知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和1(ワ)21597

この記事をはてなブックマークに追加

令和1(ワ)21597

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和3年5月27日
事件種別 民事
当事者 原告日本ネットワークサービス株式会社
被告KYB株式会社
対象物 遠隔監視方法および監視制御サーバ
法令
キーワード 特許権16回
侵害5回
損害賠償3回
実施3回
進歩性1回
許諾1回
新規性1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。15
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,発明の名称を「遠隔監視方法および監視制御サーバ」とする発明に ついて特許を受け,当該特許発明についての特許権を有する原告が,被告に対25 し, 被告が販売している遠隔監視カメラシステムは,特許請求の範囲に記載 された構成の各要件を文言上充足する,又は,特許請求の範囲に記載された構 成と均等なものであると主張して,特許権侵害を理由とする不法行為に基づく 損害金5000万円及びその遅延損害金の支払,又は,特許発明の実施許諾料 相当額を不当に利得したことを理由とする不当利得返還請求権に基づく不当利 得金5000万円及びその遅延損害金の支払を求め5 の間の業務提携契約に違反して,上記特許権を利用した遠隔監視カメラシステ ムの販売等を行った旨を主張して,債務不履行に基づく損害賠償請求として, 損害金5000万円及びその遅延損害金の支払を求める事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和3年5月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和元年(ワ)第21597号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 令和3年4月27日
判 決
原 告 日本ネットワークサービス株式会社
同訴訟代理人弁護士 大 嶋 芳 樹
同 大 嶋 勇 樹
被 告 KYB株式会社
同訴訟代理人弁護士 尾 籠 真 弥
主 文
15 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求(次の1,2は選択的請求である。)
1 被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成28年3月19日
20 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する令和3年1月18日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「遠隔監視方法および監視制御サーバ」とする発明に
25 ついて特許を受け,当該特許発明についての特許権を有する原告が,被告に対
し, 被告が販売している遠隔監視カメラシステムは,特許請求の範囲に記載
された構成の各要件を文言上充足する,又は,特許請求の範囲に記載された構
成と均等なものであると主張して,特許権侵害を理由とする不法行為に基づく
損害金5000万円及びその遅延損害金の支払,又は,特許発明の実施許諾料
相当額を不当に利得したことを理由とする不当利得返還請求権に基づく不当利
5 得金5000万円及びその遅延損害金の支払を求め
の間の業務提携契約に違反して,上記特許権を利用した遠隔監視カメラシステ
ムの販売等を行った旨を主張して,債務不履行に基づく損害賠償請求として,
損害金5000万円及びその遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨に
10 より容易に認定できる事実)
当事者
ア 原告は,コンピューターシステムの開発,販売及び保守等を目的とする
株式会社である。
イ 被告は,自動車用機器,鉄道車両用機器等の製造,販売等を目的とする
15 株式会社である。
原告の特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
発明の名称 遠隔監視方法および監視制御サーバ
特許番号 特許第4750927号
20 出願番号 特願2000-199835号(以下,「本件
特許出願」といい,その願書に添付された特許
請求の範囲を「本件特許請求の範囲」,明細書
を「本件明細書」という。)
出願日 平成12年6月30日
25 登録日 平成23年5月27日
本件特許請求の範囲
ア 本件特許請求の範囲のうち,請求項1(以下「本件発明1」という。)
は,「施設中の所定の位置に配置された監視装置からの情報を受理し,当
該監視装置からの情報に基づき,所定のデータを関連する携帯端末に伝達
するように構成された遠隔監視方法であって,監視装置による異常検出に
5 よって前記監視装置により撮影された画像を受理するステップと,前記受
理された画像を監視装置と関連付けて記憶するステップと,前記受理され
た画像のうち,少なくとも所定の部分をコンテンツとして形成するステッ
プと,前記監視装置の顧客の所持する携帯端末を特定するステップと,前
記携帯端末に通知すべきメッセージを作成するステップと,前記通知すべ
10 きメッセージ,および,前記コンテンツを,前記携帯端末に伝達するステ
ップと,を備え,前記コンテンツは,初期的に受理された画像のうち,略
中央部分の画像の領域から構成され,前記コンテンツを受理した携帯端末
からの遠隔操作命令であって,前記受理された画像のうち,他の領域の画
像を参照することを示す命令であるパンニングを含む遠隔操作命令を受理
15 するステップと,前記パンニングを含む遠隔操作命令にしたがって,前記
受理され或いは記憶された画像のうち,前記中央部分の画像の領域から縦
横左右の何れかにずらした画像の領域を特定し,当該特定された画像の領
域から構成されるコンテンツを形成するステップと,前記特定された画像
の領域から構成されるコンテンツを前記携帯端末に伝達するステップと,
20 を備えたことを特徴とする遠隔監視方法。」というものであり,これを構
成要件に分説すると,次のとおりとなる。
1A 施設中の所定の位置に配置された監視装置からの情報を受理し,当
該監視装置からの情報に基づき,所定のデータを関連する携帯端末
に伝達するように構成された遠隔監視方法であって,
25 1B 監視装置による異常検出によって前記監視装置により撮影された画
像を受理するステップと,
1C 前記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶するステップと,
前記受理された画像のうち,少なくとも所定の部分をコンテンツと
して形成するステップと,
1D 前記監視装置の顧客の所持する携帯端末を特定するステップと,前
5 記携帯端末に通知すべきメッセージを作成するステップと,前記通
知すべきメッセージ,および,前記コンテンツを,前記携帯端末に
伝達するステップと,を備え,
1E 前記コンテンツは,初期的に受理された画像のうち,略中央部分の
画像の領域から構成され,前記コンテンツを受理した携帯端末から
10 の遠隔操作命令であって,前記受理された画像のうち,他の領域の
画像を参照することを示す命令であるパンニングを含む遠隔操作命
令を受理するステップと,
1F 前記パンニングを含む遠隔操作命令にしたがって,前記受理され或
いは記憶された画像のうち,前記中央部分の画像の領域から縦横左
15 右の何れかにずらした画像の領域を特定し,当該特定された画像の
領域から構成されるコンテンツを形成するステップと,
1G 前記特定された画像の領域から構成されるコンテンツを前記携帯端
末に伝達するステップと,を備えた
1H ことを特徴とする遠隔監視方法。
20 イ 本件特許請求の範囲のうち,請求項2(以下「本件発明2」という。)
は,「前記通知すべきメッセージ,および,前記コンテンツを伝達するス
テップが,通知すべきメッセージを,コンテンツのURLアドレスを添付
したメールとして伝達するステップと,前記メールを受理した携帯端末が
前記URLアドレスにアクセスすることに応答して,前記コンテンツを前
25 記携帯端末に伝達するステップと,を有することを特徴とする請求項1に
記載の遠隔監視方法。」というものであり,これを構成要件に分説すると,
次のとおりとなる。
2A 前記通知すべきメッセージ,および,前記コンテンツを伝達するス
テップが,通知すべきメッセージを,コンテンツのURLアドレス
を添付したメールとして伝達するステップと,
5 2B 前記メールを受理した携帯端末が前記URLアドレスにアクセスす
ることに応答して,前記コンテンツを前記携帯端末に伝達するステ
ップと,を有する
2C ことを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視方法。
ウ 本件特許請求の範囲のうち,請求項3(以下「本件発明3」という。)
10 は,「前記監視装置が照明を点灯させることができ,さらに,前記コンテ
ンツを受理した携帯端末からの他の遠隔操作命令であって,照明の点灯を
含む他の遠隔操作命令を受理するステップと,前記他の遠隔操作命令を前
記監視装置に転送するステップと,前記他の遠隔操作命令に応答して,前
記監視装置が照明を点灯した上で撮影した画像を受理するステップと,前
15 記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶するステップと,前記受理
された画像のうち,少なくとも所定の部分をコンテンツとして形成するス
テップと,前記コンテンツを,前記携帯端末に伝達するステップとを備え
たことを特徴とする請求項1または2に記載の遠隔監視方法。」というも
のであり,これを構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
20 3A 前記監視装置が照明を点灯させることができ,さらに,前記コンテ
ンツを受理した携帯端末からの他の遠隔操作命令であって,照明の
点灯を含む他の遠隔操作命令を受理するステップと,
3B 前記他の遠隔操作命令を前記監視装置に転送するステップと,
3C 前記他の遠隔操作命令に応答して,前記監視装置が照明を点灯した
25 上で撮影した画像を受理するステップと,
3D 前記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶するステップと,
3E 前記受理された画像のうち,少なくとも所定の部分をコンテンツと
して形成するステップと,
3F 前記コンテンツを,前記携帯端末に伝達するステップとを備えた
3G ことを特徴とする請求項1または2に記載の遠隔監視方法。
5 エ 本件特許請求の範囲のうち,請求項5(以下,「本件発明5」といい,
本件発明1ないし3と併せて「本件各発明」いう。)は,「施設中の所定
の位置に配置された監視装置からの情報を受理し,当該監視装置からの情
報に基づき,所定のデータを関連する携帯端末に伝達するように構成され
た監視制御サーバであって,監視装置による異常検出によって前記監視装
10 置により撮影された画像を受理するとともに,前記携帯端末への必要なデ
ーター授受を制御する通信制御手段と,前記受理された画像を監視装置と
関連付けて記憶する画像データベースと,前記受理された画像のうち,少
なくとも所定の部分をコンテンツとして形成する画像形成手段と,前記監
視装置の顧客の所持する携帯端末を特定する顧客特定手段と,前記携帯端
15 末に通知すべきメッセージを作成するメッセージ作成手段とを備え,前記
通知すべきメッセージ,および,前記コンテンツを,前記通信制御手段が,
携帯端末に伝達するように構成され,前記コンテンツは,初期的に受理さ
れた画像のうち,略中央部分の画像の領域から構成され,前記コンテンツ
を受理した携帯端末からの遠隔操作命令であって,前記受理された画像の
20 うち,他の領域の画像を参照することを示す命令であるパンニングを含む
遠隔操作命令を受理すると,前記画像形成手段が,前記パンニングを含む
遠隔操作命令にしたがって,前記受理され或いは記憶された画像のうち,
前記中央部分の画像の領域から縦横左右の何れかにずらした画像の領域を
特定し,当該特定された画像の領域から構成されるコンテンツを形成し,
25 前記通信制御手段が,前記特定された画像の領域から構成されるコンテン
ツを前記携帯端末に伝達するように構成されたことを特徴とする監視制御
サーバ。」というものであり,これを構成要件に分説すると,次のとおり
となる。
5A 施設中の所定の位置に配置された監視装置からの情報を受理し,当
該監視装置からの情報に基づき,所定のデータを関連する携帯端末
5 に伝達するように構成された監視制御サーバであって,
5B 監視装置による異常検出によって前記監視装置により撮影された画
像を受理するとともに,
5C 前記携帯端末への必要なデーター授受を制御する通信制御手段と,
前記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶する画像データベ
10 ースと,
5D 前記受理された画像のうち,少なくとも所定の部分をコンテンツと
して形成する画像形成手段と,
5E 前記監視装置の顧客の所持する携帯端末を特定する顧客特定手段と,
前記携帯端末に通知すべきメッセージを作成するメッセージ作成手
15 段とを備え,前記通知すべきメッセージ,および,前記コンテンツ
を,前記通信制御手段が,携帯端末に伝達するように構成され,
5F 前記コンテンツは,初期的に受理された画像のうち,略中央部分の
画像の領域から構成され,前記コンテンツを受理した携帯端末から
の遠隔操作命令であって,前記受理された画像のうち,他の領域の
20 画像を参照することを示す命令であるパンニングを含む遠隔操作命
令を受理すると,
5G 前記画像形成手段が,前記パンニングを含む遠隔操作命令にしたが
って,前記受理され或いは記憶された画像のうち,前記中央部分の
画像の領域から縦横左右の何れかにずらした画像の領域を特定し,
25 当該特定された画像の領域から構成されるコンテンツを形成し,
5H 前記通信制御手段が,前記特定された画像の領域から構成されるコ
ンテンツを前記携帯端末に伝達するように構成された
5I ことを特徴とする監視制御サーバ。
被告の行為
被告は,平成18年1月頃から平成22年6月頃までの間に,LAN対応
5 の動画タイプ「モバイルキーパー」サービス(以下「被告製品」という。)
を少なくとも2組提供した。
2 争点
文言侵害の成否
均等侵害の成否
10 債務不履行の成否
消滅時効の成否
3 争点についての当事者の主張
(文言侵害の成否)について
【原告の主張】
15 ア 被告製品は,本件各発明の構成要件に対応するように分説すると,次の
構成を有しており,本件各発明の構成要件を充足している。
本件発明1の構成要件に対応する構成
1a LAN環境下において,離れた場所に設置した監視装置の一部
であるセンサー作動時の情報を,パソコンや携帯電話へメール
20 で通報,又は,パソコン画面に表示することにより,現場の状
況を伝達するように構成された遠隔監視方法であって,
1b アラート処理によりオプションとして設置したセンサーが異常
を感応した時点での画像(アラート画像)を撮影・転送・保存
するステップ,
25 1c アラート画像をカメラ名称,アラート発生日時などに関連付け
て記憶するステップと,アラート処理により保存した画像を,
①カメラ選択,②一覧表選択,③時刻指定,④表示方法選択な
どで検索・選択・表示できるように関連付け,コンテンツ化し
て構成するステップ,
1d ユーザーが予めアラート通報を受けるメールアドレスを設定す
5 ることにより顧客を特定するステップと,センサーが異常に感
応した時点で,ユーザーに通知するメッセージを作成するステ
ップと,ユーザーが予め登録していたメールアドレスにメッセ
ージを送信するステップと,を備え,
1e 携帯端末を操作することで,アラート通報で携帯端末に送信さ
10 れる画像のうち,①前後の画像の表示,②画像の一部(上部,
下部など)をズームアップした画像の表示など,他の領域の画
像を参照することを示す命令であるパンニングを含む遠隔操作
命令を受理するステップ,
1f 前記1eのステップで中央部分の画像の領域から縦横左右のい
15 ずれかにずらした画像の領域を特定し,当該特定された画像の
領域から構成される画像を表示するステップ,
1g 前記1fのステップで中央部分の画像の領域から縦横左右のい
ずれかにずらした画像の領域を特定し,当該特定された画像の
領域から構成される画像をユーザーに通知するメッセージを作
20 成するステップ,を備えた
1h 遠隔監視方法を用いた遠隔監視システム。
本件発明2の構成要件に対応する構成
2a 前記1dで作成されたメッセージと前記1gで作成されたコン
テンツのURLアドレスを添付したメールとして伝達するステ
25 ップ,
2b 前記2aのメールを受理した携帯端末がメールに添付されたU
RLアドレスにアクセスすることに応答して,前記1gで作成
されたコンテンツを前記携帯端末に伝達するステップを有する
2c 遠隔監視方法を用いた遠隔監視システム。
本件発明3の構成要件に対応する構成
5 3a 防犯ライトを点灯させ,またメールを受信した携帯端末などか
らの赤色回転灯を点灯させる遠隔操作コマンドを受信するステ
ップ,
3b 前記3aにより受信した遠隔操作コマンドを当該特定の制御装
置が制御する監視装置に転送するステップ,
10 3c 前記3bにより転送された遠隔操作コマンドに応答して監視装
置が照明を点灯した上で撮影するリモートシャッター時点のカ
メラ画像をコンテンツ化するステップ,
3d 前記3cで撮影したカメラ画像を,①カメラ名称,②日付,③
時刻等を付与して監視装置と関連付けて記憶するステップ,
15 3e 前記3cで受理した画像のうち少なくとも中央所定の部分をコ
ンテンツとして形成するステップ,
3f 前記3eで形成されたコンテンツを携帯端末などに伝達するス
テップを備えた
3g 遠隔監視方法を用いた遠隔監視システム。
20 本件発明5の構成要件に対応する構成
5a LAN環境下において,離れた場所に設置された監視装置から
の情報を受理し,当該監視装置からの情報に基づき,所定のデ
ータを関連する携帯端末に伝達するように構成された監視制御
サーバであり,
25 5b アラート処理によりオプションとして設置したセンサーが異常
を感応した時点での画像を受理するとともに,
5c 携帯端末へのアラート通報をするかしないかを選択する機能と,
アラート処理により保存した画像を,①カメラ名称,②日付,
③時刻などを付与して監視装置と関連付けて記憶する画像デー
タベースと,
5 5d 前記5bで受理した画像のうち少なくとも中央所定の部分をコ
ンテンツとして形成する画像形成手段と,
5e ユーザーが予めアラート通報を受けるメールアドレスを設定す
ることで顧客を特定し,センサーが異常に感応した時点で,ユ
ーザーに通知するメッセージを作成し,ユーザーが予め登録し
10 ていたメールアドレスにメッセージを送信するように構成され,
5f 携帯端末を操作することで,アラート通報で携帯端末に送信さ
れる画像のうち,①前後の画像の表示,②画像の一部(上部,
下部など)をズームアップして表示した画像の表示など,他の
領域の画像を参照することを示す命令であるパンニングを含む
15 遠隔操作命令を受理すると
5g パンニングを含む遠隔操作命令にしたがって,中央部分の画像
の領域から縦横左右のいずれかにずらした画像の領域を特定し,
当該特定された画像の領域から構成される画像コンテンツを表
示し,
20 5h 前記5gで構成される画像コンテンツをユーザーに通知するメ
ッセージを作成するように構成された,
5i 監視制御サーバを用いた遠隔監視システム。
イ これに対し,被告は,①被告製品が「パンニング」の方法を使用してい
ない,②被告製品がLAN対応の制御サーバであり,インターネットを利
25 用して携帯端末との間でコンテンツの授受を行う方法を使用していないか
ら本件各発明の技術的範囲に属さない,③本件各発明の技術的範囲は「携
帯端末」に限定され,パソコン等の固定端末には及ばない旨主張するが,
以下のとおり,いずれも失当である。
上記①について
本件各発明における「パンニング」とは,広角カメラの画像を1枚の
5 大きな全景画像としてサーバに送信することでデータベース化しておき,
ディスプレイに表示するに際して,ユーザーが指定する領域をズームア
ウトした拡大画像として,あるいは,ズームインした全景画像として表
示するものである。被告は,被告の社内報において,被告製品の表示画
面について,ズームアウトして表示したり,ズームアウトしている映像
10 を全景映像に戻して表示したりするなどの処理方法を明示しているとこ
ろ,これらの処理は,機械的・物理的にカメラを駆動させることなく,
1枚の大きな画像の任意の部分を拡大・縮小することで,パン,チルト,
ズームアウト,ズームインして表示させる「パンニング」が用いられて
初めて実現するものであるから,被告製品には「パンニング」の方法が
15 使用されている。
上記②について
インターネット環境下とLAN環境下のいずれで使用するかは,監視
する場所が制御装置やセンサーなどを設置した施設外の遠隔地か施設内
かによって決定される通信手段の選択にすぎないのであり,システムの
20 機能に違いはないところ,特許出願に添付する明細書において,通信ネ
ットワークや信号線,電源線等に関して,一般的に周知の事実の記載を
省略するのが通例であり,本件明細書においても,当業者一般の常識と
して,制御装置と制御サーバ,制御サーバとルータを接続するのはLA
Nでしかあり得ないことであるから,その記載を省略したものである。
25 上記③について
携帯端末と称される端末は全てがパソコンであり,パソコンを「不携
帯」・「固定式」端末と定義することは誤りであるから,本件発明1に
いう「携帯端末」はパソコンを含んでいる。
【被告の主張】
ア 被告製品の構成についての認否
5 本件発明1の構成要件に対応する構成について
被告製品は,LAN環境下における遠隔監視の方法及びシステムでは
あるが,コンテンツを携帯端末に伝達する方法は使用していないから,
構成1a及び1dを備えていない。
また,被告製品は,「パンニング」の方法を使用しておらず,携帯端
10 末からの遠隔操作命令によりコンテンツの授受を行う方法も使用してい
ないから,構成1e,1f及び1gを備えていない。
本件発明2の構成要件に対応する構成について
被告製品は,コンテンツを携帯端末に伝達する方法を使用していない
から,構成2a及び2bを備えていない。
15 本件発明3の構成要件に対応する構成について
被告製品は,携帯端末から遠隔操作命令を行う方法を使用していない
から,構成3a,3b,3c及び3fを備えていない。
本件発明5の構成要件に対応する構成について
被告製品は,コンテンツを携帯端末に伝達するように構成されたシス
20 テム(装置)ではないから,構成5a,5c及び5eを備えていない。
また,被告製品は,「パンニング」を実施する機能を有しておらず,
携帯端末からの遠隔操作命令によりコンテンツを授受する機能も有して
いないから,構成5f,5g及び5hを備えていない。
イ 被告の主張
25 本件各発明における「パンニング」とは,監視カメラで撮影された画
像全体を表示すると認識困難な画像となるため,それを回避すべく,①
監視カメラで撮影された画像全体ではなく,まず中央部の一部分の画像
を初期設定のコンテンツとして形成して,いったん携帯端末に伝達して
端末画面に表示し,②その後,必要に応じて携帯端末からの遠隔操作命
令により,初期設定のコンテンツ画像の領域から,縦横左右に領域を移
5 動させて,移動によりずらされた領域の画像を新たなコンテンツとして
形成し,③携帯端末からの遠隔操作命令によって,上記②で形成した新
たなコンテンツを携帯端末に伝達して端末画面に表示する方法ないし機
能を指す。
これに対し,被告製品は,まず監視カメラが撮影した映像の全領域
10 (固定カメラによる全景映像)が端末画面に表示され,必要がある場合
は,ズームアップ機能を使い,全景映像の一部分(上部,下部,左部,
右部,中央部)を2倍に拡大するなどして端末画面に表示する処理を行
うものである。
したがって,被告製品は本件各発明における「パンニング」の方法を
15 使用しておらず,「パンニング」を実施する機能を有していない。
本件各発明は,インターネットを利用することにより,制御サーバと
携帯端末との間でコンテンツの授受を行う方法を使用することを前提に
している。
これに対し,被告製品は,LAN対応の制御サーバ(プログラム)で
20 あり,インターネットを利用してコンテンツの授受を行う方法を使用し
ていない。
本件特許請求の範囲には,「携帯端末」という文言が選択されて記載
される一方,パソコン等の固定端末についての記載はないから,本件各
発明の技術的範囲は,「携帯端末」に限定され,パソコン等の固定端末
25 には及ばない。
(均等侵害の成否)について
【原告の主張】
仮に,本件各発明にいう「携帯端末」がパソコンを含んでいないとしても,
①本件各発明において携帯端末が果たす役割は監視カメラの映像確認と遠隔
操作であり,これらの作業を携帯端末で行うかパソコンで行うかは本質的な
5 部分ではない上,②携帯端末にしかない通話機能を用いることがないため,
携帯端末をパソコンに置き換えても同じ作業が可能であること,③携帯端末
はパソコンの簡略版であり,携帯端末で行えることのほとんど(通話機能な
どは除く。)はパソコンで行うことができ,携帯端末用アプリの開発はパソ
コンで行っていることからすれば,被告が被告製品を開発した時点で,携帯
10 端末をパソコンに置き換えることは極めて容易に想到できたこと,④本件各
発明の新規性,進歩性は,施設への侵入者があったり,施設において異常が
発生した場合に,比較的簡単な構成で,遠隔地にいる施設の所有者や管理責
任者が施設への侵入や異常発生を,所持する端末機を通じて第一次的に(警
備会社などを通じることなく)把握し,照明の点灯などの遠隔操作をするこ
15 とができることにあるところ,被告製品は,施設への侵入や異常発生を,パ
ソコンを通じて把握し,遠隔操作するものであるが,かかる技術は本件出願
時における公知技術と同一,又は公知技術から容易に推考できたものではな
いこと,⑤本件各発明にいう「携帯端末」という文言がパソコンを意識的に
除外したという特段の事情はないことから,パソコンを用いて遠隔監視カメ
20 ラの画像確認,遠隔操作を行う被告製品は,本件各発明に記載された構成と
均等なものであり,その技術的範囲に属するものである。
【被告の主張】
ア 本件各発明の目的(本質)は,施設の所有者や管理責任者などの顧客の
携帯端末に,直接,異常が通知され,顧客がいずれの場所にいても,施設
25 の異常を適切に把握できることにあるといえるところ,この目的(本質)
を達成するためには,顧客がいずれの場所にいても通報を受信できる「携
帯端末」で構成されることが不可欠となり,設置場所が限定されてしまう
LAN通信接続の「パソコン」ではその目的(本質)を達成できない。
したがって,本件各発明に記載された構成である「携帯端末」とLAN
通信接続「パソコン」のみを用いた被告製品とは,その本質的部分に相違
5 があり,「携帯端末」をLAN通信接続「パソコン」に置き換えると,本
件各発明の目的を達成することも,同一の作用効果を奏することもできな
いから,LAN通信接続「パソコン」のみを用いたシステムである被告製
品は,均等論の第1要件及び第2要件を充たさない。
イ 本件明細書の段落【0031】には,本件各発明に記載された「携帯端
10 末」を「パソコン」に置き換えても実現可能であることが明記されている
から,客観的,外形的にみて,「パソコン」が本件各発明の「携帯端末」
と代替すると認識しながら,あえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を
表示していたということができる。
したがって,「パソコン」を構成とする被告製品は,本件特許出願の手
15 続において,特許請求の範囲から意識的に除外された特段の事情が認めら
れるから,均等論の第5要件を充たさない。
【原告の主張】
原告と被告は,本件特許権を利用した商品の開発・生産・販売等を共同
20 して行い,利益を配分することを内容とする業務提携契約(以下「本件業
務提携契約」という。)を締結したところ,本件業務提携契約には,相手
方の同意なくして本件特許権を利用した商品と同一のものについて第三者
と開発,製造及び販売に 関する提携をしてはならないこと(第5条),
各々代理店販売及びOEM販売を行うものとし,原則として自社販売を行
25 わないこと(第6条2項1号),それぞれが販売した商品の販売情報及び
顧客情報等を互いに共有すること(第8条),原告と被告は所定の方法で
確認した利益を折半すること(第9条1項柱書)などが規定されている。
被告は,原告に無断で,プラムシステムズ株式会社に委託して,本件特
許権を利用した商品である被告製品を独自開発し,原告と情報共有せずに
被告製品を自社販売し,その売上げをすべて被告のものにし,本件業務提
5 携契約に違反した。被告の債務不履行により原告が受けた損害は5000
万円を下らない。
【被告の主張】
原告は,本件訴えを提起してから1年半以上経過した段階で,令和3年1
月18日付けの訴えの(追加的)変更申立書により,突然債務不履行に基づ
10 く請求を追加したものであり(以下「本件訴えの追加的変更」という。),
徒に訴訟手続を遅延させようとする不当なものといえるから,訴えの変更を
許すべきではない。
なお,債務不履行に基づく請求についてみたとしても,被告製品は本件特
許権を利用した商品ではなく,被告が本件業務提携契約に違反した事実はな
15 いから,同請求は認められない。
【被告の主張】
被告が被告製品を販売したのは平成18年頃及び平成20年頃であり,
いずれにせよ原告による訴えの追加的変更の申立ての時点(令和3年1月)
20 で債務不履行時から5年が経過していることから,原告主張に係る債務不
履行に基づく損害賠償請求権について改正前の商法による商事消滅時効が
完成している。被告は,令和3年2月5日付け訴えの変更申立てに対する
答弁書により,上記消滅時効を援用する。
【原告の主張】
25 原告が被告の本件業務提携契約違反の事実を知ったのは,被告が原告に
KYBプログラムの入ったDVDを交付した平成28年3月18日以降で
あり,それまでの間は,原告が被告に対し権利行使をすることは現実的に
期待できなかったのであるから,消滅時効の起算点は同日というべきであ
り,消滅時効は完成していない。
第3 当裁判所の判断
5 1
証拠(甲24,25)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,遠隔監視カ
メラで撮影した映像をLANで接続されたパソコン等の固定式のモニタに表示
するものであると認められるところ,原告は,被告製品を構成するパソコン等
の固定式のモニタも本件各発明の「携帯端末」に該当する旨主張する。
10 そこで検討するに,特許請求の範囲の文言は,明細書の記載を参酌し,これ
に特段の定義がされている場合は各別,しからざる限りは,当業者が理解する
通常の意味に解釈すべきである。しかるに,本件明細書(甲20)を見ても,
後記2(2),(3)のとおり,本件各発明の「携帯端末」について特段の定義がさ
れているとは認められない。
15 そこで,「携帯端末」について,当業者が理解する通常の意味について見る
に,「携帯端末」とは,一般的には,「たずさえ持つこと。身につけて持つこ
と」(広辞苑第七版)を意味する「携帯」と,「コンピューターシステムで,
ホストコンピューターとのデータのやりとりに特化した装置」(広辞苑第七版)
を意味する「端末装置」又は「電話やデータ通信などに利用する端末装置」を
20 意味する「通信端末」の略(広辞苑第七版)である「端末」とを組み合わせた
用語であると理解される。しかして,本件全証拠を見ても,「携帯端末」とい
う用語が,本件各発明の属する分野において,一般的な意味とは異なる専門
的・技術的意義を有すると認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件各発明における「携帯端末」とは,「コンピューターシス
25 テムで,ホストコンピューターとのデータのやり取りに特化した装置であって,
身につけて持つことができるもの」あるいは「電話やデータ通信などに利用す
る端末装置で,身につけて持つことができるもの」といった意味を有すると解
するのが相当である。このことは,本件明細書の記載(甲20)も,後記2
(2),(3)のとおり,「携帯端末」について,色々な場所に移動するにもかかわ
らず身につけて持つことができることを前提とする記載となっており,この解
5 釈に沿うものとなっていることからも裏付けられる。
しかるに,被告製品を構成するパソコン等の固定式のモニタは,飽くまで固
定式のものであって,色々な場所に移動することを前提として,身につけて持
つことができるものということはできず,「コンピューターシステムで,ホス
トコンピューターとのデータのやり取りに特化した装置であって,身につけて
10 持つことができるもの」あるいは「電話やデータ通信などに利用する端末装置
で,身につけて持つことができるもの」に当たるとはいえない。
したがって,被告製品を構成するパソコン等の固定式のモニタは,本件各発
明における「携帯端末」には当たらないから,その余の点について検討するま
でもなく,被告製品は本件各発明の技術的範囲に属しないこととなる。
15 2 て
前記1で判示したとおり,被告製品を構成するパソコン等の固定式のモニ
タは本件各発明における「携帯端末」には当たらず,この点において,本件
各発明と被告製品とは相違するものである。
しかしながら,特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等をする
20 製品と異なる部分が存する場合であっても,①上記部分が特許発明の本質的
部分ではなく(以下「第1要件」という。),②上記部分を上記製品におけ
るものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効
果を奏するものであって,③上記のように置き換えることに,当業者が上記
製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④上
25 記製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれか
ら上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤上記製品が特許発
明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当
たるなどの特段の事情もないときは,上記製品は,特許請求の範囲に記載さ
れた構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解する
のが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻
5 1号113頁)。
そこで検討するに,証拠(甲20)によれば,本件特許権に関する特許公
報に掲載された【発明の詳細な説明】欄には,次の記載のあることが認めら
れる。
「【0001】
10 【産業上の技術分野】
本発明は,家庭やオフィスなどの施設を遠隔監視できるシステムに関し,
より詳細には,携帯端末を利用して所定の施設を所望のように監視できる
システムに関する。
【0002】
15 【従来の技術】
従来,家庭への侵入者や家庭内の異常(たとえば火災,ガス漏れなど)を
監視する,いわゆるホームセキュリティの分野では,家の入口,窓などに
人影センサを配置し,或いは,台所の天井に温度センサやガスセンサを配
置するとともに,センサからの信号を,家庭内の何れかに配置された通信
20 装置にいったん収集し,当該通信装置から,専用回線や電話回線を利用し
て,警備会社の中央コンピュータに通知されるようになっている。たとえ
ば,外部からの侵入や火災があった場合には,それぞれのセンサからの信
号が,通信装置から,専用回線や電話回線を介して,警備会社の中央コン
ピュータに伝達される。警備会社においては,中央コンピュータにて取得
25 された情報に基づき,発信元の家庭に人を派遣したり,警察や消防への通
報を行なったりする。
オフィスのセキュリティにおいても,同様に,各種のセンサの情報が,専
用回線などを介して,警備会社の中央コンピュータに伝達されるようにな
っている。
【0003】
5 【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,従来の遠隔監視システムにおいては,センサの情報はあく
までも警備会社に通知される。このため,施設への侵入者があったり,施
設において異常が発生した場合に,当該施設の所有者や管理責任者が,一
時的に(判決注:「一次的」の誤記と認める。),当該侵入や異常発生を
10 知ることができないという問題点があった。無論,警備会社からの二次的
な通報により,上記所有者や責任者が,侵入や異常発生を知ることは可能
であるが,これらの者が外出している場合などに,警備会社が通報できな
い場合も考えられる。
【0004】
15 本発明は,比較的簡単な構成で,施設の所有者や管理責任者が,外部から
の侵入や異常の発生を知ることができ,かつ,当該所有者等が自身で,そ
の内容を確認することができる遠隔監視システムを提供することを目的と
する。
【0005】
20 【課題を解決するための手段】
本発明の目的は,施設中の所定の位置に配置された監視装置からの情報を
受理し,当該監視装置からの情報に基づき,所定のデータを関連する携帯
端末に伝達するように構成された遠隔監視方法であって,監視装置による
異常検出によって前記監視装置により撮影された画像を受理するステップ
25 と,前記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶するステップと,前
記受理された画像のうち,少なくとも所定の部分をコンテンツとして形成
するステップと,前記監視装置の顧客の所持する携帯端末を特定するステ
ップと,前記携帯端末に通知すべきメッセージを作成するステップと,前
記通知すべきメッセージ,および,場合によってはこれに加えて前記コン
テンツを,前記携帯端末に伝達するステップとを備えたことを特徴とする
5 遠隔監視方法により達成される。
【0006】
本発明によれば,施設の監視対象領域を監視する監視装置からの情報が,
当該施設の所有者や管理責任者に対応する顧客の携帯端末に通知されるよ
うになっている。この通知には,メッセージと場合によっては監視装置に
10 て得られた画像の少なくとも所定の部分が含まれる。したがって,顧客が
何れの場所にいても,施設の異常などを適切に把握することができる。
(以下,略)
【0010】
また,本発明の目的は,施設中の所定の位置に配置された監視装置からの
15 情報を受理し,当該監視装置からの情報に基づき,所定のデータを関連す
る携帯端末に伝達するように構成された監視制御サーバであって,監視装
置による異常検出によって前記監視装置により撮影された画像を受理する
とともに,前記携帯端末への必要なデーター授受を制御する通信制御手段
と,前記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶する画像データベー
20 スと,前記受理された画像のうち,少なくとも所定の部分をコンテンツと
して形成する画像形成手段と,前記監視装置の顧客の所持する携帯端末を
特定する顧客特定手段と,前記携帯端末に通知すべきメッセージを作成す
るメッセージ作成手段とを備え,前記通知すべきメッセージ,および,場
合によってはこれに加えて前記コンテンツを,前記通信制御手段が,携帯
25 端末に伝達するように構成されたことを特徴とする監視制御サーバにより
達成される。」
以上を前提に,以下検討する。
均等の第1要件にいう「特許発明における本質的部分」とは,当該特許発
明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術思想を
構成する特徴的部分であると解すべきである。
5 しかして,上記(2)の本件明細書の記載内容に照らせば,従来の遠隔監視
システムにおいては,施設への侵入者があったり,施設において異常が発生
したりした場合に,当該施設の所有者や管理責任者が,一次的に,当該侵入
や異常発生を知ることができないという技術的課題があったところ,本件各
発明は,この技術的課題があることに鑑みて,これを解決するためになされ
10 たものである。そして,本件各発明は,施設中の所定の位置に配置された監
視装置からの情報を受理し,当該監視装置からの情報に基づき,所定のデー
タを関連する携帯端末に伝達するという構成を採用することにより,施設の
監視対象領域を監視する監視装置からの情報が,当該施設の所有者や管理責
任者に対応する顧客の携帯端末に通知されるようにして,もって,顧客がい
15 ずれの場所にいても,施設の異常などを適切に把握することができるように
するとの構成を採用した。すなわち,本件各発明は,このような,顧客がい
ずれの場所にいても,施設の異常などを適切に把握することができるとの構
成をもって,上記課題を解決した点に,従来技術に見られない特有の技術的
思想を構成する特徴的部分があるものと認められる。
20 そうすると,本件各発明と被告製品との相違点(施設の監視対象領域を監
視する監視装置からの情報が通知される端末として,本件各発明が,パソコ
ン等の固定式のモニタではなく,「携帯端末」を用いる点)は,本件各発明
の上記特徴的部分(顧客がいずれの場所にいても,施設の異常などを適切に
把握することができるとの構成)に照らせば,本件各発明の本質的部分であ
25 ると解するのが相当である。したがって,その通知先の端末がパソコン等の
固定式のモニタである被告製品は,本件各発明とその本質的部分において相
違しているというべきである。
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,被告製品は,本
件各発明に記載された構成と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に
属するということはできない。
5 3
原告は,被告が被告製品の販売等を行ったことが本件業務提携契約に違
反し,債務不履行に当たる旨を主張する。
証拠(甲2)によれば,原告と被告との間の本件業務提携契約は,本件
特許権の出願番号等を明記した上で,これを利用した商品の開発,販売等
10 に関して協力関係を結ぶことを目的とするものであるから(第1条),被
告が本件業務提携契約により開発,販売等を制限される商品は,本件特許
権を利用した商品に限られるものと認められる。
しかるに,被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するとはいえないこ
とは前記認定説示のとおりであり,そのほかに被告製品が本件特許権を利
15 用した商品であると認めるに足りる証拠はない。
なお,原告は,被告製品に,KYBプログラムが使用されており,これ
が本件特許権に係る特許技術を利用したKIDSプログラムと同一のプロ
グラムであるとして,被告製品が本件特許権に係る特許技術を利用した商
品である旨を主張するが,前記のとおり,被告製品が本件各発明の技術的
20 範囲に属するものとはいえない以上,被告製品にKYBプログラム又はK
IDSプログラムが使用されているか否かにかかわらず,被告が,本件業
務提携契約により被告製品の開発,販売等を制限されるものとは認められ
ない。本件記録を精査しても,被告製品の販売等につき,本件業務提携契
約の違反を合理的にうかがわせる事情を認めるに足りるものは見当たらな
25 い。
よって,被告が被告製品の販売等を行ったことが本件業務提携契約に違
反するとは認められず,原告の上記主張は採用することができない。
なお,前記認定説示に照らすと,被告の主張を考慮しても,本件訴えの
追加的変更は,民訴法143条1項本文に規定する要件を満たすものと認
められ,また,同項ただし書に規定する,著しく訴訟手続を遅延させる不
5 当なものとまでは認められない。
4 結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はい
ずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
10 東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田 中 孝 一
裁判官 小 口 五 大
20 裁判官 鈴 木 美 智 子

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (2月24日~3月2日)

2月26日(水) - 東京 港区

実務に則した欧州特許の取得方法

来週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

デライブ知的財産事務所

〒210-0024 神奈川県川崎市川崎区日進町3-4 unicoA 303 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

弁理士法人 矢野内外国特許事務所

大阪府大阪市中央区南本町二丁目2番9号 辰野南本町ビル8階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

いわさき特許・商標事務所 埼玉県戸田市

埼玉県戸田市上戸田3-13-13 ガレージプラザ戸田公園A-2 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング