令和3(行ケ)10056審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和4年2月10日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告X 被告特許庁長官
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法令 |
特許権
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キーワード |
許諾111回 実施65回 特許権52回 審決32回 ライセンス9回 新規性2回 分割2回 拒絶査定不服審判1回 優先権1回 侵害1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は,平成27年4月9日に出願した特願2015-80124号(以25
下「親出願」という。)の一部を分割して,平成28年3月30日,「情報
処理装置及び方法,並びにプログラム」の発明の特許出願(特願2016-
67886号)をした。 |
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判決文
令和4年2月10日判決言渡
令和3年(行ケ)第10056号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年12月15日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁理士 小 菅 一 弘
同 笠 原 翔
10 被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 松 田 直 也
同 渡 邊 聡
同 後 藤 嘉 宏
同 梶 尾 誠 哉
15 同 山 田 啓 之
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
20 第1 請求
特許庁が不服2019-14077号事件について令和3年3月11日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
25 ⑴ 原告は,平成27年4月9日に出願した特願2015-80124号(以
下「親出願」という。)の一部を分割して,平成28年3月30日,「情報
処理装置及び方法,並びにプログラム」の発明の特許出願(特願2016-
67886号)をした。
⑵ 原告は,拒絶査定を受けたので,令和元年10月23日,拒絶査定不服審
判(不服2019-14077号)を請求するとともに,特許請求の範囲等
5 につき手続補正(以下「本件補正」という。)をした。
⑶ 特許庁は,令和3年3月11日,本件補正を却下した上で,「本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,そ
の謄本は,同月30日,原告に送達された。
⑷ 令和3年4月27日,原告は本件訴訟を提起した。
10 2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の請求項1の記載は,次のとおりである(下線は補正箇所を示す。
A以下の符号は,本件審決が付したもので,以下「構成要件A」等という。ま
た,同請求項1に係る発明を「本件補正後発明」といい,本件補正後の明細書
及び図面を併せて「本願明細書等」といい,本件補正前の請求項1に係る発明
15 (構成要件Bにつき下線部の文言を欠くもの)を「本願発明」という。)。
「(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって,
(B)事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産
権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知
的財産権に関する公報の情報を,サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の
20 根拠となる情報を含む第1情報として,前記サーバに通知する公報通知手段と,
(C)前記サーバにおいて,
(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される前
記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち,所定の文字,図形,記号,又はそ
れらの結合が,前記第2情報として抽出され,
25 (C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち,抽出された前記第2情
報と関連する文字,図形,記号又はそれらの結合が,前記第3情報として抽出
され,
(C3)所定の文字,図形,記号,又はそれらの結合を第4情報として予め登
録している複数の第2ユーザのうち,抽出された前記第3情報と関連のある第
4情報を登録した者が,通知対象者として決定され,
5 (C4)当該通知対象者の端末に対して,当該知的財産権に関する情報が第5
情報として通知され,
(C5)当該通知対象者の端末から,当該第5情報に関する当該知的財産権に
対して当該通知対象者が興味を有する旨の第6情報が取得されて,
(C6)当該第6情報に基づいて,前記複数の第2ユーザの中に当該知的財産
10 権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報が,第7情報として
生成され,
(C7)前記情報処理装置により前記第1情報が通知された結果として生成さ
れた当該第7情報が,当該情報処理装置に送信された場合において,
(D)当該第7情報を受付ける受付手段と,
15 (E)を備える情報処理装置。」
3 本件審決の理由の要旨
本件審決は,以下のとおり,本件補正を却下した上で,本願発明は特開20
07-11876号公報(甲1。以下「引用例1」という。)に記載された発
明(以下「引用発明」という。)に対する関係で新規性を欠くと判断した。
20 本件審決の理由は別紙審決書(写し)のとおりであり,その要旨は次のとお
りである。
⑴ 本件補正は,補正要件のうち,補正の範囲の要件,単一性の要件及び補正
の目的の要件を充たすので,独立特許要件について検討する。
⑵ 本件補正後発明の認定
25 ア 情報処理装置を特定する構成要件について
本件補正後の請求項1に記載された発明は,構成要件(A),(E)の
記載によれば,「(第1ユーザによって操作される)情報処理装置」に係
る発明である。
本件補正後発明のうち,構成要件(C),(C1)ないし(C7)は,情報
処理装置から(第1情報として)公報の情報が通知され,また,情報処理
5 装置が受付ける第7情報を送信する,サーバを特定する構成要件であって,
情報処理装置を直接的に特定する構成要件ではない。
してみると,本件補正後発明を特定する構成要件は,上記構成要件
(A),(B),(D),(E)といえる。
イ 構成要件(B)について
10 特許請求の範囲の記載及び本願明細書等の段落【0021】ないし【0
024】の記載によれば,構成要件(B)のうち「(公報の情報を,)サ
ーバによる第2情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報
として(,前記サーバに通知する)」の記載は,サーバに通知する公報の
情報を更に限定する記載であると認めることはできるが,サーバによって
15 抽出処理を行うことを前提とした限定であって直接的に情報処理装置を限
定する特定事項ではない。
してみると,構成要件(B)で特定される事項は,
「(B')事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的
財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,
20 当該知的財産権に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手
段と,」
であると認められる。
ウ 構成要件(D)について
特許請求の範囲の記載及び本願明細書等の段落【0029】【004
25 0】【0041】の記載によれば,本件補正後発明にいう「第7情報」は
「知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報であ
って,情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサーバに
通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に送信された情
報」であると認めることができる。
してみると,構成要件(D)で特定される事項は,
5 「(D')知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情
報であって,情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサ
ーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に送信さ
れた情報を受付ける受付手段と,」
であると認められる。
10 エ 本件補正後発明
してみると,本件補正後発明は,以下のとおりの発明と認定できる。
「(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって,
(B')事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的
財産権を,前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,
15 当該知的財産権に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手
段と,
(D')知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情
報であって,情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサ
ーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に送信さ
20 れた情報を受付ける受付手段と,
(E)を備える情報処理装置」
⑶ 引用発明の認定
引用例1には,以下の引用発明が記載されている。
「知的財産情報提供システムに利用される端末であって,譲渡許諾情報DB
25 23,利用希望条件DB24,知的財産文献DB25を備えるデータベース
20と知的財産情報提供サーバ10とからなる管理側装置に対して,ネット
ワークを介して接続される譲渡許諾情報登録端末30に関する発明であって,
譲渡許諾情報登録端末30は,
権利者により操作されるPC又は携帯端末等の通信可能な情報処理装置で
あって,譲渡許諾情報を知的財産情報提供サーバ10に送信しデータベース
5 20に登録するものであって,
譲渡許諾情報は,知的財産権の内容,PR情報,譲渡又は実施(使用)を
許諾するときの条件等の各種情報から構成され,
知的財産情報提供サーバ10からその画面情報を受信すると,その受信し
た画面情報を表示する,
10 譲渡許諾情報登録端末30であって,
知的財産情報提供システムにおいては,知的財産文献DB25に特許公報
等の知的財産権の文献情報を登録しておくことが可能であり,
上記知的財産権の文献情報は,知的財産情報提供サーバ10により知的財
産文献DB25に登録され,知的財産権の権利者が,譲渡許諾情報登録端末
15 30を用いて,自身が保有する知的財産権の文献情報を知的財産情報提供サ
ーバ10に送信し,知的財産情報提供サーバ10は,その受信した文献情報
を登録するようにしてもよく
利用希望情報は,
利用希望者は,譲渡許諾情報利用端末40を用いて,その画面上の入力欄
20 に沿って前述の利用希望条件をキーボード等で入力し,
その入力された利用希望条件を知的財産情報提供サーバ10に送信し,
知的財産情報提供サーバ10は,前述の譲渡許諾情報DB23を参照し,
利用希望条件に合致した譲渡許諾情報の検索を行い,
知的財産情報提供サーバ10は,それらの各条件に合致した譲渡許諾情報
25 を抽出すると,その抽出した譲渡許諾情報の一覧を示す画面情報を作成して,
その作成した一覧の画面情報を譲渡許諾情報利用端末40に送信し,
譲渡許諾情報利用端末40は,受信した譲渡許諾情報の一覧を示す画面情
報を表示し,
利用希望者により,その一覧画面上から1つの譲渡許諾情報が選択される
と,譲渡許諾情報利用端末40は,その選択情報をシステムサーバ10に送
5 信し,
知的財産情報提供サーバ10は,受信した選択情報で選択されている譲渡
許諾情報を譲渡許諾情報DB23から抽出し(ステップS109),抽出し
た譲渡許諾情報の詳細を示す画面情報を作成して,譲渡許諾情報利用端末4
0に送信し,
10 譲渡許諾情報利用端末40は,その譲渡許諾情報の詳細の画面情報を受信
し,画面に表示し,
利用希望者は,その画面上に示された知的財産権の譲受又は実施(使用)
を希望するとき,譲渡許諾情報利用端末40でその旨のキー操作等を行うこ
とにより,譲渡許諾情報利用端末40は,その画面上の知的財産権の譲受又
15 は実施(使用)を希望する旨の情報(以下,利用希望情報という)を知的財
産情報提供サーバ10に送信する,
ことで譲渡許諾情報利用端末40からサーバに送信される情報であり,
知的財産情報提供サーバ10は,その利用希望情報を受信すると,その譲
受又は実施(使用)を希望する利用希望者の個人情報を利用希望者DB22
20 から抽出し(ステップS113),この抽出した利用希望者の個人情報と,
その利用希望情報とを含む画面情報を作成し,この作成した画面情報を今回
利用希望されている知的財産権を保有する権利者の譲渡許諾情報登録端末3
0に送信する,
知的財産情報提供システムの譲渡許諾情報登録端末30。」
25 ⑷ 対比
本件補正後発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
ア 一致点
第1ユーザによって操作される情報処理装置であって,
前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記第1ユーザが保有
する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権に関する公報の
5 情報を,サーバに通知する公報通知手段と,
知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報であ
って,情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサーバに
通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に送信された情
報を受付ける受付手段と,
10 を備える情報処理装置である点
イ 相違点
本件補正後発明では,「事業に使用されていないが前記第1ユーザが活
用を希望する知的財産権」であるのに対し,引用発明では,前記第1ユー
ザ(特許権者)が活用を希望する知的財産権について,「事業に使用され
15 ていない」ことを特定する構成を有していない点
⑸ 判断
特許権者(第1ユーザ)が保有する特許権は複数あり,そして,その特許
権について,自身がその事業に実際に利用しているか否か,あるいは,(実
施権の設定や権利の譲渡などにより)他の事業者に対して利用可能とするか
20 否か,などの判断は,特許権者が自身の事業計画などに基づいて適宜なされ
ることは当たり前に行われている。
また,引用例1においても,段落【0005】に「一方,知的財産権の権
利者の中には,自身の知的財産権が登録されたにもかかわらず,設備や資金
が不足し実施や使用が困難であるため,知的財産権の有償譲渡又はライセン
25 ス契約の締結を希望している場合も多い。」と記載されるように,自身が保
有する特許権について,自分では実施しないものの,他者に対して当該特許
権を利用可能とすることも普通に想定している。
したがって,上記の判断に際して,自身が保有する特許権について,自分
では実施をしていないが他の事業者に対して利用可能とする場合も当然想定
されることであり,上記当然想定される特許権について,引用発明の情報処
5 理装置(譲渡許諾情報登録端末30)を用いて登録することは,普通に想定
できることであるから,引用発明に上記相違点に係る構成を付加し本件補正
後発明とすることは当業者が容易になし得たことである。
以上のように,上記相違点は,当業者が容易に想到し得たものと認められ,
発明全体としてみても格別のものはなく,その作用効果も,上記相違点に係
10 る構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず,格別顕著なも
のとは認められない。
⑹ まとめ
以上によれば,本件補正後発明は,引用発明及び本願出願前周知の事項に
基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件補正
15 は,独立特許要件を欠き,却下すべきである。
そして,本願発明は,本件補正により付加された発明特定事項(上記2の
下線部)を有しないから,引用発明との相違点(上記⑷)はなく,新規性を
欠き,特許を受けることができない。したがって,本願は,請求項2以下に
係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきである。
20 4 原告の主張する審決取消事由
⑴ 取消事由1(本件補正後発明の認定の誤り)
⑵ 取消事由2(一致点,相違点の認定の誤り)
⑶ 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)
第3 当事者の主張
25 1 取消事由1(本件補正後発明の認定の誤り)について
〔原告の主張〕
⑴ 本件補正後発明の情報処理装置はサーバと一組の発明として把握されるべ
きであること
本件審決が本件補正後発明の認定に当たって前提としているのは,特許・
実用新案審査基準における第Ⅲ部第2章第4節「4. サブコンビネーショ
5 ンの発明を『他のサブコンビネーション』に関する事項を用いて特定しよう
とする記載がある場合」の「4.1.2『他のサブコンビネーション』に関
する事項が,『他のサブコンビネーション』のみを特定する事項であって,
請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造,機能等を何ら特定してい
ない場合」の「例1」(別紙1「特許・実用新案審査基準の抜粋」参照)で
10 ある。
しかしながら,本件補正後発明は,当該「例1」とは全く異なる構成であ
る。すなわち,本件補正後発明は,「第1ユーザによって操作される情報処
理装置」に関するものであって,「知的財産権の活用を希望する権利者等に
対して,当該知的財産権を有効活用してくれる候補者を数多くかつ容易に提
15 示すること」(本願明細書等の段落【0005】)を課題としており,当該
課題を解決するための手段として,複数の通知対象者(事業者)の情報をま
とめたサーバと,当該複数の通知対象者によって操作される端末と,権利者
等によって操作される情報処理装置と,を組み合わせたシステムを前提にし
ている。
20 このように,本件補正後発明の情報処理装置は,上記システムを構成する
装置に関するものであって,本件補正後発明の情報処理装置は,上記課題と
の関係から,「知的財産権の活用候補者提示」のための専用端末と捉えるこ
とができ,サーバの構成と一組のものとして発明を構成していることは明ら
かである。知財高裁平成22年(行ケ)第10056号事件の判決に本件を
25 当て嵌めても,本件補正後発明の認定に当たり,サーバの存在を除外して検
討するのは誤りである。
⑵ 情報処理装置とサーバが別個のものとしても,本件審決における本件補正
後発明の認定は誤りであること
仮に,本件補正後発明における情報処理装置とサーバとを一組の発明と捉
えることができないとしても,本件補正後発明の「第7情報」は,構成要件
5 (C),(C1)ないし(C7)で特定されるように,情報処理装置から「第1
情報」を受信したことによって生成される情報であって,その結果,本件補
正後発明は,発明の実施形態に強みを有する事業者を選択できるという意義
を有するものであるのに対し,本件審決はこのような本件補正後発明の意義
を無視し,「公報通知手段」がサーバに通知する情報を,単なる「当該知的
10 財産に関する公報の情報」と矮小化し,また「受付手段」が受け付ける情報
についても,「知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示
す情報」と矮小化して認定しており誤りである。
〔被告の主張〕
⑴ 原告の主張⑴に対し
15 本件補正後発明において,「他のサブコンビネーション」であるサーバが,
第1情報の通知を受けて,第1情報が通知された結果として生成した第7情
報を送信することは,「サブコンビネーション」の発明である情報処理装置
の構造,機能等を何ら特定するものではない。そうすると,本件補正後発明
は,この点において,審査基準における「4.1.2」の「例1」と共通す
20 るものであるから,「4.1.2」の「例1」と異なるという原告の主張は
失当である。
また,原告は,本件補正後発明の「情報処理装置」は「知的財産権の活用
候補者提示」のための専用端末である旨主張するが,本件補正後発明は,
「サーバ」と「情報処理装置」からなるシステムに専用される端末としての
25 情報処理装置ではない。原告は,平成22年(行ケ)第10056号事件の
判決を援用するが,上記事件に係る「液体インク収納容器」に係る発明にお
いては,特定の液体インク収納容器がこれに対応する記録装置の構成と一組
のものとして発明を構成しているのであって,本件とは事案を異にする。
⑵ 原告の主張⑵に対し
本件審決は,「他のサブコンビネーション」であるサーバに関する事項に
5 ついて検討し,さらに発明の詳細な説明の記載も参酌した上で,本件補正後
発明で認定した構成以外の構成を,情報処理装置を特定するための意味を有
しない構成であるとして,「公報通知手段」がサーバに通知する情報及び
「受付手段」が受け付ける情報を認定したものであり,本件審決に誤りはな
い。
10 原告は,本件審決は,発明の実施形態に強みを有する事業者を選択できる
という本件補正後発明の意義を無視し,「公報通知手段」がサーバに通知す
る情報及び「受付手段」が受付ける情報について矮小化して認定していると
主張するが,原告が主張する本件補正後発明の意義は,もっぱら,サーバに
おける処理によって達成されるのであって,情報処理装置の貢献は,第1情
15 報をサーバに送信し,第7情報を受信することのみであるから,本件審決は,
本件補正後発明を何ら矮小化して認定しているものではない。
2 取消事由2(一致点,相違点の認定の誤り)及び取消事由3(容易想到性の
判断の誤り)について
〔原告の主張〕
20 本件審決は本件補正後発明の認定を誤った結果,一致点及び相違点の認定並
びに容易想到性の判断を誤っている。
すなわち,本件補正後発明を,情報処理装置とサーバとが一組のものとして
把握しても,別個のものとして把握しても,引用発明は,少なくとも本件補正
後発明の構成要件(B),(C1),(C2),(C6),(C7),(D)及び
25 (E)を有さず,発明の実施形態に強みを有する事業者を選択できるという本
件補正後発明の意義を有しないから,本件補正後発明は引用発明及び周知技術
に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
〔被告の主張〕
原告の主張は,本件審決における本件補正後発明の認定に誤りがあることを
前提とするものであるが,上記⑴のとおり,本件審決における本件補正後発明
5 の認定に誤りはないから,原告の主張は前提を欠いており,理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 本件補正後発明の認定について
⑴ 特許請求の範囲
本件補正後発明の特許請求の範囲(本件請求項1)の記載は,前記第2の
10 2のとおりである。
⑵ 本願明細書等の記載
本願明細書等には,次のとおりの記載がある。
ア 技術分野
「本発明は,情報処理装置及び方法,並びにプログラムに関する。」
15 (段落【0001】)
イ 背景技術
「従来より,特許権は,実施予定又は実施中の事業を保護する目的で,
多くの企業により取得されている。
特許権を取得するためには,願書の他,当該願書の添付書類の提出が必
20 要になる。願書の添付書類としては,特許請求の範囲,明細書,図面,及
び要約書が存在する。
このような願書の添付書類の作成を支援する技術(例えば特許文献1参
照)や,願書の添付書類の文章構造等を解析する技術(例えば特許文献2
参照)については,数多くの研究開発がなされている。」(段落【000
25 2】)
ウ 発明が解決しようとする課題
「しかしながら,特許権者が未実施の場合には,当該特許権は,特許料
(年金)だけを支払って権利を維持したまま,何ら有効活用がなされてい
ないことが多い。
ここで,特許権は,財産権であるため,特許権者が未実施の場合であっ
5 ても,譲渡したり,専用実施権の設定や通常実施権の許諾をすることで,
有効活用をすることが可能である。ところが,特許権者にとって,当該特
許権を譲渡したり,専用実施権の設定や通常実施権の許諾をするための相
手(特許権を有効活用してくれる候補者)を探すことは非常に困難な状況
である。
10 このことは,特許権のみならず,知的財産権一般に当てはまる状況であ
る。」(段落【0004】)
「本発明は,このような状況に鑑みてなされたものであり,知的財産権
の活用を希望する権利者等に対して,当該知的財産権を有効活用してくれ
る候補者を数多くかつ容易に提示することを目的とする。」(段落【00
15 05】)
エ 課題を解決するための手段
「本発明の一側面の情報処理装置は,
第1ユーザによって操作される情報処理装置であって,
活用を希望する知的財産権に関する公報の内容をサーバに通知する公報通
20 知手段と,
第2ユーザの端末からの所定の応答を,サーバを介して受付ける応答受
付手段と,
所定の応答をサーバに対し通知する応答通知手段と,
を備える。」(段落【0006】)
25 オ 発明の効果
「本発明によれば,知的財産権の活用を希望する権利者等に対して,当
該知的財産権を有効活用してくれる候補者を数多くかつ容易に提示するこ
とができる。」(段落【0007】)
カ 発明を実施するための形態
「特許権者は,活用を希望する特許権の情報(例えば特許番号等)を予
5 めサーバ1に通知しているものとする。即ち,当該特許権の公報(特許掲
載公報若しくは出願公開公報)の内容が公報情報DB61にデータとして
記憶されているものとする。
ここで,活用を希望する特許権とは,事業者の事業に使用されていない
特許権や,専用実施権の設定や通常実施権の許諾をしていない特許権等が
10 想定される。」(段落【0021】)
「換言すると,公報情報DB61には,特許権者端末2-1乃至2-n
の夫々から通知された各種特許権の公報の内容がデータとして記憶されて
いる。ここで,公報の内容のデータは,必ずしも公報の謄本のデータであ
る必要は特になく,その名称のごとく,公報の内容さえ特定できれば足り,
15 任意の形態のデータでよい。」(段落【0022】)
「クレーム内単語抽出部51は,所定の特許権者が活用を希望する所定
の特許権(以下,「活用希望特許権」と呼ぶ)に関する公報に含まれる請
求の範囲の内容(クレームの内容)のうち,所定の単語を,クレーム内単
語として抽出する。
20 ここで,クレーム内単語の抽出手法や抽出個数は,特に限定されず任意
でよい。ただし,クレームとは,特許権の技術的範囲を確定するもの(出
願段階では特許を受けようとする発明を確定するもの)であり,いわば権
利書の内容である。従って,少なくとも権利取得時点において,事業を進
める等にあたり特許権者が特に力を入れている内容が,クレームに現され
25 ていることが多い。従って,数多く表れる単語は,それだけ特許権者にと
って重要であると共に,発明のポイント(特別な技術的特徴の1つ)を現
している可能性が高い。
そこで,本実施形態では,クレーム内単語抽出部51は,クレームに登
場する単語の頻度分布を作成し,頻度(登場回数)が上位の単語をクレー
ム内単語として抽出している。」(段落【0023】)
5 「明細書内単語抽出部52は,活用希望特許権に関する公報に含まれる
明細書の内容のうち,抽出されたクレーム内単語と関連する単語を,明細
書内関連単語として抽出する。
ここで,クレーム内単語と関連する単語の抽出手法は,特に限定されな
い。例えば既知の類義語辞典等を参照して抽出する手法を採用してもよい
10 し,機械学習等を利用した所定のアルゴリズムを用いて抽出する手法を採
用してもよい。」(段落【0024】)
「応答受付部55は,通知対象者の端末(事業者端末3)から所定の応
答を受付けて,通知部54に通知する。通知部54は,当該応答を特許権
者端末2に通知する。
15 さらに,応答受付部55は,特許権者端末2からの所定の応答も受け付
ける。
なお,応答受付部55により受け付けられる応答の具体例については,
図5を参照して後述する。」(段落【0029】)
「同様に,ステップS21-3において,事業者端末3-3は,特許掲
20 載公報を受信する。
ステップS22-3において,事業者端末3-3は,興味有応答を送信
する。
ステップS16において,サーバ1の応答受付部55は,興味有応答を
受信して受け付ける。
25 ステップS17において,通知部54は,興味有応答をした2以上の事
業者(本例では事業者端末3-2,3-3を操作する事業者)に関する情
報を,2以上の事業者を特定する情報を除外して(例えば匿名で)リスト
化したもの(以下,「匿名事業者リスト」と呼ぶ)を,特許権者端末2に
送信する。」(段落【0040】)
「特許権者端末2を介して匿名事業者リストが提示された特許権者は,
5 ライセンス交渉等を希望する事業者(以下,「ライセンス等交渉者」と呼
ぶ)を選択する。
ステップS3において,特許権者端末2は,ライセンス等交渉者に対し
て,当該ライセンス等交渉者を特定する情報の開示(例えば匿名の解除)
の指示を,サーバ1に通知する。
10 ステップS18において,サーバ1の応答受付部55は,当該指示を特
許権者からの応答として受け付ける。
ステップS19において,通知部54は,ライセンス等交渉者の端末
(本例では事業者端末3-2)に対して,開示要求(特許権者端末2から
の応答)を通知する。
15 ライセンス等交渉者として選択された事業者が特許権者との交渉に応じ
る場合,ステップS25-2において,当該事業者の事業者端末3-2は,
当該事業者を特定する情報の開示を特許権者端末2に対して行う。
ステップS4において,特許権者端末2は,当該情報開示を受諾す
る。」(段落【0041】)
20 ⑶ 本件補正後発明の技術的意義
以上によれば,本件補正後発明は,権利者が自らが保有する知的財産権に
つき未実施の場合であっても,これを譲渡したり,専用実施権の設定や通常
実施権の許諾をすることで有効活用をすることが可能であるものの,権利者
にとって,当該知的財産権を譲渡したり,専用実施権の設定や通常実施権の
25 許諾をするための相手(知的財産権を有効活用してくれる候補者)を探すこ
とは非常に困難な状況にあることに鑑み,知的財産権の活用を希望する権利
者等に対して,当該知的財産権を有効活用してくれる候補者を数多くかつ容
易に提示することを課題とした発明であって,その課題の解決手段として,
情報処理装置とサーバとを組み合わせたシステムを活用し,情報処理装置か
ら知的財産権に関する公報の情報(第1情報)の通知(送信)を受けたサー
5 バが,第1情報から第2情報を抽出し,さらに第3情報を抽出し,第3情報
と第4情報とから通知対象を決定して当該公報の情報を第5情報として通知
対象者の端末に通知し,その後,通知対象者の端末から,当該知的財産権に
対して当該通知対象者が興味を有する旨の第6情報を受信し,それを基に知
的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報(興味を有
10 する通知対象者のリストなど)である第7情報を生成して,これを情報処理
装置に送信するという,二つ以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明
に対し,それに組み合わされる情報処理装置の発明(以下「サブコンビネー
ション発明」という。)であると認められる。
2 引用発明の認定について
15 ⑴ 引用例1の記載
引用例1には,発明の名称を「知的財産情報提供システム」とする発明に
関し,発明の詳細な説明として,次のとおりの記載があり,別紙2の【図
1】ないし【図9】の図面がある。
ア 発明が解決しようとする課題
20 「・・・,特許文献1に開示される特許検索システムには,以下のよう
な問題点があった。
従来の検索システムでは,ユーザは,キーワードを入力してデータベー
ス内の膨大な文献データから検索を行っていたが,各文献に記載されてい
る知的財産権が具体的にはどの分野で利用されるものか,どのような事業
25 に適用可能であるか,といったことを把握するためには,その文献の内容
を1つ1つ吟味していかなければならず,多大な労力と時間を必要として
いた。
このようなことから,例えば事業主等は,自分自身の事業に関連する知
的財産権を特定することが困難であり,その結果として,知的財産権の買
取,ならびに実施(使用)の許諾及び事業提携の申出といった,事業を行
5 う際に必要な手続きに障害が生じてしまい,無用な権利侵害を招いたりす
る可能性があった。
一方,知的財産権の権利者の中には,自身の知的財産権が登録されたに
もかかわらず,設備や資金が不足し実施や使用が困難であるため,知的財
産権の有償譲渡又はライセンス契約の締結を希望している場合も多い。し
10 かし,前述したように知的財産権の利用を希望している側から知的財産権
の内容を把握することが困難であり,かつ権利者側から知的財産権の価値
を積極的にPRする機会がほとんどないため,知的財産権の有効活用が困
難となってしまっている。」(段落【0005】)
イ 発明を実施するための最良の形態
15 「 <第1の実施の形態>
(第1の実施の形態の概要)
まず,本発明の第1実施の形態における概要について簡単に説明する。
本実施の形態における知的財産情報提供システムにおいて,知的財産権
の権利者(以下,単に権利者という)は,自身が保有する知的財産権の譲
20 渡又は実施(使用)を許諾する旨の情報(以下,譲渡許諾情報という)を
システム内のデータベースに登録する。この譲渡許諾情報には,その知的
財産権の価値をPRする文章の情報が含まれている。
その後,第三者から知的財産権の譲受又は実施(使用)の許諾を受ける
ことを希望する者(以下,利用希望者という)は,前述のデータベース内
25 の譲渡許諾情報(PR文)を参照し,自身が譲受又は実施(使用)の許諾
を受けたい知的財産権を選択する。
知的財産情報提供システムは,その知的財産権の利用希望を受け付ける
と,該当する知的財産権の権利者側に,その知的財産権の利用希望がある
旨を通知して,知的財産権の譲渡又は実施(使用)の仲介を行う。
このようにして,知的財産権の利用価値を積極的にPRする情報を,知
5 的財産権の利用側に提示するので,知的財産権の譲渡又は実施(使用)の
仲介を効果的に行うことができ,知的財産権の有効活用を実現することが
可能となる。
以下,本実施の形態における知的財産情報提供システムの構成を説明し,
次に動作について説明を進める。」(段落【0016】)
10 「(第1の実施の形態の構成)
(1)全体構成
図1は,本発明の実施の形態における知的財産情報提供システムの構成
を示す図である。以下,図を用いて,知的財産情報提供システムの全体的
な構成を説明し,次に,このシステム内のサーバ及び端末個々の構成につ
15 いて説明を進める。
知的財産情報提供システムは,特許等の知的財産権の譲渡又は実施(使
用)許諾の希望等を受け付ける知的財産情報提供サーバ10と,これらの
知的財産権の譲渡や実施(使用)等に関する情報を管理するデータベース
20と,知的財産権の譲渡や実施(使用)の許諾の申し出をそのデータベ
20 ース20に登録するための譲渡許諾情報登録端末30と,そのデータベー
ス20にアクセスし知的財産権の譲受や実施(利用)の申込を行う譲渡許
諾情報利用端末40とを有し,これらサーバ及び端末がインターネット等
のネットワーク1を介して接続されて構成される。
以下,これら知的財産情報提供システムの各構成要素について,個別に
25 説明していく。」(段落【0017】)
「知的財産情報提供サーバ10は,データベース20とともに前述のシ
ステムの管理側により管理されるワークステーション等の情報処理装置で
あって,権利者側の譲渡許諾情報登録端末30から知的財産権の譲渡又は
実施(使用)の許諾の申し出を受信し,データベース20に登録する。
また,知的財産情報提供サーバ10は,譲渡許諾情報利用端末40から
5 の要求に応じて,データベース20内の譲渡許諾情報を抽出し,譲渡許諾
情報利用端末40に送信する。」(段落【0018】)
「譲渡許諾情報登録端末30は,権利者により操作されるPC又は携帯
端末等の通信可能な情報処理装置であって,譲渡許諾情報を知的財産情報
提供サーバ10に送信しデータベース20に登録する。
10 この譲渡許諾情報は,例えば,知的財産権の内容,PR情報,譲渡又は
実施(使用)を許諾するときの条件等の各種情報から構成される。」(段
落【0019】)
「譲渡許諾情報利用端末40は,利用希望者により操作されるPC又は
携帯端末等の通信可能な情報処理装置であって,データベース20に登録
15 された譲渡許諾情報にアクセスすることでその譲渡許諾情報を表示し,こ
の譲渡許諾情報に示される知的財産権の譲受又は実施(使用)を希望する
旨の情報を知的財産情報提供サーバ10に送信する。」(段落【002
0】)
「データベース20は,前述のシステムの管理側により管理されるデー
20 タベースであって,知的財産権ならびにその権利者側及び利用希望者側の
個人情報等を管理する。
また,図に示すように,このデータベース20は,権利者の個人情報を
管理する権利者DB21と,利用希望者の個人情報を管理する利用希望者
DB22と,権利者の知的財産権の情報を管理する譲渡許諾情報DB23
25 と,知的財産権の譲受又は許諾を受けるときに利用希望者が希望する条件
等(以下,利用希望条件という)を管理する利用希望条件DB24と,知
的財産権の文献情報を管理する知的財産文献DB25と,知的財産権の手
続き等の期限情報を管理する期限管理DB26とから構成される。
以下,これらデータベース20を構成する各領域(データベース)につ
いて,個別に説明する。」(段落【0021】)
5 「また,譲渡許諾情報DB23には,前述の譲渡許諾情報が管理されて
いる。
この譲渡許諾情報には,該当する知的財産権の内容,番号(出願番号,
登録番号等),PR情報等が含まれる。なお,この譲渡許諾情報の内容に
関しては後ほど詳述する。」(段落【0024】)
10 「また,利用希望条件DB24には,前述の利用希望条件が管理されて
いる。
この利用希望条件には,利用希望側が権利者側から知的財産権を譲受又
は実施(使用)するときに希望する各種条件(予算,期間等)が含まれる。
なお,この利用希望条件の内容に関しては後ほど詳述する。」(段落【0
15 025】)
「また,知的財産文献DB25には,特許公報,商標公報等,知的財産
権の文献の情報が管理されている。」(段落【0026】)
「(第1の実施の形態の動作)
本実施の形態における知的財産情報提供システムは,前述したような構
20 成を備え,以下のような動作を行う。
すなわち,まず,知的財産情報提供システムでは,権利者及び利用希望
者の個人情報と前述の譲渡許諾情報とをデータベース20に登録した後に
(1.個人情報及び譲渡許諾情報の登録動作),利用希望者側から知的財
産権を利用するときに希望する条件の提示を受けると,その譲渡許諾情報
25 を利用希望者側に提供して知的財産権の流動化及び有効活用を促進する
(2.譲渡許諾情報の提供動作)。
また,本実施の形態では,知的財産情報提供システムは,権利者等から
の依頼に応じて,知的財産権の手続きの期限管理を行う(3.知的財産権
の管理動作)。
さらに,この知的財産情報提供システムは,知的財産権の文献情報を蓄
5 積し,要求に応じてこれらの文献情報を提供することができる(4.知的
財産権の文献情報の登録動作)。
以下,本実施の形態における知的財産情報提供システムによるこれらの
各動作(1)~(4)について詳細に説明する。」(段落【0032】)
「 (1)個人情報及び譲渡許諾情報の登録動作
10 まず,知的財産権の権利者又は利用希望者は,それぞれ端末30,40
を用いて,自身の個人情報をキーボード等で入力すると,それら各端末3
0,40は,その入力された個人情報を知的財産情報提供サーバ10に送
信する。
知的財産情報提供サーバ10は,その個人情報を受信すると,その個人
15 情報の送信元の権利者又は利用希望者に対して固有のIDを付与し,その
IDに個人情報を対応付けてデータベース20に登録する。
このとき,知的財産情報提供サーバ10は,権利者の個人情報に関して
は権利者DB21に,利用希望者の個人情報に関しては利用希望者DB2
2にそれぞれ登録する。登録する個人情報の内容については,前述した各
20 データベースの登録内容の通りである。
このようにして,知的財産情報提供サーバ10は,権利者側又は利用希
望者側から個人情報を受信すると,IDを付与し,その個人情報の登録動
作を行う。」(段落【0033】)
「譲渡許諾情報利用端末40は,その利用希望条件の提示用の画面情報
25 を受信すると,その画面情報を表示し,利用希望者は,譲渡許諾情報利用
端末40を用いて,その画面上の入力欄に沿って前述の利用希望条件をキ
ーボード等で入力していく(ステップS102)。
図4は,その利用希望条件の提示用の画面情報の一例を示す図である。
図に示すように,利用希望者は,譲渡許諾情報利用端末40を用いて,
例えば,
5 ・知的財産権の分野(バイオケミカル,ソフトウェア,…)
・知的財産権の種類(特許,商標,著作権,…)
・知的財産権の利用方法(譲受,専用実施/使用,通常実施/使用,…)
・譲受又は実施(使用)するに当って支払う予算
・権利者側から譲渡等の申出を受け付ける最終期日(受付締め切り期
10 日)
といった利用希望条件を入力する。」(段落【0040】)
「譲渡許諾情報利用端末40は,その入力された利用希望条件を知的財
産情報提供サーバ10に送信する(ステップS103)。
知的財産情報提供サーバ10は,その利用希望条件を受信すると,その
15 受信した利用希望条件を利用希望条件DB24に登録する(ステップS1
04)。」(段落【0041】)
「そして,知的財産情報提供サーバ10は,前述の譲渡許諾情報DB2
3を参照し,その登録した利用希望条件に合致した譲渡許諾情報の検索を
行う(ステップS105)。
20 ここで,知的財産情報提供サーバ10は,例えば,知的財産権の分野:
ソフトウェア,種類:特許,利用方法:譲受,利用範囲:日本全国,…と
いったような各条件が利用希望条件に示されている場合,それらと同様の
条件を示す知的財産権の譲渡許諾情報を譲渡許諾情報DB23から抽出す
る。」(段落【0042】)
25 「知的財産情報提供サーバ10は,それらの各条件に合致した譲渡許諾
情報を抽出すると,その抽出した譲渡許諾情報の一覧を示す画面情報を作
成して,その作成した一覧の画面情報を譲渡許諾情報利用端末40に送信
する(ステップS106)。
譲渡許諾情報利用端末40は,その譲渡許諾情報の一覧を示す画面情報
を受信すると,その画面情報を表示する(ステップS107)。利用希望
5 者により,その一覧画面上から1つの譲渡許諾情報が選択されると,譲渡
許諾情報利用端末40は,その選択情報をシステムサーバ10に送信する
(ステップS108)。」(段落【0043】)
「知的財産情報提供サーバ10は,その選択情報を受信すると,その選
択情報で選択されている譲渡許諾情報を譲渡許諾情報DB23から抽出し
10 (ステップS109),この抽出した譲渡許諾情報の詳細を示す画面情報
を作成して,譲渡許諾情報利用端末40に送信する(ステップS110)。
譲渡許諾情報利用端末40は,その譲渡許諾情報の詳細の画面情報を受
信すると,その画面情報を表示する(ステップS111)。
図5は,この利用希望者により選択された譲渡許諾情報の詳細を示す画
15 面情報の一例を示す図である。
図に示すように,この譲渡許諾情報の詳細の画面情報には,知的財産権
の種類:特許,分野:ソフトウェア,可能な利用方法:譲受等とともに,
その知的財産権のPR情報,利用に当っての参考見積もり等が示されてい
る。このように,権利者は,利用希望者に対して自身の知的財産権の具体
20 的な利用方法やその利用による予想収益等を示すことで,この知的財産権
の有用性をアピールする。
さらに,この譲渡許諾情報の画面上には,この知的財産権の権利者に対
する質問や要望の入力欄が設けられており,利用希望者は,必要に応じ,
その質問や要望を譲渡許諾情報利用端末40で入力する。
25 利用希望者は,その画面上に示された知的財産権の譲受又は実施(使
用)を希望するとき,譲渡許諾情報利用端末40でその旨のキー操作等を
行う。この操作により,譲渡許諾情報利用端末40は,その画面上の知的
財産権の譲受又は実施(使用)を希望する旨の情報(以下,利用希望情報
という)を知的財産情報提供サーバ10に送信する(ステップS112)。
なお,この利用希望情報には,利用希望者IDや知的財産権の番号,前
5 述の質問や要望の入力内容等が含まれている。」(段落【0044】)
「知的財産情報提供サーバ10は,その利用希望情報を受信すると,そ
の譲受又は実施(使用)を希望する利用希望者の個人情報を利用希望者D
B22から抽出し(ステップS113),この抽出した利用希望者の個人
情報と,その利用希望情報とを含む画面情報を作成し,この作成した画面
10 情報を今回利用希望されている知的財産権を保有する権利者の譲渡許諾情
報登録端末30に送信する(ステップS114)。 」(段落【004
5】)
「譲渡許諾情報登録端末30は,知的財産情報提供サーバ10からその
画面情報を受信すると,その受信した画面情報を表示する(ステップS1
15 15)。
その後,権利者は,その画面上に表示された利用希望者の個人情報や利
用希望情報を確認し,譲渡許諾情報登録端末30を用いて,その利用希望
に対する許否や質問に対する回答等を入力し(ステップS116),譲渡
許諾情報利用端末40に送信する(ステップS117)。このとき,権利
20 者は,その知的財産権の価値をアピールするようなPR情報を譲渡許諾情
報登録端末30を用いて追加登録してもよい。
それから,権利者は,利用希望者との間で連絡をとり,知的財産権の譲
渡又は実施(使用)の許諾の契約等の手続きを進める。」(段落【004
6】)
25 「まず,権利者は,知的財産情報提供システムによる期限管理サービス
を受けるにあたって必要な基本情報(管理対象の知的財産権の番号等)の
登録を行う(ステップS201~S206)。
まず,権利者は,譲渡許諾情報登録端末30を用いて知的財産情報提供
サーバ10にアクセスすると(ステップS201),知的財産情報提供サ
ーバ10は,このような基本情報の登録のための画面情報を譲渡許諾情報
5 登録端末30に送信する(ステップS202)。」(段落【0049】)
「譲渡許諾情報登録端末30は,その画面情報を受信すると,その受信
した画面情報を表示する(ステップS203)。
図7は,この知的財産権の管理のための基本情報の登録画面の一例を示
す図である。
10 権利者は,譲渡許諾情報登録端末30を用い,その登録用の画面上の入
力欄に沿って,基本情報をキーボード等で入力していく(ステップS20
4)。
例えば,ここでは,
・管理対象の知的財産権の番号
15 ・前述の期限が近づいたときの通知先(権利者本人,共同権利者,…)
・通知の対象となる期間/期限(審査請求期間,優先権主張,…)
等が入力される。」(段落【0050】)
「譲渡許諾情報登録端末30は,これら入力された基本情報(知的財産
権の番号,通知先,通知対象の期限,…)を知的財産情報提供サーバ10
20 に送信する(ステップS205)。
知的財産情報提供サーバ10は,これら基本情報を受信すると,期限管
理DB26に登録する(ステップS206)。」(段落【0051】)
「そして,知的財産情報提供サーバ10は,譲渡許諾情報DB23に登
録されている基準日(出願日等)と,今回期限管理DB26に登録された
25 管理対象の期間又は期限の種類(審査請求期限等)とを参照し,実際の期
限となる期日を算出する(ステップS207)。
例えば,原則として,基準日(出願日)を2005年1月1日,管理対
象の期限を審査請求期限(出願日から1年6ヶ月)とすると,2006年
7月1日と算出される。」(段落【0052】)
「ここで,知的財産情報提供サーバ10には,管理対象の期限の種類ご
5 とに,所定期間を示す情報が予め蓄積されているものとする。
図8は,この所定期間を示す情報の一例を示す図である。
例えば,図に示すように,審査請求期限であればこの所定期間は3ヶ月
となり,国内優先期限であれば2ヶ月,…といったように決められている。
知的財産情報提供サーバ10は,前述の算出した実際の期限日から,そ
10 の所定期間だけ前の期日を実際の通知日として決定する(ステップS20
8)。
例えば,管理対象の期限を審査請求期限であるとすると,この所定期間
は3ヶ月であるので,2006年7月1日の3ヶ月前の2006年4月1
日を通知日として決定する。」(段落【0053】)
15 「知的財産情報提供サーバ10は,一定時間ごとに,現時点と,その決
定した通知日とを比較し(ステップS209),その通知日に至ると(ス
テップS209/Yes),期限管理DB26に登録されている通知先の
端末(譲渡許諾情報登録端末30等)に対して,その期限に近づいた旨の
通知情報を送信する(ステップS210)。
20 また,このとき,知的財産情報提供サーバ10は,手続きの種類,請求
項の数,区分の数,出願又は請求の時期等に基づいて,この期限に関する
手続きにおいて権利者が納付する必要がある費用を算出し,通知情報とし
て通知先の端末に送信するようにしてもよい。
図9は,その期限が近づいた旨の通知情報の一例を示す図である。
25 通知情報を受信した通知先の端末は,この図に示すように,審査請求期
限まであと3ヶ月となった旨や,その審査請求にかかる料金等が示された
通知情報を画面表示し,その通知先の人物は,この画面表示内容を閲覧し
て,自身に関連している知的財産権の期限を確認する。」(段落【005
4】)
「このように,知的財産情報提供サーバ10は,権利者等から,管理対
5 象となる期限及びその通知先を指定されると,対象となる知的財産権の期
限管理を行い,その期限が近づくと,自動的にその指定された通知先に,
期限が近づいている旨の通知情報を送信するので,権利者等は,その端末
の画面上の通知情報を閲覧するだけで,自身に関連する知的財産権の期限
を確認できるので,その知的財産権の期限管理が容易となる。」(段落
10 【0055】)
「なお,前述の期限日の通知先は,例えば,審査請求期限の通知のとき
には権利者及び代理人に通知し,年金納付期限の通知のときには権利者の
みに通知するといったように,各管理対象の期限ごとに異なっていてもよ
い。」(段落【0056】)
15 「(4)知的財産権の文献情報の登録動作
また,知的財産情報提供システムにおいては,知的財産文献DB25に
特許公報等の知的財産権の文献情報を登録しておくことで,ユーザは,自
分の端末を用いて,知的財産情報提供サーバ10にアクセスして,その文
献情報を閲覧することができる。
20 この知的財産権の文献情報は,知的財産情報提供サーバ10により知的
財産文献DB25に登録される。
これは,知的財産権の権利者が,譲渡許諾情報登録端末30を用いて,
自身が保有する知的財産権の文献情報を知的財産情報提供サーバ10に送
信し,知的財産情報提供サーバ10は,その受信した文献情報を登録する
25 ようにしてもよい。
また,知的財産情報提供サーバ10が,図示しない公的機関のサーバ等
にアクセスし,その公的機関のサーバ等が提供する文献情報をダウンロー
ドし,知的財産文献DB25に登録するようにしてもよい。」(段落【0
057】)
「このようにして,特許公報や商標公報等の知的財産権の文献情報が,
5 文献DB25に登録されるので,知的財産権の権利者,利用希望者及びそ
の他のユーザは,PCや携帯電話機等の携帯端末を用いて知的財産情報提
供サーバ10にアクセスして,その知的財産文献DB25内の文献情報を
容易に閲覧することができるようになる。」(段落【0058】)
⑵ 引用発明の内容
10 上記⑴によれば,引用発明の内容は,本件審決が認定したとおり(前記第
2の3⑶)であると認められる。
3 取消事由1(本件補正後発明の認定の誤り)について
原告は,本件審決が,上記第2の3⑵エのとおり,本件補正後発明を特定す
る事項として(A),(B'),(D')及び(E)のみ認定したことは誤りであ
15 る旨主張する。そこで,この点につき検討する。
⑴ 発明の要旨認定
特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情がない限り,願書に添付
した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるが,特許請
求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,
20 あるいは,一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に
照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合は,明細書の発明の詳細
な説明の記載を参酌することが許される(最高裁平成3年3月8日第二小法
廷判決・民集45巻3号123頁参照)。
これを本件補正後発明について検討するに,前記1⑶のとおり,本件補正
25 後発明は,二つ以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し,組み
合わされる各装置の発明(サブコンビネーション発明)であって,特許請求
の範囲請求項1の記載から,第1ユーザによって操作される情報処理装置に
関する発明であることが理解されるが,特許請求の範囲請求項1の記載中に,
情報処理装置とは別の,他の装置であるサーバにおける処理の内容が記載さ
れているため,特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解す
5 ることができない特段の事情がある。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,本件補正
後発明の要旨を認定することとする。
ところで,サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求
項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構成要素,組
10 成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構造,機能
等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を
有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装
置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請
求項に係る発明の構造,機能等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に
15 関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないこと
になるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが
相当であるというべきである。
以上の観点から,以下,本件補正後発明を検討する。
⑵ 構成要件(A)及び(E)について
20 本件補正後発明の構成要件(A)及び(E)は,発明の対象が「第1ユー
ザによって操作される情報処理装置」であることを特定する記載事項である
から,これによって,本件補正後発明は「情報処理装置」の発明であること
が画定される。
⑶ 構成要件(B)について
25 特許請求の範囲請求項1の記載によれば,構成要件(B)における「事業
に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を,前記
第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し,当該知的財産権
に関する公報の情報を,前記サーバに通知する公報通知手段と」の記載は,
情報処理装置が有する公報通知手段を直接的に特定する構成であるといえる。
一方,「(公報の情報を,)サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の
5 根拠となる情報を含む第1情報として(,前記サーバに通知する)」との記
載は,サーバに通知する公報の情報を更に限定する記載であると認めること
はできるが,サーバによって抽出処理を行うことを前提とした限定であって
直接的に情報処理装置を限定する特定事項ではない。
上記第2情報及び第3情報の抽出処理について,請求項の記載をみると
10 「(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される
前記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち,所定の文字,図形,記号,又
はそれらの結合が,前記第2情報として抽出され,
(C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち,抽出された前記第2
情報と関連する文字,図形,記号又はそれらの結合が,前記第3情報として
15 抽出され,」
と特定されている。
上記特定事項に対応する発明の詳細な説明の記載を参照すると,構成要件
(C1)は,特に段落【0023】のクレーム内単語として抽出する構成に,
構成要件(C2)は段落【0024】の明細書内関連単語として抽出する構成
20 に対応すると認められる。
一方,本願明細書等の段落【0021】には,上記「第1情報」に関して,
「特許権者は,活用を希望する特許権の情報(例えば特許番号等)を予めサ
ーバ1に通知しているものとする。即ち,当該特許権の公報(特許掲載公報
若しくは出願公開公報)の内容が公報情報DB61にデータとして記憶され
25 ているものとする。」と記載され,段落【0022】には,「ここで,公報
の内容のデータは,必ずしも公報の謄本のデータである必要は特になく,そ
の名称のごとく,公報の内容さえ特定できれば足り,任意の形態のデータで
よい。」と記載されていることから,これらの抽出処理に用いられる公報の
情報は,普通に公開されている特許公報の内容であれば足りるといえ,第1
情報としてサーバに通知される知的財産権に関する公報の情報は,普通に公
5 開されている特許権の公報の内容を表す情報(すなわち,知的財産権に関す
る公報の情報)以上に格別の内容を含むものではないことは明白である。
すなわち,構成要件(B)における,公報通知手段が「第1情報」としてサ
ーバに通知する公報の情報とは,通常の特許公報又は公開特許公報を示すに
すぎないと認められる。そして,本願明細書等を精査しても,当該情報を通
10 知するに先立って,情報処理装置において,サーバにおける処理(第2情報
及び第3情報の抽出等)に資するため何らかの処理がされること等を開示又
は示唆する記載は,何ら見出すことができない。
そうすると,構成要件(B)の「サーバによる第2情報及び第3情報の抽
出の根拠となる情報を含む第1情報として」との記載事項は,第1情報の通
15 知を受けたサーバが当該第1情報から第2情報及び第3情報を抽出するとい
う,サーバにおける処理(構成要件(C1)及び(C2))を特定しているにす
ぎない。すなわち,上記記載事項は,第1情報自体が,第2情報及び第3情
報を抽出するため通常の公報とは異なる格別の情報を含むことを特定してい
るものではない。
20 このように,本件補正後発明の構成要件(B)のうち「サーバによる第2
情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報として」の記載事
項は,サーバの処理を特定したものであり,情報処理装置が備える公報通知
手段の内容を特定するものではないから,構成要件(B)によって特定され
る発明特定事項の認定に当たっては,上記記載事項を除外するのが相当であ
25 り,本件審決が(B')のとおり認定したことに誤りはない。
⑷ 構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)について
本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)は,情報処理装
置から知的財産権に関する公報の情報(第1情報)の通知(送信)を受けた
サーバが,第1情報から第2情報を抽出し,さらに第3情報を抽出し,第3
情報と第4情報とから通知対象を決定して当該公報の情報を第5情報として
5 通知対象者の端末に通知し,その後,通知対象者の端末から第6情報を受信
し第7情報を生成して情報処理装置に送信するという,サーバが行う処理を
特定したものであって,情報処理装置が行う処理を特定するものではない。
すなわち,情報処理装置から通知された情報に対して,どのような処理を行
い,どのような情報を生成して情報処理装置に送信するかという処理は,サ
10 ーバが独自に行う処理であって,情報処理装置が行う処理に影響を及ぼすも
のではない。
一方,情報処理装置は,第1情報をサーバに送信し,第7情報をサーバか
ら受信するものであるところ,かかる情報処置装置の機能は,サーバに所定
の情報を送信してサーバから所定の情報を受信するという機能に留まり,当
15 該機能は,上記構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって影響を受け
たり制約されるものではない。このように,構成要件(C)及び(C1)ない
し(C7)は,情報処理装置の機能,作用を何ら特定するものではない。
よって,本件補正後発明の認定に当たっては,構成要件(C)及び(C1)
ないし(C7)を発明特定事項とはみなさずに本件補正後発明の要旨を認定す
20 べきであり,これと同旨の本件審決に誤りはない。
⑸ 構成要件(D)について
本件補正後発明の構成要件(D)は,情報処理装置が備える「受付手段」
が,サーバから送信される「第7情報」を受け付けることを特定するもので
ある。
25 そして,本件補正後発明の構成要件(C)及び(C1)ないし(C7)の記載
によれば,「第7情報」は,「知的財産権に興味を有する者が存在すること
を少なくとも示す情報」であって,「情報処理装置により前記第1情報が
(サーバに)通知された結果として生成され」,「(サーバから)情報処理
装置に送信された」情報である。また,同(B)の記載によれば,「前記第
1情報」は「知的財産権に関する公報の情報」である。そして,構成要件
5 (C6)及び(C7)に対応する発明の詳細な説明の記載(段落【0029】,
【0040】及び【0041】)も参酌すると,「第7情報」は,サーバの
通知部が特許権者端末に通知する情報であって,特許権者がサーバに登録し
た特許掲載公報を見て興味応答を示した事業者のリスト(匿名事業者リス
ト)を少なくとも含む情報であるということができ,これは,上記特許請求
10 の範囲の記載から特定した「第7情報」と格別の相違はない。そうすると,
結局,「第7情報」は,「知的財産権に興味を有する者が存在することを少
なくとも示す情報であって,情報処理装置により知的財産権に関する公報の
情報がサーバに通知された結果として生成され,サーバから情報処理装置に
送信された情報」ということができる。
15 よって,本件補正後発明の構成要件(D)により特定される事項の認定に
当たっては,「第7情報」を上記のとおり言い換えるのが相当であり,本件
審決が(D')のとおり認定したことに誤りはない。
⑹ 原告の主張に対する判断
ア 原告は,知的財産権を有効活用してくれる候補者を数多くかつ容易に提
20 示するという本件補正後発明の課題からして,本件補正後発明はサーバと
情報処理装置とを組み合わせたシステムを前提にしたものであって,構成
要件(C)及び(C1)ないし(C7)によって,情報処理装置の発明の機能
を特定している旨主張する。
しかしながら,本願明細書等には発明の課題としてそのような記載があ
25 るとしても,親出願についてはともかく,分割出願としての本件補正後発
明は,上記⑴ないし⑸で説示したとおり,システムの発明ではなくあくま
で情報処理装置の発明である。そして,上記⑷で説示したとおり,構成要
件(C)及び(C1)ないし(C7)はサーバの処理を特定するものであって
情報処理装置の機能を特定するものではないから,本件補正後発明を特定
する事項には含まれない。
5 よって,原告の前記主張は採用することができない。
イ 原告は,知財高裁平成22年(行ケ)第10056号事件の判決を援用
し,本件補正後発明はサーバと情報処理装置とを組み合わせたシステムを
前提にしたものであってサーバを除外して検討するのは誤りであるとも主
張する。
10 しかしながら,原告が援用する上記事件は本件とは無関係の全く別の事
件であって,事案も異なるから,上記事件の判決の判断を根拠とする原告
の上記主張はそもそも採用することができない。
なお,付言するに,原告が援用する上記事件に係る発明は,発光部を有
する液体インク収納容器と,前記液体インク収納容器を搭載し前記発光部
15 の発光を受光する受光手段を備えた記録装置とを組み合わせたシステムに
おける液体インク収納容器に関する発明であって,上記システムに専用さ
れる特定の液体インク収納容器がこれに対応する記録装置の構成と一組の
ものとして発明を構成するものであることから,容易想到性を検討するに
あたり,記録装置の存在を除外して検討することはできないとした裁判例
20 であるところ,原告は,これに関連して,本件補正後発明の情報処理装置
は,第7情報として認識された場合において当該第7情報を受け付ける専
用端末である旨主張する。
しかしながら,本件補正後発明における情報処理装置とサーバからなる
システムでは,情報処理装置の機能は,単に,サーバに「公報の情報」
25 (第1情報)を送信し,サーバから「知的財産権に興味を有する者が存在
することを少なくとも示す情報」(第7情報)を受信するという機能に留
まるものであって,サーバに対して情報を送受信する機能を有する情報処
理装置であればどのような情報処理装置であってもよいから,サーバに対
して専用される特定の情報処理装置とみなすことはできない。また,本願
明細書等には,情報処理装置が種々の情報の中から第7情報を選択して認
5 識する等の技術事項は開示されておらず,情報処理装置はサーバから送信
された情報を単に第7情報として受け付けるものにすぎないと解されるか
ら,原告の上記主張は本願明細書等に開示された技術事項に基づくもので
はなく,採用することができない。
ウ 原告は,情報処理装置とサーバが別個のものとしても,本件審決は,発
10 明の実施形態に強みを有する事業者を選択できるという本件補正後発明の
意義を無視し,「公報通知手段」がサーバに通知する情報について,単に
「当該知的財産に関する公報の情報」と矮小化し,また「受付手段」が受
け付ける情報についても,「知的財産権に興味を有する者が存在すること
を少なくとも示す情報」と矮小化して認定しており,本件審決の認定は誤
15 りである旨主張する。
しかしながら,第1情報を送信するという送信処理自体は,かかる第1
情報からどのようにして第2情報及び第3情報を抽出するのか,その抽出
方法を規定するものではないから,情報処理装置の「公報通知手段」は,
技術的には,知的財産権に関する公報の情報をサーバに送信するものにす
20 ぎないというべきである。また,第7情報は知的財産権に興味を有する者
の情報であるところ,本件補正後発明の構成要件(C5)及び(C6)によれ
ば,事業者による選択結果という事業者の自由な意思に基づいた人為的な
情報にすぎないものであって,第1情報と関連するものの第1情報から
「生成された」情報ではない。さらに,情報処理装置の「受付手段」は,
25 サーバから上記第7情報を受け付けるものの,これは単に情報の受信にす
ぎないものであって,情報処理装置の側に,当該第7情報を受け付けるた
めの特別の構成を有するものでもない。
してみると,上記⑵ないし⑸で検討したとおり,本件補正後発明の「公
報通知手段」は,単に「知的財産に関する公報の情報」をサーバに通知す
るものにすぎず,本件補正後発明の「受付手段」は「知的財産権に興味を
5 有する者が存在することを少なくとも示す情報」を受け付けるものにすぎ
ないというべきであり,本件審決が「公報通知手段」及び「受付手段」に
つき,それぞれ(B')及び(D')のとおり認定したことに誤りはない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由2(一致点,相違点の認定の誤り)について
10 前記3で検討したとおり,本件補正後発明の認定に誤りはないところ,それ
を前提とすれば,本件補正後発明と引用発明の一致点及び相違点は,前記第2
の3⑷記載のとおりであると認められる。
したがって,この点に関して本件審決に誤りはなく,取消事由2は理由がな
い。
15 5 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)について
上記4のとおり,本件補正後発明と引用発明とを対比すると,両者の実質的
な相違点は,本件審決が認定したとおり,引用発明では「第1ユーザが活用を
希望する知的財産権」について,「事業に使用されていない」との特定がされ
ていない点のみである。
20 そこで検討するに,そもそも「ユーザが活用を希望する知的財産権」のうち
「事業に使用されていない」知的財産権をどのように活用するかの判断は,権
利者が自らの事業計画に基づいて適宜行うことであり,権利者が保有する知的
財産権について,自身では実施しないものの,他者による活用を希望する場合
があることは,引用例1の段落【0005】に「一方,知的財産権の権利者の
25 中には,自身の知的財産権が登録されたにもかかわらず,設備や資金が不足し
実施や使用が困難であるため,知的財産権の有償譲渡又はライセンス契約の締
結を希望している場合も多い。」と記載されているとおり,周知技術や技術常
識を持ち出すまでもなく,当業者が普通に想定できることであると認められる。
したがって,引用発明において,他者に対して利用可能とする特許権を,
「事業に使用されていない」特許権と特定することは,当業者であれば容易に
5 想到し得たというべきである。
したがって,これと同旨の本件審決の認定判断に誤りはなく,取消事由3は
理由がない。
6 結論
以上によれば,本件審決に原告主張の取消事由はない。
10 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
上 田 卓 哉
裁判官
都 野 道 紀
別紙1 特許・実用新案審査基準の抜粋
4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて
特定しようとする記載がある場合
サブコンビネーションとは,二以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明,
二以上の工程を組み合わせてなる製造方法の発明等(以上をコンビネーションとい
う。)に対し,組み合わされる各装置の発明,各工程の発明等をいう。
5 4.1 請求項に係る発明の認定
審査官は,請求項に係る発明の認定の際に,請求項中に記載された「他のサブコ
ンビネーション」に関する事項についても必ず検討対象とし,記載がないものとし
て扱ってはならない。その上で,その事項が形状,構造,構成要素,組成,作用,
機能,性質,特性,方法(行為又は動作),用途等(以下この項(4.)において「構造,
10 機能等」という。)の観点からサブコンビネーションの発明の特定にどのような意
味を有するのかを把握して,請求項に係るサブコンビネーションの発明を認定する。
その把握の際には,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮する。
(中略)
4.1.2 「他のサブコンビネーション」に関する事項が,「他のサブコンビネーション」のみを特
15 定する事項であって,請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造,機能等を
何ら特定していない場合
この場合は,審査官は,「他のサブコンビネーション」に関する事項は,請求項
に係るサブコンビネーションの発明を特定するための意味を有しないものとして発
明を認定する。
20 例1:検索ワードを検索サーバに送信し,返信情報を受信して検索結果を表示手段に表示す
ることができるクライアント装置であって,前記検索サーバが検索ワードの検索頻度に基
づいて検索手法を変更することを特徴とするクライアント装置
(説明)
検索サーバが検索ワードの検索頻度に基づいて検索手法を変更することは,検索サー
25 バがどのようなものであるのかについて特定する一方で,クライアント装置の構造,機
能等を何ら特定していない。したがって,検索サーバが検索ワードの検索頻度に基づい
て検索手法を変更する点は,サブコンビネーションの発明であるクライアント装置を特
定するための意味を有しないものとして,請求項に係る発明を認定する。
以 上
別紙2 引用例1の図面
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