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令和1(ワ)7786不正競争行為差止請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和2年8月27日
事件種別 民事
当事者 原告公立大学法人京都市立芸術大学
被告学校法人瓜生山学園
法令 不正競争
不正競争防止法2条1項2号6回
不正競争防止法2条1項1号4回
不正競争防止法3条1項1回
キーワード 実施7回
侵害5回
差止2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は,原告が,その営業表示として著名又は需要者の間に広く認識されて いる別紙原告大学表示目録記載1~5の各表示(以下,順に「原告表示1」などと いう。)に類似する営業表示である「京都芸術大学」(以下「本件表示」とい う。)を被告が使用し,原告の営業と混同を生じさせ,その営業上の利益を侵害し 又は侵害するおそれがあるとして,被告に対し,不正競争防止法3条1項,2条1 項1号又は2号に基づき,本件表示の使用差止めを求める事案である。

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判決文

令和2年8月27日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官
令和元年(ワ)第7786号 不正競争行為差止請求事件
口頭弁論終結の日 令和2年6月30日
判 決
原告 公立大学法人京都市立芸術大学
同訴訟代理人弁護士 並山恭子
同 伊原友己
被告 学校法人瓜生山学園
同訴訟代理人弁護士 牛島信
同 黒木資浩
同 山中力介
同 影島広泰
同 辻晃平
同 小山友太
同 中井杏
同訴訟復代理人弁護士 福田航
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,「京都芸術大学」の名称を被告が設置する大学の名称に使用してはなら
ない。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,その営業表示として著名又は需要者の間に広く認識されて
いる別紙原告大学表示目録記載1~5の各表示(以下,順に「原告表示1」などと
いう。)に類似する営業表示である「京都芸術大学」(以下「本件表示」とい
う。)を被告が使用し,原告の営業と混同を生じさせ,その営業上の利益を侵害し
又は侵害するおそれがあるとして,被告に対し,不正競争防止法3条1項,2条1
項1号又は2号に基づき,本件表示の使用差止めを求める事案である。
2 前提事実(証拠を掲げていない事実は争いのない事実である。)
(1) 原告
原告は,京都市立芸術大学(以下「原告大学」という。)を設置する公立大学法
人である。
原告は,その目的として「国際的な芸術文化の都である京都において,京都市立
芸術大学を設置し,及び管理し,…京都ならではの人的な交流を生かして自由で独
創的な研究を行うとともに,当該研究に基づく質の高い芸術教育を行うことにより,
次世代の芸術文化を先導する創造的な人材を生み出し,京都における芸術文化に関
する創造的な活動の活性化を図り,及び当該活動の成果を広く世界に発信し,もっ
て国内外の芸術文化の発展に寄与すること」を掲げるとともに,これを達成するた
め,「京都芸大を設置し,これを管理すること」,「学生に対し,修学,進路選択
及び心身の健康に関する相談その他の援助を行うこと」,「法人以外の者から委託
を受け,又はこれと共同して行う研究の実施その他の法人以外の者との連携による
教育研究活動を行うこと」,「公開講座の開設その他の学生以外の者に対する学習
の機会を提供すること」,「京都芸大における研究の成果を普及し,及びその活用
を促進すること」などの業務を行うこととしている。
原告大学は,明治13年に日本初の公立の絵画専門学校として開設された「京都
府画学校」を母体とするところ,同校は,明治22年に京都市に移管されて「京都
市画学校」に改称後,「京都市立絵画専門学校」,「京都市立美術専門学校」など
を経て,昭和25年,「京都市立美術大学」となった。この京都市立美術大学と,
全国初の公立音楽大学として昭和27年に設置された京都市立音楽短期大学とが昭
和44年に統合され,原告大学となったものである。また,原告大学は,その名称
の英語表記として,原告表示5を使用している。
原告大学は,令和元年5月時点で,美術学部(美術科,デザイン科,工芸科及び
総合芸術学科),音楽学部(音楽学科)及び大学院(美術研究科修士課程及び博士
(後期)課程,音楽研究科修士課程及び博士(後期)課程)を有する。原告大学の
学部生は,1学年当たり美術学部135人,音楽学部65人の合計200人である。
また,原告大学は,平成22年4月,作品鑑賞の場及び大学の活動成果を公開す
る実験的発表の場として「京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA」をオープンし,
各種展覧会の開催のほか,ワークショップ,大学移転整備プレ事業の実施等の活動
を実施している。
(以上につき,甲1,3)
(2) 被告
被告は,京都芸術大学(令和2年4月1日以降の名称。旧称は「京都造形芸術大
学」である。以下,改称の前後を問わず「被告大学」という。)を設置する学校法
人である。
被告は,「芸術立国の志によって世界の恒久平和に寄与し,これに資する人材の
育成」をその目的に掲げ,これを達成するために,被告大学のほか,京都芸術デザ
イン専門学校等を設置することとしている。
被告大学は,昭和52年に「京都芸術短期大学」として発足し,これと平成3年
に設置された「京都造形芸術大学」とを平成12年に統合して総合芸術大学に再編
し,令和2年4月1日,現在の「京都芸術大学」に改称した。
被告大学は,平成31年4月時点で,大学院(芸術研究科,芸術研究科(通信教
育)),芸術学部(アートプロデュース学科,歴史遺産学科,美術工芸学科,空間
演出デザイン学科,情報デザイン学科,環境デザイン学科,映画学科,舞台芸術学
科,こども芸術学科,キャラクターデザイン学科,プロダクトデザイン学科,マン
ガ学科及び文芸表現学科)及び通信教育部芸術学部(芸術学科,美術科,デザイン
科及び芸術教養学科)を有する。
被告大学の学生数は,芸術学部3587人,通信教育部7430人,大学院37
5人の合計1万1392人である。
また,被告大学は,平成13年,日本初の大学運営による劇場として「京都芸術
劇場」を開設した。当該劇場では,歌舞伎等の伝統芸能のほか,ミュージカルその
他の公演が行われている。
(以上につき,甲2,乙4,5,8)
3 争点
(1) 不正競争防止法2条1項2号該当性(争点1)
ア 原告表示1~5の「著名」性の有無等(争点1-1)
イ 原告表示1~5と本件表示との類似性の有無(争点1-2)
(2) 不正競争防止法2条1項1号該当性(争点2)
ア 原告表示1~5の周知性(需要者の間に広く認識されている こと)の有無
(争点2-1)
イ 原告表示1~5と本件表示との類似性の有無(争点2-2)
ウ 本件表示の被告の使用による原告の営業との混同惹起の有無(争点2-3)
(3) 本件表示の被告の使用による原告の営業上の利益の侵害又は侵害のおそれ
の有無(争点3)
第3 当事者の主張
1 原告表示1~5の「著名」性の有無等(争点1-1)
(原告の主張)
原告大学は,その沿革に加え,長年にわたり,美術,音楽及び伝統芸能の各分野
において著名な芸術家を多数輩出し,その卒業生や教員等は全世界で活躍している。
また,原告大学は,国内外の著名な芸術系大学と連携して活動するとともに,展覧
会や演奏会の実施,京都市内の児童に対する芸術教育活動,京都市内における芸術
作品の展示,京都市民への芸術活動等の支援,絵画等の所蔵品の貸出し,図録等の
作成,芸術に関する論文の発表等の活動を幅広く行ってきた。これらの活動により,
原告大学の名称すなわち原告表示1は,京都地域にとどまらず全国的にも,国際的
にも知られており,芸術分野に関心を持つ者の間で著名である。
また,原告表示5は,世界的に活躍する卒業生等の芸術活動において多用されて
おり,これも芸術分野に関心を持つ者の間で著名である。
さらに,原告大学の略称である原告表示2~4は,いずれも一般に通用している
知名度の非常に高いものであり,芸術分野に関心を持つ者の間で著名である。
(被告の主張)
(1) 原告主張に係る原告大学の活動は,社会における芸術文化の向上のために
行われるものであるところ,これらは取引社会における競争を観念し得ないもので
あり,「営業」に当たらない。
(2) 原告は,原告表示2を原告大学の略称として用いたことがない。また,第
三者により,原告表示2が原告大学を示すものとして用いられてきたこともない。
したがって,原告表示2は,原告の「商品等表示」とはいえない。
(3) 原告表示1~5は,後記3(被告の主張)のとおり,周知ですらないから,
「著名」な商品等表示とはいえない。
また,原告表示1は,一般市民の間はもとより,芸術分野に関心を持つ者の間で
も「著名」でない。そもそも,「著名」といえるためには,他の分野において他の
者によって同一又は類似の商品等表示が使用された場合に,需要者から,緊密な営
業上の関係があると誤信されるほど社会的に広く知られ,かつブランド価値が確立
された商品等表示であることを要するから,「芸術分野に関心を持つ者の間で」な
どと需要者の範囲を限定すること自体誤りである。
原告表示2~4については,原告大学の正式名称である原告表示1が著名と認め
られない以上,その略称である原告2~4が著名となる余地はない。
2 原告表示1~5と本件表示との類似性の有無(争点1-2)
(原告の主張)
(1) 原告表示1について,原告大学を他の芸術系大学と識別する上で不可欠な
構成要素は「京都」の部分であり,京都の他の大学と識別する上で不可欠な構成要
素は「芸術」の部分である。本件表示は,「市立」がない点で原告表示1と異なる
ものの,要部である「京都」及び「芸術」が同一であるから,原告表示1と類似す
る。
(2) 原告表示2は,本件表示と同一である。
(3) 原告表示3及び4は,いずれも原告表示1の略称であり,また,略称であ
る原告表示2を更に省略した名称であるところ,その要部は,同様に「京都」又は
「京」及び「芸術」又は「芸」である。したがって,本件表示は,原告表示3及び
4いずれとも要部を共通にしており,これらと類似する。
(4) 原告表示5の表示は,「京都芸術大学」と邦訳することも可能である。ま
た,「City」が略された表記がされる例も多数存在するところ,この場合,直訳す
れば「京都芸術大学」となる。このため,本件表示は,原告表示5と類似する。
(被告の主張)
(1) 原告表示2については,原告大学の略称として用いられた事実がない以上,
これと本件表示が同一であるか否かは問題とならない。
(2) 原告表示1及び3~5については,「市立」の文言を含まない本件表示を
見聞きした者が「市立」である原告大学を容易に想起することはあり得ないから,
これらの原告表示と本件表示が類似する関係にはない。
また,原告表示5をあえて「京都芸術大学」と邦訳することは考えられない。
3 原告表示1~5の周知性の有無(争点2-1)
(原告の主張)
(1) 芸術系大学は,単なる芸術家養成学校にとどまるものではなく,社会に対
して,芸術活動の拠点として機能し,創作的表現を発信し,芸術文化の風を送る役
割を期待されており,そういった活動を通じて,地域の活性化や発展にも寄与して
いる。このため,原告大学及び被告大学の事業の需要者は,受験生及びその保護者
にとどまらず,少なくとも京都府及びその近隣府県に居住する者一般である。
(2) 原告大学は,前記(1(原告の主張))のとおり,幅広く教育,研究,芸
術活動をし,また,京都市内の繁華街では,原告大学の在校生や卒業生の作品が多
数発表されている。このため,原告表示1は,需要者である京都府及びその近隣府
県に居住する者一般の間に広く認識されている,すなわち周知のものである。
(3) 原告表示2~5についても,同様に,京都府及びその近隣府県に居住する
者一般の間において周知である。
(被告の主張)
(1) 被告大学の事業の需要者は,被告大学の教育サービスの提供を受けること
を目的として被告大学と取引関係に入る者すなわち受験生及びその保護者であり,
公演,展覧会等の催事の来場者である市民一般は需要者には当たらない。
(2) 原告表示1~5のうち,原告表示2は,前記(2(被告の主張)(1))のと
おり,原告大学の略称として用いられていない。また,原告表示3及び4により原
告大学が知られている事実もない。むしろ,原告大学の略称としては,「市芸」,
「市立芸大」,「市立芸術大学」,「京都市立芸大」等が定着している。
したがって,原告表示1~5は,いずれも,被告大学の需要者である受験生及び
その保護者の間において広く認識されているとはいえない。
4 原告表示1~5と本件表示との類似性の有無(争点2-2)
(原告の主張)
前記2(原告の主張)と同じ。
(被告の主張)
(1) 原告表示2については,前記2(被告の主張)(1)と同じ。
(2) 原告表示3及び4については,前記(3(被告の主張)(2))のとおり,原
告大学がこれらの表示により知られている事実はないから,本件表示との類似性は
問題とならない。
また,原告表示3及び4は,大学の名称が一部の文言の相違で区別されるという
取引の実情を踏まえれば,本件表示との外観上の類似性はなく,称呼も異なる。観
念においても,本件表示を目にした者が京都市立の芸術大学であると観念すること
はないから,類似していない。したがって,原告表示3及び4と本件表示とは類似
しない。
(3) 原告表示1のうち,原告大学を識別するに当たって最も特徴的な部分は,
「京都市立」又は「市立」の部分であり,少なくともこれらの部分は原告表示1の
要部に含まれる。そこで,要部を踏まえて原告表示1及び本件表示を離隔的に観察
すると,需要者にとって,その外観及び称呼は「市立」(「シリツ」又は「イチリ
ツ」)の文言の有無によって大きく異なり,類似しない。また,観念についても,
需要者にとって,原告表示1からは「京都市立の芸術大学」が観念されるのに対し,
本件表示からはそのような観念を生じることはあり得ず,したがって,この点でも
原告表示1と本件表示とは類似しない。
したがって,原告表示1と本件表示とは,類似しない。
(4) 原告表示5は,「Kyoto City University of Arts」という表示全体をその要部
とし,本件表示の要部も「京都芸術大学」という表示全体である。両表示の外観及
び称呼は異なり,観念においても,原告表示5を目にした者は,京都市立の芸術大
学であると観念するのに対し,本件表示を目にした者が京都市立の芸術大学である
と観念することはないから,両表示は類似しない。
また,原告表示5をあえて京都芸術大学と邦訳することも考えられない。
したがって,原告表示5と本件表示は類似しない。
5 本件表示の被告の使用による原告の営業との混同惹起の有無(争点2-3)
(原告の主張)
原告大学及び被告大学のいずれも,その受験者は,芸術を志し,その素養を身に
つけることを目的とするところ,類似した名称の芸術大学が同じ京都に存在するこ
とは,受験生及びその保護者にとって誤認混同を引き起こす。また,原告大学は,
京都市において芸術活動の拠点として機能し,創作的表現を社会に向けて発信する
ことが期待されているところ,類似した名称の芸術大学が京都に存在することによ
り,その芸術表現主体・事業主体がいずれであるか不明となり,誤認混同を引き起
こす。さらに,類似した名称の芸術大学が京都に存在することは,原告大学の卒業
生である芸術の表現者が,プロフィールからいずれの大学で教育を受けたかが不明
となり,芸術に関わる者(スポンサー,展覧会等の主催者,鑑賞者,研究者等)に
混乱を引き起こす。
このように,類似した名称の芸術大学が同じ京都市内に存在することは,京都府
及びその近隣府県に居住する者一般に誤認混同を引き起こす。
(被告の主張)
(1) 前記(3(被告の主張)(1))のとおり,被告又は被告大学の事業の需要者
は,受験生や保護者である。これらの者は,受験先の選択に当たり慎重に検討する
のが常である。また,原告大学と被告大学とは,国公立と私立という違いがある上,
教育分野,受験者層,入試の際の偏差値,卒業生の進路,学費等も大きく異なるか
ら,需要者が両者を誤認することは考え難い。さらに,大学の名称については,そ
の一部のみ異なるものが多数あるが,一般に,これらが混同される事態は起こって
いない。加えて,原告大学のような公立大学においては,設立主体を示す「市立」
等の文言が付されていることが一般に重要な識別力の源となっている。
こうした取引の実情を踏まえると,需要者が,原告大学と被告大学とを誤認混同
することはあり得ない。
(2) 仮に,需要者につき京都府及びその近隣府県に居住する者一般と考えたと
しても,受験生及びその保護者のみならず一般人も,大学の名称につき,一部の文
言の相違でこれを区別する意識を有しているという取引の実情に鑑みれば,原告大
学と被告大学につき「混同」を生じることはあり得ない。
6 本件表示の被告の使用による原告の営業上の利益の侵害又は侵害のおそれの
有無(争点3)
(原告の主張)
被告の本件表示の使用により,原告は,その営業上の利益を侵害され,又は侵害
されるおそれがある。
(被告の主張)
前記(5(被告の主張)(1))のとおり,受験生及びその保護者は,受験先の選
択に当たり慎重に検討するのが常であり,原告大学の志望者が誤って被告大学を受
験するといったことは起こり得ず,原告において何らかの営業上の損害が生じるこ
とは考えられない。
第4 当裁判所の判断
1 原告表示1~5その他の表示の使用状況
証拠(各項に記載のもの。なお,特に言及しない限り,枝番号は省略する。)及
び弁論の全趣旨によれば,原告表示1~5その他の表示の使用状況として,以下の
事実が認められる。なお,ここで認定する各表示の使用は,必ずしも商品等表示と
しての使用に限定されない。
(1) 原告による使用
原告は,原告大学につき,正式名称として原告表示1及びその英語表記である原
告表示5を使用するほか,自ら原告大学の略称として位置付けているものと思われ
る原告表示3を使用するとともに,これを更に省略したものと見られる原告表示4
をも,原告大学を示す表示として使用している。このほか,原告大学を表示するも
のとして,「京都市立芸大」の表示を原告が使用する例も見られる。
使用態様としては,原告表示1及び3~5をそれぞれ単独で使用するほか,原告
表示1及び5を組み合わせ,原告表示1を上段に,原告表示5を下段に配置してな
るロゴマーク(以下「原告大学ロゴ」という。)とすることで,原告表示1及び5
を一体的に使用する態様,原告表示1,3又は4と他の単語を組み合わせて使用す
る態様(「京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA」,「京都芸大ビジュアルデザイ
ン専攻」,「京都芸大サマーアートスクール」,「京芸友の会」,「京芸通信」,
「京芸イベントガイド」等)等が見られる。
使用媒体としては,大学案内,「京芸通信」その他外部向け冊子のほか,原告大
学主催の展覧会,演奏会等のイベント(地域的には,京都市又は京都府内で行われ
るものが多いが,これに限られない。)や他の大学等と連携して実施するイベント
(これも,地域的には同様である。)の案内チラシ等,京都市民向け公開講座等の
案内チラシ等が見られる。これらの配布先は,原告大学の受験を検討している大学
受験生及びその保護者,在校生及びその保護者のほか,他の大学,美術館・博物
館,コンサートホール,近畿地方の市町村,新聞社及び図書館等である。これらに
使用される表示としては,原告表示1又は原告大学ロゴが使用されることが最も多
い。
また,原告が京都市又は京都市所在の団体等と連携して設置等された展示物等に
は,原告大学又は原告大学関係者の関与を示すものとして,ほとんどは原告表示1
又は原告大学ロゴが使用されている。
さらに,原告大学の所蔵する書画等の資料を展覧会等のために各地の美術館,博
物館等に貸し出す場合,展示物や図録に原告表示1が表示されているが,原告表示
3及び4の使用例もある。
上記使用に当たっての各表示の使用頻度としては,原告表示1が最も多く使用さ
れており,これと共に原告大学ロゴを構成する原告表示5も多い。原告表示3は,
使用される例が少ないとはいえないものの,原告表示1及び5と比較すると,必ず
しも多いとまではいえない。原告表示4を原告が使用する例は,「京芸通信」等の
特定の使用例を除くと,限定的といってよい。
(以上につき,甲1,3~5,21,22~25,29,31,33)
(2) 原告関係者による使用
原告大学の卒業生,教職員その他関係者は,原告大学の表示として,原告表示1
~5を使用する例が見られるほか,「京都市立芸大」,「市立芸大」を使用する例
もある。
使用媒体及び使用態様としては,原告関係者が参加する展覧会,演奏会,京都市
中での展示物の展示等自らの芸術活動に係る案内チラシ等に,現在又は過去の所属
先(経歴又は肩書)として記載される例が圧倒的に多い。
上記使用に当たっての各表示の使用頻度は,原告表示1が最も多く使用されてお
り,次いで原告表示3が多く見られる。原告表示2及び4の使用頻度は必ずしも多
くない。ただし,原告大学音楽学部同窓会の会報や活動に係るパンフレット等にお
いては,原告表示3及び4を使用する例が多く見られる。
原告表示5は,これらの者の海外での活動に際し使用される例が多いが,英語圏
以外の国での活動の場合には,その地の言語で記載される例も少なくない。
(以上につき,甲21,22,24,29~32,37)
(3) 公共機関及びその関係者による使用
ア 京都市関係
京都市(区を含む。)においては,原告大学を表示するに当たり,原告表示1又
は3を使用する例が数多く見られる。ただし,その際,原告表示1の表示が先行
し,その略称として原告表示3を使用していることが明示又は黙示に理解し得る形
で使用されている例が多い。原告表示2又は「芸大」を使用する例も,少ないなが
ら見られる。
もっとも,京都市発行に係る「きょうと市民しんぶん」では,平成26年4月1
日号から本件訴訟提起直前の号である令和元年8月1日号において,ほぼ毎号原告
大学に関する記事が掲載されているところ,ここでは,原告大学につき,「市立芸
術大学」,「市立芸大」といった表示が使用されている。
また,京都市長は,本件に係る原告と被告との紛争が顕在化する平成元年7月1
2日以前においては,その公式サイトで,原告大学につき,「市立芸術大学」,
「市立芸大」及び「京都市立芸大」を使用する例のみが見受けられるのに対し,そ
れ以後は,原告表示1及び3を使用している。令和2年2月2日投開票の京都市長
選での各候補者の公約を記載した新聞記事においても,京都市長は,原告大学の略
称として原告表示3を使用している。なお,当該記事において,対立候補の1人
は,原告大学につき「市立芸大」との略称を使用している。
京都市議会会議録中には,原告表示1~4がそれぞれ見受けられる。このうち,
原告表示2及び3が比較的多く使用されている。
原告大学移転整備計画に係るパブリックコメントを見ると,寄せられた意見に
は,原告大学の表示として原告表示1又は3を使用するもののほか,「市立芸
大」,「市芸」,「芸大」,「京都市芸大」を使用する例も見られる。使用頻度に
ついては,原告表示3が最も多い。
このほか,京都市西京区役所発行に係る地図には,原告大学につき,「京都市立
芸大」,「市立芸術大」との使用例が見られる。
(以上につき,甲6,22,24~28,29,46,乙3,35,57,乙
3,35,74)
イ 公共交通機関等
原告大学付近に設置され,原告大学の存在等を知らせる道路案内標識には,原告
表示3及び「Kyoto Univ. of Arts」と表示されている。また,原告大学付近のバス
停の名称は「芸大前」である。(甲19,29)
(4) マスメディアによる使用
本件につき報道する新聞記事においては,原告表示3及び4をもって原告大学の
略称又は通称とするものが見られる。
本件に係る紛争が顕在化する以前の記事等では,新聞及びテレビ等のマスメディ
アにおいて,原告大学の表示として,原告表示1~4のほか,「京都市芸大」,
「市芸」,「市芸大」,「市立芸術大」,「京都市立芸大」,「芸大」,「京芸
大」,「市立芸大」が使用される例が見られる。使用頻度としては,原告表示1が
最も多く使用されているが,原告表示3が使用される例もこれに近いといってよ
い。ただし,ここでも,上記各略称とともに原告表示1が使用される例が多く見ら
れる。なお,新聞記事における原告大学に係る表示の使用傾向は,被告大学が「京
都造形芸術大学」に改称した前後を通じて明確な変化はうかがわれない。また,原
告にとって地元紙である京都新聞について見ても,原告表示1及び3を同一記事中
に併記している例が最も多い。
さらに,被告の依頼に基づく新聞及び雑誌記事における原告大学に係る表示を使
用した記事数(対象期間は平成28年~平成30年)によれば,合計836件中,
原告表示1が130件,原告表示2は0件,原告表示3は11件,原告表示4は2
件,その他は「京都市立芸術大」又は「市立芸術大」572件,「京都市立芸大」
又は「京都市芸大」96件,「市立芸大」25件という結果が示されている。
(以上につき,甲19,20,22,24,乙18~21,23~26,31~
33)
(5) 地図における使用
京都市西京区作成の案内資料に含まれる地図には,原告大学につき,「京都市立
芸大」,「市立芸術大」と表示されている(前記(3)ア)。また,NTT タウンペー
ジ株式会社発行(京都市協力)に係る京都市西京区の防災タウンページ掲載の避難
所マップには,原告大学につき「市立芸大」と表示されている。
他方,インターネット上で公開された京都市の地図においては,原告大学につ
き,原告表示1と実質的に同一と見られるもの(「京都市立芸術大」)のほか,
「市立芸大」,「京都市立芸大」も使用されている。また,書籍としての地図にお
いても,原告大学につき,「市立芸大」,「市立芸術大」が使用されている。
(以上につき,甲24,乙57,60~73)
(6) 受験関係者による使用
美術系大学の受験生を対象とする受験指導組織のパンフレットや受験情報の掲載
誌においては,原告大学の表示として,正式名称である原告表示1のほか,原告表
示2~5を使用する例がある。このほか,「京都市立芸大」,「京都芸」,「京都
市芸」の使用例も見られる。使用頻度としては,原告表示1も多いが,受験指導組
織が原告大学に特化したコース又はクラスを設定していることも多く,こうしたコ
ース等の名称及びその説明においては,原告表示3又は4が使用される例がむしろ
多い。(甲35)
(7) 原告との取引先等(原告大学の受験関係者を除く。)による使用
受験関係者を除く原告大学の取引先が原告大学に提出,送付する書類やメールに
おいては,原告大学の表示として,原告表示1のほか,原告表示2~5を使用する
例がある。このほか,「京芸大」,「KYOTO GEIJUTSU DAIGAKU」(各単語の
頭文字以外を小文字とする例もある。),「芸術大学」といった使用例も見られ
る。使用頻度については,原告表示1~3が比較的多く使用されているものといえ
る。(甲34)
(8) 被告大学の表示の使用例
令和2年4月1日付け改称前における被告大学の表示については,被告大学付近
の店舗において,「京都造形芸大」,「京造」,「造形大」,「造形芸大」といっ
た表示が使用されている(なお,改称後は被告大学につき本件表示を使用している
例が見られる。)。
また,上記時期の京都市バスにおいては,行き先表示として「上終町・京都造形
芸大」との表示が使用され,バス停としては「上終町京都造形芸大前」との表示が
使用されていた。京都バスのバス停も,同様の表示を使用している。
さらに,上記時期の大学情報に関するウェブサイト等では,被告大学につき,
「京造」,「京都造形大」,「京都造形」との表示が使用されている。
被告大学自身も,上記時期におけるその略称として,「京造」,「京都造形」と
の表示を使用している。
も っ とも,SNS やブログそ の他の ウェ ブページ上では , 投 稿 者の属性 ( 居 住
地,原告及び被告との関係)等は必ずしも明らかでないものが含まれるものの,上
記時期において,被告大学につき,本件表示や「京都芸大」(原告表示3と同一の
もの),「京芸」(原告表示4と同一のもの)との表示を使用する例も数多く見受
けられる。京都市長のブログにおいても,被告大学につき本件表示を使用したもの
がある。
被告大学の取引先その他(被告大学の在学生や教職員も含む。)からのメールに
おいても,同様の使用状況が見受けられる。被告大学に関連する新聞や雑誌の記事
にも,被告大学を示すものとして本件表示や「京造」を使用する例がある。
また,京都市左京区の防災タウンページに掲載された避難所マップには,被告大
学につき「京都芸大」との表示が使用されている。
(以上につき,甲47,乙36~38,40,41,52,56,59,75,
101)
2 原告表示1~5の「著名」性の有無等(争点1-1)について
(1) 事業者の努力によりその商品表示又は営業表示が広く知られるようになる
と,そのブランドイメージが当該事業者独自のものとして顧客吸引力を有し,個別
の商品や営業を超えて独自の財産的価値を持つに至ることがある。不正競争防止法
2条1項2号は,そのような表示を第三者が冒用することにより,たとえ本来の表
示主体である事業者の商品等との間に混同を生じない場合であっても,当該第三者
による当該表示の持つ顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド),当該表示とその
本来の表示主体である事業者との結びつきの希釈化(ダイリューション),当該表
示の持つブランドイメージの毀損(ポリューション)といった事態の生じることを
抑止し,本来の表示主体である事業者を保護することをその趣旨とする。
(2) 原告表示1~5と原告の「商品等表示」
不正競争防止法2条1項2号の前記趣旨に鑑みると,「商品等表示」とは,「人
の業務に係る氏名,商号,商標,標章…その他の商品又は営業を表示するもの」
(同条1項1号)であるところ,「営業」とは,取引社会における競争関係を前提
とするものとして解釈されるべきであるものの(最高裁判所第二小法廷平成18年
1月20日判決民集60巻1号137頁),広く経済的対価を得ることを目的とす
る事業を指し,私立学校のみならず公立学校の大学経営も,これに含まれるという
べきである。
前記1認定に係る各事実によれば,原告表示1及び3~5は原告自らその商品等
表示として使用しているということができる。また,これらに加え,原告表示2
も,取引社会において原告大学を示す表示として現に使用されており,原告もこれ
を容認しているといってよい。
したがって,原告表示1~5は,いずれも原告の「商品等表示」に当たる。これ
に反する被告の主張は採用できない。
(3) 原告表示1~5の「著名」性の有無
ア 不正競争防止法2条1項2号の前記趣旨に鑑みると,「著名」な商品等表示
といえるためには,当該商品等表示が,単に広く認識されているという程度にとど
まらず,全国又は特定の地域を超えた相当広範囲の地域において,取引者及び一般
消費者いずれにとっても高い知名度を有するものであることを要すると解される。
これを本件について見るに,大学の「営業」には学区制等の地理的な限定がない
ことに鑑みると,地理的な範囲としては京都府及びその隣接府県にとどまらず,全
国又はこれに匹敵する広域において,芸術分野に関心を持つ者に限らず一般に知ら
れている必要があるというべきである。
イ 原告表示1について
(ア) 前提事実(前記第2の2(1))及び前記1認定に係る各事実によれば,原告
の正式名称である原告表示1は,原告はもちろん原告大学の関係者によっても,原
告大学の営業表示として長年にわたり数多く使用されてきたものといってよい。ま
た,その地域的範囲も,書籍やウェブページに記載されたものは全国的に使用され
たものということができるし,原告大学の在校生及び卒業生等の活動範囲は国内外
にわたっている。
しかし,原告大学関係者による原告表示1の使用例(前記1(2))のうち多数を
占める原告大学関係者の肩書又は経歴等としての使用の多くは,そもそも原告の営
業表示として使用されたものとはいい難い。その点を措くとしても,芸術家の活動
(作品等の展示を含む。)の際には,当該芸術家の名や作品名等が大きく表示さ
れ,こうした経歴等はこれらと同程度又はより小さな記載により付記されるという
程度にとどまることが通常であり,殊更に注目を惹く形で表示される場合は限られ
る。こうした活動に接する側の鑑賞者も,研究者その他の特に関心の深い者でなけ
れば,当該活動それ自体や当該芸術家の他の活動等に関心を持つことはあっても,
当該芸術家の経歴等にまで興味を持つとは必ずしもいえない。
そうすると,原告表示1をもって,原告の営業表示として「著名」なものという
ことはできない。
(イ) これに対し,原告は,原告表示1につき,芸術分野に関心のある者の間で
著名であるなどとして,「著名」な営業表示に当たる旨を主張する。
しかし,芸術分野は,伝統的な美術及び音楽のほか,建築,アニメーション,映
画,舞台演劇,さらにはいわゆるサブカルチャーに至るまでの多様な内実を有して
おり,これに合わせて,芸術分野に関心を持つ者といっても,その裾野は相当広範
囲に及ぶものと見られる。他方で,証拠を精査しても,原告関係者である芸術家の
活動分野はその一部にとどまるものというほかない。また,芸術分野に関心のある
者のうち,職業的な芸術家もしくは研究者又はこれらを志望する者は人数的に限ら
れる。そうすると,芸術分野に関心のある者といえども,その全体としては,芸術
活動の主催者が誰であるか,また,その実践に当たる者の経歴等はどのようなもの
かといった点に関心を持つ者は,さほど多くないと思われる。そうである以上,原
告大学関係者である芸術家の活躍の程度や,その経歴等のパンフレットへの掲載,
マスメディア等への露出が多いことをもって,直ちに原告表示1が「著名」な営業
表示ということはできない。
さらに,原告大学及び原告大学関係者の活動等が全国規模で展開されているとい
っても,その活動等は,明らかに京都市域を中心とした京都府及びその近隣府県の
範囲を主たる対象地域としている。原告の発行に係る「京芸通信」も,京都市内の
関係機関等を中心に,主として上記範囲の関係機関等がその送付先とされている
(甲21)。
その他原告の指摘に係る事情を考慮しても,原告表示1をもって原告の商品等表
示として「著名」なものということはできない。この点に関する原告の主張は採用
できない。
ウ 原告表示2~5について
前記イのとおり,原告表示1については,原告の営業表示として「著名」(不正
競争防止法2条1項2号)なものとはいえない上,原告表示2~5の使用頻度は,
原告表示1に比していずれも少ない(前記1)。にもかかわらず,原告表示2~5
につきなお「著名」というべきものと認めるに足る証拠も見当たらない。
したがって,原告表示2~5をもって,原告の商品等表示として「著名」なもの
ということはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。
(4) 以 上よ り, 不 正競争 防止 法2 条1 項2号 ,3 条1 項に 基づく 原告 の請求
は,その余の点を論ずるまでもなく理由がない。
3 原告表示1~5の周知性の有無(争点2-1)について
(1) 不正競争防止法2条1項1号の趣旨は,周知な商品等表示の有する 自他識
別機能又は出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営
業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することによ
り,事業者間の公正な競争を確保することにある。
(2) このような趣旨に鑑みれば,前記2(2)と同様に,原告表示1~5をもって
原告の「商品等表示」ということができる。
(3) 需要者について
不正競争防止法2条1項1号の前記趣旨に鑑みれば,「需要者」とは,当該商品
等表示が使用等される商品又は営業に係る取引の相手方をいう。
これを本件について見るに,被告の目的,その設置する学部学科の構成及び学生
数等(前記第2の2(2))のほか,証拠(乙4,5,10,11)及び弁論の全趣
旨によれば,被告大学について,以下の特徴が認められる。
すなわち,被告大学は,職業的な芸術家を目指す者を対象とする学科にとどまら
ず,芸術教育を活かして社会に適合する総合力を身に着けることを目指す者を対象
とする学科を多く設け,進路決定率が高いことをその特徴の 1 つとして標榜してい
る。また,受験を要しない通信教育部を設置し,通学不要又は週末のスクーリング
のみが課される社会人でも受講可能な制度を備え,幅広い年齢層(18歳以上で,
90歳代の学生も含まれる。)に対し芸術教育を提供する通信教育にも取り組んで
いる。被告大学の学生数は通学生よりも通信教育部の方が大幅に多く,通信教育部
においては,在学生の年齢は30代以上の者が約80%,40代以上の者が約60
%を占めるとともに,半数以上が有職者,居住地別では近畿地方が30%弱,関東
地方が40%強となっている。
これらの事情を総合的に考慮すると,本件において,「需要者」は,芸術家志望
の学生又は受験生及びその保護者にとどまらず,職業的ではなく教養としての芸術
に関心のある者を広く含むというべきである。また,ここでいう「芸術」とは,前
記のとおり,現代において「芸術」とは伝統的な美術及び音楽からサブカルチャー
に至るまでの多様な内実を有する分野であること,被告大学の学部学科の構成の多
様性もこれに対応したものと見られることに鑑みると,「需要者」層の人的範囲に
ついては広く考えるのが相当である。すなわち,上記の意味での芸術分野のいずれ
かに関心のある者は広く「需要者」に含まれる。具体的には,およそこうした芸術
分野のいずれにも関心のない者を除き,多くの一般市民が「需要者」に含まれると
いうべきである。
また,その地域的範囲については,上記のとおり,被告の通信教育部の学生の居
住地のうち近畿地方は30%弱にとどまるものの,被告大学そのものは京都市に所
在し,通学生も多数に上ることに加え,被告大学の各種活動の場所も京都市を中心
とするものと見られることから,京都府及びその近隣府県に居住する者とするのが
相当である。
以上より,「需要者」については,京都府及びその近隣府県に居住する者一般
(いずれの芸術分野にも関心のないものを除く。)と解される。これに反する被告
の主張は採用できない。
(4) 原告表示1~5の周知性の有無について
ア 原告表示1について
前記(第2の2(1),第3の1)認定の各事実に加え,証拠(甲3,5,9の2
及び9の3,21,22,29,36)及び弁論の全趣旨によれば,原告大学は,
その母体の設立からは140年,現在の名称となってからでも50年以上という長
期にわたり,京都市に所在して芸術教育を実施し,文化勲章受章者を含む多数の芸
術家を輩出している。また,原告大学は,京都市内にギャラリー(@KCUA)を設
置し,同所にて展覧会等の催事を繰り返し実施するとともに,京都市内において,
案内チラシ等に原告表示1を付すなどして展覧会や演奏会を主催し,また,地下鉄
駅構内その他京都市内の人目に付きやすい場所に,原告表示1を付して作品を展示
し,さらに,京都市内において児童その他市民向けの芸術教育活動等を行ってきた
ことが認められる。
これらの事情のほか,京都府及びその近隣府県の範囲における交通や新聞等によ
る報道の実情等に鑑みると,京都府及びその近隣府県に居住する一般の者が,原告
大学を表示するものとして原告表示1を目にする機会は,相当に多いものと合理的
に推認される。
そうすると,原告表示1は,原告大学を表示するものとして需要者に広く認識さ
れており,周知のものといってよい。これに反する被告の主張は採用できない。
イ 原告表示2~4について
(ア) 前記1認定の各事実によれば,原告表示2~4については, 例えば原告大
学の卒業生や受験指導組織といった特定の属性を有する層で原告表示3又は4が比
較的多数使用されているといった例もあるものの,程度の差こそあれ,原告表示1
と比較してその使用頻度はいずれも少ないといえる。
しかも,原告大学を示す略称又は通称として,原告表示2~4のほか,「京都市
立芸大」,「市立芸大」,「市芸」その他様々なものが使用されている。原告大学
の正式名称(原告表示1と同一のもの)のうち,「京都」(又は「京」),「芸
術」(又は「芸」)及び「大学」(又は「大」)は,大学の名称としては,所在
地,中核となる研究教育内容及び高等教育機関としての種類を示すものとして,い
ずれもありふれたものである。加えて,原告大学の中心的な活動場所等が京都市で
あること,このため,原告大学の略称等が使用される地域的範囲としても,京都市
又は京都府であることが必然的に多くなり,「京都」(又は「京」)は敢えて明示
せずとも文脈上暗黙の了解事項となりやすいと推察されることなどに鑑みると,略
称等に「市立」(又は「市」)が含まれ,「京都」(又は「京」)が省略されるこ
とも,当然起こり得ることといってよい。原告の設置主体である京都市及び京都市
長や原告大学関係者が,原告大学を示すものとして,自ら「市立」(又は「市」)
を含む略称等を使用する例が少なからず見られること,インターネット上又は書籍
としての地図においても,原告大学については「市立」が含まれる表示が使用され
ていることも,この文脈において合理的に理解し得る。
そもそも,このように多種多様な略称等を生じ,それぞれが一定程度使用されて
いること自体,原告大学の略称等として各表示それ自体が有する通用力がいずれも
さほど高くないことをうかがわせる。同一の文書等の中で,原告表示1と共に使用
される例が多いことも,同様に,原告表示2~4の略称等としての通用力の低さを
うかがわせる。
しかも,原告表示2~4と同一の表示が,原告大学ではなく被告大学を示す表示
として使用される例も,相応に見受けられる。
他方,原告表示2~4が,それぞれ,原告表示1を想起させることを介して,又
はこれを介さずに,原告大学を想起させるものとして広く知られていることをうか
がわせるに足る具体的な証拠はない。
(イ) これに対し,原告は,原告表示2~4についても原告大学の表示として周
知であり,また,これらと同一の表示が被告大学を指すものとして使用される例は
誤記であるなどと主張する。
しかし,上記(ア)の事情のほか,仮に原告表示2~4が原告大学の略称等として
周知であるとすれば,そのような誤記が多数生ずるはずはないし,そもそも,作成
主体を異にする者の間で同様の誤記が頻発すると考えることは合理性に乏しい。そ
の他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用でき
ない。
(ウ) 以上より,原告表示2~4については,原告の商品等表示として需要者の
間に広く知られたもの,すなわち周知のものということはできない。
ウ 原告表示5について
本件における「需要者」が京都府及びその近隣府県に居住する者一般(いずれの
芸術分野にも関心のないものを除く。)と解されることに鑑みると,原告表示5が
原告大学を示すものとして使用される例のほとんどは,原告大学ロゴとして原告表
示1と一体となっているものということができる。この需要者には,もとより京都
府及びその近隣府県に居住する英語を理解する外国籍の者も含まれるけれども,原
告大学ロゴにおける原告表示1と5とのフォントサイズの違い(原告表示1の方が
明らかに大きい。)から,原告大学ロゴ全体のサイズ次第では,原告表示5の部分
は相当に注意を払わないと視認し難い。また,上記地域的範囲に居住する日本語を
解する者が,原告表示1の存在にもかかわらず,原告表示5にも更に注意を払うこ
とは,必ずしも多くないと推察される。
したがって,原告表示5は,原告の商品等表示として需要者の間に広く知られた
もの,すなわち周知のものということはできない。これに反する原告の主張は採用
できない。
(5) 原告表示1と本件表示との類似性の有無(争点2-2)について
ア ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類
似のものか否かを判断するに当たっては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は
需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体
的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当
である(最高裁判所第二小法廷昭和58年10月7日判決民集37巻8号1082
頁)。その判断に際しては,商品等表示のうち,自他識別機能又は出所表示機能を
生ずる特徴的部分すなわち要部を抽出した上で,これを中心に表示の全体を離隔的
に観察する方法による。
イ 前記(3)イ (ア)のとおり,原告表示1のうち, 「京都」,「芸術」及び「大
学」の各部分は,大学の名称としては,所在地,中核となる研究教育内容及び高等
教育機関としての種類を示すものとして,いずれもありふれたものである。このた
め,これらの部分の自他識別機能又は出所表示機能はいずれも乏しい。他方,
「(京都)市立」の部分は,大学の設置主体を示すものであるところ,日本国内の
大学のうちその名称に「市立」を冠するものは原告大学を含め11大学,「市立」
ではなく「市」が含まれるものを含めても13大学にすぎず,しかも,京都市を設
置主体とする大学は原告大学のみである(乙2)。このような実情に鑑みると,原
告表示1のうち「(京都)市立」の部分の自他識別機能又は出所表示機能は高いと
いうべきである。
また,その名称に所在地名を冠する大学は多数あり,かつ,正式名称を構成する
所在地名,設置主体,中核となる研究教育内容及び高等教育機関としての種類等の
うち一部のみが相違する大学も多い(乙1)。このため,需要者は,複数の大学の
名称が一部でも異なる場合,これらを異なる大学として識別するために,当該相違
部分を特徴的な部分と捉えてこれを軽視しないのが取引の実情と見られる。
そうすると,原告表示1の要部は,その全体である「京都市立芸術大学」と把握
するのが相当であり,殊更に「京都」と「芸術」の間にある「市立」の文言を無視
して「京都芸術大学」部分を要部とすることは相当ではない。この点に関する原告
の主張は採用できない。
また,本件表示の要部については,上記のとおり「京都」,「芸術」及び「大
学」のいずれの部分も自他識別機能又は出所表示機能が乏しいことから,これらを
組み合わせた全体をもって要部と把握するのが適当である。
ウ 原告表示1と本件表示とは,その要部を中心に離隔的に観察すると,「市
立」の有無によりその外観及び称呼を異にすることは明らかである。観念について
も,「市立」の部分により設置主体が京都市であることを想起させるか否かという
点で,原告表示1と本件表示とは異なる。取引の実情としても,前記イのとおり,
需要者は,複数の大学の名称が一部でも異なる場合,これらを異なる大学として識
別するために,当該相違部分を特徴的な部分と捉えてこれを軽視しない。
そうすると,原告表示1と本件表示とは,取引の実情のもとにおいて,取引者又
は需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から全体的に
類似のものとして受け取るおそれがあるとはいえない。そうである以上,原告表示
1と本件表示とは,類似するものということはできない。これに反する原告の主張
は採用できない。
エ 以上より,不正競争防止法2条1項1号,3条1項に基づく原告の請求は,
その余の点を論ずるまでもなく理由がない。
4 結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却すること
とする。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
杉 浦 一 輝
裁判官
布 目 真 利 子
(別紙)
原告大学表示目録
1 京 都市立芸術大学
2 京 都芸術大学
3 京 都芸大
4 京芸
5 Kyoto City University of Arts

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