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令和2(ワ)14629意匠権侵害差止等請求事

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和3年9月7日
事件種別 民事
当事者 原告クレア株式会社
被告株式会社ミツキ 補佐人弁理士森本聡
法令 意匠権
意匠法39条2項2回
意匠法37条1回
意匠法24条2項1回
キーワード 意匠権6回
損害賠償2回
差止2回
侵害2回
新規性1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。20
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要 本件は,意匠に係る物品をヘアキャッチャーとする意匠登録第1620963 号の意匠権(以下「本件意匠権」といい,本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」 という。)を有する原告が,被告に対し,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被 告製品」という。)の販売等が本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法37条110 項に基づき被告製品の販売等の差止め,同条2項に基づき被告製品及びその半製 品の廃棄並びに民法709条に基づき損害賠償金及び遅延損害金を請求する事 案である。

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判決文

令和3年9月7日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第14629号 意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和3年7月2日
5 判 決
原 告 ク レ ア 株 式 会 社
原告訴訟代理人弁護 士 小 林 幸 夫
10 同 河 部 康 弘
同 神 田 秀 斗
被 告 株 式 会 社 ミ ツ キ
15 被告訴訟代理人弁護士 平 山 博 史
同 都 筑 康 一
同 内 田 真 央
被 告 補 佐 人 弁 理 士 森 本 聡
主 文
20 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造し,販売し,輸入し又は販売の申
25 出をしてはならない。
2 被告は,別紙被告製品目録記載の製品及び半製品(別紙被告意匠目録記載の構
成態様を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,726万円及びこれに対する令和2年5月31日から支
払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
4 仮執行宣言
5 第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,意匠に係る物品をヘアキャッチャーとする意匠登録第1620963
号の意匠権(以下「本件意匠権」といい,本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」
という。)を有する原告が,被告に対し,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被
10 告製品」という。 の販売等が本件意匠権を侵害すると主張して,
) 意匠法37条1
項に基づき被告製品の販売等の差止め,同条2項に基づき被告製品及びその半製
品の廃棄並びに民法709条に基づき損害賠償金及び遅延損害金を請求する事
案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
15 易に認められる事実)
原告は,家庭用品,生活雑貨,アイデア商品等の企画,開発,製造,販売を
主な業務とする株式会社である。
被告は,100円均一商品や生活雑貨卸等の販売,輸入を主な業務とする株
式会社である。
20 (弁論の全趣旨)
原告は,以下の内容の本件意匠権を有している。(争いなし)
【出願日】:平成30年1月22日
【登録日】:平成30年11月30日
【登録番号】:意匠登録第1620963号
25 【意匠に係る物品】:ヘアキャッチャー
【本件意匠の内容】:別紙本件意匠記載のとおり。
本件意匠の構成は次のとおりである。
(甲 1。各部の番号による特定は,別紙
本件意匠説明図記載による。具体的構成態様②で当事者の主張を記載したとこ
ろを除き当事者間に争いがない。)
ア 基本的構成態様
5 ① 平面視において全体が円形状かつ有底の灰皿状に形成されており,その
中心に位置する円形状の捕捉部51と,捕捉部51の外側に形成されて該
捕捉部51に向かう水流を生成する渦流生成部52と,渦流生成部52の
外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部53とで構
成され,捕捉部51は,平面視において円形状に形成された底壁54と,
10 底壁54の外周縁から上方に伸びる筒壁55とからなり,上方開口を有す
る椀状に形成され,渦流生成部52は,捕捉部51の上端外縁から水平外
方向に向かって張り出し形成され,高さ方向においてフランジ部53より
上方に突出しておらず,フランジ部53は,渦流生成部52の上端外縁か
ら水平外方向に向かって張り出し形成されていること。
15 ② 渦流生成部52に,捕捉部51に向かう渦状模様が現出されていること。
③ 捕捉部51と渦流生成部52に多数個の排水孔57・71が形成されて
いること。
④ 正面視において,捕捉部51の底壁54と筒壁55とを連結するコーナ
ー部59は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部
20 51は,正面視において隅丸矩形状とされていること。
イ 具体的構成態様
① 渦流生成部52が,捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計
6個の斜面体60で構成されていること。
② 平面視において各斜面体60が区画線62A・62B・62Cにより区
25 画されており,かつ,各斜面体60が反時計回り及び時計回りいずれに向
かっても漸次幅寸法が小さくなる2つの曲線及び1つの概ね直線で囲ま
れた形状(ただし,区画線62Aは最も長く内側に湾曲する曲線で,区画
線62Bは概ね直線で,区画線62Cは緩やかに外側に湾曲する曲線で,
区画線62Cと区画線62Bの接続部分は略円弧状である。原告は,この
形状を三日月形状と表現すべきであると主張し,被告は,三角形状と表現
5 すべきであると主張している。)であること。
③ フランジ部53の外周縁の12時,3時,6時及び9時の位置には,略
円弧状の凹み部75が形成されていること。
④ フランジ部53の12時と6時の位置に,爪73が斜面体60の外周縦
壁65に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されている
10 こと。
⑤ フランジ部53の裏面に易破断用の薄肉部77が形成されていること。
⑥ 平面視におけるフランジ部53の1時,4時,7時及び10時の位置に
は,「コ」字状の切り欠き80が形成されていること。
被告は,遅くとも令和2年3月頃より,「おふろのまとまる排水口カバー」
15 の名称で,業として,排水口用ごみ受けフィルターである被告製品を製造し,
販売し,輸入し又は販売の申出をしている。
被告製品の意匠は,別紙被告意匠目録記載のとおりである(以下「被告意匠」
という。。別紙本件意匠・被告意匠対照表は,本件意匠と被告意匠を対比した

ものである。(争いなし)
20 被告意匠の構成は,次のとおりである。
(甲5。各部の番号による特定は,別
紙被告意匠説明図記載による。具体的構成態様②で当事者の主張を記載したと
ころを除き当事者間に争いがない。)
ア 基本的構成態様
① 平面視において全体が円形状かつ有底の灰皿状に形成されており,その
25 中心に位置する円形状の捕捉部1と,捕捉部1の外側に形成されて該捕
捉部1に向かう水流を生成する渦流生成部2と,渦流生成部2の外側に
形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部3とで構成され,
捕捉部1は,平面視において円形上に形成された底壁4と,底壁4の外周
縁から上方に伸びる筒壁5とからなり,上方開口を有する椀状に形成さ
れ,渦流生成部2は,捕捉部1の上端外縁から水平外方向に向かって張り
5 出し形成され,高さ方向においてフランジ部3より上方に突出しておら
ず,フランジ部3は,渦流生成部2の上端外縁から水平外方向に向かって
張り出し形成されていること。
② 渦流生成部2に,捕捉部1に向かう渦状模様が現出されていること。
③ 捕捉部1と渦流生成部2に多数個の排水孔7・21が形成されているこ
10 と。
④ 正面視において,捕捉部1の底壁4と筒壁5とを連結するコーナー部9
は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部1は,正
面視において隅丸矩形状とされていること。
イ 具体的構成態様
15 ① 渦流生成部2が,捕捉部1を中心とする等角度位置に配置された計4個
の斜面体10で構成されていること。
② 平面視において各斜面体10が湾曲線(第1~第3湾曲線12A~12
C)により区画されており,かつ,各斜面体10が反時計回り及び時計回
りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる3つの曲線で囲まれた形
20 状(ただし,第1湾曲線12Aが最も長く緩やかに内側に湾曲する曲線で,
第2湾曲線12Bと第3湾曲線12Cは緩やかに外側に湾曲する曲線で,
両湾曲線の接続部分は略円弧状である。なお,原告は,この形状を三日月
形状と表現すべきであると主張し,被告は,鎌状と表現すべきであると主
張している。)であること。
25 ③ 平面視において,各斜面体10の反時計方向側の外周部に,堰部16が
形成されていること。
④ 各堰部16が,中心側から外周側に向かって漸次幅寸法が大きくなる外
拡がりのテーパー状であり,各堰部16の伸び方向は反時計方向に指向し
ていること。
⑤ 捕捉部1の底壁4の上面の中心部(平面視における中心部)に,擬宝珠
5 状の整流体6が上方に向かって膨出形成されていること。
⑥ 整流体6を囲むように捕捉部1の底壁4には,複数個の排水孔7が開設
されていること。
⑦ フランジ部3の外周縁の12時,3時,6時及び時の位置には,略円弧
状の凹み部25が形成されていること。
10 ⑧ フランジ部3の12時と6時の位置に,爪23が斜面体10の外周縦壁
15に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されているこ
と。
⑨ フランジ部3の裏面に,易破断用の薄肉部27が形成されていること。
⑩ フランジ部3の裏面の1時,4時,7時及び10時の位置に,ピン26
15 が下方に向かって突設されていること。
原告は,平成30年1月22日,本件意匠の関連意匠として斜面体が4つの
意匠と5つの意匠についてそれぞれ意匠登録出願し(意願2020-0117
59,意願2020-011760) 令和3年3月1日にいずれも登録査定を

受けた。
20 被告は,令和2年5月25日付けで被告意匠について意匠登録出願を行い,
その後,被告意匠は,意匠登録(意匠登録第1670712号)された。なお,
審査官は,被告に対し,上記審査の過程で,上記意匠の新規性,創作非容易想
到性等の判断の際に本件意匠を参考としたことを通知した。
(甲16~19,乙22,26)
25 3 争点
被告意匠は本件意匠と類似するか(争点1)
原告の損害額(争点2)
4 争点に対する当事者の主張
被告意匠は本件意匠と類似するか(争点1)
(原告の主張)
5 被告製品はヘアキャッチャーであり,本件意匠と物品は同一である。
本件意匠に係る物品は風呂の排水口へ流れる髪の毛やゴミを受け止め,パイ
プの詰まり等を防止する役割を持つヘアキャッチャーであり,個人消費者が需
要者として想定される。個人消費者は,商品デザインを細部まで観察すること
はなく,デザイン全体から受ける大まかな印象を基準に商品選択するのである
10 から,本件意匠の要部は髪の毛等のゴミを受け止める中央部及び底部の概括的
な形状というべきである。
そして,中央部については,両意匠ともに,渦状の複数の斜面部を備えてお
り,水が渦巻きのように中央に向かって流れていくという美感を生じさせる。
また,底部については,両意匠ともに,隅丸矩形状であり,全体として丸味を
15 帯びた柔らかい美感を生じさせる。したがって,本件意匠及び被告意匠から生
じる美感は,要部において共通している。
本件意匠と被告意匠の差異は,①斜面体の数,②被告意匠では,斜面体10
の反時計方向側の外周部に堰部16が形成しているのに対して,本件意匠には
堰部が存在しないこと,③被告意匠では,捕捉部1の底壁4の上面の中心部に
20 擬宝珠状の整流体6が形成されているのに対し,本件意匠には整流体が形成さ
れていないこと,④被告意匠には,ピン26が下方に向かって突設されている
のに対して,本件意匠にはピンが存在しないこと,⑤「コ」字状の切り欠きの
数であるといえる。
しかし,①について,斜面体の数が4個以上の場合には,内側に向かった渦
25 の流れが現出されて美感が共通する。②について,堰部の有無にかかわらず,
同様に内側に向かった渦の流れが現出される。被告が指摘する公知意匠は,い
ずれも渦状壁がフランジよりも上部にあり,本件意匠も被告意匠も斜面体を構
成する渦流壁がフランジより下方に収まっており,平面的な美感を与える点で
共通する。③から⑤については,美感に影響を与えない。
よって,差異点は,本件意匠及び被告意匠とで共通する美感を凌駕するもの
5 ではなく,本件意匠と被告意匠は類似する。
(被告の主張)
物品が共通することは認める。また,両意匠の基本的構成態様における相違
点もない。
しかし,本件意匠の基本的構成態様は,出願時に公知であった意匠に見られ
10 るありふれた形態であるから,要部たりえない。本件意匠の要部となり得る部
分は,公知意匠に開示されていない部分に限られ,かつ,本件意匠に係る物品
がヘアキャッチャーであり,渦流生成部が機能を大きく左右すること,全体形
状に占める過流生成部の割合が極めて大きいことに鑑みれば,本件意匠の要部
は,過流生成部52の具体的な構成,すなわち,①計6個の斜面体60で構成
15 されていること,②平面視において,各斜面体60が直線を基調とするものと
なっており,略三角形状に形成されている点であるというべきである。
他方で,被告意匠は,①4個の斜面体で形成されるため,1つ1つの斜面体
が占める面積は大きく,よりダイナミックな渦の印象を与える。また,②被告
意匠の斜面体は,本件意匠に比べて曲線を基調とするもので,鎌状を形成して
20 おり,4個の堰部16により,鎌状模様がよりいっそう強調されるとともに,
斜面体同士の境界部が強調されることにより,渦状模様が明確なものとなり,
よりダイナミックな渦の流れを印象付けるものとなっている。さらに,内縦壁
14の上辺は,堰部16の形成個所において上方に大きく跳ね上がる段付き状
となっており,上辺が目に付くことにより,斜面体を構成する傾斜壁13の中
25 心方向に向かう傾斜形状,引いては個々の斜面体の形状が強調されることによ
り,ダイナミックな渦の流れが印象付けられる。
よって,本件意匠に比べて被告意匠はよりダイナミックな渦の流れを印象付
けるものとなっており,両意匠は看者に与える美感が全く異なっており,両意
匠は非類似である。
原告の損害額(争点2)
5 (原告の主張)
原告は,被告製品と市場が競合する「くるくる排水口キャッチ」というヘア
キャッチャーを製造販売している。
被告は,令和2年3月から被告製品の販売を開始し,本訴提起までに3か月
が経過している。被告製品の販売代金は1袋あたり税込み110円,販売個数
10 は月5万個,利益率は40%を下らないから,販売開始から3か月間で得た利
益は,意匠法39条2項により,次のとおり660万円と推定される。
110円×5万個×40%×3か月=660万円
また,弁護士費用相当損害金は上記金額の1割に当たる66万円が相当である。
よって,原告は,被告に対し,意匠法39条2項及び民法709条に基づき
15 726万円の損害賠償請求権を有する。
(被告の主張)
原告が販売している製品については不知。その余は否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告意匠は本件意匠と類似するか)について
20 ⑴ 本件意匠に係る物品はヘアキャッチャーであり,被告製品は排水口用ごみ受
けフィルターであるから,物品として類似している。
本件意匠 被告意匠の構成は,同
本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は一致する。
25 また,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,①渦流生成部が,捕捉部を
中心とする等角度位置に配置された複数の斜面体で構成されている点(以下
「共通点1」という。,②各斜面体が反時計回り及び時計回りいずれに向かっ

ても漸次幅寸法が小さくなる3つの線で囲まれた形状である点(以下「共通点
2」という。,③フランジ部の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位

置には,略円弧状の凹み部が形成されている点(以下「共通点3」という。,

5 ④フランジ部の12時と6時の位置に爪が形成されている点(以下「共通点4」
という。,⑤フランジ部の裏面に,易破断用の薄肉部が形成されている点(以

下「共通点5」という。)において共通する。
他方で,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,①被告意匠には,各斜面
体の反時計方向側の外周部に,堰部が形成されているが,本件意匠には堰部が
10 存在しない点(以下「差異点1」という。,②本件意匠の斜面体の数が6個で

あるのに対し,被告意匠の斜面体の数が4個である点(以下「差異点2」とい
う。,③各斜面体の形状(以下「差異点3」という。,④被告意匠では,捕捉
) )
部の中心部に整流体が形成されているが,本件意匠には存在しない点(以下「差
異点4」という。,⑤被告意匠では,フランジ部の裏面の1時,4時,7時及

15 び10時の位置に,ピンが下方に向かって突設されているが,本件意匠には存
在しない点(以下「差異点5」という。,⑥本件意匠のフランジ部の1時,4

時,7時及び10時の位置には,
「コ」字状の切り欠きが形成されているが,被
告意匠には存在しない点(以下「差異点6」という。)において差異がある。
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通
20 じて起こさせる美感に基づいて行われ(意匠法24条2項),具体的には,意
匠に係る物品の性質,用途,使用形態,公知意匠にはない新規な創作部分の有
無等を参酌して,需要者の注意を引くべき形状等を把握し,そのような形状等
において両意匠が共通するか否かを中心としつつ,全体としての美感が共通す
るか否かを検討してされる。
25 ア 本件意匠に係る物品であるヘアキャッチャーは,通常,風呂場で髪の毛等
が排水口に流れないように排水口の上に設置されて使用されるものであり,
需要者である消費者は,一般に,それが設置された状態において視認するこ
とができ,髪の毛等が排水口に流れないようになることとなる部分,すなわ
ち,捕捉部及び渦流生成部に関心が高く,それらの形状等に着目するといえ
る。
5 イ 本件意匠の出願前,次の から 公知意匠があった。
意匠登録第1554062号公報(乙3(各枝番号を含む。以下同
じ)。平成28年7月19日公報発行)に記載された意匠(以下「公知
意匠1」という。)
意匠登録第1570084号公報(乙4。平成29年2月20日公報発
10 行)に記載された意匠(以下「公知意匠2」という。)
意匠登録第1531898号公報(乙5。平成27年8月24日公報発
行)に記載された意匠(以下「公知意匠3」という。)
意匠登録第1544259号公報(乙6。平成28年2月22日公報発
行)に記載された意匠(以下「公知意匠4」という。。

15 公開実用昭和51-105866号(乙16。昭和51年8月24日公
開)に記載された意匠(以下「公知意匠5」という。)
公知意匠1から4は,いずれも,「ヘアキャッチャー」に係る意匠であ
り,①平面視において全体が円形状かつ有底の灰皿状に形成されており,
その中心に位置する円形状(正面視において隅丸矩形状)の捕捉部と,該
20 捕捉部に向かう水流を生成する渦流生成部と,その外側に形成されて排水
口への装着を担う円環状のフランジで構成されており,②渦流生成部に,
捕捉部に向かう渦状模様が現出されており,③捕捉部と渦流生成部に多数
個の排水孔が形成されており,④渦流生成部が,捕捉部を中心とする等角
度位置に配置された複数の斜面体及び渦状壁で構成され,各斜面体に隣接
25 して渦状壁が形成されて各斜面体を区分けし,⑤平面視において,渦状壁
が斜面体に類する面積を占め,渦状壁の上部は,正面視において,フラン
ジよりも上部にはみ出している。
公知意匠1及び2において,正面視において捕捉部は,おおよそ隅丸
矩形状である。
公知意匠1は,斜面体及び渦状壁を3個ずつ,公知意匠2は,斜面体
5 及び渦状壁を2個ずつ,公知意匠3は,斜面体及び渦状壁を4個ずつ,
公知意匠4は,斜面体及び渦状壁を2個ずつ,それぞれ有する。また,
公知意匠3及び公知意匠4では,斜面体だけでなく渦状壁にも多数個の
排水孔が形成されているのに対し,公知意匠1及び公知意匠2では,渦
状壁に排水孔が形成されていない。
10 公知意匠5は,排水口に装着するための排水誘具の意匠であり,中く
ぼみ状の円形皿形をしており,その表面,外縁から中心に向かい,かつ,
中心には達しない複数の螺旋状山形が突設形成され,前記山形以外の谷
部分には複数の流水孔が穿設されている。螺旋状山形の上端はフランジ
より下方にあり,上方にはない。
15 なお,原告は,公知意匠5について,
「螺旋状山形を突設してなる」な
どの記載から,螺旋状山形が,フランジ部より上方に位置する可能性を
否定できないとするが,乙16の第1図,第2図によれば,螺旋状山形
は底部から突設してなるものであるが,その上端はフランジ部より上方
にはないと認められる。
20 ⑸ 本件意匠の基本的構成態様のうち,基本的構成態様①から③は,ありふれ
たもの又は公知意匠があったものといえ(前記 , ),また,基本的
構成態様④は,必ずしも需要者の関心が高くない部分の形状等であり,その
本件意匠の具体的構成態様のうち,具体的構成態様①及び②は,需要者の
25 関心が高い部分である渦流生成部の形状等である。また,その形状等のうち,
渦流形成部が渦状壁を有さず斜面体のみで構成される形状等については,公
知意匠があったことは認められない。したがって,渦流生成部を形成する斜
面体が,段差構造のみによって境界を形成するものであり,斜面体を区切る
構造体がないとの形状等は特に注意を引くべきものといえる。他方,具体的
構成態様③から⑥は,需要者の関心が高い部分の形状等とはいえない。
5 これらによれば,本件意匠のうち需要者の注意を引くべき形状等は,具体
的構成態様のうち,渦流生成部を形成する斜面体が,段差構造のみによって
境界を形成するものであり,斜面体を区切る構造体がない点を含む,渦流生
成部及び捕捉部の全体の形状であると認められる。
⑹ 前記 から ,本件意匠と被告意匠が全体的な美感を共通にする
10 かについて検討する。
ア 本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様において共通し,また,具体的構
成態様のうち,共通点1から5において共通する。
このうち,本件意匠の基本的構成態様は,需要者の注意を引くべき形状等
とはいえず,類否判断に当たって,それが共通することを大きく取り扱うこ
15 とは相当ではない。
具体的構成態様の共通点のうち,共通点1及び2は,需要者の注意を引く
べき形状等に係るものであり,これらが共通することは,類否判断に影響を
与える。もっとも,渦流生成部において,捕捉部を中心とする等角度位置に
配置された複数の斜面体を設ける構成を有する公知意匠があり(前記
20 ),この点を特に大きく取り扱うことは相当とはいえない。
共通点3から4は,フランジ部の形状等であり,需要者が注意を引くべき
部分の形状等ではなく,また,フランジ部においてその形状等が占める割合
も大きくなく,類否判断に与える影響は小さいといえる。
イ 本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,差異点1から6において異なる。
25 差異点1から4は,渦流生成部の形状であり,注意を引くべき形状等に関
するものである。そして,本件意匠においては,渦流生成部を形成する4個
の斜面体が,段差構造によって境界を形成するものであり,渦流生成部を形
成する斜面体が,段差構造によって境界を形成し,斜面体を区切る構造体が
ないという形状等が,注意を引くべき形状等に含まれるといえるところ,差
異点1は,その形状等に係るものである。本件意匠が上記の形状等であるの
5 に対し,被告意匠においては,本件意匠と異なり,斜面体の外周部には,堰
部が設けられている。斜面体の段差構造によって境界を形成するか,別に堰
部を設けるかは,その形状等自体が明確に異なるものである。ヘアキャッチ
ャーの需要者は,それが排水口の上に設置された際等も含めてその真上から
だけでなく,やや斜め上から見る場合も多いといえるところ,斜視図等(別
10 紙本件意匠,本件意匠説明図,被告意匠目録,被告意匠説明図,本件意匠・
被告意匠対照表)に特に明らかなとおり,需要者は,本件意匠の渦流生成部
は平面状の斜面体のみで構成されるやや平板な段差構造であることを認識
するのに対し,被告意匠では,斜面体の外周部に斜面体に対し垂直方向に突
出する堰部があることを認識し,斜面体から堰部が突出していること及び堰
15 部によってもたらされる別の斜面体との段差が強く印象付けられる。また,
本件意匠では,斜面体のみで渦状模様を生じさせるものであり,渦流生成部
が平面状の斜面体のみからなり,渦状模様もあっさりした印象を与える。こ
れに対し,被告意匠では,堰部によって各斜面体が明確に区別され,堰部自
体も斜面体と独立して渦状模様を顕出させるものであって,このことにより
20 斜面体と堰部それぞれによって二重の明確な渦状模様を生じさせるという
印象を与えるものである。したがって,差異点1は,本件意匠と被告意匠の
類否判断に大きく影響を与える。
差異点2(斜面体の個数)及び3(斜面体の形状)も,需要者の注意を引
くと考えられる渦流生成部の形状に係る差異であり,類否判断に影響を与え
25 るといえる。もっとも,本件意匠と被告意匠において,斜面体の形状は,い
ずれも最も長い曲線が内側に湾曲する3つの線で囲まれるものであり,その
形状の差は大きなものとはいえない。そして,本件意匠と被告意匠では,こ
のような形状の斜面体がいずれも捕捉部を中心として等角度位置に配置さ
れていて,斜面体の形状に大きな差がないことからも,その個数が6個であ
っても4個であっても,数個の斜面体で構成されているとの印象を与える側
5 面があり,個数の差が美感に与える影響は必ずしも大きなものであるとはい
えない。差異点4(捕捉部の形状)は,需要者の注意を引くと考えられる捕
捉部の形状に係る差異であり,本件意匠の捕捉部には整流体がないのに対し,
被告意匠には,本件意匠にはない整流体があり,それが膨出していることか
らも,類否判断に一定の影響を与えるといえる。
10 差異点4から6は,いずれも,需要者の注意を引くとはいえない,フラン
ジ部における差異であり,その差異も大きくなく,類否判断に与える影響は
大きくないといえる。
ウ 以上によれば,本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様で共通し,具体的
構成態様においても,注意を引くべき形状等に係る共通点1及び2において
15 共通する。もっとも,本件意匠の基本的構成態様は,注意を引くべき形状等
とはいえず,また,具体的構成態様の共通点も類否判断に与える影響を特に
大きく取り扱うことは相当ではない。
他方,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様の差異のうち,差異点1は,
本件意匠において特に注意を引くべき形状等に関する差異であり,被告意匠
20 には本件意匠には見られない堰部があるのであり,前記のとおり,それが類
否判断に与える影響は大きい。また,差異点4も類否判断に一定の影響を及
ぼす。
これらからすると,本件意匠と被告意匠の差異点から受ける印象は,本件
意匠と被告意匠の共通点から受ける印象を凌駕するものであるといえる。よ
25 って,被告意匠は,本件意匠に類似していないというべきである。
⑺ 原告は,本件意匠も被告意匠も,堰部の有無にかかわらず,内側に向かう渦
の流れという美感が共通するので,堰部の有無は美感判断に影響をしないと主
張する。既に説示したとおり,内側に向かう渦の流れという美感自体は,公知
意匠にも共通するありふれた意匠であり(公知意匠1から4),この点を共通
にすることを類否判断で大きく扱うことは相当ではない。
5 また,原告は,公知意匠1から4のヘアキャッチャーに係る意匠はいずれも,
正面視において渦流壁がフランジ部よりも上方に張り出していたところ,本件
意匠も被告意匠もこれがなく,全体的に平面的な美感を共通にしていると主張
する。上記公知意匠における渦流壁は,フランジ部よりも上部に張り出し,ま
た,平面視において占める面積は大きく,被告意匠の堰部は,公知意匠の渦流
10 壁に比べれば,その存在感は大きくない。しかし,渦流生成部を区分けする構
造体がフランジ部よりも上部に張り出していない意匠自体は公知であったと
いえる上(公知意匠5) 本件意匠は渦流壁,
, 堰部に相当する部位を全く有して
いないのに対し,被告意匠は堰部を有しているのであって,堰部の存在の有無
自体が類否判断に大きな影響を与えるというべきである。原告の指摘は前記判
15 断を覆すに足りるものではない。
第4 結論
よって,被告意匠は本件意匠に類似しているとはいえないから,その余の争点
について判断するまでもなく,原告の請求にはいずれも理由がないから棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 佐 伯 良 子
裁判官 仲 田 憲 史

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