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平成26(ネ)10071特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成26年12月24日
事件種別 民事
当事者 控訴人武田レツグウエアー株式会社
被控訴人コーマ株式会社
対象物 くつ下の製造方法
法令 特許権
特許法100条1項1回
キーワード 特許権17回
無効14回
侵害9回
実施5回
無効審判5回
審決5回
損害賠償3回
差止3回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 本件は,発明の名称を「くつ下の製造方法」とする特許権(特許番号第28 95473号。本件特許権1)及び発明の名称を「くつ下」とする特許権(特 許番号第3316189号。本件特許権2)を有する控訴人が,被控訴人によ る原判決別紙被告方法説明書記載の方法(被告方法)の使用は本件特許権1を, 被控訴人による原判決別紙被告物件目録記載の製品(被告製品)の製造,販売 等は本件特許権2を,それぞれ侵害する行為であると主張し,被控訴人に対し, 特許法100条1項に基づき,被告方法の使用,並びに被告製品の製造及び販 売等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,被告製品及びその半製品 (原判決別紙被告製品構造説明書(原告)記載の構造を具備しているが製品と して完成するに至らないもの)の廃棄を求め,併せて,主位的には本件特許権 1及び2の侵害による損害賠償請求権(民法709条)に基づき,損害賠償金 3億1680万円(特許法102条3項に基づく損害額2億8800万円及び 弁護士等費用2880万円)の,予備的には不当利得返還請求権(民法703 条,704条)に基づき,実施料相当額の不当利得金2億8800万円の支払 を求めた事案である。

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判決文

平成26年12月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成26年(ネ)第10071号 特許権侵害差止等請求控訴事件
原審・東京地方裁判所平成24年(ワ)第16647号
口頭弁論終結日 平成26年11月19日
判 決

控 訴 人 武田レツグウエアー株式会社

訴訟代理人弁護士 大 久 保 朝 猛
同 吉 川 大 介
同 前 川 香
補 佐 人 弁 理 士 田 代 攻 治

被 控 訴 人 コ ー マ 株 式 会 社

訴訟代理人弁護士 阪 本 政 敬
同 中 川 美 佐
同 阪 本 敬 幸
訴訟代理人弁理士 前 田 厚 司
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,原判決別紙被告物件目録記載の製品を製造し,販売し,譲渡し,

貸し渡し,輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙被告物件目録記載の製品,半製品(原判決別紙被告
製品構造説明書(原告)記載の構造を具備しているが製品として完成するに至
らないもの)を廃棄せよ。
4 被控訴人は,控訴人に対し,3億1680万円及びうち192万円に対する
平成17年1月1日から,うち832万円に対する平成18年1月1日から,
うち1792万円に対する平成19年1月1日から,うち2304万円に対す
る平成20年1月1日から,うち3264万円に対する平成21年1月1日か
ら,うち4480万円に対する平成22年1月1日から,うち6080万円に
対する平成23年1月1日から,うち7040万円に対する平成24年1月1
日から,うち2816万円に対する平成24年7月10日から各支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
5 なお,控訴人は,平成26年11月19日の当審第1回口頭弁論期日におい
て,第1審で求めていた原判決別紙被告方法説明書記載の方法の使用の差止請
求部分(原判決事実及び理由の第1の1項に記載の請求)につき,訴えを取り
下げ,被控訴人はこれに同意した。
この点につき,被控訴人は,平成26年12月5日付「弁論再開申立書」(平
成26年12月5日受付)中で,上記同意は被控訴人訴訟代理人の錯誤による
ものであるから無効である旨主張するが,訴えの取下げに対する相手方の同意
は訴訟行為であって,私法行為ではないから,錯誤による無効を主張すること
は許されないというべきである。仮に,これが許される場合があるとしても,
本件においては,被控訴人は,第1回口頭弁論期日において訴えの取下げがあっ
た平成26年11月19日から2週間以内に異議を述べなかったから,訴えの
取下げに同意したものとみなされる(民訴法297条,261条5項)。した
がって,被控訴人の上記主張は理由がなく,控訴人による上記訴えの取下げの
効力は左右されない。

第2 事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。)
1 本件は,発明の名称を「くつ下の製造方法」とする特許権(特許番号第28
95473号。本件特許権1)及び発明の名称を「くつ下」とする特許権(特
許番号第3316189号。本件特許権2)を有する控訴人が,被控訴人によ
る原判決別紙被告方法説明書記載の方法(被告方法)の使用は本件特許権1を,
被控訴人による原判決別紙被告物件目録記載の製品(被告製品)の製造,販売
等は本件特許権2を,それぞれ侵害する行為であると主張し,被控訴人に対し,
特許法100条1項に基づき,被告方法の使用,並びに被告製品の製造及び販
売等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,被告製品及びその半製品
(原判決別紙被告製品構造説明書(原告)記載の構造を具備しているが製品と
して完成するに至らないもの)の廃棄を求め,併せて,主位的には本件特許権
1及び2の侵害による損害賠償請求権(民法709条)に基づき,損害賠償金
3億1680万円(特許法102条3項に基づく損害額2億8800万円及び
弁護士等費用2880万円)の,予備的には不当利得返還請求権(民法703
条,704条)に基づき,実施料相当額の不当利得金2億8800万円の支払
を求めた事案である。
なお,附帯請求は,損害賠償金又は不当利得金のうち192万円に対する平
成17年1月1日から,うち832万円に対する平成18年1月1日から,う
ち1792万円に対する平成19年1月1日から,うち2304万円に対する
平成20年1月1日から,うち3264万円に対する平成21年1月1日から,
うち4480万円に対する平成22年1月1日から,うち6080万円に対す
る平成23年1月1日から,うち7040万円に対する平成24年1月1日か
ら,うち2816万円に対する訴状送達日の翌日である平成24年7月10日
から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求である。
2 原判決は,①本件特許権1に係る特許(本件特許1)について被控訴人が請
求した特許無効審判(無効第2013-800065号)において,被請求人

である控訴人が,本件特許1の特許請求の範囲請求項1の記載等の訂正の請求
をし,平成25年12月19日,控訴人の請求のとおり訂正を認める旨の審決
がされ(甲50),同審決は確定したにもかかわらず,本件において,控訴人
は,被告方法が上記訂正後の本件特許1の特許請求の範囲請求項1に記載され
た発明(本件発明1)の技術的範囲に属する旨の主張をしないから,その余の
点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する本件特許権1の侵
害を理由とする請求はいずれも理由がない,②被告製品の構成は,本件特許権
2に係る特許(本件特許2)について平成23年12月22日発行された審決
公報末尾記載の訂正明細書によって訂正された本件特許2に係る明細書(本件
明細書)の特許請求の範囲請求項1に記載された発明(本件発明2)の構成要
件Cを充足せず,被告製品は本件発明2の技術的範囲に属しないから,その余
の点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する本件特許権2の
侵害を理由とする請求はいずれも理由がない,として,控訴人の請求をいずれ
も棄却した。
そこで,原判決を不服として,控訴人が控訴したものである。
3 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正
し,後記4のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事
実及び理由」の第2の1及び2,並びに第3記載のとおりであるから,これを
引用する(以下,原判決を引用する場合は,「原告」を「控訴人」と,「被告」
を「被控訴人」と,それぞれ読み替える。)。
原判決4頁3行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「分割の表示 特願平10-120756の分割」
原判決10頁2行目「一方,」から同頁6行目「不可欠なものである。」
までを次のとおり改める。
「一方,被告製品の爪先は,甲部側と足裏側を,それぞれ正逆転編部AB,
BBを含む4枚の台形状正逆転編部によって構成したものであり,正逆転編

部BA・BB間及びAA・AB間にある正転編部B’及びBは,いずれも正
逆転編部BB及びABを製編するのに不可欠なものである。」
原判決10頁11行目「被告展開図」を「別紙図C改」と改める。
原判決12頁中,7行目から8行目にかけての「(別紙図Dの斜線部分」
を「(原告展開図の斜線部分」と,13行目から14行目にかけての「aa
-Ca線」を「Ca-aa線」と,14行目「 Ca’-aa’線」を「a
a’-Ca’線」と,17行目「aa-Ca線」を「Ca-aa線」と,2
0行目「aa’-Ca’線」を「Ca’-aa’線」と,21行目「Aa’
-Ca’線」を「Ca’- Aa’線」と,24行目から25行目にかけての
「aa-Ca線,aa’-Ca’線」を「Ca-aa線,Ca’-aa’線」
と,それぞれ改める。
原判決13頁8行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「ウ したがって,被告製品は構成要件Cを充足する。」
原判決14
る。
「なお,控訴人は,無効審判請求事件(無効2008-800254)に
おける無効理由を解消するため,「・・・厚み増加用編立部分の端縁が実質的に
V字状に形成されている」との技術的事項を,平成22年2月22日付訂正
請求書により,「・・・前記爪先部の先端を上に向けて見たとき,厚み増加用編
立部分の端縁がV字状に形成されている」と訂正したものであるから(甲8),
この部分の記載は厳格に解釈されるべきである。」
原判決別紙(47頁)被告製品構造説明書(被告)の下から3行目「甲部
側の甲部側の端縁」を「甲部側の端縁」と改める。
4 当審における当事者の主張
争点1-2(構成要件Cの充足性)について
〔控訴人の主張〕

被告製品は,以下のとおり,本件発明2の構成要件C(「且つ前記厚み増
加用編立部分の親指側の面積が拡大するように,前記厚み増加用編立部分を
爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき,厚み増
加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」)を充足し,本件発明2の
技術的範囲に属する。
ア 被告製品の正転編部B,C及びB’は,本件発明2の「厚み増加用編立
部分」を構成することについて
本件明細書に記載された実施例における「厚み増加用編立部分20a,
20b」は,次に示す図A(b)のJK線からMK線までの間の領域全
体を指すものであるが,上記領域において,①親指側に偏って編み込ま
れ,②親指側の厚みを増し,③最先端部位置を親指側に偏らせる,とい
う3要件を充たす部分は,図A(b)の斜線部分(20aのうちHJG,
20bのうちHMG)のみである。
図A


しかしながら,本件明細書では,上記①~③の要件を充たす上記斜線
部分のみならず,これを充たさないその他の部分(20aのうちJKL
G,20bのうちMKLG)を含めて「厚み増加用編立部分20a,2

0b」と定義しているのであるから,被告製品の正転編部B,C及びB’
が上記①~③の要件を充たさないからといって,これが本件発明2の「厚
み増加用編立部分」に該当しないとすることはできない。
原判決は,上記①~③の要件を充たさないことを理由に,被告製品の
正転編部B,C及びB’が本件発明2の「厚み増加用編立部分」を構成
するものではないとするものであり,不当である。また,この判断は,
原判決が,上記①~③の要件を充たさない部分(正逆転編部AB及びB
Bのうち,原判決別紙被告製品構造説明書(原告)図D(原告展開図)
における斜線部分に相当する領域を除く部分)を含む被告製品の正逆転
編部AB及びBBの全体が本件発明2の「厚み増加用編立部分」に相当
すると判断していることとも矛盾するものである。
被告製品の正転編部B,C及びB’自体が上記①~③の要件を充たさ
なくても,「厚み増加用編立部分」に相当する領域内に,上記①~③の
要件を充たす部分(原告展開図における斜線部分)が存在する限り,正
転編部B,C及びB’を含む「厚み増加用編立部分」は,全体として,
上記①~③の要件を充たしているのであるから,被告製品の正転編部B,
C及びB’は,被告製品における「厚み増加用編立部分」の一部を構成
するものというべきである。しかも,正転編部B,B’は正逆転編部A
B,BBと一体となって親指側にマチとして介在し,これによってマチ
のない小指側よりも親指側の厚みを増加させている。
原判決別紙被告製品構造説明書(被告)添付の被告製品展開図(被告
展開図)において,下から編み進んで足裏側の厚み増加用編立部分に相
当する正逆転編部ABを編み立てる際,点Abは,正逆転編部AAの点
Caよりも更に左側に突出しているため,丸編機によりCa点から正逆
転編部ABを編み立てることは,正転編部Bを介することなしには実現
不可能である。被告製品は,この問題を解消し,親指側に突出する「厚

み増加用編立部分」を製編するために,正転編部Bを数コース加えるこ
とによって正逆転編部ABの編み立てを初めて可能にしているものであ
る。
そうすると,被告製品において,正転編部Bは,正逆転編部ABを編
み立てるための「必須不可欠の編部」となるものであるから,両者は一
体不可分の関係にあるといえる。
被告製品が,従来技術には存在もしない正転編部B,B’をあえて設
けた目的は,親指側に偏倚した正逆転編部AB,BBの製編を可能にす
るためであって,かかる目的と,さらには正転編部B,B’は正逆転編
部AB,BBを製編するために必須の編部であると明言する被控訴人の
意図とを考慮すれば,正転編部B,B’が「厚み増加用編立部分」に相
当しないなどとする判断はあり得ない。
したがって,被告製品において「厚み増加用編立部分」に相当する正
逆転編部ABと一体不可分な関係にある正転編部Bを,「厚み増加用編
立部分」を構成するものではないとする原判決の判断は合理性を欠くと
いうべきである。
被告展開図において,被告製品の正転編部Bを「厚み増加用編立部分」
の一部を構成するものとみるか否かは,編み立てが下側から進められて
Aa-Ba線で正逆反転編に転じた後に,「厚み増加用編立部分」の編
み立て開始時点を,正転編部Bに転じたときのCa-Da線からと見る
のか,それとも正転編部Bを通過した後の正逆転編部ABの編始端であ
るAb-Bb線からと見るのかの相違となる。
原判決の判断によれば,正転編部Bを通り越した後,正逆転編部AB
(Ab-Bb線)に至って初めて,「厚み増加用編立部分」の編み立て
が開始されることになる。
本件明細書においては,従来技術にない領域である「20a」「20


b」を「厚み増加用編立部分」と記載しているのであり,従来技術との
対比からすれば,被告展開図のCa-Da線からCa’-Da’線まで
に示す,従来技術にはない正転編部B,C及びB’をも含めた領域の全
体をもって,「厚み増加用編立部分」とみる方が合理的であって,正逆
転編部ABにとって必須の要素となる正転編部Bをわざわざ,「厚み増
加用編立部分」でも,従来技術における爪先領域でもない「第3の領域」
とする論拠に乏しい。
以上によれば,被告製品の正転編部B,C及びB’は,本件発明2の
「厚み増加用編立部分」を構成するというべきである。
イ 被告製品における「正転編部の編端(編始端及び編終端)」は,本件発
明2の「端縁」に該当することについて
本件明細書の段落【0004】には,「・・・爪先部12の足裏側1
00aと甲部側100bとの端縁には,各側を形成するループの一部が
互いに絡み合わされて成る連結線AC,BDが形成されている。この連
結線AC,BDは,針釜60が正方向又は逆方向に回動した際の回動端
でもある。」との記載,段落【0016】には,「・・・爪先部12を
形成する部分の各端縁には,各部分の縁部を形成するループの一部が互
いに絡み合わされて連結されて成る連結線HJ,IK,KL,HMが形
成されている。この連結線HJ,IK,KL,HMは,針釜が正方向又
は逆方向に回動した際の回動端でもある。」との記載があるが,「回動
端でもある。」の主語は,「連結線」であって「端縁」ではない。また,
段落【0016】は,本件発明2の実施形態に係る記載にすぎず,本件
発明2の技術的範囲が実施例に限定される必然性はない。
そもそも,くつ下の円滑な袋状表面を形成するため,くつ下のはき口
を除いて端縁はそのままの状態に放置されることはあり得ず,必ず他の
端縁との間で連結されることになるから,端縁には連結線が形成される。

回動端ではない端縁であっても,他の端縁との連結は不可避の条件であ
り,そのためには端縁に必ず連結線が形成されることになる(はき口を
除く。)。端縁が回動端でなければ連結ができないなどという制約はな
い。製編の過程でできた「はし」を縫合することを述べている本件明細
書において,「端縁」が「回動端」であるか,「正転編の編端」である
かを区別しなければならない必然性はない。
本件明細書には,「連結線は回動端でもある。」との記載はあっても
(段落【0004】,【0016】,【0021】,【0028】),
「端縁は回動端である。」との記載はない。
本件明細書中に「回動端」との記載があるのは上に示す4段落のみで
あり,しかも,これらはいずれも「回動端でもある。」との記載に留まっ
ており,また,本件発明2において,「端縁」が「回動端であること」
が重要な技術的要素であると説明された箇所は本件明細書中に一つもな
い。 本件明細書中の「連結線は回動端でもある。」という記載は,
あくまでも補助的,予備的な記載にすぎず,また,「…でもある。」と
の表現は,日本語の一般的用語からは,「…でもないこともある。」と
の意味を示唆しているともいい得る。
「端縁」の用語を素直に解釈すれば,単に「はし」「へり」「ふち」
などの意味と理解されるのであり,この用語から「回動端」でなければ
ならないなどの意味は生じない。
原判決は,回動端以外の連結部については,本件明細書中において,
「開口部の端部」(段落【0002】),「最終端となる開口部」(段
落【0006】)等と「端縁」とは異なる用語を用いていることを理由
に,控訴人の,「端縁」は,回動端に限らず,相互に縫合されてゴアラ
インが形成される箇所をいうとの主張を排斥している。
しかしながら,本件明細書では,「厚み増加用編立部分」の「はし」

を「端縁」,その縫合に関しては「連結(線)」と記載し(段落【00
06】ほか),指摘された開口部の「はし」を「端部」,その縫合に関
しては「逢着(部)」と記載して(段落【0002】ほか),両者を区
別しているが,その理由は,両者の間では加工工程において根本的な相
違があるためである。
すなわち,爪先部の厚み増加用編立部分に存在する「端縁」同士の縫
合は,丸編機によりくつ下の編み立てと同時進行で順次行われるもので
あって,丸編機によるくつ下の編み立てが最終的に開口部に至って完了
するまでの間に,これら「端縁」同士の縫合は全てが完了する。これに
対し,「開口部の端部」は,丸編機によって縫合されることなく,開口
したままの状態で丸編機から放出される。そして,この開口部の正転編
部の「はし」はその後,ミシン等により別工程で縫合されることによっ
て,くつ下が完成するのである。
したがって,原判決における上記指摘は,被告製品の正転編部の編端
が「端縁」に該当することを否定する理由とはならない。
被告製品における正転編部の編端は,回動端以外の連結部ではあって
も,「開口部の端部」のように丸編機によるくつ下編み立ての最終端で
もなく,また,ミシン等を使用する別工程によって縫合される箇所でも
ない。丸編機により正逆転編の間に編み立てられ,かつ,丸編機の編み
立ての過程において同時併行的に他の「はし」(正逆転編部AAの端縁)
と縫合されるものである。これを,敢えて「端縁」ではなく,別工程で
縫合される「開口部の端部」と同列に論ずる方が不自然な解釈である。
以上のとおり,本件発明2における「端縁」は,「相互に縫合されて
ゴアラインが形成される箇所」をいうのであって,「回動端」に限られ
ないというべきである。
そして,被告展開図において,被告製品の正転編部Bの編端aa-C

a線は,正逆転編部AAの端縁であるAa-Ca線と連結されてゴアラ
インを形成し,正転編部B’の編端aa’-Ca’線は,正逆転編部B
Aの端縁であるAa’-Ca’線と連結されてゴアライン(連結線)を
形成するのであるから,被告製品の「正転編部の編端」は,本件発明2
にいう連結線が形成される「端縁」に相当する。
ウ 本件発明2と被告製品とは,技術的思想の観点において同一であること
被告製品では,わずか数コースの正転編部を追加することでV字状の形
成を,本件発明2の「厚み増加用編立部分」の「端縁」から「正転編部」
の「はし」に移し替えるだけのものであり,技術的思想の観点からは,両
者の間に実体的な差異は見られない。
被告製品は,本件発明2によるくつ下の基本的構造には何ら影響を及ぼ
さない,かつ,くつ下にとっては必須不可欠の編部でもない,3本の正転
編部を余分に加えることによって,本件発明2の技術的範囲に含まれる構
造を実現可能にしただけのものであるといえる。別の言い方をすれば,「厚
み増加用編立部分」における親指側に余分に編み込まれた突出部分の編み
立てが,本件発明2においては,下から上へ「増加→減少」となっている
ものを,被告製品では「減少→増加」となるように親指側部分を二股に分
けて置き換えているだけである。
上記のとおり,本件発明2と被告製品とは,「厚み増加用編立部分」の
形状は異なるものの,その根本にある技術的思想の点に相違は見られない。
エ 以上によれば,被告展開図におけるaa-Ca線,Ab-Cb線,Cb’
-Ab’線,Ca’-aa’線は,いずれも「厚み増加用編立部分」の「端
縁」に当たる。
そして,被告製品の爪先部を先端に向けて見たときに,Ab-Cb線が
正転編部Cに縫合されてできるゴアラインと,aa-Ca線がCa-Aa
線に縫合されてできるゴアラインとの間,Cb’-Ab’線が正転編部C

に縫合されてできるゴアラインと,aa’-Ca’線がAa’-Ca’線
に縫合されてできるゴアラインとの間は,それぞれV字状を形成している。
また,この両V字状を合わせて,より大きなV字状が形成されている。
したがって,被告製品は,「前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が
拡大するように,前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前
記爪先部の先端を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字
状に形成されている」ものであるから,本件発明2の構成要件Cを充足す
る。
〔被控訴人の主張〕
ア 被告製品が構成要件Cを充足しない旨の原判決の判断は正当であること
本件発明2における「端縁」は「回動端」と一致することについて
a 本件明細書の段落【0016】には,「・・・爪先部12を形成す
る部分の各端縁には,各部分の縁部を形成するループの一部が互いに
絡み合わされて連結されて成る連結線HJ,IK,KL,HMが形成
されている。この連結線HJ,IK,KL,HMは,針釜が正方向又
は逆方向に回動した際の回動端でもある。」と記載されている。
上記記載によれば,爪先部12を形成する「端縁」は,各部分の縁
部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連
結線HJ,IK,KL,HMが形成されている箇所であり,これら以
外に「端縁」は存在しないことが明らかである。すなわち,段落【0
016】に「各端縁には」と記載されていることからすれば,爪先部
12を形成する部分の「端縁」であって,そのような連結線が形成さ
れていない部分は存在しないということになる。
以上のとおり,本件発明2の「端縁」とは,各部分の縁部を形成す
るループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線が形成
される箇所のみを指すといえる。

b また,上記段落【0016】の記載によれば,連結線HJ,IK,
KL,HMは,爪先部12を形成する各部分(足裏側の台形部分及び
平行四辺形部分20aと甲部側の台形部分及び平行四辺形部分20
b)の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結され
て成るものであることも明らかである。ここで「縁部」とは,本件明
細書の段落【0014】及び【0015】に記載された丸編機による
一連の製編過程において,縁を形成する部分,すなわち,正逆転編の
際に針釜の回動が反転して編糸が折り返す箇所をいい,足裏側の台形
部分及び平行四辺形部分20aと甲部側の台形部分及び平行四辺形部
分20bの斜辺にあたるHJ,IK,KL,HMを意味するものとし
か解し得ない。爪先部12を形成する際には,針釜が正逆方向に交互
に回動し(正逆転編) 編み立てに関与する編針の針数を増減させつつ

製編するが,回動が正から逆,逆から正へと反転する際に,編糸が折
り返す箇所に「縁」が形成されるのであり,爪先部12でこのような
「縁」ができるのは,HJ,IK,KL,HMのみであるからである。
爪先部12であっても,JK,HL,MKは,丸編機による製編過程
において縁を形成しないので,「縁部」とはなり得ない。
連結線の形成過程を見れば,「連結線」は,正逆転編の際に,編糸の
折り返し箇所において形成される,通常の連続した編目とは異なる
ループの一部が,互いに絡み合わされて連結されて成るものであり,
「縁部」にしか形成されることはない。したがって,技術的観点から
も,
「連結線」は「縁部」すなわち正逆転編の際に針釜の回動が反転し
て編糸が折り返す箇所のループの一部が,互いに絡み合わされて連結
される箇所のみに形成されるものであるといえる。
c 段落【0016】には,「連結線HJ,IK,KL,HMは,針釜
が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。」との記載があ

る。ここで,「回動端」とは,針釜が正逆方向に交互に回動し(正逆
転編)した際に,回動が反転して編糸が折り返す箇所を指すから,上
記記載は,「連結線」が「針釜の回動が反転して編糸が折り返す箇所
=回動端」と一致することが記載されているといえる。
d 以上によれば,本件発明2における「端縁」とは,針釜が正方向又
は逆方向に回動した際の回動端であって,連結線が形成される箇所を
意味すると解するのが相当であり,原判決の認定は正当である。
被告製品について
a 被告製品の正逆転編部AB,BBが「厚み増加用編立部分」に該当
するとしても(なお,被告製品の正逆転編部AB,BBが本件発明2
の「厚み増加用編立部分」に該当する旨の原判決の認定は誤りである。 ,

正逆転編部AB,BBの端縁すなわち回動端は,Ab-Cb端,Cb’
-Ab’端,Bb-Db端,Db’-Bb’ 端であり,Ab-Bb,
Cb-Db,Ab’-Bb’,Cb’-Db’ は編始端,編終端であっ
て,「端縁」ではない。
b 被告製品の「厚み増加用編立部分の端縁」のうち親指側のAb-C
b端は正転編部Cの編始端と連結され,Cb’-Ab’端は正転編部
Cの編終端と連結される。
正転編部Cは数コースのリング状であるから,連結された後のAb
-Cb端とCb’ -Ab’ 端はI字状である。
c 以上のとおり,被告製品は本件発明2の構成要件Cを充足しないか
ら,同旨の原判決の判断は正当である。
イ 控訴人の主張について
被告製品の正転編部B,C及びB’が,本件発明2の「厚み増加用編
立部分」を構成するとの主張について
a 控訴人は,原判決における判断は,本件明細書が,①親指側に偏っ

て編み込まれ,②親指側の厚みを増し,③最先端部位置を親指側に偏
らせる,という3要件を充たさない部分を含めて,「厚み増加用編立
部分20a,20b」と定義していることと整合性を欠き,原判決が
上記①~③の要件を充たさない部分を含む被告製品の正逆転編部AB
及びBBの全体が「厚み増加用編立部分」に相当すると認定している
こととも矛盾する,などと主張する。
しかしながら,控訴人の上記主張は,控訴人自ら,上記3要件を満
たす部分が厚み増加用編立部分20a,20bの斜線部(前記図A(b)
参照)であると狭く解釈し,この独自の解釈が明細書や原判決におけ
る認定と整合しないといっているようなもので,不当である。
仮に,控訴人が主張するように,「厚み増加用編立部分」は上記3要
件を満たすことが必要であるとしても,本件発明2の「厚み増加用編
立部分20a,20b」はそれぞれ正逆転編によって全体が編み立て
られるのであって,控訴人がいう斜線部の領域や斜線部以外の領域だ
け(前記図A(b)参照)を編み立てることはできないのであるから,
上記3要件を満たす領域は,20a,20bで示す「厚み増加用編立
部分」全体(被告製品の正逆転編部AB及びBBの全体)であり,明
細書の記載や原判決の認定と矛盾するものではない。
また,控訴人は,被告製品の正転編部B,C及びB’自体が上記①
~③の要件を充たさなくても,「厚み増加用編立部分」に相当する領域
内に,上記①~③の要件を充たす部分(原告展開図における斜線部分)
が存在する限り,被告製品の正転編部B,C及びB’は,被告製品に
おける「厚み増加用編立部分」の一部を構成するものというべきであ
るとも主張する。
しかしながら,被告製品の正転編部B,C及びB’は,正逆転編部
AB,BBとは時間的に前後し,かつ,編み立ての開始位置も異なる

編立部分であり,しかも,正逆転編部AB,BBとは異なり,爪先部
全周に亘って(一方向に)編み立てられる部分であるから,控訴人が
いう厚み増加用編立部分のうちの斜線部以外の領域と同列に考えられ
る部分ではない。
以上によれば,被告製品における3本の正転編部(正転編部B,C
及びB’)を含めて本件発明2の「厚み増加用編立部分」に該当する
とする控訴人の上記主張は失当である。
b 控訴人は,被告製品において「厚み増加用編立部分」に相当する正
逆転編部ABと一体不可分な関係にある正転編部Bを,これが正逆転
編部ABを製編するために必須の編部であると明言する被控訴人の意
図に反してまで,「厚み増加用編立部分」を構成するものではないと
する原判決の判断は合理性を欠くなどと主張する。
しかしながら,そもそも本件発明2の「厚み増加用編立部分」は,
「前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する」部分であって,
「前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれている」部分
と規定されている(構成要件B)ところ,被告製品の正転編部Bは,
これらの要件を満たさず,「厚み増加用編立部分」に該当しないこと
は明らかである。
また「必須不可欠」であることと「発明の構成要素」であるという
ことは全く異なるものであり,正転編部Bが正逆転編部ABに必須不
可欠であるから正転編部Bは「厚み増加用編立部分」を構成するとい
うのは,明らかな論理の飛躍である。
以上のとおり,控訴人の上記主張は失当である。
c 控訴人は,従来技術との対比からすれば,被告展開図のCa-Da
線からCa’-Da’線までに示す,従来技術にはない正転編部B,
C及びB’をも含めた領域の全体をもって,「厚み増加用編立部分」

とみる方が合理的であって,正逆転編部ABにとって必須の要素とな
る正転編部Bをわざわざ,「厚み増加用編立部分」でも,従来技術に
おける爪先領域でもない「第3の領域」とする論拠に乏しいなどと主
張する。
しかしながら,前記b記載のとおり,被告製品の正転編部Bは,構
成要件Bの規定する「厚み増加用編立部分」の要件を満たさず,これ
に該当しないことは明らかである。
以上のとおり,控訴人の上記主張は失当である。
被告製品における「正転編部の編端(編始端及び編終端)」が本件発
明2の「端縁」に該当するとの主張について
本件発明2における「端縁」とは,針釜が正方向又は逆方向に回動し
た際の回動端であって,連結線が形成される箇所を意味するものと解す

被告製品の正転編部Bの端部(編始端)のaa-Ca線は,大台形の
正逆転編部AAの端縁Aa-Ca線と連結されるが,正転編によるルー
プが端縁Aa-Ca線上に形成されるだけで,正転編部Bは縁部を形成
するループの一部が互いに絡み合されて成る連結線を形成する箇所では
ない。同様に,正転編部B’の端部(編終端)のaa’-Ca’線は,
大台形の正逆転編部BAの端縁のループが回動する際に正転編による
ループ,すなわち正転編部B’の端部(編終端)に連結されるだけで,
正転編部B’ は縁部を形成するループの一部が互いに絡み合されて成る
連結線を形成する箇所ではない。
以上のとおり,被告製品における正転編部の編端(編始端及び編終端)
は,本件発明2の「端縁」に該当しないから,控訴人の上記主張は失当
である。
本件発明2と被告製品とは,技術的思想の観点において同一であると

の主張について
被告製品においてV字状に見える線は,「厚み増加用編立部分の端縁」
が形成したものではなく,大台形の正逆転編部の端縁と正転編部の編始
端又は編終端の連結によって形成されたものである。また,被告製品に
おいて,「厚み増加用編立部分」に対応する追加編立部分の端縁(Ab
-Cb端,Ab’-Cb’端)は中央でI字状となる。さらに,被告製
品においては,「厚み増加用編立部分」に対応する部分そのものによる
親指側への偏りはなく,正転編により編み立て開始位置を偏位させてい
るのである。
以上のように,被告製品と本件発明2との技術思想は全く異なるもの
であって,控訴人の上記主張は失当である。
争点2-1~3(本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきもの
か)について
〔控訴人の主張〕
本件特許権2に係る特許(本件特許2)について被控訴人が請求した特許
無効審判(無効第2013-800066号)において,被控訴人は,本件
におけるのとほぼ同様の無効理由を主張したものの,平成25年12月19
日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決がされ(甲51),同
審決は確定した。
したがって,本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものであ
るとの被控訴人の主張に理由がないことは明らかである。
〔被控訴人の主張〕
控訴人の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,①控訴人は,被告方法が本件発明1(訂正後の本件特許1の請
求項1記載の発明)の技術的範囲に属しないことを自認した上(平成25年1

2月6日付「原告第8準備書面」4頁10行~11行),本件訴訟において,
被告方法が本件発明1の技術的範囲に属する旨の主張をしないから,その余の
点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する本件特許権1の侵
害を理由とする請求は理由がなく,また,②被告製品は,本件発明2の構成要
件Cを充足せず,本件発明2の技術的範囲に属しないから,その余の点につい
て判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する本件特許権2の侵害を理由
とする請求もいずれも理由がないものと判断する。
本件特許権2の侵害を理由とする請求に係る判断の理由は,以下のとおりで
ある(なお,以下においては,被告展開図に基づき,構成要件の充足性につい
て判断する。)。
2 争点1-1(構成要件Bの充足性)について
本件明細書の記載等
ア 本件発明2の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】丸編機によって筒編して得たくつ下が,その爪先部にお
ける最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって,
該くつ下の爪先部の形状が,親指が他の指よりも太い人の足の形状に近
似するように,前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増
加用編立部分が,前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ,
且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように,前記厚
み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向
けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されていること
を特徴とするくつ下。」
イ 本件明細書には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面に
ついては,別紙本件明細書図面目録を参照。)。
発明の属する技術分野
「本発明はくつ下に関し,更に詳細にはくつ下編機によって筒編して

得たくつ下に関する。」(段落【0001】)
従来の技術
「一般的に,図4に示すくつ下10は,足の入口部から爪先部12の
方向に筒編した後,くつ下状の筒編部11の甲部に形成された開口部の
端部を逢着することによって得ることができる。この開口部を逢着した
部分を図4においては,逢着部14として示す。
図4に示すくつ下10は,工業的にはくつ下編機,例えば複数本の編
針が周囲に配設された針釜を一定方向に回転して編み立てる回転動作と,
この針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ
丸編機を用いて製編される。かかる編針は,図6(a)に示す様に,先
端部に設けられた鉤部52を一端部で開閉するベラ54の他端部が,鉤
部52の首部に設けられた釘56に回動自在に軸着されているものであ
る。また,針釜は,図6(b)に示す様に,筒状部材62の外周面に複
数本の縦溝64,46・・が形成され,この縦溝64の各々に図6(a)
に示す編針50が上下動可能に挿入されているものである。この針釜6
0を一定方向に回転させるとき,所定箇所で編針50が順次持ち上げら
れて編み立て動作を行う。」(段落【0002】)
「図6に示す編針50と針釜60とを具備する丸編機によって製編さ
れる従来のくつ下の爪先部は,図5に示す手順によって製編される。
先ず,針釜50を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11を編み
立てた後,針釜60を回動させてくつ下100の爪先部102を編み立
てる。この爪先部102を編み立てる際には,くつ下の足裏側100a
を示す図5(c)のAB位置まで編み立てた後,針釜60を正逆方向に
回動させつつ編み立てに関与する編針50の針数(以下,編み立てに関
与する針数と称することがある)を順次減少させてCD位置まで編み立
てる。

引き続き,図5に示すCD位置まで編み立て後,くつ下の甲部側10
0bを示す図5(a)のAB位置まで,針釜60を正逆方向に回動させ
つつ編み立てに関与する針数を順次増加させて編み立てることによって,
爪先部102を形成できる。」(段落【0003】)
「更に,図5(a)に示すAB位置まで編み立てた後,針釜60の編
み立てに関与する針数を所定本数に保持しつつ,くつ下状の筒編部11
の甲部側100bに形成された開口部まで製編し逢着部14とする。
ここで,爪先部12の足裏側100aと甲部側100bとの端縁には,
各側を形成するループの一部が互いに絡み合わされて成る連結線AC,
BDが形成されている。この連結線AC,BDは,針釜60が正方向又
は逆方向に回動した際の回動端でもある。」(段落【0004】)
発明が解決しようとする課題
「図5に示すくつ下100は,丸編機の針釜60を正逆方向に回動さ
せつつ編み立てに関与する針数を順次増減させて爪先部102を編み立
てる際に,針数の増減は実質的に同数であるため,丸編機の編み立て方
向はくつ下の中心線方向で一定している。従って,得られたくつ下10
0の爪先部102は,図5(a),図5(c)に示す様に,左右対称形
に形成され,且つ爪先部102の先端側から見た図である図5Bに示す
様に,略同一厚さに形成される。このため,図5に示すくつ下100は,
左右どちらの足にも履くことができる。」(段落【0005】)
「しかし,一般的に,人の足は親指が他の指よりも太く且つ足の最先
端の位置は親指側に位置する非対称形である。このため,図5に示す左
右対称形で且つ親指側と小指側とが略同一厚さのくつ下100を非対称
形の人の足に履くと,親指によってくつ下地が引っ張られて親指側に圧
迫感がある。特に,親指に力が加えられるスポーツ等においては,競技
中に親指に痛みを感ずることもある。更に,親指によってくつ下地が引っ

張られるため,小指側のくつ下地も引っ張られ,小指側にも圧迫感が感
じられる。この様に,親指によって引っ張られた状態で靴の内側面で擦
られる親指側のくつ下地は傷み易くなる。
また,通常,逢着部14は爪先寄りに位置し,くつ下を着用したとき,
逢着部14は足指先と足指の付け根との間に位置し,逢着部14に擦ら
れて足指の甲部表面に水腫(まめ)を作り易くなることがあり,且つ外
観上も改善が求められている。
そこで,本発明の課題は,人の足の形状に可及的に近似し,着用した
際に,親指側に圧迫感等を与えることを防止し得るくつ下を提供するこ
とにある。」(段落【0006】)
課題を解決するための手段
「本発明者等は前記課題を解決すべく検討を重ねた結果,親指が他の
指よりも太い人の足の形状に,くつ下の爪先部の形状が近似するように,
くつ下を履いたとき,親指が挿入される爪先部の親指側に,厚みを増加
する厚み増加用編立部分を偏って編み込むことによって,親指に対する
圧迫感を緩和できることを知り,本発明に到達した。
すなわち,本発明は,丸編機によって筒編して得たくつ下が,その爪
先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって,
該くつ下の爪先部の形状が,親指が他の指よりも太い人の足の形状に近
似するように,前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み
増加用編立部分が,前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込ま
れ,且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように,前
記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に
向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている
ことを特徴とするくつ下にある。
かかる本発明において,くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編

立部分によって,爪先部の先端部及び親指側の側面部を形成することに
より,くつ下を履いたとき,親指に対する圧迫感を更に緩和できる。
また,くつ下の爪先部に編み込まれた厚み増加用編立部分の親指側の
面積が拡大するように,前記増加用編立部分を爪先部の親指側の側面か
ら爪先部の先端を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁をV
字状に形成すると共に,前記V字状の端縁の途中を,厚み増加用編立部
分の面積を拡大する方向に曲折することによって,くつ下の爪先部の最
先端位置を変更することなく厚み増加用編立部分の面積を拡大できる。」
(段落【0007】)
「従来のくつ下は,図5(a)~図5(b)に示す如く,左右対称形
に形成され,且つ親指が挿入される親指側と小指が挿入される小指側と
が略同一厚さに形成された爪先部を具備するくつ下である。このくつ下
を,親指が他の指よりも太い非対称形の人の足に履くと,親指によって
くつ下の爪先部が延ばされ,人の足の形状にくつ下が倣される。このた
め,くつ下を履いたとき,くつ下の爪先部によって親指は他の指方向に
押圧されて圧迫感を感じ,同時に小指も親指方向に押圧されて圧迫感を
感ずる。」(段落【0009】)
「この点,本発明では,くつ下の爪先部の形状が,親指が他の指より
も太い人の足の形状に近似するように,爪先部の小指側よりも親指側の
厚みを増加する厚み増加用編立部分を,爪先部の先端部で且つ親指側に
偏って形成し,爪先部の最先端位置を親指側に偏らせている。このため,
本発明に係るくつ下は,人の足に可及的に倣った形状とすることができ
る結果,くつ下を履いたとき,くつ下の爪先部によって,親指を他の指
方向に押圧する押圧力を可及的に減少でき,親指及び小指に対する圧迫
感を減少できる。
また,本発明に係る足袋様のくつ下においても,くつ下の爪先部の形

状が,親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように,このく
つ下の親指部の先端部には,親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部
分を編み込み,且つくつ下の他の指部にも,他の指部の厚みを増加する
厚み増加用編立部分を,他の指部の先端部で且つ分割部側に偏って編み
込んでいる。このため,人の足の親指形状等にくつ下の親指部等を可及
的に倣って形成できる結果,足袋様のくつ下を履いたとき,親指等に対
するくつ下からの圧迫感を減少できる。」(段落【0010】)
発明の実施の形態
「本発明に係るくつ下の一例は,図4に示すくつ下10と略同一形状
であり,図1に左足用のくつ下10の爪先部12を示す。図1(a)は
くつ下10の甲部側10bから見た図であり,図1(b)は爪先部12
の先端側から見た図である。また,図1(c)はくつ下10の足裏側1
0aから見た図である。
図1に示すくつ下10の爪先部12において,図面に示す爪先部12
の左側部は親指が挿入される親指側16であり,図面に示す爪先部12
の右側部は小指が挿入される小指側18である。
図1(a)(c)に示す様に,図1に示すくつ下10は,爪先部12
の最先端位置Gが中心線Xよりも親指側16に偏って位置する非対称形
のくつ下10である。この形状は,人の足の形状に倣っているものであ
る。」(段落【0011】)
「また,図1に示す爪先部12は,図1(b)と従来のくつ下100
の爪先部102の先端部を示す図5(b)との比較から明らかな様に,
爪先部12の厚みを増加する厚み増加用編立部分20a,20bが余分
に編み込まれていると共に,厚み増加用編立部分20a,20bが爪先
部12の親指側16に偏って編み込まれている。このため,爪先部12
の親指側16の厚みを小指側18の厚みよりも厚くでき,小指よりも親

指が太い人の足の形状に近似させることができる。
図1に示すくつ下10の爪先部12は,図1(a)(b)に示す様に,
厚み増加用編立部分20a,20bは爪先部12の先端部及び親指側1
6の側面部を形成するため,親指側に更なる余裕を与えることができ,
くつ下を履いたとき,親指及び小指の圧迫感を更に緩和できる。
更に,爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕
から爪先部12の先端を上に向けて見た厚み増加用編立部分20a,2
0bの端縁HJ,HMをV字状とすることにより,後述するくつ下の製
造方法によって容易に厚み増加用編立部分20a,20bを形成でき
る。」(段落【0012】)
「図1に示すくつ下10は,爪先部12の厚みを増加する厚み増加用
編立部分20a,20bを親指側16に偏って編み込むように,くつ下
機の編み立て方向を親指側16の方向にシフトさせて製編することに
よって得ることができる。
かかるくつ下編機として汎用されている丸編機,すなわち複数本の編
針〔図6(a)に示す編針50と同一編針〕が周囲に配設された針釜〔図
6(b)に示す針釜60と同一針釜〕を一定方向に回転して編み立てる
回転動作と,この針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作
とを併せ持つ丸編機によって,図1に示すくつ下10を製編する例を説
明する。」(段落【0013】)
「先ず,針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11(図4)
を編み立てた後,針釜を正逆方向に交互に回動させ,編み立てに関与す
る編針の針数を増減させることによってくつ下の爪先部12を編み立て
る。かかる針数の増減は,正逆方向に回動する針釜が回動方向を変更す
る際に行う。
図1に示す爪先部12を編み立てる際には,くつ下の足裏側10bを

示す図1(c)のHI位置まで編み立てた後,編み立てに関与する編針
の針数(以下,単に針数と称することがある)を順次減少させてJK位
置まで編み立てる。この場合,針釜が正方向に回動した際の針数の減少
数と,逆方向に回動した際の針数の減少数とが実質的に同数である。
更に,JK位置まで編み立てた後,J位置側に針釜が回動する際に,
針数を順次増加させてH位置まで編み立てると同時に,K位置側に針釜
が回動する際に,針数を順次減少させてL位置側まで編み立てることに
よって,編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編
み立てることができる。その結果,爪先部12の足裏側10aに,厚み
増加用編立部分20aを親指側16に偏って編み込むことができる。」
(段落【0014】)
「次いで,H位置側に針釜が回動する際に,針数を増加させてM位置
まで編み立てると同時に,L位置側に針釜が回動する際に,針数を減少
させてK位置側まで編み立てることによって,編み立て方向をくつ下の
親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果,
甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを親指側16に偏って編み込
むことができる。この厚み増加用編立部分20a,20bは一体化され
ている。
この様に,MK位置まで編み立てた後,針数を順次増加させてHI位
置まで編み立てることによって爪先部12を形成できる。この場合,針
釜が正方向に回動した際の針数の増加数と,逆方向に回動した際の針数
の増加数とが実質的に同数である。」(段落【0015】)
「更に,HI位置まで編み立てた後,針数を所定本数に保持しつつ,
くつ下の甲部側10bに形成された最終端となる開口部まで製編し逢着
部14とする。
ここで,爪先部12を形成する部分の各端縁には,各部分の縁部を形

成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線HJ,
IK,KL,HMが形成されている。この連結線HJ,IK,KL,H
Mは,針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。
かかる連結線のうち連結線HJ,HMは,親指側16の側面部を形成
する厚み増加用編立部分20a,20bの端縁であり,図1においては,
爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪
先部12の先端を上に向けて見たときV字状である。
尚,これまでの図1の説明において言う「実質的に同数」とは,針釜
が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と,逆方向に回動した
際の針数の減少数と増加数との間に,編み立てに関与する編針の針数の
約10%程度が相違してもよいことを意味する。」(段落【0016】)
「以上の説明においては,足袋様くつ下30を親指部32から製編す
る場合について述べてきたが,他の指部34から製編してもよい。
これまでの説明において,くつ下編機として,丸編機を用いてくつ下
を製編する例について説明してきたが,横編機を用いてくつ下を製編し
てもよい。
また,甲部側に逢着部14を形成しているが,模様等の関係で足裏側
に逢着部14を形成してもよい。
更に,これまでの説明は,履いたとき,くるぶし程度の長さとなるソッ
クスについて行ってきたが,履いたとき,くるぶしを越える長さとなる
ロングソックス,太股以上の長さとなるタイツやストッキングについて
も本発明を適用でき,踵部が形成されていないくつ下でも本発明を適用
できる。」(段落【0030】)
発明の効果
「本発明に係るくつ下によれば,くつ下を履いたとき,くつ下の爪先
部によって,親指を他の指方向に押圧する押圧力を可及的に減少でき,

親指及び小指に対する圧迫感を減少できる。このため,親指に力が加え
られるスポーツに用いられるスポーツ用くつ下に好適であり,親指の外
反母趾や小指の外反小趾の防止にも有効である。更に,くつ下地が親指
で引っ張られた状態で靴の内壁面で擦られることを防止できるため,く
つ下の耐久性を向上できる。
また,くつ下状の筒編部の開口部の端部を逢着した逢着部の位置を,
足指の付け根近傍に位置させることができるため,くつ下を着用したと
き,逢着部に擦られて足指の甲部に水腫(まめ)を作りことも防止でき
る。しかも,くつ下の爪先部で足指を包み込むため,足指を付け根から
サポートすることができ,且つ着用したときの外観も良好とすることも
できる。」(段落【0031】)
ウ 上記ア及びイの記載によれば,本件発明2の技術的意義は以下のとおり
であると認められる。
従来,くつ下編機(丸編機)によってくつ下を筒編する場合,丸編機
の針釜を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する針数を順次増減さ
せて爪先部を編み立てる際に,針数の増減は実質的に同数であるため,
丸編機の編み立て方向はくつ下の中心線方向で一定しており,したがっ
て,得られたくつ下の爪先部は,左右対称形に形成され,かつ爪先部の
先端側から見た場合,略同一厚さに形成されていた。
しかし,一般的に,人の足は親指が他の指よりも太く,かつ足の最先
端の位置は親指側に位置する非対称形であるため,左右対称形で,かつ
親指側と小指側とが略同一厚さのくつ下を非対称形の人の足に履くと,
親指によってくつ下地が引っ張られて親指側に圧迫感がある。また,親
指によって引っ張られた状態でくつ下の内側面で擦られる親指側のくつ
下地は傷みやすくなるという問題があった。
そこで,本件発明2は,上記問題を解決し,人の足の形状に可及的に

近似し,着用した際に,親指側に圧迫感等を与えることを防止し得るく
つ下を提供することを目的として,くつ下の爪先部の形状が親指が他の
指よりも太い人の足の形状に近似するように,くつ下を履いたとき,親
指が挿入される爪先部の親指側に,厚みを増加する厚み増加用編立部分
を偏って編み込むことによって,親指に対する圧迫感を緩和できること
に鑑み,丸編機によって筒編して得たくつ下において,爪先部における
最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であって,爪先部の形状
が,親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように,爪先部の
小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が,爪先部の
先端部でかつ親指側に偏って編み込まれ,かつ厚み増加用編立部分の親
指側の面積が拡大するように,厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の
側面から爪先部の先端を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端
縁がV字状に形成されているという構成を採用した。
本件発明2のくつ下によれば,くつ下を履いたとき,くつ下の爪先部
によって,親指を他の指方向に押圧する押圧力を可及的に減少でき,親
指及び小指に対する圧迫感を減少することができる。さらに,くつ下地
が親指で引っ張られた状態で靴の内壁面で擦られることを防止すること
ができるため,くつ下の耐久性を向上することができる,という効果を
奏する。
本件発明2の「厚み増加用編立部分」の意義
請求項1 ウの本件発明2の技術的意義に照らせば,本件
発明2における「厚み増加用編立部分」とは,くつ下の爪先部の先端部で,
親指側に偏って編み込まれた部分であって,当該部分があることによって,
くつ下の爪先部の形状を,最先端位置が親指側に偏って位置する左右非対称
形とするとともに,親指側の厚みを小指側の厚みよりも厚くする部分を意味
するものと解される。

被告製品におけるあてはめ
ア 被告製品は,完成時において,正転編部Cが爪先部の頂辺となるもので
あり,被告展開図は親指側を左側,小指側を右側として被告製品を展開し
た図であるから,被告製品の正逆転編部AB及びBBは,くつ下の爪先部
の先端部で,中心線Xよりも左側,すなわち親指側に偏って編み込まれた
部分であるといえる。
また,正逆転編部AB及びBBがあることによって,被告製品の爪先部
は,親指側の面積が小指側の面積よりも大きくなっているから,各編立部
分が連結されたとき,くつ下の爪先部は,その最先端位置が親指側に偏っ
て位置することになり,その形状は左右非対称形となるものと認められる
(甲12,乙8,33)。
さらに,正逆転編部AB及びBBがあることによって,被告製品の爪先
部は,親指側の面積が小指側の面積よりも大きくなっているから,各編立
部分が連結されたとき,くつ下の爪先部の厚みは,小指側より親指側の方
が厚くなるものと認められる(甲12,乙8,33)。
以上によれば,正逆転編部AB及びBBは,本件発明2の「厚み増加用
編立部分」に該当するといえる。
イ 被控訴人の主張について
被控訴人は,正逆転編部AB及びBBは,親指側においてI字状を形成
するものであり,くつ下の側面を形成するような厚み方向の編み地を形成
するものではないから,本件発明2の「厚み増加用編立部分」には該当し
ない旨主張する。
しかしながら,本件発明2の特許請求の範囲の記載は,前記 記載の
とおりであって,本件特許2の特許請求の範囲請求項2に記載された発明
とは異なり,「厚み増加用編立部分」がくつ下の側面を形成するものであ
ることは ウの本件発明2の技術的意義に照らせば,

本件発明2における「厚み増加用編立部分」とは,くつ下の爪先部の先端
部で,親指側に偏って編み込まれた部分であって,当該部分があることに
よって,くつ下の爪先部の形状を,最先端位置が親指側に偏って位置する
左右非対称形とするとともに,親指側の厚みを小指側の厚みよりも厚くす
る部分を意味するものと解されることは,前記 認定のとおりであり,本
件発明2における「厚み増加用編立部分」は,くつ下の親指側の側面を形
成するものに限られないというべきである。
なお,本件発明2は,「厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面か
ら前記爪先部の先端を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁が
V字状に形成されている」ことを,発明特定事項とするものであるが,当
該構成は,構成要件Cに「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大する
ように」とあるように,「厚み増加用編立部分」において,その親指側の
面積を拡大することを目的として採用されている構成であるから, 「端
その
縁がV字状に形成されている」ものでなければ,そもそも「厚み増加用編
立部分」に該当しないことを規定したものとは解されない。
ウ 以上によれば,正逆転編部AB及びBBは,「厚み増加用編立部分」に
該当し,被告製品は本件発明2の構成要件Bを充足する。
なお,被告製品において,正転編部B,C及びB’が存在しても,正逆
転編部AB及びBBが,くつ下の爪先部の形状を,最先端位置が親指側に
偏って位置する左右非対称形とするとともに,親指側の厚みを小指側の厚
みよりも厚くするものであることに変わりはないから,正転編部B,C及
びB’が存在することは,正逆転編部AB及びBBが「厚み増加用編立部
分」に該当するとの上記認定を左右しない。
3 争点1-2(構成要件Cの充足性)について
構成要件Cにおける「端縁」の意義について
「端縁」とは,一般に「先端部分」,「ふち,はし」を意味するものと解

されるが(甲32),本件発明2において,厚み増加用編立部分の「端縁」
がどの部分を意味するものかについては,特許請求の範囲(請求項1)の記
載からは明確ではない。
イ記載のとおり,本件明
細書には,「爪先部12の足裏側100aと甲部側100bとの端縁には,
各側を形成するループの一部が互いに絡み合わされて成る連結線AC,BD
が形成されている。この連結線AC,BDは,針釜60が正方向又は逆方向
に回動した際の回動端でもある。」(段落【0004】),「爪先部12の
親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先部12の先端を
上に向けて見た厚み増加用編立部分20a,20bの端縁HJ,HMをV字
状とすることにより,後述するくつ下の製造方法によって容易に厚み増加用
編立部分20a,20bを形成できる。」(段落【0012】),「爪先部
12を形成する部分の各端縁には,各部分の縁部を形成するループの一部が
互いに絡み合わされて連結されて成る連結線HJ,IK,KL,HMが形成
されている。この連結線HJ,IK,KL,HMは,針釜が正方向又は逆方
向に回動した際の回動端でもある。かかる連結線のうち連結線HJ,HMは,
親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a,20bの端縁で
あり,図1においては,爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印
AAの方向〕から爪先部12の先端を上に向けて見たときV字状である。」
(段落【0016】)との記載がある。
ところで,前記2 本件発明2は,親指に対する圧迫感
を緩和することを目的として,丸編機によって筒編みされた従来のくつ下は,
丸編機の針釜を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する針数を順次増減
させて爪先部を編み立てる際に,針数の増減は実質的に同数であるため,爪
先部は左右対称形に形成され,かつ爪先部の先端側から見た場合,略同一厚
さに形成されていたものを,爪先部の親指側に,厚みを増加する厚み増加用

編立部分を偏って編み込むことによって,爪先部における最先端位置が親指
側に偏って位置する非対称形とし,かつ爪先部の小指側よりも親指側の厚み
を増加することにより,くつ下の爪先部の形状が親指が他の指よりも太い人
の足の形状に近似するようにし,さらに,厚み増加用編立部分の親指側の面
積が拡大するように,厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から爪先
部の先端を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成
されているという構成を採用したものである。そして,本件明細書中には,
丸編機の針釜を正逆方向に交互に回動させ,編み立てに関与する編針の針数
を増減させることによってくつ下の爪先部12を編み立てる際,針数の増減
は正逆方向に回動する針釜が回動方向を変更する際に行い,くつ下の編立方
向を親指側の方向にシフトさせる方法により親指側に偏って編み込むことに
より,「厚み増加用編立部分」を設けることが記載されているが,これとは
異なる他の方法により「厚み増加用編立部分」を設ける方法,すなわち,回
動端以外の部位に「厚み増加用編立部分」と他の部分との連結線が設けられ
る形態については何ら開示されていない。
本件明細書における前記記載や本件明細書に開示された「厚み増加用編立
部分」を設ける前記方法に照らせば,構成要件Cの「端縁」とは,「針釜が
正方向又は逆方向に回動した際の回動端であって,縁部を構成するループの
一部が互いに絡み合わされて成る連結線が形成される箇所」を意味するもの
と解される。
被告製品におけるあてはめ
被告製品において,Aa-Ca端,Ab-Cb端,Cb’-Ab’端,C
a’-Aa’端,Ba-Da端,Bb-Db端,Db’-Bb’端,Da’
-Ba’端は,針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端に当たると認
められる。
そして,前記2 認定のとおり,被告製品の正逆転編部AB及びBBは,

「厚み増加用編立部分」に相当する。
したがって,正逆転編部AB,BBの回動端であるAb-Cb端,Cb’
-Ab’端,Bb-Db端,Db’-Bb’端が,「厚み増加用編立部分の
端縁」に相当することになる。
また,上記回動端は,それぞれ,正転編部Cの編始端(ab-Cb端,D
b-bb端)又は編終端(ab’-Cb’端,Db’-bb’端)と連結し
て編み立てられるものである。これを被告製品の爪先部の親指側の側面から
爪先部の先端を上に向けて見たときに,Ab-Cb端,Cb’-Ab’端を
それぞれ正転編部Cの上記編始端又は上記編終端と連結した線が,I字状を
形成するものであると認められる(乙8)。
以上によれば,被告製品は,「前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側
の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の
端縁がV字状に形成されている」ものに当たらない。
控訴人の主張について
ア 控訴人は,被告製品の正転編部B,C及びB’は,本件発明2の「厚み
増加用編立部分」を構成し,かつ,正転編部Bの編始端であるaa-Ca
端及び正転編部B’の編終端であるaa’-Ca’端は「端縁」に当たり,
これを正逆転編部AAの端縁であるAa-Ca端又は正逆転編部BAの端
縁であるCa’-Aa’端と連結した線は,爪先部の親指側の側面から爪
先部の先端を上に向けて見たときに略V字状に形成されているから,被告
製品は構成要件Cを充足する旨主張する。
イ 被告製品の正転編部B,C及びB’が,本件発明2の「厚み増加用編立
部分」を構成するとの主張について

とは,くつ下の爪先部の先端部で,親指側に偏って編み込まれた部分で
あって,当該部分があることによって,くつ下の爪先部の形状を,最先

端位置が親指側に偏って位置する左右非対称形とするとともに,親指側
の厚みを小指側の厚みよりも厚くする部分を意味するものと解されるが,
被告製品の正転編部B,C及びB’は,いずれも左右連続した筒形状を
した編部であるから,親指側に偏って編み込まれた部分であるとは認め
られず,また,当該部分があることによって,くつ下の爪先部の形状を,
最先端位置が親指側に偏って位置する左右非対称形とするとともに,親
指側の厚みを小指側の厚みよりも厚くする部分であるとも認められない。
したがって,正転編部B,C及びB’が,本件発明2の「厚み増加用
編立部分」に該当するものとは認められない。
控訴人は,本件明細書においては,①親指側に偏って編み込まれ,②
親指側の厚みを増し,③最先端部位置を親指側に偏らせる,という3要
件を充たす部分とこれら要件を充たさない部分とを含めて「厚み増加用
編立部分20a,20b」と定義していることからすれば,被告製品の
正転編部B,C及びB’自体が,上記①~③の要件を充たさなくても,
上記①~③の要件を充たす部分(原告展開図における斜線部分)が存在
する限り,全体としては,上記①~③の要件を充たしているのであるか
ら,正転編部B,C及びB’は,「厚み増加用編立部分」の一部を構成
するものというべきである旨主張する。
しかしながら,正転編部B,C及びB’は,爪先部全周にわたって均
等な幅で編み立てられる部分であり,しかも,針釜を一定方向に回転さ
せて編み立てられ,原告展開図における斜線部分を含む正逆転編部AB
及びBBが針釜を正逆方向に回動させつつ編み立てるのとは,その編立
方法も異なるものであるから,これらを正逆転編部AB及びBBと一体
のもの(一部を構成するもの)としてみるべきであるとはいえない。
控訴人は,被告製品において,正転編部B,B’は,正逆転編部AB,
BBの製編を可能にするために「必須不可欠の編部」であるから,正逆

転編部ABと一体不可分の関係にある正転編部Bは,「厚み増加用編立
部分」を構成するというべきである旨主張する。
しかしながら,被告製品において,正転編部B,B’が,正逆転編部
AB,BBを親指側に偏って製編することを可能にするために必須の部
分であるとしても,そのことから,直ちに,本件発明2の発明特定事項
である「厚み増加用編立部分」に該当することにはならない。正転編部
B及びB’が,爪先部全周にわたって均等な幅で編み立てられる部分で
あり,しかも,針釜を一定方向に回転させて編み立てられ,正逆転編部
AB及びBBとはその編立方法も異なるものであることからすれば,こ
れらを正逆転編部AB及びBBと一体のもの(一部を構成するもの)と

控訴人は,従来技術にはない正転編部B,C及びB’をも含めた領域
の全体をもって,「厚み増加用編立部分」とみる方が合理的であり,正
転編部を「厚み増加用編立部分」でも従来技術における爪先領域でもな
い「第3の領域」とする論拠に乏しい旨主張する。
しかしながら,被告製品における正転編部が従来技術における爪先領
域には存しない部分であるからといって,直ちに,本件発明2の発明特
定事項である「厚み増加用編立部分」に該当することにはならず,また,
正転編部B,C及びB’を正逆転編部AB及びBBと一体のもの(一部

載のとおりである。
以上によれば,被告製品の正転編部B,C及びB’が,本件発明2の
「厚み増加用編立部分」を構成するとの控訴人の主張は理由がない。
ウ 正転編部Bの編始端であるaa-Ca端及び正転編部B’の編終端であ
るaa’-Ca’端は「端縁」に当たるとの主張について
り,構成要件Cの「端縁」とは,「針釜が正方向又

は逆方向に回動した際の回動端であって,縁部を構成するループの一部
が互いに絡み合わされて成る連結線が形成される箇所」を意味するもの
と解されるが,正転編部Bの編始端であるaa-Ca端,正転編部B’
の編終端であるaa’-Ca’端は,これらの部分に針釜が正方向又は
逆方向に回動した際の回動端が形成されるわけではないから,本件発明
2の「端縁」には該当しない。
控訴人は,本件発明2における「端縁」は,「相互に縫合されてゴア
ラインが形成される箇所」をいうのであって,「回動端」に限られない
旨主張する。
しかしながら,本件明細書における段落【0004】,【0012】
及び【0016】の記載や本件明細書に開示された「厚み増加用編立部
分」を設ける方法の内容に照らせば,構成要件Cの「端縁」とは,「針
釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端であって,縁部を構成する
ループの一部が互いに絡み合わされて成る連結線が形成される箇所」を

本件明細書の段落【0004】の「爪先部12の足裏側100aと甲
部側100bとの端縁には,各側を形成するループの一部が互いに絡み
合わされて成る連結線AC,BDが形成されている。この連結線AC,
BDは,針釜60が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。」
との記載や段落【0016】の「爪先部12を形成する部分の各端縁に
は,各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結
されて成る連結線HJ,IK,KL,HMが形成されている。この連結
線HJ,IK,KL,HMは,針釜が正方向又は逆方向に回動した際の
回動端でもある。」との記載には,「端縁」で連結線が形成され,連結
線は針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端であること,すなわ
ち,「端縁」が「回動端」であることが記載されているものと解される

のであって,上記段落の文言上,これが,「端縁」は回動端であること
も回動端でないこともあることを記載したものであるとは解されない。
以上によれば,正転編部Bの編始端であるaa-Ca端及び正転編部
B’の編終端であるaa’-Ca’端は「端縁」に当たるとの控訴人の
上記主張は理由がない。
エ 以上のとおり,そもそも,正転編部B,C及びB’が,本件発明2の「厚
み増加用編立部分」に該当するものとは認められず,さらに,正転編部B
の編始端であるaa-Ca端及び正転編部B’の編終端であるaa’-C
a’端が「端縁」に該当するものとも認められないから,いずれにせよ,
aa-Ca端及びaa’-Ca’端は,「厚み増加用編立部分の端縁」に
は該当せず,控訴人の上記主張は理由がない。
4 まとめ
以上によれば,被告製品は,本件発明2の構成要件Cを充足せず,本件発明
2の技術的範囲に属しないから,その余の点について検討するまでもなく,控
訴人の本件特許権2の侵害を理由とする請求はいずれも理由がない。
第4 結論
以上の次第であるから,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であ
り,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決す
る。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 富 田 善 範


裁判官 大 鷹 一 郎

裁判官 柵 木 澄 子


(別紙)
本件明細書図面目録
【図1】


【図4】


【図5】


【図6】

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