令和3(ネ)10102特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和4年6月8日 |
事件種別 |
民事 |
対象物 |
留置針組立体 |
法令 |
特許権
特許法102条2項1回
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キーワード |
特許権5回 侵害3回 差止2回 損害賠償1回
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主文 |
1 本件控訴を棄却する。20
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
(以下、略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)5 |
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判決文
令和4年6月8日判決言渡
令和3年(ネ)第10102号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所令和元年(ワ)第8905号)
口頭弁論終結日 令和4年4月27日
5 判 決
控 訴 人 ニ プ ロ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 牧 野 知 彦
10 同 岡 田 健 太 郎
被 控 訴 人 株 式 会 社 ト ッ プ
同訴訟代理人弁護士 清 水 節
15 同 渡 邉 佳 行
同 鈴 木 隆 太 郎
同訴訟代理人弁理士 佐 藤 辰 彦
同 吉 田 雅 比 呂
主 文
20 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
25 2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の各製品の生産、譲渡、輸出、輸入又
は譲渡の申出をしてはならない。
3 被控訴人は、その占有にかかる前項記載の製品を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、288万3600円及びこれに対する令和元年
10月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
5 (以下、略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
1 事案の概要
本件は、名称を「留置針組立体」とする発明に係る特許(特許第65661
60号。本件特許。)の特許権者である控訴人が、原判決別紙物件目録記載の各
製品(被告各製品)を被控訴人が生産、譲渡等をし、これが本件特許権を侵害
10 する旨主張して、被控訴人に対し、本件特許権に基づき、被告各製品の生産、
譲渡等の差止め及びその廃棄を求めるとともに、本件特許権侵害の不法行為に
基づく損害賠償金288万3600円(特許法102条2項適用)及びこれに
対する不法行為後の日で本件訴状送達日の翌日である令和元年10月18日か
ら支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割
15 合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、被告各製品は本件発明1の構成要件1E④、同2の同2E④及び同
3の同3E⑤(構成要件1E④等)をいずれも充足しないものであるから、本
件各発明の技術的範囲に属しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は、原判決を不服として本件控訴を提起した。なお、控訴人は、当審
20 第1回口頭弁論期日において、原審で主張していた訂正の再抗弁を撤回した。
2 前提となる事実
「前提となる事実」は、次のとおり補正するほかは、原判決(更正決定後の
もの。以下同じ。)の「事実及び理由」第2の2(「前提事実」)に記載されたと
おりであるから、これを引用する。
25 ⑴ 3頁13行目冒頭から25行目末尾までを削り、同26行目冒頭の「⑸」
を「⑷」と改める。
⑵ 4頁11行目冒頭の「⑹」を「⑸」と改め、同12行目冒頭の「ア 」及
び同16行目冒頭から20行目末尾まで(原判決別紙「本件各訂正発明の構
成要件一覧」を含む。)をいずれも削る。
⑶ 原判決別紙「被告各製品の構成(被告主張)」の4行目の「e、」を削る。
5 3 争点
「争点」は、4頁26行目の「及び訂正の再抗弁」を削るほかは、原判決の
「事実及び理由」第2の3(「争点」)に記載されたとおりであるから、これを
引用する。
4 争点に関する当事者の主張
10 「争点に関する当事者の主張」は、次のとおり補正し、後記5に当審におけ
る当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第3(「争点
に関する当事者の主張」)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
⑴ 5頁13行目の「3E②」を「3E③」と改める。
⑵ 12頁20行目の「15日」を「16日」と改める。
15 ⑶ 19頁15行目の「CN204219517U」を「中国実用新案第20
4219517号明細書」と改める。
⑷ 22頁6行目冒頭から23頁18行目末尾までを削る。
⑸ 25頁15行目冒頭から26頁10行目末尾までを削る。
⑹ 27頁10行目の「本件各発明」を「本件特許」と改める。
20 5 当審における当事者の補充主張(構成要件1E④等の充足性について)
⑴ 控訴人
ア 本件各発明では「係止片」という用語を使用しているところ、
「片」と
はその名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」と
は「片状(へんじょう)の部材」の意味である。
25 構成要件1E④等の「前記係止片」が「前記大径部側に前記円筒状部
と一体形成される一方、前記小径部側には設けられておらず、 との文言
」
は、径方向に対向する一対の係止片が、小径部側ではなく大径部側に設
けられているという係止片の配置を規定しているにすぎず、何らかの「係
止片」といえるような形状の部材が小径部側に設けられていないという
こと自体に特有の技術的意義があるわけではない。
5 構成要件1E④等は、
「前記係止片は、前記針ハブに向かって傾斜した
内側面を有し、前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される一方、前
記小径部側には設けられておらず、」と規定しており、「前記係止片」が
「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、」と規定するとともに、
同じく「前記係止片」が「前記大径部側に・・一体形成される一方、前
10 記小径部側には設けられておらず」と規定しているのであるから、大径
部側に一体形成される係止片と、小径部側に設けられていないこととさ
れる係止片が同じ「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有」する係
止片であると理解するのが自然な解釈である。したがって、大径部側に
一体形成される係止片のみならず、小径部側に設けられていないことと
15 される係止片も、
「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し」ている
係止片である。被控訴人が主張するように、大径部側に一体形成される
係止片と小径部側に設けられていないこととされる係止片が異なる係止
片であると解釈するのは不自然である。
そして、本件明細書にも、針先の再露出防止のための部材である「係
20 止片74」が大径部側に設けられ、小径部側には設けられていない旨が
示されており(【0073】【0077】【0078】【図6】 、このよ
、 、 、 )
うな本件明細書の開示によれば、当業者は、大径部側に設けられている
「係止片」の具体的態様と、小径部側に設けられていない「係止片」の
具体的態様とが異なるものであると理解することはない。
25 以上によれば、本件各発明の「係止片」は、①「片状の部材」である
こと、②「針ハブに向かって傾斜した内側面を有」すること、③「前記
大径部側に前記円筒状部と一体形成され」ていること、④「前記小径部
側には設けられて」いないとの構成要素を全て充足するものに限る。
したがって、本件各発明においては、上記形状において針先の再露出
を防止するものを「係止片」としたのであって、たとえ針先の再露出を
5 防止するものであっても、あるいは「片状の部材」と呼べるような形状
を有していても、上記各形状の全てを有しない係止片は本件各発明の「係
止片」には該当せず、そのような係止片が小径部側に設けられていたと
しても、そのことは、構成要件1E④等の充足を左右しない。
イ 控訴人は、令和元年6月19日付け補正書による補正(以下「本件補正」
10 という。)において、本件各発明について、「前記係止片は、前記針ハブに
向かって傾斜した内側面を有し、 「前記大径部側に前記円筒状部と一体形
」
成される一方、前記小径部側には設けられておらず、」と補正したが、これ
は、針先の再露出防止機構である「前記針ハブに向かって傾斜した内側面
を有」する「係止片」が、
「前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される
15 一方、前記小径部側には設けられておらず」との構成を有することを特定
したものである。
ここで、控訴人が本件補正の際に提出した意見書(本件意見書)におい
て、係止片が針先の先端側への移動を阻止する具体的態様に言及していな
かったのは、
「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有」するとの点は主
20 引例との相違点ではなかったからにすぎず、
「係止片」が「前記針ハブに向
かって傾斜した内側面を有」する係止片に限定されていることは明らかで
ある。
ウ 被告各製品の小径部側壁部は、「片状の部材」ではなく、「前記針ハブに
向かって傾斜した内側面を有し」ておらず、
「前記大径部側に前記円筒状部
25 と一体形成される」ものではないから、本件各発明における「係止片」に
は該当しない。本件各発明の「係止片」に針ハブの回動を防止する部材ま
で含めて解釈することは、本件各発明が想定している「係止片」の概念か
ら逸脱している。
以上のとおり、本件各発明の「係止片」に該当し得ない小径部側壁部を
「係止片」にあてはめ、
「係止片」ではない小径部側壁部が構成要件1E④
5 等の「前記小径部側には設けられておらず」との構成要素を充足するか否
かを論じることは無意味なことである。
⑵ 被控訴人
ア 本件各発明の特許請求の範囲からは、
「係止片」それ自体の意義は、
「留
置針の針先の再露出を防止するために針先プロテクタを針ハブに対して
10 係止する片状の部材」というところで尽くされており、それ以上に「係
止片」に該当するために具体的な形状を必要とするよう特定・限定がさ
れているのではない。
「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有」しは、係止片が大径部
に存在した場合にその形状を特定するものであり、小径部に設けられて
15 いないこととされる係止片の形状を特定するものではない。なぜなら、
小径部に「前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有」する係止片があ
る場合には本件各発明の構成要件を充足しないのに対し、小径部に「前
記針ハブに向かって傾斜した内側面を有」しない係止片がある場合には
本件各発明の構成要件を充足することになるのでは、合理性がなく、い
20 かなる技術思想があるかもうかがうことができないからである。
本件補正は、小径部側に設けられていないこととされる係止片の形状
を特定するための記載ではない。なぜなら、形状のいかんを問わず、そ
もそも小径部側には係止片は存在していないのだから、 前記針ハブに向
「
かって傾斜した内側面を有」しない係止片を除外するために本件補正が
25 されたというわけではないからである。
控訴人は、特定の形状に限定されたものが本件各発明の「係止片」に
該当する旨主張するが、特許請求の範囲の記載上、構成要件1E④等の
あてはめの前提となる「係止片」にはそのような限定がないことは明ら
かであるし、当該形状を有しない「係止片」であれば、それが小径部側
に設けられて針先の再露出防止機能を有していても、対象製品が本件各
5 発明の技術的範囲に属することを妨げないとする根拠も不明である。
イ 仮に、被告各製品に小径部側壁部が存在しない場合、針基の受部が大径
部係止手段をすり抜けて針基が前進し、針先が再露出することになるから、
小径部側壁部は針先再露出の防止に不可欠な存在である。このように、被
告各製品の小径部側壁部は、他の部材と協働してであれ、
「針先プロテクタ
10 を針ハブに対して係止」しており、それによって「留置針の針先の再露出
を防止」するための不可欠の部材であるから、「係止片」に含まれる。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も、被告各製品は本件各発明の構成要件1E④等をいずれも充足し
ないものであるから、本件各発明の技術的範囲に属せず、したがって、その余
15 の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないものと
判断する。
その理由は、後記1のとおり原判決を補正し、後記2に当審における当事者
の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第4の
1及び2に記載されたとおりであるから、これを引用する。
20 1 原判決の補正
33頁18行目の「79a、79a」を「垂直面79a、79a」と、同
21行目の「わずかに」を「僅かに」と、36頁6行目の「一体成型」を
「一体成形」と、37頁2行目の「拡径部」を「拡開部」と、40頁3行目
の「係止部」を「係止片」とそれぞれ改める。
25 ⑵ 42頁21行目の「該当し」を「含まれ」と改める。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
⑴ 控訴人は、前記第2の5⑴アのとおり、本件各発明の「係止片」は、①片
状の部材であり、②針ハブに向かって傾斜した内側面を有し、③大径部に円
筒状部と一体形成され、④小径部側には設けられていないものをいうから、
上記構成要素から特定される形状を有しない係止片が小径部側に設けられて
5 いても構成要件1E④等の充足を左右しない旨主張しており、同イ及びウの
主張もこのような理解を前提とするものである。
しかしながら、引用に係る原判決第4の1⑴エ(補正後のもの)のとおり、
本件各発明の技術的意義及び出願経過からみて、針先の再露出を防止する機
能を有する係止片は小径部側には設けられていないこととされている(係止
10 片が小径部側に設けられていないことに特有の技術的意義がある。)と理解
するのが相当であり、したがって、小径部に設けられることで構成要件1E
④等の充足が妨げられる係止片は、その形状を問われないものというべきで
あるから、針先の再露出を防止する機能を有する係止片が小径部側に存する
ことは、対象製品が構成要件1E④等を充足することを妨げるものである。
15 さらに、控訴人は、「係止片」という用語を使用している以上、「片」とは
その名が示すとおり「片」(へん)状の部材であるから、「係止片」とは「片
状(へんじょう)の部材」を指すものである旨主張するところ、確かに、控
訴人は、本件補正により「係止部」を「係止片」と改めたものではあるが、
上記のような本件各発明の技術的意義及び出願経過からすれば、充足性の判
20 断に当たり、針先の再露出を防止するために小径部に設けられる係止部材を
片状のものに限定する意義は見いだせない。
以上によれば、控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。
⑵ そのほか、控訴人はるる主張するところであるが、既に説示したところか
らその主張を採用することができないことは明らかである。
25 3 結論
よって、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当
であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
10 菅 野 雅 之
裁判官
15 本 吉 弘 行
裁判官
20 中 村 恭
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