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令和3(行ケ)10030審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和3年8月19日
事件種別 民事
当事者 原告マルホ株式会社
被告健栄製薬株式会社
法令 商標権
商標法4条1項11号10回
商標法4条1項15号8回
キーワード 審決16回
無効4回
実施2回
商標権2回
無効審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。20
事件の概要 (以下,書証については,単に「甲1」などと略記する。)

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判決文

令和3年8月19日判決言渡

令和3年(行ケ)第10030号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和3年6月10日

判 決

原 告 マ ル ホ 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 広 瀬 史 乃

同 松 田 世 里 奈

同訴訟代理人弁理士 滝 澤 文

被 告 健 栄 製 薬 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 重 冨 貴 光

同 古 庄 俊 哉

同 岩 﨑 翔 太

同 田 中 想 音

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が無効2020-890025号事件について令和3年1月5日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

(以下,書証については,単に「甲1」などと略記する。)1 特許庁における手続の経緯等

(1) 被告は,以下の商標(登録第6178215号。 「本件商標」以下 という。)の商標権者である。商 標 ヒルドソフト(標準文字)

5 登録出願日 平成30年8月8日登録査定日 令和元年7月30日設定登録日 令和元年9月6日指定商品 第5類「薬剤」

(2) 原告は,以下のとおりの各商標権(以下,その登録商標を,順次,「引用商標1」,「引用商標2」といい,引用商標1及び2を総称して「引用商標」という。)を有している。ア 引用商標1(登録第459931号商標)商 標 Hirudoid(別紙1の1のとおり)登録出願日 昭和29年5月12日設定登録日 昭和30年2月10日書換登録日 平成17年10月19日指定商品 第5類「薬剤(蚊取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。),キナ塩,モルヒネ,チンキ剤,シロップ剤,煎剤,水剤,浸剤,丸薬,膏薬,散薬,錠薬,煉?薬,生薬,薬油,石灰,硫黄(薬剤),鉱水,打粉,もぐさ,黒焼き,防腐剤,防臭剤(身体用のものを除く。),駆虫剤,ばんそうこう,包帯,綿紗,綿撤糸,脱脂綿,医療用海綿,オブラート」イ 引用商標2(登録第1647949号商標)商 標 ヒルドイド(別紙1の2のとおり)登録出願日 昭和56年1月30日設定登録日 昭和59年1月26日書換登録日 平成16年11月4日指定商品 第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,

5 生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド」,第1類,第10類

(3) 原告は,令和2年2月28日,本件商標について商標登録無効審判(以下「本件審判」という。)を請求した。特許庁は,上記請求を無効2020-890025号事件として審理を行い,令和3年1月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。

(4) 原告は,令和3年2月12日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 本件審決の理由の要旨本件審決は,本件商標の登録は,商標法4条1項11号及び同項15号のいずれにも違反してされたものではないから,同法46条1項の規定に基づき,その登録を無効とすることができないと判断したが,その理由の要旨は,以下のとおりである。

(1) 商標法4条1項11号違反についてア 本件商標は,「ヒルドソフト」の文字を標準文字で表してなり,当該構成文字は,辞書等に載録された既成語とは認められないものであるから,特定の意味合いを有しない一種の造語として理解され,特定の観念を生じない。「ソフト」の文字は,薬剤を取り扱う業界において,本件商標の登録出願前から,薬の剤形や薬を服用・使用した際に受ける刺激等が優しく柔らかであることや穏やかであることを表示するものとして使用されており,本件商標の指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能は弱いものといえる。そうすると,本件商標は,全体の構成文字に相応した「ヒルドソフト」の称呼のほか,「ヒルド」の称呼をも生じるものであり,特定の観念を生じない。

5 イ 引用商標は,「Hirudoid」の欧文字又は「ヒルドイド」の片仮名からなるものであり,引用商標は,その構成文字に相応して,「ヒルドイド」の称呼を生じ,当該文字は辞書等に載録された既成語とは認められないものであるから,特定の意味合いを有しない一種の造語として理解され,特定の観念を生じない。ウ 本件商標と引用商標を比較すると,外観においては,本件商標と引用商標1とは片仮名と欧文字の差異を有し,明確に区別することができるものであり,本件商標と引用商標2とは,語頭の「ヒルド」を共通するものの,文字数及び構成全体の文字において相違する。また,称呼においては,本件商標から生じる「ヒルドソフト」又は「ヒルド」と引用商標からなる「ヒルドイド」の称呼とは,その構成音,音数等が明らかに相違するから,称呼上,明確に聴別することができる。そして,本件商標と引用商標は,いずれも特定の観念を生じないものであるから,観念において比較することができない。そうすると,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において明確に区別することができる非類似の商標であるとみるのが相当である。エ 以上によれば,本件商標と引用商標の指定商品が同一又は類似であるとしても,本件商標と引用商標は非類似の商標であるから,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。

(2) 商標法4条1項15号違反についてア 本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人(原告)の業務に係る「ヘパリン類似物質」を有効成分とする血行促進・皮膚保湿剤(医療医薬品)(以下「原告商品」という。)は,需要者の間に広く知られていたとはいえないものであるから,原告商品に使用されている「ヒルドイド」及び「Hirudoid」の商標(以下「原告使用商標」という。)

5 は,原告商品を表示するものとして,取引者及び需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。また,原告使用商標は,辞書等に載録が認められない造語であるから,その独創性は高いといえるが,本件商標と原告使用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において明確に区別することができる非類似の商標とみるのが相当であって,別異の商標である。そうすると,本件商標を指定商品に使用した場合,これを接する取引者,需要者が,原告使用商標を想起,連想して,当該商品を請求人(原告)の業務に係る商品,あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じるおそれがある商標ということはできない。イ 以上によれば,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。3 取消事由本件商標の①商標法4条1項11号該当性の判断の誤り,②同項15号該当性の判断の誤り

第3 当事者の主張

1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について

(1)

(原告の主張)

本件審決は,前記第2の2(1)のとおり,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において明確に区別することができる非類似の商標である旨判断したが,以下のとおり,誤りである。ア 本件商標の要部について本件商標の「ヒルドソフト」の構成のうち「ソフト」の文字は,本件商標の指定商品である「薬剤」を取り扱う業界において,本件商標の登録出願前から,薬の剤形や薬を服用ないし使用した際に受ける刺激等が優しく

5 柔らかであることや穏やかであることを表示するものとして使用されて

おり,本件商標の指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能は弱いといえる。これに対し,本件商標の語頭である「ヒルド」は,非常に独創的な文字であるから,本件商標の指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能は強く,需要者等に対して商品の識別標識として強く支配的な印象を受ける。そして,「ヒルド」と「ソフト」の文字を結合しても特定の意味合いを想起させるものではなく,これらの文字に観念上のつながりがあるとはいえないから,「ヒルド」と「ソフト」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているとはいえないことからすると,本件商標の構成のうち語頭の「ヒルド」の文字部分に着目し,当該文字部分をもって取引に資される場合も少なくないといえる。以上によれば,本件審決のとおり,本件商標のうち「ヒルド」の部分を要部として,引用商標との対比によって類否の判断がされるべきである。イ 本件商標と引用商標の称呼,外観が類似すること(ア) 本件商標の要部である「ヒルド」から生じる「ヒルド」の称呼と,引用商標から生じる「ヒルドイド」の称呼を比較すると,語頭の3音の「ヒルド」が共通し,語尾部分における「イド」の音の有無の差異を有するのみである。しかも,引用商標のみが有する差異音である「イド」のうち,「イ」の音は,その前音の「ド」の母音の「オ」との二重母音となって「ド」の母音に吸収されやすく聞き取り難く,「ド」の音は,称呼の識別上聴取されがたい末尾に位置するものであるため,差異音「イド」が両商標の称呼全体に与える影響は決して大きいとはいえないから,両商標が称呼され,聴覚されるときに需要者等に与える称呼の全体的印象は,近似するものとなり,互いに紛らわしいといえる。特に,本件商標や引用商標のように,文字で構成される商標については,自他商品の

5 識別標識としての機能は,語頭部分の音が最も重要な要素となる。

したがって,語頭部分の「ヒルド」の3音が共通する両商標をそれぞれ一連に称呼するときは,その語調,語感が近似し,互いに相紛れるおそれがあるといえる。(イ) 次に,引用商標2は,「ヒルドイド」の5文字から構成されるものであるところ,その半分以上占める語頭の3文字「ヒルド」が,3文字構成からなる本件商標の要部である「ヒルド」の全ての文字と共通する。両商標が共通する「ヒルド」の3文字は,両商標において視覚上最も目立つ語頭に位置するものであるから,商標に接する需要者等に強く印象付けられる部分であるといえる。また,本件商標の全体「ヒルドソフト」と引用商標2の「ヒルドイド」を対比した場合でも,商標に接する需要者等に強く印象付けられる語頭の3文字「ヒルド」が共通することに変わりはないから,両者の外観における全体の印象は相紛らわしい。したがって,需要者が本件商標と引用商標2に時と場所を異にして接するときは,需要者の視覚を通じて認識する外観の全体的印象が互いに相紛らわしく,外観上において近似した印象を与えるものである。(ウ) 以上のとおり,本件商標と引用商標は,称呼と外観において相紛らわしい類似する商標であるといえる。ウ 取引の実情について(ア) 引用商標の由来は,ドイツ語の「Hirudo」(蛭属)と「oid」(~の様なもの)を組み合わせたものであり,我が国において広く親しまれた外国語ではなく,また,「Hirudo」又は「ヒルド」の文字は,国語辞典等に載録されておらず,引用商標は,いわゆる造語であって,独創性の程度は高い。1954年の原告商品の発売時において,「ヒルド」と称呼される文字を語頭に掲げて販売されていた商品は,「薬剤」を取り扱う市場には存在せず,1976年から1999年まで「ヒ

5 ルドシン」が販売されていた時期はあるものの,2000年以降現在に

至るまで「ヒルド」又は「Hirudo」の文字を語頭に掲げて販売されていた薬剤は,原告商品以外には存在しなかった。このような「薬剤」を取り扱う業界においては,引用商標の語頭に位置する「ヒルド」又は「Hirudo」やこれらより生じる「ヒルド」の称呼の斬新さ,独創性から,「ヒルド」の3文字や「ヒルド」の3音により原告商品を容易に想起し,又は連想するものであって,語頭の3文字「ヒルド」とこれより生じる「ヒルド」の称呼が共通する引用商標2と本件商標は,外観及び称呼において相紛らわしく,また,語頭における「ヒルド」の3音が共通する本件商標と引用商標1は,称呼において相紛らわしいといえる。したがって,本件商標と引用商標が「薬剤」に使用された場合には,商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるから,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において類似の商標である。(イ) 本件商標及び引用商標が指定する第5類「薬剤」には,「医療用医薬品」が含まれているところ,「医療用医薬品」の販売については,医療用後発医薬品はブランド名による製造販売承認申請はできないが,医療用先発医薬品は,ブランド名による製造販売承認申請が可能である。本件商標は,医療用先発医薬品として使用され得るものであるところ,日本医療機能評価機構の2014年度調査によると,「薬剤取り違え」事例817件のうち医薬品の名称類似に関するものは246件であり,そのうち語頭3文字以上が一致する医薬品の取り違え事例が153件(18.7%)と最も多く,その取り違えの事例を分析すると,医薬品の名称については,語頭の3文字が共通する場合には,その構成文字の数とその文字から生じる呼称の音数,語頭の3文字以外の構成文字に共通性がなくとも,称呼や外観の全体的印象が互いに紛らわしく,名称が

5 類似するとして,医薬品の出所について誤認混同が生じるおそれがある

といえる。こうした医薬品における取引の実情によると,語頭に位置する文字「ヒルド」とこれにより生じる「ヒルド」の称呼が共通する本件商標と引用商標2は,外観及び称呼において相紛らわしく,また,語頭において「ヒルド」の3音が共通する本件商標と引用商標1は,称呼において相紛らわしいといえ,両商標が「薬剤」に使用された場合には,商品の出所について誤認混同が生じるおそれがあるから,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において類似する商標である。エ 小括以上のとおり,本件商標が指定商品である「薬剤」に使用された場合,取引者及び需要者は,その語頭の3文字「ヒルド」と語頭の3音の「ヒルド」が共通する引用商標を連想し,引用商標が使用される「薬剤」であると,商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるから,本件商標は,外観及び称呼において引用商標に類似する商標である。したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものであり,これと異なる本件審決は取り消されるべきである。

(2)

(被告の主張)

ア 本件商標の要部について本件商標は,「ヒルドソフト」の片仮名6文字を標準文字で横書きしたものであり,外観上,「ヒルドソフト」という一連一体の語として捉えることができる。称呼においても,全体で6音と比較的短い構成音から無理なく「ヒルドソフト」という一連の称呼が生じるものであり,称呼上も「ヒルドソフト」という一連一体の語であると認識できる。このように,本件商標は,外観及び称呼において,「ヒルドソフト」という一連一体の語として捉えられることからすると,「ヒルド」部分と「ソフト」部分とを分

5 離観察することは取引上不自然である。

また,医療用医薬品の市場に着目しても,医療用医薬品は,医師の処方によって選択,決定されるものであり,この処方は,医師等の医療関係者が専門的な知識,経験に基づき,かつ,業務上の責任を伴って行う選択行為であって,患者の症状等に合わせて適切な医薬品を的確に処方しなければならないから,医師等の医療関係者が医薬品の語頭の文字部分のみに着目して医療用医薬品の取引を行うことはない。むしろ,処方行為の性格に鑑みれば,医師等の医療関係者は,一般の消費者等に比して医療用医薬品の名称のみならず,その効能及び効果まで把握し理解した上で商品を選択するから,「ヒルド」の文字部分のみに着目して取引がされることはない。なお,薬剤の分野においては,「ウフェナ」と「ウフェナソフト\UFENASOFT」のように,「○○」と「○○ソフト(SOFT)」との商標が併存して商標登録されている例が,少なくとも,別権利者間では7例,同一権利者間では25例の併存例があり,「ウフェナ」と「ウフェナソフト」の例のように,「○○」の部分が「ソフト」の部分よりも識別力が高いと解し得る併存例もある。したがって,本件商標は,「ヒルド」と「ソフト」を組み合わせた結合商標に当たらず,一連一体の商標であり,仮に「ヒルド」と「ソフト」の部分から構成されているとしても,「ヒルド」部分と「ソフト」部分をあえて分離して観察することは,取引上不自然である。イ 本件商標と引用商標は非類似の商標であること(ア) 本件商標は,「ヒルドソフト」の片仮名6文字からなるものである。これに対し,引用商標1は,「Hirudoid」の欧文字8文字からなり,本件商標と引用商標1は片仮名と欧文字に差異があるから,明らかに相違する。また,引用商標2は,「ヒルドイド」という5文字の片仮名からなり,その文字数及び構成全体からすると,本件商標とは明ら

5 かに相違する。

なお,仮に,本件商標を「ヒルド」と「ソフト」の部分に分離観察し,「ヒルド」を要部であるとして引用商標2との外観の類否を検討するとしても,引用商標2の「ヒルドイド」には4文字目の「イ」及び5文字目の「ド」が存在するから,本件商標と引用商標2とは文字数及び構成文字が明らかに相違し,外観上,両者を見間違えることはない。したがって,本件商標と引用商標は外観において明らかに相違する。(イ) 本件商標は,「ヒルドソフト」という6音からなるのに対し,引用商標からは「ヒルドイド」という5音からなり,本件商標と引用商標は,その構成音及び音数が明らかに相違する。なお,仮に,本件商標の要部を「ヒルド」とし,「ヒルド」の称呼を生じるとしても,本件商標と引用商標は,「ヒルド」という3音について共通するが,引用商標は,第4音「イ」及び第5音「ド」が続いているから,両者の語調,語感は明らかに相違する。特に,引用商標の「ヒルド」に続く「イド」の部分は有声破裂音である「ド」が用いられており,「イド」という発音が明瞭に認識されるから,引用商標の「ヒルドイド」の発音は,「ヒルド」の3音の称呼とは異なる。このように,引用商標は,「ヒルドイド」と全体的に一体によどみなく称呼するのが通常であり,そのいずれの発音も明瞭に認識されるものであるから,本件商標の要部である「ヒルド」から「ヒルド」の称呼が生じるにしても,両者の称呼は明らかに相違する。したがって,本件商標と引用商標は称呼においても相違する。(ウ) 本件商標と引用商標は,特定の観念を生じないから観念において比較することはできないが,外観及び称呼において明瞭に区別することができるから,非類似である。ウ 原告が主張する取引の実情について

5 原告は,前記(1)ウのとおり,薬剤を取り扱う業界における取引の実情に

照らし,商品の出所について誤認混同を生じるおそれがある旨主張する。しかし,商標法4条1項11号で考慮すべき取引の実情は,その指定商品又は指定役務全般についての一般的,恒常的な取引の実情を指すものであり,単にその商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的,限定的な取引の実情を指すものではないと解されているところ,原告の主張する取引の実情は,引用商標に関する特殊的,限定的な事情にほかならないから,

(原告の主張)

する取引の実情は,ここでは考慮されるべきではない。この点を措くとしても,引用商標について,「Hirudo」又は「ヒルド」部分が独立して独創性を有するわけではなく,しかも,原告商品は,「Hirudoid」又は「ヒルドイド」であり,薬剤の市場において「Hirudo」又は「ヒルド」が原告商品を意味すると認定するに足りる証拠もない(「ヒルド」と称する文字を語頭に掲げて販売されていた商品が「ヒルドシン」を除いて原告商品以外に販売されていなかったとしても,「ヒルド」が原告商品を示すことを意味するものではない。)。加えて,前記アのとおり,医師等の医療関係者が医薬品の語頭の文字部分のみに着目して医療用医薬品の取引を行うことはなく,医療医薬品である原告商品を語頭の3文字に着目して取引が行われているという事実はない。なお,原告は,医薬品の取り違え事例を挙げて,医薬品の名称については,語頭の3文字が共通する場合には,その構成文字の数とその文字から生じる呼称の音数,語頭の3文字以外の構成文字に共通性がなくとも,医薬品の出所について誤認混同が生じるおそれがある旨主張するが,医療現場における語頭3文字が共通する医療医薬品の取り違えミスは,甲10で報告される「ヒヤリ・ハット」事例5399件のうち153件(約2.8%)にすぎず,原告の上記主張は明らかに誇張であるし,取り違え事例はいず

5 れも医療関係者が業務上要求される注意義務を果たしていないミスであ

るにすぎず,このような事情は,医薬品に係る商標の類否判断に無関係の事情である。エ 小括以上によれば,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において明確に区別することができ,非類似の商標である。したがって,本件商標が商標法4条1項11号に該当しない旨の本件審決の判断は,結論において誤りはない。

2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について

(1)

(原告の主張)

本件審決は,前記第2の2(2)のとおり,本件商標を指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者が原告使用商標を想起又は連想して商品の出所について混同を生じるおそれがある商標ということはできない旨判断したが,以下のとおり誤りである。ア 原告使用商標は周知著名であること(ア) 原告は,「ヒルドイド」の発売以来,現在に至るまで,「ヒルドイド」の広告宣伝活動として,①原告使用商標である「ヒルドイド」及び「Hirudoid」を付した広告を医学関係の専門雑誌や日本全国各地で開催される学会の学会要旨集等に掲載し(甲17),②原告使用商標を付した「ヒルドイド」が掲載されるパンフレット等を病院等の医療機関に配布するなどの活動(甲18)を全国的に行ってきた。その件数は,定常的に原告本社で実施するルーチンの広告だけでも,2013年度(2013年10月~2014年9月)で●●●●2014~2019年度(2014年10月~2020年9月)で年間●●●近くあり,これに加えて,スポット広告や本社とは別の支店営業所独自の広告活動として,著名な学会雑誌や医療雑誌に年間複数件の広告を掲載した(甲

5 17)。これらの広告掲載費用は,直近の5年間(2015年10月~

2020年9月)において,年間平均●●●●●●●で推移しており(甲17,48),これまでに投入された広告費用の総額や件数は莫大なものである。(イ) 「ヒルドイド」は,平成26ないし30年の5年間において,年間約420億円ないし520億円を売り上げており,全ての国内医療医薬品を対象とする年間売上ランキング(エンサイスリサーチセンター調べ/平成29年度)で上位20位以内に入るほどの売り上げ規模を誇る。また,「ヒルドイド」は,外用の処方箋のうち,厚生労働省のNDBオープンデータの薬効分類「333血液凝固阻止剤」に分類される商品市場において,平成26ないし30年の期間で80%前後の高い市場占有率(金額ベース)を占めており,この5年間で微減傾向にあるものの,その減少傾向は非常に緩やかでほぼ横ばいである。数量でみた市場占有率も,過去5年間(平成26ないし30年度)で50ないし70%と高い水準で推移していることから,市場環境の合理的な推論として,平成31年度以降も,ヒルドイドが市場において高いシェアを占めていることが推察される。(ウ) 一般需要者向けの複数の雑誌やウェブサイトにおいては,「ヒルドイド」が医療用医薬品でありながら保湿に関する優れた効能により美容目的で使用できることが取り上げられ,これらの媒体や個人間の伝達(いわゆる口コミ)によって,「ヒルドイド」は,従来の取引者及び需要者のみならず,敏感肌や乾燥肌等の肌の状態の改善を望む需要者の間で,周知なものとなっている。また,このような状況を受けて,原告商品の顧客吸引力にフリーライドするような商品が市場に出回っている。さらに,「ヒルドイド」の優れた効果は,皮膚科医等の医療関係者に

5 おいて評判となっており,原告商品は,2007年度のポーター賞を受

賞するなど,「ヒルドイド」は,医療業界で広く受け入れられ,定着している。(エ) 原告は,「ヒルドイド」の認知度に関するアンケート(以下「本件アンケート」という。)を実施したところ,主に皮膚の乾燥に起因すると考えられるトラブル(乾燥,シミ,シワ,湿疹,かぶれ)を抱えて何らかの皮膚薬(処方薬に限らず,市販薬を含む。)を使用し,又は過去1年以内に使用していた一般消費者のうち,約5割の人が保湿剤として「ヒルドイド」を認知しており,このうち,一般に皮膚の状態について関心が高いとみられる女性の間では,「ヒルドイド」の認知度は約60%と高い数値が顕出された。このように,ヘパリン類似物質を含有する保湿クリームが巷に氾濫している状況のもとで,一商品であり医療用医薬品である「ヒルドイド」が,処方を受けていない人を含めて約半数の人が認知していることを踏まえると,血行促進・皮膚保湿剤である「ヒルドイド」という原告商品の表示は,市販薬の使用者を含め,取引者,需要者の間で広く認識されていたといえる。(オ) 以上のとおり,「ヒルドイド」は,原告による広告宣伝活動,一般需要者向けの雑誌やウェブサイト等による紹介,高い市場占有率,その顧客吸引力にフリーライドするような多くの類似商品の出現,医療業界等における高い評判に加え,本件アンケートの結果や「ヒルマイルド」等の類似商品の販売に関する需要者の反応からすると,原告使用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告商品である「ヒルドイド」の表示として取引者,需要者の間で広く認識されていたといえる。イ 本件商標と原告使用商標の類似性

5 原告使用商標は,「ヒルドイド」又は「Hirudoid」の文字から

なる引用商標に相当するものであるところ,本件使用商標と引用商標は,前記1(1)のとおり,外観及び称呼において相紛らわしい互いに類似する商標であり,類似性の程度は高い。ウ 出所の混同の恐れがあること原告使用商標は,前記アのとおり,原告商品である「ヒルドイド」を示すものとして,医療関係者や処方を受ける患者のほか,乾燥肌等の肌の状態の改善を望む一般需要者の間では周知著名であり,前記イのとおり,原告使用商標と本件商標は,外観及び称呼において明瞭に区別することができない。本件商標の指定商品は薬剤であるところ,「薬剤」には,医療用医薬品,一般用医薬品及び医薬部外品が含まれる。原告使用商標が付される「ヒルドイド」は医療用医薬品であり,本件商標の指定商品との関連性は高く,取引者である卸会社等が共通する場合もある。また,原告使用商標は独創性が高いことから,出所の識別力は高く,例えば,「ヒルドプレミアム」,「ヒルメナイド」のような一般用医薬品,医薬部外品の保湿剤は,語頭に「ヒルド」又は「ヒル」が用いられているため,原告と関連する商品ではないかとの誤解が医療関係者との間でも生じているし(甲32,38),医薬品の取引の実態として,語頭3文字が共通することにより,取引者及び需要者が出所を混同する恐れがあることは前記1(1)ウ(イ)のとおりである。のみならず,原告使用商標にフリーライドするような一般用医薬品や医薬部外品が多数確認されており,また,第5類の「薬剤」や第3類の「化粧品」を指定して,「ヒルド」,「Hirudo」,「ヒル」又は「Hiru」の文字を語頭に有する商標が原告以外の第三者によって商標登録出願されている。被告も,本件商標とその欧文字の「HIRUDOSOFT」のほか,「ヒルマイルド」とその欧文字の「HIRUMILD」の商標登

5 録出願をし,ヘパリン類似物質を含有した「ヒルマイルド」という一般用

医薬品(市販薬)を乾燥肌用治療薬として販売し,原告商品と誤認混同を招いていることからすると,被告には,周知商標である原告使用商標にフリーライドする意図があったことが強くうかがわれる。このような取引の実態に加え,「ヒルドイド」の有効成分と同じ「ヘパリン類似物質」を有効成分とする一般用医薬品や保湿に係る医薬部外品の多くは,一般消費者向けに数百円から千数百円程度という比較的安価な価格で取引されており,需要者が商品の表示をじっくり検討し,高度の注意を払って購入する類の商品ではない。そうすると,本件商標を指定商品である「薬剤」に用いた場合には,これに接する取引者及び需要者において,その通常用いる注意力からすれば,「ヒルド」という語頭の音が共通するために,独創性の高い原告使用商標である「ヒルドイド」又は「Hirudoid」を連想して,当該商品を原告の業務に係る商品又は原告と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずる恐れがある。エ 小括以上によれば,本件商標は,他人の業務に係る商品と混同を生ずる恐れがある商標といえるから,商標法4条1項15号に該当するというべきである。したがって,これと異なる本件審決は取り消されるべきである。

(2)

(被告の主張)

ア 原告使用商標が周知著名であるとの点について(ア) 原告使用商標は,原告が製造販売する医療用医薬品「ヒルドイド」に用いられており,医療用医薬品を選択し決定するのは医師等の医療関係者であり,広告も専ら医療関係者に対してのみ許容されているから,

5 原告使用商標が使用されている原告商品の取引者及び需要者は,医師等

の医療関係者である。(イ) 原告は,前記(1)アのとおり,原告使用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,取引者及び需要者の間で広く認識されていた旨主張するが,以下のとおり,理由がない。a 原告による広告宣伝活動について原告がその広告宣伝活動の証拠とする甲17及び甲18は,原告作成の資料にすぎず,実際の広告出稿媒体に係る広告出稿が裏付けられるのは,28回分(甲15の1ないし28)にすぎない。また,これらの広告が原告使用商標の周知著名性にどの程度寄与し得るものかも不明であるし,このような広告規模から原告使用商標が周知著名であることが立証されているともいえない。b 原告商品の市場占有率について原告商品の効能効果及びこれと類似する効能効果を有する医療用医薬品(皮膚治療剤)は,2018年度は合計159種類,販売高2009億4726万7939円もの大きな市場規模を有するところ,このような市場規模に照らせば,原告商品の市場占有率は約24%にすぎない。また,原告商品は,同種商品の中でも薬価が最も高く,同一量の処方量であっても他の商品よりも価格が高くなり,金額ベースで見ると販売数量に比べて市場占有率が自ずと高くなるから,販売数量ないしグラムベースで原告商品の市場占有率を算出するべきであり,これによれば,仮に原告の設定した市場で計算するとしても,直近5年間(平成26年度から平成30年度)は52.90%ないし約68.88%であり,しかも,年々減少傾向にあり,また,上記の皮膚治療剤の市場でみると,数量ベースで約20%前後であるにすぎない。

5 こうした原告商品の市場占有率からすると,原告使用商標は,周知

著名であることが立証されているとはいえない。c 医療業界における高い評判について原告主張の医学文献は,医療用医薬品の有効性や安全性等が解説,評価されているにすぎず,また,原告が受賞したポーター賞は,その賞の対象や性格に照らしても,同賞の受賞によって原告商品の取引者又は需要者に広く認識されるようになるものではないから,これらは原告使用商標の周知著名性を根拠づけるものではない。d その他の事情その他,原告は,原告使用商標の周知著名性の論拠として,一般需要者向けの雑誌やウェブサイト等による紹介,その顧客吸引力にフリーライドするような多くの類似商品の出現,本件アンケートの結果,「ヒルマイルド」等の類似商品の販売に関する需要者の反応等を挙げるが,前記(ア)のとおり,原告使用商標が使用されている原告商品の取引者及び需要者は,医療関係者であるところ,上記各事情は,いずれも医療関係者を対象としたものではなく,原告使用商標の周知著名性を何ら基礎づけるものではない。e 以上によれば,原告商品に付された原告使用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,医師等の医療関係者の間で広く認識されていたとはいえない。イ 本件商標と原告使用商標は非類似の商標であること原告使用商標は,引用商標1及び2に対応するものであるところ,本件商標と引用商標が非類似の商標であることは,前記1(2)のとおりであるから,本件商標と原告使用商標も非類似の商標である。ウ 出所の混同の恐れがあるとの点について(ア) 原告使用商標は,原告が販売する医療用医薬品「ヒルドイド」に専

5 ら使用されている。本件商標は,現時点では使用されていないが,仮に

使用されることがあるとしても,医療用後発医薬品の名称は,「有効成分名+剤型+含量+会社名(屋号等)」とする必要があるため,本件商標が「ヒルドイド」の後発医薬品に使用されることはなく,専ら別の先発医薬品のブランド名として使用されることになる。そして,医療用医薬品の選択及び決定をするのは専門家である医師等であり,医師等の医療関係者は,医薬品の取扱いについて専門家として高度な注意義務を負っているから,このような高度な注意義務に基づいて有効成分や効能効果を異なる医薬品を選定する場合には,混同を生じるおそれはないし,前記1(2)ウのとおり,医療現場における医薬品の取違えの主な原因は薬剤師等が必要な注意義務を果たさなかったことにあって,名称の語頭3文字が共通する医療医薬品の取り違えが一般的な原因ではない。(イ) 原告は,前記(1)ウのとおりの理由により,取引者及び需要者が出所を混同する恐れがあると主張するが,仮に原告使用商標に独創性が認められるとしても,「Hirudoid」又は「ヒルドイド」という一連の造語としての独創性にすぎず,原告使用商標から「Hirudo」又は「ヒルド」部分のみを抽出して独創性を論じるのは適切ではないし,フリーライドに係る主張も,原告使用商標と本件商標は非類似の商標であるし,また,原告使用商標の一部を構成する「Hirudo(ヒルド)」又は「Hiru(ヒル)」が周知著名であることを前提として主張するものであって,失当である。さらに,「ヒルドプレミアム」,「ヒルメナイド」が語頭に「ヒルド」又は「ヒル」が用いられているため,原告商品であるとの誤解が医療関係者との間でも生じている旨の主張については,原告主張の証拠(甲32,38)は客観的な裏付けを欠くものであるし,一般用医薬品であっ

5 て,医師等が処方する医療用医薬品ではないこれらの事例は,いずれに

しても本件と関連する事情ではない。(ウ) そうすると,本件商標が原告商品と同じ医療用医薬品に使用される場合,先発医薬品としての原告製品とは成分,薬効が異なり,これを取り扱うのは専門家として高度な注意義務を負う医師等の医療関係者であるから,本件商標が付された商品と原告商品とが混同を生じるおそれはない。エ 小括以上によれば,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものではなく,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 認定事実前記第2の1の事実に加え,証拠(甲11,12,15(枝番を含む。以下同じ。)16,33,乙6,7の149,9)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) 「ヒルドイド」の語源等ヘパリン類似物質は,ドイツのルイトポルド・ウエルク製薬会社で製造された高い保湿性能を有する物質であり,ヘパリン類似物質を有効成分とする「ヒルドイドクリーム0.3%」は,ドイツ国内では,昭和24年(1949年)に発売された。「ヒルドイド」の語源は,ドイツ語の「蛭属」を意味する「Hirudo」とドイツ語の「~の様のもの」を意味する「oid」を組み合わせたものである。

(2) 原告商品の発売及び引用商標の登録出願等ア 原告は,昭和27年(1952年)にルイトポルド・ウエルク製薬会社との間で,同社の製品の輸入及び販売に関する契約を締結し,昭和29年

5 (1954年)10月に凝血阻止血行促進剤「ヒルドイド」として発売した。イ 原告は,昭和29年5月12日,指定商品を第5類「薬剤」等として,「Hirudoid」(引用商標1)の商標登録の出願をし,昭和30年2月10日,その設定登録を受けた。また,原告は,昭和56年1月30日,指定商品を第5類「薬剤」等として,「ヒルドイド」(引用商標2)の商標登録の出願をし,昭和59年1月26日,その設定登録を受けた。ウ 「ヒルドイドクリーム0.3%」は,平成2年(1990年)12月に「皮脂欠乏症」の効能が追加され,薬効分類を「血行促進,皮膚保湿剤」に変更し,皮膚科等において幅広く使用されるようになったほか,平成8年(1996年)2月に追加品目として「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」が発売された。また,平成13年(2001年)2月に被髪頭部の有毛部位適用に優れたローション剤として「ヒルドイドローション0.3%」が承認されて発売され,平成30年(2018年)に油分を含まないスプレータイプの「ヒルドイドフォーム0.3%」が発売された。エ 原告の発売する「ヒルドイドクリーム0.3%」,「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」,「ヒルドイドローション0.3%」,「ヒルドイドフォーム0.3%」 いずれも医師の処方箋により処方される医薬品である。は,このうち「ヒルドイドローション0.3%」の商品パッケージは,黒文字の片仮名で「ヒルドイドⓇ」,その下に赤色を背景として白抜きで「Hirudoid Ⓡ 」の欧文字の2段構成を基調とするものであり(詳細は別紙2のとおり。),それ以外の剤形についても同様の商品パッケージの構成となっている。

(3) 医薬品における販売名称の規制先発医薬品については,ブランド名が販売名となるが,後発医薬品につい

5 ては,平成17年9月22日付けの厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」により,販売名の記載については,含有する有効成分に係る一般名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)を付すことが原則となった。

2 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について(1) 本件商標と引用商標の類否についてア 本件商標の需要者及び取引者について本件商標の指定商品は第5類「薬剤」であり,「薬剤」には医療用医薬品のほか,処方箋が不要の一般用医薬品及び医薬部外品も含まれるところ,前記1(3)のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,後発医薬品の販売名称については,含有する有効成分に係る一般名称に剤型,含量及び会社名(屋号)を付すことが原則となっているから,本件商標は,先発医薬品の販売名称のほか,一般用医薬品又は医薬部外品に使用される余地がある。そうすると,本件商標の取引者及び需要者は,医薬品を処方する医師及び薬剤師等の医療関係者のみならず,一般消費者も含まれることになる。イ 本件商標と引用商標1の類否について(ア) 本件商標は,「ヒルドソフト」と片仮名6文字を標準文字で書してなり,その構成文字に相応して「ヒルドソフト」の呼称が生じるが,一般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。(イ) 引用商標1は,「Hirudoid」の欧文字8文字を別紙1の1の書体で書してなり,その構成文字に相応して「ヒルドイド」の呼称が生じるが,一般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。(ウ) 本件商標と引用商標1を対比すると,本件商標は,「ヒルドソフト」

5 の片仮名6文字の標準文字からなるのに対し,引用商標1は,「Hirudoid」の欧文字8文字を別紙1の1の書体で書してなるものであり,このような構成文字の種類,書体及び文字数の差異から,両商標は,外観上明確に区別することができ,外観において明らかに相違する。また,本件商標は,「ヒルドソフト」の称呼が生じるのに対し,引用商標1は,「ヒルドイド」の称呼が生じ,語頭3文字の「ヒルド」は共通するものの,それに続く「ソフト」と「イド」の語数と音の違いによって両者は明瞭に聴別することができるから,両商標は,称呼において明らかに相違する。したがって,本件商標と引用商標1は,外観及び称呼において明らかに相違し,両商標ともに特定の観念を生じさせないから,本件商標と引用商標1を本件商標の指定商品である「薬剤」に使用したときに,その出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるものと認めることはできないから,本件商標は,引用商標1に類似する商標であるということはできない。ウ 本件商標と引用商標2の類否について(ア) 本件商標の外観,称呼及び本件商標から生じる観念については,前記イ(ア)のとおりである。(イ) 引用商標2は,「ヒルドイド」の片仮名5文字を別紙1の2の書体でなしてなり,その構成文字に相応して「ヒルドイド」の呼称が生じるが,一般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。(ウ) 本件商標と引用商標2を対比すると,本件商標は,「ヒルドソフト」の片仮名6文字からなるのに対し,引用商標2は,「ヒルドイド」の片仮名5文字からなるものであり,このような構成文字の文字数の差異から,両商標は,外観上明確に区別することができ,外観において明らか

5 に相違する。また,本件商標は,「ヒルドソフト」の称呼が生じるのに対し,引用商標2は,「ヒルドイド」の称呼が生じ,語頭3文字の「ヒルド」は共通するものの,それに続く「ソフト」と「イド」の語数と音の違いによって両者は明瞭に聴別することができるから,両商標は,称呼において明らかに相違する。したがって,本件商標と引用商標2は,外観及び称呼において明らかに相違し,両商標ともに特定の観念を生じさせないから,本件商標と引用商標2を本件商標の指定商品である「薬剤」に使用したときに,その出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるものと認めることはできないから,本件商標は,引用商標2に類似する商標であるということはできない。(2) 原告の主張についてア 原告は,前記第3の1(1)アのとおり,本件商標の要部は「ヒルド」であり,これを前提として,「ヒルド」と引用商標の称呼が近似し,また,本件商標と引用商標2は語頭3文字が共通し,分離観察のもとでは外観において近似した印象を与える旨主張する。しかし,証拠(甲5,6。商品パッケージが不明なものを除く。)によれば,本件商品の指定商品である「薬剤」の分野では,商品名の「ソフト」の使用例は様々であり,「○○ソフト」という例をとっても,「ソフト」は一般的に日本人にも馴染みのある「SOFT」の片仮名表記であり,その意味する「柔らかい」というイメージを「○○」という商品名と一体となって,需要者にその薬剤の薬効等が「柔らかい」というイメージを想起させるものであるから,「○○ソフト」における「○○」のみが自他商品識別機能を有しており,「○○」と比べて「ソフト」の部分の自他商品識別機能が弱いとまでは必ずしもいえない。

5 そして,こうした薬剤における取引の実情に加え,本件商標は,「ヒルドソフト」と「ヒルド」と「ソフト」の部分に隙間はなく,標準文字で「ヒルドソフト」と同大同書で横書きしてなるものであって,「ヒルド」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできないから,「ヒルド」と「ソフト」は不可分一体の造語として認識されるものであり,「ヒルド」と「ソフト」を分離して観察するのは相当でない。そうすると,本件商標の要部が「ヒルド」であることを前提として引用商標と類否すべきであるとの原告の上記主張は理由がない。なお,仮に,本件商標の要部が「ヒルド」であるとしても,引用商標1は「Hirudoid」の欧文字8文字からなるものであり,その外観において明らかに異なり,また,「ヒルド」と引用商標2の「ヒルドイド」も,語数が異なる点で外観において明らかに異なり,「ヒルド」が3文字で称呼されるのに対して,引用商標2は「ヒルドイド」と5文字で称呼され,「ヒルド」の称呼が共通するものの,「イド」の部分は明瞭に聴取することができ,音数及び語調が異なるから,本件商標と引用商標2も,類似する商標であるとはいえない。イ 原告は,前記第3の1(1)ウのとおり,取引の実情に照らせば,本件商標と引用商標は外観及び称呼において類似する商標である旨主張する。しかし,商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものである(最高裁第三小法廷昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照)が,ここで問題とされる「取引の実情」は,商標の指定商品又は指定役務一般に係る取引に関する実情であって,特定の商品に係る「取引の実情」ではないか

5 ら,原告商品の販売名である「ヒルドイド」を念頭においた「取引の実情」を同号に係る商標の類否判断で考慮することは相当でない。また,証拠(甲7ないし10)によれば,確かに,医療現場において,類似した名称の別の薬と取り違える事例があり,公益財団法人日本医療機能評価機構が薬局を対象とした「ヒヤリ・ハット」事例について調査した結果,2014年度は,8244軒の調剤薬局から5399件の「ヒヤリ・ハット」事例が報告され,その内訳は「数量間違い」が1343件(24.9%),「薬剤取り違え」が817件(15.1%),「規格・剤形間違い」が705件(13.1%)であり,「薬剤取り違え」817件のうち246件(30.1%)は「名称類似」に起因しており,そのうち,頭文字が2文字のみ一致している医薬品の事例は62件,頭文字3文字以上が一致している医薬品の事例は153件,その他の名称類似医薬品の事例は31件であったと分析されていることが認められる。しかし,上記調査は,調剤薬局から「ヒヤリ・ハット」事例として報告されたもののうち,薬剤の名称類似による医薬品の取り違えの要因を分析したものであり,調査対象となった8244軒の薬局においては日常的に薬剤の取引が行われていることからして,そのうち医薬品の頭文字が2文字又は3文字以上が共通する事例は合計で215件にすぎないといえるし,この点を措くとしても,本件商標と引用商標のように称呼が頭文字3文字で共通する事例は,「ヒヤリ・ハット」事例として報告された5399件のうち153件(約2.8%)であるにすぎず,薬剤師が業務上通常要求される注意をもってしても,頭文字3文字以上が共通する薬剤について日常的に取り違えの事故が生じていると認めることはできない(なお,こうした名称類似による医薬品の取り違えにより薬効の異なる薬剤が患者に交付されることになり,医療事故が懸念されるというのであれば,それは,そもそも商標の分野で規制すべき問題ではなく,医療行政における規制の問題であるという

5 べきである。)。そうすると,本件商標と引用商標2の外観及び称呼において,また,本件商標と引用商標1の称呼において,頭文字3文字が「ヒルド」の共通部分があるとしても,本件商標の取引者及び需要者である薬剤師が通常有する注意力をもってすれば,引用商標と誤認混同するおそれがあるとはいえない。したがって,原告の上記主張は,いずれも当を得ないものであり,採用できない。(3) 小括以上によれば,本件商標は商標法4条1項11号に該当するものとは認められないから,これと同旨の本件審決の判断は結論において誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。

3 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について(1) 原告使用商標について前記1の認定事実によれば,原告は,その販売する,「ヒルドイドクリーム0.3%」,「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」,「ヒルドイドローション0.3%」,「ヒルドイドフォーム0.3%」に黒文字の片仮名で「ヒルドイド Ⓡ」,その下に赤色を背景として白抜きで「Hirudoid Ⓡ」の欧文字の2段で構成してなる商品パッケージで販売しているから,「他人の業務に係る商品」に係る「商標」として問題となる商標(原告使用商標)は,引用商標1及び2と同一又は類似するものであると認められる。(2) 本件商標が原告使用商標と混同を生じさせるおそれがあるかについてア 前記2(1)のとおり,本件商標と引用商標1及び2は,外観及び称呼において明らかに相違するものであるから,引用商標と同一又は類似する原告使用商標も,本件商標とは非類似の商標であるといえる。もっとも,本件商標が原告使用商標と非類似の商標であっても,その商品の出所について混同を生じるおそれがある商標については,商標法4条

5 1項15号に規定する商標に当たる余地もあり得るので,以下,念のためこの点についても検討する。イ 前記2(1)アのとおり,本件商標の取引者及び需要者は,先発医薬品については,医師,薬剤師等の医療関係者であり,一般用医薬品及び医薬部外品については,薬剤師等のほか,一般消費者も含まれることになる。そして,仮に原告使用商標が周知著名であるとしても,原告使用商標は「Hirudoid」又は「ヒルドイド」として認知されているのであって,「Hirudo」又は「ヒルド」として認知されているわけではなく,また,本件全証拠を精査しても,薬剤の取引の分野において,販売名の語頭3文字に略して取引されているといった取引の実情を認めるに足りる証拠はないことからすると,一般消費者を含む取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を付した一般用医薬品又医薬部外品について,原告が製造販売したものであり,又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのようにその商品の出所について混同を生じるおそれがあるものと認めることはできない。なお,前示のとおり,本件商標は先発医薬品に使用されることもあり得るところ,その取引者及び需要者は,医療関係従事者であり,薬効も原告使用商標に付される原告商品と異なるものであるから,その商品の出所について混同を生じるおそれがあるといえないことはなおさら明らかである。(3) 原告の主張について原告は,原告使用商標が周知著名な商標であり,また,本件商標と原告使用商標が外観及び称呼において互いに類似する商標であることを前提とした上で,前記第3の2(1)ウのとおり,商品の出所の混同を生ずるおそれがある旨主張する。

5 しかし,本件商標と引用商標1及び2は,外観及び称呼において明らかに相違するものであるから,引用商標と同一又は類似する原告使用商標も本件商標とは非類似の商標であることは前記(2)イのとおりであり,本件商標と原告使用商標が外観及び称呼において互いに類似する商標であることを前提にする原告の主張は,その前提を欠くものというほかない。また,原告商品と混同を生じさせている事例として原告が提出する証拠(甲2,38)には,医療関係者の間で,「ヒルドプレミアム」,「ヒルメナイド」という商品について,原告が一般用医薬品(OTC)を製造販売したかのような誤解が生じている事例があることが記載されているところ,合計しても7事例にすぎず,しかも,「ヒルドプレミアム」又は「ヒルメナイド」が原告商品と似ていることを理由とするものもあり(実際のところ,「ヒルドプレミアム」及び「ヒルメナイド」は,原告商品と同じくヘパリン類似物質を含むものであり(甲26の5,甲27の5),「ヒルメナイド」の商品パッケージは,ピンク色の蓋と白と赤色(商品名)を基調とする原告商品と同じく赤色又はピンク色を基調とするものである(甲26の5)。なお,被告が製造販売する「ヒルマイルド」も同じ(甲40,41,44の別紙3,4)。),これらの記載から,語頭が「ヒル」又は「ヒルド」が用いられる商品であるといった理由のみで,医療関係者をして原告が製造販売し,又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関連を有する者による商品ではないかとの誤認ないし混同を生じさせているとまで認めることはできず,また,医療事故の取り違えの事例から,薬剤師が業務上通常要求される注意をもってしても,頭文字3文字が共通する薬剤について日常的に取り違えの事故が生じているとまで認めることはできないことは前記2(2)で説示したとおりである。そして,仮に,原告使用商標が周知著名であり独創性があるとしても,「Hirudo」,「Hiru」,「ヒルド」又は「ヒル」として認知されてい

5 ると認めるに足りる証拠はなく,原告使用商標はあくまで「Hirudoid」又は「ヒルドイド」として認知されていると認められる以上は,本件商標が指定商品である「薬剤」に使用されたときに,一般消費者を含む需要者及び取引者がその取引において通常払われる注意をもってすれば,語頭3文字が共通する原告使用商標を連想又は想起し,あるいは原告と経済的又は組織的に何らかの関連性を有する者の商品であるかのように,その出所について混同を生じるおそれがあるとはいえない。したがって,その他の点について判断するまでもなく,原告の上記主張は理由がない。

(4) 小括以上によれば,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとは認められないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2も理由がない。

4 結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

菅 野 雅 之

裁判官

中 村 恭

裁判官

岡 山 忠 広

(別紙1)

1

2

(別紙2)

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