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平成30(行ケ)10110等審決取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和1年11月14日
事件種別 民事
対象物 セレコキシブ組成物
法令 特許権
特許法148条1項2回
特許法36条6項1号1回
キーワード 審決65回
実施19回
無効15回
無効審判6回
新規性5回
進歩性3回
刊行物2回
特許権1回
優先権1回
主文 1 特許庁が無効2016-800112号特許無効審判事件について平成30年6月26日にした審決中,特許第3563036号の請求項1ないし5,7ないし19に係る部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,発明の名称を「セレコキシブ組成物」とする発明について,平成 11年11月30日(優先日平成10年11月30日(以下「本件優先日」 という。),優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願200 0-584884号。以下「本件出願」という。)をし,平成16年6月1 1日,特許権の設定登録(特許第3563036号。請求項の数19。以下, この特許を「本件特許」という。)を受けた(甲イ48,74)。 (2)ア 原告東和薬品は,平成28年9月30日,本件特許について特許無効審 判(無効2016-800112号事件。以下「本件無効審判」という。) を請求した(甲イ49)。 イ 原告日本ケミファは,本件無効審判について,平成29年8月3日付け で特許法148条1項の規定により請求人として請求人側への参加申請を し,同年9月5日付けで参加許可の決定を受けた。 原告ヘキサルは,本件無効審判について,同年9月25日付けで特許法 148条1項の規定により請求人として請求人側への参加申請をし,同年

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判決文

令和元年11月14日判決言渡
平成30年(行ケ)第10110号 審決取消請求事件(以下「第1事件」という。)
同年(行ケ)第10112号 審決取消請求事件(以下「第2事件」という。)
同年(行ケ)第10155号 審決取消請求事件(以下「第3事件」という。)
口頭弁論終結日 令和元年9月3日
判 決
第 1 事 件 原 告 東 和 薬 品 株 式 会 社
(以下「原告東和薬品」という。)
訴訟代理人弁護士 岩 坪 哲
速 見 禎
溝 内 伸 治 郎
第 2 事 件 原 告 日本ケミファ株式会社
(以下「原告日本ケミファ」という。)
訴訟代理人弁理士 小 椋 正 幸
寺 本 光 生
丹 治 彰
松 村 啓
大 槻 真 紀 子
第 3 事 件 原 告 ヘキサル・アクチェンゲゼルシャフト
(以下「原告ヘキサル」という。)
訴訟代理人弁理士 豊 岡 静 男
原 裕 子
第1事件・第2事件・第3事件被告
ジー.ディー.サール,リミテッド,
ライアビリティ,カンパニー
(以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
飯 塚 卓 也
岡 田 淳
訴訟代理人弁理士 四 本 能 尚
宮 澤 純 子
佐 藤 真 紀
龍 田 美 幸
池 田 理 愛
主 文
1 特許庁が無効2016-800112号特許無効審判事件について平
成30年6月26日にした審決中,特許第3563036号の請求項1
ないし5,7ないし19に係る部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は,発明の名称を「セレコキシブ組成物」とする発明について,平成
11年11月30日(優先日平成10年11月30日(以下「本件優先日」
という。),優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願200
0-584884号。以下「本件出願」という。)をし,平成16年6月1
1日,特許権の設定登録(特許第3563036号。請求項の数19。以下,
この特許を「本件特許」という。)を受けた(甲イ48,74)。
(2)ア 原告東和薬品は,平成28年9月30日,本件特許について特許無効審
判(無効2016-800112号事件。以下「本件無効審判」という。)
を請求した(甲イ49)。
イ 原告日本ケミファは,本件無効審判について,平成29年8月3日付け
で特許法148条1項の規定により請求人として請求人側への参加申請を
し,同年9月5日付けで参加許可の決定を受けた。
原告ヘキサルは,本件無効審判について,同年9月25日付けで特許法
148条1項の規定により請求人として請求人側への参加申請をし,同年
11月13日付けで参加許可の決定を受けた。
なお,本件無効審判においては,原告日本ケミファ及び原告ヘキサルの
ほか,ニプロ株式会社,日新製薬株式会社及び大原薬品工業株式会社も請
求人側への参加許可の決定を受けた。
(3) 被告は,平成29年2月6日付けで,本件特許の特許請求の範囲について
訂正請求(甲イ51)をした後,平成30年2月1日付けの審決の予告(甲
イ58)を受けたため,同年5月7日付けで,本件特許の特許請求の範囲の
請求項1ないし19を一群の請求項として,請求項1ないし5,7ないし1
9を訂正し,請求項6を削除する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。
甲イ59。)をした。
その後,特許庁は,同年6月26日,本件訂正を認めた上で,「特許第3
563036号の請求項6に係る発明についての審判請求を却下する。特許
第3563036号の請求項1~5,7~19に係る発明についての審判請
求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その
謄本は,同年7月4日に原告日本ケミファに,同月5日に原告東和薬品及び
原告ヘキサルにそれぞれ送達された。
(4)ア 原告東和薬品は,平成30年8月2日,本件審決のうち,請求項1ない
し5,7ないし19に係る部分の取消しを求める第1事件訴訟を提起した。
イ 原告日本ケミファは,平成30年8月3日,本件審決のうち,請求項1
ないし5,7ないし19に係る部分の取消しを求める第2事件訴訟を提起
した。
ウ 原告ヘキサルは,平成30年11月1日,本件審決のうち,請求項1な
いし5,7ないし19に係る部分の取消しを求める第3事件訴訟を提起し
た。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5,7ないし19の記載は,
次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本
件発明1」などという。下線部は本件訂正による訂正箇所である。甲イ59)。
【請求項1】
一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000mg
の量の微粒子セレコキシブを含み,一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投
与量単位を含む製薬組成物であって,粒子の最大長において,セレコキシブ粒
子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する製薬組成物。
【請求項2】
前記粒子の最大長において,前記セレコキシブ粒子のD90が100μm未満で
あることを特徴とする請求項1に記載の製薬組成物。
【請求項3】
前記粒子の最大長において,前記セレコキシブ粒子のD90が40μm未満であ
ることを特徴とする請求項2に記載の製薬組成物。
【請求項4】
前記粒子の最大長において,前記セレコキシブ粒子のD90が25μm未満であ
ることを特徴とする請求項3に記載の製薬組成物。
【請求項5】
前記同じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された溶液と比較して最低
約50%であるセレコキシブの相対的な生物学的利用能を有することを特徴と
する請求項1記載の製薬組成物。
【請求項7】
前記投与量単位は,錠剤,ピル,硬質若しくは軟質カプセル,ロゼンジ,サシ
ェイ,又はパステルから選択されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか
一項記載の製薬組成物。
【請求項8】
前記賦形剤は薬剤学的に許容な希釈剤,崩壊剤,結着剤,加湿剤及び潤滑剤か
ら選択される単位投与量のカプセル又は錠剤の形態であることを特徴とする請
求項7記載の製薬組成物。
【請求項9】
(a)前記製薬組成物の約10質量%乃至約85重量%の量の一つ以上の薬剤
学的に許容な希釈剤と,
(b)前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約10質量%の量の一つ以上の薬
剤学的に許容な崩壊剤と,及び
(c)前記製薬組成物の約0.75質量%乃至約15質量%の量の一つ以上の
薬剤学的に許容な結着剤とを含有することを特徴とする請求項8記載の製薬組
成物。
【請求項10】
前記製薬組成物の約0.4質量%乃至約10質量%の量の一つ以上の薬剤学的
に許容な加湿剤をさらに含有することを特徴とする請求項9に記載の製薬組成
物。
【請求項11】
前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約8質量%の量の一つ以上の薬剤学的に
許容な潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項9に記載の製薬組成物。
【請求項12】
前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約8質量%の量の一つ以上の薬剤学的に
許容な潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項10に記載の製薬組成
物。
【請求項13】
(a)前記希釈剤はラクト-スを含み,(b)前記崩壊剤はクロスカルメロー
スナトリウムを含み,(c)前記結着剤はポリビニルピロリドンを含むことを
特徴とする請求項9に記載の製薬組成物。
【請求項14】
ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤をさらに含むことを特徴とする請求
項13に記載の製薬組成物。
【請求項15】
ステアリン酸マグネシウムを含有する潤滑剤をさらに含むことを特徴とする請
求項13に記載の製薬組成物。
【請求項16】
ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤と,ステアリン酸マグネシウムを含
有する潤滑剤とをさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の製薬組成物。
【請求項17】
シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤による治療を必要とする被験者における病状
又は疾患を治療するために,前記製薬組成物は被験者に好ましくは1日に1回
又は2回経口投与することを特徴とする請求項1乃至5及び7乃至16の何れ
か一項に定義される製薬組成物。
【請求項18】
シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤による治療を必要とする被験者における病状
又は疾患の治療及び/又は予防処置での薬剤調製のための請求項1乃至5及び
7乃至16の何れか一項に定義される製薬組成物の使用。
【請求項19】
前記状態又は疾患は,リウマチ様関節炎,骨関節炎又は痛みである請求項18
による使用。
3 本件審決の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,原告ら主張の本件発明1ないし5,7ないし19についての
明確性要件違反(無効理由Ⅰ),実施可能要件違反(無効理由Ⅱの(ア)ない
し(ウ))及びサポート要件違反(無効理由Ⅱの(エ)),本件優先日前に頒布
された刊行物である特表平9-506350号公報(甲イ8)に記載された
発明に基づく本件発明1,2,7,8,17ないし19の新規性欠如(無効
理由Ⅲの(ア)),本件優先日前に頒布された刊行物である「1997 AA
PS ANNUAL MEETING CONTRIBUTED PAPE
RS ABSTRACTS,表紙,発表番号3469」(甲イ15)に記載
された発明に基づく本件発明1,2,7,18の新規性欠如(無効理由Ⅲの
(イ)),甲イ8を主引用例とする本件発明1ないし5,7ないし19の進歩
性欠如(無効理由Ⅳ)の無効理由は,いずれも理由がないというものである。
(2) 本件審決が認定した甲イ8に記載された発明(以下「甲8発明」という。,

本件発明1と甲8発明の相違点,甲イ15に記載された発明(以下「甲15
発明」という。),本件発明1と甲15発明の相違点は,以下のとおりであ
る。
ア 甲8発明
「以下の工程1,工程2によって得られるセレコキシブ結晶を投与経路に
適切な1つ又はそれ以上の補助剤と合わせた錠剤又はカプセル剤の形態の
経口投薬単位である製薬組成物。
工程1:1-(4-メチルフェニル)-4,4,4-トリフルオロブタン
-1,3-ジオンの調製
4’-メチルアセトフェノン(5.26g,39.2mmol)をアルゴン
下で25mL のメタノールに溶解して,メタノール中のナトリウムメトキシ
ド12mL(52.5mmol)(25%)を添加した。この混合物を5分間撹
拌して,5.5mL(46.2mmol)のトリフルオロ酢酸エチルを添加した。
24時間還流後,この混合物を室温に冷却して濃縮した。100mL の1
0%HClを添加して,この混合物を4×75mL の酢酸エチルで抽出した。
この抽出物をMgSO4で乾燥し,濾過して濃縮して, 47g
8. (94%)
の褐色油状物を得て,これをさらに精製することなく次に進んだ。
工程2:4-[5-(4-メチルフェニル)-3-(トリフルオロメチル)
-1H-ピラゾール-1-イル]ベンゼンスルホンアミドの調製
75mL の無水エタノール中の工程1からのジオン(4.14g,18.
0mmol)に,4.26g(19.0mmol)の4-スルホンアミドフェニル
ヒドラジン塩酸塩を添加した。この反応物をアルゴン下で24時間還流し
た。室温に冷却して濾過後,この反応混合物を濃縮して,6.13gの橙
色の固体を得た。この固体を塩化メチレン/ヘキサンから再結晶して,淡
黄色の固体として3.11g(8.2mmol,46%)の生成物を得た。」
イ 本件発明1と甲8発明の相違点
(相違点8-1)
製薬組成物に含まれるセレコキシブの量が,本件発明1では「10mg
乃至1000mgの量」とされているのに対し,甲8発明では規定されて
いない点。
(相違点8-2)
製薬組成物に含まれるセレコキシブの粒子サイズが,本件発明1では「粒
子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒
子サイズの分布を有する」とされているのに対し,甲8発明では規定され
ていない点。
ウ 甲15発明
「セレコキシブ300mgを含む経口投与用カプセル。」
エ 本件発明1と甲15発明の相違点
(相違点15-1)
製薬組成物に含まれるセレコキシブが,本件発明1では「粒子の最大長
において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの
分布を有する」微粒子セレコキシブとされているのに対し,甲15発明で
は規定されていない点。
第3 当事者の主張
1 取消事由1-1(甲8発明に基づく本件発明1の新規性の判断の誤り)につ
いて
(1) 原告らの主張
ア 相違点8-1の認定の誤り
甲イ8の記載事項(281頁1行~282頁11行)によれば,甲イ8
には,錠剤やカプセル錠といった具体的な例を挙げた上で,経口投与の方
法を明示し,「本薬剤組成物は,約0.1~2000mgの範囲で,好ま
しくは0.5~500mgの範囲で,そして最も好ましくは約1と100
mgの間で活性成分を含有してよい。」との記載がある。かかる記載は,
甲8発明に含まれる化合物(セレコキシブ)の量を「約0.1~2000
mg」,「0.5~500mg」,「1~100mg」とすることを開示
するものであり,これは,「10mg乃至1000mgの量」(相違点8
-1に係る本件発明1の構成)と重複する。
そうすると,甲イ8には,非経口投与の方法について言及されていると
しても,少なくとも経口投与した場合も含めた有効成分量の範囲が開示さ
れていると理解できる。
したがって,甲8発明は,相違点8-1に係る本件発明1の構成を含む
ものであるから,本件審決における相違点8-1の認定は誤りである。
イ 相違点8-2の認定の誤り
原告東和薬品が甲イ8記載の実施例2の記載に従ってセレコキシブを再
現した試験結果を記載した実験成績証明書(甲イ9)によれば,甲イ8記
載のセレコキシブの粒子のD90(n-3の平均)は,30.44~67.
09μmであった。これは,「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」
の数値範囲に含まれることを示すものである。また,甲イ11及び甲イ1
3の各再現試験の結果も,「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」
のセレコキシブ粒子が得られたことを示している。
したがって,甲8発明は,相違点8-2に係る本件発明1の構成を有す
るから,本件審決における相違点8-2の認定は誤りである。
ウ 小括
以上によれば,本件発明1は,甲8発明と同一の発明であるから,これ
と異なる本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張
ア 相違点8-1の認定の誤りの主張に対し
甲イ8の「本薬剤組成物は,約0.1~2000mgの範囲で,好まし
くは0.5~500mgの範囲で,そして最も好ましくは約1と100m
gの間で活性成分を含有してよい。 との記載は,
」 実験的な裏付けがなく,
薬剤組成物として使用される有効成分量として通常最大の範囲と考えられ
る約0.1~2000mg を最初に記載し,それに続けて,範囲を制限した
好ましい範囲及び最も好ましい範囲を記載したにすぎない。
そして,化合物の特性が異なれば,それに応じて投与される量は異なる
から,投与量を決めるために通常必要とされる実験を実施し,効果や副作
用等を確認する必要があることからすると,甲イ8の上記記載は,甲イ8
で開示されている無数の多種多様な化合物についての含量の目安を示した
ものにとどまり,セレコキシブの投与量を示すものとは認められない。ま
た,経口投与用製薬組成物と非経口投与用製薬組成物では含有される有効
成分量が異なることは技術常識であるから,経口投与用製薬組成物及び非
経口投与用製薬組成物のそれぞれについて,投与量を決めるために通常必
要とする全ての実験を実施し,効果や副作用等を確認しながら投与量を決
める必要がある。
したがって,甲イ8の上記記載は,有効成分の化合物としてセレコキシ
ブを用いたこと及び経口投与用とした製薬組成物に含まれるべきセレコ
キシブの量の範囲を示すものとはいえないから,本件審決における相違
点8-1の認定の誤りをいう原告らの主張は,理由がない。
イ 相違点8-2の認定の誤りの主張に対し
溶媒の比率,温度,撹拌の有無,放置時間など,再結晶のための条件に
よって得られる結晶の大きさ等が変化することは技術常識であるところ,
甲8発明における工程1及び工程2では,上記再結晶のための条件の詳細
が記載されていない。一方,甲イ9に記載された試験は,それらの条件を
実施者が決定してされたものである。
そうすると,上記試験で得られたセレコキシブのD90がいずれも200
μm以下であったとしても,甲8発明におけるセレコキシブ粒子のD90が
200μm以下であることの根拠にはならない。また,甲イ11及び甲イ
13の各再現試験の結果も,これと同様である。
したがって,甲8発明におけるセレコキシブ粒子のD90が200μm以
下であるとはいえないから,本件審決における相違点8-2の認定の誤り
をいう原告らの主張は,理由がない。
ウ 小括
以上によれば,本件発明1は,甲8発明と同一の発明ではないとした本
件審決の判断に誤りはないから,原告ら主張の取消事由1-1は理由がな
い。
2 取消事由1-2(甲8発明に基づく本件発明2,7,8,17ないし19の
新規性の判断の誤り)について
(1) 原告らの主張
本件審決は,①本件発明2,7,8,17は,本件発明1にさらなる発明
特定事項を付加したものであるから,本件発明1は甲8発明と同一の発明と
いえない以上,本件発明2,7,8,17は,甲8発明と同一の発明ではな
い,②本件発明18は,本件発明1ないし5,7ないし17の使用方法の発
明であり,本件発明2ないし5,7ないし17はいずれも本件発明1にさら
なる発明特定事項を付加したものであるところ,本件発明1は甲8発明と同
一の発明といえない以上,本件発明18は,実質的にも甲8発明と同一の発
明ではない,③本件発明19は,本件発明18の対象の状態又は疾患を特定
したものであるところ,本件発明18が実質的にも甲8発明と同一の発明で
はない以上,本件発明19も甲8発明と同一の発明とはいえない旨判断した。
しかしながら,前記1(1)のとおり,本件発明1が甲8発明と同一の発明で
ないとした本件審決は誤りであるから,本件発明2,7,8,17ないし1
9が甲8発明と同一の発明でないとした本件審決の上記判断は誤りである。
(2) 被告の主張
前記1(2)で述べたとおり,本件発明1が甲8発明と同一の発明でないとし
た本件審決の判断に誤りはないから,本件審決における本件発明2, 8,
7,
17ないし19と本件発明8との同一性の判断の誤りをいう原告らの主張
(取消事由1-2)は,その前提において理由がない。
3 取消事由2-1(甲8発明を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤
り)について
(1) 原告らの主張
ア 相違点8-2の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,①製薬組成物の有効成分の生物学的利用能を改善すること
及びブレンド均一性を改善することは,当業界における周知の課題とい
える,②一方,セレコキシブは,本件出願の願書に添付した明細書(以
下,図面を含めて「本件明細書」という。甲イ48)の【0008】に
示され,審判乙5(甲イ34)の記載によっても確かめられるように,
未粉砕の状態では,長い針状の形態を有するものであり,甲イ7,16,
17,23に記載されたいずれの薬物とも,まず形態の点で異なる,③
そして,未粉砕のセレコキシブは,【0008】に示されるように,組
成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集する傾向を有するものであると
ころ,【0024】に示されるように,粉砕後のセレコキシブは,長い
針状からより均一な結晶形へ結晶形態が変質して凝集力が減少し,ブレ
ンド中に二次集合体には容易に凝集しなくなり,ブレンド均一性が改善
されるという特性を有するものであるが,甲イ7,16,17,23の
いずれにも,薬物の粉砕によりその凝集力が低減してブレンド均一性が
改善されることについての記載はないことからすると,セレコキシブは,
形態及び粉砕後の凝集力減少及びブレンド均一性改善の点で,甲イ7,
16,17,23に記載されたいずれの薬物とも異質な薬物である,④
形態及び粉砕後の凝集力減少及びブレンド均一性改善が異質であれば,
薬物学的動態も異なると当業者は予想するから,甲イ7,16,17,
23に記載された生物学的利用能に関連する一般論がセレコキシブに対
しても妥当すると当業者が予想するとはいえない,したがって,甲イ7,
16,17,23に記載された事項を参酌しても,甲8発明におけるセ
レコキシブについて,その生物学的利用能向上及びブレンド均一性改善
のために,微粉化することを,当業者が容易に想到するとはいえない,
⑤しかも,本件発明1では,セレコキシブ粒子を,単に微細化したもの
として規定しているのではなく,「粒子の最大長において,セレコキシ
ブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する」もの
として規定しているが,甲イ8並びに甲イ7,16,17及び23のい
ずれにも,製薬組成物に含まれる有効成分の粒子分布を,粒子の最大長
におけるD90で規定することについて,記載も示唆もなく,また,製薬
組成物に含まれる有効成分の粒子分布を,粒子の最大長におけるD90で
規定することが,当業界において通常行われていることであるともいえ
ないとして,当業者が,甲8発明において,相違点8-2に係る本件発
明1の発明特定事項を加えることは,容易に想到し得たこととはいえな
い旨判断したが,以下のとおり,本件審決の判断は誤りである。
(ア) 本件優先日当時の製薬組成物中の化合物の粒子径に関する周知技術
又は技術常識
a 製薬組成物の有効成分の生物学的利用能を改善するためには,有効
表面積を増加させるため,有効成分の粒子径を細かくするという方法
がとられること,とりわけ,難溶性薬物については,粒子径を細かく
すると表面積が増大し,溶解速度が増大する一方で,粒子径を小さく
すると凝集が起こり,有効表面積が小さくなり溶解速度が遅くなるこ
ともあることから,有効表面積を増加させるため,粒子径を細かくし
つつ,凝集の問題を防止し(界面活性剤を添加して濡れ性を高めたり,
親水性の賦形剤を添加する。),一般的に溶解速度を速め,生物学的
利用能を改善することができることは,本件優先日当時,周知又は技
術常識であった(甲イ7,16,17,23,65ないし69,甲ロ
1,4,乙1,4)。
b また,本件優先日当時,ブレンド均一性を改善するために,固体粒
子を粉砕して粒子径を適切なサイズに小さくすることは,周知の技術
事項であった(甲イ66ないし69)。
(イ) 相違点の容易想到性
粒度分布を表すのにどのような指標を用いるかは,物質の性状に合わ
せて当業者が適宜選択可能な技術にすぎず,D90(粒子の90%以上が
含まれる粒子径の値)を用いることは粒度分布を表す際の周知の指標で
ある(甲イ61ないし63)。そして,「D90が200μm未満」とい
うのは,薬剤組成物に用いられる難溶性の化合物であれば,ほとんどの
ものが含まれるような広範な範囲のものであり(例えば,甲イ61,6
2),「D90が200μm未満」という数値範囲に臨界的意義はない。
また,粒子径を測定する際に,粒子の形状に合わせて最も適当な方法
を選択することは当然のことであり,「粒子の最大長」を測定すること
も,本件優先日当時の周知の測定方法の一つであった(甲イ3)。
加えて,本件優先日当時,製薬組成物の有効成分の生物学的利用能及
びブレンド均一性を改善することは,周知の課題であったこと,本件優
先日当時の前記(ア)の周知技術又は技術常識に照らすと,当業者におい
ては,甲8発明に記載されたセレコキシブについて,生物学的利用能及
びブレンド均一性を改善するために,固体粒子を粉砕して,有効成分の
粒子径を小さくし,有効表面積を増大させるという周知の技術事項を適
用する動機付けがあり,その際に粒度分布を「粒子の最大長において,
セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布」と
することは設計的事項にすぎないから,相違点8-2に係る本件発明1
の構成を容易に想到することができたものである。
(ウ) 本件審決について
a 甲イ7,16,17,23の記載事項の認定の誤り
甲イ7,16,17,23の内容は,決して球形の粒子に特有の内
容ではなく,様々な形態の薬物粒子一般についての記載であり,かか
る記載によれば,未粉砕の薬物粒子の形状にかかわらず,粒子の比表
面積が大きければ大きい程,溶解速度が大きくなり,生物学的利用能
が改善されることは,本件優先日当時の技術常識であった。
したがって,上記技術常識に照らすと,甲イ7,16,17及び2
3に記載された生物学的利用能に関連する一般論が,長い針状の形態
のセレコキシブに対しても妥当すると当業者が予想するとはいえな
いとした本件審決の認定は誤りである。
b ブレンド均一性に関する認定判断の誤り
錠剤やカプセル剤のような固体の経口投与用製剤に製剤化するに際
して,薬効成分を予め粉砕処理して粒子サイズを十数μmから数μm
程度にまで微細化することは,薬効成分の形態にかかわらず,本件優
先日当時広く行われていたことであり(甲ロ1ないし3),微細化し
た薬効成分粉末のブレンド均一性が改善することは,薬効成分の微細
化により通常得られる効果にすぎない。
したがって,甲8発明におけるセレコキシブについて,ブレンド均
一性改善のために,微粉化することを,当業者が容易に想到すると
はいえないとした本件審決の判断は誤りである。
c D90に関する認定の誤り
溶解性が粒子の大きさの影響を受ける薬効成分粉末においては,溶
解性に劣る未粉砕の又は粉砕が不十分な粗大粒子の割合を低減させる
ことが重要であり,このため,薬効成分粉末の粒度分布を,平均粒子
径ではなく,「所望の溶解速度が期待できる粒子サイズ以下の粒子が
粉末全体に占める割合」で特定することは理にかなったことである。
したがって,製薬組成物の有効成分の粒子分布をD90で規定するこ
とが,当業界において通常行われていることであるともいえないとし
た本件審決の認定は誤りである。
d まとめ
以上によれば,甲8発明において,相違点8-2に係る本件発明1
の発明特定事項を加えることは容易に想到し得たこととはいえない
とした本件審決の判断は,誤りである。
イ 小括
以上のとおり,本件審決における相違点8-2の容易想到性の判断に誤
りがあり,また,本件発明1は当業者に予想されない顕著な効果を奏する
旨の本件審決の判断も誤りである。
したがって,本件発明1は,甲8発明及び周知事項(周知技術)に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これと異な
る本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張
ア 相違点8-2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
(ア) 本件優先日当時の製薬組成物中の化合物の粒子径に関する周知技術
又は技術常識について
a 溶解特性の改善への製剤的アプローチについては,結晶性,多形性,
水和物,溶媒和化合物,包摂物などの分子付加物が詳細な評価を必要
とする重要因子として認識されていたことや,時間的制約と添加剤の
量的な制限があり,高度な製剤技術の導入が難しいことから,薬物特
性を活用したシンプルかつ再現性の良好な手法,すなわち,塩や溶媒
和物を選択し変更する方法や,結晶多形を調べて好ましい特性を有す
る結晶形を利用する方法によって,溶解特性を改善することに主眼が
おかれていた(甲ロ4,乙2)。
他方,原薬の粒子径を小さくする方法については,難溶性薬物は,
粒子を粉砕により微小化するほど凝集が起こりやすくなること,微小
化には限界値があり,それ以上小さくしても吸収速度が上昇しないこ
と,粉砕により原薬の反応性や安定性にも大きな影響を与えることな
ど,粉砕による微小化には注意を要する点が多数あることが,本件優
先日当時,周知であった(甲イ16,甲ロ1,乙1)。そのため,原
薬の粒子径を小さくする方法は,溶解特性への改善のアプローチとし
て,本件優先日当時,通常行われる方法であったとはいえない。
次に,甲イ65に「界面活性剤の場合,バイオアベイラビリティへ
の影響に関しては非常に複雑で予想が困難である。薬物の吸収率を増
大させる場合と減少させる場合が見受けられる。」との記載があるよ
うに,本件優先日当時,界面活性剤によって生物学的利用能がいかな
る影響を受けるかについては全く予想できなかった。また,本件優先
日当時,親水性の賦形剤を添加することにより生物学的利用能を改善
する方法が,当業者が通常行う方法として知られていたことを裏付け
る証拠はない。もっとも,甲イ7には,親水性の賦形剤を添加する例
の記載があるが,甲イ7は本件優先日の25年前の会議録であり,こ
の当時はまだ溶出試験については重視されておらず(乙5),上記記
載から,親水性の賦形剤を添加することにより生物学的利用能を改善
する方法が技術常識になっていたということはできない。
以上によれば,有効成分の生物学的利用能を改善するために,有効
成分の粒子径を細かくするという方法がとられること,難溶性薬物に
ついては,凝集の問題を防止するために,界面活性剤を添加して濡れ
性を高めたり,親水性の賦形剤を添加することが,本件優先日当時,
周知又は技術常識であった旨の原告らの主張は理由がない。
b 薬物(とりわけ難溶性の薬物)については,粒子径を小さくするこ
とにより一般には凝集性が高まり(甲イ16,甲ロ1),粉体の流動
性についても,粒子径が小さくなるほど,流動性が悪くなる傾向があ
り,凝集性が起こりやすいこと(甲イ7,16,甲ロ1,甲ハ7,乙
2,3),医薬品の粉砕は,粉砕中に溶融が起きたり,化学的安定性
が低下するなど,かなり多くの問題を有すること(甲イ16,甲ロ1,
乙1,2)は,本件優先日当時,技術常識であった。
このような技術常識に照らすと,本件優先日当時,ブレンド均一性
を改善するために,固体粒子を粉砕して粒子径を適切なサイズに小さ
くすることは,周知であった旨の原告らの主張は理由がない。
(イ) 相違点の容易想到性の主張に対し
a 原告ら主張の製薬組成物中の化合物の粒子径に関する周知技術又は
技術常識が誤りであることは,前記(ア)のとおりである。
また,針状の形状を化合物の最大長に着目して,粒度分布をD90で
規定することは,本件優先日当時,通常であったとはいえないし,「D
90が200μm」より大きい化合物の薬剤は特段珍しいものではなか
ったから(甲イ7,甲ロ3) 「D90が200μm未満」
, というのは,
薬剤組成物に用いられる難溶性の化合物であれば,ほとんどのものが
含まれるものとはいえない。
したがって,本件審決における甲イ7,16,17,23の記載事
項の認定の誤り,ブレンド均一性に関する認定判断の誤り及びD90
に関する認定の誤りをいう原告らの主張は理由がない。
b 以上によれば,当業者は,甲イ8から,セレコキシブ製剤の開発へ
の動機付けはもとより,難溶性,凝集性,ブレンド均一性などのセレ
コキシブ特有の課題も得られないから,当業者が,甲8発明から出発
して,相違点8-2に係る本件発明1の構成に至る試みをしたはずで
あるとはいえない。
加えて,凝集性の強いセレコキシブにおいて,粒子を細かく粉砕す
る方法を選択することには阻害要因もあるから,当業者が甲8発明及
び周知技術に基づいて,相違点8-2に係る本件発明1の構成を容易
に想到することはできたものとはいえない。
イ 小括
以上のとおり,本件審決における相違点8-2の容易想到性の判断に誤
りはない。
また,セレコキシブは,難溶性であり,かつ,凝集を起こす薬物である
から,粒子径を小さくすればさらに凝集し,かえって有効表面積が減少し,
溶解速度がさらに遅くなることや,さらなる凝集により流動性が悪化し,
ブレンド均一性も悪化することが予測されたにもかかわらず,本件発明1
は,セレコキシブの粒子を微小化することにより凝集性が改善し,生物学
的利用能及びブレンド均一性が改善するという当業者が予測できない顕著
な効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲8発明及び周知事項(周知技術)に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,これ
と同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2-1は理
由がない。
4 取消事由2-2(甲8発明を主引用例とする本件発明2ないし5,7ないし
19の進歩性の判断の誤り)について
(1) 原告らの主張
本件審決は,本件発明2ないし5,7ないし19はいずれも,本件発明1
にさらなる発明特定事項を付加したものであるから,本件発明1が甲8発
明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
はない以上,本件発明2ないし5,7ないし19も,甲8発明及び周知事
項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨判断
した。
しかしながら,本件審決における本件発明1の容易想到性の判断が誤り
であることは前記3(1)のとおりであるから,本件審決の上記判断は誤りで
ある。
(2) 被告の主張
前記3(2)で述べたとおり,本件発明1が甲8発明及び周知事項に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の
判断に誤りはないから,本件審決における本件発明2ないし5,7ないし1
9の容易想到性の判断の誤りをいう原告らの主張は,その前提において理由
がない。
したがって,原告ら主張の取消事由2-2は理由がない。
5 取消事由3(甲15発明に基づく本件発明1,2,7,18の新規性の判断
の誤り)について
(1) 原告らの主張
ア 本件発明1について
甲イ15には「方法。対象は,300mgの[14C]-SC-5863
5(100μCi)を微細な懸濁液として経口で単回,投与され,15日
間の休薬期間の後,300mgのSC-58635をカプセルとして投与
された。」(原文S-617頁発表番号3469の欄14行~16行・訳
文17行~19行)との記載がある。上記記載は,カプセルとして投与さ
れたセレコキシブの粒子径が明記されていないが,SC-58635(セ
レコキシブ)を経口用の微細な懸濁液とした構成を記載したものである。
しかるところ,経口用の懸濁液に含まれる平均粒子径は,通常数μmか
ら十数μmであること(甲イ70)に照らすと,当業者は,甲イ15の上
記記載から,甲15発明の微細な懸濁液に含まれるセレコキシブの平均粒
子径は数μmから十数μmであると認識できるから,甲イ15の上記記載
は,カプセルのセレコキシブの粒子径も同程度の大きさとすることが開示
されているに等しいものと認識し,把握することができる。
そして,平均粒子径が数μmから十数μmの十分に微細であれば,D90
は数十μm程度で十分収まるものといえるから,「セレコキシブ粒子のD
90 が200μm未満」(相違点15-1に係る本件発明1の構成)の数値
範囲に含まれる。
そうすると,甲15発明は,相違点15-1に係る本件発明1の構成を
有するものであるから,本件審決における相違点15-1の認定は誤りで
ある。
したがって,本件発明1は甲15発明と同一の発明でないとした本件審
決の判断は誤りである。
イ 本件発明2,7,18について
本件審決は,①本件発明2,7は,本件発明1にさらなる発明特定事項
を付加したものであるから,本件発明1は甲15発明と同一の発明といえ
ない以上,本件発明2,7は,甲15発明と同一の発明ではない,②本件
発明18は,本件発明1ないし5,7ないし17の使用方法の発明である
ところ,本件発明2ないし5,7ないし17はいずれも本件発明1にさら
なる発明特定事項を付加したものであるから,本件発明1は甲8発明と同
一の発明といえない以上,本件発明18は,実質的にも甲15発明と同一
の発明ではない旨判断した。
しかしながら,前記アのとおり,本件発明1が甲15発明と同一の発明
でないとした本件審決の判断は誤りであるから,本件発明2,7,18が
甲15発明と同一の発明でないとした本件審決の上記判断は誤りである。
ウ 小括
以上によれば,本件発明1,2,7,18は,甲15発明と同一の発明
であるから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張
ア 本件発明1について
甲イ15には,カプセルの粒子径については何ら記載がなく,また,懸
濁液とカプセルとでは製法が異なり,粒子径,添加物などの成分組成が相
違していることは技術常識であるところ,懸濁液とカプセルの粒子径は,
同程度であるとする根拠は示されていない。
そもそも,甲イ15には,当該製薬組成物(カプセル)の製造方法はお
ろか,当該製薬組成物の組成や当該製薬組成物の活性成分であるSC-5
8635の化学構造式や製法すら記載されていないから,引用発明として
の適格を欠くものである。
以上によれば,本件発明1は,甲15発明と同一の発明ではないとした
本件審決の判断に誤りはない。
イ 本件発明2,7,18について
前記アで述べたとおり,本件発明1が甲15発明と同一の発明でないと
した本件審決の判断に誤りはないから,本件審決における本件発明2,7,
18と本件発明15との同一性の判断の誤りをいう原告らの主張は,その
前提において理由がない。
ウ 小括
以上によれば,本件発明1,2,7,18は,甲15発明と同一の発明
ではないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告ら主張の取消事由
3は理由がない。
6 取消事由4(サポート要件の判断の誤り)について
(1) 原告らの主張
本件審決は,①本件発明1~4,7~19の課題は,未調合セレコキシブ
及び一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物
に比して,セレコキシブの凝集力が小さく,ブレンド均一性が高く,生物
学的利用能に優れる,セレコキシブを含み,一つ以上の個別な固体の経口
運搬可能な投与量単位を含む,製薬組成物又はその使用方法の提供にある,
②本件明細書には,針状の形態を有する未粉砕セレコキシブが,水溶性媒
体に溶解しにくく,組成物の混合中に凝集する傾向を有するものであるの
に対し,未粉砕セレコキシブをピンミルなどを利用して衝撃粉砕すること
で得られる微粒子セレコキシブは,凝集力が小さく,組成物の混合中にも
凝集しにくいことが示されるとともに,ブレンド均一性が高いこと(【0
008】,【0024】,【0025】),セレコキシブを微粉化するこ
とでその生物学的利用能が改善すること(【0021】,【0022】,
【0024】,【0124】,【0170】ないし【0177】特に【0
174】)が示されている,③甲7の記載(111頁4行~9行)は,錠
剤中の薬物の粒子径を細かくすると,たとえ薬物が疎水性のままであって
も,薬物の溶出及び吸収の速まることがあることを示しており,疎水性薬
物を含む錠剤で薬物の粒子径を小さくすると,親水性賦形剤を用いない限
り,薬物の溶解速度は遅くなりその生物学的利用能が悪化するということ
が技術常識であるとはいえない,④本件明細書の記載(【0001】ない
し【0010】,【0013】,【0021】,【0022】,【002
4】,【0025】,【0028】,【0040】,【0044】ないし
【0046】,【0054】ないし【0056】,【0062】,【00
67】ないし【0078】,【0124】,【0170】ないし【017
7】)に接した当業者は,本件発明1~4,7~19に係る製薬組成物が,
セレコキシブ粒子の「最大長におけるD 90 」が約37μm以下又は30μ
mであるか否かに関わりなく,また,賦形剤が親水性であるか疎水性であ
るかに関わりなく,上記課題を解決できるものであると認識できるから,
本件発明1~4,7~19は,発明の詳細な説明に記載したものであり,
発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるから,サポート要件に適合する旨判断した。
また,本件審決は,本件発明5の課題は,未調合セレコキシブ及び一つ
以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物に比して,
セレコキシブの凝集力が小さく,ブレンド均一性が高く,同じ投与量のセ
レコキシブを含有する経口運搬された溶液と比較して最低50%であるセ
レコキシブの相対的な生物学的利用能を有する,セレコキシブを含み,一
つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む,製薬組成物の提
供にある,ヒトにおける薬物動態を犬モデルにおける薬物動態から類推す
ることは当業者が通常行うことであって,犬モデルでの試験において当該
相対的な生物学的利用能の近似値が50%を超える組成物が本件明細書の
発明の詳細な説明に示されている以上,本件明細書の上記④の記載に接し
た当業者は,「一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10m
g乃至1000mgの量の微粒子セレコキシブを含み,一つ以上の個別な
固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物であって,粒子の最大
長において,セレコキシブ粒子のD 90 が200μm未満である粒子サイズ
の分布を有する製薬組成物」により,セレコキシブ粒子の「最大長におけ
るD90」が約37μm以下又は30μmであるか否かに関わりなく,また,
賦形剤が親水性であるか疎水性であるかに関わりなく,未調合セレコキシ
ブ及び一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成
物に比して,セレコキシブの凝集力が小さく,ブレンド均一性が高く,同
じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された溶液と比較して最低5
0%であるセレコキシブの相対的な生物学的利用能を有するという,課題
を解決できるものであると認識できるとして,本件発明5は,発明の詳細
な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が
当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,サポー
ト要件に適合する旨判断した。
しかしながら,以下のとおり,本件審決の判断は,いずれも誤りである。
ア 本件発明1の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が20
0μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると
認識できないこと
(ア)a 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件
発明1は,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が20
0μm未満である粒子サイズの分布を有する製薬組成物」であるから,
本件発明1がサポート要件に適合するというためには,「粒子の最大
長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」という数値
範囲の全体にわたり,本件明細書の詳細な説明の記載及び本件優先日
当時の技術常識から,当業者が本件発明1の課題を解決できると認識
できるものでなければならない。
本件審決は,本件発明1の課題は,未調合セレコキシブ及び一つ以
上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物に比
して,セレコキシブの凝集力が小さく,ブレンド均一性が高く,生
物学的利用能に優れる,セレコキシブを含み,一つ以上の個別な固
体の経口運搬可能な投与量単位を含む,製薬組成物の提供にある旨
認定した。
しかるところ,本件明細書には,D90が200μm未満である構
成が具体的に記載されているのは,例13(D90が約37μm以下)
(【0183】ないし【0186】)と例15(D90が約30μm以
下)(【0188】ないし【0197】)の2例のみである。
例13では,振動ミルで何回も粉砕したセレコキシブ粒子のD90
粒子サイズは約37μm以下であり,ラクトース及びポリビニルピロ
リドンと混合して湿式顆粒化し,ステアリン酸マグネシウムにより湿
潤化させてカプセル化させたところ,AUC(0-48)で測定した生物
学的利用能は懸濁液と同等であった旨記載されている。
例15では,衝撃式ピンミルで粉砕したセレコキシブ粒子のD 90
が30μm以下であり,ラクトース,ポリビニルピロリドン及びクロ
スカルメロースナトリウムと混合した後にラウリル硫酸ナトリウム
溶液を添加して湿式顆粒化し,乾燥,乾燥ミリング,ブレンディング
後,湿潤剤を均一に分散させてからカプセル化したことは記載されて
いるが,生物学的利用能についての記載はない。
そうすると,例13及び例15からいえるのは,セレコキシブ粒子
のD90が約37μm以下のカプセルは,AUC(0-48)で測定した生
物学的利用能は懸濁液と同等であったということであり, 90が20

0μm未満のセレコキシブ全体について,その生物学的利用能が優れ
ていると理解することはできない。
そして,前記3(1)ア(ア)のとおり,生物学的利用能と粒子径の大
きさは強い関連性があり,粒子径を小さくするほど生物学的利用能が
向上することは,本件優先日当時の技術常識であったが,ある粒子径
での生物学的利用能がさらに粒子径が大きくなった場合にも同様に
認められるとの技術常識は存在しない。また,例13及び例15は,
親水性の賦形剤を含むものであり,本件発明1は親水性の賦形剤を含
むものに限定されていないので,例13及び例15のものよりも,D
の粒子サイズが小さくなった場合においても,
90 親水性の賦形剤を含
まないものも含めて,その生物学的利用能が優れていると理解するこ
とはできない。
b これに対し被告は,①例13には懸濁液の粒子サイズは明記されて
いないが,例11-2の懸濁液と同様の方法で調製したと考えられる
ことから,懸濁液の粒子サイズが1μm程度と推測できることを前提
として,D90粒子サイズが37μmの場合であっても1μmと同様の
効果を奏するから,D90粒子サイズが37μm以上でも,420μm
より大きいサイズの粒子が含まれる未粉砕セレコキシブの生物学的利
用能と比較すると,改善された生物学的利用能を奏するであろうこと
は高い蓋然性を持って推測できる,②本件明細書の表11-2Aの組
成物A及び組成物Bに関する記載(【0172】,【0174】,【0
176】,【0177】)から,生物学的利用能の改善効果は,湿潤
剤によるものではなく,セレコキシブの微粉化によりもたらされてい
ることを理解できることからすると,本件発明1は,生物学的利用能
の改善に界面活性剤を必要としない,③セレコキシブ粒子の最大長に
おけるD90 が200μm未満である場合に生物学的利用能が改善さ
れることは,未粉砕のセレコキシブ(D90が669μm)を含有する
セレコキシブカプセルと粉砕したセレコキシブ(D90が196μm)
を含有するセレコキシブカプセルを用いた追加の試験結果(乙10)
からも確認できる旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,例11-2の組成物Dの懸
濁液は,粒子が顕微鏡で評価した際に約1μm径になるまで,ポリソ
ルベート80とポリビニルピロリドンのスラリーにて,薬をボールミ
ルさせて,懸濁液として調製したとの記載(【0173】)があるの
に対し,例13の懸濁液は,5%のポリソルベート80を含むエタノ
ールにセレコキシブを溶解させて調製したものであり【0185】,
( )
製造方法が異なり,懸濁液の粒子サイズも不明であるから,例11-
2の記載から,例13の懸濁液の粒子サイズを認識することはできな
い。また,例13の表13Bの結果を見れば,C max(ng/ml)
の値(最大血清濃度)は,カプセルは懸濁液の3分の2程度であり,
Tmax(h)の値(最大血清濃度に至るまでの時間)は,カプセルは
懸濁液の1.4倍程度要しており,T1/2(h)の値(血清濃度の最
終の半減期に至るまでの時間)も,カプセルは懸濁液の1.5倍程度
と長時間を要しているのであり,懸濁液とカプセルを比較すれば,両
製剤間の溶解特性に大きな違いがあると当業者であれば理解するから,
例13からは,カプセルに用いられたセレコキシブの粒子径を37μ
m以上に大きくした場合には十分な溶解特性が実現されると推測する
ことはできない。
次に,上記②の点については,本件明細書には,界面活性剤等の加
湿剤は,「水と親和性があるようにセレコキシブを維持させるように
選択することが好ましく,その状態が製薬組成物の相対的生物学的利
用能を改善させると考えられる。…かかる加湿剤は,組成物の全重量
に対して,全部の加湿剤で約0.25%から約15%,好ましくは約
0.4%から約10%,より好ましくは約0.5%から約5%の量を
含む。」(【0075】),「ラウリル硫酸ナトリウムは,組成物の
全重量の対して,約0.25%から約7%,好ましくは約0.4%か
ら約6%,より好ましくは約0.5%から約5%の量を含む。」(【0
076】)との記載がある。この記載に照らすと,2%のラウリル硫
酸ナトリウムを含む組成物Aは,適正な量の界面活性剤を含むもので
あり,既にその加湿剤の持つ生物学的利用能の改善効果が奏されてい
ると理解されるのに対して,25%ものラウリル硫酸ナトリウムを含
む組成物Bは,過剰量の加湿剤を含み,その効果は限界に達している
とみるべきであるから,組成物A及び組成物Bの生物学的利用能が同
等であるとはいえず,組成物A及び組成物Bに関する記載(【017
2】,【0174】,【0176】,【0177】)が生物学的利用
能の改善効果は湿潤剤によるものではないことの根拠にはならない。
さらに,上記③の点については,乙10の追試において,D90が1
96μmのカプセルの成分の組成は,本件明細書記載の例11-2の
組成物Aと同一の組成(セレコキシブ:25%,ラウリル硫酸ナトリ
ウム:2%,アビセル101:73%)であるが,ラウリル硫酸ナト
リウムを含ませることは本件発明1の構成要件ではないから,この追
試結果のみから,親水性賦形剤は生物学的利用能を改善する効果に関
係がないとはいえない。加えて,乙10の追試においては,ピンミル
により粉砕が行われているが,ピンミルで粉砕を行うことは,本件発
明1の構成要件ではなく,本件発明1では,生物学的利用能の改善の
ために行う微小化は衝撃粉砕法に限定されるものではないことに照ら
すと,この追試結果のみから,セレコキシブ粒子を微小化すれば,界
面活性剤や親水性賦形剤を含まなくても,セレコキシブの生物学的利
用能を改善する効果が達成されるということはできない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(イ) 本件発明1は,粒子の最大長においてセレコキシブ粒子のD90の値
をもって粒子サイズの分布を規定するが,D90のみで粒子径を規定して
も粒度分布を特定することができず,生物学的利用能との関係を理解す
ることはできない。
すなわち,D90(個数基準)の値は,ある薬剤の粒子を測定し,粒子
径が小さいものから順にカウントし,粒子の累積個数が90%に達した
ときの粒径の大きさがD90の値となるから,D90は,薬剤の粒度分布の
ごく一部を規定するものにすぎない。このため,単にD90の値だけを用
いて薬剤を規定しても,D90の値より小さい90%の粒子について,ど
の程度の粒径のものが,どの程度の割合で含まれるかは不明であり,ま
た,D90の値が同じであっても,粒子分布には様々なものがあり,D 9
0 の値より大きい10%の粒子について,どの程度の粒径のものが,ど
の程度の割合で含まれるかは不明である。この点に関し,被告は,別紙
2-1及び別紙2-2に基づいて,平均粒子径が小さくなれば,D90の
粒子分布図は小さい方向にシフトする旨主張するが,例えば,甲イ72
の図⑧(「D90値●●●●●μm」。別紙3)が示すとおり,必ずしも
被告の主張するような粒度分布になるものとはいえない。
そして,溶解特性,ブレンド均一性及び生物学的利用能の各向上の効
果は,いずれも薬剤の粒度分布全体によって効果が発揮されるものであ
って,粒度分布の一部を規定するに留まるD90の値を特定しても,その
中には様々な粒度分布が含まれるから,同一のD90の値を前提として,
ある粒度分布の薬剤について所望の効果が出たからといって,他の粒度
分布の薬剤についても同様の効果が奏されるということはできない。
したがって,当業者は,粒子の最大長においてセレコキシブ粒子のD
90 が200μm未満である粒子サイズの分布を有することにより,生物
学的利用能が改善するメカニズムを理解することができない。
(ウ) 以上によれば,本件明細書の詳細な説明の記載及び本件優先日当時
の技術常識から,本件発明1の「粒子の最大長において,セレコキシブ
粒子のD90が200μm未満」という数値範囲の全体にわたり,当業者
が本件発明1の課題を解決できると認識できるものではない。
したがって,本件発明1は,サポート要件に適合しない。
また,請求項1の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90
が200μm未満」を発明特定事項に含む本件発明7~19も,同様に
サポート要件に適合しない。
さらに,前記(ア)のとおり,本件発明1は親水性の賦形剤を含むもの
に限定されていないので,例13及び例15のものよりも,D90の粒子
サイズが小さくなった場合においても,親水性の賦形剤を含まないもの
も含めて,その生物学的利用能が優れていると理解することはできない
から,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が100μm
未満」を発明特定事項に含む本件発明2のほか,「粒子の最大長におい
て,セレコキシブ粒子のD90が40μm未満」を発明特定事項に含む本
件発明3及び「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が25
μm未満」を発明特定事項に含む本件発明4も,サポート要件に適合し
ない。
イ 本件発明5の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が20
0μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明5の課題を解決できると
認識できないこと
本件発明5の特許請求の範囲(請求項5)は,請求項1記載の製薬組成
物を発明特定事項に含むものであるから,本件発明5がサポート要件に適
合するというためには,請求項1の「粒子の最大長において,セレコキシ
ブ粒子のD90が200μm未満」という数値範囲の全体にわたり,本件明
細書の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から,当業者が本
件発明5の課題(「同じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された
溶液と比較して最低約50%であるセレコキシブの相対的な生物学的利
用能を有する」との課題)を解決できると認識できるものでなければなら
ない。
しかるところ,本件明細書には,相対的生物学的利用能が50%に達す
例11-2の組成物A及び組成物Bの構成「平均粒子サイズ10~20μ
m」(【0172】)のみが記載され,この記載から,平均粒子サイズが
10ないし20μmより大きい場合にも同様の生物学的利用能があると
認識することができない。むしろ,本件明細書の【0124】 「例えば,

例11に例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約
60μmから約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常
に改善される。」との記載から,セレコキシブのD90粒子サイズが約60
μmと約30μmの間には生物学的利用能の差が大きいことを理解でき
る。
そして,例11-2の組成物A及び組成物Bの相対的生物学的利用能は
せいぜい39.9~60.6%しかないことに照らすと,当業者は,例1
1-2の記載から,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90
が200μm未満」という数値範囲の全体にわたり,50%の相対的生物
学的利用能が認められると認識できない。
したがって,本件明細書の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術
常識から,本件発明5の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD
90 が200μm未満」という数値範囲の全体にわたり,当業者が本件発明
5の課題を解決できると認識できるものではないから,本件発明5は,サ
ポート要件に適合しない。
ウ 小括
以上によれば,本件発明1~5,7~19は,サポート要件に適合する
とした本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張
ア 本件発明1の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が20
0μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると
認識できないことの主張に対し
(ア)a 未粉砕のセレコキシブのD90が200μmより大きいことは,本
件明細書記載の例13及び例18から理解できる。
すなわち,例13には,「セレコキシブは,連続した小さなスクリ
ーンサイズ(#14,#20,#40)を備えた振動ミルを介して何
回も粉砕した。」(【0184】)との記載があり,このスクリーン
サイズ「14,20及び40メッシュ」は,それぞれ1410μm,
840μm及び420μmのふるいサイズであること(【0167】)
からすると,例13には,1410μmより大きいサイズの粒子が含
まれていたことを理解できる。また,例18には,「100mg投与
量のカプセルに利用した製薬組成物は,セレコキシブ出発物質を40
メッシュ振動スクリーン(他のミルは行わなかった)に通し」(【0
205】)との記載があることから,例18においては,少なくとも
420μmより大きい粒子サイズの粒子が一定程度含まれていたこと
を理解できる。
そして,本件明細書の「D90は200μm以下,好ましくは約10
0μm以下,より好ましくは75μm以下,さらに好ましくは約40
μm以下,最も好ましくは約25μm以下である」(【0022】)
との記載から,このような未粉砕のセレコキシブを粉砕することによ
り生物学的利用能が改善することを理解できる。
さらに,セレコキシブは粒子を小さくすることにより生物学的利用
能が改善することは,本件明細書記載の例11-2の実験により示さ
れている。
すなわち,組成物A(微粉化,平均粒子サイズ10~20μm),
組成物D(分散,約1μm),組成物F(未粉砕)の生物学的利用能
は,セレコキシブの粒子サイズが減少するにつれて増大することを理
解できる(【0172】~【0177】,表11-2C,表11-2
D)。
b この点に関し原告らは,本件明細書には,D90が200μm未満で
ある構成が記載されているのは,例13と例15の2例しかない旨主
張するが,上記のとおり,例11-2も,D90が200μm未満であ
る構成の例である。
(イ) 平均粒子サイズが1μmや10~20μmになるように調製された
粒子のD90が200μm未満となることは,別紙2-1及び別紙2-2
の粒子分布図から,容易に理解できる。すなわち,D90が200μmの
平均粒子径は,別紙2-1の山型の分布図のおよそ中央の値(青線)と
なる。粒子の分布の幅(最小値~最大値)は,甲イ2の図5-11及び
図5-12に示されている例では,最大値は最小値のおよそ10倍程度
であること,甲イ9の表4,表5では,D10とD90の大きさの比が10
倍程度であることに照らすと,別紙2-1の粒子分布図における最大値
と最小値はそれぞれ約200μm,約20μmとなるから,平均粒子サ
イズ(青線)はその中央値であるおよそ100μmとなる。
そして,平均粒子サイズ1μmや10~20μmは100μmより小
さいから,別紙2-2のとおり,山型の分布が全体的に粒子径の小さい
(左)方向にスライドすることになり,これらのD90は200μmより
小さい値となる。
また,本件明細書には,例13のヒトへの投与実験において,同一の
被験者にまず懸濁液が投与され,その後,D90粒子サイズが37μm以
下であるカプセル剤が投与されたとき,懸濁液とカプセル剤のそれぞれ
のAUC(0-48)が同等であったことが確認されている(【0183】な
いし【0186】,表13B)。例13には懸濁液の粒子サイズは明記
されていないが,例11-2の懸濁液と同様の方法で調製したと考えら
れることから,1μm程度と推測できる。
そして,セレコキシブの生物学的利用能は粒子サイズが減少するにつ
れて増大するということは,粒子が大きくなるにつれて生物学的利用能
の改善効果は減ずることになることを意味するが,D90粒子サイズが3
7μmのときですら,1μmと同様の効果を未だに奏するのだから,D
90 粒子サイズが37μm以上でも,420μmより大きいサイズの粒子
が含まれる未粉砕のセレコキシブの生物学的利用能と比較した場合には,
改善された生物学的利用能を奏するであろうことは,高い蓋然性を持っ
て推測できる。
以上によれば,当業者は,本件明細書の記載から,未粉砕セレコキシ
ブを小さくすることにより,D90が200μm未満の範囲において本件
発明1の課題を解決できると認識できる。
(ウ)a 本件発明1の課題解決のメカニズムは,セレコキシブの粒子の最
大長におけるD90が200μm未満とされることにより,元来凝集し
やすい性質のセレコキシブの凝集性が減少し,その結果セレコキシブ
粒子の有効表面積が増大することにより溶解速度が速くなり,セレコ
キシブの生物学的利用能が改善するというものである。
セレコキシブは本来的に凝集性が強い物質であるところ,粒子を微
細化するほど粉体の流動性が悪くなり凝集が起こりやすくなることは,
本件優先日当時の技術常識であった(乙2,甲イ16,甲ロ1,甲ハ,
乙2)。しかし,ピンミルを利用した場合には,セレコキシブは長い
針状から微小化した均一な粒子になるのに対して,エアージェットミ
ルを利用した場合には長い針状の結晶が残存するため,ピンミルを利
用して粉砕した場合と比較して,液体エネルギーミルで粉砕した場合
は凝集力が改善されにくいこと(【0024】)から,単にセレコキ
シブの粒子を微細化して平均粒子径を小さくすればよいというのでは
なく,微細化した粒子中に残存する長い針状の結晶の割合こそが重要
であり,その割合が限定されなければならないということを見出し,
本件発明1では,微細化した粒子中に残存する粒子の最大長のD90を
基準として用いることとしたものである(【0022】)。
そして,セレコキシブ粒子の最大長におけるD90が200μm未満
である場合に,生物学的利用能が改善されるメカニズムが,本件明細
書の記載(【0167】,【0172】ないし【0177】,【01
83】ないし【0186】,【0205】,表11-2C,11-2
D)から確認できる。
また,別紙2-1及び別紙2-2の粒子分布図から,平均粒子サイ
ズが1μmや10~20μmになるように調製された粒子のD 90が
200μm未満となることが理解できることは,前記(イ)のとおりで
ある。
b 前記aのとおり,セレコキシブ粒子の最大長におけるD90が200
μm未満である場合に生物学的利用能が改善されるメカニズムは,本
件明細書の記載から理解できるものではあるが,この理解に誤りがな
いことは,未粉砕のセレコキシブ(D90が669μm)を含有するセ
レコキシブカプセルと粉砕したセレコキシブ(D90が196μm)を
含有するセレコキシブカプセルを比較して,D90が200μmのセレ
コキシブの生物学的利用能が改善することを示す追加の試験結果(乙
10)からも確認できる。
(エ) 本件発明1において,生物学的利用能の改善に界面活性剤を必要と
しないことは,本件明細書の記載から理解できる。
すなわち,本件明細書には,表11-2Aの組成物Aにはラウリル硫
酸ナトリウムが含まれているが,組成物Aで評価されているのはセレコ
キシブの微粉化の効果であり,組成物Bで評価しているのはラウリル硫
酸ナトリウムによる湿潤剤増加の効果であることが明記されている【0

172】)。そして,25%のラウリル硫酸ナトリウムを含む組成物B
の生物学的利用能は,ラウリル硫酸ナトリウムを2%しか含まない組成
物Aと比較して,低い(メス犬につき表11-2C)か同程度(オス犬
につき表11-2D)である。この記載から,生物学的利用能の改善効
果は,湿潤剤によるものではなく,セレコキシブの微粉化によりもたら
されていることを理解できる(【0174】)。
このように,ラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能の改善に必須
とされなかったがために,湿潤剤(加湿剤)については,「本発明の製
薬組成物は,任意であるが,好ましくは,キャリア材料として,一つ又
はそれ以上の薬剤学的に許容な加湿剤を含む。」(【0075】)と説
明がされている。
したがって,本件発明1は,界面活性剤を必須として,それにより生
物学的利用能が改善されるわけではない。
(オ) 以上によれば,本件発明1は,賦形剤が親水性である必要はなく,
また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術
常識から,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200
μm未満」という数値範囲の全体にわたり,当業者が未粉砕のセレコキ
シブと比較して生物学的利用能が改善することを認識できるから,本件
発明1はサポート要件に適合する。
そして,本件発明1を発明特定事項に含む本件発明7~19のほか,
「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が100μm未満」
を発明特定事項に含む本件発明2,「粒子の最大長において,セレコキ
シブ粒子のD90が40μm未満」を発明特定事項に含む本件発明3及び
「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が25μm未満」を
発明特定事項に含む本件発明4も,同様に,サポート要件に適合する。
イ 本件発明5の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が20
μm未満」の数値範囲の全体にわたり本件発明5の課題を解決できると認
識できないことの主張に対し
本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識か
ら,当業者がセレコキシブのD90粒子サイズを200μm未満とすること
により未粉砕のセレコキシブと比較して生物学的利用能が改善することを
認識できることは,前記アのとおりである。
そして,本件明細書には,例11-2において,組成物A及び組成物B
が本件発明5に含まれる製薬組成物を開示していることから,本件発明5
は,発明の詳細な説明に記載された発明であり,当業者が本件発明5の課
題を解決することができると認識することができる範囲のものである。
したがって,本件発明5はサポート要件に適合する。
ウ 小括
以上によれば,本件発明1~5,7~19は,サポート要件に適合する
とした本件審決の判断に誤りはないから,原告ら主張の取消事由4は理由
がない。
7 取消事由7(実施可能要件の判断の誤り)について
(1) 原告らの主張
前記6(1)で述べたのと同様の理由により,本件発明1~5,7~19は,
本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,当業者がその実施をすることが
できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって,本件発明1~5,7~19について実施可能要件に適合する
とした本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張
前記6(2)で述べたのと同様の理由により,本件発明1~5,7~19につ
いて実施可能要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 本件明細書の記載事項について
(1) 本件明細書の発明の詳細な説明には,次のような記載がある(下記記載中
に引用する【表4】(表4),【表5】(表5),【表6】(表6),【表
7】(表7A),【表8】(表7B),【表12】(表11-1),【表1
3】(表11-2A),【表14】(表11-2B),【表15】(表11
-2C),【表16】(表11-2D),【表20】(表13-A),【表
21】(表13-B)は,別紙1のとおりである。)。
ア 【0001】
発明の分野
本発明は,活性成分として,セレコキシブ(celecoxib)を含有
する経口運搬可能な製薬組成物と,かかる組成物の調製方法と,かかる組
成物を被験者へ経口投与することを含むシクロオキシゲナーゼ-2媒介疾
患の治療方法と,医薬品製造における,かかる組成物の使用に関する。
【0002】
発明の背景
4− [5− (4− メチルフェニル)− 3− (トリフルオロメチル)− 1H
− ピラゾール− 1− イル]ベンゼンスルホンアミド(本願では,以下「セ
レコキシブ」という)化合物は,かかる化合物の合成方法とともに,1,
5− ジアリールピラゾール及びそれらの塩のクラスを説明し,特許請求の
範囲として記載した,Talleyらへの米国特許第5,466,823
号に,以前報告した。セレコキシブは以下の構造を有している。
【0003】
【化1】
米国特許第5,466,823号に報告した1,5− ジアリールピラゾ
ール化合物は,本願では炎症及び炎症関連疾患を治療する際に有用である
として説明されている。米国特許第5,466,823号では,錠剤及び
カプセルのような経口運搬可能な薬量を含み,上記1,5− ジアリールピ
ラゾールの投与調合の一般的な基準が含まれている。Talleyらの米
国特許第5,466,823号では,シクロオキシゲナーゼ-2の選択的
阻害剤として説明し,慢性関節リウマチ及び骨関節炎と関連した他の状態,
疾患,病的状態を治療するために投与されるセレコキシブを含む1,5−
ジアリールピラゾールのクラスを報告している。
【0004】
J. Med. Chem. 40 (1997): 1347-1365での
Penningらによる「Synthesis and Biologic
al Evaluation of the 1,5-Diarylpyra
zole Class of Cyclooxygenase-2 Inhi
bitor: Identification of 4-[5-(4-Me
thylPhenyl-3-(trifluoromethyl)-1H
-pyrazol-1-yl)benzenesulfonamide(S
C-58635, Celecoxib)]では,セレコキシブを含む一連
のスルホンアミド含有1,5-ジアリールピラゾール誘導体の合成と,シ
クロオキシゲナーゼ阻害剤としての上記誘導体の評価が開示されている。
【0005】
Arthritis&Rheumatism, Vol.41, No.
9, September 1998, pp. 1591-1602でのS
imonらによる「Preliminary Study of the S
afety and Efficacy of SC-58635, a No
vel Cyclooxygenase 2 Inhibitor」では,慢
性関節リウマチ及び骨関節炎の治療におけるセレコキシブの効力及び安全
性の研究が報告されている。
【0006】
J. Rheumatology, Vol. 24, Suppl. 49,
pp. 9-14 (1997)でのLipskyらによる「Outcom
e of Specific COX-2 Inhibitor in Rhe
umatoid Arthritis」では,慢性関節リウマチを患ってい
る患者において,セレコキシブによるシクロオキシゲナーゼ-2の特異的
阻害は,炎症病気の活性の症状及び徴候を十分に抑制することを開示して
いる。
【0007】
1998年9月9日に公開された欧州特許出願第0863134A1号で
は,微結晶性セルロース,ラクトース一水和物,ヒドロキシプロピルセル
ロース,クロスカルメロースナトリウム(croscarmellose
sodium)及びステアリン酸マグネシウムを含む賦形剤と組合わせて,
シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤,具体的には,2-(3,5-ジフルオ
ロフェニル)-3-(4-メチル-スルホニル)フェニル」-2-シクロ
ペンテン-1-オンを含む組成物が開示されている。
イ 【0008】
被験者への効果的な経口投与のセレコキシブの調合は,今までのところ,
上記化合物の独特な物理的及び化学的性質,特に,その低溶解度及びその
結晶構造に関連した,凝集力,低バルク密度及び低圧縮性を含む要因によ
り,複雑である。セレコキシブは,水溶性媒体には異常なほど溶解しない。
例えば,カプセル形態で経口投与させた場合,未調合のセレコキシブは胃
腸管にて急速に吸収されるために,容易には溶解せず,分散もしない。加
えて,長く凝集した針を形成する傾向を有する結晶形態を有する未調合の
セレコシブは,通常,錠剤成形ダイでの圧縮の際に,融合して一枚岩の塊
になる。他の物質とブレンドさせたときでも,セレコキシブの結晶は,他
の物質から分離する傾向があり,組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝
集し,セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する,非均一なブレンド組
成物になる。したがって,所望のブレンド均一性を有するセレコキシブ含
有の製薬成分を調製することは難しい。さらに,セレコキシブを含有する
製薬成分の調製中に,取扱いに絡む問題に遭遇する。例えば,セレコキシ
ブの低バルク密度により,製薬成分の調合中に必要される少量を取扱うの
が難しい。したがって,特に,経口運搬可能な投与量単位のセレコキシブ
を含む適当な製薬成分及び投与形態の調製に関連した多くの問題を解決さ
せる必要性がある。
【0009】
より詳細には,未調合のセレコキシブ又は他のセレコキシブ組成物に対し
て,一つ又はそれ以上の,以下の特性を有する経口運搬可能なセレコキシ
ブ調合の必要性が存在する:
(1) 改善された溶解性
(2) より短い崩壊時間
(3) より短い溶解時間
(4) 減少した錠剤破砕性
(5) 増大した錠剤硬度
(6) 改善された濡れ性
(7) 改善された圧縮性
(8) 液体及び微粒子固体組成物の改善された流動性
(9) 最終仕上げ組成物の改善された物理的安定性
(10) 減少した錠剤又はカプセルサイズ
(11) 改善されたブレンド均一性
(12) 改善された投与量の均一性
(13) カプセル化及び/又は錠剤化中での重量変動の改善された制御
(14) 湿式顆粒組成物の増大した顆粒密度
(15) 湿式顆粒化に必要な少量な水
(16) 減少した湿式顆粒化時間
(17) 湿式顆粒混合物の減少した乾燥時間
後述するように,セレコキシブ治療は,シクロオキシゲナーゼ-2媒介状
態及び疾患の幅広い分野でその必要性が指摘され,潜在的に指摘されてい
る。したがって,さまざまな適応に特別に作られた生物学的利用能特性を
有する,ある範囲の調合を提供することには,非常に有益である。未調合
セレコキシブで可能であるよりも,急速に効き目のある薬物速度論を示す
調合を提供することは,特に有益である。
【0010】
かかる調合は,シクロオキシゲナーゼ-2媒介状態及び疾患の治療におい
て,顕著な進歩をもたらすであろう。
ウ 【0011】
発明の要約
一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物を提供し,
各単位量は,一つ又はそれ以上の製薬的に許容な賦形剤と密に混合した約
10mgから約1000mgの量の微粒子セレコキシブを含む。
【0012】
一つの実施例では,絶食状態の被験者に経口投与すると,1回の投与量単
位により,少なくとも一つの以下のものを有するセレコキシブの血清濃度
の時間経路を提供する:
(a) 投与後の約0.5時間よりも長くなく,100ng/mlに達する時

⒝ 投与後の約3時間よりも長くなく,最大濃度に達する時間(Tmax)
⒞ 約12時間以上で,100ng/ml以上のままである濃度の持続時

⒟ 約10時間以上で,最終の半減期(T1/2)
(e) 約200ng/ml以上の最大濃度(Cmax)
別の実施例では,組成物は等量のセレコキシブを含有する経口運搬された
溶液と比較して,約50%以上の相対的生物学的利用能を有する。
【0013】
さらに別の実施例では,組成物は,粒子の最長の大きさで,D90が約20
0μm以下であるように(サンプル粒子の90%はD90値よりも小さい),
セレコキシブ一次粒子サイズの分布を有する。
【0014】
組成物を含む投与量単位は,錠剤,ピル,硬質又は柔質カプセル,ロゼン
ジ,サシェイ(sachet)又はパステル(pastille)のよう
な個々の固体物品の形であり,あるいは,組成物は,1回の投与量単位が
測定可能なほどに除去される微粒子若しくは顆粒固体又は液状懸濁液のよ
うな,実質的に均質可流動の塊の形である。
エ 【0017】
発明の詳細な説明
本発明による新規な製薬組成物は,一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投
与量単位を含み,各投与量単位は約10mg乃至約1000mgの量の微
粒子セレコキシブを含み,シクロオキシゲナーゼ-2媒介疾患を患ってい
る被験者に経口投与した際に,シクロオキシゲナーゼ-2媒介疾患から迅
速に軽減させる能力のある優れた直接解放組成物である。
【0018】
理論に拘束されずに,上記組成物により付与された大きな臨床的有益は,
改善されたセレコキシブの生物学的利用能,特に,胃腸管でのセレコキシ
ブの驚くべく程の効果的な吸収の結果であると考える。かかる効果的吸収
は,投与後の経過時間に亘り,治療を受けた被験者のセレコキシブの血清
濃度を監視することにより,当業者には理解される。できるだけ短時間で,
投与後に急速の濃度が減少させずに,セレコキシブの有益な効果ができる
だけ長時間維持して,効果的なシクロオキシゲナーゼ-2阻害と一致する,
血清中のセレコキシブ濃度の閾値に達することが望ましい。
【0021】
絶対的な意味に,経口運搬されたセレコキシブの生物学的利用能は,測定
することが難しい。なぜならば,セレコキシブでもよくあることであるが,
水中にて低溶解性を有する薬に関係して,静脈運搬(かかる生物学的利用
能を決定することに対する標準)はすこぶる問題があるからである。しか
しながら,相対的な生物学的利用能は,適当な溶媒中でのセレコキシブの
経口投与溶液と比較して決定することが可能である。本発明の経口運搬さ
れた組成物では,驚くべきほど相対的に高い生物学的利用能が得られるこ
とが判明した。よって,本発明の一つの実施例では,経口投与されると,
各経口運搬可能な投与量単位は,等量のセレコキシブを含有するセレコキ
シブの経口運搬された溶液と比較して,約50%以上,好ましくは70%
以上の相対的な生物学的利用能を有する。後述するように,生物学的利用
能は経口投与後のある時間に亘り,セレコキシブの血清濃度の総合測定か
ら導かれる。
オ 【0022】
本発明の組成物は微粒子の形態のセレコキシブを包含する。セレコキシブ
の一次粒子は,例えば,製粉若しくは粉砕により,又は溶液から沈殿させ
て生成させ,凝集して二次の集合体粒子が形成される。本願で利用する用
語「粒子サイズ」とは,特に本願で指摘しない限り,一次粒子の最長の大
きさのことをいう。粒子サイズは,セレコキシブの臨床的効果に影響を与
える重要なパラメータであると考えられる。よって,別の実施例では,発
明の組成物は,粒子の最長の大きさで,粒子のD90が約200μm以下,
好ましくは約100μm以下,より好ましくは75μm以下,さらに好ま
しくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下であるように,セ
レコキシブの粒子分布を有する。通常,本発明の上記実施例によるセレコ
キシブの粒子サイズの減少により,セレコキシブの生物学的利用能が改良
される。
【0023】
加えて,あるいは,本発明の組成物におけるセレコキシブ粒子は,約1μ
mから約10μm,好ましくは約5μmから約7μmの平均粒子サイズを
有することが望ましい。
【0024】
セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち,ピンミル(pin mill)
のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて,本発明の組成物を作製
することは,改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である
だけでなく,かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特
性と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピン
ミルを利用して粉砕されたセレコキシブは,未粉砕のセレコキシブ又は液
体エネルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコ
キシブよりは凝集力は小さく,ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合
体には容易に凝集しない。減少した凝集力により,ブレンド均一性の程度
が高くなり,このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に
おいて,非常に重要である。これは,調合用の他の製薬化合物を調合する
際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ
結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく,衝撃粉砕により長い
針状からより均一な結晶形へ,セレコキシブの結晶形態を変質させ,ブレ
ンド目的により適するようになるが,長い針状の結晶はエアージェットミ
ルでは残存する傾向が高いと仮定される。
【0025】
ブレンド均一性は,セレコキシブをキャリア材料と湿式顆粒化させて製薬
成分を調製させることにより,特に,出発物質として利用したセレコキシ
ブを衝撃式ミルで粉砕させた際に,さらに改善されることをも発見した。
セレコキシブ出発物質を前述した粒子サイズになるように衝撃粉砕し,そ
の後湿式顆粒化を行うことが特に望ましい。
【0026】
別の実施例では,本発明の新規な製薬組成物は,希釈剤,崩壊剤,結着剤,
加湿剤及び潤滑剤から選択された一つ又はそれ以上のキャリア材料若しく
は賦形剤とともに,セレコキシブを含む。少なくとも一つのキャリア材料
は,水溶性希釈剤又は加湿剤であることが好ましい。かかる水溶性希釈剤
若しくは加湿剤は,製薬組成物が摂取されるときに,セレコキシブの分散
及び溶解を促進させる。水溶性希釈剤と加湿剤の双方が存在していること
が好ましい。本発明の成分は,微粒子若しくは顆粒固体又は液体のような
実質的には均質な可流動な塊であり,1回の投与量単位を含む,カプセル
又は錠剤のような個々の物品の形態である。
カ 【0028】
発明の組成物の有用性
本発明の組成物は,シクロオキシゲナーゼ-2による媒介される幅広い範
囲の疾患の治療及び予防に有効である。現在考えている組成物は,以下の
ものに限定されないが,被験者の炎症の治療に有用であり,例えば,痛み
及び頭痛の治療における鎮痛剤として,発熱の治療における解熱薬として
有用である。例えば,かかる組成物は,以下のものに限定されないが,慢
性関節炎リウマチ,脊髄関節炎,痛風関節炎,骨関節炎,全身性エリテマ
トーゼス及び若年性関節炎を含む関節疾患の治療に有用である。さらに,
かかる組成物は,喘息,気管支炎,月経痛,プレタームレイバー(pre
term labor),腱炎,滑液包炎,アレルギー神経炎,サイトメガ
ロウイルス感染性,HIV誘発アポトーシスを含むアポトーシス,腰痛,
肝炎を含む肝臓病,乾癬,湿疹,アクネ,UV損傷,火傷及び皮膚炎のよ
うな皮膚関連状態,白内障の外科手術又は屈折性外科手術のような手術後
の眼科手術を含む手術後の炎症の治療に有用である。考えている組成物は,
炎症性腸に関係する病気,クローン病,胃炎,過敏性腸症候群及び潰瘍性
大腸炎のような胃腸状態を治療するのに有用である。考えている組成物は,
片頭痛,結節性動脈周囲炎,甲状腺炎,再生不良性貧血,ホジキン病,ス
カレオドーマ(sclerodoma),リウマチ熱,I型糖尿病,重症
筋無力症を含む神経筋接合病,多重硬化を含む白質病,類肉腫症,ネフロ
ーゼ症候群,ベーチット症候群,多発筋炎,歯肉炎,腎炎,過敏症,脳水
腫を含む損傷後に発生する腫れ,心筋虚血などの病気における炎症の治療
に有用である。考えている組成物は,網膜炎,結膜炎,網膜症,ブドウ膜
炎,眼性光恐怖症のような眼性病や,眼組織への急性損傷の治療において
有用である。考えている組成物はウイルス感染及び嚢胞性線維症と関連す
る肺炎や,骨粗しょう症に関連するような骨吸収の治療において有用であ
る。考えている組成物は,アルツハイマー病,神経退化を含む皮質痴呆の
ような特定の中枢神経システム疾患や,発作,虚血及びトラウマからの結
果の中枢神経システム損傷の治療に有用である。本願で利用する用語「治
療」とは,アルツハイマー病を含む痴呆,血管痴呆,多重梗塞痴呆,初老
期痴呆,アルコール性痴呆及び老人性痴呆の部分的若しくは完全な抑制を
含む。
キ 【0039】
定義
本願で使用する用語「活性成分」とは,別に特記しなければセレコキシブ
を意味する。
【0040】
本願で使用する用語「賦形剤」とは,被験者へ活性成分を運搬するための
ビヒクルとして使用される物質のことをいい,活性成分に添加された物質
は,例えば,取扱いを改善させ,若しくはその結果生じた組成物を,所望
及び一貫した経口運搬可能な単位投与量に形成させることを可能にする。
賦形剤には,例に示すが,それに限定されないが,希釈剤,崩壊剤,結着
剤,接着剤,加湿剤,潤滑剤,グリンダント(glidant),マスク
するために添加する物質があり,悪い味若しくは臭気を打ち消し,フレー
バ,色素,投与形態の外観を改善させるために添加した物質,及び経口投
与形態の調製に従来から利用されている活性成分以外の他の物質がある。
【0041】
本願で利用する用語「アジュバント」とは,活性成分を含む製薬成分に存
在する若しくは添加された際に,活性成分の作用を改良させるものをいう。
本願で利用する用語「単位投与量」とは,シクロオキシゲナーゼ-2媒介
状態又は疾患の治療若しくは予防のため,被験者への1回の経口投与を意
図する活性成分の量のことをいう。シクロオキシゲナーゼ-2媒介疾患の
治療は,セレコキシブの単位投与が定期的に必要であり,例えば,1回の
単位投与は1日に2回以上であり,その1回の単位投与は各食事の際に行
われ,1回の単位投与は4時間おき,若しくは他の間隔で行われ,1日に
1回でもよい。
本願で利用する用語「投与量単位」とは,活性成分の1回の単位投与量を
含む製薬組成物の部分のことをいう。本発明の目的では,投与量単位は,
錠剤又はカプセルのような個々の物品の形態であり,活性成分の単位投与
量を含有する溶液,懸濁液などの測定可能な体積を有している。
【0042】
本願で利用する用語「経口運搬可能な」とは,被験者の口を介して,被験
者の胃腸管に投与することを意味している。
【0043】
成分の組合わせを含有する製薬組成物を説明するために,本願で利用する
用語「実質的に均質」とは,成分が十分に混合されており,個々の成分が
分離されて個々の層にならない,若しくは成分内で濃度勾配が生じないこ
とを意味する。
【0044】
本願で利用する用語「生物学的利用能」とは,胃腸管を経由して血流に吸
収された活性成分の量の尺度に関係している。具体的には,本願で利用す
る「生物学的利用能」は,AUC(0‐∞)で表わされ,同じ投与量で静脈
を介して運搬された活性成分に対するAUC( 0‐∞)の割合として表現さ
れた,特に経口投与された成分で表わされる。
【0045】
本願での用語「相対的生物学的利用能」とは,同じ投与量で活性成分の経
口投与された溶液に対するAUC(0‐∞)の割合として表現された特定経
口投与成分のAUC(0‐∞)で表わされる。
【0046】
本願での用語「AUC(0‐24)」,「AUC(0‐48)」及び「AUC(0
‐72 )」とは,リニアトラペゾイダルルール(linear trapez
oidal rule)を利用して決定し,(ng/ml)hの単位で表現
され,血清濃度が投与後0からそれぞれ24時間,48時間若しくは72
時間と関係する曲線下での領域を意味している。
【0047】
本願の用語「AUC(0‐LQC)」とは,リニアトラペゾイダルルールを利
用して決定され,(ng/ml)hの単位で表現され,血清濃度が投与後
の0から最後の定量化濃度(「LQC」)の時間に関係する曲線下の領域
を意味する。本願の用語「AUC(0‐∞)」は,AUC(0‐LQC)+LQ
C/(‐b)として計算され,ここで,LQCは最後の定量化された血清
濃度であり,bはT1/2の計算からの傾きであり,(ng/ml)hの単
位で表現される。
【0048】
本願の用語「Cmax」とは,観測された最大の血清濃度若しくは濃度/時
間曲線から計算され,あるいは見積られ,ng/mlの単位で表現された
最大の血清濃度を意味する。本願の用語「Tmax」とは,投与後Cmaxにな
り,時間(h)の単位で表現される時間を意味する。
【0049】
本願の用語「T1/2」とは,濃度-時間曲線の最終段階でのデータポイン
トに対する,自然対数log(ln)濃度対時間の簡単な線形回帰から決
定された,血清濃度の最終の半減期を意味する。T 1/2は‐ln(2)/
(‐b)として計算され,時間(h)の単位で表現される。
【0050】
本願での用語「吸収速度」とは,Cmax/AUC(0‐LQC)を意味する。
ク 【0051】
本発明の組成物により提供されるセレコキシブ投与
本発明の製薬組成物は,約10mgから約1000mgの1日の投与量で,
セレコキシブの投与に適する。通常,本発明の組成物の各投与量単位は,
1日の投与量の10分の1から全体の1日の投与量のセレコキシブの量を
含む。本発明の組成物は,投与量単位につき,約10mgから約1000
mg,好ましくは約50mgから約800mg,より好ましくは75mg
から約400mg,さらに好ましくは約100mgから約200mgの量
のセレコキシブを含む。投与量単位が経口投与に適する個々の物品の形態
であるときに,例えば,カプセル若しくは錠剤であるとき,夫々のかかる
物品は約10mgから約1000mg,好ましくは約50mgから約80
0mg,より好ましくは約75mgから約400mg,さらに好ましくは
約100mgから200mgのセレコキシブを含む。
【0054】
特定の状態及び疾患の治療
本発明の製薬組成物は,シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤の投与が必要と
されう場合に有用である。上記組成物は,例えば,リウマチ様関節炎およ
び骨関節炎の治療,一般に,痛みの管理(特定の口腔外科手術後の痛み,
一般の外科手術後の痛み,整形手術後の痛み及び骨関節炎の急性拡大)に
対して,アルツハイマー凝の治療及び結腸癌化学的予防に,特に有効であ
る。
【0055】
リウマチ様関節炎の治療では,本発明の組成物は,約50mgから約10
00mg,好ましくは約100mgから約600mg,より好ましくは約
150mgから約500mg,さらに好ましくは約175mgから約40
0mg,例えば,200mgのセレコキシブの毎日の投与量のために利用
することが可能である。本発明の組成物を投与する際に,体重当たり約0.
67から13.3mg,好ましくは体重当たり約1.33から約8.00
mg,より好ましくは体重当たり約2.00から約6.67mg,さらに
好ましくは体重当たり約2.33mgから約5.33mg,例えば,体重
当たり約2.67mgのセレキコシブの1日の投与量は,通常,適当であ
る。1日の投与は,1日に1回から4回,好ましくは1日に1回若しくは
2回の投与がよい。多くの患者にとっては,1日の2回,1回100mg
の割合で本発明の組成物を投与することが好ましいが,ある患者では,1
日に2回で1回200mgの投与量若しくは1回100mgを2回の投与
が有益であることもある。
【0056】
骨関節炎の治療では,本発明の組成物は,約50mgから約1000mg,
好ましくは約100mgから約600mg,より好ましくは約150mg
から約500mg,さらに好ましくは約175mgから約400mg,例
えば,約200mg のセレコキシブの1日の投与量を提供するために利
用可能である。本発明の組成物を投与する際に,kg体重当たり約0.6
7mgから約13.3mg,好ましくはkg体重当たり約1.33から約
8.00mg,より好ましくは約2.00mgから約6.67mg,さら
に好ましくはkg体重当たり約2.33から約5.33mg,例えば,k
g体重当たり約2.67mgのセレコキシブの1日の投与量は,通常,適
当である。1日の投与は1日1回から4回,好ましくは1日1回若しくは
2回の投与が好ましい。1日に2回の投与では1回100mg,若しくは
1回で200mgの投与の割合で,本発明の組成物を投与することが好ま
しい。
ケ 【0062】
本発明の組成物の形態
本発明の製薬組成物は,経口投与に適した,一つ又はそれ以上の好ましい
非毒性であり,薬剤学的に許容なキャリア,賦形剤及びアジャバント(本
願では,まとめて「キャリア材料」又は「賦形剤」という)と組合わせた
セレコキシブを含む。そのキャリア材料は組成物の他の成分と相溶性があ
るという意味において,許容されなければならず,さらに,賦形剤にとっ
て有害であってはならない。本発明の組成物は,適当なキャリア材料の選
択及び目的の治療に効果的であるセレコキシブの投与量により,適当な経
口ルートによって投与されるのに適する。したがって,利用するキャリア
材料は固体若しくは液体である,又はその両方であり,組成物は約1%か
ら約95%,好ましくは約10%から約90%,より好ましくは約25%
から約85%,さらに好ましくは約30から約80%重量のセレコキシブ
を含有する。本発明のかかる製薬組成物は,成分を混合することを含み,
何れかの周知の薬学に関する技術により調製可能である。
【0067】
キャリア材料又は賦形剤
前記したように,本発明の製薬組成物は,経口投与に適する一つ又はそれ
以上の薬剤学的に許容なキャリア材料と組合わせて,投与量単位あたり治
療に若しくは予防処置的に有効な量のセレコキシブを含む。本発明の組成
物は,薬剤学的に許容な希釈剤,崩壊剤,結着剤,接着剤,加湿剤,潤滑
剤及びアンチ付着剤からなる群から選択された一つ又はそれ以上のキャリ
ア材料と混合させた所望の量のセレコキシブを含むことが好ましい。さら
に好ましくは,かかる組成物は,即座に解放するカプセル又は錠剤の形態
で,従来の投与のために錠剤化又はカプセル化される。
【0068】
本発明の製薬組成物に利用されるキャリア材料の選択及び組合わせにより,
組成物は,効き目,生物学的利用能,クリアランス時間,安定性,セレコ
キシブとキャリア材料の相溶性,安全性,溶解プロファイル,崩壊プロフ
ァイル及び/又は他の薬物速度論的,化学及び/又は物理的性質に関して,
改善された性能を示す。キャリア材料は水溶性若しくは水分散性であるこ
とが好ましく,セレコキシブの低水溶液溶解性及び疎水性を相殺する湿潤
的性質を有する。組成物が錠剤として調合されると,選択されたキャリア
材料の組合わせにより,溶解及び崩壊プロファイル,硬度,破砕強度及び
/又は破砕性において改善される。
【0069】
希釈剤
本発明の製薬組成物は,キャリア材料として,一つ又はそれ以上の薬剤学
的に許容な希釈剤を任意に含む。適当な希釈剤には,個々に又は組合わせ
て利用され,ラクトースUSP;ラクトースUSP無水物;ラクトースU
SP噴霧乾燥;スターチUSP;直接圧縮させたスターチ;マンニトール
USP;ソルビトール;デキストローズ一水和物;微結晶性セルロースN
F;二塩基性リン酸カルシウム二水和物NF;スクロースベース希釈剤;
粉砂糖;一塩基性硫酸カルシウム一水和物;硫酸カルシウム二水和物NF;
乳酸カルシウム三水和物顆粒NF;デキストレート,NF(例えば,エム
デックス(Emdex));セルタブ(Celutab);デキストロー
ズ(例えば,セレローズ(Cerelose));イノシトール;マルト
ロン(Maltron)及びモル‐レックス(Mor-Rex)のような
加水分解穀物;アミロース;レクセル(Rexcel);粉末セルロース
(例えば,エルセマ(Elcema));炭酸カルシウム;グリシン;ベ
ントナイト;ポリビニルピロリドンなどがある。存在するならば,かかる
希釈剤は,組成物の全重量に対して,希釈剤全体で約5%から約99%,
好ましくは約10%から約85%,より好ましくは約20%から約80%
を含むことが好ましい。選択された希釈剤又は希釈剤類は,錠剤が好まし
いときには,適当な流動性と,圧縮性を示すことが好ましい。
【0070】
単独で又は組合わせて利用するラクトース及び微結晶性セルロースは希釈
剤として好ましい。双方の希釈剤はセレコキシブと化学的に相溶性を有す
る。エクストラグラニュラ微結晶性セルロース(つまり,乾燥工程後に湿
式顆粒組成物に微結晶性セルロースを添加)の使用により,(錠剤の)硬
度及び/又は崩壊時間が改善される。ラクトース,具体的にはラクトース
一水和物が特に好ましい。通常,ラクトースは,比較的低希釈剤コストで,
適当なセレコキシブ放出速度,安定性,予め圧縮させるための流動性及び
/又は乾燥性質を有する製薬組成物を提供する。(湿式顆粒が利用される
場合,)顆粒化中の高密度化を促進する高密度の物質を提供し,したがっ
て,ブレンド流動性が改善される。
【0071】
崩壊剤
本発明の製薬組成物は,特に錠剤調合用に,キャリア材料として,一つ又
はそれ以上の薬剤学的に許容な崩壊剤を任意に含む。単独で若しくは組合
わせて利用される適当な崩壊剤には,スターチ;スターチグリコール酸ナ
トリウム;(ベエガン(Veegum)HVのような)粘度;(精製セル
ロース,メチルセルロース,カルボキシメチルセルロースナトリウムやカ
ルボキシメチルセルロースのような)セルロース;アルギン酸類;(ナシ
ョナル1551及びナショナル1550のような)予めゼラチン化させた
コーンスターチ;クロスポビドン(crospovidone)USP
NF;(寒天,グアラ(guar) イナゴマメ,
, カラヤ(Karaya),
ペクチン及びトラガカントのような)ゴムがある。崩壊剤は,製薬組成物
の調製中の適当な工程で添加することが可能であり,特に,顆粒化前若し
くは圧縮前の潤滑工程中が好ましい。存在するならば,かかる崩壊剤は,
組成物の全重量に対して,全体の崩壊剤で約0.2%から約30%,好ま
しくは約0.2%から約10%,より好ましくは約0.2%から約5%の
量を含む。
【0072】
クロスカルメロースナトリウム(croscarmellose sodi
um)は,錠剤又はカプセル崩壊剤として好ましい崩壊剤であり,存在す
るならば,組成物の全重量に対して,約0.2%から約10%,好ましく
は約0.2%から約6%,より好ましくは約0.2%から約5%の量を含
む。クロスカルメロースナトリウムにより,本発明の組成物に優れた顆粒
内崩壊能力が付与される。
【0073】
結着剤及び接着剤
本発明の組成物は,特に錠剤調合用に,キャリア材料として,一つ又はそ
れ以上の薬剤学的に許容な結着剤若しくは接着剤を任意に含む。かかる結
着剤及び接合剤により,サイジング,潤滑,圧縮及びパッケージングのよ
うな通常の処理を可能にするように,錠剤化されるべきパウダーに十分な
凝集力を付与することが好ましいが,錠剤が崩壊可能であり,組成物は摂
取により吸収される。単独で若しくは組合わせて利用される適当な結着剤
及び接着剤には,アラビアゴム;トラガカント;スクロース;ゼラチン;
グルコース;スターチ;以下のものに限定されないが,メチルセルロース
及びナトリウムカルボキシメチルセルロース(例えば,タイロース(Ty
lose))のようなセルロース材料;アルギン酸及びその塩;珪酸マグ
ネシウムアルミニウム;ポリエチレングリコール;グアラゴム(guar
gum);多糖酸;ベントナイト;ポリビニルピロリドン;ポリメタクリ
レート;ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);ヒドロキシ
プロピルセルロース(Klucel);エチルセルロース(Ethoce
i);(ナショナル1511及びスターチ1500のような)予めゼラチ
ン化させたスターチがある。存在するならば,かかる結着剤及び/又は接
着剤は,組成物の全重量に対して,結着剤及び/又は接着剤全部で約0.
5%から約25%,好ましくは約0.75%から約15%,より好ましく
は約1%から約10%の量を含む。
【0074】
ポリビニルピロリドンは,セレコキシブ調合の顆粒化のため,セレコキシ
ブパウダーブレンド及び他の賦形剤に凝集性を与えるために利用される,
好ましい結着剤である。存在するならば,ポリビニルピロリドンは,組成
物の全重量に対して,約0.5%から約10%,好ましくは約0.5%か
ら約7%,より好ましくは約0.5%から約5%の量を含む。約20cP
sまでの粘度のポリビニルピロリドンが利用されるが,約6cPs又はそ
れ以下の粘度が好ましく,特に約3cPs又はそれ以下が好ましい。ポリ
ビニルピロリドンにより,パウダーブレンドに凝集力が付与され,必要な
結合が容易に起こり,湿式顆粒化中に顆粒を形成させる。加えて,ポリビ
ニルピロリドンを含む本発明の組成物は,特に湿式顆粒化により調製され,
他の組成物に対して相対的に改善された生物学的利用能を示すことが判明
した。
【0075】
加湿剤
セレコキシブは水溶液にかなり溶解しにくい。したがって,本発明の製薬
組成物は,任意であるが,好ましくは,キャリア材料として,一つ又はそ
れ以上の薬剤学的に許容な加湿剤を含む。かかる加湿剤は,水と親和性が
あるようにセレコキシブを維持させるように選択することが好ましく,そ
の状態が製薬組成物の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。
単独で又は組合わせて利用される適当な加湿剤には,オレイン酸;モノス
テアリン酸グリセリン;ソルビタンモノオレイン酸エステル;ソルビタン
モノラウリン酸エステル;トリエタノールアミンオレイン酸塩;ポリオキ
シエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル;ポリオキシエチレンソル
ビタンモノラウリン酸エステル;オレイン酸ナトリウム;ラウリル硫酸ナ
トリウムがある。アニオン性界面活性剤である加湿剤が好ましい。存在す
るならば,かかる加湿剤は,組成物の全重量に対して,全部の加湿剤で約
0.25%から約15%,好ましくは約0.4%から約10%,より好ま
しくは約0.5%から約5%の量を含む。
【0076】
ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在するならば,ラウ
リル硫酸ナトリウムは,組成物の全重量の対して,約0.25%から約7%,
好ましくは約0.4%から約6%,より好ましくは約0.5%から約5%
の量を含む。
【0077】
潤滑剤
本発明の製薬組成物は,キャリア材料として一つ又はそれ以上の薬剤学的
に許容な潤滑剤及び/又はグリダント(glidant)を任意に含む。
単独で或いは組合わせて利用する適当な潤滑剤及び/又はグリダントには,
グリセリルベハペート(glyceryl behapate)(Comp
ritol 888);ステアリン酸塩類(マグネシウム,カルシウム及び
ナトリウム),ステアリン酸;硬化植物油(例えば,ステロテックス(S
terotex));タルク;ワックス;ステアロウェット(Stear
owet);ホウ酸;安息香酸ナトリウム;酢酸ナトリウム;フマル酸ナ
トリウム;塩化ナトリウム;DL‐ロイシン;ポリエチレングリコール(例
えば,カルボワックス4000及びカルボワックス6000);オレイン
酸ナトリウム;ラウリル硫酸ナトリウム及びラウリル硫酸マグネシウムが
ある。存在するならば,かかる潤滑剤は,組成物の全重量に対して,潤滑
剤全体で約0.1%から約10%,好ましくは約0.2%から約8%,よ
り好ましくは約0.25%から約5%の量を含む。
アテアリン酸マグネシウムは好ましい潤滑剤であり,例えば,錠剤調合の
圧縮中の装置と顆粒化混合物との摩擦を減少させるために利用される。
(アンチ付着剤,色剤,着香剤,甘味料及び保存剤のような)他のキャリ
ア材料は,製薬技術の分野では周知であり,本発明の組成物に含有させる
ことが可能である。例えば,酸化鉄を組成物に添加して色を黄色にさせる
こともできる。
【0078】
カプセル及び錠剤
本発明のある実施例では,製薬組成物は単位投与量のカプセル及び錠剤の
形であり,所望の量のセレコキシブと結着剤とを含む。好ましい組成物は,
薬剤学的に許容な希釈剤,崩壊剤,結着剤,加湿剤及び潤滑剤からなる群
から選択された一つ又はそれ以上のキャリア材料をさらに含む。より好ま
しくは,その組成物はラクトース,ラウリル硫酸ナトリウム,ポリビニル
ピロリドン,クロスカルメロースナトリウム,ステアリン酸マグネシウム
及び微結晶性セルロースからなる群から選択された一つ又はそれ以上のキ
ャリア材料を含む。さらに好ましくは,組成物はラクトース一水和物及び
クロスカルメロースナトリウムを含む。さらに好ましくは,組成物は一つ
又はそれ以上のキャリア材料であるラウリル硫酸ナトリウム,ステアリン
酸マグネシウム及び微結晶性セルロースをさらに含む。
コ 【0124】
カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ
カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると,セレコキシブ粒子サイズ
の減少により,セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見した。
したがって,セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下,好まし
くは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに好ましく
は約40μm以下,最も好ましくは25μm以下である。例えば,例11
に例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60μ
mから約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に改善
される。加えて又はあるいは,セレコキシブは約1μmから約10μmで
あり,好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均粒子サイズを有する。
【0125】
顆粒化二次粒子サイズ及び流動性
本発明の製薬組成物は,例えば,直接カプセル化させる若しくは直接圧縮
させるかにより調製可能であるが,カプセル化又は圧縮に先立ち,湿式で
顆粒化させることが好ましい。湿式顆粒化は,他の効果の中で,粉砕組成
物を高密度化させて流動性及び圧縮特性を改善させ,カプセル化又は錠剤
化させるのに組成物の測定又は重量分散を容易にする。顆粒化から生じる
二次粒子サイズ(つまり,顆粒サイズ)は,厳密には重要ではないが,平
均顆粒サイズは,錠剤化の従来のハンドリング及び加工を可能にすること
は重要であり,薬剤学的に許容な錠剤を形成する直接圧縮可能混合物が生
成することが可能になる。
サ 【0134】
セレコキシブ組成物の調製方法
本発明は,セレコキシブを含む製薬組成物の調製方法にも関する。特に,
本発明は,微粒子の形態であるセレコキシブを含む製薬組成物の調製方法
に関する。より具体的には,本発明は,別々の単位投与量の錠剤若しくは
カプセル形態のセレコキシブ組成物の調製方法に関するものであり,各錠
剤若しくはカプセルは約12乃至24時間に亘り治療効果をもたらすのに
十分なセレコキシブの量を含有する。例えば,各投与量単位には,約10
0mg乃至約200mgのセレコキシブを含有することが好ましい。本発
明によれば,湿式顆粒化,乾式顆粒化又は直接圧縮若しくはカプセル化方
法が利用され,本発明の錠剤若しくはカプセル組成物を調製する。
【0135】
湿式顆粒化は,本発明の製薬組成物の好ましい調製方法である。湿式顆粒
化過程にて,(必要ならば,一つ又はそれ以上のキャリア材料とともに)
セレコキシブは先ず粉砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。
さまざなま粉砕器若しくは破砕器が利用することが可能であるが,セレコ
キシブのピンミリングのような衝撃粉砕により,他のタイプの粉砕と比較
して,最終組成物に改善されたブレンド均一性がもたらせる。例えば,液
体窒素を利用してセレコキシブを冷却することは,セレコキシブを不必要
な温度へ加熱させることを回避するために,粉砕中に必要なことである。
前記にて議論したように,上記粉砕工程中にD90粒子サイズを約200μ
m以下,好ましくは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,
さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下に小さ
くすることは,セレコキシブの生物学的利用能を増加させるためには重要
である。
【0136】
粉砕若しくは微粉化されたセレコキシブは,セレコキシブとともに粉砕さ
れたキャリア材料を含む一つ又はそれ以上のキャリア材料と,例えば,高
せん断ミキサー/グラニュレータ,遊星形ミキサー,トゥイン‐シェルブ
レンダー若しくはシグマミキサーにてブレンドされ,乾燥粉末混合物が生
成する。典型的には,薬は一つ又はそれ以上の希釈剤,崩壊剤及び/又は
結着剤と,選択的に,上記工程にて一つ又はそれ以上の加湿剤とブレンド
されるが,あるいは全ての若しくはある部分に一つ又はそれ以上のキャリ
ア材料がその後の工程で添加される。例えば,クロスカルメロースナトリ
ウムが崩壊剤として利用される錠剤調合では,ブレンド工程中にある部分
のクロスカルメロースの添加(顆粒内のクロスカルメロースナトリウムが
生じる)と,後述する乾燥工程後に残りの部分の添加(顆粒外のクロスカ
ルメロースナトリウムが生じる)により,製造される錠剤の崩壊が改良さ
れることを発見した。上記の状況では,約60%乃至約75%のクロスカ
ルメロースナトリウムは顆粒内に添加され,約25%乃至約40%のクロ
スカルメロースナトリウムは顆粒外に添加される。同様に,錠剤調合では,
以下の乾燥工程後の微結晶性セルロースの添加(顆粒外微結晶セルロース
が生じる)により,顆粒の圧縮性が改善され,その顆粒から調製された錠
剤の硬度も改善されることを発見した。
【0137】
上記ブレンド工程は,セレコキシブ,ラクトース,ポリビニルピロリドン
及びクロスカルメロースナトリウムのブレンドからなる。3分程のできる
だけ短いブレンド時間により,セレコキシブの十分に均一な分散を有する
乾燥粉末混合物が生成することを発見した。例えば,それぞれ100mg
投与量カプセル(1080Kgの全バッチサイズ)と200mg投与量カ
プセル(918Kg全バッチサイズ)の調製に利用される乾燥粉末混合物
は,それぞれ,3.6%又はそれ以下と1.1%又はそれ以下の測定され
た相対的標準偏差値を示すセレコキシブ濃度を有する。
【0138】
その後,水,好ましくは精製水を前記乾燥粉末混合物に添加し,その混合
物をさらなる時間をかけてブレンドして,湿顆粒混合物が生成する。加湿
剤が利用されることが好ましく,最初に水の添加され,乾燥粉末混合物に
水を添加するのに先立ち,少なくとも15分間,好ましくは20分間混合
する。水をすぐに混合物添加することができ,時間をかけて徐々に添加す
ることもでき,又は時間をかけて数回にわけて添加することもできる。好
ましくは,水は徐々に添加することがよい。あるいは,加湿剤を乾燥粉末
混合物に添加し,それから,その結果生じた混合物に水を添加することも
可能である。
【0139】
例えば,例示する100mgの投与量カプセル(1080Kgバッチ)で
は,水の添加速度は約5乃至約25kg/分,好ましくは約7乃至約20
kg/分,より好ましくは約8乃至約18kg/分であり,適当な結果を
もたらす。水添加終了後のさらなる混合時間は,混合物中の水の均一な分
散を確実にする時間であることが好ましい。上記例示するバッチでの追加
の混合時間は,約2乃至約10分,好ましくは約3乃至約9分,より好ま
しくは約3乃至約7分であり,適当な結果をもたらす。上記バッチの湿顆
粒混合物は,約2重量%乃至約15重量%,好ましくは約4重量%乃至約
12重量%,より好ましくは約6重量%乃至約10重量%の水を含む。
【0140】
例えば,例示する200mg投与量のカプセル(918Kgバッチ)では,
約5乃至約25kg/分,好ましくは約7乃至23kg/分,より好まし
くは約8乃至約21kg/分の水の添加速度により,適当な結果が得られ
る。水添加終了後のさらなる混合時間は,混合物中の水の均一な分散を確
実にする時間であることが好ましい。上記例示バッチでは,約2乃至約1
5分,好ましくは約3乃至約12分,より好ましくは約3分乃至約10分
のさらなる混合時間により,適当な結果が得られる。上記バッチの湿顆粒
混合物は,約2重量%乃至約15重量%,好ましくは約6重量%乃至約1
4重量%,より好ましくは約8重量%乃至約13重量%の水を含む。
【0141】
その後,湿顆粒混合物は,例えば,スクリーニングミルにより湿式粉砕さ
れ,湿式顆粒化工程での副生成物として生成する材料の大きな凝集を排除
する。凝集物が除去できないなら,上記凝集はその後の流動床乾燥工程の
時間を長くし,水分制御に関して変動要因が増す。例示する100mg投
与量カプセル(1080Kgバッチ)及び200mg投与量カプセル(9
18Kgバッチ)では,例えば,適当な顆粒は,最大送り速度(feed
rate)の約50%,好ましくは約2%乃至約30%,より好ましくは
約5%乃至約20%までの送り速度を利用して得られる。
【0142】
それから,湿式顆粒化された若しくは湿式粉砕された混合物は,例えば,
オーブン又は流動床乾燥器,好ましくは流動床乾燥器で乾燥され,乾燥顆
粒が生じる。必要ならば,湿式顆粒化混合物は乾燥に先立ち,押し出され
球状化される。乾燥工程では,入口空気の温度及び乾燥時間のような条件
は,乾燥顆粒の所望の水分含有量になるように調整される。上記乾燥工程
及びその後の処理工程では,二つ又はそれ以上の顆粒化セクションを組合
わせることが好ましい。
【0143】
前述した例示の100mg投与量カプセル(1080kgバッチ)若しく
は200mg投与量カプセル(918kgバッチ)では,乾燥器の入口温
度は60℃に固定するが,他の入口温度は約50℃乃至約70℃の範囲で
利用することが好ましい。空気流速度は,約10%乃至約90%,好まし
くは約20%乃至約80%,より好ましくは約30%乃至約70%のダン
パー開口部で,約1000乃至8000立方フィート/分,好ましくは約
2000乃至約7000立方フィート/分,より好ましくは約4000乃
至約7000立方フィート/分の範囲で変化する。約35%乃至約10
0%,好ましくは約50%乃至約100%,より好ましくは約90%乃至
約100%の乾燥器負荷が利用される。上記条件下で調整された乾燥顆粒
の乾燥における平均損失は,通常,約0.1重量%乃至約2.0重量%で
ある。
【0144】
その後,必要な程度まで,圧縮若しくはカプセル化の調製にて,乾燥顆粒
はその大きさを小さくさせる。振動子又は(Fitzミルのような)衝撃
式ミル従来公知の粒子サイズ減少装置が利用可能である。例示の100m
g投与量カプセル(1080kgバッチ)では,例えば,適当な顆粒サイ
ズ減少は,約20%乃至約70%,好ましくは約30%乃至約60%の送
り速度と,約20%乃至約70%,好ましくは約40%乃至約60%のミ
ル速度と,約0.020インチ(0.5mm)乃至約0.070インチ(1.
7mm),好ましくは約0.028インチ(0.7mm)乃至約0.04
0インチ(1.0mm)のスクリーンサイズとを利用して得られる。例示
の200mg投与量カプセル(918kgバッチ)では,例えば,適当な
顆粒化は,約10%乃至約70%,好ましくは約20%乃至約60%の送
り速度と,約20%乃至約60%,好ましくは約30%乃至約50%のミ
ル速度と,約0.020インチ(0.5mm)乃至約0.080インチ(1.
9mm),好ましくは約0.028インチ(0.7mm)乃至約0.06
3インチ(1.6mm)のスクリーンサイズとを利用して行われる。しか
しながら,0.028インチ(0.7mm)のようなより小さなスクリー
ンサイズが観測され,生成物の低処理をまねく。0.063インチ(1.
6mm)のようなより大きなスクリーンサイズでは,850μmよりも大
きな顆粒の分布が増大する結果をまねく。約0.040インチ(1.0m
m)付近のスクリーンサイズでは,著しく処理を低下させることなく,8
50μmよりも大きなサイズの顆粒の過剰の分布を排除する。
【0145】
前述した湿式顆粒化及び湿式粉砕パラメータの変化は,顆粒サイズ分布を
調整するために利用される。例えば,顆粒サイズの僅かな減少は,少ない
量の水を含有する混合物にて混合時間を増やすにつれ,観測される。水濃
度は低すぎると利用する結着剤を十分に活性化させることができず,顆粒
中の一次粒子間の凝集力が十分でなく,混合ブレードと成長するよりも顆
粒サイズの摩擦により発生するせん断力が存在すると仮定される。逆に,
結着剤を十分に活性化させる水の量が増加することにより一次粒子間の凝
集力が大きくなり混合ブレードと,増大した混合時間及び/又は水添加速
度にて発生する摩擦よりも顆粒成長とで発生するせん断力が生じる。湿式
ミルのスクリーンサイズの変動は,送り速度及び/又はミル速度の変動よ
りも顆粒サイズに大きな影響を及ぼす。
【0146】
それから,乾燥顆粒はトゥイン‐シェルブレンダーのような適当なブレン
ダーに配置され,選択的に潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム)と追加の
キャリア材料(顆粒外微結晶性セルロース及び/又は特定の錠剤調合の顆
粒外クロスカルメロースナトリウム)を添加して,最終ブレンド混合物を
作る。ブレンド時間は利用する工程装置に一部依存する。前述した100
mg投与量カプセル及び200mg投与量カプセル(1080kg及び9
18kgバッチ)では,約15%乃至約60%の範囲のブレンダー負荷で
少なくとも約5分間のブレンド時間と,一貫して1分当たり少なくとも約
10回のブレンダー回転速度により,セレコキシブ濃度に関して,すこぶ
る均一であるブレンド材料が得られた。単位投与量のブレンドサンプルに
対して測定された相対的標準偏差は,100mg及び200mg投与量カ
プセルそれぞれで,3.9%又はそれ以下と2.2%又はそれ以下であっ
た。希釈剤には微結晶性セルロースがあるが,上記工程中でのある部分の
微結晶性セルロースの添加は,顆粒圧縮性及び錠剤硬度を著しく改善させ
ることが判明した。加えて,約1%乃至約2%の量の前記ステアリン酸マ
グネシウムを増やすことにより,錠剤の硬度が減少し,破砕性及び溶解時
間を増加させることが観測された。
【0147】
上記最終ブレンド混合物は,その後カプセル化される(あるいは,錠剤を
調製したいのなら,適当なサイズの道具を利用して所望の重量及び硬度の
錠剤に圧縮させる)。当業者に公知である従来公知な圧縮及びカプセル化
技術が利用される。約20mm乃至約60mmの範囲のベッドの高さと約
0乃至約5mmの範囲の圧密設定と,1時間あたり約60,000カプセ
ル乃至130,000カプセルの速度とを利用して,カプセルに対して適
当な結果が得られた。投与量の重量制御は観測され,(i)低速度及び高
圧縮, (ii)
又は 高速度及び高いベッドの高さの何れかにで減少させる。
したがって,上記パラメータの組合わせは注意深く制御される。スラグ(s
lug)形成は,カプセル重量制御が維持される最も低い圧密設定を利用
することにより,最小化若しくは排除されることをも発見した。被覆物の
ある錠剤が必要ならば,当業者には公知である従来の被覆技術を利用する
ことが可能である。
【0148】
ユニット作業の組合わせにより,単位投与量レベルでセレコキシブ含有量
が一様であり,容易に崩壊し,十分簡単に流れる顆粒が製造され,重量変
動はカプセル充填又は錠剤化中に信頼できるほどに制御され,且つ,バル
ク密度は十分であり,選択された装置にてバッチ処理可能であり,個々の
投与量は特定のカプセル若しくは錠剤ダイに適合する。
シ 【0161】
例4:200mg投与量錠剤
錠剤は以下の成分を有するように調製された。
【0162】
【表4】…
調製された錠剤は,0.275インチx0.496インチ(6.6mmx
11.9mm)の変形カプセル形の錠剤であった。
【0164】
【表5】…
例6:溶解試験
USPメソッド2の(へらのついた)装置を利用して,例1及び例2のカ
プセル並びに例3及び例4の錠剤の溶解速度を求めた。上記試験の目的の
ため,未被覆の錠剤を利用した。1%のラウリル硫酸ナトリウム/0.0
4MNa3PO4(pH=12)溶液の1000mlを,溶解用の液体とし
て利用した。その溶液は37±5℃の温度に維持し,試験中は50rpm
で攪拌させた。12の同一の錠剤若しくはカプセルを試験した。12の錠
剤若しくはカプセルはそれぞれ別々に,12の標準溶解ベセルの一つに置
き,各15,30,45及び60分後に,5mlの溶液部分を各ベセルか
ら取出した。各ベセルからのサンプルを濾過し,サンプルの吸光度を測定
した(UV分光器;2mm光路の石英セル;243nm若しくはUVの最
大波長;ブランクは溶解媒体)。測定した吸光度に基づき,溶解割合を計
算した。溶解試験の平均結果を表6に掲載する。なお,上記試験条件の高
いpHでの溶解度は胃腸管での溶解度を示すものではない。
【0165】
【表6】…
例7:粒子サイズ解析
表7Aは,カプセル化に先立ち,それぞれ例1と例2の湿式顆粒化させた
製薬組成物の粒子サイズのふるい解析の結果を示す。「スクリーンに保持
された割合」とは,指摘したふるいサイズよりも大きな粒子サイズを有す
る全バッチの重量%を意味する。
【0166】
【表7】…
表7Bは,錠剤へ圧縮させる前に,それぞれ例3と例4の湿式顆粒化製薬
組成物の粒子サイズのふるい解析の結果を示す。「バッチの割合」とは,
指摘したふるいサイズと次に小さい古いサイズとの間の粒子サイズを有す
る全バッチの重量%を意味する。「蓄積されたバッチの割合」とは,指摘
したふるいサイズよりも大きい粒子サイズを有する全バッチの重量%を報
告する。
【0167】
【表8】…
ス 【0170】
例11:犬モデルでの生物学的利用能
9乃至13ポンド(4.1乃至5.9kg)の重量のある健康なメスのビ
ーグル犬は,以下のセレコキシブの1回の投与を受けた:(1)kg体重
当たり5.0mgのセレコキシブの静脈注入に続き,kg体重当たり5.
0mgのセレコキシブの第二の静脈注入;(2)経口溶液形態のkg体重
当たり5mgのセレコキシブ;(3)経口カプセルの形態のkg体重当た
り5.0mgのニートな未調合セレコキシブを投与する。静脈及び経口溶
液投与のビヒクルは,体積比で2:1の比率である平均分子量400(P
EG‐400)を有するポリエチレングリコールと水の混合物であった。
各静脈注入は,2回の注入に分け,15乃至30分で15分の間隔をおい
て与えた。
【0171】
多くの血液サンプルを,ヘパリン化チューブへの静脈穿刺又は留置カテー
テルにより各動物から集めた。血清中のセレコキシブ濃度はHPLCにて
測定し,その結果データを,以下の表11− 1に示す薬物速度論パラメー
タを計算するために利用した。
【0172】
【表12】…
例11− 2:犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能
セレコキシブ粒子サイズ,湿潤剤の増加濃度,pH及び懸濁液としてのセ
レコキシブの分散液のような調合パラメータの効果は,犬モデルの生物学
的利用能への経口溶液に対して評価した。調合する前にセレコキシブを微
粉化(平均粒子サイズ10乃至20μm)させる効果は,組成物Aにて試
験した。微粉化,添加湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム)と増加したマイ
クロ環境pH(Na3PO412H2O)の組合わせ効果を,組成物Bにて
試験した。湿潤剤(Tween80)をセレコキシブと密に接触させる効
果(単純な乾燥混合に対する共沈殿の効果)を,組成物Cにて試験した。
さらに微細化させた粒子サイズ(約1μm)と粒子を懸濁液に分散させた
効果を,組成物Dにて試験した。例11− 1(組成物E)にて利用したの
と同様なセレコキシブ溶液を,参考として用いた。加えて,カプセル(組
成物F)中の未粉砕,未調合セレコキシブの例11− 1のデータも,参考
として入れた。調合A,B,C,D,E及びFの特定の組成を表11− 2
Aにまとめる。
【0173】
【表13】…
(1) アンチソルベントとして5%のポリソルベート80の水溶液を利用
して,エタノール溶液から沈殿させた。
(2) 粒子が顕微鏡で評価した際に約1μm径になるまで,ポリソルベート
80とポリビニルピロリドンのスラリーにて,薬をボールミルさせて,懸
濁液として調製した。
(3) 体積比2:1のPEG‐400と水の溶液。
上記組成物を3つのオス犬と3つのメス犬のグループに投与した。グルー
プ1の犬には,選択乗換設計にて,kg体重当たり5mgのセレコキシブ
を含む溶液Eとカプセル調合A及びBを投与した。グループ2の犬には,
選択乗換設計にて,kg体重当たり5mgのセレコキシブを含むカプセル
調合Cと懸濁液Dを投与した。血漿サンプルを24時間かけて集め,HP
LCによりセレコキシブを解析した。
【0174】
上記実験の結果(表11− 2B,11− 2Cおよび11− 2C)から,粒
子サイズを小さくする(組成物A)又は湿潤剤とともにセレコキシブを共
沈殿させる(組成物C)は,例11− 1に示す未調合の初期の研究と比較
して,セレコキシブの生物学的利用能(AUC(0‐24)として測定)が増
大した。セレコキシブの生物学的利用能は,PEG‐400/水溶液(組
成物E)から懸濁液(組成物D)へと大きくなった。約1μmの粒子サイ
ズを有する懸濁液からの生物学的利用能は,溶液からの生物学的利用能と
同様であり,湿式顆粒された固体組成物からのセレコキシブ生物学的利用
能は小さなセレコキシブ粒子サイズ(例えば,調合に先立ち,セレコキシ
ブのピンミルによるもの),セレコキシブの増大した濡れ性(例えば,顆
粒液体にラウリル硫酸ナトリウムを含有させることによるもの)や分散改
良(例えば,顆粒化にてクロスカルメロースナトリウムを含有させること
による)により改善可能であることを,強く示唆している。各調合に対す
る表11− 2Cおよび11− 2Dに示される生物学的利用能は,例11−
1と例11− 2の研究間の掛け橋として,溶液データ(組成物E)を利用
して,セレコキシブの静脈投与に対する実験的に測定された生物学的利用
能の割合として,上記調合の生物学的利用能を表わす。
【0175】
【表14】…
【0176】
【表15】…
【0177】
【表16】…
セ 【0183】
例13
以下の調合を有するカプセルを調製し,評価した。
【0184】
【表20】…
セレコキシブは,連続した小さなスクリーンサイズ(#14,#20,#
40)を備えた振動ミルを介して何回も粉砕した。上記混合物に添加した
セレコキシブ粒子のD90粒子サイズは,約37μm以下であった。セレコ
キシブ,ラクトース及びポリビニルピロリドンを遊星型ミキサーボールに
て混合し,水を用いて湿式顆粒化させた。その後顆粒を60℃でトレイに
て乾燥させ,40メッシュスクリーンを通して粉砕し,V―ブレンダーに
てステアリン酸マグネシウムにより湿潤化させてドソナー型カプセル化器
にてカプセル化させた。カプセルのインビトロ溶解プロファイルは,US
P2法と溶解媒体として15mMのリン酸緩衝液とを利用して求めた。1
5分後には約50%のインビトロ溶解が達成され,約30分後には95%
以上のインビトロ溶解が達成された。
【0185】
上記の100mg単位投与量カプセルの吸収,分散,代謝及び排除プロフ
ァイルは,14C‐セレコキシブの懸濁液プロファイルと比較した。その研
究は,健康なオスの被験者にて行ったオープンラベルで,ランダム交差研
究であった。懸濁液は,5%のポリソルベート80を含むエタノールにセ
レコキシブを溶解させて調製し,投与に先立ち,その混合物をアップルジ
ュースに添加した。懸濁液を受けた被験者はセレコキシブの300mg投
与量を摂取した。カプセル形態のセレコキシブを受けた被験者は,全体で
セレコキシブを300mg投与させるために,100mg投与量単にのカ
プセルを3つ受け入れた。カプセルからの吸収速度は,懸濁液のそれより
も遅かったが,AUC(0-48)にて測定した際には,懸濁液同等であった。
平均結果を,以下の表13Bに報告する。セレコキシブは尿又は大便の何
れかに,約2.56%のみの放射線投与にて殆ど代謝された。
【0186】
【表21】…
ソ 【0188】
例15:100mg投与量のカプセルの調製
100mg若しくは200mgのセレコキシブを投与し,それぞれ例1若
しくは例2に示す組成物を有するカプセルは,図1若しくは図2に示す方
法で,製薬的に許容な製造に基づき調製された。100mg若しくは20
0mgのセレコキシブを与え,それぞれ例3若しくは例4に示す組成物を
有する錠剤は,図1若しくは図2に示す適当な方法を変更させて調製され,
組成物をカプセル化させる代わりに,錠剤化させ,クロスカルメロースナ
トリウムおよび微結晶性セルロースの添加を利用した。
【0189】
以下に示す出発物質を利用して,100mg投与のカプセルのバルク配合
を説明する方法では,典型的なバッチは4つの同じ顆粒化セクションから
なるが,顆粒化セクションの数は正確には重要ではなく,装置の処理能力
及び必要とされるバッチサイズに,主に依存する。
【0190】
粉砕
セレコキシブは,反対に回転するディスクによる衝撃式ピンミルにて混合
された。約8960rpm/5600rpm(回転rpm/反対回転rp
m)乃至112000rpm/5600rpmの範囲にあるミル速度にて,
粒子サイズは比較的狭い範囲(D90が30μm若しくはそれ以下)内で変
化し,ミル速度はバルクドラック微粉化過程には厳密には重要でないこと
を示唆した。図2は好ましい実施例を示す工程系統図を示し,セレコキシ
ブ出発物質は,キャリア材料とのブレンドに先立ち,衝撃式ミルにて,好
ましくはピンミルにて粉砕される。
【0191】
乾燥混合
セレコキシブ,ラクトース,ポリビニルピロリドン及びクロスカルメロー
スナトリウムは,1200LのニロフィールダーPMA-1200高速顆
粒器に移動させ,高速チョッパー及びインペラーで約3分間混合させた。
本乾燥混合時間では,湿式顆粒化工程の開始に先立ち,キャリア材料とセ
レコキシブの十分な混合が実現できた。
【0192】
湿式顆粒化
ラウリル硫酸ナトリウム(8.1kg)を精製USP水(23.7kg)
に溶解させた。結果生じた溶液を,約14kg/分の速度で顆粒器へ連続
的に添加した。全体の顆粒化時間は約6.5分であった。この顆粒化中に,
顆粒器の主要ブレードとチョッパーブレードは高速設定に配置させた。湿
式顆粒化させた混合物には,約8.1重量%の水を含有していた。あるい
は,乾燥混合工程にて,ラルリル硫酸ナトリウムはセレコキシブ,ラクト
ース,ポリビニルピロリドン及びクロスカルメロースナトリウムと混合さ
せ,精製USP水をラウリル硫酸ナトリウムを含む上記乾燥混合物に添加
することもできる。
(2) 前記(1)の記載事項によれば,本件明細書には,本件発明1に関し,次の
ような開示があることが認められる。
ア シクロオキシゲナーゼ-2の阻害剤であるセレコキシブは,水溶性媒体
には異常なほど溶解せず,例えば,未調合のセレコキシブがカプセル状態
で経口投与された場合,胃腸管で急速に吸収されるために,容易には溶解
せず,分解もしない,また,長く凝集した針を形成する傾向のある結晶形
態を有する未調合のセレコキシブは,通常,錠剤成形ダイでの圧縮の際に,
融合して一枚岩の塊になり,セレコキシブの結晶は,他の物質とブレンド
させたときでも,他の物質と分離する傾向があり,組成物の混合中にセレ
コキシブ同士で凝集し,セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する非均
一なブレンド組成物となり,所望のブレンド均一性を有するセレコキシブ
含有の製薬成分を調製することは難しいなどの問題があったため,従来,
未調合のセレコキシブに対して,生物学的利用能などが改善された経口運
搬可能なセレコキシブの調合の必要性が存在し,未調合セレコキシブで可
能であるよりも,急速に効き目のある薬物速度論を示す調合を提供するこ
とは,特に有益であった(【0003】,【0006】,【0008】,
【0009】)。
イ 「本発明」は,一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投与量単位を含む製
薬組成物であって,各単位量は,一つ又はそれ以上の製薬的に許容な賦形
剤と密に混合した約10mgから約1000mgの量の微粒子セレコキシ
ブを含み,粒子の最長の大きさで,D90が約200μm以下であるように
(サンプル粒子の90%はD90値よりも小さい),セレコキシブ一次粒子
サイズの分布を有する構成を有するものである(【0011】,【001
3】)。
2 本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術について
(1) 甲イ7,16,23,65ないし68,80,甲ロ1,甲ハ7,乙2及び
乙3には,次のような記載がある。
ア 甲イ7(「医薬品の溶出」(昭和52年10月30日刊行))
(ア) 「粒子径を細かくして表面積を増加させると,溶解速度を増大させ
ることができるはずである。しかし,単に表面積を増やすだけでは不十
分で,増加すべきなのは有効表面積である。有効表面積とは薬物が試験
液に接触する表面積である。薬物が疎水性で溶媒による濡れが劣る場合
には,粒子径を小さくすると凝集が起こり,有効表面積がかえって小さ
くなる結果,溶解速度が遅くなることがある。」(104頁下から14
行~10行)。
(イ) 「溶出液にポリソルベート80を0.2%加えると,フェナセチン
は速やかに溶けるようになり,この場合には溶解速度は粒子径が小さく
なるにつれて増大する。ポリソルベート80を添加すると,溶媒が薬物
粉末の表面をよく濡らすようになるため,溶解速度が粉砕の程度に従っ
て増すものと考えられる。」(106頁3行から6行)
(ウ) 「フェナセチンとフェノバルビタールの顆粒からの溶出速度は使用
した薬物の粒子径が細かいほど速くなるということを図4.4および図
4.5に示した。その理由は,造粒中に薬物粉体の表面が親水性となる
ので,粒子径を細かくするほど有効表面積が増加するためである。 (1

08頁8行~11行)
(エ) 「粉体が細かいほど比表面積は大きくなる。さらに,造粒により疎
水性の表面が親水性となるので,造粒の効果は最も細かい粉体に一番強
く現れるのである。」(109頁2行~3行)
(オ) 「この分野で行われた研究から,一般につぎのような結論をくだす
ことができる。すなわち,錠剤中の薬物の粒子径を細かくすると溶出お
よび吸収が速まる。この原因は,おそらくは錠剤製造に伴う操作にある。
つまり,薬物を親水性の賦形剤と混合し,造粒すると本来は疎水性の薬
物の表面が親水性になるためである。」(111頁4行~7行)
イ 甲イ16(「経口投与製剤の設計と評価」(平成7年2月10日刊行))
(ア) 「表面積を増大させる方法として,薬物粒子を微細化する手段が最
もよく利用される。」(168頁10行)
(イ) 「微細化により粒子径が小さくなると,表面積の増加により溶解速
度が増大する。」(168頁18行)
(ウ) 「微細化によりバイオアベイラビリティーを改善できることが多く
の難溶性薬物・・・で報告されている。」(168頁23行~25行)
(エ) 「しかし,微粉になればなるほど凝集が起こりやすく,粉砕により
水に接する表面積(有効表面積)が逆に小さくなり,溶解速度が小さく
なることがある。特に疎水性物質は凝集性が強い。・・・ここに界面活
性剤が存在すると,微粒子は凝集せずに均一に溶液中に分散され,粒子
サイズが小さいほど溶出速度は大きくなる。・・・このような場合,凝
集を防ぐ目的で,流動化剤や界面活性剤を微細化助剤として加えて粉砕
する手段が取られる。」(168頁下から4行~169頁4行)
ウ 甲イ17 「Micronization:A
( Method of I
mproving the Bioavailability of P
oorly Soluble Drugs」(平成10年4月刊行),以
下はその抄訳)
「難溶性薬物では,消化吸収はその溶解速度に依存する。これらの薬物の
粒子サイズを小さくすることで,その溶解速度が向上する。粉末を微粉化
するために,ボールミル又は流体エネルギーミルのいずれかの微粉砕ミル
が使用される。これらのプロセスを,グリセオフルビン,プロゲステロン,
スピロノラクトン及びジオスミンに適用した。各薬剤について,微粒子化
によって,それらの消化吸収,その結果としてそれらの生物学的利用能及
び臨床的有効性を改善した。」
エ 甲イ23(「固形製剤とバイオアベイラビリティ」(昭和56年2月4
日刊行))
「(2) 薬物の粒子径
水に対する溶解度が比較的小さな薬物では製剤中の薬物粉末の粒子
径によって,溶解速度が大きく異なる。一般に粒子からの物質の溶解
速度は,式4-1で示すNoyes-Whitneyの法則に従う。
-dM/dt=KS(Cs-C)・・・・・・・・・・式4-1
ただしMは粒子状態の物質の量,したがって,dM/dtは溶解速
度,Kは温度,溶剤,かくはん条件により定まる定数,Sは粒子の表
面積,Csは物質の溶解度,Cは時間tにおけるその物質の濃度であ
る。この式で明らかな様に,粒子の表面積Sに比例して溶解速度は大
きくなる。そして一定量の粒子については単位体積当りの表面積,比
表面積が大きければ大きい程溶解速度は大きくなる。」(38頁下か
ら5行~39頁5行)
オ 甲イ65(「医薬品の開発」(平成2年5月20日刊行))
「難溶性薬物の場合は溶解度が小さいために粒子表面の拡散層の濃度勾配
が小さく,溶出速度が小さくなる。拡散層の濃度勾配は攪拌速度によって
も変化するが,in vivoでは大きく変えられることはない。溶解速
度を大きくするためには,粒子を小さくして比表面積を増大させることに
より可能となる。」(53頁下から6行ないし3行)
カ 甲イ66(「新しい製剤学」(平成5年9月10日刊行))
「 粉砕とは,機械的な外力を加えることによって粒子を破壊し,粒子径
を減少させることであり,製剤工程では重要な単位操作の一つである。
粉砕の主な目的は,①粒子の比表面積を増加させることによって化学
反応をよりスムーズに行わせること,②他の成分粒子との混合を容易に
することなどである。 ・
・ ・成分粒子の大きさが著しく異なる場合には,
均一な混合物を得るために混合に先立ってあらかじめ同程度の粒子径に
なるように粉砕しておかなければならない。 (212頁6行~15行)

キ 甲イ67(「製剤学」(改稿版)(昭和57年11月1日(改稿版第1
刷発行日))
「 製剤工程では乾燥された原料粉末が準備されると,まず最初に行われ
る操作が粉砕である。・・・粉砕の目的として挙げられる理由の中で主
なものは,1)化学反応に曝される粉体の比表面積を増加させること,
2)他の成分粉体との混合を容易にすることなどである。・・粒子径が
固形製剤の生物学的利用率bioavailabilityに影響を及
ぼすことは広く知られているが,これにはすべて比表面積が関係してい
る。」(170頁9行~16行)
ク 甲イ68 「製剤学」
( 改訂第3版(平成9年4月1日(改訂第3版発行))
「 粉砕は,固体粒子の粒子径を適切な大きさに小さくするための単位操
作である。粉砕の目的は,製剤工学的観点からは,溶解速度の増大とい
った物性の改善のみにとどまらず,固形製剤の添加剤を含めた原料粉粒
体間の混合の均一性の向上,造粒性の増大,さらには顆粒や錠剤の機械
的強度の増大などを期待することにある。」(168頁下から14行~
11行)
ケ 甲イ80(「経口投与製剤の設計と評価」(平成7年2月10日刊行))
「 たとえば,原体が針状結晶の場合は嵩だかく,充填性のみならず流動
性も悪いので,粉砕し造粒することがよく行われる。」(92頁1行~
2行)
コ 甲ロ1(「経口投与製剤の処方設計」(平成10年4月15日刊行))
「(a) 粉砕
粉砕は,固体試料に衝撃,圧縮,摩擦などの機械的な外力を加えて
粒子径を小さくする操作であり,その目的は,粒子径を小さくし,溶
解速度を大きくする,難水溶性薬物の経口吸収性を改善する,混合状
態を均一にする,打錠時の成形性を高めることなどである。
一般に粉砕・微細化された粉体は表面エネルギーが高く,静電気の
影響を受けやすく付着凝集性も高くなるので,取扱いは煩雑となる。
また,結晶状態の変化に伴い安定性の低下を来す場合もあるので,製
造工程に粉砕操作を組み入れる場合には,製品物質への影響を見極め
ることが必要がある。」(51頁下から12行~4行)
サ 甲ハ7(「日本結晶成長学会誌」(昭和56年7月1日刊行))
「難溶性の薬物の場合,バイオアベイラビリティーを向上させるために微
結晶にすることが望まれるが,そのことは,付着凝集性が増大するため流
動性や充填性といった二次物性を低下させることにつながる。」(427
頁左欄下から16行~12行)
シ 乙2(「経口投与製剤の処方設計」(平成10年4月15日刊行))
「(a) 造粒による粒子径の増大
粉体の流動性は,粒子径が小さくなるほど悪くなる傾向にある。・
・・・したがって,何らかの方法で粒子径の増大を図れば流動性を改
善することができるというわけである。すなわち,造粒操作による粒
子径の増大がこれに当たり,これが最近造粒散剤が汎用される理由で
もある。」(157頁12行~13行,159頁2行~4行)
ス 乙3 「製剤学」
( (改訂第3版)(平成9年4月1日(改訂第三版発行))
(ア) 「一般に安息角が大きいほど粉体の流動性は悪くなる。安息角と粒
子径の関係は・・安息角は粒子径が大きくなるに従い小さくなる。 (6

9頁2行~3行)
(イ) 「c 流動性の改善
粉体の流動性を改善するには以下の方法が試みられる。
② 造粒により粒子径を大きくする」(70頁1行~5行)
(2) 前記(1)の記載事項を総合すると,本件優先日当時,①粉砕によって薬物
の粒子径を小さくし,比表面積(有効表面積)を増大させることにより,薬
物の溶出が改善されるが,他方で,難溶性薬物については,溶媒による濡れ
性が劣る場合には,粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり,有効表
面積が小さくなる結果,溶解速度が遅くなることがあり,また,粒子を微小
化することにより粉体の流動性が悪くなり凝集が起こりやすくなることがあ
ること,②疎水性の難溶性物質であっても,界面活性剤が存在すると,微粒
子は凝集せずに均一に溶液中に分散され,粒子サイズが小さいほど溶出速度
は大きくなることは,周知又は技術常識であったものと認められる。
3 取消理由4(サポート要件の判断の誤り)について
原告らは,本件明細書の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識か
ら,本件発明1の「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200
μm未満」という数値範囲の全体にわたり,当業者が本件発明1の課題を解決
できると認識できるものではないから,本件発明1は,サポート要件に適合せ
ず,また,本件発明2ないし5,7ないし9も,同様に,サポート要件に適合
しないから,本件発明1~5,7~19は,サポート要件に適合するとした本
件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
(1) 本件発明1のサポート要件の適合性について
ア 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載に際し,発明の詳細な
説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したもの
であり,その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明について特
許請求の範囲に記載することになれば,公開されていない発明について独
占的,排他的な権利を請求することになって妥当でないため,これを防止
することにあるものと解される。
そうすると,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許
請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは,
当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明
に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができ
ると認識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
これを本件発明1についてみると,本件発明1の特許請求の範囲(請求
項1)の記載によれば,本件発明1は,「一つ以上の薬剤的に許容な賦形
剤と密に混合させた10mg乃至1000mgの量の微粒子セレコキシ
ブ」を含む「固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物」に関す
る発明であって,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が2
00μm未満である粒子サイズの分布を有する」ことを特徴とするもので
あるから,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。
そして,前記1(2)の本件明細書の開示事項によれば,本件発明1は,未
調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経口運搬
可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することを課題とするも
のであると認められる。
イ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,セレコキシブの生物学的利用
能に関し,「発明の組成物は,粒子の最長の大きさで,粒子のD90が約
200μm以下,好ましくは約100μm以下,より好ましくは75μ
m以下,さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm
以下であるように,セレコキシブの粒子分布を有する。通常,本発明の
上記実施例によるセレコキシブの粒子サイズの減少により,セレコキシ
ブの生物学的利用能が改良される。」(【0022】),「カプセル若
しくは錠剤の形で経口投与されると,セレコキシブ粒子サイズの減少に
より,セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見した。したが
って,セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下,好ましくは
約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに好ましくは
約40μm以下,最も好ましくは25μm以下である。例えば,例11
に例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60
μmから約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に
改善される。加えて又はあるいは,セレコキシブは約1μmから約10
μmであり,好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均粒子サイズ
を有する。」(【0124】),「湿式顆粒化過程にて,(必要ならば,
一つ又はそれ以上のキャリア材料とともに)セレコキシブは先ず粉砕さ
れる若しくは所望の粒子サイズに微細化される。さまざまな粉砕器若し
くは破砕器が利用することが可能であるが,セレコキシブのピンミリン
グのような衝撃粉砕により,他のタイプの粉砕と比較して,最終組成物
に改善されたブレンド均一性がもたらせる。例えば,液体窒素を利用し
てセレコキシブを冷却することは,セレコキシブを不必要な温度へ加熱
させることを回避するために,粉砕中に必要なことである。前記にて議
論したように,上記粉砕工程中にD90粒子サイズを約200μm以下,
好ましくは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに
好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下に小さくす
ることは,セレコキシブの生物学的利用能を増加させるためには重要で
ある。」(【0135】)との記載がある。これらの記載は,未調合の
セレコキシブを粉砕し,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μ
m以下」とした場合には,セレコキシブの生物学的利用能が改善される
こと,セレコキシブのピンミリングのような衝撃粉砕により,他のタイ
プの粉砕と比較して,最終組成物に改善されたブレンド均一性がもたら
せることを示したものといえる。
一方で,①本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「粒子の
最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子
サイズの分布を有する」構成とする具体的な方法を規定した記載はなく,
本件発明1の「微粒子セレコキシブ」が「ピンミリングのような衝撃粉
砕」により粉砕されたものに限定する旨の記載もないこと,かえって,
本件明細書の【0135】には,セレコキシブの微細化に関し,「さま
ざなま粉砕器若しくは破砕器が利用することが可能である」との記載が
あること,②本件明細書の【0008】には「セレコキシブは,水溶性
媒体には異常なほど溶解しない。例えば,カプセル形態で経口投与させ
た場合,未調合のセレコキシブは胃腸管にて急速に吸収されるために,
容易には溶解せず,分散もしない。加えて,長く凝集した針を形成する
傾向を有する結晶形態を有する未調合のセレコシブは,通常,錠剤成形
ダイでの圧縮の際に,融合して一枚岩の塊になる。他の物質とブレンド
させたときでも,セレコキシブの結晶は,他の物質から分離する傾向が
あり,組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集し,セレコキシブの不
必要な大きな塊を含有する,非均一なブレンド組成物になる。」との記
載があること,③本件優先日当時,粉砕によって薬物の粒子径を小さく
し,比表面積(有効表面積)を増大させることにより,薬物の溶出が改
善されるが,他方で,難溶性薬物については,溶媒による濡れ性が劣る
場合には,粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり,有効表面積
が小さくなる結果,溶解速度が遅くなることがあり,また,粒子を微小
化することにより粉体の流動性が悪くなり凝集が起こりやすくなること
があることは周知又は技術常識であったことに照らすと,難溶性薬物で
あるセレコキシブについて,「セレコキシブのD90粒子サイズが約20
0μm以下」の構成とすることにより,セレコキシブの生物学的利用能
が改善されることを直ちに理解することはできない。
また,本件明細書の記載を全体としてみても,粒子の最大長における
セレコキシブ粒子の「D90」の値を用いて粒子サイズの分布を規定する
ことの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との関係について具
体的に説明した記載はない。
しかるところ,「D90」は,粒子の累積個数が90%に達したときの
粒子径の値をいうものであり,本件発明1の「D90が200μm未満で
ある」とは,200μm以上の粒子の割合が10%を超えないように限
定することを意味するものであるが,難溶性薬物の原薬の粒子径分布は,
化合物によって様々な形態を採ること(甲イ72)に照らすと,200
μm以上の粒子の割合を制限しさえすれば,90%の粒子の粒度分布が
どのようなものであっても,生物学的利用能が改善されるとものと理解
することはできない。
以上によれば,本件明細書の【0022】,【0124】及び【01
35】の上記記載から,「セレコキシブのD90粒子サイズが約200μ
m以下」とした場合には,その数値範囲全体にわたり,セレコキシブの
生物学的利用能が改善されると認識することはできない。
(イ) この点に関し被告は,①本件発明1の課題解決のメカニズムは,セ
レコキシブの粒子の最大長におけるD 90が200μm未満とされるこ
とにより,元来凝集しやすい性質のセレコキシブの凝集性が減少し,そ
の結果セレコキシブ粒子の有効表面積が増大することにより溶解速度が
速くなり,セレコキシブの生物学的利用能が改善するものである,②ピ
ンミルを利用した場合には,セレコキシブは長い針状から微小化した均
一な粒子になるのに対して,エアージェットミルを利用した場合には長
い針状の結晶が残存するためピンミルを利用して粉砕した場合と比較し
て,液体エネルギーミルで粉砕した場合は凝集力が改善されにくいこと
(本件明細書の【0024】)から,単にセレコキシブの粒子を微細化
して平均粒子径を小さくすればよいというのではなく,微細化した粒子
中に残存する長い針状の結晶の割合こそが重要であり,その割合が限定
されなければならないということを見出し,本件発明1では,微細化し
た粒子中に残存する粒子の最大長のD 90を基準として用いることとし
た,③セレコキシブ粒子の最大長におけるD90が200μm未満である
場合に,生物学的利用能が改善されるメカニズムが,本件明細書の記載
(【0167】,【0172】ないし【0177】,【0183】ない
し【0186】,【0205】,表11-2C,表11-2D)から確
認できる,④平均粒子サイズが1μmや10~20μmになるように調
製された粒子のD90が200μm未満となることは,別紙2-1及び別
紙2-2の粒子分布図から理解できる旨主張する。
しかしながら,被告が指摘する本件明細書の上記記載中には,粒子の
最大長におけるセレコキシブ粒子の「D90」の値を用いて粒子サイズの
分布を規定することの技術的意義や「D90」の値と生物学的利用能との
関係について説明した記載はない。
また,前記(ア)で述べたように,本件発明1の「微粒子セレコキシブ」
が「ピンミル」(「ピンミリング」)を利用して粉砕されたものに限定
されるものではないから,「ピンミル」を利用することを前提として,
セレコキシブ粒子の最大長におけるD 90が200μm未満である場合
に生物学的利用能が改善されるメカニズムを把握することはできない。
さらに,被告は,別紙2-1及び別紙2-2について,D90が200
μmの平均粒子径は,別紙2-1の山型の分布図のおよそ中央の値(青
線)となり,平均粒子サイズ(青線)はその中央値であるおよそ100
μmとなる,平均粒子サイズが1μmや10~20μmの場合に,別紙
2-2のとおり,山型の分布が全体的に粒子径の小さい(左)方向にス
ライドすることになるので,これらのD90は200μmより小さい値と
なる旨述べるが,難溶性薬物の原薬の粒子径分布は,化合物によって様々
な形態をとること(甲イ72)は,前記(ア)のとおりであって,例えば,
甲イ72の図⑧(「D90値●●●●●μm」。別紙3)のような粒子径
分布をとる場合があることに照らすと,D90が200μm未満の場合の
粒度分布は,必ずしも被告の主張するような粒度分布になるものとはい
えない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(ウ) また,被告は,セレコキシブ粒子の最大長におけるD90が200μ
m未満である場合に生物学的利用能が改善されるメカニズムは,本件明
細書の記載から理解できるものであり,この理解に誤りがないことは,
未粉砕のセレコキシブと比較して,D90が200μmのセレコキシブの
生物学的利用能が改善することを示す追加の試験結果(乙10)からも
確認することができる旨主張する。
そこで検討するに,乙10には,未粉砕のセレコキシブ(D90=66
9μm)を含有するセレコキシブカプセル(以下「未粉砕カプセル」とい
う。)とピンミルにより粉砕されて微小化したセレコキシブ(D90=1
96μm)を含有するセレコキシブカプセル(セレコキシブ25%,ラウ
リル硫酸ナトリウム2%,「アビセルPH-101」73%を含有する
もの。以下「196μmカプセル」という。)を「ビーグルイヌ」に投
与して,生物学的利用能を測定したこと,その結果,生物学的利用能は,
未粉砕カプセルが16.1%であったのに対し,196μmカプセルは
32.1%であり,196μmカプセルが2.0倍に向上した旨の記載
がある。
一方で,本件明細書には,「セレコキシブは水溶液にかなり溶解しに
くい。したがって,本発明の製薬組成物は,任意であるが,好ましくは,
キャリア材料として,一つ又はそれ以上の薬剤学的に許容な加湿剤を含
む。かかる加湿剤は,水と親和性があるようにセレコキシブを維持させ
るように選択することが好ましく,その状態が製薬組成物の相対的生物
学的利用能を改善させると考えられる。」(【0075】),「ラウリ
ル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在するならば,ラウリル
硫酸ナトリウムは,組成物の全重量の対して,約0.25%から約7%,
好ましくは約0.4%から約6%,より好ましくは約0.5%から約5%
の量を含む。」(【0076】)との記載があること,疎水性の難溶性
物質であっても,界面活性剤が存在すると,微粒子は凝集せずに均一に
溶液中に分散され,粒子サイズが小さいほど溶出速度は大きくなること
は,本件優先日当時,周知又は技術常識であったこと(前記2(2))に照
らすと,196μmカプセルに加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナト
リウムが,196μmカプセルの生物学的利用能の試験結果に影響した
可能性が高いものと認められる。
また,196μmカプセルを調合するに当たり,ピンミルで粉砕し微
小化しているが,前記(ア)で述べたように,本件発明1の「微粒子セレ
コキシブ」が「ピンミル」を利用して粉砕されたものに限定されるもの
ではない。
したがって,乙1の試験結果から,セレコキシブ粒子の最大長におけ
るD 90 が200μm未満である場合に生物学的利用能が改善されるメ
カニズムを認識することはできないから,被告の上記主張は採用するこ
とができない。
ウ(ア) 本件明細書には,「例11」として「犬モデルでの生物学的利用能」
の実験結果及び「例11-2」として「犬モデルでの調合の生物学的利
用能」の実験結果の記載(【0170】ないし【0177】,表11-
1,11-2A,11-2B,11-2C,11-2D)がある。
例11及び例11-2には,メス犬及びオス犬をモデルとして,セレ
コキシブの静脈注射による投与,セレコキシブの経口溶液形態の投与,
経口カプセルによる未粉砕,未調合のセレコキシブの投与により,それ
ぞれの生物学的利用能を測定したこと,「組成物A」ないし「組成物F」
についての生物学的利用能について測定した結果,メス犬については,
「組成物A」(微粉化したセレコキシブ,ラウリル硫酸ナトリウム,「ア
ビセル101」を含むカプセル)は31.2%,「組成物B」(微粉化
したセレコキシブ,ラウリル硫酸ナトリウム,「アビセル101」,リ
ン酸三ナトリウム12水和物(Na3PO4・12H2O)を含むカプセ
ル)は24.9%,「組成物F」(未粉砕,未調合のセレコキシブ)は
16.9%であったこと(表11-2C),オス犬については,「組成
物A」は49.4%,「組成物B」は54.2%,「組成物F」は16.
9%であったこと(表11-2D)であることの記載がある。これらの
記載は,微粉化したセレコキシブを含有する「組成物A」及び「組成物
B」の生物学的利用能は,未粉砕,未調合のセレコキシブである「組成
物F」の生物学的利用能より高いことを示している。
しかるところ,本件明細書の【0172】には,「組成物A」は,調
合する前にセレコキシブを「微粉化(平均粒子サイズ10乃至20μm)」
させたことが記載されているが,セレコキシブのD90粒子サイズについ
ての明示の記載はないところ,【0124】に「例えば,例11に例示
するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60μmか
ら約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に改善さ
れる。」とのの記載があることを参酌すると,「組成物A」に含まれる
セレコキシブのD90粒子サイズは,約30μmであると推認される。ま
た,「組成物B」についても,これと同様である。
一方で,「組成物A」及び「組成物B」は,乾燥重量を基礎とした重
量割合で,それぞれ2%及び25%のラウリル硫酸ナトリウムが含まれ
ていること(表11-2A)からすると,前記イ(ウ)で述べたのと同様
に,本件明細書の【0075】及び【0076】の記載及び本件優先日
当時の技術常識(前記2(2))に照らすと,「組成物A」及び「組成物B」
に加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが,生物学的利用能の
実験結果に影響した可能性が高いものと認められる。
そうすると,セレコキシブ粒子のD90が約30μmである「組成物A」
及び「組成物B」の生物学的利用能の実験結果から,本件発明1の「セ
レコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲の全体にわたり,
未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識す
ることはできない。
(イ) これに対し被告は,本件明細書には,表11-2Aの「組成物A」
にはラウリル硫酸ナトリウムが含まれているが,「組成物A」で評価し
ているのはセレコキシブの微粉化の効果であり,「組成物B」で評価し
ているのはラウリル硫酸ナトリウムによる湿潤剤増加の効果であること
が明記されていること(【0172】),25%のラウリル硫酸ナトリ
ウムを含む「組成物B」の生物学的利用能は,ラウリル硫酸ナトリウム
を2%しか含まない「組成物A」と比較して,低い(メス犬につき表1
1-2C)か同程度(オス犬につき表11-2D)であることからする
と,生物学的利用能の改善効果は,ラウリル硫酸ナトリウムによるもの
ではなく,セレコキシブの微粉化によりもたらされていることを理解で
きる旨主張する。
しかしながら,本件明細書には,好ましい加湿剤とされるラウリル硫
酸ナトリウムは,組成物の全重量に対して,約0.25%から約7%,
好ましくは約0.4%から約6%,より好ましくは約0.5%から約5%
の量を含むと記載されていること(【0076】)に照らすと,「組成
物A」は,好ましい量とされる2%のラウリル硫酸ナトリウムを含むの
に対し,「組成物B」には好ましいとされる量をはるかに超える25%
ものラウリル硫酸ナトリウムが含むものであるから,「組成物B」 「組

成物A」と比較して生物学的利用能が同等かやや低い結果であったから
といって,生物学的利用能の改善効果は,ラウリル硫酸ナトリウムによ
るものではなく,セレコキシブの微粉化によりもたらされているものと
認識することはできない。
したがって,被告の上記主張は,理由がない。
エ(ア) 本件明細書には,「例13」として,懸濁液と連続した小さなスク
リーンサイズ(#14,#20,#40)を備えた振動ミルを介して何回も
粉砕したセレコキシブ粒子のD 90粒子サイズが37μm以下のカプセ
ルを用いた相対的生物学的利用能(AUC(0-48) の実験結果の記載 【0
) (
184】ないし【0186】,表13B)がある。
例13には,D90粒子サイズが37μm以下の粒子サイズのセレコキ
シブを含む100mg単位投与量カプセルと 14 C‐セレコキシブの懸
濁液プロファイルを用いて,「健康なオス」を被験者として実験した結
果,「AUC(0-48)にて測定した生物学的利用能」は,D90の粒子サ
イズが約37μm以下のセレコキシブ粒子を含む100mg単位量のカ
プセルは,セレコキシブを含む懸濁液と同等であった旨の記載(【01
85】,【0186】)がある。
しかしながら,例13には,懸濁液に含まれるセレコキシブの粒子サ
イズの記載はなく,その粒子サイズは不明であることに照らすと,セレ
コキシブ粒子のD90が約37μm以下である上記実験結果から,本件発
明1の「セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲の全体
にわたり,未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するも
のと認識することはできない。
(イ) これに対し被告は,本件明細書の例13において,同一の被験者に
例11-2と同様の方法で調製されたと考えられる懸濁液(粒子サイズ
は約1μm径)とD90粒子サイズが約37μm以下であるカプセル剤が
投与されたときにそれぞれのAUC(0-48)が同等であったことが確認
されており,D90の粒子サイズが37μmのときですら1μmと同様の
効果を奏することから,当業者は,D90の粒子サイズが37μm以上の
セレコキシブであっても,420μmより大きいサイズの粒子サイズが
含まれる未粉砕のセレコキシブの生物学的利用能と比較すると改善され
た生物学的利用能を奏することは高い蓋然性をもって予測することがで
きる旨主張する。
しかしながら,例11の懸濁液は,「(2) 粒子が顕微鏡で評価した際
に約1μm径になるまで,ポリソルベート80とポリビニルピロリドン
のスラリーにて,薬をボールミルさせて,懸濁液として調製した」もの
(【0173】)であるのに対し,例13の懸濁液は,「5%のポリソ
ルベート80を含むエタノールにセレコキシブを溶解させて調製し」た
もの(【0185】)であって,懸濁液の調製方法が異なるから,例1
3の懸濁液の粒子サイズは「約1μm径」であるとの被告の主張は,そ
の前提を欠くものである。
また,本件明細書には,例13で調製されたカプセルのセレコキシブ
粒子は,「セレコキシブ,ラクトース及びポリビニルピロリドンを遊星
型ミキサーボールにて混合し,水を用いて湿式顆粒化させた」 (
もの 【0
184】)であるとの記載があること,「ポリビニルピロリドンは,セ
レコキシブ調合の顆粒化のため,セレコキシブパウダーブレンド及び他
の賦形剤に凝集性を与えるために利用される,好ましい結着剤である。,

「ポリビニルピロリドンにより,パウダーブレンドに凝集力が付与され,
必要な結合が容易に起こり,湿式顆粒化中に顆粒を形成させる。 ,
」 「ポ
リビニルピロリドンを含む本発明の組成物は,特に湿式顆粒化により調
製され,他の組成物に対して相対的に改善された生物学的利用能を示す
ことが判明した。」(【0074】)との記載があることに照らすと,
例13で調製されたカプセルのセレコキシブ粒子の生物学的利用能は,
ポリビニルピロリドンを利用した湿式顆粒化により改善された蓋然性が
あるものと認識することができる。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
オ 次に,本件明細書の「例15」には,「100mg投与量のカプセル
の調製」のための粉砕方法として,「粒子サイズを比較的狭い範囲(D
90 が30μm若しくはそれ以下)内で変化し」(【0190】)との記
載があるが,この実験結果は,セレコキシブの生物学的利用能に関する
ものではない。
このほか,本件明細書には,セレコキシブ粒子のD90の粒子サイズと
生物学的利用能に関する実験結果の開示はない。
カ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当
時の技術常識から,当業者が,本件発明1に含まれる「粒子の最大長にお
いて,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満」の数値範囲の全体にわ
たり本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められないから,
本件発明1は,サポート要件に適合するものと認めることはできない。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(2) 本件発明2ないし4のサポート要件の適合性について
本件発明2は,「前記粒子の最大長において,前記セレコキシブ粒子のD
90 が100μm未満であること」を,本件発明3は,「前記粒子の最大長に
おいて,前記セレコキシブ粒子のD90が40μm未満であること」を,本件
発明4は,「前記粒子の最大長において,前記セレコキシブ粒子のD90が2
5μm未満であること」をそれぞれ発明特定事項とするものである。
しかるところ,「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が20
0μm未満」である本件発明1がサポート要件に適合するものと認めること
ができないことは,前記(1)のとおりである。
次に,前記(1)ウ認定のとおり,本件明細書には,例11及び例11-2と
して,セレコキシブ粒子のD90が約30μmである「組成物A」及び「組成
物B」の生物学的利用能の実験結果の記載があるが,「組成物A」及び「組
成物B」に加湿剤として含まれるラウリル硫酸ナトリウムが生物学的利用能
の実験結果に影響した可能性が高いものと認められることに照らすと,上記
実験結果から,D90が約30μmよりも小さい値とした場合において,未調
合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善するものと認識することは
できない。また,前記(1)エ認定のとおり,本件明細書には,例13として,
セレコキシブ粒子のD 90 粒子サイズが37μm以下のカプセルを用いた相
対的生物学的利用能の実験結果の記載があるが,上記カプセルの生物学的利
用能は,ポリビニルピロリドンを利用した湿式顆粒化により改善された蓋然
性があることに照らすと,上記実験結果から,D90が約37μmよりも小さ
い値とした場合において,未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が
改善するものと認識することはできない。
そうすると,本件発明2ないし4は,「粒子の最大長において,セレコキ
シブ粒子のD90」の値の上限値は,本件発明1より低いものではあるが,本
件発明1と同様に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当
時の技術常識から,当業者が,本件発明2ないし4に含まれる「粒子の最大
長において,セレコキシブ粒子のD90」の値の数値範囲の全体にわたり本件
発明1の課題を解決できると認識できるものと認められない。
したがって,本件発明2ないし4は,サポート要件に適合するものと認め
ることはできない。
(3) 本件発明5,7ないし19のサポート要件の適合性について
本件発明5,7ないし19(請求項5,7ないし19)は,請求項1記載
の製薬組成物を発明特定事項に含むものであるところ,本件発明1がサポー
ト要件に適合するものと認めることができないことは前記(1)のとおりであ
るから,本件発明5,本件発明7ないし19についても,サポート要件に適
合するものと認めることができない。
(4) 小括
以上のとおり,本件発明1ないし5,7ないし19は,いずれもサポート
要件にサポート要件に適合するものと認めることができないから,これと異
なる本件審決の判断は誤りである。
4 結論
以上によれば,原告ら主張の取消事由4は理由があるから,その余の取消事
由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 岡 山 忠 広
(別紙1)
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表20】
【表21】
(別紙2-1)
(別紙2-2)
多 平均粒子径が 10μ 平均粒子径が 100μm
m の
の粒子分布図 粒子分布図



10 μ 100 μ 200 μ
m m m
D 9 0 は 200 μm より小
さい
粒子径(μm)
小 大
図2 平均粒子径が小さくなれば粒子分布図
は粒子の小さい方向にシフトする
(別紙3)

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