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平成29(ワ)38481商標権に基づく差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和1年10月2日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社筑摩書房近藤美智子
法令 商標権
商標法3条1項3号1回
キーワード 無効21回
商標権14回
無効審判11回
実施10回
侵害8回
許諾3回
差止2回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。事 実 及 び 理 由15第1 請求
1 被告は,別紙商品目録記載1の心理テスト質問用紙に「MMPI-1 性格検査」の標章を付し,同記載2の回答用紙(マークカード)に「MMPI-1 回答用紙」の標章を付し,これらの標章が付された心理テスト質問用紙,回答用紙(マークカード)を譲渡してはならない。20
2 被告は,心理検査の回答結果の解釈の結果を記載した書面に「MMPI-1自動診断システム」の標章を付してはならない。
3 被告は,心理検査の心理テスト質問用紙,回答用紙(マークカード),回答結果の解釈サービスに関する広告に,「MMPI-1性格検査」の標章を付して電磁的方法により提供してはならない。25
4 被告は,別紙商品目録記載1の心理テスト質問用紙,同記載2の回答用紙(マークカード)及び同記載3の自動診断システム(パソコン用ソフトウェア)を譲渡し,譲渡のために所持してはならない。
5 被告は,別紙商品目録記載1の心理テスト質問用紙,同記載2の回答用紙(マークカード)及び同記載3の自動診断システム(パソコン用ソフトウェア)をいずれも廃棄せよ。5
6 訴訟費用は被告の負担とする。第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告は,原告が商標権を有する登録商標に類似する標章を指定役務に使用して上記商標権を侵害しているなどと主張して,商標法(以下「法」という。)38条1項に基づく別紙目録記載の各商品の譲渡等の差止めと,同条102項に基づく同各商品の廃棄を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者15原告及び被告は,いずれも出版等を業とする株式会社である。(2) 原告の商標権原告は,以下の登録商標(以下「本件商標」という。)に係る商標権(以下「本件商標権」という。)を有している。登録番号:第5665842号20出願日:平成25年7月18日登録日:平成26年4月25日登録商標:MMPI(標準文字)指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分:第44類 心理検査(3) MMPIについて25「MMPI」は,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネソタ多面的人格目録)の略称である。ミネソタ多面的人格目録は,1940年代に米国ミネソタ大学の心理学者ハサウェイと精神医学者マッキンレーにより開発された,質問紙法検査に基づいて性格傾向を把握する心理検査の名称である(以下,両名が開発した上記心理検査を「本件心理検査」という。)。本件心理検査は,566項目の質問項目(うち16項目は重複している。)から5成り,4個の妥当性尺度により受検態度の偏りを検出し,10個の臨床尺度によりパーソナリティ特徴を査定するもので,世界90か国以上で翻訳・標準化され,使用されている。ここにいう翻訳・標準化とは,米国の社会,文化,風土,国民性等に基づき作成された本件心理検査を,各国の社会,文化,風土,国民性等に合わせて翻訳等した上で,当該国内での一定数のサンプル検査等を10行うなどして当該国向けの判定の基準等を作成することをいう。(甲4,7~9,32,81~98,148,乙5,6,10)(4) 原告による本件心理検査の日本語版(以下「原告版」という。)の販売等原告は,昭和38年(1963年)に,本件心理検査の日本語版である原告版の質問票(質問用紙)を出版し,それ以降,独自の採点盤,回答用紙,質問15カードなどを開発,販売し,昭和48年(1973年)4月からは,コンピュータを利用した採点サービスも行ってきたが,その際,「MMPI」との標章を用いてきた。なお,原告版(略式検査用を除く。)の質問項目は,550項目である。(甲32~35,39~42)(5) 被告の行為20被告は,平成29年4月1日から,別紙目録記載1の心理テスト質問用紙(以下「被告質問用紙」という。),同記載2の回答用紙(マークカード)(以下「被告回答用紙」という。)及び同記載3の自動診断システム(パソコン用ソフトウェア)(以下「被告ソフト」といい,同目録記載の各商品を併せて「被告各商品」という。)並びに「MMPI-1」等の性格検査の解説書であるハ25ンドブック(以下「被告ハンドブック」という。)の出版・販売を開始した。また,被告は,自治体や企業等(以下「自治体等」という。)が採用試験等に用いた被告回答用紙を解析し,自治体等に検査結果を伝える診断解釈サービス(以下「被告サービス」という。)を行っており,被告ウェブサイト上には被告各商品や被告サービス等に関する広告を掲載している。なお,「MMPI-1」は,原告版とは異なる翻訳・標準化を行った,原告版とは別の本件心理検5査の日本語版の名称である。(甲4~6,37,76,77)(6) 被告が使用する標章ア 被告質問用紙の表紙上部には,明朝体様の大きめのフォントで「MMPI-1 性格検査」と記載され(以下「被告標章1」という。),その下に著者名が記載されているほか,右下部に発行所として被告の社名や住所等が記10載されている。(甲5の1)イ 被告回答用紙は,大半がマークをする回答部分であるが,左側に「ファイル番号」,「年令」,「性別」,「名前」等を記載する欄があり,回答部分の枠外上部右寄りに,他の記載に比較して若干大きめのゴシック体様で「MMPI-1 回答用紙」と記載され(以下「被告標章2」という。),その15直下に小さめのゴシック体様で「☆マークはHBを使用してください。☆」と記載されている。(甲5の2)ウ 被告ソフトのパッケージの表紙の中央部分やや上側には,「MMPI-1性格検査」と少し大きめの明朝体様の記載があり(以下「被告標章3」といいう。),その下に少し小さくゴシック体様で「自動診断システム」,その20下に更に小さく「ver.6.3」との記載があり,さらに若干離れた下部に著作者名の記載がある。(甲6)エ 被告サービスにおいて被告が顧客に提供する診断結果書(以下「被告診断結果書」という。)の1枚目の左上には,他の部分より少し大きめのゴシック体様で「MMPI-1自動診断システム」と記載されている(以下「被告25標章4」という。(甲37,77)オ 被告のウェブサイト上の被告各商品や被告サービス等の広告(以下「被告広告」という。)の中には,「病院での診察,教員・公務員採用試験,職場でのストレスチェックにはこちら」との記載の下に,他の性格検査(MINI性格検査,MINI-124性格検査)と並べてゴシック体様で「MMPI-1性格検査」との記載がある(以下「被告標章5」といい,上記各標章5と併せて「被告各標章」という。)。(甲37)(7) 被告による無効審判請求被告は,平成30年3月2日,特許庁に対し,商標法3条1項3号,同項1号又は2号,同項6号に該当することを無効理由として,原告を被請求人とする本件商標登録の無効審判請求をし,現在も係属中である。(乙4)10
3 争点(1) 本件商標と被告各標章の類否(争点1)(2) 被告の行為のみなし侵害行為該当性(争点2)(3) 本件商標権の効力が被告標章に及ぶか(争点3)ア 法26条1項3号(普通名称又は役務の質表示)該当性(争点3-1)15イ 法26条1項4号(慣用商標)該当性(争点3-2)ウ 法26条1項6号(非商標的使用)該当性(争点3-3)(4) 本件商標登録が無効審判により無効にされるべきものか(争点4)ア 法3条1項1号又は2号(普通名称又は慣用商標)該当性(争点4-1)イ 法3条1項3号(役務の質表示)該当性(争点4-2)20ウ 法3条1項6号(識別力を欠く商標)該当性(争点4-3)エ 法4条1項10号,16号(周知商標との混同又は品質誤認)該当性(争点4-4)第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件商標と被告各標章の類否)について25(原告の主張)被告各標章のうち,「-1」はいずれもハイフンと数字からなる簡単かつありふれたものであり,被告標章1(「MMPI-1 性格検査」)及び被告標章3及び5(「MMPI-1性格検査」)のうち「性格検査」は性格についての検査を表す一般名称であり,被告標章2(「MMPI-1 回答用紙」)のうち「回答用紙」は回答をするための用紙を表す一般名称であり,被告標章4のうち「自5動診断システム」は自動で診断するコンピュータソフトウェア等を用いて診断結果を作成することを表す一般名称であるから,これらはいずれも識別力を欠く。したがって,被告各標章の要部はいずれも「MMPI」であるところ,これは本件商標と類似する。(被告の主張)10「MMPI」の語は,我が国のほか世界各国において,心理検査の方法の1つである本件心理検査を示す語として通用している普通名称ないし慣用標章であって,これに特段の出所識別力はないから,被告各標章は,いずれも一連一体のものとして把握されるべきである。したがって,被告各標章は,いずれも本件商標と類似しない。15
2 争点2(被告の行為のみなし侵害行為該当性)について(原告の主張)(1) 自治体等に対する役務の提供について被告は,自治体等に対し,本件商標の指定役務である心理検査又はこれに類似する役務(以下,併せて「心理検査等役務」という場合がある。)を提供す20るに当たり,被告各標章を使用しているから,かかる被告の行為は,法37条1号に該当する。すなわち,被告は,自治体等が行う心理検査のために,被告質問用紙に被告標章1を,被告回答用紙に被告標章2をそれぞれ付し,これらを自治体等に提供して譲渡し,その後,自治体等から回答済みの被告回答用紙の送付を受けた25後,これにつき被告サービスを行って心理検査の解釈等の役務を提供し,診断結果を書面で送付する役務を提供し,また,被告ウェブサイトに被告サービス等の広告を掲載している。かかる一連の行為は,被告が,心理検査及び心理検査のための便益の提供を行うものであり,本件商標の指定役務である心理検査と同一又はこれに類似する役務について,本件商標に類似する被告各標章を,以下のア~ウのとおり使用するものであるから,法37条1号に該当する。5ア 心理検査に必要な被告質問用紙に被告標章1を,被告回答用紙に被告標章2を付する行為は,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」(法2条3項3号)に該当する。イ 回答結果を受けて,それを分析・解釈し,被告標章4を付した被告診断結果書を交付することにより診断結果(解釈)を提供する行為は,「役務の提10供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」(法2条3項4号)に該当する。ウ 被告のウェブサイトにおいて,被告サービスを含む広告に被告標章5を付する行為は,「役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(法2条3項8号)に該当する。15(2) 医療機関等に対する役務の提供について被告は,医療機関等に対し,医療機関等が心理検査等役務を提供するに当たりその提供を受ける者の利用に供する物に被告各標章を付したものを譲渡等しているから,かかる被告の行為は,法37条6号又は4号に該当する。被告は,医療機関等に対し,医療機関等が心理検査を実施するに当たり使用20する被告質問用紙,被告回答用紙及び被告ソフトに被告各標章を付して譲渡し,医療機関はこれらを使用して被検者に心理検査を行っている。かかる行為は,本件商標の指定役務である心理検査と同一又はこれに類似する役務について,本件商標と類似する被告各標章の使用をさせるために被告各標章を表示する物を譲渡し,引き渡し,又は譲渡若しくは引き渡しのために所持する行為(法2537条6号),あるいは,本件商標の指定役務である心理検査と同一又はこれに類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に本件商標に類似する被告各標章を付したものを,これを用いて当該役務をさせるために譲渡し,引き渡し,又は譲渡若しくは引き渡しのために所持する行為(法37条4号)に該当する。(被告の主張)5心理検査とは「人間の心理」を検査するものであるから,その役務の特性上,検査の対象となる「被験者」との関係性を無視することはできない。原告が主張する自治体等のケース及び医療機関等のケースにおける心理検査の主体は,あくまでも被験者と直接の関わりを持つ自治体等及び医療機関等であって,被告は,心理検査に要する書籍,印刷物,ソフトウェアを販売することで,これらが心理10検査を実施するのを補助しているにすぎないし,被告サービスも,検査主体が回収した被告回答用紙をカードリーダーで読み取り,解釈ソフトにより解釈結果が印刷された印刷物を交付しているにすぎないから,被告が心理検査と同一又はこれに類似する役務を行っているということはできない。
3 争点3-1(法26条1項3号(普通名称又は役務の質表示)該当性)につい15て(被告の主張)「MMPI」は世界的に普及している「Minnesota Multiphasic PersonalityInventory」という普通名称の略称であり,本件商標の指定役務又はこれに類似する役務の需要者である医療関係者や研究者等の間で,本件心理検査という心理20検査の一手法を表す「普通名称」として,あるいは,心理検査に係る役務の「質」,「その他の特徴」を指して普通に用いられる語である。そして,被告は,被告各標章における「MMPI」を,本件心理検査を意味する語として,一般的な字体により,普通に用いられる方法で表示しているから,被告各標章に本件商標権の効力は及ばない。25(原告の主張)原告が本件商標の下で提供する心理検査等役務は,それぞれ複数のパターンを有する質問票,回答用紙,採点盤,採点プログラム等と,コンピュータ採点サービスとから成り,質問票と回答用紙を被験者に配布し,被験者が回答用紙に回答し,回答済みの回答用紙を採点分析するというものである。原告が行う心理検査等役務は,ミネソタ大学で開発された本件心理検査に由来・関連するが,質問項5目の言語,項目数及び配列,採点基準,実施方式において本件心理検査と異なり,全体として原告独自のものである。そして,原告は,ミネソタ大学の許諾の下,ミネソタ大学が作出した造語である「MMPI」の商標を用いて昭和38年(1963年)から心理検査等役務を提供してきており,これを,精神医学等の様々な専門分野の学会誌,学術的専門10誌に広告を掲載し(甲100~145),カタログを送付する(甲54)などの方法により,延べ7万人を超える専門家に対して毎年継続的に周知してきた。原告は,被告が被告各商品の販売等を開始するまで,上記役務を独占的に提供してきた。このため,本件商標登録がされた平成26年4月25日において,「MMPI」15は,原告が提供する心理検査等役務を表すものとして,その需要者・取引者の間で周知・著名となっており,識別力を獲得していたのであるから,「MMPI」は,原告の提供する心理検査等役務との関係では,普通名称には当たらないし,単に役務の質(一般的な性状・内容)を表示するものでもない。そして,被告各商品に付された被告各標章は,自他識別力を有しており,これ20らを使用して役務が提供されたり,役務提供のために被告各商品が譲渡等されたりする場合に,被告各標章を記述的あるいは説明的に使用するものとはいうことはできない。また,出版社と心理検査が1対1で結びついているという取引の実情に照らしても,被告各標章は,心理検査等役務の出所表示として,需要者・取引者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識する態様で使用され25ているということができる。したがって,被告各標章には本件商標権の効力が及ぶ。
4 争点3-2(法26条1項4号(慣用商標)該当性)について(被告の主張)「MMPI」は,需要者の間で,本件心理検査を意味する略称として慣用的に用いられている。被告は,被告各標章における「MMPI」を,本件心理検査を5意味する語として一般的な字体により普通に用いられる方法で表示しているから,被告各標章に本件商標権の効力は及ばない。(原告の主張)本件商標は,原告が50年以上にわたり,ほぼ独占的に使用してきたものであり,原告の提供する心理検査等役務を表すものとして,その需要者・取引者の間10で周知・著名となっていたから,慣用商標に当たらない。
5 争点3-3(法26条1項6号(非商標的使用)該当性)について(被告の主張)被告は,被告各商品等において,「MMPI」の語を,本件心理検査を指すものとして使用しているにすぎないし,被告回答用紙を除き,別途「筑摩書房」と15いう出所表示の記載もしている。被告回答用紙についても,「MMPI-1 回答用紙」との記載の内容及び位置からして,この記載は「MMPI-1」という心理検査の回答用紙であるという意味を有するにすぎない。したがって,いずれも「MMPI」を自他商品・役務の識別表示や出所表示として使用するものではないから,被告各標章に本件商標権の効力は及ばない。20(原告の主張)前記3(原告の主張)のとおり,被告は,被告各商標を自他の役務を区別するために使用しているので,被告各標章には本件商標権の効力が及ぶ。
6 争点4-1(法3条1項1号又は2号(普通名称又は慣用商標)該当性)について25(被告の主張)「MMPI」は,心理検査の一手法を指す普通名称又は慣用商標にすぎないから,本件商標は,法3条1項1号又は2号に該当するので,本件商標登録は,無効審判により無効にされるべきものである。(原告の主張)本件商標は,指定役務との関係では,普通名称や慣用商標に当たらないから,5商標登録無効審判により無効にされるべきものではない。
7 争点4-2(法3条1項3号(役務の質表示)該当性)について(被告の主張)「MMPI」は,世界的に普及している本件心理検査の名称であり,本件商標の指定役務である心理検査の質その他の特徴を表す語であって,本件商標は,こ10の語を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから,本件商標は,法3条1項3号に該当する。原告は,原告の心理検査の質問項目数(550)と本件心理検査の項目数(566)が異なる旨を指摘するが,項目数の差異(16項目)は,同内容の質問が重複していることによるので,原告の心理検査と本件心理検査の項目数は同一で15ある。このように,原告版の質問数が550項目であることは,原告の提供する心理検査の独自性を裏付けるものではない。自治体等や医療機関等の心理検査の実施主体も,本件心理検査をミネソタ大学で開発された「ミネソタ多面的人格目録」と認識し,その信用性の下に実施するのであって,原告が提供する心理検査であると認識して実施するわけではない。20さらに,平成4年(1992年)以降は,学芸図書株式会社から被告各商品の著者による翻訳版が発行され,学会誌においても頻繁に宣伝広告がされてきており(乙15,16),「MMPI」すなわち原告版を指すという認識は形成されていないから,原告が法3条2項の特別顕著性を取得したということもできない。したがって,本件商標登録は,無効審判により無効にされるべきものである。25(原告の主張)本件商標は,指定役務との関係では,単に役務の質(一般的な性状・内容)を表示するものではないし,前記3(原告の主張)記載の事実関係からして,法3条2項の特別顕著性を取得しているから,商標登録無効審判により無効にされるべきものではない。
8 争点4-3(法3条1項6号(識別力を欠く商標)該当性)について5(被告の主張)「MMPI」は,心理検査の一手法を意味する役務の質の表示であるとともに,普通名称又は慣用名称であるから,これを指定役務である心理検査に用いても,識別力を有しない。したがって,本件商標登録は,無効審判により無効にされるべきものである。10(原告の主張)本件商標は,指定役務との関係では,単に役務の質(一般的な性状・内容)を表示するものではないから,商標登録無効審判により無効にされるべきものではない。
9 争点4-4(法4条1項10号,16号(周知商標との混同又は品質誤認)該15当性)について(被告の主張)仮に,本件商標が本件心理検査ではなく原告が独自に開発した心理検査を表示するものであるとするならば,「MMPI」の語が本件心理検査を指す語として広く知られていることからして,本件商標は,「他人の業務に係る商品若しくは20役務を表示するものとして需要者に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」(法4条1項10号)又は「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」(同項16号)に該当する。ミネソタ大学から本件商標登録についての許諾は受けているとの原告主張に25ついては否認するが,いずれにしても,この点は結論に影響を及ぼすものではない。したがって,本件商標登録は,無効審判により無効にされるべきものである。(原告の主張)原告は,周知商標の保有者であるミネソタ大学から許諾を受けて日本国内において本件商標を使用しているのであるから,周知商標との混同も品質誤認もない。5したがって,商標登録無効審判により無効にされるべきものではない。第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件商標と被告各標章の類否)について証拠(甲7~9,81~84,86~89,91~97,乙6)によれば,「MMPI」がミネソタ大学のハサウェイとマッキンレーにより開発された10「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネソタ多面的人格目録),すなわち本件心理検査の略称であり,精神医学,心理学等の多数の辞典類や専門書等に掲載されていることが認められる。このため,「MMPI」は,本件商標の指定役務である心理検査の需要者である精神医学や心理学等の関係者の間では,心理検査の一手法である本件心理検査又はその略称を示すものとして周知で15あると認められる。これを踏まえて被告各標章につきみると,被告標章1は「MMPI-1 性格検査」,被告標章3及び5は「MMPI-1性格検査」というものであるが,被告標章1,3及び5のうちの「性格検査」は,性格を明らかにするための検査を意味する一般的な用語であり,「-1」の部分は,それに先立つものに従属して20バージョンを示す(甲4,87,乙5)などするものであるから,これらの部分からは出所識別標識としての称呼,観念が生じない。一方,「MMPI」は,前記のとおり,特定の心理検査である本件心理検査を示すものとして周知のものであり,これらの標章において,「MMPI」の部分が取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められず,この部分が独立して見る者の25注意をひくといえるから,被告標章1,3及び5の要部は「MMPI」であると認められる。また,被告標章2は「MMPI-1 回答用紙」,被告標章4は「MMPI-1自動診断システム」であるが,「回答用紙」は回答を記載する用紙を意味する一般的な用語であり,「自動診断システム」は自らの力で(自動的に)診察をして病状を判断する仕組みを意味する一般的な用語であり,「-1」の部分は上記5のとおりのものであって,これらの部分からは出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められるから,上記と同様の理由により,被告標章2及び4の要部も「MMPI」であると認められる。本件商標は,「MMPI」を標準文字で横書きにして成るものであるところ,これを被告各標章の要部と対比すると,外観は同一又は類似し,称呼はいずれも10「えむえむぴーあい」などであるから同一であり,これらから生ずる観念はいずれも本件心理検査あるいはその略称というものであって同一である。したがって,本件商標と被告各標章は,いずれも類似する。
2 争点2(被告の行為のみなし侵害行為該当性)について(1) 前記前提事実,後掲の証拠(甲4,37,76,148)及び弁論の全趣旨15を総合すると,以下の事実を認めることができる。ア 被告は,被告各標章をそれぞれ付して,「MMPI-1」なる性格検査を実施するための被告各商品(被告質問用紙,被告回答用紙及び被告ソフト)や同検査の解説書である被告ハンドブックを販売するとともに被告サービスを提供しており,また,被告ウェブサイト上にその旨の広告を掲載してい20る。イ 被告各商品の購入者は,①被告質問用紙及び被告回答用紙(以下,併せて「被告質問用紙等」という。)を用いて被検者に回答させ,被告ソフトをインストールしたパソコンにカードリーダーを接続して回答済みの被告回答用紙を読み込ませ,被告ソフトによる自動診断結果を得ることができる。ま25た,②回答済みの被告回答用紙を被告に送付して検査結果の返送を受ける被告サービスを利用することもできる。これらの方法は,自治体等が採用試験を行うような受検者が多い場合に適している。ウ 被告質問用紙等を用いず,パソコンで被告ソフトを起動し,被験者に画面を見ながら回答させて,自動診断結果を得ることもできる。この方法は,医療機関等での診断などの受検者の少ない場合に適している。5(2)ア 前記(1)ウ(被験者がパソコン画面を見ながら回答)の場合について心理検査は,被験者が質問に回答し,その回答を基準に照らして判定(診断及び解釈)し,判定結果を一定の目的のために利用するものであるから,心理検査を役務としてみた場合,その中核は,同検査の実施主体(心理検査の役務を提供する主体)による回答の判定(診断及び解釈)部分にあると解10される。前記(1)ウの場合,心理検査の役務を提供するのは被告ソフトの購入者であり,被告ソフトは,同役務の提供を受ける者(被験者)の利用に供する物に当たるところ,被告ソフトのパッケージにはそれぞれ本件商標と類似する被告標章3が付されており,被告は購入者をして同役務の提供をさせるため15に被告ソフトを販売しているのであるから,かかる被告の行為は,少なくとも法37条4号のみなし侵害行為に当たる。イ 前記(1)イ①(購入者が被告質問用紙等及び被告ソフトを使用)の場合この場合,心理検査の役務を提供する主体は被告各商品の購入者であり,被告質問用紙等は,同役務の提供を受ける者(被験者)の利用に供する物に20当たるところ,被告質問用紙等にはそれぞれ本件商標と類似する被告標章1又は2が付されており,被告は上記購入者をして同役務の提供をさせるために被告質問用紙等を販売しているのであるから,かかる被告の行為は,少なくとも法37条4号のみなし侵害行為に当たる。ウ 前記(1)イ②(被告サービスを利用)の場合につき検討する。25この場合も,心理検査の役務を提供する主体は被験者に受検をさせる被告回答用紙等の購入者(被告サービスの委託者)と解されるが,上記委託者は,検査結果の判定部分を被告に委託して心理検査を行っており,被告は,被告サービスを受託することにより心理検査の役務の一部であるが中核たる判定業務を実行しているといえるから,被告が被告サービスを提供する行為は,委託者による心理検査の役務の一部をなす。一方,被告が被告サービスとい5う役務を提供する直接の相手方は上記委託者であるが,同委託者は心理検査の役務の需要者に含まれるし,被告の上記役務があってこそ同委託者の役務が遂行される関係のものである。そうすると,被告による被告サービスの提供は,心理検査の役務又はこれに類似する役務に当たるというべきである。したがって,被告が被告サービスに基づいて委託者に交付する被告診断結10果書に本件商標に類似する被告標章4を付する行為は,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」(法2条3項4号)に該当するから,かかる行為は,指定役務又はこれに類似する役務についての登録商標に類似する商標の使用に当たり,法37条1号のみなし侵害行為に該当する。15エ 広告について被告は,心理検査の役務に類似する役務に当たる被告サービスの提供に係る被告ウェブサイト上の広告に被告標章5を掲載しているのであるから,役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(法2条3項8号)をしているということができる。かかる行為は,20指定役務たる心理検査の役務に類似する役務についての本件商標に類似する商標の使用に当たるから,法37条1号のみなし侵害行為に該当する。
3 争点3-1(法26条1項3号(普通名称又は役務の質表示)該当性)について(1) 法26条1項3号にいう役務の「質」とは,その語義からして,役務の内容,25中身,価値,性質などを意味するものと解されるところ,「MMPI」は,前記1のとおり,質問紙法検査に基づいて性格傾向を把握する心理検査の名称である「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネソタ多面的人格目録)の略称であり,本件商標の指定役務である心理検査の需要者,取引者において,心理検査の一手法である本件心理検査又はその略称を示すものとして周知であると認められるから,心理検査の内容,すなわち「質」を表すもの5ということができる。また,被告各標章は,いずれも,明朝体様やゴシック体様といったありふれた書体で構成されているものである。そうすると,「MMPI」を含む被告各標章は,いずれも本件商標の指定役務である心理検査又はこれに類似する役務ないし商品の「質」を,普通に用い10られる方法で表示するものということができるから,被告各標章は,法26条1項3号に該当し,本件商標権の効力は及ばない。(2) これに対し,原告は,「MMPI」は,役務の普通名称又は質を表示するものではなく,原告が長年にわたり独占的に提供してきた心理検査等役務を表すものとして識別力を獲得していたものであって,被告は,自他を識別する態様15で本件商標に類似する被告各標章を使用していると主張する。ア この点について,確かに,証拠によれば,原告が,昭和38年以降,原告版の質問票や回答用紙に「MMPI」の標章を用いていること(甲43~53,74,75),「MMPI」の標章を用いた原告版のカタログを毎年発行していること(甲39~42),「MMPI」の標章を用いた原告版のマ20ニュアルを販売していること(甲32),原告が精神医学,心理学等の専門誌,学会誌等に「MMPI」の標章を用いた広告を多数掲載してきたこと(甲55~60,100~145),精神医学,心理学等の専門書等には,原告版を本件心理検査の日本語版である趣旨の紹介をするものが多数あること(甲7~9,81~95)などの事実が認められる。25イ(ア) しかし,原告が昭和38年(1963年)から平成4年(1992年)まで使用していた質問票(甲43)は,表紙上部に「日本版MMPI質問票」と記載され,その下に原著がハサウェイとマッキンレーであることなどが記載されているから,「MMPI」の表示は,当該質問票を用いて行われる心理検査の種類・方法としての本件心理検査を示しており,需要者,取引者にもそのように理解されるものというべきである。5また,平成27年(2015年)以降の新版質問票(甲44~47,74)は,表紙左上部に「Minnesota」,「Multiphasic」,「Personality」,「Inventory」と4段組みに記載されており,その直下にはハサウェイらの名前が記載され,その右側には「MMPI新日本版研究会」と記載されているものであるが,同記載も,同様に行われる心理検査の種類・方法と10しての本件心理検査を示しており,需要者,取引者にもそのように理解されるものというべきである。新版回答用紙(甲48~53,75)には,「MMPI Ⅲ型 回答用紙」などとあるだけで,原著作者の記載等はないが,回答用紙が通常は質問票とセットで利用されるものであることからすると,需要者,取引者は15「MMPI」が行われる心理検査の種類・方法としての本件心理検査を意味するものと理解するものと考えられる。(イ) 次に,原告版のカタログ(甲39~42)につきみると,「MMPI」が単独で表記されている部分もあるものの,昭和43年(1968年),昭和48年(1973年),平成5年(1993年)の各カタログ(甲3209~41)には,「MMPI」がハサウェイ教授らによって発表された心理検査である旨の解説が付されており,平成30年(2018年)のカタログ(甲42)にも「MMPIの実施法・まとめ」,「MMPI新日本版」などと記載されている。これらの記載は,「MMPI」を心理検査の種類・方法としての本件心理検査を表示するものであり,需要者,取引者もその25ように理解するものというべきである。(ウ) さらに,原告のマニュアル(平成5年(1993年)版。甲32)の表紙には前記の新版質問票と同様の記載があり,扉の部分には「新日本版MMPIマニュアル」と記載され,本文部分においても,「第1章 MMPIの概要」に本件心理検査についての説明がされているのであるから,同マニュアルにおいても,「MMPI」の表示は本件心理検査を意味するも5のとして用いられているということができる。(エ) その他,専門誌,学会誌等への広告(甲55~60,100~145)及び精神医学,心理学等の専門書等(甲7~9,81~95)においても,「MMPI」は心理検査の種類・方法であることを前提とした記載がされているにすぎず,これが原告の役務であることを示す記載は見当たらない。10(オ) 以上のとおり,原告作成に係る質問票,回答用紙,カタログ及びマニュアル並びに広告や専門書における「MMPI」の使用は,いずれもこれが心理検査の種類・方法としての本件心理検査を表示するものにすぎず,他に「MMPI」が,原告が提供する心理検査等役務を表すものとして識別力を獲得したと認めるに足りる証拠はない。15そうすると,原告が長年にわたり「MMPI」の商標を用いて独占的に心理検査等役務を提供しており,その質問票,回答用紙,カタログ及びマニュアル並びに広告や専門書において「MMPI」との表示をしてきたとしても,それをもって,原告が提供する役務を表すものとして識別力を獲得したということはできない。20ウ 原告は,原告が行う心理検査等役務は,本件心理検査に由来・関連するが,質問項目の言語,項目数及び配列,採点基準,実施方式において本件心理検査と異なる原告独自のものであり,原告の提供する役務として識別力を獲得したと主張するが,上記のとおり,原告は,質問票やカタログ等において,「MMPI」の日本版であることを表示し,また,「MMPI」についてミ25ネソタ大学のハサウェイ教授等により発表された人格目録テストであるなどの説明をしている上,質問項目数の差異も重複した質問を含むかどうかの違いにすぎない。そうすると,原告が行う心理検査等役務は,我が国の社会,文化等に合わせて「MMPI」を翻訳・標準化したものであって,原告が独自に開発した心理検査であるということはできず,また需要者,取引者が原告の提供する心理検査等役務を原告独自のものと認識していたことを示す5証拠もない。エ 他方,被告が使用する各標章についてみると,①被告標章1は,被告質問用紙の表紙上部に「MMPI-1 性格検査」と記載されたもの,②被告標章2は,被告回答用紙に「MMPI-1 回答用紙」と記載されたもの,③被告標章3は,被告ソフトのパッケージの表紙に「MMPI-1性格検査」10と記載されたもの,④被告標章4は,診断結果書の1枚目に「MMPI-1自動診断システム」と記載されたもの,⑤被告標章5は,被告のウェブサイト上の被告各商品や被告サービス等の広告において,「MMPI-1性格検査」と記載されたものである。原告は,被告各標章が自他の役務を識別する態様で使用されていると主張15するが,上記の被告各標章の表示内容及び態様によれば,被告各標章は,本件心理検査による「性格検査」,本件心理検査の質問項目に対する「回答用紙」,本件心理検査を利用した「自動診断システム」を意味し,いずれも被告各商品や被告サービスに係る心理検査の種類・方法が本件心理検査であることを題号等において表示しているにすぎないというべきである。このよう20に,被告各標章における「MMPI」は,本件心理検査を意味するものとして使用されているのであるから,これを被告が識別力を有する態様で使用したものであるということはできない。(3) 以上のとおり,被告各標章は,いずれも本件商標の指定役務である心理検査又はこれに類似する役務ないし商品の「質」を,普通に用いられる方法で表示25するものということができるから,法26条1項3号に該当し,本件商標権の効力が及ばない。
4 よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第40部5裁判長裁判官佐 藤 達 文10裁判官三 井 大 有15裁判官今 野 智 紀20別紙商 品 目 録
1 心理テスト質問用紙商品名 「MMPI-1 性格検査」5
2 回答用紙(マークカード)商品名 「MMPI-1 回答用紙」
3 自動診断システム(パソコン用ソフトウェア)10商品名 「自動診断システム」(MMPI性格検査)
事件の概要 1 本件は,原告が,被告は,原告が商標権を有する登録商標に類似する標章を指 定役務に使用して上記商標権を侵害しているなどと主張して,商標法(以下「法」 という。)38条1項に基づく別紙目録記載の各商品の譲渡等の差止めと,同条10 2項に基づく同各商品の廃棄を求める事案である。

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判決文

令和元年10月2日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成29年(ワ)第38481号 商標権に基づく差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和元年7月19日
判 決
5 原 告 株 式 会 社 三 京 房
同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己
上 野 達 夫
同補佐人弁理士 木 村 達 矢
被 告 株 式 会 社 筑 摩 書 房
10 同訴訟代理人弁護士 亀 井 弘 泰
近 藤 美 智 子
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
15 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙商品目録記載1の心理テスト質問用紙に「MMPI-1 性格検
査」の標章を付し,同記載2の回答用紙(マークカード)に「MMPI-1 回
答用紙」の標章を付し,これらの標章が付された心理テスト質問用紙,回答用紙
20 (マークカード)を譲渡してはならない。
2 被告は,心理検査の回答結果の解釈の結果を記載した書面に「MMPI-1
自動診断システム」の標章を付してはならない。
3 被告は,心理検査の心理テスト質問用紙,回答用紙(マークカード),回答結
果の解釈サービスに関する広告に,「MMPI-1性格検査」の標章を付して電
25 磁的方法により提供してはならない。
4 被告は,別紙商品目録記載1の心理テスト質問用紙,同記載2の回答用紙(マ
ークカード)及び同記載3の自動診断システム(パソコン用ソフトウェア)を譲
渡し,譲渡のために所持してはならない。
5 被告は,別紙商品目録記載1の心理テスト質問用紙,同記載2の回答用紙(マ
ークカード)及び同記載3の自動診断システム(パソコン用ソフトウェア)をい
5 ずれも廃棄せよ。
6 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告は,原告が商標権を有する登録商標に類似する標章を指
定役務に使用して上記商標権を侵害しているなどと主張して,商標法(以下「法」
10 という。)38条1項に基づく別紙目録記載の各商品の譲渡等の差止めと,同条
2項に基づく同各商品の廃棄を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨
により認定することができる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合に
は,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)
15 (1) 当事者
原告及び被告は,いずれも出版等を業とする株式会社である。
(2) 原告の商標権
原告は,以下の登録商標(以下「本件商標」という。)に係る商標権(以下
「本件商標権」という。)を有している。
20 登録番号:第5665842号
出願日:平成25年7月18日
登録日:平成26年4月25日
登録商標:MMPI(標準文字)
指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分:第44類 心理検査
25 (3) MMPIについて
「MMPI」は,「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネ
ソタ多面的人格目録)の略称である。ミネソタ多面的人格目録は,1940年
代に米国ミネソタ大学の心理学者ハサウェイと精神医学者マッキンレーによ
り開発された,質問紙法検査に基づいて性格傾向を把握する心理検査の名称で
ある(以下,両名が開発した上記心理検査を「本件心理検査」という。)。本
5 件心理検査は,566項目の質問項目(うち16項目は重複している。)から
成り,4個の妥当性尺度により受検態度の偏りを検出し,10個の臨床尺度に
よりパーソナリティ特徴を査定するもので,世界90か国以上で翻訳・標準化
され,使用されている。ここにいう翻訳・標準化とは,米国の社会,文化,風
土,国民性等に基づき作成された本件心理検査を,各国の社会,文化,風土,
10 国民性等に合わせて翻訳等した上で,当該国内での一定数のサンプル検査等を
行うなどして当該国向けの判定の基準等を作成することをいう。(甲4,7~
9,32,81~98,148,乙5,6,10)
(4) 原告による本件心理検査の日本語版(以下「原告版」という。)の販売等
原告は,昭和38年(1963年)に,本件心理検査の日本語版である原告
15 版の質問票(質問用紙)を出版し,それ以降,独自の採点盤,回答用紙,質問
カードなどを開発,販売し,昭和48年(1973年)4月からは,コンピュ
ータを利用した採点サービスも行ってきたが,その際,「MMPI」との標章
を用いてきた。なお,原告版(略式検査用を除く。)の質問項目は,550項
目である。(甲32~35,39~42)
20 (5) 被告の行為
被告は,平成29年4月1日から,別紙目録記載1の心理テスト質問用紙(以
下「被告質問用紙」という。),同記載2の回答用紙(マークカード)(以下
「被告回答用紙」という。)及び同記載3の自動診断システム(パソコン用ソ
フトウェア)(以下「被告ソフト」といい,同目録記載の各商品を併せて「被
25 告各商品」という。)並びに「MMPI-1」等の性格検査の解説書であるハ
ンドブック(以下「被告ハンドブック」という。)の出版・販売を開始した。
また,被告は,自治体や企業等(以下「自治体等」という。)が採用試験等に
用いた被告回答用紙を解析し,自治体等に検査結果を伝える診断解釈サービス
(以下「被告サービス」という。)を行っており,被告ウェブサイト上には被
告各商品や被告サービス等に関する広告を掲載している。なお,「MMPI-
5 1」は,原告版とは異なる翻訳・標準化を行った,原告版とは別の本件心理検
査の日本語版の名称である。(甲4~6,37,76,77)
(6) 被告が使用する標章
ア 被告質問用紙の表紙上部には,明朝体様の大きめのフォントで「MMPI
-1 性格検査」と記載され(以下「被告標章1」という。),その下に著
10 者名が記載されているほか,右下部に発行所として被告の社名や住所等が記
載されている。(甲5の1)
イ 被告回答用紙は,大半がマークをする回答部分であるが,左側に「ファイ
ル番号」,「年令」,「性別」,「名前」等を記載する欄があり,回答部分
の枠外上部右寄りに,他の記載に比較して若干大きめのゴシック体様で「M
15 MPI-1 回答用紙」と記載され(以下「被告標章2」という。),その
直下に小さめのゴシック体様で「☆マークはHBを使用してください。☆」
と記載されている。(甲5の2)
ウ 被告ソフトのパッケージの表紙の中央部分やや上側には,「MMPI-1
性格検査」と少し大きめの明朝体様の記載があり(以下「被告標章3」とい
20 いう。),その下に少し小さくゴシック体様で「自動診断システム」,その
下に更に小さく「ver.6.3」との記載があり,さらに若干離れた下部に著作者
名の記載がある。(甲6)
エ 被告サービスにおいて被告が顧客に提供する診断結果書(以下「被告診断
結果書」という。)の1枚目の左上には,他の部分より少し大きめのゴシッ
25 ク体様で「MMPI-1自動診断システム」と記載されている(以下「被告
標章4」という。(甲37,77)
オ 被告のウェブサイト上の被告各商品や被告サービス等の広告(以下「被告
広告」という。)の中には,「病院での診察,教員・公務員採用試験,職場
でのストレスチェックにはこちら」との記載の下に,他の性格検査(MIN
I性格検査,MINI-124性格検査)と並べてゴシック体様で「MMP
5 I-1性格検査」との記載がある(以下「被告標章5」といい,上記各標章
と併せて「被告各標章」という。)。(甲37)
(7) 被告による無効審判請求
被告は,平成30年3月2日,特許庁に対し,商標法3条1項3号,同項1
号又は2号,同項6号に該当することを無効理由として,原告を被請求人とす
10 る本件商標登録の無効審判請求をし,現在も係属中である。(乙4)
3 争点
(1) 本件商標と被告各標章の類否(争点1)
(2) 被告の行為のみなし侵害行為該当性(争点2)
(3) 本件商標権の効力が被告標章に及ぶか(争点3)
15 ア 法26条1項3号(普通名称又は役務の質表示)該当性(争点3-1)
イ 法26条1項4号(慣用商標)該当性(争点3-2)
ウ 法26条1項6号(非商標的使用)該当性(争点3-3)
(4) 本件商標登録が無効審判により無効にされるべきものか(争点4)
ア 法3条1項1号又は2号(普通名称又は慣用商標)該当性(争点4-1)
20 イ 法3条1項3号(役務の質表示)該当性(争点4-2)
ウ 法3条1項6号(識別力を欠く商標)該当性(争点4-3)
エ 法4条1項10号,16号(周知商標との混同又は品質誤認)該当性(争
点4-4)
第3 争点に関する当事者の主張
25 1 争点1(本件商標と被告各標章の類否)について
(原告の主張)
被告各標章のうち,「-1」はいずれもハイフンと数字からなる簡単かつあり
ふれたものであり,被告標章1(「MMPI-1 性格検査」)及び被告標章3
及び5(「MMPI-1性格検査」)のうち「性格検査」は性格についての検査
を表す一般名称であり,被告標章2(「MMPI-1 回答用紙」)のうち「回
5 答用紙」は回答をするための用紙を表す一般名称であり,被告標章4のうち「自
動診断システム」は自動で診断するコンピュータソフトウェア等を用いて診断結
果を作成することを表す一般名称であるから,これらはいずれも識別力を欠く。
したがって,被告各標章の要部はいずれも「MMPI」であるところ,これは
本件商標と類似する。
10 (被告の主張)
「MMPI」の語は,我が国のほか世界各国において,心理検査の方法の1つ
である本件心理検査を示す語として通用している普通名称ないし慣用標章であ
って,これに特段の出所識別力はないから,被告各標章は,いずれも一連一体の
ものとして把握されるべきである。
15 したがって,被告各標章は,いずれも本件商標と類似しない。
2 争点2(被告の行為のみなし侵害行為該当性)について
(原告の主張)
(1) 自治体等に対する役務の提供について
被告は,自治体等に対し,本件商標の指定役務である心理検査又はこれに類
20 似する役務(以下,併せて「心理検査等役務」という場合がある。)を提供す
るに当たり,被告各標章を使用しているから,かかる被告の行為は,法37条
1号に該当する。
すなわち,被告は,自治体等が行う心理検査のために,被告質問用紙に被告
標章1を,被告回答用紙に被告標章2をそれぞれ付し,これらを自治体等に提
25 供して譲渡し,その後,自治体等から回答済みの被告回答用紙の送付を受けた
後,これにつき被告サービスを行って心理検査の解釈等の役務を提供し,診断
結果を書面で送付する役務を提供し,また,被告ウェブサイトに被告サービス
等の広告を掲載している。かかる一連の行為は,被告が,心理検査及び心理検
査のための便益の提供を行うものであり,本件商標の指定役務である心理検査
と同一又はこれに類似する役務について,本件商標に類似する被告各標章を,
5 以下のア~ウのとおり使用するものであるから,法37条1号に該当する。
ア 心理検査に必要な被告質問用紙に被告標章1を,被告回答用紙に被告標章
2を付する行為は,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供す
る物に標章を付する行為」(法2条3項3号)に該当する。
イ 回答結果を受けて,それを分析・解釈し,被告標章4を付した被告診断結
10 果書を交付することにより診断結果(解釈)を提供する行為は,「役務の提
供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用
いて役務を提供する行為」(法2条3項4号)に該当する。
ウ 被告のウェブサイトにおいて,被告サービスを含む広告に被告標章5を付
する行為は,「役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方
15 法により提供する行為」(法2条3項8号)に該当する。
(2) 医療機関等に対する役務の提供について
被告は,医療機関等に対し,医療機関等が心理検査等役務を提供するに当た
りその提供を受ける者の利用に供する物に被告各標章を付したものを譲渡等
しているから,かかる被告の行為は,法37条6号又は4号に該当する。
20 被告は,医療機関等に対し,医療機関等が心理検査を実施するに当たり使用
する被告質問用紙,被告回答用紙及び被告ソフトに被告各標章を付して譲渡し,
医療機関はこれらを使用して被検者に心理検査を行っている。かかる行為は,
本件商標の指定役務である心理検査と同一又はこれに類似する役務について,
本件商標と類似する被告各標章の使用をさせるために被告各標章を表示する
25 物を譲渡し,引き渡し,又は譲渡若しくは引き渡しのために所持する行為(法
37条6号),あるいは,本件商標の指定役務である心理検査と同一又はこれ
に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に本件
商標に類似する被告各標章を付したものを,これを用いて当該役務をさせるた
めに譲渡し,引き渡し,又は譲渡若しくは引き渡しのために所持する行為(法
37条4号)に該当する。
5 (被告の主張)
心理検査とは「人間の心理」を検査するものであるから,その役務の特性上,
検査の対象となる「被験者」との関係性を無視することはできない。原告が主張
する自治体等のケース及び医療機関等のケースにおける心理検査の主体は,あく
までも被験者と直接の関わりを持つ自治体等及び医療機関等であって,被告は,
10 心理検査に要する書籍,印刷物,ソフトウェアを販売することで,これらが心理
検査を実施するのを補助しているにすぎないし,被告サービスも,検査主体が回
収した被告回答用紙をカードリーダーで読み取り,解釈ソフトにより解釈結果が
印刷された印刷物を交付しているにすぎないから,被告が心理検査と同一又はこ
れに類似する役務を行っているということはできない。
15 3 争点3-1(法26条1項3号(普通名称又は役務の質表示)該当性)につい

(被告の主張)
「MMPI」は世界的に普及している「Minnesota Multiphasic Personality
Inventory」という普通名称の略称であり,本件商標の指定役務又はこれに類似
20 する役務の需要者である医療関係者や研究者等の間で,本件心理検査という心理
検査の一手法を表す「普通名称」として,あるいは,心理検査に係る役務の「質」,
「その他の特徴」を指して普通に用いられる語である。
そして,被告は,被告各標章における「MMPI」を,本件心理検査を意味す
る語として,一般的な字体により,普通に用いられる方法で表示しているから,
25 被告各標章に本件商標権の効力は及ばない。
(原告の主張)
原告が本件商標の下で提供する心理検査等役務は,それぞれ複数のパターンを
有する質問票,回答用紙,採点盤,採点プログラム等と,コンピュータ採点サー
ビスとから成り,質問票と回答用紙を被験者に配布し,被験者が回答用紙に回答
し,回答済みの回答用紙を採点分析するというものである。原告が行う心理検査
5 等役務は,ミネソタ大学で開発された本件心理検査に由来・関連するが,質問項
目の言語,項目数及び配列,採点基準,実施方式において本件心理検査と異なり,
全体として原告独自のものである。
そして,原告は,ミネソタ大学の許諾の下,ミネソタ大学が作出した造語であ
る「MMPI」の商標を用いて昭和38年(1963年)から心理検査等役務を
10 提供してきており,これを,精神医学等の様々な専門分野の学会誌,学術的専門
誌に広告を掲載し(甲100~145),カタログを送付する(甲54)などの
方法により,延べ7万人を超える専門家に対して毎年継続的に周知してきた。原
告は,被告が被告各商品の販売等を開始するまで,上記役務を独占的に提供して
きた。
15 このため,本件商標登録がされた平成26年4月25日において,
「MMPI」
は,原告が提供する心理検査等役務を表すものとして,その需要者・取引者の間
で周知・著名となっており,識別力を獲得していたのであるから,「MMPI」
は,原告の提供する心理検査等役務との関係では,普通名称には当たらないし,
単に役務の質(一般的な性状・内容)を表示するものでもない。
20 そして,被告各商品に付された被告各標章は,自他識別力を有しており,これ
らを使用して役務が提供されたり,役務提供のために被告各商品が譲渡等された
りする場合に,被告各標章を記述的あるいは説明的に使用するものとはいうこと
はできない。また,出版社と心理検査が1対1で結びついているという取引の実
情に照らしても,被告各標章は,心理検査等役務の出所表示として,需要者・取
25 引者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識する態様で使用され
ているということができる。
したがって,被告各標章には本件商標権の効力が及ぶ。
4 争点3-2(法26条1項4号(慣用商標)該当性)について
(被告の主張)
「MMPI」は,需要者の間で,本件心理検査を意味する略称として慣用的に
5 用いられている。被告は,被告各標章における「MMPI」を,本件心理検査を
意味する語として一般的な字体により普通に用いられる方法で表示しているか
ら,被告各標章に本件商標権の効力は及ばない。
(原告の主張)
本件商標は,原告が50年以上にわたり,ほぼ独占的に使用してきたものであ
10 り,原告の提供する心理検査等役務を表すものとして,その需要者・取引者の間
で周知・著名となっていたから,慣用商標に当たらない。
5 争点3-3(法26条1項6号(非商標的使用)該当性)について
(被告の主張)
被告は,被告各商品等において,「MMPI」の語を,本件心理検査を指すも
15 のとして使用しているにすぎないし,被告回答用紙を除き,別途「筑摩書房」と
いう出所表示の記載もしている。被告回答用紙についても,「MMPI-1 回
答用紙」との記載の内容及び位置からして,この記載は「MMPI-1」という
心理検査の回答用紙であるという意味を有するにすぎない。
したがって,いずれも「MMPI」を自他商品・役務の識別表示や出所表示と
20 して使用するものではないから,被告各標章に本件商標権の効力は及ばない。
(原告の主張)
前記3(原告の主張)のとおり,被告は,被告各商標を自他の役務を区別する
ために使用しているので,被告各標章には本件商標権の効力が及ぶ。
6 争点4-1(法3条1項1号又は2号(普通名称又は慣用商標)該当性)につ
25 いて
(被告の主張)
「MMPI」は,心理検査の一手法を指す普通名称又は慣用商標にすぎないか
ら,本件商標は,法3条1項1号又は2号に該当するので,本件商標登録は,無
効審判により無効にされるべきものである。
(原告の主張)
5 本件商標は,指定役務との関係では,普通名称や慣用商標に当たらないから,
商標登録無効審判により無効にされるべきものではない。
7 争点4-2(法3条1項3号(役務の質表示)該当性)について
(被告の主張)
「MMPI」は,世界的に普及している本件心理検査の名称であり,本件商標
10 の指定役務である心理検査の質その他の特徴を表す語であって,本件商標は,こ
の語を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから,本件
商標は,法3条1項3号に該当する。
原告は,原告の心理検査の質問項目数(550)と本件心理検査の項目数(5
66)が異なる旨を指摘するが,項目数の差異(16項目)は,同内容の質問が
15 重複していることによるので,原告の心理検査と本件心理検査の項目数は同一で
ある。このように,原告版の質問数が550項目であることは,原告の提供する
心理検査の独自性を裏付けるものではない。
自治体等や医療機関等の心理検査の実施主体も,本件心理検査をミネソタ大学
で開発された「ミネソタ多面的人格目録」と認識し,その信用性の下に実施する
20 のであって,原告が提供する心理検査であると認識して実施するわけではない。
さらに,平成4年(1992年)以降は,学芸図書株式会社から被告各商品の
著者による翻訳版が発行され,学会誌においても頻繁に宣伝広告がされてきてお
り(乙15,16),「MMPI」すなわち原告版を指すという認識は形成され
ていないから,原告が法3条2項の特別顕著性を取得したということもできない。
25 したがって,本件商標登録は,無効審判により無効にされるべきものである。
(原告の主張)
本件商標は,指定役務との関係では,単に役務の質(一般的な性状・内容)を表
示するものではないし,前記3(原告の主張)記載の事実関係からして,法3条
2項の特別顕著性を取得しているから,商標登録無効審判により無効にされるべ
きものではない。
5 8 争点4-3(法3条1項6号(識別力を欠く商標)該当性)について
(被告の主張)
「MMPI」 心理検査の一手法を意味する役務の質の表示であるとともに,
は,
普通名称又は慣用名称であるから,これを指定役務である心理検査に用いても,
識別力を有しない。
10 したがって,本件商標登録は,無効審判により無効にされるべきものである。
(原告の主張)
本件商標は,指定役務との関係では,単に役務の質(一般的な性状・内容)を表
示するものではないから,商標登録無効審判により無効にされるべきものではな
い。
15 9 争点4-4(法4条1項10号,16号(周知商標との混同又は品質誤認)該
当性)について
(被告の主張)
仮に,本件商標が本件心理検査ではなく原告が独自に開発した心理検査を表示
するものであるとするならば,「MMPI」の語が本件心理検査を指す語として
20 広く知られていることからして,本件商標は,「他人の業務に係る商品若しくは
役務を表示するものとして需要者に広く認識されている商標又はこれに類似す
る商標であって,その商品若しくは役務又はこれに類似する商品若しくは役務に
ついて使用をするもの」(法4条1項10号)又は「商品の品質又は役務の質の
誤認を生ずるおそれがある商標」(同項16号)に該当する。
25 ミネソタ大学から本件商標登録についての許諾は受けているとの原告主張に
ついては否認するが,いずれにしても,この点は結論に影響を及ぼすものではな
い。
したがって,本件商標登録は,無効審判により無効にされるべきものである。
(原告の主張)
原告は,周知商標の保有者であるミネソタ大学から許諾を受けて日本国内にお
5 いて本件商標を使用しているのであるから,周知商標との混同も品質誤認もない。
したがって,商標登録無効審判により無効にされるべきものではない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件商標と被告各標章の類否)について
証拠(甲7~9,81~84,86~89,91~97,乙6)によれば,「M
10 MPI」がミネソタ大学のハサウェイとマッキンレーにより開発された
「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」
(ミネソタ多面的人格目録),
すなわち本件心理検査の略称であり,精神医学,心理学等の多数の辞典類や専門
書等に掲載されていることが認められる。このため,「MMPI」は,本件商標
の指定役務である心理検査の需要者である精神医学や心理学等の関係者の間で
15 は,心理検査の一手法である本件心理検査又はその略称を示すものとして周知で
あると認められる。
これを踏まえて被告各標章につきみると,被告標章1は「MMPI-1 性格
検査」,被告標章3及び5は「MMPI-1性格検査」というものであるが,被
告標章1,3及び5のうちの「性格検査」は,性格を明らかにするための検査を
20 意味する一般的な用語であり,「-1」の部分は,それに先立つものに従属して
バージョンを示す(甲4,87,乙5)などするものであるから,これらの部分
からは出所識別標識としての称呼,観念が生じない。一方,「MMPI」は,前
記のとおり,特定の心理検査である本件心理検査を示すものとして周知のもので
あり,これらの標章において,「MMPI」の部分が取引上不自然であると思わ
25 れるほど不可分的に結合しているとは認められず,この部分が独立して見る者の
注意をひくといえるから,被告標章1,3及び5の要部は「MMPI」であると
認められる。
また,被告標章2は「MMPI-1 回答用紙」,被告標章4は「MMPI-
1自動診断システム」であるが,「回答用紙」は回答を記載する用紙を意味する
一般的な用語であり,「自動診断システム」は自らの力で(自動的に)診察をし
5 て病状を判断する仕組みを意味する一般的な用語であり,「-1」の部分は上記
のとおりのものであって,これらの部分からは出所識別標識としての称呼,観念
が生じないと認められるから,上記と同様の理由により,被告標章2及び4の要
部も「MMPI」であると認められる。
本件商標は,「MMPI」を標準文字で横書きにして成るものであるところ,
10 これを被告各標章の要部と対比すると,外観は同一又は類似し,称呼はいずれも
「えむえむぴーあい」などであるから同一であり,これらから生ずる観念はいず
れも本件心理検査あるいはその略称というものであって同一である。
したがって,本件商標と被告各標章は,いずれも類似する。
2 争点2(被告の行為のみなし侵害行為該当性)について
15 (1) 前記前提事実,後掲の証拠(甲4,37,76,148)及び弁論の全趣旨
を総合すると,以下の事実を認めることができる。
ア 被告は,被告各標章をそれぞれ付して,「MMPI-1」なる性格検査を
実施するための被告各商品(被告質問用紙,被告回答用紙及び被告ソフト)
や同検査の解説書である被告ハンドブックを販売するとともに被告サービ
20 スを提供しており,また,被告ウェブサイト上にその旨の広告を掲載してい
る。
イ 被告各商品の購入者は,①被告質問用紙及び被告回答用紙(以下,併せて
「被告質問用紙等」という。)を用いて被検者に回答させ,被告ソフトをイ
ンストールしたパソコンにカードリーダーを接続して回答済みの被告回答
25 用紙を読み込ませ,被告ソフトによる自動診断結果を得ることができる。ま
た,②回答済みの被告回答用紙を被告に送付して検査結果の返送を受ける被
告サービスを利用することもできる。これらの方法は,自治体等が採用試験
を行うような受検者が多い場合に適している。
ウ 被告質問用紙等を用いず,パソコンで被告ソフトを起動し,被験者に画面
を見ながら回答させて,自動診断結果を得ることもできる。この方法は,医
5 療機関等での診断などの受検者の少ない場合に適している。
(2)ア 前記(1)ウ(被験者がパソコン画面を見ながら回答)の場合について
心理検査は,被験者が質問に回答し,その回答を基準に照らして判定(診
断及び解釈)し,判定結果を一定の目的のために利用するものであるから,
心理検査を役務としてみた場合,その中核は,同検査の実施主体(心理検査
10 の役務を提供する主体)による回答の判定(診断及び解釈)部分にあると解
される。
前記(1)ウの場合,心理検査の役務を提供するのは被告ソフトの購入者で
あり,被告ソフトは,同役務の提供を受ける者(被験者)の利用に供する物
に当たるところ,被告ソフトのパッケージにはそれぞれ本件商標と類似する
15 被告標章3が付されており,被告は購入者をして同役務の提供をさせるため
に被告ソフトを販売しているのであるから,かかる被告の行為は,少なくと
も法37条4号のみなし侵害行為に当たる。
イ 前記(1)イ①(購入者が被告質問用紙等及び被告ソフトを使用)の場合
この場合,心理検査の役務を提供する主体は被告各商品の購入者であり,
20 被告質問用紙等は,同役務の提供を受ける者(被験者)の利用に供する物に
当たるところ,被告質問用紙等にはそれぞれ本件商標と類似する被告標章1
又は2が付されており,被告は上記購入者をして同役務の提供をさせるため
に被告質問用紙等を販売しているのであるから,かかる被告の行為は,少な
くとも法37条4号のみなし侵害行為に当たる。
25 ウ 前記(1)イ②(被告サービスを利用)の場合につき検討する。
この場合も,心理検査の役務を提供する主体は被験者に受検をさせる被告
回答用紙等の購入者(被告サービスの委託者)と解されるが,上記委託者は,
検査結果の判定部分を被告に委託して心理検査を行っており,被告は,被告
サービスを受託することにより心理検査の役務の一部であるが中核たる判
定業務を実行しているといえるから,被告が被告サービスを提供する行為は,
5 委託者による心理検査の役務の一部をなす。一方,被告が被告サービスとい
う役務を提供する直接の相手方は上記委託者であるが,同委託者は心理検査
の役務の需要者に含まれるし,被告の上記役務があってこそ同委託者の役務
が遂行される関係のものである。そうすると,被告による被告サービスの提
供は,心理検査の役務又はこれに類似する役務に当たるというべきである。
10 したがって,被告が被告サービスに基づいて委託者に交付する被告診断結
果書に本件商標に類似する被告標章4を付する行為は,「役務の提供に当た
りその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務
を提供する行為」(法2条3項4号)に該当するから,かかる行為は,指定
役務又はこれに類似する役務についての登録商標に類似する商標の使用に
15 当たり,法37条1号のみなし侵害行為に該当する。
エ 広告について
被告は,心理検査の役務に類似する役務に当たる被告サービスの提供に係
る被告ウェブサイト上の広告に被告標章5を掲載しているのであるから,役
務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供す
20 る行為(法2条3項8号)をしているということができる。かかる行為は,
指定役務たる心理検査の役務に類似する役務についての本件商標に類似す
る商標の使用に当たるから,法37条1号のみなし侵害行為に該当する。
3 争点3-1(法26条1項3号(普通名称又は役務の質表示)該当性)につい

25 (1) 法26条1項3号にいう役務の「質」とは,その語義からして,役務の内容,
中身,価値,性質などを意味するものと解されるところ,「MMPI」は,前
記1のとおり,質問紙法検査に基づいて性格傾向を把握する心理検査の名称で
ある「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネソタ多面的人
格目録)の略称であり,本件商標の指定役務である心理検査の需要者,取引者
において,心理検査の一手法である本件心理検査又はその略称を示すものとし
5 て周知であると認められるから,心理検査の内容,すなわち「質」を表すもの
ということができる。
また,被告各標章は,いずれも,明朝体様やゴシック体様といったありふれ
た書体で構成されているものである。
そうすると,「MMPI」を含む被告各標章は,いずれも本件商標の指定役
10 務である心理検査又はこれに類似する役務ないし商品の「質」を,普通に用い
られる方法で表示するものということができるから,被告各標章は,法26条
1項3号に該当し,本件商標権の効力は及ばない。
(2) これに対し,原告は,「MMPI」は,役務の普通名称又は質を表示するも
のではなく,原告が長年にわたり独占的に提供してきた心理検査等役務を表す
15 ものとして識別力を獲得していたものであって,被告は,自他を識別する態様
で本件商標に類似する被告各標章を使用していると主張する。
ア この点について,確かに,証拠によれば,原告が,昭和38年以降,原告
版の質問票や回答用紙に「MMPI」の標章を用いていること(甲43~5
3,74,75),「MMPI」の標章を用いた原告版のカタログを毎年発
20 行していること(甲39~42),「MMPI」の標章を用いた原告版のマ
ニュアルを販売していること(甲32),原告が精神医学,心理学等の専門
誌,学会誌等に「MMPI」の標章を用いた広告を多数掲載してきたこと(甲
55~60,100~145),精神医学,心理学等の専門書等には,原告
版を本件心理検査の日本語版である趣旨の紹介をするものが多数あること
25 (甲7~9,81~95)などの事実が認められる。
イ(ア) しかし,原告が昭和38年(1963年)から平成4年(1992年)
まで使用していた質問票(甲43)は,表紙上部に「日本版MMPI質問
票」と記載され,その下に原著がハサウェイとマッキンレーであることな
どが記載されているから,「MMPI」の表示は,当該質問票を用いて行
われる心理検査の種類・方法としての本件心理検査を示しており,需要者,
5 取引者にもそのように理解されるものというべきである。
また,平成27年(2015年)以降の新版質問票(甲44~47,7
4)は,表紙左上部に「Minnesota」,「Multiphasic」,「Personality」,
「Inventory」と4段組みに記載されており,その直下にはハサウェイら
の名前が記載され,その右側には「MMPI新日本版研究会」と記載され
10 ているものであるが,同記載も,同様に行われる心理検査の種類・方法と
しての本件心理検査を示しており,需要者,取引者にもそのように理解さ
れるものというべきである。
新版回答用紙(甲48~53,75)には,「MMPI Ⅲ型 回答用
紙」などとあるだけで,原著作者の記載等はないが,回答用紙が通常は質
15 問票とセットで利用されるものであることからすると,需要者,取引者は
「MMPI」が行われる心理検査の種類・方法としての本件心理検査を意
味するものと理解するものと考えられる。
(イ) 次に,原告版のカタログ(甲39~42)につきみると,「MMPI」
が単独で表記されている部分もあるものの,昭和43年(1968年),
20 昭和48年(1973年),平成5年(1993年)の各カタログ(甲3
9~41)には,「MMPI」がハサウェイ教授らによって発表された心
理検査である旨の解説が付されており,平成30年(2018年)のカタ
ログ(甲42)にも「MMPIの実施法・まとめ」,「MMPI新日本版」
などと記載されている。これらの記載は,「MMPI」を心理検査の種類・
25 方法としての本件心理検査を表示するものであり,需要者,取引者もその
ように理解するものというべきである。
(ウ) さらに,原告のマニュアル(平成5年(1993年)版。甲32)の表
紙には前記の新版質問票と同様の記載があり,扉の部分には「新日本版M
MPIマニュアル」と記載され,本文部分においても,「第1章 MMP
Iの概要」に本件心理検査についての説明がされているのであるから,同
5 マニュアルにおいても,「MMPI」の表示は本件心理検査を意味するも
のとして用いられているということができる。
(エ) その他,専門誌,学会誌等への広告(甲55~60,100~145)
及び精神医学,心理学等の専門書等(甲7~9,81~95)においても,
「MMPI」は心理検査の種類・方法であることを前提とした記載がされ
10 ているにすぎず,これが原告の役務であることを示す記載は見当たらない。
(オ) 以上のとおり,原告作成に係る質問票,回答用紙,カタログ及びマニュ
アル並びに広告や専門書における「MMPI」の使用は,いずれもこれが
心理検査の種類・方法としての本件心理検査を表示するものにすぎず,他
に「MMPI」が,原告が提供する心理検査等役務を表すものとして識別
15 力を獲得したと認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告が長年にわたり「MMPI」の商標を用いて独占的に
心理検査等役務を提供しており,その質問票,回答用紙,カタログ及びマ
ニュアル並びに広告や専門書において「MMPI」との表示をしてきたと
しても,それをもって,原告が提供する役務を表すものとして識別力を獲
20 得したということはできない。
ウ 原告は,原告が行う心理検査等役務は,本件心理検査に由来・関連するが,
質問項目の言語,項目数及び配列,採点基準,実施方式において本件心理検
査と異なる原告独自のものであり,原告の提供する役務として識別力を獲得
したと主張するが,上記のとおり,原告は,質問票やカタログ等において,
25 「MMPI」の日本版であることを表示し,また,「MMPI」についてミ
ネソタ大学のハサウェイ教授等により発表された人格目録テストであるな
どの説明をしている上,質問項目数の差異も重複した質問を含むかどうかの
違いにすぎない。そうすると,原告が行う心理検査等役務は,我が国の社会,
文化等に合わせて「MMPI」を翻訳・標準化したものであって,原告が独
自に開発した心理検査であるということはできず,また需要者,取引者が原
5 告の提供する心理検査等役務を原告独自のものと認識していたことを示す
証拠もない。
エ 他方,被告が使用する各標章についてみると,①被告標章1は,被告質問
用紙の表紙上部に「MMPI-1 性格検査」と記載されたもの,②被告標
章2は,被告回答用紙に「MMPI-1 回答用紙」と記載されたもの,③
10 被告標章3は,被告ソフトのパッケージの表紙に「MMPI-1性格検査」
と記載されたもの,④被告標章4は,診断結果書の1枚目に「MMPI-1
自動診断システム」と記載されたもの,⑤被告標章5は,被告のウェブサイ
ト上の被告各商品や被告サービス等の広告において,「MMPI-1性格検
査」と記載されたものである。
15 原告は,被告各標章が自他の役務を識別する態様で使用されていると主張
するが,上記の被告各標章の表示内容及び態様によれば,被告各標章は,本
件心理検査による「性格検査」,本件心理検査の質問項目に対する「回答用
紙」,本件心理検査を利用した「自動診断システム」を意味し,いずれも被
告各商品や被告サービスに係る心理検査の種類・方法が本件心理検査である
20 ことを題号等において表示しているにすぎないというべきである。このよう
に,被告各標章における「MMPI」は,本件心理検査を意味するものとし
て使用されているのであるから,これを被告が識別力を有する態様で使用し
たものであるということはできない。
(3) 以上のとおり,被告各標章は,いずれも本件商標の指定役務である心理検査
25 又はこれに類似する役務ないし商品の「質」を,普通に用いられる方法で表示
するものということができるから,法26条1項3号に該当し,本件商標権の
効力が及ばない。
4 よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由が
ないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
5 東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
10 佐 藤 達 文
裁判官
15 三 井 大 有
裁判官
20 今 野 智 紀
別紙
商 品 目 録
1 心理テスト質問用紙
5 商品名 「MMPI-1 性格検査」
2 回答用紙(マークカード)
商品名 「MMPI-1 回答用紙」
10 3 自動診断システム(パソコン用ソフトウェア)
商品名 「自動診断システム」(MMPI性格検査)

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