ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成30(ワ)15781 商標権侵害行為差止等請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和2年2月20日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告有限会社サクラホテル 被告株式会社みずほ |
| 対象物 | 桜スカイホテル |
| 法令 |
商標権 商標法38条2項5回 商標法3条1項3号4回 商標法3条1項6号2回 商標法26条1項3号2回 特許法104条の31回 商標法36条1項1回 商標法26条1項1回 商標法26条1回 不正競争防止法2条1項1号1回 |
| キーワード | 商標権30回 侵害18回 無効17回 差止7回 損害賠償5回 無効審判3回 |
| 主文 | 1 被告は,別紙物件目録記載の建物における宿泊施設及びその営業 2 被告は,原告に対し,337万2400円及びこれに対する平成 30年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用はこれを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被 5 この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 | 本件は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その登15 録商標を「本件商標」という。)を有し,「Sakura Hotel」という 標章(以下「原告表示」という。)を使用してホテルを営業する原告が,被告に 対し,被告がホテルを営業するに当たり,①別紙被告標章目録1記載①ないし ⑨の各標章(以下,これらの各標章を併せて「被告標章1」と総称する。)を使 用することが本件商標権を侵害すると主張して,商標法36条1項に基づき,20 被告標章1の使用の差止めを求め,また,②別紙被告標章目録2記載の標章(以 下「被告標章2」という。)を使用することが不正競争防止法2条1項1号の不 正競争に当たると主張して,不正競争防止法3条1項に基づき,被告標章2の 使用の差止めを求めるとともに,民法709条及び商標法38条2項に基づき, 不法行為による損害賠償請求として,本件商標権侵害に係る損害賠償金24025 0万円及び本訴訟の提起など法律専門家による対応を余儀なくされたことに よる損害賠償金532万4400円並びにこれらに対する不法行為日以降で ある平成30年5月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による 遅延損害金の支払を求める事案である。 |
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
令和2年2月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(ワ)第15781号 商標権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和元年12月5日
判 決
原 告 有 限 会社 サ ク ラ ホ テ ル
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 川 上 邦 久
渡 辺 惺 之
同 補 佐 人 弁 理 士 村 木 清 司
川 端 佳 代 子
被 告 株 式 会 社 み ず ほ
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 遠 藤 直 哉
村 谷 晃 司
中 村 智 広
佐 々 木 健 一
同 補 佐 人 弁 理 士 福 田 伸 一
水 﨑 慎
高 橋 克 宗
主 文
1 被告は,別紙物件目録記載の建物における宿泊施設及びその営業
活動について,別紙被告標章目録1記載①ないし④及び⑦ないし⑨
の各標章を使用してはならない。
2 被告は,原告に対し,337万2400円及びこれに対する平成
30年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被
5 告の負担とする。
5 この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の建物における宿泊施設及びその営業活動について,別紙被告標章目録1及び別紙被告標章目録2に各記載の各標章を使用してはならない。2 被告は,原告に対し,2932万4400円及びこれに対する平成30年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有し,「Sakura Hotel」という標章(以下「原告表示」という。)を使用してホテルを営業する原告が,被告に対し,被告がホテルを営業するに当たり,①別紙被告標章目録1記載①ないし
⑨の各標章(以下,これらの各標章を併せて「被告標章1」と総称する。)を使用することが本件商標権を侵害すると主張して,商標法36条1項に基づき,被告標章1の使用の差止めを求め,また,②別紙被告標章目録2記載の標章(以下「被告標章2」という。)を使用することが不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たると主張して,不正競争防止法3条1項に基づき,被告標章2の使用の差止めを求めるとともに,民法709条及び商標法38条2項に基づき,不法行為による損害賠償請求として,本件商標権侵害に係る損害賠償金2400万円及び本訴訟の提起など法律専門家による対応を余儀なくされたことによる損害賠償金532万4400円並びにこれらに対する不法行為日以降である平成30年5月15日から支払済みまで 民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1 前提事実(当事者間に争いがないか,末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容
5 易に認められる。なお,枝番号の記載を省略したものは,枝番号を含む(以下同様) )。
(1) 当事者ア 原告は,宿泊施設の経営等を業とする有限会社であり,池袋,日暮里,神保町及び幡ヶ谷の東京都内4か所において,「サクラホテル」の名称を用いてホテルを営業しており(以下,これら4か所のホテルを総称して「原告宿泊施設」という。 ,その名称のアルファベット表記として「Saku)ra Hotel」(原告表示)を使用している(甲1)。イ 被告は,ホテル,旅館等の宿泊施設及びレストラン,喫茶店等の飲食施設の経営等を業とする株式会社である。
(2) 原告の商標権原告は,本件商標(以下,その商標登録を「本件商標登録」という。)の商標権者である。
(3) 被告の標章使用被告は,平成29年9月15日に,別紙物件目録記載の建物において,「桜ホテル」という名称のホテル(以下,その名称の変更にかかわらず,このホテルを「被告宿泊施設」という。)を開業し,次のとおり,被告標章1のうち別紙被告標章目録1記載①ないし④及び⑦ないし⑨の各標章を使用していた(以下,別紙被告標章目録1記載①ないし④及び⑦ないし⑨の各標章を併せて「被告使用標章」という。 。)ア 被告宿泊施設の外壁に,別紙表示物目録記載1及び2の表示物を設置し,別紙被告標章目録1記載①及び②の標章を使用していた(甲6の1ないし4)。イ 被告の公式ウェブサイトのドメイン名として別紙標章目録1記載③の標章を使用した上で,同ウェブサイトのタイトルタグとして別紙被告標章目録1記載④の標章を使用していた(甲7の1ないし3)。
5 ウ 別紙ウェブサイト目録記載3の「楽天トラベル」の宿泊予約サイトにおいて,別紙被告標章目録1記載⑦及び⑧の標章を含む写真と,同記載⑨の標章を含む案内図を掲載していた(甲10)。
(4) 本件訴訟以前の交渉経緯ア 原告は,被告に対し,平成29年11月28日付け「警告書」を送付し,被告による上記(3)ア記載の標章の使用等が,本件商標権を侵害するものであるとして,その使用を中止するよう請求した(甲5の1)。イ 被告は,平成29年12月22日の原告との協議を経て,原告に対し,同月28日付け「御連絡」を送付し,被告としては被告宿泊施設の名称が本件商標との誤認混同を生ずるおそれはないと考えるものの,その対応として,被告宿泊施設の営業主体が原告ではないことの周知を図ること,円満解決のために被告宿泊施設の名称の変更を検討することを伝え,名称変更等の対応のために必要な期間として平成30年1月末日までの猶予をもらえるよう理解を求めた(甲5の4)。ウ 原告は,被告に対し,平成30年1月11日付け「通知書」を送付し,被告の対応が不誠実であるとして,原告としては,速やかに必要な対応措置を講ずることとした旨,本件商標権侵害による直接の損害のほかに,被告の対応に起因して生じた損害の賠償を求める こととした旨を通知した(甲5の7)。エ 被告は,原告に対し,平成30年1月15日付け「回答書」を送付し,被告宿泊施設の名称を「桜スカイホテル」に変更することを決定し,変更に向けた準備作業を進めている旨を通知した(甲5の8)。オ 原告は,被告に対し,平成30年1月18日付け「通知書」を送付し,被告が変更を予定している名称についても問題があることから,本件商標権侵害及び不正競争に該当するとして,同名称の使用の差止めを求める法的手続をとらざるを得ない旨を通知した(甲5の9)。
5 カ 被告は,原告に対し,平成30年1月26日付け「回答書」を送付し,変更予定の名称と「サクラホテル」との間に同一性ないし類似性はなく,同名称の使用行為は本件商標権侵害及び不正競争には該当しないとして,原告の要求には応ずることができない旨を通知した(甲5の10)。
(5) 被告による被告宿泊施設の名称変更等ア 被告は,平成30年3月6日以降は,別紙被告標章目録1記載①ないし
④及び⑦ないし⑨の各標章のいずれについても使用していない。イ 被告は,被告宿泊施設の名称を「桜スカイホテル」に変更し,その英字表記として被告標章2を使用している。2 争点
(1) 被告による被告標章1の使用が本件商標権を侵害するか(争点1)ア 別紙被告標章目録1記載⑤及び⑥の標章の使用の有無(争点1-1)イ 本件商標と被告標章1の類否(争点1-2)ウ 本件商標登録は商標登録の無効の審判により無効にされるべきものか(争点1-3)エ 本件商標権の効力が被告標章1に及ぶか(争点1-4)
(2) 被告による被告標章2の使用が不正競争に該当するか(争点2)ア 原告表示の周知性(争点2-1)イ 原告表示と被告標章2の類否(争点2-2)ウ 「混同を生じさせる行為」に該当するか(争点2-3)
(3) 原告の損害(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(別紙被告標章目録1記載⑤及び⑥の標章の使用の有無)につい
て【
(原告の主張)
】被告は,別紙ウェブサイト目録記載1の「Agoda」の宿泊予約サイトに
5 おいて別紙被告標章目録1記載⑤の標章を,別紙ウェブサイト目録記 載2の
「HotelsCombined」の宿泊予約サイトにおいて別紙被告標章目録1記載⑥の標章をそれぞれ使用していた。被告は,当該標章はこれらのサイトにおいて勝手に使用されただけである旨を主張するが,宿泊施設からの依頼なしに,情報を勝手に掲載することは通常想定し難い。仮に,勝手に掲載されただけであるとしても,被告がそのような表示を放置すること自体が上記各標章の使用行為と評価されるべきである。【
(被告の主張)
】被告がAgodaやHotelsCombinedに対して被告宿泊施設の掲載を依頼した事実はなく,AgodaやHotelsCombinedが独自に収集した被告宿泊施設の情報が無断で掲載されていただけである。したがって,被告は別紙被告標章目録1記載⑤及び⑥の標章を使用していない。
2 争点1-2(本件商標と被告標章1の類否)について
【
(原告の主張)
】
(1) 需要者
原告は外国人をターゲットとしてホテル事業を展開しており,本件商標につき,主に想定されるべき需要者は,都内近郊の宿泊施設を利用しようとする外国人観光客である。
(2) 外観
被告標章1に含まれる各表記のうち,①複数形を示す「s」 地名である, 「Tokyo」は重要性が低いこと,②「Hotel」の部分も提供される役務を示すものであり,自他識別力は低いこと,③「桜ホテル」又は「桜」という日本語部分も外国人観光客にとっては重要性を持たないこと,④図案部分も文字と一体のものとは理解されないことからすれば,被告標章1はいずれも「Sakura」又は「Sakura Hotel」との外観を有するというべきである。これに対し,本件商標の外観はカタカナの「サクラホテル」
5 であるが,需要者である外国人観光客にとっては外観の重要性は低い。
(3) 称呼
本件商標のうち「ホテル」の部分は提供される役務を示すものであることから自他識別力は低く,本件商標は「サクラ」又は「サクラホテル」との称呼を生ずるものである。そして,同様に,被告標章1もいずれも「サクラ」又は「サクラホテル」との称呼を生ずるものであるから,本件商標と被告標章1は称呼において一致する。
(4) 観念
本件商標及び被告標章1のいずれからも,日本文化の象徴としてのバラ科モモ亜科スモモ属の落葉樹及びその花,又はそのようなイメージを有する宿泊施設との同一の観念が生ずる。したがって,本件商標と被告標章1とは観念において一致する。
(5) 対比
以上によれば,本件商標と被告標章1とは称呼及び観念が同一であるところ,一方で外観の重要性は低いことから,本件商標と被告標章1とは同一ないし類似といえる。【
(被告の主張)
】不知ないし争う。
3 争点1-3(本件商標登録は商標登録の無効の審判により無効にされるべき
ものか)について【
(被告の主張)
】
(1) 商標法3条1項3号該当性
商標が国内外の地理的名称からなる場合,取引者又は需要者が,その地理的名称の表示する土地において,指定役務が提供されているであろうと一般に認識するときは,当該商標は商標法3条1項3号の記述的商標に該当する。本件商標に含まれる「サクラ」は,日本の国花であり,一般的にも日本を
5 想起させるものであって,日本を訪れる外国人観光客が本件商標を見た場合,
原告が日本において宿泊施設の提供という役務提供を行っていると認識する。したがって,本件商標は商標法3条1項3号の記述的商標に該当するから,本件商標登録は商標登録の無効の審判により無効にされるべきものである。
(2) 商標法3条1項6号該当性
商標が指定役務において店名として多数使用されていることが明らかな場合,当該商標は商標法3条1項6号の識別力がない商標に該当する。現在,宿泊施設の提供という役務において,「さくら」ないし「桜」の名称を使用したホテルは多数存在し,本件商標登録の査定時においても,これらのホテルは多数存在したはずである。したがって,本件商標には識別力がないから,商標登録の無効の審判により無効にされるべきものである。
(3) 無効の抗弁の可否について
商標法47条は,無効審判請求の除斥期間を定めたものであって,商標法39条及び特許法104条の3とは,適用場面を異にするものであるから,仮に上記除斥期間経過後であったとしても,商標権侵害訴訟において無効の抗弁を主張することができる。商標法26条が,同法3条1項各号等に違反して登録された商標につき,商標権の効力が及ばないと規定しているのも,上記のような場合,請求を棄却すべきものとする趣旨である。【
(原告の主張)
】本件商標登録は,平成7年12月26日に受けたものであり,除斥期間が経過していることから,被告は,商標法3条1項3号及び6号のいずれの理由によっても無効審判を請求することはできず,無効の抗弁(商標法39条,特許法104条の3)を主張することはできない。
4 争点1-4(本件商標権の効力が被告標章1に及ぶか)について
【
(被告の主張)
】
5 被告標章1にはいずれもサクラの名称が含まれるところ,前記のとおり,サ
クラは一般的に日本を想起させるものであるから,日本を訪れた外国人観光客が被告標章1を見た場合,被告が日本において宿泊施設の提供という役務提供を行っているであろうと一般に認識するにすぎない。そうすると,被告標章1は,指定役務の提供場所を普通に用いられる方法で表示したにすぎないものであるから,商標法26条1項3号に該当し,本件商標権の効力は被告標章1には及ばない。【
(原告の主張)
】「サクラ」は場所そのものの表示ではないし,日本という場所を示す目的で使用されているという実態もないから,本件商標権の効力は被告標章1に及ぶというべきである。
5 争点2-1(原告表示の周知性)について
【
(原告の主張)
】原告においては,検索されたキーワードに応じた広告を表示するサービスである「Google Adwords」に年間数千万円をかけるなど,多額の費用を投じて宣伝,広告を行っており,その結果として,外国人観光客向けの著名な書籍,雑誌等に取り上げられるようになっていること,Google検索において「Sakura Hotel」 「Sakura, Hotel Ikebukuro」 「Sakura, Hotel Hatagaya」 「Sak,ura Hotel Jimbocho」の4つのキーワードの月間平均検索数が8600というボリュームになっていることなどに照らせば,需要者である都内近郊の宿泊施設を利用しようとする外国人観光客の間で原告表示が 周知となっていることは明らかである。【
(被告の主張)
】上記は争う。原告が周知性の根拠とする「Sakura Hotel」の検索数については,「Sakura Hotel Ikebukuro」とダブル
5 カウントしていると考えられること,桜の観賞を目的とする外国人が宿泊施設
を見つけるために「Sakura」と「Hotel」などの単語を同時に検索することも十分に考えられることなどからすれば,原告表示の周知性を示す根拠とはならない。また,「Sakura」「さくら」「桜」などの表示は,宿泊施設の名称とし, ,て従前から一般的に多数用いられており,原告表示のみが「Sakura」の表示を用いる宿泊施設として周知となっているとはいえない。
6 争点2-2(原告表示と被告標章2の類否)について
【
(原告の主張)
】
(1) 外観
原告表示のうち,「Hotel」という部分は提供される役務を示すものであり,自他識別力が低いことから,原告表示は「Sakura」又は「Sakura Hotel」の外観を有する。一方で,被告標章2のうち,「Hotel」という部分は提供される役務を示すものであり,自他識別力が低いこと,「Sky」という部分は通常の英単語であり,冒頭に置かれた「Sakura」という外観に比べて需要者である外国人観光客にとって重要性が低いことから,被告標章2は「Sakura Sky Hotel」という外観に加えて,「Sakura」との外観も有する。
(2) 称呼
原告表示は,上記(1)と同様の理由により,「サクラ」又は「サクラホテル」との称呼を生ずる。また,被告標章2も,上記(1)と同様の理由により「サクラスカイホテル」との称呼とともに,「サクラ」との称呼を生ずる。
(3) 観念
原告表示は,日本文化の象徴としてのバラ科モモ亜科スモモ属の落葉樹及びその花,又はそのようなイメージを有する宿泊施設との観念が生ずる。一方で,被告標章2は,日本文化の象徴としてのバラ科モモ亜科スモモ属の落
5 葉樹及びその花,それが空に映える様子,又はそのようなイメージを有する
宿泊施設との観念を生ずる。
(4) 対比
以上によれば,原告表示と被告標章2は,外観,称呼及び観念のいずれも同一ないし類似である。したがって,原告表示と被告標章2は同一ないし類似である。【
(被告の主張)
】
(1) 外観
被告標章2は,「Sakura Sky Hotel」との外観を有する。また,「Sakura Sky」の単語が一体となって「Hotel」を修飾していることから,「Sakura Sky」との外観も有する。一方で,原告表示のうち「Sakura」の部分は通常の単語であり,「cherryblossoms」と同様に桜の花ないし樹木を意味することから,需要者にとって重要性が低く,「Sakura」だけでは要部足り得ない。そうすると,原告表示は「Sakura Hotel」との外観を有するものであり,被告標章2と原告表示の外観は異なる。
(2) 称呼
被告標章2のうち,「Sakura」の部分は外国人にも馴染みの深い通常の単語であり,「Sky」も通常の英単語である。そうすると,「Sakura」や「Sky」は単体ではいずれも要部足り得ず,被告標章2の称呼は,その両者を呼称した「サクラスカイ」であるというべきである。そして,原告表示の称呼は「サクラホテル」であるから,被告標章2と原告表示は称呼の点でも異なる。
(3) 観念
原告表示の「Sakura」からは,日本の代表的国花である桃色の花という観念を生ずるのに対し,「Sakura Sky」からは淡い桃色の花の
5 背景に見える雄大な大空の観念が生ずる。そうすると,原告表示と被告標章
2は観念の点でも異なる。
(4) 小括
以上のとおり,原告表示と被告標章2は,外観,称呼及び観念のいずれも類似していない。したがって,原告表示と被告標章2は類似していない。
7 争点2-3(「混同を生じさせる行為」に該当するか)について
【
(原告の主張)
】原告表示と被告標章2は同一ないし類似であるところ,かかる標章が宿泊施設の提供という同一の役務に使用されているのであるから,需要者に混同を生じさせることは明らかである。【
(被告の主張)
】原告は,池袋,日暮里,神保町及び幡ヶ谷でホテルを営業しているのに対し,被告宿泊施設は錦糸町に所在するから,商業圏が異なり,一方のホテルの利用者が他方のホテルを利用しようとする動機がない。また,原告及び被告は,いずれもホームページにおいて運営主体を明記しており,原告のホテルと被告宿泊施設の運営主体が異なることはホームページ上明らかである。そして,原告は外国人訪日客を対象とした安価な宿泊施設を提供しており,個室タイプの宿泊施設(シングルタイプの場合,1泊4000円から7000円)だけでなく,相部屋タイプの宿泊施設(1泊2000円から4000円)も提供しているのに対し,被告は日本人観光客や日本人ビジネスマンを対象とした個室タイプの宿泊施設(1泊8000円から1万3000円)を提供しており,原告と被告では想定している客層や実際に利用している客層が全く異なる。以上によれば,被告による被告標章2の使用により,需要者に対し,営業主体が同一であると混同を生じさせるおそれはない。
8 争点3(原告の損害)について
5 【
(原告の主張)
】
(1) 被告標章1の使用による逸失利益
ア 損害の発生について原告は,本件商標を用いて現にホテル営業を行っているところ,被告は,本件商標と全く同一の標章を使用して近隣でホテル営業を行っていたのであるから,原告に損害が発生していることは明らかである。したがって,商標法38条2項が適用される。イ 被告の限界利益被告宿泊施設に係る費用のうち,変動費に当たると明確に判断できるものはないから,平成29年9月15日から平成30年3月5日までの被告の売上げである3669万円全てが,被告の限界利益といえる。仮に,ホテル業において変動費に当たるものがあるとすれば,予約手数料,客室部分の水道光熱費,リネン費程度であり,これらを合計しても,売上げの10%程度である。ウ 本件商標の寄与度インターネットにおける原告宿泊施設の検索数が著名ホテルと同等であること,原告宿泊施設が,旅行口コミサイト世界最大の閲覧数を誇る「Trip Advisor」において,高評価を継続して得た施設に贈られる表彰の対象にもなっていることからすれば,原告宿泊施設がその営業努力により蓄積してきた信用は大きい。また,被告が本件商標と同一又は類似である被告標章1を使用していた期間は,インターネットによる検索において,原告宿泊施設に紛れる形で被告宿泊施設が表示され,直接的な顧客(外国人観光客)の簒奪が極めて容易に生ずる状況であった。これらによれば,本件商標の寄与度は,少なくとも50%を下回らないというべきである。被告は,商業圏や需要者層の違いを主張するが,原告宿泊施設と被告宿
5 泊施設は同じ東京23区内に立地しており,商業圏に違いはない。また,
原告宿泊施設では被告宿泊施設と同様に個室タイプの宿泊施設も提供しており,被告宿泊施設は原告宿泊施設と同程度の価格帯のプラン(6000円程度のもの)も提供しているから,需要者層にも違いはない。さらに,被告は,「第三者」の競合や被告の営業努力も主張するが,被告が競合するとして挙げる宿泊施設は,その使用する標章や立地の点から競合の対象とはなり得ず,また,被告の営業努力も,近時のホテル予約がインターネットの予約サイトを通じてされることに照らせば,その影響は極めて限定的であるというべきである。エ 以上によれば,被告標章1の使用による逸失利益は,2400万円を下ることはない。
(2) 対応費用
被告は,原告から本件商標権侵害についての警告を受けた後,協議による平和的解決を志向するかのような回答をして,ひとまず原告による法的手段を回避し,旧正月に向けて外国人観光客の宿泊予約が増えることが想定される時期以降まで,被告標章1の使用を継続し,フリーライドによる受益を最大限利用した。そして,原告表示の存在を明確に認識しながらも,これと英文表記として極めて類似し,原告表示の信用になおフリーライドすることが可能な被告標章2に一方的に変更し,同フリーライドを継続することを図っているものである。また,本訴訟における和解協議においても,条件次第で応ずるような対応を長々と続けながら土壇場で態度を翻したものである。このような被告の不誠実な対応により,原告は,法律専門家による対応,仮処分命令申立て及び本訴訟の提起を余儀なくされたものであり,その損害は,現時点で532万4400円を下らない。
(3) したがって,原告の損害は,合計2932万4400円となる。
【
(被告の主張)
】
5 (1) 被告標章1の使用による逸失利益
ア 損害の発生について原告の経営するホテルと被告宿泊施設とは,商業圏が異なること,需要者層も異なることから,競合関係にはない。そして,「Sakura」「さ,くら」,「桜」などは,宿泊施設の名称として一般的に多数用いられており,「第三者」の競業が存在すること,被告の営業努力が著しいこと,原告の施設と被告宿泊施設の運営主体が異なることはホームページの記載上明らかであり,被告標章1の使用による混同は生じないことからすれば,原告に損害は発生していない。したがって,商標法38条2項は適用されない。イ 被告の限界利益被告の限界利益を算定する上で,控除されるべき変動費を検討するに当たっては,被告の侵害行為と直接関係のない経費のみを控除対象から除外すれば足りるから,「被告宿泊施設が営業を始めて,売上げを得るために不可欠な費用」は変動費に当たり,固定費であることが明らかな人件費,減価償却費,管理諸費,及び平成29年10月の租税公課以外の費用は,広く変動費に当たると解すべきである。そうすると,被告の限界利益は,平成29年9月15日から平成30年3月5日までの被告宿泊施設の売上げである3669万円から,同期間の変動費1526万円を控除した2143万円となる。ウ 本件商標の寄与度宿泊施設の提供等という役務においては,一般的には宿泊施設の立地,サービス内容,価格等が,売上げに大きな影響を与える。そして,被告宿泊施設は,錦糸町という都内でも有数の利便性の高いエリアに立地しており,サービスの内容を見ても,ビジネスホテルであるにもかかわらず風呂とトイレを別室に分け,食事時間以外でもフリードリンクをいつでも飲め
5 るように設備を整えるなど,同種ホテルと比較しても安価で上質な宿泊サ
ービスを提供しており,利益のほとんどが立地,サービス内容,価格等による顧客吸引力により生じたものである。また,本件商標が大きな信用を得ているということはなく,本件商標を目にした外国人観光客が原告宿泊施設の品質を信用して宿泊するということはない。そうすると,本件商標の寄与度は著しく低く,多くとも1%程度である。
(2) 原告の上記(2),(3)の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実(各項の末尾に掲げた証拠等により認定した。)
(1) 原告は,平成18年10月以降,毎年10月から翌年9月までの1年間の間に,原告宿泊施設の宣伝広告費用として1000万円以上を支出しており,また,平成23年10月から平成24年9月までの1年間の支出額は約8000万円であった。原告が,平成15年10月から平成30年3月までの間に支出した原告宿泊施設の宣伝広告費用の合計額は約6億円である(甲14の1)。
(2) 原告宿泊施設の情報は,平成13年以降,外国人観光客向けの複数の雑誌に掲載された(甲13)。
(3) 平成28年10月から平成29年9月までのGoogle検索における,「sakura hotel」 「sakura, hotel ikebukuro」 「sakura, hotel hatagaya」 「sakura,hotel jimbocho」というキーワードの月間平均検索数は,それぞれ3600件,2400件,1600件,1000件であった(甲15,18)。
(4) 旅行サイトである「TripAdvisor」が,過去1年間に世界中の旅行者から寄せられた口コミの数と評価点などを基に,平成31年1月23日に発表した「トラベラーズチョイス ホテルアワード2019」の日本の
5 宿泊施設の「ベストバリュー」部門において,原告宿泊施設のうち「サクラホテル神保町」が1位に,「サクラホテル幡ヶ谷」が7位に選ばれた(甲32)。
(5) 平成29年の原告宿泊施設の宿泊客の国籍をみると,日本が1万4033人と最も多く,続いてタイ王国が8485人,大韓民国が5275人であった(甲35)。
(6) 原告宿泊施設は,一泊約4000円から7000円の価格でシングルタイプの部屋を提供しているほか,一泊約2000円から4000円の価格で相部屋タイプの部屋も提供している(乙8,9)。
(7) 被告宿泊施設は,一泊約8000円から 1 万3000円の価格でツインルームを提供している(乙10)。
2 争点1-1(別紙被告標章目録1記載⑤及び⑥の標章の使用の有無)(1) 証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,Agoda及びHotelsCombinedの被告宿泊施設を紹介するウェブサイトにおいて,別紙被告標章目録1記載 ⑤及び⑥の標章がそれぞれ掲載されていたことが認められる。(2) 原告は,当該ウェブサイトにおけるこれらの標章の掲載につき,被告による使用に当たると主張するが,被告が当該ウェブサイトを管理していることや,当該ウェブサイトへの標章の掲載を依頼したことなど,被告が上記ウェブサイトにおける上記掲載に関与したとの事実を 認めるに足りる証拠はなく,上記掲載について,被告が別紙被告標章目録1記載⑤及び⑥の標章を使用したものと認めることはできない。この点について,原告は,被告が上記掲載を放置していること自体をもって,被告の使用と評価すべきであると主張する。しかし,上記説示のとおり,被告が,上記ウェブサイトにおける上記標章の掲載に関与したとは認められない以上,被告が「Sakura Hotel」の標章を被告宿泊施設に使用した結果として,上記ウェブサイトに別紙被告標章目録1記載⑤及び⑥の
5 標章が掲載され,被告がその状態を放置していたとしても,そのことから直ちに被告が使用したものと評価することはできない。したがって,原告の主張は採用することができない。
3 争点1-2(本件商標と被告標章1の類否)について(1) 需要者について原告は,外国人をターゲットとしてホテル事業を展開していることから,本件商標と被告の標章の類否を判断するに当たり,需要者は都内近郊の宿泊施設を利用しようとする外国人観光客であると主張する。しかし,前記1(5)で認定したとおり,平成29年の原告宿泊施設の宿泊客の国籍をみると,日本が最も多かったものであり,その他本件全証拠に照らしても,原告宿泊施設が外国人観光客のみを対象としているものとは認められず,本件の需要者は,外国人観光客に限定されるものではなく,およそ宿泊施設を利用しようとする者であるというべきである。(2) 類否についてア 被告使用標章(ア) 別紙被告標章目録1記載①,⑦及び⑧の標章別紙被告標章目録1記載①,⑦及び⑧の標章は,桜の花びらのマーク及び「桜」の漢字,横書きの「SAKURA」,横書きの「HOTEL」の各文字をこの順番に縦に並べた外観を有し, サクラホテル」「 との称呼,及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずる。(イ) 別紙被告標章目録1記載②の標章別紙被告標章目録1記載②の標章は,桜の花びらのマーク及び「桜」の漢字,横書きの「SAKURA」を縦にしたもの,横書きの「HOTEL」を縦にしたものの各文字を,この順番に縦に並べた外観を有し,「サクラホテル」との称呼,及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずる。
5 (ウ) 別紙被告標章目録1記載③の標章別紙被告標章目録1記載③の標章は,「Sakurahotels」との外観を有し,「サクラホテルズ」との称呼,及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずる。(エ) 別紙被告標章目録1記載④の標章別紙被告標章目録1記載④の標章は,「SAKURAHOTEL(桜ホテル)」との外観を有し,「サクラホテル」との称呼,及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずる。(オ) 別紙被告標章目録1記載⑨の標章別紙被告標章目録1記載⑨の標章は,「桜」の漢字,横書きの「SAKURA」,横書きの「HOTEL」の各文字をこの順番に縦に並べた外観を有し,「サクラホテル」との称呼,及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずる。イ 本件商標と被告使用標章の対比本件商標は,カタカナの「サクラホテル」との外観を有し,「サクラホテル」との称呼,及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずるところ,被告使用標章の各標章から生ずる称呼及び観念は上記アで説示したとおりであるから,本件商標と被告使用標章の各標章は,称呼及び観念が同一ないし極めて類似しているといえる。一方で,本件商標と被告使用標章の各標章はいずれも外観において異なるものの,被告使用標章は「サクラホテル」を漢字やローマ字などで表記したものの組合せであるか,それらに加えて桜の花びらのマークなどを組み合わせたものにすぎないから,その取引の実情に照らし,日本人を始めとする需要者にとって,両者の外観の差異は大きいものとはいえないというべきであり,両者が称呼及び観念において同一ないし極めて類似していることに照らせば,本件商標と被告使用標章は類似しているというべきである。
5 4 争点1-3(本件商標登録は商標登録の無効の審判により無効にされるべきものか)について(1) 商標法3条1項3号該当性被告は,本件商標に含まれる「サクラ」は日本の国花であり,一般的に日本を想起させるものであるから,本件商標は,原告が日本において宿泊施設の提供という役務提供を行っている旨認識させるものであり,記述的商標に該当すると主張する。しかし,桜が日本の国花であり,需要者に対し,日本を想起させることがあるとしても,客観的,具体的な見地から,本件商標(「サクラホテル」)が記述的商標といえる程度にまで,「サクラホテル」が日本において宿泊施設の提供という役務提供を行っていると認識させるものであると認めるに足りる的確な証拠はない。(2) 商標法3条1項6号該当性被告は,「さくら」「桜」などの名称を使用したホテルは多数存在し,本件,商標登録の査定時にも多数存在したはずであるから,本件商標には識別力がないと主張する。しかし,本件において,本件商標登録の査定時に,「さくら」や「桜」の名称を使用したホテルがどの程度存在したか,それが具体的にどのような名称であったかは明らかになっているとはいえず,その他,本件商標に識別力がないことを裏付けるに足りる的確な証拠はない。(3) 以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,本件商標登録は商標登録の無効審判により無効にされるべきものであるとの旨の被告の主張は,いずれも採用することはできない。
5 争点1-4(本件商標権の効力が被告標章1に及ぶか)被告は,被告標章1を見た場合,被告が日本において宿泊施設の提供を行っているであろうと一般的に認識するだけであるから,被告標章1は,指定役務
5 の提供場所を普通に用いられる方法で表示したにすぎず,商標法26条1項3号に該当する旨主張する。しかし,被告標章1が需要者に対しそのような認識をさせるものであると認められないことは,上記4(1)に説示したところと同様である。そうすると,被告標章1が指定役務の提供場所を普通に用いられる方法で表示した にすぎないものであるとはいえず,商標法26条1項3号に該当しない。したがって,被告の主張は採用することができない。
6 争点2-1(原告表示の周知性)について原告は,前記1(3)で認定したGoogle検索における「Sakura Hotel」などの検索数を理由に,原告表示が周知である旨主張する。しかし,「Sakura Hotel」はいずれも普通名詞である「Sakura」 「Hotel」を単純に並べたものにすぎず,インターネット上の検索,においては,複数の独立した単語を並べて検索することが通常であるから,「Sakura Hotel」が検索されているからといって,これが直ちに原告宿泊施設のことを検索したものであるとは認められない。そして,弁論の全趣旨によれば,「Sakura Hotel」を検索すると,「Sakura Sky Hotel」も表示されることがうかがわれ,また,「Sakura Hotel」を検索した場合であっても,原告宿泊施設のみが検索結果に表れるものとも認められない。また,「ikebukuro」「hatagaya」「jimbocho」は, ,いずれも原告宿泊施設が存在する地名であるから,「Sakura Hotel」とこれらの地名が組み合わされて検索されている場合に,原告宿泊施設の検索を目的としたものも含まれているといえるとしても,普通名詞と地名との組合せという性質上,その検索の全てが原告宿泊施設に係るものであるとまではいえない。さらに,原告は,「Google Adwords」に年間数千万円をかけて
5 宣伝広告を行ってきたことなども主張するが,宣伝広告に費用をかけたことから直ちに周知性が獲得できるものではなく,本件において,宣伝広告の結果として原告表示が周知性を獲得したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告の主張する上記検索数をもって,原告表示の周知性を基礎付けるには足りないというほかない。なお,前記1(2)及び(4)で認定したとおり,原告宿泊施設は,その情報が複数の外国人向け雑誌に掲載されており,旅行サイトにおいても表彰されているが,証拠(甲13,32)によれば,上記雑誌には他にも日本の宿泊施設の情報が掲載され,上記旅行サイトにおいても複数の日本の宿泊施設が様々な項目で表彰されていることが認められるところ,事柄の性質上,かかる事実のみをもって直ちに,これらの宿泊施設の名称が周知であると認めることは困難であることにも照らせば,前記1(2)及び(4)で認定した事実をもって直ちに,原告表示が周知性を獲得したと認めるには足りないというべきである。以上のとおりであるから,原告の主張は採用することができず,その他,原告表示の周知性を認めるに足りる的確な証拠はない。
7 争点2-2(原告表示と被告標章2の類否)について上記6で説示したとおり,原告表示については周知性を認めることができないから,その余の争点を判断するまでもなく,原告の不正競争防止法違反に基づく請求には理由がないが,本件事案に鑑み,原告表示と被告標章2との類否についても検討する。(1) 被告標章2について被告標章2は,「Sakura」「Sky」「Hotel」の単語を並べた, ,外観を有し,全体として,「サクラスカイホテル」との称呼,及び,桜の花と空をそのイメージとする宿泊施設との観念を生ずる。また,被告は被告標章2を宿泊施設の提供という役務に使用しているところ,当該役務の性質上,取引の実情に照らし,「Hotel」の部分は自他識別力が弱く,「Hote
5 l」を除いた部分のみを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど「Sakura」 「Sky」と「Hotel」とが不可分的に結合,しているとはいえないから,全体としての称呼及び観念のほかに,「サクラスカイ」の称呼及び桜の花と空という観念も生ずるというべきである。この点について,原告は,外国人観光客からすれば「Sky」という部分は通常の英単語であり,「Sakura」と比べると重要度が低いとして,「Sakura」の部分のみからの称呼及び観念も生ずる旨の主張をする。しかし,前記3(1)で説示したとおり,外国人観光客に限定されるものではない本件の需要者にとって,いずれも普通名詞である「Sakura」及び「Sky」のいずれか一方のみが強く支配的な印象を与えるとはいえず,また,本件において,「Hotel」を除いた部分から更にどちらか一方を抽出して観察すべき事情を認めるに足りる証拠はない。以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。(2) 原告表示と被告標章2の対比原告表示は,「Sakura」 「Hotel」と の単語を並べた外観を有し,全体として,「サクラホテル」との称呼,及び,桜の花をそのイメージとする宿泊施設との観念を生ずる。この点,原告は,「Hotel」の部分は提供される役務を示すものであり,自他識別力が弱いとして,「Sakura」の部分のみからの称呼及び観念も生ずると主張する。しかし,仮に,原告表示のうち「Sakura」の部分のみから,「サクラ」という称呼及び桜の花の観念が生ずるとしても,上記説示のとおり,被告標章2は,「Sakura」の部分のみからの称呼,観念は生じないものであって,原告表示の称呼は「サクラ」又は「サクラホテル」であるのに対し,被告標章2の称呼は「サクラスカイ」又は「サクラスカイホテル」であるから,原告表示と被告標章2は称呼において相違するというべきである。また,両者の観念についてみても,原告表示からは,桜の花,又は桜の花をそのイメ
5 ージとする宿泊施設という観念が生ずるのに対し,被告標章2からは,桜の花と空,又は桜の花と空をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずるから,両者は観念においても相違するというべきである。これに,原告表示と被告標章2の外観から両者の同一性が基礎付けられるともいえないことを併せれば,その取引の実情に照らし,原告表示と被告標章2は,類似していないというほかない。
8 争点3(原告の損害)について(1) 本件商標権の侵害による原告の逸失利益ア 商標法38条2項の適用原告は,商標法38条2項に基づき,本件商標権侵害により原告に生じた損害を主張するところ,被告は,原告宿泊施設と被告宿泊施設は競合関係にない,第三者の競業が存在する,被告の営業努力が著しい,ホームページの記載から運営主体が異なることは明らかであるなどとして,原告に損害が発生していないから,商標法38条2項の適用がないと主張する。しかし,被告は,本件商標に類似する被告使用標章を,本件商標の指定役務である宿泊施設の提供に使用しているところ,原告宿泊施設と被告宿泊施設はいずれも東京23区内に存在しており,提供するサービスの価格に差はあるものの,需要者が全く異なるとまではいえないから,被告による被告使用標章の使用により原告に損害が発生していないと認めることはできない。また,被告は,「第三者」の競業や被告の著しい営業努力,ホームページの記載なども主張するが,これらに関し,上記認定を左右するに足りるような具体的事情を客観的に認めるに足りる証拠はない。以上によれば,被告の上記主張は採用することはできず,商標法38条2項の適用があるというべきである。イ 被告の利益(ア) 被告使用標章の使用により被告の得た利益は,被告が被告使用標章を
5 使用していた平成29年9月15日の営業開始から平成30年3月5日までの被告宿泊施設の売上げから,いわゆる変動費を控除した限界利益がこれに当たると解すべきである。そして,宿泊業という被告の業種に鑑みれば,水道光熱費及び消耗品費が変動費に当たることが認められるところ,本件全証拠を精査しても,その他控除すべき費用は認められない。(イ) 証拠(乙27)によれば,上記期間の被告宿泊施設の売上げ,水道光熱費,消耗品費は次のとおりであると認められる(ただし,平成30年3月分はいずれも5日間の日割り計算である。1000円未満切捨て。 。)ⅰ 売上げ平成29年9月分 251万9000円平成29年10月分 645万7000円平成29年11月分 600万3000円平成29年12月分 684万9000円平成30年1月分 587万円平成30年2月分 760万9000円平成30年3月分 138万3000円合計 3669万円ⅱ 水道光熱費平成29年9月分 7万3000円平成29年10月分 23万9000円平成29年11月分 27万7000円平成29年12月分 30万9000円平成30年1月分 38万円平成30年2月分 26万4000円平成30年3月分 10万8000円
5 合計 165万円ⅲ 消耗品費平成29年8月分 138万9000円平成29年9月分 236万1000円平成29年10月分 10万6000円平成29年11月分 37万4000円平成29年12月分 2万2000円平成30年1月分 1万円平成30年2月分 4万9000円平成30年3月分 5000円合計 431万6000円(ウ) 以上によれば,上記期間の被告の限界利益は3072万4000円であると認められる。ウ 推定覆滅原告は,平成11年頃から「サクラホテル」との名称を用いて宿泊施設を提供している旨主張する。しかし,本件商標である「サクラホテル」は,普通名詞である2つの単語を単純に組み合わせたものであり,そのうちの1つは提供する役務の内容である「ホテル」であること,証拠(乙17)によれば,日本において「桜」「さくら」「Sakura」又は「サクラ」, ,を名称に使用した宿泊施設は多数存在することが認められ,宿泊施設の名称に桜という単語を使用すること自体,強い自他識別力を付与するものとは言い難い。これらによれば,本件商標の顧客吸引力は強いものであるとはいえず,これに類似する被告使用標章が,被告の売上げに寄与した程度は極めて限定的であるというほかない。そして,前記1(6)及び(7)で認定したとおり,原告宿泊施設と被告宿泊施設において提供するサービスに相応の価格差があることも併せ考慮すれば,被告の限界利益額の相当大きな
5 部分について,損害の推定が覆滅されるというほかなく,その覆滅割合は,上記のほか,本件に顕れた諸般の事情に照らし,9割と認めるのが相当である。エ 損害額以上によれば,被告の本件商標権の侵害につき,商標法38条2項によって推定される原告の損害は,被告の限界利益である3072万4000円の1割に相当する307万2400円であると認められる。(2) 対応費用原告は,本事案に係る被告の不誠実な対応により,原告に法律家による対応の費用等の損害が発生したと主張する。しかし,本件全証拠に照らしても,本訴訟提起前の交渉経緯における被告の対応が殊更に不誠実であったとは認められず,本訴訟における和解協議に係る原告の主張も,客観的にみれば,原告の期待が裏切られたというにとどまるものといわざるを得ない。もっとも,原告が請求する対応費用の趣旨に鑑みれば,この費用には本訴訟に係る弁護士費用も含まれていると解されることから,弁護士費用相当額については,原告の損害として認めるのが相当であるが,その他については,本件商標権の侵害により,被告が賠償すべき原告の損害を認めることはできないというべきである。しかして,本訴訟に係る弁護士費用については,上記(1)の損害額に照らし,30万円が相当であると認められる。(3) 損害額合計以上によれば,本件商標権の侵害に係る原告の損害額は,原告の逸失利益307万2400円に弁護士費用30万円を加えた額である337万2400円であると認められる。
9 小括上記3で説示したとおり,本件商標と被告使用標章は類似しているというべ
5 きであるところ,被告が,前記第2の1(3)の態様により,被告使用標章を本件商標の指定役務である宿泊施設の提供に使用していたことには争いがない。そして,上記4及び5説示のとおり,本件商標権の効力を争う被告の主張は,いずれも採用することができない。そうすると,被告による上記使用行為は本件商標権を侵害するものであり,従前の使用態様や経緯その他諸般の事情に鑑み,差止めの必要性も肯定されるから,原告の請求のうち,本件商標権に基づき被告使用標章の使用の差止めを求める部分,及び本件商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,337万2400円及びこれに対する被告が被告使用標章を使用していた期間の後(不法行為後)の日である平成30年5月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める部分には理由があるが,その余の原告の請求については,いずれも理由がない。
第5 結論
以上のとおり,原告の請求は,被告使用標章の使用の差止め,並びに損害賠償金337万2400円 及びこれに対する平成30年5月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これらを認容し,その余の請求については理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田 中 孝 一
裁判官 奥 俊 彦
裁判官 本 井 修 平
(別紙)
物件目録所 在 (省略)
5 家屋番号 35番2の7種 類 共同住宅構 造 鉄筋コンクリート造陸屋根11階建床 面 積 1階 90.30平方メートル2階 94.25平方メートル3階 94.25平方メートル4階 94.25平方メートル5階 94.25平方メートル
6階 94.25平方メートル
7階 94.25平方メートル
8階 94.25平方メートル
9階 94.25平方メートル
10階 94.25平方メートル
11階 94.25平方メートル以上
(別紙)
被告標章目録1①②③Sakurahotels5 ④SAKURAHOTEL(桜ホテル)⑤Sakura Hotel⑥Sakura Hotel Tokyo⑦6⑧⑨以上
(別紙)
被告標章目録2Sakura Sky Hotel以上
(別紙)
商標権目録登録番号 第3103765号5 出 願 日 平成4年9月30日登 録 日 平成7年12月26日商 標商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第42類 宿泊施設の提供以上
(別紙)
表示物目録(省略)
(別紙)
ウェブサイト目録5 1(URLは省略)2(URLは省略)3(URLは省略)4(URLは省略)5(URLは省略)以上
| 特許裁判例 実用新案裁判例 |
| 意匠裁判例 商標裁判例 |
| 不正競争裁判例 著作権裁判例 |
| 特許判例 実用新案判例 |
| 意匠判例 商標判例 |
| 不正競争判例 著作権判例 |
11月5日(木) - 大阪 大阪市西区
11月5日(木) - オンライン
11月5日(木) - 大阪 大阪市
11月5日(木) - 大阪 大阪市
11月5日(木) - 愛知 名古屋市
11月5日(木) - 東京 港
11月5日(木) - オンライン
11月5日(木) - オンライン
MyTokkyo.Aiで何ができる? MyTokkyo.Ai導入検討者向け説明会|研究開発・知財のための基本機能と活用事例
11月6日(金) - 東京 港区
11月6日(金) - オンライン
11月6日(金) - 大阪 大阪市
11月6日(金) - オンライン
11月6日(金) - オンライン
11月5日(木) - 大阪 大阪市西区
11月9日(月) - 東京 品川区
11月9日(月) - オンライン
11月9日(月) - オンライン
11月9日(月) - オンライン
11月10日(火) - 東京 港区
11月10日(火) - オンライン
11月10日(火) - 大阪 大阪市
はじめての外国特許出願 ~ 外国特許出願ってどうするの? 制度の基本から実務の流れまで、そのいろはを一日でわかりやすく解説します! ~
11月10日(火) - オンライン
11月10日(火) - 大阪 北
グローバル知財戦略の「平時」と「有事」~知財ガバナンスの構築から、特許侵害訴訟におけるeディスカバリー(電子情報開示)対策まで~
11月10日(火) - オンライン
AI Native知財 - 私たちはどう生きるか? - 来城知佳 氏(株式会社Showcase gig 法務マネージャ) x 弁理士木本大介(リーガルテック株式会社アドバイザー)
11月10日(火) - オンライン
11月10日(火) - 東京 港区
11月11日(水) - 東京 千代田区
11月11日(水) - オンライン
11月11日(水) - 東京 千代田
11月11日(水) - オンライン
11月11日(水) - 大阪 大阪市
11月11日(水) - オンライン
11月11日(水) - オンライン
11月12日(木) - 大阪 大阪
11月12日(木) - オンライン
11月12日(木) - オンライン
11月12日(木) - オンライン
11月12日(木) - オンライン
11月12日(木) - オンライン
11月12日(木) - オンライン
11月12日(木) - オンライン
創薬・ライフサイエンス研究を加速する画像解析AI「IMACEL」~個別開発事例から研究者自身が使えるノーコードAIプラットフォームまで~
11月13日(金) - 東京 千代田区
11月13日(金) - オンライン
11月13日(金) - オンライン
11月13日(金) - オンライン
11月13日(金) - オンライン
11月9日(月) - 東京 品川区
兵庫県西宮市上大市2丁目19 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 コンサルティング
〒951-8152 新潟県新潟市中央区信濃町21番7号 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング
東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60 45階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標 コンサルティング