令和3(行ケ)10115審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和4年6月22日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告日医工株式会社 被告旭化成ファーマ株式会社
|
対象物 |
1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤 |
法令 |
特許権
特許法36条6項1号1回
|
キーワード |
実施108回 審決30回 進歩性18回 無効10回 分割8回 新規性6回 特許権2回 無効審判2回 優先権1回
|
主文 |
1 特許庁が無効2019-800062号事件について令和3年8月
11日にした審決を取り消す。20
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 |
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判決文
令和4年6月22日判決言渡
令和3年(行ケ)第10115号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年5月11日
判 決
原 告 日 医 工 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 吉 澤 敬 夫
同訴訟代理人弁理士 紺 野 昭 男
10 同 井 波 実
同 木 下 智 文
同 鮎 沢 輝 万
被 告 旭化成ファーマ株式会社
同訴訟代理人弁理士 細 田 芳 徳
同 亀 ヶ 谷 薫 子
主 文
1 特許庁が無効2019-800062号事件について令和3年8月
20 11日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
25 第2 事案の概要
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
⑴ 被告は、平成27年5月25日、その名称を「1回当たり100~200
単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治
療/予防剤」とする発明について特許出願(特願2015-105266号。
5 平成22年9月8日〔優先権主張 平成21年9月9日・特願2009-2
08039号〕を国際出願日とする特願2011-530844号の一部を
新たな出願としたもの。以下「本件出願」という。)をし、平成29年9月1
日、その設定登録(特許第6198346号、請求項の数2)を受けた(以
下、この登録に係る特許を「本件特許」という。 。
)
10 ⑵ 原告は、令和元年8月29日付けで本件特許の請求項1及び2に係る発明
について特許無効審判請求(無効2019-800062号)をした。
特許庁が令和2年11月26日に本件特許の請求項1及び2に係る発明に
ついての特許を無効にするとの審決の予告をしたところ、被告は、令和3年
1月29日付けで本件特許の請求項2に係る特許請求の範囲を訂正する訂正
15 請求を行った(以下、この訂正を「本件訂正」という。 。
)
特許庁は、令和3年8月11日、
「特許第6198346号の特許請求の範
囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項
[2]について訂正することを認める。特許第6198346号の請求項1、
2に係る発明についての審判請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審
20 決」という。)をし、その謄本は、同月18日、原告に送達された。
⑶ 原告は、令和3年9月16日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起
した。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件特許の請求項1及び2の発明(以下、項番号順に「本件発
25 明1」のようにいい、本件発明1及び2を併せて「本件発明」ということがあ
る。)に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。また、本件発明に係
る明細書を図面を含めて「本件明細書」という。
⑴ 本件発明1
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与され
ることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有
5 する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(1)~(3)の全ての条
件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし、48週を超過して7
2週以上までの間投与される、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
10 (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎
縮度が萎縮度I度以上である。
⑵ 本件発明2
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与され
ることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有
15 する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(1)~(3)の全ての条
件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし、48週を超過して7
2週以上までの間投与される、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤
であって、前記PTH(1-34)又はその塩がヒトPTH(1-34)酢
酸塩であり、前記骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、
20 新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるためである;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎
縮度が萎縮度I度以上である。
25 3 本件審決の理由の要旨
本件審決は、本件訂正は訂正の要件を全て満たすとした上で、①本件発明1
及び2は、甲第1号証「ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対す
る間欠毎週投与の効果 3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験」
:
(Osteoporosis International、vol.9、no.4、p.296-306、1999)
(以下「甲1
文献」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び本件特許
5 の特許要件判断の基準日であると認められる原出願の国際出願日(2010年
9月8日。以下「本件基準日」という。)当時の技術常識を踏まえても当業者が
容易に発明をすることができたものとはいえない、②本件発明1及び2は、甲
第14号証の1「テリパラチド酢酸塩[PTH(1-34)]の週1回間欠皮下
投与における新規椎体骨折抑制効果」(Osteoporosis Japan、第17巻、増刊
10 第1号、189頁、2009年9月11日)にその内容が掲載された講演及び
同号証の2「骨粗鬆症治療用ヒト副甲状腺ホルモン製剤テリパラチド酢酸塩」
にその内容が記録されている放送番組から把握される公知発明(以下「甲14
発明」という。 並びに本件基準日当時の技術常識を踏まえても当業者が容易に
)
発明することができたものとはいえない、③本件発明1及び2は、本件特許に
15 係る明細書(以下、図面を含めて「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明
に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者
が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート
要件(特許法36条6項1号)に違反しない、④当業者は本件明細書の記載及
び出願時の技術常識に基づいて本件発明を実施することができるから、本件発
20 明の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件(特許法36条4項1号)に違反
しない、⑤本件出願は分割要件を満たすところ、甲第12号証「国際公開第2
011/030774号」(以下「甲12文献」という。)は、原出願の出願日
である平成22年9月8日より後の平成23年3月17日に公開されたもので
あるから、本件発明1及び2を甲12文献に記載された発明(以下「甲12発
25 明」という。)であるということはできない旨判断した。
それぞれの論点に関する本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。
⑴ 甲1発明に基づく進歩性欠如(無効理由3)の有無について
ア 甲1発明の認定
hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射する、hPTH(1
-34)を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であって、厚生省によ
5 る委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45歳
から95歳の被験者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価
して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い患者に投与する、骨粗
鬆症治療剤。
イ 本件発明1と甲1発明との一致点
10 hPTH(1-34)の200単位が週1回投与される、hPTH(1
-34)を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤であって、骨粗鬆症
患者に投与される、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
ウ 本件発明1と甲1発明との相違点
相違点1
15 本件発明1は、
「骨粗鬆症患者」が「下記(1)~(3)の全ての条件
を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65歳以上であり、
(2)既存の骨折があり、
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、及び/又は、骨萎
20 縮度が萎縮度I度以上である」であるのに対し、甲1発明では、
「厚生省
による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が
45歳から95歳の被検者のうち、複数の因子をスコア化することによ
って評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い患者」であ
る点。
25 相違点2
本件発明1は、「骨粗鬆症治療ないし予防剤」が「骨折抑制のための」
ものであることが特定されているのに対して、甲1発明ではそのような
特定がない点。
相違点3
本件発明1では、「48週を超過して72週以上までの間投与される」
5 ことが特定されているのに対して、甲1発明にはそのような特定がない
点。
(以下、(1)年齢が65歳以上である」を「本件条件(1)
「 」と、(2)
「
既存の骨折がある」を「本件条件(2)」と、(3)骨密度が若年成人平
「
均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上
10 である」を「本件条件(3)」と、本件条件(1)ないし本件条件(3)
を併せて「本件3条件」と、本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を
「3条件充足患者」又は「高リスク患者」若しくは「高リスク者」と、
本件3条件の全部又はいずれか一部を満たさない骨粗鬆症患者を「非3
条件充足患者」又は「低リスク患者」若しくは「低リスク者」という。)
15 エ 相違点の容易想到性
相違点1
骨折の有無、骨密度及び年齢は、骨粗鬆症の進行を診断する上で重要
な因子であるが、甲1発明において、PTHを適用する患者として、本
件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選択することとは無関係であり、
20 先行技術文献には本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選択する動
機付けに関する記載や示唆はない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の発明を特定する事項とする
ことは、当業者が容易に想到し得るものではない。
相違点2
25 骨密度測定のみで骨折高リスク者を判定することはできないものであ
るところ、甲1文献においては、骨の強度等について確認されているわ
けではなく、先行技術文献の記載によっても、甲1発明の「骨粗鬆症治
療ないし予防剤」が「骨折抑制のため」であるとすることはできない。
相違点3
甲1文献には、200単位の投与を含む臨床試験で48週を超えて投
5 与すると、相当数の患者に脱落者が続出すること等が予測されるとして、
試験計画の段階において48週が投与継続の限界と考えられていたこと
が示されている。そして、その結果として、200単位では、22%も
の患者(副作用発現者の半数以上)が試験に耐えることができず脱落し
ており、48週ですら高すぎるドロップアウト率を被ったといえる。
10 甲第3号証「斎藤充ほか『テリパラチド(hPTH1-34)の週1
回投与は骨量・骨質を改善し骨強度を増強する ―卵巣摘出サルに対す
る18ヵ月投与の検討―』(日本整形外科學會雑誌、第82巻、第8号、S1
159、「2-8-23」、2008)」
(以下「甲3文献」という。)における実験で
PTHを18か月間週1回皮下投与されているのは、サル卵巣摘出(O
15 VX)モデルであり、ヒトとサルとでは動物種が異なるので効果が類似
するとはいえず、また、骨折抑制効果についても不明であるから、甲1
発明において、18か月間、治療を継続することの動機付けになるとは
いえない。甲第2号証「EFFECT OF PARATHYROID HORMON
E (1-34) ON FRACTURES AND BONE MINERAL DENSI
20 TY IN POSTMENOPAUSAL WOMEN WITH OSTEOPOROSI
S(J Med、vol.344、no.19、p.1434-1441、2001)」
(以下「甲2文献」
という。)は、閉経後女性おける骨粗鬆症の治療のために、20μg又は
40μgのPTHを、平均17ないし18か月(約74ないし78週)
連日皮下投与した臨床試験に関するものであるところ、その副作用脱落
25 率は、甲1発明における48週(約12か月)での22%の半分以下で
あるから、甲1発明において、48週を超えて治療を継続することの動
機付けになるとはいえない。
オ 本件発明1の効果
本件明細書【表35】から、プラセボ(対照薬)に対する骨折相対リス
ク減少率(Relative Risk Reduction。以下「RRR」という。)を算出す
5 ると、本件3条件の全てを満たす患者に24週投与したときの0ないし2
4週の間におけるRRRは約54%、本件3条件の全てを満たす患者に4
8週投与したときの24ないし48週の間におけるRRRは約82%、本
件3条件の全てを満たす患者に72週投与したときの48ないし72週
の間におけるRRRは100%であり、3条件充足患者にPTH200単
10 位週1回投与を長期間続けることにより、プラセボ投与群と比較して骨折
リスクを減少させる割合が上昇することが認められる。
また、別紙3の実験成績証明書I(甲64。以下「甲64証明書」とい
う。)には、3条件充足患者と、本件条件(1)は満たすが、本件条件(2)
又は本件条件(3)のうち少なくとも1つの条件を満たさない非3条件充
15 足患者における、被験薬(PTH200単位週1回)を48週超過又は7
2週以上投与した場合と対照薬(プラセボ)を48週超過又は72週以上
投与した場合のRRRが次のように示されている。
① 48週超過投与(表2) 3条件充足患者 約51%
非3条件充足患者 約43%
20 ② 72週以上投与(表3) 3条件充足患者 約59%
非3条件充足患者 約36%
これによると、72週以上投与における3条件充足患者の骨折相対リス
ク減少率は、非3条件充足患者のRRRよりも約23%(59-36)も
大きく、3条件充足患者は72週以上の投与において極めて優れた骨折抑
25 制効果を奏し、そして、48週超過投与における3条件充足患者と非3充
足患者のRRRの差が約8%(51-43)にとどまっていることを考慮
すると、3条件充足患者は、72週以上という長期間の投与に特に適した
患者群であることが認められる。そして、別紙4の実験成績証明書J(甲
68。以下「甲68証明書」という。)により、甲64証明書の妥当性が確
認されている。
5 以上から、
「48週を超過して72週以上までの間投与すること」という
用法を特定した上で、その投与対象を、3条件充足患者に選択した本件発
明1は、顕著な薬理効果を奏する患者群と用法に特に限定した発明であり、
この効果は、先行技術文献から予測し得るものではない。
カ 本件発明1について小括
10 以上から、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をす
ることができたものではない。
キ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の「PTH(1-34)又はその塩」を「ヒ
トPTH(1-34)酢酸塩」に限定し、本件発明1の「骨折抑制のため」
15 を「前記骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新規椎
体骨折の発生率を0%までに低減させるため」に限定した発明であるから、
本件発明2も本件発明1と同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者
が容易に発明をすることができたものではない。
⑵ 甲14発明に基づく進歩性欠如(無効理由4)の有無について
20 ア 甲14発明の認定
テリパラチド酢酸塩100単位が週1回投与されることを特徴とする、
テリパラチド酢酸塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤であって、
原発性骨粗鬆症の診断基準で骨粗鬆症と診断された患者のうち、既存椎体
骨折を1個から5個有する患者に投与されることを特徴とし、当該患者の
25 平均年齢は71.6歳であり、78週までの間投与される、新規椎体骨折抑
制のための骨粗鬆症治療剤。
イ 本件発明1と甲14発明との一致点
PTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、
PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療
ないし予防剤であって、下記(2)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆
5 症患者に投与されることを特徴とし、48週を超過して72週以上までの
間投与される、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨
萎縮度が萎縮度I度以上である。
10 ウ 本件発明1と甲14発明の相違点
相違点4
「骨粗鬆症患者」について、本件発明1では、さらに、 (1)年齢が
「
65歳以上である」という条件が追加されている点。
相違点5
15 「PTH(1-34)又はその塩」の投与量が、本件発明1では「1
回当たり200単位」であるのに対し、甲14発明では「1回当たり1
00単位」である点。
エ 相違点の容易想到性
相違点4
20 骨折の有無、骨密度及び年齢は、骨粗鬆症の進行を診断する上で重要
な因子であるが、甲14発明において、PTHを適用する患者として本
件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選択することとは無関係であり、
先行技術文献には本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選択する動
機付けに関する記載や示唆もない。
25 したがって、相違点4に係る本件発明1の発明を特定する事項は、当
業者が容易に想到し得るものではない。
相違点5
甲1文献には、200単位の投与を含む臨床試験で48週を超えて投
与すると、相当数の患者に脱落者が続出すること等が予測されるとして、
試験計画の段階において48週が投与継続の限界と考えられていたこと
5 が示されている。そして、その結果として、200単位では、22%も
の患者(副作用発現者の半数以上)が試験に耐えることができず脱落し
ており、48週ですら高すぎるドロップアウト率を被ったといえる。
そうすると、患者の負担軽減を考えると、副作用が多い200単位が
適切であると示唆するものではなく、200単位を試みる動機付けは明
10 示も示唆もされていないから、相違点5に係る本件発明1の特定事項は、
当業者が容易に想到し得るものではない。
オ 本件発明1について小括
本件発明1の効果は前記⑴オのとおりであり、予測し得ない顕著な薬理
効果を奏するから、本件発明1は、甲14発明に基づいて当業者が容易に
15 発明することができたものではない。
カ 本件発明2について
本件発明2は、前記⑴キのとおりの限定をした発明であるから、本件発
明2も本件発明1と同様の理由により、甲14発明に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものではない。
20 ⑶ サポート要件違反(無効理由1)の有無について
本件明細書の実施例2では、カルシウム剤とビタミン剤を、PTH200
単位投与群及びプラセボ投与群のいずれの群でも併用しており、RRRをP
TH200単位投与群の骨折発生率とプラセボ投与群の骨折発生率の比から
算出していることから、仮に、カルシウム剤による何らかの影響があったと
25 しても、それを除いた上での骨折抑制効果が評価できているといえ、本件明
細書にカルシウム剤を用いずPTH200単位を単独で用いる例やそのデー
タが記載されていないことをもって、本件明細書の発明の詳細な説明が本件
発明1及び2について課題が解決できるように開示されていないとはいえな
い。
さらに、甲第11号証「平成29年3月31日付け審査報告書」
(以下「甲
5 11文献」という。)及び甲第30号証「平成30年11月8日付け再審査報
告書」(以下「甲30文献」という。)におけるテリボンの薬理作用は同じ傾
向を示し、甲11文献には、8頁の表7、表8について、
「期間延長試験の各
評価期間における新規椎体骨折の発生率は、投与72週後以降大きく上昇す
る傾向は認められなかった。 (8頁3ないし4行目)と記載されていること
」
10 からすると、甲11文献及び甲30文献に49週以降にPTH投与群に骨折
が発生したことが記載されているとしても、両文献の結果は、本件明細書【表
35】の結果(骨折が発生し続けるプラセボに対して発生率を0%までに低
減すること)の信頼性や「実質的に完全に骨折が抑制されるという効果」を
否定するものではない。
15 以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に課題
を解決できることを当業者が認識できるように記載されたものである。
⑷ 実施可能要件違反(無効理由2)の有無について
本件明細書には実施例2として、PTH200単位週1回投与を受けた3
条件充足患者は骨折抑制効果を示したことが記載され 【表34】 表35】
( 【
、 、
20 【0132】 【0133】 、そして、本件発明1及び2は、特許請求の範囲
、 )
の記載からみて、カルシウムの併用を除外するものではないから、カルシウ
ム剤を用いずPTH200単位を単独で用いる例やそのデータが記載されて
いないからといって、発明の詳細な説明が当業者が実施できる程度に明確か
つ十分に記載されていなかったということはできない。
25 さらに、前記⑶と同様に、甲11文献及び甲30文献の結果は本件明細書
【表35】の結果(骨折が発生し続けるプラセボに対して発生率を0%まで
に低減すること)の信頼性や「実質的に完全に骨折が抑制されるという効果」
を否定するものではなく、両文献の記載内容は、上記判断を左右しない。
⑸ 甲12発明に基づく新規性欠如(無効理由5)について
本件出願に係る原出願である特願2011-530844号(甲12。以
5 下「原出願」という。)の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下
「原出願当初明細書等」という。)の【0014】の〔14〕 〔15〕 【00
、 、
32】 【0034】 【0131】ないし【0133】 【表34】 【表35】
、 、 、 、
の記載からみて、原出願においても、カルシウム剤の併用を要件としない態
様が十分に記載されているといえる。
10 そうすると、本件出願は、原出願の出願日である平成22年9月8日にし
たものとみなされるところ、甲12文献はこの後の平成23年3月17日に
公開されたものであるから、本件発明1及び2を甲12発明に基づいて新規
性がないということはできない。
4 取消事由
15 ⑴ 甲1発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由1)
⑵ 甲14発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2)
⑶ サポート要件に関する判断の誤り(取消事由3)
⑷ 実施可能要件に関する判断の誤り(取消事由4)
⑸ 甲12発明に基づく新規性判断の誤り(取消事由5)
20 第3 当事者の主張
1 取消事由1(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
本件審決における甲1発明と本件発明1の一致点及び相違点の認定につい
ては認めるが、本件審決が相違点1ないし3を容易想到ではないと判断した
25 ことは誤りである。
ア 技術常識について
PTHは、本件基準日当時、周知の骨粗鬆症治療剤であり、このことは、
本件審決も認定している。ここで、本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技
術常識をみると、次のとおりとなっている。
骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱
5 性が増大し、骨折の危険性が増加する疾患であると定義されていた(甲
23)。
骨粗鬆症の診断基準として、その変遷があるものの、その中に、X線
により椎体骨折を認める場合、すなわち既存の骨折を認める場合、骨密
度値が若年成人平均値(YAM)の80%以下又は骨萎縮度I度以上で
10 あるときに骨粗鬆症と診断する基準があることが知られていた(甲6な
いし8)。
1990年当時、骨粗鬆症の診断基準として、厚生省の研究班がまと
めたものであって、骨量の減少、骨折あり、年齢等の因子を点数化して、
その点数が4点である患者は「ほぼ確実」に、
「5点以上」の患者は「確
15 実」に骨粗鬆症患者であるとするものが知られていた(甲6ないし8)。
骨粗鬆症と骨折のリスクに関して、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要
な危険因子であること、既存骨折があると将来の骨折リスクは高まるこ
と、低骨密度は骨折を強く予測するものであることとの理解がされてい
た(甲9、23)。骨密度が骨折の全てを説明しないにしても、骨密度の
20 増加が骨強度を高めて骨折の防止をすることに全く結びつかないとの理
解はされていない。
医療対象者として、高齢とは65歳以上であるとの理解がされていた
(高齢者の医療の確保に関する法律32条)。
イ 相違点1の容易想到性について
25 甲1発明においてはその臨床試験の対象患者を厚生省シルバーサイエ
ンス骨粗鬆症研究班が提唱した診断基準 「臨牀と研究
( 平成11年4月
号」の38頁に掲載(甲6)。以下「甲6診断基準」という。)に基づい
て選んだものとうかがわれるが、同診断基準では、スコア化の因子とし
て、「1)骨量の減少」 「2)骨折あり」 「3)年齢」をあげるところ、
、 、
甲1発明が対象患者としたスコアの合計が4より高い患者の中には、本
5 件3条件の全てを満たす患者が当然に含まれていたといい得る。
甲6診断基準を、当時知られていた日本骨代謝学会の委員会が作成し
た診断基準1996年版(甲5。以下「甲5診断基準」という。)に置き
換えることは、当業者には特殊な創意、技巧を要することなくできるも
のであり、甲1発明の骨粗鬆症治療剤をこの診断基準のもとに診断され
10 る骨粗鬆症患者に投与することには何ら困難性はない。新しい診断基準
が提示された途端に旧診断基準が技術的に無意味になってしまうわけで
はないから、上記甲5診断基準より更に新しい診断基準が策定されたと
しても、甲5診断基準を用いて患者を特定することは当業者の通常の創
作能力の範囲内である。
15 本件基準日当時、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子であっ
たこと、医療対象者として、高齢とは65歳以上であることを勘案すれ
ば、65歳以上の患者を治療対象と設定することは、当業者にとって、
当然なことである。
本件条件(2)及び本件条件(3)は、甲5診断基準の「I.X線上
20 椎体骨折を認める場合」に一体的に規定される条件であり、これに、骨
折の危険因子である高齢の条件である本件条件(1)を加えた患者を治
療の対象とすることを思いとどまらせるような事情は何ら存在しないか
ら、本件3条件の組合せは何ら困難ではない。
ウ 相違点2の容易想到性について
25 本件基準日当時の技術常識から、骨粗鬆症の治療が「骨折の抑制のた
め」にされることは当業者に自明の事項である。
既に臨床で用いられていた周知の骨粗鬆症治療剤であったPTH連日
投与では、強力な骨量増加作用と骨折抑制効果が証明されていたのであ
るから(甲25) PTHの後期第Ⅱ相試験で骨密度増加作用が確認され
、
たことをもって、PTH200単位週1回投与にも骨折抑制効果が認め
5 られるとするのが当業者の当然の理解である。骨粗鬆症治療薬として当
局の承認を求めるためには、骨粗鬆症治療薬の効果と安全性を評価する
最終段階の第Ⅲ相試験において骨折抑制の効果を直接見ることが求めら
れるとしても、その前の段階の臨床試験や、骨粗鬆症治療剤の開発・研
究において、骨密度の増加があれば骨粗鬆症治療剤として有用であると
10 当業者が理解するであろうことは何ら否定されない。
甲1文献の表6は、副作用を「軽度」と「中等度」に分類するのみで、
これ以上の重い副作用については報告していないし、200単位投与の
H群で最も大きな症例数とされた副作用は「悪心」であり、これは、い
わゆる制吐剤によりコントロール可能な副作用にすぎない。また、安全
15 性に優れるとする本件発明1の骨粗鬆症治療剤(【0135】)における
腎機能正常者の骨粗鬆症患者群における副作用発現率が44.9%であ
ることからみて、甲1発明における200単位週1回投与による副作用
の発現率42%が異常に高いとはいえない。また、甲1文献によれば、
甲1発明の200単位週1回の投与における脱落者の全てが副作用を原
20 因としているものではなく、中途での心変わりにより試験を拒否したり、
合併症の悪化があったもののこれが試験薬剤が原因とは考えにくいもの
も含まれており、かつ、いずれにしても、重篤な有害事象は認められな
かったものであるから(299頁左欄10行ないし300頁左欄3行目、
301頁左欄1行ないし右欄4行目) 脱落率の記載をもって、
、 200単
25 位週1回投与が治療には使えないものとはいえない。しかも、本件発明
の実施品であり、被告が現に販売している骨粗鬆症治療剤のテリボンは、
本件3条件の全てを満たす骨粗鬆患者にだけ使用されるものとして承認
されてはいない(甲42)。以上からすると、被告が主張するように、本
件基準日当時、PTH200単位を骨粗鬆症患者に投与することについ
て、リスクに見合うベネフィットが得られないと理解されていたとする
5 根拠はないといえる。
エ 相違点3の容易想到性について
甲1発明の臨床試験期間が48週とされたのは、多施設試験であるため
患者の経過を適切にフォローすることが難しくなるという、あくまで臨床
試験を適切に完遂するための試験期間の上限として定められたものであ
10 って、PTH200単位週1回投与による骨粗鬆症の治療を続けることが
できる期間の上限としてではない。臨床試験を適切に完遂するための試験
期間と、実際の治療において薬剤の投与を続けることができる期間とは異
なる概念であって、明確に区別して議論されるべきものである。
そうすると、甲1文献には、26週間投与し良い効果が見られたことか
15 ら、更に長い期間である48週間投与してみようとしたとの記載があり
(297頁右欄43行ないし298頁左欄24行目) また、
、 最長18か月
のPTHを投与した試験の結果を開示する甲2文献及び甲3文献の記載
に加え、PTH100単位を週1回、約1年間投与したとの甲14発明に
係る公知事項を踏まえれば、甲1発明において、当業者をしてその投与期
20 間を48週を超えるものとすることに何ら困難性は認められない。
オ 発明の効果について
予測できない顕著な効果について
発明の効果及び程度が、予測できない顕著なものであるかについては、
特許要件の判断基準日当時、当該発明の構成が奏するものとして当業者
25 が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測
することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観
点から検討しなければならないから(最高裁判所平成30年(行ヒ)第6
9号令和元年8月27日第三小法廷判決) 本件発明1に予測できない顕
、
著な効果があるとするためには、本件発明1の実際の効果が、本件発明
1の構成が奏するものとして当業者が予測できた範囲の効果と比較して、
5 これを超えるものでなければならない。
本件発明の効果について
後記⑵オ にて被告が本件発明の効果とする効果①ないし③に関する
被告の主張は争う。
本件明細書の記載について
10 a 本件明細書において、PTH200単位週1回投与の試験結果が記
載されているのは【0098】以下の実施例2である。しかし、実施
例2では、高リスク者(3条件充足患者)のみを対象としており、3
条件充足患者と本件3条件の全部又は一部を欠く者(非3条件充足患
者)との対比はない。
【表34】
(【0130】 、
)【表35】
(【0131】)
15 は、PTH投与群とプラセボ投与群とを比較したものにすぎず、ここ
から明らかにされるのは、PTHを投与された場合には、PTHを投
与されない場合に比較して骨折発生率が下がるという事実にすぎず、
【表34】及び【表35】からは、3条件充足患者に投与することで
優れた効果をもたらすかどうかは明らかにはならない。したがって、
20 効果①は本件明細書の記載に基づかない効果である。また、【表35】
からは、0ないし48週までの間の投与の継続により低下し続けてい
る骨折発生率の延長線上にある効果が、48週ないし72週までの間
にも生じているとしか評価し得ず、骨折抑制効果が増強されていると
評価することはできないから、効果②及び③も本件明細書から読み取
25 ることのできない効果である。
b 甲11文献及び甲30文献には、骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者
に対してPTH200単位週1回投与を行った結果、48週から72
週の期間において骨折の発生が見られたことが記載されており、甲1
1文献には、72週を超えた73ないし104週の期間では、骨折が
更に増加したことも記載されているから、本件発明2の構成によって
5 は「骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新規椎
体骨折の発生率を0%までに低減させる」という効果を奏しないこと
は明らかである。
効果の非予測性・顕著性について
a 甲64証明書及び甲68証明書における非3条件充足患者は、全て、
10 本件条件(1)を満たす「年齢が65歳以上」の患者である。また、
本件条件(2)又は(3)のいずれかを満たさないとするから、①「既
存の骨折はないが、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」群
又は②「既存の骨折があるが、骨密度が若年成人平均値の80%以上
である」群を含むところ、骨密度が若年成人平均値の80%以上であ
15 れば、通常、骨萎縮はないから、上記②の患者は骨粗鬆症と診断され
得ない。そうすると、甲64証明書及び甲68証明書は骨粗鬆症患者
群を解析対象としたものとはいえないことになる。
仮に上記②は含まれていないとすると、甲64証明書及び甲68証
明書にいう非3条件充足患者は、 65歳以上で、
「 既存の骨折はないが、
20 骨密度が若年成人平均値の80%未満である」群のみとなるから、上
記各証明書は、3条件充足患者として、
「65歳以上で、既存の骨折が
あり、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」患者群と、非3
条件充足患者として、
「65歳以上で、既存の骨折がなく、骨密度が若
年成人平均値の80%未満である」患者群を対比したものにすぎず、
25 既存骨折の有無のみにおいて相違する患者に対するPTHの効果を比
較しただけの試験となる。
複数の要件を組み合わせる発明の進歩性の判断に当たっては、当該
複数の要件について、それぞれ非充足の場合との対比がされ、それぞ
れに要件の充足、非充足において奏する効果に対し、当該発明の効果
が優れたものであることが明らかにされなければならない。
5 そうすると、甲64証明書及び甲68証明書は、3条件充足患者に
ついて、非3条件充足患者との対比において本件発明1が優れた効果
を奏することを示すものとはいえない。
b 甲64証明書及び甲68証明書において、PTH投与群と対比され
たコントロール群(プラセボ投与群)は、PTHの臨床試験が行われ
10 た20年以上も前に実施された、別の骨粗鬆症治療剤であるエルシト
ニンの臨床試験時にプラセボを投与された患者群を含み、患者背景が
群間で同等であるとはいい難い。また、PTHの臨床試験とエルシト
ニンの臨床試験では、他の骨粗鬆症治療剤の併用の制限の有無におい
ても異なっている。このような外部対照群を用いる試験は、信頼性が
15 低く、例外的な状況下で使用されるものであることが当該分野におけ
る技術常識であるところ、甲64証明書及び甲68証明書において、
外部対照試験を用いることが正当化されるような特殊事情の存在はな
く、むしろ解析の結果の信頼性をより一層損なわせる事情が存在して
いる。なお、本件発明の実施品として被告が販売するテリボンは、対
20 象患者を3条件充足患者に限定していないのであるから、非3条件充
足患者にPTHを投与する臨床試験が臨床倫理上許されないとする被
告の主張は説得力を欠く。
c 甲64証明書及び甲68証明書は、3条件充足患者におけるPTH
投与群とコントロール群との間の有意差の有無と、非3条件充足患者
25 におけるPTH投与群とコントロール群との間の有意差の有無とをそ
れぞれ検討するだけであり、3条件充足患者と非3条件充足患者とを
直接比較していないため、ここから3条件充足患者と非3条件充足患
者との間での骨折抑制効果の違いを確認することは不可能である。
その上、3条件充足患者と非3条件充足患者とのそれぞれについて、
PTH投与群のプラセボ群に対するRRRの95%信頼区間を算出し
5 てみると、いずれの結果においても、3条件充足患者におけるRRR
の95%信頼区間は、非3条件充足患者におけるRRRの95%信頼
区間に完全に包含されている。真のRRR値は95%信頼区間上のど
れかの値である可能性が高いのであるから、上記各証明書で3条件充
足患者と非3条件充足患者のどちらがRRRが高いのかを結論付ける
10 ことは不可能ということになり、3条件充足患者と非3条件充足患者
との間で骨折抑制効果に関して差があるとはいえない。
d 甲1文献には、48週の投与で骨密度を8.1%増大させたこと(3
00頁左欄11行ないし右欄6行目) 48週間にわたって骨密度が次
、
第に増加していることが開示されているから、48週の投与を72週
15 以上までに延長することにより、より高い骨折抑制効果が得られるこ
とは、当業者が容易に予想できる。加えて、甲2文献には、PTHの
間欠投与による骨折抑制率が、投与期間が長くなるほど高まることが
記載され、とりわけ、図1には、PTHの20か月弱の継続投与にお
いて、9ないし12か月をすぎた頃から、投与期間が長くなるにつれ
20 てプラセボ投与患者群とPTH投与患者群との間の累積骨折率の差が
広がっていったことが示されている。甲3文献にも、PTHの18ヶ
月間の投与により骨密度及び骨強度が増加することが記載されている。
また、PTH20μg連日投与を12か月にわたって続けると、腰
椎BMDは約9%増加することが知られており(甲33の7頁図2)、
25 PTH200単位週1回投与とPTH20μg連日投与とでは、同等
の脊椎BMD増加率を達成できることが知られていた。その上、3条
件充足患者に対するPTH200単位週1回投与のプラセボに対する
RRRでも、平均投与期間を17ないし18か月とするPTH20μ
g連日投与のプラセボに対するRRRと同等以下である(甲40の9
23頁図1)。
5 カ 本件発明1について小括
以上のとおり、相違点1ないし3は容易に想到することができ、本件発
明1の効果を優れたものと認めることはできないから、本件発明1は容易
に発明することができる。
⑵ 被告
10 ア 技術常識について
原告が指摘する周知の骨粗鬆症治療剤とは、欧米で用いられていたPT
H連日投与の骨粗鬆症治療剤であり、その効果が、本件発明のPTH20
0単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤にそのままあてはまるものではない。
年齢、骨折既往、骨密度(骨萎縮度)は骨折の危険因子と呼ばれるもの
15 であるが(甲23の34頁)、骨折の危険因子は、骨折リスクの高低を判別
するために用いられるにすぎず、治療効果や骨折抑制効果を予測するため
のものではないのであって、骨折リスクが高い患者において骨折抑制効果
がより認められるという技術常識はなく、むしろ、高齢者の場合には一般
に代謝が悪く薬が効きにくいなど治療薬を投与しても骨折を抑制し難い
20 と考えるのが自然である。
また、骨密度を増加させる作用が示されたとしても、必ずしもそれらが
骨の強度を高め、骨折の防止に結びつくわけではなく、骨粗鬆症治療剤の
臨床評価に当たっては、骨強度及び骨折に対する影響が評価されなければ
ならず、骨密度増加作用が確認されても骨折抑制効果の確認は必要であり、
25 そして、その骨折抑制効果は標準薬やプラセボとの比較試験によらないと
分からない。したがって、骨密度の増加から骨折抑制効果が期待できると
はいえないというのが技術常識である。
イ 相違点1の容易想到性について
甲6診断基準には、本件3条件以外の複数の因子が考慮因子として挙
げられており、本件3条件を満たさなくとも骨粗鬆症患者と診断され得
5 るから、甲6診断基準により臨床試験の対象患者を選んだとする甲1発
明の臨床試験の対象患者の中に、本件3条件の全てを満たす患者が当然
に含まれていたとはいえない。
本件3条件が骨折発生の危険因子だとしても、骨折の危険因子は、骨
折リスクの高低を判別するために用いられるものであり、骨折をしやす
10 い患者が治療による骨折の抑制をしやすい患者とはいえないから、骨折
の危険因子が多いからといって骨折抑制の治療効果を享受できるとは当
然にはいえない。したがって、当業者は、本件3条件がPTH週1回投
与により高い骨折抑制の治療効果を享受できる属性であることを容易に
想到できない。
15 本件基準日当時には、診断基準2000年版(甲9。以下「甲9診断
基準」という。)が既に作成されているから、甲5診断基準を適用する理
由はない。それを措くとしても、甲5診断基準によれば、既存椎体骨折
(本件条件(2))を認めない場合であっても、骨粗鬆症と診断されるの
であるから、甲5診断基準によって骨粗鬆症と診断された患者全員が、
20 「骨萎縮度I度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値の80%未満」
(本件条件(3))で、かつ、「既存骨折」(本件条件(2))のある骨粗
鬆症患者ではないのであって、本件条件(2)及び本件条件(3)を満
たす骨粗鬆症患者を選択する動機付けはない。
PTH200単位は副作用リスクの点から臨床用量として相応しくな
25 いというのが、甲1発明に対する専門医の共通した見解であり(甲49、
甲50の1及び2) そのような薬剤を一般に体力の劣る65歳以上の高
、
齢者に使用するとなると、リスク・ベネフィットに見合う特段の事情が
必要となる。
したがって、65歳以上の骨粗鬆症患者が連日投与での治療対象とさ
れているからといって、65歳以上の骨粗鬆症患者をPTH200単位
5 週1回投与の治療対象とする動機付けが直ちにあるとはいえない。
甲1文献には、年齢の違い、閉経後年数、椎体骨折の有無、骨折数が
どうであれ、薬物のBMD応答は同程度であることが記載されており(3
00頁左欄11行ないし右欄6行目) これは、
、 サブ群を組み合わせる意
味がないということでもあるから、
「年齢」「既存骨折」の観点を含めた
、
10 条件の組み合わせは積極的に否定されたものであり、当業者は、甲1文
献に接しても本件3条件の着想を持ち得ない。
ウ 相違点2の容易想到性について
下記のとおり、PTH200単位週1回投与を骨折抑制のために行うこ
とが、当業者に自明の事項であるとはいえない。
15 医薬の治療効果を検討する上では、ある患者群で得られた数値(例え
ば骨折発生数)自体の大小あるいは増減を単純に論じても客観的な評価
をすることができないため、プラセボ投与群との対比をした上で行うべ
きであるとされているから(甲41の2) 標準薬やプラセボと対比して
、
いない骨折発生率の大小や単なる骨折発生率の低減では、当該医薬の骨
20 折抑制効果は分からず、標準薬やプラセボと対比していない単なる骨折
発生率の低減ではそもそも骨折抑制効果は評価できない(乙50) 骨密
。
度を増加させる作用が示されたとしても、必ずしもそれらが骨の強度を
高め、骨折の防止に結びつくわけではなく、骨折抑制効果の確認が必要
であること、また骨折抑制効果は標準薬やプラセボとの比較試験によら
25 ないと分からないということが本件基準日当時の技術常識である。
甲1文献には、治療効果としてBMD増加効果しか開示されておらず、
かつ、プラセボ投与群との対比もないため、甲1発明の骨粗鬆治療剤の
骨折抑制効果は不明である。すなわち、甲1文献の臨床試験は後期第Ⅱ
相試験であるところ、後期第Ⅱ相試験は、あくまでも用法・用量を決定
し、第Ⅲ相試験に進むか否かを評価するための位置付けであり、第Ⅲ相
5 試験で骨折抑制効果を確認することが求められている。しかも、骨粗鬆
症治療剤の臨床評価は、骨強度及び骨折に対する影響が評価されなけれ
ばならず、いくら後期第Ⅱ相試験で骨密度増加作用が確認されたところ
で、骨折抑制効果が期待できるとはいえない。
「代替エンドポイントの評
価」
(乙14)において骨密度が代替エンドポイントになるのは、第Ⅱ相
10 試験の目的である用量反応性の検討のためであって、骨折抑制効果の確
認には真のエンドポイントである骨折を評価項目とした臨床試験が必要
である。また、
「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインにつ
いて」
(甲41の1)に骨量の変化で代用すると記載されているのは、第
Ⅲ相比較試験のための用法・用量を決定することを達成する範囲におい
15 て骨密度が代用されているとするだけであり、骨密度が骨折抑制効果の
代用とされているのではない(乙50)。
甲1文献には、BMD増加率が8.1%であるH群は、BMD増加率が
0.6%であるL群との間で、骨折発生率について「各群間の差は有意で
なかった」と記載されており、このことは、甲1発明の骨粗鬆症治療剤
20 に関する限り、骨折発生数はBMD増加率に依存しないことが示されて
いると理解されるものといえる。
甲1文献には、PTH200単位投与について副作用発現率・脱落率
が高かった試験結果が記載されており、そうすると、PTHが長期間に
わたる投与を要する骨粗鬆症治療剤である以上、副作用が重篤でなけれ
25 ば問題ないとはいえず、臨床医薬としての適格性は否定されるのである
(甲48、50の1及び2、乙50)。甲1文献の臨床試験でPTH20
0単位投与の副作用発現率が42%であるのは48週時点であるところ、
本件発明の骨粗鬆症治療剤の副作用発現率は72週時点で36.8%な
いし45%であり(本件明細書【表31】ないし【表33】 、両者の投
)
与期間は異なるのであるから、単純に両者の副作用発現率のみを対比す
5 ることは適切ではない。なお、試験薬剤が原因とは考えにくい副作用も、
明確にはいえないケースであり、疑わしさが残る例であるから、これを
副作用による脱落に含める算定方法には何ら問題がない(甲2、45の
82頁)。
そして、本件3条件は、PTH100単位投与での骨折試験を層別解
10 析した結果、本件3条件を選択することで大きな骨折抑制効果が得られ
るという着想から得られたものであり、この着想がなければ、骨折抑制
のために200単位のPTHを骨粗鬆症患者に投与することがリスクに
見合うベネフィットが得られる治療方法とは考えられないのである。
なお、テリボンの効能・効果は「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」とな
15 っていて本件3条件の記載はないが、特許請求の範囲の記載と医薬の承
認事項での文言とが同一でなくてはならないというルールはなく、テリ
ボンの添付文書の記載が、層別解析により得られた本件3条件の着想に
より初めてリスクに見合うベネフィットが期待できるようになったとの
事実を否定することはない。
20 エ 相違点3の容易想到性について
当業者は、臨床試験も適切に行えないような投与期間について、実際
の治療が行えると思わないから、ドロップアウト率が高いので48週を
投与期間の限界とした甲1文献の記載に接した当業者は、臨床試験にお
いても治療の場面においても48週が投与期間の限界であると理解する。
25 そうすると、前記ウのとおり、甲1発明の骨粗鬆症治療剤は副作用発
現率・脱落率が高い一方で、リスクをはるかに超える大きなベネフィッ
トがあるかどうかは明らかではなかったから、甲1発明の骨粗鬆症治療
剤を、48週を超過する長期の投与期間が可能な骨折抑制のための骨粗
鬆症治療剤にしようと当業者が動機付けられることはない。
甲2文献は、平均17ないし18か月投与したというPTH連日投与
5 の場合のものではあるが、副作用脱落率は、20μg投与群で6%以下、
40μg投与群で11%以下であり(甲2の1438頁左欄1ないし5
行目) 副作用脱落率は甲1発明の骨粗鬆症治療剤の半分以下である。
、 甲
3文献の実験はサルにPTHを投与したところ骨強度が増加したという
だけであって、動物種が異なるヒトにおいて同様の骨折抑制効果が示さ
10 れているとはいえないし、甲14発明は、PTH200単位投与よりも
副作用発現率、脱落率が低いとされているPTH100単位投与の臨床
試験に関するものである。したがって、いずれの文献の記載も、PTH
200単位週1回投与の投与期間を48週を超えるものとすることの動
機付けの根拠にはならない。
15 オ 発明の効果について
予測できない顕著な効果について
発明の効果の顕著性は、当該発明の構成が奏するものとして当業者が
予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測す
ることができた範囲の効果を超えるか否かを検討するものであり、明細
20 書に当該発明の効果が記載されている必要はあるものの、効果の顕著性
までの記載は求められていないから、当該発明の構成が奏する効果とし
て当業者が予測する効果や、比較例や比較例との対比が明細書に記載さ
れていることを必要とはしない。
したがって、本件明細書に3条件充足患者に対する効果と非3条件充
25 足患者に対する効果との対比が記載されている必要はなく、3条件充足
患者を対象とする本件発明の構成において奏される本件発明の効果が、
当業者が予測できなかったものか否か、予測することができた範囲の効
果を超えるか否かが明らかにされればよい。
本件発明の効果について
本件発明の効果は、PTH200単位を、週1回、3条件充足患者に
5 投与することで、また、48週を超過して72週以上までの間投与する
ことで、①本件明細書【表34】に示されるとおり、72週時点でのプ
ラセボ投与群に対するRRRが79%という高い骨折抑制効果を奏する
こと(以下「効果①」という。 、②本件明細書【表35】に示されると
)
おり、投与の継続により骨折抑制効果が増強する効果を奏すること(以
10 下「効果②」という。 、③本件明細書【表35】に示されるとおり、4
)
8週経過後に実質的に完全に骨折を抑制する効果を奏すること(以下「効
果③」という。)である。一方、甲1文献からは、PTH200単位週1
回投与の骨折抑制効果や48週を超えて投与された結果を読み取ること
はできず、いわんや3条件充足患者に骨折抑制効果があることさえ予測
15 できないし、仮に骨折抑制効果が期待されるとしても、その程度は全く
不明であるから、本件発明の構成が奏する高いRRRが示されることを
予測できるものではなく、本件発明に優れた効果を認めることができる。
本件明細書の記載について
a 前記 からすると、本件発明の効果としては、PTH200単位週
20 1回投与を受けた3条件充足患者に対する骨折抑制効果とプラセボ投
与群に対する骨折抑制効果とを対比して前者に対する骨折抑制効果が
確認されればよく、PTH200単位週1回投与に関し、3条件充足
患者と非3条件充足患者との対比データが本件明細書に記載されてい
ないとしても、3条件充足患者に対する骨折抑制効果を顕著な効果と
25 認定するに際して問題とはならない。仮に、効果の確認のためには、
3条件充足患者と非3条件充足患との対比が必要であるとしても、3
条件充足患者に対するPTHの骨折抑制効果が非3条件充足患者に対
する骨折抑制効果よりも高いことは、本件発明の効果自体ではなく、
本件発明の効果が予測できない顕著なものであることの根拠付けにす
ぎないから、その記載が本件明細書になければならないものではない。
5 いずれにせよ、本件発明の骨粗鬆症治療剤は、高リスク患者(3条
件充足患者)の骨折発生率とプラセボ投与群の患者の骨折発生率につ
いて有意差がある一方で【表6】 、
( ) 低リスク患者(非3条件充足患者)
の骨折発生率とプラセボ投与群の患者の骨折発生率について有意差が
無く(【表7】 、また、RRRは、高リスク患者が71.6%であり、こ
)
10 れが9.1%にすぎない低リスク患者(非3条件充足患者)よりも圧倒
的に高いから、3条件充足患者に対して優れた骨折抑制効果が生じて
いるとの記載がある。
高リスク患者であれば、治療薬により高い骨折抑制効果が期待でき
るといった技術常識はなく、むしろ骨折しやすい重症患者であるから
15 治療薬を投与しても骨折を抑えにくく、逆に骨折しにくい低リスク患
者の方が骨折をより強く抑制できると考えるのが自然であり、さらに、
PTH200単位週1回投与が高リスク患者に対して低リスク患者よ
りも高い骨折抑制効果を示すことは、本件発明が初めて明らかにした
ことであって、出願当時、当業者に知られていたわけではない。そう
20 すると、少なくとも、3条件充足患者と非3条件充足患者において骨
折抑制効果に差が無いと当業者は予測するはずであり、そうであるな
らば、両者の間にRRRの差があること自体が予測できないことであ
る。
b 甲11文献及び甲30文献にはプラセボ群のデータはなく、客観的
25 に骨折抑制効果を評価できるものではないので、本件明細書【表35】
の結果(骨折が発生し続けるプラセボに対して発生率を0%までに低
減すること)の信頼性や「実質的に完全に骨折が抑制されるという効
果」を否定するものではない。さらに、両文献とも、投与対象を3条
件充足患者に限定していないテリボンに関する審査結果であるから、
これら文献に記載された48週超過後に発生した骨折が3条件充足患
5 者において発生したものか否かは不明である。甲11文献及び甲30
文献の結果は、本件明細書【表35】の結果(骨折が発生し続けるプ
ラセボに対して発生率を0%までに低減すること)の信頼性や「実質
的に完全に骨折が抑制されるという効果」を否定するものではない。
そもそも、本件発明2は、
「骨折抑制が48週を超過して72週まで
10 の間の投与では、新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるため」
という特定医薬の用途を規定したものであり、新規椎体骨折の発生率
が0%であることを規定したものではない。本件発明2は、プラセボ
投与群では発生する新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させる
「ために」 「それが」可能な治療剤であり、そのような医薬用途に使
、
15 用できる治療剤として規定したものであり、骨折発生率が0%になる
ことを規定したものではない。したがって、甲11文献及び甲30文
献において、48週から72週の期間において骨折の発生があるとの
記載があるからといって、本件発明の骨粗鬆症治療剤による「実質的
に完全に骨折が抑制されるという効果」を否定できるものではない。
20 一方、甲1発明の骨粗鬆症治療剤ではプラセボ投与群との比較がない
ので骨折抑制効果は不明であり、甲1文献における200単位投与群
の骨折発生件数が0件との記載は、骨折抑制効果を評価できることの
根拠とはならない(PTH200単位投与群で骨折発生件数が0件で
あっても、例えば、プラセボ投与群も0件の場合には効果があるとは
25 いえない。 。
)
効果の非予測性・顕著性について
a 甲64証明書によると、3条件充足患者のRRRが非3条件充足患
者のRRRより高いから、3条件充足患者に対してより効果が奏され
やすいことが十分に認識可能である。すなわち、RRRが、期間全体
では、3条件充足患者の64%に対して非3条件充足患者は56%で
5 あり(表1)、48週超過投与では、3条件充足患者の51%に対して
非3条件充足患者は43%であり(表2)、72週以上投与では、3条
件充足患者の59%に対して非3条件充足患者②は34%であり、3
条件充足患者のRRRが、非3条件充足患者より高いことが導かれる
(乙48、49)。
10 b 非3条件充足患者は、本件3条件のうち、少なくとも1つを満たさ
ない患者と定義されるところ、甲64証明書及び甲68証明書におけ
る非3条件充足患者は本件条件(1)を満たすので、「本件条件(1)
は満たすが、本件条件(2)又は(3)のうち、少なくとも1つを満
たさない患者」と表現したにすぎない。PTH投与群の患者は、実際
15 に医療機関において骨粗鬆症と診断された患者であるし、コントロー
ル群の患者についても臨床試験において医師によって骨粗鬆症として
診断され登録された患者であり、上記各証明書は骨粗鬆症患者を対象
としている。原告の主張は、単に上記各証明書の表現ぶりについて揚
げ足をとろうとするだけのものである。
20 前記 のとおり、3条件充足患者に対する効果と非3条件充足患者
に対する効果との対比がなければ、本件発明の構成が奏するものとし
て当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当
業者が予測することができた範囲の効果を超えるか否かを判断できな
いというものではない。いずれにせよ、本件発明の効果は、3条件充
25 足患者に高い骨折抑制効果が奏されるというものであり、非3条件充
足患者を対象するものではないから、比較対象となる非3条件充足患
者の例が一つでもあればよく、あらゆる類型の非3条件充足患者との
比較まで必要とされるものではない。しかも、上記各証明書に示され
た非3条件充足患者である「65歳以上」
(本件条件(1)充足)「既
、
存の骨折がなく」
(本件条件(2)非充足)、
「骨萎縮度Ⅰ度以上、又は、
5 骨密度が若年成人平均値の80%未満である」(本件条件(3)充足)
患者群は、本件3条件のうち一つの条件のみが外れた患者であり、
「6
5歳以上」
(本件条件(1)充足)、
「既存の骨折がなく」
(本件条件(2)
非充足) 「骨萎縮がなく、かつ、骨密度が若年成人平均値の80%以
、
上である」
(本件条件(3)非充足)患者群よりも、より本件発明に構
10 成が近く、比較対象としてはより効果の差が出にくい厳しい条件を採
用しているといえるし、本件条件(1)については、本件明細書の実
施例1において比較例を示しているから、内容的にも十分網羅されて
いる。したがって、比較対象が一部であるからといって、本件発明の
効果が明らかではないということはない。
15 c 甲64証明書及び甲68証明書で用いたコントロール群は、エルシ
トニン臨床試験のプラセボデータについては2006年ないし201
3年に実施された臨床試験のデータであり、テリボン臨床試験のプラ
セボデータについては2007年ないし2010年に実施された臨床
試験のデータであるので、PTH投与群のデータ(2011年ないし
20 2015年)とほぼ同時期である。原告が裏付けとして提出する証拠
は、全く関係のない試験に関するものである。
エルシトニン臨床試験及びテリボン臨床試験のいずれについても、
そのプラセボ投与群は、実際の治験と同時期に実施したランダム化二
重盲検比較試験におけるプラセボ投与群であり、試験薬剤を含まない
25 プラセボ製剤を使用する点で同じであるから、それらの臨床試験結果
に基づく解析結果を使用しても、外部対照群の短所を補っており、結
果の信憑性に問題はない。仮に、エルシトニン臨床試験とプラセボ臨
床試験との間に他の骨粗鬆治療剤の併用が制限されているか否かの相
違があったとしても、そのような併用患者は3条件充足患者と非3条
件充足患者のいずれにも含まれるため、PTH投与による3条件充足
5 患者に対する骨折抑制効果を比較する上では特に問題はない。
さらに、PTH100単位投与の実施例1においては、非3条件充
足患者への投与について、リスク(副作用)に対するベネフィット(治
療価値)が十分でないことが示されており、そうすると、PTH20
0単位投与に係る臨床試験に当たり、リスクを上回るベネフィットを
10 期待できない非3条件充足患者に200単位のPTHを投与すること
は臨床倫理上許されないことといえ、外部対照群を用いることが正当
化されるような特殊事情も存在する。なお、市販されている本件発明
の実施品であるテリボンの効能効果は「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」
となっていて本件3条件の記載はないが、特許請求の範囲の記載と医
15 薬の承認事項とが同一でなければならない規制はない。
d 原告は、信頼区間の算出結果によれば、3条件充足患者と非3条件
充足患者との間で骨折抑制効果に差があるとはいえない旨主張するが、
信頼区間が重なるという条件下では、2群間に有意差がある場合とな
い場合があるということが示されるにすぎない。被告は、3条件充足
20 患者における骨折抑制効果が非3条件充足患者における骨折抑制効果
に対して有意差があるから顕著な効果があるとは主張しておらず、3
条件充足患者のRRRが非3条件充足患者のRRRより高いのであれ
ば、3条件充足患者に対してより効果が奏されやすいことは十分に認
識可能であると主張しているものである。いずれにせよ、3条件充足
25 患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差があり、
非3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有
意差が無いことが分かれば、本件発明の骨粗鬆症治療剤が3条件充足
患者に対してより効果が奏されやすいことは十分に認識可能である。
e 甲1文献からは、甲1発明の骨粗鬆症治療剤の骨折抑制効果は不明
であるし、甲1文献には48週を超えて投与された結果は記載されて
5 いないので、本件発明の構成が奏する、48週を超える投与の継続に
より骨折抑制効果が増強する効果や、実質的に完全に骨折を抑制する
効果は、本件発明の構成が奏するものとして当業者には予測すること
ができなかったものである。甲2文献の試験はPTH連日投与のもの
であるから、より少ない頻度である週1回投与であっても同様の効果
10 が奏されることを当業者は推測することはできないし、甲3文献の実
験は、サルにPTHを投与したところ骨強度が増加したというだけで
あって、動物種が異なるヒトについてPTHを投与すれば同様の骨折
抑制効果が示されるという技術常識はない。そして、甲14発明は、
200単位週1回投与よりも副作用発現率、脱落率が低いとされる1
15 00単位の試験であるから、臨床使用に不適切とされた200単位週
1回投与の骨粗鬆症治療剤の投与期間を48週を越えるものとする動
機付けとはならない。また、いずれの文献にも、実質的に完全に骨折
を抑制する効果を予測する足掛かりは一切ない。
原告が指摘するPTHの連日投与(甲33、40)は、PTHの骨
20 への刺激は連日となるが、PTHの週1回投与はそれが週1回のみと
なるから、連日投与であっても週1回投与であっても、腰椎BMDが
結果的にいずれの用法でも増加するとしても、骨強度に重要な骨質へ
の影響が用法・用量の違いによりどのように反映されているかは全く
不明なままであり、PTH20μg連日投与の臨床試験結果と比較し
25 た結果がどうであれ、PTH200単位週1回投与が3条件充足患者
において骨折抑制効果が高いことを予測させるものではない。まして、
PTH200単位週1回投与の継続により骨折抑制効果が増強する効
果や実質的に完全に骨折を抑制する効果を予測できるとする根拠はな
い。
カ 本件発明1について小括
5 以上のとおり、相違点1ないし3は容易に想到することができず、また、
本件発明1の効果は優れたものであるから、本件発明1は容易に発明する
ことができない。
2 取消事由2(甲14発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
10 原告は、本件審決における甲14発明と本件発明1の一致点及び相違点の
認定については認めるが、本件審決が相違点4及び5を容易想到でないと判
断したことは誤りである。
ア 相違点4の容易想到性について
骨粗鬆症患者が加齢に伴い、高齢者において発症する疾患であることは
15 極めて周知の事項であることからすると、甲14発明において、骨粗鬆症
患者を本件条件(1)のように限定することは自然な選択であり、当業者
をして極めて容易になし得る事項としかいいようがない。
イ 相違点5の容易想到性について
甲14発明の100単位という用量を、より高い骨折抑制効果が見込ま
20 れる1回当たり200単位という用量に変更することは、当業者が容易に
なし得た事項である。
ウ 本件発明1について小括
以上のとおり、相違点4及び5は容易に想到することができ、前記1⑴
オのとおり、本件発明1の効果を優れたものと認めることはできないから、
25 本件発明1は容易に発明することができる。
エ 本件発明2について
本件発明1が進歩性を欠如する以上、本件発明1と同様の理由により本
件発明2が進歩性を欠如しないとした本件審決の判断は、誤りである。
⑵ 被告
ア 相違点4の容易想到性について
5 PTHが高齢の重篤な骨粗鬆症患者に特に有効であるという技術常識は
なく、200単位は副作用の点から臨床用量としては不適切であるという
技術常識からみて、65歳未満の患者と比較して一般に体力的に劣ると思
われる65歳以上の高齢者に対して200単位の投与をすることは、本件
基準日当時、高いリスクを超える程のベネフィットがあると認識されるも
10 のではなく、明らかな阻害要因がある。
本件明細書では、100単位投与の実施例1において65歳以上の患者
と65歳未満の患者で骨折抑制効果を比較しており、65歳以上の患者に
おいて高い骨折抑制効果が示されている。この実施例1で示されている本
件3条件の意義は患者自体の要件に係るものであり、100単位を200
15 単位に増量したとしてもその骨折抑制効果の技術的意義は失われないと
みるのが相当であるところ、このような高い骨折抑制効果は予測できない
顕著なものである。
したがって、相違点4に係る構成は容易に想到し得たものとはいえない。
イ 相違点5の容易想到性について
20 甲14発明は、専門医が適切と考えていた100単位投与に効果があっ
たということを内容とするものであり、100単位投与では効果が十分で
はないとは明示も示唆もされておらず、むしろ、100単位投与による骨
折抑制率が70.9%となり、有意な骨折抑制効果を示しているなど、10
0単位の投与で十分な効果が奏されているとするものであるから、甲14
25 発明に接した当業者が100単位の投与に代えて副作用が多い200単
位投与をあえて用いる動機付けとなるような事情は明示も示唆もされて
いない。
また、甲第14号証の1からは、約 1 年間投与した最終結果が開示され
たことしかうかがわれないから、その期間中の48週を超過して投与した
際の効果の変化は予測できないし、投与対象患者についてみても、3条件
5 充足患者と非3条件充足患者とを対比しているものではない。そうすると、
本件発明のような、投与とともに増強する効果、実質的に完全に骨折を抑
制する効果を予測することはできないし、3条件充足患者において特に高
い骨折抑制効果が奏されるとの予測もできない。
ウ 本件発明1について小括
10 相違点4及び5は容易に想到することができず、前記ア、イのとおり、
本件発明1の効果は予測できない顕著なものであるから、本件発明1は容
易に発明することができない。
エ 本件発明2について
相違点4及び5が容易に想到することができない以上、本件発明1と同
15 様の理由により本件発明2が進歩性を欠如しないとした本件審決の判断
には、誤りはない。
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
ア カルシウム剤の併用及び「新規椎体骨折の発生率を0%までに低減」に
20 ついて
本件発明1及び2においては、PTHとカルシウム剤を併用するとの限
定はされていない。
しかしながら、本件明細書においては、PTHは常にカルシウム剤と共
に投与されるものとして説明され 【0004】
( 、
【0005】、
【0014】、
25 【0024】ないし【0029】 【0032】 、実施例2にあっても、P
、 )
THはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており(【0098】、
【0099】 、カルシウム剤を用いずPTHを単独で用いたとする例やそ
)
のデータは記載されていない。これら本件明細書の記載に接した当業者は、
カルシウム剤を併用することが、効能・効果の面で優れたPTHによる骨
粗鬆症治療剤を提供するための前提であると理解するはずであり、カルシ
5 ウム剤を併用しない場合の発明の効果まで理解できたとはいえない。また、
カルシウム剤を併用せずPTHの200単位を単独で用いたとしても、当
業者においてその治療の効果を理解することができるとする技術常識も
ない。
したがって、カルシウム剤を併用するとの限定のない本件発明は、本件
10 発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範
囲を超えるものであるから、サポート要件を充たさない。
さらに、甲11文献及び甲30文献の記載に照らし、本件発明2の構成
によっては「骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新
規椎体骨折の発生率を0%までに低減させる」という課題を解決できない
15 ことについては、前記1⑴オ bのとおりである。
イ 小括
以上から、本件発明1及び2がサポート要件を充足すると判断した本件
審決の判断には、誤りがある。
⑵ 被告
20 ア カルシウム剤の併用及び「新規椎体骨折の発生率を0%までに低減」に
ついて
本件発明は、カルシウム剤の併用の有無を要件としていないことから、
カルシウム剤を併用しない態様も含むものである。そして、本件明細書の
【0014】の〔14〕及び〔15〕 【0032】 【0034】 【013
、 、 、
25 1】 【表34】 【表35】 【0132】及び【0133】には、カルシウ
、 、 、
ム剤の併用を要件としない態様の発明が記載されている。
また、実施例2では、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のい
ずれの群でもカルシウム剤が併用されているから、本件発明の効果は、P
TH単独の効果として認識できる。すなわち、骨折抑制効果は、一般にR
RRで評価されるところ、RRRはPTH200単位投与群の骨折発生率
5 とプラセボ投与群の骨折発生率の比から算出するところ、このようにPT
H200単位群とプラセボ投与群との比較で算出される以上、仮に、カル
シウム剤による何らかの影響があったとしても、その効果は両者に等しく
及ぶので、両群の比較によって骨粗鬆症治療剤の有効性が評価できるから
である。このことは、骨粗鬆症治療剤の有効性を評価する際には、臨床試
10 験時に薬剤投与群とプラセボ投与群の両方にカルシウム剤を施して比較
し、得られた効果はカルシウム剤の効果を除いた被験薬単独の効果として
いること(甲41の2、甲42ないし45)からみて、技術常識であるこ
とが明らかである。
したがって、当業者は、本件明細書からカルシウム剤を併用しない場合
15 のPTH200単位を単独で用いる治療の効果を理解することができる
ので、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳
細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決でき
ると認識できる範囲のものである。
甲11文献及び甲30文献の記載は、本件明細書【表35】の結果の信
20 頼性や「実質的に完全に骨折が抑制されるという効果」を否定するもので
はないことは、前記1⑵オ bのとおりである。
イ 小括
以上から、本件発明1及び2がサポート要件を充足すると判断した本件
審決の判断には、誤りはない。
25 4 取消事由4(実施可能要件に関する判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
ア カルシウム剤の併用及び「新規椎体骨折の発生率を0%までに低減」に
ついて
本件発明1及び2は、PTHとカルシウム剤を併用するとの限定はされ
ていない。
5 しかしながら、前記3⑴アのとおり、本件明細書には、PTHは常にカ
ルシウム剤と共に投与されるものとして説明され、実施例2にあっても、
PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており、カルシウム
剤を併用せずにPTHを単独で投与する発明は、本件明細書には記載され
ておらず、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは
10 いえない。
さらに、被告自身が医薬品医療機器総合機構に提出した公的報告書であ
る甲11文献及び甲30文献という客観的データには、「骨折抑制が48
週を超過して72週までの間の投与では、新規椎体骨折の発生率を0%ま
でに低減させる」ことはできないことが明記されていることは、前記3⑴
15 アにおいて主張したとおりであり、また、本件明細書をみても、どのよう
な手法を採用することで「42週を超過して72週までの間での投与では、
新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させる」ことができるのかは不明
であるから、当業者は、本件発明2を実施する方法を理解し得ない。
イ 小括
20 以上から、本件明細書の記載が実施可能要件を充足すると判断した本件
審決の判断には、誤りがある。
⑵ 被告
ア カルシウム剤の併用及び「新規椎体骨折の発生率を0%までに低減」に
ついて
25 前記3⑵アのとおり、当業者は、本件明細書の記載及び出願時の技術常
識を参酌することで、PTH単独の骨粗鬆症治療効果を認識することがで
きる。したがって、本件明細書の記載は、その発明の属する技術の分野に
おける通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確
かつ十分に記載したものである。
また、前記3⑵アのとおり、甲11文献及び甲30文献の記載は本件明
5 細書【表35】の結果を誤りとするものではないから、本件発明2が実施
可能要件を充たさないとすることはできない。
イ 小括
以上から、本件明細書の記載が実施可能要件を充足すると判断した本件
審決の判断には、誤りはない。
10 5 取消事由5(甲12発明に基づく新規性判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
ア 分割出願について
本件発明1及び2は、PTHとカルシウム剤を併用するとの限定はされ
ていない。
15 しかしながら、前記3⑴アのとおり、本件明細書には、PTHは常にカ
ルシウム剤と共に投与されるものとして説明され、実施例2にあっても、
PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており、カルシウム
剤を併用せずにPTHを単独で投与する発明は、本件明細書には記載され
ていない。
20 原出願当初明細書等の記載も本件明細書の記載と同一である。
したがって、本件発明1及び2は、原出願当初明細書等に記載のない発
明である。
イ 小括
以上から、本件出願は分割出願の要件を充足せず、本件特許の出願日は
25 現実の出願日である平成27年5月25日であり、甲12文献をこの後に
公開されたものとして甲12発明に基づく新規性欠如の主張を排斥した
本件審決の判断には、誤りがある。
⑵ 被告
ア 分割出願について
本件発明は、カルシウム剤の併用の有無を要件としていないことから、
5 カルシウム剤を併用しない態様も含むものである。そして、原出願当初明
細書等及び分割直前明細書等の各【0014】の〔14〕及び〔15〕【0
、
032】 【0034】 【0131】 【表34】 【表35】 【0132】及
、 、 、 、 、
び【0133】には、カルシウム剤の併用を要件としない態様の発明が記
載されている。
10 また、実施例2では、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のい
ずれの群でもカルシウム剤が併用されているが、前記3⑵アのとおり、両
群の対比からPTH単独の効果が評価できることは技術常識である。
したがって、本件発明は、原出願当初明細書等及び分割直前明細書等に
記載されたものの範囲内であり、分割出願の要件を充足する。
15 イ 小括
以上のとおり、分割出願の要件が認められるので、甲12文献は原出願
後に公開されたものであるから、甲12発明に基づく新規性欠如の主張を
排斥した本件審決の判断には、誤りはない。
6 本件発明2について
20 原告
本件発明1が進歩性を欠如する以上、本件発明1と同様の理由により本件
発明2が進歩性を欠如しないとした本件審決の判断は、誤りである。
被告
本件発明1に進歩性が認められるので、これを更に限定した本件発明2に
25 ついて進歩性が否定されないことは、明らかである。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明について
⑴ 本件明細書の記載事項
本件明細書(甲69)には、別紙1「本件明細書の記載事項(抜粋)」のと
おりの記載があり、この記載によると、本件発明について、次のような開示
5 があると認められる。
ア 技術分野
本件発明は、PTH(Parathyroid Hormone: パラサイロイドホルモン〔副
甲状腺ホルモン〕)を有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防
剤に関するものであり、また、PTHを有効成分として含有する骨折抑制
10 ないし予防剤に関するものである(【0001】 【0018】 。
、 )
イ 背景技術
骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大している疾
患であり、治療剤の1つとしてPTH製剤が知られている 【0002】 。
( )
従来技術として、1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり、
15 1回の投与当たり100又は200単位のPTHを皮下投与する骨粗鬆
症の治療方法があるが、この方法が、骨強度を増大させること又は骨折の
リスクを軽減させることが可能な治療方法であるか否かについては明示
されていない(【0004】 【0005】 。
、 )
また、従来技術として、PTHを連日投与するものがあるが、高カルシ
20 ウム血症の副作用事例等があり、安全性の面から十分ではないことから、
安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療方法
が求められていた(【0006】ないし【0009】 。
)
ウ 発明が解決しようとする課題
本件発明の課題は、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHに
25 よる骨粗鬆症治療ないし予防方法を提供すること、さらに、安全性の高い
PTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである(【001
2】 。
)
エ 課題を解決するための手段等
前記課題を解決するため、PTHの投与量・投与間隔を限定すること、
具体的には1回当たり100ないし200単位のPTHを週1回投与す
5 ることにより、効能・効果及び安全性の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予
防方法となること並びに安全性の高い骨折抑制又は予防方法となること
が見出され、それらの方法において、骨折の高リスク者に対して特に効果
を奏することが見出された(【0013】【0015】【0018】【00
、 、 、
34】 【0035】 。
、 )
10 骨粗鬆症における骨折の危険因子としては、年齢、性、低骨密度、骨折
既往、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド使用、骨折家族歴、運動、転倒
に関連する因子、骨代謝マーカー、体重、カルシウム摂取などが挙げられ
るところ、本件発明においては、(1)年齢が65歳以上である、(2)既
存骨折がある、
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、及び/
15 又は、骨萎縮度が萎縮度I度以上であるとの3条件を満たす骨粗鬆症患者
を「高リスク患者」として定義する(【0068】 。
)
オ 実施例1
退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症) 特発性骨粗鬆症
、
(妊娠後骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症など)が例示される原発性骨粗鬆症の
20 男女の患者を、高リスク患者及び低リスク患者(高リスク患者ではない患
者)に区分して、それぞれ、5あるいは100単位のPTH製剤であるテ
リパラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した(【0037】、
【0077】 【0079】 。
、 )
高リスク患者においては、100単位投与群は、5単位投与群に比べ、
25 有意に高い骨密度の増加、有意に低い新規椎体骨折発生、及び、有意に低
い椎体以外の骨折発生が認められ、テリパラチド酢酸塩の週1回100単
位投与は、高リスク患者に対し、有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ない
し予防剤となり得ることが確認されたが、低リスク患者においては、骨密
度、新規椎体骨折発生及び椎体以外の骨折発生のいずれについても、10
0単位投与群と5単位投与群との間で有意差は認められなかった(【00
5 83】ないし【0094】 【表4】ないし【表11】 。
、 )
投与期間中、いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなか
った(【0095】 【図1】 。
、 )
カ 実施例2
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して、テリパラチ
10 ド酢酸塩「200単位」
(披験薬)又はプラセボ(対照薬)を、72週間、
週1回、皮下投与した(【0098】 。
)
投与72週後における被験薬投与群と対照薬投与群それぞれにおける椎
体多発骨折(新規の2箇所以上の椎体骨折)の発生比率(例数)を比較し
たところ、対照薬投与群は2.1%(6例)、被験薬投与群 は0.8%(2
15 例)であり、被験薬は椎体多発骨折に対して抑制ないし予防効果を有する
ことが示された(【0109】【表12】 。また、増悪骨折に対しても被験
、 )
薬は有効である(【0118】 【表20】 。
、 )
半年ごとの新規椎体骨折発生率は、プラセボ群では、いずれの区間も約
5%でほぼ一定であるのに対し、PTH200単位投与群では、投与期間
20 が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており、48週を超えてから
は新規椎体骨折は発生しておらず、また、PTH200単位投与群の新規
椎体骨折発生率は、24週以内、24週ないし48週、48週ないし72
週のいずれの区間でもプラセボ群より低く、プラセボに対する相対リスク
減少率(RRR)は投与を継続するにつれて増加しており、PTH200
25 単位週1回投与は、新規椎体骨折の発生を早期から抑制し、24週後には
既に骨折発生リスクをプラセボに対して53.9%低下させ、さらに、その
骨折抑制効果は、投与とともに増強する傾向が認められた(【0131】、
【0132】 【表34】 【表35】 。
、 、 )
骨折試験のFAS(判決注 Full Analysis Set:最大の解析対象集団)
において、Kaplan-Meier推定法による72週後の椎体骨折(新規+増悪)
5 発生率は、PTH200単位投与群3.5%、プラセボ群16.3%であり、
PTH200単位投与群の発生率はプラセボ群より低く(logrank検定、p
<0.0001) 200単位の投与は、72週後には、
、 椎体骨折(新規+増悪)
の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させており、さらに、半年
毎の椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると、24週以内、24
10 週~48週、48週~72週のいずれの区間でも、PTH200群の発生
率はプラセボ群より低かった(【0133】 。
)
⑵ 本件明細書の記載について
本件特許の特許権者たる原告が本件審判時において審判合議体に対してし
た回答内容(争いのない事実、甲76)から、本件明細書の開示内容につい
15 て、次の点が認められる。
ア 実施例1は、甲5診断基準に基づき骨粗鬆症と診断された患者に関する
ものであるが(【0011】の【非特許文献12】【0077】 、全員が椎
、 )
体骨折を1個以上有しており、同診断基準上の「Ⅰ X線上椎体骨折を認
める場合」に該当することから骨粗鬆症であると診断された患者である。
20 同診断基準上の「Ⅱ X線上椎体骨折を認めない場合」であって、
「脊椎X
線像で骨萎縮度Ⅱ度以上又は骨密度値がYAMの70%未満」に該当する
ことから骨粗鬆症であると診断された患者は含まれない。
イ 本件発明に係る試験では骨密度測定を必須としなかったことから、腰椎
骨密度データがない患者が含まれており、腰椎骨密度の若年成人平均値
25 (YAM値)は、データが得られた患者の平均値が示されている。
腰椎骨密度の若年成人平均値(YAM値)データが得られた患者の人数
は、【表2】 【0081】
( )では5単位投与群が全患者数64例のうち、3
5例、100単位投与群が全患者数52例のうち35例、
【表3】【008
(
1】 では5単位投与群が全患者数10例のうち8例、
) 100単位投与群が
全患者数11例のうち2例である。
5 上記全患者数のうち、高リスク者における腰椎骨密度の推移状況 【00
(
84】【表4】
、 )について、骨密度の測定がされたのは、5単位投与群が3
3例、100単位投与群が30例である。低リスク者における腰椎骨密度
の推移状況 【0085】
( 、
【表5】 について、
) 骨密度の測定がされたのは、
5単位投与群が7例、100単位投与群が1例であり、腰椎骨密度の若年
10 成人平均値(YAM値)データが得られた患者より更に少ないのは、患者
の都合等により投与開始後の各時点の腰椎骨密度が測定できず、腰椎骨密
度の変化率を評価できなかった等の理由による。
ウ 高リスク者における新規椎体骨折の状況(【0087】 【表6】
、 )につい
て、評価例数は、5単位投与群が64例、100単位投与群が52例で、
15 低リスク者における新規椎体骨折の状況 【0088】
( 、
【表7】 において、
)
評価の対象とした患者数は、5単位投与群が10例、100単位投与群が
11例であり、【表2】 【表3】の全患者数と同数である。
、
エ 【表2】 【0081】
( )の高リスク者の例数は、5単位投与群で64例、
100単位投与群で52例となっているのに対し、【表8】 【0091】
( )
20 の高リスク者における26週ごとの新規椎体骨折の状況において、5単位
投与群は63例、100単位投与群が51例となっているのは、
【表8】の
評価例数を誤記したことによるものであり、その原因は不明である。
【表8】
を改めて再解析して有意差検討をしても、100単位投与群は5単位投与
群に比べ骨折発生は有意に低い。
25 また、【表6】 【0087】
( )で高リスク者における新規椎体骨折の状況
において5単位投与群の骨折例数が13人となっているのに対し、【表8】
で、高リスク者における26週毎の新規椎体骨折の状況について、5単位
投与群が18人となっているのは、
【表8】の5単位投与群では評価区間ご
との骨折発生数を集計している一方、
【表6】では、全期間を通じて骨折が
発生した症例数を集計している(複数の期間で骨折が発生した患者でも1
5 例としてカウントされる。)ことによる。
オ 【表3】 【0081】
( )の低リスク者の例数は、5単位投与群で10例、
100単位投与群で11例となっているのに対して、
【表9】【0091】
( )
の低リスク者における26週毎の新規椎体骨折の状況において、5単位投
与群が21例、100単位投与群が12例となっているのは、
【表9】の評
10 価例数を誤記したことによるものであり、その原因は不明である。
【表9】
を改めて再解析(下記)して有意差検定をしても、群間に差は認められな
い。
カ 高リスク者における椎体以外の部位の骨折の状況(【0093】 【表1
、
15 0】)について、評価例数は、5単位投与群が64例、100単位投与群が
52例であり、【表2】の全患者と同数である。
2 取消事由1(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について
⑴ 甲1発明について
甲1文献には、別紙2「甲1文献の記載事項(抜粋)」のとおりの記載があ
る(訳は乙2による。 。この記載によると、本件審決が認定するとおりの甲
)
1発明を認定することができ、この点は、当事者間にも争いがない。
なお、甲1発明の「厚生省による委員会が提唱した診断基準」とは、甲6
5 診断基準と認められる。
⑵ 本件基準日(2010年9月8日)における技術常識について
本件においては、本件特許の特許要件判断基準時について当事者間に争い
があるが(取消事由5においては明示的な主張がある。 、この点をいったん
)
措いて、まずは、より早い被告主張の2010年9月8日(本件基準日)を
10 基準にして、検討することとする。
ア 本件基準日における骨粗鬆症に関する技術常識について
下記文献には、以下に引用する記載がある。
a 「骨粗鬆症の病態と治療 骨粗鬆症の新しい診断基準と問題点」
(1999年。甲6)
15 ① 「わが国においては、1988年厚生省シルバーサイエンス骨粗
鬆症研究班(班長【A】)により骨量の減少と臨床症状の二つを重
視すべきであるとの立場から、いわゆるスコアリングシステムによ
る診断基準が提唱された(表1) 」
。 (38頁左欄18行ないし右欄
2行目)
20 ② 「表1 退行期骨粗鬆症の診断基準
点数
1) 骨量の減少あり 3
2) 骨折あり 脊椎1個 1 判定
2個以上 2 確実 5点以上
大腿骨頚部 3 ほぼ確実 4点
橈骨 1 疑いあり 3点
3) 閉経前の女性 -1 否定的 2点以下
4) 腰背痛あり 1
5) 血清カルシウム、リン、AL-P値
正常 1
1項目の異常 0
2項目の異常 -1
」
(38頁。この「表1 退行期骨粗鬆症の診断基準」が甲6診断基
準である。)
b 「骨粗鬆症」(1989年。甲7)
① 「はじめに
5 近年、高齢化社会の到来とともに骨粗鬆症について大きな関心が
寄せられている・・・厚生省シルバーサイエンス「老人性骨粗鬆症
の予防及び治療に関する総合的研究班」(班長【A】)は、誰にでも
簡単に診断できるような基準案、すなわち、自・他覚的所見をスコ
ア化し、そのスコアに順じて診断する方法を提唱している。 (27
」
10 頁上欄1ないし13行目)
② 「(3)年齢
本症の年齢別・男女別発症率をみると、六〇歳以上の女性が圧倒
的に高率であり、男性では八〇歳以降に急に高くなる。このことは、
女性では、更年期後一〇~一五年以降に臨床症状を伴う骨粗鬆症が
15 発症してくるといえる。 (30頁上欄6ないし11行目)
」
③ 「本症は短期間のうちに発症するのではなく、老化を基盤とし、
長時日の経過をもって発症してくる・・・」
(31頁下欄14ないし
16行目)
c 「原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)」
(1997年。
甲5)
「表4 原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)
Ⅰ X線上椎体骨折を認める場合
低骨量(骨萎縮度Ⅰ度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値(YA
M)の80%以下)で非外傷性椎体骨折のある症例を骨粗鬆症とする。
Ⅱ X線上椎体骨折を認めない場合
脊椎X線像 骨密度値
正常 骨萎縮なし
骨量減少 骨萎縮度Ⅰ度 YAMの80~70%
骨粗鬆症 骨萎縮度Ⅱ度以上 YAMの70%未満
YAM:若年成人平均値(20~44歳)
(注)骨密度値は原則として腰椎の骨密度値とし、腰椎骨密度値の評価が困
難である場合にのみ橈骨、第二中手骨、大腿骨頸部、踵骨の骨密度値を用い
る。
骨萎縮とは radiographic osteopenia に相当する。
・・・」
(223頁。この「表4 原発性骨粗鬆症の診断基準(19
96年度改訂版)」が甲5診断基準である。)
5 d 「原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)」
(2001年。
甲9)
① 「1995年日本骨代謝学会では骨粗鬆症の診療および研究に従
事している整形外科、内科(老人科)、婦人科、放射線科、スポーツ
医学からの代表委員で構成される骨粗鬆症診断基準検討委員会を
10 作り、代表委員のコンセンサスを得た後に第13回日本骨代謝学会
学術集 会での 討議 を 経て 、 原発性 骨粗 鬆 症の診 断基準 を作 成し
た・・・さらに1996年にはこの診断基準の見直しを行い、19
96年度改訂版を作成した・・・今回は1996年以降の骨粗鬆症
研究の成果を取り入れ2000年度改訂版を作成した。 (76頁左
」
欄2ないし13行目)
② 「表3 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年改訂案)
5 低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認め
ず、骨評価の結果が下記の条件を満たす場合、原発性骨粗鬆症と診
断する。
(注1)
Ⅰ 脆弱性骨折 あり
Ⅱ 脆弱性骨折なし
(注2) (注3)
骨密度値 脊椎X線像での骨粗鬆症化
正常 YAMの 80%以上 なし
骨量減少 YAMの 70%以上 ~80%未満 疑いあり
骨粗鬆症 YAMの 70%未満 あり
YAM:若年成人平均値(20~44 歳)
注1 脆弱性骨折:低骨量(骨密度がYAMの80%未満、あるいは脊椎
X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生
した非外傷性骨折、骨折部位は脊椎、大腿骨頸部、橈骨遠位端、そ
の他。
注2 骨密度は原則として腰椎骨密度とする。…
注3 脊椎X線像での骨粗鬆化の評価は、従来の骨萎縮度判定基準を参考
にして行う。
脊椎エックス線像での骨粗鬆化 従来の骨萎縮度判定基準
なし 骨萎縮なし
疑いあり 骨萎縮度Ⅰ度
あり 骨萎縮度Ⅱ度以上
」(78頁。表題に「改定案」とあるが「改訂版」の誤記と認める。
この「表3 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年改訂案)」が甲
9診断基準である。)
e 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006年版」2006年。
(
5 甲23)
① 「NIHコンセンサス会議では、骨粗鬆症の定義を「骨強度の低
下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患:A Ske
letal disorder characterized by compromised bone strengt
h predisposing to an increased risk of fracture」に修正し
10 た。さらに、
「骨強度」は骨密度と骨質の二つの要因からなり、BM
Dは骨強度のほぼ70%を説明するとした。残りの30%の説明要
因を“骨質”という用語に集約し、その内容には、構造、骨代謝回
転、微細損傷の集積、骨組織のミネラル化などをあげた・・・」
(2
頁右欄27ないし36行目)
15 ② 「骨粗鬆症は、高齢者に多くみられる疾患である・・・」
(30頁
右欄3行目)
③ 「骨量測定方法の進歩と普及を背景に、1991年の国際骨粗鬆
症会議において、骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の破綻によ
って特徴づけられる疾患であり、骨の脆弱性亢進と骨折危険率の増
20 大に結びつく疾患と定義された。この定義に従った診断基準がわが
国でも整備され、1996年の日本骨代謝学会診断基準をもとに、
2000年に改訂版が作成されて今日に至っている(表21)。」(3
1頁左欄3ないし10行目)
④ 「Ⅲ 骨粗鬆症による骨折の危険因子
25 ・・・
骨折の危険因子は、
「骨密度低下」
「骨質低下」
「外力(転倒など)」
に影響を与える因子である。骨折高リスク患者を判定するには、骨
密度測定に加えて、「骨質」「外力」に関連する危険因子を評価する
必要があり、骨密度とは独立した骨折危険因子が何であるかを知っ
ておくことがポイントとなる。
5 年齢、性
・・・女性、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子で
ある。年齢は骨密度とは独立した骨折危険因子で、同じ骨密度
を示していても年齢が高いほど骨折リスクは高い・・・
低骨密度
10 低骨密度は骨折を強く予測する。・・・
骨折既往
男女とも部位にかかわらず既存骨折があると将来の骨折リス
クは約2倍になる・・・
喫煙
15 ・・・
アルコール飲酒
・・・
・・・」(34頁)。
⑤ 「表22 骨折の危険因子(メタアナリシス、システマティック・
20 レビューによる結果〔エビデンスレベルⅠ〕のみ表示)
危険因子 文献 成績
低骨密度 … …
骨密度とは独立 既存骨折* … …
した危険因子 喫煙* … …
飲酒* … …
… … …
… … … …
・・・」(35頁)
⑥ 「まとめ
現在、骨粗鬆症治療開始は骨密度を基準に行われているが、同じ
*
骨密度を示していても年齢が高いほど、表22の危険因子 をもつ
5 ほど、骨折リスクは高くなる。骨密度、年齢、危険因子を総合的に
考慮に入れることで、骨折リスクの高い人をより効果的に判別でき
る。 (35頁右欄1ないし7行目)
」
⑦ 「骨粗鬆症治療の目的は骨折危険性を抑制し、生活の質(QOL)
の維持と改善をはかることである。 (50頁左欄1ないし2行目)
」
10 ⑧ 「骨強度は骨密度と骨質により規定され、骨強度の約70%は骨
密度に依存する。したがって、骨密度低下は、骨粗鬆症における骨
折危険性増加の中心的要因である。さらに、近年、骨密度低下以外
に骨折の危険性を高める要因が多数存在することが明らかになっ
てきた。アメリカ骨粗鬆症財団(NOF)、WHOグループ、カナダ
15 ガイドラインなどで取り上げられている危険因子の項目は、それぞ
れ、少しずつ異なる。共通して取り上げられている要因としては、
女性、エストロゲン欠乏(閉経)、年齢(65歳以上)、低体重(5
7.8kg未満)、骨折の既往、母親の大腿骨骨折の既往、喫煙習慣、
過剰なアルコール摂取、運動性低下である。 (50頁左欄9ないし
」
20 20行目)
⑨ 「WHOでは、低骨密度以外に、既存骨折、喫煙、アルコール多
飲(1日2単位以上:日本酒2合にほぼ相当)、両親の大腿骨頸部骨
折の既往、高齢、関節リウマチ、ステロイド剤の使用など七つを臨
床的骨折危険因子としてメタアナリシスにより確認した。・
・ ・また、
低骨密度と年齢以外の六つの臨床的骨折危険因子は、それぞれ独立
に、骨折危険率を1.6~2倍程度増加することが示されてい
る。
・・・年齢については、他の七つの骨折危険因子による骨折危険
性を増加させる要因であるとしている。
5 さらに、WHOでは地域や国ごとの一般人口における骨折発生率
を相対危険度1の状態の骨折危険率とし、その危険率に低骨密度と
そのほかの七つの臨床的骨折危険因子の相対危険度の総和を乗じ
て得られる絶対骨折危険率を、薬物治療の開始基準として利用する
ことを提唱している。
・・・確かに、今後は、わが国でも「絶対骨折
10 危険率」を治療開始の判断に取り入れていく必要があるとは思われ
る。しかし、現状では低骨密度、既存骨折、年齢に関してのエビデ
ンスはあるが、その他の臨床的な骨折危険因子については、相対危
険度と、それらの年齢との関連性などのデータは、まだ十分ではな
い。 (51頁右欄6ないし31行目)
」
15 前記 の各記載によると、本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常
識は、次のとおりである。
すなわち、①骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が
増大した骨疾患であり、その治療の目的は、骨折を予防し、QOL(qu
ality of life)の維持改善を図ることである、②骨粗鬆症は、加齢とと
20 もに発生が増加する、③骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で、
わが国では、低骨密度、既存骨折、年齢に関するエビデンスがある、④
骨粗鬆症の診断基準に関して、1990年当時、厚生省シルバーサイエ
ンスプロジェクト「老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研
究班」により提唱された診断基準(甲6診断基準)があったが、199
25 6年に診断基準が改訂され(甲5診断基準)、その後、2000年に更に
改訂された(甲9診断基準) ⑤骨強度は骨密度と骨質の2つの要因から
、
なり、骨密度が骨強度のほぼ70%を、骨質が残りの30%を説明する
ことが知られていたといえる。
イ 本件基準日のおけるPTH製剤の投与期間に関する技術常識について
下記文献には、以下に引用する記載がある。
5 a 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006年版」(2006
年。甲23)
「 ■副甲状腺ホルモン(PTH)
ヒトPTH(1-34)(テリパラチド)皮下注射剤
骨形成促進薬としての効果が期待されているPTHは、海外におい
10 て大規模臨床試験が実施され、すでに米国をはじめとする多くの国で
認可されている。閉経後5年以上を経過し椎体骨折を有する骨粗鬆症
患者を対象とした大規模臨床試験では、20μgのヒトPTH(1-
34)の平均18ヵ月にわたる連日自己皮下注射により新規椎体骨折
の発生を対照群の14%から5%へと1/3近く低下させた。さらに、
15 新規非椎体骨折の発生も、対照群の6%に対し3%と、1/2にまで
減少させた。腰椎および大腿骨頸部骨密度の増加率は、20μgのヒ
トPTH(1-34)投与により9%および3%と、いずれの部位に
おいても著明な骨密度の増加が認められた。以上の成績は、ヒトPT
H(1-34)の連日皮下投与により、顕著な骨折率の減少が18ヵ
20 月という短期間で得られることを示したものであり、骨形成の促進に
より、たとえ骨代謝回転が高まっても骨密度は増加することを臨床的
に証明したものである。これら成績をもとに、わが国でも、骨粗鬆症
患者を対象としたヒトPTH(1-34)の連日自己皮下注射による
臨床試験が進行中である。一方、これまでに週1回の皮下注射製剤の
25 効果も検討されており、その第Ⅱ相臨床試験の成績では、200単位
(約60μg相当)週1回1年間の投与で、椎体骨密度を8.1%増加
させることが示された。 (99頁右欄1ないし25行目)
」
b 「骨形成促進薬 副甲状腺ホルモン(PTH) PTH(1-3
4) (2007年。甲34)
」
「3 臨床試験:PTH(1-34)連日皮下投与
5 a.骨密度改善および骨折抑制効果
・・・最近の大規模臨床検討では、既存の椎体骨折を有する
閉経後女性1、637人にPTH(1-34)を平均19カ月
連日投与した結果、骨密度では20μg投与群において腰椎で
9.7%、大腿骨頸部で2.8%増加し、新規椎体骨折発生頻度
10 が65%減少、非椎体骨折発生頻度も53%抑制された。 (4
」
44頁左欄11ないし23行目)
c 「平成22年5月6日付け審議結果報告書」に添付された「平成2
2年4月6日付け審査報告書」(2010年4月。甲45)
① 「[用法・用量] 通常、成人には1日1回テリパラチド(遺伝子
15 組換え)として20μgを皮下に注射する。
なお、本剤の投与は18ヵ月間までとすること。 (2頁)
」
② 「2)海外第Ⅲ相試験(・・・)
・・・外国人閉経後骨粗鬆症患者(目標症例数1476例、各
群492例)を対象に、本剤20μg及び40μg投与とプラセ
20 ボ投与時の新規椎体骨折が生じた被験者の割合を比較すること
を主目的として、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試
験が実施された。
・・・治療薬の投与期間の中央値[25%点、75%点]は、
プラセボ群576.0[534、624]日、本剤20μg群57
25 6.0[532、625]日、40μg群570.0[517、6
26]日であった。
有効性について、主要評価項目は新規椎体骨折が生じた被験者
の割合とされ、主要な解析はプラセボ群と本剤併合群(本剤20
μg群及び40μg群)の新規椎体骨折の発生割合の比較とされ
た。比較の結果は表17のとおりであり、プラセボ群と本剤併合
5 群(本剤20μg群及び40μg群)の新規椎体骨折の発生割合
に有意な差が認められた(p<0.001、有意水準両側5%、Pear
2
sonのχ 検定)。
副次評価項目とされた新規非椎体骨折が生じた被検者の割合
とプラセボ群に対する本剤群の割合の比は表18、BMD変化率
10 は表19のとおりであった。」(53ないし54頁)
③ 表17、表18及び表19
「
」
15 (54頁)
④ 「3) 投与期間の上限
・・・それまでに実施した臨床試験における投与期間を基に設定
することとし、米国及び欧州では投与期間の上限を24ヵ月間とし
て承認されている。国内においては、GHDB試験での18ヵ月間
5 のデータより安全性が確認されることを前提に、投与期間の上限を
18ヵ月間として承認申請を行い、その後18ヵ月時点のデータを
提出した。なお、国内GHDB試験において24ヵ月間投与の使用
経験を得るため、投与期間を24ヵ月間に延長して2009年9月
に終了した。 (96頁)
」
10 d 甲2文献
① 「要約
・・・
方法 我々は既存椎体骨折を有する1637人の閉経後女性を2
0又は40μgの副甲状腺ホルモン(1-34)又はプラセボの投
15 与のためにランダムに割り当て、その女性らに毎日皮下投与を行っ
た。・・・
結果 新規椎体骨折がプラセボ群の女性の14%で生じ、また、
20μg及び40μg副甲状腺ホルモン群の女性の5%及び4%
でそれぞれ生じた。20μg及び40μg群におけるそれぞれの骨
20 折の相対リスクは、プラセボ群と比較して、0.35と0.31(9
5%信頼区間、0.22から0.55及び0.19から0.50)
であった。新規非椎体脆弱骨折はプラセボ群女性の6%で生じ、ま
た、副甲状腺ホルモン群のそれぞれで3%で生じた(相対リスク、
それぞれ0.47及び0.46[95%信頼区間、0.25から0.
25 88及び0.25から0.86] 。プラセボと比較して、副甲状腺
)
ホルモンの20μg及び40μg用量は腰椎において骨密度を9
及び13パーセントポイント増加させ、また、大腿頸部で3及び6
パーセントポイント増加させた。
・・・副甲状腺ホルモンは軽い副作
用(時折の吐き気と頭痛)を生じたのみであった。
結論 副甲状腺ホルモン(1-34)による閉経後骨粗鬆症の治
5 療は、椎体及び非椎体骨折のリスクを低下させ、椎体、大腿骨及び
全身の骨密度を増加させ、そして良好に認容される。 (1434頁
」
左欄1ないし42行目)
② 「プラセボを受けた群、1日当たり20μgの副甲状腺ホルモン
(1-34)を受けた群、及び、一日当たり40μgを受けた群の
10 試験治療の累積期間はそれぞれ798、779、及び774患者-
年であり、また、その3群における治療の平均(±SD)期間はそ
れぞれ18±5、18±6、及び17±6月であった。 (1435
」
頁右欄46ないし53行目)
③ 「図1 プラセボを受ける、または1日1回の用量が20μgま
15 たは40μgのパラチロイドホルモン(1-34)
(PTH)を受け
る、に割り当てられた女性のうち、ひとつ以上の非椎体骨折を有し
た女性の累積割合である(パネルA)。また、研究中にひとつ以上の
非椎体脆弱骨折を有した女性累積割合である(パネルB)。
両方のパネルについて、プラセボ群、20μgPTH群、40μ
20 gPTH群の女性の数はそれぞれ、ベースラインで544、541、
552、6ヶ月時点で497、492、486、12ヶ月時点で4
77、465、456、18ヶ月時点で404、400、390で
あった。プラセボ群との群間比較全てについて、ログランク検定に
より、P≦0.05であった。 (図1)
」
25 ④ 「図1
」(1438頁)
前記 の各記載によると、本件基準日時点のPTH製剤の投与期間に
関する技術常識は、次のとおりである。
5 すなわち、①海外では既に投与期間の上限を24か月とするPTH2
0μg連日投与の製剤が認可されていたこと、②PTH20μg又は4
0μg18か月間以上の連日投与により骨密度の増加と新規椎体骨折の
発生の抑制を得られることが技術常識として知られていたことが認めら
れる。
10 ⑶ 相違点1の容易想到性について
ア 検討
甲1発明と本件発明1とは、
「1回当たり200単位のPTH(1-3
4)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の点に
おいて一致するが、その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応異
15 にする。
甲1発明で投与対象とされた患者は、前記⑴のとおり、甲6診断基準
で骨粗鬆症と診断された患者であるところ、より新しい基準を参酌しな
がらその患者を選別することは、当業者がごく普通に行うことであるか
ら、甲1発明に接した当業者が、甲1発明のPTH200単位週1回投
与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば、甲6診
断基準とともに、より新しい、甲5診断基準又は甲9診断基準を参酌す
るといえる。
そして、前記ア c及びdのとおり、甲5診断基準で骨粗鬆症と診断
5 される者は、①骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの80%以下の
低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か、②X線上椎体骨折を認めない
が、骨萎縮度Ⅱ度以上、又は、骨密度値がYAMの70%未満である者
であり、甲9診断基準で骨粗鬆症と診断される者は、③骨萎縮度Ⅱ度以
上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で、軽微な外力によ
10 る非外傷性骨折等(脆弱性骨折)を有する者か、④脆弱性骨折がないも
のの、骨萎縮度Ⅱ度以上、又は、骨密度値がYAMの70%未満の者で
ある。
本件条件(2)及び本件条件(3)は、上記①と同じであるから(「既
存の骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。 、当業者が甲7発明の20
)
15 0単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条件
(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。
また、前記⑵ア のとおり、骨粗鬆症は、加齢とともに発生が増加す
るとの技術常識があり、高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかであ
るところ、高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことで
20 あり、前記⑵ア e⑨のとおり、アメリカ骨粗鬆症財団、WHOグルー
プ、カナダガイドライン等で取り上げられている骨折の危険因子の項目
のうち、共通して取り上げられている要因として、65歳以上という年
齢があり、高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高
齢者とされている。したがって、これらを参酌し、骨粗鬆症による骨折
25 の複数の危険因子として、低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げら
れていることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として、本
件条件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定
することはごく自然な選択であって、何ら困難を要しない。
そうすると、甲1発明に接した当業者が、投与対象患者を本件3条件
の全てを満たす患者と特定することは、本件基準日においても、当業者
5 に格別の困難を要することではない。
イ 被告の主張について
被告は、前記第3の1⑵イのとおり、①本件特許の優先日当時に甲5診
断基準を適用する理由はないし、甲5診断基準で骨粗鬆症と診断される者
であっても、その中から本件条件(2)及び本件条件(3)を選択する動
10 機付けはない、②副作用リスクのあるPTH200単位を一般に体力の劣
る65歳以上の高齢者に使用するには特段の事情が必要であり、本件条件
(1)を選択する動機付けがない、③甲1文献には、
「年齢」、
「既存の骨折」
の観点を含めてサブグループ化してものの効果に差が出ないことが記載
され、本件3条件の組合せは動機付けられない旨主張する。
15 前記⑵ア eのとおり、甲5診断基準は、骨折の有無に分けて、骨萎縮
度と骨密度の数値を変えているが、前記⑵ア のとおり骨粗鬆症が骨折の
危険性が増大した骨疾患であることに鑑みると、このうち、既存骨折があ
る場合の診断基準を選択することは当業者において適宜選択し得ること
であるし、いずれの診断基準を用いても診断基準を満たす者は骨粗鬆症と
20 診断されるのであるから、どれを診断基準として選ぶかは当業者が任意に
選択することにすぎない。また、単に高齢者が一般に若年者と比較すれば
体力が劣る者であるからといって、前記⑵ア のとおり、加齢とともに発
生が増加することから、高齢者こそ必要とする骨粗鬆症の治療剤をその高
齢者に対して適用することを断念するとは考え難い。
25 そして、確かに甲1文献には、別紙2のとおり、
「年齢が64歳以下と6
5歳以上、体重が49㎏以下と50㎏以上、閉経後10年未満、10から
20年、20年以上、および脊椎骨折が0、1および2箇所以上を有する
サブグループに被験者を分類して比較したところ、サブグループ間で薬物
に対する応答は同程度であった。」との記載があることは認められるもの
の(300頁左欄11行ないし右欄6行目)、当該記載は、上記記載中の条
5 件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果の比較につ
いて述べているにすぎず、当該記載により、甲1発明の投与対象患者をサ
ブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。
したがって、被告の上記主張は、いずれも採用することができない。
⑷ 相違点2の容易想到性について
10 ア 検討
前記⑵ア のとおり、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の危
険性が増大した骨疾患であり、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防するこ
とであり、
「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨密度は骨強
度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったのであるから、当業者は、
15 骨密度の増加は骨折の予防に寄与すると理解するというべきである。
そうすると、甲1文献には、
「ここに挙げた薬剤を投与することによって
骨密度(BMD)が増加するため、骨折予防は飛躍的に進歩した」
(296
頁右欄10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に
寄与することが記載され、その上で、48週で骨密度を8.1%増大させた
20 ことが開示されているのであるから(300頁左欄11行ないし右欄6行
目) 甲1発明の骨粗鬆症治療剤を骨折抑制のためのものとすることは、
、 本
件基準日においても、当業者が容易に想到できたものである。
イ 被告の主張について
被告は、前記第3の1⑵ウ のとおり、骨折抑制効果を骨密度の数値
25 だけで完全に代用することはできないから、甲1発明の骨粗鬆症治療剤
によって腰椎BMDの増加が生じたからといって、プラセボ等との対比
試験を行っていない甲1発明から骨折抑制効果を予測することはできな
い旨主張する。
この点、平成11年4月15日医薬審第742号厚生省医薬安全局審
査管理課長通知「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインに
5 ついて」
(甲41の2)には、①臨床試験は、非臨床試験で得られた情報
をもとに、比較的限定された数の健康人志願者を対象とし、治験薬のヒ
トにおける安全性の確認に重点が置かれる第Ⅰ相試験、骨粗鬆症患者を
対象として、治験薬の有効性、相対的な安全性、用法・用量反応性、骨
粗鬆症のタイプや病気による効果の違い等を探索的に検討することを目
10 的とする前期第Ⅱ相試験、骨粗鬆症患者を対象として用量反応関係を明
らかにし、第Ⅲ相比較試験のための用法・用量決定することを目的とす
る後期第Ⅱ相試験、有効性と安全性の確認、適応疾患における用法・用
量の確認、副作用の確認と回復の状況等を調べて、当該治験薬が実際に
臨床使用されたときの効果を検討することを目的とする第Ⅲ相試験に分
15 かれること、②第Ⅲ相の比較対象試験では、治験方法として、無作為化
二重盲検比較法で標準薬又はプラセボと比較して、治験薬の臨床的有効
性と安全性の評価を行うこと(2260頁) ③骨粗鬆症薬の薬効評価に
、
は、評価指標(エンドポイント)としては骨強度の変化を追跡するのが
望ましいが、ヒトで骨強度を測定するのは現時点では困難なので、それ
20 に代わる指標として、骨粗鬆症に伴う骨折に対する効果を示すのが必要
であること、薬効を評価するのに、現在の評価手段では1年間の観察で
は不十分であり、通常、少なくとも3年間を要するものと思われること
(2259ないし2260頁)が記載されている。そして、甲1発明は、
後期第Ⅱ相試験の結果を報告するものである。
25 しかしながら、「代替エンドポイントの評価」(平成21年6月。乙1
4)には、「FDAは骨密度を代替エンドポイントとした試験結果をも
って薬剤を承認する方針を変更し、第Ⅲ相試験においては、真のエンド
ポイントである骨折を評価項目とした臨床試験を求めるようになった
(・・・)。ただし、骨密度は代替エンドポイントとして日米欧の規制
当局からは認められており、新薬の承認申請の際には、骨密度を代替エ
5 ンドポイントとして第Ⅱ相試験を行い用量反応性を検討し、第Ⅲ相試験
においては真のエンドポイントである骨折を評価項目としてプラセボま
たは実薬対照試験を行うのが一般的となっている。 (16頁)との記載
」
があり、上記「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインにつ
いて」にも、後記第Ⅱ相試験の評価指標(エンドポイント)について、
10 「本来、有効性の証明には骨強度の変化や骨折率を見ることが望ましい
が、長期間を要するので、骨量の変化を見ることで代用される。」と記
載されている(2258頁)。
これらの点に鑑みれば、骨密度の増加が骨折抑制に寄与することを当
然の前提として、医薬品として承認を得るためにはプラセボとの対比試
15 験で骨折抑制効果を確認することが必要とされていたにとどまるものと
認められ、プラセボとの対比試験で骨折抑制効果を確認しなければ骨密
度の増加から骨折抑制効果が予測できないとはいえない。
したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
また、被告は、前記第3の1⑵ウ のとおり、甲1文献には、骨密度
20 の増加が異なる各群間において、椎体骨折数について「各群間の差は有
意でなかった」との記載がある旨主張する。
しかしながら、骨密度の増加と骨折抑制の効果が連動しない例がない
わけではないとしても、前記アのとおり、当業者は骨密度の増加は骨折
の予防に寄与すると理解する以上、当業者は、骨密度が増加すれば骨折
25 抑制の効果が生じると理解するものといえる。また、甲1文献には、椎
体骨折数について、L群(50単位投与群)、M群(100単位投与群)
及びH群(200単位投与群)との間で有意な差は生じなかったとの記
載があるが、それは各群間相互との関係において有意差がなかったとい
うだけで、200単位投与に骨折抑制効果の見込みがないことを示唆す
るものではない。
5 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
被告は、前記第3の1⑵ア のとおり、甲1発明における200単位
投与群には、副作用が多発しており、200単位は副作用脱落率が高い
用量と認識されているところ、本件3条件は、層別解析により初めて、
本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合わせるとPTHの骨折抑
10 制効果が高いという新規な知見を得たことに基づくものであり、これに
より初めてリスクに見合うベネフィットが得られるようになった旨主張
する。
確かに、別紙2のとおり、甲1文献には、PTH200単位週1回投
与のH群の副作用発生率は42%であり、72人のうち16人(約22%)
15 が副作用により脱落していて、副作用発生率及び副作用による脱落率は、
50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与
したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても高いことが記載さ
れており(表6)、骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため、臨床使用にお
いて患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは
20 望ましくはないから(甲48、50の1及び2、乙50)、甲1文献の上
記記載に接した当業者は、この点に限っていえば、200単位の投与よ
りも100単位の投与の方がより適当であると認識することが考えられ
る。
しかしながら、他方、甲1文献には、重篤な有害事象は認められない
25 と記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目)、さらに、20
0単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと、及び、
その増加の程度は、100単位投与の3.6%、及び、50単位投与の0.
6%のいずれよりも高いことが記載され、PTHは腰椎骨密度を48週
という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評
価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目、301頁右欄5
5 行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投
与のみが排除されているとは理解し難い。 。そして、前記⑵ア
) のとお
り、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるところ、骨密度
が低いことは、既存骨折、年齢とともに、わが国でエビデンスがある骨
折危険因子であり、骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常
10 識がある。
以上によれば、甲1文献に接した当業者は、200単位週1回投与と
100単位週1回投与とを対比した場合に、副作用の面と効果の面を総
合考慮して、いずれを選択するか判断するものと考えられ、200単位
週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはい
15 えず、これを選択することもまた十分に動機付けられているというべき
である。
そして、前記⑶ア において判示したように、本件基準日当時におけ
る技術常識に照らせば、甲1発明に接した当業者が投与対象患者を本件
3条件の全てを満たす患者とすることに格別の困難はない。また、本件
20 3条件の組合せについても、客観的観点からその選択において格別なも
のである、あるいは、他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想
定される中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意味合いがあ
ると認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は、後述する
ように、あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグ
25 ループと、本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)
のグループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず、また、
その結果自体も被告主張の顕著な効果が認められると即断できるもので
はない。 。
)
そうすると、被告が主張する甲1発明の骨粗鬆症治療剤の副作用や本
件3条件を選択することによる骨折抑制効果という観点から改め検討し
5 ても、前記アの判断が左右されるものではない。
したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
そのほか被告がるる主張するところも、前記アの判断を左右するもの
ではない。
⑸ 相違点3の容易想到性について
10 ア 検討
「48週を超過して72週以上までの間」投与されることの技術的意
義
相違点3に係る本件発明1の構成は、投与期間を「48週を超過して
72週以上までの間」とするものであるところ、これは、
「までの間」と
15 して一定の期間内における投与を規定し、その始期(投与自体の開始は
0週からである。)を「48週を超過」と、同終期を「72週以上」とす
るものと理解できる。
そして、本件明細書には、骨折発生を主要評価項目とした二重盲検比
較臨床試験において、その効果が24週後又は26週後という早期から
20 発現し、投与後48週を超えてからの新規椎体骨折は認められなかった
ことが記載された上で、投与期間として、24週以上、26週以上、4
8週以上、52週以上、72週以上や78週以上が例示され、最も好ま
しいものを78週以上としている(【0032】 。
)
また、実施例2として、本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患
25 者)に対して、被験薬(PTH200単位)又は対照薬(プラセボ)を、
72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に皮下投与したところ 【00
(
98】 、半年毎の新規椎体骨折発生率は、対照薬投与群では、24週以
)
下、24週を超えて48週以下、48週を超えて72週以下のいずれの
区間でも約5%でほぼ一定であったが、被験薬投与群では、投与期間が
長くなるにつれて区間ごとの発生率が低下しており、48週を超えてか
5 らの新規椎体骨折の発生はなかったこと(【0131】【0132】【表
、 、
34】 【表35】 、カプラン-マイヤー推定法による72週後の椎体骨
、 )
折(新規及び増悪)発生率が、被験薬投与群で3.5%、対照薬投与群で
16.3%であること(【0133】)が記載されている。
これらの記載によると、本件発明は、遅くても48週を超えてからの
10 新規椎体骨折の発生はなかったことを踏まえて、始期を「48週を超過」
とし、試験期間が72週であったことを踏まえて、少なくとも72週ま
での継続した投与を要するとの趣旨で終期を「72週以上」
(72週が含
まれる。)としたものと理解される。
ところで、本件明細書には、上記のほかに「48週」なる数値の技術
15 的意義についての記載はないところ、48週を超えての投与のためには
48週までの投与を前提とするのであって、
【表34】において、48週
を超えて72週までの間に骨折発生がなかったということは、とりもな
おさず24週を超えて48週以下までの間に発生した最後の骨折以降に
更なる骨折発生がなかったことを意味し、しかも、その骨折発生時期は
20 不明であるものの、24週という相当長期の間に発生した骨折例数はわ
ずか2例であること(本件明細書【表35】)に鑑みると、単に新規椎体
骨折発生の有無にだけ着目するならば、その効果は24週を超えて48
週以下の区間で既に奏していたとの評価もできる。さらに、72週は試
験期間が72週であったことによるにすぎず、72週「以上」としてい
25 るにもかかわらず、72週を超える期間での骨折発生率は、本件明細書
上不明である。
以上からすると、
「48週」及び「72週以上」それ自体が技術的意義
を持つものとして規定されているのではなく、本件発明の「48週を超
過して72週以上までの間」との特定の時期をもって始期及び終期とす
る限定には格別の技術的意義を見いだすことができず、単に、便宜上区
5 切られた試験期間の適宜の区間について、PTHの投与継続につれて骨
折発生率が低下していることを示すに当たり、試験結果を示す事実とし
て、当該期間において新規椎体骨折が発生していなかったことに着目し
てこの期間を採用したにすぎないというのが相当である。
容易想到性について
10 前記⑵イ のとおり、本件基準日において、連日投与のPTH製剤に
関し、48週を超えた投与により骨密度が上昇し、骨折発生が減少する
ことが知られていた。
一方、甲1発明は、PTH200単位週1回投与により、48週まで
の間、腰椎BMDが継続的に増加し、48週後には8.1%有意に増加し
15 (甲1文献の296頁左欄1行ないし右欄7行目) さらに、
、 PTH20
0単位投与群であるH群では48週の投与期間中に椎体骨折が発生しな
かったものである(甲1文献の300頁左欄11行ないし右欄6行目)。
そして、前記⑵ア 記載の技術常識によると、当業者であれば、そのよ
うな骨密度の増大は骨折の予防に寄与すると理解するといえるところ、
20 甲1文献の試験は、48週までの投与についてのものであるが、その増
加率に逓減傾向があるとしても、腰椎BMDが継続的に増加しているこ
とが見て取れ(甲1文献の図1)、投与が48週を超えると、これが減少
に転じるとする根拠は見当たらない。
以上からすると、連日投与のPTHに関して48週を超えての投与が
25 され、それによる骨密度の上昇及び骨折発生の減少が報告されていたこ
とを踏まえ、甲1発明の骨粗鬆症治療剤においても、骨密度の上昇と骨
折の予防のために48週を超えて投与するようにすることは、本件基準
日においても、当業者として容易に想到することといえ、これにより本
件発明1に至るものというべきである。
イ 被告の主張について
5 被告は、前記第3の1⑵エ のとおり、①甲1発明のPTH200単
位週1回投与の副作用発生率、脱落率の高さからみてこの用法用量につ
いて長期投与を試みることの動機付けはない、②甲1発明の試験は、4
8週が投与継続の限界と考えられていたのであり、甲1発明において長
期投与を試みることには阻害要因がある旨主張する。
10 しかしながら、甲1文献の開示事項(図1)からは、48週を超えて
の投与によって腰椎BMDの増加率が上昇していることは確認できない
ものの、増加率が低減しながらも正味としては腰椎BMDは増加してい
ることが確認できるのであるから、人体である以上自ずと腰椎BMDの
増加に上限はあるとしても、投与48週後にこの腰椎BMDの増加が直
15 ちに消失するとする格別の根拠はないし、骨折抑制効果自体についての
有意な記載はなくても、前示のとおり、骨密度の増大が骨折の予防に寄
与することは技術常識というべきものであるから、甲1発明におけるP
TH200単位週1回投与の副作用発生率、脱落率の高さにより、当業
者において臨床使用への適用を妨げられるとはいえず、その適用の際、
20 そのBMD増加の効果に鑑みて長期投与することは十分に動機付けられ
るといえるから、上記①の主張を採用することはできない。
さらに、甲1文献には、試験期間を48週間に設定した。
「 この期間は、
骨折の危険性と不安が常にある患者を対象として通常の骨測定、血液と
尿の採取を行っても脱落率が過度とならずに、十分な制御下で多施設試
25 験を実施できる限界であると思われた。 (297頁右欄43行ないし2
」
98頁左欄24行目)と記載されているのであるから、甲1文献上、試
験期間が48週に設定された直接の理由は臨床試験の管理上の問題を懸
念したことによるものであることは明らかであり、しかも、試験期間の
設定は甲1文献の試験の結果を知る前にされるものであることも併せ考
えれば、甲1文献の試験の結果を見た当業者が、甲1発明の骨粗鬆症治
5 療剤を治療の場面で用いる際、48週を超えて投与することを阻害され
るとはいえないというべきであるから、上記②の主張も採用することが
できない。
被告は、前記第3の1⑵エ のとおり、甲2文献は、甲1発明とは用
法用量の異なる試験に関するものであるから、甲2文献の記載事項が甲
10 1発明の骨粗鬆症治療剤を48週を超えて投与する動機付けとはならな
い旨主張する。
しかしながら、甲2文献の臨床試験の用法用量が甲1発明とは異なる
ことから、その継続期間を直ちに全く同様のものとしてよいと考えるこ
とはできないとしても、同じPTH製剤であって、その効果としても骨
15 密度の増加が認められるPTH製剤に係る情報に接した場合、骨密度の
上昇が見込まれる週1回投与のPTH200単位の骨粗鬆症治療剤を、
48週を超過して投与することを想起することは自然かつ合理的である
から、少なくとも動機付けとならないとはいえない。
そのほかにも、被告はるる主張するが、いずれの点においても、前記
20 ア の判断を左右するものではない。
⑹ 発明の効果について
ア 予測できない顕著な効果について
発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては、当該発明の
特許要件判断の基準日当時、当該発明の構成が奏するものとして当業者が
25 予測することのできなかったものか否か、当該構成から当業者が予測する
ことのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点か
ら検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年
8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。もっとも、当該発
明の構成のみから、予測できない顕著な効果が認められるか否かを判断す
ることは困難であるから、当該発明の構成に近い構成を有するものとして
5 選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同
種の効果を参酌することは許されると解される。なお、予測できない顕著
な効果の立証責任は特許権者にあるから、当該発明の構成から奏する効果
が不明であるからといって、直ちに予測できない顕著な効果があるとする
ことはできない。
10 イ 本件発明の効果について
被告の主張する予測できない顕著な効果について
前示のとおり、本件発明1の構成は容易想到であるが、これに対し、
被告は、前記第3の1⑵オ のとおり、本件発明1は、72週時点でプ
ラセボ群に対するRRRが79%という高い骨折抑制効果を奏すること
15 (効果①) 投与の継続により骨折抑制効果が増強する効果を奏すること
、
(効果②) 48週経過後に実質的に完全に骨折を抑制する効果を奏する
、
こと(効果③)を、予測することのできない顕著な効果である旨主張す
るから、以下、これらの効果について検討する。
本件発明における予測できない顕著な効果について
20 まず、被告は、発明の効果が予測できない顕著なものであるか否かを
該発明の構成に基づいて判断すべきであるとすると、本件においては、
本件発明1の構成である3条件充足患者に対して奏される骨折抑制効果
について検討すればよく、3条件充足患者に対する骨折抑制効果と非3
条件充足患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要はなく、本件明細
25 書にも記載されている必要はない旨主張する。
しかしながら、本件発明1は、本件基準時においてはPTHが骨粗鬆
症治療剤として周知であるとの前提の下に、PTH投与群の中で特に優
れた効果を奏する患者群に投与することに進歩性を見出したとするもの
であるから、本件3条件の全てを満たす患者について骨折抑制効果を確
認するためには、高リスク患者に対する骨折抑制効果と低リスク患者(高
5 リスク患者以外の患者)に対する骨折抑制効果とを対比する必要がある。
単に本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された高リスク患者とプラセボ投
与患者を対比して上記高リスク患者に対する骨折抑制効果があることを
示しただけでは、それはPTH投与群に含まれる一群がプラセボ投与群
に対して骨折抑制効果が優れることを示しただけであり、高リスク患者
10 群がそれ以外の患者群に比較して、PTH投与群の中で特に効果を奏す
る患者群であることを明らかにしたことにはならず、PTH投与群の骨
折抑制効果を確認したことになるにすぎない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 効果①について
15 前記⑵ア のとおり、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の
危険性が増大した骨疾患であり、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防す
ることであり、
「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨密度
は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから、当業者は、
骨密度の増加は、骨折の予防に寄与すると理解するところ、甲1文献に
20 は、
「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加
するため、骨折予防は飛躍的に進歩した」
(296頁右欄10行ないし2
97頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄与することが記載
され、その上で、48週で骨密度を8.1%増大させたことが開示されて
いる(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そうすると、甲1発明の
25 骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏していることは、当業者にお
いて容易に理解できる。
効果①の骨折抑制効果の指標は、単なる骨折発生率の低減ではなく、
プラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を
指すものとされているが、効果①を確認するためには、前記イ のとお
り、高リスク患者に対する骨折抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑
5 制効果とを対比する必要があり、単に高リスク患者とプラセボを対比し
て高リスク患者に対する骨折抑制効果を示しただけでは、高リスク患者
がPTH投与群の中で特に効果を奏する患者群であることを明らかにし
たことにはならないところ、 本件明細書の記載からでは、本件3条件の
全てを満たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果
10 が、本件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者
に対する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
すなわち、本件明細書を見ると、実施例1において、高リスク患者で
は、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれ
も実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に対して
15 有意差が認められるが、低リスク患者では、100単位週1回投与群に
おける新規椎体骨折の発生率は、いずれも、5単位週1回投与群におけ
る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにとど
まる(【0086】ないし【0096】 【表6】ないし【表11】
、 )とこ
ろ、誤記を修正して再解析したとする数値(前記1⑵オ)に基づいても、
20 低リスク患者の新規椎体骨折についていえば、100単位週1回投与群
11人と5単位週1回投与群10人について、それぞれ、ただ1人の骨
折例数があったというものであり、このような少ない症例数のもとでは、
上記プラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割
合(RRR)は、骨折例数が1件増減しただけでその値が大きく変動す
25 ることは明らかであるし、そもそも、低リスク患者を対象とした場合は、
5単位週1回投与群であっても骨折例数が少なく、5単位週1回投与群
の骨折発生率に対する、100単位週1回投与群の骨折発生率の低下割
合であるRRRの値が、高リスク患者に対するそれに対して小さいのは
当然のことといえる。
この点、被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに
5 対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効果が
プラセボに対する関係で有意差が無ければ、直ちに、本件発明1の骨粗
鬆症治療剤が3条件充足患者に対して優れた効果を有するといえる旨主
張する。しかしながら、有意差が無いということは効果が優れているか
どうか不明であるということにすぎず、効果が優れていないということ
10 を直ちに意味するものではないし、有意差が無かったことが症例数が不
足していることによることも否定できない(甲35)から、上記のよう
な結論の導出は適当でない。
したがって、実施例1をみても、高リスク患者に対するPTHの骨折
抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いと
15 いうことを理解することはできない。
次に、本件明細書には、実施例2について、3条件充足患者における
PTH200単位週1回投与に関し、対照薬(プラセボ)投与群では投
与開始後、
「≦24週」「24週<≦48週」「48週<≦72週」のい
、 、
ずれの期間でも骨折発生率は約5%でほぼ一定であったのに対して、P
20 TH200単位週1回投与群では、2.3%、0.9%、0%と減少し、
プラセボ投与群に対するRRRは投与を継続するにつれて増加したこと、
PTH200単位週1回投与群では、24週後に骨折発生リスクをプラ
セボ投与群に対して53.9%低下させたこと、投与72週後に、椎体骨
折(新規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた
25 ことが記載されている(【0131】ないし【0133】 【表34】
、 【表
35】 。
)
しかしながら、これらの記載は、3条件充足患者について、本件発明
の骨粗鬆症治療剤を投与した患者とプラセボを投与した患者とを比較し
ているだけであって、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された場合にお
いて、3条件充足患者に対して非3条件充足患者よりも優れた骨折抑制
5 効果があることを示したことにはならない。
加えて、前記1⑵アのとおり、実施例1の患者は全員が椎体骨折を1
個以上有していたので、全員が本件条件(2)を充足する患者であり、
また、甲5診断基準の「Ⅰ X線上椎体骨折を認める場合」の患者であ
るので、
「骨萎縮度Ⅰ度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値(YA
10 M)の80%以下」の低骨量の患者であるから、全員が本件条件(3)
を充足する患者といえる(骨密度値が若年成人平均値(YAM)の80%
ぴったりの患者は本件条件(3)を満たさないが、現実には想定し難い。 。
)
すなわち、本件明細書において高リスク者(3条件充足患者)とされる
のは定義上、本件条件(1)ないし(3)を充足する患者であり、本件
15 明細書において低リスク者(非3条件充足患者)とされる患者といえど
も、上記のとおりに本件条件(2)及び(3)を充足しているから、実
施例1は65歳以上という本件条件(1)の充足の有無による骨折抑制
効果しか対比していないものである。そして、前記 のとおり、実施例
2は、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された場合において、3条件充
20 足患者に対する骨折抑制効果が非3条件充足患者に対する骨折抑制効果
を対比したものではない。そうすると、本件明細書から、高リスク患者
における新規椎体骨折発生の抑制の程度を低リスク患者における新規椎
体骨折発生の抑制の程度と比較して、前者が後者よりも優れていると結
論付けることは、ますます困難となる。
25 さらに、本件明細書のその他の部分をみても、単に、
「高リスク患者に
対しては低リスク患者よりも高い骨折抑制効果を奏する」旨の結論のみ
を提示する記載はあるが、これらは薬理試験のデータに基づくものでは
なく、このような記載から、高リスク患者(3条件充足患者)に対する
PTHの骨折抑制効果が、低リスク患者(非3条件充足患者)に対する
PTHの骨折抑制効果よりも高いということを合理的に理解することは
5 できないから、結局、効果①は、本件明細書の記載に基づかないものと
いうべきである。
原告は、甲64証明書及び甲68証明書から効果①は明らかである旨
主張する。
しかしながら、本件明細書の記載から、高リスク患者に対するPTH
10 の骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも
高いということを理解することができず、また、これを推認することも
できない以上、効果①は対外的に開示されていないものであるから、上
記各実験成績証明書を採用して、効果①を認めることは相当ではない。
仮に、上記各実験成績証明書を参酌するにしても、これら証明書は、
15 被告の主張に従っても、
「65歳以上で、既存の骨折がなく、骨密度が若
年成人平均値の80%未満である」患者群と「65歳以上で、既存の骨
折があり、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」患者群を対比
したという、既存の骨折の有無という本件条件(2)のみが相違する群
間について、48週を超過して投与した場合と72週以上投与した場合
20 のそれぞれのプラセボ投与群(コントロール群)との骨折発生例数を対
比したものということに帰するものであり、本件3条件の全てを満たす
患者(高リスク患者)のグループと、本件3条件の全部又は一部を満た
さない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部のグループとを
比較しているものにすぎないから、およそ、本件3条件の全てを満たす
25 患者の骨折発生の抑制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨
折発生の抑制の程度より優れていると結論付けることに適するものでは
ない。そうすると、上記各実験成績証明書をみても、本件3条件を全て
満たす患者に対するPTHの骨折抑制効果が、本件3条件を満たさない
患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解するこ
とはできない。
5 以上によれば、いずれにしても効果①を認めることはできないから、
その他の点について判断するまでもなく、本件発明1に予測することの
できない顕著な効果があると認める余地はない。
エ 効果②について
本件明細書には、前記ウ のとおり、実施例2について、3条件充足
10 患者におけるPTH200単位週1回投与に関し、対照薬(プラセボ)
投与群では投与開始後、
「≦24週」「24週<≦48週」「48週<≦
、 、
72週」のいずれの期間でも骨折発生率は約5%でほぼ一定であったの
に対して、PTH200単位週1回投与群では、2.3%、0.9%、0%
と減少したことが記載されている(【0131】ないし【0133】【表
、
15 34】【表35】 。
)
しかしながら、これら記載は、3条件充足患者について、本件発明の
骨粗鬆症治療剤を投与した患者とプラセボを投与した患者を比較してい
るだけであって、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された場合において、
3条件充足患者が非3条件充足患者よりも優れた骨折抑制効果があるこ
20 とを示したことにはならない。また、甲1文献の図1をみると、200
単位週1回投与のH群において、腰椎BMDは投与開始24週で約5%
増加していること、48週では8.1%増加していることが読み取れると
ころ、48週以降の投与に関し、増加率が低減すると予想されるものの
48週経過後に腰椎BMDの増加が直ちに消失するとする根拠もないこ
25 とは前記⑸ア のとおりであり、骨密度が増加している以上は骨折抑制
効果も上昇すると見込むことができる。一方、プラセボ投与群について
は骨密度が増加することはないのであるから、プラセボ投与群の対比に
おいてPTH200単位週1回投与の骨折抑制効果が投与期間の経過に
伴い上昇していくのは明らかである。また、甲2文献には、PTH20
μg連日投与又は40μg連日投与についてのものであるが、閉経後女
5 性における骨粗鬆症の治療のために、20又は40μgのPTHを、平
均17ないし18か月連日投与したところ、当該治療により椎体及び非
椎体骨折のリスクが低下し、椎体、大腿骨及び全身の骨密度が増加した
こと(1434頁左欄1ないし42行目、1435頁右欄46ないし5
3行目) 投与期間が長くなる程、
、 PTHの投与による骨折抑制率が高ま
10 ることが記載されている(図1)。したがって、効果②を単に3条件充足
患者に対して200単位週1回投与による骨折抑制効果が投与期間の継
続により増強するというのであれば、そのようなものは十分に当業者の
予測の範囲内である。
さらに、本件明細書のその他の部分をみても、高リスク患者(3条件
15 充足患者)に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者(非3条件
充足患者)に対するPTHの骨折抑制効果よりも投与の継続によって、
より増強していくことを理解することはできず、これを本件明細書の記
載から推認することもできないから、結局、効果②は、本件明細書の記
載に基づかないものというべきである。
20 以上によれば、いずれにしても効果②を認めることはできないから、
その他の点について判断するまでもなく、効果②を予測することのでき
ない顕著な効果という余地はない。
オ 効果③について
前記ウ のとおり、骨密度の増大は骨折の予防に寄与するものと理解
25 されるところ、甲1発明は、48週で骨密度を8.1%有意に増大し、4
8週を超えても腰椎BMDが継続的に増加することが見込まれるもので
あり、甲1文献には、試験の結果を示す事実として、200単位投与群
では、48週間の投与において椎体骨折が発生しなかったことが示され
ている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そうすると、PTH2
00単位投与の甲1発明において、投与期間が48週を超えても、48
5 週までの投与期間においてのものと同等の骨折抑制の効果がある程度継
続すると考えるのが自然である。
効果③の骨折抑制効果とは、本件3条件の全てを満たす患者に本件発
明1に係るPTH200単位週1回投与を48週を超えて少なくとも7
2週まで投与した場合に骨折発生率を0%に低減するというものである
10 が、前記⑸ア のとおり、
「48週」及び「72週」という数値それ自体
には格別の技術的意義を見いだすことはできず、試験の結果を示す事実
として、48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかったというに
すぎず、本件発明の骨粗鬆症治療剤が48週超の投与によって実質的に
完全に骨折の発生を抑止する治療剤(完全な特効薬)であるとする趣旨
15 とは認め難く、被告も本件発明の骨粗鬆症治療剤がそのような効果を有
するものとは主張していない(実際、本件発明1の実施品であることが
当事者間に争いのないテリボンは、投与対象患者が高リスク患者に限定
されていない結果ではあるものの、49ないし72週の新規椎体骨折発
生率が0.7%、73ないし104週の骨折発生率が2.2%であったこ
20 と(甲11)、あるいは、Kaplan-Meier推定法に基づく新規椎体骨折発
生率が、24週時1.7%、48週時2.5%、72週時3.3%であった
こと(甲30)が認められる。 。
)
そして、前記 のとおり、甲1発明において、骨折抑制の効果が48
週を超過してもある程度継続すると考えるのが自然であるところ、試験
25 の結果を示す事実にすぎないとはいえ、甲1発明でも、48週間の投与
において椎体骨折が発生していなかったことに鑑みると、骨折発生率は
もともと低いものであると理解できるのであり、本件発明1において、
試験の結果を示す事実として、48週を超えて72週までの区間での骨
折発生数は0件であり、骨折発生率が0%であったとしても、それ自体
が当業者にとって意外なものとまではいえず、予測し得る範囲内のもの
5 であるといえる。
カ まとめ
そのほか被告がるる主張するところも、前記ウないしオの判断を左右す
るものではなく、効果の程度等につき更に検討を加えるまでもなく、本件
発明1が、当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するも
10 のであると認めることはできない。
⑺ 本件発明1について小括
以上のとおりであるから、本件基準日を前提にしても、相違点1ないし3
に係る本件発明1の構成を想到することは容易と認められ、本件発明1の効
果も当業者において予測できない顕著なものとは認められないから、結局、
15 その他の点について判断するまでもなく、相違点1ないし3は当業者が容易
に想到し得たものというべきであり、相違点1ないし3が容易に想到できな
いと認定した本件審決の判断には誤りがある。そうすると、本件発明1の進
歩性を認めた本件審決の判断には誤りがある。
⑻ 本件発明2について
20 前記⑺のとおり、本件発明1における相違点1ないし3が容易に想到でき
ないと認定した本件審決の判断には誤りがある。そうすると、本件発明2が
本件発明1を限定した発明であることを理由に、本件発明1と同様の理由に
より直ちに本件発明2の進歩性を認めた本件審決の判断にも誤りがある。
3 結論
25 以上のとおり、取消事由1には理由があるから、その他の点について判断す
るまでもなく、本件審決を取り消すこととして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
5 裁判長裁判官
菅 野 雅 之
10 裁判官
本 吉 弘 行
15 裁判官
中 村 恭
(別紙1)
本件明細書の記載事項(抜粋)
(表は末尾に一括して掲記した。)
【発明の詳細な説明】
5 【技術分野】
【0001】
本発明はPTHを有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防剤に関す
る。また、本発明はPTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤に関す
る。特に本発明は、1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されるこ
10 とを特徴とする、前記薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大している疾患」であ
る。現在、骨粗鬆症の治療剤の一つとしてPTH(Parathyroid Hormone; パラ
15 サイロイドホルモン)製剤が知られている。
【0003】
PTHは、カルシトニン類やビタミンD類とともに、血中カルシウム濃度の調節
に関与するホルモンである。例えば、PTHは、生体内において、腎臓における活
性型ビタミン D3生成を増加させることにより、腸管でのカルシウム吸収を促進
20 する作用を有することも知られている(非特許文献1)。
【0004】
特許文献1は、骨粗鬆症患者に対して1週間に1回の頻度で26週間の投与期間
にわたり1回の投与あたり100又は200単位のPTHを皮下投与することによ
り、当該骨粗鬆症患者の海面骨の骨密度を増加させかつ皮質骨の骨密度を減少させ
25 ない骨粗鬆症の治療方法を開示している。
【0005】
このように、特許文献1は、これらの治療方法が単に骨密度の増加を誘導するこ
とを開示する一方、骨粗鬆症患者の骨強度を増大させること又は骨折のリスクを軽
減させることが可能な治療方法であるか否かについて明示していない。また、PT
Hを単独使用したのみで、カルシウム剤を併用していない。
5 【0006】
非特許文献1は、PTHによる骨粗鬆症治療に関する臨床試験において、患者に
PTH(20μg/ay)投与後4~6時間後採血した際に高カルシウム血症がそ
の患者の11%にみられ、持続性の高カルシウム血症はその3%に観察されたこと
を開示している。 さらに、非特許文献1は、次ぎのPTH投与前には血清カルシウ
10 ムが殆ど全ての患者において正常に戻ったものの541人の患者の中で1名につい
ては持続性の血清カルシウム上昇が観察された為治療中止に至った旨も開示してい
る。
【0007】
非特許文献2は、カルシウム剤を併用下でPTHの連日皮下投与製剤に関して、
15 本剤投与後の血清カルシウムは臨床的に問題ないと開示するものの、投与後の血清
カルシウムが上昇したことも報告している。非特許文献3は、非特許文献2に開示
の連日皮下投与製剤の添付文書である。本文書は、臨床試験において、当該製剤投
与後の様々な有害事象を開示する中で該製剤投与後の一過性の高カルシウム血症が
観察された旨を報告している。さらに、非特許文献3は、当該製剤の市販後調査に
20 おいて、高カルシウム血症の副作用報告があった旨を開示している。
【0008】
このように、非特許文献1~3は、PTHの骨粗鬆症治療における高カルシウム
血症の副作用事例等を開示しており、これらに開示の治療方法は安全性の面から十
分ではないといえる。
25 【0009】
このような背景の下、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨
粗鬆症治療方法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
5 【非特許文献12】折茂肇ら、原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)
(1997)日本骨代謝学会雑誌14;219-233
【非特許文献13】原発性骨粗鬆症の診断基準および骨粗鬆症の予防と治療ガイド
ライン(折茂肇ら、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版(2006)
34-35)
10 【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆
症治療ないし予防方法を提供することである。さらに、本発明の課題は、安全性の
15 高いPTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究開発を重ねた結果、驚くべき
ことに、PTHの投与量・投与間隔を限定することにより、効能・効果及び安全性
20 の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予防方法となることを見出した。また、PTHの
投与量・投与間隔を特定することにより、安全性の高い骨折抑制/予防方法となる
ことを見出した。さらに、それらの方法において、高リスク患者に対して特に効果
を奏することも見出した。
【0014】
25 すなわち、本発明は、以下に関するものである。
〔1〕カルシウム剤と併用され、かつ、1回当たり100~200単位のPTHが
週1回投与されることを特徴とする、PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治
療ないし予防剤。
〔2〕併用されるカルシウム剤が週1回以上投与されることを特徴とする、 〔1〕
前記
の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
5 〔3〕併用されるカルシウム剤が、カルシウムとして1日あたり200~800m
g投与されることを特徴とする、前記〔1〕または〔2〕の骨粗鬆症治療ないし予
防剤。
〔4〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である、前記〔1〕~〔3〕のいずれ
かである骨粗鬆症治療ないし予防剤。
10 〔5〕24週または48週を超過する期間にわたり投与するための、前記〔1〕~
〔4〕いずれかに記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔6〕下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を治療するための、
前記〔1〕~〔5〕のいずれかである骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
15 (2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が
萎縮度I度以上である。
〔7〕ステロイドを起因とする続発性骨粗鬆症、あるいは、糖尿病性骨粗鬆症を治
療ないし予防するための、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療
20 ないし予防剤 。
〔8〕 下記(1)~(8)の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有する
骨粗鬆症を治療ないし予防するための、
〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆
症治療ないし予防剤;
(1)糖尿病、
25 (2)高血圧、
(3)高脂血症、
(4)関節痛、
(5)変形性脊椎症、
(6)変形性腰痛症、
(7)変形性股関節症、
5 (8)変形性顎関節症。
〔9〕 下記(1)~(6)の少なくともいずれか1つの骨粗鬆症治療薬の投与歴
がある 骨粗鬆症患者に投与するための、〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗
鬆症治療ないし予防剤;
(1)L-アスパラギン酸カルシウム
10 (2)アルファカルシドール、
(3)エルカトニン、
(4)塩酸ラロキシフェン、
(5)メナテトレノン、
(6)乳酸カルシウム
15 〔10〕 軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、
〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔11〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である、前記〔6〕~〔10〕のい
ずれか1の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔12〕前記PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤が皮下注射剤である、
20 前記〔6〕~〔11〕のいずれかに記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔13〕 前記〔1〕~〔12〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤
と下記 (1)~(6)の少なくともいずれか1つの薬剤からなる合剤または医療用
キット。
(1)メトクロプラミド、
25 (2)ドンペリドン、
(3)ファモチジン、
(4)クエン酸モサプリド、
(5)ランソプラゾール、
(6)六神丸。
〔14〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
5 する、 PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記
(1)~(3 )の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を治療するための、骨粗鬆症治
療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
10 (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が
萎縮度 I度以上である。
〔15〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
する、 PTHを有効成分として含有する、骨折の危険性の高い骨粗鬆症治療ないし
予防剤。
15 〔16〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
する、 PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、ステ
ロイドを起因とする続発性骨粗鬆症、あるいは、糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予
防するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔17〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
20 する、 PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、軽度
腎障害または 中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、骨粗鬆症治
療ないし予防剤。
〔18〕カルシウム剤と併用され、かつ、1回当たり100~200単位のPTH
が週1回投与されることを特徴とする、PTHを有効成分として含有する骨折抑制
25 ないし予防剤 。
〔19〕併用されるカルシウム剤が週1回以上投与されることを特徴とする、前記
〔18〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔20〕併用されるカルシウム剤が、カルシウムとして1日当たり200~800
mg投与されることを特徴とする、前記〔18〕または〔19〕の骨折抑制ないし
予防剤。
5 〔21〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である、前記〔18〕~〔20〕の
いずれかである骨折抑制剤。
〔22〕下記(1)~(3)の全ての条件を満たす対象者に投与するための、前記
〔18〕~〔21〕のいずれかである骨折抑制ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
10 (2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が
萎縮度I度以上である。
〔23〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である、前記〔22〕の骨折抑制な
いし予防剤。
15 〔24〕前記PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤が皮下注射剤
である、前記〔22〕または〔23〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔25〕骨折抑制ないし予防剤が多発骨折抑制ないし多発骨折予防剤である、前記
〔18〕~〔24〕のいずれか1に記載の骨折抑制ないし予防剤。
〔26〕骨折抑制ないし予防剤が増悪骨折抑制ないし増悪骨折予防剤である、前記
20 〔18〕~〔25〕のいずれか1に記載の骨折抑制ないし予防剤。
〔27〕前記〔14〕または〔15〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、ステ
ロイド を起因とする続発性骨粗鬆症、あるいは、糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予
防するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔28〕前記〔14〕または〔15〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、軽度
25 腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、骨粗鬆症治療
ないし予防剤 。
〔29〕前記〔27〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、軽度腎障害または中
程度腎 障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔30〕前記〔16〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、軽度腎障害または中
程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
5 〔31〕上記〔1〕~〔30〕のいずれかに記載の治療剤、予防剤、薬剤、合剤、
または キットを用いる、予防または治療方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の骨粗鬆症治療剤は、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れている。ま
10 た、本発明の骨折抑制ないし予防剤は、安全性が高く、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、投与群(高リスク者、低リスク者)別での血清カルシウム濃度推
移の結果を示すグラフである。
15 【図2】新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響を示す。被験薬
投与群を「PTH200群」、対照薬投与群を「P群」と表記した。
【図3】新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響を示す。被験薬
投与群 を「PTH200群」、対照薬投与群を「P群」と表記した。
【図4】被験薬(「PTH200群」)または対照薬(「P群」)を週1回の頻度で7
20 2週間患者に投与した際の尿中カルシウム値の変動について試験した結果を示す。
尿中カルシウム値/尿中クレアチン値の比を投与開始前と観察週で比較した。尿中
カルシウムの測定は、開始時、12週後、24週後、48週後、72週後に実施し
た。標準併用薬(カルシウム 610mg、ビタミンD3 400IU、及びマグ
ネシウム 30mg)を同意取得時から治験終了まで1日1回夕食後服用した。
25 【図5】被験薬(「PTH200群」)または対照薬(「P群」)を週1回の頻度で7
2週間患者に投与した際の補正血清カルシウム値の変動について試験した結果を示
す。血清カルシウムの測定は、開始時、12週後、24週後、48週後、72週後
に実施した。血清カルシウム基準値:8.4-10.4mg/dL。標準併用薬(カ
ルシウム 610m g、ビタミンD3 400IU、及びマグネシウム 30mg)
を同意取得時から治験終了まで1日1回夕食後服用した。
5 【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について、具体的に説明する。
【0018】
本発明は、1回当たり100~200単位のPTHが週1回(以下、
「週1回」を
10 「隔週」と称することもある。)投与されることを特徴とする、PTHによる骨粗鬆
症治療ないし予防方法又は骨折抑制ないし予防方法を提供する。また、本発明は、
1回当たり100~200単位のPTHが隔週投与されることを特徴とする、PT
Hを有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を提供す
る。さらに、本発明は、前記骨粗鬆症治療ないし予防剤又は前記骨折抑制ないし予
15 防剤の製造のためのPTHの使用を提供する。
【0019】
I 有効成分
本発明の有効成分であるPTH(以下、単に「PTH」ということもある。)は、
ヒト副甲状腺ホルモンであるヒトPTH(1-84) 及び、
、 ヒトPTH(1-84)
20 と同等又は類似の活性を有する分子量約4、000~10、000程度のペプチド
類を包含する。
【0020】
PTHは、天然型のPTH、遺伝子工学的手法により製造されたPTH、及び化
学合成法により合成されたPTHのいずれをも含む。PTHは、自体公知の遺伝子
25 工学的手法により製造され得る(非特許文献8)。あるいは、PTHは、自体公知の
ペプチド合成法により合成されることができ(非特許文献11)、例えば、不溶性の
高分子担体上でペプチド鎖をC末端から伸長していく固相法(solid pha
se method)によっても合成され得る(非特許文献4)。なお、本発明のP
THの由来は、ヒトに限られず、 ラット、ウシ、ブタ等であってもよい。
【0021】
5 本願明細書において、ヒトPTH(n-m)というときには、ヒトPTH(1-
84)のアミノ酸配列第n番目から第m番目までからなる部分アミノ酸配列で示さ
れるペプチドを意味する。例えば、ヒトPTH(1-34)は、ヒトPTH(1-
84)のアミノ酸配列第1番目から第34番目からなる部分アミノ酸配列で示され
るペプチドを意味する。
10 【0022】
本発明の有効成分であるPTHは、1種又は2種以上の揮発性有機酸と形成した
塩でもあってもよい。揮発性有機酸として、トリフルオロ酢酸、蟻酸、酢酸などが
例示され、好ましくは酢酸を挙げることができる。フリー体のPTHと揮発性有機
酸が塩を形成する際の両者の比率は、当該塩を形成する限りにおいて特に限定され
15 ない。例えば、ヒトPTH (1-34)は、その分子中に9分子の塩基性アミノ酸
残基と4分子の酸性アミノ酸残基を有するため、それらの分子内における塩形成を
考慮に入れると、塩基性アミノ酸5残基 を酢酸の化学当量とすることができる。例
えば、酢酸量に酢酸重量×100(%)/ヒトPTH(1-34)のペプチド重量、
で表される酢酸含量を用いれば、一つの理論として、フリー体であるヒトPTH(1
20 -34)に対する酢酸の化学当量は約7.3%(重量%)となる。本願明細書にお
いて、フリー体であるヒトPTH(1-34)はテリパラチド 、テリパラチドの酢
酸塩はテリパラチド酢酸塩と、それぞれ称されることもある。テリパラチド酢酸塩
における酢酸含量は、テリパラチドと酢酸が塩を形成する限りにおいて特に限定さ
れず、例えば、前記の理論化学等量である7.3%以上であってもよく、0~1%
25 でもよい。より具体的には、テリパラチド酢酸塩における酢酸含量として、1~7%、
好ましくは2~6%を例示され得る。これらの塩は自体公知の方法(特許文献4~
5)に従って製造可能である。
【0023】
PTHとして、ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、ヒトPTH(1
8、
- 38)、hPTH(非特許文献5)、ヒトPTH(1-34)NH 2 、〔Nle
18 8、18 34
5 〕ヒトPTH(1-34) 〔Nle
、 、Tyr 〕ヒトPTH(1-3
8、18 8、18
4) 〔Nle
、 〕ヒトPTH(1-34)NH 2 、
〔Nle 、Tyr
34
〕 ヒトPTH(1-34)NH 2 、ラットPTH(1-84)、ラットPTH(1
-34) 、ウシPTH(1-84)、ウシPTH(1-34)、ウシPTH(1-3
4)NH2 等 が例示される。好ましいPTHとして、ヒトPTH(1-84)、ヒト
10 PTH(1-38 )、ヒトPTH(1-34)、ヒトPTH(1-34)NH 2 が例
示される(特許文献3等)。特に好ましいPTHとして、ヒトPTH(1-34)が
挙げられる。さらに好ましいPTHとして、化学合成により得られたヒトPTH(1
-34)、最も好ましいPTH として、テリパラチド酢酸塩(実施例1)が挙げら
れる。
15 【0024】
II 他の薬剤との併用
本発明者らは、カルシウム剤併用下でのPTHに関し、骨折発生を主要評価項目
とした 二重盲検比較臨床試験を実施した結果、その効果は24または26週後と
いう早期から発現され、さらに、有害事象として高カルシウム血症が確認されなか
20 った(実施例1~2)。従って、本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤
は、他の薬剤と併用することを一つの特徴とする。ここで、他の薬剤との併用とは、
本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と本剤とは別のある薬剤(他の
薬剤)を併用することを意味する。
【0025】
25 本発明の他の薬剤としてはカルシウムを好適に例示できる。但し、本発明におい
て他の薬剤との併用というときには、当該他の薬剤以外の別の薬剤のさらなる併用
を排除するものでない。従ってカルシウムとの併用として、例えば、
カルシウムのみとの併用、
カルシウムならびにビタミンD(その誘導体を含む)および/またはマグネシウム
のみとの併用、
5 も好ましく例示できる。よって、他の薬剤の具体的様態として、カルシウム剤を例
示でき、好ましくは、
(1)カルシウムを薬効成分として含むカルシウム剤、
(2)カルシウム、ビタミンD(その誘導体を含む)およびマグネシウムをそれぞ
れ薬効成分として含むカルシウム剤を好ましく例示できる。
10 【0026】
上記の本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と他の薬剤との併用の
形態(投与頻度、投与経路、投与部位、投与量等)は、特に限定されず、患者に応
じた医師の処方等により適宜決定することができる。
【0027】
15 たとえば、上記他の薬剤としてカルシウム剤を併用する場合、当該カルシウム剤
は、PTHを有効成分とした本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と
同時に投与されてもよいし(すなわち週1回) それ以上の頻度で投与されても差し
、
支えはなく、1日1回ないし数回の頻度で投与されてもよい。従って、上記の他の
薬剤は、本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤と組合せてなる
20 合剤としてもよく、本発明に係 る骨粗鬆症治療剤/予防又は骨折抑制/予防剤と
他の薬剤とが別々の製剤であってもよい。このようなカルシウム剤として、
「新カル
シチュウ(商標)D3 」
(販売元:第一三共ヘルスケア、製造販売元:日東薬品工業
株式会社)を例示できる。
【0028】
25 また、他の薬剤は、発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤と一
緒に又は逐次に(すなわち別々の時間に) 同一の又は異なる投与経路で投与され得
、
る。従って 、他の薬剤の剤形も特に限定されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、
細粒剤等を例示できる。他の薬剤がカルシウム剤の場合、単位剤形あたり100~
400(好ましくは150~350)mgをカルシウムとして含むカルシウム剤で
あることが好ましい。しかして、単位剤形あたりカルシウムとして100~400
5 mgを含むカルシウム錠剤を、たとえば本発明の実施例に従って1日あたり2錠投
与するとすれば、カルシウムとして200~ 800mgが一日あたり投与される
ことになるが、これに限定されない。
【0029】
上記の他の薬剤の具体的な例としては、カルシウム剤の場合、たとえば沈降炭酸
10 カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カル
シウム、アスパラギン酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、クエ
ン酸カルシウム等を有効成分とする公知の薬剤が例示できる。沈降炭酸カルシウム
を含む薬剤が好ましい。なお、当該他の薬剤には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢
剤、制酸剤等が適宜含まれていてもよい。
15 【0030】
PTH投与患者のある一定の割合に、嘔吐、悪心、嘔気、胃もたれ、胃部不快感、
胸焼けなどの消化器症状が一過的に観察されることが知られている(特許文献6)。
【0031】
本発明者らは、被験薬投与に伴う一過性の悪心・嘔吐に対する様々な制嘔剤の投
20 与時期と有効性について試験した結果、プリンペラン(その薬効成分の一般名はメ
トクロプラミド)、ナウゼリン(その薬効成分の一般名はドンペリドン)、ガスター
D(その薬効成分の一般名はファモチジン)、ガスモチン(その薬効成分の一般名は
クエン酸モサプリド) タケプロンOD
、 (その薬効成分の一般名はランソプラゾール)
および六神丸がPTH投与に伴う悪心または嘔吐に対して有効であることを確認し
25 た(実施例2)。従って、更なる他の薬剤としてこれらの制嘔剤を好ましく、ナウゼ
リン(その薬効成分の一般名はドンペリドン)、ガスモチン(その薬効成分の一般名
はクエン酸モサプリド)および/または 六神丸をより好ましく、挙げることができ
る。これらの制嘔剤の用法用量は患者の症状等に応じて医師等が適宜設定すること
ができる。
【0032】
5 III 投与期間
本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤の投与期間は特に限定
されず、患者に応じた医師の処方等により適宜決定することができる。本発明者ら
は、投与期間を156または72週間として、骨折発生を主要評価項目とした二重
盲検比較臨床試験を実施した。本試験において、当該投与による有意な骨折抑制効
10 果を確認でき、その効果は24または26週後という早期から発現した(実施例1
~2)。さらに、投与後48週を超えてからの新規椎体骨折は認められなかった(実
施例2)。従って、投与期間として、24週以上、26週以上、48週以上、52週
以上、72週以上、または78週以上を例示することができ、最も好ましくは78
週以上である。また、本試験において、有害事象として高カルシウム血症は確認さ
15 れなかった(実施例1)。
【0033】
IV 投与量
本発明者らは、1回当たり100または200単位のPTHを用いた二重盲検比
較臨床試験を実施した結果、当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26
20 週後という早期からの効果の発現を認め、一方で有害事象としての高カルシウム血
症は確認されなかった(実施例1~2)。
【0034】
従って、本発明は、その投与量として、1回当たり100~200単位であるこ
とを特徴の一つとする。ここでPTHの1単位量は、自体公知の活性測定方法によ
25 り測定可能である(非特許文献9)。投与量として、好ましく1回当たり100又は
200単位、最も好ましく1回当たり200単位が例示される。
【0035】
V 投与間隔
本発明者らは、1週間に1回の頻度でPTH投与する二重盲検比較臨床試験を実
施した結果、当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26週後という早期
5 からの効果の発現を認め、一方で有害事象としての高カルシウム血症は確認されな
かった(実施例1~ 2)。従って、本発明は、その投与間隔を隔週とすることを特
徴の一つとする。
【0036】
VI 投与経路
10 本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤は、その製剤形態に応じた適
当な投与経路により投与され得る。例えば、本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤或
いは骨折抑制ないし予防剤が注射剤の場合には、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに
投与され得る。本発明者らは、PTHを皮下注射した結果、優れた効能・効果及び
安全性を示すことを立証した(実施例1~2)。従って、本発明は、その投与経路と
15 して皮下投与経路を好ましく例示可能である。
【0037】
VII 対象疾患
本発明に係る骨粗鬆症は特に限定されず、原発性骨粗鬆症及び続発性骨粗鬆症の
いずれをも含む。原発性骨粗鬆症としては、例えば、退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗
20 鬆症及び老人性骨粗鬆症) 特発性骨粗鬆症
、 (妊娠後骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症など)
が例示される。 続発性骨粗鬆症は、特定の疾病や特定の薬剤等の原因により誘発さ
れる骨粗鬆症であり、例えば、特定の薬剤、関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能亢
進症、性機能異常、不動性、栄養性、その他先天性疾患などが原因として挙げられ
る。特定の薬剤として、例えば、ステロイドが例示される。本発明に係る骨粗鬆症
25 として骨折の危険性の高い骨粗鬆症を好ましく例示できる。骨折の危険性の高い骨
粗鬆症への本発明の適応は下記の高リスク患者への本発明の適応を意味する。
【0038】
本発明者らは、原発性骨粗鬆症の患者を対象とした臨床試験において、本発明の
効果・効能や安全性を確認した(実施例1~2)。従って、本発明に係る骨粗鬆症と
して好ましく原発性骨粗鬆症を例示でき、最も好ましく退行期骨粗鬆症を例示でき
5 る。
【0039】
本発明者らは、続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを服用する原発性骨粗鬆症
患者を対象とした臨床試験において、本発明の効果を確認した(実施例2) 従って、
。
本発明に係る原発性骨粗鬆症患者として、続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを
10 服用する原発性 骨粗鬆症患者を好ましく例示できる。
【0040】
本発明者らは、合併症(糖尿病、高血圧、または高脂血症)を有する原発性骨粗
鬆症患者を対象にした臨床試験において、本発明の効果を確認した(実施例2)。
従って、本発明に係る骨粗鬆症患者として、糖尿病、高血圧および高脂血症の少な
15 くともいずれか1の合併症を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示でき、糖尿病、高
血圧および高脂血症の少なくともいずれか1の合併症を有する原発性骨粗鬆症患者
をさらに好ましく例示できる。
【0041】
糖尿病は骨粗鬆症性骨折リスク要因である可能性が高いことが知られている(非
20 特許文献16)。
【0042】
糖尿病性骨粗鬆症とPTHの関係については動物実験において次の報告が認めら
れる。
1) 糖尿病性の骨減少症示すsreptozotocin処理ラットに対して
25 hPTHを投与することによって、cancelous enveropeにおい
て『骨量』 『骨梁幅』 『類骨表面』 『石灰化面』 『骨石灰化速度』 『骨形成速度』
、 、 、 、 、
の増加が見られ、さらに、endocortical envelopeでは『類
骨表面』 『石灰化面』 『骨石灰化速度』 『皮質骨厚』の増加が見られたことが報告
、 、 、
されている(非特許文献21)。ただし、本ラットは、他の原因による骨減少症ラッ
トと異なり、吸収面の顕著な減少は見られていない。
5 2 sreptozotocin処理ラットに対して8週間に渡ってPTHを投
与した結果、海面骨量とターンオーバーの回復を認めたことが報告されている(非
特許文献22)。
3 培養細胞における実験では高濃度のグルコースに曝露されるとhPTH(1
-34)に対する反応が落ちる(PTHの効きが悪くなる)ことが報告されている
10 (非特許文献20)。
【0043】
発明者は、糖尿病性骨粗鬆症ヒト患者へのPTH投与の効果を期待する医師等の多
くの見解が存在している(例:http://www.richbone.com
/kotsusoshosho/basic_shindan/tonyo.ht
15 m)ことを理解している一方で、その効果を実証した論文を見出せなかった。
【0044】
従って、本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤により、原発性骨粗鬆症と
糖尿病の合併症患者に対しての椎体骨折リスクが低減されることを、本願試験で実
証したことは重要な知見である。
20 【0045】
本発明に係る骨折は特に限定されず、椎体骨折及び非椎体骨折のいずれをも含み
(実施例1) 骨粗鬆症・骨形成不全・骨腫瘍などを原因とする病的骨折、
、 交通事故・
打撲などを原因とする外傷性骨折のいずれをも含む。好ましくは、骨粗鬆症を原因
とする骨折、さらに好ましくは骨粗鬆症を原因とする椎体骨折への適用を例示可能
25 である。骨折の部位も特に限定されないが、典型的には、脊椎圧迫骨折、大腿骨頸
部骨折、大腿骨転子間部骨折 、大腿骨骨幹部骨折、上腕骨頸部骨折、橈骨遠位端骨
折を挙げることもでき、特に脊椎圧迫骨折が例示され得る。
【0046】
本発明に係る骨折の回数は特に限定されず、単発骨折及び多発骨折のいずれをも
含む。単発骨折とは、骨が1箇所だけ折れるまたは亀裂が入る病状を意味し、多発
5 骨折とは、骨が2箇所以上折れるまたは亀裂が入る病状を意味する。多発骨折にお
ける骨折数は特に限定されないが、2個~4個へ適用される場合が好ましい。
【0047】
本発明に係る椎体骨折は新規骨折および増悪骨折のいずれをも含む。例えば、椎
体全体の形態をみてその変形の程度はGrade分類されることができ、Grad
10 e0(正常)、Grade1(椎体高約20~25%減少、かつ、椎体面積10~2
0%減少) Grade2
、 (椎体高約25~40%減少、かつ、椎体面積20~40%
減少)、Grade3(椎体高約40%以上減少、かつ、椎体面積40%以上減少)
とすることが一般的である。新規・増悪の区分は【B】の判定基準に従いGrad
eの増加パターンに沿って実施可能である。具体的には、Grade0からGra
15 de1、2、または3への変化が認められた場合には新規骨折と診断され、Gra
de1からGrade2または3、Grade2からGrade3への変化が認め
られた場合には増悪骨折とみなすことができる。さらにGradeの変化を正確に
判断するために、
【C】ら(非特許文献35)の方法、および【D】ら(非特許文献
36)の方法に従って、椎体高の計測を行った。
20 【0048】
本発明者らは、既存骨折を有する患者を対象とした臨床試験において、本発明の
増悪骨折抑制効果を確認した(実施例2)。従って、本発明においては、骨粗鬆症患
者として、 好ましく既存骨折を有する患者、さらに好ましく既存骨折およびその増
悪骨折の可能性を有する患者への適用を例示できる。
25 【0049】
PTHの骨強度増強作用のメカニズムについては未だ不明な点が多い。骨強度は
骨密度のみならず骨質の状態を反映するが、これは骨密度のみならず骨微細構造や
石灰化など骨質要因が骨強度を規定することを意味する(非特許文献17) 本発明
。
者は、骨質は骨強度のみならず骨粗鬆症とは異なる疾病の発症リスクやその合併症
の治癒成績に影響を及ぼす可能性があると考える。本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・
5 骨折抑制/予防剤は、従前の治療剤(特許文献2)と比較してこれらの点で優位で
ある可能性が示唆された。
【0050】
特許文献2は、rhPTH(1-34)を骨粗鬆症患者に投与した結果、骨塩含
有量(BMC)や骨塩密度(BMD)のみならず、腰椎や大腿骨等の骨面積を増加
10 させたことを開示する。骨面積の増加は骨が外側に向かって肥厚することを意味す
る。
【0051】
ところが、本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を骨粗鬆症患者に
投与した結果、皮質骨厚が骨の外側ではなく骨の内側に増加した。すなわち、骨全
15 体の厚さは殆ど変化が認められなかった。本メカニズムは例えば下記に示される重
要な臨床的意義を示すと考えられる。
【0052】
(1)長管骨肥厚による関節破壊がない
長管骨(四肢を構成する長形状の骨)の一つである大腿骨は、その骨端が関節軟
20 骨と接触してその他滑膜や半月板とともに膝関節を形成している。その接触面は厚
さ数ミリ程度の軟骨に覆われる関節面と称される。膝関節痛の原因となる疾病とし
て例えば変形性膝関節症が例示される。
【0053】
一方、プレドニゾン(prednisone)誘発骨粗鬆症と関節痛の合併症患
25 者に対してフォサマック(Fosamax)と比較してフォルテオ(Forteo;
毎日投与のPTH)がより強い骨強化作用を示したことが知られている(非特許文
献23~24)。
【0054】
しかし、このフォルテオ投与は特許文献2に記載のPTH投与と実質的に同等の
従来の治療方法であり、先に述べたように本従来方法は骨の外側に肥厚させる治療
5 方法である。 大腿骨の外側への肥厚は関節面の面積増大を意味し、軟骨細胞数は骨
の肥厚と比して増加しない為、この従前治療法に起因する大腿骨の外側への肥厚は、
関節面の増大で惹起または増悪される軟骨細胞の損傷を介して関節の破壊を促進す
る可能性がある。
【0055】
10 ところが、本発明のように大腿骨の内側への肥厚は、関節面増大がなく、軟骨を
より安定化させ、結果として、軟骨への負担を増やさずに関節破壊を実質的に促進
させない可能性があると発明者は考えている。本剤による骨粗鬆症治療が前記従来
法による骨粗鬆治療と比較して関節に優しい治療である可能性を示唆するものであ
る。
15 【0056】
(2)椎体肥厚による変形性脊椎症の増悪または発症がない
加齢等の何らかの原因によって正常な椎体骨量が減少すると椎体が不安定化する。
不安定化は終板の変形によって始まる。椎体の不安定化とは、具体的には、終盤の
薄化や終盤孔(ハバース管)の拡大である。その不安定化が進むと、椎間板の終盤
20 孔への進入や椎間板狭小化が見られる。さらに症状が進めば、椎骨同士の衝突によ
る骨棘(こつきょく)生成にいたる。このような脊椎の変性が変形性脊椎症といわ
れる疾病である。変形性脊椎症になると、椎間が安定化して椎間板の進入に起因す
る痛みや周辺の筋肉膨張による痛みなどが生じることになる。
【0057】
25 しかし、特許文献2に記載のようにPTHを毎日投与して骨の外側に肥厚させる
場合、終盤孔の拡大に対して十分な抑制作用が見られない可能性がある。あるいは、
椎体と椎間板の接触面積の増大によって、椎体間の距離が縮小し、椎体の不安定化
が進み、結果として、変形性脊椎症の発症や増悪リスクが高くなる可能性もある。
【0058】
一方、本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤投与により、皮質骨厚が骨の
5 外側ではなく骨の内側に増加していくため、終盤孔の拡大や椎間板の終盤孔への進
入に対して十分に抑制できる可能性がある。
【0059】
(3)変形性股関節症・変形性顎関節症を増悪または発症促進させない
変形性股関節症は、関節に対する血流不良や極度の加重や酷使を理由として、股
10 関節を形成している臼蓋と大腿骨頭の接触面の関節軟骨が摩耗、変性、不可逆性の
変化を起こした状況である。変形性股関節症患者の大腿骨皮質骨面積は健常者のそ
れと比較して有意に大きい(非特許文献18)。大腿骨皮質骨面積の増大は、大腿骨
の外側への肥大化を意味し、従ってこれが変形性股関節症の発症または増悪に関与
している可能性がある。本発明のように大腿骨の内側への肥厚化をさせる場合には、
15 大腿骨の外側への肥大化をさせることはないので、変形性股関節症の発症または増
悪リスクを増大させない可能性がある。変形性顎関節症は顎関節の変形を主徴候と
するものであるが、皮質骨の肥厚が診断所見の一つとなっている(非特許文献19)。
従って、皮質骨のさらなる外側への肥大化が症状を悪化または発症させる可能性が
ある。本発明のように骨の内側へ肥厚させる場合には、このような変形性顎関節症
20 の発症または増悪リスクを増大させない可能性が推定される。
【0060】
以上、
(1)~(3)を纏めると、関節痛、変形性脊椎症、変形性腰痛症、変形性
股関節症、および変形性顎関節症の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有
する骨粗鬆症患者(好ましくはそのうち原発性骨粗鬆症患者)を本発明の骨粗鬆症
25 治療/予防剤・骨折抑制/予防剤の適応患者として好ましく例示できる。
【0061】
本発明者らは、1年以内の他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本剤有効性に与える影
響を評価した。その結果、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある原発性骨粗鬆症患者
は服薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった(実施例2)。
従って、本発明においては、骨粗鬆症患者として、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が
5 ある骨粗鬆症患者への適用を好ましく例示でき、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴があ
る原発性骨粗鬆症患者への適用をさらに好ましく例示できる。
【0062】
また、他の骨粗鬆症治療薬として、L-アスパラギン酸カルシウム、アルファカ
ルシドール、塩酸ラロキシフェン、エルカトニン、メナテトレノン、乳酸カルシウ
10 ム、が例示され、好ましくは、L-アスパラギン酸カルシウム、アルファカルシド
ール、エルカトニンが例示される。他の骨粗鬆症治療薬は単独または併用して投薬
実績があってもよい。
【0063】
他の骨粗鬆症治療薬の投与歴のある骨粗鬆症患者に対して、本発明の骨粗鬆症治
15 療剤・骨折抑制/予防剤を24週~72週またはそれ以上にわたり投与することが
好ましい。特にそのうち腰椎の骨折リスクの高い患者に対しては24週またはそれ
以上にわたり投与することが好ましく、大腿骨頚部または大腿骨近位部の骨折リス
クの高い患者に対しては72週またはそれ以上投与することが好ましい。
【0064】
20 骨粗鬆症および腎障害は加齢とともにその有病率が上昇する。女性の骨粗鬆症患
者の85%は軽度~中程度の腎障害を有しているという大規模な疫学研究報告もあ
る(非特許文献32)。従って、腎障害を有する骨粗鬆症患者に対して有効かつ安全
な薬剤を提供することは重要である。
【0065】
25 本発明者らは、腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症
患者群、中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても本発明の骨粗
鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が有効であることを示した(実施例2)。さら
に加えて、血清カルシウムに関する安全性において全ての群に対して本発明の骨粗
鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤は同等であることが明らかとなった。
【0066】
5 腎機能正常、障害、および障害の程度は、クレアチニンクリアランスに基づき区
別可能である。具体的には、クレアチニンクリアランスが80ml/min以上を
腎機能正常、 50以上80未満ml/minを軽度腎機能障害、30以上50未満
ml/minを中等度腎機能障害と判定可能である。
【0067】
10 一般的には、血清カルシウムの正常上限濃度は10.6mg/mlでありこれを
超える11.0mg/mlはやや高値といえる。従前のPTH毎日投与では、中程
度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群の11.76%の患者に投与後にやや高値で
ある11.0mg/mlを超える血清カルシウムが認められていた(非特許文献3
2)。ところが、本発明においては、中程度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に本
15 発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を投与した結果、11.0mg/
mlを超える血清カルシウムが認められる患者は投与開始~最終時まで全ての検査
時において一人も見出すことができなかった(実施例2)。すなわち、有効性のみな
らず安全性の面でも、本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が優れて
いると考えられる。従って、本発明の適用対象患者として、軽度腎機能障害を有す
20 る骨粗鬆症患者および/または中等度腎機能障害を有する骨粗 鬆症患者を好まし
く例示でき、さらに好ましくは軽度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者および
/または中等度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者を例示できる。
【0068】
本発明に係る薬剤投与ないし治療方法が適用されるべき対象者の人種・年齢・性
25 別・身長・体重等は特に限定されないが、当該対象者として、骨粗鬆症患者が例示
され、或いは骨粗鬆症における骨折の危険因子を多くもつ骨粗鬆症患者に対して本
発明の方法を適用し、或いは本発明の骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制ないし予防剤を
投与することが望ましい。骨粗鬆症における骨折の危険因子としては、年齢、性、
低骨密度、骨折既往、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド使用、骨折家族歴、運動、
転倒に関連する因子、骨代謝マーカー、体重、カルシウム摂取などが挙げられてい
5 る(非特許文献10)。しかして、本発明においては、下記(1)~(3)の全ての
条件を満たす骨粗鬆症患者(ないし対象者)を「高リスク患者」として定義する。
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が
10 萎縮度I度以上である。
【0069】
ここで、骨密度とは、典型的には腰椎の骨塩量を指す。但し、腰椎骨塩量の評価
が困難な場合では、橈骨、第二中手骨、大腿骨頸部、踵骨の骨塩量値により当該骨
密度を示すことができる。また、若年成人平均値とは20~44歳の骨密度の平均
15 値を意味する。骨密度は、例えば、二重エネルギーX線吸収測定法、photod
ensitometry法 、光子吸収測定法、定量的CT法、定量的超音波法など
自体公知の方法により測定可能で ある。また、本発明において骨萎縮度とはX線上
骨量減少度を意味する。骨萎縮度は、骨萎縮なし、骨萎縮度I度、骨萎縮度II度、
及び骨萎縮度III度に分類される。当該骨 萎縮度における骨萎縮なしとは、正常
20 状態を指し、具体的には、縦・横の骨梁が密であるため骨梁構造を認識することが
できない状態を意味する。骨萎縮度I度とは、縦の骨梁が目立つ状態を意味し、典
型的には、縦の骨梁は細くみえるがいまだ密に配列しており、椎体終板も目立って
くる状態を意味する。当該骨萎縮度における骨萎縮度II度とは、縦の 骨梁が粗と
なり、縦の骨梁は太くみえ、配列が粗となり、椎体終板も淡くなる状態を意味する。
25 当該骨萎縮度における骨萎縮度III度とは、縦の骨梁も不明瞭となり、全体とし
て椎体陰影はぼやけた感じを示し、椎間板陰影との差が減少する状態を意味する(骨
粗鬆 症治療、5/3、2006年7月号、
「単純X線写真による骨粗鬆症の診断」 。
)
骨萎縮度は、例えば、腰椎側面X線像から判定可能である。本発明でいう椎体骨折
数は、例えば 、【B】らの方法(非特許文献14)により容易に計測可能である。
椎体以外の部位の骨折は、例えば、レントゲンフィルムを用いて容易に確認され得
5 る。
【0070】
本発明においては、特に高リスク患者に対して本発明の方法を適用し、或いは本
発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を投与することが特に
好ましい(実施例1)。
10 【0071】
一方、一般的に、下記(1)~(6)の少なくともいずれかに該当する患者(対
象者)に対しては本発明の方法を適用すること、及びそれに従う本発明の骨粗鬆症
治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤の投与を避けることも好ましい。
(1)気管支喘息、発疹(紅班、膨疹等)などの過敏症を起こしやすい体質の患者
15 (2)高カルシウム血症患者
(3)妊婦または妊娠している可能性のある婦人
(4)甲状腺機能低下症または副甲状腺機能亢進症の患者
(5)過去に薬物過敏症を呈したことのある患者
(6)心疾患、肝疾患、腎障害など重篤な合併症を有する患者
20 従って、本発明においては、上記高リスク患者であって、かつ、 (1) (6)
上記 ~
全てに該当しない骨粗鬆症患者等を適用対象とすることが好ましい。
【0072】
VIII 製剤
本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤(以下、単に「本剤」
25 ということもある。)は、種々の製剤形態をとり得る。一般的には、本剤は、PTH
単独又は慣用の薬学的に許容される担体とともに注射剤等とされ得る。本剤の剤形
として注射剤が好ましい。
【0073】
例えば、本剤が注射剤の場合、PTHを適当な溶剤(滅菌水、緩衝液、生理食塩
水等)に溶解した後、フィルター等で濾過および/またはその他適宜の方法にて滅
5 菌して、次いで無菌的な容器に充填することにより調製され得る。その際にPTH
とともに必要な添加物(例えば、賦形剤、安定化剤、溶解補助剤、酸化防止剤、無
痛化剤、等張化剤、pH調整剤、防腐剤等)を添加しておくことが好ましい。この
ような添加物として、例えば、 類、
糖 アミノ酸、又は食塩等を挙げることができる。
添加剤として糖類を用いる場合には、 糖類として、マンニトール、グルコース、ソ
10 ルビトール、イノシトール、シュークロース 、マルトース、ラクトース、トレハロ
ースをPTH1重量に対して1重量以上(好ましくは50~1000重量)添加す
ることが好ましい。添加剤として糖類及び食塩を用いる場合には、糖類1重量に対
して1/1000~1/5重量(好ましくは1/100~1/10重量)の食塩を
添加することが好ましい。
15 【0074】
例えば、本剤が注射剤の場合、本剤は凍結乾燥等の手段により固形化されたもの
(凍結乾燥製剤等)でもよく、用時に適当な溶剤で溶解すればよい。あるいは、本
剤が注射剤の場合、本剤は予め溶解されてなる液剤であってもよい。
【0075】
20 また、好ましくは、本剤は、骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制/予防剤として、1回
当たり 100~200単位のヒトPTH(1-34)を隔週で投与すべき旨を記載
したパッケージに収容されるか、そのような旨を記載した添付文書とともにパッケ
ージに収容された薬剤とすることができる。
【0076】
25 なお、本願発明の有用性は、実施例に示される臨床試験の結果を慣用の方法で統
計処理等することによっても容易に確認することができる。また、以下、本発明を
実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に
限定されることはない。
【実施例】
【0077】
5 (実施例1)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の患者(非特許文献12)に対して、
【E】の方
法(特許文献4~5、非特許文献11)により調製した、5あるいは100単位の
テリパラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した(それぞれを5ある
いは100単位投与群とする) なお、
。 テリパラチド酢酸塩の活性測定はMarcu
10 sらの論文(非特許文献9)に従った。
【0078】
5または100単位投与群は、1バイアル中にテリパラチド酢酸塩を5または
100単位含有する凍結乾燥製剤を生理食塩水1mLに用時溶解してその溶液全量
を投与した。さらに、5または100単位投与群共に、カルシウム剤(1錠中に沈
15 降炭酸カルシウムを500mg[カルシウムとして200mg]含有)を1日1回
2錠投与した。
【0079】
骨粗鬆症患者は、非特許文献13に示された、骨折の危険因子の保有状況により、
表-1に示す条件で区分して比較した。高リスク患者(以下、単に高リスク者と称
20 することもある)は、年齢、既存の椎体骨折、骨密度あるいは骨萎縮度の3因子を
すべて有するものと定義し、低リスク者はそれ以外のものとした。
【0080】
【表1】(後記)
患者背景は表-2、3に示す通りであり、両群の背景に統計学的な有意差は認め
25 られなかった(p<0.05)。
【0081】
【表2】(後記)
【表3】(後記)
【0082】
投与期間中はカルシトニン製剤、活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK製剤、イ
5 プリフラボン製剤、ビスホスホン酸塩製剤、エストロゲン製剤、蛋白同化ホルモン
製剤、医師の処方によるカルシウム製剤(ただし、上記の1日1回2錠投与される
カルシウム剤は除く)、その他骨代謝に影響を及ぼすと考えられる薬剤の併用は禁
止した。骨評価としては、 腰椎骨密度と骨折の発生の確認を実施した。腰椎骨密度
は、二重エネルギーX線吸収測定 法(DXA法)を用いて第2~第4腰椎骨密度の
10 測定を開始時と以降6ヶ月毎に実施した。骨折発生頻度は、椎体では、第4胸椎か
ら第5腰椎までの正面、側面のX線撮影を開始時と以降6ヶ月毎に実施し、
【B】ら
の方法(非特許文献14)を参考に、開始時と以降の時点のレントゲンフィルムを
比較して、新規椎体骨折を評価した。また椎体以外 の部位では、レントゲンフィル
ムでの確認で評価した。また、全症例において投与開始時 および投与期間中に採血
15 を行い、カルシウム濃度を含む一般臨床検査値を測定した。
(DXA、新規椎体骨折
は中央で一括判定し、椎体以外の骨折は担当医師がレントゲンフィルムにより判定)
高リスク者における投与期間は、5単位投与群で85.1±20.8週、 100単
位投与群で83.7±19.8週であり両群間で有意な差は認められなかった(p
<0.05)。また低リスク者は、5単位投与群で72.7±19.4週、100単
20 位投与群で88.3±21.3週であり両群間で有意な差は認められなかった(p
<0.05)。
【0083】
表-4、5に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の腰椎骨密度の推移を
示した 。高リスク者においては、100単位投与群の骨密度は投与開始時に比較し
25 有意に高い骨密度の増加が認められ、5単位投与群と比較しても有意に高い値を示
した(p<0.05)。一方低リスク者においては、投与開始時との比較および群間
での比較において有意差は認められなかった(p>0.05)。
【0084】
【表4】(後記)
【0085】
5 【表5】(後記)
【0086】
表-6、7に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の新規椎体骨折発生の
結果を示した。高リスク者においては、100単位投与群は5単位投与群に比べ骨
折発生は有意に低かった(p<0.05)。一方低リスク者においては、群間で有意
10 差は認められなかった(p>0.05)。
【0087】
【表6】(後記)
【0088】
【表7】(後記)
15 【0089】
表-8、9に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の26週毎の新規椎体
骨折発生の結果を示した。高リスク者においては、100単位投与群は5単位投与
群に比べ、26週後から骨折発生を抑制した。一方、低リスク者においては群間の
差は認められなかった。
20 【0090】
【表8】(後記)
【0091】
【表9】(後記)
【0092】
25 表-10、11に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の椎体以外の部位で
の骨折発生の結果を示した。高リスク者においては、100単位投与群は5単位投
与群に比べ骨折発生は有意に低かった。一方低リスク者においては、群間で有意差
は認められなかった。
【0093】
【表10】(後記)
5 【0094】
【表11】(後記)
【0095】
図1に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の血清カルシウム濃度推移の
結果を示した。実施した採血サンプルを用いた臨床検査値の結果のうち、低リスク
10 者の5単位投与群において薬剤投与開始前より高値であった1症例を除き、全例で
高カルシウム血症は認められず、また、血清カルシウムが上昇する傾向も認められ
なかった。
【0096】
以上の表から分かる通り、原発性骨粗鬆症患者のうち、新規骨折の危険因子を有
15 する患者において、テリパラチド酢酸塩を週1回100単位間欠的に皮下投与する
ことによって、有意な腰椎の骨密度の増加が認められ、さらに新規椎体骨折の抑制
が認められた。即ち、本発明の新規骨折の高リスク患者に対する、テリパラチド酢
酸塩の週1回100単位投与は、有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ないし予防剤
となり得ることが確認された。
20 【0097】
また、投与期間中、本発明テリパラチド酢酸塩の週1回投与では、いずれの投与
量においても高カルシウム血症の発症はなく、既に知られているテリパラチド酢酸
塩の連日投与に比較し、有用であるものと考えられた。
【0098】
25 (実施例2)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して、
【E】の方法(特許文
献4~5、非特許文献11)により調製した被験薬(1バイアル;1バイアルにテ
リパラチド酢酸塩200単位を含む注射用凍結乾燥製剤)または対照薬(1バイア
ル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩を実質的に含まないプラセボ製剤)をそれぞ
れ生理的食塩水1mLで用時溶解して72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に
5 皮下投与した。
【0099】
上記患者は、併せて、カルシウム剤2錠を1日1回夕食後に服薬した。本カルシ
ウム剤は、2錠中にカルシウム610mg、ビタミンD 3400IU及びマグネシ
ウム30mgを含有するソフチュアブル製剤であり、成分として、沈降炭酸カルシ
10 ウム、炭酸マグネシウム、コレカルシフェロール(ビタミンD 3 )等を含み、
「新カ
ルシチュウ(商標)D 3 」
(販売元:第一三共ヘルスケア、製造販売元:日東薬品工
業株式会社)の商品名として市販されているものである。
【0100】
なお、上記患者は全て自立歩行可能な外来患者であり、かつ、以下の(1)~(1
15 9)いずれの基準にも該当しない患者である。
(1) 所定の原因により続発性骨粗鬆症と診断された患者。ここで所定の原因と
は、内分泌性(甲状腺機能亢進症、性腺機能不全、Cushing症候群)、栄養性
(壊血病、その他(タンパク質欠乏、ビタミンAまたはD過剰) 、薬物(副腎皮質
)
ホルモン、メトトレキサート(MTX)、へパリン、アロマターゼ阻害剤、GnRH
20 アゴニスト) 不動性
、 (全身性(臥床安静、対麻痺、宇宙飛行) 局所性
、 (骨折後等) 、
)
先天性(骨形成不全症、Marfan症候群等)、その他(関節リウマチ、糖尿病、
肝疾患、消化器疾患(胃切除)等)を意味する。
(2)骨粗鬆症以外の骨量減少を呈する所定の疾患を有する患者。ここで所定の疾
患とは 、各種の骨軟化症、原発性、続発性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の骨転移、
25 多発性骨髄腫、脊椎血管腫、脊椎カリエス、化膿性脊椎炎、その他を意味する。
(3)椎体の強度に影響を及ぼすと考えられる所定のX線所見を有する患者。ここ
で所定とは6個以上の連続した椎体が架橋を形成している、椎体周辺の靱帯に著し
い骨化が認められる、脊椎に著しい脊柱変形を有する、椎体の手術が施行されてい
る、ことを意味する。
(4)胸腰椎体全体を覆うコルセットを装着している患者。
5 (5)同意取得前52週(364日)以内にビスホスフォネート製剤の投与を受け
た患者。
(6)同意取得日に以下の骨粗鬆症治療薬の投与を受けている患者(ただし、治療
開始までに8週(56日)以上の休薬(ウォッシュアウト)が可能ならば、対象と
して選択可とする) カルシトニン製剤、
。 活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK製剤、
10 イプリフラボン 製剤、エストロゲン製剤、SERM製剤、蛋白同化ホルモン製剤。
(7)気管支喘息、発疹(紅斑、膨疹等)等の過敏症状を起こしやすい体質の患者。
(8)PTH製剤に対して過敏症の既往歴のある患者。
(9)骨バジェット病の患者。
(10)悪性骨腫瘍の既往または過去5年以内に悪性腫瘍の既往のある患者。
15 (11)多発性外骨腫症の患者。
(12)骨格への放射線外照射療法歴または放射線組織内照射療法歴を有する患者。
(13)血清カルシウム値が11.0mg/dL以上の患者。
(14)アルカリフォスファターゼ値が基準値上限の2倍以上の患者。
(15)重篤な腎疾患、肝疾患または心疾患を有する患者。各疾患の基準は次の通
20 り。
腎疾患:血清クレアチニン値が2mg/dL以上
肝疾患:AST(GOT)またはALT(GPT)値が基準値上限の2.5倍以
上または100IU/L以上
心疾患:
「医薬品の副作用の重篤度分類基準について(平成4年6月29日薬安発
25 第80号)」に示すグレード2を参考に判断する。
(16)問診の信頼性が低いと判断された患者(少なくとも認知症の患者は必ず除
外する )。
(17)他の治験薬を同意取得前26週(182日)以内に投与された患者。
(18)過去に治験でPTH製剤の投与を受けた患者。
(19)その他、治験責任(分担)医師が本治験の実施にあたり不適当と判断した
5 患者。
【0101】
また、上記患者は、治験への同意時から治験終了時までの間、以下の(1) (6)
~
いずれの薬剤の投与が禁止された。
(1) テリパラチド酢酸塩以外の骨粗鬆症治療薬(具体的には、ビスホスフォネ
10 ート製剤、カルシトニン製剤、活性型ビタミンD3製剤、カルシウム製剤(ただし、
上記の1日1回 夕食後に服薬するカルシウム製剤は除く)、ビタミンK製剤、イプ
リフラボン製剤、エストロゲン製剤、SERM製剤、蛋白同化ホルモン製剤)
(2) 副腎皮質ホルモン製剤(ただし、筋注、静注または経口投与、ブレドニゾ
ロン換算で、1週間平均として5mg/日を超える場合、1日投与量として10m
15 g/日を超える場合、または総投与量が450mgを超える場合)
(3) アロマターゼ阻害剤
(4) GnRHアゴニスト
(5) 他の治験薬
【0102】
20 被験薬および対照薬の投与例数は、それぞれ、290例(実施例において被験薬
投与群と称することもある)および288例(実施例において対照薬投与群と称す
ることもある)であり、投与総症例数は578例であった。ただし、試験の種類に
応じてそれぞれの投与群の例数が異なることがあり、例えば(n=**)や評価例
数等の表現で示すことがある。
25 【0103】
骨評価としては、骨密度と骨ジオメトリー、骨折の発生の確認を実施した。
【0104】
腰椎骨密度は、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて第2~第4
腰椎骨 密度の測定を開始時と以降24週毎に実施した。
【0105】
5 大腿骨骨密度は、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて大腿骨近
位部を 20度内旋し、左側のみの測定を開始時と以降24週毎に実施した。
【0106】
DXAジオメトリーは担当医が測定した開始時と以降24週毎の大腿骨骨密度デ
ータで 評価した。
10 【0107】
CTジオメトリーはマルチスライスCTを用いて大腿骨近位部の測定を開始時、
48週後、72週後に実施した。
【0108】
骨折発生頻度は、椎体では、第4胸椎から第4腰椎までの正面、側面のX線撮影
15 を開始時と以降24週毎に実施し、
【B】らの方法(非特許文献14)を参考に、開
始時と以降の時点のレントゲンフィルムを比較して、新規および増悪椎体骨折を評
価した。また椎体以外の部位では、レントゲンフィルムでの確認で評価した(DXA、
骨ジオメトリー、新規および増悪椎体骨折は中央で一括判定し、椎体以外の骨折は
担当医がレントゲン フィルムにより判定)。
20 【0109】
(A)椎体多発骨折に対する被験薬の有効性
ここで椎体多発骨折を新規の2箇所以上の椎体骨折と定義して、投与72週後に
おける被験薬投与群(n=261)と対照薬投与群(n=281)それぞれにおけ
る椎体多発骨折発生比率(例数)を比較したところ、対照薬投与群は2.1%(6
25 例)、被験薬投与群 は0.8%(2例)であった。すなわち、被験薬は椎体多発骨
折に対して抑制ないし予防効果を有することが示された。
骨折発生個数別の症例数を下記表に示す。
【表12】(後記)
【0110】
(B)ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対する被験薬の有効性
5 ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対する被験薬投与の効果を試験した。
その結果、下記の表のとおり、ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対して
被験薬が有効であることが示された。
【0111】
【表13】(後記)
10 【表14】(後記)
【0112】
ステロイドは続発性骨粗鬆症の原因となる薬剤であることから、上記の結果は、
ステロイドの続発性骨粗鬆症を誘発する薬剤に起因する続発性骨粗鬆症に対して被
験薬が効果を奏する可能性を示唆するものであると考えられる。
15 【0113】
(C)大腿骨3部位に対する被験薬の有効性
大腿骨3部位(大腿骨頚部、大腿骨転子間部、大腿骨骨幹部)に対する被験薬の
効果を一般的なCT法に準じて試験した。その結果、下記の表のように、大腿骨各
部位に対して 被験薬は有効であることが示された。
20 【表15】(後記)
【表16】(後記)
【表17】(後記)
【0114】
(D)被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する処方検討
25 被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する様々な処置薬の投与時期と有効性について
試験した。
【表18】(省略)
【0115】
上記の通り、プリンペラン、ナウゼリン、ガスターD、ガスモチン、タケプロン
OD、 六神丸が有効であった。特に、ナウゼリン、又はガスモチン、六神丸が好ま
5 しかった。
【0116】
(E)合併症の種類またはその有無が被験薬効果に与える影響評価
上記患者の中には合併症を有している者もいる。そこで、合併症の種類(糖尿病、
高血圧、高脂血症)やその有無が被験薬効果に与える影響を評価した。その結果、
10 下記の表の通り、これら合併症の種類や有無に関わらず、さらに投与後24週時点
以降において、被験薬は新規椎体骨折発生を抑制することが明らかになった。
【表19】(後記)
【0117】
糖尿病を原疾患とする糖尿病性骨粗鬆症は続発性骨粗鬆症の一つであるが、糖尿
15 病を合併症として有する原発性骨粗鬆症患者に被験薬効果が認められたことは、被
験薬が糖尿病性骨粗鬆症に対しても治療効果を示す可能性を示唆するものと考えら
れる。
【0118】
(F)増悪骨折に対する被験薬の有効性
20 増悪骨折に対する被験薬の有効性を試験した。その結果、下記の表のように、増
悪骨折に対して被験薬は有効であることが示された。
【表20】(後記)
【0119】
(G)他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響の評価
25 前述のように、上記患者に対して、治験への同意時から治験終了時までの間、テ
リパラチド酢酸塩以外の骨粗鬆症治療薬の投与は原則的に禁止された。しかし、治
験への同意時以前においては、所定の条件の下、他の骨粗鬆症治療薬の服薬を受け
ている患者も存在していた。そこで、当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有
効性に与える影響を、新規椎体骨折発生率および骨密度変化率の観点から評価した。
【0120】
5 新規椎体骨折発生率に関する評価結果を下表に示す。該表中、被験薬投与後72
週時において、当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者について被験薬投与群
の骨折率が2.9%であり対照薬投与群の骨折率が16.1%であったが、服薬歴
のない患者について 被験薬投与群の骨折率が3.2%であり対照薬投与群の骨折
率が12.9%であった。すなわち、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者は服
10 薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった。
【表21】(後記)
【0121】
次に骨密度変化率についての評価結果を下表に示した。該表中、腰椎骨密度に関
しては 、いずれの他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者においても、被験薬投与
15 後48週で当該骨密度の増加が顕著になっており、特に、他の骨粗鬆症治療薬がL
-アスパラギン酸カルシウム、エルカトニン、アルファカルシドール、メナテトレノ
ン及びカルシトリオールである被験薬投与群においては、投与後24週という早期
段階での腰椎骨密度の顕著な増加が見られた。更に注目されるのは、他の骨粗鬆症
治療薬がL-アスパラギン酸カルシウム及びエルカトニンの場合、被験薬投与後7
20 2週時点の大腿骨頚部及び近位部骨密度の顕著な増加がみられ、特に、他の骨粗鬆
症治療薬がエルカトニンの場合では、大腿骨近位部 骨密度が被験薬投与後24週
時点から既に大幅に増加している点は特筆に値するであろう。
【表22】(後記)
【0122】
25 また、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響を、個別の当該
他の骨粗鬆症治療薬について、新規椎体骨折発生率の観点から詳しく評価した結果
を下表に示したが、その表からわかるとおり、カルシトリオール以外の骨粗鬆症治
療薬服用歴のある患者において、被験薬投与による新規骨折の顕著な抑制が見られ
た。
【表23】(後記)
5 【0123】
(H)腎機能障害を有する骨粗鬆症患者への被験薬の有効性及び安全性
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、および
中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に対する被験薬の有効性及び安全性を試
験した。
10 【0124】
(H-1)各患者群の背景因子の分布(詳細)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群を「Normal(80≦) 、軽度腎機能障害を有
」
する 骨粗鬆症患者群を「Mild impairment(50≦<80) 、中等
」
度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群を「Moderate impairmen
15 t(<50) と表記した。また、被験薬投与群を「PTH200群」
」 、対照薬投与
群を「P群」と表記 した。また、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群と中度腎
機能障害を有する骨粗鬆症患者群を併せて「Abnormal (<80)」と表記
することもある。各患者はその 患者のクレアチニンクリアランスをもとに上記群
に分類した。具体的には、クレアチニン クリアランスが80ml/min以上を腎
20 機能正常、50以上80未満ml/minを軽度腎機能障害、30以上50未満m
l/minを中等度腎機能障害とみなした。
【0125】
(H-1)各患者群の背景因子の分布
各患者群の背景因子の分布は次のようになる。
25 【表24】(後記)
【0126】
(H-2)各患者群に対する被験薬の有効性(骨折抑制)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群および腎機能障害(軽度・中程度)を有する骨粗鬆症
患者群いずれに対しても被験薬が新規椎体骨折抑制効果を有することが明らかとな
った。
5 【表25】(後記)
【0127】
(H-3)各患者群に対する被験薬の有効性(骨密度増加)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度
腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬が腰椎骨密度増加効果
10 を有することが明らかとなった。
【表26】(後記)
【0128】
(H-4)各患者群に対する被験薬の安全性(補正血清カルシウム)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度腎
15 機能障 害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬を投与した結果、どの
群に対しても被験薬と対照薬間で有意差は認められなかった。すなわち、血清カル
シウムに関する安全性において全ての群に対して被験薬は同等であることが明らか
となった。
【表27】
20 【0129】
(H-5)各患者群に対する被験薬の安全性(有害事象発現率)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度腎
機能障 害を有する骨粗鬆症患者群それぞれに被験薬を投与した後の有害事象発現
率を試験した。
25 【表28】(後記)
【表29】(後記)
【表30】(後記)
【0130】
(H-6)各患者群に対する被験薬の安全性(副作用発現率)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度腎
5 機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬を投与した結果、どの群
に対しても被験薬は対照薬の約2倍の発現率を示した。すなわち、副作用発現率に
関する安全性において全ての群に対して被験薬は同等であることが明らかとなった。
【表31】(後記)
【表32】(後記)
10 【表33】(後記)
【0131】
(I)新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響
被験薬投与群を「PTH200群」、対照薬投与群を「P群」と表記した。
【表34】(後記)
15 【表35】(後記)
【0132】
上記の表が示すように、半年ごとの新規椎体骨折発生率は、P群では、いずれの
区間も約5%でほぼ一定であった。それに対して、PTH200群では、投与期間
が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており、48週を超えてからの新規椎
20 体骨折の発生はなかった。また、PTH200群の新規椎体骨折発生率は、24週
以内、24週~48週、48週~72週のいずれの区間でもP群より低く、プラセ
ボに対する相対リスク減少率(Relative Risk Reduction;
RRR)は投与を継続するにつれて増加した。このように、本剤200単位の週1
回投与は、新規椎体骨折の発生を早期から抑制し、24週後には既に骨折発生リス
25 クをプラセボに対して53、9%低下させた。また、本剤による骨折抑制効果は、
投与とともに増強する傾向が認められた。
【0133】
その他、骨折試験のFASにおいて、Kaplan-Meier推定法による7
2週後の椎体骨折(新規+増悪)発生率は、PTH200群3.5%、P群が16.
3%であり、本剤200単位の発生率はプラセボ群より低かった(logrank
5 検定、p<0、0001)。また、本剤200単位は、72週後には、椎体骨折(新
規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた。半年毎の椎体
骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると、24週以内、24週~48週、48
週~72週のいずれの区間でも、PTH200群の発生率はP群より低かつた。
【0134】
10 (J)骨粗鬆症患者の尿中カルシウムおよび血清カルシウムに与える被験薬投与の
影響
被験薬投与群を「PTH200群」、対照薬投与群を「P群」と表記した。被験薬
あるいは対照薬を週1回の頻度で72週間患者に投与した際の尿中カルシウム値お
よび補正血清カルシウム値の変動について試験した結果を示す(図4~5)。
15 尿中カルシウム値変化率の平均値(および中央値)は、開始時に比較72週後で
PTH200群3.2%(-14.7%)、P群23.6%(1.6%)で、P群に
比べPTH 200群で減少傾向が見られた。
補正血清カルシウム値は、両群共に平均9.3~9.6mg/dLの範囲で推移
した。 PTH200群の投与後の補正血清カルシウムは最小値で8.5mg/dI
20 (48および72週後) 最大値で11.
、 6mg/dl(4週後)であり、P群では、
最小値で8.5 mg/dL(4週後)、最大値で12.lmg/dI(12週後)
であつた。両群共に、大きな変動は認められなかつた。
本試験で血清カルシウム上昇および低下の有害事象は認められなかった。
本試験でPTH200群はP群と比較して高Ca血症および高Ca尿症のいずれ
25 の発現も認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の骨粗鬆症治療/予防及び骨折抑制/予防方法は効能・効果及び安全性の
両面で優れ、本発明の骨折抑制方法は安全性が高く、いずれも骨粗鬆症等治療や骨
折抑制/予防のために大きく貢献する画期的な医療技術である。従って、当該目的
5 のための本発明の骨粗鬆症治療/予防剤及び骨折抑制/予防剤は、医薬品産業にお
いて極めて有用である。
(表)
(図面)
(別紙2)
甲1文献の記載事項(抜粋)
(表及び図は末尾に一括して掲記した。)
5 [296頁左欄1行ないし右欄7行目]
要約
ヒト副甲状腺ホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の
骨粗鬆症治療に対する効果を検討するために、71施設にて骨粗鬆症患者220名
を対象として無作為に二重盲検下にて3群に割り付け、hPTH(1-34)の5
10 0単位(L群)、100単位(M群)または200単位(H群)を、毎週皮下注射し、
骨形成促進剤としての可能性について検討した。二重エネルギーX線吸収測定法(D
XA)で測定したところ、投与後48週目には、腰椎骨密度(BMD)はL、Mお
よびH群でそれぞれ、0.6%、3.6%および8.1%増加した。また、MとH
群での薬物への応答はL群より有意に高かった(p<0.05、【F】のU検定)。
15 腰椎測定の変動係数が1~2.5%に留まることから、3.6%および8.1%の
増加は有意であると思われる。ラジオグラメトリによる中手骨のBMDと皮層の厚
さの測定では、有意な変化はみられなかった。血清カルシウムはそれぞれの群で減
少し、血清リンはMとH群で減少した。尿中カルシウム/クレアチニンが、H群で
は治療後12週目に、MとL群では治療後24と48週目に減少した。それぞれの
20 群で、血清25(OH)ビタミンDと1、25(OH)2 ビタミンDが治療48週目
に減少した(p<0.05)。血清中の骨型アルカリホスファターゼが、HとM群で
4週目に増加し、H群では48週目に減少した。尿中のヒドロキシプロリン、ピリ
ジノリンおよびデオキシピリジノリンはそれぞれの群で有意に減少した。各群の3
0~40%で、背部痛の改善がみられた。試験期間中を通じて、重篤な副作用はみ
25 られなかった。hPTH(1-34)の間欠的毎週投与によって、骨粗鬆症で腰椎
のBMDが増加し、骨粗鬆症治療に有用であることを示唆していた。
[296頁右欄10行ないし297頁左欄25行目]
序説
閉経後および退行期の骨粗鬆症を治療するためには、主にエストロゲン、ビスホ
5 スホネートおよびカルシトニンなどの骨吸収抑制剤に頼っている。ここに挙げた薬
剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため、骨折予防は飛躍的に
進歩したことから、骨形成の刺激によって、幾つかの骨吸収抑制剤の迅速かつ時に
は一時的な効果が補完されることが考えられ、骨吸収抑制剤の骨同化効果が長期間
にわたり、退行期骨粗鬆症、特に低回転型の疾患に対して注目すべき有効な治療と
10 なり得ることが期待できる。副甲状腺ホルモン(PTH)が骨形成促進作用を有す
ることが動物とヒトで示されており、特に間欠的投与でその効果が認められている。
しかし、原発性副甲状腺機能亢進症でみられるように、骨が大量のPTHに持続的
に曝されることによって線維性骨炎を発症する懸念がある。ヒトPTHのアミノ末
端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の100または200単位を皮下注射
15 で単回投与した予備試験の結果によると、血清リンの下降、血清サイクリックAM
Pの上昇、尿中のカルシウムとサイクリックAMP排泄の増加をはじめとする重要
な代謝系に対する効果が示された。100または200単位を毎週投与すると、治
療後26週目で腰椎BMDが有意に増加したが、5単位毎週投与では効果がなかっ
た。
20 この結果を踏まえて本試験では、骨粗鬆症患者220名を対象として、hPTH
(1-34)の50、100または200単位を毎週投与した時の効果をみるため
に、無作為化、前向き、二重盲検、多施設試験を実施した。主要評価項目は、二重
エネルギーX線吸収測定法(DXA)を用いた腰椎BMDの評価とし、ラジオグラ
メトリによる中手骨皮質のBMD、および骨代謝回転の生化学的マーカーを副次評
25 価項目とした。ここに挙げた濃度のhPTH(1-34)の1週1回投与が―これ
までに検討されたことがない低濃度の間欠的投薬計画を意味するものだが―骨粗鬆
症治療に便益性をもたらすかどうかを検討した。
[297頁左欄27行ないし右欄42行目]
試験対象
5 71施設が参加した多施設試験を実施した。試験は、厚生省による委員会が提唱
した診断基準で骨粗鬆症と定義された年齢範囲が45から95歳の被験者220名
を対象として実施した。このシステムは、単に骨粗鬆症を非外傷性脊椎骨折が存在
する、または脊椎骨折が2箇所に存在するものとして定義するのではなく、複数の
因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義するものである。スコア
10 の計が4より高い場合(骨粗鬆症と定義)をこの治験への組み入れ基準とした。日
本の大部分で、医療関係者が骨粗鬆症の診断に使用できる方法が未だに脊椎のX線
撮影に限られていることから、X線撮影は骨粗鬆症の診断基準として実施せざるを
得なかった。X線上の骨減少は、腰椎の側面X線写真で骨梁の菲薄化、つまり(1)
横骨梁欠損による縦骨梁の明瞭化、
(2)縦骨梁が粗となるおよび(3)縦骨梁の減
15 少が認められた場合とした。X線上の骨減少は、BMDで若年成人の平均値から2
0%または2.5SDの減少に相当する。本試験では、たとえば、腰椎BMDの平
均値がLunar社製DPXデンシトメーターで測定した時に0.736g/cm
2
、Hologic社製QDRデンシトメーターで測定した時に0.694g/c
2
m 、Norland社製XRデンシトメーターで測定した時に0.624g/c
2
20 m を示す者を試験対象に含めた。なお、この基準は現在用いられている他の基準
と一致している。X線上の骨減少度がグレード1から3、またはBMDが若年成人
の平均値から2.5SD未満の場合はスコア3とした。椎体骨折が1箇所の場合は
スコア1、骨折が2箇所以上の場合はスコア2とした。大腿骨頸部骨折がある場合
はスコア3とし、橈骨遠位端骨折がある場合はスコア1とした。骨量減少の原因と
25 なる骨軟化症、原発性副甲状腺機能亢進症および腎性骨異栄養症などを除外するた
めに、骨粗鬆症の診断を支持する因子として、正常血清カルシウム、リンおよびア
ルカリホスファターゼ値がスコア1であることとした。ただし、ひとつ以上の異常
がある場合にスコア1を差し引いた。同様に、被験者が閉経前である場合には、ス
コア1を差し引いた。
血清クレアチニンが2mg/dlより高いかまたはBUNが30mg/dlより
5 高い値を示し、腎機能の低下が示唆される被験者、過敏症の既往歴がある被験者ま
たは自覚症状の自己評価の信頼性が疑われる被験者は除外した。今後の試験参加予
定者それぞれに、0.003単位のhPTH(1-34)の皮内試験を実施した。
15分後に紅斑部が直径10mmを超える陽性結果を示した被験者は除外した。
他の薬物の効果とhPTH(1-34)の効果との混同を避けるために、骨代謝
10 および骨粗鬆症の進行に影響すると思われる薬剤は試験開始3ヵ月前から自粛し、
試験期間中も投与をさし控えた。このような薬剤には、エストロゲン、カルシトニ
ン、活性型ビタミンD、ビタミンK 2 、イプリフラボン、ビスホスホネートおよび
同化ステロイドがある。
担当医師の判断によって必要な場合には、鎮痛薬および筋弛緩薬を投与した。理
15 学療法および合併症に対する薬物は、患者の状態が許す限り、試験前も試験後も変
えることなく引き続き投与した。
試験開始に先立ち、hPTH(1-34)製剤の特質と起こりうる副作用を含む
試験の重要性を参加予定者に詳細に説明し、口頭または書面にて被験者の同意を得
た。本臨床試験は、それぞれの参加施設の施設内治験審査委員会から承認されたも
20 のである。
[297頁右欄43行ないし298頁左欄24行目]
hPTH(1-34)(テリパラチド酢酸塩)の調製と投与方法
旭化成工業株式会社により合成されたhPTH(1-34)の純度と生物学的効
25 果を、国際標準のウシPTH(1-84)に対するラット腎臓の皮質膜によるサイ
クリックAMPの生成を指標として評価したところ、3300単位/mgを得た。
各バイアルは50、100および200単位のテリパラチド酢酸塩を含むものとし
た。なお、これは約15、30および60μgのペプチドに相当した。1回のバッ
チから3個のロットを調整し、50、100および200単位を含むバイアルを作
成した。このようにして調整することで、1種類の濃度を含む5000本のバイア
5 ルには、常にひとつのロットから由来するものを用いた。製剤は25℃で3年間安
定であった。バイアルの内容物は、無作為に抽出したサンプルについて中立機関で
測定され、コントローラ(【G】医師と【H】医師)によって3バイアルが識別不
能であることを確認された。使用直前に、バイアル内容物を生理食塩水1mlで溶
解したものを、48週間にわたり1週1回皮下注射した。
10 本試験のコントローラは、50、100および200単位のサンプルを102セ
ット準備し、セット内で無作為に割付け(1、2および3と番号を割り付けた)、
それぞれのセットを参加施設に先着順に送付した。各セットは施設で開かれ、サン
プル番号1、2および3を逐次患者に経時的に投与した。試験の二重盲検性を確実
にするために、コードは試験終了まで鍵をかけて保管した。
15 予備試験の結果によると、hPTH(1-34)を100または200単位、2
6週間、1週1回投与したところ腰椎BMDが増加していた。そこで、試験期間を
48週間に設定した。この期間は、骨折の危険性と不安が常にある患者を対象とし
て通常の骨測定、血液と尿の採取を行っても脱落率が過度とならずに、十分な制御
下で多施設試験を実施できる限界であると思われた。【I】らは、ヒトに対するP
20 TH(1-84)5μg/kg投与の安全性についても報告している。
[298頁左欄25行ないし299頁左欄9行目]
集積データ
治療開始前のデータ。年齢、性別、閉経時の年齢、身長、体重、入院の有無また
25 は歩行状況、一般病歴、hPTH(1-34)の抗原性の皮内テストの結果、骨粗
鬆症診断のためのスコア、既往歴、治験前の骨粗鬆症の治療および骨粗鬆症の合併
症、試験期間中に投与された試験薬剤以外の薬物、非処方カルシウム製剤および乳
製品について記録した。
自覚症状。骨粗鬆症による痛みを休息時の自発性疼痛と運動時の痛みに分類して、
5 治療後0、2、4、12、24および48週間目または試験終了時に以下に示すグ
レードに従って評価した。休息時の痛みは、以下のとおりのグレードで表示した。
1:痛みなし、2:中等度の痛み、3:無視できないが耐えられる痛み、4:重度
の耐え難い痛み。運動時の痛みは以下のとおりのグレードで表示した。1:痛みな
し、2:中等度の痛み、3:運動を妨げる無視できない痛み、4:動けないほどの
10 重度の痛み。患者は、自身の痛みの度合いをアナログ尺度で自己評価した。
骨所見。
(a)腰椎BMDの測定。治療後0、12、24および48週目または試験
終了時に、骨塩量、腰椎(L2-4)の骨面積およびBMDをDXA(QDR(H
ologic社)、DPX(Lunar社)またはXR(Norland社))を用
15 いて前後方向を撮影することによって測定した。多数の参加施設で、適切な精度管
理を維持するのが困難であった。各施設では、装置に付随の推奨に従って、BMD
測定を日常的に毎日ファントムを用いて実施した。その結果、変動係数(CV)を
1%から2.5%の範囲で維持できた。
患者の年齢が高いことから、脊椎BMDの前後方向の測定上、圧迫骨折とそれに
20 伴う変化に加えて、脊椎の退行性変化が重大な支障となった。この理由から、L2、
L3またはL4の骨棘や圧迫変形などの脊椎の退行性変化を有する被験者全員を、
薬物の効果の根拠となるデータから除外した。このため、脊椎BMD測定における
組み入れ前の脱落率が高くなった。
(b)中手骨BMDの測定。非利き手側の第2中手骨のラジオグラメトリを実施す
25 るために、前後方向の手のX線写真をファントムと一緒に、治療0、12、24お
よび48週後または試験終了時に撮影した。試験終了時に、71施設で撮影された
すべてのフィルムをコンピューター化されたデジタル画像処理を用いて、東洋検査
センターにて測定した。ひとりの観察者が中手骨BMD(∑GS/D)を同一フィ
ルムを用いて10回連続で測定した場合のデジタル画像処理法の精度は、CVが0.
59であり、同一処理を3人の観察者で実施した場合は1.47であった。同一被
5 験者の手のフィルムを4枚撮影した場合、測定は個々に実施され、CVは1.72
であった。
(c)椎体骨折の評価。腰椎および胸部脊椎の側面X線写真は、それぞれL3とT
8に焦点を合わせ、ひとりの放射線科医が椎体の圧迫骨折や変形を評価した。前縁
高/後縁高の比率が25%以上減少および中央高/後縁高の比率が20%以上減少
10 した場合を、有意な変形と定義した。
生化学的パラメーター。治療開始前および治療後2、4、12、24および48週
目または試験終了時に、血清中のカルシウム(Ca)、リン(P)、25(OH)ビ
タミンD(競合タンパク結合分析による測定)、1.25(OH)2 ビタミンD(ラ
15 ジオリセプターアッセイによる測定)、オステオカルシン、中間部PTH(ラジオイ
ムノアッセイによる測定)、総アルカリホスファターゼと骨型アルカリホスファタ
ーゼ、アルブミンおよび尿中のCa、P、ヒドロキシプロリン、ピリジノリン、デ
オキシピリジノリン(HPLCによる測定)とクレアチニンを日本最大の臨床検査
会社SRLにて測定した。各施設で治療後0、12、24、36および48週目ま
20 たは試験終了時に、血球算定(RBC、WBCと血球分画、ヘマトクリット、ヘモ
グロビンおよび血小板)、血清生化学的試験(GOT、GPT、A/G、BUN、ク
レアチニン、総コレステロール、CPK、Na、K、Clおよびグルコース)およ
び尿検査(潜血、タンパク質、糖、ウロビリノーゲン、ビリルビンおよびpH)を
実施した。
副作用と有害事象の調査。試験期間中の有害事象を記録し、詳細を検査した。総合
的な経過の評価、重症度、治療および転帰に基づいて、有害事象を以下に示すグレ
ードに分類した。(1)試験薬剤が原因のもの、(2)試験薬剤が原因と考えられる
もの、(3)試験薬剤が原因とは考えにくいもの、(4)試験薬剤が原因ではないも
の。副作用は暫定的に(1)から(3)を含むものとした。
統計解析
患者群の背景は、カイ二乗検定にて、両側検定の危険率10%で評価した。測定
値は【F】のU検定および【J】の直接確率法にて、両側検定の危険率5%で検定
した。
[299頁左欄10行ないし300頁左欄3行目]
結果
表1は、試験への参加が許可された被験者における治験組み入れ基準の詳細をま
とめたものである。
15 試験に当初登録した被験者220名を無作為に二重盲検下で割り付け[50単位
投与群(L)に73名、100単位投与群(M)に75名および200単位投与群
(H)に72名]、そのうち41名は骨粗鬆症の診断基準に適合せず、また試験前に
投与されていた薬の休薬期間が不十分であったため不適格とした。
正確なBMD測定を阻害する腰椎の退行性変化と圧迫変化を有する患者および指
20 定時間以外に測定した患者を除外したところ、不適格者にはさらに64名が含まれ
た。このため、腰椎BMDに及ぼす効果の分析は被験者115名で実施した。内訳
はL群で39名、M群で38名およびH群で38名であった(表2)。被験者61名
が、副作用、中途での心変わりにより試験を拒絶、合併症の悪化などの理由で試験
を完了できなかったが、最初の3ヵ月以内に脱落しない限り、分析グループに含む
25 ものとした。
被験者の治療開始時の特徴を各グループで比較したものを表3に示した。3群と
も被験者が一様に分布していることを確認した。
[300頁左欄4ないし10行目]
自覚症状
5 主として背部痛からなる自覚症状は、L群で被験者52名中21名(40%)、M
群で被験者60名中18名(30%)およびH群で被験者47名中17名(36%)
に、中等度またはやや改善がみられた。群間に有意な差は認められなかった(表4)。
[300頁左欄11行ないし右欄6行目]
10 骨測定
試験期間48週間中の腰椎BMDにおける変化を図1に示した。腰椎BMDは、
試験開始時と比較して、治療後24と48週目に用量依存的に増加し、L、Mおよ
びH群でそれぞれ0.6%、3.6%および8.1%であった。24週目と48週
目でMとH群で増加の程度がL群より大きく、48週目ではM群よりH群の方が大
15 きかった(p<0.05)。年齢が64歳以下と65歳以上、体重が49kg以下と
50kg以上、閉経後10年未満、10から20年、20年以上、および脊椎骨折
が0、1および2箇所以上を有するサブグループに被験者を分類して比較したとこ
ろ、サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった。第2中手骨(皮質骨か
らなる)のX線写真上の骨密度には有意な差は何ら認められず、皮質骨と各群のX
20 線写真上の骨量減少度が変化せずに一定に保たれていることを示していた。L群で
被験者3名、M群で5名およびH群で0名に椎体骨折が発生したが、各群間の差は
有意ではなかった。
[301頁左欄1行ないし右欄4行目]
25 生化学的パラメーター
図2に示すように、血清Caは治療後2週目から減少し始め、4週目以降は治療
開始前の基準値より有意に低かった。血清Pも治療後2週目に減少した。尿中Ca
は2週目から減少し、試験期間中を通じて基準値より低いままであった。尿中Pも
減少した。血清25(OH)ビタミンDと1.25(OH)2 ビタミンD値は、図3
に示すように、各群で48週目に治療開始時よりやや減少した。図4に示すように、
5 骨型アルカリホスファターゼは、治療開始後4週目で治療開始時の値より高く、2
4週目と48週目ではH群のみ低かった。尿中へのピリジノリン、デオキシピリジ
ノリンおよびヒドロキシプロリン排泄は、図5に示すようにL群とH群で24週目
と48週目に治療開始時の値より減少した。
表5に示すように、各群で試験期間中、異常な試験結果が出現したが、いずれも
10 明白ではないか一過性のものであり、試験薬剤が原因であるとは明示できなかった。
表6は治療中に発生した副作用をまとめたものである。29例で、被験者が幾つか
の症状のため試験から脱落した。副作用の総数はhPTH(1-34)の用量が増
加するのに合致して増加したものの、重篤な有害事象は認められなかった。
15 [301頁右欄5行ないし303頁右欄23行目]
考察
原発性副甲状腺機能亢進症では過剰量のPTHが持続的に分泌され、著明な骨、
特に皮質骨の欠損を特徴とするものの、組織形態計測の結果によると海綿骨は比較
的、良く保存されている。PTHはおそらく骨芽細胞活性と骨形成も刺激し、骨に
20 対して同化作用を及ぼすものと思われる。
動物試験で、PTHの同化作用が頻繁に確認されており、骨質の物理的な改善を
することが報告されている。このような同化作用は、N末端からアミノ酸をひとつ
除去するだけで効果がほとんど消失することから、PTHのN末端部アミノ酸の全
長に依存していると思われる。
25 海綿骨が増加することについては、一貫して報告されているが、皮質骨の応答は
不良である。間欠投与は、PTHの骨同化作用を生成に対してより効果的であると
思われる。これまで、骨粗鬆症の治療には、主にエストロゲン、カルシトニンとビ
スホスホネートのような骨吸収抑制剤が投与されており、骨吸収を刺激する骨形成
促進剤は低回転型骨粗鬆症に有効であると思われている。BMDの増加を予想をは
るかに上回る程度に誘導する活性があるにも拘わらず、フッ化物に問題がない訳で
5 はない。つまり、骨折発生率を減少させることができずに骨痛などの副作用を惹き
起こす。しかし、PTHは依然として骨形成促進剤の候補として有望視されている。
PTHを大量に投与すると、ヒトでもBMDの増加がみられたが、ヒトで好ましい
効果を奏する間歇投与法は未解決の課題である。
【K】らが、骨粗鬆症患者12名を
対象として多施設試験を実施したところ、hPTH(1-34)を7日間投与し2
10 1日間休薬するというサイクルを16回繰り返す間欠投与によって、全身のCaが
やや増加したがさまざまな部位のBMDでは有意な増加はみられなかったと報告し
ている。連日投与は、持続点滴に比べると間欠的であり、好ましい影響がみられた。
【K】らによると、hPTH(1-34)約250単位を患者21名に6から24
ヵ月間、連日投与したところ、重篤な副作用もみられず、血清アルカリホスファタ
15 ーゼが15%増加し、著明な骨増加がみられた。
【L】らは、ホルモン補充療法を受
けている閉経後の女性17名を対象として、hPTH(1-34)25μgを連日
皮下注射投与する3年の無作為化対照試験を実施し、その結果をコントロールとし
てホルモン補充療法単独を投与した女性17名と比較した。脊椎のBMDはPTH
投与群で13.0%増加したが、コントロール群では有意な増加はみられなかった。
20 PTHは他の試験では、エストロゲンと共に投与して効果があった。
ビタミンD誘導体と併用してPTHの効果を増強することも検討されている。実
際に、400-500単位のhPTH(1-34)を0.25μgの1、25(O
H)2 ビタミンD3 と一緒に投与すると、海綿骨で増加がみられた。カルシトニンと
の併用投与も実施されている。
【M】らは、hPTH(1-37)720-750単
25 位を8週間連日投与し、同時にカルシトニンを2〜4、6〜8および8〜10日目
に鼻腔内投与し、このサイクルを4回繰り返した。
【N】らは、800単位のPTH
を連日、2ヵ月の間隔を置いて1ヵ月間投与するサイクルを繰り返し、この投薬サ
イクルを2年間続けたところ、腰椎BMDが8〜10%増加したことを認めている。
hPTH(1-34)の単位体重当たりの生物学的活性は試験間でばらつきがあ
るようである。【L】らの試験では、たとえば、hPTH(1-34)400単位
5 (25μg)が使用されている。試験に用いられている調製法が異なっているた
め、hPTH(1-34)の投与量について本試験の結果を他の試験のものと比較
することは容易ではないが、これまでの試験の多くに比べると、本試験で用いられ
た週1回の間欠投与の方が、hPTH(1-34)の総投与量を明らかに少なく抑
えられる。hPTH(1-34)が中手骨(ほとんどが皮質骨からなる)の骨密度
10 を減少させることなく、腰椎BMD(主に海綿骨からなる)を、48週という比較
的短期間で有意に用量依存性に増加させたことから、hPTH(1-34)による
骨粗鬆症治療はきわめて将来有望であると思われる。
表 1 本試験の参加者における組み入れ基準の詳細
組み入れ基準 L群(50単位) M群(100単位) H群(200単位)
骨密度減少
骨萎縮
グレード1 31 26 18
グレード2 19 29 26
グレード3 21 19 27
不明 2 1 1
DXA
DPX ≥0.831 5 7 3
<0.831 17 14 18
QDR ≥0.711 25 17 11
<0.711 15 23 27
不明 1 0 0
XR ≥0.701 2 4 1
<0.701 7 10 12
不明 1 0 0
椎体骨折数
0 32 30 29
1 14 18 15
≥2 27 26 28
不明 0 1 0
大腿骨骨折数
0 65 72 69
≥1 8 3 3
橈骨遠位端骨折数
0 72 71 69
≥1 1 4 3
総スコア
=<2 0 2 0
3 2 2 1
4 14 13 13
≥5 57 58 58
表 2 本試験における各評価項目別の症例数
群 総症例数 脱落 症状評価 腰椎BMD評価 中手骨BMD評価
(副作用による)
L (50単位) 73 12 (3) 62 39 60
M (100単位) 75 25 (10) 65 38 58
H (200単位) 72 24 (16) 56 38 50
合計 220 61 (29) 183 115 168
表 3 各群の治療開始時の背景比較
L 群(50 単位) M 群(100 単位) H 群(200 単位) χ2 検定
年齢(歳) 70.2±9.84 (73) 70.1±9.64 (75) 71.7±10.78 (72) NS
体重(kg) 47.7±7.49 (73) 49.2±7.54 (75) 45.8±8.21 (72) NS
身長(cm) 148.2±8.01 (73) 148.9±7.77 (75) 147.3±6.97 (72) NS
閉経後年数 19.0±8.52 (73) 18.8±8.35 (75) 20.6±9.43 (72) NS
椎体骨折数 1.86±2.65 (62) 1.62±1.89 (61) 1.82±2.65 (55) NS
腰椎BMD (g/cm )
DPX 0.746±0.123 (13) 0.753±0.089 (10) 0.711±0.159 (11) NS
QDR 0.719±0.103 (19) 0.723±0.140 (17) 0.640±0.132 (19) NS
XR 0.637±0.115 (7) 0.680±0.130 (11) 0.556±0.064 (8) NS
中手骨 BMD (∑GS/D)
1.875±0.350 (60) 1.917±0.404 (58) 1.850±0.446 (50) NS
データは平均値±標準偏差、カッコ内は症例数
表 4 自覚症状
群 症例数 中等度 軽度 不変 悪化 U-検定 Fisher の
以上改善 改善 検定
中等度以上
L (50単位) 52 21 (40) 16 (31) 14 (27) 1 (2)
M (100単位) 60 18 (30) 28 (47) 14 (23) 0 (0) NS NS
H (200 単位) 47 17 (36) 21 (45) 9 (19) 0 (0)
カッコ内の数値はパーセント
図 1 治療週数と腰椎 BMD の変化率(平均±標準偏差)。
□は L 群(50 単位)、●は M 群(100 単位)、○は H 群(200 単位)のデータ。
a
L 群の値との比較で p<0.05 の有意差、bM 群の値との比較で p<0.05 の有意差、マンホイッ
トニーの U 検定による
*治療開始時との比較で p<0.05 の有意差の有意な増加、マンホイットニーの U 検定による
図 2 治療週数と血清カルシウム(左)とリン(右)(平均±標準偏差)。
□は PTH50 単位(L 群)、●は PTH100 単位(M 群)、○は PTH200 単位(H 群)のデータ。
*治療開始時との比較で p<0.05 の有意差、マンホイットニーの U 検定による
図 3 治療週数と血中 25(OH)ビタミン D(左)と 1,25(OH)2 ビタミン D(右) (平均±標準偏差)。
シンボルの表記は図 2 と同様。
図 4 治療週数と血中骨型アルカリフォスファターゼ(平均±標準偏差)。
シンボルの表記は図 2 と同様。
表 5 被験者における治療期間中の臨床検査値異常
L群(50単位) M群(100単位) H群(200単位)
総症例数 73 75 72
臨床検査異常例数(%) 8 4 12
(11%) (5%) (17%)
異常データ数 16 7 22
赤血球数の低下 1 1
分節核球上昇 1 1
リンパ球減少 1 2
好酸球減少 1
好塩基球減少 1
ヘマトクリット低下 2 1
ヘモグロビン低下 2 1
血小板数減少 1
GOT上昇 1 1
GPT上昇 1
A/G低下 1
BUN上昇 2
総コレステロール上昇 2 1 2
CPK上昇 1 2 2
Naの下降 2
Kの上昇 2
Kの下降 1
Clの上昇 1
Clの下降 1
血糖上昇 1
尿潜血 1 2
尿蛋白 1
尿ビリルビン 1
図 5 治療週数とクレアチニン補正後の尿中ピリジノリン(a)、デオキシピリジノリン(b)、
ヒドロキシプロリン(c)血中骨型アルカリフォスファターゼ(平均±標準偏差)。
シンボルの表記は図 2 と同様。
表 6 被験者における治療期間中の副作用
L群(50単位) M群(100単位) H群(200単位)
総症例数 73 75 72
a b b
副作用発現例数 (%) 14 (3 ) 14 (10 ) 30 (16b)
(19%) (19%) (42%)
重症度と件数 軽度 中等度 計 軽度 中等度 計 軽度 中等度 計
8 6 14 13 10 23 19 18 37
皮下出血 1 1
全身潮紅 1 1
顔面潮紅 1 1
湿疹 1 1
そう痒 1 1
腰痛 1 1 1 1
頭痛 1 1 2 3 3 2 2 4
めまい 1 1 1 1 2 1 1
悪心 3 1 4 5 2 7 9 6 15
嘔吐 1 1 2 2 4
腹痛 1 1 1 1
おくび 1 1
あくび 1 1
口渇 1 1
食欲不振 1 1
熱感 1 1 1 1 2 1 1
発熱 1 1 3 3
脱力感 1 1 1 1
全身倦怠感 1 1 1 1 1 2 3
悪寒 1 1
眠気 1 1
a
臨床検査値異常を含む
b
副作用による脱落症例数
(別紙3)
甲64証明(表紙を除く。)
(別紙4)
甲68証明書(表紙を除く。)
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