令和3(行ケ)10123審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和4年5月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告仲吉商事株式会社 被告ミールソリューション株式会社
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対象物 |
食器 |
法令 |
特許権
特許法29条1項3号2回
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キーワード |
審決25回 新規性10回 進歩性7回 実施7回 無効5回 刊行物3回 特許権1回 無効審判1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は、平成25年8月30日、発明の名称を「食器」とする発明につい
て、特許出願(特願2013-179679号。以下「本件出願」という。)
をし、平成26年10月24日、特許権の設定登録(特許第5636478
号。請求項の数5。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた(甲
77)。
⑵ 原告は、令和元年10月9日、本件特許について特許無効審判(無効20 |
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判決文
令和4年5月19日判決言渡
令和3年(行ケ)第10123号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年3月1日
判 決
原 告 仲 吉 商 事 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 秋 山 健 人
同訴訟代理人弁理士 黒 瀬 雅 一
丹 治 彰
被 告 ミールソリューション株式会社
同訴訟代理人弁理士 友 野 英 三
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2019-800081号事件について令和3年8月30日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は、平成25年8月30日、発明の名称を「食器」とする発明につい
て、特許出願(特願2013-179679号。以下「本件出願」という。)
をし、平成26年10月24日、特許権の設定登録(特許第5636478
号。請求項の数5。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた(甲
77)。
⑵ 原告は、令和元年10月9日、本件特許について特許無効審判(無効20
19-800081号事件)を請求した(甲77)。
被告は、令和2年2月12日付けで特許請求の範囲について訂正請求(以
下「本件訂正」という。甲62)をした後、同年3月13日付けの訂正拒絶
理由通知(甲63)を受けた。
特許庁は、令和3年8月30日、本件訂正は認められないとした上で、
「本
件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を
し、その謄本は、同年9月16日、原告に送達された。
⑶ 原告は、令和3年10月14日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載は、次のとおりである
(以下、請求項の番号に応じて、請求項1に係る発明を「本件発明1」などと
う。甲78)。
【請求項1】
平板上に加工された複数枚の竹材平板であって該複数の竹材平板の素材色が
少なくとも2種以上である複数枚の竹材平板が色が互い違いに積層されるよう
に接着される積層厚板部と、
食物を盛るための所望の形状が前記積層厚板部から穿削された窪み部と、
前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5~
15mmとなるよう形成されたR部とを具備し、
前記R部を形成する入隅部の曲面状の立ち上がりの中間部分を構成する竹材
平板の素材色が該立ち上がりの中間部分を鉛直方向から挟む立ち上がり上部部
分及び立ち上がり下部部分をそれぞれ構成する竹材平板の素材色とは異なる色
を持つ
ことを特徴とする幼児用食器。
【請求項2】
平板上に加工された複数枚の竹材平板である第1、第2、第3の竹材平板が
下層から上層に向けてこの順に積層されるように接着されて構成される積層厚
板部と、
食物を盛るための所望の形状が前記積層厚板部から穿削された窪み部と、
前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5~
15mmとなるよう形成されるR部とを具備し、
前記第2の竹材平板が前記R部を形成する入隅部の曲面状の立ち上がりの鉛
直方向中間部分を構成し、
前記第2の竹材平板の素材色が少なくとも前記第1及び第3の竹材平板のそ
れぞれの素材色とは異なる色合いを持つことを特徴とする幼児用食器。
【請求項3】
請求項1もしくは2記載の幼児用食器において、前記複数枚の竹材平板の木
目方向を略同一方向とすることを特徴とする幼児用食器。
【請求項4】
請求項1もしくは2記載の幼児用食器において、前記複数枚の竹材平板の木
目方向を層ごとに互い違いの方向とすることを特徴とする幼児用食器。
【請求項5】
請求項1乃至4のうち1項記載の幼児用食器において、前記幼児用食器の窪
み部を形成する底面に対する裏側の面において内周に若干の深さの溝が設けら
れていることを特徴とする幼児用食器。
3 本件審決の理由の要旨
⑴ 本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は、原告主張の無効理由1(甲1ないし8をそれぞれ主引用例と
する本件発明1ないし3の新規性の欠如、甲1ないし3をそれぞれ主引用例
とする本件発明5の新規性の欠如)及び無効理由2(甲1ないし8を主引用
例とする本件発明1の進歩性の欠如、甲1ないし8を主引用例とする本件発
明2の進歩性の欠如、甲1ないし8を主引用例とする本件発明3の進歩性の
欠如、甲1ないし17、19及び20に基づく本件発明4の進歩性の欠如、
甲1ないし3を主引用例とする本件発明5の進歩性の欠如)は、いずれも理
由がないというものである。
⑵ 本件審決が認定した甲4(著者:中里邦博「ベビーギフト100」(初版
発行2012年10月23日、株式会社阪急コミュニケーションズ)の「N
o
51」)に記載された各発明(以下、それぞれを「甲4-1発明」、「甲4
-2発明」という。)、本件発明1と甲4-1発明の一致点及び相違点、本
件発明2と甲4-2発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
ア 甲4-1発明
竹の集成材からなる所定の厚みのある部分と、
前記所定の厚みのある部分に形成された窪んだ部分とが形成され、
前記窪んだ部分において、底面と立ち上がり面が形成され、前記底面と
前記立ち上がり面とは角をなし、前記角は丸みがつけられており、
前記底面を含む下部部分と前記立ち上がり面の上端部を含む上部部分に
より挟まれる中間部分を構成する部分の色が、前記上部部分及び前記下部
部分をそれぞれ構成する部分の色とは異なる色を持つ
こども用食器。
イ 甲4-2発明
竹の集成材からなり、下から上に向けて、下部部分、中間部分、上部部
分からなる所定の厚みのある部分と、
前記所定の厚みのある部分に形成された窪んだ部分とが形成され、
前記窪んだ部分において、底面と立ち上がり面が形成され、前記底面と
前記立ち上がり面とは角をなし、前記角は丸みがつけられており、
前記中間部分の色が前記下部部分及び上部部分のそれぞれの色とは異
なる色合いを持つこども用食器。
ウ 本件発明1と甲4-1発明の一致点及び相違点
(ア) 一致点
(一致点4)
「平板上に加工された複数枚の竹材平板であって該複数の竹材平板が積
層されるように接着される積層厚板部と、
食物を盛るための所望の形状が前記積層厚板部から穿削された窪み部
と、
前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が形成
されたR部とを具備し、
前記立面と前記底面における中間部分の色が、前記中間部分を鉛直方
向から挟む上部部分及び下部部分の色とは異なる色を持つ
幼児用食器。」である点。
(イ) 相違点
(相違点9)
本件発明1は、「複数の竹材平板の素材色が少なくとも2種以上であ
る複数枚の竹材平板が色が互い違いに積層される」ことで、「立ち上が
りの中間部分を構成する竹材平板の素材色が該立ち上がりの中間部分を
鉛直方向から挟む立ち上がり上部部分及び立ち上がり下部部分をそれぞ
れ構成する竹材平板の素材色とは異なる」のに対し、甲4-1発明は、
複数の竹材平板が積層され、中間部分の色が上部部分及び下部部分の色
とは異なるものであるが、素材色が異なる竹材平板を2種以上、その色
が互い違いになるように竹材平板を積層したものであるか、さらに、立
ち上がりの中間部分を構成する竹材平板の素材色が立ち上がり上部部分
及び立ち上がり下部部分を構成する竹材平板の素材色とは異なるかにつ
いて、ともに不明である点。
(相違点10)
本件発明1は、立面と底面とのなす角が「半径略5~15mmとなる
よう形成されたR部」を具備し、「前記R部を形成する入隅部の曲面状
の立ち上がりの中間部分を構成する竹材平板の素材色が該立ち上がりの
中間部分を鉛直方向から挟む立ち上がり上部部分及び立ち上がり下部部
分をそれぞれ構成する竹材平板の素材色とは異なる色を持つ」のに対し、
甲4-1発明は、立面と底面とのなす角がR部を備え、前記立面と前記
底面において、中間部分の色が、前記中間部分を鉛直方向から挟む上部
部分及び下部部分の色とは異なる色を持つものであるが、前記R部が半
径略5~15mmとなるよう形成されているか、さらに、前記R部を形
成する入隅部の曲面状の立ち上がりの中間部分を構成する竹材平板の素
材色が、立ち上がり上部部分及び立ち上がり下部部分をそれぞれ構成す
る竹材平板の素材色とは異なるかについて、ともに不明である点。
(ウ) まとめ
本件発明1と甲4-1発明とは、相違点9及び10において相違し、
本件発明1は、甲4-1発明であるとはいえないから、特許法29条1
項3号に該当しない。
エ 本件発明2と甲4-2発明の一致点及び相違点
(ア) 一致点
(一致点12)
「平板上に加工された複数枚の竹材平板が下層から上層に向けて積層さ
れるように接着されて構成される積層厚板部と、
食物を盛るための所望の形状が前記積層厚板部から穿削された窪み部
と、
前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が形成
されたR部とを具備し、
前記立面と前記底面における中間部分の色が、前記中間部分を鉛直方
向から挟む上部部分及び下部部分の色とは異なる色合いを持つ幼児用食
器。」である点。
(イ) 相違点
(相違点27)
本件発明2は、複数枚の竹材平板が、第1、第2、第3の竹材平板か
らなり、前記「第1、第2、第3の竹材平板が下層から上層に向けてこ
の順で積層」され、「前記第2の竹材平板の素材色が、少なくとも前記
第1及び第3の竹材平板のそれぞれの素材色とは異なる色合いを持つ」
のに対し、甲4-2発明は、複数枚の竹材平板が下層から上層に向けて
積層されて厚板部分を構成しており、前記厚板部分の中間部分の色が前
記厚板部分の下部部分及び上部部分の色とは異なる色合いを持つもので
あるが、複数枚の竹材平板が第1、第2、第3の竹材平板からなるか不
明であり、さらに、前記第2の竹材平板の素材色が、少なくとも前記第
1及び第3の竹材平板のそれぞれの素材色とは異なる色合いを持つかに
ついて、ともに不明である点。
(相違点28)
本件発明2は、立面と底面とのなす角が「半径略5~15mmとなる
よう形成されたR部」を具備し、
「第2の竹材平板が前記R部を形成する
入隅部の曲面状の立ち上がりの鉛直方向中間部分を構成し、前記第2の
竹材平板の素材色が少なくとも第1及び第3の竹材平板のそれぞれの素
材色とは異なる色合いを持つ」のに対し、甲4-2発明は、立面と底面
とのなす角を備え、前記立面と前記底面において、中間部分の色が、前
記中間部分を鉛直方向から挟む上部部分及び下部部分の色とは異なる色
合いを持つものであるが、R部が半径略5~15mmとなるよう形成さ
れているか、さらに、第2の竹材平板が、前記R部を形成する入隅部の
曲面状の立ち上がりの鉛直方向中間部分を構成し、前記第2の竹材平板
の素材色が少なくとも第1及び第3の竹材平板のそれぞれの素材色とは
異なる色合いを持つかについて、ともに不明である点。
(ウ) まとめ
本件発明2と甲4-2発明とは、相違点27及び28において相違し、
本件発明2は、甲4-2発明であるとはいえないから、特許法29条1
項3号に該当しない。
第3 当事者の主張
1 取消事由1(甲4を主引用例とする本件発明1の新規性の判断の誤り)
(1) 原告の主張
ア 甲4の記載事項
甲4の4枚目(以下、単に「甲4」という。)の右側には、別紙2のとお
り、
「近年では、CO2 を吸収して地球温暖化を抑止する天然資源としても
期待される竹ですが、これをこども用食器に採用し、国内外で注目を集め
るブランドがファンファンです。 、
」 「竹の集成材が見た目にも美しく癒さ
れるアイテムが揃います。」との記載があるから、甲4記載の「こども用食
器」は、「竹の集成材」から形成されている。
甲4の左側には、別紙2のとおり、上段に「こども用食器」の全体写真
(以下「甲4全体写真」という。)が、下段に上記「こども用食器」の部分
拡大写真(以下「甲4部分拡大写真」という。)が掲載されている。
イ 甲76の記載事項
(ア) 甲76は、原告従業員作成の甲4の開示事項を説明した説明書であ
る。
甲76の3枚目の右側の「三層の場合」との記載の下の上段の画像は、
甲4部分拡大写真を拡大した画像であり、下段の2つの画像は、原告の
工場で製品製造工程を撮影した写真の画像の一部(甲76の2枚目)を
拡大したものである。
(イ) 甲76の4枚目の左側の「ベビーギフト100」の紙面との記載の
下の2つの画像は、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真をそれぞれ拡大
した画像であり、甲76の4枚目の右側の「実物」との記載の下の2つ
の画像は、2021年(令和3年)1月29日、原告がメルカリで購入
した食器(以下「実物食器」という場合がある。)を甲4全体写真及び甲
4部分拡大写真を拡大した上記各画像と同様のアングルで撮影した画
像である(上側の画像を「実物全体画像」、下側の画像を「実物部分拡大
画像」という場合がある。 。甲76の4枚目の右側の「実寸(cm) φ
)
23×H2.1」との記載は実物食器の実寸を記載したものである。
(ウ) 甲76の5枚目の左側の画像は、甲4全体写真の画像について、真
ん中の画像は、甲4全体写真の画像の一部を拡大した画像について、右
側の上段の画像は、甲4全体写真の画像の一部を拡大した画像について、
右側の下段の画像は、甲4部分拡大写真の一部を縮小した画像について
それぞれ説明するものである。
ウ 相違点の認定の誤り
(ア) 甲76の3枚目の右側の「三層の場合」との記載の下の上段の画像
のとおり、甲4部分拡大写真から、甲4記載の「こども用食器」は、
「三
層」「二層」及び「一層」からなる3層の竹材平板からなり、
、 「この3層
の竹材平板の二層目の竹材平板の色合いを一層目及び三層目の竹材平
板の色合いに比して濃くしている」ものを看取できる。そして、竹の集
成材が、複数枚の竹材の平板を積層し、接着剤で接着したものであるこ
とは、技術常識であることからすると、甲4には、
「平板上に加工された
複数枚の竹材平板であって該複数の竹材平板の素材色が2種である複
数枚の竹材平板が色が互い違いに積層される」ように接着される「こど
も用食器」が開示されている。
また、甲4部分拡大写真の竹材平板をみると、この竹材平板を構成す
る竹材(ピース材)それぞれの色合いは異なっている(ピース材毎にブラ
ウンに濃淡がある)とともに、窪んだ部分に備えられた立ち上がり面に
不規則に並ぶ竹材繊維(導管)を看取できる。仮に二層目の竹材平板の濃
い色合いを一層目及び三層目の竹材平板の色合いに比して濃くするため
に「塗装」の方法を用いた場合には、二層目の竹材平板の濃い色合いは、
竹材(ピース材)毎に濃淡が出ることはなく、均一となるはずである。し
かも、甲76の3枚目の記載のとおり、
「不規則に並ぶ竹の繊維(導管)、
節、積層部分などを塗装で表現するのは不可能」である。
そうすると、甲4には、「二層目の竹材平板の濃い色合いは、着色加工
したものではなく、竹材の素材色である」ことが示されている。また、同
様に、「一層目及び三層目の竹材平板の色合いは、竹材の素材色である」
ことが示されている。
次に、甲76の5枚目の右側の2つの画像及び「傾斜の開始位置は三層
から始まり、傾斜の範囲は二層目が大半を占める事が写真から確認でき
る。」との記載によれば、甲4記載の「こども用食器」は、入隅部が曲面
状のR部で形成され、この入隅部の曲面状の立ち上がりは、3層からなり、
その中間部分を構成する二層目の竹材平板の色が該立ち上がりの中間部
分を鉛直方向から挟む立ち上がり上部部分及び立ち上がり下部部分をそ
れぞれ構成する一層目及び三層目の竹材平板の色とは異なる色を持つこ
とを看取できる。
以上によれば、甲4には、甲4記載の「こども用食器」が、「複数の竹
材平板の素材色が少なくとも2種以上である複数枚の竹材平板が色が互
い違いに積層され」 「立ち上がりの中間部分を構成する竹材平板の素材
、
色が該立ち上がりの中間部分を鉛直方向から挟む立ち上がり上部部分及
び立ち上がり下部部分をそれぞれ構成する竹材平板の素材色とは異なる」
構成(相違点9に係る本件発明1の構成)を備えることが開示されてい
る。
したがって、本件審決が上記構成は本件発明1と甲4記載の「こども
用食器」(甲4-1発明)との相違点であると認定したのは誤りである。
(イ) 甲76の5枚目の左側の画像は、甲4全体写真に示された「こども
用食器」の形状、寸法等について説明するものであり、左側の画像記載
の「A」は「こども用食器の外径」 「B」は「こども用食器の竹の集成
、
材からなる所定の厚みのある部分の内側の径」 「C」は「こども用食器
、
の二層目の竹材平板の内側の径」 「D」は「こども用食器の竹の集成材
、
からなる所定の厚みのある部分の幅」 「E」は「こども用食器を真上か
、
ら見たときの二層目の竹材平板の幅」を示したものであり、
「A´」ない
し「E´」は、それぞれ「A」ないし「E」の「実寸」を示したもので
ある。
A:B:Cの比率は、100:94.8:88.3であること(甲7
6の5枚目の左側)「A´」
、 (こども用食器の外径の実寸)が、23cm
(230mm)であること(甲4)に基づいて「B´」及び「C´」を
算出すると、「B´」(こども用食器の竹の集成材からなる所定の厚みの
ある部分の内側の径の実寸)は218mm、「C´」(こども用食器の二
層目の竹材平板の内側の径の実寸)は203mmとなる。また、甲76
の5枚目のとおり、「D´」(こども用食器の竹の集成材からなる所定の
厚みのある部分の幅の実寸)は6mm、「E´」(こども用食器を真上か
ら見たときの二層目の竹材平板の幅の実寸)は7.5mmとなる。そし
て、甲76の5枚目中欄の「Rごとの見え方の違い」との表に、「R5」
の場合、
「2層目の濃色部分がE´の1/4以下になる」「R10」の場
、
合、「2層目の濃色部分がE´に近い」 「R15」の場合、
、 「2層目の濃
色部分がE´から大幅にずれ」るとの記載があることからすると、 E´」
「
が7.5mmである場合、その見え方は、
「R10」の場合の見え方に該
当するから、甲4記載の「こども用食器」の立面と底面とのなす角は、
半径略10mm弱となるよう形成されたR部になる。また、前記(ア)の
とおり、甲4記載の「こども用食器」は、入隅部の曲面状の立ち上がり
は、3層からなり、その中間部分を構成する二層目の竹材平板の色が該
立ち上がりの中間部分を鉛直方向から挟む立ち上がり上部部分及び立ち
上がり下部部分をそれぞれ構成する一層目及び三層目の竹材平板の色と
は異なる色を持つ構成を備えている。
以上によれば、甲4には、甲4記載の「こども用食器」は、
「立面と底
面とのなす角が半径略10mm弱となるよう形成されたR部」を具備し、
「前記R部を形成する入隅部の曲面状の立ち上がりの中間部分を構成す
る竹材平板の素材色が該立ち上がりの中間部分を鉛直方向から挟む立ち
上がり上部部分及び立ち上がり下部部分をそれぞれ構成する竹材平板の
素材色とは異なる色を持つ」 (相違点10に係る本件発明1の構成)
構成
を備えることが開示されている。
したがって、本件審決が上記構成は本件発明1と甲4記載の「こども
用食器」(甲4-1発明)との相違点であると認定したのは誤りである。
エ 小括
以上のとおり、本件審決における相違点9及び10の認定に誤りがある
から、本件発明1は甲4記載の「こども用食器」(甲4に記載された発明)
と同一の発明であるといえないとした本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張
原告の主張は争う。
すなわち、原告主張の本件審決の取消事由に係る無効理由は、刊行物であ
る甲4を主引用例とするものであるから、甲4に記載された発明と本件発明
1とが同一であるかどうかが審理の対象となる。
しかるところ、原告が「甲4の開示事項を説明した説明書」として提出す
る甲76は、本件審判では審理判断されず、本件訴訟において、新たに提出
されたものであるのみならず、甲4に開示されていない事項や、甲4全体写
真及び甲4部分拡大写真の被写体との同一性の立証のない「実物」と称する
物の画像(甲76の4枚目の右側の画像)等を根拠として、甲4の記載内容
を説明したものである。かかる甲76に基づく原告の主張は、主張自体失当
である。
2 取消事由2(甲4を主引用例とする本件発明2の新規性の判断の誤り)
(1) 原告の主張
前記1⑴ウ(ア)と同様の理由により、甲4には、甲4記載の「こども用食
器」が、「複数枚の竹材平板が、第1、第2、第3の竹材平板からなり」、こ
の「第1、第2、第3の竹材平板」が「下層から上層に向けてこの順で積層」
され、「前記第2の竹材平板の素材色が、少なくとも前記第1及び第3の竹材
平板のそれぞれの素材色とは異なる色合いを持つ」構成(相違点27に係る
本件発明2の構成)を備えることが開示されている。
また、前記1⑴ウ(イ)と同様の理由により、甲4には、甲4記載の「こども
用食器」 「立面と底面とのなす角が半径略10mm弱となるよう形成され
が、
たR部」を具備し、「第2の竹材平板が前記R部を形成する入隅部の曲面状の
立ち上がりの鉛直方向中間部分を構成し、前記第2の竹材平板の素材色が少
なくとも第1及び第3の竹材平板のそれぞれの素材色とは異なる色合いを持
つ」構成(相違点28に係る本件発明2の構成)を備えることが開示されてい
る。
そうすると、本件審決が上記各構成は本件発明2と甲4記載の「こども用
食器」(甲4-2発明)との相違点であると認定したのは誤りであるから、本
件発明2は甲4記載の「こども用食器」(甲4に記載された発明)と同一の発
明であるといえないとした本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張
原告の主張は争う。
3 取消事由3(本件発明3ないし5の新規性及び進歩性の判断の誤り)
(1) 原告の主張
本件審決は、①本件発明3は、甲4に記載された発明であるとはいえない、
②本件発明3ないし5は、甲4等に記載された事項に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものであるとはいえない旨判断した。
しかしながら、前記1(1)及び2(1)のとおり、本件審決における甲4を主引
用例とする本件発明1及び2の新規性の判断に誤りがあるから、当該判断に
基づく本件発明3ないし5の上記①及び②の判断も誤りである。
(2) 被告の主張
原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 明細書の記載事項について
本件出願の願書に添付した明細書(以下、図面を含めて「本件明細書」とい
う。甲78)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する図1ないし
3、8及び9については別紙1を参照)。
(1) 【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を用いた幼児用食器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、年齢の早いうちから自立心を育成する一環として、幼児教育中にお
いて、様々な生活習慣、作法を比較的幼年のうちから実践を通して学ばせる
カリキュラムが行われている。この中には食事作法について学ばせるカリキ
ュラムもある。
【0003】
食事をとるとは、原理的に、特定の容器に盛られている摂取対象物たる食
物(の一部)を特定の取出し用具を用いて自分の口まで運ぶ、という動作に
なる。取出し用具としては、箸、スプーン、ナイフ、フォークなどといった
ものが代表的である。幼児教育の場合、まず、スプーンといった、指全体で
握ることのできるものから入るのが理想的である。箸では指の動きを必要と
するために使用法が高度となり、ナイフやフォークでは使用中に怪我をする
リスクがあるためである。
【0004】
この際、スプーンを握るまでは良いが、そのあとのスプーンを使って目標
の食物の一部をスプーンに載せることまで考慮がなされていないのが現状で
ある。すなわち、とりにくかったり、容器の端にあるものすべてを余すこと
なくスプーンに載せるのは物理的に至難の業であったりする。このことは、
幼児に限らず、老年者、非健常者においても、同様の仕儀となっている。
【0005】
この点で、たとえば特許文献1では、スプーンを使って飲食物を食べると
きに使用する食器において、食器の一部に湾曲部を設けた構成を開示してい
る。
【0006】
しかし、単に食器の一部に湾曲部を設けただけでは、対象食物が滑りやす
い素材であったときなどは特に、横滑りするだけで、却ってとらえにくくな
ってしまう。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
食材を余さずに掬い上げられるという点においては、形状だけでなく、素
材も関係する。たとえば、陶器性のものは、特殊な表面処理を施さない限り、
滑りやすいことは否めない。
【0009】
本願は、上記のような課題を克服するべく、幼年層、老年層、非健常者等
にとって、食材を余すことなく掬い上げられることを可能とする食器を提供
することをその目的とする。
(2) 【課題を解決するための手段】
【0010】
まず、上記課題を克服するための素材について考察する。近年、特許文献
2或いは3の如く、円筒形の竹を平板上に加工する技術が確立され、竹材の
高い硬度、剛性や耐水性に優れている特性を生かし、家具材や建設資材等に
広く使用されている。
【0011】
また、竹材に含まれるアミノ酸のうちのチロシンが食物腐敗を抑制する効
果があることを利用して、特許文献3の如くかまぼこ板に使われている例も
ある。
【0012】
上記のように竹材は、硬度や剛性、耐水性に優れており、食物の腐敗抑制
効果もある上、機械的加工も容易である。これらの特性を生かして、昔から
食物を盛る食器に応用されてきたが、多くは竹の円筒形状を利用したコップ
にしたり、或いは竹を半分に割って皿にしたりと、限られた形でしかなく、
一般の陶磁器等の食器と同様な形状での応用はなかった。
【0013】
そこで、本発明においては、好適には素材として竹を用いる。竹は、特に
東南アジアには無尽蔵に存在するのが現状であり、且つ、6年に一回は伐採
しないと良い竹林は育たないということから、むしろ量的には無限にあると
言ってよい。また、竹を素材として用いるということは木材の消費を減少す
ることに繋がるから、環境保全が達成される。但し、本願の技術思想として
の核心はあくまで幼年層、老年層、非健常者等にとって、食材を余すことな
く掬い上げられることを可能とすることにあるので、竹製であることは必須
ではない。他の木材によってもよい。なお、本願においては、竹は木材の一
種として扱う。
【0014】
上記のような各課題を解決するために、本発明者は、種々実験、試作を重
ねた末に、食物盛込み用の窪みの角に食物が停留しないで、きれいにかき取
れるための底面角として、半径が略5~15mm程度の曲面が好適であるこ
とを見出した。この半径は更に好適には8~12mm程度とし、半径10m
m程度が最も好ましい。したがって、本発明に係る幼児用食器は、平板上に
加工された複数枚の竹材平板であって該複数の竹材平板の素材色が少なくと
も2種以上である複数枚の竹材平板が色が互い違いに積層されるように接着
される積層厚板部と、食物を盛るための所望の形状が前記積層厚板部から穿
削された窪み部と、前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面との
なす角が半径略5~15mmとなるよう形成されたR部とを具備し、前記R
部を形成する入隅部の曲面状の立ち上がりの中間部分が該立ち上がりの中間
部分を鉛直方向から挟む立ち上がり上部部分及び立ち上がり下部部分とは異
なる色を持つ。或いは本発明に係る幼児用食器は、平板上に加工された複数
枚の竹材平板である第1、第2、第3の竹材平板が下層から上層に向けてこ
の順に積層されるように接着されて構成される積層厚板部と、食物を盛るた
めの所望の形状が前記積層厚板部から穿削された窪み部と、前記窪み部にお
いて穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5~15mmとなる
よう形成されるR部とを具備し、前記第2の竹材平板が前記R部を形成する
入隅部の曲面状の立ち上がりの鉛直方向中間部分を構成し、前記第2の竹材
平板の素材色が少なくとも前記第1及び第3の竹材平板のそれぞれの素材色
とは異なる色合いを持つ。
【0015】
窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5~
15mmとなるよう形成されているため、使用者は、特に幼児や老年層、非
健常者であっても、この角を持った曲面により、食物がスプーン上に確実に
乗り、食器の外にこぼれることを防止することができる。したがって、特に
幼児用、老年層(特に要介護者)用の食器、非健常者用の食器等に好適に用
いることができる。さらに、上記構成を備える本発明に係る食器は、これを
洗浄する場合においても、食物カスが停留することなくきれいに洗浄するこ
とができる。
【0016】
また、上記において、前記複数の木材平板の素材色が少なくとも2種以上
であるように構成してもよい。つまり、上記食器を構成する木材平板の積層
体で各層ごとに色が異なるように、たとえば2色が互い違いに積層されるよ
うに、構成することができる。窪み断面のたとえば1、2、3層の色が変わ
っていることにより、窪みの深さが視覚的にはっきりと認識・判別すること
ができ、スプーンでの食物かき上げ動作を確実化することを助ける効果を奏
する。さらに、食物窪みがはっきりすることにより寄木細工のような模様を
形成し、食器のデザイン性が向上する。
【0017】
さらに上記において、前記複数の木材平板の木目方向を略同一方向とする
構成をとってもよい。食器の外側角には、竹による場合、竹繊維が模様とし
て点状に出現するが、これらの方向性が多層(たとえば3層)とも揃ってい
ることから、食器のデザイン性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
以上、説明したように、本発明に係る食器においては、窪み部において穿
削されて得られる立面と底面とのなす角が半径略5~15mmとなるよう形
成されているため、使用者は、特に幼児や老年層、非健常者であっても、こ
の角を持った曲面により、食物がスプーン上に確実に乗り、食器の外にこぼ
れることを防止することができる。また、竹を材とした場合、これに加えて、
竹材の高い硬度、剛性や耐水性に優れている特性と竹材に含まれるアミノ酸
のうちのチロシンが食物腐敗を抑制する効果を生かした堅牢で衛生的な食器
を提供することができる。
(3) 【0026】
図1は本願の一実施形態に係る竹製食器の概略を示した平面図、図2は同
断面図、図3は図2のA部分を拡大して示した部分的断面図、図4はその底
面とその部分的断面を示した概念的底面図である。なお、本実施形態におい
ては、材として竹を用いた場合を説明するが、本願の思想は竹材に限ること
なく適用することができる。
【0027】
本実施形態に係る竹製食器100は、図2に示すように平板状竹材を3枚
接着した積層板が後述するように掘り込まれて形成され、図1に示すように、
ほぼ中心部に内周収容部である第1の収容部1が形成され、第1の収容部1
の周囲に隔壁である立ち上がり10によって区分けされる外周収容部20
(図示しない)が形成されている。外周収容部20は詳細には、第1の収容
部1と立ち上がり11によって区分けされる第2の収容部21、第1の収容
部1と立ち上がり12によって区分けされる第3の収容部22、第1の収容
部1と立ち上がり13によって区分けされる第4の収容部23によって構成
されている。また、外周収容部20を構成する第2の収容部~第4の収容部
は互いに立ち上がり50、60、70によって区切られている。
【0028】
図2及び図3を参照する。竹製食器100は、断面においては、3層の竹
平面材a、b、cが積層されて一体に整形されて構成されており、立ち上が
り部33は、下から40a、33a、33b、33cが積層された構成とな
っている。ただし、本実施形態においては、40aと33aとは位置的な区
切りにすぎず、40a及び33aは素材的には一体のものとして構成される。
また、3層の竹平面材a、b、cのうち、b層の色合いをa層、c層に比し
て濃いめのものとする。これによって、美観上のアクセントが生まれる。さ
らに、窪みの深さが視覚的にはっきりと認識・判別することができ、スプー
ンでの食物かき上げ動作を確実化することを助ける効果を奏する。さらに、
食物窪みがはっきりすることにより寄木細工のような模様を形成し、食器の
デザイン性が向上する。
【0030】
ここで再び図1~図3を参照する。竹製食器100には、各収容部の立ち
上がりと底面との取り合い部、一つの立ち上がり部とこれに隣接する立ち上
がり部との間の取り合い部、に各々略10mm程度の半径によるRを設けて
ある。具体的に、たとえば第4の収容部23において、底面部40と立ち上
がり部33との取り合い部に、図3に示されるような半径略10mmの曲線
断面が図3の紙面と直交する方向に延伸されて形成されている。また、平面
においても、たとえば、立ち上がり70と立ち上がり13との間の取り合い
部には、図1に示されるような半径略10mmの曲線断面が図1の紙面と直
交する方向に延伸されて形成されている。畢竟、平面と立面の交差する箇所
には1/10程度の曲率を持つ曲面が内側に形成されている。したがって、
底面と二つの立面が交錯する箇所、たとえば第4の収容部23の底面部40、
立ち上がり70、立ち上がり13の3者が交錯する箇所においては、入隅で
あっても、曲率1/10程度の曲面が形成されることになる。
【0031】
上記においては曲面を形成する場合のRとして、半径10mmの場合を例
にとって説明したが、数値としてこれに限定されるわけではない。本発明者
の実験によれば、立面と底面とのなす角は半径略5~15mmとなるよう形
成されたR部であることが、本願の目的を達成するために好適である。この
半径は更に好適には8~12mm程度とし、半径10mm程度が最も好まし
い。
(4) 【0035】
本実施形態に係る竹製食器の作用・動作について説明する。図8は、本実
施形態に係る竹製食器の使用の状況を説明するための概念図であり、図9は
その断面図である。図8及び9において、
(a)はスプーンを取り合い部に差
し込むところを、
(b)は取り合い部に差し込まれたスプーンが食物を載せる
ところを、(c)はスプーンに食物が載せられた状態で掬い上げるところを、
それぞれ示している。
【0036】
使用者(たとえば幼児)はまず、スプーンSPで取得目標の食物Fを立ち
上がり部際まで追い込んでおいた状態にし、ここにスプーンを差し入れる(図
8(a)。
) 差し入れられたスプーンSPによって食物Fは立ち上がり(10、
30、50等)の方向に平面上の押圧を受けるが、立ち上がりからの反力を
受ける。この際に、立ち上がり下部には本願独自の曲面(半径略8~12m
mの曲線が断面形成される面)が形成されている。曲面が内側に形成されて
いるために、形成されていない場合(たとえば立ち上がりが底面から鉛直方
向に起立して形成されている場合)に比べて、横から押された食物の逃げ場
を消滅せしめているため、食物Fは押された立ち上がりの方向か立ち上がり
からの反力方向であるスプーンSPの方向かのいずれかに移動することにな
る(図9(a) 。ここで、Rが半径10mm程度として形成されているため
)
に、スプーン(一般的なスプーン或いは幼児用等の肉厚が厚く窪みが深くな
く収容面が若干狭いスプーン等を含む)の掬い面の外面の曲線と好適に適合
するために、スプーンSP下部と底面部との間に隙間を生ずることなくスプ
ーンSPにて無理なく底ざらえをすることができる。またRが半径10mm
程度であることから曲面の上部の鉛直の立ち上がりが壁となるため、使用者
はほんの僅かの力を用いるだけで、食物は立ち上がりからの反力を受けてス
プーンSPの方向に押圧されることになる。つまり、幼児や年配者が発する
少しの力を効率的にスプーンへの食物移載力に転換することができる。その
ために、立ち上がりからの反力を受けた食物FはスプーンSPと立ち上がり
(10、30、50等)との間にとどまることなく、スプーンSPの窪みに
スムーズに移行することになる(図8(b)、図9(b) 。
)
【0037】
こうして移載された食物Fをスプーン上に載せた状態で、立ち上がり(1
0、30、50等)に沿ってスプーンSPを移動させれば、ほぼ自然に食物
を口にまでスムーズに運ぶことができることとなる。
【0038】
以上詳細に説明したように、本願によれば、市販されている一般の各種ス
プーンを用いると本発明の食器に盛った食物をこぼさずに綺麗に掬うことが
でき、幼児や高齢者用の食器として大変有用なものとなる。また、上記の底
面角の曲面により、食器を洗浄する場合に底面角に食物の残渣が残ることな
く綺麗に洗浄することが可能となる。
2 取消事由1(甲4を主引用例とする本件発明1の新規性の判断の誤り)につ
いて
⑴ 甲4の記載事項
ア 甲4は、本件出願前に頒布された刊行物である「ベビーギフト100」
と題する書籍(初版発行2012年10月23日)の「No 51」の商品の
紹介ページ(見開き1頁)である。
イ 別紙2のとおり、甲4の左側には、上段に「N o51」の商品の全体を真
上から撮影した写真(甲4全体写真)が、下段に上記商品の一部を側面か
ら撮影した写真(甲4部分拡大写真)が掲載され、甲4の右側には、次の
とおりの文章(以下「甲4文章部分」という。)が記載されている。
「 No51
ファンファンのバランサーセット
BRAND FUNFAM
DESIGNER BRANDARCHITECTURE
SIZE(cm) φ23×H2.1(plate).12(spoon & fork)
PRICE ¥3、990
2、3年で成長し、勢いのある時はたった1日で1m以上も伸びること
があるという竹。近年では、CO2を吸収して地球温暖化を抑止する天
然資源としても期待される竹ですが、これをこども用食器に採用し、国
内外で注目を集めるブランドがファンファンです。枯渇する化石燃料に
よるプラスティックで作られた食器で、お料理を作ってくれた人や食べ
物に感謝の気持ちが湧くだろうか?プロデューサーのAさんが抱くその
思い、そして次世代を担うこどもが環境問題に関心を持つきっかけにな
ればという願いも手伝い2008年に誕生しました。温暖湿潤な地域で
しか生育しない竹ゆえに、欧米の人が珍しがり話題となってまず海外で
火がつき、やがて日本でもブレイク。和食の基本、一汁三菜を前提にし
た卓膳セット、洋食のフルコースの内容や順番を学べるテーブルマナー
セット、おせち料理にも最適なそば重など、竹の集成材が見た目にも美
しく癒されるアイテムが揃います。ベビーギフトにおすすめなのがこち
ら。栄養のバランス、その配分をイメージしやすいようアイコンが記さ
れたプレートとスプーン&フォークのセットです。ウレタン塗装が4層
にコーディネートされているので、熱いお料理ももちろん大丈夫。おと
なのためのランチプレートシリーズには、離乳食に対応したベビーミー
ルセットも用意されています。名前を刻印するオーダーメイドにも対応。
竹のように丈夫ですくすく育って欲しいという職人さんの想いが込めら
れている素敵な食器です。」
⑵ 相違点10の認定の誤りについて
ア 前記(1)認定の甲4の記載事項によれば、甲4には、本件審決認定の甲
4-1発明(「竹の集成材からなる所定の厚みのある部分と、前記所定の
厚みのある部分に形成された窪んだ部分とが形成され、前記窪んだ部分に
おいて、底面と立ち上がり面が形成され、前記底面と前記立ち上がり面と
は角をなし、前記角は丸みがつけられており、前記底面を含む下部部分と
前記立ち上がり面の上端部を含む上部部分により挟まれる中間部分を構
成する部分の色が、前記上部部分及び前記下部部分をそれぞれ構成する部
分の色とは異なる色を持つこども用食器。 )
」 が記載されていることが認め
られる。そして、本件発明1と甲4-1発明を対比すると、本件審決認定
のとおり、両発明は、「平板上に加工された複数枚の竹材平板であって該
複数の竹材平板が積層されるように接着される積層厚板部と、食物を盛る
ための所望の形状が前記積層厚板部から穿削された窪み部と、前記窪み部
において穿削されて得られる立面と底面とのなす角が形成されたR部と
を具備し、前記立面と前記底面における中間部分の色が、前記中間部分を
鉛直方向から挟む上部部分及び下部部分の色とは異なる色を持つ幼児用
食器。」である点で一致することが認められる。
イ 次に、本件発明1の特許請求の範囲の請求項1には、本件発明1の「R
部」は、「前記窪み部において穿削されて得られる立面と底面とのなす角
が半径略5~15mmとなるよう形成された」構成を有することが規定さ
れている。本件明細書には、「R部」に関し、本件発明1の実施形態とし
て、
「竹製食器100には、各収容部の立ち上がりと底面との取り合い部、
一つの立ち上がり部とこれに隣接する立ち上がり部との間の取り合い部、
に各々略10mm程度の半径によるRを設けてある。具体的に、たとえば
第4の収容部23において、底面部40と立ち上がり部33との取り合い
部に、図3に示されるような半径略10mmの曲線断面が図3の紙面と直
交する方向に延伸されて形成されている。また、平面においても、たとえ
ば、立ち上がり70と立ち上がり13との間の取り合い部には、図1に示
されるような半径略10mmの曲線断面が図1の紙面と直交する方向に
延伸されて形成されている。 (
」 【0030】)との記載があり、別紙1のと
おり、図1及び3には、「R部」が図示されている。
そこで、
「R部」に関する甲4の記載について検討するに、甲4文章部分
中の「φ23×H2.1(plate)」との記載から、甲4記載の「こども用
食器」は、直径(φ)23cm、高さ(H)2.1cmであることを理解
できるが、他方で、甲4の記載事項全体をみても、上記直径及び高さ以外
の寸法についての記載はない。
また、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真(別紙2参照)のアングル、
解像度等に照らすと、甲4全体写真及び甲4部分拡大写真から、被写体で
ある「こども用食器」の「R部」を形成する「立面と底面とのなす角」の
角度や「半径」の寸法についてまで認識することは困難である。
以上を総合すると、甲4に接した当業者において、甲4から、甲4記載
の「こども用食器」の「R部」は、「前記窪み部において穿削されて得ら
れる立面と底面とのなす角が半径略5~15mmとなるよう形成された」
構成を有することが開示されているものと認識することはできないとい
うべきである。
そうすると、甲4記載の「こども用食器」は、少なくとも、相違点10
に係る本件発明1の構成中の「立面と底面とのなす角」が「半径略5~1
5mmとなるよう形成されたR部を具備し」との構成を備えていない点で
本件発明1と相違するから、本件発明1は、甲4記載の「こども用食器」
(甲4に記載された発明)と同一の発明であるものと認めることはできな
い。
⑶ 原告の主張について
原告は、①甲4全体写真について説明した甲76の5枚目の左側の画像記
載のとおり、A(こども用食器の外径)
:B(こども用食器の竹の集成材から
なる所定の厚みのある部分の内側の径) (こども用食器の二層目の竹材平
:C
板の内側の径)の比率は、100:94.8:88.3である、②この比率
と甲4記載の実寸から、A´(Aの実寸)は230mm、B´(Bの実寸)
は218mm、C´(Cの実寸)は203mm、D´(こども用食器の竹の
集成材からなる所定の厚みのある部分の幅の実寸)は6mm、E´(こども
用食器を真上から見たときの二層目の竹材平板の幅の実寸)は7.5mmと
算出される、③甲76の5枚目中欄の「Rごとの見え方の違い」の表によれ
ば、E´が7.5mmである場合、その見え方は、R10の場合の見え方に
該当するから、甲4記載の「こども用食器」の立面と底面とのなす角は、半
径略10mm弱となるよう形成されたR部になるとして、甲4には、甲4記
載の「こども用食器」は、
「立面と底面とのなす角が半径略10mm弱となる
よう形成されたR部」の構成を有することの開示がある旨主張する。
しかしながら、甲76は、原告従業員が作成した書面(作成日2021年
10月25日)であり、そもそも本件出願前に頒布された刊行物に当たらな
いこと、甲4には、「こども用食器」の直径(φ)及び高さ(H)以外の寸
法についての記載はなく(前記(2)イ)、甲76記載のAないしCの比率やA
´ないしE´の寸法の記載もないこと、甲4には、甲76の5枚目中欄の「R
ごとの見え方の違い」の表の記載はないことに照らすと、甲4に接した当業
者において、甲4から、上記①ないし③の事項を認識し、又は理解すること
はできないから、原告の上記主張は、その前提において採用することができ
ない。
⑷ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲4記載の「こども用食器」
(甲4に記載さ
れた発明)と同一の発明であるものと認めることはできないから、これと同
旨の本件審決の判断に誤りはない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事
由1は理由がない。
3 取消事由2(甲4を主引用例とする本件発明2の新規性の判断の誤り)につ
いて
(1) 相違点28の認定の誤りについて
原告は、甲4及び76に基づいて、甲4には、甲4記載の「こども用食器」
が、「立面と底面とのなす角が半径略10mm弱となるよう形成されたR部」
を具備し、「第2の竹材平板が前記R部を形成する入隅部の曲面状の立ち上
がりの鉛直方向中間部分を構成し、前記第2の竹材平板の素材色が少なくと
も第1及び第3の竹材平板のそれぞれの素材色とは異なる色合いを持つ」構
成(相違点28に係る本件発明2の構成)を備えることが開示されているか
ら、本件審決における相違点28の認定に誤りがある旨主張する。
しかしながら、前記2(2)及び(3)で説示したのと同様の理由により、甲4
記載の「こども用食器」は、少なくとも、相違点28に係る本件発明2の構
成中の「立面と底面とのなす角」が「半径略5~15mmとなるよう形成さ
れたR部を具備し」との構成を備えていない点で本件発明2と相違するから、
原告の上記主張は、採用することができない。
(2) 小括
以上によれば、本件発明2は、甲4記載の「こども用食器」
(甲4に記載さ
れた発明)と同一の発明であるものと認めることはできないから、その余の
点について判断するまでもなく、原告主張の取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(本件発明3ないし5の新規性及び進歩性の判断の誤り)につい
て
原告は、本件審決が、①本件発明3は、甲4に記載された発明であるとはい
えない、②本件発明3ないし5は、甲4等に記載された事項に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであるとはいえない旨判断したが、本件
審決における甲4を主引用例とする本件発明1及び2の新規性の判断に誤り
があるから、当該判断に基づく本件発明3ないし5の上記①及び②の判断も誤
りである旨主張する。
しかしながら、前記2及び3で説示したとおり、本件発明1及び2は、いず
れも甲4に記載された発明と同一の発明であると認めることはできないから、
原告の上記主張は、その前提において採用することができない。
したがって、原告主張の取消事由3は理由がない。
第5 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決を取り
消すべき違法は認められない。
したがって、原告の請求は棄却されるべきものであるから、主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 小 川 卓 逸
裁判官小林康彦は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
(別紙1) 明細書
【図1】 【図3】
【図2】
【図8】
【図9】
(別紙2) 甲4
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