高めたりするためのゲームのストーリー設計において,当業者が
任意に設定できる条件である反面,上記①の「魔洞戦紀DDⅠが装
填された」という条件(以下「条件1」という。)のみを「所定の
キー」としても,シリーズもののディスクを買いそろえてゆくこと
により,標準のゲーム内容に加えて拡張されたゲーム内容を楽しむ
ことを可能とさせるという,公知発明1の作用効果は失われないか
ら,条件1のみによって所定のキーを構成することは,当業者にお
いて適宜設計できる事項である。
⒞ 控訴人は,公知発明1において,「所定のキー」をセーブデータ
を含まないものとすることに阻害事由がある旨主張する。
しかしながら,相違点1-1及び1-2は,本件訂正Aにより,
「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体」が除かれ,その結果,「所定のキー」からセ
ーブデータが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)によ
り生じたものである。
除くクレームとする訂正により,形式的に主引用発明との間に相
違点が存在すると認められる場合は,①相違点に係る構成によって,
技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存在するか否かを検
討し,②技術的意義が認められない場合には,実質的な相違点とは
いえず新規性が否定されると解すべきであり,③技術的意義が認め
られた場合には,当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎない
か否かを検討し,設計事項に過ぎない場合には,進歩性が否定され
ると解すべきである。
本件訂正Aは,シリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃え
ていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむことができるよう
にするという本件発明A1の課題との関係では,技術的な解決手段
を示したものとはいえず,技術的意義がないものであって,本件発
明A1の作用効果や技術的思想は,本件訂正Aの前後で変わらない。
したがって,相違点1-1及び1-2は,実質的な相違点とはい
えず,少なくとも,当業者が適宜なし得る設計事項であるとして本
件発明A1の進歩性を否定すべきである。
(イ) 控訴人の主張
a 本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をさ
れた発明
本件ゲームシステムA1の構成は,原判決別紙「公知発明1の構成
(原告主張)」記載のとおりである。
b 本件発明A1と公知発明1の対比
本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,
標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能
となるものであるから(本件明細書Aの【0020】等),標準のゲ
ーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデータを含まない
と解される。
公知発明1において,キャラクタがレベル2からスタートできるよ
うにすることは,標準ゲームプログラムのみの場合のキャラクタのレ
ベル値「レベル1」を「レベル2」に置き換えるものに過ぎず,標準
のゲームに対して,何らゲーム内容を「加え」「拡張」するものでは
ないから(例えば,「レベル1」と「レベル2」とは選択できない。
また,「魔洞戦紀」DDIからレベル16以上のキャラクタの転送を
することなく「勇士の紋章」のゲームをプレイしても,ゲームの進行
によりゲームキャラクタのレベルの値は「レベル2」に到達する。 ,

「標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことが可
能となる」(本件特許A明細書【0020】等)ものではない。
また,公知発明1において,神殿で祈ることで回復アイテム(「く
さのつゆ」及び「しろきのこ」)を取得できるようにすることは,神
殿で祈った後の回復アイテムの数を,例えば,神殿で祈る前が「1個」
であれば,祈った後は「2個」に置き換えるものであり,標準のゲー
ム(祈った後の回復アイテムの数「1個」)に対して,何らゲーム内
容を「加え」「拡張」するものではないから(例えば,回復アイテム
の数「1個」と「2個」は選択できない。また,「魔洞戦紀」DDI
からレベル16以上のゲームキャラクタの転送をすることなく「勇士
の紋章」のゲームをプレイしても,ゲームの進行により回復アイテム
の数は「2個」になる。),「標準のゲーム内容に加え,拡張された
ゲーム内容を楽しむことが可能となる」(本件特許A明細書【002
0】等)ものではない。
したがって,本件発明A1と公知発明1とを対比すると,相違点1
-1及び1-2のほかに,以下の相違点が存在する。
(相違点1-3)
本件発明A1の「第2の記憶媒体」は,「所定の標準ゲームプログ
ラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよ
び/またはデータを包含する」ものであるのに対し,公知発明1の「勇
士の絞章DDⅡ」は,「標準ゲームプログラムおよび/またはデータ
に加えて,魔洞戦紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀にお
けるレベルが16以上(魔洞戦紀DDⅠに記憶されたセーブデータ)
であるときには,そのキャラクタの勇士の絞章におけるレベルが最初
から2となり,神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。が
んばるのだぞ。 とのメッセージが表示され,
」 アイテム「くさのつゆ」
及び「しろきのこ」が1つ増えるという動作機能を実行するように標
準ゲームプログラムおよび/またはデータを置き換える置換ゲームプ
ログラムおよび/またはデータを包含する」ものであって,「拡張ゲ
ームプログラムおよび/またはデータ」を包含しない点。
(相違点1-4)
本件発明A1は,「上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデー
タは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲ
ームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の
豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成
するためのゲームプログラムおよび/またはデータ」であるのに対し,
公知発明1は,「置換ゲームプログラムおよび/またはデータは,標
準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して,キャラクタのレ
ベルの置き換え,またはキャラクタのためのアイテムについての動作
機能の置き換えを達成するように形成されたものであって,ゲームキ
ャラクタの増加,ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化,場面の拡張
又は音響の豊富化のいずれも達成するようには形成されていないもの」
である「置換ゲームプログラムおよび/またはデータ」であり,「拡
張ゲームプログラムおよび/またはデータ」ではない点。
(相違点1-5)
本件発明A1では,「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込ん
でいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと
上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲー
ム装置を作動させ」るのに対し,公知発明1では,「ファミリーコン
ピュータが,魔洞戦紀DDIから,キャラクタのレベルが21,すな
わち16以上(魔洞戦紀DDⅠに記憶されたセーブデータ)であるこ
とを示す情報を読み込んでいる場合には,置換ゲームプログラムおよ
び/またはデータによって置き換えられた標準ゲームプログラムおよ
び/またはデータのみによってファミコンゲームシステムを作動させ」
るのであって,「標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」 「拡

張ゲームプログラムおよび/またはデータ」の双方によってゲーム装
置を作動させるものではない点。
c 相違点の容易想到性について
公知発明1には,シリーズ化された一連のゲームソフトの前作を有
していることで,後作を単体でプレイしたのでは達成することのでき
ないゲーム内容を楽しめるという作用,機能が存在しないから,被控
訴人の主張する先行技術と作用,機能が共通しない。
また,被控訴人が主張する周知技術は,本件発明A1に関連した技
術分野における技術ではないから,かかる技術の存在をもって,公知
発明1に「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を設けるこ
とが設計的事項であるとはいえない。
さらに,書き換え可能なディスクをゲームソフト供給媒体として採
用し,セーブデータを「所定のキー」とする構成である公知発明1に,
書き換えができないROMカセットをゲームソフト供給媒体とする構
成の上記先行技術を適用することには阻害要因がある。
したがって,相違点1-1及び1-2に係る本件発明A1の構成は,
当業者が容易に想到できたものではない。
イ 本件発明A2の進歩性の欠如の有無について
(ア) 被控訴人の主張
a 本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をさ
れた発明
本件ゲームシステムA1の構成は,原判決別紙「公知発明2の構成
(被告主張) 記載のとおりでもある
」 (以下「公知発明2」という。 。

b 本件発明A2と公知発明2の対比
本件発明A2と公知発明2との相違点は,以下のとおりである。な
お,公知発明2は「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を
有するから,控訴人が主張する相違点2-4ないし2-6は存在しな
い。
(相違点2-1)
本件発明A2は,「記憶媒体(ただし…セーブデータを記憶可能な
記憶媒体を除く。)」であるのに対し,公知発明2では,セーブデー
タなどが記憶可能なディスクである点。
(相違点2-2)
本件発明A2の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な
記憶媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに
対し,公知発明2では,魔洞戦紀DDⅠに包含される「所定のキー」
が,魔洞戦紀DDⅠに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀D
DIにセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報
である点。
(相違点2-3)
本件発明A2は,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填さ
れ,かつ,上記所定のキーが読み込まれていないときのみに,この第
2の記憶媒体中の上記制御プログラムは,上記ゲーム装置に他の記憶
媒体を装填させるインストラクションを表示させ」るのに対し,公知
発明2では,「勇士の絞章DDⅡがディスクシステムに挿入されると
き,勇士の絞章DDⅡ中のメニュー制御プログラムは,『まどうせん
きのゆうけんし』とのメニュー項目をテレビの画面に表示し,さらに
テレビの画面の『まどうせんきのゆうけんし』が選択されたときに,
『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクション
を表示させ」るのであって,所定のキーが読み込まれていないときの
みにインストラクションを表示させるものではない点。
c 相違点の容易想到性
(a) 相違点2-1及び2-2
前記ア(ア)cと同様の理由により,相違点2-1及び2-2に係
る本件発明A2の構成は,当業者が容易に想到し得たものである。
⒝ 相違点2-3
ディスクなどの記憶媒体の装填が,後のソフトウェアの処理に関
して意味を持つ場合に,画面等を介して操作者に対しディスクを装
填することを促すことや,現在受け付けられない操作又は必要とさ
れない操作について,操作者に対してその操作を促す表示をしない
ようにすることは,当業者による設計的事項であるから,相違点2
-3に係る本件発明A2の構成は,当業者が容易に想到し得たもの
である。
(イ) 控訴人の主張
a 本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をさ
れた発明
本件ゲームシステムA1の構成は,原判決別紙「公知発明2の構成
(原告主張)」記載のとおりである。
b 本件発明A2と公知発明2の対比
前記ア(イ)bと同様の理由により,本件発明A2の「拡張ゲームプロ
グラムおよび/またはデータ」は,標準のゲーム内容を置き換えるゲ
ームプログラム及び/又はデータを含まないと解される。
したがって,本件発明A2と公知発明2とを対比すると,相違点2
-1ないし2-3のほかに,以下の相違点が存在する。
(相違点2-4)
本件発明A2の「第2の記憶媒体」は,「所定の標準ゲームプログ
ラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよ
び/またはデータを包含する」ものであるのに対し,公知発明2の「勇
士の絞章DDⅡ」は,「標準ゲームプログラムおよび/またはデータ
に加えて,魔洞戦紀DDIから転送されたキャラクタの魔洞戦紀にお
けるレベルが16以上(魔洞戦紀DDⅠに記憶されたセーブデータ)
であるときには,そのキャラク夕の勇士の絞章におけるレベルが最初
から2となり,神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。が
んばるのだぞ。 とのメッセージが表示され,
」 アイテム「くさのつゆ」
及び「しろきのこ」が1つ増えるという動作機能を実行するように標
準ゲームプログラムおよび/またはデータを置き換える置換ゲームプ
ログラムおよび/またはデータを包含する」ものであって,「拡張ゲ
ームプログラムおよび/またはデータ」を包含しない点。
(相違点2-5)
本件発明A2は,「上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデー
タは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲ
ームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の
豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成
するためのゲームプログラムおよび/またはデータ」であるのに対し,
公知発明2では,「置換ゲームプログラムおよび/またはデータは,
標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して,キャラクタの
レベルの置き換え,またはキャラクタのためのアイテムについての動
作機能の置き換えを達成するように形成されたものであって,ゲーム
キャラクタの増加,ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化,場面の拡
張又は音響の豊富化のいずれも達成するようには形成されていないも
の」である「置換ゲームプログラムおよび/またはデータ」であり,
「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」ではない点。
(相違点2-6)
本件発明A2は,「装填された他の記憶媒体が上記所定のキーを包
含する上記第1の記憶媒体である場合には,上記第2の記憶媒体中の
上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて上記拡張ゲ
ームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作
動させ」るのに対し,公知発明2では,「挿入された他のディスクが,
キャラクタのレベルが21,すなわち16以上(魔洞戦紀DDⅠに記
憶されたセーブデータ)であることを示す情報を包含する上記魔洞戦
紀DDIである場合には,置換ゲームプログラムおよび/またはデー
タによって置き換えられた標準ゲームプログラムおよび/またはデー
タのみによってファミコンゲームシステムを作動させ」るのであって,
「標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」と「拡張ゲームプロ
グラムおよび/またはデータ」の双方によってゲーム装置を作動させ
るのではない点。
c 相違点の容易想到性について
(a) 相違点2-1及び2-2
前記ア(イ)cと同様の理由により,相違点2-1及び2-2に係
る本件発明A2の構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。
⒝ 相違点2-3
相違点2-3に係る本件発明A2の構成は,被控訴人が主張する
ような設計的事項ではなく,当業者が容易に想到し得たものではな
い。
⒞ 小括
以上のとおり,相違点2-1ないし2-3に係る本件発明A2の
構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。
⑹ 争点1-2-2(MSX規格用のゲームソフト「ぎゅわんぶらあ自己中心
派」及び「ぎゅわんぶらあ自己中心派2 自称!強豪雀士編」並びにMSX
規格のマシンを用いて実現されるゲームシステムにより公然知られた発明に
基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無)について
ア 被控訴人の主張
(ア) 本件発明A1の進歩性の欠如
a 本件特許出願A前に公然知られた発明
(a) 本件特許出願A前に日本国内で販売されていた,MSX規格用の
ゲームソフト「ぎゅわんぶらあ自己中心派」(昭和62年11月1
1日発売。乙A61。以下「ぎゅわんぶらあ」という。)と同「ぎ
ゅわんぶらあ自己中心派2 自称!強豪雀士編」(平成元年4月2
1日発売。乙A17の1。以下「ぎゅわんぶらあ2」という。),
MSX規格のゲーム装置「MSX2」
(昭和60年6月16日発売。
乙A61。以下「MSX2」という。)及びテレビを用いて実現さ
れるゲームシステム(以下「本件ゲームシステムA3」という。)
により,以下の発明が,公然知られたものであった(以下「公知発
明3」という。)。
a ゲームプログラム及びデータを記憶するとともにセーブデー
タを記憶できない記憶媒体をMSX規格のマシン「MSX2」に
装填してゲームシステムを作動させる方法であって,
b 上記記憶媒体は,
b-1 「ぎゅわんぶらあ」のゲームプログラム及びデータと,切
換キーとを包含する「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットと,
b-2 「ぎゅわんぶらあ2」の所定の標準ゲームプログラム及び
データに加えて,追加で12名の対戦相手を選択して対戦が
できること,及び,「勝ち抜き戦」,「タコ討伐戦モード」
という場面を拡張する所定の拡張ゲームプログラム及びデー
タを包含する「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットとが準備
されており,
c 上記拡張ゲームプログラム及びデータは,上記標準ゲームプロ
グラム及びデータに加えて,ゲームキャラクタの増加及び場面の
拡張を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータであ
り,
d 上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットが上記ゲーム装置に
装填されるとき,
d-1 MSX規格のマシン「MSX2」が上記切換キーを読み込
んでいる場合には,上記標準ゲームプログラム及びデータと
上記拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム
装置を作動させ,
d-2 上記切換キーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲー
ムプログラム及びデータのみによってゲーム装置を作動させ
ることを特徴とする,
e ゲームシステム作動方法。
⒝ 控訴人は,標準ゲームプログラム及びデータ以外に「ぎゅわんぶ
らあ2」ROMカセットに記憶されているゲームデータは,対戦相
手「持杉ドラ夫」のゲームデータのみである旨主張する。
しかしながら,公知発明3の拡張ゲームプログラムが「ぎゅわん
ぶらあ2」ROMカセットに記憶されていることは,ゲームプログ
ラムの解析結果及びゲーム動作により確認されている。
すなわち,「ぎゅわんぶらあ2」の「拡張ゲームプログラム」は,
追加で12名の対戦相手を選択できる機能を有するものであるが,
これらの対戦相手の氏名のデータは,「ぎゅわんぶらあ2」ROM
カセットに記録されている(乙A37の1)。また,「ぎゅわんぶ
らあ2」の「拡張ゲームプログラム」は,「タコ討伐戦」という場
面によってMSX2を作動させるが,この場面のグラフィックのデ
ータは,「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録されている(乙
A63)。
そして,ゲーム装置MSX2の起動時に「ぎゅわんぶらあ」RO
Mカセットが挿入されていれば,その後挿入されていなくとも,
「ぎ
ゅわんぶらあ2」の「拡張ゲームプログラム」によって,ゲーム装
置MSX2が作動することが確認されている(乙A36の1, 。
3)
なお,控訴人は,「ぎゅわんぶらあ」と「ぎゅわんぶらあ2」の
両方のROMカセットを装填し続けていない場合は,画面がフリー
ズする,ゲームが再起動するなどの現象が生じるため(甲A53),
対戦相手を追加した状態でゲームを続行することは不可能である旨
主張するが,失当である。
被控訴人において,上記現象が生じる直前に,
「ぎゅわんぶらあ」
ROMカセットを再装填して,「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセッ
トの挙動を確認したところ,①「ぎゅわんぶらあ」を装填したまま
でゲームを進行した場合と同様の画面遷移となったこと,②「ぎゅ
わんぶらあ」を装填していない状態でも,拡張ゲームプログラムに
よるゲーム進行が続行できることが確認された(乙A76)。
かかる事実は,別紙4のフローチャートのように,「ぎゅわんぶ
らあ2」では,複数の段階で,「ぎゅわんぶらあ」に記憶されてい
る切換キーを読み込んでいるか否かを判断して,「ぎゅわんぶらあ
2」の拡張ゲームプログラムによってゲーム装置を作動させるか否
かを判断していることを裏付けるものである。公知発明3は,常に
「ぎゅわんぶらあ」を装填していないと,「ぎゅわんぶらあ2」の
拡張ゲームプログラムによってゲーム装置を作動させないというも
のではない。
b 本件発明A1と公知発明3の対比
本件発明A1と公知発明3の相違点は,以下のとおりである。
(相違点1)
本件発明A1の記憶媒体は,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え
可能な記憶媒体であるのに対して,公知発明3の記憶媒体は,2つの
記憶媒体を同時に装填することが可能な記憶媒体である点。
c 相違点の容易想到性
ゲームソフトの記憶媒体に大容量のCD-ROMを用いることは,
本件特許出願A前の周知技術,慣用技術であり(乙A24,25,4
5,50,65~67),かつ,異なる記憶媒体であってもそのゲー
ムを移植することは,当業者がしばしば行っていたことであるから(乙
A17の1,乙A56,57,62の1~4),公知発明3のゲーム
プログラム等の記憶媒体としてCD-ROMを採用すること自体は,
当業者が容易に想到し得たものである。
そして,公知発明3は,「ぎゅわんぶらあ」と「ぎゅわんぶらあ2」
という2つの記憶媒体を同時にゲーム装置に装填することで,「ぎゅ
わんぶらあ」の切換キーをゲーム装置に読み込み,これにより「ぎゅ
わんぶらあ2」の拡張ゲームプログラムでゲーム装置を作動させるも
のであるところ,前記⑸のとおり,公知発明1では,切換キーをゲー
ム装置に読み込む方法として,ゲーム装置の作動中に入れ換え可能な
記憶媒体を用いる方法が開示されている。また,かかる方法は,公知
発明1で開示されているセーブデータを記憶可能な記憶媒体の場合だ
けでなく,記憶媒体をCD-ROMとするゲーム装置においても採用
されている。
そうすると,公知発明3の「ぎゅわんぶらあ」及び「ぎゅわんぶら
あ2」を,記憶媒体を装填するスロットが1つであり,記憶媒体をC
D-ROMとするゲーム装置に移植する場合に,公知発明1に開示さ
れている方法で切換キーをゲーム装置に読み込む方法(相違点1に係
る本件発明A1の構成)を採用することは,当業者が容易に想到し得
たものである。
(イ) 本件発明A2の進歩性の欠如
a 本件発明A2と公知発明3の対比
本件発明A2と公知発明3の相違点は,以下のとおりである。
(相違点2-1)
本件発明A2の記憶媒体は,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え
可能な記憶媒体であって,半導体ROMカセットを除いているのに対
して,公知発明3の記憶媒体は,2つの記憶媒体を同時に装填するこ
とが可能な記憶媒体であり,半導体ROMカセットである点。
(相違点2-2)
本件発明A2は,第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され,か
つ,所定のキーが読み込まれていないときのみに,この第2の記憶媒
体中の制御プログラムは,ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるイ
ンストラクションを表示させるのに対して,公知発明3は,インスト
ラクション表示をしない点。
b 相違点の容易想到性
前記(ア)cと同様の理由により,相違点2-1に係る本件発明A2
の構成を採用することは,公知発明2に開示された技術を採用するこ
となどにより,当業者が容易に想到し得たものである。
これと同様に,相違点2-2に係る本件発明A2の構成も,公知発
明2に開示されているインストラクション表示を採用することにより,
当業者が容易に想到し得たものである。特に,「ぎゅわんぶらあ2」
の取扱説明書(乙A39)には,「ぎゅわんぶらあ自己中心派を同時
に使用していると,モード選択画面に変わり,3種類のモードを選ぶ
ことができます。」,「『ぎゅわんぶらあ自己中心派』,『自称!強
豪雀士編』の両方を組み合わせて遊ぶ場合,…3種類のモードを選ぶ
ことができます。」とのインストラクションが記載されており,これ
を単にゲーム装置の画面に表示するだけであるから,そのようなイン
ストラクション表示を行う動機付けもある。
さらに,ある行動をするように促すための表示をすることは,その
行動をする必要がある場合にのみ意味があり,その行動をする必要が
ない場合にまで行動を促す表示をすることが無意味であることは経験
則上明らかであるから,上記のインストラクション表示をする場合を,
ゲーム装置に所定のキーを読み込ませる必要がある場合に限ることは,
当業者が適宜なし得ることである。
イ 控訴人の主張
(ア) 本件発明A1の進歩性の欠如の有無について
a 本件特許出願A前に公然知られた発明について
本件ゲームシステムA3により実施される方法は,MSX規格のマ
シンを起動する前から,
「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットがROM
スロット1に,
「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットがROMスロット2
にそれぞれ装填され,かつ,ゲーム装置の作動中に装填され続けてい
ることを条件として,
「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットと「ぎゅわん
ぶらあ2」ROMカセットの両方のROMカセットに記録されたゲー
ムプログラム及び/又はデータを読み込んで,対戦相手の追加及び対
戦相手が追加された状態での「ぎゅわんぶらあ2」のゲームの進行が
行われるゲームシステム作動方法であり(甲A52,53),両ROM
カセットは,MSX規格のマシンの作動中に入れ換えできない記憶媒
体である。
したがって,公知発明3は,以下のとおり認定されるべきである。
「ROMスロット1及びROMスロット2の2つのROMスロット
を有するMSX規格のマシンに半導体ROMカセットを装填してゲー
ムシステムを作動させる方法であって,
『ぎゅわんぶらあ2』ROMカセットがROMスロット1に,
『ぎゅ
わんぶらあ』ROMカセットがROMスロット2にそれぞれ装填され
た状態で同マシンが起動され,かつ,同マシンの作動中に両ROMカ
セットが装填され続けることを条件として,
『ぎゅわんぶらあ』ROMカセットと『ぎゅわんぶらあ2』ROM
カセットの双方のROMカセットに記録されたゲームプログラム及び
/又はデータを読み込んでゲーム装置を作動させることを特徴とする,
ゲームシステム作動方法。」
b 本件発明A1と公知発明3の対比
本件発明A1と公知発明3とを対比すると,少なくとも以下の相違
点がある。
(相違点1-1)
本件発明A1の記憶媒体は,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え
可能な記憶媒体であるのに対し,公知発明3のROMカセットは,2
個のROMスロットを有するMSX規格のマシンを起動する前から両
方のROMスロットにROMカセット 「ぎゅわんぶらあ」
( ROMカセ
ット及び「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)が装填され,かつ,
当該マシンの作動中に当該ROMカセットが装填され続ける,入れ換
え不可能な記憶媒体である点。
(相違点1-2)
本件発明A1においては,第2の記憶媒体がゲーム装置に装填され
るとき,ゲーム装置が「所定のキー」を読み込んでいる場合には,標
準ゲームプログラム及び/又はデータと拡張ゲームプログラム及び/
又はデータの双方によってゲーム装置を作動させるのに対し,公知発
明3においては,
「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットがROMスロッ
ト1に,
「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットがROMスロット2にそれ
ぞれ装填された状態でMSX規格のマシンが起動され,かつ,同マシ
ンの作動中に両ROMカセットが各ROMスロットに装填され続ける
ことを条件として,
「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットと「ぎゅわんぶ
らあ2」ROMカセットの双方のROMカセットに記録されたゲーム
プログラム及び/又はデータを読み込んでゲーム装置を作動させる点。
c 相違点の容易想到性について
(a) 相違点1-1
公知発明3のMSX規格のマシンは,ROMスロット1及びRO
Mスロット2の2つのROMスロットを有し,2個の記憶媒体に記
録された情報を両方の記憶媒体を入れ換えることなく読み込むこと
ができるから,同発明に入れ換え可能な記憶媒体を採用する動機付
けはない。さらに,同発明のMSX規格のマシンでは,作動中にR
OMカセットを挿抜することが禁止されており(甲A54) マシン

の作動中にROMカセットの挿抜を行うと,ショート等が生じる結
果,ROMカセットに過電流が流れてROMカセットの内容が破壊
される等の不具合が生じることから,入れ換え可能な記憶媒体をR
OMスロット1で使用することについて,阻害要因がある。
また,公知発明3を,記憶媒体を装填するROMスロットが1つ
であり記憶媒体をCD-ROMとするゲーム装置に置換した発明に
して,さらに,公知発明1に開示されている方法で,切換キーをゲ
ーム装置に読み込む方法を採用する動機付けはない。公知発明1は,
前作のゲームをゲームキャラクタのレベルが16となるまでプレイ
したという,ユーザの技量や努力に対する評価ないし表彰として,
ゲーム内容を置換することを技術思想とするものであり,当該技術
思想の実現のために,セーブデータを記憶可能なディスクを記憶媒
体とし, 魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21である

ことを示す情報」
(セーブデータ)を切換キーとすることを本質的な
特徴とするものであるから,かかる特徴と相反し,セーブデータを
記憶不可能なROMカセットを記憶媒体とする公知発明3に公知発
明1を適用することには,阻害要因がある。
⒝ 相違点1-2
前記(a)と同様の理由により,公知発明3に,「魔洞戦紀にセーブ
されたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」 セーブデ

ータ)を切換キーとする公知発明1の構成をあえて適用する動機付
けはなく,むしろ阻害要因がある。
(イ) 本件発明A2の進歩性の欠如の有無について
a 本件特許出願A前に公然知られた発明について
前記(ア)aと同様の理由により,本件ゲームシステムA3により実
施される発明は,以下のとおり認定されるべきである。
「ROMスロット1及びROMスロット2の2つのROMスロット
を有するMSX規格のマシンに半導体ROMカセットを装填してゲー
ムシステムを作動させる方法であって,
インストラクションは表示されず,
『ぎゅわんぶらあ2』ROMカセットがROMスロット1に,
『ぎゅ
わんぶらあ』ROMカセットがROMスロット2にそれぞれ装填され
た状態で同マシンが起動され,かつ,同マシンの作動中に両ROMカ
セットが装填され続けることを条件として,
『ぎゅわんぶらあ』ROMカセットと『ぎゅわんぶらあ2』ROM
カセットの双方のROMカセットに記録されたゲームプログラムおよ
び/またはデータを読み込んでゲーム装置を作動させることを特徴と
する,
ゲームシステム作動方法。」
b 本件発明A2と公知発明3の対比
本件発明A2と公知発明3とを対比すると,少なくとも以下の相違
点がある。
(相違点2-1)
本件発明A2の記憶媒体は,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え
可能な記憶媒体(半導体ROMカセットを除く)であるのに対し,公
知発明3の記憶媒体はROMカセットであり,また,当該ROMカセ
ットは,2個のROMスロットを有するMSX規格のマシンを起動す
る前から両方のROMスロットにROMカセット(「ぎゅわんぶらあ」
ROMカセット及び「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)が装填さ
れ,かつ,当該マシンの作動中に当該ROMカセットが装填され続け
る,入れ換え不可能な記憶媒体である点。
(相違点2-2)
本件発明A2は,第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され,か
つ,所定のキーが読み込まれていないときのみに,第2の記憶媒体中
の制御プログラムがゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるインスト
ラクションを表示させるのに対し,公知発明3は,インストラクショ
ンを表示させない点。
(相違点2-3)
本件発明A2においては,インストラクションに従って装填された
記憶媒体が「所定のキー」を包含する第1の記憶媒体である場合には,
第2の記憶媒体中の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加えて
拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を
作動させるのに対し,公知発明3においては,インストラクションに
従って「ぎゅわんぶらあ」が装填されることはなく(MSX規格のマ
シンを起動する前からMSX規格のマシンのROMスロット2に「ぎ
ゅわんぶらあ」ROMカセットが装填されており,MSX規格のマシ
ンの作動中に「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを装填することはで
きない。, ぎゅわんぶらあ2」
)「 ROMカセットがROMスロット1に,
「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットがROMスロット2にそれぞれ装
填された状態でMSX規格のマシンが起動され,かつ,同マシンの作
動中に両ROMカセットが装填され続けることを条件として, ぎゅわ

んぶらあ」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットの
双方のROMカセットに記録されたゲームプログラム及び/又はデー
タを読み込んでゲーム装置を作動させる点。
c 相違点の容易想到性について
前記(ア)cと同様の理由により,相違点2-1及び2-3に係る本
件発明A2の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たもの
ではない。
また,相違点2-2に係る本件発明A2の構成は,被控訴人が主張
するように当業者が適宜なし得ることなどではなく,当業者が容易に
想到し得たものではない。
⑺ 争点1-3(控訴人の損害の有無及び損害額)について
ア 控訴人の主張
(ア) イ号製品の売上高
イ号製品の販売開始日は,別紙1「販売開始日一覧表」記載のとおり
であり,販売開始日から本件特許権Aの存続期間満了日である平成26
年12月9日までの売上高(小売価格(消費税込み))は,総額89億
1231万1150円を下らない。
なお,イ号製品のうち,イ-1号製品等を除くイ-9,16ないし2
2,23②及び24ないし40号製品(以下「イ-9号製品等」と総称
することがある。)の上記期間における売上高は,別紙5「被控訴人の
経理システムで売上高を把握できないイ号製品の売上高(税抜き)」の
「売上高(円)」欄及び別紙6「被控訴人の経理システムで売上高を把
握できるイ号製品の売上高(税抜き)」の「小売価格を基礎とした売上
高(円)」欄記載の金額に,5%の消費税を加算した金額を下らない。
(イ) 特許法102条3項の実施料相当額算定の基礎となる販売価格
a 本件発明A1及びA2は,イ号製品のユーザにおいて実施されるゲ
ームシステム作動方法であるから,同方法に用いられるイ号製品につ
き実施料相当額を算定するのであれば,イ号製品のユーザへの販売価
格である小売価格を基礎とするのが合理的である。イ号製品のような
本件特許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者
の許諾は,当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とするか
ら,その対価は,当該製品がユーザに販売される際の販売価格を基礎
とする必要がある。
また,イ号製品は消費税を収受して販売するものである以上,消費
税相当額についても売上高に含めて,実施料相当額を算定するのが合
理的である。
仮に,イ号製品の卸値価格を基礎にするとしても,被控訴人が経理
システム上売上を把握できないイ号製品には様々な種類が存在するか
ら,イ号製品の卸値価格が一律小売価格の65%である旨の被控訴人
の主張は不自然である。また,被控訴人の主張する正味販売価格は,
一義的・画一的に確定できる価格ではないから,特許法102条3項
の損害額算定の基礎とすべきではない。
b 被控訴人は,イ号製品に同梱されているアイテムがある場合,間接
侵害品の売上高は同梱されているアイテム数で補正した金額とするの
が合理的である旨主張する。
しかしながら,イ号製品は,同梱されたアイテムを含む製品全体で
一個の商品(販売単位)であり,製品の販売等行為全体が一個の特許
権侵害を構成する。そして,いずれのイ号製品も,ユーザが本件発明
A1及びA2の方法を実施してゲームをプレイするために当該製品を
購入するという事実は否定されないから,被控訴人の上記主張は失当
である。
加えて,以下のとおり,被控訴人の上記主張が不合理であることを
示す諸事情が存在する。
(a) イ-18,21,23②,25,27,30,32,36,38
及び40号製品は,本件発明A1及びA2の「第1の記憶媒体」と
「第2の記憶媒体」に相当する各記憶媒体を同梱するものである。
これらの製品は,同梱された各記憶媒体の両方を使用して,本件発
明A1及びA2の特徴である特典開放を積極的に行わせるためのも
のである。
⒝ イ-19及び23②号製品に同梱されている製品は,単体でゲー
ムをプレイできるものではなく,本件発明A1及びA2の「第2の
記憶媒体」に相当するゲームソフトで使用する,キャラクタの能力
値等が最大の状態のデータが記録されているだけの,同ソフトの付
属物であるから(甲A67),ゲームソフトと等価値ではない。
⒞ イ-39及び40号製品に同梱されている製品は,ゲームのキャ
ラクタを描いたカード,シール等,ゲームのプレイと無関係の物品
に過ぎず,ゲームソフトの従たる付属物であるから,ゲームソフト
と等価値ではない。
(ウ) 本件特許Aの実施料率
以下の諸事情を考慮すると,本件特許Aの実施料率は,前記(イ)のイ号
製品の販売価格(小売価格(消費税込み))の10%を下らない。
a 「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調
査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する
実態把握~」本編2(乙B28。以下「本件調査報告書」という。)
によれば,「家具,ゲーム」の技術分野における実施料率は,平均2.
5%,最大値4.5%,最小値0.5%である。
そして,特許法102条3項が,特許権侵害に対する民事上の救済
制度の見直しを図った規定であることからすると,同条に係る実施料
率は,通常のライセンス契約(訴訟上の和解を含む。)における実施
料率を超える水準となるべきであり,本件特許権Aの重要性に鑑みれ
ば,上記実施料率は,「家具,ゲーム」の実施料率の最大値4.5%
の2倍を超える水準とするのが合理的である。
b 本件発明A1及びA2は,前作ソフトとの組合せにより,後作ソフ
ト単体では実現できない,ゲームキャラクタの増加,場面の拡張等の
特典を開放することによって,ユーザにとっては,1回の購入金額が
適正なシリーズもののCD-ROMを買い揃えてゆくことにより,最
終的に極めて豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,
メーカーにとっては,開発コストが相当かかる膨大な内容のゲームソ
フトを,ユーザが購入しやすい方法で実質的に提供することができる
という効果を奏する(本件明細書Aの【0022】)。本件発明A1
及びA2は,被控訴人がイ号製品の取扱説明書に明記してユーザに向
けて積極的に訴求し(甲A5~11),ユーザ向けの雑誌でも特記さ
れており(甲A59~64),イ号方法における極めて重要な要素で
ある。
c 本件発明A1及びA2は,単体のソフトウェアないしシステムの要
素として注目されるにとどまらず,需要者から,被控訴人の商号を冠
して「コーエー商法」と呼称されるなど(甲A65),被控訴人のゲ
ーム事業全体のビジネスモデルと評価されて,極めて高い関心を集め,
商業的成功の要因とも評価されている。
d 本件特許Aは,判決A(甲A51)において有効性が確認され,本
件訴訟においても,裁判所から有効である旨の心証が示されたもので
ある。かかる事実は,特許無効リスクを払拭するとともに,被控訴人
の悪質性を基礎付ける。
e 控訴人と被控訴人は,いずれも国内大手ゲームメーカーであり,直
接的かつ極めて強い競合関係にある。また,控訴人は,競業者とはク
ロスライセンス契約しか締結せず,金銭と引換えに実施許諾を行う通
常のライセンス契約は締結しない方針を採用する。
そのため,控訴人が被控訴人に対して本件特許Aの実施許諾を行う
場合に,業界水準の実施許諾料とすることはあり得ず,極めて高い実
施許諾料が必要となる。
f イ号製品は,被控訴人の主力商品であり,販売規模は大きく,その
利益率は40%を下らない。
g 仮に,イ号製品の一部が本件発明A1及びA2の技術的範囲に属し
ないならば,被控訴人は,特典開放に関する技術として上記発明以外
の技術がある中で,イ号製品の大部分につき,あえて上記発明の技術
的範囲に属する技術を選択したことになる。かかる事実は,類似技術
に対する本件発明A1及びA2の有用性を示すものであり,本件特許
Aの需要の高さを示すものである。
なお,被控訴人は,セーブデータを「所定のキー」とする方法,「拡
張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,第2の
記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法等により,
本件発明A1及びA2を容易に回避可能である旨主張するが,①セー
ブデータを「所定のキー」とする方法と本件発明A1及びA2とは技
術思想が異なり,作用効果も異なること(判決A),②「拡張ゲーム
プログラム等」の一部を「所定のキー」とする方法では,ゲーム機に
2つのスロットを設けて両スロットの記憶媒体の「拡張ゲームプログ
ラム等」を組み合わせて標準のゲーム内容と拡張したゲーム内容を作
動させることなどが必要となるが,本件発明A1及びA2では,第1
の記憶媒体に記憶された「所定のキー」の読み込みというシンプルな
処理で,第2の記憶媒体の標準のゲーム内容と拡張したゲーム内容を
作動させることが可能となること,③第2の記憶媒体に「拡張ゲーム
プログラム等」のみを記憶する方法では,第2の記憶媒体単体でゲー
ム装置を作動できず,本件発明A1及びA2の効果(本件明細書Aの
【0022】)を奏さないことから,これらの方法は本件発明A1及
びA2を回避する技術ではない。
h 被控訴人は,ユーザ向け雑誌等において特典開放について紹介する
など,本件発明A1及びA2の実施を積極的に宣伝広告している(甲
A59)。
(エ) 控訴人の損害
以上によれば,イ号製品の販売による控訴人の損害額は,8億912
3万1115円(89億1231万1150円×10%)を下らない。
また,弁護士費用及び弁理士費用相当額は,本件特許権Bの侵害関係
と併せて4500万円を下らない。
イ 被控訴人の主張
(ア) イ号製品の売上高
控訴人の主張を否認ないし争う。
なお,別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本件特許権
Aの存続期間満了日までのイ-9号製品等の売上高は,別紙7「売上高
(補正後)」の「売上高」欄記載のとおりである。
(イ) 特許法102条3項の実施料相当額算定の基礎となる販売価格
特許法102条3項の実施料相当額算定の基礎となる販売価格は,卸
売価格から輸送費等の一定の費用を控除した正味販売価格とし,消費税
を含まないものとすること,また,イ-9号製品等のうち,イ-17な
いし19,21,23②,25ないし27,30,32,36及び38
ないし40号製品については,別紙7「売上高(補正後)」の「補正売
上高(売上高÷アイテム数)」欄記載のとおり,補正することが相当で
ある。その理由は,以下のとおりである。
a 本件調査報告書記載の実施料率は,本件調査報告書記載のアンケー
ト結果を基準にするところ,同アンケートは,「正味販売高」に対す
る料率を想定の上,回答されている(乙A115)。「正味販売価格」
とは,一般的に,総販売価格から,輸送費,保険料,倉庫保管費用,
リベート,包装梱包費,販売地によって変動する可能性のある費用を
控除した残額である(乙A116)。
b 前記aのとおり,実施料相当額算定の基礎となる販売価格は正味販
売価格とすべきところ,正味販売価格に消費税は含まれない。
c(a) イ-18,21,23②,25,27,30,32,36,38
及び40号製品には,イ号製品(アペンドディスク)に対応する本
編ディスクが同梱されているが,本編ディスクは,本件特許権Aの
侵害品ではない。また,イ号製品とこれに対応する本編ディスクを
同時に販売した場合,本件発明A1及びA2の作用効果(本件明細
書Aの【0022】,【0040】)を奏しない。
⒝ イ-19及び23②号製品には,イ号製品以外のゲームソフトの
ほか,「最強データ収録CD-ROM」という記憶媒体及び「ω-
Force秘伝攻略法」の2つの特典(イー19号製品),「最強
データ収録CD-ROM」という記憶媒体及び特製アイテムとして
真・三國無双シリーズの登場人物の関係が一目で分かる「人物相関
図」と鎌倉・銭洗弁財天で祈祷済みの「御宝銭」(イー23②号製品)
が付属している。
⒞ 平成17年9月22日に希望小売価格9800円で発売されたイ
-39号製品には,「水野十子原画資料集」及び「スチルイラスト
アートカード」8枚が同梱されているところ,同日付で発売された,
上記グッズが同梱されていないイ-35号製品の希望小売価格は4
980円であるから,上記グッズの価格は,侵害品であるイ号製品
とほぼ等価値である。
また,イ-40号製品には,イ号製品以外のゲームソフト5点,
各種グッズ9点が同梱されている。
(ウ) 本件特許Aの実施料率
以下の諸事情を考慮すると,本件特許Aの実施料率は,高くとも,前
記(イ)のイ号製品の販売価格(正味販売価格(消費税含まず)をアイテム
数で除した価格)の0.2%であり,MIXJOYができることを全く
宣伝していないイ-9及び34号製品,パック商品であるイ-17ない
し19,21,23②,25ないし27,30,32,36,38及び
40号製品はその半分の0.1%である。
a 本件調査報告書によれば,「家具,ゲーム」の技術分野には,「ビ
デオゲーム,すなわち2次元以上の表示ができるディスプレイを用い
た電子ゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施されているもの
以外に,「家具」,「カードゲーム,盤上ゲーム,ルーレットゲーム;
小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため,本件特許Aの実
施料率は,上記実施料率の平均値より低くなる。
b 本件発明A1及びA2は,合計6回の訂正を経て,ようやく新規性
欠如の無効理由を回避するとともに,進歩性が認められたに過ぎず,
進歩性の程度は高くない。
また,①セーブデータを「所定のキー」とする方法,②「拡張ゲー
ムプログラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,③第2の記憶
媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により,本件
発明A1及びA2と同様の作用効果を奏しながら,同発明を回避する
ことができる。上記の方法は,当業者が現に採用し(乙A2~13,
16の1・2,17の1・2,20の2・3,21の1・2,23の
1・2,23の3の1・2,28,30,36の1~4,37の1・
2,41,45,71,73の1~4,74),又は,容易に採用し
得るものであって,かかる方法に対する本件発明A1及びA2の技術
的な優位性はない。
c 控訴人が競業者に対してライセンスを許諾しない方針を採用してい
ることは否認する。控訴人は,競業者と特許クロスライセンス契約を
締結し,「ライセンスなどの特許権の有効活用を促進」するとしたプ
レスリリースを公開しており(乙A83の1~3),むしろ開放的ラ
イセンスポリシーを採用している。
d(a) イ号製品が装填されたゲーム装置において,「所定のキー」を読
み込んでいるか否かによってゲーム装置を作動させるゲームプログ
ラムを選択するのは,MIXJOYを選択した場合であるところ,
本編ディスクを保有していない場合は,MIXJOYを選択するこ
とはない。イ号製品の購入者のうち,これに対応する本編ディスク
を保有していない者は約20%おり(乙A1,84の1~4),こ
れらの者は,本件発明A1及びA2を実施することはない。
⒝ イ号製品は,武将やステージを新規に追加するものというよりは,
「違った遊びを提供するという概念で開発」されたものであり,本
編ディスクではプレイできなかったモードを提供することが主眼と
なった製品であって(乙A85の1),それ単体でも十分楽しめる
内容である。その反面,MIXJOYをすることで可能となるのは,
以下のとおり,本編ディスクでプレイできたモードやシナリオをア
ペンドディスクでもプレイできるというものであり,MIXJOY
を行う場面は限定されている。
① イ-16ないし23①号製品が装填されたゲーム装置では,そ
れ単体でも,「列伝モード」,「修羅モード」,「チャレンジモ
ード」という,本編ディスクにはないモードでプレイできる(乙
A85の1~3)。
他方,上記製品においてMIXJOYを選択した場合に初めて
プレイ可能なモードは,「無双モード」及び「フリーモード」で
あるが(甲A7),これらのモードは,本編ディスク単体でもプ
レイ可能である(乙A86)。
MIXJOYをすることで「無双モード」 「フリーモード」
及び
をプレイすることのメリットは,本編ディスクで全キャラクタ(武
将)を出現させていなくても,42人全キャラクタでプレイがで
きるというものであり,本編ディスクをあまり進めていないユー
ザにとってはメリットがあるものの(乙A85の1),本編ディ
スクを通常にプレイし,既に希望の武将でのプレイをしていてい
たユーザからすれば,メリットはほとんどない。
② イ-24~30号製品が装填されたゲーム装置では,それ単体
でも,「外伝モード」,「立志モード」,「修羅モード」,「チ
ャレンジモード」という,本編ディスクにはないモードでプレイ
できる(乙A87の2~4,7)。
他方,上記製品においてMIXJOYを選択した場合に初めて
プレイ可能なモードは,「無双モード」と「フリーモード」であ
るが(甲A8),これらのモードは,本編ディスク単体でもプレ
イ可能である(乙A88)。
MIXJOYをすることで「無双モード」 「フリーモード」
及び
をプレイすることのメリットは,簡単な難易度「入門」でこれら
のモードをプレイできるという程度であり(乙A87の2),本
編ディスクを通常にプレイしているユーザからすれば,メリット
はほとんどない。
③ イ-31ないし33号製品が装填されたゲーム装置では,本編
ディスクでは登場しなかった3名の新武将を追加するとともに
(乙A89の1),それ単体でも,「レジェンドモード」,「チ
ャレンジモード」等の本編ディスクにはないモードでプレイでき
る。
他方,上記製品においてMIXJOYを選択した場合に初めて
プレイ可能なモードは,「ストーリーモード」と「クロニクルモ
ード」であるが(甲A9),これらのモードは,本編ディスク単
体でもプレイ可能である(乙A90)。
MIXJOYをすることで「ストーリーモード」及び「クロニ
クルモード」をプレイすることのメリットは,好きな武将で初め
からプレイできる,2人プレイが可能になるといった程度であり
(乙A89の1),本編ディスクを通常にプレイしているユーザ
からすれば,2人プレイを使用する以外に,MIXJOYをする
メリットはほとんどない。
④ イ-34号製品が装填されたゲーム装置では,本編ディスクで
は登場しなかった5名の新武将を追加するとともに(乙A82の
5),それ単体でも,「ストーリーモード」,「フリーモード」,
「将星モード」,「チャレンジモード」でプレイできる。
他方,上記製品においてMIXJOYを選択した場合には,本
編ディスクでプレイできたシナリオで「ストーリーモード」をプ
レイできるに過ぎず(甲A10),このシナリオは,本編ディス
ク単体でもプレイ可能である。
⑤ イ-9号製品が装填されたゲーム装置では,本編ディスクでは
登場しなかった10名の新武将を追加するとともに(乙A82の
1),それ単体でも,「無双演武」,「模擬演武」,「創史演武」,
「村雨城」,「腕試し」でプレイできる(乙A82の1)。
他方,上記製品においてMIXJOYを選択した場合には,本
編ディスクでプレイできたシナリオで「無双演武」をプレイでき
るに過ぎず(乙A82の1),このシナリオは,本編ディスク単
体でもプレイ可能である(乙A93)。
e(a) イ号製品の購入時に行ったユーザに対するアンケート結果を見
ると,購入動機で最も高いのは,無双シリーズ,真・三國無双シリ
ーズ,戦国無双シリーズのファンだからという理由であり,被控訴
人のファンだからという理由も強い購入動機となっている(乙A8
4の1~6)。
無双シリーズが人気を博している理由は,通常攻撃,チャージ,
無双乱舞という攻撃が簡単な操作で行われ,フィールドを縦横無尽
に駆け巡りながら無数の敵をなぎ倒す爽快感にある。このような操
作性に加えて,真・三國無双シリーズ,戦国無双シリーズでは,武
将たちをモチーフとした美形キャラを採用していることが,女性フ
ァンを獲得することとなった(乙A98)。
また,三國志や戦国時代をモチーフにした,シリーズとして高い
人気を保つゲーム(乙A99)を制作してきた被控訴人が開発した
歴史アクションゲームであることも,真・三國無双シリーズ,戦国
無双シリーズの人気を支える一要因であり,その購入動機としても,
「三國志ファンだから」という理由が高い割合となっている(乙A
84の3~6)。
⒝ イ-35~40号製品は,女性向け恋愛シミュレーションゲーム
シリーズの製品であり,プレーヤーはその世界で重要な役割を担う
ヒロインであり,周囲を取り巻く男性たちとの恋愛を成就させるこ
とを目的とする(乙A104)。女性向け恋愛シミュレーションゲ
ームは,既存のゲームとはビジネススキームが全く異なり,その購
入動機は,MIXJOYができることではない。
イ-35~40号製品は,女性向け恋愛シミュレーションゲーム
の先駆者たる被控訴人の開発チーム及びそのリリースタイトルへの
評価,費用と労力をかけたメディアミックス戦略による購入意欲の
向上,魅力的なキャラクタの創作といった被控訴人の施策によって
購入されるものである。
(エ) 控訴人の損害
控訴人の主張を否認ないし争う。
2 本件特許権Bについて
⑴ 争点2-1-1(文言侵害の成否)について
ア 控訴人の主張
ロ号製品を用いた遊戯装置(以下,ロ号製品の番号に応じて「ロ-1号
装置」などといい,併せて「ロ号装置」と総称する。)の構成は,原判決
別紙「ロ号装置説明書1…」,同「ロ号装置説明書4…」及び同「ロ号装
置説明書7…」
(以下,総称して「原判決別紙「ロ号装置説明書(控訴人) 」

という。)記載のとおりである。そして,本件発明B1の構成要件とロ号
装置の構成との対比は原判決別紙「ロ号装置説明書(控訴人)」記載のと
おりであるから,ロ号装置は,本件発明B1の構成要件をすべて充足する
ものであって,本件発明B1の技術的範囲に属する。
ロ号装置の制御方法(以下,ロ号製品の番号に応じて「ロ-1号方法」
などといい,併せて「ロ号方法」と総称する。)の構成は,原判決別紙「ロ
号方法説明書1…」,同「ロ号方法説明書4…」及び同「ロ号方法説明書
7…」(以下,総称して「原判決別紙「ロ号方法説明書(控訴人)」」と
いう。)記載のとおりである。そして,本件発明B8の構成要件とロ号方
法の構成との対比は原判決別紙「ロ号方法説明書(控訴人)」記載のとお
りであるから,ロ号方法は,本件発明B8の構成要件をすべて充足するも
のであって,本件発明B8の技術的範囲に属する。
被控訴人は,①ロ号装置は,構成要件EないしGを充足せず,②ロ号方
法は,構成要件Mを充足するものではない旨主張するが,以下のとおり理
由がない。
(ア) 構成要件EないしGについて
被控訴人は,①本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載,
本件発明B1の作用効果,本件特許出願Bの出願審査の経過等を参酌す
ると,構成要件E及びFの「特定の状況」とは「画像情報からは認識で
きない」ものであり,構成要件Fの「画像情報からは認識できない情報
を,…体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」には,特定
の状況にあることが画像情報から認識できる情報をも,体感振動情報信
号として送出する振動情報制御手段は含まないと解されるところ,ロ号
製品は,霊がキャラクタの近くにいる場合には霊それ自体やフィラメン
トの発光等によって画像情報から認識でき,他方で,そのような状況が
画面から認識できないか否かにかかわらず振動を発生させているのであ
るから,構成要件EないしGを充足しない,②仮に上記①の解釈が採用
されず,かつ,ロ号製品において,ある一場面で,画像情報において霊
自体やフィラメント発光が確認できない状態で振動が発生しているとし
ても,かかる時間はわずか数秒間であり,少なくともその場面の前後で
は,必ず霊自体やフィラメント発光等によって霊がキャラクタの近くに
いる状況が確認できるのだから,構成要件Fの「画像情報からは認識で
きない情報を,…体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」
を充足しない旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,本件発明B1の特許請求の範
囲(請求項1)の記載上,構成要件E及びFの「特定の状況」が「画像
情報からは認識できない」ものであるとの限定や,
「振動情報制御手段」
が,「画像情報からは認識できない情報」のみを送出するものであると
の限定は付されていない。
また,本件明細書Bには,「特定の状況は例外なく画像情報からは認
識できないものでなければならない」などの記載はない。本件明細書B
の記載によれば,ゲーム画面は時々刻々と変化することが想定されてい
るため(【0022】),ある瞬間において画像情報から認識できる情
報も,別の瞬間には画像情報から認識できないことも当然に想定されて
いるものであって,その瞬間において,周囲が画像情報からは認識でき
ない情報を,ユーザのみが振動発生手段の振動によって認識できるので
あれば,「周囲にその特定の状況を悟られることなく,自己のみが知り
得る秘密の状態の下でゲームを進行していく」という本件発明B1の作
用効果を奏する。
なお,控訴人が本件特許出願Bの出願審査の際に提出した意見書(乙
B4の7の2)には,「今回の補正の趣旨は要するに,請求項2,3,
9,10において,体感振動情報は,請求項1,8の場合と同様,画像
情報からは認識できない情報であることを限定したものです。」との記
載があるが,上記意見は,本件発明Bにおける体感振動情報は画像情報
から認識できない情報であると特定したに過ぎず,画像情報から認識で
きない情報以外を体感振動情報として送出することを除外するものでは
ない。
以上によれば,ゲーム中のある場面において,キャラクタが置かれて
いる状況が特定の状況であることが画像情報からは認識できない状況下
で,当該特定の状況にあることを判定した時に,その情報を体感振動情
報信号として送出するものであれば,画像情報からは認識できない情報
を体感振動情報信号として送出する制御を行っていることになる。
そして,ロ号装置は,時々刻々とゲームの状況が変化するゲームであ
り,ある場面では,キャラクタの近くに霊がいる状況にあることを画面
から認識することができたとしても,別の場面では,画面上に霊が表示
されず,かつ,フィラメントも点灯していないにもかかわらず,コント
ロ-ラを振動させ,キャラクタと霊との距離が近くなればなるほど振動
する間隔が短くなっていく制御を行っているから,構成要件EないしG
を充足する。
なお,被控訴人は,ロ-7ないし9号製品では,フィラメントの表示
という,画像情報から認識できる情報により,キャラクタの近くに霊が
いる状況にあることを常に認識できる旨主張する。
しかしながら,原判決が認定したとおり,ロ-7ないし9号製品にお
いて,フィラメントが赤色点灯される視野角度には制限があり,少なく
とも霊がキャラクタの後方にいる場合には点灯されないものであって
(甲B8の2(0:40付近),甲B23の2(1:30~1:34)
等),被控訴人の主張は失当である。
次に,上記②の点について,被控訴人の主張は,画面上霊それ自体が
表示されておらず,かつ,フィラメントが点灯していない場面で,キャ
ラクタと霊との距離に応じて間欠周期の異なる間欠的な振動が発生して
いる際に,場合によっては,その前後の表示から,遊技者において,霊
がキャラクタの近くにいることを推測することができる場合があり得る
ことを指摘しているに過ぎず,かかる事実をもって,構成要件Eないし
Gの充足性が否定されるものではない。
(イ) 構成要件Mについて
被控訴人は,前記(ア)と同様の理由により,ロ号方法は構成要件Mを充
足しない旨主張するが,前記(ア)と同様の理由により,ロ号方法は構成要
件Mを充足する。
イ 被控訴人の主張
ロ号装置及びロ号方法の構成が控訴人の主張するとおりであることは否
認し,ロ号装置及びロ号方法が本件発明B1及びB8の構成要件を全て充
足することは争う。
以下のとおり,①ロ号装置は,構成要件EないしGを充足せず,②ロ号
方法は,構成要件Mを充足するものではない。したがって,ロ号装置は本
件発明B1の技術的範囲に属するものではなく,ロ号方法は本件発明B8
の技術的範囲に属するものではない。
(ア) 構成要件EないしGについて
以下のとおり,本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載,
本件明細書Bの記載及び本件特許Bの出願審査の経過によれば,構成要
件E及びFの「特定の状況」とは「画像情報からは認識できない」もの
であり,構成要件Fの「画像情報からは認識できない情報を,…体感振
動情報信号として送出する振動情報制御手段」には,特定の状況にある
ことが画像情報から認識できる情報をも,体感振動情報信号として送出
する振動情報制御手段は含まないと解される。
a 構成要件Fは,「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを
判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,…体感振動
情報信号として送出する振動情報制御手段」であり,単に特定の状況
にあることを判定した場合に振動を発生させるというものではなく,
あくまで,画像情報からは認識できない情報を,体感振動情報信号と
して送出する制御を行うことが記載されている。
したがって,構成要件Fを充足するためには,振動情報制御手段が,
①特定の状況にあることを判定した時に振動情報を送出する制御を
行うこと,②画像情報からは認識できない情報を送出するという制御
を行うことを満たす必要がある。
上記2つの要素を共に満たす振動情報制御手段及び制御方法の構
成として考えられるのは,特定状況判定手段が判定する「特定の状況」
そのものが「画像情報からは認識できない情報」である場合に限られ
る。
b 本件明細書Bには,本件発明B1は,他の遊戯者や周辺の見物人は,
上記画像を見ているだけではその特定の状況を認識することができな
い結果,遊戯者は,周囲にその特定の状況を悟られることなく,自己
のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行できるという作用効果
を奏するものであることが記載されており(【0022】~【002
5】),実施例も,画像情報からは認識できない情報のみを送出して
いる(【0045】,【0054】,【0056】等)。
また,本件明細書Bには,ゲームが進行する中(当然に画面の表示
が時々刻々と変化する中)であっても,自己のみが知り得る秘密の状
態を維持することが記載されており(【0024】),ゲーム進行中
のある瞬間において画像情報から認識できる情報であっても,別の瞬
間においては画像情報から認識できない情報を体感振動情報として送
出するような構成は許容していない。
上記の作用効果を奏するように構成要件E及びFを解釈すると, 特

定の状況」そのものが「画像情報からは認識できない情報」であると
解される。
c 構成要件Fの「画像情報からは認識できない情報」を体感振動情報
信号として送出するとの構成は,請求項1,8のみならず請求項2,
3,9及び10においても補正によって追加されている。本件特許出
願Bの願書に最初に添付された明細書(乙B4の1の2)における特
許請求の範囲では,本件特許Bの請求項2等は,画像情報から認識で
きる情報と認識できない情報のいずれの情報であっても,それが危険
な状態又は有利な状態での体感振動情報を送出するものであった。
これに対し,画像情報から認識できる情報に基づいて危険な状態又
は有利な状態にあることを判定した場合に,体感振動情報信号として
送出する振動情報制御手段が記載された引用文献を根拠に,進歩性が
欠如する旨の拒絶理由通知(乙B4の6)がされたため,控訴人は,
請求項2,3等において,「画像情報からは認識できない情報」を体
感振動情報信号として送出する振動制御手段に減縮する補正を行うと
ともに(乙B4の7の4),意見の内容(乙B4の7の2)の中で,
「今回の補正の趣旨は要するに,請求項2,3,9,10において,
体感振動情報は,請求項1,8の場合と同様,画像情報からは認識で
きない情報であることを限定したものです。」と述べたものであり,
体感振動情報を送出する振動制御手段は,画像情報からは認識できな
い情報のみであると限定するために,本件発明B1と同様の構成要件
を付加したものである。
d したがって,構成要件Fの「上記画像情報からは認識できない情報
を…体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」には,特定
の状況にあることが画像情報から認識できる情報をも体感振動情報信
号として送出する振動情報制御手段は含まないものと解される。
そうすると,ロ号装置は,霊が近くにいる場合に,そのことが画面
から認識できないか否かにかかわらず振動を発生させる点で,構成要
件Fを充足せず,また,「特定の状況」たる霊がキャラクタに所定距
離以内に近接したという状況は,画像情報から認識できる情報である
ため,構成要件Eを充足しない。さらに,ロ号装置は上記「振動情報
制御手段」を備えないことから,構成要件Gも充足しない。
e 仮に,前記dの解釈が採用されず,かつ,ロ号装置において,ある
一場面で画像情報において霊自体やフィラメント発光が確認できない
状態で振動自体が発生しているとしても,その場面の前後の画像情報
における霊自体,フィラメント発光及びその輝度等によって,遊戯者
はなおキャラクタが霊に接近したこと及びその距離を把握できるから,
構成要件Fの「画像情報からは認識できない情報を,…体感振動情報
信号として送出する振動情報制御手段」は存在しない。また,ロ号装
置では,特定の状況に係る情報が画像情報から認識できなくなる場面
は数秒間であって,このようなごく短時間において画像情報から認識
できなくなる場合が存在するとしても,「周囲にその特定の状況を悟
られることなく,自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行
していく」という本件発明B1の作用効果を奏しない。
したがって,少なくとも,ロ号装置は構成要件Fを充足しない。
なお,ロ-7ないし9号製品は,ロ-1ないし6号製品と異なり,
フィラメント自体の表示という画像情報から認識できる情報によって,
キャラクタの近くに霊がいる状況にあることを常に認識できるもので
ある。
(イ) 構成要件Mについて
前記(ア)と同様の理由により,ロ号方法は構成要件Mを充足しない。
⑵ 争点2-1-2(間接侵害(特許法101条1号)の成否)について
ア 控訴人の主張
ロ号製品は,本件発明B1の技術的範囲に属する遊戯装置であるロ号装
置を構成するPlayStation2本体に装填してゲームを実行する
ためのゲームソフトであり,かかる用途以外に,社会通念上,経済的,商
業的又は実用的な用途はないから,「その物の生産にのみ用いる物」(特
許法101条1号)に該当する。
ロ号装置においてユーザが振動機能を実際に使用するか否かは,上記認
定を左右し得る事情ではない。
イ 被控訴人の主張
ロ号製品が装填されたゲーム機は,振動機能をOFFにした状態で使用
されることがある以上,ロ号製品は本件発明B1に係る物の生産に「のみ」
用いる物に当たらない。
⑶ 争点2-1-3(間接侵害(特許法101条4号)の成否)について
ア 控訴人の主張
ロ号製品は,本件発明B8の技術的範囲に属するロ号方法の使用に用い
られる遊戯装置であるロ号装置を構成するPlayStation2本体
に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであるから,ロ号方法「の
使用に…用いる物」(特許法101条4号)である。
そして,ゲームにおいて振動機能が重要な機能を担っており,初期設定
がONにされていることに照らせば,振動機能をOFFにした状態でのみ
使用し続けるという使用形態は,ロ号製品の経済的,商業的又は実用的な
使用形態ではないから,ロ号製品はロ号方法の使用に「のみ」用いる物で
ある。
イ 被控訴人の主張
ロ号製品は,控訴人が本件発明B8の技術的範囲に属すると主張するロ
号方法の使用に用いられる物であるロ号装置の生産に用いられる物に過ぎ
ないから,特許法101条4号所定の間接侵害を構成しない。
また,ロ号製品が装填されたゲーム機は,振動機能をOFFにした状態
で使用されることがある以上,ロ号製品はロ号方法の使用に「のみ」用い
る物に当たらない。
⑷ 争点2-1-4(実施行為の惹起行為による不法行為の成否)について
ア 控訴人の主張
被控訴人は,ロ号製品の製造,販売により,本来的には特許権Bの侵害
となるユーザによる実施行為を惹起しているから,不法行為責任を負う。
イ 被控訴人の主張
控訴人の主張は争う。
⑸ 争点2-2-1(「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲ
ーム装置により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発
明B1の進歩性の欠如の有無)について
ア 被控訴人の主張
(ア) 「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置によ
り公然知られた発明又は公然実施をされた発明
「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置(以
下「本件ゲーム装置B」という。)の構成は,原判決別紙「公知発明b
-1の構成(被告主張)」記載のとおりであり,本件特許出願B前に公
然知られた発明又は公然実施をされた発明であった(以下「公知発明b
1」という。)。
(イ) 本件発明B1と公知発明b1の対比
本件発明B1と公知発明b1の相違点は,以下のとおりである。
(相違点1)
本件発明B1の「振動情報制御手段」は,「上記特定状況判定手段が
特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できな
い情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる
振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」
ものであるのに対し,公知発明b1の「ボディソニック駆動情報制御部」
は,「上記特定状況判定部がニンジャキャラクタの近くに戦車が存在す
る状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できないニ
ンジャキャラクタの近くに戦車が存在することをボディソニック駆動情
報信号として送出する」ものであり,キャラクタの置かれている状況に
応じて振動の間欠周期を異ならせるものではない点。
(ウ) 相違点の容易想到性
a 乙B18記載の発明との組合せ
(a) 本件特許出願B前に頒布された刊行物である実開平6-346
93号公報(乙B18)には,レールの継ぎ目における振動が間欠
的に発生し,その間欠的な振動の周期が車両の速度に応じて変化す
ることにより,臨場感のあるゲームを提供する技術が開示されてい
る(【0056】,【0060】)。
また,レールの継ぎ目が車輪と接触する場面がゲームの画面に表
示されないことは当業者に明らかであるから,乙B18には,レー
ルの継ぎ目が車輪と接触するという,画面からは認識できない情報
に基づいて振動を生じさせる技術も開示されている。
したがって,乙B18には,キャラクタたる車両が走行している
レールの上を特定の速度で通過しているという状況に応じて間欠的
に生じる振動の間欠周期を異ならせる技術及び画像からは認識でき
ない情報を体感振動信号として振動発生手段に送出する技術(以下
「乙B18発明」という。)という,相違点1に係る本件発明B1
の構成が開示されている。
⒝ 公知発明b1と乙B18発明は,振動を発生する遊技機という技
術分野が一致し,キャラクタの置かれた状況に応じた振動を発生さ
せることで臨場感のあるゲームを提供すること及び画像情報から認
識できない情報を体感振動信号として振動発生手段に送出するとい
う作用・機能においても一致する。
また,振動を用いた体感ゲームにおいて,キャラクタの置かれた
状況に応じた異なる振動を体感的に取得させることにより迫力や現
実感を増大させるために,振動に変化を与える課題や技術は,本件
特許出願B前に周知であった(乙B6,7,18~20,22~2
4,38~40)。
さらに,公知発明b1における振動は,戦車の走行による地響き
が発生している状態をプレーヤーに伝えていることは明らかであり,
戦車が停止する場面も存在する。戦車が停止している時は,本来で
あれば,戦車の走行による地響きも発生しないのが自然であるから,
戦車の走行による地響きは,間欠的な振動の間欠周期が異なること
と親和性がある。また,公知発明b1における振動は,振動が全く
なくなるものではないものの,振動開始後,約3秒間の振動,ごく
短い時間の振動のきわめて少ない状態というパターンを4回繰り返
した後に,戦車が出現するものであり(乙B17),振動の種類を
異ならせている。
加えて,道路上を走行する車両の振動は,通常は間欠振動であり
(乙B41),現実の世界では,戦車等の走行車両が停止したとこ
ろから走行を開始する場合には,間欠的に生じる振動の間欠周期が
長くなり,走行速度が加速されることで間欠的に生じる振動の間欠
周期が短くなるのだから,公知発明b1においても,より現実に近
い振動を発生させるために,戦車が停止したところから走行を開始
するという低速での走行時には,間欠的に生じる振動の間欠周期を
長くし,ニンジャキャラクタに近づくにつれて,走行速度が加速さ
れるとともに振動の間欠周期を短くすることも,当業者であれば容
易に想到することである。
そうすると,公知発明b1に乙B18発明を組み合わせる動機付
けが存在することは明らかであり,公知発明b1と乙B18発明に
基づき本件発明B1を発明することができたものである。
b 「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間
欠周期を異ならせる」周知技術との組合せ
(a) 本件特許出願B前に頒布された刊行物である特開平5-192
449号公報(乙B6)には,敵が発射した弾丸がキャラクタたる
プレイヤーに命中することによりプレイヤーが受けたダメージの程
度という状況に応じて,プレイヤーの握る銃に間欠的に生じる振動
の間欠周期を異ならせる技術が開示されている(【0005】,【0
020】,【0021】,【0023】,【0026】)。
本件特許出願B前に頒布された刊行物である実開平5-5818
4号公報(乙B19)には,キャラクタたる自動車の置かれている
状況に応じて,ステアリングホイールに間欠的に生じる振動の間欠
周期を異ならせる技術が開示されている(【0009】,【001
0】,【0024】~【0026】)。
本件特許出願B前に頒布された刊行物である特開平5-2772
58号公報(乙B20)には,どの程度の曲がり度合いで曲がった
かというキャラクタたる自動車の置かれている状況に応じて,間欠
的に生じる振動の間欠周期を異ならせる技術が開示されている 【0

011】,【0024】)。
加えて,前記aのとおり,乙B18にも,キャラクタたる車両が
走行しているレールの上を特定の速度で通過しているという状況に
応じて,間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる技術が開示さ
れている。
以上によれば,本件特許出願Bの当時,キャラクタの置かれてい
る状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせることは,
当業者にとって周知の技術(以下「周知技術1」という。)であっ
た。
⒝ 乙B6及び18ないし20に記載された前記(a)の技術は,振動を
発生する遊技機という技術分野が一致し,いずれも,臨場感や高度
な現実感を得るために,「キャラクタの置かれている状況に応じて
間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」という構成を採用す
るものである。
他方,公知発明b1はベンチシートにボディソニックを採用して
いるところ,ボディソニックは,音だけでは伝えられない迫真の臨
場感を得るための技術であるから(乙B21),更に高度な現実感
や臨場感を得ようとして,「キャラクタの置かれている状況に応じ
て間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」こと,例えば,戦
車がニンジャキャラクタに近接する度合いに応じて,又は,戦車の
走行状態や走行速度に応じて,間欠的に生じる振動の間欠周期を異
ならせる技術を採用する動機付けが存在する。
以上によれば,公知発明b1に周知技術1を組み合わせることに
困難性はなく,かかる組合せは当業者が通常の創意工夫の範囲内で
容易になし得るものである。
c 「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる」
周知技術との組合せ
(a) 前記bのとおり,振動を用いた体感ゲームにおいて,そのキャラ
クタの置かれた状況に応じた異なる振動を体感的に知得できること
により迫力や現実感を増大させるために,振動に変化を与える技術
は,本件特許出願B前に発売されたゲーム機において多数採用され
ていた(以下「周知技術2」という。)。
このような「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類
を異ならせる技術」は,前記bのとおり,乙B6及び18ないし2
0に記載されているほか,本件特許出願B前に頒布された刊行物で
ある特開昭63-174681号公報(乙B7),特開平4-83
81号公報(乙B24),特開平5-303324号公報(乙B3
9)及び実開平5-84385号公報(乙B40)にも開示されて
いる。
⒝ 前記(a)のとおり,キャラクタの置かれた状況に応じた異なる振動
を体感的に知得できることにより迫力や現実感を増大させるために,
振動に変化を与える課題や技術は,多くの特許文献及びゲーム実機
において開示された周知な課題や技術である。
そのため,公知発明b1に,キャラクタの置かれている状況に応
じて振動の種類を異ならせる構成を採用することは当業者であれば
容易である。
なお,相違点1に係る本件発明B1の構成の技術的意義は,キャ
ラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせることに
より,遊戯者が一層高度な現実感やスリルを味わうという効果を奏
することにあり,異なる振動の種類を間欠的に生じる振動に限定す
ることに技術的意義はないから,かかる振動の種類の相違は,実質
的な相違点ではない。
また,仮に,上記の点が実質的な相違点であるとしても,その振
動として,「間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせ」る振動を
採用することは,当業者であれば適宜選択できる設計的事項である。
イ 控訴人の主張
(ア) 「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置によ
り公然知られた発明又は公然実施をされた発明
原判決別紙「公知発明b-1の構成(被告主張)」のうち,構成aな
いしd及びgは認め,構成e及びfは否認する。本件ゲーム装置Bの構
成は,原判決別紙「公知発明b-1の構成(原告主張)」記載のとおり
である。
公知発明b1は,ニンジャキャラクタの位置を対象として「特定の状
況」を判定するのではなく,ゲームステージの背景が所定の位置までス
クロールした状況にあるか否かを対象として「特定の状況」を判定する
ものであるから,構成eを有しない。
また,公知発明b1は,上記「特定の状況」の判定時にベンチシート
の振動が開始するが,キャラクタと戦車の距離関係は判定されないこと
から,「キャラクタの近くに存在する戦車の存在」ではなく,単に,ゲ
ームステージを戦車が走行していることをボディソニック駆動情報信号
として送出して,ベンチシートの振動を発生させるに過ぎない。そして,
この振動は,振動開始時点から約2秒間,間断なく続く継続的なもので
あり,間欠周期を短くして頻繁に生じるものではなく,原判決別紙「公
知発明bの振動状況」の②の部分の振動も,振動自体は継続的に発生し
ており,間欠周期は一定であるから,構成fを有しない。
(イ) 本件発明B1と公知発明b1の対比
本件発明B1と公知発明b1の相違点は,以下のとおりである。
(相違点1-1)
本件発明B1の「特定状況判定手段」は,「上記ゲーム進行制御手段
からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作してい
る上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定
する」ものであるのに対し,公知発明b1の「特定状況判定部」は,「上
記ゲーム進行制御部からの信号に基づいて,ニンジャウォーリアーズの
ゲームの進行途中におけるニンジャキャラクタの動きに合わせて右から
左への一方向のみにスクロ-ルするゲームステージの背景が所定の位置
までスクロ-ルした状況にあるか否かを判定する」ものであり,「ゲー
ムの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれて
いる状況」を対象として,「特定の状況」を判定するものではない点。
(相違点1-2)
本件発明B1の「振動情報制御手段」は,「上記特定状況判定手段が
特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できな
い情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる
振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」
ものであるのに対し,公知発明b1の「ボディソニック駆動情報制御部」
は,「上記特定状況判定部がニンジャキャラクタの動きに合わせて右か
ら左への一方向のみにスクロ-ルするゲームステージの背景が所定の位
置までスクロ-ルした状況にあることを判定した時に,ゲームステージ
を戦車が走行していることを,上記ニンジャキャラクタの置かれている
状況にかかわらず,所定の時間,継続的に振動を発生させるボディソニ
ック駆動情報信号として送出する」ものであり,間欠的な振動を生じる
ものでもなければ,キャラクタの置かれている状況に応じて振動の間欠
周期を異ならせるものでもない点。
(ウ) 相違点の容易想到性について
a 乙B18発明との組合せ
(a) 乙B18記載の発明は,走行する車両とレールの継ぎ目が接触す
る際の「瞬時的な振動」を再現することに意義があり,副次的な効
果として,レールの継ぎ目が等間隔であることから,「瞬時的な振
動」の間隔を変化させることにより,遊戯者に対し,「映像や効果
音」との相乗効果で,車両のスピードが変化したかのように感じさ
せることを可能とするものである(【0004】,【0005】,
【0056】)。「車両のスピードが変化したこと」は,「映像や
効果音」との相乗効果で感じることができるものとされており,
「画
像情報からは認識できない情報」ではない。
したがって,乙B18には,画像情報からは認識できない情報を,
間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動信号と
して振動発生手段に送出する構成は開示されていない。
⒝ 公知発明b1のボディソニック駆動による振動は,右から左方に
スクロールする背景画像のうち柱がゲーム画面中央に到達した時に
開始し,ゲーム画面右方向から戦車がフレームインし,その後,ゲ
ーム画面左方にフレームアウトして所定時間経過後に停止するもの
である。かかる振動は,戦車がゲームステージに登場することに対
応して発生することにより,戦車の走行音を発生させるとともに,
走行による戦車の「地響き」が発生している状態を表現し,プレー
ヤーが臨場感や高度の現実感を得られるようにすることを目的とす
るものであるから,戦車の走行音とともに,戦車がゲームステージ
に登場している限り継続的に発生させなければ,その目的を達成で
きない。
一方,乙B18記載の発明は,レール上を走行する車両において,
レールの継ぎ目ごとに瞬時的な振動を再現することを目的とし,副
次的な効果として,レールの継ぎ目が等間隔であることから,その
振動が発生する時間的間隔が車両の速度によって変化するという性
質を利用して,映像や効果音とともに,「車両スピードが変化した
こと」を遊戯者に知覚させるものであり,かかる振動の構成は,公
知発明b1における戦車の走行による「継続的な」地響きを再現す
る振動とは相容れない。
なお,公知発明b1では,約3秒毎に4回振動に強弱が生じてい
るが,これは,発射された砲弾がニンジャキャラクタの近くで爆発
するのに合わせて,戦車の地響きを示す振動とは全く別の振動が発
生しており,それによって振動の振幅が変化しているに過ぎないか
ら,かかる振動の存在は,公知発明b1に乙B18発明を組み合わ
せる動機付けを肯定する要因とはならない。
また,乙B41には,「環状7号線,高円寺付近歩道,交通量6
0~100台/分」(図1a)という環境で測定した道路交通振動
は,人体に感じられない60dB以下を除くと間欠振動であるとい
うことが記載されているに過ぎず,上記の環境下において発生する
道路交通振動は,公知発明b1において戦車が走行している場面の
振動とは全く異なるから,公知発明b1における振動を間欠的な振
動と認定する根拠や,戦車の振動を間欠的な振動に変更することの
容易想到性の根拠となるものではない。
以上によれば,公知発明b1に乙B18記載の発明を適用する動
機付けはなく,むしろ阻害要因がある。
b 周知技術1との組合せ
乙B6には,味方の被弾によるダメージの程度に応じて振動の時間
を異ならせる技術が,乙B19には,プレーヤーの自動車の他の自動
車や他の物体への接触,悪路走行,コーナーの走行等の一定の事象が
生じた場合に振動を発生させる技術が,乙B20には,ハンドルがど
の程度の曲がり度合いで曲がったかという回転角度の絶対値の大きさ
に略比例して,振動の強弱を異ならせる技術が,それぞれ開示されて
いる。
しかしながら,これらの技術は,単に「特定の状況」の判定が行わ
れる都度,振動を発生させる技術に過ぎず,乙B6,19及び20に,
「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠
周期を異ならせている」技術が開示されているものではない。キャラ
クタの置かれている状況に応じて振動の間欠周期を異ならせることと,
単に一定の事象が生じた際に振動を発生させ,特定の事象が複数回発
生した結果を全体として見たときに,振動が発生する間隔が異なって
いることには,明白な違いがある。
したがって,上記の文献により周知技術1が存在したとは認められ
ない。
また,仮に,本件出願B当時に周知技術1が存在したとしても,前
記aのとおり,公知発明b1に周知技術1を適用する動機付けはなく,
むしろ阻害要因がある。
c 周知技術2との組合せ
周知技術2は,単に一定の事象が発生した際に,振動の種類を異な
らせることによって当該事象を表現する技術に過ぎず,「キャラクタ
の置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異なら
せる」ことによって,「画像情報からは認識できない情報」を遊戯者
に知得させる本件発明B1とは全く異なる技術である。
したがって,公知発明b1に周知技術2を組み合わせたとしても,
本件発明B1には至らない。
⑹ 争点2-2-2(「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲ
ーム装置の制御方法により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基
づく本件発明B8の進歩性の欠如の有無)について
ア 被控訴人の主張
本件ゲーム装置Bの制御方法の構成は,原判決別紙「公知発明b-8の
構成(被告主張)」記載のとおりであり,本件特許出願B前に公然知られ
た発明又は公然実施をされた発明であった(以下「公知発明b8」という。 。

そして,前記⑸アと同様の理由により,本件発明B8は,公知発明b8
と乙B18発明,周知技術1又は周知技術2に基づき,当業者が容易に発
明をすることができたものである。
イ 控訴人の主張
原判決別紙「公知発明b-8の構成(被告主張)」のうち,構成hない
しl及びnは認め,構成mは否認する。
本件ゲーム装置Bの制御方法の構成は,原判決別紙「公知発明b-8の
構成(原告主張)」記載のとおりである。
そして,前記⑸イと同様の理由により,本件発明B8は,公知発明b8
と乙B18発明,周知技術1又は周知技術2に基づき,当業者が容易に発
明をすることができたものではない。
⑺ 争点2-3(控訴人の損害の有無及び損害額)について
ア 控訴人の主張
(ア) ロ号製品の売上高
ロ号製品の販売開始日は,別紙1「販売開始日一覧表」記載のとおり
であり,販売開始日から本件特許権Bの存続期間満了日である平成26
年5月31日までの売上高(小売価格(消費税込み))は,総額9億4
000万円を下らない。
(イ) 本件特許Bの実施料率
以下の諸事情を考慮すると,本件特許Bの実施料率は,ロ号製品の上
記売上高(小売価格(消費税込み))の5%を下らない。
a 本件調査報告書(乙B28)によれば,「家具,ゲーム」の技術分
野における平均実施料率は2.5%である。
b 前記1⑺ア(ウ)aのとおり,特許法102条3項に係る実施料率は,
通常のライセンス契約(訴訟上の和解を含む。)における実施料率を
超える水準となるべきである。
c ロ号装置では,霊がキャラクタに接近するにつれて振動の間欠周期
が短くなり,霊がキャラクタから遠ざかるにつれて振動の間欠周期が
長くなることによって,プレイヤーは,画像情報からは認識できない
霊がキャラクタに接近しているか否かを知得するとともに,当該振動
により,霊に対する接近度合いと心臓の鼓動とが一致しているかのよ
うな雰囲気を味わえ,高度な現実感や十分な迫力が得られるものであ
って,本件発明B1の作用効果が効果的に生じている。
d 上記cの作用効果が発揮される場面は,原判決が判示するような,
「霊がキャラクタの背後で接近し又は遠ざかるのに対して,キャラク
タが向きを維持し続けるという状況に限られる」わけではない。すな
わち,霊は移動するため,キャラクタが霊を探して向きを変えたとし
ても,当然に霊を画面上認識できる状況になるわけではない。また,
霊を倒すためには霊を撮影する必要があり,そのためには,屋敷内を
探索する時の第三者的視点からの画面である「フィールドモード」か
ら,キャラクタがカメラを構えて霊を撮影する時のカメラのファイン
ダーから見える視界を想定した「ファインダーモード」に画面を切り
替える必要があるところ,ファインダーモードは画面上の視野が大幅
に制限されるため,霊を常に画面上の表示範囲又はフィラメントの点
灯範囲に捉えられるわけではなく,この場合に,プレイヤーは,振動
の間欠周期の変化によって,霊が接近し又は遠ざかっているかを判断
する(甲B37の1~3)。
e 上記cの作用効果は,キャラクタと霊との距離に応じて振動の強弱
を変えるような他の技術的手段では代替できない。
f 上記cの作用効果は,ロ号製品の訴求力の一つになっている。
g ゲームソフトであれば,ストーリー,グラフィック,サウンド等の
事項が購買の訴求力となっていることは当然であり,ゲームの技術分
野における平均実施料率は,これらの事項が考慮されたものである。
(ウ) 控訴人の損害
以上によれば,ロ号製品の販売による控訴人の損害額は,4700万
円(9億4000万円×5%)を下らない。また,弁護士費用及び弁理
士費用相当額は,本件特許権Aの侵害関係と併せて4500万円を下ら
ない。
イ 被控訴人の主張
(ア) ロ号製品の売上高
控訴人主張の販売期間におけるロ号製品の売上高が9億4000万円
を下らないことは認める。
(イ) 本件特許Bの実施料率
以下の諸事情を考慮すると,本件特許Bの実施料率は,高くとも,前
記(ア)のロ号製品の売上高の0.1%である。
a 本件特許Bは,新規性欠如の無効理由を回避するために,訂正等を
繰り返した結果,その特許性が認められるとしても,「上記特定状況
判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報から
は認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて
間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号
として送出する」ことに特許性が認められるものに過ぎない。
b ロ号装置において本件発明B1及びB8の作用効果が発揮される場
面は,キャラクタの近くに霊が存在するが,画面上霊の存在を認識す
ることができず,かつ,フィラメントが発光していない状況下で,キ
ャラクタと霊との距離に応じて間欠周期の異なる間欠的な振動が発生
する場面に限られる。
そして,プレイヤーが,キャラクタを操作して霊を倒すことが求め
られるというゲームの性質上,プレイヤーは,通常,画像上で霊の存
在を認識できる位置にキャラクタを操作しようとするから,上記のよ
うな場面は極めて限定的にしか生じず,一般ユーザのプレイ動画を元
にすれば,プレイ時間全体の1%以下である(乙B42の1,42の
2の1~9)。
c キャラクタの置かれている状況を,間欠的に生じる振動の間欠周期
を異ならせることでプレイヤーに伝達するという本件発明B1及びB
8に代替する方法として,画像情報,音響,振動の振幅を変えるなど
の方法があり,本件明細書Bにも,振動の振幅を異ならせる方法は,
間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる場合と同様の作用効果を
発揮する旨記載されている(【0031】,【0042】)。
d ロ号装置は,ホラーゲームであり,設定されたマップ内を探索し,
謎を解いていくことでストーリーが展開するものである。そのため,
ロ号製品の訴求力は,作り込まれたストーリー,美しいグラフィック,
本物にこだわったサウンドによる演出,美少女キャラクタにあり(乙
B32の11及び23,乙B33,35),少なくとも本件発明B1
及びB8の作用効果に訴求力はない。
e 被控訴人は,ロ号製品の宣伝広告等で,本件発明B1及びB8の作
用効果を含めた振動機能について述べたことはない。
(ウ) 控訴人の損害
控訴人の主張を否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
当裁判所は,①イ号方法のうち,イ-9号製品等を用いた方法は,本件発明
A1の技術的範囲に属し,これらの品を製造,販売又は販売の申出をすること
は,本件発明A1についての本件特許権Aの間接侵害(特許法101条4号)
に該当する,また,本件発明A1に係る特許は,特許無効審判により無効とな
るべきものとはいえない,②その余のイ号方法(イ-1号製品等を用いた方法)
は,本件発明A1の構成要件B-2及び本件発明A2の構成要件G-2を充足
せず,本件発明A1及びA2の構成と均等なものでもないから,本件発明A1
及びA2の技術的範囲に属するものではない,③ロ号装置は,本件発明B1の
技術的範囲に属し,ロ号製品を製造,販売することは,本件発明B1について
の本件特許権Bの間接侵害(特許法101条1号)に該当する,また,本件発
明B1に係る特許は,特許無効審判により無効となるべきものとはいえない,
④本件特許権A及び本件特許権B侵害の不法行為による控訴人の損害賠償請求
は,1億4394万3710円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限
度で理由があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 本件特許権Aについて
⑴ 争点1-1-1(文言侵害の成否)について
ア 本件明細書Aの記載事項等について
(ア) 本件発明A1及びA2の特許請求の範囲(請求項1,2)の記載は,
前記第2の2⑵ウのとおりである。
本件明細書A(甲A2,45,46)の発明の詳細な説明には,次の
ような記載がある(下記記載中に引用する「図1及び2」については別
紙8を参照)。
a 【0001】
【産業上の利用分野】
本願発明は,たとえば家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象と
したシステム作動方法に関し,より詳しくは,CD-ROMなどの高
密度記憶媒体をソフトウェア供給媒体として使用する場合に好適なシ
ステム作動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
たとえば,家庭用ゲーム機の分野においては,このゲーム機本体を
所有しているユーザを対象として,半導体ROMカセット等によって
ゲームソフトが供給される。ユーザは,このゲームソフトを家庭用ゲ
ーム機本体に装着してゲームを楽しむ。
【0003】
従来,ゲーム機本体の機能能力の限界,半導体ROMカセットの容
量の限界等の理由により,ROMカセットは,その容量とユーザが入
手可能な価格に見合ったゲーム内容(ゲームプログラム,データ等)
を包含するにすぎなかった。
【0004】
ところで,最近にいたっては,家庭用ゲーム機本体もいわゆる32
ビットのCPUを搭載した高速型が開発され,また,ゲームソフト供
給媒体としても,CD-ROMが採用されつつある。
【0005】
CD-ROMは,その記憶容量が一般的に約500MBもあり,半
導体ROMに比較して約100倍以上の容量をもつ。ゲームソフトは,
ゲーム進行プログラム,制御プログラム等のプログラム,および,映
像データ,サウンドデータ等のデータを含んで構成されるが,このゲ
ームソフト供給媒体としてCD-ROMを使用すると,理論上,半導
体ROMに比較して100倍以上の内容のゲームソフトを記憶してお
くことができる。
【0006】
しかしながら,上記のように膨大な内容のゲームソフトを開発し,
かつこれをCD-ROMに記憶させて供給することが技術的に可能で
あったとしても,そのゲームソフトの開発コストが高騰し,比較的低
年齢層を対象とするユーザが1回に支払うことができる価格で供給す
ることが困難となるという問題がある。
【0007】
本願発明は,このような事情のもとで考え出されたものであって,
たとえば,シリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えて行くこ
とによって,豊富な内容のゲームを楽しむことができるようにするこ
とをその課題とする。
b 【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため,本願発明では,次の技術的手段を採用
する。
【0012】
本願発明の第1の側面によれば,ゲームプログラムおよび/または
データを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシス
テムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定
のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含す
る第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデ
ータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包
含する第2の記憶媒体とが準備されており,上記拡張ゲームプログラ
ムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/また
はデータに対し,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャ
ラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または
音響の豊富化を達成するように形成されたものであり,上記第2の記
憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上記所
定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよ
び/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ
の双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込んで
いない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータの
みによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステ
ム作動方法が提供される。
c 【0015】
【発明の作用および効果】
情報処理装置の具体例としては家庭用ゲーム機があり,記憶媒体の
具体例としてはCD-ROMがあり,これに記憶されるプログラムお
よび/またはデータの具体例としては,いわゆるゲームソフトがある。
【0016】
第1のCD-ROMには,シリーズもののゲーム内容の他に所定の
キーが記憶される。この場合,ゲーム内容は,たとえば,CD-RO
Mの記憶容量の一部を使用した,ユーザが1回の支払いで購入可能な
価格に見合ったものとされる。
【0017】
第2のCD-ROMには,所定の制御プログラムおよびシリーズも
ののゲーム内容が記憶されるが,たとえば,この第2のCD-ROM
を単独で使用する場合を予定した標準のゲーム内容に加え,拡張した
ゲーム内容が記憶される。この拡張したゲーム内容には,たとえば,
標準のゲーム内容に対し,ゲームキャラクタの増加,ゲームキャラク
タのもつ機能の豊富化,場面の拡張,音響の豊富化等を達成するため
のプログラムおよび/またはデータが含まれる。この第2のCD-R
OMの価格は,たとえば,ユーザが1回の支払いで購入可能な価格に
設定される。
【0018】
第2のCD-ROMが包含する制御プログラムまたはゲーム機にあ
らかじめ装備する制御プログラムは,この第2のCD-ROMがゲー
ム機に装填されたとき,ゲーム機が所定のキーを読み込んでいるか否
かを判断し,読み込まれていない場合には,この第2のCD-ROM
に記憶されているゲーム内容のうち,標準のゲーム内容を作動させる
一方,上記所定のキーが読み込まれている場合には,標準のゲーム内
容および拡張したゲーム内容を作動させる。
【0019】
上記制御プログラムは,たとえば「○○シリーズの☆☆☆のCD-
ROMをお持ちの場合は,ゲーム機に装填してください。」といった
インストラクションを画面に表示させ,ユーザに対して第1のCD-
ROMの装填を促すようにすることもできる。この場合,第1のCD
-ROMの装填後,再度第2のCD-ROMを装填したときに,上記
キーがゲーム機に読み込まれていると判断され,標準のゲーム内容と
拡張されたゲーム内容とが作動させられることになる。
【0020】
上記の場合,第1のCD-ROMと第2のCD-ROMとを所有す
るユーザは,この第2のCD-ROMをゲーム機に装填したとき,こ
の第2のCD-ROMに記憶されている標準のゲーム内容に加え,拡
張されたゲーム内容を楽しむことが可能となる。
【0021】
このようにして,第3,第4のCD-ROMを同様の手法によって
提供するようにし,シリーズが進むにしたがって,そのCD-ROM
に標準のゲーム内容に加え,それ以前のCD-ROMを所有しておれ
ば,各CD-ROMに包含されているキーを順次ゲーム機に読み込ま
せることによって,次第に高度かつ豊富な拡張ゲーム内容を楽しむこ
とができるようにすることができる。
【0022】
したがって,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズ
もののCD-ROMを買い揃えてゆくことによって,最終的にきわめ
て豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになる。また,メー
カにとっては,開発コストが相当かかる膨大な内容のゲームソフトを,
ユーザが購入しやすい方法で実質的に提供することができるようにな
る。
d 【0023】
【実施例の説明】
以下,本願発明の好ましい実施例を,図面を参照しつつ具体的に説
明する。
【0024】
図1は,本願発明に係るシステム作動方法の使用に際して用いられ
る家庭用ゲームセットを示す概略図,図2は,上記システム作動方法
の一例を示すフローチャートである。
【0025】
図1に示すように,本実施例に係るゲームセットは,家庭用ゲーム
機Sと,このゲーム機にゲームソフトを供給するための記憶媒体とし
ての複数枚のCD-ROM1,2,3とを含んで構成される。
【0028】
図1に示されるように,CD-ROM1,2,3は,たとえば,シ
リーズもののゲーム内容を記憶したものであり,初回にリリースされ
たものをここでは第1のCD-ROM1,第2弾,第3弾としてリリ
ースされたものを第2のCD-ROM2,第3のCD-ROM3と呼
ぶ。ただし,第4弾以降も続く場合がある。図1に示される場合,こ
のゲーム機のユーザは,第1,第2および第3の,シリーズ3部作の
CD-ROM1,2,3を所有していることになる。
【0029】
初回にリリースされた第1のCD-ROM1には,少なくともゲー
ム用プログラムおよびデータA1,ならびに,第1キーC1 が記憶され
ている。第1キーC1 は,当該第1のCD-ROM1を用いてゲームを
行う場合には意味をなさず,後述するように,第2のCD-ROM2
および/またはそれ以降のCD-ROMとの関連において,意味をな
す。
【0030】
そして,第2のCD-ROM2には,標準ゲームプログラムおよび
データA2,拡張ゲームプログラムおよびデータA2',制御プログラム
B2,ならびに第2キーC2 が記憶されている。ここで,標準ゲームプ
ログラムおよびデータA2 とは,この第2CD-ROM2を単独で使用
することを予定したものである。また,拡張ゲームプログラムおよび
データA2'とは,上記標準ゲームプログラムおよびデータA2 によって
実現される標準ゲーム内容に比較し,より高度かつ豊富なゲーム内容
を実現するためのものである。たとえば,ゲームキャラクタの増加,
ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化,場面の拡張,音響の豊富化等
がこの拡張ゲームプログラムおよびデータA 2'によって実現される。
ここで第2キーC2 は,当該第2のCD-ROM2のみを用いてゲーム
を行う場合には意味をなさず,第3のCD-ROM3および/または
それ以降のCD-ROMとの関連において意味をなす。また,本願実
施例において制御プログラムB2 がもつべき機能については後述する。
【0031】
同じく,第3のCD-ROM3には,この第3のCD-ROM3を
単独で使用することを予定した標準ゲームプログラムおよびデータA
3,制御プログラムB3 より高度かつ豊富なゲーム内容を実現するため
の拡張ゲームプログラムおよびデータA3',ならびに第3のキーC3 が
記憶されている。この第3のCD-ROM3についての拡張ゲームプ
ログラムおよびデータA 3'は,第2のCD-ROM2についての拡張
ゲームプログラムおよびデータA 2'よりも,より一層拡張の程度が高
められたものとされる。ここで第3キーC3 は,当該第3のCD-RO
M3のみを用いてゲームを行う場合には意味をなさず,図示しない第
4のCD-ROMおよび/またはそれ以降のCD-ROMとの関連に
おいて意味をなすものである。
【0032】
なお,上記第1,第2および第3キーC1,C2,C3 は,狭義には,
ゲームのタイトル,バージョンNo.リリース時期,仕向先等,ゲー
ム内容に直接関係しない情報であってよいが,ゲーム結果等のゲーム
データやプログラムの一部を含むことを妨げない。通常,このような
キー情報は,記憶媒体の所定の領域にコード化する等して所定の形式
で記憶しておき,制御プログラムによってこの情報を読み取り,何ら
かの論理によってキーであると認識させることができればよい。
【0033】
次に,図2のフローチャートを参照し,図1に示すように,第1な
いし第3のCD-ROM1,2,3を所有するユーザが第2のCD-
ROM2の拡張ゲームを楽しむ場合を例にとり,本願発明方法の一例
を説明する。
【0034】
第2のCD-ROM2がゲーム機SのCDドライブ装置4に装填さ
れると,第2のCD-ROM2中の制御プログラムB2 がゲーム機1に
読み込まれる。こうして読み込まれた制御プログラムは,以下の制御
を行う。
【0035】
まず,第1のCD-ROM1がもつべき第1キーC 1 がすでにゲー
ム機Sに読み込まれいるかどうかを判断する(ステップ001)。ゲ
ーム機Sに通常の揮発性のRAMをバッテリーバックアップし,ある
いは不揮発性の記憶機能を設けるなどして,すでに上記第1キーC 1
が読み込まれている場合には(ステップ001でYES),当該第2
のCD-ROM2中の標準ゲームと拡張ゲームとを実行するべく制御
を行う(ステップ002)。
【0036】
ステップ001において第1キーC1 が読み込まれていないと判断
された場合には(ステップ001でNO),第1のCD-ROM1の
ゲーム機Sへの装填をユーザに促すインストラクション表示を行う
(ステップ003)。これは,たとえば,テレビジョン装置の画面に
「○○シリーズの☆☆☆のCD-ROMをお持ちの場合は,ゲーム機
に装填してください」といった表示をするなどして行う。一定時間内
に(ステップ004でYES),第1のCD-ROM1がゲーム機S
に装填されると(ステップ005でYES),第1キーC1 が読み込ま
れたかどうかが判断される(ステップ006)。第1キーが読み込ま
れていると判断されると(ステップ006でYES),再度の第2C
D-ROM2をゲーム機Sに装填することをユーザに促すインストラ
クションを表示する(ステップ007)。これは,たとえば,テレビ
ジョン装置の画面に「元のCD-ROMをゲーム機に装填してくださ
い」といった表示をするなどして行う。一定時間内に(ステップ00
8でYES),第2のCD-ROM2が装填されると(ステップ00
9でYES),当該第2のCD-ROM2中の標準ゲームと拡張ゲー
ムとを実行するべく制御を行う(ステップ010)。上記インストラ
クション表示後一定時間内に第2のCD-ROM2が装填されない場
合には(ステップ009でNO) 制御を終了する
, (ステップ011)。
【0037】
一方,ステップ003で第1のCD-ROM1を装填するべきイン
ストラクション表示を行ったにもかかわらず,一定時間内に第1のC
D-ROM1がゲーム機Sに装填されない場合(ステップ005でN
O),および,上記インストラクション表示にしたがって一定時間内
に装填された第1のCD-ROM1から第1キーC1 が読み込まれな
かった場合(ステップ006でNO)にも,再度第2のCD-ROM
2の装填をユーザに促すインストラクション表示を行う。この場合,
たとえば,テレビジョン装置の画面に「拡張ゲームを実行するための
キーが読み取れませんでしたので,標準ゲームを実行します。再度元
のCD-ROMを装填してください」といった表示をすることにより
行う。一定時間内に(ステップ013でYES),第2のCD-RO
M2が装填されると(ステップ014でYES),当該第2のCD-
ROM2中の標準ゲームのみを実行するべく制御を行う(ステップ0
15)。上記インストラクション表示後一定時間内に第2のCD-R
OM2が装填されない場合には(ステップ014でNO),制御を終
了する(ステップ016)。
【0038】
すなわち,上記実施例によれば,ユーザは,第2のCD-ROM2
と第1のCD-ROM1を所有している故に,第2のCD-ROM2
中の標準ゲームのみならず,拡張したゲームを楽しむことができる。
もし,このユーザが第1のCD-ROM1を所有していない場合には,
上記した制御において,第1キーC1 を読み取ることができないから,
第2のCD-ROM2中の標準ゲームしか楽しむことができないこと
になる。
【0040】
たとえば,第1のCD-ROMから第NのCD-ROMの価格をユ
ーザが1回で支払い可能な価格に設定しておけば,これらのシリーズ
もののCD-ROMを買い揃えてゆくことによって,最終的にきわめ
て豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになる。また,メー
カにとっては,開発コストが相当かかる膨大な内容のゲームソフトを,
ユーザが購入しやすい方法で実質的に提供することができるようにな
る。
【0041】
本願発明方法は,上記した実施例に限定されない。たとえば,上記
実施例では,キーの判断を第2以降のCD-ROM中の制御プログラ
ムによって行うようにしているが,これに代えて,たとえばゲーム機
の記憶部に上記制御を行うプログラムを格納しておき,これによって
上記のキーの判断を行うようにすることもできる。
【0042】
さらに,上記実施例では,記憶媒体としてCD-ROMを使用し,
情報処理装置としてゲーム機を使用したが,これに代えて,他の記憶
媒体としてたとえばフロッピーディスク,ハードディスク,光磁気(M
O)ディスクを使用し,また他の情報処理装置としてたとえばパーソ
ナルコンピュータを使用してもよい。
(イ) 前記(ア)の記載事項によれば,本件明細書Aの発明の詳細な説明には,
本件発明A1及びA2に関し,次のような開示があることが認められる。
従来,家庭用ゲーム機の分野においては,ゲーム機本体を所有してい
るユーザを対象として,半導体ROMカセット等によりゲームソフトが
供給されていたが,最近に至って,32ビットのCPUを搭載した高速
型の家庭用ゲーム機本体が開発され,記憶容量が半導体ROMの100
倍以上あるCD-ROMが,ゲームソフト供給媒体として採用されつつ
ある(【0002】~【0005】)。
しかしながら,膨大な内容のゲームソフトを開発し,CD-ROMに
記憶させて供給することが技術的に可能だとしても,そのゲームソフト
の開発コストが高騰し,比較的低年齢層を対象とするユーザが1回に支
払える価格で供給することが困難となるという問題がある 【0006】 。
( )
「本願発明」 このような事情のもとで考え出されたものであって,
は,
例えば,シリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えていくことに
より,豊富な内容のゲームを楽しめるようにすることを課題とするもの
であり,かかる課題を解決するための手段として,ゲームプログラム及
び/又はデータを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲー
ムシステムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,
所定のゲームプログラム及び/又はデータと,所定のキーとを包含する
第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加
えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の記
憶媒体とが準備されており,上記拡張ゲームプログラム及び/又はデー
タは,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータに対し,ゲームキャ
ラクタの増加及び/又はゲームキャラクタのもつ機能の豊富化及び/又
は場面の拡張及び/又は音響の豊富化を達成するように形成されたもの
であり,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記
ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲー
ムプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲームプログラム及び/又は
データの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込
んでいない場合には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータのみ
によってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作
動方法という構成を採用した(【0007】,【0012】)。
この構成により,第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とを所有するユー
ザは,第2の記憶媒体に記憶されている標準のゲーム内容に加え,拡張
されたゲーム内容を楽しむことが可能となるから,ユーザにとっては,
一回の購入金額が適正なシリーズものの記憶媒体を買い揃えてゆくこと
によって,最終的に極めて豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同
じになり,メーカにとっては,膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが
購入しやすい方法で実質的に提供できるという効果を奏する(【002
0】,【0022】,【0040】)。
イ 本件発明A1の技術的範囲の属否について
(ア) 構成要件D,D-1及びD-2の意義
a(a) 本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,
「第
2の記憶媒体」は「所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデ
ータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを
包含する」ものであり(構成要件B-2),「上記第2の記憶媒体
が上記ゲーム装置に装填されるとき」(構成要件D)に,「上記ゲ
ーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲ
ームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラム
および/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」(構
成要件D-1),「上記所定のキーを読み込んでいない場合には,
上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲー
ム装置を作動させる」(構成要件D-2)ことを理解できる。
一方,上記特許請求の範囲には,「上記ゲーム装置が上記所定の
キーを読み込」む時期について,「上記第2の記憶媒体が上記ゲー
ム装置に装填され」た直後のステップであって,第2の記憶媒体に
よりゲーム装置が作動する前の時点に限定して解釈すべき根拠とな
る記載はない。
⒝ 次に,前記ア(イ)のとおり,本件明細書Aの発明の詳細な説明には,
「本願発明」は,第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されると
き,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,
上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲームプロ
グラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上
記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログ
ラム及び/又はデータのみによってゲーム装置を作動させるという
構成を採用することにより,第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とを
所有するユーザは,第2の記憶媒体に記憶されている標準のゲーム
内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能となる等の
効果を奏することが記載されており,この点に技術的意義があるも
のと認められる。
そして,本件発明A1の上記技術的意義に照らすと,「上記ゲー
ム装置が上記所定のキーを読み込」む時期を,「上記第2の記憶媒
体が上記ゲーム装置に装填され」た直後のステップであって,第2
の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限る必然性は見
いだし難い。本件明細書A全体をみても,「上記ゲーム装置が上記
所定のキーを読み込」む時期を上記の時点に限定することによって,
その他の時点で上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込む場合と
比して有利な効果を生じるなどの技術的意義があることについての
記載も示唆もない。
⒞ 以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本
件明細書Aの記載によれば,本件発明A1の「上記ゲーム装置が上
記所定のキーを読み込」む時期は,「上記第2の記憶媒体が上記ゲ
ーム装置に装填され」ている場面であれば足り,第2の記憶媒体が
ゲーム装置に装填された直後のステップであって,第2の記憶媒体
によりゲーム装置が作動する前の時点に限定されるものではないと
解すべきである。
b これに対し被控訴人は,①本件発明A1の特許請求の範囲(請求項
1)の記載,②本件明細書Aの【0018】の記載,③本件特許出願
Aの出願審査の際に控訴人が提出した意見書(乙A14の1,2)の
記載によれば,構成要件D,D-1及びD-2は,第2の記憶媒体に
よりゲーム装置を作動させる前に,「所定のキー」が読み込まれてい
るか否かを判定することを前提とする旨主張する。
まず,上記①及び②の点については,前記aのとおり,本件発明A
1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によ
れば,本件発明A1の「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」
む時期は,第2の記憶媒体がゲーム装置に装填された直後のステップ
であって,第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限
定されるものではないと解すべきである。
次に,上記③の点について,本件特許出願Aの出願審査の際に控訴
人が提出した意見書(乙A14の1,2)には,「第2の記憶媒体が
包含する制御プログラムまたはゲーム機にあらかじめ装備する制御プ
ログラムは,この第2の記憶媒体がゲーム機に装填されたとき,ゲー
ム機が所定のキーを読み込んでいるか否かを判断し,読み込まれてい
ない場合には,この第2の記憶媒体に記憶されているゲーム内容のう
ち,標準のゲーム内容を作動させる一方,上記所定のキーが読み込ま
れている場合には,標準のゲーム内容及び拡張したゲーム内容を作動
させる。」との記載がある。
しかしながら,上記記載から直ちに,控訴人が,本件発明A1の技
術的範囲につき,第2の記憶媒体がゲーム機に装填された直後のステ
ップであって,ゲーム機が作動する前の時点で「所定のキー」が読み
込まれているか否かを判定する構成のものに限定する趣旨のものであ
る旨主張したものと理解することはできない。また,上記意見書は,
その記載全体をみれば,拒絶理由通知に記載された引用例1の発明と
本件訂正A前の本件特許Aの特許請求の範囲の請求項1に係る発明と
は,標準ゲームプログラムの内容の拡張という概念の有無において相
違するものであるから,引用例1の発明に基づき上記本件訂正A前の
発明を容易に発明することができたものではない旨を主張したものと
理解できる。
以上によれば,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 構成要件B等の意義
a(a) 本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,
「所
定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,「標準ゲー
ムプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの
増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/
または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲ
ームプログラムおよび/またはデータ」であり,
「第2の記憶媒体」
に「包含」されるものであって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲー
ム装置に装填され」,「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が
「包含する」「所定のキーを読み込んでいる場合に」,「上記標準
ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラ
ムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る
ことを理解できる。
このように,構成要件B-2の「所定の拡張ゲームプログラムお
よび/またはデータ」は,「上記標準ゲームプログラムおよび/ま
たはデータ」とともにゲーム装置を作動させるものであり,第2の
記憶媒体に記憶されるものであって,第2の記憶媒体がゲーム装置
に装填されるときにゲーム装置を作動させることが可能なものであ
ることからすると,「所定の拡張ゲームプログラムおよび/または
データ」とは,第2の記憶媒体にその全部が記憶されているものを
意味するのであり,第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とに分かれて
記憶されているものは含まれないと理解できる。
⒝ 次に,本件明細書Aの発明の詳細な説明には,前記ア(ア)のとおり,
「本願発明」は,所定のゲームプログラム及び/又はデータと,所
定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログ
ラム及び/又はデータに加えて所定の拡張ゲームプログラム及び/
又はデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,第2の
記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上
記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラ
ム及び/又はデータと上記拡張ゲームプログラム及び/又はデータ
の双方によってゲーム装置を作動させる構成を有するものである旨
が記載されている。
他方,本件明細書Aには,「所定の拡張ゲームプログラムおよび
/またはデータ」が第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とに分かれて
記憶されている構成について明示ないし示唆する記載はない。むし
ろ,本件発明A1の実施例に関する【0035】ないし【0037】
の記載は,第1のCD-ROM(第1の記憶媒体)から拡張ゲーム
プログラムやデータを読み込むことはおよそ想定していないと理解
できるものなのであり,このことも,上記の理解を裏付けるものと
いえる。
なお,本件明細書Aには,「上記第1,第2および第3キーC 1,
C2,C3 は,狭義には,ゲームのタイトル,バージョンNo.リリ
ース時期,仕向先等,ゲーム内容に直接関係しない情報であってよ
いが,ゲーム結果等のゲームデータやプログラムの一部を含むこと
を妨げない。」との記載があるが(【0032】),同記載は,所
定のキーにゲームデータやプログラムの一部を含むことが可能であ
る旨を示したものであって,第1の記憶媒体に記憶されたゲームデ
ータやプログラムを拡張ゲームプログラム/及びデータとして使用
することが可能である旨を示すものであるとは理解できない。
⒞ 以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本
件明細書Aの記載によれば,本件発明A1の「所定の拡張ゲームプ
ログラムおよび/またはデータ」は,「第2記憶手段」にその全て
が記録されるものを意味するのであって,「第1記憶手段」と「第
2記憶手段」とに分かれて記憶されるものは含まれないと解される。
b これに対し控訴人は,「拡張ゲームプログラムおよび/またはデー
タ」は,より高度かつ豊富なゲーム内容を実現するのに「役に立つ」
ゲームプログラム及び/又はデータを意味するものであって,「単独
で」より高度かつ豊富なゲーム内容を実現するゲームプログラム及び
/又はデータを意味するものではない旨主張する。
しかしながら,
「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,
前記aのとおり解されるものであり,控訴人の上記主張は採用するこ
とができない。
(ウ) イ号方法の構成要件充足性について
a イ号方法のうちイ-1号方法等以外のもの
証拠(甲A5,7~9,11,14,19,21~25)及び弁論
の全趣旨によれば,イ号方法のうちイ-1号方法等以外のもの(イ-
9,16ないし22,23②及び24ないし40号方法。以下「イ-
9号方法等」と総称する。)の構成は,別紙9「イ号方法の構成」記
載のとおりであると認められる。
そして,本件発明A1の構成要件とイ-9号方法等の構成との対比
は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりであるから,イ-9号方
法等は,本件発明A1の構成要件をすべて充足するものであって,本
件発明A1の技術的範囲に属するものと認められる。
これに対し被控訴人は,イ-9号方法等の構成は,別紙3「イ号方
法説明書(被控訴人)」記載のとおりであり,イ-9号方法等は構成
要件D,D-1及びD-2を充足するものではない旨主張する。
しかしながら,上記主張は,構成要件D,D-1及びD-2は,第
2の記憶媒体によりゲーム装置を作動させる前に,「所定のキー」が
読み込まれているか否かを判定するものであると解することを前提と
するところ,かかる解釈を採用できないことについては,前記(ア)aの
とおりである。
したがって,被控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって,
採用することはできない。
b イ-1号方法等
控訴人は,①イ-1号方法等は,別紙2「イ号方法説明書(控訴人)」
記載のとおりであり,同方法と本件発明A1及びA2の構成要件との
対比は同別紙記載のとおりであるから,同方法は,本件発明A1及び
A2の構成要件をすべて充足する,②PlayStation2が,
その作動に際しプログラム及び/又はデータの処理のために使用でき
るRAMの容量は32MBであるところ,その容量は,MIXJOY
を実行することによりイ号製品に包含されたプログラム及び/又はデ
ータの処理のためにも使用されることを考慮すると,イ-1号方法等
において,イ号製品とシリーズものの関係にある本編ディスクから読
み込んでRAMに格納されるプログラム及び/又はデータの容量はご
く限られたものとならざるを得ないから,イ-1号方法等における場
面の拡張等を達成するプログラム及び/又はデータの大部分はイ号製
品に記録されており,かかるプログラム及び/又はデータにより,構
成要件C,Hの「ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャ
ラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または
音響の豊富化を達成」していると推測するのが合理的である旨主張す
る。
これに対し被控訴人は,イ-1号方法等では,アペンドディスクに
記録された本編ディスクプログラムが本編ディスクに記録されたプロ
グラム及び/又はデータと組み合わされなければ,「ゲームキャラク
タの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および
/または場面の拡張および/または音響の豊富化」を達成することは
できないのであるから,イ-1号方法等には,「拡張ゲームプログラ
ム及び/又はデータ」及びそれを包含した「第2の記憶媒体」(構成
要件B-2,G-2)は存在せず,構成要件C及びHも充足しない旨
主張する。
そこで,イ-1号方法等が本件発明A1及びA2の構成要件を充足
するか否かについて検討する。
(a) 証拠(甲A3,12,17)及び弁論の全趣旨によれば,イ-1
ないし5号方法について,以下の事実が認められる。
「戦国無双猛将伝」DVD-ROMによりPlayStatio
n2を作動させ,「結合」モードを選択した場合,「戦国無双」D
VD-ROMを装填するようメッセージが表示され,メッセージに
従って「戦国無双猛将伝」DVD-ROMを取り出し,「戦国無双」
DVD-ROMを装填すると,再度,「戦国無双猛将伝」DVD-
ROMを装填するようメッセージが表示される。そこで,メッセー
ジに従って「戦国無双」DVD-ROMを取り出し,「戦国無双猛
将伝」DVD-ROMを装填すると,MIXJOYが有効となり,
「戦国無双」のシナリオやキャラクタでプレイできる。
具体的には,①「無双演武」のゲームモードにキャラクタが16
人追加され,追加されたキャラクタに基づくシナリオが追加され,
②「模擬演武」のゲームモードへの16個の章が追加され,③「無
限城」のゲームモードに「奈落・改」ステージ及び「虚空・改」ス
テージが追加され,④「仕合」のゲームモードに「決戦」ステージ,
「捕物」ステージ及び「速攻」ステージが追加され,⑤「腕試し」
のゲームモードが追加される。
また,MIXJOYを有効にするため,メニューから「結合」を
選択すると,「『戦国無双』のディスクからデータを読み込みます
よろしいですか?」とのインストラクションが表示される。
⒝ 控訴人は,上記のとおり,PlayStation2において使
用できるRAMの容量等を根拠として,本編ディスクプログラム及
びデータの大部分はアペンドディスクに記録されており,かかるプ
ログラム及び/又はデータにより,場面の拡張等が達成されている
旨主張するが,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。
かえって,前記(a)のとおり,MIXJOYを有効にするためにメ
ニューから「結合」を選択すると,「『戦国無双』のディスクから
データを読み込みます よろしいですか?」とのインストラクショ
ンが表示されること,「結合」により追加される機能は,いずれも
「戦国無双」のステージやキャラクタであることからすると,「戦
国無双猛将伝」DVD-ROMにこれらのプログラム及び/又はデ
ータの全てが存在するとは考えにくく,「戦国無双」DVD-RO
Mにこれらのプログラム及び/又はデータが少なくとも一部は存在
し,メッセージに従って「戦国無双」DVD-ROMを挿入したと
きに,同DVD-ROMから,「戦国無双」ゲームプログラム及び
/又はデータの一部を読み込んでいるものと推認される。
そうすると,イ-1ないし5号方法の構成は,別紙9「イ号方法
の構成」記載のとおりであると認められ,同認定を左右する証拠は
ない。
⒞ 前記⒝と同様に,証拠(甲A4,6,12,14,18,20)
及び弁論の全趣旨によれば,イ-6ないし8,10ないし15及び
23①号方法の構成は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりで
あると認められる。
⒟ 以上のとおり,イ-1号方法等の構成は別紙9「イ号方法の構成」
記載のとおりであるところ,同方法の構成と本件発明A1及びA2
の構成要件との対比は,同別紙記載のとおりである。
そして,前記(イ)のとおり,本件発明A1の「所定の拡張ゲームプ
ログラムおよび/またはデータ」は,「第2の記憶媒体」にその全
てが記録されるものであって,「第1の記憶媒体」と「第2の記憶
媒体」に分かれて記憶されるものは含まれないと解されることから,
イ-1号方法等は,「第2の記憶媒体」に「所定の拡張ゲームプロ
グラムおよび/またはデータ」が「包含」されるものではなく,本
件発明A1の構成要件B-2,C及びD-1を充足せず,同様の理
由により,本件発明A2の構成要件G-2,H及びI-1を充足し
ない。
したがって,イー1号方法等は,本件発明A1及びA2の技術的
範囲に属するものとは認められない。
⑵ 争点1-1-2(均等侵害の成否)について
前記⑴イ(ウ)bのとおり,イ-1号方法等は,「第2の記憶媒体」に「所定
の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」が「包含」されるものでは
ない点において本件発明A1及びA2と相違するところ,控訴人は,かかる
相違点について,イ-1号方法等が本件発明A1及びA2の構成と均等なも
のである旨の主張をしていない。
したがって,イ-1号方法等は,本件発明A1及びA2の構成と均等なも
のであるとは認められない。
⑶ 争点1-1-3(間接侵害(特許法101条4号)の成否)について
ア 前記⑴のとおり,イ-9号方法等は,本件発明A1の技術的範囲に属す
るものである。
そして,イ-9号製品等は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおり,
ゲーム装置であるWii(イ-9号製品) PlayStation2
, (イ
-16ないし22,23②,24ないし30及び35ないし40号製品)
及びPlayStation3(イ-31ないし34号製品)に装填して
ゲームシステムを作動させるためのゲームソフトであり,上記ゲーム装置
に装填されて使用される用途以外に,社会通念上,経済的,商業的又は実
用的な他の用途はないから,イ-9号方法等の使用にのみ用いる物である
と認められる。
したがって,特許法101条4号により,被控訴人が,業として,イ-
9号製品等の製造,販売及び販売の申出をする行為は,本件特許権Aを侵
害するものとみなされる。
イ これに対し被控訴人は,①本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の
記憶媒体とが準備されており」とは,実施行為者において各記憶媒体をゲ
ーム装置に装填可能に準備することを意味するものであるところ,本編デ
ィスクを保有せずにイ-9号製品等のみを保有しているユーザは,MIX
JOYを選択することはないから,本件発明A1の方法を実施することが
なく,かつ,イ-9号製品等には,単独でも十分楽しめる内容のゲームプ
ログラムが備わっているから,イ-9号製品等は,社会通念上,経済的,
商業的又は実用的な他の用途を有するものであって,本件発明A1の方法
の使用にのみ用いる物ではない,②本件発明A1を実施する物は,「本編
ディスク及びアペンドディスクを装填したプレイステーションからなるゲ
ームシステム」であり,イ-9号製品等は,イ-9号方法等を実施する装
置の生産に用いられる物に過ぎないから, その方法の使用に…用いる物」

に該当しない旨主張する。
そこで,被控訴人の上記主張について検討する。
(ア)a まず,上記①の点について,本件発明A1の特許請求の範囲(請求
項1)の記載によれば,本件発明A1は,「所定のゲームプログラム
および/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,
所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡
張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体
とが準備されており,」(構成要件B-1,B-2)「上記第2の記
憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,」(構成要件D),「上
記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準
ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラム
および/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所
定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムお
よび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴
とする,」(構成要件D-1,D-2)「ゲームシステム作動方法」
(構成要件E)であることを理解できる。
そして,上記構成要件D,D-1及びD-2の記載によれば,ユー
ザが第2の記憶媒体のみを保有し,第1の記憶媒体を保有しない場合
でも,ユーザにおいて「上記第2の記憶媒体」を「上記ゲーム装置に
装填」すること,その際に,「上記所定のキーを読み込んでいない場
合」に当たるとして,「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデ
ータのみによってゲーム装置を作動させる」ことは可能であることを
理解できる。
一方,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)には,「第1の
記憶媒体と,…第2の記憶媒体とが準備されて」いることについて,
「準備」をする主体は実施行為者(ゲームをプレイするユーザ)であ
り,
「準備」とは各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備すること,
すなわち, 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」

に,実施行為者において第1の記憶媒体を保有することであると解釈
すべき根拠となる記載はない。
b 次に,前記⑴ア(イ)のとおり,本件明細書Aの発明の詳細な説明に
は,「本願発明」の技術的意義が記載されているところ,かかる技術
的意義を達成するために,「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが
準備されており」の意味を,実施行為者(ゲームをプレイするユーザ)
において各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備することに特定す
る必然性は見いだし難い。このように特定しなくとも,ゲームソフト
メーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され,ユー
ザにおいてこれを入手することが可能な状況にあれば,上記技術的意
義は達成可能であると考えられる。
c 以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件
明細書Aの記載によれば,本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2
の記憶媒体とが準備されており」とは,ゲームソフトメーカ等により
第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され,ユーザにおいてこれ
を入手することが可能な状況を意味するものであって,ユーザにおい
て各記憶媒体を現に保有することを意味するものではないと解される。
そして,同様の理由により,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置
に装填されるとき」に,実施行為者において第1の記憶媒体を保有す
ることが必要であるとは解されない。
したがって,イ-9号製品等を保有するユーザが,本編ディスクを
保有していないとの事実は,イ-9号製品等が本件発明A1の方法の
使用にのみ用いる物であるとの判断を左右するものではない。
(イ) 次に,上記②の点については,本件発明A1は,「記憶媒体…を上記
ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法」 構成要件A)

であって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填される」(構
成要件D)ことを発明特定事項とするものであるから,「上記第2の記
憶媒体」に相当するイ-9号製品等は,
「その方法の使用に…用いる物」
に該当するといえる。また,特許法101条4号の「その方法の使用に
のみ用いる物」は,当該「物」のみにより当該特許発明を実施するもの
である旨の限定は付されていないから,他の物と組み合わせることによ
り当該特許発明を実施する物も「物」に含まれると解される。
(ウ) 以上によれば,被控訴人の上記主張は採用することができない。
⑷ 争点1-1-4(実施行為の惹起行為による不法行為の成否)について
控訴人は,被控訴人によるイ-1号製品等の製造,販売及び販売の申出は,
ユーザによる本件発明A1及びA2の実施行為を惹起する行為であるから,
ユーザが「業として」特許発明を実施しないために直接侵害が成立しないと
しても,被控訴人の行為は不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,前記⑴及び⑵のとおり,イ-1号方法等は,本件発明A1
及びA2の技術的範囲に属するものとは認められないから,被控訴人による
イ-1号製品等の製造,販売及び販売の申出は,ユーザによる本件発明A1
及びA2の実施行為を惹起する行為とはいえない。
したがって,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用す
ることができない。
⑸ 争点1-2-1(本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公
然実施をされた発明に基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無)
について
ア 本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をされた
発明
(ア) 証拠(乙A2~6,8~10,13,14(枝番号を含む。))及び
弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件特許出願A(平成6年12月9日)前に発売されていたファミリ
ーコンピュータ(昭和58年発売。乙A5の3),ファミリーコンピュ
ータディスクシステム(昭和61年2月21日発売。乙A6の2),ゲ
ームソフト「魔洞戦紀」(昭和61年12月19日発売。乙A3の2),
ゲームソフト「勇士の紋章」(昭和62年5月29日発売。乙A3の4)
及びテレビを用いて実現されるゲームシステムを作動させる方法は,本
件特許出願Aの前に,公然知られていた(以下「本件公知発明1」とい
う。)。
本件公知発明1の構成は,次のとおりである。
a ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成さ
れ,ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおい
て,セーブデータなどを記憶可能で,ゲームプログラム及び/又はデ
ータを記憶するファミコンゲームシステムの動作中に入れ換え可能な
ディスクをディスクシステムに挿入して,ファミコンゲームシステム
を作動させる方法であって,
b 上記ディスクは,RWM(読み書き可能メモリ)であって,
b-1 魔洞戦紀のゲームプログラム及び/又はデータと,魔洞戦紀に
セーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報
とを包含する魔洞戦紀DDⅠと,
b-2 標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/
又はデータに加えて,魔洞戦紀DDⅠから転送されたキャラクタ
の魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには,そのキャ
ラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり,神殿で
祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」
とのメッセージが表示され,アイテム「くさのつゆ」及び「しろ
きのこ」が1つ増えるという動作機能を実行する拡張ゲームプロ
グラム及び/又はデータを包含する勇士の紋章DDⅡとが準備
されており,
c 拡張ゲームプログラム及び/又はデータは,標準ゲームプログラム
及び/又はデータに対して,キャラクタのレベルの増加,又はキャラ
クタのためのアイテムの増加を達成するように形成されたものであ
り,
d 勇士の紋章DDⅡがディスクシステムに挿入されるとき,
d-1 ファミリーコンピュータが,魔洞戦紀DDⅠから,キャラクタ
のレベルが21,すなわち16以上であることを示す情報を読み
込んでいる場合には,標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲーム
プログラム及び/又はデータと拡張ゲーム機能部分を実行する
拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってファミ
リーコンピュータを作動させ,
d-2 ファミリーコンピュータが,魔洞戦紀DDⅠから,キャラクタ
のレベルが16以上であることを示す情報を読み込んでいない
場合には,標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム
及び/又はデータのみによってファミリーコンピュータを作動
させる,
e ファミコンゲームシステム作動方法。
(イ) これに対し控訴人は,本件発明A1の「拡張ゲームプログラムおよび
/またはデータ」は,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容
を楽しむことが可能となるものであるから(本件明細書Aの【0020】
等),標準のゲーム内容を置き換えるゲームプログラム及び/又はデー
タを含まないと解され,本件発明A1と公知発明1との間には,相違点
1-1及び1-2のほかに,相違点1-3ないし1-5が存在する旨主
張する。
そこで検討するに,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記
載によれば,
「所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,
「標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラ
クタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および
/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲー
ムプログラムおよび/またはデータ」であり,「第2の記憶媒体」に「包
含」されるものであって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装
填され」,「上記ゲーム装置が」「第1の記憶媒体」が「包含する」「所
定のキーを読み込んでいる場合に」,「上記標準ゲームプログラムおよ
び/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの
双方によってゲーム装置を作動させ」ることを理解できる。
一方,上記特許請求の範囲には,「上記標準ゲームプログラムおよび
/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双
方によってゲーム装置を作動させ」た場合に動作する「上記標準ゲーム
プログラムおよび/またはデータ」が,「上記標準ゲームプログラムお
よび/またはデータ」の全部であると限定して解釈すべき根拠となる記
載はない。そして,本件明細書Aの発明の詳細な説明にも,「上記標準
ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムお
よび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」る場合とは,
「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」の一部しか作動し
ない場合を含まないものであり,「上記標準ゲームプログラムおよび/
またはデータ」の全部が動作することが必要であると解釈すべき根拠と
なる記載はない。
前記(ア)のとおり,本件公知発明1の「勇士の紋章DDⅡ」は,魔洞戦
紀DDⅠから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以
上であるときには,①そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最
初から2となり,②神殿で祈ると「ゆうけんしのしそん じゅんくよ。
がんばるのだぞ。 とのメッセージが表示され,
」 アイテム「くさのつゆ」
及び「しろきのこ」が1つ増える,という動作機能を実行するゲームプ
ログラム及び/又はデータを包含するものである。
そうすると,上記①の点は,「勇士の紋章」の標準のゲーム内容であ
ればレベル1からスタートするゲームキャラクタのレベル(乙A4の2・
11枚目,乙A8の1・8頁)をレベル2からスタートできるようにす
るものであり(乙A4の1・8枚目),上記②の点は,標準のゲーム内
容であれば金貨(GOLD)で支払わなければ取得できないアイテム(乙
A4の1・13枚目,乙A4の2・8枚目)を神殿で祈ることで取得で
きるようにするものであって(乙A9・2頁,乙A10・3頁),いず
れも新たな機能をゲームキャラクタに持たせるものであるから,これが
「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に当たることは明らかである。
また,上記②の点は,「勇士の紋章」の標準のゲームの内容であれば,
神殿で祈ると「あなたのたたかいが ぶじおわりますよう。あくまに わ
ざわいを!」とのメッセージのみが表示される場面を,神殿で祈ると「ゆ
うけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。」とのメッセージが
表示され,アイテム「くさのつゆ」及び「しろきのこ」が1つ増えると
いう場面とするものであるから,これが「場面の拡張」に当たることも
明らかである。
以上によれば,本件公知発明1の「勇士の紋章DDⅡ」は,「標準ゲ
ーム機能部分を実行する標準ゲームプログラム及び/又はデータ」に加
えて,「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面の拡張」を
達成するためのゲームプログラム及び/又はデータ,すなわち,本件発
明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」を包含するも
のといえる。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 他方,被控訴人は,公知発明1における「所定のキー」に相当する「キ
ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」とは,
①魔洞戦紀DDⅠが装填されたことを示すデータ及び②キャラクタ(じ
ゅんく)のレベルが16以上であるセーブデータである旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲A4の1,4の2,13の2)及び弁論
の全趣旨によれば,本件ゲームシステムA1において,まず,勇士の紋
章DDⅡを装填し,次いで,
「まどうせんきのAメンをいれてください」
というインストラクションに基づき,魔洞戦紀DDⅠを装填し,キャラ
クタ「じゅんく」を選択した後,再度,勇士の紋章DDⅡを装填した場
合には,勇士の紋章においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイできる
ことが認められる。
しかしながら,魔洞戦紀DDⅠを装填することにより当然に,本件発
明A1の「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当する,
本件公知発明1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」及び「場面
の拡張」を達成するためのゲームプログラム及び/又はデータと,標準
ゲームプログラム及び/又はデータの双方によって,ファミリーコンピ
ュータが作動されるものではない。前記(ア)及び(イ)のとおり,本件公知
発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲームプ
ログラム及び/又はデータの双方によってファミリーコンピュータを作
動させ」るには,魔洞戦紀DDⅠから,キャラクタ(じゅんく)のレベ
ルが16以上であるセーブデータを読み込むことが必要であり,かかる
データを読み込んでいない場合には,上記のようにインストラクション
に基づき魔洞戦紀DDⅠを装填するなどの作業をしたとしても,本件公
知発明1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによって
ファミリーコンピュータを作動させる」こととなる。
以上によれば,上記①のデータは,本件公知発明1の「拡張ゲームプ
ログラムおよび/またはデータ」を作動させる条件であるとはいえない
から,本件発明A1の「所定のキー」に相当する本件公知発明1の「キ
ャラクタ(じゅんく)のレベルが16以上であることを示す情報」には,
上記①のデータは含まれないといえる。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 本件発明A1と本件公知発明1の対比
本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると,以下の相違点が存在す
ることが認められる。
(相違点1-1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(ただし,
セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,本件公
知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。
(相違点1-2)
本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶
媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,本
件公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が,魔洞
戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブ
されたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 本件公知発明1の技術思想
本件公知発明1の内容に加え,前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣
旨を総合すれば,①ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士
の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀にお
いて,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章にお
いて,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを
有するゲームであること,②「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを,「勇
士の紋章」に転送することにより,「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,「勇
士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,③「魔洞戦
紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1から
ではなく,レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできる
こと,④このような場合に,「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以
上のキャラクタは,「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として
復活すること,⑤「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,「魔洞戦紀」に
おいて,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,そ
の後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスク
にセーブされたものと解されることが認められる。
上記認定事実によれば,本件公知発明1は,前作と後作との間でスト
ーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲーム
のキャラクタでプレイしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作
のゲームのプレイを有利にしたりすることによって,前作のゲームをプ
レイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプレイしたいとい
う欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想
を有するものと認められる。
(イ) 相違点1-1について
前記(ア)のとおり,本件公知発明1は,キャラクタでプレイするゲーム
において,セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに
転送するものであり,前作のゲームにおいて,プレイ途中でセーブして,
なおかつ,キャラクタのレベルが16以上である場合に,後作のゲーム
において,ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるもので
ある。
そうすると,本件公知発明1は,少なくとも,前作において,ゲーム
をプレイ途中でセーブするとともに,ゲームをある程度達成した,すな
わち,前作のゲームにおいて,キャラクタのレベルが16以上となるま
でプレイしたという実績があることが,後作においてプレイを有利にす
るための必須の条件であり,「キャラクタ」,「プレイ実績」を示す情
報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であっ
て,「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体
を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」
の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラ
クタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが
16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」
という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかであ
る。
したがって,仮に,被控訴人の主張するとおり,ゲームプログラム及
び/又はデータを記憶する媒体としてCD-ROMを用いることが本件
特許Aの出願前において周知技術であり,また,同一タイトルのゲーム
をCD-ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われてい
る事項であったとしても,本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲー
ムのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セ
ーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはな
く,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。
以上のとおりであるから,本件公知発明1において,相違点1-1に
係る本件発明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たもの
であるとは認められない。
(ウ) 相違点1-2について
前記(イ)と同様の理由により,本件公知発明1において,相違点1-2
に係る本件発明A1の構成を採用することは,動機付けを欠き,むしろ
阻害要因があるというべきであるから,当業者が容易に想到し得たもの
であるとは認められない。
(エ) 被控訴人の主張について
これに対し被控訴人は,相違点1-1及び1-2は,本件訂正Aによ
り,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」から「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体」が除かれ,その結果,「所定のキー」からセーブ
データが除かれたこと(「除くクレーム」とされたこと)により生じた
ものであることを前提として,除くクレームとする訂正により,形式的
に主引用発明との間に相違点が存在すると認められる場合は,①相違点
に係る構成によって,技術的観点から主引用発明と異なる作用効果が存
在するか否かを検討し,②技術的意義が認められない場合には,実質的
な相違点とはいえず新規性が否定されると解すべきであり,③技術的意
義が認められた場合には,当業者において適宜なし得る設計事項に過ぎ
ないか否かを検討し,設計事項に過ぎない場合には,進歩性が否定され
ると解すべきであるところ,本件訂正Aは,シリーズ化された一連のゲ
ームソフトを買い揃えていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむ
ことができるようにするという本件発明A1の課題との関係では,技術
的な解決手段を示したものとはいえず,技術的意義がないものであって,
本件発明A1の作用効果や技術的思想は,本件訂正Aの前後で変わらな
いから,相違点1-1及び1-2は,実質的に相違点とはいえず,少な
くとも,当業者が適宜なし得る設計事項である旨主張する。
しかしながら,前記(イ)及び(ウ)のとおり,本件公知発明1において,
相違点1-1及び1-2に係る本件発明A1の構成を採用することは,
動機付けを欠き,むしろ阻害要因があるというべきものである。
また,本件発明A1において,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶
媒体」を「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすること
は,前作のプレイ実績にかかわらず,後作において拡張ゲームプログラ
ム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効
果を奏するものであって,技術的意義を有するものであることからする
と,相違点1-1及び1-2は,実質的な相違点であるといえるし,当
業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 小括
以上のとおり,本件公知発明1において,相違点1-1及び1-2に
係る本件発明A1の構成とすることには,動機付けがなく,むしろ阻害
要因があるため,当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
したがって,本件発明A1は,当業者が本件公知発明1に基づき容易
に発明をすることができたものであるとは認められない。
⑹ 争点1-2-2(MSX規格用のゲームソフト「ぎゅわんぶらあ自己中心
派」及び「ぎゅわんぶらあ自己中心派2 自称!強豪雀士編」並びにMSX
規格のマシンを用いて実現されるゲームシステムにより公然知られた発明に
基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無)について
ア 「ぎゅわんぶらあ」,「ぎゅわんぶらあ2」及びMSX規格のマシンを
用いて実現されるゲームシステムにより公然知られた発明
(ア) 証拠(乙A17,29,30,36,39,40,61,62(枝番
号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件特許出願A(平成6年12月9日)前に発売されていたMSX規
格のマシン「MSX2」(乙A29,61),MSX規格用のゲームソ
フト「ぎゅわんぶらあ」
(昭和62年11月11日発売。乙A62の1),
同ゲームソフト「ぎゅわんぶらあ2」(平成元年4月21発売。乙A1
7の1)及びテレビを用いて実現されるゲームシステムを作動させる方
法は,本件特許出願Aの前に,公然知られていた(以下「本件公知発明
3」という。)。
本件公知発明3の構成は,次のとおりである。
a ROMカセットスロット1と,ROMカセットスロット2とを有す
るMSX規格のマシン「MSX2」に,ゲームプログラムを記憶した
ROMカセットを装填してゲームシステムを作動させる方法であって,
b 上記ROMカセットとして,
b-1 「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタ12人での「フリー対戦」,
「勝ち抜き戦」をプレイできる「ぎゅわんぶらあ」のゲームプロ
グラムおよびデータと,所定のキーとを含む「ぎゅわんぶらあ」
ROMカセットと,
b-2 「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人での「フリー対戦」
をプレイできるゲームプログラムおよびデータに加えて所定の拡
張ゲームプログラムおよびデータを含む「ぎゅわんぶらあ2」R
OMカセットとが準備されており,
c 上記拡張ゲームプログラムおよびデータは,「フリー対戦」,「勝
ち抜き戦」,「タコ討伐戦」の3種類のモードを選択でき,「フリー
対戦」モードを選択すると,「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16
人に加えて「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタ12人の合計28人のキ
ャラクタでの「フリー対戦」をプレイでき,「勝ち抜き戦」モードを
選択すると,「ぎゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人と「ぎゅわん
ぶらあ」のキャラクタ12人の合計28人での「勝ち抜き戦」をプレ
イでき,「タコ討伐戦」モードを選択すると,「『ぎゅわんぶらあ』
と『ぎゅわんぶらあ2』を組み合わせた総勢28人のキャラクタを『タ
コ側』と『アンチタコ側』に分けて,東京の雀荘をどちらが制覇する
かを競う『タコ討伐戦』」をプレイするためのゲームプログラムおよ
びデータであり,
d 上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットを上記ROMカセットス
ロット1に装填して上記マシン「MSX2」の電源を入れ,起動させ
るとき,
d-1 上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットを上記ROMカセッ
トスロット1に装填し,上記「ぎゅわんぶらあ」ROMカセット
を上記ROMカセットスロット2に装填して,上記マシン「MS
X2」を所定のキーを読み込んでいる状態で起動させると,「ぎ
ゅわんぶらあ2」のキャラクタ16人での「フリー対戦」をプレ
イできるゲームプログラムおよびデータと,「ぎゅわんぶらあ」
のゲームプログラムおよびデータと,拡張ゲームプログラムおよ
びデータとによってマシン「MSX2」を動作させ,
d-2 上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットのみを上記ROMス
ロット1に装填して,上記マシン「MSX2」を所定のキーを読
み込んでいない状態で起動させると,「ぎゅわんぶらあ2」のキ
ャラクタ16人での「フリー対戦」をプレイできるゲームプログ
ラムおよびデータのみによってマシン「MSX2」を動作させる,
e ゲームシステム作動方法。
(イ) これに対し被控訴人は,①「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットと
「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットとを使用したときに,増加する12
人のキャラクタの氏名のフォントデータが,「ぎゅわんぶらあ2」RO
Mカセットに記録され,「タコ討伐戦」のグラフィックが,「ぎゅわん
ぶらあ2」ROMカセットに記録されていること,ゲーム装置MSX2
の起動時に「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットが挿入されていれば,そ
の後挿入されていなくとも,「ぎゅわんぶらあ2」の「拡張ゲームプロ
グラム」によって,ゲーム装置MSX2が作動すること(乙A36の1,
3)を根拠に,拡張ゲームデータ及び拡張ゲームプログラムの全部が「ぎ
ゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録されている旨,②公知発明3は,
常に「ぎゅわんぶらあ」を装填していないと,「ぎゅわんぶらあ2」の
拡張ゲームプログラムによってゲーム装置を作動させないというもので
はなく,別紙4のフローチャートのように,「ぎゅわんぶらあ2」では,
複数の段階で,「ぎゅわんぶらあ」に記憶されている切換キーを読み込
んでいるか否かを判断して,「ぎゅわんぶらあ2」の拡張ゲームプログ
ラムによってゲーム装置を作動させるか否かを判断している旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,証拠(甲A53,乙A76)
及び弁論の全趣旨によれば,マシンMSX2に,「ぎゅわんぶらあ2」
ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットの双方を装填して,
フリー対戦を選択した後に,「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜く
と,対戦相手の選択画面(「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタである「持
杉ドラ夫」の顔画像)が表示されずに再起動となること,同様に,勝ち
抜き戦を選択した後に「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜くと,対
戦相手を表示する画面において,「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタの顔
画像が表示されずにフリーズすること,タコ討伐戦を選択した後に「ぎ
ゅわんぶらあ」ROMカセットを抜くと,「つれていく人」(キャラク
タ)の選択画面において,「持杉ドラ夫」の顔画像が表示されずにフリ
ーズすることが認められる。
これらの事実は,「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録されて
いるのは,「ぎゅわんぶらあ」に登場する12人のキャラクタを選択す
るための氏名のフォントデータ,タコ討伐戦のグラフィックデータであ
り,「ぎゅわんぶらあ」に登場する12人のキャラクタの顔画像,性格,
ツキ,技術力などのゲームを行うためのデータは,「ぎゅわんぶらあ」
ROMカセットのみに記録されていることを推認させるものといえる。
なお,証拠(乙A36の1,3)によれば,マシンMSX2に,「ぎ
ゅわんぶらあ2」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ」ROMカセット
の双方を装填して,フリー対戦を選択し,対戦相手の選択画面から「ぎ
ゅわんぶらあ」のキャラクタを対戦相手として選択して,フリー対戦を
開始した後に,「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜くと,対戦相手
の画像が表示された状態で1半荘分ゲームが進行することが認められる。
しかし,このように「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを抜いた状態で
もゲームを進行できるのは,「ぎゅわんぶらあ」のキャラクタを対戦相
手として選択した際に,マシンMSX2に装填された「ぎゅわんぶらあ」
ROMカセットから,これらのキャラクタのデータを読み取っているこ
とによるものと推測するのが合理的であるから,かかる事実は,上記推
認を左右するものではない。
加えて,「ぎゅわんぶらあ」にある勝ち抜き戦モードは,「ぎゅわん
ぶらあ2」ROMカセットのみをゲーム装置に装填した場合には動作し
ないプレイモードであるところ(乙A39,40),勝ち抜き戦のゲー
ムプログラムが「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットに記録されている
ことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットと「ぎゅわんぶ
らあ」ROMカセットの双方を装填して行われる「フリー対戦」,「勝
ち抜き戦」,「タコ討伐戦」において,増加する「ぎゅわんぶらあ」の
12人のゲームキャラクタのデータは,「ぎゅわんぶらあ」ROMカセ
ットに記録されているものであって,28人のキャラクタでプレイする
場合,「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ」RO
Mカセットの双方をマシンMSX2に装填し続ける必要があると認めら
れる。
次に,上記②の点について,前記(ア)のとおり,本件公知発明3は,
「ぎ
ゅわんぶらあ2」ROMカセットを上記ROMカセットスロット1に装
填し,上記「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットを上記ROMカセットス
ロット2に装填して,上記マシン「MSX2」の電源を入れ,起動させ
ると,「フリー対戦」,「勝ち抜き戦」,「タコ討伐戦」の3種類のモ
ードを選択でき,合計28人のキャラクタでこれらのゲームをプレイで
きる一方,上記「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセットのみを上記ROM
スロット1に装填してマシン「MSX2」を起動させると,「ぎゅわん
ぶらあ2」のキャラクタ16人でのフリー対戦のみをプレイできるもの
であるから,同発明において本件発明A1の「所定のキー」に相当する
のは,「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットがROMカセットスロット2
に装填されたという事実のみであるといえる。
なお,上記のとおり,本件公知発明3において,合計28人のキャラ
クタでの「フリー対戦」,「勝ち抜き戦」及び「タコ討伐戦」をプレイ
するためには,「ぎゅわんぶらあ」ROMカセットと「ぎゅわんぶらあ
2」ROMカセットの双方をマシンMSX2に装填し続け,「ぎゅわん
ぶらあ」ROMカセットから,「ぎゅわんぶらあ」に登場する12人の
キャラクタのデータや「勝ち抜き戦」のデータ等を逐次ゲーム装置に読
み取る必要があるが,これらの動作は,ゲームを遂行するために必要な
動作に過ぎないものであって,
「所定のキー」に該当するものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 本件発明A1と本件公知発明3の対比
本件発明A1と本件公知発明3とを対比すると,その相違点は,以下の
とおりであると認められる。
(相違点1)
本件発明A1の記憶媒体は,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能
な記憶媒体であるのに対して,本件公知発明3の記憶媒体はゲーム装置の
作動中に入れ換え不可である点。
(相違点2)
ゲーム装置が所定のキーを読み込み,標準ゲームプログラム及びデータ
と拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム装置を作動させ
る際に,本件発明A1では,第2の記憶媒体を装填するのに対して,本件
公知発明3では,第1の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ」ROMカセット)
と第2の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)の双方を装填
している必要がある点。
(相違点3)
ゲーム装置が所定のキーを読み込んでいる場合に,標準ゲームプログラ
ム及びデータと拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム装
置を作動させる際の拡張ゲームプログラム及びデータが,本件発明A1で
は,第2の記憶媒体に包含されるのに対し,本件公知発明3では,第2の
記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)に全部が記録されてお
らず,第1の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ」ROMカセット)に一部が記
録されている点。
ウ 相違点の容易想到性について
事案に鑑み,相違点2及び3から検討する。
前記アのとおり,本件公知発明3では,拡張ゲームプログラム及びデー
タの全部が第2の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)に記
録されているわけではなく,第1の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ」ROM
カセット)に一部が記録されており,標準ゲームプログラム及びデータと
拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲーム装置を作動させる
際に,第1の記憶媒体と第2の記憶媒体の双方を装填している必要がある
ところ,このような構成を採ることによりゲーム装置が適切に機能してい
るのであるから,この構成をあえて変更して,第1の記憶媒体に記録され
ている拡張ゲームプログラム及びデータと同じものを第2の記憶媒体にも
記録させる動機付けはない。また,本件特許出願Aの前に,そのような技
術が当業者に周知であったことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,本件公知発明3において,①ゲーム装置が所定のキーを読
み込んでいる場合に,第1の記憶媒体と第2の記憶媒体との双方を同時に
装填せずに,第2の記憶媒体のみを装填することにより,標準ゲームプロ
グラム及びデータと拡張ゲームプログラム及びデータの双方によってゲー
ム装置を作動させること(相違点2に係る本件発明A1の構成),②標準
ゲームプログラム及びデータと拡張ゲームプログラム及びデータの双方に
よってゲーム装置を作動させる際の拡張ゲームプログラム及びデータを第
2の記憶媒体(「ぎゅわんぶらあ2」ROMカセット)に全部記録させる
こと(相違点3に係る本件発明A1の構成)は,いずれも,当業者が容易
に想到し得た事項ということはできない。
エ 小括
以上のとおり,本件公知発明3において,相違点2及び3に係る本件発
明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととは認められ
ない。
したがって,本件発明A1は,当業者が本件公知発明3に基づき容易に
発明をすることができたものであるとは認められない。
⑺ 争点1-3(控訴人の損害の有無及び損害額)について
控訴人は,特許法102条3項により算定される損害額を主張する。同項
は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規
定であり,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そ
こに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
ア その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
(ア) 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき
金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改
正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する
額の金銭」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では
侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除
された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許
が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最
低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの
実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受ける
のが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術
的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許
権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約
を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項
に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施
許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特
許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受ける
べき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろ
うことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の
実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界に
おける実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値す
なわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当
該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の
態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に
現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 認定事実
a 本件特許Aについての実際の実施許諾契約の実施料率は,本件訴訟
に現れていない。
そして,証拠(乙A115,116,乙B28)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。
(a) 株式会社帝国データバンクが「知的財産の価値評価を踏まえた特
許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価
値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~(平成22年3月)」
(乙B28。本件調査報告書)を作成するに当たって行った,特許
権に関するロイヤルティ率情報のアンケート(以下「本件アンケー
ト」という。)の結果を記載した表2-2には,技術分類を「家具,
ゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%(最大値
4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)(件数14件)と
記載されている。
⒝ 本件調査報告書には,本件アンケート調査結果の回答及び集計に
当たっての前提条件について,①ライセンス・アウト(ライセンス
を与える側)の立場での回答であること,②国内同業他社へのライ
センスを想定していること,③通常実施権(ライセンス提供先を独
占的にする訳ではなく,複数の者とライセンスを行うことができる
形態)によるライセンスを想定していること,④正味販売高に対す
る料率を想定していること,⑤特殊な事情(エンタイアマーケット
バリュールール(特許技術が製品の一部に使われているだけだとし
ても,侵害された部品を含む製品全体の単価に基づいて損害額を計
算するルール)によるロイヤルティ算定,契約相手の事情など)を
捨象したケースであること,⑥ロイヤルティ料率相場はカテゴリ選
択肢で回答であるが,集計時には各選択肢の中央値をロイヤルティ
料率として集計を行ったことが記載されている。
⒞ 経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンド
ブック~特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ~」(平
成22年8月31日発行) 「Ⅱ
の 各国のロイヤルティ料率」には,
①ロイヤルティ算定方式として最も広く採用されているのは,定率
方式であり,そのロイヤルティは,「対象製品の販売価格×ロイヤ
ルティ料率」として算定されること,②販売価格の対象となるロイ
ヤルティベースには,総販売価格,純販売価格(正味販売価格),
小売価格等が使用されるが,実務面では,純販売価格(正味販売価
格)が採用されることが比較的多いとされること,③純販売価格(正
味販売価格)は,総販売価格から一定の費用項目を控除した残額と
して定義され,控除費用項目としては,一般的に,輸送費,保険料,
倉庫保管費用,リベート,包装梱包費等,販売地によって変動する
可能性のある費用項目が中心となるが,業界慣行や製品種類等によ
って異なることが記載されている。
b 前記⑴アのとおり,本件発明A1は,ゲームプログラム及び/又は
データを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシス
テムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定
のゲームプログラム及び/又はデータと,所定のキーとを包含する第
1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラム及び/又はデータに加
えて所定の拡張ゲームプログラム及び/又はデータを包含する第2の
記憶媒体とが準備され,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填
されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合
には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲーム
プログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させる
ことにより,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズも
のの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な
内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっては,
膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で提供でき
るという効果をもたらすものである。
このように,本件発明A1は,ゲームシステム作動方法の発明であ
り,その構成及び効果は上記のとおりであるところ,イ-9号方法等
は本件発明A1の技術的範囲に属するものであり,イ-9号製品等は,
ゲーム装置に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであって,
本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当する,同発明を実施するた
めに不可欠の物である。そして,前記⑴イのとおり,イ-9号製品等
は,本編ディスク(第1の記憶媒体)から所定のキーを読み込むこと
により,アペンドディスク(第2の記憶媒体)に記録された標準のゲ
ームプログラム及び/又はデータに加えて,拡張ゲームプログラム及
び/又はデータを作動させることができるものであるから,本件発明
A1は,イ-9号製品等にとって,相応の重要性を有するものといえ
る。
また,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作
動方法に関し,本件発明A1の上記技術についての代替技術が存在す
ることはうかがわれない。
c(a) 前記bのとおり,本件発明A1は,イ-9号製品等に記録された
拡張ゲームプログラム及び/又はデータを作動するに当たり不可欠
な技術であるところ,家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽し
むゲームソフトにおけるゲームキャラクタのもつ機能,場面,音響
が豊富であることは,通常,需要者の購入動機に影響を与えるもの
といえる。
そして,被控訴人は,イ-9号製品等を販売するに当たり,製品
解説書(甲A5,7,8,10,11)において,MIXJOY機
能について紹介し,前作のディスク(本編ディスク)があると本作
(アペンドディスク)とのMIXJOYを楽しむことができ,前作
のシナリオを本作のキャラクタでプレイしたり,前作では特定のキ
ャラクタとのみ迎えることができたエンディングを全てのキャラク
タと迎えることができたりする旨を説明している。
これらの事情を考慮すると,本件発明A1をイ-9号製品等に用
いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと認めら
れる。
⒝ 他方,証拠(乙A84,94~96,98~101,104~1
14(枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
が認められる。
① イ-9号製品等のうち,イ-9,16~22,23②及び24
ないし34号製品は,被控訴人が開発し,平成12年に販売を開
始した「真・三國無双シリーズ」及び同16年に販売を開始した
「戦国無双シリーズ」のゲームソフトである。同シリーズのゲー
ムソフトは,ゲームソフト市場において,継続的に上位の販売個
数を計上している。
同シリーズの人気の要因は,戦国時代や三国志をモチーフにし
た歴史アクションゲームであること,キャラクタがフィールドを
縦横無尽に駆け巡りながら無数の敵をなぎ倒す爽快感,通常攻撃,
チャージ,無双乱舞という攻撃が全てボタンを押すだけの簡単な
操作で行えること,武将たちをモチーフとした美形キャラを採用
するというキャラクタの魅力などである旨評価されている。
イ-9号製品等の購入時にユーザに対して行ったアンケート結
果(乙A84の1~6)では,同製品を購入したきっかけとして,
「戦国無双のファンだから」,「三国志のファンだから」,「無
双シリーズのファンだから」という点を挙げる者が最も多く,
「コ
ーエー(被控訴人)のファンだから」という点を挙げる者も2割
程度存在する。
被控訴人は,イ-9号製品等の販売に当たり,テレビコマーシ
ャル,雑誌広告,雑誌記事等により,同製品の宣伝広告を行った。
これらの宣伝広告では,前作の本編ディスクを保有することによ
りMIXJOY機能を使用できることも紹介されているが,全体
的に見ると,ゲームのストーリやキャラクターの紹介などに宣伝
広告の重点が置かれていた。
② イ-9号製品等のうち,イ-35ないし40号製品は,被控訴
人が開発し,平成12年に販売を開始した「遥かなる時空の中で」
シリーズのゲームソフトである。「遥かなる時空の中で」シリー
ズは,女子高校生が日本の過去と類似した異世界に移動し,その
世界を舞台として男性と恋愛を成就させることを目的とする,和
風ファンタジー恋愛シミュレーションゲームである。同シリーズ
を含む被控訴人の製作する女性向け恋愛ゲーム「ネオロマンスシ
リーズ」のゲームソフトは,女性向け恋愛シミュレーションゲー
ムソフトの市場の中で,継続的に上位の販売個数を計上している。
イ号製品の購入時にユーザに対して行ったアンケート結果(乙
A106)では,同製品を購入したきっかけとして,「当シリー
ズのファンだから」という点を挙げる者が最も多く,「ルビーパ
ーティー(被控訴人の社内における女性向けゲーム開発チーム)
のファンだから」という点を挙げる者も3割程度存在した。また,
「ネオロマンスシリーズ」のユーザーに対するアンケート結果で
は,購入動機としてキャラクタを挙げる者が半数を超えている。
「遥かなる時空の中で」シリーズは,ゲームソフトの発売に先
駆け漫画の連載をスタートし,その販売部数は累計250万部(全
14巻中11巻の時点)に達した。被控訴人は,このほかにも,
各種イベントの開催,テレビアニメの放映,CD商品,DVD商
品の販売などを実施し,上記ゲームソフトの販売促進を図った。
以上によれば,イ-9号製品等は,ゲームのキャラクタや内容,
販売方法にそれぞれ工夫があり,そのことが,需要者に対する大き
な訴求力となっており,これらと比較すると,本件発明A1のイ-9
号製品等の売上への貢献度は,低いものといえる。
加えて,被控訴人がイ-9号製品等を販売するに当たり,MIX
JOYの機能として取扱説明書や解説書(甲A5,7,8,10,
11,乙A82(枝番号を含む。))に記載したり,宣伝したりす
る機能(乙A82の1・9頁,乙A82の6・3頁等)のうち,本
編ディスク(本件発明A1の「第1の記憶媒体」に相当)のセーブ
データを引き継ぐ機能は,本件発明A1に係る機能ではない。
⒞ 証拠(乙A80,118,119)及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
① イ-9号製品等のうち,イ-17ないし19,21,23②,
25ないし27,30,32,36,38及び40号製品は,別
紙7「売上高(補正後)」の「アイテム内容」欄記載のとおり,
本件発明A1の「第2の記憶媒体」に当たるゲームソフト(記憶
媒体)のほかに,1個ないし5個の当該ゲームソフトと同一のシ
リーズ(「真・三國無双シリーズ」,「戦国無双シリーズ」又は
「遥かなる時空の中でシリーズ」)のゲームソフト(記憶媒体)
が含まれるパッケージ商品である。
② イ-9号製品等のうち,イ-19及び23②号製品には,上記
複数のゲームソフトのほかに,「最強データ収録CD-ROM」
が付属する。このCD-ROMは,ゲーム本体を行う記憶媒体で
はなく,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に当たるゲームソフ
トで使用するデータ(キャラクタの能力値等が最大の状態のデー
タ)が記録されている。
③ イ-9号製品等のうち,イ-39号製品には,別紙7「売上高
(補正後)」の「アイテム内容」欄記載のとおり,本件発明A1
の「第2の記憶媒体」に当たるゲームソフトのほかに,グッズ(水
野十子原画資料集,スチルイラストアートカード 8枚)が同梱
されている。
なお,イ-39号製品の希望小売価格は9800円であり,こ
れと同日付で発売された上記ゲームソフト(イ-35号製品)の
希望小売価格は4980円である。
④ イ-9号製品等のうち,イ-40号製品には,別紙7「売上高
(補正後)」の「※同梱グッズ」に記載のグッズが同梱されてい
る。
d 控訴人と被控訴人は,いずれもゲーム機器,ソフトウェアの製造,
販売等を業とする株式会社であり,競業関係にある。
(ウ) 実施に対し受けるべき金銭の額
a 前記(イ)のとおり,本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾
契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属す
る分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果で
は2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)
であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものである
ことが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲ
ームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫
等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはい
え,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしてい
ると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しない
こと,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れ
た事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められ
るべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」
という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し,
3.0%を下らないものと認めるのが相当である。
b 被控訴人は,別紙1「販売開始日一覧表」記載の販売開始日から本
件特許権Aの存続期間満了日までのイ-9号製品等の売上高(被控訴
人の卸売価格)が,別紙7「売上高(補正後)」の「売上高」欄記載
のとおりであると主張するところ,イ-9号製品等の売上高(被控訴
人の卸売価格)が上記金額を超えるものであることを認めるに足りる
証拠はない。そこで,同金額に消費税相当額(5%)を加えた金額を,
実施料算定の基礎となる価格とするのが相当である。
もっとも,前記(イ)c⒞のとおり,イ-9号製品等のうちには,本件
発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,1
個ないし5個の当該ゲームソフトと同一シリーズのゲームソフト(記
憶媒体)が含まれるパッケージ商品も存在するところ,これらのゲー
ムソフトは,本件発明A1についての本件特許権Aを侵害するもので
はなく,かつ,イ-9号製品等に含まれなくとも,単体で販売の対象
となる商品である。また,前記(イ)a⒝のとおり,本件調査報告書には,
本件アンケート調査結果の回答及び集計に当たっての前提条件につい
て,特殊な事情(エンタイアマーケットバリュールール(特許技術が
製品の一部に使われているだけだとしても,侵害された部品を含む製
品全体の単価に基づいて損害額を計算するルール)によるロイヤルテ
ィ算定,契約相手の事情など)を捨象したケースであることが記載さ
れている。そうすると,侵害品以外のゲームソフトの価格に相当する
部分については,本件実施料率Aを乗じるべき販売価格から控除する
のが相当というべきであるから,イ-9号製品等の販売価格を侵害品
であるゲームソフトとそれ以外のゲームソフトとの合計数で除したも
のをもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当である。
また,前記(イ)c⒞のとおり,イ-19及び23②号製品には,本件
発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフトのほかに,「最
強データ収録CD-ROM」やグッズが同梱されているものもあるが,
上記CD-ROMは,ゲームソフトで使用するデータ(キャラクタの
能力値等が最大の状態のデータ)が記録されているに過ぎず,それら
が単独で商品として流通するものではないから,当該製品の販売価格
全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上高とするのが相当であ
る。
他方,イ-39号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記 プレミ
アムBOX」(希望小売価格9800円))は,同日付で発売された
イ-35号製品(「遥かなる時空の中で3十六夜記」(希望小売価格
4980円))に対して,4820円高く価格が設定され,その製品
の相違は同梱グッズのみであって,イ-39号製品に含まれる同梱グ
ッズの価格は,おおむね同製品の2分の1に相当するものといえるか
ら,同製品の販売価格の2分の1を本件実施料率Aを乗ずべき売上高
とするのが相当である。
さらに,イ-40号製品(「遥かなる時空の中でプレミアムBOX
コンプリート」)は,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当する
ゲームソフトのほかに,これと同一の「遥かなる時空の中でシリーズ」
のゲームソフト5個が含まれるところ,同製品についても,イ-39
号製品と同様に,同梱グッズの価格は,これと対応するゲームソフト
の価格のおおむね2分の1に相当するものといえる。そうすると,同
製品の販売価格の12分の1をもって,本件実施料率Aを乗ずるべき
売上高とするのが相当である。
c 以上によれば,本件特許権Aの侵害について,特許法102条3項
により算定される損害額は,別紙10のとおり計算され,その合計額
は1億1667万3710円となる。
(エ) 控訴人の主張について
控訴人は,①本件発明A1及びA2は,イ号製品のユーザにおいて実
施されるゲームシステム作動方法であること,イ号製品のような本件特
許権Aの間接侵害を構成する製品の製造販売に関する特許権者の許諾は,
当該製品がユーザに販売されることを当然の前提とすることなどから,
実施料率算定の基礎となるイ-9号製品等の売上高は,被控訴人の卸売
価格ではなく小売価格とすべきである,②イ-9号製品等に同梱される
アイテムがある場合でも,イ号製品は,同梱されたアイテムを含む製品
全体で一個の商品(販売単位)であり,製品の販売等行為全体が一個の
特許権侵害を構成するから,イ-9号製品等の販売価格全体が本件実施
料率Aに乗ずべき価格となる旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,控訴人の主張を裏付けるに足
りる客観的な証拠はない。前記(イ)aのとおり,本件特許Aの技術分野が
属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率は,正味販売高に対する
料率を想定したものであることからすると,実施料算定の元となる売上
高は,被控訴人のイ-9号製品等の販売価格,すなわち卸売価格とする
のが相当である。
上記②の点については,前記(ウ)bのとおり,イ-9号製品等のうち,
本件発明A1の「第2の記憶媒体」に該当するゲームソフト以外のゲー
ムソフトを含むものや,同梱されたグッズが,商品構成や価格構成上,
明らかにゲームソフトとは別の価値を有するもの,すなわち,別個の商
品として扱われていると判断し得るものについては,これらのゲームソ
フト及びグッズの価格に相当する金額を本件実施料率Aを乗ずべき価格
から控除するのが相当である。
控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するものでは
ない。
(オ) 被控訴人の主張について
被控訴人は,①実施料率算定の基礎となるべき正味販売価格に消費税
相当額は含まれない,②本件調査報告書によれば,「家具,ゲーム」の
技術分野には,「ビデオゲーム」のような全体の一部に特許発明が実施
されているもの以外に,「家具」,「カードゲーム,盤上ゲーム,ルー
レットゲーム;小遊技動体を用いる室内用ゲーム」も含まれるため,本
件特許Aの実施料率は,上記実施料率の平均値(2.5%)より低くな
る,③同梱グッズについても,別紙7「売上高(補正後)」記載のとお
り,そのアイテム数に応じて売上高を補正すべきである,④本件発明A
1は,セーブデータを「所定のキー」とする方法,「拡張ゲームプログ
ラム等」の一部を「所定のキー」とする方法,第2の記憶媒体に「拡張
ゲームプログラム等」のみを記憶する方法により,同発明と同様の作用
効果を奏しながら,同発明を回避することができる,⑤控訴人は,競業
者と特許クロスライセンス契約を締結し,「ライセンスなどの特許権の
有効活用を促進」するとしたプレスリリースを公開しており(乙A83
の1~3),むしろ開放的ライセンスポリシーを採用している,⑥イ号
製品は,武将やステージを新規に追加するものというよりは,「違った
遊びを提供するという概念で開発」されたものであり,本編ディスクで
はプレイできなかったモードを提供することが主眼となった製品であっ
て,それ単体でも十分楽しめる内容である反面,MIXJOYをするこ
とで可能となるのは,本編ディスクでプレイできたモードやシナリオを
アペンドディスクでもプレイできるというものであり,MIXJOYを
行う場面は限定されている旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,消費税相当額も被控訴人の販
売価格の一部としてそれに含まれているものであるから,損害額の算定
に当たって消費税相当額を控除すべき理由はない。
上記②の点については,前記(イ)a(a)のとおり,本件アンケート結果
を記載した,本件調査報告書の表2-2には,技術分類を「家具,ゲー
ム」とする特許のロイヤルティ料率の平均は2.5%であり,件数は1
4件である旨が記載されているものの,アンケート回答者の保有する特
許の内容,特許の実施品について,具体的な記載はない。したがって,
本件調査報告書の記載からは,本件特許Aの実施料率が,上記実施料率
の平均値より低くなると認めることはできない。
上記③の点については,前記(イ)c⒞のとおり,イ-9号製品等に同梱
されているグッズは,本件発明A1の「第2の記憶媒体」に相当するゲ
ームソフトの付属物というべきものであって,単独で商品として流通す
るものではないから,イ-39及び40号製品に同梱されたグッズを除
き,当該製品の販売価格全体をもって,本件実施料率Aを乗ずべき売上
高とするのが相当である。
上記④の点については,i)前記⑸ウ(エ)のとおり,本件発明A1にお
いて,「第1の記憶媒体」及び「第2の記憶媒体」を「セーブデータを
記憶可能な記憶媒体を除く」ものとすることは,前作のプレイ実績にか
かわらず,後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによっ
てゲームを楽しむことができるという技術的意義を有するものであり,
セーブデータを「所定のキー」とする方法は,本件発明A1と同様の作
用効果を奏するものではなく,また,記憶媒体をセーブデータを記憶可
能なものにした場合は,大量の記憶容量を有し,安価で大量生産が可能
なCD-ROM,DVD-ROM等の読み出し専用メモリーを用いるこ
とができなくなること,ii)本件発明A1は,第1の記憶媒体に記憶され
た「所定のキー」を読み込むだけで,第2の記憶媒体に記録された標準
ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによりゲーム装置を作動さ
せるものであって,装置の作動中に第1の記憶媒体を入れ換え可能なも
のであるが,「拡張ゲームプログラム等」の一部を「所定のキー」とす
る方法では,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプログラムによるゲ
ーム装置の作動中に,第1の記憶媒体を装填し続ける必要があること,
iii)第2の記憶媒体に「拡張ゲームプログラム等」のみを記憶する方法
では,第2の記憶媒体単体で,標準ゲームプログラム及び拡張ゲームプ
ログラムによりゲーム装置を作動させることができないことから,これ
らの方法が本件発明A1の代替技術であるとはいえない。
上記⑤の点については,たとえ,特許権者が開放的ライセンスポリシ
ーを有しているとしても,そのことは,特許権侵害者に対して事後的に
定めるべき実施料率を下げる理由にはならないものというべきである。
上記⑥の点については,前記(イ)c(a)のとおり,本件発明A1により
ゲームキャラクタのもつ機能,場面,音響が豊富になるという効果は,
通常,需要者の購入動機に影響を与えるものであるといえ,イ-9号製
品等においても,MIXJOY機能により,前作のシナリオを本作のキ
ャラクタでプレイしたり,前作では特定のキャラクタとのみ迎えること
ができたエンディングを全てのキャラクタと迎えることができたりする
ものであって,被控訴人は製品解説書でかかる機能を紹介し,宣伝して
いるものである。そうすると,本件発明A1は,これをイ-9号製品等
に用いることにより被控訴人の売上及び利益に相応の貢献をするものと
認められるものであって,イ-9号製品等が単体でも十分楽しめるもの
か否かという点や,MIXJOYを行う場面が限定されているか否かと
いう点は,上記判断を左右するものではない。
被控訴人の主張するその余の点も,前記(ウ)の判断を左右するもので
はない。
イ 小括
以上のとおりであるから,控訴人について,特許法102条3項により
算定される損害額に,弁護士費用・弁理士費用を加えた金額が控訴人の損
害額と認められる。
そして,被控訴人の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理
士費用は,上記により算定される損害額の約1割である1166万円を下
らないと認めるのが相当であるから,控訴人の損害額は,1億2833万
3710円(1億1667万3710円+1166万円)である。
2 本件特許権Bについて
⑴ 争点2-1-1(文言侵害の成否)について
ア 本件明細書Bの記載事項等について
(ア) 本件発明B1及びB8の特許請求の範囲(請求項1,8)の記載は,
前記第2の2⑶ウのとおりである。
本件明細書B(甲B2,24)の発明の詳細な説明には,次のような
記載がある(下記記載中に引用する「図1及び2」については別紙11
を参照)。
a 【0001】
【産業上の利用分野】
本願発明は,遊戯装置およびその制御方法に関し,詳しくは,業務
用ゲーム機や家庭用ゲーム機におけるゲームの進行に際して,遊戯者
による入力手段の操作により上記ゲームの進行にその遊戯者が参加す
るように構成され,かつそのゲームの進行状態に応じてその遊戯者に
振動を体感的に伝達するように構成された遊戯装置およびその制御方
法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年においては,業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機などを使用して
行われるゲームとして,遊戯者がゲームの中のキャラクタ等とは無関
係にそのゲームの進行を全て一方的に決定しあるいは制御するように
構成したもの以外に,遊戯者の入力操作により移動するキャラクタ等
が存在して遊戯者がそのゲームの進行に参加するように構成したもの
が実用化されている。
【0003】
この遊戯者の参加によるゲームは,ジョイスティックレバーや押し
ボタン等から構成される入力手段を上記各種ゲーム機に取り付け,そ
のゲーム機に備えられあるいは接続されているCRTやLCDなどの
画像出力手段を視認しながら遊戯者が上記入力手段を操作することに
より,そのゲームの進行中において自己に対応する仮想人物画像等の
行動を制御するものである。
【0004】
この種のゲームの具体的内容としては,たとえば格闘技等のスポー
ツに係るものや,冒険あるいはレースに係るもの,さらには宝探しを
行うものなど,種々の分野にわたるものが提案されあるいは実用化さ
れている。そして,この種のゲームの進行途中においては,ゲーム機
に備えられあるいは接続されているスピーカ等の音響出力手段から
様々な音響が発せられるように構成されている。
b 【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで,上記従来の各種ゲーム機により行い得る遊戯者参加ゲー
ムは,そのゲームの途中において自己に対応する仮想人物画像等の置
かれている状況が変化した場合等に,ゲーム機専用のスピーカから音
響が発せられるものが主流を占めている。したがって,自己と他者と
で勝負を決するようなゲームにおいては,上記スピーカから発せられ
た音響が自己だけでなく他者にも聞こえてしまうことになり,たとえ
ば他者に対して秘密にしておきたい状態等が存在する場合であっても,
その秘密状態を維持しておくことは不可能である。
【0006】
このため,ゲームの内容が全てオープンなものとなり,十分なスリ
ル感を味わえなくなるばかりでなく,音響が発せられることに起因し
て,自己のみが知っている情報に基づいて秘密のうちにゲームを進行
させるといったことができなくなり,この種のゲームを製作する上で
の自由度ないし選択の幅が小さくなるという問題を有している。
【0007】
加えて,この種のゲームは,そのゲーム進行途中において発せられ
る音声や効果音のみによって,遊戯者にある程度の現実感や迫力を与
えようとしているのが実情であるが,このような手法では,遊戯者は
聴覚および視覚だけでその雰囲気を味わうに留まり,より高度な現実
感や十分な迫力等が得られず,娯楽性や面白さに欠けるという難点が
ある。
【0008】
本願発明は,上述の事情のもとで考え出されたものであって,ゲー
ムの進行途中における自己の置かれている状況を,視覚および聴覚以
外の感覚をもって知得できるようにするとともに,相手方に対して秘
密状態の下でゲームを進行させることなどを可能にし,これによりゲ
ーム製作上の自由度を増大させ,かつ高度な現実感や十分な迫力が得
られる遊戯装置を提供することをその課題とする。
c 【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため,本願発明では,次の技術的手段を講じ
ている。
【0010】
すなわち,本願の請求項1に記載した発明は,遊戯者が操作する入
力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決
定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段
からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作するこ
とにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを
有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,上記ゲーム進行制御手段
からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作して
いる上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを
判定する特定状況判定手段と,上記特定状況判定手段が特定の状況に
あることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,
体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,上記振動情報
制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発
生手段と,を備えたことを特徴としている。
【0013】
この場合,上記請求項1ないし3のいずれかに記載の遊戯装置にお
いて,上記特定状況判定手段は,上記ゲームの進行途中における上記
キャラクタの置かれている状況が所定の規則性をもって変化している
か否かを判定するものであり,この変化していることが判定された時
に,上記振動情報制御手段から上記キャラクタの状況の変化の態様に
応じて変化する体感振動情報信号が送出されるように構成されている
ものであってもよい(請求項4)。
【0017】
一方,本願の請求項8に記載した発明は,遊戯者が操作する入力手
段と,この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あ
るいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段から
の信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することに
より変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有す
るゲーム機を備えた遊戯装置の制御方法であって,上記ゲーム進行制
御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操
作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるこ
とを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,体感振
動情報信号として振動発生手段に送出するようにしたことを特徴とし
ている。
d 【0022】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1に記載した発明によれば,遊戯者が入力手段を操作す
ることにより,ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,出力手段
(少なくともディスプレイ等)から時々刻々と変化する画像表示がな
されてゲームが進行する。この場合,遊戯者は,入力手段を操作する
ことによりそのゲームに参加した状態にある。具体的には,たとえば
上記出力手段に表示される画像の中に,遊戯者による入力手段の操作
に伴ってその行動が変化する人物画像等のキャラクタが存在していれ
ば,そのキャラクタを自己の意志に基づいて移動させることにより,
遊戯者がそのゲームに参加した状態にある。
【0023】
そして,このようなゲームの進行途中における上記ゲーム進行制御
手段からの信号に基づいて特定状況判定手段が,遊戯者の置かれてい
る状況,すなわち遊戯者により操作されている上記キャラクタの置か
れている状況が,特定の状況にあるか否かを判定する。そして,特定
の状況にあることが判定された時点で,振動情報制御手段から振動発
生手段に対して,画像情報からは認識できない情報が,体感振動情報
信号として送出される。
【0024】
これにより,上記出力手段により画像として表示されていない内容
が,所定の体感振動として上記振動発生手段に生じることになる。し
たがって,遊戯者は,この振動発生手段を身体に接触させておけば,
この時に生じる振動を体感的に知得して,ゲームの進行状態が特定の
状況にあることを知得できるのに対して,他の遊戯者や周辺の見物人
は,上記画像を見ているだけではその特定の状況を認識することがで
きない。
【0025】
この結果,遊戯者は,周囲にその特定の状況を悟られることなく,
自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行していくことがで
きるとともに,振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が
増大することになる。
【0031】
一方,上記請求項4に記載した発明によれば,ゲームの状況が時々
刻々と変化している場合において,上記特定状況判定手段は,そのゲ
ームの状況が所定の規則性にしたがって変化している場合に,特定状
況にあると判定する。そして,この判定がなされることにより,上記
ゲームの変化の態様に応じた体感振動情報信号,たとえば遊戯者の置
かれている状況の危険度が大きくなるにつれて振動の振幅を大きくし
たり,あるいは振動の発生周期を短くするための体感振動情報信号が
送出される。これにより,遊戯者は一層高度な現実感やスリルを味わ
えることになる。
e 【0036】
【実施例の説明】
以下,本願発明の好ましい実施例を,図面を参照しつつ具体的に説
明する。
【0037】
図1は,本願発明に係る遊戯装置の概略システムを示すブロック図
である。同図に示すように,この遊戯装置20は,大別すると,振動
発生手段である音響体感器1と,家庭用または業務用のゲーム機21
と,このゲーム機21からの出力信号に基づいて上記音響体感器1を
制御する制御手段31とから構成されている。
【0038】
詳述すると,上記ゲーム機21は,たとえばジョイスティックレバ
ー22および押しボタン式スイッチ23を有する入力手段24と,各
種のゲーム情報を記憶しているゲーム情報記憶手段25と,上記入力
手段24およびゲーム情報記憶手段25からの信号に基づいてゲーム
の進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段26と,この
ゲーム進行制御手段26からの音響信号aを受けて利用者に対して可
聴音響を発する音響出力手段27と,上記ゲーム進行制御手段26か
らの画像信号bを受けて利用者に対して画像表示を行う画像出力手段
28と,を備えている。
【0039】
一方,上記制御手段31は,上記ゲーム進行制御手段26からの信
号に基づいて,進行中のゲームにおける遊戯者の入力手段24の操作
による画像上のキャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか
否かを判定する特定状況判定手段32と,この特定状況判定手段32
からの信号に基づいて,上記音響信号aに所定の制御を施し,これを
体感振動情報信号cとして上記音響体感器1のスピーカ6に送出する
振動情報制御手段33と,を備えている。
【0040】
上記特定状況判定手段32は,たとえば,進行中のゲームにおける
遊戯者が操作しているキャラクタの置かれている状況が危険な状態に
あるか安全な状態にあるかの判定や,あるいはそのキャラクタにとっ
て有利な状態にあるか不利な状態にあるかの判定などを行う。そして,
この判定結果が危険な状態にある場合や,有利な状態にある場合には,
上記振動情報制御手段33から,それ以外の場合には送出されない情
報が体感振動情報信号cとして音響体感器1に対して送出される。
【0041】
この場合,上記振動情報制御手段33から送出される体感振動情報
信号cには,上記ゲーム進行制御手段26から画像出力手段28に送
出される画像信号bには含まれていない情報がインプットされている。
したがって,CRTやLCD等で構成される上記画像出力手段28に
よる画像を見ていただけでは把握できない情報が,体感振動情報とし
て上記音響体感器1のスピーカ6に対して伝送されることになる。
【0042】
また,上記特定状況判定手段32が,ゲーム進行中におけるキャラ
クタの置かれている状況が特定の状況にあることを判定した場合には,
上記振動情報制御手段33から,それ以外の場合に送出されていない
情報が体感振動情報信号cとして音響体感器1に対して送出される。
その一例として,上記判定結果が,危険な状態や,有利な状態にある
ことを判定した場合には,その判定がなされた時点で初めて振動を生
じさせるための体感振動情報信号cが送出される。また,他の例とし
て,上記体感振動情報信号cが振動を間欠的に生じさせるものであれ
ばその間欠周期(発生周期)を異ならせるための信号が送出され,あ
るいは振動の周波数や振幅を異ならせるための体感振動情報信号cが
送出される。
【0044】
一方,上記のような構成を備えた遊戯装置20の使用態様としては,
その具体例を挙げれば,以下に示す通りである。
【0045】
すなわち,図2に示すように,画像出力手段28の所定の表示領域
を,縦横に複数のブロック40に仮想区分し,これらのうちの所定数
のブロック40内における符号Xで示す箇所に地雷が埋められている
ものとする。そして,地雷Xが埋められている状態は,画像として表
示されない。したがって,遊戯者は,各ブロック40のうちの何れの
ブロックに地雷Xが埋められているのかを,認識することができない
状態にある。
【0046】
このような状態で,遊戯者が上記入力手段24を適宜操作すること
により,同図に示す特定のキャラクタ41が移動することになるが,
このキャラクタ41が鎖線で示すように地雷Xの埋められているブロ
ック40に隣接するブロックに侵入した時点で,上記特定状況判定手
段32が,遊戯者の置かれている状況が危険な状況にあると判定する。
図示例の状態は,地雷Xの存在するブロック40に縦方向に対して隣
接するブロックに侵入する場合を想定したものであるが,横方向に対
して隣接するブロックに侵入した場合であっても,上記特定状況判定
手段32は,遊戯者が危険な状況にあると判定する。
【0047】
このようにして危険な状況の判定がなされた場合には,上記特定状
況判定手段32からの信号に基づいて上記振動情報制御手段33が音
響信号aに対して所定の制御を施し,耳に聞こえない低周波領域の音
響信号を体感振動情報信号cとして音響体感器1のスピーカ6に送出
する。この場合,上記特定状況判定手段32は,キャラクタ41が地
雷Xに近づいているか,あるいは遠ざかっているかを判定し,近づい
ている場合には,その離間距離が短くなるにつれて上記低周波領域の
音響信号の間欠周期を序々に小さくして振動が頻繁に生じるようにし,
逆に遠ざかっている場合には,その離間距離が長くなるにつれて上記
間欠周期を序々に大きくして振動の発生頻度を低下させるようにして
もよい。すなわち,地雷Xに対する接近度合いと心臓の鼓動とが一致
したような雰囲気を味わえるようにするのである。
(イ) 前記(ア)の記載事項によれば,本件明細書Bの発明の詳細な説明には,
本件発明B1に関し,次のような開示があることが認められる。
近年,業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機等を使用して行われるゲーム
として,遊戯者が,ゲーム機の画像出力手段を視認しながら入力手段を
操作することにより,自己に対応する仮想人物画像等の行動を制御する
ものが実用化されている(【0002】,【0003】)。
上記ゲームでは,仮想人物画像等の置かれている状況が変化した場合
等に,ゲーム機のスピーカから音響が発せられるものが主流を占めてい
るが,自己と他者とで勝負を決するゲームにおいては,上記音響が他者
にも聞こえてしまうため,ゲームの内容が全てオープンとなり,十分な
スリル感を味わえなくなるほか,音響が発せられることに起因して,自
己のみが知っている情報に基づいて秘密のうちにゲームを進行させるこ
とができなくなり,ゲーム製作上の自由度が小さくなるという問題があ
る。加えて,音声や効果音だけでは,遊戯者は聴覚及び視覚でその雰囲
気を味わうにとどまるため,より高度な現実感や十分な迫力等が得られ
ず,娯楽性や面白さに欠けるという難点がある(【0005】~【00
07】)。
「本願発明」は,ゲームの進行途中における自己の置かれている状況
を,視覚及び聴覚以外の感覚をもって知得できるようにするとともに,
相手方に対して秘密状態の下でゲームを進行させることなどを可能にし,
これによりゲーム製作上の自由度を増大させ,かつ高度な現実感や十分
な迫力が得られる遊戯装置を提供することを課題とする 【0008】 。
( )
「本願発明」の遊戯装置は,遊戯者が操作する入力手段と,この入力
手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲ
ーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少
なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラク
タを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯
装置であって,上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲーム
の進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれてい
る状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,上記
特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情
報からは認識できない情報を,体感振動情報信号として送出する振動情
報制御手段と,上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づい
て振動を生じさせる振動発生手段とを備えたことを特徴とする(【00
09】,【0010】)。上記特定状況判定手段は,上記キャラクタの
置かれている状況が所定の規則性をもって変化しているか否かを判定す
るものであり,変化していることが判定された時に,上記振動情報制御
手段から上記キャラクタの状況の変化の態様に応じて変化する体感振動
情報信号が送出されるように構成されるものでもよい 【0013】 。
( )
「本願発明」は,上記構成を備えることにより,遊戯者が,周囲にそ
の特定の状況を悟られることなく,自己のみが知り得る秘密の状態の下
でゲームを進行できるとともに,振動を体感的に知得できることにより
迫力や現実感が増大するという効果を奏する(【0025】)。
また,ゲームの状況が所定の規則性に従い変化している場合に,上記
特定状況判定手段が特定状況にあると判定し,ゲームの変化の態様に応
じた体感振動情報信号,例えば,振動の発生周期(間欠周期)を短くす
るための体感振動情報信号を送出することにより,遊戯者は一層高度な
現実感やスリルを味わえるという効果を奏する(【0031】,【00
42】,【0047】)。
イ 技術的範囲の属否について
(ア) 構成要件EないしGの意義
a 本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「特
定の状況」(構成要件E,F)とは,「キャラクタの置かれている状
況」であり,当該「状況にあるか否か」を「特定状況判定手段」によ
り判定されるものであること,「振動情報制御手段」(構成要件F,
G)とは,「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定し
た時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの
置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせ
るための体感振動情報信号として送出する」手段であることを理解で
きる。
一方,特許請求の範囲には,「特定の状況」について定義した規定
はなく,上記「特定の状況」をゲーム中の全場面において「画像情報
からは認識できない」状況であると解釈すべき根拠となる記載はない。
また,特許請求の範囲には,「振動情報制御手段」から「送出」さ
れる「体感振動情報信号」について,「画像情報からは認識できない
情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる
振動の間欠周期を異ならせるための」もののみであると解釈すべき根
拠となる記載はない。
b 次に,前記ア(イ)のとおり,本件明細書Bの発明の詳細な説明には,
「本願発明」の遊戯装置は,遊戯者が操作する入力手段と,この入力
手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御する
ゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づい
て少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキ
ャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備
えた遊戯装置であって,上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づい
て,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタ
の置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判
定手段と,上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した
時に,上記画像情報からは認識できない情報を,体感振動情報信号と
して送出する振動情報制御手段と,上記振動情報制御手段からの体感
振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段とを備えると
いう構成を採用することにより,遊戯者が,周囲にその特定の状況を
悟られることなく,自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進
行できるとともに,振動を体感的に知得できることにより迫力や現実
感が増大するという効果を奏すること,また,ゲームの状況が所定の
規則性に従い変化している場合に,上記特定状況判定手段が特定状況
にあると判定し,ゲームの変化の態様に応じた体感振動情報信号,例
えば,振動の発生周期(間欠周期)を短くするための体感振動情報信
号を送出することにより,遊戯者は一層高度な現実感やスリルを味わ
えるという効果を奏することが記載されており,この点に本件発明B
1の技術的意義があるものと認められる。
そして,本件発明B1の上記技術的意義に照らすと,上記「特定の
状況」をゲーム中の全場面において「画像情報からは認識できない」
状況に限定したり,上記「振動情報制御手段」から「送出」される「体
感振動情報信号」を,「画像情報からは認識できない情報を,上記キ
ャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期
を異ならせるための」もののみとする必然性はみいだし難い。例えば,
ゲーム中のある場面において,キャラクタの置かれている状況が特定
の状況にあることを画像情報から認識でき,その情報を体感振動情報
信号として送出したとしても,ゲーム中の別の場面では,キャラクタ
の置かれている状況が上記特定の状況にあることを画像情報から認識
できないのであれば,かかる場面において,キャラクタの置かれてい
る状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体
感振動情報信号を送出することにより,前記ア(イ)の本件発明B1の
効果を奏するといえる。
加えて,本件明細書B全体をみても,「特定の状況」や「振動情報
制御手段」から「送出」される「体感振動情報信号」を上記のとおり
限定することによって,かかる限定を付さない場合と比して有利な効
果を生じるなどの技術的意義があることについて記載も示唆もない。
c 以上の本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件
明細書Bの記載を総合すれば,①「特定の状況」(構成要件E,F)
とは,「キャラクタの置かれている状況」であり,当該「状況にある
か否か」を「特定状況判定手段」により判定されるものであって,「上
記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画
像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状
況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振
動情報信号として送出する」ものであれば,その状況が,ゲームの全
場面において「画像情報からは認識できない」状況である必要はなく,
②「振動情報制御手段」(構成要件F,G)とは,「上記画像情報か
らは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じ
て間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信
号」として「送出」する機能を有するものであれば,当該機能のみを
有するものに限定されないと解される。
d これに対し被控訴人は,①構成要件Fは,単に特定の状況にあるこ
とを判定した場合に振動を発生させるというものではなく,あくまで,
画像情報からは認識できない情報を,体感振動情報信号として送出す
る制御を行うことが記載されているものであって,かかる振動情報制
御手段及び制御方法の構成として考えられるのは,特定状況判定手段
が判定する「特定の状況」そのものが「画像情報からは認識できない
情報」である場合に限られる,②本件明細書の記載も,ゲーム進行中
のある瞬間において画像情報から認識できる情報であっても,別の瞬
間においては画像情報から認識できない情報を体感振動情報として送
出するような構成は許容しておらず,したがって,「特定の状況」そ
のものが「画像情報からは認識できない情報」に限定されると解され
る,③控訴人は,本件特許出願Bの出願審査の際に,請求項2,3等
において,「画像情報からは認識できない情報」を体感振動情報信号
として送出する振動制御手段に減縮する補正を行うとともに(乙B4
の7の4),意見の内容(乙B4の7の2)の中で「今回の補正の趣
旨は要するに,請求項2,3,9,10において,体感振動情報は,
請求項1,8の場合と同様,画像情報からは認識できない情報である
ことを限定したものです。」と述べたものであり,体感振動情報を送
出する振動制御手段は,画像情報からは認識できない情報のみである
と限定するために,本件発明B1と同様の構成要件を付加したもので
ある旨主張する。
しかしながら,上記①及び②の点については,前記cのとおり,本
件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Bの
記載によれば,「特定の状況」は,その状況が,ゲームの全場面にお
いて「画像情報からは認識できない」状況である必要はないと解すべ
きである。
次に,上記③の点については,証拠(乙B4(枝番号を含む。))
によれば,控訴人は,当初,特許請求の範囲の請求項2を「上記危険
な状態にない時には送出されない情報を,体感振動情報信号として送
出する振動情報制御手段」,請求項3を「上記有利な状態にない時に
は送出されない情報を,体感振動情報信号として送出する振動情報制
御手段」としていたところ,本件特許出願Bの出願審査の際に,審査
官から,引用例1(乙B6)に危険な状態での体感信号が記載され,
引用例2(乙B7)に有利な状態での体感振動が記載されているとし
て拒絶理由通知を受けたため,請求項2を「上記画像情報からは認識
できない情報であって上記危険な状態にない時には送出されない情報
を,体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」,請求項3
を「上記画像情報からは認識できない情報であって上記有利な状態に
ない時には送出されない情報を,体感振動情報信号として送出する振
動情報制御手段」と補正し,その趣旨は「請求項1,8と同様,画像
情報からは認識できない情報であることを限定したものです。」と述
べたことが認められる。
そして,上記補正及び意見書の内容全体をみると,同補正は,単に,
体感振動情報信号として送出するものを画像情報からは認識できない
情報に特定したに過ぎず,ある場面においては画像情報から認識でき
ないが,別の場面においては画像情報からは認識できる情報を体感振
動情報信号として送出する構成までを排除したと認めることはできな
い。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) ロ号装置の構成要件充足性について
a 証拠(甲B3~5,13~15)及び弁論の全趣旨によれば,ロ号
装置の構成は,原判決別紙「ロ号装置説明書(控訴人)」記載のとお
りであると認められる。
そして,本件発明B1の構成要件とロ号装置の構成との対比は,原
判決別紙「ロ号装置説明書(控訴人)」記載のとおりであるから,ロ
号装置は,本件発明B1の構成要件をすべて充足するものであって,
本件発明B1の技術的範囲に属するものと認められる。
b これに対し被控訴人は,①ロ号装置においては,ある一場面の画像
情報では霊自体やフィラメント発光が確認できない状態で振動自体が
発生しているとしても,その場面の前後の画像情報では霊自体,フィ
ラメント発光及びその輝度等によって,キャラクタが霊に接近したこ
と及びその距離を把握できるから,構成要件Fの「画像情報からは認
識できない情報を,…体感振動情報信号として送出する振動情報制御
手段」はない。また,ロ号装置では,特定の状況に係る情報が画像情
報から認識できなくなる場面は数秒間であって,このようなごく短時
間において画像情報から認識できなくなる場合が存在するとしても,
「周囲にその特定の状況を悟られることなく,自己のみが知り得る秘
密の状態の下でゲームを進行していく」という本件発明B1の作用効
果を奏しないから,ロ号装置は構成要件Fを充足しない,②ロ-7な
いし9号製品は,ロ-1ないし6号製品と異なり,フィラメント自体
の表示という画像情報から認識できる情報によって,キャラクタの近
くに霊がいる状況にあることを常に認識できるから,少なくともロ7
ないし9号装置は構成要件Fを充足しない旨主張する。
そこで,被控訴人の上記主張について検討する。
(a) 認定事実
証拠(甲B8,13~15,21~23,乙B1~3,29~3
1(枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
① ロ-1ないし3号製品は,プレイヤーが,主人公であるゲーム
キャラクタを操り,廃墟の「氷室邸」内で,行方不明の兄を捜索
するというゲームであり,襲いかかってくる霊を射影機(カメラ)
で撮影し,霊の魂を吸収,撃退しながらゲームを進め,霊の攻撃
を何回か受けて体力が0になるとゲームオーバーとなる。
キャラクタが怨霊及び浮遊霊に接近したことがプレイヤーに伝
達される方法には,フィラメントの赤色点灯,振動,サウンド及
び画面上の霊の描写がある。
フィラメントの赤色点灯は,キャラクタの視野270度以内で,
キャラクタと霊との距離8m以内の場合に表示され,その範囲内
から霊が存在しなくなった場合に消灯する。
振動は,キャラクタの視野360度以内で,霊との距離8m以
内の場合に生じ,生じる振動は間欠的であり,キャラクタと霊の
距離が近くなると間欠周期が短くなり,遠くなると長くなる。す
なわち,振動は,霊がキャラクタの後方90度以内にいるため,
赤色灯が点灯しない場合にも発生する。
② ロ-4ないし6号製品は,プレイヤーが,主人公であるゲーム
キャラクタを操って,迷い込んだ「皆神村」を探索し,村から脱
出するための手段を探すというゲームであり,その過程で,上記
①のロ-1ないし3号製品と同様に,射影機を使って霊を撮影す
るものである。キャラクタが怨霊及び浮遊霊に接近したことがプ
レイヤーに伝達される方法には,フィラメントの赤色点灯,振動,
サウンド及び画面上の霊の描写がある。
ロ-4ないし6号製品も,ロ-1ないし3号製品と同様に,キ
ャラクタと霊との距離が8m以内で,画面上に霊が表示されてお
らず,キャラクタの視野270度以内にない(すなわち霊がキャ
ラクタの後方に存在する)場合には,霊が近くにいることが画面
情報から認識することができないが,間欠的な振動は生じており,
そのまま霊がキャラクタに近づくと間欠周期が短くなり,遠ざか
ると長くなる
③ ロ-7ないし9号製品は,プレイヤーが,主人公であるゲーム
キャラクタを操り,悪夢で訪れる「眠りの家」を探索し,その謎
を解き明かすというゲームであり,その過程で,上記①及び②の
ロ-1ないし6号製品と同様に,射影機を使って霊を撮影するも
のである。
キャラクタが怨霊,ランダム怨霊及び浮遊霊に接近したことが
プレイヤーに伝達される方法には,フィラメントの表示と赤色点
灯,振動,サウンド及び画面上の霊の描写がある。
フィラメントの表示は,キャラクタと霊との距離10m以内の
場合に表示され,フィラメントの赤色点灯は,少なくとも霊がキ
ャラクタの後方にいる場合を除き距離8m以内の場合に表示され,
その範囲内から霊が存在しなくなった場合には消灯する。なお,
被控訴人の従業員が作成した報告書(乙B29)には,上記フィ
ラメントの赤色点灯はキャラクタの視野360度以内で表示され
る旨の記載があるが,これを裏付ける客観的な証拠は存在しない。
むしろ,証拠(甲B8の2(0:40付近)及び甲B23の2(1:
30~1:34等))によれば,ロ-7ないし9号製品では,霊
がキャラクタの背後にいる場面では,フィラメントの赤色点灯が
されていないものと認められる。振動は,キャラクタの視野36
0度以内で,霊との距離8m以内の場合に生じ,生じる振動は間
欠的であり,キャラクタと霊の距離が近くなると間欠周期が短く
なり,遠くなると長くなる。
⒝ 被控訴人の上記①の主張について
前記(ア)のとおり,本件発明B1の「振動情報制御手段」とは,
「上
記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれて
いる状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるため
の体感振動情報信号」として「送出」する機能を有するものであれ
ば,当該機能のみを有するものに限定されないと解される。
そして,前記(a)の認定事実によれば,ロ号製品は,いずれも,ゲ
ームキャラクタと霊との距離が8m以内で,画面上に霊が表示され
ておらず,キャラクタの視野270度以内にない(すなわち霊がキ
ャラクタの後方に存在する)場合には,霊が近くにいることが画面
情報から認識することができないが,間欠的な振動は生じており,
そのまま霊がキャラクタに近づくと間欠周期が短くなり,遠ざかる
と長くなるものであると認められるものであるから,ロ号製品が,
「画像情報からは認識できない情報を,…体感振動情報信号として
送出する振動情報制御手段」を有することは明らかである。
⒞ 被控訴人の上記②の主張について
ロ-7ないし9号製品についても,ロ-1ないし6号製品と同様
に,本件発明B1の「画像情報からは認識できない情報を,…体感
振動情報信号として送出する振動情報制御手段」を有することにつ
いては,前記(a)③のとおりであるから,ロ-7ないし9号製品につ
いても,ロ-1ないし6号製品と同様に,フィラメントが赤色点灯
される視野角度には制限があり,少なくとも霊がキャラクタの後方
にいる場合には点灯されないものと認めるのが相当である。
⒟ 小括
以上によれば,被控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵ 争点2-1-2(間接侵害(特許法101条1号)の成否)について
ロ号製品は,ロ号装置を構成するPlayStation2本体に装填し
てゲームを実行するためのゲームソフトであり,そうである以上,Play
Station2本体に装填されて使用される用途以外に,社会通念上,経
済的,商業的又は実用的な他の用途はない。
したがって,ロ号製品は,ロ号装置の生産にのみ用いる物である。
そして,前記⑴のとおり,ロ号装置は,本件発明B1の技術的範囲に属す
る遊戯装置であるから,ロ号製品は,物の発明である本件発明B1に係る物
の生産にのみ用いる物であると認められる。
これに対し被控訴人は,ロ号製品が装填されたゲーム機が振動機能をOF
Fにした状態で使用されることがある(乙B5の1,2)から,ロ号製品は
本件発明B1に係る物の生産に「のみ」用いる物に当たらない旨主張する。
しかしながら,ロ号装置が物の発明である本件発明B1の各構成要件の構
成を備えている以上,ロ号装置においてユーザが機器の振動機能を実際に使
用するか否かは,ロ号製品が「その物の生産にのみ用いる物」に当たるか否
かの判断を左右し得る事情ではない。
したがって,特許法101条1号に基づき,ロ号製品を製造,販売するこ
とは,本件特許権Bを侵害するものとみなされる。
⑶ 争点2-2-1(「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲ
ーム装置により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発
明B1の進歩性の欠如の有無)について
ア 「ニンジャウォーリアーズ」というゲームが作動するゲーム装置により
公然知られた発明又は公然実施をされた発明について
「ニンジャウォーリアーズ」は,株式会社タイトーが昭和63年2月下
旬に発売した,連続した横3画面による大スクリーンを採用したTVゲー
ム機であり,そのゲーム内容は,魔力による独裁政治を行う魔王を倒すた
め,革命派が作ったサイボーグ忍者が活躍するというストーリーであって,
ナイフや銃で襲ってくる敵兵等を倒しながらサイボーグ忍者が画面右方向
へ進んでいき,背景にスラム街,軍事基地,ビル街等が展開し,ジェット
機や戦車なども登場する(乙B12)。
(ア) 構成aないしd,g及びhについて
構成aないしd,g及びhが原判決別紙「公知発明b-1の構成(被
告主張) 記載のとおりであることについては,
」 当事者間に争いがない。
(イ) 構成eについて
証拠(甲B18の1~3,B25)及び弁論の全趣旨によれば,「ニ
ンジャウォーリアーズ」では,ゲームステージ背景の5つ並んだコンテ
ナのうち一番右のコンテナ(5という数字が記されたコンテナ)の右側
にある柱がゲーム画面の略中央に位置したときに,ベンチシートの振動
が開始することが認められる。そうすると,
「ニンジャウォーリアーズ」
において,特定状況判定部は,ニンジャキャラクタの近くに戦車が存在
する状況にあるか否かを直接判定するものではない。
もっとも,ニンジャキャラクタの画面右方向への移動に合わせて,背
景画面が画面の右から左へと一方向のみにスクロ-ルし,一度画面の左
端を通過した背景は,ニンジャキャラクタを画面左方向へ移動させても
再度表示されないこと(甲B18の1~3)に照らすと,ゲームステー
ジの背景が所定の位置までスクロ-ルした状況にあることを判定すると
いうことは,ニンジャキャラクタが当該ステージ位置まで移動した状況
を判定することにほかならない。そして,証拠(乙B14~16)によ
れば,その状況に至ると,戦車の走行による振動を模したベンチシート
の振動が開始されることが認められるから,ニンジャキャラクタが当該
ステージ位置まで移動したことをもって,戦車が近くにいる状況を判定
しているといえる。
そして,構成eのその余の部分については当事者間に争いがない。
したがって,構成eは,原判決別紙「公知発明b-1の構成(被告主
張)」記載のとおりであると認められる。
(ウ) 構成fについて
証拠(甲B18の1~3,乙B14,16,17)によれば,①「ニ
ンジャウォーリアーズ」のベンチシートの振動開始後,しばらくすると
ゲーム画面に戦車が現れ,その後,戦車がゲーム画面から消え,間もな
くしてベンチシートの振動も停止すること,②この間の振動の状況は,
原判決別紙「公知発明bの振動状況」の図のとおりであること,③同図
の②の部分の囲み部分では,画面上,砲弾が着弾して爆発しており,そ
のために振動が微弱になっていることが認められる。そして,被控訴人
は,このような振動状況について,同図の②の部分には,同図の①の部
分と異なる間欠周期の間欠的に生じる振動がある旨主張する。
そこで検討するに,同図の①の部分では,小刻みに振幅の大きな部分
と振幅の微弱な部分とが交互に生じている。しかしながら,一般に体感
振動は身体にかかる力の強弱によって生じるものであるところ,本件明
細書Bでは,そのような振動の中で振動を間欠的に生じさせるものとそ
うでないものとがあることが前提とされている(【0042】)ことか
らすると,本件発明B1における「間欠的に生じる振動」とは,単に強
弱が連続するというものではなく,振動がある部分とない部分が連続す
るものを意味すると解される。そして,このような間欠的に生じる振動
の「間欠周期を異ならせる」とは,そのような強弱の連続部分と不連続
部分とが繰り返されることにより生じる周期があり,キャラクタの置か
れている状況に応じてその周期を異ならせることをいうと解される。そ
うすると,同図の①の部分の小刻みな振動は,振動の強弱が連続してい
るに過ぎない継続的な振動であるから,間欠的な振動には当たらないと
いうべきである。この点について,被控訴人は,本件明細書Bの【00
47】を指摘して,本件発明B1では小刻みな振動も間欠的な振動とさ
れていると主張するが,上記の検討からすると,同部分の記載の「間欠
周期を序々に小さくして」,「間欠周期を序々に大きくして」とは,強
弱の連続部分と不連続部分とが繰り返されることにより生じる周期を小
さく又は大きくすることを意味すると解するのが相当であるから,被控
訴人の主張は採用できない。
したがって,構成fは,「上記特定状況判定部がニンジャキャラクタ
の近くに戦車が存在する状況にあることを判定した時に,上記画像情報
からは認識できないニンジャキャラクタの近くに戦車が存在することを
ボディソニック駆動情報信号として送出するボディソニック駆動情報制
御部と」と認定するのが相当である。
イ 本件発明B1と公知発明b1の対比
本件発明B1と公知発明b1とを対比すると,以下の相違点が存在する
ことが認められる。
(相違点1)
本件発明B1と公知発明b1とは,本件発明B1の「振動情報制御手段」
は,「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上
記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状
況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情
報信号として送出する」ものであるのに対し,公知発明b1の「ボディソ
ニック駆動情報制御部」は,「上記特定状況判定部がニンジャキャラクタ
の近くに戦車が存在する状況にあることを判定した時に,上記画像情報か
らは認識できないニンジャキャラクタの近くに戦車が存在することをボデ
ィソニック駆動情報信号として送出する」ものであり,キャラクタの置か
れている状況に応じて振動の間欠周期を異ならせるものではない点。
ウ 相違点の容易想到性について
(ア) 乙B18記載の発明との組合せ
a 乙B18(実開平6-34693号公報。平成6年5月10日公開)
には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1ないし3」
については別紙12を参照)。
(a) 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は,列車,自動車,飛行機,船舶等の乗り物その他動植物,
人形を模した物に自らが搭乗して動きを体感する遊戯機に関し,主
にレール上を走行する乗り物に適した遊戯機に関する。
【0002】
【従来技術】
遊戯者自らが搭乗して動きを体感する揺動遊戯機は,従来でも各
種あり,そのうちエアシステムにより搭乗席を揺動させる例(特開
昭 61-31185 号,実開昭 58-77785 号公報等)も多く提案されてい
る。
上記例はいずれもエアシリンダを用い,搭乗席を揺動させること
ができるが,実際の乗り物に生じる振動を再現することはできない。
【0003】
走行時に車体に加わる振動を再現したものに同じ出願人に係る実
願平 1-35510 号(実開平2-126687 号公報)の例がある。
同例は,操縦席が設けられた揺動部材を支持し,かつ揺動するシ
リンダを直列に2個設け一方を揺動用にし他方を振動専用に用いた
ものであった。
⒝ 【0004】
【解決しようとする課題】
このようにシリンダを直列に2個つなげるため,シリンダの個数
が多くなりコストが嵩む問題がある。
また同公報記載の遊戯機は揺動部材の前端を1点支持し,後端に
シリンダを介装して支持する構成なので,シリンダへの負荷が大き
く,常に負荷を負っていてシリンダの作動による揺動部材の動きは
緩急があるにしても滑らかな動きおよび振動とならざるを得ない。
したがってレール走行車両が受けるレールの継目の瞬時的な振動
や,方向転換時の急激な動きといったものを再現するのは困難であ
る。
またモータ駆動による揺動方式では微振動やクイックレスポンス
の表現ができなかった。
【0005】
本考案はかかる点に鑑みなされたもので,その目的とする処は,
1つのシリンダで揺動と振動を起こすことが可能で,瞬時的な振動
や動きを再現できる揺動遊戯機を供する点にある。
⒞ 【0006】
【課題を解決するための手段および作用】
上記目的を達成するために,本考案は遊戯者が乗る搭乗席が設け
られた揺動部材と,同揺動部材を基台上方に中央1点で支持する支
持部材と,前記揺動部材の前部左右2箇所にそれぞれ基台との間に
介装されて該揺動部材を動かす2個の複動形シリンダと,同両シリ
ンダに高圧と低圧の2種類の圧力を切換えて供給する圧力供給手段
と,同圧力供給手段を制御する制御手段とを備える揺動遊戯機とし
た。
【0007】
圧力供給手段が高圧と低圧の2種類の圧力を切換えて複動形シリ
ンダに供給できるので,低圧駆動状態のシリンダに反対方向へ高圧
を加えたり抜いたりすることで,振動を再現することができ,また
揺動部材は中央1点で支持され,2個のシリンダにはあまり負荷が
加わらないので,シリンダ上部または下部での振動を変わりなく再
現できるとともにシリンダの駆動が容易で瞬時に揺動部材を動かす
ことができる。
⒟ 【0008】
【実施例】
以下図1ないし図 28 に図示した本考案に係る一実施例について
説明する。
図1は本考案に係る揺動遊戯機1の全体斜視図である。
【0009】
同揺動遊戯機1は,レール上を走行するトロッコの動きを摸した
もので,背もたれを有する2人乗りのシート3が基台2の上方で揺
動する。
シート3の前方にはアップライトの筐体4があり,筐体4にモニ
ターTV5が嵌め込まれており,モニターTV5の下方を手前に突
出して操作盤6が設けられている。
【0010】
操作盤6には,左右にそれぞれシューティングスティック7が全
方位に揺動自在に立設され,シューティングスティック7の頭部に
は押しボタン式のシューティングボタン8が設けられている。
またシューティングスティック7の横にはスタートボタン9が2
個並んで設けられている。
【0011】
したがって2人の遊戯者が,シート3に並んで着座すると前方に
モニターTV5が位置し,両者がスタートボタン9を押すと,ゲー
ムがスタートし,モニターTV5には,図2および図3に示すよう
にトロッコに乗った人が進行方向を見たときのレール 10 や周囲の
様子さらに前方をトロッコ 11 に乗って走っている敵 12 等が映し出
される。
【0056】
図2および図3に図示するようなモニターTV5の映像に同期し
てシート3が揺動および振動し,前記のように走行時の細かい振動
が再現でき,上りや下りの加速や減速も振動の変化により表現可能
で,例えば,加速時にはレール継ぎ目の振動の間隔を徐々に縮め,
逆に減速時にはその間隔を長くすることにより遊戯者は映像および
効果音との相乗効果で,あたかもスピードが変化したかの如くに感
じることができる。
【0057】
またトロッコがジャンプしたような場合は空中飛行中振動を停止
したり,場面の変化に応じて効果的に振動を加える等の手法がとれ
る。
レールがカーブしている場所にくるとレールに合わせたシート3
が右傾または左傾し,それも素早い切換えを行うことによりトロッ
コに振り回されているような感覚を遊戯者に与え臨場感に富むゲー
ムを楽しむことができる。
さらに坂の上り下りはシート3の前傾・後傾により表現できる。
【0058】
なお衝突等の急停車時には,前傾させ,突然の坂道などの急加速
時には後傾させることにより,より臨場感のある擬似体験をするこ
とができる。
(e) 【0060】
【発明の効果】
本考案は,揺動部材を揺動させるシリンダが,同時に振動を生じ
させるので,特別振動用のシリンダを必要とせずコストの低減を図
ることができる。
中央で1点支持された揺動部材において低圧駆動状態のシリンダ
に反対方向へ高圧を加えたり抜いたりしてシリンダの上部または下
部での振動を変わりなく再現することができるので,単純な動きで
複数の動きすなわち微振動からローリング,ピッチング等の多種多
様な振動を再現できるとともに特にレール走行車両の動きに近似し
臨場感のあるゲームを楽しむことができる。
b 前記aの記載事項によれば,乙B18には,次のような開示がある
ことが認められる。
自らが搭乗して動きを体感する遊戯機,主にレール上を走行する乗
り物に適した遊戯機に関し(【0001】),レール走行車両が受け
るレールの継目の瞬時的な振動や,方向転換時の急激な動きといった
瞬時的な振動や動きを再現できるように,1つのシリンダで揺動と振
動を起こすことが可能な揺動遊戯機であって(【0004】,【00
05】 ,
) レール上を走行するトロッコの動きを模し 【0009】 ,
( )
モニターTVの映像に同期してシートが揺動および振動し,走行時の
細かい振動が再現でき,上りや下りの加速や減速も振動の変化により
表現可能で,例えば,加速時にはレール継ぎ目の振動の間隔を徐々に
縮め,逆に減速時にはその間隔を長くすることにより遊戯者は映像お
よび効果音との相乗効果で,あたかもスピードが変化したかの如くに
感じることができ,トロッコがジャンプしたような場合は空中飛行中
振動を停止したり,場面の変化に応じて効果的に振動を加える等の手
法がとられ,レールがカーブしている場所にくるとレールに合わせた
シート3が右傾または左傾し,それも素早い切換えを行うことにより
トロッコに振り回されているような感覚を遊戯者に与え,坂の上り下
りはシートの前傾・後傾により表現でき,衝突等の急停車時には,前
傾させ,突然の坂道などの急加速時には後傾させることなどにより,
単純な動きで複数の動きすなわち微振動からローリング,ピッチング
等の多種多様な振動を再現できるとともに,特にレール走行車両の動
きに近似し臨場感に富むゲームを楽しむことができる遊戯機(【00
56】~【0060】)(以下,「本件乙B18発明」という。)。
以上によれば,乙B18には,モニターTVの映像との相乗効果に
より,トロッコのスピードの変化をレール継ぎ目の振動の間隔を変化
させることにより表現し,臨場感を表すことが開示されている。
一方,上記のようなトロッコのスピードの変化はモニターTVの映
像で認識できるものであるから,乙B18における振動は,画像情報
からは認識できない情報に基づいたものとはいえない。
したがって,乙B18は,相違点1に係る本件発明B1の構成,す
なわち,「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した
時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置
かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる
ための体感振動情報信号として送出する」を開示するものではない。
c 公知発明b1のボディソニック駆動による振動は,右から左方にス
クロールする背景画像のうち柱がゲーム画面中央に到達した時に開始
し,ゲーム画面右方向から戦車がフレームインし,その後,ゲーム画
面左方にフレームアウトしてから所定時間経過後に停止するものであ
る(乙B14,乙B16,甲B18(枝番号を含む。))。かかる振
動は,戦車がゲームステージに登場することに対応して発生すること
により,戦車の走行音を発生させるとともに,走行による戦車の「地
響き」が発生している状態を表現し,プレーヤーが臨場感や高度の現
実感を得られるようにすることを目的としていることは明らかである。
戦車は,無限軌道により地面を走行するのであるから,走行による地
響きは継続的なものと認められる。
他方,本件乙B18発明は,レール上を走行するトロッコにおいて,
レールの継ぎ目ごとに振動が発生し,その振動が発生する時間間隔が
速度によって変化するという性質を利用して,それをゲーム上で再現
することにより,映像及び効果音との相乗効果によりゲームの臨場感
を高めたものである。
そうすると,トロッコのスピードの変化をレールの継ぎ目による振
動の時間間隔の変化により表す本件乙B18発明を,レール上で走行
するという前提を離れて,地面を無限軌道により走行する戦車の地響
きに適用することは容易でないというべきであり,公知発明b1と本
件乙B18発明とに基づいて,キャラクタの置かれている状況に応じ
て振動の間欠周期を異ならせることを当業者が容易に想到し得たとは
いえない。
d これに対し被控訴人は,①公知発明b1と本件乙B18発明とは,
キャラクタの置かれた状況に応じた振動を発生させることで臨場感の
あるゲームを提供するという作用・機能において,更には,画像情報
から認識できない情報を体感振動信号として振動発生手段に送出する
という作用 機能においても一致する旨,
・ ②戦車が停止している時は,
本来であれば,戦車の走行による地響きも発生しないのが自然である
から,戦車の走行による地響きは,間欠的な振動の間欠周期が異なる
ことと親和性がある旨,③道路上で走行する車両の振動が間欠的であ
る(乙B41)旨主張する。
まず,上記①の点については,前記bのとおり,本件乙B18発明
は,トロッコの動きに近似し臨場感に富むゲームを楽しむものであっ
て,トロッコの速度をレールの継ぎ目の通過の振動で近似したのであ
り,トロッコの速度はモニターTVの映像により認識可能であるから,
画像情報から認識できない情報を体感振動信号として振動発生手段に
送出するものではなく,この点において公知発明b1とは決定的に異
なる。
次に,上記②の点については,戦車が走行している時に振動を発生
させ,戦車が走行していない時に振動を発生させないようにするとい
うことは,戦車が走行しているか走行していないかにより振動を発生
させるか,発生させないかを制御しているのであり,キャラクタの置
かれている状況に応じて間欠的に振動を生じさせるものでもないし,
間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるものでもない。
さらに,上記③の点については,乙B41は,振動公害問題として
の道路交通振動を,道路際のある地点で複数の車両が走行する状態で
振動を測定した結果,その地点の道路の振動が間欠的であることを示
したものであり,車両の走行が示す振動が間欠的であることを示した
ものではなく,公知発明b1における戦車の走行による地響きを示す
振動とは関係がない。
以上のとおり,被控訴人の上記主張はいずれも採用することができ
ない。
(イ) 「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間
欠周期を異ならせる」周知技術との組合せ
a 乙B6について
(a) 乙B6(特開平5-192449号公報)には,次のような記載
がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はビデオ式銃撃戦ゲーム装置及びそのゲーム装置を制御す
る方法に関する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は,味方の被弾が直接体感できるビデオ式銃撃戦ゲ
ーム装置を安価に提供すること,及び,そのゲーム装置を制御する
新規な方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は,上記公知のビデオ式銃撃戦ゲーム装置に於いて,
模擬銃又はその支持装置に振動発生装置を設けると共に,被弾信号
が発生したときは一定時間その振動発生装置を作動させる回路を設
けたことに依って達成される。
【0020】
一方, 敵が発射した弾丸がプレイヤーに命中すると,プレイヤー
にダメージが与えられ,ライフのメモリが減少する。これと同時に
画面上に爆発パターンが表示され,ライフメモリパネルがフラッシ
ュする。ここまでのゲーム展開は公知のものと同断である。
【0021】
而して,本発明に係るビデオ式銃撃戦ゲーム装置に於いては,上
記のプロセスに次いで,振動発生装置7が起動され,プレイヤーの
銃が左右に激しく振動するようになる。然るときは,プレイヤーは
この振動により照準合わせが困難となるため,銃把43を強く握り,
全力を挙げて模擬銃4を押さえ込んで射撃を続けるため,恰も激し
い白兵戦状態となる。而して,プレイヤーの被ったダメージに応じ
て予め定められた時間が経過すると,振動発生装置7がOFFとな
り,模擬銃4の振動が停止する。
【0022】
叙上の如く,又,図2に示す如く,本発明に係るビデオ式銃撃戦
ゲーム装置に於いては,模擬銃支持装置6に振動発生装置7が設け
られており,これによりプレイヤーが被弾したときには,模擬銃4
に強い振動が与えられ,これがプレイヤーの身体に伝達されるので,
強い臨場感が感受されると共に,この振動により射撃が妨害され,
ゲームが不利となるので,プレイヤーは銃把を強く握り締め応戦を
続けることとなる。このためプレイヤーの興奮が高められ,ゲーム
に対する興趣が持続するものである。
⒝ 前記(a)の記載事項によれば,乙B6には,ビデオ式銃撃戦ゲーム
装置において(【0001】),プレイヤが被弾を直接体感できる
ように(【0005】),模擬銃又はその支持装置に振動発生装置
を設けると共に,被弾信号が発生したときは一定時間その振動発生
装置を作動させる回路を設け(【0006】),敵が発射した弾丸
がプレイヤに命中すると,振動発生装置が起動され,模擬銃に強い
振動が与えられ(【0020】),プレイヤの銃が左右に激しく振
動し,プレイヤの被ったダメージに応じて予め定められた時間が経
過すると,振動発生装置がOFFとなり,模擬銃の振動が停止する
(【0021】)ことが開示されている。
一方,乙B6に開示されているのは,キャラクタが被弾したとき
に,プレイヤの被ったダメージの程度により,一定時間振動を継続
させる技術であって,その振動を間欠的にさせる技術ではない。敵
が発射した弾丸の命中が間欠的であることにより,結果的に銃の振
動が間欠的に生じることがあるとしても,かかる技術は,キャラク
タの置かれている状況に応じて,振動の間欠周期を異ならせた体感
振動を生じさせる技術とは異なるものである。
また,弾丸の命中は,ディスプレイ装置の画面で爆発パターンに
より認識できるから(【0020】),被弾によりプレイヤの被っ
たダメージの程度は,画像情報からは認識できない情報ではない。
したがって,乙B6には,本件発明B1の「上記画像情報からは
認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて
間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報
信号として送出する振動情報制御手段」に相当する構成の開示があ
るとは認められない。
⒞ これに対し被控訴人は,「敵が正しくプレイヤーに向けて銃撃を
行ったとされる場合」は,ゲーム中に,止んで,また起きるから,
「模擬銃4」に与えられる「振動」も,止んで,また起こるもので
あり,この「振動」が発生する間隔(周期)は,一定ではなく異な
る,すなわち,「模擬銃4」に与えられる「振動」の間欠周期は異
なる旨主張するが,この技術が,キャラクタの状況に応じて,振動
の間欠周期を異ならせるものではないことは,前記⒝で指摘したと
おりである。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
b 乙B19について
(a) 乙B19(実開平5-58184号公報)には,次のような記載
がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は,ドライブビデオゲーム機のステアリングホイール振動
装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ゲームセンターなどに設置されているドライブビデオゲーム装置
は,プレーヤーがハンドル,アクセル,ブレーキ,クラッチ切換な
どを操作して,ビデオ表示面における自動車を走行させて運転技術
を競うものである。
【0008】
【考案が解決しようとする課題】
…従来のドライブビデオゲーム機では,ステアリングホイール4
のセンタリング機構と振動機構とが別々に設けられているためステ
アリング装置全体が大型化し,コスト高となるという問題があった。
【0009】
また,モーター13の反復駆動によってステアリングホイール4
に反復振動を与えているが,このようなモーター13の反復駆動で
は,高速な振動が与えられず,また実際の本物の自動車操作におけ
るステアリングホイールの振動感とは全く違った感じしか得られな
いという問題もあった。
【0010】
本考案はこのような問題点を解決したドライブビデオゲーム機の
ステアリングホイール振動装置を提供することを目的としている。
【0012】
【作用】
このようにしたため,本考案のドライブビデオゲーム機のステア
リングホイール振動装置では,センタリングカムの接触端面が付勢
手段によって回転ローラーに押圧されているので,ステアリングシ
ャフト及びステアリングホイールは基準位置に戻るように常に付勢
されている。そして,反復回動手段によってセンタリングカムを反
復回動すると,センタリングカムの円周方向に肉厚が変化した接触
端面が,ローラーに強く押圧されているので,ステアリングシャフ
ト及びステアリングホイールは回転方向の振動を与えられる。
【0024】
従って,ビデオ表示面でプレーヤーの自動車が他の自動車,他の
物体に衝突したり,悪路を走行したり,コーナーをするどく曲がっ
たりするようなゲーム状況に応じて制御装置(図示せず)でモータ
ー60の駆動の早さ,時間などを制御すれば,ステアリングホイー
ル23に強弱,時間の長さを選んで回転方向の振動を与えることが
できる。
【0025】
【考案の効果】
本考案のドライブビデオゲーム機のステアリングホイール振動装
置は,以上のようにステアリングホイール23のセンタリング機能
を有するセンタリングカム40によって,ステアリングホイール2
3への振動機能をも果たすことができ,従来のように別個に設けて
いたものを兼用できるから装置全体を小型化,簡略化できる。
【0026】
また,スプリング52による軸方向への押圧力をセンタリングカ
ム40を介して回転方向の揺動運動に変換しているので,実際の本
物の自動車走行におけるような感じの高速な振動が得られ,また,
図4~図6から明らかなように,図4でアーム板41が揺動した場
合と,図5あるいは図6で揺動した場合とでは,スプリング52に
よる押圧力が異なり,図6のようにステアリングホイール23を大
きく回動するほど押圧力が大きいので,振動も強くなり,急カーブ
を曲がったり,急なハンドル操作をしたとき程強い振動が生じるこ
とになり,図8で示した従来のようにどの回動角でも同一の振動力
が生じる場合より,はるかに実際のドライブのような臨場感をプレ
ーヤーに与えることができる。
⒝ 前記(a)の記載事項によれば,乙B19には,ビデオ表示面におけ
る自動車を走行させて運転技術を競うドライブビデオゲーム機の
ステアリングホイール振動装置に関し(【0001】),ステアリ
ングホイール4へのモーター13の反復駆動では,高速な振動が与
えられず,また実際の本物の自動車操作におけるステアリングホイ
ールの振動感とは全く違った感じしか得られないという問題等を
解決することを目的とし(【0009】,【0010】),スプリ
ングによる軸方向への押圧力をセンタリングカムを介して回転方
向の揺動運動に変換するという構成を採用することにより,実際の
本物の自動車走行におけるような感じの高速な振動が得られ(【0
026】),ビデオ表示面でプレーヤーの自動車が他の自動車,他
の物体に衝突したり,悪路を走行したり,コーナーをするどく曲が
ったりするようなゲーム状況に応じて,制御装置でモーターの駆動
の早さ,時間などを制御すれば,ステアリングホイールに強弱,時
間の長さを選んで回転方向の振動を与えることができる(【002
4】)ことが記載されている。
このように,乙B19に開示されているのは,プレーヤーの自動
車が他の自動車,他の物体に衝突したり,悪路を走行したり,コー
ナーをするどく曲がったりしたときに,そのようなゲーム状況に応
じて,ステアリングホイールに与えられる振動の強弱,時間の長さ
を選択して制御する技術であって,その振動を間欠的にするよう制
御する技術ではない。
また,自動車の衝突,悪路,コーナーなどのゲームの状況はビデ
オ表示画面で認識できるから(【0024】),プレーヤーの自動
車が他の自動車,他の物体に衝突したりするなどのゲーム状況は,
画像情報からは認識できない情報ではない。
したがって,乙B19には,本件発明B1の「上記画像情報から
は認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じ
て間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報
信号として送出する振動情報制御手段」に相当する構成の開示があ
るとは認められない。
⒞ これに対し被控訴人は,ステアリングホイールの振動は,不規則
に発生したり止まったりする,間欠的に生じる振動であることは明
らかであり,例えば,ステアリングホイールの第1の振動が発生し
た時刻から,第2の振動が発生する時刻までが,間欠周期の第1の
周期であり,該第2の振動が発生した時刻から,第3の振動が発生
する時刻までが,第2の周期であるところ,第1の周期と第2の周
期は通常異なるから,ステアリングホイールの振動の間欠周期が異
なることとなることは自明である旨主張する。
しかしながら,仮に,ステアリングホイールの第1の振動が発生
した時刻から第2の振動が発生する時刻までを第1の周期とし,該
第2の振動が発生した時刻から第3の振動が発生する時刻までを第
2の周期とした場合に,第1の周期と第2の周期とが異なるとして
も,前記a⒞と同様に,かかる技術は,特定のゲーム状況(例えば,
他の自動車に衝突した場合,他の物体に衝突した場合,悪路を走行
している場合,コーナーをするどく曲がっている場合)に応じて,
「ステアリングホイール23」に与える振動の「間欠周期」を異な
らせているものとはいえない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。
c 乙B20について
(a) 乙B20(特開平5-277258号公報)には,次のような記
載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,ステアリングホイールの回転操作によりビデオゲーム
装置の表示画面上の車両映像が左右に操舵されまたは車両外映像が
左右に変化するビデオゲーム装置において,前記ステアリングホイ
ールの操舵反力や不整地走行のキックバックや走行中のステアリン
グホイールの振動を付与することができるビデオゲーム装置用ステ
アリング装置に関するものである。
【0002】
【従来技術】
普通の自動車においては,不整地を走行する際に,タイヤへの衝
撃がキックバックとしてハンドルに伝わり,また操舵角に対応して
操舵反力が大きくなる。またパワーステアリング装置を備えた自動
車では,操舵角の増加に対応して操舵反力を増大させ,しかも車速
の増加に対応して操舵反力を増大させるようになっていた。
【0004】
【解決しようとする課題】
前記実開平 2-98989 号公報に記載されたものでは,1本のエアシ
リンダを利用し,該エアシリンダを,クランクを介し(同公報第3
図に図示の実施例),あるいは菱形リンクを介して(同公報第4図
に図示の実施例),ステアリングシャフトに連結し,または2本の
エアシリンダを利用し,該2本のエアシリンダのピストン先端が相
対する姿勢で一直線上に配置し,該両ピストン先端の間にステアリ
ングシャフトと一体のクランク先端を配置したため,ステアリング
ハンドルが中立に近い状態では,比較的大きな操舵反力が得られ易
いが,操舵角が大きくなると,エアシリンダ内の空気圧力を増大さ
せても,操舵反力が大きくならない不都合があった。
【0005】
また前記公報第1図ないし第2図に図示の実施例では,ステアリ
ングシャフトと平行な軸を中心として揺動するアームの一端にエア
シリンダの一端を枢着し,ステアリングシャフトにカムを一体に装
着し,前記アームの先端のカムフォロワーを前記カムに係合してい
るため,ステアリングハンドルが中立に近い状態であるか否かを問
わず,大きな操舵反力が得られなく,しかもキックバックも小さく,
実際に自動車を操縦している場合と異なった操舵感覚をプレーヤに
与えていた。
【0006】
【課題を解決するための手段および作用効果】
本発明は,このような難点を克服したビデオゲーム装置用ステア
リング装置の改良に係り,ステアリングホイールの回転操作により
ビデオゲーム装置の表示画面上の車両映像が左右に操舵され,また
は車両外映像が左右に変化するビデオゲーム装置用ステアリング装
置において,前記ステアリングホイールと一体のステアリングシャ
フトと,該ステアリングシャフトに一体に結合されたクランクアー
ムと,該クランクアームの周方向2個所にそれぞれ先端が枢着され
基端がそれぞれ固定部分に枢着された2本の往復動アクチエータと,
該各往復動アクチエータの両端ポートにそれぞれ付設された切換弁
と,該切換弁を介して前記各往復動アクチエータの両端ポートに接
続された流体源とよりなることを特徴とするものである。
【0007】
本発明は前記したように構成されているので,前記往復動アクチ
エータの基端とステアリングシャフトとを結ぶ基準線上に,前記2
本の往復動アクチエータの一方のセンターリング往復動アクチエー
タが指向したステアリングホイール中立状態において,該センター
リング往復動アクチエータを短縮させるように,前記流体源から前
記切換弁を介して該センターリング往復動アクチエータに圧力流体
を供給することにより,左右いずれかの方向へ操舵されたステアリ
ングホイールに対し中立位置に復帰させる方向へ操舵反力を与える
ことができる。
【0011】
また本発明においては,前記クランクアームの方向に対応して前
記2本の往復動アクチエータの両ポートに圧力流体を選択的に供給
するとともにこの供給状態を間欠的に切換えることにより,前記ス
テアリングホイールに振動状態またはキックバック状態を与えるこ
とができる。
【0024】
さらに図示されないアクセルペダルの踏込みにより,ビデオゲー
ム装置の表示画面上の自動車映像または自動外映像で自動車の車速
が或る限度を越えた場合,または映像上の路面が凸凹となった場合
には,ステアリングホイール1を振動させる状態を発生させること
もできる。
【0025】
すなわちステアリングホイール1の操舵角θが-45°~45°の
範囲内では,図6に図示するように,ノーマルオープン型3ポート
電磁弁 22,ノーマルクローズ型3ポート電磁弁 23 をいずれも切換
動作させず,センタリングエアシリンダー15 には,センタリングエ
アシリンダー15 を短縮させる力pのみを発生させて,操舵反力を残
留させながら,ノーマルクローズ型3ポート電磁弁 24,25 には,
これを短時間内に交互に動作させてアクションエアシリンダー16
に短縮力および伸長力を交互に発生させれば,ステアリングホイー
ル1には左右の振動力が付与される。
【0031】
このように図1ないし図 11 に図示の実施例では,操舵角θがど
のような範囲にあっても,2本のセンタリングエアシリンダー15 お
よびアクションエアシリンダー16 の協同動作により,操舵角θの絶
対値の大きさに略比例した大きさの操作反力を発生させることがで
き,また振動や,キックバックも発生させることができるため,プ
レーヤは実際に自動車を運転したと同様な運転感覚を持つことがで
きる。
⒝ 前記(a)の記載事項によれば,乙B20には,ステアリングホイー
ルの回転操作によりビデオゲーム装置の表示画面上の車両映像が左
右に操舵され,または車両外映像が左右に変化するビデオゲーム装
置において,エアシリンダーとアクチエータとを用いた機構により,
ビデオゲーム装置の表示画面上の自動車映像又は自動外映像で自動
車の車速がある限度を越えた場合,又は映像上の路面が凸凹となっ
た場合には,ステアリングホイールを振動させる状態を発生させ,
キックバックも発生させることができるため,プレーヤは実際に自
動車を運転したと同様な運転感覚を持つことができる 【0001】
( ,
【0024】,【0031】)ことが開示されている。
このように,乙B20に開示されているのは,ビデオゲーム装置
の表示画面上の路面が凹凸になった場合等に,ステアリングホイー
ルに振動を発生させるという技術であって,その振動を間欠的にす
る情報を送る技術ではない。凹凸の路面が断続的であることにより,
結果的に振動が間欠的に起こることがあるとしても,かかる技術は,
キャラクタの置かれている状況に応じて,振動の間欠周期を異なら
せた体感振動を生じさせる技術とは異なるものである。
また,路面の状況は表示画面で認識することができるから(【0
024】),乙B20における振動は,画像情報からは認識できな
い情報ではない。
したがって,乙B20には,本件発明B1の「上記画像情報から
は認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じ
て間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報
信号として送出する振動情報制御手段」に相当する構成の開示があ
るとは認められない。
⒞ これに対し被控訴人は, 自動車の車速がある限度を越えた場合」

又は「路面が凸凹となった場合」が発生する事象は,ゲーム中にお
いて間欠的に起こり,その発生間隔(すなわち周期)は異なること,
すなわち,ステアリングホイールの振動の間欠周期が異なることは
自明である旨主張するが,これが,キャラクタの置かれた状況に応
じて,振動の間欠周期を異ならせているものではないことは,前記
⒝で指摘したとおりである。
また,被控訴人は,乙B20の【0011】の記載を根拠に,乙
B20が振動の発生の有無を間欠的に切り換えることができる技術
を開示しており,間欠周期の異なる振動を発生させていることは明
らかである旨主張するが,同段落には,2本の往復動アクチエータ
の両ポートに圧力流体を選択的に供給するとともにこの供給状態を
間欠的に切り換えることにより,ステアリングホイールに振動状態
を与えることが記載されているのであり,振動の有無を間欠的に切
り換えるものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。
d 相違点の容易想到性について
被控訴人は,乙B6及び18ないし20に「キャラクタの置かれて
いる状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせる」技術
が開示されていることから,同技術は周知であって(周知技術1),
公知発明b1に周知技術1を組み合わせることにより,本件相違点に
係る本件発明1の構成を容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら,前記aないしcのとおり,乙B6,19及び20に
「キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠
周期を異ならせる」技術が開示されていると認めることはできないか
ら,同技術が本件出願B当時に周知であったと認めることはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであり,
失当である。
(ウ) 「キャラクタの置かれている状況に応じて振動の種類を異ならせる」
周知技術との組合せ
a 乙B7,24,39及び40について
(a) 乙B7(特開昭63-174681号公報)には,遊戯者の操作
に対して魚からの「当たり」や「引き」に相当する反応が遊戯者に
体感されるようにして,視覚的にも体感的にも実際の釣りの感覚を
楽しむことができる遊戯機に関し,制御部は,記憶手段に記憶され
ている釣り条件と各検出信号とから,釣り上げ成功や釣り上げ途中
等の釣り状況を判断し,その釣り状況に対応して揺動負荷手段や回
転負荷手段を駆動し,遊戯者に,模倣竿やリール回転ハンドルを通
じて釣り状況に応じた反応を伝え,釣り状況に対応した画像信号を
作成して表示器に送出することにより,遊戯者は表示器の画面を通
じて視覚的に釣り状況を把握することができる釣り遊技機が記載
されている(2頁右上欄15行~左下欄10行等)。
⒝ 乙B24(特開平4-8381号公報)には,高速ドライブや宇
宙戦争に擬して変化する画面に対応しつつ所定の操作を行い,操縦
テクニックや射撃感覚を楽しむ体感ゲーム機に関し,遊戯者の正面
手前の見やすい角度に追尾スコープ8を位置させ,一定速度で回転
する背景映像Tの前面で,目標映像4を,揺動手段6によって上下
左右に不規則揺動させ,遊戯者は体感レバー10を両手で把持し,
追尾スコープ8の照準マークM1と目標映像4のターゲットマーク
M2が一致するよう,追尾体7を適宜揺動させ,マークM1とマーク
M2が一致しそうになったら,トリガ部材9の発射ボタン9aを押
圧すると,部材9b,9c,9d,9e,を介して,部材9fがス
イッチ5の押圧部材5aに向けて押圧され,この時,部材9fと部
材5aの中心線が不一致であると,ミサイル発射音が生じるととも
に,偏心量S1の小振幅振動を体感レバー10に伝達し,一方,部
材9fと部材5aの中心線が首尾よく一致すると,命中モードにス
イッチオンするとともに,背景映像T及び目標映像4が急峻に明る
くなると同時に爆発音を生じ,体感レバー10に大振幅を伝達する
体感ゲーム機が記載されている(1頁左欄17行~2頁右欄10行
等)。
⒞ 乙B39(特開平5-303324号公報)には,搭乗して模擬
運転を楽しむことができる運転玩具に関し,スイッチキー9をオン
すると,運転玩具1が起動され,風景表示装置6に風景が静止した
状態で映し出され,この状態からプレイヤーがアクセルペダル8を
踏み込むと,前記風景が連続的に移り変わり,風景内を走っている
かのイメージがプレイヤーの頭の中に惹起され,ハンドル5を左右
に回転させると,ベース2に対して車体4がハンドル5の回転方向
に旋回するとともに,風景表示装置6に表示された風景がハンドル
5の回転方向とは反対に動き,風景内を曲線走行しているかのイメ
ージがプレイヤーの頭の中に惹起され,アクセルペダル8の踏込み
量によって振動の大きさを変え,アイドリング状態のときは振動が
大きく,アクセルペダル8を踏み込んで走行したときには振動が小
さくなる運転玩具が記載されている(【0014】~【0016】,
【0025】,【0028】)。
⒟ 乙B40(実開平5-84385号公報)には,遊戯者がシート
2に座ってゲーム画面3を見ながらハンドル4,シフトレバー5,
およびアクセル,ブレーキ等のペダル6を操作することによってゲ
ーム展開を行うテレビゲーム機において,シート下方に振動を発生
させるモータ12を有する振動ユニット10を設け,モータ12の
回転速度を可変可能に制御すれば,種々の周期で振動を行なうこと
ができ,モータの回転動作を往復直線動作に変換してシートに伝え
ることができる構成なので,遊戯者の操作,又はゲーム画面に従っ
て,シート全体を振動させ,遊戯者により臨場感を与えることがで
きるテレビゲーム機が記載されている 【0001】 【0002】
( , ,
【0005】,【0009】,【0010】,【0012】,【0
016】,【0017】)。
(e) 以上のとおり,乙B7,24,39及び40には,いずれも,ゲ
ームの画面に連動させて振動を起こし,プレーヤに臨場感を与える
ゲーム装置が記載されている。
b 相違点の容易想到性について
前記(ア)a,前記(イ)aないしc及び前記aのとおり,乙B6,7,
18ないし20,24,39及び40には,「ゲームの状況に応じ,ゲ
ームの画面に連動させて体感振動を与える技術」が開示されているこ
とから,同技術は本件出願B当時に周知のものであった(周知技術2)
と認められる。
そして,被控訴人は,振動の種類を異ならせる手段として間欠的に
生じる振動の間欠周期を異ならせることは,複数ある選択肢のうちの
一つを選択したという意味しかなく,状況に応じて振動の大きさ(強
弱)を異ならせる技術(周知技術2)が開示されていれば,振動の種類
を異ならせるために,間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるこ
とは,実質的な相違点ではなく,当業者であれば適宜選択できる設計
的事項に過ぎない旨主張する。
しかしながら,そもそも,周知技術2は,ゲーム画面と連動させて
振動を変化させる技術であって,この点において,画面からは認識で
きない情報を体感振動として伝える公知発明b1とは決定的に異なる
から,両者を組み合わせることはできないものというべきである。
加えて,本件発明B1の「キャラクタの置かれている状況に応じて
間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号
として送出する振動情報制御手段」について,本件明細書Bには,「ゲ
ームの変化の態様に応じた体感振動情報信号,たとえば遊戯者の置か
れている状況の危険度が大きくなるにつれて振動の振幅を大きくした
り,あるいは振動の発生周期を短くするための体感振動情報信号が送
出される。これにより,遊戯者は一層高度な現実感やスリル感を味わ
えることになる。」(【0031】),「このようにして危険な状況の
判定がなされた場合には,上記特定状況判定手段32からの信号に基
づいて上記振動情報制御手段33が音響信号aに対して所定の制御を
施し,耳に聞こえない低周波領域の音響信号を体感振動情報信号cと
して音響体感器1のスピーカ6に送出する。この場合,上記特定状況
判定手段32は,キャラクタ41が地雷Xに近づいているか,あるい
は遠ざかっているかを判定し,近づいている場合には,その離間距離
が短くなるにつれて上記低周波領域の音響信号の間欠周期を序々に小
さくして振動が頻繁に生じるようにし,逆に遠ざかっている場合には,
その離間距離が長くなるにつれて上記間欠周期を序々に大きくして振
動の発生頻度を低下させるようにしてもよい。すなわち,地雷Xに対
する接近度合いと心臓の鼓動とが一致したような雰囲気を味わえるよ
うにするのである。」(【0047】)と記載されている。
そうすると,本件発明B1において,体感振動情報信号として,間
欠周期を異ならせることは,遊戯者に危険度の大きさを実感させるこ
とにより一層高度な現実感やスリル感を味わわせ,さらに危険への接
近度合いと心臓の鼓動とが一致したような雰囲気を味わわせるという,
単に振動の振幅を異ならせることとは異なる作用効果を奏するから,
公知発明b1において,ニンジャキャラクタの置かれた状況に応じて
振幅を異ならせることと,本件発明Bにおける間欠的に生じる振動の
間欠周期を異ならせることとが,実質的な相違点でないとか,当業者
が適宜選択できる設計的事項であるということはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
⑷ 争点2-3(控訴人の損害の有無及び損害額)について
ア 認定事実
(ア) 本件特許Bについての実際の実施許諾契約の実施料率は,本件訴訟
に現れていない。
そして,本件特許Bの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的
な実施料率について,前記1⑺のとおりの事実が認められる。
(イ) 前記⑴アのとおり,本件発明B1の遊戯装置は,ゲーム進行制御手段
からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作してい
るキャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する
特定状況判定手段と,上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを
判定した時に,画像情報からは認識できない情報を,体感振動情報信号
として送出する振動情報制御手段と,上記振動情報制御手段からの体感
振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段とを備えたこと
を特徴とするものであり,かかる構成を備えることにより,遊戯者が,
周囲にその特定の状況を悟られることなく,自己のみが知り得る秘密の
状態の下でゲームを進行できるとともに,振動を体感的に知得できるこ
とにより迫力や現実感が増大するという効果をもたらし,また,ゲーム
の状況が所定の規則性に従い変化している場合に,上記特定状況判定手
段が特定状況にあると判定し,ゲームの変化の態様に応じた体感振動情
報信号,例えば,振動の発生周期(間欠周期)を短くするための体感振
動情報信号を送出することにより,遊戯者は一層高度な現実感やスリル
を味わえるという効果をもたらすものである。
このように,本件発明B1は,遊戯装置の発明であり,その構成及び
効果は上記のとおりであるところ,ロ号装置は本件発明B1の技術的範
囲に属するものであり,ロ号製品は,ロ号装置を構成するPlaySt
ation2本体に装填してゲームを実行するためのゲームソフトであ
る。そして,前記⑴イのとおり,ロ号製品は,プレイヤーが,主人公で
あるゲームキャラクタを操り,キャラクタに襲いかかってくる霊を射影
機(カメラ)で撮影し,霊の魂を吸収,撃退しながらゲームを進め,霊
の攻撃を何回か受けて体力が0になるとゲームオーバーとなるものであ
るから,霊を撮影する際の場面に関する本件発明B1は,ロ号製品にと
って,相応の重要性を有するものといえる。
他方,ロ号製品において本件発明B1の作用効果が発揮される場は,
キャラクタの近くに霊が存在するが,画面上霊の存在を認識することが
できず,かつ,フィラメントが発光していないという状況下で,キャラ
クタと霊との距離に応じて間欠周期の異なる間欠的な振動が発生する場
面である。このような場面は,前記⑴イのとおり,ロ号製品において生
じ得るものの,キャラクタと霊との位置関係,フィラメントの点灯範囲
及び振動の発生範囲に照らせば,そのような場面が生じるのは,霊を撮
影しようとする場面の中の一部に限られるものと考えられることからす
ると,ロ号製品にとって,本件発明B1の重要性は,さほど高いもので
はなく,イ-9号製品等における本件発明Aの重要性に比べても,その
価値は低いものというべきである。
もっとも,ロ号製品は,プレイヤーが,主人公であるゲームキャラク
タを操り,キャラクタに襲いかかってくる霊を射影機(カメラ)で撮影
し,霊の魂を吸収,撃退しながらゲームを進めるものであることからす
ると,プレイヤーにとって,キャラクタと霊との距離を常に把握してお
くことは重要であり,画像情報からは霊の存在を認識できない場合にも,
間欠周期の異なる間欠的な振動により霊との距離を認識することができ
るという本件発明B1の効果は,ゲームを進める上で相応の重要性を有
するものであるといえる。そのため,ロ号製品における本件発明B1の
重要性を過度に低く評価するのは相当でない。
また,業務用ゲーム機や家庭用ゲーム機における,ゲームの進行状態
に応じてその遊戯者に振動を体感的に伝達するように構成された遊戯装
置に関し,本件発明B1の上記技術についての代替技術が存在すること
はうかがわれない。
(ウ) 前記(イ)のとおり,本件発明B1は,ロ号製品のゲームにとって重要
な意味を有する霊の撮影の場面に使用される技術であるところ,この点
は需要者の購入動機に影響を与えるものであるから,本件発明B1をロ
号製品に用いることにより被控訴人の売上げ及び利益に貢献するものと
認められる。
一方,証拠(甲B13,乙B32の11,23,乙B33~35)に
よれば,ロ号製品は,射影機(カメラ)によって霊を倒すという独自の
設定,和にこだわったビジュアル,音による演出,ゲームキャラクタが,
需要者に対する大きな訴求力となっており,これらと比較すると,本件
発明B1のロ号製品の売上への貢献度は低いものと認められる。
(エ) 控訴人と被控訴人は,いずれもゲーム機器,ソフトウェアの製造,販
売等を業とする株式会社であり,競業関係にある。
イ 実施に対し受けるべき金銭の額
前記アのとおり,本件訴訟において本件特許Bの実際の実施許諾契約の
実施料率は現れていないところ,本件特許Bの技術分野が属する分野の近
年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果では2.5%(最
大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)である。このことに
加え,本件発明B1に係る技術は,侵害品であるゲームソフトにとってそ
れなりに意味を有するものであり,かつ代替性もないものであるとはいえ,
ロ号製品の売上げ及び利益への貢献度は,同製品の設定,ビジュアル,演
出,キャラクターなど訴求力の高いものと比較すると低く,イー9号製品
等における本件発明Aの重要性と比べても,その価値は低いものであるこ
と,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情
を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本
件での実施に対し受けるべき料率は1.5%を下らないものと認めるのが
相当である。
したがって,本件特許権Bの侵害について,特許法102条3項により
算定される損害額は,1410万円(9億4000万円×1.5%)とな
る。
ウ 小括
以上のとおりであるから,控訴人について,特許法102条3項により算
定される損害額に,弁護士費用・弁理士費用を加えた金額が控訴人の損害額
と認められる。
そして,被控訴人の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用及び弁理士
費用は,上記により算定される損害額の1割に当たる141万円を下らない
と認めるのが相当であるから,控訴人の損害額は,1551万円(1410
万円+141万円)である。
3 まとめ
⑴ 前記1によれば,控訴人の本件特許権Aに係る請求は,本件発明A1につ
いての本件特許権Aの間接侵害の不法行為に基づき,1億2833万371
0円及びこれに対する不法行為の後である平成26年7月11日(訴状送達
の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る限度で理由がある。
そして,控訴人は,本件発明A2についての本件特許権Aの間接侵害の不
法行為及び実施行為の惹起行為による不法行為に基づく損害賠償請求も選択
的に行うが,仮にこれらの不法行為が認められるとしても,それにより認め
られる損害額は上記の額を超えないと認められるから,それらについては判
断の必要がない。
⑵ 前記2によれば,控訴人の本件特許権Bに係る請求は,本件発明B1につ
いての本件特許権Bの間接侵害の不法行為に基づき,1551万円及びこれ
に対する不法行為の後である平成26年7月11日(訴状送達の日の翌日)
から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由
がある。
そして,控訴人は,本件発明B8についての本件特許権Bの間接侵害の不
法行為及び実施行為の惹起行為による不法行為に基づく損害賠償請求も選択
的に行うが,仮にこれらの不法行為が認められるとしても,それにより認め
られる損害額は上記の額を超えないと認められるから,それらについては判
断の必要がない。
⑶ 以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,特許権侵害の不法行為による
損害賠償請求権に基づき,前記⑴と⑵の合計額1億4384万3710円及
びこれに対する平成26年7月11日から支払済みまで年5分の割合による
遅延損害金の支払を求めることができる。
したがって,控訴人の請求は,上記限度で理由がある。
4 結論
以上によれば,控訴人の9億8323万1115円及びこれに対する平成2
6年7月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の請求は,1
億4384万3710円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し,その余
は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部失当であって,
控訴人の本件控訴の一部は理由があるから,原判決を上記のとおり変更し,被
控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり
判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴 岡 稔 彦
裁判官
上 田 卓 哉
裁判官
山 門 優

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