令和3(行ケ)10029審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和3年9月21日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告マルホ株式会社 被告健栄製薬株式会社
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法令 |
商標権
商標法4条1項15号6回 商標法4条1項11号5回 商標法46条1項1号2回 商標法46条1項1回 商標法36条1項1回
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キーワード |
審決26回 無効5回 実施4回 商標権2回 無効審判1回 拒絶査定不服審判1回 差止1回
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主文 |
1 特許庁が無効2020-890024号事件について令和2年
12月25日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,商標法46条1項1号に基づく商標登録無効請求を不成立とした審決の
取消訴訟であり,争点は,被告の商標が同法4条1項11号又は15号に該当する
か否かである。 |
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判決文
令和3年9月21日判決言渡
令和3年(行ケ)第10029号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年7月27日
判 決
原 告 マ ル ホ 株 式 会 社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 広 瀬 史 乃
松 田 世 理 奈
同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 小 林 浩
鈴 木 康 仁
瀧 澤 文
被 告 健 栄 製 薬 株 式 会 社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 重 冨 貴 光
古 庄 俊 哉
岩 﨑 翔 太
田 中 想 音
主 文
1 特許庁が無効2020-890024号事件について令和2年
12月25日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた裁判
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,商標法46条1項1号に基づく商標登録無効請求を不成立とした審決の
取消訴訟であり,争点は,被告の商標が同法4条1項11号又は15号に該当する
か否かである。
1 本件商標
被告は,以下の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1)。
(1) 商標の構成 「HIRUDOMILD」(標準文字)
(2) 登録番号 第6178214号
(3) 出願日 平成30年8月8日
(4) 査定日 令和元年7月30日(以下「本件査定日」という。)
(5) 登録日 令和元年9月6日
(6) 商品及び役務の区分並びに指定商品 第5類「薬剤」
2 特許庁における手続の経緯
原告は,令和2年2月28日,商標法46条1項1号に基づき,本件商標につい
て,商標登録無効審判(以下「本件審判」という。)の請求をした。特許庁は,同請
求を無効2020-890024号事件として審理した上,同年12月25日,
「本
件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,そ
の謄本は,令和3年1月15日,原告に送達された。
3 本件審決の理由の要点
(1) 商標法4条1項11号該当性について
本件商標と別紙記載の各商標(以下,別紙記載1の商標を「引用商標1」,同記載
2の商標を「引用商標2」といい,両者を併せて「引用商標」という。)を比較する
に,両者は,外観において,本件商標と引用商標1とは,語頭の「HIRUDO(H
irudo)」を共通にするものの,文字数及び構成全体の文字において相違し,本
件商標と引用商標2とは,欧文字と片仮名の差異を有し,明確に区別できるもので
ある。
次に,称呼において,本件商標から生じる「ヒルドマイルド」及び「ヒルド」と
引用商標から生じる「ヒルドイド」の称呼とは,その構成音,音数などが明らかに
相違するものであるから,称呼上,明確に聴別できるものである。
そして,本件商標と引用商標は,いずれも特定の観念を生じないものであるから,
観念において比較することができない。
以上からすると,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができな
いとしても,外観及び称呼において明確に区別できる非類似の商標とみるのが相当
である。
そうすると,本件商標と引用商標の指定商品が同一又は類似であるとしても,本
件商標と引用商標とは非類似の商標であるから,本件商標は,商標法4条1項11
号に該当しない。
(2) 商標法4条1項15号該当性について
ア 原告使用商標の周知著名性について
原告は,昭和29年10月に血行促進 皮膚保湿剤
・ 「ヒルドイドクリーム0.3%」
を,平成8年7月に「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」を,平成13年7月に「ヒ
ルドイドローション0.3%」を発売開始しており,これらの商品には,
「Hiru
doid」の文字も併記され,「ヒルドイド」及び「Hirudoid」(以下併せ
て「原告使用商標」といい,また,商品名に原告使用商標を含む原告販売の血行促
進・皮膚保湿剤を「原告商品」という。)が使用されているといえる。
そして,原告商品の「ヒルドイドクリーム0.3%」等は,医療用医薬品の一種
であって,一般人を対象とする広告は行われていないものであり,また,一般雑誌
における原告商品に関する記事は,医療用医薬品としてではなく,スキンケア商品
として美容目的で掲載されているもの(甲25の1~6)である上に,原告は,こ
れら記事の掲載に関し,医療用医薬品としての適正使用についての要請を行ってい
るにすぎないから,原告商品の広告をしているとはいえない(甲29)。
また,原告商品は,皮膚科の医師に注目されたり,医療関係者向けの雑誌におけ
る広告は認められるものの,その掲載期間及び回数は平成25年から同29年にか
けて年5,6回程度と決して多くはないといわざるを得ない。
さらに,原告商品の「ヘパリン類似物質含有製剤」又は「血液凝固阻止剤」の分
野における平成26年度から同29年度までの入院及び外来の外用薬としての売上
額及び市場占有率は,420億円~520億円及び75%~83%(金額ベース)
であることから,平成30年8月の本件商標の登録出願時においても,原告商品は
一定程度の売上額及び市場占有率があったものと推認できるものの,平成29年度
末から約1年6月余り後の本件商標の登録査定時におけるそれらの数値は明らかで
はないことから,これらの期間の数値をもって本件商標の登録査定時における原告
商品の売上額及び市場占有率を推し量ることはできない。
以上からすると,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告商品は,
需要者の間に広く知られていたとはいえないものであるから,原告商品に使用され
ている原告使用商標は,原告の業務に係る商品(「ヘパリン類似物質」を有効成分と
する血行促進・皮膚保湿剤(医療用医薬品))を表示するものとして,取引者,需要
者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
イ 本件商標と原告使用商標との類似性の程度
上記(1)のとおり,本件商標と原告使用商標とは,観念において比較することがで
きないとしても,外観及び称呼において明確に区別できる非類似の商標とみるのが
相当であって別異の商標である。
ウ 原告使用商標の独創性の程度について
原告使用商標「Hirudoid」又は「ヒルドイド」の語は,辞書等に載録が
認められない造語といえるから,その独創性の程度は高いといえる。
エ 出所の混同のおそれについて
上記アのとおり,原告使用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時におい
て,原告の業務に係る商品を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識
されていたとはいえない。
また,原告使用商標の独創性の程度は高いといえるものの,上記イのとおり,本
件商標と原告使用商標は,明らかな差異を有する別異の商標である。
そうしてみると,本件商標をその指定商品に使用した場合,これに接する取引者,
需要者が,原告使用商標を想起・連想して,当該商品を原告の業務に係る商品ある
いは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるか
のように,商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできな
い。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。
(3) よって,本件商標の登録は,商標法46条1項により無効とすることはでき
ない。
第3 原告が主張する審決取消事由
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性に関する判断の誤り)
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性に関する判断の誤り)
第4 当事者の主張
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性に関する判断の誤り)について
(原告の主張)
(1) 本件審決は,本件商標「HIRUDOMILD」と引用商標1「Hirud
oid」及び引用商標2「ヒルドイド」とは,外観及び称呼において明確に区別で
きる非類似の商標とみるのが相当であるとするが,この判断は誤りである。
商標の類否は,商標の外観,観念,称呼の3要素に加え,商標が使用される商品
の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断される
べきである。しかし,本件審決は,単に,本件商標と引用商標の全体の構成文字や
その数,当該文字より生じる称呼の構成音及びその音数等の相違に基づき外観・称
呼の類否を判断するのみであり,その称呼や外観によって取引者・需要者に与える
印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察し,両商標をその指定商品「薬剤」に
使用した場合,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによる判断
をしておらず,本件商標と引用商標が使用される商品「薬剤」について,原告が明
らかにした取引の実情,すなわち,引用商標の独創性や医療用医薬品の取引の実情
に係る具体的な取引状況に基づいた商標の類否判断もしていない。
(2) 本件商標と引用商標は,いずれも特定の意味合いを有しない一種の造語とし
て理解され,特定の観念を生じないものであるから,これらを観念において比較す
ることができないものであるものの,下記ア及びイのとおり称呼と外観が相紛らわ
しいものであり,また,下記ウのとおりこれらの商標が使用される商品「薬剤」の
具体的な取引状況に基づけば,両商標が「薬剤」に使用される場合には,商品の出
所につき誤認混同を生ずるおそれのあるほどに互いに類似する商標である。
ア 称呼について
(ア) 本件商標の要部
本件審決も認めるように,
「マイルド」の文字は,本件商標の指定商品「薬剤」を
取り扱う業界において,本件商標の登録出願前から,薬を服用・使用した際に受け
る刺激などが穏やかで少ないことを表示するものとして使用されており(甲5, ,
6)
本件商標「HIRUDOMILD」の構成中「マイルド」の文字の欧文字表記であ
る「MILD」の文字は,本件商標の指定商品との関係においては,自他商品の識
別標識としての機能は弱い。これに対し,本件商標語頭の「HIRUDO」の文字
は,非常に独創的な文字であるから,自他商品の識別標識としての機能は強く,需
要者等に対し商品の識別標識として強く支配的な印象を与える。さらに,
「HIRU
DO」と「MILD」の文字を結合しても特定の意味合いを想起させるものでもな
く,これらの文字間に観念上のつながりはない。したがって,
「HIRUDO」 「M
と
ILD」の文字部分を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほ
ど不可分的に結合しているとはいえないから,各部分を分離して観察することも許
される。
よって,本件商標構成中の語頭に位置する「HIRUDO」の文字部分に着目し,
当該文字部分をもって取引に資される場合も決して少なくないから,本件商標から
抽出した「HIRUDO」の部分(要部)と引用商標との対比によって類否を判断
すべきである。
被告は,
「○○」との称呼が生じる商標と「〇〇マイルド」との称呼が生じる商標
の併存登録例があることを理由として上記要部認定を否定するが,被告の挙げる併
存登録例は,同一権利者によるものか,または「○○」の部分が「MILD」の部
分よりも識別力が高いものではないもので,本件とは事案が異なる。また,被告が
挙げる併存登録例のうち「ウフェナマイルド\UFENAMILD」については,
その商標が「ウフェナマイルド」と「UFENAMILD」を上下二段にまとまり
よく表してなる態様からなるものであり,拒絶査定不服審判の審決(乙2)では,
上段の「ウフェナマイルド」が,下段の「UFENAMILD」の読み仮名を表し
てなるものと認識されたから,
「ウフェナマイルド」の一連の称呼が生じる商標とし
て理解されたものであって,やはり本件とは事案が異なる。
(イ) 称呼の類否
商標の称呼の類否は,比較される両称呼の音質,音量及び音調並びに音節に関す
る判断要素のそれぞれにおいて,共通し,近似するところがあるか否かを比較する
とともに,両商標が称呼され,聴覚されるときに需要者に与える称呼の全体的印象
が,互いに紛らわしいか否かを考察するものである(商標審査基準(改訂第15版)
第3 十,第4条第1項第11号3.(2)。
)
本件商標の要部「HIRUDO」から生じる「ヒルド」の称呼と,引用商標から
生じる「ヒルドイド」の称呼を比較すると,語頭の3音「ヒルド」が共通し,語尾
部分における「イド」の音の有無という差異を有するのみである。しかも,引用商
標のみが有する差異音「イド」のうち,「イ(i)」の音は,その前音の「ド」の母
音「オ(o)」との二重母音となって,
「ド」の母音に吸収されやすく,聞き取り難い。
また,差異音「イド」のうち,
「ド」の音は,称呼の識別上聴取され難い末尾に位置
するものであるため,この差異音「イド」が,両商標の称呼全体に与える影響は決
して大きいとはいえないから,両商標が称呼され,聴覚されるときに需要者等に与
える称呼の全体的印象は,近似するものとなり,互いに紛らわしいといえる。
特に,本件商標や引用商標のように,文字で構成される商標については,自他商
品の識別標識としての機能を果たす場合において,語頭部分の音が最も重要な要素
となる。したがって,語頭部分の「ヒルド」の3音が共通する両商標をそれぞれ一
連に称呼するときは,その語調,語感が近似し,互いに相紛れるおそれがあるとい
える。
イ 外観について
商標の外観の類否は,商標に接する需要者に強く印象付けられる両外観を比較す
るとともに,需要者が,視覚を通じて認識する外観の全体的印象が,互いに紛らわ
しいか否かを考察する(商標審査基準(改訂第15版) 第3 十,第4条第1項第
11号3.(1)。
)
引用商標1は,
「Hirudoid」の8文字構成であるところ,その半分以上を
占める語頭の6文字「Hirudo」が,6文字構成からなる本件商標の要部「H
IRUDO」の全ての文字と共通する。両商標に共通する「HIRUDO(Hir
udo) の6文字は,
」 両商標において視覚上最も目立つ語頭に位置するものである
から,商標に接する需要者等に強く印象付けられる部分であるといえる。また,本
件商標の全体「HIRUDOMILD」と引用商標1「Hirudoid」を対比
した場合には,語頭の6文字「HIRUDO(Hirudo)」に加え,本件商標の
第8番目の文字「I」と引用商標1の第7番目の文字「i」とが共通し,両者の語
尾の文字「D(d)」も共通するから,両者の外観における全体的印象が,相紛らわ
しい。
したがって,需要者が,本件商標と引用商標1に,時と場所を異にして接すると
きは,需要者の視覚を通じて認識する外観の全体的印象が,互いに紛らわしく,外
観上において,近似した印象を与えるものである。
ウ 取引の実情等
(ア) 引用商標の独創性が高いこと
引用商標を構成する「Hirudoid」及び「ヒルドイド」の文字の独創性の
程度が高いことは,本件審決も認めるとおりである。引用商標の由来は,
「ドイツ語
の Hirudo(蛭属)と oid(~の様なもの)を組み合わせた」独特なもので,原告商
品が,もともと「凝血阻止血行促進剤」として販売されており,ヒル(蛭)の唾液
からは血液を凝固させない成分が出ていることから,
「蛭属の(唾液成分のように凝
血を阻止し血行促進の効果を有する)様なもの」といった意味が込められている。
ところで,「Hirudo」と「oid」は我が国において広く親しまれた外国語ではなく,
「ヒルド」の文字を語頭に有する言葉も,広く使用される国語辞典「広辞苑」等に
載録されていないもので,いずれも商標の構成文字に容易に採択される文字ではな
く,そのような文字を組み合わせてなる引用商標はいわゆる造語であって,その独
創性の程度は極めて高い。
そして,原告は,昭和29年の原告商品の発売開始から現在に至るまで,約60
年にわたり原告商品に引用商標を使用し続けている。ヒルド」 「Hirudo」
「 又は
の文字を語頭に有する独特な構成からなる引用商標の独創性は極めて高いが,原告
の知る限りにおいて,昭和29年の原告商品の発売時,
「Hirudo」 「ヒルド」
や
の文字を語頭に掲げて販売されていた薬剤は市場になく,昭和51年から平成11
年までは,扶桑薬品工業株式会社が,
「ヒルドシン」の名称で,シンナリジン製剤を
販売していたが,平成12年から現在に至るまで,
「Hirudo」や「ヒルド」の
文字を語頭に掲げて販売されてきた薬剤は原告商品のみであった。すなわち,薬剤」
「
を取り扱う業界において,原告は,
「Hirudo」の文字を約60年もの間,独占
的に使用し続け,
「ヒルド」の文字についても約40年もの間,独占的に使用し続け
てきた。そのため,
「薬剤」を取り扱う業界においては,商標の語頭に位置する文字
「ヒルド」又は「Hirudo」やこれより生じる「ヒルド」の称呼の斬新さ,独
創性に注目し,
「ヒルド」の3文字や「ヒルド」の3音から,原告商品を容易に想起
し,あるいは連想するといえる。
上記の取引の実情に照らすと,語頭の6文字「HIRUDO(Hirudo)」
と,これより生じる「ヒルド」の称呼が共通する引用商標1と本件商標は,外観及
び称呼において相紛らわしく,また,語頭における「ヒルド」の3音が共通する本
件商標と引用商標2は,称呼において相紛らわしい。したがって,両商標が「薬剤」
に使用された場合には,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるから,本
件商標と引用商標は,外観及び称呼において相紛らわしい類似の商標である。
(イ) 医療用医薬品の取り違え問題について
引用商標は,原告が販売する医療用医薬品のブランド名として使用され続けてい
る。他方,本件商標の使用状況は確認できないが,本件商標は,医療用先発医薬品
のブランド名の欧文字表記(洋名)として使用され得るものである。医療用医薬品
のブランド名は邦文で構成される必要があるが,本件商標に対応する「ヒルドマイ
ルド」による製造販売承認を取得できたときは,これとともに本件商標を医薬品に
使用することができ,医療用医薬品については,製造販売承認を受けた邦文で構成
される和名と,これに対応するものとして製薬会社が任意に定めた欧文字で構成さ
れる洋名の両方を使用して販売されるという取引実情がある(甲48)。ところで,
「医療用医薬品」については,かねてより,名称(ブランド名)が類似する別の医
薬品との取り違えミスが問題となっており,平成26年に報告された「薬剤取り違
え」事例全817件のうち,医薬品の名称類似に関するものが246件(30.1%),
そのうち頭3文字以上が一致する医薬品の取り違え事例が153件(18.7%)
と最も多い。実際の取り違え事例をみると,語頭の3文字が共通する場合には,そ
の構成文字の数とその文字から生じる称呼の音数,語頭の3文字以外の構成文字に
共通性がなくとも,称呼や外観の全体的印象が互いに紛らわしく,名称が類似する
として,医薬品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるといえる。このような
実情に照らすと,本件商標と引用商標が類似することに起因する医薬品の取り違え
が懸念される。
また,一般論として,医療用医薬品メーカーは,自ら又はその関連会社等を通じ
て,医療用医薬品(処方薬)の市販薬版(スイッチOTC)など,ドラッグストア
等で医師の処方を受けずに気軽に購入できるような市販薬を販売することがあり,
また,このような市販品は,例えば,「ロキソニン」のように,和名の「ロキソニ
ン」とこれに対応する洋名「LOXONIN」の両方を使用して販売されることが
ある。仮に本件商標「HIRUDOMILD」とこれに対応する「ヒルドマイルド」
の文字が付された市販薬がドラッグストア等で販売されたとすれば,その取引者・
需要者は一般消費者であり,その注意力の水準は医療関係者より相当低いものと考
えられる。
以上の取引の実情に照らすと,本件商標が指定商品「薬剤」に使用された場合,
本件商標における引用商標と共通する語頭の6文字「HIRUDO(Hirudo)」
と語頭の3音「ヒルド」によって,本件商標に接した取引者・需要者は,引用商標
を連想し,引用商標が使用される「薬剤」であると,商品の出所につき誤認混同を
生じるおそれがあるから,本件商標は,外観及び称呼において引用商標と相紛らわ
しく,引用商標と類似する商標である。
(被告の主張)
(1) 本件商標と引用商標の外観及び称呼は明らかに相違するため,取引の実情を
考慮するまでもなく,両商標は明らかに非類似である。取引の実情について検討す
るも,引用商標の独創性の有無は商標法4条1項11号の取引の実情として考慮さ
れるべき事情ではない上,仮にこれを考慮したとしても,原告が主張する取引の実
情によって,外観及び称呼において明らかに相違する両商標が類似するということ
になるとはいえない。
したがって,本件商標と引用商標が外観及び称呼において明確に区別できる非類
似の商標とみるのが相当であるとの本件審決の判断には,結論において誤りはない
(ただし,本件商標から「ヒルド」との称呼が生じるという判断部分は誤りである。。
)
(2) 本件商標は,
「HIRUDOMILD」との欧文字10文字を標準文字で横書
きしたものであり,外観上,
「HIRUDOMILD」という一連一体の語であると
捉えられる。外観において,本件商標を殊更に「HIRUDO」部分と「MILD」
部分とに区別すべき理由はない。称呼においても,全体で7音と比較的短い構成音
から無理なく「ヒルドマイルド」という一連の称呼が生じるものであって,称呼上
も「ヒルドマイルド」という一連一体の語であると認識できる。このように,本件
商標は,外観,称呼において「HIRUDOMILD」又は「ヒルドマイルド」と
いう一連一体の語で捉えられることからすると,HIRUDO」
「 部分と「MILD」
部分とを分離観察することこそが取引上不自然である。
仮に「○○MILD(マイルド)」の「◯◯」部分と「MILD(マイルド)」部
分に自他識別機能の強弱の差異があるとしても,
「◯◯」部分と「MILD(マイル
ド) 部分に分離観察するという帰結が正当化されるわけではない。
」 例えば,
「薬剤」
の分野において,「ウフェナ」(登録第6264754号。乙1の7の1)と「ウフ
ェナマイルド\UFENAMILD」
(登録第5286540号。乙1の7の2)の
ように,「○○」との商標と「○○マイルド(MILD)」との商標が併存して商標
登録されている例が多数存在している。
ア 称呼
引用商標から「ヒルドイド」との称呼が生じるが,本件商標は「ヒルドマイルド」
という7音からなるのに対し,引用商標は「ヒルドイド」という5音からなり,本
件商標と引用商標とは,その構成音・音数が明らかに相違する。
万が一,審決が認定するように,本件商標から「ヒルド」との称呼が生ずるとし
ても,この称呼は「ヒルド」という3音からなるのに対し,引用商標は「ヒルドイ
ド」という5音からなり,両者は構成音・音数が明らかに相違する。本件商標から
生ずる「ヒルド」との称呼と引用商標の称呼「ヒルドイド」とは,
「ヒルド」という
3音において共通するものの,引用商標には,第4音「イ」及び第5音「ド」が続
いていることから,両者の語調・語感は明らかに相違する。引用商標の「ヒルド」
に続く「イド」の部分においては有声破裂音である「ド」が用いられており,
「イド」
という発音が明瞭に認識されるのであるから,引用商標「ヒルドイド」の発音は「ヒ
ルド」という3音の称呼とは全く異なる。引用商標は,
「ヒルドイド」と全体を一体
的によどみなく称呼されるのが通常であり,また,そのいずれの発音も明瞭に認識
されるものであるから,万が一,本件商標から「ヒルド」との称呼が生ずるとして
も,本件商標と引用商標の称呼は明らかに相違し,非類似である。
イ 外観
本件商標は「HIRUDOMILD」の欧文字10文字からなるものであるのに
対し,引用商標1は「Hirudoid」の欧文字8文字からなるもので,本件商
標と引用商標1とは,文字数及び構成全体の文字において明らかに相違する。また,
引用商標2は「ヒルドイド」という片仮名5文字からなり,本件商標とは欧文字と
片仮名という差異を有し,明らかに相違する。
原告は,引用商標1の語頭の6文字「Hirudo」が本件商標の要部とする「H
IRUDO」の全ての文字と共通すると主張するが,上記のとおり,本件商標を「H
IRUDO」部分と「MILD」部分に分離して観察すべきではなく,
「HIRUD
OMILD」という一連一体の構成として捉えられるべきである。仮に本件商標を
「HIRUDO」部分と「MILD」部分とに分離観察し,
「HIRUDO」部分を
本件商標の要部として引用商標1との外観の類否を検討するとしても,本件商標の
要部とされる「HIRUDO」と引用商標1「Hirudoid」とでは,両者の
語頭「H」以外の部分においては,外観上,小文字と大文字との違いがある。また,
引用商標1「Hirudoid」には7文字目の「i」及び8文字目「d」が存在
するから,本件商標と引用商標1とは,文字数構成文字が明らかに相異し,外観上,
両者を見間違えることはない。
さらに,原告は,本件商標「HIRUDOMILD」と引用商標1「Hirud
oid」を比較した場合,本件商標の8文字目「I」と引用商標1の7文字目「i」,
両商標の語尾「D(d)」が共通するから,両者の外観における全体的な印象が相紛
らわしいと主張する。しかし,文字順を捨象して部分的に共通する文字を都合よく
抜き出して議論すること自体が失当であるし,両商標は文字数及び構成全体の文字
において明らかに相違することからすると,単に部分的に共通する文字があるとし
ても,その外観が相紛らわしいものになるとはいえない。
「HIRUDO」に続く文
字という視点で観察すると,本件商標は「MILD」という4文字であるのに対し
て引用商標1は「id」という2文字であり,外観上,両者を見間違えることはお
よそ考えられない。
ウ 観念
本件商標と引用商標は,いずれも構成文字全体をもって特定の観念を有しないか
ら,両者を観念において比較することはできない。
エ 取引の実情
(ア) 引用商標の独創性について
裁判例においても審査基準においても,商標の類否判断における取引の実情は,
指定商品又は指定役務全般についての一般的,恒常的な取引の実情を指すものであ
って,単にその商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的,限
定的な取引の実情を考慮しないものとされているところ,原告は引用商標の独創性
が高いことを主張するが,これらは,引用商標に関する特殊的・限定的な事情をい
うものにほかならず,考慮すべき取引の実情に当たらない。
原告は,引用商標の「Hirudo」又は「ヒルド」部分を殊更に強調して,引
用商標の独創性があると主張するが,引用商標は,
「Hirudoid」又は「ヒル
ドイド」という一連一体の造語として創作されたものであり,
「Hirudo」 「ヒ
や
ルド」部分が独立して創作されたわけではないし,需要者が,殊更に「Hirud
o」や「ヒルド」部分を取り出して,この部分に特徴があると認識することなどあ
り得ず,これを裏付ける証拠もない。引用商標の独創性は,それが認められるとし
ても,
「Hirudoid」 「ヒルドイド」
又は という語全体に認められるにすぎず,
「Hirudo」や「ヒルド」部分が独立して独創性を有する訳でない。
また,
「ヒルド」の3文字又は「ヒルド」の3音から原告商品を容易に想起,連想
するという原告の主張も理由がない。原告商品は「Hirudoid」又は「ヒル
ドイド」であって「Hirudo」や「ヒルド」ではない。原告商品は,医療用医
薬品であり,医師の処方によって選択・決定されるものであるところ,医師等の医
療関係者が原告商品の語頭の「ヒルド」の3文字又は「ヒルド」の3音部分のみに
着目して原告商品の取引が行われているといった事実も一切ない。
「ヒルド」と称呼
される文字を語頭に掲げて販売されていた商品が「ヒルドシン」を除いて原告商品
以外に存在しなかったとしても,そのことが,
「ヒルド」の3文字又は「ヒルド」の
3音が原告商品を示すことを意味するわけではないし,平成30年頃以降,一般用
医薬品の市場では,
「ヒルドプレミアム」という薬剤(医薬部外品)が販売されてお
り(乙3),もはや「薬剤」の分野において語頭に「ヒルド」という文字を掲げてい
る薬剤は原告商品だけではない。
(イ) 医療用医薬品の取り違え問題について
医療現場における語頭3文字が共通する医療用医薬品の取り違えミスは,ヒヤリ・
ハット事例5399件のうちの僅か約2.8%(153件)にすぎず,名称の語頭
3文字が共通することが医療用医薬品の取り違えの一般的な原因であるかのように
いう原告の主張は明らかに誇張である(名称の語頭3文字が共通するから医薬品の
取り違えが発生しているわけではない。。一方,商標の類否は,需要者の通常有す
)
る注意力を基準として判断され,注意力の散漫な者や慎重な者については基準とさ
れないと解すべきところ,医療関係者が通常の注意を払った場合であっても,名称
の語頭3文字が共通する医薬品を取り違えているというような事情はない。
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性に関する判断の誤り)について
(原告の主張)
本件審決は,原告使用商標が独創性の高いものであることは認定しつつ,①原告
使用商標の周知著名性に関する認定を誤り,②本件商標と原告使用商標との類似性
の程度に関する認定を誤り,③本件商標と原告使用商標に関する商品間の関連性や
取引の実情等を踏まえた出所の混同のおそれに係る認定を誤ったものであり,その
判断において明らかな誤びゅうを含むものである。
(1) 原告使用商標の周知著名性
ア 原告による継続的かつ多数の広告
原告は,原告商品の発売以来現在に至るまで,原告商品の広告宣伝活動として,
①原告使用商標(「ヒルドイド」及び「Hirudoid」)を付した広告を医学関
係の専門雑誌や日本全国各地で開催される学会の学会要旨集等に掲載し(甲17),
②同商標を付した原告商品の掲載されるパンフレット等を病院等の医療機関に配布
するなどの活動(甲18)を全国的に行ってきた。原告は,原告商品の専門雑誌及
び学会要旨集への広告掲載費用として,平成27年10月~令和2年9月の直近5
年間だけでも合計●●●●●●以上の費用を投入しており(甲17,49),年間平
均約●●●●●●で推移している。また,原告は,昭和29年10月の原告商品の
販売開始以来,現在に至るまで継続的に原告商品の広告を実施してきたもので,こ
れまでに投入された広告費の総額や頒布された広告の総数はばく大なものとなる。
過去に医療用医薬品の商品の表示に係る周知著名性が認められた事例においても,その
年間広告金額は「1000万円以上」であったなどと認定されている(東京高裁平成1
1年(行ケ)第309号同12年9月4日判決(甲50)
)ことに照らしても,原告によ
る原告商品の年間の広告金額は,医療用医薬品の広告規模として決して小さくない。
イ 原告商品の売上げ及び高い市場占有率
原告商品は,以下に示すとおり,平成26年度~平成30年度の5年間において
年間約420~520億円を売り上げており,全ての国内医療用医薬品を対象とす
る年間売上ランキング(エンサイスリサーチセンター調べ/平成29年度(201
7年度))で上位20位以内に入るほどの売上規模を誇る商品である(甲53)。
また,原告商品は,外用の処方薬のうち,厚生労働省公表のNDBオープンデー
タの薬効分類「333 血液凝固阻止剤」に分類される商品市場において,平成26年
度~平成30年度の期間で,80%前後の高い市場占有率(金額ベース)を有して
いる(甲20,甲54)。数量でみた市場占有率も,過去5年間(平成26年度~平
成30年度)において50~70%と高い水準で推移している。これらの証拠に照
らせば,本件査定日(令和元年7月30日)においても,ヒルドイドが70~80%
(金額ベース)の高い市場占有率を有していたことが推認される。本件審決が,原
告商品の市場占有率について,本件商標の登録査定時における数値は明らかでなく,
それ以前の市場占有率をもって推し量ることもできないと認定したことは誤りであ
る。
ウ 原告以外の者による周知活動
原告は,本件審判において,一般需要者向けの複数の雑誌やウェブサイトなどに
おいて,原告使用商標が付された原告商品が紹介されていることを示す証拠を提出
した(甲24,25(いずれも枝番を含む。以下,特記しない限り枝番があるものは枝
番を含む。)
)。これらの証拠は,原告商品が,これらの媒体や個人間の伝達(いわゆ
る「口コミ」)により,従来の取引者及び処方薬の需要者のみならず,敏感肌や乾燥
肌などの肌の状態の改善を望む需要者の間において,周知著名性を獲得したことを
示すものといえる。
ところが,本件審決は,①原告商品について一般人を対象とする広告が行われて
いないこと,②一般需要者向けの雑誌における原告商品に関する記事はスキンケア
商品として美容目的で掲載されているものであるなどとのみ述べて,一般需要者向
けの雑誌やウェブサイト,口コミにより原告商品が広く知られるところとなったこ
とついて,全く認定していない。
そもそも,商標法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」を判断するに当たり,
他人の業務に係る商品又は役務の表示が,自らの広告のみによって広く認識される
に至ったのか,それとも自らの広告のみならず第三者の口コミ等の評判によって広
く認識されるに至ったのかということは,問題とならないはずである。
また,一般需要者向けの雑誌には「皮膚科で処方してもらった」「処方薬」「処方
箋が必要なコスメ」
「皮膚科処方のヒルドイド軟膏」等と表示されており,原告商品
が医療用医薬品として販売されていることが明示されている。そうすると,これら
の記事により医療用医薬品の原告商品が広く認識されるようになったということは
疑いのないところである。
本件審決は,原告作成に係る適正使用を要請する文書(甲29)について,原告
商品の広告とはいえないなどとして,周知著名性の認定に当たって考慮に入れてい
ないが,同文書は,製薬メーカーとして同文書を公表しなければならないほど,原
告商品の優れた保湿効能が一般需要者向けの複数の雑誌やウェブサイトなど原告の
預かり知らないところで盛んに取り上げられ,広く認知・拡散されていたというこ
とを証明するものである。
したがって,原告商品の周知著名性に関する本件審決の認定は誤りである。
エ 類似品の出現
一般需要者向けの複数の雑誌やウェブサイトなどで原告商品が盛んに取り上げら
れ,そのことが広く認知されたことを受けて,原告商品に含まれる「ヘパリン類似
物質」を含有する保湿クリームやローション剤等を「一般用医薬品」や「医薬部外
品」として発売する第三者が多く現れたが,その中には,独創性の高い原告使用商
標と同じ語頭(「ヒルド」又は「ヒル」)を冠する標章(例えば,
「ヒルメナイド」
「ヒ
ルセリン」
「ヒルドプレミアム」)を使用するものがある。そして,第5類の「薬剤」
や第3類の「化粧品」を指定して「ヒルド」 「ヒル」「Hirudo」又は「Hi
, ,
ru」の文字を語頭に有する商標が,原告とは無関係の第三者によって商標登録出
願されるようになった。また,インターネット上において原告商品の顧客吸引力に
フリーライドするような宣伝文句(例えば,
「処方薬のヒルドイドソフト軟膏と同じ
ヘパリン類似物質を配合した乳液タイプの薬です」 をうたう第三者の
) 「ヘパリン類
似物質」を含有する商品が散見される。これらのことからすれば,
「ヘパリン類似物
質」を含有する血行促進・皮膚保湿剤である「ヒルドイド」という原告商品の表示
が,取引者・需要者に広く認識されており,その顧客吸引力にフリーライドするよ
うな第三者の商品が市場に出回っているものと認められる。
オ その他原告商品の周知著名性を示す事実
原告商品の優れた効果については,多数の医師著述文献において取り上げられ,
原告商品に信頼を寄せる多くの医師が,原告商品を必要とする患者に積極的に処方
していることを読み取れる。原告が2007年度(平成19年度)ポーター賞を受賞
するなど,原告商品は,その革新性が評判となり医療業界で広く受け入れられて定着し
ていた。
また,原告は,肌の悩みを抱え,皮膚薬(塗り薬)を使用したことのある日本全
国に居住する20歳以上の男女を対象に「ヒルドイド」の認知度に関するアンケー
トを実施したが,その結果,主に皮膚の乾燥に起因すると考えられるトラブル(乾
燥,シミ・シワ,湿疹・かぶれ)を抱えて何らかの皮膚薬(処方薬に限らず,いわ
ゆる市販薬を含む。)を使用している又は過去1年に使用していた一般消費者のう
ち,約5割の人が保湿剤としての「ヒルドイド」を認知しており,特に女性の間に
おいては,「ヒルドイド」の認知度は約60%という非常に高い数値が顕出された。
この結果からも,ヒルドイドという原告商品の表示が,市販薬の使用者も含め,取
引者・需要者の間で広く認識されていることが裏付けられる。
ところで,被告は,昨年(令和2年)からヘパリン類似物質を含有した「ヒルマイル
ド」という乾燥肌治療薬を一般用医薬品として販売しているが,語頭の「ヒル」という
文字がヒルドイドと共通しているため,ヒルマイルドに接した多くの需要者が,原告商
品であるヒルドイドを想起している。
このように,
「ヒルドイド」及び「Hirudoid」という原告使用商標は,本件商
標の登録出願時及び登録査定時において,原告商品の表示として取引者・需要者の間に
広く認識されていた。
(2) 本件商標と原告使用商標との類似性
前記1(原告の主張)のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼について
相紛らわしい互いに類似する商標であり,原告使用商標は引用商標と同じである。
したがって,本件審決が,本件商標と原告使用商標とを「外観及び称呼において明
確に区別できる非類似の商標」と認定したことは,誤りである。
(3) 本件商標と原告使用商標に関する商品間の関連性や取引の実情等を踏まえた
出所の混同のおそれ
上記(1)及び(2)のとおり,原告使用商標は,原告商品を示すものとして,原告商
品を取り扱う医療関係者や原告商品の処方を受ける患者のほか,乾燥肌などの肌の
状態の改善を望む一般需要者の間において周知著名なものと認められ,かつ,本件
商標と原告使用商標は外観及び称呼において明瞭に区別できず,相紛らわしいもの
である。また,本件商標の指定商品は「薬剤」であって,引用商標の指定商品「薬
剤」と同一である。加えて,本件審決も認めるとおり,
「ヒルドイド」という商標は
独創性の高いものであることから,出所の識別力が強いといえる。医薬品の取引の実
態として,語頭3文字が共通することにより,取引者・需要者が出所を混同するおそれ
がある。被告自身も,第5類「薬剤」について,
「ヒルドマイルド」「HIRUDO
,
MILD」「ヒルドソフト」「HIRUDOSOFT」「ヒルマイルド」「HIR
, , , ,
UMILD」「ヒルMILD」という文字からなる複数の商標を登録出願し,これ
,
に加え,被告が,昨年からヘパリン類似物質を含有した「ヒルマイルド」という一般用
医薬品(市販薬)を乾燥肌治療薬として販売し,現に原告商品との誤認混同を招いてい
ることからすれば,被告において,本件商標の登録や使用の動機が,原告商品の周知著
名な表示である「ヒルドイド」及び「Hirudoid」の顧客吸引力にフリーライド
することを意図したものであることが強く疑われる。
このような取引の実態に加え,原告商品の有効成分と同じ「ヘパリン類似物質」
を有効成分とする一般用医薬品や保湿に係る医薬部外品の多くは,一般消費者向け
に数百円から千数百円程度というような比較的安価な価格で取引されており,需要
者が商品の表示をじっくり検討し,高度の注意を払って購入する類の商品ではない。
以上のことを総合的に勘案すれば,原告商品の顧客吸引力(ブランド力)にフリー
ライドすることを意図しているとみられる被告が,本件商標を指定商品である薬剤に
用いた場合には,これに接する取引者・需要者において,その通常用いる注意力か
らすれば,
「ヒルド」という語頭の音が共通するために,独創性の高い原告使用商標
である「ヒルドイド」
「Hirudoid」を想起,連想して,当該商品を原告の業
務に係る商品,あるいは原告と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務
に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれがあるもの
と認められる。
(4) 被告の主張に対する反論
ア 被告は,本件商標が現在使用されておらず,今後使用するとしても医療用医
薬品のブランド名としての使用が想定される旨主張する。しかし,被告は,本件審
判請求事件における答弁書において,本件商標が「一般用医薬品または医薬部外品
に使用される」ものであると明確に述べており,現に,被告は,令和2年6月に,
本件商標と称呼が同じ「ヒルドマイルド」を販売名とし,ヒルドイドと同じヘパリ
ン類似物質を含有する市販薬(一般用医薬品)の製造販売承認を厚生労働省から受
けている。したがって,被告の本件商標が医療用医薬品のみに用いられるという主
張には理由がなく,むしろ,商標権者である被告の認識や意図としては,本件商標
について,医療用医薬品の名称としての使用は想定しておらず,薬剤のうち市販薬
に使用することを想定しているといえる。
イ 被告は,本件で周知著名性の基準となる取引者・需要者は,医師等の医療関
係者のみであると主張する。しかし,医療用医薬品の購入者(最終需要者)が患者
であり,患者もその表示を認識することや,医療用医薬品メーカーが,自ら又はそ
の関連会社等を通じて,医療用医薬品(処方薬)の市販薬版(スイッチOTC)な
ど,ドラッグストア等で医師の処方を受けずに気軽に購入できるような市販薬を販
売することはよく知られていることからすれば,商標の周知性や混同の判断基準た
る取引者・需要者という概念には,医療関係者のみならず患者である一般消費者も
含まれると解するべきである。
(被告の主張)
本件審決は,本件商標の登録が商標法4条1項15号に違反してされたもので
はないと判断しているところ,この判断に誤りはない。
(1) 本件商標と引用商標とは明らかに非類似であること
前記1(被告の主張)のとおり,本件商標と原告使用商標である引用商標とは外
観及び称呼において明確に区別可能な明らかに非類似の商標である。
(2) 引用商標に周知著名性がないこと
引用商標は,医療用医薬品である原告商品に用いられているが,この医療用医薬
品の選択・決定は,医師の処方をはじめとする医療関係者の判断によって行われ,
広告も,その選択・決定の主体である医療関係者に対してのみ許容されているので
あるから,原告商品の取引者及び需要者は,医師等の医療関係者である。ところで,
原告が提出する証拠には,原告商品の取引者又は需要者である医療関係者に対す
る周知性を基礎づけるに足りる証拠価値があるとはいえず,引用商標が原告商品
の表示として取引者又は需要者の間に広く認識されていたとはいえない。
(3) 本件商標の使用が原告商品と混同を生ずるおそれがないこと
原告商品が,医療用医薬品として医師等の医療関係者が専門家としての高度な
注意義務の下で取り扱われるものであるなどの事情に鑑みれば,本件商標が指定
商品「薬剤」に使用されたとしても,原告の業務に係る商品と混同するおそれはな
い。本件商標は,現在まで一度も使用されていないが,下記(4)エのとおり,被告
は,今後も本件商標を市販薬に使用する予定は全くなく,また,後発医薬品に使用
することはできないのであるから,商標法4条1項15号該当性の判断において
は,本件商標の指定商品(薬剤)における医療用医薬品の取引者及び需要者を対象
とし,本件商標が医療用先発医薬品のブランド名として使用されることを想定し
て審理すべきである。そして,当該医療用先発医薬品が原告商品と有効成分・効能
効果が同一となる(すなわち,原告商品の後発医薬品となる)ことはないところ,
医療用医薬品を選択・決定する専門家である医師等が,専門家としての高度な注意
義務に基づいて選定する以上,有効成分・効能効果が異なる医薬品同士につき,混
同を生ずるおそれはない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,引用商標が周知著名性を有していることの根拠として原告商品の
売上げ及び市場占有率を挙げるが,原告商品と競合する医療用医薬品市場のうち,
ヘパリン類似物質含有商品市場に恣意的かつ局所的に限定した上での主張であり,
当を得ない。原告商品(ヒルドイド)は,血行促進・皮膚保湿に関連する様々な疾
患に効能効果を有する皮膚治療剤であり,この効能効果と重複・関連する皮膚治療
剤は,ヘパリン類似物質含有商品に限定されない。上記の皮膚治療剤の市場は,平
成30年度においては,合計159種類の医薬品からなり,販売高2009億47
26万7939円との大きな市場規模を有しており,この市場規模に照らせば,原
告商品の市場占有率は約24%程度にすぎない。なお,原告は,市場占有率を金額
ベースで取り上げているが,グラムベースで算出すべきであり,グラムベースでみ
ると,上記皮膚治療剤の市場においては,平成26年度から平成30年度までの原
告商品の市場占有率は20%前後にすぎない(乙8)。原告商品が先発医薬品であ
ることからすれば,医学文献が存在することは当然であり,また,ポーター賞は原
告商品が受賞したものではなく,これらの点は原告商品の周知著名性を根拠づけ
るものとはいえない。そのほか,原告は,一般需要者向けの雑誌記事や市販薬の出
現等の事情を挙げるが,これらの事情は医療関係者に対する原告商品の周知著名
性を基礎づけるものではない。
原告は,本件の周知著名性の基準となる取引者・需要者に医療用医薬品の購入者
(最終需要者)である患者も含まれると主張するが,医療用医薬品を患者が購入し
ようとする場合,医師等による処方箋が必要となり,医師等の医療関係者が極めて
専門的な知識・経験に基づき,かつ,業務上の責任を伴って,適切な医薬品を選択
し,処方を決定するものであるから,医療用医薬品の選択主体は,患者ではなく,
医師等の医療関係者である。原告使用商標が使用されている医療用医薬品の市場は,
専ら医師等の医療関係者との関係で展開されるものである。仮に原告使用商標の周
知著名性の基準とすべき需要者に一般消費者が含まれるとしても,原告使用商標に
つき,医療用医薬品とは規制・入手経路・販売場所・市場・需要者・価格がおよそ
異なる市販薬の取引者及び需要者である一般消費者に対して周知著名性があるとは
いえない。一般消費者が需要者に含まれると仮定した場合,原告商品の売上規模を
考えるに当たって考慮すべき他の同種商品市場は,①原告商品と同種の効能効果を
有する他の医療用医薬品市場の約2009億4726万円(平成30年) ②原告商
,
品と同種の効能効果を有する一般用医薬品市場の850億6000万円(平成30
年) ③乾燥肌等に対するスキンケア商品を含む化粧品市場の1兆4053億円
, (平
成31年・令和元年),の合計1兆6913億0726万円となる。そうすると,ヒ
ルドイドの平成30年度の売上高約482億円(乙8の5)が市場全体に占める割
合は約2.85%にすぎない。また,原告商品の宣伝広告等に関して原告が提出し
た証拠は,専ら医療関係者に向けられた宣伝に係るものであり,一般消費者が接す
るものではない。医療用医薬品を一般消費者に向けて宣伝広告することは禁止され
ていることから,原告が,一般消費者に向けて原告商品の宣伝広告を行った実績は
一切存在せず,一般消費者に対して原告商品の商品陳列が行われたこともない。原
告商品の宣伝広告等に関して原告が提出する書証は専ら医療関係者に向けられたも
のであり,そもそも一般消費者が接するものではない。原告は,一般消費者に向け
て原告商品の宣伝広告を一切行っていないだけでなく,むしろ徹底して原告商品が
一般消費者の目に触れないように措置を講じており(乙13) このような原告商品
,
について,一般消費者に広く認識されているとはいえない。
ところで,一時期(平成26年~平成29年頃),美容に関心の高い女性が乾燥
肌等の愁訴により医師の処方を受けて原告商品を使用するという事象が生じ,社
会問題化した。そこで,健保連は,原告商品の処方を保険適用から除外する提言を
行うに至った(乙19)。原告は,原告商品の処方が保険適用から除外されることを
防ぐため,平成29年10月,ヒルドイドの適正使用を要請する文書(乙20)を
発出した。その結果,一般消費者によって原告商品が需要されることはなくなり,
女性誌等が原告商品を美容目的や乾燥肌(皮膚乾燥症,皮脂欠乏症)の対策目的で
取り上げる事態は生じなくなった。このように,原告自身が,原告商品が一般消費
者によって需要されることがないように働きかけている。
これらの点を勘案しても,本件商標登録出願時(平成30年8月8日)及び登録
査定時(令和元年7月30日)において,引用商標が一般消費者に対する周知著名
性を有していたということはできない。
イ 本件商標は,英語の「healed」
(ヒールド:瘉された,治された)と「mild」
(マイルド:ものごとの柔らかいさま)を組み合わせ,称呼しやすいように長音を
省き,誰にでも判読しやすいように称呼に合わせて前半部の綴りをローマ字表記
したものであり,前記1(原告の主張)(2)ウ(ア)で原告が主張する引用商標の由来
とは全く異なる。原告主張の由来に基づくならば,引用商標は「ヒル(蛭)」とい
う人の血を吸う危険で不快な生物を想起させることとなるのに対し,本件商標は,
healed と mild という,症状を優しく穏やかに癒す・治すというイメージを想起さ
せるから,両者が想起させるイメージは全く反対のものである。両商標が由来の全
く異なる造語として,それぞれ独創性を有し,相反するイメージを想起させる以
上,両商標を混同するおそれはない。
ウ 原告は,被告が「ヒルマイルド」との名称の一般用医薬品を販売しているこ
となどから,引用商標の顧客吸引力にフリーライドすることを意図していることが
強く疑われるなどと主張するが,そもそも,引用商標は周知著名性を有しておらず,
本件商標とは明らかに非類似であるから,上記主張は前提を欠く。本件訴訟におい
て判断されるべき対象は「HIRUDOMILD」という本件商標であるから,
「ヒルマイルド」の販売は本件と何ら関連しないが,原告は,本件において,引用
商標の語頭の「ヒルド」が独創的であり,当該部分の共通性をもって本件商標と引
用商標が類似すると主張しているのであるから,一部の文字部分及び2音しか共
通しない「ヒルマイルド」を殊更に取り上げて,被告が引用商標の顧客誘引力への
フリーライドを意図しているなどという原告の主張には一貫性がない。
エ 原告は,本件商標が医療用医薬品ではなく市販薬に用いられることを前提と
して「混同を生ずるおそれ」があると主張するが,このような主張は不自然・不適
切である。
被告は,ヘパリン類似物質を含有する保湿剤の市販薬である「ヒルマイルド」を
令和2年6月に上市したが,その商品名として本件商標を含む様々な標章を候補と
して検討を進め,最終的に「ヒルマイルド」との名称を使用することに決定し,
「ヒ
ルマイルド」標章の商標登録を得,同標章を上市以来現在に至るまで,ヘパリン類
似物質を含有する市販薬に使用している。この決定に伴い,本件商標については使
用しないことを決定した。
「ヒルマイルド」は,発売初年から瞬く間にヘパリン類似
物質含有商品の市販薬市場のトップシェア商品に上り詰めており,その商品名を変
更することはあり得ない。
「ヒルマイルド」については,原告が販売停止等を求める
仮処分命令申立てをしたが,原告の主張は認められず,同申立ては却下された(乙
10)。これらの事情を踏まえれば,もはや被告が「ヒルマイルド」とは異なる本件
商標を市販薬に用いることはおよそ想定できず,被告自身も本件商標を市販薬に使
用することを全く予定していない。原告は,本件商標での販売承認が存在すること
を指摘するが,事業にとって不要となった承認を取り消す申請手続の労力等に鑑み
れば,そのような取消申請手続をとる必要もないというにすぎない。
オ 仮に本件商標が市販薬に使用されたとしても,医療用医薬品と市販薬では,
規制・入手経路・販売場所・市場・需要者・価格がおよそ異なり,両者の需要者は
このような相違ゆえに両者が別物であることを明確に認識する。よって,本件商標
が市販薬に用いられたとしても,医療用医薬品である原告商品に付された原告使用
商標(引用商標)との間で混同が生じるおそれは全くない。
第5 当裁判所の判断
1 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(1) 原告商品及び原告使用商標
ア 原告は,昭和29年,凝血阻止血行促進剤「ヒルドイド」を発売し,平成2
年,
「ヒルドイド」の薬効分類を血行促進・皮膚保湿剤に変更した。その後,原告は,
平成8年に血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイドソフト」を,平成13年に血行促進・
皮膚保湿剤「ヒルドイドローション」を,平成30年に血行促進・皮膚保湿剤「ヒ
ルドイドフォーム」を発売した。原告商品は,ヘパリン類似物質製剤であり,クリ
ーム,ソフト軟膏,ローション又はフォームの剤形の商品である。原告商品はチュ
ーブ又は瓶に包装されており,チューブ又は瓶には「ヒルドイド」の標章の下に「H
irudoid」の標章がいずれも横書きで表示されており,これらの原告使用商
標は引用商標と実質的に同一であるものと認められる。なお,原告は,引用商標2
の出願頃までは原告商品に「Hirudoid」の標章のみを表示していたものと
推認される。(甲12,15,16,93)
イ 昭和29年当時,
「ヒルド」を語頭に付した名称の医薬品は市場に存在してお
らず,
「ヒルド」又は「ヒルド○○」との名称が付された医薬品としては,原告製品
の他には扶桑薬品工業株式会社のシンナリジン製剤である「ヒルドシン」が昭和5
1年から平成11年まで販売されていたものの,それ以降現在に至るまで,ヒルド」
「
を語頭に付した名称の医薬品は原告商品のみである。(甲13,46,47)
ウ 令和2年2月12日時点において,語頭に「ヒルド」又は「HIRUDO」
を付する第5類「薬剤」を指定商品とする商標としては,原告を権利者とする引用
商標,「ヒルドイドソフト」及び「HIRUDOIDSOFT」,扶桑薬品工業株式
会社を権利者とする「ヒルドシン\HIRDSYN」が登録されているほかは,被
告を権利者とする本件商標,
「HIRUDOMILD」「ヒルドソフト」及び「HI
,
RUDOSOFT」が登録されているのみである(被告の商標はいずれも平成30
年8月8日出願,令和元年9月6日登録) その他,
。 株式会社Stay Freeが,
平成30年10月12日に「ヒルドプレミアム」という商標の登録を得ているが,
その指定商品は第3類「化粧品」である。(甲14,69)
エ エンサイススナップショットデータ(薬価基準ベース)2017年度(平成
29年度)版によると,原告商品は,平成29年度には医療用医薬品の年間売上げ
で19位であった。NDBオープンデータによると,原告商品の平成26年度から
平成30年度までの売上げは,それぞれ417億円,464億円,472億円,5
21億円,482億円で,ヘパリン類似物質含有製剤又は血液凝固阻止剤の中での
市場占有率は,それぞれ,数量で69%,65%,61%.57%.53%(いず
れも小数点以下四捨五入。以下同じ。,金額で83%,81%,79%,76%,
)
73%であった。なお,原告商品は日本全国で流通している。
(甲20,36,53,
54)
オ 原告は,原告商品について,医学専門雑誌等に原告使用商標を付した原告商
品の広告を掲載したり,原告商品のパンフレットなどを病院等の医療機関に配布す
るなどの広告活動をしており,平成19年10月から令和元年9月までの間,年●
●●●●●●●●●●●(1万円未満切捨て)の広告費用を支出した。また,原告
は,自社のホームページのうち医療関係者のみが参照することを予定するページに
おいて,原告商品の説明を掲載している。なお,ヒルドイド(原告商品)の効能に
ついては医師が執筆した多数の医学文献が存在し,原告は,ヒルドイド(原告商品)
に「皮脂欠乏症」の効能を追加することに成功したことなどが評価されて「200
7年度(平成19年度)第7回ポーター賞」を受賞した。
(甲15~18,21,2
3,49,51,52,91,92,乙13の3)
カ 原告商品は,アンチエイジングの効果がある又は肌荒れ・乾燥に効果のある
保湿クリームとして評判となり,平成26年から平成29年にかけて,原告商品を
化粧下地に用いること,夜のスキンケアとして肌に塗り込むこと,美容液・乳液の
代わりに使用することなどが複数の女性誌やブログで取り上げられた。
(甲24,2
5)
キ 健康保険組合連合会は,平成29年9月,数年前から美容に関心の高い女性
の間で,皮膚科等を受診し「乾燥肌(皮脂欠乏症)」等の訴えにより「ヒルドイド」
(各種タイプ,後発品含む)を化粧品代わりに処方してもらうことが流行している
可能性が高いことを指摘し,保湿剤の処方における保険適用の範囲を縮小すること
等を提言する内容の「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅲ」を取り
まとめた。(乙19)
ク 原告は,平成29年10月18日,ヒルドイドの適正使用に関するお知らせ」
「
と題する文書を公表し,今後とも,原告商品の美容目的での使用を推奨していると
受け取られかねない記事に対して,厳しい姿勢で臨むことなどを明らかにした。
(甲
29,乙20)
ケ NERAエコノミックコンサルティングが,令和3年2月から同年3月まで
に,乾燥,シミ・シワ,湿疹・かぶれのいずれかのお肌の悩みを抱えており,処方
された又は市販の皮膚薬(塗り薬)を使用中又は1年以内に使用したことがある人
を対象として実施したアンケート調査によると,対象者全体の44%が「ヒルドイ
ド」という言葉から保湿剤を想起し,女性の60%が保湿剤を想起した。また,
「ヒ
ルドイド」から保湿剤を想起した者の92%が原告商品のパッケージをみて,ヒル
ドイドのパッケージであると回答した。(甲57)
(2) その他のヘパリン類似物質含有製剤について
ア 日経ウーマンのウェブサイトに掲載された平成30年12月6日付の記事に
は,『ヒルドイド』で知られる医療用保湿剤の成分,ヘパリン類似物質を配合した
「
市販品とコスメが,18年秋に相次いで登場した。」として,「ヒルメナイド油性ク
リーム」(マツモトキヨシ)「ヒルセリンローション」
, (株式会社コジット)等の商
品が紹介されている(甲26の1)。また,平成30年10月頃,上記ヒルメナイド
油性クリームは,店頭において,
「ヒルドイドソフト軟膏と同処方」との文字及び原
告商品の写真が掲載されたPOPを伴って販売されていたことがある(甲27の1)。
株式会社コジットは,平成30年9月から早くとも令和元年12月まで,同社のホ
ームページにおいて,医薬部外品である「ヒルセリンクリーム」及び「ヒルセリン
ローション」の説明として,『ヒルドイド』と同様の“ヘパリン類似物質”を配合」
「
と記載していた(甲27の3)。株式会社NALCは,平成30年9月から早くとも
令和元年12月まで,同社のホームページにおいて,
「あのヒルドイドと同じ有効成
分配分の最強保湿乳液‘NALC薬用ヘパリンミルクローション’がこの秋,NA
LCより誕生!」などと記載した。その他,令和元年9月,同年12月及び令和2
年2月において,オンラインショップが,ヘパリン類似物質が配合された医薬部外
品や市販品(いずれも原告商品ではないもの)について「ヒルドイド」
「ヒルドイド
と同じ有効成分」「ヒルドイドのジェネリック」「ヒルドイドで有名な『ヘパリン類
似物質』を配合」などと記載して販売している例が多数みられる(甲27の5,甲
30,31)。
イ 「ヒルドプレミアム」について
株式会社Stay Freeが,
「ヒルドプレミアム」というヘパリン類似物質配
合の医薬部外品の化粧品として,クリーム及びローションを販売しているが,令和
3年3月から同年6月にかけて確認された,同商品が販売されているオンラインシ
ョップの購入者のレビューやSNSの書き込みの中には,「ヒルドイドにプレミア
ムってあるんですね」「ヒルドイドの市販品」「ヒルドイドが効くという事で・・
, ,
こちらの商品を注文」というように原告商品そのもの又はその市販品であるものと
誤解しているものが複数あり,原告商品と混同して「ヒルドイドプレミアム」と呼
んでいるものや,
「ヒルドイドかと思ったら・・」
「ちがってました。」と原告商品と
誤解して購入した旨の記載,商品名とパッケージが原告商品に似ている旨の記載な
どがみられる。(甲72~84)
ウ 原告は,平成31年1月から令和3年2月にかけて,取引先の病院・クリニ
ック等から,ヒルドプレミアムについて,
「ネット見るとヒルドイドのすごいいいや
つという感じだよ」「あまりにもそっくりなためマルホがOTC出したのかと思っ
,
て患者さんと驚いていた」,処方薬(原告商品)がなくなったので「ヒルドイドプレ
ミアムというヒルドイドソフト軟膏とそっくりな物を購入してみた」という患者に
「OTCで多くの類似商品が販売されている」と伝えた,ヒルメナイドについて,
「マルホがやっと出したかと思った」「名前もヒルドイドと似ているのでマルホと
,
して対策はできないのか」などと言われた。(甲32,38,44)
エ 「ヒルマイルド」について
(ア) 被告は,令和2年6月29日,ヘパリン類似物質を0.3%配合する一般用
医薬品である乾燥肌治療薬「ヒルマイルド」
(ヒルマイルドクリーム及びヒルマイル
ドローション。以下併せて「ヒルマイルド」という。)の販売を開始し,同年9月1
2日,テレビCMの放映を開始した。(甲39の1・2)
(イ) ヒルマイルドの販売開始時,
「あのヒルドイドが店頭で新発売!」と記載した
POPを使用したドラッグストアがある。また,原告は,数十件の取引先の病院・
クリニック等から,ヒルマイルドが原告の商品であることを前提とした質問を受け
たり,ヒルマイルドに原告が関与しているのかと質問を受けるなどした。(甲41,
43)
(ウ) 原告は,大阪地方裁判所に対し,被告を相手方として,商標法36条1項・
2項及び不正競争防止法3条1項・2項に基づきヒルマイルドの販売等の差止めを
求める仮処分の申立てをしたが,同裁判所は,令和3年7月9日,ヒルマイルドの
標章と引用商標は類似しないと判断して,同申立てを却下した。(乙10)
(エ) 上記(ウ)の仮処分の申立てに関するウェブニュースに対する読者コメント(全
1845件)をみると,ヒルマイルドについて,原告商品と同じ又は原告商品が薬
局で買えるようになったものと認識していた旨の記載が複数あり,その他にも原告
商品と商品名やパッケージが似ている旨の記載を加えると,全体の56%が原告商
品とヒルマイルドが似ているという趣旨のものであり,似ていないという趣旨のコ
メントは全体の2%であった。(甲84,85)
(3) 一般に,医薬品メーカーが,医療用医薬品のうち一定の要件を満たしたもの
について販売許可を得て,医療用医薬品と有効成分や用法・容量が同じまま市販薬
として販売することがあり,これらの医薬品をスイッチOTC薬といい,例えば,
ロキソニンS,アレグラFXなどがある。(甲65,66)
(4) 医療分野では,医薬品の名称が似ていることによる取り違え事故が後を絶た
ないとされており,複数の医薬品メーカーが医療関係者に対する注意喚起をしてい
る。薬剤(処方薬)のオーダリングシステムにおいて,頭3文字を入力して検索す
ることで,別の商品名の薬と間違える割合が有意に減少した。(甲7~10,61,
63)
(5) 「mild」は「(飲食物・味などが)軽い,刺激が少ない」(薬が)穏やかに作用
「
する」といった意味の英単語であるが,
「マイルド」との表記で「物事の程度や人の
性質・態度などが穏やかなさま。「刺激の少ないさま。
」 」などを意味する単語として
一般的な国語辞典に掲載されており,会話中などにおいても日常的に使用される単
語である。特に,薬剤の分野においては,ステロイド外用薬の強さを5段階で表し
た場合に「ウィーク(weak) に次いで弱いことを意味するものとして使用されたり,
」
「効き目がマイルド」「マイルドな作用」などと薬効や作用が弱いことを表したり,
目薬の差し心地が優しいこと,洗眼薬が瞳にしみないこと,飲み口が良いことなど
薬を用いる際の刺激が弱いことを表す単語と認識されている。例えば,
「ロート ア
ルガード クリアマイルド」「スマイル40EXゴールドマイルド」「アイボンマ
, ,
イルド」など,薬効や刺激の弱い薬剤を表すものとして,ブランド名とともに商品
名に用いられている。(甲4~6,59,60)
2 商標の類否について
商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商
品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,
それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取
引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,
かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づ
いて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月
27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の
構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支
配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識と
しての称呼,観念が生じないと認められる場合等,商標の各構成部分がそれを分離
して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているも
のと認められない場合には,その構成部分の一部を抽出し,当該部分だけを他人の
商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭
和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号
1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・
民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8
日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁)。
3 本件商標及び引用商標
(1) 本件商標について
ア 本件商標は,
「HIRUDOMILD」の10文字の標準文字で表してなるも
のであり,「ヒルドマイルド」の称呼が生じるものである。
ところで,本件商標が10文字からなるものでその一部のみを観察することも想
定可能な程度の長さを有していること,その構成中の「MILD」の文字部分は,
前記1(5)のとおり,「物事の程度や人の性質・態度などが穏やかなさま。「刺激の
」
少ないさま。」などを意味する英単語として広く知られ,また,会話中においても日
常的に使用されており,ひとまとまりの語句として強く認識され得るものであるこ
とからすると,本件商標は,
「HIRUDO」の構成部分と「MILD」の構成部分
からなる結合商標であるとみることができる。
そして,
「HIRUDO」の構成部分は,我が国において周知されているものでは
ないから一種の造語と理解され,同構成部分に対応する和名の「ヒルド」は,前記
1(1)のとおり長期間にわたって原告商品の他には薬剤の名称には使用されておら
ず,薬剤の名称としてありふれたものではないことからしても,需要者に対し,商
品の出所識別標識として強い印象を与えるといえる。これに対し,
「MILD」の構
成部分は,前記1(5)のとおり,薬剤の分野においては,薬の効果や刺激が弱いこと
を意味するものとして理解され,その和名である「マイルド」は薬のブランド名等
とともに商品名に用いられることが相当程度にあるから,指定商品である薬剤との
関係において,自他識別機能は極めて弱いというべきであり,
「MILD」の構成部
分から出所識別標識としての称呼,観念が生じるとはいえない。
そうすると,本件商標については,
「HIRUDO」の文字のみを抽出し,この部
分だけを引用商標と比較して類否を判断することも許されるというべきである。
イ したがって,本件商標については,
「HIRUDOMILD」の外観及び「ヒ
ルドマイルド」の称呼のほか,
「HIRUDO」の外観及び「ヒルド」の称呼が生じ
るものとして引用商標と比較することが相当である。なお,
「HIRUDO」は特定
の意味合いを有しない一種の造語と理解され,本件商標からは特定の観念を生じな
いというべきである。もっとも,上記1(5)からすれば,「HIRUDOMILD」
が薬剤に使用された場合には,「薬効又は刺激が弱い『HIRUDO』」という観念
が生じ得ると認めるのが相当である。
(2) 引用商標について
ア 引用商標1は,
「Hirudoid」の8文字のアルファベットからなるもの
であり,
「ヒルドイド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく,特定
の意味合いを有しない一種の造語と理解され,特定の観念を生じない。
イ 引用商標2は,「ヒルドイド」の5文字の片仮名からなるもので,「ヒルドイ
ド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく,特定の意味合いを有し
ない一種の造語と理解され,特定の観念を生じない。
4 本件商標と引用商標1の類否
本件商標と引用商標1の類否について検討する。
(1) 本件商標の指定商品は「薬剤」であり,引用商標1の指定商品は「薬剤(蚊
取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。 」を
)
含むものであって,その指定商品は同一又は類似である。
(2)ア 本件商標は,その10文字中,7文字目の「M」,9文字目の「L」を除
く「HIRUDO(Hirudo)「I(i)「D(d)
」 」 」の8文字が,引用商標1
と大文字と小文字の差はあるものの共通し,その並び順も同じである。次に,称呼
についてみると,本件商標と引用商標1は,
「ヒルド」
「イ」
「ド」の5つの構成音が
共通し,その並び順も同じであり,本件商標の方が引用商標1よりも「マ」と「ル」
の2音多いものの,印象の強い語頭の3音と語尾の1音が同じである。そして,前
記3(1)のとおり,本件商標は,薬剤に使用された場合,「薬効又は刺激が弱いHI
RUDO」を連想させるものである。
イ 本件商標の「HIRUDO」の構成部分と引用商標1を比較すると,大文字
と小文字の差はあるものの,その6文字全てが引用商標1の冒頭6文字と共通し,
その3つの構成音全てと引用商標1の語頭の3つの構成音が共通する。「HIRU
DO」及び引用商標1はいずれも特定の意味を有しない造語であり,それ自体から
特定の観念は生じない。
(3) 原告商品は医療用医薬品であるものの,その需要者は医療関係者に限られる
ものではなく,その最終需要者は患者である上に,前記1(2)のように,記事やオン
ラインショップ等で,市販品であるヘパリン類似物質含有製剤について 『ヒルドイ
「
ド』で知られる医療用保湿剤の成分」を配合している旨の説明がされるほどに「ヒ
ルドイド」が市販品である保湿剤の購入者に知られていたと推認されることからし
ても,原告使用商標が表示された原告商品の需要者には,医師等医療関係者のみな
らず患者も含まれるというべきである。本件商標の付された商品は存在しないもの
の,仮に被告が主張するように医療用医薬品のみに使用されるものであったとして
も上記需要者の認定を左右しない。
その上で,取引の実情について検討するに,前記1(1)及び(2)のとおり,引用商
標1を表示した原告商品が60年以上にわたり販売されていること,原告が原告商
品について一定の宣伝活動を継続していること,平成29年度には原告商品が医療
用医薬品の年間売上げで19位となるなど非常に高い売上げを有していること,平
成26年度から平成30年度までの間のヘパリン類似物質含有製剤又は血液凝固阻
止剤の分野における原告商品の売上占有率は,徐々に減少しているものの全期間を
通じて金額にして7割,数量にしても5割を超えていたこと,平成29年頃には,
アンチエイジングの効果がある又は肌荒れ・乾燥に効果のある保湿クリームとして
女性誌等でも取り上げられ,美容目的で処方を受ける例があることが疑われるなど
として問題視されるまでになっていたこと,原告が適正な処方をするよう注意喚起
した後に,原告商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部
外品)が複数販売されるようになり,製造者や販売店が,
「ヒルドイドで有名な『ヘ
パリン類似物質』を配合」などと説明するなどしていたこと及び令和3年2月から
同年3月に実施されたアンケートによると乾燥肌等に対する皮膚薬を使用又は1年
以内に使用した者の44%が「ヒルドイド」を保湿剤であると認識していたことか
らすると,平成29年頃までには,需要者の相当割合の者が,
「ヒルドイド」という
造語及びこれに対応する欧文字の「Hirudoid」から,
「ヘパリン類似物質を
配合した保湿剤」である原告商品を想起するものと認められ,長期間をかけて形成
されたこの状況は,本件商標の出願日及び本件査定日においても継続していたもの
と認めるのが相当である。
また,昭和51年から平成11年まで販売されていた「ヒルドシン」を除けば,
語頭に「ヒルド」や「HIRUDO(Hirudo)」が付された薬剤は原告商品の
みであったこと,原告が原告商品について適正な処方をするよう注意喚起した後に,
原告商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部外品)が複
数販売されるようになり,そのうち医薬部外品の一つは語頭に「ヒルド」を用いて
おり,一部の購入者が原告商品の市販品であると誤解して購入するなどしていたこ
と等に照らすと,本件商標の出願日及び本件査定日時点において,需要者の間では,
「ヒルド」やこれに対応する欧文字の「HIRUDO」は,
「ヒルドイド」及び「H
IRUDOID」を意味する単語として認識されており,
「ヒルド」に対応する欧文
字の「Hirudo」は「Hirudoid」を意味するものと認識されていたと
認めるのが相当であるから,
「HIRUDO」と引用商標1は,いずれも「ヘパリン
類似物質を配合した保湿剤であるヒルドイド」を想起させるということができ,観
念を共通とするものと認められる。
(4) 被告の主張について
被告は,
「○○」と「○○MILD」の両方が商標登録されている例が複数ある旨
指摘するが,これらの登録例は,同一権利者による商標出願に係るものか,指定商
品が異なるか,
「○○」の部分が「PRECIOUS」など特定の意味を有する単語
であるなどしていて,本件とは事案が異なる(乙1)。また,「ウフェナ」の文字を
標準文字で表してなる商標が,ウフェナマイルド」
「 の文字と「UFENAMILD」
の文字を上下二段に表してなる構成の引用商標と類似しないと判断した審決例(乙
2)があるが,当該引用商標の構成が本件商標及び本件の引用商標とは異なる上,
同審決においては取引の実情が考慮されていないなど本件とは事案が異なるもので
ある。
次に,被告は,語頭に「ヒルド」を付す名称の薬剤は原告商品のみではない旨主
張するが,
「ヒルド」を語頭に付した名称の商品が原告商品の他に複数販売されてい
る状況が長期間にわたり継続するなどして「HIRUDO」の構成部分の出所識別
機能が失われたとまで認めるべき事情はないから,これらの商品の存在は,本件商
標と引用商標1の類否の判断に影響しない。
(5) 上記を総合すると,本件商標と引用商標1は,指定商品が同一で,外観,観
念,称呼に共通している部分があり,同一又は類似の商品に使用された場合に,商
品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというほかないから,両商標は類似
すると認めるのが相当である。
5 以上のとおり,本件商標は,その商標登録出願の日前の商標登録出願に係る
他人の登録商標である引用商標1と類似するもので,引用商標1の指定商品と同一
又は類似する商品を指定商品とするものであるから,商標法4条1項11号に該当
し,登録することができない。原告の主張する取消事由1は理由がある。
そうすると,その余の点につき判断するまでもなく,本件審決は取消しを免れな
い。
第6 結論
以上のとおり,原告の請求は理由があるから,本件審決を取り消すこととして,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
浅 井 憲
裁判官
勝 又 来 未 子
別紙 (引用商標)
1 登録第459931号商標
商標の構成:「Hirudoid」
登録出願日:昭和29年5月12日
設定登録日:昭和30年2月10日
書換登録日:平成17年10月19日
指定商品:第5類「薬剤(蚊取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬
用せっけん・薬用酒を除く。,キナ塩,モルヒネ,チンキ剤,シロップ剤,
)
煎剤,水剤,浸剤,丸薬,膏薬,散薬,錠薬,煉薬,生薬,薬油,石灰,硫
黄(薬剤),鉱水,打粉,もぐさ,黒焼き,防腐剤,防臭剤(身体用のものを
除く。,駆虫剤,ばんそうこう,包帯,綿紗,綿撤糸,脱脂綿,医療用海綿,
)
オブラート」
2 登録第1647949号商標
商標の構成:「ヒルドイド」
登録出願日:昭和56年1月30日
設定登録日:昭和59年1月26日
書換登録日:平成16年11月4日
指定商品:第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カ
プセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パ
ンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド」並びに第1
類及び第10類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
以上
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