令和2(ワ)24110発信者情報開示請求事件
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裁判所 |
認容 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和3年1月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告ビッグローブ株式会社
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法令 |
著作権
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キーワード |
侵害17回 損害賠償7回
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主文 |
1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,被告に対し,原告の著作物の複製物が被告の提供するプロ
バイダを経由して送信されたことによって,原告の著作権(公衆送信権)が侵
害されたところ,損害賠償請求権の行使のために必要であると主張して,特定25
電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項所定の発信者情報開示請
求権に基づき,上記の権利侵害に係る発信者情報である別紙発信者情報目録記
載の各情報(以下「本件各情報」という。)の開示を求める事案である。 |
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判決文
令和3年1月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第24110号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和2年12月4日
判 決
原 告
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 平 野 敬
髙 井 雅 秀
笠 木 貴 裕
被 告 ビッグローブ株式会社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護士 髙 橋 利 昌
平 出 晋 一
15 太 田 絢 子
主 文
1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
20 第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,原告の著作物の複製物が被告の提供するプロ
バイダを経由して送信されたことによって,原告の著作権(公衆送信権)が侵
25 害されたところ,損害賠償請求権の行使のために必要であると主張して,特定
電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項所定の発信者情報開示請
求権に基づき,上記の権利侵害に係る発信者情報である別紙発信者情報目録記
載の各情報(以下「本件各情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証
5 拠は文末に括弧で付記した。なお,書証は特記しない限り枝番を全て含む。以
下同じ。)
⑴ 被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社である。(争いがない)
⑵ 被告は,令和2年7月11日午後2時50分43秒(以下「本件時刻」と
いう。)に別紙発信端末目録記載のアイ・ピー・アドレス(以下「本件IP
10 アドレス」という。)を割り当てられた電気通信設備を用いており,被告か
ら本件時刻に同電気通信設備を電気通信の用に供された者の氏名又は名称及
び住所に係る情報(本件各情報)を保有している。(争いがない)
⑶ ビットトレントは,ビットトレントインク(BitTorrent,Inc.)が提供す
る,TCP/IPネットワーク上でP2P(ピアツーピア)方式のファイル
15 の共有及び交換を行うための通信規約(プロトコル)の一つであり,また,
同通信規約を実装した標準のファイル共有ソフトをいうこともある。(甲3)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,
①原告が「望まぬ不死の冒険者」という題名の漫画(1巻1話)の一部であ
20 り,人物,風景,セリフ等が記載された別紙著作物目録記載の各著作物
(以下「本件各著作物」という。)の著作権を有するか。
②侵害情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえる
か。
③本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか。
25 ④本件各情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要である場合である
か。
である。
⑴ 争点①(原告が本件各著作物の著作権を有するか。)について
(原告の主張)
原告は,「中曽根ハイジ」との名称で活動する漫画家であり,本件各著作
5 物を含む「望まぬ不死の冒険者」という題名の漫画(1巻1話)を創作した。
したがって,原告は同漫画の一部であり,人物,風景,セリフ等が記載され
た本件各著作物の著作権を有する。
(被告の主張)
不知
10 ⑵ 争点②(侵害情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らか
といえるか。)について
(原告の主張)
原告は,本件各著作物を複製することにより作成された電子データがビッ
トトレント上で不特定多数人により共有されていることを知ったことから,
15 原告代理人をして調査を行ったところ,本件時刻に本件IPアドレスを割り
当てられた特定電気通信設備を特定電気通信の用に供された者が,本件時刻
に本件各著作物の電子データを送信したことが確認された。上記の者は,ビ
ットトレントを使用して上記電子データを自己の端末に複製して保存し他の
端末に対し送信可能な状態に置いていたものであり,これによって原告の著
20 作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。
(被告の主張)
否認する。
ビットトレントの仕組み及び原告代理人による調査の詳細は不明であり,
原告の著作権が侵害されたことが明らかとはいえない。
25 ⑶ 争点③(本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか。)に
ついて
(原告の主張)
前記⑵(原告の主張)のとおり,本件時刻に本件IPアドレスを割り当て
られた特定電気通信設備を特定電気通信の用に供された者が,本件時刻に本
件各著作物の電子データをそれぞれ送信したから,本件各情報が原告の権利
5 の侵害に係る発信者情報であることは明らかである。
(被告の主張)
否認する。
⑷ 争点④(本件各情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要である場
合であるか。)について
10 (原告の主張)
本件各情報は原告の損害賠償請求権行使のために必要である。
(被告の主張)
否認する。
第3 当裁判所の判断
15 1 争点①(原告が本件各著作物の著作権を有するか。)について
証拠(甲1,2,8)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,「中曽根ハイジ」
との名称で活動する漫画家であり,本件各著作物を含む「望まぬ不死の冒険者」
という題名の漫画(1巻1話)を創作したこと,したがって,原告が同漫画の
一部であり,人物,風景,セリフ等が記載された本件各著作物の著作権を有す
20 ることが認められる。
2 争点②(侵害情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかと
いえるか。)及び争点③(本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報で
あるか。)について
⑴ ビットトレントにおいては,中央サーバーを介さず,個々の使用者の間で
25 相互に直接ファイルが共有される。すなわち,ビットトレントにおいて,特
定のファイルを入手した使用者は,ピアとしてファイルの提供者の一覧であ
るトラッカーに登録され,他の使用者から要求を受けた場合には,自己の使
用する端末に保存した当該ファイルを送信して提供しなければならない。具
体的には,特定のファイルをダウンロードし,自己の端末に保存すると,当
該端末の電源が入っていてインターネットに接続されている限り,当該ファ
5 イルの送信を要求した不特定の者に対し,当該端末に保存された当該ファイ
ルを自動的に送信する状態となる。
ビットトレントにおいて特定のファイルを得ようとする場合には,インデ
ックスサイトと呼ばれるウェブサイトに接続して,当該ファイルのトレント
ファイルを入手する。そして,トレントファイルに含まれるリンクからトラ
10 ッカーを管理するサーバーに接続して,当該ファイルの提供者であるピアの
アイ・ピー・アドレスを入手し,これに接続して,当該ピアから,当該ピア
が使用する端末に保存した当該ファイルの送信を受ける。
(本項につき,甲3,10,弁論の全趣旨)
⑵ 原告は,本件各著作物を複製することにより作成された電子データがビッ
15 トトレントにおいて不特定多数人により共有されていることを知ったことか
ら,原告代理人をしてビットトレントを使用して調査を行ったところ,本件
時刻頃,本件時刻に本件IPアドレスを割り当てられた電気通信設備を電気
通信の用に供された氏名不詳者から,本件各著作物を複製することにより作
成された電子データが送信された。(甲4~8,12,弁論の全趣旨)
20 ⑶ 原告の著作物である本件各著作物を複製することにより作成された電子デ
ータが,本件時刻頃,ビットトレントを通じて前記氏名不詳者から送信され
た(前記⑵)ところ,ビットトレントの仕組み(同⑴)に照らせば,前記氏
名不詳者が,ビットトレントを使用して上記電子データをダウンロードし自
己の端末に保存すること等により,上記電子データを自動公衆送信し得るよ
25 うにしていたことは明らかであり,前記氏名不詳者は,原告の著作権(公衆
送信権)を侵害したといえ,同公衆送信につき,著作権法上の権利制限事由
の存在その他不法行為の成立を阻却する事由の存在を基礎付ける事実は認め
られない。また,前記氏名不詳者は,不特定の者によって受信されることを
目的とする電気通信の送信,すなわちプロバイダ責任制限法2条1号所定の
特定電気通信によって上記電子データを流通させたものと認められる(同⑴,
5 ⑵)。
したがって,特定電気通信による情報の流通によって原告の著作権(公衆
送信権)が侵害されたことが明らかであるといえ,また,プロバイダ責任制
限法2条3号所定の特定電気通信役務提供者である被告が保有する本件各情
報は原告の権利の侵害に係る発信者情報であると認められる。
10 3 争点④(本件各情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要である場
合であるか。)について
本件は,本件各情報が原告の損害賠償請求権の行使のために必要である場
合であると認められる。
第4 結論
15 以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 佐 伯 良 子
裁判官 棚 井 啓
別紙
発信者情報目録
別紙発信端末目録記載のアイ・ピー・アドレスを,同目録記載の発信時刻頃に使用
した者の情報であって,次に掲げるもの
5 1 氏名又は名称
2 住所
以 上
(別紙 発信端末目録 省略)
(別紙 著作物目録 省略)
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