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令和2(行ケ)10114行政訴訟 商標権

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裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年2月10日
事件種別 民事
当事者 原告
被告ボーストブランズグループ,エルエルシー
法令 商標権
商標法50条1項2回
キーワード 商標権24回
審決17回
無効2回
主文 1 特許庁が取消2018-300723号事件について令和2年5月
12日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
事件の概要 1 事案の要旨 本件は,被告が商標法50条1項に基づいて原告を商標権者とする別紙「商 標目録」記載の商標登録第5674320号商標(以下「本件商標」という。) の商標登録の取消しを求める商標登録取消審判(取消2018-300723 号事件。以下「本件審判」という。)を請求したところ,特許庁が,原告は, 本件審判の請求の登録前3年以内(要証期間内)に日本国内において原告,専 用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件審判の請求に係る指定商品につ いて本件商標を使用していた事実を証明したものと認められず,また,本件審 判の請求が信義則違反又は権利の濫用に該当するものとはいえないとして,本 件商標の商標登録を取り消すとの審決(以下「本件審決」という。)をしたた め,原告がその取消しを求める事案である。

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判決文

令和4年2月10日判決言渡
令和2年(行ケ)第10114号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年12月20日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁護士 岩 波 修
同訴訟復代理人弁護士 乾 正 幸
同訴訟代理人弁理士 秋 元 輝 雄
吉 澤 大 輔
秋 元 正 哉
被 告 ボースト ブランズ グループ,エルエルシー
主 文
1 特許庁が取消2018-300723号事件について令和2年5月
12日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,被告が商標法50条1項に基づいて原告を商標権者とする別紙「商
標目録」記載の商標登録第5674320号商標(以下「本件商標」という。)
の商標登録の取消しを求める商標登録取消審判(取消2018-300723
号事件。以下「本件審判」という。)を請求したところ,特許庁が,原告は,
本件審判の請求の登録前3年以内(要証期間内)に日本国内において原告,専
用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件審判の請求に係る指定商品につ
いて本件商標を使用していた事実を証明したものと認められず,また,本件審
判の請求が信義則違反又は権利の濫用に該当するものとはいえないとして,本
件商標の商標登録を取り消すとの審決(以下「本件審決」という。)をしたた
め,原告がその取消しを求める事案である。
2 請求原因
別紙「原告の主張」(原告第一準備書面の第2)記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
被告は,適式な呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書そ
の他の準備書面を提出しないから,原告主張の請求原因事実については争うこ
とを明らかにしていない。
そして,証拠(甲1ないし3(いずれも枝番を含む。))及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。
⑴ 原告及び原告が設立したBoast,Inc(以下「ボースト社」といい,
原告及びボースト社を併せて「原告ら」という。)は,昭和48年(197
3年),米国フロリダ州において,「BOAST」ブランドに係る事業を立
ち上げ,以後,主として米国内のスポーツクラブ,カントリークラブ,リゾ
ート施設,スポーツチーム等に対し,「BOAST」ブランドに係る商標を
使用して高級スポーツ衣類を販売してきた。
⑵ 原告らは,平成22年(2010年),Branded Boast,L
LC(以下「ブランデッドボースト社」という。)に対し,米国内での「B
OAST」ブランドに係る事業を売却し,これに伴い原告らが保有する「B
OAST」ブランドに係る米国登録商標を譲渡した。
他方で,原告らは,米国を除く日本,中国,タイ等の国における「BOA
ST」ブランドに係る登録商標を引き続き保有し,これらの国で「BOAS
T」に係る事業を行う権利を留保した。
(3) 原告は,平成24年(2012年)5月9日,日本において,本件商標の
登録出願をし,平成26年(2014年)5月30日,本件商標の設定登録
を受けた。
⑷ その後,原告らとブランデッドボースト社との間で,米国及びその他の国
における「BOAST」ブランドに係る事業の取扱いに関し,法的紛争が生
じた。
原告らとブランデッドボースト社は,平成27年(2015年)11月4
日,米国フロリダ州南部地区連邦地方裁判所において,和解契約(以下「本
件和解契約」という。甲2の1,2)を締結した。
本件和解契約には,①原告らは,「BOAST」の商号で「BOAST」
商標を付した商品を米国外で自由に販売することができることを確認する旨
の条項(12項),②ブランデッドボースト社は,世界中でボースト社又は
原告によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標権を妨害
しない旨の条項(14項)が含まれていた。
⑸ 被告は,平成29年(2017年)10月3日,ブランデッドボースト社
から,米国内の「BOAST」ブランドに係る事業を買収し,同社が保有す
る「BOAST」ブランドに係る米国登録商標の移転を受け,これに伴い,
ブランデッドボースト社の本件和解契約に基づく契約上の地位を承継した。
⑹ 被告は,平成29年(2017年)12月頃,原告に対し,原告が保有す
る「BOAST」ブランドに係る本件商標を含む日本及びその他の国の登録
商標の買取りを打診した。原告らと被告は,平成30年(2018年)2月
15日付けで秘密保持・不使用契約を締結した上で,上記買取りについて協
議を続けたが,合意には至らず,平成30年(2018年)3月,上記協議
は中断した。
⑺ 被告は,平成30年(2018年)9月13日,本件商標の登録商標につ
いて,本件審判を請求した。
特許庁は,令和2年(2020年)5月12日,原告が本件審判の請求の
登録前3年以内(要証期間内)に日本国内において原告,専用使用権者又は
通常使用権者のいずれかが本件審判の請求に係る指定商品について本件商標
を使用していた事実を証明したものと認められず,また,本件審判の請求が
信義則違反又は権利の濫用に該当するものとはいえないなどとして,本件商
標の商標登録を取り消すとの本件審決をした。
2 取消事由(信義則違反又は権利の濫用の判断の誤りの有無)について
⑴ 原告らとブランデッドボースト社が平成27年(2015年)11月4日
に締結した本件和解契約には,①原告らは,「BOAST」の商号で「BO
AST」商標を付した商品を米国外で自由に販売することができることを確
認する旨の条項(12項),②ブランデッドボースト社は,世界中でボース
ト社又は原告によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標
権を妨害しない旨の条項(14項)が存在することは,前記1(4)認定のとお
りである。
前記1認定の本件和解契約締結に至る経緯,本件和解条項12項及び14
項の文言に鑑みると,本件和解条項14項の「世界中でボースト社又は原告
によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標権を妨害しな
い」にいう「妨害しない」との文言は,ブランデッドボースト社が,原告ら
が有する米国外で商標登録された「BOAST」ブランドに係る商号権及び
商標権の有効性を争わない義務(いわゆる不争義務)を負うことを定めた趣
旨を含むものと解される。
そうすると,ブランデッドボースト社は,本件和解契約に基づき,原告に
対し,本件商標の商標権について不争義務を負うものと認められる。
そして,前記1⑸認定のとおり,被告は,平成29年(2017年)10
月3日,ブランデッドボースト社から,米国内の「BOAST」ブランドに
係る事業を買収し,同社が保有する「BOAST」ブランドに係る米国登録
商標の移転を受け,これに伴い,ブランデッドボースト社の本件和解契約に
基づく契約上の地位を承継したのであるから,被告は,原告に対し,本件和
解契約に基づいて,本件商標の商標権について不争義務を負うものと認めら
れる。
⑵ 商標法50条1項が,「何人も」,同項所定の商標登録取消審判を請求す
ることができる旨を規定し,請求人適格について制限を設けていないのは,
不使用商標の累積により他人の商標選択の幅を狭くする事態を抑制するとと
もに,請求人を「利害関係人」に限ると定めた場合に必要とされる利害関係
の有無の審理のための時間を削減し,審理の迅速を図るという公益的観点に
よるものと解される。
一方で,商標権に関する紛争の解決を目的として和解契約が締結され,そ
の和解契約において当事者の一方が他方(商標権者)に対して当該商標権に
ついて不争義務を負うことが合意された場合には,そのような当事者間の合
意の効力を尊重することは,当該商標権の利用を促進するという効果をもた
らすものである。また,このように当事者間の合意の効力を尊重するとして
も,第三者が当該商標権に係る商標登録について同項所定の商標登録取消審
判を請求することは可能であるから,上記公益的観点による利益を損なうも
のとはいえない。
したがって,和解契約に基づいて商標権について不争義務を負う者が,当
該商標権に係る商標登録について同項所定の商標登録取消審判を請求するこ
とは,信義則に反し許されないと解するのが相当である。
しかるところ,前記(1)認定のとおり,被告は,原告に対し,本件和解契約
に基づいて,本件商標の商標権について不争義務を負うものであるから,被
告による本件審判の請求は,信義則に反し,許されないというべきである。
これと異なる本件審決の判断は誤りであある。
したがって,原告主張の取消事由は理由がある。
3 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があり,本件審決は取り消される
べきものであるから,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 小 林 康 彦
裁判官 小 川 卓 逸
(別紙) 商標目録
商 標(商標登録第5674320号)
登録出願日 平成24年5月9日
設定登録日 平成26年5月30日
指定商品 第18類及び第28類に属する商標登録原簿記載の商品
(別紙) 原告の主張
1 専ら原告を害することを目的としていると認められる事情を見い出すこと
ができないことを理由に,被告による本件審判請求につき権利濫用を否定した
本件審決の判断に誤りがあること
(1) 原告及び被告間の本件商標に関する争いの経緯
原告及び同人が設立した Boast, Inc.(現在の名称は Green Grass Brand
Inc.)
(以下「ボースト社」という)は,昭和48年(1973年)に米国フ
ロリダ州にて「BOAST」(ボースト)ブランド(以下「「BOAST」ブ
ランド」という)の事業を立ち上げ,高級スポーツ衣類を,主として米国内
のスポーツクラブ(ゴルフ,テニス,スカッシュ等),カントリークラブ,リ
ゾート施設,スポーツチーム,その他企業に対して販売してきた。平成22
年(2010年)に,原告及びボースト社は,Branded Boast, LLC(以下「ブ
ランデッドボースト社」という)に対し,米国内での「BOAST」ブラン
ドに係る事業を売却し,これに伴い自身が有していた「BOAST」ブラン
ドに係る米国登録商標も同社に譲渡した(甲1の1及び2)。他方で,原告及
びボースト社は,米国を除く日本,中国,台湾,タイ等の国における「BO
AST」ブランドに係る登録商標を引き続き保有し,これらの米国を除く国々
での「BOAST」ブランドに係る事業を行う権利を留保していた。
その後,米国及びその他の国々での「BOAST」ブランド事業に関する
取り扱いについて,原告及びボースト社とブランデッドボースト社との間で
法的紛争が生じたが,両者は,平成27年(2015年)11月4日に,フ
ロリダ州南部地区連邦地方裁判所において和解契約(以下「本件和解契約」
という)を締結した(甲2)。原告及びボースト社とブランデッドボースト社
は,本件和解契約に基づき,ボースト社又は原告は,「BOAST」(ボース
ト)の商号にて,
「BOAST」商標を付した商品を,米国外で自由に販売す
ることができることを確認し(同契約第12項),さらに,ブランデッドボー
スト社は,世界中でボースト社又は原告によるその他の登録により保護され
るボースト社及び/又は原告の商号権及び商標権を妨害しない旨を合意した
(同契約第14項)。
その後,平成29年(2017年)10月3日,被告は,ブランデッドボ
ースト社より,米国内の「BOAST」ブランド事業を買収し,これに伴い,
同社が保有する米国の「BOAST」ブランドに係る登録商標の移転を受け
た(甲1)。
平成29年(2017年)12月頃,被告は,原告に対し,原告が保有す
る,本件商標を含む日本及びその他の国の「BOAST」ブランドに係る登
録商標の買取りを打診した。原告及びボースト社と被告は,平成30年(2
018年)2月15日付けで,上記商標買取りの交渉を目的として秘密保持・
不使用契約を締結し(甲3) 上記商標買取りについて協議を続けた。
, しかし,
その後の協議によって両者は合意に至ることができず,平成30年(201
8年)3月以降,協議は中断していた。
しかし,平成30年(2018年)9月に,被告は,突然,特許庁に対し,
本件商標を含む,原告が保有する「BOAST」ブランドに係る日本の4つ
の登録商標につき,商標法第50条第1項に基づく登録商標の不使用取消審
判の請求を行った。その結果,上記各登録商標のうち登録商標第45347
44号及び同第5518101号に係る各審判請求については,原告による
過去3年以内の上記各登録商標の使用が認定された上で請求棄却の審決がな
され,本件商標及び登録商標第5545466号に係る各審判請求について
は,原告による過去3年以内の上記各登録商標の使用が認められないことを
理由に,また,被告による上記各審判請求について信義則違反又は権利濫用
が認められないことを理由に,請求認容の審決がなされた。
(2) 本件和解契約に基づく被告の原告に対する義務
前記(1)記載のとおり,被告は,ブランデッドボースト社より,同社の米国
内の「BOAST」ブランド事業を買収し,同社が保有する「BOAST」
ブランドに係る米国の登録商標の移転を受けたことに伴い,ブランデッドボ
ースト社より,本件和解契約に基づく法律上の地位,権利及び義務を承継し
ている。したがって,被告は,本件和解契約に基づき,原告に対し,世界中
でボースト社又は原告によるその他の登録により保護されるボースト社及び
/又は原告の商号権及び商標権を妨害しない義務を負う。
(3) 被告による義務違反
前記(1)記載のとおり,被告は,平成30年(2018年)9月に,特許庁
に対し,本件商標を含む,原告が保有する「BOAST」ブランドに係る日
本の4つの登録商標について,商標法第50条第1項に基づく登録商標の不
使用取消審判の請求を行った。
特許庁により上記各審判請求が認容されれば,本件商標を含む,原告が保
有する「BOAST」ブランドに係る日本の4つの登録商標の商標登録が無
効となってしまうため,被告による本件審判請求を含む上記各審判請求は,
原告が保有する日本の登録商標に係る商標権を妨害するものであり,本件和
解契約に基づく被告の原告に対する「世界中でボースト社又は原告によるそ
の他の登録により保護されるボースト社及び/又は原告の商号権及び商標権
を妨害しない義務」に違反する。
この点,本件審決は,本件和解契約に基づく被告の原告に対する上記義務
が,本件商標に対する不使用取消審判の請求までも禁止するものであるかは,
証拠上明らかではない旨指摘する。しかし,特許庁により本件商標に対する
不使用取消審判請求が認容されれば,本件商標は無効となり,それ以後,原
告は本件商標に係る商標権を行使することができなくなるのであるから,被
告による本件審判請求が,本件和解契約で禁止される本件商標に係る商標権
に対する「妨害」に該当することは,他の証拠によらずとも明白であるから,
本件審決の上記指摘には理由がない。
(4) 被告の害意の存在
前記(3)記載のとおり,被告は,本件和解契約に基づき,原告に対し,原告
が日本で商標登録を行った本件商標を妨害してはならない義務を負っている。
そして,前記(1)記載のとおり,被告は,原告に対し,原告が保有する,本件
商標を含む,
「BOAST」ブランドに係る日本及びその他の国の登録商標の
買取りを打診し,その後,原告との間で協議を行ったが,両者は合意に至る
ことができず,平成30年(2018年)3月以降,協議は中断していた。
しかし,その約6ヶ月後の同年9月に,被告は,突然,特許庁に対し,本件
商標を含む,原告が保有する「BOAST」ブランドに係る日本の4つの登
録商標について不使用取消審判の請求を行った。
このように,被告は,当初は,本件和解契約に基づき原告の保有する「B
OAST」ブランドに係る日本及びその他の国の登録商標を妨害してはなら
ない義務を負っていることを念頭において,日本その他の国において「BO
AST」ブランド事業を行うべく,本件商標を含む原告保有の上記各商標の
買取りを目指したものの,その買取り交渉が思い通り進まないとみるや,上
記義務に違反して,原告が保有する「BOAST」ブランドに係る日本の4
つの登録商標について不使用取消審判請求を行っているのであるから,この
ような被告による不使用取消審判請求について,専ら原告を害することを目
的としていると認められる事情があることは明らかである。したがって,こ
のような事情が認められないとする本件審決の判断には理由がない。
(5) まとめ
以上の理由により,専ら原告を害することを目的としていると認められる
事情を見い出すことができないことを理由に,被告による本件審判請求につ
き権利濫用を否定した本件審決の判断には誤りがある。
2 本件審判請求前に締結された原告と被告間の和解,被告が本件審判請求に至
った経緯等を考慮せず,不使用取消制度趣旨及び登録商標の不使用のみを理由
に,被告による本件審判請求につき信義則違反を否定した本件審決の判断に誤
りがあること
(1) 商標不使用取消審判請求につき審判請求前の当事者間の和解を考慮して
審判請求を否定した裁判例
昭和60年8月15日付東京高裁判決(昭和60年(行ケ)第83号)
(判
工2883の68)は,商標登録の不使用取消審判請求前に,被告(審判請
求人)が,出願商標に関する権利一切を譲渡するとともに上記審判請求を取
り下げることを約していた場合は,その譲渡及び取下の合意により,被告は
上記審判請求の利益を失ったものと認められ,上記審判請求の利益を有する
ことを前提としてなされた審決は違法であって取消を免れない旨判示してい
る。
また,商標不正使用取消審判請求に関する判例ではあるが,昭和61年4
月22日付最高裁判決(昭和58年(行ツ)第31号)
(判時1207号11
4頁)は,上記審判請求前に,和解に基づき,同請求人である被上告人が,
上告人の保有する当該登録商標に対する登録異議の申立てを取り下げて当該
登録商標が登録されることを認め,その対価として上告人から和解金を受領
し,その結果,上告人が当該登録商標を継続して使用していたという事実が
ある場合は,被上告人が,商標法第51条第1項に基づく当該登録商標を取
り消すことについて審判を請求することは信義則に反するものとして許され
ない旨判示している。
なお付言すれば,商標不正使用取消審判請求を定める商標法第51条1項
は,上記昭和61年4月22日付最高裁判決の当時より,
「何人も・・・審判
を請求することができる」旨規定し,同審判請求が公益的性格を有すること
を明文上明らかにしていたにもかかわらず,上記最高裁判決は,審判請求前
に請求者が締結した和解に関する事情を考慮し,信義則違反を理由に当該請
求者による審判請求は認められないと判断している。この最高裁判決の判断
に鑑みれば,商標不使用取消審判請求に関する前記昭和60年8月15日付
東京高裁判決の当時,同審判請求を定める商標法第50条1項が請求人資格
について明示せず,その反対解釈として請求人資格を「利害関係人」に限定
されていたとしても,信義則違反を理由に審判請求を否定した上記東京高裁
判決の判断は,平成8年の商標法改正により,商標法第50条1項が「何人
も…審判を請求できる」旨明示された以降の商標不正使用取消審判請求につ
いても同様に当てはまるものと解すべきである。
(2) 本件審判請求前の原告・被告間の和解契約の締結
前記1(1)記載のとおり,原告及び被告は,平成27年(2015年)11
月4日に,本件和解契約を締結し(甲2),原告及びボースト社とブランデッ
ドボースト社は,本件和解契約に基づき,ボースト社又は原告は,
「BOAS
T」(ボースト)の商号にて,「BOAST」商標を付した商品を,米国外で
自由に販売することができることを確認し(同契約第12項),さらに,ブラ
ンデッドボースト社は,世界中でボースト社は原告によるその他の登録によ
り保護されるボースト社及び/又は原告の商号権及び商標権を妨害しない旨
を合意した(同契約第14項)。
(3) 本件審判請求による被告による和解契約の義務違反
前記1(3)記載のとおり,本件商標を含む,原告が保有する「BOAST」
ブランドに係る日本の4つの登録商標について被告が行った商標不使用取消
審判請求は,被告が保有する上記各登録商標に係る商標権に対する「妨害」
に該当するから,本件和解契約に基づく被告の原告に対する「世界中でボー
スト社又は原告によるその他の登録により保護されるボースト社及び/又は
原告の商号権及び商標権を妨害しない義務」に違反する。
また,前記1(4)記載のとおり,被告は,当初は,本件和解契約に基づき原
告の保有する「BOAST」ブランドに係る日本及びその他の国の登録商標
を妨害してはならない義務を負っていることを念頭において,日本その他の
国において「BOAST」ブランド事業を行うべく,本件商標を含む原告保
有の上記各商標の買取りを目指したものの,その買取り交渉が思い通り進ま
ないとみるや,上記義務に違反して,原告が保有する「BOAST」ブラン
ドに係る日本の4つの登録商標について不使用取消審判請求を行っている。
このことからも,被告による本件審判請求には,その目的の正当性も,保護
されるべき法的利益も存在しない。
(4) 結論
このように,本件審判請求前に締結された原告・被告間の本件和解契約に
基づく被告による義務,及び本件和解契約締結後,被告が当該義務に違反し
て本件審判請求に行った経緯に鑑みれば,被告による本件審判請求について
は,審判請求の利益を失っており,また,信義則に違反し違法である。した
がって,上記の本件審判請求前に締結された原告と被告間の和解,被告が本
件審判請求に至った経緯等を考慮せず,不使用取消制度趣旨及び登録商標の
不使用のみを理由に,被告による本件審判請求につき信義則違反を否定した
本件審決の判断には誤りがある。

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