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平成30(ワ)36307民事訴訟 著作権

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和3年4月16日
事件種別 民事
当事者 原告X1 X2 X3
被告一般社団法人日本音楽著作権協会
法令 著作権
著作権法63条1項1回
著作権法28条1回
キーワード 許諾99回
侵害52回
差止9回
実施4回
損害賠償2回
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
1 被告は,原告X1に対し,220万0210円並びにうち220万円に対す
2 被告は,原告X2に対し,114万円並びにうち110万円に対する平成2
9年1月1日から及びうち4万円に対する平成28年4月26日から各支払済5
3 被告は,原告X3に対し,56万5000円並びにうち55万円に対する平
1 本件は,
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨
12日付けの書面をもって,本件店舗の「使用料相当額の清算が未了で10
1~3を総称して「本件各利用申込み」という。)をしたが(訴状別紙
14)をもって,著作権に関する契約(以下「本件著作権契約」という。)
3 争点
1 争点1(原告X1の請求)について
1-1 争点1(1)(本件利用申込み拒否1の違法性等)について15
1は,上記ライブを開催することができなかった。25
6条の「正当な理由」の判断は,「許諾すれば受益者に対する配当の原資
1及びブラスティーの意思の確認を怠った。
1とブラスティーの一体性や原告X1の受益者としての地位に照らすと,
21条(契約終了時における著作権の復帰)の各規定に加え,10条に著
1には,本件著作権契約を締結するに当たり,対象となる楽曲を自ら利用
1-2 争点1(2)(本件約款の内容に係る違法性等)
1-3 争点1(3)(著作物の管理に係る違法性等)
28年10月~12月に徴収した使用料は,平成29年3月に支払われるべ
2 争点2(原告X2の請求)について
1条が保障する演奏の自由を有する。
1人にすぎない。25
3 争点3(原告X3の請求)について5
1)。
1 認定事実
00円を徴収し,その限度では追加料金を支払わずに飲食し得るというシ
27~29)5
4,乙21,原告X1・3~4頁)
1,原告X1・3頁)。また,Bのバンドである「X.Y.Z.→A」は,
3)。
2 争点1(原告X1の請求)について
2-1 争点1(1)(本件利用申込み拒否1の違法性等)について
9月12日までの未払使用料は約500万円に上り(別件控訴審判決),
1は,本件店舗において開催されたライブ等に20回以上出演をし,同
000円の一部(甲18)が当該店舗に支払われることを被告が認識し
2-2 争点1(2)(本件約款の内容に係る違法性等)
2-3 争点1(3)(著作物の管理に係る違法性等)
30),また,原告X1が平成28年6月9日に本件許諾店舗において本件
1による被告管理楽曲の利用を拒絶したものではない。
3 争点2(原告X2の請求〔本件利用申込み拒否2の違法性等〕)について
13頁),Bが,別件訴訟において,「機材・楽器一覧表」を提出し,こ20
2をした上で,同利用申込み拒否2に係る書面の写しをBらに提供するな
4 争点3(原告X3の請求〔本件利用申込み拒否3の違法性等〕)について
3をした上で,同利用申込み拒否3に係る書面の写しをBらに提供するな
5 結論
事件の概要 1 本件は, (1) 原告X1が,著作権等管理事業者である被告に対し,①被告が同原告によ るライブハウス「Live Bar X.Y.Z.→A」(以下「本件店舗」 という。)における演奏利用許諾申込みを拒否したことが,同原告の演奏者 としての権利,演奏の自由,著作者人格権を侵害する不法行為(第1の不法15 行為)に,②被告が,著作権信託契約約款(以下「本件約款」という。)に おいて,原告X1が作詞・作曲した楽曲を自ら使用することの留保を認めず, 同原告に不公正な取引契約を強いてきたことが,同原告の演奏の自由,著作 者人格権を侵害する不法行為(第2の不法行為)に,③被告の楽曲管理の方 法が不適切であるため,演奏した楽曲の使用料が同原告に配分されなかった20 ことが,その著作権及び著作者人格権を侵害する不法行為(第3の不法行為) にそれぞれ該当するとして,上記第1の不法行為について,慰謝料100万 円,得べかりし使用料相当額210円及び弁護士費用10万円,上記第2及 び第3の不法行為について,各慰謝料50万円及び弁護士費用5万円並びに これらに対する遅延損害金(うち220万円に対する平成29年1月1日か25

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判決文

令和3年4月16日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成30年(ワ)第36307号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和3年2月5日
判 決
5 甲1こと
原 告 X1
(以下「原告X1」という。)
甲2こと
原 告 X2
10 (以下「原告X2」という。)
甲3こと
原 告 X3
(以下「原告X3」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 豊 田 泰 史
15 山 中 眞 人
田 代 浩 誠
重 藤 雅 之
被 告 一般社団法人日本音楽著作権協会
同訴訟代理人弁護士 田 中 豊
20 小 川 ま ゆ み
宮 澤 幸 夫
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
25 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告X1に対し,220万0210円並びにうち220万円に対す
る平成29年1月1日から及びうち210円に対する平成28年5月12日か
ら各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,114万円並びにうち110万円に対する平成2
5 9年1月1日から及びうち4万円に対する平成28年4月26日から各支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3に対し,56万5000円並びにうち55万円に対する平
成29年1月1日から及びうち1万5000円に対する平成28年4月22日
から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 第2 事案の概要
1 本件は,
(1) 原告X1が,著作権等管理事業者である被告に対し,①被告が同原告によ
るライブハウス「Live Bar X.Y.Z.→A」(以下「本件店舗」
という。)における演奏利用許諾申込みを拒否したことが,同原告の演奏者
15 としての権利,演奏の自由,著作者人格権を侵害する不法行為(第1の不法
行為)に,②被告が,著作権信託契約約款(以下「本件約款」という。)に
おいて,原告X1が作詞・作曲した楽曲を自ら使用することの留保を認めず,
同原告に不公正な取引契約を強いてきたことが,同原告の演奏の自由,著作
者人格権を侵害する不法行為(第2の不法行為)に,③被告の楽曲管理の方
20 法が不適切であるため,演奏した楽曲の使用料が同原告に配分されなかった
ことが,その著作権及び著作者人格権を侵害する不法行為(第3の不法行為)
にそれぞれ該当するとして,上記第1の不法行為について,慰謝料100万
円,得べかりし使用料相当額210円及び弁護士費用10万円,上記第2及
び第3の不法行為について,各慰謝料50万円及び弁護士費用5万円並びに
25 これらに対する遅延損害金(うち220万円に対する平成29年1月1日か
ら及びうち210円に対する平成28年5月12日から各支払済みまで民法
(平成29年法律第44号による改正前。以下同じ。)所定の年5分の割合
による金員)の支払,
(2) 原告X2が,被告に対し,同原告の本件店舗における演奏利用許諾申込み
を被告が拒否したことが,同原告の演奏者としての権利及び演奏の自由を侵
5 害する不法行為に該当するとして,慰謝料100万円,練習費用4万円及び
弁護士費用10万円並びにこれらに対する遅延損害金(うち110万円に対
する平成29年1月1日から,うち4万円に対する平成28年4月26日か
ら各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員)の支払,
(3) 原告X3が,被告に対し,同原告の本件店舗における演奏利用許諾申込み
10 を拒否したことが,同原告の演奏者としての権利及び演奏の自由の侵害を侵
害する不法行為に該当するとして,慰謝料50万円,練習費用1万5000
円及び弁護士費用5万円並びにこれらに対する遅延損害金(うち55万円に
対する平成29年1月1日から,うち1万5000円に対する平成28年4
月22日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員)の支払
15 を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨
により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に
断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1) 当事者
20 ア 原告X1は,「甲1」の名称を用い,プロのシンガーソングライターと
して,音楽演奏等の活動を行っている。(甲34)
イ 原告X2は,「甲2」というバンドにおいて,プロのギタリストとして,
音楽演奏等の活動を行っている。(甲39)
ウ 原告X3は,「甲3」というバンドにおいて,セミプロのギタリストと
25 して,音楽演奏等の活動を行っている。(甲35)
エ 被告は,著作権等管理事業法3条の登録を受けた著作権等管理事業者で
あり,音楽著作物の著作権等管理事業などを行う一般社団法人である。
(2) 本件店舗
本件店舗は,平成21年5月,ロックバンド「爆風スランプ」のドラマー
として「B’」の芸名で知られたミュージシャンであるBが,音楽家が演奏
5 する場を提供するため,実業家であるCに経営を依頼して開店し,自らもそ
の運営に関与していた店舗である。(乙27の1)
(3) 別件訴訟の提起及び第一審の審理経過等(乙18の1)
ア 被告は,B及びCに対し,平成25年10月31日,B及びCが,その
共同経営する本件店舗内でライブを開催し,被告と利用許諾契約を締結し
10 ないまま被告が管理する楽曲を演奏等させていることが被告の著作権を侵
害するなどとして,その演奏等の差止め及び損害の賠償又は不当利得の返
還等を求める別件訴訟を提起した。
イ B及びCは,別件訴訟において,被告との間で被告管理楽曲の利用許諾
契約を締結していなかったことは争わず,①B及びCの演奏主体性,②出
15 演者の作詞・作曲したオリジナル曲の演奏による著作権侵害の成否,③故
意及び過失の有無,④平成24年6月10日以後における被告の許諾の有
無,⑤権利濫用等の抗弁の成否,⑥差止請求の適法性及び差止めの必要性,
⑦将来請求の可否,⑧損害又は損失発生の有無及び額を争った。
ウ 東京地方裁判所は,平成28年3月25日,B及びCに対し,本件店舗
20 における被告の管理楽曲の利用について,同人らが演奏主体に当たると認
められるなどとし,本件店舗における演奏等の差止め及び口頭弁論終結日
である同年2月10日までの使用料相当損害金212万4412円等の支
払を命じる判決(以下「別件一審判決」という。乙18の1)をした。
(4) 原告らによる演奏申込み等
25 ア 本件店舗は,別件訴訟第一審判決の後である平成28年4月8日,原告
らを含む予約済みの出演者などに対し,被告との前記裁判の詳細について
は本件店舗のホームページを参照してほしいとした上で,被告管理楽曲を
演奏する予定がある場合は,出演者自身が被告に利用申込みをするよう案
内するメールを送付し(甲16),同じ頃,そのサイト上に,別件一審判
決の結果を報告するとともに,同様の案内を掲載した(乙8)。
5 イ(ア) これを受けて,原告X1は,平成28年5月1日付けで,被告に対し,
本件店舗で予定する同年6月9日のライブに「夏が恋しくて」,「散歩
に行こう!」及び「is this really」(以下「本件3曲」という。)を
含む被告の管理楽曲12曲を使用する旨の演奏利用許諾申込み(以下
「本件利用申込み1」という。)をしたが(甲2),被告は,同年5月
10 12日付けの書面をもって,本件店舗の「使用料相当額の清算が未了で
ある現状に鑑み,貴殿からの演奏利用許諾のお申込みを受け付けること
ができません」として,同申込みの受付けを拒否した(以下「本件利用
申込み拒否1」という。甲1)。
このため,原告X1は,平成28年6月9日,ライブ会場を本件店舗
15 から「Grooving mamagon」(以下「本件許諾店舗」と
いう。)に変更して,予定されたライブを行った。(乙3,4)
(イ) 原告X2は,平成28年4月22日付けで,被告に対し,本件店舗で
予定する同年7月15日のライブに被告の管理楽曲10曲を使用する旨
の演奏利用許諾申込み(以下「本件利用申込み2」という。)をしたが
20 (乙6),被告は,同年4月25日付けの書面をもって,本件店舗の
「使用料相当額の清算が未了である現状に鑑み,貴殿からの演奏利用許
諾のお申込みを受け付けることができません」として,同申込みの受付
けを拒否した(以下「本件利用申込み拒否2」という。甲5)。
(ウ) 原告X3は,平成28年4月21日付けで,被告に対し,本件店舗で
25 予定する同年7月9日のライブに被告の管理楽曲9曲を使用する旨の演
奏利用許諾申込み(以下「本件利用申込み3」といい,本件利用申込み
1~3を総称して「本件各利用申込み」という。)をしたが(訴状別紙
③),被告は,同年4月22日付けの書面をもって,本件店舗の「使用
料相当額の清算が未了である現状に鑑み,貴殿からの演奏利用許諾のお
申込みを受け付けることができません」として,同申込みの受付けを拒
5 否した(以下「本件利用申込み拒否3」といい,本件利用申込み拒否1
~3を総称して「本件各利用申込み拒否」という。甲6)。
このため,原告X3は,平成28年7月9日,演奏曲目を入れ替える
などして,本件店舗においてライブを行った。
ウ 本件店舗は,別件一審判決後の平成28年4月6日,同月8日,同年5
10 月8日,同店舗においてライブを開催し,被告管理楽曲を無許諾で演奏し
た。原告X1は,平成28年4月6日のライブにおいて,原告X2及び原
告X3は,同月8日のライブにおいて,被告管理楽曲を含む楽曲の演奏を
行った。(乙9)
(5) 別件訴訟の控訴審の審理経過等
15 ア B及びCは,平成28年5月30日付けの別件一審判決に対する控訴理
由書において,知的財産高等裁判所に対し,被告が本件各利用申込みを拒
否したのは著作権等管理事業法16条に違反する違法な運用であるなどと
主張し(乙18の3),原告らに交付された本件各利用申込み拒否に係る
書面の写しを証拠として提出した(乙18の4)。
20 イ 知的財産高等裁判所は,平成28年10月19日,B及びCに対し,本
件各利用申込み拒否のためライブを中止した演奏者がいるにしても,差止
めの必要性は失われないなどとして,別件一審判決の差止め部分を維持す
るとともに,口頭弁論終結日である同年9月12日までの使用料相当損害
金496万5101円等の支払を命じる判決をした。(乙18の2)
25 (6) 原告X1による本件許諾店舗における演奏
ア 原告X1は,平成28年8月21日付けで,被告に対し,本件許諾店舗
で開催される同年10月12日のライブに「夏が恋しくて」及び「散歩に
行こう!」と題する楽曲(以下「本件2曲」という。)を含む被告の管理
楽曲12曲を使用する旨の演奏利用申込みをした(訴状別紙②)
イ 被告は,平成28年8月29日付けで,原告X1に対し,本件許諾店舗
5 は被告と音楽著作物利用許諾契約を締結しているため,本件許諾店舗にお
いては被告の管理楽曲を適法に利用し得ると連絡した。(甲3)
ウ 原告X1は,平成28年10月12日,本件許諾店舗において,本件2
曲を演奏し(以下「本件10月演奏」という。),本件許諾店舗は,被告
に対し,本件2曲の利用を報告した。(乙5)
10 エ 被告は,原告X1と著作権に関する契約(後記(7))を交わしていた音
楽出版社である株式会社ブラスティー(以下「ブラスティー」という。)
に対し,平成29年6月支払分として,本件2曲に係る使用料合計268
円(手数料控除後)を支払った(甲33,乙26)。
(7) 原告X1とブラスティー間の著作権に関する契約
15 ア 原告X1とブラスティーは,2010年(平成22年)11月1日付け
で,原告X1を作詞者兼作曲者とする本件3曲を含む11曲を対象として,
「著作権契約書」と題する契約書(以下「本件著作権契約書」という。甲
14)をもって,著作権に関する契約(以下「本件著作権契約」という。)
を締結した。同契約書には,要旨,以下の定めがある。
20 (ア) 原告X1とブラスティーは,本件著作権契約の対象となる著作物の著
作権の譲渡に関し,同契約を締結する。(柱書き)
(イ) 原告X1は,前記著作物の「著作権管理を行うことを目的」として,
ブラスティーに対し,その著作権を「独占的に譲渡」する。(1条)
(ウ) 譲渡の対象は,原告X1が現在及び将来に有する「一切の支分権及び
25 著作権に基づき発生するいかなる権利」を含む。(4条)
(エ) ブラスティーは,前記著作権に係る「演奏権等」などについて,被告
に委託する方法で管理を行う。(6条)
(オ) ブラスティーは,原告X1に対し,「譲受の対価」として,前記楽曲
が使用された場合,「著作権使用料」を支払い,その額は,第三者の使
用に係る場合,ブラスティーが被告から受領した手数料控除後の使用料
5 の12分の6とする。原告X1及びブラスティーは,被告に対し,「演
奏権等」の使用料の自己の取り分の支払を「直接請求」することができ
るものとする。(10条)
(カ) ブラスティーは,原告X1の書面の承諾がある場合等を除き,前記著
作権の「売却・譲渡等」の処分をしてはならない。(17条)
10 (キ) 前記著作権は,本件著作権が契約の満了又は解除によって終了した場
合,当然に原告X1に「復帰」する。(21条)
イ なお,本件著作権契約書は,一般社団法人日本音楽出版社協会が作成し
た「FCA・MPAフォーム」と通称される契約書フォームに基づくもの
である。(乙12)
15 (8) 本件約款
被告は,著作権等管理事業法2条1項1号の信託契約として,要旨,以下
の規定のある本件約款を定めていた(乙1)。
ア 委託者は,その有する全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を本
信託の期間中,信託財産として受託者に移転し,受託者は,委託者のため
20 にその著作権を管理し,その管理によって得た著作物使用料等を受益者に
分配する。この場合において,委託者が受託者に移転する著作権には,著
作権法28条に規定する権利を含むものとする。(3条1項)
イ 本信託における受益者は,委託者とする。ただし,著作権信託契約の締
結の際に委託者が受託者の同意を得て第三者を受益者として指定したとき
25 は,当該第三者とする。(3条2項)
ウ 委託者は,委託する著作物の利用の開発を図るため,同著作物を自ら利
用することについて,予め受託者の承諾を得て,信託著作権の管理委託の
範囲を「留保又は制限」することができる。(11条。ただし,平成29
年当時のもの)
3 争点
5 (1) 原告X1の請求について
ア 本件利用申込み拒否1の違法性等(争点1(1))
イ 本件約款の内容に係る違法性等(争点1(2))
ウ 著作物の管理に係る違法性等(争点1(3))
(2) 原告X2の請求について
10 本件利用申込み拒否2の違法性等(争点2)
(3) 原告X3の請求について
本件利用申込み拒否3の違法性等(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告X1の請求)について
15 1-1 争点1(1)(本件利用申込み拒否1の違法性等)について
(原告らの主張)
(1) 被告の行為
原告X1は,平成28年6月9日に本件店舗において「八王子Trans
ferライブ」と題する生演奏のライブを開催すべく,同年5月1日,被告
20 に対し,自らが作詞・作曲したオリジナル曲6曲を含む曲目(合計12曲)
の演奏利用許諾申込み(本件利用申込み1)を行った。
ところが,被告は,原告X1に対し,本件店舗と被告との間で被告の管理
する著作物の使用料相当額の清算が未了であることを理由として,本件利用
申込み1の受付けを拒否した(本件利用申込み拒否1)。このため,原告X
25 1は,上記ライブを開催することができなかった。
著作権等管理事業法16条には,著作権等管理事業者は,正当な理由がな
ければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定し
ている。また,原告X1は,本件利用申込み1を行った演奏曲目(12曲)
について憲法21条が保障する演奏の自由を有する。また,このうち,6曲
については,原告X1が作詞・作曲したものであり,同原告は著作権及び著
5 作者人格権を有する。
また,本件3曲については,原告X1が作詞・作曲し,ブラスティーを通
じて被告と著作物信託契約を結んでいるものであり,同原告は著作権及び著
作者人格権を有するとともに,被告からその使用料の支払を受け得る立場に
ある。
10 被告が原告X1による本件利用申込みを拒否した行為は,著作権等管理事
業法16条に違反する利用許諾拒否行為であるとともに,原告X1の演奏の
自由及び著作者人格権を侵害するものであるから,被告は,同原告が受けた
後記(6)の損害の賠償義務を負う。
(2) 著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の存否
15 ア 著作権等管理事業法16条は,著作権等管理事業者は、正当な理由がな
ければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定
している。被告のような信託受託者は,形式的な権利者にすぎず,実質的
な権利者である受益者に対し,善管注意義務や忠実義務を負っている。同
法は,著作権等管理事業者に特別に重い義務を課した法律であり,その国
20 会審議では,「利用を拒んではならない」ことを理由として独占禁止法上
の問題がない旨の答弁がされていた。さらに,同条は,憲法21条の表現
の自由の派生原理である演奏の自由を体現したものである。
したがって,同条の「正当な理由」は厳格に解されるべきである。
イ 被告は,信託の受託者にすぎないところ,受託者はもっぱら受益者の利
25 益のために行動すべき義務を負う。演奏利用の申込者が著作権使用料を支
払えば,被告は,著作権使用料から手数料等を控除した額を受益者に配当
することになるのであるから,同原告の演奏利用申込みの許諾をすること
が受益者の利益になる。このような観点に立つと,著作権等管理事業法1
6条の「正当な理由」の判断は,「許諾すれば受益者に対する配当の原資
が得られるか否か」を基準とすべきである。そうでないとすれば,信託の
5 受託者にすぎない被告に対し,法の予定しない諾否の裁量を与えることに
なる。
したがって,演奏利用申込者が,使用料の支払の意向を示していれば,
被告は,その支払能力がないことが明らかなときを除き,これを許諾する
義務を負うというべきであり,それが委託者や受益者の合理的意思に沿う。
10 原告X1は,本件利用申込み1に係る申込書によって,著作権使用料を
支払う意思を示していたものであり,また,その支払能力がないことを基
礎付けるような事情も存在しなかった。むしろ,原告らは,1曲140円
の著作権使用料を本件店舗の経営者であるCを通じて法務局に供託してい
た(乙33)。それにもかかわらず,被告が同原告の演奏利用許諾申込み
15 を拒否したのは違法である。
ウ また,被告は形式的権利者にすぎないのであるから,利用申込みを拒否
するに当たり,実質的な権利者である委託者や受益者の意思を確認する義
務を負っていた。特に,本件利用申込み1の対象楽曲には,原告X1がブ
ラスティーを介して被告に委託していた本件3曲が含まれており,通常の
20 委託者であれば許諾を望むと考えられるにもかかわらず,被告は,原告X
1及びブラスティーの意思の確認を怠った。
エ 被告は,本件店舗の経営者が過去の著作権侵害に係る使用料相当額の清
算をしていなかった場合には,第三者による同店舗における演奏利用の申
込みを「正当な理由」があるものとして拒否し得ると主張するが,同店舗
25 における過去の使用料相当額の清算と目の前にある収益の取得は別の問題
である。被告が新たに演奏利用申込みに係る著作権使用料を収受したから
といって,著作権侵害者が過去の未払使用料を清算せずに済むわけではな
い。過去の著作権使用料の未払分の清算は,本件店舗からの未払金の回収
などにより解決すべき事柄である。
被告は,「レストラン・カフェ・デサフィナード」(以下「デサフィナ
5 ード」という。)について,未払の著作権使用料があったのに,同店舗に
おけるコンサートを許諾したことがあり,恣意的に演奏利用申込みの許諾
の有無を決定している。被告は,当該コンサートは,店舗の営業と無関係
なものであったから演奏利用を許諾したと主張するが,当該コンサートの
参加料は1000円であり,飲食等も提供されるのに,被告は,これが当
10 該店舗に支払われるかどうかを確認していない。
また,被告は,店舗と演奏者は著作物の共同利用主体となるから,演奏
利用申込みをできない店舗に代わって演奏者が第三者として申込みをする
ことは脱法行為であるとも主張するが,原告X1の出演する予定のライブ
は,演奏者が曲目選定や宣伝活動をし,ライブチャージを取得するなど,
15 店舗が利益の帰属主体となるようなものではなかったので,両者は共同利
用主体の関係にない。仮に,両者が共同利用主体になるとしても,演奏者
と店舗経営者が不真正連帯債務を負うことになるので,その一方である演
奏者が使用料を支払うのであれば,それで十分であったはずである。
以上のとおり,第三者が演奏利用許諾の申込みをした場合に,被告がラ
20 イブハウス等の店舗による著作権使用料の清算が完了していることを利用
許諾の条件とすることは,著作権等管理事業法16条の趣旨に反し許され
ない。
オ 被告は,原告X1が本件店舗の経営者らと親密な関係にあり,本件利用
申込み1は,別件訴訟を有利にするため,同経営者らの「呼びかけ」に応
25 じてなされたものであると主張する。
(ア) しかし,原告X1は,自己実現の手段として,自らの意思で演奏活動
をしており,本件利用申込み1に係るライブも,数か月前から予定して
いた。原告X1は,本件店舗から,別件一審判決の結果を踏まえ,①被
告管理楽曲以外のオリジナル曲を利用するか,②演奏者が演奏利用申込
みをするか,③ライブを中止するかの選択肢を示され(甲16),上記
5 ②を選択したにすぎず,本件店舗の経営者の「呼びかけ」に応じ,別件
訴訟を有利にするために本件利用申込み1をしたわけではない。
原告X1は,別件訴訟における本件店舗の経営者らの主張内容も知ら
なかった。本件利用申込み拒否1に係る書面が,別件訴訟に証拠提出さ
れた事情は不明であるが,原告X1が,前記ライブに係る本件店舗の予
10 約をキャンセルするに当たり,本件利用申込み拒否1を受けたことを報
告したことによると思われる。
(イ) 原告X1は,Bとは音楽上の関係しか有しておらず,その経営に協力
するような親しい関係にはなかった。実際,原告X1とBとは,話をし
たのも2~3回という程度で特段の面識はない。また,原告X1が本件
15 店舗の経営者らによる事業管理や意思決定に関与し,その経営に協力し
たというような事実も存在しない。原告X1は,本件店舗の経営面を担
っていたCとは面識さえなかった。
原告X1が,本件店舗を出演先に利用していたのは,売上げのノルマ
がないこと,施設利用料名目の1000円を支払えば,観客の入場料が
20 出演者に100%チャージバックされることなどの事情があったからに
すぎない。原告X1が,本件店舗をライブに利用していたからといって,
その経営に協力するために本件利用申込み1をしたと推認することはで
きない。
原告X1が本件店舗に出演した回数が20回以上になるが,そのよう
25 な店舗は本件店舗の外にも10以上はあり,出演が100回以上に上る
店舗も存在する。確かに,Bは,原告X1の配偶者とバンド活動を共に
するなどしていたが,同原告の配偶者が音楽活動を共にしているミュー
ジシャンは多数おり,Bもその1人にすぎない。原告X1は,Bと親し
い関係になかったため,被告が指摘するようなBとブラスティーとの関
係も把握していなかった。
5 以上のとおり,原告X1は,B等と親密な関係にあったものではない。
(ウ) 原告X1が,平成28年4月6日,本件店舗において,八王子Tra
nsferの一員として10曲を演奏したことは確かであるが,同原告
は1曲140円を供託した上で演奏しているので,著作権侵害行為には
加担していない。
10 (3) 演奏の自由の侵害
演奏の自由とは,音楽著作物の利用を公権力によって妨げられない自由を
いい,表現の自由の派生原理をいう。本件利用申込み拒否1は,それ自体,
憲法21条が保障する原告X1の演奏の自由を侵害する違憲な行為である
(憲法の直接適用)。
15 また,被告は,私的団体であるが,長きにわたり,音楽著作権を独占的に
管理し,著作権等管理事業法所定の公的規制を受ける著作権等管理事業者な
のであって,我が国において,被告の関与なしに音楽関連業務を営むことは
不可能な状況にあることなどからすれば,被告は,国の行為に準ずる高度に
公的な機能を行使する者として,国家と同視され,憲法の適用を受けるべき
20 団体である(米国法上の国家行為の理論)。
(4) 著作者人格権の侵害
本件利用申込み1の対象楽曲のうち6曲は,原告X1が作詞・作曲したも
のであったから,本件利用申込み拒否1は,その著作者人格権も侵害する。
著作権法113条11項の「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を
25 利用する行為」は,利用申込みを拒否する「不作為」を含むと解釈するべき
である。すなわち,著作物自体やその利用方法に問題がないにもかかわらず,
受託者がその利用許諾を拒絶するのは,著作者の名誉・声望を害する方法に
よる不利用と解すべきである。
(5) 本件3曲に関する権利侵害
ア 本件利用申込み拒否1の対象楽曲のうち,本件3曲は,原告X1とブラ
5 スティー間の本件著作権契約の対象となるものであり,ブラスティーを通
じ,被告に信託されていた。被告との著作物信託契約上の委託者がブラス
ティーであるとしても,受託者と受益者との間に契約関係は不要であるか
ら,本件著作権契約を通じた本件3曲の実質的な受益者は,原告X1であ
ったというべきである。
10 また,本件著作権契約書は,音楽業界で広く用いられているFCA・M
PAフォームを利用しているところ,このフォームにおいては,音楽出版
社自身が著作権を管理することは予定されておらず,全て「丙」である被
告に委託することが予定されている。すなわち,同フォームを用いて原告
X1がブラスティーと契約を締結することは,自らの著作権の管理を被告
15 に信託するのと等しく,被告による著作権管理に関し,委託者であるブラ
スティーと原告X1とは一体のものとみなされるべきである。
本件著作権契約10条は,原告X1の被告に対する使用料の直接請求権
を留保する規定である。被告は同契約の当事者ではないとしても,原告X
1とブラスティーの一体性や原告X1の受益者としての地位に照らすと,
20 原告X1にはこの直接請求権を前提とする損害が生じている。仮に,原告
X1が,被告に対する直接請求権を有しないとしても,本件利用申込み1
が許諾され,本件3曲が演奏されれば,原告X1は,ブラスティーを通じ,
著作権使用料を受け取ることができた。
イ また,原告X1とブラスティー間の本件著作権契約は,著作権の譲渡を
25 内容とするものではなく,信託譲渡の性質を有するものである。このこと
は,本件著作権契約書の1条(譲渡の目的),17条(再譲渡の禁止),
21条(契約終了時における著作権の復帰)の各規定に加え,10条に著
作権使用料の直接請求権に関する規定が置かれていることなどから明らか
である。
このように,原告X1とブラスティーとの契約は信託譲渡であり,同原
5 告は本件3曲の著作権を喪失していないので,原告X1は,信託譲渡の委
託者に留保された著作権に基づき,一定の権利主張が可能である。原告X
1には,本件著作権契約を締結するに当たり,対象となる楽曲を自ら利用
することを抑制する意図はなかったから,原告X1には,被告やブラステ
ィーに対し,自己利用の申込みの許諾を強制し得る応諾強制権が留保され
10 ていたというべきである。本件利用申込み拒否1は,原告X1の有する応
諾強制権を侵害するものであり,その応諾により得られたはずの使用料が
その損害となる。
(6) 損害の発生及びその額
ア 原告X1は,本件利用申込み拒否1の結果,平成28年6月9日に開催
15 を予定していたライブの中止を余儀なくされ,リハーサルが無駄になるな
どの損害を被った。その精神的苦痛に相当する慰謝料は100万円であり,
相当因果関係のある弁護士費用は10万円である。なお,原告X1が,会
場を本件店舗から変更し,代替のライブを実施しているが,その内容は,
当初予定したライブと異なるものであるから,前記の損害の発生を左右す
20 る事情ではない。
イ また,原告X1とブラスティー間の契約に基づき,同原告は,被告に対
し,同原告の作詞・作曲した曲の使用料を直接又はブラスティーを介して
請求することができた。原告X1は,本来であれば,本件3曲の使用料の
うち210円を受領できたはずであるのに,違法な本件利用申込み拒否1
25 によって,同額の損害を被った。
(被告の主張)
(1) 被告の行為について
原告X1が本件利用申込み1を行ったのに対し,被告がその受付けを拒否
したことから,平成28年6月9日に本件店舗において予定されていたライ
ブを開催できなかったことは認める。ただし,原告X1は,同日,会場を本
5 件許諾店舗に変更し,予定していたライブと同一のライブに出演した。なお,
本件利用申込み1により申込みのあった被告管理楽曲のうち,原告X1の作
詞・作曲したのは本件3曲のみである。
原告らは,本件利用申込み拒否1が,著作権等管理事業法16条に違反す
る利用許諾拒否行為であるとともに,原告X1の演奏の自由及び著作者人格
10 権を侵害すると主張するが,以下のとおり,理由がない。
(2) 著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の存否について
本件利用申込み拒否1には,著作権等管理事業法16条の「正当な理由」
があったので,同行為が不法行為を構成するということはできない。
ア 本件店舗のように過去の著作権使用料が未清算の店舗については,演奏
15 者などの第三者から演奏利用の申込みがされたときであっても,当該演奏
が当該店舗の営業として行われるときは,これを拒否する「正当な理由」
があるというべきである。
(ア) すなわち,原告らによる本件各利用申込みを許諾するとすれば,著作
権使用料を支払っていない店舗であっても,第三者からの演奏申込みの
20 体裁をとれば,被告に察知されるまでは著作物の利用を継続することが
できることになるが,そうすると,音楽著作権の集中管理団体である被
告は,著作権管理事業の遂行に公平性を保つことができない。そして,
著作権者が,自らの著作権を侵害している者に対し,過去の著作権使用
料が清算されないまま,その利用を許諾するとは考え難いことに照らす
25 と,被告が,過去の著作権使用料が未清算の店舗について,演奏者など
の第三者からの演奏利用申込みを許諾することは,受託者の合理的な意
思及び利益に反することとなる。
著作権等管理事業法の立法担当者が執筆した解説書である著作権法令
研究会編「逐条解説 著作権等管理事業法」(2001年有斐閣)96
頁においても,同法16条の「正当な理由」がある場合とは,委託者の
5 意思に反する等,利用を拒絶してもやむを得ない理由のある場合をいう
とした上で,許諾をすることが通常委託者の合理的意思に反すると認め
られる場合として,利用者が過去又は今後の著作権使用料を支払おうと
しない場合を典型例として挙げている。
(イ) 別件事件の控訴審判決が「1審被告等と出演者のいずれもが1審原告
10 管理著作物の利用主体に当たる」と判示するとおり,ライブハウスの経
営者とライブに出演する演奏者は,いずれも被告管理楽曲を演奏により
利用する主体である。実際のところ,本件店舗の経営者らは,出演者か
らは会場使用料を徴収せず(100%チャージバック),観客から飲食
代を徴収するなどして,店舗におけるライブを営業に組み込んでおり,
15 ライブにおける著作物の共同利用主体であるということができる。
このように,ライブハウスの経営者とライブに出演する演奏者とは共
同利用主体であると解すべきところ,利用主体の一方であるライブハウ
スの経営者が被告からの演奏利用許諾を得られる見込みのない場合に,
当該経営者の代わりに演奏者が利用申込みをして,被告管理楽曲を同店
20 舗の経営者が利用できるようにすることは,脱法行為に当たるというべ
きである。
常識的に考えても,著作権使用料が未清算の店舗の営業の一環として
される同一のライブについて,店舗経営者からの申込みであれば拒否し
得るが,店舗経営者に代わって演奏者から利用許諾申込みがあった場合
25 には拒否し得ないというのは,不合理である。
(ウ) 著作権使用料が未清算の店舗における著作物の利用について,演奏者
などの第三者による演奏利用申込みを許諾するとすれば,店舗による演
奏利用申込みを拒否することによって過去の著作権使用料相当額の損害
の塡補を促すという効果が失われてしまう。原告らは,過去の著作権使
用料の未払分は強制執行等により回収すれば足りると主張するが,それ
5 には多大な費用,時間,労力を要し,場合によっては回収不能となるこ
とは、経験則上明らかである。
(エ) 被告が,著作権使用料が未清算の店舗における著作物の利用に関し,
演奏者からの演奏利用申込みを拒否したとしても,当該演奏者は,著作
権侵害をしていない経営者が運営するライブハウスで被告管理楽曲を利
10 用することができるから,当該演奏者が被告管理楽曲を利用することが
過度に制約されるわけではない。実際上,原告X1は,本件店舗とは関
係のない本件許諾店舗において,適法に被告の管理楽曲を演奏すること
ができたのであり,他のバンドも代替的なライブハウスを見つけるのは
難しくないと述べている(乙19の11頁)。
15 (オ) 原告らは,本件各利用申込み拒否は独占禁止法に違反すると主張する
が,同法は違法不当な取引の申込みを拒絶することを禁じていないので,
同主張は失当である。原告らが指摘する国会答弁は,著作権等管理事業
法に基づき利用者代表が著作権管理事業者と協議を行うこと自体は独占
禁止法上問題にならないので,同法の適用除外規定を置かなかったとい
20 うものにすぎず,著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の解釈を
左右するものではない。
(カ) なお,被告は,第三者からの利用申込みが,当該店舗の営業として行
われるものでない場合は,これを許諾することとしている。原告らが指
摘するデザフィナードの事例はそのような事例であり,被告は,申込み
25 に係るコンサートがチャリティー目的のものであり,同店舗が飲食物を
提供せず,店舗の営業とは無関係に開催されることを確認したことから,
演奏利用許諾書の摘要欄に「チャリティー目的のコンサートのため許諾」
(甲15)と明記し,その利用申込みを許諾したものである。
イ 本件利用申込み1をした原告X1は,以下のとおり,単なる第三者では
なく,本件店舗の運営者であるBと客観的に親密な関係にあって,本件店
5 舗と同視すべき者であり,被告は,本件利用申込み1を受けた時点でその
ことを把握していたため,本件利用申込み1を拒絶したものである。
(ア) 原告らは,いずれも継続的に本件店舗でのライブに多数回の出演をし
てきた(乙11)ばかりか,相互に親しい関係にあり,本件店舗の経営に
積極的に協力し,Bとは,単なる音楽仲間を超えて特別に親密な間柄に
10 あった。
原告X1は,Bとフェイスブック上の友達であり,Bは,原告X1と
本件著作権契約を締結しているブラスティーに所属するバンド「X.Y.
Z.→A」メンバーであり(乙7の2),同社代表者であるDはBのマ
ネージャーである(乙7の3)。また,原告X1が所属するバンドであ
15 る「八王子Transfer」は,同原告の配偶者及びEもメンバーと
しているが,同配偶者はBとバンド「五星旗」を結成して演奏活動をし
(乙4),EはBの自宅の隣のB所有建物に住んでいたばかりか,本件
店舗において,その店長である妻のFとともに同店舗の業務を手伝って
いた。
20 (イ) Bは,別件一審判決後,本件店舗に出演する者らに対し,出演者自身
が利用申込みをするように呼びかけ(乙8),原告X1は,その呼びか
けに応じ,本件利用申込み1をした。そして,被告が,原告X1に対し,
本件利用申込み拒否1をしたところ,別件訴訟の控訴審において,その
拒否を通知する書面が証拠として提出されるなどしていることなどから
25 すれば,原告X1は,本件店舗の経営者らの別件訴訟における立場を有
利にする目的をもって,本件利用申込み1をしたと推認し得る。
(ウ) Bは,別件一審判決後も著作権侵害行為を繰り返しており,平成28
年4月6日には原告X1が本件店舗において被告管理楽曲を10曲演奏
し,同月10日には原告X2及び同X3が同店舗において被告管理楽曲
を21曲演奏するなどして,Bの著作権侵害行為に加担した。これに対
5 し,原告らは,1曲140円を供託した上で演奏しているので,Bの著
作権侵害行為に加担したものではないと主張するが,そのような事実は
存在しない。
(3) 演奏の自由の侵害について
原告らは,本件利用申込み拒否1によって,憲法上の権利である演奏の自
10 由が侵害されたともいう。しかし,我が国において,憲法の人権規定は,私
人である被告の行為には適用されず,原告らの援用する「国家行為の理論」
は,米国において適用される法理にすぎず,主張自体失当である。
(4) 著作者人格権の侵害について
原告らは,本件利用申込み拒否1が,著作権法113条11項の規定によ
15 り,原告X1が作詞・作曲した楽曲に係る著作者人格権の侵害とみなされる
と主張する。
しかし,同条項は,著作物を利用する行為があることを適用の要件とする
ものであり,本件利用申込み拒否1のように,著作物の許諾申込みを拒否す
る場合には著作物を利用する行為が存在しないから,著作者人格権侵害は生
20 じ得ない。
また,著作者人格権は,公表権,氏名表示権,同一性保持権から成るもの
であり,自作の楽曲につき演奏による利用許諾を受ける権利はそのいずれに
も当たらない。
(5) 本件3曲に関する権利侵害について
25 ア 本件3曲は,原告X1がその著作権をブラスティーに譲渡し,ブラステ
ィーが被告に信託しているのであるから,被告との間で著作権の信託譲渡
契約を締結しているのは,ブラスティーであって,原告X1ではない。
これに対し,原告らは,本件著作権契約の性質は信託譲渡であると主張
する。しかし,本件著作権契約4条は,譲渡する著作権の範囲について,
演奏権を含む,現在及び将来において原告X1が有する「一切の支分権及
5 び著作権に基づき発生するいかなる権利」をも含むとしており,本件著作
権契約には,本件3曲の著作権を信託譲渡したことをうかがわせる規定は
ない。本件著作権契約は,有償譲渡契約の性質を有し,売買の規定が準用
されるべきものであり,原告らが信託譲渡の根拠とする同契約上の他の規
定も本件著作権契約が信託譲渡であると解する根拠となるものではない。
10 イ 原告らは,本件著作権契約10条1項2号iのなお書きに基づき,原告
X1が被告に対して使用料を直接請求することができると主張するが,同
規定が適用されるのは,原告X1が被告の委託者である場合であり,被告
の委託者ではない原告X1には適用の余地がない。原告X1とブラスティ
ー間の本件著作権契約により,被告に対する請求権は発生しないので,本
15 件利用申込み拒否1が原告X1の著作権使用料の分配を受ける権利を侵害
することはない。
ウ 原告らは,本件著作権契約が信託譲渡としての性質を有し,原告X1は
応諾強制権を有していると主張する。しかし,本件著作権契約が信託譲渡
としての性質を有しないことは前記のとおりであり,仮に,その性質を信
20 託譲渡と解しても,その譲渡人が,譲受人の許諾を得ずに当該著作物を使
用すれば,著作権侵害となる。
(6) 損害の発生及びその額について
原告X1の主張する損害の発生及びその額は争う。そもそも,原告X1は,
平成28年6月9日,本件店舗から本件許諾店舗に会場を変更した上,予定
25 していたライブと同一の内容のライブを実施しているのであるから(乙3),
それによる精神的損害を受けたとは考え難い。
1-2 争点1(2)(本件約款の内容に係る違法性等)
(原告らの主張)
(1) 被告は,日本国内において音楽著作物の演奏権を独占的に管理している事
業者でありながら,本件約款において,本件3曲の原著作者である原告X1
5 が自らその著作物を使用することの留保を認めず,同原告に不公正な取引契
約を強いてきた。この不公正な取引契約により,原告X1は自ら作詞・作曲
した著作物について被告の許可が得られなければ演奏できなくなり,その演
奏の自由及び著作者人格権が侵害された。
(2) 原告X1が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当であ
10 り,これと相当因果関係ある弁護士費用は5万円である。
(被告の主張)
(1) 被告は,ブラスティーとの著作権信託契約を締結しているが,原告X1と
の間には直接の契約関係を有していないのであるから,「不公正な取引契約
を強いてきた」という関係にはない。
15 (2) また,原著作者がその著作物を使用することについての留保権を認めるか
どうかは,委託者と受託者の合意内容の問題であるところ,本件約款は,
「管理の留保又は制限」に係る定めを置いているのであるから,何ら不公
正・不合理な点はない。
(3) 著作者人格権は,公表権,氏名表示権,同一性保持権からなるものである
20 原告の主張する「留保」の権利とは無関係である。これを被侵害利益とする
損害賠償請求は,主張自体失当である。
1-3 争点1(3)(著作物の管理に係る違法性等)
(原告らの主張)
(1) 被告の行為
25 原告X1は,平成28年10月12日,「Grooving mamag
on」店舗(本件許諾店舗)において,「八王子Transfer秋ライ
ブ!」と題する生演奏のライブを開催すべく,同年8月21日,被告に対し,
自らが作詞・作曲したオリジナル曲5曲を含む曲目(合計12曲)の演奏申
込みをした。
ところが,被告は,平成28年8月29日,本件許諾店舗は被告と音楽著
5 作物利用許諾契約を締結しているため,同店舗において被告管理楽曲を適法
に利用できるとの理由から,演奏者本人である原告X1からの演奏利用許諾
申込みを受け付けなかった。
本件において,原告X1が著作権を有する本件3曲の演奏利用許諾申込み
を被告が受け付けていれば,同原告に著作権使用料を配分できたにもかかわ
10 らず,被告は,ライブハウス等との利用許諾契約において所定の包括的利用
許諾契約以外の契約を認めず,個々の演奏者からの利用許諾申込みを受け付
けないという対応をしていることから,著作物の利用状況を把握しておらず,
その結果,原告X1に正当な著作権使用料が配分されなかった。
このように,被告による係る著作物管理方法は不適切かつ違法な管理方法
15 であり,これにより原告X1の著作権及び著作者人格権は侵害された。
(2) これに対し,被告は,本件2曲の使用料133円(甲33)が支払われて
いると主張する。しかし,被告の使用料分配規程(甲40)によれば,平成
28年10月~12月に徴収した使用料は,平成29年3月に支払われるべ
きものであり,同年6月に支払われた使用料は,本件10月演奏に係る支払
20 には当たらない。
(3) 被告は,原告X1との間には契約関係が存在しないなどと主張するが,仮
に,同原告が被告に対して直接の請求権を有しないとしても,被告は,少な
くとも,ブラスティーとの関係において,適正に著作権使用料を支払わず又
はその支払が遅延したのであるから,被告は,原告X1との関係においても,
25 ブラスティーによる同原告への使用料の配分を妨げたというべきである。
(4) 被告の不適切な楽曲管理は,原告X1の本件2曲に係る著作権及び著作者
人格権を侵害するということができ,これに対する精神的苦痛としては,慰
謝料50万円が相当であり,これと相当因果関係ある弁護士費用は5万円で
ある。
(被告の主張)
5 (1) 被告が著作権信託契約を締結しているのはブラスティーであり,原告X1
ではないので,原告X1は被告に対して著作権使用料の配分を求めることが
できない。
(2) 被告は,本件2曲の著作権をブラスティーに譲渡しているので,著作権に
基づく請求は失当である。また,被告は,著作者人格権が侵害されたとも主
10 張するが,著作者人格権は,公表権,氏名表示権,同一性保持権から成るも
のであり,自作の楽曲の著作権使用料の分配を受ける権利はそのいずれにも
当たらない。
(3) 被告が,被告管理楽曲の利用状況を把握していないという事実はない。な
お,被告は,本件10月演奏に係るライブについて,本件許諾店舗の経営者
15 から報告書(乙5)の提出を受け,本件2曲各1回の演奏を確認し,これと
は別の平成29年1月19日のライブにおける本件2曲各1回の演奏と併せ,
ブラスティーに対し,本件2曲各2回分に相当する合計268円(ブラステ
ィー分135円,原告分133円)を支払っている(甲33,乙26)
2 争点2(原告X2の請求)について
20 (原告らの主張)
(1) 原告X2は,平成28年7月15日に本件店舗において「甲2 結成20
周年記念 甲2 2ndアルバム 完全再現ライブ」と題するライブを開催
すべく,同年4月上旬,被告に対し,同アルバム曲の演奏申込み(本件利用
申込み2)をした。
25 ところが,被告は,原告X2に対し,本件店舗と被告との間で被告の管理
する著作物の著作権使用料相当額の清算が未了であることを理由として,本
件利用申込み2の受付けを拒否した(本件利用申込み拒否2)。このため,
原告X2は,上記ライブを開催することができなかった。
前記のとおり,著作権等管理事業法16条は,著作権等管理事業者は,正
当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではなら
5 ないと規定している。また,原告X2は,プロのギタリストとして,憲法2
1条が保障する演奏の自由を有する。
以上のとおり,被告が原告X2による本件利用申込み2を拒否した行為は,
著作権等管理事業法16条に違反するとともに,憲法21条の保障する演奏
の自由を侵害する違法なものである。
10 その理由の詳細は,原告X1の本件利用申込み拒否1に関する主張(ただ
し,原告X1固有の事情は除く。)と同様である。
(2) 被告は,原告X2による本件利用申込み2が,別件訴訟を有利にするため,
本件店舗の経営者らの「呼びかけ」に応じてなされたものであると主張する。
しかし,本件利用申込み2をしたのは,ライブの3か月前であり,他の会
15 場に空きがないか,チャージバック率の低い日程のみが空いている状態であ
った。同ライブには高いギャラを払ってドラム奏者に参加してもらうことに
なっており,チャージバック率の低い会場ではそのギャラが払えないという
事情もあった。原告X2が本件利用申込み2をしたのは上記事情によるもの
であり,別件訴訟を有利にするためではない。
20 (3) 被告は,原告X2も,Bと親しい間柄にあったとして,種々の事実を指摘
する。しかし,原告X2にとって,本件店舗は,数ある出演先の一つにすぎ
なかった。確かに,原告X2が,本件店舗のため,入居先の物件探しを手伝
ったこともあるが,同様の手伝いをした者は10名以上いる。本件店舗のプ
ロモーションビデオに出演したことも事実であるが,60名以上の出演者の
25 1人にすぎない。
このように,原告X2がBと親密な関係にあるということはできない。
(4) 原告X2及びX3が,平成28年4月10日,本件店舗において,演奏を
したことは確かであるが,同原告らは1曲140円を供託した上で演奏して
いるので,著作権侵害行為には加担していない。
(5) 本件利用申込み拒否2の結果,原告X2は,平成28年7月15日に開催
5 を予定していたライブの中止を余儀なくされた。その精神的苦痛に相当する
慰謝料は100万円であり,これと相当因果関係のある弁護士費用は10万
円である。
また,原告X2は,平成28年7月15日に予定されていた本件店舗にお
けるライブの練習のためにスタジオを借り,4万円を支出したが,本件利用
10 申込み拒否2により上記ライブが実施できなくなった。この費用も本件利用
申込み拒否2による損害である。
(被告の主張)
(1) 原告X2が本件利用申込み2を行ったのに対し,被告がその受付けを拒否
したことから,平成28年7月15日に本件店舗において予定されていたラ
15 イブを開催できなかったことは認める。
原告らは,本件利用申込み拒否2が,著作権等管理事業法16条に違反す
る利用許諾拒否行為であるとともに,原告X2の演奏の自由を侵害すると主
張するが,本件利用申込み拒否1についてと同様,原告らの主張は理由がな
い。
20 (2) 原告X2は,その開店当初から本件店舗におけるライブに多数回の出演を
してきた者であり,本件店舗のプロモーションビデオに出演し,本件店舗の
ため,Bの依頼を受け,その入居先となる雑居ビルを探し出してくるほど,
Bと親しい間柄にあった者である。また,原告X2は,本件訴訟の本人尋問
において,本件店舗の開店より前にBの自宅台所に入っていたこと,同人の
25 所有・経営する録音スタジオに知り合いの演奏家を紹介したこと,本件店舗
の開店後,そのカウンター内で客に酒を作り,提供したこと,Bが中国に渡
航する際,成田空港まで自動車で送ったことなどを認めており,これらの事
実からもBと親密な関係にあったことは明らかである。
(3) 原告X2の損害に関する主張は否認し又は争う。原告X2が,練習のため
にスタジオを借り,その使用料を支出したことは知らない。
5 3 争点3(原告X3の請求)について
(原告らの主張)
(1) 原告X3は,平成28年7月9日に本件店舗において「甲3ライブ」と題
するライブを開催すべく,同年4月21日,被告に対し,9曲の演奏利用許
諾申込み(本件利用申込み3)をした。
10 ところが,被告は,原告X3に対し,本件店舗と被告との間で被告の管理
する著作物の著作権使用料相当額の清算が未了であることを理由として,本
件利用申込み3の受付けを拒否した(本件利用申込み拒否3)。このため,
原告X3は,本件利用申込み3に係る曲目を演奏することができなくなり,
楽曲を全て入れ替えて著作権の問題がない形でライブを行うなど,その内容
15 の大幅な変更を余儀なくされた。
前記のとおり,著作権等管理事業法16条は,著作権等管理事業者は,正
当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではなら
ないと規定している。また,原告X2は,セミプロのギタリストとして,憲
法21条が保障する演奏の自由を有する。
20 以上のとおり,被告が原告X2による本件利用申込みを拒否した行為は,
著作権等管理事業法16条に違反するとともに,憲法21条の保障する演奏
の自由を侵害する違法なものである。
その理由の詳細は,原告X1の本件利用申込み拒否1に関する主張(ただ
し,原告X1固有の事情は除く。)と同様である。
25 (2) 被告は,原告X3による本件利用申込み3が,別件訴訟を有利にするため,
本件店舗の経営者らの「呼びかけ」に応じてなされたものであると主張する。
しかし,原告X3とバンドメンバーのスケジュールの関係で,ライブは週
末に行うほかなく,また,原告X3の職場から直接行くことのできる場所に
する必要があった。しかも,ハードロックができて,機材を置いておける場
所は本件店舗のほかなかった。原告X3が本件利用申込み3をしたのは上記
5 事情によるものであり,別件訴訟を有利にするためではない。
(3) 被告は,原告X3もBと親密な関係あったなどと主張する。しかし,原告
X3は,社会人であるため,自宅の近所にある本件店舗のみを利用していた
ものの,Bとは,本件店舗内で会話するだけの関係であった。確かに,Bの
自宅スタジオを利用したことはあるが,同スタジオは100名に近い人間が
10 利用していた。プロモーションビデオに出演したことも事実であるが,60
名以上の出演者の1人にすぎない。
(4) 原告X2及びX3が,平成28年4月10日,本件店舗において,演奏を
したことは確かであるが,同原告らは1曲140円を供託した上で演奏して
いるので,著作権侵害行為には加担していない。
15 (5) 本件利用申込み拒否3の結果,原告X3は,平成28年7月9日に開催を
予定していたライブの曲目変更を余儀なくされた。その精神的苦痛に相当す
る慰謝料は50万円であり,これと相当因果関係のある弁護士費用は5万円
である。
また,原告X3は,平成28年7月15日に予定されていた本件店舗にお
20 けるライブの練習のためにスタジオを借り,1万5000円を支出したが,
本件利用申込み拒否3により上記ライブが実施できなくなった。同費用も本
件利用申込み拒否3による損害である。
(被告の主張)
(1) 原告X3が本件利用申込み3を行ったのに対し,被告がその受付けを拒否
25 したことから,平成28年7月9日に演奏曲目を変更してライブ演奏を行っ
たことは認める。ただし,原告X3は,同ライブにおいて,「OVERKI
LL」という被告管理楽曲の演奏を行っている。
原告らは,本件利用申込み拒否3が,著作権等管理事業法16条に違反す
る利用許諾拒否行為であるとともに,原告X3の演奏の自由を侵害すると主
張するが,本件利用申込み拒否1についてと同様,原告らの主張は理由がな
5 い。
(2) 原告X3は,本件店舗の店長の名を冠したライブや本件店舗のプロモーシ
ョンビデオにも出演し(乙11,乙21),同店舗の開店時に私物のギター
アンプを提供又は貸与していた。また,原告X3は,本件店舗でBと共演し
たことがあり,Bの自宅で行われたレコーディングにも参加するなど,Bと
10 親密な関係にあった。さらに,原告X3は,原告X2と継続的に本件店舗の
ライブで共演し又は同原告のバンドと合同ライブを行っていた(乙9,2
1)。
(3) 原告X3の損害に関する主張は否認し又は争う。慰謝料に係る損害の主張
は否認し又は争う。原告X3が,ライブの練習のためにスタジオを借り,そ
15 のスタジオ使用料を支出したことは知らない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 本件店舗の営業態様
ア 本件店舗は,平成21年5月,BとCを主体として開始されたライブハ
20 ウスであり,ミュージシャンに活動の場を提供するという趣旨から,出演
者から会場の使用料を徴収せず,来客が支払ったライブチャージは,出演
者が全て取得することができるという点を特色としていた。同店舗では,
平成22年後半ころから,ライブチャージとは別に来演者から一律に10
00円を徴収し,その限度では追加料金を支払わずに飲食し得るというシ
25 ステムを採用していた。(乙27,28)
イ 本件店舗では,音響設備の外,ドラム,アンプ,キーボードなどを備え
付け,その管理がされていた。これらの機材を備えるには多額の費用を要
することから,同店舗の経営方針に賛同した出演者等が無償で私物の中古
資材等を提供し,出演者が自由に使用できるようにしており,原告X2及
び原告X3は,同店舗にギターアンプを提供するなどの協力をした。(乙
5 27~29)
ウ 本件店舗における演奏等については,被告との利用許諾契約が締結され
ていなかった。Cは,平成25年11月26日,本件店舗の経営者として,
平成24年6月11日以降の著作権使用料に係る供託手続(乙33)をし
たが,別件一審判決は,これを本旨弁済に当たらないと判断した(乙18
10 の1(57頁))。B及びCは,平成28年4月以降は,著作権使用料の
供託を行っていない(乙18の4)。
(2) Bと本件店舗の関係
ア Bは,本件店舗の開業資金等380万円を負担し,本件店舗のために自
己名義の固定電話を開設するなどし,知名度のある自らのバンド名を本件
15 店舗の店名とした上,同バンドのメンバーの人脈から出演者を勧誘するな
どし,自らのブログ上でも本件店舗を取り上げた。(甲38,乙27)
イ Bは,本件店舗の店長を,かねてからの知り合いであるFに依頼し,自
らも,平成24年~平成25年頃までは,本件店舗の出演希望者のブッキ
ング事務も担当していた。Fの夫であるEは,Bとバンド「五星旗」を組
20 んでいたミュージシャンであり,Bの後に同事務を担当し,本件店舗にも
多数回出演をしていた。(乙21,27~29)
ウ Bは,被告との利用許諾契約の締結について,平成21年11月6日頃
まで,単独で交渉をし,その後の調停手続においては,委託者と被告との
間の分配方法に納得し得ないから被告との契約に応じることはできないと
25 主張した。(乙30,31)
(3) 原告X1と本件店舗又はBとの関係
ア 原告X1は,アコースティックギターの弾き語りを中心に演奏活動をす
る者であり,平成26年1月,本件店舗でのEのバースデーライブに配偶
者であるGとゲスト出演したことを契機に,3名でライブ活動を行うよう
になり,その後,このメンバーで「八王子Transfer」の名前で活
5 動するようになった。同原告は,平成26年から平成28年にかけて,同
バンドの一員やソロとして,本件店舗のライブに21回程度出演をした。
(甲34,原告X1・2頁,32頁)
イ Gは,B及びEとともに,前記バンド「五星旗」を組むなどして活動し
ているピアニストであり,本件店舗におけるライブに関しても,Bとの共
10 演による31回を含め,少なくとも合計49回の出演をしていた。(甲3
4,乙21,原告X1・3~4頁)
ウ 原告X1は,B及びEをフェイスブック上の友達に登録していた(乙2
1,原告X1・3頁)。また,Bのバンドである「X.Y.Z.→A」は,
原告X1が本件3曲に関して著作権契約を締結しているブラスティーに所
15 属するアーティスト(公表されているものは5組)のうちの一つであり
(乙7の2),その代表者であるDはBのマネージャーであった(乙7の
3)。
(4) 原告X2と本件店舗又はBとの関係
ア 原告X2は,本件店舗の開業に当たり,物件探しを手伝い,本件物件の
20 内装を整えるに当たり,無償でトイレのタイル貼りなどをした。Bは,原
告X2を本件店舗の「立ち上げスタッフ」の1人であると認識しており,
本件店舗のプロモーションビデオに半裸で演奏する原告X2を出演させ,
自らのブログ上にも,本件店舗のカウンターに立つ原告X2の写真を掲載
するなどしていた。(乙21,27,34,原告X2・4頁)
25 イ 原告X2は,Bとの共演も含め,本件店舗のライブに少なくとも39回
は出演している。その中には,「埋まらないスケジュールを埋める」ため
のBの「無茶ぶり」によって,「急遽開催決定」などと紹介される「一人
ギター」ライブもあった。(乙11,21)
ウ 原告X2は,本件店舗の開店前から,Bの自宅スタジオに知人のミュー
ジシャンを案内して,その台所で写真を撮り,また,Bの中国ツアーのた
5 め,Bを車で成田空港まで送ったこともあった。(乙34,原告X2・8
~9,13頁)
(5) 原告X3と本件店舗又はBとの関係
ア 原告X3は,BやEとの共演を含め,本件店舗におけるライブに少なく
とも32回は出演していた。また,本件店舗において,原告X2と共演す
10 ることもあった。(乙11,21)
イ Bは,原告X3を本件店舗のプロモーションビデオに出演すべき「常連」
であると認識しており,同ビデオの撮影過程に係る自らのブログ記事にお
いても,原告X2とともに原告X3を「ギターのバイク屋X3`!」など
と紹介していた。(乙21)
15 ウ 原告X3は,本件店舗におけるライブを通じて原告X1とも知り合いと
なっており,原告X1は,原告X3をフェイスブック上の友達に登録して
いた。(乙21,原告X1・6頁)
2 争点1(原告X1の請求)について
2-1 争点1(1)(本件利用申込み拒否1の違法性等)について
20 (1) 著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の有無について
原告らは,本件利用申込み拒否1は,著作権等管理事業法16条の「正当
な理由」を欠いた違法なものであると主張するので,以下,検討する。
ア 著作権等管理事業法16条は,「正当な理由」がなければ,利用の許諾
を拒んではならない旨を規定する。著作権者が,本来,著作物の利用の諾
25 否を自由に決定し得ることに照らせば(著作権法63条1項),同条の趣
旨は,同法1条が規定する著作権者等の委託者の保護と著作物等の円滑な
利用という観点から,著作権等管理事業者による許諾業務が恣意的に運用
されることを防止することにあると解するのが相当である。
このような同条の趣旨に鑑みれば,過去の使用料相当額を支払わない者
が利用主体となる演奏に係る利用申込みを拒否することは,過去の使用料
5 相当額の支払を促進するという事実上の効果を得ることができるという点
で委託者の利益に沿い,誠実に使用料を支払っている利用者との公平を図
り,著作権等の集中管理に対する信頼を確保するという点で著作権の円滑
な利用に資する上,許諾業務が恣意的に運用されるおそれもないものであ
るから,同条の「正当な理由」があるというべきである。
10 ところで,ライブハウス等の店舗がその営業の一環としてライブ等を開
催して被告管理楽曲を演奏する場合には,当該店舗の経営者のみならず,
演奏者もその利用主体に当たると解すべきところ,上記の「過去の使用料
相当額を支払わない者が利用主体となる演奏に係る利用申込み」には,ラ
イブハウス等の店舗の経営者自身が行った演奏利用申込みのみならず,被
15 告からの演奏利用許諾が見込めない店舗経営者に代わり,共同利用主体で
ある演奏者が行った演奏利用申込みも含むというべきである。
仮に,第三者が演奏利用申込みをした場合には被告管理楽曲の利用を拒
否できないとすると,過去の使用料相当額が未清算の店舗経営者が,演奏
者と意を通じるなどして利用申込者を変えることにより,被告管理楽曲の
20 利用主体となることを許容することになるが,このような解釈は,過去の
使用料相当額の支払を促進することにより委託者の利益を図り,誠実に使
用料を支払っている利用者との公平性を確保するという著作権等管理事業
法の趣旨に合致しない。
他方で,使用料相当額が未清算の店舗経営者が演奏利用申込みを行った
25 場合と異なり,演奏者が演奏利用申込みを行った場合には,被告管理楽曲
を利用することができないことにより演奏者が受ける不利益なども考慮す
る必要がある。このような観点からは,演奏者が行った演奏利用申込みを
拒否することについて「正当な理由」があるかどうかは,演奏者と店舗経
営者の関係,当該店舗における使用料相当額の清算状況,演奏者が演奏利
用申込みをした経緯,当該演奏の目的・営利性,当該店舗が使用料相当額
5 を支払っていないことについての演奏者の認識の有無,代替する演奏機会
の確保の困難性などを総合的に考慮して決すべきである。
イ(ア) これを本件利用申込み拒否1についてみるに,前記前提事実(2)及び
前記認定事実(1),(2)によれば,Bは,本件店舗の基本方針の決定や運
営に主体的に関与し,同店舗が開催するライブに出演する演奏家の勧誘
10 等についても中心的な役割を果たしていた上,過去の未払の使用料相当
額について支払義務を負っていたということができる。Bの平成28年
9月12日までの未払使用料は約500万円に上り(別件控訴審判決),
別件一審判決後も無許諾で被告管理楽曲の演奏を行うライブを開催する
などしていた(前記前提事実(4)ウ)。
15 (イ) そして,前記認定事実(3)のとおり,本件利用申込み1をした原告X
1は,本件店舗において開催されたライブ等に20回以上出演をし,同
原告とともに音楽活動を行っている配偶者はBと30回以上にわたり共
演している上,同原告が本件3曲について著作権契約を締結しているブ
ラスティーにはBのバンド「X.Y.Z.→A」が所属し,更には同原
20 告とBはフェイスブック上の友人関係にあるとの事実が認められる。
(ウ) 加えて,前記前提事実(4)によれば,原告X1は,別件訴訟一審判決
後に本件店舗から受領したメール(甲16)を閲読し,又は,本件店舗
のホームページ(乙8)を参照することにより,本件店舗が使用料相当
額を支払っていないこと及び別件訴訟一審判決が本件店舗に対し被告管
25 理楽曲の使用の差止めを命じたことを認識していたと推認することが相
当である。
そして,同原告は,本件店舗からの演奏利用申込みが被告に拒絶され
る状況にあることを認識した上で,本件店舗の勧めに応じて本件利用申
込み1をした上で,被告から受領した同利用申込み拒否1に係る書面の
写しをBらに提供するなどして,Bらによる別件訴訟の追行に協力した
5 ということができる(前記前提事実(5))。
(エ) 原告X1が出演を予定していたライブは,本件店舗の営業の一環とし
て行われたものであり,同原告は,本件利用申込み拒否1を受けて,平
成28年6月9日,本件店舗に代え,本件許諾店舗において,予定され
ていたライブを行ったと認められる(乙3,4)。
10 (オ) 以上のとおりの原告X1とBの人的な関係,本件店舗における使用料
相当額の清算状況,同原告が本件利用申込み1をした経緯,同原告が出
演する予定であったライブの目的・営利性,本件店舗が使用料相当額を
支払っていないことについての同原告の認識,Bを当事者とする訴訟に
対する同原告の協力状況,代替する演奏機会の確保の困難性などを総合
15 的に考慮すると,本件利用申込み拒否1には,著作権等管理事業法16
条の「正当な理由」があったということができる。
ウ これに対し,原告らは,以下のとおり主張するが,いずれも理由がない。
(ア) 原告らは,被告が受益者に負う善管注意義務や忠実義務,演奏者の享
受すべき演奏の自由の価値,独占禁止法上との関係などを強調し,著作
20 権等管理事業法16条の「正当な理由」は厳格に解されるべきであると
した上で,「正当な理由」の有無は,その利用申込みに応じることによ
って,受益者に対する配当の原資を得られるかどうかを基準にすべきで
あると主張する。
しかし,被告が受益者に善管注意義務や忠実義務を負うことや,演奏
25 者が演奏の自由を有することから,直ちに,同条の「正当な理由」の判
断基準が導き出されるものではない。原告らは,利用申込みに応じるこ
とにより「受益者に対する配当の原資を得られるかどうか」を判断基準
とすべきであると主張するが,本件利用申込み1に応じることにより受
益者に対する配当の原資を得られたとしても,それにより,過去の未払
の使用料相当額の清算が促進されるわけではなく,かえって,使用料相
5 当額を支払わない店舗がその清算を行わないまま被告管理楽曲の利用を
継続できることになると,誠実に使用料を支払っている利用者との公平
性を損ね,委託者の利益にも沿わないというべきである。
また,原告らは独占禁止法との関係を問題とするが,原告らが挙げる
国会答弁(甲13)は,著作権等管理事業法に基づいて利用者代表が指
10 定管理事業者と協議を行うことが独占禁止法上の問題になるかどうかに
ついての説明であり,同法16条の「正当な理由」の解釈に関するもの
ではない。
そうすると,「受益者に対する配当の原資を得られるかどうか」を判
断基準とすべきであるとの原告らの主張は採用し得ない。
15 (イ) 原告らは,新たな利用申込みに係る使用料の支払を受けることと,過
去の未払を回収することは別の問題であると主張する。
しかし,過去の使用料相当額を支払わない者が利用主体となる演奏に
係る利用申込みを被告が拒否し得ないとすれば,使用料相当額の未払の
解消を促進する手段が失われ,著作権等の集中管理に対する信頼一般が
20 損なわれるとともに,その不利益は使用料の支払を受ける受益者自身に
も及ぶことになる。原告らの主張は,過去の未払分は別途回収すれば足
りることを前提とするが,それには相応のコストを要することを考慮す
ると,過去の未払がある場合には新たな利用申込みに応じないという方
針を採用することにより著作権使用料の未払を事前に抑止することが,
25 受益者の合理的意思に沿うものというべきである。
(ウ) 原告らは,原告X1の出演する予定のライブは,演奏者が曲目選定や
宣伝活動をし,ライブチャージを取得するなど,店舗が利益の帰属主体
となるようなものではなかったので,両者は共同利用主体の関係にない
と主張する。
しかし,前記認定事実(1)のとおり,本件店舗は,ライブの場を提供
5 することを目的とし,音響設備等を備え付けたライブハウスであり,演
奏者からライブチャージを取得していたわけではないが,ライブの来演
者からの飲食代を収益源としていたものである。原告X1が,その出演
するライブの曲目選定や宣伝活動をしていたとして,同ライブが本件店
舗の営業の一環として行われ,本件店舗がライブ開催による利益の帰属
10 主体となっている以上,本件店舗における演奏を管理・支配していたB
が演奏主体となることを妨げるものではないというべきである。
(エ) 原告らは,被告が本件利用申込み1を拒否するに当たり,実質的な権
利者である委託者や受益者の意思を確認する義務を負っていたにもかか
わらず,被告は,原告X1及びブラスティーの意思の確認を怠ったと主
15 張する。
しかし,著作権等管理事業法は,「正当な理由」がなければ,被告は
利用の許諾を拒んではならないと規定するにすぎず,被告が演奏利用申
込みを拒絶するに当たり,委託者や受益者の意思を確認することを求め
ていない。また,信託法や本件約款にも,演奏利用許諾申込みを拒否す
20 るに当たり,被告が委託者や受益者の意思を確認しなければならない旨
の規定は置かれていない。
したがって,原告らが主張するような義務を被告が負っていたという
ことはできない。
(オ) 原告らは,デサフィナードにおける被告の対応を根拠に,被告の諾否
25 の方針は一貫していないと主張する。
この点,被告が,デサフィナードについて,過去の使用料相当額に未
払があるにもかかわらず,特定非営利活動法人による「ハッピーチャリ
ティコンサート」(参加料1000円)による利用申入れを許諾したこ
とには争いがない(甲15,17)。
しかし,同コンサートに係る演奏利用許諾書(甲15)の摘要欄には
5 「チャリティー目的のコンサートのため許諾」と記載されていることに
よれば,被告は,当該利用申入れが,知的障害者のための非営利のコン
サートであるとの認識の下,これを許諾したと認められ,その参加料1
000円の一部(甲18)が当該店舗に支払われることを被告が認識し
ていたと認めるに足りる証拠もない。また,過去の使用料相当額を支払
10 っていない店舗が開催したチャリティーコンサートにおける演奏利用申
込みを許諾した事例があるとしても,前記判示のとおり,利用申込みの
諾否に当たっては,当該演奏の目的など当該事例における個別事情を考
慮することが許容されるというべきであって,上記事例の存在から被告
の対応が恣意的であるということはできない。
15 (カ) 原告らは,原告X1による本件利用申込み1は,自らの演奏活動のた
めにしたものにすぎず,別件訴訟を有利にすることを目的とするもので
はなく,Bとも親密な関係にはなかったと主張する。
しかし,原告X1による本件利用申込み1が自らの演奏活動のために
したものであるとしても,前記判示の事情を考慮すると,本件利用申込
20 み拒否1には,著作権等管理事業法16条の「正当な理由」があったと
いうべきである。
(2) 演奏の自由の侵害
原告らは,本件利用申込み拒否1は,憲法の保障する原告X1の演奏の自
由を侵害する違憲な行為でもあると主張するが,一般社団法人であり,著作
25 権等管理事業法上の著作権等管理事業者にすぎない被告の行為に憲法の人権
規定を直接適用する法的な根拠はなく,米国法上の国家行為の理論も適用の
余地はない。
(3) 著作者人格権の侵害
原告らは,原告X1の要望に反する本件利用申込み拒否1は,原告X1が
作詞・作曲した曲について,著作権法113条11項に基づき,その著作者
5 人格権の侵害とみなされると主張するが,原告X1が作詞・作曲した楽曲に
ついては,本件利用申込み拒否1により「その著作物を利用する行為」が存
在しなかったのであるから,原告らの主張は理由がない。
これに対し,原告らは,同項の「名誉又は声望を害する方法によりその著
作物を利用する行為」には利用申込みを拒否する不作為も含まれると主張す
10 るが,かかる解釈は同項の文言と整合せず,採用し得ない。
(4) 本件3曲に関する権利侵害
原告らは,原告X1が,本件3曲に係る実質的な受益者としての地位にあ
り,又は,被告に対して応諾強制権を有することを根拠に,本件利用申込み
拒否1が違法であると主張するが,以下のとおり,理由がない。
15 ア 原告X1は,本件3曲に係る信託関係において,その実質的な受益者で
あると主張する。
(ア) しかし,本件3曲は,ブラスティーが,本件約款に基づき,被告に信
託譲渡していたものであり,本件約款3条2項は,「委託者が受託者の
同意を得て第三者を受益者として指定したとき」を除き,委託者が受益
20 者になると定めている。本件において,原告X1を「受益者として指定
した」ことをうかがわせる証拠はないことに照らすと,被告とブラステ
ィーの信託契約における受益者はブラスティーと認めるのが相当である。
(イ) この点,原告X1は,本件著作権契約書には被告に対する著作権使用
料の直接請求権の規定があると指摘し,本件3曲が演奏されれば,原告
25 X1は,ブラスティーを通じ,著作権使用料を受け取ることができたと
主張するが,本件著作権契約は,当事者である作詞・作曲家と音楽出版
社との関係を規律するものにすぎず,当該規定を根拠として,被告が原
告X1に対して使用料相当額の支払義務を負うと解することはできない。
(ウ) また,原告X1は,音楽業界において,本件著作権契約のようにFC
A・MPAフォームでの契約を締結することは,自らの著作権の管理を
5 被告に信託するのと等しく,原告X1とブラスティーとは一体とみるべ
きであると主張する。
しかし,原告X1とブラスティーは異なる法主体であり,被告との著
作権信託契約の当事者はブラスティーであり,原告X1はブラスティー
との間で本件著作権契約を締結しているのであって,原告X1とブラス
10 ティーとを「一体」のものとみなすことはできない。
イ また,原告X1は,本件著作権契約が,著作権の信託譲渡契約であるこ
とを前提に,本件利用申込み拒否1が,原告X1に留保された著作権に由
来する応諾強制権を侵害すると主張する。
(ア) しかし,本件著作権契約(甲14)には,①原告X1とブラスティー
15 は,本件著作権契約の対象となる著作物の著作権の「譲渡」に関し,同
契約を締結する(柱書き),②原告X1が,ブラスティーに対し,その
著作権を「独占的に譲渡」する(1条),③譲渡の対象について,原告
X1が現在及び将来に有する「一切の支分権及び著作権に基づき発生す
るいかなる権利」を含む(4条)などと規定され,信託契約であること
20 をうかがわせる文言は使用されていない。
このような同契約の規定振りに加え,著作権等管理事業を行うには文
化庁長官の登録を受けなければならず(著作権等管理事業法3条 ),
本件著作権契約は,著作権等管理事業ではない音楽出版社が著作権の譲
受人となることを予定したFCA・MPAフォームによるものであるこ
25 と(乙12,13)などによれば,本件著作権契約は,著作権の真正な
譲渡契約であると理解するのが契約当事者の合理的意思にも合致すると
いうべきである。
(イ) これに対して,原告らは,①前記の直接請求に係る規定があること,
②譲渡の対価が著作権使用料であるとされていること,③ブラスティー
による著作権の売却・譲渡等が禁止されていること,④契約終了時に著
5 作権が原告X1に復帰するとされていることなどを根拠として,本件著
作権契約の性質が信託譲渡であると主張するが,これらの規定は,著作
権の譲渡に関する特約と解することが可能なものであり,これらの規定
をもって,本件著作権契約の性質が信託譲渡であるということはできな
い。
10 ウ 以上によれば,本件利用申込み拒否1が,原告X1の受益者として使用
料の配分を受ける権利や原告X1に留保された応諾強制権を侵害するとい
うことはできない。
(5) 以上のとおり,本件利用申込み拒否1が,不法行為を構成するということ
はできないので,その余の点を検討するまでもなく,原告X1の請求は理由
15 がない。
2-2 争点1(2)(本件約款の内容に係る違法性等)
原告らは,原告X1が,本件利用申込み拒否1によって,自らが作詞・作曲
した本件3曲さえも演奏することができなかったのは,被告が,本件約款上,
自らの著作物を使用する権利を留保することを認めず,不公正な取引方法を強
20 いているためであると主張し,これが不公正な取引方法として,原告X1に対
する不法行為を構成すると主張する。
(1) しかし,原告らの主張は,本件約款が原告X1にも適用されることを前提
にするものであると解されるところ,本件3曲は,前記2-1(4)アのとおり,
ブラスティーが,委託者兼受益者として,本件約款に基づき,被告に信託譲
25 渡していたものであって,原告X1には本件約款は適用されないので,原告
らの主張はその前提を欠くものである。
(2) また,原告らは,本件約款は,原告X1の著作者人格権及び演奏の自由を
侵害する点で不法行為を構成するとも主張するが,原告X1が作詞・作曲し
た楽曲については,本件利用申込み拒否1により「その著作物を利用する行
為」が存在しなかったのであるから,同原告の著作者人格権が侵害されたと
5 いうことができず,被告の行為に憲法の人権規定を直接適用する法的な根拠
がないことも前記のとおりである。
(3) さらに,原告らは,本件約款は委託者がその著作物を自ら使用する権利を
留保することを認めていないと主張するが,前記前提事実(8)ウのとおり,
本件約款は,委託者がその著作権を信託譲渡するに当たり,これを自ら利用
10 するため,その管理委託の範囲を留保することを可能にする規定を置いてい
たと認められる。
(4) 以上のとおり,被告の本件約款に係る取引方法が,原告X1との関係で不
法行為を構成するということはできない。
2-3 争点1(3)(著作物の管理に係る違法性等)
15 原告らは,被告が,ライブハウス等との利用許諾契約において所定の包括的
利用許諾契約以外の契約を認めておらず,個々の演奏者からの利用許諾申込み
の受付けを拒否しているため,原告X1は自己の著作物の利用状況を把握でき
ず,正当な著作権使用料の配分を受けることができなかったものであり,被告
による係る著作物管理方法は不適切かつ違法な管理方法であり,不法行為を構
20 成すると主張する。
(1) 原告らは,被告が,ライブハウス等との利用許諾契約において所定の包括
的利用許諾契約以外の契約を認めていないと主張するが,被告は,本件店舗
について包括的利用許諾方式によらない許諾契約の方法を案内しており(乙
30),また,原告X1が平成28年6月9日に本件許諾店舗において本件
25 利用申込み1に係る代替ライブ行った際,同店舗は,利用のたびに1曲1回
の使用料を支払う契約方式(単発契約)による利用申込みを行い,被告の許
諾を得たものと認められる(乙3)。したがって,被告が,ライブハウス等
との利用許諾契約において所定の包括的利用許諾契約以外の契約を認めてい
ないとの原告主張は採用し得ない。
また,原告らは,被告X1による本件許諾店舗における本件10月演奏の
5 利用申込みが拒絶されたと主張するが,被告は,同年7月に同店舗と包括的
利用許諾契約を締結していたため,原告X1に演奏利用申込みをしなくても
適法に被告管理楽曲を利用することができる旨を通知したにすぎず,原告X
1による被告管理楽曲の利用を拒絶したものではない。
(2) また,原告らは,被告による著作物の管理方法が不適切かつ違法であった
10 ため,原告X1は自己の著作物の利用状況を把握することができなかったと
主張するが,本件2曲は,原告X1が,本件著作権契約に基づき,ブラステ
ィーに対して著作権の真正な譲渡をし,ブラスティーが,委託者兼受益者と
して,これを被告に信託譲渡していたものなのであるから,著作権使用料の
支払状況については原告X1がブラスティーに確認すべき事柄であり,被告
15 による管理楽曲の管理が原告X1に対する不法行為を構成するものではない。
(3) さらに,原告X1は,自己の著作物について被告から正当な著作権使用料
の配分を受けていないと主張するが,証拠(甲33,乙5,26)及び弁論
の全趣旨によれば,本件許諾店舗は,被告に対し,本件10月演奏に係る本
件2曲の使用を報告し,被告が,ブラスティーに対し,本件2曲に係る使用
20 料を支払っているとの事実が認められる。
(4) 原告らは,被告の不適切な楽曲管理が,原告X1の著作権及び著作者人格
権を侵害すると主張するが,原告X1が本件著作権契約により本件2曲の著
作権を喪失していることは,前記判示のとおりであり,また,被告の不適切
な楽曲管理は,公表権,氏名表示権,同一性保持権のいずれにも関係しない。
25 (5) 以上のとおり,被告の不適切な楽曲管理が,原告X1の著作権又は著作者
人格権を侵害し,不法行為を構成するということはできない。
3 争点2(原告X2の請求〔本件利用申込み拒否2の違法性等〕)について
原告らは,本件利用申込み拒否1と同様,本件利用申込み拒否2も,著作権
等管理事業法16条の「正当な理由」を欠いた違法なものであると主張する。
(1) 著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の意義及び判断基準について
5 は,前記2-1(1)アのとおりであり,本件利用申込み拒否2について「正当な
理由」があるかどうかは,前記判示の諸事情を総合的に考慮して決すべきで
ある。
(2)ア Bが,本件店舗の運営に主体的に関与し,過去の未払の使用料相当額に
ついて支払義務を負うこと,使用料相当額の未払の状況等は,前記判示の
10 とおりであるところ,原告X2は,前記認定事実(4)のとおり,本件店舗
の立ち上げスタッフの一人であり,本件店舗の物件探しの手伝いをしてい
るほか,Bとの共演も含め,本件店舗のライブに多数回出演し,本件店舗
のプロモーションビデオにも出演しているものと認められる。また,同原
告は,本件店舗の開店前から,Bの自宅スタジオに知人のミュージシャン
15 を案内し,Bの中国ツアーの際には同人を車で成田空港まで送ったことも
あったと認められる。これによれば,原告X2はBと個人的に親しい間柄
にあったものというべきである。
なお,原告X2は,前記認定事実(1)イについて,本件店舗のため,中
古のギターアンプを提供したことはないと供述するが(原告X2・12~
20 13頁),Bが,別件訴訟において,「機材・楽器一覧表」を提出し,こ
の点を具体的に説明していることからすれば(乙27),同原告の上記供
述を採用することはできない。
イ また,前記前提事実(4)によれば,原告X2は,別件訴訟一審判決の後
に本件店舗から受領したメール(甲16)を閲読し,又は,本件店舗のホ
25 ームページ(乙8)を参照することにより,本件店舗が使用料相当額を支
払っていないこと及び別件訴訟一審判決が本件店舗に対し被告管理楽曲の
使用の差止めを命じたことを認識していたと推認することが相当である。
そして,同原告は,本件店舗からの演奏利用申込みが被告に拒絶される
状況にあることを認識した上で,本件店舗の勧めに応じて本件利用申込み
2をした上で,同利用申込み拒否2に係る書面の写しをBらに提供するな
5 どして,Bらによる別件訴訟の追行に協力したということができる(前記
前提事実(5))。
ウ 原告X2が出演を予定していたライブは,本件店舗の営業の一環として
行われたものであり,同原告が,本件利用申込み拒否2を受けて,新たな
ライブ会場を探して予定されたライブを行ったとの事実は認められないも
10 のの,プロのギタリストである同原告が本件店舗以外の店舗においてライ
ブを開催することは可能であったと考えるのが相当である。
エ 以上のとおりの原告X2とBの人的な関係,本件店舗における使用料相
当額の清算状況,同原告が本件利用申込み2をした経緯,同原告が出演す
る予定であったライブの目的・営利性,本件店舗が使用料相当額を支払っ
15 ていないことについての同原告の認識,Bを当事者とする訴訟に対する同
原告の協力状況,代替する演奏機会の確保の困難性などを総合的に考慮す
ると,本件利用申込み拒否2には,著作権等管理事業法16条の「正当な
理由」があったということができる。
(3) 以上のとおり,本件利用申込み拒否2が不法行為を構成するということは
20 できないので,その余の点を検討するまでもなく,原告X2の請求は理由が
ない。
4 争点3(原告X3の請求〔本件利用申込み拒否3の違法性等〕)について
原告らは,本件利用申込み拒否3についても,著作権等管理事業法16条の
「正当な理由」を欠いた違法なものであると主張する。
25 (1) 著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の意義及び判断基準について
は,前記2-1(1)アのとおりであり,本件利用申込み拒否3について「正当な
理由」があるかどうかは,前記判示の諸事情を総合的に考慮して決すべきで
ある。
(2)ア Bが,本件店舗の運営に主体的に関与し,過去の未払の使用料相当額に
ついて支払義務を負うこと,使用料相当額の未払の状況等は,前記判示の
5 とおりであるところ,原告X3は,前記認定事実(5)のとおり,Bから
「常連」であると認識されており,本件店舗のプロモーションビデオにも
出演している上,B等との共演を含め,本件店舗におけるライブに少なく
とも30回以上出演し,本件店舗において,原告X2と共演することもあ
ったと認められる。
10 イ そして,前記前提事実(4)によれば,原告X3は,別件訴訟一審判決の
後に本件店舗から受領したメール(甲16)を閲読し,又は,本件店舗の
ホームページ(乙8)を参照することにより,本件店舗が使用料相当額を
支払っていないこと及び別件訴訟一審判決が本件店舗に対し被告管理楽曲
の使用の差止めを命じたことを認識していたと推認することが相当である。
15 そして,同原告は,本件店舗からの演奏利用申込みが被告に拒絶される
状況にあることを認識した上で,本件店舗の勧めに応じて本件利用申込み
3をした上で,同利用申込み拒否3に係る書面の写しをBらに提供するな
どして,Bらによる別件訴訟の追行に協力したということができる(前記
前提事実(5))。
20 ウ 原告X3が出演を予定していたライブは,本件店舗の営業の一環として
行われるものであり,これに加えて,以上のとおりの原告X3とBの人的
な関係,本件店舗における使用料相当額の清算状況,同原告が本件利用申
込み3をした経緯,同原告が出演する予定であったライブの目的・営利性,
本件店舗が使用料相当額を支払っていないことについての同原告の認識,
25 Bを当事者とする訴訟に対する原告X3の協力状況などに照らすと,原告
X3が仕事をしながら演奏活動を行っており,職場から近い本件店舗を利
用する必要性が高かったという点を考慮しても,本件利用申込み拒否3に
は,著作権等管理事業法16条の「正当な理由」があったということがで
きる。
(3) 以上のとおり,本件利用申込み拒否3が不法行為を構成するということは
5 できないので,その余の点を検討するまでもなく,原告X3の請求は理由が
ない。
5 結論
よって,原告らの請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
10 東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
裁判官
? 野 俊 太 郎
裁判官三井大有は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官
20 佐 藤 達 文

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